07/05/30 20:34:29 NP/meU/H
幼い頃から体が弱かったカトレアは、定期的に
高名な治癒魔法使いの集う療養地に通っていた。
家族達と離れるのは寂しかったが、療養地に滞在するのは嫌ではなかった。
そこでは、淡い憧れを抱いた友達に会えたから。
ヴァリエール家とは比較にならない、小貴族の末息子。
体が弱いことも相まって、ほとんど療養地に捨てられたも同然の少年。
その少年はカトレアよりずっと重い病を抱えているのに、
明るく、誠実で、どこまでも透き通った笑みをカトレアに向けてくれる。
家では妹や家族の前で辛い素振りを見せないカトレアは、彼によって大きく勇気づけられていた。
毎年、出会うごとに彼への恋心をつのらせていくカトレア。
だが、その二人が思春期を迎えたころ。少年の病状が急激に悪化する。
泣き崩れるカトレアの前で、少年は病の苦しみの中でも、優しい笑みを絶やさない。
カトレアは思った。自分に病と闘う勇気を与えてくれたこの少年に、自分は何か報いただろうか。
自分に何ができるのだろうか。
考えた末、カトレアは少年に切り出す。わたしを、あなたの妻にしてください、と。
少年は必死になって止めたが、カトレアは聞かない。
わたしは貴方の名を継ぎます。そして、その名がある限り、あなたのぶんも生きます。
この命は、あなたに希望をもらってつないできたのだから、と。
カトレアの体では、ヴァリエール家の子女としての婚姻はできない。
初めて我が侭らしい我が侭を言ったカトレアを、両親や姉は否定することが出来なかった。
カトレアと少年は、療養地の一室でささやかな結婚式をあげた。
そして、フォンティーヌの名を継いだ。
まもなくして、少年は息を引き取った。この歳まで生きられたことさえ奇跡だったという。
彼も、あなたに生きる力をもらっていたのですよ。療養地の治癒魔法使いはそう言った。
カトレアが夫を弔い、療養地を後にしたころ。もともと小貴族だったフォンティーヌの家は
お取り潰しになってしまった。
もう、領地もなく、貴族ですらなくなったこの名。けれど、それは彼の生きた証。
カトレアがヴァリエール家の門をくぐり、家族に迎えられたとき。
その顔には、彼によく似た……どこまでも優しい笑みがあった。
アニメ版の設定はこんなんでどうか。