嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その36at EROPARO
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その36 - 暇つぶし2ch150:リボンの剣士 最終話C  ◆YH6IINt2zM
07/06/17 14:35:01 HcCBT6yf
以上、Cルート最終回でした。
これにて、リボンの剣士は本編外伝含めて完結です。
一年以上かかっても終わらせられたのは、スレ住人の皆様と、
まとめサイト管理人の阿修羅様のおかげであります。
本当にありがとうございました。

151:名無しさん@ピンキー
07/06/17 14:35:06 AjoPdGca
連続で神降臨 GJ!!1!!

152:名無しさん@ピンキー
07/06/17 14:41:59 VOmwguyf
>>150
ハッピーエンド…なのか…?
レイプ前の分岐は無し…

うおぉぉぁぁぁっ!
   G  J  !

153:名無しさん@ピンキー
07/06/17 15:01:05 C9zfU0+P
>>139
冒険者で鞭使いですか。
今年、新作のロケを始めるらしいからなぁ・・・・

とにかく Good Job !!

>>150
完結!!Great Job !!

154:名無しさん@ピンキー
07/06/17 15:40:40 s9FtoCrf
>>150
木場報われないヤツ…orz

何はともあれ完結乙です。

155:名無しさん@ピンキー
07/06/17 17:09:31 qNL3gIdJ
>>150
とにかくGJJJJJ!!
もう連載されて1年以上たつのか・・・次回作も期待してますよ!!

>>152
レイプされてもこれからがあるじゃないか


156:名無しさん@ピンキー
07/06/17 20:16:30 4iduhAVB
最後らき☆すたウィルス踏んでったのかwwナンテ\(=ω=.)/コナタイ

157:名無しさん@ピンキー
07/06/17 21:28:43 QMeGN6lF
>>139
GJ!
そして主国のやつら氏ね

>>150
GJ!
お疲れ様でした。

158:名無しさん@ピンキー
07/06/17 21:32:13 4u5ll/S6
>>150
乙!超乙!
主人公はどんなに善人でもヘタレじゃハッピーエンドにはならないんですね。・゚・(ノД`)・゚・。

159:名無しさん@ピンキー
07/06/17 22:14:11 YX3r5XcD
>>139
GJ!
七人が苦悶するネタが増えて俺うれしいよ

>>150
GJ!
お疲れ様

160:名無しさん@ピンキー
07/06/17 22:18:06 1bYvO0qj
>>150超GJ
完結ご苦労様です。
屋聞、最初あまり好きではなかったけど終盤になって大好きになった。
人志も屋聞も家庭環境最悪だから、家出して親友兼同類として同棲すればいいよ、もう。そして、明日香に屋聞の性別がバレて更なる修羅場へ…。
冗談はともかく屋聞は人志にとって数少ない親友兼理解者になってほしい。

161:名無しさん@ピンキー
07/06/17 23:09:33 Fw8N7h5X
なんという投下ラッシュ…
心の中で拍手とグミを送るよ

162:名無しさん@ピンキー
07/06/17 23:27:55 Y2il61EH
かなりお偉いさんの娘で主国最強ランクであろう竜騎士が出てるのに強制殺し合いって良いのカー?

お祭りついでに竜騎士を謀殺しとけってんなら納得だが… 他は死んでも主国から見たらどうでもいい奴らだし。
そこだけ凄く気になった

163:名無しさん@ピンキー
07/06/17 23:40:33 vcF4yvLU
ちゃんと伏線はってるよね。

ネキツだっけ、闘技場の主が奴隷を出すときに、それっぽいこと言ってた。

164:名無しさん@ピンキー
07/06/17 23:48:34 bUWxJsxw
>>162
あ 俺も。
さすがにケスクが公に命かけるのはマズイだろ。
いくら『常識的に考えて最強』の竜騎士サマでも。
そこんとこ説明してくれると嬉しい。
ともあれ遅ればせながら、gj!
>>150
リボンの剣士の人もお疲れさま。明日菜がレイプされた時に読むの止めちゃったけど、きちんと完結させてくれたのは嬉しかった。


165:名無しさん@ピンキー
07/06/18 00:15:32 +fi1YRgS
>>164
登場人物、しかもヒロインの名前を間違えるっていうのは、
作者にとって非常に失礼なことだから気をつけろ。

166:名無しさん@ピンキー
07/06/18 00:22:30 8Fu3GG1B
>>139
GJ!
主国マジ視ね。続きが㌧でもなく気になるぜ!!

>>150
GJ!
本当にお疲れ様です
長い間楽しませてくれてありがとうございました!!

167:164
07/06/18 01:01:30 i7+51J5X
>>164
げ、ホントだ。明日香の名前間違えてる。
ごめんなさい! うろ覚えで書くもんじゃないね。
>>165
ご指摘感謝。


168:名無しさん@ピンキー
07/06/18 01:11:55 6Qkh4QJt
ケスクから、ほのかな死亡臭がするのは気のせいだ、絶対気のせいだ

169:名無しさん@ピンキー
07/06/18 01:23:02 yc81CB2Y
>>150
長期に渡る連載おつかれさまでした。
明日香がレイプされたときは読んでて辛くてマジでトラウマになったが…
最後はハッピーエンド(?しかし木場は…)になってよかったよ。
ひとしが超人だったらまた違う展開だったんだろうか。


170:名無しさん@ピンキー
07/06/18 01:48:28 LM5PcsYZ
俺はNTRと非処女が出てきた時点でその作品読むのやめてるおw

171:名無しさん@ピンキー
07/06/18 02:03:47 EPyeR9Uo
>>139
全員死にそうで恐ろしい。

>>150
長期連載乙でした。

172:名無しさん@ピンキー
07/06/18 02:47:47 QJpgp3jb
>>170
俺もww

173:名無しさん@ピンキー
07/06/18 07:38:21 joVEHegM
>>170
お母さんが出てきた時点でアウトじゃないか

174:名無しさん@ピンキー
07/06/18 08:44:24 Zi/gKbVl
>>173
その発想は無かったわ

175:名無しさん@ピンキー
07/06/18 17:30:25 ti7nL92a
おうお前等。


モー娘の辻がいい感じにアレらしいぞ?

176:名無しさん@ピンキー
07/06/18 18:11:20 xv4iEPs3
>>175
ん?

177:名無しさん@ピンキー
07/06/18 18:13:51 Zi/gKbVl
>>175
流石にそれは本スレでやってくれ

178:名無しさん@ピンキー
07/06/18 18:21:52 EPyeR9Uo
本スレでも扱いかねる。どこかよそでやってくれ

179:名無しさん@ピンキー
07/06/18 18:26:00 eukk+n+P
モ娘板で

180:名無しさん@ピンキー
07/06/18 18:28:39 Zi/gKbVl
>>179
それだ!

181:名無しさん@ピンキー
07/06/18 18:34:29 WTs4HNks
彼氏にいもしない女の影をつくりそれに嫉妬したり
夢で彼氏が誰か別の女と喋ってたりすると、起きて夜泣きするヒロインか…

個人的に書いてみたいけど、投下するのはここでいいのか?w
ヤンデレでもなさそうだし、ヒステリーかメンヘルスレになりそうだね。
もしくは単なるうざい女。

182:名無しさん@ピンキー
07/06/18 18:36:43 c3lcERgK
・・・多分ここでいいんじゃないか? いまいち分からんが。

183:名無しさん@ピンキー
07/06/18 19:05:23 Zi/gKbVl
>>181
それは最後の2行の通りだな
ヤキモチとか嫉妬ではなく精神的な病気だわ

184:名無しさん@ピンキー
07/06/18 19:19:30 jri6xXYB
相手が生身ならこのスレっぽいが……。
勘違い系の嫉妬はともかく、完全シャドーだと違うかなあ……。

185:名無しさん@ピンキー
07/06/18 20:02:02 WTs4HNks
ようはメンヘル彼女に対抗して一見まともそうな浮気相手をだして
修羅場にすればスレ違いじゃない。そこに気づきました。

186:名無しさん@ピンキー
07/06/18 20:29:40 jri6xXYB
楽しみに待ってるぜ。

187:名無しさん@ピンキー
07/06/19 01:29:46 QgjqhEjB
これは嫉妬のせいでヤンデレ化したのかな?
URLリンク(wktk.vip2ch.com)


188:名無しさん@ピンキー
07/06/19 01:38:36 /9vdGcgs
>>187
それはタマ姉にタカ坊寝取られてヤンデレ化と取っていいと思うぞ
他にもそれの保管庫には
いいんちょにタカ坊寝とられ→このみ、郁乃に「なんでなんでなんで(ry」と問い詰め→郁乃「とろいのがいけないのよ、プッw」
→郁乃バラバラに解体される って流れのCGがあったような気がする

189:名無しさん@ピンキー
07/06/19 02:02:24 oD2nmlsp
>>187
二次創作的な、改悪画像郡の一部だから気にするな。

それが置いてある保管庫も原作の面影がないゲテモノしかないんだぜ?

190: ◆BEd.go8JjU
07/06/19 10:18:43 KaofeyaM
はじめまして
投下します。

191:結衣の想い ◆BEd.go8JjU
07/06/19 10:23:36 KaofeyaM
「オッス、久し振りだな。」
そこにあらわれた男は背は高く顔つきは人懐こそうな感じですごく優しそうな人がいました。
「えッ…。」突然のことに目を円くしていると
「なんだ、忘れてるのかぁ。ほらほら3才の時まで愛し合った仲やん。」
「えっ ?ええ―ッ!」愛し合ったなんて、さらりと言う彼に驚きました。耳まで熱くなります私は慌ててると
「あははっ、3才やぞ。かわいいな。結衣はお前はズッートそのままでおりや。
あっ奈緒さ~ん。何時見てもすごく綺麗ですね。それと今日からお世話なります。」
彼深々と頭を下げてる彼はお母さんとは知り合いみたいです。
「あら、嬉しいこと言うわね、本当しゅうちゃんは口が上手だわ。」
「あはは、本当ですよ、なんなら僕の部屋は奈緒さんの部屋でもいいですよ…。なんちゃってあはは。」
何ですかこの軽い男は?訳が解りません「ちょと、お母さん、どう言うこと?聞いてないよ。」
あわててお母さんに問詰めました。「あら、言って無かったかな?結衣が部屋に籠っているからじゃないの?」
うぐっ…たしかに私は奥手のせいでちょとこもりぎみかも知れないけど…
ちゃんとお手伝いも学業もおろそかにはしてません。大体、お母さんの帰りが遅いのだって理由と思います。
「おぉ、聞いてなかったのかぁ、俺スゲー楽しみにしてたぜ。結衣と一緒に学校行けるって。」
なっなんですか?この男は?いきなりいしょに手を繋いで、学校に行くってことですか?
なっ、なにおぅ、生意気に本当にキザな男です。

192:結衣の想い ◆BEd.go8JjU
07/06/19 10:28:53 KaofeyaM
あっ思い出しました。いとこの山崎修一、確かに小さい時はいつも一緒にいたような。
引越ししてから全然交流がなかったけど、
「えぇー、一緒の学校行くの?こいつと?」嫌がる私に
「あはは、こいつとはひどいなぁ、昔みたいに修ちゃんって言うてや。
まぁな確かにいきなり自分のテリトリーにズカズカ入って来た訳やから怒るのは解る。」
うんうんと頷く彼。
「3ヶ月や、3ヶ月辛抱してくれや。あと3ヶ月で保険金が降りるしそしたら出て行くし、な。」
えっ保険金って言ってることかわかりません?
「結衣が修学旅行でオーストラリアに一週間ぐらい行ってたときに修ちゃんの家とご両親が亡くなったのよ。火事でね…。」
気まずい空気が流れました。色々事情がある見たい。
最初に口を開いたのは修一君でした。なぜか服を脱ぎだしながら
「俺のために泣いてくれてるのか。うう、ありがとう。奈緒さん俺は体でしか払えないけど一生懸命がん…」
ガッ!!
思い切り人を殴ったのは初めてでした。どうして先に手が出たか分かりません。
その後お母さんに凄く怒られました男の人の口で言うことを真に受けたら駄目らしいです。
お母さんも苦労したみたいです。
修一君と初めて一緒に御飯を食べる時のことです、晩御飯はいつも私が作ってます。
お母さんはお店をやってるので家でまでやりたくないと言って全然しないのが1つの理由です。
「結衣が毎日御飯作ってるんかぁ、スゲーな。」
いつも当たり前のように作り一人で食べてた為、一緒に食べてくれる人がいて、そしてなにより褒めてくれるのは嬉しくって、実はいつもより頑張っちゃいました。
「簡単にし作らないわよ、急に一人分増えたし。」
「すまんの~。急の客にも対応するそのキャパシティーはもはやベテランの域やな。しかも簡単に作ってこの質と量!余は満足じゃ。」
ちょと大袈裟だけど、嬉しかったです。「ただいま~疲れだ~。」お母さんが帰って来ました。
「お帰りなさい。御飯いる?」
「今日はいいわ。お風呂に入ってから事務仕事するから、先寝てていいわよ。」
お母さんは仕事が好きでいつもこんな感じです。
「奈緒さん。お疲れ様です。いつでも俺のこと頼りして下さい。なんならおせっ、お背中でも流し・・」
メゴッ!
私の一撃で修一君の顔にお玉がめり込みました。


193:結衣の想い ◆BEd.go8JjU
07/06/19 10:31:52 KaofeyaM
その後で、ちゃんと謝りました。修一君はすぐに許してくれました。
ちょとスケベさんですけど凄く優しい人で良かったです。打たれ強いし、しかしお玉って結構硬いんだと思いました。
「いやいや、こんなにおいしいなんて、ビックリやわ。まさか東京で京風料理食べれるなんて。うどんが墨汁に漬って出てくるって聞いていたし。これホンマに旨いわ。」
凄く嬉しいけど食べるか喋るかどっちかにして欲しいです。
「いや~結衣はスゲーわ。これなら毎日食べても飽きひんわ。」
さっきはカッとなってしまいましたけど仲直りが出来てよったです。
「あっー、旨かったぁごっそうさんでした!
何だか力も沸いてきたし、ハッスルしたくなってきたぜ。」よく解らないことを言って、一人でそわそわしている修一君が何かを訴えてる様な目で私の様子を見ています。
「ええッーと、ソロソロお風呂に行こうかな~・・・・」
私は洗い物をしていましたので適当に返事をしました。
「行ってらっしゃい。」
修一君は少し興奮してるようでした
「結衣がそこまで行けと言うなら仕方がない。俺のことはパパと言ってもいいからな。」
言っていることが分かりませんでした。暫くすると上半身裸の修一君が慌てて駆け寄って来ました。
格好が格好なだけに、ドキドキしてしまいます。
「大変だ!奈緒さんが居ないんだ!お風呂でバッタリ!イヤーンイベントが!」
ガッ!!
力の限り殴ってしまいました。でもいいはずです変態には。
これは天誅です


194:結衣の想い ◆BEd.go8JjU
07/06/19 10:36:09 KaofeyaM
本当にこの変態はには困ります。いい加減にしてほしいです。奈緒さん奈緒さんって
「お母さんはお風呂に行くと言ったけど、いつも銭湯に行くの。
だからあなたの考えてる様なイベントはありません!」
修一君は膝をつきガッカリしてました。
私のことは全然・・
「どうして奈緒さんって、ばっかり・・・。」
「えっ・。」
私何言ってるんだろう、何故か自分でもよくわからないことを言ってしまって、少し戸惑います。
「えーと、ゴメン。聞こえなかった・・なんて言うたん・・かな?」
聞こえてなかったんだ良かったと、思いました。
「何でもない。」
私はイライラしてしまい洗い物も終わったのでとっと部屋に戻ることにしました。その時修一君とすれちがう時に何とも言えない甘い匂いと上半身裸のせいもあり凄くドキドキが止まりませんでした。それは、部屋に戻っても収まりませんでした。

195:結衣の想い ◆BEd.go8JjU
07/06/19 10:54:18 KaofeyaM
規制かかりましたので投下終りです

196:名無しさん@ピンキー
07/06/19 16:34:03 oeLd/bqZ
>>188
それどこ?

