ヤンデレの小説を書こう!Part8at EROPARO
ヤンデレの小説を書こう!Part8 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
07/06/27 12:31:23 hc+6WlFf
>>1


3:名無しさん@ピンキー
07/06/27 12:33:21 27vyMvRd
>>1

関連スレ
ヤンデレ総合スレ
スレリンク(ascii2d板)

4:無形 ◆UHh3YBA8aM
07/06/27 18:59:26 KNY2XH0W
>>1乙です

投下します

5:ほトトギす ◆UHh3YBA8aM
07/06/27 19:01:09 KNY2XH0W
「朝歌ちゃん、どうしてここに?」
そう問う織倉由良の表情は硬い。
ある種の感情を無理やりに塗り込めたかのような相好。
無に見える有。
後輩の無とは明らかに違う外貌だった。
対する一ツ橋は先輩の無表情などどこ吹く風と僕を見る。
「約束通り迎えに来ました」
「え?」
約束?
迎え?
そんなことあったろうか。
僕が怪訝な顔をすると、心情を代弁するように織倉由良が口を開く。
「どういうこと、朝歌ちゃん」
「言葉通りです」
さ、往きましょう。
一ツ橋は僕を促す。
「ちょ、ちょっと待って!」
先輩は僕を掴む。
「・・・・どういうこと?」
なんで朝歌ちゃんと?
どういう約束?
無の隙間から噴出した憤怒を双眸に乗せて織倉由良は僕を見る。
やはり、最近の先輩はどこか変だ。
以前の彼女ならば、穏やかに「どうしたの?」と問うはずだ。
腕を掴むことも、睥睨することも無かったろう。
しかしどういう態度で問われたところで僕には答えようが無い。
迎えの約束なんてした覚えが無いのだから。
(どういうことだ)
目で後輩に訴える。
一ツ橋は僕を睨めつける先輩の間隙を縫って、人差し指を己の口の前に移動させた。
(静かに)
自分に合わせろと云わんばかりに。
「部長。先輩は今日日直なんです。それで私に起こすよう依頼されました」
「朝歌ちゃんに?なんで私じゃないの」
「部長の家は学校を挟んで正反対です。私なら、ここは通り道ですから」
ね。先輩。
「あ、ああ。そうだった。そうなんですよ。先輩。一ツ橋に頼んでたんです。僕がネボスケなのは
先輩も良く知ってるでしょう?」
後輩の思惑はわからないがこれは渡りに船だろう。もしもこのまま織倉由良の朝食を食べて、そのこと
が綾緒に知れたら、次は爪一枚なんて生易しい罰では済まなくなる。
幸いすでに着替えは終わっているし、荷物も揃っている。家を出ることに支障は無い。
僕は一ツ橋の発言に乗っかることにした。
「すいません、織倉先輩。そういうわけで、今日は急ぐんですよ」
「・・・・・日ノ本くん。私のご飯が食べられないの?」
「いえ・・・。そういうわけじゃありません。ただ、日直が・・・」
「日直なんてどうでもいいじゃない。貴方は私の持ってきた食材を無駄にするつもりなの?」
「ではそれは私が頂きます」
一ツ橋は遮って先輩の前に立つ。
「・・・・・・・・・・・・・」
織倉由良は暫く小さな部員を見つめていたが、
「そう。わかった」
呟いて、歩き去って往く。
「織倉先輩」
僕は声をかけるが聞こえていないのか聞くつもりが無いのか、答えることなく消えていった。
「・・・・・悪いことしたなぁ」
「平気です。あとでフォローしておきますから」
「すまん。助かる」
僕は一ツ橋に頭を下げた。
「それにしても、今日はなんで急に家に来たんだ?」

6:ほトトギす ◆UHh3YBA8aM
07/06/27 19:03:08 KNY2XH0W
「なんとなくです」
後輩は呟くように。
「昨日、部長と先輩の連枝で一悶着ありましたので、なにか面白いものでも見れるかもしれないと
思って伺いました。私の勘、結構当たるんです」
一ツ橋は瞳だけこちらに向ける。僕の顔ではなく、左手に。
「あ、コレは・・・・ちょっと転んでな」
「・・・・・・」
包帯の巻かれた左手を隠す。
すると後輩は珍しいことに顔をこちらに向けた。
「嘘吐き」
「う・・・」
「昨日、そして今。私は先輩を助けました。その見返りを要求しても良いでしょうか?」
「・・・・・わかったよ」
僕は仕方なく“罰”を語る。
一ツ橋は相変わらず興味があるのか無いのか良くわからない無表情。
総てを聞き終えると「そうですか」とだけ呟いた。
「助かったってのは、食べずに済んだってだけじゃなかったってことだよ。綾緒との約束を破る訳には
いかないからね」
天井を見上げる。
口からは自然とため息が漏れていた。
「先輩」
「うん?」
「先輩は、そのイトコの方に迷惑しているんですか?」
「迷惑?まさか」
僕は体を後輩に向ける。
「“こういうの”は正直勘弁して欲しいけどね。でも、僕は綾緒が可愛くて仕方ないんだよ。
あんなに兄思いの妹はそうはいないさ。そりゃ多少往きすぎてるところもあるけど、その辺も含めて
僕は綾緒が気に入ってる。甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるところも。おしとやかで穏やかな
ところも。怒ると怖いところもね。全部含めて、大切な妹だよ」
「貴方は莫迦です」
「今頃気づいたのか?」
「再確認です」
再び前を向く後輩。
そう云えば、この娘との付き合いも長い。小学校2年のときからだから、幼馴染と呼べなくも無いの
だが。
(いや―)
僕は首を振る。
幼馴染と云うよりはもう一人の―
「朝歌」
「なんですか。お兄ちゃん」
「・・・・ちょっと待て、一ツ橋」
「なんですか。先輩」
「なんで“お兄ちゃん”と呼ぶ」
「貴方が今、私を名前で呼んだんですよ、昔みたいに“朝歌”って。だから私も昔のように云った
だけです。“お兄ちゃん”と」
「・・・・・」
そう。
以前、僕はこの後輩を妹として扱っていた。一ツ橋も一ツ橋で僕に兄事していた。
中学に上がってから照れもあって呼び方を変えたが、そのときから彼女も先輩と呼称したのだ。
今―
僕は幼馴染と云うよりは妹に近いと考えたから、自然この娘を名前で呼んでしまったのだ。
「・・・・なんか、変に恥ずかしいな、この呼び方」
「いいえ」
憮然とした表情で首を振る。
「こっちの呼び方のほうが、長いです」
「いや、それはそうだけど・・・・って、ああ、そうか」
僕は拍手を打つ。
「どうやって家の中まで入ってきたのか疑問だったが、鍵を渡していたよな、昔」
小学生のときに。

7:ほトトギす ◆UHh3YBA8aM
07/06/27 19:05:12 KNY2XH0W
「はい。持ってます。ですが必要ないと云えなくもないです。鍵の隠し場所、変わってないよう
ですから」
「・・・・」
確かに、子供のころから一度も変えていない。
僕は織倉由良を思い浮かべる。
だから先輩は合鍵を作れたのか。彼女も僕の家の鍵の隠し場所を知っているはずだ。
「なあ、一ツ橋」
後輩に問う。
「先輩、最近おかしくないか?なんか妙にあせってるって云うか、鬼気迫るものがあるって云うか」
「具体的にお願いします」
「だからさ、普段の先輩なら、僕を教室まで迎に来たり、朝飯を作りに来たりはしないと思うんだ。
ましてや、家の中に勝手に入ってくるなんて・・・」
「素養はありましたけどね、昔から」
「え?」
「今まで鉄壁だと思っていたガードに実は穴があった。それに気づいただけでしょう。あの人、そんな
に強くありませんから」
「どういうことだ?」
僕は首を傾げる。
後輩はあいも変わらず無表情。
前を向き、どこに意識が集中しているのかもわからぬまま。
「―人は、見たいと欲する現実を見る動物である」
そう呟いた。
かの有名な終身独裁官の言葉。
「唐突だな」
「あの人は私のもの。この人は私を愛している。先輩は良い人に違いない。彼女は兄思いの妹だ」
「何が云いたい?」
「MEGALO MANIA」
きついな、一ツ橋は。
「―なら、そう云うお前はどうなんだ?」
「je pense,donc je suis」
返ってきたのは澱みの無い仏蘭西語。
「それ、同類ってことかい?」
僕がそれに皮肉で返すと。
「立場が違います」
動じない後輩は瞳だけ向ける。
「私、唯の傍観者ですから」

「すまんね、急に呼び出して」
楢柴文人(ならしば ふみひと)は到着した僕に頭を下げた。
ここはさる高級レストラン。
時間は夜。
食事を摂るには少々遅い時間。
呼び出しがあったのは夕方のことだ。
綾緒の父にして、母の兄。
名閥・楢柴の総帥にして僕の伯父。
それが楢柴文人。
僕をここへ呼んだ張本人だ。
白いテーブルクロスのかけられた円卓の向こうに座る伯父の姿はやり手の紳士といった感じで、
立ち居振る舞い、表情、雰囲気、総てが良い意味で貴族的な人物である。
「左手、怪我でもしたのかね?」
挨拶を済ませると、伯父はすぐに僕の左手に目を向けた。
「あ、ちょっと転びまして」
「ふむ。そうか、気をつけたまえ。きみが怪我をすると、綾緒が悲しむ」
伯父は荘厳に微笑む。
僕は頷いてそれに返した。少しぎこちなかったろうか。
「きみは―まだ酒は呑めんよな」
ワイングラスを持った伯父は僕に勧めようとして苦笑した。
「ええ。まあ、建前は」
「そうだな。えてして実よりも虚。中身よりもラベルのほうが重要なものだ。ここではそれでいい」

8:ほトトギす ◆UHh3YBA8aM
07/06/27 19:07:19 KNY2XH0W
伯父はグラスを口に運ぶ。唯、飲酒をする。それでもさまになる人はいるものだ。
「伯父さんて、日本酒党でしたよね?」
「ああ。日本酒は実に美味い。だがここで和酒なんぞ飲んでいても嫌味になるだけだ。付き合いで飲む
のもワインのほうが多いくらいだしな」
伯父はそう云ってにやりと笑った。
そこに料理が運ばれてくる。高級を謳っているだけあって味は良い。唯、根っからの庶民である僕には
こういう空気はどうも馴染まない。
「それで、今日はどうしたんですか?」
空気を払拭するように僕は問う。
楢柴の総帥でもある伯父だ。忙しくないはずが無い。身内相手とはいえ、無意味に食事に誘う暇など
あろうはずも無いだろう。何某かの意図ないし企図があるはずだ。
伯父は「うむ」と呟いて酒を飲んだ。
「どうだね、娘とは最近」
「綾緒ですか?仲良くやってますよ。あいかわらず僕が凭れ掛ってはいますけど」
「謙遜をしなくてもいい。押し掛けているのは娘のほうだ。ただ、あれもきみの世話焼きが楽しくて
仕方ないのだろう。往き過ぎた部分は多めに見てやってくれ」
その言葉に笑って返す。綾緒が往き過ぎなのは世話焼きな部分ではないのだから。
「わかっているとは思うが、アレは本当にきみの事を慕っていてね。家でもその事ばかり話すんだよ」
「光栄ですね」
「あの子は孤高、故に孤独だ。だからなのかな、きみがあの子の中で占める割合は私なんぞとは比較に
ならん。まるできみしか見えていないようにね」
「・・・・・・」
「正直、あの子に危うさを感じるときがある。恐怖と云ってもいい。海千山千の政治家や、やり手の
同業者、経済界の黒幕、ヤクザの首魁とも問題なく渡り合える私が、愛すべき実の娘に恐怖を覚える。
滑稽な話ではあるが、それが現実でね。夜叉と向き合うような違和感があるのだ。―きみはどうだ?
あの子と相対して、何か感じるものはないかね?」
「―」
それは―無くは無い。
綾緒は『従』の中に何かを潜ませている。
僕の左手。
剥がされた爪は、その何か―伯父の云う所の『夜叉』が顔を覗かせたのだと思っている。
けれど。
「・・・・それでも、僕は綾緒は良い子だと思っています」
「・・・“それでも”か」
伯父は目を閉じた。
何かを考え、逡巡している様子だ。
「創くん」
「はい」
「今日きみを呼んだのはね、娘に頼みごとをされたからなんだ」
「綾緒に」
「私自身、その頼みごとには丸で乗り気ではなかったんだが、とりあえず、きみを見ておこうと思って
ね」
「・・・・・綾緒はなにをねだったんです?」
「すまんがそれはまだ云えん。近いうちにわかるとは思うが」
伯父はため息を吐いた。
その吐息にはどんな意味が込められているのだろう?感情が読めない。
「―冬来たりなば、春遠からじ、か。しかし冬に死に絶えるものにとって、春の到来など何ほどの
意味を持とうかね。・・・・・・きみには迷惑をかけると思う」
伯父はそう云って頭を下げる。
その顔はどこか疲れているようにも見えた。

「にいさま、くすぐったくはありませんか?」
「ん~。大丈夫。気持ちいいよ」
休日。
従妹は朝から家にやってきて、家事全般をこなす。
それが済むと従兄を膝枕し、耳掃除を始めていた。
つまり、今の僕は綾緒の太腿に頭を乗せていることになる。
従妹は朝から妙に機嫌が良い。
掃除をされる耳の中には先ほどから鼻歌が入ってくる。

9:ほトトギす ◆UHh3YBA8aM
07/06/27 19:10:01 KNY2XH0W
「なあ綾緒、何か良い事でもあったのか?」
ついこの間の伯父の件もある。僕は思い切って聞いてみた。
「はい!わかりますか、にいさま」
「そりゃぁね」
ニコニコニコニコと笑う従妹の顔を見ていれば嫌でもわかる。
綾緒は耳掻きをどかし、僕の頭を撫で始めた。
「実はとうさまに以前よりねだっていたある事を許可されたんです。とうさまは、にいさまが本当に
望んだらと条件をつけましたが、にいさまが綾緒のお願いを拒絶することはありませんから、事は
成ったも同然です。綾緒はそれが嬉しいのです」
「僕?僕がどうかしたのか?僕に関係することなのか?」
つい身体を起こす。けれど従妹の手が僕の身体をやんわりと押さえ、再び頭を己の膝に乗せた。
「にいさまの、ではなく、にいさまと綾緒、二人のことになります。実は本日ここに伺ったのも、
その話をするためなのです」
従妹は妙に優しい手つきで僕を撫ぜる。
気味の悪いほどの穏やかな声。
『何か』を感じずにはいられない気配。
「・・・・・・それ、どんな話だい?」
僅かの戦慄を伴なって綾緒を見上げる。
従妹は笑顔を紅潮させて僕を見下ろしていた。
「女の立場からこのような事を申し上げるのは甚だ無礼であるとは心得ておりますし、面映くもあるの
ですが・・・・」
従妹は手を止める。
「にいさま。綾緒とどうか―夫婦(めおと)の約定を結んで下さいませ」
「―え?」
今、綾緒はなんと云ったのだろう。
「ま、待ってくれ、綾緒」
僕は身体を起こし、従妹と対面する。
「今―なんて云った?」
鏡が覗けば、恐らく蒼い顔があったに違いない。
僕は震える声でそう尋ねた。
蒼に対するは、赤。
従妹は頬を手で覆い、「何度も言わせないで下さい」と身を捩る。
「た、頼む、もう一度云ってくれ!」
今のは聞き間違いであるはずだ。
「にいさま・・・そんなに綾緒の口から祝事を聞きたいのですね」
祝事?
この子は何を云っているんだ?
従妹は背筋を伸ばす。破顔していた表情を凛と引き締め、
「楢柴綾緒は日ノ本創にいさまをお慕いしております。どうぞにいさま、綾緒との婚約を了承して
下さいませ」
「         」
僕は声が出ない。
この子は今なんと云った。
従妹とはいえ家族そのものと考えている相手だぞ。了承できるものではない。
「綾緒、お前・・・本気で云っているのか?」
「当然です。このような重大事に虚偽を用いるほど綾緒は落ちぶれてはおりません」
「・・・・・・・・・・・」
僕は頭を抱えた。
伯父の逡巡はこれだったのか。
「綾緒」
「はい」
「すまないがそれは出来ない」
「え?」
従妹は呆けた顔をする。
「僕は綾緒を大切な妹だと思っている。だから異性としては見れないよ」
「・・・・・・」
「伯父さんには僕から云っておく。綾緒と婚約なんて出来ませんって」
「・・・にいさま・・・」
綾緒が掠れた声を出す。

10:ほトトギす ◆UHh3YBA8aM
07/06/27 19:12:02 KNY2XH0W
「いくらにいさまでも、このようなときに戯言を口にしてはいけません」
「いや、冗談じゃないよ。今更綾緒をそんな風には見れない」
わかってくれ。僕は従妹に手を伸ばす。
刹那―

「に い さ ま」

綾緒の雰囲気が一変する。
「あ・・・・」
僕は手を止める。
(まずい)
これは、
(まずい)
夜叉が覗いている。
従妹は耳掻きを手に取ると、ゆっくりと立ち上がった。
「にいさま。綾緒の言葉が聞こえませんでしたか?たった今御耳を掃除したと思っておりましたが、
まだ足りぬようですね」
綾緒は僕を抱き寄せて、耳元に口を寄せた。
「聞こえていますか、にいさま?」
「う・・・あ・・・・」
僕は頷く。
体中から汗が噴出しているのがわかる。
「そう。これくらい近ければ聞こえているでしょう。では、もう一度云いますね。―綾緒と夫婦の
約定を結んで下さいませ」
怖い。
恐い。
こわい。
コワイ。
(でも―)
こんなのは間違ってる。
「ご、ごめん綾緒。それは受け入れ―」

ずん。

何かが耳内を走り、勢い良く突き刺さっていた。
「―あ゛」
耳。
耳の奥が―
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
痛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
頭!!!
痛みが頭に響く!
熱くて、痛くて!僕はのた打ち回る。
「こちらの耳は不良品ですかぁ?仕方ありませんねぇ。綾緒が掃除して差し上げます」
グリ。グリ。グリ。グリ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!」
耳を!
耳掻きの入った穴の奥を!
従妹は何度も何度も突き刺し、掻き混ぜて往く。
「や、止めてくれええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
ドクドクと血が流れて往く。

11:ほトトギす ◆UHh3YBA8aM
07/06/27 19:14:03 KNY2XH0W
耳の中を何かが動いているのに。
こっちの耳からは何も聞こえない。
痛みだけが響くのに!
自分の絶叫が聞こえない!!
「にいさま。こちらの御耳はどうですか?綾緒の声、聞こえていますか?」
グリグリ。グリグリ。
『不良品』の耳を穿りながら、従妹はもう片方の耳に囁く。
「やめ・・・やめてくれえええええ!!!!」
「聞こえておりませんか。ならばこの御耳も―必要ありませんね」
綾緒はそう云って耳掻きを引き抜く。
見慣れていたはずのそれは、先から数cmまでもがぬめついた赤で染まっていた。
「き・・・!きこ・・・てる!きこぇてい・・・から・・・!!」
だからもう止めてくれぇ!!!
痛い。
痛いぃぃ!!
「それはようございました。聞こえているのですね?ではにいさま。にいさまのくちから、祝事を
語って下さい。矢張り女の口から云うべきことではありませんから。ささ、にいさま。殿方らしく
にいさまの口から綾緒に云うのですよ?」
僕は頷いた。
痛いけど、嫌だけど、それ以外になにが出来るんだ!
「あ・・・綾緒・・・・」
「はい」
涙が止まらない。
「ぼ、僕と、」
それは痛みのせいか。
「僕と―」
それともこの境遇のせいか。

その日、僕には将来を誓う婚約者が出来たのだった。

12:無形 ◆UHh3YBA8aM
07/06/27 19:15:34 KNY2XH0W
投下終了。
痛いのは苦手です

13:名無しさん@ピンキー
07/06/27 19:48:42 k5iSZYuE
後輩がお兄ちゃんて呼んだこととか、従妹のプロポーズとかより、耳が、耳がああああ!

この難敵に対して、先輩はどう戦うつもりなのか?
もうこうなったら、去勢しか……

14:名無しさん@ピンキー
07/06/27 20:14:35 h0pzYodH
楽しみに待ってるかいがあったほど今回も痛面白かったです。GJ!

ただ、鼓膜突き破ってぐりぐりしての耳血は生爪はがすとかより危険で
即入院レベルだと思う。平衡感覚失うし、再生しないし、人工内耳だし。

なんかそこだけ気になったけど、一ツ橋さんも本格参戦でどう絡んでくるか期待してます。

15:名無しさん@ピンキー
07/06/27 20:34:06 gRKiTYX2
>>12生爪剥ぐとか鼓膜突き破るとか読み慣れてないから正直キツい…
包丁で刺したり首締めたりは逆にニヤニヤしちゃうけど、
これも一般人にはキツいんだろうなぁ。

16:名無しさん@ピンキー
07/06/27 20:41:44 e3B2pmQl
>>12
流石にグロ注意ぐらい書いてくれよ…
GJとは言えん

17:名無しさん@ピンキー
07/06/27 21:29:40 yrrMrgiO
一回目読んだときは、『痛いなぁ』と思ったけど、二回目は逆にニヤニヤしてしまった。

18:名無しさん@ピンキー
07/06/27 21:35:43 gVtbUO4+
ヤンデレスレでこのくらいでグロ判定?と思った俺は多分間違いなく病んでいる・・・


19:名無しさん@ピンキー
07/06/27 21:36:45 EZnFMtXA
ドMな俺にはGJだったよ

20:名無しさん@ピンキー
07/06/27 22:06:58 38eHF/uN
日ノ本くんはラストまで生き残れるのだろうか・・・

21:名無しさん@ピンキー
07/06/27 23:09:04 6JUFTQP/
慕ってる相手の事を傷つけるってのはどうもなあ・・・・、この間まで読んでなかったのは直感的なものだったのか

22:名無しさん@ピンキー
07/06/27 23:45:38 QAY4DsS5
この間、ゴルゴシリーズに収録してある漫画が、かなりヤンデレしてた
男に別れてくれと言われた女が、基地外起こしてその場で自殺
で、男は別の女と結婚し娘が生まれたが、その娘は別れた女の魂が転生した姿だった
娘は成長し、母親を殺してしまう
男はやっと娘の正体がわかったが、時既に遅かった
男は何もかも諦めてしまい、娘(魂は別れた女)は永遠に愛する人を手に入れた

エロス分が無かったのが、唯一の心残り…



23:名無しさん@ピンキー
07/06/27 23:52:23 1+d9Kse1
>>12
先輩の病みが進んで来たり
後輩が暗躍してくるのかな
とかwktkしていたが最後の耳で全部吹っ飛んだ
綾緒怖いよ綾緒


だがそれがいい

24:名無しさん@ピンキー
07/06/28 01:20:28 yFEn8nKW
>>12
もう本当にディモールトってかんじ

25:名無しさん@ピンキー
07/06/28 01:21:50 3WHFT+B6
下げ

26:名無しさん@ピンキー
07/06/28 04:29:19 5aZ1rA1E
細川忠興ってヤンデレ入ってるよね。

27:名無しさん@ピンキー
07/06/28 09:41:15 gPQiqZbI
綾緒みたいな妹がほしい!!


28:名無しさん@ピンキー
07/06/28 10:31:10 HKgN4U3m
細川忠興はただのキモストーカー

29:名無しさん@ピンキー
07/06/28 15:04:46 g9Yc4iK+
最近こういうのを知ったのであれだけどもTOのカチュアとかはヤンデレかな? 
いまだに強烈な印象の残ってるキャラだが


30:名無しさん@ピンキー
07/06/28 16:36:34 5aZ1rA1E
>>28
得てしてヤンデレはそういうものじゃん。

31:名無しさん@ピンキー
07/06/28 20:44:40 yIBkmRe9
後輩には頑張って欲しい

過去の妹扱い設定にはキタ━━(゚∀゚)━━と興奮した
そして従姉妹に恐怖w

32:名無しさん@ピンキー
07/06/28 21:02:47 3Vyj5dXx
>>29
あれは良いキモ姉だった。義理だけど
思えばあそこから足を踏み外したのかな……

33:名無しさん@ピンキー
07/06/29 00:48:54 HLXhpKAK
>>32
同志がいたか。 おれもよくよく突き詰めたらカチュアが可愛いって思ったところからこの属性に気づかされたよ
カオスルート二章冒頭の「こんな島からは抜け出して二人で静かに暮しましょう」ってところで頷きたかったなぁ

34:名無しさん@ピンキー
07/06/29 02:48:27 Qx4QIuzW
まさかのお兄ちゃん発言に驚くとともに、参戦への期待にwktk
綾緒はこの怖さがたまらんwww
先輩がどうでるのか楽しみ。作者さんGJ

35:名無しさん@ピンキー
07/06/29 08:36:49 VorGdpFq
>>30
奥さんが反逆者(今でいう犯罪者?)の娘でも離縁せずに監禁、
脅迫として周りの人の耳鼻を削ぐが本人には危害を加えず、
奥さんに目をつけた奴は即切り捨て。
奥さんが死んだ際に見捨てた奴は即効絶縁なんだっけ?

これを男女逆にすれば使えなくもないね。

36:名無しさん@ピンキー
07/06/29 18:50:01 o9macKcb
父娘ネタが少ない気がする・・・何でだろう?

37:名無しさん@ピンキー
07/06/29 19:28:05 /LeFVcVo
>>36
ならば自分で書いてみよ

38:名無しさん@ピンキー
07/06/29 21:54:43 hSX4wNgf
>>36
実の父と姉がそうだったらどう思う?
みんな嫌悪してるんだよ

39:名無しさん@ピンキー
07/06/29 23:19:00 fFxB8GBX


40:名無しさん@ピンキー
07/06/29 23:29:27 bgv938J5
そこかしこで
「オンリー同人即売会」「ヤンデレ音楽企画」「ヤンデレ同盟」
ってのがあって、なんだか萎えるな。

小説系リンクにも堂々と「ヤンデレ」という文字を入れちゃう作家も増えてるし、
これからの衰退っぷりがものすごく良く見える気がする。

41:名無しさん@ピンキー
07/06/30 00:21:47 0kOY1Z9R
ヤンデレ音楽企画はまだいいんじゃね?
愛故にとか、死ぬほど愛してるとか一応そこら辺は理解してるようだし。

42:名無しさん@ピンキー
07/06/30 01:38:34 /IplaJWB
そもそも衰退するほど興隆したジャンルでもない気が

43:名無しさん@ピンキー
07/06/30 04:34:12 DdWZC3/g
>>36
あんまり例がないからじゃね?

44:名無しさん@ピンキー
07/06/30 04:49:30 Or4OTajm
>>36
父親となると相当なロリヤンデレでないと中年になってしまう
              ↓
1:おっさん(父親)に感情移入したくない←脳内姉・妹はいても脳内娘は想定の範囲外(属性がない)な人が多いため
2:脂ぎった中年が恋愛の中心にいても華がない
3:そもそもおっさんと少女の恋愛関係は血縁でなくても爛れた印象を受ける
4:1に関連して、脳内自分は永遠の18歳だから

とか


45:名無しさん@ピンキー
07/06/30 04:51:52 Or4OTajm
sage忘れスマンorz

46:名無しさん@ピンキー
07/06/30 04:56:39 0kOY1Z9R
おっさんっていうなよ。ダンディーなナイスミドルって考えろよ。

47:名無しさん@ピンキー
07/06/30 07:44:37 rSlfd+Vg
>>46
1:現実にナイスミドル、ダンディ、ちょい悪と呼ばれているヤツにろくな男がいない
2:あの胡散臭いオーラは異常
3:住人の平均年齢がナイスミドルと呼ばれるにふさわしい年代より若いため、自分と重ね合わせて考えにくい
4:おっさんに美少女を奪われていくのは歯がゆい

48:名無しさん@ピンキー
07/06/30 10:02:43 F4nzXjHd
・主人公は25歳。バツイチ。
・18歳でできちゃった結婚をした。生まれてきたのは娘。
・娘が7歳のとき、妻が事故死。主人公、以前よりさらに娘を大事にする。
・娘、母を失ったショックと、父の優しさを一身に受け、ファザコン化。

これならどうだ?

49:名無しさん@ピンキー
07/06/30 10:12:16 MjYkY+Qo
>>47
お前の価値観など些細なことが

50:名無しさん@ピンキー
07/06/30 10:33:44 k+RyFRT+
・主人公は18歳。男子高校生。大学生の姉に対して重度のシスコン。姉と父の馴れ合いを見てやきもきしてる。
           一度告白するも見事に玉砕。
・姉20歳。女子大生。重度のファザコン。大好きなお父さんの為なら私の初めてもあげる!と息巻いてる。
・父45歳。会社員。上場企業に勤めてるが窓際族。中年太りと頭の後退・加齢臭に悩まされてる。
            妻と似ても似つかぬ美人な娘に対して娘以上の感情を持っている。ラブラブ状態も満更ではない。



これどう?

