触手・怪物に犯されるSS 13匹目at EROPARO
触手・怪物に犯されるSS 13匹目 - 暇つぶし2ch500:名無しさん@ピンキー
07/08/05 16:42:58 EfoD/c+o
「いや、いやぁぁ、そ、そんなに、吸われたら、出ちゃ、、う、あぁッ!」
泣き叫ぶキョウコの悲鳴が響き渡った。彼女はサディスティックな性格に反して、
自らが受身に回ると途端に脆くなる。さっきまであれほどユキエを陵辱しておきながら、
いざ自分が責めを受けると、まるで暴漢に襲われた処女のような有様で泣き喚いていた。
「はぁ、、あ、あなた、たち、すぐに止めないと、、、くぅ、んぁ、」
ユキエに向かった一本は股間で勃起するクリトリスを絡めとるのも忘れない。
胴体をぎゅうぎゅうと締め付け、彼女から母乳とともに精液までもを搾り出す。
「ふはぁ、だめなの、一度動き出すとしばらくは、、んむぐぅ、はぁぁ、お姉さんのミルク、おいしい、、」
搾乳器は時おり乳房を離れて唇に潜り込む。そして溜め込んだ母乳を喉の奥へとぶちまけてくる。
もちろん搾乳器が離れている間は母乳を漏らさぬよう、乳首を締め上げてきつく栓をするのを忘れない。
「あう、そんなに、きつく縛れたら、、はぁう、わ、私にも飲ませるの、、んむぐぅぅ」
ユキエにはキョウコの母乳が注ぎ込まれた。そしてキョウコにはリオのものが。
「ふむぅ、、んぐぅぅ、あぁ、、」
互いの母乳を飲まされあい、女たちは一体感を強めていく。さらに妖獣は巧みな愛撫の連携で、
彼女たちの絶頂感まで完璧に同期させていく。
「はぁ、い、イッちゃぅ、、」
「あぁぁ、だめぇ、だめなの、こんな、いやぁぁぁ!!」
「くぅ、、あぅ、い、、く、、、、」
羽蟻妖獣の卵管がうねりを上げ、ユキエの前後の穴に埋められた男根も張り詰めていく。
キョウコとルイに2本づつ差し込まれた触手も頭をパンパンに膨らませた。
「あ、貴方たち、こ、この化物たちに、、どれぐらいの、精液をしこんで、あぁァツ!!」
大量射精でイキっぱなしさせられた経験が頭をよぎり、ユキエの問いかけは悲鳴に近い。
「さ、3分射精できる程。でも、羽蟻の卵に精力増強剤を仕込んであるから、
私もキョウコも、、それに触手たちも10分位は収まらないかも、、んはぁ、、」
絶望的な時間だった。それほどの射精を受けて正気を保っていられるはずがない。
もはや観念するしかないユキエの背後で、キョウコの悲鳴がまずあがった。
「いや、いやぁぁ、膣内射精は、、いやぁぁぁぁ出てるぅぅ!!」
「あぁ、触手が出そうとしてる、、はぁぁ、お尻にも、それに私も出そう、、
あぁ、お姉さん受けとめてぇぇ!」
「ん、、熱いのが、、く、る、はぁッ、イクぅぅぅ!!」


501:名無しさん@ピンキー
07/08/05 16:44:21 EfoD/c+o
続けざまに悲鳴をあげ、絶頂を告げた3つの肉体に熱い濁流が注ぎ込まれた。
同時に押しとどめることの出来ない絶頂の連激が女たちを包み込む。
彼女たちは絡み合った体を震わせ、思い思いの悲鳴をあげながら、
終わる事を知らない昂ぶりに身体と意識を焼かれ続ける。
腹を容赦なく埋め尽くした粘液の濁流が、彼女たちの意思を無視しその身体に快楽を与え続けるのだ。
その中でも陵辱の中心にいるユキエの苦悶は一層際立っていた。
触手の精液と羽蟻妖獣の卵の効果を受け、彼女を犯すルイとキョウコの男根が
さらに凶悪な変化を遂げていたのだ。
膣を埋めたルイの男根は精管を細く尖らせて子宮の中にまで入り込み、
更にその奥の卵管に向けて精を放ってくる。
「はぁう、あぁぁ、、」
卵巣に直接染み渡る射精に腰が跳ね上がった。
深すぎる射精を受けたユキエは体の奥底に注がれる熱い奔流に成すすべなく身悶える。
さらに、尻にささったキョウコの男根が射精に卵をミックスした。
「ひいぃぃぃ、お尻がぁぁ!!」
こぶし大の殻付き卵が肛門を通るたびに灼熱のような愉悦が背筋を貫く。
それは指輪の時の比などではなかった。しかも直腸が卵で満たされると、
今度は浣腸液が流し込まれ、すぐさま卵は回収される。そして腹が空になると
また卵が押し込まれる。ユキエの尻でそれが延々と繰り返されていた。
「お、お尻が、すごい、も、もう、だ、だめぇ、、、」
開きっぱなしになった肛門からは精液と腸液が溢れ、
下着とストッキングをドロドロに汚した。はだかれた胸からは搾乳器でも
吸いきれない程の母乳が溢れ、臍を伝って下腹へと滴りおちている。
まさに決定的な破滅が彼女に訪れようとした瞬間、
今度はユキエは身体の外側から来た閃光と熱に包まれた。
衝撃波で激しく吹き飛ばされた彼女が状況を認識したのはそれから30秒程が経った後だった。
あたりに轟音が立ち込め、天井の一部が崩落している。その上からサーチライトが差し込み、
銃声が化物たちを薙ぎ払っていた。
「少し遅かったようね。」
やがて聞きなれた上官の声にどうやら助かったことを認識すると、
その場でユキエの意識は途切れた。
医療班に委ねられその場を離れた彼女には、
キョウコとルイの2人の行方について知る由はなかった。

502:名無しさん@ピンキー
07/08/05 16:45:23 EfoD/c+o
亀の上、長文失礼。
とりあえずこれで終わりです。

503:224  ◆Nw9Ad1NFAI
07/08/05 23:00:10 a3Hoe42Y
キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!

504:名無しさん@ピンキー
07/08/05 23:35:15 +2mBQTcw
GJGJGJ!

505:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:33:30 1wFt0H/o
Sir!スレ沈滞阻止の為にも>>496氏に続きます!Sir!

506:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:37:38 1wFt0H/o
~粉砕天使ナツメ 第二話 前編~

「ハァ…、ハァ…、ハァ…、ハァ…、ハァ…ッ!」

無人の校舎に響き渡るハイテンポな靴音。月明かりに照らされる廊下を一人の少女が駆け抜けていく。
ひっきりなしに振り返りながら、短いスカートが翻るのもお構い無しに、瞳の淵に涙を湛え、背後に迫り来る脅威から逃れようと我も忘れて走り続ける。
先程まで一緒だった友人とも既にはぐれてしまった。果たして彼女は無事だろうか。いや、今はそれでころではない。だって―――――、

コツン……、コツン……、コツン……、コツン……、コツン……、

その少女の後を静かに付け回す靴の音。哀れな獲物に迫る運命の刻へのカウントダウン。

「ハァ…、ハァ、ヒィ…、ハァ………ッ、フ…ッ!」

迂闊すぎた。皆と一緒にいれば夜でも化け物は襲ってこないと、何の根拠もなしにエリカは信じていたのだ。美しい顔を恐怖に歪めどれだけ走り回ろうとも、その足音との距離は一向に広がらない。
大腿筋が悲鳴を上あげるほど脚を酷使し、酸素の回らなくなった頭は眩暈さえ起こしているというのに、背後の踵を繰り出す音は一定の間隔を保ったまま優雅にエリカを追跡してくる。まるで悪魔との鬼ごっこ。
あるいはお釈迦様の掌の上で逃げ回っているような、そんな感覚に陥ってしまう。そんな彼女の瞳はひとつの標識を捉えた。

―――職員室。

巣穴を見つけた兎のように、迷わずその部屋に飛び込み、乱暴にドアを閉め、大急ぎで鍵を掛ける。
もう一箇所の出入り口も忘れない。デスクの影にその身を滑り込ませ、背中を丸め、恐怖に震える体を両腕で抱き止める。出来る事ならこの荒い息も、心臓の鼓動さえも、いや、全身のあらゆる音源を止めてしまいたかった。

コツン……、コツン……、コツン……、コツン……、コツン……、

来た。足音が徐々に近くなる。神様の慈悲でも悪魔の悪戯でもいい。
ガチガチ鳴る歯を必死で食い縛り、彼女はその響きが通り過ぎる事だけをひたすら祈るのみ。

コツン……、コツン……、コツン……、コツン!

祈りは届かなかった。足音は職員室の前で止まる。そして―――。

コンコン、コンコン。

(―――ひぃ!)

扉をノックする音。思わず喉のまで出掛かった悲鳴を噛み殺す。

コンコン、コンコン。

再び繰り返されるノック。完全にバレている。もう終わりだ。震える頬を涙が伝わる。いっその事、自分から身体を差し出してしまおうか。機嫌が良ければ最後の一線だけは許して貰えるかも知れない。
いや、駄目だ。そんな生易しい相手ではない。兎に遠慮する狼なんているはずも無い。
脳裏を過ぎるのは一学期の惨劇。帰宅途中、奴らに襲われて餌食になってしまった前の教育実習生。その第一発見者は他ならぬエリカだった。

507:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:39:49 1wFt0H/o
捕まってしまえば、私も……、私も……、あんな姿に!!
どうすればいい?どうすればいい?どうすれば―――。



………………………………………。



(…………………あれ?)

それきり事態は動かなかった。静寂だけがその場を支配している。
一分……、二分……、三分は経過しただろうか。物音一つ立てないまま、変化は一向に訪れない。

(まさか………、諦めた?)

助かったのだろうか。だが、足音が去っていった気配も無かった。それとも、今までの恐怖が全て幻覚だったかのような、そんな思案にさえ捕われる。
静まり返った職員室。時計の秒針の音だけが、やたら大きく聞こえて仕方が無い。頭を抱えていた両手を離し、恐る恐る顔を上げようとした時―――。

ガタァァァァァァン。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

大音響と共に落っこちて来たのは、通気口を覆っていたアルミ製の金網。
ガランとフローリングの上に転がるその落下物の上に、ドサドサと、おびただしい量の蠢く物体が続いて降り注ぐ。
鎌首をもたげ月明かりに照らされるソレの正体は―――。

(―――――蛇ッ!?)

ただの蛇ではない。なぜならその顔には獲物を見据える目も、飲み込む口も、チロチロと出し入れされる二股の舌も無い。
ウロコ一枚持たず鈍い光沢を放つ粘液を全身から滴らせたのっぺらぼうの蛇。
その頭部の形状は先端に小さな口を開いた亀の頭………、つまり剥け上がった男性器そのものである。

ドサドサドサ―――ドサッ。

次々と天井の穴から這い出し、その数を増やすモンスター。
エリカは弾ける様に起き上がると、殆ど抜けかけている腰を引き摺るようにして扉へと一直線。
先ほど自分が施錠したドアを開けようと試みる。しかし。

「な、なんでっ!?なんで!?なんで!?やだ、開いてよっ!!!」

鍵が外れないのだ。ガタガタと扉枠の揺れる音だけが虚しく響く。

508:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:41:48 1wFt0H/o



―――ジュル。



背後に迫る湿った音。振り向いてはいけない。振り向いてしまったらもう抵抗できない。頭の中で何度も自分に言い聞かせる。しかし………。
彼女の本能は、背後でその身に迫っている脅威を確かめるべく、ゆっくりと首を反転させ、視線を後方に走らせてしまっていた。

「…………あ……あ、あ……あぁ…」

その光景を視野に納めた途端、もう彼女の喉から言葉は出なくなっていた。
ガタンと、一歩下がったエリカの背中が扉を鳴らす。ドアを背にした彼女は、密集隊形で床を覆い尽くす蛇の軍勢に取り囲まれていた。

―――ジュルリ。

エリカを包囲する輪が小さくなる。降伏勧告だ。その身を我々に委ねろと、無言の内に迫られている。

「お………お、お願いっ。……許して」

ようやく喉が搾り出したのは哀願の文句。僅かな沈黙の後、蛇たちは返事の代わりに殺到した。

「いやぁぁぁぁぁあ!いやっ、嫌っ、嫌ぁっ!!」

瞬きひとつする間もなくローファーに鎌首を掛け、紺色のハイソックを這い上がり、ふくらはぎを遡上する突撃兵団。繋ぎ止める本体を持たず、個別に動ける触手たちの機動力は、人間の抵抗など物ともしない。
大量の粘液を内股に塗りこみながら、女の大事なところに一番乗りを目指し我先にと争う。
脚を閉じても太腿同士にできる僅かな隙間に頭を潜り込ませ、両手で払い落とそうとすればすぐさま手首に絡みつき、二の腕から半袖ブラウスの中へと潜入。
悲鳴を上げれば上げるほど、その声に反応して数は増すばかり。

―――ズル、ジュル、グニュ、グチュ。

「あ、やめ、嫌あっ、嫌ぁぁぁぁぁぁぁ、ぁ、ぁ、ぁ…………………」

次々とスカートの中へ突入してくる蹂躙者。オーソドックスなシルクのパンティは、肌との僅かな隙間から驚くほどアッサリと蛇たちの侵入を許してしまう。
もう終わりだ。結局、素敵な恋なんて一度も味わう事の無いまま、エリカの青春に幕が下ろされようとしている。

509:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:43:35 1wFt0H/o
―――――ズルリ。

大所帯へと膨れ上がった侵入者の重みに耐え切れず、純白の下着が一気にズリ落ちた。その中で夢見心地に浸っていた異形の者たちは、ハッと慌てて再度、脚美線の上をよじ登り直す。
エリカの膝からガクンと力が抜けた。彼女の身体は前方に倒れ込み、蛇の海へと頭から突っ伏したのだ。

「あ………、あ、あ、……………むぐぅ!?」

すぐさま一匹が口腔を占領。まるで椅子取りゲームだ。
あぶれた連中は仕方なくボタンを引き千切りブラウスの中へ。ブラジャーを押し退けるとその下の膨らみ襲い掛かりとぐろを巻く。
グニグニと、気の抜けた軟式テニスボールの様に変形させられる乳房。その先端は既に堅くシコリ始めている。

「むーっ、むーっ!むぐぅ、むん、ふむぅ………ッ!!」

舌で押し出そうとしても無駄だ。味覚器官と敵の筋肉のサイズは根本的に桁が違う。もう呼吸しか出来ない。それしか許されない。
全身を這いずり回る無足爬虫類の軍勢。その気になれば今すぐユカの穢れ知らぬ穴を貫くことが出来る。
だが、敢えてその上の肉芽に注がれる集中砲火。額を流れ落ちる汗、焼けるような喉、止め処なく流れる涙は止まる気配が無い。

―――――絶望。

それこそが究極にして他に類無き彼らの好餌。
ブツリと、ブラジャーのホックが壊れる音が職員室に響いた。大きく開かれた股の中心には、月明かりに照らされてキラリと光りが一筋。
少女の身体が女へと変貌遂げる為の下準備は、行為開始から僅か五分も経たず整っていた。下書きの終わった絵画は、ただひたすら筆の下ろされるのを待っている。

510:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:46:26 1wFt0H/o
一方の蹂躙者。彼らは眼前でおねだりしている穴を差し置いて、その身をぶつけ合い、叩き付け合い、威嚇しあって仲違いに興じていた。
誰もが一番手を譲ろうとしない。同類の身を省みない自己主張が繰り広げられる。

その最中、争う一団を一際巨大な一匹が、鎌首をブンと振るって薙ぎ払う。威容に気圧された雑兵たちはそのまま後ずさり。異存も一発で失せたらしい。
満場一致で信任された巨根は厳かに進み出て、これからドッキングする秘裂をクイっとなぞった。ビクンと弾ける獲物の身体。弛緩し切った穴が下品に口を開く。
その一瞬を逃さず、挿入は敢行された。

くちゅ―――――ずずず……ぐ。

「ふむ………むっ!むぐぅ―――――ッ!!!」

目玉が転げ落ちそうなほど見開かれる瞳。虹のようなアーチを描く背骨。
骨盤が砕けてしまうようなメリメリという感触と共に、侵入者が深く深く、膣の行き止まりまで突き刺さる。
滝のような汗がドッと全身から噴出した。対照的な優雅さで、一筋の赤い雫が陰部から走る。
爆発寸前の鼓動もお構い無しに開始されるピストン運動。抽送の振り幅は大きく、深く、命さえも引きずり出さんばかりに腰を粘らせる。

「ふ、ふ、……むぅ!……ふむ!……むーっ!!」

流れ出る涎も、洟も、涙も拭うことが出来ない。
股間から徐々に込み上げてくる切なさにその身をただ任せるのみ。
異物の伸縮運動は徐々に激しくなる。窓から差し込む仄かな光の下、エリカの身体は水から上げられた魚のように跳ね回る。そして―――。

「―――――――むぐッ!?」

ごぷ、ごぽごぷ――――ぶちゅ。

吐き出される白いマグマ。圧力の高まりに耐えかねた陵辱者が上と下の口から勢い良く飛び出す。
そのタイミングに合わせて、職員室を埋め尽くしていた順番待ちの面々も、その身に滾らせていた液体を次々と発射。
窓ガラスに、デスクの上に、プリントに、日誌に、デスパイアの精がベチャリと飛び散り白く染め上げる。

「むぅ……、ハァ、ハァ、ハァ………あ……ぁ……」

一面に広まったスペルマの池。その中で無人島のように浮かぶ少女は息も絶え絶えにただ宙を見つめる。
どれくらいの量を飲み干したのか自分でも判らない。確かなのは辛うじて気道は確保されているという事だけだ。
眼鏡こびり付いた白点が、トロリと頬に滑り落ちた。

グジュル、ジュル――――ジュル。

視界の端で、ゆっくりと持ち上がる鎌首。座席が空くのを待っていた次の客だ。
弛み切ってゴプゴプと白濁液を垂れ流す陰部に、再びその先端が当てられる。第二部の幕開けである。

くちゃ――――ぐちゅぅ………。

「あ………あぁ…ぁ、びぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

途切れる意識が最後に紡いだ叫びは、とても人間の少女が発した物とは思えなかった。

511:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:48:31 1wFt0H/o


校舎全体に響き渡ったその絶叫に、ビクンとユミエは身を竦める。
また一人、餌食になった。これでもう五人。残すは彼女のみ。
三階一番奥のこの教室は不気味なまでの静まりを見せている。しかしその空気はとてつもなく重苦しく、そして異質だ。いつもの教室がいつもの教室でない。まるで異空間のように。

狩人はまだ満たされていないのだろうか。映画だったら、最後の一人は助かったりするのに。
もう泣いてしまいたい。だが、泣けば見つかってしまう。
そうなってしまえば、待ち受けているのは化け物との――――セックス。

(神様……!なんで、こんな……っ!!)

その身の震えを鎮めようと、我が身を抱き寄せたその瞬間。



――――ガラガラァァァァァッ、バタァン。



填められたガラスが割れんばかりの勢いで開け放たれるドア。そして。

「ちィ――――ッス!おコンバーン!!」

大音量で響き渡る体育会系の挨拶。その主は――。

「キャァァァァァァァァァァアっ!!!」

褐色の鎧を全身に纏う、巨大なサソリ型のデスパイアだった。

「どうもー、夜這いでぇーす。失礼しまーッす、ってうわ狭ッ!?こんちきしょ、ぬぅぅぅぅぅぅん!!!」

一歩踏み出したところでガタンと音を立て止まる巨躯。
横開きの入り口に半身を挟んだ化け物が、巨大なハサミを豪快に振り回す。まるで落ち葉か何かのように木製のドアは宙を舞い、激突した掃除用具入れをベコリと変形させた。

「ぷーぅ、よっこらせ。あらヤダ奥さん、なーんてガッデム極まり無い寸法なんザましょ。いいかァ!覚えとけよォ!
オレ、総理大臣になったらゼッテー通達出すかんなッ!!全てのガッコーは大型デっちーが最低二体は並んで通れる間取りを義務付ける、ってよ!
オレらだって立派な市民!税金はエッチでお払いします!!ビバ、バリアフリー!!」

ガラガラと、整列されていた机と椅子を薙ぎ払いながら、デスパイアはユミエとの距離を縮める。迫り来る貞操の危機に、彼女は脇目も振らずその場から逃れようとする。しかし。

――――ドサっ。

512:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:50:26 1wFt0H/o
「――――きゃあ!!」

「おーっと、何だよ何だよツレないねぇカノジョ。まーちょいと待てって。もう鬼ゴッコなんて年頃じゃァないだろ~?こ~んなにピッチピチしちゃってさあ。
むしろ、そろそろ大人の階段ってヤツを上がってみても、いい頃合なんじゃないかな~?な、な、オレなんかどうよ?手取り足取りリードしてやるぜ、なぁ?」

床の上に倒れ込むユミエ。襲撃者の巨大なハサミが、彼女の右足首を捕らえていた。万力のようにギリギリと締まる凶器。
その気になれば人間の脚など一思いで骨の混じったミンチに変えてしまうだろう。

「いやぁ!放してっ、放してっ、放してぇっ!!!」

哀れな獲物は、辛うじて自由が利く方の足で、デスパイアにガシガシ蹴りを入れ抵抗する。だが、全身を甲冑に覆われた巨大な節足動物はビクともしない。
むしろ攻撃のたびに顔の前で翻るスカートに興味津々といった様子だ。

「うっほー!見える見える、白だよ白!ってかひょっとしてオレ、誘われてる!?だよなぁ!?
イヤッホォウ、来た来たOKサイン!任せとけよー、すっげぇキモチ良くさせてやるからなぁ!!」

長い尻尾がグニュンとユミエの方角に向けられる。そう、コイツはそこだけが普通のサソリと違う。先端に備わっている凶器は毒針ではない。
彼女の握り拳よりも大きな、ペニス以外の何物でもない物体だ。

「つーかキミ、まだバージンでしょ?当たり、当たり?やっぱなー!!ニオイが違うよ、ニオイが。マジで。
いやー、男冥利に尽きるぜホント。こんな可愛い子ちゃんの初めてを――――って、あ、くらぁッ!!」

素っ頓狂な声を張り上げる巨大サソリ。彼の掴んでいた革靴だけがスッポ抜け、ハサミの間に虚しく残っている。
最初で恐らく最後の幸運を手にしたユミエは、一縷の望みに縋り、一目散に廊下へと急ぐ。だが―――、

513:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:52:24 1wFt0H/o

ガラガラガラ――――バン。

「――――ひっ!?」

福音は唐突に途切れた。ノブに手を伸ばそうとした途端、真横に開け放たれた地獄の扉。
ユミエの前に立ち塞がったのは黒髪の女性。如何なる慈悲さえも飲み込んでしまいそうな漆黒の瞳が、微笑を湛え彼女を見据えている。

「あ……、ぁ………ぁ……っ」

ユミエは動けない。それ以上前に進めなかった。理屈ではない。彼女の本能が告げている。
目の前にいる女は味方じゃない。いや、そもそも人間じゃない、と。

「――――あうっ!!」

突如背後から襲った足元を薙ぐ一撃。ユミエは再び床と対面する。
起き上がろうとした瞬間には全てが手遅れ。彼女の上からデスパイアが覆いかぶさって来ていたのだ。

「んにゃろー。恥ずかしいのは分かるけどよォ、そこで逃げちゃダメだろ~?せっかくの月夜なんだからさァ、スーパー子作りタイムはこれからだっての」 

仰向けで組み敷かれるユミエの顔に、グチャグチャと涎を垂れ流すデスパイアの顔面が寄せられる。ベロリと一回、その巨大な舌が彼女のうなじを撫で回した。

「………随分と手こずってるのね。私、待たされるの嫌いなんだけど」

コツンと踵を鳴らす音。教室に踏み込んできた女は、そんなユミエの姿を見下ろしながら不満気に告げる。

「あ……、姐さん!?いつの間に?」

声に反応したのは意外にもデスパイアの方だった。

「今よ。危うくこの子とぶつかる所だったわ。………ったく、何やってるんだか」

「あぁ、そりゃ道理で。面目ないッス。―――んじゃ、残念だけどコイツは姐さんの獲物ってぇ事で……………」

「もう結構。アンタがモタついてる内に何人も頂いたわ。だからサッサとして頂戴」

「イエッフー!!流石は姐さん、太っ腹ァ!急ぎますんでチョイトばかしお待ちを!!」

下敷きにしているユミエに向き直り、鼻息も荒く興奮気味にハサミを振るうデスパイア。その鋭利な先端が触れる度に、制服のボタンが弾け跳び、乾いた音を教室に響かせる。

「んー、チョーット控え目なサイズだけと、やっぱ女の子はこれっくらいが一番だよねー!!ウンウン。
いやさ、オレ、牛みたいにデカイ奴とかあんま好きじゃないから。これマジ。ンだからもー全ッ然気にしなくていーよー!!」

ブラウスの胸元を強引に開け放ち、その下から現れた綺麗な膨らみをデスパイアは絶賛。複眼の視線で一通り舐め回した後、真っ赤な舌を伸ばしてブラジャーを退け、もぎたての果実を舌の上で遊ばせるようにして、今度は物理的な舐め回しを加える。
剥き出しの乳房は、肉食動物に追い詰められた小動物のように震え、ひたすら怯える事しか出来ない。

514:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:53:59 1wFt0H/o
「お願い……です……、み、み、見逃して……ください……っ!お願いですっ!!」

追い詰められたユミエが縋るのは、頭上で佇む黒髪の女性。味方ではない。そう分かってはいるが、それでもユミエは女に助けを求めた。
人間ではなくても、同じ女性なら………、そんな僅かな思いが彼女を駆っていた。しかし現実は非情である。

――――ベチャリ。

返事の代わりに、ユミエの顔のすぐ横へとベトベトに濡れた物体が放り捨てられた。
月明かりに照らされたそれは五枚の下着。ドロドロに汚されウエストのゴムも伸び切ったショーツだ。

「ふふ、お友達は一人残らず私がご馳走になったわ。大した魔力も無かったけど、お口の締まり具合はどの子も合格点ね」

白が二枚に水色と桃色が一枚づつ。最後の一枚は水玉模様。いずれもクリーム色の液体にまみれ、所々真っ赤な血のスポットが付いている。
つい先程までこの薄布を履いていたであろう少女たちは、恐らくもう…………。

「部長さんだけ助かっちゃたら、他のみんなが可哀想よ。上級生なら婦人科でも後輩の面倒見てあげなきゃ。ね」

「な、なんで………!?貴女なんで……っ、そんな事を……平気で…ッ!?」

涙ながらに問い返すユミエの顔を、ズイっと真っ黒な瞳が覗き込んで来る。微かに鼻を突く香水の香り。そして彼女は言い放った。

「美味しそうだったからよ」

ナイトガウンを翻し、唇をこれでもかと三日月型に歪め、女はニンマリと笑っていた。

515:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:55:44 1wFt0H/o


「……さ。早いトコやる事やっちゃってくれる?」

「あのー、姐さん。大変申し上げににくいんですがー………」

今度は何だ、サソリの方から異議申し立てが上がった。

「…………………何よ?テンポ悪いわね」

「スンマセン。まあチョットばかし聞いて下せぇ。オレもホラね、もう結構いいトシでしょ。
いい加減、そろそろ嫁さんの一人も貰ってガキ揃えて見せないと、なんつーかその、男が廃るワケよ。
いや、女の姐さんにまで、こんなん分かれなんて事ァ言いませんよ。うん」

ポリポリと、バツの悪そうにハサミで頭を掻くデスパイア。恐ろしいまでにミスマッチな仕草だ。

「で、なら何が言いたいワケ?」

「そんでまぁ、その、せっかくこのお嬢さんにオレの子種流し込んでもさ、ここに放置プレイしたら病院に担ぎ込まれて中まで洗われて全部台無しじゃん?
でさ、オレ的にはこのお嬢さん、なんとかしてお持ち帰りしたいんスよ」

それを聴いている女は徐々に目を細めていく。あからさまにご機嫌斜め。危険信号だ。

「何考えてるのか知らないけど、どうせこの子も大した魔力は持ってないわ。街で一晩物色してれば、こんな小娘より上物は腐るほど手に入るわよ?」

「いやあのそうじゃなくって、ぶっちゃけスゲェ好みなんすよ、もう。そこでさぁ、姐さんあんましワガママ言えた立場じゃ無いんスけど。どうかこのオレの気持ち、ソイツを酌んじゃ頂けやせんかねぇ……?ホントこの通りで……ダメ?」

ガラにも無く、顔の前でハサミをスリスリと擦り併せるデスパイア。そんな滑稽なリアクションの最中でも、ユミエを組み敷く脚の力が緩むことは無い。

「駄目」

嘆願は虚しく退けられた。

「泣いていいスか?」

「駄目」

ちぇっと舌打ちし、デスパイアはコツンと椅子を一個蹴飛ばす。

「我慢なさい。この子達は撒き餌よ。最高の獲物をここに呼び出す為のね」

――――撒き餌。

そんな物の為に、自分はレイプされるのか。他の部員たちは踏み躙られたのか。怒りと絶望に震えるユミエの頬から、大粒の涙が流れ落ちる。一方の蹂躙者は残念そうに、大きなタメ息をつきながらユミエに向き直った。

516:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:57:20 1wFt0H/o
「ゴメンネー、お嬢ちゃん。なんかオレたち結局ロミオとジュリエットで終わるっぽい。
だからさァ、せめて今夜は夜が明けるまで相手してやるから、それで我慢してくれなァ」

ハサミの先端でクイっとユミエの頬を拭い、掬い上げた涙をぺろりと舐める。

「そんじゃあ、これ以上焦らしちゃうとお互い萎えちゃうし、姐御の雷落ちると怖いから、ぼちぼち合体と行きますか」

ズルリと、尻尾の先端の皮が剥かれた。チーズのような異臭が辺りを満たす。
現れたのは真っ赤に怒張した欲望の塊。巨大なペニスは所々に“返し”が設けられ、一度挿し込まれたが最後、被害者には抜くことが出来ない凶悪な造りになっている。
オマケにその窪みにドッサリこびり付いている大量の黄色い恥垢。衛生状態が最悪である事は疑う余地も無い。あんな物挿入されたら一巻の終わりだ。何を伝染されるか分かったものではない。
トドメに切っ先で酸素不足の金魚のようにパクついている穴は間違いなく精液の射出口。その気になれば人間の小指くらい入ってしまいそうな直径が通過する液体の量を何よりも雄弁に物語っている。

