逆転裁判エロパロ第10法廷at EROPARO
逆転裁判エロパロ第10法廷 - 暇つぶし2ch250:名無しさん@ピンキー
07/08/22 22:09:40 eNeTQUSE
真宵は喫茶店に連れてってもコーヒーよりは
サンドイッチ等の軽食やパフェ等のデザートだろうなw

251:名無しさん@ピンキー
07/08/23 00:58:50 fdjL/Djy
真宵を名古屋のマウンテンに連れていきたい

252:名無しさん@ピンキー
07/08/23 19:53:18 WdR083cL
同じ喫茶店でも、御剣&冥はお洒落なオープンカフェで優雅にティータイムを楽しんで
神乃木&千尋は昔ながらの隠れ家っぽい喫茶店でマターリ過ごしてそうなイメージ。

成歩堂&真宵は>>251じゃないが名古屋式の喫茶店のサービスの良さに感動してそう。
「なるほどくん、飲み物頼んだだけなのに何か色々出てきたよ!
 これ食べちゃっていいのかな!?」みたいな感じ。

253:名無しさん@ピンキー
07/08/23 21:38:45 st0w5xj8
3DSの発売を期にちなみ父×勇希を提案
狂言誘拐がちなみ父への復讐なら勇希が協力する動機がよく分からなかったので

254:名無しさん@ピンキー
07/08/23 22:54:37 bzXNP7CY
>252
茶碗蒸しとか寿司とかついてきて、たまげるんだろうなw

255:名無しさん@ピンキー
07/08/24 00:49:37 qvIlCu2Z
ナルアヤ書いてるけど、DS買って五章クリアして菖蒲の特徴掴んでからじゃないとな…
アドバンスの記憶すっとんでるわ

256:名無しさん@ピンキー
07/08/24 14:55:06 wpKZv2Sn
>>128さんの需要という心強い後ろ楯があったので、
ナルメイ+みぬきをコツコツ書きためててみました。
舞台は成歩堂が弁護士バッジを剥奪された3~4年後のものになります。
エロ無しですが、投下させていただきます。

257:【call me①(成冥+みぬき)】
07/08/24 14:57:27 wpKZv2Sn


仕事を終え、一息ついて携帯を開くと、着信が入っていた。
かけ直すと、さほど待たないうちに相手が電話に出てくる。

『助けて!みぬきが大変なんだ!』

必死の様子の彼を適当にあしらい、電話を切ると、冥は急いで検事局を飛び出した。



【call me】



成歩堂の自宅に着くなり冥は、泣き付く彼を押しのけて、脱衣場に向かった。そして、バスルームの曇りガラスの扉の向こう側にいる人物に呼びかける。
「みぬきちゃん、大丈夫?」
すると、シャワーの音とともに、愛らしい澄んだ声が帰ってくる。
「あっ、すみません冥さん。来てくださったんですか」
「ええ。準備ができたら、あがってらっしゃい」
「はーい」
二言三言交わし、程なくして、扉が開いた。バスルームから、素っ裸のみぬきが出てくる。冥はバスタオルで彼女の体を拭いてやった。
「もー、パパってば大げさなんだから。恥ずかしいなあ」
「いいわよ。そもそもこういう時、男の片親は役に立たないものなんだから」
腰回りを丁寧に拭うと、一旦みぬきにタオルを任せた冥。そして自分は、ここにくる途中で寄ったコンビニのビニール袋を手に取った。
そして、更に厳重に紙袋に包まれた中身を取り出す。
「今日仕事は?」
「パパが休みなさいって」
「それがいいわ。今日はおとなしくしてなさい」
小さな袋から出したナプキンを、きれいに洗濯されたみぬきの下着に取り付け、手渡した。
「はい」
「ありがとうございます」
「明日下着買いに行きましょう。今日はもう遅いし」
「はーい。……うう、なんか変な感じ……」
落ち着かない様子で、みぬきは下着とパジャマを身につけはじめた。その間に、脱衣場を出る冥。
すると、扉のすぐ横に、成歩堂がそわそわとしながら待っていた。
「み、みぬきは大丈夫だった?」
「大丈夫も何も…たかが初潮でそんなに慌てられちゃ、先が思いやられるわ」
「そんなこと言ったって…」
オロオロする成歩堂をよそに、冥は玄関へ向かう。
「じゃあ帰るから」
「ええっ?」
「ええーっ!?」
成歩堂と、脱衣場からひょっこりと顔を出したみぬきが、同時に声を上げた。
「冥さん帰っちゃうの!?」
「そのつもりだけど…」
「そんなっ!ああ、急に気分が悪くなっちゃったっ…みぬき、晩御飯作れないよー。冥さんのご飯が食べたいなぁー!」



258:【call me②(成冥+みぬき)】
07/08/24 14:58:23 wpKZv2Sn
きゃあきゃあと、せがむみぬき。冥はやれやれとため息をつくと、仕方なく台所に向かう。
そして勝手知ったる様子で冷蔵庫を物色して、食材を漁り始めた。
みぬきがキチッと整頓している冷蔵庫の中から、いくつかの材料を取り出すと、一旦成歩堂を振り返る。
「あなたこそ仕事は?」
「僕は元々休みだったんだ…あああ、よかったよ。一人で不安にさせるところだった」
「…あなたが一番動揺しているみたいだけど」
痛いところを突いてやったつもりだが、彼は「まいったなあ」とただ軽く笑うばかり。それが面白くなくて、冥は音を立てて冷蔵庫を閉めた。




成歩堂がみぬきを引き取り一緒に暮らし初めて、すでに四年が経っていた。
当時、成歩堂が法曹界を追われたニュースを冥はアメリカで知った。そして単身アメリカから日本へ飛んできた彼女に、成歩堂はこう告げたのだった。
『娘ができました』
と。
このような誤解の招く言い方をされて、当時から成歩堂と恋人関係にあった冥がもちろん黙っているはずがない。ムチのフルコース付きで事情を問いただし、みぬきを紹介してもらった。
その後日本に仕事場を移した冥は、事あるごとに『成歩堂親子』に呼び出されることになる。
やれ参観日だの、運動会だの。
みぬきの誕生日には毎年かり出され、プレゼントからケーキまでプロデュースさせられる始末。
別に迷惑だと思ったことはない。仕事に差し支えない程度のことだったし、あまり人見知りをしないみぬきは、すぐに冥に懐いた。
冥も元々子供は嫌いじゃなかったし、まもなく打ち解けることができた。
幼い少女を独りぼっちにさせなかった成歩堂の判断は正しかったと納得もしている。


それでも。
自分たちのこの奇妙な関係は、時々歪みを生むのだ。


「みぬきも、どんどん大人びてきちゃうわね。父親のあなた形無し」
「あの子は元々しっかりしてたから。僕が面倒みてもらってるようなものだよ」
「…本当。言い得て妙だわ」
ようやく落ち着いたのか、ダイニングテーブルについた成歩堂は、台所で夕飯の下拵えをする冥と会話を交わしていた。今でも頻繁にムチを振り回す彼女は、料理をしている時が一番安全だ。もっとも、滅多なことを言えば、まれにムチではなく、包丁が飛んでくることもあるが。
成歩堂は、冥の後ろ姿を盗み見た。
動く度にサラサラと揺れる綺麗な髪は、出会った頃よりも、ずいぶん長くなった。雰囲気も随分落ち着いて、大人っぽくなったと思う。




259:【call me③(成冥+みぬき)】
07/08/24 14:58:59 wpKZv2Sn
またちょっと、痩せたんじゃないかな。
元々細い体つきの冥だったが、今日は特にそう見えた。また、仕事を優先してまともに食事を採っていないのでは。そう考えると、冥を引き留めたみぬきの判断は正しかったようだ。成歩堂は、心の中で感謝した。
そのとき、くるりと冥が振り返った。両手には、麦茶の入ったグラスが一つずつ。
そして、そのうちの片方を成歩堂の目の前に置くと、彼女もその向かい側に座った。
作業が一段落ついたらしい。コトコトと、鍋が小さな音を立てている。
いつもなら、「効率よく動くべし」と、洗濯物を取り込んだり、合間に何か仕事を見つけるのに。
今日は疲れているのか、ゆっくりイスに座って、グラスに口をつける度に、溜め息をつくばかり。
よく見ると、目の下にうっすらとくまが出来ていた。
よほど、疲れが溜まっているらしい。
こんなことなら、料理を手伝えばよかった。
「どうしたの?」
成歩堂の視線に気がついた冥が、声をかけてきた。なんとなく気恥ずかしくなり、彼女から目をそらして返事をする。
「なんでもないよ」
「まだ落ち着かないの?これから毎月こうなんだから、ちゃんと気を遣ってあげなきゃ駄目よ」
「わかってるさ。君も毎回体調崩すからね……あ!ごめ…!」
軽口を叩いてしまい、成歩堂は口を押さえた。無意識に、ムチの衝撃に備え、体を強ばらせる。
「………?」
しかし、冥は微動だにしなかった。
いつもなら、立ち上がってすぐさまムチを打ってくるのに。ただただ、イスに座ったまま、成歩堂を見つめていた。
怒っているときの顔つきではない、しかし、何か言いたげな表情で。
「……冥?」
「………」
声をかけても、反応しない。キュッと口を結んで黙り込んでいる。
コトコトコト。
沈黙が続く中、鍋の音だけが部屋に響いていた。
冥がゆっくり俯いた。テーブルの上のグラスを、両手でぎゅっと握りしめて。氷が、カランと音を立てた。水滴が、彼女の手を濡らした。
何故黙っているのか、成歩堂には全くわからない。ただ、自分の心の中が、何故かひどくざわついているのはわかる。同じように、無言で見つめ返すしかできなかった。
やがて、冥が顔を上げた。しばらく視線を泳がせていたが、意を決したように成歩堂を見据え、静かに、口を開く。
「……来ないのよ」
真っ直ぐ、吸い込まれそうな色の瞳を向けて、きっぱり言った。
「二ヶ月、来てないわ」


260:【call me④(成冥+みぬき)】
07/08/24 15:00:09 wpKZv2Sn




空気が凍り付いた。
一瞬、何を言われたかわからなかった。言葉の意味を理解しても、それでも現実感がわかず、成歩堂はただ、冥と視線を合わせることしかできなかった。
もう一度確認しようにも、声を出すのもはばかられている気がして、訊ね返すこともできない。
とにかく何か言わなくては。そう思って口を開きかけた。すると。
「大丈夫よ」
それを遮るように、冥が口を挟んできた。
「ただの生理不順。医者も言ってたから間違いないわ」
「………」
思わず、ポカンと口を開けてしまった。途端に抜ける緊張感。止まっていた息が、思いっきり吐き出される。
「…そっかぁ…」
「………」
そんな成歩堂の一連の表情を、冥は黙ってぼんやり眺めていた。
本当は、こんなこと言うつもりはなかった。間違いだとわかっているのだから、言う必要はないのだ。
けれど。
確かめずに、いられなかった。
今まで、生理が止まったことなど無かった。ここまで完璧主義なのかという程、周期もほぼ一定だった。
だから、今回は本当に悩んだのだ。
仕事には集中できず、部下に檄も飛ばせない日々が続いた。誰にも相談できず、まともに眠れない日が続き、とうとう体調を崩して病院に駆け込んだ。
そこで思い切って、婦人科に行って調べてもらったのだ。

まだ子供を産む覚悟などないし、現在の生活の中で、もうひとり子供が出来るのは、実際大変なことだとはわかっている。
しかし、間違いであると判明したときには、言い様のない空虚感に襲われた。
そして、今。
可能性があると告げたときの、彼の困惑した表情。
間違いであったと告げたときの、彼の安堵した表情。
何もかもが、冥の心を抉った。
(…この人は)
他人の娘に関しては一喜一憂するのに、わたしとの子供は、困るのだ。

じゅうううっ。
お鍋が噴きこぼれる音でふと我に返り、冥は立ち上がった。
「そろそろできるから、みぬきちゃんを呼んできて」
そして成歩堂にそう告げると、返事を待たずにコンロに向かう。
良かった。もう少しで泣きそうだったから。
コンロの火を止めると同時に、背後で成歩堂が部屋を出ていく気配がした。
まるで、彼が離れていくような錯覚に陥った。
好きなのだ。彼をどうしても。
視界が霞んで、なにも見えない。
彼との未来のように、何も見えない。


261:【call me⑤(成冥+みぬき)】
07/08/24 15:01:14 wpKZv2Sn
このまま、気持ちも離れてしまうのだろうか。
そう脳裏によぎった、そのとき。
「……っ!?」
「……?」
成歩堂の声が聞こえた気がした。こもっていてよく聞こえなかったため、気のせいかと思ったが、どうやらみぬきの部屋かららしい。なにごとかと思い、冥はキッチンを出た。
「いったいどうし…」
襖を開け、みぬきの部屋に入った冥の目に飛び込んできたのは。
「……!?」
呆然と立ち尽くす成歩堂の傍らで、腹部を押さえてうずくまり、苦しんでいるみぬきの姿だった。
「みぬきっ!」
駆け寄った冥は、すぐさまみぬきを抱き上げ、成歩堂を見上げる。
「なにがあったの!?」
「部屋を訪ねたら、みぬきが倒れてて…!」
「救急車呼んで!早く!」
成歩堂にそう促すと、彼はすぐに部屋を飛び出した。残された冥は、みぬきの汗ばんだ手を握った。
一瞬、生理痛だろうかとも考えたが、この苦しみ方は尋常ではない。
(もし、なにか悪い病気だったら、どうしよう…!)
思考が悪い方へ進んで行く。冥は不安を振り払うように、かぶりを振った。
「…めい…さ…ん…っ」
その時、みぬきが掠れた声で冥の名を呼んだ。
「みぬき!」
「う…うぅ…っ」
「みぬき、いいから!喋っちゃダメよ!」
声を搾り出し呻くみぬきが、痛々しくて、ただかわいそうで。
普段ならどんな状況でも冷静に対処できるのに、できることなら代わってやりたいとか、不可能なことばかり考えていた。
「みぬき、大丈夫よ。大丈夫だから…!」
もしかすると、自分にも言い聞かせているのかもしれない。
救急車が来るまでの間、冥はずっと、ひたすらみぬきの体をさすり、手を握り続けた。





病院に運ばれたみぬきは、盲腸と診断された。ただし初期の段階だったため手術の必要はなく、薬で散らせる程度で済むらしい。治療も家からの通院で大丈夫とのことだが、今夜一晩だけは入院することになった。
「それでも、数日前からは痛みはあったはずなんですがねぇ」

