嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その36at EROPARO
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その36 - 暇つぶし2ch550:名無しさん@ピンキー
07/07/08 01:10:13 k0DzKGSG
>>549
gjです。
無理せず自分のペースで行くのが一番だとおもいますぜ?


551:名無しさん@ピンキー
07/07/08 01:21:08 PHr8gZeQ
>>549いつも乙です。

確かに最近は投下が無くて「〇〇マダー?」状態だけど、
そんな状況だからこそ、書き手自身が納得いく作品が読みたい。
締め切りがあるわけでもお金が出るわけでもないし、
書き手さんはマイペースで頑張って下さいな。

552:名無しさん@ピンキー
07/07/08 01:27:01 F4XHuU44
>>550-551
お前らいいやつだな

553:名無しさん@ピンキー
07/07/08 03:36:38 Sv2bRwMQ
GJ
いきなり修羅場が発生しそうでwktkだよ

554:名無しさん@ピンキー
07/07/08 07:45:20 KYrqo9q4
>>526
密リターンズの探偵編を思い出した。あれ、原作スキーには割と評判悪いけど、ヤンデレだと考えると結構いい感じだよねw

555:名無しさん@ピンキー
07/07/08 13:01:19 sDhFMY7V
>>549
だんだん衰退してきてるスレだから投下してくれるのはうれしいよ・・・
GJ!!

556:名無しさん@ピンキー
07/07/08 13:21:53 D0RSFBpp
何で衰退するはめになったんだろうね

557:名無しさん@ピンキー
07/07/08 14:12:48 m1+H7nC/
m9(・∀・)

558:名無しさん@ピンキー
07/07/08 14:48:43 5/pocnGS
>>556-557
ワロタw

559:名無しさん@ピンキー
07/07/08 14:49:50 fZ/9jZ6w
>>556
衰退じゃないよ。
普通にヤンデレスレやらキモ姉スレやらそっちが立ちあがったんで
分散化されただけだよ。

560:名無しさん@ピンキー
07/07/08 15:02:05 JLv/+RFX
嫉妬のレベルが上って展開として刺したりするシーンがある→ヤンデレへ
嫉妬するのが近親→姉妹スレへ
適度な嫉妬のある純愛物・・・・→ほのぼの純愛スレへ

で、ここでは何をかけばいいの?w

561:名無しさん@ピンキー
07/07/08 15:27:33 q8Akrs2P
言葉様のような天然培養のお嬢様がま(ryのようなヘタレに恋をするわけなのだが・・
その男はあっさりと捨てられてるような話でも書いたら?

562:名無しさん@ピンキー
07/07/08 15:36:23 PFBJzJt8
うーん?それは嫉妬とか三角関係はどうなるんだ?
男が嫉妬する側か?

563:名無しさん@ピンキー
07/07/08 18:20:39 a0xC2c2O
>>560
嫉妬のレベルが通常より高いが特に病むというわけでもなく近親者でもない女性との恋、のスレ

564:名無しさん@ピンキー
07/07/08 18:21:26 BGgPAX2g
>>560
オールマイティ
嫉妬・三角関係・修羅場が含まれる全てのSSをカバーするのがこのスレ

565:名無しさん@ピンキー
07/07/08 18:48:39 Bpz/VTMm
つまり器用貧乏なスレってことですね

566:名無しさん@ピンキー
07/07/08 19:00:23 p8okpkS/
>>560
ほのぼの純愛はVIP発祥だからな・・・、あまりお勧めしない


567:名無しさん@ピンキー
07/07/08 19:07:55 sDhFMY7V
>>566
それでもなかなか質がいいと思うよVIPとしては

568:名無しさん@ピンキー
07/07/08 19:09:34 c7ppdZqg
>>566
そのお勧めじゃないスレにまで職人の助けを求めに行ったこのスレって一体・・・

569:名無しさん@ピンキー
07/07/08 19:14:05 yTTjRqHy
>>568
てかさ…あんなAA貼ってる事に悪意を感じるのは俺だけかね?
俺はまったりやってきゃいいと思うけどね

570:名無しさん@ピンキー
07/07/08 19:16:06 yTTjRqHy
ごめん…ageちまった

571:名無しさん@ピンキー
07/07/08 19:19:01 c7ppdZqg
いや、職人不足っつーんならたまにageるぐらいで丁度いいんじゃないか?

>>569
まあニダだったしなw

でもどういうのを投下すればいいのかわかりづらいのは事実だと思う
嫉妬を思いっきり出したらヤンデレとかキモ姉の方が食いつきよさそうだしね

572:名無しさん@ピンキー
07/07/08 19:20:33 /kk3z3fv
まぁ、阿修羅さんが保管してるまとめサイトがあるんだし
投下が無い時は過去の作品でマッタリ

573:名無しさん@ピンキー
07/07/08 19:22:54 Q/YrA/+K
>>569
他スレにここの事情や話題を持ち込むのは
スレ違いだろうしなあ。
逆もそうだろうし。

574:名無しさん@ピンキー
07/07/08 22:19:57 sDhFMY7V
しかしまさかこのスレが支援以来するとは・・・
ちょっと前じゃありえなかったなww

575:名無しさん@ピンキー
07/07/08 22:21:44 LAFgO9Nl
        <ゝ -‐ '´ ̄ ̄`ヽ、;⌒ヽ__
       //         <::::::/
       レ//, // i ヘ ヾ 、  、 ヽ>嫉妬されるよりも嫉妬したいぜマジでw
        〃 {_{レヘノ iルリル| l │ i||ちょっとドジっ子で頼りない私だけど
       .レ!小l●    ● 从 |、||悲しみの天使 まだ迷うけれど
.        ヽ|l⊃ 、_,、_, ⊂⊃ |ノ| |彼の足跡を追い続けていたい!!
.     /⌒ヽ. |ヘ   ゝ._)   j /⌒i |
     \.   | l>,、 __, イァ/  /| |
       \ | |::::ミ(二)彡::/  ∧|  |
         ヽV( 二二二 (  /:::::ノ ノノ


576:名無しさん@ピンキー
07/07/08 23:52:08 YPF3joz3
メモ帳漁ってたら、SS書こうとしたが冒頭部だけ書いて限界を感じて何ヶ月も放置プレイにしてたものを見つけた。





「お願いです……捨てないで下さい。二番でも三番でも何番でも構いません。ですから、どうかあなたの傍に居させて下さい……」
 俺の前で跪いている水島可憐(みずしま かれん)が涙で頬を濡らしながら、必死に欲しい物を親に強請っているガキのような潤んだ瞳で見上げてくる。正直鬱陶しい。
 世の男が皆泣き落としなんかに引っ掛かるとでも思っているのかね。ムカつくな。
「どうして!? 君はまたボクに嘘をついたのか? 昨日言った『元彼女とは別れた』という言葉は偽りだったというのか!」
 可憐の物分りの悪さに頭を抱える暇も与えず、俺の隣で笹谷亜子(ささや あこ)が電車内で傍若無人に騒音を撒き散らす女子高生集団のような耳障りな声で喚いてきやがった。
 そんな耳元でぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねぇ。鼓膜が破けるだろうが、クソが。
「亜子ちゃん、誤解だよ。僕は水島さんとは先日別れて……」
「そんな……! どうして”水島さん”なんて他人行儀な呼び方をするんですか!? ちゃんと”可憐ちゃん”って言って下さい! あの日ベッドの上で優しく囁いてくれた時のように……!」
 チッ、可憐の奴、余計なことを! そんなこと言いやがるから、亜子が怒りに肩震わしちまってるじゃねぇか。
 これをどう鎮めるつもりだ? どうせ俺に一任するつもりなんだろうな。
 付き合っていた時もお前は俺の背中を追ってくるだけだったからな。
 俺に意思決定を委ねて、常にそれが正しいと信じて行動していたよな。
 言っておくが、主人の後をつけるだけなら馬鹿な犬にだってできるんだぜ?
「君……! こんな女と寝たのか!? 君はボクの前で笑顔を取繕っておきながら裏ではそんな行為に及んでいたのか! どうしてだ!? ボクは君の為なら何だってする覚悟だというのに、そのボクとじゃなく何でそんな女なんかと……!」
 はぁ……面倒だな。一度怒った亜子は中々収まってくれない。
 特に女絡みのトラブルだとこいつはいつも以上に声を荒げヒステリックに自分がどれだけ俺のことを愛しているだとかを叫んでくる。
 何だ、お前は大声出さないと他人に意見を伝えることができないのか? もうちょっと落ち着けってんだよ。
 せっかく「好き」って言ってくれるなら、もっとムードを大事にして欲しいね。

 ―まぁそれにしても、どうして可憐と亜子はどちらも人の話を聞こうとしないのかね。




うん、「優柔」のゆう君が大好きなんだ……

577:名無しさん@ピンキー
07/07/08 23:53:16 YPF3joz3
sage忘れた……




先輩に刺されてくる……

578:名無しさん@ピンキー
07/07/09 00:43:51 pMSXuSn0
>>577
おまえだけに良いカッコさせるかよ

579:名無しさん@ピンキー
07/07/09 01:51:06 z6QegtOo
>>577
主人公いらつきすぎwww

何があったんだよw

580: ◆Xj/0bp81B.
07/07/09 03:24:02 Lk4mYvcy
投下します。

581:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/07/09 03:30:00 Lk4mYvcy

澄香が見る悪夢といえば、昔から決まっていた。それは過去の記憶の回忌。以前住んでいたマンションの一室での一夜の事。
あの男が図う図うしくも夢の中にまで出てきて、澄香をボロボロに汚すのだ。痛くて怖くて、体中が悲鳴を上げて、
頭がグシャグシャになって、狂う寸前で目が覚めて、そして絶望する。現実が、悪夢と地続きである事に。
しかし、そんな悪夢はもう見なくなった。
澄香の中で、悪夢の形が変わっていたのだ。もう過去の記憶が蘇る事はない。あの男も出てこない。
だけど、代わりに見る悪夢は、ある意味それ以上に地獄だった。
それは最愛の翔に自分が捨てられて、再び独りに戻ってしまう夢。夢の中で誰かが、翔をさらっていくのだ。
そんな過去の記憶の回忌とは違う悪夢を見初めたのは、あの女が澄香の前に現れてから。そして、夢の中で翔を奪っていくのは、
澄香を体育倉庫に呼び出したあの女だった。
あの女が、我がもの顔で翔の横に居座り、当たり前のように手を繋いだり、キスしたり、あまつさえはセックスまでして、
澄香から翔を盗んでいく。その目の前で繰り広げられる痴態に耐えきれなくて、必死に自分の存在を訴えても、翔は澄香を見てくれない。
何も出来ない。泣こうがわめこうが、叫びは翔に届かない。
いつもは翔とお弁当を食べていた昼休みも、ふと気付けば独りに逆戻りしている。昔は何とも思わなかったのに、
もうその寂しさに耐えきれなかった。寂しくて、悔しくて、そしてそのときは目が覚めた。はね起きて、全てが夢であった事に安心した。
だけど、それからというもの、同じ悪夢を毎日見るようになった。毎日毎日、あの女が翔を奪っていく夢を見るのは、拷問以外の何物でもなく、いつしか寝るのが怖くなった。


582:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/07/09 03:32:54 Lk4mYvcy

しかし、ある時を境にあの女は出てこなくなった。悪夢の中に現れたのは別の女だったのだ。
信じられなかった。澄香から翔を奪っていったのは、叔母である水樹由美だったのだ。ずっとずっと信じてた由美が、
姪の恋人を寝取っていく。
─お願い、捨てないで。
必死に叫んでも、翔はもう澄香を見てくれない。彼は由美しか見ていない。そして、澄香はそのときの由美の顔を見て、
恐怖する。翔を見つめるその顔は、澄香が見た事のない「女」の顔だった。
今まで気付かなかった。由美が、あんなに魅力的な女だったなんて、自分なんかよりずっとずっといい女だったなんて。
しかし、そんな由美も、最近は夢の中に現れなくなった。悪夢を見なくなったわけではない。ただ単に、
女が誰か分からなくなったのだ。
最近では、年上、年下、綺麗、可愛いい、そんな様々な形容詞にピッタリ合う女が、悪夢を見る度、まるでサイコロの目のように、
コロコロ変わっていく。変わらないのは、必ずその誰かが澄香から翔を奪っていき、胸が締め付けられるような寂しさで目を覚ます事だった。
そして、今回の女は、少し年上の優しそうな女性だった。柔らかく涼しげな顔立ちに微笑みを携えて、
彼女は見慣れた教室の一角で翔と話している。
─やめてよ。
そんな叫びも彼等には聞こえない。
楽しそうに、彼等は談笑し続ける。やがて、女が恥ずかしそうに、翔の肩に頭を預けた。そして、二人は見つめあい、
次第に顔の距離が近付いていく。
─やめてっ!!!
何なの? あの女は。どうして私の場所を取るの?
どす黒い感情が、胸の中で渦をまく。


583:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/07/09 03:34:13 Lk4mYvcy

許せなかった。あの名前も顔も知らない女が。
許せなかった。馴れ馴れしく翔に触るあの女が。
そして、何より許せなかったのは、楽しそうに女と言葉を交す翔だった。
声にならないのは分かっている。翔に聞こえないのは分かっている。ここは夢の中なのだ。
だけど、叫ばずにはいられなかった。


─私の前で、そんな楽しそうな顔してくれた事ないじゃないっ!!!




584: ◆Xj/0bp81B.
07/07/09 03:37:45 Lk4mYvcy

投下完了です。
何とか書き上がりました。短いですが……。
ただ、推敲不足なので、誤字脱字があるかもしれませんが、そのときは指摘して下さい。
続きは書き上がり次第投下します。


585:名無しさん@ピンキー
07/07/09 03:40:01 MM/D8X7f
リアルタイムGJ!!
続きにwktk

586:名無しさん@ピンキー
07/07/09 05:10:41 Eq+STOKp
GJ!