思いつく限りの絶望的要素を満載したその尾がググッと撓った。背中側に持ち上げられていたソレは、逆方向へと反り返って所有者の胴体下へと滑り込み、組み敷かれたユミエの下半身を目指すのだ。

「あ、大丈夫だよこれ。入れる時はちゃんと通るサイズまで縮められるから。まァ、中で元に戻るんだけどねー。だはははは!!」

「いやぁぁぁぁあ!やだぁっ……放してッ!そんなの嫌だぁぁあっ!!!」

「うんうん、誰だって初めは怖いんだよ。ホラ、俺の手ぇ握ってイイからさ」

力の篭った内股を掻き分け、ユミエの短いスカートの中に臭気を放つ先端が吸い込まれていく。

「は~い、おぱんちゅさ~ん。ちょっと脇から失敬しますよ~」

「ひ……ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃぃいっ!!!」

股間に達した逸物がクイっとショーツの股布をズラした。暴かれる桃色の秘裂。今夜まで誰一人触れさせずに来た女性のシンボル。だが、その運命も今や風前の灯。そして遂に――――、

「ほんじゃま、そ~れドキドキドッキング~、パン横そ~にゅ~!」

「や、ひぁ………!いやぁぁぁぁぁぁあ、あふぅ、ひあぅ、痛ぁぁぁぁぁぁあ!!!」

ぐにゅう――――めりめりめり…………

「よぅし!もうチョイ奥、もうチョイ奥なぁ~!あ、そうそうそう!!うっほ、いいカンジ~!!」

「痛い!い、い、い、………あ、あぁぁぁぁ……………………ッ!!」

517:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 22:58:46 1wFt0H/o

聖域に雪崩れ込み暴虐の限りを尽くす肉の柱。滴り落ちる純潔の証。背骨に沿って電極を打ち込まれたような衝撃が全身を駆け巡る。
下半身を裂かれるような痛みから逃れようと、ユミエは死に物狂いで腰を浮かすしかない。

「おーし、そうそう、ここで浮かすんだよ。な~んだ、バッチシ分かってンじゃな~い!!やっぱお年頃ってヤツだよねー。お嬢ちゃん、きっと床上手になるよ。彼氏が羨ましいぜ、くぅ~!!」

「い、い、あ………ッ。……ぬ、抜いて!は、早く……抜いてぇッ!!!」

「ヌ、ヌいて!?ヌいてと来たか!?いっやー、こりゃ参ったねー。おねだりされちゃったよ。ヌいてだってさ、マジ積極的。
よぅし任せろお嬢ちゃん。欲求不満が溜まってたんだな?オレも男だ。存分にヌかせて貰うぜ。
見ろよコレ。ギシギシだろ?中にすっげぇ溜まってるからさ。お望み通りその身体ん中にたっぷりヌコヌコしてやるからなァ。くぅーもー、サイッコォー!!!」

どこまでも白々しい曲解。見ろと言われてもこの体勢でユミエの視線は逸物に届かない。
だからそのモンスターがどれだけ膨張しているのか彼女にとっての知る術は唯一、陰部を突き上げる異物感のみである。確かめるまでも無く明らかにソレは巨大化している。これ以上膨れられたら骨盤が砕けてしまいそうだ。

「ハイ、ここで振る!恥ずかしがらずに、あ、それワン、トゥー、ワン、トゥー!!もっともっと、リズミカルに!!」

「あふ……、やぁ…ひ…、ぎ……、あン!あふッ……、い、いたっ……はひぃ、あ……、ぁン!!」

「いいよ、いいよ~、キッモチー!あ、そーそー忘れてた。お尻で“の”の字を描くように動かすと、男の人とっても喜ぶから覚えといた方がいいよー。ここ、テストに出るからねー」

彼女に出来る足掻きはそのストロークに併せて全身を上下させ腰を振り続ける事。極限状態のベリーダンス。とても抵抗なんて呼べる行為ではない。むしろ奉仕だ。恍惚に浸り呆けるデスパイアの顔が何よりもそれを証明している。
だが、こうでもしなければユミエの膣は破壊されてしまう。否が応でも楕円軌道を描く下半身。小振りな乳房はゼンマイ仕掛けの玩具の様に胸板の上で飛び跳ていた。

「うっほ~!出て来た出て来た、らぶらぶじゅ~す!絞りたてドリンク飲み放題ィ!!」

「あう、やぁっ、お、お願いっ!!もう、あ、もう止めてぇッ!う、うご……あっ、動か、ないっ、……でぇ!!」

滴り落ちる透明な雫がチュルチュルと小気味良い音を立てながら肉棒に吸い上げられる。
勢い余って振り飛ばされた愛液は教室の床に透明な斑点を刻み、その上に柔らかなお尻が何度も何度も叩き付けられ、ペタンペタンと音を立てながら恥ずかしいシミを伸ばしていった。

518:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:01:03 1wFt0H/o
「お、お、お!?来た来た来たァ!オレの愛しのムスコ達が、込み上げて参りましたよォ!!」

ボッコリと、ラグビーボールのような膨らみがデスパイアの尻尾の中をやって来る。
そのコブに詰まっているモノは、………恐らく本人の解説する通りなのだろう。何にせよ狂ったように腰を振り続けるユミエにはもうどうすることも出来ない。
早く行為を終わらせて欲しい。それだけが彼女の願い。そんなに大逸れた望みではないハズだ。しかし、今日は危険日だ。今、ここで出されたら………。

「そんじゃ、とびっきり熱い夏の思い出!このオレのレッスン、存分に受け取ってくれよなァ!撃ち方よ~いッ!!」

「い、ひ、あぁぁぁ……、や、やめぇ………、ひぁう、……止め……てぇ……」

「いやムリ。オレ早漏。――――ってなワケで発射ァァァァァァァァア!!!」

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!」

ごぶごぶごぶ……――――ごっ、ぶしゅぁぁぁぁぁあ。

「あ…、あ…、あぁぁぁあ、熱い!熱い!あ、あ、熱いィイ!!」

お腹の中で煮え滾る釜が横転したようだ。大物を咥え込んだ膣にその煮汁を受け入れる余力がある筈も無く、接合部から鉄砲水のように迸る白濁液。横倒しの机に、椅子に、化け物の精液が降りかかる。
脇に掛けられていた私物も一瞬にしてベトベトだ。壁にまで届き、ロッカーも既に使用不能。
恐るべきスペルマの逆噴射は、その上に張り出されている美術の作品までも真っ白に塗り潰してしまった。

519:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:02:40 1wFt0H/o

「んー、はぁ~………。やっぱこう、中出しってのはだな~………。なんて言ったらイイのかな、こう…………。
ぶっ放した後にヒクヒクしぼんでいくナニを、女の子のアソコが優し~く締め上げてくれるトコに醍醐味があるんだな。
こんなカワユイ子が最後の一滴までチョーダイっておねだりして来てると思うと、くぅ~、もォたまんねぇっすよ!」

「ああ。そう。機会が有ったら参考にさせて貰うわ」

事後の幸福感をわざわざ言語化するデスパイア。だが、その下に組み敷かれた少女はもう反応しない。虚ろな瞳で何やらうわ言を並べている。代わりに声を掛けてきたのは壁にもたれて一部始終を見学していた女。

「よ。と。さて、終わったみたいね」

背中を壁から剥がし、軽く背伸びをし身体をほぐしている。そのすぐ隣まで飛び散っている白濁液にもお構い無しの様子だ。

「………へ?なに言ってんスか姐さん。今のはホンの前書きッスよ?オリンピックで言うなら開会式。映画で言うなら予告編ってトコで。
まだオレの中のモノはバケツで汲み出すほど溜まってるんスから!!嘘じゃないっスよ!?見せろってんならマジで出しますから。これホント!!」

ゴキゲンだ。盛り切った化け物はハサミをブンブン頭上で旋回させて主張する。流石にと言うか、耐えかねた様子で女の顔がゲンナリと歪んだ。

「……ああ、なんか、もういいわ。そこらへん散策してくるから、気が済んだら呼んで頂戴な」

「サー、イエッ、サー!!」

ガラガラとドアを開け、待ち疲れた様子で教室を後にする。

「最高の獲物ねぇ……。なんつーか、姐さんも一途だよなァ」

その哀愁漂う後姿を見送るデスパイア。誰に聞かせる訳でもなく、率直な感想を口にする。

「女同士の禁断の恋ってヤツも、なかなかどうして難儀なモンで」

少しでも好みの女を見掛ければ好き放題犯しまくって生きる彼には、到底理解出来ない人生だ。
軽蔑している訳ではないし、かと言って憧れている訳でもない。彼女と組むのはあくまでエンジェルを犯る為だ。早い者勝ちは暗黙の了解である。
ただ……、もし、あの女の方を自分のモノに出来るとしたら………。いや、論外だ、論外。分を弁えない者は長生きしない。これは真理だ。なんせ彼女は……。

「う……ぁ、……あ……、ひく……、ひっく……」

「ん、あぁ?………あっ、メンゴ、メンゴ!忘れてたわ、なははは!」

下から聞こえてきた啜り泣きにデスパイアの意識は引き戻される。快感の引き潮も去り、再び疼きが満ち始めていたところだ。そろそろゲーム再開せねば。

「いや~、神様も人が悪いよねぇ。女の子のカラダをこんなイジワルな造りにしちゃってさぁ」

ズクンと尻尾を波打たせ、管の中に残留していた精液を、残さずユミエの中へ注ぎ込む。
次の弾は既に砲身の機関部に装填済み。ちょっとの刺激でもう暴発してしまいそうだ。
一方のユミエ。どうした事か涙に濡れた目尻はトロンと下がっている。彼女自身も気が付いていた。自分の身体が何かおかしい、と。

「あ……、あ、あぁ……、熱い……パパ…、ママ……、熱いよぉ……」

そう、熱いのだ。先刻まで下半身を突き抜けていた痛みは嘘の様に消え去っている。
代わって込み上げて来るのは言葉にならない気持ち良さ。異物の妨害さえなければ、疼く内股を擦り合わせていたかもしれない。
天井目掛けてそそり立ち微かに震える乳房の先端は、鼻を鳴らしてご飯をねだる仔犬のようでさえある。

「んー、お~よしよし。そろそろお股が寂しくなってきちゃったかな~?でーも心配ゴム用!
今夜は一晩かけてキミを特訓してやるからなー。日が昇る頃には日本一エッチな女の子だよ~!!お礼は魔力でいいからネー!!」

逸物に再び力が込められ、彼女の身は大きく跳ねた。チューブの中は既に二発目が向かって来ている。止まりかけていた汗が毛穴からドっと噴き出す。頭が痛い、目が回る。立っているのか寝ているのかすら既にあやふやだ。

「熱い……、熱い…の…、あ……つ……」

虚ろに繰り返される彼女の呟きだけが、真夜中の教室に響き渡っていた。

520:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:05:41 1wFt0H/o



「――――暑い……」

昼下がりのカフェテラス。真夏の太陽は容赦ない。

「暑い……。なにコレ、ほんと暑い。湿度とかも幾つよ?うはっ、……暑い」

「………………………」

聞いているだけで発汗機能がやられそうなフレーズが続けざまに放たれる。
困惑の表情を隠さずに紅茶を啜るナツメの向いに構えるのは白人の女性。ウェーブのかかったブロンドをポニーテールと言うには少々乱暴に束ねた髪型。
テーブルにベタリとへばりついた顔は表情が読み取れない。これは軟体生物の一種だろうか。このまま放置しておけば口からヨダレと一緒にゴーストが出てくるかもしれない。
年齢はナツメとそう変わらないと思われるが、流石に外国人女性となると少々自信が無い。どんなに高く見積もっても二十代前半より上という事は無さそうなのだが………。

いずれにせよ、この季節にタートルネックとロングスカートで決め込み、オマケに厚手のオーバーコートを羽織るなど、この国の夏を舐めているとしか思えない暴挙だ。

「あの……………」

「日本暑い。本気で洒落ンなんない。空港出たらサウナよサウナ。料金払った覚えなんて無いっつーの。これが噂のヒートアイランドってヤツ?北極大陸じゃなくても溶けちゃうよ?チベットも溶けちゃうよ?地球温暖化とかホントありえない」

ナツメの声を掻き消すのはザクザクというカキ氷の音。親の仇のようにスプーンで抉られている氷菓子は既に三杯目。ここは午後の炎天下のカフェテラス。冷房の利いてる店内は既に満席だ。アザラシのように伸びている女性は、中の客を恨めし気に横目で見つめている。
ちなみに大陸は南極の方だ。念の為。

「あぁーのぉー…………」

「ん!?あぁ、悪い悪い!!ちょっとボツワナ辺りに飛んでたわ。ハハハ……」

前回より大きなボリュームで、少しワザとらしく声を掛けるナツメ。ようやく目の前の女は反応し、卓上からその顔を引き剥がす。

美人だ。だが、知的美人という趣きではない。スクリーンを賑わせているブロンドの女優たちともチョット違う。どこかこう、摩れたような。それでいて油断のならないような。何とも独特の印象を与える人物だ。
美しい毛皮を纏った猫科の猛獣、なんて例えは流石に失礼だろうか。歴代のクラスメイトを振り返っても似たような雰囲気の人物は出てこない。いずれにせよ、ナツメが今まで見たこと無いタイプの相手なのは確かだ。
語り口からしてもあまり育ちの良さそうな印象は受けないが、一方で声はとてつもなく綺麗で深みがあり良く通る。

521:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:10:22 1wFt0H/o
「えーと、それで……」

「マルーシャ=アレクサンドルヴナ=トルスターヤ。長いんで知り合いにはマルーシャかマルーで通してるから」

「あ、はい、マルーシャさん。お名前だけならエミィちゃんから聞いています」

「エミィちゃん……ねぇ。もうそんな風に呼ばせてるのかアイツ。懲りないねぇ………」

「え、あ、何かマズかったですか?」

「うんにゃ。独り言よ。聞き流して頂戴な」

マルーシャと名乗る娘は気の抜けた感じでヒラヒラと手を振り話を流そうとする。
そんな彼女の指をさり気無く網膜に焼き付けるナツメ。ここらへんの目敏さはエミリア仕込だ。爪はどれも端麗に整えられ丁寧にマニキュアが塗られていたが…………、一方で手の平は要所要所で乾いた皮が厚くなり何度も剥けた痕跡が見られる。
これは相当な猛者だ。

「ま、エミィがどこまで話したかは知らんけど、一応、アタシの口からも紹介させてもらうわ」

「お願いします。………って言うか私まだ呼び出された理由も分からないんですけど」

「まぁまぁ、話を急ぎなさんなって。順路通りに回ろうや。怒りんぼエミィが日本に来る前、欧州でデスパイアと戦ってた話は聞いてるね?」

「ええ。確か、三人でチーム組んでたとか………」

「そ。アタシはそん時の仲間よ。あと一人ね、困った子がいたんだけど、それも追々話してくから……」

そこまで言って、彼女は一度スプーンを口に運んだ。釣られてナツメもティーカップに口をつける。

「とりあえず、この写真を見て頂戴な」

「……………?」

差し出されたのはプリンター用紙に印刷された少々不鮮明な画像。写っているのは黒髪の女性。
全身を包む紺色のナイトガウンに目線を隠すサングラス。相当古そうな皮製のトランクを転がしながら、恐らくは通路を歩いている。


522:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:12:56 1wFt0H/o
「先月、空港の監視カメラが捉えた映像よ。この女が到着したのはベルリンからの国際便」

「ドイツ……ですか?」

「この二十分後、機内のトイレで客室乗務員の女性が裸で発見されたわ。服はドロドロに溶かされて、既にメチャメチャに暴行を受けた後だった」

「――――じゃ、じゃあ!この人、デスパイア……っ!?」

「ご名答」

「じょ、女性のデスパイアっているんだ……。しかもこんな人間そっくり……」

「珍種と言えば、ま、珍種だね。むしろオンリーワンってヤツなのかな。コードネームは“サーペンタイン”。つまりは蛇紋石ね。にょろりーん、ってな具合で」

そこまで述べてマルーシャは一際大きな氷の塊を口にする。左手は鎌首を作って見せ、蛇のジェスチャーでおどけていた。

「他の客や乗務員は全く気づかず。入管の職員も記憶に無し。オマケにパスポートは赤の他人の物と来た。真実を捉えたのはカメラだけ。相当なヤリ手ね」

「なんか………国際テロリストみたい………」

「ハハ………。ンまぁ、あながち的外れな例えじゃないね。ただし容疑は連続婦女暴行」

口の中で溶ける塊をゴリゴリと咀嚼しながら彼女は同調した。ナツメは紅茶をもう一口啜ると再度その写真を覗き込む。

「でも……なんかこの人、東洋系って言うか………日本人っぽいですね」

手にしていた紙をマルーシャにも見える位置に戻し、ナツメは指差した。

「そーよ」

「――――え!?」

あっさりと肯定するマルーシャの顔を目を丸くして覗き込むナツメ。

「本名は辻堂ユイ。さっき言ったエミィと愉快な仲間たちの最後の一人。元エンジェルさね」

「元………天使…!?」

「ポジションはフロント。ここもアンタと一緒だね」

信じられない。その一言の他に感想が出てこない。そこへ更なる追い討ちが掛けられるとは誰が予測できようか。

「んで、帰国の目的は九分九厘、――――エミィだ」

523:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:13:59 1wFt0H/o


真夏の太陽もそろそろ傾き始めている。
この国に来て、もうかれこれ一年。一度も訪れた事の無かった母方の故郷。この強い西陽だけは未だに馴染む事が出来ない。強烈で、それでいてどこか酷く切ない感じ。
全語彙力を投入しても上手く言い表せない。この感触、母なら一体どう表現しただろうか。

夏休みの静まり返った教室を、エミリアは一人闊歩している。ここは彼女の通うミッション系の女子校。
小高い丘の中腹に建てられたこの学校は、帰国子女や在留外国人の息女が多く在籍し、ハーフの彼女でもさほど労せず溶け込み、束の間の日常を送ることが出来ていた。

だが、その平穏もどうやら終わりを告げようとしている。

六名、犯られた。被害者は全員が天文部の女子。昨夜の台風一過を利用して、屋上で星空観察を行っていた際、不幸にも襲われたようだ。
これほど派手に備品を壊して回っていると言うのに警報装置は一切作動せず。下級ではない。頭の回る手練の仕業だ。それでいて、これでもかと痕跡を残していく。どこまでも不敵な奴。

他の生徒たちはパニック状態だ。無理もない。次に襲われるの自分かもしれないのだ。いや、そもそも、もうこの街の女の子に安全な場所なんて恐らく無い。
今や近隣の病院は奴らに踏み躙られたと思われる女性たちが毎日のように担ぎ込まれているのだ。思われる、と表現するのは情報規制ゆえにエミリアでさえ正確な数を掴み兼ねている為である。
それは被害者のプレイバシーを考慮すれば至極当然の措置なのだが、実際は診察も受けず、家族や友人にも打ち明けず、デスパイアに犯された事を一切伏せてしまう者も少なくない。
それが仇となり、後になって連中の子種を植え付けられていた事に気づき、悲劇に追い討ちを掛ける女性だっているのだ。
表沙汰にならない事例を考慮すれば被害の実態は想像以上。全国規模の行方不明者も勘定に入れれば気の遠くなるような数字だ。もはや状況は如何なる逡巡も許さない所まで来ている。

524:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:15:56 1wFt0H/o
話しは現場に戻る。部員たちは皆、散り散りの場所で見るに耐えない姿で発見された。
最後の一人が見つかったのは三階一番奥、エミリアのクラスの教室。室内の備品はことごとく薙ぎ倒され白濁液の海に浸かっていた。
少女はそこで夜通し犯され続けていたらしい。激しい行為に腰を痛め起き上がることも出来ず、早朝の教室で一人泣いているところを発見された。衣服はズタズタにされて周囲に散乱し、身に着けていたのはソックスのみという酷い有様。
全員が即検査、そして入院となった。教室から溢れ出た精液は廊下まで満たし、非常階段にまで達していたそうだ。

そして………、そんな惨状の中、エミリアの机だけが元の位置に戻されていたのだ。
その上に広げて置かれていたのは六人分のショーツ。すべてに処女喪失の爪跡が刻まれていた。酷たらしいまでの宣戦布告。敵はエミリアを知っている。そして、――――エミリアも敵を知っている。
自分を追っている、たった一体のデスパイア。貴女がこれ以上、自分を避け続ければ、犠牲者は更に増えるぞと。そう彼女は警告してきている。どうやら、三年越しの戦いに決着をつける時が訪れたようだ。

夏休み中の部活動は全面停止。現場検証も既に終わり、清掃も一通り完了している。今校舎に残っているのは忍び込んだエミリアだけだ。
静かな教室に差し込む西陽は殊更眩しい。黙って質素な椅子を引き、背もたれに背中を預けると、机の上に両足を投げ出し彼女はひたすら待つ。その傍らには既に修復完了して久しい相棒<クロイツァー>。

探す必要は無い。彼女は恐らくここに現れる。三年前と同じ顔で、同じようにやって来る。
目蓋を閉じれば蘇る。屈辱と哀しみと、そして同情が綯い交ぜになったこの想い。忘れよう筈がない。エミリアの初体験を奪ったのは、美しい顔を狂気に歪めた後輩の少女。
二人の苦しみは断たれぬまま、こうして今日まで縺れ込んでしまった。いい加減、幕を下ろさねばならない。どちらにとっても不幸な結末なのは承知の上だ。

キリキリキリ――――………ブツン。

共に戦っていた頃の思い出。ユイの笑顔を打ち払うかのように、もう一度<クロイツァー>の弦を鳴らす。

キリキリキリ――――………ブツン。

ふと思った。自分は今どんな顔をしているのだろうか、と。この教室に鏡が置かれていないのは救いだった。


525:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:18:06 1wFt0H/o


「エミィ……ちゃんが……狙い?」

カフェテラスに差し込む日は徐々に傾き始めている。

「ユイはね、完璧エミィに惚れてた」

追加注文したレモンティーの氷が溶けてカランと鳴った。

「もちろん、エミィもアタシもユイの事は大好きだったさ。西はイベリアから東はバルカンまで、こんな齢で幾度も死線を潜り抜けて来た本物の戦友ってヤツ。神様にだって自慢できた仲間さ」

再びカランと氷の鳴る音。今度はナツメのクリームソーダだった。

「でもね、ユイがエミィに求めてたのは、その程度の関係じゃなかったんだよ。
だけどそんな事エミィの奴に分かる筈が無い。アタシだってエミィの横顔を寂びそうに見つめるユイの目線に、それほどまで深い意味があったなんてそりゃ気づきもしなかった。
そんな状態がどれっくらい続いたかねぇ………。今となっちゃ考えても詮の無い事か。そんでとうとう、三年前のあの日、アイツはエミィをミュンヘンの寂れた教会に呼び出した」

前髪をクシャリと潰しながら、マルーシャは額に拳を当てる。

「新月の夜だったよ。ユイはいきなりエミィに永遠の愛を迫った。当然、エミィは冗談だと思った。
んでどう答えたかは知らない。アタシとイゾルデが駆けつけた時、二人はイエス様の前にいた。エミィはもうボロボロで、一方のユイは化け物になってた。お取り込み中だったよ。酷いもんさ」

「……イゾル…デ?」

「ん、あぁ、エミィの姉貴さ。アタシの師匠でもある」

市営プールの一件。あの時エミリアが口にしていた人物の名が判明する。
もう少し探りを入れてみたい衝動に駆られたが、今は他に訊かなければならない事が山ほどある。そこを掘り下げるのはまたの機会にして、ナツメは次なる疑問を口にした。

「あの……、どういった過程でユイさんはデスパイアに?」

「さあ。わかんね。ただ、あの子はよく倒した連中の触手とか切り取って集めてたね。標本みたいに。確か」

「そんな物、集めて一体何に?」

「それもわかんね。勲章か何かだと思ったんだけど。すまないねぇ」

謝るとマルーシャはストローに口をつける。ズズーっとグラスの中の液体が水位を下げて行った。少々品の無い音を立てて底の一滴まで平らげると、彼女はナツメを真正面に見据える。

「ま、とにかくだ。ユイのヤツは間違いなくこの街に来る。事によっちゃもう来てるかもしれん。そこでアタシの目論みはエミィより先に彼女と接触すること。そんであわよくばユイを始末する。
身内から出た錆だからね。これだけは後腐れの無いようにしておきたいんだ、ホント」

「え、あの、だったらエミィちゃんや私と一緒に………」

「戦力で比べりゃ正論だけど、そいつぁ駄目だよ。あの日から、ユイの話しが絡むとエミィも普通じゃなくなっちまった。ちょっと情報掴むたびに先走って勝手に暴れて。そんで二、三日沈んで繰り返しだ。
悔しいのか、それとも責任感じてるのか、あるいは半々か。いずれにせよ可哀想って言やあ可哀想だけどさ、もう今のエミィにゃアイツは任せられないんだ」

「あの、言ってる意味は分かりますけど……、エミィちゃんは独断先行とか、そういうのは絶対無いと思います」

容赦ない酷評に思わず親友の肩を持ってしまうナツメ。だが、共に過ごしてきた歳月は目の前の女性の方がよっぽど上なのだという事実にすぐ思い当たってしまった。

526:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:20:20 1wFt0H/o
「……分かってない、全ッ然分かってない。確かにアイツはクールで頭も良く回る女だよ。けどね。一見静かに見える海だって、その下じゃマッコウクジラと大王イカが死闘を繰り広げてるワケよ。そこんとこオーケイ?」

「…………はぁ………」

案の定、そこをマルーシャに突かれた。少々例えがダイナミック、というかズレている気もするが、言わんとしている事は十二分に理解できる。

「とりあえずナツメ、アタシが今日アンタに頼みたい事は、だ。この女の姿を見たらアタシに速攻で知らせて欲しい。
連絡先は………そだな。今朝アタシがアンタを呼び出すのに使った番号、そっちに頼む。いつでも捕まるからさ」

マルーシャが再度、冒頭に見せた写真を掲げ強調する。

「それで、私も一緒にユイさんを止めればいいんですね?」

「いんや。ソイツはいい」

「――――え!?」

自信に満ちた表情で問い返したナツメはその返事に固まってしまう。そんな彼女に詫びれもせずマルーシャは続ける。

「ナツメ。ハッキリ言っとくよ。アンタとユイじゃ勝負にならない。実力キャリア共に差が有り過ぎる」

彼女は断言した。

「足手纏い……、いや、人質にでも取られたらアタシもエミィも一巻の終わりだ。
それだけじゃないよ。何よりアンタの身だって危ない。エミィが何を考えてナツメに天使をやらせてるのか、アタシは知らないけどね。ボチボチここらでもう手ぇ引きな。それがアンタの為でもある。
泣き見てからじゃ何もかも遅いんだよ。いいね?」

そこまで言って、彼女は席から腰を上げた。そしてゴトリと、テーブルの下に置いてあった荷物を持ち上げる。楽器ケースのようなやたら横長のトランク。その大きさは実にマルーシャの身の丈ほどもある。
あまりマトモな物が入っているとは、ちょっと考えられない。そのまま踵を返しカウンターの方角へ。もうナツメの事を振り返ろうともしなかった。そんな彼女をナツメは――――。

「……………何のつもりだい?」

「…………………………」

マルーシャの歩みが止まる。テーブルから身を乗り出したナツメが、無言で彼女のコートの裾を掴み放さないのだ。ギロリと、斜めに振り返ったマルーシャの瞳がそのナツメを見返す。
さっきまで机の上に伸びていた女性と同一人物とは思えない。眼を合わせただけで心臓に風穴を開けられそうな、まるで金属のような鈍い光沢を放つ目玉。その中心に浮かぶ虹彩は魂魄を撃ち抜く大口径の銃口のようですらある。

527:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:21:50 1wFt0H/o

「…………………………」

怖く無いと言えば嘘になる。怒った時のエミリアだってこんな目はしない。達観というか何かとてつもない悟りと共に一線を越えている人間の眼だ。
だが、ナツメは退かない。退く訳にはいかない。デスパイアと戦うと決めたあの日、そう―――、退くという選択肢は既に粉砕済みである。

「私は戦えます」

「その通り。なまじ戦えるから余計危ない」

「足は引っ張りません。もし捕まったら、私ごとデスパイアを倒して下さい」

「言っていい事と悪い事がある。親御さん、泣くよ」

「父と母はもう―――いません」

「そいつは悪かったね。でも、失う物の無いヤツの戦い方ってのは尚更危うい」

「だから、私はエミィちゃんを失いたくありません」

顔だけ半分こちらに向けていたマルーシャが、ようやく体も反転させる。そのまま睨みあう事どれぐらいだったろうか。

「―――ハァ………」

根負けしたかのように金髪娘は溜息をつく。

「なんでこうエミィのヤツは変な子ばかり拾って来るんだろ」

ガランと、彼女は戻したばかりの椅子をもう一度引いた。

「とりあえず、………コーヒーでも追加しよっか?」

ナツメはようやくマルーシャのコートを放した。

528:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:22:42 1wFt0H/o


「一応、確認しとくけど………」

「ハイ、私が捕まった場合は見捨てて下さっても―――」

「待て待て待て。仮にもアタシらはエンジェル。清く正しい天使サマなワケ。だから仲間を見捨てるのはナシだ。神風アタックも禁止。まずこれ、叩き込んで置きなさいな。オーケイ?」

「あ、ハイ………。でも………」

「いい。そんときゃ責任持ってアタシが助けたる。新入りがそんな切羽詰った事考えるなっての。ただし、相手は本物のド変態どもだ。人様に言えない傷の一つや二つは覚悟しときなって事」

