嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その36at EROPARO
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その36 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
07/06/07 22:57:16 URDcIW0H
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3:名無しさん@ピンキー
07/06/07 22:58:33 URDcIW0H
SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・作品に対する評価を書きたいなら、スレ上ではなくこちら(URLリンク(yuukiremix.s33.xrea.com))へどうぞ
スレは作品を評価する場ではありません


4:名無しさん@ピンキー
07/06/07 23:00:02 URDcIW0H
現在は避難所にも幾つかのスレが立てられているようなので、そちらにも足を運ばれてはどうでしょうか?

5:名無しさん@ピンキー
07/06/07 23:08:16 kMVEIHwx

      //      ,.へ          ー‐-、` 、:.:.::/  \ \
__ _,. ‐'´/      /                ヽ/ k'^ヽ、   ヽ ',
`ヽ、__/     /  / / / /            ヽ ∨ !:.:.:.:.:.ヽ、  ', !
     / /  /  ,' / / / /  , ヘ、       ',   |:.:.:.:.:.:.:.:ヽ、 ', |
.    / /  /   l ,' | i_!__| |  | |__|_| !  |  i | ト、:.:.:.:.:.::.:|  | そ、そ、その他のSSスレに
    /|イ  /   ' | !  ィ'∧ハ∧!  |,ハト、ノノ`ヽ  ,' | ,' \:.:.::.:.::|  |行っちゃダメだよ・・  
   ,'  |   !  | .| |  N,r‐=ト    斤―-、 / / N   ヽ、:.:|  |そんなことしたら・・  
   /  '., ト、 l  | ト、 〈 ヒ′;;|     ヒ′;;}ヾ//  !      ー'  |
.  /    ヽ|. \ト, |  ヽ| 辷_.リ     辷_.ソ 7  ∧         | あなたを・・・・して
 /         | |   ', ::::::::::::  ′  ::::::::::: /  ,'  ',        |
./           /レ∧   ト、 ::::::  - ―  ::::: /   ,   !           |私も・・ぬから・・
       /  / ',   ! > 、     ,. イ   l    !           |
      /   , '   !  |  _├`-ー- ´┤_ |  |   |         |
    /   /    l   l'´r'::::::::::::::::::::::/ `|   |    !           ',
   /   /   _,.-¬   | ヽ_, -‐- 、_/  |   ト、_  ',         ヽ
 /   /   ,rヘ ', !   !   ', ,r' ミリ /   |   |/ /ヽ、ヽ
/     /   | ヾ\∨  ,'   丶  /    |   レ' , ' |  \
   /    | \/   i    ,=∨=、,,  |  |/ |   \
 /      |  ,'   | ,..='",.=q=、、゛'' 、!  i|    !     \
/          |   !,ヘ、 ト!",.イ( /ハト、))\ リ  |.   l      ヽ、
            !  . リ ヽ !イ   ー7,':||:i |ー'、 / | ∧!  |        ' ,
        ̄二ニ=.、,  丶、  _____


6:名無しさん@ピンキー
07/06/09 01:11:33 z3Gkcb+W
>>1

7:名無しさん@ピンキー
07/06/09 08:13:31 vwbtQOlg
まとめサイトだけみてたんだが…前スレでなんかあったのか?

8:名無しさん@ピンキー
07/06/09 10:41:57 4KSJbTJz
前スレはまだ見れるから見てくれば?

9:名無しさん@ピンキー
07/06/09 13:45:30 /a9VvnOZ
>>1が早漏君すぎただけ

10:名無しさん@ピンキー
07/06/11 11:35:53 2TjrrDJJ
保守

11:名無しさん@ピンキー
07/06/11 12:05:22 /uYUYFwp
名無し君・・・私まだ埋まってないよ?
それなのになんであんなに早くあの子のとこに行っちゃったの?
名無し君が行っちゃってから変な子が来るの・・・
私はもう終わったんだって、必要ないんだって・・・
でも私待ってるから・・・ずっとずっと名無し君が戻ってくるの待ってるから!!

12:名無しさん@ピンキー
07/06/11 14:03:27 xbmt9eJL
あげとくぜ。
遅まきながら乙。

13:名無しさん@ピンキー
07/06/11 18:52:11 qAN8Qs/c
まとめ管理人さんメール!みているか?荒らしが現れ住民は二つに引き裂かれた。
こんな時こそあなたが更新することで修羅場スレを守るんだ!

14:名無しさん@ピンキー
07/06/11 19:24:46 Yne5xqXE
二つって?

15:猫泥棒 ◆wvo7w.Uzxk
07/06/11 19:43:06 DXrwFBhM
投下します

16:お願い、愛して! 10 ◆wvo7w.Uzxk
07/06/11 19:48:00 DXrwFBhM


―口に何かやわらかいものが触れた。

それが朝生の唇であることに気づいた瞬間、あまりの当惑に頭が真っ白になる。
本意でない初めてのキスは幸福や愛しさなんてなくて。唇の柔らかさや暖かさを感じる余裕もなくて。
なぜか、激しい焦燥感と喪失感に襲われただけだった。
「っ……凪!!」
その焦燥感が命じる通り、すぐに両手で朝生の肩を掴んで引き離す。
慌てふためく俺とは対照的に、朝生は艶やかな笑みを浮かべてクスクスと笑い始めた。
「今、凪って名前で呼んでくれましたね、先輩……。
 はぁぁ、やりました、やっと呼んでくれた」
「あ……。い、いや! そんなことより、何でこんなことっ」

俺はただ、朝生に「白河先輩のことで相談がある」って言われたから、あいつを置いてまで屋上に来たのに。
最近、瑞奈がクラスで孤立しているという噂も聞いてたから余計に気になったし、それに夏休み前のこともある。
そして、なんといっても俺自身瑞奈にはちょっとした違和感を感じていた。
自意識過剰かもしれないが、俺に嫌われたくないあまり必死になっているように見えたのだ。
全てはそんな瑞奈を心配する想いで来たはずなのに―それが、何でこんなことに?

「ふふ……何でって、先輩が私に顔を寄せてくれたんじゃないですかぁ」
「な……! だ、だいたい、お前風邪なんだろ!?
 それでふらついたから支えてやったのに……まさか、嘘だったのか?」
「そんな、先輩に嘘なんかつきませんよ。本当にフラッとキちゃったんです。
 ……なんなら触ってみます? はい、おでこ」
そう言って、朝生は俺を甘く見つめながら前髪を掻きあげた。
その仕草と覗かれる額が妙な色情を感じさせて、ドキドキと心臓が騒ぎ出す。
―ドキドキ……? 俺が、瑞奈以外の人間に?
「先輩……? …………ほら」
反応できないでいる俺に業を煮やしたのか、俺の手首をとると、自分の額へと持っていく朝生。
ぴったりと朝生の額に手が合わさると、朝生の言ったことが本当だということが分かる。
熱い。素人が触っても、これが平熱でないことが分かる熱さだ。
立っているのも辛いはずなのに、凪はうっとりとした表情を浮かべると、掴んでいた手を俺の手と重ねた。

「あぁ……先輩の手……先輩の体温だぁ……。
 ん……はぁ……昨日といっしょ……じんじんってしちゃいます」



―誰だ?


17:名無しさん@ピンキー
07/06/11 19:48:39 nU8pH0Ng
hoshu

18:名無しさん@ピンキー
07/06/11 19:51:36 HInxbsGe

嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その36
スレリンク(eroparo板)


19:お願い、愛して! 10 ◆wvo7w.Uzxk
07/06/11 19:52:29 DXrwFBhM

魅惑的な声色と、妖艶な微笑。そして積極的なアプローチ。
そのいずれも、昨日までの凪からは想像もつかないものだ。
これじゃまるで目の前にいるのが朝生じゃない誰かのような―。
いや……だけど、この雰囲気は……。
「んふふ……せんぱぁい……」
この危うさは、昨日自殺しようとした朝生に似通うものがあるかもしれない。
だとしたら、どうしてまた「この」朝生が出てきたんだ。
あの時は、俺たちがそうだったように、あまりの辛さに感情が爆発した、
ただの一時的な二重人格みたいなものだと思っていたけれど……違うのか?
……やめだ。そんなこと、いくら考えても朝生にしか分かるはずない。

―それより、今は。


「……なぁ。俺をここに呼んだのは、その……キスをするため?」
俺がそれを尋ねると、朝生の手がぴくっと反応した。
「そんなに白河先輩のことが気になります?」
「気になるのは当たり前だけど、そもそもそのために屋上に来たんだろ。
 ……それとも俺をここに呼び出すための口実だったのか?」
「言ったはずじゃないですか……先輩に嘘なんかつきません。
 もちろん、白河先輩とあなたとのことでお話があったからですよ」
単刀直入に言わせてもらいます、と朝生が付け加える。
うっすらと浮かべていた笑みも消えて、真っ直ぐに俺を突き刺す視線。
気付けば俺の手は朝生の手に握られたまま、額から離されている。
さっきまでの甘い空気が嘘のように、張りつめた沈黙が流れる。
そんな中、俺は続きを催促するように朝生を見つめ返した。

「白河先輩とは、距離を置いてください」

もしかしたら、その答えを予想していたのかも知れない。
だからすぐに答えることができたんだと思う。

「それはできない」

また、朝生の手がぴくっと動いた。

「理由も……訊かないんですね」
「思い当たることが多すぎるからな」

まずは夏休み前。俺が瑞奈に嫌われてることを知って、避けだした頃だ。
あの時から、瑞奈はクラスでの様子がおかしくなった。
そして二学期。俺は「僕」を捨てて瑞奈を迎えに行った。
それから更に瑞奈はクラスから孤立してしまった。
薄々感ずいてはいたけど、これはきっと全部俺のせいだ。
だけどその原因に確信を持てなかったから、それを理由に逃げていた。


20:お願い、愛して! 10 ◆wvo7w.Uzxk
07/06/11 19:55:25 DXrwFBhM

「だったら……あなたのためにも、白河先輩のためにも、距離をおくべきです」
「瑞奈は幼い頃、ずっと人に避けられてきたんだぞ……
 それなのに俺まで避けたりしたら、また瑞奈を傷つけることになってしまう」
そうだ。誰かに嫌われるのを恐れてるあいつを、もう避けたりしない。

「そうして、白河先輩がクラスで完全に一人になっちゃったら……
 先輩はどうやって責任を取るつもりですか?」
「俺も孤立するよ。……もともと瑞奈のために媚を売っていたようなもんだ。
 あいつが昔のように孤立するなら、俺も昔に戻ればいい」
それを言った途端、手に熱と圧力が伝わる。
朝生の手に力がこもったせいだ。
「……二学期に入ってから、急に先輩が変わっていたのも瑞奈さんのためなんですよね……」
短く一言だけ、同意の返事を返す。

…………。
………………。

「どうして、あなたはっ! あの人のためにそこまでするんですか!?」
今日になって、初めて取り乱したように叫ぶ朝生。
その表情には疑問よりも怒りが色濃くにじんでいた。
「いえ……分かってます……白河先輩のこと、好きなんですもんね」
「………………」

胸が、ずきんと痛む。

「でも、ダメですよ。先輩がいくら白河先輩を愛していても……」
「言うなよ……そんなの分かってる」
「分かってませんっ! あの人は……白河先輩は、そんな先輩の想いにすら……っ!」

「分かってるっ!!!」

俺は、締めつけられる胸の痛みに堪えきれず、大声を張り上げた。
それに朝生は目を見開いて驚くと、萎縮したように押し黙る。
―怒鳴るつもりはなかった。
謝ろうかと口を開くが、出た言葉は謝罪なんかじゃなかった。
「あいつは、俺の想いには応えてくれない……分かってるよ
 嫌われてる俺なんかがいくら好きでいても、無駄ってことぐらい」
「…………え?」
違う。何を言ってるんだ、俺は。
こんなことを朝生に言ってどうするつもりだ。瑞奈の、たった一人の本当の親友なんだぞ。
二人を気まずくさせるだけっていうのに。
……最低だ。

朝生の表情が、髪と曇天の陰に隠れて見えなくなる。
「……先輩。先輩はいつ、自分が白河先輩に嫌われてることを知ったんですか?」
問い詰めるような朝生の口調には有無を言わさない気迫があった。
それに気圧されてしまうが、それでも―。
「ごめん、紛らわしかったな。別に瑞奈から直接聞いたわけでもないし、
 俺が勝手にそうじゃないかって思ってるだけなんだ。はは……」
嘘をついてでも、二人の仲を壊しちゃいけない。孤立した瑞奈にはきっと朝生が必要なのだから。
悲しいけれど……瑞奈にとって、朝生は俺じゃ代えられない大切な友達だ。



21:お願い、愛して! 10 ◆wvo7w.Uzxk
07/06/11 19:58:49 DXrwFBhM

「それでは質問を変えます。嫌われてると思っているのに、
 それでもまだあの人を好きでいるつもりですか?
 いくら想い続けても、どうしても報われない想いもあるんですよ……?」
最後、声が僅かに憂いの色を帯びていたことに気付く。
その言葉は経験したことのある者だけの重さを伴っていた。

朝生に心配までされているのに、結局俺は瑞奈を諦められない。
ダイエットして、髪を切って、コンタクトにしたのは―紛れもなく瑞奈に振り向いてほしいからだ。
俺がもう少しマシな男になれば、瑞奈も俺のこと見直してくれるかも知れない。そんな下心があったからだ。
本当は今だって、少しは見直してくれたんじゃないかって、淡い希望に縋り続けてる。
俺たちはどんな傷も舐めあって生きてきた。一人じゃ耐えられなかったから、依存し合うしかなかったから。
……嫌いなんて言われても、今更この依存をどうにかできるわけないんだ。

「……ありがとな、こんなやつの心配してくれて」
刹那―俺の手が痛いぐらいに握り潰された。

「お礼じゃなくて返事が聞きたいんです、私はっ!!!」
「っ……朝生……?」


「先輩はあの女に嫌われているんですよ! 脈なんて全然ないんですよ!?
 それをいつまでも女々しく想いつづけるだなんて、どうかしています!
 無駄ですっ、迷惑ですっ、キモいだけですそんなの!!
 一途なのは結構ですけど、それをあの女は知りもしませんっ! いいえ、知ろうともしませんっ!!
 ちょっと容姿が良いだけのそんな鈍感女のどこがいいんです? 大体あの女は貴方を振り回しているだけじゃないですかっ!?
 先輩の優しさに甘えるだけ甘えておいて、その幸福が当然だと思っているからちょっと貴方がいなくなっただけでウダウダウダウダ……
 自分に向けられている愛を、自分がどれだけ恵まれているのかを、全部ぜんぶ無駄にしてしまうあんなクズ女のどこがっっ!!!」


全てを言い終えた朝生は、はぁはぁと肩で息をする。
俺はといえば、言葉が出なかった。それぐらい信じられなかったのだ。
朝生が親友であるはずの瑞奈を貶めていることが。その表情が憎悪で歪められていることが。
信じられないあまり、しばらく茫然自失してしまう。

「気付いているかも知れませんが、私はあなたを愛しています。この世界の誰よりも大好きです。
 スキでスキでスキでスキでスキでスキでスキでスキでスキでドウシヨウモないぐらい……。
 私ならあなたの想いにあんな女の何倍も何十倍も何百倍も応えることができるんです。
 先輩……もう苦しまないでください。愛なら、私がいくらでも差し上げます。
 だから――お願いします、私を愛してください」



22:お願い、愛して! 10 ◆wvo7w.Uzxk
07/06/11 20:02:14 DXrwFBhM

告白の返事を待つ彼女の目は、いつもの弱気な朝生の目になっていた。
受け入れられるかどうか不安で、緊張に体が硬くなっているのが分かる。
俺は自分を落ち着けるために、ゆっくりと息を吐いた。

―だけど結局感情を抑えることはできなかった。


「なんだよ、それ……」
「…………え?」
ずっと握られていた自分の手を、朝生から強引に振りほどく。
「あぅっ……」
「俺はお前がクズ女呼ばわりする瑞奈に焦がれてるっていうのに。
 そんな俺にお前は告白するのか?」
「え、あ……え?」
激情が堰を切るように言葉になって流れていく。
俺は困惑する朝生を睨みつけ、続けた。
「勘違いしているようだけど、俺は瑞奈に振り回されてると思ったことなんて一度もない。
 あいつと一緒にいて、想い続けることが苦しいと思ったことなんて一度もない。
 俺とあいつのことなんて何も知らないくせに……分かった風にあいつを語るなよ」

「あ、あぁ……ごめ、なさっ……。で、でも……違うんです……私が、私が言いたかったのは……」
分かってる。
朝生は本当に俺を心配してくれて、勇気を持って告白までしてくれた。それは純粋に嬉しくもある。
想いを寄せる相手に拒絶されるのが、どれだけ辛いかも知っている。
でも、明らかな憎悪を持って瑞奈を嘲ったことが、俺には何より許せなかった。

「……俺はお前を愛せない。
 お前が瑞奈を憎むなら、俺たちの関係も終わりだ」

辺りが、一層暗くなり始めた。
ポツポツと、屋上に小さくて黒いシミができていく。

「オワ、リ……先輩と、もう……話せなくなるんですか……?
 そんな……ア、ああぁぁァァァ……やだ、イヤ……ヤです、そんなの……。
 ゴメンなさい、違うんです……ゴメンなさい、許してください……。
 もう欲張ったりしません、憎んだりしません、何でも言うこと聞きますからぁ」
穏やかだった雨は、すぐに変化を遂げる。
激しい風に運ばれて数多の雨が無情に体を打ちつけ始めた。
一瞬で強雨へと変わる雨に、体中の熱が奪われるような錯覚に陥ってしまう。



「…………ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」



23:お願い、愛して! 10 ◆wvo7w.Uzxk
07/06/11 20:04:57 DXrwFBhM

俯き、震えながら自分を抱いて、うわ言のように謝り続ける朝生。
その様子があまりに悲愴だったから、強烈な罪悪感に襲われた。
たった一度でも優しく抱きしめてあげようとするのを、それでも感情が拒否する。
朝生は、今朝までは確かに俺たちの同士だったというのに……。

……雨で垂れ下がった髪が朝生の顔を見えなくさせていた。
だから朝生の風邪が酷くなっていることに、彼女が倒れるまで気付けなかったんだ。





…………。
………………。





それから、俺は朝生を保健室までおぶっていった。

幸い中に他の生徒はおらず、保険医の先生も暇していたようですぐに診てもらえた。
朝生は予想通り相当な高熱で、意識が戻るまでベッドで寝かせて早退させるとのことだった。
一時間ほど朝生の横で看病をしていたが、容態も落ち着いたのでクラスに戻るよう先生に勧められた。
俺はこのまま授業を受けられる気分じゃなくて、具合が悪いということで早退の許しをもらい、帰宅することにした。




24:お願い、愛して! 10 ◆wvo7w.Uzxk
07/06/11 20:09:10 DXrwFBhM

「………………」
薄手の制服が肌に張り付いて、気持ちが悪い。
一向に弱まる気配のない強雨に溜息ばかりが出てきてしまう。
こう寒い上に湿っぽい雨の中にいると、いつまでも鬱々とした気分は晴れない。

『もうお母様に愛してもらわなくてもいい、他の誰からも必要とされなくてもいいの……!
 ただ……あなただけいてくれたら、それで私は満たされるのに……っ』
俺が保健室を出る間際、目を覚ました朝生に言われた言葉だ。

―朝生 凪。
色々な闇を抱えた俺たちの同士。だった、とは……ならないことを願う。
もしかしたら俺は、あの子の傷痕を共有するどころか、広げてしまったんじゃないだろうか。
朝生に瑞奈を罵られた時、あの時は何も知らないくせにと思ってしまった。
だけど、朝生のことを何も知らないのは俺も同じなんだ。
俺たちと同じだからと分かったふりをしていても、当たり前だけど俺たちと朝生の事情は似て異なるもの。
……昨日の自殺しようとしていた時に、俺は朝生の苦しみを聞きだすべきだったんじゃないか。
そうすれば……朝生の気持ちを理解していれば……こんなことにはならなかったかも知れない……。

「……くそっ」
何をウダウダ後悔してるんだ、俺は。
過ぎてしまったことを後悔しても何も変わらないことは、ずっと昔に思い知ったことなのに。
過去にいつまでも悩むより、これからどうするかを考えた方がよっぽど建設的だ。
……もしかしたら明日には朝生もいつも通りの姿を見せてくれるかも知れないし。
いや、先に俺がいつも通りでいなくちゃいけない。
そうすれば、きっと瑞奈も大事な親友を失わずにすむ。

だけど、雨で陰鬱になった心がそれを否定しようとする。あの関係はもう二度と帰ってこない、と。
一瞬でもそんな愚かしいことを考えた自分を叱責したとき―。
ようやく見慣れた自分の家が見えてきた。


「キョータくん……」


見えてきたのは、俺の家だけじゃない。
完全に濡れて天気のせいか黒ずんで見える亜麻色の長い髪と、俺を真っ直ぐに見つめる輝きを失った瞳。
ところどころ透けている荒れた衣服と、そこから覗かれる血の気のひいた病的なほど白く美しい肢体。
目の前にいる少女は、どんなときも二人だった愛しい幼馴染で間違いない。
だけど―どうして……?
今はまだ、授業が行われている最中のはずなのに。

改めて瑞奈を見つめて、その異常性に気付く。
濡れていないところがどこもない。もしかしたら手もふやけているかもしれない。
ぐしゅぐしゅのずぶ濡れ。まさにそんな状態だった。
いくら雨が強いといっても、短時間でこれほど悲惨な状態にはならない。

―こんな雨の中、ずっと俺の家の前で待ち伏せていたのだろうか。

瑞奈は、そんな疑問にはまるでお構いなしに俺に駆け寄ってきた。
そしてよどんだ瞳で俺を捉えて、薄紫の唇で言葉を紡ぐ―。




「えへ……おかえり、キョータくん」



25:猫泥棒 ◆wvo7w.Uzxk
07/06/11 20:21:45 DXrwFBhM
今回はちょっと長めにここまで。
幼馴染が有利でもいいじゃん、ってことで書いた話なので
今回は書いててかなり楽しかったです。

次回は板的にもピンクな展開になる予定。


26:名無しさん@ピンキー
07/06/11 20:26:08 /uYUYFwp
>>25
猫泥棒さんGJです!!
朝生に対する京太のあまりの男っぷりに惚れた!
どうかこんな真面目な主人公にハッピーエンドが来ますように・・・

27:名無しさん@ピンキー
07/06/11 20:43:49 geYaKmRa
リアルタイムGJ!

28:名無しさん@ピンキー
07/06/11 20:57:30 qRFvcEE9
>>25
おまえかー
うちの猫パクった奴は

29:名無しさん@ピンキー
07/06/11 23:34:02 BukRuxb7
読んでいて切なくなったGJ

でも、この嫉妬スレの属性上・・HAPPYENDはありえないんだろうな・・
一度、欝ENDモノを読んでしまうとその物語の登場人物の幸福を願わずにはいられないな

30:名無しさん@ピンキー
07/06/12 00:30:00 8Mifl5sa
GJ!
楽しみにしてかいがあったぜ

Happy Endは無いと分かっている
が、それでも瑞奈との幸せを願ってしまう俺がいる

31:名無しさん@ピンキー
07/06/12 08:43:52 bOjtvFVv
>happyendはない

何だそれ。
お前らの勝手な思い込みを作者さんに押し付けるなよ。


32:名無しさん@ピンキー
07/06/12 09:18:39 KCtpy1Vf
そうだよね
別にハッピーエンドでもいいよね
修羅場とグロ原理主義は別だし

33:名無しさん@ピンキー
07/06/12 09:31:29 KIKEJDFy
いい加減に血塗れ展開は飽きてきたな・・

34:名無しさん@ピンキー
07/06/12 10:17:49 HBuIPhPI
確かに全滅エンドとか見てると「お前ただ殺したいだけだろ」って思う時がある
特に普通の学園モノとかでの殺人は違和感


35:名無しさん@ピンキー
07/06/12 10:48:03 KCtpy1Vf
作者の嗜好と言うより、一部の自己主張が激しい人間が趣味を押し付けてるだけなんだろうけどね
死ななきゃ修羅場じゃない! バッドエンドじゃなきゃ修羅場じゃない! 他所へ行け! みたいな
作者の人には無理させず、書きたいものを書ける環境を作りたい
修羅場を乗り越えて幸せになるカタルシスだってあるんだ!

36:名無しさん@ピンキー
07/06/12 11:06:42 w5pA92ZE
作者が血塗れを書きたければ書けばいい
ハッピーエンドを書きたければ書けばいい
住人はそれに対して気に入らなければならスルー、気に入ればGJ
それだけのことだと思うが



37:名無しさん@ピンキー
07/06/12 12:39:49 WDSJ7Qiq
>>33-34
まだEDにも行ってないんだしそういうのはやめようぜ?
飽きたならもう修羅場は卒業の時かもしれないしね

>>36
まったくもって同意であります。
結局はそこに落ち着く。

38:名無しさん@ピンキー
07/06/12 13:34:53 Zo3XVSUd
てか、普通に流しておけばいいのにレスしてスレの空気を悪くしてどうするの?
そこは適当に合わせておけばいいじゃないか・・

>>作者が血塗れを書きたければ書けばいい
>>ハッピーエンドを書きたければ書けばいい
>>住人はそれに対して気に入らなければならスルー、気に入ればGJ

↑のことは誰でもわかっているんだから\\


39:名無しさん@ピンキー
07/06/12 16:45:24 ru+a6vNe
だねぇ
荒らしをスルーできない奴が一番の荒らしだというのに

40:名無しさん@ピンキー
07/06/12 17:02:43 /5HlDq0N
以下永遠に「おまえもスルーできてないだろ」のループ

41:名無しさん@ピンキー
07/06/12 19:23:52 U823GkuC
おま(ry

42:名無しさん@ピンキー
07/06/12 19:32:19 SfuuuRJE
おま(ry


43:名無しさん@ピンキー
07/06/12 19:59:04 9yzwSTh9
自治厨が一番タチ悪いw

44:名無しさん@ピンキー
07/06/12 20:37:58 sSpgwNos
一番も何もねえだろ
みんな失せればいいのに

45:1/2
07/06/12 20:51:14 Pyzw4gis
「皆さーん、病んでますかー!!」
「それでは早速、いってみよ~!!」
「ハイ!」
「1・2・3・ヤン!!!」

「キモ姉キモ妹」「ほのぼの純愛」
「嫉妬に修羅場に三角関係」

ドキドキ 止まらない

「依存」「空鍋」「包丁一閃」
「お兄ちゃんどいてそいつ殺せない!」

ズキズキ 恋わずらい
多分……

ピタッと指が 触れるたび
胸が 子宮が 疼くのよ

ワ・タ・シ・ダ・ケ・ミ・テ
カイカン 愛の拉致監禁

I Want You

熱い私の処女を今すぐ奪ってよ

誘って 触って 一服盛って 押し倒して

心も 身体も 全部わたしだけのもの

眠らせないの セツナイ刺激 All Night Long

kill the rival

きっと報われる 素敵な私 女の子

声も吐息も視線も
生殺与奪も わたし次第

愛しております
前世から 来世も 未来永劫!!

「好きだよ。……大好き!」

ヤンデレヒロイン!

