キモ姉&キモウト小説を書こう!Part4at EROPARO
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part4 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
07/08/13 20:45:24 WB3G+NuR
■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。

SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません

3:名無しさん@ピンキー
07/08/13 20:46:09 WB3G+NuR
■誘導用スレ
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その36
スレリンク(eroparo板)
ヤンデレの小説を書こう!Part7
スレリンク(eroparo板)
いもうと大好きスレッド! Part3
スレリンク(eroparo板)
お姉さん大好き PART4
スレリンク(eroparo板)

4:名無しさん@ピンキー
07/08/13 20:47:09 WB3G+NuR
立てました。
前スレ、桜の網の人、続きよろしく。

5:名無しさん@ピンキー
07/08/13 20:48:38 oGJM0htP
突然埋まっててえらいおどけたえ。

>>1乙。

6:名無しさん@ピンキー
07/08/13 20:51:28 1C5Wls4+
>>1乙!

7:名無しさん@ピンキー
07/08/13 21:01:59 AtYtsxvV
>>1

前スレ500超えそうだったの全然気付かなかった

8:名無しさん@ピンキー
07/08/13 21:58:12 z026/mQX
続きマダーと前スレで書き込めなかったので初めて埋めに気づいた。

>>1乙です。

9:桜の網
07/08/13 22:24:46 +3xLz44g

 桜がそれから誰も信用しなくなったのは、言うまでもない。
使用人など、屋敷に使えているものなどもちろん、長谷川や友人にも心を開くことはなくなった。
 もう諦めようとしていた中学三年の秋。
 桜は、有名私立のお嬢様学校へと通っていた。無為やり通わされたものであったから、醜い反抗心でクラスメイトや教師を困らせてばかりいて、
何とかしてこの環境を変えたいと思っていたとき、桜は自分に兄弟がいて、兄がいることを知った。
 いつものようにリムジンでの送迎に飽き飽きして、屋敷へと帰ってきた時、男が二人、門の隅に立っていて、中の家を見上げていた。桜には気づいていなかった。
 一人は老人だった。弱い八十はいっているだろうと思われる彼は、杖を片手に持ち、顔をしわだらけにしながら、隣の青年に話しかけている。
「ここが本来の家です。悠太様。ご立派なお屋敷でしょう。西園寺財閥、というのは悠太様も聞いたことがあるでしょう。悠太様は本来ここの一人息子なのですよ」
「はは、嘘だろう。僕にはこんなに立派な家は似合わないよ。少し貧しくても、白石さんと亜美と僕で暮らす借家が僕には似合っているよ」
「いえいえ、嘘などでは決して。悠太様が成人になればここに来ることになるでしょう」
「白石さん。例えその話が本当だとしても、僕はここには来ないよ。僕は、両親が今でも憎いし、こんなでかいだけの屋敷にいるよりもひっそりと幸せに三人で暮らして生きたいんだ」
 桜はこのときの青年、悠太の顔を忘れたことがない。
大人びていた、というのには多少語弊があるように思う。
悠太の顔は幼かったし、背丈も別段高いというわけではなかった。せいぜい百七十センチあるかないかぐらいのものだろう。
けれど、あの悔しさと切なさと憎しみ、そしてわずかばかりの羨望を混ぜたような言葉に表せない顔。桜は初めて、見惚れるということを悠太の前で知った。
 高校生なのだろう彼は制服をきちんと着て、ブレザーがとても似合っている。
後ろに車が到着しているのに気づかない彼らはよほど哀愁があるのだろうか。桜は日傘を差して固まっていた。
「おい、じじいとガキ。そこで何をしている。邪魔なんだよ」
 突然ボディガードが桜の前に出てきた。長谷川はまだ車にいて、桜には声をかけていない。
「あ、すみません。すぐに立ち去りますので」
 悠太はすまなそうに頭を下げる。そして、老人の手をゆっくりと引いて、先導し門から退こうとしていた。
「さっさと退けよ。桜様が中に入れないだろうが」
 大声で威嚇したボディガードが悠太と老人を急かす。悠太がこちらを見た。ボディガードではなく桜のほうを。
顔は悲哀。そして徐々に憎悪へ。桜は石のように固まった。
 悠太は許せなかった。白石はまだ老人であり歩くことが苦しくなりつつあるのに、威嚇の態度をとる大男が。
 こんな男がこの屋敷に仕えているのか。白石さんにも言ったけれど、ろくでもないところだな。ここの一人息子?頼まれてもごめんだ。
 視線をずらし、悠太は桜を見る。
 この屋敷の主。美人だが、何と愚かな。
 悠太はそっと白石の手をとりそこから立ち去った。
 ボディガードが振り向く。桜に笑顔で話しかけてきた。

10:桜の網
07/08/13 22:25:35 +3xLz44g

「桜様、早く中に入りましょう。風邪などひかれては大変でございます」
「あなた、名前は」
「は……は!須賀と申します。ここには三ヶ月ほど前から務めさせて頂い」
「須賀。貴方に一つお願いがあるの」
「何なりと」
「真剣が居間の暖炉の上にあります。それを今すぐにとってきて頂戴」
 大男は名前を名乗れたことに、喜色を浮かべ屋敷の中へとかけていった。
 桜は、悠太のことを考えていた。あの人が私の兄なのだろうか。まだ確証はない。だが、なぜかあの青年が兄であればいいという願望はある。
 不思議と西園寺財閥という籠から逃げた兄のことが憎いということはなかった。事情があったのかもしれないし、追い出されたのかもしれない。
 どちらでもいい。何かしらの理由があろうとどちらでも。私に兄がいた。私が探していた人が見つかった。桜の頭は悠太への恋慕で染まった。
 兄、兄、兄。兄さん兄さん兄さん。ああ、もう一度会いたい。早くもう一度会いたい。
兄妹なら、離れているのはおかしいはずだ。早く一緒にならないと。早く側に行かないと。側に。
大男が真剣を持って戻ってきた。桜へ刀を渡す。
 桜は悠太のことを思いながら、男の心臓へ思い切り刀を突き刺した。
血飛沫が体にかかる。
とても気持ちが良かった。


11:桜の網
07/08/13 22:29:54 +3xLz44g


投下終了。
駄文とお目汚しに付き合ってくれてありがとう。
二話はまたそのうち投下しようと思う。次からどんどんキモウトにするんで
また付き合ってくれたらうれしい。

なんか要望とかあれば、気軽に。


>>1
乙です。
書き込めなかったので助かりました。ありがとう。


12:名無しさん@ピンキー
07/08/13 22:46:26 AtYtsxvV
これで駄文とか言われても嫌みにしか聞こえないコンチクショー
これはもうGJを送るしかないようだ。
どうして、兄が白石さんから離れたのか気になる

13:名無しさん@ピンキー
07/08/14 01:41:11 HIxEZQId
>>1
>>11
GJ!途中でスレが止まったせいで生殺しだったw

ところで、朝倉さんのトリックに関して言いたい事があるから言わせてくれ。
トリックは>>前スレ913であってるだろう。が、みんな意外と知らんようだから言っておきたい
自分の携帯から第3者になりすましてメールを送る手段があるんだぜ。
やり方は某HPに使いたいメアドと送信相手のメアド入れて、文章書くだけ。
前に友達に見せてもらったから間違いない。今も使えるかはわからんが。
これ使えば朝倉さんの携帯から送信されたメールでも送信者はテツ君のメアドになる


14:名無しさん@ピンキー
07/08/14 02:16:32 qZmajMvE
>>13
一時期話題になったよな、あれ
今は閉鎖されたけどな

15:名無しさん@ピンキー
07/08/14 03:42:41 jmQU1r8X
>>11wktkさせるなぁ・・・
いきなりボディーガードを殺す桜に萌え。
そしてもう一人のキモウトにwktk

GJ!!!

16:桜の網
07/08/14 21:10:41 /i3G2aI1

 桜の網、二話を投下しようと思う。
暇だったら読んでくれるとありがたい。

17:桜の網
07/08/14 21:11:29 /i3G2aI1


 木造建築は珍しくはないけれど、このようなボロ屋はあまり目にしたことない人が多いのではないだろうか。
歩けばギシギシなる板に、薄く染みが残る天井。
雨の日などは水漏れがひどいのでバケツなどが欠かせない。
 窓はドアと兼用で横に並んだ硝子のマスは五つあると一つは割れていた。
割れたところはダンボールで代用して穴をふさぎガムテープで止めていて、それが一層みすぼらしく映える。
 部屋にあるのは箪笥と日用品。この家にあるもう一つの部屋も構造は同じでたいした物はない。
というよりも、物がないといったほうがいいかもしれない。天井のしみと物品の数の優劣はいい勝負だった。
 部屋に一人の少女が座っている。
 少女の顔は高校生にしては幼かった。髪は短く、肩で切りそろえられている。
体に起伏は乏しく、小柄。昔は眼鏡をしていたが、今はコンタクトレンズにしていて目はパッチリとしていた。
偶に中学生やひどい場合だと小学生に間違えられる彼女は、十人いれば十人がかわいいと評するのではないだろうか。
それほど彼女の容姿は整っていて、可愛らしかった。
 欠点は、無愛想なところだろう。彼女は表情を変えることがほとんどない。
喜怒哀楽がすべて同じ状態で、意地悪く言ってしまえば顔の筋肉が劣化しているのではないかというほどに思える。
 そして、口数も少ない。必要最低限。意味がなければ喋らない。
家族の兄や祖父も、彼女の饒舌な姿は見たことがなかった。想像すらできないだろう。
 兄からは、もう少し顔に表情をつけようよ、なんて言われていたけれど、
どうすればいいのか困ってしまい、顔を赤くして固まってしまったことがある。


18:桜の網
07/08/14 21:12:12 /i3G2aI1

 少女の普段着は、制服と言ってしまっていいだろう。
彼女は、休日などに着ていく服を一着しかもっていないのだから。
 そのためこうした夏休みの平日でも制服に身を包んでいる。
 私服を着て制服が汚れないようにするべきでは、という質問は愚問だろう。
彼女にとって、たった一着の私服は愛する人から送られたもので、それを易々と身に着ける矜持は持ち合わせていなかったからだ。
 そして、彼女が私服を着る時は、兄と出かける時と同義だった。彼女は兄のことが好きだった。
 白石亜美。
 悠太の妹である彼女は、今日も理性で自分を留めるのに必死だった。
もし数少ない友人がこの場面を見ると驚くことはもちろん、何事にも冷静沈着な彼女のこのような姿に困惑するだろう。
 ぶちぶちと畳をむしる音。
 亜美は人生最悪の日から、もうどれだけ時間がたったのだろうと思っていた。ここに最愛の人はいない。
どこで間違ったのだろう。過去に思いをはせる。
 そしてぼんやりと濁った瞳で呟いた。
「……あと、一週間…」


19:桜の網
07/08/14 21:13:01 /i3G2aI1

 空が黒い晩のとても遅い時間こと。
 亜美は布団から悠太が出て行くのを肌で感じた。僅かばかりまくられた布団がひんやりとして心地よい。
ただのトイレだろうと思い、多少の名残を感じたがそのまま兄が帰ってくるのを待った。
 だが、中々戻ってこない。
彼女は悠太が側にいないと安心して眠れないから、不思議に思って自分も布団から抜け出た。
 まだ夜は続いているようだ。部屋は暗い。
 亜美の視力はいいほうだったが、これほどの暗闇は最近で一番ではないかというものだった。
月も雲に覆われているのだろう。目が闇に慣れるのに時間がかかる。
 静かだと、亜美は思った。
都会の空は星が本当に見えないけれど、代わりとして音を生む。車の走行音。酔っ払いの奇声。若者達の猛りなど。
 愚かな人間がここまで無体をさらすのは都会の特徴で、亜美はそれを聞くたびに嫌な気持ちになった。
けれど、悠太がいると逆に騒音という魔物から守ってもらえているお姫様みたいに思えてうれしくもなる。
 つまるところ、彼女は悠太がいればどんな環境でもいいのだった。
 しかし、ここまで静かなのは逆に不気味ささえある。
普段悠太がいないと嫌だと思っているものでも、なくなると何かしらの気持ちは抱くということなのだろうか。
いや、そんなはずはないと思うのだが。
 目が慣れてきたので、亜美は立ち上がる。周囲を探ると、いつものようにみすぼらしい壁がまず目に付いた。
板が少し欠けていて、ここもまた今度悠太に修理してもらわないといけないと思った。


20:桜の網
07/08/14 21:14:13 /i3G2aI1

 続けて、祖父が寝ている隣の部屋へと視線を移す。
トイレではないなら、祖父の部屋だろうか。亜美は隣の部屋へと続く扉に手をかける。すると、中から話し声が聞こえた。
 間違いなく悠太と祖父のものだった。亜美が悠太の声を聞き間違えるわけがなかった。
「……暮らすことになるでしょう」
 亜美は何となく部屋に入りづらい空気を感じた。何か大切な話なのだろうか。
亜美とてもう高校生一年生。大切な話なら、なおさら自分にも言ってほしいのだけれど。
「悠太様。追い出された私が言うのもなんですが、西園寺の家は悪いことだけではないですよ。
こことは違い、物はなんでもある。悠太様もきっと満足するでしょう」
「満足なんかするわけがないよ。大体、気に入らないんだよ。僕は西園寺が。
今になって捨てた子をまた拾いにくるなんて。僕の家族は白石さんと亜美だけだ」
「そういってくださるのは、うれしいですが」
「何でいまさらになって、僕が西園寺の家に住まなきゃならないのだ」
 亜美には何の話か理解できなかった。理解したくなかった。
この会話はまるで、悠太が亜美の側から離れていくというものではないか。断片を聞いただけなのに、亜美は直感的に悟る。
 それほど彼女は悠太のことに対しては敏感だったし、偽悪的に言ってしまえば、自分の危機にも鋭敏だった。
「ですが、お嫌でも仕方がありません。もし西園寺に行かないというならどんなことになるやら」
「わかっているよ。もう僕が何かを言ってどうにかなるなんてものじゃないのだろう。
行くよ、西園寺に。それで白石さんと亜美が豊かに暮らせるなら、納得は出来ないけど我慢は出来るってものだし」
「そういっていただけると、こちらとしても助かります」
「ただ」