何かすみかって全てを他人のせいにするって感があるな。
ヤンデレっていうよりメンヘラっぽい。

587:名無しさん@ピンキー
07/07/09 12:44:08 ps+4AGWH
>>586
どれだけタチの悪いメンヘラでも修羅場は形成できる。スレ的にはそんな間違ってない。





オ レ は 嫌 い だ け ど

588:名無しさん@ピンキー
07/07/09 12:45:20 ps+4AGWH
下げ忘れた

589:名無しさん@ピンキー
07/07/09 13:06:55 kRznba+Y
(´;ω;`)すみかかわいそう

590:名無しさん@ピンキー
07/07/09 13:20:16 Y/jhanjp
GJ
正直翔はすみかと付き合う覚悟が出来てない感じがしてたけど今後どうなっていくのか楽しみです

591:名無しさん@ピンキー
07/07/09 17:52:59 9iI197qb
こりゃ、鮮血が来るかもな・・

592:名無しさん@ピンキー
07/07/09 18:08:29 lkIifRi4
投下支援しようと思って色々アイディア捻ってるんだけど
どうも、ヤンデレになってしまう・・・
そんな俺は根っからのヤンデレズキー・・・orz

593:名無しさん@ピンキー
07/07/09 19:39:17 9iI197qb
>>592
投下しても、俺達は飢えているので喰い付きますよww

594:名無しさん@ピンキー
07/07/09 21:00:17 Ybi/7lN8
ヤンデレでいいならちょっと書いてくる

595:名無しさん@ピンキー
07/07/09 21:32:17 Eq+STOKp
>>592
心配しなくても大丈夫!
ヤンデレを書こうと思ったところで大抵ただの電波になるから。

596:名無しさん@ピンキー
07/07/09 22:13:23 VItZtUXo
ここってエロなしOK?

597:名無しさん@ピンキー
07/07/09 22:15:12 rGmh9XRB
>>592
上に書いてあるように嫉妬・三角関係・修羅場があるならokかと
てかwktkしてます!

598:名無しさん@ピンキー
07/07/09 23:04:40 sckwmXXp
エロ無し?
嫉妬や三角関係があれば全然OK

599:名無しさん@ピンキー
07/07/09 23:59:29 xolE50VH
エロ描写のないノントロや二等辺な三角関係を全裸で待ち続ける俺が通りますよ。
無題やひとり、BLOOD、etc、etcなどの新旧の未完作品を読むと続きが気になって仕方ない。

600:名無しさん@ピンキー
07/07/10 02:36:56 hnh8A/yO
初めて書き込みします。
私は結婚して2年目。
平日は仕事で休みは土日。
いつもは洗濯や掃除をまとめて土日にするのですが、
今日はなんだか気が進まず、昼寝したりボーッとしたり。
夫もいつまでも起きてこないので、気にせずまったりと過ごしていました。
正午くらいに、インターホンが鳴り、モニターを見ると
知らない女の人が。30~40台の女性です。
何かの集金?夫の知り合い?
夫は起きてこないので、確かめることも出来ず、
とりあえず私もパジャマのだらしない格好のままだったので、
応答せずにいると、階段を降りて帰って行く音が聞こえました。
すると3分後、またインターホンが鳴りました。
同じ女性でした。
気味が悪いのでやはり返事をせずにいると、また帰って行きました。
夕方になり、晩ご飯の材料を調達するため外にでようと玄関のドアを開け、
鍵をしめようとすると、郵便受けに、透明のセロハンにくるまれた
一輪の花がささっているのを見つけました。少しぐったりしている花でした
その花が菊の花であり、仏花であることに気がつき、
徐々に事の重大さを理解し、怖くなりました。
どうして!?なんで!?とパニックになっているうちに、
昼に尋ねて来た女性のことを思い出しました。
彼女は誰なのでしょう。
そして彼女は、何故知っているの!!??
それから一歩も外に出られず、今も一人、恐ろしさで動けずにいます。

601:名無しさん@ピンキー
07/07/10 11:18:44 ON6tybXi
>>600
うーん、、ちょっと思考が飛んでる気がするなァ・・・
ただの被害妄想にしか見えない
実害がないなら「最初は子供のいたずらかと思った」程度だと思う

602:名無しさん@ピンキー
07/07/10 11:28:51 EiXqQUrq
京都弁のヤンデレキャラっていいよな

603:名無しさん@ピンキー
07/07/10 11:29:03 pWuLZUKg
>>600はSSじゃないの?
従ってこのスレ的にはその思考で正解?
あ、でも30~40代ってのはちょっと高年齢すぎるかも……

604:名無しさん@ピンキー
07/07/10 12:30:45 ZBu/ryCZ
SSでその思考は正解かもしれないけど細かい描写がちょっと大雑把すぎるんじゃないかという指摘だろう

朝は居留守使ってでなかった
3分後来たら気持ち悪い・・・

急ぎの用事だったらそれぐらいするんじゃないか?
一度帰ったのは携帯で会社に連絡とか
若干被害妄想気味な感じは否めない

605:名無しさん@ピンキー
07/07/10 14:33:34 GqjBYPMn
URLリンク(guideline.livedoor.biz)
↑このスレからのコピペだろ

606:名無しさん@ピンキー
07/07/10 14:37:11 SuGELr4L
じわじわ・・・来るか?

被害妄想にしか見えんが・・・

607:名無しさん@ピンキー
07/07/10 19:21:37 VCkDniqL
激しくスレ違いだが要はその妻が夫を殺してたんだろ
>夫もいつまでも起きてこない
>そして彼女は、何故知っているの!!??
>今も一人、恐ろしさで動けず
スレ汚しスマソ

608:名無しさん@ピンキー
07/07/10 21:01:28 VbTiUr1K
誰が投稿してくれ・・俺は飢えてる

609:名無しさん@ピンキー
07/07/10 21:22:51 PJWtJIrt
ミスタープレイボーイ~ツイスター~ノントロの時期が一番スレが輝いてたな。

610:名無しさん@ピンキー
07/07/10 21:50:15 28Jfs356
>>609
全部、同じ作者だからwww
しかし、ノントロが再び投下されたらすごい反響がありそうだな。
まぁ俺は全ての未完作品を待ち続けるけど

611:名無しさん@ピンキー
07/07/10 22:13:21 9hVyJK2A
「押しかけ三角、また来て修羅場」を何度も読み返しつつ、次の投下を待ち続ける。
催促はしない。ただ待ち続けるだけである。

612:名無しさん@ピンキー
07/07/10 22:14:25 vFa4SPmi
ブラッドマリーと山本君の姉さんは俺が生きてるうちに必ず完結させて欲しいな

613:名無しさん@ピンキー
07/07/10 22:21:18 FhOsw+Pc
首がツイスター

614:名無しさん@ピンキー
07/07/10 22:45:19 uXFBZa1e
ロボ氏はもう来ないのだろうか
花束の続きが気になるんだが

615:千歳の華 ◆pmLYRh7rmU
07/07/10 23:45:30 TqJ9Xigf
【六】


『京の櫻も、こんな風に美しかった。きみにも見せてあげたいよ。あれを見れば、今みたいに泣くこともないだろう。
だから微笑っておくれ、瑠璃姫。可愛い御顔が台無しだ』


櫻が、舞っている。
力強さ、躍動感。
その総てが混在し、咲き誇る薄い花びらと同じ隆盛を誇る藤原家。
京で権力を思うままに振るい、もはやこの地上に双ぶ者がないほどの栄華を掌中に納めていた。
そのせいか、藤原家の後釜を狙う者、取り入ろうとする者、隙を見て権力を奪い去ろうとする者…
その名の下には、人の面で醜さを隠した悪鬼たちが砂のように跋扈していた。

だが、都の――万別の欲望が練り上げ、怨念にまで昇華させたはずの空は、それでも蒼かったらしい。
人々の淀みなど夢幻が如く見下ろし、己の歩みでどこまでも流れていく層雲たちは哂っているのだろうか?
宮中ですれ違う者は互いの牙を唇の裏に隠し、笑顔で杯を交わす兄弟は野望という毒蟲を舌根に飼っていることを。


―――。


はらり。
一片、薄紅色が零れる。

頬を撫でる母の指先のような春の風が、駆け抜けた。
矢張り流れる春風も、人の事情など知らずに思うがまま。

あたしは満開の花がその風で散ってしまわなかったことにほっと胸を撫で下ろすと、反対に冷えて沈んだ胸を掻き抱く。
とても満たされているはずなのに、なぜか心には大きな風穴が開いている。

咲き誇るほど歪み、崩れていく大きな土台。
見れば見るほど、叶えば叶うほど、腐臭を強くする夢。
手を伸ばせば離れ、触れれば折れる現実絵。
渦を巻く純粋な頃の夢。
人々の最初(おさな)き頃の願いは、黒く澱んでしまった。

そう。
今も青空が装う白い雲のように流れるまま京から逃れてきた一人の青年は、とても優しかった。

『瑠璃姫、これで涙をお拭きなさい。こんなに綺麗で風にも怯まなかった櫻が、散ってしまうよ。
 可愛らしい娘が何時までも泣き腫らしていれば、花だって微笑っていられない』

一斉に咲いた花を櫻の笑顔に喩えるその人は、とても美しい。
中央貴族の出身であるにもかかわらず、政争に破れてこの地までやってきた。
柔和で触れる指先はとても繊細なのに、体つきは屈強で男性的な色気を放っている。
笑顔のたびに綻ぶ口元、細められるたびに安らぎという焔を翳す瞳は、どこまでも澄んでいた。


616:千歳の華 ◆pmLYRh7rmU
07/07/10 23:46:21 TqJ9Xigf
彼のほうがあたしなんかよりずっと、見事に開いた花々に相応しい。

そんな、見る者を自然と惹きつけてあっと言う間に取り込んでしまうような男性。
彼は、あたしの婚約者だった。


『だって、あたしは、姉さんみたいに綺麗じゃないし、身体だって…』

ぽん、と。
頭に置かれた手のひらはとても温かく、大きい。
涙でゆがんだ世界の真ん中に、彼がいる。
凛々しい眉毛を少し困ったように下げ、厚い唇を緩ませて。

『だって、だって、あたしは…』

彼の顔を見ていると、割れそうな心にもっと大きな亀裂が生じる。
優しさに触れ、その温情を胸の中で感じるたびに、溝は深く大きく広がっていく。

“相応しくない”

そう思ったのは何時のことだろうか。
頭に姉の姿が浮かぶたびに、心の温度は下がっていく。
だが、同時に思ってしまう。

『瑠璃姫。わたしの瑠璃姫。きみは美しい。他人の姿に自分を重ねて、小さき胸を軋ませているきみは、どうしようもなく美しい。
 微笑っておくれ、瑠璃姫。その美しさは果敢ない。見るほどにわたしは不安になってしまう。
 いつか、この花のように散ってしまうのではないかと…』

遠い目をしながら、しなやかな枝先に視線を移す彼を見て、直感的に悟った。
いずれ彼はどこかに行ってしまうだろう、と。
眩しすぎる笑顔のまま暁光に包まれて、どうしようもなく遠い場所へ。
燃え上がる紅に身を染め、時折こちらを振り返りながら薄く微笑む。

伸びた影は笑う。
すまない、瑠璃姫と。
曇る青空は泣く。
君じゃない、瑠璃姫と。



櫻の花弁が一片、二片、散った。

まるであたしの心を見透かすように、涙の裏に隠した泥をあざ笑うように、ゆっくりと地面に吸い込まれる。

かたん――



617:千歳の華 ◆pmLYRh7rmU
07/07/10 23:46:58 TqJ9Xigf

土色と交わった薄紅から視線を移すと、そこには見知った人物が立っていた。
踝まで伸ばされた墨のように深く、それで月光のように静かに流れる黒髪。
覗き込めば吸い込まれ、永久にその輝きに囚われてしいそうな瞳。
目前に広がる櫻の花々。
その一片を貼り付けて、赤く染め上げたような唇は静謐な色気を放っている。

完璧。

そう評されるのがもっとも相応しい美貌を持った女性―――

『鬼灯姫』
『お姉さま』

ほぼ同時に重なる声色が示すとおり、その人はあたしの最愛で、最妬の姉であった。

『瑠璃、こんなところにいたの?お父様が探していますよ。すぐに部屋へ向かいなさい』

その声は鈴が鳴るように流麗で、その場の空気を塗り替えてしまう。

『でも、今は時春様が…』
『お父様の命令と、あなたの事情、どちらが大切なの?』

ぴしゃりと蓋をするように言葉尻を閉めると、美しい人はしゃなりと歩みだす。
あたしを射抜く瞳の色、浮き上がってそのまま絵になってしまいそうな居住まい。
どうあがいても届かない。
部屋の隅で震えることしかできないあたしには、たとえ千歳経ようとも。

『あら…』

風がざわめくと、通り雨のように桜色が一斉に舞い落ちる。
静かに泣き叫ぶような残響を置いて、青空へ向けて彼らは飛び立っていく。
偶然にも頬に降り立った一片を白魚のような指で絡めとると、姉は艶やかな吐息に乗せてそれを見送った。

『あなた独りだけ取り残されたら、気の毒だものね…』

桃色に乗った桜色は、遠くを目指して流れゆく。
そんな視線の先、魅せられた人がいた。

『瑠璃、早くお行きなさい。時春様にも迷惑がかかるわ』

吐息に乗った言葉は柔らかに耳朶を撫でる。
春風に混ざる仄かな香が鼻腔をくすぐると、姉は去っていく。
“あたし”の時春様に、媚を含んだ不快な視線を残して。




618:千歳の華 ◆pmLYRh7rmU
07/07/10 23:47:46 TqJ9Xigf
*   *   *   *   *   *   *   *   *


目の前の女の子。
太陽の光を受けてしっとりと輝く白い肌に健康的な肉付きの体、そして黒目がちの大きな瞳。
側頭部から垂れ下がったツインテールは…
とても見覚えがあるのに、記憶のかけらを拾い集めるたびに頭のレンズが焦点を見失う。

―――頭痛。

やがてぼけたレンズはどこまでも歪んでゆき、纏まりかけた思考は靄となって四散してしまう。

「―――え?」

少女の顔から、感情が抜け落ちた。
まばゆいばかりの微笑は消え去り、代わりに崩れ落ちそうな不安が広がっていく。

「時春ちゃん、何言ってるの?おかしいよ。あたし、あたしだよ、瑠璃だよっ!!幼馴染で最愛の彼女で、ずっとむかs―――」
「ごめん、きみのことがわからない。それに、俺の想い人は鬼灯、ただひとりのはず…」
「そ、ん…な…」

俺は正しいことを言っているはず。
間違いがない。それよりも、鬼灯はどこだ?
いつも一緒にいるはずなのに、どうして彼女の温もりがない?

「鬼灯はどこだ?彼女がいないと、俺は…」

頭の裏にこびり付いたまま離れない彼女の声。
俺はもう、“千歳の誓い”を違えることができない。
暗い谷底で打ち震える彼女を、捨て置くことはもうできない!!

