嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35at EROPARO
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35 - 暇つぶし2ch250:名無しさん@ピンキー
07/05/20 17:23:00 MaEMTtTM
確かに全部お薦め、全部読むべしと言いたいところだが
あえて読む順番をつけるなら
完結作品、現在連載中の作品、半完結作品(分岐のうちいくつかは完結)
を優先して読んでみては?

明らかに途中放棄の作品まで薦めるのは酷な気もするので

あとどういう方向性が好きか尋いてくれればそれに答える事は出来る
まぁジャンル別インデックスもあるが
それで括れない分類もあるし

251:名無しさん@ピンキー
07/05/20 17:25:05 MaEMTtTM
スマソ
何故かクッキーからsageが消えてたorz

252:名無しさん@ピンキー
07/05/20 19:09:20 WaGYLI8T
ノントロはいいところで寸止めされてるから発狂するかもww

253:名無しさん@ピンキー
07/05/20 19:18:59 VQxdl4YX
誰かまとめにあるSSをサウンドノベル化して欲しいわけだが・・
演出次第ではホラーサウンドノベルになる予感・・
まあ、実際にSS全てをサウンドノベル化するとその辺のエロゲーより容量があったりしてw
1MBを超えるだけでも充分に遊べるw

254:名無しさん@ピンキー
07/05/20 19:29:10 7D3yopXA
自分で作ちゃいなYO

255:名無しさん@ピンキー
07/05/20 19:34:51 SFnTz9ks
>>253

おまえ つくる よろし

256:名無しさん@ピンキー
07/05/20 21:53:30 WfqUBDpy
ご丁寧なお返事、ありがとうございました。

完結した作品から読んでいたわけではなく、前スレや前々スレで挙がっていた作品と、まとめの上から順番に読んでました。
とりあえず、オススメしていただいたものから順番に読んでいこうと思います。ありがとうございました。

257:名無しさん@ピンキー
07/05/20 21:56:20 yxu5SrTH
なんでまとめは更新されないの?
前々スレくらいになんかあったからなんだろうけど流れ知らんから誰か教えてくれ 

258:名無しさん@ピンキー
07/05/20 21:57:44 7D3yopXA
>>257
阿修羅氏が多忙の為だよ

259:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:01:33 lMpQi6k5
阿修羅氏も新婚で子供も生まれたし忙しいんだろうさ。
結婚前(及び嫁入院中)の更新速度は異常だったけどw

ま、無理しないでマイペースにやってくれればいいさ。

260:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:05:13 yxu5SrTH
>>258
そうなんだ。なんかで阿修羅氏が怒ってまとめるのを放棄したのかも・・・と思ってたよ、良かった

261:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:09:11 4x4BzSAb
>>260
脳内嫁だから>>258は本気に受け止めるなよw
まぁ忙しいと考えるのが普通

262:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:09:59 7D3yopXA
ん?

263:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:10:14 044luhIN
そうそう、「まさか嫉妬にかられた嫁に●されたんじゃ……」と心配になってきたころに更新してくれる。

264:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:16:37 tdxmWTmP
>>261
ん・・・?素?

265:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:30:22 b7Fqvxam
いや普通に阿修羅氏が折角作った掲示板を利用してないからでしょ。
空気読める作家さんはあっちで投稿してるけど、大多数はこっちだしな。
つーか折角労力使って作った奴を誰も利用しないなんて阿修羅氏に恥かかせまくってる。
聖人君主じゃあるまいし人間なんだから妬み僻み嫉妬なんてあるもんだ
大人の対応しろよお前らまじで

266:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:39:27 SFnTz9ks
またお前らか……。

阿修羅氏まで貶めて楽しいのか?

267:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:41:50 b7Fqvxam
だよな。まじ最悪だよ

268:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:42:02 lMpQi6k5
空気読めるもなにもあそこはモトより避難所だからなぁ……。
阿修羅氏だってこっちがあんまりにも荒れてたから作ったんだし。

前にも更新が一月半位間が空いた事も別にあったんだから騒ぐ程のことでもなかろ。
阿修羅氏だってサイト更新が本職って訳じゃないんだし、のんびりやってくれりゃいいさ。

269:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:49:22 lZc4LGp7
まーたいつもの人か…

270:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:49:55 AveShTwY
とりあえずお前ら包丁をその身に受けつつ正座して待機汁

271:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:49:57 NtPrSrEQ
ID:4x4BzSAb
ID:b7Fqvxam
・・・

272:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:56:19 tdxmWTmP
放置推奨だな

273:名無しさん@ピンキー
07/05/20 23:22:30 7oCpF6U8
すまん、これだけ言わせてくれ。

聖人君主(笑)

274:名無しさん@ピンキー
07/05/20 23:25:15 mwYVPpdX
赤紙はオススメだけど読まない方がいい
空気嫁なくてすまんね

275:名無しさん@ピンキー
07/05/20 23:31:45 dxPmN/FU
共産党?

276:名無しさん@ピンキー
07/05/21 00:15:51 fQM31EeQ
16スレの梅ネタで書いたやつの続きを書きました
ちなみに前回の話はこれです
     ↓
URLリンク(dorobouneko.web.fc2.com)

では投下します

277: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:18:10 fQM31EeQ
 そして翌日。
「お邪魔しまーす」
「よく来てくれた。 そんな緊張しなくていいから。 遠慮せず上がってくれ」
 ここは熱矢先輩の家。
 先日の私が出した提案で今日は先輩の家で一緒にプラモデルを作ることになってたのだ。

「早速作り始めますか?」
 私は手にした紙袋に視線を注ぐ熱矢先輩の顔を見ながら言った。
「え? いや、まぁ……」
 私の言葉に先輩は照れ臭そうな笑顔をしながら頭をかいた。
 本当に心の底からプラモデルが好きなのが感じられる純粋な笑顔。
 女の子を家に上げることよりプラモデルの事で一杯、そんな笑顔。
 私が大好きで、でも反面チョット寂しい気持ちにさせる笑顔。
 だってとりもなおさず私を女と意識していない証拠なのだから……。
 でもそれで良い。 今日の事は最初から其の事を折込済みなのだから。
「ま、確かに本音を言えば直ぐにでも組始めたいけどいきなりってのもな。
とりあえず茶煎れてくるから。 それで人心地ついてくれ。
それから始めようか」

 それから数十分後。 私と熱矢先輩はプラモデル作りに熱中してた。
 年頃の男女が部屋で二人っきりだってのに全くと言っていいほど色気の無い展開。
 でもいいの。
 だってプラモデルを組み立ててる時の真剣な眼差しの先輩の貌を間近で見られるんだから。
 こんな真剣な貌、あの女も見たことが無いような貌を。
 そして私は其の事にささやかながらも優越感に浸っていた。

 それから―。
「今日は本当にありがとうな」
 日も大分傾きかえた頃私は熱矢先輩に送られ帰路に付いていた。
 あれからプラモデルを完成し終えた後も、ドコを改造したほうがいい、とか
どんな色で塗ったら似合うか、とか完成したプラモデルを手に日が暮れるまで語りあった。
 そして今、もう暗いからとわざわざこうして送ってくれたのだ。

 家に帰りつき自室に戻った私は今日一緒に組み上げたプラモデルを取り出す。
 手にとって眺めると今日の楽しかった記憶が鮮明に蘇ってくる。
 本当に楽しかった。 大好きなヒトと共通の趣味で共通の時間を満喫できて―。
 これで先輩と私が恋人同士だったらもっと楽しいだろうに。
 そこまで考えると少し寂しい気持になる。
 ……そんなの虚しい願望でしかない、と。

 やめよう、分かってる事じゃない。叶わない願望だって。
 先輩がどれだけあの女のことを想ってるか。
 私と熱矢先輩との間柄は単なる同好の士でしかないが、でもそれなりに付き合いは深いんだ。
 だから、先輩があの女と別れて私を選ぶなんて無い事を分かっているから……。

278: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:19:29 fQM31EeQ


  /      /      /      /


「ねぇアッくん。 昨日一人で帰って何してたの?」
 アタシ―小山 素豆子は、アッくん―幼馴染にして恋人の市沢 熱矢に問い掛けた。
 アタシとアッくんとは小学校の頃からの縁で高校に入ってからは男女の交際にまで到った仲。
 でもアタシが部活をしてるのに対しアッくんは帰宅部なので放課後は別々の事も多い。
 だからいつもって訳じゃないけど今日は何故か昨日の事が気になって聞いてみた。
「昨日? ああ、稲峰がうちに遊びにきてたんだ」
 そして返ってきた答えに声にアタシは思わず声を上げる。
「う、うちに……って、アッくん! アタシと言うものがありながら他の女を家に上げるなんて
どういうつもり?!」
「おいおい、何勘繰ってるんだよスズ。 一緒にプラモデル作っただけで何にも無ぇって」
 当たり前だ。 アッくんがあんなシンナー臭いプラモ女になびくわけが無い。
 趣味が同じだからと言うだけでアッくんに付き纏う鬱陶しい後輩。
 こんな風にあっさり話す時点で十分其の事はうかがえる。
 でも―
「プラモデル一緒に作ってたぁ?! 何でそんな事一緒にする必要があるのよ?!」
 恋人が自分以外の女と一緒にいるのを黙って見過ごせるほどアタシは人間出来てはいない。
 ―否。 恋人が他の女と一緒にいて気にならない女などいようか。

「いや、だって俺のじゃなくてあいつのプラモで……」
「何?! プラモに釣られて上げたって言うの?! だったらプラモなんか止めなさいよ!
昔っから言ってるじゃない! いい年してプラモなんかやってないで卒業しなさいって!」
 アタシはアッくんの言葉を遮り叫んだ。
「そう言うなよ。 俺の数少ない趣味なんだから」
 そんな事幼い頃からの付き合いなんだからイヤって程知ってる。

「アッくん! アタシ達来年受験生なんだよ?! プラモなんかに構っていて
アタシと同じ大学いけると思ってるの?!」
「未だ来年の話だろ? 少しは控えるから何も完全に止めなくても……」
「そんなに止めたくないわけ?! だったらイイわよ。 好きなだけ続けなさいよ。
その代わりアタシとアッくんはコレっきりね」
「な?! ちょ、チョット待ってくれよスズ。 そんな……別かれるなんて」
 こうは言ったがアッくんと別かれる気なんて毛頭無い。
「だったら言うとおりプラモデルなんかやめなさい」
「わ、分かったよ……」
 そう。 アタシがアッくんと別かれる気が無いように、
アッくんがアタシと別かれるなんてありえないから。

