キモ姉&キモウト小説を書こう!Part3at EROPARO
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part3 - 暇つぶし2ch350:名無しさん@ピンキー
07/06/27 02:11:42 Bf1/fbkI
「私は、これでお兄様をずっと見ていたんです」
これで……? これはただの親父が残したってだけ……じゃなくて盗撮用アイテムだったな。うん。癖で未だに持ち歩いてしまう。
ネタが割れているのだから捨てた方が良いかもしれない。
「では、姉さん達のせいで犬臭い体を私が清めて差上げますから」
清める? 言葉の意味を飲み込めない。だってそうだろう? ここは教室なんだぜ。水だってクラスメイトが各自用意した飲み物くらいしかない。
何をするのか理解できなかった俺の耳に、周囲の雑音に紛れて衣擦れの音が入ってくる。
発生源は緑眼鏡だ。どうやって着てどうやって脱ぐのか傍目にはわからない白い服を一枚一枚剥していく。
何枚脱いでも忙しなく動く手が止まる様子は見えない。いや、それより何をしてるんだね君は。
「聞いてませんでしたか? 清めて差上げるんですよ」
清める、と言うのが何を指すのか理解できない。理解できないが、教室の中で女性が服を脱いでいるというのはなかなかに滑稽な光景だ。
俺がこの光景の一部と化す前に御暇させて頂こう。
「んふふ、ちょっと退屈させちゃいましたかね? でもお兄様は帰ったりしませんよね。私にはわかりますよ」
ああ、当然だろ。俺がナイリの事を置いて行ったりするもんか。
……なるほど、俺の行動を変えるくらいはちょろいってか。
いや、変わった訳じゃない。素直になっただけさ。俺が妹を、ナイリを邪険にしたりする筈がないだろ。
ああ、ナイリって名前なのか、この緑眼鏡。

351:名無しさん@ピンキー
07/06/27 02:13:17 Bf1/fbkI
「私達の種族が女性しかいない事はご存じですよね?」
緑眼鏡は、まず確認するように口を開いた。もっとも、俺の答えなんざ要らないんだろうが。その証拠に、俺の反応を待たずに語り出したんだからな。
「種を存続させる為には他の種族の子供を宿す必要があるのはお解り頂けますよね?
 ですが、それなら何故私達姉妹の父親全てが違うんでしょうか?」
……知るか。親父に甲斐性が無かったんじゃないのか。
そもそもただの一人も父親が一致しないだなんて聞いた事が無いぞ。
「ん~……惜しいです。正解は、母親が最低だからですよ」
反則じゃないか。身構えてたのが馬鹿らしい。
常にポーカーフェースを心掛けている俺だが、顔に出ていたのかもしれない。緑眼鏡は口許を掌で隠して笑ってやがる。お嬢様気取りか。
「真面目なんですね。わざわざ考えて貰いありがとうございます」
……どうにも居心地が悪い。さっさと続きを頼む。
「はい……えー、現在残っている私の種族は、姉妹全ての数と同じ十三人。絶滅の危機に瀕しています。
 このままではマズい。とでも遺伝子が反応したんですかね。絶滅しないように勝手に恋をするんです。あなたに」
なるほど。あの二人は、そしてこの緑眼鏡は、そんな都合により俺なんかをあてにしているのか。可哀相に。
「寂しいですか? あなたの今まで築いた物ではなく、ただ生まれだけで選ばれた事が」
全て解っている。とでも言いたげに眼鏡を光らせる。一々癪に触る女だ。
「お馬鹿さんですね。生まれや育ち、全て含めてあなたでしょう?
 ずっと見てきた私も保証してあげます。だから安心してください。私はお兄様が大好きですよ」
こちらに差出された手には、俺が肌身離さず持っているペンダントに良く似た物が乗っていた。

352:名無しさん@ピンキー
07/06/27 02:16:51 Bf1/fbkI
「さぁ、お兄様。どうぞご覧になってください。お兄様の為に、13年間磨き続けてきたんですよ」
ああ、綺麗だよナイリ。
教室の安いライトで照らされ輝く白い肌、緩やかに上下するふくよかな双丘、その上で呼吸に合わせて震えている薄桃色の突起、それら全てがたまらなく愛しい。
「まぁ……お兄様ったら……そんなに見詰められたら、私……」
自分から見せ付けて来た癖に、恥ずかしいのか赤く染まった顔を逸してしまう。
それでも、伺うようにチラチラ視線を動かす俺の妹が、どうしようもなく可愛らしい。
俺が見て、俺を見て、お互いに愛を確認し合う。これこそが兄妹の正しい在り方じゃないか。
血の繋がりが兄妹足らしめる訳じゃない。決して切れない男女の絆こそを、兄妹と呼ぶのだろう。
そんな煮立った思考の俺と、13歳の平均どころか成人女性を大きく上回る胸囲を持ったナイリを、冷静な俺が観察していた。
自分がもう一人いる感覚、この教室の連中もそうなのか興味が有ったが、それよりかは今の状況を打開する方が先だろう。
まず、体は動かない。口も自由にならない。
なるほど、確かにこれは俺にはどうする事もできなそうだ。
しかしこのままでいる訳にはいかない。俺は何故か、大人の女の体に嫌悪感を持っている。
誤解のないよう言って置くが、幼女愛好の趣味もない。当然同性にもな。
何故か知らないが、女らしい体付きが、頭痛や吐気を伴う程嫌いでしょうがないのだ。
つまり俺は今、地獄にいる。打開する為に取る行動は一つしか無い。
さぁ、助けろ俺の妹よ!

353:名無しさん@ピンキー
07/06/27 02:19:10 Bf1/fbkI
『現実は小説より奇なり』
ああ、正しくその通りだと思うね。
結論から言うと、強く願っただけの俺の思いは、エリにもコマにも届きはしなかった。
だが、俺がこのまま父親になってしまうような事態には、結局到らなかった。
では何が起こったのかと言うと、余りに荒唐無稽過ぎて俺には上手く説明する事ができない。
それでも説明しなきゃならないな。
まず始めに、光が俺を包んだ。光量を把握してる時間が無かったが、多分教室程度は満たしてたんじゃないかね。
次、最終工程。俺が目を開けると、そこにはデカい蛹が有った。
緑色で、薄い網目状の模様が走り、教室の光や窓から差込む光で透けて見える中身は液体状。
時折『お兄様』と鳴声を発する所から推察するに、これはナイリなんだろう。
…………とりあえず、脱ぎ散らかされている服を家に置いて来よう。
まぁ、俺は家に帰った途端疲労任せに寝てしまったのだが、嫌悪感や体の不調から開放されて気が緩んでしまったんだ。仕方ない。
流石に一日に何人もの妹の相手をする力は俺にはまだ養われて無いらしい。
『15年間兄さんの為に~』とかなんとか言って全裸で布団に入って来るヤツが煩しかったりしたせいで、ナイリの事を忘れてしまっていたのも、きっと仕方ない事だ。

354:名無しさん@ピンキー
07/06/27 02:24:24 Bf1/fbkI
さて、翌日。もう俺は地球人と挨拶をする習慣を失ってしまったようだ。
誰も俺がいる事に気付いていない気すらしてくる。
だが、それは既にどうでも良い。問題が有るとすれば今日は平日で、平日には学校が有り、学校の空き教室でデカい蛹を見付けてしまった事だろうか。
五秒に一回、規則正しく『お兄様』と囀るその蛹は、公共良俗反する落書きで埋め付くされていた。
筆跡は三種類、一つは今も手にしている妹の手紙と同じ文字。二つ目は昨日見た妹の答案と同じ文字。最後の一つも、何処か忘れたが、いつだったか見た字に酷似している。
だが、これを見た事が有るという事実は大切だ。たとえ中身がわからなくても、どうなるかを理解していれば問題はないって事だからな。
だから、ナイリが何故蛹になったのかわからなくても、今は安全だと理解していればそれで良いんだろう。

雨の降らない梅雨、夏の到来は未だ遠く、新たな妹の来訪は、近い。そんな予感めいた物を、三つ目の字を眺めながら、強く感じたのだ……

355:名無しさん@ピンキー
07/06/27 02:28:33 Bf1/fbkI
以上です。気が付いたらこのスレで一番最初に投下された作品が終了していたりして、胸に来る物が有りますが、それの次の次くらいには私のが果たして完結を迎えられるのか心配だったりします。
では、次回の変態性2割増しの『私の妹は凶暴です』でお会いしましょう。

356:名無しさん@ピンキー
07/06/27 02:37:38 W1Y6LsUM
最近小ネタが全然浮かんでこない…

そもそもギャルゲ業界は何をやっているんだ?
純愛やら泣きゲーやら、在り来たりな物ばかり作って、
肝心なヤンデレ、キモ姉キモウトが例の傑作を最後に無くなった。
おまけ的要素でキモ成分が入ってたりする時もあるが、
前面に売りとして出されている物がまず無い。

誰でもいい、キモ姉キモウト物のゲームを作ってくれ頼む。

357:名無しさん@ピンキー
07/06/27 02:51:59 Vna2oo35
>>356
やっぱただでさえ少ない購入者を減らしたくないのだろうね。
多分責任は萌えゲーばかり買うようになった消費者にもあると思う。

同人ならヤンデレ特化のが今度の夏コミで出ますよ。

358:名無しさん@ピンキー
07/06/27 07:20:43 kP52Nrja
>>355
乙!
ところでこの作品の題名はなんだい?
これから保管庫を覗きに行くつもりだがせっかくなら投稿された作品を優先的に読みたい
GJはそれからだ

359:運命の赤い超紐理論
07/06/27 07:37:07 Bf1/fbkI
>>358
申し訳ないです、題名出し忘れてたです。これでお願いします。

360:名無しさん@ピンキー
07/06/27 07:56:00 EZnFMtXA
>>357
kwsk

361:名無しさん@ピンキー
07/06/27 08:40:17 WcUTGluy
>>355
>少なくとも今まで会った眼鏡はすべからく変態だった。つまり目の前の眼鏡も変態だろう。
ひど!w
>ああ、ナイリって名前なのか、この緑眼鏡。
相変わらず面白い文章書くなぁ 読みにくさが同居するのもまた一興

362:名無しさん@ピンキー
07/06/27 09:51:06 YQN4zQ9K
風呂で姉ちゃんにあqwせdrftgyふじこl;
URLリンク(blog.livedoor.jp)

う、嘘だッ!!!!現実の世界にこんな姉がいるはずない!!!!( ´Д⊂ヽ

363:名無しさん@ピンキー
07/06/27 12:29:17 kP52Nrja
ない
ちなみにここは職人もほとんどいないので時期に星屑になる
リョナ2板にでも移住しろ

364:名無しさん@ピンキー
07/06/27 12:30:44 kP52Nrja
>>363
誤爆したスマン

365:名無しさん@ピンキー
07/06/27 14:19:00 Vna2oo35
>>360
URLリンク(nekomarudow.com)

366:名無しさん@ピンキー
07/06/27 15:55:56 WcUTGluy
同人なら「愛狂のある妹」っての買ったお
勿論このスレの影響でw

367:橋乃根本 ◆YzvJ/ioMNk
07/06/27 17:44:48 F2k0LF7V
さて、昨日宣言したものを書き上げたので、投下します。仕事が早く終わってよかった。
書いている時はちょっと客観的にウチの姉弟を見られるんですが、もしかするととんでもないかもしれません。我ながら。

368:お姉ちゃんと明人 ◆YzvJ/ioMNk
07/06/27 17:46:49 F2k0LF7V
「お姉ちゃん、おめでとう。」
「サンクス、アキヒト。姉ちゃん、頑張っちゃったよ。」
時は4月。お姉ちゃんが、第二子を出産。出産後、二ヶ月近く実家で暮らしていた。
その間、中山家は戦場のようであった…。
~戦場その1、休日の昼間編~
お姉ちゃんの子供(海、3歳)はママ、ママと甘えまくり。そしてそのママは俺にべったり。
何をするにも二言目には『アキヒト~』である。かなり困る。
理由を聞けば『一番いい使いっ走りじゃん。迷惑かけてもごめんの一言で済むし。』
俺はこういう時ほど、お姉ちゃんに頭が上がらない性格を恨むときはない。
文句はもちろん言うが、結局一々付き合っているのだから…。
俺はそれでもいいのだが、海の相手をする時は困る。
年相応の独占欲を持つ海は俺たちの仲の良さが面白くなく、幼いジェラシーを一身に受けつつ、海と遊ばねばならない…。
結構強烈なジト目で見られるのは気持ち良いとは言いがたい。そのくせお姉ちゃんは、
「アキヒト~、沙耶(妹)のおむつ取り替えるから手伝って~」
「なして俺…。」
「アキヒト~、海が花火やりたいってさ。夜になったら、ちょっと付き合ってよ。」
「(お姉ちゃん…産後の今は、俺がいつも以上に反抗できないことを絶対理解してる)……了解。」
これである。この苦労を誰にぶちまければいいのだ。
そんなこんなで、仕事が休みの日はお姉ちゃんのパシリ、仕事の日は仕事と休めない。
むしろ仕事のほうが稼げる分マシではないかと思ったりする。
だが、結局付き合う。どこまでも。毒食わば皿まで、って気分。

369:お姉ちゃんと明人 ◆YzvJ/ioMNk
07/06/27 17:48:21 F2k0LF7V
~戦場その2、夜編~
長男、海はとにかく花火が大好きで、真っ昼間から花火、花火とせがむ。
お姉ちゃんに『夜にやろうね』と釘を刺されてからは若干マシになったけど、
それでも常に花火はストックしとかなければならない。
もちろん、今夜も花火である。昼間に約束された分、自分も付き合うしかない。
お姉ちゃんは文字通りの左団扇で海と戯れている。
お姉ちゃん、俺に用意からほぼ丸投げするのはやめてください。
「えーっと…線香花火は確定。ロケット花火は近所迷惑。パラシュートは…見えないな。
ドラゴンでも持ってくか。」
片手に余るぐらいの量の花火を持っていくと、海は奇声を上げて喜んだ。
お姉ちゃんはやれやれ、って表情をしている。

まずはドラゴンから点火。
「おぉ~、しゅご~い!」
海はそりゃもう物凄い勢いで喜んでいる。
燃えた火薬の匂いが鼻をくすぐって、俺まで意味もなくテンションが上がる。
いくつになっても、ガキだな。俺って。お姉ちゃんはそんな俺に気づいているのか、微笑んでる。
消えかけた炎に照らされた顔がなんだか凄く大人に見えて、一瞬見入った。
「おっしゃー、次は線香花火だ。お姉ちゃん、海、持ってくれよ。」
ごまかすように大きな声を出した。ちょっと声が上ずってたけど。
袋から線香花火を出して、二人に持たせて火をつける。
儚い光が、少しずつ出てくる。
「この細い細い裏道を抜けて、誰もいない大きな夜の海見ながら、
線香花火に二人で、ゆっくり、ゆっくり火をつける、と。」
「すげぇ懐かしい歌を歌ってるね、お姉ちゃん。」
「できれば海がいないといいんだけどね。二人きりの花火なんて、ロマンチックじゃん?」
「姉弟にロマンもへったくれもないと思うけどね。」
一本目の線香花火が終わった。新しい花火を袋から出して、ライターに手を伸ばす。
儚い火花が、手元でまた咲く。