21:桜の網
07/08/14 21:14:49 /i3G2aI1
 
 悠太は言葉を区切る。何か言いあぐねているのだろう。
 亜美からしたら、このような会話今すぐにでも止めさせて、
事の経緯を委細はっきりとさせなければならなかったが、今出て行ってかき回してしまうよりも、
事情を把握して、亜美自らが原因を潰してしまうほうが合理的に思えた。
「一度、会ってみようと思う。
いきなり一人息子として西園寺に戻って来い、なんて言われても意味がわからないのだから。
白石さん、そう伝えてくれないかな」 
 つまり、悠太は西園寺に息子として一方的に招かれようとしているのだろう。
悠太自身、いきなり招かれるということに関しては嫌がっているようだ。
そして、断ると何かしらの悪意が亜美たちに降り注ぐ。
 亜美が把握した内容に間違いはなかった。
加えるなら、この話は今日初めて白石から悠太にされたものでそれ以外はぴたりと亜美の推測に一致していた。
「わかりました。ならば、明後日の金曜日に私と一緒に西園寺へ行きましょう。
旨は私が明日、屋敷の当主へと伝えておきますので」
 それからそっと、亜美は布団へと戻った。
 後に悠太もやってくる。
悠太は亜美の方をちらりと見たが、起きていることと先ほどの話を聞かれたことには気づいていないみたいだった。


22:桜の網
07/08/14 21:15:23 /i3G2aI1

 亜美は寝ぼけたふりをして、悠太に抱きつく。少し乱暴に腕を相手の背中に回した。
悠太は苦笑して、いつもは大人しくてどこか清楚な印象こそ強いが、それでもまだまだ子供なんだなと思い、頭をなでた。
すると亜美はさらに頭をこすりつけ、悠太を抱き枕にするようにがんじがらめにひっついた。
悠太は諦めたようにため息を一つ、けれど何とか寝られないこともないと思って、そのまま目を閉じた。
 気持ちよさそうにする亜美だったが、
裏腹に頭の中ではどうやって私たちの生活を邪魔する虫を駆逐しようかと思いをめぐらせていた。
何があろうと、虫は潰して殺してしまい、二度と悠太の前に出てこられないようにするべきだ。
潰して潰して潰して潰して、殺す。その為なら犯罪すらいとわない覚悟だった。
 亜美は狂信的に悠太がすべてで、彼が世界の中心だったのだ。
 もちろんそのことに悠太は気づいていなかった。
 亜美がわざと寝ぼけたふりをして抱きつき、悠太の股の間に足を入れたのすら、気がついていなかった。



23:桜の網
07/08/14 21:16:04 /i3G2aI1

 亜美は、頭がいいと悠太は思う。
 模試ではいつも全国十位以内に入っていたし、苦手な教科など聞いたこともなかった。
高校に入ってまだ半年だったが、レベルの上がったテストでも学年ではいつも一番だった。
 それだけではない。他にも友達から勉強を見てほしいといわれているのを見たことがあるし、要領もよかった。
悠太は時間配分などを考えて何かしらの作業をするのは、苦手だったがそんな時は決まって亜美が代わってくれた。
 あえて不満を言えば、亜美は料理が出来なかった。台所に立つのはいつも悠太だったし弁当などを作るのもそうだった。
まれに黙って台所に立つ亜美を見ると「今日は私がご飯を作る」の意だったけれど、
決まってその後食卓に出てくるのは黒い物体だった。
 悠太がからかって、亜美は頭がいいのに料理ができないなんて不思議だねと言うと、
「………頭の良さと…料理は関係ない……」
と涙目でこぼした。それを見た悠太は必死で謝ったけれど、しばらく許してはもらえなくて困ったことがある。
 しかしそれ以外は大抵のことを亜美はやってのけた。
いつものように口数が少ないながらも、しっかりとそして完璧に。
腹違いの兄妹とはいえ、そんな亜美を妹に持てて悠太は幸せだと思う。
願わくは、将来はこのような汚い家ではなくて、裕福でなくていいから普通の家に住んで、幸せに暮らしてほしい。

24:桜の網
07/08/14 21:17:15 /i3G2aI1

 明日、西園寺の家の当主と会う。
 その時やはり、納得できず憤慨する場面や西園寺財閥という大きさに困惑することもあるだろう。
けれどそんな時こそ亜美や白石さんのことを想い、悠太はしっかりとそれを受け入れ前に向いて歩いていこうと心に刻む。
ただ、亜美にはこのことをまだ話していないのが気がかりではあるが、きっと賢い妹は、
いつものように無口で、でもなんだか悲しそうに利益と不利益の差を考え、頷いてくれるだろう。
 少し悲しいけれど、間違ってはいない。
 悠太は朝の日差しを浴びながら、そう思った。時間を見るともうすぐ昼。
学校は創立記念日で休みだったが、少し自分の体たらくに呆れる。
 一緒に寝ていた亜美はすでに出かけているようだ。白石の部屋に行く。
「白石さん、お昼ご飯今から作るから。ごめんね、こんな時間まで寝てしまっていて」
 白石はオロオロと部屋を歩き回っている。悠太の声が聞こえていないようだ。
部屋に入ってきたのにも気づいていない。どうしたのだろう。
考えてみると、いくら休みとはいえ、いつもなら白石が悠太を起こしにくるはずなのに。
「どうしたの」
 声を強めて白石に声をかける。
「ああ、悠太様。大変なことに」
 白石は悠太に気づくと一目散に駆け寄ってきた。
「亜美が、行ってしまわれたのです」
「出かけたんだろ。それがどうかしたの」
 違うのです、そうではないのです。
白石の声はなんだか切羽詰っていて、悠太は只事じゃないのだと気づいた。
 よくよく話を聞くと、事の経緯がわかってきた。
まず白石は、昨日の話どおり西園寺に電話をかけ、悠太が西園寺の家の当主に会いたいと言っている事を伝えようとしたらしい。
 電話がつながり当主へと話し相手が変わる。白石は悠太のことを話すと当主は喜んでそのことを受け入れた。
 しかし、刹那に受話器がひったくられる。
 亜美だった。


25:桜の網
07/08/14 21:17:51 /i3G2aI1

「…もしもし」
「どなたです?」
「貴方が…西園寺の家の人?」
「そうですが。どちらさまですか。白石はどうしたのです」
「私は……おじいちゃんの娘……で…お兄……悠太君の……彼女」
「……何ですって?」
「日本語……通じない?……やっぱり虫だから?」
 白石が止めることは出来なかった。
それほど亜美の迫力は凄いものだったし、いくら白石が男だといえもう八十近い老人。
女子高生とはいえ若者の力で遮られてはどうしようもなかった。
「よろしかったら、今から会いませんか。お会いしたいわ」
 亜美はそれを聞くといつもの無表情で、場所、時間などを確認していた。
 電話が切られ、亜美を叱ろうとする白石だったが、亜美の顔を見ると何も言えなくなってしまい、
あまつさえ亜美が西園寺の当主と会うのを止めることができなかった。
 亜美は制服と学校の鞄に何か入れ、すぐに家を飛び出して言った。
「亜美が出て行ったのは、何時ごろなの」
「一時間ほど前でございます。すみません、もっと早く悠太様にお伝えしていれば」
「すんだことはいいよ。それより、僕も亜美のところに行ってくる。場所は聞こえたのだよね」
 悠太は白石に場所を聞いて、すぐに家を飛び出した。


26:桜の網
07/08/14 21:24:37 /i3G2aI1

 二話、投下終了。

 展開遅くてスマソ。なんか文章もぐだぐだしてるし。
 他の作家さんってテンポ良くてほんと凄いな。 

 あと、昨日GJくれた人と反応してくれた人ありがとう。おかげで一日で続きかけました。
 なんか要望とかあったら、言ってくれるとうれしかったりします。

 では。



27:名無しさん@ピンキー
07/08/14 21:33:07 bV3XsLfT
GJ!
大いに期待させてもらってます。

要望としては、
このあと嫉妬桜がお家パワーにより亜美被レイーポ、みたいな展開だけは勘弁してほしいかな。陳腐だけど。

28:名無しさん@ピンキー
07/08/14 22:38:58 DfVpcyMX
>>27
それにはすこぶる同意する。こういうスレでは凌辱よりも殺し合いの方がマシだと言われているし、レイプがあった場合、読むのを止める人も少なくないからあまりおすすめしない(作者さんの自由ですけど)。
もし、そういう描写があるなら投下前に一言あった方がいいと思う。
そして、GJ

29:名無しさん@ピンキー
07/08/15 03:14:53 thLtn+NQ
>>26うはwww病んでますなwwww
これはたまらん!!
GJ!!!

>>27-28そこは桜の網氏がきちんと注意してくれるさ。

さて当主と亜美の修羅場見物にでも行ってきますかね。

30:名無しさん@ピンキー
07/08/15 05:35:19 5izSV0UC
GJです。
個人的にはもっとキモウト加減を増やしてほしい

31:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/15 14:47:21 NTMO2mqS
第五回を投下します。

32:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/15 14:48:46 NTMO2mqS
 9月2日、日曜日。
 もう一日前にずれてくれれば夏休みがもう一日延びたのに、と多くの少年少女に思わせるほど
微妙なタイミングでやってきた休日。
 空には雲が大量に浮いていたが、天気はおおむね晴れだった。
 雲の切れ目からときおり顔を覗かせる太陽は、夏らしい凶暴な日光を地上に降らせていた。
 しかし、風がよく吹くため雲の動きが早く、わりと過ごしやすい日になりそうだった。

 ショッピングモールの一角にある喫茶店には、休日を満喫しようとする人たちがたくさん入っていた。
 デートの待ち合わせをする人、これから知り合いとどこかへ遊びに行く計画を立てる人々。
 皆が一様に薄着で、クーラーの効いた喫茶店内の空気を肌で感じていた。
 喫茶店の窓際付近、ショッピングモールを歩む人々を観察できる席。
 そこに、一人の女の子が座っていた。
 女性と言うよりは、女の子と言う方がしっくりくる可愛い女の子だった。
 長くのばした黒髪は滝のように一糸の乱れもなく下っていた。
 カチューシャを使うことで髪が広がり、ボリュームが少々増しているように見える。
 着ている服は上がノースリーブで肩丸出しのキャミソール、下にはミニスカートを履いていた。
 スカートからは、男心をどうしようもなくくすぐってしまう色っぽい足が伸びていた。
 少女は喫茶店の壁に掛けられている時計を見て軽くため息を吐き、アイスコーヒーをストローで飲み、
またモールを歩く人々に目を向ける、という行動を繰り返していた。

 先ほどから店内にいる店員、男性客、一部の女性客が、少女の行動を観察していた。
 一人で喫茶店にいるということは誰か―もしかしたら男―を待っているのかもしれない。
 少女は一時間も前からあの席で待ちぼうけの状態になっている。
 今は午前10時だから、9時からずっとそうやっていることになる。
 少女がまた時計を見て、ため息を吐きだした。
 呼応するかのように周囲の席に座る人々も軽く息を吐く。
 少女に操られているわけではない。少女がため息を吐く姿を見て軽く呆けたのだ。
 それほどに少女の姿は可憐だった。そして、その姿はエールを送りたくなるほどに儚かった。
 店内にいる人々は、少女の待ち人が登場するのを待った。
 早くあの子の笑顔が見たい、と思っていた。

 店内にカランカラン、というベルの音が軽く響いた。床を歩く音と店員の歓迎の声がそれに続く。
 しかし人々は誰かが入ってきても大して気にもしなかった。
 窓際に座る可憐な少女が店内に入ってきた人物を確認して、眩しい笑顔で大きく手を振るまでは。

「テツくーん! こっちこっちーっ!」

 と、店内の誰にでも聞こえてそうな声で、可憐な少女は叫んだ。
 そう、叫んだのだ。
 だから誰かがびっくりして、

「あの女っ! 何を恥ずかしげもなくっ!」
「落ち着け、これは作戦だ! あと数時間の辛抱だ!」

 という声を上げてもおかしくない。
 それ以外にも木製の床をダンダンと踏みつける音や陶器と金属がぶつかるような音がしたが、
びっくりしたのだから仕方がない。
 窓際に座る少女も、少女以上に騒がしい声で叫ぶ人も、悪いことをしていない。
 あえて誰が悪いのかと決めるならば、たった今喫茶店に入ってきた少年ということになるだろう。


33:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/15 14:50:32 NTMO2mqS
 先ほどまで人々が注目していた少女の顔が、少年が店にやってきた途端に明るくなった。
 少女の笑顔は力強く咲く、夏の向日葵のようだった。
 向日葵は太陽の方を向いて花を咲かせる。
 同じように、向日葵のようである少女の笑顔も、太陽ではないが一つの対象へと向いていた。

 少女の視線の先にいるのは、一人の少年。
 若干低めの身長である以外は変わったところのない、中肉中背の体格をしている。
 顔つきは中性的。それを気にしているのか、茶色の髪をスポーツ少年のように短く刈っていた。
 身にまとっているものは襟付きのカットソーと、地味なブルージーンズ。
 全体的な印象としては、休日に街へ繰り出してきた今時の高校生、といったところだ。
 その少年は手を振っている少女を見ると、少女の待つテーブルへと歩いていった。
 少女の前で、申し訳なさそうな顔で少年が頭を下げた。

「ごめん、朝倉さん。待ったかな?」
「ああ、ううん。待ってない待ってない。ついさっき来たばっかりだもん」
「ごめんね、わざわざ喫茶店の中で待っててもらって。お代は俺が払うよ」
「そう? じゃ、お言葉に甘えちゃおっかな」

 朝倉と呼ばれた少女はそう言うと、席から立ち上がった。
 少女からテツ君と呼ばれた少年は、テーブルの上に置かれていた伝票を手に取り、レジへと向かった。
 会計係のウェイターに伝票を渡して、財布から料金を取り出して支払う。
 レジの前でお釣りを待つ少年の腕に、少女の腕がからみついた。

「テツくぅん。これからどこに連れてってくれるの?」
「うーん……本当はプールにでも行きたいんだけど、いきなりじゃ無理だし。朝倉さんはどこか行きたいところある?」
「もちろんあるよ! ショッピングにゲームセンターに占い屋さん。
 一番行きたいところは他にあるけど、今日はやらないでおくよ」
「じゃ、とりあえずゲーセンでも行こっか」
「うん、行こう行こう!」

 ウェイターからお釣りを受け取ると、少年と少女は腕を組んだまま喫茶店の外へ出た。
 ドアが閉まった途端、店内にいた人間の数人が息を吐き出した。
 そのうちの半数は、あの女の子が約束をすっぽかされたんじゃなくてよかった、という安堵から生まれたため息。
 もう半数は、あの女の子、彼氏がいたんだ。ハアア……、といった調子の落胆のため息だった。