人に言えない傷。ナツメの脳裏を公営プールでの死闘が掠める。だが、今はそれを悟られたくなかった。

「わ、……わかりました」

カチャリと、二人の前にコーヒーと紅茶が運ばれて来た。

「ま、重ねて伝えるようなことは特に無いね。アンタの戦い方は大体知ってる。後は、そうだな………。とりあえずエミィのオツムが引っ繰り返らないよう、神様に祈っといて」

「なんか………信じられないです。あのエミィちゃんにそんな激しいとこがあるなんて」

「信仰は自由。信じられないならそれも良し。ただ、実物見てから戸惑ったりはしないように」

「……………ハイ」

二人は同時にカップを啜る。さっきまでの緊張はほぐれて、それでいてまだどこか居心地が悪い。だが――――、嵐の前のお茶会、悪い気はしないひと時だ。

「―――ンあ、忘れてた!」

唐突にマルーシャが、そんな空気を壊す声を張り上げる。

「………何か?」

「いやー、危ない危ない。そうだ、デスパイアとこれから渡り合おうって乙女には、コイツを忘れちゃいけないトコだった。あー、気づいてよかった、ホントに」


529:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:24:05 1wFt0H/o

「……………………?」

ナツメの困惑を他所に、彼女はゴソゴソとコートの中を探っている。そして、

「むっふっふ……。遠からば音に聞け!近くば寄って目にも見よ!!」

バサッ――――!と翻る外套。

「じゃじゃーん!対デスパイア用ドキドキ必勝マニュアル新装改訂版ー!!」

「―――むぼふぅッ!!!」

世紀末系の悲鳴と共に豪快に噴出される紅茶。危うく茶色に染まりかけたその書物をマルーシャが慌てて頭上に持ち上げる。

「ア、アンタなにすんのよ!?いきなし!?」

「い、いや。むしろ、それは私のセリフって言うか………っ!」

飛び出したのは地獄の恥ずかしい本。慌てて他の客の視線を伺ってしまう。忘れるものか。エミリアに必読だと押し付けられて、夜中ベッドのスタンドを灯し内緒で読破した一冊。
訳の分からない単語は辞書とネットで検索した。18歳未満お断りなサイトがズラーっと並んだあの光景は履歴から消せても記憶からは消し難い。
どうしよう。そう言えば弟は今日、丸一日家に居るんだ。もし、私の部屋で勝手に漫画とか探してたら………。何はともあれ、今はこの場を切り抜け手ぶらで生還するのが最重要任務である。

「い、いや、だから、その。ここでソレは少しイケナイって感じで………っ!!」

「はぁ?何言ってんのアンタ?新入りだからって物を知らないにも限度ってモンがあるんよ。コイツ抜きでデスパイアと渡り合おうなんて、ピッケル無しでK2踏破に挑むも同然!!」

「……あ……いや……そのっ」

とりあえずソイツをまずは隠して欲しい。日本の法律上その本を並べて許される公の場は書店の片隅の桃色ゾーンだけだ。
次に表紙。化け物と美女の絡み合いはもう勘弁して。教科書ってのは普通、もっと無難なデザインで。
いや、そもそもソレ、もう絶対エロ本以外の何物にも見えない。中身も何物でもない。

「と、いうワケでナッちゃん。聖書よりもマルクスよりもアリガタ~イこの教典。謹んで受け取りなさい」

「そ、そ、そうじゃなくて!ウチにも既に一冊あるみたいな……っ!」

「へ。そーなの?」

マルーシャの顎が落ちる。態勢の立て直しに苦闘しているようだ。いける。後一押しで駆逐完了。多分。

「あー、んー、まぁでもこっち一応改訂版だからさ。手許に置くならやっぱ最新鋭の知識ってヤツを………」

「わ、私のも改訂版ですッ!!」

嘘だ。と言うかもそもベッドの下の核兵器が第何版なのかすら知らない。迂闊に取り出せばいつIAEAの査察官、もとい家族の目に触れるか分かった物ではない。今、金庫って幾らくらいで買えるんだっけ。

「む~ん、そりゃ残念。せっかく企画の段階から前面監修してきた本なのに。タダであげるってんだからさ、もう一冊くらい受け取ってくれたってー」

「………………」

今の一言で、現在、自分の所有物になっている一冊を、エミリアに押し付けた犯人も判明した。目下、ナツメは刑事告発を検討中である。罪状は純情乙女強制羞恥罪。検察側の求刑は懲役五十年で。

530:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:25:26 1wFt0H/o

「ま、しゃーないモンはしゃーない」

「………………」

本当に諦めたのだろうか。ナツメはフェイントを恐れていた。

「ふぅ。そんじゃアタシはボチボチ行くとしますか」

コーヒーを一気に飲み干し、よっこらせと、マルーシャが椅子から腰を剥がす。

「お世話様でした」

「何言ってんの。お世話はこれからだって」

ジト目で礼を述べるナツメにニカっと彼女は笑って見せた。先程より幾分軽い足取りで、踵を返しナツメの前から去っていく。

「あ、そうそう!」

「………………」

まだ何か出てくるのか。警戒感も顕わにナツメは身構える。

「その本には結局載せなかったんだけどさ………」

「………………?」

「何があっても、例え連中の玩具にされてもさ。女に生まれた事を後悔しちゃあダメだ」

「え、それって……どういう……?」

「最期の瞬間が訪れても、パパとママへの感謝は忘れるなよって。そーゆー事!」

そう宣言すると、マルーシャは背中を向けたままヒラヒラと手を振る。

「アドバイス以上。ほんじゃなー」

531:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/06 23:29:38 1wFt0H/o
リアル多忙につき遅筆に拍車の掛かった第二話です。
しっかし相変わらず長いな。もう少し削り方っての覚えにゃあかん。
簡単な校正&チェック済ませたら続きも投下予定。

あ、そういや保管庫の誤字脱字も直したかったんだよなー('・ω・`)

532:名無しさん@ピンキー
07/08/07 00:02:20 ufvR2dyT
ちょっと待って・・・エロ以外の文章がうますぎて引き込まれる。いやエロもいいけど!
それ以外もいい!・・・素人じゃないとか?

533:名無しさん@ピンキー
07/08/07 00:09:49 W/DoRO6e
うぉおGJすぎるぜドズル閣下
サソリのデスパイアに惚れそうな俺がいる
続きもwktk

でもデスパイアなら精液だけじゃなくて卵産み付けもいいかも…

534:名無しさん@ピンキー
07/08/07 00:41:22 aK5sfI0F
デスパイアが素敵すぎです。
早くいぢめてやってください^^



それはそうと本家(?)の兄さんは何処に行ったのかな……

535:名無しさん@ピンキー
07/08/07 01:23:59 FILFmkcz
スピード感あるなぁ…
前半の迫力あるエロと、それを減速させない後半の展開が見事です
GJとしか言いようがない


あと、ドキドキ必勝マニュアル新装改訂版下さいw

536:名無しさん@ピンキー
07/08/07 10:47:29 xp1iGDWJ
このスレってレベル高いよな

537:名無しさん@ピンキー
07/08/07 11:16:58 /Pcv4Im1
触手はさ…ヒロインに引きちぎられた触腕の数だけ強くなれるのさ…

538:名無しさん@ピンキー
07/08/07 12:24:13 ePAFlVs8
くっそお
エロ過ぎるwwwww

539:名無しさん@ピンキー
07/08/07 13:31:56 wXqjro+V
なんかさぁ…
テレビ見てて、クラゲの話しが出てきてナレーターが
「触手を伸ばし餌を絡めとります」とか逝ってその映像がでたら
ドキドキするのって漏れ病気かなぁ…

540:名無しさん@ピンキー
07/08/07 14:47:57 fI9m5Bu2
なんというか物語としても十分凄いよな。
会話のテンポと小気味よいギャグがプロレベル。
物語の核心だけ抽出すると恐ろしく悲壮な物語のはずなのに、なんてすばらしい筆力
GJJJJJJJwです

541:名無しさん@ピンキー
07/08/07 16:07:27 K0/bJ/kN
これは間違いなくメディアミックスしてもいける。

542:名無しさん@ピンキー
07/08/07 23:22:28 ZsuCEaSc
久しぶりの中将閣下だw

いや~エロイ!

543:名無しさん@ピンキー
07/08/08 16:01:06 xksdyzoZ
>>539
私は「中国が月資源に触手を………」という記事だけでもドキド(ry

544:名無しさん@ピンキー
07/08/09 00:08:46 rYFc2LEJ
>>531
GJGJ
なんだこの饒舌なデスパイアw

545:名無しさん@ピンキー
07/08/09 03:12:11 3V37jm59
サキュバスクエストの触手版みたいなRPGを考えてるんだが、
そうゆうネタとかって、ここに書いても大丈夫なのかな?

546:名無しさん@ピンキー
07/08/09 15:27:05 bwuga5dh
胸に重点的にヤル触手小説ってないか

547:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:26:16 m9hx2qHs
じゃ、後編行きます。あんまエロくなくてすんません。

548:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:27:16 m9hx2qHs
~粉砕天使ナツメ 第二話 後編~

足早な長針は幾度短針を追い越したのだろうか。夜の校舎は外界から完全に隔絶されたかのように静まり返っていた。
時折、正門の前を通過し行く車のヘッドライトも三階のこの教室までは届かない。その数ですら今はもう疎らだ。
もうじき日付も変わろうとしている。果たして夜とはこんなに短いものだったのだろうか。

「――――ふぅ………」

エミリアはひたすら待っていた。幻影が目蓋の裏で踊っては跳ねる。それは幾夜もうなされて来たユイの姿。そして、人間として在りし日の彼女の笑顔。
回想は止まる所を知らない。黒い森で無邪気に暴れ周り迷子になった彼女。デスパイアにトドメの一撃を打ち込んで同時に足を滑らせ、そのままドナウ川に落っこちた彼女。
そして………、月明かりに照らされるステンドグラスの下、自分を組み敷き、下着を剥ぎ取り、同じ人間とは思えない形相でエミリアにむしゃぶりついて来たユイ。
今となっては全てが遠い日、いつか見た夢。蜃気楼の如き思い出である。

追憶を打ち払えば、次に浮かんでくるのはついこの前、出会ったばかりの少女の姿。
あの晩、嬲り物にされている妹を助け出そうと父親のゴルフクラブでデスパイアに殴りかかって行ってナツメ。
その後、幾度と無く戦いを志願し自分に付き纏った彼女を、エミリアは何度も諌めては遠ざけた。もっとも、今にして思えばその程度で引き下がるような子ではなかったのだが。
そんな彼女だからこそ、エミリアはナツメにユイの存在すら教えていない。彼女にまで累を及ばせる訳には行かないのだ。そう、これは私の問題なのだから。

願わくば今夜で全てに片を付け、次にナツメに会う時は何事も無かったかのように振る舞いたい。だが、それが叶うこと容易ではない現実も重々承知している。
3年前、デスパイア化したユイに自分は手も足も出なかった。
あの日以降、戦いに明け暮れた来た末に手にした今の実力。それを信じていない無い訳ではない。だがしかし、五体満足で勝たせてくれる相手でもないだろう。いや、下手をすれば今度こそエミリアはユイの手に堕ちる。
ひょっとして先週の昼食がナツメと交わした最後の言葉だったのかもしれない。そうなれば自分はとてつもなく残酷な仕打ちを彼女にしてしまった事になる。やはりこの一戦、負ける訳にはいかないのだ。

549:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:28:16 m9hx2qHs
決意を新たに、相棒<クロイツァー>を握り締めたその時だった。

「――――!」

空気が変わった。それ以上は言葉には言い表せない。
強いて言えばおよそ人が抱けるあらゆる負の感情を釜で煮て漆喰で固めたようなドス黒い思念。ある種の高潔ささえ感じさせていた月夜の闇が、何かドロリと下卑た暗黒へと変換されたのだ。間違いなくデスパイアの気配だ。
耳をそばだて息を呑み、五感とプラスアルファを研ぎ澄ます。

「――――?」

足音が近付いている。それはいい。ただ、その数がとてつもなく多いのだ。二本の脚で大地を踏みしめる生き物の類では無い。
ユイではないのか?ならば一体何者がここに?結論を出す暇もなく、違和感の正体と思われる気配は扉の前までやって来た。そして、



ガラガラガラ――――バタァン。



「ちィ――――ッス!二夜連続でおコンバーン!!」

誰の断りも無く破られた深夜の静寂。黒板側のドア豪快に開け放ち、仰々しく現れたのは褐色のサソリ型デスパイアであった。

「やっほー、エ~ンジェルちゅわ~ん!お待た~!………ってドア修復されてる!?こんちくしょ、ホワチャァァァァァア!!!」

招かれざる来訪者は場違いなテンションのまま、香港映画のような怒号を一発。頑丈な角質に覆われた脚で開かない方のドアを蹴り倒し、教室の中へとその巨体を躍らせる。

「いーやー、日本の建造物は狭いの何のって。女の子の喘ぎ声なんて三町先まで筒抜けじゃん?ねぇ?」

「……………」

机や椅子をガラガラと薙ぎ払いながら一歩一歩近寄ってくる乱入者。しかし、その先に腰を据えるエミリアは一向に動く気配が無い。

「ン、なになになに?ひょっとしてオレのマッスルボデーにもうトキメキモードとか!?」

自分の席に腰掛けたままの少女を前にして、デスパイアはアレコレとボーズを決めて魅せる。事これに至って、目の前の化け物を冷ややかに見つめるエミリアは、溜め息混じりにようやくその口を開いた。

「悪いけど、人を待ってるの。見なかった事にしてあげるから、どっか行って貰えないかしら?」

「…………………………」

およそデスパイアを前にしたエンジェルの台詞とは思えない言い草が端麗な唇から紡がれる。
その表情は全く興味をそそらない対象を見下げるソレ。なまじ美人なだけに相当きつい。相手のデスパイアも暫し硬直している。エミリアの返事を頭の中で整頓している様だった。それから待つこと約5秒………、

「ンだとゴルァ!!世間じゃ“斜め45度の流し目でマリア様もご懐妊”と言われる、このデス業界随一のナイスガイをナメんのも大概にしやがれッてぇーのゥ!!!」

全身を真っ赤に染め上げ地団太踏みながら喚き散らすデスパイア。こうなるとサソリというよりも茹で上がったロブスターに近い。余り大きな声では言えないが、正直、美味しそうですらある。

550:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:29:12 m9hx2qHs
「ああ、そう。プレイメイツの尻でも追いかけてなさい。お似合いよ」

「ゴッダムユーッ!ファッキンビィィィッチ!!トサカに来たぞ小娘ぇッ!!!もうアレだアレ。ぜってー泣かす、マッパで泣かす、孕まして泣かす!
シャワー浴びたかァ!?よっしゃ、いくぜ百万発!くらぁぁぁあッ!!柔道チョ―――ップ!!!」

怒声と共に巨大な鋏脚が夜の教室を切り裂く。エミリア目掛けて放たれた大振りの一撃は、轟音と共に彼女の座っていた席を真っ二つに叩き割り、そのまま床をも打ち抜いた。
軽やかに身を翻し、ロッカーの前に降り立つ黒衣の少女。その右手のアーチェリーグラブには既に光の矢が携えられ、月明かりに満ちた教室はもう一つの灯篭に照らされる。