そう告げた医者と、心配顔の成歩堂と冥に挟まれ、ベッドに寝かされているみぬき。先程の騒ぎなど嘘のように、痛み止めの薬のおかげでケロッとしている。
「やー、あたしはてっきり、ただの便秘だと…」
「だとしても、なぜもっと早く言わないの!」
ニコニコと笑みさえ浮かべて言うみぬきに、冥は思わず大きな声を上げた。





262:【call me⑥(成冥+みぬき)】
07/08/24 15:01:57 wpKZv2Sn
成歩堂が冥をなだめている間に、医者は病室を出て行った。静かな室内。冥はまだ気持ちが落ち着かないのか、顔をしかめてそっぽをむいている。
そんな彼女の様子を見て、みぬきは口を開いた。
「……ごめんなさい、パパ、冥さん」
しおらしいその言葉に、成歩堂はみぬきの頭を撫でた。が、冥の方は微動だにしない。
「ほんとに、そのうち治ると思ってたし、心配かけたくなかったから、言わなかった。でもね…うれしかったの」
「「?」」
みぬきの言葉の最後の意味がわからず、冥はようやくゆっくり振り向いた。成歩堂も同様で、みぬきの顔をじっと見る。
そんな二人の表情を交互に見たあと、みぬきははにかんだ。
「みぬきは、パパと冥さんが、みぬきのことを心配してくれるのが、嬉しかったの」
「!」
「必死になって、みぬき以上に汗だくになって、何度も名前を呼んでくれて、それが安心する」
「みぬき…」
冥は、胸の奥が締め付けられるような思いがした。
「『みぬきはここにいていいんだよ』って言ってもらえてるみたいだから」
「な、なにを訳のわからないことを…」
冥は思わずみぬきから目を逸らし、窓の方を向いた。
その時、冥の目に飛び込んで来たのは。
「………!」
窓ガラスに映った、自分の姿だった。
走ったために、髪はボサボサで。涙の跡でアイラインもグチャグチャで。
ふと気がついて足元を見ると、いつものピンヒールではなく、成歩堂家の室内用スリッパを履いたままだった。
「……当たり前じゃない……」
…あ、ダメ。
また、泣きそう…
「……心配に、決まってるでしょ……っ」
普段ならきっと、病状を見れば、何の病気か大体判断できるのに。
冷静になどなれなかった。
倒れているみぬきを見た時。
苦しむみぬきと救急車に乗っている間。
生きた心地がしなかったのだ。
「冥さん、泣いてるの?」
「泣いてなどいないわ!」
背後からみぬきに声を掛けられ、冥はグシグシと涙を拭った。
「もぉ~冥さんてば泣き虫だなぁ。みぬきなら大丈夫ですってば。だから、明日の買い物のお約束、よろしくお願いしますね?」
「行くわけないでしょ!しばらく安静になさい!」
「ええー!そんなぁー!」
背を向けたままの冥の言葉に、みぬきは飛び起きて頬を膨らませ、なおも食い下がろうとした。





263:【call me⑦(成冥+みぬき)】
07/08/24 15:02:32 wpKZv2Sn
「冥さん『カンペキシュギシャ』なんでしょう?約束破っちゃいーけないんだー!」
心底残念がるみぬきだったが、
「場合が場合じゃないの!そのかわり……明日はあなたと一緒に家にいるから」
「え、本当!?」
冥の言葉にみぬきの表情が、一瞬でパッと明るくなる。
「病人を、この人ひとりに任せられないもの」
「うわーい!やったぁ!」
「なんか引っ掛かる物言いだけど、良かったな、みぬき」
苦笑いする成歩堂の傍らで、みぬきは手放しで喜んだ。窓ガラスに映るその姿に、冥はますます瞼を熱くする。

この笑顔が…みぬきが、無事でよかった。
冥は今、心からそう思っていた。





「君とみぬきって、よく似てるよね」
みぬきの着替えを用意するため、一旦成歩堂家に戻ることにした冥。そんな彼女をタクシー乗り場まで送りながら、成歩堂は言った。
「…どこが?」
突然不可解なことを言われ、冥は不審そうに、隣を歩く成歩堂を見上げる。すると彼は悪びれなく答えた。
「いや、隠し事が上手なところとか」
「……は?」
どういうつもりで、そんなことを言うのだろう。彼の意図が、全くわからない。
「それは、褒めてるのかしら?」
「…いや、どちらかというと、あんまりしてほしくないな」
スリッパをペタペタ鳴らしながら、二人は並んで歩く。
「みぬきは、明るくてしっかり者だけど、時々目を離してる間に、どこか遠くを見てるような顔をするんだ……多分、お父さんのことを考えているんだろうね」
「……」
みぬきの本当の父親の事情は知っている。だが、成歩堂の口からその話をされるのは、なんだか嫌だった。
今の父親は、彼なのだから。
「で、君も変に生真面目な人間だから、なんでも一人でこなしちゃうんだよなあ」
「…ちょっと。『変に』ってどういうことよ」
眉間にしわを寄せて、成歩堂を横目に見る冥。だが彼のほうは、いつものようなヘラヘラした表情ではなく。
真剣な瞳をまっすぐに、冥に向けていた。
「今度は、ちゃんと先に言ってくれよ。そしたら絶対、病院に一人でなんか行かせない」
冥の足が、止まった。
「…僕たち二人のことなんだから」
先程の話の続き。もう続かないと思っていた、話の続き。
「一人で悩むなよ。僕を呼んでよ。すぐに飛んで行くから」
「…龍一」


264:【call me⑧(成冥+みぬき)】
07/08/24 15:03:49 wpKZv2Sn
先程の、成歩堂の困った顔の理由は。
一人で悩んでいた冥に対してのものだったのだ。
「…まあ、僕が鈍いのも悪かったんだけどね。ごめん…気付いてあげられなくて」
「………全くだわっ………」
本当に、この親子と付き合うようになってから、涙腺が緩くなって困る。
成歩堂に抱き寄せられ、冥は涙目を隠すように、胸板に顔を埋めた。
「今は、子育てとか、自分のことで精一杯で、君を不安にさせてしまってるかもしれない…でも、僕は君が好きだから」
抱き締める腕の力強さに、飾り気のない言葉に、彼の素直な気持ちが乗せられ、冥に流れ込んでくる。
「ちゃんと、好きだから」
何を不安に思うことがあったのだろう。冥はクスクス笑いながら、鼻をすすった。そんな彼女を愛しく思い、成歩堂は抱き締める腕にますます力を込める。
「…僕がまた弁護士に戻れたその時は…さ……君さえよかったら…ぜひ……」
あの子の…みぬきの母親に。
そう続けようと成歩堂が俯いたその時。
「………」
「……?」
きょとんとして見上げている冥と目が合った。
「め、冥………どうしたの?」
「…アナタ、また弁護士に復帰するつもりなの」
「え…そうだよ?言ってなかった?」
「聞いてないわよ!!!」
冥の大きな叫び声に、成歩堂は一瞬怯む。その隙に、冥はスルリと彼の腕から逃れ、言った。
「なんでもっと早く言わないのよ!もう!」
その口調は、怒っているようなものだったが、クルリと振り返った彼女の表情は、笑顔だった。
「言わなきゃ、わからないことだって、あるんだから!」
そう言うと、冥はさらに声を上げて笑った。まったくもってそのとおりだ。先程までの自分を棚に上げたような発言だったからだ。白い歯を見せてバツが悪そうに微笑むと、
「となると、こうしちゃいられないわ」
と、突然軽やかに駆け出した。
「ど、どうしたの、何そんなに急いでるんだよ?」
「わからないけど…いてもたってもいられないの!」
とりあえずは、みぬきの着替えを持って行き、明日には彼女のためにお粥を作る。
その次の日からは、いつものように、仕事。
そして、この親子の行事にも付き合ってやって。時々、こぶ付きデートもしたりして。
そう、何が変わるわけではない、いつもと変わらない日々が、これからも続くだけだ。
来るべき時が来る、その日まで。
それまでは、今日のように色々な出来事があるだろうけど。
「気長に待っているわね」
そう言って不敵に微笑む彼女に歩み寄り、成歩堂はその手を握り締めた。





■END■









265:名無しさん@ピンキー
07/08/24 15:05:32 wpKZv2Sn
以上です。
つたない文章ですが読んでくださった方ありがとうございます。

266:名無しさん@ピンキー
07/08/24 16:01:03 UnTDA+8A
>256

sageて。

267:名無しさん@ピンキー
07/08/24 16:19:35 qnVd9U56
>>256
GJ!
成歩堂の慌てぶりや冥の意外と家庭的な部分がすごくよかった。

次もし投下するときはちゃんとsageような。

268:名無しさん@ピンキー
07/08/24 17:01:30 ETr3cdD3
gj
でもこの話、どっかサイトで読んだことあるような記憶があるんだけど本人による転載?
それならいいがsageてないしひょっとして第三者の悪意による投下じゃないよな

269:256
07/08/25 00:36:32 o5pqNYDC
すみません、説明不足でした。本人です。
ご存知だった方がいてびっくり…

sageかたこれでいいのかな。次回は気をつけます!

270:名無しさん@ピンキー
07/08/25 01:21:00 yb9JIxAw
>>269
2ちゃん初心者さん?
サイトで上げてたのをここに持ってくるのはやめたほうがいいよ
変な人たちに目つけられても知らないよ

271:名無しさん@ピンキー
07/08/25 01:46:45 2X1KvMDb
自分も見覚えあって首ひねってたが本人だったんか・・騙りじゃないよな?
sage方もしらないサイト掲載をここにもってくる危なさも知らないとか半年ROMった方がいいよ
いやほんと危ないから

272:256
07/08/25 02:38:38 o5pqNYDC
ご忠告ありがとうございます。
以前別の方がやってたのを見て、大丈夫なのかな、と思って…
ここのほうがたくさんの方に見てもらえると思ったので…
考えが浅はかでした。しばらく見るほうに徹します。
皆さんの作品、楽しみにしてます。

273:名無しさん@ピンキー
07/08/25 08:07:48 ecaUnAwU
Wiki管理人です。
256さんの作品をWikiから削除しました。

274:名無しさん@ピンキー
07/08/25 15:01:17 ZpIn6xAg
でも、数年前だったかミツマヨ職人が投下した作品も
自作のサイトから掲載してたと思う。
だから俺は>>256はそんなに問題ないと思ったんだが。

275:名無しさん@ピンキー
07/08/25 16:49:36 AjboH9CB
はげどう!!
サイトから転載して何が悪い
表現の自由だろ

276:名無しさん@ピンキー
07/08/25 16:52:16 3g4JxvwN
あれって先にスレに投下したものを後からサイトに上げてるんじゃないの?
それならやってる人も結構見かけるけど、逆に先にサイトに上げたものを
スレに投下は宣伝乙と煽りを食らう恐れが高いからかやる人を見たことない

277:名無しさん@ピンキー
07/08/25 18:41:08 ZpIn6xAg
>>276
あ、そうだったのか。。。
ということは、ミツマヨの時はスレに投下したのが先だったからよかったんだな。
何かいろいろ問題あるんだな。職人も大変だ



でも俺は>>256の作品、初めて見たんだが
文章も巧いし、十分楽しめたからGJ!と称えよう


278:名無しさん@ピンキー
07/08/25 23:09:03 kiL1HQvR
冥ってこんな感じか?

279:名無しさん@ピンキー
07/08/25 23:21:08 g8mwiCHS
たった今DS3クリアした。
携帯ゲーム板の逆裁本スレや次回作予想スレやその他の関連スレで
御剣と冥の結婚や子供の登場を望む声が上がってた理由が
よく分かったと痛感した自分は俄かミツメイ信者。
「最高のパートナー」が本心ならもう本当に結婚してしまえ
つーか5の検事はガチでこの二人の子供でいいよもうヽ(゚∀゚)ノ

280:名無しさん@ピンキー
07/08/25 23:24:53 0OTACy3O
ここで言うな

281:名無しさん@ピンキー
07/08/26 12:03:24 N63ssodd
>>279
「最高のパートナー」ってのは別に恋愛的な意味で言ったんじゃなくて
ある意味殺し文句のような感じがしたw
つまり、あの裁判では御剣とほぼ同レベルに戦える相手が必要だった、 ってゆう。
あくまで俺の考えだが。でも恋愛的な意味だったらそれはそれで燃える。
と、このままじゃスレ違いだから





安西先生・・・、ハミイトノコの新作が・・・読みたいです orz

282:名無しさん@ピンキー
07/08/26 14:15:58 xwGGm1ly
>5の検事はガチでこの二人の子供でいいよもう




いいわけねえ

283:名無しさん@ピンキー
07/08/26 14:54:22 O1UcNPyu
オドロキVS狩魔一族か・・・・



あれ?勝てる気がry

284:名無しさん@ピンキー
07/08/26 17:03:19 HD/zrDtO
>>281
好きカプを叫ぶスレってあるのかな?
本スレやキャラスレで叫ぶとカプ厨乙って言われるから
語れる場所があればいいと思った

最高のパートナーでさり気なくプロポーズしてるのかと
実際は違うとしてもそう解釈するとドキドキするwミツメイはいいね

285:名無しさん@ピンキー
07/08/26 17:57:57 uTDWANvy
トリビア
「御剣 冥」でググると関連検索で
「最高のパートナー」が出てくる。
更に「御剣怜侍」でググると「狩魔冥」が
「狩魔冥」でググると「御剣怜侍」が関連検索で出てくる。

Googleはミツメイ厨なのかw

286:名無しさん@ピンキー
07/08/26 18:02:41 3mYOE6Qy
wikiのハミイトノコ物語の続きって見れないのかないのかどっちなんだ

287:名無しさん@ピンキー
07/08/26 19:04:26 QiJWedmG
関連検索のしくみ解かってないのかよ…夏厨か

288:名無しさん@ピンキー
07/08/26 19:29:43 uTDWANvy
>>287
いや、一応分かってるよ
ミツメイ厨は冗談で言っただけw

289:名無しさん@ピンキー
07/08/26 19:46:56 6rXRCkSc
>>284
叫ぶだけのスレなら同人板にあるよ

290:名無しさん@ピンキー
07/08/26 22:48:51 4+8tvB2T
>>283
奴らに「みぬく」は通用しないだろうからな
審理には無関係な言いがかりだと速攻で却下されそう

>>285
成歩堂で検索するとりんごみかん成歩堂が出てくるし
グーグル先生は本当にユーモアに富んでるなw

291:名無しさん@ピンキー
07/08/26 22:57:15 d5svjHBE
>>282
だね
二人の子どもだと、どれだけ頑張っても小学一年生くらいだよね
それにミツルギはメイの仕事なことを考えて、
メイが30歳ぎりぎりになるくらいまで子どもを作らない気がする
結婚は早いけど子どもは遅い、みたいな

292:名無しさん@ピンキー
07/08/27 00:25:42 +Lgvd0Bm
>>291
そうかな、むしろ冥タンは30になる前に子供が欲しいって言いそう

293:282
07/08/27 00:35:24 ghcgFQRS
ミツメイ厨じゃないから「いいわけねえ」なんだが
とりあえず続編に旧キャラ出すのは成歩堂だけにして欲しい

294:名無しさん@ピンキー
07/08/27 01:00:59 mrtz+Qb/
御剣は結婚や子供への憧れが強そうだし
冥も自分の血筋に対してこだわりがあるようだから
そういうことに関して結構行動が素早いんじゃないかと思う。

逆に成歩堂はみぬきが成人して一人立ちするまでは
自分のことは二の次にして結果的に婚期を逃しそうな予感。

295:名無しさん@ピンキー
07/08/27 01:16:53 UkzPRxqp
3をやってどSな千尋さんに惚れた。
1の時点だと、頼りになる男勝りな先輩ってイメージだったけど、
あれなら千尋×成歩堂もありだなぁ

ついでに、捏造カプで千尋×霧緒も面白そうw
正反対なタイプだから、つねに千尋が霧緒を説教してて
エロに発展するまで時間かかりそうだw

296:名無しさん@ピンキー
07/08/27 01:19:06 PJFJUloN
>>293
そうゆう意見多いね
俺としては,もしオドロキ・ナルホドのW主人公が実現するなら
その時のナルホドの助手は,やっぱりマヨイがいいな


297:名無しさん@ピンキー
07/08/27 01:52:18 N+9qBo7Q
>>294
でも、御剣って子供苦手そうw
冥は姪っ子がいるみたいだから子供慣れしてそう。
3でも、春美には優しく接しようと心がけてたし(結果的に嫌われたが)

>>295
由梨絵と千尋ってタイプが似てそう。
ま、千尋さんは男に弄ばれたくらいじゃ自殺なんてしないだろうが。

298:名無しさん@ピンキー
07/08/27 10:31:37 qqw3wNz/
喫茶店まだ~?

