【友達≦】幼馴染み萌えスレ12章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ12章【<恋人】 - 暇つぶし2ch254:名無しさん@ピンキー
07/06/19 04:27:38 TTyeYkNX
少女の名は大神 朱音(おおがみ あかね)。鈴音の妹であり、香月の同級生にして親友である。
姉と同じさらさらとした髪を、一本のおさげにして背中に垂らしており、やはり姉と同じように眼鏡をかけていた。
ただし雰囲気は大分異なる。鈴音が活動的な眼鏡っ娘だとするならば、朱音は落ちついた雰囲気を醸し出しており、典型的な文学少女的な
眼鏡っ娘と言えた。実際彼女は図書委員を務めており、進学希望先も正刻達の学校であるのだが、その理由も当然図書館目当てである。

「で、どうしたのさ朱音? こんな所まで。」
そう問う鈴音に朱音は苦笑を返した。
「何言ってるのよお姉ちゃん。お姉ちゃんが傘忘れていったから、困ってるだろうと思って迎えにきたんじゃない。メールだってちゃんと
 送ったんだよ? 返信が無かったから来ちゃったけど。」
そう言われた鈴音は慌てて自分の携帯電話をチェックした。確かにメールが届いている。
「流石だぜ鈴音! やっぱりドジっ娘はやることが違うな!」
「あ、あうう……。」
正刻の嫌味にも、鈴音は頭を抱えることしか出来なかった。

「じゃあ俺はここで。二人とも気をつけて帰れよ。」
「分かってるよ。キミこそ気をつけなよ。」
「お姉ちゃんを送ってくれて、本当に有難うございます正刻さん。またうちに遊びに来て下さい。美味しいお菓子を作って待ってますから。」
朱音の言葉に、そいつは楽しみ、と笑顔を浮かべた正刻は、二人に再度別れを告げ、自分の家へと歩きだした。

二人は正刻の背中が小さくなるまで見送っていたが、やがて朱音が囁くように言った。
「ねぇ、お姉ちゃん。」
「うん? 何だい朱音?」
「私……邪魔しちゃったかな?」
妹にそんなことを言われた鈴音は慌ててしまう。
「な、何を言ってるのかなキミは!? お姉ちゃんをからかうもんじゃないよ!?」
そんな姉の様子を笑顔で見ていた朱音は、更に言った。
「えー、だって二人とも、まるで恋人同士みたいだったよ?」
鈴音の顔はもう真っ赤だ。妹に言われて恥ずかしい気持ちと、正刻とそんな風に見られて満更でもない気持ちがごちゃまぜになってしまって
いる。

そのまま真っ赤になった姉を笑顔で見ていた朱音は、しかしちょっと意地の悪い笑顔になって言った。
「でもお姉ちゃん、もっとチャンスを生かさなくっちゃ駄目だよー。ライバルは多いし皆強力なんだから。まだまだ増えるかもしれないしね。」
その言葉に鈴音も苦笑する。
「はいはい、分かっているよ。でもこれ以上増えるのは勘弁してもらいたいなぁ。」
「そうは言っても仕方ないでしょ。……案外、すぐ近くにライバル候補がいるかもよ?」
そう言って朱音は小悪魔的な笑みを浮かべる。
その笑みを見た鈴音は、厭な予感が背筋を走り抜けるのを感じた。
「あ、朱音。まさかとは思うけど、もしかしてキミも……?」
「さぁ、何のことかな? それよりお姉ちゃん、早く帰ろうよ!」
そして朱音は雨の中走り出す。鈴音も慌ててその後を追って行った。


この後、小悪魔の笑みを浮かべた朱音に色々からかわれたり翻弄されたりして鈴音がぐったりしたり、今度は正刻が傘を忘れて鈴音の傘に
入れてもらうことになってしまい、ここぞとばかりに鈴音に散々「ドジドジ」と連呼されて正刻はぐったりしてしまったが、それはまた
別のお話。



255:名無しさん@ピンキー
07/06/19 04:31:50 TTyeYkNX
以上ですー。

ところでこの絆と想いですが、書きたいお話(季節ごとのイベント、誕生日、日常、特殊イベント)を考えると、どう考えても
十話や二十話では終わらない気が……。いや全部書くかは分かりませんが……。

でも必ず完結はさせます。ですのでのんびり楽しんで頂ければ幸いですー。ではー。

256:名無しさん@ピンキー
07/06/19 07:58:53 JWf5IRzs
本好きでドジっ娘で眼鏡っ娘でボクっ娘でツンデレなスポーツ娘が相合傘イベントに遭遇するなんて…
お前はお気に入りのいい作品が投下されたときにはGJするだろう?
誰だってそうする。俺もそうする。

GJ!!GJゥ!!鈴音かわいいよ鈴音

257:名無しさん@ピンキー
07/06/19 08:31:26 U/xVMmc+
何?話が10話や20話じゃ完結しないだと?
大歓迎じゃねぇか、GJだこの野郎!

258:名無しさん@ピンキー
07/06/19 19:48:25 vXtq5ZkY
絆きてるうううううう!!
GJ!!次の話が待ち遠しい・・・

259:名無しさん@ピンキー
07/06/19 19:49:57 lQq6Y/3M
たとえこの身くちはてようともwktkして待ってる。

260:名無しさん@ピンキー
07/06/20 00:13:10 m4fdxEOW
絆想神GJ!
毎回毎回読んでる途中にほのぼのwktkし過ぎて体力を思いっきり削ってるな~

10話20話じゃ終わらない?

最 高 の 報 告 じ ゃ な い か !

寧ろ絆想が終わる事に恐怖すら感じる俺。

261:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/06/20 00:53:01 0LKZ9lx1
>>255
すっごくGJですっ! いいなぁ……こういうのを描けるようになりたいと、切実に思います。

こちらも負けずに投下させて頂きます。

>191-195
>199-203
>224-227
>236-240
の続きです。

262:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/06/20 00:54:31 0LKZ9lx1
 唇と、唇が重なる。その熱は、暖かくも優しく。



   05 : Kiss



 夢ではないか、と思った。
 幼馴染の彼女が、今、こうして自分の腕を抱きながら歩いていることを。
 その顔はとても、とても楽しそうで。世界で一番、幸せそうと形容してもいいぐらいだ。

 そして、立花美幸は確かに、幸せだった。

 隣に並ぶ横顔を見上げる。その凛々しさに、どうして今まで気付かなかったのだろう。これまで
の自分の見る目の無さに、彼女は溜息を付きたい思いだったし、実際に朝から何度も付いていた。
 その吐息ですら、どこか艶かしく色付いている。それほどまでに、美幸は心を奪われていたのだ。
隣に立つ幼馴染の、普段は見ない姿に。
「そんなに……」
「見るな、って? ゴメン、ゴメン」
 ジッと見られることに、戸惑いを覚えたのだろう。不機嫌そうに言うその台詞の、その先を奪って
抑える。見られるのが恥ずかしいのだろう。そんな姿も、可愛らしく思えてしまう。
 だから、ギュッ。
 力強く、彼女はその腕を胸に押し付ける。
「ちょっ……」
「エヘヘ。楽しいね」
 言って朗らかに笑う美幸の姿に、何も言えなくなったのか、小さく肩をすくめ、帽子を目深に被って
表情を隠してしまう。
 そんな仕草は、何度も見ているはずなのに、とても新鮮に感じられて。
 ああ、こんな顔をするんだ。
 そんな風に思って、また楽しくなるのだった。

「夕方まで、まだ結構、時間あるね」
 右手の腕時計を見て、美幸は何となしに言った。今日は映画を見ることになっているのだが、それは
夕方過ぎからのことだった。今はまだ、昼を過ぎて間もない。ついさっき昼御飯を食べ、それから駅近く
の店をブラブラと見て回ったのだが、さすがにそれだけでは時間を潰しきれなかった。
「カラオケは?」
「うーん、それもいいけど……」
 なんとなく気分が乗らず、視線を彷徨わせると、その先にあったのは、
「あ、あそこ。あそこ行こ」
 美幸が指差したのは、派手で大きな看板を掲げた店。
「ゲームセンター?」
「そ。プリクラ撮ろ。せっかくの記念だし」
 断る隙も与えず、彼女は手を取って引っ張っていく。最初は感じられた抵抗も、小さな溜息の後に
すぐなくなる。
 それもまた、美幸のハッピーな気持ちを盛り上げたのだった。

263:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/06/20 00:55:32 0LKZ9lx1
「ほら、もっと寄ってよ」
「ちょ、そんな……」
「いいからいいから。ほら、いくよ」
 3、2、1……パシャッ。
 無理矢理に引き寄せて撮ったので、画面に浮かび上がるのは、頬を触れ合わせんばかりに近付いた
二人の顔の写真。
「お、いいねいいねー」
「…………」
 諦めたのか、何も言わずに為すがまま。その横顔をチラリと見て、美幸は悪戯心をくすぐられる。
 3、2、1……パシャッ。
「…………!」
「ヘヘッ、いいの取れたねっ」
 我ながらナイスタイミング、と呟きながら、彼女は満足そうに写真を見つめる。シャッターが切られる一瞬
前に、振り向いて背伸びをし、相手の頬にキスをしたのだ。

 決定的瞬間は、これ以上ないというぐらいにバッチリ、ハッキリと写されていた。

「よしっ、これ、一生の宝物にするねっ」
 落書きタイムを終えて、出てきたそれを二つに分けながら、美幸は幸せそうに言う。その笑顔は、不満を
言い募ろうとした口を縫い留めるのに、十分の力があったようだ。やれやれとばかりに首を振って、
「まったく……」
 こっそりそうとだけ言ったのは、しかし、店内の喧騒に飲まれて彼女の耳には届かなかったのだった。

「じゃあ、そろそろ行こうか」
「ん」
 散々、プリクラを撮り、UFOキャッチャーに挑んでいると、時間はあっと言う間に過ぎ去ってしまったようだ。
気が付けば、もうすぐ映画が始まりそうだった。
「カップル割引って、いくら安くしてくれるんだっけ?」
「普段より1000円も安くしてくれるんだって。ラッキーだよね」
 どんどんこういうイベントはして欲しいな、という美幸の台詞に、小さな苦笑が返って来る。もっとも、それが
恥ずかしがっているからとわかっているから、彼女はさして気にしない。なんだかんだで、付き合ってくれた
のだから。
 本当に、今日は楽しい一日だ。美幸は、心の底からそう思う。幼馴染の、今まで知らなかった一面を、これ
ほどに見れたのだから。
 知ってるようで、知らなかったんだな。と、彼女はそんな風に思う。それも、もしかしたら、仕方のないこと
なのかもしれないけれど。
「……?」
 自分を見上げてニコニコとしている美幸が怪訝に思えたのか、眉を顰めてくるのに対し、
「なんでもないよ。ただ、今日はすっごくラッキーな日だな、って。そう思ってただけ」
 そう言ってギュッ、と体を寄せる。朝に感じられた抵抗は、もう、今はなかったのだった。

264:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/06/20 00:56:33 0LKZ9lx1
 そして実際に、美幸はラッキーだった。
「おめでとうございまーす!」
 映画館に入り、カップル入場を頼んだ瞬間に、どこからともなくマイクを持った女性が二人の前に現れた
のだ。
「え? え?」
「お二人は、本日100組目のカップルでーす! 記念に、チケット代全額無料、パンフレットの進呈、ついで
に映画の特製ストラップと、ペアマグカップを差し上げちゃいまーす!」
 戸惑う二人に押し付けられる、品の数々。綺麗に包装されたどれにも、映画のロゴが入っている。よく見れば
いつの間にか、テレビカメラまで用意されている。何かの番組の企画なのだろうか。
「いやー、本当にラッキーですねー。ちなみにお二人は、お付き合いを始めてからどれぐらい経つんですか?」
「……すごく最近なんです。で、今日が初デートなんですよー」
 先に動揺から立ち直ったのは、美幸だった。それまでのテンションの高さのまま、ニッコリと笑って向けら
れたマイクに答える。
「おおっ、そうなんですかっ!? じゃあこれで、一生忘れられない記念日になったんじゃないですか?」
「はい、ホント、嬉しくて仕方ありません」
 グッ、と腕を抱き寄せ、溢れる笑みを逆の手で隠す。カメラは自然とそちらに向かっていた為、撮らずに
済んだ。その隣で、苦虫を噛み潰したようにしている顔を。
「じゃあ、そんな初々しいカップルのお二人に、セカンド・チャーンス! カメラの前で、愛を見せ付けてやって
下さいなっ。さらに豪華なプレゼントがありますよっ」
「愛って……例えば?」
「そうですねー、キスとか素敵ですよね」
「……!?」

 突然の台詞に、帽子の下の目を見開いて驚く。さすがに、そんなこと出来やしない。なにせ、これまでキス
などしたことないのだから。

「あ、無理に、とは言いませんが……!?」

 その言葉にホッとした瞬間。

 美幸は、軽く背伸びをして。
 唇に、唇を重ねたのだった。

 呆然とする、その耳元で、彼女が囁く。
「ヘヘッ、私達の、ファーストキスだね」

「おおおおおおっ、大胆な彼女さんですねっ! いやー、彼氏さん、羨ましいっ! そんな素敵なカップルの
お二人には、こちらのプレゼントを差し上げちゃいます! よりどり詰め合わせですよー、映画を見終わったら、
是非、ゆっくり中を見て下さいねー」


265:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/06/20 00:57:15 0LKZ9lx1
「あ、可愛い指輪。これ、あれだね。映画のヒロインが付けてたのだ。これは……ネックレスか。男物だ」
 映画を見終えて、すっかりと日も暮れた公園のベンチで箱を開けている美幸の横で、ぐったりとする人影
が一つ。
「これは……って、元気ないなー。どうしたのよ?」
「……どうもこうもない……」
 いつものような覇気が全く感じられない声に、彼女は苦笑する。
「そんなにショックだったの? キスが」
「…………」
「なんだかなー、私だってファーストキスだったんだよ。そんなに落ち込まれると、こっちも凹んじゃうよ」
「……そういうのじゃ」
「じゃあ、何?」
 からかい半分にたたみかける美幸の言葉に、返ってくるのは沈黙。
 電灯の白い光が、辺りを照らす。空を見上げても、星の明かりはまばら。けれどすっかりと満ちたまん
丸い月が、優しい光を降らしている。
「もう、やめよう」
 ようやく、ポツンと口にされた言葉に、美幸は悲しみを浮かべる。
「どうして? こんなに楽しいのに?」
「…………」
「私は、今日一日、ずっと楽しかったよ。ハッピーもラッキーも、こんなに重なった日なんてないと思う。
キスだって、強制されたからしたんじゃない。したかったらしたんだもの」
 本音を、彼女は口にする。全て、偽らざる心境だ。神に誓ってもいい。人生において、これほどまでに
楽しかったことはない。
 出来れば、これからも続けていきたい。そう願っている。
「けど……無理だって」
 そんな彼女の願いは、しかし拒絶されそうだった。寂しい予感に、胸が苦しい。自分が悪いのだと、わかっ
ていて、それでも足掻く。
「確かに、悪ノリし過ぎたかもしれない。それは反省する。だからさ、これで終わりなんて、言わないでよ。
たまにでもいいからさ、皆に秘密でもいいからさ」
 見苦しいとわかっていて、すがる。お願いだから、と。
 それでも首は横に振られるのだ。
「気が向いた時でも、いいからさ」
 最後の一言も、効果はない。ゆっくりと顔をあげたその瞳に、激しい拒絶が見える。
「無理だって……やっぱり」
「どうしても?」
「……うん」
 言いながら、ベンチから立ち上がるその姿を、美幸は物悲しい目で追った。ハッピーでラッキーな一日は、
終ったことを肌で感じながら。
 そんな彼女の想いに構わず、言の葉は解き放たれる。

