【友達≦】幼馴染み萌えスレ12章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ12章【<恋人】 - 暇つぶし2ch389:シロクロ 14話a【11】
07/07/16 01:57:57 zPqdibpy
と、私の内心を知らないだろう啓介は私に半目を向け、
「・・・あのさ。実はお前がしたいだけじゃないのか?」
「うん。こういう恋人らしいいちゃつきがしたかったし♪」
「即答!?ていうか否定しろよ少しは!」
その発言を無視ながらも私の指先は彼の首、胸板、腹へと滑っていく。
「っていきなり前かよっ!?」
「だって背中終わったし」
「普通は腕とか足から先にやると思うんだがってかそんなに体中なで回すと当たるっていうかやめれ」
「当たるって何に――」
その台詞を最後まで言い切る前に、私の手が何かに触れてしまった。
「・・・ん?」
それまで触っていたものとは違う異質な感触に疑問を持った私は、
啓介の肩越しに自分の触れている物を覗き見る。
そして、仰天した。
「え、えええええええええええ!!!?」
私の触れていたもの。
それは啓介の足と足の間つまりは股についている肉棒と袋状の男性特有の部位すなわち――
「けいすけの、お、お、お、おち、おち」
「落ち着けいいから」
「だ、だって、間近で見るのは久しぶりだしさっきは湯気とかであんまりよく見えなかったけど、
てっきり子供の頃のをそのまま大きくしたものを想像してたけど全然違って、
記憶にあるものよりおっきくなっててなんか黒くなってて、
毛も生えてて何か皮みたいなのが剥けててちょっとグロテスクになってるし、
触ったらやわらかいようでちょっとかたいしあったかい変な感触がしたりして」
「・・・そこまで言われると流石に落ち込むんだが」
「ご、ごめん。だからそんな落ち武者みたいな顔しないで」
「どんな表情だ一体。とゆうかオチにもならんことを言わんでいい」
啓介は落ち着いた声で突っこみを入れる。
顔が赤く見えるのは風呂場の熱気のせいだけではないだろう。
まあ自分もおそらくそうなってるだろうけど。

390:シロクロ 14話a【12】
07/07/16 01:58:55 zPqdibpy
「・・・意外と純情だな」
「・・・なによ意外って」
半目で睨むと啓介は目をそらして自己弁護し始めた。
「い、いや、いつも抱きついてきたりキスしてきたりするから、そういうの平気かなっていうか、
ヘタしたらこういうエロイことの経験あるんじゃないかって思ってたんだが・・・」
「ダーリンとは今度じっくり話し合う必要が出来たんけど」
「誰がダーリンだっ!?」
「啓介」
「だから平然と言うなってそんなこと!?」
「まあそれはともかく」
「無視かよっ!?」」
その発言を追加で無視して一息つき、私は彼の股間を、じっくりねっとりと見つめる。
当然ながら自分にはないその器官は―
「綾乃、さっきとは違った意味で目がイってるぞ」
「へ!?」
啓介のその言葉で私は正気を取り戻す。
どうやらトリップしてしまっていたらしい。
現実に戻った私はふうと一息つき、額の汗を拭うジェスチャーをした。
「あぶなかった・・・。」
「何がだ。」
啓介はそういいながら冷めた目で私を見るが、追求する気はないのか異なる話題を口にした。
「とりあえずさ」
「な、なに?」
未だ動揺の抜けきってない私に啓介は目を背け、頬を赤らめながら言った。
「先に腕とか足とか洗ってくれないか?」
私は慌ててタオルを拾い上げた。

391: ◆6Cwf9aWJsQ
07/07/16 01:59:54 zPqdibpy
今日は以上です。
続きはまた明日。

392:名無しさん@ピンキー
07/07/16 02:28:49 GFI5pQKJ
………き…キタ━(・∀・)━!!(古いなw
一番槍行かせて頂きます、神GJ!!
続きを全裸で正座しながらwktkしてます。

393:名無しさん@ピンキー
07/07/16 03:20:53 d+wodtrW
遂にシロクロ来たー!!

エロいぜ綾乃!! だけどそれが貴女の魅力!! もっと突き抜けてくれ!!

しかしシロクロも絆と想いもお風呂場シーンとは……。お風呂プレイが大好きな俺にとっては最高に嬉しいぜ!!

394:名無しさん@ピンキー
07/07/16 06:18:02 lVX+tnwo
み な ぎ っ て き たァ!!!!
こんな良質なラブラブ見たこと無い。
神GJ!

395:名無しさん@ピンキー
07/07/16 10:00:37 mYBC2Kn/
フクダーダあたりに漫画描いてもらいたいな

396:名無しさん@ピンキー
07/07/16 12:15:24 EmxKV8Ep
これだろ?!
URLリンク(jggj.net)
URLリンク(jggj.net)
URLリンク(jggj.net)

397:名無しさん@ピンキー
07/07/16 16:13:12 oeT5S+/F
待 っ て い た ぞーーーー!!!!!!
綾乃エロ可愛いよ綾乃。
前編、美味しく堪能させて頂きました



って後編は今日の夜だと!?
道理でwktkが止まらないわけだ。

398:名無しさん@ピンキー
07/07/16 16:57:56 aOjLoNJi
tntnおっきした


綾乃エロいよ綾乃ハァハァ(*´Д`)

399:名無しさん@ピンキー
07/07/16 17:23:40 Y+6YU5oj
このバカップルっぷりがたまんねえよマジで!
ラブラブすぎて悶えそうw

400:名無しさん@ピンキー
07/07/16 22:51:19 sKE7WehW
つ い に き た か ・・・ま っ て た ぜ (ガクッ

401: ◆6Cwf9aWJsQ
07/07/17 00:14:00 uR8EDLJK
投下。

402:シロクロ 14話b【1】
07/07/17 00:15:00 uR8EDLJK
啓介の両手足を洗い終わった(普通に洗いました)私は再び彼のモノと対峙していた。
「これが、啓介のおちん○ちん・・・」
「○の位置に意味がない気がするが」
「まるのいち?」
「・・・なんでもない」
彼の台詞に違和感を感じたけどそこを指摘する前に啓介が再び口を開く。
「そんな真剣な目で見られるとものすごく恥ずかしいんですが・・・」
「あ、いや、あの・・・」
私は顔が火照っていくのを自覚しながら言った。
「お恥ずかしながら男の人のこんな姿を見るのはこれが初めてで・・・」
「AVとかも見てない?」
「見てないよ。啓介のしか見たくなかったし・・・」
そういって目を背ける私に啓介は遠慮しがちに聞いてきた。
「・・・退いた?」
「全然」
私はキッパリと言いきり、目線を戻す。
啓介が若干退いたようだけど構わずに言葉を続ける。
「私の知らないところがあってビックリしちゃっただけだから」
「お前だったらホントにそう思ってそうだよな・・・」
「ホントにそう思ってるって」
言いながら私は啓介の股間の棒にゆっくりと手を触れた。
重さを確認するために軽く持ち上げては力を抜いて下ろし、そびえたつそれの上に手をのせ、
肌触りを確認するためにゆっくりと指を這わせ、輪郭をなぞっていく。
そしてゆっくりと揉み始めた。
・・・やわらかい。でも、芯でも入ってるみたいにかたい。
「感触まで本当に子供の頃と違う・・・」
「いやこれは興奮してる時だけだから」
啓介は私に何をバカなことをという風な口調で言う。
・・・まあ確かにこちらの勉強不足かもしれない。

403:シロクロ 14話b【2】
07/07/17 00:15:44 uR8EDLJK
そう考えるとこちらの知識不足がなんだか申し訳なくなってきた。
ならば聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥。根掘り穴掘り聞いてみよう。
「おおきい方なの?」
「知らん。前に旅行行った時には黄原、俺と兄貴、赤峰の順にデカかったけど」
「それって赤峰くんのが小さいだけじゃない?」
「そうなのかなやっぱ・・・」
がっくりと肩を落とした。
どうやら先ほどの私の発言は失言だったらしい。
「まあ大きくても小さくても啓介のが一番だから別にいいや」
そういいつつ私は再び彼の肉棒に視線を移す。
そして、私の指が彼の先端に触れたと同時、
「うぁっ!?」
啓介が普段にはあり得ない素っ頓狂な悲鳴を上げ、椅子から転げ落ちて尻餅をついた。
それと同時。
私の指にねちゃりとした感触が伝わった。
そちらに目を向けると、私の指にお湯とは違うあたたかい液体がついていた。
「・・・なにこれ?」
「・・・・・・ガマン汁だよ悪いかこんちくしょう」
顔を真っ赤にし、私から目を背けながら啓介は答える。
流石にこれは聞くまでもない。
「感じてたの?」
「そりゃ全裸のカノジョにあそこ弄られて何も感じないわけないだろ・・・」
「つまり、『くやしい・・・!でも、感じちゃう・・・!』ってこと?」
「・・・言い方はかなりアレだがそんなところだ。つーかいきなり先触るなよ一番敏感なんだから」
ビンカン・・・!
啓介の反応とその言葉で調子に乗った私は、再び彼のものに触れる。

404:シロクロ 14話b【3】
07/07/17 00:16:34 uR8EDLJK
「ちょ、待て、待て待て待て!」
彼の制止の声も聞かず、私は指を滑らせていく。
かつて啓介がしたように、ありとあらゆる部位に。ついでにたまには揉んでみる。
「いやホントもうそろそろ勘弁して―」
目の前には、顔を真っ赤にした啓介が私を見つめている。
抱きしめたい衝動に駆られるけど、それでは啓介の男性器を触りにくい。
というわけでガマン。
ガマン。
ガマ――
「いいやもうべつに」
「なにがっ!?」
彼の突っこみを黙殺し、ガマン出来なくなった私は素早く啓介の背後に回り込んで抱きしめた。
そして背中越しに再び彼の分身に触れる。
これなら啓介を抱きしめながら責めることが出来る。
さらにお互い一糸まとわぬ姿なのでお互いの肌の感触と体温、心臓の鼓動がダイレクトに伝わり、
私の気持ちを高ぶらせる。
これぞまさに一石二鳥ならぬええと何鳥になるのかなまあいいや気分いいし。
そう考えながらも指の動きは止めない。
爪をわずかに立てて輪郭をなぞると、傘状の部分にひっかかってしまい、弾いてしまった。
「あ。」
揺れ動くそれをつかみ取ろうとするが手を滑らせてしまい、手のひらを擦らせるだけとなった。
が、それは宿主本人には案外強力なダメージになったらしい。
「あ、やばいもう出る」
「出るって何が――」
私がそういうと同時。
彼の先端から白い液体が飛び出した。

405:シロクロ 14話b【4】
07/07/17 00:17:35 uR8EDLJK
床に落ちた白濁液。
それを私たちは他人事のような目で見つめていた。
先走り、というやつだろうか。
詳しいことは知らないしそれがどんなことなのかは分からない。
でも、少なくともいい思いはしないというのは啓介の顔を見れば分かる。
私が啓介にそんな顔をさせた、と思うとなんだか自分がものすごく情けなくなった。
「・・・ゴメン。調子に乗りすぎた」
「いや、お前のせいじゃないよ」
啓介はそういいながら、私の肩に頭を乗せた。
私に向けるその表情は、笑顔だ。
「誰のせいかって聞かれると返答に困るけど、それでも、お前のせいじゃないよ」
まるで理屈になってない、だけど、不器用ながらもこちらを気遣う啓介の言葉。
その気持ちだけでも、嬉しい。
だから私はその気持ちを伝える為、彼の唇に口づけて、言った。
「ありがとう」
「ああ」
そういって微笑みあう私と啓介。
もうさっきの罪悪感は消えていた。
落ち込む私を啓介が励まし、笑顔を取り戻させてくれる。
子供の頃からの私たちが幾度となく繰り返してきたこと。
どれだけ月日がたっても、長い間離れていても、これは変わることがない。
・・・やっぱり、根本的な部分じゃかなわないなあ。
そう考えると共に、この人が恋人で本当によかったとも思う。
「じゃ、先あがるね――」
「待てい。」
ドスの利いたその声と同時、啓介はその場を立ち去ろうとする私の肩をガシリと掴んだ。

406:シロクロ 14話b【5】
07/07/17 00:18:44 uR8EDLJK
その声の低さと尋常ではない何かを察した私は、
油の切れた機械のようにギギギと音が鳴りそうなくらいぎこちなく彼の方を向き、仰天した。
一言で言うと、目が逝っていた。
何かが切れたようなスイッチが入っちゃったような輝きを瞳に宿しており、
目つきは獲物を目の前にしたケモノのようにギラついていた。
こんな啓介を見るのは生まれて初めてです。
つまり――彼の行動は普段以上に予想不能。
行動パターンを予想して彼に接し、それゆえ予想外の事態に弱い私にとってはスーパーピンチ!?
「あはははは・・・」
流石の私も、いつもと違うふいんき(←なぜか変換できない)な啓介にたじろいでしまう。
「見逃して・・・くれないよね?」
「当たり前だ。恥をかかされた責任は取ってもらうぞ」
そう言うと返事も待たずに啓介は私を抱え上げた。
「・・・っていうかなぜにお姫様抱っこ?」
「だってこれが一番運びやすいし」
言ってる間に私は再び椅子に座らせられ、啓介も向かい合わせになるように腰を下ろす。
再び彼の股間の方に目を向けると、既に大地を割りかねないくらいにそそり立っていた。
回復早ッ!?いや標準がどれくらいかは知らないけど。
と、どうやらまだ冷静な部分は残ってたらしい啓介が私の顔色をうかがうように言った。
「イヤなのか?」
「まさか」
私は微笑みながら否定した。
「言ったでしょ?啓介なら、何されてもいいって」
「・・・あとで後悔するなよ。その台詞」

こうして、攻守の逆転した第2ラウンドが始まった。

407:シロクロ 14話b【6】
07/07/17 00:19:42 uR8EDLJK
髪、柔らかいよな。サラサラで綺麗だし」
「ありがと」
啓介の膝の上に座った私は背後から自分の髪を洗う彼に礼を言う。
(髪が長いので後ろに回った方が洗いやすいという理由でこうなった。
まあさっき自分で洗ったのでシャンプーで軽く洗うだけだが)
彼が自分から私のことほめるなんて珍しい。
ならば、私の方からも。
「啓介の顔って・・・」
「ん?」
微妙に何かを期待するような目を向ける啓介に、私は言った。
「童顔よね」
「サラリと言うなよ!人が気にしてることを!」
どうやら逆効果だったらしい。
・・・案外繊細な。知ってるけど。
そんなことを思ってる間に髪にシャワーがあてられていく。
そして、シャワーが止まる音が聞こえると私は言った。
「カラダ、触っていいよ」
「あ、ああ」
言われた啓介はボディシャンプーを手に取ろうとする。
「あ、待って!」
「ん?」
私は伸ばした彼の手を取り、彼に頬を寄せ―位置関係でこうなっただけで他意はない―言った。
「私が啓介に使ったのでいいから」
「へ?」
間の抜けた声を出す啓介に続けて言う。
「啓介の匂いをつけたいの」
「ん、わかった」
意外とあっさりと了承し、啓介は先ほど私が使ったボトルを手に取った。
何の迷いもなく。

