嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35at EROPARO
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35 - 暇つぶし2ch66:名無しさん@ピンキー
07/05/15 17:38:44 6zA1Yq0B
なんとなく職人さん達のリレーSSが読みたいと思った
職人さんの数も結構多いし、個性の強い人が多いから面白くなると思う

トラ氏でパロをやって
緑猫氏で戦闘をやって
ロボ氏で鬱レイプして

とか、そんな感じ


そんな妄想をする俺駄目人間

67:名無しさん@ピンキー
07/05/15 17:55:34 zVDQoadv
>>66
確かに読んでは見たいが、難しいだろうな。
それぞれの作者さんの現在のSSが全部終わらない事には特に・・・。

68:名無しさん@ピンキー
07/05/15 17:56:15 rpA4HHDl
>>66

一人で皆の個性をコピってみれば良いんじゃない?


69:名無しさん@ピンキー
07/05/15 18:01:38 zVDQoadv
>>68
それぞれの作者さんがやってくれる事に意味がある・・・と思う。
真似出来るほどの力があれば俺だって・・・(つA`)

70:名無しさん@ピンキー
07/05/15 18:25:04 3P5f+AgK
>>66
リレーは難しいし、作品がまとまらないことがあるから俺は反対
普通に自分の作品を頑張ってもらえばいいよ

71:名無しさん@ピンキー
07/05/15 22:09:24 xH3Q4XiB
雨の音を結構楽しみにしてたんだけど、最近更新がない…書くの飽きちゃったのかなぁorz

72:名無しさん@ピンキー
07/05/15 22:42:24 L0oBIM4e
redpepper
ノン・トロッポ

一番気になる所で停止してしまったこの2つを俺はいつまでも待ち続ける

73:名無しさん@ピンキー
07/05/15 22:49:47 pNrgrnT1
静かに待ち続けるのがいい男ってばっちゃが言ってた

74:名無しさん@ピンキー
07/05/15 22:51:37 o6mp1mJW
こういう流れになると必ずノントロをクレクレするやつ出るNE☆


75:緑猫 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:12:49 zho8HjJK
投下します

76:七戦姫 9話 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:13:55 zho8HjJK
 
 * * * * *
 
 ケスクは歯ぎしりしていた。
 
(……なによなによなによ! クチナの馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!
 あんな小娘のどこがいいのよ!? 胸だってぺたんこで、頭から変なの生えてるじゃない!
 それに素性もよくわからないっていうし、そんなのクチナには相応しくないんだから!
 クチナには、もっと、その、なんというか、私みたいなのが一番なんだから!
 なのに、クチナってば……! ……うう……!)
 
 ケスクの睨み付ける先。
 ―クチナと、彼にまとわりつく羽虫。
 許せない光景を、しかし見るだけしかできないことに、ケスクは心の底から苛立っていた。
 それは、きっとあの姉妹も変わるまい。
 そしておそらくは、あの奴隷娘も同じだろう。
 
 まさか、こんなことになろうとは。
 
 クチナの部屋に女奴隷と訪れて。
 護衛姉妹と戦っていた刀小娘を殺そうとしたときは。
 今のような事態になるなどとは、欠片も想像できなかった。
 
(あいつら……絶対許さない……!
 大会で戦うことになったら、絶対に殺してやるんだから……!)
 
 ケスクは決意を新たに。
 殺すべき相手を、明確に見据えた。
 一人は当然、クチナにべたべたひっついている、角の生えた少女。
 そして、もう一人は―
 
(―あの、腐れ侍女……!
 次は絶対、油断しない。
 どんな小細工を仕掛けようとも、必ず斬り殺してやるんだから!)
 
 
 * * * * *
 
 
 愛竜に跨り、愛剣を抜き放ち、それでもケスクは油断していなかった。
 
 竜に乗った竜騎士は、紛う方無き大陸最強。
 それは誰も疑うことのない、絶対的な事実である。
 
 しかし。
 護衛姉妹が二人揃い、各々の武器を手に、侵入者と相対していた。
 ケスクは、イクハとユナハの実力を、嫌というほど知っている。
 どちらか片方ならともかく、二人揃った状態で。
 侵入者が瞬殺されていないという状況は。
 ―はっきり言って、異常だった。
 
 故にケスクは最大警戒。
 侵入者を上級竜と同等のつもりで、斬り殺す。




77:七戦姫 9話 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:14:43 zho8HjJK

 クチナ王子の寝室は、広いといっても人間レベルでの話である。
 竜の中で小柄とはいえ、人間の3倍の大きさの飛竜が飛び回るには、狭すぎる。
 
 だが、飛竜の強みは、名前に表される飛行能力。
 空戦を制する移動速度こそが、飛竜の真髄である。
 
 ならば、どうするか。
 簡単なことだ。
 
 
「―征け!」
 
 
 ケスクは吠えた。
 呼応するのは飛竜の翼。
 竜は、翼の揚力によって飛ぶのではない。
 翼が、空気を掴むのだ。
 
 竜騎士が、空を駆けた。
 
 一直線、敵に向かって。
 
 瞬きすら許されない刹那の合間。
 竜騎士の刃が、蒼髪の少女へ襲いかかる。
 飛竜の突撃に完璧に合わせられた、鋭すぎる一閃。
 それは、あらゆる防御すら切り裂く、必殺の一撃だった。
 
 が。
 
 ケスクの大剣は、虚空を斬った。
 
「―なっ!?」
 
 必中を信じていたケスクは、驚きの声を上げてしまう。
 外すはずはなかった。
 高速で避けられたわけではない。
 斬る瞬間まで、ケスクの人並み外れた動体視力は、相手の姿を捉えていた。
 
 斬った瞬間、消えたのだ。
 まるで―幻を斬ったかのように。
 
「―え? なに?」
 
 飛竜の困惑した様子に、乗り手のケスクは反応した。
 彼女の愛竜は、不可解そうに鼻の頭を振っている。
 何かにぶつかってしまったらしい。
 しかし―何に?
 ケスクと侵入者の間に障害物はなかった。
 侵入者に向かって、真っ直ぐ飛んだだけなのに―




78:七戦姫 9話 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:15:35 zho8HjJK

 そこまで考えたところで。
 ケスクは直感で飛竜を旋回させた。
 
 果たして、そこには。
 刀を拾い上げた、少女がいた。
 
「―ふん。姿を眩ますのは我の十八番だ。直線で来てくれて助かったぞ」
 
 不敵に嗤う少女は。
 しかしその全身を、いたく傷つけられていた。
 
 左肩は砕けたのか、異様な捻れ方をしている。
 横顔は耳から下が裂け、千切れた筋が血にぬめっていた。
 腰骨は歪んでいるのか、立ち方も何処かおかしかった。
 
 それでも。
 少女は、嗤っていた。
 
「跳ね飛ばされたおかげで、こいつを拾うことも出来た。
 ―結構、気に入っているのでな。多少の怪我は、仕方あるまい」
 
 言いながら、無事だった右腕で刀を振るう。
 その剣閃は、どことなくぎこちなかった。
 
「……ちっ。流石に、このままで戦うのは無理か。
 まあいい。竜騎士よ、これからが本ば―」
 
 少女が言葉を終える前に。
 ケスクの竜が、再び飛んだ。
 
「のわあっ!?
 くそ、少しは格好付けさせろ!」
 
 転がりながら逃げる少女。
 それを嘲笑うかの如く、狭い空間を飛竜が踊る。
 
「―変な技を使うようだけど! 叩き斬ってやるんだから!」
「ほざけ! 先程は機会を逸したが、今度こそ我の本当のす―」
 
 
 少女が何やら言おうとしていたが。
 全く気にせず、ケスクは再三突撃をかけた。
 飛竜の常識離れした機動力に、正確無比な己の斬撃を乗せて。
 たとえ、上級竜が相手でも殺しうる、帝国有数の竜騎士の必殺技。
 
 対する少女は、なにやら不穏な気配を発していたが。
 その小細工を起こす前に、斬り殺す自信がケスクにはあった。
 
 
 ―彼女の愛竜が、突然、その動きを止めさえしなければ。




79:七戦姫 9話 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:16:18 zho8HjJK

 * * * * *
 
 突然の急制動に耐えられず、ケスクは勢いよく放り出される。
 それは絶対的な隙だったが、ヘイカもそれに構ったりしなかった。
 突然止まった飛竜と同じく、全身を硬直させていた。
 
 
 その光景は、とても異様なもので。
 二人の戦いを見ていた他の者も、無言で光景を見守るだけ。
 
 
 最初に気付いたのは、ユナハだった。
 
「―クチナ様! 姉さん! 何か来る!」
 剛槍を構え、傍にいたサラサを押しのける
「ちょ!? なにすんのさ! 王子はボクが護るんだから!」
「クチナ様の護衛は私です! 貴女はどっかそこらへんで座っててください!」
「むか。何だよそれ!?
 王子様の護衛のくせに、あんな糞餓鬼、瞬殺できないのかよ!
 ―ボクだったら一撃だね、一撃!」
「なんですって!?」
 
 ぎゃあぎゃあと口喧嘩をする二人。
 しかしそれでも二人の体は、完全にクチナを庇っていた。
 壊れた窓側から如何なる相手が訪れようとも、クチナを護りきれる体勢だった。
 
 
 ただ。
 窓から飛び込んできた存在は。
 二人の想像を、遙かに超えるものだった。
 
 
 
「くちなー!」
 
 
 
 緊迫した空間には不似合いな、甘えた声。
 飛び込んできたのは、一人の少女。
 
 とはいっても、壁をよじ登り突入してきたわけではない。
 城の比較的高いところにあるクチナの寝室。
 その窓から、言葉通り。
 
 ―“飛び”込んできた。




80:七戦姫 9話 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:17:09 zho8HjJK

 ぐわん、と空気がかき混ぜられた。
 部屋の気流が乱れに乱れ、ユナハもサラサも吹き飛ばされる。
 暴力的なまでの風。誰一人として、その場に留まることを許さない。
 ―ただ二人の例外を除いて。
 
 ひとりはクチナ。
 彼にだけは何故か、暴風は襲いかからず、そよ風に前髪が揺らされるのみ。
 
 もうひとりは。
 部屋に乱入してきた、年若き少女。
 
 否。
“それ”は、はたして少女と呼んでよいものか。
 人にあらざる、薄緑の髪。
 額より生えた、異形の角。
 そして、何より―
 
 
 背中から生えている、巨大な“翼”。
 
 
 翼といっても、鳥のように美しいものではない。
 臓物と溶けた鉄を混ぜ合わせたかのような、赤黒くぬめる肉の板。
 蠢く腐肉が、背中の皮を突き破り、大きく展開しているのだ。
 
 翼を生やした少女―ヌエは。
 吹き飛ばした少女たちのことなど欠片も気にせず。
 一直線に、クチナの胸に抱きついた。




81:七戦姫 9話 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:17:56 zho8HjJK

「ぬ、ヌエ!? どうしてここに―」
「くちなにあいにきた!」
「会いに来たって……施設から勝手に出てきたの!?」
 
 朝の少女乱入から今まで混乱のし通しだったクチナだが。
 ヌエの言葉で冷水を掛けられたかのように思考を切り替えた。
 ―もし逃げ出してきたのなら、大事件だ。
 ヌエに関する研究は、最上級の機密事項である。
 検体の処分や主国との関係悪化は免れないだろう。
 ……もし表沙汰になっていないのであれば。
 何としてでもヌエを施設に戻し、彼女に被害が及ばないよう尽力しなければ―
 
「ううん。たいかいにでたいっていったら、えらいひとがすきにしていいって」
「……え?」
 
 予想外のヌエの言葉に。
 クチナの思考は、白く染まった。
 
「……偉い人って?」
 
 何とか気を取り直したクチナは。
 恐る恐る、ヌエに訊ねた。
 
「よくわかんないけど、えらいひと。しせつのひとが、みんなこわがってたから」
「―怖がってた? 施設の職員じゃない……?」
「それでね、そのひととおはなししてたらね、くちなのはなしになってね。
 わたしがそのたいかいにでたいっていったら、そのひと、でてもいいって!」
「……僕のことを知ってる? ……ねえ、ヌエ。その人の名前、教えてくれないかい?」
「ん。えっと、うんと、たしか……ねきつ。そうだ、ねきつこーしゃくっていってた」
 
 ―ネキツ公爵。
 
 どこかで、聞いた覚えがある。
 そう、確か、大会の参考にと訪れた、主国の奴隷闘技場の―
 
 と。
 一瞬考え込んだクチナの脇を。
 一陣の風が、吹き抜けた。




82:七戦姫 9話 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:18:40 zho8HjJK

「王子様、大丈夫……っ!?」
 
 強風で吹き飛ばされていたサラサが。
 クチナと少女の間に、割り込んだ。
 
 その拳は握り締められていて。
 踏み込む足は、地面を砕かんとばかりに力強く。
 上半身は硬く捻れ、解放の瞬間を待っている―
 
「なに勝手に、」
 
「!? じゃま!」
 
 サラサに割り込まれたヌエは。
 不機嫌を露わにして。
 異形の翼を大きく動かす。
 
「ボクの感動の再会を、」
 
「どいて」
 
 ―竜の翼は、空気を掴む。
 ヌエの背中から生える翼は、風切竜と呼ばれる種族のものである。
 知能が低いため下級竜に属されるものの、その翼は自在に風を繰るといわれている。
 それが、狭い空間で、使われたら。
 人間など軽々と吹き飛ばされる、暴風が吹き荒れることに。
 
「―邪魔してるんだよっ!」
 
「えっ―」
 
 しかし、サラサは吹き飛ぶどころか崩されることもなく。
 振り上げられた拳は、次の瞬間。
 ―暴風を突き破る、閃光となった。
 
 
「……!」
 
 ヌエの目が見開かれる。
 鉄よりも硬く握り込まれたサラサの拳が。
 無防備に晒された、ヌエの左胸へ走った。
 
 それは、肋骨を粉砕し、心臓をズタズタに破壊する。
 
 はずだった。




83:七戦姫 9話 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:19:46 zho8HjJK

 * * * * *
 
 ケスクは、飛竜に放り出されながらも、剣を手放していなかった。
 そのまま肩から着地し、体を回して衝撃を流す。
 部屋の端まで転がったところで、体を跳ね上げ、状況を把握した。
 
 飛竜が止まった原因は不明。
 窓から新たな侵入者。
 クチナの近くには護衛姉妹と女奴隷。
 
 ―侵入者は、クチナのもとへ一直線。
 
 駆け寄りたい衝動をねじ伏せる。
 クチナとはだいぶ離れている。
 それに、護衛姉妹と女奴隷がいれば、どんな強敵が相手でもクチナを守り抜くだろう。
 そう判断したケスクは。
 クチナを護るという最上級の名誉を諦め。
 
 刀を持つ少女に、向かい合った。
 
 
 
「……な、なんだ、アレは……!」
 
 少女は何故か戦う意志を見せず。
 呆然と、新たな侵入者の方を見つめていた。
 
 ―好機。
 
 ここで見逃すケスクではない。
 一足飛びに距離を詰め、そのまま鋭い剣閃を放った。
 
「!? ―ちぃっ!」
 
 気付いたヘイカが、慌ててその場を転がった。
 ―すんでの所で避けられる。
 その身のこなしは、大怪我しているとは思えないほど。
 だが、少女は紛う方なき重傷である。
 ケスクの刃に倒れるのは、時間の問題だった。
 
 はずなのに。




84:七戦姫 9話 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:20:33 zho8HjJK

 * * * * *
 
 ちりん、と。
 
 澄んだ鈴の音が、響いた。
 
 激戦の最中、そのような音に反応する者などいるはずもない。
 各々が、己の相手に対して精一杯。
 
 しかし。
 澄んだ音の直後。
 
 
 全員が、その動きを止めていた。
 
 
 暴風に吹き飛ばされたが、体勢を立て直しつつあったユナハ。
 クチナから侵入者を引き剥がすため、離れたところから棒を振りかぶっていたイクハ。
 風を操る侵入者に、必殺の拳を叩き込まんとしていたサラサ。
 今まさに、大剣で敵を貫こうとしていたケスク。
 胸元まで大剣が届き、半ば諦めかけていたヘイカ。
 風を突き破った拳を、驚いた表情で見つめていたヌエ。
 
 彼女らの動きが、全て、止まっていた。
 
 
「―まったく」
 
 
 やれやれ、と。
 呆れたような溜息は。
 部屋の入り口から聞こえてきた。
 
「お使いから帰ってきて、窓が豪快に割れてるし。
 いつからここは、戦場になってしまったのですか?」
 
 声の主は、メイド服を着込んだ少女。
 指先をくるくる回しながら、部屋の中を見回している。
 
 
「ツノニ……!」
 
 クチナの声に、少女―ツノニが肩を竦めた。
 
「まあ、ご主人様が無事だったから、良しとしますか」




85:七戦姫 9話 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:21:22 zho8HjJK

 つかつかと部屋の中に踏み入るツノニ。
 彼女の足運びに緊張は欠片も見られず。
 その隙の無さに、瞠目する者もいた。
 
「こら、ヌエちゃん。
 ちゃんと入り口から入らなきゃダメでしょ。
 窓から入ってくるなんて、はしたない」
 
 ヌエに人差し指を突き付けて。
 めっ、と眉根を寄せて注意した。
 
「え、あの、その、ツノニさん!? なんで!?」
「あー、ユナちゃん。下手に動いちゃダメだよー。
 銀蚕の糸に金剛石をまぶしてあるから―全身、細切れになっちゃうぞ」
 
 そう言うツノニの手からは。
 目を細めても捉えるのは難しい、極細の銀光が煌めいていた。
 それは、部屋全体に張り巡らされていて。
 クチナとツノニを除く、全員の体を捕らえていた。
 
 
 いくら激戦の最中だったとはいえ。
 これだけの猛者達に全く気付かれず。
“糸”を仕掛けるその技術は、異常としか言い様がなかった。
 
「いやー。それにしても大漁大漁。
 不意打ちが得意な私でも、これはほとんど奇跡だなあ。
 ―ご主人様ー。頑張ったツノニを褒めて褒めてー」
 
 ニヤニヤと笑いながら、クチナに擦り寄るツノニ。
 その所作に部屋の温度が一段階下がったが、全く気にする様子はない。
 
 
「ま、冗談はさておくとして。
 ヌエちゃんが部屋にいる時点で驚きなのに、
 えっちい格好の人や、死にかけの子どもまでいるんだから、もうわけわかんない。
 ―ご主人様。どうしてこんなことになったのか、最初から説明してくれませんか?」




86:緑猫 ◆gPbPvQ478E
07/05/15 23:23:43 zho8HjJK
長すぎて申し訳ありませんorz

まあそれはそれとして。
次の次で、ようやく対戦トーナメント表を公開できます。
というわけで。
 
【第一回七戦姫展開予想・対戦組み合わせ編】
 
を募集します!
ルールは簡単。次々回の投下までに、対戦組み合わせを言い当てられるか否か。
一緒にお気に入りのキャラを教えて頂ければ、最初に正解を出した人のお気に入りで外伝を1話書かせて頂きます。というか書かせて下さい。
 
 ↓こんな感じで書いて頂ければOKです。
(1)○○ 対 ××
(2)△△ 対 ■■
(3)++ 対 ◎◎
(4)攻城 対 対人
 
ついでにどうしてそう思ったかなども書いて頂けると泣いて喜びます。
ちなみに、大会には8人の選手が出場します。つまりあと一人います。
まだ名前が出ていないので、適当に「新キャラ」とでも書いて頂けると助かります。
武器は鞭。今出せる情報はこれだけです。申し訳ありません……。

もちろん、普通の感想や展開予想も大歓迎です。
いつも住人の皆様に読んで頂けるからこそ、SSを書けています。
本当に、ありがとうございます。
修羅場万歳!


87:名無しさん@ピンキー
07/05/15 23:37:37 nEBusAeI
>>86
マジレスするとここは緑猫氏だけのスレじゃないから正直○○募集みたいなことはやめた方がいいです
SSの分岐とかならまだ分かるけど..,.

88:名無しさん@ピンキー
07/05/15 23:38:46 sEsOeE3d
>>66
避難所でスレを立てて、リレーSSを作れば問題ないのでは・・
一般も参加できる修羅場SSです

89:名無しさん@ピンキー
07/05/15 23:57:35 t6jmocN1
無難に九十九書いとけって
過去の反応見りゃ分かるだろう?
それでも書きたいなら自分のSSのあらすじくらい自分で決めな
それとキャラ多すぎて振り回されてる感じがするぜ


90:名無しさん@ピンキー
07/05/16 00:10:28 6tjOK1CM
七戦姫がきた!GJ!
やはりクチナはいいものだ…

けど募集とかそういうのはここではやらないほうがいいかと
荒れる元とかになったりしますし

91:名無しさん@ピンキー
07/05/16 00:14:14 tuJ5DTsq
避難所でとも思いますが逆に好きな人が争いそうだな
無難にブログでもはじめてみたらどうかなと思う


92:名無しさん@ピンキー
07/05/16 00:15:42 lcuNWICH
>>86
GJ
俺、ツノニ好きだなー

どうでもいいけど、戦うメイドキャラって暗殺系が多いのは何故だろう

93:名無しさん@ピンキー
07/05/16 00:22:27 I/WMLG/X
>>86
GJ!
個人的にはヘイカ対ヌエが見たい
ドラゴン同士の戦いにwktk


>>66
SS書きの一人として、参加してみたい
他の職人さんはどうかは分からないけど

94:名無しさん@ピンキー
07/05/16 00:27:13 Gneq4U/f
ちょっとやるって言ってる人軽率じゃね? 
リレーってSSに限らずグダグダになる可能性のほうが高いよ、経験上
俺も各個人の作品に集中して欲しい
>>86
GJ、この人数を動かすのは大変だろうけど最後まで頑張って欲しい
でも欲を言えば九十九を先に完結して欲しいな、続きが気になってしょうがないっす

95:名無しさん@ピンキー
07/05/16 00:32:20 J24Z5J2S
やりたい奴らが勝手にやればいい

96:名無しさん@ピンキー
07/05/16 01:15:01 dnD96sSQ
>>93
>>SS書きの一人
えーっと、これは笑うところ?


97:名無しさん@ピンキー
07/05/16 01:19:35 Lw+aRLz7
別に普通に読み流すところだと思うけど

98:名無しさん@ピンキー
07/05/16 01:30:44 vTH+2oGv
>>86
GJ!!
クチナ可愛いよクチナ(´Д`;)ハアハア

99:名無しさん@ピンキー
07/05/16 01:50:27 rHa9Tc6s
GJ!!
お気に入りがケスクとヌエなのでその組み合わせがみてみたい。
九十九にも期待してますwww

100:名無しさん@ピンキー
07/05/16 07:30:38 ranr7+7S
しかしみんな個性がたってて可愛いのに誰かは死ぬのか・・・

101:名無しさん@ピンキー
07/05/16 07:53:14 OHmq3bb6
>>100
だが、それがいい。

とか思う俺は異端か。

102:名無しさん@ピンキー
07/05/16 12:05:06 BEQVOgTs
>>101 私はそんなあなたが好きよ
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと前から
そしてこれからも…

103:名無しさん@ピンキー
07/05/16 13:40:04 XREc24mI
>>86GJ!
ってかじゃあ予想してみます

1ケスクvsイクハ 単に俺が姉スキーだから。……イクハが勝つとは思わないけど、でもだからこそ見たいんだい
2サラサvsヌエ 依存っ子同士の執着戦を。
3ユナハvsツノニ 今まで隠されていたダークサイドツノニに翻弄されるユナハに(*´д`*)ハァハァ
4ヘイカvs新キャラ 単に余っ(ry

そんなわけでこの展開だとおそらく一回戦で消えてしまうイクハがお気に入りです(´・ω・`)


104:名無しさん@ピンキー
07/05/16 16:05:54 PKH+UegW
七戦姫は避難所、九十九をこのスレでやるとか分けた方が良いかと

105:名無しさん@ピンキー
07/05/16 16:08:25 yETSyWKf
いや、そのメリットと意味がわからん……

106:名無しさん@ピンキー
07/05/16 16:17:59 yETSyWKf
避難所は飽くまでも“避難“所なんだから、避難しなきゃならんような状況にならない限り利用する必要はない

107:名無しさん@ピンキー
07/05/16 16:23:05 PKH+UegW
同じ作者が同じスレで違う作品バラバラ公開してたらアレだと思うし、実際
七戦姫投下された後は荒れやすくなってるしなぁ

108:名無しさん@ピンキー
07/05/16 16:29:41 /0GYxAgA
荒らしてるのが自分って事分かってます?

109:名無しさん@ピンキー
07/05/16 16:40:59 PKH+UegW
しかし、このスレで七戦姫投下したらこれからも荒れるだけだと思うし、せめて
どっちか終わらせてから取り込むかどうかしたほうが良いと思う。
緑猫氏の作品は普通に気に入ってるから、氏の作品関係で荒れるのは心もとない

110:名無しさん@ピンキー
07/05/16 16:50:08 yETSyWKf
別に荒れちゃいないだろうに
少々作者さんが諫められた程度だろうが
むしろダラダラ引っ張ってるあんたの方が火種になりかねないわけで

111:名無しさん@ピンキー
07/05/16 17:02:40 yETSyWKf
同スレ2作品平行投稿の何が悪いのか、そこがまずわからんなあ
そんなん作者の自由だし、今までだっていくつかそういうのあったけど別に問題無かったのに何を突然

112:名無しさん@ピンキー
07/05/16 17:31:52 NdTydovM
こういう議論こそ避難所を使おうぜ
無駄に本スレで容量を使わせるのが目的じゃないならね

113:名無しさん@ピンキー
07/05/16 17:39:31 Lw+aRLz7
議論ですらなかろ
別に作者の自由じゃね?の一言ですむ話だし

とりあえずこれ以上引っ張るネタではない

114:名無しさん@ピンキー
07/05/16 17:42:42 vTH+2oGv
>>112
ちょうど避難所にも雑談スレがたってるしな

115:名無しさん@ピンキー
07/05/16 18:10:25 xyQr03Lm
なんで募集とかは荒れるからやめた方がいいよ、って話が避難所と分けて投下しろって話になってんだ?
避難所は別に使う必要ないじゃん、それに今は向こうの方が投下しにくくね?


116:名無しさん@ピンキー
07/05/16 18:12:58 NdTydovM
>>115
>>投下しにくくね?

WHAT?

117:名無しさん@ピンキー
07/05/16 18:13:57 dZPR382d
WHYだろ馬鹿

118:名無しさん@ピンキー
07/05/16 18:15:42 Lw+aRLz7
”正しい日本語”かどうかは兎も角別に珍しい表現じゃないと思うけど……
URLリンク(www.google.co.jp)

119:名無しさん@ピンキー
07/05/16 18:15:52 xyQr03Lm
>>116
こっちの荒らしの話ばっかじゃん
まぁ、ぶらまり投下されてたけど


120:名無しさん@ピンキー
07/05/16 18:19:43 NdTydovM
>>117
素で間違ったよw

>>119
避難所のスレが増えたぞ

121:名無しさん@ピンキー
07/05/16 18:27:28 vTH+2oGv
>>119
雑談・議論スレが増えてる

122:名無しさん@ピンキー
07/05/16 19:10:58 U/YYTEEn
ふと思いついたネタを投下



 無言の俺にテーブルの向こうに座っている悪魔が笑顔で言った。
「今日のお昼はチンジャオロースだよ」

 彼女と付き合い始めて3年。
 結婚も視野に入れた関係、というやつでお互いの表も裏も理解しつつある。
 無論それには食べ物の好みも含まれる。
「……俺がピーマン嫌いなのは知ってるよな」
 ピーマンなんてスカスカで中身が無くて、なおかつ苦味のあるものを食べるというのが理解できない。
「好き嫌いはよくないよ。これは言わば愛の鞭だよ」
 嘘だ。悪意を持ってピーマンを出しているんだ、こいつは。
「そうかな?」
「そうだよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「そうかな?」
「時間稼ぎしても食べないといけないのは変わらないよ」
 あっさりと考えを見抜かれた俺は、しかたなくピーマンをより分けながら食べる。
 うん。まずい。

 そんな俺を見ながら彼女が食べながら問いかけてきた。
「ところでお昼からはどこか出かけるの?」
「ああ、ちょっと図書館に」
 というか史書のちひろに会いに。

 ちひろと俺は、まあなんというか、週一ぐらいのペースで体の付き合いをしている。
 平日の図書館は暇らしく、今日も昼から二時間体を予約していのだが。
「じゃあ私も一緒に行くよ」
 彼女の一言で予約が吹き飛んだ。

 以前もこいつがきまぐれで図書館に来て予約取り消しになったことがあるというのに冗談じゃない。
「何か用事があるなら俺がしておくぞ。本を借りるくらい楽なものだし」
「いやーそうじゃなくてさ。人に会いに行くんだよ」
「お前が人に会いに行くなんて珍しいな」
 こいつは人見知りの気があって、よほどのことがないと自分から人とかかわりあおうとしないのだが。

「史書でちひろちゃんっていう子がいるんだけど、すっごくかわいいって話なんだ」

 心臓の音が大きくなった気がする
「そうなんだ」
 まずい。非常にまずい。どうする。いや、まだばれてるとは限らない。ひょっとしたら本当に興味があるだけなのかもしれないし。
「会ってもいいよね」
「俺に聞くことか?」
「いやー聞かないといけない気がしたんだよー」
 ばれてる。これはばれてる。どうしよう。

「ところで、図書館の後って予定無いよね?」
無言の俺にテーブルの向こうに座っている悪魔が笑顔で言った。

123:名無しさん@ピンキー
07/05/16 19:15:37 U/YYTEEn
終わりです

問い詰めのとき、怒りながらよりも、笑いながらのほうが、怖いと思うんだ
そんだけ

124:名無しさん@ピンキー
07/05/16 19:24:42 +l/bYeaP
>>122
一発ネタにしては主人公のキャラがくどいとオモタ
ていうか自分が浮気してるくせに彼女を悪魔呼ばわりかよって感じだ

125:名無しさん@ピンキー
07/05/16 19:35:01 yETSyWKf
最近みんな忘れがちなのか知らんが
>>3

126:名無しさん@ピンキー
07/05/16 20:17:21 TINb3X4t
>>124
いや怖いだろ

浮気してる男も悪いがwww

>>122
GJ
時間があれば長編お願いします><俺こういう独白調の主人公好きなんだ

127:名無しさん@ピンキー
07/05/16 22:34:18 E70tGg1e
>>86
トーナメントだと 8!/(2^7) で315通りかな?

128:名無しさん@ピンキー
07/05/17 00:23:37 L7evYajA
"非難所”もあながち間違いじゃあないね

129:名無しさん@ピンキー
07/05/17 00:25:14 L7evYajA
スマン、ミスった……
さっき書き込み損ねたメモ2の方を書き込んでしまった……

130:名無しさん@ピンキー
07/05/17 00:38:13 hBOmxoCm
お前ら、嫉妬SSで萌えるキャラ属性は何だ?
俺は、年上系が好き。
お姉さんもいいけど、熟女も良いな。

131:名無しさん@ピンキー
07/05/17 01:03:50 q21memxL
可愛い子、美しい女性が嫉妬してればそれでいい。
姉妹ロリ熟巨貧清楚快活なんでもこーい。

132:名無しさん@ピンキー
07/05/17 20:18:41 RRZULCsp
娘属性な俺はマイノリティー。

133:名無しさん@ピンキー
07/05/17 21:40:53 gdmUkxjR
バツ1の父親でその娘が実の父親にのめり込むというパターンが好きな俺も
きっとマイノリティー。

134:名無しさん@ピンキー
07/05/17 21:52:00 tCA26Ug8
俺は義理の娘が(ryまたは義理の母親(ry

135:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:13:01 5TQc2qlI
>>131
お前は俺か

136:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/05/17 22:28:38 RQaFQ2jB
では投下致します

137:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/17 22:32:20 RQaFQ2jB
 第1話『桜荘の愉快な人々』

 遠い過去と現実の境に行き来している俺はあの忘れられない告白の出来事を思い出しては
悪夢のように何度もうなされる事はしばしばで。そんな日の朝は嫌でも早く起きてしまうのだ。
 眩しい陽の日光がカーテンの隙間から入ってきて、暖かい陽気に包まれて俺は布団から出て、思わず背伸びを伸ばして欠伸をかく。
窓を開けて覗き込むとそこには満開な桜が咲いていた。

 桜荘。

 俺が大学に進学するために下宿先へと選んだアパートである。
更紗や刹那の幼馴染の関係の亀裂に走った原因を親や二人の両親たちに真相を喋らずに
突如進路変更した俺は気難しい親父と母親から勘当同然に家を出てしまった。
1年分の学費は払ってくれていても、毎月の生活費や仕送りはしてくれなかったので、

安い家賃のアパートを探していると不動産が紹介してくれた場所が、『桜荘』だった。
 家賃も破格な値段だったので俺は速攻に契約をして入居することに決めた。
古風な屋敷で建物自体はあちこちと老朽化は目立つが人が住めない状態ではない。

部屋は畳み部屋、洗濯は共同の洗濯機を使い、お風呂も共同で住んでいる住人と交代で入浴する。
トイレも共通のトイレがある。
今時、珍しいなんでもかんでも共同というのは住人同士のトラブル問題が勃発しそうで恐いのだが、
皆は仲がいいのかそういう事にならないらしい。

 俺が入居した日には住人共同の憩いの場で歓迎会など開かれたものだ。
今現在のお隣同士の希薄な関係は『桜荘』にはない。
ここには言葉では表現できない温もりや暖かさがここにはある。
 最後に『桜荘』の中庭には、大きな桜の木が立っている。
春の季節を巡る時に咲いている桜の木は住人や近所の皆様にとって、見ているだけで心が癒される『桜荘』の名物である。
桜が咲いている時は一般の方にも開放されて、休日にはお花見などで大いに盛り上がっている声が聞こえてくるものだ。

 今年も桜の木は満開に咲いていた。

 春は出会いと別れの季節。
 俺が『桜荘』からやってきてからちょうど1年である。

「さてといい加減にモノローグに浸っていると奴がとんでもない起こし方で襲ってくるかもしれん。
昨日は必殺エルボーを腹部にお見舞いされたから。今日はハイキックかもしれん」
 急いで俺は布団を押し入れに仕舞おうとした時に自分の部屋のドアが勢いよく開かれる音が聞こえた。
反応するのが遅くて、奴は次の動作で問答無用に襲ってきた。

「お・に・い・ち・ゃ・ん・。起きろぉぉぉぉぉっっーー!!」
「ぐはっっ!!」
 回転がかかったキックを予言した通りに俺の腹部を直撃する。
胃から昨日食べた物が吐き出しそうになった。少女は勝ち誇った顔をして、俺の体の上を馬乗りして見下すように言った。

「もういい加減に起きないと真穂さんが作った朝ご飯が冷めちゃうよ」
「雪菜。毎日毎日言ってるだろう。もっと、普通に起こすことができないのかよ」
「お兄ちゃんがいつまでものんびりに起きないから可愛い雪菜ちゃんが
少しでも眠たい時間を削ってまで起こしにやってきているんでしょうが。
感謝して雪菜に永遠の忠誠を誓ってくれるなら、真穂さんが作ってくれた玉子焼きをくれてあげてもいいよ」
「誰が誓うか。んなもん」
 俺は馬乗りになった雪菜を乱暴に押し退けた。年頃の女の子に触れているなら健康上よろしくはない。


 彼女の名前は、御堂雪菜。(みどう ゆきな)
 今月から近所にある学園を通う女子生徒で『桜荘』の住人である。
容貌は子供と見間違えるぐらいに幼いが最近は成長してだんだんと女の子の容姿になってきている。
俺をお兄ちゃんと呼んで慕うわけだが、そこにはまた別のエピソードである。

138:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/17 22:34:05 RQaFQ2jB
「うわ~ん誓ってよぉぉ。お兄ちゃん」
「もう、二人ともなにやっているの。雪菜ちゃんも深山君も今日も仲良しさんだよね」
 開いている扉から入ってきたのは、同じくアパートの住人である安曇 真穂(あずみ
まほ)さんがエプロン姿を身に付けていた。
「仲良しというか、迫り来る狂犬から身を守るために必死に抵抗しているだけなんだけどな」
「それはどうかな……」
 と、安曇さんは曖昧な微笑を浮かべた。

 安曇 真穂(あずみ まほ)
 俺と同じ時期に『桜荘』に引っ越してきた住人である。
年頃は俺と同じ年齢で、ここから大学に通っている。
主に『桜荘』における料理担当という貧乏くじを引いてしまった彼女は入居した日からめげずに
アパートの住人の料理を憩いの場で腕を奮っている。基本的には面倒見が良くて桜荘の良識人と言ったところだろうか。

「とりあえず、深山さんも雪菜ちゃんも戯れないでちゃんと朝食を食べに来てください。
そうしないと奈津子さんの胃袋が胃液で溶けてしまって、深山さんの部屋に殴り込みが来ますから」

 笑顔を絶やさずに安曇さんは恐ろしい言葉を残して俺の部屋を立ち去って行った。
あの人は男を冷笑で全てを凍り付かせる特殊な業を隠し持っている違いないと俺は密かに思っている。

「というわけで俺は奈津子さんを餓えさせるわけにもいかないから。雪菜はさっさと俺の部屋から出る。いいな」
「ええっ。どうして、そんな急に追い出すの? 雪菜のことが嫌いなの?」
「着替えるんだよぉぉ!!」

 未だにパジャマから着替えていない俺の部屋を無断に入り込んで行く女性達の奇抜な行動に慣れ始めていた。
普通の年頃の女の子なら男という狼の生物の生態をよく把握して、男の部屋なんて近付くはずもない。

ここの住人からは男と認識されていないのか度々とやってきては俺の部屋で時間を潰すのは日常茶飯事になっているのだ。
 これなんてエロゲー?


139:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/17 22:36:18 RQaFQ2jB
 桜荘の朝食は個々の部屋で食べるというごく一般的な摂り方はしない。
憩いの場という桜荘の住人が集う一室に皆が集まって一緒に朝食を食べるという変わった習慣がある。
俺も入居していた最初の時期は自分の部屋で寂しくご飯を食べていたのだが、
奈津子さんの脅しに似た強い勧めで俺も憩いの場で食事をすることにした。
不思議な事に皆で食べていると胸が暖かくなった。
それは失ったはずの幼馴染とお弁当を食べたあの頃を思い出してしまいそうになる。
 
 憩いの場に辿り着くとすでに桜荘の住人が全員揃っていた。
テーブルの上には安曇さんが作ってくれた朝食が数々と並んでいる。皆の顔を眺めてから俺は挨拶した。

「みんな、おはよう」
「おはようございます。一樹さん」
「少し遅いわよ。一樹君」

 丁寧に礼儀正しく挨拶を交わした方と乱暴に言葉を返した二人の女性は姉妹である。
前者は妹で、後者は姉である。この桜荘の中では支配者階級の立場にいる極悪な姉妹である。

 姉の方は高倉奈津子(たかくら なつこ)と言う。
 年頃は二十歳を少し過ぎており、桜荘の住人の中で圧倒的な長者である。
一応、桜荘の管理人兼オーナーであり日頃の老朽化したアパートの維持のためにいろいろと頑張って修繕活動をやっている。
特に定職に就いているわけでもなく、アパート運営に人生の全てを捧げている。あんまり儲からないらしいが。

 そして、妹の名前の方は高倉美耶子(たかくら みやこ)。
 雪菜と同じ学園に通う女子生徒であり、桜荘の管理人代理兼オーナー代理という役に立ちそうもない役職を持っている。
長い髪を腰まで伸ばしており、清楚を漂わせるような整った顔立ち。
遠く眺めている限りでは美人なんだろうが、その口を開いた途端に言い寄る男性がいなくなる程の毒舌の持ち主である。
恐らく、桜荘の中では一番腹黒いなのではないかと俺は密かに疑っている。

 桜荘の住人は

 御堂 雪菜

 安曇 真穂

 高倉 美耶子

 高倉 奈津子

 そして、俺。深山 一樹。
 以上。
 計5人が仲良く共同で暮らしている。
この少人数でよくボロアパートを運営しているのかと疑いたくもなるが奈津子さんの運営は
家賃収入以外に汚い手を使って得ている黒い収入のおかげで何とか維持をしてそうな気がしてしまう。
その辺の事は誰も突っ込まないという暗黙の了解があるため誰も触れようとする人間はいないだろう。


140:桜荘にようこそ ◇J7GMgIOEyA
07/05/17 22:36:57 wC6Xbj9G
「うわ~ん誓ってよぉぉ。お兄ちゃん」
「もう、二人ともなにやっているの。雪菜ちゃんも深山君も今日も仲良しさんだよね」
 開いている扉から入ってきたのは、同じくアパートの住人である安曇 真穂(あずみ
まほ)さんがエプロン姿を身に付けていた。
「仲良しというか、迫り来る狂犬から身を守るために必死に抵抗しているだけなんだけどな」
「それはどうかな……」
 と、安曇さんは曖昧な微笑を浮かべた。

 安曇 真穂(あずみ まほ)
 俺と同じ時期に『桜荘』に引っ越してきた住人である。
年頃は俺と同じ年齢で、ここから大学に通っている。
主に『桜荘』における料理担当という貧乏くじを引いてしまった彼女は入居した日からめげずに
アパートの住人の料理を憩いの場で腕を奮っている。基本的には面倒見が良くて桜荘の良識人と言ったところだろうか。

「とりあえず、深山さんも雪菜ちゃんも戯れないでちゃんと朝食を食べに来てください。
そうしないと奈津子さんの胃袋が胃液で溶けてしまって、深山さんの部屋に殴り込みが来ますから」

 笑顔を絶やさずに安曇さんは恐ろしい言葉を残して俺の部屋を立ち去って行った。
あの人は男を冷笑で全てを凍り付かせる特殊な業を隠し持っている違いないと俺は密かに思っている。

「というわけで俺は奈津子さんを餓えさせるわけにもいかないから。雪菜はさっさと俺の部屋から出る。いいな」
「ええっ。どうして、そんな急に追い出すの? 雪菜のことが嫌いなの?」
「着替えるんだよぉぉ!!」

 未だにパジャマから着替えていない俺の部屋を無断に入り込んで行く女性達の奇抜な行動に慣れ始めていた。
普通の年頃の女の子なら男という狼の生物の生態をよく把握して、男の部屋なんて近付くはずもない。

ここの住人からは男と認識されていないのか度々とやってきては俺の部屋で時間を潰すのは日常茶飯事になっているのだ。
 これなんてエロゲー?