「本当に分かってるの? じゃぁキッパリ止めたって証明する為
今までのプラモデルも全部捨てて」
「そ、そんな……」
「出来ないの?」
 ちょっと可哀相な気がしないでもないが良い機会だ。
「わ、分かったよ……」
「本当に? じゃぁ今度確認しにあんたの家行くからね。 本当に捨てたかどうか!
分かった?!」
 長年の付き合いだけどアッくんのこの趣味だけはどうしても許容できなかったから。
 アッくんは気付いていないみたいだけど、プラモなんかやってるのせいで
アッくんをオタク呼ばわりしてバカにしてるやからは多い。
 自分の恋人がそんな風に呼ばれてるのなんてはっきり言って気分悪い。
 だからこの機会にきっぱり止めさせ足を洗わせよう。
 そうだ、それでこの機会にアタシの部に入部してもらおう。
 プラモなんかに時間廻すよりアタシと部活で同じ時間を過ごした方がアッくんにとっても
其の方が良いに決まってるんだから。

279: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:23:28 fQM31EeQ


  /      /      /      /


「おーい、稲峰」
「あ、こんにちは先輩」
「今日の放課後って時間空いてるか?」
「えぇ、OKですけど」
 部活もやってないし塾にも通っていない私は当然放課後は空いてるのでOKした。
「そうか、じゃァチョット付き合ってくれるか? 大事な話があるんだ」
「はい、分かりました。 じゃァ放課後に」
 何だろう熱矢先輩、大事な話って……ま、まさか私と付き合ってくれるとか……!
 今までだって結構仲良かったし、この間なんか家に上げてもらって一緒にプラモデル―
って、そんな訳無いか……。
 私はそう思い溜息をついた。
 虚しい願望だと分かっていてもつい妄想してしまう。
 正味の話多分プラモデルがらみの話だろう。 それが私と熱矢先輩との繋ぐ仲なんだから。
 まぁいいか。 いつもの事だし。 それに確かに私が恋人になれなくても、でもその代わり
きっと恋人のあの女も見たこと無いような熱矢先輩のあんな貌を見れるんだから。
 ―とっても楽しそうで真剣で真っ直ぐな表情を。

 そして放課後。 私は熱矢先輩に連れられ某ファーストフード店にきてた。
「悪いな時間とらせて」
「いえ、お気になさらないで下さい。 ところでお話って何ですか?」
「あぁ、実はプラモデル続けられなくなっちまって……」
 其の言葉に私は愕然とした。
「そ、そんな……どうし……」
 だって熱矢先輩がどれだけプラモデルを好きか知ってる私には到底理解できなかった。
 そして、何よりそうなると私と熱矢先輩との縁が、繋がりが消えてしまうから。

「スズに……彼女にな、止めろって言われて……」
「そ、そんな……。 か、彼女に言われたぐらいで止めちゃうんですか?!」
「アイツ今までも俺がプラモデル続ける事にいい顔してなかったし、それに今回は
止めなきゃ交際もコレまでだとまで言われちまったから」
 だったらそんな分からず屋な彼女となんか別かれちゃえばいいじゃないですか!
 そう言いたかった。 でも言えなかった。
 そんな事出来ないのは先輩の顔を見れば十分察する事が出来たから。
 悔しかった。 先輩にこんな辛い決断を、貌をさせるあの女が。 そして妬ましかった。
 あの女がこんな強引な決断をさせられるほどに熱矢先輩の心を掴んでる事が。


280: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:24:50 fQM31EeQ
「それで……止めたのを証明する為今まで作った分も捨てろって言われちまって……」
「な……?!」
 其の言葉に私は血液が逆流して頭の血管がブチ切れるかと思えるほどの怒りを覚えた。
 今まで何度も熱矢先輩の作ったプラモデルを見せてもらった事がある。
 どれも心を尽くして作りこまれ、熱矢先輩にとってはかけがえの無い宝物なのが伺えた品々。
 それを、捨てろだなんて……。
「稲峰……? な、泣いているのか?」
 気付けば私の両目からはぽろぽろ涙が零れ始めていた。
「だ、だって……知ってるから……。 先輩が今まで作ったプラモデルを
どれだけ大事にしてるか知ってますから……」
 そして涙が伝う私の頬にそっと柔らかいものが触れた。熱矢先輩がハンカチを当ててくれたのだ。

「ありがとうな、稲峰。 そんなお前にだから頼みたい事があるんだ。
今まで作ったヤツ、貰ってくれないか?」
「え……?」
「やっぱ、どれも思い入れがあるから捨てるのは忍びなくって。ネットで売ろうかもとも思ったけど
でも所詮素人作品だし。
それにどこの誰とも分からない相手に渡すよりは気心の知れたヤツに貰って欲しいし……。
あ、イヤなら断わってもいいんだぞ。 それに数も結構あるから全部じゃなくても……」
「い、いえ! 全部引き取らせて頂きます」
 私がそう言うと熱矢先輩はほっとしたように笑って「ありがとう」と言ってくれた。

 コレで熱矢先輩との縁も繋がりも消えてしまうのだろう。
 其の事は物凄く悲しいし辛いけれど、でも最後に熱矢先輩の力になれた。
 そして譲り受けたプラモデルを想い出に胸に刻んでいこう。


 数日後―日曜日。 熱矢先輩はダンボール箱を抱えて私の家の前にきてくれた。
 中には先輩が今まで作った数々のプラモデル。どれも丁寧に箱に詰められ間に緩衝材も詰められ、
其の事からも品々に込められた熱矢先輩の思いが伝わってくる。
「すまないな稲峰。 何だか沢山押し付けちまって」
「いえ、そんな事無いです。 先輩が大事にしてきた品々大切にしますね」
 そして受け取る。
「大丈夫か? 重くないか?」
「ありがとうございます。 大丈夫です」
 確かに思ったよりあるみたいだけど、でもそれは単純な目方とかじゃなくて、
きっと熱矢先輩の思いも詰まってるから。
 本当にコレで終わってしまうんだ。 だったら、言ってしまおうか。
 今まで胸に秘めてきた熱矢先輩への想い。
 同好の士としてだけじゃなく、先輩後輩の間柄だけじゃなく、異性として好きだと言う事を。

 ……いや、止めておこう。
 折角このまま綺麗な想い出のまま終われるのだから余計なこと言っちゃ駄目だ。

281: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:26:26 fQM31EeQ


  /      /      /      /


「アッくん! 何やってるのよこんな所で」
 日曜日買い物に出かけていたアタシはある家の前でアッくんが例の鬱陶しい後輩に
何か渡してるところを見つけて声をかけた。
 あたしの声に気付いた後輩の女は途端に気まずそうな顔をする。
「よう、スズ。 今まで作ったプラモデルを稲峰に引き取ってもらう事にしたんだ」
「ハァ?! 何それ。 アタシは捨てろって言わなかった?!」
「いや、そうだけど手放す事には変わりないからいいだろ?」
「駄目よ!!」
 手放す事には変わりない? 冗談じゃない。
 アッくんが今まで持ってたものをよりによってこの女になんて!
「駄目よ! そんな未練がましいやり方。 捨てるの以外認めないわ!」
「で、でも……」
「コレだけ言っても分からないの?! だったら……」
「お、おいスズ。 い、一体何す……」
 アタシはダンボール箱に手を突っ込み無造作に一体のプラモをつかみ出すと地面に叩きつけた。
「な、何するんだよ?!」
「何度も同じ事言わせないで! 捨てろって言ったのに聞かないアッくんが悪いんでしょ?!
何よ其の顔。 じゃぁアタシと別れる?! 言ったわよね?!
どうしてもプラモ続けたいんならアタシとアッくんとはこれっきり、だって」
 返事は無い。 アッくんは俯き叩きつけられ壊れたプラモを見つめていた。
「ふん、暫らくそうして頭冷やしてなさい。 それでちゃんと全部捨てなさいよ。 分かった?!」
 私は踵を返しその場を立ち去った。


 久しぶりにアッくんと喧嘩しちゃったな。 まぁ良っか。
 どうせ直ぐアッくんの方から謝りに来るだろう。
 幼い頃からの付き合いだ。 時に何度も喧嘩だってしてきた。
 でも其の度あとでアッくんの方から謝りにきて、それをアタシが許して仲直りして、
そうやってアタシ達は幼馴染として、そして恋人同士として付き合ってきたんだ。
 そしてアタシは家に帰りつくと携帯が鳴るのを待った。

 しかし幾ら待っても携帯は鳴らなかった。
 おかしい。 どう言う事よ?
 いつもだったら直ぐにでもアッくんは電話掛けてきてゴメンナサイって必死で謝ってくるのに。
 おかげで気になって何も手がつかないじゃない!
 ああ、イライラする! 早く掛けてきなさいよ!
 謝罪なんてのは時間が立てばたつほど効果は薄れるんだから!

 そしてアッくんの電話を待ち続けながら寝るのが遅くなってしまったアタシは寝不足で朝を迎えた。

To be continued...

282: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:31:02 fQM31EeQ
白き牙の筆が思うように進まないので気分転換も兼ねて書いてみました
次は何時になるか分かりませんが
では

283:名無しさん@ピンキー
07/05/21 02:14:10 iG0piXl6
>>282新しい修羅場に乙&GJ!

284:名無しさん@ピンキー
07/05/21 03:28:58 C+vyOJh8
後輩がんばれ

285:名無しさん@ピンキー
07/05/21 04:45:40 KgRTFUF8
後輩いい子だなー…


286:名無しさん@ピンキー
07/05/21 06:51:25 nW9umi11
これ思い出したよ
URLリンク(alfalfa.livedoor.biz)

287:名無し@ピンキー
07/05/21 09:55:34 iWGEN4E/
後輩応援GJ!