408:シロクロ 14話b【7】
07/07/17 00:20:41 uR8EDLJK
ホントにいつもと調子が違うなと思いながら私は身を啓介に預けた。
背に当たる啓介の胸から伝わってくる彼の鼓動が心地よい。
が、啓介はそれを気にせず自分の両手にボディシャンプーをたっぷりとかけ始めた。
「え、手で直接!?」
「誰かさんは乳でやってくれたしな」
そういわれると誰かさん=私は反論出来ない。
「あのー出来ればタオルの方が・・・」
控えめに言う私の意見を啓介は答えは聞いてないと言わんばかりに黙殺し、
私の背中越しに腕を伸ばして私の腕を洗い始めた。
最初はおっかなびっくりといった感じの手つきだったけど、
次第にかつてのように這うような動きになっていく。
「啓介、手つきやらしくない?」
「好きな女に触れるのにやらしくなくてどうする」
即答された。
ダメだ。今の啓介には会話が出来ない。制御出来ないかもと思ってたけどまさかここまでとは。
そう思ってる間に啓介は私の両腕を洗い終え、今度は私の足に手を伸ばした。
まあ今は彼の好きなようにさせてあげようと思いつつ、私は彼が洗いやすいように座る向きを変えた。

409:シロクロ 14話b【8】
07/07/17 00:21:34 uR8EDLJK
啓介は私の足も洗い終わると、今度は背中を洗い始めた。
「どんな感じ?」
「気持ちいいよー」
私は彼の質問に軽い調子で答える。
実際、背中から伝わる感触は私に快感を与えてきている。
普段自分が触ることのない部位を愛する人が愛撫する。
それがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。
そんなこと考えてると、急に啓介が私のお尻に触れた。
「ひゃぅっ!?」
「おお、やっぱり声上げた」
思わず悲鳴を上げるが、なぜか啓介の声と表情は満足そうだ。
どうやら私の反応が鈍かったことが不満だったらしい。
「あ、あのね啓介?気持ちよかったのはホントだからね?」
「む。そうかスマンスマン。んじゃ尻洗うから腰浮かしてくれ」
そういって私の前に出された腕に私は渋々捕まり、腰を浮かせる。
啓介はそれに「よし」と頷くと、お尻に触れた。
鼻歌まできこえてきそうなくらいご機嫌な表情で私のお尻を撫で、時に揉む。
人の話をあまり聞かず、あくまでマイペースに作業を続ける啓介。
・・・なんだかいつもと立場逆転してるような気が。
でも、これも啓介の一面だと思う。
今まで抑制してた彼の欲望。
それが私に向けられてる。
そのことが女として恋人としてすごく嬉しい。
「終わったぞ」
「うん」
言われた私は啓介と向かい合わせに座り直した。

410:シロクロ 14話b【9】
07/07/17 00:22:31 uR8EDLJK
啓介は遠慮なく私の剥き出しになった胸や秘所に視線を向けた。
流石に恥ずかしいけど手は太ももの上に置いて、胸や秘所は一切隠さない。
こんな状況で隠しちゃ今までの流れが台無しだし。
そんな私の葛藤を知らない啓介は私の胸の二つのふくらみにゆっくりと手を触れた。
重さを確認するように軽く持ち上げては力を抜いて下ろし、何故か乳房の上に手をのせ、
以前のように肌触りを確認するようにゆっくりと指を這わせ、輪郭をなぞっていく。
そしてゆっくりと揉み始めた。
「すごくやわらかい・・・」
「・・・うん、ありがと」
そしてある程度そうしていると、啓介は私に質問をする。
「またでかくなってないか?」
「うん。そうみたい」
「具体的には?」
「上から87-59-86だったのが89-58-87になった」
「そんなにか・・・」
ツバを飲み込んで喉を鳴らす。
でも、そうしてる間も彼の手は止まることはなくひたすら私の胸をも見続ける。
「・・・そんなに気に入った?」
「うん」
啓介は私の質問に案外素直に頷く。
「・・・よかった・・・」
それを聞いた私はほっと胸をなで下ろす。
「うつぶせで寝ると胸が圧迫されたり肩こったり暑いときは胸の下とか谷間に汗掻いたり
机とかに当たったりして邪魔だったりサイズの合う服とか水着とか下着とかがなかなか無くて
いいのが見つかっても高かったり太って見えるからワンピースが着れなかったり
エッチな目で見られてもその一言があれば報われるなーって思えるわ」
「・・・苦労してんだな」
「それなりに」
しかしそうやって会話しながらも啓介の手は止めることはない。

411:シロクロ 14話b【10】
07/07/17 00:23:31 uR8EDLJK
そこまで気に入られると女冥利に尽きるとか思ってる間に既に私の乳房は泡まみれになっていた。
触られた胸から伝わる快感を味わった私は今度はいまだ触られてない先端が触られることを期待する。
が、啓介はなぜか乳首には触れずに両手を私の乳房から離した。
「先っぽ、さわらないの・・・?」
「あとで」
啓介は簡潔に答えると十指を私のウェストに触れさせ、その指を這わせた。
途端に、未曾有の快感が私の身体に伝わった。
「ひゃっ!?」
思わず悲鳴に近い嬌声をあげて、椅子から転げ落ちてしまう。
「だ、大丈夫か?」
急に過度のリアクションをした私に啓介は声をかける。
つい先ほどまで欲望のままに私を弄っていたのに、異変を感じると即座に気遣いの言葉をかける。
そんなところが彼の美点だと私は思う。
そんな彼だから、私は心惹かれたのだ。
「大丈夫、ビックリしただけ「んじゃ続けよう」」
切り替え早ッ!?と私が突っ込むより速く、啓介は私のウェストを撫で回す。
「あぅっ!」
言おうとした言葉はただの嬌声に塗り替えられた。
「何か乳や尻の時より敏感じゃないか?」
「多分胸やお尻より肉が薄いからだと思うひゃぅっ!?」
言い終える前に啓介は私の乳首にボタンを押すように触れたため、嬌声をあげてしまう。
「関係ないと思うぞそれ」
「ツッコミの代わりに乳首責めないでよ・・・」
顔を赤くして口を尖らせると、啓介は泡まみれの手で私の頭を撫でてきた。
「もう、そんなんで機嫌直ると思ったら大間違いだからね」
「めっちゃニコニコしてそういっても説得力ないぞ」
啓介はそういうと同時、私の乳首を同時に指で弾いた。
「ふあぁぁっ!」
私は悲鳴を上げて、胸を揺らしながらのけぞってしまった。

412:シロクロ 14話b【11】
07/07/17 00:24:16 uR8EDLJK
「けいすけの、えっち・・・。そんなところもすきだけど・・・」
「何を今更」
完全に開き直った発言をし、啓介は私の太ももに触れて足を開かせる。
当然啓介はそこに視線を移す。
「そんなに見つめられると流石に照れるんだけど・・・」
「何を今更」
剥き出しになった私の恥部。
その真上には私の髪と同じ色の毛が生えていた。
そこを見られ、顔が火照っていくのを自覚した私はそれを誤魔化すようにまくし立てる。
「ほら、私って毛が真っ黒だから濃く見えるかなーって」
「そんなことないと思うけどな」
そういわれた私は多少なりとも落ち着きを取り戻した。
「啓介に言われると例え気休めかもしれなくても安心するなーって」
「気休めじゃないっての」
そういいながら彼の指がついに私の亀裂に触れる。
が、触れただけで止まってしまった。
「・・・濡れてる?」
「・・・たぶん」
秘所の湿りを看破された私は再び動揺しだした。
さわられる前から濡れてしまって、いやらしい、と思われないだろうか。
そんな考えが脳に宿り、私の心から落ち着きを奪う。
と、そんな私の思考を気いてるのかいないのか落ち着いた口調で啓介は言った。
「綾乃も、これぐらい感じてたんだ」
「・・・うん」
耳まで真っ赤になりながら私が答える。
が、彼の言った言葉は予想外のものだった。
「よかった」
彼のその台詞を聞いた途端、私にまとわりついていた不安が吹き飛んだ。

413:シロクロ 14話b【12】
07/07/17 00:25:15 uR8EDLJK
彼は単純に私を感じさせてるか不安だっただけだ。
さっきまで私が嬌声をあげていたというのに。
こういう微妙に察しが悪く、臆病なところはいつもと変わってない。
ならば私のやることは一つだ。
そう判断した私は、彼の背中を押す台詞を言う。
「いいよ、好きにして」
「・・・ああ」
気を取り直した啓介は私の割れ目にあてていた指を動かし始めた。

その手つきは何というか、おっかなびっくりといった感じで以前のように欲望のままにと
いうわけではなかった。
でも、それは最初の方だけで、次第に激しさを増していく。
そして空いた手で胸を責める。
「・・・ぅあっ・・・!」
片方の手は割れ目をなぞって時に指先を少し突き入れ、もう片方は乳房とその先端を蹂躙する。
それにあわせて私も嬌声をあげる。
二点同時の責めに、私の理性はあっけなく崩れていた。
と、突然啓介の割れ目側の手が止まった。
そちらに目を向けると、彼の指先は
啓介の顔を見ると、私に何かを問いかけるような目を向けていた。
何のことかはすぐに分かったけど、あいにくしゃべれる余裕はない。
だからその代わりに無言で頷いた。
それは正確に伝わったらしく、啓介はその一番敏感な部位を指で転がし、弾いた。
秘所の中の豆を弄られ、そこから私の身体に快楽と言う名の刺激が伝わっていく。
「ひあああああああ!!」
悲鳴か嬌声か自分でも分からない叫びが私の口から放たれた。

414:シロクロ 14話b【13】
07/07/17 00:26:22 uR8EDLJK
イってしまった。それも好きな人の手で。
嬉しい、と思うと同時に私ってこんなにエッチな子だったのかと恥ずかしくも思う。
絶頂のあとの脱力感で動けない身体を啓介にもたれさせながら私はそんなことを考えていた。
「おつかれさん」
耳元で最愛の人の声がする。
内心を悟られぬように残った力を振り絞って枕代わりにしていた彼の肩から顔を上げ、
「もういっかい、する?」
そんな体力もないのに微笑みながら言う。
が、返ってきた答えは予想外のものだった。
「ごめん、もう無理・・・」
そういった啓介の鼻から紅い筋が流れ落ちた。
そして、今度は啓介が私の身体にもたれかかった。
軟弱な、とは思わなかった。
私もものすごく疲れたし。
だから私は啓介の頭を撫で、言った。
「おつかれさん」
と、肩から疲れたような声がした。
「・・・つづきは、あとに、しようか・・・」
「・・・うん、そうしようね」
いろいろな意味でのぼせ息も絶え絶えになった啓介にそういうと、
私は浴室を出るために啓介ごと身を起こした。

415: ◆6Cwf9aWJsQ
07/07/17 00:31:49 uR8EDLJK
今回は以上です。

長い間書き込んでない間に渋茶の人の連載が終わっちゃったり
新しい職人さんが増えたりして寂しかったりビックリしてます。
皆さんの作品も楽しみに読ませてもらってるのでお互いガンバりましょうってことで。

416:名無しさん@ピンキー
07/07/17 00:34:16 YygnOrbr
さ す が 綾 乃 は エ ロ イ な (褒め言葉

417:名無しさん@ピンキー
07/07/17 00:43:24 NvKGRSpn
なんという破壊力か。壊滅寸前のところで止めを刺しにこないあたりが凶悪w

418:名無しさん@ピンキー
07/07/17 04:29:25 st+J2BR1
GJすぐる
そしてなるべく早く続きを
焦らされて死にそうだ・・
この二人萌えるわー

419:名無しさん@ピンキー
07/07/17 08:07:34 qtvienyC
>>1-4
お前らまとめてギルガザムネのミサイル喰らわせるわ

420:名無しさん@ピンキー
07/07/17 08:08:21 qtvienyC
なんという誤爆

421:名無しさん@ピンキー
07/07/19 02:41:31 hBxQWNCF
保守

422:sage
07/07/19 22:13:53 ckQwL6ZD
この二人


ついにヤッたか

423:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/20 00:48:04 gbEV6f2w
またまた来てしまいました。

それにしても破壊力抜群のものばかりで、溜息ばかりです。
すごいなぁ。本当にすごいなぁ。


というわけで、
>191-195
>199-203
>224-227
>236-240
>262-267
>317-321
の続きを投下します。

424:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/20 00:49:56 gbEV6f2w
 未来の形なんて、まだ見えてこない。



07:Walk This Way



「はぁぁぁぁ」
 椅子に座ると同時に大きな溜息をついた美幸は、そのままテーブルの上に突っ伏して全身で疲れを
表した。
「どうしたんだ、急に」
 彼女の突然の行動に、さっと自分のコーヒーをソーサーごと持ち上げた正宗は、小さく苦笑しながら
問い質す。それに、んー、としばらく呻いて答えてから、ようやく美幸は体を起こした。
「ちょっとさ、ヤなことがあって」
「それはわかるが」
 でなければ、待ち合わせの場所に遅れて現れて、唐突にうなだれたりはしないだろう。ここが馴染みの
喫茶店、コールド・ストーンでなければ、店員から奇異の目で見られていたに違いない。いや、彼女の
ことをよく知っているバイトの女性でさえ、美幸の行動には溜息と苦笑を浮かべていたが。
「……って、あれ? 忍は?」
「いつもの病気だよ」
 カップを口元に運びながらの彼の言葉に、美幸は、ああ、と頷く。
「本の虫?」
「図書室で見つけた本が、随分とお気に入りらしくてな」
「じゃあ、しょうがないね」
 彼女は諦めと苦笑の入り混じった表情で、肩をすくめる。正宗は、少女をチラリと眺めて、まったくな、
と呟いた。