299:名無しさん@ピンキー
07/08/27 12:42:39 AkD12NMG
3やってたら、4ナルホドが夢に出たちなみとポーカーするのを妄想してしまった・・・・



300:名無しさん@ピンキー
07/08/28 07:49:54 gA6SWdL7
4ナルホドなら良い勝負ができそうだな。
性的な意味でも。

301:名無しさん@ピンキー
07/08/28 12:54:34 CMvdTNyB
成歩堂のバッジ剥奪&ピアニート化はちなみの祟りかもなw

ところで4成歩堂のパパのロゴ入りニット帽はあやめのお手製?
3-1のRYUセーターと非常にセンスが似てる気がするんだが

302:名無しさん@ピンキー
07/08/28 14:09:53 Cg1YI2xv
攻略本かなにかにみぬきが作ったって書いてなかった?



303:名無しさん@ピンキー
07/08/28 15:21:35 zzmE26IP
>>301
俺も最初あやめが作ったと思ってた。センスが似てるし。
でも攻略本ではみぬきが作ったって言ってた。
よくみたら、マジックパンツと配色パターンが同じw

304:御剣×霧緒 1
07/08/28 20:21:23 FgQavofl
『喫茶店の人々』 #2

その日の夕方、住宅街の奥にある喫茶店は、ドアが開け放されていた。

ドアの前に立つと、ムッとした熱気があふれてくる。
「よう、悪いな。今、豆を焙煎してるんでな」
客に気づいたマスターは、マスクに流れ落ちそうになる額の汗をぬぐった。
旧型のエアコンがフル回転しても、残暑と焙煎の熱には歯が立たないようだ。
「ご機嫌ではないか」
客は熱気を避けるように、焙煎機から遠いテーブルに腰を下ろした。
「そりゃ、いい生豆が手に入ったからだろうさ」
「お手軽で良いことだ」
「まったくだ。ところで、あと30分待てるなら挽き立てで飲めるぜ」
御剣怜侍は手にしていた一般紙の夕刊を広げた。
「どのみち、焙煎が終わるまでは手が離せまい。私は急がない」
「すまねえな」
10分ほどで焙煎が終わったらしく、冷却が始まる。
「法廷だったのかい?」
「・・・ム。結審した」
「おめでとう、だろうな」
「・・・ム」
マスターは冷めたコーヒー豆をスプーンですくい取り、二人分を挽いてドリップした。
二つのカップに注ぎ、まず自分が味をみる。
「ほらよ。煎りたて挽きたて淹れたてだ。うまいぜ」
一口飲んで、御剣は眉間にシワを刻む。
「ウム。うまい」
マスターは満足げに笑った。

「・・・明日は、5日だな」
御剣が言うとマスターはちらりと9月のカレンダーを見る。
「そうだな。臨時休業させてもらうぜ」
「気をつけて行って来てくれ。よろしく頼む」
「ああ」
御剣はなにかを思い出すように、苦すぎるコーヒーを飲んだような顔になった。
「あなたに初めて会ったのも、あの法廷だった」
「・・・・」
思い出話は嫌がるかと思ったが、マスターは御剣の話題を案外すんなりと受け入れた。
「前評判どおり、アンタはなかなかの新人だったな」
初めての法廷。
御剣はカップに目を落とす。
「私にとっても、忘れられない裁判だ。あの人と法廷で会ったのは最初で最後だったが・・・、しばらく後になってからは検事局でも噂になっていたよ。怖い弁護士が出てきた、と」
「俺が眠っている間だな。アンタは、ずっとアイツを気にかけていてくれたのかい」
他に客のいない気安さか、テーブルを挟んで御剣と向き合って座る。
御剣は指先でカップのふちをなぞる。
「成歩堂が、彼女の事務所に入ったと聞いた時は驚いた。あんなことになってから再会したんだが、まるで」
・・・彼女の法廷を見ているようだった。
最後の言葉は、口の中でつぶやく。
すっかり喫茶店の店主におさまったこの男は、大きなマスクの下にどんな表情を隠しているのか。
「・・・俺は、俺の最後の法廷で、あの男の中にアイツを見たぜ」
「・・・」
「生きていてくれた、と思ったよ」
「・・・」
「それでも」
顔を上げる。
ドアの向こうに、新しい客が歩いてくるのが見えた。
「それでも、俺は・・・、アイツ自身に生きていて欲しかったぜ」

305:御剣×霧緒 2
07/08/28 20:22:11 FgQavofl
狩魔 冥が店の前に立った。
御剣がふりむくと、白い大きな花束が目に飛び込んできた。
「どうしてドアが開いてるの?エアコンの冷気が全部逃げてるじゃないの」
御剣が、両手をふさがれている冥の代わりにドアを閉めるために立ち上がる。
「よう」
マスターが立ち上がり、いつもの口調で客を迎えると、冥は白いアレンジメントの花かごをカウンターに置く。
それを見たマスターが、ふっと口元を緩めた。
「これは、ヒゲからよ」
「アイツの好きだった花だ。あの薄給刑事にしては、随分がんばったんじゃねえか?」
冥が黙って肩をすくめた。
もちろん、糸鋸刑事の希望を聞き入れて、花を用意したのは冥自身だ。
冥は直接彼女と面識はないが、その後にかかわった事件から、彼女を知らずにはいられない。
マスターはカウンターに入ると、冥がいつも注文するマキアートのために、エスプレッソ用のタンバーを手に取った。
「あ、私はすぐに失礼するから」
椅子に腰を下ろすことなく、冥が言った。
「急ぐのかい、ご令嬢」
「ええ。また来るわ。花を持ってきただけ」
「わざわざすまねえな」
くるりと背を向けて、冥は御剣を見た。
そのまま店を出る途中で、一言つぶやく。
「あれ、不起訴にするわよ」
御剣は返事をしないまま、ドアを開けて出て行く冥の後姿を見送る。
聞こえたはずのマスターも、なにも言わない。
この店では、仕事の内容は話さないのがルールだった。
冥が手がけていた事件の内容を思い出して、御剣はコーヒーを飲み干した。
不起訴か。以前はなにがなんでも起訴して、有罪に持ち込もうとしていた冥も。
「・・・人は、変わるものだな」
ひとり言のように、御剣怜侍が言った。
そして。
「あなたはこの先の人生を、後悔するためだけに生きるつもりか」
マスターは、冷めたコーヒー豆を保存容器に移していた手を止める。
御剣も、大切な人を失ったことがあるのは、同じだ。
それが恋人だろうと、父親だろうと、師と仰いだ男であろうと。
「・・・厳しいコトを言うんだな、検事さん」
カウンターの上の花が、まぶしかった。
マスターは黙ってエスプレッソマシンのスイッチを入れ、御剣は新聞に目を落とした。
少しのあと、スチームミルクを入れたエスプレッソが御剣の前に置かれた。
「アンタは・・・、大事な女を手放すんじゃねえぜ」
冥の好きなマキアート。
「・・・いや、私は」
「コイツはオレのおごりだ」
なにか、誤解されたような気がする。
それでもマキアートは美味かった。

306:御剣×霧緒 3
07/08/28 20:22:52 FgQavofl
ブレンドコーヒーの代金を置いて店を出たところで、前から歩いてくる女性が見えた。
ノースリーブのサマーニットに細縁のメガネ。長い髪を後ろで一つに結わえている。
「あ、御剣検事・・・」
華宮霧緒がほっとした顔をした。
手に提げた紙袋から、白い花束が見えた。
「どうしたのだ?」
「成歩堂さんに、喫茶店にお花を届けるように頼まれたのですけど、見つからなくて・・・」
花は、彼女が好きだったとマスターが言った白い花。
なぜ、彼女が成歩堂の使いでやってきたのか。
御剣が眉間のシワを深くした。
「あの、私、みぬきちゃんのマジックショーをマネージメントすることになったんです。お話してなかったですけど・・・」
「みぬきの?」
霧緒は手帳に挟んだパンフレットを取り出して開いた。
ビビルバーの名前の入ったそのパンフレットに、みぬきの写真とショーの開催時間が印刷されている。
仕事が立て込んでいてしばらく会っていなかったが、霧緒も忙しいようだ。
「喫茶店ならそこだ」
御剣が通りの奥を指差した。看板もない、ごく普通の家に見える建物。
「まあ、わからないはずだわ」
御剣は霧緒が喫茶店に花を届けてくるのを通りで待った。
しばらくして店から出てきた霧緒は、御剣が待っているのに気づいて嬉しそうに駆けて来た。
並ぶと、細い腕が御剣の体に触れた。
「・・・これから、どうするのだ?」
しばらく歩いてから、御剣が言う。
「今夜はみぬきちゃんのショーがあるので、そこに。その後はみぬきちゃんを家まで送って、帰ります」
パンフレットに載っていた開演まで、もうあまり時間がないようだった。
少し大きな通りまで出て、御剣はタクシーを目で探した。
「私は、このまま家に帰る」
右手を上げると、目の前にすべるようにタクシーが止まった。
霧緒を促すように背中を押すと、彼女は笑いを含んだ目で御剣を見上げた。
「来い、とは言ってくださらないの?」
・・・・大事な女を手放すんじゃねえぜ。
マスターの声が耳の奥で響く。
御剣は霧緒の乗り込んだタクシーのドアが閉まる瞬間に、言った。
「待っている」

307:御剣×霧緒 4
07/08/28 20:23:42 FgQavofl
みぬきのショーについて楽しげに語る霧緒の声を聞きながら、御剣は今日の新聞をスクラップしていた。
興味深い事件や裁判の進展を報道する記事を切り抜いて、ジャンル別に整理する。
習慣となっているその作業も、隣で切りくずを集めたりファイルを開いてくれたりする霧緒がいるだけで、少し楽しくさえ感じた。
あの事件の後、なにかと霧緒の相談に乗っていた冥が、一時渡米する際に「よろしくね」と言った意味はたぶん、こういうことではないとわかってはいたが。
裁判にも法律にも、特別な知識をもたない霧緒が、ただ無邪気に話す、他愛ない話。
自分が入れたのではない紅茶や、自宅で作られる家庭料理。
ただ隣に座って、そこに居てくれる暖かい存在。
そのすべてが、御剣には愛しかった。
スクラップを終えてファイルを本棚に収め、穴だらけになった新聞を片付けて戻った霧緒の腕をつかむ。
しばらくぶりの二人だけの時間に、すでに霧緒が目を潤ませていた。
霧緒の体を引き寄せたところで、インターフォンが鳴った。
「誰かしら、こんな時間に・・・」
「かまわない。放っておこう」
「でも・・・」
モニターが切れる直前に電子音が聞こえて、御剣は霧緒の体に沿わせた手を止めた。
ロビーのオートロックを解除する、暗証番号を押す音に聞こえたのだ。
「どうしたの?」
「いや・・・」
霧緒が腕を御剣の首にからめてきた。
華奢な体を抱き寄せて、指を長い髪の間に差し入れた時、玄関のほうで鍵を開ける音がした。
「え・・・?」
霧緒がそれに気づいて目を見張る。
御剣は人差し指を唇に当てて、ソファから立ち上がった。
リビングから廊下へ出るのと、冥が玄関のドアを合鍵で開けるのとはほぼ同時だった。
「あ、いたの?」
御剣を見て、冥が驚いた顔をした。
「うム。どうした?」
「どうしても今夜中に借りたい資料があって・・・」
言いながら、ふと足元を見た。
「なんの資料だ?」
「・・・もういいわ」
ふいに、冥はドアを開けて飛び出して行った。
「冥!」
追いかけようとして、御剣は玄関にそろえてある霧緒のハイヒールに気づいた。
まずかったか。
追うべきか。しかし。
少し迷って、御剣はドアに鍵をかけ、リビングに引き返した。
後ろめたさが残る。
今、自分ははっきりと片方を選んだのだ。
「今の、冥さん?」
霧緒が心配そうな顔をしていた。
「ああ、たいした用ではなかったらしい」
「・・・でも」
霧緒の言いたいことがわかって、御剣は隣に腰を下ろす。
「冥にはここの合鍵を渡してある。ロビーの暗証番号も教えてある」
「・・・」
霧緒は先ほど、ロビーでインターフォンを鳴らし、鍵を開けて迎え入れてもらった。
「冥は、家族だ。冥の父親は、早くに父を亡くした私にとって師匠であり父でもあったし」
「・・・」
「その後、今度は冥が父親を失った。彼女が私を頼るなら、力になってやりたいと思っている」
「・・・」
「だが、あくまで本当の妹のように思っている。キミが心配することはない」
言葉を尽くして、霧緒を納得させようとする。

308:御剣×霧緒 5
07/08/28 20:24:12 FgQavofl
法廷ではあれほどよどみなく出てくる言葉が、このときばかりはもどかしかった。
無罪を主張する殺人犯も、嘘をつく証人も、屁理屈をこねまわす弁護人もねじ伏せる自分が、目の前で不安げに目を伏せる一人の女性を安心させることができないのか。
「・・・私が愛しているのは、キミだ。それだけでは、いけないか?」
言ってしまって耳まで真っ赤になった御剣に、つい霧緒は小さく噴出した。
「なんだ?」
幸せな気分になって、霧緒は御剣の肩に頭を乗せた。
「いいえ、なんでも」
「人の真剣な告白に、失礼ではないか」
霧緒の腰を抱きながら、御剣が不平を言った。
「私、不安だったんです。もしかして、また貴方に・・・依存、してしまうのではないかって」
一呼吸の間に、さまざまな記憶が御剣の脳裏によみがえる。
「そしたら、また貴方が・・・、貴方もいなくなってしまうのではないかって」
霧緒もまた、大切な人を失ったことがあるのだ。
自分は決していなくなったりはしない。
そう言える人間が、いるだろうか。
どうしたら、彼女の不安を取り除けるのだろう。
霧緒を抱き寄せ、髪を撫でる。
胸に顔を寄せてくる霧緒を強く抱く。
「さっき初めてお会いした・・・、あの喫茶店のマスター」
「・・・ム」
「・・・うらやましいと思いました。亡くなってからも、あんなに想われている人が」
ユリエのことを考えているのだろうか。
御剣は霧緒の顎に指をかけて上向かせ、その唇にキスをした。
「だめだ」
「・・・え」
「どれほど想われても・・・、死んではだめだ」
大事な女を、手放したくはない。
御剣は、霧緒を抱き上げて寝室へ連れて行く。
期待に頬を高潮させた霧緒をベッドに横たえると、ノースリーブを脱がせ、下着を取る。
柔らかな胸に手を伸ばし、首筋に唇を押し当てる。
霧緒のつけている香水が香る。
スカートを引き下ろすと、霧緒は御剣の背に腕を回した。
「お願いがあるの・・・」
胸の頂に口付けられて、ピクリと肩を震わせながら、霧緒はささやいた。
「約束して。守れなくてもいいから・・・」
体中を愛撫されて、息を乱す。
御剣の手が、唇が、霧緒の全身を這う。
「いなく・・・ならないで」
失いたくない。
その思いは、同じ。
もう、誰も。
大切な誰も、なくしたくはない。
霧緒が体を反らせ、一瞬それが白い花が動いたように見えた。
御剣は花を愛でるように優しく触れ、花弁にそっと指を差し入れた。
「あ・・・・」
花は、蜜をたたえていた。
中を探るように進むと、そこは熱く締め付ける。
御剣は、乞われるままに言葉を唇にのせた。
「私は、どこにもいかない・・・」
破るつもりのない、約束。
守れると言い切れる者などいない、約束。
せめて、今だけでも。
「は・・・・あん・・・」
答えを聞いて、霧緒は乱れた。
「嬉しい・・・」
大きく開かせた脚が御剣の腰にからみつく。
目の前で薄く朱に染まってゆくしなやかな肢体に、我を忘れてのめりこむ。
ベッドサイドの小さな灯りを受けて、霧緒の体が揺れる。

309:御剣×霧緒 6
07/08/28 20:26:47 FgQavofl
ふいに、白い花を抱えた冥の姿がよみがえった。
『・・・もういいわ』
声が、聞こえた気がした。
バカな。
御剣は自分でも説明のつかないそれを振り切るように、霧緒の体に自分自身を突き入れた。
「ああ・・・」
耳元で、霧緒が声を上げる。
その声だけを聞くために、御剣は目を閉じた。
自分の体で、霧緒を感じる。
どくどくと脈打つ感覚と、切なげにあえぐ声。
「・・・はぁっ・・・」
幾度も幾度も打ち込み、霧緒が折れるのではないかというほど激しく攻め立てるうちに、御剣の思考が止まる。
「あああんっ!」
霧緒がビクビクと体を痙攣させて強く抱きついてきても、御剣はさらに深く突いた。
「あ、ああ、も、もう・・・っ」
涙を浮かべた霧緒が懇願するように訴えてぐったりし、両手でその腰を抱えたまま御剣はようやく霧緒の中に精を放った。
霧緒に覆いかぶさるように倒れこむと、じっとりと汗ばんだ背に腕が回された。
「・・・好き」
私もだ。
そう言おうとして、開いた唇から、なぜか思うように言葉が出ず、御剣は黙って霧緒を抱きしめた。

・・・大事な女を手放すんじゃねえぜ。

なにか心に小さなしこりを抱えたまま、腕の中に寝息を立てる霧緒を抱く。
その熱さが、重かった。


310:304-309
07/08/28 20:27:39 FgQavofl
#3へ続く。

311:名無しさん@ピンキー
07/08/28 20:39:03 pxdvjycT
GJ!続きまってる
霧緒さんエロ久しぶりだ~

312:名無しさん@ピンキー
07/08/28 21:02:35 vqj/3za0
意外な組み合わせキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!
新鮮でいいぞテラモエだGJ!

でもこの後はミツメイなのか…

313:名無しさん@ピンキー
07/08/28 21:09:07 d+4BJ/Ob
喫茶店シリーズ続編ktkr!

俺の嫁一号と二号を両天秤とは…おのれ御剣、何て羨ましい奴だ
どっちに傾くかは分からないけど続きも期待して待ってる

314:名無しさん@ピンキー
07/08/28 22:21:01 7Duiq64z
GJ!みっちゃんもてるな!ミツメイwktk

315:名無しさん@ピンキー
07/08/28 23:23:46 zzmE26IP
新カプktkr!
続きに期待

316:名無しさん@ピンキー
07/08/29 00:42:53 JM7rt67E
GJ!!!
素晴らしくハァハァさせてもらいますた!!
続きも期待してます

317:名無しさん@ピンキー
07/08/29 20:53:04 T4d/IUlp
>>310
GJ!
御剣×霧緒って初めて見たけどいいな
知性派な美男美女同士でなかなかお似合いだ
でも本命は御剣×冥なのでそっちにも期待w

318:名無しさん@ピンキー
07/08/30 05:04:15 ifwoJ2fc
>>314>>316
sageないか?

319:名無しさん@ピンキー
07/08/31 04:33:39 AiuoUIAL
ミツメイも良いけど誰かナルマヨ書いてほしい…。

320:名無しさん@ピンキー
07/08/31 11:35:46 vUnDOwRw
>>319
>>318
自分で書いてみるって方法もある。

321:名無しさん@ピンキー
07/08/31 17:48:06 yHSJahWC
>>310
GJJJJJJJ!!!
三角関係が切ない・・・
御剣がどっちを選んでも、三人に幸せになって欲しいorz


>>319
自分もミツメイ、ナルマヨが一番好きですよ
まあいつか投下されるのをwktkしながら待ちましょう

322:名無しさん@ピンキー
07/08/31 20:46:37 VtulWnZb
ナルマヨはいいよなあ
マヨイちゃんとナルホドくんは7年後も付き合いがあることが判明されたし


323:名無しさん@ピンキー
07/08/31 21:31:35 gtWhn8rs
間宮由美子のことか

324:名無しさん@ピンキー
07/08/31 21:45:11 O5mO+OIv
特にカプにこだわりはないけど、ナルマヨはなんか読んでてなごむのが多いな

昔のやつだけど、真宵が成歩堂に初体験がいつなのか聞く話とか好きだった

325:名無しさん@ピンキー
07/08/31 23:08:57 RMPJ2Vat
>>323
大滝九太の可能性もある

326:名無しさん@ピンキー
07/08/31 23:25:46 PUDpiL7v
原作者がなるほどの病室のDVDはマヨイちゃんからの贈り物と言ってるので間違いない

327:名無しさん@ピンキー
07/09/01 07:38:58 Q3vZH5KJ
>>324
あれすごいいいよな。
エロ以外の部分もナルマヨらしい。

328:名無しさん@ピンキー
07/09/01 20:16:41 XfOVQUc/
あんまそういう話題は自重な

329:名無しさん@ピンキー
07/09/01 23:03:50 WGUP1B97
ナルマヨ好きだけどエロが想像しにくいのが難点
自分はせいぜいほっぺたにチュウレベルが限界だ
ミツメイやカミチヒのギシアンは超余裕で想像出来るんだが

330:名無しさん@ピンキー
07/09/02 02:20:50 7H2Iy9Uw
『4』設定(成歩堂32、真宵26)だったら書けそうなんだが。

331:名無しさん@ピンキー
07/09/02 02:44:44 LtDfSYOA
>>329
私はミツメイの方が想像できないなあ…
マヨイちゃんのは、相手が誰でも割と簡単にできる
初めてのときは、痛いよ…とか言いながら頑張って受け入れてくれそうだし、
慣れてきたらエッチをすごく楽しみそう

332:名無しさん@ピンキー
07/09/02 03:13:13 rqc5cV4t
昔、とあるスレで「冥は大人だからいいけど、真宵のエロは年齢的に考えて有り得ない」
「真宵と冥は同い年なんだが…この場合どっちに対して失礼になるんだろ?」
みたいなやりとりがあって爆笑したのを思い出したw

まあ確かに、実年齢に比べて真宵は幼いし冥は色っぽい印象だな。

333:名無しさん@ピンキー
07/09/02 08:31:08 tfNHsFXK
それはw笑えるw

笑った俺はどっちに対して失礼なんだろうw

334:名無しさん@ピンキー
07/09/02 12:45:11 2pRlhLcI
冥は大人っぽいけど子供みたいに凝り固まった考え方とも取れるし、
プライドが高いからエロ(恋愛)は難航するイメージがあるな。
真宵は結構柔軟な目線でいろいろ発言するし、性格も奔放な感じだから
恋愛にも積極的でエロも楽しみそうに見える。

335:名無しさん@ピンキー
07/09/02 19:02:14 Xzq88s+o
>>334
その高いプライドと子供じみた潔癖さを踏み躙って
屈服させ調教することこそが冥のエロの醍醐味!!!
とまでは言わないが「イヤよイヤよも好きのうち」が
デフォルトなのは確かな気もする。

336:名無しさん@ピンキー
07/09/02 20:20:12 oQXfweyI
真宵たんはSっけもMっけも垣間見えるからどちらでもエロ書きやすい気がする。



337:名無しさん@ピンキー
07/09/02 20:59:03 kXr2gkE9
今から1時間以内に発言がなければマヨイは俺の嫁

338:名無しさん@ピンキー
07/09/02 21:06:46 kcT6rGe4
どうかしたかな?

339:名無しさん@ピンキー
07/09/02 23:25:33 NVY51otn
むむ、誰か私を呼んだかね?

340:名無しさん@ピンキー
07/09/02 23:27:05 uZpb1PcO
じゃあ今から一時間以内に発言がなかったら冥は俺の嫁



発言があったら罰としてナルマヨミツメイ投下…か?

341:名無しさん@ピンキー
07/09/02 23:30:15 NVY51otn
ミツメイワクテカ

342:名無しさん@ピンキー
07/09/02 23:31:00 NVY51otn
は、しまった!!

343:名無しさん@ピンキー
07/09/02 23:49:30 rqc5cV4t
>>340
それではナルマヨミツメイをお願いしようか

344:名無しさん@ピンキー
07/09/03 17:14:11 kgUFuxGT
9月か・・・・

345:名無しさん@ピンキー
07/09/03 20:14:22 2XFsCdPn
以下、エロ極薄です。

346:名無しさん@ピンキー
07/09/03 20:15:04 2XFsCdPn
『喫茶店の人々』#3

事務官にアポなしの来客を告げられて、狩魔 冥は来客の素性を尋ねる。

上級検事室に不似合いな、サンダル履きで現れた成歩堂龍一は、脇に抱えていた書類封筒を冥に差し出した。
「はい、これ」
デスク越しに受け取って、中を確認する。
「先週までに提出してもらうはずだったけれど」
「うん、ごめん。でもね」
デスクに肘を突いて、前に立つ成歩堂を見上げた。
「言い訳は聞かない。次に不手際があったらもう“キサマ”は使わないわよ」
パーカーのポケットに手を入れて、成歩堂は肩をすくめる。
「キサマ、か。ひさしぶりに呼ばれたねぇ」
冥は手早く書類をめくって、内容に目を走らせた。
「でしょ?そういえば、倉院には行って来たの?」
「うん。先月ね」
勝手にソファに腰を下ろして、成歩堂はぼんやりと窓の外を見た。
「真宵ちゃんも春美ちゃんも元気だったよ。向こうは山だから、もうこっちよりずっと涼しくってね。そのうちみんなで遊びに来ればいいって言ってた」
「そう」
「まったく、君も人使いが荒いよ。みぬきはぼくが無職でも、文句なんか言わないけどな」
「・・・バカバカしい父親ね」
音を立てて書類をデスクに放り出す。
成歩堂はまったくお構いなしに目尻をさげた。
「最近、霧緒さんにみぬきのマネージメントをお願いしたら、とてもいいみたいだよ」
成歩堂の言葉に、冥はイラっとした。

もう半月も前になる。
自宅で資料を探していて、御剣の部屋にあった判例が見たくなった。
先に電話すると、御剣は家にいなくても戻って用意してくれるだろうから、直接行ったほうが早いと思ったのが間違いだった。
インターフォンを鳴らしてみると、やはり出てこない。
もらっている合鍵でドアを開けると、玄関に見覚えのある靴があった。
いつだったか、華宮霧緒が履いていたハイヒール。
冥はそのまま引き返した。
御剣は、追ってこなかった。

「まったく、なにがみぬきみぬきよ。体よく押し付けられただけの子育てのクセに」
言ってから、しまったと思ったが、飛び出した言葉はもう戻せない。
冥は唇を噛んでうつむいた。
成歩堂がソファから立ち上がり、デスクに近づいてくる気配がした。
・・・ぶたれる。
そう思って、ぎゅっと目を閉じた。
ふわりと、肩に暖かい重みを感じて、冥が顔を上げる。
「どうしたの、冥?」
成歩堂が、自分を覗き込んでいる。
泣き出してしまいそうだった。