 今の少年と少女が恋人同士であると、店内にいる9割の人間が信じ切っていた。
 残りの1割は、あの2人は今日だけの関係だ、ということを確信していた。
 なぜ1割の人間―女二人―がそう思っているのかというと、

「あ、の、ア、マ! テツ兄におごってもらいやがって! 私だってなかなかおごってもらえないのに!」
「テツ……デートをしろとは言ったが、あそこまで優しくしろとは言っていないぞ……!」

 と言っているように、少年と少女の知り合いであり、2人の今日の行動を快く思っていないからだった。
 女2人は、目を合わせた者全てが顔を逸らしてしまうであろうこと間違いなしの怒りの形相のまま、
店の奥のテーブル席から立ち上がった。
 レジで料金を払い、怯えた様子のウェイターからお釣りを受け取ると、無駄のない素早い動きで喫茶店から出て行った。


34:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/15 14:52:38 NTMO2mqS
*****

 2時間後、ショッピングモールの一角に存在するファミリーレストランの店内にて。
 元から絶やすことのない笑顔をさらにゆるませたほくほく顔の朝倉直美と、
2時間前とうってかわって疲れの色を濃くさせた顔の哲明が向かい合って窓際の禁煙席に座っていた。
 哲明がなぜ疲れた顔をしているのかというと、普段より何倍も元気な朝倉直美に振り回されていたからだ。
 ゲームセンターで遊んだあと、ショッピングモールの服屋、靴屋、アクセサリーショップなど、
ほぼ十分おきに店に入っては出ていく、ということを繰り返してきた。
 しかも、これどうかな、似合う?テツ君はこういうの好き?とかいちいち言われていたら、
今日が(姉妹以外の相手では)初めてのデートである哲明が疲れないはずがない。
 今はようやく訪れた昼食をかねての休憩タイム、というところだった。

 2人はつい数分間に注文を終えたばかりで、まだ料理は届いていない。
 代わりにおかわりドリンクバーで入れてきたジュースが2人の前には置かれていた。
 哲明の前にはコーヒー、朝倉直美の前にはオレンジジュース。
 哲明はコーヒーの中に入れたスプーンをぐるぐるかき混ぜていた。

「テツ君、もしかして猫舌?」
「うん。コーヒーは好きなんだけど、熱いのはあんまり好きじゃないんだ」
「そうなんだ……へへ、いいこと聞いちゃった」
「……へんなことしないでね。クラスの人に言いふらしたりも駄目」
「しないしない。またひとつテツ君のことを知れて嬉しいな、と思っただけ」
「そ、そう……」

 照れも見せずに言う朝倉直美と、照れた顔でそっぽを向く哲明。
 なんとも初々しい姿だ。まさにつきあい始めの恋人同士。
 実際には哲明が誘ったからデートをしているだけで、2人は恋人でもなんでもないのだが。

 哲明は何も言わずに立ち上がった。
 別に不機嫌になったわけではない。トイレに行こうとしただけだ。
 少しは朝倉直美に対する照れもあったかもしれないが、哲明がトイレに行きたかったのは事実だった。
 朝倉直美もその空気を読んでいたので、どこへ行くかは聞かなかった。

 ところで、哲明にはある癖があった。
 それは、携帯電話をうっかりしてどこかに置いたままにしてしまう、というもの。
 8月30日に哲明が朝倉直美の家に行ったときも、トイレに行く際にポケットから落としてしまっていた。
 今もそうだった。哲明は、テーブルの上に携帯電話を置いたままにしていた。

 向かいの席に座っている朝倉直美は、当然そのことに気づいた。
 オレンジジュース入りのグラスを手に取り、グラスの縁に唇を添える。
 しかし、ジュースは飲んでいない。飲む振りをしているだけだ。
 その状態のまま、大きな黒い瞳で周囲を観察する。
 まだ哲明が帰ってくる様子はない。監視しているかもしれない哲明の姉妹の姿もない。
 そのことを確認すると、グラスをテーブルの上に置いた。

 朝倉直美の右手が、向かい席にある哲明の携帯電話に伸びる。


35:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/15 14:55:13 NTMO2mqS
―――

「ケイタイを……取った! はい、確定。リカ姉、作戦Bよ」
「ちっ……まだそんなややこしい手でくるか、朝倉め」

 ショッピングモールの一角に存在するファミリーレストラン―とは通路を挟んだ向かい側に存在する、
2階建てのファーストフード店の店内にて。
 哲明の姉妹である明菜とリカは2階の窓際の席に座って、向かいの哲明と朝倉直美を監視していた。
 哲明が席を外した途端に、朝倉直美がとった行動の全てが2人には筒抜けになっていた。

「朝倉が今、さっきまでテツ兄が持ってたケイタイと、自分で持ってきたケイタイを入れ替えたよ。
 リカ姉の言うとおりだったね。30日に朝倉がテツ兄のとそっくりのケイタイを用意して入れ替えてた、って推測」
「そうでないと、朝倉のやった奇妙なことの説明ができないからな。
 私宛にテツのアドレスでメールを送ったり、腹立たしい画像付きのメールを送ったり、ということはそうでないとできない。
 昨日テツが携帯電話を見失っていて助かった。あれがなければ気づけなかった」
「私が電話した時、呼び出し音が鳴ってたもんね。朝倉が持っていたテツ兄の本物のケイタイには繋がっていた、と。
 朝倉も馬鹿ね。頭の回転が速い人間は予定外のことが起こると弱いもんよ」
「お前は呼び出し音のことに気づけていなかったが」
「あれはわざと。わかんないはずないじゃない」
「……まあいい。そういうことにしておいてやる」

 言い終わるとリカはプラスチックのトレイを持って席を立った。
 明菜はリカの背中にあかんべをしてから、リカの後に続いた。
 トレイを片付けると、2人は店を後にした。

「ねえ、本当にこれ以上見てなくてもいいわけ?」
「朝倉直美が、私が最初思っていた通りの女であれば監視している必要があっただろうが、
 わざわざ携帯電話を入れ替えるようなことをするならば、これ以上変なことはしないだろう」
「思っていたとおり? ああ、あれ。
 テツ兄がデートに誘ったら、調子に乗った朝倉がテツ兄を無理矢理ホテルに連れ込もうとするだろう、ってやつね。
 よかったね、もし私が作戦Bを考えなかったら朝倉の思い通りだったよ?」
「くそっ……ホテルに連れ込もうとしたところを引っ捕らえるつもりだったのに……」
「さっきもジュースを飲む振りして警戒してたし。私達のことを考えのうちに入れてるんでしょ。
 でも―作戦Bでやったことに気づけるかな?」

 ファミリーレストランの店内にいる愛しの兄と、忌まわしき猫を見て、明菜はそうつぶやいた。

「まったく、まだるっこしい。私だったらテツを気絶させてでもホテルに……」
「ホテルに、何?」
「あっ。い、いや、なんでもないぞ」
「ふーん……ところで、賭は私の勝ちだから、帰ったらもちろん撮影に協力してもらうわよ」
「……仕方ないな。約束は約束だ」

 渋々、リカはうなずいた。
 嫌そうな顔をしていることから考えて、その『協力』というのは不愉快なものであるらしい。

「しかし、本当にやらなければいけないのか? そんなモノが必要か?」
「必要よ。普通にメールを送るだけじゃいまいち噂になりにくいし」
「むしろ変な噂が流れるのではないかと思うのだが……」
「大丈夫よ。友達はみんなネタだと思ってくれる。たとえ噂になったとしても……別にかまわないしね」
「私がよくないんだ!」

 リカの叫びは誰の心にも届かない。明菜にも、哲明にも、朝倉直美にも。
 午後1時のショッピングモールを歩く人々の耳にだけ、リカの叫びは受け入れられた。


36:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/15 14:56:46 NTMO2mqS
***

「ただいまー。あれ、なんで2人とも玄関にいるの」
「おかえり、テツ兄。お疲れ様。ほんと~~……に、お疲れ様」
「テツ? 変なことをされなかったか? 性的な嫌がらせを受けたりしなかったか?」
「なんだよ2人とも、その変な反応は……」
 
 午後3時に、哲明は家に帰ってきた。
 その顔色は普段と変わりない。喜びにも、悲しみの色にも染まっていない。
 いつも通り友達と一緒に遊んできました、帰ってきました、という感じだった。

「意外と帰ってくるのが早かったな」
「うん、朝倉さん急に家の用事が入ったとかなんとかで、帰らなくちゃいけなくなってさ」
「へええ……でもさ、一緒にいる間にいろいろやったんじゃないの? ねえ?」

 哲明を下から睨め上げるように見つめながら明菜が言った。
 ちなみに、哲明と明菜の身長は同じぐらいだ。
 首を前に傾けて、上目遣いのようにして睨みつけているのだ。

「顔、怖いぞ明菜。ただゲーセンに行ったり買い物に行ったりご飯一緒に食べただけで、変わったことはしてないぞ」
「まあ、そこまでは見て……じゃない。そ、それ以外にも何かしたんじゃないの?」
「うーん……あ、2人一緒の写真を撮ったっけ」
「ケイタイ? デジカメ? もしかして写真屋さん?」
「携帯だった。近くを歩いていた人に渡して、撮ってください、って頼んでたから」
「ほう……」
 腕を組んだリカが、軽くうつむきながら唇の端を吊り上げて笑った。
「くくく……ここまでプロファイル通りに動いてくれるとは」
「何言ってんだ、リカ姉」
「なんでもない……ただ面白いだけだ。では私は部屋に戻っておく。明菜、あとは手はず通りに」
「オッケー。―たぶん、そろそろ送っただろうからね、あいつも」
 哲明にとって意味不明なことをつぶやきつつ、姉妹は玄関から立ち去った。


 哲明は姉妹の行動に疑問を覚えながら、1人で部屋に戻り、頬を撫でながらつぶやいた。

「帰り際に朝倉さんの唇が当たったような気がするけど……気のせいだよな?」


37:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/15 14:58:11 NTMO2mqS
***

 すでに日付の上では9月3日になっている、深夜2時。
 電球の明かりが灯った哲明の部屋では、眠りこけた哲明と、部屋の同居人である明菜と、リカが集合していた。
 深夜に姉兄妹3人が集合する。その時点ですでに少し異常な状況であると言えるだろう。
 だが、姉妹の様子は異常な状況の中でもさらに際だっていた。
 リカは携帯電話を双子の兄妹に向けていた。
 明菜は、二段ベッドの下で眠る哲明に寄り添うように横になっていた。

「テツ、にいぃ……はぁ……」
「こらっ、明菜。これは作戦だぞ、それをわかっているのか?」
「わかってる。ちゃんと合図を送るって。テツ兄が起きちゃうから静かにしててよ、もう」

 そう言いながら明菜は兄の体に自らの体を擦りつける。
 姉は、これは作戦だこんなのはテツは望んでいない、と呟きながら明菜の合図を待っていた。
 姉妹は今、現状において最もやっかいな存在である朝倉直美をこらしめるために、
自らの身を犠牲にしているところだった。
 もっとも身体を使っているのは明菜だけではあるが。

「あは……テツ兄の、おなか……意外と固いんだ」
 明菜の手が、哲明のTシャツの下へと潜り込んだ。手で撫で回した後で、シャツを胸元までゆっくり上げていく。
「すき……好きだよ、テツ兄……腕、貸してね……」
「おい、そんなこと言わなくてもいいだろう」
「テツ兄の腕、あったかい……大好きぃ……」

 姉の言葉など無視して、明菜は自分の股に哲明の手を挟み、二の腕に両手を回した。
 求めるように、兄の腕と一体化するのを目的にしているように、明菜が身をよじる。

「シャンプーの匂い……やっぱり私のと同じだ。テツ兄と一緒……今は、身体もひとつ……」
「ぐぐっ……私だって同じなのに」
「やあん、動いちゃ駄目、テツ兄……感じちゃう、からあ……」
 なおも明菜は兄の身体へと近づいていく。
「いいの、テツ兄の腕、使っても……? じゃ、もっと動かして……」
「……くっ、ええい、合図はまだかっ!」

 我慢し続けてきた姉がとうとう吼えた。


38:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/15 14:59:28 NTMO2mqS
 そのとき。

「んん……あいず? ああだめだよ、そんなにアイス食べたら、リカ姉……ガリ姉……」

 姉の声に反応したのか、哲明が声を漏らして、次に寝返りを打った。
 そうすると、当然哲明と明菜の身体は正面から向き合うことになる。

「うわわっ……馬鹿姉! 起きちゃうでしょ!」
「あ……すまん」
「まったくもう……ごめんね、テツ兄。もう邪魔なんか入らないから。
 でも、ちょっと許せないな……なんで私の夢じゃなくて、リカ姉の夢なんか見るかなあ……?
 こんなときに他の女の名前を呼ぶ男には、おしおきしないとね」

 明菜の腕が、哲明の首に回された。2人の顔が少しずつ近づいていく。
 ここで間違ってキスしても、はずみでやってしまった、という言い訳をできそうな距離だ。
 たった今、こめかみに血管を浮き上がらせている姉がその言い訳で許すとはとうてい思えないが。

「テツ兄の、息……いいにおいだよ。私にも、頂戴……? 私のと交換。唾もあげるから、ね?
 テツ兄は全部『私たちのものなんだから』」
「……よし!」
 待ちかまえていた姉の携帯電話が、並んで眠る兄妹の姿を写真に収めた。
 合図は明菜の言った、『私たちのものなんだから』だった。

 この写真さえ撮ってしまえば、哲明と明菜をくっつけておく理由はなくなる。
 リカはすぐさま明菜を哲明からひっぺがした。

「あ……ごめん、今のなし。もうちょっとでイきそうだったから」
「いいや、駄目だ! まだやることがあるんだろう! さっさと私の部屋に行くぞ!」
「あああ……ごめんねテツ兄、また今度……」
「今度など、無い!」

 リカは明菜のパジャマの襟首を捕まえたまま、哲明の部屋を後にした。
 哲明の部屋に静寂が戻った。
 ベッドで眠る哲明はもう一度寝返りを打った。
 たった今まで妹が目の前で痴態を見せていたことなど、哲明は知りもしない。

 そして、夜はふけていく。


39:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/15 15:01:58 NTMO2mqS
*****