 本の虫、というのは、幼馴染の忍の行動に二人が付けた名前だ。
 読書好きで、放課後に図書室に入り浸っている彼女は、気に入った本や、続きが気になって仕方ない
本に出くわすと、それ以外のことが目に入らなくなる。文字通り、本を手放せなくなるのだ。学校の休み
時間は勿論、昼休みも食事そっちのけだし、下校途中も歩きながら読み続けている。恐らく、帰ってから
もずっと読み続けているのだろう。授業中はさすがに控えているが、完全に上の空状態になっているら
しく、指名されても問題に答えられず、教師に呆れられたことが何度かあった。
 歯医者に行って順番を待っていたのに、自分の名前が呼ばれたことにも気付かず読み続け、結局、
治療を受けることなく帰ってきたこともあるという。
 実際、彼女がその状態になると、正宗や美幸といった仲の良い友人の声も遠くなるようで、何度も呼び
かけてようやく気付いてもらえる程だった。それも本当に、しょうがなく顔をあげる程度。
 もっとも、そんな本に出くわすことはそうそうあるわけではなく、三ヶ月に一回、あるかないか、という
程度だ。だが、その時の集中力の高さを、二人はすごいことだと思っているし、尊敬もしていた。
 ただ、一つ難点があった。
 その本を読み終えた後、忍は周囲にその本を勧めまくるのだ。
 普段、口数の少ない彼女が、一生懸命になって、その本の良さと自分が感じた感動を伝えようとたく
さんの言葉を費やす姿は、二人とも感じ入るものがないではなかった。
 しかし彼女のお勧めの本は、読書と言えばマンガぐらいしかない美幸や、読む本の嗜好が偏っている
正宗にとっては、それほど食指が動く内容でないことの方が多かった。為に、どんなに勧められても読む
ことはほとんどない。もうこれは、趣味の違いとしか言い様がないのだけれど。
 最近ではさすがに、自分と二人が求めているものが異なることがわかってきたのか、忍も強いて勧め
たりはしなくなってきた。残念そうな彼女の姿に罪悪感を覚えつつも、二人は内心、ホッとしてもいたの
だった。

425:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/20 00:51:13 gbEV6f2w
「それじゃ、今日は来ないかな、忍は」
「だろうな。あいつがいないと出来ない話か?」
 彼の問いかけに、ううん、と美幸は首を横に振る。
「大したことじゃないんだけどね。今日、サノセンに呼ばれてさ」
「佐野先生? 現国の?」
 そう、と頷いた彼女の前に、アップルジュースが置かれる。どうも、と頭を下げる正宗にニッコリと笑って、
その馴染みのウェイトレスは元いた場所、二人のいるテーブルからさほど遠くない所に戻っていく。チラリ
とそれを見てから、美幸はストローくわえてジュースを一口、飲む。
「なんで呼ばれたんだよ?」
「んー、まぁ、大したことじゃないんだけどさ」
 テストの点数が悪くてさ、と声を潜めて美幸は言う。なるほどな、と頷きながら、正宗はジッと彼女を見つ
める。
 流れるBGMはジャズの音。サックスの力強い響きとは裏腹に、目の前の少女の吐く息は、重い。
「で、しぼられた、ってわけか?」
「それもあるけど、他にも色々とね」
 また一つ、重い溜息を吐いてから、美幸はゆっくりと語りだした。



「どうして呼ばれたか、わかってるかしら」
「はぁ、まぁ。なんとなく」
 椅子に座るよう促され、腰を下ろした途端の質問に、美幸はあまり気のない返事で答えた。目の前の
若い女性―現国の教師、佐野玲子―は、それに不満を抱いたのか、一瞬、眼鏡の向こうの瞳を
軽く吊り上げたが、グッと怒りを飲み込んで手元のテストを彼女に差し出してくる。
「昨日やった小テストのことだけど」
 ざっと目を通すが、実はそんな必要もなかった。そこにあるのは、自分の白紙の解答用紙なのだから。
当然、丸があるわけがなく、バツばかりが並んでいる。
「どうして何も書かなかったのかしら?」
「わからなかったからですけど」
 至極、真っ当な答えだと美幸は思う。わからない。だから書けない。その結果、白紙になったというだけ
のこと。
 だが佐野には、それが理解出来なかったらしい。パンツスーツの足を組み替えて、身を乗り出してくる。
「漢字が読めないのならわかるけれど、これ。この問題」
 赤ペンで彼女は、トントンと解答用紙の一部分を指し示す。大きなカッコがあり、その横にはこう書いて
あった。
『傍線の部分の文章を読んで、主人公がどのように感じたかを答えよ』
「この問題もわからなかったの?」
「はい」
 率直に答える。恥じることなど、何もない。だから、美幸は佐野の顔を、目を、ジッと見つめた。
「……そう」
 ギシッ、と音を立てて背もたれに体重をかけた彼女は、何を言うべきかを迷うかのように、眉間に皺を
寄せていた。
 放課後の教官室に、珍しく他の教師の姿はない。外から聞こえてくるのは、部活動に励む生徒達の声。
だがこの部屋の中は、張り詰めた、重い空気が漂っている。もっともそれは、教師である彼女が一方的に
作り出したもので、少女は多少の居心地の悪さを感じている程度だけれど。
 悩む佐野の姿をボンヤリと見ていた美幸は、ふと思い出す。彼女は確か、自分たちと一緒にこの高校に、
新任教師として入ってきたのだ、ということを。
 まだ若くて年の近い女教師の存在に、生徒達、特に男子生徒は盛り上がったものの、それは一過性の
波に過ぎなかった。佐野が極めて真面目で、厳格な女性だとすぐにわかったからだ。面白味のない退屈
な授業に、生徒からの人気は下がる一方だった。それでも、一部の男子の間では、その厳しさがいいと
いう声もあがっていたのだけれど。
 こうして間近でじっくり眺めていて、美幸もなんとなくそれはわかる気がした。眼鏡の下の目は鋭く、きつい
ものだし、化粧っ気も薄いものの、よく見ればそこそこ美人なのだな、と。もっとも、普段の言動や真一文字
に結んだ口が、それを台無しにしてしまっているのだけれど。

426:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/20 00:52:41 gbEV6f2w
「私の授業は聞いてなかったのかしら?」
「聞いてたような、そうでないような……」
 もったいないなぁ、等と考えている最中に声をかけられたせいで、思わず本音で答えてしまう。言ってから、
しまったと思う美幸だったが、彼女は眉を軽く跳ね上げただけだった。
「立花さんは、理系志望だったかしら」
「はぁ」
 急に質問のベクトルが変わって、美幸は戸惑うが、それに構わず佐野は続ける。
「だったら、現国なんて必要ないのかしらね」
 その言葉はどこか、心に絡んでくるような、粘りのあるもので。
 咄嗟の一言に詰まる少女だったが、やはり彼女は構わず、手元の答案用紙を眺めている。
「でも、入試で必要になるかもしれないんだから、せめて解答は埋めるようにしてちょうだい。点数が入る
かもしれないんだから」
 厳しいながらも、どこか諦めたような声に、先ほど感じたような不快感はなく、美幸は釈然としないなが
らも、はい、と頷く。
 そのまま佐野を見つめるが、彼女の表情は凍りついたように変わらず、何を思っているのか、はっきり
とは読めなかった。ただ、忍や正宗の無表情とは違い、明らかに外界と自分とを遮断しているのだという
ことだけは、おぼろげに理解出来た。
「次から気を付けてちょうだい。行っていいわよ」
「はい、それじゃ失礼します」
 何だったのだろう、思いながら立ち上がった瞬間。
 一瞬、美幸はゾクッとする。
「そういえば、立花さん、随分と男の子達と仲が良いみたいね」
 何気ない風を装って、しかし、確かにその言葉は少女の心臓を掴んで絞る。
 自分が感じた寒気が何だったのか、佐野の台詞の前と後、どちらだったのか。それすらもわからぬまま、
彼女は固まってしまう。
「良いかもしれないですけど、何か?」
 知らず強張る声を何とか搾り出すが、振り返る気にはなれなかった。
 否。
 佐野の漏らしたたった一言、そこには毒が含まれていたに違いない。足が縫いとめられたかのように、
動かなくなってしまったから。
「別に。ただ、その時間をちょっとでも勉強に回して欲しい、と思っただけ」
 佐野が、背の向こうで肩をすくめたのが、気配でわかった。スッと解ける緊張、だが背筋に残った嫌な汗
が、今、起きたことが本当にあったことなのだと知らしめる。
「月並みだけど、楽しむのは自由よ。けれど、やることはやって頂戴」
「はい。気をつけます」
 そのやり取りを残して、美幸は逃げるように教官室を飛び出した。
 外の空気を思いっきり吸い込むと、カラカラに乾いた喉が少し痛かった。気だるい夏の湿気がシャツに
まとわりついてきて、その不快さに彼女は思いっきり、顰め面をしたのだった。

427:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/20 00:53:14 gbEV6f2w
「それで、疲れた顔、してたのか」
「うん。けどまぁ、話してたら随分と落ち着いてきたけど」
 美幸の言葉に、正宗は怪訝な顔をしながら、そうなのか、と頷く。
 ストローをくわえながら、彼女は目の前の幼馴染の顔をジッと見つめた。その視線に応えるように、
彼も見つめ返してくる。
 話して落ち着いたのは、本当のことだ。胸の中でモヤモヤと溜まっていた、怒りにもやるせなさにも
似ている感情を吐き出すことが出来たのだから。もっとも、それを受け止めてくれる人がいなければ、
ここまでサッパリと出来なかっただろうということを、彼女は理解していた。

「だいたいさ、男の子と仲良くしてるだけで、悪いことしてるわけじゃないし」
「そうだな」
「勉強はまぁ、好きじゃないけれど。でもわかんないものはわかんないし」
「確かに」
「まぁ私も反省しなきゃいけないかもしんないけどさ、それとこれとは別ってもんだよね」
「ああ」
「だからこれからも、男友達とは仲良くしてくよ、私」
「いいんじゃないか?」
「私、間違ってないよね?」
「間違ってないと思うぜ、俺はな」

 マシンガンのように放たれる自分の言葉、その全てを正宗は受け止めてくれている。
 美幸は、思う。
 彼がいてくれて、良かったと。
 だから、告げる。
 感謝の気持ちを。

「ありがと、正宗」
「どういたしまして」

428:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/20 00:53:52 gbEV6f2w
「そういえば」
 一通り、佐野を始めとした教師達の悪口に花を咲かせた後、ふと思い出したように正宗は疑問を
口にした。
「今日、ここで集まろうっていうのは、何か理由があったんじゃないのか? サノセンのこと以外に」
「ああ、うん。実は、正宗に協力して欲しいことがあってさ」
「協力……? って、もしかして」
 不自然にニコヤカな彼女の表情に何かを感じたのか、正宗はわずかに身を引いた。
「多分、当たり。恋のお手伝い、ってやつ」
「またか……」
 深い、深い溜息を付く。
 恋のお手伝い。文字通りの意味だ。美幸の男友達の恋愛をバックアップする、というもの。これまで
にも何度か、彼女に頼まれて協力したことがあるのだが。
「ダメかな?」
「駄目ってことはないが」
 普段の正宗ならば、美幸の願いを断ることなどない。決して、と言っていいだろう。
 にも関わらず、今の彼は、気が進まなかった。なんとなれば、理由は一つ。
 彼女が応援するのが、彼女が好きになった男だからだ。
 勿論、その男が恋しているのは、美幸ではない。彼女はただ、女友達として相談を受け、協力を
約束しただけだ。
「……いいのか?」
「何が?」
 あっけらかんと答えられて、逆に正宗は言葉に詰まる。そんな表情をされては、聞くことがいけ
ないことのように思えてしまうから。

「好きな男の恋の手伝いなんてして、アンタはそれで満足なのか、ってことよ」

 救いの手は、意外なところから訪れた。正宗の空になったコーヒーカップにお代わりを注ぎながら
そう言ったのは、先ほどから話を聞いていたらしいウェイトレスだった。
「姉さん、盗み聞きしてた?」
「アンタの声が大きすぎるのよ」
 美幸の非難を意に介さず、彼女の七つ年上の姉であり、この店のウェイトレスをしている由梨は、
そのままテーブルの脇に立って動かない。
「ほら、答えなさいって」
「もう、仕事しろっての」
 ぶつくさと言いながらも、妹は決して嫌な顔をしていない。なんだかんだで、仲の良い姉妹なのだ。
昔から変わらない光景に、正宗は何となく、安心する。
「好きな人が幸せなら、それで満足! これでいい?」
 ツンと澄ました顔をする美幸に、だってさ、と由梨は彼に振ってくる。
「まぁいいけどな」
「じゃ、協力してくれるってこと?」
「わかったよ」
 渋々といった正宗の言葉に、美幸は満面の笑みを浮かべて言う。

「ありがと、正宗」
「……どういたしまして」

429:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/20 00:54:56 gbEV6f2w
「妹が迷惑かけるね」
 トイレに行ってくる、と美幸が席を立つと、由梨は笑いながら彼にそう言ってきた。
「別に、構わないっすけどね」
 苦笑と共に返す他、正宗はなかった。何より、どうしたって彼は、美幸の頼みを断れないのだ。
これはもう、しょうがないことだ。
「あの子はまだ、本当の恋愛を知らないね」
 正宗のそんな思いをよそに、由梨はポツリと何気なく、そう言った。正宗は、コーヒーカップを
ソーサーに置いて、テーブルの脇に立つ彼女を見上げる。
「そういうものっすか」
「そういうもんよ。だてに学生結婚してるわけじゃないって」
 無駄に胸を張る彼女の姿は、彼には少し眩しく思えた。大学四年の時に入籍した彼女は、二十四歳
の今、立派な人妻なのだから。
「でもアイツ、本気で好きになってると思いますよ」
「それもわかるわ。けど、本気で恋はしてないと思うよ」
 謎めいた言葉に、正宗は首をかしげる。肌では理解出来ている気がするのだが、実際はどうなのか、
心もとなかったのだ。
 ただ、思うのは一つ。

 もしも美幸が恋をするのならば、その相手が自分であって欲しいということ。





























 同じ頃。

「彼女が絶望から立ち直るとこ、あったじゃないですか。あそこですごく、胸が締め付けられて、泣いちゃい
そうになって」
「あそこは良かったよな。その後、何度、打ちのめされそうになっても、あのシーンの想いを大事にして立ち
上がるって意味でも」
「そうそう、そうですよね。吉川先輩、結構、読み込んでるんですね」
「ま、な。三回ぐらいは読み返したか」

 夕暮れの光差す高校の図書室に。
 夢中で話し込む塩崎忍と、吉川亮太の姿があった。

430:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/20 01:00:53 gbEV6f2w
また文体が変わったような。


>323
そう言っていただけて、本当に嬉しい限りです。コンスタントにそのレベルを保っていければ、
言うことがないのですが……難しいものですね。

>324
展開の進みの遅さが申し訳ないです……

>325
分不相応なお褒めの言葉で、照れるばかりです(;´∀`)
忍を愛していただけて、作者冥利に付きますです。差し上げたいのはヤマヤマですが、もう
少し焦らさせてください´∀`)



ともあれ、今後もどうかよろしくお願いいたします。

431:名無しさん@ピンキー
07/07/20 01:20:29 AVyZqjIh
>>415
GJ!この二人には幸せになって欲しいわ。綾乃と聞くと捨て熊の方を思い浮かべてしまうorz

432:名無しさん@ピンキー
07/07/20 07:38:32 XdwSoxny
GJ以外に言うことなど何があろうか。いや、あるはずがない。
最近のこのスレの神作品の投下率は異常だと思う。

433:名無しさん@ピンキー
07/07/20 09:02:12 BqwgOMDp
GJ!正宗健気過ぎて哀れ…でもかわいいなw
美幸が勝てない相手もいるんですな。姉最強説浮上。
次楽しみです。忍は先輩と何か起こるのか?