197:名無しさん@ピンキー
07/06/19 16:47:29 4FZZq2K+
>>195
GJ!
ちゃんと校正をしよう!
投下の前に誰かに読んでもらって意見を聞こう!

198:名無しさん@ピンキー
07/06/19 17:02:08 1OZrAkfM
>>195
GJ
>>197
ヤンデレSSなんて恥ずかしくて人に見せられるかw

199:名無しさん@ピンキー
07/06/19 17:21:19 LSH3k5Mi
>>197
こんなん誰に読んでもらうのよ・・・

200:名無しさん@ピンキー
07/06/19 18:08:08 QVX23ui2
>>199
漏れはいつもチャットしてるネット友達に読んでもらってから
ここに投下してる

201:名無しさん@ピンキー
07/06/19 20:54:50 ixtOdPBU
実はネットの中でのみ俺っ子だった清楚系クーデレチャット友達と
パソコンにスパイウェアを仕掛けて>>200の性癖を知り尽くしたヤンデレストーカーが対峙する急展開はまだかい?

202: ◆WIhkQEicx2
07/06/19 22:01:10 WzPYvXnn
忘れられた頃にふらりと投下。1話と2話は前スレにいます。

203:彼女の目はつぶら 第3話 ◆WIhkQEicx2
07/06/19 22:03:13 WzPYvXnn
「あー、やっぱ一年じゃ全然変わってないなー!」
浦島太郎になり損ねたのはちょっと残念だったような気もしないでもない。
一年ぶり(のはず。眠っていたからあんまり実感ないけど)の大学はあまり変化がなかった。
初夏の暑さを感じつつ、無駄に広い構内を歩く。
「あ、この猫まだいたんだ。」
いつもお弁当の残りを上げていた猫が、ベンチの上にいた。
「おいでおいで。あれ?おーい。」
呼んでも、その子は寄ってきてくれなかった。
流石に私のこと忘れてるのかな?変なことで、時間の経過を感じた気がする。


起き上がった後の私は、一通りの検査を受けた後は特にリハビリをすることもなく。
あれよあれよという間に退院の準備をすることになった。
かっちゃんの部屋を訪れたり、父さんと一緒にかっちゃんを飲み屋に連れてったり、
売店で数時間立ち読みしてたりしたわけで、私の体に異常その他がないことは誰の眼から見てもはっきりとしていた。
愛しい人と離れ離れになるのは悲しいけど、
どの道うちの大学とかっちゃんの病院は学部違いでしかないので何かにつけて突入しに行くのは簡単だし。
無軌道な父さんをほっぽいて、これ以上家が滅茶苦茶になるのも悲しいので、
私は大人しく、晴れてシャバに戻ることにしたのでありました。


そんなわけで私はこうして学業の場に戻ってきたわけだけど、
張り切って家を出たから、二時限目の始まりまではまだ時間がある。
中途半端な時間のせいで、人もまばらだ。
暇が出来ちゃったな、と思いながら、眠気覚ましに背伸びをする。
「んー…」
「ああー!!せんぱーい!!」
後ろから大きな声が聞こえてきて、ふと振り向くと、
たったっ、と小気味いい駆け足で良く知った顔の男の子が近づいてくる。
「おお、正太郎くん。」
「先輩!治ったんですね!!よかったーーー!!ずっと心配してたんですよ!
お見舞いに行っても先輩は眠り続けてるだけで、このまま二度と目を覚ましてくれないんじゃないかって!」

204:彼女の目はつぶら 第3話 ◆WIhkQEicx2
07/06/19 22:06:38 WzPYvXnn
彼の名前は鹿島正太郎くん。研究室のかわいい後輩だ。
背は平均よりは低めって感じだけど、体育会系で結構鍛えてるので小鹿のように機敏な動きを見せる。
その正太郎くんは今、私の腕をとりぶんぶん振り回している
元気な子だなぁ。前からそうだったけど、今は感動のせいか目を潤ませながら必死で語ってくる。
「ごめんね、心配かけて。バタバタしてて、みんなに連絡すること忘れてたよ。」
「いいんですよ。そんなこと!」
正太郎くんは否定してくれたけど、本当にひどいことをしたと思ってる。
私のことを心配してくれた人が何人もいるっていうのはありがたいことだ。ちゃんと連絡しておかなくちゃ、と思う。
「私の入院中何があったかとかいろいろ聞きたいし、研究室で話そっか?」
「そうですね。みんな先輩の顔みたいと思いますし。」
振り回していた私の手を離して、正太郎くんは研究棟に向かいだす。
私も付いていこうとしていたけど、突然、彼の足が止まった。
「そういえば…僕はもう3年なんですけど、先輩はどうなるんッスか?」
申し訳なさそうに顔をしかめて、聞いてくる。
「うーん、休学扱いになるのかな?単位は多めにとってたんだけどね。その辺はこれから聞きに行くよ。」
「そうですか。何事もなく済んだらいいですね。」
「うん。あ、素子ちゃんだ。」
「え?ああ、本当だ。」
正太郎くんの後ろから、同じく後輩の桐絵素子ちゃんが歩いてくるのが見える。
いまどき珍しい正統派おかっぱのかわいくてちっちゃくて大人しい子。
実は目の前にいる正太郎くんの彼女なのだ。二人でいちゃいちゃしているところを良く見かけていた。
身長的にもぴったりって感じのかわいいカップルで、見ていて微笑ましくなる。

が、今日のあたしは何故か二人にいたずらしてやりたい気分になっていた。
かわいい素子ちゃんには、たった一つだけ欠点があるのだ。
人なら誰しでも持つ『ある感情』があまりに大きすぎるという欠点が。


205:彼女の目はつぶら 第3話 ◆WIhkQEicx2
07/06/19 22:08:48 WzPYvXnn
あたしの目の前に、その起爆装置はある。今にも彼女の元に走り寄っていきそうな正太郎くん。
その後ろ姿に、あたしは突進して、抱きつく。
「ごめんね正くん、1年も待たせちゃって。あたしがいない間、寂しかったよね?
『素子の貧乳じゃ満足できないんだ』ってあたしの胸にむしゃぶりついてきてたもんね。
これからは、ずっと堪能させてあげるからねっ。」
「せせせせせせ先輩ッ?急に何をッ!?」
はがいじめに近い感じで抱きついてる彼の体が、猛烈な勢いでばたばたと暴れだす。
ぎゅうっと胸を押し付けるようにさらに抱きしめて、ちらっと素子ちゃんの方を見ると。
想像したとおりの顔が、そこにあった。
くわっと目を見開き、あたし達の方を凝視している彼女。
口元はぐっと閉じられているが、手はプルプルと震えだしている。

そう。彼女は、とてもとても嫉妬深いのだ。

「違うんだ素子!これはいわゆる誤解で!先輩は事故が脳で!僕の人生に一転の曇りも!」
その表情を見た正太郎くんは、全力で今の状況を否定する言葉を投げかけている。
全力の余り内容が支離滅裂になってきちゃってるけど。
当然そんな言い訳は彼女には通用しない。
彼女はあたし達の方を睨んだまま、かばんに手を突っ込んで、中から…
裁縫バサミを取り出した。何でそんなもの持ってるかという疑問は尽きないが、
それよりも!さぁ、勝負はここから、レディ、ファイト!
「逃げましょうダーリン!怖い般若からの愛の逃避行よーーー!!」
「何でこんなことになるんだーーーーー!?」
あたしは正太郎くんの手を握り、素子ちゃんとは逆の方向に逃げ出す。
ちらっと振り返ると、素子ちゃんは当然追いかけてきていた。
走ることをせずに、凄まじい速さで足を動かして「歩いてくる」。ほとばしる殺気。
こうして、追いつかれたら殺される、スリル満点のおいかけっこが始まったのだった。


「わーどいてどいてどいて!あ、お久しぶりです教授ー」
「はぁ、はぁ、先輩!逃げても無理ですって!ふっ、ふっ、い、今なら土下座すれば素子も許して」
「いやー無理でしょ。後ろ見て。」
「も、もとこー!!??包丁なんてどこから!!??」


「せ、せんぴゃい…も、もう、げふっ、無、理」
「頑張って!追いつかれたら死ぬよ!ほら足にエアーサロンパスしたげるから」
「冷て、って、こん、な、もん、ど、どこから」
「さっき柔道部の部室を駆け抜けた時に拾った。やべっ!前方に敵(素子)!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」



206:彼女の目はつぶら 第3話 ◆WIhkQEicx2
07/06/19 22:10:58 WzPYvXnn


「ふー、何とかまいたのかな?」
見上げると、お日様は真上に来ている。一体何時間逃げ回ったことになるんだろう?
3時間、ってとこかな?それだけ走った割には、私はあまり疲れていなかった。
フェンスから身を乗り出して、辺りを見渡す。
研究棟の屋上から見える風景の中には、追跡者の姿はない。
少し安心して振り返ると、正太郎くんが大の字になってぶっ倒れていた。
「おかしい…だろ…なんで陸上やってた俺がこうで…ぜえ、ぜぇ、先輩は、息も切らして…ないんスか…」
息も切れ切れに、文句を言ってくる。
確かに、変だなぁ。私はこんな体力派じゃなかった気がする?
少し考えてみる。が、吹き抜ける風が気持ちよくて、すぐにどうでも良くなった。

「あー!ひどい目に会ったっ!!」
正太郎くんが、だんっと勢いをつけて立ち上がる。流石、鍛えられてる心肺機能。もう復活したみたいだ。
「ごめんねー。なんかちょっといたずらしたくなっちゃって。」
「なっちゃって、じゃないッスよ…先輩、ちょっと性格変わりました?」
「うん?そうかな?」
フェンスに背中をあずけて、もう一回考えてみる。私は、変わったんだろうか。
「昔は、素子ほどじゃなかったけど、どっちかというとあんまり喋らない、大人しい人だったように思うんスけどね。
こんないたずらして楽しんじゃうようなタイプじゃなかったような。」
「そうだったかな。昔の私がどうだったかって、うまく思い出せないんだよね。」
そう、オモイダセナイ。
1人で本を読んでる方が好きな私もいるし、あの人と一緒に走り回っているのが楽しいあたしもいるような気がする。
考えると頭の奥の方が痛くなってきそうなので、無理やり話題を変えることにした。
「でもさ、君も結構楽しんでたでしょ?」
「うーん、まぁ、ちょっとだけは。
あんなに必死になってくれるってことは、それだけ俺のこと好きでいてくれてるってことですし。」
言いながら、すたすたと私の隣まで歩いてきて、がしゃんとフェンスにもたれかかる。
「でもさ、ちょっと怖くない?あれじゃ本当に浮気した時には必ず殺されるよ?
必ず殺すと書いて必殺。絶対生き残れない。」
「俺は浮気なんかしません。死ぬまで素子一筋です!」
下を歩く人たちに宣言するように、叫ぶ。おいおい、かっこいいな。
「おー、愛してるねー♪」
「ま、まぁ、愛してますよ?あいつになら、例え殺されたって」


207:彼女の目はつぶら 第3話 ◆WIhkQEicx2
07/06/19 22:14:55 WzPYvXnn

がちゃんがしゃーん

彼の愛の深さを語る言葉は、突然の轟音で中断された。
驚いて振り返ると、そこには、素子ちゃんが立っていた。
ヤバい!殺される!?前門の鬼、後門の青空。殺されるか、飛び降りるかしか選択肢がないかも。
私が(おそらく横に立っている彼も)死を覚悟していると、
素子ちゃんはつっと一筋涙を流して、私たちの方に突進してきた。
どーんと正太郎君にぶつかって、フェンスに二人が突っ込む。
ああ、そのまま彼を突き落とすつもりなのかな、と思っていたら。

「正太郎君…私のこと愛してるって、ほんと?」
「あ、ああ。神にでも仏にでもアッラーにでも誓って、本当だ!」
「嬉しい…。」
「ごめんな素子、変な誤解させちゃって。俺が好きなのは、お前だけだから。」
「…うん…私も…。」

と、思いがけずすっごいラブラブした会話をしだした。
あっけに取られて見ている私の前で、サイズぴったりの二人は抱き合ってちゅーまでしやがりだした。

何でこんな状況になってるかっていうと、多分さっきの正太郎君の愛の宣告を素子ちゃんも聞いてたんだろうな、
と1人で納得する。何にせよ、命の危機が去ってよかった。
それにしても、ラブラブしてるなー。羨ましい。
このまま二人で文字通りアオカンに突入しちゃったりするのだろうか?
いいなぁ。私も、かっちゃんとあんな関係にいつかなりたいと思う。
そう思い立ったら、何だか無性にあの人に会いたくなってきた。
バカップルをこれ以上見るのも午後の講義に出るのも切り上げて、医学部にでも行きますか!
そうして、二人から離れていこうとして。
私は見つけてしまった。さっきの轟音の正体を。

床に無造作に落ちている、大木でも切り倒せそうな斧と、ごっついチェーンソー。

正太郎くんの真実の愛を聞いて、素子ちゃんがとっさに落とした武器。
彼女は、これを片手に一つずつ持ってたの?
ゴクッ。唾を飲み込んで思わず素子ちゃんたちの方を振り返ると、
彼女は舌を恋人と絡ませながら、目だけを私の方に向けた。
言葉を発さなくても伝わる、「次やったらバラバラの肉塊にするぞ」という、意思。

人間って怖いんだよ、だから、あんまり無茶なことはするな、あたし。
私は、自分で自分にそう忠告していた。


208: ◆WIhkQEicx2
07/06/19 22:17:19 WzPYvXnn
今回はここで終わり。偽装嫉妬、とでも呼ぶべき展開いかがだったでしょうか。
実はまだヒロイン登場しきってなくてでもいっちょまえに伏線とか貼りたくなっちゃって、
長編の難しさを実感しているところです。何とか完結まで持ってくぞー。
では次回も◆WIhkQEicx2と嫉妬地獄に付き合ってもらう!

209:名無しさん@ピンキー
07/06/20 22:14:30 uhl2a1Le
あれ?

210:名無しさん@ピンキー
07/06/20 22:55:23 dIlZ94sI
速さが足りない

211: ◆Xj/0bp81B.
07/06/20 23:10:53 RAhFwtBx
久しぶりに投下します

212: ◆Xj/0bp81B.
07/06/20 23:12:03 RAhFwtBx

頭がおかしくなりそうだ。頭の中に浮かぶ脳が、グシャグシャにかきまわされたような嫌な感覚。頭痛とも吐気とも違うそれは、
確実に翔を狂気の世界へと誘(いざな)っている。
限界が、手の届くところにある。それは柔らかい皮一枚に覆われ、少し手を伸ばせば簡単に突き破ってしまうほど危うい。そして、
おそらくその薄皮一枚の向こうは、異常の世界。いわば翔は狂気と正気の境界線に立っているのだ。
憑き物が墜ちるように肩の力が抜けていく。頭が、体が感覚を失った。もう何も感じない、感じられない。
まるで自分が自分ではなくなったようだ。
ふいに、絡み付いた澄香の腕がほどかれた。見ると、澄香はその場に座り込み、恥ずかしそうな上目遣いで、
「これから、どうします?」
その瞳は、期待でうるんでいた。
「あの、もう付き合って一週間ですし……」ほんのりと頬が朱に染まり、吐息が妙に熱っぽい。
「だから、その、そろそろしたいなぁって、」
「……今日は、帰ってくれないか」
「え……?」
「今日は、帰ってくれ」
「そ、そんな、まだ会って一時間もたってないで─」
「─帰れっ!!」
ビクっと、澄香の体が震えた。その瞳は、世界でもっとも信じられないモノを見たように、大きく開かれていた。
「頼むよ。今日は、もう、無理、なんだよ」
翔の体が、ふるふると細かく震える。やがて、唐突に首がガクッと折れた。
「お願い、だから。もう、限界だから」
限界の先に広がる狂気の世界で、悪魔が手招きしている。足先が境界線を超えてしまっている。そこを超えてはいけない。
何とかしないといけない。狂いたくはない。
忘れていた泣き方が蘇り、ひとりでに波が溢れ落ちた。
「帰れ。帰れよ。頼むから、一人に、してくれ」


213:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/06/20 23:14:36 RAhFwtBx
しゃくりあげるような吐息に乗せて、何かを口にしようとする。しかし、そこから先は、言葉にならなかった。
混乱した頭が、より深い混沌へとさ迷い行く。
とにかく、今日は、いろいろな事がありすぎた。
ただでさえ学校で拷問のような一日を過ごし、精神が疲弊しきっていたのだ。それなのに、さらに追い討ちをかけるような驚愕と恐怖に、
自分を見失ってしまった。
もう何もかもが煩わしくて、早く、一人になりたくて、澄香が邪魔だった。心の底からそう思う。同時に、もしも、
澄香が今の翔の気持ちをくみとってくれなかったら。そこには、おそらく破滅が待っている事を、翔は本能的に理解していた。
「……分かりました」
しばらくだんまりだった澄香が、ようやく口にした言葉は、翔にとってまさに僥幸だった。その僥幸に導かれるように顔をあげると、
仕方なさそうに笑う澄香がいた。
「今日は、帰りますね。センパイ、疲れてるみたいですし……」
残念そうに言いつつ、澄香が立ち上がる。
「鍵、ここに置いて行きますから」
カタリとテーブルの上に鍵がおかれた。
「後でメールします。絶対に返事下さいね。それじゃあセンパイ、また明日」
澄香は部屋の敷居を跨いで、廊下に出ると、翔に向かい頭を下げた。短い髪が揺らいで、顔を影の中にすっかり覆い隠し、
やがて上げられた顔は少し寂しそうだった。しかし、そんな事はもう気にもならなかった。
規則正しい澄香の足音が、階段を叩く頃、突然押し寄せた激情に耐えきれず、翔は嗚咽をもらしていた。


214:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/06/20 23:17:26 RAhFwtBx

それからひと眠りすると、いつの間にか頭が平静さを取り戻していた。全てが喉もとを過ぎて、落ち着いた気分である。
あらゆる感覚が体に廻帰し、ようやく正常になったようだ。その証拠に、あの時、身近に感じた異常の世界は、もう遥か彼方である。
時刻は七時を回っていた。澄香が帰ってから眠ったので、だいたい三時間ほど寝ていた事になる。
窓から見える東の空に、紺の空とそれより少しだけ色の薄い雲が漂っている。ずいぶんと雲が厚い。明日は雨かもしれないと思った。
ベッドから降り、立ち上がると体をうんと伸ばした。寝ている間に懲り固まった筋肉が、ほぐれていくのを感じる。しかし、その心地よさも、
体を丸めると途端に霧散し、逆に体が縮むような窮屈感にさいなまれた。
さて、今度は体を丸めたまま再びベッドに腰を落とす。ふと目についたテーブルには、出しっぱなしのアルバムが散らばっていた。
その瞬間、翔は小さな舌打ちとともに、ほぞを噛んだ。それは、もう思い出したくない記憶として、頭の隅に置かれている。
だから見たくは、思い出したくはなかった。
中学の頃の卒業アルバムは、もう見れたものではなくなっている。そして、おそらくここに散らばる残りのアルバムの大切な思い出も、
澄香の狂気で真っ黒に塗り潰されてしまっているのだろう。
その事に、激しい憤りを感じる。しかし、不思議とその怒りの温度は高くなかった。むしろ、氷のように冷たく、怒りとはまた別の感情の胎動を感じている。
溜め息をひとつつくと、怒りはすぐに深い悲しみへと変わっていった。胎動する感情の正体は、これだったのだ。
「何で、こんな事を……」
閉じられたアルバムを前に、翔は両手で顔を覆い隠し、そう呟いた。薄い闇の中では、その呟きさえもすぐに消えた。
だが、悲しみが消える事はなかった。


215: ◆Xj/0bp81B.
07/06/20 23:19:20 RAhFwtBx
>>170
>>172
……orz
ともあれ投下完了です

216:名無しさん@ピンキー
07/06/20 23:59:04 w8ahh56N
>>215
俺、人の命もそれなりに大事だと思うけどさ。
ある意味『思い出』はそれ以上に大切だと思うのよ。
取り返しつかないのは人命と一緒だけど、思い出はなくなっても明日から生きていかなきゃいけないじゃないか。
絶対戻ってこないの自覚しながら生活するハメになる。
ある意味自分が死んだほうがマシ。
だから写真とか傷つけられたり、家に火かけられたりするのは無茶苦茶腹たつ。
今回の澄香はちょっと許せん。かなり痛い目にあってもらえないと、溜飲が下がりそうにない。
翔はどう決着をつけるのか楽しみにさせていただきます。gjでした。

217:名無しさん@ピンキー
07/06/21 00:21:58 9QE4+Bwj
>>216
あんた、熱いな・・・

218:名無しさん@ピンキー
07/06/21 00:22:01 DTPyZjIL
>リボンの剣士
完結お疲れ様GJでした
しかも他の作品に手を出す事無くコレだけの期間を一本の作品で通したのもお見事でした
個人的には途中色々引っ掻き回してくれつつも最後には影の功労者として物語の収束に頑張ってくれた屋聞菫にエールを贈りたいです

>七戦姫
読んでて色々な意味で心臓の動機が激しくなる展開流石で今回もGJです
九十九共々楽しみにしてます でも密かに「うらぎりコウモリ」の続きもいつか読みたかったりします

>お願い愛して
すれ違う気持、交差する謀略、病んでいく心……まさに修羅場や流血期待させる見事な展開
連載再開後も定期的な投下は嬉しい限りですGJ

>すみか
定期的に投下してくれるのは嬉しいし期待も高まります
主人公可哀相と思う反面ヒロインたちの兇気がたまりませんGJ

では自分も投下イきます

219:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/06/21 00:23:08 DTPyZjIL


  /      /      /      /


 今朝の目覚めは昨日にもまして、いや今まで生きてきた中で最悪と言えるほど。
 昨日の事が悪い夢のように思えてならない。
 <一度距離をおこう>
 昨日アッくんから言われた言葉が脳裏に蘇がえるたびに胸に引き裂かれるような痛みが疾る。
 実は昨日一日の間にあったことが全て夢だったんじゃないか―そうだったら良いのに……。
 そんな現実逃避的な考えすら浮かぶ。
 でも、テレビや新聞の日付が告げる日時が無残にも突きつけてくる。
 昨日の出来事が悪い夢などではなく現実だと―。

 そんな精神状態だから朝食もロクに喉を通らず力の入らない体を引き摺るように学校へ向かう。
 結局昨日も朝会ったっきり学校でも終わった後も会っていない。
 このまま歩みを進めれば途中の路でアッくんに出会うだろうけど、でも……。
 正直このまま会うのが気不味いを通り越して怖い。
 アタシはアッくんにどんな顔して会えばいいの……。
 このまま引き返して学校を休んでしまいたいぐらい……。
 そんな事考えながら歩いてたアタシは―。

「スズ! おい大丈夫か?!
 考えながら歩いてたアタシは強く腕をつかまれた感触と其の声に現実に引き戻された。
「気をつけろよ。 お前今赤信号なのに渡ろうとしてたぞ」
「アッくん……。 私の事心配してくれるの……?」
 アタシは声の主―アッくんの顔を見ながら口を開いた。
「当たり前だろ?」
 そう言ってアッくんはアタシに優しく微笑みかけてくれた。
 昔から変わらない優しい笑顔で……。
 そうよアッくんはいつだってアタシのことを見つめてくれた。 何時だって心配してくれてた。
 今だってこうして優しい言葉を掛けてくれる。
 そうよ。 って事はやっぱり昨日のは何かの間違い―。
「心配するのは当たり前じゃないか。 だってお前は―」
 そうよ。 アタシはアッくんにとって最愛の彼女―。
「―お前は俺の大切な幼馴染じゃないか」

 ―え? い、今なんて? た、確かにアタシ達は幼馴染で……、で、でもそれ以上に恋人同士……。

「あ、ホラ信号青になったぜ。 さっさと渡っちまおうぜ。 もたもたしてるとまた赤になっちまう」
 そう言ってアッくんに私は背中を軽く叩かれ促され横断歩道を渡った。
 その時いつもだったら手を握って引いてくれるのに、でも―。
「じゃぁな。 もう横断歩道でボーっとなんかするなよ?」
 そしてアッくんは手をひらひら振りながら行ってしまった。
 ―結局其の手はアタシのてを握ってくれる事なく―

 <―幼馴染じゃないか>
 や、やっぱり昨日のあれは悪夢なんかじゃなく現実……。
 アッくんにとってアタシはもう本当に……

 彼女じゃなくなってしまったんだ―。

220:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/06/21 00:24:31 DTPyZjIL


  /      /      /      /


「すぅー……っ、はぁーー……」
 時間は昼休み。 今私は熱矢先輩の教室の前にいる。
 其の目的は一つ。 お昼をご一緒させてもらおうと。
 正直言うと以前にもこうして何度も教室の前まで来た事があった。
 だけど切り出せなかった。 何故なら熱矢先輩の隣にはいつもあの女がいたから……。

 でも、今熱矢先輩の隣にあの女はいない、筈―。
 だから、思い切って今度こそ誘おう。 そして言うんだ。
 ―先輩、若しよろしければお昼ご一緒させてもらっても良いですか? って。

 私は面を上げ扉を見つめる。 何も難しい事は無い。
 扉を開けて、そしたら次に熱矢先輩の姿を見つけて、それで話し掛ければいいんだ。
 そして私は意を決して扉に手を伸ばそうと、其の瞬間……。

「よう。 誰かと思えば稲峰じゃないか」
 私が手を掛けるより先に扉が開きそして現れ口を開いたのは熱矢先輩だった。
 不意を疲れた形の私は思わずその場で硬直してしまった。
「あ、は、はい……! あ、あの、せ、せ、せ……!」
 ど、どうしよう。 あんなに何度も心の中で反芻した言葉なのに出てこない。
 心臓の鼓動だけが私の意思に反してドンドン早まっていく。
 言わなきゃ。 言わなきゃ。 言わなきゃ。 言わなきゃ。 言わなきゃ。 言わな……。
 そう思いながらも言葉が出てこず固まってると―。

「こんな時間にって事は、若しかして昼飯に誘いにきてくれたのか?」
 私は熱矢先輩の言葉に只無言でぶんぶんと首を縦に振った。
「そうか。 じゃぁ天気も良いことだし屋上にでも行こうか?」
「は、はい! よ、喜んでご一緒させて頂きます!」
 熱矢先輩の言葉に私は反射的に答え―しかしその声は緊張と驚きと喜びで、
多分ひっくり返ってたと思う。
 普段なら恥かしさで卒倒してしまいそうだったけど、
でも私の心の中はそれ以上に嬉しさで一杯だった。