 9月3日、月曜日の県立高校にて。
 朝倉直実はこの日、朝から上機嫌だった。
 というのも、昨日哲明とデートできた時の余韻がまだ残っているからだった。
 喫茶店に来たときのテツ君の顔、気まずそうで可愛かった。
 クレーンゲームでぬいぐるみを取れなくて悔しがるテツ君の顔は初めて見た。
 お揃いの指輪をつけたときのテツ君の戸惑う様子、抱きしめたいぐらい良かった。
 昨日も家に帰ってから何度も思い出したことではある。
 だが朝倉直実にとっては哲明の顔は何度思い出してもいいものらしい。
 つまり、朝倉直実は色ボケしているのだった。

 しかし、朝倉直美の心には、一つだけ引っかかっていることがあった。

「ねえ、山っち」
「直実ちゃん、何?」
「昨日、私がどこに行ってたか知ってる?」
「へ? いや知んないよ。誰かとデートでもしてた?」
「え、と。まあそうだけど……ごめんね、なんでもないよ」

 昨日朝倉直実は、1通の写メールを哲明の友人達に送った。
 朝倉直実が哲明の腕にくっついている写真だ。
 その写真を、昨日哲明と入れ替えた携帯電話―元は朝倉直実の物である携帯電話で送信したのだ。
 入れ替えた、つまり、2つの携帯電話はそれぞれの持ち主の元へ戻ったということになる。
 しかし、朝倉直実はただ携帯電話を一時的に入れ替えていたわけではない。
 自分で作ったメールアドレスを、哲明のメールアドレスとして友人に登録させようとしていたのだ。

***

 昼休み、朝倉直実は生徒があまり立ち寄らない別校舎のベランダで携帯電話を見つめていた。
 哲明の携帯電話と同型、同色、同じ壁紙、同じ着信音、同じ電話帳、全てを同じにしている携帯電話だ。
 違う点と言えば、電話番号とメールアドレスぐらいのもの。

「どういう……こと? 今この携帯のアドレスは、テツ君の友達にはテツ君のアドレスとして登録されてるはず。
 昨日の写メールはテツ君が送った、っていうことになってるはずなのに」

 そう。朝倉直実の計画通りに行けば、哲明のアドレスと朝倉直実が作ったアドレスが入れ代わっているはずだった。
 そうすれば、2人が写っている画像付きのメールが、哲明の送ったものとして友人に認識されるはずだった。
 このメールを送れば、哲明と朝倉直実が付き合っている、という噂をますます浸透させることができるはずだった。

「そのはずなのに、なんで……っ?!」

 なぜ、自分がメールを送った友人は写真のことで話しかけてこないのか。
 なぜ、思い通りにいっていないのか。
 そして、なぜ。

「こんな、わけわかんないっ……、画像がテツ君から送られてくるのよっ!」

 朝倉直実の携帯電話のディスプレイに写っているのは、哲明と明菜が顔を向き合わせ、キスをしようとしている画像。
 送り主は『テツ君』。つまり哲明から送られたものだった。
 電話帳の『テツ君』のメールアドレスは、間違いなく哲明の本物のメールアドレス。
 しかも、自分が以前から持っている携帯電話にも、同じ画像付きのメールが届いていた。


40:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/15 15:04:17 NTMO2mqS
 朝倉直実にとって、自分の計画が崩れることなど考えられないことだった。
 勉強も運動もできる朝倉直実は、全てを計画通りに進めてきた。
 高校進学、これからの進学先、哲明の心を射止めるための策。完璧な策のはずだったのだ。
 自分の計画を阻害するものがいても、それに自分が乗せられるはずはない、と思っていた。
 ましてや、奇妙な担任の教師や忌々しくも哲明と同じ顔をした明菜に邪魔されるなど、考えられなかった。
 だから、朝倉直実は自分がミスを犯したのだ、と思った。

「そう。たぶん間違ってテツ君の友達じゃない人に送っちゃったんだ。そう、そうだよ。
 今からでも遅くない。今から、写メールを送ればいいんだ」

 朝倉直実は昨日と同じように、哲明の友達にメールを送り始めた。
「まずは……山っちから………………よし。次は村田君に……」
 朝倉直実の指が、二回目の送信ボタンを押そうとしたとき。
 突然、聞き覚えのある着信音を聞いて、動きを止めた。

「これ、テツ君の、メール着信音……だ?」

 自分がメールを送ってすぐに着信音が聞こえてきた。
 このメロディは、哲明に渡すために細部にまで細工を施す際、何度も耳にした着信音だった。
 その音が自分の後ろ、階段の方から聞こえてくる。

「だ、誰よ……誰っ!」
「へー、『今日は朝倉さんと一緒にデートしました』、ね。はっずかしいメール。
 こんなメールを送ったって噂を立てられた方がテツ兄にとっちゃ迷惑だよね」
「あ……あき、明菜ちゃん……」

 階段を登ってやってきたのは、哲明の妹の明菜だった。
 右手で携帯電話を持って、画面を見つめている。
 朝倉直実の前にやってくると、携帯電話を朝倉直実の眼前にかざした。

「そ……こ、これ……」
「なんで驚いてんの? 自分で送ったメールなんだからそんなに驚くほどのもんでもないでしょ」
「なんで、その、明菜ちゃんの携帯電話に……」
「人に聞く前に自分で考えてみたらどう? 私よりずーーっと、頭いいんだからさ」
「そんなっ、こんなのっ……この電話に細工、すれば……」
「そ、細工したのは私。ウチの姉はデジタル弱いからねー。私がやるしかないのよね。
 でもさ、あんたが細工に気づかずにメールを送ったってことは、頭で私が勝ったってことかな?」
「なっ……ぅっ……」

 朝倉直実は、喉に息を詰まらせたように押し黙った。
 明菜は、左手でもう一つ別の携帯電話を取り出して広げると、呆然とする女に画面を見せる。
 女が、ひきつるような声を吐き出した。

「わかるかな? ちょーっとわかんない? 難しい? 降参? ま、あんたにはわかんないかもね。
 ちなみにこのメール、あんたのケイタイだけじゃなくってテツ兄の友達にも送ってるから。
 そんで、メールの送り主はテツ兄ってことになってる。この、ウチの姉のケイタイで送れば当然そうなるけどね。
 テツ兄の唇、すっっっっごい、柔らかかった。これからあの唇も体も、全部私のものになるのよね―最高」

 明菜が左手で持っている携帯電話の画面には、朝倉直実にとっては何よりも忌まわしくて目にしたくない、
目を閉じた哲明と真っ赤な顔の明菜がキスをしようとしている画像が表示されていた。


41:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/15 15:06:19 NTMO2mqS
次回へ続く。

次回、決着編とエピローグの予定。

42:名無しさん@ピンキー
07/08/15 18:39:56 dOsAWU3K
ごちそうさまですw

43:名無しさん@ピンキー
07/08/15 21:29:36 ed0x65dt
ちょっ・・・
テツが妹とキスしてるところみんなに送っちゃったのかよw

GJ!

44:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 02:04:17 ukb3dXrw

 GJ!
 朝倉がどうなるのかが気になります。


 桜の網、三話目を投下しようと思ったんだけど、
 Z.OmhTbrSo氏が投下してくれたばかりだから何日か空けたほうがいいのかな?

 もし良かったら投下するから、言ってくれるとうれしい。




45:名無しさん@ピンキー
07/08/16 02:08:29 8CoLvYkv
さぁ投下するんだ。
もう俺は全裸なんだ

46:名無しさん@ピンキー
07/08/16 03:54:07 yscOktug
期待してます。

47:名無しさん@ピンキー
07/08/16 04:30:11 WGLKuLDN
>>44
なにをしている?
さぁテキストを再構成してうpしろ
キモ姉の嫉妬深さ
キモウトのしたたかさをみせつけろ!
ハリーハリーハリー

48:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:24:20 ukb3dXrw
 ごめん、投下していいのかどうかわからなかったから、
誰かの反応待とうとしていて、寝てたorz

 桜の網、三話投下します。
 また暇なら読んでくれるとありがたい

49:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:25:25 ukb3dXrw

 亜美と西園寺の当主との待ち合わせ場所に着いたとき、悠太は自分が汗びっしょりになっていることに気がついた。
 このまま西園寺の家の当主に顔を合わせるのはいささかまずい。
けれどそんなことを気にしている時間はないように思う。
 亜美は冷静でとても頭がいいから変なことはしていないだろうけれど、その冷静な亜美がこんな奇行にでたのだ。
心配ではある。早く行かないと。
 場所は喫茶店。
 西園寺財閥の人間とは言ってもこんな一般的なところにも来るのだなと思って、
その点については、悠太は自分の固定観念に悪意があったことに気づき、心の中で頭を下げた。
 店内は閑散としていた。従業員も数人で、なんだか古風な雰囲気もある。悠太はこういうシックで渋い店が好きだった。
店の中も狭すぎず広すぎず、とてもいい。
 悠太が店に入ってすぐ、亜美を見つけた。あの制服なのがそうだろう。対面している人が西園寺の当主だということは間違いない。
 けれど顔は丁度二人が座っている席の前の鉢に隠れて見えない。着ている服は、どうやらドレスのようだ。
悠太は、外国じゃないんだから、と思いつつ先ほどの観点も間違ってはいないのかもしれないと考え直した。
 二人の席に近づこうとするとまずウエイトレスがやってきた。悠太は彼女が言うより早く、待ち合わせをしていたと伝える。
ウエイトレスはそれを聞くとゆっくりと頭を下げ、席に案内をしてくれた。
 席の側までは距離が多少ある。
広いわけではないといっても、店の一番奥の壁際に座っていた二人までは少し遠い。まだ何を話しているのかはわからなかった。
 悠太は、案内してくれたウエイトレスにお礼を言う。
 するとその時、黒い服をした男たちがサングラスをかけて店外からこちらを見ているのに気づいた。
 西園寺の者達だろう。
 やはり、早く亜美を連れて帰らないといけない。
 悠太は先ほどよりも更に焦って、二人の席まで近づく。真後ろまで来たとき、空気が肌を突き刺した。


50:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:26:26 ukb3dXrw

「……妹…」
「そう、妹です。私と兄さんは家族なのだから離れて暮らしているなどおかしいでしょう。兄さんには西園寺に戻っていただきます」
「………………」
「それに、これは彼女とはいえ他人である貴方には関係のない話でしょう」
「………」
 驚いたことは二つある。
 一つは西園寺の屋敷の当主がこの間目にした女の子だったこと。
屋敷の主、つまり屋敷にいる家族の娘、悠太はあの日そう思っていたから当主がいるはずの場面で彼女がいるとは考えていなかった。
主、つまり屋敷の住人。主の家族ではあるかもしれないが、彼女は当主ではないと思っていたのだ。
電話での応対も、すべて白石がやっていて声を聞いていなかったというのもある。
 しかし彼女がここにいる、ということは。
 彼女があの馬鹿でかい屋敷の当主…?
 とは言っても彼女は、まだ成人すらしていないし、きっと悠太よりも年下だ。おそらく亜美と同い年ぐらいだろう。
それなのに、あの西園寺の当主をしている。この若さでたいしたものだと思った。
 二つ目は、何と言ってもこの重苦しい空気だった。
二人が話しているこの席の周りの空気が歪にゆがんでいるかと思えるぐらいの空圧。
 もし絵で表せるなら、悠太は窓が破壊した絵と机が凹んでいる様を描くと思った。
それほどこの空間は異質で、よくよく意識すれば先ほどのウエイトレスや他の従業員もちらちらとこちらを見ていた。
 とは言ったものの、固まっている場合ではない。悠太は二人の側に行く。
まず始めに西園寺の家の当主である彼女に声をかけようとして止め、逡巡して亜美に話しかけた。
「こんなところで何しているんだよ、亜美」
 二人がいっせいにこちらを見る。
「……お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん?」
 亜美は驚いていたが、もう一人の彼女は驚きよりも疑念が強そうだった。
「勝手なことしたらだめだろ。心配したじゃないか」
「……ごめんなさい…でも」
「わかっている。いい機会だから、このまま話を聞いていていいよ」
 どうせ、亜美には言わなければならなかったことで、もう亜美は悠太が家を出て行くことを知ってしまっている。
ならば、直接ここにいてもらったほうが話は早いだろう。


51:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:27:06 ukb3dXrw

 悠太は亜美の横の席に座り、西園寺の当主へと向き直った。
「妹の粗相、お許しください。まだまだ幼いもので、罰は何なりと僕に」
 悠太はゆっくりと頭を下げる。そして真剣なまなざしで彼女を見つめた。
「初めまして。白石、悠太と申します。西園寺さんとお会いできて光栄に思います。
そして、いい機会ですから、明日の話し合いは今日ということにさせてもらえませんか。
その方がそちらのお時間もとらせないでしょうから」
「それは、かまいませんが」
「でしたら、話を始めましょう。単刀直入に言わせてもらいます。
なぜ西園寺さんは僕を一人息子などと称し、西園寺財閥に招こうとお考えなのですか」
「称すだなんて。だって兄さんはれっきとした西園寺の家の」
「誠に申し訳ありませんが、貴方に兄などとは言われたくはありません。
僕の妹は亜美だけです。そして家族の姓に西園寺などというものはない」
 悠太は予想していた。西園寺財閥の当主が一人息子として悠太を迎える。そこには何かしらの事情と理由があるのだろうということを。
 白石の言っていたことが本当で、悠太の両親が西園寺の家のものだったとしても、
悠太にとってはそんなものはゴミ屑よりも、もっと価値がなかった。
 西園寺が何をしてくれたって言うんだよ、赤ん坊の頃にボロ屋に放り込まれて、何も手助けなんてしてはくれなかったじゃないか。
白石さんがいなかったら、僕は今頃…。
 悠太の幼い頃に鮮やかな記憶はない。幼稚園では両親がいないことでいじめられ、小学校の低学年までは友人すらいなかった。
白石は悠太を励ましたが、このときまだ西園寺で働いていたので、ただ一人で悠太は孤独に耐えた。
それは、まだ幼い悠太にはずいぶんと酷だった。
 しばらくして、白石は少しばかりの金とともに西園寺の屋敷を辞め、悠太を育てることに時間を費やし始めた。
悠太はその甲斐あってなんとか前向きな男の子に育ち、友達も少しずつ出来るようになっていった。
悠太のこの白石に対する感謝の気持ちは、並大抵のものではない。
 余談だが、悠太が白石のことを『おじいちゃん』と呼ばないことと、白石が悠太のことを『悠太様』と呼ぶのは白石の判断で、
この子を立派にして見せるという強い心の現われだった。
悠太はそのことを残念がったが、名称などで家族の絆が切れるなどということはないと思い、何も言わなかった。
 亜美は白石が西園寺をやめるときに連れてきた子供で、
そしてやはり亜美も西園寺の父親の気まぐれによって出来た子供だった。
 悠太は一層、両親を憎んだ。


52:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:28:11 ukb3dXrw

 だから今頃出てきて、一人息子などといって迎えるなどとお笑いにもなりはしない。
更に憎しみは増し、悠太を不快にさせるだけだった。
「ですが」
「家族のことはいいのです。僕が何を言っても、もう無駄でしょうから。行きますよ、西園寺に」
「お兄ちゃん」
 亜美は悠太の腕に抱きつく。顔は悠太の側まで接近していて、普段無愛想な彼女がこうしているのを見ると、彼女の必死さがよくわかった。
 けれど悠太は、引かない。
「亜美は心配しなくていい。離れていても僕たちは家族だから」
「…でも、私は…」
 亜美からすれば、家族という絆よりも悠太の側を離れることが嫌で、
ある意味悠太の近くにいられるならば絆がなくなってもかまいはしなかった。
それにそんなものなくなってしまったほうが、本当の家族に、慣れるというものである。もちろんいつかはなるつもりだが。
 ともかくも、悠太は亜美の想いを知らないのだからここは譲れない。
このゴミ虫を早くすり潰して私たちの幸せを取り戻さないといけなかった。
今、悠太さえいなければ鞄の中に入れておいた二本の包丁で串刺しにしてやるところだ。グサグサと、何回も。
「……」
 亜美はせめて西園寺の当主をにらみつけてやろうと思って、彼女を見た。
「そういうことですので、西園寺さん。その代わり、白石さんと亜美の生活の保」
 続いて悠太も彼女を再度見て話し始めたが、その後の言葉をいうことができなかった。
 対面した彼女の瞳からとめどなく涙が流れている。
頬を濡らした滴はぽたぽたとテーブルに落ちる。美人の彼女が泣くと、男にこれ以上ないほど罪悪感を与えるには十分だった。
店内の空気が更に重くなる。
「桜です。私の名前は、桜です。兄さん、貴方には西園寺さんなんて言ってほしくない」
 悲痛な叫び。桜は口に手を当て嗚咽をこぼす。
「兄さんも、貴方も、私を裏切るのですか」
 桜の瞳はただ切に悠太を見据える。


53:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:29:22 ukb3dXrw

 仮に、と悠太は思った。
 今彼女が十六歳だとして、ここまでどれほどの苦労をしてきたのだろう。
まだ、高校生の彼女。
自分は高校三年生の現在まで高校生活は十分に楽しんだけれど、彼女はおそらく今までもこれからも楽しむなど、できはしないはず。
 当主、というのはただ屋敷の頭目というわけではない。
その地位にあるからには、屋敷自体の運営はもちろん、多少は会社のことも知らなければならない。
そして行えば、仕事もしなければならない。西園寺財閥。その仕事の量は生半可なものではないだろう。
仕事を識れば、人間関係の醜さは簡単に浮き彫りになる。
それは仕事関係から屋敷にいる使用人まで。なぜ雇われたのか何をしようとしているのか。
加えて桜は高校生の当主という普通からは考えられないもので、見方を変えればこれ以上頼りないものもない。
 重圧、嘲笑、侮蔑、…裏切り。
まだ少女とさえいえる目の前の彼女は、その中でたった一人だったのだ。
 なぜ若い彼女が当主になっているのかはわからなかったが、孤独というものを悠太は知っている。
 そしてそのつらさを与えたのが、桜の話が本当で、悠太が桜の兄だったなら、それは悠太が与えたものとも言えるのではないだろうか。
もちろん意図的ではないにせよ、彼女を一人にしたという事実は変わらない。
捨てた両親のように、悠太は、桜という妹を見なかったと言えなくもない。
白石に亜美以外の兄妹がいるかどうかなど聞いたことはなかったのだから。
 飛躍しすぎだとも思う。
けれど、悠太からすれば捨てるという事実は無視できないもので、そのことを認識すればするほど桜のことが他人のようには思えなくなっていた。
「ごめん…。こっちも一方的に話して、悪かったよ。桜」
 桜が涙を拭く。顔がほころんだ。今日始めて見る桜の笑顔だった。
「順番に話そう。まず、僕が君の兄だと思うのは何でなのかな。聞かせてほしい」


54:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:30:00 ukb3dXrw

 それからの話は、先ほどよりも穏やかになった。
 悠太が桜の実の兄であるということに間違いはないらしい。少し前にDNA鑑定までしたと桜が言う。
「でも、DNAの検査って僕自身が病院とかに行かないといけないんじゃ」
「ああ、兄さんの血液なら、買いました」
 どうやって、と聞くことは出来ないので曖昧に笑っておいた。さすが西園寺というところか。
「なんで、僕を西園寺に?桜には悪いけれど、僕は両親のことがあまり好きじゃないんだ」
「兄さんの言いたいことは、わかります。私もあの人のことは嫌いですから」
「だったらなんで」
「でもやはり、私と兄さんは家族なのですから、離れ離れになるのはおかしいでしょう。兄妹はいつも一緒にあるべきだと思うのです」
 なるほど、桜は家族だから一緒に暮らしたいということか。
まだ高校生で、幼い頃から家族と暮らしたことがない彼女の言い分はよくわかる。
 悠太も家族はいつか離れ離れになってしまうものかもしれないけれど、このような不当に引き離されるのはおかしいと思うし、
出来るならかなえてあげたい願いでもある。けれど、
「……」
 亜美も家族だ。腹違いとはいえ立派な。
「なら桜、亜美と白石さんも西園寺に住ませて貰えないかな。亜美だって立派な妹で家族なんだから」
 亜美はそこで、嫌な考えが頭についた。
もしかすると、この桜という女はすでにわかっているはずなのに騙されたままでいるのではないかと思ったのだ。
「妹?」
 案の定、桜は亜美のほうを不思議そうに見る。
「でもこの子、電話では兄さんのこと彼氏だって言っていましたよ」
「え?いやいや、そんなわけないよ。亜美はただの妹。僕に彼女なんていないし」
「そうだったんですか。…それはそれは」
 桜は愉快そうに亜美に向かって目を褒める。
口に手を当てた様がいちいち亜美の神経を逆撫でした。
悠太にしがみついている手を片方はずし、鞄の中に伸びる。


55:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:30:43 ukb3dXrw

 わざとだ。
亜美の事を彼女ではないのかと聞いたのは意図的なもの。
そうすることで、亜美が嘘をついたということと、悠太の口からそうではない、ただの妹ということが聞きたかったのだ。
事実を突きつけてやりたかったのと悠太に対する僅かな不信感を抱かせるためだろう。
「でも、兄さん。亜美さんと白石も一緒に、というのは聞けないお願いになります」
「どうして」
「白石は西園寺の執事を一度辞めました。兄さんは知らないかもしれませんが、それは思いのほか無理を通したものです。
つまり皆の印象は、横暴に逃げたというあまりいいものありません。
いくら私が当主といっても、屋敷に住んでいる者がすべて信用できるものとは限りません。
よって白石は戻ってはこられない。そうすると」
「……白石さんが一人になるのか」
 悠太は頭を悩ませた。亜美はもちろん大事でかけがえのない家族ではあるが、白石もまた同じように大切な家族だ。
 悠太にとって白石を一人であの家においていくというのは考えられないもの。
もう八十近い老人ということもある。後から何かあったでは、後悔してもしきれない。
 育ててくれた恩。決して忘れはしないし、何よりも悠太は白石がいたからここまで生きてこられたのだ。
そんな白石をボロ屋に一人置き去りにすることなど。
 できない。
 ならば、亜美がいればどうだろう。白石は大丈夫だ。亜美は多少無口で料理が出来ないが、不器用だということはない。
むしろ頭もよく、出来ないことのほうが少ないだろう。
それに料理ぐらいなら何とでもなる。口も無口ではあるが喋れないというものじゃない。
 ただそれは、亜美を置いていくということ。それでは、桜にしたことに対して何も変わらないのでは。


56:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:31:28 ukb3dXrw

「兄さん、なら期限をつけて家に来てもらえませんか」
「どういうこと」
「今は五月ですから、そうですね、夏休みが終わるまでは家に住んで、それからまたどうするか考える、ということです。
これで、二人を置いていくことにはならないでしょう」
 桜の提案は、とても助かるものだった。これならば亜美を置いていくことにはならない。
悠太は喜んで頼んだ。
「うん。そうしよう」
「……だめ」
 亜美がコアラのように悠太にしがみつく。鞄に伸びた手は再び悠太の腕へと戻った。
桜は悠太にはわからない程度に亜美を睨み付ける。
「私は…お兄ちゃんと一緒が………いい」
「亜美、でも桜は今まで一人だったんだ。少しぐらい家族として側にいてあげてもいいだろ。たった三ヶ月ちょっとだよ」
「……いや……や」
「でも」
「絶対……い…や、…痛!」
 唐突に亜美が声を荒げる。
「どうしたの」
「なんでも………ない」
 顔をしかめる亜美は桜の方に向き直る。
 このとき悠太が、もう少し亜美の足が見える位置に座っていれば気づいたかもしれない。
テーブルの下では桜が思い切り亜美の靴をふんづけていた。
しかも都合よく小指辺りをぐりぐりと。まるで男がタバコを足でもみ消すように。
 間髪いれずに亜美も、空いている足で踏みつけてやろうとしたが桜はひらりと上体には身動き一つ出さないで避けた。
 ――この糞虫
 こうなったら兄に言いつけてやろうと思って声を出すが、足にひんやりと新たな感触があった。
 亜美は言いよどむ。それが何であるかわかっているから。
 ………刃物。
 テーブルの下では桜が側に立てかけてあった日傘で、亜美の右足にぴたり狙いをあわせていた。
狙いをあわせる、というのは間違っていない。
桜の持っている日傘の先には直径一センチにもなる針が埋め込まれていたから。
横に引いても縦に裂いても血が噴出すだろう。突かれれば風穴こそ空かないが、一生消えない傷くらいは出来る。
 自分の体の一部に一生ものの傷が出来る。それは亜美からすれば避けなければならないものだった。
いずれ最愛の人に、悠太に見せる体だ。大きな傷があっては、悠太も興ざめだろう。それは絶対に避けなければならない。
「………………………わかった」
 渋々ながらも頷く。


57:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:32:29 ukb3dXrw

 亜美はもし今悠太がいなければ、どうやってこの虫を度殺したら一番苦しませることが出来るだろうと考えていた。
刺殺、殴殺、轢殺。どれがいいだろうか。どれも虫にはお似合いで、私たちの生活の邪魔をするなら、どれも生ぬるくすらある。
 だから、せめて一矢報いようと、亜美が頷いたと同時に桜が日傘を元に戻した瞬間、包丁のほかに鉄板の入った鞄で、
悠太には見えないように桜の脛を出来る限り加減なく殴った。
 桜は口がひくひくとしていたが、声に出すことはなかった。
「ありがとう、亜美」
 悠太はテーブルの下の攻防と相反して、にっこりと微笑む。続いて亜美の頭を優しくなでた。
 桜はそれを見て、がきりと歯噛みしたが悠太の耳には届かなかった。
「話もまとまったことです。帰りましょう、兄さん」
 桜が立ち上がった。先ほどの痛みは微塵も顔に出さない。悠太は桜の言ったことに驚いて聞き返した。亜美が更に悠太の腕に抱きつく力を強める。
「え、今から?」
「当然です。三ヶ月しかないのですから、一秒でも惜しいわ。
安心して兄さん、亜美さんと白石の生活のことについては、しばらく困らない程度にはお金を用意しておきますから」
 そのことに関しては、安心する。が、いくらなんでも急すぎる準備期間ぐらいはほしかった。
桜からすれば、それすら時間が惜しいということなのだろうが。せめて、白石には訳を説明したい。
「荷物ぐらい取りに行かせてよ」
「物なら言ってくださればすべて私が用意いたしますわ。白石には亜美さんに伝えてもらえばいいでしょう」
「いや、でもそれは」
「…いきなり私と一緒になるのには、抵抗がありますか?」
 今度は亜美の心が煮えくり返る番だった。
 こいつ、またわざとこんな言い方を…。
 女の涙は何よりも強いとはよく言ったものだが、同じ女からすれば浅ましいことこの上ない。
しかも亜美の予想が正しければ、桜はこういえば悠太が了解してくれるだろうという算段を計ってのものだった。
 つまり、嘘泣き。
「そうですよね…、私みたいな女がいきなり妹だなんていわれても困りますよね…」
「あ、いや、そんなことは」

58:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:36:33 ukb3dXrw

 こうなると先ほどの涙も嘘だったのではないかと亜美には思えてくる。
嗚咽すらだしていたので本当に泣いていたのだとは思うが、この女ならやりかねない。
悠太はあれで何かしらの感情移入があったらしいが、亜美からしたら滑稽でしかなかった。
 裏切る?人生裏切られたことのない人などいないのだ。それをおめおめと語るなど、まして泣きつくなど、汚らしいにも限度がある。
 そんなことすら理解できていない虫に一時的とはいえ、兄が取られるなんて。
 殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい
 殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい
「わかったよ、今から行こう。でも後から電話ぐらいはさせてほしい。それぐらいはいいよね」
「ええ、もちろん」
 なら、と悠太が席を立つ。名残惜しそうに亜美も手を解いた。
「亜美、これからしばらくお別れになるかもしれないけれど、我慢できるよね。
って、こんな言い方、兄馬鹿すぎかな。どっちにしても家事とかいろいろ大変だろうけどお互い頑張ろう」
「…………でも」
「大丈夫だよ。亜美は何でも出来る天才なんだから。三ヶ月の辛抱だ」
 何でも出来る天才。料理のことは除いているのだろうが、その評価は多少の間違いも混じる。
 悠太がいたから、悠太が見ているから、失敗しないようにといつも心がけていたのだ。
その悠太がいなければ、何でも出来るなど、ありえるはずもない。もうその評価が邪魔ですらある。
 でもここで、子供のように泣き叫んで駄々をこねるなどできはしなかった。この女の手前もある。
 亜美に残された道一つしかなかった。道は針穴のように小さく、選択権はない。
「………なら、約束………して……三ヶ月たったら……迎えに来るって」
「あはは。大げさだな、亜美は。三ヶ月の間にも何回かは様子を見に行ったりもするからそんなに構えなくてもいいんだよ」
「いいから……して」
「だからそこまで」
「して!」
 生まれて初めて亜美の声を荒げる様を見た悠太は、やはりこれほどに家族がいなくなるというのは寂しいものなのだなと思い、真剣な顔で了承した。
 桜は目を弓のように細めて悠太たちを見ている。


59:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:37:20 ukb3dXrw

「信じて……るから……もし、迎えに来なかったら…」
「来なかったら?」
「……………秘密」
 亜美は口をわずかに上げる。笑っている、いや微笑んでいるのだ。
悠太は亜美のこんな顔を久方ぶりに見たことがなかった。それだけにこの約束の固さも増す。
心の中で、絶対に守ってやろうと思った。
「では行きましょう、兄さん」
 それから二人が出て行こうとする。
 桜と亜美の視線が絡まった。
そして、桜は悠太に見えないようにうっすらと微笑んだ。
亜美は見逃さなかったが、悠太は気づくことすら出来ない。
桜は亜美に向かって更に笑う。そして声は出さず、口だけで言葉をあらわした。
『――兄さんの妹は、私。貴方は帰って老人とでも戯れてなさい』
 思わず兄の前で、虫に包丁を突き立ててしまいそうだった。


60:桜の網 ◆nHQGfxNiTM
07/08/16 09:45:26 ukb3dXrw
 投下終了。四話に続きます。

 ほんと展開遅くて、ごめん。
 読みにくかったりしたら言ってくれたら助かる。

 なんか文章も硬くて、gdgdしてる気がするけど
 駄文に付き合ってくれてありがとう。
 そしてGJくれた人、感謝してます。


 また近いうちに続きだすんで、よかったら読んでくれたらありがたい

 

61:名無しさん@ピンキー
07/08/16 10:05:31 eGmGy828
GJ!
針仕込みの日傘を常備しているとは・・・
桜・・・恐ろしい子・・・!