370:お姉ちゃんと明人 ◆YzvJ/ioMNk
07/06/27 17:49:28 F2k0LF7V
「アキヒト。」
「ん~?」
小さな花火に目を向けていて、お姉ちゃんの表情がわからない。意識を集中していて、生返事しか出ない。
次の台詞は、大した事じゃないだろう、っていう俺の想像を超えていた。
「いつもありがとうね。付き合ってくれて。」
「へ?」
ちょっと狼狽した。いつも元気で、俺は振り回されっぱなし。
それでも、礼なんて言う人じゃない。少なくともさっきまではそう思っていた。
なんて反応すればいいのかわからない。
ごまかすように、新しい花火を出す。お姉ちゃんも黙って手を伸ばす。
「なんだか、キャラじゃないかな?」
「そう…かもね。でも、嬉しいよ。」
その後は、声を発せずに花火を楽しんだ。微妙な空気を感じているのか、海も神妙。
花火が終わって家に戻ると、いつものお姉ちゃんに戻っている。
元気で、俺以上の楽天家で、時折クールな人になる。
部屋に戻って、ベッドにダイブ。ちょっときしむ音がした。
(いつもありがとうね、付き合ってくれて)
さっきから、この台詞が頭をぐるぐる駆け回っている。
お姉ちゃんにこんなに重いお礼を言われたのは初めてかもしれない。
(…寝るか。テキーラでも呷って)
ため息混じりにグラスを用意して、キンキンに冷したテキーラを一気。
喉が焼けるみたいだけど、それがまた美味い。
三杯目を飲み干すと、眠りに落ちていった。

371:お姉ちゃんと明人 ◆YzvJ/ioMNk
07/06/27 17:51:08 F2k0LF7V
~戦場その3、やっぱり飲み編~
さて、お姉ちゃんはつい最近まで妊娠していた。
もちろん、酒はほぼ断っている。
その辺はキッチリした性格なので、義兄も特に文句を言わずに済んだ、と喜んでいた。
ただ、無事出産した今、そのリミッターは見事に吹っ飛んだ。
そして、そのリミッターが無くなったお姉ちゃんの相手は、俺。
義兄は、必ず俺に回す。結構憎らしい。
「それではアキヒト、泉水を宜しく頼むよ。」
今にもシュタっと走り去りそうな感じで、兄貴は言い放った。
とりあえず走り去る前に捕まえる。
「何故じゃ…兄貴…。」
「決まっているだろう。俺がいなければこの地の平穏は守れんのだ。」
「…消防士兼救急救命士だから言ってる意味はわかる。だけどなんか違う気がするよ…。
なんか…こう…腑に落ちない。誇大広告的な…。」
「それは置いといても、実際のところ、二日酔いでできる仕事じゃないからね…。人命がかかってるんだから…。」
ぐ、と言葉に詰まる。言っていることにスジは通っている。
嫁さんと酒を飲んでいたら二日酔いになりました、じゃシャレにならないからね。
「…お姉ちゃんは、やっぱり飲むのかな?妊娠中でほとんど飲めなかった分、仇を取るように…。」
「まぁ、間違いないだろう。軍資金は渡しておくから、後は頼むよ、アキヒト。」
そういうと、俺が何か言う前に万券を俺に渡して、車に飛び乗り走り去っていく…。
(…逃げ方がうめぇ。流石に火事場から人を抱えて脱出するだけのことはある。)
ちょっと違う気もするが。ともあれ、相手は俺に任された。

372:お姉ちゃんと明人 ◆YzvJ/ioMNk
07/06/27 17:53:00 F2k0LF7V
「アキヒト。飲むぞ。」
俺に回ってくるのである。常に。
すでに日は落ちだ。でも、海が寝るには若干早い。
「お姉ちゃん…海と沙耶は?」
「心配しないで。お母さんとお父さんに任せてきたから。」
「…手回しがいいね。」
「逃げられないよ?アキヒト。」
さらっと言った言葉とその笑顔が物凄く怖い。菩薩の笑みでオーラは夜叉だ。
俺はもう逃げる手が尽きたことを理解し、黙って酒を仕入れにいった。

「それじゃ、乾杯!」
「かんぱ~い…。」
焼酎のロックで乾杯。
俺はお姉ちゃんのペースで飲みながらチャンポンすると間違いなく二日酔いになるので、今夜は焼酎オンリーだ。
「アキヒト、テンション低いぞ。もっと上げていこう。」
上げられるか、と心の中で突っ込みつつ、黙ってグラスを傾ける。
お姉ちゃんが言うことは、いつも通り。他愛も無いこと、昔話、何度も何度も聞いた話。
それでも、なんだか今の時間が得がたいもののような気分になる。楽しい。
「アキヒト、目を閉じて。」
お姉ちゃんは、いつものようにキス魔。
俺も、いつものようにされるがまま。
と思っていたけど、その日はちょっと別の酔い方をしていたらしい。
何回目かのフレンチキスの時、唇を割って舌と酒を流し込んだ。
「…!!ぷは…。」
「いつかのお返しだよ、お姉ちゃん。」
この反撃は予想していなかったらしく、顔が真っ赤になっている。
俺も顔に血が集まるのを感じた。今まで何度もキスしたけど、こっちからなのは初めてだ。
なんだか自分の行為が物凄く恥ずかしくて、その後は潰れたフリをして寝た。
お姉ちゃんはその後も飲んでいたみたいだけど、無理に起こそうとはしなかったみたい。
そして、朝。
「アキヒト…姉ちゃん、ちょっと辛い…。」
「海と沙耶が待ってるよ。今日は厳しく行くからね。」
「うー…。」
ちょっとだけ、昨日までとは立場が違う気がした。

373:橋乃根本 ◆YzvJ/ioMNk
07/06/27 17:54:34 F2k0LF7V
このSS通りの事をやっているのが笑えるぞ、ウチの姉弟…orz
おつまみ代わりにでもなれば幸いです。

374:名無しさん@ピンキー
07/06/27 18:39:29 SaqvTQDw
ビールが進む!!


375:名無しさん@ピンキー
07/06/27 20:18:10 xSRnuvxO
ウチの姉弟とか言われると
なんかすげえ萎えるんだけど・・・

376:名無しさん@ピンキー
07/06/27 21:13:39 WAR3XAYw
その気持ちは分かる。
リアルな話を聞くと軽く萎える。

377:名無しさん@ピンキー
07/06/27 22:52:30 EPKyQTVJ
文章創作板で体験談を語られてもね・・・。
そういう需要のあるスレにいったほうがいいと思うよ

378:名無しさん@ピンキー
07/06/27 22:58:19 xY1BMhfQ
まあお前らもそれくらいにしとけや
無闇に空気悪くすんじゃねえぞ

379:名無しさん@ピンキー ◆x/Dvsm4nBI
07/06/27 23:00:24 f7L8N92T
投下します。

380:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/27 23:01:29 f7L8N92T


 翌朝、暑くて寝苦しく眼を覚ますと美人な姉の顔が目の前にあった。とりあえず、ベッドから
転がして床に落とす。美人は三日で飽きるというが全くそのとおりだと俺は思う。
 カーテンと窓を開けると朝日と気持ちのいい風が部屋に入り込む。今日もいい天気だ。

「起きろ、亜紀姉。俺のベッドに潜り込むなっていってるだろ?」
「うぅ~ん、もう朝~だって、虎ちゃん…お姉ちゃん怖い夢みたんだもん。」
「ほら、朝飯用意してやるからさっさと起きろ。」
「はーい。」
 俺は昨日の味噌汁を温め、魚を焼き弁当を作る準備をし、寝ぼけてる姉を洗面所まで
手を引いて連れて行って無理矢理顔を洗わせた。パジャマからちらちら見える谷間は
頑張ってみないようにする。
 そんなこんなで学校に向かうと、正門の前で長い黒髪を無造作に後ろで縛った男…もとい
女らしい、剣薫が立っていた。

「おはよう、虎之助君、亜紀先輩。」
「おはよう。お前こんなとこで何してんだ?」
「決まってるじゃないか。君を待っていたんだ。」
 彼女はばんばんと背中を叩きにこやかにそういった……何か周りの視線が痛い。
女子の視線が俺たちに集中しているような…。

「おはよう、薫ちゃん。虎ちゃんに1m以内に近づいちゃ駄目よ~。変な噂立っちゃうから。」
「僕はどう思われても構いませんよ。二人に愛があればいいんです。」
「俺はホモ扱いはちょっとやだな。」
 ここは珍しく駄目姉と同意見だ。

「貴女も虎之助君に近づきすぎると彼にシスコンという在らぬ噂が立ってしまいます。」
「虎ちゃんと私は両思いだからいいのよ?」
「そんなわけあるかっ!」
 姉の頭にチョップで突っ込みをいれる……なんだか今度は男からの羨む視線が痛い……。

「それでは、僕たちは教室に向かいますので…亜紀先輩。」
「あ、おい、剣さん、腕掴むな。」
「他人行儀な…薫と呼んでくれ。」
 薫は俺の腕を掴むと、教室に歩き出そうとした。女子からひそひそ声が聞こえてくる…
俺もうだめかもしれん…

「じゃ、虎ちゃん。いってくるね。」
「ああ、気をつけてな。」
 言った傍から躓いてこけている亜紀姉をみて、ため息をつきつつ自分も教室へと向かった。



381:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/27 23:02:21 f7L8N92T


「虎之助…朝から目立っていたみたいね?」
 教室に入るなり不機嫌な口調で俺に声をかけてきたのは風紀委員の塚本風子だ。この、
背の低いポニーテール女は何故か俺を敵視しており、何かにつけて難癖をつけてくる
俺にとって最大の天敵だった。
 ちなみに二番目は馬鹿姉の外見に目がくらんだ全学年の名も知れぬ馬鹿どもだ。
 彼氏と思われてるせいであいつらと何度俺が喧嘩をするはめになったことか。まあ、間接的に
姉のせいだが…これは流石に姉のせいにするのは可哀想だ。

「いつも通りの平穏な日常だよ。俺は風紀委員に目を付けられることはしてないぞ。」
「あれだけ騒ぎ起こせば十分でしょ!……まさか、虎之助がそっちの人だったなんて…。」
「俺はノーマルだ。」
 どっちかというと女好きだ。ただし、駄目姉除く。

「行きも帰りも美人なお姉さんと一緒、時には手を繋ぎ、腕を組んで帰宅するシスコン。
 加えてホモ……ああ、どうしょうもないわね……。」
 なんか、派手に手振りをしてわけわからんことをいうちびっ子に、俺は疑問に思ったことを
問いかけることにした。

「なんで帰りのことを知ってるんだ。お前家逆だろ?」
「た、たまたまよ。さっさと席に座りなさい。ホームルーム始まるわよ。」
 急に話を変える敵性生物にはいはいと頷いて俺は彼女の隣である自分の席に座った。




382:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/27 23:03:39 f7L8N92T


 昼、俺は弁当を持って隣のクラスにお邪魔していた。目ざとく俺を見つけ、手を振る
薫を見ない振りし、目当ての人を探す。おさげ髪の彼女は端のほうの席で一人、ゆっくりと
ご飯を食べていた。
 俺は勇気を振り絞って声をかける。

「榛原さん……話があるんだ。屋上でご飯食べながら聞いてくれないか?」
「青野君…。うん…」
 風を遮るもののない屋上には気持ちのいい風が吹いていた。そして、何故か
亜紀姉が一人で弁当を食べていた。

「あ、虎ちゃーん。偶然だね。どしたのーお食事?」
 姉には超能力でもあるんだろうか。にこやかに魅力的な笑みを浮かべる姉が
ちょっと怖かった。

「榛原さん、場所を変えよう。」
「え、でもあの人一昨日の…」
「虎ちゃん一緒にご飯食べよ~?」
 困惑する榛原さん、このままでは一昨日の二の舞に…。何度も邪魔されてたまるものかっ!!

「聞いてくれ榛原さん。」
「きゃっ」
 俺は榛原さんの肩を強く掴んで彼女の眼を真剣に見つめた。眼鏡の奥にある綺麗な
瞳に不安の色が宿るのが判る。だが、やめられん。

「手紙は……読んでくれた?」
「何それ。」
 薫…覚えてろ…今度殴ってやる。みんな男と思ってるから問題ないぜ。

「あそこにいるあの駄目女は………似てないが俺の実の姉なんだ。」
「え、えええっ…そうなんだ。」
 彼女の優しそうなおっとりとした顔に理解の色が浮かぶ。よかった、信じてくれて。

「だから、誤解はしないで欲しい。あ、これクッキー…後で食べて。俺が昨日作ったんだ。」
「あ、ありがと…誤解?」
「だからその、俺が好きなのは…うわわわわっ!」
「虎ちゃん~ほら一緒に食べよ?」
 邪気のない満面の笑みで物凄い力でひっぱっていく亜紀姉。運動音痴の癖に力だけは
強い。って…

「ああああああ、榛原さん~~~っ!!!!」
 俺はなすすべもなく去っていくその背中を見つめるしかなかった。上機嫌な姉に
一発チョップを食らわせ、諦めて昼食にしたが姉の抗議の声を無視しながら食べた、
今日のおにぎりの味はかなりしょっぱかった。




383:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/27 23:05:11 f7L8N92T


「は~気が重いなあ。」
「虎ちゃん大丈夫?お姉ちゃんが元気付けてあげようか?ほーら、重いの重いの飛んでいけ~♪」
「俺が気が重くなってるのは亜紀姉のせいだっ!…ったく。」
 翌日、俺は相変わらず能天気な姉と一緒に学校へと登校していた。

「はー。俺の恋も二日の命だったか…」
「お姉ちゃんの恋は永遠だよー。虎ちゃんも一緒に永遠に。」
「絶対いや。」
「青野君っ!」
 そんな馬鹿ないい合いをしていたときに聞こえてきたのは榛原さんの声だ。まさに天使の声…。
 正門では榛原さんが俺を待っていた。

「クッキー有難う。美味しかった…。昨日はごめんね?」
「いいんだ、榛原さん。俺が誤解させるようなことしちゃったから…。」
 重い気分は完全に吹っ飛んでいた。やったぜひゃっほっほー甘いもの作戦大成功っ!