「鬼灯!!鬼灯はっ…??」

―――衝撃。

目も前が歪んだかと思うと、足元が泥に嵌った様に緩み、ハンマーにでも殴られたように体が舞う。

転んだ。
転げ落ちた。

見えない衝撃に全身を撃たれ、汗で体に張り付いたシーツを引き裂きながら、俺は地面に転がる。
冷えたフローリングに頭を打ち付け、俺は骨から脳へ伝わる痺れによってようやく我を取り戻した。
しかし冷静とは程遠い。
飴色の思考だけが目前を示している。
おかしい。
とにかくおかしいことが多すぎる。
自分がこうやって散らばっていることすら疑問の範疇で、下唇をかみ締めながら俺を見下ろす少女の姿も何故かばかばかしい。
どうして、なぜ?
己に問うたびに回答が遠ざかる。



619:千歳の華 ◆pmLYRh7rmU
07/07/10 23:48:42 TqJ9Xigf

「冗談、でしょ?…時春ちゃん…また、いつもの、悪い、嘘だよね?…」

手加減できないから、ちゃんと本当のこと言ってよ。と、ツインテールの少女が零す。
側頭部から垂れ下がった髪は彼女の表情を覆い隠し、差し込む陽光を闇に閉ざすかのように冥い。
握り締められた拳、折れそうなほど細く白い腕には生々しい包帯。
見覚えがありすぎる。
知りすぎているだけに、霧が深く光を閉ざす。
薄い唇の味、柔らかな太股の感触、腕枕で弄んだ黒髪の皇かさは…

「鬼灯、鬼灯だ。君がわからない。俺は、時春?ふじわらのときはる?じゃあどうして?どうして私はここにいるのだ?
 莫迦な、赤に消えたはず。私は紅に喰われたはずだ。なのにどうして私は…」

口が意味不明な語句を零す。
己の支配すら失った俺は、頭を抱えて唸ることしかできない。
白い病室と交互に頭の中で混ざり合う、どこまでも赤い風景。
熱い。
体が熱い。
燃えるように、胸と頭が熱い。
だが迷走する意思とは反対に、体はどこか知らない場所に向かって走り出す。

もう、押さえることができないのだ。
夢と現実、過去と今が混ざりあったこの俺には。












目の前で起きている光景を信じることができない。
手に入れた。自分は確かに手に入れた。そして、受けた。愛を受けたのだ。
自分は間違いなく彼の愛を受けた。千年前に手に入らなかった真実も、思い焦がれあこがれ続けた理想も、彼に抱かれることによって、獲た。
なのに、どうしてここまで来て調律が狂う?
鬼の刻印を使って確かに彼を縛り付けたはずなのに。
敗れ得ぬ理で彼を縫い付けたはずなのに、どうして彼はこうも云ってはならないことを容易く口にする?
こんなに好きなのに、身が焦げ付くほど、鬼に心を売ってまでも彼を愛しているのに!!
どうして届かないのだろう。
どうしてあたしの思いにいつも中途半端なの?
結局何も手に入らない。
生まれ変わって幸せな環境を手に入れ、光に満ちた世界を手に入れた。
美しくなった、可愛くなった。
でも―――

どうして一番大好きな人はあたしのことを愛してくれないのだろう。
どうして一番大好きな人は最後の最後にあたしをうらぎるのだろう。

鬼灯?“私の想い人は鬼灯”?
そんな莫迦な、有り得ない。如何に?



620:千歳の華 ◆pmLYRh7rmU
07/07/10 23:50:19 TqJ9Xigf
とうとう刻印に送り込む意思でも制御できなくなった時春ちゃんは、あたしの目の前から走り去った。
熱に浮かされたような瞳と、知らない未開を掻き分ける赤子のように。

追う気にもなれなかった。
こんなにあたしは時春ちゃんのことを想っているのに、こんなにも“時春”様を想っているのに、結局彼には届かない。
そう考えると、鬼灯と時春ちゃんへの怒りよりも強い悲しみが、津波のように押し寄せる。

いつか櫻が散ると同時に、あたしの目の前から彼が消えたことを思い出した。
微笑んでいられなくなった桜は、蒼く地面に堕ちていくしかない。
これから訪れる新しい季節、時代のために。

結局あたしは自分自身という殻を脱ぎ捨てることができなかったのだろう。
煮えた油のような感情を胸に抱いている内は、彼を上手に愛することなんてできなかったのだ。
たとえ何度生まれ変わろうと、何度彼と回り逢おうと、あたしがあたしでいる以上、同じように接することしかできない。
醜い劣等感を覆い隠すように、胸の炎に身を任せ、ただ嫉妬と独占欲を燃え上がらせる日々。
彼がいないと不安になり、突然疼きだす体。

離れていくのは、きっと道理なのだろう。
結局あたしは縛り付けることでしか彼を愛せない。
虚勢を張って自分の弱さを覆い隠すことでしかキモチを表現できないのだ。

そう考えると灰になった花びらに、冷たい雨が零れ落ちる。
しっとりと心を這うように、開いた隙間を流れるように、悲哀が体を満たしていく。
もう、辞めよう。
悲しすぎる輪廻から離れよう。
もういっそ、こんな悲劇しか踏めぬ靴と、空虚しか得られないドレスなら、脱ぎ捨ててしまおう。

あたしは目蓋を閉じて―――

浮かんだ鬼の表情に支配を奪われた。

“なぜ、諦める”

どくん…脈打つ。

“時春様は、あたしの婚約者なのに”

熱い。身体が熱い。冷えたはずの胸に、溶岩が滾る。

“確かに、時春様はあたしに優しくしてくれたのに”

……少しずつ燃え広がる炎の端くれ。痛いくらいに喉を涸れさせる。

“諦める必要なんてない。増してや悲しみに埋もれることなどない”

そう、そうだよ。この熱さに身を任せていると、とても心地がいいんだ。


621:千歳の華 ◆pmLYRh7rmU
07/07/10 23:50:52 TqJ9Xigf

“瑠璃、忘れるな。お前が瑠璃姫である以上、お前はお前、あたしはあたし”

うん、あたし、瑠璃、瑠璃■…

“彼を手に入れるまで。何度でも、たとえ万年経ようとも生まれ変わると誓ったはず”

突然視界が回りだす。あふれる感情と一緒に脳を叩く声に身を任せると、急に身体が羽のように軽くなる。

“思い出せ。お前の前から姿を消すときの表情を。あんなにも長い彼の不在を、お前はどういう風に孤独を生きた”

つらいはずなのに、胸はすっきりとしている。やることはひとつ。決まっている。
否、決まっていた。

“思い出したくはないだろう。繰り返したくはないだろう。遠い千年を超える孤独を、もう一度繰り返すなど!!”

もういや、独りはいや、愛されないのもいや、あたしの前から彼がいなくなるのもいや。
彼が他の人に目を向けるのも、知らない誰かに優しくするのも、あの女を愛するのも―――!!!

“認めない、認めなどしない。原初より定められし調べ。予定された未来。かならずあたしたちは手に入れる。絶対、絶対に”

そう、まずは邪魔するあの女を消しに行こう……―――。





誰もいなくなった白い病室。

吹き付けられる初夏の風。

誰もいないはずなのに空気が熱い。
誰も知らないはずなのに澱んでいる。

ぐちゃぐちゃにされた備品を残して、

黒い風が吹き荒ぶ。



622: ◆pmLYRh7rmU
07/07/10 23:52:07 TqJ9Xigf

すんごくお久しぶりです。
きっと皆さんお忘れになっているかと思いますが…次こそ最後です。

623:名無しさん@ピンキー
07/07/11 00:10:23 DaGlKylJ
GJ

624:名無しさん@ピンキー
07/07/11 00:25:35 dCSitLmf
>>622
お帰りー
ずっと待ってたよー

625:名無しさん@ピンキー
07/07/11 00:44:27 W8zGd28Y
>>622超GJ
待ってました。待ち続けて本当に良かったよ。

626:名無しさん@ピンキー
07/07/11 02:28:43 /1Jg4Wow
>>622乙&GJ!
密かに完結を待ち望んでいた作品なんで再会はマジ嬉しいよ。

627:名無しさん@ピンキー
07/07/11 07:58:50 Z1f/E8/2
>>622
ついにキターーーーー!
超GJっす!!
こういう風に投下を再開してくれるのはメッチャ嬉しい!

628:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/07/11 20:02:05 69pT9uG3
では投下致します

629:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/07/11 20:05:50 69pT9uG3
 第6話『いちおう、初夜なのか?」

「反対!! 反対!! 反対!!」
「反対!! 反対!! 反対!!」
「反対ですぅ!! 絶対に反対!!」
 桜荘の住民である雪菜、安曇さん、美耶子が盛大に反対コールを繰り返していた。
 先程の電話の内容は皆に伝えて、俺の部屋に3人で暮らすという胸が痛む決断を発表した結果、
 桜荘の住民からブーイングが起きた。刹那と更紗は白い頬を真っ赤に染めていたが、一緒に暮らすことには同意しているのであろうか?

「お兄ちゃん。酷い。酷いよぉ。雪菜だってお兄ちゃんの部屋に一緒に住みたいと思っているよ。

 でも、お兄ちゃんの部屋にお泊りするのはダメで言っているのに。どうして、その人たちならいいの?」
 妹分の雪菜が切ない声で訴え始めていた。普段なら見せることのない表情に俺は動揺を覚えるが事情が事情なので仕方ないのである。

「私は若い男女が一つ屋根の下で暮らすってことは……えええっっと?」

 安曇さんはそれから先の事が言えずにモジモジと様子を伺っていた。
 この桜荘の唯一の良識人は男女関係に関する免疫はほとんどない。
「幼馴染たちと久しぶりの再会。燃え上がる男の欲望と限度のない性欲。
 更紗さんと刹那さんを性奴隷にする今夜は喘ぎ声が桜荘に響き渡ることになります。
 私はまだまだ大人の階段に登れない聖少女なので早めに寝ようと思います。途中で起きるのは嫌なので、
 睡眠薬は取説に書かれている量の倍以上は飲んでおきます。ああ、一樹さんのキチク!!」

 美耶子はもう以下略で。

「まともな心理描写もどきが省かれるなんて酷い」
 今の会話を華麗にスルーすることにして。桜荘の支配者、
  いや、管理人は反対も賛成もすることなく、ただ不気味に静かであった。
  何かを企んでいるような笑みを浮かべて、奈津子さんは言った。

「一樹君が童貞卒業するから……明日はお赤飯かしら」

 童貞という言葉に思い切り強調してくれた奈津子さんを半眼で軽く睨んだ。
 男という生物はそういうくだらない事に意味のわからんプライドを持つものだ。
「とりあえず、誤解しないでください。少なくても、更紗と刹那が働く場所を探して、
 一人で暮らせる場所を見付けるまでは俺の部屋で暮らすってことです。半同棲とかそういうのじゃあないですよ」
 憩いの場に集まっている桜荘の住民達に俺は淡々と熱弁を振るう。
 思い込みが激しくて暴走しやすいこの人たちにはちゃんとブレーキで止めておく必要がある。
 だが、思わなかったところから声が上がってきた。

「ええっっ!? カズちゃんと一緒に暮らせると思っていたのに」
「カズ君。私達とたくさん寝たことがあるのに。どうして、そんなことを言うかな?」
 幼馴染方面から苦情と抗議に反論したかったが、時はすでに遅かった。
 桜荘住民サイドが顔をひきつらせていた。女性数人で冷笑を浮かべている姿は想像を絶するに恐ろしいものであった。
 背中に冷たい汗が流れてゆくのがわかる。

(ようするにどちらの顔を立てても俺は破滅エンド一直線なわけか)

 本音を言えば、この憩いの部屋と名付けられている魔の領域から逃げ出したい。
 どうして、桜荘には男の入居者がいないのかと空の彼方にいる神様という者に問い詰めてやりたい。
 そうすれば、この恐怖と心労を平等に負担してくれるはずだ。

  現実逃避している間に時間は過ぎて行く。時計を見るとそろそろ柔らかくて暖かい布団の中に就寝する時間が近付いていた。
  今日はヤンキーどもに暴行を受けたから、痛み止めを飲んでさっさと寝ようと思っていたが。予定が大幅に狂っている。

630:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/07/11 20:06:40 69pT9uG3
「そろそろ寝ようか?」
「あん?」
 奈津子さん以外の女性たちが物凄い形相でこちらを睨んでいた。
「そんなことをしても決定は覆らない。明日は早いんだから。マジで寝たいとヤバイんだからな」
 カレー専門店オレンジという店に働くだけで常人に信じられない体力を消費する。
店長の奇抜な行動を監視しながらお客の相手にするのは疲れるのだ。
特にゴキ○リなどカレーに入れた時は笑顔でそのカレーをお客に差し出す辛さは胃が痛くなるぐらいだ。
「というわけで更紗も刹那もさっさと俺の部屋に行くぞ」
 二人の細くてかよわい腕を問答無用に引っ張って俺は自分の部屋に戻る。
雪菜、安曇さん、美耶子が送る冷たい視線を俺はあえて無視して憩いの部屋を出た。


631:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/07/11 20:09:11 69pT9uG3
 畳6丈ぐらいの部屋に荷物と家具が置いてあるおかげでやっと一人が寝れるスペ-スがあるかどうかだ。
ロクに部屋を掃除していなかったのであちこちに汚れや埃が溜まっている。
男の一人暮らしを象徴している自分の部屋を興味津々に更紗と刹那は周囲を観察していた。
「ここがカズちゃんがいつも寝起きしている部屋なんだよね?」
「1年前からな」

 俺は機械的な口調で返事してから、思わず嘆息する。
幼馴染二人を泊めるという暴挙に出たのは親が連帯保証人になって多額の借金を背負ったおかげで家まで売ってしまったことだ。
あのクソ親父から聞いたことを推測すると俺が更紗が刹那が住んでいた家はなく、
こちらにやってきた理由は借金取りから二人を逃がすために俺の住所を教えたということだ。
つまり、更紗と刹那は家亡き子状態に陥っているってこと。
 正直、俺の心情では二人に二度と出会うつもりはなかったのだ。
こうして、自分の部屋に泊めてしまうのだって感情的に納得できているわけもない。
1年前の告白を断ったことで更紗と刹那を傷つけてしまったことは確かなのだ。
 二人が自分のことを好きだと言う気持ちを今も純粋に想い続けている。
という自惚れを俺は抱いていない。
1年もあれば、桜荘の住民達のような素敵な出会いだってたくさんあるのだ。
特に昔のクラス、高校でも評判の良かった可愛い更紗と刹那なら。尚更ね。
 俺は押し入れにしまっている布団をひいてから、枕を置く。これで就寝する準備は整った。