141:桜荘にようこそ ◇J7GMgIOEyA
07/05/17 22:38:10 DzTuKXAS
>>140
桜荘の朝食は個々の部屋で食べるというごく一般的な摂り方はしない。
憩いの場という桜荘の住人が集う一室に皆が集まって一緒に朝食を食べるという変わった習慣がある。
俺も入居していた最初の時期は自分の部屋で寂しくご飯を食べていたのだが、
奈津子さんの脅しに似た強い勧めで俺も憩いの場で食事をすることにした。
不思議な事に皆で食べていると胸が暖かくなった。
それは失ったはずの幼馴染とお弁当を食べたあの頃を思い出してしまいそうになる。
 
 憩いの場に辿り着くとすでに桜荘の住人が全員揃っていた。
テーブルの上には安曇さんが作ってくれた朝食が数々と並んでいる。皆の顔を眺めてから俺は挨拶した。

「みんな、おはよう」
「おはようございます。一樹さん」
「少し遅いわよ。一樹君」

 丁寧に礼儀正しく挨拶を交わした方と乱暴に言葉を返した二人の女性は姉妹である。
前者は妹で、後者は姉である。この桜荘の中では支配者階級の立場にいる極悪な姉妹である。

 姉の方は高倉奈津子(たかくら なつこ)と言う。
 年頃は二十歳を少し過ぎており、桜荘の住人の中で圧倒的な長者である。
一応、桜荘の管理人兼オーナーであり日頃の老朽化したアパートの維持のためにいろいろと頑張って修繕活動をやっている。
特に定職に就いているわけでもなく、アパート運営に人生の全てを捧げている。あんまり儲からないらしいが。

 そして、妹の名前の方は高倉美耶子(たかくら みやこ)。
 雪菜と同じ学園に通う女子生徒であり、桜荘の管理人代理兼オーナー代理という役に立ちそうもない役職を持っている。
長い髪を腰まで伸ばしており、清楚を漂わせるような整った顔立ち。
遠く眺めている限りでは美人なんだろうが、その口を開いた途端に言い寄る男性がいなくなる程の毒舌の持ち主である。
恐らく、桜荘の中では一番腹黒いなのではないかと俺は密かに疑っている。

 桜荘の住人は

 御堂 雪菜

 安曇 真穂

 高倉 美耶子

 高倉 奈津子

 そして、俺。深山 一樹。
 以上。
 計5人が仲良く共同で暮らしている。
この少人数でよくボロアパートを運営しているのかと疑いたくもなるが奈津子さんの運営は
家賃収入以外に汚い手を使って得ている黒い収入のおかげで何とか維持をしてそうな気がしてしまう。
その辺の事は誰も突っ込まないという暗黙の了解があるため誰も触れようとする人間はいないだろう。

142:桜荘にようこそ ◇J7GMgIOEyA
07/05/17 22:39:30 veSE+4M2
>>142
桜荘の朝食は個々の部屋で食べるというごく一般的な摂り方はしない。
憩いの場という桜荘の住人が集う一室に皆が集まって一緒に朝食を食べるという変わった習慣がある。
俺も入居していた最初の時期は自分の部屋で寂しくご飯を食べていたのだが、
奈津子さんの脅しに似た強い勧めで俺も憩いの場で食事をすることにした。
不思議な事に皆で食べていると胸が暖かくなった。
それは失ったはずの幼馴染とお弁当を食べたあの頃を思い出してしまいそうになる。
 
 憩いの場に辿り着くとすでに桜荘の住人が全員揃っていた。
テーブルの上には安曇さんが作ってくれた朝食が数々と並んでいる。皆の顔を眺めてから俺は挨拶した。

「みんな、おはよう」
「おはようございます。一樹さん」
「少し遅いわよ。一樹君」

 丁寧に礼儀正しく挨拶を交わした方と乱暴に言葉を返した二人の女性は姉妹である。
前者は妹で、後者は姉である。この桜荘の中では支配者階級の立場にいる極悪な姉妹である。

 姉の方は高倉奈津子(たかくら なつこ)と言う。
 年頃は二十歳を少し過ぎており、桜荘の住人の中で圧倒的な長者である。
一応、桜荘の管理人兼オーナーであり日頃の老朽化したアパートの維持のためにいろいろと頑張って修繕活動をやっている。
特に定職に就いているわけでもなく、アパート運営に人生の全てを捧げている。あんまり儲からないらしいが。

 そして、妹の名前の方は高倉美耶子(たかくら みやこ)。
 雪菜と同じ学園に通う女子生徒であり、桜荘の管理人代理兼オーナー代理という役に立ちそうもない役職を持っている。
長い髪を腰まで伸ばしており、清楚を漂わせるような整った顔立ち。
遠く眺めている限りでは美人なんだろうが、その口を開いた途端に言い寄る男性がいなくなる程の毒舌の持ち主である。
恐らく、桜荘の中では一番腹黒いなのではないかと俺は密かに疑っている。

 桜荘の住人は

 御堂 雪菜

 安曇 真穂

 高倉 美耶子

 高倉 奈津子

 そして、俺。深山 一樹。
 以上。
 計5人が仲良く共同で暮らしている。
この少人数でよくボロアパートを運営しているのかと疑いたくもなるが奈津子さんの運営は
家賃収入以外に汚い手を使って得ている黒い収入のおかげで何とか維持をしてそうな気がしてしまう。
その辺の事は誰も突っ込まないという暗黙の了解があるため誰も触れようとする人間はいないだろう。

143:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/17 22:39:50 RQaFQ2jB
「真穂ちゃん真穂ちゃん。私の秘蔵のお宝から一本持ってきてくれない?」 

「奈津子さん。朝から飲むんですか? 
さすがに朝から飲酒するのは人としてどうかと思うんですけど。
昨晩もビールを2缶と焼酎まで飲んで。本当に大丈夫なの」

「高倉奈津子。その程度の酒の量で倒れる程のヤワな体じゃないのよ。
せいぜい、私を酔わせるならその3倍のアルコールを持ってこいって」

「そして、お姉ちゃんのお腹は水太りの階段を一歩一歩と突き進んで行くのでした。
行き着いた先は、必死に虚偽宣伝しているダイエット通販に手を出して……
挙げ句の果てにはリバウンドで更に体重が増加するという顛末は簡単に予想ができます」

 安曇さんからアルコールを受け取った矢先に食卓で大人しくご飯を食べている美耶子がぼそりと呟いた。
カチンと来た奈津子さんは妹相手にムキになって言い返した。

「美耶子……あなたも言うようになったじゃない」
「アルコール依存症の姉を持つと月の生活費の半分が娯楽とDVDBOXに消えゆく運命なんですよ。
こうして、安曇先輩の手料理で栄養を補給することで何とかこの果てしない暗闇と混沌を頑張って生き抜いているんです。
いつも。ありがとうございますね」

「いえ、どういたしましてって……奈津子さんも美耶子ちゃんも自分の欲望のために無駄遣いが多すぎますよ。
一体何をしたら学生で買えないような銘柄の酒と毎日のように
配送会社から届けられるアニメのDVDを買えるんですか? 
お二人の喧嘩よりもそっちの方が不思議です」

 安曇さんの指摘通りに俺も高倉姉妹の放蕩ぶりの資金源の謎を解明したい。
ただ、その答えは二人の笑顔を微笑んで同時に言った。
「それは禁則事項です(だから)」

 余程、腹黒いことをやっているのであろうか?

「雪菜もお兄ちゃん名義で闇金からたくさんお金を借りて、欲しいものたくさん買ってきていいかな」
「人の名前で借りてくるんじゃねぇっっ!! 利息がありえない程に高いからやめておけ。人生狂うぞ」

 腹黒い方々の会話は子供の教育には宜しくないはずのだが。
この憩いの場に集まった以上は黒い話になるのは必然になってしまっている。
あの唯一の品行方正の安曇さんですらもこの空気に馴染んでしまっているから慣れというのは恐ろしいもんだ。

「深山さんも大人しく朝食を食べてくださいねぇ」
 会話に入ろうとした俺は見事に安曇さんから注意されてしまった。俺は嘆息を吐きながらせっせと作ってくれた朝食を口に運んだ。


144:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:40:52 gEDzG0Hg
>>141
>これなんてエロゲ?
こんなこと言う奴いねーよw


145:桜荘にようこそ ◇J7GMgIOEyA
07/05/17 22:42:38 Fm6IBb6k
「真穂ちゃん真穂ちゃん。私の秘蔵のお宝から一本持ってきてくれない?」 

「奈津子さん。朝から飲むんですか? 
さすがに朝から飲酒するのは人としてどうかと思うんですけど。
昨晩もビールを2缶と焼酎まで飲んで。本当に大丈夫なの」

「高倉奈津子。その程度の酒の量で倒れる程のヤワな体じゃないのよ。
せいぜい、私を酔わせるならその3倍のアルコールを持ってこいって」

「そして、お姉ちゃんのお腹は水太りの階段を一歩一歩と突き進んで行くのでした。
行き着いた先は、必死に虚偽宣伝しているダイエット通販に手を出して……
挙げ句の果てにはリバウンドで更に体重が増加するという顛末は簡単に予想ができます」

 安曇さんからアルコールを受け取った矢先に食卓で大人しくご飯を食べている美耶子がぼそりと呟いた。
カチンと来た奈津子さんは妹相手にムキになって言い返した。

「美耶子……あなたも言うようになったじゃない」
「アルコール依存症の姉を持つと月の生活費の半分が娯楽とDVDBOXに消えゆく運命なんですよ。
こうして、安曇先輩の手料理で栄養を補給することで何とかこの果てしない暗闇と混沌を頑張って生き抜いているんです。
いつも。ありがとうございますね」

「いえ、どういたしましてって……奈津子さんも美耶子ちゃんも自分の欲望のために無駄遣いが多すぎますよ。
一体何をしたら学生で買えないような銘柄の酒と毎日のように
配送会社から届けられるアニメのDVDを買えるんですか? 
お二人の喧嘩よりもそっちの方が不思議です」

 安曇さんの指摘通りに俺も高倉姉妹の放蕩ぶりの資金源の謎を解明したい。
ただ、その答えは二人の笑顔を微笑んで同時に言った。
「それは禁則事項です(だから)」

 余程、腹黒いことをやっているのであろうか?

「雪菜もお兄ちゃん名義で闇金からたくさんお金を借りて、欲しいものたくさん買ってきていいかな」
「人の名前で借りてくるんじゃねぇっっ!! 利息がありえない程に高いからやめておけ。人生狂うぞ」

 腹黒い方々の会話は子供の教育には宜しくないはずのだが。
この憩いの場に集まった以上は黒い話になるのは必然になってしまっている。
あの唯一の品行方正の安曇さんですらもこの空気に馴染んでしまっているから慣れというのは恐ろしいもんだ。

「深山さんも大人しく朝食を食べてくださいねぇ」
 会話に入ろうとした俺は見事に安曇さんから注意されてしまった。俺は嘆息を吐きながらせっせと作ってくれた朝食を口に運んだ。

>>144
安価ミス?

146:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/17 22:43:00 RQaFQ2jB
 朝食を食べ終わると互いの食器は流し台に水で軽く汚れを落としてから食器洗い器の中に入れる。
安曇さんが全員分の食器が中に入っているのを確認してから洗剤を入れて、電源を入れた。
後は数十分後を経つと綺麗に洗い終わってくれているので文明の発達に改めて謝辞を述べたくなる。
 畳の上で皆はTVを見ながらぼんやりと過ごしていた。
春の季節になると自然と眠たくなるものだが、ここにいる5人は今日の予定について話し合っていた。

「雪菜ちゃんは明後日から入学式。
美耶子さんは明日から始業式が始まります。
奈津子さんはいつものようにお昼からお酒お酒で。
私は大学が今日は休み。
で、深山君はお仕事はどうなっているんですか? こんなにゆっくりしていいの」

「今日はオフだよ。そうじゃないと朝はこうやって落ち着いて過ごしてるはずないだろ。仕事があれば遅刻になってクビは確実だね」
「一樹さんもいい加減に何の目的もないフリーターから足を洗ってカタギの世界を生きましょうよ。
世の中は搾取搾取搾取の弱肉強食時代なんです。
何も考えずに30代を迎えると個人的カタストロフィーで完全に発狂しますよ」

 と、毒舌の持ち主の美耶子の胸を突き刺す一言を言われる。
さすがに会話を振った安曇さんも苦渋な笑顔を浮かべて居心地が悪そうにしていた。

「いや、働いたら負けっていう名言があるし」
「働く以前に一樹さんは無意味に色目を使っているからヤンデレ症候群感染した女の子から
後ろから刺されるのがお似合いなのかもしれませんね。
幼女から熟女まで自分の手元に置いていくような人は修羅場を狙いすぎてますよ」

「そのヤンデレ症候群はクリスマス前に政府が提案した一夫多妻制度の導入で解決されたんじゃないのか?」

 美耶子の言うヤンデレ症候群というのは昨年発生した女性にのみ発病する
一種の心の病である。感染した女の子達は片思いの相手に
他の女の子が近付いたりするとどんどんと病んで行くという恐ろしい病気である。
その病は昨年の政府が一夫多妻制の導入を決めたことによって表面的に解決したはずであった。

「まあ……深山君は優しい人ですから見た目で騙される人は多いかもしれませんね」

 と、安曇さんが視線を横に逸らしながら言った。
フォローを入れているつもりなのだろうか……俺の年齢=彼女いない歴だと勝手に想像されてそうだ。

 さて、今日の休日も憩いの場で桜荘の住人と一緒に過ごすことになるであろう。

 あの日、失った幼馴染の絆はもう二度と戻ることがないけど、俺はここの生活に充分に満足している。

 だから、時々不安に思うことがある。

 この生活が粉々に壊れ落ちそうな予感が……。


147:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:43:34 c0GyVcNd
>>145
相変わらずトラ氏は面白いですね
GJです

148:桜荘にようこそ ◇J7GMgIOEyA
07/05/17 22:45:05 piSDIc8Y
 朝食を食べ終わると互いの食器は流し台に水で軽く汚れを落としてから食器洗い器の中に入れる。
安曇さんが全員分の食器が中に入っているのを確認してから洗剤を入れて、電源を入れた。
後は数十分後を経つと綺麗に洗い終わってくれているので文明の発達に改めて謝辞を述べたくなる。
 畳の上で皆はTVを見ながらぼんやりと過ごしていた。
春の季節になると自然と眠たくなるものだが、ここにいる5人は今日の予定について話し合っていた。

「雪菜ちゃんは明後日から入学式。
美耶子さんは明日から始業式が始まります。
奈津子さんはいつものようにお昼からお酒お酒で。
私は大学が今日は休み。
で、深山君はお仕事はどうなっているんですか? こんなにゆっくりしていいの」

「今日はオフだよ。そうじゃないと朝はこうやって落ち着いて過ごしてるはずないだろ。仕事があれば遅刻になってクビは確実だね」
「一樹さんもいい加減に何の目的もないフリーターから足を洗ってカタギの世界を生きましょうよ。
世の中は搾取搾取搾取の弱肉強食時代なんです。
何も考えずに30代を迎えると個人的カタストロフィーで完全に発狂しますよ」

 と、毒舌の持ち主の美耶子の胸を突き刺す一言を言われる。
さすがに会話を振った安曇さんも苦渋な笑顔を浮かべて居心地が悪そうにしていた。

「いや、働いたら負けっていう名言があるし」
「働く以前に一樹さんは無意味に色目を使っているからヤンデレ症候群感染した女の子から
後ろから刺されるのがお似合いなのかもしれませんね。
幼女から熟女まで自分の手元に置いていくような人は修羅場を狙いすぎてますよ」

「そのヤンデレ症候群はクリスマス前に政府が提案した一夫多妻制度の導入で解決されたんじゃないのか?」

 美耶子の言うヤンデレ症候群というのは昨年発生した女性にのみ発病する
一種の心の病である。感染した女の子達は片思いの相手に
他の女の子が近付いたりするとどんどんと病んで行くという恐ろしい病気である。
その病は昨年の政府が一夫多妻制の導入を決めたことによって表面的に解決したはずであった。

「まあ……深山君は優しい人ですから見た目で騙される人は多いかもしれませんね」

 と、安曇さんが視線を横に逸らしながら言った。
フォローを入れているつもりなのだろうか……俺の年齢=彼女いない歴だと勝手に想像されてそうだ。

 さて、今日の休日も憩いの場で桜荘の住人と一緒に過ごすことになるであろう。

 あの日、失った幼馴染の絆はもう二度と戻ることがないけど、俺はここの生活に充分に満足している。

 だから、時々不安に思うことがある。

 この生活が粉々に壊れ落ちそうな予感が……。
>>147
誤爆?

149:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:46:24 6BDlayfV
>>148
トライデント氏GJです!!!!!!!!!!!


150:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/05/17 22:47:58 RQaFQ2jB
投下終了です。

て、スレを見直したら見事に荒れていますね。
コピペで乱立しているおかげで少し読みづらいですね。
後で避難所で同じ内容の物を投下した方がよろしいでしょうか?




151:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:49:50 5ayO35B6
>>150
まとめるとき面倒になりそうだからこのままでいいと思う

152:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:50:33 nIcgXFNF
>>150
スルーでおk

153:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:51:48 n7qCF4WJ

age荒らしkita

154:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:52:26 jzykelIv
>>150
乙。コピペはNGワードでどうにかなるからそこまで気を使わなくてもいいと思うけどね。
キャラが多くて騒がし楽しいものになりそうだな。
ただ、一点だけ指摘を。「満開な桜が咲く」という表現は、多分おかしい。頭痛が痛いと同系統の表現。
「桜が満開になっている。」「桜が満開だ。」でいいと思う。

155:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:52:58 YJw887Yl
>>150
スレが荒れるしこれからは避難所に投下したほうがいいんじゃね?


156:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:52:58 nIcgXFNF
すまねぇ、ageちまった……

157:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:53:40 TKYPuOme
>>150
うはwwwwいい展開になりそうだwwww
トライデント氏GJですた!

う~ん・・・専ブラ使ってるから俺は問題ないんだけど・・

158:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:54:07 YEtCZydm
コピペの方が面白かったので
貴方の存在はいりません
とりあえず、トライデント氏の妄想を垂れ流しにするのやめてくれませんか?


159:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:56:42 CEGCl9cx
>>150
2度手間だし次からは避難所で
皆が専ブラ使ってるわけでもないしね


160:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:58:11 V2gAVP1W
>>150
投下お疲れ様です
ここに幼馴染がどう絡んでくるか楽しみですね
偽者はすぐ判るので避難所に落とす必要はないかと

>>140-142,145,148
ただでさえ鳥付きをコピペしてもバレバレなのに
いちいちID変えていたら余計おかしいってw

>>144,147,149
釣りか自演か天然か知らんが偽者にアンカーするな

161:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:03:01 V2gAVP1W
>>158
偽者必死だな

162:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:05:11 rnxqZaPH
>>149
便利だし使えばいいだろ


163:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:06:07 rnxqZaPH
>>159


164:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:08:42 j1bJJmNK
ID:V2gAVP1W
おぉ~っとここに荒らしに反応するアホ登場~

165:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:14:26 ziDeJWII
>>150
乙です

166:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:16:27 5TQc2qlI
>>150
GJ!!
これだけのキャラを動かすのはやっぱり凄い・・・!!
変なのは気にしないで頑張ってください!

167:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:59:16 aR1fCMb8
トラ氏GJ!!!!続き楽しみにしてます。

168:名無しさん@ピンキー
07/05/18 13:11:33 HaVT7SzA
>>164
そうしてまたID変えて住人を装って煽るのか

169:名無しさん@ピンキー
07/05/18 14:12:18 mGZDqSH7
193 :名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 23:22:49 ID:+O3+fuD10
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35
スレリンク(eroparo板)

>>140>>141>>142>>145>>148>>158   
5. 掲示板・スレッドの趣旨とは違う投稿
荒れかねない挑発的なレス
個人コテ叩き・投稿者のコピペ
6. 連続投稿・重複
連続投稿・コピー&ペースト

作者さんがSSを投下した直後にコピペしてスレの進行を阻害しています。
またコピペの最後の行から同一人物と思われます。


170:名無しさん@ピンキー
07/05/18 16:42:50 FCSW/6z3
はいはい、、続けて特定の人物の相手する気なら避難所逝こうぜ

171:名無しさん@ピンキー
07/05/18 16:51:54 Gqn3DZVB
>>170
避難所は避難所だろ
ここの荒らしの話ばかりされても困る
スルーしろ

172:名無しさん@ピンキー
07/05/18 17:23:46 3wZZ4G97
荒らしの原因になったトライデント氏は避難所で寂しく妄想を垂れ流すということでOK?
まあ、あっちに投稿されても誰も見向きしてないから荒れなくていいね

173:名無しさん@ピンキー
07/05/18 18:34:13 jYP8VW2L
↑(^Д^)

174:名無しさん@ピンキー
07/05/18 21:01:29 lXeD1o+/
>>172
m9(^Д^)


175:名無しさん@ピンキー
07/05/18 21:04:13 dxa+yf0B
これで削除板のコピペは3度目か…はぁ
もしかしてそれに生きがいとか感じちゃってんの?

176:名無しさん@ピンキー
07/05/18 23:50:19 590Gtgiw
194 :名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 18:21:26 ID:p9XjZcqF0
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35
スレリンク(eroparo板)

>>144>>147>>149>>164>>171>>172
5. 掲示板・スレッドの趣旨とは違う投稿
荒れかねない挑発的なレス
個人コテ叩き

>>193の荒らしと同一人物と思われるレスを追加します

また見境無くなってきたな、と思われるって何?

177:名無しさん@ピンキー
07/05/18 23:53:13 zcqPkEjJ
もうホント勘弁しろよ……

178:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:06:01 8KFC6wJP
>>176
楽しいか('A`)?

179:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:09:29 v/nEHRKg
嫉妬の炎に包まれた彼女でもない恋人未満の女の子に
膝枕されていると実の姉でもない年上のお姉さんが主人公
争奪戦に参戦してくるようなSSが読めるのは嫉妬スレだけ!!

ってみたいなCMを夢で見た・・。
正夢にならないかな

180:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:16:47 8KFC6wJP
>>179
ちょっと過程を省きすぎじゃね?

181:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:20:28 hZvAQdag
まぁ、夢だし

182:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:30:14 v/nEHRKg
妹「お兄ちゃん・・小さな頃にお嫁さんにしてくれるって約束してくれたのに
  どうして・・どうして・・そんな女を選んだの? お兄ちゃんを奪ったお姉ちゃんなんかと!!」
姉「ごめんね妹ちゃん。私はどうしても弟君の事が好きだった。あなたになんて渡したくなかったんだよ」
妹「そ、そ、そんなの私だって同じだよ。お姉ちゃんだけにはお兄ちゃんを渡したくなったの。
  私が持っていない全ての物を持っているお姉ちゃんにだけは大事な物で勝ちたかった」
姉「でも、もう遅いよ。弟君は私の体に溺れている。時間をゆっくりかけて骨抜きにしたんだから・・」


と、今度は適当に主人公、姉、妹の三角関係と修羅場を軽く過程を省いて書いてみた
誰か書いてくれませんか?



183:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:41:57 jUKyP39q
まとめに行ったほうがはえぇよ

184:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:46:33 RecdHnMd
>>180


普遍的な日常─

変わらない筈の毎日─

全ての始まりは、幼馴染みの一言だった─

「○○くん、ずっと好きでした」
屋上で囁かれた思い。
広がる困惑

「兄さん、告白されたんだって?」
妹の冷たい一言。
抱いた疑念

「○○ちゃん、お姉ちゃんとずっと一緒だよね?」
姉の厳しい詰問。
感じた恐怖

奏でられ始めた純愛と狂気の二重奏

「この泥棒猫!!」
「殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスッ!!」
「兄さんどいて、そいつを殺せない!」
「クスクスッ……兄さん、兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん……」
「ねぇ○○ちゃん、そんな雌狐ほっといてご飯にしましょ?」
「○○ちゃん、そのお料理私の特製愛の調味料入りだよ?おいしい?」

乙女達の醜くも美しい独占欲。

渦巻く謀略と狂気と流血の果てには──

こんな作品は修羅場スレにて公開中!



てな感じでCM化したらどうですかね?

185:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:48:47 lUzSflj2
そろそろフラッシュ職人が光臨……?

186: ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:38:02 A21pw/ec
投下します。

187:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:39:53 A21pw/ec
今朝のあの悪夢。
その中で、小さな少年が最後に言ったあのセリフを。


「どうして僕にはお母さんがいないの?」


何故、あの時、あんな事を言ったのか。
─そんな事は、分かっている。
誰もいない家が、一人が寂しかったからだ─。
気がつくと、翔は立ち上がっていた。覚悟は決まっていた。澄香の元へ行こう、と。メールには彼女の居場所を示す手掛りは何もない
。しかし不思議と、直覚的に感じていた。きっと澄香は自分の家にいるのだろう。
机の上に転がっている鉛筆や消しゴムを、そのまま鞄に突っ込み、持っていた単語帳を上から乱暴に押し込む。
その鞄を肩にかけ、横の席で早くも舟をこきはじめた寺田に一言告げる。
「悪い、俺帰るわ」
いきなり寺田が顔をあげた。夢の世界を引きずっているのか、目が半開きで、表情がついてきていない。しかし、それでも驚いている
だろう事は分かった。その寺田が死にかけの金魚のように口をパクパクさせて、何かを言おうとしている。が、寺田が声を発するより
先に翔は地面を蹴っていた。
主のいない教壇の上を駆け抜ける。半開きのドアに体を滑りこませ、廊下に出る。
そのとき、背後から伸びた手に首根が掴まれ前のめりになったところを、襟首に首を絞めつけられ、翔は綺麗なお花畑を見た。思わず
振り返る。
「あんた、どこ行くのよ」
中野だった。彼女は眉を釣り上げ、冷たい瞳で翔を睨んでいる。
「どこって。鞄持って便所に行く奴はいないだろ? 帰るんだよ」
翔は喉元をさすりつつ言う。すると、世界でもっともありえない光景を見たといった顔で、中野が消えるように呟く。
「う、そ……」
しかし、彼女はすぐに態勢を建て直し、翔を鋭い眼光で見据え、
「ばっ、馬鹿じゃないの!? あんたねぇ、今日の試験がどれだけ大事か分かってないんじゃない?今日の試験は、大学進学がかかっ
ているのよ、何があっても最後まで頑張らなきゃ駄目なのよっ!!」


188:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:41:25 A21pw/ec
中野はほとんど叫んでいた。とてつもない迫力で、今にも飛びかかってきそうだった。しかし、翔は怯まない、決意も変わらない。
「分かってるさ。だけど、どうしても帰んなきゃいけないんだよ」
翔は真っ直ぐ、彼女を見つめ返して言った。自分の意思を、瞳に込める。その決意が伝わったのか、中野は悔しそうに唇を結び、うつ
むいた。彼女の肩が、小さく震えている。
「……悪い、じゃあ俺、帰るわ」
そう言い残すと、踵を返し、走り出そうとした。そのとき、背中から、蚊の鳴き声のように小さく、そして悲痛な呟きが聞こえた。
「そんなに、あの娘が大事なの……?」
走り出せなかった。彼女の声が、意思が、まるで植物の蔦のように、翔の未練を絡め取り、先へ行く足を止める。
そして思うのは、「あの娘」。彼女が言ったその言葉が指す人物は、おそらく澄香であろう。それ以外に、あの娘で思い当たる節がな
い。しかし、それは中野の知りえない話であり、またありえない話である。それなのに何故、中野があの事を知っているのか、その疑
問が無意識に口についた。
「どうして、お前……」
「ねぇ、答えてよ。あの娘の何がいいの?」
翔の疑問は中野の涙声にかき消された。
「私じゃ駄目なの?私はまだ綺麗だよ、汚れていないよ。それに翔だったら、汚されてもいいよ」
まるでミルクをねだる仔猫のように甘く、そして、どこか哀れを誘うその声に、ドキリと、胸がときめいた。普段の中野が見せる強気
な態度はすっかり影をひそめ、しおらしい部分が表に出ている。そのギャップが、翔の心に熱くてむずかゆい感覚を忍ばせる。しかし
、それでも決意は変わらない、いや変えてはならない。
「……何が駄目ってわけじゃないんだよ」
翔は背中を見せたまま、喉から声を絞りだした。が、決して振り返りはしなかった。おそらく今の中野は、彼女の中で一番可愛いい顔
をしている、と思う。振り返ったら、その中野の顔を見たら、せっかくの決心が揺らいでしまう気がした。


189:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:44:17 A21pw/ec
「じゃあ、どうして?」
心に染みる中野の声。
翔は考える。なぜ、澄香と付き合っているのか。そしてなぜ、中野ではなかったのか。その答えは。
「……何となく似てるんだよ、俺と澄香ってさ。だから、」
「どこがよっ!?全然似てないじゃないっ!!」
翔の言葉を遮り、中野がいきなり声を張り上げた。溜った鬱憤がついに抑えられなくなってしまったかのように、感情が溢れだし明ら
かに錯乱していた。
今の刺のつきでた中野に、がさつに触れると怪我をする。だから、翔はやり方を変える事にした。振り返り、中野の濡れた瞳を真っ直
ぐ見つめる。気丈に涙を溜め込んだ瞳は、気高く、息を飲むほど綺麗だった。そこから一筋の涙の趾が、ほんのりと染まった頬を通り
、薄く紅を指した口許にまで道を作っている。それは、大人の女性の顔だった。
やはり、中野は美しかった。輝いて見えた。しかし、決して心を揺るがせてはならなず、逃げてもならず、退いてもならない。複雑に
絡み付いた未練の蔦を、一本一本丁寧にほどいていくように、言葉を選びながら翔は問う。
「中野はさ、学校から家に帰った時、何をする?出来るだけ丁寧に思い出して答えてくれないか」
「何よそれっ!?そんな事、関係ないじゃないっ!!」
「関係、あるんだ。頼むよ、答えてくれ」
翔は中野から目を離さず、ジッと彼女の瞳を見つめる。中野も見つめ返してくる。しばらくすると、中野は翔から目を反らして、ぶっ
きらぼうに、
「まず、ドアを開ける」
一つ、蔦がほぐれた。
「次は?」
「……ただいまって言う」
二つ。
「ただいまって言うと、どうなる?」
「どう、って。奥からおかえりって声が返ってくる」
三つ目で、翔は溜め息をもらした。
「それ、だよ」
「え?」
「それなんだ。俺も澄香もさ」
中野は意味が分からないといった様子で、おおげさに髪を振り乱しつつ、
「ちょっと待ってよ!わけわかんないよ!!何がそれなの? 何が違うの?私が言ったのは当たり前の事じゃない!!誰だって同じ事
するわ!!」


190:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:47:26 A21pw/ec
当たり前。その響きが翔を悲しくさせる。昔から、翔にはその当たり前がなかった。
「その当たり前にさ、俺も澄香も憧れていたんだよ」
しみじみと、肺の空気を吐き出すように言い、翔は目を瞑る。深い暗闇に包まれ、あの時の孤独感と寂廖感が蘇る。その感覚をかき乱
すように、中野が息を飲むのが分かった。どうやら、隠された意味を察したようだ。翔は再び語り出す。
「俺は、澄香と同じ境遇だったし同じ経験をしてる、気持ちも分かる。だからこそ、ほっとけないんだ」
ゆっくりと瞼をあげると、そこには中野の白い顔があって、彼女は唇をきつく噛みしめ何かを堪えているようだった。やがて、その唇
がゆっくりと言を紡いだ。
「じゃあ翔は、あの娘と同じだから、行くの?」
頷く。おかしい、と、か細い声の後、まるで坂道を転がる車輪のように、中野の言は勢いを増していく。
「おかしい。そんなの、絶対おかしいよ!!そんなの、ただ同情してるだけじゃないっ!!」
中野の震える唇が、唾液で、ヌメヌメとねばついた光を放っていた。
「同情……か。ああ、その通りだよ。俺は多分、澄香に同情しているだけだ。だけど、それを理由にしちゃいけないのか?」
同情だっていい。寂しい時、苦しい時、誰かが側にいてくれるのであれば、それがどんな理由であっても構わない。翔はそう思ってい
るし、きっと澄香も同じだ。それに、同情がその先へと発展する可能性だってある。現に、澄香は変わりはじめ、翔も初対面の時には
考えられないほどの好意を彼女に抱いている。もちろんそれは、恋と言えるほど成熟した気持ちではないが、まだ先がある。ゆっくり
と、彼女に惹かれつつある。
それは別に中野が嫌いだからでも、ダメだからでもない。ただ、澄香の方が、澄香がいいからだ。
「かわいいとか、優しいとか、処女だからとか、そんな理由だけで恋に落ちるほど俺は謙虚じゃないんだ」
翔がゆっくり、しかし一つ一つはっきり言う。中野はうちひしがれたように表情を萎ませた。その言葉が、翔なりの拒絶だと理解した
のだろう。


191:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:48:56 A21pw/ec
「だけど、だけど、もう少しだけ、様子を見ようよ。あと、二時間だけなんだし、最後まで頑張ろうよ」
それでも中野は食い下がる。まるで母親に玩具をねだる幼児のように、彼女の瞳には期待と不安が同じだけ共存していた。
「いたずらだったら、取り返しがつかないよ?」
その言葉を最後に、彼女は声を失った人魚のように押し黙り、しかし、それでも声にならない声は確かに聞こえてくる。その唇が、頬
が、そして瞳が必死で翔に訴えかけている。それが、彼女の必殺の表情なのだろう。
ずっとおかしな話だと思っていた。メールの内容も、それが誰からのものであるかも、中野が知っているはずがないのに、知っている
ように思えてならなかった。しかし、そんな事はもうどうでもよくなっていた。
未練に絡み付いた蔦は、いつの間にかあと一本にまで数を減らしていた。弱々しく張り付いたそれを、今なら乱暴に振り払う事も出来
る。しかし、翔は最後の一本を丁寧にほどいた。
「……いたずら、か。まぁ、その時は、澄香が無事でよかったって思う事にするよ」
必殺の表情を浮かべていた中野の顔から、まるで凪のように表情が消えた。中野は呆然自失といったふうで、口を動かし、視線をさま
よわせている。そんな彼女に、翔はいつものようにおどけて見せた。
「もちろんその後、小一時間たっぷり説教してやるつもりだけど、な」
中野の体から力が抜けた。彼女はまるで枯れ葉のように、フラフラと廊下の壁にもたれかかる。そこから先は見ずに、翔は踵を返し階
段へと向かう。
途中、背中からむせび泣く声が聞こえてきたが、振り返りはしなかった。


192: ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:50:21 A21pw/ec
投下完了。
次回から、誰かが狂い始めます。そしてようやく、話のテンポも上がる、はず。

193:名無しさん@ピンキー
07/05/19 01:54:08 8KFC6wJP
>>192
キタ―(゚∀゚≡゚Д゚)ムハァ―!!
リアルタイムで読めた俺は何て幸せなんだ・・・
とうとう修羅場フラグが完全に立ててしまった翔の今後にwktk!!

194:名無しさん@ピンキー
07/05/19 09:05:04 MaBqKXvG
私の作った御飯食べてよ。って2時間叩かれ続けた者ですが修羅場は近いですか?意地でも寝たフリしてたけどクズ主人公にはなれそうですか?

195:名無しさん@ピンキー
07/05/19 09:58:38 qVmu7CKg
翔が男になった――!
いやスゲェ始めて翔がカッコいいと思えましたよw
GJッス!

196:名無しさん@ピンキー
07/05/19 10:48:46 1riznWVO
>>192 こんなエロゲの主人公がいたら僕はもう…!!

197:名無しさん@ピンキー
07/05/19 12:05:15 AIQ27V1W
修羅場スレの主人公で始めて漢だと思える奴を見た。
なんか感動ですわー。

198:名無しさん@ピンキー
07/05/19 15:46:17 FlD9gq+C
>>194
2時間というのが嘘くさいが、もし本当なら修羅場は近いな。
とりあえず、彼女や奥さんだったら答えてやれ。

199:名無しさん@ピンキー
07/05/19 15:51:15 ecL3szlm
なんだかまとめサイトが重く感じるな。俺だけかな?

200:名無しさん@ピンキー
07/05/19 16:25:30 8KFC6wJP
>>199
俺のPCでは普段どうりだが、回線に何かあったんじゃね?

201:名無しさん@ピンキー
07/05/19 16:56:07 ecL3szlm
そうなのかなー
それにヤンデレSSのまとめサイトもちょい重く感じるんだよな
その2つだけ……それ以外は何の異常もないのはずなのに、どうしたんだべ

202:名無しさん@ピンキー
07/05/19 17:43:42 8KFC6wJP
>>201
お前のPCが嫉妬してるんじゃないか?
「あのサイトばかり見るんじゃなくて、もっと私を使って」とか

203:名無しさん@ピンキー
07/05/19 19:21:00 3EvCZAsV
どちらもFC2の無料HPだったような気がする・・


204:名無しさん@ピンキー
07/05/19 20:05:03 VNjX5TnL
んー、俺も多少遅い気がする
見れない程じゃないが

205:名無しさん@ピンキー
07/05/19 20:43:34 d0NHGRXb
多少とかちょっと程度で言われてもね

206:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:33:31 RiFlkXMF
投下します。前回同様区切りの都合上長いです。

207:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:34:10 RiFlkXMF
「……ッ!」
 多分店内の客の半数が俺に奇異の視線を向けているんだろうが、そんなこと気に掛けていられる
ほどの余裕は欠片もなかった。
 つい数秒前に送られてきた、改行も句読点もないのに律儀に漢字変換だけはしっかりされてある
奇怪なメールの文面が頭にこべりついて離れてくれない。正直最初は何かの悪戯メールだと思った
しその方が良かった。しかしそのメールには俺の名前が書いてあるから、知らない誰かが間違えて
しまったというケースはありえない。知り合いにしたって俺の友達にこんなに手の込んだ気色悪い
ドッキリを仕掛けてくる奴はいない。
 それにそんなに考えなくても、決定的なことがある。簡単なことだ、送信者の欄を見ればいい。
しかし、俺はそこを見るのを躊躇っている。だって、俺はその人物に心当たりがあるからだ。全く
の赤の他人ではなく且つ友達と言えるほど過ごした期間は長くない相手―、一人しかいない。
 店内の静寂と同化しそうなほどの微妙な動きで、俺は視線を送信者の欄へと向ける。そこには、
意味を理解し難い半角英数字の羅列が記されていた。だが、それを見て俺はデジャビュに似たもの
を覚えた。当然だ。俺はこのメールアドレスを見たことがあるんだからな。
 あの土手でこのメールアドレスを教えてもらえて喜んだ分だけ、その体験が容赦なく俺に現実の
重みを伝えてくる。
 俺は僅かに”そうでない”ことを祈りながら、携帯電話に映し出されているメールアドレスと、
別の手に持っているメモに記されているそれとを見比べる。そして俺の願いは儚く崩れ去る。
 二つのアドレスは、一方は冷たく機械的なのに対しもう片方は見ているだけで微笑ましくなって
くるような愛らしい丸びを帯びた文字であるという違いを除いて、一文字も違うことはなかった。
 愛しき佑子さんのアドレスと悪戯一歩手前の迷惑メールもどきを俺の携帯に送りつけてきた主の
アドレスが同じということが示す事実は一つ―このメールの送信者が佑子さんだということだ。
 こうも回りくどい道筋でこの結論を導き出したのは、俺が無意識の内に現実を受け入れることを
拒んでいたからなんだろう。素直にすぐに送信者の欄を見ればいいものを。自分でも呆れる。
 何で佑子さんが俺のメールアドレスを知っているのだとか、俺への呼称が”くん”から”さん”
になっていたりと不可解な点はあるが、それでも佑子さんが俺にメールを送ってきたという事実が
揺らぐことはない。
 意味もなく暴れたい衝動を何とか抑え俺はもう一度佑子さんからのメールに視線を向ける。
 理由はわからないが切羽詰った状況だということは一目瞭然。「ごめんなさい」を四回も書いて
いる辺りから推測するに、情緒不安定でもあるようだ。俺は謝られるようなことはしていないし。
 そのことについては直接佑子さんに訊くとして、今注目すべきは「私土手で待ってますから」と
いう一言だ。佑子さんの置かれている具体的な状態は俺には計り知れないが、とりあえずあの土手
にいるということだけは確定事項なようだ。助けてくれといった内容は書かれていないから危機的
状況だという訳ではないことだけが安心の拠り所だ。
 携帯を閉じメモと一緒に乱暴に鞄の中に押し込めるとそれを肩に掛ける。よし出発準備完了。
 とりあえずは佑子さんとコンタクトを取れないと話が見えてこない。まさか佑子さんがこの俺に
『実はドッキリでした』と言いたいが為にこんなメールを送りつけてきたとは到底思えないし思い
たくもない。仮に本当にこの二日間の佑子さんとの体験が全て仕組まれていたものだとしたら、俺
はその場で笑った後、家に戻って自室で枕を三つほど涙で濡らしてやる。そして一生女性不信症者
として余生を過ごしてやるさ。
 たとえ佑子さんが相手からの想いを面白がるような人だったとしてもだ、それでも許せてしまう
ほど俺は彼女のことを好きになっちまってるようだからな。
 行く末わからぬ決意を抱きつつ、俺は店を出ようとする―ところで思い出した。
「仲川……どこ行く気なの? ねぇ?」
 朝は悪戯っぽく笑い、昼は俺に怒鳴られて地に足が着いていないかの如く不安定に視線を泳がせ
て、一度俺が謝るとまた笑顔が復活して、そうかと思ったら今度は露骨なまでな作り笑いを浮かべ
て、意味不明なことを真剣染みて言った後俺にコーヒーぶっかけるとまた恐いほど悲しそうに瞳を
震わせ、挙句の果てには近寄り難い雰囲気を醸し出しながら目を見開かせつつ俺の携帯を弄る―
そんな風に表情がコロコロ変わる、佐藤早苗が目の前にいることを。

208:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:35:14 RiFlkXMF
「まだ話は終わってないのよ? ねぇ?」
 スカートの裾を掴みながら俺に視線を向けてくる佐藤早苗の今の表情は、言動こそ強気だが非常
に不安定なものだ。自身に滞在する不安や恐怖を強気で隠しているような感じだ。
 今日で随分とこいつの表情を見たなと思いつつ、俺は佐藤早苗から視線を逸らす。
「佑子さんとこ」
 短く簡潔な言葉を投げやりにぶつけてやる。これだけ言えば伝わるだろという無言のメッセージ
を乗せながら。
 素っ気無い態度で接っしてしまうのは佑子さんからのメールを見て早く行かねばと焦りが生じて
いるというのもあるが、本音を言えば佐藤早苗に対し怒りを感じているからというのが最大の理由
だ。自己正当化という面を含めても俺が激しい憤りに駆られるのは仕方のないことだと思う。別に
義理チョコのことに関してはもう何も感じていない……と言えば嘘になるが、少なくとも憎しみの
業火が燃えているとかいったことはない。佐藤早苗にチョコについて確認をしなかった俺にも非が
あったと今なら思える。ちなみにこれは佑子さんの件については全く当てはまらない。佑子さんが
好きだった男は愛しの彼女にキスした上に、『キスくらいで勘違いするな』とかどこぞのインチキ
占い師も裸足で逃げ出すような妄言を吐いたらしいからな。是非ともその男に一度会ってみたい。
勿論有無を言わさずそいつの顔面の形を趣味の悪いものになるまで叩っ壊す為にな。
 それはまた別の機会にするとして、今の問題要素は寒くもない喫茶店内で何故か震えている目の
前にいる佐藤早苗だ。こいつは俺が土手で佑子さんへの想いを教えてやってから色々と挙動が露骨
に不審なものになっている。作り笑いを取り繕ったと思ったら、次は執拗に佑子さんとの付き合い
を止めさせようとして、挙句の果てには俺の携帯を勝手に弄りだしやがった。しかも佑子さんから
貰ったメールアドレスを着信拒否設定にしようとしやがるなんて……!
 ―つまり、それが俺がさっきから佐藤早苗と目を合わせようとしない理由だ。
 多分今の俺は結構酷い顔をしていると思う。逸る気持ちと心底に沸々と煮滾っている怒りを抑え
込む為に、かなり表情が歪んでいるのではないかと。そんな醜い顔を見られたくないし、それに何
より―もし佐藤早苗と目を合わせたら俺はまた最低な行為をしてしまうかもしれない。それが、
一番恐かった。佐藤早苗を佑子さんとの距離を錯覚させる為の目晦ましに利用してしまったことを
散々悔いて謝ったばかりなのに、また彼女を傷付けてしまうのではないかと自分自身に疑心暗鬼に
なってしまっているのだ。今の俺はそれを自覚できるほど情緒不安定だ。何をするかわからない。
「俺が金持つから、今日はこれで」
 明日友達に自慢しようと意気込んでいたはずの代金払いだって暗澹たる心持のまま、乱暴に机の
上に数枚の硬貨を置くだけになってしまった。
 物事が上手く進まないことが更に俺の中に焦燥感を生むのを感じつつ、それらを振り払うように
駆け出そうとする―がしかし。
「待って」
 腕に温かみを感じたと同時に、急激に体の重みが増した気がした。何事かと振り向いてみると、
佐藤早苗が俺の腕に自分の両腕を絡めていた。いつもなら赤面もののラッキーイベントなのだが、
足が勝手に歩き出しそうなほど急いでいる今では煩わしくしか感じられない。それに、正直言うと
今俺のことを見上げてくる佐藤早苗の視線が鬱陶しい。俺がそう感じたのは佐藤早苗のその媚びる
ような瞳が佑子さんにそっくりに見えてしまったからだ。
 ―佐藤早苗、お前が佑子さんと同じような目線を俺にくれてくんじゃねぇ。
 すぐに餌を逃がすまいとする大蛇のように気持ち悪く絡み付いてくる佐藤早苗の腕を振り払って
やりたい衝動を理性でどうにか抑え込み、なるべく穏やかな口調で言う。
「佐藤、急いでるんだ。離してくれ」
「嫌よ……。あたしの話聞いた後でもいいじゃない……」
「話ってのは、佑子さんと俺は付き合わないほうがいいってのだろ? 耳に蛸ができそうなくらい
聞いたよ。この際だから言っておくが、俺が佑子さんを好きだって気持ちは変わらねぇ」
 徐々に荒くなりかけてきた声に沈静化を図りつつ腕を動かそうとするが、その細い腕からは想像
もつかないほどの力で俺の腕を掴んでくる佐藤早苗を前にしてそれは無駄に終わった。
 そのあまりのしつこさに、そろそろ限界を感じる。
「離せ」
「嫌……! だって、離したら仲川は”あの女”のとこへ行くんでしょ!?」
「当たり前だろうがっ!!」
 そして心の箍は音を立てて外れた。

209:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:36:18 RiFlkXMF
 さっきまでの心の葛藤が嘘のように、俺は何の躊躇いもなく佐藤早苗の腕を乱暴に振り払う。
「きゃっ!」
 小さな悲鳴を上げた佐藤早苗は俺が振り払ってやった方向に抵抗の余地も示さずに、まるで何か
紐のようなもので引っ張られるように床に吸い込まれていった。その悲鳴とは対照的に佐藤早苗は
派手な音を立てながら床に尻餅を着いた。痛そうに尻を押さえている佐藤早苗を一瞥しつつ、俺は
振り払った時に感じた佐藤早苗の体の軽さに驚きを隠せなかった。俺の腕を”藁にも縋る思い”と
いう言葉がぴったりなほど強く離すまいとしていたあの腕の力が偽りだったのではないかと疑って
しまうくらい軽かった。その壊れ物のような脆さを感じた時俺は佐藤早苗の『女』を再認識した。
 思わず佐藤早苗を振り払ってしまった腕を見つめる。俺はこの腕で乱暴を働いてしまったのだ。
あんなに弱々しい『女』の面を持った佐藤早苗を、『男』の俺が傷付けてしまったのだ。佐藤早苗
に対して申し訳ないという気持ちは欠片も感じていないが、我を失って女の子を傷付けてしまった
ことは男として恥ずかしい。いや、恥ずべきことだ。
 俺が羞恥心から戸惑って立ち尽くしている中、佐藤早苗は腰を上げないまま俺を見つめてくる。
その視線に現実に引き戻された俺は、一瞬佐藤早苗を流し見た後交錯させまいと再び視線を逸らし
両の拳を握力測定でもするかのように強く握り締める。
「佑子さんのことを”あの女”だなんて呼ぶんじゃねぇ! お前は佑子さんのことを知らねぇから
うだうだ言えるんだ! 佑子さんは綺麗で律儀で笑顔が素敵でっ、そんで優しいんだよ。お前とは
違って優しいんだよっ!!」
 佐藤早苗は本当に佑子さんのことを知らないんだからこんなこと言ったって理解してもらえる訳
ないとわかっていても叫ばずにはいられなかった。いや、知らないからこそ俺は腹の底から大声を
張り上げているのだ。佐藤早苗は佑子さんのことを何一つ知らない。濁りなどどこにもない黒い瞳
は一日中見ていても飽きないだろうとか、長く垂れている黒髪から漂うシャンプーの匂いは鼻腔を
刺激し思考回路を鈍らせるほど甘いだとか、小さい両肩は握り潰せてしまいそうなほど柔らかいだ
とか、―笑った顔は可愛いだとか、何も知らないんだ。
 ―なのに、佑子さんのことを悪く言うんじゃねぇ。
「他人のチョコは平気で蹴り飛ばし、俺の携帯も当たり前のように使って、見知らぬ相手に陰口を
叩くようなお前なんかがっ! 佑子さんのことを悪く言うんじゃねぇー!!」
 俺の激昂の怒声と共に、胸の中の靄が全部吐き出された。今まで溜め込んでいた、我慢していた
ものが全て漏れてしまった。幾ら好きな相手を侮辱されたからといって、短絡的過ぎる。
 荒い息を何とか落ち着かせようとしながら、徐々に冷静になっていく思考を前提に、佐藤早苗を
もう一度だけ見る。
「あっ、ちがっ……なかが……わ……」
 佐藤早苗は瞳を小刻みに震わしながら、尚俺へ向ける視線をそのままに、呻きに近い声を上げて
いた。その様は迷子になった子供のようだ。目線だけを俺に固定し、両手が何かを手探りするかの
ように動いている。そのあまりの動揺ぶりに、さすがの俺でも少々罪悪感を覚えてしまう。だが、
悪いのは佐藤早苗だ。こいつは佑子さんを馬鹿にしたんだ。ここで場の空気に流されて謝罪したり
したら、佐藤早苗の為にもならないし、それに佑子さんを裏切ったような気分になる。
 ―下らない同情は、相手の傷を抉るだけだ。
 そう自分に言い聞かせながら、俺は佐藤早苗を尻目に走り出す。今すべきことはこんなことでは
ない。こんなところで佐藤早苗なんかと時間を割いている暇はなかったんだ。
 今佑子さんが一体どんな表情をしているのかを考えながら、俺は自動ドアに近付く。そこで俺は
ようやくここが喫茶店内だったことを思い出した。佐藤早苗と俺の口論―というか俺の一方的な
罵声だが―は当たり前のように周りの客や店員に筒抜けだっただろうな。
 急に気恥ずかしくなり、俺は慌てて開いた自動ドアに身を滑らす。
「仲川! 仲川! な、なか、がわぁ……」
 佐藤早苗の嗚咽が耳にこべりついてしまったが、聞かなかったことにして俺は走る。
 今はただ佑子さんのことが心配だ。メールを送れるんだから、最悪の想像はしなくても良さそう
だが、それでも何かあったら俺は自分を許せないだろう。
「無事でいてくれ」
 佑子さんにでも、俺自身にでもなく、ただ誰に向けたものでもない呟き声が激しく行き来してる
自動車の機械音の喧騒でかき消された。


210:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:37:17 RiFlkXMF

 傾きかけてきた太陽が橙色に染め上げている砂利道をひたすら突き進む。わざと爪先から地面を
捉えて更に足を後ろに思い切り流しているのは、それによって生じる砂利が擦れる音を耳に響かせ
『雑念』を振り払おうとしているからだ。それが単なる逃避に過ぎないとわかっていても、それが
不誠実なことだとしても、今優先すべきは佑子さんの下へ行くことだけだ。他はどうでもいい。
 その間だけでいいから、何の蟠りも抜きにして一つの目的に執着させて下さいと祈りながら、俺
はさっきまでの佐藤早苗とのやり取りを思い返し、本日四度目の自己嫌悪を覚える。一日にそんな
に感じていたんじゃ一回の自己嫌悪が秘める反省の意の重みが薄れてしまうなとは思いつつも、今
さっきの行動を省みなかったら最低男確定だという自覚の下、心中で佐藤早苗に謝る。

 俺は危惧していた通り、また佐藤早苗を”利用する”ことで傷付けてしまった。こうも同じ過ち
を何度も繰り返していると、俺が今まで佐藤早苗に対して感じていた罪悪感というのは全て、反省
している自分に陶酔する為の手段なんじゃないかという最悪の考えすら浮かんでしまう。だって、
子供だって一度叱られたら悔いて同じ間違いをしまいと努力するだろう。しかも俺は既に高校生で
あり、更に言えば佐藤早苗と佑子さんの二人合わせて三度も彼女らを利用するという非行を犯して
いる。だからこそ反省すべき機会はこんなにもあった。なのに、―その時は反省した気でいたが
―、結果として俺はまた佐藤早苗を傷付けてしまった。
 確かに佐藤早苗の行動は許せないものだ。然程親しくもない相手にいきなりプライバシーの宝庫
である携帯を弄られちゃ堪ったものじゃない。そのことについては良かった。だが、俺はそのこと
以外にも別のことで怒っていた。俺が佐藤早苗に言った言葉は何だった?

 ―『佑子さんのことを”あの女”だなんて呼ぶんじゃねぇ!』

 その後怒涛の罵声で佐藤早苗を震え上がらせてしまった。それも一見悪いことのようにはとても
見えなかった。自分が好きだと伝えているはずの人物を冒涜されるのは単純に嫌だからな。勿論、
俺は佐藤早苗が然るべき報いを受けていると言い訳染みたことで自分を納得させ店を出た。だが、
もう少しで春とは思えないほど冷え切っていた空気が思考を瞬間冷却させた時気付いてしまった。
冷静になった頭が見たくもない自身の醜い部分を態々と見せ付けてきた。

 俺の佐藤早苗に対する怒りの目的は佑子さんのことをわかりきっていると思いたかったからだ。

 つまり多少は佑子さんを労わる気持ちもあったが、本音ではただ佑子さんのこと全部を知った気
でいたかっただけなのだ。俺が佐藤早苗に”佑子さんのいいところ”を言ったのは、俺は佑子さん
のことをこれだけ知っていると主張したかった子供染みた幼さ故なんだ。
 そしてその過ちの引き金となったのは、俺の奥底で心を震わすほど叫んでいる不安だ。
 ―俺は佑子さんのことを全然知らない。
 当然のことと言えばそれで片付く。俺と佑子さんは会ってまだ二日なんだし、お互いに知らない
ことがあるのは当たり前だ。これから知っていけばいい。
 だが俺は待てなかった。正直焦っていた。佐藤早苗とのバレンタインからホワイトデーまでの例
の一件で、俺はかなり女性不審に陥っていた。佑子さんを信用してないという訳ではないのだが、
どうしても確信が欲しかったんだ。俺と佑子さんは”どこかで”繋がっているはずという確信を。
 だから、その為に佐藤早苗を利用したんだ。佑子さんのことを”何一つ知らない”佐藤早苗と、
”少しは知っている”俺―、その二つを天秤に掛けることで安心を得ようとしていたんだ。二つ
を比較すれば五十歩百歩と言えども俺の方が優勢であることはわかる。そんな虚しい自己満足だけ
では飽き足らず、更に俺はその天秤の傾きを強制的に大きくする為に佐藤早苗に怒声を浴びせた。
今佐藤早苗に怒っているのは、”何一つ知らない”佐藤早苗に”佑子さんのことを全て知ってる”
俺が教えてやらなければならないからなんだ、と真実を暈す為に。
 佐藤早苗への説得の意も、佑子さんへの労わりも、そんなものはどうでもよくて俺は自分がして
いることへの正当性が欲しかっただけだったんだ。自分は他者に説明できるほど佑子さんのことを
知っているんだとアピールすることによる満足感と、それを言い聞かせることで得られるであろう
安心感欲しさ故に。
 誰か、こんな愚かで馬鹿でクズな俺を叱ってくれ。それで変われるなら喜んで受けるから……。

211:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:38:32 RiFlkXMF


 風は吹いていない。こんな時こそあの煩わしい音で何も考えられないようにして欲しいのにだ。
それをあたかも俺に対して自省を求めているかのように感じるのは、少々自意識過剰かな。
 一瞬、”今俺が思っている反省も結局は自分の為なのではないか”という恐ろしい考えが過った
のと同時に、俺は足を止めた。
 心臓が今にも飛び出しそうなほど体内で暴れ回っているのは、さっきまでの全力疾走だけが全て
の要因じゃないだろう。頼んでもいないのに勝手に呼吸する両肩を放っておき、俺は視界に捉えた
人物の背中を一心に凝視する。スカートが汚れることを厭わずに土手に座り込んでいる後姿を見て
俺が既視感を覚えたのは言うまでもない。奇しくも昨日とほとんど変わらない場所で、しかし昨日
とは違い俺と会う為に待っている人影を見下ろしながら、俺はとりあえずの安堵に息をつく。
 予想通り―というか期待通り無事でいてくれたことに心底でホッとしつつ、人気のまるでない
土手の真ん中で存在感をこれでもかというくらい見せ付けている小さい体に向かって叫ぶ。
「佑子さーん!!」
 俺の声が土手に二、三度反響した後、座り込んでいた佑子さんは居心地の悪い沈黙の中で静かに
首だけをこちらに向けてきた。そのスローモーションに等しい動きは、襖の奥を見ないで下さいと
念押しされたにも拘らず好奇心に負け「ちょっとだけ」と言い聞かせながらその先に何があるのか
知る由もなくそっと障子に手を掛けた、『鶴の恩返し』のあのおじさんの様をイメージとして彷彿
させた。
 遠くからだからはっきりとはわからないがとりあえず佑子さんと目が合っていることだけは確認
する。続いて俺の存在にようやく気付いたらしい佑子さんが神速の域に達しそうなスピードで立ち
上がる。それに驚きつつ、引き続いて目を凝らす。
 しばらくそのまま”見ている”ことだけの認識で目を合わせ続ける。佑子さんが一体どんな表情
で、そしてどんな胸中で俺のことを見ているのかを考えると不安が心中に一気に広がっていくのが
わかる。佑子さんが無事でいるということは、あの意味不明なメールを佑子さんは何者かに強制的
に送らされたんじゃなくて自発的に送ってきたということだ。だから恐いんだ。少なくとも、今の
佑子さんの挙動を見る度別段不審な点は見受けられない。とてもあんな非常識なものを送りつけて
くるような人には見えない。決して知ったかなんかじゃなく、そんなことはわかっている。問題は
今は落ち着いている佑子さんがメールを送ってきた時どんな状態だったかということだ。あれだけ
のものを常識的な思考を持ち合わせているはずの佑子さんが作ってしまうということは、それだけ
の理由が何か存在するはずなのだ。その”何か”はきっと大きいものだと思う。それを知って俺は
受け止めることができるのあろうか? それだけの覚悟があるのだろうか?
 立ち尽くしたまま考えること数秒、俺は余計な推測を全て打ち切ることにした。そもそもこの場
に来たのは、その『理由』を訊く為に佑子さんと話したかったからだ。もっと言えば、佑子さんが
来てくれと言ってきたからだ。ならば俺の胸の漂うモヤモヤを吹き払う為にすべき手段は、焼け石
に水な推測ではなく、佑子さんに直接質問することだ。確かに、佑子さんに異変が起こったことに
対して相当な理由があるのは事実だ。だがその理由は俺がどう足掻いたってわかることではない。
わからないことにビビっていたってしょうがない。わからないから恐いというのもあるが、そんな
ことに臆していて、何故佑子さんを好きだと言えるのだろうか?
 佑子さんを好きだというなら、彼女の奇行の引き金となった”何か”を排除するのが愛への証明
になるはずだ。その為にはまず知らなければならない。そして知ってからその後は考えればいい。
もしそれを知って尚佑子さんを好きでい続けるなら良し。その”何か”に恐怖し、そこから逃げる
為に愛想を尽かしてしまうというなら、それは俺の佑子さんへの愛情がその程度だったということ
だ。後悔しようが仕方ない。要は、”せずに後悔するより、して後悔しろ”、だ。
 決心を固めると、さっきまで縛られている時のガリバーの気分を存分に味わっていた足が、嘘の
ように軽くなる。今なら行けると波に乗った俺は、急な坂を転びそうなほどの速さで下っていき、
再び平坦な地面に足を降ろしたことを確認して、懸念事項だった佑子さんの表情を伺う為に視線を
上げる。
「こんにちは」
 佑子さんは笑顔で言った。その様子は、”あの時”の佐藤早苗にそっくりだった。

212:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:39:22 RiFlkXMF
 俺が佑子さんを好きだということを今いるこの土手で伝えた時に、佐藤早苗が作為感漂う笑い声
を発した、正にあの時に似通っていた。だって、佑子さんが俺に向けてくる笑顔は”ぎこちなさ”
という点で言えば、あの時の佐藤早苗の笑い声を遥かに凌駕していたから。パズルが一ピースだけ
足りないからといって他のパズルのピースをその空いた空間に埋め込んだ時の不自然さ、というと
わかり辛く聞こえるがそんな感じだ。本当の顔を笑顔で塗り潰していると露骨に感じられる。
 姉の髪型がロングからショートに変わった時に言われるまで気付かなかった鈍感な俺ですから、
手に取るようにわかってしまうその異様さに思わず息を呑みながら、佑子さんとの距離を埋める為
に一歩近付く。
 そしてそれと同時に、佑子さんが俺のより短い歩幅で一歩後ずさりした。
「佑子さん?」
 何かの間違いかと思い訊いてみるが、佑子さんは「はは」とお茶を濁す時専用の作り笑いで俺の
発言を流そうとしてくる。何の冗談かと言いたくなるのを堪え、もう一歩踏み出す。当然のように
佑子さんはまた一歩後ろに下がる。真意の読めないその行動に、俺は寂しくなる。
 今の俺と佑子さんの心の遠隔を表すかのように伸びている十歩ほどの距離が、どうしようもなく
胸に突き刺さる。”俺が佑子さんの全てを知っているという訳ではない”という受け入れ難いほど
重い現実がそこにはあるのだから。だが、そこから逃避してはいけない。その為にさっき佐藤早苗
を傷付けてしまったことを忘れるな。利己的な欲望で他人を傷付けて、その後”自己満足の為の”
自己嫌悪に陥るなんていう負の無限ループを辿るのはもう御免だ。少しは自分が傷付く覚悟で行動
しなければならない。それが”本当の意味での”贖罪に当たるのは明白だからな。
 ―佑子さんの全てを俺は知らないから、これから知っていこう。
 そう言い聞かせ、その為に罠があることがわかっているダンジョンに乗り込むような面持ちで俺
はもう一歩近付く。遅れて佑子さんが一歩下がる。改めてその事実を目で再確認した後、ようやく
俺は初めて傷付くかもしれないことを覚悟した上で訊ねる。
「何で逃げるんですか?」
 ビクリと肩を震わした後、佑子さんはさっきまでの笑顔のまま両手を振る。
「に、逃げてる訳じゃないんですよ。ただ……」
 口篭ったと同時に佑子さんは俯いた。胸が裂けん想いだったが、ここで堪えられなければ今まで
の決意がやはり”自己満足の為の”産物だと認めてしまう。それの方がよっぽど耐えられないね。
強がりだとわかっていても関係ない。俺が佑子さんを好きだという気持ちを否定されることだけは
何があっても避けなければならない。
 佐藤早苗は、「会って二日なのにおかしい」と言っていた。確かにそうなのかもしれない。一目
惚れが大抵途中で冷めてしまうのは一瞬の緊張を恋愛感情だと取り違えてしまうから。それと同じ
で、俺も自分の『痛み』を理解してくれる佑子さんという『存在』の登場に驚いて妄信的にそれに
甘えているのかもしれない。それを恋心と間違えていているだけであって、しばらくしたら今まで
どうして好きだったのか思い出せないほど冷めてしまうのかもしれない。
 だが、『今』俺は佑子さんを好きだということは『確信』を以って宣言できる。なら、『確信』
のない不安定な未来の機嫌伺いをしながら行動するだなんてのはただの杞憂だ。
 俺は一体いつから、こんな出世だけを考えているゴマ擦り会社員のようになってしまったのかと
呆れながら、もう一歩近付く。しかし、今度は佑子さんは動かなかった。代わりに佑子さんは、
「あ……あれ?」
 自分の眼を拭った指に付着している涙を見て心底驚いている素振りを見せてきた。
 俺が”佑子さんが泣いている”と理解したのと同タイミングで佑子さんの口から嗚咽が漏れた。
「え!?」
 その姿に狼狽してしまう。そんな俺をよそに、佑子さんは途切れ途切れに発せられている嗚咽を
押さえようと手で口を覆う。そうするとさっきまで濡れていた瞳から堰を切ったように涙が零れて
くる。それを拭おうとすると震える唇から声が漏れてしまう。
「あっ、あっ、止まっ、てく……どうし、て、あっ……」
 信じられないと主張するかの如く見開かれた瞳をしきりに瞬かせながら、今度は片方の手でそれ
ぞれを押さえる。安定したかに見えたがどんなに押さえても震える体だけは誤魔化せず、佑子さん
は手で口と眼を隠したまま、膝を折り畳んでしまった。
「なっ! 仲川さん、これはち、違うんです! ご、ごめんなさい……!」

213:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:40:20 RiFlkXMF
「どうしたんですか!?」
 やっとの思いで声を搾り出す。佑子さんの異変ぶりを『目』で目の当たりにし、その衝撃に半ば
放心状態だった意識を無理矢理連れ戻したことで、余計に現実を直視してしまう。
 「ごめんなさい」だけをうわ言のように繰り返す佑子さんを見て、あのメールの送り主がやはり
彼女だったということを確認しつつ一歩近付く。佑子さんは動かない。
 距離を詰めながら、今までなら自分の中で思案するだけに終わっていた疑問を素直に訊く。
「佑子さん……何で謝るんですか? 俺、何かしました?」
「ごめんなさい! 嬉しくてつい……。泣いたら鬱陶しいですよね!? す、すぐに止めます!」
 俺の質問も聞こえていない様子の佑子さんは片手で口を押さえるのを既に止めて、消え入りそう
な嗚咽を溢しながら両手で目を擦っている。目隠しされた状態で道を歩く時壁を闇雲に手探りする
ように顔の近くで両手を右往左往させている佑子さんの様子ははっきり言って異状だったが、耐性
が付いたようでもう動揺することはなかった。とにかく今は、下手したらそのまま目を抉りそうな
勢いで愛らしい瞳を弄っている佑子さんをどうにかしなければならない。
 一度決めるとブレーキの壊れた車の如く体は止まることなく真っ直ぐ佑子さんに向かって進む。
さっきまで果てしないほど遠くに見えた”近くて遠い”距離を一瞬で埋めて、俺のことすら眼中に
入っていない佑子さんの両手を掴む。その呆気なさに拍子抜けしつつ佑子さんの瞳を捉える。
「謝らないで下さいっ!」
 相手の目を見て話すという会話の基本を一方的にこなした上ではっきとした口調で告げる。佑子
さんが謝るのには絶対に理由があるのはわかり切っている。二日間佑子さんを見た記憶と、今俺の
前で涙を流し続けている佑子さんの様子がそれを物語っている。だけど俺はその理由を知らない。
理由も知らずに謝罪を繰り返されても戸惑うしかない。だからまずそれを知らなければならない。
たとえ知った後後悔するようなものだったとしても、俺はそれを知る為にここに来たんだ。
 佑子さんの両手を話した後、今日の放課後触れてしまったことを恥ずかしく思ってしまった肩を
躊躇なく強く掴む。その肩は柔らかかった。『女』を感じさせる温かみと弾力が掌に伝わる。それ
は佐藤早苗の細々とした腕の感触にそっくりだった。
 自らの過去の愚行を真摯に受け止めつつ更に言葉を紡ぐ。
「俺には心当たりが全くないけど……何で、どうして佑子さんは謝るんですか? この俺に?」
 肩を僅かにだけ引き寄せながら、佑子さんの耳から直接脳に叩き込むようにじっくりと言った。
 今度こそちゃんと俺の言ったことを理解してくれたようで、まだ涙の雫で濡れている瞳を静かに
向けてきた。その目は何か言いたげな感じで、表情も狐に抓まれたようにポカンとしている。その
様子を見て数秒、俺はその理由の片鱗に少しだけ触れた気がした。
 同時に押さえ込んでいた不安がぶり返してきた。嫌な想像が頭を駆け巡り、佑子さんの肩を未だ
に掴んでいる両手の掌から気持ち悪い汗が噴出すのを感じる。
 視線が交わるだけの沈黙が余計に最悪な想像を刺激し体が固まる。
 息遣いが聞こえてくるほどの距離にある佑子さんの小顔にドキドキしている余裕もないくらいに
俺の心が荒れている中、佑子さんは危うく聞き流しそうなほどの小声で言った。
「だって、”仲川さんが”……」
 その発言を俺はすぐに受け入れることはできなかった。
 瞬時に逃避経路を確保しようとする自分を必死に叱咤した後、改めてその発言の真意を探って、
そして項垂れかける。本当なら今この場で何度も地面に頭を打ち付けたい気分だ。
 佑子さんは確かに言った、”俺の名前”を。ということは佑子さんが俺に謝る理由として、少な
からず”俺が”関係していることは明白だ。

 ―それはつまり、佑子さんの今までの不可解な行動は全て”俺が”原因だということだ。

 佑子さんが、あんなメールを送ったのも笑顔の仮面を貼り付かせていたのも突然泣き出したのも
急に”さん”付けでよそよそしくなったのも―全部俺のせいだったのか。
 いや、薄々は気付いていたさ。佑子さんは俺に謝るのを当然だと思っているが俺にその心当たり
はない。それは佑子さんが”俺に絡むことで”何か勘違いしていることの何より証明じゃないか。
気付かなかった……いや、気付かないフリをしていただけだな。自分のせいで好きな人を泣かして
しまっているだなんてことは誰だって信じたくない。俺は結局また逃げてたのか……。
 でも―。


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch