07/05/25 13:43:13 5hmBF/SN
>>379
俺は続きを待ってるぜ
401:名無しさん@ピンキー
07/05/25 16:42:35 4HjK7+A0
>>399
離婚がいい。母子を無難に成立させるにはお互いに最初から愛がない状態が好ましい。
ただ、母が子を優先するために父を殺したらビッチっぽくなるし、キモイ男は普通にキモイ。
402:名無しさん@ピンキー
07/05/25 17:15:19 ny+zr702
>>395
大体そういうSSでは、家族に1人だけまともな人間がいて、そこから修羅場が始ま
403:名無しさん@ピンキー
07/05/25 19:39:19 h4I0o5QY
ぶらっでぃ☆まりぃマダー?
404:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:39:08 S4s3o/uz
一月以上前に一話だけ投下したSSの続き行きます。
読んで頂ける方はお手数ですが前スレ>>165>>166か、保管庫で確認の上でお願い致します。
嫉妬は全然まだ、何日かおきに書いたりしてるので文がおかしいかもしれません。
では投下します
405:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:40:46 S4s3o/uz
「じゃあ、行って来るよ」
「うん・・・・・・行ってらっしゃい、兄様」
朝食の後に一通りの身支度を済ませ、住まいを出る。
2人で暮らすには少し広い家。家族でもない、血縁さえない僕と夜宵ちゃんが共同生活を送る場所。
そこを、家庭と呼ぶべきかは微妙なところだけど。
僕は彼女に送られながら、その場を後にした。
今日も今日とて労働に勤しむために。
普通の感覚で言えば奇妙なことなのだろうが、隔離都市においては犯罪者たる住人でも就職が出来る。
と言うより、そもそも隔離都市に収容された犯罪者には服役や懲役なんてものはなく、
原則として都市外への外出以外は禁止されていない。
無論、それ以外の何をしても許されるわけではないが、それ以外のことなら大抵は自由。
惰眠に沈もうが、美食に明け暮れようが、セックスに耽ろうが、ドラッグに溺れようが、殺戮に狂おうが、
およそあらゆる欲求に焦がれ、どんな快楽に酔おうが、自由。
むしろ管理者側もそれを推奨している。
そうしてくれた方が、彼等にとっても都合がいいのだから。
箱庭の維持のために。
隔離都市。
ここでは一切の倫理は唾棄されるためにあり、合切の条理は放棄されるためにある。
逸するための常軌であり、失うからこその正気。
無理を通すために道理が押し退けられ、合法によって無法が成り立ち、無法と言う法に従って日々、
朝昼夜の区別無く、老若男女の差別無く、常人奇人の侮蔑無く、のべつ幕無しに狂気を醸造し続ける内燃機関。
ここには確かに犯罪者がいるにも関わらず、しかし罪は成立しえない。
躊躇いも情け容赦も選別も手落ちもなく、徹頭徹尾、1から10まで、完全無欠に、
あらゆる狂気を内包し、全ての異常を抱擁し、遍く異質を許容し、考え得る限りの異端を受容する、
狂おしい程の打算と計略と試行と錯誤と決断と流血の下に打ち建てられた鉄の庭。
それが、それこそが、それだけが隔離都市であり、
それだけに、それだけで、それだけを隔離都市は法とする。
故に、僕には労働の自由が許されており、勤労に励むことが出来るのだが。暮しのためにも。
B地区第183住居。それが僕と夜宵ちゃんの住まいである。
このB地区に住む、より正確に言えばB地区の住居を購入するのも楽ではない。
隔離都市は内部を管理するための機関などが集中する中央区から始まり、
政府から送られてきた管理者達や隔離都市に名だたる『十席』とその側近など一部の特権階級しか住めないA地区、
管理者側に比較的友好的な態度を示す者達が居住を許されるB地区、
比較的問題のない者達が住むC地区、
管理者達にとって余り好ましくない者達を集めたD地区、
そして更に正式ではないが内部から弾かれた弱者が行き着く隔離都市を囲む壁際のE地区、
と中心から外へ向かって円状に広がって行くという構造を取っている。
中心に向かうほど地区の直径が狭まることから分かる通り、中心との距離がそのまま権力や住み易さの表れだ。
僕は以前はC地区の住人だったのだが、夜宵ちゃんと出会ってからは色々頑張った甲斐もあってB地区に住むことになった。
詰まりはそれだけ管理者側に尻尾を振ったということであり、
だから、知らないうちに何処かで恨みを買っていたりもする。
「テメェかあ、アニキを殺ったのは」
嫌な予感、もとい予想はしていた。
通勤途中にまだ人通りも少ない通りの路地裏から視線を感じたし、そう言えば最近は召集をかけられることも多かったからだ。
妬み恨みは世の常、誰かの幸福は誰かの不幸が支えている。
なら、そこそこ幸せな生活を送っている僕がそこそこ他人の恨みを買うのも必然なのだろう。
406:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:41:59 S4s3o/uz
「ああコイツだ、間違いねぇ。オレは見たぜ。アニキを殺ったのはコイツだ」
「そうかそうか・・・コイツがアニキをなぁ」
「許せねぇ! さっさと殺っちまおうぜっ!」
今僕がいるのはA地区とB地区の境界線付近、特に人通りが少ない路地である。
目の前にはチンピラ風の人物が3人、横に並んで僕を睨んでいた。
前時代的な髪型を始めとする随分気合の入ったファッションに、
全身を飾っているんだか飾られているんだか分からないジャラジャラした指輪だのチェーンだのピアスだの、柄も頭も悪そうなナリだ。
皆揃って同じ様な個性を追求することで逆に無個性に陥ってしまうということをしがちな、
まあ思春期とか第二次性長期あたりで脳と精神の発達を止めてしまった人達なのだろう。
まして犯罪者の巣窟たる隔離都市においては没個性も甚だしい。
で、そんな3人組が揃って殺気立っており、どうみても通行人に朝の挨拶という風には見えない。
これで朝の挨拶だというなら、随分とまあ変わった芸風と言える。
「で・・・僕に何か用かな?」
生憎、そんなことは在り得ないんだけど。
「あぁん? んだテメェ、ふざけてんじゃねぇぞコラァアっ!」
流石にスルーも出来ないので用向きを尋ねると、チンピラA(仮称)が唾を飛ばしながら怒鳴る。
不必要に声量が大きい。両脇の2人、チンピラB(仮称)とチンピラC(仮称)もそうだそうだと続く。
どうも僕から口を開いても無駄な気がしたので相手の喚き立てるに任せてみると、
僕と彼らの間には有するボキャブラリーの方向性に違いがあるようなので解釈に苦労したが、
どうやら次のような次第らしい。
彼らチンピラ3人組みには世話になってる兄貴A(仮称)がいた。
その兄貴Aは面倒見が良く、そして隔離都市のどこか──おそらくD地区だろう──で、とあるグループに所属していた。
そのグループとやらは何か大きなコトを企てていたらしいのだが、それが直前で管理者達に露見してしまい、
僕や仕事仲間に殲滅されてしまったらしい。
その時に兄貴Aを殺したのが僕。故に復讐するは我にあり、ということだそうだ。
正直、困る以前に身に覚えが無い。最近は召集が多いせいで、取り締まる相手の顔なんて一々憶えていられない。
その時に殺そうが拿捕しようが、二度と会わないことに変わりはないのだし。
そもそも、露見したらマズイことを企む方が悪い。
勿論、隔離都市は内部の人間におよそあらゆる自由を保障しており、
無論、欲望のままに生きることを推奨している。
ただし、例外が無いわけではない。先ず隔離都市から外に出ることがそれだ。
内部の人間を隔離するためにあるのだからこれは当然と言える。次に隔離都市から出るための行動・準備を行うこと。
それから管理者やその部下へ危害を加えること、その業務を妨害することなどと続く。
アニキとやらが何を考えていたのかは知らないが、
何もしなくても日々の糧が保証されているのだから無用のリスクを冒す必要などないのに、
ただでさえ犯罪者という身分には過ぎた待遇を受けているのにも関わらず欲をかくからそうなる。自業自得、と言うやつだろう。
だが。
そんな理屈は彼らには通用しないらしい。
「アニキはこんなオレ等にも良くしてくれたんだ。
それを、そんなアニキを殺りやがって・・・テメェも同じ目にあわせねえと気がすまねぇ!
「復讐だ」
「ぶっ殺す!」
407:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:43:14 S4s3o/uz
じりじりと距離を詰めてくる三人の表情には、微かに怒り以外のものも見て取れた。愉悦だ。
相手からすれば状況は三対一。
加えて辺りに人通りはなく、
仮に僕が都合よく通る通行人に助けを求めても隔離都市では見ず知らずの他人を助けるような奇特な犯罪者はいないし、
中央の管理者なりに連絡をしても即座に誰かが駆けつけてくれるわけでもない。
それを分かっていて、甚振る積もりでいるのか。チンピラ三人組は敢えてゆっくり迫ってくる。
予め僕の扱いを三人で決めていたのか、たまたま全員が似たような嗜好なのか、
いずれにせよ、世話になった人物の復讐にかこつけての日頃のストレス発散も目的にあるのは言うまでもないだろう。
彼らの罪状の程が窺える。
「・・・・・・」
とは言え、どうしたものだろうか。
多分、この状況をどうにかするのは難しくない。
ここでの生活で培った感覚が警鐘を鳴らしていないことから、相手の危険度はせいぜいDかE。
仕事の関係で、より危険度の高い人間の相手をしょっちゅうしている身からすれば大した脅威ではない。
殲滅も無力化も難しくは無いだろう。
僕の隔離都市でのスタンスは殺人鬼でも殺人狂でもない。
と同時に、自衛のために力を行使するのを躊躇う程のお人好しでもないのだから。
問題があるとすれば、
揉め事を起こして中央から仕事というか僕への評価を下げられることだが・・・この際仕方が無い。
右手。
住まいを出る時に、1つだけ持ってきた荷物を見る。
長さ1m程の、白い布に包まれたそれ。今、僕が持つ唯一の自衛手段。
その感触を確かめるように、強く握る。
「オラァアアアアアアアアアアッ!」
それに反応したのか、真ん中、チンピラAが最初に目を血走らせながら突っ込んできた。
手には、いつの間にか奇妙に捩れた刃を持つナイフが『出現』している。
これで正当防衛が成立した。
僕は自身の『得物』を覆う布を取り払おうと手を伸ばし──止めた。
代わって、目を見開く。
「ぎゃあああああああっ!?」
赤い色が踊っていた。
眼前で、チンピラAが燃えている。
何の予告も予兆も伏線さえもなく、
唐突に生じた──それこそ発生したとしか言えない──炎が瞬く間に彼を呑み込んで火達磨と化していた。
内包する膨大な熱にゆらゆらと揺れ動く焔は足先から頭頂までを余す所無く覆い尽し、
衣服を肌を肉を髪を眼球を区別無く焼いている。
朝の日の光の明るさにも関わらずより強い輝きで周囲が照らされ、
僅かとはいえ離れていても伝わってくる熱に細められる視界の中で僕同様に驚愕に、
次いで痛苦に歪められた彼の顔が映った。
赤い壁で隔てられた彼の顔は燃え盛る炎の中でぱくぱくと口を開いて何かを訴えようとしているが、
それが叫び声以外のものを伝える前に膝を折り、人形のように崩れ落ちる。
余りに急な展開に着いていけずどこか明瞭でない感覚の中で、それだけは現実的な重い音が響いた。
408:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:44:43 S4s3o/uz
「お、おい・・・」
「け、消せっ! 火を消すんだ!」
数瞬の硬直。
展開についていけないながらも倒れ伏した彼の状態を理解した二人が、衝撃の拘束から解かれて動き出す。
同時に、もう一つ変化があった。
「・・・え?」
僕がそれに気付いたのは、彼等と反対側にいたからだろう。
影が見える。
伏してなお焼かれ続けるチンピラAを覆う炎が辺りを照らす中、
僕と彼の間に黒い水溜りのようなものが生じていた。
染みのようなそれは急速に濃さを増して行く。
だが、さっと視界を巡らせても、前後左右どちらにもあるべき影の発生源らしきものはない。
僕は半ば直感で視線を上げる。
影が降り、炎とは違う赤色が舞った。
人。
大人ではないが、さりとて子供とも言えない程に成長した肢体。
しなやかなそれを曲げて殺した落下の衝撃に従い、左右で結ばれ垂らされた二筋の赤色の髪がふわりと揺れる。
チリン、と澄んだ鈴の音が響いた。
着地の際に猫のように丸められた背中は濃い青のブレザーに覆われ、緑を基調としたスカートが下に続く。
僕の側に露出したうなじは細く、それが彼女の性別を教えてくれた。
「──」
突き立てられた沈黙が場を支配する。
彼女自身は着地による停滞に、
僕を含むその他全員はどこからか飛び込んできた第三者に対する驚きと対応への逡巡でその場に縫い付けられた。
それを破ったのも、また彼女。
「────あっは♪」
早業、と言えるだろう。
曲げられた四肢をそのまま撓みから開放へ、伸縮の逆の動きで五体を弾丸と撃ち出す。
身を低くした駆け出しから刹那で跳躍を果たした体は、髪の色の軌跡を引いてチンピラ達へと迫った。
「う!?」
「お!?」
隔離都市では、一瞬の差が生死を分ける。
仮にも荒事に身が馴染んでいるらしいチンピラ達は一拍遅れて反射的に迎撃の構えを取るが、時既に遅く。
「アンタらは取り敢えず眠ってなさい!」
一閃。
一人は突き刺さるような拳で顎を打ち抜かれ、もう一人は砕くような蹴りで同じ場所を打ち上げられて沈んだ。
音が二つ、倒れた体は三つに増える。
まさに瞬殺。電光の早業だ。
「ふう・・・これでよしっと」
409:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:46:19 S4s3o/uz
それをなした当人はと言えば、
一仕事終えたというようにぱんぱんと手を鳴らしてから僕へと振り向いた。
未だチンピラAを包む炎に照らされ、火照ったような笑顔が向けられる。
ツインテールの髪の色より透明感を増した、勝気そうな朱色の瞳が輝く。
「強いんだね。相変わらず」
「っ・・・当ったり前でしょ! アタシを誰だと思ってんのよ」
褒めた積もりだったが、お気に召さなかったらしい。
一転、さも心外という風に顔を顰められる。
が、まあいいわ、と言う声と共に不機嫌な表情が打ち消された。
「で、アンタはこんな所で何をしてた訳?
久し振りに会えたと思ったらお取り込み中だったみたいだけど、とうとうファンクラブでも出来たのかしら?」
「僕はそんな人間じゃないつもりだし、第一あんな手合いはご免被るよ。
まあ、仕事上の恨み辛みって奴かな」
見え透いた揶揄をかわして要約した事情を伝えると、呆れたような視線で返される。
「はんっ! まあアンタじゃその辺が打倒よね。
ファンクラブにしたって、アンタ変なのばっか惹き付けるみたいだし・・・・・同性には嫌われてるみたいだけど」
視線を転がるチンピラ達に転じて睨みつける。
同時に、注意を引くように、僕に見せ付けるように腕を振るうと燃え上がる炎が消えた。力を解除したらしい。
残滓と言うには強くこびり付いた人肉の焼ける異臭が辺りに漂う。
「さてと」
しかし、彼女は鼻を摘むでもなく涼しい顔をしていた。
そのまま、焼かれていないチンピラの片方にずんずんと歩いていくと。
思い切り──蹴り付ける。
「にしてもコイツらも馬っ鹿よねー?」
蹴る。蹴る。蹴る。
「アンタに手を出して無事に済むとでも思ってたのかしら?
あの人形娘にアタシに鎌女、ざっと並べただけでもこれだけの能力者がアンタの周りにはいるのにね?」
足を踏み付け、腹を爪先で蹴り込み、顔を踏み躙る。
鈍い音。
「おまけに隔離都市治安維持部隊配属の人間に手を出せば、
後顧の憂いを断つ意味でもアンタのチームが同僚が上司が部下が管理者が組織が、
徹底的に徹頭徹尾、底辺までも追い掛けて追い立てて追い付いて追い詰めて、
この素晴らしき犯罪者の巣窟の住人ですら吐き出すような処断を下すのにねー?」
蹴り、蹴って、蹴る。
中身の詰まった肉の音が耳に粘り付く。
「まあいいわ。アタシには、どうでも。
アンタが困ってたみたいだから助けて上げただけのことだし──ん?」
「ぁ・・・ぅああ」
サンドバッグ化していた物体が身じろぎした。
おそらくは自身の知らぬ間に腫れ上がった目を薄く開く。
410:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:48:03 S4s3o/uz
「ぉ・・・助け・・・く」
「あら」
現状に至る事情を理解したのか、それとも自分を蹴り付ける相手の危険度を知っているのか。
許しを、助けを求めるように開かれた唇は。
「別に喋んなくていいわよ」
屈んだ、彼よりも小柄な彼女の細腕で塞がれた。
「これってある意味、丁度いい憂さ晴らしで八つ当たりで自己満足だから。
満足するまで終わるつもりはないの。
でも────起きちゃったら騒がれるのも面倒よね?」
「んんーっ、んんんんんあ゜あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜ーー!?」
チンピラの体が大きく跳ねる。
びくびくと、生きたまま調理台の上で焼かれる生き物のように。
事実その通りなのだろう。
チンピラの口を押さえる彼女の腕からは炎が吹き零れていた。
口内から喉奥へと流し込んだ炎で体内を焼いているのだ。生きたまま。
数秒それを続けると断末魔も声帯ごと焼き尽くされ、跳ねていた体は口から煙を上げて静かになる。
「ちょっとは気も晴れたし。アンタ、もういいわ」
必要の無くなった押さえが外された。
背を伸ばし、唯一焼かれずに残っているチンピラを視界に収めると。
「・・・・・・アレも始末しとかないとね。アンタに手を出した奴、生かしておく訳にもいかないし」
視線は僕に向けながら、腕を振ってそれにも火線を伸ばす。
とぐろを巻いた炎が彼を囲って火柱と化し、今度は断末魔も許さずに炭に変える。
最初に焼かれた彼も、既に生きてはいないだろう。
「っく~~! 朝からゴミ掃除をすると気分がいいわねえ・・・・・・って、アンタどうしたのよ?
顔が青いわよ?」
朝から三人分の焼死体を生産した彼女は良いことをしたと言うように伸びをして、身を捩る。
それ自体はコキコキと小気味良い音が聞こえてきそうだったが、
生憎と彼女程に焼けた人肉の臭いに慣れていない僕は少々グロッキー気味だった。
猟奇殺人もかくやという死体なら幾らでも見てきたが、生憎と出来立ての焼死体には馴染みがない。
気分が悪いのが顔に出たのだろう。
「いや・・・流石に、この臭いには慣れてないから」
「ふーん。アタシにとっては慣れどころか何も感じないけど。
確かに、普通は強烈な匂いなのかしら」
そんな僕に、彼女はずんずんと近付いて来て。
411:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:48:51 S4s3o/uz
「それでも────あの女の臭いは消せないみたいだけど?」
胸倉を掴み上げ、僕を引き寄せて首の位置に頭を寄せ、鼻を鳴らす。
一呼吸分で突き放すように僕を押しやると、不愉快そうに顔を歪めていた。
「臭いって」
「あの闇人形の、ね。
はっ! 相変わらずべたべたべたべたアンタに纏わりついてるみたいじゃない?」
夜宵ちゃんのことか。
彼女とは、どうしてか知らないけど仲が悪いからなあ。
その分の怒りをぶつけるように、彼女は鋭い視線で見上げてくる。
押しやられてと言っても大した距離ではないので、少し位置が近い。
「・・・・・・えっと」
「・・・・・・はあ」
数秒。
嘆息するように、あちらから視線を外された。
「まあいいわ」
そして、気を取り直したというように。
一歩下がり、組んた手を背中に隠して上目を遣いながら。
「それで、一応、困っているところを助けて上げたんだし」
妙に明るい声で。
「それなりのお礼は──してくれるわよね?」
ヴァーミリオン
【火炎災】の名を冠する、
隔離都市に数多存在する突き抜けた異端の一人である彼女、火神原 赤音(かがみはら あかね)はそう要求した。
僕、仕事あるんだけどね。
412:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:52:06 S4s3o/uz
投下終了。
前スレで書きためてから投下した方が良いとの助言を頂いたのですが、
分量的にはこれ位でいいのでしょうか?
極稀でも投下出来ればいいなと思いつつ、お目汚しにならぬよう祈ります。
413:名無しさん@ピンキー
07/05/26 00:22:48 s3KNCFuB
「祈る」んじゃなくて「頑張って」ほしい
414:名無しさん@ピンキー
07/05/26 00:52:12 GbVTOFZG
>>412
投下乙です!!
何かまだまだ登場しそうですね・・・
続きも期待してます
415:短編 ◆qj8aj1j2zQ
07/05/26 09:24:25 3gKDVvMD
ちとネタを思いついたので短編で書いてみました。
この本に書かれた事は現実になる。
この本が現実に出来るのは書いた人物が何らかの手段で感知できる範囲内だけである。
この本が現実に出来るのは、ある一つのジャンルに関する事のみである。
この本は複数存在し、それぞれに現実に出来るジャンルが違う。
この本を複数所有する事は『可能』である。
「何なのかしら?この本??」
そう言って、私は机の上に置いてあった本を見てみる。
悪戯にしては手が込んでおり、なんとなく逆らいがたい様子が見える。
その真っ黒な表紙には『ホラー』と書かれており、どうやらこの本は『ホラー』的な事を現実かできるようだ。
「ちょっと、試してみようかな………」
そう言って、私は何と書くか迷った。が、結局は書けなかった。ホラーな状況なんて嫌いだ。
次の日、私はお弁当を二つ作る。一つは私の分、もう一つは彼の分。
「おー●●は偉いなー。でアイツとはどこまでいった?まさかまだキスとかしてないだろうな!」
お父さんはちょっと心配性。だけど、良い人。
「まったく、お父さん。キスぐらい良いじゃないですか。」
お母さんは優しい。この二人を怖がらせるなんて出来ない。
○○君と登校するのは結構久しぶり。こころがどきどきと唸り始める。
交差点で○○君の横に誰かがぶつかる。隣のクラスの××さんだ。
その拍子に彼が倒れようとする。私も支えようとする。一緒に倒れた。
勢いでお弁当箱が零れ落ちる。道路にばら撒かれるお弁当。折角彼の為に作ったのに。
○○君は××さんと一緒に学校に行ってしまった。私は一人ばら撒かれた弁当を片づけ中。
変だ……何か変だ。
416:短編 ◆qj8aj1j2zQ
07/05/26 09:25:32 3gKDVvMD
昼休み、××さんと○○君が一緒に学食を食べている。なんで××さんがそこにいるの?
私だってそこにいたいのよ!!
放課後、××さんがノートを取っている。
書き終わった後、ノートを鞄の中に入れる。
そのピンク色の表紙で『恋愛』と大きく書いてあるノートを。
「許せない………」
今、私の顔は狂気に狂ってるだろう。
あの××もノートも許せない。あの女には狂い死にが当然の報いだ。
「あの泥棒猫……」
家に帰るとノートを開いてどんどんと文字を書き連ねる。
「死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………死ね…
…死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………死ね
……死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………死
ね……死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………」
あの恋愛ノート(仮)に書かれた内容もよく吟味する。まずはあのノートをどうにかするのが先決だ。
「あははははははははははははははははははははははは……
××さんなんて……××さんなんて……消えてしまえ!!」
ふらふらとする頭の中で私はノートを隠すと、私の体はばたりと倒れた。
その頃、××は、家の鏡の前でセクシーポーズの練習をしていた。
この恋愛ノートに敵は無い事は確認してる。幾ら食べてもずっと美人でいられる。
「●●も馬鹿よねー。幾ら頑張ったってこの恋愛ノートには勝てないのに」
そう言って、鏡の中の自分を見ながら笑う。
「鏡よ鏡。鏡さん?世界で○○君に好かれてるのはだぁれ?」
「それは私ですよ。泥棒猫………」
「えっ??」
鏡の中の××が急に顔を変え始める。怒り狂った鬼の顔になった鏡の中の××は腕を伸ばすと、彼女の顔を握りつぶす。
ケタケタと面白そうに笑うと、部屋の中を荒らしながらまた目的の物を見つける。
「あっ、私のノート!!」
そう言って××は、セクシーポーズの服装のまま部屋の外へと飛び出していく。
「待てぇぇぇぇぇ……」
ドンと××は誰かにぶつかる。
「待てよ姉ちゃん……人にぶつかっといて、何も無しかよ」
そう言ってや×ざな人が××を睨みつける。
そんなや×ざに……××はなんと恋をしてしまいました。
そしてそれからや×ざの愛人として末永く幸せに暮らしたそうです。
ケタケタと笑い声を上げながら、鏡の中の××が恋愛ノートにそう記している。
「まあ、死ぬのは可哀想だから、雌奴隷の幸せを十分楽しませてあげるわ」
●●の家の方向に向かいながら鏡の中の××は笑い続ける。
「本当は死ぬほど苦しい思いをさせたいけど、幸せなままでさせてあげますわ」
そして●●の家に着く。鏡の中の××はそこでふっと消えた。
●●が顔を上げる。そこで浮かべた笑みは、鏡の中の××と同じ物だった。
417:名無しさん@ピンキー
07/05/26 11:08:07 kS/CW/vK
問題はこの話で萌えられるかどうかなんだが
ごめん俺には無理
418:名無しさん@ピンキー
07/05/26 14:08:02 qmCRzmY2
>>416
ごめん、その・・・微妙・・・
419:名無しさん@ピンキー
07/05/26 14:27:28 Rdz/OC9G
>>416
えと…その…い、いいんじゃない?
個人の趣味だし…うん。
420:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:26:11 24ZREIW1
投下します
421:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:27:06 24ZREIW1
「うぅん……なんだか……眠くなっちゃいました……ぅく……」
過去のことを思い出しながら話を聞いていると、眠そうに欠伸を堪える霧。よかった……このまま寝てくれれば、この二人きりの空間から抜け出せられるかもしれない。
「いろいろあって疲れてるだろうからな。眠いときには寝といた方がいいぞ。」
「ごめん……なさい……私から呼んでおい…て……」
謝りながらウツラウツラと頭が揺れる。瞼もほとんど閉じている。……眠くなるとすぐにこうなる癖、相変わらずだな。
「ほら、寝るならちゃんとベットで寝ろよ。」
そう言って霧を抱えあげ、ベットまで運ぼうとすると……
「ありが…と……ございます……ぉ兄様……」
「っ!!」
霧の一言に心臓がはねる。恐らく寝言なのだろうが、不意にいわれて慌ててしまった。
「……俺は、お前の兄じゃない。」
霧の寝言に悲しい嘘を返し、俺はそっと部屋を出た。
「……はぁ。」
なんだか妙に虚しさが残るな。もう一杯コーヒーでも飲んで落ち着くか。
不気味なまでに静かな廊下を後にし、俺はリビングへの階段にを上っていった。
422:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:29:25 24ZREIW1
ガチャ
リビングのドアを開けると、翔子が中でウロウロしていた。何をやってるんだ?エラい焦ったような顔色だが……何かあったか?
「おう、翔子。起きたのか?疲れはとれたか?」
「あっ……」
俺を見つけるなり、不機嫌そうな顔をして近付いてくる。顔だけじゃない。体から出るオーラが不機嫌そのものだ。
「ど、どうした?」
こいつ、もしかして寝起きが悪い奴か?
「ど、どこにいたのかしら?貴方の部屋を尋ねても返事がなかったのだけど?」
気持ちを落ち着かせようとしているのか、上品な言葉遣いで話す。顔はまた焦燥感たっぷりといった感じだが。
「ああ、さっきまで霧の奴とコーヒーを飲んで……ん?」
「………い、いいえ。そうよね。貴方がだれと何をしようが、あなたの勝手よね。」
「?……まぁ、確かに、俺が好きでやることだからな。」
「な、ならっ!私が貴方とコーヒーを飲むのも、私の勝手よね!?」
「……はいはい、砂糖とミルクは?」
「どっちもたくさん!あまーくしなさい!」
ったく……素直に言えばいいのによ。だいたいなんで命令口調なんだよ……ちくしょう。
423:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:30:31 24ZREIW1
トポトポトポ……
二つのコーヒーカップに広がる黒い液体。その香りは嗅ぐだけで気持ちが和らぐ。そして片方のカップに砂糖、ミルクを入れると、たちまちその黒が汚される。
「綺麗、だよなぁ。」
この模様も指紋や万華鏡のように、同じ形は二度とできないのだろう。だから俺はコーヒーにミルクを入れる度、この模様に魅入って……
「ちょっと!祐吾!まだなの!?」
……俺の安らぎをぶち壊しやがって。
「ほら、甘さはこれぐらいでいいか?」
「ん……うん、私の望んだとおりの味ね。」
そりゃよかった。またこれ以上文句を言われたらたまらないからな。……しかし、いつまでもここでのんびりしててもいいのだろうか。
「わ、私がけ、け、結婚するなら、コーヒーを入れるのが上手な男性が良いわね。」
「それなら結婚するやつじゃなくてもいいだろ。コーヒーを入れるのが上手なお手伝いとか。」
「………バカ。」
「ん?なんか言ったか?」
「美味しいっていったのよ!」
そう言って横を向き、不貞腐れた顔でコーヒーを飲む翔子。その横顔がまた、彼女の面影に重なる……そうだった。あいつと初めて会った時も、コーヒーを飲んでたっけ。
424:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:31:42 24ZREIW1
以上です。次からは少し過去編にはいります。
425:名無しさん@ピンキー
07/05/26 18:23:30 k4fGXjSa
>>417-419
神叩いてんじゃねぇよ、荒らし
426:名無しさん@ピンキー
07/05/26 19:06:44 H/rFK5PP
なんでスルーできないのかな?
ゴミ
427:名無しさん@ピンキー
07/05/26 21:26:49 Pc6GaZqv
ぶらまりキタコレ
428:名無しさん@ピンキー
07/05/26 22:27:47 vS4c2p+1
報告乙
早速見に逝ってくる
429: ◆6xSmO/z5xE
07/05/26 23:55:45 xPY8Gp4O
ちょっと間が空きましたが、投下いきます。
430:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/26 23:57:13 xPY8Gp4O
「ぐっ・・・!?」
エルを見送って僅かに気が緩んだのを見計らったように、智の身体がぐらりとよろけた。
壁に手を付け、倒れこみそうになるのを辛うじて堪える。
だが、喉から急激にこみ上げてきたものは防げなかった。
ぶほっ、と鈍い破裂音を立てて智の口が開き、大量の血が吐き出される。
腹部からの流血が作る血溜まりに、それは時雨のように降り注いだ。
酷使され続け、今また致命傷を負った身体を考えれば、当然の反応だった。
しかし、ここで倒れたらもう二度と起き上がれないのも分かっている。
だが、まだ倒れるわけにはいかない。
壁伝いに手を付きながら、智は気絶した千早の元へゆっくりと歩み寄った。
首に鬱血の痕を濃く残している千早は、死んだように動かない。
酷い顔色と苦しげな様子で、無理矢理起こすのは気が引けるが、自然に目覚めるのを悠長に待っている時間は無かった。
「千早。千早、起きろ。起きてくれ・・・頼む」
祈るように千早の身体を揺さぶる智を、そのたびに強い眩暈が襲う。
揺さぶるという動作で自分の身体が僅かに揺れることさえ、今の智には重い衝撃になって返って来るのだ。
倒れ込みそうになるのを堪えながら、根気よく何度も何度も千早を揺さぶり続け――。
「ん・・・」
祈りが通じたのか、千早からくぐもった呻きが漏れた。震える瞼が目覚めの予兆を伝える。
緊張から唾を思い切り飲みこんだ智だが、鉄錆の強烈な味にむせ返ってしまった。
(そういえば・・・。口の周り、吐いた血でベトベトだっけ・・・)
汚れた口元を乱暴に拭い、無理矢理にでも穏やかな表情を意識する。
苦痛に歪んだ顔を極力出さないように。もう少しだけ誤魔化せるように。
今が夜でよかったと心底思いながら、智は千早の目がゆっくりと開いていくのを見つめる。
431:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/26 23:58:45 xPY8Gp4O
「あ・・・?」
焦点が定まっていなかったのか、千早が視線の先の存在を認識したのは、目覚めてたっぷり30秒は経ってからだった。
初めて口付けた朝、思い切り殴り飛ばされて以来。狂うほどに恋焦がれた幼馴染の姿がそこにあった。
「智ちゃんっ!」
頭より先に身体が動いた。潰れかけた喉の痛みも忘れて衝動的に飛びつき、抱きしめる。
だがそれに僅かに遅れて、脳が智の出て行った朝のことを思い出させた。
また殴り飛ばされる、拒絶される。恐怖が全身を駆け巡り、安易に抱きついたことへの後悔が頭を過ぎる。
それでも千早は、智の背中に回した腕の力を緩めることは出来なかった。
(ごめんなさい、嫌いにならないで、いい子になるからどこにもいかないで――でもやっぱり、他の女なんか見ないで)
言葉にならない懺悔とそれでも捨てきれない独占欲が交錯し、千早の心を掻き乱す。
そんな中、やや冷たい智の体温だけが現実だった。
殴られても暴れられてもそれだけは絶対に離すまいと、両手をがっちりと握りしめる。
しかし、どれだけ待っても千早の恐れる衝撃はやってこない。
それどころか背中にゆっくりと手を回し、いたわるように撫で始めた。
「千早、目が覚めてよかった。・・・戻ってくるのが遅れて、本当にごめんな」
優しい声、優しい仕草。それらに勇気付けられ、千早は胸に埋めていた顔を離して恐る恐る智を見上げてみた。
暗くて若干見にくいものの、浮かべた微笑みは優しく、瞳もいつかの禍々しい色はしていない。
間違いなく、千早の好きな智だった。
(戻ってきてくれた・・・やっぱり智ちゃんは私のところに戻ってきてくれたんだ!)
その確信と同時に、張り詰めていた想いが一気に堰を切った。
それは自身の正気と天秤に掛けるほどに肥大化していた恐怖や不安であり、千早を文字通り壊してしまう寸前で。
彼女自身にも制御できないその感情は、最も原始的な方法で解放された。
「うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
智に縋りつき、あらん限りの大声で千早は幼子のように泣きじゃくる。
そんな千早を、智はただ優しく抱き止め続けた。
432:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 00:00:23 xPY8Gp4O
「落ち着いたか?」
10分後。泣き声が止んだのを見計らって、されるがままだった智が声を掛ける。
まだしゃくりあげているが落ち着きは取り戻したようで、コクリと頷くとようやく智の胸から顔を上げた。
改めて見ると、千早の様子も智に負けず劣らず酷いものだった。
首の痣は勿論だが、全体的に痩せこけ、只でさえ小柄な身体がさらに小さく見える。
そんな中、泣き腫らした目元だけが際立って赤く、智には酷く痛々しく映った。
かつての瑞々しい魅力に溢れた可愛らしい姿は見る影もない。
「本当にごめん・・・。俺の所為で、お前をこんな・・・」
智が吸血鬼化したことで狂い出した歯車。その煽りを最も喰らう羽目になったのは千早だろう。
関わらせまいと秘密にしておいたのに、その結果がこの有様なのだから。
だからというわけではないが、全て伝えなければと智は思う。
いや、知っておいて欲しいのだ。
「あのな、千早」
見上げてくる千早の瞳は、赤く腫れながらも無垢な輝きを宿している。
それは10年以上見つめ続けてきた幼馴染への全幅の信頼であり、しかし今の智には、その想いがどこか心苦しくもあった。
異性愛という意味での千早の好意を知ってしまったからだろう。
ずっと変わらないままの関係で居られると思っていた。
けれど、そんなはずはなかったのだ。
きっと、たとえ智が吸血鬼にならなかったとしても。
意を決して、智は千早を正面から見つめた。
「俺は、さ――吸血鬼なんだ」
433:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 00:02:51 xPY8Gp4O
「え・・・?」
予想通り、呆けた反応が返ってきた。それには構わず、智は説明を続ける。
「もちろん、元から吸血鬼だったわけじゃない。ここ最近、俺が夜な夜な外出していたのは知ってるだろ?」
「・・・うん」
トーンの低い声で、千早の返事。この件が一連の出来事のきっかけであることを思えば、それも仕方ないだろう。
「あれはさ、人の血を吸うためだったんだ。吸血鬼は人間の血を吸わないと生きていられない。
でも、吸わせてくれなんて他人に正面から頼めるわけない。
だから、夜の暗闇に紛れてこっそりとターゲットを探してたんだ」
ここで一旦言葉を切り、智は千早の反応を待った。
色々予想してはいるが、どんな反応が返ってくるか想像が付かない。
そして、いつの間にか俯き気味になっていた千早から返ったのは、搾り出すような低音だった。
「神川藍香・・・?」
「・・・ああ。多分、先輩のよく分からない実験に付き合ってこうなったんだと思う。
だけど、俺は先輩を恨んでるわけじゃない。千早にも先輩を恨まないで欲しいんだ」
声音にこそ戦慄を感じたものの、反応は想定内だったこともあり、智は淀みなく返答する。
しかしそれが逆効果だったのか、千早の暗い雰囲気が高まり、智を更に圧迫する。
「あの女を庇うの・・・?」
「そうじゃない。どうなるか分からない実験を不用意に行った先輩の責任は確かにある。
だけど、今更それを責めたって何の意味もない。先輩も責任を感じて、俺を元に戻す方法を考えてくれてたし。
それに、何より――」
千早の圧迫感が強まっていく。以前の二の舞になる危険を感じたが、それでも智は怯まなかった。
隠し、誤魔化すことばかり考えていたあの時と違い、自分の本当の気持ちを告白する。
「千早に知られたくなかった。そうしたら、人間としての俺を見てくれる人が居なくなってしまうような気がして。
それに、本当のことを話して――もしお前に怖がられたら、嫌われたら、自分の居場所が無くなると思った。
俺は、お前との日常を守りたかったんだ」
434:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 00:06:27 QYOkGfJw
一気にここまで話して、智は大きく息を吐いた。
言いたいことは全て言った。だからだろうか、返ってくるのが罵倒でも恐怖でも狂気でも、自分の全てで受け止めようと思える。
暫く黙ったまま俯いていた千早だったが、不意に纏っていた重苦しい雰囲気が霧散した。
顔を上げた千早が浮かべていたのは、智が最も慣れ親しんだ、ごく自然な笑顔だった。
「バカだね、智ちゃんは。私が智ちゃんのことを嫌いになるわけ無いのに。
智ちゃんが何者でも、私にとって智ちゃんは智ちゃんだよ。
私が大好きな、ね」
当然のように言い切る千早。その表情は別段感情を露わにするでもない、まるで通学中に雑談しているかのような微笑だ。
しかし、そんな笑顔を向けてくれる幼馴染だからこそ、智は自分の居場所が彼女の傍にあるのだと実感できる。
何ら特別でないことが何より特別である――智にとって、千早とはそういう存在なのだ。
これまでもこれからも、それだけは変わらないものだった。
「はははっ。あははははははっ・・・・・・!」
思わず笑いがこみ上げてきた。ついでに涙もこみ上げてきた。
千早の肩に顔を押し付けながら、智は痛みも忘れて笑い続ける。
分かっていた。千早が自分を嫌うはずないと。事情を話せばちゃんと理解してくれると。
失敗する確率など万に一つしかない賭けだったのに、その万に一つの可能性を恐れて、ずっと言い出せなかった。
もっと早く話していれば、きっとこんな結末にはならなかったのに。
千早を信じ切れなかったから話せなかったのか、逆に千早が大切だからこそ話せなかったのかは、智にも分からない。
一つ言えるのは、もう一歩を踏み出す勇気が智には足らなかったということ。
死に瀕した今になってそんな単純なことにようやく辿り着くなど、本当にどうしようもないと思う。
けれど、不思議と気分は清々しい。そういった思いの全てを込めて、智は笑い続けた。
そうしてひとしきり笑うと、重苦しく圧し掛かっていたものが嘘のように消え去っていた。
ここ数ヶ月久しく無かった、心からの開放感。
しかしそれは、智を生の淵に留まらせる執念の消失でもあった。
435:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 00:09:06 QYOkGfJw
ふっと気が緩んだ。途端に猛烈な眠気が襲い掛かってくる。
頭が重くなり、千早の肩に沈み込んでいく。だが、それが酷く心地よい。
全身の痛みも、先ほどまでの苦しみが嘘のように何も感じない。
その代わり、五感の感覚も感じなくなっていた。
「・・・・・・!? ・・・! ・・・・・・!!」
千早が何か言っている気がするが、何も聞こえない。
もう心残りが思い浮かばない智の心は、この沈み込んでいく心地よさに抗えなかった。
(心、残り・・・? いや、あったな・・・。ひとつだけ・・・)
消え行く意識の中で、最期に会えなかった一人の女性の姿が浮かぶ。
出来るなら会いたい。しかし、会わないでおくと決めたのは智自身だ。
もう会わないという選択が、自分が彼女に対して出来る最良の手段だと思ったから。
(藍香先輩・・・。先輩には、家や立場や仕える人たちがいる。未来がある。
屋敷でのあの数日間は・・・いや、一緒に部活をした数ヶ月は、全部夢だったんです。
吸血鬼なんてものも、最初からいなかったんです。
俺のことは忘れて、どうか幸せになって下さい。
どんなに忌まわしい記憶でも、きっと時間が解決してくれるから・・・)
我ながら身勝手な考えだと智は思う。本当なら、処女を奪い心を狂わせたことを身を以って償うべきだ。
けれど、本当に藍香の為ということを考えるなら、会いに行くべきではない。
こちらの一方的な自己満足の為に、藍香の心の傷を抉ることになるだけだ。
時間があれば、或いは綸音がいればまだ出来ることもあっただろうが、今更言っても仕方ないことだろう。
(報い、だからな・・・これは・・・)
それでも、やるべきことはやれたと思う。後悔は無い。
むしろ千早の腕に抱かれて死ねることを思えば、これ以上何を望むというのか。
智にはもう自分の表情を感じることさえ出来なかったが、それでも今浮かべているのは満ち足りた笑顔だと確信できた。
そして――。
もう二度と、動くことは無かった。
436: ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 00:12:17 QYOkGfJw
今回はここまで。
一応あとエピローグがありますが、話としてはこれが最終話という位置づけになります。
早めに―出来れば明日か明後日には投下したいと思っているので、あと一話お付き合いください。
437:名無しさん@ピンキー
07/05/27 00:14:46 ZlkGa5Ks
>>436
久しぶりにktkr!
智が死んだかぁ・・・・・この後どうなるかが非常に気になる
特に先輩がどうなるかが激しく気になる
438:名無しさん@ピンキー
07/05/27 00:15:10 RCaBrd9E
高村智
再起不能……死亡
439:名無しさん@ピンキー
07/05/27 00:22:20 reMizh/3
キター!
智くん…ほとんど寝てたけどいい奴だったのに…
440:名無しさん@ピンキー
07/05/27 02:57:09 RvuDw8q3
ブラッドフォースきてるー!!
智がついに召されてしまったか、いい奴だったんだか゛。
先輩がどうなるのか気になる。
441:名無しさん@ピンキー
07/05/27 04:09:44 rZYDfJbp
つ、ついにキタッー!
やばい、先が気になって禁断症状が!
442:名無しさん@ピンキー
07/05/27 04:19:50 B1XmPAna
智……いいヤツだった
時々とんでもなく鈍かったが
それは修羅場の主人公に相応しくもあった
合掌
あっちでエルが待ってるぜ(`・ω・´)
443:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:31:35 2sdbbi/m
では投下致します
444:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:34:35 2sdbbi/m
第2話『迫り来る影』
大学を途中で中退した俺は親の仕送りや援助なしに生計を立てている。
安曇さんや美耶子や雪菜がそれぞれに学業に励んでいる間に
俺は仕事で賃金を稼ぐのに頑張っているのだ。
(奈津子さんというのんべぇはともかく)
汗水働くフリーターの時給は限りなく低いが桜荘に居られるためならどんな苦痛も恥も受け入れてやろう。
例え、店長が限りなくうさんくさくてもな。
「ヘイっ!! カズキっっ!!」
「何ですか店長」
「カレーライスは思いやりで作るんじゃありません。
味もわからないお客の野郎どもは味覚障害に等しい味覚しか持っていません。
賞味期限が切れた商品を知らずに喜んで家に持ち帰って食べている姿を想像するだけでワタシは卒倒してしまいます。
ゆえにコスト削減のために化学調味料をたくさんたくさん入れてしまうワタシを責められるはずがありません」
なにいってんだ。この人。
相変わらず意味不明な言葉を呟いているのは正真正銘のカレーを専門に扱っているであろう
店の店長、東山田 国照(ひがしやまだ くにてる)である。
年頃は40才であり、髪に白髪が染まり始めた中年男性だ。
俺が何をトチ狂ってこんなおっさんが経営しているカレー専門店にアルバイトをやっているのは
奈津子さんから無理矢理紹介されたおかげである。
人手不足で困っていると聞いたので俺は面接を受けるところまでは良かったのだが、
店長の性格が思っていた以上にエキセントリック並みに頭のネジが数本外れていた。
最初は断ろうと思っていたが、店長があらゆる画像掲示板サイトに
俺のアイコラを張り付けてやると脅迫されたおかげで、俺は仕方なくここで働いている。
とりあえず、働いてみると店長のコミニケーション能力の欠如やおかしな言動のおかげで客が来るどころか、
同期に入ったはずのホールスタッフさんたちも速攻で逃げた。
本音を言うと俺も逃げたかった……。
だが、奈津子さんの紹介だったのでそう簡単にやめる訳にいかなかった。
いや、やめられない事情があったので俺は自分の直属の上司である店長の尻を
サンダーキックで蹴りながら『カレー専門店 オレンジ』をどうにか客が来る=俺の給料が払えるまでに店は成長した。
まあ、店長の料理の腕は悪くもないし、口さえホッチキスで止めていれば。それなりにここは普通のカレーの専門店であった。
「今は休憩時間だから店長が何を語ろうが、何をやろうが黙って見過ごしますが。
お客さんがいる時にその口を開いたら、縛り倒しますよマジで」
「あっはははっっは。やれるもんならやってみろ童貞っ!! カズキの時給が0円まで下がってしまうだけですよ」
「その時は労働基準署に脱税と労働基準法違反で告発するから。多分、俺は余裕で勝てる」
「卑怯な……カズキはそんなことをする人間だと思ってみなかったぞよ」
所詮、世の中は弱肉強食でありますよ店長。
俺は勝ち誇った顔を浮かべると虚しくなってきたので休憩時間を早めに終わらせた。
445:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:36:43 2sdbbi/m
店長が作ったカレーをお客様に運び、オーダーを取り、厨房に店長が変なことをしないかと見張っていると
時間はあっという間に過ぎ去って行く。窓ガラスから見える景色はすでに陽が沈みかけていた。この時間帯になると忙しくなるが、
俺にとっていつもの訪問客が顔を出す頃であった。
カララン。
ドアに付けられた鈴の音が鳴り響いた。
「いらしゃっい……って。雪菜か」
「はいはい。今日も雪菜ちゃんが遊びにやってきましたよお兄ちゃん。
バイト先に知り合いがいると何かたまらず遊びに行った
ついでにクレームを思いきり付けたくなるのは私の遺伝子がそうさせるのかな」
「ようするに俺の奢りでタカリたいだけだろう」
「店長さ~~ん~~!! 今日もお兄ちゃんの時給から私のカレーをツケてねっ!!」
「YES マイマスター!!」
「さすがにおかしいだろそれっ!!」
厨房から店長の了承する声が聞こえてきたので、雪菜の注文したカレーのお代は俺の少ない時給からパタパタと飛んで行くのであろう。
「というわけで、お兄ちゃん。私は、カレーライス 極甘でお願いしますねっ」
「ぷっ」
「お・に・い・ちゃ・ん。どうして、そこで笑うのかしら?
ここのお店は極甘を頼むお客に対して嘲笑するのが接客の基本的な教育方針なの」
「いえいえ。お客様。私が考えた接客の基本は心遣いと思いやりを込めた笑顔をお客様に届けるこそだと思っています。
単純にもう女子高校生なのに小学生すら食べないような甘さに挑戦するお客様を
お子さまだと思っただけですよ」
「ふぅ~ん。お兄ちゃんは私のことをそう思っていたんだ……。
どこがお子さまだよ!! 私だってちゃんと女の子をやっているんだよ。
身長も伸びだし、胸もちゃんと大きくなっているんだから」
そこから雪菜はカレーが出来上がるまで自分が女の子としていかに成長しているのかと
お客が店内にいることが気付くまで延々と語っていた。
気が付くと顔を100倍激辛カレーを食べたように真っ赤に染めていた。
恥ずかしさのあまりに気まずい雰囲気の中で頼んだカレーを2杯もおかわりした。
夕食はいつも桜荘の住人が集う憩いの場で今日も安曇さんが腕を奮って夕食を作っているのだが、雪菜は曰く。
「育ち盛りなんだから。大丈夫だよっ!!」
「そんなに食べたら太ると思うんだけどな」
「そ、そ、それは……あみゅぅぅぅっっっ!!!!」
奇妙な叫び声を捨て台詞を残して雪菜はカレー専門店を脱兎のように逃げた。当然、料金払ってないでやんの。
446:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:38:54 2sdbbi/m
営業終了時間の20時になると俺はカレー専門店のオレンジの制服をロッカーに閉まって
タイムカードに帰りの時刻がちゃんと刻み付けられてるを確認して後片付けを手伝わずにさっさと桜荘に帰宅する。
汚れた皿ぐらいあの店長に洗わせても別に罰は当らないだろう。
すでに陽が沈み、夜になっていた。
暗い暗い帰り道を僅かな電灯の明かりを頼りにして、仕事で疲れた体を強制的に動かしていた。
通い慣れた道を歩いていると今日の一日の終わりを実感する。
何も変わらない極平凡な日々に俺は感謝するはずであった。
ふと。
俺の背後から足音が聞こえてきた。
さっきまで誰もいなかったのに何者かの気配がする。
少なくても、俺のアテにならない第六感が一般の通行人ではなくて……自分に危害を加えそうな第三者の存在を訴えている。
更に周囲の空気が一瞬にして変わった。
春の季節なのに自分の背中に悪寒が走り、目の前の暗闇が更に深淵に潜り込んだような。
試しに早歩きで歩いてみよう。
少しだけ速度を早めると同じように自分ではない足音が早まって行く。
これだけで確信した……背後にいる者は深山一樹を標的にしていると。
これは被害妄想から来る架空の出来事ではなくて、今現実に起きている確かな危機である。
後ろを振り向くと……長い髪を黄色のリボンで纏めた女性がニヤリと微笑んでこっちを見ていた。
や、やばいっ!?
確信が恐怖に変わる瞬間であった。
後ろさえ振り向かずにさっさと逃げてしまえば良かったと俺は後悔していた。
顔は長い髪に隠されて夜の暗さでぼんやりとして見えなかったが。
そこから溢れだしている尋常じゃあないまがまがしいオーラーは正常な人間が出せるものではない。
陰湿で人間という枠組みから外れた、壊れてしまった人間。
一般人の俺に抗う手段はない。
唯一、できることは逃げるのみ。
「うわわっっっ!!」
情けない悲鳴の声を出して、俺は全速力で逃げ出した。
幸いにも、今歩いている場所から桜荘はそんなに離れてはいない。
いくら、陰気な女がオリンピックに出れそうな記録を持っていても、男の俺の方が体力的に分がある。
「待って……ズ……ゃん……」
女性が必死に引き止める声が聞こえても、今度は振り返らずに全力で逃げるだけ。
次の曲がり角を曲がれば、桜荘の敷地が見えてくる。そこに逃げ込めば……俺の勝ちだ。
桜荘の玄関を開けると俺はすぐに鍵をかけた。何とか安堵の息を付くと腰の力が思わず抜けて尻餅をついた。
「はぁはぁはぁ……」
荒い呼吸をしながら俺はしばらくの間、追われている時を思い出して怯えていた。
447:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:41:13 2sdbbi/m
それからのことはよく憶えてはいない。
安曇さんが作ってくれた夕食を暖めて憩いの場で皆の雑談する声を聞きながら
俺はさっき起きた出来事を誰にも言わずに。
いつものように振る舞っていた。桜荘の住人には心配させたくなかったから。
共同のお風呂が空く時間を待って、入浴して、自分の部屋に戻って……。
布団に潜り込んだ。先程の恐怖を忘れるためにはさっさと寝た方がいい。
「明日もバイトが忙しいから……とりあえず寝よう」
嫌な事は寝ることで忘れることが出来る。
ただ、先程の悪夢の続きが真夜中でも再開されたらどうなるのであろうか。
布団に入り込んだ瞬間に俺の携帯電話が安息の静寂を破るように鳴り響いた。
俺は一体誰から電話がかかってきたのかと携帯電話の着信相手を見ると少しだけ驚愕した。
「白鳥 更紗?」
ば、ば、ば、かなっっ!!
夕方の屋上で幼馴染として関係が壊れたあの日の光景が自然と思い出された。
更紗からの電話に俺は動揺していた。
「どうして、更紗が俺の携帯電話の番号を知っているんだ?
あの日を境にして携帯の機種だって変えて……メルアドや番号だって変えたんだぞ。
知っているのは、桜荘の住人か店長しか知らないはずなのに……」
当然、俺は故郷の話を桜荘の住人や店長に一度だって話したことはない。
あの苦い思い出を語れるほど俺の犯した過ちを軽くない。
更紗と彼女たちを結びつける接点はどこにもないので、それらの可能性は排除される。
「まさか……さっきの通り魔は更紗だったのか?」
あの黄色なリボン……更紗のトレードマークだったリボンの色だった。
だが、幼馴染が俺の後を追い掛けるような通り魔のような真似をやったのかは想像すらできない。
そして、今度は携帯のメールを受信したメロディが流れた。
俺は送り主が白鳥更紗だと確認すると躊躇なしにメールの中身を開けた。
(カズちゃん。今からそっちに行きますね)
448:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:43:20 2sdbbi/m
「ーーー!?」
そのメールの一文に俺は再び震えだしてしまった。
「こっちに来るだと……本気か!? 正気の沙汰じゃないぞ」
すでに玄関やあらゆる場所に鍵が閉められて、中から人が入る場所はない。
ピッキングや泥棒のスキルを身に付けない限りは桜荘に侵入することができないはずだ。
それでも、誰かが侵入すれば住人の誰かが気付く。ここの廊下は夜に歩くと思っている以上に足音が響く。
ドンドンっっ!! ドンドンっっ!!
ドンドンっっ!! ドンドンっっ!!
ドアをノックする音が聞こえてきた……そんなに強い力で叩くな。他の住人が起きるだろうに。
「カズちゃんカズちゃん。ねえ、開けて? 開けてよぉ……」
更にドアを叩く音が大きくなってゆく。
正にドアを叩き壊して俺の部屋に侵入しそうな勢いだ。
当然、鍵は閉めているので更紗はそう簡単に入ってこれないが。
無闇に暴れて住人の皆さんの迷惑になるよりは俺の部屋に入って懐柔した方が良さそうである。
「わかった……今すぐ開けるから騒がないでくれ」
と、ドア越しに聞こえるように俺は言った。更紗はぴたりと暴れるのをやめて大人しくなってゆく。
そして、ドアを開けると……約1年ぶりに幼馴染と再会を果たした。
幼馴染の更紗は1年前の面影は残っているものの、容姿は昔と違って大人の女性に更に磨きが走っていたが、
その顔色に生気は篭もってはいない。俺の姿を見かけると笑顔を浮かべて、我を忘れて俺の胸に飛び込んできた。
咄嗟に態勢を取ることを忘れていた俺はそのまま布団の方向にダイブする。
幸い、クッション代わりに布団のおかげで大した痛みもないのだが、
更紗が泣きながら俺の体にしがみつている状況はあんまりよろしくない。
「ひ、久しぶりのカズちゃんっっ!! カズちゃんだぁぁぁ!!」
「さ、更紗。頼むから離れてくれ。ついでに大きな声を出すな。案外、ここの防音対策は0に近いから普通に聞こえるぞ」
「絶対に嫌っっ!! もう、離れないんだから。カズちゃんと私はずっと一緒なんだからね!!」
「更紗。お前はどうやって俺の住所を突き止めた。親には口止めをちゃんとやったつもりなんだが……」
「えへへっ……愛の力ですっっ!!」
「んなわけあるかっっっ!!」
更紗が俺の体をしっかりと抱きしめながら、蔓延なる笑顔を浮かべていた。
愛の力で俺の住所が突き止めることができたなら、
この世界で行方不明になっている人たちだって簡単に探すことができるであろう。
いろいろと偽装工作して家に来たんだから見破れるはずがないというのに。
「深山さん……真夜中に騒がないでくれませんかっっ!!」
安曇さんの罵声と同時に勢い良く扉が開かれて……その目の前の光景に彼女は思わず絶句していた。そりゃそうであろう。
俺と更紗が抱き合っている姿を見ればな。
こうして、俺が恐れていた最悪の展開の狼煙が見事に燃え上がったわけだ。
どうしよう。マジで。
449:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:44:13 2sdbbi/m
では投下終了致します。
450:名無しさん@ピンキー
07/05/27 16:58:37 ZsM9fuxJ
>>449
GK!!
嫉妬キター
451:名無しさん@ピンキー
07/05/27 17:06:41 rZYDfJbp
>>449
このスレでは希少なネタ的甘甘嫉妬…
グレイトォ!
452:名無しさん@ピンキー
07/05/27 21:14:36 aF7PvmA/
とりあえず、雪奈は俺がお持ち帰りますね
453: ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 22:38:59 QYOkGfJw
投下いきます。
昨日の続きでエピローグです。
454:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 22:40:49 QYOkGfJw
公園を思わせる広大な庭園を、幼子が駆けている。そしてそれを、メイド服の少女が追いかけていた。
「智さま~、待ってください~~~」
フラフラした危なっかしい動きながら、幼子の足は中々速い。対するメイドはスカートということもあり、ゆっくりとした速度だ。
と言っても大人と子供という差は歴然であり、メイドがその気になればすぐにでも追いつけるだろう。
それをしないのは、2人が追いかけっこで遊んでいるということだった。
幼子は疲れを知らないかのように疾走するが、差は徐々に縮まっていく。
「ほ~ら智さま、捕まえましたぁ」
メイドが幼子を後ろから抱きすくめ、そのまま倒れこんだ。
地面は芝なので怪我の心配は無いが、倒れながら身体を反転させ、自分が下敷きになるようにする。
当の幼子は今の回転が大層お気に召したようで、彼女の腕の中で嬉しそうに笑っている。
少女はそれが愛しくて、一層強く抱きしめて頬擦りした。
そして、そんな彼女らを離れた場所から見つめる人影が2つ。
やや強面で大柄なスーツ姿の男性と、落ち着いた雰囲気を纏ったメイド服の女性だ。
何かを懐かしむような、どこか悲しげな瞳で2人を――いや、幼子を見つめている。
「あれから3年。月日が経つのは早いものですね・・・」
「・・・そうだな。藍香お嬢様が亡くなられて、もうそんなに経つのだな・・・」
元・藍香専属の運転手、達川礼二は、屋敷の侍従長にして妻である昭子の声に静かに応えた。
・
・
・
・
・
・
455:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 22:43:28 QYOkGfJw
智と綸音が姿を消したことが分かった時、藍香は存外に落ち着いていた。
綸音からは何も聞いていないが、彼女がすることなら間違いはないだろうという、絶対的な信頼があったからだ。
実際、最初の一日はどうしたのだろうと訝しむ程度だった。
しかし二日経っても戻らない段階になって恐慌状態に陥り、礼二たち屋敷中の人間に綸音と智を探すよう厳命した。
そしてその翌日、繁華街中心部にある廃工場群の空き地にて、綸音の遺体を発見。
何があったのかミイラ化しているが、間違いなく綸音の死体だった。
智は発見できなかった。まさか智が綸音を殺したのか、と誰かが言った。
そんなはずないと思いつつ、礼二たちは智を探す。手がかりは何も無く、当てずっぽうに探すしかない。
日に日に不安定さを増していく藍香、連続女性失踪事件による世情不安が焦燥感に拍車をかける中、探し続けた。
そして綸音の死体を発見してから10日ほど経過したある日、一つのニュースが藍香の耳に入った。
『市内にて2人の男女の死亡を発見。
男は腹部の大量出血に加え、片腕が無い状態。女は現場に転がっていた刀剣で胸を一突きされていた。
2人が抱き合い重なるように倒れていた現場の状況から、警察は殺人と自殺の双方の観点で調査をすると発表。
死亡者は現場宅の一人息子の高村智、その友人の折原千早』
そのニュースを知った藍香は完全に発狂。程なく意識を失い、半植物状態となって病院に担ぎ込まれた。
その時の神川家の混乱たるや相当のものがあったが、事態は更に混迷の度合いを深めることになる。
入院して3ヶ月後、藍香の妊娠が発覚したのだ。
藍香の妊娠を受けて、神川本家では連日議論が繰り広げられた。
そしてその結果、藍香を外界から完全に遮断、隔離することを決めた。
一応、藍香には許婚――勿論、家が勝手に決めたものだ――がいる。
藍香の卒業後に本格的な話を進める予定で、本人同士の面識はほぼ無かった。
当然性的な関係などは無い。ならば藍香を妊娠させたのは別の男であり、生まれくるのは不義の子ということになる。
しかし本家の直系となる跡継ぎは必要だ。そして、日々衰弱が進む藍香に改めて子を為させるのはリスクが大きすぎる。
そうして出たのが、藍香を隔離し秘密裏に子供を産ませ、時間を置いて藍香と許婚の男の子供として発表する、という案だったのだ。
問題は母体の安全だった。医者が言うには、衰弱の激しい藍香に出産に耐えるだけの力はないとのことだった。
だが藍香の家族は『母体はどうなっても構わないから何としても出産させろ』と命じた。
扱いにくく育った娘より、新たな跡継ぎの方が有用だと断じたのだ。
456:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 22:45:33 QYOkGfJw
そして数ヵ月後、藍香は男の子を産んだ。様々な機械に繋ぎ、無理やり延命措置を施しての出産だった。
昔からの世話役として同伴を許された礼二と昭子だったが、その余りに痛々しい様子は正視するに耐えなかった。
虚ろな瞳の藍香に、生まれたばかりの赤子が持たされる。
といっても、情けからの行為ではないということが礼二には分かった。
『病床の藍香が命と引き換えに愛する夫との子を産んだ』という美談を仕立てたいのだ。
その証拠に、カメラを持った一人が様々な角度から無遠慮にシャッターを切っている。
隣りの昭子が手を握ってくれなければ、礼二はこの場で暴れ出していたかもしれない。
確かに扱いにくい主人ではあったが、礼二や昭子にとっては長年成長を見守ってきた娘同然の少女だったのだから。
そして、もういいだろうと神川当主――藍香の祖父が赤子を取り上げようとした時。
奇跡――少なくとも礼二や昭子はそう思っている――が起こった。
「・・・・・・さ・・・と・・・・・・・・・し・・・」
もう喋ることもできまいと思われていた藍香が喋ったのだ。
これには礼二たちは勿論、医者も大いに驚いた。
しかし、それを最後に藍香は死んだ。
沈黙で満たされた病室の中、何も知らない赤子だけがその生を主張するように泣き声を上げていた。
それは、これ以上無い美談の種となった。
最後の最後に母親として、生まれてきた子供に名前を付けて死んだのだ。そう、誰もが思った。
藍香の望みを汲むということで、生まれた男児は『さとし』と名づけられた。
しかし、礼二と昭子は知っている。
『さとし』が、産まれた子供を名づけるものとして発せられた言葉ではないと。
藍香の虚ろな瞳が捉えていたのは手元の赤子ではなく、今は亡き愛しい少年の姿だったと。
そして、『さとし』の本当の父親がその少年――高村智であることを。
457:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 22:47:23 QYOkGfJw
礼二と昭子は、智が吸血鬼だったことを知っている。
智が死んだというニュースが流れた前日、礼二は智から電話を受けていた。
藍香と智が知り合って間もなく、智と礼二は互いの電話番号を交換していたのだ。
藍香に何かあった時の為、という名目だったが、それが思いもよらないところで役立つことになった。
智は礼二に全てを伝えた。
自身の変貌、部室での毎日の吸血、藍香への強姦と狂気の目覚め。
綸音の死、連続女性失踪事件の真相、これから自身がしようとしていること。
最後に、藍香を頼むと言って電話は切れた。
そして、智の死と同時に失踪事件はピタリと止まった。
智は為すべきことをしたのだろうと、礼二は彼の冥福を祈った。
一方マスコミは、智の事件が失踪事件に関係有りとして、ここぞとばかりに騒ぎ立てた。
時期が悪かったのだろう。事件への世間の関心の高さを考えれば、2つの事件を関連して考えてしまうのも仕方ない。
だがそれを差し引いても、本当に酷い騒ぎだった。
曰く『事件の真犯人は智であり、今度は幼馴染の千早に牙を剥いたが、相打ちになった』
曰く『千早の説得で罪の重さを思い知った智は自殺を図り、彼を愛する幼馴染と共に心中した』――など・・・。
男の犠牲者が初めて出たことに加え、2人が仲良しで有名な幼馴染だったことも災いした。
共に唯一の子供を失くした高村夫妻と折原夫妻は、際限なく膨らんでいく無責任な悪意に耐えかねて街から姿を消してしまった。
学校や近所の人間は、忌まわしい記憶に蓋をするように智や千早のことを忘れていく。
世間の事件への熱も時と共に薄れ、事件は迷宮入りの色を濃くしていった。
もう、この街に智たちのことを覚えている人間は殆ど居ない。
藍香のことにしても、忌まわしい記憶として触れることをタブーとされ、別宅の使用人たち以外の話題に上ることもない。
時間は残酷に、けれど優しく、全ての人間から辛い記憶を薄れさせていった。
・
・
・
・
・
・
458:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 22:49:56 QYOkGfJw
図らずも父と同じ名前を付けられた彼は、偶然にも漢字の表記まで父と同じものを付けられた。
その智は今、かつて藍香が暮らしていた神川の別宅で暮らしている。
本当なら神川家の跡取りとして本宅に引き取られるはずだったのだが、智が藍香の家族の誰にも懐かなかったからだ。
それどころか、本家の用意したどんな人間にも懐かない。泣き疲れることもなく執拗に叫び続けた。
例外は礼二や昭子、別宅に勤める使用人といった、藍香と高村智の双方に縁のある者たち。
彼らに抱かれると途端に大人しくなるが、そこで彼ら以外の者が取り上げると、また火が付いたように泣き出すのだ。
使用人の一人は『お嬢様が守っているんだ』と言った。
またある者は『智坊ちゃんは高村様の生まれ変わりだ』とも言った。
滅多なことを言うものではないと礼二や昭子は彼らを嗜めたが、内心では仕方ないと思った。
別宅の使用人の多くは藍香に同情的であり、本家の人間をよく思っていないのだ。
ともあれ、やむを得ないということで、物心付くまで智はこの別宅で育てられることになった。
智は素直で愛らしく、それでいてどこか男らしく、すぐに屋敷中の人気者になった。
特に若いメイドに大人気で、智の世話役は毎日熾烈な争いによって決められるという。
普段は従順なメイドたちだが智のことになると怖いほど顔色が変わるので、礼二もこの智争奪戦については口を出していない。
そういえば父の高村智も、藍香だけではなく幼馴染の折原千早にも好意を寄せられていた。
(血は争えん・・・。流石は高村殿の息子ということか)
血。このフレーズに、礼二は一つの事実を思い出した。
「吸血鬼の息子・・・か」
ふと口をついて出た言葉に、傍らの昭子が振り返る。その表情に浮かんでいるのは不安だった。
「あなた・・・」
「分からんよ、俺にも。取り敢えず変わったことは何も無いし、普通の人間として生まれてきたと思いたいが・・・」
そう、今のところ智にそれらしい兆候は現れていない。
昼に弱いわけでも十字架に弱いわけでも好き嫌いがあるわけでもない。
銀の食器に抵抗を示すこともない。当然、誰かの血を吸っている様子もない。
それと、これは礼二が警察の知り合いから聞いた話だが、司法解剖された高村智の身体は酷く衰弱していたことを除けば
普通の人間と何も変わらなかったらしい。
肉体組成が人間と同じなのか、藍香の実験で吸血鬼に転化したことが関係しているのかは分からない。
とにかく、吸血鬼の存在が世間に知られることはなかった。
いずれにしろ、何も分からないのではただ見守るほかない。
強いて出来ることといえば、この先何かあっても挫けないよう、父親に負けない強い心を持った男に育てることだろう。
この先智が立ち向かわねばならないのは、覚醒するかもしれない吸血鬼の血だけではないのだ。
459:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 22:52:53 QYOkGfJw
あと一年もすれば、智は神川の本宅へ引き取られる。そして、名家の嫡子としての教育が始まるだろう。
『神川智』である以上、智は否応なくそれを受け入れていくことになる。
だが、もし智が自分の本当の父親を知ったなら。母の想いと死に様を知ったなら。
礼二と昭子は自発的に話すつもりは無い。使用人たちにも、高村智のことは口外しないよう厳命している。
しかし、もし智が感づいて真実を明かすよう求めてきたなら、全て話そうと思っている。
その時、智はどうするだろうか。
父を恨むか、母を恨むか、神川の家を恨むか、それとも自身の存在を恨むか。
或いは何も変わらず生きていくか。
智がどのような道を選んでも、それを全力で支えていきたいと礼二は思う。
昭子や他の使用人たちもきっと同じ気持ちのはずだ。
「智さま、智さまぁ~! どこにいらっしゃるんですか~~~!!」
響き渡る大声に礼二たちが智の方へ視線を戻すと、若いメイドが一人、小走りで駆けていた。
心配で泣きそうになっている表情だったが、芝生に寝転がって智に頬擦りしている同僚を見るや否や、般若の形相へ変貌する。
「あ~~~~~!! こら由香、智さまから離れなさいよ! 今日の智さま係はあたしなのにっ!」
「イヤですよ~だ。夏美が目を離すのがいけないんじゃない」
「し、仕方ないじゃないの、どうしても手が離せなかったんだから! それに手を離したって、たった10分くらいのことじゃない!
・・・ってコラっ、聞きなさい、離しなさい! 智さまが苦しがってるじゃないの!」
「そんなことないよぉ。少なくとも夏美の洗濯板に比べればよっぽど気持ちいいはずだもん。
ほぉら智さま、おっぱいでギュってしてあげちゃう。智さまなら、好きに触ってもいいんですよ?」
由香と夏美、2人のメイド少女が智を挟んで対峙する。
互いの言動は徐々にエスカレートし、辺りにピリピリした緊張感が立ち込める。
それはまさしく、男をめぐって繰り広げられる女の修羅場そのもので。
遠目にも分かるほど瞳を潤ませ、頬を火照らせ、豊満な胸元に智を掻き抱く由香も。
そんな由香を、歯を食いしばり、震えるほど拳を握り締め、血走った目で見つめる夏美も。
少なくとも、3歳の少年に向けるような表情でないのは明らかだった。
そんな2人をよそに、由香の胸の谷間でジタバタともがいていた智の動きが少しずつ弱々しくなっていく。
「あなた、行きましょう。このままでは智さまが窒息死してしまいます」
「うむ・・・。しかし、男にとってはある意味究極の死に様だな。あれはあれで羨まし――」
「・・・あなた?」
つい出てしまった本音に、昭子の冷たい視線が飛ぶ。
礼二はわざとらしく咳払いして誤魔化した。
460:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 22:55:30 QYOkGfJw
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
時が流れ、いつか礼二も昭子も由香たちメイドも、藍香や高村智のことを忘れてしまうかもしれない。
それでも、彼らが生き、思い、為したものまでもが無くなるわけではないはずだ。
何も為せないまま死にたくない。
礼二は電話の別れ口での少年の言葉を思い出した。
(高村殿・・・あの子が、あなたの生きた証です。この世界に残せたものです。
お嬢様もきっと、あなたを愛したことを後悔なさらなかったはずです。
ご自分の生に、どうか胸を張って下さい)
吸血鬼となった少年が残した血。敬愛する令嬢と交じり合った血。
新たに生まれた血の行く末に、祝福あれ。
心からの祈りを捧げ、礼二と昭子は幼い主の元へと駆けていった。
461: ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 22:57:22 QYOkGfJw
以上でブラッドフォースは完結です。
まずは今回の分について。礼二と昭子ですが、初登場ではありません。
智が別宅を脱走しようとして見つかったSP(第22回)が礼二、別宅で目覚めた智を藍香の元へ案内した(第20回)のが昭子です。
それと明言はされてませんが千早は自殺です。智の死に絶望し、銀刀で後を追うように自刃しました。
勢いで始めた話だったので、正直ちゃんと完結できるとは思ってませんでした。(当初はエルと綸音はいない予定でしたし)
最後まで書ききれたのは、レスをくれた皆さんのお陰です。本当にありがとうございました。
ただ、ストーリーを考えるあまり嫉妬・修羅場分の薄い作品となってしまったので、次何か書く時は頑張ろうと思います。
では、また近いうちに。
462:名無しさん@ピンキー
07/05/27 23:01:38 xHDYWZRX
>>461
や、やばい。
俺の涙腺が決壊してしまった・・・orz
なんとも切ない話でしたが、GJです。
3歳で修羅場を呼ぶ智くんはやばいね・・・
次回作も是非頑張ってください。
463:名無しさん@ピンキー
07/05/27 23:08:53 reMizh/3
リアルタイムイヤッホウ!
お疲れ様でした。次回作も頑張ってくだちい。
智くん二世の先行きが恐ろしい…
464:名無しさん@ピンキー
07/05/27 23:10:32 ZlkGa5Ks
>>461
先輩カワイソス(´・ω・`)
子も親と同じ道を歩むのか気になるわw
465:名無しさん@ピンキー
07/05/27 23:10:37 OeqPpJCd
>>461良いSSが完結するのは嬉しくて寂しい。
作者は嫉妬・修羅場が少ないって言うけど、自分の中では十分堪能できた。
というか、主人公に惚れた人が全員死ぬって十分な修羅場だろw
本当にお疲れ様でした。そしてGJ!!
466:名無しさん@ピンキー
07/05/27 23:34:45 7LMrKIlu
>>461
GJ!
でもやっぱりイデオンエンドは悲しい……
467:名無しさん@ピンキー
07/05/27 23:37:41 Gqn2tTNk
>>461
完結おめ。
一つの物語を完結させるなんてまじ凄いと思うっす。切ない話でしたが凄く面白かったです。
468:名無しさん@ピンキー
07/05/27 23:50:34 RCaBrd9E
それぞれ救いがありつつ絶望しつつ…みたいなバランスも考えたエンドだったなぁ。
救いがなかったのは綸音ちゃんくらいか?
最終話を考えずに書いて来たとは思えない、綺麗な終わり方だったね!
469:名無しさん@ピンキー
07/05/28 00:01:35 zDpFpe9f
この終わり方は素晴らしい…嫉妬とかは別にして
470:名無しさん@ピンキー
07/05/28 00:04:02 hoqWt3x9
その後のgdgdな展開が俺の脳を掠めた・・・
許婚氏はどうなったんだろうか?気になってならない。
471:名無しさん@ピンキー
07/05/28 00:29:44 BT25KHpu
>>461
な、泣かんぞ!確かに嫉妬スレの歴史に残る名作だったが、
これしkhのknではnknぞ…
あれれ、おかしいな。目の前がぼやけて…
472: ◆6xSmO/z5xE
07/05/28 00:50:47 faPCDPjD
>>470 許婚氏はどうなったんだろうか
一応そこも考えてあります。もっとも、気持ちのいい話ではありませんが・・・。
下に書きますが、本編には関係ない補完話として受け止めてください。
結論から言って、消されます。(多分、社会的に)
許婚男の家柄は神川家のずっと下。もちろんかなり上流のエリートですが、神川家にとっては種馬以上の存在ではありません。
藍香の子供が、神川本筋の血を引いていることこそが大事なのです。(藍香以外に男児が生まれなかったのも大きい)
そして智が生まれた以上、許婚男はむしろ邪魔な存在になったのです。
美談等の話はあくまで建前。智が許婚男の子でないことは公然の秘密です。藍香の家族もそれを分かっています。
(本人同士の面識はほぼ無かった、とありますし。もちろん高村智のことまでは、一部の者しか知りませんが)
しかし、それに突っ込むことは許さないという暗黙の強制を、許婚男を消したことに現しているのです。
いやぁ、上流階級って怖いですね。智2世の行く末、本当に大変そうです。
473:名無しさん@ピンキー
07/05/28 01:22:14 WC9AX+wz
乙かれさまでした。
完結はさびしいなぁ
吸血鬼・同じ呼び名からアレを想像してしまった
サトシの奇妙な冒険 第二部 ~嫉妬潮流~
神川智「君たちは次に『この泥棒猫!』と言う」
由香・夏見「「この泥棒猫!・・・・・・・・・はっ!!!」」
474:名無しさん@ピンキー
07/05/28 02:07:49 BT25KHpu
>>473
燃え尽きる程のBLOODHEAT?
475:名無しさん@ピンキー
07/05/28 02:19:52 GgvjssPG
>>461
お疲れ!
ちまたでsolaというのが物語的にも修羅場的にもとてもいい話と聞くが……
刺したり、帰って!とか叫んだりそんな作品だったりする?
もう主人公のことしか見えないというキャラとかいたり?
476:名無しさん@ピンキー
07/05/28 02:31:46 6ZMY5fSB
>>461
完結おめ&乙&GJです!!
終わるのは少し寂しいけど、良い作品が完結する事で得られる感動はやはり素晴らしいですね。
しっかりと作品を完結させる事の出来る職人さんは尊敬します。
良い作品をありがとうございます。
次回作も超期待していますので頑張ってください。
477:名無しさん@ピンキー
07/05/28 02:49:54 2skz+MBQ
>>475
先々週、刺されたキャラがいて、先週分で「帰って!」があった。
正しく主人公の事しか見えないキャラが、さらに今週で修羅場を引き起こす模様。
微妙に嫉妬とは違うような気もするが、見た方が分かりが早い。
478:名無しさん@ピンキー
07/05/28 03:48:55 QeOf78Qs
>>461
なんかネタ切れで無理矢理終わらせた感があるな、最後の先輩や千早の扱いとか
つかエル出した時点が一番盛り上がったところで後は蛇足に近い
479:名無しさん@ピンキー
07/05/28 04:28:25 FVgL/stG
>>461
乙カレーです
前回智の死に悲しみつつも
「あの世ではエルと二人で仲良くね」
とか思っていたがこの結末
あっちでも修羅場ってそうだ
480:名無しさん@ピンキー
07/05/28 07:43:51 yP2BP78S
>>461
乙です!
感動しました~、さすがは神、おもしろかったです
次の作品を全裸で待ってますww
481:名無しさん@ピンキー
07/05/28 10:09:04 X8f0lA1B
>>473
究極嫉妬少女(アルティメット・ジェラシーイング)が出たりするのか
482:470
07/05/28 11:46:13 iDEkT6w5
>>472
いい加減な俺様のレスにこんな長レスありがとう。
次世代話の妄想がふくらみ申す。
こういうミジメな許婚ネタはかなり燃えるなあ。大藪みたいでイイ。
許婚氏の留学先での隠し子対智二世の対決話でトリップするよん。
まさに二次(以下略
483:名無しさん@ピンキー
07/05/28 17:19:12 slLpUpC1
へたれな主人公ばかりだな。
まあそういうのだと楽だろうね。
駄作しかできんがな(わらい
484:名無しさん@ピンキー
07/05/28 17:34:02 NVdWZOU6
>>483
だ が そ れ が い い っ て 言 っ て る だ ろ ! !
485:名無しさん@ピンキー
07/05/28 17:48:16 UJt7LgwQ
>>478
確かに失速したとは感じたな
まぁ、それは作者が一番分かってると思うが
486:名無しさん@ピンキー
07/05/28 18:16:19 3FwsT3uV
それでも完結させたのは凄いよ。
487:名無しさん@ピンキー
07/05/28 18:18:29 1DFE17zs
中には途中でぶん投げる職人がいるからな。
そういう中での完結乙華麗
488:名無しさん@ピンキー
07/05/28 18:29:03 6X8MFPKf
>>487
とりあえずメ欄にsage入れようぜ
489:名無しさん@ピンキー
07/05/28 21:46:59 xQs4nyDE
荒らしが必死に作者を叩いているけどさ・・
作者以上の作品を書けない荒らしにとっては負け犬の遠吠えだな
特にレベルの低い荒らし方をしている荒らしにとっては惨めだ
490:名無しさん@ピンキー
07/05/28 21:50:28 3FwsT3uV
得意げに書いてるけど嵐に反応する奴も嵐って知ってるよね?
491:名無しさん@ピンキー
07/05/29 00:06:40 5wbj5HLF
荒らしというより普通に感想だと思うんだがね。
マンセー以外は荒らしとかいう思考は勘弁してほしい。
492:名無しさん@ピンキー
07/05/29 00:11:39 2JWbLUoI
荒らしの定義について語るなら、避難所へどうぞ。
493:名無しさん@ピンキー
07/05/29 00:25:22 1KG8AR+n
>>3に従わないなら荒らしと変わらないってのがスレ全体の了解
文盲じゃなきゃわからないはずはない
494:名無しさん@ピンキー
07/05/29 00:28:04 1e2Gbfy+
神職人への嫉妬から、スレ住人を避難所へと監禁する荒らし・・・・・・ごめ、何でもない。
職人方は、身に受ける嫉妬をエネルギーに変えるといいんだぜ!
>>461
GJ!
荒らしはID変えて、自分の書き込みに批判的なこと書いてたりもするから、
みんな嫉妬する人間の知略に負けるなよ!
495: ◆Xj/0bp81B.
07/05/29 03:20:37 cpboQAra
投下します
496:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/29 03:22:45 cpboQAra
翔が作ったオムライスをペロリと平らげると、向かいの椅子に座る澄香が眠たそうに瞼を擦り始めた。
「眠いのか?」
翔が問うと、澄香はぶんぶん首を降る。しかし、その仕草の側から、彼女は欠伸を噛み殺していた。まるで大晦日に必死で眠気を堪え
る子供のようなその様子が可愛らしくて、翔は表情を崩した。
「眠いなら、寝た方がいいよ」
「大丈夫です。眠くないです」
「いいや、嘘だな。だってほら、目の下に球磨が出来てる。顔色だってよくないし、少し休んだ方がいいよ」
優しくなだめる口調で翔が言うと、澄香はうつ向いて、ぶつぶつと小さな声で文句を言う。
「が寝たらセンパイ帰っちゃうんでしょ……」
「は?」
「……だって、帰ってほしくないんだもん」
ふてくされたような顔をする澄香。そのいじらしい言動に、表情に、翔は胸が熱くなるのを感じた。思わず破顔して、
「大丈夫。帰ったりしないよ」
「本当、ですか?」
澄香は疑うような上目遣いで言った。
「ああ、もちろんだ」
翔はそう言って微笑んだが、澄香はまだ安心出来ない様子で、翔の瞳をジッと見つめて言う。
「約束ですよ。絶対帰っちゃ駄目ですよ?」
「分かってる。約束するよ」
「あと、私が寝るまで手を握っていて下さい」
まるで手のかかる子供のような澄香に苦笑いを浮かべて、翔は頷いた。
すると澄香はようやく納得した表情を浮かべて立ち上がり、フラフラと翔の元に漂ってきて腕を掴んだ。腕が引かれる。促されるよう
に立ち上がると、翔は、おぼつかない足取りの澄香を支えつつ、二階にある彼女の部屋へと向かった。
ベッドに入っても散々駄駄をこねる澄香は、ついには一緒に寝たいとまで言い出した。丁寧にそれを断ると、彼女は再びふてくされた
顔をしたが、翔が優しく手を握ってやると安心したのか、存外あっさりと寝息を立てはじめた。澄香に掛けられたタオルケットの胸部
が、小さく上下している。何があったのかは分からないがよほど疲れていたのだろう、グッスリと眠ったようだ。それを確認すると、
翔は握り締められた手をほどいて、澄香の額を撫でてやる。
497:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/29 03:24:52 cpboQAra
こうしてマジマジと眺めてみると、やはり澄香は自分より年下なんだな、と思う。翔の同級生に比べれば、顔立ちはずっと幼いし、体
つきも……だ。しかし、そのまだまだあどけなさの残る顔も体も、一枚の薄い皮の裏には辛い過去を隠している。母親の死、実の父親
からのレイプ、学校からの孤立、そして堕胎。それら全てが澄香に暗い陰を落とし、度重なる不幸に反抗する力さえ失った彼女は、全てを
無気力に受け入れてきた。それは、生きる事に絶望していたからなのかもしれない。
しかし最近、澄香は少しづつ変わり始めている。以前のような感情と行動が逆さになった気持ちの悪い笑顔は見せなくなったし、年相
応の無邪気さを見せるようにもなった。何より、今を心の底から楽しんでいるようにも見える。そんな澄香の変化を間近で見ていると
、一時期は貧乏くじを引かされたと思っていたのに、今では彼女を守ってやりたいとさえ感じている自分に気付く事がある。その気持
ちの半分は同情であるが、残りの半分は心安らぐ暖かな気持ちだ。うまく言語化は出来ないが、その気持ちは妹を持つ兄の気持ちに似
ていると思う。
今はまだ澄香の事を好きなわけではないかもしれない。しかし、こういう穏やかな瞬間の度、確実に澄香に心惹かれていく。今すぐに
、というわけにはいかないが、先を感じさせるにはそれで十分だった。焦る事はないのだ、まだ時間はたくさんあるのだから。
さて、困った事にやる事がない。
澄香は寝てしまっている。鞄の中には今更やる気のおきない参考書のみ。リビングにはテレビとゲーム機があるが、他人の物を勝手に
いじるのは気がひける。しかし、やる事がないというのは退屈なものだ。いっそ帰ってしまいたいくらいだが、澄香と約束した手前勝
手に帰るわけにはいかない。仕方なく、何か時間を潰せるものはないかと澄香の部屋の中を見渡して、思う。
498:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/29 03:27:37 cpboQAra
びっくりするほど生活の匂いのない部屋だ。六畳ほどの広さの部屋は正方形で、部屋の北側にドアがあり、南側にはベランダへと繋が
る大きな窓、東側には小さな窓が取りつけられている。澄香のベッドは朝日がさしこむように、東側の窓の下に置かれている。その窓
を彩るレースのカーテンは、長い年月放置されていたのか、その純白さを失い茶色く焼けてしまっていた。
ベッドの隣には、勉強机が一つ。机の上には教科書やノート、筆記用具が散らばっていた。その他にこの部屋にあるものと言えば四角
いテーブルが一台、部屋の中央に置かれているくらいで、それ以外は本棚も、テレビもコンポもない。壁は全て剥き出しでポスターも
カレンダーも貼っていなかった。もちろん女の子らしい小物やぬいぐるみ、写真なども一切なく、以前訪れた中野の「何となく女の子
らしい部屋」にさえ遠く及ばない殺風景だった。
この部屋は勉強して寝るだけしか出来ない空間。あまりに寂しすぎる部屋。しかし、その寂しさが以前の澄香の生活をありありと教え
てくれる。
つまり澄香は、孤独と暗い過去に人間らしさを塗り潰されて、抜け殻のように淡々と生きてきたのだろう。この部屋の全てが、彼女の
そういった灰色の過去を写す鏡になっているのだ。そう思うと途端に澄香に対する憐れみと、この部屋に対する居心地の悪さを感じた
。
特に、この居心地の悪さがいたたまれない。まるで、下手なホラー映画を見ている気分だった。出来れば澄香が起きるまでこの部屋で
時間を潰したかったのだが、どうも、借りてきた猫のようにはなれそうもない。翔は澄香にタオルケットをかけなおすと、おもむろに
部屋を後にし、階段を下っていった。
広いリビングには、大きなテーブルが一つある。まだ澄香の残した食器が散らかっているが、それはまた後で片付けよう。そのテーブ
ルの向こうには、以前水樹由美と共にサッカーを見たソファがあり、翔はそこに腰を下ろした。その柔らかすぎず、堅すぎず体を飲み
込む感触が心地よく、思わず溜め息をもらす。すると、まるでそれを待っていたかのように、体の奥から疲労がジワジワと広がり、テ
スト勉強で寝不足であった事を唐突に思い出した。
499:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/29 03:29:15 cpboQAra
秋の陽気は暖かく、窓から指し込む柔らかな光が、翔の体を優しく包む。瞼を閉じてしまえば、すぐにまどろみの中に転がり落ちてし
まいそうだった。
しかし、さすがに人の家で勝手に寝るわけにはいかない。誰かに見られたら、さぞ怪しまれる事だろうし、何より失礼だ。だから、絶
対に眠るわけにはいかないのだが、それでも、少しくらいはウトウトしても構わないはずである。だいたいにおいて、仮に自分が失礼
なら、客を放ったらかしにして寝てしまっている澄香だって失礼だ。それに自分は寝不足であり、起きるまで待っていにゃならんわけ
であり、暇を殺さなければならないのだ。
少しくらいなら。
翔は瞳を閉じた。
すぐにまどろみが、意識を刈り取っていく。
500: ◆Xj/0bp81B.
07/05/29 03:30:45 cpboQAra
久しぶりの投下完了
最近は空気が乾燥してます。みなさんも喉や鼻をやられないよう気を付けてください。
501:名無しさん@ピンキー
07/05/29 08:18:11 Lonb7hDx
作者の優しさに俺が泣いた
502:名無しさん@ピンキー
07/05/29 08:29:09 D7DJ7sND
晴香姉さんマダー?
503:名無しさん@ピンキー
07/05/29 10:57:05 cZ+uj+ib
>>477
ワオ
DVD買ってみるかな
>>500
GJです
504:名無しさん@ピンキー
07/05/29 14:42:25 rovRh13L
>>500
GJ
なんか寝てるだけなのに死亡フラグが見えるぜ
505:名無しさん@ピンキー
07/05/29 20:03:40 xpyKj0Ul
>>492
避難所は荒らしついて語るスレじゃない、何でも誘導するなよ
506:名無しさん@ピンキー
07/05/29 20:10:09 eqgqCGXn
本スレで語られても困るけどなと釣られてみる
507:名無しさん@ピンキー
07/05/29 20:15:24 lj16HTbo
せっかく雑談スレがあるのに……。
508:名無しさん@ピンキー
07/05/29 20:17:12 xpyKj0Ul
>>506
荒らしはどこでもスルーが基本だけどな
509:名無しさん@ピンキー
07/05/29 21:22:05 tevGU8pA
>>508
こんな当たり前の事今更言ってるお前らにワロタw
510:名無しさん@ピンキー
07/05/29 23:21:40 2eYnpwdp
>>500
どうでもいいんだけど文章の途中で改行を入れるのはやめてくれー。
画面サイズに合わせようとしてるんだろうけど、誰もが同じサイズではないし。
511:名無しさん@ピンキー
07/05/30 00:16:01 cJ2cVVsb
>>507
荒らしから逃げるためにあるのに荒らしの話題ばっか話してたら本末転倒もいいとこじゃね?
512:名無しさん@ピンキー
07/05/30 00:28:39 FYDTDLfj
>>500
投下乙です!!
今回は嵐の前の静けさ、と言う感じかな?
とりあえずこれからどうなるのか気になりますね・・・
あと>>510が言っているように、文の途中ではなく句読点で改行した方が見やすいと思いますよ。
513:名無しさん@ピンキー
07/05/30 00:43:01 arjFQ750
嫉妬スレ・ヤンデレスレ・キモ姉&キモウトスレ
何か今年になってからハイレベルな争いが始まったのは気のせいだろうか?
514:名無しさん@ピンキー
07/05/30 00:54:55 bVEm2c5/
争いなんてないに?
きちんと住み分けられてるじゃんよー。
515:名無しさん@ピンキー
07/05/30 00:56:19 BjMkkoe6
このスレから分化みたいな形ではあるけどね
516:名無しさん@ピンキー
07/05/30 01:02:50 bVEm2c5/
そういや、『ストーカー』と『キモ姉妹』はここからの分化だけれど、
『ヤンデレ』と『依存』って結構前からあるよな……。
発生の背景ってどうなってたっけ?
517:名無しさん@ピンキー
07/05/30 01:20:23 FYDTDLfj
>>513
競い合って良いSSが現れるのはいい事じゃないかな?
結構住人もかぶってると思うし・・・
>>516
ストーカーは終焉だよ。あまりにも細分化しすぎた。
ヤンデレもここからの派生だが、依存は結構前からあったような・・・
518:名無しさん@ピンキー
07/05/30 01:28:08 bVEm2c5/
>>517
thx。
そういや、依存はエロゲ板の方からだったわな。忘れてた。
519:名無しさん@ピンキー
07/05/30 10:59:08 2SO/n/A1
キモ姉妹スレはいかんせん最初に投下された作品が神すぎた。現在連載中の籠の中。
520:名無しさん@ピンキー
07/05/30 11:12:51 bpLQWBSG
その籠の中もそろそろ完結だし
そうなったらスレ統合の可能性も出てくるかもしれんな
521:名無しさん@ピンキー
07/05/30 12:11:25 FYDTDLfj
>>520
完結したらスレ統合という経緯が分からん
522:名無しさん@ピンキー
07/05/30 12:27:39 tuqzt9wE
てか、キモ姉&キモウトを作った経緯は荒らし対策ための分断工作でしょ
あちらの>>1の思惑通りに荒らしは流れて嫉妬スレは平和になった
523:名無しさん@ピンキー
07/05/30 14:16:50 FYDTDLfj
>>522
あそこはここじゃなくてヤンデレスレからの派生なんだが・・・
524:名無しさん@ピンキー
07/05/30 14:35:15 +6FXrhgT
統合とか、ホント勘弁。
厳密には色々と違いがあるし。
あっちにはあっちの、こっちにはこっち独特の味わいがある。
敢えて混ぜる危険を冒さなくてもいい。
分かれたものがそれなりに続いてるのには理由があるんだって。
七戦姫とか九十九の想いみたいな多種多様な属性・出自の女の子が出てくるのとか、
キャラを限定した専門スレじゃ見れないし。
どっちもこのまま行って欲しい。
525:名無しさん@ピンキー
07/05/30 14:41:05 2QP3LuSo
>>523
?
いや、嫉妬スレからの誘導目的だが
526:名無しさん@ピンキー
07/05/30 14:47:30 JcCZ3PBJ
>>524
確かに多様性があるのは良いことだ。
>>525
ま、スレ立てた本人しか分からんしどっちでも良いと思うよ。
527:名無しさん@ピンキー
07/05/30 16:16:57 J0ZG2XF3
キモカワイイヒロインの物語を書きたいと思ってるんだが…。
どんな条件が当てはまるだろうか。
・人の話を聞かない、または都合よく解釈する。
・笑顔で人を殴れる、刺せる。
・過剰なスキンシップをやたらと取りたがる。(匂いをつけて所有権主張)
・親が自宅に居ない。(監禁向き)
あとどんなのがあるだろう。
わりと本気で書きたいと思ってるので案があれば教えて欲しいっす。
528:名無しさん@ピンキー
07/05/30 16:20:40 rpAQEKx4
変な追加武装身につけて魅力が減ったんだ!
529:名無しさん@ピンキー
07/05/30 21:31:44 TEHeIkwS
>>527
優先順位が 彼氏>[越えられない壁]>世界 とか。
ファンタジーなんかで彼を生け贄に捧げないと世界が滅亡すると言われても、
笑顔で「あっそ、じゃあ滅亡すれば?」と言い切れる女の子。
530:名無しさん@ピンキー
07/05/30 21:59:59 al36H06X
>>527
一応、追加設定の例を挙げると
・主人公に頭を撫でられると尻尾を振って喜んで正気に戻る
(ヤンデレ状態でも可能)
・主人公に頬にキスするだけで顔がゆでたこのように
頬が真っ赤に染まる
・エロ本関係は自分の系統モノしかダメだと洗脳したりする
・ドロボウ猫は哀れ、三味線に歌いながら隠し持っていた包丁で
笑顔で恋敵の腹部を刺す
・監禁する時はちゃんと暴力を振るうことなく愛で洗脳する
以上
思いついたのはこれだけかな
531:名無しさん@ピンキー
07/05/30 22:03:42 OAKRCezJ
ギリシャ神話のヘラとかは結構素敵な嫉妬女神だって以前本スレで聞いた。
だが、妻としては最高でいようとするが、母としては最低なんだよな。
息子には徹底して冷たいし、かといって娘は然程活躍できてないし。
つまり、愛の結晶はしっかりと孕むが、
それが産まれて夫婦の間に立ち入るなら容赦しないって感じがあればいい。
532:名無しさん@ピンキー
07/05/30 22:37:30 3JfQ2AKG
>>527
・家事はプロ級か壊滅的に下手のどちらか。
前者ならば三食すべて管理し、パンツの洗濯から部屋の掃除というエロ本駆除を行う。
さらに主人公がそれを拒む、もしくは他の雌猫にやらせると「私が嫌いになったんだ…ブツブツ…」
後者ならば主人公がヒロインの世話を焼き続けており、常時依存モード。両親と不和とか、家に居なければ倍率アップ
こちらの多くは自分が依存している事に無自覚で、主人公が寝とられてから自分の気持ちに気付くタイプ。
いつもならば食卓に美味しい料理が並び、向かいの席には主人公が座り、談笑しながら食事をするのに、
彼に女が出来たあの日からコンビニ弁当を暗い部屋で黙々と食べるヒロイン。
始めは何ともないが一日ごとに辛くなり、すぎた過去の日々を思い出し、頬から滴り落ちる涙。
誰が悪いのか…あの女に決まってる!!
533:名無しさん@ピンキー
07/05/30 22:47:44 hK5TBuj7
>>532
一生のお願いだから後者で書いてくれまいか
534:名無しさん@ピンキー
07/05/30 23:02:10 +6FXrhgT
>>532
まあ、依存に無自覚なのも楓ちゃんみたいなお世話タイプの例もあるわけだがな。
尽くす対象がいなくなった時に、世話しながらも世話させてくれる相手に依存してたって気付くことも。
家事は好きだったはずなのに、何故こんなにも虚しくて胸が苦しいの?
あの人の笑顔がないから・・・?
私が好きだったのは、家事じゃなくてあの人が喜んでくれる事だったの・・・?
で空鍋をコトコト、みたいな。
そういえば、あの家で主人公の下着は一緒に洗濯していたのか・・・?
もしかして、楓ちゃんが洗濯から干すのから全部やってた?
535:名無しさん@ピンキー
07/05/30 23:04:38 +6FXrhgT
あと、>>532の後者タイプはツンデレがなりそうだな。
失って初めて有り難さに気付くとか。
何かとらドラとかゼロ魔のアレがそのまんま当てはまりそう。
536:名無しさん@ピンキー
07/05/30 23:08:48 al36H06X
>>534
てか、>>534のネタでSSは充分に書ける
楓や言葉様のような健気な少女はこのスレじゃあ結構受けますよ
537:名無しさん@ピンキー
07/05/30 23:22:21 1yanxNr6
逆にとらとらの姉虎はコテツミンにベッタベタで、
538:名無しさん@ピンキー
07/05/30 23:26:09 1yanxNr6
途中で送信しちまったorz
>>535
逆にとらとらの姉虎はコテツミンにベッタベタで、
それが消えかかったから普通に戻ったな
あの部分は個人的に大好きだ
まぁ、寧ろサクラの方が俺の嫁だが
539:名無しさん@ピンキー
07/05/30 23:28:46 vrbfbOe1
>>534
既得権益をいかにして確保し続けるかが妹&幼馴染みのたしなみ
それはそうと>>536は楓様にも様をつけろ
540:名無しさん@ピンキー
07/05/30 23:50:57 jK50VxDt
魔法・超能力スレでこのスレ向きのssがきてたので報告しとく
541:名無しさん@ピンキー
07/05/31 00:33:50 6P1HnEFV
隣に住んでいる幼なじみが非常にツンデレで、
人前でツンツン、二人きりはデレデレを初期設定とする。
しかし主人公がある女子に告白されて以来、
人前ではツンヤン、二人きりだとデレツン。
つまり新種のツャンデレになる。
自分では内心(黒化/恋心)を周りに隠しきれているとおもっているが、
主人公は幼なじみから染みでる黒/桃色/赤オーラに
どう対応して良いか分からなくなり女子の告白を受けることに。
あとは王道。
というベタ展開で新種のツャンデレを作ってみたんだが…
汎用性皆無だな、こりゃ。
542: ◆Xj/0bp81B.
07/05/31 00:34:01 yeo0P5Hj
投下します
543:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/31 00:36:38 yeo0P5Hj
暑くて目が覚めた。
柔らかだった日の光は、刺々しさをまし、翔の顔を斜めに焙っている。その光を遮るように手をかざし、ゆっくりと瞼を開けた。
ピントのずれたカメラのようにボンヤリとした視界に、真っ先に飛込んできたのは、窓の外の茜空だった。西の空で雲を纏う太陽が、
黄金色に輝き、翔を照らしている。
少しずつ、輪郭がはっきりしはじめる。
翔は体を起こし、グルリと首を回した。澄香の家である。リビングに置かれたソファの上である。首を回した際に、
視界の隅で捕えた時計は、五時半を指していた。
「あら、お目覚めかしら?」
背中から、声がした。おもむろに振り返ると、ぼんやりとした視界の中に人の影。目を擦ると少しだけ輪郭がはっきりして、
エプロン姿の女性がテーブルの上を片付けているのが見えた。
「ずいぶん、ぐっすりと寝ていたようだけど、疲れてたの?」
女性、は口許を押さえてクスクスと笑う。その女性が水樹由美であると、ぼんやりとしていた頭が認識した途端、急に頭が冴えた。
しまった、と思う。他人の家でうっかり寝入ってしまったわけである。由美はリビングで寝ていた顔を知っている程度の男の姿に、
さぞ驚いた事だろう。
「あ、えっと、すいません。こんなところで寝てしまって」
「いいのよ、気にしなくても」
そう言って貰えると少しだけ気が楽になる。
「あの、それで澄香……さんは、起きましたか?」
今は五時過ぎ。澄香が寝たのは十一時半頃である。もう起きていても、おかしくない時間だ。
しかし、翔の問いに、由美は答えづらそうに眉を寄せた。
「まだ、よ。ぐっすり眠っちゃってるわ。最近、と言ってもここ二、三日だけど、眠れてなかったみたいなの」そう言いつつ、
由美はエプロンで両手を拭きつつ、翔の隣に腰を下ろした。
「あの娘、最近様子も変だったし、ずっと心配だったのよ。ようやく眠ったようで、ひとまずは安心だけど、澄香に何があったのか、
翔くんは心当たりない?」
544:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/31 00:39:08 yeo0P5Hj
由美は、原因はあなたでしょう、とでも言いたげな瞳を翔に向けてくる。その瞬間、今まで感じていた申し訳なさが霧散し、
腹の底に亀裂が走った。
「心当たり、ですか……」
その亀裂を隠すように、翔は澄香についての記憶を辿った。まず、初めに頭によぎったのは、今日澄香が玄関で見せた澱んだ瞳だった。
あの瞳は、何か狂気を宿していたように思う。次に死人のように青白く変色した彼女の顔。あれは、明らかにおかしな顔色だったが、
なるほど原因は寝不足のようだ。しかし、肝心の原因はいくら頭を捻ったところで、何も分からなかった。
そもそも、翔には澄香に何かをした覚えはない。彼女が喜ぶ事はほとんどしてないかもしれないが、
傷付けるような事もしていないはずであり、安眠を妨害するような事などやっていない。
「ないですね」
記憶の裏付けを元に、はっきりと言う。
「本当にない?」
「ええ、ないです」
すると、おかしいわね、と由美は腕を組み、こめかみを指で押さえた。そして、そのままの態勢で、由美はかまをかけるように言う。
「てっきり、翔くんと喧嘩したものだとばかり思ったわ」
そういう考え方は嫌いだ。今でこそ澄香との関係も喉元を過ぎたが、当時は貧乏くじを引かされた気分だったのだ。もとはと言えば、
それも全て由美により導かれたわけであり、そもそも沼の底に引きずりこんだ奴が、真っ先に翔を疑うなどおかしい。
瞬間、腹の底に風穴があき、そこから熱い感情が流れだした。
「そんな事するわけないじゃないですかっ!!」
自分の声に、自分が驚いた。必要以上に大きな声に、熱い感情に水がかけられ、翔は咳払いをして場の空気を沈める。
由美は驚いた顔をしていた。翔は柔らかな笑みを浮かべ、今度はゆっくりと、静かに言う。
「澄香と喧嘩なんてした事ないですよ」
呆気にとられていた由美は、すぐに取ってつけたようにぎこちなく笑い、
「あ、あら、そうなの。ご、ごめんね、疑ったりして」
「いえ、気にしないで下さい。俺も、少し熱くなってしまって」
沈黙。嫌な空気が辺りに立ち込めた。
その沈黙を、由美がわざとらしい咳払いと共に打ち破る。
545:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/31 00:43:42 yeo0P5Hj
「あの娘さ、変わったよね」
由美は遠くの茜空を見ているようだったが、その瞳に写っているのは別のもののように思えた。
「……ええ、そうですね」
しみじみと、意味を噛み締めて呟く。
澄香は変わった。そしてこれからも普通に向かい、どんどん変わっていくだろう。
そういった感慨を、由美が震える一言で振り払う。
「なんか、悔しいな」
「えっ?」
何が悔しいんだろう。
翔がいぶかしげに由美を見ると、彼女は自嘲したように鼻で嗤い、言を繋げる。
「だって、そうじゃない? 私はもう二年近く澄香の側にいるのにさ、あの娘を変えられなかったのよ。
だけど、翔くんはたった一週間で澄香を変えちゃったんだもん。だからかな、時々思うのよ、
私は澄香に何もしてあげられていないんじゃないかって、ね」
自嘲が、由美の唇を歪ませる。自分が情けなくて、おかしくてたまらないといった様子であった。
しかし彼女の瞳は夜のヒマワリのように元気を失くし、悲しげに萎んでいる。きっと、こっちが真の感情なのだろう、と翔は思う。
「そんな事ないですよ」
「あら、慰めなら、いらないわよ」
別に慰めようと思ったわけではない。翔はゆっくりと首を横にふりつつ、
「苦しい時、悲しい時、寂しい時、誰かが側にいてくれるって凄く嬉しい事なんです。気の利いた言葉なんかよりずっと、
気持ちが落ち着くんですよ。由美さんは、今までそれをやってきたんでしょう?だったらもっと胸を張ってもいいと思います」
驚いた顔をする由美に、翔はさらに話を続ける。
「俺は、たまたま目の前にボールが転がってきたFWのようなものです。ゴールを決めて目立つかもしれませんが、
そのきっかけを作ったのも、守ってきたのも、支えてきたのも全て由美さんです。目に見える何かは残らないかもしれませんが、
それは記憶には残ります。きっと、澄香も分かっていると思うし、由美さんに感謝しているはずですよ」
そこに嘘はない。ただ、ひとつ訂正があるとすれば、ボールがたまたま目の前に転がってきたわけではないという点だ。
ボールが溢れる場所を、翔は知っていたのだ。