「じゃあ、俺は廊下で寝るから」
「ええっ……!? カズ君。ちょっと待ってください」
「どうして、カズちゃんが廊下で寝なくちゃいけないの?」
「男は紳士であれ。
 年頃の若い女の子と一緒の部屋に寝るなんて俺の性根が許さない」
「ちょっと……カズちゃん。私たちは幼馴染なんだよ。
お風呂だって一緒に入ったり、3人で一緒のお布団で寝たこともあったでしょ」
「そ、そうだよ。カズ君」
「って、それは全部子供の頃の事じゃん」
 幼い頃は俺や更紗や刹那の両親が共働きで夜遅くに帰ってくる時に3人で共同生活もどきを送っていたが。
それは子供の頃のことだ。
今は俺と更紗と刹那は男と女なのだ。
嫁入り前の女性がオオカミに変化する男と一緒にいるわけにはいかない。
「……やだ」
「更紗?」
「カズちゃんと一緒に寝られないなんて嫌だよ」
「嫌だよと言われても。これだけはどうにもできないことなんだ」 
 更紗の唇を尖らせて拗ねていた。聞き分けのない甘えん坊の暴君が無理矢理でも俺と一緒に寝る主張を通そうとする。
更紗には昔から俺の事に関しては最後まで譲らない頑固者だった。
「でも、更紗ちゃん。あの布団だと二人しか寝れないと思うよ」
「刹那ちゃんは冷たい廊下の上で一人で寂しく寝たらいいんだよ」
「むぅっ……更紗ちゃん酷い。そんなことを言う人はカズ君は一緒に寝てたりしませんよっ!!」
「カズちゃんは私のことが大好きだから今日だけじゃなくて。明日からもずっとずっと一緒に寝てくれるよぉ」


632:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/07/11 20:10:41 69pT9uG3
「何を根拠に言っているのかな? か、カズ君は……私と寝るんだから!!」
 女の醜い戦いの一部始終を他人事のように俺は茫然と口を挟めずに見ていた。
親友同士であったはずの更紗と刹那が1年前とそう大差ないように口喧嘩をしている。
親友と呼べる者がいない俺にとっては彼女たちの強く結ばれていた友情に憧れたりしていたが。
あの出来事を境に粉々に壊れてしまっていた。その張本人は俺だ。
俺が幼馴染の関係の維持を望んでしまったから二人の友情は絶縁状態になったんだ。
 それは後悔。
 悲しんでいる更紗と刹那の姿を見たくないから、現実を逃避した自分の弱さ。
逃げても追いかけてくる過去。それは月日が経つほどに重くのしかかる罪であり、罰でもあった。
 だったら、自分に出来ることは一つ。

 流れに身を任せよう。

「二人とも喧嘩はダメだよ。ここは一緒に3人で仲良く寝よう。
そうしないといつまでも更紗と刹那も朝まで生ケンカをやっていることだしね」
「さすがはカズちゃん。話がよくわかる」
「カズ君と更紗ちゃんと寝るなんて小学生の頃以来だね」

「あれ?」
 あのそこは修羅場的な要素を含んでいる場合は『どうして、そんな女と一緒に寝ないといけないのよ』とか、
『あの人と一緒に寝るぐらいなら他の場所で寝るわよ』といった展開になるのでは?
 更紗と刹那は先程の口喧嘩の剣幕が嘘のように打ち解け合っていた。
それも過去の光景だった俺が嫉妬するぐらい仲の良かった二人に戻っていた。
「逃がしませんからねカズちゃん」
 俺の右腕をしっかりと更紗に掴まれて、
「毎晩、幼馴染の私たちと寝ましょうね。カズ君」
 更に左腕を刹那に掴まれて、布団の上に倒れるようにダイブする。

 もしかして、俺は……ハメられたのか?

 その晩。
 狭い布団の中で天国のような地獄を味わった。女の子二人に抱き付かれると男の煩悩が覚醒しそうになっていたが、
二人の幸せそうな寝顔を見ていると自然と穏やかな気持ちになってゆく。
温かな気持ちに満たされた時に見る夢は


 予兆であった。

 それは、桜荘に住んでいる者にとってやがて訪れるであろう。
 
 桜の……。


633:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/07/11 20:11:49 69pT9uG3
以上で投下終了です。



634:名無しさん@ピンキー
07/07/11 20:26:15 ad+tJEXX
GJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

635:名無しさん@ピンキー
07/07/11 20:33:07 W8zGd28Y
GJ!そして乙彼
人数が多いと大変でしょうけど、頑張って下さい。

636:名無しさん@ピンキー
07/07/11 22:08:42 Mi6+QHlE
前レスにあった京都弁ヤンデレ、書いてみようかな…

637:名無しさん@ピンキー
07/07/11 23:52:37 QLlKRYCs
カズちゃんは、幼なじみを手酷く振っといて何を格好つけてるんだ?
この男のどこにもてる要素があるのかわからん。


638:名無しさん@ピンキー
07/07/12 00:42:02 CLBh/2+1
 なんか書こうと思うんだけど、正直ネタが思いつかなくなってしまって困ってるんだぜ。
どんな内容を読みたいとかそういう希望ある人いたら、ちょっと頑張ってみようと思っている。
という事でちょっと募集。

639:名無しさん@ピンキー
07/07/12 01:10:39 ZSTF88qM
普段はものすごく大人しくていい娘が、嫉妬に狂う様はとても愉快だ。
幼い頃から長年、想い続けて来た相手(幼なじみ、兄、弟)に関係が近すぎるということで恋仲になるのを拒まれ、パッと出た泥棒猫に一瞬で奪われる様は笑いが止まらない。

家族で、異性を意識しないのは血が繋がっているからということではなくて関係が近すぎるかららしい。だから幼なじみや親友もこれに当てはまりやすいらしいよ。

640:名無しさん@ピンキー
07/07/12 01:58:48 iZvSA1Id
別にどうって事ない情報だが
ツンデレ大全出した出版社が
8月にヤンデレ大全出すそうな・・・そんだけ

641:名無しさん@ピンキー
07/07/12 02:38:13 qWn/rH6J
ヤンデレもミーハーに群がられてツンデレの如く腐っていくのだろうか


642:名無しさん@ピンキー
07/07/12 03:42:49 Jw1rRfTT
つーか、大全とかってあるけどうすっぺら~い情報しか
なかったって話だったような。

643:名無しさん@ピンキー
07/07/12 06:00:14 Xsv85w4Z
そもそもイメージは本にするものではない

644:名無しさん@ピンキー
07/07/12 07:52:30 9KIg5sU3
嫁さんもしくは彼女vs上司もしくは同僚の嫉妬とか。仕事中はやはり上司には逆らえないのはいいことにベタベタする感じで、それに気付いた嫁の嫉妬
今の俺がそんな感じ、解決策も兼ねてもうどうしたらいいのか…


645:名無しさん@ピンキー
07/07/12 09:41:06 of4eaXmJ
>>637
いい奴としてもクズとしても中途半端で感情移入しにくいのはあるな。
だから時々真っ当なこと言っても「ハァ?」となりやすいし。

まぁ、ギャルゲ主人公的ではあるが。


646:名無しさん@ピンキー
07/07/12 09:53:16 lTWdRJXk
エロが濃い作品、他のヒロインに精神的な攻撃(集団による苛めなど)をしている作品、他のヒロインを輪姦させてる作品ってある?
ほとんどのSSが数行程度のエロ、自ら刃物を取って殺傷、エロはあくまで男一人とのみってので毛色が違う奴が読んで見たくなって。

647:名無しさん@ピンキー
07/07/12 10:21:11 Zl1XmLUb
>>637
いや、単純に面白くないからね・・
このスレじゃあ全く無視されているんだからスルーしろよ

648:名無しさん@ピンキー
07/07/12 10:41:29 dcotpU/2
>>646
リボンの剣士は??

649:名無しさん@ピンキー
07/07/12 14:19:20 q7Ur6odq
絶望した!嫉妬が渦巻く社会に絶望した!

650:名無しさん@ピンキー
07/07/12 18:44:55 mw/wUcAu
黄金期を再び来るんだろうかと・・

651:名無しさん@ピンキー
07/07/12 19:24:46 pc4FZGRt
>>650
日本語でおk

652:名無しさん@ピンキー
07/07/12 21:39:23 iROUs44R
・・の人

653:名無しさん@ピンキー
07/07/12 21:56:55 AtJd+OPa
いや、それは違うだろw

654:名無しさん@ピンキー
07/07/12 22:21:06 G35+p7We
才能のない作家に引導を渡すのが俺達の批評家の役目だと思わないか?

655:名無しさん@ピンキー
07/07/12 22:26:33 NyxrcLvV
思わない

656:名無しさん@ピンキー
07/07/12 22:35:25 G35+p7We

    ∧_∧ ・・・・・・・・・・・・・
    < `Д´ >     ∧_∧
   /    \    < `Д´ >  ・・・・・・・・・・・・・
__| |     | |_   /    ヽ、
||\  ̄ ̄ ̄ ̄   / |   | |
||\\        (⌒\|__./ ./       このスレッドは    
||  \\       ~\_____ノ|           おはようから、おやすみまで、暮らしを邪魔する在日
.    \\ ________\        捏造一筋、チョン日新聞
.     \||      ____||    /    お口の悪臭 キムチ
.       || ̄ ̄ ̄|\____\ /    あしたのゴミ 捨民党
.       ||     | |======== |        The fabrications are infinite, 韓国政府
           _|  |oo======= | \     Drive your delusions, ヒュソダイ自動車
           |\\|_____|\ \   Shift the past, シンスゴ
           | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|     犬を、おいしく、楽しく、COREAN FOODS
           | |  生野キムチ.  |     Inspire the anti-Japanese, プロ市民(サヨ)
                            爆発一番 ハム日新聞
                            拉致ひとすじ 金正日
                            妄想 ふくらまそう 民口寸
                            淫らな明日のために 従軍慰安婦
                            黄色いエラ 街宣ウヨ(ジサクジエン)
                            犯行は計画的に ほのぼのレイプ
                            歴史をクリエイトする 朝魚羊総連
                            電波も全開に コリア 観光局
                            悪名世界一への挑戦 しG電気
                         ご覧のキムチ野郎の抵抗でお送りします。


657:名無しさん@ピンキー
07/07/12 23:41:09 iL2/LhjN
URLリンク(www.nicovideo.jp)

やはり、言葉様のようなヒロインをどんどんと嫉妬スレSSで量産するべきかと
それにしても、この歌を聴くと切なくなる

658:押しかけ三角、また来て修羅場 ◆8uWzk8Gyx6
07/07/13 06:37:29 iaEM0AGT
>>611  あなたには負けた。 第4話を投下する。
 ……待つ女は時として修羅場より怖いよ

659:押しかけ三角、また来て修羅場 ◆8uWzk8Gyx6
07/07/13 06:43:21 iaEM0AGT
第4話 「愛情×弁当+金髪=修羅場」
 
 早朝、ランニングを終えて俺は庭にいた。ただし全身を緊張させてだ。
 目の前には、俺の祖父が胴着と袴を着て、普通に立っている。
 俺は入院でなまった分を取り戻すつもりで全力で蹴りを放った。
 なのに祖父は、最小限の動きでゆうゆうと俺の攻撃をさばいた。
 吹けば飛ぶような痩躯なのに、こゆるぎもせずに立っている。
 間髪入れず正拳を放ってみるが、これも不発。お返しに裏拳が飛んできて、必死に避ける。
 ローキックで牽制しても無効。この時点で詰んでいたが、じいさんは容赦なく足を払い、俺の伸びた腕をとった。
 むしろ爽快と言えるほど庭の景色が一回転し、体に染みついた受け身を必死に駆使した。
 背中に衝撃が来て、息が詰まった。呼吸が出来なくなる地獄の苦しみがやってきて、必死にあえいで息をした。
「まあ、今朝はこれぐらいかな」
「悠ちゃん、落ち着いたらあがって朝ご飯食べなさい」
 じいさんは、あえぐ俺の方を振り向きもせずに、縁側から部屋にあがると律儀に手を洗い、飯を食い始めた。
 もう七十に手が届く年なのに顔はつややかで歯も揃っているから年齢より若く見える。
 ただし年相応のごま塩頭と胴着と袴という和装により、威厳は損なわれていない。俺にはまだ恐いじいさんだった。
 ばあさんも特に心配する風も無く、湯飲みに茶を注いだ。
 こちらは綺麗な白髪の下に優しい目をたたえ、やや小太り気味の、典型的なやさしい祖母だ。
 外見を裏切ることのないこの優しい祖母に、俺は何から何まで面倒を見てもらっている。
 駆け寄ってきたクロエが、心配そうに俺の背中をさすった。
「クロエさんや、そんなことせんでも悠はだいじょうぶだよ。病み上がりには手加減ぐらいはしとるよ」
 じいさんは、そういうとうまそうに茶をすすった。
 数分してようやく俺は息が楽になり、クロエとともに部屋にあがった。
 汚れた手を洗って、ちゃぶ台の前に座る。クロエも並んで座った。
 箸にはまだ手をつけない。ありがとうございましたと礼をして、講評を待つ。
「技が荒れておる。が、ちょっとましだな。……クロエさんに感謝しとけ」
「……じいちゃん、よくわからない」
「あほ、細かい説明なぞできるか。ただな、技の悪い危なさが減っておる。それがクロエさんに通じておる感じだな」
「?? そんなもんなのかな?」
「拳や技は、鍛錬と心を刹那に映す鏡よ。恐れも焦りも怒りも愛も技と拳でわかる。悠の段階ではなおさらそうだ。
だから武道は心技体の3つが重要というわけよ」
 いつもながらじいさんの言葉はわからない。だが不快なわからなさではない。
「考えても無駄だ。はよう飯を食え」
「そうよ、食べちゃいなさい。学校に遅れるわよ」
 だが食べ始めた俺を見ながら、クロエは箸をとらなかった。むしろじいさんの方を真剣にみていた。
「マスター、質問があります」
 クロエはじいさんをマスターと呼ぶ。達人という意味らしい。

660:押しかけ三角、また来て修羅場 ◆8uWzk8Gyx6
07/07/13 06:46:07 iaEM0AGT
「なんだい、クロエさんや」
「ドージョーをつかわず、庭でケイコするのは、やはりジュージュツのゴクーイなのですか?」
「うむ、良い質問だ。クロエさん、敵はいつでも道場に乗り込んでくると思うかい? そうではないな。
歩いていても飯を食っていても来るときはくる。そのとき場所は選べない。
だから道場では無くこの庭で行い、常在戦場の……オールタイムオンバトルフィールドの心構えを養うのよ。おわかりかな?」
「all time on battle field……オオ、イエス、アイ、シー! イエス、イエス! マスター、クロエは感動しました」
「なぁ、ばあちゃん。確か道場って借金のかたにとられてしまったんだろ?」
「そうよ! おじいさん、稽古は厳しすぎるわ、気に入らないお弟子は取らないわでお弟子さんみんな逃げちゃって。
おまけにやけを起こして大酒のむから、借金とりがうちに押し寄せたのよ。
仕方がないから道場とあたしの婚礼祝いの着物を売ったのよ、ほんとにもう」
 ガハハと笑うじいさんと、感動で目を潤ませるクロエを尻目に、俺とばあちゃんは茶を飲んだ。
 ま、現実なんてこんなもんだ。
「やはりイッシソデーンのブドーなのですね。すごいです」
 単に柔道や空手の試合では使えない技が多く、部外者が苦労して学ぶほどの流派では無いだけのことだ。
「ワハハハハ、どうだ、柴崎流柔術はすごいだろう。ワハハハハ」
 そのとき呼び鈴が響いた。
「あらあら、こんなに朝早くどなたかしら?」
 ばあさんがパタパタと玄関に出て行き、戻ってきた。
「悠、学校のお友達よ。女の子。悠もなかなかやるわね」
 クロエの眉がピクリとあがった。