288:名無しさん@ピンキー
07/05/21 14:37:47 +69zA4tp
>>281
GJ


アニメでは大きくsolaに期待してる

289:名無しさん@ピンキー
07/05/21 21:18:26 Kwyns2sM
solaは姉さんかわいいけど凄い展開だよね。話に引き込まれる

290:名無しさん@ピンキー
07/05/21 22:04:07 FNKevaYJ
キモスレが絶好調になってるな。

291:名無しさん@ピンキー
07/05/21 23:13:53 UEBjAzcX
むこうじゃあ投下じゃなくてもコテ使ってるからこのスレとは雰囲気違うね


292:名無しさん@ピンキー
07/05/21 23:46:22 bp4aCCve
>>290

このスレで他スレの話題を出すな。
また流れてきたじゃないか。

293:名無しさん@ピンキー
07/05/21 23:50:57 VTwyoF4e
半年振りくらいにきたんだけど
浮気して妻に殺されてタイムスリップするやつの題ってなんだったっけ?
まとめサイトで見ようと思ったけど全然思い出せない

294:名無しさん@ピンキー
07/05/21 23:59:20 HBtcg0S3
>>293
未完で全く更新されてない
後は自分でまとめサイトで確実に違う作品をのぞいて探してくれ

>>292
そっちの荒らしの話題をここで出されても困る



295: ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:10:49 EXp+aWdS
投下します

296:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:12:34 EXp+aWdS
平日昼間の電車はすいている。車内はガランとしていて、椅子に座る人さえまばらだ。座る事も出来たが、翔はあえて座らず、閉じら
れたドアに体を預け、車窓の外を流れていく景色をぼんやりと眺めていた。
灰色の街が、なす術なく流れていく。目的地まで、あと十分ほど。二つ駅を通過する。
そこまでの間、少しだけ感傷に浸っていよう。そう思いつつ、見上げた青空は、白い飛行機雲で二つに別れていた。

確か、最後はプラモデルだった。
ふとそんな事を思い出す。まだ物心ついたばかりの頃だから、幼稚園の年長くらいだった。あの時は、妙に母親が優しくて、ずっと欲
しかったプラモデルは高くて買ってもらえなくて、代わりに少し値段の落ちるプラモデルを買ってもらった。デパートのレストランで
お子様ランチを食べて、母親と手を繋いで屋上に行って、ヒーローショーを見た。ヒーローが蛸みたいな怪人に追い詰められて、手に
汗握って声を枯らした事をよく覚えている。
ショーも終わり帰り道。危機から見事に脱出し、怪人を薙ぎ倒したヒーローの姿が瞼に焼き付いて興奮覚めやらぬ翔が、夕焼けに向か
ってうきうき歩いていると、手を繋ぐ母親が確かに言ったんだ。
「今度デパートに行く時は、何でも欲しいものを買ってあげる」って。その時は、馬鹿みたいにはしゃいで喜んだ。
結局、その約束は守られていない。
三日後、綺麗に着飾って出ていった姿を最後に、母親を見ていない。何処にいるかも分からなかった。五日後、警察の人にその名前を
知らされるまでは。
母は、翔と夫を捨てて男と共に逃げた。そして、その男と共にこの世から消えた。
母親はもう帰ってこない。ようやくその事が理解出来たのは、翔が小学三年生の時であった。
その時から、翔は言葉を信じていない。言葉は、人を簡単に裏切るのだ。

車内アナウンス。くぐもった声が、スピーカーを通じて車内に降り注ぐ。窓の外には相変わらずの灰色の街。しかしいつの間にか、目
的地は目前にまで迫っていた。


297:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:13:01 CkMO6S8h
保守

298:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:15:22 EXp+aWdS
肘まで落ちた鞄を肩にかけなおす。ポケットの中の財布を取り出す。
電車が速度を落として、ホームに滑り込む。停車しドアが開くと、素早く電車から降り、改札を抜けて、小さな繁華街に入る。寂れた
地方都市に、行き交う人の数は少ない。碁盤目の住宅街をずんずん進む。空き家と空き地の目立つそこは、少しだけ寂しい。
やがて、澄香の家の前まで辿りつき、翔は歩を止めた。彼女の家は、辺りのひっそりとした雰囲気を吸い込み、まるで辺りに溶けるよ
うに紛れ込んでいた。雨戸が閉じられ、電気もついていなく、人の気配さえ感じられない。以前、確かに感じた生活の匂いは、消え去
っていた。
それが不気味で、翔は慌ててインターフォンを鳴らす。ひっそりと静まり返った水樹家の中に、機械的な音が響いた。
その音が消えた後、沈黙。声はもちろん、物音さえ聞こえない。もう一度、インターフォンを押してみても、やはり沈黙しか返ってこ
なかった。不安が、胸の中でどんどん膨れ上がっていく。
「おいっ!! 澄香いるんだろ?」
ドアを乱暴に叩きつつ、声を張り上げる。しかし、返事はない。
まさか、ここではないのだろうか。そんな疑惑がジワジワとにじみよる。考えてみれば、澄香がここにいる保証はない。あったのは、
直感だけだ。
焦りが募る。
焦藻が、少しだけ翔の理性を奪う。
ノブをつかみ、ガチャガチャと強引に回す。すると、存外あっさりとドアは開いた。翔は肩透かしを食った気分だった。
軋みながら開く漆黒の扉。その内部が抱えこんだ深淵に、帯状の光が広がっていく。
ゆっくりと広がる光の中。上がり端で膝を抱いて蹲る澄香の姿が写し出された。膝を抱いた両腕に、顔を押し付けるその姿は、母の中
に宿る胎児を思わせる。しかし、胎児ほど温かさや優しさに内包されているわけではない。むしろ、まるで絶望の海をさ迷うかのよう
に、彼女は細かく震えていた。
「すみ、か……?」
戸惑いがちな声が出た。石のように固く重いその声は、すぐに闇の中に消えていき、後には静寂が残る。返事はなかった。


299:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:20:06 EXp+aWdS
不安がはね上がる。
「澄香っ」
今度は、はっきりとした声が出た。慌てて澄香に駆け寄り、彼女のすぐ側に腰を屈める。相手の息遣いさえ聞こえてきそうな距離、そ
れでも、澄香は翔に気付かない。まるで光を失ったように、音を失ったように、彼女はただ震えている。
ふと、静寂を震わす小さな声に気付く。小さく早口なその音は、うずもれた澄香から漏れている。耳をすまし、その音を拾おうとする
。しかし、その音が声となるにはあまりに小さ過ぎて、はっきりと聞き取る事ができなかった。
その音が止む事はなかった。まるで呪文を唱えるように、まるで悪魔に魂を持っていかれてしまったように、まるで狂った時計のよう
に、澄香はその音を放ち続けている。
不安が、爆発した。
「おい、澄香っ!どうした? 大丈夫か?」
澄香の両肩を掴み、大きな声をかける。すると、彼女は体を大きく震わせ、身を固くした。それからいかにも恐る恐るといった様子で
、ゆっくりと顔をあげた。
翔は思わず息を飲む。その顔は、翔の知っている澄香ではなかった。
疲弊しきった頬は痩けている。もう目を開ける事さえ出来なくなったように、彼女の瞼は半開きで、その奥に隠された瞳が、死んだ魚
のように澱んだ光を放っている。まるで冬山の死人のように青くなった顔色は、彼女をより凄惨に彩っていた。やがてその凍えたよう
に青紫色に変色した唇が、ゆっくりと動き出す。
「せん、ぱい……?」
集点の合わない瞳が、翔を見つめる。澱んだ瞳が、鏡のように翔を写し出している。その狂った瞳は、人間のそれとは思えなかった。
背中に冷たい何かが走り、翔は声を失う。狂った光を放つ彼女は、自分の声を確認するように再び唇を動かした。
「せん、ぱい」
そして、それが、契機だった。まるで春になり、蕾が開くように彼女の瞳が急速に色味を帯ていき、やがて笑顔の花がさく。瞳に光が
宿り、キラキラとガラスのように輝く涙が蓄積されていく。


300:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:20:33 pCSC+dBX
肘まで落ちた鞄を肩にかけなおす。ポケットの中の財布を取り出す。
電車が速度を落として、ホームに滑り込む。停車しドアが開くと、素早く電車から降り、改札を抜けて、小さな繁華街に入る。寂れた
地方都市に、行き交う人の数は少ない。碁盤目の住宅街をずんずん進む。空き家と空き地の目立つそこは、少しだけ寂しい。
やがて、澄香の家の前まで辿りつき、翔は歩を止めた。彼女の家は、辺りのひっそりとした雰囲気を吸い込み、まるで辺りに溶けるよ
うに紛れ込んでいた。雨戸が閉じられ、電気もついていなく、人の気配さえ感じられない。以前、確かに感じた生活の匂いは、消え去
っていた。
それが不気味で、翔は慌ててインターフォンを鳴らす。ひっそりと静まり返った水樹家の中に、機械的な音が響いた。
その音が消えた後、沈黙。声はもちろん、物音さえ聞こえない。もう一度、インターフォンを押してみても、やはり沈黙しか返ってこ
なかった。不安が、胸の中でどんどん膨れ上がっていく。
「おいっ!! 澄香いるんだろ?」
ドアを乱暴に叩きつつ、声を張り上げる。しかし、返事はない。
まさか、ここではないのだろうか。そんな疑惑がジワジワとにじみよる。考えてみれば、澄香がここにいる保証はない。あったのは、
直感だけだ。
焦りが募る。
焦藻が、少しだけ翔の理性を奪う。
ノブをつかみ、ガチャガチャと強引に回す。すると、存外あっさりとドアは開いた。翔は肩透かしを食った気分だった。
軋みながら開く漆黒の扉。その内部が抱えこんだ深淵に、帯状の光が広がっていく。
ゆっくりと広がる光の中。上がり端で膝を抱いて蹲る澄香の姿が写し出された。膝を抱いた両腕に、顔を押し付けるその姿は、母の中
に宿る胎児を思わせる。しかし、胎児ほど温かさや優しさに内包されているわけではない。むしろ、まるで絶望の海をさ迷うかのよう
に、彼女は細かく震えていた。
「すみ、か……?」
戸惑いがちな声が出た。石のように固く重いその声は、すぐに闇の中に消えていき、後には静寂が残る。返事はなかった。



301:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:21:41 qkNPMiqI
不安がはね上がる。
「澄香っ」
今度は、はっきりとした声が出た。慌てて澄香に駆け寄り、彼女のすぐ側に腰を屈める。相手の息遣いさえ聞こえてきそうな距離、そ
れでも、澄香は翔に気付かない。まるで光を失ったように、音を失ったように、彼女はただ震えている。
ふと、静寂を震わす小さな声に気付く。小さく早口なその音は、うずもれた澄香から漏れている。耳をすまし、その音を拾おうとする
。しかし、その音が声となるにはあまりに小さ過ぎて、はっきりと聞き取る事ができなかった。
その音が止む事はなかった。まるで呪文を唱えるように、まるで悪魔に魂を持っていかれてしまったように、まるで狂った時計のよう
に、澄香はその音を放ち続けている。
不安が、爆発した。
「おい、澄香っ!どうした? 大丈夫か?」
澄香の両肩を掴み、大きな声をかける。すると、彼女は体を大きく震わせ、身を固くした。それからいかにも恐る恐るといった様子で
、ゆっくりと顔をあげた。
翔は思わず息を飲む。その顔は、翔の知っている澄香ではなかった。
疲弊しきった頬は痩けている。もう目を開ける事さえ出来なくなったように、彼女の瞼は半開きで、その奥に隠された瞳が、死んだ魚
のように澱んだ光を放っている。まるで冬山の死人のように青くなった顔色は、彼女をより凄惨に彩っていた。やがてその凍えたよう
に青紫色に変色した唇が、ゆっくりと動き出す。
「せん、ぱい……?」
集点の合わない瞳が、翔を見つめる。澱んだ瞳が、鏡のように翔を写し出している。その狂った瞳は、人間のそれとは思えなかった。
背中に冷たい何かが走り、翔は声を失う。狂った光を放つ彼女は、自分の声を確認するように再び唇を動かした。
「せん、ぱい」
そして、それが、契機だった。まるで春になり、蕾が開くように彼女の瞳が急速に色味を帯ていき、やがて笑顔の花がさく。瞳に光が
宿り、キラキラとガラスのように輝く涙が蓄積されていく。


302:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:22:43 EXp+aWdS
羽化する蛹を見ている気分だった。その、生が躍動を開始するような澄香の変化に見とれていると、いきなり彼女の全身が、翔の体に
絡み付いた。両腕が背中に回され、彼女の顔が胸に押し付けられる。その勢いに飲み込まれ、翔は後ろに手を着き、尻餅をついた。

澄香のしゃくりあげるような息遣いが、胸を擽る。
「う、嬉しいです」
しゃくりあげる息遣いに声を乗せて、澄香が懸命に言葉を紡ぎはじめた。
「来て、くれないかと、思って、ずっと、ずっと、怖くて、だけど、センパイが、私を、選んでくれて、本当に、本当に、嬉しい。あ
あ、せんぱい、すき、だいすきです」
澄香の絡み付く腕にいっそうの力がこもり、彼女の顔が強く胸に押し付けられる。その予想外の歓迎と変貌に翔は呆気に取られて、胸
の中の少女を、呆然と眺めていた。
その後、澄香は胸の中でこしょこしょと擽るように動き回り、ようやく恥ずかしそうに顔をあげた時には、涙と鼻水と唾液でベトベト
で、もちろん翔のワイシャツも涙と鼻水と唾液でベトベトだった。そのベトベトを拭いもせず、澄香はえへへと照れたように笑う。
そこでようやく、翔は我に帰った。そして、メールでたすけを求めてきた少女の姿をマジマジと観察する。
見たところ、澄香は元気そうである。顔色は悪いが病気のようではない、怪我をしている様子もない。つまり、そこには大学進学絶望
の事実だけが残ったわけだが、それでも怒ったり、説教する気は沸いてこなかった。彼女のあまりの変身ぶりに、翔の毒気はすっかり
抜けてしまっていた。
翔は溜め息を付きつつ立ち上がり、
「少し、話をしようか」
怒ったり説教する気はないが、聞きたい事は山ほどあるのだ。
そのとき、ふとシャツの裾が引っ張られた。
「ん? どうした?」
「センパイに、聞きたい事があるんです」
未だ立ち上がろうとしない澄香に視線を落とす。うつ向いた顔に髪がかかり、表情は見えなかった。
「なに」
一寸後、ためらいがちな声が来る。
「センパイは、私の事、好きですか?」
「え?」


303:すみか ◆lv.o3z9kM6
07/05/22 01:23:08 2+4MrjrW
肘まで落ちた鞄を肩にかけなおす。ポケットの中の財布を取り出す。
電車が速度を落として、ホームに滑り込む。停車しドアが開くと、素早く電車から降り、改札を抜けて、小さな繁華街に入る。寂れた
地方都市に、行き交う人の数は少ない。碁盤目の住宅街をずんずん進む。空き家と空き地の目立つそこは、少しだけ寂しい。
やがて、澄香の家の前まで辿りつき、翔は歩を止めた。彼女の家は、辺りのひっそりとした雰囲気を吸い込み、まるで辺りに溶けるよ
うに紛れ込んでいた。雨戸が閉じられ、電気もついていなく、人の気配さえ感じられない。以前、確かに感じた生活の匂いは、消え去
っていた。
それが不気味で、翔は慌ててインターフォンを鳴らす。ひっそりと静まり返った水樹家の中に、機械的な音が響いた。
その音が消えた後、沈黙。声はもちろん、物音さえ聞こえない。もう一度、インターフォンを押してみても、やはり沈黙しか返ってこ
なかった。不安が、胸の中でどんどん膨れ上がっていく。
「おいっ!! 澄香いるんだろ?」
ドアを乱暴に叩きつつ、声を張り上げる。しかし、返事はない。
まさか、ここではないのだろうか。そんな疑惑がジワジワとにじみよる。考えてみれば、澄香がここにいる保証はない。あったのは、
直感だけだ。
焦りが募る。
焦藻が、少しだけ翔の理性を奪う。
ノブをつかみ、ガチャガチャと強引に回す。すると、存外あっさりとドアは開いた。翔は肩透かしを食った気分だった。
軋みながら開く漆黒の扉。その内部が抱えこんだ深淵に、帯状の光が広がっていく。
ゆっくりと広がる光の中。上がり端で膝を抱いて蹲る澄香の姿が写し出された。膝を抱いた両腕に、顔を押し付けるその姿は、母の中
に宿る胎児を思わせる。しかし、胎児ほど温かさや優しさに内包されているわけではない。むしろ、まるで絶望の海をさ迷うかのよう
に、彼女は細かく震えていた。
「すみ、か……?」
戸惑いがちな声が出た。石のように固く重いその声は、すぐに闇の中に消えていき、後には静寂が残る。返事はなかった。


304:すみか ◆rLEFaz7fkI
07/05/22 01:24:11 YVXb/TNy
羽化する蛹を見ている気分だった。その、生が躍動を開始するような澄香の変化に見とれていると、いきなり彼女の全身が、翔の体に
絡み付いた。両腕が背中に回され、彼女の顔が胸に押し付けられる。その勢いに飲み込まれ、翔は後ろに手を着き、尻餅をついた。

澄香のしゃくりあげるような息遣いが、胸を擽る。
「う、嬉しいです」
しゃくりあげる息遣いに声を乗せて、澄香が懸命に言葉を紡ぎはじめた。
「来て、くれないかと、思って、ずっと、ずっと、怖くて、だけど、センパイが、私を、選んでくれて、本当に、本当に、嬉しい。あ
あ、せんぱい、すき、だいすきです」
澄香の絡み付く腕にいっそうの力がこもり、彼女の顔が強く胸に押し付けられる。その予想外の歓迎と変貌に翔は呆気に取られて、胸
の中の少女を、呆然と眺めていた。
その後、澄香は胸の中でこしょこしょと擽るように動き回り、ようやく恥ずかしそうに顔をあげた時には、涙と鼻水と唾液でベトベト
で、もちろん翔のワイシャツも涙と鼻水と唾液でベトベトだった。そのベトベトを拭いもせず、澄香はえへへと照れたように笑う。
そこでようやく、翔は我に帰った。そして、メールでたすけを求めてきた少女の姿をマジマジと観察する。
見たところ、澄香は元気そうである。顔色は悪いが病気のようではない、怪我をしている様子もない。つまり、そこには大学進学絶望
の事実だけが残ったわけだが、それでも怒ったり、説教する気は沸いてこなかった。彼女のあまりの変身ぶりに、翔の毒気はすっかり
抜けてしまっていた。
翔は溜め息を付きつつ立ち上がり、
「少し、話をしようか」
怒ったり説教する気はないが、聞きたい事は山ほどあるのだ。
そのとき、ふとシャツの裾が引っ張られた。
「ん? どうした?」
「センパイに、聞きたい事があるんです」
未だ立ち上がろうとしない澄香に視線を落とす。うつ向いた顔に髪がかかり、表情は見えなかった。
「なに」
一寸後、ためらいがちな声が来る。
「センパイは、私の事、好きですか?」
「え?」


305:すみか ◆2qYLTTqjZU
07/05/22 01:25:43 o+4xHxLY
「すごい嫌いだよ」
「グェェェェェエェェーーーーーッッ」


306:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:27:20 nXadvtAZ
>>300>>301>>303>>304>>305
誤爆?


307:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:28:28 2J7rs7Eh
すみかは相変わらず面白いNE


308:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:28:38 EXp+aWdS
「嫌い、なんですか?」
いや、そうじゃないけど。と翔は言葉を濁す。二択で考えられる質問ではなかった。しかし、澄香は違ったようで、
「じゃあ、好きなんでですね」
嫌いでなければ好き。彼女は心底安心したように一つ息をつき、顔をあげニッコリと笑った。それから、急に体をくねらせて、言いに
くそうに、
「それで、あの、センパイにお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい、そうです」と、澄香は頬をほんのりと染めつつ、上目遣いで、「私の事、好きって言って下さい」
期待と不安が入り混じった瞳で見つめられ、思わず翔は眉根を潜める。それはどこかで見た事のある顔だった。
「ダメ、ですか?」
澄香が悲しそうな顔をする。駄目だ。そう言いたい。自分の気持ちを言葉で偽るのは、翔の主義に反する。しかし、澄香の悲しそうな
顔を見せられると、その要求を無下に却下する気にはなれなかった。
しばらくして翔は溜め息をつきつつ、「─分かった」と言い、苦笑いを浮かべつつ、「言うよ」
「ほ、本当ですか!? えへへ、嬉しいです」
まるで念願の玩具を手に入れた幼児のように、瞳を爛々と輝かせる澄香。それは嘘ではなく、心の底から喜んでいるように見えた。そ
の表情が、これから嘘を吐く翔の心に、罪悪感を降り積もらせる。
これから言う事は嘘である。翔はまだ、好きと言えるほどの気持ちを抱いていない。しかしそうと分かっていても、面と向かって告白
するのは恥ずかしくて、照れ隠しに澄香から視線を反らし、「好き」と言った。
視界の隅に写った澄香は、とろけたように幸せそうな顔をしていた。彼女は、翔の本当の気持ちを知らない。その事を思うと、降り積
もった罪悪感に、潰されそうになる。
やはり、言葉は感情を裏切った。だったら、いっそ本当の嘘つきになりたかった。そうすれば、もっと楽だったのかもしれない。


この時が、境目だった。何かが水面下で狂い始めていた。
狂った歯車は戻らない。歯車が精密であればあるほど、たった一個の狂いが、全てを狂わせてしまう。それでも狂った歯車は回り続け
る。全てが壊れてしまうまで。


309:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:31:10 H4AhplCM
>>>307
そうだね、面白いね