62:名無しさん@ピンキー
07/08/16 13:32:10 kd2IBlnC
>>41
テツ兄は完璧超人の彼氏から妹ファッカーへと転落することになるのか…w
>>60
キモウト同士の鞘当てコワスw
仲良く暮らして欲しいもんだなぁ(棒  ……白石老人の余命が物凄く心配だ

63:名無しさん@ピンキー
07/08/16 14:37:22 JfZbC59d
二人とも凄くキモイな(蝶褒め言葉)
本当に3ヶ月で済むんだろうか?
wktkして次の投下を待ってます

64:名無しさん@ピンキー
07/08/16 22:40:02 kJFmL+Ld
新スレに気が付くのが遅かったぜ

朝倉さんに萌え始めた俺は異端かも知れんなw

財閥系の話には壊れた人格が良く似合うなww

65:名無しさん@ピンキー
07/08/17 01:03:08 wHyZSbII
>>41
超鈍感な上に、キモ姉妹の動きや朝倉さんのメールやデートにも動揺しないテツは大物だと思う
完璧超人の朝倉さんがわざわざテツを選んだのも納得だw
あと>>64と同じく朝倉さんに萌えた俺は、殺意の波動に目覚めた朝倉さんにも少しだけ期待
>>60
針付き日傘に包丁・鉄板入り鞄とは…物騒すぎるw

66:名無しさん@ピンキー
07/08/17 02:08:35 qQCX1EzS
白石さん頑張れ、超頑張れ


こういう話の場合ついつい貧しい方を応援したくなるなぁ
あと鮮血まっしぐらな感じだが、主人公がどれだけ踏ん張ってくれるか見ものだ

67:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/17 02:09:20 YCWdnXr1
第六回、投下します。

>>41の予定を変更しました。少し短めです。


68:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/17 02:10:56 YCWdnXr1
 昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。じきに5時限目の授業が始まる。
 別校舎は授業などで使用されることがないため、生徒がやってくることはない。
 今、別校舎にいる生徒は明菜と朝倉直美だけだ。

「あ、やばいね、そろそろ教室に戻らないと。次はウチの姉が担当する国語だから何言われるかわかんない」
「なっ……ま、待ってよ!」
「何? そろそろ戻らないとあんたもまずいでしょ? 優等生の朝倉直美が、授業サボっちゃ。ねえ?」
「そんなの……適当に後で理由つけるだけ。どうにでもなるよ。そんなことより……私がしたことが、全部わかってたの?」
「当たり前じゃん」
「誰が気づいたの?」
「えーっと………………そう、あんたのトリックに気づいたのは私。ウチの姉はああ見えて頭でっかちだから」

 真顔で嘘をつく明菜。トリックに気づいたのは明菜の姉のリカの方だ。
 だが、今の朝倉直美にとっては誰が気づいたのだとしても構わないらしい。
 
「いつから、気づいてた?」
「最初に怪しいと思ったのは……あんたが友達に送ったあの嘘メールの話を、友達から教えてもらったとき。
 その時点でおかしいと思うよ。だって、テツ兄があんたと付き合うわけないもん」
「そんなこと……わかんないじゃない!」
「わかるわよ。こんな姑息な手を使ってくる女に、テツ兄がなびくわけがない。
 自分でやってることに気づいてないの? あんたのやってること、すっごい醜いわよ」
「うっ……そん、なのっ……嘘……」
「―さて、そろそろあんたのやってきたこと、私のやったこと、全部バラしてあげましょうか」

 明菜は右手で持っていた自分の携帯電話を操作して、朝倉直美の前にかざして見せた。
 画面に表示されているのは、友人から送られてきたメールの文章。

「これ、山っちから送られてきたんだけどね。いたずらメールの文章をそのまんま残した状態にしてあるの」

 本文には、以下の文章が綴られている。
『こんなメールが送られてきたんだけど、ホント?
 >前、朝倉さんが誰と付き合ってるのか知ってたら教えて、って言ってたよね。
 >実は俺と付き合ってるんだ。黙っててごめん。』

「あんたはテツ兄と山っちの話を聞いてて、こんなメールを送れたんでしょうね。
 自然な話の切り出し方だっていうのはマシだけど、もしかして相手を帰るたんびに文脈変えたりしてた?」
「答えたく……ない」
「あっそ。私もどうでもいいんだけどね。あんたが変なメールを送ったってのは事実なんだから。
 山っちが言うにはね、31日の午前9時頃、テツ兄からこのメールが送られてきたらしいよ。
 31日の午前9時頃って言えば、あんたがテツ兄にケイタイを返したあとの時間。
 普通に考えればその時間にテツ兄のアドレスで送るなんてことはできないけど、タイマーを使えば可能になる。
 けど、あんたは本物のテツ兄のアドレスでタイマーメールを送ったわけじゃなかった」
「え……」
「あんたは、テツ兄のケイタイと外見も中身もそっくりのケイタイを用意していた。
 この時点で手が込んでいるとは思うけど、また一つ手を加えた。
 自分で用意した偽のケイタイを使って、2種類のメールを送るようにタイマーメールの予約をした。
 1通は例の交際始めましたのメール。もう1通は―メールアドレス変更をお願いするメール」

 朝倉直美の目が驚きに見開かれた。彼女が声を出せないでいるうちに、明菜の言葉が投げかけられる。


69:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/17 02:14:54 YCWdnXr1
「次に31日の朝。持っていた本物の代わりに、偽物のケイタイをテツ兄に渡す。
 これで、あんたのところにテツ兄の本物のケイタイと、本物のアドレスが手元に残る。
 テツ兄の手元には偽のケイタイと、偽のアドレスが来たことになる。
 その後で、あらかじめ予約していたアドレス変更のメールがテツ兄の友達のところに届く。
 すると、あら不思議。これでテツ兄が持っている偽ケイタイに割り当てられているメルアドは、
 友達の間でのみテツ兄の本物のアドレスとして登録されました。ここまでは合ってるでしょ?」

 朝倉直美は答えない。うつむいたまま、ただ沈黙を返すばかりだ。

「まあ、すでに山っちとか村田に聞いてアドレス変更メールの裏付けは取れてるから、聞かなくてもよかったかもね。
 話を戻そっか。メルアド変更のメールの次は、時間差で嘘八百メールが送られてくる。
 メルアドは既に変わっているか、後で変更されるから、嘘のメールはテツ兄が送ったものだ、として友達にとられる。
 よくよく考えてみると、メルアド変わりましたーの後に、交際始めましたーのメールが届くのは変だけどね。
 んでその後、メールの真偽を確かめるために、テツ兄の友達からテツ兄の持っている偽ケイタイにメールが送られる。
 テツ兄、わけわかんなかっただろうね。身に覚えのないことで問い詰められるんだから」
「違う……私と、テツ君、は……付き合って……」
「まだ嘘つくわけ? いいわよ、そこまで言うなら続けてあげる。
 1日、あんたはいたずらメールの件について、ウチの姉に呼び出された。
 その場であらかじめ自分のケイタイ―本物のあんたのケイタイね。
 それにテツ兄の本物のアドレスから送信済みのメールを見せる。姉はまんまと騙される。
 追い打ちをかけるため、隠し持っていたテツ兄の本物のケイタイから、自分のケイタイにメールを送る。
 これで姉は、テツ兄があんたと付き合っている、ということを確信する。
 あの後、死人の顔で帰ってきたから相当効いてたみたい。ま、それは姉の無知が招いたことだからどうでもいいわ。
 午後に、またあんたからメールが送られて来たんだけど、あれどういう意味?
 『俺の彼女です』? しかも写真付きで。嫌がらせのつもりだった?」
「あれは、本当……本当の、メールだよ」

 まだ自分のやったことを認めようとしない朝倉直美を見て、明菜は呆れた。
 腰に手をあてたまま、目をつぶってかぶりを振り、嘆息する。

「ここまでくると、こっちが待ちがってんじゃないか、とまで考えたくなるわね……」
「私は、間違ってないよ。間違ってるのは……明菜ちゃんの方だよ」
「あのね、ケイタイが入れ替わってたことはとっくにバレバレなの。
 1日の午後に電話がかかってきたでしょ。テツ兄の本物のケイタイに。
 あれをかけたのは私よ。テツ兄がケイタイをどっかになくしたって言ったから探してたの。
 私のケイタイのアドレス帳は変わってないからね。本物のテツ兄のケイタイの方に繋がるわけ。
 ちなみにテツ兄の持ってた偽ケイタイはかばんの中から見つかったわ。
 あのうっかり癖のおかげで、あんたの悪行がばれるきっかけになった。
 残念だったわね。愛しのテツ兄のせいで計画が崩れちゃってて」
「テツ君は……そんなところも可愛いよ」
「それは同感。で―あんたは昨日それを利用した。
 テツ兄がファミレスで席を外した途端、テツ兄が持ってた偽ケイタイと本物のケイタイをすり替えた。
 この目でばっちり見たから、否定はできないわよ」
「あ……そう、だよ」


70:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/17 02:19:16 YCWdnXr1
 朝倉直美の目に、意志の光が差した。
 それは希望によるものではなく、不可解な疑問を思い出したからだった。

「私が携帯をすりかえたのは認めるよ。そしたら、今私の持っている携帯に登録してあるアドレスは……」
「テツ兄の友達に登録させているテツ兄のメルアド、つまりあんたが作った偽のメルアドのはずよね。
 そのケイタイを使えば、あんたが送るメールはテツ兄が送ったものだと思わせることができた、はずだった。
 けど、あんたが昨日送った写メールは友達には届いていない。それがわかんないんでしょ」
「そう、私はちゃんとやったのに、なんで……」
「ふふん。あんたがやってきたことに比べれば簡単なもんよ。
 ―そのケイタイのSIMカードを、ウチの姉のSIMカードと入れ替えた。それだけ」
「……う、そ」
「それだけって言っても、ウチの姉のケイタイのアドレス帳に細工したり、
 テツ兄がデートに行く前にテツ兄の持ってる偽ケイタイのSIMカードを入れ替えたりで、言うほど簡単じゃなかったけど」
「先生の携帯のアドレス帳に、細工?」
「そ。わざわざテツ兄の友達の名前を登録して、それのメルアドは全部私のにして。
 そしたらあんたがそのケイタイで友達に馬鹿メールを送っても、私のケイタイに届くから」
「じゃ、私……明菜ちゃんの思った通りに動いたってこと、なの?」
「結果的にそうなるかな。あっははっ……優等生が劣等生に負けるっていうこともあるんだね。
 まあ、2年の女子で最下位の私としては、かなり嬉しいところね。
 ―朝倉直美に勝った。いい自慢話になりそうだわ」
「まだ、負けてないよ。私は」

 明菜と朝倉直美の距離は、2メートルほど。
 その距離を、朝倉直美は一歩踏み出して縮めた。
 うつむいたままなので、目の前にいる明菜からは顔を見ることができない。
 また、一歩近づいてきた。
 明菜は、後ろへと下がった。―朝倉直美の様子がおかしい。
 それは向日葵を思わせるいつもの笑顔を見せていないせいなのか。
 それとも、一向に負けを認めようとしない強硬な姿勢から感じられたものなのか。

 朝倉直美の足が止まった。頭を垂れて、髪の毛で表情を隠したままつぶやく。

「負けてない。私が負けるはずなんか、ない」
「あんたの負けよ。あんたの送ったいたずらメールの話は、うさんくさいネタ扱いされてる。
 私とテツ兄がキスしようとしている画像まで、偽のテツ兄のアドレス―私が今持っている姉のケイタイに
 登録してあるアドレスから送られてる。これはテツ兄が遊びのつもりで送った、ってみんなに思われてる。
 一応あんたには本物のテツ兄のケイタイから写メールを送ったけどね」
「なんで、そんなことができるの?」
「そりゃ、私がテツ兄と同じ家に住んでいるから」
「どうして、一緒の家に住めるの?」
「兄妹だからに決まってるでしょ? なに当たり前のこと聞いてんの?」
「そう……そうだよ。兄妹なのに、どうしてキスなんかしようとしているの。それをしていいのは……私だけなのに」
「はあ?」
「テツ君を独占していいのは―私だけなのにッ!!!」

 朝倉直美の右手が、スカートのポケットの中へ入った。
 右手に握られていたのは、小型の折りたたみ式ナイフ。

「渡さない……あんたたち、姉妹なんかに、テツ君は渡さないからっ!」
 
 この時の朝倉直美の顔は―明菜が一度も目にしたことのない、怒りの表情だった。


71:双璧 ◆Z.OmhTbrSo
07/08/17 02:20:32 YCWdnXr1
第六回、終了。

今回はネタバレ編でした。


72:名無しさん@ピンキー
07/08/17 03:27:35 YqimZbeu
>>71
GJ!なんとなく俺も朝倉が好きですw
しかし、朝倉はキモウトでもキモ姉でもないという罠w

>>60
GJ!こういう作品好きだから期待してます。なんか亜美に萌えるのは俺だけか?