「っしゃあ!バッチ来いやコルァっ!!」

闘志を剥き出しに挑発するデスパイア。返事の代わりに返って来たのは弓鳴り。

――――ガシィィィイ。

だが、<クロイツァー>を離れて闇を駆けた一撃は、化け物の頑強なハサミで見事に捕獲される。強靭な甲冑の庇護下にあるその肉体は、表面を光の魔力に焦がされようと一向にお構い無しだ。手練の天使に正面決戦を挑むだけの事はある。

「ハッハァー!見たかァ、真剣白刃取りィッ!!微妙に違うけど気にすンなァ!!」

しかし、その会心の笑みはすぐさま凍りついた。
彼の複眼が次の瞬間捉えていたのは、二発目の矢のように一直線に突っ込んでくるエミリアの姿。
凍てつく瞳は感情を読み取らせる事無く、その右手には再び光条が握られている。

「ま、マジっすか!?」

一発目の矢をキャッチしている為に両腕は迎撃に使えるはずも無く、自慢の凶器は呆気なくエンジェルの踏み台と化す。
緩やかなカーブを描くハサミの上を一気に駆け上がりエミリアは飛翔。天井ギリギリまで上昇し全体重を乗せて急降下。その眼光が狙っていたのはデスパイアの頭頂部。

――――ザシュ。

「ぬ、ぬがぁぁぁぁぁぁあッ!!!」

魔力の塊が遠慮なく脳天を貫く。エミリアの右手に握られていた矢は弓本体を経ず、彼女の腕によってナイフの様に直に突き立てられた。
急所を一撃され、余りの激痛に仰け反り返るデスパイア。その挙動で露わになる柔らかな腹部。
続いて唸ったのは手甲を填めた右腕。その細腕からは想像だに出来ない鋭いアッパーカットが風を切る音と共に顎の下に叩き込まれる。
真下から突き抜けた鉄拳の衝撃は頭蓋を軋ませながら脳天の傷口まで容赦無く到達。
哀れなデスパイアは勢い余って天井に激突し、砕いた蛍光管を辺り一面に撒き散し、溢れる緑色の血液もその後に続く。エミリアは尚も攻撃の手を緩めない。

「――――ハァッ!!」

落下してくる巨体目掛けて踵を蹴り反転しながら跳躍。錐の如き鋭角を描いた爪先が標的に迫り……。

「あ、タンマタンマタンマ、……―――むぼふぅッ!!!」

――――ドゴンッ。

その胸部目掛けて強烈なサマーソルトを見舞う。

――――ズズゥン………。

吐瀉物を盛大に撒き散らしながら床に叩きつけられるモンスター。猛攻の主は何食わぬ顔でその目の前にストンと着地。宙返りで乱れたプラチナブロンドの髪を優雅に撫で整えたのだった。

551:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:30:13 m9hx2qHs
「………て、てめ………っ!なんで弓使いがボカスカ殴って来ンだよ!?オマケに浮かして落とすって詐欺だろコレ………、ごふッ!?」

「自分で言ってたじゃない。狭いのよ、ここ」

「な、ナルホド……。って納得できっかよ!こんクソアマっ!!」

中々どうして打たれ強い。止まらぬ出血もお構い無しにその身を持ち上げるデスパイア。その恨めし気な視線の先に位置するエミリアは、既に次の矢をノッキング完了している。

「ンだよそれ。うっふん、さぁトドメよ~ん♪ってか!?そうはイカのアニサキス!!」

サソリ型の体躯の象徴とも言える長い尻尾がエミリアに向けられた。その先端は充血した肉色の巨根。既に包皮が剥け上がりはちきれんばかりに膨張して震えている。

「――――っ!?」



どびゅ――――べちゃ。



間一髪のサイドステップで直撃を逃れたエミリア。ツーンとした精臭が教室全体に広がる。彼女の背後の黒板は汚れたミルクを塗りたくられ、一瞬の内にホワイトボードと化していた。

「アウチ!ガッデーム!惜しいッ!!」

「………随分と下品な飛び道具ね」

「ンな事言ってイイのかなー?もうじきレディのお腹はコイツでタプンタプンになるんだぜぇ?魔力で浄化なんて野暮な真似はパパ許しませんよ~!ヒャッホーゥ!!」

ごぷん、と次の弾がこれ見よがしに掲げられたペニスへと装填された。よくもまあ、これだけハイペースで出せたものだと感心させられてしまう。

「ホラホラ行くぜぇ!美白ブームの最先端!デスパイア特製スペルマ・ファウンデーション!!クールビューティーなあの子も汁だく美女に大変身!!さぁ、ベチョっといっちまいなァ!!」

どびゅ――――っ、どびゅ――――っ。

間断なく撃ち出される白濁液の塊。その照準の一歩手前を疾走するエミリア。彼女がステップを踏むたびに透き通った白銀の髪が鈍色の軌跡を闇へと残す。
その通り過ぎた後には一拍遅れて真っ白な液体が着弾し、幻想的なほどの美が舞っていた空間を欲望のヘドロで染め上げていく。

「なーッはははははァ!こーれぞホントのセックス・マシンガーン!一発当たればお股がキュン、ってなァ!!だーッははははーァ!!」

「後で請求書見て腰抜かしても知らないわよ!」

彼女も逃げてばかりではない。驚異的なバランス感覚で走りながらも弓を引き絞り、化け物めがけて一撃を見舞う。
だが、その煌きも巨大なハサミで打ち払われて宙を舞い、窓ガラスを砕いて深夜の空へと消えていく。

552:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:31:19 m9hx2qHs
「そらそらそらァ!コイツをブチ込んでザーメンロケットにして飛ばしてやるぜぇ!行き先はズバリ精子衛星軌道!なーんってなァ!!」

ヒュン――――、ガキィィィン。

「いてッ!ンだコラァ!今の笑うところだろッ!!」

帰国子女は愚か、ましてやハーフにそんな親父ギャグを理解しろと言うのも無体だ。

「………っのアマ~!お約束通り俺を本気にさせやがったなァ!!いいだろう。目ン玉かッ広げてご覧あれ!
俺の股間が真っ赤に燃える!オマエを犯せと轟き叫―――」

「――――ハッ!」

どごっ。強烈な上段回し蹴りが化け物の首を右方向に60度ほど湾曲させる。だが、

「た、大概にしやがれよテメっ………!!決め台詞の最中ぐらい神妙にしてろ!アバズレがぁ!!」

人間ならば一撃で頚椎を叩き割り三途の川を渡らせる蹴撃も、化け物には大したダメージになっていないようだ。

「………フン!プールの奴といい、コイツといい、大した装甲厚ね。ツラの皮の厚さがそのまま反映されてるわ」

「そうでもねぇぞ?やっぱ可愛子ちゃんの前でチンコぶ~らぶらってのは結構ハズくてな。アナルがあったら入りたい、なーんって!!分かったらサッサと挿入れさせやがれぇッ!!」

咆哮と同時に突き出されたハサミを、大きなバックステップで回避するエミリア。だが次の瞬間、その背後に固い感触が。

「そぅら!追い詰めちゃったぞー。どうする?ん、どうするゥー?ホラホラ、チワワも訊いてるぜ?」

ガタンとエミリアの背中に触れるロッカー。白濁液を連発しながら間合いを詰めて来た敵に、いつの間にやら彼女は教室の隅へと追いやられていた。
左右を抜けて逃れようにも待ち構えているのは巨大なハサミ。上を飛び越そうとすればそこには怒張した逸物が我慢汁をダラダラ垂れ流しながら構えている。

「あー………いってえ、まだ痛むぜ畜生め!手こずらせやがってよォ、ンー?」

未だに塞がらぬ頭の傷口を撫でながら、デスパイアが毒づく。

「今度からはせいぜい特大のコンドームでも持ち歩くこったな。なんせ俺サマは紳士だからよ、頑張ってお願いすりゃ装着してやらねぇ事も無いぜ?
ま、後で中身は全部飲んでもらうけどよ!ヘヘヘ………」

額に青筋を浮かべながら、ズシリと一歩間合いを詰めるデスパイア。

「さ~て、どんなプレイがお好みかなァ~?とりあえず一枚づつ脱いで貰おっか?あ、その前に下着の色を当てっこなんてどうよ?
ンでよ、ンでよ、当たったらその綺麗な唇で俺のナニにたっぷり御奉仕してくれよ。実は結構イケたりすんだろ?なァ、なァ?」

553:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:32:27 m9hx2qHs
銀色の糸を引く男性器をエミリアの顔の前でユラユラと見せ付けるデスパイア。だが、目の前の天使は動揺する気配すらない。とことんポーカーフェイスを決め込んでいる。
生意気な女だ。まずはそのスかした顔からメチャクチャにしてやる。そんな事を考えていた折、唐突にエミリアの口が開いた。

「ひとつ、尋ねていいかしら?」

「ん、あぁ?ひょっとして、子供の名前は何がいいかしらー、ってヤツ?んだな、俺的には男の子ならダミアン。女の子ならミザリーなんてのは―――」

「今朝、この教室で倒れてた子。やったのは貴方?」

デスパイアの投げ返すボールを完全に無視してエミリアは問う。

「ンだよ、面白くねぇな、そんな質問かよ。座布団没収」

デスパイアがつまらなそうに舌を鳴らす。そんな彼は、少女の瞳の奥で静かに蠢いているドス黒い殺意に気が付いていない。

「もち俺だぜ、俺。オレオレ。大した魔力も持ってねぇガキだったけどよォ、見た目的にメッチャ好みだったんでなァ。
そりゃもーアソコがガパガパになるまで犯ってやったぜ。もう人間のイチモツなんか一生収まンなくなってんじゃねぇの?」

教室の窓際を見遣りながら、肉欲獣は愉快気に語る。

「あ、ひょっとしてお友達だったのかなァ~?そりゃあ悪い事しちまったぜ。許してちょ。
だって羨ましいよなァ。あんなにたくさん汁貰ってよォ?天使ちゃんだって欲しいよなァ?あ、そだ!ピキーン、いい事思いついたー!」

グイっと先端から垂れていた先走りを拭うと、デスパイアは自らの性器をエミリアの頭上に持って来た。

「こっからドロドロっとぶっかけて、天使ちゃんをクリームパフェにしーちゃおーっと!どわーははははははァッ!!」

だが、その笑いはそう長く続かなかった。

「なんだ、アンタだったんだ………」

「……………へ?」



――――ザシュ。



ボトリと、大きな弧を描いて宙を舞った物体が背後の床に転がる。

「な………、う 、うそ……?」

ドクドクと流れ出しているのは精液ではない。緑色の血液だ。尻尾の先端に飾られていた不浄の魔槍が根元から無くなっている。
怪物の視線は自然とエミリアの右手へ吸い寄せられた。そこに装備されているのはアーチェリーグラブ。
ただ、先刻までとの違いが一つ。手の甲の部分から、三本の鋭利なクローが飛び出し、残忍な輝きを放っていたのだ。

554:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:33:34 m9hx2qHs
「あ、隠し………武器、……っスか?」

エミリアは応えない。代わりに一歩踏み出し、もう一度、右手の鍵爪を唸らせる。

――――ザシュ。

「ぬ、ぬぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!」

突き刺さったのは左目。エミリアの一撃は複眼を貫いただけでは飽き足らず、そのまま手首を90度ひねり、その奥の視神経に至るまで無慈悲に掻き回す。

「あぐっ、ぬがあ!ぬ、抜け!抜いてくれぇ!!あが……ぬ、抜きやがれっての!!」

因果だ。顔面内部で尚も破壊活動を繰り広げる鍵爪に堪えかね、デスパイアの悲鳴が上がる。辛うじて意味を成していたその叫びは、奇しくも前の晩に嬲り物にした少女と同じ慈悲を求めていた。

ぐちゅ――――ぶしゅっ。

鮮血の迸りと共に、ようやく引き抜かれるエミリアの右手。白い肌と返り血のコントラストは狂気の芸術が為す壮絶美である。

「ぬば、がふッ!て、テメェ……。きィ、汚ねぇぞ!天使のッ、…やる……こと…かァ!?」

「心外ね。私は職務に忠実なだけよ。それに………」

ここに来てようやくエミリアの麗貌は、僅かではあるが憤怒の色が差した。

「抵抗一つ出来ない女の子を大喜びしながら玩具にした奴に、一体誰を詰る権利があるのかしらね。教えてくれる?」

傷口を押さえながらヨタヨタと後ずさりするデスパイア。その眉間に<クロイツァー>の照準がピタリと合わせられる。

「………ち、畜生め。とんだ厄日だっての。……クソっ!!」

「こっちの台詞ね。とんだ無駄足だったわ。帰って寝直さなきゃ」

キリキリと、限界まで引き絞られる魔力の弦。断罪の一撃は目前まで迫っていた。

「あ、姐さん。やっぱ、俺一人じゃ無理っぽいです。頼ンます!!」

「……………アネ、…さん?」

矢を解き放とうとした指がピタリと止まる。目の前のデスパイアが何を言っているのか、エミリアには理解できなかった。
だが、次の瞬間。全身の毛穴が震え立つような寒気が彼女に走る。

「――――っ!!!」

ハッとエミリアは<クロイツァー>の弓先を出入り口の方角へと向ける。そして、気配の主を探す灰色の瞳は、扉にもたれ掛かる一人の少女の姿を捉えていた。

「…………………ユイ」


555:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:34:24 m9hx2qHs


悪夢。ナツメの目の前に広がっている光景は、他に例え様が無かった。
とてつもない数の触手が、肉色の津波となって押し寄せ街を飲み込んでいく。

そしてその先を逃げ惑うのは年頃の女性たち。追いつかれた者から、抵抗ひとつ出来ず、次々とひん剥かれて裸にされていく。
ベルトの金具が弾け飛び、引きずり下ろされるジーパン。ホックを外され宙に舞うスカート。商店街の歩道に放り捨てられるホットパンツ。
乱れ飛ぶのはYシャツのボタン。まだ温もったショーツが植え込みに投げ捨てられた。信号機に引っ掛かっているのは、放り投げられたブラジャーだ。
必死に閉じようとする太腿は力ずくで開帳され、大通りは甲高い悲鳴の混声合唱で満たされていく。

追い詰められ、遂に校舎の屋上から飛び降りた少女。しかし、地面に激突する前に、その身体は触手に抱き止められる。
あっと言う間に彼女の身につけていたセーラー服が剥ぎ取られ、代わりに校庭に落下した。
そのグラウンドも、触手に絡め捕られ、桃色の局部に集中砲火を浴びる女子生徒たちで埋め尽くされている。
ベキベキと体育倉庫の扉がこじ開けられ、中から引きずり出される女の子たち。バンザイのポーズで両手首を縛られ、抗う間もなく体操服を脱がされる。
水泳の授業中だったプールサイドには、群青色のスクール水着を膝下まで降ろされた少女たち。発育途上の胸は触手に縛り上げられ、変幻自在にその形を変えている。

道路を埋め尽くした触手は建物の中へも侵入していく。
ビルの窓から女物のスーツが放り捨てられ、街路樹の枝に引っ掛かった。オフィスビルからはビリビリと、ナイロン製のストッキングが引き裂かれる音。
続いてベトベトになったレース編みのショーツが窓から放られ、すぐ下に停められていた自動車の天井にへばり付く。その車のボンネットをベット代わりに、半裸の女性が組み敷かれ、前後の穴を肉蔓で弄ばれていた。
ぶちゅりと音がする度に、彼女たちの膣は白い爆発でドロリと満たされ、湛え切れなかった欲望の残滓を僅かな隙間から噴き出し逃がすのだ。
ショーウインドウにビチャリと飛ぶスペルマ。ごぼごぼと排水溝を流れるのも雨水ではなく大量の精液である。

