ヤンデレの小説を書こう!Part8at EROPARO
ヤンデレの小説を書こう!Part8 - 暇つぶし2ch78:実験的作品
07/07/01 00:26:24 llysDH3v
投下完了です。

79:名無しさん@ピンキー
07/07/01 02:48:56 LD2bgLYv
>>72作者が意図したものか否か解らないが、いらっとする主人公だな。
グダグダ言い訳した挙句、自己完結の無理心中で問題放棄したように見えてしまう。

>>78お互いが今までちょっと遠慮してたぶん、千尋さんの方が一気にヤンデレ化しそうで楽しみ。
GJ!!

80:名無しさん@ピンキー
07/07/01 04:18:01 GcRWPsWA
>>72
「やっぱり島村さんはいいなあ」とか呑気していたが
あああああ!
なにやってるんだ誠人!
リアルに( ゚д゚)ポカーンとしてしまった

>>78
地味に洗脳されつつあるような
このまま進むのかなにかのキッカケで爆発するのか
千鶴さんの危うさが出てきた感じでwktk

81:名無しさん@ピンキー
07/07/01 04:37:34 iBgej3OJ
>>72
ふむ、主人公の行動には少し考えされらるものがあるな。
自分は正しくあれと思い、そう振舞うのは偽善だったと気付き自己嫌悪に落ち、
ならば偽善をなくそうとし、だけど偽善を意図的に振り払おうとするのもまた偽善。

結構深いものがあるな。

82:名無しさん@ピンキー
07/07/01 04:59:44 KzLJvUtD
かなり出遅れた感があるけど空気読まずプロットを……

・主人公は過去に近所のキモ姉に監禁逆レイプされた経験がある
・幸運にも救出されるがキモ姉家族は居た堪れなくなって引越す
・数年たって事件のことを忘れ始めていた主人公の前に突然娘を名乗る女の子が現れる
・ずっと父親からの愛情に飢えていたため十数年分を取り戻すかのように甘える娘を主人公も次第に愛おしくなってゆくが……どうなる、みたいな

このプロットなら精通さえ迎えていれば小学生でも子供ができる

83:名無しさん@ピンキー
07/07/01 06:46:40 EA36+iPh
どこで読んだか忘れたんだが・・・・

ファンタジー物で、ある一人の魔道師(剣士だったかも)が戦場で一人の娘を拾い、その娘がヤンデレ化してセックスみたいなSSがあったんだが、こんなのはどうだ?

84:名無しさん@ピンキー
07/07/01 07:46:45 86yV6aIp
>>82

ダディフェイスのキモ姉版?

85:名無しさん@ピンキー
07/07/01 10:59:37 vOf1ohUI
ダディフェイスって言うから一瞬クールなほうを想像しちゃったじゃないか

86:名無しさん@ピンキー
07/07/01 11:16:58 Zamv8YiL
あの女の臭いがする!
     /\___/ヽ
    /ノヽ       ヽ、
    / ⌒''ヽ,,,)ii(,,,r'''''' :::ヘ
    | ン(○),ン <、(○)<::|  |`ヽ、
    |  `⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒´ ::l  |::::ヽl
.   ヽ ヽ il´トェェェイ`li r ;/  .|:::::i |
   /ヽ  !l |,r-r-| l!   /ヽ  |:::::l |
  /  |^|ヽ、 `ニニ´一/|^|`,r-|:「 ̄
  /   | .|           | .| ,U(ニ 、)ヽ
 /    | .|           | .|人(_(ニ、ノノ

87:名無しさん@ピンキー
07/07/01 11:20:09 prRwsgdU
ダディフェイスは是非読め、電撃から出てるから

88:名無しさん@ピンキー
07/07/01 11:51:26 KTYKZGPL
>>87
キモいのか?

89:名無しさん@ピンキー
07/07/01 12:26:41 PRf3a/Sc
>>72
前から誠人は理屈っぽい所があったが最後に壮絶に空回りしてしまった希ガス
最終回で二人が幸せになれますように(-人-)

>>78
>その夜、初めて俺は無我夢中で千鶴さんを自分の物にした。
しかし実情は千鶴さんにいいいようにもてあそばれてるのか……?w
このまま何も気付かない方がいいのかもしれんねw

90:名無しさん@ピンキー
07/07/01 12:28:10 HD2asF8v
>>87
あれはキモ嫁だべ。

長女や長男もやや依存っぽいが描写が出てきてるけれど、
姉弟間での絡みは無いしなぁ。

91:名無しさん@ピンキー
07/07/01 15:14:43 Am9zaEBA
九頭龍 左龍鉄刃!!

92:名無しさん@ピンキー
07/07/01 17:20:37 25AUCktU
ガリガリはキモかろ

93:名無しさん@ピンキー
07/07/02 00:51:35 7bBOmpW3
>>50
すみません、その設定を頂いても宜しいですか?

94:名無しさん@ピンキー
07/07/02 01:12:59 VnWxpkG0
>>88
主人公の設定が、幼い頃に嫁(便宜上の呼び名だが)を助けて半身不随の怪我をする。
その後嫁と離別して、強くなろうとして習得した仙術で半身不随を克服。
その後、半身不随にした事を心配に思っていた嫁が再会。だが再会初対面で気付かず、知らない人とはっきり言ってしまったため言い出せない。
その後、主人公が風邪をこじらせるのだが、体調が悪くなると仙術を維持できないため、半身不随状態に戻る。
それを診察した医者に、半身不随が残ってる事を聞かされた嫁は頭を掻きむしって頭血だらけ。
どうも離別した直後ぐらいは半身不随にした影響か頭をよく掻きむしっていたらしい。

95:名無しさん@ピンキー
07/07/02 12:54:01 67zPExO7
58です、同じ内容で全く違う作品を書きました。
AとB、人気が高い方を書いて行きたいと思います。
Aは正規ヤンデレ娘でBは「頭を病んでいる」ヤンデレです。
稚拙な文ですが、暇潰しにどうぞ

96:試験作品 A
07/07/02 12:58:23 67zPExO7
最愛の妻が他界してから早3年。
毎朝見慣れた光景とはいえ、頭を抱えずにはいられない。
横を見ると、10歳になる娘が安らかな寝息をたてて寝ているからだ。
「起きろ百合花。」
百合花の体を何回も揺らすと、のっそりと起きて部屋を見渡し、俺の姿を見るとニッコリと微笑む。
「おはようございますお父様。」
「おはよう、百合花。ところで何個か質問があるんだけど良いか?」
「何でしょうか?」
「どうして、ここで寝ているんだ?」
まるで何を言ってるのか分からないという風に首を傾げる。
「どこの世界に小学4年生の女の子が父親と同じ布団で寝るんだ?」
「ここに居るではありませんか。」
嬉々として返事する娘の事を考えると。
また一つ大きな溜め息が流れ、このやりとりは一体何度目なのか・・・と自問自答してしまう。
「いつも言ってるけどな、もう少し父親離れしたらどうだ?」
「嫌です。」
「でもなぁ
「嫌です。」
「だか
「嫌です。」
「・・・」
「・・・」
互いに無言になる。
俺はきっと渋い顔で百合花を見ていると思うが。
それとは対象的に百合花はまるで恋人を見るかのように俺を凝縮する。
「・・・馬鹿馬鹿しい・・・。」
「何か仰いましたか?」
俺は百合花の父親だ。3年前に妻を交通事故で亡くしてから、俺は父親として百合花に出来る限りの事をしてきたつもりだ。
「なんでもない、それより学校の準備しないとダメなんじゃないか?」
「はい、それではお父様失礼します。」
百合花は丁寧にお辞儀すると、静かに部屋から出て行った。
大きく背伸びをすると、まだ眠たい頭を我慢しながら顔を洗うために洗面所へと足をのばした。


97:試験作品 B
07/07/02 12:59:49 67zPExO7
最愛の妻が3年前に他界した。
いつもと変わらない光景がそこにはあった。
「良い加減寝た振りを止めたらどうなんだ?」
「あら、お父様やっとお目覚めですか?」
横には娘の百合花が居た。
「いつ、忍びこんだ?」
「それは違いますわ、お父様。」
「どういうことだ?」
「忍び込んだのじゃなくて、夜這いです。よ ば い。」
今回で何回目だ?
百合花が入ってこないように、南京錠まで掛けたのに、容易く突破されてしまった。
「南京錠なんかで私達の愛は止められませんわ。」
身悶えする百合花を見ながら、俺はどこで教育を間違えたのか自問自答していた。
「お父様の真剣な姿も素敵ですわ、あ・・・涎が、失礼。」
じゅるりと出てきた涎を拭きながら、俺に近寄ってくる。
「なんで近寄る?」
「目覚のちゅーですわ」
「するかあああああ!!!!!」
俺は抱きついてくる百合花を振り払うと、本気で家から飛び出した。

98:名無しさん@ピンキー
07/07/02 13:01:29 67zPExO7
以上です、色んな意味でやってしまいましたorz

99:名無しさん@ピンキー
07/07/02 13:41:55 cI3MLG/U
GJ! 
なんだがえーと……この展開は正規ヤンデレなのか?
それならばA!

100:名無しさん@ピンキー
07/07/02 15:51:14 cdweoY0k
最初Aで完結したらBきぼん

101:名無しさん@ピンキー
07/07/02 15:54:16 DAJNNDqW
Bのほうが続き読みたいって思ったのでB

102:名無しさん@ピンキー
07/07/02 16:27:13 85zBu5nZ
短編ならBが読みたいが
長編ならAが読みたいな

結論:両方

103:名無しさん@ピンキー
07/07/02 17:04:58 +VeezHyW
( ´∀`)σA

104:名無しさん@ピンキー
07/07/02 19:12:02 4On+ZodA
勿論どっちも

105:名無しさん@ピンキー
07/07/02 20:41:32 HOr9q90g
俺も>>102

106:名無しさん@ピンキー
07/07/02 21:21:08 67zPExO7
どっちもな意見が多かったので、まずAを完結させてからBを書きます。
執筆頑張るので、お待ちをorz

107:名無しさん@ピンキー
07/07/02 22:50:57 OzYayXKh
>>106

よし!息子以外は全裸で待ってます。

108:名無しさん@ピンキー
07/07/02 23:18:02 6MJNjySa
ヤンデレはある意味でヤンデレを発見するヤンデレな歴史を作る作業なんだよな・・


109:名無しさん@ピンキー
07/07/02 23:41:47 iVrnNsaX
足の裏を山羊に舐めさせながら待ってます
僕が狂死するまでに書いてください

110:名無しさん@ピンキー
07/07/03 10:01:49 MYNXK1qj
>>109くんの足の裏を嘗めていいのは、高校も中学校も小学校も幼稚園も保育園もずっと一緒でおうちも隣でずっと>>109くんの足の裏を嘗めてきた、あたしだけなの……!」
「何を言う、私など>>109が生まれたときから、姉として足の裏を嘗めてきたんだ。譲る気はないね」
一方その頃妹は唇を奪った。

111:名無しさん@ピンキー
07/07/04 06:46:48 AKA28tOO
保守

112:名無しさん@ピンキー
07/07/04 08:08:44 d6W9+muc
スクイズ見レナ過多

113:名無しさん@ピンキー
07/07/04 09:42:05 YSVGaCwq
>>110
(*´Д`)ハァハァ、こんなの実際に居たらいいね。

114:58
07/07/04 11:32:19 KPfaKu2r
短いですが、投下します。
お楽しみ下されば幸いです。


115:家族A
07/07/04 11:34:41 KPfaKu2r
朝、朝食を食べた後にコーヒーを飲みながら何気なくニュースを楽しんでいたのだがその静寂は声によって阻害される。
「お父様、今日は何時ぐらいにご帰宅なさいますか?」
洗い物担当の百合花が濡れた手をエプロンで拭いながら話しかけてきた。
「7時ぐらいかな。」
「分かりました、出来るだけ早くお願いします。」
「何か用事あるのか?」
「いえ、余り遅いと心配になりますから。」
親が子を心配するなら分かるのだが、子が親を心配するのはいかがなものだろう?
これじゃ、立場が反対だな。
思わず苦笑が洩れる。
「お父様、何か楽しい事でも?」
俺が笑っていると、百合花まで楽しくなるのか。
自分の事のようにくすりと微笑む。
「なんでもない、それより時間良いのか?」
「もうすぐ出ます、その前に・・・失礼します。」
それだけ述べると、百合花はエプロンを外して俺に抱きつく。
甘えん坊なところは昔から変わってない。
「やっぱり安心するなぁ」
普段丁寧語の百合花だけど、この時だけは本来の口調に戻る。
「ねぇ、お父様」
「ん?」
「お母様の事大好き?」
「あぁ、今も心から愛してるよ。」
「そっかぁ、それじゃ私は?」
「自分の娘を嫌うと思うか?」
抱きついたまま、百合花は頭を横に振り。
よりいっそう俺に抱きつく。
5分ぐらいそうしたであろうか、不意に離れると。
俺に向かって一礼。
「お父様、失礼致しました。」
「気をつけてな。」
「はい、行って参ります。」
制服の乱れを丁寧に直すと、リビングから出て行く。
玄関の音がした後、会社に向かう為着替えることにした。


朝、タイムカードを切ってから俺の仕事は始まるのだ。
「おはよう、白石さん」
「おはようございます、川内さん」
彼女は俺の部下でもあり、同じ大学で学んでいた友人でもある。
その美貌から求婚されるのは多いらしいが、全て断り。
今現在でも、独身キャリアウーマンとして頑張っている。
妻が亡くなった時最も悲しんでくれた人で。
俺自身幾ら感謝しても足りないぐらい恩を受けている。
って・・・そろそろ仕事しないと。
俺は深く深呼吸すると仕事に取りかかった。

116:家族 A
07/07/04 11:36:40 KPfaKu2r
白石 小夜

「ただいま」
誰の返事も帰って来ないのは分かっているが、真っ暗な闇に対して帰宅を告げる。
ふと目に止まった電話機には親からのメッセージ。
聞かなくても内容が分かりきっているので全て削除する。
十中八九お見合いしろ・・・ということだろう。
全くもって下らない。
私には既に心に決めた人が居るのだ。
その人の名前は、川内 智也。
私が彼を見かけたのは大学2年の時、たまたま同じ講義を受けていた頃に遡る。
黒曜石にも似た、黒い髪に引き締まった体。
瞳は湖の様に澄んでいて、優しげな風貌を醸し出していた。
一目惚れだった。
それからというもの、私は彼との絆を築きたくて努力して友人になることができた。
嬉しかった、実際会話してみても想像していたものと一緒・・・いやそれ以上だった。
だが、私の至福の時は長く続かなかった。
彼には妻と娘が居たからだ。
それを聞いた時、私は絶望の本当の意味を知った。
叶わぬ恋・・・。
それでも彼と一緒に居たかった為に、卒業後。
同じ会社を受けた。
新人研修の時の彼の驚きは記憶に新しい。
ずっと、私の恋は叶わないと思っていた。
だが3年前のあの日、私の恋は再び始まることになる。

117:家族 A
07/07/04 11:40:13 KPfaKu2r
忘れもしないあの日、洗い物をしていた時に電話がかかってきた。
「失礼ですが、白石さんのお宅でしょうか?」
相手は愛しいあの人、本来ならば暖かな声はガラガラに枯れていた。
「何かあったの?川内くんっ」
受話機を強く耳に充てるとひそかに泣き声がした。
「・・・妻が、香代が本日、な・・・亡くなりました・・・」
嗚咽と混じり混じりに言葉を紡ぎ出す。何だって?
妻が、亡くなった?
誰の?
「葬式を執り行いたいので・・・つきましては・・・」
愛しい彼のだ!!!!!
何たる幸運!!
彼にとっては悲報かもしれないが、私にとっては吉報だ!!
一生叶わないと思っていたのにこんな形で流れ込むなんて!!!
ふとすれば、流れ出てしまう歓喜の笑いを抑えつつ。
震える声で私は彼を慰めた。
「それでは失礼しました・・・」
「元気だしてね、今から会いに行くから」
「ありがとう」
その言葉を最後に電話が切れた。
電話が切れた後、私はどうやって彼を手に入れたら良いのか考えた。
だが、どうにも良い考えが浮かばない。
彼は私を只の友人としか見てないだろう。
私の気持ちにさえ気付いているか、疑問が残る。
彼を取り巻く、人間関係は、娘ただ一人。
両親からは大学卒業後、縁を切られたと聞いた記憶がある。
娘・・・彼に最も近く、切っても切れない関係・・・。


ならば利用してやる!

118:名無しさん@ピンキー
07/07/04 11:42:37 KPfaKu2r
以上です。
歳は28と10でお考え下さい。


119:名無しさん@ピンキー
07/07/04 12:27:10 AKA28tOO
>28と10
( ゚д゚)

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚)

(つд⊂)ゴシゴシ
  _,._
(;゚ Д゚)?!


120:名無しさん@ピンキー
07/07/04 12:41:47 olH06CST
キモ娘10歳児だとぅっ!
これは新 境 地
続き楽しみにしてまつ。

121:名無しさん@ピンキー
07/07/04 12:49:18 evNu1o/G
今のところはむしろ白石さんに萌える、これから楽しみ
あとお父さんの過去が気になる
高校生でできちゃった婚したのだろうかw

122:名無しさん@ピンキー
07/07/04 15:54:51 ITiwAeu0
お父さんが3月後半生まれなら、大学1年次の6~7月までにヤっちゃえば
ぎりぎり18歳でパパになれる。
(人間の妊娠期間は大体266日=38週間前後、早産の場合を除く)

どちらにしても続きが楽しみだ。特に娘の方。
作者さんGJ!

123:名無しさん@ピンキー
07/07/04 18:17:51 LZ1gtyEX
GJ!
娘さんガンバレ!!


124:名無しさん@ピンキー
07/07/04 21:27:10 SPkJzbTa
この手のシチュは大好物なのでwktkが止まらない

キモムスメと白石さんに期待だぜひゃっはー!

125:名無しさん@ピンキー
07/07/04 21:28:07 yPp0lh3Z
保管庫更新乙です

126:名無しさん@ピンキー
07/07/05 00:49:11 l7qMN1M4
更新乙

127:名無しさん@ピンキー
07/07/05 11:41:31 YAOTTSwf
更新乙です

128:名無しさん@ピンキー
07/07/05 14:31:45 w0kg14Zz
下手っすがよずり姉さん
URLリンク(s.pic.to)

129:名無しさん@ピンキー
07/07/05 17:06:38 b3Vby/Io
>>128
ちょw
なんか怖いw

130:名無しさん@ピンキー
07/07/05 17:20:36 VJ9ieQsy
誰か、転載よろしく。

131:名無しさん@ピンキー
07/07/05 21:09:02 4/D3YiMS
>>128
なぜそんなところに上げるのか理由を聞かせて貰おうか。


132:名無しさん@ピンキー
07/07/05 21:31:02 w0kg14Zz
マジスンマセン

133:名無しさん@ピンキー
07/07/05 21:55:05 16I/bFbM
>>132
PC許可は無理なのかな?
携帯で見ればいいんだろうけど

134:名無しさん@ピンキー
07/07/05 21:58:39 16I/bFbM
あ、PC時間制限されてるのか
スマソ

135:名無しさん@ピンキー
07/07/06 02:10:05 wkGdRlXk
VIPのヤンデレゲーム作ってるとこ、現在体験版公開中。
個人的に、

立絵 : ○
背景 : △
シナリオ : △
システム : ?
イベント絵 : ◎

136:名無しさん@ピンキー
07/07/06 17:11:35 K3jRpqlC
>>135
シナリオはこのスレの作者さんにも来て欲しいな

137:名無しさん@ピンキー
07/07/06 17:26:41 ut4FjtV6
そういえばお茶会のゲーム化の話って進んでるんだろうか

138:名無しさん@ピンキー
07/07/06 18:01:14 POtrJYeU
>>136
もうシナリオ完成してるんじゃないの?
ゲーム化企画ってだいたいSS師はあまるけど
絵師とか音師が足りなくてひーこら言うものだと思って敬遠してたが・・・

139:名無しさん@ピンキー
07/07/06 18:11:07 NQ+PWGhq
頻繁に関連スレに宣伝来てるよ

140:名無しさん@ピンキー
07/07/07 06:37:05 qF8F0BcQ
上ゲ

141:名無しさん@ピンキー
07/07/07 21:34:00 SpYWVM4X

  [ (★) ]_
  <丶´Д`>
   (ミ 北 )<嫉妬スレが職人不足・・・このスレの職人さん・・助けて・・・
   ) |(
   〈_フ__フ
スレリンク(eroparo板)

142:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs
07/07/07 23:03:00 ersBxxDh
短編投下します

   †



 これから話すのは、少しばかり奇妙な体験談だ。といっても、私の身に起きた
ことじゃない。お話の中に私が登場しないし、したとしても物語の本筋に関係の
ない脇役、語り手、通行人、そういった役くらいのものだ。あくまでも主人公は
私の友人である三角・徹で―これは徹の物語で、彼の体験談だ。
 他人の体験談を、私が語ることを許して欲しい。こればっかりは仕方のないこ
となのだ。なにせ、もう私以外に、あの事件について詳しく語るものはいないの
だから。
 当事者は、もう、どこにもいない。
 だからこれは、終わってしまったお話だ。体験談で、昔話で、御伽噺だ。
 どこか遠くでおきた、いつかどこかでおきた、少しだけ奇妙で、僅かばかりに
おぞましい、愛情の話だ。
 だから、語りだしは、自然とこうなる。
 すべての御伽噺は、こうして始まるのだから。



 昔々、あるところに――




■ 狂人は愛を嘯く.Case1




143:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/07 23:19:47 ersBxxDh

「これ、恋人」
 五月に入ったばかりの暑い日に、炎天下の下で三角・徹は前触れも前置きもなく、
いきなりそんなことを口にした。
 暑さのあまり、蜃気楼でも見たのかと思った。
 暑さのせいで、ボケてしまったのかと思った。
 それくらいに―唐突で、脈絡のない、話だった。
「……ふうん」
 それ以外に私にできる反応はなかった。むしろ、「ふうん」と返事を返せただけ
まともだったといえる。実際、私は「ふうん」の後に続く言葉を、何一つとして思
いつくことができなかった。
 私の返事が気に喰わないのか、それとも十分だと思ったのか、徹は何も言わない。
 徹の横に立つ女も―やはり、何も言わない。にこにこと笑って、傍に立っている。
「…………」
 二人が何も言わないので、私は黙ったままに視線をめぐらせた。まだ五月だというのに、
直射日光があたる場所は暑い。大学のキャンパスには人が溢れていて、大多数は日陰を選択
して歩いていた。日向にぽつんと立っている私たちは、少しばかり奇異に見えただろう。
 徹―さして古くもないが、そこそこの付き合いである彼はいつもと変わらない格好だった。
洒落っけはないが、清潔な格好。短く刈り込んだ髪と相まって、何かのスポーツをやっている
ように見える。
 彼がこの上なくインドアな趣味を持つのだと、見た目からでは想像はできない。常に浮かべて
いるほがらかな笑みは、同人誌即売会よりはテニスコートのほうが似合っていそうだった。
 人それぞれ、だ。
 そちらのほうはさして問題はない。問題があるとすれば……
「……恋人?」
 ようやく、私はそれだけを言えた。視線は、徹ではなく、その隣に立つ少女へと向けられている。
 少女。
 キャンバスにいる以上、年齢は多少前後する程度で、「女」と呼んだほうがいいのだろうが、私には
彼女を「女性」と呼ぶ気にはなれなかった。少女、と言葉がいちばんしっくりきた。それは、ただ単純に
背が低いというだけでもなく、どこか少女趣味な服を着ていたからでもない。
 目だ。
 子供のように純粋で―少女のように危うい目をしていた。取り出して磨けば、ガラス球のように向こ
う側が透けて見えるだろう。
 経験上、こういう目をした相手は、大概が忌避すべき相手だ。
 できるかぎり目をあわせないようにする私を、けれど、少女は見てはいなかった。その透明な瞳は、た
だ一点、徹にのみ注がれていた。
 恋をする少女の熱心さで。
「ああ、恋人」
「……ふうん」
 再び、徹は言った。話がまったく進んでいない。
 仕方なく、私の方から、もう一歩だけ踏み込むことにした。
「付き合っているのかい」
「まあね」
「男女交際?」
「男々交際に見えるか?」
「さてね」私はそらとぼけて、ちらりと少女を見た。もちろん彼女は男には見えないし、
徹が実は女だということもない。健全な―健全かどうかは知らないが―男女交際だろう。

144:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/07 23:28:13 ersBxxDh
 とはいえ、徹が何を言いたいのか、まだわからない。
 まさか、ただ単純に自慢しにきただけだろうか。徹がそういう人間だとは知らなかったが、初めて
男女交際を味わえば、人間が代わってもおかしくはないのかもしれない。
 愛情とは、そういうものなのだろう、多分。
「いつからだい」
 胸ポケットから煙草を取り出し、火をつけながら私は聞いた。こんな話、素面でしたくなかった。酒
があればそちらのほうがいいのだが、生憎、真昼間から酒を持ち歩くほど不健康な生活はしていない。
 ゆっくりと立ち昇る紫煙は、けれどゆるやか風に流されていってしまう。
「先月のイベントで出会ったんだ」
 へえ、と私は頷いた。少しばかり興味がわいた。イベントで出会った、ということは、彼女はご同類
ということになる。書き手なのか読み手なのか、少しばかり気になった。
 が、その僅かな興味は、徹の次の言葉に掻き消された。
「俺の本を―気にいってくれたらしい」
「…………」
 危うく、煙草を取り落とすところだった。
 今の私は間抜けな顔をしているに違いなかった―それだけの驚きを、徹はその言葉で与え
てくれた。
 ―本を読んで気にいった?
 私は三度、少女を見た。いまだに名前も教えてもらっていない少女は、じっと、徹を見ていた。
徹以外の何も見ていなかった。その眼球の中に、私の姿は映っていなかった。
 そういう出逢いがあることは知っていた。
 けれど。
「……あの本を?」
「あの本を」
 徹は頷く。彼も彼で、私しか見ていなかった。隣に立つ少女を、見ようとしていなかった。
 ようやく―私は悟る。どうして彼が、恋人が出来たことを報告するように、私のもとへと
訪ねてきたのかを。
 理由はわかった。
 何がしたいのかは、わからないが。
「ふうん……」
 私は灰を落としながら思考を一ヶ月前へと飛ばす。三角・徹が出した本というのは、
複数人のライターによる小説本で―ようするに、文芸サークルの身内本だ。地元の
即売会にも参加しているが、当然のようにほとんど売れない。同じようなサークルと
売りあったり交流するために参加しているようなものだ。
 そのことについては、別にいい。
 問題は―
「君の―話かい?」
「そうだ」
 念を押すように言うと、徹は頷いた。かすかに、視線が泳いでいた。
 仕方のないことだ。視線をそらすくらいはするだろう。なにせ、先月の本は、徹は―
原稿を落として、代筆を私に頼んだのだから。
 あれは徹の本だが、
 私の話なのだ。



145:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/07 23:43:12 ersBxxDh
 友人に代筆を頼むことはそう珍しいことではない。この場合ただ一つ問題なのは、
作品が徹の名前で出ていることだ。私は自身の名前が出るのを疎ましく思ったし―
徹は自身の原稿を落とすことを拒んだ。そういう利害の一致で、徹の名義であの作品
は出されたのだ。
 そして、
 この少女は、それを読んで気に入ったのだと言う。
「あの本は―面白かったのかい」
 徹にではなく、私は未だ名を知らない少女に向かって言った。
 反応は、遅々としたものだった。
 始めの五秒、少女は自分に向かって話しかけられているのだと、気付いていなかった。
私は辛抱深く待ち、十秒ほど過ぎた頃、少女はゆっくりと、言葉を咀嚼するようにして、
私の方を振り向いた。
 視線が、あった。
 あわなければよかったと―そう思う、瞳だった。
 少女は、透明な瞳で私を見て、


 ―はい、大好きなんです。


 細い声で、そう言った。
「……そうかい」
 私は頷き、煙草を携帯灰皿へと捨てた。足元へと捨てたかったが、学生課に注意されて
以来慎むようにしている。少女はすぐに私から徹へと視線を戻し、私もまた、徹へと視線
を戻した。
 彼は、私を見ていた。
 私を見る彼に、私は言った。
「よかったじゃないか」
 ―つまりは、そういうことだ。
 少女はあの話を読んで、徹と付き合うことを決めたのだろう。徹ではなく、本を大好き
だと言った少女の態度は、無言でそう告げていた。
 ならば、
 徹にとって、『真実』など疎ましいものに違いない。
 言葉の裏に真意をこめて、私はよかったじゃないかと言ったのだ。
 ―黙っていてやるよ、と。
 そう、意味をこめて。
「ああ、有難うな」
 私にだけ通じる真意を言葉に込めて、徹は答えた。別に、有難いことだとは思わなかった。
わざわざ真実を口に出すつもりもないし、彼の幸せを壊そうとも思わなかった。
 ただ、
 徹がその少女に惚れていることが、少しばかり意外だった。彼の趣味は今まで知らなかったが、
こういう儚げな子が好きだったらしい。

146:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/07 23:54:34 ersBxxDh
「それで、今日は自慢でもしにきたのかい」
 完全に興味は失っていたし、彼が私に釘をさすという用事も終わっていたが、一応言葉を
続けてやった。そのくらいの甲斐性は、私にもあるつもりだった。出来ることならば、今す
ぐ話を切り上げ、次の講義を休み、どこか昼間から開いている居酒屋で酒を飲みたいとそう
思ったが、実行はしない。
 徹はかすかに安堵したように笑って、それから、
「いや―果敢那がさ」
「ハカナ?」
「ああ、こいつの名前」
 言って、徹は隣に立つ少女を指さした。指をさされてもなお、少女は微動だにしなかった。
果敢那、というのが彼女の名前なのだろう。下の名前を呼ぶ程度には、仲が良いらしい。
「それで?」
 話の続きを促すと、徹は「ああ、」と前置き、
「うちのサークルに入りたいっていうから―部長のところに、連れていくところだ」
「成る程」私は意味もなく形だけ頷き、「そのがてらに見かけたから、自慢をしにきたという所かい」
 彼が話しやすいように誘導すると、案の定、徹はにやりと笑って、
「まあ―そんなところだ」
 と、言葉をしめた。
 これで、表向きにも、裏向きにも、用事は終わった。
 これ以上この暑い場所にいる必要もない。私は「馬に蹴られる前に、退散することにするさ」と
だけ告げ、踵を返そうとした。
 その私の背に、予想外の言葉が投げかえられた。
 徹のものではない。
 少女の―果敢那のものだった


「―さようなら」


 ただ、一言だった。
 その言葉が、どういう意味を持ったのか私にはわからなかった。とくに考える気もなかった。
振り返らずに、そのまま去る。振り返っていれば、彼女が私を見ていただろう。けれど、振り返
らなかった私には、彼女がどんな表情をしていたのか、最後までわからなかった。
 振り返って、あの瞳と目があうことを考えると、それは正しい判断だったのだろう、きっと。


147:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 00:11:11 7Iqx920E

 お話は、だいたいそんな風に始まった。徹と果敢那が付き合い始めたことは一気にサークル
の中に広がった。徹のような人間が交際を始めた、という驚きのせいかと思っていたが、話を
聞いていると、どうやらあのあと二人は、サークルの人間に手当たり次第に挨拶に回ったらし
い。新入生の挨拶というよりは―恐らくは、牽制のような意味で。その証拠に、後で知った
ことだが、あれは徹からではなく、果敢那の方から言い出したことらしい。
 ―付き合い始めたのですから。
 ―皆さんに知ってもらいましょう。
 ―私たちが付き合っているということを。
 つまりはそういうことだ。彼らはカップルとなったのだ。無理矢理に、自他ともに
認められることによって。そして果敢那は、徹を自身以外の誰にも渡したくはなかっ
たのだろう。
 その独占欲は、嫌いではない。好きでもないが、嫌いでもない。
 よくあることだ。
 ただし、辟易したことが二つある。一つは、彼らの『交際宣言』から半月ほどたった
日のことだ。私の家に、徹が菓子折りと酒を持って訪れてきた。
 似合わぬ手土産に、嫌な予感がした。
 案の定、用件は、予想したとおりだった。
「―次も頼む」
 五月分の原稿も頼む、ということだった。果敢那があの作品を気に入ったということは、
それはつまり―徹の作品ではなく、私の作品を気に入ったということに他ならない。
 徹の作品では駄目なのだろう。
 私が書いたものでなければ、駄目なのだろう。
 だからこそ、徹は私に頼みにきたのだ。締め切りを落としたわけでもないのに、代筆を
頼む、と。
 辟易した。
 代筆を頼まれる行為に、ではない。その理由にだ。
「そんなに彼女のことが好きかい」
 下手をすれば土下座でもしそうな勢いの徹に、私はやる気のない声をかけた。確かに果敢那は
可愛かったが、それはどこか病的なものを含む可愛さだった。球体間接人形がおぞましさと美しさ
を備えているようなものだ。見て楽しむのは良いが、手に入れたいとは思わない。
 が、徹は手に入れたがっているだの。
 そして、手放したくないのだ。 
 だから、私に頼みに来たのだ。果敢那を手放さないためには、作品が必要だから。そのこと
を、徹はすでに気付いている。彼女の愛の本質がどこにあるのかを。
 ―作者は出力装置に過ぎない。
 そんなことを言っていた人がいたなと、ふと思い出した。
「―ああ」
 力強く。
 嘘偽りのない強さで、徹は頷いた。果敢那のことが好きだと、彼は肯定した。
「……ふうん」
 人の趣味に、それ以上とやかく言うつもりはなかった。書けるのならば、そして私の前に山
とつまれた土産をもらえるのならば、書く以外に道はなかった。
 私は頷き、
 徹は歓喜して返っていった。
 その時点で―私はすでに結末が見えていたような気がしたが、それでも一応、締め切りまでに
作品をしあげて出した。作品は本となり、サークル内に配られ、果敢那の手にも渡った。
 その結果。
 二つ目の、辟易する事態が引き起こされた。


148:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 00:42:35 7Iqx920E
「…………」
 さすがに―辟易した。
 呆れ果てた。
「よぉ」
 3号館の果てにある部室の扉を開けると、三角・徹は気軽に手をあげた。他にも幾人かが
部屋の中にいて、彼ら/彼女らは、一斉に助けを求めるように私を見た。
 ただ一人、私を見なかったのは。
 徹の膝の上に座る、小柄な果敢那だけだった。
「……やぁ」
 私は恐らくは曖昧な笑みを浮かべて手を上げ返した。内心では部室に入ったことを後悔
していたが、今更引き返すわけにもいかなかった。助けを求めるような目にも納得がいく。
一目見ただけで、どういう状況なのか分かってしまった。
 悪化したのだ。
 多分、恐らく、間違いなく。
 恋愛という病が。
「仲がよさそうじゃないか」
「そうだろう」
 皮肉混じりに言った言葉に、徹は真顔で答えた。皮肉が通じていない、というよりは、
皮肉だと理解もしていないらしい。成る程、病は平等に進行しているらしい。果敢那だけ
でぇあなく、徹の方も、蝕まれているというわけだ。
 ―おめでとう、君達は両思いだ。
 心の中でささやかに祝福して、私は空いた席―徹の正面に腰掛ける。そこだけ空いて
いる理由は単純で、そこに座れば、べたべたとしている二人を思い切り視界に治めなけれ
ばならないからだ。
 ここは禁煙ではないので、思い切り煙草が吸える。私は煙草を咥え、火を灯す。部屋に
充満していた紙の匂いに、煙草のにおいが混じる。部屋の両側には本棚があって―それ
が物理的・心理的に問わず、部屋を圧迫していた。ほとんどが市販の本で、一角を発行し
た本が占めていた。
 そのうちの一冊を手にとって私は広げる。一番手前にあった本は、つい先日出したばか
りの本だった。
『三角・徹』の名で書かれた話を開き、私は徹へと語りかける。
「いつもそうなのかい」
「まあな」
 徹は即答した。いつも―ずっと、こうなのだろう。
 文字通りに、ひと時も離れず。
 恐らくは、この本を読んだときからだろう。それ以前は、此処までは酷くなかった。
 一作目を読むことで、果敢那は徹と付き合い始めた。
 そして、二作目を読むことで―更に仲が深まったのだろう。
「…………」
 徹の胸元にすりつくようにして座る果敢那を見る。至極、幸せそうな顔をして、徹の
手を握っていた。小説を書く手を、大切な宝物のように握り締めて、果敢那は徹に甘え
えていた。
 何も言わない。
 それだけで、彼女は満たっていた。
 取り返しのつかないほどに。
「徹の話は、面白かったかい」
『徹の話』にアクセントをおき、私は興味半分で訪ねた。果敢那は、ゆっくりと、ゆっくりと、
私の方を見た。
 眼球が、私を見る。
 一ヶ月前よりも―更に透き通って、見えた。
 反対側に、私が映って見えるほどに。

 ―はい、大好きです。

 変わらない、細く儚い声でそう言って。
 ふうん、と私が頷くよりも早く。
 果敢那は、付け足すように、こういったのだった。

 ―次の本が、待ち遠しいです。

149:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:08:13 7Iqx920E
 六月の初めに、徹から一通のメールが来た。
 題名はなく。
 本文は、簡潔だった。

『次は、自分で書く』



 ―そうして物語は、坂を下るようにお終いへと加速する。




150:名無しさん@ピンキー
07/07/08 01:11:51 FZKvuD5l
おお、リアルタイム?

151:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:17:27 7Iqx920E
 日付はゆっくりと進み、梅雨が始まり、梅雨が終わった。蒸し暑いだけの日々が過ぎると、
からっと晴れた夏がやってきた。あまりにも暑すぎて、空調のきいた部屋からは出たくなかった。
自宅にいるよりも、大学へと出てきたほうが涼しいので、私はもっぱらそこで時間を潰していた。
 だから、七月分の本を受け取ったのも、部室ではなく教室でだった。部室にはクーラーがついて
おらず、講義が行われている教室だけ空調は動いている。外は炎天下にも関わらず、私は汗ひとつ
流していなかった。
「……ふうん」
 部長から受け取った本を、私は流し読むようにして目を通した。大きな節目の本ということだけ
あって、さすがに厚い。
 一通り目を通すと、部長のほうから話を切り出してきた。
「どうだい、今回の出来は」
「そうですね、悪くないと思いますよ」
 嘘ではなかった。さすがに新入生のそれは拙いが、それでも気合が入っているのは読めばわかる。
在学生のそれも、読み応えのあるものだった。
 中でも、
「特に―徹のが良いですね」
 素直に、率直に、そう言った。
 君もそう思うか、と部長は言った。私は「ええ」と答え、もう一度、三角・徹が書いたものを読んだ。
 二ヶ月ぶりに読んだ徹の小説は面白かった。彼は、彼なりにこの話にかけていたのだろう。自分が出せ
るものを全て出し切っているのが、読んでいるだけでわかった。恐らくは、今回のこの本の中ではもっと
も高い評価を得るだろう。
 それだけに―惜しかった。
 彼の努力が、恐らくは、報われないであろうのが。
「君も書けばよかったのに」
 徹の本を読む私に、部長が心底残念そうに言った。
 ―そう。
 私は今回、小説を書いていない。本当は書きたかったのだが、自制して書かなかった。
 なぜならば。
「……徹が書いてますからね」
「ん? どういうことだい?」
「いえ―なんでもないですよ」
 適当にはぐらかし、私は胸ポケットをまさぐり、そして舌打ちする。そこに煙草はなかった。
部長は吸わない人間なので、貰うわけにもいかない。今から買いに行くのも面倒だった。
 何かを咥えていないと、口が軽くなって困る。
 意識して私は話さないように口を閉じた。
 そう、話すべきことではない。
 書くわけにはいかなかったのだ。
『三角・徹』が書いたものが二つあっていいはずが―ましてや、別人の名前でかかれては―
それはまったく違う結果を、まねくことに他ならない。
 それだけは、避けたかった。
 ああいうものに深入りする趣味は、私にはないのだから。

152:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:22:52 7Iqx920E
「話は変わるのだけれど」
 口を閉ざした私を慮るように、部長は自ら話題を変えた。
 が、変わった先の話題は、私にとっては、あまり変化していないものだった。
「最近、徹を見ないんだが―君、知らないかな。あいつ、講義にもきてないみたいなんだ」
「……ふうん」
 気のない返事を、私は返した。
 もちろん、そのことを、私は知らなかった。
 もちろん、そのことを、私は予測できた。
 両方の意味をこめて、適当な返事を返し、私は想像する。
 今、三角・徹がどこにいるのかを。
「大方、修羅場なんでしょう」
 揶揄するように言うと、部長は苦笑いを浮かべた。
「締め切りはまだ少し先だよ」
「良いものを書くためには、缶詰になる必要となる場合もあるということですよ」
 言って、私は立ち上がる。暑いのは嫌いだが、これ以上話を続けたいとは思わなかった。部長
は不思議そうな顔をしたが、私を引きとめようとはしなかった。その潔さが気に入ったので、私
は一つだけ、部長へと手助けをだす。
「部長。果敢那は部室にきていますか?」
「いや―彼女もきていないけれど、どうして?」
「いえ、特には」
 それだけ答え、私は教室を抜け出して、暑い外へと脚を踏み出した。

153:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:31:04 7Iqx920E
 教室の外は想像以上に暑くて、扉を開けるだけでむっと熱気が襲ってきた。ただ立っている
だけで汗が流れてくる。しかし、湿っぽい気持ちの悪い暑さではない。本格的な夏が間近に迫
ってきている証拠だった。
 あの日と同じように、木陰ではなく、日向を歩きながら私は想像する。
 三角・徹のことを。
 そして果敢那のことを。
 確かに―嘘偽りなく、三角・徹の書いた小説は面白かった。今回の本の中で最も面白く、
今までに彼が書いた作品の中で最高のものだった。それは自他ともに求めるだろうし、徹は
そういうものを書こうとして、見事に書きあげたのだろう。
 果敢那に気に入ってもらうために。
 果敢那を自分の手元に置き続けるために。
 最高傑作を―書き上げた。
 けれど。
 それでは、駄目なのだ。
 問題はレベルではなくクラス。技巧ではなく属性なのだから。
 果敢那という少女が恋していたのは、
 君ではなく、
 君の作り出す小説でもなく、
 あの日、『あの即売会で読んだ三角・徹の小説』なのだから。
 だから。
 君がどんなに傑作を書き上げたところで、
 果敢那は、決して満足はしないだろう―

 ―ポケットに突っ込んでいた携帯電話が、無言でメールの着信を告げた。

「…………」
 振動するそれを、私は取り出す。誰からのメールかは、想像するまでもなかった。着信欄には、
想像していたとおりに、『三角・徹』の文字があった。
 携帯を開き、メールを読む。題名はなく、本文に、簡素に内容が書いてあった。
『書いてくれ』
 たった五文字の、SOSだった。ついに根をあげたな、と私は思った。
 彼は今頃―どこかで。彼の部屋か、彼女の部屋で。今までずっと、小説を描いていたに違いない。

 彼女が望む小説を書くことができるまで、ずっと、書かされ続けていたに違いないのだ。

 私は左手だけで携帯を操作し、徹にメールをかえす。題名はなく、本文の欄に簡素に書く。
『自分で書け』
 五文字で返して、私は携帯の電源を切る。
 木陰を歩いて、煙草を買いにいこうと、そう思った。


154:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:44:55 7Iqx920E

 ……とまあ、ここで唐突に、お話は終わる。
 当事者たちは私の付き合いきれない遠い遠い彼岸へといってしまった。其処に辿り
つけるのは、常人ならざる者たちだけなのだろう。
 だから、もはや語るべきことはそんなに残っていない。あの時にメールの返事次第では
また別の展開へとなっていたのだろうが―そうはならなかった。
 その時点で、このお話は、終わりを迎える。
 その少しばかり語れることを、ここに語っておこうと思う。後日談のようなものと捉え
てもらって構わない。
 彼と彼女が、どうなったかということだ。
 三角・徹との交遊はなくなった。私は彼のアドレスを携帯から消したし、彼から二度と
連絡はなかった。ただし―一度だけ、彼の姿を見た。
 七月の、一番暑い日だった。
 炎天下の中、コンクリートから湯気が立つような暑い真昼に、私は蜃気楼のように彼の姿を
見た。夢遊病者のように歩く、面影がかすかにしか残らない、死人のような三角・徹を見た。あ
まりもの変貌ぶりに、声をかけることすらできなかった。
 彼は、私に気付いていなかった。
 否―
 ガラス球のように透明になった彼の瞳には、何も映っていなかった。彼は何も見ずに、ふらふらと、
ふらふらと、ふらふらふらと、どこか遠くへ去っていった。
 彼について、語れることはそれだけだ。私はそれ以降、彼の姿を見なかったし―他の誰も、徹の姿
を見ていない。それが、最後の目撃だった。
 そして。
 私は手元にある、八月分の冊子を開いた。ぱらぱらと頁をめくると、ある一点で視線が停まる。
 そこには、こう書かれている。

『題:ある愛の話   作:三角・徹』

 いなくなってしまった徹の名で、小説が書かれている。私はそれを読む。幾度となく
読んだそれを、もう一度読む。何度読んでも、何度読み直しても、そこに書かれている中身は変わらない。
 小説だ。
 紛れもなく、それは―四月のような、五月のような―私が三角・徹の名で書いた小説と、同一の存在
だった。
 三角がいなくなった今も、毎月のように、『三角・徹』の小説は冊子に載っている。私の書いた徹の小説が、
私の知らないうちに冊子に載っている。
 ―小説は、手で書くものだ。
 夏の日に出会った徹は、両腕が肘の先から消滅していた。切り取られたかのように。
 あの部室で、果敢那は、徹の手を愛しそうに握っていた。小説を書く、徹の手を。
 あとは、蛇足だ。
 物語は、ここで終わる。終わらざるを得ない。もはや私も、徹も、当事者ではない。
 彼女は、彼女で完結している。
 少しばかりゆがんでいて、おぞましくて、奇妙でも。

 ―彼女は、彼女の望む愛情を得たのだから。

END

155:作者 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:48:00 7Iqx920E
第三者から見た病んだ愛情な話でした。

と、間があいた上に短いですが、『いない君といる誰か』の本編投下。
本当は間をあけるならここまで投下しておきたかったのですが……ごめんなさい

156:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:49:28 7Iqx920E
■いない君といる誰か資格

『・ハンプティとダンプティ

 たまごは決して大きくなりませんでした。
 周りの木々が大きくなっていく中で、卵だけはずっとそのままでした。
 なぜってその卵は、生まれてしまったことをずっと後悔していて
 塀の上から飛び降りることもできずに、ずっとそこに座っていたのでした。
 その卵には、目も鼻も口もついていたけれど、
 笑うことも泣くことも怒ることもありませんでした。
 ちょっとだけ皹がはいった顔で、ただそこに座っているだけでした。
 卵の顔には、白い文字でこう書かれていました。

 ハンプティ・ダンプティ。

 四千人の兵隊でも元には戻せない卵は、
 けれど臆病すぎて、塀から飛び降りることを拒んでいました。
 そんな彼を見て、アリスは言いました。
 ―臆病者。
 そうかもしれないね、とハンプティ・ダンプティは答えました。
 私は臆病者だ。きっと臆病者だろうし、ずっと臆病者だ。
 そんな彼を見て、赤頭巾は聞きました。
 ―逃げないの?
 逃げてきたのさ、とハンプティ・ダンプティは答えました。
 私はずっと遠くから逃げてきて、逃げた果てに此処にいる。
 そんな彼を見て、ピーターパンは笑いました。
 ―此処は君の場所じゃないよ!
 そうなのだろうね、とハンプティ・ダンプティは頷きました。
 ここは子供たちの楽園で、老いた私のいる場所じゃないんだ。
 そんな彼を見て、シンデレラが問いかけます。
 ―なら、如何して貴方は此処に?
 その問いに。
 ハンプティ・ダンプティは、そのひび割れた顔を、かすかに動かしました。
 笑っているような、泣いているような、はっきりとしない、
 今にも割れてしまいそうな、そんな表情で、ハンプティ・ダンプティは答えます。

 ―卵の中身は、まだ新鮮だろうからね。

 そのとおりでした。
 その言葉のとおりでした。
 ハンプティ・ダンプティは壁の上から飛び降りました。
 長い時間をかけて、高い壁から飛び降りました。
 幸せそうに飛び降りて、幸せそうに地面に粒かって、幸せそうに砕けました。
 四千人の兵隊でも、もとの場所には戻せません。
 王さまの力でも、もとの姿には戻せません。
 けれど。
 けれども。
 割れた卵からは―彼の言葉のとおりに、新鮮な中身が飛び出ました。
 中身は二つでした。中には、二人がいました。
 アリスはこういいました。
 ―この子の名前はハンプティ。
 すかさずピーターパンがこう答えます。
 ―じゃあ、この子はダンプティだ。
 そうして。
 ハンプティ・ダンプティは堕ちて砕けて。

 ハンプティとダンプティの双子が、そのお茶会に加わったのでした。』

157:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:51:33 7Iqx920E
 絵本を読み終えて。
 僕は、そっと本の頁を閉じた。裏表紙には割れて砕けた巨大な卵と、中から生まれてきた二人の子
供が手をつないでいる絵がかいてあった。一番下には、筆記体で作者名が綴られている。
 ―ハンプティ・ダンプティ。
 それ以外には、何も書かれていない。出版社も、値段も、書かれていない。
そもそも絵本は本屋で売っているような立派なものじゃなくて、いかにも手作
りといった雰囲気が作りからもにじみ出ていた。よく見ると―そもそも文字
や絵は、印刷したものじゃなかった。
 直接書かれたものだった。
 この世に、一冊しかない、本。
 その本を机の上において、僕はもう一度、部屋の中を見渡す。扉の向こうには荒れ果てた如月更紗
の家。荒れ果てた家の中で、この部屋だけが守られているかのように荒れていない。窓にはレースの
カーテンがかかっていて、二段ベッドは天井からつるされたヴェールのようなもので覆い隠されてい
る。大きめのクローゼットが部屋の両端で存在を主張し、床には赤いカーペットがしかれていた。広
い部屋は少女趣味な小物で満ちていて―正に、女の子の部屋だった。
 死体が転がってもいないし、血痕が残ってもいない。
 如月更紗の、部屋なのだろう。
 この家にあるのは部屋だけで、それ以外には生活感はなかった。人の住める家じゃない。ただの荒
れ屋だ。それこそ、四千人の兵隊がいたとしても、この家を下に戻すことはできないだろう。
 死んでいる。
 死に果てた、場所だ。
 もう一度、
 もう一度、僕はぐるりと、部屋の中を見回す。
 死体が転がってもいないし、血痕が残ってもいない。
 如月更紗は、此処にはいない。
 下の冷凍庫には、彼女の母親の、生首が入っていた。
 思う。
 僕はようやく、そのことに思い至る。

「……あいつの―父親は?」


158:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:52:26 7Iqx920E


 窓の外ではいつのまにか陽が堕ちてきていて、降り込む陽光は紅くなっていた。紅い光が、赤い部
屋を紅く染めていく。
 探している時間はない。
 あいつの父親『だったもの』を、探す時間はないし、探す意味はない。そもそも、生きているとは
思わなかったし、此処に『ある』とも思わなかった。
 多分、
 この絵本が、想像通りの代物ならば。
 如月更紗の父親は―

「…………」

 それ以上、考えることを僕はしなかった。
 今は、考える時間じゃない。
 動く時だ。
 僕は一度机の上に置きなおした本を、持ってきた鞄の中に放り込む。代わりに、鞄の中に入っていた
魔術短剣を取り出しやすい位置に直す。ここから先はもう、常に臨戦態勢であったほうがいい。
 如月更紗は言っていた。狂気倶楽部は、日常からかけ離れた場所で動くのだと。
 夜は、その筆頭だ。ここから先、何時何が出てきてもおかしくはない。
 覚悟を、決めなくてはならない。
 僕は鞄を持ち、最後にもう一度だけ部屋を見渡して、
 外へと、出た。
 振り返ることなく、外へ。如月更紗の部屋を抜け出して、如月更紗の家を抜け出して、振り返ることなく、
夕暮れに染まる道をまっすぐに向かう。
 彼女の待つ、学校へと。
 すべてを―終わらせるために。



 そして、夜が来る。



159:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:55:03 7Iqx920E

 以上、終了です。
 伏線全部張り終えてあとは回収しつつラストシーンです。


160:名無しさん@ピンキー
07/07/08 01:55:55 35vascqh
>>159
あなたと同じ時間に巡りあわせた狂気の神に感謝

161:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:08:32 FZKvuD5l
目の前の目障りな害物へのあくまでも正当なけじめ、としてスタンガンの電撃を与えよう、そうすれば少しは反省して松本君の気苦労も軽減されるだろうと思い、
自分のこの報復の成功を信じて疑わなかった。
しかし、その矢先、私が害物のスタンガンを掴み取ったように、私は父にこうして愚かにも、スタンガンを取り上げられてしまったのである。
咄嗟のことに私は壊れた人形のように呆然としたまま、父のなすがままにスタンガンは取り上げられ、その物騒な装置のスイッチを即座に切られた。

父の目はいつものように陰のある目であり、どこか取り澄ましたような目をしている。
何事に対しても動じない父は、私の害物への報復を見て何と思ったのかしら?
娘が知らない女の子に対して凶行に及んでいる。悪くすると、殺そうとしている、そんな風に取ったかもしれない。
確かに、それを物語るように父の黒褐色の静やかな目からは、心なしか正反対の確かな憤りと悲しさを感受できた。
しかし、それは私に対して昔から無関心な父親故の誤解というもの。
私は、単にけじめをつけようとしただけなのだから。
白黒はっきりさせ、それなりの処遇を施すことが悪いことだというならば、何をもって、世の中の正邪の区別をしそれを正すというのか。
だから、父の突然の闖入は無粋でナンセンスなものであって、私にとっても憤りを感じるところ。

162:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:09:47 FZKvuD5l
それなのに、父は私が悪いと思っているので、私の双眸に向けた目をそこから離さずにいた。
父は何も声を発していないのだが、そのまま話す以上に雄弁に目が語っていた。

謝って済むことでないが、早く彼女に謝りなさい、と―。
そして、何があったのか逐一、自分に話をするように、と―。

私にとっては、そんなことは歯牙にもかけない事。
なぜなら、私は松本君と私自身の幸せが最重要であって、それ以外のことは二の次で十分だと思っているからだ。
だから、今回も松本君のためにこの行為に出た訳であって、行為そのものに罪悪感とか良心の呵責とかいった物は感じない。
恐ろしさのあまり腰を抜かしているのか、あまりに突然の出来事と緊張の緩和からか、害物は気の抜けた顔でただ茫然自失としているのみであった。
そのため、誰一人として語を発するものがないという、異様な沈黙が生まれた。

その沈黙を破ったのは意外にも悠然とした態度をとっていた父だった。
「時雨、そのように黙っていたのでは何も物事は進まないものだよ。きちんと私に分かるように何があったのかをまず話しなさい。」
それから、父は視線をぼんやりとしてしまっている害物の方へとやり、君からも話を聞くので不公平はなく聞くつもりだよ、と安心させるような口調で優しく言った。
いつも、いつものことだが、父はこういうときだけ実情を知らなくて、問題を余計にややこしくするだけだというのに、訳知り顔で、父親ぶった行動をする。
それでも、きちんと話せば私が悪くないことを証明できるだろうか。
答えはダウト、などと松本君がいたら突込みを入れてくるところかもしれない。
別に父に理解してもらおうとは思わないが、私は父に今の事を話すことにした。

163:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:11:46 FZKvuD5l
私の前で娘が今あったことの一部始終を話し出した。
私はその突起の穴から伸びている紐を腕にかけて、手のひらの中に銀白色の光沢が生々しい、
スティック状のスタンガンを確かに自分が保有していることを確かめるかのように、しっかりと抑えながら、娘の話す内容に耳を傾けた。
今日、私のすべき仕事自体は午前中に終わり、長らく無沙汰であった大学時代の友人から連絡があったので、
少しばかり話をしていたのだが、彼に急な用事ができ、すぐにお開きとなってしまった。
その彼の住んでいるという家は娘の学校の近くにあり、ここの学園長とは私の義父の友人であったことから、
今でも時折、会っては歴史の話をしているのだが、その例に漏らさず、学園長に会うためにやってきたが、今日は学校に来ていないようで、
何をするわけでもなかったのではなかったのだが屋上に出ようと思った。
そこで、私は時雨の凶行を目にした訳である。
しかし、それにはやや語弊があって、正しくは私は短いブロンドの小柄な少女に相対するような長身長髪、
黒髪のわが娘とが舌戦を繰り広げているところから、言ってしまえば最初から静観していたのだった。
だから、全ていきさつは知っており、最初にスタンガンを取り出したのは小柄な少女の方だということは知っている。
はじめにその少女が凶行に出ようとした時に止めに入ろうとしたが、すぐさま娘がスタンガンを取り上げてしまったので、止めに入る必要性を感じず、そのまま静観していた。
そして、その静観を破ったのは娘が凶行に出ようとしたからであった。
だから、正しく何があったかは私は完全に理解しているのだ。
その上で彼女らのあったこと、を話させて解決しようというのは角が立たないようにし、彼女らを一番納得させることができる、そう読んだからだ。


164:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:13:02 FZKvuD5l
やや落ち着いてきたのか、朧気だった意識が明晰さを取り戻しつつあったブロンドの少女は時雨の話す内容を耳をそばだてて聞き、
彼女からすれば不公平に感じることがあったのだろうか、目には怒りの色をたたえていた。
それから、平板な印象の強い時雨の形式的な説明が終わると、怒りに満ち満ちた表情のブロンドの少女に落ち着いて話すようにと、
落ち着いて、というところを強調して促した。
人は皆大なり小なりとも、嘘をつくものだ。だからといっては私は取り立てて、嘘が悪いと声高に叫ぶこともないし、そう思いはしない。
というのも、嘘をつくことは自分に対して正直であると私は考えているからだ。
だから問題の解決には第三者の視点から見た主観の入っていないものが一番合理的に思える、が、この場合はそうではないのだ。
実際に二人に言いたいことをまず完全に言い切らせることで、一定の満足を与える。
それが問題解決に思わぬ効果を与える。
また、このブロンドの少女が何者か解らなかった私にとっては、彼女らの説明を聞くことで一層状況を深く把握できるという効果もあるのだ。

165:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:14:07 FZKvuD5l
さて、このブロンドの少女、松本理沙と私の娘、北方時雨の双方の意見を聞き、彼女らの争いは例の松本君に起因している。
幸いにも今回誰も外傷を負ったものがいないわけなので、極端にどちらが悪いということは言い切ることができなかった。
また、松本君自身の病状を考えたならば、松本君がどう思うのか、精神的ダメージについて考えるようにいい、その病状を根拠に彼を安静に休ませてやるように合意させた。
具体的には完治するまで、理沙と時雨を松本君に会わせない、という方針を提案した。
流石にこれは逆効果かと思ったが、なんとか説き伏せて共に認めさせる事に成功した。
喧嘩両成敗という形をとり、何とかこの問題を解決できそうだ。
後は時雨自身ともう少し対話する機会を設けて、何とか松本君に私と同じ目にあわせないように努力してみることにしよう。




北方利隆は自身がこの問題を仲介し、自己の力で解決へと導けると信じて疑わずにいた。
ここで喧嘩両成敗という方針を採ったことで松本理沙、北方時雨の両名から恨まれる結果となるなどと、予想だにしていなかった。
北方時雨が所持する本では髪長姫の行く末を案じた優柔不断な彼女の父は結果的に皆から恨まれ、無残にも全員から惨殺の目に遭って死ぬ、そう綴られていた。
また、面白いことに彼女の妻もこの殺害に加わっていたのである。
彼女は言う―愛するが故に殺したのだ、と。


166:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:14:58 FZKvuD5l
今日は綺麗な夕焼けが拝めるか、などと思っていると、急速に墨をこぼしたように暗雲が立ち込めてきた。
それは予想通り雨雲であったようで、激しい雨を降らせていく。
先程までの良いお天気もどこへやら、流石は梅雨の時期だけあるなどと、無駄に感心してしまう。
医者の話だと一ヶ月以上はこの脳細胞のゲシュタルト崩壊機能を目玉とする病人収容所に無料で
(いや、北方家が払ってくれるとか、何とからしい。それを聞いて親は一文も払う気がなくなったらしい。薄情め。)入所、体験実習できるらしい。
しかも、それだけでも腸をえぐられるような高邁な満足感があるのにも関わらず、平安貴族向けですか、
と子一時間問い詰めたくなるようなすばらしく高雅な味付けの楽しいお食事が三食付いて、寝ることが仕事、
という更なる鉛のような、真鍮のような、そんな金属とか言っても非金属だったり、単に比重が重いだけのお得感。
……妙に皮肉が浮かんできたので脳内でそれを紡いでこんな風に継ぎ合わせてみたが、いや、我ながらナンセンスだ、はは。
いや、笑えない、笑えない。


167:名無しさん@ピンキー
07/07/08 02:15:03 Qq/vzm6U
>>159
GJ!起きてて良かった

168:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:15:48 FZKvuD5l
昨日はかなりの時間を北方さんの本を読むことに費やしていたが、今日はその本をそこまで長時間読んでいなかった。
北方さんが今日見舞いに来てくれる、そう一昨日に言ったのだが、その指定された時刻を大幅に過ぎても彼女はやってこないので、さっきから心配しているためである。
しかし、彼女にも用事というものがあるのだろう。急にできた用事のせいで僕のところに来れなくなった、ということがあってもそれは不思議なことじゃない。
そうこうしている内に、夕食が僕だけしかいない味気ない病室に妙に優しい看護婦さんの手によって届けられ、それを食べているうちに面会時刻は終わってしまった。
あれほどずっと傍にいた彼女が急にいなくなると、その寂しさが際立ってしまうものだ。怪我をして、こうして一人でいる時間が長いからか、なんとなく心細く感じる。
塩気が完全に抜けている味気ない鮭の切り身をいくつかに箸を使って分けて、その一切れを口にしながら、監獄に不似合いに取り付けられた一つだけの窓から外を眺める。
目を醒ました一昨日から時折眺めてきた、その窓だ。
外では、ざあざあと大粒の雨粒が音を立てて狂ったように踊っている。


169:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:17:36 FZKvuD5l
そういえば、あの時もこんな陽気の日だった。
初夏の蒸し暑く晴れていた日、僕は珍しく体調が良くなった日が続いていた妹を連れて、近所の散歩をしたり、近くの公園へ遊びに行ったりした。
理沙は一時期かなり病弱で、入退院を繰り返し、家にいるときでさえ、寝たきりでいる時間のほうが長かった記憶がある。
そんな中、体調が極めて数日の間優れていた日があった。小康状態が時折訪れることはそれまでにはたびたびあったのだが、
そのときはそれまで以上で、医師ですら、狐につままれたような表情でもう少しで完全に治るなどといっていた。
そんなことがあって、僕は病院以外の理由ではめったに外に出ることがなくなっていた、理沙をその体調がいい日に連れ出して、
近所を散歩したり、公園へ連れて行きごく普通の子供ならば、普通に親しんでいるブランコに乗せたり、砂場遊びをしたりした。
皆、僕と同世代の子供たちは見慣れぬ妹の存在を物珍しげに遠くから眺めてはいたが、誰一人として理沙に話しかけてくるものなどいなかった。
僕以外の誰もが無視をしていることに気づいた理沙は時折涙を見せていたことがあった。
僕だけが理沙と話をして、家とは違った遊びに興じる、そういう構図に理沙自身が満足しつつあったとき、悲劇は起こった。
ひどい喘息の発作が起こり、僕は救急車を手配し、親に連絡を取った。幼心に妹が死んでしまうという恐怖心に震えていたことを覚えている。
病院へ運ばれた理沙は緊急手術を受けることになり、他の子が幼稚園を卒園するくらいまでの間ずっと、病院に入院するか、常に薬を常用しているかしていた。
思えば、理沙は病弱だった幼少期、こんなに閉塞感にさいなまれながら闘病生活を続けてきたのだろう。
どれだけ、心細かったことだろうか。それに対して、僕はその理沙に対してどれだけ力になってやれたのだろうか。
そもそも、僕が理沙を無理に連れ出すことがなければ、こんなことになっていなかったのかもしれない。
それは、そのままにしていても小康状態が終わり、このひどい発作が発生していたことも考えられるが、あまりに関係があるように感じられてならない。

170:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:19:04 FZKvuD5l
そういえば、入院して以来、理沙の顔を見ていない。
あの子は確かに北方さんの自転車に細工をして、この僕が負っている傷を北方さんに与えようとした。
しかし、それは僕が自分の単なるうぬぼれに過ぎないかもしれないが、あの子の不安感や恐怖心を取り除く唯一の光であり続けたのに、
急にここのところ、北方さんといろいろと接近して、あの子のために時間を割いてやることが少なくなったのが原因なのだ。
理沙のことだから、当然、僕に対して不平不満を面と向かって漏らすようなことはしないだろう。

今になって考えてみると、理沙はかまって欲しいというサインを明らかに発していたと思う。
第一に、いつも学校に行く前に遅くなることを事前に言わなければ、必ずすぐに帰ってきた僕が、理由も言わないまま遅く帰って、
一緒にお風呂に入ろう、そう提案してきたとき。
第二に、僕が昼食を北方さんととっているときに取った理沙の不愉快そうな態度。
第三に、理沙が一緒に帰ろうといってきた申し出を面前で断って、北方さんの家に行ったこと。
特に、このときのサインを気づかずに、正しくは心のどこかでは、気づいていたのかもしれないが、
完全に理沙か北方さんかという、二択において拒絶してしまったことが大きかったのかもしれない。

少し考えるだけでもこれだけのサインが浮かび上がってくるのだ。
勝気な彼女は人前で悲しそうな顔をするだろうか。
いや、しないだろう。そういえば、あの北方さんの家の車に乗せてもらって帰ってきたとき出迎えた理沙の表情は笑っていなかっただろうか?
堤防を決壊し、勢いよく溢れ出てしまいそうになる感情を押し殺しながら笑みを作ったのかもしれない。


171:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:19:52 FZKvuD5l
北方さんを確かに僕は愛しているつもりだ。現に北方さんも僕のことを愛してくれているだろう。
彼女の暗い過去を受け止め、共有し、それを忘れてしまうような楽しい日々を一緒に送れたらいかに満足なことか。
彼女自身も僕と過ごす日々が楽しいと言ってくれた。また、彼女のお父さんも僕の存在を認めてくれたのだ。
でも、これだけの好条件が揃いに揃っていたとしても、今の僕の立たされている状態は順風満帆ではなかった。
問題はいくつかあって、曰く、北方さんを理沙よりも優先させることは理沙を明らかに破滅させる。
二に曰く、理沙を北方さんよりも優先させることは北方さんを完全に破滅させ、最悪の事態どんなことが起こるかわからない。
そう、この問題はアイロニーなまでに典型的な二律背反。アンチノミー。こんな選択をすることができるわけがない。
さらに、心のどこかでは未だに何とかなるのでは、という淡い期待を抱いている自分がいるようで、その自分がこの選択をさせないようだ。

172:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:21:33 FZKvuD5l
コンコンと、病室のドアを叩く音が味気ない病室に響く。
どうぞ、と入室を許可してから、視線を開扉されたドアにやると、そこには年の割りに白髪が多く黒髪に交じり、瀟洒なスーツを着ている男性が立っていた。
北方さんのお父さんだ。

「松本君、君は私のことを覚えていないかもしれませんが、北方時雨の父、北方利隆です。」
「いえ、北方さんのお父さん、だとしっかりと把握しておりますが。」
北方さんのお父さんがいったい何のようであろうか、と咄嗟に何か理由となりそうなことが脳の引き出しの中から見つからず、率直にそう思った。
「……今日は、時雨が君を見舞いに来ることになっていたと思うのだが……」
「確かに、今日は…そうですね、一時間半ほど前までにはこの病室に来るということになっていました。」
目覚まし時計の今の時刻を確認した上で、そう答えた。
「そうですか、それで時雨からは何か君に対して連絡は来たのかね。」
「いえ、来ていません。」
「………そう、だったか。」
連絡が何も来ていないことを手短に相手に伝えると、驚きを隠せないといった表情で応答した。
「娘には自分で君に説明するように、と言ったのだが…」
あの賢く合理的でそつなく物事をこなす、あの北方さんが連絡しないというのは何かあるのかもしれない、
そう直感的に動物的感覚に近い何かで感じ取った。
いったい、その何か、とは何のことだろうか?
しかも彼女自身が言い出しにくいこと、敢えて強めて言うならば、僕に聞かせたくない言葉、となるのだろうが皆目見当がつかない。

173:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:23:10 FZKvuD5l
「……どんなことを説明するのか皆目、僕にはわかりません。」
「そうだった、君自身が考えても、何を時雨が君に説明しなければならないか、それは理解できないはずだね。」
「単刀直入に言ってしまうと、君の身体が治るまで時雨には君に会わせないようにしたというところである。
また、君に対して指図するようで申し訳ないが、体調が良くなるまでの間は時雨に会わないでやってくれないだろうか。」

あまりのことに絶句した。

何を説明するのかと思えば、唐突に北方さんと会わないでくれ、という発言。
一体どういうわけでそうしなければならないのかわからない。北方さんのお父さんが言うことなのだから、
何らかの謂れがあるのだろうが、これを北方さんに説明しろ、というのはあまりに酷な注文だ。
いつだったか、北方さんは自身の父に対して、不平を漏らしていたことがあり、それどころか嫌いであるとまで言い切っていた。
今のこの発言で、彼女がそのような感情を父に対して抱く理由が理解できたと思う。
そう思っていると、僕のその心境を深く考えるまでもなく、すぐに察したらしく本当に申し訳なさそうな顔をしながら、口を開いた。

「あるときは傍にいてやってくれと言ってみたり、また今は離れていてくれと臆面もなく言う。
それがいかに、得手勝手で、厚顔無恥なことであるかは、私自身が一番、一番理解しているつもりだよ。」
「だがね、事は差し迫っているのだ。君が事故にあってから、一週間と経過していないのだが、こんなにも問題が大きくなってしまうとは思わなかったのだ。
どうか、この状況を理解してくれないだろうか。」

174:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:24:57 FZKvuD5l
そこで、問題が大きくなった、という句にかかる箇所があって、そこに関して質問をしようと思ったのだが、もう北方さんのお父さんにはそれを意に介する為の余裕がなくなっているらしく、
そのまま話し続けてきた。
「……君は私が君を嫌っているという風にとったかもしれないが、それは違うとはっきり言っておきたい。
寧ろ、君は昔の僕と似ているような気がしてならない。だから、お節介だと知りつつも、余計なことに手出しをしてしまうのだ。」
「僕が、あなたに、ですか?」
「そう。だから、君に私が味わったような思いをさせたくなくてね。このままでは、君は私が味わった苦痛、耐え難い理不尽な不幸の連続、それ以上の苦しみ、
言ってしまえば煉獄の苦しみを味わうことになってしまう。それだけは私は絶対に、避けたいのだ。」
必死な僕に対する態度から、単に僕と北方さんの関係を嫌悪した故の行動とは割り切れないものである、むしろ異質なものであることがひしひしと伝わってきた。
しかし、一向に解せないのは、そもそも僕が置かれているという大変な状況、という奴である。
「解りました。北方さんのお父さんにそう言われては、当然、従わないわけにはいきません。」
「どうもありがとう。私が言っているのは滅茶苦茶で身勝手なことに他ならない。それなのに、本当に申し訳ない。
ただ、申し訳ないついでに一つ勘違いして欲しくないことは私自身の意見としては時雨と君の関係を肯定している、ということだ。本当にこれだけは信用して欲しい。」
「はい、それに関しては僕も理解しているつもりです。しかし、確認しますが、僕が病院を退院したならば、これまで通り北方さんと付き合ってよろしいですか?」
「時雨があれほどまでに信用するのは君だけだ。だから、君は時雨の傍に極力いて欲しい。だから、当然それは許すつもりだよ。」
「それともう一点ですが、僕自身、その大変な事態、というものがいまいち理解できていないのですが、細かく説明してもらえますか?」

175:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:26:43 FZKvuD5l
それから、昨日の放課後に起きたことの一部始終が語られた。
正直なところ、理沙が北方さんを呼び出して、襲おうとしていたことに驚きを隠せなかった。
これによって、未だに女々しくも自転車事故は偶然の産物だなどと観測的な考えを滅しきっていなかったのだが、
これで完全に理沙によるものだと理解した。
が、それと同様に驚いたのは、北方さんもその取り上げたスタンガンで理沙に対する害意を持ったということである。
やはり、理沙に対しては今までのサインに気づいてやれなかったことが大きかったのだろうか。
このままでは、本当に大きな傷を作ってしまうことになりかねない。そもそも、理沙が北方さんを襲うことがなければ、
北方さんも理沙に対して攻撃しようとしなかったような気もする。
そうすると、やはり僕は理沙に対する接し方を大きく誤っていたのだ。
もし、そうだとしても今回は誰にも死傷者は出なかったのだ。
二度の理沙の暴走の結果、結局のところ、痛い思いをしたのは僕だけだった。

176:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:27:35 FZKvuD5l
見方によってだが、言ってしまえば、これは三つのさいころが同時に全て、六の目を出したかのような幸運であるというべきかもしれない。
もっと具体的に述べるなら、まだ理沙ときちんと向き合って、問題を解決する為のチャンスがあるということだ。
その機会を活かさなくて何が幸運だ。
常々、不幸は幸せの三倍多い、などと言っているのだから、ここで幸運を活かさなくてどこで活かすというのだろうか。
幸いにも、北方さんのお父さんは理沙に会うことも禁じる、とは一言も言っていない。今度、この病室に理沙を呼び、きちんと話し合う機会を作ろう。
いまさら何を言っているのかと自嘲的に思ったが、兄として、少しでも理沙の暴走をきちんと清算しなければならないと思う。


177:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:28:48 FZKvuD5l
話そうとした全ての話を全て語り終えて、自分の娘と松本弘行を彼自身の体調が回復するまで、会わせない、
という条件を呑ませた北方利隆は病室を後にした。
強酸のような濃密さの短時間で、自分の望むように話をつけたことに満足し、
肩をなでおろしていてもおかしくない状況だったが、利隆の表情はどこか空気の入ってしまった氷のようにくもったもので、
どこか浮かない表情だった。

その暗い表情の理由はごく簡単なことに起因している。彼は自身の娘である時雨と松本理沙の二人の調停をした際の約束の一つ、
一つであったが非常に重みのある一点において、約束を松本弘行に伝えず、違えようとしていたのだ。
その約束とは、北方時雨を納得させるために見繕った条件である、時雨が松本弘行に会わない間は、妹である理沙も兄に会わないで、
静かに完治するのを待つように、という条件であった。

利隆は仲介時の理沙の態度や思考といったその場で咄嗟に判断できる事柄から、約束を確実に反故にする、
また、実は実の娘である時雨以上に暴走する可能性があるのではないか、と踏んだのだった。
対して、時雨の場合、この条件に関しての松本弘行の同意があったならば、すぐに従うであろう事は今までのことから予想できた。

178:和菓子と洋菓子
07/07/08 02:29:40 FZKvuD5l
このことを活かして、利隆は弘行に理沙と極秘裏に、少なくとも時雨に伝わらないように会わせ、理沙に暴走に関して反省させ、この三角関係とも呼べなくなりつつある、
異常な状態にピリオドを打とうと画策していたのであった。
しかし、実の娘である時雨に毛嫌いされ続けながらも、父として娘に父らしいことをしたいと思っていた利隆にとっては、再び娘を欺くことは大きな苦痛であったようである。
夕立のように短い時間の内に降り終るであろう、と思っていた雨は、上空の黒雲が大粒の雨粒を降らせている為、未だに止みそうにない。部下を使って車に乗ることなく、
行きは傘をさしながら歩いてきた利隆であったが、帰りは傘をささずに、暑さと対照的に冷たい雨に瀟洒なスーツが濡れることを厭わずに、ただ雨に身を任せていた。
しかし、それが不快なものと感じることがないようで、自宅に繋がる道を暗闇の中、ただ歩を進めるばかりであった。
頬を雨粒が伝い落ちていく。しかし伝うものは雨ばかりでなかったようだ。

179:名無しさん@ピンキー
07/07/08 02:32:46 FZKvuD5l
>>159
GJ!それと、直後に投下して申し訳ないです。

第10話でした。
最近、かなり忙しいので、不定期になるかもしれませんが、いずれ、また。

180:名無しさん@ピンキー
07/07/08 05:51:40 Q/YrA/+K
起きたらキテター!

>>159
待っててよかった!
久しぶりに更紗分を補給……まだ先か(´・ω・`)
でもラストに向かってwktkが止まらないぜ。

短編もGJ!
でも語り手は男女どちらなんだろうか?
個人的には女の方が萌える状況なんだけど。

>>179
苦悩する親父さんいい人なんだが
死亡フラグが……
まあ普通に善人なキャラに不幸が降りかかるのは
このスレではデフォかw

181:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/07/08 07:37:05 e3g7TlOW
投下します。16話です。

182:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/07/08 07:37:47 e3g7TlOW
第十六話~犯行の動機~

 まぶたが重い。
 上下のまぶたが糊でくっついているようにべとべとする。
 服の袖で目をこすり、目やにを取り除く。
 少しだけ軽くなった目を開けると、白い袖が見えた。
 袖口から離れた位置には薄いブルーの横線が入っている。
 腕を下ろし、目線を自分の胸元へ。
 そこで飛び込んできたものもまた白だった。
 俺の部屋にある掛け布団のカバーは、あまり洗っていないせいでくすんだ色をしている。
 とてもじゃないが、今体の上にかけられている布団のような純白とは程遠い色だったはずだ。

 違和感を覚えつつ、視線を上へ向ける。
 天井が見えた。またしても白。合板の継ぎ目の色が違うせいで、そこだけが浮いていた。
 首を左に傾けると、閉め切られている窓が見えた。
 窓の向こうには、電信柱があって、その向こう側には曇り空が広がっていた。
 雲は幾重にも重なっていて、日の光を通していない。
 寒そうだ。外はかなり冷え込んでいるのかもしれない。
 そう思うとずっとこうやって布団の中に潜り込んでいたくなる。

 だが、それはできない。
 今いる場所が病院だということはすでにわかっている。
 俺はここで眠っているわけにはいかないのだ。
 やらなければいけないことがある。
 十本松にどういうわけかさらわれた香織を助けなければならない。
 そのためには、まず動かなければ。

 体をゆっくりと起こしていく。頭の中を軽い痺れが走った。
 かけ布団を跳ね除け、ベッドの右に足を下ろす。
「おはようございます。遠山雄志さん」
 不意に声をかけられた。視線を床から上げる。
 ベッドの横にスーツ姿で小太りの中年男性が椅子に座っていた。
 男性はジャケットの中に手を入れると、黒い手帳を取り出した。
 手帳を広げると、俺にその中身を見せた。
「県警の刑事課の中村と言います」
「はぁ……刑事さん?」
「はい。あなたの自宅で起こった銃声について、質問をさせてください」
 相手をする気分ではない。
 しかし、相手は刑事。下手な態度をとるのはよくないだろう。


183:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/07/08 07:39:53 e3g7TlOW
 俺は焦る気持ちを抑えて、中村という刑事と向き合った。
「いいですよ。どうぞ、質問をしてください」
「ええ。それでは……あなたが覚えている事件の詳細を教えてください」
 俺は言葉を選んでわかりやすいように説明した。
 刑事は話を聞きながら、手帳にペンを走らせている。

「……なるほど。だいたいの状況はわかりました。
 つまり、その十本松あすかという女性が、あなたの部屋のドアノブに向けて拳銃を発砲したと」
「たしか、6発撃ったと思います」
「鑑識も6発の銃弾を発見しました。それは間違いないです。
 その後、あなたの部屋に忍び込み、あなたとあなたの従妹を気絶させ、女性をさらった。
 お名前は天野香織さん。あなたとの関係は、恋人」
「……はい」
「この、天野さんがさらわれた理由について、何か心当たりはありませんか?」
 俺は何も思い当たらなかったので首を振った。
「よーく思い出してください。どんな些細なことでもかまいません。
 それが手がかりになるかもしれないんです」
「香織と十本松は、お互いの父親が知り合いだったみたいです。
 2人は顔見知り程度の関係で、最近はあまり面識がなかったらしいです」
「ふんふん……他には、何かありますか? 父親同士で確執があったとか」

 刑事から目を逸らして黙考する。
 以前十本松に聞いた話では、香織の父親はビルから飛び降りて死んだらしい。
 自殺か、それとも他殺かはわからないと言っていた。
 十本松の父親は、なんで死んだのかわからないがこの世にはいないようだ。
 そういえば昨日、十本松は俺に父親を殺されたとか言っていたな。
 なんか、前世がどうとかも喋っていた気がする。
 どうせ十本松の言うことだ。
 深い意味なんかないだろうし、それ以前に信用に足るとは言えない。
 もし本当に十本松や香織の父親が死んでいるのならば、警察が調べればそんなことはすぐわかる。
 この刑事に喋る必要はないだろう。

「特に無いですね。2人とも父親を亡くしているらしいとは聞いてますけど、疑わしいし」
「疑わしいと、なぜ思うんですか?」
「事件の犯人から聞いた情報なんか、嘘っぽいですから」
「……ああ、なるほど。それは言えてますね。では、十本松という人物が住んでいる場所に心当たりは?」
「菊川邸に住んでいたみたいです。今はどうか知りませんけど」
「菊川ですか……またやっかいなところが……」

 刑事は手帳をしまうと、椅子から立ち上がった。
「ありがとうございました。あなたの従妹さんとの話と合わせればかなり捜査が進みそうです」
「華にも話を?」
「聞きました。2人とも病院に搬送して、一夜明けた今朝、彼女に話を伺いました」
「……華も怪我をしていたんですか」
「も、ではなく彼女だけが怪我をしていました。あなたはただの脳震盪で倒れていただけです。
 従妹さんは、肋骨にひびが入っていて、さらに吐血までしていました。
 内臓に後遺症が残らなかったのは、不幸中の幸いでした」


184:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/07/08 07:41:06 e3g7TlOW
「それで、華はどこに?」
「隣の病室にいます。彼女、あなたのことを心配していましたよ」
「後で行ってみます」
「ぜひそうされてください。では、私はこれで」
 刑事は軽く頭を下げると、病室の扉から出て行った。
 足音が聞こえなくなるまで待つ。……聞こえなくなった。
 そろそろ動こう。香織を助けにいかなくてはならない。

 ドアを開けて病室から頭を出して、周りを確認する。
 廊下には白衣を着た病院の人間と患者らしき人間しか居ない。
 さっきの刑事はいないし、俺を観察しているような人間も居なかった。
 病室の壁に掛かっている時計の針は、昼と言ったほうがいい時間を差していた。
 昨夜十本松が俺の部屋に来てから一夜明けて、今は昼。
 十本松が俺の部屋に来たのは午後7時ごろ。あれから12時間以上経ってしまった。
 十本松が香織をさらって何をするかわからないから、時間が過ぎるごとにまずいことに
なっていくのかは判断できない。
 しかし、あそこまで強引に香織をさらっていった以上、冗談だよ何もするつもりはなかったんだ、
などとは言わないだろう。
 もしそうだったらすぐにでも引きずりだして警察に突き出してやる。
 が……十本松が本気だろうと冗談だろうと、俺にはどうすることもできない。
 さっきのように、俺の自宅にやってきて拳銃を撃ち香織をさらった犯人が十本松だと
警察に言うだけで精一杯だ。
 十本松がどこにいるのかがわからない。
 もっとも、それがわかれば警察だって苦労はしないだろう。
 わかっていればとっくに十本松を捕まえているはず。
 わかっていないから、俺に話を聞きに来たんだ。
 まだ菊川邸に潜んでいるのか、秘密のアジトに隠れているのか、何の変哲もない
民家に住んでいるのか、どれもありそうだけど確信を得ることはできない。

 十本松は菊川邸の一室に部屋を持っていた。以前から菊川邸に住んでいたと考えられる。
 菊川邸で起こった爆発事件の犯人は十本松。
 直接聞いたわけではないが、昨日の行動から考えれば十本松がクロで間違いない。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 香織は助けなければいけない。
 香織に告白する前なら、警察にまかせっきりにして自分はじっとしていただろう。
 けれど、今は違う。俺は香織を助けたいと思っている。
 こうやってじっとしているだけでいらいらする。動きたくなってくる。

 今度目の前に現れたら殺す、と十本松は言った。
 ならば、俺はお前に殺される前に香織を助け出す。
 それで、終わらせる。


185:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/07/08 07:41:51 e3g7TlOW
 隣の病室のドアを3回ノックする。返事はない。
 ゆっくりとドアを引くと、さっきまで居た病室と同じ光景が広がっていた。
 ベッドの上には華がいる。ベッドで横になって眠っていた。
 置かれたままになっている椅子に座って華を観察する。
 白い布団から、華の頭と手首が出ていた。
 華は見られているとは知らず、無防備な寝顔をさらしている。
 さっきの刑事の話では肋骨にひびが入るほどの怪我を負っているらしい。
 それをやったのは、間違いなく十本松だ。
 一体十本松は華に何をしたのだろう。
 拳の一撃か、体当たりか、蹴りか。
 ドアを開けるとき、銃弾を撃ちつくしておいてくれてよかったと思う。
 もしかしたら、華が撃たれていたかもしれなかった。

 華のやつ、俺と香織が付き合っていると知って何をしてくるかと思えば、俺の手が出せない
場所で香織に危害を加えようとしてきた。
 そういう意味で考えれば、十本松が来てくれてよかったとも思うが……。
 もし十本松が来なかったら、俺は華を止めて香織を助けられたのだろうか?
 管理人のところに行って鍵を借りてきて、戻ってきたとき香織が無傷でいられたのか?

 待て。そもそも、華は香織に危害を加えようとしていたのか?
 直感で香織が危ないということはわかったが、実際にはどうするつもりだったのか。
 仮に華が香織に暴力を振るおうとしていたとして、なぜ華がそれをする?
 華が言った、「俺を奪った香織は許せない」という言葉。
 言葉の通り、香織を許せなかったからあんなことをしたのか?
 もしそうなら、華を放っておくわけにはいかない。
 俺と香織が付き合っていることを納得してもらわなければいけない。

 けれど、それをするのは今じゃない。
 十本松の居場所を突き止めて、香織を助けてからになる。
 ここに来たのは、華を起こすためではなく、華の無事を確かめるためだ。
 華に協力してもらうわけにはいかない。
 怪我をしているし、第一華の身が危険にさらされる。
 それに、香織を助けるための協力をしてくれるかどうかもあやしい。
 協力してくれる人が多いにこしたことはないが、華の力は借りられない。

 眠ったままの華の頬に右手を当てる。
 その途端、華がぴくりと身を震わせた。体を震わせただけで、起きる気配は無かった。
 そのまま眠っていてくれ。
 俺は今から、この病院を出て香織と十本松の居場所を探しに行く。
 そんなことをするのは俺だけでいい。
 俺のことを想ってくれる華の気持ちに応えられないのは悪かったと思う。
 だけど、俺は華を傷つけたかったわけじゃない。自分に嘘をつけなかっただけだ。

 華の髪の毛を撫でる。さらさらしていて、暖かくて、いつまでも触っていたくなる髪だ。
 ごめんな。俺もお前のことが好きだけど、お前の気持ちにはやはり応えられない。
 香織の代わりに俺を殴ってくれ。俺なら次の日には必ずケロッとしているはずだから。
 俺が香織を助けられたら、そうしてくれ。


186:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/07/08 07:43:20 e3g7TlOW
 人に見つからないよう病院を出て、自宅へ向かう。
 空は相変わらず曇りで、晴れ間を覗かせる様子は無い。
 まだまだこの季節は寒い。今日は風が強くないのが幸いだ。

 香織を助ける。そのためには、十本松を探し出さなければならない。
 十本松は今どこにいるんだ?
 可能性がありそうなのは菊川邸だが、いつまでもそこに留まっているとも考えられない。
 それに、先日の爆発事件で菊川邸は警察にも注意を向けられているはずだ。
 とすると他の場所。しかし十本松が居そうな場所なんて見当もつかない。
 華の通っている大学で聞き込みをしてみるか?
 だけど十本松と積極的に関わろうとする人間なんているんだろうか?
 だめだ。聞き込みはあてにならない。時間もかかる。

 なら、もう一度菊川邸に侵入してみるか?
 俺と華が脱出するときに使った裏道を使えば、中に入れる可能性がある。
 菊川邸の外を囲っている雑木林から県道に出た場所は、どこにでもありそうなわき道だった。
 あそこなら人の目につかず侵入することができる。
 問題はまだある。侵入できたとして、それからのこと。

 どうやって十本松に繋がる手がかりを探し出すか。
 脱出に使った屋敷からの出口は十本松の部屋だった。
 部屋をあされば何か見つかるかもしれないが、全て隠滅されているかもしれないと思うとあてにはできない。
 それなら、他の手段。屋敷の中をくまなく捜索する。
 ……これも駄目か。爆発事件の後でうろついている部外者が居たら、そいつは袋叩きの目に会うだろう。
 俺が袋叩きの目に会うわけにはいかない。

 せめて、菊川家に関係する人物でもいれば何かわかるかもしれない。
 だが、どうやって探す? 誰一人として菊川家に関係する人間なんて知らないぞ。
 かなこさんは知り合いといえば知り合いだが、連絡をとる手段がない。
 連絡をとる手段があるならとっくに俺はそれを試している。
 何の手段がないからこそ、かなこさんが無事か心配なんだ。

「さっそく手詰まりか……」
 歩きながら、頭をかく。
 なにか他に手はないのか?所詮俺1人ではどうすることもできないのか?
 情けない。香織がさらわれたというのに何もできないなんて。
 恋人の身が危険にさらされているというのに。
 どうしたらいいんだ―?


187:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/07/08 07:44:52 e3g7TlOW
 考えながら歩いていたら、自分の住むアパートの前に到着していた。
 2階にある自分の部屋のドアを見る。ここからではドアノブまでは見えない。
 ドアの前に人がいる様子はなかった。警察もあらかた調べ終えたんだろう。

 階段を登り、2階の自室のドアを開ける。
 そこに、知らない人が居た。
 玄関にいる俺の位置からは、その人物の顔は見えない。
 見えるのは頭を覆う白髪と、スーツかタキシードらしき格好のみ。
 スーツを見て、一瞬十本松かと疑ったが、あいつは白髪を生やしていない。
 となると、別の人物だ。
 誰だ?この状況で、勝手に俺の部屋に侵入する人間は。

 警戒しながら靴を脱ぐ。声をかけるため、静かに息を吸う。
 白髪の人物に向けて声をかけようとしたら、先手を打たれた。
「遠山様ですね」
 低い声。髪の毛が全て白くなるまで年をとっている人物とは思えないほど声に力を感じられる。
 俺の名前を知られている。なら、黙っているわけにもいかない。
「……ええ。俺が遠山雄志です」
「お待ちしておりました。私は―」
 畳の上に正座している人物が、玄関にいる俺に体を向けた。
「菊川本家長女、菊川かなこ様の執事、室田と申します」
「かなこさんの、執事?」
「そうでございます」

 今まで見たことがないけど、執事って本当に居たのか。
 しかし、服装や姿勢は本当にイメージどおりだな。
 勝手に人の家に入っているところだけは、イメージどころか予想すらしなかったが。
「勝手にお部屋に入ってしまったことはお詫び申し上げます。どうか、お許しくださいませ」
「もちろん勝手に入ったのには、理由がありますよね?」
「はい。火急の事態ゆえ、こうせざるをえませんでした」
「話してもらえますか?」
「はい。そのために遠山様を訪ねてきたのです」

 白髪の執事、室田さんと向かいあって座る。
 この人と向かい合っていると、勝手に足が正座を組んでしまう。
 こういう雰囲気の人が嫌いなわけではないんだけど、一対一で話すのは得意じゃない。
 とりあえず、事情を聞いてみるか。
「俺から質問します。なんで部屋に入ったんですか?」
「実は、私は命を狙われております。それゆえ、外で待っていることができませんでした」
「……誰に?」
「十本松あすかの手の者にです。もっとも、私を狙うのは安全策といったところでしょう。
 本命は、かなこ様です」
「かなこさんは生きているんですか?!」
「はい。私が屋敷から追われる昨夜まで、かなこ様は無事でした」
 よかった。肩の荷が一つおりた。


188:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/07/08 07:45:49 e3g7TlOW
「しかし、今もかなこ様が無事であるかはわかりかねます」
「なぜ?」
「桂造様を殺害した十本松あすかが、かなこ様を無事でおいておくとは考えられません」
「桂造……菊川家の、当主の方?」
「はい。誕生パーティの翌朝、十本松あすかの仕掛けた爆弾の爆発に巻き込まれ、亡くなられました」

 あの日、爆発は2回起こっていた。
 1回目は俺と華とかなこさんの近くで爆発が起きた。
 あれが2回目の爆発に注意を向けさせないためのものだったとすれば、
1回目の爆発の威力が低かったことにも合点がいく。
 2回目の爆発が本命。当主の桂造氏の命が十本松の目的だったということか。

「昨晩のことをお話します。私は9時ごろ、ショックで寝込んでいたかなこ様に付き添っておりました。
 そこへ、十本松あすかと屋敷の人間の数名がやってきました。
 十本松あすかは私を拳銃で脅し、かなこ様をどこかへ連れ去りました。
 隙を見て、私は屋敷から脱出したのです」
 かなこさんがさらわれた?!
 くそったれ。香織に続いてかなこさんもか。
 十本松は何をするつもりだ?

「それで、屋敷に住んでいる人達は十本松を止めなかったんですか?」
「止めるものはおりませんでした。おそらく、あの屋敷の使用人全てが十本松あすかに従っております。
 桂造様を殺害するために、ずっと準備を重ねていたのでしょう。あの女は」
「なぜ十本松がそんなことをしたのかはわかっているんですか?」
「……それは……」
 室田さんは俺の目から視線を外した。
 さっきまで詰まることなく話をしていた人物が見せるとまどい。
 話しにくいことなのか?もしくは口止めされているとか?

「桂造様は亡くなられました。このうえ、かなこ様を失うわけにはいきません。
 ……お話しましょう。他言無用で、お願いいたします」
 俺は無言で頷いた。
「十本松あすかは菊川家の人間を恨んでおります。
 その理由は、桂造様が十本松あすかの父を謀殺したからです」
「え……?」

 十本松の父親が、かなこさんの父親に殺されていた?
 じゃあ、十本松は父親の仇を討つために桂造氏を殺害したということか?
 それなら、あいつがかなこさんを連れ去る理由もわかる。
 かなこさんは無事なのか?
 あいつが菊川家の人間全てを恨んでいるなら、かなこさんに危害を加えない理由が無い。
 いやむしろ、そうするのが自然だ。

「私は十本松あすかの父、十本松義也を殺す計画を、桂造様が立てていることに気づきました。
 私が警告しても十本松義也は聞き入れませんでした。
 数ヶ月が経ち、十本松義也が殺害されたことを知った私は、独自に調査を始めました。
 そこで気づいたのは、十本松あすかが行っていた事業を桂造様ともう1人の人物が引き継いだことでした」
「もう1人?」
「はい。その人物の名前は、天野基彦といいます」


189:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/07/08 07:46:51 e3g7TlOW
 今まで起こってきたことの全てに納得ができた。
 十本松は、かなこさんの父親と香織の父親に、父親を殺された。
 これは、十本松が香織とかなこさんの2人をさらう動機になる。
 そして、もしかしたらという推測が真実味をおびてくる。
 香織の父親は、ビルから飛び降りて死亡した。
 俺の推測が正しければ、おそらくは。

「その天野基彦という人は今、どうしているんです?」
「殺されました。十本松あすかの手によって。天野基彦は、10階建てのビルから突き落とされて死亡しました」
 ―やっぱりか。
 
 十本松は、自分の父親を殺した人物を、殺した。
 今は、その娘2人まで手にかけようとしている。
 香織と、かなこさん。
 香織をさらったのも、かなこさんをどこかへ連れていったのも、2人を始末するための行動だ。
 最悪だ。知り合いの1人が殺人犯だった。
 元知り合いの殺人犯は、俺の恋人と俺を想ってくれている人を殺そうとしている。
 これが冗談ならどれだけ嬉しいことか。
 だけど冗談じゃないんだろう。
 そうでなければ目の前に執事さんがいたり、執事さんが真剣な顔で向き合っていたりはしない。

「まずいです。その天野基彦の娘の香織が、昨日十本松にさらわれました」
「天野基彦の娘? それは、何時ごろの話でございますか?」
「昨日の夜7時ごろです」
「ということは、昨夜十本松あすかがその香織さんをさらい、屋敷に帰ってきてからかなこ様を連れ去った。
 自分の父親を殺した2人の男の、娘。十本松あすかが動くだけの理由は充分ですな」
「……今、十本松はどこに?」
「おそらく、まだ菊川の屋敷の中にいるでしょう。推測ですが」
 それだけわかっていれば十分だ。
 近くの警察署の番号に電話をかけるため、俺は携帯電話を取り出した。

「警察に連絡しても無駄です」
「……なぜです?」
「警察は菊川家に接触しないよう動いています。
 最近のニュースを見ていれば、その理由がわかるはずです」
 あの爆発事件のことか。
 爆発事件が起こったというのに多くの情報を流さないマスコミ。
 進展を見せない警察の捜査。
 どちらも圧力がかかっていなければ、そんな行動をとりはしないだろう。
 マスコミは最初からあてにならないが、警察すら同じ状況だとは。


190:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/07/08 07:47:36 e3g7TlOW
「ですから、私達が動くしかありません」
「私達? 俺を含んでます……ね、その言い方は」
「はい。かなこ様から聞いておりました。
 遠山雄志様は、何があろうともかなこ様を守ってくださると。
 かなこ様の言うことに間違いはございません。
 もし間違っていようとも……私はかなこ様の言葉を信じます。
 そして、かなこ様が信じている遠山雄志様。あなたのことも私は信用します」
 室田さんの目は嘘を言っていない。こんなまっすぐな目をして嘘をつく人などいるはずがない。
 買いかぶりすぎです、かなこさん。
 あなたはなんで俺をそこまで信用しているんですか。
 ―ああ、俺ってかなこさんにとって護衛役だったんだっけ。
 自覚は一切ないんだけど。前世の記憶なんかないし。

 だけど、これは願ってもないチャンスだ。
 菊川邸のことを詳しく知っていそうな室田さんと一緒なら、香織とかなこさんの捜索もスムーズにいくはず。
 やるしかない。多分、これが最後のチャンスだ。

「やりましょう、室田さん。俺は香織とかなこさんを助けなければいけません。
 2人をみすみす見殺しにすることなんて、できません。絶対に」
「私も同じです。この事件は、桂造様が根になって起こったことです。
 菊川家の執事として、解決のために動くのは当然のこと。
 主を止められなかった私にも、責任があります。
 十本松あすかを、必ず止めて見せます。たとえ、この身を砕かれようとも」

 室田さんの目を見る。
 黒い瞳は、まるで意思の塊のようだった。
 この決意を砕くなど、誰にもできないのではないだろうか。俺はそう思った。


191:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/07/08 07:49:53 e3g7TlOW
・ ・ ・

 菊川邸へ向かう、室田さんの運転する車の中。
 俺の部屋より広いわけではないが、どちらの居心地がいいかと問われれば間違いなくこの車の中だ。
 シートは、シートではなくソファーと言ったほうがいいほどふかふかしている。
 空調も完璧なようで、濁った匂いが全くしない。
 座りながらぼーっとしていると、眠気がやってきた。
 深呼吸して、背筋を曲げ伸ばしして、睡魔を追い払う。
「遠山様」
 睡魔がブーメランして戻ってきたころ、室田さんに話しかけられた。
「なんですか?」
「かなこ様のことを、よろしくお願いいたします」
「え? それはどういう意味で?」
「かなこ様を幸せにしてください、との意味で言っております。
 かなこ様を悲しませることだけはなさらないでください。もしそうなったら私は……」
「なんです?」
「遠山様を……いえ、何でもございません」
 室田さんはそこで言葉を止めると、口を開かなくなった。

 この人、俺をどうするつもりなんだ。
 待てよ。俺はすでに香織を恋人にしてしまった。かなこさんは恋人の対象ではない。
 もし室田さんの言う言葉の意味が「女性として」幸せにしてほしいというものだったとしたら……。
 かなこさんと結婚してほしいという意味で今の言葉を口にしていたのだとしたら……。

 いや、考えるのはやめよう。
 今は、それより先に香織とかなこさんを助けなければいけない。
 全てはそれからだ。それまで全て保留だ。
 それからでも、きっと遅くはない。

 スモークの入っていない窓から外を見る。
 車は菊川家の敷地に入る玄関前を通り過ぎたが、敷地には入らずそのまま道路を走り続けた。
 そこで一瞬見えた菊川邸には、明かりが灯っていた。
 まるで、何の異常もないことを教えるためにそうしているようで、かえって不自然に見えた。

******
16話はこれで終わりです。次回へ続きます。

192:名無しさん@ピンキー
07/07/08 11:53:55 RLqTXOEK
べっ、別にあんたなんか待ってなかったわよ!
たまたま暇だったから見ただけだもん!

……gj。

193:名無しさん@ピンキー
07/07/08 14:21:39 FfRpUnHh
GJ!

194:名無しさん@ピンキー
07/07/08 15:16:46 Fx/u4FsE
>>159
お久しぶり!そしてグッジョブ!
催促も悪いなあと思ってたけど「いない君といる誰か」続きがくるのを楽しみにしてたよ。
私事に影響出ない程度に書き進めてもらえたら嬉しいです。

ところで前から気になってたんだけど、西尾維新とか好きですか?
文の雰囲気が似てるからなんとなく思ったんですが…・・・。

195:名無しさん@ピンキー
07/07/08 16:06:36 1xBq/q1M
>>194
それは俺も思ったなー。
何気に「策戦」なんて言葉が出たりとか、会話文なんか化物語の影響が強いように思う。

196:名無しさん@ピンキー
07/07/08 17:12:26 0oMLrpxT
>>195 サァクセンwww

197:名無しさん@ピンキー
07/07/08 18:34:52 9hs1ndZi
1スレ目ではきのこっぽい言われてたなぁ。

198:名無しさん@ピンキー
07/07/08 18:41:39 0FRwT+41
ヒント:きのこと西尾は同じ作家のファン

199:名無しさん@ピンキー
07/07/08 19:16:48 Q/YrA/+K
>>191
十本松の目的は復讐だったのか。
ヤンデレ分ない回でも話の展開だけで面白い。GJ!

200:名無しさん@ピンキー
07/07/08 19:30:46 /kk3z3fv
>>191
GJ!
かなこが生きてるとなると、まだまだヤンデレ分は消え無そうだな(*´д`*)

201:名無しさん@ピンキー
07/07/08 21:31:19 49zRa4yR
>>198
京極?お茶会は、文章の言い回しがそれっぽい

202:名無しさん@ピンキー
07/07/08 21:40:15 K/tajX/u
>>191
GJ!
室田さんテラカッコヨス

203:名無しさん@ピンキー
07/07/08 21:46:43 8RsNpQMy
綾緒の親父や北方さんの親父、そして室田さんと
最近渋い親父さんたちがいい味出してるなw

204:名無しさん@ピンキー
07/07/08 21:53:09 8RsNpQMy
んー。連投スマソ。
お茶会の人は京極さんは好きみたいだよ

205:名無しさん@ピンキー
07/07/08 23:25:15 2xM6ukLJ
雄志HP45
室田HP21
かなこHP120
10本松HP1200
華HP450
まっつあんの回し蹴りは300くらいくらうので雄志と爺さんではまず耐えれませんw

206:名無しさん@ピンキー
07/07/09 02:35:30 oPLd+SgQ
さて保守

207:名無しさん@ピンキー
07/07/09 02:44:05 oPLd+SgQ
アゲ

208:名無しさん@ピンキー
07/07/09 22:41:32 qyOrTyQe


209:名無しさん@ピンキー
07/07/10 21:09:41 QEpBNX7q
あげ

210:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs
07/07/10 22:24:55 l55ZmRKf
・21話

 ―そうして。
 僕は独り、夜の校舎の前に立っている。
 空に浮かぶ月はようやく真上にたどり着こうとしていた。真っ暗な夜の中、そこにだけ
ぽっかりと穴が空いたかのように輝いていた。近くに街灯はない。懐中電灯なんて持って
きていない。月明かりだけが頼りだった。
 それでも。
 闇の中、静まり返った校舎は、月明かりを浴びて―くっきりと浮かび上がっていた。
 蜃気楼のように。
 現実味もなく。
 現実感の失われた景色。
 日常から、遠く乖離した光景。
 ソコにあるのは、昼間に通う学校とは、まるで別物だった。
 ―異界。
 彼女たちの言う、ソレにこそ相応しいのだろう。
「…………」
 異界となった学校を、独り、見上げる。
 当然の如く、周りには誰もいない。僕独りだ。独りきりだ。
 神無士乃は傍にはいない。
 神無士乃は何処にもいない。
 如月更紗は傍にはいない。
 如月更紗は、向こうにいる。
 向こう側で―僕を待っている。
「……行くか」
 僕は独りごち、校舎を乗り越えようとして……止めた。夜中の学校に正面から忍び込んで
もし警報が鳴りでもしたら全ては台無しだ。
 他の誰にも、邪魔されたくなかった。
 幸い制服を着たままなので、闇の中に溶けるようにしてそう目立ちはしないだろう。と、思う。多分。
それでも補導でもされたら事なので、こっそりと、見つからないように気をつけながら校門沿いに裏手
へと周る。
「…………」
 歩きながら―ふと、笑いそうになる。
 補導。
 見つからないように。
 そんなことを、そんな当たり前のことを、当たり前のように考えてる自分に。
 ―しっかりしろよ里村冬継。そんな『日常』が、一体何処にある?
 心の中で誰かが囁く。
 頭の中で自分が囁く。
 そんなものはありはしないと。
 幼馴染は狂っていて。
 幼馴染が殺されて。
 実の姉は狂っていて。
 実の姉は殺されて。
 クラスメイトは狂っていて。
 クラスメイトが殺して。
 狂気倶楽部。
 マッド・ハンター。
 アリス。
 三月ウサギ。
 魔術短剣。
 ハンプティ・ダンプティ。
 そんなもののどこに―日常がある。
 狂気しか、ないじゃないか。
 誰も彼もが、狂っている。


211:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs
07/07/10 22:34:11 l55ZmRKf
「……は、」
 乾いた笑いが出た。笑わずにはいられなかった。
 ―誰も彼もが狂っているのならば。
 それは、彼ら/彼女らにとっては、日常に他ならないからだ。
 基準点が違うだけの普通さ。アブノーマルなノーマル。
 そこに―僕は今、自分から、脚を踏み入れようとしている。
「…………」
 校舎の後ろに出る。グラウンドの端の方は一部がバックネットが低くなっていて、そこ
からならば乗り越えて入ることができた。裏門でも正門でもない第三の道。這入るならば、
ここからが一番いいだろう。
 フェンスに手足をかけて、昇る。一歩上へと進むたびに、がしゃり、がしゃりとフェン
スは嫌な音を立てた。
「…………」
 その音を聞きながら―僕は思う。
 今、自ら、脚を踏み込もうとしている。踏み入れようとしている。踏み出そうとしている。
 向こう側へ。
 でも、
 ―何のために?
 自問する。
 自らに、問う。
 ―誰のために?
 誰のために夜の校舎へと向かっているのか。誰のために夜の校舎へと向かっているのか。
 姉さんの死の真相を知るために?
 神無士乃の死に仇討つために?
 それとも。
 それとも、僕は。
 如月更紗を―
「……考えるな」
 自分に言い聞かせる。今は考えるときじゃない。余計なことを考えれば、動くことができなくなる。
考えるよりも前に、動け。
 全ては。
 事の真相を、真実を知ってからでも―きっと、遅くはない。
「…………」
 フェンスを乗り越える。僅かな距離を下へと降り、最後はいっきに飛び降りる。グラウンドの土の上に
着地して、制服の裾を払った。
 手に持った鞄が、やけに重く感じる。
 中に入っているものは―いつでも、取り出すことができる。


212:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs
07/07/10 22:49:09 l55ZmRKf

 グラウンドを横断して校舎へと近づく。間近で見上げるは、昼よりも一段と威圧感を放って見えた。
こうしているだけでわけもなく気圧されそうになってしまう。夜の校舎に明かりはない。どの教室も、
完全に寝入るように暗く静まっていた。この時間にもなれば、誰一人として学校内には残っていないの
だろう。
 本来なら。
 暗くて、分からないけれど―このどこかに。
 彼女が、待っている。
「…………」
 そこで、気付いた。
「……どこにいるんだよ……?」
 おいおい、ちょっと待て。ここまでシリアスできてそれが分からないとか洒落になってないぞ……
というか洒落以外の何でもないじゃないか……まさか学校中を探せとか言うんじゃないだろうな。
 いや。
 思い出せ。
 確か、あの時。
 神無士乃を殺した彼女は、確か言っていたはずだ。なんだったか―その前後のインパクトが強すぎて詳しく
思い出せないけれど、確かに、言っていたはずだ。
 ―姉さんが死んだ場所に、『彼』を呼んだ。
 そう、言っていたはずだ。
 姉さんが死んだ場所。冬継春香が死んだ場所。
「……図書室、か……?」
 直接に死んだ場所というのならば、それこそ『落下地点』なのだろうけれど……まさかそんな見通しのいい
場所を待ち合わせ場所に指定するとも思えない。そんな場所に間抜けにも突っ立っていれば、何かの際に外か
ら見られかねないし―第一そもそも、ここからも人影は見当たらない。
 図書室、だろう。
 そこに、あいつが待っている。
 五月生まれの三月ウサギ。
 姉さんを殺したかもしれない、相手。
『彼女』がそこにいるのかは―分からない。
「…………」
 校舎を前にして、僕は考え込む。真実を知りたいのならば、全てに決着をつけたいのならば、迷わずに
図書室にいくべきだ。そこから全てが始まったというのなら、そこで全てが終わるはずだ。
 でも。
 僕は、知ることよりも―姉さんよりも。
 あいつのことを大切だと―一瞬でも、思わなかったのだろうか。
 疑惑がある。確信にまでは満たない、かすかな疑惑が。夕焼けの道で、夜の道で、
あの地下室で感じた、微かな違和感。違和感とすら気付かない、今になって、冷静になって
ようやく気付くような―些細な齟齬。
 如月更紗の家にいって、その齟齬に、僕は気付いた。
 もしかしたら、と。
 ありえない、馬鹿げている、仮定にすらならない―狂った話だ。狂った道理だ。
 けど。
 狂ったものがまかりとおるこの世界でなら。
 それは、あり得ないことじゃ―ないのかもしれない。
 どちらにせよ。
 決めなくては、ならない。
 図書室へいくのか。それとも、僕は。
 僕は。
 僕は。
 僕は――――――――――

A-1 図書室へと行く。
A-2 屋上へと行く。



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