そしてこの投下速度の速さにもっとこのスレに神が後臨することを祈る

73:名無しさん@ピンキー
07/08/17 03:31:59 W6toHecw
イイヨイイヨーテンションみなぎってくるわー

細かいこと言ってスマンが誤字?
「ここまでくると、こっちが待ちがってんじゃないか、とまで考えたくなるわね……」
のトコが 待ちがって→間違って かね

次の話しに期待してるっ

74: ◆Z.OmhTbrSo
07/08/17 06:36:11 YCWdnXr1
>>73
あ……はい。読み返してみたら間違ってました。
気づいてくれてありがとうございます。

75:名無しさん@ピンキー
07/08/17 10:46:42 bav0n2Oj
俺も朝倉が好きだwおかしいよね、キモ姉キモウトスレなのに・・・

76:名無しさん@ピンキー
07/08/17 11:43:11 yjC6pEGi
なあに、かえって免疫力がつく

77:名無しさん@ピンキー
07/08/17 11:47:03 stT8cFOT
>>75
おにいちゃんはキモい行動さえすれば、血がつながってなくてもいいんだね…。
あのとき、わたしのことを好きだって言ってくれたのも、下着を勝手に漁って臭いを嗅いだり
携帯の泥棒ネコのメアドを勝手に消したりしたキモい行動だけ目当てだったんだあああ。
あんまり、だよぅ…

78:名無しさん@ピンキー
07/08/17 13:27:32 tlIw0FXm
>>71
ネタばらし&凶刃キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!!
自分の目論見全て崩された朝倉さん哀れm9(^Д^)

79:名無しさん@ピンキー
07/08/17 15:01:15 bVzazRz1
一応キモウトに特化しているとは言え、みんなある程度は姉妹スレの性格も持ってるんでしょ
そんな漏れはヤンデレ、修羅場、依存、キモウトなんでも恋の節操梨だworz

80:名無しさん@ピンキー
07/08/17 16:17:13 KK+Wci18
>>79君はいつか刺されるぞ。

81:名無しさん@ピンキー
07/08/17 16:17:18 /0TILasy
>>79
おかしいな、IDが違うのに俺がいる

82:名無しさん@ピンキー
07/08/17 17:01:20 /gOT17A+
さて腐り姫をプレイしてテンション上がってる俺が来ましたよ
妹やら血の繋がってない母親やら妹やら年上幼なじみやらもう最高だね

83:名無しさん@ピンキー
07/08/17 18:09:43 QQwp5j1Y
>>82
クロ……死んじゃったよ。

84:名無しさん@ピンキー
07/08/17 18:50:23 /gOT17A+
兄さんに近づく者は犬でも殺す…まさにキモウト…

85:名無しさん@ピンキー
07/08/17 19:16:02 dw6/c++6
要は、そこまで愛されたいってことだww

86:名無しさん@ピンキー
07/08/17 22:06:32 3A9FvYPu
幼なじみは実は、腹違いの姉なんだけどな。

87:完結できない人
07/08/18 00:26:20 rNI5pbt6
駄文晒します

88:Favor
07/08/18 00:27:22 rNI5pbt6
「本当、私の弟とは思えないほどの馬鹿ね。その頭の中に詰まってるのは何なのかしら?」

 冷たい、言葉という名前のナイフが胸に突き刺ささる。
ゆったりと、柔らかなソファーに身を沈めた姉のその後姿からは、感情が一切読み取れないが
きっとその心中は不出来な僕という弟に対する怒りで占められてるんだと思う。
普段は、子供の頃からずっと続けてきたというピアノを奏でている、そのすらりとした綺麗な指には
僕が今さっき渡した、姉の用意した問題の答案用紙―これみよがしに×が乱舞し、右上には赤くでかでかと数字の0と書かれている―が、掴まれていた

「こんな簡単な問題さえ解けないなんて、正直、期待はずれもいいところだわ」

 そう言って、徐に姉さんはそれを両手で細かく引きちぎり、空中にばら撒いた。
掃除を欠かさない赤色の絨毯に舞い落ちる白い紙の山は、僕には何処か雪を想起させた。

「何その酷い顔。まるで痴呆のようね」

 気づけば、目の前に姉さんが立っていて、僕を見下ろしていた。
意思の強さを思わせるその瞳は、呆けたように口をぽかんと開けて紙吹雪を眺めていた僕を蔑んでいるように見えた。
僕がその視線に耐え切れずに目を逸らすと姉さんは、ふん、と落胆したように息を吐いて、僕を押しのけて歩いていった。

「掃除、しておきなさい」

 廊下の暗闇に消えていく姉さんの背中を僕は、ただ見ていることしかできなかった。

89:Favor
07/08/18 00:29:01 rNI5pbt6


「お前のねーちゃん。ひでーやつだな」

 昼放課。一日の折り返し地点。学校生活における清涼剤。
大量生産物らしきおにぎりを口に頬張りながら、数年来の友人―各務 ハルは、言う。

「ハル。口の中に物を入れたまま喋るのは良くない」

 呆れた様に僕がたしなめると、おお、すまんすまん、と言って校内の自販機で買った牛乳で、口の中の物を一気に流し込んだ。

「ぷはー。やっぱり牛乳はいいもんだよな!」

「ハル、その動作は親父くさい。それに、それ以上背を伸ばしてどうするの」

「いいじゃん。身長は高くて困ることは・・・・・・あるけれど、まぁ、細かいことは気にするなって」

 はっはっは、と豪快に笑いながらハルは、その大きな手で僕の背中をばしばしと叩いた。
一応、僕の体格は一般の男子中学生のソレと同じ程度だ。
それに対して、ハルは何処かの工事現場で働いてるような人達と同じくらいにでかい。
風切り音さえ聞こえそうなほどに振り回した大きな手のひらが、僕の背を打つたびに、鈍い、微妙な痛みが全身に走る。

「痛い、ハル。痛いって!」

 耐えかねて抗議の声を上げると、まるで悪びれた様子もなく爽やかにすまん、すまんと繰り返してから
食べかけのおにぎり(まだ半分くらい残っている)を片手でつまんで、ハルはぽいっと口に投げこんだ。

「さて、まぁ真面目な話、だ」

「うん?」

 しかめっ面をしながら痣になってないかな、と背筋をさすっている僕に、えらく改まった風にハルは向きを合わせてきた。

「今までの話を聞くに、俺から見れば、お前ねーちゃんにかなーり嫌われてるようだが、なんか心当たりはあるのか?」

「そんなことないよ。僕が馬鹿なのは本当のことだし」

「ばっか。いや、俺の馬鹿は意味が違うぞ? てか、お前が馬鹿だったなら俺はどーなるんだよ? 学年1位さんよ。
それに、だ。今回のことだけじゃねえ。俺は今までお前からお前のねーちゃんについて色々と聞いてきたが、どれもこれも理不尽で
酷い内容の仕打ちだと思うぜ? 実際、お前が今回やらされたって問題。あれ、大学受験レベルだったんだろ?」

 確かに、あの後記憶の片隅に残っていた幾つかの数式を調べてみれば、僕の今のレベルでは到底解けないような、そんな問題ばかりだった。

「でも、姉さんは確か、僕の年にはもうあの問題を解いてたんだよ。父さんと母さんが凄く姉さんのことを褒めていたから、覚えている」

「お前とお前のねーちゃんは違うんだよ。俺に言わせてもらえれば、俺らの年でその、なんだ? この国のトップクラスの大学の受験問題を解ける
お前のねーちゃんが異常なだけだと思うわ」

「それは・・・・・・」

「何か思い当たる節はないのか? そうでもなきゃ、お前がそんな仕打ちを受ける理由が俺には皆目検討が―」

90:Favor
07/08/18 00:29:49 rNI5pbt6


「おーい。さっさと片付けろー! 授業を始めるぞ」

 ハルの言葉が終わらない内に、昼放課の終わりを告げるチャイムが鳴り、それと同時に次の時間の担当教諭が教室に怒鳴りながら入ってくる。
今さっきまで他愛無い話で沸いていた級友たちは一斉に口をつぐみ、がたがたと机を動かす音が教室内に響き渡る。
勢いをそがれた形になったハルは、小さく舌打ちし、皆と同じように机を持ち上げて、廊下側の扉に向かって歩いていった。
途中振り向いたハルの口が、『また、後でな』と、小さく動いた。


 結局その日、ハルと話す機会はなかった。

 何故かと言えば、国語委員だった僕は、授業が終わるや否やタイミングを計ったように入ってきた
現代国語担当の教諭に、荷物運びという有り難い用事を申し付けられ。
一方ハルも、中学最後となるバスケの大会を控えていて(ハルは小学1年生の頃からバスケ一筋だった)
部員全員によるミーティングが有るとかで、落ち着く暇もないまま教室を出て行った。


手早く用事を終えた頃には、帰宅部の僕には一人で家に帰るという選択肢しか残されていなかった。




91:Favor
07/08/18 00:30:51 rNI5pbt6
―今までの話を聞くに、俺から見れば、お前ねーちゃんにかなーり嫌われてるようだが、なんか心当たりはあるのか?
 

 あると言えば、あった。

 
 思い出すのは、3年前。僕が中学に入った日。
いつも姉さんの事を褒めている記憶しかなかった、仕事で家を空けがちな両親が、珍しく僕を褒めた日。
交通事故で、父さんと母さんが、めちゃくちゃな肉片になって、亡くなった日。
今思えば、あの日から、姉さんは僕に厳しく当たるようになった気がする。

 あの頃の姉さんにとっての生きがいはきっと、父さんと母さんに凄いね、と褒められることだったんだと思う。
そういえば、昔から姉さんはあらゆる点において僕より優れていようとしていた気がする。
勉強においても、運動においても、身長においても、家事においても、他のどんな事においても
考えてみれば、あの頃の姉さんの努力の基点は全て、僕という存在だった気がする。

姉さんが勉強に打ち込み始めたのも、僕が塾に通い始めて学校でいい成績をとり始めた頃だった。
姉さんが運動をするようになったのも、僕が丁度地元のサッカークラブに入団して、試合に出始めた頃だった。
身長についても、運動をするようになって背の丈を気にし始めた僕が毎日牛乳を飲み始めた頃だった。
家事についても、毎晩夜遅くまで働いて、くたくたになって帰ってくる両親を助けようと僕が家事を手伝い始めた頃だった。



 姉さんは、両親にとっての僕という存在を常に、自分より下に置きたがっていたのかも知れない。
だから、あの日両親が僕を褒めたこと、そしてそれが姉さんにとっての最後の言葉となったことが、とても許せなくて
その怒りが、僕に対して辛く当たるようにさせているのかもしれない。


 そこまで思って―
それでも、僕は姉さんを嫌いになれなかった。
例えば、今日僕が昼放課に食べていた弁当、成長期である僕に対して栄養バランスを良く考えられたあれは姉さんが作ってくれたものだ。
学校の授業で判らないことがあれば、姉さんに頼れば僕を罵りながらもちゃんと教えてくれた。
落ち込むことがあって、一人家で沈んでいたときも、酷く遠まわしだったけれど姉さんは僕を励ましくれた。
僕にとっての姉さんとの思い出は悪いことばかりじゃない。そう、暖かい思い出も確かにこの胸の中にある。
そして何よりも、姉さんは僕にとっての、誇りなんだ。
 きっと家に帰れば、また何か適当な理由をつけて僕は姉さんに怒られるに違いない。
でも、そんな生活も、悪くない。



92:完結できない人
07/08/18 00:33:59 rNI5pbt6
なんか微妙に遅れた気がする上に終わってないですが時間をキングクリムゾンされただけなんです。
いえ、ごめんなさい。

きっと私に足りないものは(略)何よりも早さが足りないに違いない。


 ちなみに、終わってないのは未完フラグばりばりなんですが
必要とされる休息日だけは某H&Hの人並なので、期待しないでもらえるとありがたいなーとか。

93:名無しさん@ピンキー
07/08/18 00:39:40 JLCj7mFH
わかったおww気楽によろデス

94:名無しさん@ピンキー
07/08/18 02:41:38 Y9cACXzW
ちくしょおおおおお!!!!ボスー!!!!吐き気を催すほどの悪とはッ(ry

気長にお待ちしてます。

95:名無しさん@ピンキー
07/08/18 03:50:01 EG99GR/+
よくばりサボテンプレイしてテンション上がってる俺が来ましたよ!!
待つのは慣れてるから俺は大丈夫!!ただあの漫画家は待たせ過ぎたろ…

96:名無しさん@ピンキー
07/08/18 13:50:29 g2gdNDh2
こんなキモウトたちが欲しくて仕方ない

URLリンク(www.k2.dion.ne.jp)

97:名無しさん@ピンキー
07/08/18 16:04:38 rh93UnQt
>>95
よくばりサボテンって安くて短いエロゲだっけ?
それってキモ姉、キモウト出てるの?

98:名無しさん@ピンキー
07/08/18 17:40:08 EWo4ts+c
>>97
凜という名の義理の妹がいる。
主人公にベタボレ。
キモウトか、というと……判断が分かれるところだ。
俺はライトなキモウトだと思う。

99:名無しさん@ピンキー
07/08/18 17:52:28 W/EPNtzL
どっちかっていうと、頭の弱さがキモイ妹だしな……。

100:名無しさん@ピンキー
07/08/18 18:02:29 td5ei076
主人公に彼女ができると応援してくれる凄くよく出来た妹
キモウトではないが可愛い

101:名無しさん@ピンキー
07/08/18 18:19:34 CDw9/0Y3
>>96
下から2段目真ん中と1番下真ん中と右はなんてタイトルのゲーム?