347:成歩堂×冥 2
07/09/03 20:16:33 2XFsCdPn
「あ、成歩堂さん」
客に不親切なことこの上ない店構えの喫茶店。
ドアを開けると、王泥喜がカウンターでコーヒーを飲んでいた。
「よう」
相変わらず、マスターがそっけなく迎えてくれた。
「最近どう、王泥喜くん。早い時間にこんなトコにいるなんて、仕事ないの?」
隣に座って、成歩堂が聞く。
事務所の所長とも思えない、無責任さである。
「はあ、ちょっとずつは。なかなかうまくいかないですけど」
「ふうん」
「なんか、相手が悪いっていうか。なんでオレの裁判って、毎回狩魔検事とか御剣検事とか、無敗だの天才だのって人ばっかり出てくるのかなぁ」
マスターが挽いたコーヒー豆にお湯を注ぐと、豆がふっくらと膨らんで、いい香りが広がる。
「あっはっは、あんまり負けつづけると、茜ちゃんに愛想つかされるかもね」
王泥喜が飲みかけていたコーヒーを噴出した。
「あ、なんか昔、法廷でそういうことしてた人を知ってる気がするなあ」
慌てふためく王泥喜をまったく気にせず、成歩堂はそう言ってカウンター越しにマスターからカップを受け取った。
王泥喜が店を出て行くと、マスターは自分のコーヒーをカップに注いだ。


348:成歩堂×冥 3
07/09/03 20:17:24 2XFsCdPn
「久しぶりだな。アンタがここへ来るのは」
「・・・そうですか?」
「なにかあったかい」
成歩堂が、笑った。
「なんだか、弁護士を辞めてからのほうが、いろんなことが見えてきたような気がするんですよね」
「ここにいれば、それだけで見えてくることもあるぜ」
「・・・現役って、大変だからなあ」
まったく人事のように言い、成歩堂はカップを置いた。
「で、その大変な現役の人なんですけど」
マスターが、壁の時計を見た。
法廷の終わった検事や弁護士たちが集い始めるのには、もう少し時間がありそうだった。
「なんだい」
成歩堂はカウンターに両肘をついて身を乗り出す。
「最近、冥は来ます?」
「ご令嬢?来るが、どうした?」
成歩堂はカウンターにおいてある白い陶器の器から、スティックシュガーを一本抜き取った。
「いや、どうしたのかなと思うことがあって」
スティックシュガーの端を引きちぎる。
「なに、御剣とケンカでもしたんじゃねえのか?イヌも食わないってやつだろうさ」
「ええ!?」
成歩堂がスティックシュガーを持った手を振り、カウンターは砂糖まみれになった。
「おい、師弟そろって店を汚すんじゃねえ」
「いやいや、今の、なんですか」
成歩堂には、マスターがマスクの奥で目をきょとんとさせているのが見えた気がした。
「御剣と冥って、そういうことではないでしょう?」
わずかな沈黙。
「・・・そうか。俺は、ご令嬢は御剣に惚れていると思ったんだが」
成歩堂が、スティックシュガーをわしづかみにした。
「だが、御剣の方は・・・違うのかもしれねえな」」
「・・・ものすごく、証拠不十分じゃないですか」
「クッ、ブランクが長いからな」
マスターがコーヒーカップを傾けて、ゴクゴクと飲み干す。
「それに・・・、証拠があるんですよ」
「じゃあ、提出してみな」
自称ピアニストはニット帽の中に手を入れて、髪をかきむしる。
「くらえ!・・・っていうのは冗談にして。・・・御剣のつきあっている女性を知っています」
「・・・」
「・・・」


349:成歩堂×冥 4
07/09/03 20:18:26 2XFsCdPn
新しく開けられたスティックシュガーが、コーヒーに落ちるサラサラという音だけが聞こえる。
「だいたい、冥は御剣の話なんかしてないですからね、一回だって!」
「・・・おい。なんでオマエさんがそんなにムキになるんだ?」
いきなりマスターが声を落とし、成歩堂はごまかすようにスティックシュガーの封を切る。
「いやいや、僕は別に」
「・・・まあ、ジャマすると馬に蹴られる、とも言うからな。がんばりな」
「ち、ちがいますよ」
砂糖を入れたコーヒーをむやみにかき回しながら、成歩堂が鼻にシワを寄せて反論したが、マスターはクッと笑った。
「結局、見えてないことはあるってことだ。俺も、オマエさんもな」

そこでいきなり店のドアが開いて、店主と客は飛び上がった。
「こんにちは、マスター!あ、パパ!」
学校の制服を着たみぬきが飛び込んできて、テーブルにカバンを投げ出す。
「今日、宿題いっぱい出ちゃったんだよ。ビビルバーでショーがあるのになぁ。霧緒さんは、宿題が終わるまでは絶対にステージに上がっちゃいけないって言うし」
カバンから、バサバサと教科書を取り出す。
「そ、そう・・・」
霧緒の名を聞いて、成歩堂はなぜか少し後ろめたく感じた。
「あ、でも今日の英語の小テスト、すっごくよくできたと思うんだけど。こないだ茜さんに教えてもらったからかな。やっぱり違うよね、キコクシジョ、っていうの?」
成歩堂が新しいスティックシュガーを取った。
「そ、そう・・・」
サラサラサラ。
「牙琉さんもキコクシジョだから教えてくれるって言ったんだけど。でもなんでかなー、みぬきが茜さんに教わってる間、ずっとオドロキさんがうろうろしてて・・・、パパ?」
サラサラサラ。
「そ、そう・・・、いや、なに?」
「お砂糖、入れすぎじゃない?」
マスターがまたクッと笑った。
「俺の淹れたコーヒーだ。飲んでもらうぜ」

霧緒とこの店で落ち合うことになっている、というみぬきを残して、成歩堂は暗くなり始めた外へ出た。
茜や牙琉響也もやって来て、店がにぎやかになってきたせいもある。
『・・・ご令嬢は御剣に惚れていると思ったんだが』
だが、成歩堂は御剣と霧緒の関係を知っている。
つまり、冥は報われないのだ。


350:成歩堂×冥 5
07/09/03 20:19:33 2XFsCdPn
「マスターの見解だけじゃ、物的証拠はないな。すべては状況証拠か」
ペタペタとサンダルの音をさせながら、成歩堂はつぶやいた。
「・・・苦手なんだよな。状況証拠」
『まったく、なにがみぬきみぬきよ・・・』
そう言った時の冥の顔を思い出す。
あれは、成歩堂が霧緒の名前を出した後だ。
あの時の、今にも泣き出しそうな顔。
やっぱり、放っておけないな。
成歩堂は来た道を戻り始めた。

検事局まで戻ってきたはいいけれど、どうやって冥に取り次いでもらおうかと考えていると、地下駐車場から見覚えのある車が滑り出してきた。
車が成歩堂の横で止まり、運転席の窓が開いた。
「忘れ物なの?」
成歩堂が、笑った。
右側のドアを開けて助手席のシートに体を沈める。
「左ハンドルの車だとさ、助手席に座っても運転してるような気分になるね」
両手を上げて、ありもしないハンドルを握るマネをする。
「いいかげん、運転免許くらい取りなさい」
「うん、でもあと3~4年もしたらみぬきが取ると思うんだ」
「・・・あきれた」
「怒らないの?」
冥が首を回して成歩堂を見た。
「私だって意味もなくいつも怒ってるわけではないわ」
「みぬきの話をしたからさ」
「意味がわからないんだけど」
ハザードをつけたままの車の中で、冥は肩をすくめた。
「ふうん。じゃあ、昼間はみぬきの話をしたから怒ったんじゃないんだね」
「・・・バカバカしい。あなたがみぬきの話をするのが珍しいとでも言うつもり?」
「と、すると」
今度は、片手に持った見えない書類を手で叩くマネをする。
「あの時、僕はこう言った。『最近、霧緒さんにみぬきのマネージメントをお願いしたら、とてもいいみたいだよ』」
「よく覚えてるわね」
「そうしたら、君が言ったんだ。『まったく、なにがみぬきみぬきよ』って」
「・・・」
「でも、今の話だと君はみぬきの話に腹が立つわけではないようだ。これはムジュンする」
「・・・弁護士にでもなったつもり?」
「つまり、君が怒ったのは、この部分だ。『霧緒さん』」
「・・・」
「異議は?」
検事局から何人かの人が出てきて、人が乗ったままの路上駐車に不審そうな目を向けてくる。
冥は車を出した。


351:成歩堂×冥 6
07/09/03 20:20:44 2XFsCdPn
御剣以外で、冥が部屋に入れた男性は成歩堂が初めてだった。
「で、話ってなによ」
気ぜわしく聞いた。
成歩堂の事務所には王泥喜がいるし、どこか食事のできる店に行こうかと思ったが、成歩堂が君の家がいいと言ったのだ。
拒否することもできたのに、冥は黙って自宅へ車を向けた。
成歩堂は勝手にキッチンへ入ると、冷蔵庫を開ける。
「なにやってるのよ!」
「いやあ、見事に水しか入ってないね」
「わ、私が料理でもすると思ってるの?」
「思わないけど。キッチンがすごくキレイだもんね」
冥がムッとしたような顔をして、バッグを放り投げるとリビングのソファにどさりと座った。
「おっと、ポテトチップスだ。これ食べてもいい?」
「やっぱりお腹すいてるんじゃないの。だから・・・」
コンビニの袋に入ったままのビッグサイズのポテトチップスを見つけられた照れもあったが、だから食事に、と言えばまるで誘っているかのように聞こえる。
冥は言葉の途中で黙り、成歩堂が菓子袋とペットボトルの水を持って戻ってくる。
成歩堂は、冥の隣に腰を下ろして袋をバリバリと開け、冥は座りなおして距離をとった。
「真宵ちゃんが、千尋さんとお母さんのお墓を移したいらしいんだ」
冥が移動したことに構わず、ポテトチップスを音を立てて食べる。
「・・・・お墓?」
「うん。ほら、この間の命日。ぼくは君からの仕事で行けなかったろ?それで後から倉院のほうに行ったんだけど、その時にね」
そんな話をしたかったのか?
冥は手を伸ばしてポテトチップスをつまんだ。
「こっちにお墓を作ったのは、倉院の里のほうでもいろいろ分家の反対があったかららしいんだ。二人とも一度は里を出たわけだし。でもほら、今は真宵ちゃんが家元だからね。綾里家のお墓に移すことにしたんだって」
「それで?」
「ま、その時には僕も倉院に行こうと思うんだ」
「それで?」
パリっと音を立てて、組んだ冥の脚にポテトチップスの破片が落ちる。
「・・・まあ、そういう話」
「あいっかわらず、バカは仕事を変えてもバカなままね、成歩堂龍一!」
バッグの中に入っている鞭に手が届かず、冥はテーブルの上のペットボトルを投げつける。
「危ないなあ。当たったら痛いじゃないか」
投げつけられた水を受け止めて、成歩堂はキャップを開けて飲んだ。
「あんまり乱暴だと、嫁のもらい手がないよ」
「・・・ッ!」
「おっと、かんべんしてよ」
投げつけるもののなくなった冥が振り上げた手を、つかむ。
「まあ、御剣ならそれでもいいと言うかな」
「・・・バカがバカらしくバカなことを言ってないで、手を離しなさいっ」
「それは、異議?」
手を振りほどいて、冥は成歩堂をにらみつける。
「異議よ!だいたい、怜侍がそんなこと言うわけがない」
「それは、君の推理でしかない。証拠品の提出を求める」
「弁護士みたいな言い方をしない!」
たたみ掛けられて、成歩堂はポテトチップスの袋に手を伸ばした。
「あ、大きいの、見つけた」
パリッ。
冥は肩透かしをくって黙った。


352:成歩堂×冥 7
07/09/03 20:21:44 2XFsCdPn
「まったく、なにを考えているのかさっぱりわからないわ、あなたも」
「僕も・・・、御剣も?」
「だから、なんでそこに怜侍がっ」
「知ってるんだろ?御剣と霧緒さんのこと」
成歩堂は、冥の左手をとった。
白い手首に巻きついている、細いプラチナのブレスレットが軽い音をたてた。
「それで、妬いてる?」
冥は、手を振り払わなかった。
「私が?バカバカしい」
「そうかな」
「怜侍は、私のことなんか子供だと思ってるわよ。昔からずっと」
成歩堂は冥の指を口に含んだ。
ポテトチップスをつまんだ塩味がした。
「なにしてるのよ」
「・・・うん」
「離しなさい」
ゆっくりと冥の細い指に舌を這わせる。
一本ずつ、丁寧に。
「・・・っ」
ぞくりとする感覚に、冥が強く手を引いた。
引かれて体を乗り出した成歩堂が、そのまま冥の顎に手をかけて唇を重ねた。
成歩堂の舌が唇を割り、冥が力をこめて成歩堂の胸を押し返した。
「そんなつもりはないんだけど」
「・・・うん」
「バカじゃないの?」
「・・・うーん。好きな女の子の部屋に来た男としては、普通の反応じゃないかな」
振り上げた冥の手を、顔の横で受け止める。
「鞭がないと弱いね、冥」
「やめなさい、成歩堂龍一っ」
つかんだ冥の手を自分の頬に押し付けて、成歩堂はため息をつく。
「やめるよ。嫌われたくないからね」
「・・・・・」
ふいに、冥の目に涙が盛り上がった。
「冥?」
握ったままの手を引き寄せた。
抵抗なく成歩堂に抱きとめられた冥は、そのまま肩を震わせた。
声も立てずに泣く冥の背中を、優しく撫でる。
ずっと耐えてきたものに耐え切れなくなったかのように、冥はただ切ない想いを涙にする。
「御剣が、好きだったんだろ?」
ずっと。長いこと、ずっと。
冥は否定しなかった。
「言わなかったの?」
下唇をかみ締めてうつむいた冥の髪にそっと触れ、成歩堂はそこに唇を寄せた。
「・・・言えば、怜侍は困るわ」
ようやく、冥は言う。
『ご令嬢は、御剣に惚れていると・・・』
あのマスター、やっぱり見えていたんだな。
冥の髪から、甘い香りがする。
「嫌われたくないもの・・・」
言うと、頭に成歩堂のため息が吹きかかった。
御剣に嫌われたくない、冥。
冥に嫌われたくない、成歩堂。
すれ違う想いが、そこにあった。