46:2/2
07/06/12 20:52:51 Pyzw4gis
「泥棒猫、殺してやるぅぅぅぅっっっ!!」

「ヤンデレヒロイン! ヤンデレヒロイン!」
「雌豚屠殺 ヤンデレヒロイン!!」

「ヤンデレヒロイン! ヤンデレヒロイン!」
「幼さんハンバーグ ヤンデレヒロイン!!」

「ヤンデレヒロイン! ヤンデレヒロイン!」
「姉妹母従姉妹(アネウトハハイトコ) ヤンデレヒロイン!!」

「ヤンデレヒロイン! ヤンデレヒロイン!」
「貴方に依存 ヤンデレヒロイン!!」

「ヤンデレヒロイン! ヤンデレヒロイン!」
「SHUFFLE!スクデイ ヤンデレヒロイン!!」

「ヤンデレヒロイン! ヤンデレヒロイン!」
「流鏑馬一発 ヤンデレヒロイン!!」

「ヤンデレヒロイン! ヤンデレヒロイン!」
「ヤンデレヒロイン! ヤンデレヒロイン!」
「ヤンデレヒロイン! ヤンデレヒロイン!」

「ヤンデレヒロイン! ヤンデレヒロイン!」

「最後にもいっちょー、ハイ!」
「ヤンデレヒロイン!」

47:名無しさん@ピンキー
07/06/12 21:09:47 WDSJ7Qiq
>>46
これを歌ってニコニコにうpしたら褒め称えるわ

48:名無しさん@ピンキー
07/06/12 21:27:36 7A8hedAr
>>46
コーヒー吹いただろうがw
でもたまにはこういうノリも嫌いじゃ無いぜ?

49:名無しさん@ピンキー
07/06/12 22:48:11 8iTggb3J
>>46
お、俺のキーボードー!!

50:名無しさん@ピンキー
07/06/12 23:55:22 HEiDwzFa
>>46
ハンバーグ食ってた俺に謝れっ!!

51:名無しさん@ピンキー
07/06/13 01:12:51 e/aE7mcV
>>46
「泥棒猫、殺してやるぅぅぅぅっっっ!!」 に爆笑。

52:名無しさん@ピンキー
07/06/13 11:57:05 fdOHyjRw
>>46
巫女みこナース聞きながら読んでみたら
歌詞がぴったりあっててワロタwwwwwwwwwwww

53:名無しさん@ピンキー
07/06/13 17:30:16 6lv75vWL
>>46の人気に嫉妬

54:名無しさん@ピンキー
07/06/13 18:19:12 LSucCtZQ
にげてー!46にげてー!

55:名無しさん@ピンキー
07/06/13 18:53:07 N77bDIzf
新ジャンル「ヤンデレミュウツー」
スレリンク(news4vip板)

くやしぃ…ミュウツーに萌えるなんて…

56:名無しさん@ピンキー
07/06/13 21:59:27 2XQ6HobB
>>55
ミュウツーに萌えるなんて馬鹿じゃねーのww








ミュウツー可愛いよミュウツー(´Д`;)ハアハア

57:名無しさん@ピンキー
07/06/13 23:16:53 LypdyGUp
やはり、ツンデレの嫉妬は萌える・・・・
パルフェをプレイしていたらそう思えてきたので・・
誰かツンデレの嫉妬SSプロットネタとかないか?

58:名無しさん@ピンキー
07/06/13 23:39:48 DzXCnDvw
自分で書かんか馬鹿者!

59:名無しさん@ピンキー
07/06/13 23:52:05 d1D6/ldt
>>57
そうなんだよな。
気の強い娘スレとかボーイッシュスレとか、
安定しないところがメインだからなかなか無いんだよな、ツンデレ嫉妬。
ものっそい簡易な物なら作れる、しかも内容イマイチな。

60:名無しさん@ピンキー
07/06/14 01:38:49 PQL7GHrk
ツンデレの嫉妬っていうと…
初期状態はは主人公のことを好きじゃないと周囲及び主人公には思われてて(ただ仲のいい女友達にはバレバレな可能性あり)
主人公が他の女と仲良さそうにしてると「ふーん、仲いいのねぇ」みたいにネチネチ来る感じのイメージだな
なんというか涼宮ハルヒに近いモノを感じる

そっからどうデレに繋げるのかはSS書く人の技量次第というか

61:名無しさん@ピンキー
07/06/14 01:52:41 vLxvXtwJ
スレ違いだけど、ハルヒのSSはそういうの多くて面白いぞ。
URLリンク(red.ribbon.to)
最近ここを読み耽っている。
どぎつい修羅場とはいかないけどね。

62:名無しさん@ピンキー
07/06/14 02:13:11 LBzZ6anw
そういえば最近忙しくて某ヤンデレハルヒのサイトに行ってないなぁ……
今から行ってももうだいぶ進んじゃってそうだしなぁ

63:名無しさん@ピンキー
07/06/14 02:40:34 Ol4aMajF
>>60
む…そういう物なんですか…知らんかった。
じゃあ今から投下するプロットは一体

[未来の光と過去の陰]仮

夜は何かと物騒だというビル街、普段こんな時間に外出などしないのに、
なぜかその日に限って口寂しくなった主人公A(大学生)は
コンビニに酒とつまみを買いに来ていた。
途中のビルの影、女の喘ぎ声と複数の男の下卑た声、
関わらぬ方が良いと思い避けて通ろうとしたが、
バイクと歩道で衝突しそうになり、間一髪で回避。
しかし運悪く影の中でうごめいていた男達とぶつかり、
性行の邪魔をされ頭に血が上った男達と乱闘となり…
一人で全員、七人を倒した。
事後処理に困っているとき後ろから声をかけられた
「私の客に何してるのよ!」
それが彼女との出会いだった。
「彼奴等の代わりにあんたが金払いなさいよ?」
言動から取るに、
彼女は七人まとめて援交していたらしい。
課せられた金額は24万、バイトと仕送りで生計をたてている学生に
そんな金あるはずがない。
その事を伝えると彼女は
「暫く私の男になること」を代わりの条件として課した。

64:名無しさん@ピンキー
07/06/14 02:43:11 Ol4aMajF
顔が良いから、ただそれだけの理由。
しかし違法とはいえ、営業妨害に代わりはなく、
正当防衛とはいえ、暴行には代わり無く、
できるだけこの件を表沙汰にしたくないAは
彼女の条件を飲んだ。

住んでいる世界が違うためか、様々な面でかみ合わない事が多く、
その度彼女は怒っていた。
だが少しは会話になるときもある。
音楽の話、近況報告、好きな食べ物…互いの距離は少しづつ縮まっていった。
いつも通り恋人、というより主従関係感覚で
貢がされたり貢がされたりしていたある日、彼女の過去
「昔、陵辱されて、その時から援交を始めた」
という事を知る。
それまで最低な友達という視点で見ていたAだが、この日から彼女は
「心に傷を負った哀れな子」と同情すべき対象となった。
翌日からAは彼女にできるだけ優しく接するようになった。
家庭があれており、まともに優しさに触れた事のない彼女、
どう対応したら良いかわからず、最初は困惑し拒絶するだけだったが、
拒まれても温もりを与え続けてくれるAに次第に心を開いていき…

そんな最中、Aは大学で一人の女性と知り合う。
お互い馬が合い、互いをもっと知りたいという気持ちは
いつしか恋愛感情に発展し…

65:名無しさん@ピンキー
07/06/14 02:46:16 Ol4aMajF
自分の恋心に気づいたAは密かに貯めていたバイト代を手に、
彼女の元へ。
「大学である女性を好きになってしまったから、
 一緒に居るところを見られて誤解されたら困る
 これでもう俺を解放してくれ」
そう言いながら札束を突き出した。
「せ、清々するわ、もうあんたと…
 か、かわらなくて…いいと思うと…」
そういって金をひったくる。
良かった、これで終止符を打てると安堵し顔を見上げた先には…
言葉とは裏腹に
驚愕、哀しみ、そして

   
   怒り狂った彼女の顔があった。



66:名無しさん@ピンキー
07/06/14 02:47:31 Ol4aMajF
制作時間20分 編集無し
蛮行の果てがこれです。
こんなんプロットじゃねぇよ!

すみませんでした。肝心なツンデレの部分、
中心部に相当省略して入れてしまいました。
やはり単発ホモネタ野郎にはこれが限界か…!

67:名無しさん@ピンキー
07/06/14 08:53:57 dL/1d0CG
敢えて内容には触れないが、
後にダラダラ卑下言い訳するくらいなら最初から書くな

68:名無しさん@ピンキー
07/06/14 09:13:38 Ycc17DA2
ツンデレの嫉妬は難しいよ・・・
どういう風に物語を展開していいかさっぱりとわからん。

とりあえず、プロットもどきを投下すると

1・電車に乗っている時にツンデレからこの人は痴漢よと誤解される
  主人公は潔癖の証拠を突き付けて解放されるが・・両者の仲はこの事がきっかけに険悪化する

2・それから、1週間後に自分のアパートに引っ越しきたのはツンデレ・・
  隣に引越しの挨拶をして来たときに最悪な再開を果たす。



3・以降はどういう風に展開していいのかわからんが
とりあえず、序章だけ考えてみたが・・どうよ? 

どうやって、嫉妬するまでの仲に進展させるのか難しいんだよな。ツンデレは

69:名無しさん@ピンキー
07/06/14 11:23:54 cc5ABl3I
ヒロインAはツンデレかつ幼馴染で主人公に好意がうまく伝えられない。
なので自分の性格上、そこまで仲良くなれる自信がなく
自分の働いている喫茶店に彼がコーヒーを飲みに来てくれる時間、二人っきりで話すことだけを楽しみにしていた。
だがある日いつもの時間にその彼が女を連れて入ってきて…
自分の大切にしてきた時間が壊れたことを知った彼女は…

ここまで考えて眠くなったから寝た。昨日

70:名無しさん@ピンキー
07/06/14 14:20:01 KkKFNDtE
嫉妬の世界史
これ読んだ人いる?

URLリンク(www.amazon.co.jp)

71:名無しさん@ピンキー
07/06/14 15:22:23 icOifdpz
ツンデレの嫉妬って言ったら
「恋人でもない男が他の女と仲良くしてるのを見て、怒る筋合いが無いのに怒る」
これしかない

72:名無しさん@ピンキー
07/06/14 15:30:28 Vu/HO+VM
なるほど。
簡潔だが秀逸だ。

73:名無しさん@ピンキー
07/06/14 16:46:06 zth2euyH
そして何故怒るのか分からない主人公。

74:名無しさん@ピンキー
07/06/14 17:41:28 rIv3L5Wn
>>70
>喜怒哀楽とともに、誰しも無縁ではいられない感情「嫉妬」。
>時に可愛らしくさえある女性のねたみに対し、本当に恐ろしいのは男たちのそねみである。
どう見ても(ry

>>73
そして分かってくれない男に対して狂っていく女

75:名無しさん@ピンキー
07/06/14 17:46:59 xUfKS1mz
>>68の続きを考えてみた。

顔を合わせれば喧嘩ばかりだが、共に過ごすうちに主人公が痴漢なんかするはずない
イイ奴だと分かってきたツンデレ。でも第一印象が悪くて素直になれない。

後日主人公は、同じ学校の女生徒が痴漢に遭っている所を助けて犯人を捕まえる。
実は登校に使う路線の常習犯で、ツンデレに冤罪くらったのもコイツのせいだった。

これをきっかけに素直に謝ってデレになろうと思ったツンデレだが、主人公が助けた
女生徒といい雰囲気なのを見て、結局ツンな態度を取ってしまう。
もちろん、内心に嫉妬の炎を揺らめかせながら。



・・・ベタな展開でスマンが、個人的にはこういうのが好きだ。


76:名無しさん@ピンキー
07/06/14 18:39:44 jIWB0cdO
続きの続き

真犯人が鉄道警察官に連行されるのを遠くからみたツンデレ。
「あ、やっぱり犯人は違う人だったんだ。早くあいつに謝らないと」
たったった。

逮捕現場。主人公と被害にあった女性。
「ほんとうに、ありがとうございます。わたし、触られてると怖くなって
なにも言えなくなってしまうんです、グスッ」
「痴漢されるてると声もでなくなるっていうし。怖かったんだね。もう大丈夫だよヨシヨシ」
「あ、ありがとうございます。こわかったよー。フエーン」
「……へえ、じゃあ声をだして捕まえたわたしは怖くなかったとでも?」
口角と片眉が不自然にぴくぴく動いているツンデレ。
「え、あ、おはよう、いや、その…」
「……勇気をだしたのに、あなたはおとなしく触られてろと」
「なにもそこまで言っ」
「ふん、なによ。いいわよね、かわいい娘は。痴漢を捕まえてくれる男がいて。
どうせ私なんか、冤罪でっちあげることしか能がないわよ。わるうござんしたねっ」
走り去るツンデレにうっすらと涙が。

これを誰か三角関係までもっていってくれ~

77:名無しさん@ピンキー
07/06/14 21:26:17 1I703Aw2
面白そうな展開になってまいりました!

78:名無しさん@ピンキー
07/06/14 22:07:12 udvuH/jR
ツンデレの涙に気づず、しかし遣る瀬無い気持ちで走り去るツンデレを見る主人公。
「はあ…本当、うまくいかないなあ…」
呟いた主人公に、泣いていた女生徒が顔を上げる。
すでに、その瞳に涙はない。
「……?あの人は…私と同じ学校みたいでした、けど…」
「ああ、実は。なんと言うか、恥ずかしい話なんだけど…」
それまでの経緯を話す主人公。
聞いて、徐々に少女の表情が険しくなっていく。
それは、先ほどまでの泣いていた少女とは別人のような顔。
「……見下げ果てた方ですね。
 無辜の他人を犯罪者扱いしたというのに、全く反省している様子もありません」
「いや、彼女も悪い子じゃないと思うんだけどね」
「…え?」
「ほら、自分の身に危険が迫ったんだし。
 仕方ないことだったとは思うよ」
「……お優しいのですね」
微笑む主人公に、そう小声で返す女生徒。
だが主人公はその声に気づかない。
「ん?
 どうしたの?」
「いえ。
 宜しければ、この後お茶などいかがでしょうか」
「え?でも」
「お礼だと、思っていただければ」
微笑む女生徒。
しかし、その目には情欲が浮かんでいた。

ついワクワクしてやった。後悔は(ry
女生徒が突然変貌したのはお約束だと思って(ry

79:名無しさん@ピンキー
07/06/14 23:53:53 WJYtGeaU
つかさ。
こんなこと言ったら怒られるかもしらんけど、まとめの『両手に嫉妬の花束を』って作品にこのツンデレみたいなキャラがいるんだけど……。

80:名無しさん@ピンキー
07/06/15 00:03:57 aurYgxR3
>>78
憎い!続きを書ける文才の無い自分が憎い!