「あらあら、榛原さんでしたっけ。弟がいつもお世話になってます。」
 姉は外見だけは大人っぽい笑顔で軽く会釈した。

「いえ。お姉さんとは知らずに…いっぱいご迷惑を…。」
 紅くなって下を向く榛原さん。まじ癒される~。

「それじゃ、私も教室いくね。またね~榛原さん、虎ちゃん。」
 去っていこうとした姉は忘れ物をしたといった感じで俺に向かって振り向いた。
 何も言わずに笑顔でつかつかと俺に向かって歩いてくる。
 そして…

「あ、虎ちゃん~私寂しい~くなるから、一日頑張るために行って来ますのキスしてね。」
 と、理解不能なことを目の前の馬鹿姉はほざき…俺の唇を自分の柔らかい唇で塞いだ。
 両手は俺の首に回し、自分の身体に引き寄せ…口を開けて舌を入れてくる。たっぷり
十秒間唇をつけて離した。周りの男たちから強烈な殺意が集まり、ようやく何が起こったのか
俺は理解した。お、お、お俺のファーストキスがああああああああっ!!

「おいこら、馬鹿姉っ!何するんだ!?」
「虎ちゃんエキスをいっぱい貰ったわ~三日は戦えるわ。虎ちゃんったらもう積極的なんだから♪
 ふふ、みやちゃんがこうしたら元気出るって教えてくれたの。じゃあ虎ちゃんまたねえ~。」
 そして駄目姉は……スキップしながら上機嫌で去っていった。ギギギっと首を動かして
榛原さんの方を向くと、そこには笑顔の榛原さんが立っていた。
 やばい、殺られるっ!!俺の全神経は告げていた。

「青野君の馬鹿ああああっ!!!!!!」
 思いっきり頬を張って去っていく榛原さんを俺は見送ることしか出来なかった。

 春は─────遠い。


384:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/27 23:06:08 f7L8N92T
投下終了です。

385:名無しさん@ピンキー
07/06/27 23:19:39 2VeUWrs3
乙乙

386:名無しさん@ピンキー
07/06/27 23:20:47 LCpAGRBb
GJであります!

387:名無しさん@ピンキー
07/06/27 23:27:49 W1Y6LsUM
>>384
おいおいどうしてくれるんだ?
俺のバルカンレイヴンが鋼鉄棒みたいになっちまったぜ?
こりゃ一発いわねぇとわかんねぇみたいだな…

   G J !

388:名無しさん@ピンキー
07/06/28 00:02:13 lCsSuYYG
>>384
乙乙乙! これからも亜紀姉にはキモ姉と萌え姉の中間の存在として頑張って欲しいですね。
GJ!

389:名無しさん@ピンキー
07/06/28 00:25:57 Ixg3WnCl
なんだろう…この感情



390:名無しさん@ピンキー
07/06/28 01:22:43 fqbG2zfO
>>389
それが萌えというものだよ少年

391:名無しさん@ピンキー
07/06/28 01:31:21 T+HxOwNM
なんというキ萌エ姉。

392:名無しさん@ピンキー
07/06/28 17:21:12 w04O5D6o
ちょっと聞きたいんだがキモママのSSはどのスレなのかな?
メインが母でも恋のライバルに姉か妹が居ればこのスレでもOK?

393:名無しさん@ピンキー
07/06/28 17:48:26 uPj4TMin
勿論キモ姉とキモウトだよな?

394:名無しさん@ピンキー
07/06/28 17:51:34 w04O5D6o
>>393
考えついたのは一応キモ姉とキモウトです。
でもメインは母親。

無理にこのスレじゃなくてもヤンデレの小説スレの方がいいかな…

395:名無しさん@ピンキー
07/06/28 17:58:56 HFBhLR7a
たしかキモ母は前例があったな
でもあれは最終勝利者がキモ母だっただけだったか

だが、どのスレだったか思い出せない
嫉妬スレ、ヤンデレスレ、キモ姉キモウトスレ…もうSSがごっちゃになってしまってる

396:名無しさん@ピンキー
07/06/28 18:52:34 TsrfBW79
>>395
あるあるww

397:名無しさん@ピンキー
07/06/29 09:29:09 RtnKcSTI
755 名前: 名無したちの午後 [sage] 投稿日: 2007/06/29(金) 01:11:27 ID:zs0TvykV0
>>250
うん、さっき帰ってきたんだけどさ、もう凄まじい泥酔状態(今はもう寝てるけど)
婚約者の人に抱えられて、しっかりしろ!とか言われてた
で、慌てて玄関まで迎えに行って、どうしたんですか?って聞いたら
「いや、俺もわかんねーよ、いきなり電話で呼び出されてさ・・・」
「はぁ、すいません・・・、幻滅して婚約解消とかしないで下さいよw
姉貴、めっちゃ喜んでましたから」
「いや、それは大丈夫だけどさ、その・・・」
「何です?そこで止めないで下さいよw、に・い・さ・ん!w」
「おお、兄貴って言われるの嬉しいなw、うん、あのさちょッと気になったんだけど
飲んでる間、○○ずっと、君の事話してたり、○○~(←俺の名前な)、○○~って言ってたり・・・」
「はぁ?他には何か言ってました?」
「いや、他愛も無い話だよ、ちっちゃかった頃の話とかね、何かあったの?喧嘩でもした?」
「なんもないっす、まぁ、注意しておきますね」
で、婚約者さん帰ってさ、姉貴にあんま、こう言う事起こさない方がいいよって言ったら
「うるさい!!!!あんたなんかに私の気持ちがわかるか!
この最低男!!バカ!!!!」
何で俺がキレられるんだよ・・・、だから酔っ払いはいやなんだ・・・orz

398:名無しさん@ピンキー ◆x/Dvsm4nBI
07/06/29 17:06:44 Vh8bDrn+
投下します。

399:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/29 17:07:36 Vh8bDrn+


 朝、俺を風紀の乱れと大騒ぎする風子を華麗にスルーしつつ、朝の心の傷を忘れること
で癒していた俺だったが、昼休み急遽生活指導質に呼び出された。

「で、何で呼ばれたか判ってるな?」
 目の前にいる生活指導のハゲデブは名前すら勿体無いので俺はハゲデブと命名して
やった。名は体を現す。
 脂ぎったその身体が俺の不快指数を上げまくっていたが、模範的な生徒である俺は
一応頭を下げ、その後で胸を張って大声で言ってやった。

「全く心当たりがありませんっ!!」
 ハゲデブはパワーアップしてハゲデブベスに……言いにくいから蛸でいいや。蛸になりつつ
俺を怒鳴りつけた。

「朝してたことだっ!!」
「何のことだかさっぱりわかりません。」
「貴様っ!馬鹿にするのかっ!」
「いえ、僕は先生を超・尊・敬っしておりますっ!」
 やべ、楽しくなってきた。

「朝お前とお前の姉である青野亜紀が正門でキスしていたと報告を受けた。事実か?」
「心当たりがありませんっ!」
 蛸は八本中右と左の二本の足でどん!と机を叩いたが、俺は無視する。

「何人もの生徒が見ておる。言い逃れをするなっ!!」
「ほほー。僕の尊敬する大先生は自分の見ていない風聞を信じて、罰するのですか。尊敬
 すべき先生がすることとはとても思えません。僕は無実なのに残念ですっ。」
 蛸はいよいよ顔を真っ赤にし…高血圧だな。血管を切れそうにしながら怒っていた。

「いい加減にしろっ!!」
「わかりました。では僕もあの風聞を先生の奥様に伝えることにします。」
「な、なんだそれはっ」
「先生は自分でご存知でしょう。あのことですよ。」
 あのことってなんだ?ふははっ俺も知らん。

「お互い風聞で余計な波風を立てるのはよくないと思いませんか?」
「そ、そうだな。今回は不問としておこうっ。以後気をつけるように!」
 俺はハゲデブが一番生活指導する必要があるんじゃないかと正直思った。ああ、勿論
姉を個人的に呼び出しても通報するということを伝えることは忘れなかった。あんなやつと
二人きりにさせてたまるもんか。



400:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/29 17:08:57 Vh8bDrn+


 ハゲデブをからかって教室に戻るとなんだか教室に人だかりが出来ていた。そんな中
風子は一人風紀がどうとか喚いていたが誰も聴いちゃいないようだ。何があるんだろう…
と俺が近づくと急に道が開いた。

「虎ちゃん~~心配したよ~。」
 ぶほっ!!!なんで馬鹿姉がっ!!!

「青野~俺はっ俺は悲しいっ。何でこんな美人で優しそうなねーちゃんがいるんだ!!!」
 そういったのはクラスメイトの馬鹿筆頭、明伊だ。周りの男どもも亜紀姉のフェロモンに
あてられてそーだそーだと文句を言っている。女子ですらうっとりと亜紀姉を遠巻きに眺め
俺と見比べてため息をついていた。友情ってなんだろう…。しょっぱい汗が流れてるよ。

「虎ちゃん…生活指導にお世話になるようなことしちゃだめでしょう。めっ!」
 かわいらしくぽかっと軽く俺の頭を叩く亜紀姉。男の八割がその姿を見て撃沈される。
 そーだそーだとわめく男達。お前らは理由知ってるだろ。世の中はいつだって不条理だ。

「わかった、わかったから教室に帰れ。なっ?」
「折角だからお昼もって来たのよー。一緒に食べよ?」
 はい!はい!はい!と何故か敬礼する男たち。男って馬鹿だとつくづく痛感する。そんな
不思議空間を泳いでロリ風紀委員はやってきた。ポニーテールをはためかせ、短いコンパスを
必死に伸ばして歩き、亜紀姉に相対しびしっと指を突きつけた。

「亜紀先輩!貴女は我がクラスの風紀を著しく乱しています!即刻たちのいてくださいっ!」
 よくいったぁぁぁ。たまには良いこというな。風子。俺の中でお前の株価が暴騰中だっ!
 駄目姉は風子をぽかんと見ていたが…すくっと立ち上がると、

「やーんっ。必死になってびしって小さくて可愛いぃぃぃぃっ!!!!」
 わけわからんこといいながらその暴力的に大きい胸で風子を力強く抱きしめた。

「むががががふがふがむががあああっ!!」
「あ、亜紀姉やめろっ!風子が窒息する。」
 男なら本望かもしれんが。生憎風子は女であって苦しいだけだろう。名残惜しそうに
風子を離した亜紀姉はううーと半泣きで身構える風子をほんわかと見つめている。

「ふーふー。きしゃー!!」
「じゃあね。この可愛い風子ちゃんと虎ちゃんと三人じゃ駄目かな~?」
 俺の天敵は警戒しつつ暫く悩んだようだが、頷いた。三人での食事は、何故か風子がやけに
ご機嫌だったせいで珍しく平穏に終わることが出来た。



401:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/29 17:10:37 Vh8bDrn+


 放課後、振られたことを痛感しつつしょんぼり姉と帰宅していると正門に見知った二つの人影が
見えた。薫と………笑顔の可愛い俺の天使、榛原さんっ!!

「やあ、虎之助君、亜紀先輩。元気かい?」
「あら、榛原さんに薫ちゃん。こんにちは。」
「あまり元気じゃなかったがたった今元気になったぜ。」
「ほう、嬉しいね。そこまで僕に会えて嬉しかったなんて。」
 俺は薫を無視し、あわせ辛そうに顔を横にしている榛原さんの方を見た。

「もう、会ってくれないかと思ってた。」
「ううん。私こそごめんね。剣君に相談したら虎之助君は普通の弟だって…。」
 全くもってそのとおりだ。よく言った薫。今度頭なでてやろう。

「でも、虎之助君は剣君と相思相愛だって…。そっちの人だなんて気づかなくて…」
 おいちょっと待てっ!

「愛に性別は関係ないよ。そこにあるのは愛だけだ…」
 こいつ本当に女か?大げさにくねくねするこいつを見てちょっと不審を抱いた。

「聞いてくれ榛原さん俺はノーマルで榛原さんのことが…君のことがす…「そうよ!
 虎ちゃんはノーマルで女の子が好きなのよ~。私と相思相愛なの。えへ。お姉ちゃん照れちゃう。」
「おいこら、俺にちゃんと会話させてくれっ!!」
 そんな俺たちのカオスな状況に、榛原さんはくすくすと笑っていた。

「本当に仲いいんだね。三人とも。」
 優しい口調だ。穏やかな…温かい感じの。だけど、何故寒気が止まらないのだろう。
 他の二人を見ると同じような渋い顔をしている。榛原さんはにこやかに微笑んでいるだけだ。

「だけどさ…。青野君…いえ、虎之助君は私のものなんだよ?…いい加減ふざけてんじゃねえよ。
 いてまうぞゴラァ!!」
 …
 えー?
 何か聞こえたような…。

「は、榛原さん?」
「え、どうかした?虎之助君♪」
「イエナニモ。」
 そういえば天使って、天罰とかでいっぱい人殺しているんだよね…。
 俺どこで人生間違えたんだろう。


402:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/29 17:11:53 Vh8bDrn+


 あの後、俺達はなんとか電話番号の交換だけして別れた。姉はトラウマになったのか
帰り道では怖いよー怖いよーとしかしゃべらなかった。静かで非常に良い。

 姉を適当に部屋に捨て、俺はいつも通り夕食を作る。今日は金曜日だからカレーだ。楽でいい。
 今日は久しぶりに母親が帰ってきていた。

「虎~。いつもすまないねえ、ごほっごほっ。」
「それは言わない約束だぜおかっちゃん。」
 馬鹿な会話をする俺たち。母親は姉をそのまま年をとったような雰囲気で、どっちかというと
美女だろう。姉と違って有能でもある…らしい。本人曰く。
 俺は親父似だ。困ったことに全く冴えない。

「で、学校はどうなんだい?」
「俺は問題ない。授業は余裕だし、友人関係も大丈夫だ。」
「ふむ…亜紀は?」
「相変わらず問題だらけだ。」
 母親はため息をついた。そりゃそうだろう。親もあの究極無能が心配でないはずがない。

「金持ちのぼんぼんとでも見合いさせたほうがいいのかしらねえ。」
「確実に返品されると思うぞ。」
「うーん、どうしたものかねえ。虎に永遠に面倒見てもらうわけにもいかないし…。」
「当たり前だ。」
 悩む俺たち。家庭とは悩むもの、大変なものなのだ。そんなとき、姉が立ち直ったのか
俺たちの会話に入ってきた。

「あ、お母さん久しぶりだね。元気~?」
「亜紀、学校はどう?」
 返事をする前に小走りで走って俺に抱きついて言った。相変わらず大きい反則的に
柔らかいその身体が俺に押し付けられる。

「ばっちり、完璧、全然問題なしだよっ。愛する虎ちゃんがいるからね!!」
 俺と母親は同時に溜息をついた。
 俺たちの家庭問題がいつ解決するのか…。それは神のみぞ知るところだ。



403:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/29 17:13:34 Vh8bDrn+
投下終了です。まったり続きます。

404:名無しさん@ピンキー
07/06/29 18:32:04 blFgWVOV
グッジョブ!!!