353:成歩堂×冥 8
07/09/03 20:22:57 2XFsCdPn
成歩堂が指を冥の顎にかけると、冥はその手をそっと払った。
体を起こして、片手で頬に流れた涙をぬぐう。
「嘘よ。全部、嘘。忘れなさい」
「冥」
「嘘だって言ったでしょう。今の話は全部、嘘」
ぷい、と顔をそらせた冥を成歩堂が見つめる。
「・・・なに」
その視線に、冥がいらだったように聞く。
「ふうん。嘘なんだ」
「・・・」
「じゃあ、僕も嘘だ」
冥の肩を押すようにして、ソファに倒した。
「な・・・」
「やめるって言ったけど、嘘」
抵抗する冥の手首をつかむと、その手のひらに口付ける。
手のひらに舌を這わせ、指を順番に舐めつくす。
「やめ・・・」
冥の指を含んだまま、成歩堂は彼女の目を見つめる。
手首からひじまでゆっくり舐められて、冥はまたあのぞくりとする感覚に体を震わせた。
成歩堂の舌の感触が、ただ一本の腕から伝わる。
経験したことのない、もどかしいような痺れ。
成歩堂の視線が、痛い。
「やめなさい・・・」
「どうして?」
成歩堂が冥のスカートの上から体に触れた。
男の本気を感じて、冥が逃れようと体をよじった。
より強い力で、押さえつけられる。
「いや・・・!」
はっきりとした、拒絶。
成歩堂が手を離すと、冥はソファの端まで逃げた。
両腕で自分を抱くようにして、足を胸にひきよせるように丸くなる、防備の姿勢。
「・・・ごめん。もうしない」
「・・・」
「嘘じゃないよ。冥に嫌われたくないからね」
「・・・バカっ」
成歩堂は冥から離れて、ソファの反対側に寄る。
「あーあ。あいつには、かなわないのかな」
片手で、口元を撫でた。
「だいじょうぶだよ。あいつは、冥を嫌いになんかならない。絶対」
「なぜそんなことがわかるのよ」
成歩堂の手の中に、冥の感触が残っている。
「ごめん。帰るよ」
立ち上がった成歩堂を、冥が見上げた。
「帰るけど、・・・もう一回だけキスしていい?」
「いいわけないじゃない!」
「・・・そうだよね」
くす、と笑う。
「嫌いになんか、ならないよ。御剣も、・・・ぼくも」


354:成歩堂×冥 9
07/09/03 20:23:58 2XFsCdPn
冥は、見送らなかった。
ただ、ドアを開けて出て行く音を聞いただけで。
冥は、成歩堂の跡が残る腕を、そっと撫でてみた。
嘘よ。全部、嘘。・・・好きだなんて、嘘。
声にならないつぶやきが、吐息となって唇からこぼれる。
成歩堂が口付けた唇。それをなぞる指は、成歩堂が口に含んだ指。
ぎりっ、と指先を噛む。
痛みで、あの感覚を打ち消してしまいたかった。
成歩堂の胸の温かさに、すがってしまいそうになったあの気持ちと一緒に。
冥はゆっくりとソファの上で膝を抱えて丸くなる。
御剣でなければ、だめなのだ。

成歩堂は、マンションの下で冥の部屋の明かりを見上げる。
いつか彼女は、御剣をあきらめられるのだろうか。
それとも、御剣が彼女を振り返る日が来るのだろうか。
抱きとめた彼女の体と口づけた指や唇が震えていたのを思って、成歩堂は胸が痛かった。


355:345-354
07/09/03 20:25:37 2XFsCdPn
346=成歩堂×冥 1 です。


356:名無しさん@ピンキー
07/09/03 20:50:20 bdzlMNHS
GJ!続きが気になる!!

357:名無しさん@ピンキー
07/09/04 00:47:07 XZ2Ci8pB
GJ!!!
泥沼多角関係の予感にwktk

358:名無しさん@ピンキー
07/09/05 07:42:17 52qZ5fCp
響也×春美、途中までですが投下します。
エロ要素まだないです、すみません。

響也と春美が好きすぎてやってしまいました。
変な組み合わせですが…よければ読んでやって下さい↓

359:響也×春美1-1
07/09/05 07:42:58 52qZ5fCp
とある公園で起きた殺人事件。
事件はニュース報道でも大きく取り上げられ、現場付近には報道陣と野次馬がつめかけている。
そんな血なまぐさい殺人現場に全く似つかわしくない黄色い声が、一人の男に絶え間なく浴びせられていた。

ーーその男の名前は、牙琉響也。
ガリューウエーブのリーダーと敏腕検事の二足のわらじを履く彼は、どこにいても目立つ存在であった。
颯爽と事件現場にバイクで現れ、テキパキと現場検証をこなし、帰り際には詰めかけたファンへのサービスも怠らない。
そのスタイリッシュな彼の姿に魅了される女性は、日々増え続ける一方である。

この日も響也は現場検証とファン対応をこなすと、足早にバイクの元へ向かう。
再度ファンに捕まるのを避けるため、手際よくジャケットのポケットからバイクのキーを取り出す。

「すみません」

響也がバイクにキーを差し込もうとしたとき、背後から一人の女の子に声をかけられた。
しまった、と心の中で舌打ちをする。
一人のファンに構ってしまうと、その間に次々とファンは集ってくる。
一瞬、気づかないフリをしてしまおうかと脳裏をよぎるが、ファンを蔑ろにできない響也は咄嗟にファン向けの笑顔を作った。
「ごめんね、サインはまた明日でもー…」
そう言いながら振り向いた目の前に立っていた女の子の姿を見て、響也は少し驚く。
その女の子は響也を取り囲む今時の若い女子高生といった感じとは違う、どちらかといえば古風な姿であったからだ。

360:響也×春美1-2
07/09/05 07:43:40 52qZ5fCp
年齢は15、6くらいであろうか。
見慣れぬ学校の制服を着て、大きなバッグを小柄な体で精一杯抱え込んでいる。
色素の薄い髪を頭の上でくるりとまとめ、大きな瞳はぱちくりと響也を不思議そうに見ていた。
美人というよりは愛くるしい感じだが、よく見る取り巻きの女子高生とは雰囲気が違う女の子だった。
どこかで見た顔のような気もするが、思い出せない。

「あのー…、道をお尋ねしたいのですが」
響也に凝視された女の子は、少しオドオドした様子で言う。
てっきり自分のファンだと思った響也は、その言葉にきょとんとしてしまう。
有名人である自分に、まさか道を尋ねてくる人がいるなんて最近ではない光景だったからである。
自分も随分と天狗になったものだな、と小さく苦笑する。

「ああ、ごめんね。で、どこに行きたいのかな?お嬢ちゃん」
「成歩堂法律事務所なんですけど、確かこの辺りでしたよね?」
「!」

予想だにしなかった返事だ。
「成歩堂」といえば7年前、自分の手で弁護士バッジを奪った男の名前である。
まさかその名前を、こんな若い女の子の口から聞くことになるなんて予想できるはずもない。
だが、弁護士としての成歩堂龍一はもう存在しない。
法律事務所も、とうの昔に『成歩堂芸能事務所』へと成り代わってしまった。

「成歩堂法律事務所は、もう存在しないよ」
「えっ…えええーーっ!?」
その事実がよほど衝撃だったのか、女の子は抱えていた荷物を地面に落とした。
落としたバッグを全く気にも留めず、ひたすらオロオロしている。
そのリアクションからして、どうやら成歩堂法律事務所に何か重要な用事でもあったのだろう。
女の子が落としたバッグを拾い上げ、パンパンと土を払って手渡す。
「ありがとうございます」
女の子は響也からバッグを受け取ると、両手でギュッと抱え込んだ。
「もう7年も前のことになるんだけどね、知らなかったのかな」
「知りませんでした……。わたくし…ずっと里にこもっていたものですから…」
「里?」
「はい、里で霊媒の修行を。でも真宵さま、成歩堂くんが事務所を閉めたなんて一言も……」
がっくりと肩を落としながら、女の子は小さく呟く。
その言葉を響也は聞き逃さなかった。

361:響也×春美1-3
07/09/05 07:44:28 52qZ5fCp
彼女が口にした「霊媒」、「真宵」、そして「成歩堂」という単語。
それらのキーワードは昔よく耳にした。
過去に起こった霊媒をトリックとした奇異な事件は、法曹界に身を置くものなら誰もが知っている。

何やら訳アリという感じだが、響也自身には関係のないことだ。
とはいえ、成歩堂龍一から弁護士バッジを奪取した張本人として多少の罪悪感は感じる。
と同時に、女の子の異様なまでの落ち込みようはどうも引っ掛かるものがある。

「厳密に言うとね、成歩堂【弁護士】はもういないんだ。事務所の形跡は残ってるらしいけどね、今や芸能事務所さ」
「芸能事務所!?」
「まぁ話すと長くなるけど、今ではおデコく……いや、新米弁護士と成歩堂龍一の娘が跡を継いでる」
「なっ、な、な、な、成歩堂くんの娘さまっ!?!?」
女の子は全く訳が分からないといった様子で混乱している。
無理もない。その背景には、一言では到底説明できない複雑な理由が渦巻いているのだ。

「というわけで、成歩堂法律事務所は厳密に言うと存在しない。跡地でよければ教えられるけど」
どうする?と、響也はクルクルとバイクのキーを指に引っ掛けて回しながら尋ねる。
「…………」
少しの沈黙のあと、何かを決意したように女の子は俯いていた顔をあげて響也の目をじっと見つめる。
「もしご存知でしたらー…何があったのか教えて頂けないでしょうか?」
その目は真剣だった。
「ぼくに聞くより、直接本人に聞くのが早いんじゃないかい?」
「そ、そうなのですが…そうにもいかなくなりまして…あの…」
「何か聞けない理由があるのかな?」
「…………はい」

気まずそうに頷く姿を見て、響也はやれやれと首を振る。
面倒ごとは御免だが、多少の罪悪感と彼自身の性格の優しさが手伝ってNOとは言えなかった。
腕の時計を見ると、時刻は昼過ぎ。
検事局へ戻るには、まだ時間に余裕がある。

362:響也×春美1-4
07/09/05 07:45:31 52qZ5fCp
響也はメットインからスペアのメットを取り出すと、女の子へ投げてよこした。
「ここじゃあ色々とマズいから、場所を変えよう。バッグはショルダーで体にかけて、後ろに乗って」
そう言ってバイクの後部座席へと促す。

とその時、遠くから再び黄色い声が上がる。
「キャーーー、響也ァァァァー!!!」
「ガリュー、握手してぇー!!!」
熱烈な追っかけファンたちが、響也めがけて一目散に走ってくる。

「おっと、見つかったか。お嬢ちゃん、早く乗って!」
女の子は急な展開に戸惑うが、「いいから、早くッ!」と急かす響也に言われるままバイクへ股がる。
「オーケイ、しっかり捕まってて!」
エンジンを吹かし、響也は勢いよくバイクを走らせたーーー。

【つづく】

363:名無しさん@ピンキー
07/09/05 07:47:32 52qZ5fCp
めちゃくちゃ長くなりそうなので、いったん切ります。
また近々投下させていただきます。

響也×春美、パラレルすぎて申し訳ない‥

364:名無しさん@ピンキー
07/09/05 18:25:22 KLGfdMB3
>>363
4での旧キャラがどうなってるのかとか気になるんで楽しみ
続きに期待

365:名無しさん@ピンキー
07/09/06 01:13:50 N7DZiyfE
>>363
響也それは犯罪だ!!って一瞬思ったが、
4の時のはみちゃんはみぬきより年上なんだよね。
蘇るのときの茜と成歩堂みたいな感じと予想。
年齢もちょうど同じだしね
とにかく続きに期待!!

366:名無しさん@ピンキー
07/09/06 04:54:30 tmCuFo3j
連投で申し訳ないです、響也×春美の続き投下させて頂きます。
長過ぎて、また今回も途中までです…エロもまだありません。

>>364>>365
期待して下さって有り難うございます、添えられるように頑張ります!!

367:響也×春美2-1
07/09/06 04:56:11 tmCuFo3j
辿り着いた先は、響也の住む高級マンションのラウンジだった。
ここならば誰に邪魔されることもなく、落ち着いて話ができる絶好の場所である。

広々としたラウンジに設けられたソファに腰掛けた女の子は、キョロキョロと辺りを物珍しげに見渡している。
「紅茶でよかった?」
「はい、ありがとうございますっ」
響也は自販機で購入してきた紅茶を女の子に手渡し、次に自分用の缶コーヒーのプルタブを開けた。

「凄いですね、こんな素敵な場所に住んでらっしゃるなんて!」
「こういう場所は初めてかい?」
「はいっ!ソファもふかふかですっ」
よほど気に入ったのか、女の子は嬉しそうにソファの感触を何度も確かめている。

「そういえばお嬢ちゃんの名前をまだ聞いていなかったね」
「わたくし、もうすぐ18ですっ。お嬢ちゃんではありませんっ!」
ぷぅ、と小さく頬を膨らませて怒る様子が微笑ましい。
その可愛らしい主張に思わず響也は小さく笑ってしまうが、レディーは尊重するというのが彼のモットーだ。
「それは失礼、訂正するよ。ぼくは牙琉響也、キミの名前を教えてくれないかな?」
「わたくし、綾里春美と申します」
「綾里…。やっぱり、あの倉院の里の子だったんだね」
「えっ、倉院の里をご存知なんですか!?」

目を大きく見開いて驚く春美。
かれこれ9年前に倉院の里で起きた「外科医師殺人事件」は有名である。
その事件からわずか2年で起きた「童話作家殺人事件」と合わせて、綾里の一族の血は呪われていると
検事局内では今でも語り継がれている話だ。

「そういえば牙琉さんは、何をされてる方なのでしょう?多くの女性から追いかけられておりましたが…」
春美の純粋な質問に思わずガクッとなる。
まさかこの世代で、自分を知らない子がいるなんて思いもしなかった。
「ガリューウエーブって聞いたことないかい?」
「がりゅう…うえいぶ……? それは何かの機械の名前とかでしょうか?」
その答えに再度ガクッとする。
もしかしたら名前だけでもと思ったが、その淡い期待は響也のプライドと共に一瞬で砕かれた。

「いや、知らないならいいんだ…」
「すみません、わたくし横文字は苦手なものでして…」
春美は申し訳なさそうに肩をすぼめる。
ミリオンヒット連発の天下のガリューウエーブも、春美の前では単なる横文字にしか過ぎない。
なんだか調子狂うな…、と響也は苦笑する。

368:響也×春美2-2
07/09/06 04:56:48 tmCuFo3j
「ぼくは一端の検事さ。同時に音楽業もやっている、と言えば分かってくれるかな?」
見た目が派手なせいか、響也が初対面で検事だと思われることはまずない。
その理由からか、懐から身分証明書を取り出して相手に見せるのがいつしか癖となっていた。
「まぁっ、検事さんだったのですね」
差し出された身分証明書をまじまじと見つめながら、春美は感心したように言う。
「そう、だから成歩堂龍一のことは幾らか知ってる。綾里のことも多少は、ね」
「では成歩堂くんに何があったのか教え…」
「その前に」

響也が春美の言葉を遮る。
「1つ、キミに確認したいことがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「キミさ、もしかして…家出少女かい?」
「!!!!」
ビックリした様子で春美は大きく開いた口を手で覆う。
図星ですと言わんばかりの、なんとも分かりやすいリアクションだ。

「…はい、わたくし悪い子です。勝手に里を飛び出てきてしまいました」
今度はしょぼんと項垂れる。
コロコロと変わる春美の表情を面白そうに眺めながら、響也は「やっぱりね」と笑った。