足首まで浸かる白濁液の洪水にタイヤが空転し動き出せない自動車にまで触手の軍団は襲い掛かった。
ドアをこじ開け、運転席の女性を容赦なく性処理器具にする。バックから突かれ、剥き出しの乳房がハンドルに押し付けられる度にやかましく鳴るクラクション。
後部座席ではまだあどけない顔の少女がパンティーを奪われ、今まさに挿入されようとしている。
ホームに止まっていた電車にまで触手は雪崩れ込み、逃げ場を失った獲物に襲い掛かる。
吊革に両手でブラ下がったまま、股間を突き上げられるOL。シートの上にはM字開脚を強要されている女子学生。女性専用車両など目も当てられない光景だ。
誰一人、この凌辱劇から逃れられる者は居ない。膨大な量の液体を注ぎ込まれる彼女たちのお腹は見る見る内に膨らんでいく。

556:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:35:41 m9hx2qHs
駅前で、公園で、庭先で、学校で、商店街で、大通りで、オフィス街で、あられも無い姿になり果て犯される女性たち。咽せ返るような甘い性臭が街全体から沸き立っていた。
その凄惨極まる光景を、ナツメはただ眺めている事しか出来ない。街全体が一望できる小高い丘の上で、触手に拘束されながら、妊婦のように膨れたお腹の彼女は泣いている。

「ごめんな………さい。……ひっく……、ごめん……な…さい……、えぐっ……」

覚悟なんて物がどれほどの役に立ったというのだろうか。ナツメは謝り続ける。膣内射精の餌食となり、ゆくゆくは奴らの子孫を身籠る運命にある女性たちに、ひたすら謝り続ける。
自分が負けてしまったから、エンジェルが負けてしまったから、この惨劇は引き起こされてしまったのだ。だが、その言葉が彼女たちに届くはずも無い。
無力な天使は自らの残した結果をひたすら見せ付けられるだけ。これから先、ベルトコンベア上の流れ作業のように、ただひたすらデスパイアを“生産”し続けるであろうこの街の姿を。

永遠に……………、そう、永遠に……………。

ふと目の前に一人の女性が立っていた。夕闇を思わせるガウンを羽織り、微笑を湛えた娘。その女は身動きできないナツメの耳元に唇を寄せ、こう囁いたのだ。

「うふふ………、いいザマ。それじゃ、エミィは貰っていくね」

「――――え!?」



………R…!RRRRRRRR!RRRRRRRR!RRRRRRRR!



「――――あ………」

彼女の意識は深淵から揺さぶり起こされる。呆けていた聴覚は耳元で響いていた電子音をようやく拾い、ナツメはガバと飛び上がった。
ここは自室。そしてベッドの上だ。どうやら普段着のまま眠りこけていたらしい。

「夢、………だよね?」

昼間の話が尾を引いているのだろうか。両親を失ってからというもの、幾度と無くデスパイア絡みの悪夢にはうなされて来たが、先程まで強烈なインパクトを持ったビジョンは流石に初めてだった。
パジャマに着替えるのも忘れてせいか、寝汗でベットリとへばりつく衣服が妙に気色悪い。まるで今も、触手に絡め捕られているかのような………。

「あ、いけないっ!」

慌てて彼女はあまり馴染みの無いデフォルトの着信音を発する携帯電話を手に取った。
夕食の後も、シャワーの後も、マルーシャから聞いた話が頭から離れなかったナツメは、何とか気を紛らわそうと、さほど乗り気ではない着メロ選びや壁紙変更に打ち込み、その甲斐あってか否か、いつのまにやら眠りに落ちていたのだ。

そろそろ傷が目立って新機種に買い替えたいと思っていた小さなディスプレイ。そこに並んでいる番号は間違いない、マルーシャの物だった。

557:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:51:13 m9hx2qHs
「す、すみません!もしもし!?」

『ナツメ!よしよし、起きてたか。夜更かし朝寝は悪い子の基本。上出来ね!』

「――え?あ、いや、正直うたた寝してましたけど………?」

火急の用、と言う訳ではなさそうな反応だ。

『結構。それよりマズい事になった。実はエミィが自分の通い先でドンパチ始めたらしい』

半開きの二重目蓋が見開かれ硬直する。前言撤回。ナツメの眠気は一瞬にして吹き飛んだ。

「か、通い先ってあの丘のところの!?」

『そ。クリスチャン風の女子校?あー………、名前なんてったっけ?』

「そんな事より!相手はその、昼間聞いたユイさんなんですか!?」

『わからん。ってか今は何とも言えない。ただ、あのバカチンが一人で戦ってるトコからして………』

携帯電話の向こうから聞こえているマルーシャの息遣いは弾んでいる。どうやら彼女は全力疾走中らしい。

「わ、わかりました!とにかく急ぎます!!じゃあ、学校で………っ」

『待ったナツメ!まだ切ンな!!』

「え、あ、ハイ………!?」

ナツメは耳から放し掛けた機械を慌てて所定の位置に戻す。

『いいか?良く聞けナッちゃん。こっからが一番重要だ』

一拍置いてマルーシャが続ける。

『場所的に言ってアンタの方が先に現場に着くから、もし相手がタダのデスパイアだったらエミィに加勢だ。二人掛かりで押し花にでもして尻でも拭いちまえ。そんで万が一、相手がユイだったら――――』

ナツメも息を呑み耳をそばだてる。

『相手がユイだったら、エミィを引き摺ってでもいいから全速力で離脱しろ!無理だったらアタシが到着するまで時間を稼げ!落語でも手品でも何でもいいから正面からの殴り合いだけは避けろ。
そんで万が一の万が一、ホントに万が一だぞ!?エミィがもう助け出せそうにもなかったら…………、そんときゃアンタひとりでその場から一旦逃げろ。いいな!?』

最後の一節に、ナツメの目は点になった。

558:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:53:13 m9hx2qHs
「そ、……そ、………そんな!マルーシャさん、貴女、自分が何言ってるか分かってるんですかっ!?」

抑えなくては。頭ではそう思っていた。しかし気が付けばナツメは、金切り声にも近い怒声を電話越しにぶつけていたのだ。

『聞き分けるんだよ、ナツメ!いいかい、ユイの奴はタイマン張って負けた事は一度も無い。殆ど無敵だ。サシだと呂布よりもハルクよりも強ぇんだよ!その気になりゃプレデターだってコンマ三秒でヴァルハラ直行便だ!!』

「で、でも!………エミィちゃんを見捨てるなんて!!」

『見捨てるもんか!そんときゃナツメ、一旦仕切り直しだ。そんでいいかい?二人でエミィを助け出そう。ファンタジーよろしくお姫様を取り返すんだよ』

見捨てる。その言葉に返って来たマルーシャの台詞は、精密機器を挟んでも分かるくらい昂ぶっていた。
ナツメは恥じた。昼間、諌めるマルーシャに頑固に食い下がったのは自分の方なのだ。なのに自分は今、彼女に一番辛い役回りを押し付けて、しかもそれを非難している。どう考えたって理不尽なのはナツメの方だった。

「………ご、御免なさい。無茶言っちゃって」

『気にすんな。万が一の話だからね。それにだ、あのエミィがそうそう簡単に捕まると思うか?そんなヤワなタマじゃないよアイツは。心配なら保証書出してもいいくらいさ。ハハ………』

宥めるような口調で言い聞かせると、マルーシャは続ける。

『んで、そうだな………。20分、いや30分だ。アタシの到着まで持たせてくれ。今、こっちもシベリア超特急だからさ!』

「わ、わかりました。じゃあ、出ます!!」

『ああ、頼んだよ!』

時計に目をやりながら、ナツメは携帯電話を切る。日付はとっくに変わっている。

マルーシャの看破していた通りだった。エミリアは一人で戦いに赴いたのだ。置いてけぼりを食った寂寥感が硝子の破片のようにナツメの胸に突き刺さる。
確かに二人で共に戦った時間は決して長いものではなかったが、それでもナツメは二人の間に揺らぐ事の無い信頼感が芽生えた物と確信していたのだ。
それだけに、エミリアの気持ちが分からなかった。
巻き込みたくない。そんな陳腐な言い訳を、今更突きつけられる筈が無いと。

(………いけない。こんなんじゃ)

再度、マルーシャの言葉を反芻させる。聞いての通りならば相手は尋常な腕前では無い。雀の涙ほどの迷いでも抱いたまま渡り合えば、勝敗は戦う前に決してしまう。
困った時は深呼吸、と母がいつも冗談交じりに言っていた。大きく息を呑み決意を新たにすると、ナツメは月明かりの下に飛び出して行った。その右手に力の源、純白の結晶を握り締めながら。

559:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:54:44 m9hx2qHs


夏の夜風が湛える湿気は、上空に逃げても緩和される気配が無い。相も変わらず、不快な空気が首筋に絡みつき、白いうなじを捕えて放さずにいる。

「………やっぱマズったかねぇ………」

ビルの屋上に降り立った人影。通話を終えたマルーシャは一人呟く。思い起こされるのは昼間のやり取り。やはり許可するべきではなかったのかも知れない。
あの様子では、ナツメが律儀に自分の言い付けを守るかどうかは微妙な線だ。
まあ、今となっては後の祭り。“助けてやる”と大風呂敷広げた手前、善処する他に無い。

藤沢ナツメ。なるほど、確かにエミリアが選んだだけの事はある。潜在的な魔力は相当なものだ。下手をすると自分よりも上か。
向かい合っているだけでチリチリと伝わって来るくらいだ。ダイヤの原石なんて例え方がこれ程までしっくり来る娘は、後にも先にもそうそう見つからないだろう。

しかし困った子でもある。大切なものを守りたい気持ち、これを否定するつもりなどマルーシャには毛頭無い。
ただ、肝心の天使が倒れてしまっては、守りたいものも、これから守るであろうものも、何一つ守り通せる筈が無い。駆け出しに有り勝ちと言えば有り勝ちだ。
要は優先順位という物が付けられない。俯瞰で物を見れないのだ。目の前の事象に対し、人参をブラ下げられた駄馬のようにひたすら喰らい付いてしまう。

「結局、若さってヤツか」

もちろん年齢の事ではない。それなら自分もそう変わらない。彼女が言いたいのはそのものズバリ“経験”だ。
天使は何処まで行っても天使であり、逆立ちしたって神様にはなれっこないし、その神様が人間に与えたもうた時間もこれまた短い。一人の戦士に守れる物なんて、手の届く距離にある物の中からでさえほんの一握りなのだ。
アレもコレもと欲を掻けばいずれ足元を掬われる。個人の肩に乗せられる積荷は本人が思っているよりもずっと小さい。
少なくともマルーシャはそう信仰しているのだが……、あの真っ直ぐなナツメにそれを今すぐ理解しろと言うのも無理なオーダーか。
結局、エミリアという人間磁石が引き寄せた娘にまたもや振り回される自分だけが残った。いやはや苦労の絶えない人生だ。

「………ったく、相変わらずモテモテじゃないか。エミィの馬鹿ちん」

どこまでも自覚の無い友に愚痴をこぼしながら、湿った向い風にコートをなびかせ大きく跳躍。自動車のテールライトを遥か下界に望み、街灯の眩しく輝く大通りを越え、向いのオフィスビル屋上へ着地。
月に照らされて輝く金髪を掻き上げると、目線は既に次の足場へ。建物の高低差など気にも掛けない。その全てが流れの中の飛び石同然である。

「まァ、頼り無いのは今回アタシも一緒さね」

エミリアとユイがドンパチやるなら、二人は恐らく人気の無い場所を選ぶ。真っ先に候補に挙がるのは、沿岸の旧コンビナート地帯。次に廃ビルの目立つ駅南口の再開発地区。
そんな具合にマルーシャは踏んでいたのだが、二人は仲良くその斜め上を行ってくれた。

「まさか夜の校舎とはね。しかもエミィの通学先」

駄目押しにその場所はマルーシャが網を張っていたポイントから街の中心線である高架を挟んで丁度反対側に位置する。とんだタイムロスを食った。まさかナツメをアテにする羽目になるとは。
呼び出すヤツも呼び出すヤツだし、ホイホイ出向く方も出向く方だ。朝になったら一体どんな騒ぎになることやら。ただでさえ、前日のデスパイア騒動で耳目を集めていたのに。
どうやらお二人さんの頭は予想以上に発酵食品と化していたらしい。そして自分の勘も酷い体たらくだ。これは相当鈍っている。

「やっぱ暑さだな、暑さ!それとあと湿度!!」

温帯モンスーン気候に全責任を押し付けると、彼女はその身を夜空に躍らせた。

560:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:55:42 m9hx2qHs


静寂。例えるならば、この世でたった二人きりになったような瞬間。彼女の繰り出す爪先の音も、消え入りそうなデスパイアの虫の息も、エミリアには届いていない。
そして月は万物の観測者であるかの如く窓の外に佇み、対峙する二人を無言の内に見守っている。

「あ……、姐さん。ヘルプっす、ヘルプ……。姐さァん…」

彼女の注意を引くように、デスパイアがハサミを持ち上げ喉を震わせる。その傍らまでコツリ、コツリと歩みを進める夕闇の娘。
そのシルエットが化け物の顔前と重なった瞬間――――。

ドシュッ――――ごろん………。

エメラルドの破片のような美しい飛沫が教室を彩った。そして血の匂い。床に転がっているのは、先刻まで助けを求めていたデスパイアの頭部だ。

「あ……やっぱ、……こうなるんスね。ハハ……、いや………、わ、わかってた…ってか。で、……でも俺。姐さんの、そーゆーキツイとこ、結構、好きだったり………っ」

―――――ゴバシュ。

湿った破砕音が再度響く。首だけで紡がれる辞世の句はそこで途切れた。
四分割された醜悪な顔面からは最期の表情が消え、デスパイアと呼ばれた化け物はサラサラと、砂とも埃とも分からぬ粉末へと変質し、音も無く崩れ去っていく。
その様子を見つめもしないユイの両手はポケットに差し込まれたままだ。傍目には、彼女が何を持って今の一撃を繰り出したのか、全く測り知る事が出来ない。
コツンともう一度踵を鳴らし、優雅な挙動でユイはエミリアの正面に向き直った。

「やあ。エミィ」

数秒前の惨劇に馴染まないとても子供っぽい声。それは記憶の彼方で響く音色と全く同じ物であった。

「なんか………、また綺麗になったね」

エミリアは一言も発しない。目の前のユイは三年前とまるで変わっていないように見えた。彼女を中心とした僅かな空間だけが、時間という概念から開放されているかの如き錯覚さえ受けてしまう。
暫しの沈黙を挟んでようやくエミリアの口が開いた。