102:名無しさん@ピンキー
07/08/18 18:24:34 W/EPNtzL
ストーカー・キモウト・ヤンデレヒロイン総合スレ
スレリンク(hgame板)

103:名無しさん@ピンキー
07/08/18 21:02:14 nVqQejcA
 「鬼哭街」の妹キャラ以外わからなかった……。
それ以外のキャラの詳細希望。

104:名無しさん@ピンキー
07/08/18 21:37:25 vKtt/0YM
左の上から2番目はカルタグラの高城七七
他はわからん

105:名無しさん@ピンキー
07/08/18 22:38:51 Ep2Nmqsq
>>101
下から2段目真ん中はデュエルセイバーの未亜かな

106:名無しさん@ピンキー
07/08/19 00:36:38 kOU97Z7R
アドレス削りなさいな

107:名無しさん@ピンキー
07/08/19 07:12:26 RoK3l4NZ
>>96
1段目右はナチュラルアナザーワン2か。
1段目中央はあいかぎ2。
2段目中央はバルドフォース
3段目中央はデュアルセイバー
3段目右は確かリーフ初の陵辱ゲーの妹

俺に判るのはこれぐらいか。
しかしなんという実妹度。

108:名無しさん@ピンキー
07/08/19 10:21:31 ziQtnBDc
腐り姫      あいかぎ2     NAO2
カルタグラ  バルドフォース    鬼哭街
さくらむすび デュアルセイヴァー 鎖
わからん THE GOD OF DEATH ピアニッシモ

俺に判るのはこれぐらいだ

109:名無しさん@ピンキー
07/08/19 14:25:21 rxMsnkhN
一番下左端は「夢幻泡影」だな

110:名無しさん@ピンキー
07/08/19 20:00:51 RuFNuOBs
保管庫の管理人さんは今頃キモウトに監禁されてるのかな?

111:名無しさん@ピンキー
07/08/19 20:31:43 tdR/xf0f
更新されてからそんなに時間もたってないからまだなんじゃないか?
まぁ、俺は綾シリーズがまだ投下されてないから更新ても仕方な(ry

112:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg
07/08/19 23:04:03 21WfsYw6
いまさらながら三者面談の続きです。

113:三者面談 その2 ◆oEsZ2QR/bg
07/08/19 23:04:50 21WfsYw6
 結局。そのまま夜遅くになるまで、弟の誠二は帰ってこなかった。

 気がつけば、リビングの黄色いソファに横になり、そのまま明り取りの引き戸から漏れる太陽光で私は朝を迎えた。
 片手に棒状に伸びたゴムの束のついたものを持ち、もう片方には知人から快く譲ってもらった『海兵隊新兵罵倒全集』を胸に抱いたまま、目を覚ます。
 ああ弟が帰るのをずっと待っていて眠ってしまったのかと私はぼさぼさの髪をかく。ふと、自分の体を見るとふんわりと優しく毛布がかけられてあった。
 愚弟め、気がきくじゃないと私は少し弟を見直そうとしたが、よく見ればそれは私の部屋のベッドの毛布なので、記憶が無いまま寝ぼけて自分で部屋から取ってソファまで持って降りてきたものであることに気付く。
 つまり、弟が帰ってきてかけてくれたわけでもなく、イコール弟が帰ってきていない。もしくは無視したかのどちらかか。
 私は、玄関まで走り弟の靴を確認する。弟のシューズ、私が選んだシューズ、桃色のシューズ。……無いわ。きびすを返すと、今度は弟の部屋へ走る。
 誠二の部屋の扉を勢いよく空けた。弟がいればそのまま朝の調教を始めるつもりだったので、棒状に伸びたゴムの束のついたものを掴んで中へと踊りいったが、弟の部屋はもぬけの殻だ。
 遠慮なしに押入れ、クローゼット、本棚の隅から隅まで探す。押入れの裏にテレビで見る巨乳アイドルのポスターが貼ってあった。イライラしていたのと、その女の胸についた脂肪の塊にムカついたので破り捨てておいた。
 愚弟、私にバレないようにこんなところに貼っていたのね。私に見つかるのが嫌だったのかしら。まぁ、嫌だから全部はがすけど。あなたの人生に紙製のアイドルなんていらないでしょう。
 これを機会に、ベッドの下にあった女の裸の本も全て没収する。
 ふーん、誠二、こんなのが好きなのねぇ……、不潔な。ぽいっ。
 ふぅ、満足。満足。違う、誠二。誠二はどこに行った?
 結局、どこにもいない。
 私の携帯電話から誠二の携帯電話にかけてみる。
 つーつーつー。
 ダメか。

 念のため、弟の友人の井上くんにかけてみましょう。
 ピッ。ぷるるるるる。

「……はい。もひもひ……」
「井上くんかしら」
「は、はいっ。沢木先輩! お、おはようございますっ!!」
「朝早くにごめんなさい。寝ていたかしら?」
「い、いえっ。そんなことありません! ついさっき起きたところです!」
 嘘おっしゃい。いつも、私からの電話はすぐに取るくせに今日は寝ぼけて開いて確認しないままとったでしょう。全てお見通しです。
「ところで、一つ聞きたいんだけど」
「せ、誠二くんのことですかっ!? えっと、昨日は一時間目の体育のとき……」
「ううん。今日は監視の様子はいいわ。あなたの家に誠二はいないかしら?」
「え……? いえ、うちにはいませんよ」
「ふぅん。そう」
「ど、どうしたんですか? 沢木先輩」
「……うちの誠二がどうやら戻ってないのよ。あなた、なにか知らないかしら?」
 井上くんはとたんにうろたえる。
「え、え!? え、えっと、昨日は誠二は三者面談があるからって……、確か放課後別れて……、それから俺も見てませんっ」
「その三者面談は私も居たわ。それ以降でどこか誠二が行きそうな場所は思いつくかしら?」
「い、いえ。わ、わかりません」
「ふぅん、そう。使えないわね」
 私は井上くんにそう吐き捨てると、そのまま電話を切った。
 が、すぐにリダイヤルボタンを押してもう一度かけなおす。今度はすぐに出た。

114:三者面談 その2 ◆oEsZ2QR/bg
07/08/19 23:06:29 21WfsYw6
「は、はいっ。沢木先輩!」
「クラスメイト全員に連絡して、誠二が居るかそれとなく確認しなさい」
 それだけ言って、電話を切る。二秒後、もう一度リダイヤルボタンを押す。先ほどより少し遅く出た。ちっ。
「念のため、駅前のネットカフェも確認しなさい。直接行って確かめること、いいわね。」
「あ、あのさわ……」
 切った。
 よかったわ。最近はネカフェ住民なるものがいるらしいからね。ネットカフェで泊まる若者。そうね、ホテルよりは安いから誠二も居るかもしれないわね……。
 それにしても……誠二め。一体なにを。
 とりあえず、顔を洗いましょう。洗面所まで行き、顔を洗う。歯磨きをして、昨日のままだったぼさぼさの髪の毛をドライヤーでなんとか戻す。
 すると、携帯の鳴る音。表示画面には井上と出ていた。
 早いわね。もう誠二の足を掴んだのかしら。携帯を開くと右の赤いボタンを押して出る。
「はい」
 ………無言。
 というか、切れている。……あの子……。この私にガチャ切りか。いい度胸ね。もう一度、お灸をすえてあげないといけないかしら。
 と、私の耳元でもう一度携帯電話が鳴り出す。驚いて私は耳を離した。 なによ。画面には井上と表示されていた。
 あ、私の操作ミスか。赤いボタンは切るボタンだったわね。改めて、緑のボタンを押す。
「はい」
「あ、沢木先輩!」
「誠二は見つかった?」
「あ、えっと……。沢木先輩はなんか行方不明みたいに言ってたので、焦ったんですが……」
 早く言いなさい。
「普通に、携帯電話にかけたら出たんですけど……」
 へぇ。そう。さっき私がかけたら出なかったのにね……。そう、私だから出なかったんだ。誠二め。
「で、どこに居るか聞いたの?」
「え?」
「え、じゃないわ。誠二と繋がったんなら、今誠二がどこに居るか、聞いたの?」
「……い、いえ。聞いてません」
「何故?」
「……え、えっと会話の流れで……、だって、お姉さんから探すように言われてるっていえないですし……。あ、でも誠二もなんかひそひそ声でしたし、多分聞いても答えてくれないんじゃ……」
 切った。
 相変わらず、ただの監視役しか使えない男ね。所詮指示待ち人間か。ふん、利根川より優秀でもないけど。
 でも、ひとつわかったことがある。
「少なくとも、事故ではないわけね」
安心した。
 弟にもしものことがあったらと最悪な想像もしていた。もしかしたらトラックに轢かれたままぐちゃぐちゃになって死体の身元もわからなくなっている、ということも可能性として考えていたからだ。
 しかし、安堵の中。弟に対するむかつきも発熱してきた。
 ふつふつと心があわ立つ感覚。まるで、あの女教師高倉良子と正面から対面した時のような、感覚。痺れ。

「弟に依存していることに気付けてないあなたは、誠二君の親代わりとしても、姉としても失格よ」

 ……ふん。戯言を。何を言ってやがりますか。思い出すだけで反吐が出る。
 携帯電話で井上くんに電話をかける。るるるるる。結構待たせるわね。出たわ。
「は、はいっ。今度はなんでしょう!」
「聞くわ。あなた。誠二と電話したのよね。なにか変わったことはなかった?」
「え、え!? えっ、えっ。えーっと……」
「もういいわ」
 切る。
 井上くんの様子から、態度としては特に変わったことはないみたいね。じゃあ、普段どおり学校へ登校してくるかもしれないわ。
 ……私だけじゃなく、友達にまで泊まる場所がバレたくないってこと? ワケがわからない。まずいわね。学校以外だと私の手が伸ばせる範囲じゃないし……。
 よし、誠二に直接聞こう。
 いまから学校へ行って、誠二を校門で待ち伏せする。そして、誠二が来たところで直接問いただしましょう。
 そうと決めれば行動は早い。私は昨日のままの学生鞄を掴むと、外へと飛び出したのだった。

115:三者面談 その2 ◆oEsZ2QR/bg
07/08/19 23:07:59 21WfsYw6
 校門で、私は一人で誠二を待つ。
 この学校は大きいが、生徒の出入り口はこの校門しかないわ。だから、ここで見張っていれば必ず誠二を見つけることが出来る。
 すでに、靴箱は確認済みだ。誠二はまだ登校してきていない。確認が済めば、校門の門の横に陣を張る。
「ああ、沢木くん。おはよう」
 毎朝校門に立って生徒に挨拶しては無視されている福永教諭はぎこちない笑顔で私に声をかけた、私は福永教諭に軽く会釈する。福永教諭は心なしか嬉しそうに笑った。会釈さえもしてもらえないのか。いい先生なのに、授業は。
 ふと見れば福永教諭は、登校してくる生徒の顔が最も見えやすい位置に立っていることがわかった。さすが、毎朝こりもせず立っているだけあるわ。
 私は福永教諭の横に並んだ。
「ん? 沢木くん。どうしたのかね?」
「いえ、別に」
生徒が登校し始める。福永教諭は一人一人に「おはよう」と声をかけていくが、ほとんど返ってはこない。唯一真面目な大人しめの生徒のみが恥ずかしげに小声で返すのみである。
 私も、登校してくる生徒を一人一人検分していった。一年生二年生三年生……。大勢の生徒たちの顔を確認するためには目を皿のようにして見渡さねばならない。
「あの、沢木くん。何をやっているのかな……?」
 すぐ横で目をギラギラさせて生徒たちを挨拶するわけもなく検分している私に、福永教諭は焦ったように聞いてくる。登校してくる生徒の何人かも、私と福永教諭が二人で並んでいるのが理解できないようで、微妙な顔でこちらをチラチラ見ながら校門をくぐっている。
「沢木くん。そこに立ってくれてるなら先生と一緒にみんなにあいさつをしないかい?」
「黙っててください」
 この時間帯は一度に通る人間が多くて大変なんですから。
「………」
 福永教諭はしゅんっとなってしまった。そんなに心が強いわけでもないですからね。この先生。しかし、ふと思いついた。
「福永先生。うちの誠二を見つけたらおっしゃってくれませんか?」
「………」
「先生?」
「え? あ、なんだって? あ、おはよう!」
「うちの誠二を見つけたら私に言ってください」
「あ。はいはい」
 あ、井上くんが登校してきました。ふぅん、結局誠二は一緒じゃないのね。井上くんは校門に私が立っているのを見つけると、途端に顔をこわばらせ、私に向かって「知らない!知らない!」と小さく首を振る。
「あの子、最近妙に元気がないんだよ。なんというか空元気というか……」
 福永教諭が顎に手を当てて、私に相談するように呟いた。本当に、なにを怯えてるんでしょうね。井上くんは。
 まぁ、当然それには答えず私は誠二の姿を探します。……どこだ? どこだ?
 だんだんと登校時間が少なくなり……、生徒たちも減っていく。チャイムが鳴り、福永教諭が授業の準備で切り上げ校舎へ戻っていく、そして朝HRの時間。
もう、やってくる生徒の姿はない。遅れてきた不良生徒がくちゃくちゃとガムをかみながら通ってくるだけ。
 ……昨日から待ちぼうけばかりね。
 ふつふつと、湧き上がる誠二への怒り。結局、一時間目を潰してまで待ったが、誠二の姿を見ることは出来なかった。


 先生の部屋からの登校は細心の注意を払っていた。
「ほら、誠二くん。隠れて」
「はいっ」
高倉先生の車の中。僕は後部座席で体をちぢ込ませて隠れる。 昨日は高倉先生の部屋に泊まった僕らは、高倉先生の車を使って登校することになった。
ただ、生徒たちが多い校門の前で先生の車から降りたら、もしかしたら僕らの関係がバレてしまうかもしれない。だから、僕らは車に乗ったまま教師入口から入り、人気の少ない関係者専用駐車場で降りることにしたのだ。
しかし、教師玄関の前にある駐車場に行くためにはちょうど校門の前を通らないといけない。だから僕は細心の注意を払って隠れる。
 生徒たちの声がドア越しに聞こえる。ばれない様に、ばれない様に。
「ふふふ」
 ちょうど、校門の前あたりを通り過ぎた時。先生がかすかに笑った。
「どうしたんです? 先生」
 先生はハンドルを回し、昨日の姉さんと対峙した時のような鋭い視線を窓の外に滑らせていた。窓の外に何かあるのかな。気になったけど覗くわけには行かない。
「いえ。あの娘、必死だなぁと思ってね」
「?」
 先生の含んだ笑いがエンジン音に溶けていく。 僕は意味がわからず、ただ後部座席でちぢこまったまま首を傾げるばかりだった。
(続く)



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