「彼氏役なんて、もう絶対、やらないからね」

 そう言った忍の声音には、滅多に見せない激しい怒りが交っていた。

266:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/06/20 00:59:00 0LKZ9lx1
 話は、その日の朝にさかのぼる。
「おはよ、美幸。どうしたの? 朝から家に来るなんて、珍しい」
「お誘いだよん。ね、忍、映画でも見に行かない? この映画なんだけど」
「ん? ああ、これ。私も見たかったんだ……でも、パス」
「どうかしたの? なんか予定あるとか?」
「いや、ちょっと金欠。今月、本にお金を使い過ぎちゃったし」
「ほほう、それは好都合」
「……好都合って?」
「これ、ここを見てみたまえ」
「……カップル割引……?……何、考えてる?」
「いやん、そんな胸倉掴まないでよ……まぁ、忍の考えてる通りのことなんだけどねー」


「あそこできっぱりと断っておけば……!!」
 悔やんでも悔やみきれない、とばかりに拳を固める忍に、美幸はコロコロと明るく笑う。
「アハハ、でも良かったじゃない。映画も無料で見れたし、色々ともらえたし」
「……映画の記憶なんて、全然ないんだけど」
「え!? なんで!?」
「自分の胸に聞いて……」
 ガクリとうなだれて、彼女は自分の服装を見る。確かに体のラインが現われない服を着て、帽子で顔を
あまり見せないようにしてはいた。とはいえ、レポーターの女性に全く疑いもされなかったというのは……
「胸、ねぇ」
 言いながら、ふくよかに育った胸を触る美幸の姿に、
「なんかムカツク」
 殺意すらこもった視線を向ける。アハハ、とさすがに気まずそうに笑ってから、
「まぁまぁ。それに、キスって言っても、女同士のキスなんてカウントに入らないよ」
「そりゃそうだとは思うけど」
 フォローになってないフォローだったが、忍は渋々怒りを抑える。押し切られたからとはいえ、悪ノリを
した自分にも非はあると感じたから。
「今日のことが夢だったらいいのに」
 それでもボヤくことぐらいは許してもらいたい、と思う。悪夢、という言葉は辛うじて飲み込んだが。
「ま、滅多にない経験、ってことで」
「くどいようだけど、もう絶対、二度とやらないからね」

267:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/06/20 01:00:11 0LKZ9lx1
「でも、さ」
 上に着ていたものを脱いで、タンクトップ姿になった忍は、帰り道の途中でふと、美幸に問いかける。
「カップルってだけなら、正宗に頼めばいいのに」
「まぁね。でも忍、いつか、あの映画を見たい、って言ってたでしょ? だからだよ」
 言われてみると、確かに思い当たる節はあった。だがそれは、いつのことだったか思い出せないほど
前で、しかもなんでもない話の流れでだったはずだ。
 よく覚えててくれてたな。驚きながら、彼女は隣に並ぶ幼馴染の横顔を見つめる。いつも人のことを
思っている、優しい少女なのだということに、改めて気付く。もっとも今回は、悪ノリがひどかったけれど。
「それに、彩夏辺りに知られたら、またうるさそうだし」
「彩夏が?」
「うん。なんか、幼馴染モノの恋愛マンガをいっぱい勧められてね。忍は押し付けられたりしないの?」

 素朴な疑問のつもりなのだろう。何気ない言葉に、しかし忍は黙ってしまう。
 押し付けられたことなど、なかった。かわりに思い出すのは、時に彼女がこちらに向けてくる、探る
ような視線。それは大抵、忍が正宗の姿を無意識に眺めていた直後に感じたものだった。
 意味があるのか、どうか。わからなかったけれど、時々、不安に思うことがあったことは否定出来ない。

「多分、私が恋愛とかしなさそうにないからじゃない」
 疑惑を打ち払いながら、適当なことを言ってとぼける。きっと考えすぎと、自分に言い聞かせながら。
「えー、そんなの差別だよ。私なんて、いい加減にしてー、って言うぐらいに読まされてるのに」
 むぅっ、と唇を尖らせる美幸の横顔を、彼女は複雑に眺める。


 蘇るのは記憶。ほんの数年前のこと。
 そこにいるのは、美幸と正宗。いないのは、私。それを見ていた私。
 当時は何でもないことと思ったのに、今は胸を苦しませる。


「今度、彩夏に言っておくね。忍にも読ませてあげて、って」
「それ、単に面倒を私に押し付けてるだけじゃない?」
 心の奥に広がり始めた黒雲を、強引に打ち払う。考えても仕方のないことだから。自分にはどうしよう
もないことだから。
 このままでいい。このままが楽しい。バカなことを考えてたり、凹まされたりもするけれど、美幸のこと
は大切だから。キスをされたって構わないほどに。
 だから、このままでいい。
 このまま、三人がいい。
 忍はそう思った。


 後日。
「正宗、これあげる」
「ん? どうしたんだ、これ」
「聞かないで」
「お、おう……」
 美幸に押し付けられた、プレゼントでもらった男物のネックレスは、結局、忍から正宗へと渡り。
「忍、こういうの、好きなんだって? 水臭いなぁ、言ってくれれば良かったのに」
「……美幸のやつ……」
 嬉々としてマンガを持ってきた彩夏に、忍は頭を抱えることになったのだった。

268:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/06/20 01:06:27 0LKZ9lx1
お付き合い頂きありがとうございます。

ベタです。でもベタって難しいですね。

>>242>>243>>244
GJありがとうございます。ようやく少しずつ、物語が動いてきたかな、と。
出来る限りこのペースを保っていけたらいいな、と考えています。忙しく
なると厳しいかなぁ……とも思いますが。


これからも、どうかよろしくお願いいたします。

269:名無しさん@ピンキー
07/06/20 01:29:30 uzd+zGq8
なんという高速投下…!ピオリム+ヘイストかけてるとしか思えないw
天真爛漫キャラとクールキャラって相性いいよね。俺もベタは好きです。
GJですよ!

270:名無しさん@ピンキー
07/06/20 11:25:08 CRLo/P9V
GJ!しかしガチンコの三角関係成立かと思ってしまったw

271:名無しさん@ピンキー
07/06/21 01:20:19 LVcbhTLw
>255 >>268
お二方ともGJです!!

最近は投下が多くて嬉しいですな!!

272:名無しさん@ピンキー
07/06/23 03:35:09 rwB8zzNc
保守りますぜ

273:名無しさん@ピンキー
07/06/26 01:22:15 nyRPZ7ve
投下町

274:ゼンソン
07/06/26 19:58:21 Kiimj4ub
とつぜんですが…これから長編小説を書こうと
思っております。一応、第1話の投稿しようと思います
よろしければ、皆様のご感想やご意見をお聞かせください

275:名無しさん@ピンキー
07/06/26 22:20:45 UPqoKB3q
>>274
新しい職人さんが増えるのは嬉しいな。いや、作品見ないとなんとも言えんが。

276:名無しさん@ピンキー
07/06/27 00:01:41 5enVJmhg
そうだな。新人さん大歓迎だ!

だが前からいた方たちの作品も待っているぜ俺は!!

277:名無しさん@ピンキー
07/06/27 02:28:21 g3wPDK7Z
>>274投下してくれ。
がんばって書いた作品見せてくれ。

278:名無しさん@ピンキー
07/06/27 02:44:29 A/JGZnma
メール欄にsage

279:ゼンソン
07/06/27 17:21:41 tgKLo0Bp
春…俺は2人の気持ちをしった…
大切な思い
第1話:新しい春
ピピビピ………… 「ふぁ~あ…朝か…」 俺の名前は坂本 伸二 昨日、高校生になったばかりだ、目覚ましを止めて再び眠りこもうとすると…
「しんちゃん~おきなさ~い!」
あぁ…母さんが呼んでる
「仕方がない…起きるか」
「そう言えばあいつが起こしに来るっていってたよな?」
「う~ん…」
となりを見るとあいつがいた…何故?…ってそれどころじゃあないぞ!!
「おい!起きろ!由美!」
大崎 由美
俺が生まれた時からいっしょにいる…
いわば幼なじみというやつだ…

280:名無しさん@ピンキー
07/06/27 18:54:23 Ehigy3er
>>279
sageろ

281:大切な思い
07/06/27 19:14:39 tgKLo0Bp
「おい!起きろって!」
そういって由美を揺さぶると
「伸二~おはよう~」
「あぁ、おはよう、じゃあなくて、なんでいっしょにねてるんだよ!!」
「気持ちよかったらからつい…」
「理由はわかったから、早く起きろ~」
「だったら…おはようのキスしてくれる?」
「はぁ?キス?」
「うん、お願い~」
「わかったよ……」
そういって由美の唇に近づいた時…
ガチャ! 「いつまでねてるの!!」
そういって入ってきたのは母さんだった……
「「あっ!」」
「それじゃあお母さん仕事行くから~……」

282:大切な思い
07/06/27 19:59:03 tgKLo0Bp
「あぁ~、お前のせいで絶対!勘違いされた~」
「だから、謝ってるじゃん~」
笑いながらいわれても…説得力がない
「お~い!二人とも~」
そういって、手をふるのは俺の2人目の幼なじみの外村 美紀
こいつは俺が5歳のときに引っ越ししてきたのだ
「おはよう、美紀」
「おはよー♪美紀」
美紀の家は俺の家から離れているため、こうして待ち合わせをするようにしているのだ。
ちなみに由美の家は俺の家の隣である…
「それにしても、遅かったね~。なにしてたの?」
「それがさぁ~、伸二がなかなか起きなくて……」
うそつけ!!と突っ込もうとしたとき、
「やばっ!!急がないと遅刻だよ!!」
「なに!急ぐぞ!!由美、美紀!」
その時は気ずかなかった…2人が俺のことが好きだったなんて……
続く?

283:名無しさん@ピンキー
07/06/27 21:23:56 zxKMHngA
wktk

284:名無しさん@ピンキー
07/06/27 22:10:24 mYMpErHa
GJ!
頑張れ!!

初心者さんらしいので幾つか注意を。
とりあえずメールの所に半角でsageと書いてくれ。
これはルールなんでよろしく頼む。
あと気になった所が、「・・・」を他用してるみたいだけど、「・・・」より「。」にした方が良い点が幾つか見受けられる。
この辺りを頑張ってくれたらもっと読みやすくなると思う。

続きを全裸で正座して待ってる
携帯から長文失礼

285:名無しさん@ピンキー
07/06/28 00:06:49 Rw3JGT69
まずは初投下お疲れ様です!

中々面白そうなお話で、先が気になります! 是非とも頑張って書いて下さい!!

ただ、前の方も書いている通り、sageだけは入れておいた方が良いと思います。

あとは、こんなスレもあるので参考に覗いてみてはどうでしょう。

SS書きの控え室 64号室
スレリンク(eroparo板)

とにかく次回作を待ってますよ! ではー。

286:ゼンソン
07/06/28 07:21:45 WZmIxKEd
ご意見ありがとうございます。
まだまだ、初心者なので皆さんのご意見はとても
参考になりました!

287:名無しさん@ピンキー
07/06/28 07:51:24 qT3W/Ynu
取りあえずsageてくれ。
理由はスレ一覧の上の方にあると荒らしと呼ばれる誹謗中傷しかしない人たちが来てしまうからだ。
荒らしは作家さん達や読者にひどい迷惑を与える。
このスレには、あなた以外にも4~5人の常駐作家さんがいる。
あなた一人の行動でその方達とその他一般の読者さんに迷惑がかかってしまう。
それが分かってくれたら、メール欄に半角でsageと打ち込んでくれ。

288:名無しさん@ピンキー
07/06/28 17:03:48 iLUwzqhA
>>286
作品を投稿する時は、テキストからコピーしてまとめて投下してくれ。
携帯ならメールを使って。
投下に時間かかると他の職人さんの迷惑になることがある。

289:名無しさん@ピンキー
07/06/28 18:37:20 bumAd3zO
携帯でもPCでもどれにしろデフォだとsageじゃなかったっけ?
専ブラで設定いじってなきゃ もしかしてvipper?まぁいい作者さんだから
sageてくれば、どうでもいいや

290:名無しさん@ピンキー
07/06/29 01:26:38 FT6Uvh1N
読みにくい。もう少し他の職人さんのSS見て学んでくれ。
特に改行。これが駄目すぎるから。もう少し基本から学んで投下して。

291:名無しさん@ピンキー
07/06/29 11:37:01 s0rLelqK
sageないのと書きながら張るのは良くないね

292:交錯する願い
07/07/01 02:23:02 5A/2qPJX
「あやちゃんだーいすき。」
「わたしもゆうくんだいすき。」
二人の子ども達は、実の親に捨てられるという辛い境遇にありながらも健康に、健やかに育っていた。

「綾ちゃん、優君、こっちに来て下さい。」
「「は~い。」」
二人とも無邪気に手を繋いで走り寄ってくる。
「せんせいな~に?」
「二人とも明後日に新しいお父さんとお母さんの所に行くことになりました。」

「ゆうくんといっしょのところ?」
先生は困った顔をしながら答える。
「残念だけど、違うお家よ。」
「「ええ~」」
「さぁ、今日は遅いからもう寝ましょうね。」
「は~い。」
先に男の子が返す。
「はい。」
女の子も一瞬遅れて返す。
二人ともまだ、別れという意味を解っていなかった。




「綾芽っ、起きなさい。」
下でお義母さんが怒鳴ってる。
「は~い。もう起きたよ!」
義母に怒鳴り返した少女は、藤崎綾芽。
特徴的な釣り目で、気がとても強そうである。
だがその釣り目は、目の中にある大きな瞳と調和して、トゲトゲしさを全く感じさせなかった。
更に整った顔立ちと、誰を相手にしようと物怖じしない性格は、そのスレンダーな体型と合間って特徴的で人気がある美少女を形作っていた。

293:交錯する想い
07/07/01 02:25:21 5A/2qPJX
「また優祐の夢だ。」
綾芽は最近昔の、施設に居た頃の夢をよく見ていた。
無論今の生活に不満があるわけじゃなく、純粋に会いたいのだ。
優祐に。
特にこの一年くらいその思いはただ強まるばかりだった。