81: ◆Xj/0bp81B.
07/06/15 00:44:09 oZD+QtcY
投下します。

82:名無しさん@ピンキー
07/06/15 00:45:10 8QX8TMJl
現在の小説や漫画はすべて既存の物の焼き直しだってあさり先生が言ってた。
ようはどんな新しい切り口で話を魅せていくのかが大切なんだぜ。

83:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/06/15 00:45:40 oZD+QtcY
「何で、お前がその鍵を持っているんだ?」
「え?ああ、これの事ですか」そう言いつつ、澄香は右手を持ち上げる。「玄関の花瓶の下にあったのを拝借したんです」
まるで自分のモノを取りあげただけなのに、と言うような平然とした口調だった。
しかし、それは信じられない光景であり、翔は目を剥いた。
何故、澄香が鍵の隠し場所を知っている?家政婦と翔以外に、それを知る者はいないはずだ。なのに、何故?
疑問が次から次に噴出し、渦を巻く。
「それにしても、驚きましたよ。帰ってきたら、二階から物音がするんだもん。泥棒さんかなって、すごく怖かったんですよ。
でも、センパイでよかったです」
澄香は、無邪気に白い歯を見せて笑みをつくった。まるで、子供のように無邪気な澄香の笑顔。しかし、その子供のような無邪気さが、
翔の背中に冷たいなにかを走らせる。そのなにかに撫でられた肌から、次々に鳥肌が立ち、それが全身に広がる頃には、恐怖が、
胸を蝕んでいた。
子供は、時折大人が唖然とするような残酷な事を、平気でやるのだ。それは、無邪気の仮面の下で、正常と異常の区別がついていないから。
好奇心を抑える術をまだ知らないから。
澄香も同じに思えた。彼女も正常と異常の区別がついていないのだ。
翔は思わず澄香から目を反らした。
ジワジワと心を浸食する恐怖に、仔猫のように震えながらも、必死で平静を保とうとする。しかし、
それは押し寄せる波を両手だけでは防げないのと同じ事で、心が恐怖に侵され続け、やがて飲み込まれ体が大きく震え出した。
翔は肩を抱きながら、体を丸めた。カタカタと歯がなる。
「センパイ、大丈夫ですかっ!!」
いつの間にか駆け寄ってきたらしい澄香の心配そうな声が、すぐ上から聞こえた。彼女が近くにいる。その事実が、翔の心をよりいっそう冷たくする。
「センパイ、震えてる……」
今度は同情したような声だった。
しかし、騙されてはいけない。澄香は、自分をどこか遠くへ連れ去ろうとしているのだ。


84:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/06/15 00:47:11 oZD+QtcY

「かわいそう……。センパイ、寂しいんですね」
甘い言葉に乗ってはいけない。耳を傾けてはいけない。そして、翔は、耳をふさいだ。 「……でも、大丈夫です─」
澄香がしゃがむのが、気配で分かった。いよいよだとばかりに翔は身を固くし、恐怖の大波を堪えようと歯をくいしばった。
しかし、恐怖の大波はいつまでたってもやってこなかった。代わりに、天使の安らぎが翔を包みこんだ。
「─私が、センパイの側にいますから」
頭が何か柔らかくて暖かいものにくるまれた。それが、澄香の体であると認識するまでしばらくかかり、また認識した途端に、
胸に巣食った恐怖が、波が引くように小さな余韻を残して消えていく。後に残ったのは、涙が出るほど暖かな安らぎであった。
澄香が恐怖の原因なのは、頭では分かっている。しかし、分かっていても、彼女に抱かれていると、不思議と心が落ち着いてく。
次第に頭が、冷静な思考を、気だるい眠気を取り戻していく。
静かな胸の鼓動が、耳に心地いい。
ぺったんこだが、彼女の体からは女性の暖かさ、柔らかさを感じる。
ミルクのように甘い澄香の匂いが、鼻孔をやんわりと擽る。
全てが、乾いた翔の心に、潤いをもたせる。
その中で、やがて平静を取り戻した翔は、そして気付いてしまった。
澄香の体から、微かに香るインクの匂いに。
瞬間、頭の中で今日の出来事がフラッシュバックする。バラバラの記憶のピースが、各々に意思を持ち、一つの事実を頭の中で作り上げていく。
散らかるアルバム、塗り潰された顔、家に侵入した澄香、そして、微かに香るインクの匂い。
それらが導く、完成図。それは、あってはならない事実だった。
体を覆う安堵感が、急速にその暖かみを失っていく。心の彼岸が、再び訪れた恐怖という名の荒波に飲み込まれていく。
翔は慌てて澄香の体を、自分から引き剥がした。突然の事に、澄香は驚いた顔をしたが、構っている余裕はない。そして、
すがるような気持ちで澄香の瞳を見据え、
「澄香が、やったのか?」


85:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/06/15 00:49:08 oZD+QtcY

キョトンとした顔をする澄香。
「えっ?」
「なぁ、お前じゃないよな? こんな事したりしないよな?」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
意味が分からないといった体裁で、澄香の真意を探るような目が、翔を舐め回す。全身をはいずり回った澄香の視線はある一点、
すなわち翔の胸に抱えられたアルバムで静止した。途端に、腑に落ちたと言わんばかりに目を細める澄香。
「ああ、それの事ですか」
「……やっぱり、澄香なんだな」
愕然とした気持ちを隠せず、翔の声は震えていた。本当は、嘘でも、否定してほしかった。
「どうして、こんな事を、するんだよ。何が、したいんだよ……」
澄香のしたい事が、して欲しい事が分からない。いや、もう既に澄香の行動が、翔の理解を超えつつあった。
何故、こんな事をするのか? 澄香に何かメリットがあるのか?悪戯にしては度か過ぎているし、第一笑えない。もう、ジョークではすまされない。
その疑問に、澄香が答えを提示する。
「だって─」
彼女は無邪気な笑みを浮かべて、事も無げに、サラッと言いのけた。
「─必要ないでしょ?」
「えっ……?」
「女の子の写真なんて、必要ないんですよ。だって、センパイには私がいるんだもん」
何を、言ってるんだ……?
「センパイは私だけを見て、私だけを好きでいてくれればそれでいいんです。他の女なんて、全部豚なんだから」
言いつつ、澄香は再び翔の頭を抱えこんで、
「私はセンパイのためなら、何でもします。言ってくれれば、エッチだっていつでもしてあげます。だからね、
センパイは他の女なんか見る必要なんてないんですよ」
後頭部に回された彼女の腕に力が篭った。
「大丈夫。怖がらないで。センパイは私が守ってあげるから」
まるで赤子をあやすように、優しく頭を撫でる澄香。
狂ってるとしか思えなかった。


86: ◆Xj/0bp81B.
07/06/15 00:50:12 oZD+QtcY
投下終了です。


87:名無しさん@ピンキー
07/06/15 00:59:21 8QX8TMJl
>>86
割り込んでしまった・・・orz
投下乙です
周りのヒロインが全て狂ってるせいで逃げ場所の無い翔カワイソス
ここはもう由美さんに逃げるしか・・・

88:名無しさん@ピンキー
07/06/15 01:37:46 Uv93BOEP
>>86
うほっ!なんかもうストーカーの領域超えてやがる。

>>87
…その選択肢が何を意味しているのか分かってるのか?

鋸、ヘルダイブ万々歳じゃねぇかこんちくしょうw

89:名無しさん@ピンキー
07/06/15 02:21:54 dSIg7qJ8
取り合えず由美さんには今のうちに逃げといてほしいw
澄香の目がどんなもんだったか思い浮かんで興奮しますた

90:名無しさん@ピンキー
07/06/15 02:37:58 EOYR5mLU
最近このスレやキモ姉妹スレ読んでると非エロでもガチで勃起しちゃうから困る。

91:名無しさん@ピンキー
07/06/15 05:24:37 xbx7ByY5
ガチガチに勃起か
若くてよいな

俺なんか中折れで

92:名無しさん@ピンキー
07/06/15 10:54:10 4lL6fAZr
↑のツンデレのプロットについて

そのツンデレ少女は金髪でツインテールが望ましい・・
これこそ、ツンデレ少女って感じがするw

93:嬢 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/15 16:57:39 ND7rl/g9
投下します。鳥付き長文はじめてなので見難い点あるかもしれません。

94:淑女協定 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/15 16:59:01 ND7rl/g9
「あら、負け組みサラリーマンにしたら、お早い帰宅ね」
マンションの玄関でばったり会った晶はエレベーターを待つ間、呟くように、でも僕にはっきり聞こえるように言った。
「まあ貧乏暇無しってのは嘘だってことだな。貧乏暇ばっかりってことだ」
晶の言外の意図をあえて無視しておちゃらける。
実際、同い年なのに会社を立ち上げて小さいながらも社長をやっている晶に比べたら負け組みと呼ばれてもしかたない。
チンと音をたてて1Fに降りてきたエレベーターに乗り込み最上階である12階のボタンを押す。
静かに上昇を続けるエレベーターに2人。沈黙を破ったのはまたも晶だった。
「ねえ」
「ん?」
「明日、よね?」
「今日じゃねけりゃ明日だろ」
できるなら会いたくなかったが、会ったんだからしょうがない。今日じゃないのだ。
視線の持って行き場がなく、階数表示パネルを見上げる。チンと再び鳴ったエレベーターは12階で止まった。
「じゃ、わたし、こっちだから」
自宅の1201号室に向かう晶。僕は隣室である1202号室の鍵をポケットからとりだす。
「明日ね」
そう言うと晶はさっさと扉を開くと中に消えた。鍵穴に鍵を差し込む前に深呼吸をする。今までのことは忘れよう。

95:淑女協定 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/15 16:59:50 ND7rl/g9
「ただいま」
玄関を開けると、奥からいい匂いが漂ってきた。
「おかえり~」
スリッパをぺたぺた言わせてこちらにやってくる妙子はエプロン姿で、晩御飯をつくっていたことがわかる。
「お仕事お疲れ様。ご飯、もうちょっと待っててね」
何も言わず僕のかばんをもって、上着を脱がせてくれる妙子。そんな彼女に僕はふっと唇を重ねる。
「こ、こら、そんなの反則だぞ。もっと、ちゃんと…」
「ちゃんと?」
片手で細い腰を抱き寄せ、もっと深くキスをする。
最初はびくっとしていた妙子も僕の首に両手をまわし、次第に舌を絡ませるように動きをあわせる。
この何度やっても初々しい妙子の反応がたまらなく好きだった。
たっぷり5分。僕達は玄関で抱き合い、キスをした。1日ぶりだった。
空いた時間を取り戻すかのようなキスが終わったとき、妙子はへたりこむ。
「妙子……」
「……」
「口の中が味噌汁くさい」
「!」
顔を真っ赤にした妙子が、僕のかばんで顔をなぐりつけてきた。

「いいお湯だったよ」
頭をタオルで拭きながら、リビングに戻るとテーブルにはいつもながら2人では食べられないほどの料理が並んでいた。
炊き込みご飯。味噌汁。焼魚。おひたし。煮物。てんぷら。サイコロステーキ。
成人男性の1日のバランスのいい栄養と摂取カロリーがここにある物だけで満たせそうだ。
妙子が鼻歌まじりにお茶を入れた湯のみをさしだす。
「どうせあっちではお店で作ったものばかりでしょ。それじゃ体壊しちゃうぞ。さ、食べて食べて」
受け取ったお茶を飲みながら、こっちのほうも体壊しそうだなと思ってしまった。
実際、妙子のつくった料理はおいしいからまたやっかいなのだ。気づいたら食べてしまっている。
こりゃあっちの運動を頑張れってことか?
そんなことが顔にでたのだろうか。妙子ははずかしそうにうつむき、小さくそうだよと言った。

96:淑女協定 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/15 17:01:32 ND7rl/g9
結局あれほどあった料理をほとんどたいらげてしまった。さすがに胃が重くて体が動かない。ベットに横になって目をつぶり体を休める。
どうしてこうなったんだろうか? そもそも何が悪かったんだろうか? それはわかってる。僕の優柔不断が招いた結果だ。
でも、でも、僕はどちらを選ぶなんてことできない。泣いてる顔なんてみたくないよ。それがエゴだなんてわかってる。
淑女協定。1日置きに僕の彼女は交代で変わる。その場しのぎ。まるで将来がみえないこの提案に、僕は賛成した。
二人がいいっていうから。どこまでもダメな奴。自分の意見がまるでない。それでもこんな僕を受け入れてくれる女性を、
やはり一人だけ選ぶなんてことはできなかった。
「ねむっちゃったの?」
お風呂上りでパジャマに着替えた妙子が寝室に入ってきた。
そうだね、こんな僕を好きだっていってくれる妙子を裏切ることなんてできないよね。
「ちゃんと起きてるよ。妙子の作った味噌汁がおいしかったなって思い出しただけ」
「んもう」
軽口をたたく僕の横に座る彼女。横になってる僕の髪を指で優しく梳きはじめる。いいよ、という合図。
僕も手をのばしてまだ半乾きの妙子の髪を触る。
いつもは後ろで二つにしばっている彼女だが、唯一この時間だけ髪をほどいている。
肩まであるそれを優しくなでると彼女はくすぐったそうに笑う。
僕に覆いかぶさって口付けをする前に一言「会えない1日が長かったんだぞ」と彼女は言った。僕もだよ、妙子。
「ん、んむ、チュ」
僕が舌で彼女の歯列をなぞっている間、彼女は僕の上着のボタンをはずし、ズボンとパンツを脱がした。
かろうじて両腕にパジャマの袖が通っているだけの姿。
ひんやりとした指が僕の下腹部をさすり、まだ臨戦状態じゃないものを弄ぶ。
「口で、しようか?」
部屋は薄明かりなので彼女の表情までははっきりわからないけど、きっと言葉にするのも勇気がいったのだろう。
顔をさするとかなりの熱をもっていた。
「口ですると、キスできなくなるから、妙子が脱いで興奮させてよ」