「おはよう! 一緒に学校に行かない?」
そこにいたのは、間違いようもなく、朝にふさわしい笑顔を浮かべた高村文華だった。
「えーと、いいんちょ。家はどっちでしたっけ?」
「近くだから気にしないで。それより一緒に行こう」
 だが近くというには、息は弾んでいる。門に立てかけた自転車もみえる。
「高村サン。無理はしない方が良い。ユウは私が責任もって世話をするから」
 仏頂面になったクロエがすかさず攻撃。
「ごめんね、マクフライさん。でも私、柴崎君のことは人任せにはしたくないの」
 だが反撃は一枚上手で、クロエの雰囲気が剣呑なものになった。
「……あのなぁ!」
 前回の騒動に懲りていたので抗議しようとしたが、高村さんが先手を打った。
「大丈夫よ。もう喧嘩はしないわ。ね、マクフライさん?」
「……う……うん」
 高村さんの笑顔に、クロエはしぶしぶ頷く
「でもなぁ……」
 そのとたん、高村さんが肩を落としてうなだれる。
「ごめん、迷惑なのは、わかっている。でも……でも……」
 体が震え、土間にしずくが垂れるのを見て、俺は慌てた。
 女の子を泣かせたなんて知られたら、たぶんじいさんに死ぬほどしごかれるだろう。
 鬼と化したじいさんは、さすがに勘弁したい。
「わかった、わかったからさ。いいよ、一緒にいこう」
「ほんと! うれしいな!」
 高村さんがあげた顔に、涙の跡は無かった。
 やられた!
「くっ、ユウの優しさにつけ込むとは卑怯な」
 クロエの歯がみもどこ吹く風で高村さんは笑う。
「いいじゃない。私も柴崎君の側にもっと長くいたいし」

661:押しかけ三角、また来て修羅場 ◆8uWzk8Gyx6
07/07/13 06:54:09 iaEM0AGT
 玄関を出ると、クロエが俺の右手にしがみついた。
 それをみて、高村さんも俺の左手をとった。そしてうむを言わさず手をつなぎ、俺の腕を抱え込む。
 腕が柔らかな感触に埋まるどころか、なにか独特の堅さのある突起までにふれた。まるで乳首のように。
 ……乳首? さらに、歩くたびに俺の手の甲が彼女の……股間というか……に触れている。
 当の高村さん本人は全然気にしていないようで、俺が休んでいた間の学校の出来事をしゃべっている。
 クロエは不機嫌に黙っていた。
 さすがにかなり左手が気になり、俺は少し左手を抜こうとしたが、手はがっちりと固定されている。
「あの、いいんちょ?」
「なに? 柴崎君」
 一転の曇りもない晴れやかな笑顔を浮かべられて、俺は左手の事を言う気を無くした。
 俺は早く学校につくことを心の底から願った。
 世の中にはバラ色の地獄があることを、俺は思い知った。きっと生涯忘れないだろう。

 俺にとって授業は、心休まる時間だった。
 たとえ教師が退屈な話をしていようと、それで悪いことは起きないからだ。
 しかし無情にも昼休み開始のチャイムがなり、律儀な教師は話を中止して、小テストの予定を告げた。
 周囲はいきなりの告知にわき上がったが、授業中試験に出す部分を教師はさらりと告げている。
 俺はノートして、かつ集中して聞いていたので概要はつかめていた。
 帰宅後、ノートを見返して問題集で練習問題をこなせばいいと目算をつけ、教材とノートを閉まった。
 そしてパンとコーヒーをカバンから取り出す。
 自転車旅行用の地図を取り出そうかと考えて止めた。クロエに邪魔されるだろうからだ。
 そのクロエがやってきて、前席の椅子を反転させ、俺の正面に座る。去っていく席の持ち主に笑顔で手を振っていた。
すでに取引は済ませていたようだ。
 クロエは笑顔をおさめると、嘆きや怨嗟の声が満ちる周囲を見回しながら語りだした。
「理解度確認テストのようだが、ユウは自信がありそうだな?」
「あの先生は大事なことを平板に語る。ちゃんと集中して聞いていれば、それほど難しいことは要求していないよ」
「さすがだな、ユウは。私は日本語が分からないところがあった。すまないが教えて欲しい」
「オッケー。……でも、クーは授業についていけているだけですごいとおもう。
カリキュラムが相当違い、異国語というハンディキャップ付きでそれならたいしたものだ」
「ふふん、ユウには悪いが、日本語は私にとって異国語ではない。いや、日本も異国ではない」
 瞳をきらめかせ、右手の人差し指をたてて、クーは顔をよせた。
「第二の母国だと思っている。もちろん、私はアメリカを愛しているが、ユウの愛するものを私も愛したい」
「……そう真っ向正面から言われると照れる」
「国際結婚というものは難しいものだ。それぞれの宗教、それぞれの常識、それぞれの文化。
理解を怠っていては、破局に至ってしまう。だから私は日本を学び、愛する。ユウを愛するため、そして助けるために」
 その言葉をまったく頬を染めず目を逸らさず、クーは宣言するがごとくに厳かに語った。
 かえって俺のほうが、照れた。どうしようもなく頬が、そして顔全体が熱くなる。息がつまり鼓動が早くなった。
「ユウ、なぜ顔を赤くする?」
「……き、気にするな」
 首をかしげるクーをみて、さらにどうしようもなくなり、パックコーヒーを手につかんで開封しようとした。
 だが、突然後ろから伸びてきた細い手が俺のコーヒーを奪い去った。
 同時にクロエの顔が険しくなる。
「柴崎君、いつもこんなんじゃ、体に悪いよ?」
 体をひねって後ろをみると、にこにこした高村さんが俺のコーヒーを持って立っていた。
「いいんちょ! ……しかしそれは俺の昼飯で」
「大丈夫だよ。もっとおいしいものをあげるから」

662:押しかけ三角、また来て修羅場 ◆8uWzk8Gyx6
07/07/13 07:00:12 iaEM0AGT
 そういうと高村さんは、椅子を俺の机の左側にもってきて座った。ちょうど3人で俺の机を囲む形になる。
 そして持っていた美しい風呂敷に包まれたものを机の上に載せた。
 高村さんがそっとひっぱると風呂敷はさらりと解け、綺麗な二段重ねの重箱が現れる。
 そして彼女が蓋を開けると、中には色とりどりのおかずが詰まっていた。
 出汁巻き卵、きんぴらごぼう、煮豆に、焼き鮭、ミートボール、鳥の唐揚げ、etc。
 さらに上段をずらすと、下段には俵むすびが整然と並べられ、漬け物がその周りを彩っていた。
「……す、すごいな」
「……オオ、カイセキデイッシュ! ワンダフォ……」
 俺と共にのぞき込んでいたクロエが思わず賛辞を口走りかけ、あわてて止めた。
 高村さんの手が素早くのびて、俺のパンも取り上げた。
「柴崎君、見ていればいっつもいっつもパンとコーヒーばっかりじゃない。ちゃんと栄養バランス考えている?」
「あー、栄養バランス……」
 まるで母親のように俺を軽く睨んでいる高村さんの言葉に、俺は言い淀んだ。
 心が不健康なので、肉体の健康にあまり興味はありませんなどと言えるような雰囲気がなかったからだ。
「柴崎君は病気持ちなんだから、ちゃんとバランス良く食べなきゃ駄目。迷惑もかけたし、これお詫びだから」
「え? あ、ああ、ありがとう……」
 礼を述べながら俺は横目でクロエをちらっと見た。途端にアイスブルーの視線が突き刺さり、あわてて目を元に戻した。
「大丈夫よ、クロエさんも一緒にどうぞ」
「ありがとう。しかし私は高村さんにご馳走になる理由がない」
 俺の視線を読んでか、にこやかに招待する高村さんに対して、クロエは背筋を伸ばし、まるで弁当を見ないようにするかのごとく瞳を閉じた。
「あら、そんな堅苦しいこと考えないでほしいな。日本の文化を味わって欲しいんだけど?」
「文化?」
 余裕を持ってほほえむ高村さんを、クロエはきょとんと見た
「そう。クロエさんにもあるでしょう? 故郷の懐かしい味とか、どんなに国際化が進んでも、人が捨てることの出来ない大切なもの。
でも他人にはなかなか理解できないもの」
「何がいいたい?」
「国際結婚って難しいわよね。そんなに簡単に外国人を理解できたら苦労しないと思うの。
だからね、まずは五感で私達の文化を味わって欲しいのよ。……これね、全部、私が作ったのよ?」
 敵意を露わにしていたクロエが、その言葉に驚きの表情をする。
「愛のこもった料理はね、心を癒すんだよ。私ね、柴崎君にはこういうものが足りないと思うの。今から理解してちゃ遅いと思うなぁ。
でも私なら、柴崎君を助けて上げられるけどね」
 高村さんは相変わらずいつもと同じようににこにこと微笑んでいた。
 しかし俺にはその顔に何か黒いものを感じて、背中に冷や汗をかいていた
 気がつくと、周囲の視線が集まってきていた。ここ最近、視線を集めてばかりいるような気がする。
 突然、俺の腹が無遠慮に鳴り響いた。匂いだけ嗅がされて、お預けだったからかも知れない。
「ごめんごめん。さ、柴崎君、食べよ」
 そういうと高村さんは、箸を取り出し、下段の俵結びを箸でつまんだ。そして……
「柴崎君、はい、あーん」
 その瞬間、高村さんを除く教室中すべての人間が凍り付いた。

663:押しかけ三角、また来て修羅場 ◆8uWzk8Gyx6
07/07/13 07:03:13 iaEM0AGT
「……あの、いいんちょ?」
「ごめんねぇ、お箸忘れちゃったんだ」
 てへぇとか言って舌を少し出して、彼女は自らの頭をこづく。。
 狙っていたな、そう確信はあったが、弁当をもらう以上、言うわけにもいかない。
 追いつめられてクロエの方を見ると、立ち上がって歩き去って行くところだった。
「クー!」
「駄目だよ。ご飯中によそ見したら!」
 叫んだ俺の口に最適のタイミングで俵にぎりがつっこまれる。
 思わず咀嚼し、舌の上にあふれ出る美味を味わってしまう。絶妙の味というべきだった。
 旨さのあまりに無意識で飲み込み、ほっとため息をついた。
「じゃあ、次はぁ」
「あ、いや、いいんちょ! 箸をね……」
「量があるから食べる時間がなくなっちゃうよ。大丈夫、ちゃんと食べさせてあげるから」
 高村さんは俺の言葉をするりと聞き流して、上段から唐揚げをつまんだ。
 そして箸と共に唐揚げを口の前に差し出す。
 さすがに今回は俺も口を開けない。
 しかし、唐揚げも俺の口の直前で静止した。高村さんは、笑顔のまま。
 そのまま長い長い時間が過ぎる。教室を静寂が覆い、誰かが唾を飲み込んだ。
 グラウンドで歓声があがり、他教室のざわめきが流れる。
 風が吹き込んでカーテンを揺らし、窓から見える青空を雲が流れていった。
「いいんちょ?」
「あーん」
 俺の額に汗がにじみ、右目の側を滑り降りた。
 教室の中では誰も声をあげず、一心に俺達を見つめている。
 鼓動が徐々に早くなり、自らの呼吸音が脳裏に響いた。
 高村さんは、彫像のように微動だにしなかった。
 慈母のような笑顔を浮かべ、唐揚げを差し出している。
 息が詰まりそうになって、俺は思いっきりため息をついた。
「……いんんちょには負けたよ」
「あーん」
 ついに俺は根負けして口をあけた。
 笑顔をさらに輝かして、高村さんは唐揚げを俺の口に入れる。
「どう? 口に合うかな?」
 高村さんにはクロエが立ち去ったことも、唐揚げを長時間突きつけていたことも無かったかのようだった。
 ただどこかまぶしい笑顔を浮かべ、料理を箸でつまんでは、俺の口に放り込んでいった。
「……と、とても美味しいです」
 それ以上、何を答えていいのか、俺はわからなかった。
 やがて弁当は空になり、俺の腹は満ちた。しかし出ていったクロエが戻ってこず、俺は不安になった。