405:名無しさん@ピンキー
07/06/29 19:21:43 tyRlRFSg
GJ!

ちっちゃい風紀委員長もそろそろ本格参戦でしょうか
虎もててるなあ

406:名無しさん@ピンキー
07/06/30 00:29:28 c225BZHJ
姉はイイ・・・・

キモ姉ならもっとイイ・・・

407:名無しさん@ピンキー
07/06/30 02:22:44 NY08Slev
でも亜紀姉はこのままでイイ……。

408:名無しさん@ピンキー
07/06/30 07:12:46 3wkqHk9f
いやいやこれは変貌フラグたちそうな姉さんですよ。
まあたたないに越した事はなくはないんだけどな。

409:名無しさん@ピンキー
07/06/30 08:13:24 oK+0lAgn
と言うかだな?なにげにキ萌ヒロインハーレムとか斬新すぎる展開への布石が打たれているように見えるのは俺だけ?

410:名無しさん@ピンキー
07/06/30 13:15:17 yd01kdKP
むしろ変貌したお姉ちゃんに輝くばかりの笑顔で監禁されたい

411:名無しさん@ピンキー
07/07/01 02:40:13 /tIIdqy4
なあ、俺solaを12話まで観たんだが、
どうしても蒼乃姉さんに声援を送ってしまうんだ……

412:名無しさん@ピンキー
07/07/01 10:29:27 obN/knXl
蒼乃姉さんに敬礼!

あれはいい姉だ。

413:名無しさん@ピンキー
07/07/01 13:16:12 ctPSXA6B
地方でアニメが見れない俺に誰かkwsk

414:名無しさん@ピンキー
07/07/02 03:17:03 a79X6E+0
投下待ってます

415:名無しさん@ピンキー
07/07/02 11:23:11 8QhyfQty
今日来い!

416:名無しさん@ピンキー
07/07/02 19:05:51 YqimOoup
>>392
個人的にはかなり書いて欲しい。

417:名無しさん@ピンキー
07/07/03 12:18:42 rbz/VKzC
職人さんたち忙しいのかのう

418:名無しさん@ピンキー
07/07/03 15:44:43 MYNXK1qj
>>413
ポイントだけ教える
詳しくはぐぐれ

・化け物の生け贄に捧げられた姉を、決死の覚悟で救出に来る弟
・実は若い娘の姿な化け物と、弟が仲良くなるのがおもしろくない姉
・弟事故死、後を追って姉自害
・「どうして生き返らせたりなんかしたの!? 依人がいない世界で、生き続けていたくなんてない!!」
・化け物にされた姉、数百年後に化け物力で弟創造
・そこに化け物娘あらわれ、弟と知らずちょっかいを出すが…

419:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg
07/07/03 23:11:16 +trzF5VT
短編を投下します

420:三者面談 ◆oEsZ2QR/bg
07/07/03 23:12:07 +trzF5VT
「どういうことですか! 志望大学を変えろって!!」
 私は思わず立ち上がって、大きく手を振り上げて机を叩いて抗議する。バンっという乾いた音が進路指導室に響き渡る。
 私の机の向かい側に座っていた進路指導の高倉良子先生は肩をびくりと震わせた。
 しかし、すぐに冷静さを取り戻したようで、手元にある紙束と私を見比べていた。
「え、えっとね。沢木さん。あなた、たしかN大学を受験するつもりよね……」
「ええ、そうです」
 私は鼻息を荒くして答える。それに高倉先生が困ったように眉をハの字にして言葉を続ける。
「でもね。あなたの成績だともっと上の大学を狙えると思うの。テストはいつも学年1~3位をキープしてるし、生徒会役員だし……。この学力だとW中央大学も夢じゃないわ」
「そんな大学、興味ありません」
「興味ないって……。でも、もったいないとおもうの。あなたぐらいの人がN大学って……」
 特徴的なおおきなメガネのずれを直すと、なおも高倉先生は私を説得しようと上目遣いでこちらをのぞく。歳に似合わない童顔のせいか、一年生の後輩に見つめられるような気分になる。
「ねぇ、沢木さん。もうすこし考え直してくれないかしら?」
「それよりもひとつ気になっていたんですが……」
 私は、くるりと視線を高倉先生の隣に移す。そこには俯いたまま私たちのやり取りを黙って聞いていた弟の誠二がいた。
「なぜ、誠二が居るのですか?」
 それも、私の横ではなく何故か机を挟んで高倉先生の隣に居る。
 本来、進路指導を受けるべきなのは誠二のはずでしょう。ただでさえ、私と違って成績が悪いのだから。
「ね、姉さん。それは……」
「最近は帰ってくるのも遅いし、作ってあげているご飯も残すし。今日はこんなところにいるし、どういうことかしら?」
「あ、あの、えっと」
 私と視線を合わせようともしない誠二。
「なぜ、あなたがここに居るのかしら? 説明しなさい。誠二」
「それについては、私から話すわ」
 誠二を睨みつける私を遮るように高倉先生はズレたメガネをあげて言う。
 そんな先生に、私は嫌悪感を丸出しにした顔で誠二を指差した。
「高倉先生。私より誠二の進路のことが問題なのではないですか? ここで相談するのは誠二のことにしません? 最近の誠二の成績と普段の態度は目に余るものがありますし……」
「いえ、今日はあなたのことを話し合います」
 私を正面から真剣な表情で見据える高倉先生。ぐっと一文字に結ばれた口元からは、決意に満ちた感情が感じられる。
「沢木君にも来てもらったのは、あなたの進路のことにも関係があるからなの。そうだよね? 沢木誠二君」
 自分に振られ、誠二は怯えながらもこくこくと頷いた。
「う、うん。一度、正面から姉さんとこのことに話し合いたかったんだ」
「それなら家でも出来るでしょう! 誠二!!」
 なんで、わざわざ先生を挟んで、こんな補導された万引き女子高生みたいな状態で話し合わなくちゃいけないのよ!?
 私が誠二につかみかかろう体を乗り出そうとして、
「やめなさいっ。沢木さん」
 高倉先生に腕を掴まれとめられてしまったのだった。早い。
 私が手を振り上げた瞬間に予想したように立ち上がり、二の腕を掴んで止めたのだ。その細身の体にどうしてこんな力があるのかと思うほどの強い力。
「あなたがそんな風だから、今日は先生が居るんです。いいから座って話をしましょう!」
 くっ、これでは私が悪者みたいだ。私が力を抜いたと感じたらしい高倉先生はふぅと安心したように息を吐くと、掴んでいた腕を離した。そして、席に座るように促される。
私は軽く舌打ちをして私はパイプ椅子に座って、先生と誠二に向き合った。舌打ちした瞬間、誠二が少し怯えたように肩を震わせたのが気になった。……なに。イライラする。
「まぁ誠二のことはいいわ。たった一人の家族だし、三者面談に居てもいいでしょう。でも、保護者は私ですからね?」
「ええ、とりあえず落ち着いて話しましょ」
 高倉先生はにっこりと笑って書類を指で叩く。その笑顔がわたしの感情を逆なでする。
「まず、沢木さん。どうしてあなたは学年トップの成績なのに、N大学を受験するつもりなのか聞かせてくれないかしら?」
「……別に」

421:三者面談 ◆oEsZ2QR/bg
07/07/03 23:13:00 +trzF5VT
「怒ってるわけじゃないの。ただ、理由を教えてくれないかしら」
「理由なんて無いですよ。先生は私がN大学へ行くのは無理だと言いたいんですか?」
「いまはこちらの質問だけに答えて頂戴。あなたの学力なら十分上の大学を狙えるのよ。それなのにどうして、」
「……だから、理由はないと何度も……!!」
「誠二君」
 ……!
 高倉先生はくるりと頭を動かして、隣に居る誠二に聞く。
「誠二君の志望大学はどこだったかしら?」
 睨み付ける私にあたふたしながらも誠二は答えた。
「え、N大学……」
「そうね。頑張らなきゃね」
 答えた誠二を褒めるように高倉先生は目を細めて誠二の頭を撫でた。
 そして、今度はしたり、とした顔で高倉先生はこちらに視線を戻す。
「あなたが理由無く志望する大学と、弟である誠二君がギリギリ入れそうな大学が一緒なのは偶然なのかしら?」
「か、関係ありませんっ!」
「声が震えていますよ」
 くっ、私のこめかみに一筋の汗が流れる。
「ねえ、沢木さん。先生に本当のことを教えてくれないかしら?」
 高倉先生は回答が分かっておきながらも、あえてそれを私に言わそうとしている。
「姉さん……」
 心配そうな顔で、私の顔色を伺う誠二。

 ……中一の頃、両親が交通事故で死んだ。あたしとまだ反抗期も来ていない小学六年生の誠二を残して。二人はこの世を去った。
 それ以来、私たち姉弟はずっと二人っきりで暮らしていた。幼い頃からすでに親から自立していた私と違い、まだまだ親にべったりだった誠二には親の居ない家なんて考えられなかったようだ。
 だから、私は誠二の母親代わりとなったのだ。
 誠二のために私はなんでもやった。料理も家事も、大好きだった陸上の夢もあきらめて、誠二のために夜もバイトして働いて、誠二を養っていった。
 そのせいで、私のせいで誠二が虐められることのないように。誠二のせいで落ちぶれたと言われないように、成績も上位をキープし、誰もやらないような仕事も全て進んでやり、他人や教師からの信頼も勝ち得た。
 そして、誠二が私に甘えないように徹底的に厳しく誠二を教育した。私の青春はすべて誠二のために捧げた。そして、そのことに私は後悔はない。

 成績がいいとか、内申がいいとか、そういうことはただの副産物に過ぎない。
 私にとってはいかに誠二のためであるか。それだけが重要なのだ。

 なのに、なのに。
「あなたは、誠二くんと同じ大学に通いたいから、ここを志望しているのよね? あなたの志望している学部も誠二君とまったく一緒だし。ねぇ、沢木さん」
 どうして、この教師は。まるでそれが悪いとも言いたげな表情で、私を見つめるのだ?
 そして、どうして誠二はそれを止めようとしない?
 あまつさえ、
「僕は、僕は姉さんの重荷になりたくない」
 ……なんでそんなことを言ってくるの?
「姉さんには十分感謝してる。だから、これからは姉さんには姉さんの道を進んで欲しいんだ」
 やめてよ。
「姉さんは僕のためにいっぱいしてくれた。だけど、もういいんだ。僕は姉さんを自由にさせてあげたいんだ」
 やめてよ。だめよ。
 あなたはまだ私が居なきゃダメじゃない。料理だってヘタだし、洗濯だって上手くできない。勉強だってそのN大学に受かるかどうかも微妙なところよ。
「自惚れないで、誠二。あなたみたいなダメな男。まだまだ私の傍に居なきゃダメなのよ」
「自惚れているのはあなたよ。沢木さん」
 高倉先生が、初めて立ち上がった。
「……!」
 私は、ヘビに睨まれた蛙のように、動けなくなる。
 高倉先生の顔は憤怒に満ちていた。可愛らしい幼げな童顔の顔は真っ赤に染まり、眉間には何十もの皺が縦に連なっている。メガネのフレームが熱気で割れそうなほど熱を発し、折れそうなほどの強さで奥歯を噛みしめて、私を睨んでいた。
 まるで般若だった。
 こんな小さな若い体のどこに、これほどの怒りを込めることができるのだろう。鎖で絡めてガードした心を一瞬で丸裸にしてしまう程の威圧。
 私は初めて、この先生に恐怖を抱いた。

422:三者面談 ◆oEsZ2QR/bg
07/07/03 23:14:06 +trzF5VT
 助けを求めようにも、机の向こうに居る誠二は私を同情の瞳で見つめている。机一つしか離れてないのに、誠二がとても遠くに感じる。手を伸ばしても、心が届きそうに無い。
「誠二君の傍に居なきゃダメなのはあなたです。あなたは、それを認めたくなくて、誠二君のせいにして納得しているのです」
「そ、そんなことない……!」
「いいえ、そうです」
 高倉先生の言葉が、私の丸裸になった心を鋭利なナイフで突き刺していく。
「悲劇のヒロインを演じて、自己満足しているだけ」
違う……違う違う違う違う!
「違う!」
「違わなくても、そう見えます。それは誠二君にも」
 高倉先生の隣にいる誠二も私を見ていた。ここで誠二が違うといってくれれば、すべて元通りなのに。どうして言ってくれないの!? 誠二!!
「あなたがそうやって、誠二君を理由にして苦労するごとに、誠二君を罪悪感で苦しめていることに気付いてないのですか?」
 やめろ! 言うな! 苦しめてなどいない! 誠二のことを一番分かっているのはこの私だ!! たかが、教師風情がなにがわかる!?
 だから、だから、違うと言いなさい、誠二! 頼むから、頼むから! 違うって言って!! 言ってよぉ!!
「そんなの嘘だ! 私は誠二のためにやってきた! 誠二は私がいないとダメなんだ! 誠二を一番分かっているのは私だ! だから誠二は私の言うことだけを聞いていればいいんだ!! 私の言うとおり、行動して私のために……」
「ふざけるな!!」
 しかし、そんな私に業を煮やした先生は。
私との間にあった机を蹴り飛ばした。

大きく横に跳ねていく学習机。

そして、高倉先生は私の首根っこを掴みあげると。

「あなたの都合で、誠二を貶めるな」
「……」
 メガネごしに見えるの瞳の奥に住む、高倉先生に姿を化かした鬼が、私を地獄の業火で焼いている。
「確かに、あなたは誠二をずっと支えてきたわ。それは認めてあげます。しかし、もうあなたの役目は終わりなのよ」
 冷静に言葉を紡ぐ、高倉先生。ぎりぎりと襟を締め上げて私を睨みつける。
「誠二くんは、もうあなたの支えを必要としていない」
 せ……誠二。た、す、け……。
「そして、あなたも。もう誠二くんはあなたの自己満足の道具じゃないの」
「……う」
「姉としての自覚を持ちなさい! 沢木千鶴!!」
 ………う、う、う、う。