綾芽は結局施設から出た日以来、それまでず~っと一緒に居た優祐と一度も会えなかった。
何度も何度も連絡を取ろうと努力した。
施設の先生にも聞いた。でも優祐の家の住所は愚か電話番号すらわからなかった。
綾芽はそれを聞いたとき、憤ったものだった。

ここまで優祐に会いたくなった発端は、綾芽の年代が思春期と呼ばれる頃に入ったころにある。
回りの女友達や男子が色恋に明け暮れ始めていたた。
だが綾芽は全くそういう気になれなかった。
異性を恋愛対象として見ていなかったのだ。
勿論同性愛者等ではなく、綾芽に取っての異性、好きになり得る人は優祐ただ一人しか居なかったのだ。
それとて自分で気付いたわけではない。
昔の境遇、そして今の自分を知っている数少ない親友の指摘で気付いた。
否、気付かされたのだ。

294:交錯する想い
07/07/01 02:26:50 5A/2qPJX
それからだ、優祐に無性に会いたくなったのは。
「綾芽~早く出ないと遅刻するわよ。」
「は~い。」
綾芽は大声で返すと、階段を駆け降りていく。



「綾芽、酷い顔だな。」
「してるね~。」
冷静で冷厳とも取れる声と、非常に柔らかくちょっと間延びした声が同じ事実を語る。
「うるさい。」
「また優祐君の夢でも見て悶々としてたんだろ。」「だろ~。」
「凜、鈴菜、うるさい。」
凜と呼ばれた少女の名は、香原凜。
容姿的にはいたって普通。特徴といえば、腰まで伸びた漆黒のストレートヘアー位だ。
だが、その冷静で冷酷で平等な性格はとても頼りになる。
時々その厳しさに、辟易することもあるにはあるが・・・ 。
またその強い性格から、一部の男子に圧倒的人気もある。

鈴華は本名、武田鈴華。
おっとりとした口調と、丸く柔かそうな女の子の体型をしており、典型的なお嬢様ムードだ。
男女に人気があるがその内側に秘められた、悪戯っ子な鈴菜を知る人は数少ない。
「本当の事を言われたからって怒っちゃダメだよ~。」
「誰も怒ってなんか。」
「ほんと~に~?」
「し つ こ い!」
「怒ってるじゃん。まぁいいけど。じゃ後でね。」
「けど~」

295:交錯する想い
07/07/01 02:27:39 5A/2qPJX

彼女たちはそう言い残し、呆れたように三々五々自分の席に戻って行った。

まったく、なんで凜達はすぐ分かっちゃうのよ。確かに夢は見たけど、またってほど頻繁じゃないし。
別に悩んでた訳でもないし。
単純に優祐に会いたいだけだもん。
口にださずに本音をまくし立てる。
誰かに聞かれていたら赤面ものだ。

「あれでバレてないつもりかな~。」
「ああ、多分な。」
「凜ちゃん冷酷~。」
「お前が言うな。」
凜の冷静な突っ込みが入る。
「あはは、ごめんごめん。。」
この二人は席が隣なのを良いことに、綾芽が聞いていたら憤慨するであろう会話を、延々と続けていく。
「あ、先生来たよ~。」
「起立!礼!」
先生が来るのに合わせて凜が号令をかける。
ちなみに凜は委員長である。
「はい、おはよう。報告です、今日から転校生が来ます。みんな仲良くしてやってください。」

「転校生か~。少女漫画だと運命の再会ってところかな~?」
「べたべただな。それはそれで面白そうだが。」
「でしょ~。」
「武田、入って来てくれ。」
先生が外にいるであろう転校生に声をかける。

瞬間殆どの生徒たちの目が教室のドアに向かう。

296:交錯する想い
07/07/01 02:28:33 5A/2qPJX

ガラッ

「少女漫画になったらしいな。」
「困惑しまくってるね~。」
この二人のみ、ドアを見ずに綾芽を見ていた。
少女漫画的出会いを期待していたのだろうか。
まぁ結果的に決定的な表情を見たのだが。

そして二人は、この顔を後で綾芽をからかうネタにしようと固く心に誓った。

「武田、自己紹介を頼む。」
「はい先生。武田優祐と言います。昔この辺りに住んでました。ぜひ友達になって下さい。これからよろしくお願いします。」優祐は、そつなくセオリー通りの挨拶を述べる。
パラパラと拍手が鳴る。
優祐はそれにもお辞儀して、後ろの方のーー先生に指定されたのだろうーー席に座った。

「90点かな~」
「鈴菜高いね。私は75点位かな。」
「やっぱあれだけ可愛いと高くなるよ~。食べちゃいたくなるよね~」
「うむ。男としてはどうかと思うが、一人の生き物としては最高だな。」

優祐は純粋に可愛かった。
160に足らないであろう身長に華奢な体つき。
それに中性的で一見女の子のような顔。
ウイッグなど付けて髪を長く見せればまず間違いなく、美少女と間違えられるだろう。

297:交錯する想い
07/07/01 02:29:32 5A/2qPJX
「起立!礼。」
凜が号令をかける。
HRが終わると同時に二人はせかせかと綾芽の机に向かう。

「綾芽、運命の再会おめでとう。」
「綾芽ちゃんの言ってた子ってあんなに可愛かったんだね~」
優祐の出現。
という明らかに許容オーバーなショックを与えられた綾芽は、完璧に凍っていた。


「ってバカ!バカバカバカ!」
「やっと溶けたか。」
「べ、別に運命の再会なんかじゃ、そりゃ嬉しいけど、でっでも私は顔じゃなくて優祐が好きなだけで」
フリーズは解除されたが、明らかに混乱している。
混乱中の綾芽の両肩に手が置かれる。
「落ち着け。」
冷静な声で凜が呼び戻す。
「深く深呼吸、すって、はいて、すって、はいて。」
綾芽は凜の言うままに深呼吸する。
「落ち着いた?」
「ん、うん。」
「まぁ綾芽の本心が良く分かったよ。」
さっきまでの自分の醜態を思い出したのか、綾芽の顔がさっきとは別の感情で真っ赤になる。
「べ、別に」
「いいのか、あれで?」
皆まで言わさずに凜が遮る。
凜が指差した先には、クラスの少女の壁と遠巻きにそれを羨ましそうに見る男子諸君。

298:交錯する想い
07/07/01 02:30:42 5A/2qPJX
そしてそれに囲まれ、辟易してるーーように見えるーー優祐がいた。

そもそも転校生と言うだけでも興味をそそるのに、それがとても可愛い美少年だったのだ。
当然の如く、優祐は好奇心旺盛な女子生徒の注目を浴び、女子に囲まれるという現在の天国ーー地獄ともいうーを作っていた。
「なに?あれ?」
それを一目見た綾芽は凜に問う。
「可愛い優祐君奪取戦。」凜が珍しく楽しそうに言う。
「綾芽ちゃんいいの~?優祐君取られちゃうよ~?」
「取られるって別に優祐はそんなんじゃ・・・」
顔を真っ赤にしながらしどろもどろに答える。
「素直になろうよ~。それとも私が優祐君貰ってもいいのかな~」
「べ、別にいいわよ。」
「へ?いいの?」
正直、鈴菜はここまで言えば綾芽は白状してくれるだろうと思っていた。
「綾芽、意地を張るのも大概にしておけ。」
凜の声に綾芽の動きが止まる。
「だからっ」
「じゃあ本当に貰うからね。」
皆まで言わさずに鈴菜が宣言する。
「えっ。」
綾芽も綾芽で、鈴菜の言葉を本気だと思っておらず驚きを声に乗せる。
「じゃあね。」
そして鈴菜は優祐の机に行き、凜は中立と言わんばかりに自分の間の机に腰掛け、見物を始めた。
「なっなんなのよもう!」

299:名無しさん@ピンキー
07/07/01 02:35:56 5A/2qPJX
新作投下させていただきます。
最初の投下なのに綾芽と優祐の会話が幼少期しか入れられませんでしたorz
次回はもっとちゃんと絡ませます。

取り敢えず優し過ぎる想いみたいに欝展開にならないように面白おかしく、時に切なくやっていきますので、生暖かく見守ってやってください。

300:名無しさん@ピンキー
07/07/01 03:21:17 jTNmV79j
うはー、新作GJ!! 夜更かしした甲斐があったってもんだぜ!!



301:名無しさん@ピンキー
07/07/01 07:12:50 EA36+iPh
二番槍GJ!
この展開は王道・・・ しかぁし!それゆえに萌 え る!
施設の後に再会いう設定にもさらに萌えた。
前に投下された糞作品とは大違いだ。

302:名無しさん@ピンキー
07/07/02 03:15:56 a79X6E+0
>>301厨房発言するなクソ。そうゆうのが職人さんをとおざけんだよ。

保守

303:等身大の地球儀
07/07/02 20:06:11 BEq0B1Oz

「ふぁあぁ~~~」
 欠伸にも似た気だるげな声を上げると、稔一(じんいち)は自分の布団に向かってゆっくりと
倒れこむ。疲労、緊張、そしてこの夏が最後のチャンスだという事実に肉体的にも精神的にも
追い詰められ、身体中を倦怠感に襲われ続けていた。
 布団に身を委ねれば、床と同化してしまいそうな感覚を覚えてしまうほどに気持ちいい。
日頃、三大欲求の中では食欲を最重要視している男ではあるが、こういう気分だと、睡眠欲の
重要性もあながち馬鹿には出来ない。
 しかし眠ってしまうわけにはいかない。この後隣の家に住んでいる幼い頃からの腐れ縁と、
何の因果か地元の夏祭りに出掛けないといけないのだ。
 というわけで、このまま夢の世界へ旅立つわけにはいかないのである。

「………Zzzzz」

 ……いかないのである。

「Zzzzzzzz…」
 寝息は徐々に大きくなっていく。やはり人間、一番大事なのは自分の身体ということなの
だろうか。しかしながら、人間たるもの欲求に従順なのは致し方ないことである。
「やっほー」
 すると突然、備え付けられた窓がからからと開き、いかにもダルそうな眠そうな少女の
声が部屋に響く。どうやら彼女が、先の約束相手らしい。
「稔一ぃ、準備できて……ないなぁ」
 姿を表した時は晴れやかだった表情が、一転してみるみる曇っていく。つかつかと彼の
枕元まで歩み寄ると、フラミンゴのように片足立ちになる。
 そして。
「うるぁ」

ゴシャッ!

「痛ってぇ!」
 額に容赦なく踵を踏み落とされ、稔一はたまらず跳ね起きる。踏みつけられた箇所を
押さえながら顔を上げれば、そこにいたのはジト目で睨みつけてくる、物心つく頃からの
顔なじみ。
「何寝てんだハゲ」
「ハゲ言うな。……起こすならもっと、まともな起こし方にしてくれよ」
「約束すっぽかしかけといてよくそんな偉そうなこと言えるね」
「毎度毎度勝手に窓から部屋に上がり込んでくる不法侵入者を快く迎えてやってんだ。
そのくらい大目に見ようぜ」
 隣の家とは二メートルほどの隙間が存在しているのだが、向こうの家からはベランダが
備え付けられている。おかげで、二人は玄関を経由することなくこうして出会いを重ねるのが
常だった。通っている高校は同じだが、クラスが違っているせいで一緒に過ごせない時間を
こうして埋めることが茶飯事だった。

「佳奈ー」
「んー? 起きたんなら早く準備してよ」
「浴衣。タンスから引っ張り出してこいよ」
「えー」
 佳奈の格好は、普段と変わらないタンクトップと短パンというなんともラフな組み合わせ
であり、手に持っている履物はなんと草履である。
 アルファベットで数えて三番目のカップを誇るバストがかろうじて彼女が「彼女」である
ということを証明しているものの、短く切った髪の毛をぼさつかせている様子といい、
(もっとも佳奈に言わせればこれはこういう髪型であり、彼女なりのお洒落なのだそうだ)
前述した部屋着同然の服装といい、見る人が見れば男子に見られかねない。


304:等身大の地球儀
07/07/02 20:08:14 BEq0B1Oz

「あははー、どうせあたしにはそういうの似合わないしさー」
 身も蓋もない反論に、眠たげに垂れ下がっていた稔一の眉尻が微かに跳ね上がる。
「お前から誘ったんだから、そのくらいサービスしてくれても良いと思うんだけど」
「どーせ着て来たら着て来たで、あんた何も言わないでしょ。そんくらい分かってるよ」
 口角を片方だけ釣り上げニヤリとした笑みを返され見下され、彼はフーッと細く長く
息を吐く。どうやら、こちらの意見を受け入れるつもりは最初っから毛頭存在してないらしい。
「ほら、さっさと着替えて。花火始まったら意味ないよ」
「あー…面倒だからこのまんまで行くわ」
 背中を丸めたまま欠伸をして、そしてゆっくりと立ち上がる。ついつい寝入ってしまって
いたものの、彼が身につけているのはTシャツジーンズという、彼女と比べればまだ幾分
マシな姿である。本当は着替えようと思っていたのだが、佳奈の格好を目の当たりにして
しまっては、そんな気持ちもすっかり失せてしまっていた。
「なら早く行こうよ、折角だから色んなもの食べたい」
「……奢るのか?」
「トーゼン。期末テストで負けた方が『何でも』言うこと聞くって話だったじゃん」
 台詞の中の「何でも」の箇所だけやたら強調され、「一つだけ」という単語が含まれて
いなかったことに、ついつい恨みがましい視線を送ってしまう。こっちは高校生活最後の
部活動に必死に打ち込み、向こうは家でのんびりぐーたらやってるのだ。テスト勉強する
時間を考えれば、当然相手が有利に決まっている。
「はー…っ」
 たまった疲れを吐き出すように、苦々しさを覚えながらも相手の意見を受け入れる。
 どうせ彼女に言い訳などしても徒労に終わる。自分にとって都合の悪いことには耳を
貸さないのだ。そのくせ都合のいいことに関しては地獄耳なのだから性質が悪い。なのに
人望はそれほど悪くないのだからおかしな話、不公平である。

「ほらー、早く行く早く行く」
「わーったわーった」
 既に廊下に出ている佳奈の催促を受け止めると、不承不承ながらも稔一は財布を掴み、
自分の部屋を後にするのだった。




 鷲尾稔一と桜井佳奈は幼なじみである。

 しかしながら、二人は周りの人間にそう呼ばれることをあまり好まない。
お互いの関係が、そんな若干の甘酸っぱさを含んだような言葉じゃ言い表すことができないからだ。
そんな言葉より、「腐れ縁」というただれた表現の方がよっぽど自分達らしい。
 まあ実際のところ、ただれきっていたりするのだが。

「財布、まずは焼きそばが食べたい」
 桜井佳奈、高校三年帰宅部に所属。普段はあまり人の輪に加わって話しこむことを好んだりは
しないが、テンションがハイマックスになると誰よりもうるさくなるパッと見男子な一応恋愛適齢期。
 好きなものはその時好きなもの、嫌いなものはその時嫌いなもの。好きな人は幼い頃からの
腐れ縁、嫌いな人は幼い頃からの腐れ縁という本当に困りきった気分屋女子高生である。

「誰が財布だ、俺には俺の名前がある」
 鷲尾稔一、高校三年こちらは野球部に所属。髪の毛を坊主頭に駆りこんでいるが本意では
ないため「ハゲ」と呼ばれると若干の拒否感を示すナイーブな一面を持つ。と思わせといて、
実はそんなに気にしてないこちらもちょっと変わった思春期青年。
 とはいうものの、こちらは好きなものが小学生の頃から野球と一貫していることもあり、
彼女と比較してみれば大分まっすぐ健やかに成長している模様である。


305:等身大の地球儀
07/07/02 20:09:48 BEq0B1Oz

「あんた今日お金担当なんだから財布でいいじゃん、その方が呼びやすいし」
「じゃあ俺もお前のことをヒモ女と呼ばせてもらおう」
「いいよ別にー。そんじゃ財布、焼きそば買ってきて。あとたこ焼き」
「せめて店くらいは自分で探せヒモ女、不味い店で買ってきたらお前怒るだろ」
 二人の関係会話には、高校生とは思えないくらいに新鮮味が存在していない。どんなに
お互いを煽ろうとも右から左へ受け流し、緩やかに咀嚼して事も無げに会話を続行する。
先に述べたテストの結果で勝負したように、何かと勝ったほうが負けたほうがと条件を
つけては争ったりはするものの、負けて悔しがることもない。そうした関係が、一番上手く
付き合えると分かっているからだ。

 そんな二人の関係は恋愛面においても発揮される。こうやってデートをする理由も無ければ、
本人達にはデートという意識もあまり無い。既にキスも済ませているのだが、その理由も「キスって
どんな感触なのか知りたかった」というなんとも色気の無い理由である。とは言っても、流石に
その時ばかりは微かに顔を赤らめていたらしいのだが。
 しかししかし、そこまですることしておいて、本人達の弁は「別に付き合ってない」と
くるのだから、周りはもう彼らを変人カップルとして認定して扱うしか他に無かった。

「ふまい!」
「食ってから喋れ」
「ふまいふまい!」
「食いきってから喋れ」
 人の金なら何の気兼ねなく食べられるとはよく言ったものである。
 焼きそばたこ焼きイカ焼きたい焼きフランクフルトにりんご飴、わたあめカキ氷天津甘栗
フライドポテトに焼きとうもろこしと、佳奈は目に付いた食べ物を片っ端からせがんでは
ぱくついている。その食いっぷりに稔一は、途中で使ってしまった分のお金を計算するのを
止めるのだった。
「はー食べた食べた」
「……お前、食いすぎだろ」
「? 何か言ったー?」
「太って死ねばいいのにって言った」
「……むー」
 普段眠たそうに弛んだまぶたを微かに引き締めながら、佳奈は不満を露わにする。彼女が
露骨に怒りの表情を見せるのは珍しいことなのだが、その辺は幼なじ……腐れ縁という仲が
二人の根底にあるからなのだろう。
「そーんなこと言ってると、まだまだ注文しちゃうよ」
「好きにしろ、どうせ諦めてる」
「あっそ……じゃあもうお腹いっぱいだし、勘弁してあげよっかな」
「そりゃどーも」
 どうせもう、お札が野口さん一枚しか見当たらなくなっていたのだ。ここまで減って
しまえば、お金のことなんかどうでも良くなってしまう。溜まりに溜まった小遣いも、
部活で忙しければ使う暇も無いのだ。
「ねー、稔一ぃ」
「んー?」
「"ぱしゅぱしゅ"したいー」
「ぱしゅぱしゅ?」
唐突な佳奈の言葉の意味がよく分からなくて、服の袖口をくいくい引っ張られ促された方を
向いてみる。そこには、水風船の屋台が出店をしていた。広く浅い水槽に、色とりどりの
水風船がぷかぷか浮かんでいる。
「ねー、"ぱしゅぱしゅ"したいー」
「……」
「ぱしゅぱしゅー」
「……」
「ぱーしゅーぱーしゅー」
「分かった分かった、一個でいいな」
「うん」


306:等身大の地球儀
07/07/02 20:11:51 BEq0B1Oz

 幼稚なせがまれ方に根負けして、稔一は大人しくその店に近づいていく。適当な色を
見繕い、金を払って選んだ水風船を釣り上げると、また佳奈の元へ舞い戻っていく。
「ほら」
「へへー、ありがと」
 手渡すと彼女は喜々としながら中指をゴムの輪に通し、風船を手の平で叩き始めた。

パシュパシュ

「……」
「……」

パシュパシュパシュ

「……」
「……」

パシュパシュパシュパシュ

「……楽しいか」
「ビミョー」
 淡々と言い放ちながらもその動作を止めないということは、どうやら彼女なりに楽しんで
いるらしい。

「ねー、稔一」
「ん?」
「次の試合、いつ?」
「明後日」
 水風船の音をBGMに、佳奈は稔一の日程を聞いてくる。空いていた方の手の平を、
稔一の手の平に重ねながら。
「うお、明後日試合なのに女とデートとは余裕だな」
「『もし断ったら、一日中付きまとって耳元でしくしくめそめそ泣いてやるー』って脅して
きたのは誰だっけ」
「あたしー」
「『試合前日深夜に部屋に忍び込んで喚きたててやるー』って言ってたのも誰だっけ」
「あたしー」
 ゆるゆるした笑顔を浮かべながら、悪びれることなく手を挙げる彼女に、稔一は穏やかな
表情のまま鼻で笑い返す。

 全国で一斉に始まった高校野球夏の大会地方予選も佳境に入り、早いところでは甲子園
出場校も決まってきている。各家庭のブラウン管は、このところ毎日のように勝利の歓喜に
湧き、また夏を終え悔し涙を流す球児達の姿を鮮明に映し続けていた。
 稔一もまたそんな高校球児の一人である。彼の通う高校の野球部は、地方予選準決勝まで
無事に駒を進めていたのだった。

「勝てる?」
「どうかなぁ、相手はプロ注目のエースだし」
「……むー」
 しかし準決勝の相手は、全国でも名の知れた好投手を擁し、春の大会では甲子園ベスト4に
まで進んだ強豪校である。ちなみに稔一達はその時の地方予選でも対戦していたのだが、
結果は6対1と完敗を喫していた。

307:等身大の地球儀
07/07/02 20:15:03 BEq0B1Oz

パシャンッ

「っと!?」
 その時、何かが跳ねさせながら稔一の頬を襲った。その箇所を触ると、ひんやりと冷たく
水に濡れてしまっている。
「そんな気持ちじゃ、勝てるもんも勝てないぞー」
 どうやら水風船で瞬かれたらしい。次の相手が格上だと伝えたかった言葉は、弱気で
消極的な台詞と受け止められてしまったようだ。
「そう怒んなって」
 ポンポンと二度、彼女の頭を軽く叩く。
「俺だって、同じ奴らに二回も負けたくないさ」
 口をへの字に曲げた佳奈の顔を見つめ返しながら、静かな、だけど確かな闘志を露わにする。
繋いでいる手にも、無意識の内に力がこもっていく。
「それに、以前対戦した時はホームラン打ってるしな」
 前回対戦した時にもぎ取った唯一の得点は、稔一が一閃したバットから生まれたものだった。
あの時の感触は、未だにはっきりと覚えている。その時の、相手投手の悔しそうに歪んだ表情と
共にしっかりと。

「そだね。稔一も一応、プロ注目の選手だもんね」
「実感ないけどな」

 有望選手から結果を残した選手が、その時訪れていたスカウトの目に留まることは、往々に
してよくあることである。他の選手が軒並み凡退する中、稔一だけは全国に名を轟かす投手から
ホームランを含む三安打猛打賞を放つ活躍を見せ、「ついで」という形ではあるが、一部の球団と
大学の興味を勝ち得ていたのだった。
「あれからチーム強くなったんだ?」
「まぁな。毎日毎日練習だったし」
「おかげで、遊びに来てもいっつも寝てたよねー」
「いっつも無理やり起こされてたけどな」
 互いに前を、そっぽを向いたままの皮肉な言葉は、いつものように受け流されていく。

「今度は負けん。……勝つよ」

「……」

 飾り気のない端的な台詞には、らしくもなく強い意志が込められていて。佳奈ほどでは
ないものの、稔一も普段はふわついた雰囲気を纏わせている。しかし、こと野球に関しては
非常に真摯だった。彼が見つけることの出来た、唯一全ての情熱を注ぐことのできるもの
だったからだ。


ヒュルルルルル


ドーンッ


 空に咲いた一瞬の大輪が、二人の顔を赤に青に染めていく。人混みの足は途端に鈍り、
その花を愛でようと顔を見上げる。それは二人とて例外ではない。

 稔一は気付かない。佳奈が今更になって、浴衣を着て来なかったことに少しだけ後悔を
募らせていることを。試合が目前に迫っているのに、嫌な顔せずこうして付き合ってくれた
ことに感謝していることを。彼女自身は未だ見つけられないでいる熱くなれるものを見つけて
いることに、羨ましさを覚えられているということを。



308:等身大の地球儀
07/07/02 20:18:39 BEq0B1Oz

「応援、行くね」
「あー……別にいいけど…」
「? けど、何?」
「いや、前の試合の時みたいな声援は困るなと思って…」
「えー?」
 前の試合、つまり準々決勝戦。終盤同点チャンスの場面で、稔一に打席が回ってきた時の
ことである。

『稔一ぃぃー! あたしの為に打ってぇー!!』

 試合中には審判から、試合後には教育委員会やら学校やらの一部から物議を醸し、
後に個別で厳重注意を受けた声援である。
 もっとも観客席からは笑いが起こり、その声援を送られた本人は顔を真っ赤にしながら
決勝のタイムリーヒットを放ちはしていたのだが。それでもあの時のことは赤っ恥に近い。
 余談ではあるが、「あたしの為」というのはクラスメイトと野球部の勝敗でトトカルチョを行った
末に出た言葉である。それはそれで充分警告ものだが。そこに他意があったかどうか、不明の
ままだが。
 
「だめー?」
「今度言ったら、球場から追い出されると思うぞ」
「うー…そいつは困る。あたしがいなくなると、稔一は打てなくなるからなー」
「はいはい」
 なんとも横柄な台詞ではあるが、これはれっきとした事実である。実際、佳奈が応援に熱を
入れれば入れるほど、昔から稔一はよく打った。彼女に所用があったり面倒臭がったりで
姿を見せなければ、バットも湿り勝ちだった。
「声援送ってくれること自体はありがたいけどな。『がんばれ』とかそういうのにしてくれ」
「んー……しょうがないなぁ」

 花火を見に来たはずなのに、結局二人の意識はお互いの会話に傾いてしまっていて。
一年、二年の時と違って、今年はクラスが違っている。その事実が、二人のこれまでの
関係をほんの僅かに変えつつもあった。当人達は、未だ気付いてないことなのだけれど。


ヒュルルルルルッ


ドーンッ


ドーンドーンッ


「勝ってね。また稔一達が勝つほうに賭けたんだから」
「オッズは?」
「10倍。相手が相手だしねー」
「ま、そうだろうなぁ」
 自分の頭をしゃりしゃりと撫で、稔一は諦めたようにまた息をつく。手を振りほどいて
佳奈の前に躍り出ると、ぐっと握り拳を作る。

「……大儲け、させてやるからな」

「えへへ、期待してる」

 二人がそう言葉を交わすと同時に、これまでより一層大きな大輪が、空に咲いて消えていく。
その瞬間、稔一の身体がシルエットになって。佳奈の顔はまた黄色く染まる。


 その光景は脳裏に焼きつき、いつまでも残り続けるのだった―――


309:名無しさん@ピンキー
07/07/02 20:20:40 BEq0B1Oz
それでは続けてこちらも新作をば
3、4話程度で終わらせる予定の短編モノですが

拙い作品ではありますが、宜しくお願いいたします

310:名無しさん@ピンキー
07/07/02 23:15:34 BSAJBQkd
うおお、GJです! ぱしゅぱしゅ良いですね、ぱしゅぱしゅー。

『腐れ縁』な彼らがいかにして『幼馴染』、そして恋人になっていくか楽しみですー!!

311:名無しさん@ピンキー
07/07/03 01:49:57 nDCjSxE1
シロクロの続きを待ち続けて早5年 すっかり禿上がりました

312:名無しさん@ピンキー
07/07/03 05:29:48 KWZ2p+ws
信じることは待つことだってばっちゃが言ってた

313:名無しさん@ピンキー
07/07/03 09:44:28 sULXhJ4u
気持ちは分かるが作品が投下されて間もないのにそういう事言うのはちょっとあれだ
書き手さんがいなくなるぞ

314:名無しさん@ピンキー
07/07/03 10:37:08 2Mt/GWq1
乞食に良識を期待しても無駄

315:名無しさん@ピンキー
07/07/03 10:44:43 /WkKNgjO
>>309
GJ
二人のステップアップがどうなっていくのかが楽しみ

316:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/04 22:40:50 0HV+1C+I
なんかとてもGJのものが続いた後に出すのは畏れ多いんですが、
コッソリと投下させて頂きます。

>191-195
>199-203
>224-227
>236-240
>262-267
の続きです。


317:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/04 22:42:07 0HV+1C+I
 出会いが動かす。三人の関係を変えていく。



  06 : Lonely



 図書室の窓から差し込む夕暮れの光に、浮かび上がるのは少女の横顔。机の上に開いた本から
視線を上げて、忍は時計に目を向けた。
 もうこんな時間か。思って、椅子から立ち上がる。太陽はまだ、遠くの地平に底を微かに触れさせて
いるだけ。それでも、学校に残っていると怒られそうな時間にはなっていた。
 もう少し、読み進めておきたかったけれど。そんなことを考えながら、借りるかどうしようかと少し迷って、
やはり本棚に戻しておくことにする。もう少しで読み終えるから、また明日、来ればいいと思って。
 窓際を通った時、ふと、校門へと視線を向ける。そして忍は、ピタリと動きを止めた。
 遠い視線の先、並んで歩く二つの背中。それはよく見慣れた親友達。
 立花美幸と、九条正宗。どんなに距離があっても、見間違える筈がない。そう自信を持って言える二人。
 瑞々しいまでの緑が繁る、校門へと続く並木道を歩む彼らは、きっと笑顔だ。遠すぎてそこまでわかる
はずもないのに、何故か彼女はそう確信していた。
 それでも、忍が硬直していたのはほんの一瞬のことだった。すぐに窓から目をそらし、座っていた席に
戻る。そして鞄を手に取って、図書室を出た。
 その歩みは、しかし遅いものだ。まるで二人に追いつくことを、恐れているかのように。

 考えてみれば、と、忍は物思いに捉われる。
 いつもあの二人の背中を見てきたな。
 想いが彼女の心に絡み付いて、記憶の海へと引きずり込んでいく。
 次から次へと、少年と少女の思い出が蘇る。一つを手繰れば、そこからまた別のものがつられて。
 幼稚園と小学校、そして高校の一年とちょっと。それだけでも、こんなにあるのかと忍自身が驚くほどに、
正宗と美幸に関わる記憶は多い。幼馴染だから、当然と言えば当然なのだろうが。
 だけど、その全てが均質な価値を持っているわけではない。
 何故なら、思い出の中の正宗、美幸の容姿が少しずつ成長していくように、忍自身も変わってしまった
から。
 例えば、高校生になってからの記憶の中で、正宗はとても輝いて見える。理由は簡単だ。
 恋を、したから。

 だがどんなささやかな思い出の中でも、正宗の横にはいつも美幸がいるように忍は思う。
 きっとただの勘違い、あるいは思い込みで、実際にはそんなはずはないのだけれど、何故か。
 何故か彼女は、正宗と美幸、二人の背中を見続けてきたような気がするのだ。

318:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/04 22:42:47 0HV+1C+I
 ……ギターの音が響いていた。
 図書室のある三階から、玄関へと向かう途中の階段。
 微かに聞こえてきたアルペジオの音色に惹かれて、忍は足を二階の廊下へと向けた。
 何か有名な映画に使われていた曲だったな。タイトルを思い出そうとするが、全く思いつかず、すぐに
彼女は考えるのを止める。
 切なく、物悲しい。それは決して不快なものではないのだけど、風に乗る調べは儚く壊れやすそうな
ものに彼女は感じて。
 そうして忍が導かれたのは、三年生の教室の前だった。ギターは、この中から聞こえてくる。
 そっと廊下から教室の中を覗き込んだ彼女は、軽い驚きを顔に浮かべた。音が途切れるのを待って、
そっと扉を開け、中にいた少女の名前を呼ぶ。
「彩夏」
「……忍?」
 意表をつかれたのだろう、彼女以上にビックリした顔を見せた後、呼ばれた少女は照れ臭そうに笑った。
「聞こえてた?」
「ん。だから来たんだし……でも意外」
 僅かに逡巡してから、忍は彩夏の隣の席に向かい、椅子を引いて腰を下ろした。
「意外って?」
「ギターが弾けるってことと、三年の教室にいること」
 彼女の言葉に、彩夏は小さく苦笑して答えず、再びギターを爪弾き始める。無理に問い詰めることも
せず、忍はただ耳を傾けた。
 同じ曲、同じメロディ。だが今度のそれは、どこか優しい。そう感じながら、ふと横目で見やった少女の
顔には、哀愁とも懐古の情とも言える表情が浮かんでいた。

 流れる時を、忍は肌に感じる。緩やかに、緩やかに。
 目を閉じて、彼女は揺蕩う。しばしの間だけでも、音と一つになりたいと願ったから。

「元カレに、教えてもらったんだ」
 手を止めて、彩夏が唐突に言う。半ば以上も思いに沈んでいた忍は、何も言葉に出来ず、彼女の方へ
と視線を移した。
「ギターも、この曲も」
「……そっか」
 彩夏の睫毛に、夕の日が絡む。少し俯いた彼女の表情から、忍は全てを見透かすことは出来なかった。
どこか苦くて、けれども甘い、まるでマーマレードのような笑みを浮かべていること以外には、何も。
「付き合ってた人、いたんだ」
「ん」
 沈黙が不自然に感じられて、問う忍に対して、彼女はわずかな逡巡を垣間見せる。やがて、窓の外へと
目を向けた彩夏。それを追う、忍の視線。
「一年生の時、ほんの半年ぐらいかな。好きになって、告白して……耐えられなくて、別れた」
「耐えられない?」
「居場所がなかったんだよ。アイツの心の中に、私の」
 責める言葉なのに、憎しみはない。ただ過ぎ去った時を懐かしむような声音に、忍はわずかに惑う。
「嫌いになったとかじゃなくて?」
「なれてたら良かったのにね。アイツは、最初っから最後まで、変わらなかったよ」
 それが悔しいかな。言って笑う彩夏の、その先を忍は感じ取る。
 だけど……だから、好きになったのだ、と。

319:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/04 22:43:31 0HV+1C+I
 ポツリ、ポツリと、彩夏は思い出を紡ぐ。
 一つ上の先輩だったこと。中学が一緒だったこと。だけど、高校に入るまでは知らなかったこと。
 同じバスケ部にいたこと。ハッキリとした性格で、物怖じすることなく、例え先輩にでも間違っていれば
間違っていると言える。そんな芯の強さに少しずつ惹かれていったこと。
 告白をしたこと。付き合ったこと。
 うまく、いかなかったこと。
「求めても応えてくれる奴じゃなかったね。そういう奴だってわかってて好きになったんだけど」
 時に、軽くギターの絃を爪弾く指と、その言葉が、やけに忍の心に印象強く刻まれた。

「なんか疲れてね。付き合ってない方が楽しくいられるって思ったから、別れることにしたんだ」
 結局、最初から最後まで、私だけが悩んでた感じだよ。おどけるその様に、悲愴はない。結果を悔いて
いないのだと、それだけで忍にもわかる。
「すごいね」
 だから感想を、そのまま口にする。急に彼女が大人びて見えた。二人の位置は変わらないのに、今は
とても彩夏が遠く思える。
「別にすごくないよ」
「すごいと思うよ。なんか意外だし。そんな風に見えなかったから」
「隠してたからじゃない? ほとんど誰にも言ってないし。美幸にだって、言わなかったから」
 その台詞に、少し忍は驚く。彼女の目から見ても、二人はいつも仲が良く、一緒にいるように見えたから。
とはいえ、美幸も彼女に、恋の話をしていなかったから、お互い様と言えるのかもしれないが。
「……どうして私に?」
「そうだね……聞いてみたかったからかな」
「何を?」
「正宗のこと、どう想ってるか」
 彩夏の口から出た言葉に、忍は眉を顰める。
「それ、今、思いついたでしょ?」
「当たり」
 言って、明るく彼女は笑った。
「話したことに意味はないよ。なんとなく、そんな気分になった、ってだけ。でも、せっかくだから聞いて
みたいな、って思った。私が話したから、話してくれるかなって」
「そういう言い方、ずるいと思う」
「別に、話したくなきゃ話さなくてもいいけどね」
「それもずるい」
 忍の渋面に、クスクスと笑いながら、彩夏はギターを机の上に置いて、腕を組む。その視線は、探るでも
なく、興味本位でもない。ただ純粋に、知りたいだけだと気付く。

 夕の静けさと、彩夏が明かした秘密が、忍の心の扉を開く。

320:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/04 22:44:36 0HV+1C+I
「好きだよ」
 素直に口にした想い。だが彩夏が笑む前に、厳しい口調で付け足す。
「でも、彩夏が望んでるのとは違うと思う」
「へぇ?」
 首をかしげる彼女に、忍はわずかに胸を張り、真っ直ぐに目を見つめながら言った。

「幼馴染だったから好きになったんじゃない。好きになった人が、たまたま幼馴染だっただけ」

 それはずっと、彼女が思っていたことだった。


 中学の三年間を、忍は正宗と離れて過ごしていた。その間に、彼のことを思い出すことは、数えるほどに
しかなかったように思う。
 だから高校に入り、彼と再び同じ時を過ごすようになった時、正宗のことがまるで知らない男性のように
感じられた。
 やがて、想いが忍の胸に宿った。それは幼馴染だったから生まれたものではないと、彼女は信じている。


「そういうもの?」
「そういうもの」
 問いかけのための語尾の上がりを無くした同じ音で、忍は彩夏に返す。
「言うまでもないけど、秘密だからね」
「わかってる。でも、言わないわけ?」
「……気が向いたらね」
 浮かべた苦笑に、何かを感じたのか、彩夏はふぅん、と頷いただけだった。そして、机に置かれたギター
の絃を一本、軽く弾く。
 生まれた音色は、やがて空に飲まれていく。

「おいこら。なにやってんだ」

 その余韻を破ったのは、急に開かれた扉のガラガラという音と、呆れと怒りの交った少年の声だった。
「勝手に人のギター使いやがって」
「いいじゃん、別に。減るもんじゃないし」
 一瞬、慌てたのは忍だけで、彩夏は小さく笑いながらもう一度、絃を弾く。
「だからって、人のロッカーを開けていいってことにはならんだろ」
「はいはい、ごめんなさいって」
 近寄ってきた彼に向かって、彩夏は肩をすくめる。ったく、とだけ言う少年の顔から、怒ってるのは表面
だけで、決して本気ではないことを忍は見て取った。
「忍、忍」
「ん?」
「こいつが、さっき話してた奴だよ」
 彼女が男を親指で指差すのに、忍は一瞬、硬直する。
 さっきまで彩夏が話してた奴、と言えば、それはたった一人のことを指す。
 これが彩夏の元カレ?
 思わず、マジマジと忍は初対面の人の顔を見つめてしまう。
 目付きは鋭い方、というよりは、悪い方だ。そこに宿る光も、どこか厳しいもの。背はさして高くはない
のに、漂う雰囲気のせいか、見た目より大きく思える。そんな、パッと見、怖そうな外見なのに、近寄り
がたいとは感じられなかった。多分それは、彩夏の話を聞いていたからだろうけれど。

321:三人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/04 22:45:30 0HV+1C+I
「話してた? どうせ悪口だろ」
「それは内緒」
 うんざりしたような口調の少年の肩を、楽しそうに答えながら軽く叩く彩夏。
 そんな二人が以前は恋人同士だったとは、にわかには忍には信じられなかった。
 だが、すぐに気付く。
 きっと、彩夏にはこの距離が一番、心地良いのだと。
 近過ぎず、遠過ぎず。程よい距離。それは体だけでなく、心も。

 思わず忍は、自分を重ねてしまう。
 正宗へと近付かず、さりとて去ることも出来ず。
 心地良い距離を保っている、自分。
 美幸という少女を交えているだけ、複雑なのかもしれないけれど。

「ああ、言い忘れてた。コイツ、アタシの先輩で、吉川亮太って言うんだ」
「お前は人の名前も出さずに、噂してたのか」
 呆れ交じりの声を軽やかに聞き流し、今度は亮太と呼ばれた少年に向き直り、
「で、この子は私のクラスメイトの塩崎忍。二年になってから仲良くなった子」
「どうも」
 微妙に困惑しながら、ゆっくりと頭を下げた彼女は、気付かなかった。彼が彼女の名前を聞いた時に、
一瞬、怪訝そうな表情を浮かべたことを。

「とりあえず、お前ら、もう遅いんだから帰れよ。彩夏はバスケ部休みだったのに、こんな時間まで残って
やがって」
「っていうか、そっちこそこんな時間まで何やってたわけ? 彼女、待ってるんじゃないの?」
 自然に出てきた言葉を聞き流しそうになる。
 彼女? それって恋人のこと? 忍の向けてくる視線に気付いたのか、悪戯っぽく彩夏は頷いた。
 なんとなく、深く考えることが出来ず、少女は口を閉ざし沈黙を守ることしか出来ない。
「アイツなら先に帰らしたよ。待っててもしょうがないからって」
 亮太の言葉に対して、可哀想、と彩夏が言いかけて飲み込んだのを、忍は見て取る。きっと、同じような
ことがあったんだろうな、と想像するだけ。
 彼女は、前言を撤回することにした。こちらもこちらで、複雑なようだ。

「それじゃ。またギター、触らせてね」
「わかった、わかったから、とっとと帰りやがれ」
 しっし、と追い払う亮太の耳に笑い声を残し、彩夏は教室を出て行く。最後に軽く頭を下げてきた忍に、
鷹揚に頷いてから、彼はギターを片付けて、帰る準備を始めた。
「……ああ」
 そうして机の中から読みかけの本を取り出した時に、ようやく亮太は思い出す。高校の図書室から借りて
きた本の最後に、借りた人間の名前を書く欄があるのだが、そこに書いてあったのだ。
 塩崎忍、と。
 それを一度ならず、何度も目にしていたから、聞いた時に覚えがあるように感じたのだ。
 気付いてみりゃ、なんてことないな。
 声に出さず、そう呟いて、彼は少女の名前が書かれたページを閉じた。


 出会いが動かす。三人の関係を変えていく。
 それは糸。少年と少女達に絡み、新しい模様を紡ぎだす糸。
 そのことに気付く者は、誰もいなかったのだけれど。

322:三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI
07/07/04 22:49:44 0HV+1C+I
お付き合い頂き、ありがとうございます。

気が付けば二週間、空いていたのですか。ボチボチまた書いていきたいと思います。

しかし、やはりオリジナルは難しいですね。キャラを立てるのに四苦八苦しております。悩みどころ。

>269>270>271
高速投下のペースが再び取り戻せればいいのですが。なんにせよ、ようやくスタートライン、
というところでしょうか。長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。

では、よろしくお願いいたします。

323:名無しさん@ピンキー
07/07/04 23:25:39 KgoiTgiI
テンション寝る前に最高潮です。

ごめんなさい。懺悔します。正直今までの話は軽く読む程度にしてしまっていました。

だが、今回は。今回はダメです。ホントダメです。こういう文体にはマジで弱いのです。ストライクゾーンをストレートでど真ん中貫かれた気分です。

何がいいたいかというと、
GGGGGGGGGGGJ

それでは今までの読み返してきます。

324:名無しさん@ピンキー
07/07/05 02:09:53 9MkCOzsQ
いいですねぇ……。これぞ青春、という感じでしょうか。

色々と動いていきそうな気配があって、これからの展開が楽しみです!


325:名無しさん@ピンキー
07/07/05 06:31:53 /PKYOw4c
日のように眩しく、月のように穏やかで、朝のように優しく、夜のように美しい、あなたの文体が大好きです!


回りくどい物言いですが、つまりはなんというか、忍を下さい。ぎゅっと抱きしめたい。後ろから。

326:名無しさん@ピンキー
07/07/07 06:39:22 qF8F0BcQ
アゲ

327:292
07/07/07 21:54:18 rytTEZMs
「織姫って可哀相だよね~。好きな人に年に一回しか会えないなんて、私なら死んじゃう。」
「バ~カ、俺達だって似たような物だろ。間に流れてるのが天の川か、日本海か、のね。」
俺達は北京の町を歩きながら七夕の話をしている。
「私は涼也が頑張ってくれるおかげで、年に2回会えるもん。」
蘭は頬を膨らませて言う。
俺と蘭は2年前まで、生まれた時から一緒にいた。
そして幼なじみという関係から脱却して、俺達は幸せの絶頂にいた
だがそれを蘭の父親の中国転勤が引き裂いた。

それから俺はバイトを始めた。
蘭に会いに中国に行くために。
そして何とか年に2回ここに来るだけのお金を手に入れ蘭との半年に一回の逢瀬を重ねている。

「一回と二回じゃ大して変わらないだろ。」
俺も苦笑して答える。
「本当はもう少し来たいんだけどな…」
「これ以上無理しちゃダメだよ~。涼也だって学校とかあるんだし。」
「あと二年だから。大学は日本で通えるように頼むから…その時は、一緒に行こうね。」
「ああ、その時を楽しみにしてるぜ。あと蘭のためじゃなくて俺が来たいから来てるんだぞ。可愛い俺の蘭に会うためにな。」我ながらクサイセリフだと思う。
「もう……」

328:292
07/07/07 21:54:53 rytTEZMs
でも蘭は顔を真っ赤にして恥ずかしがってくれる。
可愛いやつだ。
「んじゃ行きますか。」
「行きましょ~~。」
半年ぶりの一泊二日泊まりがけデートの始まりだ。


楽しい時は一瞬で過ぎていく。




「もう終わりなんだね。」
寂しそうに蘭が言う。
この二日で色々な事をした。
観光もした。
おいしい食事もした。
一つにもなった。
でももっと一緒に居たかった。
「まぁまた来るさ。」
横に淋しげに立ってる蘭を抱きしめる。
「うん…」
「次は一月かな、まぁ頑張るさ。」
「あは、待ってるからね~。」
「まぁ慎ましく待ってなさい。」
「あはは、何それ~。ねっ?」
蘭が顔を寄せてくる。
俺はそれに唇を重ねる。
「はむっ……くちゅ…ちゅる……」

「ぷはぁっ。うん、これでまた半年頑張る元気貰ったよ。」
「俺も蘭に会うために頑張りますか。」
「頑張れ!それじゃあね。」
「それじゃあまた一月に。」
「うん。」
俺は、蘭の精一杯の空元気な眼差しを後ろに搭乗口へと入る。

さあ勉強&バイト地獄の始まりだ。
寂しくなんかない。
精一杯自分を元気づける。


逢ひ見ての
後の心にくらぶれば
昔は時を思はざりけり

329:292
07/07/07 22:00:04 rytTEZMs
七夕ネタです。
今さっき七夕だったことに気付いたんであんまり練れてませんけど、生暖かい目で読んでやってください。

感想、批評待ってます。

最後の和歌は百人一首から貰いました。
今回の話は全てこれが元です。
p.s
題名入れ忘れたorz
保管庫管理人さん、すいませんが
[七夕な日]
でお願いします。

330:名無しさん@ピンキー
07/07/07 22:11:57 3OUkaHdj
>>329
GJでした~、せつないねぇ…

和歌とかを見ると、やっぱり日本語って綺麗だなって思います。日本人でよかった。

331:名無しさん@ピンキー
07/07/07 23:14:27 RdyoFtI1
GJです!

そっか、今日は七夕なんですなぁ……。全然気付かなかったぜ……。

332:名無しさん@ピンキー
07/07/09 02:23:00 oPLd+SgQ
投下待ってる

333:名無しさん@ピンキー
07/07/09 02:32:25 xU8qNqal
>>329
GJ! こういう幼馴染も良いなぁ!!

しかしまた少し過疎気味だな。何か雑談したいなぁ。
前は幼馴染が出てくるゲームで盛り上がってたが、他にもないかな? まぁゲーム以外の話題でも良いんだが。

個人的には英雄戦記・空の軌跡の主人公二人が良い感じ。でも幼馴染というよりは家族に近いかもしれないなぁ。

334:名無しさん@ピンキー
07/07/09 12:15:18 SBzxT7Ic
エロゲーやってたら幼馴染なんて一杯出てくるよ!!

335:名無しさん@ピンキー
07/07/09 14:03:34 4keGNYWE
>>333
戦記じゃなくて伝説じゃよ

336:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:10:46 ta1cD0TQ

1.
町と人って、似てると思う。
いつも見慣れた町並みに、突然工事やってることってあるでしょ?
そのとき、「あれ、ここってもともと何が建ってたっけ?」って思っても思い出せない。
で、新しい家なりビルなりお店なりが建つ。
そうしてしばらくするとそれもまた見慣れた町並みになっていって。
ふと気がつくと工事があったことも、もとは違う建物だったことも忘れてしまう。
それと同じで、人が変わるときって、
「変わったことは分かっても、何が変わったかは思い出せない」
ものだったりする。

私の家と学校のあるこの町だって、そんな感じでちょっとずつ変わっていってるはず。
毎日通う登下校の道だって、何も新しいものは無いようで、ちょっとずつ変わる。
そんな風に付け加わったり、無くなったりして町も人も変わっていく。
何かが新しく、何かが忘れられる。
そう―
たとえば、私の一年前の登下校にはなかった要素が、今私の目の前にはある。
女の子みたいな端正な顔を、ちょっと大き目の学ランに乗せた男の子。
望月近衛、とか。


「最近、よく一緒に帰るよね」
不意にそう言ったら、望月近衛は驚いたようだった。
「そうですっけ?」
意外そうな顔に、私はうなずき返す。
いつもの学校からの帰り道。
私はふと「かつては一緒によく帰った相手」が変わっていることに気づいたわけ。

「毎日とは言わないけど、三日に二日は一緒じゃない?
そりゃお隣さんの学校に通ってるし、お互い帰宅部だから不思議じゃないけど。
でも―いつからだろうね?」
望月の通う北星高校と、私の聖マッダレーナ女子はお隣同士。
当然登下校時には二つの学校の生徒が同じ道を交じり合って歩く。
けれど、私たちみたいに二人で歩いてる人は少なかったりする。
異性との交際を禁止されてるわけじゃないけど、うちの学校はばりばりのカトリック。
やっぱりそういうことにはちょっと奥手だったり。
それに北星はエリートだから、ちょっと気後れもある。
もちろんこれだけ近いとお付き合いしてるカップルも結構いるらしい。
でも、おおっぴらにしてる人は少ない。



337:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:11:04 ta1cD0TQ

「―いつからでしょうね?」
微笑みながら、望月は自分の頬をこりこりと掻いた。
しばらく考えた返事は、当たり障りのないものだった。
実は問いを発してから、私はしまったと思っていた。
私たちが知り合ったきっかけは、あまり楽しい記憶じゃない。
彼にとっても、私にとってもそれは失恋の記憶。
かつて私が一緒に登下校した相手。古鷹青葉に告白したのが望月近衛。
そして、青葉の幼なじみの「アイツ」を好きになったのが―

結局、青葉は私と毎日一緒に登下校することはなくなった。
十何年も続いた関係に楔を打ち込むには、私も望月も新参者過ぎた。
もちろん、青葉と私は今でも親友だけど、でも青葉には別に帰る相手が出来たってわけ。

(そうか)
私は小さく独りごちた。
余り者同士がくっついて、いつの間にか安定しちゃってる。
それが今の私たち。
私は今日の化学の授業を思い出していた。
化学反応と一緒だ。
あまった原子がイオンのままではいられなくて、あまった物同士新しい分子を作る。
それだけのことだったんだ。

「……そういえば、例のいとこの人とはうまくいってます?」
話題の不穏さを感じたのか、望月が急に尋ねた。
もちろん私も不愉快な話題からの変更に不服はないから、うまく調子を合わせる。
「そうね、やっと普通の家族になったって感じ」
とは言いつつ、私は先日のことを思い出してちょっとだけ笑った。
私が軽く裕輔にキスしたときのことを。

望月がそれを見つける前に私は笑いを隠し、隣の男に聞いてみた。
「ねえ、望月ってお姉さんいたよね?」
「ええ三人」
「その人たちと、普段どれくらいスキンシップする?」
望月ははあ?と一瞬すっとんきょうな顔をしたあと、すぐに私の言いたいことを悟った。
あごに手をあて、考えているポーズ。
「そうですねぇ……あんまりしない方ですかね。たまに頭撫でられたり。
こっちからはしませんよ。流石に肉親とはいえ女性ですからね。
小さいころはよく『ほっぺにちゅう』とかされてましたけど」
「やっぱそうよねー」
腕組みして、うんうんと私はうなずく。
私が黙ってしまったので、望月もそれ以上何も聞かなかった。
二人しててくてくと住宅街を歩く。

もうそこの角を曲がれば、私の住むマンションが見える、という所まで来たときだった。
突然私たちの目の前に、二つの影。
「なっちゃん今帰り?」
「あ、裕輔さん」
問題の、我がいとこ殿。
確かに私の帰宅時間と裕輔が大学から戻る時間は結構近いけど……
家の外でばったり出会うなんて初めてだった。
裕輔の視線が、隣にいる望月の方をちらちらと動くのが分かった。
なんでだろ、緊張してきちゃった。冷や汗が出てきそう。



338:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:11:17 ta1cD0TQ

「ひさしぶり、那智子ちゃん」
女の人の声に、固まった空気が流れ出した。
よく見ると裕輔の隣に髪の長い女性の姿。
軽く会釈をしたので、私も慌てて頭を下げる。
「じゃ、私はここで。また電話するから」
そういうと、その女性はさっさと駅の方へと歩いていった。
春風に、ロングヘアがふわっと巻き上がるのを、私たちは見送る。

「……友達?」
裕輔の声に、また私はどきっとした。
「う、うん。隣の高校に通ってる、望月くん」
望月が黙って頭を下げる。
男同士の、はじめまして、という挨拶。
何、このぎこちなさは?
「……じゃあ、妙高さん。僕もここで」
望月は挨拶が終わると、逃げるように去っていった。私の方をちらりとも見ず。
私と裕輔は、取り残されたようにお互いの連れが去った方を黙って見守っていた。




339:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:11:30 ta1cD0TQ

2.
「誤解して欲しくないんですけど」
帰って制服を着替え、台所でいつものお茶の時間になったところで私はきっぱりと言った。
「あの男の子は彼氏とかじゃありませんから」
湯のみをどん、と置いて、私は裕輔を見た。
目を丸くする裕輔。
「誤解してましたね」
「ごめん」
私の表情が険しいのに気づいて、小さく頭を下げる。
最近気づいたのだけれど、こうやって少しずつ優位を取り戻していくべきかもしれない。
二つ年上ってだけで、大きな顔されたら嫌だもん。
とくに過去の話になると私は知らない話で一方的にうなずくしかない。
でも今の話なら十分逆転可能。
っていうか、裕輔けっこう女の子苦手と見た。

「こ、こっちも誤解して欲しくないんだけど」
「あの人、確か千代田さんでしたよね。今年のお正月に会った」
裕輔が言いつくろおうとするのを制するように、私は言った。
どこかで見覚えがあると思ったら、お正月に裕輔と初詣に行ったとき会った人だ。
で、私は二人の関係を誤解して。
不貞腐れて帰ってきてゲームセンターで五千円も散財して損しちゃった。
それはともかく。
「彼女じゃないことぐらい見たら分かりますよーだ」
私が鼻で笑うと、流石に裕輔も堪えたらしい。
椅子に座ったまま肩を落として、うつむいてしまった。

しばらく向かい合って私はお茶をすすり、裕輔はがっくりと下を見ていた。
日のさす台所は、そんな私たちをゆったりと受け止めている。
目の前の裕輔がなんだか、かわいい。写真の中の小さいころの裕輔みたい。
それを見ていると、むくむくといたずら心というか意地悪心がわいてきた。
私は、今日はちょっとSになることにする。

「っていうか、裕輔さん女の人とお付き合いしたことないんでしょ?」
「ぐっ」
まるで追い討ちをかけられたゲームキャラみたいに、裕輔はうめいた。
顔を伏せたまま、上目づかいに私の方をそっと伺ってる。
何で分かるんだって顔。分かるわよ、この前の反応見てれば。
「キスとかで、動揺しすぎですからー」
棒読みで言ってあげたら、ますます苦虫を噛み潰したような顔。
「で、でもいくらなんでもキスはやりすぎでしょう!?
親戚とはいえ、お互い大人なんだから……」

そのとき、私は初めてちょっとだけ気分が悪くなった。
あのときのキスは、私の精一杯の気持ちだった。
遊びでするほど私は節操がないわけじゃないし、裕輔が大事だから、好きだからこそ、だ。
それなのに裕輔はそのことに全然気づいてないらしい。
ちょっと、お仕置きしてあげなくてはいけない。

「今日会った男の子、覚えてます?」
「……? ああ、望月くんだっけ?」
「彼、お姉さんが三人もいるんですけど、スキンシップでキスは当たり前だって」
しれっとした顔で嘘をつく。
確かに当たり前だ。「小さいときは」というのは黙っておいた。
対象が唇じゃなくて、ほっぺたっていうのも、まあこの際だから黙っておいた。



340:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:11:45 ta1cD0TQ

「よよよ他所にはよその家の事情があるわけで、僕らは……!」
「裕輔さん、そんなに私にキスされるのがいや?」
この台詞は効いた。
ちょっとのどを詰まらせながら、上目づかいで、泣きそうな顔で。
私って女優の才能があるのかしら。
暇だし、こんど演劇部の扉でも叩いてみよう。二年からでも入れるのかな。
なんてことを考えながら、私は裕輔の対面の席を立って、隣の椅子に腰を下ろす。
覗き込むように裕輔の顔を見る私を、裕輔の泳いだ視線が捉える。
気持ちをなだめるように、私は裕輔の手を握ってそっと膝においた。

窓の外の鳥の声まではっきり聞こえる。
私たちはそれぐらい黙ったままだった。
裕輔の喉仏が、ごくりと動くのがはっきりと分かった。
「……慣れなきゃいけないですよね」
そういうと私は唇を近づける。

ふにゅっ。

私たちの唇が重なり、ぬくもりがお互いの唇を通して伝わってきた。
裕輔の唇、男のくせに妙にぷにゅぷにゅしてる。
まるでグミみたいな弾力。
私はそれを味わうように、何度かぐっと唇を押し付けた。
そのたび、裕輔は逃げようとして、でも私に怒られるのが怖くてぐっと踏ん張る。
それが面白くて、私は何度も何度も、裕輔の唇の弾力を楽しんだ。

「ぷはっ」
息が続かなくなったところで、私はようやく裕輔を解放してあげた。
新鮮な空気を胸いっぱい吸い込みながら、はにかむ。
「いい子いい子、ちゃんと逃げなかったですね」
そう言って裕輔の頭を撫でてあげる。
裕輔は相変わらず顔をちょっと赤くしたまま、私の顔をじっと見ていた。

「どうですか? スキンシップ、悪くないでしょ」
「なっちゃん……いいのかな」
かすれた声が、裕輔の緊張をはっきりと伝えていた。
「いやその、嫌ってわけじゃないんだけど、その……
なっちゃんはいいのかな……
前のときに聞くべきだったかもしれないけど、その、初めての相手が……」
余りの古風さに、私はちょっと吹き出してしまった。
まるでおじさんみたいだけど、それが裕輔には妙にふさわしく思えた。

「ご心配なく。ソフトキスぐらい、ちゃんと初めては好きな人と済ませましたから」
―私がむりやり奪ったファーストキス。
思えば、青葉に対する酷い裏切りかもしれない。
大好きな幼なじみと、目の前でむりやりキスするなんて。
そのことを私は、なぜか今まで当然の権利のように思っていた。
でも裕輔に問われて初めて気づいた。
それは、青葉にとっても、「アイツ」にとってもすごく悪いことだったって。

私、なんで気がつかなかったんだろう。
こんなに、人を傷つけていたことに。



341:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:11:59 ta1cD0TQ

3.
「なっちゃん、大丈夫? ……どうしたの?」
私の顔が翳ったのを、裕輔は見逃さなかった。
慌てて我に返る。
今は弱い自分を見せたくなかった。特に裕輔には。

「な、なんでもないですよっ。
そんなことより、裕輔さんこそ初めては私でよかったんですか?」
してしまった後に聞いたって、もう遅いんだけど。
でも、私は裕輔が「かまわないよ」と言ってくれることを半ば期待して尋ねた。
裕輔はやさしいからそう言ってくれると信じてた……つまり、私はずるい女ってわけ。
「ううん」
ところが、裕輔は首を横に振った。
私の心臓が跳ね上がりそうになる。
だが、その意味は私が思っているのとは違った。

「僕も、初めてはすましちゃったからね。
残念ながら、『好きな人』とは言い切れない相手だけど」
苦笑しつつ、裕輔はそのときの経験を反芻するように首を何度かひねった。
「……意外」
「失礼だな、なっちゃん」
私たちはそんな風に笑いあった。
笑顔で見詰め合うと、私はほんの一瞬だけど、さっきの嫌な思いを忘れることが出来た。

「じゃあ裕輔さん、聞いていいですか?」
「何?」
どんな質問でもどうぞ、とでも言いたげに、裕輔は悠然と構えている。
まるで生徒の質問に答える大学の教授みたいな感じで。
「ディープキスは、したことあります?」
「もちろん、初めてがそれだったから」
おお、と目を丸くする私に、裕輔は笑みを浮かべる余裕すらあった。
―くそう、なんだかくやしい。
そう思った瞬間、私はもっと過激なことを口にしていた。

「じゃあ、セックスしたことは?」

裕輔の体が、一瞬硬直して、私の顔をまじまじと見た。
私はそれからずっと後になって、そんなことを聞いたことが、
「私たちの関係を変えてしまったんだ」
と気づいたのだけれど。
でもその時はなんとも思っていなかった。
むしろ肉親同士だから出来る、ぶっちゃけ話のひとつだと、そう思っていた。

「…………ある、よ」
長い沈黙の後、短い答えが返ってきた。
でもそれを口にした裕輔の顔は、なぜか苦々しいものを口にしたような。
そんな表情を作っていた。
「―相手は?」
裕輔の答えを聞いて、私は初めてそれは触れてはいけないことだったと気づいた。
私のファーストキスの思い出と同じで、それは甘いものじゃなかったのだ。



342:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:12:14 ta1cD0TQ

「……友人さ、僕が昔よく落ち込んでたときに、親身になって励ましてくれた。
あるとき、その人の部屋で相談に乗ってもらってたときにね。
相手が『なんか落ち込んできたから、お酒でも飲もうよ!』って。
自販機で買ってきたビールを二人で飲んで、酔っ払って―
そのまま、関係を持ってしまった」
裕輔は罪を告白する容疑者みたいに肩を落としたまま言った。
「相手には彼氏がいた。僕の知ってる人だ。共通の友人さ。
彼女は『気にすることないよ。私がしたくなったんだから、仕方ないじゃん』って。
『体で慰めてもらったなんて思う必要ないから』って。
でも―結局ばれてしまって、二人は別れることになった。それ以来、僕は……」

「女の人、苦手になった」
裕輔はじっと目を伏せたままだった。
それがとても苦しい思い出だってことぐらい、私にも分かった。
相手の彼氏に、二人が関係を持ったことを告げたのは、彼女自身なんじゃないか。
私はふとそんな気がした。
そして、裕輔はそれまで黙って友人をだまし続けた自分を責めた。
裕輔はそんな人だ。

「なっちゃん、僕は―」
言葉は続かなかった。
私は立ち上がり、もう一度裕輔の唇をふさいでいた。
離れないよう、両手でぎゅっと裕輔の頭を抱いて、彼の唇をついばむ。
ほんのり湿った唇同士が、吸い付くように何度も重なる。
とにかく、もう裕輔にはしゃべって欲しくなかった。
そうやって、自分を責めるのは止めて欲しい。裕輔は何もかも自分のせいにしたがる。
それは立派なことだけど、それだけじゃ駄目だ。

お前の生意気な口をふさいでやるぜ、なんて。
駄目なシナリオのテレビドラマでも最近じゃありえないけれど。
私はそうすることでしか、裕輔の口をふさぐことが出来なかった。

「……裕輔さん」
驚き、戸惑う裕輔の耳元で、私はそっと囁く。
「私に、素敵なキスの思い出をくれませんか?」
自分でも陳腐で恥ずかしい台詞だと思った。
だけど、そうでも言わなきゃ、裕輔は私に―してくれないだろう。

裕輔と向かいあって、私は彼の膝にまたがるように座る。
そして、黙って裕輔の前で目を閉じた。

ぎゅっと私の背中を抱きしめる大きな手。
顔が裕輔の胸に埋まる。
お互いの心臓の音がどきどきと反響しあうみたいに高く大きく聞こえる。
私は怖くて、目をつぶったままだった。
裕輔の手が、優しく私に顔を上げるよう促す。
つ、と持ち上げた唇に、裕輔のそれが重なった。



343:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:12:26 ta1cD0TQ

次の瞬間、暖かく濡れた塊が、私の唇を押し割って入ってきた。
「……ンっ」
怖くて歯をかみ締める。
すると、裕輔の手が私の短く切りそろえた後ろ髪を、そっと撫でてくれた。
それだけで、私は体中の力が抜けていく。

裕輔の舌が、私の舌に触れる。
まず先っぽをちろちろと触れ、何度かつつくように刺激してくる。
私の舌が応えるのを確かめてから、裕輔は絡ませるように舌を奥へと差し込んできた。
しばらく私の口の中で悶えていた裕輔は、今度は私の口の内側をつんつんと刺激していく。
「んー……んっ――」
そのたび、私はちいさなうめき声を上げた。
くちゅくちゅと唾液が交じり合う音が、耳の奥の方から伝わってくる。
私は裕輔のされるがままに、深いキスを味わい続けた。

ちゅぽんっ

やがて、大きな音を立てて裕輔の舌が抜かれた。
「ふぅっ」
ため息のような彼の息づかいに、私も自分の息が上がっているのに気づく。
それは鼓動が張り裂けそうなのと同じくらい、自分が興奮しているのを教えてくれた。
「裕輔さん……」
私は彼の顔を見ることも出来ず、ぎゅっと胸にしがみついたまま彼の名を呼んだ。
「うまく出来たかな」
耳に心地よい低い声が、胸を通して響く。
「―うん」
うなずく私を、もう一度裕輔は優しく撫でてくれた。

「裕輔さん」
「何?」
ようやく、私は顔をあげる。
彼の視線を避けるように、耳元に顔を寄せて。
「……あの、今度は」
「うん」
首筋にすがりつくように抱きつく私の背中に、裕輔の手があたる。
「……今度は、ですね」
「今度は、何?」
こんなことを言ったら、いやらしい女の子だと思われないだろうか。
変な子だと軽蔑されないだろうか。
私はそんなことばかり考えていた。
でも、胸のドキドキをおさめるには、言ってしまうしかなかった。
裕輔の耳たぶに触れるぐらい唇を寄せて、私は勇気を出して囁いた。

「今度は、私が裕輔さんの口に舌を……」



344:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:12:41 ta1cD0TQ

「ただいまーっ!」
突然、玄関が開く音がした。
熱いやかんに触れたみたいに、私たちはぱっと体を離す。
飛ぶような速さで、私はもともと座っていた裕輔の対面の席に戻った。
今までのことをごまかすように、冷め切ったお茶を飲むふり。
そこに、声の主……お母さんが帰ってきた。

「あら、二人とも帰ってたの? ベル鳴らしたのに……」
「あ、あれ? そう?」
心臓がマシンガンみたいにどきどきと鳴った。
でも、買い物袋をさげたお母さんはそんなことは気にも止めなかった。
「やーねー薄情な娘は。まあいいわ、今日は那智子の好きなグラタンにするから。
湯のみ片付けて、手伝ってちょうだい」
「は、はーい」
私は裕輔の方を見ないように、二人分の湯飲みを持って流しへと向かう。
でも、どこかに名残惜しさがあったに違いない。
私はそっと裕輔の方を盗み見た。

その瞬間、裕輔はすばやくウインクをして見せた。

―うれしい。

安堵のため息をぐっとかみ殺し、私は微笑む。
そして、お母さんの目を盗んで、そっと裕輔に投げキスをして見せた。




345:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:12:52 ta1cD0TQ

4.
その日から、私と裕輔のスキンシップは日ごとに激しくなっていった。

最初は帰宅後二人でお茶を飲んでるとき、軽くキスをするぐらい。
最後の最後にちょっと舌をいれるぐらいだった。

そのうち、朝起きて洗面所で二人っきりになったときもするようになった。
おはよう代わりに軽いキス。
二人で「ミント臭いね」なんて笑いあいながら、歯磨きしたあとにディープキス。
いつお父さんやお母さんに見られるかと思いながらするキスは、すごく興奮した。
裕輔とキスしたあと、何食わぬ顔で親とご飯を食べ、学校に行く。
私がさっきまでそんなことをしてたなんて、親も先生も友達も知らない。
それだけで私はどきどきした。

帰ってきたら、もちろんお帰りなさいのキス。
お母さんは大体夕方まで買い物とか用事でいないから、今度はおおっぴらに。
玄関で軽く触れ合って、二人で台所でお茶。
最初は隣に座って、目があったらキスするって感じだったけど、段々大胆になった。
そのうちお茶なんてどうでもよくなっていた。
私は裕輔の膝にまたがり、向かい合って抱き合う。
そのまま飽きるまでずっと―
舌を絡め、耳たぶを愛撫しあい、首筋をつーっと舐める。
すぐ耳元で聞こえる互いの荒い息づかい。ぴちゃぴちゃという唾液の音。
お茶が冷め切って、お母さんが騒々しく帰ってくるまで。
私たちはキスばかりするようになった。

私たちはそのうち、家の外でもスキンシップをはかるようになった。
お互い何も言わなくても、顔を寄せ合うだけで何がしたいかは分かるもの。
私たちのお気に入りの場所は、マンションのエレベーターだった。
朝、二人揃って家を出る。
エレベーターに乗り込み、二人きりになった瞬間、私たちは抱き合う。
かばんを床に投げ出し、腕を絡め、ためらいなく舌を差し入れあう。
狭いエレベーターいっぱいに、くちゅくちゅと唾液の混じりあう音を響かせる。
互いに伸ばした舌をくねらせ、舐めあう。
もしこのエレベーターに監視カメラがついていたら、私たちのしてることは誰かに丸見え。
そんなことを意識すると、私はたまらなく興奮した。
やがてエレベーターが止まりドアが開く。
何気ない顔で二人は外に出る。
これが、新しい朝の儀式に加わった。




346:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:13:11 ta1cD0TQ

そんな風に、半月ほどがたった。
その日も私ははやる心を抑えながら、家へと急いでいた。
ドアを開ければ裕輔がいる。
今日もお母さんが帰ってくるまで、好きなだけ彼を貪ることが出来る。
駆け出したくなるのを我慢しながら、私はマンションのエレベーターに乗った。
ドアが開くと、その隙間をすり抜けるようにまっすぐ家のドアへ。
かばんから鍵を取り出し、馴れた手つきで開ける。
「ただいまー!」
ドアが閉まりきらないうちに、私は大声で裕輔を呼んでいた。

「……裕輔さん? いないの?」
台所は空っぽだった。そこに人のいた形跡はない。
お母さんはいつものように留守だった。どうせ友達と喫茶店で話しこんでいるんだろう。
念のため居間を覗く。
カーテンは閉め切られていて、薄暗かった。
私は照明のスイッチを手探りで入れると、外の明かりを取り込むためカーテンを開けた。
窓から見える町は静かで、何事もない平和な午後四時が目の前に広がっている。
私は改めて耳をすます。
家はしんと静まり返っていて、遠くから車の走る音が聞こえるほどだった。

「……裕輔さーん?」
私は恐る恐る、台所の奥、かつては衣裳部屋だった裕輔の自室のドアを開けた。
細長い部屋は真っ暗で、ほんのわずかにカビの匂いがした。
私はかばんを台所の椅子に置くと、裕輔の部屋に入っていく。
「……どこか、出かけたのかな?」
部屋にはいつも裕輔が大学に行くときに使うかばんが置いてあった。
壁の洋服かけには、裕輔が最近よく着ているジャケット。
家に一度戻ったことは間違いない。

私はジャケットをそっと手にとってみた。
男の人の中でも背が高い方の裕輔は、私と比べれば抜群に大きい。
そのジャケットも私にはぶかぶかで、ハーフコートみたいに思えた。
「ふふふ……」
制服の上から裕輔のジャケットを羽織る。
腕を伸ばしても、袖口からは私の指先しか見えない。

その瞬間、ふわっと裕輔の匂いがした。

毎日抱きしめられるときに嗅ぐ、あの心地よい、安心できる匂い。
私は思わず自分の体を抱きしめる。
裕輔に抱きしめられているような、そんな錯覚を覚える。
ぺたり、と床に座り込む。
背中に、裕輔を感じる。
私をしっかり抱きしめてくれる彼のぬくもりを。

私は、壁際に畳んで積んであった裕輔の布団に体をもたせかけた。
布団のぬくもりと裕輔の匂いが、私を裕輔に包まれているような気分にしてくれた。
「裕輔……」
声に出してみて、私は初めてはっとした。
裕輔、のあとに私は何を言おうとしてるんだろう。
「好き」? それとも、何か違う言葉?

違う、と私は心の中でその感情を強く否定した。
―私はまだ「アイツ」が好き。
青葉のものになってしまった、あの鈍感で生意気なアイツが。
夜中に泣いてしまうほど好きだった一年前とは違うけど、でもまだ心が残っている。


347:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:13:24 ta1cD0TQ

じゃあ裕輔は?
裕輔への感情は、幼なじみのいとこへのもの?
それとも優しい年上のお兄さんへのもの?
違う。
だったら私はあんな風にキスなんてしない。
あれを私たちは「スキンシップ」と呼んでるけれど、それはとんでもないごまかしだ。

―私は、裕輔と一つになりたいと思ってる。

そう考えると、やはり「裕輔」と呼びかけたあとに続く言葉は……

「裕輔……」
そのとき、私は初めてずっと我慢していた戒めを解いた。
裕輔への冒涜だと思ったから、決してやろうとはしなかったこと。
(裕輔……ごめんね)
心の中で謝ってから、私はそっと手を内股へと伸ばし始めた。
ごわごわとした裕輔のジャケットの袖が、セーラー服のスカートの中へ入っていく。
太ももの内側に当たる、その布地の感覚に私は体を震わせた。

私はまだ一度も「そういうこと」をしたことがなかった。
だから指先がショーツに触れた瞬間、ためらい、手を止めてしまった。
直接触るの、怖い。
私はさっきのジャケットの感覚を思い出した。
腰を浮かすと、スカートの中に差し入れた自分の腕を、内股に挟む。
そのまま、腕をわずかに動かしてみた。
ごわごわしたジャケットが、薄いショーツ越しに私のあそこをこする。

「ふぅんっ……!」

自分でもびっくりするぐらい、簡単に声が出た。
背中を痺れみたいな快感が駆け上がっていく―初めての快感。

一度知ってしまったら、怖くないと分かってしまったら、もう止めることは出来なかった。
何度も何度も、ジャケットの袖口を自分の陰部にこすりつける。
「くぅんっ……ぅぅっ……あんっ……!」
嬌声をかみ殺しながら、私は飽きることなく腕を上下させた。
だんだん、腕を動かす速度は早くなり、力は強くなっていく。
もう私には自分で腕を動かしているという感覚は全くなかった。

裕輔。
裕輔が私を愛撫してくれている。
私にはそうとしか思えなかった。

「私も……動くね…………裕輔……」

無意識につぶやくと、私は膝立ちになり、腕の動きにあわせて腰を上下させ始めた。
「うんっ……ふぐぅっ……んっ……んっ……! ふぅん……!!」
私はだんだん声を殺すことも出来なくなった。
頭の中に裕輔の顔が一杯に浮かび、微笑みながら私を快楽へと誘っている―
そんなイメージに包まれたまま、私は無我夢中で腰を振り続けた。



348:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:13:36 ta1cD0TQ

「裕輔……ゆうすけ……裕輔さん……裕輔さん……!」

顔はほてったように熱くなり、内股がまるで真夏の不快な汗をかいたように濡れていく。
もう、我慢できなかった。
もどかしげにショーツをずらすと、むき出しの柔らかな丘に手をあてがう。
ジャケットの袖越しに、割れ目に沿ってぴったりと指をそえると、小刻みにこすり始める。
「裕輔さん……裕輔さん……ゆうすけさんっ…………!」
何度も彼の名を呼ぶ。
呼ぶたびにしびれるような快感が私を襲った。
「ゆうすけさん……ゆうすけさん―!」

「……なっちゃん?」

低い声が、私の動きを止めた。
もちろん声の主は分かっている。
はあはあと荒い息を吐きながら、私はのろのろと振り返る。
部屋の扉のところに、彼が立っていた。
薄暗い部屋の中からでは、彼の表情は分からない。
でも、きっと驚いているんだろうということは考えなくても分かった。

「ゆう、すけ……さん……おかえり…………なさい……」

頬を上気させながら、私は微笑む。
裕輔の方を向き直って、ぺたりと座り込む。
そろそろと両脚を開きながら、私は彼に言った。

「ね――今日も―きす―しよう?」


(続く)


349:那智子の話・第五話 ◆ZdWKipF7MI
07/07/09 19:16:12 ta1cD0TQ

あと3-4回で終わる予定です。
何とかこれから月1ぐらいのペースで落としていけたらなあと思っております。

ただ今は那智子をどうエッチな女の子にしたてあげるかしか考えておりません。

では。

350:名無しさん@ピンキー
07/07/09 20:03:34 4keGNYWE
こ、これは波乱の予感が!GJ

351:名無しさん@ピンキー
07/07/09 20:12:21 OkNb0TCw
GJ!!キスシーンだけでおっきした。那智子エロいよ那智子。下さい。

352:名無しさん@ピンキー
07/07/09 22:34:14 uzyUMnln
なちこえろいよなちこ(゚∀゚)=3

353:名無しさん@ピンキー
07/07/10 10:16:04 TBDsV4X3
GJ!! 男を足を開いて迎えるだなんて…… 那智子……いやらしい子……!

354:名無しさん@ピンキー
07/07/11 00:12:36 ysHpofmT
うにさんはまだかねぇ

355:名無しさん@ピンキー
07/07/11 00:23:18 fXi3NM1m
>>354
乞食は黙ってろ。

356:名無しさん@ピンキー
07/07/11 00:27:49 ysHpofmT
お前に言ってんじゃないんだ
いちいちレスすんな。カスが

357:名無しさん@ピンキー
07/07/11 00:48:12 EGwKcsod
>354 金髪ヤンキー娘。ぶっきらぼうだけど中身はいい娘
>355 真面目な眼鏡。口が悪いが幼馴染みの354のことが放っておけない。

回転ベルトの中心で御寿司屋さんがあれこれせっせと握りまくっている。
入り口近くにはきっちり学ランを着込んだ少年が座っていて、彼はサラダ巻を
頬張りつつも皿の色を並べなおし、それから眼鏡の位置を直している。
隣では長いプリーツスカートの膝と膝の間に細い手を置き、金髪の少女がぼやいている。
「うにさんはまだかねぇ」
「乞食は黙ってろ」
「お前に言ってんじゃないんだ
 いちいち返事すんな。カスが」
つっかかる声にも何処吹く風で少年は新しく玉子焼きの皿を取った。
一皿百円~の回転寿司も、深夜になると客は目立って少なくなる。
(立地最悪な田舎に良くある潰れかけのチェーン店だというのも理由だったが)
「カス?いい口の利き方するじゃないか」
「気取ってんじゃねえ!大体てめーはむかしっからそうなん」
「誰のおごりだ。誰の」
積みあがった少女の皿を眺めて念を押すと、金髪がしおれて呻き声をだした。
「家の前でめそめそ泣くほどお腹がすいてるんなら、
 『ありがとうございますいただきます一生ついていきます』と言いながら素直に食え。分かったら食え」
空になった緑茶を湯飲みに継ぎ足して、少年は次の獲物を知らぬ顔で物色しはじめた。
少女は泣くように呟いてから緑茶をちびちびとすすって、うにが出てくるのを夜更けの回転寿司でもうしばらく待つ。
「……この、おせっかい」


という電波を受信

358:名無しさん@ピンキー
07/07/11 02:51:16 fXi3NM1m
>>356
乞食は黙ってろ。

359:名無しさん@ピンキー
07/07/11 04:06:23 wkC2eTlH
保管庫が見れなくなってるのは俺だけなのだろうか・・・・・・

360:名無しさん@ピンキー
07/07/11 06:46:28 lMuu91TA
ページが移動してるね
トップページからいってみ?

361:名無しさん@ピンキー
07/07/11 14:12:04 wkC2eTlH
みれますた。ありがとう。

362:名無しさん@ピンキー
07/07/12 15:44:14 rXB5gOJZ
>>357
どうです、エロパロ専属萌え殺し和ませ職人として
働いてみては

363:名無しさん@ピンキー
07/07/12 15:55:26 lbBEW2ji
投下します!

364:絆と想い 第15話
07/07/12 15:56:24 lbBEW2ji
六月も半ばを過ぎたある日の夜。正刻は宮原家のリビングにいた。
しかしいつもは我が家のようにくつろいでいるその場所で、彼は非常に緊張し、小さくなっていた。
その原因は、テーブルの上に並べられた実力テストの成績であった。

向かいには慎吾と亜衣が座り、両脇は唯衣と舞衣に固められるという状態の中、正刻は家長である慎吾の言葉を待った。
やがて、ふむぅと一言呟くと、慎吾は正刻に言った。
「……しかし、君は相変わらず極端な成績を取るねぇ、正刻君……。」
その言葉に正刻は首をすくめて、小さな声で済みません、と呟いた。
その様子に慎吾は思わず笑った。
「いや、そんなに小さくならなくてもいいよ。トータルで見ればそれなりの成績だしね。ただ……ねぇ?」
そう言って慎吾は隣に座る亜衣に問いかけた。亜衣も苦笑しながら答えた。
「そうねぇ……。確かにトータルで見れば良いけど、それでもここまで教科によって上下がはっきりしてると……ねぇ。」

慎吾も亜衣も揃って苦笑する。それほど正刻の成績にはばらつきがあった。
正刻は得意科目は校内でもトップクラスなのだが、反対に苦手科目は赤点を取ってしまう程に駄目だった。
具体的に言うと、国語全般、英語、社会全般は得意だし好きなのだが、数学、理科系は壊滅的に苦手で嫌いだった。
一年生三学期の期末テストにおいては国語系・英語で学年トップを取ったにも関わらず、数学・理科系が軒並み赤点という、ある意味
偉業を成し遂げてしまった。
その時、数学や理科の教師達から「お前は俺たちの事がそんなに嫌いか!?」と説教されたりしたのも伝説となっている。

その教訓を踏まえ、二年一学期の中間テストでは何とか頑張り赤点を回避することに成功した。
しかし、つい先日行なわれた期末テストへの腕試しともいえる実力テストで、彼はまたやってしまった。
そのため、今宮原家で彼は小さくなっているのである。

「まぁ、君の保護者代わりである僕らに言わせると、苦手な科目があるのは仕方ないけど、せめて赤点は回避して欲しいという所かな?」
「そうね。それに期末テストで赤点取っちゃったら、夏休みは補習三昧になっちゃうでしょ? そうしたら、毎年行っている旅行にも
 いけなくなっちゃうわよ? 他にも色々イベントがあるのに、全然楽しめなくなっちゃうわよ?」
慎吾と亜衣は、正刻にそう言った。
ちなみに亜衣が言っている旅行であるが、正刻と宮原家、更に場合によっては親しい人々……鈴音や佐伯姉妹や、その他の友人達……と
一緒に慎吾や兵馬の知り合いが経営している海沿いの温泉旅館へ行くものである。これは皆が楽しみにしているものであり、それは正刻
も同様であった。

「そうですね……。確かにこのままじゃ不味いですものね……。俺、必ず赤点だけは回避してみせますよ!!」
うな垂れていた顔を上げ、決然と言う正刻。すると、横からにゅっと腕が伸びてきて、正刻を抱きかかえた。
「流石は正刻だ。それでこそ私が愛した男! 愛い奴めそらそら!」
そう言って正刻を抱きしめるのはもちろん舞衣である。正刻を横から抱き、その頭を自らのたわわな胸に埋めろように抱え込む。

「ちょ、ちょっと! 恥ずかしい真似は止めなさいよ舞衣!!」
すると当然唯衣は過激に反応し、舞衣の腕をほどいて正刻を救出する。正刻の顔は、息苦しさと恥ずかしさと気持ちよさで真っ赤であった。
「……何よその顔は。あんた、まさかあのまま舞衣の胸に埋もれていたかった、なんて言うんじゃないでしょうねぇ? ええ?」
怖い笑顔を浮かべながら正刻に詰め寄る唯衣。正刻は気持ちよかったという負い目があるため気まずそうに目を逸らすことしか出来ない。


365:名無しさん@ピンキー
07/07/12 15:57:20 lbBEW2ji
と、そんな状況を制するように亜衣が言った。
「だけど正刻君。あなた一人で勉強大丈夫なの?」
「う……。そ、そこは何とか気合と根性で……。」
「あんたねぇ……。気合と根性で何とかなるなら、そもそもこんな状態に陥ったりしないでしょうが……。」
亜衣の心配に精神論で応えようとした正刻であったが、唯衣に冷静につっこまれて沈黙してしまう。

そんな正刻を見ていた宮原姉妹は、顔を見合わせるとやれやれといった風に笑った。
「何、心配は無用だ母さん、正刻。テストまで私と唯衣、それに鈴音で正刻にみっちりと勉強を教えてやるさ。」
「ま、舞衣と鈴音がいるなら私の出番は無さそうだけどね。この際だから、あんたと一緒に私もテスト勉強をするわ。一人で集中砲火を
 浴びるよりは、仲間がいた方が気が楽でしょ? ね?」

そうして二人は正刻に笑いかける。正刻はしばらくその笑顔を見つめていたが、やがてぺこり、と頭を下げた。
「二人とも、本当に有難うな。恩にきるぜ!」
「何水臭いこと言ってんのよ。困った時はお互い様、私たちの間じゃ当たり前のことでしょ?」
正刻の頭をぽん、と軽く叩きながら唯衣は言った。それに舞衣が続く。
「まったくだ。それに、君が旅行に来れなかったら私も唯衣も悲しいしな。私たち自身のためでもあるのだから気にするな。」
「ちょ、ちょっと舞衣! 私は正刻が来なくたって、別に……!」
「ふぅん? 本当か? ほんっっとーに来なくても良いのか? んん?」
「むぐぅ……そ、それは……っ!!」

顔を赤くしながら悔しそうな顔をする唯衣。それを楽しげに見ながら舞衣は再度正刻に抱きつこうとした。
しかし、彼はそれをするりとかわすとリビングの出口へと歩いていった。
「それじゃあおじさん、亜衣さん、俺は今夜はこれで帰ります。おやすみなさい。」
「何だい正刻君。せっかくだからこのまま泊まっていけば良いのに。」

慎吾にそう誘われた正刻であったが、苦笑しながらそれを断った。
「済みません。でも、おそらく明日あたりから徹底的にしごかれてしまうでしょうから、今夜は自分の布団でゆっくり眠りたいんですよ。」
そう慎吾に言った正刻は、宮原姉妹に顔を向ける。
「それじゃあ唯衣、舞衣! 明日からよろしくな!」
にっと笑ってそう言うと、正刻は家へと帰っていった。

「……さて、では私も明日からの対正刻用の勉強計画でも練っておくか。」
そう呟いて立ち上がる舞衣。その動作に何を感じたのか、唯衣は妹の肩にぽん、と手を置いて言った。
「……先に釘を刺しておくけど、正刻と二人きりで勉強をする時間を作ろうとしないでよ? というか、あんたはその時間で勉強以外の事
 をする気満々なんでしょうけどね。でも、絶対にそれは阻止させてもらうから。」
思わず唯衣の顔を見る舞衣。唯衣は妹を笑顔で見つめている。しばらく見つめあっていた姉妹だが、やがて舞衣が先に目を逸らし、深々と
溜息をついた。
「全く……お前には敵わないな。分かったよ。テスト勉強中はそこまで正刻にアプローチはかけないよ。日々のスキンシップはさせてもら
 うがな。」
「賢明な判断ね。というか、結局はそうした方が正刻のあんたへの好感度もあがると思うけどね。」

二人はそのまま話しながらリビングを出た。そして残された夫婦はというと……。
「いやー、やっぱりあの子達の絡みは面白いわねぇ! 下手な昼ドラよりよっぽどドキドキするわぁ!!」
「い、いや亜衣……。流石に自分の娘や親友の息子をダシにして楽しむってのはちょっと……。」
少し、世知辛いことになっていた。



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