664:押しかけ三角、また来て修羅場 ◆8uWzk8Gyx6
07/07/13 07:06:28 iaEM0AGT
 そしてその日の放課後、クロエは先に帰ってしまった。
 高村さんは、帰り道もすごく上機嫌であれこれと話しかけてきた。
 つかまれた左腕は朝以上に彼女に抱きしめられ、高村さんの微妙な部分に押し当てられていた。
 そして、俺の家の前でだめ押しがあった。
 門の前で彼女は俺の前に回り込むと、唐突に言った。
「悪いんだけど、今日のお弁当のお礼が欲しいな」
「あ? ああ、……遅くなってごめん。おいしかった、本当にありがとう」
 丁寧に頭を下げて謝意を表す。いろいろとあったが、弁当に込められていた労力が大変なものということは良く理解できた。
 俺みたいな人間には過ぎたもてなしだと思う。おいしかったから、感謝も心からできた。
 そう思っていたのだが、頭をあげた時、彼女はやや不満そうだった。
「そういうことじゃないの」
「はぁ。なにか俺、間違ってた?」
 高村さんは顎に人差し指をあてて視線を空にさまよわせ、何かを思案したようだった。
 やがて、両手を胸の前で組んで、俺を見据えた。
「じゃね、目を閉じてくれる?」
 疑問が浮かぶが、俺は言うとおり目を閉じた。
「……ごめんね、ちょっとかがんでくれる?」
 なんなのだろうと思いながら、少し膝を曲げた。
「じゃあ、いいと言うまで目を開けちゃ駄目だよ」
 ま、いたずらかもしれないが、好きにしてくれ、俺はそう思って待った。
 突然首に腕らしきものが巻き付き、唇に柔らかいものが重なった。
 思わず目を開けると、目を閉じた高村さんが信じられないほどの近距離にいた。
 二回目のキスのはずだが、今回の方が大きくうろたえた。パニックになって硬直していたといってもいい。
 口内に進入してくるぬるついたものに口の中も歯も舌も全て舐められる。
 身体をこすりつけるかのように密着させ、柔らかい二つのものが意志をもって押しつけられ、中心の固いものが俺の胸を突いていた。 
 足までもが絡ませられて、まるで捕まえるかのように彼女は俺を抱きしめていた。
 わき出る唾液を彼女は一切躊躇無く音をたてて吸いあげて、俺の舌を自らの舌でもてあそんだ。
 小さな声を上げながら、彼女は俺を全て吸い尽くしねぶり尽くそうとするかの如く、口をむさぼった。
 やがて彼女が唇を離したが、俺を抱く手は緩めなかった。
「……い、いいんちょ」
「文華(あやか)」
「え?」
「文華。名前で呼んで」
「……あやか、さん」
「もう。……ま、いいけどね」
 不思議なことに日本人相手だとファーストネーム呼び捨ては抵抗があった。高村さんが少し残念そうな顔をする。
 それはともかくとして話を戻すことにする。どうも俺は高村さんには引きずられる傾向があると思った。
「と、とにかく、家の前だからさ」
 路地とはいえ人通りはある。家の前で抱き合ってディープキスしているところを見られて辺り一帯の噂になるのは嫌だ。
「ふーん、それもそうね。じゃ、私の家に行こうか?」
「はぁ?」
「だって、その家にはクロエさんがいるでしょ?」
「あのなぁ」
「柴崎……悠君、家に帰したくないなぁ。クロエさん可愛いから、私、いつも心配なんだよ」
 少し呆れていた俺を抱く高村さんの腕に力がこもった。
「私の家に来てくれたら、いっぱい歓迎するのになぁ」
「クーとは……そのキスだけだし、そういう関係とは言い難いし……あの? ひょっとして離す気、無い?」
 なぜか浮気を責められているような錯覚に陥り、言い訳をしてしまってから、ふと我に返った。
 高村さんが近すぎて、どうも思考が鈍っている。おかげで訳のわからない状況で変な会話をかわしている。

665:押しかけ三角、また来て修羅場 ◆8uWzk8Gyx6
07/07/13 07:08:36 iaEM0AGT
「今日、私の家に寄ってくれるといいことがあるよ」
「いや、だからね?」
「もうクロエさんに思わせぶりなこと、しちゃだめ。ちゃんと振ってあげるほうがクロエさんのためなんだよ?」
「……いいんちょ!」
「あれ、悠君は自分がまともな人間だと思っているの?」
 クロエを袖にしろというとんでもない言葉が出て、思わず声をあげる俺をみて、高村さんは突然笑いに黒いものをにじませた。目から明るい光が消える。
「そんな勘違いしてるなんて、悠君はうぬぼれてるんじゃない?」
 その言葉が俺の胸に刺さる。
「悠君は壊れているんだから、私で我慢しておきなさい。私ならもう汚れているから、悠君が何しても平気」
 高村さんの文句が蛇のように耳から入り込み、俺の心に巻き付いた。
「でもクロエさんは、まっすぐで健気でいい人なんだから、悠君とつきあったら彼女の心を傷つけちゃうよぉ?」
 クスクスと暗い目をして彼女はおかしくもなさそうなのに笑った。
「あんないい子に、こわれた悠君がこれから発作を起こすたびに、世話をさせるの? それで昔の傷をえぐるの?」
 その指摘は俺の心の奥底を打ちのめした。
「そうだよ。悠君が近くにいると彼女を傷つけて壊しちゃうんだよ? ね、だから私が悠君を引き受けてあげる」
 心の中がスープのように煮えている俺を見越して、彼女はうつろな笑いを顔に刻む。
「私はね、もう壊れちゃって、悠君のものになることだけで生き残ってるの。……愛してるとかじゃないの。私は悠君のものになるしかないの」
「……文華……」
「三匹の野獣を倒した猛獣は、野獣たちがなぶっていた哀れな獲物を自分のものにするのよ。でないと獲物が捨てられて腐っちゃうから可哀想でしょ?」
「……そういうつもりじゃない。そういうんじゃないんだ……」
「じゃあ、レイプされかけた馬鹿な小娘を嘲笑うために助けたの?」
「違う!」
「違わないよ。あんな告白したんだから、振られたら、晒し者なんだから」
「それは……」
「でもいいんだよ。振られても私、待つから。悠君の帰る場所はね、ここ」
 そういうと高村さんは、その胸に俺を抱え込んだ。柔らかい肉と甘い体臭が俺を包み、なぜか不思議な安らぎを覚える。
「……おかえり、悠君」
 俺を胸に抱く高村さんの手が優しく頭を、背中をさする。高村さんの鼓動がとくとくと俺に伝わった。



666:押しかけ三角、また来て修羅場 ◆8uWzk8Gyx6
07/07/13 07:12:47 iaEM0AGT
 ぐいと突然、恐ろしい力で襟首を引かれて、俺は高村さんから引き離された。
 驚いた顔をしていた高村さんは、しかしすぐ不敵に笑った。
「売女! 身体を使って惑わすなどと、汚らわしい!」
「クー!」
 それは怒りで全身を満たしたクロエだった。家に一旦帰っていたようでTシャツにジーンズの私服だった
「ふふ、なんのこと? 私は柴崎君を慰めて癒してあげてただけ。変な想像をするほうがいやらしいよ?」
 敵意で目を光らせながら、高村さんは嘲笑った。
「帰れ! ユウに近づくな!」
「はいはい。今日はもう帰るわよ。……柴崎君、私の言ったことよく考えてね」
 しょーがないという感じで肩をすくめると、高村さんは門に立てかけてあった自転車を起こした。
「早く帰れ!」
 凄い剣幕でクロエがどなると、高村さんは、鍵を外して乗った。
「じゃあね、柴崎君。また明日!」
 そして悠然と手を振りながら、自転車で去っていった。
 彼女が見えなくなると、クロエは俺の方を向いた。そのアイスブルーの瞳は既にうるんでいて、そしていくつもの雫をこぼしはじめる。
 クロエは無言で俺の脇を通り抜け、家に入っていった。
 俺はとぼとぼと家に戻った。自分で自分が嫌になっていたからだ。
 もちろんながらじいさんとばあさんにクロエが泣いた理由を尋ねられ、言いあぐねているとじいさんにしごかれまくった。
 だが、それよりももっとこたえたのは、それ以後クロエが部屋から出てこないことだった。
 俺は高村さんの言葉を思い出していた。
 俺とつきあったらクロエを傷つける。その言葉が俺を重く苛んだ。ベッドの中で夜中までそれを考え続け、ようやく俺の心は固まった。
 クロエに別れを告げよう。恨まれても憎まれてもその方が良い。
 その結論が出たところで、眠気がおそった。
 明日、言おう。
 その思考を最後に、俺の意識は暗黒に墜ちた。

 第4話 終

 以上投下終了
 負けたけど、すがすがしい負けでした。

667:名無しさん@ピンキー
07/07/13 07:13:51 mHxs94qY
GJ!
最高先が気になる

668:名無しさん@ピンキー
07/07/13 07:17:18 zuncnsqL
超GJです!!
投下復活キターーーーーー!!!!!!!!!
好きな作品の一つだったのでメッチャウレシス!!
待ってた甲斐があった!!

669:名無しさん@ピンキー
07/07/13 08:25:45 X+ObxhnO
あれ?まだ寝ぼけているのかな?ちゃんと起きないと……

押しかけ三角の続きがキテル!しかも夢じゃないぞー!

670:名無しさん@ピンキー
07/07/13 09:21:33 mEZWgcBz
なんということだ、神作品が帰ってきたので窓を開けて新鮮な空気で深呼吸してから読もうとしたら雨が降ってたよorz

なんにせよ超GJ!!!!!!!!!!

671:名無しさん@ピンキー
07/07/13 10:36:11 7jfFLxBr
女のネチネチとした攻撃 見せしめや牽制の仕方が、堪りません。男には出来ないこの感じがなんともまた
GJ!!
住民の皆さん、てっきり、言葉様に連れて逝かれたもんだと、思っていたので、喜びも一入も二入も、って、あっ、鋸が…

672:名無しさん@ピンキー
07/07/13 13:11:42 puKzuLAc
これは実にいいねちっこさ

673:名無しさん@ピンキー
07/07/13 14:45:51 ZFp1UpBa
まったく人の痛い所をついて洗脳しようとするなんて最悪な女だな・・・・

クーがんばれ・・・

674:名無しさん@ピンキー
07/07/13 17:05:51 cVFwrEas
ネットサーフィンしてたらいいもん見つけた
URLリンク(kanasoku.blog82.fc2.com)

675:名無しさん@ピンキー
07/07/13 18:08:02 UDKEC7VB
>>666
まあ、なんだ。その……ありがとう。


俺的には高村さんの依存っぷりに萌えた。
次の日、悠はいったいどんな目に会うのだろう……




676:名無しさん@ピンキー
07/07/13 18:50:32 0JD1WBxu
なあ、URLリンク(same.u.la)
こんな姉って実際いるの?

677:名無しさん@ピンキー
07/07/13 19:58:26 lEf5sX7A
>>673

まぁまぁ、
そういう黒さもある意味で魅力だと思うぞ。

しかし、ここまで純粋路線のクーが
今後どうなるかも凄く気になる。

ともあれ、作者様乙です!!

678:名無しさん@ピンキー
07/07/13 20:39:45 BndjoNWg
ひゃっほー!!!!!!!!!
潜伏してたかいがあったぜ!!
ばっちこーい

679:名無しさん@ピンキー
07/07/13 22:50:47 Y3G14hig
しかし、ここの住人の書き込みは減ってしまったよな

680:名無しさん@ピンキー
07/07/13 23:21:46 OR8TW+ji
↑お前ちっとも成長しないよな、いつまでもいつまでも幼稚にしがみついてさ

681:名無しさん@ピンキー
07/07/14 01:27:56 /PAuk2Dr
ぐわあああああああ今読み直すと合鍵の完成度に脳みそタイフーンぺえええええ

682:名無しさん@ピンキー
07/07/14 17:03:31 ZFWlpU6I
俺も嫉妬スレが卒業しなきゃいけない時がやってきたのかな・・。
ありがとう嫉妬スレSS ・・そして、さようなら・・



683:名無しさん@ピンキー
07/07/14 18:01:58 Z1eqt7Gv
>>682
何があった

684:名無しさん@ピンキー
07/07/14 18:08:06 7j8pOPlx
>>682
非常に言いにくいんだがな・・・
お前、出席日数が少したりなくてな・・・残念だが
その・・・留年だ

685:名無しさん@ピンキー
07/07/14 18:09:50 nkbRmimT
後期の実験落とすと留年の俺が通りますよ

686:名無しさん@ピンキー
07/07/14 18:16:54 F/qxu0yS
>>682
お前、現国の単位足りて無いじゃんかwww


687:名無しさん@ピンキー
07/07/14 18:35:16 /I2bdSPQ
その話題はリアルで出席日数が危ない俺には痛すぎるからやめろ…

688:名無しさん@ピンキー
07/07/14 18:46:56 kTLC+HzJ
ていうかいつもの日本語お化け(笑)だろ

689:名無しさん@ピンキー
07/07/14 19:35:03 +KsRMNTI
全然出席してないのに代返のお陰で単位は安泰です。
ウマウマ

690:名無しさん@ピンキー
07/07/14 19:49:08 /PAuk2Dr
>>689
うおおおわああああ
死んでしまえええええええ

691:名無しさん@ピンキー
07/07/14 20:33:50 bFMkbCk/
>>688
だから皮肉で>>686が言ってるよ

692:名無しさん@ピンキー
07/07/14 21:35:45 jE4Xusrs
久々に見たら押しかけ三角、また来て修羅場が投下されてるぅぅぅぅぅぅ。
GJアンド乙です。


693:名無しさん@ピンキー
07/07/14 22:32:40 4KJKjtDz
最近「千歳の華」や「押しかけ三角」が帰ってきてくれて嬉しい限り
個人的にはクー応援してます クーガンガレ

じゃ、投下イきます

694:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/07/14 22:34:30 4KJKjtDz


  /      /      /      /


「あんたねぇ……、いい加減泣き止みなさいよ。 昨日は抜け殻みたいで、
今日は今日で泣きっぱなしで」
「だって……アッくんが、アッくんがぁ……!」
 学校での休み時間アタシは泣き通しだった。
 アッくんに別れを突きつけられた事が辛くて……。
 そしてそんなアタシの泣き言に向かい合ってくれてるのは中学以来の親友の葛原 千恵ちゃん
「だったらサッサト仲直りしなさいよ」
「アタシだってしたいわよ! でもどうやったらいいの分かんないんだもの!!
だって今まで喧嘩した時だってアッくんから謝ってくれて仲直りばっかりだったし……」
 そう、今までアタシから謝った事は無かったのだ。
 だから、本当にどうしていいか分からないの……。

 そんなアタシの言葉に千恵ちゃんは溜息をついて口を開く。
「んなもの一言『ゴメンナサイ』って謝りゃ済むじゃないのよ」
「謝る……? それってアッくんの趣味を認めろってこと……?
駄目よ! そんなの駄目!」
「プラモぐらい好きに作らせて上げりゃいいじゃないのよ……」
「プラモぐらい?! 千恵ちゃんは他人事だからそんな事言えるのよ!
プラモなんてガキやオタクのやることじゃない!
彼氏がそんな事やってるのなんて許せるわけ無いじゃない!」 
「それで彼氏がオタクなのが許せない、ってか。 それでそれが許せないばっかりに素豆子、
アンタは彼氏と破局に終わってもいいわけだ」
「破局になってよいわけが無いじゃない!」
「だったら、さっきも言ったように謝っちゃいなさい」
「でも……」
「あぁ、もう! でもじゃない! このまま破局で終わりたくないんでしょ?!
だったら四の五の考えずに『ゴメンナサイ』って謝って来い! 解かった?!」




695:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/07/14 22:35:44 4KJKjtDz
 そして授業を挟んで次の休み時間、アタシは千恵ちゃんに発破をかけられた事もあって
アッくんの教室前に来てた。
 中学の頃から千恵ちゃんはいつもアタシの相談に乗ってくれたし力になってくれた。
 裏表が無くて歯に衣着せぬ物言いで、そのせいで衝突した事もあるけど、
でもそんな所もまた魅力な大切な親友。
 だからとりあえずはそんな千恵ちゃんの言う通りにしてみよう。