「なぜお分かりになったのです?」
「世間の学生は夏休みに突入したばかり。慣れない土地で大きなバッグを抱えてウロウロする女の子。
 行く当てだった場所が、自分の知らぬうちになくなってることを知って狼狽する…。
 こんなカードばかり並べられたら、安易に「家出少女」という役が出来てしまうよ」

まるで法廷で被告人を追いつめるかのような調子だ。
「やはり検事さんにはバレてしまうのですね……」
「何か事情があるんだろうけど、仕事柄、家出少女を放っておくワケにもいかなくてね。
 尋問のようで悪いけど、どういう経緯で家を飛び出てきたのか聞かせてくれるかい?」
甘いマスクと優しい口調で少しずつ相手ににじり寄っていく手法は、響也の天性の才能だろう。
じりじりと追いつめられた春美は、事情を白状するほかはなかった。

369:響也×春美2-3
07/09/06 04:57:30 tmCuFo3j
春美の家出事情は、響也が思っていたよりもずっと複雑なものだった。
原因はどうやら、綾里家の血筋問題らしい。

発端は7年前に起こった、倉院流の血縁をめぐる事件。
事件が解決した後、本家の血を継ぐ綾里真宵が倉院流師範代を無事に襲名したという。
すべては終わったかのように思えたが、血の争いというのはそう簡単には円満解決しないもの。

真宵を心から慕う春美は、補佐役として真宵の役に立てるように修行に明け暮れる日々だった。
だが、春美の実母であるキミ子の意思を継ぐ分家のものたちはまだ多い。
分家の血筋でありながらも、真宵よりも高い霊力を持つ春美を倉院流の師範代に就かせたいという願いはもはや執念だ。

「いつか春美さまが師範代になる日が来ますわ」
「真宵さまよりも、春美さまのほうが師範代に相応しい能力を持っていらっしゃるのだから」

まるで洗脳のように言われ続ける言葉と、春美の純粋な気持ちなどお構いなしの修行三昧の日々。
それでも真宵の力になれるなら、と修行に励む春美に転機を与えたのは、他ならない真宵本人であるーーー。

それは偶然の出来事であった。
本家の家に住む真宵を尋ねてきた春美は、真宵の部屋から漏れる会話を思い掛けず立ち聞きしてしまったのだ。
ハッキリと聞こえた、真宵の言葉。


「………だから私、はみちゃんを自分の側に近寄らせたくないの…」


春美は一瞬で頭の中が真っ白になった。
いつも優しく接してくれる、大好きな真宵。
実母のキミ子が手をかけようとしたことに負い目を感じた春美を、笑顔で許してくれた。

だけど本当は自分のことを疎ましく思っていたなんて気づかずもせずに、のうのうと過ごしていたなんて…
自分の能天気さが嫌になる。

気づけば春美は手当り次第に荷物をバッグに詰め込み、逃げるように里を飛び出していた。
滅多に里を出たことがない春美の行くアテは、ただ1つだけーーー。

370:響也×春美2-4
07/09/06 04:58:12 tmCuFo3j
「で、成歩堂法律事務所を尋ねてきて、今に至るというわけかい」
「…はい」
「勢いだけで飛び出してくるなんて、とんだおてんば娘だねえ」
響也からすれば「家族の揉め事が原因のよくある家出」に分類されるのだが、春美にとっては青天の霹靂である。

「わたくし、真宵さまにとって邪魔な存在なのですね…。
 それどころか成歩堂くんが弁護士を辞めていたなんて、更にショックです…」
「…………」
響也の胸がズキリと痛む。
「検事さん、成歩堂くんに一体なにがあったのですかっ?」

響也はソファに深く座りなおすと、ふぅ…、と軽く一息ついた。
真実はこの少女を更に傷つけることになるかもしれない。
だが例えそうなったとしても、真実は曲げられないのだ。

「…法廷でね、彼は捏造した証拠品を提出したんだ。それが原因で弁護士を辞めた」
「えっ……」
「そして彼から弁護士バッジを剥奪したのが、ぼくさ」
「!!!」

衝撃の事実を受け入れることが出来ず、春美は俯き、黙り込んでしまう。
まるで時が止まったかのような、長い沈黙のあと。
華奢な手を力一杯に握りしめながら、春美は声を振り絞る。

「…成歩堂くんが証拠品を捏造だなんて、そんなの嘘ですっ!」
「信じる、信じないはキミの自由さ。でもキミは知りたがった、だからぼくは真実を伝えた」
「で、でもっ!!」
「真実を追求するということは、同時に真実を受け入れる覚悟をするということだよ」
響也にピシャリと指摘され、春美はしゅんとなる。
「…そうですね、申し訳ありません。わたくし、動揺してしまいました」

響也は必要以上のことを春美に語ろうとはしなかった。
「真実は自分の力で追求するからこそ意味がある」というのが信念にあるからだ。

「真実の先には、更なる真実が隠れているものさ。
 納得がいくまで追究することをオススメするよ…自分自身の目と、耳でね」

どこか含みのある言い方だった。
春美はこくんと頷くと、「有り難うございました」と丁寧にお辞儀をする。

371:響也×春美2-5
07/09/06 04:58:58 tmCuFo3j
「それじゃあ、次にキミの家出についてだけど」
話はこれで全て終わったと思っていた矢先に、春美は不意をつかれた。
えっ、と驚く様子の春美などお構いなしに、響也は喋り続ける。

「言っただろ?仕事柄、家出少女を放っておくワケにはいかないって」
「み、見逃してください…」
「ダメだよ」
「うううっ…」
表向きは爽やかな笑顔でも、譲れないことに対して容赦はしないのが響也だ。
春美の願いもアッサリと払いのける。

「家出して成歩堂のところへ行こうとしたものの、予想だにしない展開になっていて行きづらくなった。
 しかも自分の信頼する人物から成歩堂に関する話を一切されなかったことがショックで、余計にね。
 今の気持ちは、そんなところじゃないかい?」
「!!」

探偵のように春美の心情を推理していく響也。
そしてそれは、恐ろしいほど的確に当たっていた。

「なんで分かるんですかっ?」
「長年培ってきた、カンってやつかな。
 で、キミは行く場所がなくなってしまったワケだ。でも家には帰りづらいし、帰りたくない」
「…心が読まれているようで、恐いです」

流石と言うべきか、響也の推理は的を外さない。
けれど彼にとって大事なのはそんなことよりも、家出少女の対処だった。

「聞いた感じだと、家庭内暴力などの問題はないようだね。
 今日は警察に泊まって、明日にでも帰れるようにぼくが手続きをとっておくよ。
 捜索願が出されてるかもしれないけど、そっちも処理はしておく。
 今からぼくが警察まで送っていくからー…」
「お願いしますっ、わたくしを検事さんのお家に置いてくださいっ!!!」

缶コーヒーを口に運ぼうとした響也の手が一瞬止まる。
春美の申し出は予想の範疇にあったが、受け入れるわけにはいかない。

「随分と無理を言ってくれるね」
「無理を言っているのは承知の上です。でも長居はしませんし、迷惑もかけませんから…!」
「いま家に連れ戻されるのだけは回避したい、って?」
「はい」

どうかお願いします、と春美は深々と頭を下げる。
軽い気持ちで言っているのではないことは響也にも分かった。
だがしかし、自分にも立場というものがある。

372:響也×春美2-6
07/09/06 04:59:29 tmCuFo3j
「キミをかくまうのは立場上、色々とマズいんだよ」
「お願いしますっ、お願いしますっっ」

いくら言っても、春美は食い下がってくる。
どうしてそこまで必死になるのだろうかと不思議に思いながら、響也は缶コーヒーを口に含んだ。

「お金はあまりないですけど…。足りない分はわたくしの体でお支払いしますからっ!」
「ぶはッ!!」
イケメン台無しのごとく、響也は盛大にコーヒーを吹いた。

「なにを言って…」
「掃除に洗濯にお料理、なんでもいたしますっ!」
「…あ、ああ。なんだそういうことか、ぼくはつい…」
「え?」
「いや、なんでもないよ…」

うっかり変な妄想をするところであった。
気を取りなおし、響也は春美に尋ねる。

「ねえ、どうしてそこまで家に帰りたくないんだい?」
「…検事さんが仰っていた、真実の追求をしたいのです。
 成歩堂くんのことも、真宵さまのことも…知るのが恐い部分も正直ありますけど…
 それでも「真実の先に隠された真実」を、自分自身の目と耳で知りたいと思ってます」
「…なるほどね」

どうやら、先ほどの自分のアドバイスが起動力となったらしい。
春美が向けてくる真剣な眼差しは、真実を追究する者の目だった。
響也は、そういう目が好きだ。
真実を知るために、響也は検事になった。弁護士と検事の勝敗よりも、常に真実の追求をしてきた。
それ故に、春美の言い分も痛いほど分かるのだ。

響也は少し考えたのち、1つの決断を出した。
「わかった、とりあえず今日はぼくの家に泊まっていっていい。今日は警察にも引き渡さない。
 だけど、ぼくにも1日だけ考えさせてくれ。キミを家に置くかどうかは、また明日返事するよ」
その言葉に、春美はパアッと顔を明るくさせる。
「本当ですかっ、有り難うございますっ!!」

やれやれ、とんだ拾いものをしたもんだ…と響也は思ったが、満面の笑みで喜ぶ春美の姿を見ると拒絶できなくなる。
「今日、成歩堂のところへ行くのかい?」
「…いや、その…今はまだ心の準備が…」
「そう言うと思ったよ。じゃあ部屋に案内するから、着いておいで」

ひょい、と春美の荷物を持ち上げ、響也はエレベーターへ向かって歩き出す。
「あっ、はいっ」
スタスタと歩いていく響也の後ろを、春美は急いで追っていった。

373:名無しさん@ピンキー
07/09/06 05:01:15 tmCuFo3j
【つづく】
↑すみません、最後につけ忘れました。

一人でスレ消費してしまってごめんなさい、また書き溜めたら投下させて頂きます。

374:名無しさん@ピンキー
07/09/06 06:57:33 AxQTY+5j
冥タン切ないよ冥タン

375:響也×春美
07/09/06 06:58:29 kydKtt6m
それを陰から見ていた一人の男がいた。
金髪ドリルに眼鏡…牙琉響也の兄、霧人だ。
本来なら独房にいるはずの彼は、とあるコネを使って一時的に娑婆に出てきていたのである。

「フン…響也のくせに少女を家に連れ込むとは生意気ですよ。
今に見ていなさい……お前を後悔させてやりますからね…」

不気味に笑う霧人の手には悪魔が浮かんでいた。
そして翌日、新聞には響也の一面記事がトップに躍り出ることとなる。


『ガリューウエーブのガリュー、未成年の女子を家に連れ込んで猥褻な行為に及ぶ!』

376:373
07/09/06 07:29:55 tmCuFo3j
>>375
ちょ、吹いたwwwww
しかし書いてる立場からすると…orz orz orz

377:名無しさん@ピンキー
07/09/06 07:34:10 meWXU4Lk
>>366
とりあえず過度の謙遜・言い訳や全レス返しは嫌われるから止めた方がいい

378:名無しさん@ピンキー
07/09/06 09:44:04 xUFio8Gu
>>375
GJ!!
続きかと思って普通に読んだ。
もうこれが完結編でいいじゃんwwww

379:名無しさん@ピンキー
07/09/06 14:13:39 1grVNZbJ
>>375
一瞬本当に続きなのかと思って吹いたけど、別人が書いたんか。
作者本人の了承も無しに、まだ完結していない作品に勝手に書き加えるのはどうかと思うが。
>>378もせっかく投下してくれている>>366に失礼だよ。

>>366
響也×春美って、ここではまだ誰も挑んでないカプだよね。
どうエロに発展していくのか楽しみなんで頑張って!
でも続き投下するときは完結させてから投下したほうがいいかも。

380:名無しさん@ピンキー
07/09/06 14:29:48 dZkAfWKA
ハゲドー!
作者にどれだけ失礼なことしてるんか考えられねえボケなんだろ
俺が作者だったら二度と投下しないし、二度とスレ見なくなるわ


>響也×晴美作者
グッジョブ
これからどうなるのか楽しみです
頑張ってください!
勝手に完結つくるボケや、謙遜すんなとかごちゃごちゃうるさい注意厨はほっとけ!俺が許す


381:名無しさん@ピンキー
07/09/06 14:31:45 dZkAfWKA
そもそも全レス禁止なんつールールないわけで

響也×晴美が嫌いな腐が荒らしてんだろがな、どうせ

382:名無しさん@ピンキー
07/09/06 14:56:23 h5L1XY7B
>>373
GJ!
心無い人はスルーして続きお願いします

383:名無しさん@ピンキー
07/09/06 16:40:21 dZkAfWKA
響也×晴美作者がんばれ!
陰湿な嫌がらせにめげずに是非続きを。

あと荒らしと注意厨は消えろ

384:名無しさん@ピンキー
07/09/06 16:45:58 vYwXq2gm
18歳未満はお帰りください

385:名無しさん@ピンキー
07/09/06 16:46:01 I0qEoJT/
>>373
GJ!でもちょっと気になったんだけど、綾里は師範代じゃなくて家元じゃない?
春美のほうが師範代に向いてるってその上の師範は向いてないのかよ、みたいなw

>>381
なんでもかんでも腐のせいにするのはちょっとね…

386:名無しさん@ピンキー
07/09/06 20:47:49 AxQTY+5j
いろんな意味でいろいろ湧いてるな

387:名無しさん@ピンキー
07/09/07 00:29:14 Kd58mEB6
喫茶店の続きマダー?

388:名無しさん@ピンキー
07/09/07 08:05:22 1YscK+jN
ID:dZkAfWKA

言いたいことはいろいろあるけど一つだけ。
綾里のはみたんは「晴美」じゃなくて「春美」だ。

389:名無しさん@ピンキー
07/09/07 22:03:47 Thap5jfE
投下するならさっさと終わりまで投下した方がいい。
他の職人が遠慮するかもしれない

390:名無しさん@ピンキー
07/09/08 07:15:11 gwqgc4V5
まあでもハミノコもそんな感じだったしいいんじゃないか?

391:名無しさん@ピンキー
07/09/08 11:05:43 ut4Kdb/E
そして未完の道をたどるのか…

392:名無しさん@ピンキー
07/09/08 12:19:00 otk4IJhi
ハミノコにしろ響也春美にしろ喫茶店にしろ、完結まで読みたいもんだ・・・
保管庫をwktkで読んでて未完だったときのorz・・・

393:名無しさん@ピンキー
07/09/08 15:27:42 9X7vlbwP
連作もので完結したのって最近じゃオドミヌしかないしな。

394:名無しさん@ピンキー
07/09/08 19:36:27 GLbLLTIa
リロベンの完結まだー?