 熱矢先輩の後をついて歩く私の胸は喜びと期待で満たされていた。
 ああ、良かった。 やっぱり勇気を振り絞って誘いに行ってよかった。
 高鳴る鼓動に任せ軽やかにスキップでもしたいぐらい。
 でも抑えなきゃ。 あんまりあからさまにはしゃいだらおかしいしみっともないもんね。


221:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/06/21 00:25:19 DTPyZjIL
 そして屋上に到着してのランチタイム。
 夢にまで見た大好きなヒトと二人で一緒に食べるお昼は予想通り楽しかった。 けど―。
 なんだろう?
 楽しそうに私の話に相手してくれる熱矢先輩だけど何か隠してるような、或いは―。

「熱矢先輩。 何か隠してませんか? いえ、何か話したいことが有るんじゃないですか?
あ、いえ私の勘違いだったらスミマセン」
 私がそう言うと熱矢先輩の顔は驚きに、そして微笑みに。
 でも其の微笑みはどこかすまなさそうなものだった。

「勘が良いんだな……。 うん、実は話したいことが……いや、やっぱりいい―」
「あのヒトの事だからですか?」
 私がそう言うと熱矢先輩は驚いた貌をみせた。
「……本当に勘が良いんだな。 うん、お前の考えてる通りなんだけど、その……」
「私の事を気にしてくれてるのなら、大丈夫です。 確かに先日あんな告白しちゃいましたが、
でも本当に付き合って欲しいとかそんなつもりは全然有りませんから。
強がりとかそんなんじゃなくて今のままの同好の士としての関係が心地良いんです。
だから本当に気にしないで下さい」
 そう言って私は笑って見せた。

 ―今言った言葉、勿論本心ではなく、さりとて全て嘘ってわけでもない。
 確かに本心じゃ恋人同士になれたらとも思うけど、でも今の関係が心地良いのもまた事実。
 恋人同士の関係を望み、告白し、迫って、それで今の関係を失ってしまっては元も子もないから。

「ですから、若しよければ話してください。ただ話すだけでも楽になれる場合もあります。
もっとも私なんかじゃ相談相手として不足かもしれませんけど……」
「いや、そんなことないよ。 じゃぁ……聞いてもらってもいいか?
愚痴みたいで聞き苦しいと思うけど……」
「はい! 私なんかでよければ! あ、勿論ココで聞いたことは決して他言はしませんから」
 そう言って私が微笑みかけると熱矢先輩も連られるように、安心したように微笑んでくれた。

 そして熱矢先輩は話してくれた。
 あの女と恋人同士という関係を清算したものの、それでも未だ心の中に未練が残っていること。
 平静を装って距離を保って話したものの、本心では和解を持ち出したくなる気持を抑えてる事。
 コレでよかったのだろうかと本当は弱気な事―。

 正直言えば熱矢先輩の心の中に未だあの女が住み続けてる事は気分のいいものじゃ無い。
 熱矢先輩が必死で距離を保とうとしつつも未だあの女を気にしてるのも正直妬ける。
 でもココで私がすべき事は間違っても其の事に対する不快感や嫉妬を露わにする事じゃない。
 熱矢先輩の話に真摯に耳を傾け、そして熱矢先輩の心を楽にしてあげる事。
 熱矢先輩にはいつも笑顔でいて欲しいし、そのために私は出来る限りの事をしたかったから。
 そう。 私はあの女とは違うのだから―。

 そして一通り話し終わった頃には熱矢先輩はどこかすっきりした貌をしてた。
 その貌を見て私は確信できる。
 私のしてる事は決して間違っていないんだと―。

222:名無しさん@ピンキー
07/06/21 00:26:28 DTPyZjIL
投下終了です

223:名無しさん@ピンキー
07/06/21 00:45:52 T4AxHVKe
キター!GJです!
ヒロインの感情の表現がうまいのでかなり続きも楽しみにしてます


224:名無しさん@ピンキー
07/06/21 02:23:24 9TTrg3Bb
GJ!
レポート処理で寝れない俺にどす黒い風が吹き込んだ…!

225:名無しさん@ピンキー
07/06/21 05:32:34 6DpUR+vw
>>216
写真は思い出を記録してそ、の時にしか撮れないから大切だし、それを滅茶苦茶にされるのが許せないと思うのはわかるけど、写真がなくなったから思い出が消えてしまったり死んだ方がマシとは安い思い出だな
ちゃんとネガ取っとけよ
卒業アルバムは注文した写真屋が在庫を保管してる場合があるから早まるなよ
別にアンタを心配してるわけじゃないんだからね!
これぐらいで死なれたら目覚めが悪いっての

226:名無しさん@ピンキー
07/06/21 10:13:37 T4AxHVKe
職人さんは読者の意見に流される必要はない。
というのを前提において話すけど…

俺も大抵の事は許せるけど思い出の品を壊されたらかなり怒るな、
「思い」が詰まった物はどんな高額の物より大切にもなるもんだ
だからネガがあるからいいとかじゃなく、その澄香のとった行動が許せない
そもそもネガなんて取ってないのが普通だろうし…。


227:名無しさん@ピンキー
07/06/21 12:08:21 9v0Te5DR
でも澄香に思い出の大切さを理解しろと言うのも酷な話だよねぇ。
名字の一件からも分かるけど、彼女の過去なんてトラウマ満載の悪夢に他ならないんだから。
彼女にとっては過去なんてものは、今を壊すだけの唾棄するべきものなのかも。
うん、いい感じに狂ってるねGJ!

228:名無しさん@ピンキー
07/06/21 12:15:24 Dho1PIQb
嫉妬スレはどうしてBADENDの結末しか用意されてないんだ
せめて、癒される恋物語が読みたいぜ

229:名無しさん@ピンキー
07/06/21 12:38:37 munLuJ5/
つ 鏡 -涼編- 沃野 

230:名無しさん@ピンキー
07/06/21 15:52:15 JTYM6vh+
やや地獄な彼女とか、君という華とか、赤い瞳と栗色の髪とか、転帰予報とか、
途中で投げ出された作品ってかなり多いよな。

そりゃ作者様にも都合があることはわかるさ。だけど間が空くなら現状報告してほしいし、
未完で終わらせるならその事を言ってほしい。別の人が続きを書くかもしれんから。それが嫌なら予め言えばいいし。
何だか最近未完なのか休止なのかわからん作品が多すぎ。

231:名無しさん@ピンキー
07/06/21 16:15:28 7lIVAyKs
>>230
確かに、3ヶ月くらい間が空くなら何か言ってくれるといいかもしれんね。
書くのは作者さんの自由なのはあるけど、書き始めたことに対する責任みたいなのはあるべきだと思う。
別に未完だからって慰謝料払えなんて誰も言わないし。


>>216
好き勝手やったことに対する報いを受けるのは、嫉妬に限らず物語で一番おいしいところだからな。
澄香が痛い目を見る時の逆風っぷりが、俺も今から楽しみだ。


232:名無しさん@ピンキー
07/06/21 16:16:15 rIBSEAsM
>>230
転機投げ出しなんて言わないでェー!

233:名無しさん@ピンキー
07/06/21 17:18:34 V3YdM0CY
>>215
GJです。
これだけ登場人物の心情を掘り下げられてるSSを見るのは始めてかも・・・
翔の葛藤や、澄香の苦悩が(良い意味で)痛いほど伝わってくる
もう頑張って下さいとしか言えません!

>>222
死亡フラグばら撒きキタ━━(゚∀゚)━━ !!!!!
これはもう主人公駄目かも分からんね

234:名無しさん@ピンキー
07/06/21 18:40:06 Ok5I6wGg
>>232
転帰は休止宣言があったから復帰するまで待つのだ。

235:名無しさん@ピンキー
07/06/21 20:09:21 WGK34Ct2
>>230
山本君とお姉さんは入らないのか?
俺はずっと全裸のままだよ・・いい加減に服を着させてくれ

236:名無しさん@ピンキー
07/06/21 20:27:58 JTYM6vh+
>>235
あれはある程度、第1部、第2部という風にして完結してるから。
作者のホームページもあるし、様子を見る事もできる。

237:名無しさん@ピンキー
07/06/21 20:31:49 WGK34Ct2
>>236
えっ? ホームページなんてあるのか?
初耳だよ

238:名無しさん@ピンキー
07/06/21 20:33:10 JTYM6vh+
URLリンク(nuclear.gn.to)
ここ。修羅場検定なるものもある。行ってこい。

239:名無しさん@ピンキー
07/06/21 20:42:01 M2TsZBAp
作者さん達のホムペやブログは
まとめからかなりの数リンクされてるんだけど
皆あんまり知らないんだな

240: ◆y5NFvYuES6
07/06/21 22:11:37 iVIjiel6
お久しぶりです。
投下します。

241:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/06/21 22:12:33 iVIjiel6
窓からは太陽が覗き、気持ちのいい日差しの中、俺は目を覚ました。
だが俺の目覚めは気持ちのいいものではなかった。
「…あったま…いた……。」
頭を内側からガンガンと叩かれているかのような鈍い痛みが走る。
昨日おばさんに無理矢理飲まされたせいで二日酔いになったようだ。
「…最悪の気分だ…。」
痛む頭を抱え、ふと気づく。
「……あれ?今何時だ…?」
悪い予感が頭を過ぎる。
「まさか……!!!」
俺は慌てて携帯を探すが、いつも置いてある枕元にはなく。
部屋を見回して見ても携帯の影すらなかった。
「と、とりあえず時計見ないと!」
時間が惜しかった俺は携帯を諦め、バタバタと騒がしい音を立てながら居間へと降りる。

「い、今何時!!」
居間に居るおばさんと若菜の返事も待たず、壁に掛けてある時計を見る。

時計の針は10時を過ぎていた。

「ちーちゃんおはよぉ~♪」
呆然とする俺に構わず、若菜は能天気な声をあげる。
ニコニコと、朝という時間に相応しいすがすがしいまでの笑みを浮かべながら。
「ちか君どうしたの?」
そんな若菜とは対照的に、心配そうな声色のおばさんが俺の顔を覗き込む。

胃の辺りが熱い。
心臓が鷲掴みされたかのように胸が痛む。
不快感が押し寄せて、冷や汗が全身から滲み出て更に不快感が俺を包む。
焦りと後悔、今の俺の心にはそれしかなかった。
当然おばさんの声など全く聞こえている余裕などなく、おばさんは益々心配そうな表情を見せる。

242:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/06/21 22:14:27 iVIjiel6
「ねえちーちゃん、どうしてそんな顔してるの?」
腕に細い腕が絡みつく。
きつく、まるで縛り付けているかのようなその感触に不快感を感じる。
だがそのお陰かどうかはわからないが、心配そうに見つめるおばさん。
腕に絡み付いてねっとりとした視線で見上げる若菜に気づくことが出来た。
「ちーちゃんにそんな顔似合わないよ。
 ね、今日一緒にどっか行こう。」
若菜はいつもの花が咲いたような笑みを向けるが、今日は何故か違和感を感じた。
何かはわからない。けど…いつもの若菜とは思えないモノを纏っているような…気がした。
その違和感のせいか、俺の不快感は更に増す。
「…悪い。今日は無理だって言ったよな。」
昨日確かに言った筈、なのに何故若菜はまた誘うのだろう。
すると、若菜はいつもとは違い笑顔を崩さずにこう言った。
「どうして? だって、今日はもう、約束無くなっちゃったんでしょ?」
その言葉に、俺は固まってしまった。
何故若菜がそんな事を知っているのかという疑問を抱きはしたが、若菜の言葉で自分のした事を思い出してしまったからだ。
約束を破る。最低な事だ…。
固まり、黙ったままの俺に更に追い討ちを掛けるかのように若菜は言葉を続ける。
「約束破るなんて最低だよね。
 知ってる?あおちゃんって約束破るようないい加減な人は嫌いなんだよ。
 きっとすごく怒ってるよね。顔合わせられないよね。」
時折クスクスと笑いながら無邪気に俺の心を突き刺す。
若菜の言う通り、俺は葵さんと顔を合わす資格もない…。
胃がまた熱く、痛みを伴いながら俺の心を深い後悔へと落とす。
「だから今日は私に付き合ってくれても、いいよね?」
若菜は満面の笑みを浮かべ、期待と確信に満ちた瞳で俺の顔を覗き込む。
その瞳を見ていると、付き合ってもいいのかもしれない…と、すがる様な感情に心が動かされそうになる。
でもそれじゃあ葵さんとは本当に終わってしまうかもしれない。
…約束を破ったんだ、もう何をしてもダメなのだろうか…。
あの優しい葵さんだって人間だ。俺みたいな奴とはもう……。

―あの清楚な微笑みが頭を掠める。

243:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/06/21 22:16:02 iVIjiel6
「…わかってる…。でも俺は……。」

葵さんに会いたい。
会って、謝りたい。
あの人の笑顔をまた見たい。
その気持ちを自覚したら、もうやる事は決まったも同然だ。

「ちーちゃん?」
さっきから腕に、心に絡みつく細い腕をそっと取り払い、若菜に向き合う。
「ごめん、今日も行けない。やる事が出来たから。」
そして目の前の相手の言葉を待たず、居間を後にする。
話せばきっと若菜のペースになるだろう。それに今の若菜は見ていたくなかった…。
ずっと昔に見たことのあるような……そう、アイツを髣髴とさせるあの雰囲気…。
多分あれがさっきまで俺に不快感を与えていた原因だと思う。
だから一刻も早く若菜から離れたかった…。
何が起こるかわからなかったし、なにより葵さんと会えなくなるような気がした。

しばらく呆然としていた若菜だったが、慌てたように俺の後についてきた。
「え……。ね、ねぇ、どこ行くの?」
若菜は俺の心情を伺うかのようにパタパタと栗色の髪を揺らしながら俺の顔を覗き込む。
その表情は先程とは打って変わって曇り、不安な胸の内が手に取るようにわかる。
そんな若菜を見るとほんの少しだけ胸が痛むが、今の俺の心は葵さんが優先だ。
何も答えず、階段を上り先程まで俺が睡眠を貪っていた部屋の襖を開ける。

まずは携帯を探そう。
ない、なんて事はないんだ。
そう思い立ち、机、布団の下、旅行鞄の中、ゴミ箱、押入れ…。
色々な場所を探したが、結局見つかる事はなかった。
机とクーラーしかないこの殺風景な部屋には無い、ということか…。
俺は苛立つ心を抑えるかのように軽く溜息を吐き出す。
気を取り直し、旅行鞄から服を取り出し、部屋には入らずずっと視線を投げかけていた若菜を遮るように襖を閉める。

244:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/06/21 22:17:51 iVIjiel6
着替えを終え、出かける準備の整った俺は意気込んで襖を開ける。
「………。」
若菜は何も言わず、どこか遠い場所を見ているかのような瞳で俺に目を向ける。
その瞳に意気込んだばかりの心が萎えていく。
「…じゃあ、俺行くから。」
これ以上あの瞳に晒されるのを本能的に嫌ったのかもしれない。
そう、口から自然と出た言葉は俺を突き動かした。
若菜から逃げるように階段を下り、居間に居るおばさんに「いってきます、さっきはごめんなさい。」と言い。
そのまま玄関の戸を開く。

俺の心などお構いなしに容赦なく照りつける太陽。
この暑さに俺は勝てるのか…?
…いや、葵さんに謝る為なら何にだって負けはしない!
拳を握り締め、全速力で駆けていく。
当然この暑さだ、汗は額を流れ、頬を撫でる。
肌と服が擦れ、その内に擦れる事もなくべっとりとへばり付く。
だがそんなのに構う事なく、駆ける。
走って走って走って走って走った――。

肩を上下させ、乱れた呼吸を繰り返す。
待ち合わせ場所だったバス停―。
当然葵さんは居ない。無人の、がらんとしたいつものバス停だ。
「…家の場所とか知ってたらよかったんだけどな。」
自嘲気味にそう呟くと、屋根があるにも関わらず、太陽に照り付けられている熱くなったベンチに腰掛ける。
「まあ、屋根があるんだ、なんとかなるだろ。」
憎らしいほどに照りつける太陽は屋根で遮られ、安堵の混じった声色で呟く。

葵さんが来るまでここで待つ――。
それが、俺が葵さんに出来る誠意の表し方だと、その時は思っていた。


外の暑さなど感じさせないクーラーのきいた居間で、心配そうな声が響く。
「どうしたのかしらちかくん…。もしかして何か約束でもあったのかしら?」
「……。」
その問いに栗色の髪の少女は答えない。
「…なんか悪い事しちゃったわね。昨日羽目を外さなかったらちゃんと起こしてあげられたんだけど…。」
溜息交じりのその声には少年に対する申し訳なさが滲み出ていた。
「……。」
それでも栗色の髪の少女は答えない。
どこか遠い目をしながら……唇を噛み締めた。
その手には少女の物とは思えないストラップのついた携帯が握られていた―。

245: ◆y5NFvYuES6
07/06/21 22:19:01 iVIjiel6
投下終了です。
大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
それでは、また…。

246:名無しさん@ピンキー
07/06/21 23:05:38 msKvJ/G7
GJ! お待ちしておりました。
これはそろそろ葵の身が危ないか…

247:名無しさん@ピンキー
07/06/21 23:06:02 5ICcSUrp
>>245が神すぎてGJ以外に褒め称える言葉がなかなか出て来ない。とりあえずGodJob とだけ言ってみる。
人間、感動すると何も言葉に言い表せられないって本当なんだな……。改めて実感した。

248:名無しさん@ピンキー
07/06/21 23:38:01 W8GBqwmz
>>245
(*^ー゚)b グッジョブ!!
若菜に心惹かれる俺は、もう戻って来れないのでしょうか? (´・ω・`)

249:名無しさん@ピンキー
07/06/22 01:41:41 +eKaGNax
>>248
大丈夫、俺は澄香が好きだし

250:名無しさん@ピンキー
07/06/22 01:47:09 JU0WW5X1
みんなが全裸状態に耐えられなくなってきたところで颯爽とSSを投下する作者様

な、なんという焦らしテクニック

251:名無しさん@ピンキー
07/06/22 20:28:26 5Xza4j9Y
なかなかいい嫉妬だぜ
URLリンク(www.nicovideo.jp)

252:名無しさん@ピンキー
07/06/22 20:50:09 O61sKi6Z
youtubeかニコニコスレで嫉妬・修羅場・三角関係のスレを立てるのも面白いな・・
即効にダ・カーポとSHUFFLEとGiFTがうpされそうw

253:名無しさん@ピンキー
07/06/22 22:14:46 08bpeaHj
>>252
ダ・カーポにも重い修羅場があるの?

254:名無しさん@ピンキー
07/06/22 22:42:41 O61sKi6Z
あれはいろいろと話題になっていたじゃん
音夢とさくらのガチ対決で純一がヘタレ風景していた修羅場が・・・

255:名無しさん@ピンキー
07/06/22 22:44:11 8q8RcVrz
ニコニコには「こいつ明らかにこのスレの住人だろ」って動画がいくつかあったな・・・・・・

256:名無しさん@ピンキー
07/06/23 13:54:13 +0797xLV
それにしても、一気に過疎ってしまいましたね・・

257:名無しさん@ピンキー
07/06/23 14:07:52 esqUUxhv
変なのが湧くよりはましだろ。多少ペースが落ちたぐらい気にスンナ

258:名無しさん@ピンキー
07/06/23 14:10:10 VgH0PwX0
SSスレにはよくあること

259:名無しさん@ピンキー
07/06/23 14:36:40 mbDd28N1
ROM専の時代は終わったな
これからは自分で創作していかないと

260:名無しさん@ピンキー
07/06/23 17:53:28 +0797xLV
創作活動に必要なモノ

・リアルな修羅場を体験したことがある

とりあえず、彼女の親友から告白を受けて・・修羅場勃発経験ぐらいは
誰だってあるはずさ


261:名無しさん@ピンキー
07/06/23 18:10:57 f5Nnixjd
個人的に、男←男装の親友(女)←幼馴染(女) とか大好物です、はい

262:名無しさん@ピンキー
07/06/23 18:12:03 gOlv68BP
>修羅場勃発経験
が修羅場勃起経験に見えてしまった
修羅場にあって興奮のあまり勃起する事かと……

263:名無しさん@ピンキー
07/06/23 18:25:40 w56GJ9Pm
>>261
あれな・・・。結局上手くいかなかったな。

264:名無しさん@ピンキー
07/06/23 19:04:03 TQxPsLMn
     


  兄→     俺    ←妹



          ↑
         妹の親友

みたいな修羅場こそが勃起するに相応しい

265:名無しさん@ピンキー
07/06/23 19:13:13 EK5b+4hL
アッー!

266:名無しさん@ピンキー
07/06/23 19:42:36 WgdcwN4E
>>264
それって実は「俺」が弟のこと妹だって思い込んでるってオチで親友も男なんだろ?
全員男の修羅場か・・マニアックだな

267:名無しさん@ピンキー
07/06/23 21:10:52 g6YJ5Bsw

      保志
      ↓
   若本→俺→×姉→妹 
      ↑
     田代

かなり嫌な相姦図。

268:名無しさん@ピンキー
07/06/23 21:25:23 gycnOckP
もう妹とか姉とか飽きた

269:名無しさん@ピンキー
07/06/23 21:33:56 0wmbtURq
>>268
つ[いとこ][はとこ]

270:名無しさん@ピンキー
07/06/23 22:20:31 fU1Mh1HY
       セル&フリーザー&ブルー将軍
            ↓

        
      キラ → 俺  ←  アスラン

            ↑
            嫉
            妬
            す
            る
            腐
            女
            子

271:名無しさん@ピンキー
07/06/23 22:24:43 EK5b+4hL
>>270オワタ\(^o^)/

272:名無しさん@ピンキー
07/06/23 23:17:54 f5Nnixjd
>>267
>>270
あまりにもネタ過ぎる物はやめようぜ

273:名無しさん@ピンキー
07/06/23 23:55:08 fU1Mh1HY
さてと皆はスクールデイズまでこんな寂れた流れも結構いいかもしれない・・
俺はアニメよりもラジオの方がちょっと楽しみwwww

274:名無しさん@ピンキー
07/06/24 01:52:15 tkWOzuCp
こういう時こそまとめサイトで過去の作品を読み直す(*´д`*)
阿修羅様忙しい中ありがとう(*_ _)人

275:名無しさん@ピンキー
07/06/24 12:19:40 jxER74i8
スクールデイズ楽しみだな

276:名無しさん@ピンキー
07/06/24 12:42:33 RYwPACgV
それまでは死ね無いな

277:名無しさん@ピンキー
07/06/24 15:24:04 tkWOzuCp
あまり期待しすぎるとアレだった時に泣けるからなぁ・・・
まぁシャッフルのおかげでそういう展開がテレビでありってのは
分かってるから希望は持っちゃうけど (´・ω・`)

278:名無しさん@ピンキー
07/06/24 16:15:10 A8jYfbp2
>>277
製作側も、スクイズをアニメ化するにあたって
視聴者が何を求めているのかをじっくりと検討した、と思いたいな・・・

279:名無しさん@ピンキー
07/06/24 16:18:49 HnOeZGPt
>>278
「みんなの誠」エンドから、話を「鮮血の結末」に持ってくる展開を激しく希望

280:名無しさん@ピンキー
07/06/24 16:23:00 92pczLOM
いきなりフォーク?ダンス。(てかダンスだったか?)
それからジオンの残光のように場面を最初に。

281:名無しさん@ピンキー
07/06/24 17:11:57 16eLeimH
とりあえず言葉レイプはマジで嫌だ

282:名無しさん@ピンキー
07/06/24 17:43:21 RYwPACgV
二人の恋人ENDが一番ええよ

283:名無しさん@ピンキー
07/06/24 17:59:36 YO1YS7U9
一番初めに到達したのが鮮血の結末ENDだった俺が来ました。

284:名無しさん@ピンキー
07/06/24 18:51:04 /qIq6uA6
一番初めに到達したのがバグで強制終了の俺も来ました。

285:名無しさん@ピンキー
07/06/24 22:50:27 hRoLkwmk
スクールデイズやってないオレも来ました

286:名無しさん@ピンキー
07/06/25 00:18:52 47yS0EDn
それ何?な俺も来ました。

287:名無しさん@ピンキー
07/06/25 00:49:07 j51uUFcR
体験版だけやって、確かにフルアニメーションだったけど、口パクシーンは多いわ
キャラが明後日の方向見たまま喋るわ、ダメじゃんこれと見捨てた。
まさかこんなに人気が出るとは思わんかった。

288:名無しさん@ピンキー
07/06/25 01:03:01 +9Cosn7A
>>287
大事なのは映像じゃない。

    内容だよ



289:名無しさん@ピンキー
07/06/25 01:05:02 oIWS7W7O
>>279
鮮血より永遠の方がいい俺参上。


狂う過程は確かに鮮血の方がいいし、言葉様が究極狂ってる感じがする。
だけどやっぱり永遠の方がセリフとか行動がゾクゾクくるんだよ。

私、誠くんが居ないと生きていけないんですよ。とかマジで声聞いた瞬間背筋がゾクゾクきた。

290:転帰予報 ◆JyN1LsaiM2
07/06/25 01:36:21 Mg7kKKav
投下しに来ました。

291:転帰予報 ◆JyN1LsaiM2
07/06/25 01:37:43 Mg7kKKav
 ――side 晴香――


 私はあいつが憎かった。


 突然やってきた新しい家族。
 同年代の男の子。
 私は自分と同じ年頃の男の子が嫌いだった。
 あいつらは昔から何かと私に嫌がらせをしてくる。
 私の大嫌いな虫を近づけてくるし、隙を見せればからかわれるし、つまらないことでちょっかいをかけてくるし、
 膨らみ始めた胸をじろじろと見る。
 自分が嫌われていることも知らないで私に付きまとってくる奴らのことが、私は大嫌いだった。
 そんな私の前にあいつは現れた。
 しかも、あいつの隣で、私達の前で、父さんはこんなことを言った。
「今日から同じ屋根の下で過ごすことになった。仲良くしてあげて欲しい」と………

 私はファザコンだった。
 母さんが死んでから父さんは私達を人一倍甘やかすようになり、私はそんな父さんに甘えるのが大好きだった。
 父さんは何も言わなくても私がどうして欲しいかを良くわかっていたし、私のワガママだってよく聞いてくれた。
 私が困っているときはいつだって助けに来てくれた。
 意地悪ばかりする同年代の少年よりも私は父さんが大好きだった。
 だから私は父さんの言うことにはいつだって喜んで賛成していた。
 父さんの言うことはいつだって正義だった。

 その父さんの口から出た言葉は絶対のはず………。
 けれど、私には許せなかった。
 自分の家に“男の子”がいることが。
 その場は何とか取り繕ったものの、あいつの姿が見えない時に私はすぐさま父さんに意見した。
「私は嫌。あいつを今すぐ家から追い出してよ」
 私には自信があった。
 父さんはいつだって最後には私のワガママを聞き入れてくれたから。
 けれど、その日の父さんはいつまで経っても首を縦に振らない。
 私がしつこく懇願すると、父さんは珍しく私を強く叱った。
 そう、父さんに叱られた。
 その出来事は私にとって衝撃だった。

 父さんは私よりもあいつの方が大切なの?

