お姫様でエロなスレ6at EROPARO
お姫様でエロなスレ6 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
07/05/12 18:14:34 ycdT4AMU
気位の高い姫への強姦・陵辱SS、囚われの姫への調教SSなど以外にも、
エロ姫が権力のまま他者を蹂躙するSS、民衆の為に剣振るう英雄姫の敗北SS、
姫と身分違いの男とが愛を貫くような和姦・純愛SSも可。基本的に何でもあり。

ただし幅広く同居する為に、ハードグロほか荒れかねない極端な属性は
SS投下時にスルー用警告よろ。スカ程度なら大丈夫っぽい。逆に住人も、
警告があり姫さえ出れば、他スレで放逐されがちな属性も受け入れヨロ。

姫のタイプも、高貴で繊細な姫、武闘派姫から、親近感ある庶民派お姫様。
中世西洋風な姫、和風な姫から、砂漠や辺境や南海の国の姫。王女、皇女、
貴族令嬢、または王妃や女王まで、姫っぽいなら何でもあり。
ライトファンタジー、重厚ファンタジー、歴史モノと、背景も職人の自由で。


3:名無しさん@ピンキー
07/05/12 18:19:47 ycdT4AMU
ものを知らない初心者のため、
次スレのご案内もしないまま前スレを書き込みできなくしてしまい
本当に申し訳ありませんでした。


4:名無しさん@ピンキー
07/05/12 18:38:28 ycdT4AMU
スレを立てたのはこれが初めてで、不都合がありましたら申し訳ありません。
ここを愛用される皆様にご迷惑をおかけして本当に恐縮です。

あまりに間抜けなところで話が切れてしまったので
非常にお恥ずかしいのですが、
続きを投下させていただきます。

5:ふたたびの伴侶
07/05/12 18:43:55 ycdT4AMU

――ごぉん

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・マリー?」
「・・・・・」
「マリー、大丈夫ですか」
彼女は答えない。絶頂感と額を打った衝撃が強すぎて気を失ってしまったのかもしれない。
「ああ、なんということだ。
 誰か、誰かいな・・・むぐ」
意識が朦朧としながらもマリーはとっさに起き上がって夫の口を封じた。
いくら妻の身を案じるあまりとはいえ、こんな全裸に愛液と精液をしたたらせた姿で、
しかもつながったままの姿で侍女たちを呼び入れられたらたまらない。
マリーはそれこそアンヌを連れて生国に逃げ帰るしかなくなってしまう。
「――だ、大丈夫ですわ。驚かせて申し訳ございません」
強烈に痛む額を押さえながら、マリーはなんでもないふりをしようとした。
しかしオーギュストは彼女の手をどかせて打撲部をよく見ようとする。
「大丈夫とは思えません。とにかく早く冷やしましょう」
「かまいませんわ、どうか誰も呼ばないでくださいませ」
「僕が自分で氷を取ってまいります。それならよろしいでしょう」
オーギュストは急いで妻を横たわらせて夜具をかけてやると、手早く寝衣を羽織って外に出て行った。
(――どうしてこんなことに)
マリーは憮然としながら高い天蓋を見つめていた。
しかし今回は快楽に溺れるあまり遠近感を失った自分の落ち度には違いないので、誰を責めるわけにも行かない。
腫れた額は相変わらずずきずきと痛んで彼女を圧迫する。
(やはり古人のいうとおり、我を忘れるほどの姦淫に耽ってはいけないのね)
マリーが殊勝にもしみじみそう思ったとき、オーギュストが寝室に戻ってきた。
手には氷嚢と何かの皿をもっている。
「マリー、起き上がらないで。そのままでいらっしゃってください」
「申し訳ありません。お手数をおかけしてしまって」
氷嚢を額に当ててもらうと、ひんやりとした心地よさにマリーは目をつむった。
「ご気分はいかがですか」
「だいぶよくなりました。本当にありがとう存じます」
「あなたが気を失ったままだったらどうしようかと思った」
その場合は間違いなく、焦燥したオーギュストによって彼女の恥ずかしい姿態がそのまま侍女たちの目にさらされることになっただろう。
物語にでてくる繊細な姫君たちの例に倣わずに自力でむりやり復活してよかった、とマリーは心の底から思った。
「大丈夫ですわ。痛みは徐々に引いてまいりましたの。もう少したてばすっかり・・・これは?」
「食用の氷を一緒にもらってまいりました。
小さいころ病気になったとき乳母がしてくれたように、本当は果物か菓子をお持ちしてお慰めしたかったのですが、就寝前なので。
 子どものようでお恥ずかしいけれど、僕はほっとしたいとき氷を口に含むのが好きなのです。
あなたもそうだといいのですが」
マリーは微笑んだ。オーギュストが銀の匙で彼女の唇に小さく砕いた氷を運ぶと、口の中に涼風のような安息が訪れる。
薔薇の香りづけがしてあるようだ。
夫は案じるように彼女を見守っている。
マリーは彼の手をとって傍らに横たわるよういざない、ふたたび彼の体温の中にみずからを委ねた。
これが姦淫であるはずはなかった。だからいくら耽溺してもいいのだ、とマリーは眠りに落ちながら思いなおした。


6:ふたたびの伴侶
07/05/12 18:45:05 ycdT4AMU

盛大な音をたてて打ちつけたわりには、額の痛みはマリーの予想通り翌朝までに引いていた。
しかし痣ははっきりと残ってしまった。消えるまでに一週間くらいはかかるかもしれない。
未婚の娘のように前髪を下ろせば周囲の者には隠せるとしても、アンヌに対しては隠しようがない。
「どうなさったのです」
翌朝、マリーの身支度を手伝うために主人夫妻の寝室に入ったアンヌは落ち着いた声で尋ねた。
マリーはその落ち着きぶりをやや不穏に感じたものの、昨晩考えたとおりの回答をした。
しかし後ろめたさがあるためか、つい必要以上に饒舌になってしまう。
「これはね、寝台の支柱にぶつけてしまったの。
ほら、足元に鏡があるものだから、注意していつもより上のほうに枕を置いて寝たの。
起き上がったとき普段と位置が違うから感覚が狂ってしまって、眠い目で寝台を降りようとしたらぶつかったの。
もう痛みはないから大丈夫よ、アニュータ。心配をかけてごめんなさい」
「さようでございますか。しかし念のため午前中に侍医をお呼びしましょう」
アンヌは主人の答えに納得したように、淡々といつもの朝の仕事にとりかかった。
(よかった)
腰まである長い髪を櫛で梳いてもらいながら、マリーはひそかに胸を撫で下ろした。
(まったく)
アンヌは主人夫妻のうかつさ、というかオーギュストのうかつさに立腹しながらも黙って櫛を動かしていた。
客観的に考えれば明らかにマリー自身の不注意なのだが、
アンヌに言わせればこういう事故を未然に防ぐことこそ姫様の配偶者の仕事なのだ。
(昨晩はどんな痴戯をいい出すかと思えば、マルーシャ様に獣のような姿勢をとらせ、あまつさえ怪我をさせるとは)
まったく、と再び口の中でつぶやいた。
しかしその憤りが本物ではなかったのは、マリーが今朝はいつにもまして美しく、
オーギュストと幸せそうに視線を交わしているからだった。
アンヌは二年前のある朝を思い出した。あのときも姫君は顔に痣を負っていた。
彼女が心配して真剣に問いただしても、マリーは血の気のない顔をうつむけて目をそらしたまま、
ただ家具にぶつけたのですと小さな声で言うだけだった。
白絹の寝衣と肌着はなかば引きちぎられていた。
新婚の夫は早朝の狩りに出かけたためもう寝所にはいなかった。
(まあいい、今回は黙っておいてさしあげよう)
アンヌは部屋を出るとき、今朝取り替えたばかりのカーテンレースを寝台の端に据えられた鏡にさりげなくかけておいた。
下男たちが運び出すときにも中が見えることはあるまい。
大きな鏡の足元のほう、ちょうど人が寝台に手をついたとき顔が来るくらいの高さには、
小さなひび割れが入ってわずかに鏡像を歪ませていた。

(終)


7:名無しさん@ピンキー
07/05/13 21:22:00 VwE5gH/A
>>1
スレ立て乙!

>>6
今回もGJ!
今後の二人の展開にwktk!

8:名無しさん@ピンキー
07/05/14 19:07:03 AQrxtnnZ
キテタ━━━(゚∀゚)━━━ !!


あげときますね

9:名無しさん@ピンキー
07/05/14 22:51:45 L540yemc
>どうしてこうも健全な精神からこうも不健全な発想へと至ることができるのだろう、と
半ば感心していた。

マリーもオーギュストも大真面目なところがなんともほほえましくて
面白いよ。
GJ!

10:名無しさん@ピンキー
07/05/14 23:20:56 qL7Ca/u3
めっちゃ面白かった。いろんな意味でw

11:名無しさん@ピンキー
07/05/16 23:12:28 C4IAJ4S1
即死回避保守してみる

12:名無しさん@ピンキー
07/05/20 01:49:08 c1bf+3PI
新スレに移行できなかった人が多かったのかな。
保守しとこう。

13:名無しさん@ピンキー
07/05/21 08:43:17 aXkAvSUJ
?と思ったが前スレ良く見たら500KB制限一杯まで使い切っちゃってたんだなw

>1
色んな意味で乙&GJ

14:名無しさん@ピンキー
07/05/25 20:05:16 bP92jzyO
保守・・・しなくて大丈夫かな?

15:名無しさん@ピンキー
07/05/26 20:03:49 zxQoy+jZ
連投のようになってしまって恐縮なのですが、
保守がてらのつなぎということでご容赦ください。
(中盤やや陵辱風味なので苦手な方は注意してください)

従来の&新規の職人様がたどうかご光臨を (';ω;`)

16:地下三階
07/05/26 20:05:49 zxQoy+jZ
窓の外を緑あふれる景色が緩やかに流れていく。
車道半ばにまで枝を伸ばそうとする若木のたくましさに目を奪われ、
若芽のかぐわしさを楽しみながら、マリーは夫とともに王室付の馬車に揺られていた。
今朝は早くに王宮を出立して都城の門をくぐり、郊外の道を走り続けている。
彼らの目的地は都のすぐ南にある小さな大学町である。
町の中心にある国立大学は、この大陸で初めて設けられた高等学府として周辺諸国にも知られている。
ガルィアは伝統的に学術振興に力を入れてきたが、約三百年前に大学を設置して以来、
国際的に活躍する学者をますます多く輩出するようになった。
それに鑑みて、内乱に明け暮れていた周囲の国々も政情の安定が進むとともに徐々に高等教育施設を整備し始めたが、
国内に有する学校数からいえばいまだガルィアを凌ぐところはない。
この大陸最古にして最高の学府への訪問を前にしてマリーはやや緊張を覚えていた。
このたびの訪問の目的は、表向きは北方の後進国から嫁いできた第五王子の妃が
ガルィアの誇る教育施設・研究設備を見学したいというものであり、
それはたしかに嘘ではなかったが、彼女の真意はやや別のところにあった。

マリーの母国ルースは国としての体裁が整えられたのがかなり遅く、
また山脈に囲まれて人や物資の行き来が乏しいという自然条件もあいまって、文化的にはかなりの後発国である。
彼女の父すなわち当代のルース公は若き日に南方の先進諸国に遊学し近代的な合理精神を最大限に吸収した結果、
即位後は保守的な重臣たちの反対を押し切って先進国の諸制度を積極的に取り入れはじめた。
彼の大胆な行政改革や法整備は概ね効果を上げつつあるが、愛娘をガルィアに嫁がせたのもいわばその革新政策の一環である。
マリーは父が自分の政略結婚にどれほど切実な望みを託しているかをよく分かっていた。第五王子の妃という立場を最大限に活用して、ガルィアの宮廷人そして文化人のあいだに人脈を築き、
ルースへの好意的な関心を高めて協力関係を確固たるものにするのが彼女に課せられた務めである。
今日の訪問も、その主眼は最高学府の総裁ジョルジュ師に面会し
ここの学者や教育者をルースへ一定数招聘することを許可してほしいと直訴することにあった。
むろんマリーは公女とはいえ政治的な権限はもたないので、具体的な折衝はすべてルース公使がおこなうわけだが、
その折衝のための会談が近いうちに実現するよう根回しをするのが今回の目的だった。


17:地下三階
07/05/26 20:07:11 zxQoy+jZ
「あっ」
ふたり同時に小さく叫んだ。馬車が突然大きく揺れたのだ。
この一帯は舗装が崩れているのかその後も揺れは収まらず、ややもすると乗客は座席から跳ね落ちそうになってしまう。
オーギュストはマリーをかばうように抱き寄せた。
「ありがとうございます」
マリーは微笑んだが、夫は微笑み返したかと思うと急に下を向いてしまった。耳が赤い。
「どうなさったのです」
「いえ、その」
揺れが激しいために酔ってしまわれたのかしら、
と彼女はオーギュストの顔を心配そうにのぞきこんだが、彼はまた目をそらしてしまった。
「もう、どうなさったの」
妻の声がやや怒気をはらんできたので、彼も白状せざるを得なくなった。
「――あなたのお胸が揺れているものだから、朝からおかしなことを考えてしまいそうで」
まあ、とマリーはあわてて胸元を押さえる。
馬車が一揺れするたびに彼女の豊かな乳房は大きく上下し、
オーギュストはなんとか自制心を利かせてその悩ましい眺めから目をそらそうとしていたのだった。
しかも、今日のマリーのドレスはとりわけ胸元が大きく開いており、
揺れた弾みで桃色の乳首まであらわになってしまいかねないほどである。

この国では貴婦人の正装というと肩や胸元、背中をあらわにして腰をきつく絞ったものが主流である。
北国出身のマリーからするとたいそう非機能的で品がないとさえ思える形状だが、
ガルィア王室の一員となった以上公式行事では身にまとわざるを得ない。
今日の訪問は公務ではないとはいえ、最高学府の総裁にこの国の習俗を遵守していることを示すため、
わざわざすこぶるガルィア風のドレスを選んで着てきたのだった。
母国ルースの国益にとっての重要人物に最大級の敬意を表し好感を得るためとあって、
髪や化粧も侍女たちの手によってふだん以上に念入りに整えられ完成された。
毎日彼女と顔を合わせているオーギュストでさえ見とれるほど今日のマリーは美しく華やかだった。
「わ、わたくしも少々あらわに過ぎると思いましたの。
 ショールを持って参ればようございました」
胸元を隠したままマリーが小声で言う。
その恥ずかしげな声がたまらず、オーギュストはまた彼女を引き寄せて結い上げ髪にくちづけした。
雪のように白い首や肩に接吻したら痕がはっきり残ってしまいそうだからだ。
「この肌が人目に触れるのが惜しくてなりません。
今日の訪問相手がご老人でなければ、あなたに更衣をお願いしているところでした」


18:地下三階
07/05/26 20:08:57 zxQoy+jZ

最高学府の総裁ジョルジュ師は六十年配の老学者である。
医薬学分野における長年の研究実績が大きく、宮廷において碩学という評価が固まったために今の地位を得たのはたしかだが、
もうひとつ看過できない要素があった。
彼はもともと名門貴族の出身で、若いころは知的な美貌で宮廷の女官や貴婦人たちの人気を一身にさらったという。
その魅力は当時の第一王女さえも虜にした。
現国王すなわちオーギュストの父親の姉にあたるサンドリーヌである。
王女といえばふつうは外交政策の一環として他国の王室に嫁ぐ運命を負っているものだが、
彼女の場合、かの青年学者に惚れ込むあまり最後には床に伏してしまったため、
父王から特別に降嫁の許可をもらって見事恋を実らせたのだという。
こうしてジョルジュは王家の姻戚ともなり、学術上の貢献とは別に、学界でも一目置かれる存在になった。
このたびの総裁という名誉ある地位への任命も、王姉の配偶者という立場によるものが少なくない。

「周囲の反対を愛の力の前に屈服させてご成婚なさるとは、なんて素敵なのでしょう」
二度も結婚しながらまだまだロマンチックな傾向を残しているマリーが夢見がちな声で言う。
「サンドリーヌ伯母様というのは王宮の孔雀の間に肖像が掛かっている方でしょう?
 たいそうお美しいかたでいらっしゃったのね」
「ええ、僕が覚えているのはそれなりの年配になられてからのことですが、
それでもお綺麗なかたでしたよ。とてもはきはきとしていて」
「快活な方だったのですか」
「ええ、父上に言わせると勝気だということですが、伯母様は僕たち甥姪にはとても優しくしてくださいました。
ご自分にお子がなかったためかもしれません」
「お子がなくともおふたりはたいそう睦まじくお過ごしだったのでしょうね」
「それはもう。伯父上は長い結婚生活の間ひとりも側妾を置かれませんでした。
それだけに、七年前に伯母上を亡くされたときの悲嘆は想像するにあまりあるものがあります。
あのとき僕はほんの子どもでしたが、
葬儀の席で悲しみを堪えて毅然と物事を采配される伯父上のお姿を見て偉いなあと思ったおぼえがあります。
学識が高いばかりでなく、自制心の効いたとても立派なかたです」

マリーはだんだん不安になってきた。
知性と徳性においてこの国の衆望を集める賢者の前に出て、物怖じせずにこちらの要求を伝えられるだろうか。
妻のかすかな憂いを読み取ったのか、オーギュストが励ますように言った。
そもそもマリーの願いを聴きいれて今回の大学訪問を実現させたのは彼の功である。
「大丈夫ですよ。伯父上はまことに徳高きお方です。
敵国にわが国の頭脳が流出するのは困りますが、
ルースのような友好国に文化面での援助を惜しむのは学究者としての精神に反する、と伯父上もきっとお考えになるでしょう。
すべての善きもの、先人の知の結晶、人々の生活に役立つものはどんな土地にでも伝播され、さらに改良されていくべきなのですから」
「そうだとよいのですが」
マリーはふたたび夫の胸に頭をもたせかけた。
「――そろそろ着いたようです。大学の鐘楼が見えてきました」
馬車の前方には赤煉瓦づくりの城壁がゆっくりと迫っていた。


19:地下三階
07/05/26 20:10:24 zxQoy+jZ

応接間の扉が開き、痩せた老人がゆっくりした足どりで入ってきた。王子夫妻は同時に立ち上がる。
「お久しゅうございます、伯父上」
「息災であったか、オーギュスト。そちらの姫君がルースから迎えた奥方じゃな」
「マリーと申します。ジョルジュ様におかれましてはご機嫌うるわしゅう」
マリーはこの国の礼に従いスカートの裾を少し持ち上げ、丁重にお辞儀をした。
しかしあまり前かがみになりすぎて乳房が露出しかけたので、あわてて身を立て直す。
席に就いて東洋産の高価な茶を勧められながら、マリーは伯父と甥の歓談に耳を傾けつつ老学者を観察していた。
彼女は婚礼に先立ってガルィア王室の人々に初めて謁見したおりジョルジュとも顔を合わせているはずだが、
あのときは儀式的な挨拶に過ぎなかったため親しくことばを交わすのはこれが初めてになる。
長い年月を崇高な学問に捧げた彼の眉間や目元、口元には深い皺が刻まれ、
その冷厳ともいえる表情にマリーは気圧されそうになってしまう。しかし
(オーギュストがそばにいてくださるのだから)
と自分に言い聞かせ、訪問の目的を切り出すきっかけを待った。

伯父と甥は時候の挨拶から天気の話、農作物の出来、先日の大雨と治水工事、隣国との共同灌漑事業へと、
さまざまな事柄について語っている。
マリーはまだあまりガルィア語で入り組んだ議論はできないので、
時折相槌を打ったり求められたときに意見を述べるというかたちで控えめに会話に参加していた。
しかしよく聞いていると、夫はかなりたくみに話題を誘導してくれていることにマリーは気がついた。
いつのまにか国家間の援助や共存共栄という話になっている。
「ところで伯父上、妻の母国でも諸国から学者を誘致したがっているそうです。
ルースの未来をになう官僚や技術者がわが国の学者の下で指導され養成されるとしたら、
長い目で見ればガルィアの国益にもつながるといえるのではないでしょうか」
「ええ、そのとおりです、ジョルジュ様。
 すでに何度かお耳に達しているかと存じますが、どうかその件についてご再考いただけないでしょうか。
ガルィアの進歩的な学者がたをお招きして、わが国の若い世代に薫陶を及ぼすことが父の宿願なのでございます。
もちろん父は少なからぬご返礼を考えております。
 ご多忙とは重々存じ上げておりますが、どうかよしなに」

「ふむ」
ジョルジュは義理の姪の顔を見てしばらく黙っていた。
「そうじゃな。他国からの誘致は前例がある。
このような形で友誼を深めるのは両国にとっての益となろう」
マリーは顔を輝かせて微笑んだ。
「まことにありがとう存じます。それでは近いうちにわが国の公使と――」
「ときにオーギュストよ、三号棟にある天文台の改築が先日終わったのだ。そなたは待ちこがれていただろう」
「伯父上、本当ですか。ぜひ新しい設備を拝見したいものです」
「そういうだろうと思っていた。あの者が案内をしてくれる。じっくり堪能してくるといい」
ジョルジュは部屋に控えていた侍従を指し示した。
オーギュストとともにマリーも立ち上がろうとすると、ジョルジュがそれを制した。
「あれは婦人が見ても大して面白いものとはいえまい。
 マリー公女よ、大学図書館の地下書庫には
ルースの古代文字で書かれたと思われる羊皮紙文書が何点か所蔵されておるのだが、興味はないか」
マリーは正直なところ夫と離れるのが不安だったが、
老学者が親切で申し出てくれていることを拒むのも気が引けたので、つい拝見したいと言ってしまった。
「ならばわしが案内しよう。オーギュスト、また後で落ち合うとしよう」


20:地下三階
07/05/26 20:12:25 zxQoy+jZ

地下三階へつづく階段は幅が狭く、非常に暗かった。
ジョルジュが下げているランプの明かりだけを頼りにマリーはおそるおそる一段ずつ降りていく。
石段に映る人影はふたつだけだった。
マリーはいつものようにルース人の護衛を伴おうとしたのだが、
地下書庫には機密文書も多数所蔵されているからという理由で、ジョルジュは彼女以外の立ち入りを許さなかった。
それに図書館の地下である以上、強盗や猛獣が潜んでいるはずもない。
護衛など必要ないといわれれば同意するしかなかった。

ジョルジュに渡された羊皮紙文書はたしかに興味深いものだった。
マリーはそれほど古文献の解読に長けているわけではないが、どうやらこれはルース建国時の伝承を記したもののようである。
書棚のあいだに立ちながら、自らの先祖にあたる英雄がどのようにこの世に生を受けたかというくだりを読んでいたとき、
マリーはふと熱い息遣いを耳元に感じた。
「なんときめ細かな、絹のような肌よ」
ぞっとして振り向くと、いつの間にこれほど接近したのかジョルジュが肩越しに彼女の深い胸元を覗き込んでいる。

マリーが驚いて身を離す間もなく後ろから骨ばった手がまわされ、胸をつかまれた。
老人のすることとは思えないほど貪欲に揉みしだいている。
彼女は恐怖と混乱のあまり口がきけなくなったが、ようやくのことでかすれた声を発した。
「ジョ、ジョルジュ様――何をなさいます」
「見れば分かるじゃろう。そなたの胸の感触を楽しんでおる」
「お放しください。あまりに非礼ではありませんか」
「そなたも楽しんでおるのではないか。ああ、なんと弾力のある乳だ。たまらぬ」
マリーはなんとか乱暴にならない程度に力を込めて振り払おうとするが、
ジョルジュは年齢不相応の粘着力でもってマリーから決して離れようとしない。
そうこうするうちに彼女は自分の腰に後ろから押し当てられているものが徐々に硬くなってきたのを感じ、はげしい悪寒に襲われた。

「どうか、どうかお離しください」
「嫌がる声もたまらんな。オーギュストの身体の下でもこんな声を出すのか?」
彼女の抵抗で興が乗ったかのように、老人の手はますます不躾に彼女の身体を這いまわる。
マリーが着ているドレスは正装なだけに脱がせにくいが、胸元に手を差し入れるのは簡単だった。
老人のひからびた指が素肌に触れるのを感じ、マリーはついに悲鳴をあげてしまった。
しかし誰もいない地下書庫にむなしく響き渡るばかりである。
「いやっ、やめて!」
「やはり乳は生で揉むのが最高だのう。この滑らかさ、柔らかさ・・・」
「いやっ、いやあ!」
「本当は好きなのだろう?ほら、乳首がこんなに硬くなってきておる。かわいい娘だ。
 これまで宮廷でさまざまな婦人たちを見てきたが、そなたのように清楚な顔をしながらこんな男を誘う卑猥な体つきをしている者はおらなんだ。
これほど見事な乳を隠しておかないそなたが悪い」
そんなことをおっしゃったって、これがあなたがたの国の正装なのだから仕方ないではありませんか、
とマリーはよほど言いたかったが、焦燥のためにそれどころではなかった。
大事に至る前になんとか逃げなくては。
相手が身分ある年配者だけに思い切り突き飛ばすのもためらわれる。
致命的な怪我でも負わせたら他の者に言い訳がたたない。

(――どうしたらいいの?)
老人の手は貪るようにマリーのこぼれ落ちそうな乳房を包み、揉み、桃色の乳首を弄んでいる。
彼の言うとおり、こんな状況でもふたつの頂きが硬くなり快感をおぼえているのがマリーは情けなかった。
彼女はついに抵抗をやめて顔だけジョルジュに向けた。頬は上気し瞳は潤んでいる。
「ジョルジュさま、あなた様のご意向に従いますわ。
着衣のままではお楽しみいただけませんでしょう?
生まれたままの姿でご奉仕いたしたく存じますわ。
脱ぐには手間がかかりますから、少しの間お放しくださいませ」
老人の手にこめられた力が彼女の従順な声と悩ましげな表情に緩んだ瞬間、
マリーは彼の腕を振り払い出口へと走っていった。
いくら豪奢な衣装を身に着けているとはいえ、全速力で走れば老人に追いつかれるはずがなかった。


21:地下三階
07/05/26 20:14:36 zxQoy+jZ

石造りの重い扉に手をかけたそのとき、後ろから声が響いた。
「わしの不興をこうむったままでよいのか?
 ガルィアの首脳部とは努めて誼を結んでおくようルース公から命じられておるのだろう?
 いくらそなたの父上がさまざまな工作を弄したところで、
ガルィア人学者の招聘が実現するか否かは結局のところわしの一存にかかっておるのだぞ」
扉を開けかけたマリーの手が止まった。
自分のことばがもつ威力を知っているかのように、老人は悠々とした足取りで彼女に近づいてくる。
今からでも逃げようと思えば十分逃げられるはずだ。
しかしマリーは動けなかった。ついに老人が追いつき、彼女の肩に骨ばった手をかけた。
「学者や教育者を誘致したいとはいうが、ルース公が結局はわが国の軍事技術に執心していることはよく存じておる。
むろん、我々とて素直に教授するわけにはいかぬが、
両国の誼が深まればゆくゆくは火薬製造の機密等を共有することになるかもしれぬな」

生温かい息を耳たぶに吹きかけられ、マリーは背筋を凍らせる。
「で、でも、父は――」
「娘が夫を裏切って身体を張ることまで求めてはいない、と思うか。
 それはそうかもしれぬ。しかし国益のために私を滅することは公女たる者の務めではないか?」
「ですが――」
「姫君よ、そう怖がることはない。
 ほんの1,2時間ばかりこの老体を慰めてくれればよいのだ。
外交の一環だと思えばよい。この程度の接待を惜しむようでは、
せっかくそなたの父上が苦心して成立させた政略結婚の意義も半減したようなものだ」
マリーは口を開きかけ、また閉じた。国を出る前に最後に父母と交わしたことばが次々に思い出された。
姫君の心が揺らぎかけていることを見て取ったジョルジュは、早くも彼女のあらわな肩や背中を撫でまわし始めた。
「国益のためだ。そう思えば良心にも恥じまい。
そなたひとりの辛抱で、父上やルースの民に利がもたらされるのだぞ?
 安心するがいい、わしも年だ。最後までは求めぬ。たった一度だけ、そなたの若々しい肌を堪能させてくれればそれでよいのだ」

マリーは黙ったままうつむいていた。
壁にとりつけられた燭台の周りを蛾が飛びまわり、石の床にちらちらと影が舞っている。
ついに彼女は扉にかけた手を離し、老人のほうを振り向いた。
「――本当に、これ一度きりでございますね。最後まではなさらず、他言もなさいませんね。お約束くださいませ」
「もちろんだ、約束するとも。さあ来るがいい」
老人は喜色満面で彼女の腕をとり、ふたたび書庫の奥へ連れて行った。
「さっきはまんまと欺いてくれたが、今度こそ生まれたままの姿をわしに見せよ」
しわがれながらも興奮抑えがたい声で老人が要求する。しかしマリーはのっけから拒んだ。
「申し訳のうございますが、それはできません。
この服は一度脱いだら侍女の助けがなければふたたび着られないのです」
それが本当だということはジョルジュにも理解できた。
マリーのドレスは肩や背中の布を大胆に省略しているわりには、全体として重厚で緻密なつくりだった。
「ふむ、それなら仕方があるまい。
 ――ではせめて上だけでも露わにしてみせよ。それなら何とかなろう」

このまま拒み通せば老人が自らドレスに手をかけかねないと思ったので、マリーは観念して胸元を締める紐を解き始めた。
上半身を覆うドレスの生地がふわっと下がり、その下に革の胸当て、さらに下には絹の肌着があらわれた。
最後の砦に手をかけることはためらわれたが、
老人が食い入るように次の動作を待っているのでマリーはそれを取り去らないわけにはいかなかった。
ついに肌着も脱ぎ捨てた。しかしながらマリーはジョルジュの凝視に耐え切れず、胸部を両手で覆わずにはいられなかった。
「手をどけよ」
上ずったような声で老人が命じたが、彼は結局マリーの返事を待たずにその細腕をつかんで無理やり引き剥がした。


22:地下三階
07/05/26 20:17:09 zxQoy+jZ

「――いい眺めだ」
ついにマリーの秘められたふくらみがあらわになり、ジョルジュは満足げに唇を鳴らした。
その卑しげな仕草は、先ほどまで書物に囲まれて甥と歓談していた高名な学者のそれとはとても思えなかった。
「大きさも形も最高だ。この乳を毎晩好きなようにできるとは、オーギュストの奴め」
そうつぶやきながら、彼はマリーを抱き寄せるといきなり胸にむしゃぶりついた。
「い、いやっ」
「暴れるな、そなたの肌を堪能させると同意しただろう?
――ああたまらぬ、張りがあって吸い付くようだ」
(いや・・・ごめんなさい、オーギュスト・・・)
老人の手と唇と舌が乳房を這い回るのを黙って受け入れながら、マリーは心から夫に詫びていた。
舌は彼女をじらすようにしばらく乳暈のまわりをなぞっていたが、ついに中心部に触れた。
「――あっ、だめ・・・」
「そうか、やはりここは弱いか」
老人はうれしそうに集中的に乳首を責めはじめた。
乳房に対して小ぶりな乳首は舌でつつっと突かれただけで硬くなり、さらなる愛撫を待ち受けるように首をもたげた。
その反応に気をよくして老人の舌はますます執拗に桃色の硬いつぼみを舐めまわす。

(こ、こんなのいや・・・)
ジョルジュのことも彼の唾液にまみれる自分の身体も汚らわしくて仕方ないはずなのに、
マリーは感じてしまうのをこらえられなかった。
眉を顰め唇をかみしめても、どうしても声がもれてしまう。
「あん・・・はあっん・・・だめ・・・です・・・」
「素直になるがいい。身体のほうはこんなに素直ではないか」
「いやあっ・・・やめ・・・て・・・」
老人の唇に挟まれてますます硬くなる己の乳首の敏感さを恨みながら、マリーは自己嫌悪と罪悪感でいっぱいだった。
(ごめんなさい、オーギュスト、ごめんなさい)
瞳にはうっすらと涙が浮かんできた。
それを快楽ゆえの歓喜だと勘違いしたジョルジュは、ますます調子に乗って彼女の乳房を我が物顔で弄んだ。
赤子のようにマリーの胸の谷間に顔をうずめると、幸福感に浸るかのように張りのある乳房を皺だらけの頬にこすりつけている。
そんなことを許すのはオーギュストと彼とのあいだに授かる子どもたちに対してだけと信じていたマリーは
自分が徹底的に汚されたような気持ちになり、目元にますます大きな雫をためた。
彼女が肩を震わせている意味をジョルジュはまたも取り違えて囁いた。
「マリー、いい子じゃな。そなたは長上に奉仕することを喜びと心得ておるようだ。
 若い娘の肌はどれもいいものだが、そなたの雪肌はとりわけ美味であったぞ」
そして老人は彼女の身体を離し、手近な椅子に座った。

(――これで解放してもらえる)
マリーはそっと涙を拭いながら胸を手で隠し、ようやく安堵したが、老人の次のことばは彼女をすぐに打ちのめした。
「そこに跪け。そなたの乳でわしの一物を慰めよ」
老人はすでに自らの帯を解いてそれをローブの奥から取り出していた。
目の前に示された赤黒いものにマリーはことばを失い、
彼の前に跪くどころか一歩退きかけたが、老人の声でまた現実に引き戻された。
「逃げるのか。よくやってくれたと思ったが、ここまでの接待も水の泡じゃのう」
マリーはしばらく立ちすくんでいたが、やがて一歩前に出てほとんど機械的に彼の前に跪いた。
しかし目と鼻の先に垂れ下がるしなびたようなそれを正視することなどとてもできず、とっさに顔をそらして目を瞑った。
老人の目にはそのような仕草さえいじらしいと映り、彼女の顎をつかんで上を向かせた。
もともと色白なマリーの肌はほとんど蒼白になり唇も血の気を失っていたが、
老人は異国の姫君の麗しい顔立ちとその下のむきだしになった乳房をこのような角度から眺めることに興奮しきっていたので、
彼女の絶望しきった表情も意に介さなかった。


23:地下三階
07/05/26 20:18:44 zxQoy+jZ

「そう悲しげな顔をするな。そなたの柔らかい乳で、ほんのしばらくわしを安らがせ、若き日を思い出させてくれればよいのだ。
 別に何か痕跡が残るわけでもない。オーギュストにも知られるはずがなかろう」
そういうと彼は無理やり彼女の胸の谷間に自身を挟ませ、気持ちよさそうにこすりだした。
「ああ、いい・・・最高だ・・・ほら、そなたも自分から乳をこすりつけてくれ。
 目を開けてわしのものをしっかり拝め」
「・・・で、できません・・・」
「手抜かりある接待はよい成果を上げられぬぞ」
マリーは唇をかんだ。やっとのことでのどの奥からかすれた声をしぼりだした。
「・・・喜んで、させていただきます・・・」
心を死なせた気になってマリーは目を開け、赤黒いそれを正視して自らの乳房で包むように挟んだ。
若干芯があるとはいえ、それはまだぐにゃりとしていた。
血みどろの動物の遺骸を素手でつかまされても、これほどおぞましいとは感じなかったにちがいない。
マリーは今にも息が止まりそうだったが、欲望に狂ったジョルジュは彼女を休ませなかった。
「ほら、早く動かせ。何をためらうのだ」
観念したマリーが自らの手で乳房を上下に揺らしてこすりあげるたびに、老人は感極まったように低いうめき声をもらした。
彼は本当ならマリーの小さくあどけない唇に自身を咥えさせ奉仕させたかったのだが、
いくら美しく気品のある姫君とはいえ所詮は北の蛮族出身だという思いがあり、
怒りに任せて獣のように噛み切られることを恐れたのだ。

(――しかしこれも悪くないわい)
温かく柔らかく瑞々しい乳房によってもたらされる愉悦に身を任せながら、彼は青年時代の情熱をその身に取り戻しつつあった。
感触もすばらしかったが、清らかな幼い人妻に対し、
公女としての使命感と父への孝心を煽ってこんな卑しい行為を強いている状況がたまらなかった。
マリーが自分に課せられた務めに専念すればするほど、ますます熱い息が彼女の頭部に吹きかけられた。
まばゆい金髪に指がさしこまれぞんざいに弄りまわされる。
せっかく正装用に結い上げた髪もほどけてしまい、乱れた髪が彼女の額や首筋に垂れかかった。
自分を殺したつもりでいたが、やはり耐えられないもの耐えられなかった。
マリーはもはや嗚咽をこらえることもせず、涙の流れるままに乳房を両手で小刻みに動かしていた。

やがて自らの柔らかい乳房のなかでそれが徐々に硬くなってきたことに彼女は気づいた。
そして赤黒いものの先端からなにか透明な液が出てきて自身を伝い落ち、ゆっくりとマリーの胸をも濡らした。
(い、いや・・・!)
今にも悲鳴を上げて立ち上がり、地上へ逃げ帰ってオーギュストの胸へ飛び込みたかった。
しかしここまでの忍耐を水泡に帰するのは無念だった。
祖国発展の願いを娘の結婚に託した父親のはなむけのことばが彼女の脳裏をめぐり、なんとか膝を床につけたままにさせた。


24:地下三階
07/05/26 20:20:02 zxQoy+jZ

「――ジョルジュ様、そろそろご満足いただけたでしょうか」
彼女からすれば気の遠くなるほど長いあいだ摩擦をほどこしてやったあと、マリーはようやく顔を上げてかすれた声で尋ねた。
老人は彼女の頬を濡らす涙を満足そうに指で拭い取り、うなずいた。
「うむ、大儀であった。そろそろそなたに報いてやらねばと思っていたのだ」
「えっ、ジョルジュ様、何を――」
反問が終わらぬうちに彼は甥の妃を石畳の上に押し倒し、そのスカートに手をかけた。
「――何をなさるのです!最後まではなさらぬとお誓いくださったではありませんか」
「撤回だ。よもや勃つまいと思っていたが、そなたの精勤のおかげでこれほどにも活気を取り戻したわ。
実に五年ぶりじゃ。そなたの身体は東洋の高価な回春剤にもまさる」
「約束は約束ですわ、恥をお知りください。あなたは貴族で王家の姻戚でしょう」
「恨むなら己の肉体を恨むがいい。全く罪深い肌だ。老境のわしでさえこれほど迷わせるのだからな」
回春のことばどおり、ジョルジュはほとんど若者のような力強さでマリーの両腕を彼女の頭上におさえつけ、
こともなく分厚いスカートを捲り上げた。

マリーが身をよじって逃れようとするたびに剥き出しの乳房が激しく揺れ、老人の劣情はますます煽られる。
彼は息せき切ってスカートの下のレース生地を剥ぎ取り、絹の肌着に手をかけた。
「いやっ、いやあっ!!」
「おとなしくせぬか、せっかくそなたの労に報いようといっておるのに。
 献身的な腰使いでわしを喜ばせてくれれば、ルース宮廷への図書の寄贈も考えてやろう」
「いやっ、放して、どうか放して!
 オーギュスト、助けてオーギュスト!アンヌ!お母様、お父様!!」
「こんな地下深くにいて声が届くはずはなかろう。
そなたの可愛い声はわしが挿入するまでとっておいてくれ。今からかすれてしまっては面白みが半減するわ。
――ほう。清楚な顔をしてここの毛はなかなか濃いようだな。北国の人間の特性か?
しかし頭部と同じく見事な金髪だ」
力づくで肌着をひき下ろし、露わになった恥部にジョルジュは目を細めた。
さらに空いている手と両膝を使ってその純白の脚をこじ開けようとする。

「やめてっ!どうか、どうかお願いです」
「いまさらやめられるものか、――おお、なんと愛らしい桃色ではないか。
 男をよく知っているわりには処女のような色合いだ。
 しかもやや潤っているようだ。乳を吸われてここまで感じてしまったのだな。
 まさに朝露に濡れた薔薇のつぼみのようだ」
マリーが羞恥と絶望で顔をゆがめるのもかまわず、老人は嬉々として自らをその花園にあてがおうとした。
さきほどの透明な液体でまだ湿っている硬い先端が花びらに触れたのを感じ、彼女はついに自制できなくなり悲鳴を上げた。
「いやあああっ!!」
「そう嫌がるな。十分に濡れておるから痛くもあるまい」
「お願い、わたくしはオーギュストの妃です、あなたの姪も同然ではありませんか」
「何を言う、そなたたち未開なルースの人間は、禽獣のように血縁同士で交わるのも厭わぬのだろう?
そなたも最初の結婚前にすでに父や兄弟に味見されていたのではないのか」
マリーは愕然として老人の顔を見た。
「なんということを、根も葉もない誹謗です。
それをいうならこちらの王家のほうがよほど近親結婚を重ねているではありませんか」
「ならば我々のことも構わぬではないか、ほら挿れるぞ、――ああ、たまらぬ」
「いやああっ、オーギュスト!アンヌ!お母様!お父様!――サンドリーヌ様!!」


25:地下三階
07/05/26 20:21:41 zxQoy+jZ

その瞬間、老人の股間から強張りが抜け、マリーの両腕を押さえつけていた手の力も緩んだ。
彼女はとっさに老体を突き飛ばして立ち上がり、手早く服の乱れを直しつつ、
先ほどは取り出す間がなかった護身用の短剣をコルセットの下から抜きとった。
もはや何の躊躇もなく老人の下半身にそれをかざしてみせる。
「あなたも亡き奥方様への罪悪感には勝てないとみえますわね。
 サンドリーヌ様のご冥福を心からお祈りいたします」
「――その名を呼ぶな」
「お気を悪くなさいませぬよう。サンドリーヌ様の御名は、感謝の念とともに口にしているのです」
「――呼ばないでくれ」

どうも様子が変だった。マリーは最初、この名が愛妻への思慕と罪悪感をかきたてるあまり彼から力を抜き取り、
自分の貞操を救ったのだとばかり思っていた。
しかし老人の表情はしんみりしているというより一気に萎縮してしまったといったほうがよく、一物もだらりと萎えきっていた。
マリーはふとあることに思い当たり、試しに大声で復唱してみた。
「サンドリーヌ様」
「やめろといっておるだろう」
老人の声は小さく、憔悴の色を帯びていた。もはや目を合わせようともしない。
「――そういうことでしたのね。
 オーギュストはあなたがたご夫妻の仲むつまじさを熱心に語り、あなたは妾を囲われたこともないと賞賛しておりましたが、実際には奥方様に頭が上がらなかっただけですのね。
それにしても御名を耳にするだけでかように意気消沈なされるとは、奥方様のご生前はよほどその専横にお苦しみになられたのでしょうか。
王の女婿、ひいては王の義兄になるというのもたいへんですこと」
哀れむような口調とは裏腹にマリーの声にはいささかの憐憫も含まれていなかった。
彼女はもはや自分が優位に立ったことを知り、休まず彼に追い討ちをかけた。少しでも気弱になってはならない。
「あなたのおっしゃるとおり、我がルースの民はいまだ獣じみた蛮習から抜け出ておりませんの。わたくしとて例外ではありません。
この剣でその見苦しいものを切り落とされたくなければ我が国の公使と今月中には接触し、
来月までには本格的な会談をもつことに同意してくださいませ。
仮に後日翻意なさるようなことがあれば、祖国から連れてまいりました精鋭をたちどころに放って、
どんな手を使ってでもあなたを去勢します。
彼らは野獣のように俊敏ですから、痕跡を残して罪に問われるような真似はいたしません。
あなたもまさか世に不名誉を知らしめたくはないでしょう」
老人はうなだれたように黙っていた。
マリーが返事を促そうとしたそのとき、扉の向こうに足音が聞こえ、耳慣れた声が響いた。
「伯父上、マリー、そちらですか?失礼いたします」
「ええ、お入りになって、オーギュスト」

石造りの重い扉がゆっくりと開いた。
侍従が捧げ持つランプの明かりとともに夫が埃だらけの地下室に足を踏み入れたとき、
マリーは勢いよくその胸にとびこんだ。
オーギュストは目上の人間の前でこのような振舞をするのは少々軽率だと思ったが、
それでも妻の安心したような様子がうれしかった。
「こちらで古文書をごらんになっていたとうかがいましたが」
「ええ、とても興味深うございましたわ。保存状態もよくて」
「それはすばらしい。
でもそのほっとしたようなお顔を見ると、伯父上との話し合いもうまくいったのですね」
マリーは一瞬黙ったが、ええ、と笑顔でうなずいた。
「わあ、それはよかった。伯父上、お取り計らいかたじけのうございます」
大急ぎで服を調えたばかりのジョルジュは憮然として甥の能天気な笑顔を見ていたが、
善意の第三者にここまで言われてしまった以上、否定することもできなかった。
マリーはついに溜飲を下げた、かに見えた。


26:地下三階
07/05/26 20:27:17 zxQoy+jZ

浴槽に身を浸しながら、マリーは憂わしげに大理石の天井を見つめていた。
蒸気に混じりあってどこか野性味のある香りが浴室に充満している。
彼女は嫁入りに際して母国にしかない生活用品をこまごまと携えてきたが、いま浴槽に浮かべている香草もそのひとつだった。
お気に入りの香りながら数に限りがあるため、
どうしようもなく耐え難いことがあった日だけ気を静めるために使うことにしている。
今日の出来事を思い返すたび、マリーは怒りと恥辱のあまり顔から血の気が引くほどだった。
帰館してからもう三時間も浴室にいる。
マリーは首筋や胸にあの老人の接吻のあとが残っていることを危惧して侍女たちの助けを一切借りず、
ひとり浴室で身体を清めていた。
自分で自分の髪を洗うなど生まれて初めてのことかもしれない。
何度となく身体を洗ったり浴槽に漬かったりを繰り返しているが、
まだ自分の身体から汚れがとれていないような気がした。
できるものなら今すぐにでもオーギュストに抱いてもらって清めてほしいのだが、
自分の肌に染み付いた汚れが彼に気づかれてしまうような気がして、あと一週間は寝室で彼を拒まなければならないとすら思った。

(――それにしても)
ルース公使と近日中に会談をもつことはジョルジュにとって別に個人的な損失ではない。
彼はまだ報いらしい報いを受けていないのだ。
(五百歩譲ってわたくしの肌を弄んだことには目をつぶるとしても、お父様たちのことをあんなふうに言われたのは絶対に許せない)
ガルィア王室に嫁いでからというもの、マリーは宮中でたびたび蔑むような視線に出くわしたり陰口を伝え聞いたりしたが、
面と向かってあそこまで母国を見下した物言いをされたことはなかった。
(――禽獣にひとしいのはあの方ではないか)
血の滲むまで唇をかみしめながら、マリーはなんとか方策を考えようとした。
ルースの建国は数世紀前にさかのぼるが、その開祖は主君の横暴のために両親を処刑され、
兄弟の裏切りにも遭うなど血で血を洗う惨劇の末に政権を確立したと伝えられている。
そのためか、国是や国柄にも自然と荒々しい気風が残っている。
マリーもふだんは柔和で心優しい娘だが、
ひとたび激情を掻き立てられると歯止めが利かなくなってしまうという性質は血筋によるものかもしれない。
復讐するは我にあり、というルース公家の家訓をつぶやきながら、マリーはふたたび天井を仰いだ。


27:地下三階
07/05/26 20:32:18 zxQoy+jZ

「マリー、ご気分がすぐれないのですか」
晩餐の席で、オーギュストは向かいに座る妻に心配そうに尋ねた。
彼女はナイフやフォークを動かしてはいるものの、実際にはほとんど口に運んでいない。
しかもこちらから話しかけない限り黙りこくっている。
「いいえ、大丈夫ですわ」
マリーははっとしたように目を上げて夫に微笑んだ。申し訳程度にパンをちぎって口に運ぶ。
「今日、僕がお側にいないときに何かあったのですか」
オーギュストは相変わらず心配そうに妻の顔を見ている。
はるか北方の、あまり発展していない異国から嫁いできた妻が行く先々で好奇や軽侮の視線にさらされていることを彼は知っている。
自分が側にいればそういう不躾な連中を黙らせることもできるのだが、
彼女ひとりのときはどうやって耐え凌いでいるのか、それが心配だった。
まさかあの尊敬すべき伯父が彼女の出自を嘲弄するとは思えないが、彼の副官たちならばありうるかもしれない。
「い、いいえ、何もありませんでしたわ。ただ」
まさか今日起こったことをありのまま伝えるわけにもいかないので、マリーは口ごもった。

「――ただ、あの、伯父上様が亡き奥方様のことをあまりに深く悼んでいらっしゃることを知ったものですから、それを思うと」
(なんとお優しい方だろう)
オーギュストは妻のことばに胸を打たれた。他人の悲痛に敏感なあまり、食欲をなくすほど沈鬱するなんて。
「そうですね。あのご夫妻は実に深く愛し合っておいででしたから、
サンドリーヌ伯母様がお隠れになって数年たった今でも伯父上の悲嘆が深いのはやはり無理もないことでしょう。
 そういえば、あなたのつけていらっしゃるその香り」
「香り?」
「それはルース産の香草によるものですか。伯母様が好んでつけておられた香りによく似ています」
「それはまことですか」
「ええ。わが国の貴婦人は香りというと薔薇や麝香の香水を好むのですが、
あの方は北方の山地でしか採れない香草をわざわざ取り寄せて、服にたきしめて使っておいででした。
伯母様がお若いころ、宮中の女官のあいだでも一時期流行りかけたそうですよ。
なにぶんわが国では入手が難しいので、それほど盛んには用いられなかったようですが」
「――この香草は、わが国の山地では至るところに自生しておりますわ」
天使のような笑みを浮かべながら、マリーはつとめて真摯な声でいった。


28:地下三階
07/05/26 20:33:01 zxQoy+jZ

「わたくし、いいことを思いつきましたの。
この香りを伯父上様のもとへお届けしたら、サンドリーヌ様を偲ばれるのにたいそう佳いよすがになるとは思われませんか」
「ええ、それは素晴らしいお考えですが――
でもマリー、お嫁入りとともにあなたが携えてこられた香草もそれほど多くはないでしょう。
ルースのお父上からの使節とて一年に一度しか来ないのに、貴重な母国産の物資を人のために使うのは惜しくはありませんか」
「いいえ、滅相もありません」
マリーは力強く言った。そのことばは本当だった。
「あなたの伯父上様ならわたくしの伯父上も同じですわ。
その方がお苦しみになっているのに自分の持ち物を惜しむなんて、たいへんな不孝ですもの。
 それに、ルース公使との会談を快諾してくださいましたし、あの方にはたいそうなご恩がありますわ。
わが家の家訓は、ガルィア風に意訳すれば“恩義には必ず報いよ”といいますの。
 わたくし、万難を排してでも決行いたします」
こぶしを固めて力説する妻の真剣な表情を見ながら、オーギュストはひどく感動を覚えていた。
(孝心に篤くて、利己心がなくて――僕の妃はなんと得がたい方だろう)

「すばらしいご家訓ですね。人の道はそうあるべきです。
でもそういえば、伯父上は遠方の領地視察のため明日から大学構内の屋敷を留守にされるようですよ。
ご帰館されるのは来週の頭とか」
「まあ、それでしたら――お帰りになる前に人を遣わして、
お屋敷いっぱいに香をたきしめさせていただくというのはどうでしょう。
亡き奥方様の忘れ形見ですから、まさか留守居の使用人たちも邪魔だてはいたしませぬでしょう。
半年は消えないくらい盛大にたきしめて差し上げましょう」
「なんとすばらしい!
お帰りになって屋敷に足を踏み入れられたとき、あなたのお優しい心遣いに伯父上も感に堪えないことでしょう」
「――今からそのご様子が目に浮かぶようですわ」
マリーは勝利の表情を気取られないようにそっと目を伏せた。
そのつつましげな仕草はオーギュストの心の琴線に触れ、
給仕たちの前だというのに彼はついテーブル越しに妻の白い手をとり、恭しくくちづけした。
「マリー、これまでも何度となく思ったことですが、僕はなんという幸せ者なんだろう。
あなたのように、お姿だけでなく心までこの上なく清らかな女性を妻にできるなんて」
「まあ、わたくしなんて」
恥じらうようにうつむく妻をますますいとおしいと思い、オーギュストはその滑らかな手の甲に接吻を繰り返した。
北方産の香草は、彼女の指の先までかぐわしい香りで満たしていた。

(終)


29:名無しさん@ピンキー
07/05/26 22:33:36 agFF6ovs
マリー超GJwwwwwww
読んでる自分まで溜飲がさがったw
毎度のことながら、エロスとコメディとほのぼのの配分が
すばらしいっすね。このシリーズすごく好きだ。

30:名無しさん@ピンキー
07/05/27 00:18:02 7LEEIEmL
マリーwwwwwwww
自分もこのシリーズ凄く好き。

31:名無しさん@ピンキー
07/05/28 03:04:34 5yrtewp3
乙であります
ただ寝取られネタかあ…
この夫婦のラブラブっぷりが好きだっただけにorz
何も知らないオーギュストカワイソス


32:名無しさん@ピンキー
07/05/28 06:47:31 ure5sW2q
え? 取られてないじゃん。

33:名無しさん@ピンキー
07/05/29 01:40:46 +8soriCG
思い込みで噛み付きたいお年頃なんでしょう

34:名無しさん@ピンキー
07/05/29 11:40:46 Vr+KBbjF
今頃>>31は真っ赤

35:声をもつ人魚姫1/9
07/06/01 12:03:00 Cz1SBqaC
鬼畜風味、注意
---------------------------
『後悔するよ』と、海の魔女は言っていた。
そんなはずはない。さっきまで海底に暮らす人魚の姫だった少女は思う。
(嵐の海の中、王子様をお助けして励ました。
浜辺で、目覚めるまで歌ってさしあげた。
きっと、語りかければ思い出してくれるはず。
親切な魔女は、声を奪わずにおいてくれたのだから)
心で祈ったあと、少女は「人間になった」身体を見下ろす。
腰から下が足に変わっている。他の皮膚と同じ色がつづき、
それも二つに分かれているのは、奇妙に感じられた。
絡んでしまわないかと不安に思いながら、足を動かす。
魔女が言っていた「ナイフで刺される痛み」を覚えることはなかった。
首をかしげ、あちこち新しい器官に触れていく。
人の体の構造に無知な少女は、
好奇心のおもむくままに秘密の箇所に指を伸ばした。
「……ん、あっ!」
尾の時にはなかった、足の付け根に疑問が高まったのも無理はない。
遠慮も限界も知らない強さで触れ、足の間から全身を刺激がかけめぐる。
発する甘い声も、柔らかくとろけるような息も、はじめてのことだった。
その時、ゴクリと生唾を飲みこむ音が背後から聞こえてきた。

36:声をもつ人魚姫2/9
07/06/01 12:04:18 Cz1SBqaC
「あ、ああ……君は難破して流れ着いたのかな? そんな格好で」
バツが悪そうに、咳払いして目をそらす青年。服には王家の刺繍が輝いている。
少女はただ溢れそうな想いがいっぱいで、男の粘る視線に気づかなかった。
「王子様!」
元人魚の末姫の声は陽光より明るくあたりを照らす。
希望の詩を歌うときの、とっておきのソプラノの響き。
「私です、王子様。お助けした……覚えていらっしゃらないですか?」
愛しい相手の表情に変化はなく、少女は悲しげに声を詰まらせる。
「え、あ、いや……君、名前は?」
「ナマエ?」
永劫の寿命を持つ海底の住人は、個体を識別する文字の羅列を必要としない。
異国の単語を聞いたかのように首をかしげる少女に、王子の目の色が変わる。
獲物を見つけた光と、それから繕った慈悲の笑顔。
「ごめん、ごめん。君はきっと……」
続いた二つの単語は、まったく少女に理解不能なものであった。
「……なんだね。心配しなくていいよ。我が国はフクシ大国だから」
愛しく、地上での唯一頼りになる相手に難解な単語を吐かれ、
少女は心細さを覚え、胸の上でこぶしを握った。
「そこで待っててよ。ワンガンケイビタイをつれてくるから」
王子はそう宣言し、城へつづく石段を登るそぶりを見せた。
それが演技であると察しないのは、無垢な人魚の末姫だけだった。
「王子様……待って、行かない……っ、ああっ」
引きとめようと立ち上がる少女に、二本足歩行の実地本番は厳しかった。
はじめての地上の重力に足がよろけ、尻もちをつく。

37:声をもつ人魚姫3/9
07/06/01 12:05:45 Cz1SBqaC
「大丈夫かい?」
かぶさるたくましい影。差し出される優しげな手。少女は有頂天になった。
再び聞こえる生唾を飲み込む音には気づかず。
しかし、絡みつく熱い視線だけには、反応せずにはいられなかった。
自分がさきほど不思議な感覚を覚えた箇所を、
王子は息が肌を濡らすほど顔を接近させ、食い入るように見つめている。
少女もまた、王子の足に奇妙なものを見つけた。
「二本の足ではなく、三本になる方もいらっしゃるのですね」
豪華な絹の衣装を破らんばかりに滾る、王子の「三本目の足」。
王子の慈悲めいた笑みが、さらに達観したものになった。
何も答えず、王子は末姫の顔の横に腕を伸ばし、
そのまま厚い胸板で、浜辺に少女を押し倒した。
少女は王子の顔が近づいたその現状に、胸を波打たせていた。
頬が火照り、ただまぶたをパチパチとするだけで精一杯。
「君も覚えるといいよ。人間はね、みんな三本足なんだ。
もっていない子は、こうして三本にしてもらうんだよ」
赤子に言い諭すような、感情のこもらない声。
だが指は浜辺の熱気を集わせ、まだしっとりと湿り気を帯びる、
かつての少女の尾部分に這わせられる。
「ひぁ……っぅ」
以前に海中を蹴り、荒波を押しのけた人魚の尾は、
今はただ愛撫にビクリと跳ねて、甘い余韻に力を失う足であった。

38:声をもつ人魚姫4/9
07/06/01 12:07:09 Cz1SBqaC
「可愛い声だね……」
つぶやいた王子は、顔を落とし、豊かな少女の乳房を甘噛みする。
「っん……んんっ!」
貝殻に覆われ、冷たい海水から守られてきた女性のシンボルを、
このように扱われ、末姫はどうすればいいか分からなかった。
ただ、こんなに熱く柔らかな唇を這わされ、肌をついばまれ、
身体の中に甘い疼きのようなものが溜まっていくのを、
身じろぎもままならぬこの状態では、声に逃がすしかなかった。
「ふぁ……あ、んっ」
悶えて揺れた足に、熱いものが当たる。
それは、少女の声でますます大きくなったようだった。
荒い鼻息が、耳もとから離れる。
王子の顔は、さっきと同じ箇所を凝視していた。
しっとりと海水を含んだ少女の茂みは、しかしまだはじめての愛撫を
受け入れたばかりで、準備らしい準備が整っていない。
「王子様?」
海を行くもの全てを魅了する魔性の響きが、王子の耳にも渡る。
何かが切れたかのように、王子はむしゃぶりついた。
唾液たっぷりの舌を這わせ、水溜りを海にでも変えるかの勢いで
激しく執拗に舐めまわされ、末姫は恍惚のままに喘ぎ、身を揺らした。
「あ、いや……あぁ……王子、さま……っ、んんぅっ……」
頬を染め、か細く可憐な声を上げる少女は、王子が三度めの生唾を飲み、
臨戦体勢の男性自身を取り出したのを知らなかった。

39:声をもつ人魚姫5/9
07/06/01 12:08:04 Cz1SBqaC
「もう、大丈夫だね」
落ち着かせるための声ではない。息は荒く生臭く、切羽詰って
追われるような獣の響きに、末姫はビクリと肩を震わせた。
それは予感だった。けど、どうすべきか少女にその智恵はない。
王子は再び少女を胸板で押し倒し、何気ない動作のように、
触れ合った肌を擦り、前に進めた。
二者の表情の違いは、非常に対照的なものだった。
王子は快楽に目を細め、少女は壊れんばかりに瞳を見開く。
「ぁ、あっ……く、っぁあ! 痛いっ!」
可愛らしい悲鳴は残酷に、狭い中を押し開かれる苦痛を増すだけだった。
「ぁあ……可愛い、声だぁ……」
陶酔しきった顔の男は、愛らしい響きが耳を打つたび崩れそうに緩んだ。
表情を緩めても、下半身に流れ込む血の速度は早まる一方。
目に涙を浮べ小さな唇が痛みを訴えるたび、末姫ははちきれそうに
膨れあがる熱いものに攻め立てられ、息も止まらんばかりだった。
苦悶に絞られ、涙に視界を歪める少女が、それでも懸命に
瞳を開いていたのは、愛しい王子を見つめたいと思ったからだった。
この行為を理解できなくとも、触れ合う異性同士が目を合わせるのは、
海底の住人も行なう愛の仕草であったから。
壊れそうな苦痛の中、視線を下へ這わせていくと、
王子と同じ肌の色が脚の付け根で結合を果たしているのが分かった。
愛しい人の三本目の足と、少女が手に入れたばかりの器官。
(一つになっている……私たち、結ばれている)

40:声をもつ人魚姫6/9
07/06/01 12:11:36 Cz1SBqaC
思い出すのは、薬をくれた魔女の言葉。
『王子と結婚し、結ばれれば、あんたは人間の魂を手に入れる』
無垢な少女は叶えられた望みの一つに、一瞬痛みを忘れた。
溢れそうな想いを、愛しい相手の首に手を回し、言葉にする。
「あぁ……王子様。お慕いしております。私と結婚……」
ギョと目を剥き、陶酔顔に水をかけられたかのように、
荒々しく末姫を突き放すと、王子は浜辺に立ち上がった。
少女を苦しめていた逸物は、今は、身体に埋めるこむのには
とうてい足りない体積に萎び、先走った汁を砂浜に垂らしていた。
「わ、ワンガンケイビタイをっ……」
「どうか、しましたか。王子様?」
心配そうに尋ねる少女を無視し、王子はあくせくと衣服を整える。
「我が国はフクシ大国だ。隣国の多大な援助金により保つ……」
「あの、王子様?」
深呼吸し、帯をしめた王子の顔は、欲望を吐き切った聖人のそれだった。
「福祉大国だ。君のような精神薄弱で、名前も分からぬ記憶喪失を
収容する施設がある。とりあえず湾岸警備隊に保護してもらいたまえ」
少女は言葉を失った。半分も意味を理解していなかったが、
すっかり他人の顔で、階段を上りかける王子を見れば、
胸が騒ぎ、表情がこわばるのも、無理はなかった。
「王子、様。私、と……」
少女の弱弱しい言葉をさえぎるように、王子はまくしたてる。

41:声をもつ人魚姫7/9
07/06/01 12:13:05 Cz1SBqaC
「お、おつむが弱いだけじゃない、淫乱な血も混じっている。
裸で、破廉恥な格好で、男を惑わせる。その病も治してもらいたまえ。
君が治療を受けられるのも、僕が、僕が福祉大国を保つからこそ。
隣国の援助――婚約中の王女の資金があるからこそだ。
君とは違って慎ましく貞淑な女性だから、娼婦館通いはともかくも、
妾を持つなど許されない。婚約破棄、援助打ち切り。
そうなったら、君だ。困るのは。
国力は向こうが上だし、王女との縁も、ささいなものだ。
嵐に巻き込まれ、溺れた僕を助けてくれた。便宜上は。
実際には、僕が遭難したのは何十マイルも沖合い。
カナヅチで意識を失っていた僕が、砂浜にたどり着いたのは、
奇跡的な潮流の力か、神の遣わしたイルカが運んだのか。
彼女が嵐の海を泳いたのではないのは、確かだ。
けど、それは重要じゃない。
大事なのは権力をもつ者と縁を持ち、それを育てることだ。
ただ浜辺で介抱しただけの王女に、これでもかと熱いお礼をし
感謝の念と共に付きまとい、婚約までにこぎつけた。
福祉大国にのし上がったのは僕の努力ゆえ。
そ、それを壊そうとするなど、とんでもない。
身許も分らぬ君を懇切丁寧に治療しようと言うのだから、
せめてありがたがり、身のほどをわきまえるべき――」

42:声をもつ人魚姫8/9
07/06/01 12:14:05 Cz1SBqaC
言葉は出なかった。魔女の薬と引き換えに舌を渡さなかった末姫は
それでも今、己の気持ちを紡ぐすべを、使うことが出来なかった。
だが、階段を上って遠ざかっていく王子に、震える手を差し伸ばし、
身を起こすままに、二本の足で砂浜に立ち上がっていた。
「……っ、あ、ぁっ!」
突き刺さるような痛みに、顔が歪み、思わず目を閉じる。
それゆえ彼女は、砂地に滴る鮮血の色を見ずにすんだ。
押し広げられた肉が元に戻り、破られた箇所が痛みに疼くのを、
魔女の言っていた『歩くたびに、ナイフの刺さる痛み』だと
思い込めたのは、彼女の最期の幸せだったろう。
「と、とにかく湾岸警備隊に身柄を任せたまえっ……!」
捨てセリフを残した王子は、素早く石段を上りきり、
あっという間に気配を消していた。
もう、それを追う気力も残っていない。
少女はボロボロと涙の粒を砂に残しながら、
痛む歩行で静かな波に踏み入った。
涙は塩水に溶けた。
しかし海水を得て、踊るように動き出す尾を彼女はもう持たない。
縦横無尽に水の中を巡った肉体は、沖に歩を進めても、
優しく海に迎えられたりはしなかった。

43:声をもつ人魚姫9/9
07/06/01 12:15:11 Cz1SBqaC
数分後、通報を受けた湾岸警備隊が、海岸に辿り着いた時には、
もうすでに誰の姿も、気配も見当たらなかった。
砂地に落ちたどんな痕跡も、海の水に洗われてしまっていた。

*  *  *

「だから後悔するって警告したんだがねぇ……」
不気味な色した海草の林の奥、海の魔女はつぶやいた。
声をもたねば、王子は目の前に現れた少女を保護し、
城に招くだけの興味を持っただろう。
遅かれ早かれ破局が来るけれど、それまでは
愛しい男のそば、幸せな気分でいられたはずだ。
だが、裸体で惑わされ、人魚の声で魅了された男が、
城に着くまでの短い時間も、欲望を抑えきれるわけもない。
そして、一度至ってしまえば、王子が身許も知れない
元人魚の王女に、興味を抱くはずもなかった。
「……やっぱり、声は奪っておくべきだね」
幼い王女に、一時の幸せをも与えられなかったのを悔やみながら
魔女は背を丸め、窯を向き、薬作りの作業に戻った。

44:名無しさん@ピンキー
07/06/01 22:38:37 QKsf51pT
せつないね・・・でもおもしろかったYO!

45:名無しさん@ピンキー
07/06/03 00:35:22 oBYtddwE
上手いですね。面白かった。
でも、抜けなかった……。切な過ぎる。

46:名無しさん@ピンキー
07/06/03 14:37:29 /zyAC2ZO
えー王子様よ、おつむが弱い娘云々ってそこまで考えてて
手出した場合、本来責められるのは自分だって自覚はちったあ有るんだろうな?
……あるんだろうなorz だからこそ落ちが、せつないね。

47:名無しさん@ピンキー
07/06/04 18:59:33 iQp/SXxB
救いがねえええ! すげえ切ない…
もしも声が奪われてたらこんなことにならなかったんだろうか。

魔女が声を奪おうとするのは末姫の幸せを願ってのことっていう解釈がいい。
人魚は歌で人を惑わして船を難破させるというが
それがこんな話になるとは。自分じゃ絶対思いつけない。面白かった。

欲を言えば、王子が人魚の声で理性をなくす描写があるとなおよかったな。
この話だと声を奪わなかったことが悲劇をよんだというより、
単に王子が外道だったから目の前の女の子を襲った感が強くて、
せっかくの美しい設定を活かしきれていないように思う。
そこだけもったいない!

48:名無しさん@ピンキー
07/06/05 07:39:06 DkaMjC9J
末姫の純真無垢な様子が悲哀をさそうね。
エロかわいいコーラル姫とはまた違った味で新鮮だった。
いつかいい男を見つけて幸せになって欲しい。

49:名無しさん@ピンキー
07/06/09 21:35:02 6ewgpquB
保守

50:名無しさん@ピンキー
07/06/13 00:11:08 q72WpwTt
保守

51:名無しさん@ピンキー
07/06/16 00:51:25 jFbhaZ3+
保守

52:四葉の行方
07/06/16 11:03:35 XvjCCUsy

「わあ、ここはクローバーがいっぱいだね」
なだらかな丘陵地帯いっぱいに広がる緑の毛氈を見渡しながら、弟王子がうれしそうに言う。
長兄のアランが郊外に散策に行くというので、彼の葦毛に同乗して連れてきてもらったのだ。
六歳のオーギュストはまだ自分では馬に乗れないでいる。
「ねえさまはシロツメクサ好き?」
従者に助けられつつ小柄な白馬から下りようとする兄嫁を見上げながらオーギュストは尋ねた。
アランは本来、妻だけを誘うつもりだったのだが、
幼い末弟を伴った方が場の雰囲気を和らげることができるかと思い彼を連れてきたのだ。
むろん幾人かの従者たちも影のように付き従っている。

「ええ、好きよ。かわいらしいもの」
乗馬中の向かい風のためにやや乱れた黒髪を直しながら、エレノールは幼い義弟に微笑みかける。
「じゃあぼくがたくさんつんであげる。あのね、ばあやはこれでかんむりをつくるのがとてもうまいんだよ」
「そうなの。わたくしも小さいころよく作ったわ。それから四葉を探したり」
「よつば?」
「わたくしの国では、四葉のクローバーは幸せを呼ぶといわれているの」
「そういえば、ばあやもおしえてくれたきがする。
 でもどうしてよつばがしあわせなの?」
「どうしてかしら。昔から伝えられていることだから、としか言えないわね」
義姉は困ったような顔になる。
「でもさいしょにだれかそういったひとがいるんでしょう。
 どうしてそのひとはそうおもったのかな。にいさま、しってる?」
黙って鐙を調節しているアランに弟王子は尋ねた。
自分から散策に誘ったにもかかわらず彼は道中ほとんどエレノールと口をきかず、
弟に何か聞かれれば答えるか、弟と妻が談笑するのを横で聞いているかのどちらかだった。

相変わらず妙なことを訊くものだ、と思いながらも王太子は振り向いてやる。
十二歳離れた末弟は乳幼児のころから周囲への反応が鈍く発語もかなり遅かったため、
王室付の教師たちのなかには精神的な遅滞を疑う者も少なくない。
王家ではさほど珍しい現象ではなかった。
この大陸の中枢諸国の上流層は小さな輪の中で通婚を繰り返してきたため、王室間の政略結婚はいまやほとんど近親婚であった。
アラン夫妻も血縁からいえば従兄妹同士にあたる。

しかし彼にいわせれば末弟のようすはまだまだ観察の余地があると思う。
たしかにものごとへの反応がやや変わっており、この年にしては語彙も乏しいのだが、
他の人間があたりまえに受け入れる概念の前でいちいち立ち止まり自分で吟味したがるのは、
考えようによっては学者として大成する可能性を秘めているともいえる。
それに何より、血を分けた弟が王家の恥部としてどこか別邸に隔離され、
顔も合わせないまま成長することになるかもしれないなどと想像するのはやはり気が重かった。
喧嘩しながら一緒に育ったすぐ下の弟たちとも仲は悪くはないが、
年が離れた末弟の無邪気さ人なつこさはやはり手放しで可愛い。

足元に広がるクローバー畑、そしてゆるやかな丘陵の谷間を縫って流れる小川を目で追いながら、
アランは弟を納得させられるような簡潔にして明瞭な答えを思案している。
「自然の法則からいえば、四葉のクローバーというのは奇形、つまり異常だ」
「イジョウって?」
「ふつうではない、ありふれてはいないということだ。
幸せもそれと同じでそこらにありふれてはいないものだ。
四葉が幸せをもたらすと最初に言い出した者はたぶんその辺から連想したんだろう。
別に根拠はないはずだ」
「そうか、しあわせはイジョウなんだ」
神妙な顔でオーギュストは兄のことばをくりかえす。
分かっているのだろうか、とアランは疑わしい気がするが、そもそもこの言い伝え自体たいした意味はないのだ。
深く考えるのもばかばかしい。
いかにも婦人の好みそうな風説だ、と妻の姿を横目で見る。


53:四葉の行方
07/06/16 11:08:47 XvjCCUsy

半年前に娶った妃のエレノールは隣接する大国スパニヤの出身である。
王太子夫妻の成婚とあって国中が沸き立ち、膨大な国費が投じられて婚礼が執り行われた。
式典の長々しさと仰々しさにアランはつくづく辟易したが、
終日にわたる儀式をなんとか終えて寝室に向かうころには、やや気力をもち直していた。
従妹とはいえこれまで顔を合わせることもなかった花嫁だが、祭壇で見る限りは悪くなかった。
アランと同い年で十八歳のエレノールは、さすが太陽と情熱の国から来ただけあって健康的な小麦色の肌をもち、
黒髪はまばゆい光沢にあふれ、漆黒の瞳は牝鹿のように大きくて優しげだった。
式典ではそれらすべてが純白の衣装に映え、宮廷および参道の人々の賞賛の的となった。

見る者によっては「絶世の」をつけてもいいくらいの佳人だが、
アランのように幼少時から美形ぞろいの女官にかしづかれて育ってきた青年の目には、
エレノールの容姿はそこまでの感動はもたらさなかった。
しかし式の合間に侍女と母国語で話すようすなどを見ていると、その明朗で思いやりある態度はたしかに好ましく感じられた。

さりながら、初夜は彼の想像とは打って変わった展開になった。
「どうかわたくしに御手を触れないでください」
寝室でふたりきりになったとき、エレノールは震える声で花婿に告げ、胸元から短剣をとりだした。
「あなたを傷つけるつもりはありません。
でもお触れになるようなことがあれば、わたくしは自害いたします」
(なんという女だ)
アランは驚くよりも先に呆れた。
この花嫁は立場上の義務や使命といったものをまるで理解していないようだ。
政略の駒として使えるのがこんな娘しかいなかったとはな、とスパニヤ国王を哀れむ気持ちさえ沸いてきた。
彼は面倒ごとが嫌いなのであえて騒ぎ立てるつもりもないが、
仮に明朝ありのままを廷臣の前で父王に報告したら外交問題にさえ発展しかねないほどの愚行だ。
この娘はそれを分かっているのだろうか。
ここまで思い切ったことをするからには何がしかの理由があるのだろうとはいえ、
アランは花嫁のあまりの短慮さにたちまち興ざめをおぼえ、昼間彼女に抱いた好ましい感情も立ち消えてしまった。
彼は無言のまま花嫁と対峙していたが、やがてひとりでベッドに入り、彼女に背を向けて眠りに就いた。

翌朝、エレノールに付き従ってガルィア宮廷にやってきた年配の女官から秘密裏にご面会したいとの申し出があった。
まあそうだろうなと思いつつ彼女を引見すると、五人ほどの妙齢の侍女たちを従えている。
「われらが王女のことはどうかお怒りくださいませぬよう。
 王太子殿下におかれましてはどうかもうしばらくご忍耐いただきまして、
時間をかけて王女の御心を解きほぐしていただけますれば恐悦でございます」
白髪の女官は平身低頭して詫びたが、王太子はそれを制止した。
「そなたは悪くない。それよりも事情が訊きたいのだ。なぜ姫はあんなことを?」
女官は答えなかった。そのかわり同伴した五人の美女たちを招きよせ、代わる代わるアランに挨拶させた。
「スパニヤ国王のせめてもの御心遣いでございます。
 殿下の御無聊は、しばらくはこの者たちがお慰めさせていただきますので」



54:四葉の行方
07/06/16 11:11:00 XvjCCUsy

半年前に娶った妃のエレノールは隣接する大国スパニヤの出身である。
王太子夫妻の成婚とあって国中が沸き立ち、膨大な国費が投じられて婚礼が執り行われた。
式典の長々しさと仰々しさにアランはつくづく辟易したが、
終日にわたる儀式をなんとか終えて寝室に向かうころには、やや気力をもち直していた。
従妹とはいえこれまで顔を合わせることもなかった花嫁だが、祭壇で見る限りは悪くなかった。
アランと同い年で十八歳のエレノールは、さすが太陽と情熱の国から来ただけあって健康的な小麦色の肌をもち、
黒髪はまばゆい光沢にあふれ、漆黒の瞳は牝鹿のように大きくて優しげだった。
式典ではそれらすべてが純白の衣装に映え、宮廷および参道の人々の賞賛の的となった。

見る者によっては「絶世の」をつけてもいいくらいの佳人だが、
アランのように幼少時から美形ぞろいの女官にかしづかれて育ってきた青年の目には、
エレノールの容姿はそこまでの感動はもたらさなかった。
しかし式の合間に侍女と母国語で話すようすなどを見ていると、その明朗で思いやりある態度はたしかに好ましく感じられた。

さりながら、初夜は彼の想像とは打って変わった展開になった。
「どうかわたくしに御手を触れないでください」
寝室でふたりきりになったとき、エレノールは震える声で花婿に告げ、胸元から短剣をとりだした。
「あなたを傷つけるつもりはありません。
でもお触れになるようなことがあれば、わたくしは自害いたします」
(なんという女だ)
アランは驚くよりも先に呆れた。
この花嫁は立場上の義務や使命といったものをまるで理解していないようだ。
政略の駒として使えるのがこんな娘しかいなかったとはな、とスパニヤ国王を哀れむ気持ちさえ沸いてきた。
彼は面倒ごとが嫌いなのであえて騒ぎ立てるつもりもないが、
仮に明朝ありのままを廷臣の前で父王に報告したら外交問題にさえ発展しかねないほどの愚行だ。
この娘はそれを分かっているのだろうか。
ここまで思い切ったことをするからには何がしかの理由があるのだろうとはいえ、
アランは花嫁のあまりの短慮さにたちまち興ざめをおぼえ、昼間彼女に抱いた好ましい感情も立ち消えてしまった。
彼は無言のまま花嫁と対峙していたが、やがてひとりでベッドに入り、彼女に背を向けて眠りに就いた。

翌朝、エレノールに付き従ってガルィア宮廷にやってきた年配の女官から秘密裏にご面会したいとの申し出があった。
まあそうだろうなと思いつつ彼女を引見すると、五人ほどの妙齢の侍女たちを従えている。
「われらが王女のことはどうかお怒りくださいませぬよう。
 王太子殿下におかれましてはどうかもうしばらくご忍耐いただきまして、
時間をかけて王女の御心を解きほぐしていただけますれば恐悦でございます」
白髪の女官は平身低頭して詫びたが、王太子はそれを制止した。
「そなたは悪くない。それよりも事情が訊きたいのだ。なぜ姫はあんなことを?」
女官は答えなかった。そのかわり同伴した五人の美女たちを招きよせ、代わる代わるアランに挨拶させた。
「スパニヤ国王のせめてもの御心遣いでございます。
 殿下の御無聊は、しばらくはこの者たちがお慰めさせていただきますので」



55:四葉の行方
07/06/16 11:11:53 XvjCCUsy

(さすが義父上、よく分かっておいでだ)
ローザという名の五人目の娘の腹部に何度目かの精を放ちながら、アランは満足しつつそう思った。
ただひとつ残念なのは、嫡子をもうけるまえに庶子が生まれたりしないよう外に出さねばならないということだ。
べつに周囲に強制されたわけではないとはいえ、アランは義務感から常にそうしていた。
献上された侍女たちはこれですべて賞味したことになるが、
いずれも豊満で清純で従順で夜は床上手、というアランの――
あるいは世の男の大半の――嗜好をほぼ完璧に満たした選りすぐりの美女ばかりである。
理知的なことでは宮廷でも定評がある王太子だとはいえ、
十八歳の彼が婚礼後最初の一週間が終わらぬうちに全員に手をつけてしまったのも無理からぬことであった。

「アラン様」
やや訛りのある可愛い声でローザが身体を寄せてくる。
「あたし幸せですわ。
最初ガルィアの王太子にお仕えせよと命じられたときはとても怖かったけど、アラン様はとてもお優しくて、紳士的で」
そして彼の頬に手を触れる。
「とてもお美しくて」
言われ慣れたことなので別に否定もせず、アランは自分の赤味がかった金髪をまさぐられるがまま、
娘に腕枕をしつつその乳房をもてあそんでいた。
「やあぁん……っ」
熱い吐息とともに耳元で漏れた声があまりに愛くるしいので、
大きめの乳首を小刻みにこすりあげて限界まで硬くしてやってから、手をさらに下に持っていった。
濡れに濡れた秘肉はさきほど彼自身をくわえ込んでいたときの熱がまだ残っているにもかかわらず、
技巧に富んだその指の訪れを過敏なまでに歓んだ。
ふたたび大きくふくらんだつぼみをさすられるがまま、ローザはあられもなく腰を浮かせ、
王太子の指がたわむれに離れていこうとすると両手で押さえつけ、本能の命ずるまま快感を享受していた。

身も心も素直で屈託のない侍女が自分の指でのぼりつめていく嬌声を聞きながら、
彼の涼やかな茶色の瞳は天蓋の一点を凝視している。
ここは夫婦の寝室ではなく彼の自室である。そろそろ妃のもとへ足を運ぶべきだろうか、
と彼は考え始めていた。

しかしながら、婚礼から一週間してもエレノールの態度は変わらなかった。
相変わらず寝所で短剣を胸に抱いている。
せっかくこちらから歩み寄る気になったのに勝手にしろ、とアランは言い捨てたくなったがぐっとこらえ、辛抱強く妻に声をかけた。
ここまで人の下手に出たのは彼の人生で初めてのことかもしれない。

「エレノール、よく聴いていただけないか。
われわれの結婚はわれわれだけのものではない。スパニヤとガルィア両国の末永い友好の象徴だ。
だからこそ形骸的であるべきではないのだ。
昔からの許婚者だったとはいえ昨日今日会ったばかりの男と肌を重ねるのが容易なことでないのは分かる。
しかしあなたにはここまでするだけの理由が何かあるはずだ。
まずそれを教えていただけないか。お互いを分かり合うために」
しかし新妻は黙ってうつむき、口をつぐんだままである。
王太子はじっとそこで待っていたが、ついに真夜中を過ぎるとひとりで横になった。

その次の晩、彼は同様にして寝室で妻に問いかけた。
しかし反応は変わらない。アランはかなり長い間彼女の横に腰掛けて返事を待っていたが、
やがてどうでもよくなり、妻に挨拶もせずに寝室を出て自室へ戻ると、例の侍女たちのひとりを呼ぶようにいいつけた。

それからというもの、アランは自分から妻のもとを訪れることはしなくなった。
食事の時間は決まっているのでともにテーブルを囲まないわけにはいかないが、
向かい合ったふたりはただ黙々とナイフやフォークを動かし、グラスを口に運ぶだけである。
公式行事の場でも必要がないかぎり決してことばを交わさない。
そんな異様な関係が周りに感づかれないはずはないが、ふたりともそ知らぬ顔をして淡々と公務をこなし、今に至っている。


56:四葉の行方
07/06/16 11:12:57 XvjCCUsy

「わあっ」
王太子夫妻は同時に振り返った。
見ると弟王子が低い土手を転げ落ちていき、小川のぬかるんだ岸辺に身を浸していた。
四葉のクローバーを懸命に探していたせいで石につまずいたのだろう。
幸い土手はごくなだらかなので大事には至っていないが、やはり身体のふしぶしを打ったらしい。
服を泥で汚しながら泣きそうな顔をしている。
「大丈夫か、オーギュスト」
心配が半分、いつもながらの末弟の不注意さに呆れるのが半分といった顔でアランが土手を降りようとすると、
彼よりも従者たちよりも先にオーギュストに駆け寄って助け起こした者がいた。
エレノールだった。

「ねえさま、いたいよう」
「そうね、痛かったわね。でも泣かなくて偉かったわ。オーギュストは強い子ね」
「――うん、ぼく、泣いてない」
すすり上げそうになるのを我慢する義弟を胸に抱き寄せながら、
エレノールは彼の顔についた泥をハンカチで拭ってやる。
むろん彼女の服も靴もすでに泥で汚されている。
(そんなことは従僕に任せればよい)
そう思いながらも、アランは黙ってふたりを眺めていた。
足元ではクローバー畑が微風に揺れている。


57:四葉の行方
07/06/16 11:13:45 XvjCCUsy

その晩、アランは実に半年ぶりに夫婦の寝室へ向かった。
昼間の上天気とは打って変わって、月も星も見えない暗い夜だった。
(どう言い出したものか)
従僕を下がらせてから寝室の扉に手をかけると、アランはそこで静止した。
数日前、彼は母親に召しだされたのだった。
正確には母后が療養する王家の別荘へ呼び出されたのである。
彼女は二十年にわたる結婚生活で健やかな男女の赤子を次々とあげながら、自身の健康は徐々に失っていくことになった。
今では一日の大半は床に伏せっている。
久しぶりにふたりきりで向かい合うと、アランは母の病み衰えぶりを直視しないわけにはいかなかった。

くちづけするために枕元に跪いて手を乞うと、手首が嘘のように細くなっていた。
理の勝った気性のアランもさすがにことばを失いその場に凍りつく。
できるだけ病の話はするまいと決めると、彼は似合わぬほど饒舌になって最近の愉快なできごとを母に報告した。
ひと段落ついたとき、母后はようやく口を開いた。
「成人したわが子にこんなことを訊くのはどうかと思いますが――
おまえとエレオノーラ、いえエレノールの仲は大丈夫なのですか」
見た目より毅然とした声はアランをやや安心させたが、質問の内容が彼に打撃を与えた。
自分たちの結婚生活についての風聞がこんな状態の母にまで心労をかけているとは。
アランは快活に答えようとした。
「もちろんです。まだ慶事をおしらせできないのは残念ですが、こればかりは神のご意志ですから。
ですが母上と同じくスパニヤ王家の出身ですから、あれも安産多産の体質なのはまちがいないでしょう」
そういって母親のやせ細った手を両手で包んだ。
母后は自分の面影をそっくり受け継いだ長男の顔を黙って見ていたが、
やがてかすかに首をふり、息子の顔を引き寄せると昔のように頬にくちづけた。
ああすべて分かっておられるのだ、とアランは思った。


58:四葉の行方
07/06/16 11:15:36 XvjCCUsy

とうとう意を決して寝室に入ると、妻は文机の前に座っていた。
しかし筆をとるわけでもなく、膝の上に置いた何かをもてあそんでいる。
それは昼間オーギュストが摘んできたシロツメクサで作った花冠だった。
弟はぼくがつくってあげると言い張ったのだが、
やはりあの不器用な手先ではうまくできずに結局エレノールがほとんど作ってやり、
自分でつくったものをなぜかオーギュストの手から進呈されるという羽目になった。

文机の上に置かれた燭台が、花冠をどこかに掛けて飾ろうと思案する妻の姿を浮かび上がらせている。
こうしてみると悪くなかった。
ふいに、自分たちのあいだに子どもができたらどんなだろうと思った。
自分とこの強情な娘が睦みあうというのは今の状況においてさえ想像できないが、
自分の子どもがエレノールのような母親をもつと仮定するのは悪くなかった。
「エレノール」
アランは妻に近づき、静かに声をかけた。
彼女は振り向きはしたものの、返事はしなかった。
王太子は突然妻の前に跪いた。
声こそ上げなかったものの、エレノールは心底驚いた顔で彼を見つめている。
屈辱にふるえる自分の矜持をおさえつけながら、彼は冷静な声で言った。

「エレノール、あなたに頼みがある。今夜からはどうか私の妻になっていただきたい。
あなたを長らく孤閨に追いやってすまなかった。
私に不服なところがおありなら直すよう努力する。
だから事実上の夫婦となり、いずれ私の子を生んでくださらないか」
「どうして突然、そんなことを」
エレノールが小さな声で尋ねた。
「周りがみなそれを望んでいるからだ。あなたのご一門も、私の身内も。
 われわれは幸運だ。そうではないか。愛する人々みなから祝福されて結婚したのだから」
誇り高い王太子がこれだけのことを自ら口にするのにどれほどの忍辱を己に課しているか、彼女にも分からぬはずはなかった。
しかしエレノールは沈黙し続けたあと、こうつぶやいただけだった。
「わたくしは――みなから祝福されて結婚したことが幸運だったとは思えません」

アランは立ち上がった。
一瞬にして猛禽のように変じた彼の目つきを見ると、意志の強い王女もさすがに怯えたような色を浮かべた。
王太子は逃すまいとするかのように、彼女の襟をつかんで立ち上がらせ顔を近づける。
エレノールは驚愕と恐怖とで黒い瞳をさらに大きく見開いた。
「理由を言ってやろうか。
そなたは母国の宮廷で一介の文官と通じていたのだろう。
あの侍女たちが寝物語に漏らしてくれたわ。
おおかたその男は婚礼前にそなたに逃亡をもちかけ、それが事前に露見して罪を得たのだろうが、それが俺と何の関係がある。
わが頼みに応じる気さえあれば純潔でないことなどこの際目をつぶったものを、
そなたはいまだ下賎な男への思慕が断ち切れぬとみえる。恥を知れ」
そういって妻を床に叩きつけるかと見えたが、さすがに自制して襟から手を離すだけにとどめた。
それでも均衡を失ったエレノールの身体は床に崩れていく。
燭台に立つ蝋燭のはぜる音が耳に届きそうなほど、夫妻の寝室は静寂に満たされていった。


59:四葉の行方
07/06/16 11:16:46 XvjCCUsy

「――あなたのおっしゃることは本当です」
妃は冷たい床の一点を見つめながらひとりごとのように口を開いた。
「わたくしは恥を知らない女です。
あなたには何も非はない。
なのに自分の失った恋に執着するあまり、許されぬほどあなたを、夫たるかたをないがしろにしてしまいました。
 ふたつだけ、間違いがあります。
わたくしはまだ生娘です。
そして、婚礼前に連れて逃げてくれるよう頼んだのはわたくしのほうです。
でも彼は応じませんでした」
エレノールはことばを切った。
しばらく口をつぐんでいたが、やがてためらいがちに開いてつづける。
「そのかわり、出国する前夜にこの身にくまなく触れて、接吻してくれたのです。
その記憶をあなたの手で――他の殿方の手で塗り替えられたくはなかったのです。
どうしても」

アランは、はっ、と鼻で笑った。
気位こそ高いとはいえつくづく幼稚な女だ。これで自分と同い年だとは。

「つまりそなたの片恋だったというわけか。
何をそこまで神妙な顔で語る必要がある。
あらゆる犠牲を払ってでもその男がそなたを助け出すのが当然だとでも思っていたのか。
自分にそれだけの価値があると。己が世界の中心だとでも思っているのか。

冷静に考えてみよ。
仮にその男がそなたを連れて逃げたとしたら、その一族郎党にどんな累が及ぶと思う。
スパニヤの刑法についてはよく知らぬが、わが国では王族の拉致誘拐を企てた者の身内は三族まで連座する決まりだ。
たとえその男が心底そなたを愛していたとしても、
老いた父母を苦役に就かせ兄弟姉妹の未来を闇に葬ってもかまわないとまで思い切るのはよほど難儀なことだ。
あるいはその男が孤児だったとしよう。
それでも上官や同僚といった他者が監督不行き届きであるといって重い咎めを受けることに変わりはない。
わが国なら減給どころではすまんぞ。最悪で官職剥脱、よくても辺境地帯への左遷だ。
そなたは王女としての特権はもれなく享受してきたようだが、
己ひとりの恣意でどれほどの人間に苦労をかけるか想像したことはないとみえる。

何より、そなたの頼みはその男自身の将来を奪うことになったはずだ。
ずいぶん有望な官僚だと聞いたが、
大志ある男なら誰もが望むはずの名誉と栄達につづくきざはしから恋人を引き摺り下ろしてもそなたは平気だったのか。
かように浅薄な王女をかどわかす罪よりは、
有為有徳の士から国史に名を留める機会を奪って逃亡者の身へ貶める罪のほうがよほど重いわ」

侮蔑のことばを一息に叩きつけてやると、アランはやや気が軽くなったように感じた。
しかし溜飲が下がったように思えぬのはなぜだろう。
むしろ心のどこか別の部分が重くなってきたようにも感じる。

ここまでいえばあの傲慢な王女のことだから短剣を振りかざして向かってきてもおかしくないと思ったが、
彼女は床から立ち上がらなかった。ただ同じ一点を見つめている。
許してください、とつぶやく声が聞こえた。
空耳かと思ったが、もう一度同じ声を聞いた。許しを乞うたのはたしかに彼女だった。
――ああそうか、とアランは気がついた。
自分でも意外なほど静かな声がこぼれ落ちた。
「その男が、そなたの世界の中心だったのだな」
エレノールはゆっくりと両手で顔を覆った。燭台の火は早くも消えかけていた。


60:四葉の行方
07/06/16 11:20:35 XvjCCUsy

朝を告げる鐘の音が王宮の外れから響いてくる。
従僕たちが朝の用意一式をもって部屋を訪れる前に、アランはいつもどおり早々と目が覚めた。
いや、いつもと違うことがいくつかあった。
久しぶりに夫婦の寝室にいる。
何か聞きなれない香りが枕元に漂っている。
そして腕の中には昨晩まで指を触れたこともなかった女がいた。
(なぜあんなことをしたのだろう)
アランは自分でも不思議な気がしていた。
あのとき、彼は寝室をあとにすることもできたのに、結局泣き崩れるエレノールを抱き上げて寝台に運び、
その華奢な身体を子守のように腕に抱いて眠りにつかせたのだった。
腕の中の妻の寝顔をそっと眺める。
朝日に照らし出された彼女はどれほど間近で見ても麗しかったが、
あの黒い瞳が覆われてしまっているのはつくづく残念だとアランは思った。

ふとその瞳に再会することができた。
しかしそれは大きく見開かれたまま固まっている。
そういえば何を話せばいいだろう、とアランは少し困った。

「おはよう」
「お――おはようございます」
ふたりとも黙っている。
「ひとつ訊きたいのだが」
「何でしょう」
「これは何の香りだ」
「白檀ですわ」
「話には聞いていたが、これがそうか。そなた愛用しているのか」
「ええ。わが国では一般的です」
「そうか」
そう言って彼はエレノールの黒髪に顔をうずめ、その匂いをさらにかごうとした。
あまりに自然にやってのけられたので彼女は押しのけることもできなかった。
きっとずいぶん女慣れしているにちがいないと思ったが、不快ではなかった。
「いい匂いだ」
「それは、――ようございました」
緊張でこわばったような声にアランは思わず笑う。
生娘だというのは本当だな、と彼は思った。


61:四葉の行方
07/06/16 11:22:07 XvjCCUsy
「褒められたら礼を言うものだ」
ですが、と言おうとする妻を制し、彼女の唇を奪った。
婚礼の祭壇で交わしたとき以来初めての接吻といえる。
思っても見ないほど優しい感触に、エレノールは全身の緊張が徐々にほどけていくのを感じていた。
このままなかに進入されるのかと思ったが、そうなる前にアランは顔を離した。
しかし彼女の瞳を長い間見つめている。
「そなたに触れるぞ。あの短剣はもう捨てろ」
一方的で高圧的な命令だった。
なんという男だろう、とエレノールは思ったが、もはや抗弁はしなかった。

妻の沈黙を同意だと見なし、アランは濡れたその紅唇にもういちど触れた。
今度は遠慮なく舌で唇をこじあけ、無防備なその内側と柔らかい舌をじっくりと嬲ってやる。
かつての恋人もここまではしなかった。
巧妙すぎる愛撫にエレノールは早くも息が乱れ始めていたが、
アランは唇を離さないまま片手で彼女の頭を抱き、片手で腰帯を難なく解きはじめる。
留め具の多い肌着さえ片手だけで脱がされていくのを感じて、
エレノールはその手馴れぶりにやや腹がたつほどだった。
妻の寝衣をすっかり脱がせてしまうと、彼は掛け布団を払いのけてその裸形をよく見ようとした。

「だめです」
エレノールが真っ赤な顔で抗う。
「夫に隠し事をするな」
「隠し事なものですか。せめてカーテンを引いてくださいませ」
「つまらぬではないか」
何がつまらぬものですか、と彼女が言いかけたとき、ふいに部屋の反対側の扉が開きかけた。
ノックをしていたのだろうが聞こえなかったのだ。
こんな時間に堂々とやってきて、しかも衛兵に見逃してもらえるのはあいつしかいない、とアランは直感した。


62:四葉の行方
07/06/16 11:25:47 XvjCCUsy
「アランにいさま、おはようございます。
 おへやにいないからさがしたんだけど、やっぱりここだったんだね」
元気な声が枕元に届いたときにはエレノールはすっかり身を隠していた。
この娘は六歳の子どもにさえ肌をさらしたくないのか、と思うとアランは可笑しかったが、
同時にひどくいとおしくもあった。
口角が上がりそうになるのを抑えながら、足元のほうに丸まった掛け布団を一瞥し、それからオーギュストを見た。

「早いな。どうしたんだ」
「あのね、さっききゅうしゃへお馬を見に行くとちゅうで、よつばをみつけたの。これ」
「それはよかったな」
そのために睦言が阻止されたのかと思うと、どうも不幸をもたらす四葉に見えてくる。
「これ、にいさまからエレノールねえさまにあげてよ」
「どうしてだ。おまえが見つけたのだから自分のものにすればいい」
「でもぼくもうしあわせになったんだ。これをみつけたときすごくうれしかったもの。
 ねえさまよろこんでくれるかな」
「たぶんな。でもなぜ俺からエレノールに渡すんだ」
「だってねえさまは花嫁さまでしょう。花嫁さまはみんなしあわせなんだって、ばあやがいってた。
でもねえさまはあんまりしあわせそうじゃないから、これがあると花嫁さまらしいでしょ。
それに、にいさまからこれをもらったら、ねえさまもっとしあわせなきもちになるよ」
オーギュストは小さな手を開いて兄の掌にクローバーを置いた。
強く握られすぎたためか、茎はややしなびかけている。
窓から差し込む朝日が裏側の葉脈をくっきりと浮かび上がらせ、葉の全体をいっそう鮮やかな緑に染め上げた。
アランは黙ってそれを眺めていた。


63:四葉の行方
07/06/16 11:30:50 XvjCCUsy

用件を終えた弟王子は帰ろうとしかけたが、ふいに寝台の上の塊に目を留めた。
「にいさま、あれはなに」
「羽根布団だ。丸めてある」
「うそ。おふとんは丸めてもあんなかたちにならないよ。もっとひらたくなる」
妙なところで洞察力のはたらくやつだと思いながら、
恥ずかしがって身を硬くしている妻のことを慮って、兄は適当な言い訳を考えていた。
「あれはだな、つまり――」
「わかった。卵をかえしてるんだね」
エウレカ!と叫びだしそうな顔でオーギュストが言った。
「だからにいさまは裸なんだ」
アランはことばに詰まった。
どこからそういう論理が出てくるのか分からないが、
しかし弟のなかでは辻褄が合っているのだとしたら便乗するにこしたことはなさそうだ。

「よく分かったな」
褒めてやる、といわんばかりの落ち着いた声でアランは答える。
「すごいなあ、にいさま」
心底感心したような顔でオーギュストは兄の寝起き姿を眺め、
彼の足元に丸まった羽根布団を眺めた。それから突然靴を脱ぎ始める。
「ぼくも卵をかえしたい」
わくわくしたような顔で寝台に上がってこようとする末弟をアランは急いで押し留めた。
「だめだ」
「どうして」
「卵を孵せるのは大人だけなんだ。鶏を見てみろ」
「そうか」
残念そうではあったが、オーギュストは聞き分けよく寝台から降りた。
「卵がかえったらぼくにさいしょにおしえてね。はやくかえらないかな。
――ああ、そうか。だからにいさまはときどき他のひとといっしょに裸でいるんだね」
(おまえ何もこんな時に)
ふたたびエウレカ!の顔になったオーギュストを前にアランはかすかに口元をこわばらせるが、むろん気づかれるはずもない。
彼の足元の塊がほんの一瞬ぴくっとする。
「いつもは女のひとが一人だけど、このあいだの朝は二人の女のひとといっしょにいたよね。
あのひとたち、ぼくを見てびっくりしてたけど卵をかくしたかったのかな。ぼく、とったりしないのに。
 そのまえはにいさまのおともだちが――ええとだれだっけ――
ボーアルネ公爵家のおねえさんとヴァロワ伯爵家のおにいさんがにいさまのとなりでねむってたよね。
 やっぱり一人より二人、二人より三人であたためれば卵もはやくかえるんだ。
 ぼくおもいつかなかったよ。にいさまはほんとうにあたまがいいなあ」
そりゃおまえの年で思いついたら大問題だ、とアランは思いつつ、
足元の布団がぴくぴく震えているのを横目で見守っている。

「いいなあ。ぼくもおとなになったらおともだちをたくさんベッドに呼んで、いっぱい卵をかえそう」
「それでこそ男だ」
引き寄せて髪をぐしゃぐしゃしてやりたかったが、丸めた布団のことが気になるのでそれは控えておいた。
「――だがまあ、相方はひとりにしておけ。そのほうが無難だ」
「ブナンって?」
「卵が割れにくいとか、卵をめぐって喧嘩別れしないとか、そういうことだ」
「そうか。あんまりたくさんいるとだめになっちゃうかもしれないよね。
 ひとりしかだめなんだ。ぼくはだれと卵をかえそうかな」
オーギュストは神妙な顔で考え込んだ。
とりあえずこいつをどうやって追い帰そうか、とアランもそのあいだに考えている。

「ぼく、くまさんがいいな。大きくて毛がふわふわしててあったかいでしょ。
いっしょのおふとんにはいったら、きっとすごくきもちいいよ。
それにぼくの髪や目の色はくまさんと同じ茶色だから、すぐおともだちになってくれるよ」
「そうだな。くまさんに来てもらうといい。そのためには蜂蜜を今から貯えておけ」
「はちみつ?そうだ、もう朝ごはんだね。ぼくいかなきゃ。にいさまはねえさまといっしょにたべるんだよね」
「ああ。早く行って来い」
「じゃあね、卵がかえったらぼくにいちばんにおしえてね。
 ねえさまによつばをあげるのもわすれないで」

64:四葉の行方
07/06/16 11:34:34 XvjCCUsy

うれしそうな足取りで末弟が去ってしまうとアランはしばらくそのままの姿勢で座っていたが、
やがて羽根布団に手をかけた。
中身をそっくり剥き出そうとするもエレノールはそんなことは許さず、
布団にくるまるような形で肩から下を覆ったまま夫に再会した。
さきほどは盛夏のような情熱を宿らせかけていた黒い瞳もいまや零下三十度ほどの冷ややかさで彼を見ている。
「三人で卵を孵すというのは、ずいぶん楽しそうですこと」
「まあな――いやそんなことはない。というかあれはきわめて例外的だ」
「そのわりには弟君の目に二度も留まったようですわね」
「偶然だ」
「――恥を知るべきはあなたのほうです」
顔を赤らめたまま、エレノールはぴしゃりと言った。
いつもならこんな物言いをされればアランは相手が重臣でも黙らせているところだが、今はべつに腹も立たなかった。

「まあな。悪かった」
「まったくです」
それからまたふたりは黙りこんだ。
「それで、どうなさるのです」
「何がだ」
「わたくしと卵を孵す気はおありなのですか」
アランが目を上げて見ると、彼女は布団の中で縮こまらんばかりに緊張し、耳まで赤くしながら夫の答えを待っていた。
もちろんあるとも、と答えるかわりに今度は本気で布団を剥いで、
その初々しい肉体をシーツの上に仰向けにした。

そっとくちづけすると、妻が震えを押し隠しているのが伝わってくる。
「恐ろしいか」
「いいえ」
寝台では似つかわしくないほど気丈な声がかえって内心の不安を映し出している。
アランは初めて彼女をいじらしいと思った。
「力を抜け。乱暴にはしない」
「心配などしておりません」
緊張でこわばった声に王太子の口元も思わず緩み、ふたたび唇を重ねる。
舌で彼女の内奥をさぐりながら、手で乳房を揉みほぐしていく。
こぶりながら形はよいと思った。
桃色の乳首を集中的に弄りながら、この気位の高い王女はどんな喘ぎを漏らすのだろう、
と思って顔を離してみたが、彼女は決して声を上げない。
拍子抜けした気分である。
「唇をかみしめるな。声を聞かせよ」
「……」
エレノールはむろん従わず、夫の巧妙な愛撫を受け入れながらも口はかたく閉ざしていた。
(やはり強情な女だ)
あらためてそう思ったものの、以前のように不快には感じなかった。
むしろその頑なさを屈服させる楽しみができたというべきか。

妻の柔らかい耳たぶや小さな顎やほっそりとした首筋を優しく噛むようにしながら、彼の顔はゆっくり乳房へと降りていった。
初々しい桃色の乳暈を舌先でそっと円を書くように嬲ってやると、
エレノールの身体は子兎のようにぴくんと震えた。
やはりここは弱いようだ、と満足しつつ、アランは舌と唇をさらに自在に使っていく。
ほとんど男を知らないはずの乳首はみるみるうちに硬くなり、
もっと吸ってほしいとばかりに上を向いて存在を主張しはじめる。
責めどころが分かりやすい身体だな、と彼には好ましく思われる。

65:四葉の行方
07/06/16 11:36:43 XvjCCUsy

「……あっ……」
ようやくエレノールの口から喘ぎとも呻きともつかない押し殺したような声が漏れた。
アランはむろん聞き逃さなかった。
「よかったか」
「…………」
「どうなんだ」
「……あっ、だめ、そこは……っ」
下腹部に夫の手が忍んできたのを知って、エレノールはさすがに口をつぐんではいられなくなる。
その指先は薄い茂みをそっと梳いてすぐ花園に至るかと思われたが、そうではなく、太腿のほうまで降りていった。
触れるか触れないかという節度を保ちながら、
生まれてからいちども日に晒したことがないであろう膝からデルタまでの内腿をゆっくり往復しはじめる。
最も秘すべきところに触れられるのは逃れたのでエレノールは最初ほっとしたが、じきにそうも思えなくなった。
彼女自身、自分の太腿の内側がこれほど敏感だとは知らなかったのだろう。
どうして、と言いたげな表情をしながら吐息をこらえようとしている。
アランの思ったとおり控えめな摩擦は処女の肉体をほぐすにはかえって効果的で、
焦らすように内腿をさぐればさぐるほど、妻の脚からは力が抜けていった。
今なら思い切り開かせても抗われることはないだろう。

「い、いやあ……っ」
アランが膝頭に手をかけたのを感じてエレノールはやや正気に戻り、
なんとか足を閉じようとするがむろん彼の力にはかなわない。
朝日の差し込む寝台の上で、姫君の秘肉は夫の眼前にあらわになった。
薄紅色の花弁はうっすらと蜜をまとって光沢を放ち、
その中央には彼女の意思とは裏腹に焦らしに耐えかねたつぼみがふくらみつつあり、
まるで早く夫に見出されじかに摘んでもらいたがっているかのような様相を呈していた。

「やめて、見ないで……!」
エレノールが限界まで赤面しつつその無遠慮な顔を押しのけようとすると、
両腕は彼の片手ですぐに押さえつけられてしまい、かえって両者の力関係をはっきりさせる結果に終わってしまった。
「お願い、お願いです……見ないで……」
「もう遅い。すべてさらされている」
「ひどい……こんなことをなさるなんて……」
「見られるのは初めてか」
「もちろんです」
何を馬鹿な、といいたげにエレノールは答えた。
声には嗚咽が混じっていながらも態度は毅然としていることに、アランはふたたび満足をおぼえた。
これぐらい誇り高くあってこそわが妃だ、という思いと、
この矜持をどうやって剥ぎとり乱れさせてやるか、という期待とが心中で交錯する。

「綺麗だ。何も恥じることはない」
「……」
「もっとも、処女の身ですでにこれだけ濡れているのは恥じてもよいかもしれん」
エレノールは聞こえないふりをして真っ赤な顔を背けたが、ふいに彼の長い指が忍んできたのを感じ、
快感というよりは驚愕のために全身でびくっとする。
初々しいことだ、と思いながらアランは花びらを周辺からなぞりはじめ、露骨に蜜の音をたててやる。
「己が男を欲しがっている音が聞こえるか」
「いやあっ……やめ……やあんっ」
「つぼみもすっかりふくらんでいるな。俺の指は無用なほどだ」
エレノールは唇を噛みながら夫をにらみつけているが、そのことばは事実なのでどうしようもない。
親指で小刻みにこすられつづけると、下肢からはますます力が抜けていく。
「や、やめ……やめて……あぁ……っ」
アランの指はとうとう割れ目に忍び入った。
人差し指一本でもきついというところであり、なかで動かすのはむずかしい。
しかしエレノールの反応は敏感だった。
夫の指を愛液にひたしつくしながら、腰を浮かさんばかりにして快楽に耐えている。

66:四葉の行方
07/06/16 11:41:19 XvjCCUsy

(生娘のくせに)
純潔を保持していながらもこの肌はかつて他の男にまさぐられ、ある程度まで肉の歓びを教えられているのだ。
そう思うとアランははげしく嫉妬する一方、異常な興奮をおぼえざるを得なかった。
(どこまで教え込まれた)
身をよじって責めを逃れようとする妻に内心で問えば問うほど、彼の愛撫は執拗になっていく。
尖って上を向いたままの乳首を吸いながら片手は秘奥にまわし、
敏感すぎるつぼみと割れ目を巧妙な指先で同時になぶりつづける。
「……もう、許して……」
とうとうエレノールが涙まじりにそう懇願したとき、アラン自身もそろそろ限界にさしかかっていた。
常ながら一方的に宣言する。

「挿れるぞ。力を抜け」
「えっ、や……あああっ!」
十分濡れていたとはいえ、ゆっくり進入してきた男の硬さと太さはやはり処女には耐え難いものがあった。
アランは細心の注意を払いつつ分け入っているものの、
その残酷なほどの狭さと温かさと潤いにどうかすると理性を失いそうになってしまう。
しかし妻がはしたない悲鳴をあげまいと唇を噛んで堪えているのを見たとき、
彼の情動はかえって落ち着き、この娘を二度と傷つけまいと思った。
締め付けに抗いながら最深奥までようやく到達すると、その快感を惜しみつつも動くのを止めた。
エレノールの眉間からやや苦痛が去ったように見える。
ひとつに結ばれているという実感が急速に沸いてきた。

「痛むか。すまない」
「いいえ」
まさか自分の花芯を貫いているさなかにこの倣岸不遜な王子の口から謝罪のことばが出るとは思わなかったので、
エレノールは目を見開いて彼の顔を見上げる。
「どうした」
「何も」
「思い出すか」
「何をでございます」
「前の男だ」
「――いいえ」
「忘れろとはいわん」
妻は目を伏せて黙った。こんなに睫毛が長かったのか、とアランは妙なところで感心した。
やがて紅唇がふたたびひらく。
「あなたが、わたくしの記憶を満たしてください。他に何者も立ち入れなくなるまで」
エレノールは瞳を上げた。
その深い黒には彼自身の姿が克明に映し出されている。
やはり忘れられないのだ、と彼は思った。
かまわん、待つことにしよう。心中で自分に語りかけながら、黙って妻に接吻した。


67:四葉の行方
07/06/16 11:42:03 XvjCCUsy

「そろそろ動かす。もっと力を抜け」
(この方はどうしてこう断定的な通告ばかり好まれるのだろう)
エレノールはやや呆れつつも、はい、という代わりに小さくうなずいた。
先ほどは鎮まりつつあった痛みがまたよみがえってくる。
しかし今度はどこか甘美な痺れが混じってもいた。
彼女の愁眉は開かなかったが、唇は徐々に開き始めた。
最初はうめきに過ぎなかったのが、だんだんとアランの耳朶にまとわりつくような喘ぎに変わっていく。
彼の往復が重なれば重なるほどほどエレノールの花園はあられもない蜜音を響かせて歓迎する。
ついには腰が浮き、その肉襞は自分の意思をもつかのように彼自身をとらえて放さぬほど締めつけてきた。
荒ぶる息をこらえながら王子はささやきかける。
「そなたの身体は信じがたいほど貪欲だ。けがれなき姫君とは思えん」
「わ、わたくしは……殿方をお迎えするのは、初めてです……どうか、信じて……」
「その点は信じる。何にせよ、この痴態を見せる相手が俺だけならば、それでいい」
「……もちろん、です……」
陶酔と羞恥と苦痛が融けあっているかのような表情で彼女は夫を見つめた。
彼の最後のたがを外し、絶頂に追い立てるにはそのまなざしだけで十分だった。

じきに抽送が小刻みになり、意識はある一点に向かって収束していく。
「あっ、だめ、そんな、激しく…………やああっ……あああああっ」
自制できなくなった妻に心ゆくまで嬌声を上げさせながら、彼はついにその深奥で果てた。
長い振動が収まって妻の身体の上に倒れこむと、彼は無意識にその華奢な身体を抱き寄せる。
十四で女を知って以来、そんなことをするのは初めてだった。
アラン、という声が耳元で聞こえた。
(初めて俺の名を呼んだな)
混濁する意識の中でそんなことを考えていると、さらに声が聞こえてきた。
温かい、と彼女はつぶやいていた。

68:四葉の行方
07/06/16 11:47:17 XvjCCUsy

「もうすぐおいでになるころですね」
妻が葡萄の皮をむきながらアランにいう。
そして彼の口まで丸い果肉をはこんでやる。
その指先をたわむれに噛んでみると、もう、という顔をしてみせながら、また別の葡萄をむきはじめる。
まだふくらみが目立たないその腹部には彼の三人目の子どもを宿している。
母后には結局、最初の孫を見せることはかなわなかった。
しかし逝去の数日前にふたりで見舞いに訪れたとき、
彼女は息子夫婦の顔を見交わして、ようやく安堵を得たようだった。

妻の手元を見ながら、つくづく妙な女だ、とアランは思う。
結婚して半年後、ようやくエレノールを事実上の妻にしたその朝、
寝台から降りた彼女が最初にしたのは夫の髪を梳かすことだった。
あとで従僕がしてくれる、といっても妻は聞かなかった。
突然新婚らしい気分になったのだろう、まあじきに飽きるはずだ、と彼は思ったが、
彼女はその後も夫の身の回りの世話にいそしむことをやめなかった。
あるとき、そなたの生国ではこれも妃たる者の務めなのか、と尋ねてみたが
「好きでしていることでございます」
と簡潔に答えるだけだった。

そして十年たった今でも夫やふたりの子どもたちに手ずから果物をむいてやっている。
これほど情がこまやかに深く持続する女はそうそういないことを、アランはもう分かっている。
人々が妻の同国人の気風を形容する際つねに使われる「情熱的な」ということばは
一見エレノールにはあてはまらない気もするが、
彼女の情熱は静かに控えめに、そして永く燻りつづける類のものなのだ。
(こんなことは侍女に任せればよい)
そう思いながらも、彼は結局エレノールのこまやかな気遣いを拒まず、
いまも口に葡萄を運んでもらっている。


69:四葉の行方
07/06/16 11:49:29 XvjCCUsy

今日の昼餐には末弟夫妻を招いている。
蜜月と呼ばれる時期はとうに過ぎているにもかかわらず、彼らはいつ見ても睦まじげに暮らしていた。
ただその想いあう様子がいかにも童男童女然としているので、
あいつは北国から迎えた妃を未だに「ふわふわしてあったかくてきもちいいくまさん」として遇しているのではあるまいな、
と疑わしくなってしまうほどである。
しかし彼らが寝台の上でほかに何をするでもなくひたすら互いを抱きしめあっている姿を想像すると、
なんとなく愉快な気分にならないでもない。

「あれらはちゃんと、卵を孵していると思うか」
「卵がどうなさいました」
「いや、なんでもない」

それからあの朝の四葉を思い出した。
夫の腕に抱かれてけだるく横たわりながら、エレノールは枕元に置いてあるクローバーを見つけたのだった。
「いただいてもよろしいでしょうか」
「かまわんが、引き換えに俺の――」
「弟君との約束はお守りください」
そう言ってふてぶてしい夫から強引に譲り受けると、
彼女はそれを唇にちかづけて何事かを祈り、髪に差し込んだ。

それから後はどうなったのかアランは気にも留めなかったが、
先日妻の宝石箱のひとつが化粧台の上で開いていたので覗いてみると、
茶色くなりかけた四葉がそこにしまってあった。
よくもまあとっておいたものだ、とアランはやや呆れながらそれを指先でなぞってみた。
ぱさぱさに乾いたクローバーはだいぶ脆そうだったが、それでも葉が欠けたりはしなかった。

ふたたび妻の指で葡萄を含ませられながら、
しあわせはイジョウなんだ、とつぶやいていた末弟の幼くも神妙な顔を思い出した。
やはりひとつの真理にはちがいない。
けれど、それはいちど見つけたら案外いつまでも居座るものだ、ということも今では分かっていた。

(終)


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