07/06/20 00:21:34 mRNK1DRn
…どうして俺は、こんなことをしているんだろうか?
パカン。軽い音がして木が真っ二つに割れる。
俺は元の世界に戻りたくないのか?
切り株に乾燥した木を置き、ナタを振りかぶる。
パカン。また軽い音がして木が、程よい大きさの薪になる。
俺の名前は平賀才人。どこにでもいる普通の男だ。
そんな俺だが鏡のようなものに潜ってからというもの、なんと異世界に呼ばれてしまったらしい。
どうして俺が異世界に呼ばれたというのは、サモン…なんとかというやつに、召喚されたらしいからだ。
らしいのはここが森の中の孤児しかいない集落のような村で、異世界という割にはピンとこないからだ。
それになりよりも、異世界に来たのに落ち着いている俺がいるからだ。
パカン。
今まで都会とは言わないが、薪割りするような田舎に住んでいたわけでもないのに、慣れた手つきでナタを振る。
パカン。
気合を入れれば高速連続薪割りができるほどの熟練者の腕。
それは右手の甲に光るルーンの力のせいだろう。
自分がいた世界ではこんな力はなかったので、俺の中ではこれが一番の異世界の証だと思っている。
「サイトー」
大きい声にもかかわらず、背中からやわらかい声が耳に届いた。
うん、訂正。この手は二番の異世界の証です。
声の持ち主は聞くだけでわかる。
俺を召喚してくれたエルフのハーフである、ティファニアのことテファだ。
「おいしいクッキーができたので、みんなでおやつにしましょう」
「あとちょっとで終わるから、先に食べてていいよ」
「ダメよ。今からみんなと一緒に食べるから。それにこの前も後から来るって言って、一時間もまったからね」
「待っててなくてもいいのに」
困ったように俺は笑った。
きっと後ろの彼女は唇をへの字にして、不満そうな顔をしているだろう。
後ろを見ながら喋るのは失礼だと思うが、彼女を直視するのはまだなれない。
彼女には一番の異世界の証があるのだから…!
「子供たちが怒りますよ? それでもいいならどうぞ」
「…それは怖いなあ」