434:名無しさん@ピンキー
07/07/21 23:10:44 7ZSfgA1N


435:交錯する想い
07/07/21 23:39:38 MNYU0coS
>292
>298
の続きです。
「武田君誕生日何時なの~?」
「8/13です。」
「家は何処に住んでるの?」
「三丁目の坂上った所です。」
「好きな女優さんとかいる?」
「ごめんなさい、そういうのにあんまり興味ないんです。」
優祐は周囲の女の子達から繰り出される有像無像の質問に律義に答えていた。
「武田君、藤崎綾芽ちゃんとはどういう関係かな~?」
「藤崎綾芽さんって?」
「綾ちゃんからすると ゆう君 って呼ぶ位親しかったらしいよ~。」
優祐はそれを聞くと少し考え込む。
「すいません、え~っと」
「私は武田鈴菜だよ~。苗字同じだから、鈴菜でいいよ~」
「わかりました。鈴菜さん、その藤崎さんの所に連れてってもらえます?」
「もちろんだよ~。あと呼び捨てで良いよ~。」
「お願いしますね。」
優祐は非常に礼儀正しかった。
完璧に同級生に向かって、ですます調で喋っていた。

「あやちゃん、武田君が喋りたいってさ~。」
鈴菜が優祐を綾芽の机の前に立たせる。
「武田優祐……ゆう君だよね?」
綾芽は優祐に万感の想いを感じていた。
「あや……藤崎さん、お久しぶりです。これからよろしくお願いしますね。」

436:交錯する想い
07/07/21 23:40:25 MNYU0coS
優祐はそう言って頭を下げる。
その態度は綾芽に冷たさを感じさせた。
「ゆうすけ?」
「すいません、ちょっと先生に呼ばれているので。」
優祐は更にもう一度頭を下げ、教室を出ていく。
「あ、武田君、職員室まで案内してあげるよ~。」
その後ろを鈴菜が追い掛けていく。
残された綾芽はただ一人呆然としていた。
「今日は色々と大変だな」
その綾芽にくっくっくっと笑いながら凜が話し掛ける。
「しかし私が綾芽から聞いていた限りでは彼があんなに礼儀正しいとは思わなかったんだがな。私が受けたイメージはいつもは悪ガキで悪戯っ子だが、いざという時は凄く優しい子というイメージなんだが。」
「うん。昔はあんなじゃなかった。あんなの……優祐じゃない。」
「まあ10年も経てば人も変わる。そう落ち込むな。」
「そう……だよね。」
「もしくは単純にもう綾芽が嫌いなのかもしれないね。だから振ろうとしてるのかも。」
挑発的な口調で綾芽をやゆする。
「なっ、優祐はそんな子じゃない。」
綾芽は表情や口調が明らかにムッとしていた。
「わからないよ。確かめるためにデートにでも誘ってみたらどうだい?嫌なら断られると思うよ。」
「いいわよ。次の日曜にでもやってやろうじゃない。」

437:交錯する想い
07/07/21 23:41:05 MNYU0coS
「おぉ~頑張れ~。振られても泣くなよ。」
「誰が泣くか!」
綾芽は完璧に凜に乗せられていた。


「あれ~何処に行っちゃったのかな~。」
優祐を追い掛けていた鈴菜は彼を見失っていた。
単純に考えれば先生に呼ばれているそうだから、職員室に居るはずなのだ。
しかし優祐は職員室にはおらず、行方が知れなかった。
「裏庭にでも迷い込んじゃったかな~。」
鈴菜は独りごちて裏庭へと行く。

綾芽達の学校は、都市の中央部からかなり離れた所にある。
また立地的に丘の上に建っている事もあり見晴らしがよかった。
また整備された校舎と校庭とは違いほぼ未開の地と言っていい程の裏庭もあり、そちらもかなりの広さを誇っていた。

「あ~武田君居た~。何処に行ってたの~?」
その裏庭へと続く廊下に優祐が一人立っていた。
「すいません、迷っちゃいまして。」
優祐は一瞬驚いた顔をするも、すかさずそれを隠そうとする。
「ふ~ん。その手はどうしたの~?」
優祐の右手の甲には血が滲んでいた。
何か固い物を殴った時に出来るような傷だった。
「あの……え~っと」
「武田君、無理して自分を押さえ付けない方が良いよ。」

438:交錯する想い
07/07/21 23:42:13 MNYU0coS
鈴菜は一瞬だけ真面目な声で優祐を諭す。
「さっ、先生の所に行こうか~。」
しかしすぐに元の柔らかい声に戻る。
「いや……あの、すいません。」
「あは~やっぱり呼ばれてる訳じゃなかったんだね~。」
「ごめんなさい。」
「別に良いよ~。でもどうしてそんな嘘ついたのかな~?」
鈴菜は優しそうに見えて容赦なく優祐を追求していく。

「それは……あの……」
「言いたくなかったら言わなくてもいいよ~。」
「すいません。」
「も~、武田君謝り過ぎ~。しかも謝り方が単調なんだよね~。」
「ごめんなさあっ……」
「あはは~。ま、言いたくなったら言えば良いさ。それじゃあね~」
鈴菜は優祐を教室の前まで連れていくと何処かへ走り去っていった。
一人残された優祐はその姿を見送った後、とぼとぼと教室に戻って行く。

「優祐、今週の日曜暇?暇なら遊びに行こ、」
教室に戻った優祐を待っていたのは、肩を怒らした綾芽と綾芽から出された提案だった。
「日曜ですか?お昼からならなんとかなりますけど、どうかしましたか?」
優祐は下から綾芽の顔を覗き込む。
「ベ、別にどうもしてないわよ。」
綾芽は必死に取り繕おうとするが。

439:交錯する想い
07/07/21 23:42:54 MNYU0coS
「でもあやちゃん顔赤いよ~。」
しかし、いつの間にか戻って来ていた鈴菜が茶々を入れ、
「そりゃデートのお誘いをしてるんだから赤くなるさ。」
凜がとどめを刺す。
「なっ……凜なに言ってんのよ!別にデートなんかじゃなくて、ただ街を案内してあげるだけだからデートなんかじゃ……。」
元々赤かった顔を更に真っ赤にして釈明という名の墓穴を掘り続ける。

「あやちゃん、墓穴掘ってるってわかってるかな~?」
「なっ。」
慌ただしく動いていた綾芽の動きが止まる。
「ホントに凄いな。」
「今どき中々いないよね~」
それを見て二人はけらけらと笑っていた。
「藤崎さん、大丈夫ですよ。誰もそんなこと考えませんから。そもそも僕と藤崎さんじゃ釣り合わなさ過ぎてありえませんよ、デートなんて事は。」
只独り状況を良く把握していない少年が全くフォローになってないフォローを入れようとする。
「そうだよね~。ごめんちょっとお手洗いに行ってくる。」
綾芽は小走りにトイレへと走っていく。

440:交錯する想い
07/07/21 23:43:40 MNYU0coS
はぁ
凜が一際大きなため息をつき優祐に問う。
「あれだ、君は昔虐待されてたとか、いじめられてた、とかいう体験の持ち主じゃないかな?」
「え?なんでですか?」
「いやいや、気を悪くしないでくれよ。君の言動と性格がそういう事をされてしまった人々に酷似してたからさ。」
「ああ、いいですよそんな事気にしなくても。そうですね、昔捨てられちゃったってのはありますけどそれ以外でそんな経験はありませんね。」
「そうか、なら良いんだ。でも、それならば尚更自虐的な言葉遣いとその敬語はやめた方がいいぞ。」
「そうですか?」
「うむ。」
「わかりました気をつけます。」
「授業始まるよ~。」
優祐は慌てて自分の席に戻る。

「その言葉は他人も自分も傷つけるだけだからな。」
最後の凜の呟きは誰にも聞こえていなかった

441:292
07/07/21 23:49:05 MNYU0coS
神作品がたくさん来てますね。是非とも見習いたいです。
作者の方々GJです!!!

続きです。
前投下分で鈴菜の名前が鈴華となってる部分がありますが、武田鈴菜です。
間違ってしまい申し訳ありません。
ということでまだまだ落とさせてもらうのでよろしくお願いします。

442:名無しさん@ピンキー
07/07/22 05:15:58 tZ3PA1rC
いいねいいね~GJ!!
さてどんな過去があったのやら・・・

443:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/24 20:25:19 9ao+v+3p
こっそり。

>191-195
>199-203
>224-227
>236-240
>262-267
>317-321
>424-429
の続きを投下。

444:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/24 20:27:58 9ao+v+3p
 同じ価値観を持つ人に、出会えることの幸せ。


08:Changing Seasons


 本を閉じて、一つ、ほぅ、と溜息。噛み締めるは物語。そこに描かれた人々の想いと心が、全身に染み
渡るのを感じながら、忍はもう一度、最初のページを開く。
 なんて優しい物語。忍は一つ一つの文字を大切に、慈しむように目で追う。
 この本に出会えて良かった。しみじみと幸せを噛み締めながら、忍は、読み終えたばかりの小説を、
もう一度、愛し始めるのだった。
 時を忘れて。

 そしてふと思う。
 この本を、あの人は知っているのだろうか?
 もしも知らないのならば、知って欲しい。
 世界にはまだ、こんなにも素敵な本があるということを。

 あの人とは正宗のこと、ではなかった。
 忍が思い描いたのは、一つ年上の少年の姿。つい最近に初めて出会ったばかりとは思えない程、
彼女に近しくなった人。


 そもそものきっかけも、やはり本を通してだった。場所が図書室というのも、出来すぎといえばそうだが、
ある意味、当然のことなのかもしれない。
「……あ」
 いつものように放課後を本を読んで過ごそうと向かった図書室、その入り口。扉を開けようとして、廊下
の向こうから歩いてくる彼の姿に気付いて、忍は思わず小さく声を漏らした。
「おう」
「どうも」
 軽く片手を上げてくる吉川亮太に、彼女は小さく目礼する。近付いてきた彼は、その顔に小さな笑みを
浮かべている。
「やっぱり図書室か?」
「そうですけど……やっぱりって?」
 先日、知り合ったばかりの筈なのに、まるで旧知かのような亮太の言葉に、忍は軽く目を見開いて
怪訝な顔つきになった。
「黒後家蜘蛛の会」
 返って来た答えに、一瞬、キョトンとした後、それが彼女がつい先日に読んだ本の名前だと気付く。
「前にここで借りて読んだろ?」
「え、あ、はい」
「貸し出しカードに名前があったからな。何となく、覚えてた」
 それだけじゃないぜ、と小さく笑いながら、彼は続けて幾つかの本の名前を挙げた。どれもこれも、
忍がここで借りて読んだことのあるものばかりで、さすがに息を飲む。
「よく見つけましたね」
 驚きに目を丸くしながら言うと、亮太は小さく肩をすくめて、たまたまさ、と呟く。
「けど、たまたまにしたって、こうも自分と同じ本を読んでるとなると、少しは気になるもんだ」
 言った後、小さな苦笑交じりに続ける。
「それも、マイナーであんまり知られてない本ばかりだから、余計にな」
 彼の言葉に、思わず、忍も吹き出してしまった。
 確かに彼女が借りる本は、どうしてこの本が図書室にあるのだろう、というようなものが多い。あまり
知られていない作家のものや、あるいは有名な作家が書いた無名のシリーズものなどだ。
 元々、それほど本が好きな生徒が少ない学校なのか、忍の前に借りられたのは、五年や十年も
前という本も多い。確かに、それだけマイナーな本を借りようとした時、つい最近、同じように借りた
人がいたのならば、その名前を覚えていてもおかしくないかもしれない。

445:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/24 20:28:49 9ao+v+3p
「吉川先輩も、マイナー好きですか」
「マイナーだから好きってわけじゃなくて、好きな本がたまたまマイナーなだけだ」
 並んで席に座りながらの忍の言葉に、亮太は軽く目を吊り上げながら反論する。が、それは決して、
不快に思っているからではなく、むしろ楽しげに彼女には見えた。
「じゃあ、あの本とか読みました?」
 忍の挙げたタイトルに、彼は首を横に振る。そして、
「面白いのか?」
「ええ。今までの本、ああ、私と被った本ですけど、それが楽しめたなら、面白いかと」
「ふぅん? まぁ、それなら読んでみるか」

 その日、忍は結局、一度も本を手に取ることなく図書室で放課後を過ごした。二人以外、他に誰も
いないことを幸いに、延々と好きな本の話題と情報交換をしていたから。


 時計の針が、てっぺんで重なる。さすがにそろそろ眠くなってきて、忍はベッドに横たわった。
 時々、美幸が遊びに来ては、女の子らしくないと呆れるほど機能的に整頓された部屋には、所狭しと
本棚が設置され、多くの本が並べられている。目を閉じる前に、適当に本をとってパラパラとページを
めくるのがいつもの彼女の癖なのだが、今夜はそうする気にはなれなかった。それだけ、今日、出会った
本が心を暖めてくれたからだ。
 ほぅ、とまた溜息をついて天井を見上げながら、宙に描くのは彼のこと。
 吉川亮太。
 今まで、彼ほどに話が合う人はいなかった。正宗も、美幸も、こと読書に関しては、まるで彼女と趣味が
合わなかったから。どれだけ忍がいい本だから読んでみて、と勧めようと、苦笑いと共に、いつかね、
とかわされるだけだった。
 仕方ない、と忍も頭では理解している。人の好みの問題だから。押し付けることは良くない。
 ただ少し、寂しくもあった。同じ話題で盛り上がりたい、いや、同じ感情を共有したいと思っていたから。
 知って欲しかったのだ。こんなにも素敵な世界が、本の中には描かれているのだということを。もし
それを分かち合えたら、どれだけ楽しいだろう。
 だが正宗達には、彼女の願いは伝わらなかった。幼馴染達に対して忍が感じる唯一の不満は、そこ
だった。もっとも、そんな不満を吹き飛ばしてしまうほど、彼らと過ごす時間は楽しいものだったのだけれど。
 それでも、不満があったのだ。

 そこに現われたのが、一つ上の先輩である吉川亮太だった。
 彼は、わかってくれた。彼女の世界観を。
 彼は、理解してくれた。彼女が望む物語を。
 彼は、わかちあってくれた。彼女が感じた想いを。
 それがどれだけ楽しくて嬉しいことかを、忍は言葉に言い表せられない。

 だから忍は、最近、放課後に足繁く図書室に通うようになっている。彼と、吉川亮太と本の話をすることが
楽しかったから。

446:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/24 20:30:27 9ao+v+3p
「なんか最近、忍、一緒に帰ってくれなくなったよね」
 ポツリと呟いたのは、美幸だった。目を伏せた彼女は、その唇を小さく尖らせている。
「図書室に行くって言って、放課後もすぐにいなくなるからな」
 答える正宗も、どこか落ち着かないと思う。喫茶店コールド・ストーンに三人で来るといつでも、美幸の
隣には忍が座った。そうして、美幸が喋り、正宗が受け、忍が冷静につっこむ、というのが当たり前に
繰り返されてきた風景だった。
「なんだかね、隣がスースーする感じ」
 とても感覚的な言葉だったが、彼にもそれは理解出来る。これだけ長い間、忍が二人から離れて
行動したことはなかった。だから、彼女がいる筈のスペースが空いていることが、ひどく不自然に思えて
しまうのだ。
 実際、それは正宗や忍だけに留まらず、この店で働く由梨もまた、
「忍ちゃん、最近、どうかした?」
 と心配そうに尋ねてくるほどなのだ。
 何となしにざわめく気持ちを振り切るように、努めて明るく彼は振舞う。
「よっぽど好きな本があったか、長いシリーズにはまったかだろうな」
「……ホントに本なのかな?」
 美幸が呈した疑問に、正宗は怪訝そうに眉を顰めた。
「どういうことだ?」
「例えばさ、好きな人が出来たとか? こっそり付き合ってるとか? だから一緒に帰れないとかっ」
 考えているうちに盛り上がってきたのか、疑問系が最後は断定になる少女を、彼は目で抑える。
「落ち着け。勝手に妄想してやるなって」
「む、ゴメン、ゴメン。でも、ホントにそうだったらどうしよー。やっぱ応援したげないとね」
「だから、決め付けるなって。あんまりそんな風には見えなかっ……」
 言いかけて、口ごもる。考えてみれば、いつもの本の虫の病気だと思っていたが、以前とは違って
最近の彼女は楽しそうに見えた。図書室に向かうのも、本以外に目的があるかのようで。
 もしかして……?
「まぁでも、私達に何も言ってこないんだったら、こっちからも何も言わない方がいいのかな。実際は
どうだかわかんないわけだし」
「あ、ああ。そうだな」
 熱くなった時と同じように、唐突に冷静になる美幸の言葉に、正宗は翻弄されながらも、なんとか
頷き返す。
 それでも、ほんの少しだけ、一瞬だけ。心は、捉われていた。
 もしも、忍に好きな人が出来たら……?
 胸の奥に砂を撒かれたような、微かな不快を覚える。ザラザラと流れる砂が、小さな傷となって心を
痛めてきた。
「でさ」
 その不思議な違和感は、しかしすぐに目の前の少女の笑顔に吹き飛ばされた。
「今度のデートだけどさ」
「ああ」
 デート、という言葉を、何とか彼は左から右へと受け流す。受け止めてしまったら、きつく結んだ口が
ゆるんでしまいそうだったから。
 勿論、デートと言っても、本当のデートではない。以前のお願いの一環だ。彼女が好きだった男子と、
その彼が好きになった女子。それに美幸と正宗の、四人で出かけようと言うのだ。見方によっては、確かに
ダブルデートと言えなくもない。
 もっとも、ただ響きだけが良くても、意味がない。美幸と正宗は、確かに二人でいることが多くなるだろうが、
それは決して文字通りの意味ではないだろうから。
 例えば、もしもここに忍がいたならば、きっと彼女も巻き込まれていたことだろう。そうあってくれれば、
と思う部分があるあたり、正宗自身、単純に喜んでいるわけでは決してなかった。
「一応、カラオケとか予定してるんだけど、二人が適当にいい感じになったら、私と正宗は抜け出すって
ことで」
「うまくいきそうなのか?」
「多分ね」
 あっさりとした美幸の言葉に、そうか、と正宗は頷く。
 彼女がそう言うのならば、きっと大丈夫なのだろう。
 美幸が確かに愛を繋ぐキューピッドだということを、彼は知っていた。彼女が応援した二人で、付き
合わなかったカップルは今までになかったのだから。

447:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/24 20:31:10 9ao+v+3p
「……」
「ん? なに?」
「いや、なんでもない」
 まじまじと見つめたのに気付かれて、正宗はゆっくりと首を振って目をそらす。
 そのキューピッドの力は、幸か不幸か、美幸自身には向けられていない。全て、他人の為に使われている。
 幼い頃からいつだって、そうだった。
 人の幸せを、無心に祈ることの出来る子供だった。
 少しずつ成長するにつれ、時には傷ついた姿を見せた時もある。それでも彼女は、立花美幸は、他人の
笑顔の為になら自分が痛むことさえ恐れなかった。
 以前、彼女が言った言葉が本当のことだと、彼は知っている。
 好きな人が幸せなら、それで満足。その優しさと強さを、彼は好きになったのだ。
 だから思う。自分もまた、彼女のようにありたい。美幸には幸せであって欲しい。
 コーヒーを飲んで、一つ、間を置いて。
 改めて正宗は、目の前の彼女を見る。

 彼は、しかし思うのだ。自分が、彼女を幸せにしたいと。

 幼い頃から知っている、彼女の全てを好きだから。



 幼馴染の二人の、そんな語らいを知る由もなく。
「ってわけで、この本がお勧めなんですけど」
「へぇ? じゃあ、借りてみるか」
「そっちはどうでした?」
「すごくいい、ってわけじゃないな。でも、読む価値はあると思う」
「じゃあ、借りてみます」
 忍は今日も亮太と、図書室で話し込んでいた。お互いに本を薦めあい、感想を互いに述べ、徐々に
相手のことを知っていく。

 いつか、二人の名前が連なって書かれた貸し出しカードを持つ本は、少しずつ増えてきていた。

「あれ?」
 そして、それを見つけたのは、忍だった。
 予備校に通うと言って、一足先に帰った亮太を見送った後、読みかけの本を借りようとした彼女は、
貸し出しカードを取り出した瞬間に、カードのポケットから折り畳まれたルーズリーフが落ちたのに気付き、
それを拾い上げた。
 随分と古く、わずかに黄ばんだそれを何気なく開いた忍は、柳眉を顰める。

 それは、手紙だった。
 ――想いの、こめられた――

448:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/24 20:34:33 9ao+v+3p
入り組んで参りました。



>433
姉はまた登場予定です。最強かどうかは、その時にまたw



ゆっくり過ぎて、なかなか進まない物語ですが、またお付き合いいただければ
と思っています。

ではどうか、よろしくお願いいたします。

449:名無しさん@ピンキー
07/07/24 22:21:34 VctlsO0I
>>448
GJ!やはり先輩との間にフラグが。色々と濃厚かつ濃密に絡み合ってきたな(語弊あり)

450:名無しさん@ピンキー
07/07/24 22:47:37 2FrW/JTk
今回も面白かったです。
この先どう転ぶのかもう心配で心配で・・・
でも楽しみっす!!

451:名無しさん@ピンキー
07/07/24 23:49:08 PtnpCFzU
ふいーー。
今回も楽しませてもらいました。
最近の話の流れのせいか、美幸と正宗よりも忍と先輩のほうが気になってしまう俺。


忍と先輩の関係をどっかでみたことあるなと思ったら、ジブリの『耳を澄ませば』ですね。
こんな二人がいた気がします。気のせいだったらごめんなさい。

452:名無しさん@ピンキー
07/07/25 00:00:02 X4oR67vU
ありゃアマサワが本好きの雫の気を引くために片っ端から借りるというストーカー行為だ。
イケメンがやったから美談になってるがな。

453:名無しさん@ピンキー
07/07/25 04:32:17 DGXcwKNa
保守

454:名無しさん@ピンキー
07/07/25 06:03:32 8UAUys8p
あ、そんな話だっけか。
やっぱうる覚えで書くのはよくないな。すまんかった。

455:名無しさん@ピンキー
07/07/26 00:00:11 7lYQrQcv
うる覚えと書いてあるのをみると(ry

456:名無しさん@ピンキー
07/07/28 05:28:45 kRXIr/kH
保守

457:名無しさん@ピンキー
07/07/28 23:04:41 McXou9ea
ほしゅ

458:名無しさん@そうだ選挙に行こう
07/07/29 09:47:37 D4kyLE8O
保守

459:名無しさん@ピンキー
07/07/30 18:29:31 2rbsrmsD
ホシュ

460: ◆QiN.9c1Bvg
07/07/31 10:24:45 CD254AAH
ちょっと書きたくなりまして、初投下させて頂きます…

461:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/07/31 10:28:03 CD254AAH
序章『かずみとゆうき』



 その子は女の子みたいだった。
 私は彼を妹のように捉えていた。私はその妹を守る兄のような存在だった。窓ごしに会話出来るほどに
家が近かった、という地理的な要因も存在していた。
 その子は体の線が驚くほど細くて、ちょっと走るだけですぐ疲れるような子で、気が弱くて、あたしがいつも
傍に居て守ってやらないといけないような、そんな感じだった。
 名前も
『和美』
なんていう女の子みたいな名前が一層拍車をかけている。和美が名前と外見のことについていじめられていた
記憶が今も印象に残っている。で、それを助けていたのはいつもあたし。当時は空手を習っていたのもあって、
あたしは喧嘩が強い男気のあるガキ大将的存在だったのだ。
 で、助けてやると、
『ひっ、うぐ…うっ、勇希ちゃん、ごめんね…』
 とゆうようになきべそかきながらあたしに謝るのだ。

462:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/07/31 10:30:05 CD254AAH
『あのねぇ、あんたも男ならシャッキリしなさいよ』
 いつもこんなやりとりをしていた。
 そんなある日のこと、学校で将来の夢を作文に書いて発表する課題があった。あたしはスポーツ選手に
なりたいとかそんな感じのことを書いた記憶がある。そして、和美の番になって、和美は少し皺のよった
作文用紙を開いて読み始めた。
『しょうらいのゆめ いちねんにくみ しまもとかずみ
 ぼくのしょうらいのゆめは、つよいひとになることです』
『ぼくはちからもなくて、よわむしで、よくおんなみたいっていわれるけど、おおきくなったらヒーローみたいに
カッコよくなりたいです…』
 その作文が印象に残ったあたしは、その日の帰り道、和美に尋ねた。
『ねぇ、今日のあの作文…ほんとにつよいひとになりたいって思ってるの?』
『うん! ぼくね、つよいひとになって勇希ちゃんを守れるようになりたいんだ!』
『なんで?』
『昨日見たテレビで「男の子は女の子を守ってやらなくちゃいけない」っていってたよ』
『和美はバカねぇ、それは古いかんがえよ、だんじょさべつよ』
『え、えぇ? そ、そうなの?』
『そうよ』

463:防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg
07/07/31 10:32:14 CD254AAH
『じゃあ、僕どうしたら…』
 あたしはまた泣きべそをかきそうになっている和美に溜息をつきながら言った。
『なら、あたしを支えてよ』
『え?』
『昨日見たドラマでね、言ってたの。人っていう字は支えあってできてるんだって。だから、和美はあたしを
支えて。あたしは和美を守るから』
 今思えば、あたしって完全な思いつきであの頃生きてたんだな…ドラマで言ってたからってそう言うなんて。
よく考えたら前後の話の関連性が無いような気もするし…
 でも、その時の和美は笑顔で、
『うん、わかった!』
と言って大きく頷いた。
『ぼく、おおきくなったらつよいひとになって、勇希ちゃんをささえるよ!』
『なら、ゆびきり。これをしたらもう約束をやぶっちゃいけないんだからね』
『うん、約束』
『ん』
 …ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます…ゆびきった
『約束』
『うん』
 その後、あたし達は手を繋いで家に帰った。
 そんな遠い日の、はじまりの、記憶…

464: ◆QiN.9c1Bvg
07/07/31 10:35:21 CD254AAH
投下終了

というわけで、唐突に初めさせていただきました。
プロローグとして回想的にしたかったので、いささか読みにくくなってしまいましたが、ご容赦ください。
この主人公の名前は「和美:かずみ」と「勇希:ゆうき」です。
できればお楽しみください。これから少しの間よろしく願います。

465:名無しさん@ピンキー
07/07/31 16:04:45 G8taV9eI
おぉ!!wktkです

でも1回の投下が少ない気が

466:名無しさん@ピンキー
07/08/02 00:20:26 szmnMizq
続き待ってます

467:名無しさん@ピンキー
07/08/02 00:42:15 9HdB5Iwv
とりあえず全員レイプされて欲しい。

468:名無しさん@ピンキー
07/08/02 01:39:09 eDLjoleO
これは期待せざるを得ませんな!

469:名無しさん@ピンキー
07/08/03 03:56:50 sgWGPtda
保守

470:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/03 22:33:34 iOJ++a4Y
またまたこっそり。

>191-195
>199-203
>224-227
>236-240
>262-267
>317-321
>424-429
>444-447
の続きを投下。

471:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/03 22:34:28 iOJ++a4Y
 時を越えた想い。



09:A Seclet Letter



「正宗」
 昼の休み時間。ジュースを買いに一人、廊下に出た彼に声をかけてきたのは、塩崎忍だった。
「ん?」
「あ……うん」
 振り返った正宗は、いつも通りの顔をしていたつもりだったが、何故か、忍は口ごもる素振りを見せる。
呼びかける時に挙げたのだろう右の手を、グーパーグーパーと繰り返して、そのまま彼女は下げてし
まった。
「……? どうかしたか?」
 訝しく思いながら問いかけた彼は、彼女が左の手に本を一冊、持っていることに気付く。タイトルまでは
わからなかったが、表紙に描かれた主人公の絵から、つい先日、忍が勧めてきた本だろうと見て取る。
確か、『私』というだけで名前のわからない少女を主人公に据えた、短編ミステリー集と言っていたか。
「いや、その、ね……今日も、美幸と一緒に帰ったりする?」
 そんな彼の様子に気付かなかったのか、しばしの逡巡を見せた後、思い切って彼女は口を開く。
 なんだろう。ふと、正宗は思った。忍の素振りが、いつもと違って見えたのだ。どこかおずおずとして
いて、距離を置かれているような。
「ああ、そのつもりだけど。忍も久しぶりに、一緒に来ないか? 美幸も、寂しがってたし」
 違和感を払拭すべく、いつもより柔和な表情を心掛けるが、忍は一瞬、目を見開いた後、軽く顔を伏せた。
「……そっか。ありがと。でも、今日は無理。ごめん」
 次に顔を上げた時には、彼が知るいつもの彼女の表情だった。つまり、あまり愛想の無い無表情。
「元気なんでしょ? 美幸」
「ああ、勿論。余計なことに首を突っ込んで、張り切ってるけどな」
「正宗も大変だね、振り回されて」
 シニカルに笑む忍に、正宗は肩をすくめる。声音も、言葉も、その内容も、いつも通り。だから彼は、
先ほど感じた違和感は、何かの勘違いだったかと思う。
「で、忍は何の用だったんだ?」
「大したことじゃないよ。ちょっと手伝ってもらおうかと思ってたけど、美幸の方に付き合ってあげて」
「何だよ? 別に、両方だって……」
「いいよ、ホント、つまんないことだったからさ。呼び止めてゴメン」
 この話はもう終わり、とばかりに身を翻して教室に戻る彼女に、正宗は首をかしげながら、ジュースを
買いに向かったのだった。

472:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/03 22:35:29 iOJ++a4Y
 放課後の図書室には、まだ誰も来ていなかった。
 鞄をいつもの場所に降ろして、席に座る。そして忍は、ノートに挟んであった紙切れをもう一度、広げて
みた。
 かなり黄ばんでいて、時の流れを感じさせる紙に書かれているのは、シンプルな、しかしまるで意味が
わからない言葉の羅列。

『H.TからR.Iへ
 亀な嫁産め なほ産めかごめ 粉舐めると難』
 
 紙の横に置かれるのは、正宗に話しかけた時に持っていた本。昨日、彼女が借りた北村薫の『六の
宮の姫君』という本。貸し出しカードと一緒に挟まれていた紙切れだった。
 手紙、であることは間違いないだろう。H.TとR.Iというのは、恐らくイニシャルのことだ。
 書いたのは、恐らく男だと忍は思う。丁寧に書かれているが、角ばっていて、女性らしさは感じられない
文字だったから。
 後は……よくわからなかった。いや、よくどころではない。何もわからなかった。
「亀な嫁産め、なほ産めかごめ、粉舐めると難」
 口に出して呟いてみる。韻を踏んでいるようにも思えるが、歌や詩というわけではなさそうだ。少なくとも
彼女は見たことも聞いたこともない。第一、響きの収まりが悪い。
 そもそも、この文章に意味があるのだろうか。忍はこめかみをトントンと人差し指で叩きながら、眉間に
皺を寄せて考え込む。
 手紙であるならば、意味はあるはずだ。伝えたい内容が。
 それを知ってどうしようと言うのだろう。彼女の中の冷静な部分が囁く。人の手紙を盗み見るのは、
倫理的にまずいのではないか。
 けど恐らく、この手紙を送った人も、送られた人も、この学校にはいない。何しろ、この紙の黄ばみ具合を
見るに、一年や二年前というわけではないだろう。だから、構わない。もう一つの声がそう反論する。
 それは昨日から何度も、彼女の頭の中で繰り返されている議論だったが、優勢なのは後者の方だった。
 もしかしたら、届けられなかった相手を探し出して、渡すことが出来るかもしれないし。
 苦しい言い訳だと自覚しながらも、忍はそう思うことで自分の行為を正当化していた。
 逆に言えば、彼女はそれだけ、この謎が気になって仕方なかったのだ。謎そのものもそうだが、図書
カードに入れて伝えようとしたその手段に、一体どんな人が考えたのだろう、という興味が湧いていた
からだった。
 とはいえ、いかんせん、一人では糸口すら見つからない。忍は推理小説を愛読していたが、それと
自分が推理するのとではまた別物だということを、改めて彼女は感じる。
 だからこそ、相談がしたくて正宗に声をかけたのだが。
「…………」
 知らずこぼれる溜息、胸の奥には微かな痛み。
 元より、三人で謎を解こうと言うつもりだった。なのに、いざとなるとその言葉は出てこなくて。
 何故かは、彼女自身にもわからない。ただ、正宗が美幸の名前を口にした時、表情を柔らかくした
ことが辛かったのかもしれない。
 以前より、二人の距離は近付いているんじゃないだろうか。そんな風に想像してしまう。ただの妄想だと
わかっていても、なお。
 忍は、軽く頭を振って、短い前髪をかきあげる。気持ちを切り替えよう。今はこの暗号の手紙のことだけを
考えよう。そんな風に自分に言い聞かせる。
 何より、恐らく正宗達よりも、相談に乗ってくれそうな人がいるのだから。
「相変わらず、早いな」
 少女一人きりの図書室の沈黙。それ破って声をかけてきたのは、ちょうど彼女が考えていた人物だった。
扉の方を見て、小さく頭を下げながら、忍は小さく微笑み、そして言った。
「こんにちは、吉川先輩。ちょっと相談があるんですけど」

473:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/03 22:36:32 iOJ++a4Y
「じゃあ、静香。待ち合わせは明日の十一時、駅前でいいかな?」
「うん。いいよ」
 長い黒髪に手をやりながらはにかむ少女の様子に、美幸の顔にも自然と笑みが浮かぶ。頬をほんのりと
染めた彼女は、確かに可愛くて仕方ないものだった。
「楽しみだね」
「うん、楽しみ」
 自然と口をついて出てきた言葉にも、少女は素直に頷いて返してきた。美幸は笑みを深くすると同時に、
思う。きっと、うまくいく、と。
 今頃、正宗もまた同じように、友人と明日の予定を確かめ合っていることだろう。
 そう、明日は、以前から計画していたダブルデートの日だった。無論、建前は皆で遊びに行くだけだ。
だが始まれば、正宗と美幸と残り二人、という風に自然に分かれることになるだろう。
 後は、いなくなるタイミングかな。
 明日の服を考える少女、静香の嬉しそうな横顔に目を細めながら、美幸は思う。予定ではカラオケの頃
なのだが、もしかしたらもっと早くなるかもしれない。なにしろ、思った以上に静香は乗り気で、楽しそう
なのだ。カップル成立は確かだろう。
 美幸が、まったく寂しさを感じないと言えば、嘘になるだろう。正宗と共に来る少年は、ひとときとはいえ、
彼女が想いを寄せた男なのだから。
 それでも美幸は、彼が想いを寄せた少女もまた、彼を好きだと言う事実が嬉しい。
 好きな人には笑顔でいて欲しい。幸せであって欲しい。それは立花美幸の、偽らざる本音だったから。
「そういえば、明日は九条君も来るんだよね?」
「正宗? 来るよ。それがどうかした?」
「ううん、別に。ただ、九条君の私服姿って、あんまり見たことないなぁ、って、ちょっと思って」
 彼の私服姿を想像しているのだろうか、わずかに視線をあげて静香は天井を見ながら小さく笑う。
「すごく、カッコいいんだろうね」
「んー。そうかな? 普通だと思うけどね」
「それは美幸ちゃんが見慣れてるからだと思うな」
 言われて、彼女は首を傾げる。否定しているわけではない。カッコいいとは思っているが、すごくと言う
ほどではない気がしたのだ。
「じゃあ、美幸ちゃんは目が肥えてるってことで」
「それも違うと思うんだけどなぁ……っ」
 やや途方に暮れたように言葉を継いだ美幸だったが、廊下の向こうから近付いてきていた現国の教師、
佐野の存在に気付いて言葉に詰まる。
 冷ややかな光を目に浮かべながら近付いてきた彼女は、チラリと二人を睥睨してから、
「また、男の子達と遊ぶ相談かしら?」
「えぇ、まぁ。男友達と、出かけようって話です」
 咄嗟に出た一言は、美幸の苛立ちがストレートに現われたものだった。以前から彼女に対して感じて
いた反感が、この瞬間にピークに達したのだ。
 彼女の鋭い言葉を、しかし、佐野はそう、と頷いただけで受け流す。それでも、美幸を見つめる視線は、
決して緩んだわけではなかった。一人、静香だけが、二人の間に漂う異様な空気に戸惑っている。

474:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/03 22:37:10 iOJ++a4Y
「まぁ、あんまり楽しみ過ぎて、羽目を外さないように。それから勉強もしっかりとね」
 先にそう譲ったのは、佐野だった。捨て台詞のように言い残して、彼女は廊下を再び、歩いて行く。背筋の
ピンと伸びた、いかにもな女教師の後ろ姿に、美幸は顔をしかめる。完璧だからこそ、嫌味に思えたのだ。
「何かあったの? サノセンと」
 不思議そうに尋ねてくる静香に、少女は肩をすくめた。たいしたことじゃないんだけどね、と前置きをして、
つい先日に呼び出された時の話をする。
「別に私達がどんな風に過ごそうと、勝手だよね」
 女子高生なんて期間限定なんだから、と口を尖らせる美幸に、静香は困ったように笑いながら、そうだね、
と言って首を縦に振る。
「でも、もしかしたら、あの噂のせいかも」
「ん? 噂って?」
「サノセン、最近、恋人とうまくいってないだって。別れるとか、電話で話してるのを聞いちゃった子がいる
とか」
 噂だけどね、とさらに声を潜める静香に、彼女は渋い顔をした。
「何それ。八つ当たり? ひっどいなぁ」
 私なら絶対に、そんなことしないのに。
 美幸は心の中で言う。
 例え好きな人に好きな人がいても。その相談を受けて、協力して、カップル成立まで導いても。
 辛いと思わないわけじゃない。
 それでも、耐えてる。恋愛の、自分の痛みは、自分にしかわからないもの。
 八つ当たりなんてしない。そんなのは、醜いだけだから。
「美幸ちゃん?」
 沸々と沸く苛立ちを、美幸は首を振って一掃した。次の瞬間には、明るい笑顔になる。
「なんでもないよ。それより、明日のこと、しっかり考えとかなきゃ」
 つまらない人のことは、忘れよう。そう決めて、佐野のことを頭の片隅に追いやって彼女は、楽しい明日の
計画を決めるのに没頭し始めたのだった。

475:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/03 22:39:10 iOJ++a4Y
「なるほどな」
 手紙を手に取って、亮太は眉を顰めていた。
 図書室には、いつもの二人。吉川亮太と、塩崎忍。だがその様子は、いつもとは違う。
 肩を寄せて覗き込んでいるのは、一枚の紙。そう、忍が見つけた手紙だ。

『H.TからR.Iへ
 亀な嫁産め なほ産めかごめ 粉舐めると難』

 図書室に後から現われた彼も、すぐにこの謎が気になり始めたらしい。穴が開くかというほど、じっと
その紙を見続けている。
「意味がわからんな」
「近いものとかでも、知りませんか?」
「俺の記憶にはないな、こんな変な文章は」
「じゃあ、見たままの文章に意味はないんですかね」
 二人揃って、眉間に皺を寄せる。何か解く鍵はないかと、手紙をひっくり返しながら表も裏も調べるが、
全くそのようなものは見つからなかった。
「手紙、だと思いますか?」
「だろうな。H.Tとか、R.Iってのは、イニシャルだろうし」
 忍が口にした疑問に、亮太が答える。と、突然、彼女は小さく声を出して笑う。
「ん? なにかわかったのか?」
「あ、いえ」
 やはり微笑みながら、忍は首を横に振る。
「昨日からずっと考えてたんですけど、一人だと煮詰まっちゃったから。やっぱり、誰か応えてくれる人が
いる方が楽だな、と」
「そんなもんかね」
 怪訝そうに答える亮太に、彼女は深く頷く。そうか、とだけ呟いて、彼は再び視線を手紙へと落とす。
さして興味の湧く話題ではなかったのだろう。忍もまた、それ以上、続ける気はなかったので、再び疑問を
口にする。
「手紙だとしたら、内容があるんでしょうけど……どんな内容だったと思います?」
「さぁな。けど、内容より先に、考えなきゃいけないことがあるだろ」
 亮太の言葉に、忍は目を瞬かせる。内容より先に、考えなきゃいけないこと? そんなこと、あっただろうか。

「あのな、手紙ってのは、届くように送るもんだろ、普通。目当ての人と全く違う奴に届いたってどうしよう
もねぇんだから」
「はぁ」
 そうですね、と頷いてから、首を傾げる。
「でも、これはそうじゃないですよね」
 紙の黄ばみから見ても、おそらく随分と長い間、貸し出しカードの裏に挟まっていた筈だ。そしてたまたま、
忍が手に取らなければ、きっとまだずっと気付かれることがなかっただろう。
 つまりこれは、届かなかった手紙なのだ。
 それを彼女が指摘すると、亮太は小さく頷いて答える。
「確かにな。けど、送り主になって考えてみろよ。届くはず、と思ってそこに入れたんだろ? でなきゃ、
なんでそんなとこに手紙を入れるんだ」
「……あ」
 なるほど、と忍は深く頷く。必ずこのR.Iに読まれると思ったからこそ、この送り主H.Tは、貸し出しカードの
裏なんて場所に隠したのだろう。そうでなければ、ここに入っていた説明が付かない。

「つまり、送り主は確信があったわけだ。相手がこれを借りて読む、っていうな」
「そうして見つけてもらおうと思ってた、と」
 ありうる話だと思って、彼女は深く頷いた。少し無茶な気がするが、そんな無茶をしても渡したいと思った
ものなのだろう。

「だとしたら、送り主は簡単だな」
「ですね」

476:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/03 22:41:12 iOJ++a4Y
 言いながら、二人は『六の宮の姫君』の貸し出しカードを手に取る。一番新しい借り手は塩崎忍。そして
その一つ上に書かれた名前は。
「戸塚秀人……こいつがH.Tだろうな」
 彼の言葉に、忍は頷いて、時を経て変色した彼のサインに思いを馳せる。一体、何を願いながら、彼は
この手紙を残したのだろう。
 きっとロマンチストだったのだろうな。彼女はまだ見ぬ男の人影を心に描く。純粋な思いで、書いたの
だろう。この手紙を。

「本当なら、ここに一人、間に挟まってるはずだったんだろうな」
 取り出したルーズリーフに戸塚秀人、塩崎忍と縦に並べて書き、その間に亮太はR.Iというイニシャルを
矢印で挿入する。一つ、謎が解けたというのに、彼の顔は曇ったままだ。
「ただ、なんでこの本だったか、が問題なんだよな」
 彼が訝しく思うのは、何故、この『六の宮の姫君』という本だったのか、というところなのだ。図書館には
他にも、たくさんの本がある。
 その中で、この戸塚秀人という男が、どうしてこの本を選んだのか。
 逆に言えば、どうしてこの本を相手が読むと思ったのか。そこがわからなかったのだ。

「ああ、それなら私、わかりますよ。どうしてこの本だったのか」

 事もなげにあっさりと言った忍の声に、彼は思わず勢い良く顔を上げた。
「マジでか!?」
「ええ。って、その前に吉川先輩、この本、読んだことないんですか?」
「芥川龍之介の書いた『六の宮の姫君』なら読んだことあるんだけどな」
 負け惜しみのように亮太は言ってみるが、彼女は、
「じゃあ、仕方ないですね」
 とあっさりと言って取り合わなかった。そして忍は、席を立って本棚の方へと歩いていった。つられて
亮太も立ち上がり、彼女の後を追う。
「この北村薫の『六の宮の姫君』って、芥川の書いた『六の宮の姫君』の謎を追うストーリーなんですよ」
「謎なんてあったのか?」
「読んだらわかりますよ」
 笑いながらそういなして、彼女は北村薫の本が並ぶ棚の前に立った。
「で、これの主人公が『私』ってだけで、名前が出てこない女の子なんですけど」
「ネームレス主人公、って奴だな」
「そうそう。で、彼女が出てくるのは、この本だけじゃないんですよ」
 言いながら忍が手に取ったのは、『空飛ぶ馬』『夜の蝉』『秋の花』と題打たれた三冊の本。
「ナンバリングがされてないし、全部、タイトルが違うから気づきにくいですけど、これ、『私』と探偵役の
〈円紫師匠〉が出てくるシリーズものなんです。『六の宮の姫君』は、その四巻目」
 私も、順に読みました。そう言いながら、彼女は三枚の貸し出しカードを取り出した。それぞれ、一番、
新しい名前は塩崎忍。二つ上には、戸塚秀人の名前。

「この戸塚って人は、こう考えたんじゃないでしょうか。自分と同じように、順番に読んでいっているなら、
きっとこの人……この女の子も、『六の宮の姫君』を読むだろう、って」

 塩崎忍と、戸塚秀人。二人の間に挟まっている名前は。

「井上玲子……イニシャルR.Iか」
「きっと彼女が、戸塚って人が手紙を届けたかった相手でしょうね」

477:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/03 22:42:38 iOJ++a4Y
「届け主と、送りたい相手はわかりましたね」
「ああ」
 席に戻った二人は、机の上に三冊の本を新たに重ねて置く。
 一歩前進、と言ったところなのだろう。まずは一つ目の山を越えた。
 だが、と彼女達はまた、頭を寄せ合って手紙を覗き込む。
「問題は、この手紙の内容だな」
「暗号……ですよね、多分」
「解けるもんなのかね、こいつは」
 溜息混じりに言う亮太に、忍は小さく笑って答えた。
「大丈夫ですよ、きっと」
「自信あるみたいだな。何かヒントでも見つけたのか?」
「いえ。でも」
 根拠はないですけど、と前置きをして、忍は前髪をかきあげながら言った。
「私一人じゃ、全く意味がわからなかったけれど、吉川先輩が一緒に考えてくれたおかげで、少しは謎が
解けましたから」
 だからきっと、大丈夫です。そう言う忍に、亮太は苦笑を返す。
「俺が考えたことなんて、たいしたことじゃないだろ」
「それでも、一人よりは二人ですから」
 チラリと、正宗の影が頭の片隅を過ぎる。彼に相談していたら、一緒に考えてくれただろうか?
 きっと考えてくれていただろう。忍はそう思う。
 先輩のようにあっさりと答えへの道筋を見つけはしなかっただろうけれど、それでも考えてくれていた
はずだ。
 彼女は、そう信じることにした。
「後は、本文だけですし。考えましょう」
 だから忍は、余計なことを考えるのは後回しにして、目の前の暗号を解くことだけに集中しようとしたの
だった。

478:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/03 22:48:48 iOJ++a4Y
謎解きものです。精一杯、無い知恵を振り絞ってひねくり出したのですが……

解答編はまた次回ということで。まぁそれまでに解けた方は、ニヤニヤしていて
おいて頂けるとありがたいです。



>449>450
濃厚に絡み合ってきて、自分で整理出来るのか、不安になってきたりもしますねw
でも頑張っていきたいと思います。

>451
私は実は『耳をすませば』を見ていないのですが、金曜ロードショーのナレーションか、
どこかの映画評で、確かにそんなことを言っていましたね……すっかり記憶から飛んで
いたのですが、指摘されて初めて気付きました('Д`)


ともあれ、今後ともどうか、よろしくお願いいたします。謎解き編も頑張って書いてきますー。

479:名無しさん@ピンキー
07/08/03 23:17:25 +UaUyctZ
GJ
GJなんだが、




頼む!ヒント!ヒントをくれー!!!いや、ください。
わかっているさ。これが禁句だっていうことは。
だがそれでも、それでもにやにやして待つ感覚を味わいたいと思ってしまうダメ人間である俺に愛の手を差し延べてくれる紳士はいませんか。

480:名無しさん@ピンキー
07/08/03 23:27:22 JfWs824K
にやにや。

481:名無しさん@ピンキー
07/08/04 00:09:26 tyl87zjg
>479
これでいいのかどうか…

日本語で書かれた暗号を解く時のいろはの"い"をやろう。

最後の文は略称。

頑張れ。


482:名無しさん@ピンキー
07/08/04 01:32:11 A8snMH1q
おお、今回は謎解きものですか。現在ニヤニヤ中です。先輩からの手紙ではなかったのね。
北村薫作品は少ししか読んだことないのでこれを機に読んでみようかな。
ダブルデートと図書館デート(?)、同時進行に胸ドキドキ。

そしてやっぱり忍はかわいいと改めて再認識。GJです!

483:名無しさん@ピンキー
07/08/04 04:12:27 R1zr3fZn
解けた・・・だが、この本文がなぜ「この行為」をすれば読めるようになるのかはわからない
なぜ「これ」を・・・

勘でやったら当たっちゃいました
ってやつだな

484:名無しさん@ピンキー
07/08/04 05:15:57 tUyQxvVK
解けた…久々に頭使ったよ

>>483
「この行為」の意味はあるよ

485:名無しさん@ピンキー
07/08/04 10:09:26 pZU7vY9Z
手紙の入ってた場所がポイントだと解釈しているが。

486:名無しさん@ピンキー
07/08/04 12:16:17 3Dg6fABj
解けねー!!!!!

487:名無しさん@ピンキー
07/08/04 21:21:45 /Q9E2gE4
三人を最初から読み直したら意味がわかった

488:名無しさん@ピンキー
07/08/05 01:28:20 //19ZoWH
おお、分かった。
続き楽しみです。

489:名無しさん@ピンキー
07/08/05 02:23:16 jzgbMqk6
どこかにヒントは有る
が、解いた後の最後の文だけ意味が取れないoooooorz

490:名無しさん@ピンキー
07/08/05 02:41:18 h9HA81Ww
だから最後の文は略称で最初から読み直せばわかるってことじゃね?

491:名無しさん@ピンキー
07/08/05 11:53:57 2f1Jaipl
ああ、やっと分かった。

492:名無しさん@ピンキー
07/08/06 04:02:52 I6jWA8cj
俺はシロクロを全力で待ち続ける
全力でだ

493:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/06 22:42:36 FEiRaZjJ
想像以上に問題を解くことに力を注いで下さった方がいらっしゃって、
嬉しい限りです。

皆様の暖かさに、幸せを感じながら、解答編を投下。


>191-195
>199-203
>224-227
>236-240
>262-267
>317-321
>424-429
>444-447
>471-477の続きです。

494:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/06 22:44:10 FEiRaZjJ
 答えを求める者がいる。何が謎かがわからない者もいる。



10:Truth



「悪いな、付き合せちゃって」
「別にいいさ」
 ひょい、と肩をすくめて、正宗は軽くそう答える。目の前の少年は、そわそわと落ち着かない様子を見せて
いて、彼は内心で少し苦笑はしていたものの、表には決して出さなかった。
「大丈夫だよな? ちゃんと似合ってるよな?」
「そんな心配ばっかしてないで、堂々としてろよ」
 正宗の言葉に、それもそうか、と大きく深呼吸をする少年の名は、高村衛。彼こそ、明日のダブルデートに
一緒に行くことになっている男だ。
 今、二人がいるのは、駅ビルの中のメンズファッションのフロア。高村の腕の中には、買ったばかりの
衣類が詰まった袋がある。
「けどホント、助かったわ、九条がいたお陰で」
 サンキュな、と言って彼が頭を下げるのには、理由があった。前日になっていきなり、着ていく服に自信が
ないから、一緒に見に行ってくれ、と助けを求めてきたのだ。仕方なく付き合った正宗だったが、結局、
あれやこれやとアドバイスをする羽目になり、軽い疲労を覚えていた。
 それでも、
「別にこれぐらいいいさ。俺も、自分の分を見たしな」
 正宗はまた一つ肩をすくめて、気にするなと答える。
 彼の心の中を過ぎるのは、一つの言葉。
『うまくいくよう、協力してあげてね』
 想う少女の言葉が、彼の指針だった。そうでなくとも協力はしただろうが、ここまで真剣に考えたかどうか。
 そんな本音を心の奥底に隠して、正宗はシニカルに笑う。
「けど、うまくいかなかったからって、俺が見繕った服のせいにはするなよ」
「そんなことするわけねぇだろっ」
 怒ったように言う彼も、勿論、先の言葉が冗談だとはわかっているのだろう。それでも尚、真剣に答える
高村の姿勢に、正宗はまた苦笑する。ただしそれは、多分に好感のまじったものだったけれど。
「ホント、立花にも九条にも世話になるよ。明日、うまくいこうがいくまいが、恩は絶対、倍にして返すからな。
何かあったら言ってくれよ」
 明日の打ち合わせの為にファーストフード店に入り、席に着いた瞬間、高村は真剣な面持ちでそう言った。
 三度、正宗は苦笑。それは彼に対してだけでなく、自分に対しても。
 いいヤツだな、と思う。思ってしまう。美幸がひとときでも好きになった男で、いわば恋敵だったというのに。
 美幸が恋する男って、皆、いいヤツなんだよな。正宗は心の中で呟く。男の彼の目から見ても、好感が
持てる男ばかりで、嫉妬することすら難しい。
 いや、本当は。
 敵わないと思ってしまうのだ。
 男として、勝ち目が無い、と。
 これまで、美幸の想いを受け入れた男がいないことにホッとしている。そんな小さな自分ごときでは、
器量で劣っている。正宗はそう思ってしまう。
 だからこそ、彼女に恋される程に、大きないい男になりたい。それが彼の願いであり、それ故に彼にとって
美幸の言葉は絶対だった。
 例え、どんなに無茶な願いでも、自分が傷付くことになったとしても、作為ではなく笑って、彼女や他人の
幸せを祈れる。
 そんな人間を、彼は理想としていたのだった。そして、目の前の少年は、少なくとも自分よりは理想に近い
位置にいるように思えたのだ。

495:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/06 22:44:48 FEiRaZjJ
「あぁ、そういえばさ」
 大体の予定も決まり、つまんでいたポテトの残りも少なくなってきた頃、思い出したように高村が言った
言葉に、正宗は眉を顰める。
「塩崎が来ないのって、彼氏が出来たとかだったりする?」
「彼氏……? 忍に?」
 予想外の言葉だった。いつか、美幸も口にしていたが、結局うやむやのままになっていた。
 それが、こんな形で再び、現われるとは考えてもみなかったのだ。
「あれ、知らない? お前なら知ってると思ってたんだけど」
「最近は、あんまり一緒に帰ったりしてないからな」
 正直に語る正宗の口調は、少し苦くもあり、言い訳じみてもいた。そして唐突に彼は、何とも言えない
違和感に捉われる。
「そうそう、それそれ。放課後さ、一緒に帰らなくなっただろ? この前、たまたま放課後に図書室に
行ったらさ、塩崎が男と楽しそうに話しててさ」
「男と? 楽しそうに?」
 軽い驚きに、正宗は目を軽く見開いた。忍と図書室というのはすぐに結び付くし、一人静かに本を読んで
いる姿は、容易に思い描けた。
 だが、楽しそうに男と喋っているとなると、まるで想像がつかない。そもそも彼女は普段、決して饒舌な方
でなかったから。
「ビックリするだろ? 相手は一個上の三年らしいんだけど、なんか笑いながら喋っててさ。俺、塩崎が
あんな風に笑うとこは初めて見た気がするな」
 正宗の中で、違和感が徐々に大きくなっていく。高村の語る塩崎忍は、彼の知らない人間のように思えて
仕方が無い。そんなことは、決してないのだろうけれど。
 不愉快というほど明確な気持ちではない。だが、正宗は、彼から聞かされた忍の姿に、自分の知らない
彼女の一面を感じ取って、何故か。
 何故か、心が微かに、ささくれだったのだった。

496:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/06 22:45:30 FEiRaZjJ
「ん?」
 ああだこうだと考えを述べ合うことにも疲れて、それぞれに考えを巡らし始めてから、十分が経った
だろうか。
 天井を睨んでいた亮太は、そう呟くと同時にルーズリーフに何事かを書き始める。
「わかったんですか?」
 忍がかけた声にも取り合わず、一心不乱にペンを走らせていた彼は、やがて会心の笑みを浮かべて、
「なるほどな」
 と、呟いた。
「解けたんですね?」
「ああ、解けた」
 今度の問いかけには、亮太は深く頷いて返してきた。おお、と感嘆の声をあげながら、彼女は教えを
請う。
「なんて書いてあったんですか? って、それより前に、どうやって解いたんですか?」
 結局、彼女にはまるで意味のわからないままだった。先に解かれたことは少し悔しくもあったが、その
解には興味があった。
「いいのか、教えて」
 亮太の意地悪な表情に、しかし忍は笑って首を横に振った。
「私、ミステリは探偵が謎を解き明かすシーンが好きなんです。自分が気付かなかったことを明らかに
されて、なるほどなー、って思えるから」
「そういうもんか」
 微かに彼は不満そうな素振りを見せたが、それはそれとして名探偵役をやることは楽しいようで、嬉々と
して解説を始めたのだった。
「キーは、やっぱりこの本なんだよ」
 言いながら亮太は、『六の宮の姫君』の本を手に取ってみせる。
「この手紙は、この本に入っていて初めて、解読出来るものだったんだよ」
「他の本だったら、絶対に読み解けなかったと?」
「絶対に、ってわけじゃないけどな」
 忍の問いかけに答えながら、彼は机の上に残りの本を広げる。北村薫の『空飛ぶ馬』『夜の蝉』『秋の花』
の三冊。
「こっちでも良かっただろうな。ああ、それから、この図書室の中にも、他にもたくさんあると思うぜ。手紙を
読み解くだけならな」
「……?」
 首を傾げて、マジマジと忍は四冊の本を見る。そして次に、ずらりと並ぶ本棚を。
 この中に、暗号を解読する鍵があるという亮太の言葉はヒントなのだろうが、彼女にはさっぱり、解の姿が
見えて来なかった。

497:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/06 22:46:08 FEiRaZjJ
「塩崎、この本の共通点って何だ?」
 亮太が指し示した四冊の本、その共通点を、思いつくままに忍は口にする。
「作者が北村薫、創元推理文庫、表紙の絵を書いている人が一緒、背表紙が黄色」
「外見とかじゃなくて、中身だよ、中身」
「中身ですか? 日常の謎を解いている、円紫師匠が出てくる、落語の話題が豊富……」
 そこまで言ってから、忍は彼がもどかしそうな顔をしていることに気付いた。
 ふと、思い出す。亮太はこのシリーズを読んだことがないのだった。
 なのに、共通点はと問いかけてきた。しかも、中身を。読んだことがないのならば、わかるはずもない
のに。知っていることと言えば、彼女が今日、彼に教えたことだけだ。
 それは、
「主人公が『私』ということ……?」
 おずおずと言ったその台詞に、亮太は大きく、深く頷いた。
 だがそれで満点というわけではないらしい。
「ああ。それを俺は、なんて言った?」
「ええと……」
 記憶を辿る。確か、彼はこう言ったのだ。
「ネームレス主人公、でしたっけ?」
「まさにそれだな」
 答えに気付いた時と同じように、会心の笑みを浮かべる亮太だったが、忍の目の前からは相変わらず、
霧が晴れない。
「ネームレス主人公が暗号を解く鍵、なんですか?」
「そういうことだよ」
 こともなげに彼は頷くが、彼女は眉間に皺を寄せるばかりだった。
 なるほど、確かにネームレス主人公ものは、北村薫のこの小説に共通するし、図書室を探せば同じような
ものがいくつもあるだろう。
 だがそれが鍵だというのか?
「あとほんの少しなんだけどな、わかるまで」
「焦らさないで下さいよ」
 降参とばかりに手を上げる忍に、しょうがないな、と言わんばかりに笑って、亮太はペンと新しいルーズ
リーフを渡してきた。

498:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/06 22:46:45 FEiRaZjJ
「ネームレスってそこに書いてみろよ」
 言われるがままに片仮名で『ネームレス』と書いて、亮太の苦笑に気付く。
「ああ、英語でですか」
「そうそう」
 改めて忍は、『nameless』と綴る。
「これで?」
「ネームレスってのは、名前がない、って意味だよな」
 言いながら新しく出したペンで彼は、『name』と『less』の間に線を引いた。
「で、次にこれをこうしてみる」
 さらに亮太は、『name』を『na』と『me』の二つに区切る。
「これだけなら、ローマ字読みで何て読める?」
「『な』と『め』ですね」
「そう。で、これを繋げて、強引に解釈すりゃ、『な』と『め』がない、意味にも取れるだろ?」
『na』と『me』と『less』。トントントンとリズム良く、三つの文字をペンで彼は叩く。
「確かに……」
 思わぬ展開に、忍は軽く目を見開く。亮太の言う通り、強引な解釈ではあるが、そう取れなくはない。
「これで、暗号を見るとだな」
 そんな彼女の反応に気を良くしたのか、楽しそうに彼はペンを動かし、暗号を区切りごとに縦に並べて
書く。

 亀な嫁産め
 なほ産めかごめ
 粉舐めると難

「で、全部、平仮名に直すな」
 言いながらその下に、亮太は書き足す。

 かめなよめうめ
 なほうめかごめ
 こななめるとなん

「これに、さっき言った鍵を使うと、だ」
 息を飲んで見守る忍の前で、彼は『な』と『め』の字に横線を入れて消していく。
 そして、浮かび上がった言葉は。

 か  よ う
  ほう かご
 こ   ると ん

「かよう、ほうかご、こるとん。これが手紙の内容だった、ってわけさ」
 現われた文章に、彼女はほぅ、と息を吐く。わかってしまえば、拍子抜けするほど簡単なことだった。
どうして気付かなかったのか、と不思議なくらいだ。
「たぬきの手紙の親戚、ってわけですね」
「そういうことだな。気付いてしまえば、なんてことはないんだろうが」
「気付けるかどうか、ってことですね」
 忍はうんうん、と何度も頷く。種明かしをされて初めて気付いた身としては、素直に驚くしかない。そして、
「すごいですね、吉川先輩。さすがでした」
 素直に、賞賛するしかない。
 亮太はそんな彼女の言葉に、面食らったような顔をした後、
「ありがとよ」
 真っ赤になりながら、小さな声でそう言ったのだった。

499:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/06 22:47:38 FEiRaZjJ
「けどな!」
 だが次の瞬間には、照れ隠しなのだろう、図書室に響かない程度に彼は声を張り上げる。軽く驚いた
忍は、危うく椅子ごと転びそうになった。
「だ、大丈夫か?」
「ええ、まぁ。それより、けど、なんなんですか?」
 大丈夫とばかりに軽く頷いた彼女が呈した疑問に、コホンと一つ咳払いをした後、亮太は最後の一文を
指差した。
「こるとん、ってのがわからないんだ。何か意味のある文章なんだろうけどよ」
「ああ、それなら私、知ってますよ」
「マジでかっ!? ……って、こういうの、今日で二回目だな」
 言って彼と彼女は、顔を見合わせて苦笑する。
「単に、たまたま知ってただけですって。先輩みたいに、頭を使ったわけじゃないから」
「別に、頭を使ったってわけじゃないけどな。勘だよ。で、それより、こるとんって何なんだ?」
 やはり照れ隠しもあるのだろうが、早く知りたいとばかりに身を乗り出して来る彼に、忍はあっさりと答える。
「コールド・ストーンって店があるんです。私の叔父がやってる喫茶店なんですけどね。随分、昔から
やってたから、使っててもおかしくないとは思いますよ」
 もったいをつけることなく、シンプルに告げた彼女に、なるほどな、と彼は頷く。
「コールド・ストーン、略してコルトンか」
 現われた『こるとん』の文字をじっと彼は見つめる。

 チラリ、とその横顔を盗み見た忍は、亮太の瞳の深さに気付いた。一体、彼はどんな想いを抱いている
のか、まるで読めないほどに深い。知らず彼女は、吸い込まれそうになる。

「行ってみますか?」
 ふと気付いた時には、忍の口からはそんな言葉が飛び出していた。あまりに自然だったので、彼女は
それが自分が言ったのだと最初、信じられないほどだった。
 とはいえ、考えてみれば、いたって普通のことだった。自分の叔父が経営している、などという話題が
出たのに、誘わないのもおかしい話だから。
「この店にか? ……行っても、しょうがないと思うけどな」
「現場百辺、って言うじゃないですか。もしかしたら、叔父が何か知ってるかもしれませんし」
 渋る亮太を、彼女は説得する。後になって、どうしてあそこまで強く言い張ったのか、と首を傾げるほどに。
「じゃあ、明日でいいか? 今日はこの後、ちょっと用事があるから」
「そうですね。じゃあ、明日、学校で待ち合わせをしてから行きましょう」
「まだ残ってたの。もう下校時間よ」
 念の為にと携帯番号やメールアドレスを交換していた二人は、突然に扉が開くと同時にかけられた声に、
驚いて振り向く。そこにいたのは、よく見知った女教師。
「なんだ、佐野先生か」
 ホッと安堵の息を吐く忍に、彼女は小さく苦笑を返す。最近、図書室に下校時間ギリギリまで残っている
ことの多い二人は、何度か佐野に見つかって怒られていた。といっても、彼女は真剣に怒っている風では
なく、本好きの彼らに一定の理解は示してくれていることを、忍も亮太も敏感に感じ取っていた。
 だからこそ、なんだ、等と忍は言えたのだけれど。
「まったく、二人して本に夢中になるのはいいけれど、下校時刻はしっかり守ってちょうだいね」
 責めるような言葉、しかし佐野の顔に浮かんだ表情は柔らかく、視線は暖かい。それに頷いて、忍達は
机の上の本を集める。『六の宮の姫君』は忍の鞄の中に、『空飛ぶ馬』を始めとする三冊は、亮太が借りて
読むことになっていた。
「はい、じゃあ今、帰ります」
「気を付けてね。まだ明るいって言っても、遅い時間なんだから」
 向けられた視線に、亮太はゆっくり小さく頷く。
「吉川君、途中まででもいいから、ちゃんと送っていってあげるのよ」
「勿論」
 当然のことと頷く彼に、また佐野は二人を交互に見つめて優しく笑うのだった。


500:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/06 22:48:10 FEiRaZjJ
「それじゃ、また明日」
「ああ」
 分かれ道でそう言葉を交わして、忍は一人、また歩き出す。
 今朝は手紙の意味がわからず、悩みながら歩いた道。帰りの今は、夕暮れに鳴く烏の声に耳を澄ます
ことの出来るほど、余裕がある。
 そして忍は、明日に心を飛ばす。彼の言う通り、きっと手がかりになるようなものは見つからないだろう。
だが、それでも。
「火曜、放課後、コルトン」
 歌うように彼女は呟く。イニシャルH.T、戸塚秀人は、あの手紙にそれだけを書いた。日付がないという
ことは、きっと毎週の火曜日、彼はコルトンで待ち続けていたに違いない。その間、何を思っていたのだろう。
どんな気持ちで、井上玲子という少女を待っていたのだろう。
 もしかしたら、自分も座っていたのかもしれない。彼がそわそわしながら、窓の外に目をやっていたのと
同じ席に。
 だから、行こうと思ったのだ。何もわからなくてもいいから、と。
 まだ見ぬ少年に思いを馳せるのも、悪くはない。待ち続けた彼のことを思うと、少し切なくなるけれど。
 そして、何より、吉川亮太と初めて長い、長い時間を共に過ごすのだ。
 同じ趣味を持つ人と話して過ごすのもまた、忍は楽しみだった。
 そう。
 自然と小さく、微笑んでしまうほどに。

501:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/08/06 22:52:47 FEiRaZjJ
以上、解答編を含んだ続きでした。自分の精一杯を出して考えた謎に対して、
多くの皆さんがそれを解かんと挑んで下さったことは、とても嬉しいことでした。


ただ、まぁ。

あっさりと解かれると、それはそれで悔しくもあったのでwww
次があるとすれば、さらに頭を振り絞って、謎を皆さんに提示出来ればとも思いました。
いつのことになるかわかりませんがw


>>479-491
重ね重ね、考えて下さってありがとうございます。それだけで幸せですw
なるほどな、と思っていただけるかどうかは別として、出来るだけフェアにしようと謎を解く
鍵を散りばめておいたのですが、いかがでしたでしょうか。
先に述べたように、次があればまた、よろしくお願いいたしますm(_ _)m


ともあれ、皆様。
これからもよろしくお願いいたします。

502:489
07/08/06 23:17:46 eGe0PE5n
投下おつです。

「こるとん」の意味だけ判らなかったけど、略称だったのね


503:名無しさん@ピンキー
07/08/07 00:50:20 vAag0Z5k
俺は暗号文を全部ひらがなにしてみれば「な」と「め」がやたら多かったので
抜いてみたら解けたというとても自慢できない解き方をしていたよw
そうかーnamelessか。なるほどなー

504:名無しさん@ピンキー
07/08/07 02:00:21 w27uB7nf
>>501
GJ!亮太先輩かわいいw正刻もちょっと複雑な心境?
佐野先生はこれからのストーリーに関わってくるのかどうか。目が離せません。

で、やっぱり言いたい。忍かわいいよ忍。なんだか生き生きしてきた。

505:名無しさん@ピンキー
07/08/08 05:43:36 CWX8CGvg
保守しとく

506:名無しさん@ピンキー
07/08/09 01:43:05 syRn2zM5

「ちょっ、待て、紗枝! 誤解だって!」
「誤解ぃぃ~~?」
「誤解だ! あれはたまたま道を訊かれて答えてただけなんだって!」
「へぇー……崇兄は道を訊いてきた女の人と腕組んだりするんだ」

 説明しよう! 二人は今、浮気詰問中なのだ!

「……ど、どこから見てた?」
「最初っから最後まで全部ー」

 しかもこれで、前回から数えて二度目なのだ!

「……今の発言、認めたと見なしてももいいよね」
「待て待て待て! 最初から見てたなら分かるだろ!? あれは向こうが
いきなりやってきて俺だってびっくりしたんだぞ?」
「へー…」

 男というものは、いつだって諦めと往生際が悪いのだ!

「どっちにしろ知り合いだったんだよね。初対面でそんなことする人なんか
いないもんね」
「いや、まあ、そりゃそうだが……」
「昔付き合ってた人達じゃなかったよね。あたしその人達の顔覚えてるし」
「そ、それも確かにそうだけど…」
「じゃあどこで知り合ったの?」
「あー……あぁ、えっとな、その…高校時代のクラスメイトだ」
「高校時代のクラスメイトの人が、久しぶりに会っただけで腕なんか組むの?」
「むぐ…」

 しかし、言い訳をすればするほど泥沼化するのだ!

「で?」
「……」
「ほんとはどこで知り合ったの?」
「……」
「言わないならしばらくお預けだからね」
「工工工エエェェ('Д`)ェェエエ工工工」
「当たり前だろ、そんなの」

 それを持ち出されたら、男にはどうすることも出来ないのだ!

「  ど  こ  で  知  り  合  っ  た  の  ?  」
「その…合コンで知り合いました」

 彼女への愛情も性欲も人一倍な彼には、効果はバツグンなのだ!

「  い  つ  ?  」
「……二週間前」
「  そ  れ  、  一  回  だ  け  ?  」
「…………」
「  聞  い  て  る  ん  だ  け  ど  さ  」
「その……三回くらい行きました」

 一回認めてしまったら、後は崖を転がり落ちる勢いなのだ!



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