07/08/19 06:46:42 wHOhs63M
一フロアまるまるのスイートなんてのは播磨の想像にはない。
キョロキョロしながら愛理に尋ねている。
「お? なあお嬢。部屋ってどこ―」
しかし播磨の声は愛理の唇で遮られる。
播磨の首筋に腕を廻したお嬢さまが、その唇を奪っていた。
「なっ―」
あまり公共の場所で女といちゃつくのはカッコ悪いことだ、なんていう古風な男性感の持ち主の
播磨はそれに抗おうとする。
「…こんな、とこ……でっ」
言葉を発する暇もない。
再び金髪のお嬢さまの唇が、播磨の口をふさいでいた。
プレジデンシャル、と名の付いたスイートルームのエントランスにはこれまた豪勢な
本革張りのソファが置かれていた。
愛理は播磨の胸元にぶら下がるように抱きつくと、ベッドルームに行くのすらもどかしいのか、
その大きなソファに播磨に抱きついたまま倒れこんだ。
「バ、バカッ! こんなとこで、誰か来―」
播磨は愛理の唇で言葉を封じられる。
唇を割って舌が播磨の口内に入り込んできる。
播磨の舌に愛しげに激しく絡みつき、じゅううう、と音を立てて唾液が吸引される。
「誰も、来ないわ。 ここ、一フロア、貸しきり、だから」
うまく呂律の回らない愛理は、押し倒した播磨の身体の上から
熱に浮かされたような瞳で恋人の目を見つめる。
その瞳が嬉しそうに歪むと、再び播磨にキスが降ってくる。
「ヒゲ………ヒゲぇっ……ケンジ……」
よほど感極まったときにしか呼ばない、その呼び名。
愛理は播磨の名を呼びながら、涙ぐみながら何度も何度もキスの雨を降らせる。
その熱に浮かされたような顔と、目の色に播磨は魅入られる。
だから播磨は押し倒されたまま、金色の愛しい少女がキスしてくるのに任せていた。
サテン地のロンググローブが播磨の頬を這う。
蝶ネクタイを解き、震える指で播磨のシャツのボタンを外していく。
むき出しになった筋肉質の播磨の胸に愛理は口付ける。
愛しい男の胸にキスの雨を降らせながら、愛理はショーツの中が熱く蕩けてきているのを感じる。
唇で逞しい胸の筋肉を感じるだけで愛理は感極まっていく。
傷だらけの肌に口付けをするだけで、切なくて甘くて大切な想いが胸の中からあふれ出てくるのがわかる。
その甘い甘い波動は、愛理を素直な女の子に変えていってしまう。
播磨は戸惑いながらも興奮してしまっていた。
薄く淹れた紅茶の色の愛理の瞳が、うっすらと涙を湛えたまま播磨の顔を見上げてくる。
何かに酔ったようなそんな目は、播磨の胸をジリジリと焼き焦がすように熱くさせていく。
お嬢さまの発情したような上気した表情は、播磨の心の琴線に触れてしまう。下半身に血が集まりだす。
充血してよりふっくらした赤い唇が播磨の傷だらけの胸に優しく触れていく。
言葉にできないような感覚が胸の中に広がってくる。
このお嬢さまが感じている愛しさみたいなものが、播磨にはわかってしまう。
どんな想いでキスしているのか。どう思って自分の胸に口付けしてくれているのか。
肌に触れた唇から、播磨は愛理の心がわかるような気がした。