嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35at EROPARO
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35 - 暇つぶし2ch300:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:20:33 pCSC+dBX
肘まで落ちた鞄を肩にかけなおす。ポケットの中の財布を取り出す。
電車が速度を落として、ホームに滑り込む。停車しドアが開くと、素早く電車から降り、改札を抜けて、小さな繁華街に入る。寂れた
地方都市に、行き交う人の数は少ない。碁盤目の住宅街をずんずん進む。空き家と空き地の目立つそこは、少しだけ寂しい。
やがて、澄香の家の前まで辿りつき、翔は歩を止めた。彼女の家は、辺りのひっそりとした雰囲気を吸い込み、まるで辺りに溶けるよ
うに紛れ込んでいた。雨戸が閉じられ、電気もついていなく、人の気配さえ感じられない。以前、確かに感じた生活の匂いは、消え去
っていた。
それが不気味で、翔は慌ててインターフォンを鳴らす。ひっそりと静まり返った水樹家の中に、機械的な音が響いた。
その音が消えた後、沈黙。声はもちろん、物音さえ聞こえない。もう一度、インターフォンを押してみても、やはり沈黙しか返ってこ
なかった。不安が、胸の中でどんどん膨れ上がっていく。
「おいっ!! 澄香いるんだろ?」
ドアを乱暴に叩きつつ、声を張り上げる。しかし、返事はない。
まさか、ここではないのだろうか。そんな疑惑がジワジワとにじみよる。考えてみれば、澄香がここにいる保証はない。あったのは、
直感だけだ。
焦りが募る。
焦藻が、少しだけ翔の理性を奪う。
ノブをつかみ、ガチャガチャと強引に回す。すると、存外あっさりとドアは開いた。翔は肩透かしを食った気分だった。
軋みながら開く漆黒の扉。その内部が抱えこんだ深淵に、帯状の光が広がっていく。
ゆっくりと広がる光の中。上がり端で膝を抱いて蹲る澄香の姿が写し出された。膝を抱いた両腕に、顔を押し付けるその姿は、母の中
に宿る胎児を思わせる。しかし、胎児ほど温かさや優しさに内包されているわけではない。むしろ、まるで絶望の海をさ迷うかのよう
に、彼女は細かく震えていた。
「すみ、か……?」
戸惑いがちな声が出た。石のように固く重いその声は、すぐに闇の中に消えていき、後には静寂が残る。返事はなかった。



301:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:21:41 qkNPMiqI
不安がはね上がる。
「澄香っ」
今度は、はっきりとした声が出た。慌てて澄香に駆け寄り、彼女のすぐ側に腰を屈める。相手の息遣いさえ聞こえてきそうな距離、そ
れでも、澄香は翔に気付かない。まるで光を失ったように、音を失ったように、彼女はただ震えている。
ふと、静寂を震わす小さな声に気付く。小さく早口なその音は、うずもれた澄香から漏れている。耳をすまし、その音を拾おうとする
。しかし、その音が声となるにはあまりに小さ過ぎて、はっきりと聞き取る事ができなかった。
その音が止む事はなかった。まるで呪文を唱えるように、まるで悪魔に魂を持っていかれてしまったように、まるで狂った時計のよう
に、澄香はその音を放ち続けている。
不安が、爆発した。
「おい、澄香っ!どうした? 大丈夫か?」
澄香の両肩を掴み、大きな声をかける。すると、彼女は体を大きく震わせ、身を固くした。それからいかにも恐る恐るといった様子で
、ゆっくりと顔をあげた。
翔は思わず息を飲む。その顔は、翔の知っている澄香ではなかった。
疲弊しきった頬は痩けている。もう目を開ける事さえ出来なくなったように、彼女の瞼は半開きで、その奥に隠された瞳が、死んだ魚
のように澱んだ光を放っている。まるで冬山の死人のように青くなった顔色は、彼女をより凄惨に彩っていた。やがてその凍えたよう
に青紫色に変色した唇が、ゆっくりと動き出す。
「せん、ぱい……?」
集点の合わない瞳が、翔を見つめる。澱んだ瞳が、鏡のように翔を写し出している。その狂った瞳は、人間のそれとは思えなかった。
背中に冷たい何かが走り、翔は声を失う。狂った光を放つ彼女は、自分の声を確認するように再び唇を動かした。
「せん、ぱい」
そして、それが、契機だった。まるで春になり、蕾が開くように彼女の瞳が急速に色味を帯ていき、やがて笑顔の花がさく。瞳に光が
宿り、キラキラとガラスのように輝く涙が蓄積されていく。


302:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:22:43 EXp+aWdS
羽化する蛹を見ている気分だった。その、生が躍動を開始するような澄香の変化に見とれていると、いきなり彼女の全身が、翔の体に
絡み付いた。両腕が背中に回され、彼女の顔が胸に押し付けられる。その勢いに飲み込まれ、翔は後ろに手を着き、尻餅をついた。

澄香のしゃくりあげるような息遣いが、胸を擽る。
「う、嬉しいです」
しゃくりあげる息遣いに声を乗せて、澄香が懸命に言葉を紡ぎはじめた。
「来て、くれないかと、思って、ずっと、ずっと、怖くて、だけど、センパイが、私を、選んでくれて、本当に、本当に、嬉しい。あ
あ、せんぱい、すき、だいすきです」
澄香の絡み付く腕にいっそうの力がこもり、彼女の顔が強く胸に押し付けられる。その予想外の歓迎と変貌に翔は呆気に取られて、胸
の中の少女を、呆然と眺めていた。
その後、澄香は胸の中でこしょこしょと擽るように動き回り、ようやく恥ずかしそうに顔をあげた時には、涙と鼻水と唾液でベトベト
で、もちろん翔のワイシャツも涙と鼻水と唾液でベトベトだった。そのベトベトを拭いもせず、澄香はえへへと照れたように笑う。
そこでようやく、翔は我に帰った。そして、メールでたすけを求めてきた少女の姿をマジマジと観察する。
見たところ、澄香は元気そうである。顔色は悪いが病気のようではない、怪我をしている様子もない。つまり、そこには大学進学絶望
の事実だけが残ったわけだが、それでも怒ったり、説教する気は沸いてこなかった。彼女のあまりの変身ぶりに、翔の毒気はすっかり
抜けてしまっていた。
翔は溜め息を付きつつ立ち上がり、
「少し、話をしようか」
怒ったり説教する気はないが、聞きたい事は山ほどあるのだ。
そのとき、ふとシャツの裾が引っ張られた。
「ん? どうした?」
「センパイに、聞きたい事があるんです」
未だ立ち上がろうとしない澄香に視線を落とす。うつ向いた顔に髪がかかり、表情は見えなかった。
「なに」
一寸後、ためらいがちな声が来る。
「センパイは、私の事、好きですか?」
「え?」


303:すみか ◆lv.o3z9kM6
07/05/22 01:23:08 2+4MrjrW
肘まで落ちた鞄を肩にかけなおす。ポケットの中の財布を取り出す。
電車が速度を落として、ホームに滑り込む。停車しドアが開くと、素早く電車から降り、改札を抜けて、小さな繁華街に入る。寂れた
地方都市に、行き交う人の数は少ない。碁盤目の住宅街をずんずん進む。空き家と空き地の目立つそこは、少しだけ寂しい。
やがて、澄香の家の前まで辿りつき、翔は歩を止めた。彼女の家は、辺りのひっそりとした雰囲気を吸い込み、まるで辺りに溶けるよ
うに紛れ込んでいた。雨戸が閉じられ、電気もついていなく、人の気配さえ感じられない。以前、確かに感じた生活の匂いは、消え去
っていた。
それが不気味で、翔は慌ててインターフォンを鳴らす。ひっそりと静まり返った水樹家の中に、機械的な音が響いた。
その音が消えた後、沈黙。声はもちろん、物音さえ聞こえない。もう一度、インターフォンを押してみても、やはり沈黙しか返ってこ
なかった。不安が、胸の中でどんどん膨れ上がっていく。
「おいっ!! 澄香いるんだろ?」
ドアを乱暴に叩きつつ、声を張り上げる。しかし、返事はない。
まさか、ここではないのだろうか。そんな疑惑がジワジワとにじみよる。考えてみれば、澄香がここにいる保証はない。あったのは、
直感だけだ。
焦りが募る。
焦藻が、少しだけ翔の理性を奪う。
ノブをつかみ、ガチャガチャと強引に回す。すると、存外あっさりとドアは開いた。翔は肩透かしを食った気分だった。
軋みながら開く漆黒の扉。その内部が抱えこんだ深淵に、帯状の光が広がっていく。
ゆっくりと広がる光の中。上がり端で膝を抱いて蹲る澄香の姿が写し出された。膝を抱いた両腕に、顔を押し付けるその姿は、母の中
に宿る胎児を思わせる。しかし、胎児ほど温かさや優しさに内包されているわけではない。むしろ、まるで絶望の海をさ迷うかのよう
に、彼女は細かく震えていた。
「すみ、か……?」
戸惑いがちな声が出た。石のように固く重いその声は、すぐに闇の中に消えていき、後には静寂が残る。返事はなかった。


304:すみか ◆rLEFaz7fkI
07/05/22 01:24:11 YVXb/TNy
羽化する蛹を見ている気分だった。その、生が躍動を開始するような澄香の変化に見とれていると、いきなり彼女の全身が、翔の体に
絡み付いた。両腕が背中に回され、彼女の顔が胸に押し付けられる。その勢いに飲み込まれ、翔は後ろに手を着き、尻餅をついた。

澄香のしゃくりあげるような息遣いが、胸を擽る。
「う、嬉しいです」
しゃくりあげる息遣いに声を乗せて、澄香が懸命に言葉を紡ぎはじめた。
「来て、くれないかと、思って、ずっと、ずっと、怖くて、だけど、センパイが、私を、選んでくれて、本当に、本当に、嬉しい。あ
あ、せんぱい、すき、だいすきです」
澄香の絡み付く腕にいっそうの力がこもり、彼女の顔が強く胸に押し付けられる。その予想外の歓迎と変貌に翔は呆気に取られて、胸
の中の少女を、呆然と眺めていた。
その後、澄香は胸の中でこしょこしょと擽るように動き回り、ようやく恥ずかしそうに顔をあげた時には、涙と鼻水と唾液でベトベト
で、もちろん翔のワイシャツも涙と鼻水と唾液でベトベトだった。そのベトベトを拭いもせず、澄香はえへへと照れたように笑う。
そこでようやく、翔は我に帰った。そして、メールでたすけを求めてきた少女の姿をマジマジと観察する。
見たところ、澄香は元気そうである。顔色は悪いが病気のようではない、怪我をしている様子もない。つまり、そこには大学進学絶望
の事実だけが残ったわけだが、それでも怒ったり、説教する気は沸いてこなかった。彼女のあまりの変身ぶりに、翔の毒気はすっかり
抜けてしまっていた。
翔は溜め息を付きつつ立ち上がり、
「少し、話をしようか」
怒ったり説教する気はないが、聞きたい事は山ほどあるのだ。
そのとき、ふとシャツの裾が引っ張られた。
「ん? どうした?」
「センパイに、聞きたい事があるんです」
未だ立ち上がろうとしない澄香に視線を落とす。うつ向いた顔に髪がかかり、表情は見えなかった。
「なに」
一寸後、ためらいがちな声が来る。
「センパイは、私の事、好きですか?」
「え?」


305:すみか ◆2qYLTTqjZU
07/05/22 01:25:43 o+4xHxLY
「すごい嫌いだよ」
「グェェェェェエェェーーーーーッッ」


306:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:27:20 nXadvtAZ
>>300>>301>>303>>304>>305
誤爆?


307:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:28:28 2J7rs7Eh
すみかは相変わらず面白いNE


308:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:28:38 EXp+aWdS
「嫌い、なんですか?」
いや、そうじゃないけど。と翔は言葉を濁す。二択で考えられる質問ではなかった。しかし、澄香は違ったようで、
「じゃあ、好きなんでですね」
嫌いでなければ好き。彼女は心底安心したように一つ息をつき、顔をあげニッコリと笑った。それから、急に体をくねらせて、言いに
くそうに、
「それで、あの、センパイにお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい、そうです」と、澄香は頬をほんのりと染めつつ、上目遣いで、「私の事、好きって言って下さい」
期待と不安が入り混じった瞳で見つめられ、思わず翔は眉根を潜める。それはどこかで見た事のある顔だった。
「ダメ、ですか?」
澄香が悲しそうな顔をする。駄目だ。そう言いたい。自分の気持ちを言葉で偽るのは、翔の主義に反する。しかし、澄香の悲しそうな
顔を見せられると、その要求を無下に却下する気にはなれなかった。
しばらくして翔は溜め息をつきつつ、「─分かった」と言い、苦笑いを浮かべつつ、「言うよ」
「ほ、本当ですか!? えへへ、嬉しいです」
まるで念願の玩具を手に入れた幼児のように、瞳を爛々と輝かせる澄香。それは嘘ではなく、心の底から喜んでいるように見えた。そ
の表情が、これから嘘を吐く翔の心に、罪悪感を降り積もらせる。
これから言う事は嘘である。翔はまだ、好きと言えるほどの気持ちを抱いていない。しかしそうと分かっていても、面と向かって告白
するのは恥ずかしくて、照れ隠しに澄香から視線を反らし、「好き」と言った。
視界の隅に写った澄香は、とろけたように幸せそうな顔をしていた。彼女は、翔の本当の気持ちを知らない。その事を思うと、降り積
もった罪悪感に、潰されそうになる。
やはり、言葉は感情を裏切った。だったら、いっそ本当の嘘つきになりたかった。そうすれば、もっと楽だったのかもしれない。


この時が、境目だった。何かが水面下で狂い始めていた。
狂った歯車は戻らない。歯車が精密であればあるほど、たった一個の狂いが、全てを狂わせてしまう。それでも狂った歯車は回り続け
る。全てが壊れてしまうまで。


309:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:31:10 H4AhplCM
>>>307
そうだね、面白いね


310: ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:31:21 EXp+aWdS
以上投下完了です。
これで第二章完で、次が第三章。
第一章から二章にかけて、翔にベタボレになった誰かさんが、暴走していきます。


311:すみか ◆8A6ht9PoSs
07/05/22 01:32:25 QyuiaeKG
「嫌い、なんですか?」
いや、そうじゃないけど。と翔は言葉を濁す。二択で考えられる質問ではなかった。しかし、澄香は違ったようで、
「じゃあ、好きなんでですね」
嫌いでなければ好き。彼女は心底安心したように一つ息をつき、顔をあげニッコリと笑った。それから、急に体をくねらせて、言いに
くそうに、
「それで、あの、センパイにお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい、そうです」と、澄香は頬をほんのりと染めつつ、上目遣いで、「私の事、好きって言って下さい」
期待と不安が入り混じった瞳で見つめられ、思わず翔は眉根を潜める。それはどこかで見た事のある顔だった。
「ダメ、ですか?」
澄香が悲しそうな顔をする。駄目だ。そう言いたい。自分の気持ちを言葉で偽るのは、翔の主義に反する。しかし、澄香の悲しそうな
顔を見せられると、その要求を無下に却下する気にはなれなかった。
しばらくして翔は溜め息をつきつつ、「─分かった」と言い、苦笑いを浮かべつつ、「言うよ」
「ほ、本当ですか!? えへへ、嬉しいです」
まるで念願の玩具を手に入れた幼児のように、瞳を爛々と輝かせる澄香。それは嘘ではなく、心の底から喜んでいるように見えた。そ
の表情が、これから嘘を吐く翔の心に、罪悪感を降り積もらせる。
これから言う事は嘘である。翔はまだ、好きと言えるほどの気持ちを抱いていない。しかしそうと分かっていても、面と向かって告白
するのは恥ずかしくて、照れ隠しに澄香から視線を反らし、「好き」と言った。
視界の隅に写った澄香は、とろけたように幸せそうな顔をしていた。彼女は、翔の本当の気持ちを知らない。その事を思うと、降り積
もった罪悪感に、潰されそうになる。
やはり、言葉は感情を裏切った。だったら、いっそ本当の嘘つきになりたかった。そうすれば、もっと楽だったのかもしれない。


この時が、境目だった。何かが水面下で狂い始めていた。
狂った歯車は戻らない。歯車が精密であればあるほど、たった一個の狂いが、全てを狂わせてしまう。それでも狂った歯車は回り続け
る。全てが壊れてしまうまで。

312:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:33:10 E59VL0HU
>>311
GJ


313:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:33:45 EbaKJvQx
>>310
GJGJ
壊れる瞬間をwktkしながら待ってますw

314:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:34:02 eEFrVfz1
>>310
つまらないですNE

315:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:34:46 Yq6vzUON
>>314
いや、つまらなくはないよ


316:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:36:00 YMRhrzyB
>>312
作者自演乙



317:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:37:15 Bh2Z6yAv
>>310
GJ。

318:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:41:02 hRmgdyjc
>>317
信者自演乙


319:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:41:12 EXp+aWdS
>>308
訂正。
×二択で考えられる
〇二択で答えられる


320:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:42:21 rSF52DPM
>>314
>>316
>>318
ハイハイ、ワロスワロス

321:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:55:11 XEJJJCTs
>>320
しっ、見ちゃ駄目ですよ

322:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:58:19 5xnGE6TF
>>310
めっちゃGJです!!
とうとう翔は「好き」と言ってしまいましたね・・・
これからの修羅場を想像するだけでガクブルです。
速いペースでの投下はしんどいと思いますが、頑張ってください。

323:名無しさん@ピンキー
07/05/22 02:01:39 YndKef/+
>>320=>>321
自演はやめとけ


324:名無しさん@ピンキー
07/05/22 02:02:55 4GHxfzrz
>>322
信者自演ウゼー



325:名無しさん@ピンキー
07/05/22 02:05:18 91UpS3jM
>>310
GJ、これから相手の更なる反撃に期待してるよ

326:名無しさん@ピンキー
07/05/22 02:09:35 4vf7+LKA
単発IDのGJが多くてワロタwww
こういう自演はお前等認めるんだねw


327:名無しさん@ピンキー
07/05/22 02:15:24 xGTDxdcz
>>310
GJ
中野にはこのまま引き下がって欲しくないなあ

328:名無しさん@ピンキー
07/05/22 10:05:32 hxEZw5aA
く、くまー?

329:名無しさん@ピンキー
07/05/22 11:21:22 AAN8n9eX
嫉妬スレも大分落ち着いてきたな・・いろんな意味で
新規参入者は減ってしまったけれど

330:名無しさん@ピンキー
07/05/22 21:34:52 RgQIhzAb
プラモオタの俺は>>281のヒロインに殺意が沸いた
まあそれはいいとして自演は有り得ない件について

331:名無しさん@ピンキー
07/05/22 22:17:34 vio0uuA/
ほっとけ。自演つってるのはいつもの可哀想な人だ

332:名無しさん@ピンキー
07/05/23 08:15:20 HXtjv5Q2
>>281
遅ればせながら、GJ!
俺も>>330と同じくプラモオタで、放っておくにはもったいないネタだと
思っていたから、続きが読めて嬉しい。
是非、タイトルもつけてほしいところだ。

333:名無しさん@ピンキー
07/05/23 11:51:20 uDphteQT
俺はプラモオタって訳じゃないけど
それでも>>281のヒロインのヒステリックさと
甘ったれぶりにはあきれ果てた・・・

334:名無しさん@ピンキー
07/05/23 15:23:50 lFC7aZiI
>>332
タイトル タミヤドラゴントランペッターの悲劇~プラモ崩壊~

335:名無しさん@ピンキー
07/05/23 16:34:19 qd/29fjr
ん?アニメがどうとかいう話が出てたからガンプラだと思ってた

336:名無しさん@ピンキー
07/05/23 18:56:02 N8j2P8fg
彼の宝を棄てたなら
とか。

我ながらセンスねーなぁ。

337:名無しさん@ピンキー
07/05/23 20:41:48 JOP6MUjH
漢とプラモと女二人





orz

338:名無しさん@ピンキー
07/05/23 21:25:34 hSICfvPU
(男の)塗装が乾かぬそのうちに

339:名無しさん@ピンキー
07/05/23 22:40:46 74Y0mdQF
べつに無理にプラモに絡めんでもいいのではw

340:名無しさん@ピンキー
07/05/23 23:09:34 S0sgw5mr
些細なことだが、「プラモ」と略さないことに違和感を覚えた。
マニア的な拘りとか理由があるのかな。

341:名無しさん@ピンキー
07/05/23 23:49:31 D0Ys/WZV
今見たら阿修羅氏更新キテター

いつもお疲れ様です。

342:名無しさん@ピンキー
07/05/23 23:52:04 2NPcZ+Se
マジだ!
阿修羅氏乙!

343:名無しさん@ピンキー
07/05/23 23:58:31 GOXCL1BR
阿修羅氏乙! 
また忙しくなるのかな?
……まさか浮気なんかしないよね?

あはっ

344:名無しさん@ピンキー
07/05/24 01:23:57 l2uMUarc
奥さんの監禁から抜け出して来たんだろうな。

345:名無しさん@ピンキー
07/05/24 01:32:41 z/AIdMIO
姉妹が嫉妬する作品が読みたくなってきたぞ・・
何かまとめサイトの方にありますか?


346:名無しさん@ピンキー
07/05/24 01:39:14 YyUG2hwv
いくらでもあるがなw
阿修羅氏まとめサイト更新お疲れ様です。

347:名無しさん@ピンキー
07/05/24 02:46:50 UCAJAwE5
自分の投稿したSSが保管されてるのを見るとなんか嬉しくなるな……
それはともかくお疲れ様です

348: ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:05:13 2XO3TxSx
阿修羅様更新乙です&今回もタイトルありがとう御座いました
ありがたく使わせていただきます

レスくれた皆さんありがとう

>>286やっぱ現実にもこんな女いるんですね……

solaはオイラも好きッス 茉莉ぃ……(涙

プラモオタの方から共感を得られたのは結構嬉しかったッス

何のプラモかは皆さんの好きなのを脳内で当てはめてください
ZOIDSでもガンダムでもマクロスでもスケールモデルでもご自由にドゾ

んじゃ投下イきます

349:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:06:56 2XO3TxSx


  /      /      /      /


 目の前で起こった出来事に私は怒りを通り越して放心していた。
 あの女、熱矢先輩に対しそこまでやるなんて……!
 込み上げてくる怒りで頭の中が真っ白になりそうになる。
 そんな私は熱矢先輩の姿に現実に引き戻される。
 しゃがみこみ、あの女に壊されバラバラになったプラモデルを拾い集める熱矢先輩の姿。
 私もダンボールをそっと置き一緒にしゃがみこんで拾い始めた。
 その時地面に黒い染みが見えた。 見れば熱矢先輩の目から涙が零れ始めていた。
 私はポケットからハンカチを取り出し先輩の頬に当てた。
「ありがとう……。 ゴメンな稲峰、嫌な……所、見せちまって……」
 そう言った熱矢先輩の声はかすれ、震えていた。
「いえ……、気にしないで下さい。 それより、どうするんですか……?」
 バラバラに壊れたプラモデルを拾い終えた後も熱矢先輩はしゃがみこんで黙りこんだままだった。

「先輩、あのヒトと付き合ってて幸せですか?」
「スズも……アイツも性格キツい所もあるけど、でも良い所もあるんだ。 それに気心も知れてるし。
だからやっぱり俺、アイツとは別かれられ……」
「結局付き合い続けるんですか? でも、先輩の趣味に対し全く理解示してくれてませんよ。
上から高圧的に命令するみたいな口調で、とても対等には見えないです。
そんな対等とは言えない関係が恋人同士の関係って言えるんですか?
そんなヒトと付き合って先輩が幸せだとはとても思えないんです。
いえ、実際幸せそうになんて見えません。 だって幸せな人がそんな辛そうな顔する訳がないですから。
だから……」
 私は途中で言葉を切った。 
 私は先輩にとって趣味が同じだけの後輩に過ぎない。
 そんな私がこれ以上口を挟むのは差し出がましいんじゃ……。
 でも、やっぱり言わずにいられず再び私は口を開いた。
「先輩あのヒトとは別れたほうが良いと思うんです」
 ……何を言ってるんだろう私は。
 幾らあの女が非道い女だと言っても、でも悔しい事にそんな非道い女に熱矢先輩は惚れてるんだ。
 私なんかが何を言ったってしょうがない事だって分かってる。 けど……。

「これは……俺とアイツとの問題なんだ。 悪いけど放っておいてくれないか」
 そう。 本来なら只の同好の士で後輩にしか過ぎない私の口出しすべき事じゃない。
 だけど―。
「放ってなんか……置けません。 先輩が辛そうにしてると私まで辛いんです」
 気付けば私の瞳からも涙が滲み始めていた。
「稲峰……。 ありがとう、やっぱりお前良いヤツだな。
同じ趣味の仲間の俺の事こんなに気遣ってくれて」
 そして、其の涙が私の心の堰をも押し流してしまったのだろうか。
「確かに私、先輩の事同好の士として尊敬の念も親近感も持ってます。
でも、それだけじゃないんです」
 今まで封印してきた気持が溢れ出す。 そして―
「先輩の事が……好き……なんです」
 ……ついに言ってしまった。
 ずっと胸にしまっておくつもりだった私の本心。

350:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:07:52 2XO3TxSx
「え……?」
 暫しの沈黙の後熱矢先輩は驚いた表情を見せる。
「先輩の事を同好の士としての親近感だとか、先輩としての尊敬だとかだけじゃなく、
一人の男性として好きなんです!」
 一度気持を口にしてしまえばもう止まれなかった
「先輩。 先輩とあの人が一緒のままじゃどう考えても先輩にとって幸せとは思えないんです。
だから別かれるべきなんです。 先輩の為にも。 でもそれで私と付き合ってくれとは言いません」
 いや、本音を言えば勿論付き合って欲しい。 でも、そう言い切ることが出来なかった。
 だって―。
「だって私なんか地味だし、背は低いし、胸だって薄いし、髪だってあのヒトみたいな
先輩好みのロングヘアじゃなくて男の子みたいに短いし……」
 とても先輩と釣り合いが取れるとは、あの女以上に先輩を惹きつける自信がもてなかったから……。
 それに今大事なのは私の願望じゃない。 大事なのは熱矢先輩の幸せ。
 だから―
「だから私と、とは言いませんから……。 でも付き合うならあの人じゃなくて、
せめて同じ趣味とまでいかなくても先輩の趣味を笑って許容できるヒトと付き合ってください。
もう……これ以上先輩のそんな辛そうな顔見たくないんです!」
 気付けば私は溢れる涙を拭いもせず感情のままに言い尽くしていた。

「ごめんなさい……。 感情のままに好き勝手言っちゃって」
 私はしゃがみこみ熱矢先輩のプラモデルの入ったダンボールを持ち上げる。
「とりあえずコレは私が大事に預かっておきます。 だから……ゆっくり考えてください。
本当にこれ以上あのヒトと付き合い続けるのか。 ようく考えてください。
それでもやっぱりあの人と付き合う事を選ぶというのなら……、その時はもう私は何も言いません。
先……輩が、プラモ……デル、を捨て……る事……を決め……たと……して……も……」
 私は先輩に背を向けそのまま逃げる様に家へ駆け込んだ。

 部屋に戻った私は熱矢先輩のプラモデルの入った箱をそっと床に置くとベッドに身を投げた。
 場の流れとは言え結果的に告白してしまった。
 本心の全て、とまではいかないが心の中に仕舞いこんでおく筈だった心の内を明かしてしまった。
 そして言ってしまった事を後悔……してるのかどうなのか―。
 私が言った言葉は正しかったのか間違ってたのか―。
 今の私は酷く精神的に疲れて、それすら分からない状態だった。
 頭もゴチャゴチャしてて混乱してきた。 私のした事は本当に正しかったのだろうか。
 あの時は自分の言ってることは間違ってなんかいないと思ってたけど……。

351:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:09:02 2XO3TxSx


  /      /      /      /


「まさか稲峰のヤツが俺のことをそんな風に思っててくれたなんて……」
 家に帰ってから俺は今日一日、いやここ数日あったことを思い返していた。
 稲峰を家に招いて一緒にプラモデルを作ったこと。
 はっきり言って楽しかった。 当然だ。 同じ趣味で気が合うやつと共通の趣味の時間を過ごせたんだ。
 でも、そこにアイツを女の子として意識した気持は無かった。
 俺にとって"女"は昔っからスズだけだったんだから。
 だから高校入学を気に思い切ってスズに告白してそれでOKもらえた時は本当に嬉しかった。
 でも、反面恋人同士になってもそれでも俺の趣味を受け入れてくれなかったのは悲しかった。
 受け入れてくれるどころか恋人同士になったんだからコレを機に止めろとまで言われて……。
 それを頼み込んで続けてたけど、でもとうとう最後通告されちまって……。
 そんな辛い思いさせられても、それでも別かれる気にはなれなくて……。
 それはやっぱりスズが気心が知れた幼馴染で、初恋の相手で、初めて付き合った彼女で……。

 俺は携帯を取り出す。 スズとは恋人同士になる前―幼馴染の頃から喧嘩だって何度かしてた。
 でも其の度に俺から謝まってスズに許してもらって、それで仲直りしてきたんだ。
 だから―。

 だがスズに電話をかけようとした手が止まる。
 本当にそうまでして恋人関係を続ける意味があるんだろうか?
 ふいに稲峰に言われた言葉がよみがえる。
<先輩、あのヒトと付き合ってて幸せですか?>
<そんな対等とは言えない関係が恋人同士の関係って言えるんですか?>
<だって幸せな人がそんな辛そうな顔する訳がないですから>
 確かにこんな思いしてまで交際を続ける意味があるんだろうか。

 それに……そんな俺の辛い気持を稲峰は自分のことのように悲しんでくれてた。
 俺だけじゃなく、俺のことを心配してくれるヤツまで辛い気持にさせてまで……。
 そして稲峰は言ってくれた。 俺の事が好きだと。
 でも決して其の気持を押し付けたりなんかしてこなくて。
 その事をアイツは自分に女としての魅力が無いからだといってたが、でも改めて思い返してみれば
決してあいつ自身がそう卑下してるほどじゃない。
 だからあれは本当に卑下してとかじゃなくって俺のことを気遣ってくれての事なんだろう。
 そりゃ俺の好みのタイプは背は俺よりほんの少しだけ低くて、胸も結構ボリュームがあって、
艶やかで長い黒髪が似合う凛とした眼差しの器量良しの―、そう、スズの容姿そのまんまだ。
 だから稲峰は正にスズのそれとは正反対だけど、でも改めてみれば美人といえなくも無いが
どっちかと言えば可愛いという形容詞がよく似合う―。
 そう、確かに可愛くはあるけど、でも短い髪型や趣味のせいもあるが、何て言うか弟みたいな、
そんな感じの親しみや親近感だったし。
 そう言う意味では確かに女と意識した事は無かったけど、でも―。
(アイツ泣いてたよな。 いや、泣いてくれたんだよな。 俺の為に……)

 考えてみれば俺のプラモデルの趣味、スズには否定されてばっかりで其のたびに凹んだりもして、
でもそんな時稲峰の言葉に、一緒の趣味のやつがいるって事に慰められ励まされたんだよな。
 アイツの事を女として好きかどうかなんて分からない。 けど―。
 大事な、かけがえの無い仲間であり友達―そう言う存在だってのはハッキリ言える。

 そうだ。 女としてどう思ってるか、それは分からないし、大事なのはそこじゃない。
 一人の人間としてアイツ―稲峰 柚納の事を俺は好きだ。
 そんなアイツにまで辛い思いさせてるんだ。 今のこの状況が。 だから―
 このままで良い訳が無い。

 そして俺は開いた携帯を閉じて仕舞った。

352:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:13:06 2XO3TxSx


  /      /      /      /


「最悪……」
 学校へ向かう路、アタシは寝不足で重たい瞼を擦りながら呟く。
 アッくんってばどういうつもりよ。
 昨日夜遅くまで待ってたって言うのに結局電話よこさないなんて!
 今日会ったらタップリ文句言ってやるんだから!
 アタシを寝不足にさせたんだ! 今度は映画おごるくらいじゃ済ませないんだから。
 そんな事考えながら歩いていたら前方にアッくんの背中を見つけた。
「アッくん!!」
 そして私は其の背中に向かって声をかけた。
 感情が昂ぶってたせいか思わず大きな声が出てしまった。
 だがアッくんはアタシの声に驚くでもなくゆっくりと振りむいた。
「おはよう、スズ」
 そしていつもと同じ調子で口を開いた。
 其のあまりに何でもない様子にアタシは一瞬呆気にとられたが、直ぐ気を取り直して口を開く。
「おはよう、じゃないでしょ! アタシに何か言う事があるんじゃないの?!」
「何か、って何だよ」
「すっとぼけないでよ! 昨日アタシとの約束破ってプラモ捨てなかったでしょ!?
其の事で言わなきゃいけない事があるんじゃないの?!」
 アタシは寝不足の不機嫌さもあってか声を荒げた。

「なぁ、スズ。 どうしてもプラモデル捨てなきゃ駄目か?」
「何度も同じ事言わせないでヨ! 駄目に決まってるじゃない!
それに言ったでしょ?! それが出来ないならアタシとアッくんとは―」
「これまでだ、って言うんだろ?」
「そうよ! それで良いの?!」
 そう言ってあたしは睨んだ。
 そうよ。 いくらプラモが好きだって言っても諦めなきゃアタシとの仲も終り、って
そう言われてアッくん断われる?
 断われないでしょ? だったらサッサト諦めて謝ってアタシの言う通りにしなさいよ!
「そう……か。 解かったよ」
「ふん。 やっと解かってくれたみたいね」
 そうよ。 所詮それしか選択肢は無いんだから。

353:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:14:45 2XO3TxSx
「解かったよ。 お前がどうしても俺の趣味が駄目って言うんなら……俺たち一度距離を置こう」
「え……?」
 予想外の返答にアタシは一瞬何を言われたか分からなかった。
「ア、アッくん……? い、今何て……? ア、アタシの聞き間違いかな?
きょ、距離を置こう、って……そ、それってどういう意味……?
ま、まるでお別れの、言葉みた……い……」
 そして問い返そうとするも声帯に力が入らない。
 そんなアタシとは対照的な落ち着いた口調のアッくんの声が耳に届く。
「そういう、意味になるのかな……」
「ア、アッくん! じ、自分が何言ってるのか解かってるの?!
ア、ア、アタシとわ、別……れ……」
 アッくんがアタシと別かれる? そ、そんな事……、そんな事ある訳が……。

「ア、アッくんはア、アタシの事がす、好きじゃ……ないの?!」
「好きだよ。 小さい頃からずっと。 そして今でも……」
「だ、だったら何で……!」
「好きだからこそ……だよ。 今までの俺ってお前の事―お前の機嫌や顔色気にして……。
でもそんな関係正しい付き合いだなんて言えないよ。 だから決めたんだ。
そんな状態で関係続けてたら、其の内俺達はきっと駄目になっちまう。 
若しかしたらお前の事も嫌いになってしまうかもしれない。
そうならない為にも一度距離を置こう。 もう一度幼馴染から、友達からやり直そう、って」
「そ、そんな……、そんなの……」
「だから……、じゃぁ……な」
 そしてアッくんは背を向けると足早に去るように学校に向かっていってしまった。

「そ、そんな……、う、嘘……。 ア、アッくんが……」
 膝から力が抜ける。 振らつく足取りでかろうじて近くの堀に手を付き体を支える。
 知らないうちに両の瞳からは涙が溢れ始めていた。
 確かに言う事聞いてくれなきゃこれまで、ってそう言ったのはアタシよ。
 でも……、でも……ほ、本気で別れるつもりなんてコレっぽっちも無かったのに……!
 だ、だって……だってアタシだってアッくんの事誰よりも好きなんだから……!
 小さい頃からアタシがどんな無茶を、癇癪を起こしたって受け止めてくれてたアッくん。
 そんなアッくんが幼い頃から今に到るまでずっとずっと大好きだった。
 中学の頃には頭の中はアッくんの事で一杯で告白してくれる日を夢見ていた。
 だから其の頃結構告白とかも受けてたけど、でも心が揺れた事なんて一度だって無かった。
 だから高校入学を機にアッくんから告白してくれた時跳び上がるほど嬉しかった。
 そして始まった恋人同士としての交際の日々。
 かけがえの無い幸せな日々は何時までも続くと信じていた、のに―。

「あ、ああああ…………っっ!!」
 胸から込み上げてくる押さえ切れない悲しみにアタシは嗚咽を堪えられなかった。

354:名無しさん@ピンキー
07/05/24 03:15:56 2XO3TxSx
投下完了です ではまた

355:名無しさん@ピンキー
07/05/24 03:18:11 SYP30cEZ
いいよー、GJ

356:名無しさん@ピンキー
07/05/24 03:21:32 MtUxR+yD
NOOOOO!!!!良いところで終わってしもうた!
続きを楽しみにしてます。

357:名無しさん@ピンキー
07/05/24 05:18:19 MkbbsSRM
スズ…

m9(^Д^)m9(^Д^)m9(^Д^)

358:名無しさん@ピンキー
07/05/24 06:43:40 ubLH0oPA
くくく……「距離を置こう」、か……
恋人たちが別れる前兆だぜ!そして二度と元に戻ることはない!フゥハハハーハァー!

359:名無しさん@ピンキー
07/05/24 07:17:02 kzRjzNuz
アッくんGJ!
でもスズの心情を見ていたら
とたんにスズに転びそうになった優柔不断な俺ガイル

360:名無しさん@ピンキー
07/05/24 07:53:31 5Wn2ZTFj
まぁ俺は根っからのすず派だけどな。 
兎にも角にもGJ!

361:名無しさん@ピンキー
07/05/24 11:00:28 ZuhdtI8p
他に逃げ道=後輩ができてから行動
しかも距離=キープってけっこうなクズっぷりだよな

362:名無しさん@ピンキー
07/05/24 11:42:40 8unxX4yQ
これは別にクズというか説得されて現在の関係の異常さにようやく気づいたってレベルじゃね?
告白はついでというかなんというか

363:名無しさん@ピンキー
07/05/24 11:54:01 jYFvTvzG
友達に心配かけたくないし自分も相手と対等になりたいって思ったからの行動だろ?
別に後輩を逃げ道に使ってるわけじゃないと思うけど

364:名無しさん@ピンキー
07/05/24 12:02:21 MX3dUK19
議論と考察は避難所を使えばいいというオチはありですか?

365:名無しさん@ピンキー
07/05/24 15:31:19 7tTDvyt+
リアルでこういう事があった場合、女は男を一方的に悪者扱いするんだよな。
自分より趣味を選んだ馬鹿な男って。

お前に一々頭を下げて生きていくのが嫌なんだって事に気付けや。

366:名無しさん@ピンキー
07/05/24 15:58:01 M8VyeCib
>>353
絵に描いたような自業自得ってやつか

367:名無しさん@ピンキー
07/05/24 16:23:52 MurZgxse
>>366
同意。
子供の頃からさんざん甘えていて何一つ感謝しないどころか
文句ばかりじゃねえ・・・これで
ただ単に好きというのは免罪符にもならない。

368:名無しさん@ピンキー
07/05/24 16:27:52 xHXI8H0N
主人公に感情移入して、ヒロインの圧迫にぶち切れる時のカタルシスとか好きだぜ

369:名無しさん@ピンキー
07/05/24 17:03:26 uwo+nnib
もっとスマートに話を読もうぜ……。

370:名無しさん@ピンキー
07/05/24 17:14:42 DyjtQ/jI
まあ、趣味や仕事と女のどっちを取るかは男の永遠の問題だからな。
みんなが熱くなるのも分かる。

371:名無しさん@ピンキー
07/05/24 18:42:42 7tTDvyt+
>>370
でも、主人公はまた違うんだよな。単に女より趣味を選んだというよりは、
己のプライバシーや人生まで口出して言いなりにする様な女とは距離を起きたいって事。

372:名無しさん@ピンキー
07/05/24 21:47:51 Kq1B4CPD
なんか久々に新鮮な感じの展開になってるな
気になって読み返してしまった

373:名無しさん@ピンキー
07/05/24 22:38:36 3J8sgy6x
>>365
元カノがまさにそんな感じだったな
自分の趣味を人に押し付けてくるくせに、俺の趣味のは認めない奴だった

別に料理くらい好きにやったっていいと思わないか?

374:名無しさん@ピンキー
07/05/24 22:44:32 8unxX4yQ
>>373
ほら、そこはあれだ
付き合ってる男が自ら料理を作るより自分の手料理を食べて欲しいという女心じゃね?
同棲しててそれならまだありだと思う、別々に暮らしてて料理すんなってんならアウトだろうけど

375:猫泥棒 ◆wvo7w.Uzxk
07/05/24 22:46:59 hc8fOxV/
>>354
こういう惹きつけられるような展開、いいなぁ…
しかもさらさらっと読みやすいし、GJです!

>阿修羅様
更新おつかれさま
ご多忙の中、ありがとうございます

感想にすごく感動した
わざわざ遡ってみてくれた人もいるみたいで…
お手数かけてごめんなさい

投下します

376:お願い、愛して!9 ◆wvo7w.Uzxk
07/05/24 22:52:21 hc8fOxV/


今朝、クラスでキョータくんの噂が聞こえてきた。
「別人みたい」とか、「社交的になった」とかいう噂。
噂には良い噂と悪い噂があるわけだけど、今回は珍しく良い方。

―そう。……めずらしく。
いつもは陰口や非難ばかり囁く人たちが……
キョータくんのことを何も知らない人間たちが、
たくましくなったキョータくんを新鮮に感じて、過剰反応を起こしちゃってる。
きっとそんな感じ。そんなのすごく失礼で、とても許しちゃいけないこと。
だから、たくさんたくさん言い返しちゃった。
「あなたはキョータくんの何を知ってるのかな?」
「知らないなら軽々しくあの人の名前を口にしないで」って。
ちょっと言い過ぎたかな? とは思ったけど、
そのおかげで、わたしのクラスからは彼の噂をする人が一人もいなくなったから、結果オーライだよね。
きっと他のクラスにもああいう人たちがいるんだろうなぁ、
って思うと気になってしょうがなくなっちゃう。
キョータくんも鬱陶しがってるかも知れないし。
夏休み前はそういう人たちの相手、わたしがしてたのにな……。

今では昼休みになっても、もうわたしに話しかけてくる人は誰もいない。
昨日の朝、キョータくんが言ってたみたいに、夏休み前とは彼の立場と完全に逆転してる。
わたしがキョータくんを守らなくちゃいけないのに……情けないなぁ……。

『キョータ……くんは、今のままがいいの……?』

何だか怖くて伝えられなかった、昨日の問いかけ。
正直に言っちゃうと、たくましくなったキョータくんに不安を感じてる……。
もうキョータくんにわたしは必要ないんじゃないか、なんて。
えへへ……そんなのあるはずないのにね。
たくましくなっても、キョータくんはあの時のままのキョータくんで。
わたしをたった一人必要としてくれた大切な人だもん。

自分が最低な里親に孕まされた母親の息子だって、他の誰も知らないことを教えてくれた、あのときから。

キョータくんの味方はわたしだけのはずだから……。




377:お願い、愛して!9 ◆wvo7w.Uzxk
07/05/24 22:55:39 hc8fOxV/


「キョータ……? って、あぁ、雨倉のこと?」
「うん。……教室に見当たらないけど、どこに行ったか知らないかな?」
「さっき一年の女子に呼ばれてどっか行ったけど。
 そういえば最近、よくクラスに来る子だな。
 雨倉、あの子のことなんつってたっけ……?」

と、その女子の名前を思い出そうとする男子。
わたしの方は、びっくりして声も出ない。

「確か―あさい……とか」
「な、凪ちゃんが!?」

思わず声が大きくなる。男子が驚きながら短く肯定した。
そんな……いつもお昼はわたしを先に誘ってくれたはずなのに……。
今日は用事があって誘いに来ないんだと思ってたけど、
まさかわたしを置いて、勝手にキョータくんを連れ出してたなんて……。

「多分弁当食いに行ったんじゃない? 屋上にはもう行ったの?」
「……ありがとう、行ってみるね」
感謝もそこそこに、教室を離れて屋上に向かう。
「あー! それとその女の子、ずいぶん具合悪そうだったよ!」
背中からまだ声が聞こえてきたけど、これ以上構っていられる気分じゃなくて、無視した。

―いくら凪ちゃんでも、それはやっちゃいけないことだよ。
信用してないわけじゃないけど、
やっぱりキョータくんが他の女の子と二人っきりなんて、良い気分がしない。
だから少しだけ、ほんのちょっぴりだけ、後で叱らなくちゃ。

やっと屋上の扉が見えてきた。
扉は開かれていて、屋上には予想通りキョータくんと凪ちゃんがいる。
なのに入り口の目の前まで来て、一旦足が止まった。


378:お願い、愛して!9 ◆wvo7w.Uzxk
07/05/24 22:59:23 hc8fOxV/

―そもそも、キョータくんだけをお昼に誘ったのはどうして?
もしもキョータくんと話をしたかっただけなら、屋上じゃなくてもいい。
少しすればわたしがここに来ることなんて分かってるはずだもの。
わたしがキョータくんのこと大好きってことは、
公園で初めて会ったときから知ってるだろうから、
自分に怒りの矛先が向かうことも分かるはず。
……なら、どうして?


「朝生っ!」

びくっと体が震えて、すぐに声のした方を凝視する。
その瞬間、倒れこむ凪ちゃんとほんの少しだけ、目が合った。
そして―愕然とした。

そんな……キョータくん……。
キョータくんは、凪ちゃんを支えるように、しっかりと抱きしめていた。
それだけでわたしの全身は震え、動悸が乱れ始めた。
なのに……その残酷な光景は、まだ発展する。

「っっっっっッッ!!!!!」

生まれて初めて本当の意味で、私は自分の眼を疑った。
凪ちゃんは、あの女は、わたしの、わたしだけのキョータくんに、顔を寄せてキスをした…………。
口が勝手にパクパクってなって、そこからかすれた嗚咽が力なく漏れていく。
胸が急に痛んだ気がして、急いで手を宛がう。
少しの高揚感も心地よさもないとってもイヤなドキドキ。

「あ、あ、あ、あ…………」

それが自分の声だと気づいたとき、手のひらに痛みが走った。
爪が手のひらに食い込んで血が垂れだしたんだ。
だけど、そんな痛みより…………。

「っ!」

視界がぼやけたかと思うと、堰を切ったように一気に涙が零れ落ちる。
嫉妬と怒りと悲しみとがぐちゃぐちゃに混ざり合ったような感情が、心の中をぐるぐると渦巻いていく。
急激な嘔吐感に襲われて、その場から走って立ち去った。

「うぁ……キョータ、くん……キョータくん……!
 …………許さない……あの女、最初からわたしが来るの分かってて……っ
 ……う、うぇぇ……女狐の、くせに……っ! 絶対に許さないっっ!!」

ただ、怨嗟の言葉だけを繰り返しながら。




379:猫泥棒 ◆wvo7w.Uzxk
07/05/24 23:04:38 hc8fOxV/
短めですが、今回はここまで
定期的に投下できないのが申し訳ないです

380:名無しさん@ピンキー
07/05/24 23:26:34 eg5ClrE/
gjです
寝る前にいいのが見れた

381:名無しさん@ピンキー
07/05/24 23:45:16 JcumHdD9
イヤッホオオオオウ!

382:名無しさん@ピンキー
07/05/25 01:24:05 uXpmskNS
>>375
GJ!
焦らずマイペースで頑張ってくれ
>>374
元カノは実家で俺は一人暮らしだ
元カノ曰く「男が料理なんて女々しい行為は我慢できない」らしい
食費を削る意味でも料理は続けてたんだが、ほぼ毎日「料理をやめなきゃ別れる」って責められてたなぁ
一ヵ月間耐え抜いたが、さすがに限界だったから別れ話をしたらお約束通り「私より趣味が大事なんだ」って言われたよ
「生活費の問題もあるから自炊してるんだけど、お前にとってはそういう状況にいる俺自身よりも趣味のほうが重要なの?」って言い返したら物凄い目で睨みつつ黙って去って行ったな
二週間前の話なんだが、あの目はかなり恐かった


そのうち後ろから刺されるかもわからんね

383:名無しさん@ピンキー
07/05/25 01:35:43 TWaM+PAk
>>382
それお前さんはなにも悪くないだろ・・・
訴えたら間違いなく勝てるぞw

384:名無しさん@ピンキー
07/05/25 01:43:48 IYHL3GqH
司法は女の味方です
まー言葉の綾だろうけど

385:名無しさん@ピンキー
07/05/25 01:52:47 DRUsPwUJ
>そのうち後ろから刺されるかもわからんね

元カノ「許さない…アタシのことを認めないならいっそ」

      カチャリ(包丁を手に取る)

???「許さないのはこっちの方だよ?」
元カノ「…え?」
???「彼を傷つけるなんて、許せるわけ無いじゃない」
元カノ「だ、誰!?」
???「挙句は殺そうなんて、この豚が!…というかいつまで薄汚い手で私に触ってるの?」
元カノ「やだ…手が勝手に、イヤァァァァ!!!」

       ゾキュ

包丁「あーあ、汚れちゃった…」


  私に触れていいのは、>>382さんだけなんだから、ね♪



386:名無しさん@ピンキー
07/05/25 01:54:26 6j9jY86q
ちなみに裁判官は言葉様だから泥棒猫は鋸で
首を真っ二つの刑に遭うと思うよ・・

言葉様、余程トラウマがあるらしいからな・・
彼女の前で彼氏が寝取られたとか世界とか絶対にいっちゃダメだぞ!!

387:名無しさん@ピンキー
07/05/25 02:15:05 zNZCAFaG
>>385
後にその包丁、どこぞのKさんによってどこぞの泥棒猫を歩道橋の上で
「死ね」
とか言いながら頸動脈を…
あ、違った。包丁は砂浜で男を殺傷するためのものか。

388:名無しさん@ピンキー
07/05/25 02:20:25 uXpmskNS
>>385
軽くヒスを起こした元カノが包丁をこっちに向けたという事件があったから笑えねえw

この包丁を十年以上愛用してるんだが、そろそろ付喪神が宿らないかな(´・ω・)

389:名無しさん@ピンキー
07/05/25 05:32:11 4HjK7+A0
>>382
つい最近かよ!っつーことは、あのプラモの話はまさしくピッタリのタイミングなわけか。
それにしてもきっぱりと言ってやったお前さんカコイイ!!

しかし、趣味をやめないからって別れ話を切り出す女も、やはり恋より趣味(の拒絶)を選んでるって事か。うまいな。

390:名無しさん@ピンキー
07/05/25 05:55:42 /wMzbMoQ
>>388
今度は包丁に(精神的に)調教される予感

391:名無しさん@ピンキー
07/05/25 07:45:47 M9rfYqpG
>>382
つか彼女が料理作ってくれてりゃ万事ぉkだったんじゃないの?

392:名無しさん@ピンキー
07/05/25 09:11:11 4HjK7+A0
ところで話が変わるが、こんな風に繋がっている話も面白そうじゃない?

第1部
ある女が男と結婚する。しかしその夫は妻にそっけない。
実はその結婚はダミー婚で、夫は姉とできていた。
プライドを傷つけられた妻(あくまで愛じゃないのは2部の為)は怒る。
姉から夫を奪おうとするが、結局負ける。(妻と姉、どちらの視点でもあり)

第2部。
夫婦は離婚。二人の兄妹が残っていた。
母は兄を溺愛して狙っている。彼女ができようとすると邪魔をする。
しかし、それは妹も同じ。妹も母を狙っていた。
母と妹が兄の取り合いを始める。

393:名無しさん@ピンキー
07/05/25 09:14:38 eiH/N1XY
レディコミにありそうだNE


誤字はあえて気にしなーい(・3・)

394:名無しさん@ピンキー
07/05/25 09:48:02 4HjK7+A0
キモウトならぬキモ母って思ったんだが、そしたら旦那の立場がないからな。
そこを考えてたら、昔読んだレディコミを思い出して第1部。

395:名無しさん@ピンキー
07/05/25 11:21:27 uXpmskNS
>>391
そりゃ無理だ。料理をやった事がないって言ってたしな
付き合い始めの頃に一度だけ作ってくれた事があったんだが、焼いただけの卵焼きと味噌をお湯に溶かしただけの味噌汁が出てきた
絶対に食えないって程不味かった訳ではない分よけいにきつかったよ

>>394
キモ家族は私も大好きだ
是非とも形にして頂きたい

396:名無しさん@ピンキー
07/05/25 12:10:29 GaxVKv4Q
>>394
キモ姉&キモウトスレでも以前似たような話題が上がって、その時にキモ母話を書いたんだが
あっちじゃ投下しても良いのか微妙な雰囲気だったんで結局お蔵入り…
こっちでもキモ母話が出たは良いけど、その話には嫉妬も三角関係も修羅場も無いから投下出来ないのが残念だ

397:名無しさん@ピンキー
07/05/25 12:34:55 TEsC5d3W
キモ姉&キモウトスレって
普通に嫉妬スレ住人も書き込んでいるよな?

398:名無しさん@ピンキー
07/05/25 12:44:39 bpBZ02A8
他スレの話題出すんじゃねぇよ

399:名無しさん@ピンキー
07/05/25 13:01:43 j439imBO
>>395
ヒント:調教

キモ家族のネックは父親だよな
殺すか離婚か父親もキモくするか

400:名無しさん@ピンキー
07/05/25 13:43:13 5hmBF/SN
>>379
俺は続きを待ってるぜ

401:名無しさん@ピンキー
07/05/25 16:42:35 4HjK7+A0
>>399
離婚がいい。母子を無難に成立させるにはお互いに最初から愛がない状態が好ましい。
ただ、母が子を優先するために父を殺したらビッチっぽくなるし、キモイ男は普通にキモイ。

402:名無しさん@ピンキー
07/05/25 17:15:19 ny+zr702
>>395
大体そういうSSでは、家族に1人だけまともな人間がいて、そこから修羅場が始ま

403:名無しさん@ピンキー
07/05/25 19:39:19 h4I0o5QY
ぶらっでぃ☆まりぃマダー?

404:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:39:08 S4s3o/uz
一月以上前に一話だけ投下したSSの続き行きます。
読んで頂ける方はお手数ですが前スレ>>165>>166か、保管庫で確認の上でお願い致します。
嫉妬は全然まだ、何日かおきに書いたりしてるので文がおかしいかもしれません。
では投下します

405:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:40:46 S4s3o/uz

「じゃあ、行って来るよ」

「うん・・・・・・行ってらっしゃい、兄様」

朝食の後に一通りの身支度を済ませ、住まいを出る。
2人で暮らすには少し広い家。家族でもない、血縁さえない僕と夜宵ちゃんが共同生活を送る場所。
そこを、家庭と呼ぶべきかは微妙なところだけど。
僕は彼女に送られながら、その場を後にした。
今日も今日とて労働に勤しむために。

普通の感覚で言えば奇妙なことなのだろうが、隔離都市においては犯罪者たる住人でも就職が出来る。
と言うより、そもそも隔離都市に収容された犯罪者には服役や懲役なんてものはなく、
原則として都市外への外出以外は禁止されていない。
無論、それ以外の何をしても許されるわけではないが、それ以外のことなら大抵は自由。
惰眠に沈もうが、美食に明け暮れようが、セックスに耽ろうが、ドラッグに溺れようが、殺戮に狂おうが、
およそあらゆる欲求に焦がれ、どんな快楽に酔おうが、自由。
むしろ管理者側もそれを推奨している。

そうしてくれた方が、彼等にとっても都合がいいのだから。
箱庭の維持のために。

隔離都市。
ここでは一切の倫理は唾棄されるためにあり、合切の条理は放棄されるためにある。
逸するための常軌であり、失うからこその正気。
無理を通すために道理が押し退けられ、合法によって無法が成り立ち、無法と言う法に従って日々、
朝昼夜の区別無く、老若男女の差別無く、常人奇人の侮蔑無く、のべつ幕無しに狂気を醸造し続ける内燃機関。
ここには確かに犯罪者がいるにも関わらず、しかし罪は成立しえない。
躊躇いも情け容赦も選別も手落ちもなく、徹頭徹尾、1から10まで、完全無欠に、
あらゆる狂気を内包し、全ての異常を抱擁し、遍く異質を許容し、考え得る限りの異端を受容する、
狂おしい程の打算と計略と試行と錯誤と決断と流血の下に打ち建てられた鉄の庭。
それが、それこそが、それだけが隔離都市であり、
それだけに、それだけで、それだけを隔離都市は法とする。

故に、僕には労働の自由が許されており、勤労に励むことが出来るのだが。暮しのためにも。
B地区第183住居。それが僕と夜宵ちゃんの住まいである。
このB地区に住む、より正確に言えばB地区の住居を購入するのも楽ではない。
隔離都市は内部を管理するための機関などが集中する中央区から始まり、
政府から送られてきた管理者達や隔離都市に名だたる『十席』とその側近など一部の特権階級しか住めないA地区、
管理者側に比較的友好的な態度を示す者達が居住を許されるB地区、
比較的問題のない者達が住むC地区、
管理者達にとって余り好ましくない者達を集めたD地区、
そして更に正式ではないが内部から弾かれた弱者が行き着く隔離都市を囲む壁際のE地区、
と中心から外へ向かって円状に広がって行くという構造を取っている。
中心に向かうほど地区の直径が狭まることから分かる通り、中心との距離がそのまま権力や住み易さの表れだ。
僕は以前はC地区の住人だったのだが、夜宵ちゃんと出会ってからは色々頑張った甲斐もあってB地区に住むことになった。

詰まりはそれだけ管理者側に尻尾を振ったということであり、
だから、知らないうちに何処かで恨みを買っていたりもする。


「テメェかあ、アニキを殺ったのは」

嫌な予感、もとい予想はしていた。
通勤途中にまだ人通りも少ない通りの路地裏から視線を感じたし、そう言えば最近は召集をかけられることも多かったからだ。
妬み恨みは世の常、誰かの幸福は誰かの不幸が支えている。
なら、そこそこ幸せな生活を送っている僕がそこそこ他人の恨みを買うのも必然なのだろう。


406:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:41:59 S4s3o/uz

「ああコイツだ、間違いねぇ。オレは見たぜ。アニキを殺ったのはコイツだ」

「そうかそうか・・・コイツがアニキをなぁ」

「許せねぇ! さっさと殺っちまおうぜっ!」

今僕がいるのはA地区とB地区の境界線付近、特に人通りが少ない路地である。
目の前にはチンピラ風の人物が3人、横に並んで僕を睨んでいた。
前時代的な髪型を始めとする随分気合の入ったファッションに、
全身を飾っているんだか飾られているんだか分からないジャラジャラした指輪だのチェーンだのピアスだの、柄も頭も悪そうなナリだ。
皆揃って同じ様な個性を追求することで逆に無個性に陥ってしまうということをしがちな、
まあ思春期とか第二次性長期あたりで脳と精神の発達を止めてしまった人達なのだろう。
まして犯罪者の巣窟たる隔離都市においては没個性も甚だしい。
で、そんな3人組が揃って殺気立っており、どうみても通行人に朝の挨拶という風には見えない。
これで朝の挨拶だというなら、随分とまあ変わった芸風と言える。

「で・・・僕に何か用かな?」

生憎、そんなことは在り得ないんだけど。

「あぁん? んだテメェ、ふざけてんじゃねぇぞコラァアっ!」

流石にスルーも出来ないので用向きを尋ねると、チンピラA(仮称)が唾を飛ばしながら怒鳴る。
不必要に声量が大きい。両脇の2人、チンピラB(仮称)とチンピラC(仮称)もそうだそうだと続く。
どうも僕から口を開いても無駄な気がしたので相手の喚き立てるに任せてみると、
僕と彼らの間には有するボキャブラリーの方向性に違いがあるようなので解釈に苦労したが、
どうやら次のような次第らしい。
彼らチンピラ3人組みには世話になってる兄貴A(仮称)がいた。
その兄貴Aは面倒見が良く、そして隔離都市のどこか──おそらくD地区だろう──で、とあるグループに所属していた。
そのグループとやらは何か大きなコトを企てていたらしいのだが、それが直前で管理者達に露見してしまい、
僕や仕事仲間に殲滅されてしまったらしい。
その時に兄貴Aを殺したのが僕。故に復讐するは我にあり、ということだそうだ。
正直、困る以前に身に覚えが無い。最近は召集が多いせいで、取り締まる相手の顔なんて一々憶えていられない。

その時に殺そうが拿捕しようが、二度と会わないことに変わりはないのだし。

そもそも、露見したらマズイことを企む方が悪い。
勿論、隔離都市は内部の人間におよそあらゆる自由を保障しており、
無論、欲望のままに生きることを推奨している。
ただし、例外が無いわけではない。先ず隔離都市から外に出ることがそれだ。
内部の人間を隔離するためにあるのだからこれは当然と言える。次に隔離都市から出るための行動・準備を行うこと。
それから管理者やその部下へ危害を加えること、その業務を妨害することなどと続く。
アニキとやらが何を考えていたのかは知らないが、
何もしなくても日々の糧が保証されているのだから無用のリスクを冒す必要などないのに、
ただでさえ犯罪者という身分には過ぎた待遇を受けているのにも関わらず欲をかくからそうなる。自業自得、と言うやつだろう。
だが。
そんな理屈は彼らには通用しないらしい。

「アニキはこんなオレ等にも良くしてくれたんだ。
 それを、そんなアニキを殺りやがって・・・テメェも同じ目にあわせねえと気がすまねぇ!

「復讐だ」

「ぶっ殺す!」


407:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:43:14 S4s3o/uz
じりじりと距離を詰めてくる三人の表情には、微かに怒り以外のものも見て取れた。愉悦だ。
相手からすれば状況は三対一。
加えて辺りに人通りはなく、
仮に僕が都合よく通る通行人に助けを求めても隔離都市では見ず知らずの他人を助けるような奇特な犯罪者はいないし、
中央の管理者なりに連絡をしても即座に誰かが駆けつけてくれるわけでもない。
それを分かっていて、甚振る積もりでいるのか。チンピラ三人組は敢えてゆっくり迫ってくる。
予め僕の扱いを三人で決めていたのか、たまたま全員が似たような嗜好なのか、
いずれにせよ、世話になった人物の復讐にかこつけての日頃のストレス発散も目的にあるのは言うまでもないだろう。
彼らの罪状の程が窺える。

「・・・・・・」

とは言え、どうしたものだろうか。
多分、この状況をどうにかするのは難しくない。

ここでの生活で培った感覚が警鐘を鳴らしていないことから、相手の危険度はせいぜいDかE。
仕事の関係で、より危険度の高い人間の相手をしょっちゅうしている身からすれば大した脅威ではない。
殲滅も無力化も難しくは無いだろう。

僕の隔離都市でのスタンスは殺人鬼でも殺人狂でもない。
と同時に、自衛のために力を行使するのを躊躇う程のお人好しでもないのだから。
問題があるとすれば、
揉め事を起こして中央から仕事というか僕への評価を下げられることだが・・・この際仕方が無い。

右手。
住まいを出る時に、1つだけ持ってきた荷物を見る。
長さ1m程の、白い布に包まれたそれ。今、僕が持つ唯一の自衛手段。
その感触を確かめるように、強く握る。

「オラァアアアアアアアアアアッ!」

それに反応したのか、真ん中、チンピラAが最初に目を血走らせながら突っ込んできた。
手には、いつの間にか奇妙に捩れた刃を持つナイフが『出現』している。
これで正当防衛が成立した。

僕は自身の『得物』を覆う布を取り払おうと手を伸ばし──止めた。
代わって、目を見開く。

「ぎゃあああああああっ!?」

赤い色が踊っていた。

眼前で、チンピラAが燃えている。
何の予告も予兆も伏線さえもなく、
唐突に生じた──それこそ発生したとしか言えない──炎が瞬く間に彼を呑み込んで火達磨と化していた。
内包する膨大な熱にゆらゆらと揺れ動く焔は足先から頭頂までを余す所無く覆い尽し、
衣服を肌を肉を髪を眼球を区別無く焼いている。
朝の日の光の明るさにも関わらずより強い輝きで周囲が照らされ、
僅かとはいえ離れていても伝わってくる熱に細められる視界の中で僕同様に驚愕に、
次いで痛苦に歪められた彼の顔が映った。
赤い壁で隔てられた彼の顔は燃え盛る炎の中でぱくぱくと口を開いて何かを訴えようとしているが、
それが叫び声以外のものを伝える前に膝を折り、人形のように崩れ落ちる。
余りに急な展開に着いていけずどこか明瞭でない感覚の中で、それだけは現実的な重い音が響いた。

408:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:44:43 S4s3o/uz

「お、おい・・・」

「け、消せっ! 火を消すんだ!」

数瞬の硬直。
展開についていけないながらも倒れ伏した彼の状態を理解した二人が、衝撃の拘束から解かれて動き出す。

同時に、もう一つ変化があった。

「・・・え?」

僕がそれに気付いたのは、彼等と反対側にいたからだろう。
影が見える。
伏してなお焼かれ続けるチンピラAを覆う炎が辺りを照らす中、
僕と彼の間に黒い水溜りのようなものが生じていた。
染みのようなそれは急速に濃さを増して行く。
だが、さっと視界を巡らせても、前後左右どちらにもあるべき影の発生源らしきものはない。
僕は半ば直感で視線を上げる。

影が降り、炎とは違う赤色が舞った。

人。
大人ではないが、さりとて子供とも言えない程に成長した肢体。
しなやかなそれを曲げて殺した落下の衝撃に従い、左右で結ばれ垂らされた二筋の赤色の髪がふわりと揺れる。
チリン、と澄んだ鈴の音が響いた。
着地の際に猫のように丸められた背中は濃い青のブレザーに覆われ、緑を基調としたスカートが下に続く。
僕の側に露出したうなじは細く、それが彼女の性別を教えてくれた。

「──」

突き立てられた沈黙が場を支配する。
彼女自身は着地による停滞に、
僕を含むその他全員はどこからか飛び込んできた第三者に対する驚きと対応への逡巡でその場に縫い付けられた。

それを破ったのも、また彼女。

「────あっは♪」

早業、と言えるだろう。
曲げられた四肢をそのまま撓みから開放へ、伸縮の逆の動きで五体を弾丸と撃ち出す。
身を低くした駆け出しから刹那で跳躍を果たした体は、髪の色の軌跡を引いてチンピラ達へと迫った。

「う!?」

「お!?」

隔離都市では、一瞬の差が生死を分ける。
仮にも荒事に身が馴染んでいるらしいチンピラ達は一拍遅れて反射的に迎撃の構えを取るが、時既に遅く。

「アンタらは取り敢えず眠ってなさい!」

一閃。
一人は突き刺さるような拳で顎を打ち抜かれ、もう一人は砕くような蹴りで同じ場所を打ち上げられて沈んだ。
音が二つ、倒れた体は三つに増える。
まさに瞬殺。電光の早業だ。

「ふう・・・これでよしっと」

409:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:46:19 S4s3o/uz
それをなした当人はと言えば、
一仕事終えたというようにぱんぱんと手を鳴らしてから僕へと振り向いた。
未だチンピラAを包む炎に照らされ、火照ったような笑顔が向けられる。
ツインテールの髪の色より透明感を増した、勝気そうな朱色の瞳が輝く。

「強いんだね。相変わらず」

「っ・・・当ったり前でしょ! アタシを誰だと思ってんのよ」

褒めた積もりだったが、お気に召さなかったらしい。
一転、さも心外という風に顔を顰められる。
が、まあいいわ、と言う声と共に不機嫌な表情が打ち消された。

「で、アンタはこんな所で何をしてた訳?
 久し振りに会えたと思ったらお取り込み中だったみたいだけど、とうとうファンクラブでも出来たのかしら?」

「僕はそんな人間じゃないつもりだし、第一あんな手合いはご免被るよ。
 まあ、仕事上の恨み辛みって奴かな」

見え透いた揶揄をかわして要約した事情を伝えると、呆れたような視線で返される。

「はんっ! まあアンタじゃその辺が打倒よね。
 ファンクラブにしたって、アンタ変なのばっか惹き付けるみたいだし・・・・・同性には嫌われてるみたいだけど」

視線を転がるチンピラ達に転じて睨みつける。
同時に、注意を引くように、僕に見せ付けるように腕を振るうと燃え上がる炎が消えた。力を解除したらしい。
残滓と言うには強くこびり付いた人肉の焼ける異臭が辺りに漂う。

「さてと」

しかし、彼女は鼻を摘むでもなく涼しい顔をしていた。
そのまま、焼かれていないチンピラの片方にずんずんと歩いていくと。

思い切り──蹴り付ける。

「にしてもコイツらも馬っ鹿よねー?」

蹴る。蹴る。蹴る。

「アンタに手を出して無事に済むとでも思ってたのかしら?
 あの人形娘にアタシに鎌女、ざっと並べただけでもこれだけの能力者がアンタの周りにはいるのにね?」

足を踏み付け、腹を爪先で蹴り込み、顔を踏み躙る。
鈍い音。

「おまけに隔離都市治安維持部隊配属の人間に手を出せば、
 後顧の憂いを断つ意味でもアンタのチームが同僚が上司が部下が管理者が組織が、
 徹底的に徹頭徹尾、底辺までも追い掛けて追い立てて追い付いて追い詰めて、
 この素晴らしき犯罪者の巣窟の住人ですら吐き出すような処断を下すのにねー?」

蹴り、蹴って、蹴る。
中身の詰まった肉の音が耳に粘り付く。

「まあいいわ。アタシには、どうでも。
 アンタが困ってたみたいだから助けて上げただけのことだし──ん?」

「ぁ・・・ぅああ」

サンドバッグ化していた物体が身じろぎした。
おそらくは自身の知らぬ間に腫れ上がった目を薄く開く。

410:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:48:03 S4s3o/uz

「ぉ・・・助け・・・く」

「あら」

現状に至る事情を理解したのか、それとも自分を蹴り付ける相手の危険度を知っているのか。
許しを、助けを求めるように開かれた唇は。

「別に喋んなくていいわよ」

屈んだ、彼よりも小柄な彼女の細腕で塞がれた。

「これってある意味、丁度いい憂さ晴らしで八つ当たりで自己満足だから。
 満足するまで終わるつもりはないの。
 でも────起きちゃったら騒がれるのも面倒よね?」

「んんーっ、んんんんんあ゜あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜ーー!?」

チンピラの体が大きく跳ねる。
びくびくと、生きたまま調理台の上で焼かれる生き物のように。
事実その通りなのだろう。
チンピラの口を押さえる彼女の腕からは炎が吹き零れていた。
口内から喉奥へと流し込んだ炎で体内を焼いているのだ。生きたまま。
数秒それを続けると断末魔も声帯ごと焼き尽くされ、跳ねていた体は口から煙を上げて静かになる。

「ちょっとは気も晴れたし。アンタ、もういいわ」

必要の無くなった押さえが外された。
背を伸ばし、唯一焼かれずに残っているチンピラを視界に収めると。

「・・・・・・アレも始末しとかないとね。アンタに手を出した奴、生かしておく訳にもいかないし」

視線は僕に向けながら、腕を振ってそれにも火線を伸ばす。
とぐろを巻いた炎が彼を囲って火柱と化し、今度は断末魔も許さずに炭に変える。
最初に焼かれた彼も、既に生きてはいないだろう。

「っく~~! 朝からゴミ掃除をすると気分がいいわねえ・・・・・・って、アンタどうしたのよ?
 顔が青いわよ?」

朝から三人分の焼死体を生産した彼女は良いことをしたと言うように伸びをして、身を捩る。
それ自体はコキコキと小気味良い音が聞こえてきそうだったが、
生憎と彼女程に焼けた人肉の臭いに慣れていない僕は少々グロッキー気味だった。
猟奇殺人もかくやという死体なら幾らでも見てきたが、生憎と出来立ての焼死体には馴染みがない。
気分が悪いのが顔に出たのだろう。

「いや・・・流石に、この臭いには慣れてないから」

「ふーん。アタシにとっては慣れどころか何も感じないけど。
 確かに、普通は強烈な匂いなのかしら」

そんな僕に、彼女はずんずんと近付いて来て。

411:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:48:51 S4s3o/uz

「それでも────あの女の臭いは消せないみたいだけど?」

胸倉を掴み上げ、僕を引き寄せて首の位置に頭を寄せ、鼻を鳴らす。
一呼吸分で突き放すように僕を押しやると、不愉快そうに顔を歪めていた。

「臭いって」

「あの闇人形の、ね。
 はっ! 相変わらずべたべたべたべたアンタに纏わりついてるみたいじゃない?」

夜宵ちゃんのことか。
彼女とは、どうしてか知らないけど仲が悪いからなあ。
その分の怒りをぶつけるように、彼女は鋭い視線で見上げてくる。
押しやられてと言っても大した距離ではないので、少し位置が近い。

「・・・・・・えっと」

「・・・・・・はあ」

数秒。
嘆息するように、あちらから視線を外された。

「まあいいわ」

そして、気を取り直したというように。
一歩下がり、組んた手を背中に隠して上目を遣いながら。

「それで、一応、困っているところを助けて上げたんだし」

妙に明るい声で。

「それなりのお礼は──してくれるわよね?」
ヴァーミリオン
【火炎災】の名を冠する、
隔離都市に数多存在する突き抜けた異端の一人である彼女、火神原 赤音(かがみはら あかね)はそう要求した。



僕、仕事あるんだけどね。

412:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:52:06 S4s3o/uz
投下終了。
前スレで書きためてから投下した方が良いとの助言を頂いたのですが、
分量的にはこれ位でいいのでしょうか?

極稀でも投下出来ればいいなと思いつつ、お目汚しにならぬよう祈ります。

413:名無しさん@ピンキー
07/05/26 00:22:48 s3KNCFuB
「祈る」んじゃなくて「頑張って」ほしい

414:名無しさん@ピンキー
07/05/26 00:52:12 GbVTOFZG
>>412
投下乙です!!
何かまだまだ登場しそうですね・・・
続きも期待してます

415:短編 ◆qj8aj1j2zQ
07/05/26 09:24:25 3gKDVvMD
ちとネタを思いついたので短編で書いてみました。

この本に書かれた事は現実になる。
この本が現実に出来るのは書いた人物が何らかの手段で感知できる範囲内だけである。
この本が現実に出来るのは、ある一つのジャンルに関する事のみである。
この本は複数存在し、それぞれに現実に出来るジャンルが違う。
この本を複数所有する事は『可能』である。

「何なのかしら?この本??」
そう言って、私は机の上に置いてあった本を見てみる。
悪戯にしては手が込んでおり、なんとなく逆らいがたい様子が見える。
その真っ黒な表紙には『ホラー』と書かれており、どうやらこの本は『ホラー』的な事を現実かできるようだ。
「ちょっと、試してみようかな………」
そう言って、私は何と書くか迷った。が、結局は書けなかった。ホラーな状況なんて嫌いだ。

次の日、私はお弁当を二つ作る。一つは私の分、もう一つは彼の分。
「おー●●は偉いなー。でアイツとはどこまでいった?まさかまだキスとかしてないだろうな!」
お父さんはちょっと心配性。だけど、良い人。
「まったく、お父さん。キスぐらい良いじゃないですか。」
お母さんは優しい。この二人を怖がらせるなんて出来ない。

○○君と登校するのは結構久しぶり。こころがどきどきと唸り始める。
交差点で○○君の横に誰かがぶつかる。隣のクラスの××さんだ。
その拍子に彼が倒れようとする。私も支えようとする。一緒に倒れた。
勢いでお弁当箱が零れ落ちる。道路にばら撒かれるお弁当。折角彼の為に作ったのに。

○○君は××さんと一緒に学校に行ってしまった。私は一人ばら撒かれた弁当を片づけ中。
変だ……何か変だ。

416:短編 ◆qj8aj1j2zQ
07/05/26 09:25:32 3gKDVvMD
昼休み、××さんと○○君が一緒に学食を食べている。なんで××さんがそこにいるの?
私だってそこにいたいのよ!!

放課後、××さんがノートを取っている。
書き終わった後、ノートを鞄の中に入れる。
そのピンク色の表紙で『恋愛』と大きく書いてあるノートを。
「許せない………」
今、私の顔は狂気に狂ってるだろう。
あの××もノートも許せない。あの女には狂い死にが当然の報いだ。
「あの泥棒猫……」

家に帰るとノートを開いてどんどんと文字を書き連ねる。
「死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………死ね…
 …死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………死ね
 ……死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………死
 ね……死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………」
あの恋愛ノート(仮)に書かれた内容もよく吟味する。まずはあのノートをどうにかするのが先決だ。
「あははははははははははははははははははははははは……
 ××さんなんて……××さんなんて……消えてしまえ!!」
ふらふらとする頭の中で私はノートを隠すと、私の体はばたりと倒れた。

その頃、××は、家の鏡の前でセクシーポーズの練習をしていた。
この恋愛ノートに敵は無い事は確認してる。幾ら食べてもずっと美人でいられる。
「●●も馬鹿よねー。幾ら頑張ったってこの恋愛ノートには勝てないのに」
そう言って、鏡の中の自分を見ながら笑う。
「鏡よ鏡。鏡さん?世界で○○君に好かれてるのはだぁれ?」
「それは私ですよ。泥棒猫………」
「えっ??」
鏡の中の××が急に顔を変え始める。怒り狂った鬼の顔になった鏡の中の××は腕を伸ばすと、彼女の顔を握りつぶす。
ケタケタと面白そうに笑うと、部屋の中を荒らしながらまた目的の物を見つける。
「あっ、私のノート!!」
そう言って××は、セクシーポーズの服装のまま部屋の外へと飛び出していく。

「待てぇぇぇぇぇ……」
ドンと××は誰かにぶつかる。
「待てよ姉ちゃん……人にぶつかっといて、何も無しかよ」
そう言ってや×ざな人が××を睨みつける。
そんなや×ざに……××はなんと恋をしてしまいました。
そしてそれからや×ざの愛人として末永く幸せに暮らしたそうです。

ケタケタと笑い声を上げながら、鏡の中の××が恋愛ノートにそう記している。
「まあ、死ぬのは可哀想だから、雌奴隷の幸せを十分楽しませてあげるわ」
●●の家の方向に向かいながら鏡の中の××は笑い続ける。
「本当は死ぬほど苦しい思いをさせたいけど、幸せなままでさせてあげますわ」
そして●●の家に着く。鏡の中の××はそこでふっと消えた。

●●が顔を上げる。そこで浮かべた笑みは、鏡の中の××と同じ物だった。

417:名無しさん@ピンキー
07/05/26 11:08:07 kS/CW/vK
問題はこの話で萌えられるかどうかなんだが
ごめん俺には無理

418:名無しさん@ピンキー
07/05/26 14:08:02 qmCRzmY2
>>416
ごめん、その・・・微妙・・・

419:名無しさん@ピンキー
07/05/26 14:27:28 Rdz/OC9G
>>416
えと…その…い、いいんじゃない?
個人の趣味だし…うん。

420:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:26:11 24ZREIW1
投下します

421:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:27:06 24ZREIW1
「うぅん……なんだか……眠くなっちゃいました……ぅく……」
 過去のことを思い出しながら話を聞いていると、眠そうに欠伸を堪える霧。よかった……このまま寝てくれれば、この二人きりの空間から抜け出せられるかもしれない。
「いろいろあって疲れてるだろうからな。眠いときには寝といた方がいいぞ。」
「ごめん……なさい……私から呼んでおい…て……」
 謝りながらウツラウツラと頭が揺れる。瞼もほとんど閉じている。……眠くなるとすぐにこうなる癖、相変わらずだな。
「ほら、寝るならちゃんとベットで寝ろよ。」
 そう言って霧を抱えあげ、ベットまで運ぼうとすると……
「ありが…と……ございます……ぉ兄様……」
「っ!!」
 霧の一言に心臓がはねる。恐らく寝言なのだろうが、不意にいわれて慌ててしまった。
「……俺は、お前の兄じゃない。」
 霧の寝言に悲しい嘘を返し、俺はそっと部屋を出た。
「……はぁ。」
 なんだか妙に虚しさが残るな。もう一杯コーヒーでも飲んで落ち着くか。
 不気味なまでに静かな廊下を後にし、俺はリビングへの階段にを上っていった。

422:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:29:25 24ZREIW1
ガチャ
 リビングのドアを開けると、翔子が中でウロウロしていた。何をやってるんだ?エラい焦ったような顔色だが……何かあったか?
「おう、翔子。起きたのか?疲れはとれたか?」
「あっ……」
 俺を見つけるなり、不機嫌そうな顔をして近付いてくる。顔だけじゃない。体から出るオーラが不機嫌そのものだ。
「ど、どうした?」
 こいつ、もしかして寝起きが悪い奴か?
「ど、どこにいたのかしら?貴方の部屋を尋ねても返事がなかったのだけど?」
 気持ちを落ち着かせようとしているのか、上品な言葉遣いで話す。顔はまた焦燥感たっぷりといった感じだが。
「ああ、さっきまで霧の奴とコーヒーを飲んで……ん?」
「………い、いいえ。そうよね。貴方がだれと何をしようが、あなたの勝手よね。」
「?……まぁ、確かに、俺が好きでやることだからな。」
「な、ならっ!私が貴方とコーヒーを飲むのも、私の勝手よね!?」
「……はいはい、砂糖とミルクは?」
「どっちもたくさん!あまーくしなさい!」
 ったく……素直に言えばいいのによ。だいたいなんで命令口調なんだよ……ちくしょう。

423:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:30:31 24ZREIW1
トポトポトポ……
 二つのコーヒーカップに広がる黒い液体。その香りは嗅ぐだけで気持ちが和らぐ。そして片方のカップに砂糖、ミルクを入れると、たちまちその黒が汚される。
「綺麗、だよなぁ。」
 この模様も指紋や万華鏡のように、同じ形は二度とできないのだろう。だから俺はコーヒーにミルクを入れる度、この模様に魅入って……
「ちょっと!祐吾!まだなの!?」
 ……俺の安らぎをぶち壊しやがって。
「ほら、甘さはこれぐらいでいいか?」
「ん……うん、私の望んだとおりの味ね。」
 そりゃよかった。またこれ以上文句を言われたらたまらないからな。……しかし、いつまでもここでのんびりしててもいいのだろうか。
「わ、私がけ、け、結婚するなら、コーヒーを入れるのが上手な男性が良いわね。」
「それなら結婚するやつじゃなくてもいいだろ。コーヒーを入れるのが上手なお手伝いとか。」
「………バカ。」
「ん?なんか言ったか?」
「美味しいっていったのよ!」
 そう言って横を向き、不貞腐れた顔でコーヒーを飲む翔子。その横顔がまた、彼女の面影に重なる……そうだった。あいつと初めて会った時も、コーヒーを飲んでたっけ。

424:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:31:42 24ZREIW1
以上です。次からは少し過去編にはいります。

425:名無しさん@ピンキー
07/05/26 18:23:30 k4fGXjSa
>>417-419
神叩いてんじゃねぇよ、荒らし


426:名無しさん@ピンキー
07/05/26 19:06:44 H/rFK5PP
なんでスルーできないのかな?
ゴミ

427:名無しさん@ピンキー
07/05/26 21:26:49 Pc6GaZqv
ぶらまりキタコレ

428:名無しさん@ピンキー
07/05/26 22:27:47 vS4c2p+1
報告乙
早速見に逝ってくる

429: ◆6xSmO/z5xE
07/05/26 23:55:45 xPY8Gp4O
ちょっと間が空きましたが、投下いきます。

430:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/26 23:57:13 xPY8Gp4O
「ぐっ・・・!?」

 エルを見送って僅かに気が緩んだのを見計らったように、智の身体がぐらりとよろけた。
 壁に手を付け、倒れこみそうになるのを辛うじて堪える。
 だが、喉から急激にこみ上げてきたものは防げなかった。
 ぶほっ、と鈍い破裂音を立てて智の口が開き、大量の血が吐き出される。
 腹部からの流血が作る血溜まりに、それは時雨のように降り注いだ。

 酷使され続け、今また致命傷を負った身体を考えれば、当然の反応だった。
 しかし、ここで倒れたらもう二度と起き上がれないのも分かっている。
 だが、まだ倒れるわけにはいかない。
 壁伝いに手を付きながら、智は気絶した千早の元へゆっくりと歩み寄った。



 首に鬱血の痕を濃く残している千早は、死んだように動かない。
 酷い顔色と苦しげな様子で、無理矢理起こすのは気が引けるが、自然に目覚めるのを悠長に待っている時間は無かった。

「千早。千早、起きろ。起きてくれ・・・頼む」

 祈るように千早の身体を揺さぶる智を、そのたびに強い眩暈が襲う。
 揺さぶるという動作で自分の身体が僅かに揺れることさえ、今の智には重い衝撃になって返って来るのだ。
 倒れ込みそうになるのを堪えながら、根気よく何度も何度も千早を揺さぶり続け――。

「ん・・・」

 祈りが通じたのか、千早からくぐもった呻きが漏れた。震える瞼が目覚めの予兆を伝える。
 緊張から唾を思い切り飲みこんだ智だが、鉄錆の強烈な味にむせ返ってしまった。

(そういえば・・・。口の周り、吐いた血でベトベトだっけ・・・)

 汚れた口元を乱暴に拭い、無理矢理にでも穏やかな表情を意識する。
 苦痛に歪んだ顔を極力出さないように。もう少しだけ誤魔化せるように。
 今が夜でよかったと心底思いながら、智は千早の目がゆっくりと開いていくのを見つめる。



431:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/26 23:58:45 xPY8Gp4O
「あ・・・?」

 焦点が定まっていなかったのか、千早が視線の先の存在を認識したのは、目覚めてたっぷり30秒は経ってからだった。
 初めて口付けた朝、思い切り殴り飛ばされて以来。狂うほどに恋焦がれた幼馴染の姿がそこにあった。

「智ちゃんっ!」

 頭より先に身体が動いた。潰れかけた喉の痛みも忘れて衝動的に飛びつき、抱きしめる。
 だがそれに僅かに遅れて、脳が智の出て行った朝のことを思い出させた。

 また殴り飛ばされる、拒絶される。恐怖が全身を駆け巡り、安易に抱きついたことへの後悔が頭を過ぎる。
 それでも千早は、智の背中に回した腕の力を緩めることは出来なかった。

(ごめんなさい、嫌いにならないで、いい子になるからどこにもいかないで――でもやっぱり、他の女なんか見ないで)

 言葉にならない懺悔とそれでも捨てきれない独占欲が交錯し、千早の心を掻き乱す。
 そんな中、やや冷たい智の体温だけが現実だった。
 殴られても暴れられてもそれだけは絶対に離すまいと、両手をがっちりと握りしめる。
 しかし、どれだけ待っても千早の恐れる衝撃はやってこない。
 それどころか背中にゆっくりと手を回し、いたわるように撫で始めた。

「千早、目が覚めてよかった。・・・戻ってくるのが遅れて、本当にごめんな」

 優しい声、優しい仕草。それらに勇気付けられ、千早は胸に埋めていた顔を離して恐る恐る智を見上げてみた。
 暗くて若干見にくいものの、浮かべた微笑みは優しく、瞳もいつかの禍々しい色はしていない。
 間違いなく、千早の好きな智だった。

(戻ってきてくれた・・・やっぱり智ちゃんは私のところに戻ってきてくれたんだ!)

 その確信と同時に、張り詰めていた想いが一気に堰を切った。
 それは自身の正気と天秤に掛けるほどに肥大化していた恐怖や不安であり、千早を文字通り壊してしまう寸前で。
 彼女自身にも制御できないその感情は、最も原始的な方法で解放された。

「うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 智に縋りつき、あらん限りの大声で千早は幼子のように泣きじゃくる。
 そんな千早を、智はただ優しく抱き止め続けた。





432:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 00:00:23 xPY8Gp4O
「落ち着いたか?」

 10分後。泣き声が止んだのを見計らって、されるがままだった智が声を掛ける。
 まだしゃくりあげているが落ち着きは取り戻したようで、コクリと頷くとようやく智の胸から顔を上げた。

 改めて見ると、千早の様子も智に負けず劣らず酷いものだった。
 首の痣は勿論だが、全体的に痩せこけ、只でさえ小柄な身体がさらに小さく見える。
 そんな中、泣き腫らした目元だけが際立って赤く、智には酷く痛々しく映った。
 かつての瑞々しい魅力に溢れた可愛らしい姿は見る影もない。

「本当にごめん・・・。俺の所為で、お前をこんな・・・」

 智が吸血鬼化したことで狂い出した歯車。その煽りを最も喰らう羽目になったのは千早だろう。
 関わらせまいと秘密にしておいたのに、その結果がこの有様なのだから。
 だからというわけではないが、全て伝えなければと智は思う。
 いや、知っておいて欲しいのだ。

「あのな、千早」

 見上げてくる千早の瞳は、赤く腫れながらも無垢な輝きを宿している。
 それは10年以上見つめ続けてきた幼馴染への全幅の信頼であり、しかし今の智には、その想いがどこか心苦しくもあった。
 異性愛という意味での千早の好意を知ってしまったからだろう。

 ずっと変わらないままの関係で居られると思っていた。
 けれど、そんなはずはなかったのだ。
 きっと、たとえ智が吸血鬼にならなかったとしても。
 意を決して、智は千早を正面から見つめた。




「俺は、さ――吸血鬼なんだ」






433:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 00:02:51 xPY8Gp4O
「え・・・?」

 予想通り、呆けた反応が返ってきた。それには構わず、智は説明を続ける。

「もちろん、元から吸血鬼だったわけじゃない。ここ最近、俺が夜な夜な外出していたのは知ってるだろ?」
「・・・うん」

 トーンの低い声で、千早の返事。この件が一連の出来事のきっかけであることを思えば、それも仕方ないだろう。

「あれはさ、人の血を吸うためだったんだ。吸血鬼は人間の血を吸わないと生きていられない。
 でも、吸わせてくれなんて他人に正面から頼めるわけない。
 だから、夜の暗闇に紛れてこっそりとターゲットを探してたんだ」

 ここで一旦言葉を切り、智は千早の反応を待った。
 色々予想してはいるが、どんな反応が返ってくるか想像が付かない。
 そして、いつの間にか俯き気味になっていた千早から返ったのは、搾り出すような低音だった。

「神川藍香・・・?」
「・・・ああ。多分、先輩のよく分からない実験に付き合ってこうなったんだと思う。
 だけど、俺は先輩を恨んでるわけじゃない。千早にも先輩を恨まないで欲しいんだ」

 声音にこそ戦慄を感じたものの、反応は想定内だったこともあり、智は淀みなく返答する。
 しかしそれが逆効果だったのか、千早の暗い雰囲気が高まり、智を更に圧迫する。

「あの女を庇うの・・・?」
「そうじゃない。どうなるか分からない実験を不用意に行った先輩の責任は確かにある。
 だけど、今更それを責めたって何の意味もない。先輩も責任を感じて、俺を元に戻す方法を考えてくれてたし。
 それに、何より――」

 千早の圧迫感が強まっていく。以前の二の舞になる危険を感じたが、それでも智は怯まなかった。
 隠し、誤魔化すことばかり考えていたあの時と違い、自分の本当の気持ちを告白する。

「千早に知られたくなかった。そうしたら、人間としての俺を見てくれる人が居なくなってしまうような気がして。
 それに、本当のことを話して――もしお前に怖がられたら、嫌われたら、自分の居場所が無くなると思った。
 俺は、お前との日常を守りたかったんだ」


434:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 00:06:27 QYOkGfJw
 一気にここまで話して、智は大きく息を吐いた。
 言いたいことは全て言った。だからだろうか、返ってくるのが罵倒でも恐怖でも狂気でも、自分の全てで受け止めようと思える。

 暫く黙ったまま俯いていた千早だったが、不意に纏っていた重苦しい雰囲気が霧散した。
 顔を上げた千早が浮かべていたのは、智が最も慣れ親しんだ、ごく自然な笑顔だった。

「バカだね、智ちゃんは。私が智ちゃんのことを嫌いになるわけ無いのに。
 智ちゃんが何者でも、私にとって智ちゃんは智ちゃんだよ。
 私が大好きな、ね」

 当然のように言い切る千早。その表情は別段感情を露わにするでもない、まるで通学中に雑談しているかのような微笑だ。
 しかし、そんな笑顔を向けてくれる幼馴染だからこそ、智は自分の居場所が彼女の傍にあるのだと実感できる。
 何ら特別でないことが何より特別である――智にとって、千早とはそういう存在なのだ。
 これまでもこれからも、それだけは変わらないものだった。

「はははっ。あははははははっ・・・・・・!」

 思わず笑いがこみ上げてきた。ついでに涙もこみ上げてきた。
 千早の肩に顔を押し付けながら、智は痛みも忘れて笑い続ける。

 分かっていた。千早が自分を嫌うはずないと。事情を話せばちゃんと理解してくれると。
 失敗する確率など万に一つしかない賭けだったのに、その万に一つの可能性を恐れて、ずっと言い出せなかった。
 もっと早く話していれば、きっとこんな結末にはならなかったのに。
 千早を信じ切れなかったから話せなかったのか、逆に千早が大切だからこそ話せなかったのかは、智にも分からない。
 一つ言えるのは、もう一歩を踏み出す勇気が智には足らなかったということ。
 死に瀕した今になってそんな単純なことにようやく辿り着くなど、本当にどうしようもないと思う。
 けれど、不思議と気分は清々しい。そういった思いの全てを込めて、智は笑い続けた。




 そうしてひとしきり笑うと、重苦しく圧し掛かっていたものが嘘のように消え去っていた。
 ここ数ヶ月久しく無かった、心からの開放感。
 しかしそれは、智を生の淵に留まらせる執念の消失でもあった。







435:ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 00:09:06 QYOkGfJw
 ふっと気が緩んだ。途端に猛烈な眠気が襲い掛かってくる。
 頭が重くなり、千早の肩に沈み込んでいく。だが、それが酷く心地よい。
 全身の痛みも、先ほどまでの苦しみが嘘のように何も感じない。
 その代わり、五感の感覚も感じなくなっていた。

「・・・・・・!? ・・・! ・・・・・・!!」

 千早が何か言っている気がするが、何も聞こえない。
 もう心残りが思い浮かばない智の心は、この沈み込んでいく心地よさに抗えなかった。

(心、残り・・・? いや、あったな・・・。ひとつだけ・・・)

 消え行く意識の中で、最期に会えなかった一人の女性の姿が浮かぶ。
 出来るなら会いたい。しかし、会わないでおくと決めたのは智自身だ。
 もう会わないという選択が、自分が彼女に対して出来る最良の手段だと思ったから。

(藍香先輩・・・。先輩には、家や立場や仕える人たちがいる。未来がある。
 屋敷でのあの数日間は・・・いや、一緒に部活をした数ヶ月は、全部夢だったんです。
 吸血鬼なんてものも、最初からいなかったんです。
 俺のことは忘れて、どうか幸せになって下さい。
 どんなに忌まわしい記憶でも、きっと時間が解決してくれるから・・・)

 我ながら身勝手な考えだと智は思う。本当なら、処女を奪い心を狂わせたことを身を以って償うべきだ。
 けれど、本当に藍香の為ということを考えるなら、会いに行くべきではない。
 こちらの一方的な自己満足の為に、藍香の心の傷を抉ることになるだけだ。
 時間があれば、或いは綸音がいればまだ出来ることもあっただろうが、今更言っても仕方ないことだろう。

(報い、だからな・・・これは・・・)

 それでも、やるべきことはやれたと思う。後悔は無い。
 むしろ千早の腕に抱かれて死ねることを思えば、これ以上何を望むというのか。
 智にはもう自分の表情を感じることさえ出来なかったが、それでも今浮かべているのは満ち足りた笑顔だと確信できた。

 そして――。








 もう二度と、動くことは無かった。


436: ◆6xSmO/z5xE
07/05/27 00:12:17 QYOkGfJw
今回はここまで。
一応あとエピローグがありますが、話としてはこれが最終話という位置づけになります。
早めに―出来れば明日か明後日には投下したいと思っているので、あと一話お付き合いください。


437:名無しさん@ピンキー
07/05/27 00:14:46 ZlkGa5Ks
>>436
久しぶりにktkr!
智が死んだかぁ・・・・・この後どうなるかが非常に気になる
特に先輩がどうなるかが激しく気になる

438:名無しさん@ピンキー
07/05/27 00:15:10 RCaBrd9E
高村智
再起不能……死亡

439:名無しさん@ピンキー
07/05/27 00:22:20 reMizh/3
キター!

智くん…ほとんど寝てたけどいい奴だったのに…

440:名無しさん@ピンキー
07/05/27 02:57:09 RvuDw8q3
ブラッドフォースきてるー!!
智がついに召されてしまったか、いい奴だったんだか゛。
先輩がどうなるのか気になる。

441:名無しさん@ピンキー
07/05/27 04:09:44 rZYDfJbp
つ、ついにキタッー!
やばい、先が気になって禁断症状が!

442:名無しさん@ピンキー
07/05/27 04:19:50 B1XmPAna
智……いいヤツだった
時々とんでもなく鈍かったが
それは修羅場の主人公に相応しくもあった
合掌

あっちでエルが待ってるぜ(`・ω・´)

443:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:31:35 2sdbbi/m
では投下致します

444:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:34:35 2sdbbi/m
 第2話『迫り来る影』

 大学を途中で中退した俺は親の仕送りや援助なしに生計を立てている。
安曇さんや美耶子や雪菜がそれぞれに学業に励んでいる間に
俺は仕事で賃金を稼ぐのに頑張っているのだ。
(奈津子さんというのんべぇはともかく)
汗水働くフリーターの時給は限りなく低いが桜荘に居られるためならどんな苦痛も恥も受け入れてやろう。
 例え、店長が限りなくうさんくさくてもな。

「ヘイっ!! カズキっっ!!」
「何ですか店長」
「カレーライスは思いやりで作るんじゃありません。
味もわからないお客の野郎どもは味覚障害に等しい味覚しか持っていません。
賞味期限が切れた商品を知らずに喜んで家に持ち帰って食べている姿を想像するだけでワタシは卒倒してしまいます。
ゆえにコスト削減のために化学調味料をたくさんたくさん入れてしまうワタシを責められるはずがありません」

 なにいってんだ。この人。
 相変わらず意味不明な言葉を呟いているのは正真正銘のカレーを専門に扱っているであろう
店の店長、東山田 国照(ひがしやまだ くにてる)である。
年頃は40才であり、髪に白髪が染まり始めた中年男性だ。

 俺が何をトチ狂ってこんなおっさんが経営しているカレー専門店にアルバイトをやっているのは
奈津子さんから無理矢理紹介されたおかげである。
人手不足で困っていると聞いたので俺は面接を受けるところまでは良かったのだが、
店長の性格が思っていた以上にエキセントリック並みに頭のネジが数本外れていた。

最初は断ろうと思っていたが、店長があらゆる画像掲示板サイトに
俺のアイコラを張り付けてやると脅迫されたおかげで、俺は仕方なくここで働いている。
 とりあえず、働いてみると店長のコミニケーション能力の欠如やおかしな言動のおかげで客が来るどころか、
同期に入ったはずのホールスタッフさんたちも速攻で逃げた。
 本音を言うと俺も逃げたかった……。

 だが、奈津子さんの紹介だったのでそう簡単にやめる訳にいかなかった。
いや、やめられない事情があったので俺は自分の直属の上司である店長の尻を
サンダーキックで蹴りながら『カレー専門店 オレンジ』をどうにか客が来る=俺の給料が払えるまでに店は成長した。
 まあ、店長の料理の腕は悪くもないし、口さえホッチキスで止めていれば。それなりにここは普通のカレーの専門店であった。

「今は休憩時間だから店長が何を語ろうが、何をやろうが黙って見過ごしますが。
 お客さんがいる時にその口を開いたら、縛り倒しますよマジで」
「あっはははっっは。やれるもんならやってみろ童貞っ!! カズキの時給が0円まで下がってしまうだけですよ」
「その時は労働基準署に脱税と労働基準法違反で告発するから。多分、俺は余裕で勝てる」
「卑怯な……カズキはそんなことをする人間だと思ってみなかったぞよ」
 所詮、世の中は弱肉強食でありますよ店長。
 俺は勝ち誇った顔を浮かべると虚しくなってきたので休憩時間を早めに終わらせた。


445:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:36:43 2sdbbi/m
 店長が作ったカレーをお客様に運び、オーダーを取り、厨房に店長が変なことをしないかと見張っていると
 時間はあっという間に過ぎ去って行く。窓ガラスから見える景色はすでに陽が沈みかけていた。この時間帯になると忙しくなるが、
 俺にとっていつもの訪問客が顔を出す頃であった。
 カララン。
 ドアに付けられた鈴の音が鳴り響いた。

「いらしゃっい……って。雪菜か」
「はいはい。今日も雪菜ちゃんが遊びにやってきましたよお兄ちゃん。
 バイト先に知り合いがいると何かたまらず遊びに行った
 ついでにクレームを思いきり付けたくなるのは私の遺伝子がそうさせるのかな」
「ようするに俺の奢りでタカリたいだけだろう」
「店長さ~~ん~~!! 今日もお兄ちゃんの時給から私のカレーをツケてねっ!!」
「YES マイマスター!!」
「さすがにおかしいだろそれっ!!」
 厨房から店長の了承する声が聞こえてきたので、雪菜の注文したカレーのお代は俺の少ない時給からパタパタと飛んで行くのであろう。
「というわけで、お兄ちゃん。私は、カレーライス 極甘でお願いしますねっ」
「ぷっ」
「お・に・い・ちゃ・ん。どうして、そこで笑うのかしら? 
 ここのお店は極甘を頼むお客に対して嘲笑するのが接客の基本的な教育方針なの」

「いえいえ。お客様。私が考えた接客の基本は心遣いと思いやりを込めた笑顔をお客様に届けるこそだと思っています。
 単純にもう女子高校生なのに小学生すら食べないような甘さに挑戦するお客様を

 お子さまだと思っただけですよ」

「ふぅ~ん。お兄ちゃんは私のことをそう思っていたんだ……。
 どこがお子さまだよ!! 私だってちゃんと女の子をやっているんだよ。
 身長も伸びだし、胸もちゃんと大きくなっているんだから」

 そこから雪菜はカレーが出来上がるまで自分が女の子としていかに成長しているのかと
 お客が店内にいることが気付くまで延々と語っていた。
 気が付くと顔を100倍激辛カレーを食べたように真っ赤に染めていた。
 恥ずかしさのあまりに気まずい雰囲気の中で頼んだカレーを2杯もおかわりした。
 夕食はいつも桜荘の住人が集う憩いの場で今日も安曇さんが腕を奮って夕食を作っているのだが、雪菜は曰く。

「育ち盛りなんだから。大丈夫だよっ!!」
「そんなに食べたら太ると思うんだけどな」
「そ、そ、それは……あみゅぅぅぅっっっ!!!!」
 奇妙な叫び声を捨て台詞を残して雪菜はカレー専門店を脱兎のように逃げた。当然、料金払ってないでやんの。

446:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:38:54 2sdbbi/m
 営業終了時間の20時になると俺はカレー専門店のオレンジの制服をロッカーに閉まって
 タイムカードに帰りの時刻がちゃんと刻み付けられてるを確認して後片付けを手伝わずにさっさと桜荘に帰宅する。
 汚れた皿ぐらいあの店長に洗わせても別に罰は当らないだろう。

 すでに陽が沈み、夜になっていた。
 暗い暗い帰り道を僅かな電灯の明かりを頼りにして、仕事で疲れた体を強制的に動かしていた。
 通い慣れた道を歩いていると今日の一日の終わりを実感する。
 何も変わらない極平凡な日々に俺は感謝するはずであった。

 ふと。
 俺の背後から足音が聞こえてきた。
 さっきまで誰もいなかったのに何者かの気配がする。

 少なくても、俺のアテにならない第六感が一般の通行人ではなくて……自分に危害を加えそうな第三者の存在を訴えている。
 更に周囲の空気が一瞬にして変わった。
 春の季節なのに自分の背中に悪寒が走り、目の前の暗闇が更に深淵に潜り込んだような。
 試しに早歩きで歩いてみよう。

 少しだけ速度を早めると同じように自分ではない足音が早まって行く。
 これだけで確信した……背後にいる者は深山一樹を標的にしていると。
 これは被害妄想から来る架空の出来事ではなくて、今現実に起きている確かな危機である。

 後ろを振り向くと……長い髪を黄色のリボンで纏めた女性がニヤリと微笑んでこっちを見ていた。

 や、やばいっ!?
 確信が恐怖に変わる瞬間であった。
 後ろさえ振り向かずにさっさと逃げてしまえば良かったと俺は後悔していた。

 顔は長い髪に隠されて夜の暗さでぼんやりとして見えなかったが。
 そこから溢れだしている尋常じゃあないまがまがしいオーラーは正常な人間が出せるものではない。
 陰湿で人間という枠組みから外れた、壊れてしまった人間。
 
 一般人の俺に抗う手段はない。
 唯一、できることは逃げるのみ。

「うわわっっっ!!」
 情けない悲鳴の声を出して、俺は全速力で逃げ出した。
 幸いにも、今歩いている場所から桜荘はそんなに離れてはいない。
 いくら、陰気な女がオリンピックに出れそうな記録を持っていても、男の俺の方が体力的に分がある。
「待って……ズ……ゃん……」
 女性が必死に引き止める声が聞こえても、今度は振り返らずに全力で逃げるだけ。

 次の曲がり角を曲がれば、桜荘の敷地が見えてくる。そこに逃げ込めば……俺の勝ちだ。
 桜荘の玄関を開けると俺はすぐに鍵をかけた。何とか安堵の息を付くと腰の力が思わず抜けて尻餅をついた。

「はぁはぁはぁ……」
 荒い呼吸をしながら俺はしばらくの間、追われている時を思い出して怯えていた。


447:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:41:13 2sdbbi/m
 それからのことはよく憶えてはいない。
 安曇さんが作ってくれた夕食を暖めて憩いの場で皆の雑談する声を聞きながら
 俺はさっき起きた出来事を誰にも言わずに。

 いつものように振る舞っていた。桜荘の住人には心配させたくなかったから。
 共同のお風呂が空く時間を待って、入浴して、自分の部屋に戻って……。
 布団に潜り込んだ。先程の恐怖を忘れるためにはさっさと寝た方がいい。

「明日もバイトが忙しいから……とりあえず寝よう」

 嫌な事は寝ることで忘れることが出来る。
 ただ、先程の悪夢の続きが真夜中でも再開されたらどうなるのであろうか。

 布団に入り込んだ瞬間に俺の携帯電話が安息の静寂を破るように鳴り響いた。
 俺は一体誰から電話がかかってきたのかと携帯電話の着信相手を見ると少しだけ驚愕した。

「白鳥 更紗?」
 ば、ば、ば、かなっっ!!
 夕方の屋上で幼馴染として関係が壊れたあの日の光景が自然と思い出された。
 更紗からの電話に俺は動揺していた。

「どうして、更紗が俺の携帯電話の番号を知っているんだ? 

 あの日を境にして携帯の機種だって変えて……メルアドや番号だって変えたんだぞ。
 知っているのは、桜荘の住人か店長しか知らないはずなのに……」
 当然、俺は故郷の話を桜荘の住人や店長に一度だって話したことはない。
 あの苦い思い出を語れるほど俺の犯した過ちを軽くない。
 更紗と彼女たちを結びつける接点はどこにもないので、それらの可能性は排除される。

「まさか……さっきの通り魔は更紗だったのか?」
 あの黄色なリボン……更紗のトレードマークだったリボンの色だった。
 だが、幼馴染が俺の後を追い掛けるような通り魔のような真似をやったのかは想像すらできない。

 そして、今度は携帯のメールを受信したメロディが流れた。
 俺は送り主が白鳥更紗だと確認すると躊躇なしにメールの中身を開けた。

(カズちゃん。今からそっちに行きますね)

448:桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA
07/05/27 16:43:20 2sdbbi/m
「ーーー!?」
 そのメールの一文に俺は再び震えだしてしまった。
「こっちに来るだと……本気か!? 正気の沙汰じゃないぞ」
 すでに玄関やあらゆる場所に鍵が閉められて、中から人が入る場所はない。
 ピッキングや泥棒のスキルを身に付けない限りは桜荘に侵入することができないはずだ。
 それでも、誰かが侵入すれば住人の誰かが気付く。ここの廊下は夜に歩くと思っている以上に足音が響く。

 ドンドンっっ!! ドンドンっっ!!
 ドンドンっっ!! ドンドンっっ!!
 ドアをノックする音が聞こえてきた……そんなに強い力で叩くな。他の住人が起きるだろうに。

「カズちゃんカズちゃん。ねえ、開けて? 開けてよぉ……」
 更にドアを叩く音が大きくなってゆく。
 正にドアを叩き壊して俺の部屋に侵入しそうな勢いだ。
 当然、鍵は閉めているので更紗はそう簡単に入ってこれないが。
 無闇に暴れて住人の皆さんの迷惑になるよりは俺の部屋に入って懐柔した方が良さそうである。
「わかった……今すぐ開けるから騒がないでくれ」
 と、ドア越しに聞こえるように俺は言った。更紗はぴたりと暴れるのをやめて大人しくなってゆく。
 そして、ドアを開けると……約1年ぶりに幼馴染と再会を果たした。

 幼馴染の更紗は1年前の面影は残っているものの、容姿は昔と違って大人の女性に更に磨きが走っていたが、
 その顔色に生気は篭もってはいない。俺の姿を見かけると笑顔を浮かべて、我を忘れて俺の胸に飛び込んできた。
 咄嗟に態勢を取ることを忘れていた俺はそのまま布団の方向にダイブする。
 幸い、クッション代わりに布団のおかげで大した痛みもないのだが、
 更紗が泣きながら俺の体にしがみつている状況はあんまりよろしくない。

「ひ、久しぶりのカズちゃんっっ!! カズちゃんだぁぁぁ!!」
「さ、更紗。頼むから離れてくれ。ついでに大きな声を出すな。案外、ここの防音対策は0に近いから普通に聞こえるぞ」
「絶対に嫌っっ!! もう、離れないんだから。カズちゃんと私はずっと一緒なんだからね!!」
「更紗。お前はどうやって俺の住所を突き止めた。親には口止めをちゃんとやったつもりなんだが……」
「えへへっ……愛の力ですっっ!!」
「んなわけあるかっっっ!!」

 更紗が俺の体をしっかりと抱きしめながら、蔓延なる笑顔を浮かべていた。
 愛の力で俺の住所が突き止めることができたなら、

 この世界で行方不明になっている人たちだって簡単に探すことができるであろう。
 いろいろと偽装工作して家に来たんだから見破れるはずがないというのに。

「深山さん……真夜中に騒がないでくれませんかっっ!!」

 安曇さんの罵声と同時に勢い良く扉が開かれて……その目の前の光景に彼女は思わず絶句していた。そりゃそうであろう。
 俺と更紗が抱き合っている姿を見ればな。

 こうして、俺が恐れていた最悪の展開の狼煙が見事に燃え上がったわけだ。
 どうしよう。マジで。


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