「………どうして、こんな下っ端を差し向けたの?」

ユイは嬉しそうに白い顔を緩める。

「釣り餌よ、釣り餌。久々にエミィの戦ってるとこ観たかったしね。前よりずーっと格好いいよ。流石、私のエミィってとこだね」

「貴女、そんな物の為に………」

ここの生徒たちを。そう言い掛けて止めた。もう、そんな言葉の通じる相手ではないのだ、彼女は。

「仮にエミィが負けちゃっても、私はちゃんと助けたよ?その方が手間省けるしね。で、そのままホテルに―――」

―――――キリキリキリ………。

だからエミリアは黙って<クロイツァー>を引き絞る。フルドローされた凶器の切っ先は言うまでもなくかつての仲間の眉間へ。

「あ、もう始めるんだ。相変わらずせっかちだね」

パサリと、ユイの纏っていたガウンが木目の床に落ちる。その下に彼女が着込んでいたのは、黒一色の生地に白いフリルをあしらったロングドレス。

「――――ッ!!」

弓先が微かに震える。エミリアの顔が軽く引きつった。間違いない、あれは………。

「えへへ、覚えてる?エミィから貰ったヤツだよ。どう、似合ってる?」

忘れるはずも無い。3年前、敗北を喫したエミリアが脱がされた衣装だった。

561:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:57:39 m9hx2qHs
「ちなみにね………、ホラ、下もだよ」

ユイは恥じらいひとつ無く笑顔でスカートをたくし上げる。彼女が履いていたのは紫陽花のような刺繍とグラデーションが美しい洒落たショーツ。もちろん、その下着もエミリアの………。

―――――スタァァァン。

「あー、エミィったらもう怒ったー」

ユイの立つ背後の黒板に突き刺さった光の矢。自らの頭めがけて飛来した一撃を、彼女は僅かに首を反らすだけで回避していた。完全に見切っている。

「んじゃ、これ以上エミィがプリプリしちゃう前に――――」

ユイは背中に両腕を回す。静かな教室に、パチリ、パチリ、と2回続けて、金具か何かを外す音が響いた。

「力ずくでお持ち帰りといきますか!!」

宣言と同時にユイは両腕を突き出す。左右の手に握られていたのは、艶の無い黒一色に染め上げられた大小の冷兵器。

「………………」

その姿を認めたエミリアの顔は一層険しくなる。

右手に握られているのは、大人の前腕部ほどのリーチを持った戦闘用マシェット。名は<ヘンゼル>。
そして左には小振りながらも凶悪な意匠を施した片刃のファイティングナイフ<グレーテル>。
女を貪るのに夢中な幾多のデスパイアを、背後から物音一つ立てずに地獄へ送ってきた自慢の双子。それが今もなお健在である事をエミリアは確証するに至る。

―――――シュタッ。

そして次の瞬間、一陣の黒い風が教室を駆け抜けた。脇目も振らず地を這うような低姿勢で一直線にエミリアへ突っ込んでくるユイ。

(―――――くっ!)

エミリアはすぐさま一歩飛び退くと同時に、傍に転がっていた机をひとつ、ユイ目掛けて蹴り上げた。
乾いた音と共に、放られた備品は空中で真っ二つに叩き割られる。左右どちらの凶器で両断されたのかは判らないが今はどうでもいい。

562:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:58:35 m9hx2qHs
「―――――ハッ!!」

その僅かな挙動を付いて、気合と共に矢をリリースするエミリア。狙うは左右に分断された机の向こうから覗くユイの姿。
邪悪なデスパイアを貫き、焦がし、滅する一撃が、かつての戦友に放たれる。しかし。

―――――ガキィィィン。

耳をつんざく金属音。左手の<グレーテルが>一閃。光の矢は造作も無く弾かれ廊下側の壁に突き刺さった。
苦い表情を隠せないエミリアを捉え、その位置からさらに一歩大きく踏み込むユイ。唸ったのはリーチに長けた右の<ヘンゼル>。

――――ヒュン。

無理のある体勢で強引に床を蹴るエミリア。敵の頭上を飛び越え、狙い違わず胸元目掛けて繰り出された一振りを辛うじて回避する。掠った切っ先が、ピシリと長いスカートにスリットを作った。
そして着地と同時に振り向きユイの姿をサーチ。いや、探すまでも無かった。敵は今、顔が触れるような距離で逆手に持ったナイフを振り向きざまに打ち下ろそうとしている。

―――――ガキィィィン。

「くぅ………っ!」

両腕の筋がギシリと唸る。エミリアは半ば反射的に<クロイツァー>本体とクローを交差させ、その一撃を受け止める事に成功した。脊髄に感謝したいくらいだ。
だが長くは持たない。武器の剛性は敵が上。魔力を纏った三つの凶器がせめぎ合いギリギリと悲鳴を上げる。
エミリアが相手を突き飛ばそうと踏み込むのより一歩早く、ユイがフリーになっていた<ヘンゼル>を振り上げた。

「こ、この………ッ!!」

――――どごッ。

「あ、………たたたッ」

刃の到達よりも早く、その脇腹を目掛けて至近距離から膝蹴りを見舞う。戦闘開始から経てようやくマトモな一撃を食らい跳び退るユイ。その隙に大きく助走するエミリア。
体勢を立て直そうとするユイが転がるのとは真逆の方角だ。雲一片の逡巡も無く頭を下げ、右肩を突き出し、エミリアは窓際へと疾駆する。そして跳躍。

ガッシャァァァァァァアン。

打ち破られる窓ガラス。漆黒の天使はそのままベランダも飛び越え、その身を夜空に躍らせる。
黒衣を翻し、白銀の髪を靡かせ、3階の窓から飛び降りた彼女。月明かりに照らされて舞うガラスの破片と共に空中で一回転。夜の校庭に利き脚から着地する。
膝に走る衝撃を堪える暇も無く首筋を焦がす背後からの殺気。飛び退いたエミリアが半秒前まで立っていた場所に、投擲されたナイフが突き刺さる。
それに追い縋る様にして飛び降りて来たのはユイだ。
空振りし、砂を噛み突き立てられたナイフを引き抜くと、左手の中で鮮やかにスイッチ。得物を逆手に持ち返え防御姿勢をとる。

陸上競技用レーンを引く石灰を巻き上げ、校舎から距離を取るエミリア。宙に踊る白煙の匂いが鼻につく。流石に教室の中でユイと渡り合うのは無理があった。
なにせ端から端まで彼女のテリトリーだ。だがここなら距離は十分過ぎるほど取れる。攻勢に出るなら今に於いて他に無い。

「リカーヴ<クロイツァー>……モード変更、ベラーゲルング!!」

詠唱開始と共に幾筋もの輝きが右手のグラブに集まり出す。現れたのは一際長大な光の矢。優しく、柔らかく、それでいて凶暴な光の集合体が<クロイツァー>にマウントされた。
切っ先から走る蒼白いガイドレール。その矛先は微動だにせず、標的の顔の中心線を捉えている。

563:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 18:59:18 m9hx2qHs
「………………」

ユイは表情を変えない。想い人から向けられる渾身の殺意も、魔力の余波に巻き上げられる砂の匂いも、彼女の微笑を崩すには至らない。
待ちに待ったこの日、遂にやって来たこの夜、引き下がる理由など絶対絶無。肺腑に突き刺さる憎しみの視線さえ今は心地良い。
鉄壁の沈黙を維持したまま、双子の凶器を構え彼女はただ月下に佇む。

「―――――フォイア!!」

沈黙を破ったのはエミリアの撃声。夜の帳を切り裂く弓鳴りが校庭に木霊した。
放たれたのは無数の閃光。辺り一面を満月に呑まれたかの如き輝きで包み込みながら、滅尽滅相の暴風は迫り来る断崖のようにユイへと襲い掛かった。しかし。

「レイヤー<ヘンゼル>、形態更新、バティレーサー!アンカー<グレーテル>、モード変更、コンストリクター!!」

唇の両端を目一杯吊り上げ放たれる咆哮。底の見えない深淵の黒さを湛えたユイの瞳が、まるで蛇のそれの様に縦瞳孔へと変貌する。
月に届けとばかりに振り上げられる<ヘンゼル>と<グレーテル>。その刃には大蛇の如くのたうつ魔力が絡み付き、真夜中の大気を嬲り物にして唸りを上げている。
エミリアの<リヒト・レーゲン>がその身に達しようとした正にその瞬間、燦然とユイの両腕は振り抜かれた。

「―――ッシャァァァア!!<レティキュレート・パイソン>!!!」

ガギギギギギギギギギギギィ―――――イ………ン。

けたたましい刃の二重奏。敷地内に収まり切らず丘陵全体を制圧した激発音。撃ち出されたのは網目状に編まれた剣戟の嵐。
両腕から繰り出される冷兵器の連続高速斬撃は如何なる黒よりも暗い闇を纏い迫り来る光の雨を迎え撃つ。
グラウンドの砂を一粒残らず巻き上げる魔力の余波。校舎の窓ガラスは衝撃により一枚残らず砕け散り、月明かりを受けた光のシャワーが校庭一面に降り注ぐ。

「………なっ!?」

もうもうと立ち込める土煙が幾らか収まりようやく視界が開けた時、エミリアの両目に映っていたのは無傷で立ち尽くすユイの姿だった。
あの猛攻を全て、尽く、一発残らず捌き切ったと言うのか。
銀色の瞳に湛えられた闘志が揺らぐ。それは恐怖。この3年間、一度も味わう事の無かった、そして二度と味わう事は無いと信仰していた感情。

「フフ………ふはッ、アハハハハハハハッ!!」

笑っている。ユイは笑っている。心底、愉しそうに笑っている。

「ふぅ~―――。さぁ、エミィ」

………………ジャリ。

靴の踵が砂利を噛む音。ユイが一歩前に踏み出し、エミリアが一歩後退する。

「どうするのかな?」

蛇は獲物を追い詰めつつあった。

564:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 19:00:04 m9hx2qHs


「い、今のって!?」

鼓膜を食い破らんばかりの凶暴な響きに、ナツメは背中まで伸びた美しい黒髪を翻し丘の中腹を仰ぎ見る。
闇の中に佇む年期の入った校舎は厳かに静まり返り、遠目にはさながら神殿のような威容を誇っていた。しかし今やその静寂は破られ、砕け散ったガラスの破片が波間に踊る気泡のように夜空を舞っている。
間違いない。誰かがあそこで戦っている。戦いを前に研ぎ澄まされた彼女の肌は、僅かに流れてくる魔力の余波から、その主の正体までも感じ取っていた。

「間違いない。エミィちゃんに、それと………」

ズクリと背筋を冷たい感触が一撫でする。一瞬だけ感じ取れたとてつもなく禍々しいオーラ。撃発音と共に僅かな間だけ漂ったその魔力は、もう既に拾うことが出来ない。
代わりに後に続くのは感じ馴れた親友の魔力。先刻より幾らか弱々しくなっている。ここに来て予感は確信へと変わった。疑問を差し挟む余地は無い。エミリアは何かとんでもない相手に追い詰められている。

「………………」

どうやら事態は最悪の方向に突き進んでいるらしい。唇を噛み、その手に握り締めた力の源を見下ろすナツメ。
止めておけ、まだ早い。物言わぬ純白のクリスタルは無言の内に警告している様だった。大丈夫だ、信じろ。一方でそう励まされている様にも見える。
分からない。今、自分が進もうとしている道は果たして正しいのだろうか。戸惑うナツメをいつも傍らで叱り飛ばしてくれた彼女は隣に居ないのだ。頼みの綱のマルーシャも到着していない。

ガキィ………ィン…。

遠くで再び音がする。迷っている暇は無い。

「お願い………!間に合って!!」

震える瞳でその先に広がる闇を見据え、ナツメは大きな一歩を踏み出した。

565:戦いは数だよ@兄貴!!
07/08/09 19:01:18 m9hx2qHs


「ハァ………、ハァ………、ハァ………、くッ!」

鈍い痛みの走る左肩を押さえながら、エミリアは壁に寄りかかった。ここは学校の敷地内にある礼拝堂。校舎裏手に広がる広葉樹林の中に佇むこの学校のシンボルだ。
明治時代に建てられた慎ましやかなこの文化財は、今や老朽化のため立ち入りが禁止されている。

「………私ってば、本当に無様ね」

ステンドグラスから差し込む柔らかな光の下、彼女は自分の右手を見遣った。ベットリと、気が滅入る匂いのする真っ赤な液体がこびり付いている。左の肩口がまたズキリと痛んだ。
魔力を使えば傷の治療も可能だが、回復に割ける力があるなら少しでも攻撃に回さねばこの猛攻は凌げない。これが現実だ。一度守勢に回ってしまえば一瞬で押し切られてしまう。

「ホント、お笑いだわ………」

軽い自嘲と共に疲弊した全身に鞭打ちその身を起こす。
圧倒的だった。まさかこれ程とは。
ユイはまだデスパイアの力を開放してすらいないと言うのに自分はもうこのザマなのだ。信じられないとかそんな話ではない。ただ笑うしかなかった。
残された魔力もそう無い。決めるなら恐らく次がラストチャンス。

ギィィィィィィ………………バタン。

「どうしたのエミィ?もう逃げないの?」

重い木製の扉が開閉する響き。死神の到着を告げる鐘が打たれる。

「懐かしいなぁ、ここ。小さい頃、みんなに内緒でよく入り込んでたっけ」

教会の中に入って来た人影は愉しげに告げた。
神の御前だというのに恥じ入りもせず舌を舐め回し、およそ人の物とは思えぬ視線をこの3年間追い求めてきた獲物の身体を這いずり回らせ、所々破けた服の上からその完璧なプロポーションを品定めする。

「待った甲斐があったわぁ………。エミィの躯、前よりすっごく好くなってるよ」

マシェットの背をトンと肩に乗せ静かに歩みを進めるユイ。心なしか荒ぶっている呼吸は激しい戦闘によるものではない。その証拠に、彼女は口の中を満たすツバをゴクリと飲み込んだ。
その視線の先で立ち尽くすエミリアの肩口に附けられた傷からはポタポタと赤い雫が滴っている。

「さ、エミィ。もう降参の時間だよ。私だってこれ以上、貴女を傷物にしたくないもの」

「ハ、冗談………。私はまだまだ行けるわよ」

「ふふ、もうそんな風に強がる必要なんて無いのよ。全ては運命。決着は付いたわ。後は神様の前で、生まれたままの姿で愛し合うの。
事のついでにその傷も治してあげるわよ。お互いの魔力を分かち合いましょ」

ギシリと、古びた床を軋ませユイが歩み出る。

「さぁ、エミィ………。脱いで」

両手を差し出し距離を詰めてくる敵に、痛みを堪えながら<クロイツァー>を擡げるエミリア。
小突けば霧散してしまいそうに震える腕とは対照的な眼光だけが輝きを失わずにそこにある。その姿はユイの笑顔を曇らせた。

「………うわ、エミィしつこ」

「お互い様でしょ」

「前々から思ってたけどさ、やっぱエミィって頑張り過ぎ。そんなに焦らなくても今夜はたっぷり安心させてあげるよ。
もちろん、……………私の腕の中でねッ!!」

ヒュンとユイの身体が宙に踊った。右手に握ったマシェットを振り被りながら流れ星のように標的の間合いを侵略。
瞬き一つさせぬ間に矢を放とうとする<クロイツァー>を一撃し、同時に膝蹴りを繰り出そうとするエミリアの軸足を足首に絡めて薙ぎ払い、遂に礼拝堂の床へ彼女を組み敷いた。
衰弱した獲物はもはや抵抗すら見せない。


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