 胸を覆う昏い曇り空。
 何よりも私達を一番に考えてくれた父さんが私よりもあいつを選んだ。
 父さんをあいつに取られてしまう。

 そして私は薄々気付いていた。
 父さんは本当は男の子が欲しかったってことを………。




292:転帰予報 ◆JyN1LsaiM2
07/06/25 01:39:12 Mg7kKKav
 あいつがやってきてから数日。
 ふとした機会に雨音があいつと言葉を交わし始めた。
 まだ一言、二言。
 しかし、その光景は私の心を乱し、焦燥感を募らせる。
 家族を汚された。
 一点のシミだった汚れが縦横無尽に手を広げ、次第に真っ白だった私の家族を侵食してゆき、
 その穢れが妹のすぐ目の前にまで及んでいる。
 早く手を打たなければ手遅れになる。
 けれど、父さんの言うことは聞かなければならない。
 どうすればいい?
 どうしようもない。
 あいつが笑顔をみせるたび、私の不満が膨れ上がってゆく。
 苛々する。
 まるで、ゴキブリが家の中を我が顔して這い回っている気分。
 どうしてこの家の娘である私がこんな思いをしなければならないの?
 あいつがやってきてから父さんは仕事を増やし、なかなか家に帰ってこなれなくなった。
 それなのにあいつは家に残って、生活を営んでいる。
 居るはずの人が居なくて、居なくてもいい奴が居る。
 母さんを奪われた私達から父さんまで奪おうとしているあいつが憎い。
 だから、父さんが出張に出かけた日、私はあいつに言ってやったのだ。

「どうしてまだここにいるの? ここはお前の家じゃないのに」

 その瞬間のあいつの顔は傑作モノだった。
 谷底に突き落とされる者がみせる、哀れなまでの足場への執着。
 あいつの絶望の表情。
 それを視界に捉えた刹那、昏い快感が背筋を駆け抜けてゆく。
 あいつの瞳が映し出すのは澱んだ輝き。
 たった一言で、もうあいつは死に体だ。
 後はトドメを刺してあげるだけ。
 ならば、決定的なものを与えてあげよう。
 たった一つの逃げ道を塞いで、終わらせてあげる。

「あいつがいなくなればおとーさんは帰ってくるよ。だからね雨音ちゃん、手伝って」

 まだ幼い雨音を篭絡するのは簡単だった。
 父さんのいない不安を煽ってやるだけですぐにこちら側についた。
 これで天野家にあいつの味方はいなくなった。
 後は、あいつが自分から出て行くのを待つだけ。

 私達はあいつを無視して待つことにした。
 けれど、あいつは出て行こうとはしない。

 仕方ないから、あいつのことを散々罵ってやった。
 けれど、あいつは出て行こうとはしない。

 それならばと、身体に解らせてあげることにした。
 けれど、あいつは出て行こうとはしない。

 本当にあいつはゴキブリだった。
 あいつはいつもギリギリのところで踏みとどまる。
 いつも、もうこれで――と思わせておいて必ず蘇ってくる。

 私は躍起になってあいつを痛めつけた。
 あいつが誰かに告げ口しないことは良く分かっていたから。
 それに、私はもう一度あいつが絶望する顔が見たかった。
 あいつにはそれがお似合いだ。




293:転帰予報 ◆JyN1LsaiM2
07/06/25 01:40:40 Mg7kKKav
 中学に入ったある日。
 少し調子の悪い日が続いた。
 いつもなら学校を休むところだけれど、ちょうどそのときはテスト前。
 さらに運の悪いことに雨音は小学六年生、修学旅行で家にいなかった。
 学校では成績優秀な優等生を装っていた私は多少の無理を押して学校に通った。
 あいつの前で弱った姿なんて見せられない。
 そんなのは私のプライドが許さない。
 作り笑いを貼り付けて何とか乗り切った学校、心配する友人達と笑顔で別れ家にたどり着いた途端に眩暈がした。
 突然、眩む視界。
 全身を貫く寒気と共に、急激な気だるさに囚われる。
 私はぶっ倒れた。
 風邪だった。

 気が付くと氷枕を頭に下に敷かれ、冷たいタオルを額に乗せた状態で私は自分の部屋で寝かされていた。
 窓の外は真っ暗。
 どれだけの時間が経っているのか良く分からない。
 今、この家には私とあいつしかいない。
 つまり私がこの状態であるということはあいつの仕業としか考えられない。

 あいつはバカだ。
 私があいつだったら絶対に私を助けたりはしない。
 私があいつだったら高熱に苛まれ、もがき苦しむ私を笑顔で眺めているだろう。
 それなのにあいつはそれをしようとはしない。

 私はいったい何をしてるんだろう。
 あいつに弱みを見せないために無理してがんばって、
 その挙句、あいつに助けてもらっている。
 熱は37~39度の間を行ったりきたり。
 病原菌が入り込んだのか関節がジクジク痛む。
 喉が痛くて堰が止まらない。
 身体の芯が震えるのはきっと寒さのせいだけじゃない。
 こんなに苦しいのに私は部屋に独りぼっち。
 ―誰か助けて欲しい。
 病原菌に蝕まれた肉体はそう叫ぶ。
 誰かって誰?
 今この家に居るのは?
 ―あいつ、あいつにだけは助けられたくない。
 私の意地が踏みとどまる。
 肉体と精神の要求の狭間。
 矛盾を抱えた心が行き場を無くして、悲鳴を上げる。

 頬が濡れている。
 私は部屋で独り涙を流していた。

294:転帰予報 ◆JyN1LsaiM2
07/06/25 01:41:26 Mg7kKKav
 ――二度、ドアを叩く音。
 誰かなんて考える必要も無いのに、惚けた頭では反応できなかった。
 そして、無抵抗のまま私の部屋のドアは開かれてしまう。
「晴香さん?」
 あいつは申し訳程度にドアの隙間から顔を覗かせて、こちらの様子を窺う。
「よかった――寝てるみたいだ」
 横たわったまま動けないでいる私を見てあいつは勘違いをしたようだ。
 私の了解も得ないまま、あいつはズカズカと私の部屋に入り込んでくる。
 その足音は不快ではあったが、今は焦りのほうが勝っていて、
 あいつの足音が近づくたびに『あっち行け!』と叫びだしそうになる。
 やがて、あいつの足音が私の耳元へとたどり着く。
 私が目を瞑り寝たふりを通していると、あいつは私の汗と涙を拭い、
 タオルの水を取り替えて私の額にそっと置いた。
「早く良くなってくださいね」
 あいつの口から出た言葉はありきたりな言葉だった。
 まるでブラウン管や液晶越しに見るような、当たり前の言葉。
 けれどそれが、たまらなく――で……。
「………ヒッ………ヒッ………」
 必死に堪えていたものが溢れ出し、私は息をしゃくりあげていた。
 あいつの目の前で私は泣いてしまった。
 憎むべき相手の前で、弱い自分を曝け出している。
 でもそれは、それだけは許されない。
「出て行きなさい!」
 私は唖然としたあいつの顔に叩きつけるように言い放つ。
「でも……」
「出て行ってよ!!」
 弱っている為が私の声には迫力があまり無い。
「大体誰がこの部屋に入っていいって許可したの? こっちが病気で弱ってるからって甘く見てない?」
「僕はただ……晴香さんが苦しそうにしていたから……」
「そうやって優しい振りをするのも大変ね。
 どうせ、御機嫌取りでしょ。ここ以外に行く所が無いから、そうやって媚びへつらってる」
「僕は、晴香さんが心配で――」
「うるさい。本当の兄弟じゃないくせに……」
 何気ない一言。
 けれど、その一言があいつの胸を深々と穿っていた。
 二度目のあいつの絶望の表情。
 けれど、少しも楽しくなんてなかった。
 在ったのは胸糞悪い吐き気だけ。
「何かあったら、すぐに呼んでください……」
 あいつは振り返りもせずにトボトボと部屋を出てゆく。
 あいつのいない部屋、独りぼっちの部屋、妙に空虚な部屋で私は無理やり目を閉じる。
 それからどれくらいの時間が経ったか分からない。
 まだ満足には働いていない聴覚が何かの物音を拾い、半分眠っていたはずの意識が覚める。
 じんわりと広がる心地よい冷たさ。
 氷とタオルは新しい物と取り替えられていて、
 机の上にはペットボトルに入った水と薬と魔法瓶に入ったおかゆ、そしてメモが用意されていた。
『先に眠ります。体調が悪くなったらいつでも呼んでください』
 時刻は午前4時。
 私はメモを破り捨てた。



 数日後、あいつが風邪で倒れた。
 私の方はすっかり治っていたけれど、看病したりはしなかった。
 もちろん帰ってきた雨音もあいつを助けなかった。




295:転帰予報 ◆JyN1LsaiM2
07/06/25 01:42:38 Mg7kKKav
 私が高校受験に向けて本格的に勉強を始めた頃。
 その夜は布団に入っても寝付けなかった。
 寝るタイミングを外したとでも言うのだろうか?
 妙な胸騒ぎがした。
 お茶でも飲んで気分を変えようと、私は台所へ向かう。
 階段を静かに降りて台所へ入る間際、人の気配を感じた。
 父さんの趣味で作った書斎。
 今はもう使われていないはずの扉の隙間から淡い光が漏れていた。
 私は誘われるようにその光に手を伸ばし、自分の目を疑った。
 書斎を照らす、オレンジ色のランプの光。
 暖かな陽だまりのような部屋の中、二つの影が優しい時間を過ごしている。
 私はまるで夢でも見ているような幻想的なその光景を食い入るようにして眺めていた。
「そういえば、雨音ちゃんは彼氏とかいる?」
「え?」
「いや、僕の友達が雨音ちゃんと付き合いたいって言ってたからさ」
「………そうですか。私、そういうのには興味ありませんから………」
「そうなの? もったいないと思うな。雨音ちゃんは元がいいんだから、男子なんかは放って置かないでしょ?」
「そんなことありません。私、無愛想ですから」
「大丈夫。雨音ちゃんは可愛いんだから、自信を持っていいと思うよ」
「私が……可愛い……」
 あいつの隣であの雨音が女の子の顔をしていた。
 異性に興味なんて無かった妹があいつの前で頬を染めていた。
 そして、私は聞いてしまう。

「ば、バカなこと言わないでください……に、にぃさん……」

 不慣れなのが一目でわかる。
 それでも不器用な性格の雨音がやっとの想いで紡いだ妹の誓い。

 たった扉一つ向こう側、
 その空間に3年前に在るべきだった姿が横たわっている。
 あの二人は出会った頃に戻っている。
 もう一度、やり直そうとしている。
 でも、そこに私の姿が無い。

 私を隔てる扉はたった一枚。
 ほんの一瞬だけ、あいつが雨音と親しそうに話している姿を羨まし――

 嘘だ!!
 そんな事はありえない!!
 違う!!
 断じて違う!!
 どうして私があの二人を羨む!?
 私が感じなければならないのは怒りだ!!
 雨音は私を裏切った!!
 あいつは私を出し抜いた!!
 だから私は怒っている!! 怒っていなければならない!! 怒っているはずだ!!
 私は胸の内を怒りに塗り替え、書斎の扉に手を掛ける。
「ねぇ――いったい何しているの?」
 私が書斎に入ると、二人の間の和やかな空気が凍りつく。
 私が壊してやった。
 いい気味だ!!
 自分にそう言い聞かせて、私は二人に圧力をかける。
 反撃もしてこないでヘラヘラ笑っている臆病者と今まで従属してきた妹だ。
 すぐに屈するはず。
 けれど、今日の雨音はあいつの傍から離れようとしない。
 不愉快だ。
 必死にしがみついてくる雨音が私に向かって叫ぶ。
「姉さんもう止めようよ! 本当は姉さんだって、もうこんなことしたくないんでしょ!!」


296:転帰予報 ◆JyN1LsaiM2
07/06/25 01:43:53 Mg7kKKav
 視界が脈を打った。
 その一言は私の精神を貫いて、心の弱さを暴き出しそうになる。

 私だって、出来るものなら………。

 うるさい!! 出てくるな!!
 これが私の望んでいることだ!!
 雨音に何がわかる!!
 雨音の両手だってあいつの血で汚れているくせに。
 それなのに、
 どうしてあいつの傍であんなに幸せそうな顔が出来るの?
 どうしてあいつに許してもらう事が出来たの?
 どうして?
 教えて!
 教えなさい!!
 そうしたら………私だって………。

 あいつはバカだ。
 バカだから――私だって受け入れてくれるかもしれない。

 ちゃんと分かってる。あいつが優しい奴だって事は……。
 けれど、これは私が始めてしまったこと。
 だから、もう後には引き返せない。
 それにもうあいつには数え切れ無いほどの傷痕を残している。
 許してくれる訳が無い。

 ――でも、雨音はあいつの傍にいる。

 黙れ!!
 それが何だというのだ。
 期待なんかしたって、裏切られるに決まってる。
 羨んだ所で、手が届くはずも無い。
 だから、壊してやる!
 手に入らないなら壊してやる!
 でないと私は自分を保てなくなる!
 あいつと雨音のか細い絆。
 まだ生まれたばかりのそれが、姉妹の絆に敵うはずが無い。
 私があいつを追い出して家族を守るんだ!
 私があの二人の間を引き裂いてやれば元通りだ!
 私が壊してやる!
 私が兄妹を壊してやる!
 私が! 私が!! 私が!!!

 私は、本当は――

 顔を上げると二人はお互いを支えあうようにして、こちらを見ていた。
 ただそれだけなのに、私はそれがどうしても許せなくて――。


 キレた。

 
 喚き散らした。
 

 そして、目の前が真っ白。
 視界に映っている世界を脳味噌が認識出来ない。
 キーンと耳鳴りがする。
 私、なにしてたんだっけ?

297:転帰予報 ◆JyN1LsaiM2
07/06/25 01:45:30 Mg7kKKav
 頬が熱い。
 私……もしかして、ぶたれた?
「――いい加減にしてください。
 僕に言うのはかまいません。でも、雨音ちゃんにだけは、その言葉は使わないで………」
 混濁する意識。
 雨音? 私、何を言ったんだっけ?
 そして、歪んだ視界の端に掌が映る。
 もう一度、ぶたれる? あいつに?
 咄嗟にその覚悟をする。
 それはつまり、いつかこういった事態になるかもしれないと心のどこかで思っていたから。

 ――けれど、いつまで経っても来るべき衝撃が来ない。

 代わりにあったのは、火照った頬に触れる優しい感触。
 文字通り血塗れたあいつの手。
 けれど、気持ち悪いなんてこれっぽっちも思わなくて………。
「ごめんなさい、痛かったよね……」
 開口一番にあいつはそう言った。

 やっぱりあいつはバカだ。

 遅い。
 今頃になって手を差し伸べてくる。
 私があいつに安らぎを与えられている。
 それは私にとって最大の屈辱。
 それなのにあいつの掌を私は拒めない。
 温かい。
 嬉しい。
 手放したくない。
 ずっと、こうしていて――

 違う!
           違わない。

 嘘だ!
           嘘じゃない。

 止めて!
           止めないで。

 認めたくない!
           じゃあ、どうしたいの?


 ――雨音にするみたいに優しくして欲しい――
 


298:転帰予報 ◆JyN1LsaiM2
07/06/25 01:46:12 Mg7kKKav
 動悸が止まらない…。
 つまりはそういうことらしい。
 いいだろう。
 認めてあげる。
 この勝負はあいつの勝ち。
 あいつのバカは私を狂わせる。
 これが恋愛感情というのならそれでも構わない。
 それならば、こちらにだって考えがある。

 私を狂わせたのは他でもないあいつ。

 だから、責任を取ってもらうからね。
「八雲ちゃん」

299:転帰予報 ◆JyN1LsaiM2
07/06/25 01:46:59 Mg7kKKav
 ここまでです。

 妹編と重なる部分はかなり説明を端折っていますので、
 阿修羅氏のまとめサイトを活用していただけると助かります。
 次回も晴香視点です。

 相変わらず忙しいままなので、更新は遅くなってしまいます。
 本当に申し訳ありません。

300:名無しさん@ピンキー
07/06/25 01:47:52 Y09JfPfY
キタ━━(゚∀゚)━━!!
惜しみなくGJ

301:名無しさん@ピンキー
07/06/25 01:53:38 MmhTxF4D
とりあえずいまさらだよ姉さん…ときっぱり振ってほしいぜ!

302:名無しさん@ピンキー
07/06/25 02:07:16 8VIgLkv3
姉うぜぇわ、普通にボコボコにしてやれと思ってしまった…
でもGJ、続きに期待

303:名無しさん@ピンキー
07/06/25 02:24:29 ecl3AyPC
GJ!!一番続きが気になる作品投下されてた!

それと…なにこの自己中女、ホントウザイわ
雨音にはマジで頑張ってほしい
こんな腐れ女、名前すら覚えられんわ
姉は鼻の穴に耳かきの棒つっこんで死ね

304:名無しさん@ピンキー
07/06/25 02:26:08 oB9SU5U1
姉も妹も大好きだよ!
皆が幸せになれる結末ならいいな!

305:名無しさん@ピンキー
07/06/25 02:37:01 xNUlHGYe
この姉、今後は修羅場で残酷に殺されることがあっても、
少なくともこの主人公に徹底的に報復されることはないんだろうな。
主人公、このDQN女を殺っちまえ!

306:名無しさん@ピンキー
07/06/25 02:44:55 SufRsurR
そんなこと言う前にさげろ

307:名無しさん@ピンキー
07/06/25 03:04:04 MmhTxF4D
姉への総攻撃にワロタ

同級生娘には頑張って欲しい

308:名無しさん@ピンキー
07/06/25 04:02:56 KTklP6J7
>>299乙&GJ!
壊れかけた家族の絆がこのままぶっ壊れるのか
それとも再びくっつくのか、続きが気になる。

あと避難所に修羅サンタの新作来てるね。
こっちもGJ!

309:名無しさん@ピンキー
07/06/25 04:48:18 7cIorg/3
>>290-299
まってて良かった!待ってて良かった!!

ありがとう・・・・そしてお疲れ様、良かったよ




じゃあ人気のない姉様はぼくが貰って行きますね^^


310:名無しさん@ピンキー
07/06/25 05:35:14 hNkCl5O1
姉妹を性奴隷に、と言うオチになる予定なので無問題

311:名無しさん@ピンキー
07/06/25 06:36:09 XwyjLgJz
姉への総攻撃は止めろよ。
もし姉がメインヒロインならやや地獄みたく作者来づらくなるだろうが。




まあ、現在の展開を見ればまったく反省してない可能性が高いし、叩かれるのも当然っちゃ当然だが。
共犯の妹が距離置かれても無理がない反応に対し、主犯の姉は弟が悪いって態度だからな。

312:名無しさん@ピンキー
07/06/25 06:41:37 c7qwM241
待ってました!
晴香姉さん意地ばかり張ってると本当に八雲取られちゃうよ。
職人さんに惜しみ無いGJを!

313:名無しさん@ピンキー
07/06/25 06:45:29 c7qwM241
興奮のあまりageてしまった。すまん。


314:名無しさん@ピンキー
07/06/25 07:55:56 qNWnspgN
一時の感情に流された日和見なレスでは後の大局を見誤る。

むしろ、ここからの晴香の心理をいかに上手く料理するのか。
それを楽しみにしようじゃないか。

315:名無しさん@ピンキー
07/06/25 08:10:21 uRx9Rg55
姉イイネ!ツンデレっぷりがすばらすぃ。でもこの作品八雲に一番萌えるね。

316:名無しさん@ピンキー
07/06/25 09:04:38 K7dVBUfg
姉スキーの俺は問答無用で晴香派であり今後も晴香ガンガレなのである


317:名無しさん@ピンキー
07/06/25 09:42:54 OyFAu10a
バカだなお前ら
自分が付けてしまった傷を生涯かけて癒すのがいいんじゃあないか…

318:名無しさん@ピンキー
07/06/25 14:34:54 8SlR7Frm
なんか、転帰予報を初めて見た人の感想多いよな?
まとめサイトで1話から見た方が良いぞ、晴香がなんだかDQN扱いされてて驚いた

319:名無しさん@ピンキー
07/06/25 15:00:28 x2XEGZkS
転帰予報の初期の当初の晴香姉は弟にデレデレしていたような記憶がある
まあ、伏線は1話から張られていたんだから騒ぐ奴はどうかしていると思うんだが・・
俺は嫌われていた主人公がどうやって姉と妹を仲良くなる経緯をちゃんとやってくれているので
次回が気になって仕方がないですよ

320:名無しさん@ピンキー
07/06/25 16:00:06 V+ztHWyb
暴姉殺すにゃ刃物はいらぬ
弟LOVEでブレインウォッシュ

321:名無しさん@ピンキー
07/06/25 16:28:35 lPrlzBz7
ここって基本的に男に女が複数って感じですか?
女を取り合う男、のような逆バージョンはスレ違いでしょうか

322:名無しさん@ピンキー
07/06/25 16:33:10 RQPdr+Ba
>>321
スレの定義という点ではスレ違いではないが
需要は期待しないほうがいいと思う

323:名無しさん@ピンキー
07/06/25 17:08:37 YZpOzTue
>>321
その設定で投下するなら注意書きをしてくれ
スルーするから

324:名無しさん@ピンキー
07/06/25 17:20:59 XwyjLgJz
>>318
俺は最初から見てたが、次第に嫌いになったってタイプかな。主犯だし。

325:名無しさん@ピンキー
07/06/25 19:15:33 X3wQUQo8
>>321
寝取られスレでやった方がお前さんにとってもこのスレにとってもいいと思う

326:名無しさん@ピンキー
07/06/25 19:37:35 nwvTPD2I
嫌いになったのはわかったからそれをいちいち喚くな

327:名無しさん@ピンキー
07/06/25 19:57:33 GJ3YxgIc
>>298
やばい・・・晴香に殺意がとまらねえ・・
もし俺が主人公ならぶん殴ってただろうな・・・

328:名無しさん@ピンキー
07/06/25 20:41:12 jPELhNRA
ツンデレ属性の晴香に萌える・・
一体どうやってデレモードになったのか・・気になる・・



329:名無しさん@ピンキー
07/06/25 20:47:11 gBSaJies
ツンってレベルじゃねぇよw

330:名無しさん@ピンキー
07/06/25 20:53:27 8SlR7Frm
お前ら、まとめサイトで1話から見てこいよwww
デレデレ晴香なのに、過去話が投入されただけでDQN扱いとかカワイソスwww
まぁ、妹の方が萌えるけどね^^

331:名無しさん@ピンキー
07/06/25 22:00:08 +9Cosn7A
何故だろう。雨音のスカートに
どんな切れ込みを入れられたかが一番気になる俺…

332:名無しさん@ピンキー
07/06/25 22:06:25 c7qwM241
いいじゃん、晴香姉さん。
堕ちかけた正義ヒロインの悪あがき見てるみたいで楽しいぜ。
まあそれも、雨音ちゃんが三馬身くらい離してるから言えるワケですが。
ヒロイン一人しかいなかったら、間違いなく俺もアンチ化してたろうな。

333:名無しさん@ピンキー
07/06/25 22:10:53 HUeXTbLU
ここってフタナリあり?

334:名無しさん@ピンキー
07/06/25 22:11:25 8SlR7Frm
そもそも嫉妬ヒロインはこのスレでは歓迎のはずなのに、何故か晴香姉は批難・・・
九十九が投下されても、流タソが批難浴びそうな勢いだなw

335:名無しさん@ピンキー
07/06/25 22:21:29 jPELhNRA
転帰予報が投稿された途端にレス数が限りなく盛り上がっている
お前ら、飢えていたんだな・・w 俺も転帰予報は待っていた信者だったが
最近の過疎で嫉妬成分が飢えていた・・
飢餓状態のピラニアに餌を与えるとこんな感じになるんだろうな

336:名無しさん@ピンキー
07/06/25 23:50:35 pb+WfUJw
姉攻撃してるのは妹か他キャラが好きだからなんだぜ

待ち遠しかったからこそのレス

337: ◆Xj/0bp81B.
07/06/26 00:11:46 ezcUyCIT
投下します。

338:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/06/26 00:13:25 ezcUyCIT

翌日、目覚まし時計のやかましい音に叩き起こされた。ガチャンと時計を乱暴に叩き、その口を黙らせると、ムクリと起き上がり、
寝惚け眼を擦りつつ、欠伸を一つ。ベッド脇の窓の外から、ポツポツとおとなしい雨音が聞こえている。体を捻りカーテンを開けると、
見慣れた街並みが淀んだ空の色とあいなって、湿って見えた。
灰色の空は、何だか気持ちが悪い。そのうえ、雨か、と思うと少し憂鬱にもなる。
そんな憂鬱を引きずりつつも、いつまでもベッドの上にいるわけにはいかないので、充電していた携帯を抜き取り、
ひとまず立ち上がる準備をする。立ち上がるためには、覚悟が必要で、その覚悟を充電するにはそれなりの時間が必要で、
だからあくまで準備だ。そして、ぼけっとしたまま何気なく携帯を開いたそのとき、
ビリビリと、
夜中は、サイレントモードに設定していた携帯が震動した。どうやら、寝ている間にメールか、着信があったらしい。考えてみれば、
昨日は普段よりずいぶんと早く就寝したので、それを知らない誰かが普段の調子でメールなり、電話なりをかけてきたのだろう。
昨日の明日だけに、おおかた森あたりの程度の低い冷やかしに違いない。そう、だいたいの当たりをつけて、翔は画面に目を落とし、
そして、戦慄した。
画面にはこんな表示があった。

新着メール、500件。
不在着信、100件。

体の芯が凍えるような錯覚が、脳髄を駆け抜け、寝惚けた頭がいきなり冴えわたった。それとほぼ同時に芯から広がる寒気に震え、
思わず携帯をベッドの上に落としてしまった。しかし、そんな事は気にもならない。翔の思考は、その寒気が孕んだ真実へと、
なすすべなく吸い込まれていく。
考える


339:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/06/26 00:14:46 ezcUyCIT

翔が寝床についた時間が夜十時。それから約九時間。その間にメールと着信が約六百件もあったというのか。いや、ありえない。
そんな事ありえるわけがない。見間違いではないのか。そうだ、そうに決まっている。
混乱しかけた頭をかろうじて立て直し、落とした携帯を拾いあげて、翔は再び画面に目を落とす。
新着メール、500件。
不在着信、100件。
見間違いではなかった。
その事実に、慄然とする。
それでも同時に、頭の冷静な部分が犯人の割り出しにかかっていた。いったい誰が、こんな事を。大久保?都築?森?それとも─。
─その思考を遮るように、携帯が再び震えだした。見ると、ランプが緑色に発光している。着信だ。
画面に目を落とす。ディスプレイには着信相手の番号と、登録しておいた名前が写し出されていた。

「水樹澄香」。

ゾッとした。その寒気に押されるように、突然頭の中に浮かび上がる嫌な予感。
─未読メールも、不在着信も全て澄香のものなのでは?
ありえない。
翔はかぶりをふって、その予感を追い払おうとする。
それは、ほとんど悪夢だ。ありえない。だいたい澄香はそんな事をして何の得があるというのだ。大丈夫、ありえない。
そんな予感が現実になるなんて、絶対にありえない。そう、心にいい聞かせる。
しかし、それでも、その予感は思考を侵食していく。最近、見た澄香の狂気。その記憶が、予感の侵食を手助けしているのだ。
着信は十五秒ほどで留守電に入り、そしてプツリとあっけなく切れた。画面は通常画面に戻ったが、不在着信は表示限界を超えていて、
カウンターはもう増えなかった。
その瞬間に、翔は弾かれたようにカーソルを不在着信に合わせる。そして一つ息をつく。予感の正体。闇の向こうに転がる事実が、
あと一押しで目の前に姿を見せるのだ。そう思うと指が震える。たっぷりの時間を費やし覚悟を決めて、翔は指に力をこめた。


340:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/06/26 00:17:35 ezcUyCIT

途端に画面が暗転し、写し出される五件の不在着信。その全ての差し出し人が、澄香だった。
嫌な予感。ありえない予感が、ゆっくりと現実味を帯ていく。
それでもその予感を否定したくて、震えたままの指で、下ボタンを押した。
ひとつ画面が繰り上がる。
そのスペースに浮かび上がった名前も、やはり「水樹澄香」だった。
今度はめちゃくちゃに連続で下ボタンを押す。画面はリフトのように次々と上へと流れていくのに、水樹澄香の名前は一向に消えない。
上に上がった分、下からは水樹澄香の名前が現れるのだ。三十件過ぎたところで、耐えきれなくなって、翔は悲鳴と共に、
携帯を全力で投げ捨てた。携帯は正面の壁に、豪快に激突し、派手な音と共にコナゴナになった。
花火が消えた後、残るのはいつも静寂と寂廖だ。その静けさの中で、雨の音がやけにうるさかった。
ガクガクと体が震える。
たった今、ありえない予感が、悪夢が、現実へと昇華してしまったのだ。いや、実際のところ、それは分かっていない。
不在着信を三十件開いただけで、残りの着信履歴も、まるまる五百件の新着メールも確認したわけではない。しかし、それでも確信はある。あれは、間違いなく全て澄香からだ。
恩人である由美を邪険に扱ったり、勝手に翔の家に忍びこんだり、アルバムをしかも女性の顔だけを黒く塗り潰したりと、翔に確信させるだけの材料は、もう揃っている。「狂っている」。それだけで、全ての説明がついてしまうのだ。
その現実のおぞましさ、異常さに、翔は頭を抱えた。脳がぐしゅぐしゅに侵されていく。どこかへ消えたはずの異常の世界が、
再び目の前まで迫っている。翔を誘う悪魔は、澄香の形をしていた。


341:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/06/26 00:19:26 ezcUyCIT

逃げ場所が欲しい。
震える体を押さえ付けて、そう願う。
ここではないどこかへ。異常の世界とは無縁な、平穏な場所へ。もしくは異常の届かない騒がしい日常の溢れた場所へ。心の底からそう願う。
しかし、そんな場所はどこにある?
家?
ありえない。ここは孤独と記憶の廃墟だ。
しかし、それ以外にどこがある?
学校?
そうだ、学校だ。
学校には、たくさんの友達がいる。青木も大久保も寺田も本田も森もいる。あそこならいつもの喧騒が、恐怖の足跡全てを、
まるでさざ波のように洗い流してくれるはずだ。

─学校へ行こう。


342: ◆Xj/0bp81B.
07/06/26 00:21:07 ezcUyCIT


投下完了です。
続きは水曜か木曜に投下します。


343:名無しさん@ピンキー
07/06/26 01:18:31 G1ipx9lJ
>>342
GJ
お前さんをずっと待ってたんだぜ

そしてこれからもずっと待ってるんだぜ

344:名無しさん@ピンキー
07/06/26 03:41:40 eCE1jKY8
雨の音まだー

345:名無しさん@ピンキー
07/06/26 03:54:24 IBpyadqf
なんという恐怖による錯乱っぷり
このままでは主人公は間違いなく鬼隠し編の圭一と化す

346:名無しさん@ピンキー
07/06/26 07:17:46 YWMF6qzy
>>345
誰だよw むしろ俺は最初の携帯とメールでリーダー伝の校長思い出した。


しかし、父親にレイプ孕ませの過去を持つと聞くと、
最後には主人公と幸せに結ばれて欲しいとは思うんだよな。

347:名無しさん@ピンキー
07/06/26 07:19:05 YWMF6qzy
>>330
いや、それは知ってるんだよ。最初から見てた人も大勢いるだろう。
だが、最初に萌えても回想を見た後だとそれが白々しく見えるって事だろ。

348:名無しさん@ピンキー
07/06/26 18:46:38 ww0w2lbE
あげ

349:名無しさん@ピンキー
07/06/27 00:33:49 gCcozg84
>>299
スーパーロボット系の敵役みたいな口調だな、姉さんww「もうあいつは死に体だ」とかww
今まで妹の方がクローズアップされてて目だってなかったが、姉ちゃんの方もかなり好きになった

350:名無しさん@ピンキー
07/06/27 03:12:58 QHIgspQu
さて、じっくりと神を待とうジャマイカ

351:名無しさん@ピンキー
07/06/27 14:12:42 eLHK8YuL
嫉妬に該当すりゃ他スレから無断天才OK?

352:名無しさん@ピンキー
07/06/27 14:24:02 MxdmV+wq
ダメ
誘導すればいいだけのこと

353:名無しさん@ピンキー
07/06/27 14:28:15 PdAHz7WA
>>352
「無断転載」って言ってる時点で察しようぜ?

354:名無しさん@ピンキー
07/06/27 14:35:23 yyLVEtyP
SSの無断転載とかw
ゆとり脳にはついていけないわw

355:名無しさん@ピンキー
07/06/27 20:55:19 UWgfsCPO
他の関連スレは盛り上がっているのにここだけは盛り上がる気配を見せないなww

356:名無しさん@ピンキー
07/06/27 21:10:26 PCE8CUbR
ていうか元々マイナー属性のスレなんだからこんなモンで良いんだけどな。普通。
アホが入ってこないようになっただけ重畳、重畳。

357:名無しさん@ピンキー
07/06/27 23:59:54 2JNtIbU4
>>356 確かにマイナーだよなww
俺の周りの奴と趣味が合わない

358:名無しさん@ピンキー
07/06/28 01:28:19 SJAlZa57
女の子に挟まれたい、嫉妬されたいってのはオタ男の普遍的な願望だと思うんだが、違うのか?
キツイ修羅場が好みとなると偏ってるかもしれんが。

359:名無しさん@ピンキー
07/06/28 01:39:35 CqsUvYUS
普通だとハーレムの方にいっちゃうんじゃないか。

360:名無しさん@ピンキー
07/06/28 03:16:40 Ji/2j9tv
最近は荒らしに埋められてたけどまだ前スレ残ってるから
梅ネタ連載の再開を希望したい

361:名無しさん@ピンキー
07/06/28 17:48:09 SozPYFIc
>>360
そっかぁ・・・あの子まだ埋まってなかったんだ・・・・・・
でも安心して、すぐにあんな子埋めちゃうからね♪

362:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/06/28 21:30:06 ORF6gsu4
では投下致します

363:雪桜の舞う時に ◆J7GMgIOEyA
07/06/28 21:33:05 ORF6gsu4
アナザー2『夏休み』

 終業式が終わってから学生にとって唯一の楽しみである夏休みがやってくる。
俺こと桧山剛は親友である内山田の助けを借りて、何とか赤点ギリギリの成績で地獄の補習をパスすることに成功した。
これで何のお咎めもなしに夏休みを迎えることができる。思わず、歓喜の声だってあげてしまいそうになる。
ただ、学校の帰路に着いている途中なので、そんなことをやってしまえば、周囲の人間から
冷たい視線を浴びられるので遠慮させてもらうが。

ただ、胸の内に僅かな不安と杞憂があるの事実であって、あの猫耳装備搭載した雪桜さんの悲しみに満ちた顔が脳裏に浮かんだ。
 殺人犯赤坂尚志の娘である彼女……俺の立場から見ると最愛の家族を奪った憎き男の娘だ。
罪もない子供たちが彼の手によって殺されている。悲惨な殺人現場を思い出すだけで吐き気と震えが止まらない。

あの事件を境に俺の家族は離散することはなかったが、家族同士の交流はなくなった。両親は仕事に没頭して家に帰ってこなくなり、
独りぼっちになった俺は美味しくない食事を食べる日々。

彩花がいなくなったことがきっかけで俺は変わってしまった。
笑うことが少なくなったり、周囲から離れるように孤独になっていた。
そんな変わってしまった俺から逃げた友人は数えきれない程にたくさんいる。

だが、ちゃんと離れずに俺の傍に居てくれた友人がいたおかげで俺はグレて不良行為をする馬鹿な真似だけはしなかったかもしれない。
 彩花が亡くなってから、数年。

 その過去の全てを忘却して無かったことにすることができない。
だから、雪桜さんが殺人犯の娘だと判明した途端に俺は彼女に
自分の憎悪を向けるのを恐れて、彼女に別れを告げたはずだった。

『好きです。桧山さんのことを心から愛しています』
 猫耳搭載装備で言われてもこっちは困る。てか、学年の生徒たちの前で告白はやめてもらいたい。
虎と俺と雪桜さんの三角関係って噂されるだろうに。

急遽結成された雪桜親衛隊、通称NNY(ねこねこ雪桜さん)が俺を危険人物として学園中に指名手配されているので、
どこぞのエロゲーの主人公のように命の危険に晒されている。

 とはいえ。もう、夏休みに突入するのでこの案件で俺の胃炎が痛むことはないだろう。
 餓えた虎の餌を作る以外はな。

 俺の家の前で待ち伏せしているのは虎こと東大寺瑠依が不機嫌そうな顔で俺の帰りを待っていた。
それは標的を見つけた獲物を狩るような野性的な瞳で彼女は吠えた。

「剛君。帰ってくるのが遅いよ!! お腹空いたんだから、さっさと作ってよ!!」

 それ以外に俺に言うことないのか虎よ。


364:雪桜の舞う時に ◆J7GMgIOEyA
07/06/28 21:36:00 ORF6gsu4
 素麺ってのは夏の季節に最も売れる商品の一つだ。
食べるときは冷たくて夏バテしている人にとっては食べやすいんだが……
この季節に素麺を作る側にとってはとにかく暑い。暑くて調理場を抜け出したくなるんだよ。

湯気が出る熱湯に素麺の束を入れて、茹で上がる前に生姜やねぎを切り、つゆを用意しておく。
その間に熱気が狭い台所に充満して、体中から発汗して気持ち悪くなる。
作業を中断してお風呂に入りたい欲求に襲われるが餓えた虎母娘を野放しすれば、近所の皆様に迷惑がかかるのでそれはできない。

 ゆえに俺は夏休みという平穏な日々などはなくて、常に緊張と生死の境界線を跨ぐ者の日々が待っているのだ。

「剛君。お母さんが竹を割って、ちゃんと流れ素麺を作る準備できたって」
「なあ。瑠依。夏だから素麺ってのは理解できるんだけど、流れ素麺ってオイオイ」
「そんなこと知らないわよ。お母さんの趣味なんだからちゃんと付き合わないと」

 普段は台所に出入りしてこない虎が虎の母親である由希子さんの伝言を伝えに侵入してきた。
ちなみに由希子さんってのは若造りで未亡人。一人娘を養うために仕事をして生活を支えるために常日頃から頑張っている。

と、俺は擁護してみる。真実は娘を放任するのは日本の伝統だと主張したり、
学校の給食費を払わずに踏み倒すなどと言う伝説を達成している。
すなわち、あの虎の母親が常人であるはずがないということを改めて俺は認識した。

「もうすぐ、茹で上がるから庭で待ってろと伝えてくれ」
「夏はやっぱり~赤い素麺だよ~」

 ざるに移し代えた素麺の色は正に鮮血の光沢を出していた。
 製造元は絶対に人の血を混入していても俺は驚かないけどね。

 ざるの中に氷をたくさん入れて、赤い素麺を庭に持ってゆくと驚愕する光景がそこに在った。
竹で組み立てられた器材が見事に完成していた。ホースで流れやすくするように水を思う存分に使っていた。
(ちなみにうちの水道代は返せよ虎母娘)
「夏のお約束。赤い素麺を流して流しましょう!!」
「由希子さん……どうして真っ昼間からいるのかという疑問を聞かないでおくが」
「少年は大志を抱け!! そして、少女は男を犯せ!! 
ってなわけで剛君は女の子の行動にいちいち素朴な疑問ばっかり聞いていると鋸で首を切られるわよ」

「ご忠告ありがとうございます。てか、二度と由希子さんの仕事状況に口ださねぇ」

 毎日遊んでいる由希子さんがどうやって生計を立てているのかというシリ-ズの最大の謎の一つに追求したかったが……。
これ以上踏み込めば余裕で死ねる。

「じゃあ、瑠依ちゃんと剛君は食べる方ね。私は赤い素麺を流す方が大好きだから。どんどん流す。流して流して流しまくるわ」
「うん。ありがとう。お母さん。瑠依大感激だよ」

 虎は戦闘態勢に入ると持っている箸とお皿が素早く動いた。餓えた虎は獲物を仕留めるために常に全力を尽くす。
半分やる気がなかった俺のとこに赤い素麺が来る前に箸で素麺をお皿の方に入れてから、喰う!! 
喰う速さは赤い素麺を噛むことなく飲み込んだ。

「さすがは私の娘。素晴らしい食べ方ね。じゃあ、どんどん流すわよ」
「どんどん、来い!!」
 虎が吠えた。自分の獲物を奪う相手を威嚇するように。更に流れて来る赤い素麺を執念だけで瑠依は食べてゆく。
ちなみに俺のところには赤い素麺が流し終わってしまうまで。来ることはなかった。
 結論。俺、昼食抜きです。
 ぐすん。


365:雪桜の舞う時に ◆J7GMgIOEyA
07/06/28 21:38:15 ORF6gsu4
 暑い日差しから避けるために家の中で冷房を入れて、由希子さんが差し入れに持ってきたスイカを二人で喰い散らかしていた。
由希子さんは赤い素麺を流しまくったことに満足して、仕事に行ってくると出掛けた。
今、家にいるのは俺と虎だけである。
「剛君。明日から夏休みだよね。今度はどこに遊びに行こうか?」
「さあな。どうせ、毎日のように俺の家に遊びに来るんだろ」
「当たり前じゃない。剛君とは毎日会わないと気が狂うわ」
「そうですか……」
 毎年の夏休みは虎が我が家の主人のように入り浸っている。
由希子さんから世話をよろしくと頼まれているので安易に断ることが出来ない。
なので今年も一人暮らしの自由を満喫できずに虎と共に長い夏休みを過ごす。もう、毎年恒例の行事の一つだと言えるであろう。
「それにしても、今日の瑠依はいつもと比べて何だか楽しそうだな」
「えっ? わかる 」
「なんかいいことがあったのか?」
「だって、剛君があの泥棒猫の告白を受けずに夏休みを迎えたからかな?」
「泥棒猫って雪桜さん?」
「私がせっかく彼女役を引き受けて泥棒猫を剛君から諦めさせようとしたのに。
あの女。猫だか犬だかわからないけど、変なコスプレ姿で剛君の気を引こうなんて許さないわ」
 告白された出来事を思い出しているのか勝手に憤慨している虎に俺は嘆息を吐いた。
「雪桜さんの告白の返事をしたくても、本人があの日からずっと学園を休んでいるからな。会いたくても会えん」
「会・わ・な・く・て・い・い・の・!!
 泥棒猫は彩花ちゃんを殺した男の娘なのよ。
私だって妹のように可愛がっていたんだから。尚更泥棒猫が憎くてたまらないわよ」
 果てしない憎悪の表情を浮かべる瑠依に俺はただ首を頷かせて彼女の言葉に同意した。
少なくても、雪桜さんにもう二度と仲良くしないという箇所だけだが。
別に憎悪を向けられるまでの感情までは沸いてこない。これは被害者家族の感情としては異常なのだろうか?
「剛君には私がいるんだから。他の女に優しくしちゃダメだよ」
「瑠依に優しく接したことはないんだけどな」
「なんですとっ!?」
 某徳川の生類憐れみの令が桧山家に発動している以上は虎の扱いを人間レベルとしている。
本来ならタダ飯喰らいの虎に一人でサバイバル生活が出来るように徹底的に仕込んでいますよ。マジでw
「さてと夕食の買物に出掛けてくるけど……瑠依はどうする?」
「お腹一杯になっちゃったからちょっとだけ寝る」
「食べてばっかりですぐに寝ると太るぞ」
「大丈夫だもん……。ということで剛君のベットでお昼寝してくる~」
 虎の尻尾が嬉しそうに左右に振って部屋から出て行く姿を見送ると俺はやれやれと嘆息を吐いた。
 台所の後片付けを終わらせてから、夏の一番暑い時間帯に俺は暗澹たる気分で外へと出掛けた。



次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch