07/05/30 03:00:40 Kao6l/pG
「メイジの前で喋りすぎですな」
ざくざくと草を分けながら、コルベールが近づいてくる。
(待て? 何故だ? そんな筈無い、お前詠唱は?)
「わたしのような仕事をしていたメイジは、悟られぬように詠唱をする事も、
詠唱を中断して喋ることも出来るのですぞ」
詠唱を終了させた後、死にたくないなら投稿しろと、
のん気な事をした事があるコルベールは苦笑いしながら言った。
「炎が得意なメイジだからといって、火の系統魔法しか使えないわけではありませんからな、
動きを止めるのに『ライトニング・クラウド』を使わせてもらいましたぞ」
……読まれて……いた……
悔しかった。
舐められていた所ではなく、この男の手の上で踊っていただけ。
そんな無力感に打ちのめされる。
「さて、これでわたしの勝ちですな」
力の入らない手から、するりと剣が抜きとら……れ……
しまったっ、……何言った? さっきわたしは何を言った?
『何でも言う事を聞いてやる』……そう……言わなかったか?
『やぁぁぁぁぁっ、寄るなっ、こっち来るなっ……いやっ……止めて……』
必死で逃げようとしても、身体にはまったく力が入らない。
『……や……だ……こんなの……こんなの……』
メイジが相手でも勝てると、リッシュモンを倒した時から自分は驕っていた。
その結果が……
「何でも言う事を聞いてもらえるんでしたかな?」
杖と剣を持った男が、無力なわたしを見つめて……
無骨な手が腰の辺りを探り、強く引き寄せられる。
『いやぁぁぁぁぁ……って?』
どこか懐かしい背中に乗せられて、わたしは医務室の方に運ばれていた。
『な、なんで?』
「……シュヴァリエ・アニエス……『何でも言う事を聞いてやる』の件ですが……」
『……ベ、ベットで言う事を聞かせる気か? 外が嫌なだけなのか?』
喋れないわたしに、不器用なウィンクと共に告げられたのは、
「女性があんな事を口にしてはいけませんな、以後二度と言ってはなりませんぞ……と、言う事でいかがですかな?」
格好つけすぎだ……
でも……両手に力が入らないのが……
優しい背中に自分の意思で触れられないのが、無性に悲しかったことだけは確かだった。