「うるさぁぁぁああい!!!」

 私は、掴み上げられていた腕を払うと怒号を上げて、高倉先生から距離をとる。進路指導室の窓から落ちる夕日の光が、目の前にいる高倉先生と誠二にかかってまるで後光のようだった。
「うるさいうるさいうるさい! お前に何が分かる!! 私は姉として、誠二の肉親として当然のことをしただけ! それだけだ! 間違いない!」
 怒鳴り咆哮し罵声を二人に浴びせる私に、高倉先生は、もはや何も言わず。同情した目で私は見つめていた。
 …なんだ、その目は。
「かわいそうね。沢木さん」
 …やめろ。そんな目で私を見るな。
「弟に依存していることに気付けてないあなたは、誠二君の親代わりとしても、姉としても失格よ」
「黙れ! 黙れ黙れ! 誠二! 私は先に帰る。帰って今日のことをゆっくり話すからな、覚悟してなさい! わかった!? 誠二!」
「ね、姉さん!」
 私は誠二の返事も聞かず、進路指導室の引き戸をちからいっぱい引いて、外に飛び出た。大きな音が鳴り、たまたま近くにいたカップルがその音に驚いている。
 そいつらを一瞥すると、カップルは私の剣幕に恐怖を感じたのか、そそくさと逃げていった。
 く、怒りが脳をたぎらせている。
 あの教師。高倉良子……。
 なにも、わかっていないくせに。私と誠二のことなんてこれっぽっちも知らないくせに。

423:三者面談 ◆oEsZ2QR/bg
07/07/03 23:14:48 +trzF5VT
 いや、それよりも誠二だ。
 あの愚弟め。本来あなたは私のほうに立って、高倉先生に言うべき人なのよ。「僕は姉さんがいないとダメ」って。
 それなのに……こともあろうに、「姉さんはもう必要ない」? 愚弟め。成績も悪いくせにいきあがって。これは、帰ったら本気で教育してあげないとダメだわ。
「私に逆らうとどうなるか思い知らせてやるわ……」
 くくくくく、まず、自分がどれほど小さい存在なのかわからせてやる。
 通販で買った、あれもこれもそれもこれも、引っ張り出して使ってあげましょう。
 一日で教育しなおして、私に逆らえないようにしてやるわ。
「ふふふふふははははははははははははっっ!!」
 私は大きく笑うと、走り、校舎を飛び出して、自宅へと急いだ。
 いまから、誠二の再教育の準備をしなければならない。その内容を想像する度に、私は心の底から沸き起こる笑みを抑えることが出来なかった。
「はやく、はやくぅ、帰ってきなさい! 誠二っ。いっぱいいっぱい教えてあげるから……、その体で……。ふふふふふふふふ……!」

 しかし、私がいくら待とうとも、誠二は一向に帰ってこなかった。

 誠二はソファで横になっていた。
「………」
 正面にある小さなテレビからは、お笑い芸人たちが司会者と共に笑いながら自分たちの失敗談を披露している。
 しかし、まったく内容が頭に入らない。ただ、テレビを無感動に見つめているだけ。
(本当にコレでよかったのかな……)
「くすくすくすっ。おかっしい」
 そんな無表情にテレビを眺める誠二の頭を自分の膝に乗せて、高倉良子は口元に手を当てて上品そうに笑っていた。
 黄色のパジャマで普段は後ろでアップにしている髪の毛を、下ろしているプライベートモードだ。
 二人が居るのは、高倉良子のアパートだった。テレビと二人用のソファ、それと可愛い小物が並んだ部屋で、二人は恋人のように体をくっつけている。
 事実。二人は好きあっていた。このことを知っているのは、お互いのみである。校長や高倉良子の両親、そして誠二の姉でさえも、この二人の関係は知らない。
 誠二は体の左半分に感じる太ももの温かさを感じながら、今日のことを思い出していた。
 姉との対決。始めて見た姉の取り乱した顔。そして……、高倉先生。
「………」
「どうしたの? 誠二くん」
 ふと、顔を上げると。高倉良子がにっこりと微笑んで、誠二の頭を優しくなでていた。
「えへへ。可愛いね。誠二くんは。でも、どうしたの? テレビ、面白くないの?」
 あの進路指導室の時の鬼神の顔を微塵にも感じさせない。麗しい女神の表情。そういえば、この笑顔に自分は惹かれたのだ。
「いや、えーっと…」
「お姉さんのことが気になる?」
「うん……」
 誠二が軽く頷いた。
 その瞬間。

424:三者面談 ◆oEsZ2QR/bg
07/07/03 23:15:42 +trzF5VT
 ミシィッ!!

「いっ!!」
 いきなり、自分の耳が高倉良子によって引っ張られる。
「いたたたたたた、いたいいたいいたい!」
 高倉良子の指に力が込められ、引きちぎれそうなほどの引力を耳たぶが受けている。そのまま誠二の頭は浮いていき、耳たぶだけで吊り下げられてるようになってしまう。
 そして、そこまで伸ばした耳に、高倉良子は優しくささやきかける。笑顔のまま、女神の表情のまま、その瞳の奥に潜む
「誠二くん。お姉さんのことなんてもう考えなくていいのよ? 今日あれだけ言ったにも関わらず、まだわからなかった大馬鹿なんですもの」
「今日、もし誠二くんがほんとの家に帰ったら、きっとあのお姉さんにこの世のものとは思えないほどの酷いことされるんだよ? だから、先生がここに住ませて避難させてあげてるの」
「誠二くんは今日から先生の部屋に住人になったんだよ。だからここでは先生のルールに従うの。約束したよ? 覚えてる?」
「言ったよね。このアパートでは先生以外他の女のことを口に出しちゃダメだって。先生、被害妄想の誇大妄想女だから誠二君が自分以外の女の子の名前言っただけで、
寂しくて寂しくて寂しくて寂しくて寂しくてサミシイサミシイ病でウサギみたいに死にそうになっちゃうの。それが誠二君の実の姉だとしても。いや、姉だからこそね……」
「わ……わかったっ、わか、いたいいたい!」

 高倉良子は誠二の姉の気持ちが痛いほどわかっていた。自分と同じ人間だから。
 徹底的に愛しい人を自分に向けさせるための束縛。自分と同じ欲望を持っていることに気付いていたのだ。
 しかし、それを彼女にわからせてやる必要は無い。むしろ、それを利用して誠二とあの五月蝿い姉を引き離すこと。高倉良子にとってはそれがなによりも重要だった。

「だから、この家では。お姉さんの話は禁止。わかった?」
「わかったわかったわかったわかった!」
「そう。うふふ、よかった」
 耳たぶを離す。ぼふんと頭が膝枕に落ちた。頬をはねる弾力が気持ちいい。
「えへへ、誠二くん。これからもずっと一緒だよ」
「うん、先生……」
 高倉良子の唇が、誠二の頬に触れる。そのまま、高倉良子は膝枕していた膝を外すと、ソファの上をのそのそと動き、誠二に覆いかぶさる。そして、潤んだ瞳で誠二に優しく微笑みかけると、自らの体を任せるように肌を合わせていった。
 高倉良子に服を脱がされながらも、誠二は(本当に、本当にこれでいいのだろうか)と、家で自分を待っているはずの姉を思いながら、ずっと自問していた。

高倉良子と歩む未来は、姉と歩む未来とそう変わらないことにも気付かず……。

(終わり)


425:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg
07/07/03 23:17:13 +trzF5VT
終わりです。改めてみてみると、姉結構沸点低いな。

私の書くキモ姉キモウトものは大抵、姉妹が不幸になります。
次作も気が向けば。

426:名無しさん@ピンキー
07/07/03 23:57:48 U7ZJIeYi
>>425乙&GJ!
他の作品だと姉が主導権を握る話が多い(気がする)んで、こういうのは新鮮で良いな。

427:名無しさん@ピンキー
07/07/04 00:42:34 To0f1QhL
>>425
両方とも怖い、だがそれがいいwww
弟が姉に次ぎあう時がものすごく気になるな。
短編なのが惜しい。
作者さんGJ

428:名無しさん@ピンキー
07/07/04 00:55:48 uHzefDE2
>>425
GJ!
ぜひとも姉の誠二奪還編が見たい!

429:名無しさん@ピンキー
07/07/04 10:30:10 DJynNbp8
>サミシイサミシイ病
雛…

430:名無しさん@ピンキー
07/07/04 12:31:45 Im+mhjI1
敗北するキモ姉もまたかわいい

431:名無しさん@ピンキー
07/07/04 15:23:27 1ltaYfxP
>>425
なんという乙・・・そしてGJ

しかし先生もずいぶんキモイが家に帰らなくなった弟を思う姉はどのように歪んでしまう
んだろうか・・・そこが気になるぜ・・・

432:名無しさん@ピンキー
07/07/04 18:23:23 LZ1gtyEX
GJ!
だが姉派の私としては姉に勝ってほしかった…。


433:名無しさん@ピンキー
07/07/04 18:33:25 olH06CST
>>431
そりゃ後日(どっから入手したんだか)ランボーなみの武装をして学校に乗り込んで来ますよ。

434:名無しさん@ピンキー
07/07/04 18:57:39 iGpoQ55g
高倉さんの方が可愛げがあるから、高倉さんに
つ一票

435:名無しさん@ピンキー
07/07/05 19:24:06 +Z/6m+Ch
超怖い姉とか見れればそれでいいからどっちでもいいや

436:名無しさん@ピンキー
07/07/07 01:34:02 reLh1SgC
投下ラッシュ前の静けさ保守

そして今更ながら保管庫の人乙

437:名無しさん@ピンキー
07/07/07 06:36:25 qF8F0BcQ
調子の変化が激しいな此処・・・

職人さんがんばれ。

438:名無しさん@ピンキー
07/07/07 09:33:35 UTj4axiY
関連スレを上げまくってる愉快犯のつもりな奴がいますね

439:名無しさん@ピンキー
07/07/07 15:37:46 6ZaSMhcv
職人様の到来を祈ってるよ

全裸で。

440:名無しさん@ピンキー
07/07/07 19:24:30 mOTJL2UD
x/Dvsm4nBIです。契約している通信会社である某E社がアク禁に指定されました。
規制中ぼちぼち書き溜めながら解除を待ちます。中途で止めてすみません。

441:名無しさん@ピンキー
07/07/07 21:28:01 hd2D/Yb8
お待ちしております

442:名無しさん@ピンキー
07/07/07 21:36:02 SpYWVM4X
  [ (★) ]_
  <丶´Д`>
   (ミ 北 )<嫉妬スレが職人不足・・・このスレの職人さん・・助けて・・・
   ) |(
   〈_フ__フ
スレリンク(eroparo板)

443:名無しさん@ピンキー
07/07/07 22:32:37 V3HTLC/f
キモ姉やキモウトが職人達の他の女(スレ)への浮気を許すだろうか。

444:名無しさん@ピンキー
07/07/07 22:45:28 aooU1ok/
>>443
ごめん、俺ちょっと言ってくる


445:名無しさん@ピンキー
07/07/08 00:00:34 x3y4NxVR
>>444
無茶しやがって…

446:名無しさん@ピンキー
07/07/08 00:07:27 ju5UzgFM
お兄ちゃんが他の所に行くなんて許さないんだからね

447: ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 03:58:55 KZpfkP/i
非エロ投下します。

448:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 03:59:36 KZpfkP/i
自転車の一件があってから、夕里子は縁の言葉に従い、身の回りに注意して過ごした。
普段から二人以上で行動し、周囲に異変がないか気を尖らせた。
元々友人は多いので、同じクラスの親しい友人の協力も得ることができた。
綾はしばらくの間、夕里子を襲う隙がないかと観察していたが、どうにも難しそうだとわかった。
(慣れてるっていっても、所詮私も一人の女だしね……)
力は人並みだし、持っている道具もごく一般的な凶器に過ぎない。
警戒をしていない相手と警戒をしている相手とでは殺害の難易度は雲泥の差だし、二人以上を一度に葬る自信はなかった。
(やればできなくはないだろうけど、危険すぎるわね)
うまく殺せても、二人分の死体の処理や細工には、単純に二倍の作業が必要となる。
時間が長引けば人に見られる危険があるし、焦って作業が雑になることもあるだろう。
死体の処理で失敗をすると、警察その他に目をつけられる可能性が格段に高くなるのだ。
(しばらくは様子見ね……)
やれやれと、綾は溜息をついた。
「あーあ……うちが何かの工場とかだったら楽だったのに」
「綾さん、経営者になりたいのですか?」
綾の嘆きに、隣を歩く夕里子が、ほんわかとした声で応じた。
放課後、夕里子を送る陽一に綾が同行する形で、三人並んで夕暮れの道を行く途中だった。
「は? 何言ってるんです?」
「いえ……今さっき家が工場だったら云々と仰っていたので……」
「あー、それは……」
あんたとあんたのお仲間の死体処理に頭を悩ませてるんだよ、とは言えない。
綾は「まあ、そんなところですね」と、適当な相槌をうった。
「綾さんはどういった工場がお好みなのですか?」
「そうですねえ、溶鉱炉とか、大きな粉砕機とかあればいいんですけど。ああ、薬品を扱ったりするのもいいですねー」
「鉄鋼、食品、化学……綾さんは色々なものに興味をお持ちなのですね。すばらしいです」
「すばらしいですか。それはどうも」
感心しきりとばかりに頷く夕里子に、綾は微笑しつつ答えた。
「しかし、あれから一週間経つのに、ストーカーとやらは何もしてきませんね」
「え? あ、はい、そうですね。縁さんもあくまで念のためと言っておりましたし……ストーカーなどではなかったのかも知れませんね、あの自転車は」
「ということは、夕里子さんが自転車を貸した男がやったことだったんですかね」
「そうなるんでしょうか……。いずれにせよ、何も起こらないで良かったです」
「ははあ、お気楽ですね」
にこりと笑う夕里子に、それまでとは一転、冷たい声で綾は言った。
「夕里子さんが見知らぬ男に自転車を貸してしまったおかげで、お兄ちゃんもあなたの友達も気を張ることになったわけですが」
「ぅ……はい……それについては本当に申し訳ないと……」
「人望と言えば聞こえがいいですけど、少し他人に甘え過ぎなんじゃないですか?」
「はい……すみません」
綾の追及に夕里子はしょんぼりと肩を縮こまらせてしまう。
また始まったか、と脇で聞いていた陽一は内心溜息をついた。

449:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:01:01 KZpfkP/i
二人が顔をあわせてから一週間、綾は夕里子に対して常に丁寧な言葉遣いで応じたが、何かにつけて厳しい言葉を浴びせることがあったのだ。
「お兄ちゃんの恋人が他人に平気で迷惑をかける人間だとは、私も思いたくないんですがね」
「本当に……不出来なもので、すみません」
細い声で再び夕里子は謝る。
見かねた陽一が、綾の肩に手を置いて制した。
「こら、綾、夕里子さんをいじめるなよ」
「いじめてなんかいないわ。夕里子さんに、お兄ちゃんの恋人としてふさわしい人になってもらうべく、アドバイスしてるだけでしょ」
「その、俺の恋人にふさわしい人の基準ってのは、誰が決めたんだよ」
「この私がよ。文句ある?」
「大ありだろ! 何でお前が決めるんだよ!」
「たった一人の妹である私が決めないで、誰が決めるっていうのよ!?」
肩をいからせて陽一に詰め寄る綾。
陽一も退くことはなく、二人は至近距離で睨みあった。
「あ、あの……喧嘩は……」
今度は夕里子が割って入ろうとするが、消え入りそうな声は二人の耳には届かなかった。
「……お兄ちゃんは夕里子さんにやたら甘いわよね」
「別に甘くはないだろ。お前が細かいことを気にしすぎるんだよ」
「何よ? 私、間違ったこと言ってる? 夕里子さんの能天気が原因で、みんなが無駄に苦労しているのは確かでしょ?」
「夕里子さんの無防備なところは俺も時々不安になるけど……夕里子さんのために色々するのをみんながどう思うかは、お前が決めることじゃないだろ」
「……」
「少なくとも俺は、無駄とも苦労とも思ってない。これっぽっちもな」
「へえ~、お兄ちゃんも言うようになったわね」
半眼で睨んで、綾は陽一の脛を勢いよく蹴飛ばした。
「うぐぉっ!」
「よ、陽一さん! だ、大丈夫ですか?」
痛さに悶える陽一と、おろおろと慌てふためく夕里子を尻目に、綾は小走りに交差点を渡る。
「あ、綾……どこに……」
「夕飯の買い物! それじゃあね!」
突っぱねるように言って、そのまま綾は駆けていってしまった。
綾の姿が見えなくなると、陽一は道脇の植え込みの石段に座り、蹴られた脛を見るべくズボンをまくった。
夕里子もその隣にちょこんと座った。
「いてて……あいつ、本気で蹴りやがったな……」
「大丈夫ですか? 私、さすります。任せてください」
「え、あ、いや……」
言うが早いか、夕里子は陽一の脛に触れて優しくさすった。
恥ずかしいのでやめてくれと言おうとした陽一だったが、夕里子の真剣な表情を見て、とりあえずは任せることにした。
「どうですか……? その、少しは楽に……?」
「う、うん。ちょっとくすぐったいかも」
夕里子は綺麗な眉の端を下げて、今にも泣きそうになりながら、懸命に陽一の脛をさすった。

450:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:02:05 KZpfkP/i
「……陽一さん、すみません。私のせいで、また綾さんと喧嘩になってしまって……」
「ん? 気にしなくていいよ。俺たち昔からあんな感じだから」
「え……昔から蹴られたりしていたんですか?」
「ああ。しょっちゅうケチつけられて、殴られたり蹴られたりしてるよ。だから大丈夫大丈夫」
陽一は軽く笑うが、夕里子の表情は晴れない。
俯いてぽつりと呟いた。
「……綾さんは……まだ私を認めてくださってはいないみたいですね……」
「綾の言ったこと、気にしてるのか?」
「綾さんの仰るとおり、私に落ち度があったのは確かですし……」
「いや、まあ、そんなに気にしなくていいと思うよ」
「え?」
「綾はけっこうきついこと言うけど、それもいつものことだから。夕里子さんに限ったことじゃないし」
「そうなんですか?」
そう、と何でもないことのように陽一は頷いた。
「前に宇喜多にも話したんだけど、あいつ、同じ人に対してもその時々で寛容だったり厳しかったり、わけわからない変化をするからさ。基本的に気分屋なんだ」
「気分屋さん……ですか」
「まあ……心配性なところもあるから、俺と夕里子さんが付き合うことについても色々気にしてるみたいだけど……」
「ですよね、やっぱり……」
陽一も夕里子も共にため息をついた。
「やっぱり会わせるのが早かったのかなあ。……と言ってもあいつから会いに来ちゃったからにはどうしようもないんだけど」
「すみません。私が至らないばかりに」
「あ、いや、こっちこそ、妹一人黙らせることができなくてごめん」
お互い謝って、思いのほか顔が近付いていることに気が付く。
二人は顔を赤らめて姿勢を正した。
「ま、まあ……そんなわけだから、綾の言うことなんて気にせずに……」
「いえ、気にします。ご家族に認められてこそ、陽一さんとお付き合いする資格があると言えるわけですし……」
「そんな大げさな」
「大げさじゃありませんよ。私……胸を張って陽一さんの恋人だって言えるようになりたいんです」
日が落ちて、夕闇に街灯が灯る。
涼しい風が、夕里子の栗色の髪を揺らした。
少し色素の薄い瞳は真剣そのもので、綾の去った後の交差点を見つめていた。
ガラス細工のように繊細なその横顔を見て、陽一は、本当に綺麗な人だなと、一瞬見惚れてしまった。
「うーん……そうまで言われると、俺も夕里子さんの恋人だって胸を張って言えるように頑張らなきゃな」
「え!?」
夕里子は顔を真っ赤にして、あたふたと胸の前で両手を振った。
「い、いえ、陽一さんはそんな、十分にその……私、陽一さんが傍にいてくれるだけで嬉しいですから」
「また大げさだな」
「全然大げさじゃありません! 私、心の底からそう思っていますから! 今もこうして話しているだけで幸せで……」
「そ、そっか」
陽一も夕里子も赤い顔のまま俯いて黙り込んでしまう。
やがて二人はまた並んで歩き出した。
言葉はないままで、互いの手をとって歩く。
陽一と夕里子の付き合いは、初々しくも順調で、少しずつ心の距離を近づけつつあった。

451:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:03:31 KZpfkP/i
家に帰った綾は、買ってきた鶏肉をまな板の上に置くと、包丁を手にとって思い切り突き刺した。
包丁がまな板に突き刺さる重い音が家の中に響く。
「くそ! あの女……!」
何度も何度も、綾は包丁を振るって肉を刺した。
この一週間毎日のように繰り返しているストレス解消法だった。
「何で……何でお兄ちゃんはあんな奴のことかばうのよ!」
綾が夕里子にけちをつけるのは、陽一の恋人にふさわしい人間になってもらいたいからとか、そんなわけでは当然ない。
陽一と夕里子が深い仲になるのを牽制するためにしていることだった。
あわよくば、文句を言われるのに疲れて、夕里子が陽一から離れていってくれたら、とも思っていた。
しかし、今のところ夕里子が陽一から離れる気配は全くない。
それどころか、陽一が綾の攻撃から夕里子をかばうという構図のせいで、むしろ二人の仲がより緊密になっているように思えた。
「くそ! くそ! くそ!」
綾は狂ったように刺し続け、やがて糸が切れたようにがくんと動きを止めた。
虚ろな目で時計を見る。
そろそろ陽一の帰ってくる時間だった。
「いけない……こんなことしてる場合じゃなかったわ」
綾は陽一の部屋に行くと、ゴミ箱を回収し、自分の部屋に敷いた新聞紙の上にゴミをぶちまけた。
紙くずやビニール袋が散乱する。
綾はそのうちのティッシュのゴミのみを選り集めた。
「一、二、三……今日は少な目ね」
包んで捨てられたティッシュを開き、臭いを嗅ぐ。
一つ目、二つ目と嗅いでいって、三つ目を開いたとき、何とも嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ……これこれ」
両の手に捧げるように開いたティッシュを置き、口元に近づける。
微かだが、栗の花のような青臭い臭いがした。
「よしよし。お兄ちゃん、健全な生活を送っているようね」
当面は様子を見ると言っても、急がなければならない時もある。
それは、陽一と夕里子が肉体関係を持ってしまった時だった。
「お兄ちゃんが穢れるのは絶対絶対防がなきゃいけないものね」
陽一も年頃の男。
性欲はあるし、自慰もする。
綾は陽一が夕里子と付き合い始めてから、こうして陽一の自慰がどれくらい行われているかを毎日確認していた。
「これで今週は六回……一日平均〇.八六回……回数には異常なし、と」
安堵の息をつく。
陽一の自慰の回数は、夕里子とことに及んでいるかどうかの重要な指標だった。
自慰の回数が極端に減った時は、陽一と夕里子が肉体関係を結んだ時であり、多少の危険を冒してでも夕里子を排除せねばならない時だと綾は考えていた。
「どうやら今のところは大丈夫みたいね……と言っても、放っておく気もないけれど」
ゴミ箱にゴミを戻し、陽一の部屋に元あったとおりに置いておく。
ただし、精液のついたティッシュは戻さず、ベッドの枕元に置いてあった赤い箱の中にそっと入れた。
箱の中にはそれ以外にも、この数週間で集めた陽一が自慰で使用したティッシュが大量に入っていた。
「ふふ……お兄ちゃんの精子……」
綾はベッドの上で四つん這いになると、箱に顔を擦り付けるようにして、漂ってくる性臭を嗅いだ。
「お兄ちゃん……」
鼻を鳴らしながら、股間に静かに手を伸ばす。
上体を寝そべらせ、熱い息を吐いた。
「今は……こんなことしかできないけど……きっといつか……」
頬を紅潮させ、目を細める。
「大丈夫……お兄ちゃんは……あんな女すぐに嫌いになるはずだもの……ね? お兄ちゃん……」
声を押し殺し、夕影の差す部屋で綾は静かに自慰に耽った。

452:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:04:13 KZpfkP/i
数日後、綾は夜の街を静かに歩いていた。
綾の前方十数メートルの所には、予備校帰りの女子高生が一人、学校鞄を肩に提げて歩いている。
セミロングの髪を後ろで無造作に束ねた、地味な印象の少女だった。
彼女の名前を、綾は知らない。
ただ知っているのは、自分たちと同じ学校に通っていて、夕里子と同じクラスで学んでいるということ。
休み時間になっても話す友人もなく、机に向かって本を読んでいる、もの静かな人物であるということだけだった。
他にも夕里子のクラスに二、三人似たような人物は居たが、この数日調べたところ、定期的に一人になる時間帯が出来るのは彼女だけだった。
毎週木曜日、予備校の特進クラスで、彼女の帰宅は遅くなる。
帰る時は一人で、人通りの少ない道を通る。
綾が彼女を選んだのは、それらの条件が重なったからに過ぎない。
彼女とは話したこともないし、これといった恨みもなかった。
「気の毒だとは思うけど、これもお兄ちゃんと私の幸せのためだもんね」
綾はズボンのポケットの中で、束ねたストッキングを握た。
どこの店ででも簡単に手に入れることのできる、女性用のナイロンストッキングだ。
先を輪状にして、重みがかかると閉まるように結んである。
いわゆる、クローズドロープと言われる結びだった。
名も知らぬ少女の家は、街外れにある。
家がまばらに立ち、街灯がぽつぽつと立つ寂しい道を歩いて数分、綾は足音を忍ばせて少女に背後から近付くと、首にストッキングの輪をかけ、そのまま後ろに引き倒した。
「……!?」
驚きに、少女は顔を引きつらせる。
肩にかけていた鞄が道に転がった。
少女の尻が地面につかないよう、綾はストッキングの片端を腕に巻き、固定する。
少女は地面に足をつきながら、腰を宙に揺らめかせ、首を吊る形になった。
一秒、二秒と綾は心の中で数える。
少女は慌てたように首を絞めるストッキングを引き剥がそうとするが、しっかりと首に食い込んだそれは、指を割り込ませる隙間もない。
足を踏ん張らせて体勢を立て直そうとしても、綾が少し後ろに下がると、それだけで踏ん張りがきかなくなってしまった。
「……かっ……あ……!」
少女が声にならない声をあげ、綾が心の中で十秒を数え終える頃には、少女は動かなくなっていた。
「ふう……終わりっと」
とりあえず済んだが、のんびりしているわけにはいかない。
綾は少女の死体を引きずって道脇の林の中に運び込むと、適当な高さの枝にストッキングを投げかけて、少女の首をきちんと吊らせた。
綾の身長はそこまで高くないので、手の届く範囲で枝にストッキングの端を結び付けても、少女の足が少し地面についてしまう。
「まあ……自殺の形としては、結構多い型のはずだし、問題ないわよね」
道に転がった鞄を持ってきて、首を吊らせた少女の足元に置く。
さらに少女のスカートのポケットから携帯電話を取り出した。
アドレス帳を開くと、あ行の欄に『お母さん』と登録してあった。
綾は『お母さん』に宛ててメールを打った。

『勉強が辛い。友達もできない。クラスの人には無視される。四辻夕里子にはひどいことを言われた。もうやだ』

そう文面を打って、送信した。
首を吊らせてから既に数分経っている。
「まあ……多分助からないわよね」
もう数分置いて、少女の死をきちんと確認したかったが、長くここにいるのは危険だった。
少女の鞄には『宮入智恵』と名前が書かれていた。
「宮入さん、ね……」
暗闇の中、枝に首を吊った少女の顔を見る。
引きつったままの表情で、虚ろな視線を宙に向けていた。
「ごめんね、宮入さん。恨むなら私と……あと半分は宇喜多縁を恨んでね。あいつが余計なことをしなければ、死ぬのは夕里子さんだけで済んだんだから」
宮入智恵のポケットに放り込んだ携帯電話が、ブルブルと震えていた。
先ほどのメールを心配した母親からのものだろう。
「いいお母さんね……」
少し罰の悪そうな顔をして、綾は背を向けた。
道路に出て空を見ると、薄曇の中に星が見えた。
「まあ……夕里子さんだけ守れば済むと思っているのが、甘いところよね」
くく、と声を忍ばせて笑う。
陽一には買い物に行くといって外に出た。
遅くなった言い訳をどうしようか。
大いに頭を悩ませながら、綾は家路についた。

453:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:05:16 KZpfkP/i
翌日、学校で緊急の集会があった。
校長から短く、本校の生徒が亡くなったことが伝えられ、全校生徒が黙祷を捧げた。
教室に戻ってから、興味本位で話をする生徒たちもいた。
「なんかさ、自殺らしいよ」
「自殺?」
「ああ。俺、朝見たんだよ。その死んだ人の親が来てるの。凄い剣幕で校長室に怒鳴り込んでさ」
「なんで自殺だからって校長室に行くんだよ」
「よくわからないけど、いじめがあったんじゃないかって話だよ」
ひそひそと、囁くように教室のあちこちで会話が交わされていた。
「……死んだ生徒、ユリねえと同じクラスの人なんだって」
「あら、そうなの?」
沈痛な面持ちで言う小夜子に、綾は初めて聞いたという風に、驚きの表情を見せた。
「じゃあ夕里子さん、ショックを受けてるんじゃない? 優しい人だし」
「うん……多分ね」
はあ、と小夜子は陰鬱なため息をつく。
その顔は、どこか疲れているように見えた。
「何か、この学校ってけっこう人が死んでるよね」
「え?」
「だって……春には事故で一人死んでるし……今回も……」
「あー、まあ確かにね。でも世界では二秒で三人は死んでるんだし、そのうち二人がたまたまうちの学校の生徒になることも、十分ありうることなんじゃないの?」
「まあ……それはそうなんだけれどね……こうも立て続けに人が死んでいると、悲しい気持ちになるというか……」
よしよし、と綾は小夜子の頭を撫でた。
「小夜子はいい子ね。やっぱり従姉妹だけあって、夕里子さんに似てるのかしら」
「私はユリねえみたいに他の人のことを考えてるわけじゃないわよ。ただ、もしも自分が当人になったらって想像すると……悲しい気分になっちゃうのよね」
ねえ、と小夜子は勢い良く顔を上げた。
「綾は死なないでね。もしも綾が死んだりしたら……私……」
小夜子の目は、少しではあるが、潤んで見えた。
「まったく……よくわからない想像力ね。小夜子、泣かないでよ」
「泣いてはいないけど……」
「大丈夫、私は死なないわ。まだまだやりたいことがあるもの。小夜子こそ死ぬんじゃないわよ?」
「私が死んだら……綾は悲しんでくれるの?」
「あったりまえだのクラッカーよ。ま、せいぜい二人とも長生きしましょ」
そう言って、綾は力強く笑った。

454:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:06:04 KZpfkP/i
その噂が流れてきたのは昼過ぎだった。
死んだ宮入智恵は自殺する直前にメールを母親に送っていたらしいということ。
そのメールにはいじめを示唆する内容が書かれていたということ。
そして、午前中からずっと、四辻夕里子という生徒が話を聞くために職員室に呼び出されたままだということ。
「メールに、四辻って人になんかされたって書かれてたらしいぜ」
「じゃあ……やっぱりいじめで自殺したのか」
「これって、ニュースとかになるのかな?」
噂は静かに、しかし素早く広がり、昼休みが終わる頃には、全校生徒で四辻夕里子の名前を知らない者はなくなっていた。
「馬鹿馬鹿しい」
と小夜子は噂を切って捨てたが、綾は何も言わなかった。
どこか不穏な雰囲気のままその日の学校は終わり、生徒たちはあまり騒ぎ立てないよう教師から注意を受けて、各々教室を出た。
委員会に行くという小夜子と別れて、綾は昇降口に向かう。
どうやら校長室に押しかけた宮入智恵の両親が、メールのことも喚きたてていたらしい。
さすがに昼ほどではないが、四辻夕里子の名を囁く生徒はやはりいた。。
昇降口を出た綾は、校門を出ようとしている陽一の後姿を見つけ、慌てて後を追った。
「お兄ちゃん!」
呼びかけると同時に、後ろから抱きつく。
その勢いに、陽一は前につんのめってしまった。
「おわ! な、何だ、綾か」
「今帰りなの?」
「ああ、まあ、そうなんだけど……」
下校時間だけあって、周囲にはたくさんの生徒の目がある。
突然陽一に抱きついた綾と、抱きつかれた陽一を、道行く人が興味深げに見ていた。
「……何でいきなり抱きついてるんだよ、お前」
「ふふ……これ、今私たちの間で流行ってる挨拶なの。別に深い意味は無いわ」
綾は笑顔で言って、陽一から離れた。
「今日は一人なのね」
「ああ」
「夕里子さんは?」
「……ちょっと色々あって、遅くなるらしいんだ」
「ふーん」
陽一も当然事情は知っているのだろう。
綾の問いに、何とも言えない複雑な表情を見せた。
二人は一緒に帰ることにしたが、言葉少なく、駅に着くまでも、電車に乗ってからも、最寄り駅から自宅に歩くまでも、あまり会話をしなかった。
ただ黙々と道を歩いた二人だが、近所の大きな公園の脇を通ったとき、綾が口を開いた。
「お兄ちゃん、ちょっと寄って行かない?」
「え……」
「公園に。寄っていこうよ」
その公園は、アキラが浮浪者たちに犯され、命を落とした公園だった。
陽一は躊躇したが、綾は有無を言わさず陽一の手を引き、公園に連れ込んだ。

455:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:17:48 KZpfkP/i
アキラが死んだのはほんの二ヶ月ほど前のことだが、すでに公園は多くの人が平気で訪れるようになっていた。
木がたくさん植わっているおかげで、秋の彩をより身近に感じることができる。
広い芝の運動場では、子供たちが楽しそうにサッカーをしていた。
「元気よね、子供たちは」
「そうだな」
「夕日が真っ赤で綺麗ね」
「そうだな」
無邪気にボールを蹴る子供たちを見ながら、陽一と綾はベンチの脇に佇んで言葉を交わした。
「お兄ちゃん、この公園、覚えてるわよね」
「何がだよ」
「アキラちゃんが死んだ公園だよ」
「……ああ、覚えてるよ。当たり前だろ」
「お兄ちゃん、あの時すごく悲しんでたわよね。それに、自分を怒ってた」
「……まあ、そうだな」
「お兄ちゃんは正義感が強いのよね。ある意味、お母さんの影響なのかしら」
「綾……そんな話をするだけならもう行こう。俺はこの公園にいるのはあまり気が乗らないんだ」
「アキラちゃんのこと、随分引きずってるのね。そんなに悲しいことだったの? そんなに許せないことだったの? アキラちゃんを殺した人達が今も憎い?」
「当たり前だろ。人が死んだんだぞ? 忘れられないし、許せることじゃないだろうが」
憤りを露にする陽一の言葉に、綾は小さく微笑んだ。
「じゃあ、夕里子さんも許せないってことになるわよね」
「……!」
「お兄ちゃんも知ってるでしょ? 夕里子さんが自殺した宮入さんをいじめていたっていう話。
自殺する前に書き残していたんだってね。今日遅くなるっていうのも、その辺の話を聞かれてるんでしょ?」
「……まあ、そうみたいだな」
「いじめて自殺に追い込むのは、人殺しと違うのかしらねえ?」
「夕里子さんがいじめなんてしていたとは思えない」
夕里子の笑顔が思い起こされる。
穏やかな微笑を浮かべ、いつも心配になるくらい優しかった夕里子。
その夕里子がいじめをしていたなんて、到底信じられることではなかった。
「何かの間違い……だと思う」
「ばっかじゃない? 死ぬ前に送ったメールに、夕里子さんの名前がはっきり書いてあったんでしょ? どこをどう間違えるのよ」
綾は、陽一の逡巡を一言で叩き切った。
「別れなさいよ」
「え……」
「別れなさい、夕里子さんと」
「それは……」
「前に聞いたけど、お兄ちゃん、夕里子さんの裏表のないところが好きだって言ったんですってね
でも、ああやって笑ってる裏でいじめなんてして、しかも自殺まで追い込んだとなると……それって、思い切り裏表があったことになるでしょ? 
お兄ちゃんの好きだったところが、全部嘘だったってことになるんじゃない? そうだとしたら、もう夕里子さんと付き合う理由が無いんじゃないの?」
綾の口調はあくまで静かで、冷たかった。
赤い西日が逆光になって綾の表情は見えない。
ツインテールに結んだ髪が、血の中に揺らめく影のように、黒く風になびいていた。
その異様な威圧感に圧されて、陽一は言い返すことができなかった。
「ねえ、別れなさいよ。お兄ちゃんとあの人は合わないわ」
「合わないって……」
「私の知ってるお兄ちゃんは、いい人の皮を被った鬼畜を恋人にするような人じゃないもの」
「綾……お前……言い過ぎ……」
綾は歩を進めて、陽一に抱きつき、その胸に顔をうずめる。
突然のことに、陽一は言いかけた言葉を飲み込んでしまった。
「お兄ちゃん、お願いだから……私を守ってくれたお兄ちゃんのままでいて……あんなやらしい人殺しに穢されちゃ駄目よ」
「……」
「ねえ、もう一度聞くけど、夕里子さんを許せるの? 宮入さんを自殺に追い込んだ、夕里子さんを」
「それは……」

456:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:19:00 KZpfkP/i
陽一は幼い頃に自分の母の壮絶な虐待を目の当たりにしている。
それで綾が死に掛けたことも覚えている。
そんな原体験を持つ陽一にとって、他人を傷つける行為、他人の命を奪う行為は、一般的な倫理観を越えたところで、許されざることだった。
「……許せることじゃないよ。もし……本当にいじめをしていて、自殺に追い込んだとしたら。でもまだ本当に夕里子さんが原因だと決まったわけじゃ……」
「仮にも恋人だから、どうしても贔屓しちゃうのはわかるけどね。死ぬ間際のメッセージを軽んじるのは、死んだ宮入さんがあまりに気の毒じゃないかしら。
絶望して、自ら命を絶とうという時に書いた最後の訴えなのよ?」
「……!」
綾は陽一に抱きついたままで顔を上げ、目で訴えかけた。
「別れてくれるわよね。アキラちゃんのために涙を流したお兄ちゃんなら……私を守ってくれたお兄ちゃんなら……わけもなく他人をいたぶる人を、好きになるはずないものね」
そう、夕里子があの笑顔の裏で級友をいたぶっていたとなると、それは陽一の許容する人物像ではない。
恋愛対象から嫌悪の対象に変わることは間違いなかった。
間違いなかったが―
「別れる……?」
「そう、別れるの。人殺しのいじめっ子が大好きって宗旨変えするなら、それはそれでいいんだろうけどね」
「それはさすがにないけど……」
「じゃあ別れてくれるのね!?」
「そう……だな……許されることじゃないもんな……」
次々と繰り出される綾の責めの言葉に、陽一はついに頷いてしまった。
「じゃあ、今すぐメールを打ってくれる? 夕里子さんに」
「え……? 何も今すぐしなくても……」
「ここからは私の都合になるけど、『級友を自殺に追い込んだ女と付き合ってた男の妹』なんて周囲に認識されると私も困るしね。手早く別れてもらった方がいいわけ」
「……まあ、そうだな。俺だけの問題ってわけじゃないんだよな、こうなると」
陽一はのろのろとした動作で携帯電話を取り出したが、夕里子へのメールを打つ段になってまた止まってしまった。
「どうしたのよ? 文面が思いつかないなら、いっちょ私がすっぱり別れられる強烈なやつを書いてあげようか?」
「いや、いい。自分で打つよ」
しかし陽一の指は動かない。
綾はじっと期待の目で見ているが、数分経っても陽一は動かなかった。
「……ちょっと、お兄ちゃん?」
「ん……ああ、まあ、意外と思いつかないもんだな、別れの言葉って」
これから打つのは夕里子に向けた別れの言葉だ。
凝った文面なんて考えなくてもいい。
書こうと思えばすぐに書けた。
しかし―
(いいのか? 本当に……)

『私……胸を張って陽一さんの恋人だって言えるようになりたいんです』

そう言って恥ずかしそうに笑った夕里子。
綺麗で、冗談だろうと言いたくなるくらい優しくて、一途に自分を想ってくれた夕里子。
いじめは許されることではない。
人の命を奪ったとなれば、なおさらそれは嫌悪の対象になる。
そして、夕里子が死んだ宮入智恵になんらかの嫌がらせをしていたのは―どうやら間違いないらしい。
何しろ、宮入の死の直前のメールがあるのだ。
(でも……)
陽一は携帯電話の画面を見つめたまま、動くことができなかった。
いい加減痺れを切らした綾が陽一の手から携帯電話を奪い取ってしまった。
「あ……」
「私が送ってあげるわよ」
陽一の手を払い、綾が素早くメールを打ち始めたその瞬間、
「支倉君? 綾ちゃん?」
二人のすぐ近くから声がかかった。

457:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:21:18 KZpfkP/i
振り返るまでもなくわかった。
きっちりと編みこんだ三つ編みの髪に、一切崩すことなく着こなした制服。
眼鏡の少女は、小首を傾げて陽一と綾を見つめていた。
「宇喜田……」
「あら、縁さんじゃないですか」
縁は嬉しそうに手を振って、二人の元に駆け寄った。
「あはは。よかった。人違いだったらどうしようかと思ったよ。西日がきついねえ、この公園は」
「……縁さん、こんなところにどうしたんですか? お家とは別の方向ですよね」
「ちょっと支倉君に用事があってさ。今から家にお訪ねしようかと思ってたんだ」
「何の用事ですか?」
「夕里子ちゃんについてお話があって」
綾は舌打ちをしたくなったが、努めて平静な声を出した。
「そうですか。後で聞きますから、近くの喫茶店で待っていてください。今、兄と大切な話をしていますので」
「夕里子ちゃんに関することだよね? だったら私も混ぜてほしいんだけどな」
「家族としての話し合いですので、ご遠慮願えますか?」
「何か迷ってるようだったら、別の意見も聞いてみた方がいいと思うけど?」
言って縁はちらりと陽一の顔を見た。
いつもの朗らかな笑い顔。
眼鏡の下の瞳には、知性のきらめき。
そして、陽一を見つめる眼差しからは、『力になる』という確固とした意志が感じられた。
陽一の沈んだ表情が、みるみるうちに晴れていった。
「……綾、宇喜多にも話を聞いてもらおう」
「お兄ちゃん!?」
「宇喜多は俺やお前よりも、夕里子さんのことを知っているわけだし、話を聞くのは悪いことじゃないだろう」
「う……」
前回のちゃちな自転車への細工とは違う。
人を一人殺してまで打った、夕里子を陥れるための罠だ。
死に際して残した言葉というのは、日常口にする言葉の何倍も重く見られる。
『自殺した』宮入智恵は、四辻夕里子の名前を残したのだ。
学校や死んだ宮入智恵の親は夕里子を追及する流れになっているし、全校生徒も、四辻夕里子が何かしたのだろうと考えている者が多数だ。
四辻夕里子の名は、級友をいじめの末自殺に追い込んだ生徒として、定着しつつある。
例え縁であっても、挽回の余地はないように思えた。
(でもこの女は……)
油断ならない。
できれば縁を関わらせないうちに、陽一と夕里子を別れさせてしまいたかった。
「……話なんか聞く必要ないでしょ? これまで人前でどんな振る舞いをしてきたにせよ、宮入さんを死に追い込んだ事実に変わりはないんだから。後はお兄ちゃんからメールを送っておしまいよ」
「それは違うんじゃないかな?」
綾の言葉に、陽一に代わって縁が答えた。
「夕里子ちゃんが悪いなんて言い切れないでしょ?」
「お前には言ってない!!」
綾は目を見開いて、縁を睨みつけた。
射殺さんばかりの視線を、縁は笑って流した。
「はは。まあ、私も支倉君に言ってるだけだから、お互い気にせずいこうか」
「ここに居るだけで邪魔なのよ! あんたは!!」
「二人にとってお邪魔なら居なくなるよ」
縁はまた陽一を見る。
「話を聞かせてくれ」
はっきりと、陽一は言った。
「というわけで、支倉君に話をするから、ちょっと我慢していてね」
「この……!」
「あはは。うーん、綾ちゃん怒ってるね。できれば綾ちゃんにも綾ちゃんにも聞いてもらいたいんだけどな。考えが変わるかもしれないし」
「何をどうすれば変わるのよ。夕里子さんのせいで宮入って人が死んだのは間違いないんでしょ?」
「そうとも限らないよ」
ふん、と鼻で笑って、綾は縁を見据えた。
「遺書が残ってたのよ? それで親御さんが学校に怒鳴り込んできたんじゃない」
「遺書って言ってもメール遺書だからね。本人が書いたとは限らないし」
「へええ、また面白いことを言うのね」
「うん、これは今さっき綾ちゃんを見て閃いたことだから、本当に単なる思い付きだけど」
「私を?」
縁は綾が手に握った陽一の携帯電話を指差した。

458:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:26:01 KZpfkP/i
「ほら、綾ちゃん、今支倉君の代わりに夕里子ちゃんにメールを送ろうとしていたでしょ? それと同じことができるじゃない」
「……!」
「メール遺書なんて、そんなものだよ」
「……あなた、自分が何言ってるかわかってるの? 本人以外がメールを送ったんだとしたら、それは……」
「そうだね。自殺じゃないね」
「警察も自殺だって言ってるんでしょ? それが間違ってるっての? さすがに妄想が過ぎると思うけど」
「あはは。突飛だと自分でも思ってるよ。でも警察も人間の集まりだから、間違えもするし面倒くさがりもするよ。自殺の形になってれば、適当にしか調べないからね。……でもまあ思いつきだから、忘れてね」
置いといて、と物を除ける仕草をして、縁は話を続けた。
「宮入さんが自殺したのはまあ間違いないとして、メール遺書も宮入さんが送ったとしても、本当に夕里子ちゃんが悪いのかどうかは、それとは別問題だから」
「は? 名指しされていてどうしたら別問題になるのよ? あんたも身内贔屓が過ぎるんじゃないの?」
「身内贔屓っていうか、信頼の問題だよね」
「どう違うのよ、それは」
「ちゃんとした理屈があればそれは信頼の問題になって、理屈がなければ単なる身内贔屓だね」
「はー、いちいち仰ることが違うわね。何よ、夕里子さんが悪くないっていう理屈があるって言うの?」
綾はもはや敬語など抜きで、縁に素のままでぶつかっていた。
縁は気にした様子もなく綾と陽一の顔を交互に見ながら話をし、陽一はただ黙って話を聞いていた。
「殺す意図があった場合と殺す意図が無かった場合とで、殺人の罪も重さが違ってくるのは知ってる?」
「まあ、そんな話を聞いたことがあるわね」
「例えば、殺す意図が無くて、百人が見たら百人とも『人の死に繋がるわけは無い』と思う行動をして、その結果人が死んでしまったら、それはその行動をした人が悪いのかな?」
「……言ってる意味がわからないんだけど」
「夕里子ちゃんが宮入さんに『頑張ってくださいね』と声をかけて、その結果宮入さんが自殺したのだとしたら、それは夕里子ちゃんが悪いのかな、ってことだよ」
言葉の捉え方は人それぞれ。
精神状態によっても大きく違ってくる。
メールには『ひどいことを言われた』としか書かれていなかった。
「本当に何気ない一言や単なる挨拶を、不安定な精神状態だった宮入さんが『ひどい言葉』に変換しちゃっただけってこともあるんだよ。その場合、声をかけた人が悪いのかな?」
「……勝手に死んだ人間が悪いと、そう言いたいのね」
「言い方は悪いけど、ぶっちゃけるとそうなるね」
さすがに決まり悪げに縁は笑った。
「……全部縁さんの想像でしょ? それこそ、夕里子さんが陰に隠れてひどいことを言い続けていた可能性だってあるんだから」
「一応色々聞きまわったけど、誰もそんな様子を見た人がいなかったからね。
元々友達の居ない子だったみたいだけど……どんなに隠れるのがうまい人でも、まったく他人に気取られずに人を害するのは至難だよ。
私は、夕里子ちゃんは責められるようなことはしていなかったんだと思うよ。まあ、このあたりが最初に言った信頼の問題になってくるわけだけど……理屈は通ってるでしょ?」
「仮にあなたの言うことが正しかったとしても、夕里子さんが宮入さんの自殺のきっかけになったことに変わりは無いんじゃない」
「その辺は、誰もが可能性のあったことだからね。運の悪い宝くじに当たったようなものだし、私はどうでもいいやって思うけど、これは人によるかな」
ということで、と両の手を叩いて、縁は陽一に向き直った。
「夕里子ちゃんを信頼するのが私の意見、夕里子ちゃんを信頼しないのが綾ちゃんの意見だよ。どっちも理屈としては同じくらいのものだから、後は本当に、夕里子ちゃんを信じるか信じないかってだけ。
私も夕里子ちゃんの知り合いじゃなかったら、ひどいことする人だなあ、で終わってただろうしね」
言い終えて息をつき、縁はいつもの笑いを浮かべた。
「後は支倉君次第。夕里子ちゃんを信じるかどうか選んでね」

459:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:26:50 KZpfkP/i
「俺次第、か……」
考え込む陽一を、綾は苦々しい表情で見た。
後は夕里子を振るメールを送るだけという状況だったのに、二択にまで押し戻されてしまった。
そして、縁は自殺についてまで疑いを抱いていた。
(この女はどこまで……)
危険を冒してでも殺さなければならないのはこの女なのかも知れない。
しかし、今まで出会ったどの女とも、縁は明らかに質が違った。
縁は小首を傾げたままで、考え込む陽一を見つめている。
やがて陽一は、縁に向かって問いかけた。
「宇喜多、お前は、夕里子さんを信じるんだな」
「うん」
「……俺も信じるよ。まあ、出会って数週間の俺が信じるなんていうのもおこがましいけど……俺の見てきた夕里子さんと、夕里子さんを信じる宇喜多を信じることにする」
「お兄ちゃん!?」
愕然として、綾は陽一を見た。
「お兄ちゃん……私よりも、縁さんの言うことをとるの? 私のことは信じないって言うの?」
顔から血の気が引き、膝ががくがくと震える。
傍目に見ても、普通ではない反応だった。
「綾……?」
「何で……何でそうなるのよ! 何で……!」
「おい、綾、別にお前を信じないとかじゃなくて……」
「うるさい! 馬鹿!」
綾は陽一を平手で殴りつけた。
乾いた音が響く。
そのまま綾は顔を伏せて駆けていってしまった。
「綾!」
陽一は慌てて鞄を持ち、走りだそうとして、縁に向き直った。
「宇喜多、すまん! 俺、綾を追うから……」
「うん、いいよいいよ。夕里子ちゃんのこと、後でちゃんと励ましてあげてね」
「ああ。それと、綾のこと、ごめんな。別にあいつも悪気があるわけじゃなくて……」
「わかってるよ。綾ちゃんは支倉君のことが大好きでだから、心配なんだよね、きっと」
「……ありがとうな」
今度こそ陽一は駆け出す。
綾はすでに公園を出て、その姿はなかった。
一人残された縁は、陽一の後姿に向かって呟いた。
「こちらこそ。信じてくれて、嬉しかったよ」

460:赤の綾  ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:27:35 KZpfkP/i
綾は家に帰ると、部屋に閉じこもり、ベッドに伏せて泣いた。
すぐに後を追ってきた陽一も帰り着き、綾の部屋の戸を叩いた。
「綾! おい! ちょっと話を聞けって!」
「何よ……」
扉の向こうから聞こえる声はくぐもり、震えている。
泣いているのだとすぐにわかった。
「……余計なこと言って悪かったわね……っ……もう、夕里子さんとでも縁さんとでも、勝手に仲良くしてなさいよ」
「綾、さっきのは夕里子さんを信じるか信じないかって問題で、お前を信じるかどうかとは違うだろ。落ち着いてくれ」
「……お兄ちゃんは……私なんかより、縁さんがいいんでしょ」
「宇喜多を信じるって言ったのは、お前と比較したわけじゃない。夕里子さんを信じる理由の一つとしてという意味で……」
「例えば……変な話だけど、私が夕里子さんと同じ立場になって……縁さんが私の味方をしてくれなかったら……お兄ちゃんはどうするの?」
「どうするも何も……俺はお前の味方だよ。兄妹なんだから、当たり前だろ」
「……」
部屋の中から聞こえていた嗚咽が小さくなっていく。
しばらくして部屋の戸が開き、目元を赤くした綾が部屋着に着替えた姿で現れた。
「綾……」
「……」
「えーと……」
ぼんやりと、綾は陽一に顔を向けた。
「夕里子さんとは、別れないのね?」
「まあ」
「お兄ちゃんにも、よくない噂が立つかもしれないのよ?」
「ああ」
綾は細くため息をついた。
髪は解れ、荒んだ目をしていたが、だいぶ落ち着いた様子だった。
「……所詮、妹の心配なんて、余計なものよね」
「いや、ありがたいとは思ってるよ。ちょっと過激かなとも思うけど」
「……もういいわ。今回のことは、好きにすれば?」
腕を回し、コキコキと肩を鳴らしながら、綾は陽一の脇を通り過ぎた。
「さあて……今度はどうしようかしらね」
「え?」
「料理よ。最近つくねが多かったから。今度は何が食べたい?」
「ああ……別に何でもいいよ」
「そう」
綾が階段を下りるのを追って、陽一も階下に下りた。
開いたままの綾の部屋の扉がゆらりと動き、軋んだ音を立てる。
部屋の中には枕が一つ、綿を撒き散らし、包丁の突き刺さったままで転がっていたが、陽一がそれに気付くことは無かった。

461: ◆5SPf/rHbiE
07/07/08 04:31:02 KZpfkP/i
今回の投下は以上です。
気付いたら総量194kb……。
終わりまであと2+3話くらいはかかりそうです。
お付き合いください。

462:名無しさん@ピンキー
07/07/08 05:34:46 a6WC0Eh6
欲を言えばもっと続いて欲しいです(●´∀`)
けどペース乱さず最終話まで書き切っちゃってください!

463:名無しさん@ピンキー
07/07/08 06:00:32 D1MyYW3q
綾ヤバいwww
最後どうなるかメッチャ気になるわwww

これは籠の中に続く大作だ

464:名無しさん@ピンキー
07/07/08 09:23:58 ju5UzgFM
綾は何人闇に葬れば気が済むんだよwwww

465:名無しさん@ピンキー
07/07/08 09:41:45 LgknxXfP
しかも今回の被害者は兄と全く関係ないwwwwww

466:名無しさん@ピンキー
07/07/08 09:58:07 Y/Iq7uTS
毎回クオリティー高く、楽しみに読ませてもらってます。
それにしても、縁の登場の仕方と推理が前回よりもグレードアップしててそこも楽しい。

次回以降の殺人鬼綾VSホームズ縁の推理対決も楽しみです。
結末も全然予想がつかないですし、次回以降も楽しみにまっています。

467:名無しさん@ピンキー
07/07/08 10:11:02 3GCxFgQm
>>461
綾タンキタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n’∀’)n゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!

渾身のGJ!!それにしてもクオリティ高杉・・・綾には幸せになってほしいなぁ・・・

468:名無しさん@ピンキー
07/07/08 10:12:03 HOveF3j2
>「あったりまえだのクラッカーよ。ま、せいぜい二人とも長生きしましょ」
人を殺した翌日なのにこの余裕・・・!綾・・・恐ろしい子!!!!

469:名無しさん@ピンキー
07/07/08 11:39:36 zRaM5r7X
てなもんや三度笠か
何歳だ?




綾・・・恐ろしい子!!!!

470:名無しさん@ピンキー
07/07/08 13:11:42 V29dWWrW
縁空気嫁

471:名無しさん@ピンキー
07/07/08 16:30:33 bTnnoQFb
犯人の側から見たバーローはちょうど縁みたいな感じなんだろうなぁ。

472:名無しさん@ピンキー
07/07/08 17:09:25 NKFo+Z42
正直、緑と夕里子を応援してしまっている…
今回は被害者可哀想過ぎるだろ…


473:名無しさん@ピンキー
07/07/08 17:20:52 YWoUJSNi
GJ!!
しかし縁は最終的に兄を手に入れようとしてるかしてないかで私的には印象がぐっと変わるな
本当に夕里子とくっつけようとしてるだけだったら人の恋愛に少しでしゃばり過ぎな感じがある

474:名無しさん@ピンキー
07/07/08 17:48:22 LgknxXfP
>>473
まあ普通の恋愛だったらでしゃばり過ぎなのかも知れないけど
腹黒殺人キモウトが暗躍してるこんな世の中じゃ

475:名無しさん@ピンキー
07/07/08 18:03:39 91JnsrU0
まじ読みごたえあるわー
これホラー映画にできるだろ

476:名無しさん@ピンキー
07/07/08 18:48:27 FMnwxHWX
綾KOEEEEEEEEE!もはやキモウトなどと言う言葉すら生ぬるい!
しかしながら言わしてもらう。
GJです!!!!!!!次回を楽しみにお待ちしています!

477:名無しさん@ピンキー
07/07/08 21:03:42 aIDyVIsj
綾たん暴走しすぎ。もちろん性的な意味で

478:名無しさん@ピンキー
07/07/08 21:31:33 RyQ9ccLE
>>461
そろそろ綾タンが恋しくなってきたなぁと思っていた頃に投下ktkr!!!

あー、相変わらず綾タンは素敵だ。
縁タンの推理というか、話の展開のさせ方もいいね。
はてさて、どうなることやら。
残り2~3話とのことだけど、楽しみに待つ!


だが、不満が!!
オナニーティッシュでハァハァする綾タンをもっと見たかったぞっ!!!

479:名無しさん@ピンキー
07/07/08 21:37:08 XDONWaxu
2+3だからあと5話くらいなのでは?あとゆかりかえにしか教えてほしい

480:名無しさん@ピンキー
07/07/08 21:42:33 V29dWWrW
だれか綾タソのイラスト描いて下さい><

481:名無しさん@ピンキー
07/07/08 21:46:58 TG/VQIph
>>479
同意
ある程度読み進んでから読み方が違う事に気がつくと修正が難しかったりするよねw

482:名無しさん@ピンキー
07/07/08 21:49:47 DPq9hQ2E
兄を悲しませたり苦しませたりした人間に、兄にかわって復讐する話も読みたいな
1話目みたいな感じの

483:名無しさん@ピンキー
07/07/08 22:37:29 XMEKrp2g
これはキモウトに萌えるスレだったはずなのに
何故か夕里子とくっついてほしい俺ガイル
何故だろう・・夕里子が凄いいい子なのと綾がマジで怖くなってきてるからだろうな
とにかくこれは期待だな


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