395:名無しさん@ピンキー
07/09/09 14:59:54 e5ty6AX4
響也×春美、続き投下させていただきます。今回で完結です。
ぶつ切り投下になってしまって申し訳ありませんでした。

それと訂正です。前回「師範代」と書いたのは「家元」の間違いです…。
ご指摘下さった方、どうも有り難うございました。

396:響也×春美3-1
07/09/09 15:00:44 e5ty6AX4
響也は高級マンションの高層階に住んでいる。
モデルルームのような部屋は、春美にとって未知の世界であった。

だだっ広いリビングの窓の外には、都内を一望できる景色が広がっている。
壁にディスプレイされた響也愛蔵のギターコレクションたちを見て、春美は目を輝かせた。
「すごいだろ?ぼくの可愛い恋人たちなんだよ」と自慢げに言う響也に、
春美は「音楽業とは、楽器屋さんのことだったのですね!」と、素でボケをかます。
世間知らずもここまでくると、響也は笑うしかない。

響也の住むマンションは、一人で暮らすには広すぎる物件だった。
そのため部屋は幾つか余っており、ゲストルームという名目になって放置されている。
春美が案内された部屋も、余ってる部屋とは到底信じられないほどに綺麗で広い部屋だ。
「ちゃんと鍵はかけられるから安心しなよ」
「あの、有り難うございます…。無理を聞き入れて下さって、わたくしなんてお礼を言えばいいのか」
春美は今さらモジモジと恐縮している。
あれだけ食い下がった割には謙虚な一面もあるんだな、と思いながら響也は春美に鍵を渡す。

「ぼくは今から職場に戻らなくちゃいけないんだ。何か困ったことがあったら、ここへ電話しておいで」
電話の横に置かれたメモに自身の携帯ナンバーを書き、響也は家を出ていく。
その後ろ姿を見送った春美は、1人になった途端に脱力してその場へとへたり込んでしまった。

勢いでここまできたものの、不安は拭いきれない。
今日は置いてもらえることになったが、明日は帰されてしまうかもしれないのだ。
もしそうなったとしても、その前に成歩堂に会わなければいけない…。

よしっ!、と意気込んで勢いよく立ち上がる。
とりあえず置いてもらったお礼に家事でもしようと辺りを見回すが、掃除も洗濯も必要なさそうなほど
綺麗に整頓されていたし、炊事しようにも冷蔵庫の中には酒か水かつまみしか入っていなかった。

「お仕事、なにもなさそうです…」
タダで居座るのは、なんだか気が引けた。
何か仕事はないかとリビングをうろうろすると、ローテーブルの上に散乱した雑誌や本、書類や楽譜を発見する。
大した仕事ではなさそうだが、せめてそれらを片付けようと春美はテキパキとまとめ始めたのだった。

「これは…?」
その最中、雑誌や楽譜の下から開きっぱなしのファイルが顔をのぞかせていることに気づく。
どうやら新聞や雑誌のスクラップファイルらしい。
普段だったら気にも留めないものだが、春美はどうしてもスクラップされている記事が気になってしまった。
なぜならば、その記事はビリビリに破いたあとにセロハンテープで丁寧に繋ぎ合わせてあったからだ。
いけないと思いつつ、好奇心が勝って記事を読んでしまう。

「ーー!!」
衝撃の文字が春美の目に飛び込んできた。
見出しに書かれていたのは、『有名弁護士、七年越しの殺人計画!!~衝撃の事実』の文字。
それだけで既に嫌な予感はした。しかし、目が離せない。
春美は夢中になって記事を読みあさった。
記事に出てくる「牙琉霧人」の名前は、響也の親族であることは春美にも容易に想像できる。

内容は、牙琉霧人の企てによる殺人事件に焦点を当てた記事。
それ以外の人物…つまり、成歩堂や響也のことについては詳しく触れられていなかった。

ファイルをパラパラと捲ると、過去の牙琉霧人の栄光を讃えた記事らがスクラップされている。
しかし何枚かはやはりビリビリに破かれ、テープで補修されているのだった。

響也にとって、ここは他人に踏み込まれたくない領域だったかもしれない。
本人の知らない所で勝手にその領域へ踏み込んでしまったことを悔やみながら、春美はファイルを閉じたーーー。

397:響也×春美3-2
07/09/09 15:02:39 e5ty6AX4
一方、そのころ。
検察庁へと戻ってきた響也は、午前に行った現場捜査の報告書を早々にまとめ終え、資料室へと足を運んでいた。
過去の事件の資料を引っ張りだし、読みふける。

2019年、2月7日の「童話作家殺人事件」…ーー綾里の血をめぐった事件である。
記憶にぼんやりと残っていた程度で、響也は内容を詳しくは把握していなかった。

ファイルしてあった「美柳ちなみ」と「葉桜院あやめ」の写真を見て、響也は「ああ、これだったか」と呟いた。
初めて春美を見た時に、どこかで見覚えがある顔だと思ったのだ。
そっくりではないにしろ、半分血が繋がっているせいかどことなく雰囲気が似ている。
どちらにせよ、春美が整った顔立ちをしていることに間違いはない。
だが、事件の内容はそれに反比例して醜いものだった。
資料をめくるたびに、響也は胸くそが悪くなりそうになる。

自身のプライドの為なら、人を殺めることさえも厭わない。
そのためなら、身内だろうがなんだろうが手段遂行のための道具にすぎないのだ。
全くもって下らないプライドだーーー。

響也の頭の中に、実兄である牙琉霧人が浮かび上がる。
彼もまた自身のプライドのために身内を利用し、挙げ句に身を滅ぼした愚かな1人であった。
「クソっ…!」
ダン!!、と拳で壁を思い切り殴りつける。
「ぼくも所詮、あの子と変わらないってことか…。ははっ…」
薄暗い資料室に、響也の乾いた笑い声が吸い込まれるように消えていったー…。

 +++++++++++++++++++++++

その日響也は、いつもより早めに帰宅した。
リビングの灯りをつけると、響也お気に入りの広いソファでスヤスヤと気持ち良さそうに寝ている春美の姿が目に入る。
なんとも可愛らしい寝顔だ。

「あ…っ、おかえりなさいませ…」
響也の気配に気づいたのか、春美は眠気眼でのそのそと起き上がる。
「ごめん、起こしちゃった?」
「いえ、そんな…。はしたない格好で申し訳ありません」
「あのさ、キミを置いておくかどうか明日返事するって言ったけど…、今すぐするよ」

突然の展開に、春美は体をビクっとさせた。
そして不安げに、響也の顔を見上げる。心の準備なんて微塵も出来ていなかった。
「最初はやっぱり、キミを置いとくのはよくないかなと思ってたんだ。
 でも気が変わった、学校が始まるまでの間ならここにいてくれて構わない」
「えっ……、本当…です…か?」
「本当だよ、嘘じゃない」
はっきりと響也が言い切ると、春美はこれ以上ないほどの笑顔を作る。
「あ、あ、有り難うございますっ!」
「ただし、条件つきだ」

響也が提示した条件は以下の3つだった。
【家にすぐ連絡を入れ、滞在中も定期的に家に連絡をすること】
【親族以外には、牙琉響也の家にいることを内密にすること】
【もし万が一何かあった場合、すぐに家に帰ること】

春美はこれらの条件を快諾するも、響也の心変わりの理由がどうしても分からない。
それを尋ねてみたところ、「さあね、ぼくは気まぐれだから」とだけしか返ってこなかった。
響也の真意は計りかねないが、何はともあれ追い返されないことに春美は心の底から安堵する。

「あ、そうだ。もう1つ条件を言い忘れてた」
思い出したように響也が言う。
「プライベート空間で「検事さん」って呼ぶのは禁止だからね」

398:響也×春美3-3
07/09/09 15:03:57 e5ty6AX4
春美が響也の家に世話になって、早数日が過ぎた。

早く成歩堂の所へ行かなければと思いつつ、どうしてもあと1歩で春美は踏みとどまってしまう。
ただでさえ色々と抱えているのに、響也のスクラップファイルの記事の内容まで引っ掛かって仕方ない。
自業自得とはいえ、それらが枷となって春美の決断を鈍らせていた。

響也は響也で「別に焦らなくても、決心がついたら行けばいいさ」と悠長な意見である。
ついついその意見に流されそうになるが、いつまでも躊躇している訳にはいかない。

「わたくし、本日…成歩堂くんを訪問しようと思います」
とある日の朝、春美は職場へと向かう響也を玄関で見送りながら告げた。

「そう、やっと決心ついたのかい。場所はこの前、地図を渡したから分かるよね?」
「はい。夕方には戻ります」
「…気をつけていっておいで」
ぽんぽん、と春美の頭を優しく撫でる。
「子供扱いしないでくださいっ」と恥ずかし半分で怒る春美を横目に、響也は笑いながら家を出た。

検察庁への道のりの間、響也はずっと頭の中で考え事をしていた。
春美は今日、成歩堂に会って全てを知ることになる。
証拠品の捏造疑惑は自分の兄が謀ったこと、そして知らなかったとはいえ自身も加担していたこと。
それを知ったら彼女はきっと、自分を侮蔑するだろう。

苦い記憶は見えない鎖となって、今でも響也に絡みついて離れなかった。

 +++++++++++++++++++++++

夏の日差しがジリジリと照りつける中、春美は響也に書いてもらった地図を頼りに成歩堂芸能事務所へと足を運んだ。
分りやすく丁寧に書かれた地図のおかげで、迷うことなく目的地に辿り着くことができたものの。

「うーーーーん…」
「成歩堂芸能事務所」と書かれた看板の前で、春美はかれこれ10分以上も悩み続けている。
この扉の向こう側に成歩堂がいるのは、分かっているのに。
「ここまで来たら、もう行くしかありませんっ!」
自分に言い聞かせるように意気込んだのち、春美がドアノブに手をかけようとしたその時ーーー。

「うちになにか用ですか?」
「ひゃあぁぁっ!」

いつの間に背後にいたのか、突然声をかけらた春美は思わず素っ頓狂な声をあげる。
振り返るとそこに立っていたのは、無精ヒゲを生やし、サンダル履きという気の抜けた格好の男。
姿、格好は随分と変わったが、春美は彼が成歩堂だと直感で分かった。
「な、成歩堂くん…」
「あれ? …もしかして、春美ちゃん?」

数年ぶりの再会はお互いにとって、随分と衝撃的なものになった。
スーツを脱ぎ捨て、目もなんだか半目でやさぐれた印象の成歩堂は春美を驚かせ、
かたや身長も随分と伸び、幼女から女性へと美しく成長した春美の姿は成歩堂を驚かせた。

成歩堂に案内されて入った事務所の中も、7年の時を経て随分と様変わりしている。
あちらこちらに所狭しと並べられた手品用具を不思議そうに見つめる春美の前に、成歩堂がお茶を置く。
「最初、誰だか分からなかったよ」
「成歩堂くんも…随分と変わられましたね」
「はは、色々とあったからね」
そう言って笑う顔は、昔と同じままだなと春美は思った。
「真宵ちゃんから連絡があって、近々来るかなとは思ってたけど」
「ま、真宵さまから連絡があったのですか!?」
響也と約束した通り、春美はすぐに家のものへ連絡は入れている。
だが真宵本人にはまだ連絡をしていないのだ。

399:響也×春美3-4
07/09/09 15:04:53 e5ty6AX4
「真宵ちゃん、『はみちゃんが不良になった』って大慌てしていたな。
 すぐに分家に連絡があって少しは安心したようだけど…」
「…真宵さま、わたくしのこと気にかけて下さってるんでしょうか」
「そりゃもちろん、そうだろ。真宵ちゃんはいつだって、春美ちゃんのこと大事にしてるじゃないか」
「でも、わたくし聞いてしまったのです!!」
「なにを?」
「………実は…」

春美は向かいのソファに座る成歩堂に、洗いざらい話した。
里を飛び出した理由と、ある人物から成歩堂が弁護士を辞職した事実を聞いたこと。
春美の話に成歩堂は、なるほどね、と納得してポリポリと頭を掻く。

「真宵ちゃんの発言の真意は、真宵ちゃん自身から聞くべきだとして。
 ぼくに7年前なにがあったのかは、今からちゃんと説明するよ」
成歩堂はズズッとお茶を啜ったあと、ゆっくりと語り始めたーーー。

 +++++++++++++++++++++++

成歩堂の話を全て聞き終わったのは、既に日が傾き始めた頃だった。

「…ということで、理解してくれたかな?」
春美は俯いたまま、こくんと頷く。
捏造疑惑の真相も、娘のことも、牙琉霧人の7年越しの計画も、そして響也と事件の関わりも全てが消化された。
緊張が一気に緩んだせいか、春美は思わず涙ぐんでしまっていた。

「なっ、成歩堂くんがっ…ぐすっ…
 ね…捏造するなんてっ…絶対にっ…嘘だとっ…わたくし信じてましたっ…ぐすっ」
「信じてくれて有り難う、嬉しいよ」
成歩堂は優しく笑いながら、春美にティッシュの箱を差し出す。
春美はそれを何枚か取ると、成歩堂に見られないようにぐちゃぐちゃの顔を拭きながら言う。
「わたくし…、真宵さまに連絡しなくては…」
「ああ、そうしたほうがいい。真宵ちゃん心配してたから連絡してあげなよ」
「いえ、それだけではありません。ちゃんと自分の耳で、真宵さまからあの言葉の意味を聞こうと思います」

成歩堂は、先ほどとは違った意味で春美の成長に驚かされた。
7年と言う月日は、外見だけではなく中身も随分と成長させるのだなと感心しながら、成歩堂は受話器を春美に渡す。
春美は受話器を受け取ると、本家へ繋がる電話番号をゆっくりとプッシュした。

 +++++++++++++++++++++++

すっかり日も落ちた夏の夜。
体にまとわりつく湿った空気は響也を苛立たせる。
だがその苛立ちの理由は、決してそのせいだけではなかった。

表面にそれを出さないよう気をつけて帰宅すると、キッチンから鼻歌が聞こえてくる。
覗いてみれば、そこには嬉しそうに料理をする春美の姿があった。
「随分とご機嫌のようだね」
「おかえりなさいませっ。ご飯まだですよね?」
「ん、ああ…」
「では、すぐにご用意いたしますねっ」
花柄のワンピースに白いエプロン姿の春美は、再び鼻歌を歌いながら作業に取りかかる。

「すごいな、今夜はパーティーかい」
目の前に並べられたご馳走の数々は、春美の上機嫌の象徴のようだった。
「はいっ、お祝いです」
「なんのお祝いか、ぼくにも教えてくれよ」
「ふふふ、実はですね…」

春美は嬉しそうに、今日の出来事を話し始めた。


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