「スズ?」
 扉を前にそんな事考えていたらアッくんが扉を開け目の前に立っていた。
「ア、アッくん、あ、あのね……」
 言うんだ、言わなきゃ。 『ゴメンナサイ』って。
 本音を言えば謝る事に抵抗が無いわけじゃないけど、
でもそうしなければ方向はもっと悪くなってしまう。
 だから千恵ちゃんが言ってたように四の五の言わず謝ろう。
「アッくん。 その、ゴ、ゴ、ゴ……」
 それなのに『ゴメンナサイ』の一言が喉に引っ掛かってるみたいに出てこなくって……。
「ゴハン一緒に食べない?!」
 ……って何言ってるのよアタシィィィ?!
「ゴハン、って昼飯に誘いにきてくれたのか? ありがとうな。 じゃぁ昼休みに、
そうだな屋上で良いか?」
 でも返ってきた言葉に私は胸を撫で下ろす。
「う、うん。 じゃぁお昼に屋上でね」



「―で、それってよーするにちゃんと謝ってこなかったってことよね?」
「う、うん。 まぁそうなんだけど……。 ってそんな風に溜息付かないでよぉ」
「溜息も出るわよ。 あんた本当に彼と仲直りする気あるの?」
「あるわよ! だ、だからねお昼食べる時に今度こそちゃんと言うの!『ゴメンナサイ』って」
「はいはい。 じゃぁ頑張ってきてね」




696:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/07/14 22:36:52 4KJKjtDz
 そしてお昼時私は約束どおり屋上へ向かうと―
「ア、アッくん! ど、どう言う事よ?!」
 私が思わず声を荒げてしまったのは、そこにアッくんだけじゃなくあの例鬱陶しい後輩もいたから。
「どういう、ってメシは皆で食ったほうが美味いだろうからさ。
それに今日は元から稲峰と一緒に喰う約束だったし」
「皆で、ってそれは時と場合と相手によりけりでしょ?!
アタシはアッくんと二人っきりで食べたかったのよ!
だからこの子はジャマなの! 帰ってもらってよ!」
「スズ! 言いすぎだぞ!」
「言い過ぎじゃないわよ! 二人っきりでって思うのも望むのも当然でしょ!
だってアタシ達は―」
「幼馴染だろ」
 遮るように言い放たれたアッくんの言葉にアタシは言葉を失った。
「幼馴染同士でそこまで言われる筋合いは無いはずだぞ」
 ―幼馴染。 其の言葉が否応なく胸に突き刺さる。
アタシとはもう恋人同士じゃないんだと。 そう突きつけられた其の言葉に胸が痛くなる。

「……ズ、おいスズ」
「……え? あ……」
 消沈し放心しかかってたアタシはアッくんの言葉に引き戻される。
「悪い。 チョット言い方がキツかった」
「あ、ううん。 アタシの方こそ……」
 確かにアタシはアッくんにとっての彼女じゃなくなってしまったけど、
でもこうして気に掛けてくれる。
 そうだ。 確かに恋人関係の解消を告げられたけど、でも嫌われたわけじゃない、んだよね?
 だから……、そう、だからこそ今のうちに謝ればきっと取り返しがつく。
 うん、『ゴメンナサイ』って謝ろう。

「じゃぁ気を取り直して三人でメシにしようぜ」
 アッくんの言葉に頷きアタシは頷き座ってお弁当を広げようと―え? 三人?
「三人って、この女もアタシ達とお昼ご飯を一緒にとるってこと?!」
「あぁ、さっきも言ったろ? あと、この女、なんて言い方するなよ。 お前は俺の大切な幼馴染だが、
稲峰だって俺にとって同じく大切な後輩で親友なんだ」
「同じ?! 同じじゃないわよ! 同じにしないでよ! アタシとそんなウザい後輩を!」
「スズ! だからそんな言い方止めろ」
「だって! だって、だって、さっきも言ったようにアタシは二人っきりがいいの!」
 アタシは思わず感情のままに叫んでしまった。

「わかったよ……」
 暫しの沈黙の後アッくんは口を開いた。
「わかったよスズ。 じゃぁもう三人で食おう何て言わないよ」
 そう言ってアッくんは立ち上がりあの後輩の手を引いて―。
「じゃあなスズ。 わざわざ来てもらったのに悪かったな」
「え? ちょ、ちょっとアッくん……」
 しまった……! あ、アタシは何てことを……。
 後悔の気持がこみ上げ膝から力が抜けていく。 追いすがろうとするも力が入らず……。
「ああぁぁぁぁぁ……!!」
 一人残されたアタシの口からは只々悔恨の嗚咽だけが零れた。

697:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/07/14 22:37:56 4KJKjtDz


  /      /      /      /


 言ってくれるわ、あの女……! 人のことジャマとか、ウザいとか……!
 挙句、同じにしないでェ?!
 コッチこそアンタみたいに我儘で思いやりに欠ける女なんかと一緒にされたくないわよ!
 でもそんな事は口に出さない。 そんなこと言ったら先輩が悲しむから。
 悔しいけどあの女と先輩の仲の深さは知ってるから。
 でも私の胸中にあったのはあの女に対する不快感だけじゃなく―
 そう、熱矢先輩があの女の無神経な罵倒からは私を庇ってくれた。
 あの女を咎めてくれた時は、口には出さないけど胸がすく思いすらあった。
 私の手を引いてくれた時はドキッとしたし、胸の鼓動の高鳴りは未だ収まりきっていないまま。
 それに、それってば、つまり……私を……。
 そう思いながら熱矢先輩の顔を見ると―

「せ、先輩?! だ、大丈夫ですか?!」
 私は思わず声を上げてしまった。 だって熱矢先輩は今にも泣き出しそうな顔をしてたから。
「ごめんな、稲峰……。 お前にも嫌な思いさせちまって……」
「い、いえ気になさらないで下さい。 私なら大丈夫ですから。 それより……、いえ、何でも……」
 聞きたかった。 何であの女と私とを一緒にお昼をだなんて思ったのか。
 でもこんな沈んだ貌の先輩にそんな事訊いて良いものか……。
「スズに……分かって欲しかったんだ。 三人で一緒に食えば、俺と稲峰の姿を見れば……。
そうすれば……俺がどれだけプラモデルを好きかって事も、そして其の事を分かり合ええたら、
楽しさを共有出来きたら……、そう言ったことをスズにも分かってもらおうと思ったのに……。
それなのに……結果はこんな事になっちまって、お前にまで嫌な思いさせちまって……
ゴメン……」
「い、いえ本当に私なら大丈夫ですから……」
 そういう……事でしたか……。
 やっぱり先輩はあの女と仲直りしたいんだ……。
 あの女が先輩の幼……馴染だから。 初恋……の相手だから。 重ねてきた年月があるから……。

 ―妬ましい―!

 熱矢先輩にあれだけの仕打ちをしでかしときながら、それなのに未だ心を占めてるなんて……!

「稲峰……本当にゴメン」
「え……? あ……!」
 熱矢先輩の声に現実に引き戻される。 しまった、感情が面に出てしまってた。
 そのせいで、熱矢先輩にまた心配掛けさせてしまった。
「あ……、だ、大丈夫です! 本当全然気にしてませんから!」
 あの女のせいで心を痛めてる熱矢先輩に私まで負担掛けるような真似してどうするのよ。
「お腹空いてたからこんな貌になっちゃってただけです」
 私はおどけて両手の人差指で目の端を吊り上げて見せた。
 そんな私の仕草に熱矢先輩の顔からくすりと笑みが零れる。
「そういや、メシ喰おうとしてた所だったんだよな」
「ハイ。 じゃぁ場所は、中庭にします? あそこも日当たり良くて気持ちイイですし」
 私がそう言って笑いかけると熱矢先輩も微笑を返してくれた。

 妬ましい気持も、不満も、苛立ちも、確かに心の中にはあるけど……。
 でも今はこの現状のままで満足しておこう。
 熱矢先輩が私の微笑みに応えてくれる。
 熱矢先輩が微笑んでくれる―それだけで私は十分幸せを感じられるのだから。

698:名無しさん@ピンキー
07/07/14 22:39:41 4KJKjtDz
投下完了です

699:名無しさん@ピンキー
07/07/14 22:53:47 bFMkbCk/
>>698
嫉妬!嫉妬!キタ━━(゚∀゚)━━ !!!!!
なんという正統系の嫉妬・修羅場、胸が高鳴りっぱなしだぜ!
このままどんどん突き抜けちゃっててください、応援してますぜ!

700:名無しさん@ピンキー
07/07/14 22:56:50 u0sUGqxY
>>698
いやぁ、どーしよもないですねスズ。
これで稲峰に矛先向けるならマジで同情の余地なしかな。GJでした。
最近定期的な投下が増えてきて嬉しい限り。

701:名無しさん@ピンキー
07/07/15 01:28:12 1rerJ41S
>>698
GJ!ついに盛り上がってきたぁ!
とりあえずスズには頑張って頑張って頑張り抜いた上で捨てられてほしい

702:名無しさん@ピンキー
07/07/15 01:53:54 3AAstn6M
GJ
なんだか最近グッジョ分が足りない気がするぜ・・・

703:名無しさん@ピンキー
07/07/15 02:17:35 keI4sjmY
>>698

超GJっ!
稲崎の静かなる反撃に期待に胸躍らせてます


704:名無しさん@ピンキー
07/07/15 02:23:51 keI4sjmY
>>703

間違えた、稲峰だったort

705:名無しさん@ピンキー
07/07/15 02:26:34 IJ0NmsDO
>>698さんGJです!
スズとは別れろ派が多いみたいだけど、
俺は許したい人と許せない行為の間でもがいてるスズを密かに応援してたりする。

>>702一時期GJってだけ書いて作者自演を装う荒らしがあって、
その影響でGJの他に何か長文を入れなきゃいけないみたいな空気になって、
それで気軽にGJしにくくなってるんだと思う。

706:名無しさん@ピンキー
07/07/15 02:29:59 8pD3RMpJ
>>698
GJです!
しかしスズは不人気だな。俺は好きなんだがこういう娘…。

707:名無しさん@ピンキー
07/07/15 02:46:32 rqHTLBzj
なあ、すぐ上の書き込みって何が書いてあるんだ?
あぼーんになってるんだけれど、怖いから確認できないぜ。

708:名無しさん@ピンキー
07/07/15 03:40:57 n9ElrvfV
投下乙であります!
稲峰かわいいよ稲峰…
プラモ少女の今後に期待。

709:名無しさん@ピンキー
07/07/15 03:52:35 8pD3RMpJ
GJです

710:名無しさん@ピンキー
07/07/15 12:52:37 ePuuUHMR
雨の音が復帰祭りに乗じて連載再会してくれないかとwktkしてる

711:名無しさん@ピンキー
07/07/15 15:21:56 pJ/L+/bP
俺は赤い瞳と栗色の髪の続きをwktkしとります
投下してくれたらいいなぁ

712:名無しさん@ピンキー
07/07/15 15:40:45 7hB2ZszC
たぬきなべとかも・・・、雨の音は無論だけれど

713:名無しさん@ピンキー
07/07/15 16:05:37 uLqIFv9r
……くそ、おまいらのせいで読みたくなってきた。
メメントモリ聞きながらまとめ逝ってくる

714:名無しさん@ピンキー
07/07/15 18:35:58 tzt1QAgH
雨の音はタザリアとすげーダブる。
好みな設定なのにどっちもほぼ休止という生殺しでキツイぜ。

715:名無しさん@ピンキー
07/07/15 19:17:32 JQfE7u7v
>>698
GJ

716:名無しさん@ピンキー
07/07/15 20:39:51 Bjc4nTxa
ノントロも復活しないかな

717:名無しさん@ピンキー
07/07/15 21:25:29 HZ76UTay
ちゅうかみんなも読み専にばかり固着しないで、いっぺんくらい書いてみようぜ!

718:名無しさん@ピンキー
07/07/15 21:27:06 rqHTLBzj
書いても黒歴史フォルダに封印される文章が増えるだけなんだよな。

719:名無しさん@ピンキー
07/07/15 22:12:54 n9ElrvfV
以前名無しで単発何回か書いたけど、投下してもほとんど反応がない上にすぐに
人気連載作品の投下があって「GJ」や「投下乙」のレスが一個も貰えなかったことが
一度ならずあった私が来ましたよ。

まあ、それでも懲りずにプロットだけは暖めている自分がいるわけだが。

720:名無しさん@ピンキー
07/07/15 22:25:12 leIdvg/h
最近ちょっと殺伐としすぎてるので癒されるのが読みたいなあと思い
>>229の薦めで沃野を読んでみたけどとんでもないBADENDだったw

721:名無しさん@ピンキー
07/07/15 22:27:42 MXmNuPcV
癒されるねぇ…このスレの範囲だったら焼きもちレベルの嫉妬とか?

722:名無しさん@ピンキー
07/07/15 22:38:27 XUM6p4fv
沃野がバッドエンド?