97:淑女協定 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/15 17:03:20 ND7rl/g9
妙子の口というのもとても魅力的だけど、今日はずっとキスをしていた気分だ。
やんわりと注文すると、しょうがないなあといった風にベットの横に立ち、あっさりとパジャマを脱いでいく。
もうちょっと脱ぎにタメがあればなあ。
薄明かりの中、衣擦れの音が部屋に響く。体を重ねるようになって初めのうちは、部屋が真っ暗の中でしか事を行おうとはしなかった。
自分の体に自信がないからだろう。そりゃ、モデルさん達と較べれば数値的に劣っているかもしれないけど、
抱いたときにすっぽり僕の中に収まる彼女の体が大好きだ。
小さいと気にする胸も、きっと垂れることもないだろうし、大きいと嘆くお尻も、めちゃくちゃHだとわかってないだけだ。
なにより彼女の中に入ると安心するのだ。それだけは譲れない事実。
「どう?」
脱いだパジャマを畳んでベッド脇に置いた彼女は振り向いてこちらを見る。右腕で乳房を隠し、左手で股間を隠していた。
ストリップとしては不合格だな。彼女の細い左手を掴み、僕の下に組み敷く。
「あんなことやこんなことをしてるのに、まだ恥ずかしがってるの?」
耳元で囁くと、彼女はいやいやをして逃れようとする。
「いや、だめっ」
「だめなもんか」
耳の穴に舌をいれて、右手で乳首をやさしくはじく。弱いところはわかってるんだ。
やわらかいものを僕の唾でなぶり、手で揉み、指でほじる。
「ふわっ。あ、や、や、いっ」
「しー。声が大きい。もうしてあげないよ」
自制できないほどの大声。自分が女性を快楽に導いているという興奮。彼女の股間も潤い、迎える準備を整えていた。
「ゴム、妙子がつけて」
SEX中はゴムを必ず着用すること。淑女協定の中の一つ。用意したゴムを妙子にわたす。肩で息をしている妙子はゆっくりと起き上がり
袋を破って中からピンクの薄地を取り出す。精液だまりを指でつまんでてきぱき僕のに装着するのを上から眺める。だいぶ慣れたようだ。
裸がみられるのは恥ずかしいのに、僕のを見るのは恥ずかしくないのかと思ってしまう。そんなものか。
妙子が帽子をかぶった僕のにちゅっとすると仰向けになり「いいよ」と言った。
そうだ、と僕は思いつき彼女の右手を僕の股間に導く。
「なに?」
「いいから。入るところを妙子にも見て欲しいんだ」
妙子の手が添えられたモノが狙いを定めて貫く。

98:淑女協定 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/15 17:04:38 ND7rl/g9
「あ、ああああ、ふあああ」
たまらず嬌声をあげる妙子。
「触ってごらん、ほら、妙子の中にはいっていくよ」
僕のモノがどんどんと埋まっていく。く、きつい。温かく、ぐにょぐにょとして僕のを締め付ける妙子の膣内。
「い、い、いいいいいっ」
歯をくいしばり、シーツを掴む妙子。そんな姿が愛しくなりおでこに汗ではりついた髪を払い舌をはわす僕。
このままずっと妙子の中にいたいんだけど、狭くて、気持ちよくてとてもじっくり味わうことはできそうにない。
「ごめん、妙子、もちそうにない。動くよ」
「きてっ、きてっ、あ、いいいい」
その時、ドンと大きく壁が叩かれた。あちゃあ。絶対隣が妙子の声がうるさいから叩いたんだよ。
「妙子、おい、妙子、声小さく、静かにしよう? 隣に迷惑だって」
「あ、あ、べつに、い、い、いいでしょ、せっかく、きも、きもち、いいし、あ、あああああ」
だめだ、全然聞いてない。いつもは本当におとなしい妙子だけど、あえぎ声になると人一倍大きい。
普段を知ってる僕からすればなんか無理矢理声だしてる感じがするけど、そこもまたかわいいんだ。
しかしここは早く妙子にイってもらって静かにしてもらおう。
「だめ、だめ、いっちゃう、いっちゃうううう」
それから10分後、満足した妙子は僕の横で静かに寝息をたてている。隣には悪いことしたなあ。

朝。出勤前に玄関で妙子に見送られる。
「いってくるね」
「……また、明日だね」
「すぐだよ」
朝の出勤前、玄関をあけたらまた明日まで僕達は恋人同士じゃなくなる。
「いってきます」

99:淑女協定 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/15 17:05:23 ND7rl/g9
エレベーターを待っている間に、晶がやってきた。
「おはようございます」
隣としては挨拶をするのが常識だろう。
「今日ね」
「ああ」
腕にだきつく晶。昨日はつけてなかったシャネルの香水が鼻をくすぐる。
「通勤と会社の時間でくっつくのは協定違反じゃないのか?」
「いいのよ。深夜、うちの隣室のアヘ声で全然眠れなかったんだから。壁叩いてもちっとも静まらないし、いい加減こっちは欲求不満よ。ほら」
紺のタイトスカートをめくると、パンツではなくそこには濡れた陰毛が。
「おい、馬鹿、やめろって」
かばんでとりあえず股間を隠そうとするが、そんなことは意にも介さない晶は堂々と、
「昨晩、あなた達がどんなプレイをしたか知らないけどそれよりも数倍すごいことするわよ。いいわね!」
と高らかに宣言して、ノーパンのままエレベーターに乗り込んだのだった。

淑女協定 完

100:嬢 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/15 17:08:07 ND7rl/g9
投下終わります。

直接的な嫉妬や修羅場ではないですが、2人の女性の心理でにやにやしていただいたら
作者としては本望です。

101:名無しさん@ピンキー
07/06/15 17:39:33 u1ufN+v1
乙とGJ

102:名無しさん@ピンキー
07/06/15 17:44:09 tvY0SlH7
>>100
え、完ってこんな良いところで終わりなの!?
大人の恋愛も良い物だ・・・
是非続いて欲しいです。

103:名無しさん@ピンキー
07/06/15 18:13:22 R741P/gJ
嫉妬NEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!!!!



まぁおもしろかったんだけどね
やっぱり嫉妬成分がないとね…

104:名無しさん@ピンキー
07/06/15 20:08:40 UsmMpE8E
嫉妬は読み取れるだろ?修羅場は協定が結ばれる前にあったのだろうけど

105:名無しさん@ピンキー
07/06/15 21:39:58 dA3/bDlh
>>100
ああ、修羅場なしもいいものだ。最近血生臭いのばっかり読んでるから心が洗われる。
>>86
これに至ってはもう由美より警察だろう。
ともあれ二人ともgj。

106:名無しさん@ピンキー
07/06/15 21:53:03 U9bv7ad8
>>100乙&GJ!
ただ、もしかしたら修羅場スレよりハーレムスレ向きかもしれない。

107:名無しさん@ピンキー
07/06/15 22:39:33 PrUvd/Z4
>>103
壁を叩いても
ここから何も想像できんのか?

108:名無しさん@ピンキー
07/06/15 22:53:25 R741P/gJ
>>104>>107
まぁ確かにあるっちゃああるな
今までこのスレの作品を読みすぎて、耐性ついちまったなぁ…
初めてここに来た時は読んでるときすごい腹のあたりがゾクゾクしてたw


109:名無しさん@ピンキー
07/06/15 23:21:09 CedbeTAO
>>100氏投下乙です。

……で、ヒロインの名前から「センチメンタルグラフィティ」を連想してしまった自分はダメ人間決定ですか?

110:名無しさん@ピンキー
07/06/16 00:42:14 PDsXiOKH
こういうののほうが腹のあたりがゾクゾクしてくるよ

111:嬢 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/16 00:59:52 eX9KTDtN
投下します 連続になってしまい申しわけありません
「隣で何をしていたか」です

112:淑女協定appendex 明日 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/16 01:01:14 eX9KTDtN
「明日ね」
そう言ってうちに帰った私は、ヒールを脱ぎ捨て、リビングのソファの上に倒れこんだ。1日おきにしか家には帰らないのに何故か今日は帰ってきてしまった。
会うつもりはなかったのだ。「今日じゃなけりゃ明日だろ」そう言ったわたしの彼は、昨日ここの玄関から一緒にでていった彼は、隣のうちに帰っていった。
今日、わたしの彼は世界中どこを探してもいない。彼のドッペルゲンガーが隣にいるだけ。
明日になれば私に惜しみない愛を注いでくれるのに、昨日あんなに愛し合ったのに、今日わたしがどんなに泣いてすがっても抱いてくれないんだ。
明日、彼女がどんなに泣いてすがってもわたしが彼を抱かせてあげないように。
その残酷な事実が、胸の中で嵐となって吹き荒れる。
一日おきの恋人。馬鹿げた協定。あの時、彼がわたしから去ろうとしていたから? そうよ、彼のいない人生なんて考えられない。去って、捨てられて、辛い思いをするのは嫌。
わたしは彼の傍にずっといたいの。たとえそれが人生の半分でもいい。残りの人生なんて捨ててやるわ!
たまらない。
許さない。
殺したい。
死にたい。
暴れたい。
犯したい。
こんな世界なくなればいい! 今日の世界は、でたらめで、醜く、汚い。だめ、それじゃだめ。それでは甘く、美しく、ふるえるような明日の世界がなくなってしまうということ。
あんな女死んでしまえばいい! 今日のあいつは、わたしから彼をとりあげるただの邪魔者。だめ、それじゃだめ。それでは明日の、みじめで、何の才能もない、嫉妬の炎で身を焦がすあいつを想像して絶頂にいけないではないか。
ああ、今日なんて終わってしまって、はやく、はやく明日になればいいのに。東のほうにいけば早く太陽がのぼるかな。ここじゃない、どこかへいきたい。
外にでて、下にいこうとしても、見えるのは1202号室の扉。あれから彼は、一体なにをしてるんだろうか。
知りたい。知りたくないのに、知りたい。知れば必ず後悔するのに、知りたい。わたし以外の女にどんな話をするのだろうか。どんなものを食べているんだろうか。どんな顔をして……
扉に耳をあてる。そんなことをして何になるというのだ。わかっている。こうやって数え切れない夜を過ごしているから。そしていつも、扉の冷たさが耳から伝わりやがて心臓まで届く。
寝よう。彼の匂いが残るシーツにくるまって眠るのだ。明日になれば、彼に会える。わたしだけに笑ってくれる。やさしく頭をなでてくれる。体が壊れるくらい抱いてくれる。
それだけを夢みて、今日という日を呪いながら眠るのだ。そうやってわたしは残酷な夜をやり過ごしてきたのだから。

113:淑女協定appendix 明日 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/16 01:04:12 eX9KTDtN
中途半端に眠ってしまったので、目が覚めてしまった。明日には、なってない。次の日の朝、彼が家の玄関をでたら交代するという取り決め。
今起きても冷たい夜が続いているだけ。だめだ、気になってしまう。隣が。どうなっているか。覗きたい。聞きたい。暴きたい。
耳を壁にあてるだけじゃだめだ。コップ。そうだ、コップを壁にあてればいいとどっかで読んだ。キッチンから持ってきたグラスを使い、耳をそばだてる。
「あ、ああああ、ふあああ」
突きつけられる事実。今まで頭で理解しようとがんばってできないこと。
彼はわたしといない時に、他の女を抱いている。
「い、い、いいいいいっ」
歓喜の声が、だんだん大きくなっている。いいなあ。彼に抱かれてるんだ。右手はコップをもってるから、左指をなめる。
彼の指だと思う。言い聞かせる。そっと秘所の中で一番敏感な芽を摘む。「ぁ」わたしの指は彼の指だ。
「きてっ、きてっ、あ、いいいい」
せっかく気分が盛り上がってるのに邪魔するな! わたしは手近にあった目覚まし時計を隣室の壁に向かって投げつける。
ドンっと音がして隣は静かになった。もう一度集中する。コップを放り投げ、右手で自分の胸を揉む。これも彼の指。
彼はわたしの乳首をはじくように扱うのが好きだ。彼の指…
「だめ、だめ、いっちゃう、いっちゃうううう」
コップなんか使わなくてもはっきり届く女の声。それは、どんなにがんばってもわたしの指は彼の指ではないということをわからせたし、どんなに彼の匂いにくるまれようとも彼の体温を感じられないということもわからせた。
でも、でも、もう少しで、あと少しでイけそうな…… 涙がでてきてもかまわず芽を摘み、胸を揉みしだく。

わたしはようやく訪れた明日がくるまでずっと絶頂にたどり着けないオナニーをしていた。

114:嬢 ◆zR/LhJxu0Q
07/06/16 01:08:47 eX9KTDtN
投下終わりです
他の人とかぶらないよう、かぶらないよう作ってたらこんなんになってしまいました。
以前、修羅場った女達が男を刺殺してしまい、あまつさえ
ちんぽの奪い合いで女達も殺しあうというしょうもない話が浮かんで以来
直接的な修羅場はかけません。読むのは大好きです。

登場人物がセンチ 正解です

115:名無しさん@ピンキー
07/06/16 02:14:57 wMtaAbQ1
ぬおお、センチか! 長崎と青森か!
そうと分かったら俄然萌えちまった。

つーかあの主人公なら普通に12股やっていそうですね。

116:名無しさん@ピンキー
07/06/16 02:31:27 DCPh7Zfh
>>114
元ネタはわからんけどGJ!
たまにはこういう直接的なエロがあってこそエロパロですよね。

117:名無しさん@ピンキー
07/06/16 03:22:57 ApR0sjbc
なんという独白、読んだだけで身が震えてしまった・・・
ところでこれは続くのかな?てか続いて欲しいな

118:名無しさん@ピンキー
07/06/16 05:54:27 9UQk6FMw
野暮は承知ですが・・・

ここの玄関を彼が出て行ったのは今朝ですね。
昨晩、彼は家にいたはずです.
明日の朝、となりの玄関を出た瞬間に彼は自分のもの。

なにが言いたいかというと




GJ !!!

119:名無しさん@ピンキー
07/06/16 16:40:19 tNE/HWkr
>>114
えろい。GJ

120:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/06/16 22:12:01 FGza9gs8
では投下致します

121:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/06/16 22:15:30 FGza9gs8
 第4話『自分の胸に聞いてください』

「カレーの極意とは徹底された分量と希少な食材と共にある」

 カレー専門店オレンジの店長である東山田国照によるウエイトレスの仕事の説明は難解であった。
常識外れた言動や必ず暴走するカレーへの情熱のおかげで本来のホールスタッフやウエイトレスの
仕事にカレーの極意を熱論しても何の意味はなかった。
そうとは知らずに刹那は頑張って店長の言葉をメモ帳に書き込んでいるが。
 やめておけ。徒労に終わるだけだぞ。

「カズキがチンピラもどきにやられてしまったおかげで今日は店始まって以来の危機が訪れてしまった。
彼の代わりは容易ではない。それでも、カズキの代わりに仕事をやるというのかねセツナ?」
「はい。やります。やらせてくださいっっ!!」
「その意気込み……その意志。ワタシの爺さんが病人のフリをして毎日毎日病院に通って
ナースのおしりを触りに行くという偉業を成し遂げた時を思い出してしまう。
存分に頑張りたまえ。効率よく仕事をこなすことができたら、正レギュラーの昇進は考えてやるぞよ!!」

 刹那はあくまでも俺の臨時なんですけど。クソ店長よ……。

 ヤンキーに絡まれていた俺は目論みどおりに誰かが警察を呼んでいてくれたおかげであっさりと彼らはお縄に付いた。
 交番で警察官から事情聴取で時間を取られ。その後、病院へと強制的にタクシーで運ばれた。
 ある程度の打撲と打ち身が体のあちこちにあるが、検査の結果はどこも異常なし。
 医者からは絶対に安静でいるように診断されて、痛み止めの薬を貰っている間に陽は暮れてしまっていた。

 俺はうっかりと店長に連絡するのを忘れていたのでバイト先に着いた途端に店長はブチ切れた。
 仕事をやろうとしても、顔に紫色の仇が腫れている状態では接客の仕事は出来るはずがない。
 そこで付き添ってくれていた刹那がカズ君がこんな酷い目に遭わせたのは私のせいだからと
 俺の代わりに仕事をすると言い出した。別に深刻な状況でもないために刹那の申し出を丁重に断ろうとしたが、

 刹那は頑固に己の主張を貫き通した。
 店長は今日一日だけならとOKのサインを貰って、現在に至る。

「い、い、いらしゃしませっっ!!」

 緊張で強ばった刹那の声が店内に響き渡った。店長の意味不明な会話の後に俺がウエイトレスの仕事を適当に彼女に叩き込んだ。
 ほんの30分ぐらいでは何も覚えきれるはずもないが、必死に頑張ろうとする健気な姿にお客さま一同は暖かな目で見守っている。
 俺は調理場に引っ込んで店長の尻に蹴りを入れていた。
 目を離すと変な事をやってしまう未確認物体の監視は思っている以上に神経を使う。

「カズキっっ!! ワタシに恨みでもあるのですか!!」
「恨みはない。ただ、調理マニュアルのないようなことをやるな!! 何でオーダーされたカレーをレトルトでお湯で温めたモノで出すんだよ」
「それはスリルとサスペンスを味わうことでワタシが作るカレーがより深みに上り詰めることができるからですぞぉぉ」

 その発言の後に俺のコークスクリュパンチが二回も店長の顔面に炸裂したのは言うまでもない。
 相変わらず、この店長は自分の奇抜な行動が売り上げにどう響くのかと理解してないらしい。

 俺がアルバイトを始めた当初は飲食店の常識の範疇を超えているカレーが
 お客さまの口の中に運ばれていることはしばしばあった。
 知らぬが仏という言葉がこれ程似合う事態に遭遇するのは生まれて始めてである。

「……わ、ワタシを殴ったのね? パパにも殴られたことがないのにっっ!!」
「口はいいからさっさと体を動かせろっっ!!」
 勢い良く腰の回転が利いた回し蹴りが店長の尻に豪勢な音と共に炸裂した。


122:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/06/16 22:18:13 FGza9gs8
★一方、刹那は? 

 私は焦っていた。
 従業員の脱衣室のロッカーに少なめの荷物を入れてから、思わず嘆息を吐いた。
 大好きな幼馴染を傷つけた罪は悠久の日々を過ぎ去っても消えることはないが、
 彼の食費を繋いでいるこのアルバイトが出来ない状況を作り出した責任は私にあります。
 カズ君の怪我が癒されるまでは私がカレー専門店オレンジのウエイトレスとして仕事を最後までやり抜くことにしましょう。
 この店の頭のネジが一本外れた店長が今日からこのコスチュームが正式な制服だと興奮気味に言われてしまいましたが……。

(これ、本当に着るの?)
 渡されたのはメイド服。フワフワしている白いフリルに膝上までしかないスカ-トの丈。
(一体、あの店長さんはどこで手に入れたんでしょうか?)
 だが、店長がこれを正式に制服だと決めた以上は臨時の従業員である私は大人しく従うしかないでしょうね。
 ここで拒否の意志を示すとカズ君にいろいろと迷惑をかけるかもしれない。
 私は勇気を振り絞って身に付けている衣服を脱ぎ捨てた。
 メイド服に着替えるのは照れ恥ずかしさと羞恥を感じてしまうが、これもカズ君のためなら私は頑張って耐えてみせます。
 それがカズ君との幼馴染の関係を取り戻すためなら。なんでもしますから。

 生まれて初めてメイドの服というものを着て、人前に出るのは顔から火が出るぐらいに恥ずかしかった。
 更に私は人見知りが激しくて、接客の仕事が出来るのか不安で一杯であった。胸の中を締め付けるぐらいの緊張感が私を襲う。
 そんな時に私の背中に優しく力強く叩かれた。
「大丈夫か」
「カ、カズ君っっ!?」
「ウエイトレスの制服はそれしかなかったの? 
 カレー専門店で制服がメイド服って……。
 あのクソ店長が集めている制服コレクションだから、今日は大人しく頑張って仕事に励んでくれ」
「う、うん……」
「それに、そのメイド服は似合っているぞ」
「あ、ありがとう。カズ君」
 カズ君の下手なお世辞の言葉でも私は顔が朱に染まっていく。
 彼の言葉はいつも私に勇気をくれます。本当に変わらない幼馴染の背中を見送ると私は両手の拳を握って。
「カズ君のヘルプを私が絶対にやり遂げてみせます!!」
 怯えている自分に喝を入れて、私は戦場へ駆け出した。

 店長やカズ君が教えてくれた接客マニュアル通りに私は接客に専念していた。
 夕食の忙しい時間にお客さまがやってくるが……私は曖昧な笑顔を作って対応した。
 オーダーを頂くと厨房に居るカズ君に伝えて、店長さんの尻をサンダーキックで叩きつける光景が見えたけど、

 それは見なかったことにしましょうね……。そして、食べ終わったお客さまがレジに向かうと私は急いでレジで清算致します。
 初めてのレジに戸惑うことはありましたが、適当にボタンを押しておつりを渡せば問題ありません。
 (精算する時は絶対に合わないかもしれませんが)
 カレー専門店のオレンジの仕事に慣れてきて、気が抜けてきた頃にドアに飾られている鈴の音が鳴りました。
 入ってきたのは、可愛らしい女子高校生です。小柄な身体に童顔せいなのか小学生みたいに見える女の子。

「いらしゃいませ……お客さま」
「あれ? お兄ちゃんは? てか、また新しい人を雇ったかな?」
「え~と……とりあえず、お好きな席に座ってください。メニューが決まり次第に御呼びください」
「じゃあ、いつものお願いします」

「あ、あのいつものってなんですか?」
「雪菜がいつものと頼めば、いつものだよ。メイド服のお姉さん」
「あの私は幼馴染が私のせいで怪我したので、そのヘルプとして今日は働いているんです。
 お客さまのご注文している品がわからないので教えて頂けませんか?」
「あ、あ、あの笑わない?」
 目の前の少女が恥ずかしそうにして、私の耳に小声で囁いてきた。

「カ、カレーライス 極甘でお願いします」
「はい!! わかりました」


123:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/06/16 22:20:04 FGza9gs8
「後、お兄ちゃんが厨房にいるなら来るように言ってもらえないでしょうか」
「お兄ちゃんというのは店長さんのことなんですか? お兄ちゃん想いなんですね」
「ち、違うよっっ!! 雪菜が言っているお兄ちゃんはいつもウエイターで働いている
 カレー専門オレンジの黒幕の人の方だよ。あの変態さんと一緒にしないで」
 今、店内にいるのは店長さんとカズ君と私だけ。
 つまり、店長がお兄ちゃんではないとすると……カズ君がお兄ちゃんってことかな?

(カズ君とこの女子高生さんがどういう関係なのか気になるよぉ~)

 私は適当に相鎚を打って、傷心した足取りで厨房に向かった。
 厨房は春の過ごしやすい季節にもかかわらずにここは真夏の熱風のように燃え盛っていた。
 ってか、実際に燃えていた。
「カズキっっ!! カレー専門店オレンジは燃えているか?」
「これが幻覚じゃあなければ、厨房の火の不始末で燃えているな」
「ええっっ!! これなんで燃えているの? どうして、カズ君と店長さんは落ち着いているの!?」
 カレー鍋の底から溢れだした炎が天井という高みまで上り詰めて、壁は真っ黒に焦げ始めている。
 私は目を丸くしてその光景を茫然と見つめていた。
「まあ、刹那……落ち着け。あれはこのクソ店長が火災保険を騙し取るために小火を出したように見せかけた偽装工作だ。
 店長の財布の懐が寂しい時に使う手段だが、保険会社には簡単に見抜かれるんだけど。
 あんまり、気にしないで」
「おおおっ!! カズキっ!! てめえが主犯だろゴラァ!! 
 犯行計画を立てたのは貴様だ。仲良く牢獄パラダイスで懲役10年コ-スを受けようぜっ!!」

「思いつきの犯行計画を冗談で言っただけじゃあ罪に問えませんからぁぁ!!」
 カズ君が放った回し蹴りが店長さんの背中に豪勢な音と共に炸裂した。
 気味の悪い悲鳴を上げて、店長さんは厨房の濡れている床に倒れ尽くして起き上がる気配はなかった。
「で、厨房に来たってことはオーダーでも入ったのか?」
「ううん。違うの。お客さまがお兄ちゃんを連れてこいと言っているんです」

「ああ……雪菜が学校帰りに寄ってきたのか。うん。顔を出してくる」
「カズ君?」
「んっ?」
「お兄ちゃんって……どういうことですか? 私にわかるように言ってくれないかな?」 
 私は出来るだけ怒りを表に出さないように穏やかな微笑を浮かべた。


124:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/06/16 22:23:08 FGza9gs8
★一樹視点

 幼馴染に胸倉を掴まれて黒いオーラーに隠された激しい殺気に圧されてから。
 無言で刹那から頬にビンタをお見舞いされた俺は叩かれた右の顔を押えながら、妹分の元へ歩いていた。

「今日もお兄ちゃんの奢りでカレーをご馳走になりにきましたぁ!!」
「来たか。俺の少ない給料から毎日のようにカレーを大盛りで頼んでくる疫病神が」

「そんな……疫病神なんてひどいよぉ~。雪菜はこう見えても、カレー専門店オレンジのマスコットキャラクターだもん。
 ほらっ、招き猫ならぬ招き雪菜だよ。雪菜がいるだけでお客がいない時間に比べると格段に増えているはずだよ」

「そりゃ、雪菜が来る時間はウチがもっとも忙しい時間で混んでいるからだよ。
 決して、雪菜のおかげで客は増えてませんから!!」

「お世辞でも雪菜ちゃんのおかげでこの店は救われているんだ。
 そう、砂漠にある救いのオアシスのような存在っ!! 
 思わず、求婚したくなるぜって感じに言ってくれても罰は当たらないはずだよ」
「お前は本当にそんなことを言って欲しいのか?」
「飾った言葉よりも気持ちを込めた言葉の方が何倍も嬉しくなるよ」
「そうか……」

 雪菜のハイテンションに付いて行ける人間は桜荘でも美耶子以外にいないだろうと思いつつ、
 こいつが頼んであろうカレーライス極甘味が来ることを早急に望んだ。カレーを食べてたら、少しぐらいは大人しくなるはずだ。
「そういえば、お兄ちゃんの顔が痣だらけなんだけど。どうかしたの?」
「その辺の道端で派手に転んだんだ」
「もう、お兄ちゃんは少し運動神経が鈍いんだから。少しは気を付けてよね。
 もし、お兄ちゃんに何かがあったら一生傍に居て面倒みてあげるんだから」
「そ、それはありがとうな」

 雪菜が心配そうな顔に俺は少しだけ胸が暖かくなった。
 普段は意地っ張りで本音は誰にも明かさないような性格をしているのに、
 誰かが傷ついてたりすると何振り構わずに気遣ってくれる優しい女の子。

 出会った頃と比べれば、他人に壁を作っていた雪菜はここ1年ぐらいですっかりと良い方向へ変わっていた。
 まあ、幼馴染を助けるために暴漢と戦ったと正直に話せば、違う意味で雪菜が怒り狂うことは目に見えているので
 余計なトラブルの種は回避するに限る。

「そうだ。今日の学校の帰りに美耶子さんと会ったんだけど、一緒にオレンジに行かないって誘ったんだけど……
 『残念ながら今日は外せない用事があるので、今日はご遠慮しますが……
 今度、私が来る時は店を閉める準備と縄と遺書を用意してくださいね 』って伝言しておいてって頼まれたんだけど……」
「悪夢だ。あの悪魔は人の不幸を喜びと快楽で感じてやがる」
「頑張れ男の子」
 あの悪魔による俺のバイト先を訪問されるってことは誰かの血の雨が降り注ぎ、誰かの不幸が同時に起こることを意味している。
 雪菜は同情するかのように俺の肩に優しく手を置いて励ましてくれる。
 が、その程度では未来に起きるであろう嵐に巻き込まれて船は沈没する。絶対にな。

「お、お客さま……カレーライス 極甘味をお持ち致しました」
 雪菜が注文したカレーをメイド服に身に纏った幼馴染が乱暴にテーブルの上に置いた。
「では。お客さま。ごゆっくりしてください」
 一礼してから、厨房の方向に歩いて、更に刹那が振り返って。
俺に鋭い視線を突き付けてから刺々しく言った。
「カズ君もごゆっくりしてくださいね……!!」
 カレー専門店オレンジの雰囲気を絶対零度化するような冷笑を浮かべているが、目は全然笑っていなかったりする。
 刹那はツインテ-ルの髪を揺らしながら、厨房の方に去っていた。

「お兄ちゃん……カズ君ってどういうことかな? とりあえず、話すまでは帰らないからね」
 刹那に負けない程の殺気を俺に圧し当てるように雪菜は表情をひきつらせていた。
 いろんな意味で俺はピンチだな。


125:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/06/16 22:24:01 FGza9gs8
投下終了です。


126:名無しさん@ピンキー
07/06/16 22:53:00 BPBS2cAV
>>125GJ
トライデントさんの作品はストーリーが面白いですね。
雪桜の舞う頃にanotherの続きも楽しみに待ってます。

127:名無しさん@ピンキー
07/06/16 23:13:42 SnycBwh3
>>125
GJ

トライデントさんは重くて暗い話を
パロネタを混ぜてコミカルに表現してくれるから、
大好き

128:名無しさん@ピンキー
07/06/16 23:17:06 ApR0sjbc
>>125
極甘のカレーライス・・・ゴクリ
それはともかく久々の投下乙です

129:名無しさん@ピンキー
07/06/17 04:09:28 VOmwguyf
>>125
偽装小火ワロタwwwww
このスレじゃパロコメなんて見かけないからな。貴重だ。
期待しちょりますぞ。

130:緑猫 ◆gPbPvQ478E
07/06/17 13:25:18 8lkHkqDV
投下します


131:七戦姫 11話 ◆gPbPvQ478E
07/06/17 13:26:02 8lkHkqDV

 第1試合『奴隷から』

 * * * * *
 
 ある“里”があった。
 もとは国内でもありふれた製鉄の里だったが、
 採掘場が遠いこともあり、取り分を余所に奪われてからは衰退の一途を辿った里。
 
 普通の里なら、廃れていく過程で人も弱る。
 食べるものも足らず、他の里とも隔離された環境であれば、まともな人間が育つ方が稀である。
 案の定その里も、大半の住人は痩せ細り、常に異臭を放っていた。
 
 しかしその中で、ごく一部の住人は、立派な体を保ち、身なりも整えられていた。
 彼らのもとには常に食料があり、道具があり、―武器があった。
 
 よくある話だった。
 痩せた里の住人が、武器を持ち、里や行商人を襲って食料や金品を奪う。
 山賊化。
 栄えない国ではよくあること。
 よくあることなので、国も対応に苦慮していた。
 
 しかし、その里は、早い時期に取り潰された。
 
 理由は簡単。
 主国の行商人に手を出したのだ。
 優れた山賊は、主国の者には手を出さない。
 満たされつつも貪欲な大国は、己に害を為された場合は示威も兼ねて簡単に手を出してくる。
 そこが属国の領内とあらば、軍を動かすことに躊躇はない。
 練兵のような感覚で、山賊狩りが行われる。
 故に、それを理解している山賊たちは、主国の人間には手を出さない。
 しかし、生まれて日の浅い山賊たちはそれがわからず、主国の者にも手を出してしまう。
 
 派遣された討伐隊に、山賊と里の住人はほとんど殺され、里は一夜で壊滅した。
 
 ここまでも、よくある話。
 
 ただ、一人の女性が、保護され、属国のいち貴族にその身を預けられることになったのは。
 例のない話であったため、少なからず注目を浴びることになった。
 
 壊滅させられた里の中で。
 ひとり、抵抗しなかった女性。
 その潔さに感服した主国の騎士が、彼女の安全を確約した。
 女性は属国の貴族に手厚く保護され。
 
 やがて、二人の娘を産んだ。




132:七戦姫 11話 ◆gPbPvQ478E
07/06/17 13:26:44 8lkHkqDV

 姉の名はイクハ。妹の名はユナハ。
 
 名目上は、貴族傍系の娘として。
 実質は、他の貴族子弟の奴隷として。
 
 娘二人は、育てられた。
 
 
 * * * * *
 
 
「とうとう、明日ね」
「……うん。……姉さん、その、」
 
 大会前夜。部屋でふたり。
 イクハとユナハは、顔を合わさず、別の方向を向いたまま、話していた。
 イクハの表情は平常そのもの。
 それに対して、ユナハはといえば。
 どことなく落ち着かず、視線も揺れに揺れて忙しなかった。
 
「ユナハ、やっぱり―」
「わ、わたしと姉さんも、た、戦うんだよね?」
「…………ええ。当たり前よ」
「で、でも、クチナ様が“殺しちゃ駄目”って言ってたから、その、いつもの模擬戦と同じだよね?」
 
 ユナハの言葉に、イクハは大きな溜息を吐いた。
 
「……あのね、ユナハ。この大会の目的は、あくまで主国の貴族を楽しませる為よ。
 それなのに、中身がお遊戯みたいな戦いだったら、下手すれば没収試合になりかねない。
 ―ユナハは、クチナ様を盗られちゃってもいいの?」
 
「で、でも! だからって! 姉さんと本気で戦うなんて……!」
「なによ、実戦さながらの試合だってよくやってるじゃない。そんなに怯えること―」
「だって! わたし、きっと、手加減できない!
 余計なこと考えながら戦うなんて、できないもん!
 姉さんとの試合だって、模造槍を使ってたからできたんだもん! 鉄槍で姉さんのことを突くなんて、わたしには、無理だよ!
 きっと失敗して、姉さんに大怪我させちゃうに決まってる!」
 
 ユナハの叫びが部屋に響く。
 その声は震えていて、瞳は微かに潤んでいた。
 
「……随分な言い草ね。あのさユナハ。私が今まで、あんたの槍を喰らったことがあった?
 というか、そもそも、私に勝てるつもりでいるの? 十年早いわよ」
 
 イクハの声は半ば呆れてはいたが。
 隠しきれない、憤りが紛れていた。
 それに気付かないユナハは、そのまま、
 
「……私が、負けるなら、それで、いい。姉さんになら―」




133:七戦姫 11話 ◆gPbPvQ478E
07/06/17 13:27:46 8lkHkqDV

「―ユナハ!」
 
 がたん、と大きな音が響く。
 
 イクハがユナハの寝間着を掴み、そのまま床に押し倒していた。
 
 
「あんたの、クチナ様への想いは、その程度なの!?」
 
 
 その叫びは。
 心から絞り出されたかの如く。
 苦しげに、吐き出されたものだった。
 
 ユナハの顔がくしゃりと歪む。
 
「―私は、誰にも、負けたくない!
 姉さんにだって、誰にだって、クチナ様を渡したくない!
 でも、でも―」
 
「だめ。それ以上言ったら怒るよ、ユナハ」
 
 
「―姉さんのことも、大事なんだもん!」
 
 
「ユナハ!」
 
 がつん、と床に拳が叩き込まれる。
 ユナハの顔の真横に、イクハが拳を打ち下ろしていた。
 突き出された手は震えている。
 イクハは数秒だけ逡巡し、そして、意を決したかのように口を開いた。
 
 
「私が勝ったら。
 ―クチナ様のそばに、アンタは置かせないよ」
 
 
 その言葉は。
 ユナハにとっては完全に想定外だったようで。
 ぽかん、と間抜けそうに口を開いて姉を見つめていた。




134:七戦姫 11話 ◆gPbPvQ478E
07/06/17 13:28:26 8lkHkqDV

「ね、姉さん、なに、いって、るの?
 じ、じ、じょうだん、だよ、ね……?」
「冗談じゃない。本気よ。
 私が、クチナ様を手に入れたら、ユナハは、さよならよ」
「う、嘘、うそ、嘘、うそ、だよね?」
「嘘じゃない。クチナ様は、私だけのものに―」
 
「嫌だっ! 姉さんは、姉さんだけは!
 ―私の、味方、してくれるん、でしょ……!?」
 
「それは、昔の話。
 もう、ユナハのお守りは疲れたから。
 ―だから、明日から、私はユナハの、敵になる」
 
 
 
 
 
 あとは、何を話したのか覚えていない。
 ただ、イクハはぼんやりと。
 赤く晴れた頬をさすりながら、床に座り込んでいた。
 
 
 * * * * *
 
 
 大会には、多くの観客が押し寄せていた。
 
 それもそうだろう。
 一国の王子の妃を、武術大会で決めようというのだから。
 そんな前代未聞な見せ物を是非とも見ようと、各国から物好きたちが集まってきていた。
 
 主国の貴族も、多数が訪れていた。
 
 あろうことか、主国王の弟までも特等席に訪れていて、開会式では主賓として挨拶をしていた。
 この大会がどれだけ特別なものであるか、それだけでもよくわかる。
 
 闘技場は、基本的には石造り。
 踏みしめやすいように荒く削られた石床を舞台に、磨かれた彫刻で装飾されている。
 広めに作られた舞台は、どんなに大振りな武器を使おうとも問題ないほどである。
 そこに、八人の妃志願者が、整列していた。
 
 大会の主催者であり、“賞品”の実の父でもあるメイラ王が。
 少女たちを一人ずつ、呼び始める。




135:七戦姫 11話 ◆gPbPvQ478E
07/06/17 13:29:18 8lkHkqDV

 紹介されるのは、観客にも印象づけられやすいように、プロフィールと名前だけ。
 少女たちは呼ばれたら己の武器を掲げ、参戦の意を示す流れとなっていた。
 
 
「“竜騎士”ケスク」
 貴族の礼服に身を包んだ少女が、大剣をゆっくり天に向けた。
 剣は大会のために鋭く磨き抜かれ、遠目からでもその切れ味がよくわかる出来だった。
 
「“闘技場王者”サラサ」
 新調された白い布を体に巻き付けた少女が、拳を天に突き上げた。
 自分が使うのはこれひとつ、という気迫が、会場全体に広がった。
 
「“近衛隊隊長”イクハ」
 隊長服に身を包んだ少女が、木製の棒を静かに掲げた。
 その目が一瞬隣の少女へと向けられたが、気付いた者はいなかった。
 
「“槍使い”ユナハ」
 貴族の平服に身を包んだ少女が、巨大な剛槍を天に向かって突き上げた。
 その表情は厳しく、絶対に横を見ないという気迫が満ちていた。
 
「“傭兵”ヘイカ」
 年端もいかない少女が、“刀”を頭上に掲げてみせた。
 その体には傷ひとつなく、万全の状態であることが見て取れた。
 
「“暗殺者”ツノニ」
 メイド服に身を包んだ少女が、じゃらじゃらと大小数えきれない刃物を取り出した。
 会場にどよめきが走るが、少女は何処吹く風と微笑を浮かべていた。
 
「“竜人”ヌエ」
「……? はーい!」
 平素なシャツを着た少女が、きょろきょろと辺りを見回した後、元気よく手を挙げた。
 そして、クチナの方へと向き、そちらに一生懸命手を振ってみせた。
 
「“冒険者”イナバ」
 ヘイカに負けず劣らず幼い少女が、ゆっくりと掲げたのは“鞭”だった。
 丸められていて正確な長さはわからないが、それでも女の子が使うのは難しそうな大きさである。
 少女はフリル付きの黒いドレスに身を包み、可愛い仕草で武器を掲げていた。
 
 
 出場者の紹介が終わり、続いて、対戦の組み合わせが発表される。
 これには観客だけではなく、少女たちも真剣な表情で発表を待った。
 主催者すら知らない組み合わせは、主国の貴族達で構成された臨時の運営委員会により決められていた。




136:七戦姫 11話 ◆gPbPvQ478E
07/06/17 13:30:03 8lkHkqDV

 一回戦第1試合
“闘技場王者”サラサ 対 “近衛隊隊長”イクハ
 
 一回戦第2試合
“暗殺者”ツノニ 対 “竜人”ヌエ
 
 一回戦第3試合
“槍使い”ユナハ 対 “傭兵”ヘイカ
 
 一回戦第4試合
“竜騎士”ケスク 対 “冒険者”イナバ
 
 
 * * * * *
 
 
 対戦表を見て、イクハは内心で安堵の溜息を吐いた。
 自分とユナハが戦うとしたら、決勝戦となる。
 初戦ならともかく、二戦勝ち抜いた後なら、ユナハの迷いも綺麗に断ち切られているだろう。
 それならば、何の遠慮もなく、戦える。
 
(……それに、クチナ様の言葉もある。
 よほどのことがない限り、ユナハが危険な目に遭うことはないわよね)
 
 2週間前、クチナの寝室にて起こった騒動。
 その締めくくりとなった、彼の言葉。
 
 
『もし、この中の誰かが試合の中で殺されたら。
 
 ―僕は、舌を噛んで死ぬからね』
 
 
 クチナ王子は、見かけ通りの人間だ。
 剛胆さなど欠片も持ち合わせておらず、いつも弱々しく震えている。
 だというのに、人並みに正義感や義侠心を持ち合わせているものだから、いつも自分で自分をすり減らしている。
 そんな彼が、本当に舌を噛んで死ねるとは思えない。
 おそらく、決心して舌を浅く噛んで、その痛みに怯えて止めてしまうだろう。
 
 でも、彼の想いは、きっとあの場にいた全員に伝わった。
 
 自分で死ぬ度胸すらない虚弱な王子が。
 精一杯の虚勢を張って、宣言した。
 彼のことを想っている者ならば、その言葉を無視することはできないだろう。
 
 少なくとも、自分とユナハ、ケスクとツノニは、彼の言葉を守るだろう。
 あとの3人はよく知らないので断言はできないが、
 それでも重要な“賞品”の言葉だ。そうそう無視はできないと思われる。




137:七戦姫 11話 ◆gPbPvQ478E
07/06/17 13:30:44 8lkHkqDV

 そして、相手を殺さない戦い方なら。
 認めたくないが、ユナハは、最強だ。
 
 妹の剛力は天性のものだ。
 誰にも真似ることはできないし、抑えることすら困難だろう。
 この前、ヘイカとやらに極められて動きを封じられてしまったが、
 一度喰らった技を何度も喰らうほど、ユナハは愚かではない。
 
 ならば、あとは力勝負。
 どんな小技も力でねじ伏せ、勝利する。
 
 致命傷を禁じられた、温い攻撃で。
 ユナハを止めることは、不可能だ。
 
 とはいえ、あの場にいなかった八人目が、ユナハと同じブロックにいるのは気になるが。
 ……まあ、ケスクが初戦の相手なので、それほど心配する必要はないかもしれない。
 決勝戦は、きっとユナハと戦うことになるだろう。
 
 となると、問題はイクハ自身になるが。
 
(―殺さず制する戦いなら。ユナハ以外は確実に倒せるわ)
 
 ユナハに剛力というアドバンテージがあるように。
 イクハも、ある“天性の能力”を持っている。
 それを活かした杖術は、非殺傷戦なら誰にも負けない。
 相手がユナハであっても、重傷を覚悟すれば、抑え込める自信があった。
 
 とはいえ、油断は禁物である。
 いくらクチナ王子に相手の殺害を禁じられたとはいえ。
 揃った八人は達人揃い。ふとした拍子に、相手に致命傷を与えてしまうかもしれない。
 特に、イクハの初戦の相手、サラサは。
 拳の一撃で、相手の頭を破裂させるほどの強打者だ。
 ひとつ間違えば、イクハが殺されてしまう可能性も高い。
 
(……あんなこと言った手前、私が死んだらクチナ様は苦しむわよねえ)
 
 なればこそ、自分も決して死ぬわけにはいかない。
 相手が手加減してくれることなど期待せずに、全力をもって試合に当たろう。




138:七戦姫 11話 ◆gPbPvQ478E
07/06/17 13:31:38 8lkHkqDV

 イクハは、クチナに感謝している。
 
 自分を近衛隊に引き上げてくれ、ユナハを傍に置いてくれた。
 彼がいなければ、自分たち姉妹は、貴族子弟の奴隷として惨めな一生を過ごしていただろう。
 そんな自分たちを取り立ててくれ、あまつさえ今でも守ってくれている。
 
 だから。
 その恩には、絶対に報いるつもりだった。
 
 彼を決して悲しませない。
 絶対に死なず、絶対に殺さない。
 死力を尽くし、妹に発破をかけて、大会を盛り上げて。
 そして、彼の傍には“今度こそ”自分が居るようになり。
 ―命も心も、一生かけて守ってみせる。
 
 
 そう、決意したイクハの耳に。
 
 運営委員からの、言葉が、届いた。
 
 
 
「大会の日程は明日より一日おきに一戦となります。
 試合開始時刻は正午。時間制限は無しとします。
 
 なお、勝敗についてですが―」
 
 
 イクハは既に決心していた。
 自分が絶対に勝ち残ると。
 クチナの心を傷つけないように、誰も殺さないと。
 
 なのに。
 
 
 
「―対戦相手の“死”をもって勝利とすることが、我々運営委員会の協議により、決定されました。
 命をかけて王子の妃を望む者にのみ、出場資格が与えられます」
 
 
 
「…………え?」
 
 ぽつり、と。
 漏れた声は、誰のものだったのか。




139:緑猫 ◆gPbPvQ478E
07/06/17 13:32:45 8lkHkqDV
ようやく本戦開始です
組み合わせについては残念ながら正解された方はいませんでしたが、
その予想にはこちらもなるほどと思わされるものもありました。
流石は修羅場スレ。修羅場魂は皆一緒ということですね。

本戦からは、だいたい4~5話で一戦のペースで進むと思います。
戦いの前に個人の話を差し込みつつ、後半はガチの殺し合いで。
今までは大まかな紹介話だったので、ようやく個人の深いところまで話を進められます。うああ長かった……。

まずはイクハ対サラサ。
はたしてどちらが勝ち残るのか、乞うご期待。


140:リボンの剣士 最終話C  ◆YH6IINt2zM
07/06/17 14:23:13 HcCBT6yf
投下します。

141:リボンの剣士 最終話C  ◆YH6IINt2zM
07/06/17 14:24:11 HcCBT6yf
「ああ、ここには居ないと言っても、別の救急車に乗っているだけですから」
「……」
今の意味有り気な溜息は何だったのか、という思いが、こちらの口からも溜息になって漏れてしまう。
「救急車? 二人は怪我をしてたのか?」
「いえ……」
ばつの悪そうに目を逸らす屋聞。
「何でも、新城先輩は性的な暴行を受けたそうで……」
「……!!」
体に震えが来た。静電気が走るような、ピリピリとした痛みが全身を巡っている。
「まずはそれに対する然るべき手当てを……」
そうだ。明日香は、明日香は……!
「うっ!?」
両肩に屋聞の手が置かれていた。背中が、何かにぶつかった様に痛い。
「急に起き上がろうとしないで下さい」
……どうやら、取り乱して起き上がろうとした所を押さえられたようだ。
「色々と思うところはあるでしょうが、今は自分の身を案じていた方が良いです」
そんなことを言われても、思わずにはいられないじゃないか。
俺はいいんだ。これくらいで死にやしないし、怪我が治ればそれで良しだ。
だが、明日香は、木場は、これからどうなるんだ―?

救急車が病院に着き、すぐに俺は治療室に運ばれた。
既にいた医師の元に、俺は寝かされたまま一気に移動。
胸に巻かれた布がべりべりと剥がされ、傷が露になった。
「この傷は一体……?」
医師の質問に、刀でうっかり刺してしまった、と答えようとした時、

「自分を包丁で刺して死のうとしたそうです!」

屋聞が、ちょうど遮るタイミングで強く答えた。
おいちょっと待て。何でお前が代わりに言ってるんだ。
医師が傷の周りをさする。うんうんと首を振り、話を呑み込んだ様子だ。
「あー。ああ~、駄目だねぇ。クリスマスに一人で早まっちゃったのか」
「はい。先輩はいつも孤独で……」
……人を勝手に自殺未遂者に仕立て上げるな。
「おい屋もっほゴホッ!」
口を開いた直後に、腹に痛みが。咳に連動して傷が痛む。
屋聞の奴、人の腹を殴りやがった。

傷に何か薬を塗られ、柔らかい包帯が巻かれた。
それから、治療室から病練の一室へ運ばれ、医師はすぐ引き返した。
そして残ったのは俺と屋聞。


142:リボンの剣士 最終話C  ◆YH6IINt2zM
07/06/17 14:25:15 HcCBT6yf
「先輩、大声を出しては駄目じゃないですか。傷に障ります」
「お前が殴ったんだろうがっ!」
うっ、痛ててて……。
本当に傷にきてしまった。

「……先輩のことを“クリスマスイブに一人でいる寂しさに耐え切れず早まった真似をしてしまった痛い人”のように仕立てたことは謝ります」
追い討ちに容赦がない。
「しかし、そうでもしないと選択肢が潰れてしまうもので」
「選択肢とな」
「はい」
屋聞は、部屋の隅にある椅子を俺のベッドの側に持ってきて、そこに座った。

「先輩はこのまま怪我人として治療を受けるだけですが、新城先輩と木場先輩は異なります」
「そうだ。明日香と木場、二人はどうなるんだ?」
結局あの殺し合い自体を回避することは出来たようだが……。
「そこが問題、というわけです」
このまま全てうまく行くのだろうか? 屋聞はおそらく先に気付いていたのだろう。
俺もわかってきたが、行かない、と思える点が多くある。
「新城先輩は、性的暴行に対する治療のために別室に行きました」
『つまり……』
俺と屋聞の声が重なった。
「事件は実際に起きたことであり、その主犯が木場先輩であることも間違いないようです。」
「ああ……」

包帯がきつい訳でもないのに、胸が苦しい。
始めに聞いたときから、判っていた事じゃないか。
明日香が、そんな嘘をつくはずがない。木場の陰謀であったのも、本当だったのか。
木場はどうしてそんなことを……。明日香を傷付けて、それで俺がいい思いをするわけがないのに。
誰も喜ばない、最悪の手段だ。
今まで付き合ってきたという男たちも、その方法で? 俺への態度も、全て打算だったのか?
だが俺の中には、木場の優しさが記憶に残っている。
100%、計算のみではなかったはずなんだ。
むしろ、何で木場の中にそういう嫌な心が存在していたのか、それに委ねなければならなかったのか。
「……くっ」
泣けてくる。

「新城先輩のこと、やはりショックですか」
「……」
「……」
返事をしなかったが、屋聞はハンカチを俺の手に渡した。
明日香……。
もう、レイプされただとか、そんなことに考えを巡らせたくない。
どんな状況だったかなんて想像したくもない。だが事件として明らかになる以上、その実態が他人に知られ―。

143:リボンの剣士 最終話C  ◆YH6IINt2zM
07/06/17 14:26:05 HcCBT6yf
「……畜生っ!」

気付けば、手に持ったハンカチを力任せに投げていた。しかも、屋聞の顔に当たってしまった。
「あ……」
「お気になさらず」
屋聞はハンカチをポケットに収める。
「お零れすらも貰えないとは……」
「お零れ?」
「いえ、ただ先輩の涙だけでも……あ、いや、何でも、深い意味はありません」
何を言ってるのかよく分からなかった。時々見せる、この不自然な動揺は何なんだ。

涙は一旦止まったものの、沈んでいく気持ちは全く上向かない。
仮に明日香ではない、他のクラスメイトだったら、こんな気持ちになっただろうか。
俺は今まで、明日香には明るい道を進んでもらい、自分は日陰者で十分だと思っていた。

今回のレイプが最悪なのは言うまでもないが、もし、これが彼氏だったら?
自分以外の男と明るい道を並んで歩いていて、それでもいいのか。「いい」と言いたくない。
何処かしら心の中で明日香は俺のもの、と思っていたんだ。
俺にもそういう気持ちがある。たまたま引き金もなかったから、欲望として膨れ上がらなかった、というだけだ。
それなら、木場が押さえ切れなかったのは、何か留めていたものが外されたから。
……悪魔が本当にいたとして、そいつが気まぐれに木場に囁きかけた、という話ならどれだけ簡単か。外れた原因は他人。きっと俺だ。

「屋聞」
「はい」
「これから、どうしたらいいんだ?」
俺は誰に何をしたらいいのだろうか。少なくとも、何もせずに怪我だけ治して学校に通うだけ、ではいられない。
「それは、先ほど述べた選択肢の話に戻りますね」
「選択肢……。まだ先を選ぶ余地があるのか」
屋聞が俺の傷を勝手に自殺未遂扱いにして潰れるのを避けた、みたいな事を言っていたが、それによってどう変わったんだか。
「ありますとも。ただし後戻りは出来ませんので慎重に」
「人生の選択肢で後戻り出来る方が珍しい」
明日香も木場も、自分がどうなったって後悔しないと誓って道を選んだんだ。俺だけ安全な道を行くことなど出来ない。


144:リボンの剣士 最終話C  ◆YH6IINt2zM
07/06/17 14:27:51 HcCBT6yf
「……えー、まず前提というか、現在の状況ですが、新城先輩への暴行事件はじきに明らかになるでしょう」
「ああ」
「木場先輩がその主犯として罪に問われるのはどうしようもありません」
「……」
「ただ、新城先輩も、日本刀を持ち出し木場先輩を斬ろうとした、ですよね?」
黙って頷いた。これは明日香自身の口から聞いている。
「したがって、新城先輩も殺人未遂の罪を犯していることになります」
「……」
そうか……いくら止めたとはいえ、殺そうとして刀を振り回した事実がもう、どうしようもないのか……。
「このまま事件の全貌が明らかになれば、二人とも逮捕です」
「……俺は?」
「罪に問われることはありません。せいぜい病院に叱られる位でしょう」
「……」
駄目だ。最悪の事態は回避できても、俺だけ無罪でお咎めなし。
「先輩? ここからですよ。選択肢が出てくるのは」
だんだん重くなってきた頭を上げて、屋聞を見る。

「実は病院側も、把握しているのは暴行事件だけで、新城先輩の殺人未遂事件にはまだ着手どころか、見えてもいません」
「何?」
「日本刀は救急隊が来る前に自分がこっそり隠しておいたのですよ。しかも現場は何の調査もなく放置状態です」
「……なんて奴」
あの場においていきなり出てきただけなのに、そんな所まで計算していたとは。こいつにとって事件は掌の上で起きているかのような小さい事なのか。
「先輩の選択肢は二つ。殺人未遂を明らかにするか、揉み消すか」
……遂に来た。
明らかにした場合、屋聞が言ったように、二人とも逮捕。
揉み消した場合、明日香の罪は無いことになり、木場だけ捕まる。
つまりこの選択肢は、俺自身ではなく、明日香の運命を決めるもの。

……。

…………。

………………。

145:リボンの剣士 最終話C  ◆YH6IINt2zM
07/06/17 14:29:01 HcCBT6yf
「揉み消してしまえば、明日香は罪に問われないんだな?」
「はい。暴行事件の被害者として調べられますが、それだけです」
人として間違っていることはわかっている。
「俺は、可能なら、いや不可能でも、明日香だけでも助けたい」
助けるとはどういう意味か、何をもって救いとするのか。
俺は神様じゃないんだ。人間、それもかなり弱い部類だ。そんなことは知らん。
「それでは」
「方法があるなら、何だってやる」
目的の為なら、手段を選ばず。安全な、綺麗な道を行く気なんてないんだ。
明日香、木場が背負った覚悟……せめて俺も同じようなものを背負えなければ、争った二人は何だったのか。
命まで賭けて得ようとしたのが、自分だけお咎め無しでのうのうと暮らすような小物では、それこそ何も救われない。

「……わかりました。と言っても、特に先輩がすることは無いんですがね。即入院ですから」
一つ忘れていた。揉み消すにしても、屋聞は事の真相を知ってるわけで、こいつはずっと黙ったままでいるのだろうか?

「自分が現場の片付けと、二人の口止めをさりげなくやっておきます」
「お前がやるのか」
「先輩には出来ないでしょう。……そうそう、やっておく代わりに、条件をつけます」
「条件……」

今更怯えなどはしない。後悔もしない。来るなら来いだ。

「はい、その条件はですね――」


*     *     *     *     *



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