51:名無しさん@ピンキー
07/06/30 12:18:53 yd01kdKP
>>50
それ主人公いる意味あるのか?

52:名無しさん@ピンキー
07/06/30 13:34:01 tefvMgi8
主人公が不老不死で、気まぐれに拾った少女が十年後には見事にヤンデレておりましたとか、そんな厨設定しか思い浮かばない。
てか、兄妹ものとそんなに内容変わらん気がするぞ。

53:名無しさん@ピンキー
07/06/30 13:50:48 ZSqhLz4Z
確かに父娘だったら、同じおっさんでも叔父姪の方がよく見る気がする。
年齢の制約が少しだけ軽くなるし、いやなおっさんの役割は父親役に押し付ければいい。


ところで。
ここの住人には皆、それぞれヤンデレに一家言あるだろうから聞きたいことがある。
先日たまたまリアルの知り合いとヤンデレについて話す機会があったのだが、
「ヤンデレってそもそもどんな感じの属性なんだ?」と聞かれて、俺は説明に窮してしまった。

周りの目もあったものだからあまり常軌を逸したことも言えず、
聞いてきた相手にはそういう方面の知識が少なかったから、具体例を探すのも難しい。
その時の俺は咄嗟に六条御息所みたいなもんって言ってしまったんだが、個人的には病み具合が足らない気がする。

非ヲタでも知っていそうな知識の中からヤンデレの具体例を探すとしたら、誰を挙げたらいいと思う?

54:名無しさん@ピンキー
07/06/30 14:15:05 aKg88qH8
阿部定

エロ漫画だとわりと多いぞ>娘の嫉妬もの
ヤンデレかというと、ヤンデレもの自体あまりないしなあ

55:名無しさん@ピンキー
07/06/30 15:29:46 66bKGIUa
恋敵を抹殺して行くっていうと、ギリシア神話のヘラとか?

嫉妬じゃなくて恋ゆえに暴走するタイプだと八尾屋お七

56:名無しさん@ピンキー
07/06/30 15:42:05 7SPDPKWC
新井素子のひとめあなたに読ませりゃ良いんじゃないかね?

57:名無しさん@ピンキー
07/06/30 16:01:36 66bKGIUa
チャイニーズスープの奥さん?

58:名無しさん@ピンキー
07/06/30 16:05:53 seTP0dIV
48さんの設定でビビっと来たのですが。
48さん、書いてよろしいでしょうか?

59:名無しさん@ピンキー
07/06/30 16:08:11 BqmD+zNW
期待

60:名無しさん@ピンキー
07/06/30 18:09:30 0kOY1Z9R
38の父と16の娘なら年頃でいいんじゃないか?
16歳ならもうエッチするには十分な体つきだし、
38ならまだ中年にも行かないキビキビした年頃だ。

61:48
07/06/30 18:35:36 F4nzXjHd
>>58
俺が断るわけないじゃないか!

ワックワックテッカテッカ

62:名無しさん@ピンキー
07/06/30 19:21:13 seTP0dIV
25と7歳で超絶ファザコンヤンデレ娘で行こうかなと(`・ω・´)b

48さん、構想ありがとうございます。

63:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/06/30 23:26:56 Vw45L8oY
投下します。

64:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/06/30 23:27:41 Vw45L8oY
 ”本当の恐怖”を感じると、体は微動だにしてくれず、頭は悪い方向へどんどん想像を
膨らませていく―そんなことを聞いたことがある。
 正直それは違うと思っていた。恐怖を認識したらすぐにそこから逃げようとするだろう
し、必死に状況を打破する策を考える為に思考を巡らせもするはずだと信じていたから。
事実今まで加奈には結構”見られちゃマズイもの”を目撃されてきたけど、その度に俺は
何とか乗り切っていた。保健室での一件は島村の助け―今となってはそれが本意だった
のかは定かではないが―を借りて丸く収められたし、体育館裏でのことも島村に対して
敵意を露わにしていた加奈を結果的に宥められた。それは、それらの状況が全て言い訳や
最善の行動でとりあえずはどうにかなる程度のものだったからだ。逆に言えば、そのこと
がわかっていたからこそ、心に巣食う畏怖を騙しながら行動を起こすことができた……。
 ―つまり、俺が加奈を見据えたまま立ち上がることができないのは、今までのような
生温かいものじゃない”本当の恐怖”を覚えているからなんだろう。
 加奈に『上書き』されている時に似た冷え切った思考がそんな結論を導き出していた。
 俺が島村に”傷付けられている”という現実を目の当たりにして、加奈がどんな行動を
取ってくるかなんてわかっている。加奈は俺に掠り傷ですら付くのを許しはしなかった。
放っておけばすぐ治るような本当に小さい傷を”汚された証”と称し、”自分が付けた”
ということに『上書き』してくる。自分の好きな人に他の人間が触れてほしくないという
当たり前の欲求を歪に肥大化させてしまった、俺の唯一無二の想い人―城井加奈。その
彼女が、俺の体が屈折した手段で汚し続けられているのを見れば、”それ以上に屈折した
手段で、それ以上に浄化する為に、それ以上に傷付ければいい”と考えるのは目に見えて
いる。ただでさえ気を失いそうなほど暴行を加えられているというのに、それを更に凌駕
する苦痛を与えられたとしたら、俺は多分―。
 そんな末路をも冷静に受け止めることができるのは―受け入れるのを拒否して感覚が
麻痺しているだけかもしれないが―俺が諦観しているからだ。言い訳しようのない事態
を前にして、もう何をしても無駄だと心が訴えかけているんだ。今までと違い今回は加奈
に事の一部始終を見られてしまっている。どんなことを言ったとしても、それは加奈の耳
には届かないだろう。”今まで”と同じように。そして俺は『上書き』”される”……。
もしかしたら加害者の島村に対して何かするかもしれないが、だからといって俺の運命が
変わる訳でもない。結局俺の小ずるい努力なんて、二人の女の子を傷付けて、挙句の果て
は自身を破滅させるだけ……。滑稽過ぎる。何だか急に虚しくなってきた。今まで上手く
やっていけていたつもりだったが、それは俺のただの思い込みでしかなかったって訳か。
 視線の先で肩を震わす加奈の存在が、俺に奇妙な絶望感を煽ってきた。
 自分が恐い状況にあることはわかっているはずなのに、不思議と恐怖という実感が全然
湧かない。あまりにも大きい恐怖を感じることを心が拒否したということなのであろう。
俺、無意識下でも逃避している……。―そんな人間がどうして人を幸せにできるんだ?

「はは……」
 自嘲気味に笑いながら、せめてもの意地で加奈から目を逸らすことはしない。今逃げて
いる分際で下らない自尊心なんかを持ち合わせているからこんなことになったのかな、と
思いながらほぼ生気を失った視線を加奈に投げ掛け続ける。機能としてだけは見ることの
できる加奈の表情は、予想通り”受け入れ難い現実”を突きつけられたことで色を失って
いる。それが嵐の前の静けさということを知っているだけに穏やかな気分にはなれない。
 そんな顔を眺めていると―『上書き』してくる時もそうだが―、一つ疑問に思う。
 ―加奈はどうして俺のことが好きなんだ?
 こんな『幼馴染』ってだけしか接点がなく、目立ったような美点もないような俺なんか
の為に、どうして”そんな顔”をしてくれるんだ? どうして『上書き』してくるんだ?
 こんな疑問に答えなんてないのはわかっている。俺だってどうして加奈が好きなのかを
訊かれたら答えられない。だって、加奈とはずっと昔から一緒にいたし、それが当たり前
だと思っていたから。だが、俺の加奈への想いが思い込みなんかではないってことだけは
絶対に断言できる。
 そう、理由なんてあってないようなものだ。どんなに探したって、絶対だと言い切れる
ような解答がある訳がない。

65:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/06/30 23:28:46 Vw45L8oY
 それでも俺がそのことを追究したいと思うのは、自責の念に駆られているからだ。この
ままではこんなにも俺のことを好きでいてくれている加奈に申し訳が立たない。何もして
やれずただ膨張した独占欲の赴くまま『過ち』を犯させてしまった。誰よりも加奈のこと
を知っているはずだった俺が―確実に狂気に蝕まれている加奈の様子を見てきたこの俺
が―、一番近くにいた存在であるはずの俺が何一ついい方向に事を進められなかった。
 もう、この『罪』を抱えたまま死にたい。……いや、これから死ぬんだったっけ……。

「加奈さん……ッ!」
 近くから島村の声が聞こえる。顔こそ俺は見ていないが、さっきまでの不気味なまでの
冷静さはどこへやら、動揺を隠し切れていないのが声色からわかる。そんな不安定な声を
聞いていると嫌でも、二週間前俺が島村に”遅過ぎる告白”をした時の様子を思い出す。
 そこで不意に島村が俺のことを好きだという事実が脳裏に過ぎった。思い返せば、島村
も加奈と同じくらい俺のことを愛してくれていたのかもしれない。方向性こそ違えど、俺
を好きであるという点では加奈と同じ。そして今になってようやく気付いたが、結構加奈
と島村は似ている。二人共どっちかと言えばサディストなところとか、俺の為には形振り
構わないところとか―俺のせいで狂ってしまったところとか。
 俺は加奈だけに止まらず、島村のことも滅茶苦茶にしてしまったんだ。島村は俺のこと
を好きになった『きっかけ』があるようなことを匂わせていたが、どんな理由にせよ普通
彼女持ちの男を手に入れようと思うか? それほどの理由ってのは一体何なんだ……?
 興味はあるが、訊くほどの気力は最早残っていなかった。島村に痛みつけられた箇所の
苦痛のせいもあるが、何より心が後ろ向きな考えしかしてくれないのが一番辛い。恐怖を
感じることさえ放棄した完全な無気力状態―それが俺の結末だ。周りの人間を散々掻き
回した挙句、地面の上で無様に転がっているクズ男―俺に相応しい『最期』だったな。

「来ないで下さい……! まだ駄目なんです……まだ……まだ……」
 頼りなさそうに震える島村の声が耳に入ってくる。そこから感じ取ることのできる露骨
に動じた様子は、正直かなり人間味に溢れている気がした。今までの島村の周りへの対応
には殆ど『素』が感じられなかった。ただの無意識的な行動なのか、それともトラブルを
避ける為に他者と壁を隔てる手段なのか、理由はわからない。しかし、俺に怪我をさせて
しまって何度も心配をして声を掛けてきた時や、クラスの人間に自分と俺の関係を知られ
そうになって赤面していた時の島村には”それ”が感じられる。何の歪みもない、純粋な
一人の女の子としての一面を垣間見ることができる。それが、島村の真の姿なんだろう。
 ……あれ? そうなると、俺はとんでもない勘違い野郎ってことになる。
 俺は今まで危害を加えてくる島村の姿を『本性』として受け止めていた。しかし、実際
の島村は、いい意味で”普通の女の子”であって。俺は島村のことを理解せずに、自分の
都合に合わせて”良かれ”と勝手に思った道を選んでいた訳か。―最低だな。

「誠人くんは渡しません……! あなたになんか渡しません……絶対に」
 突如首に腕を絡まれたと思ったらそのまま体を起こされた。そして俺の体は島村の体へ
と引き寄せられる。痛いほど強い力で島村は俺を離すまいと言いたげに抱き抱えている。
その力に反して押し付けられた島村の体は柔らかい。ずっと嗅いでいたいと思えるほどの
いい匂いもする。そこに『性』の違いを改めて感じる。島村は普通の女の子だ。きっと俺
なんかに惚れさえしなければ、他の男と付き合って真っ当な幸せを歩んでいたんだろう。
そう思うと罪悪感を覚える。島村は俺のことをこんなに好いているというのに、俺は今の
今まで島村に対して『勘違い』をし続けていたのだ。愛を受ける資格なんて俺にはない。
 それでも島村の温かみに快楽を感じている自分に嫌悪しつつ、加奈に”最悪の光景”を
披露し続ける。今までの俺ならこんな状況を加奈に見られたらだとか色々考えて、すぐに
島村から離れていただろうな。それは自分の保身の為であり、加奈の為でもあった……。
 手遅れな現実を享受し、俺は諦観と共に目を瞑ろうとする―刹那。

 俺の目に映ったのは―。

 俺に背を向け、走り出していった加奈の姿だった。

66:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/06/30 23:29:49 Vw45L8oY
「加奈……!?」
 自然と呆けた声が漏れた。
 全く意味がわからない。加奈は俺を『上書き』する為に一目散に俺の下へ向かってくる
はずなのに、実際は俺に背を向けて行ってしまった。”今までの”加奈なら俺が傷付く様
を黙って見ているだけだなんて理性的な行動が取れる訳がない。それなのに何でなんだ?
 ほぼ事実だと認識していたはずの推測が引っくり返ってしまって、俺は戸惑っている。
 だけど、今俺の胸をじりじりと焼き焦しているのはそんな『疑念』だけではない。俺の
心を掻き回し、心臓を跳ね上がらせている真の要因―それは、『焦燥感』だ。
 加奈に『上書き』されることを半ば諦め気味に享受しようとしていた―腹の底では、
傷付くことを恐れていた―その俺が抱くにしては明らかに矛盾している感情だ。だって
このままおとなしくしていれば自分に危害を加える存在である加奈から離れられるのだ。
なのに、既に視界から消えてしまった加奈の姿を追いかけたいと思っているのは何故だ?

 ―馬鹿野郎。そんなの、加奈が好きだからに決まってるだろ。

 今まで呆れるほど痛感させられ続けたこと。俺はどんな加奈だって好きなんだ。たとえ
狂っていたとしても、そんなこと些細な問題でしかないと思えるくらいに。加奈を愛して
いる。だから失いたくない。離れていってほしくない。
 初めて俺を拒絶するかの如く逃げ去っていった加奈を見て、どうしようもない不安が俺
の心中を支配している。このままでは加奈を失ってしまうのではないかという恐怖が余計
に俺の焦燥感に油を注ぐ。早く行かないと、二度と元に戻れない気がしてならない。
 一緒にいるのが当たり前だった幼馴染を―加奈と離れてしまう。

 その最悪の光景が脳裏に過ぎった瞬間、泥沼の奥底へと沈み続けていた『力』が完全に
奮い起こされた。有り余るほどの『意志』が爆発して、数分前までの自分を死ぬまで殴り
続けてやりたい気分だ。俺は何をやっていたんだ? ”何をやっても無駄”と勝手な憶測
で無気力という逃避手段への理由を作って『努力』を怠たる、なんてふざけ過ぎた話だ。
 一番傷付いているのは、加奈なんだぞ? 『上書き』してくるのだって、俺が他の人に
傷付けられたことに―穢されたことに傷付いて、自分でその罪を被ってまで俺のことを
守ろうとしてくれているからだ。だけど、俺は油断が原因で傷を増やし続けた。それらを
何度も『上書き』していく内に、段々と制御が利かなくなっていて今の加奈が存在する。

 ―ということは、加奈を狂わしたのは、俺か?

 最低最悪の解答だった。加奈の狂気の循環を助長していたのが自分だってことくらいは
わかっていたが、加奈が奇行に走るそもそもの原因は加奈の内に秘める大きい独占欲だと
思っていた。だが実際は、根源すらも俺が作り出していたんだ。俺が加奈を無意識の内に
煽って、それに反応した加奈をまた煽って、の繰り返しだ。『罪』を被っているのが加奈
なのをいいことに、俺に『上書き』してくる加奈を”狂っている”と解釈して、”救う”
だとか最もらしいことほざいて正当化してたんだ。自分の『罪』から目を背けてたんだ。

「加奈……! 待ってくれ、加奈ッ!」
 恥も外聞もなく、対象のいない情けない声を張り上げる。行き場を失った音が静寂の中
に溶け込む虚しさに孤独感を感じつつ、そんなことを気に掛けている時じゃないと自らを
叱咤する。
 幸いにも俺は腐り切ってはいない。何故なら今の俺は、はっきりと思っているからだ。
”謝りたい”と。今までの過ちを受け入れそれを悔い改め、その被害者となってしまった
加奈に謝罪をしたいと心から思えているからだ。”とりあえず”なんて軽いものでなく、
誠意を以って加奈に自分の好意を示したいという想い。それを俺は感じられているのだ。
 後先なんてどうだっていい。加奈にとって最善であると思えることを遂行するまでだ。
 俺は体中から漲る力を使って起き上がろうとする。が、
「! ま、誠人くん!? どこに行く気ですか! まさか……」
 ほぼ本気で動こうとした俺の力は、それと同等かあるいはそれ以上の力によって虚しく
相殺されてしまう。そこでさっきまでの朧げな記憶が、俺が島村に抱き抱えられていると
いう事実を突きつけてきた。慌てて離してもらおうと島村の方へ顔だけを向ける。
「まさか、加奈さんのところへ行くんですか? まさかですよね、誠人くん……!?」
 今まで加奈のことだけで頭が一杯だったせいか、懐かしく感じさせた島村の顔は、余裕
の笑みで塗りつぶされていたものから、涙が悲嘆を彩るものへと様相を変えていた。

67:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/06/30 23:31:26 Vw45L8oY
「行かせませんよ……!」
 抱きつかれる力が急激に強まる。細い腕から出てるとは到底思えない強い力でより一層
拘束の手を強めてくる。言葉通り、絶対に逃がさないという意志が痛いほど感じ取れる。
 とはいっても女の子の力だ。本気を出せばすぐに腕の中から抜け出せるだろう。しかし
そうすることを俺が躊躇してしまったのは、涙に濡れた島村の顔を見てしまったが為だ。
その涙は俺が流させたものだ。誰も傷付けたくないと思いながら自分の保身も絶対に念頭
に置いていた、そんな利己的な俺の押しの弱さが招いた最悪の結果だ。そのことに対して
俺は責任を感じたいと欲しているのだ。”今すべきこと”から逃げ出す為の手段として。
 それだけは絶対に、死んでもしてはならないことだ。
「ちょっと待ってくれればいいんです。すぐに私は『加奈さん』になります。そうすれば
わかりますよ! 私と加奈さん、どっちがいいかってことが! 私は”今は”誠人くんに
痛い思いをさせてしまっていますが、誠人くんが私を愛してくれるというのであればもう
何もしません! ”それ以上のもの”は望みません! 私は加奈さんとは違うんですよ!
幸福を噛み締めることも知らずに、子供のように欲を露わにするあんな人とは違います!
だから! だから……!」
 島村が加奈を貶める発言をしていることに怒りはない。そんなことを言っているのは、
全て俺が原因なんだから。理性が理不尽な本能を押さえ込んでいる。今回だけはいつもの
呆れるくらい冷静な思考に感謝するしかないなと思いつつ、俺は体を思い切り捻る。
 その勢いで、島村はいとも簡単に俺の体から放り出される。女の子にそんな対応をして
しまうなんて申し訳ないと思いながら、自由になった体に溢れる力で即座に立ち上がり、
そのまま島村から数歩距離を取る。精神的動揺から来る動悸を抑えつつ島村を見下ろす。
 一瞬視線を泳がせた後俺を見つけて安堵したかの如く息を吐いた島村は、しかし緩んだ
口元とは裏腹に目を”信じられない”と訴えかけるように見開かせていた。制服を肌蹴て
涙を目の淵に溜めながら見上げてくる島村のその凄惨な姿を前に、またしても心中に常時
用意されている自堕落な道への一歩を踏み出しそうになるのを何とか堪える。
「島村……聞いてくれ」
 そして、優柔不断な過去の自分への決別の為に、俺は言葉を―紡いだ。
「俺はどんなことがあっても城井加奈を永遠に愛し続ける―それを、”お前に”誓う」
 ”最善にして最悪の手段”で、俺は島村を守り、そして傷付けた。
「……聞きたくない……聞きたくない……」
 体を震わしながら耳を塞ぎだした島村に、俺は更に残酷な仕打ちを続ける。
「頼む。聞いてくれ、島村。俺が好きなのは―」
「加奈さんなんですよね!?」
 地面に座り込んでいた島村が瞬間の内に立ち上がり、精一杯の声を投げかけてきた。腹
の底から、そして心の底から搾り出しているような嗚咽混じりの声は、俺の心を揺さぶる
には十分過ぎるほどのものだった。
「だから私は加奈さんになるんですよ! その私を誠人くんが好きになってさえくれれば
誠人くんは幸せになれます! してみせます! 姿形が同じ人間がいたとして、常に暴力
を振るうような人と相思相愛になれば愛情を注ぐ―その二人のどっちを取るんですか?
お願いですから正気になって下さい。”あの人”じゃ誠人くんを幸せにはできません!」
 捲し立てるように語り終えた島村は、胸の内にあった感情を全て吐き出したからか、肩
を上下させ怯えるような目線を俺に送っている。俺も視線を外さない。
 島村の言っていることは正しいのかもしれない。加奈を選べば俺はこれからもその狂気
に身震いしながら生活しなければならないのかもしれない。それよりは島村のような女と
普通の恋人生活を送った方が客観的に見れば幸せなのかもしれない。だが、幸せは個人の
問題だ。―俺の幸せは、俺が決める。
 一歩”前に”進みたい衝動を寸でのところで抑え、俺は一歩”後ろに”下がった。その
意図を理解した島村は、今まで天秤のように微妙な割合で揺れ動いていた表情を完全に黒
の絶望に歪ませた。そして俺は、その島村に追い討ちをかける。
「俺の幸せは―加奈を好きであり続けられることだ」
 膝を地面につけて崩れ落ちる島村を見つめ続けながら、最後に、最低の一言を告げた。

「俺のことが好きなら、その幸せを―叶えさせてくれ」

 そして―
「いやぁあああああ!!!!!」
 発狂の如き叫び声を発す島村に背を向け、俺は走り出した。
 一言だけ言わせてもらえるなら言わせて欲しい―”ごめん”って。

68:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/06/30 23:32:23 Vw45L8oY
 走る。頭の中でひたすら加奈の名前を連呼しながら。多分その様を”俺が”見たら非常
に無様なものに映るだろう。先程までのことを思い返せば、それは俺が泣かしてしまった
少女から逃げているようだから。勿論そんな気は全然ない。”加奈を追いかける”ことを
大義名分にして島村から逃げるだなんてことは絶対にしていない。そのことは断言できる
のだが、自分を好いてくれていた娘に対してあんな対応をしてしまったことに関しては心
を痛めずにはいられない。あれほど残酷な言葉をぶつけることが彼女にとって最良の対応
になってしまうまでの過程は俺が作り出したのだから、それに罪悪感を感じるなんて失礼
極まりないことだとはわかっている。だけど、それでもこんなことを思ってしまうんだ。
 ―二人共傷付けずに済む方法はなかったのか、って。
 今でもこべりついている”中途半端な優しさを振りまく偽善者”な俺がそう語りかけて
くる。しつこく言い聞かせていたはずの答えを無理矢理捻じ曲げようとする未練たらたら
な自分が未だに存在することが恥ずかしい。人間、どんなに表層的な余裕の態度を装えて
もそう本心をリセットすることなんてできないもんだ―そんな風に開き直れたらどんな
に楽なことか。当然島村に大きな傷を残してしまった俺なんかにはできないことだ。何年
もの間培ってきた甘ちゃんな俺がそれを許すはずがない。そう、俺が島村を傷付けたのは
事実だ。それでも―俺は”正しい道を歩めている”。自尊心や自己満足や、そういった
身勝手な感情に振り回されながらも、やっと正解への一途を辿っている。
 ―それでいい。
 たとえ心がついていけなくても、実際に周囲の人間に影響を及ぼす『行動』として俺は
頑張れている。今まで『自分』を軸にして考え行動してきた俺が、行動で以って他者への
労りを示せている。それは加奈が幸せになる為に俺が大いなる成長を遂げている証拠だ。
加奈の幸せを願う俺自信が良い方向に進めている。小さなことだがそれは重要なことだ。
 だから走る。もっと『正解』に近付く為に。

 ―ただ、一つだけ気掛かりなことがある。今は加奈を探すことに専念していて冷静に
思考できないからなのかもしれないが、さっきの島村の発言が妙に引っ掛かているのだ。
警鐘のように繰り返し聞こえてくるその言葉を整理してみるが、中々答えはわからない。
何か素通りしてはならないことを聞き落としているような気がしてならない。喉に小骨が
刺さっているようなその感覚に不快感を覚える。
 思い出せ。島村は何て言ってた?

「あ」
 しかし、漏れた自身の呆けた声が過去への回帰を中断させた。知らぬ間に上がっていた
息を整えながら、前方を見据える。
 いた。
 学校中至るところを探したが見つからなかった。友達に「帰ってた」と言われて荷物も
持たずに慌てて学校を飛び出した。いつもの通学路を隈なく見渡した。
 俺に”そこまで”させるほど大きい存在である―城井加奈がいた。
 俺と加奈が幾度となく談笑しながら登下校を繰り返した通学路の途中にある簡素な土手
の真ん中で佇んでいた。俺に背を向けているから表情はわからないが、俺がすべきことは
決まっている。再確認するまでもない。俺は躊躇なく一歩踏み出しながら叫ぶ。
「加奈ァーーッ!!」
 土手に響き渡る俺の声。加奈に届ける為に体中から搾り出した声。加奈はすぐにその声
に反応するように小さく体を震わした。そしてゆっくり体を九十度俺の方へ向けてきた。
それでも俯いたままの顔と長い黒髪が邪魔して、表情を見ることは叶わない。右半身だけ
をこちらに見せつけながら、加奈は無言でその場から動こうとはしない。俺までつられて
動くことが許されないような気がして数秒固まっていたが、すぐに業を煮やして重い足を
上げる。土手の急な傾斜を足早に下っていき、平地へと体を落ち着ける。
 俺がいる坂の末端部と、その反対側にある川との間にいる加奈との距離は十メートルも
ない。同じ間違いをし続けて、それでもここまで詰めた『正解』との距離。手を伸ばせば
届きそうな、それでいて果てしない距離。しかし”見えている”。道標があるから絶対に
迷うことのない光明への一本道。手放さない。貪欲で純粋な決意を胸に秘め、口を開く。
「加奈、俺―」
「―誠人くん」
 加奈と向き合ったらまず最初に言おうと思っていた謝罪の言葉。それは加奈の小さくも
聞き逃しようのない澄んだ声によってかき消された。俺に断ることなく、俯いたまま加奈
は続ける。
「あたし、守ったよ。『約束』」

69:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/06/30 23:33:13 Vw45L8oY
「―約束? 何言ってんだよ……」
「誠人くんが言ったんだよ。『誰も傷付けちゃ駄目だ』って」
 加奈のその言葉が、”あの日”のことを思い出させた。加奈を俺の家に泊めてお互いに
相手への愛を再確認し合った夜のことを。あの日、確かに俺は加奈にその約束をさせた。
それは加奈に自身の狂気を認めさせ、戒めとさせる為にやったことだ。それは理解できる
が、何故今そんなことを言い出すのかがわからない。その約束と加奈の行動とに一体何の
関連があるのかが全く見えてこない。加奈のことで”わからない”ことがあるという事実
が太い杭となり俺の胸に突き刺さる。その傷口から漏れ出す歯痒さに心が苛まれる。身を
焦がしながら、無言に徹するしか術のない自分に怒りを覚える。今まで如何に自分が加奈
との年月を無駄に垂れ流していたのか痛感させられる。それでも、深い自己嫌悪の闇の中
で無責任に感情を吐露し、自暴自棄に陥るなどという今までと同じ過ちを犯しはない。今
すべきことはそんな下らない自省なんかじゃないのだから。”わからなければ、知ろうと
すれば良い”―奇しくも今問題になっている”あの日”に俺が加奈に誓ったことが思い
起こされた。そう、”わからない”ことを嘆いていても前進はない。”わかろうとする”
ことの方がそれよりも大切なのだ。そのことを、自分本位に行動してきていたはずの過去
の俺は知っていた。
 そういうことを思えていたから完全に腐食し切らずに済んだのかと一人で納得しつつ、
視線を前方に固定したまま固唾を呑んで加奈を見守る。長い沈黙が俺と加奈だけの世界を
徐々に作り上げていくような妙な感覚を覚えていること数秒―その世界は壊された。

「だから何もしなかった。誠人くんが傷付いているのを見ても、『上書き』したくても、
我慢したんだよ。何度も何度も、言い聞かせたんだよ―『我慢できなかったら誠人くん
から嫌われちゃう』って……。そんなの耐えられない……誠人くんから嫌われちゃったら
あたし生きていけない。それでもあたしの中の汚い心は誠人くんを傷付けようとするから
……『上書き』したいしたいって騒ぐから……逃げるしかなかった。傷付いた誠人くんを
直視しないようにすれば”あたしの中のあたし”を抑えられると思って。誠人くんから、
逃げるようになっちゃったのはごめんなさい……。でも、”そうすれば”何とかあたしは
平生を保てる。誠人くんを傷付けずに済む……。”離れれば”いいんだよ……」

 ねぇ、と続けながら、加奈はようやく顔を上げた。そして、俺と目が合った瞬間、堰を
切ったように涙がその両目から零れた。顔だけでなく体もこちらへと向け、言葉だけでは
なく加奈は悲壮感を露わにした表情で俺に主張してくる。

「頑張ったよねあたし? 誠人くんの”望む通り”になれたよね!? 偉いよねあたし!
……だから、嫌わないで……。これからも誠人くんの言う通りにし続けるから、何だって
するから……だからお願い。あたしを嫌いにならないで……他の娘のとこ行っちゃったり
しないで……誠人くん。あたしを……あたしを彼女のままでいさせてっ!! お願い!」

 俺の両目を逃がすまいと見つめ続けてくる加奈。長い独白を終えた彼女は、全てを吐き
出した反動から感情の代わりに涙を流し続けながら咳き込むように嗚咽を漏らしている。
 その姿を見ながら俺は―打ちひしがれるしかなかった。
 俺はまたしても知らぬ間に罪を―それも、死に値する大罪を踏んでいた。俺が加奈に
させた約束は、彼女との未来を心配してのことだった。事実この約束が果たされれば、俺
の身の安全は保障されるし、加奈が過ちを犯すこともなくなる。二人の幸せの為ならば、
良い事尽くめの選択だ。だが、やはり過去の俺は『自分』を軸でしか物事を考えられては
いなかった。だから気付けなかった。その約束が加奈にとって―『鎖』になるってこと
に。
 それは残酷な『鎖』だ。加奈が俺の為なら何だってするなんてことはわかり切ってた。
だから、俺が「傷付けるな」と言えば加奈はそれに従う。でも、その無理矢理加奈の狂気
を抑え込む手段では、当然反発が返ってくる。その反発―俺を『上書き』したいという
衝動―を誤魔化す為に、加奈は「俺から離れればいい」と言った。確かにそうすれば、
加奈は限界ギリギリのところで理性を保っていられるのかもしれない。

 だが、これは明らかに本末転倒なことだ。

 だって、二人が幸せになる為に―、一緒になる為にやろうとしたことなのに、その為
に離れるだなんて、馬鹿げているにも程がある。

70:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/06/30 23:35:29 Vw45L8oY
 何でこんな矛盾が起こってしまったんだ?
 自問自答の答えはすぐに導き出された。簡単なこと。わかってしまえば何てことない。
 ―俺は、”変わろうとしなかった”。
 今まで俺は加奈を普通の女の子にしようということばかりに目を取られていた。しかし
加奈を変えようとしてはいたが、自分が変わろうとは一度もしなかった。表面では何度も
気合いを入れ直したようなフリして、実際は自分では努力せず加奈を自分の都合良い様に
変えようとしていた。自覚なしで。最も性質の悪い、無意識下の行動で。「加奈の為なら
何だってする」だなんて意気込んでおきながら、今まで一度も”狂気に呑まれた加奈”を
受け入れようとしていなかったのが何よりの証拠だ。肉体的な苦痛に意識を持っていかれ
て、俺への愛故に狂った加奈を愛しいと思えなかった。加奈の”いいところ”だけを見て
それだけを『加奈』だと認識していた。上辺だけで加奈を”決め付けていた”……。
「ふざけんじゃねぇ!!」
 気付けば叫んでいた。必死に我慢し続けていた自身への怒りがここにきて遂に臨界点を
越えてしまった。加奈は俺から嫌われない為に苦渋の選択をしようとした。加奈だけじゃ
ない。島村だって、自分を捨ててまで変わろうとした。皆、”手に入れる為”に最大限の
努力をしてきている。なのに俺は一人何をしてきた? 何もしなくても自分を好きでいて
くれる娘たちに依存して、俺は生意気に踏ん反り返ってたんじゃないか。
 そんな自分が情けなくて、許せなくて。
「ま、誠人くん? どうしたの? 泣いてるの?」
 加奈のその言葉を受け目を擦ってみると手に涙が付着した。どうやら本当に泣いている
ようだ。格好悪いと思いながら、俺はその涙を止めようとするようにに天を仰いでみる。
もう夕方らしく、空は茜色に染まっている。その澄み切った空模様を見ていると、何だか
心が浄化されていくような錯覚に陥る。そんなことはしてはいけなことだとわかっている
が、”今だけは”そう思わせて欲しい。
 ―これからすることを、せめて綺麗な心で終えたいから。
 一縷の願いと共に、俺は歩き出す。一歩一歩、加奈へと近付いて行く。
「誠人くん、駄目」
 加奈が目と言葉で俺のことを止めようとしてくる。その強い意志に満ちた力に屈すこと
なく、俺は歩を進めて行く。
「駄目だよ、誠人くん。そんなに近付いちゃあたし……」
 俺と歩調を合わせるように、加奈は後退りする。俺と視線を合わせたまま。その目線は
恐怖を感じているのか揺れている。俺が近付くことによって、俺が一方的に『駄目』だと
決めつけた”加奈の本当”が抑えられなくなると思っているのであろう。そして、それに
よって俺から嫌われることに、心底怯えているのだろう。
 加奈を恐がらせていることに罪悪感を感じつつも、足を止めることはない。
「来ないで……お願い、来ないで!」
 その叫びと共に加奈はゆっくりと後退っていた足を突然止め、制服のポケットから徐に
カッターを取り出した。見覚えのある形。それはそうだ。そいつは加奈が島村を切りつけ
ようとした時のものだから。
 俺を威嚇するように睨みつけながら、カッターの刃を素早く出してくる。僅かに覗く陽
の光が、その存在を際立たせるように照らし出している。簡単に人の命を奪える凶器―
それにさえ臆することなく突き進んで行く。
 加奈は驚きと戸惑いが混じったように表情を歪めながら、これ見よがしにカッターを俺
に突きつけてくる。きっと刃物を見せれば俺が止まると思ったのにそうならなかったから
状況を理解できないのだろう。だけどすぐわかる。これからその『答え』を示す。
「加奈」
 一言告げてもう一歩近付く。俺と加奈の距離は加奈の腕とその手に握られたカッターの
長さの分だけにまで狭まっていた。殺意をまるで感じさせないその刃物を一瞥してから、
俺は”これからすることへの理由”を述べた。
「ごめん……好きだ」
 そして、カッターを持った加奈の腕を掴み、それを―自分の首元へ刺し込んだ。
「え!?」
 加奈の驚いた声が聞こえたと同時に、首元に冷たさを感じた。その寸秒後、それは一瞬
で生暖かいものへと変わる。肌にべたつく気持ち悪い感覚と共に、何かが流れていく認識
を覚えた。
「誠人くん!? 誠人くん! ……」
 加奈の声が薄れかける。本格的にヤバイ。もたもたしていられない。このまま深い眠り
へと堕ちていきたい欲を抑えながら、俺はもう一頑張りする為に心の内で叱咤をする。
 もう声は出ないけど、行動で俺の気持ちを示す為に、喉下に刺さったカッターをすぐに
引き抜き―加奈にも突き刺した。

71:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/06/30 23:36:32 Vw45L8oY
 既に俺の返り血で制服を赤に染めていた加奈の首元から、勢い良く血が噴き出る。それ
が俺の体をも赤く染め上げていく。俺たちの周囲が俺たちの血で、俺たちの赤に染まる。

 これで良かったんだ。今まで加奈にばかり無理をさせて自分が変わる努力をしなかった
俺の、最後の思いやり―。”加奈を受け入れる”。一番簡単で、一番すべきはずのこと
を、俺はした。俺のことを『上書き』したいと願う加奈の願望を叶える為に、俺は自分の
身を捧げた。
 だけど、一時的な満足感に浸った後、加奈が罪悪感に苛まれ心を病むということは目に
見えていた。だから、加奈を将来的に苦しませない為に、加奈も殺すことにした。

 物凄く身勝手なことだってわかっている。もしかしたら加奈は生きててやり残したこと
があるのかもしれない。俺は加奈の『未来』を奪い去った。

 でも、これが間違った選択だなんて風には、微塵も思っていない。だって。

 目の前の加奈が、こんなに幸せそうに笑っているから。

 俺の血を浴びながら、共に死の実感を共有し合いながら、まるで一心同体だとでも言い
たそうな表情で、俺のことを見上げている。

 ―これこそ、俺たちが目指した『幸せ』なんじゃないだろうか?

 お互いに崩れ落ちながら先に倒れた加奈に覆いかぶさるように倒れる。加奈の温もりに
包まれながら逝ける―なんて幸せなことなんだろうか。

 きっと加奈もそう思っている。俺がそう思っているから。


「     」


 喉から息が漏れて言葉で伝えられなかったけど、きっと加奈には伝わったはずだ。俺の
言いたかったこと―理解してくれているよな?




 加奈のことを抱きながら、俺はようやく手に入れた幸せを噛み締めつつ、目を閉じた。




          ――――――――――          






72:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/06/30 23:38:18 Vw45L8oY
投下終了。次回最終話です。

73:名無しさん@ピンキー
07/06/30 23:49:51 2lrKrqEv
””と『』が多過ぎるのと主人公が果てしなくムカツクのが残念

74:実験的作品
07/07/01 00:18:28 llysDH3v
投下します。

「ねぇ、P君はどういうのが好きかな?」
そのお店の中には、なんともいえない雰囲気が漂っていた。
一言で言えば特殊な衣装や特殊な用途に使う物品が並んでいるお店。
コスプレ……と言ってしまえばそうなんだろうけど、どうして黒や赤系統が多いのだろうかと、思ってしまう。
なんというか、普通のオタク系のコスプレ衣装を売っている店とは毛色が違うというか…
革やエナメルの質感がなんとも言えずにエロティックで、壁に並んでいる手錠をはじめとする拘束具や多種多様な鞭の数々がどうも本物っぽいといいますか……
もしかしてここは本物のSMグッズのお店なんでしょうか。
しかも、千鶴さんはまるでオタク系の店での俺のように、ボンテージなどを手に取り身体に併せ
「どうかなぁ……似合う?」
などと返答に困る質問をしてくれたりするのだ。
いや、似合いますとも、似合いすぎてまるで本職の女王様っぽいといいますか。
いえ、可愛いんですよ?可愛いのですけど、可愛い前になんと言いますか黒いオーラといいますか、
彼女食べる人、俺食べられる人って立場を自覚させられるんですけど……
「P君ってこういうのは嫌いだった?」
いや、嫌いじゃないです。寧ろ好きなほうだとは思うんです。
ただ、二次元で妄想しているのと実際に目の当たりにするのは違うんです。
なんといいますか、縛ったり鞭を打ってみたり、拘束してみたいと思いますけど、スキルも度胸も甲斐性も場所もないですし。
第一、千鶴さんにそんなことできっこないす。
 緊張のあまり押し黙る俺。いや、人間緊張すると喋れないといいますか、
「嫌いじゃないけど……」
けど、なんだ!けどって。
素直に好きと言えなくて、といいますか俺Mじゃないと思うんです。
いや、そりゃいつも襲われてばっかりのヘタレな俺ですからMと間違えられるのも仕方がないのはわかるんですけど、妄想世界では何度も千鶴さんにあんなことや(以下文部省検閲につき削除)をしているんです。
 と、気がつけば千鶴さんは手に黒い袋を手に持って俺の傍に佇み、
「じゃぁ、お昼御飯でも食べにいこっか。」
俺の手をとると、店の外に引っ張っていく。
えっと、その袋の中にはなにが入っているんですか?千鶴さん。

75:実験的作品
07/07/01 00:20:35 llysDH3v
気がつけばいつものオタク系店舗にいる俺と千鶴さん。
って、どうして千鶴さんがこの店を知ってるんですかっ!!
俺はこの店の痕跡物を家に残したことはないはずだし、この店の話をしたことだってないはずなのに。
そんな俺の思いを知ってか知らずか店内を見て回る千鶴さんの姿。
おもわずその姿に驚き、そそくさとその場を立ち去り何事かと遠方から千鶴さんを窺う野郎に、動かざること山の如しとエロマンガを物色する猛者たち。
そんな中に立ち入り、おもむろに一冊のエロマンガを手に取り
「P君、こういうの好きでしょ?」
ええ、好きですけど周囲の視線が死ぬほど痛いです。なんというか、空気が悪いっす。
「この人の本持ってたよね?」
ええ、持ってますっていうか、どうしてそんなこと知ってるんですか?
「これまだ持ってないよね。買うの?」
買いたいですけど、今日はなんというか買えるような雰囲気じゃないですっす。
「こういう人形はP君興味ないの?」
いえ、あるんですけど、家に飾れないんです。ほら、俺覚悟が足りない人ですし。
というか落ち着いて買い物をする雰囲気じゃないというか、千鶴さんはどういう店舗なのか見学するために来たようで特に何を買うわけでもなく
一通り見終わると店を出てしまった。その際に言われた言葉が俺をどきりとさせた。
「今日は何も買わないの?」
今日はって……

76:実験的作品
07/07/01 00:22:12 llysDH3v
次に向かったのは所謂ビデオレンタル……なんだが、どうして千鶴さんがそのコーナーにいるんですか?
「ねぇ、P君。どういうのが面白いの?」
おもいっきりアニメのコーナーの前でにっこり微笑む千鶴さん。
 なんなんでしょう……この、死刑直前に刑務官が見せる
「何か最期に言い残すことはないか?」
ちっくな優しさというか違和感は。
しかし、無言でいるわけにも行かない。無難にアンパンマンをお勧めするべきだろうか。いやいや、ここはヅブリの映画を……
「あ、これ確かP君、これのゲームもってたよね?」
はい、よりによってそれですかぃ。
絶対にオススメしてはいけない上位ランキングぶっちぎりで1位のそれを選びますか。
って、待て。うえいとあみぬぃっと。
どーして千鶴さんがそのゲームを持っていることを知っているんでしょ?
あれはデスノートばりに厳重に秘密の机の奥にしまいこんだはずだし、侵入者の形跡もなかったはずだが……。
いや、まて。
待つんだ。
落ち着け。
ここは無難に否定してみるのはどうだろう……
いやまて19話や20話を避ければ単なるハーレムアニメに過ぎないのだから、1話だけ見せてみるのはどうだろうか?
いやいや、キャラクター物のアニメは避けるべきだろう。せっかくあの千鶴さんがアニメに興味を持ってくれているんだ。
内容のあるアニメを見せてみるのがいいのだろうか?ならなにがお勧めだ。お髭のモビルスーツ?いや、ルパンルパーン?或いは努力と根性?
 と、とりあえず無難なものを4本選ぶと、素直に微笑む千鶴さん。
「へぇ、楽しみ♪」
……あの、あなた本当に千鶴さん?

77:実験的作品
07/07/01 00:25:12 llysDH3v
家に帰り、ビールを片手に千鶴さんとDVD鑑賞。
夢のような光景のはずなのだが、どうにもこうにも千鶴さんの顔は真剣そのもので、まるで教育番組を見る留学生のように画面を凝視し続けている。
なにを考えているんだろうなぁ、などと推測するが微妙にわからない。急にオタク文化というか俺の趣味に理解を示してくれた背景に一体なにがあったんだろうか。
いや、仮にそうだとしても、人には見られたくない暗部ってものがある。
俺はこっそり隠れて独りこそこそとオナニーしたい性質だし、見られて恥ずかしい部分ていうのはある。
そりゃ千鶴さんとオタク系の会話ができるようになることはある意味歓迎するべきことなんだと思う。
だが、何かが違う気がする。
千鶴さんがこのことがきっかけで腐女子化してしまうのも俺のエゴなのかもしれないが千鶴さんにはこのままでいて欲しいと思っていた。
そりゃ確かに俺も男なんだから都合のいいことを思ったりもするさ。
だが、なんというか千鶴さんは高く気高い尊い存在であって欲しかった。
ある意味、俺なんかと付き合ってくれているだけで贅沢な話なのだが、それが原因で千鶴さんが駄目になってしまうのはいやだった。
だからといって千鶴さんと別れることなんてことも当然できない俺なのだ。
そうだ、認めよう。俺はこんなに駄目な奴なのにどうして千鶴さんは俺なんかと付き合ったりしてくれるんだ。
金も顔も名声も甲斐性も将来性もない俺なのにどうして千鶴さんはこうまでしてくれるんだ。
千鶴さんにいったいなんのメリットがあるんだろう。

その夜、千鶴さんはあの店で買ってきたあの衣装を着てくれた。
俺は初めて千鶴さんに命令をした。
いや、千鶴さんが命令して欲しいとお願いしてきたのだ。
わけがわからない。
でも、そうしないといけない不安に駆られた。
そうしなと千鶴さんがどこかに行ってしまうような気がした。
恐怖と背徳感。
いつもは見上げる千鶴さんの顔を俺が見下ろしている。
ぞくりとする。
そしてたった一言がきっかけで何かが弾けた。
「咥えてよ。」
その夜、初めて俺は無我夢中で千鶴さんを自分の物にした。

78:実験的作品
07/07/01 00:26:24 llysDH3v
投下完了です。

79:名無しさん@ピンキー
07/07/01 02:48:56 LD2bgLYv
>>72作者が意図したものか否か解らないが、いらっとする主人公だな。
グダグダ言い訳した挙句、自己完結の無理心中で問題放棄したように見えてしまう。

>>78お互いが今までちょっと遠慮してたぶん、千尋さんの方が一気にヤンデレ化しそうで楽しみ。
GJ!!

80:名無しさん@ピンキー
07/07/01 04:18:01 GcRWPsWA
>>72
「やっぱり島村さんはいいなあ」とか呑気していたが
あああああ!
なにやってるんだ誠人!
リアルに( ゚д゚)ポカーンとしてしまった

>>78
地味に洗脳されつつあるような
このまま進むのかなにかのキッカケで爆発するのか
千鶴さんの危うさが出てきた感じでwktk

81:名無しさん@ピンキー
07/07/01 04:37:34 iBgej3OJ
>>72
ふむ、主人公の行動には少し考えされらるものがあるな。
自分は正しくあれと思い、そう振舞うのは偽善だったと気付き自己嫌悪に落ち、
ならば偽善をなくそうとし、だけど偽善を意図的に振り払おうとするのもまた偽善。

結構深いものがあるな。

82:名無しさん@ピンキー
07/07/01 04:59:44 KzLJvUtD
かなり出遅れた感があるけど空気読まずプロットを……

・主人公は過去に近所のキモ姉に監禁逆レイプされた経験がある
・幸運にも救出されるがキモ姉家族は居た堪れなくなって引越す
・数年たって事件のことを忘れ始めていた主人公の前に突然娘を名乗る女の子が現れる
・ずっと父親からの愛情に飢えていたため十数年分を取り戻すかのように甘える娘を主人公も次第に愛おしくなってゆくが……どうなる、みたいな

このプロットなら精通さえ迎えていれば小学生でも子供ができる

83:名無しさん@ピンキー
07/07/01 06:46:40 EA36+iPh
どこで読んだか忘れたんだが・・・・

ファンタジー物で、ある一人の魔道師(剣士だったかも)が戦場で一人の娘を拾い、その娘がヤンデレ化してセックスみたいなSSがあったんだが、こんなのはどうだ?

84:名無しさん@ピンキー
07/07/01 07:46:45 86yV6aIp
>>82

ダディフェイスのキモ姉版?

85:名無しさん@ピンキー
07/07/01 10:59:37 vOf1ohUI
ダディフェイスって言うから一瞬クールなほうを想像しちゃったじゃないか

86:名無しさん@ピンキー
07/07/01 11:16:58 Zamv8YiL
あの女の臭いがする!
     /\___/ヽ
    /ノヽ       ヽ、
    / ⌒''ヽ,,,)ii(,,,r'''''' :::ヘ
    | ン(○),ン <、(○)<::|  |`ヽ、
    |  `⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒´ ::l  |::::ヽl
.   ヽ ヽ il´トェェェイ`li r ;/  .|:::::i |
   /ヽ  !l |,r-r-| l!   /ヽ  |:::::l |
  /  |^|ヽ、 `ニニ´一/|^|`,r-|:「 ̄
  /   | .|           | .| ,U(ニ 、)ヽ
 /    | .|           | .|人(_(ニ、ノノ

87:名無しさん@ピンキー
07/07/01 11:20:09 prRwsgdU
ダディフェイスは是非読め、電撃から出てるから

88:名無しさん@ピンキー
07/07/01 11:51:26 KTYKZGPL
>>87
キモいのか?

89:名無しさん@ピンキー
07/07/01 12:26:41 PRf3a/Sc
>>72
前から誠人は理屈っぽい所があったが最後に壮絶に空回りしてしまった希ガス
最終回で二人が幸せになれますように(-人-)

>>78
>その夜、初めて俺は無我夢中で千鶴さんを自分の物にした。
しかし実情は千鶴さんにいいいようにもてあそばれてるのか……?w
このまま何も気付かない方がいいのかもしれんねw

90:名無しさん@ピンキー
07/07/01 12:28:10 HD2asF8v
>>87
あれはキモ嫁だべ。

長女や長男もやや依存っぽいが描写が出てきてるけれど、
姉弟間での絡みは無いしなぁ。

91:名無しさん@ピンキー
07/07/01 15:14:43 Am9zaEBA
九頭龍 左龍鉄刃!!

92:名無しさん@ピンキー
07/07/01 17:20:37 25AUCktU
ガリガリはキモかろ

93:名無しさん@ピンキー
07/07/02 00:51:35 7bBOmpW3
>>50
すみません、その設定を頂いても宜しいですか?

94:名無しさん@ピンキー
07/07/02 01:12:59 VnWxpkG0
>>88
主人公の設定が、幼い頃に嫁(便宜上の呼び名だが)を助けて半身不随の怪我をする。
その後嫁と離別して、強くなろうとして習得した仙術で半身不随を克服。
その後、半身不随にした事を心配に思っていた嫁が再会。だが再会初対面で気付かず、知らない人とはっきり言ってしまったため言い出せない。
その後、主人公が風邪をこじらせるのだが、体調が悪くなると仙術を維持できないため、半身不随状態に戻る。
それを診察した医者に、半身不随が残ってる事を聞かされた嫁は頭を掻きむしって頭血だらけ。
どうも離別した直後ぐらいは半身不随にした影響か頭をよく掻きむしっていたらしい。

95:名無しさん@ピンキー
07/07/02 12:54:01 67zPExO7
58です、同じ内容で全く違う作品を書きました。
AとB、人気が高い方を書いて行きたいと思います。
Aは正規ヤンデレ娘でBは「頭を病んでいる」ヤンデレです。
稚拙な文ですが、暇潰しにどうぞ

96:試験作品 A
07/07/02 12:58:23 67zPExO7
最愛の妻が他界してから早3年。
毎朝見慣れた光景とはいえ、頭を抱えずにはいられない。
横を見ると、10歳になる娘が安らかな寝息をたてて寝ているからだ。
「起きろ百合花。」
百合花の体を何回も揺らすと、のっそりと起きて部屋を見渡し、俺の姿を見るとニッコリと微笑む。
「おはようございますお父様。」
「おはよう、百合花。ところで何個か質問があるんだけど良いか?」
「何でしょうか?」
「どうして、ここで寝ているんだ?」
まるで何を言ってるのか分からないという風に首を傾げる。
「どこの世界に小学4年生の女の子が父親と同じ布団で寝るんだ?」
「ここに居るではありませんか。」
嬉々として返事する娘の事を考えると。
また一つ大きな溜め息が流れ、このやりとりは一体何度目なのか・・・と自問自答してしまう。
「いつも言ってるけどな、もう少し父親離れしたらどうだ?」
「嫌です。」
「でもなぁ
「嫌です。」
「だか
「嫌です。」
「・・・」
「・・・」
互いに無言になる。
俺はきっと渋い顔で百合花を見ていると思うが。
それとは対象的に百合花はまるで恋人を見るかのように俺を凝縮する。
「・・・馬鹿馬鹿しい・・・。」
「何か仰いましたか?」
俺は百合花の父親だ。3年前に妻を交通事故で亡くしてから、俺は父親として百合花に出来る限りの事をしてきたつもりだ。
「なんでもない、それより学校の準備しないとダメなんじゃないか?」
「はい、それではお父様失礼します。」
百合花は丁寧にお辞儀すると、静かに部屋から出て行った。
大きく背伸びをすると、まだ眠たい頭を我慢しながら顔を洗うために洗面所へと足をのばした。


97:試験作品 B
07/07/02 12:59:49 67zPExO7
最愛の妻が3年前に他界した。
いつもと変わらない光景がそこにはあった。
「良い加減寝た振りを止めたらどうなんだ?」
「あら、お父様やっとお目覚めですか?」
横には娘の百合花が居た。
「いつ、忍びこんだ?」
「それは違いますわ、お父様。」
「どういうことだ?」
「忍び込んだのじゃなくて、夜這いです。よ ば い。」
今回で何回目だ?
百合花が入ってこないように、南京錠まで掛けたのに、容易く突破されてしまった。
「南京錠なんかで私達の愛は止められませんわ。」
身悶えする百合花を見ながら、俺はどこで教育を間違えたのか自問自答していた。
「お父様の真剣な姿も素敵ですわ、あ・・・涎が、失礼。」
じゅるりと出てきた涎を拭きながら、俺に近寄ってくる。
「なんで近寄る?」
「目覚のちゅーですわ」
「するかあああああ!!!!!」
俺は抱きついてくる百合花を振り払うと、本気で家から飛び出した。

98:名無しさん@ピンキー
07/07/02 13:01:29 67zPExO7
以上です、色んな意味でやってしまいましたorz

99:名無しさん@ピンキー
07/07/02 13:41:55 cI3MLG/U
GJ! 
なんだがえーと……この展開は正規ヤンデレなのか?
それならばA!

100:名無しさん@ピンキー
07/07/02 15:51:14 cdweoY0k
最初Aで完結したらBきぼん

101:名無しさん@ピンキー
07/07/02 15:54:16 DAJNNDqW
Bのほうが続き読みたいって思ったのでB

102:名無しさん@ピンキー
07/07/02 16:27:13 85zBu5nZ
短編ならBが読みたいが
長編ならAが読みたいな

結論:両方

103:名無しさん@ピンキー
07/07/02 17:04:58 +VeezHyW
( ´∀`)σA

104:名無しさん@ピンキー
07/07/02 19:12:02 4On+ZodA
勿論どっちも

105:名無しさん@ピンキー
07/07/02 20:41:32 HOr9q90g
俺も>>102

106:名無しさん@ピンキー
07/07/02 21:21:08 67zPExO7
どっちもな意見が多かったので、まずAを完結させてからBを書きます。
執筆頑張るので、お待ちをorz

107:名無しさん@ピンキー
07/07/02 22:50:57 OzYayXKh
>>106

よし!息子以外は全裸で待ってます。

108:名無しさん@ピンキー
07/07/02 23:18:02 6MJNjySa
ヤンデレはある意味でヤンデレを発見するヤンデレな歴史を作る作業なんだよな・・


109:名無しさん@ピンキー
07/07/02 23:41:47 iVrnNsaX
足の裏を山羊に舐めさせながら待ってます
僕が狂死するまでに書いてください

110:名無しさん@ピンキー
07/07/03 10:01:49 MYNXK1qj
>>109くんの足の裏を嘗めていいのは、高校も中学校も小学校も幼稚園も保育園もずっと一緒でおうちも隣でずっと>>109くんの足の裏を嘗めてきた、あたしだけなの……!」
「何を言う、私など>>109が生まれたときから、姉として足の裏を嘗めてきたんだ。譲る気はないね」
一方その頃妹は唇を奪った。

111:名無しさん@ピンキー
07/07/04 06:46:48 AKA28tOO
保守

112:名無しさん@ピンキー
07/07/04 08:08:44 d6W9+muc
スクイズ見レナ過多

113:名無しさん@ピンキー
07/07/04 09:42:05 YSVGaCwq
>>110
(*´Д`)ハァハァ、こんなの実際に居たらいいね。

114:58
07/07/04 11:32:19 KPfaKu2r
短いですが、投下します。
お楽しみ下されば幸いです。


115:家族A
07/07/04 11:34:41 KPfaKu2r
朝、朝食を食べた後にコーヒーを飲みながら何気なくニュースを楽しんでいたのだがその静寂は声によって阻害される。
「お父様、今日は何時ぐらいにご帰宅なさいますか?」
洗い物担当の百合花が濡れた手をエプロンで拭いながら話しかけてきた。
「7時ぐらいかな。」
「分かりました、出来るだけ早くお願いします。」
「何か用事あるのか?」
「いえ、余り遅いと心配になりますから。」
親が子を心配するなら分かるのだが、子が親を心配するのはいかがなものだろう?
これじゃ、立場が反対だな。
思わず苦笑が洩れる。
「お父様、何か楽しい事でも?」
俺が笑っていると、百合花まで楽しくなるのか。
自分の事のようにくすりと微笑む。
「なんでもない、それより時間良いのか?」
「もうすぐ出ます、その前に・・・失礼します。」
それだけ述べると、百合花はエプロンを外して俺に抱きつく。
甘えん坊なところは昔から変わってない。
「やっぱり安心するなぁ」
普段丁寧語の百合花だけど、この時だけは本来の口調に戻る。
「ねぇ、お父様」
「ん?」
「お母様の事大好き?」
「あぁ、今も心から愛してるよ。」
「そっかぁ、それじゃ私は?」
「自分の娘を嫌うと思うか?」
抱きついたまま、百合花は頭を横に振り。
よりいっそう俺に抱きつく。
5分ぐらいそうしたであろうか、不意に離れると。
俺に向かって一礼。
「お父様、失礼致しました。」
「気をつけてな。」
「はい、行って参ります。」
制服の乱れを丁寧に直すと、リビングから出て行く。
玄関の音がした後、会社に向かう為着替えることにした。


朝、タイムカードを切ってから俺の仕事は始まるのだ。
「おはよう、白石さん」
「おはようございます、川内さん」
彼女は俺の部下でもあり、同じ大学で学んでいた友人でもある。
その美貌から求婚されるのは多いらしいが、全て断り。
今現在でも、独身キャリアウーマンとして頑張っている。
妻が亡くなった時最も悲しんでくれた人で。
俺自身幾ら感謝しても足りないぐらい恩を受けている。
って・・・そろそろ仕事しないと。
俺は深く深呼吸すると仕事に取りかかった。

116:家族 A
07/07/04 11:36:40 KPfaKu2r
白石 小夜

「ただいま」
誰の返事も帰って来ないのは分かっているが、真っ暗な闇に対して帰宅を告げる。
ふと目に止まった電話機には親からのメッセージ。
聞かなくても内容が分かりきっているので全て削除する。
十中八九お見合いしろ・・・ということだろう。
全くもって下らない。
私には既に心に決めた人が居るのだ。
その人の名前は、川内 智也。
私が彼を見かけたのは大学2年の時、たまたま同じ講義を受けていた頃に遡る。
黒曜石にも似た、黒い髪に引き締まった体。
瞳は湖の様に澄んでいて、優しげな風貌を醸し出していた。
一目惚れだった。
それからというもの、私は彼との絆を築きたくて努力して友人になることができた。
嬉しかった、実際会話してみても想像していたものと一緒・・・いやそれ以上だった。
だが、私の至福の時は長く続かなかった。
彼には妻と娘が居たからだ。
それを聞いた時、私は絶望の本当の意味を知った。
叶わぬ恋・・・。
それでも彼と一緒に居たかった為に、卒業後。
同じ会社を受けた。
新人研修の時の彼の驚きは記憶に新しい。
ずっと、私の恋は叶わないと思っていた。
だが3年前のあの日、私の恋は再び始まることになる。

117:家族 A
07/07/04 11:40:13 KPfaKu2r
忘れもしないあの日、洗い物をしていた時に電話がかかってきた。
「失礼ですが、白石さんのお宅でしょうか?」
相手は愛しいあの人、本来ならば暖かな声はガラガラに枯れていた。
「何かあったの?川内くんっ」
受話機を強く耳に充てるとひそかに泣き声がした。
「・・・妻が、香代が本日、な・・・亡くなりました・・・」
嗚咽と混じり混じりに言葉を紡ぎ出す。何だって?
妻が、亡くなった?
誰の?
「葬式を執り行いたいので・・・つきましては・・・」
愛しい彼のだ!!!!!
何たる幸運!!
彼にとっては悲報かもしれないが、私にとっては吉報だ!!
一生叶わないと思っていたのにこんな形で流れ込むなんて!!!
ふとすれば、流れ出てしまう歓喜の笑いを抑えつつ。
震える声で私は彼を慰めた。
「それでは失礼しました・・・」
「元気だしてね、今から会いに行くから」
「ありがとう」
その言葉を最後に電話が切れた。
電話が切れた後、私はどうやって彼を手に入れたら良いのか考えた。
だが、どうにも良い考えが浮かばない。
彼は私を只の友人としか見てないだろう。
私の気持ちにさえ気付いているか、疑問が残る。
彼を取り巻く、人間関係は、娘ただ一人。
両親からは大学卒業後、縁を切られたと聞いた記憶がある。
娘・・・彼に最も近く、切っても切れない関係・・・。


ならば利用してやる!

118:名無しさん@ピンキー
07/07/04 11:42:37 KPfaKu2r
以上です。
歳は28と10でお考え下さい。


119:名無しさん@ピンキー
07/07/04 12:27:10 AKA28tOO
>28と10
( ゚д゚)

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚)

(つд⊂)ゴシゴシ
  _,._
(;゚ Д゚)?!


120:名無しさん@ピンキー
07/07/04 12:41:47 olH06CST
キモ娘10歳児だとぅっ!
これは新 境 地
続き楽しみにしてまつ。

121:名無しさん@ピンキー
07/07/04 12:49:18 evNu1o/G
今のところはむしろ白石さんに萌える、これから楽しみ
あとお父さんの過去が気になる
高校生でできちゃった婚したのだろうかw

122:名無しさん@ピンキー
07/07/04 15:54:51 ITiwAeu0
お父さんが3月後半生まれなら、大学1年次の6~7月までにヤっちゃえば
ぎりぎり18歳でパパになれる。
(人間の妊娠期間は大体266日=38週間前後、早産の場合を除く)

どちらにしても続きが楽しみだ。特に娘の方。
作者さんGJ!

123:名無しさん@ピンキー
07/07/04 18:17:51 LZ1gtyEX
GJ!
娘さんガンバレ!!


124:名無しさん@ピンキー
07/07/04 21:27:10 SPkJzbTa
この手のシチュは大好物なのでwktkが止まらない

キモムスメと白石さんに期待だぜひゃっはー!

125:名無しさん@ピンキー
07/07/04 21:28:07 yPp0lh3Z
保管庫更新乙です

126:名無しさん@ピンキー
07/07/05 00:49:11 l7qMN1M4
更新乙

127:名無しさん@ピンキー
07/07/05 11:41:31 YAOTTSwf
更新乙です

128:名無しさん@ピンキー
07/07/05 14:31:45 w0kg14Zz
下手っすがよずり姉さん
URLリンク(s.pic.to)

129:名無しさん@ピンキー
07/07/05 17:06:38 b3Vby/Io
>>128
ちょw
なんか怖いw

130:名無しさん@ピンキー
07/07/05 17:20:36 VJ9ieQsy
誰か、転載よろしく。

131:名無しさん@ピンキー
07/07/05 21:09:02 4/D3YiMS
>>128
なぜそんなところに上げるのか理由を聞かせて貰おうか。


132:名無しさん@ピンキー
07/07/05 21:31:02 w0kg14Zz
マジスンマセン

133:名無しさん@ピンキー
07/07/05 21:55:05 16I/bFbM
>>132
PC許可は無理なのかな?
携帯で見ればいいんだろうけど

134:名無しさん@ピンキー
07/07/05 21:58:39 16I/bFbM
あ、PC時間制限されてるのか
スマソ

135:名無しさん@ピンキー
07/07/06 02:10:05 wkGdRlXk
VIPのヤンデレゲーム作ってるとこ、現在体験版公開中。
個人的に、

立絵 : ○
背景 : △
シナリオ : △
システム : ?
イベント絵 : ◎

136:名無しさん@ピンキー
07/07/06 17:11:35 K3jRpqlC
>>135
シナリオはこのスレの作者さんにも来て欲しいな

137:名無しさん@ピンキー
07/07/06 17:26:41 ut4FjtV6
そういえばお茶会のゲーム化の話って進んでるんだろうか

138:名無しさん@ピンキー
07/07/06 18:01:14 POtrJYeU
>>136
もうシナリオ完成してるんじゃないの?
ゲーム化企画ってだいたいSS師はあまるけど
絵師とか音師が足りなくてひーこら言うものだと思って敬遠してたが・・・

139:名無しさん@ピンキー
07/07/06 18:11:07 NQ+PWGhq
頻繁に関連スレに宣伝来てるよ

140:名無しさん@ピンキー
07/07/07 06:37:05 qF8F0BcQ
上ゲ

141:名無しさん@ピンキー
07/07/07 21:34:00 SpYWVM4X

  [ (★) ]_
  <丶´Д`>
   (ミ 北 )<嫉妬スレが職人不足・・・このスレの職人さん・・助けて・・・
   ) |(
   〈_フ__フ
スレリンク(eroparo板)

142:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs
07/07/07 23:03:00 ersBxxDh
短編投下します

   †



 これから話すのは、少しばかり奇妙な体験談だ。といっても、私の身に起きた
ことじゃない。お話の中に私が登場しないし、したとしても物語の本筋に関係の
ない脇役、語り手、通行人、そういった役くらいのものだ。あくまでも主人公は
私の友人である三角・徹で―これは徹の物語で、彼の体験談だ。
 他人の体験談を、私が語ることを許して欲しい。こればっかりは仕方のないこ
となのだ。なにせ、もう私以外に、あの事件について詳しく語るものはいないの
だから。
 当事者は、もう、どこにもいない。
 だからこれは、終わってしまったお話だ。体験談で、昔話で、御伽噺だ。
 どこか遠くでおきた、いつかどこかでおきた、少しだけ奇妙で、僅かばかりに
おぞましい、愛情の話だ。
 だから、語りだしは、自然とこうなる。
 すべての御伽噺は、こうして始まるのだから。



 昔々、あるところに――




■ 狂人は愛を嘯く.Case1




143:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/07 23:19:47 ersBxxDh

「これ、恋人」
 五月に入ったばかりの暑い日に、炎天下の下で三角・徹は前触れも前置きもなく、
いきなりそんなことを口にした。
 暑さのあまり、蜃気楼でも見たのかと思った。
 暑さのせいで、ボケてしまったのかと思った。
 それくらいに―唐突で、脈絡のない、話だった。
「……ふうん」
 それ以外に私にできる反応はなかった。むしろ、「ふうん」と返事を返せただけ
まともだったといえる。実際、私は「ふうん」の後に続く言葉を、何一つとして思
いつくことができなかった。
 私の返事が気に喰わないのか、それとも十分だと思ったのか、徹は何も言わない。
 徹の横に立つ女も―やはり、何も言わない。にこにこと笑って、傍に立っている。
「…………」
 二人が何も言わないので、私は黙ったままに視線をめぐらせた。まだ五月だというのに、
直射日光があたる場所は暑い。大学のキャンパスには人が溢れていて、大多数は日陰を選択
して歩いていた。日向にぽつんと立っている私たちは、少しばかり奇異に見えただろう。
 徹―さして古くもないが、そこそこの付き合いである彼はいつもと変わらない格好だった。
洒落っけはないが、清潔な格好。短く刈り込んだ髪と相まって、何かのスポーツをやっている
ように見える。
 彼がこの上なくインドアな趣味を持つのだと、見た目からでは想像はできない。常に浮かべて
いるほがらかな笑みは、同人誌即売会よりはテニスコートのほうが似合っていそうだった。
 人それぞれ、だ。
 そちらのほうはさして問題はない。問題があるとすれば……
「……恋人?」
 ようやく、私はそれだけを言えた。視線は、徹ではなく、その隣に立つ少女へと向けられている。
 少女。
 キャンバスにいる以上、年齢は多少前後する程度で、「女」と呼んだほうがいいのだろうが、私には
彼女を「女性」と呼ぶ気にはなれなかった。少女、と言葉がいちばんしっくりきた。それは、ただ単純に
背が低いというだけでもなく、どこか少女趣味な服を着ていたからでもない。
 目だ。
 子供のように純粋で―少女のように危うい目をしていた。取り出して磨けば、ガラス球のように向こ
う側が透けて見えるだろう。
 経験上、こういう目をした相手は、大概が忌避すべき相手だ。
 できるかぎり目をあわせないようにする私を、けれど、少女は見てはいなかった。その透明な瞳は、た
だ一点、徹にのみ注がれていた。
 恋をする少女の熱心さで。
「ああ、恋人」
「……ふうん」
 再び、徹は言った。話がまったく進んでいない。
 仕方なく、私の方から、もう一歩だけ踏み込むことにした。
「付き合っているのかい」
「まあね」
「男女交際?」
「男々交際に見えるか?」
「さてね」私はそらとぼけて、ちらりと少女を見た。もちろん彼女は男には見えないし、
徹が実は女だということもない。健全な―健全かどうかは知らないが―男女交際だろう。

144:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/07 23:28:13 ersBxxDh
 とはいえ、徹が何を言いたいのか、まだわからない。
 まさか、ただ単純に自慢しにきただけだろうか。徹がそういう人間だとは知らなかったが、初めて
男女交際を味わえば、人間が代わってもおかしくはないのかもしれない。
 愛情とは、そういうものなのだろう、多分。
「いつからだい」
 胸ポケットから煙草を取り出し、火をつけながら私は聞いた。こんな話、素面でしたくなかった。酒
があればそちらのほうがいいのだが、生憎、真昼間から酒を持ち歩くほど不健康な生活はしていない。
 ゆっくりと立ち昇る紫煙は、けれどゆるやか風に流されていってしまう。
「先月のイベントで出会ったんだ」
 へえ、と私は頷いた。少しばかり興味がわいた。イベントで出会った、ということは、彼女はご同類
ということになる。書き手なのか読み手なのか、少しばかり気になった。
 が、その僅かな興味は、徹の次の言葉に掻き消された。
「俺の本を―気にいってくれたらしい」
「…………」
 危うく、煙草を取り落とすところだった。
 今の私は間抜けな顔をしているに違いなかった―それだけの驚きを、徹はその言葉で与え
てくれた。
 ―本を読んで気にいった?
 私は三度、少女を見た。いまだに名前も教えてもらっていない少女は、じっと、徹を見ていた。
徹以外の何も見ていなかった。その眼球の中に、私の姿は映っていなかった。
 そういう出逢いがあることは知っていた。
 けれど。
「……あの本を?」
「あの本を」
 徹は頷く。彼も彼で、私しか見ていなかった。隣に立つ少女を、見ようとしていなかった。
 ようやく―私は悟る。どうして彼が、恋人が出来たことを報告するように、私のもとへと
訪ねてきたのかを。
 理由はわかった。
 何がしたいのかは、わからないが。
「ふうん……」
 私は灰を落としながら思考を一ヶ月前へと飛ばす。三角・徹が出した本というのは、
複数人のライターによる小説本で―ようするに、文芸サークルの身内本だ。地元の
即売会にも参加しているが、当然のようにほとんど売れない。同じようなサークルと
売りあったり交流するために参加しているようなものだ。
 そのことについては、別にいい。
 問題は―
「君の―話かい?」
「そうだ」
 念を押すように言うと、徹は頷いた。かすかに、視線が泳いでいた。
 仕方のないことだ。視線をそらすくらいはするだろう。なにせ、先月の本は、徹は―
原稿を落として、代筆を私に頼んだのだから。
 あれは徹の本だが、
 私の話なのだ。



145:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/07 23:43:12 ersBxxDh
 友人に代筆を頼むことはそう珍しいことではない。この場合ただ一つ問題なのは、
作品が徹の名前で出ていることだ。私は自身の名前が出るのを疎ましく思ったし―
徹は自身の原稿を落とすことを拒んだ。そういう利害の一致で、徹の名義であの作品
は出されたのだ。
 そして、
 この少女は、それを読んで気に入ったのだと言う。
「あの本は―面白かったのかい」
 徹にではなく、私は未だ名を知らない少女に向かって言った。
 反応は、遅々としたものだった。
 始めの五秒、少女は自分に向かって話しかけられているのだと、気付いていなかった。
私は辛抱深く待ち、十秒ほど過ぎた頃、少女はゆっくりと、言葉を咀嚼するようにして、
私の方を振り向いた。
 視線が、あった。
 あわなければよかったと―そう思う、瞳だった。
 少女は、透明な瞳で私を見て、


 ―はい、大好きなんです。


 細い声で、そう言った。
「……そうかい」
 私は頷き、煙草を携帯灰皿へと捨てた。足元へと捨てたかったが、学生課に注意されて
以来慎むようにしている。少女はすぐに私から徹へと視線を戻し、私もまた、徹へと視線
を戻した。
 彼は、私を見ていた。
 私を見る彼に、私は言った。
「よかったじゃないか」
 ―つまりは、そういうことだ。
 少女はあの話を読んで、徹と付き合うことを決めたのだろう。徹ではなく、本を大好き
だと言った少女の態度は、無言でそう告げていた。
 ならば、
 徹にとって、『真実』など疎ましいものに違いない。
 言葉の裏に真意をこめて、私はよかったじゃないかと言ったのだ。
 ―黙っていてやるよ、と。
 そう、意味をこめて。
「ああ、有難うな」
 私にだけ通じる真意を言葉に込めて、徹は答えた。別に、有難いことだとは思わなかった。
わざわざ真実を口に出すつもりもないし、彼の幸せを壊そうとも思わなかった。
 ただ、
 徹がその少女に惚れていることが、少しばかり意外だった。彼の趣味は今まで知らなかったが、
こういう儚げな子が好きだったらしい。

146:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/07 23:54:34 ersBxxDh
「それで、今日は自慢でもしにきたのかい」
 完全に興味は失っていたし、彼が私に釘をさすという用事も終わっていたが、一応言葉を
続けてやった。そのくらいの甲斐性は、私にもあるつもりだった。出来ることならば、今す
ぐ話を切り上げ、次の講義を休み、どこか昼間から開いている居酒屋で酒を飲みたいとそう
思ったが、実行はしない。
 徹はかすかに安堵したように笑って、それから、
「いや―果敢那がさ」
「ハカナ?」
「ああ、こいつの名前」
 言って、徹は隣に立つ少女を指さした。指をさされてもなお、少女は微動だにしなかった。
果敢那、というのが彼女の名前なのだろう。下の名前を呼ぶ程度には、仲が良いらしい。
「それで?」
 話の続きを促すと、徹は「ああ、」と前置き、
「うちのサークルに入りたいっていうから―部長のところに、連れていくところだ」
「成る程」私は意味もなく形だけ頷き、「そのがてらに見かけたから、自慢をしにきたという所かい」
 彼が話しやすいように誘導すると、案の定、徹はにやりと笑って、
「まあ―そんなところだ」
 と、言葉をしめた。
 これで、表向きにも、裏向きにも、用事は終わった。
 これ以上この暑い場所にいる必要もない。私は「馬に蹴られる前に、退散することにするさ」と
だけ告げ、踵を返そうとした。
 その私の背に、予想外の言葉が投げかえられた。
 徹のものではない。
 少女の―果敢那のものだった


「―さようなら」


 ただ、一言だった。
 その言葉が、どういう意味を持ったのか私にはわからなかった。とくに考える気もなかった。
振り返らずに、そのまま去る。振り返っていれば、彼女が私を見ていただろう。けれど、振り返
らなかった私には、彼女がどんな表情をしていたのか、最後までわからなかった。
 振り返って、あの瞳と目があうことを考えると、それは正しい判断だったのだろう、きっと。


147:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 00:11:11 7Iqx920E

 お話は、だいたいそんな風に始まった。徹と果敢那が付き合い始めたことは一気にサークル
の中に広がった。徹のような人間が交際を始めた、という驚きのせいかと思っていたが、話を
聞いていると、どうやらあのあと二人は、サークルの人間に手当たり次第に挨拶に回ったらし
い。新入生の挨拶というよりは―恐らくは、牽制のような意味で。その証拠に、後で知った
ことだが、あれは徹からではなく、果敢那の方から言い出したことらしい。
 ―付き合い始めたのですから。
 ―皆さんに知ってもらいましょう。
 ―私たちが付き合っているということを。
 つまりはそういうことだ。彼らはカップルとなったのだ。無理矢理に、自他ともに
認められることによって。そして果敢那は、徹を自身以外の誰にも渡したくはなかっ
たのだろう。
 その独占欲は、嫌いではない。好きでもないが、嫌いでもない。
 よくあることだ。
 ただし、辟易したことが二つある。一つは、彼らの『交際宣言』から半月ほどたった
日のことだ。私の家に、徹が菓子折りと酒を持って訪れてきた。
 似合わぬ手土産に、嫌な予感がした。
 案の定、用件は、予想したとおりだった。
「―次も頼む」
 五月分の原稿も頼む、ということだった。果敢那があの作品を気に入ったということは、
それはつまり―徹の作品ではなく、私の作品を気に入ったということに他ならない。
 徹の作品では駄目なのだろう。
 私が書いたものでなければ、駄目なのだろう。
 だからこそ、徹は私に頼みにきたのだ。締め切りを落としたわけでもないのに、代筆を
頼む、と。
 辟易した。
 代筆を頼まれる行為に、ではない。その理由にだ。
「そんなに彼女のことが好きかい」
 下手をすれば土下座でもしそうな勢いの徹に、私はやる気のない声をかけた。確かに果敢那は
可愛かったが、それはどこか病的なものを含む可愛さだった。球体間接人形がおぞましさと美しさ
を備えているようなものだ。見て楽しむのは良いが、手に入れたいとは思わない。
 が、徹は手に入れたがっているだの。
 そして、手放したくないのだ。 
 だから、私に頼みに来たのだ。果敢那を手放さないためには、作品が必要だから。そのこと
を、徹はすでに気付いている。彼女の愛の本質がどこにあるのかを。
 ―作者は出力装置に過ぎない。
 そんなことを言っていた人がいたなと、ふと思い出した。
「―ああ」
 力強く。
 嘘偽りのない強さで、徹は頷いた。果敢那のことが好きだと、彼は肯定した。
「……ふうん」
 人の趣味に、それ以上とやかく言うつもりはなかった。書けるのならば、そして私の前に山
とつまれた土産をもらえるのならば、書く以外に道はなかった。
 私は頷き、
 徹は歓喜して返っていった。
 その時点で―私はすでに結末が見えていたような気がしたが、それでも一応、締め切りまでに
作品をしあげて出した。作品は本となり、サークル内に配られ、果敢那の手にも渡った。
 その結果。
 二つ目の、辟易する事態が引き起こされた。


148:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 00:42:35 7Iqx920E
「…………」
 さすがに―辟易した。
 呆れ果てた。
「よぉ」
 3号館の果てにある部室の扉を開けると、三角・徹は気軽に手をあげた。他にも幾人かが
部屋の中にいて、彼ら/彼女らは、一斉に助けを求めるように私を見た。
 ただ一人、私を見なかったのは。
 徹の膝の上に座る、小柄な果敢那だけだった。
「……やぁ」
 私は恐らくは曖昧な笑みを浮かべて手を上げ返した。内心では部室に入ったことを後悔
していたが、今更引き返すわけにもいかなかった。助けを求めるような目にも納得がいく。
一目見ただけで、どういう状況なのか分かってしまった。
 悪化したのだ。
 多分、恐らく、間違いなく。
 恋愛という病が。
「仲がよさそうじゃないか」
「そうだろう」
 皮肉混じりに言った言葉に、徹は真顔で答えた。皮肉が通じていない、というよりは、
皮肉だと理解もしていないらしい。成る程、病は平等に進行しているらしい。果敢那だけ
でぇあなく、徹の方も、蝕まれているというわけだ。
 ―おめでとう、君達は両思いだ。
 心の中でささやかに祝福して、私は空いた席―徹の正面に腰掛ける。そこだけ空いて
いる理由は単純で、そこに座れば、べたべたとしている二人を思い切り視界に治めなけれ
ばならないからだ。
 ここは禁煙ではないので、思い切り煙草が吸える。私は煙草を咥え、火を灯す。部屋に
充満していた紙の匂いに、煙草のにおいが混じる。部屋の両側には本棚があって―それ
が物理的・心理的に問わず、部屋を圧迫していた。ほとんどが市販の本で、一角を発行し
た本が占めていた。
 そのうちの一冊を手にとって私は広げる。一番手前にあった本は、つい先日出したばか
りの本だった。
『三角・徹』の名で書かれた話を開き、私は徹へと語りかける。
「いつもそうなのかい」
「まあな」
 徹は即答した。いつも―ずっと、こうなのだろう。
 文字通りに、ひと時も離れず。
 恐らくは、この本を読んだときからだろう。それ以前は、此処までは酷くなかった。
 一作目を読むことで、果敢那は徹と付き合い始めた。
 そして、二作目を読むことで―更に仲が深まったのだろう。
「…………」
 徹の胸元にすりつくようにして座る果敢那を見る。至極、幸せそうな顔をして、徹の
手を握っていた。小説を書く手を、大切な宝物のように握り締めて、果敢那は徹に甘え
えていた。
 何も言わない。
 それだけで、彼女は満たっていた。
 取り返しのつかないほどに。
「徹の話は、面白かったかい」
『徹の話』にアクセントをおき、私は興味半分で訪ねた。果敢那は、ゆっくりと、ゆっくりと、
私の方を見た。
 眼球が、私を見る。
 一ヶ月前よりも―更に透き通って、見えた。
 反対側に、私が映って見えるほどに。

 ―はい、大好きです。

 変わらない、細く儚い声でそう言って。
 ふうん、と私が頷くよりも早く。
 果敢那は、付け足すように、こういったのだった。

 ―次の本が、待ち遠しいです。

149:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:08:13 7Iqx920E
 六月の初めに、徹から一通のメールが来た。
 題名はなく。
 本文は、簡潔だった。

『次は、自分で書く』



 ―そうして物語は、坂を下るようにお終いへと加速する。




150:名無しさん@ピンキー
07/07/08 01:11:51 FZKvuD5l
おお、リアルタイム?

151:狂人は愛を嘯く.Case1 ◆msUmpMmFSs
07/07/08 01:17:27 7Iqx920E
 日付はゆっくりと進み、梅雨が始まり、梅雨が終わった。蒸し暑いだけの日々が過ぎると、
からっと晴れた夏がやってきた。あまりにも暑すぎて、空調のきいた部屋からは出たくなかった。
自宅にいるよりも、大学へと出てきたほうが涼しいので、私はもっぱらそこで時間を潰していた。
 だから、七月分の本を受け取ったのも、部室ではなく教室でだった。部室にはクーラーがついて
おらず、講義が行われている教室だけ空調は動いている。外は炎天下にも関わらず、私は汗ひとつ
流していなかった。
「……ふうん」
 部長から受け取った本を、私は流し読むようにして目を通した。大きな節目の本ということだけ
あって、さすがに厚い。
 一通り目を通すと、部長のほうから話を切り出してきた。
「どうだい、今回の出来は」
「そうですね、悪くないと思いますよ」
 嘘ではなかった。さすがに新入生のそれは拙いが、それでも気合が入っているのは読めばわかる。
在学生のそれも、読み応えのあるものだった。
 中でも、
「特に―徹のが良いですね」
 素直に、率直に、そう言った。
 君もそう思うか、と部長は言った。私は「ええ」と答え、もう一度、三角・徹が書いたものを読んだ。
 二ヶ月ぶりに読んだ徹の小説は面白かった。彼は、彼なりにこの話にかけていたのだろう。自分が出せ
るものを全て出し切っているのが、読んでいるだけでわかった。恐らくは、今回のこの本の中ではもっと
も高い評価を得るだろう。
 それだけに―惜しかった。
 彼の努力が、恐らくは、報われないであろうのが。
「君も書けばよかったのに」
 徹の本を読む私に、部長が心底残念そうに言った。
 ―そう。
 私は今回、小説を書いていない。本当は書きたかったのだが、自制して書かなかった。
 なぜならば。
「……徹が書いてますからね」
「ん? どういうことだい?」
「いえ―なんでもないですよ」
 適当にはぐらかし、私は胸ポケットをまさぐり、そして舌打ちする。そこに煙草はなかった。
部長は吸わない人間なので、貰うわけにもいかない。今から買いに行くのも面倒だった。
 何かを咥えていないと、口が軽くなって困る。
 意識して私は話さないように口を閉じた。
 そう、話すべきことではない。
 書くわけにはいかなかったのだ。
『三角・徹』が書いたものが二つあっていいはずが―ましてや、別人の名前でかかれては―
それはまったく違う結果を、まねくことに他ならない。
 それだけは、避けたかった。
 ああいうものに深入りする趣味は、私にはないのだから。


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