723:名無しさん@ピンキー
07/07/15 23:04:24 TrpYpKGT
グッドエンドの間違いじゃね?
>>720
血塗れ竜と食人姫もかなりお薦め。

724:名無しさん@ピンキー
07/07/15 23:30:22 JPqzxXBr
>血塗れ竜
癒されたいんだったら外伝を読むべき
本編もべらぼうに面白いが、トラウマになりそうなほどショッキング(勿論褒め言葉

ほかにほのぼのエンドや四方丸く収まるエンディングが読みたいんだったら
煌く空、想いの果て
うじひめっ!
Bloody Mary
ミスタープレイボーイ
山本くんとお姉さん
振り向けばそこに…
とかがお薦め
ただし分岐に注意 分かれ道の先はグッドもあるけどバッドもあるから


725:名無しさん@ピンキー
07/07/15 23:32:55 BFdD7zW9
血塗れ竜は最後の十数行を無かった事にすればいいんじゃね
いやそれでもかなりショッキングですけど

726:名無しさん@ピンキー
07/07/16 00:02:06 B6VDStEo
正直レイプでさえなければ、キャラが死んでも俺的にはBADではない

727:名無しさん@ピンキー
07/07/16 00:23:03 fRKQ/8P3
個人的に気になるんだが、血塗れ竜の外伝って完結?
あれを見る限り、まだまだ続きそうなんだが……

728:名無しさん@ピンキー
07/07/16 00:47:50 947/Qd2F
作者本人次第だろうなあ

729:名無しさん@ピンキー
07/07/16 00:54:57 fRKQ/8P3
そうか……自分は続編が出るのを期待して待ち続けるぜ。

730:名無しさん@ピンキー
07/07/16 01:02:15 947/Qd2F
(・∀・)人(・∀・)ナカーマ

おれも一緒に待つぜ

731:名無しさん@ピンキー
07/07/16 01:16:37 hQwabh5G
てか、全裸で待つ作品多すぎだろww


732:名無しさん@ピンキー
07/07/16 01:29:12 tqzOgIXs
ぶっちゃけ潜伏してる奴大杉ワロタwwwww

733:名無しさん@ピンキー
07/07/16 01:42:17 hQwabh5G
個人的には
両手に嫉妬の華を
山本くんとお姉さん
転帰予報
桜荘へようこそ

全裸で待っていますが・・続きが気になって仕方ない

734:名無しさん@ピンキー
07/07/16 01:56:34 Chx24S/A
俺はこのスレのROMの多さにびっくりだぜ

735:名無しさん@ピンキー
07/07/16 02:13:40 yFzqbdNC
不義理チョコのパラレルのやつも待ってたりします

736:名無しさん@ピンキー
07/07/16 02:27:31 szp1i6ZN
みんなここが好きなんだな

737:名無しさん@ピンキー
07/07/16 03:27:45 ycNdzlkW
雨の音まだー

738:名無しさん@ピンキー
07/07/16 04:00:54 WMz3JwvJ
俺はキャラが死んだらバッドエンドだと思ってるから
ここの作品はほとんどバッドエンドwまあ面白いからいいんだが
たまに他のスレに癒しを求めにいくな

739:名無しさん@ピンキー
07/07/16 04:10:06 bgiQ9bJb
漏れは赤色の続きをいつまでも待ってる信じてる…

740:名無しさん@ピンキー
07/07/16 04:17:38 WMGCo1qx
ノントロ

741:名無しさん@ピンキー
07/07/16 04:27:10 RNsXBJOc
雑談自重

742:名無しさん@ピンキー
07/07/16 05:11:08 cTj3srGj
今は需要に供給が追いついていない感じだね

743:名無しさん@ピンキー
07/07/16 07:44:26 cl9NjQOn
>>733
あんたとは美味い酒が飲めそうだ…

744:名無しさん@ピンキー
07/07/16 08:42:19 Eez25/bC
華を! 華を!
出来れば花束で!!


ソロソロフクキナイトカゼヒイチマウ

745:名無しさん@ピンキー
07/07/16 08:43:01 YZst0K4d
やや地獄な~は一体どうしたんだ?
叩かれたショックで筆を折ったとか?別に作者や作品自体を叩いてはいないのに。

746:名無しさん@ピンキー
07/07/16 09:30:03 KxWR1Q/4
嫉妬プログラムの続きが見たいでゴワス

747:名無しさん@ピンキー
07/07/16 10:32:05 eCjMetHc
地震がキタァー(゜∀゜)ーー!!!!
これは海外出張するする彼を逃がさないために
泥棒猫が起こした地震なのよ!!

748:名無しさん@ピンキー
07/07/16 10:49:16 1W5iVgib
不謹慎な奴もいるな・・・
人の心が判らないニートだな

749:名無しさん@ピンキー
07/07/16 10:49:55 WMGCo1qx
あの揺れ方なら大丈夫じゃね

750:名無しさん@ピンキー
07/07/16 10:55:43 8nVbL+jp
螢火・・・


751:名無しさん@ピンキー
07/07/16 12:56:16 0Mu+tG8l
これだろ?!
URLリンク(jggj.net)
URLリンク(jggj.net)
URLリンク(jggj.net)

752:名無しさん@ピンキー
07/07/16 23:10:35 SI1G+8mJ
>>751
業者

753:名無しさん@ピンキー
07/07/17 11:51:42 K0MI+w0d
盛り上がりが足らん!!

754:名無しさん@ピンキー
07/07/17 12:02:55 zNDN6rVj
いつものこと

755:名無しさん@ピンキー
07/07/17 13:03:51 4iy0ZDvW
ぶらっどまりぃ読み返したの今日で24回目か・・・

756:名無しさん@ピンキー
07/07/17 13:35:48 IdNbVvaP
どうでもいいが、絶望先生にひきこもり少女とストーカー少女がいたのに吹いた
ストーカーのことをディープラブなんですって意味わからん

757:名無しさん@ピンキー
07/07/17 15:20:12 Oi94Ve3J
ストーカーって用語は日本でははここ10年来の新参でね
昔から好きな人の後を付ける『付け回し』はあったんだよ

 ラブコメでも普通に使われてた手法であって『違法』では
無かった むしろ嫉妬深さや独占欲に三角関係を暗示する
ライトサイドに近いシチュエーションであったのだ

 そいつが一気にストーカーでネガティブなイメージに統一
ドラマ脚本家にとってみりゃあこりゃあ何の冗談だ、ってね

758:名無しさん@ピンキー
07/07/17 16:29:15 5mVL124g
>>698
あーイライラする
かわいそうと思ったたがプラモ否定をガキのやることとか言った事でまたイライラするぜー
ここまで読み手の感情を操れる作者さんもすごいと思う

759:名無しさん@ピンキー
07/07/17 17:05:14 0Q01KSP/
>>758
こういう話でこういうキャラなんだと納得して楽しめないで
ストレス溜めて感情撒き散らすような人が
成人板来ていい大人とはとても思えない

760:名無しさん@ピンキー
07/07/17 17:20:59 VE+IeNks
他人の意見にわざわざ噛み付く方がよっぽどアレ

761:名無しさん@ピンキー
07/07/17 17:23:02 kcyQCKOQ
スレで修羅場展開されてもw

762:名無しさん@ピンキー
07/07/17 17:26:05 pDxiA1t7
>>758
なんだこのバカは?

「1/8スケールのHeart→Hate」は趣味を理解してもらえない恋人を持った男の話なわけで

小説内のキャラクターの価値観が作者の価値観てわけじゃないくらい大人なら理解できないもんかね?。
プラモ、ゲーム、漫画あたりをガキの趣味と考える人は珍しくないし奇抜な設定というわけでもない。

逆にこんな事でイライラできる>>758のような読み手の方がすごいし、珍しい。

763:759
07/07/17 17:38:08 0Q01KSP/
俺が言うのもアレだが
>>読み手の感情を操れる作者さんもすごいと思う
って言ってるんだから物語だと判っていて
その考えは許せんって言ってるんだと思うよ?
1行目と3行目以外は同意

764:名無しさん@ピンキー
07/07/17 17:42:49 2nuQBsUA
ヒトゴロシお姉ちゃんに惚れこんで、続きを待ち望んでる人間って俺だけなんかなぁ・・・

765:名無しさん@ピンキー
07/07/17 17:49:43 X5kdYEua
>>764
そんなわけないだろう、同志よ。

766:名無しさん@ピンキー
07/07/17 17:56:55 dJ/x5phw
作られた命を待ちつづけている俺は間違いなく異端。
雪奈かわいいよ雪奈…

767:名無しさん@ピンキー
07/07/17 18:05:06 A/7HuRix
なんかこの間の勘違い野郎と同じ匂いが

あれ、ここだっけわかんなくなった

768:名無しさん@ピンキー
07/07/17 20:16:34 YhgM23qn
お前らそろそろ雑談は控えめにしとけよ、いい加減

769:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/07/17 21:27:52 mA4S5vy1
では投下致します

770:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/07/17 21:30:57 mA4S5vy1
 第7話『さくら』

 朝がやってきた。眩しい朝日がカーテンの隙間から入ってくる。
更に鳥たちの鳴く声が響き渡り、寝呆けている俺の頭の回転が少しでも動きだそうとしていた。
腕や肩に何者かが乗っているような重量を感じたのは目蓋を開けて、
すぐに入ってきた二人の少女が寝息を立てて、昨日まで日常が違っていることを思い出した。

 幼馴染という赤い糸よりも深く繋がっている腐れ縁のおかげで
白鳥更紗と進藤刹那はとある事情で強制的にこの俺の部屋で同棲生活を送ることになったのは昨日ことだ。
親父とおじさんたちがタチの悪そうな友人の連帯保証人になったおかげで多額の借金を背負い、
何故か借金金額よりも多い資産でラスベガスに旅立ったという人様に
最初から最後まで正直に話すと正気を疑われるような事が起因になっている。

 俺も首を傾げたくなる唐突な出来事のおかげで断るはずだった幼馴染の同居を認めなきゃいけない状況に陥った。
かよわい女の子が家亡き子状態にしておくのは危険だ。
昨日、刹那がこの街の不良たちに囲まれたばかりだ。
だから、更紗と刹那の距離をある程度離して俺の目が届く範囲に彼女たちの住居を探さないと行けない。

 その前に現在における最強敵対勢力の猛攻をどうやって防ぐか。
もう、この先の事を考えると胃が痛くなりそうだ。
 起き上がろうとすると更紗と刹那が掴んでいる俺の腕を身動きできなかった。

更に絡み合うように俺の足と彼女たちの足が重なっていた。
女の子特有の肌の温かさと柔らかな感触を感じながら、嫌な予感が脳裏をよぎった。

(そ、そうだ……。雪菜がいつものように起こしに来るんだ)

 一応、妹分である彼女にこの光景を目撃すると兄として威厳が失われるどころか。
あっという間に桜荘の住民に知らせる可能性がある。
昨日、更紗が桜荘に不法侵入したおかげで二人の印象が悪くなったり、俺に対する冷たい眼差しを向けられていた。
人間関係なんて一度拗れてしまうと後で必ず厄介な問題として転化する。
 だが、現実というものは常に最悪な事態を無理矢理に選択させられるのがお約束らしい。

「お兄ちゃん、起きろぉぉぉぉぉ!!」
 いつものように雪菜が元気よく俺の部屋のドアをノックなしにぶち開けた。

「もう、さっさと起きないと……えっ」
「お、おはよう。雪菜」
「こ、こ、こ、これはどういうことなの!?」
 般若のような形相を浮かべて、怒気を篭もらせた声で雪菜は寝ている俺の髪を数十本ぐらい抜けそうな勢いで掴んでいた。

「ふ、ふ、不潔だよぉぉぉぉ!! お、お兄ちゃんのバカぁぁ!! 真穂さんに言い付けてやるぅぅぅ!! うぇぇんん!!」
「あぎゃっっ!!」 
 俺は間抜けな声を挙げて、将来のハゲにならないことを密かに祈っていた。
飛び出した雪菜の悲鳴に似た泣き声のおかげでこの同衾事実は桜荘の住民たちに知られてしまったことであろう。
「う~ん……カズちゃん。えへへへ」
「もう、カズ君ったら甘えん坊さんだね。うふふふ」


 お、女を殴りたいと本気で思ったのは生まれて初めてだ……。

771:名無しさん@ピンキー
07/07/17 21:33:01 7Z61Chgl
雑談ぐらいいじゃないか、エロパロだもの・・・あれ?だから駄目なのか?

772:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/07/17 21:34:15 mA4S5vy1
 その後の朝食会の雰囲気は俺が桜荘に来てから……最悪な居心地であった。
更紗と刹那の朝食分は安曇さんは何事もなく用意してくれたのだが。肝心な俺の朝食は。
「あ、あのこれは?」
「どうしたんですか? 深山さん」
「何で俺だけ朝食が冷飯と海苔だけなんだ?」

「私が毎朝早く作った朝食のメニューに文句があるんですか?」

 普段、大人しくて桜荘の唯一の聖人だと思っていた安曇さんの背後から黒い殺気のオーラーを発していた。
原因は朝の両手に花状態が原因であろう。
少なくても、桜荘で唯一の男性である俺は普段から硬派を気取っていたので、
今回の件からすると女性陣からすれば裏切りに近い行為だった。
冬眠していたオオカミという男の本性が目覚めたと住民たちは警戒しているかもしれない。
だが、この有様はあんまりである。

「せ、せめて、温かなお味噌汁を……」
「ぷっぷっぷんんん……。深山さんに相応しいたっぷり健康栄養満点の青汁を用意しておきますから。
ちゃんと残さずに飲んでくださいね。少しでも残していたら、当分の間は覚悟してくだい」

 勢い良くテーブルに叩き付けられたのは青く草色に濁った液体が入ったジョッキであった。
冷笑を浮かべて安曇さんが威嚇するように睨みながら自分の席に戻っていた。
 新たな修羅がここに誕生した。彼女の名前は最後の女戦士……。いや、そんなボケをかましている余裕は俺にはなかった。

「お兄ちゃん……雪菜に教えてくれるかな? どうして、更紗さんと刹那さんと一緒に寝ていたの? 
幼馴染の関係だとはいえ年頃の男の子と女の子が一緒のお布団に寝ているのは教育に悪いと思うんだけど」
「い、い、い、いや。お兄ちゃんも本当は一緒に寝ようと思ったわけじゃないんだけど。
更紗と刹那の友情タッグの陰謀に見事にはめられてしまって……。うっ。ごめん」

 圧倒的な迫力に圧されて、年下の妹分の雪菜に平謝りする俺に誰が責められようか。
頬を膨らませてジト目で睨んでいる雪菜が可愛いと思うのだが、
実はこの状況がもっとも油断できない事態に発展しているとわかるのは1年も付き合っている桜荘の住民だけであろう。

「本当に悪いと思っているなら、真穂さんが愛情を込めて作ってくれた
青汁を一気に飲み干してくれるかなお兄ちゃん。
それで今日はお兄ちゃんが私の部屋で一緒に寝てくれるなら今朝のことは水に流してあげる」
「待て……この青汁を一気に飲むなんて」
 泡を吹いているジョッキに視線を向けて、これだけの量を飲み干すと食道が詰まって器官に入ったりして死ぬのがオチであろう。
 だけど、桜荘の住民たちの人間関係を壊すわけにもいかないから。

この罪を引き受けよう。
ジョッキの掴むところを持ち、俺は目を瞑って青汁を少しだけ一口だけ飲み干した。

「ぐっっぎゃあぁぁぁぁっっっっ!!」
 たった一口で俺はこの世に生きていることを後悔する。
舌の味覚が苦味渋味に支配され、それらを総合すると不味いという生半可な単語で言い表わせない青汁独特の味が俺を襲う。
胃の中の物を吐き出したくはなるが、雪菜がじっと俺が飲み干すところを見つめているので、
兄として、幼馴染たちと一緒に寝た責任を取るために。
 全てを飲み込め!!

「ぐっぎょぎょごごぁぁぁぁぁーーー!!」
 鈍い悲鳴を浴びて、俺の朝食タイムは最悪な形で終了を迎えた。
正直に言おう。安曇さんや雪菜は普段ではこんな狂気に犯された危ない人間じゃあない。
1年間も桜荘の住民として付き合いした俺が言うんだから。間違いない。

 ただ、この何事もない朝食の光景に誤解した人たちがいた。
 言わずともわかるであろう。
 
 遠い故郷からはるばるとやってきた更紗と刹那である。


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