310: ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:31:21 EXp+aWdS
以上投下完了です。
これで第二章完で、次が第三章。
第一章から二章にかけて、翔にベタボレになった誰かさんが、暴走していきます。


311:すみか ◆8A6ht9PoSs
07/05/22 01:32:25 QyuiaeKG
「嫌い、なんですか?」
いや、そうじゃないけど。と翔は言葉を濁す。二択で考えられる質問ではなかった。しかし、澄香は違ったようで、
「じゃあ、好きなんでですね」
嫌いでなければ好き。彼女は心底安心したように一つ息をつき、顔をあげニッコリと笑った。それから、急に体をくねらせて、言いに
くそうに、
「それで、あの、センパイにお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい、そうです」と、澄香は頬をほんのりと染めつつ、上目遣いで、「私の事、好きって言って下さい」
期待と不安が入り混じった瞳で見つめられ、思わず翔は眉根を潜める。それはどこかで見た事のある顔だった。
「ダメ、ですか?」
澄香が悲しそうな顔をする。駄目だ。そう言いたい。自分の気持ちを言葉で偽るのは、翔の主義に反する。しかし、澄香の悲しそうな
顔を見せられると、その要求を無下に却下する気にはなれなかった。
しばらくして翔は溜め息をつきつつ、「─分かった」と言い、苦笑いを浮かべつつ、「言うよ」
「ほ、本当ですか!? えへへ、嬉しいです」
まるで念願の玩具を手に入れた幼児のように、瞳を爛々と輝かせる澄香。それは嘘ではなく、心の底から喜んでいるように見えた。そ
の表情が、これから嘘を吐く翔の心に、罪悪感を降り積もらせる。
これから言う事は嘘である。翔はまだ、好きと言えるほどの気持ちを抱いていない。しかしそうと分かっていても、面と向かって告白
するのは恥ずかしくて、照れ隠しに澄香から視線を反らし、「好き」と言った。
視界の隅に写った澄香は、とろけたように幸せそうな顔をしていた。彼女は、翔の本当の気持ちを知らない。その事を思うと、降り積
もった罪悪感に、潰されそうになる。
やはり、言葉は感情を裏切った。だったら、いっそ本当の嘘つきになりたかった。そうすれば、もっと楽だったのかもしれない。


この時が、境目だった。何かが水面下で狂い始めていた。
狂った歯車は戻らない。歯車が精密であればあるほど、たった一個の狂いが、全てを狂わせてしまう。それでも狂った歯車は回り続け
る。全てが壊れてしまうまで。

312:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:33:10 E59VL0HU
>>311
GJ


313:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:33:45 EbaKJvQx
>>310
GJGJ
壊れる瞬間をwktkしながら待ってますw

314:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:34:02 eEFrVfz1
>>310
つまらないですNE

315:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:34:46 Yq6vzUON
>>314
いや、つまらなくはないよ


316:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:36:00 YMRhrzyB
>>312
作者自演乙



317:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:37:15 Bh2Z6yAv
>>310
GJ。

318:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:41:02 hRmgdyjc
>>317
信者自演乙


319:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:41:12 EXp+aWdS
>>308
訂正。
×二択で考えられる
〇二択で答えられる


320:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:42:21 rSF52DPM
>>314
>>316
>>318
ハイハイ、ワロスワロス

321:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:55:11 XEJJJCTs
>>320
しっ、見ちゃ駄目ですよ

322:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:58:19 5xnGE6TF
>>310
めっちゃGJです!!
とうとう翔は「好き」と言ってしまいましたね・・・
これからの修羅場を想像するだけでガクブルです。
速いペースでの投下はしんどいと思いますが、頑張ってください。

323:名無しさん@ピンキー
07/05/22 02:01:39 YndKef/+
>>320=>>321
自演はやめとけ


324:名無しさん@ピンキー
07/05/22 02:02:55 4GHxfzrz
>>322
信者自演ウゼー



325:名無しさん@ピンキー
07/05/22 02:05:18 91UpS3jM
>>310
GJ、これから相手の更なる反撃に期待してるよ

326:名無しさん@ピンキー
07/05/22 02:09:35 4vf7+LKA
単発IDのGJが多くてワロタwww
こういう自演はお前等認めるんだねw


327:名無しさん@ピンキー
07/05/22 02:15:24 xGTDxdcz
>>310
GJ
中野にはこのまま引き下がって欲しくないなあ

328:名無しさん@ピンキー
07/05/22 10:05:32 hxEZw5aA
く、くまー?

329:名無しさん@ピンキー
07/05/22 11:21:22 AAN8n9eX
嫉妬スレも大分落ち着いてきたな・・いろんな意味で
新規参入者は減ってしまったけれど

330:名無しさん@ピンキー
07/05/22 21:34:52 RgQIhzAb
プラモオタの俺は>>281のヒロインに殺意が沸いた
まあそれはいいとして自演は有り得ない件について

331:名無しさん@ピンキー
07/05/22 22:17:34 vio0uuA/
ほっとけ。自演つってるのはいつもの可哀想な人だ

332:名無しさん@ピンキー
07/05/23 08:15:20 HXtjv5Q2
>>281
遅ればせながら、GJ!
俺も>>330と同じくプラモオタで、放っておくにはもったいないネタだと
思っていたから、続きが読めて嬉しい。
是非、タイトルもつけてほしいところだ。

333:名無しさん@ピンキー
07/05/23 11:51:20 uDphteQT
俺はプラモオタって訳じゃないけど
それでも>>281のヒロインのヒステリックさと
甘ったれぶりにはあきれ果てた・・・

334:名無しさん@ピンキー
07/05/23 15:23:50 lFC7aZiI
>>332
タイトル タミヤドラゴントランペッターの悲劇~プラモ崩壊~

335:名無しさん@ピンキー
07/05/23 16:34:19 qd/29fjr
ん?アニメがどうとかいう話が出てたからガンプラだと思ってた

336:名無しさん@ピンキー
07/05/23 18:56:02 N8j2P8fg
彼の宝を棄てたなら
とか。

我ながらセンスねーなぁ。

337:名無しさん@ピンキー
07/05/23 20:41:48 JOP6MUjH
漢とプラモと女二人





orz

338:名無しさん@ピンキー
07/05/23 21:25:34 hSICfvPU
(男の)塗装が乾かぬそのうちに

339:名無しさん@ピンキー
07/05/23 22:40:46 74Y0mdQF
べつに無理にプラモに絡めんでもいいのではw

340:名無しさん@ピンキー
07/05/23 23:09:34 S0sgw5mr
些細なことだが、「プラモ」と略さないことに違和感を覚えた。
マニア的な拘りとか理由があるのかな。

341:名無しさん@ピンキー
07/05/23 23:49:31 D0Ys/WZV
今見たら阿修羅氏更新キテター

いつもお疲れ様です。

342:名無しさん@ピンキー
07/05/23 23:52:04 2NPcZ+Se
マジだ!
阿修羅氏乙!

343:名無しさん@ピンキー
07/05/23 23:58:31 GOXCL1BR
阿修羅氏乙! 
また忙しくなるのかな?
……まさか浮気なんかしないよね?

あはっ

344:名無しさん@ピンキー
07/05/24 01:23:57 l2uMUarc
奥さんの監禁から抜け出して来たんだろうな。

345:名無しさん@ピンキー
07/05/24 01:32:41 z/AIdMIO
姉妹が嫉妬する作品が読みたくなってきたぞ・・
何かまとめサイトの方にありますか?


346:名無しさん@ピンキー
07/05/24 01:39:14 YyUG2hwv
いくらでもあるがなw
阿修羅氏まとめサイト更新お疲れ様です。

347:名無しさん@ピンキー
07/05/24 02:46:50 UCAJAwE5
自分の投稿したSSが保管されてるのを見るとなんか嬉しくなるな……
それはともかくお疲れ様です

348: ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:05:13 2XO3TxSx
阿修羅様更新乙です&今回もタイトルありがとう御座いました
ありがたく使わせていただきます

レスくれた皆さんありがとう

>>286やっぱ現実にもこんな女いるんですね……

solaはオイラも好きッス 茉莉ぃ……(涙

プラモオタの方から共感を得られたのは結構嬉しかったッス

何のプラモかは皆さんの好きなのを脳内で当てはめてください
ZOIDSでもガンダムでもマクロスでもスケールモデルでもご自由にドゾ

んじゃ投下イきます

349:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:06:56 2XO3TxSx


  /      /      /      /


 目の前で起こった出来事に私は怒りを通り越して放心していた。
 あの女、熱矢先輩に対しそこまでやるなんて……!
 込み上げてくる怒りで頭の中が真っ白になりそうになる。
 そんな私は熱矢先輩の姿に現実に引き戻される。
 しゃがみこみ、あの女に壊されバラバラになったプラモデルを拾い集める熱矢先輩の姿。
 私もダンボールをそっと置き一緒にしゃがみこんで拾い始めた。
 その時地面に黒い染みが見えた。 見れば熱矢先輩の目から涙が零れ始めていた。
 私はポケットからハンカチを取り出し先輩の頬に当てた。
「ありがとう……。 ゴメンな稲峰、嫌な……所、見せちまって……」
 そう言った熱矢先輩の声はかすれ、震えていた。
「いえ……、気にしないで下さい。 それより、どうするんですか……?」
 バラバラに壊れたプラモデルを拾い終えた後も熱矢先輩はしゃがみこんで黙りこんだままだった。

「先輩、あのヒトと付き合ってて幸せですか?」
「スズも……アイツも性格キツい所もあるけど、でも良い所もあるんだ。 それに気心も知れてるし。
だからやっぱり俺、アイツとは別かれられ……」
「結局付き合い続けるんですか? でも、先輩の趣味に対し全く理解示してくれてませんよ。
上から高圧的に命令するみたいな口調で、とても対等には見えないです。
そんな対等とは言えない関係が恋人同士の関係って言えるんですか?
そんなヒトと付き合って先輩が幸せだとはとても思えないんです。
いえ、実際幸せそうになんて見えません。 だって幸せな人がそんな辛そうな顔する訳がないですから。
だから……」
 私は途中で言葉を切った。 
 私は先輩にとって趣味が同じだけの後輩に過ぎない。
 そんな私がこれ以上口を挟むのは差し出がましいんじゃ……。
 でも、やっぱり言わずにいられず再び私は口を開いた。
「先輩あのヒトとは別れたほうが良いと思うんです」
 ……何を言ってるんだろう私は。
 幾らあの女が非道い女だと言っても、でも悔しい事にそんな非道い女に熱矢先輩は惚れてるんだ。
 私なんかが何を言ったってしょうがない事だって分かってる。 けど……。

「これは……俺とアイツとの問題なんだ。 悪いけど放っておいてくれないか」
 そう。 本来なら只の同好の士で後輩にしか過ぎない私の口出しすべき事じゃない。
 だけど―。
「放ってなんか……置けません。 先輩が辛そうにしてると私まで辛いんです」
 気付けば私の瞳からも涙が滲み始めていた。
「稲峰……。 ありがとう、やっぱりお前良いヤツだな。
同じ趣味の仲間の俺の事こんなに気遣ってくれて」
 そして、其の涙が私の心の堰をも押し流してしまったのだろうか。
「確かに私、先輩の事同好の士として尊敬の念も親近感も持ってます。
でも、それだけじゃないんです」
 今まで封印してきた気持が溢れ出す。 そして―
「先輩の事が……好き……なんです」
 ……ついに言ってしまった。
 ずっと胸にしまっておくつもりだった私の本心。

350:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:07:52 2XO3TxSx
「え……?」
 暫しの沈黙の後熱矢先輩は驚いた表情を見せる。
「先輩の事を同好の士としての親近感だとか、先輩としての尊敬だとかだけじゃなく、
一人の男性として好きなんです!」
 一度気持を口にしてしまえばもう止まれなかった
「先輩。 先輩とあの人が一緒のままじゃどう考えても先輩にとって幸せとは思えないんです。
だから別かれるべきなんです。 先輩の為にも。 でもそれで私と付き合ってくれとは言いません」
 いや、本音を言えば勿論付き合って欲しい。 でも、そう言い切ることが出来なかった。
 だって―。
「だって私なんか地味だし、背は低いし、胸だって薄いし、髪だってあのヒトみたいな
先輩好みのロングヘアじゃなくて男の子みたいに短いし……」
 とても先輩と釣り合いが取れるとは、あの女以上に先輩を惹きつける自信がもてなかったから……。
 それに今大事なのは私の願望じゃない。 大事なのは熱矢先輩の幸せ。
 だから―
「だから私と、とは言いませんから……。 でも付き合うならあの人じゃなくて、
せめて同じ趣味とまでいかなくても先輩の趣味を笑って許容できるヒトと付き合ってください。
もう……これ以上先輩のそんな辛そうな顔見たくないんです!」
 気付けば私は溢れる涙を拭いもせず感情のままに言い尽くしていた。

「ごめんなさい……。 感情のままに好き勝手言っちゃって」
 私はしゃがみこみ熱矢先輩のプラモデルの入ったダンボールを持ち上げる。
「とりあえずコレは私が大事に預かっておきます。 だから……ゆっくり考えてください。
本当にこれ以上あのヒトと付き合い続けるのか。 ようく考えてください。
それでもやっぱりあの人と付き合う事を選ぶというのなら……、その時はもう私は何も言いません。
先……輩が、プラモ……デル、を捨て……る事……を決め……たと……して……も……」
 私は先輩に背を向けそのまま逃げる様に家へ駆け込んだ。

 部屋に戻った私は熱矢先輩のプラモデルの入った箱をそっと床に置くとベッドに身を投げた。
 場の流れとは言え結果的に告白してしまった。
 本心の全て、とまではいかないが心の中に仕舞いこんでおく筈だった心の内を明かしてしまった。
 そして言ってしまった事を後悔……してるのかどうなのか―。
 私が言った言葉は正しかったのか間違ってたのか―。
 今の私は酷く精神的に疲れて、それすら分からない状態だった。
 頭もゴチャゴチャしてて混乱してきた。 私のした事は本当に正しかったのだろうか。
 あの時は自分の言ってることは間違ってなんかいないと思ってたけど……。

351:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:09:02 2XO3TxSx


  /      /      /      /


「まさか稲峰のヤツが俺のことをそんな風に思っててくれたなんて……」
 家に帰ってから俺は今日一日、いやここ数日あったことを思い返していた。
 稲峰を家に招いて一緒にプラモデルを作ったこと。
 はっきり言って楽しかった。 当然だ。 同じ趣味で気が合うやつと共通の趣味の時間を過ごせたんだ。
 でも、そこにアイツを女の子として意識した気持は無かった。
 俺にとって"女"は昔っからスズだけだったんだから。
 だから高校入学を気に思い切ってスズに告白してそれでOKもらえた時は本当に嬉しかった。
 でも、反面恋人同士になってもそれでも俺の趣味を受け入れてくれなかったのは悲しかった。
 受け入れてくれるどころか恋人同士になったんだからコレを機に止めろとまで言われて……。
 それを頼み込んで続けてたけど、でもとうとう最後通告されちまって……。
 そんな辛い思いさせられても、それでも別かれる気にはなれなくて……。
 それはやっぱりスズが気心が知れた幼馴染で、初恋の相手で、初めて付き合った彼女で……。

 俺は携帯を取り出す。 スズとは恋人同士になる前―幼馴染の頃から喧嘩だって何度かしてた。
 でも其の度に俺から謝まってスズに許してもらって、それで仲直りしてきたんだ。
 だから―。

 だがスズに電話をかけようとした手が止まる。
 本当にそうまでして恋人関係を続ける意味があるんだろうか?
 ふいに稲峰に言われた言葉がよみがえる。
<先輩、あのヒトと付き合ってて幸せですか?>
<そんな対等とは言えない関係が恋人同士の関係って言えるんですか?>
<だって幸せな人がそんな辛そうな顔する訳がないですから>
 確かにこんな思いしてまで交際を続ける意味があるんだろうか。

 それに……そんな俺の辛い気持を稲峰は自分のことのように悲しんでくれてた。
 俺だけじゃなく、俺のことを心配してくれるヤツまで辛い気持にさせてまで……。
 そして稲峰は言ってくれた。 俺の事が好きだと。
 でも決して其の気持を押し付けたりなんかしてこなくて。
 その事をアイツは自分に女としての魅力が無いからだといってたが、でも改めて思い返してみれば
決してあいつ自身がそう卑下してるほどじゃない。
 だからあれは本当に卑下してとかじゃなくって俺のことを気遣ってくれての事なんだろう。
 そりゃ俺の好みのタイプは背は俺よりほんの少しだけ低くて、胸も結構ボリュームがあって、
艶やかで長い黒髪が似合う凛とした眼差しの器量良しの―、そう、スズの容姿そのまんまだ。
 だから稲峰は正にスズのそれとは正反対だけど、でも改めてみれば美人といえなくも無いが
どっちかと言えば可愛いという形容詞がよく似合う―。
 そう、確かに可愛くはあるけど、でも短い髪型や趣味のせいもあるが、何て言うか弟みたいな、
そんな感じの親しみや親近感だったし。
 そう言う意味では確かに女と意識した事は無かったけど、でも―。
(アイツ泣いてたよな。 いや、泣いてくれたんだよな。 俺の為に……)

 考えてみれば俺のプラモデルの趣味、スズには否定されてばっかりで其のたびに凹んだりもして、
でもそんな時稲峰の言葉に、一緒の趣味のやつがいるって事に慰められ励まされたんだよな。
 アイツの事を女として好きかどうかなんて分からない。 けど―。
 大事な、かけがえの無い仲間であり友達―そう言う存在だってのはハッキリ言える。

 そうだ。 女としてどう思ってるか、それは分からないし、大事なのはそこじゃない。
 一人の人間としてアイツ―稲峰 柚納の事を俺は好きだ。
 そんなアイツにまで辛い思いさせてるんだ。 今のこの状況が。 だから―
 このままで良い訳が無い。

 そして俺は開いた携帯を閉じて仕舞った。

352:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:13:06 2XO3TxSx


  /      /      /      /


「最悪……」
 学校へ向かう路、アタシは寝不足で重たい瞼を擦りながら呟く。
 アッくんってばどういうつもりよ。
 昨日夜遅くまで待ってたって言うのに結局電話よこさないなんて!
 今日会ったらタップリ文句言ってやるんだから!
 アタシを寝不足にさせたんだ! 今度は映画おごるくらいじゃ済ませないんだから。
 そんな事考えながら歩いていたら前方にアッくんの背中を見つけた。
「アッくん!!」
 そして私は其の背中に向かって声をかけた。
 感情が昂ぶってたせいか思わず大きな声が出てしまった。
 だがアッくんはアタシの声に驚くでもなくゆっくりと振りむいた。
「おはよう、スズ」
 そしていつもと同じ調子で口を開いた。
 其のあまりに何でもない様子にアタシは一瞬呆気にとられたが、直ぐ気を取り直して口を開く。
「おはよう、じゃないでしょ! アタシに何か言う事があるんじゃないの?!」
「何か、って何だよ」
「すっとぼけないでよ! 昨日アタシとの約束破ってプラモ捨てなかったでしょ!?
其の事で言わなきゃいけない事があるんじゃないの?!」
 アタシは寝不足の不機嫌さもあってか声を荒げた。

「なぁ、スズ。 どうしてもプラモデル捨てなきゃ駄目か?」
「何度も同じ事言わせないでヨ! 駄目に決まってるじゃない!
それに言ったでしょ?! それが出来ないならアタシとアッくんとは―」
「これまでだ、って言うんだろ?」
「そうよ! それで良いの?!」
 そう言ってあたしは睨んだ。
 そうよ。 いくらプラモが好きだって言っても諦めなきゃアタシとの仲も終り、って
そう言われてアッくん断われる?
 断われないでしょ? だったらサッサト諦めて謝ってアタシの言う通りにしなさいよ!
「そう……か。 解かったよ」
「ふん。 やっと解かってくれたみたいね」
 そうよ。 所詮それしか選択肢は無いんだから。

353:1/8スケールのHeart→Hate ◆tVzTTTyvm.
07/05/24 03:14:45 2XO3TxSx
「解かったよ。 お前がどうしても俺の趣味が駄目って言うんなら……俺たち一度距離を置こう」
「え……?」
 予想外の返答にアタシは一瞬何を言われたか分からなかった。
「ア、アッくん……? い、今何て……? ア、アタシの聞き間違いかな?
きょ、距離を置こう、って……そ、それってどういう意味……?
ま、まるでお別れの、言葉みた……い……」
 そして問い返そうとするも声帯に力が入らない。
 そんなアタシとは対照的な落ち着いた口調のアッくんの声が耳に届く。
「そういう、意味になるのかな……」
「ア、アッくん! じ、自分が何言ってるのか解かってるの?!
ア、ア、アタシとわ、別……れ……」
 アッくんがアタシと別かれる? そ、そんな事……、そんな事ある訳が……。

「ア、アッくんはア、アタシの事がす、好きじゃ……ないの?!」
「好きだよ。 小さい頃からずっと。 そして今でも……」
「だ、だったら何で……!」
「好きだからこそ……だよ。 今までの俺ってお前の事―お前の機嫌や顔色気にして……。
でもそんな関係正しい付き合いだなんて言えないよ。 だから決めたんだ。
そんな状態で関係続けてたら、其の内俺達はきっと駄目になっちまう。 
若しかしたらお前の事も嫌いになってしまうかもしれない。
そうならない為にも一度距離を置こう。 もう一度幼馴染から、友達からやり直そう、って」
「そ、そんな……、そんなの……」
「だから……、じゃぁ……な」
 そしてアッくんは背を向けると足早に去るように学校に向かっていってしまった。

「そ、そんな……、う、嘘……。 ア、アッくんが……」
 膝から力が抜ける。 振らつく足取りでかろうじて近くの堀に手を付き体を支える。
 知らないうちに両の瞳からは涙が溢れ始めていた。
 確かに言う事聞いてくれなきゃこれまで、ってそう言ったのはアタシよ。
 でも……、でも……ほ、本気で別れるつもりなんてコレっぽっちも無かったのに……!
 だ、だって……だってアタシだってアッくんの事誰よりも好きなんだから……!
 小さい頃からアタシがどんな無茶を、癇癪を起こしたって受け止めてくれてたアッくん。
 そんなアッくんが幼い頃から今に到るまでずっとずっと大好きだった。
 中学の頃には頭の中はアッくんの事で一杯で告白してくれる日を夢見ていた。
 だから其の頃結構告白とかも受けてたけど、でも心が揺れた事なんて一度だって無かった。
 だから高校入学を機にアッくんから告白してくれた時跳び上がるほど嬉しかった。
 そして始まった恋人同士としての交際の日々。
 かけがえの無い幸せな日々は何時までも続くと信じていた、のに―。

「あ、ああああ…………っっ!!」
 胸から込み上げてくる押さえ切れない悲しみにアタシは嗚咽を堪えられなかった。

354:名無しさん@ピンキー
07/05/24 03:15:56 2XO3TxSx
投下完了です ではまた

355:名無しさん@ピンキー
07/05/24 03:18:11 SYP30cEZ
いいよー、GJ

356:名無しさん@ピンキー
07/05/24 03:21:32 MtUxR+yD
NOOOOO!!!!良いところで終わってしもうた!
続きを楽しみにしてます。

357:名無しさん@ピンキー
07/05/24 05:18:19 MkbbsSRM
スズ…

m9(^Д^)m9(^Д^)m9(^Д^)

358:名無しさん@ピンキー
07/05/24 06:43:40 ubLH0oPA
くくく……「距離を置こう」、か……
恋人たちが別れる前兆だぜ!そして二度と元に戻ることはない!フゥハハハーハァー!

359:名無しさん@ピンキー
07/05/24 07:17:02 kzRjzNuz
アッくんGJ!
でもスズの心情を見ていたら
とたんにスズに転びそうになった優柔不断な俺ガイル

360:名無しさん@ピンキー
07/05/24 07:53:31 5Wn2ZTFj
まぁ俺は根っからのすず派だけどな。 
兎にも角にもGJ!

361:名無しさん@ピンキー
07/05/24 11:00:28 ZuhdtI8p
他に逃げ道=後輩ができてから行動
しかも距離=キープってけっこうなクズっぷりだよな

362:名無しさん@ピンキー
07/05/24 11:42:40 8unxX4yQ
これは別にクズというか説得されて現在の関係の異常さにようやく気づいたってレベルじゃね?
告白はついでというかなんというか

363:名無しさん@ピンキー
07/05/24 11:54:01 jYFvTvzG
友達に心配かけたくないし自分も相手と対等になりたいって思ったからの行動だろ?
別に後輩を逃げ道に使ってるわけじゃないと思うけど

364:名無しさん@ピンキー
07/05/24 12:02:21 MX3dUK19
議論と考察は避難所を使えばいいというオチはありですか?

365:名無しさん@ピンキー
07/05/24 15:31:19 7tTDvyt+
リアルでこういう事があった場合、女は男を一方的に悪者扱いするんだよな。
自分より趣味を選んだ馬鹿な男って。

お前に一々頭を下げて生きていくのが嫌なんだって事に気付けや。

366:名無しさん@ピンキー
07/05/24 15:58:01 M8VyeCib
>>353
絵に描いたような自業自得ってやつか

367:名無しさん@ピンキー
07/05/24 16:23:52 MurZgxse
>>366
同意。
子供の頃からさんざん甘えていて何一つ感謝しないどころか
文句ばかりじゃねえ・・・これで
ただ単に好きというのは免罪符にもならない。

368:名無しさん@ピンキー
07/05/24 16:27:52 xHXI8H0N
主人公に感情移入して、ヒロインの圧迫にぶち切れる時のカタルシスとか好きだぜ

369:名無しさん@ピンキー
07/05/24 17:03:26 uwo+nnib
もっとスマートに話を読もうぜ……。

370:名無しさん@ピンキー
07/05/24 17:14:42 DyjtQ/jI
まあ、趣味や仕事と女のどっちを取るかは男の永遠の問題だからな。
みんなが熱くなるのも分かる。

371:名無しさん@ピンキー
07/05/24 18:42:42 7tTDvyt+
>>370
でも、主人公はまた違うんだよな。単に女より趣味を選んだというよりは、
己のプライバシーや人生まで口出して言いなりにする様な女とは距離を起きたいって事。

372:名無しさん@ピンキー
07/05/24 21:47:51 Kq1B4CPD
なんか久々に新鮮な感じの展開になってるな
気になって読み返してしまった

373:名無しさん@ピンキー
07/05/24 22:38:36 3J8sgy6x
>>365
元カノがまさにそんな感じだったな
自分の趣味を人に押し付けてくるくせに、俺の趣味のは認めない奴だった

別に料理くらい好きにやったっていいと思わないか?

374:名無しさん@ピンキー
07/05/24 22:44:32 8unxX4yQ
>>373
ほら、そこはあれだ
付き合ってる男が自ら料理を作るより自分の手料理を食べて欲しいという女心じゃね?
同棲しててそれならまだありだと思う、別々に暮らしてて料理すんなってんならアウトだろうけど

375:猫泥棒 ◆wvo7w.Uzxk
07/05/24 22:46:59 hc8fOxV/
>>354
こういう惹きつけられるような展開、いいなぁ…
しかもさらさらっと読みやすいし、GJです!

>阿修羅様
更新おつかれさま
ご多忙の中、ありがとうございます

感想にすごく感動した
わざわざ遡ってみてくれた人もいるみたいで…
お手数かけてごめんなさい

投下します

376:お願い、愛して!9 ◆wvo7w.Uzxk
07/05/24 22:52:21 hc8fOxV/


今朝、クラスでキョータくんの噂が聞こえてきた。
「別人みたい」とか、「社交的になった」とかいう噂。
噂には良い噂と悪い噂があるわけだけど、今回は珍しく良い方。

―そう。……めずらしく。
いつもは陰口や非難ばかり囁く人たちが……
キョータくんのことを何も知らない人間たちが、
たくましくなったキョータくんを新鮮に感じて、過剰反応を起こしちゃってる。
きっとそんな感じ。そんなのすごく失礼で、とても許しちゃいけないこと。
だから、たくさんたくさん言い返しちゃった。
「あなたはキョータくんの何を知ってるのかな?」
「知らないなら軽々しくあの人の名前を口にしないで」って。
ちょっと言い過ぎたかな? とは思ったけど、
そのおかげで、わたしのクラスからは彼の噂をする人が一人もいなくなったから、結果オーライだよね。
きっと他のクラスにもああいう人たちがいるんだろうなぁ、
って思うと気になってしょうがなくなっちゃう。
キョータくんも鬱陶しがってるかも知れないし。
夏休み前はそういう人たちの相手、わたしがしてたのにな……。

今では昼休みになっても、もうわたしに話しかけてくる人は誰もいない。
昨日の朝、キョータくんが言ってたみたいに、夏休み前とは彼の立場と完全に逆転してる。
わたしがキョータくんを守らなくちゃいけないのに……情けないなぁ……。

『キョータ……くんは、今のままがいいの……?』

何だか怖くて伝えられなかった、昨日の問いかけ。
正直に言っちゃうと、たくましくなったキョータくんに不安を感じてる……。
もうキョータくんにわたしは必要ないんじゃないか、なんて。
えへへ……そんなのあるはずないのにね。
たくましくなっても、キョータくんはあの時のままのキョータくんで。
わたしをたった一人必要としてくれた大切な人だもん。

自分が最低な里親に孕まされた母親の息子だって、他の誰も知らないことを教えてくれた、あのときから。

キョータくんの味方はわたしだけのはずだから……。




377:お願い、愛して!9 ◆wvo7w.Uzxk
07/05/24 22:55:39 hc8fOxV/


「キョータ……? って、あぁ、雨倉のこと?」
「うん。……教室に見当たらないけど、どこに行ったか知らないかな?」
「さっき一年の女子に呼ばれてどっか行ったけど。
 そういえば最近、よくクラスに来る子だな。
 雨倉、あの子のことなんつってたっけ……?」

と、その女子の名前を思い出そうとする男子。
わたしの方は、びっくりして声も出ない。

「確か―あさい……とか」
「な、凪ちゃんが!?」

思わず声が大きくなる。男子が驚きながら短く肯定した。
そんな……いつもお昼はわたしを先に誘ってくれたはずなのに……。
今日は用事があって誘いに来ないんだと思ってたけど、
まさかわたしを置いて、勝手にキョータくんを連れ出してたなんて……。

「多分弁当食いに行ったんじゃない? 屋上にはもう行ったの?」
「……ありがとう、行ってみるね」
感謝もそこそこに、教室を離れて屋上に向かう。
「あー! それとその女の子、ずいぶん具合悪そうだったよ!」
背中からまだ声が聞こえてきたけど、これ以上構っていられる気分じゃなくて、無視した。

―いくら凪ちゃんでも、それはやっちゃいけないことだよ。
信用してないわけじゃないけど、
やっぱりキョータくんが他の女の子と二人っきりなんて、良い気分がしない。
だから少しだけ、ほんのちょっぴりだけ、後で叱らなくちゃ。

やっと屋上の扉が見えてきた。
扉は開かれていて、屋上には予想通りキョータくんと凪ちゃんがいる。
なのに入り口の目の前まで来て、一旦足が止まった。


378:お願い、愛して!9 ◆wvo7w.Uzxk
07/05/24 22:59:23 hc8fOxV/

―そもそも、キョータくんだけをお昼に誘ったのはどうして?
もしもキョータくんと話をしたかっただけなら、屋上じゃなくてもいい。
少しすればわたしがここに来ることなんて分かってるはずだもの。
わたしがキョータくんのこと大好きってことは、
公園で初めて会ったときから知ってるだろうから、
自分に怒りの矛先が向かうことも分かるはず。
……なら、どうして?


「朝生っ!」

びくっと体が震えて、すぐに声のした方を凝視する。
その瞬間、倒れこむ凪ちゃんとほんの少しだけ、目が合った。
そして―愕然とした。

そんな……キョータくん……。
キョータくんは、凪ちゃんを支えるように、しっかりと抱きしめていた。
それだけでわたしの全身は震え、動悸が乱れ始めた。
なのに……その残酷な光景は、まだ発展する。

「っっっっっッッ!!!!!」

生まれて初めて本当の意味で、私は自分の眼を疑った。
凪ちゃんは、あの女は、わたしの、わたしだけのキョータくんに、顔を寄せてキスをした…………。
口が勝手にパクパクってなって、そこからかすれた嗚咽が力なく漏れていく。
胸が急に痛んだ気がして、急いで手を宛がう。
少しの高揚感も心地よさもないとってもイヤなドキドキ。

「あ、あ、あ、あ…………」

それが自分の声だと気づいたとき、手のひらに痛みが走った。
爪が手のひらに食い込んで血が垂れだしたんだ。
だけど、そんな痛みより…………。

「っ!」

視界がぼやけたかと思うと、堰を切ったように一気に涙が零れ落ちる。
嫉妬と怒りと悲しみとがぐちゃぐちゃに混ざり合ったような感情が、心の中をぐるぐると渦巻いていく。
急激な嘔吐感に襲われて、その場から走って立ち去った。

「うぁ……キョータ、くん……キョータくん……!
 …………許さない……あの女、最初からわたしが来るの分かってて……っ
 ……う、うぇぇ……女狐の、くせに……っ! 絶対に許さないっっ!!」

ただ、怨嗟の言葉だけを繰り返しながら。




379:猫泥棒 ◆wvo7w.Uzxk
07/05/24 23:04:38 hc8fOxV/
短めですが、今回はここまで
定期的に投下できないのが申し訳ないです

380:名無しさん@ピンキー
07/05/24 23:26:34 eg5ClrE/
gjです
寝る前にいいのが見れた

381:名無しさん@ピンキー
07/05/24 23:45:16 JcumHdD9
イヤッホオオオオウ!

382:名無しさん@ピンキー
07/05/25 01:24:05 uXpmskNS
>>375
GJ!
焦らずマイペースで頑張ってくれ
>>374
元カノは実家で俺は一人暮らしだ
元カノ曰く「男が料理なんて女々しい行為は我慢できない」らしい
食費を削る意味でも料理は続けてたんだが、ほぼ毎日「料理をやめなきゃ別れる」って責められてたなぁ
一ヵ月間耐え抜いたが、さすがに限界だったから別れ話をしたらお約束通り「私より趣味が大事なんだ」って言われたよ
「生活費の問題もあるから自炊してるんだけど、お前にとってはそういう状況にいる俺自身よりも趣味のほうが重要なの?」って言い返したら物凄い目で睨みつつ黙って去って行ったな
二週間前の話なんだが、あの目はかなり恐かった


そのうち後ろから刺されるかもわからんね

383:名無しさん@ピンキー
07/05/25 01:35:43 TWaM+PAk
>>382
それお前さんはなにも悪くないだろ・・・
訴えたら間違いなく勝てるぞw

384:名無しさん@ピンキー
07/05/25 01:43:48 IYHL3GqH
司法は女の味方です
まー言葉の綾だろうけど

385:名無しさん@ピンキー
07/05/25 01:52:47 DRUsPwUJ
>そのうち後ろから刺されるかもわからんね

元カノ「許さない…アタシのことを認めないならいっそ」

      カチャリ(包丁を手に取る)

???「許さないのはこっちの方だよ?」
元カノ「…え?」
???「彼を傷つけるなんて、許せるわけ無いじゃない」
元カノ「だ、誰!?」
???「挙句は殺そうなんて、この豚が!…というかいつまで薄汚い手で私に触ってるの?」
元カノ「やだ…手が勝手に、イヤァァァァ!!!」

       ゾキュ

包丁「あーあ、汚れちゃった…」


  私に触れていいのは、>>382さんだけなんだから、ね♪



386:名無しさん@ピンキー
07/05/25 01:54:26 6j9jY86q
ちなみに裁判官は言葉様だから泥棒猫は鋸で
首を真っ二つの刑に遭うと思うよ・・

言葉様、余程トラウマがあるらしいからな・・
彼女の前で彼氏が寝取られたとか世界とか絶対にいっちゃダメだぞ!!

387:名無しさん@ピンキー
07/05/25 02:15:05 zNZCAFaG
>>385
後にその包丁、どこぞのKさんによってどこぞの泥棒猫を歩道橋の上で
「死ね」
とか言いながら頸動脈を…
あ、違った。包丁は砂浜で男を殺傷するためのものか。

388:名無しさん@ピンキー
07/05/25 02:20:25 uXpmskNS
>>385
軽くヒスを起こした元カノが包丁をこっちに向けたという事件があったから笑えねえw

この包丁を十年以上愛用してるんだが、そろそろ付喪神が宿らないかな(´・ω・)

389:名無しさん@ピンキー
07/05/25 05:32:11 4HjK7+A0
>>382
つい最近かよ!っつーことは、あのプラモの話はまさしくピッタリのタイミングなわけか。
それにしてもきっぱりと言ってやったお前さんカコイイ!!

しかし、趣味をやめないからって別れ話を切り出す女も、やはり恋より趣味(の拒絶)を選んでるって事か。うまいな。

390:名無しさん@ピンキー
07/05/25 05:55:42 /wMzbMoQ
>>388
今度は包丁に(精神的に)調教される予感

391:名無しさん@ピンキー
07/05/25 07:45:47 M9rfYqpG
>>382
つか彼女が料理作ってくれてりゃ万事ぉkだったんじゃないの?

392:名無しさん@ピンキー
07/05/25 09:11:11 4HjK7+A0
ところで話が変わるが、こんな風に繋がっている話も面白そうじゃない?

第1部
ある女が男と結婚する。しかしその夫は妻にそっけない。
実はその結婚はダミー婚で、夫は姉とできていた。
プライドを傷つけられた妻(あくまで愛じゃないのは2部の為)は怒る。
姉から夫を奪おうとするが、結局負ける。(妻と姉、どちらの視点でもあり)

第2部。
夫婦は離婚。二人の兄妹が残っていた。
母は兄を溺愛して狙っている。彼女ができようとすると邪魔をする。
しかし、それは妹も同じ。妹も母を狙っていた。
母と妹が兄の取り合いを始める。

393:名無しさん@ピンキー
07/05/25 09:14:38 eiH/N1XY
レディコミにありそうだNE


誤字はあえて気にしなーい(・3・)

394:名無しさん@ピンキー
07/05/25 09:48:02 4HjK7+A0
キモウトならぬキモ母って思ったんだが、そしたら旦那の立場がないからな。
そこを考えてたら、昔読んだレディコミを思い出して第1部。

395:名無しさん@ピンキー
07/05/25 11:21:27 uXpmskNS
>>391
そりゃ無理だ。料理をやった事がないって言ってたしな
付き合い始めの頃に一度だけ作ってくれた事があったんだが、焼いただけの卵焼きと味噌をお湯に溶かしただけの味噌汁が出てきた
絶対に食えないって程不味かった訳ではない分よけいにきつかったよ

>>394
キモ家族は私も大好きだ
是非とも形にして頂きたい

396:名無しさん@ピンキー
07/05/25 12:10:29 GaxVKv4Q
>>394
キモ姉&キモウトスレでも以前似たような話題が上がって、その時にキモ母話を書いたんだが
あっちじゃ投下しても良いのか微妙な雰囲気だったんで結局お蔵入り…
こっちでもキモ母話が出たは良いけど、その話には嫉妬も三角関係も修羅場も無いから投下出来ないのが残念だ

397:名無しさん@ピンキー
07/05/25 12:34:55 TEsC5d3W
キモ姉&キモウトスレって
普通に嫉妬スレ住人も書き込んでいるよな?

398:名無しさん@ピンキー
07/05/25 12:44:39 bpBZ02A8
他スレの話題出すんじゃねぇよ

399:名無しさん@ピンキー
07/05/25 13:01:43 j439imBO
>>395
ヒント:調教

キモ家族のネックは父親だよな
殺すか離婚か父親もキモくするか

400:名無しさん@ピンキー
07/05/25 13:43:13 5hmBF/SN
>>379
俺は続きを待ってるぜ

401:名無しさん@ピンキー
07/05/25 16:42:35 4HjK7+A0
>>399
離婚がいい。母子を無難に成立させるにはお互いに最初から愛がない状態が好ましい。
ただ、母が子を優先するために父を殺したらビッチっぽくなるし、キモイ男は普通にキモイ。

402:名無しさん@ピンキー
07/05/25 17:15:19 ny+zr702
>>395
大体そういうSSでは、家族に1人だけまともな人間がいて、そこから修羅場が始ま

403:名無しさん@ピンキー
07/05/25 19:39:19 h4I0o5QY
ぶらっでぃ☆まりぃマダー?

404:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:39:08 S4s3o/uz
一月以上前に一話だけ投下したSSの続き行きます。
読んで頂ける方はお手数ですが前スレ>>165>>166か、保管庫で確認の上でお願い致します。
嫉妬は全然まだ、何日かおきに書いたりしてるので文がおかしいかもしれません。
では投下します

405:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:40:46 S4s3o/uz

「じゃあ、行って来るよ」

「うん・・・・・・行ってらっしゃい、兄様」

朝食の後に一通りの身支度を済ませ、住まいを出る。
2人で暮らすには少し広い家。家族でもない、血縁さえない僕と夜宵ちゃんが共同生活を送る場所。
そこを、家庭と呼ぶべきかは微妙なところだけど。
僕は彼女に送られながら、その場を後にした。
今日も今日とて労働に勤しむために。

普通の感覚で言えば奇妙なことなのだろうが、隔離都市においては犯罪者たる住人でも就職が出来る。
と言うより、そもそも隔離都市に収容された犯罪者には服役や懲役なんてものはなく、
原則として都市外への外出以外は禁止されていない。
無論、それ以外の何をしても許されるわけではないが、それ以外のことなら大抵は自由。
惰眠に沈もうが、美食に明け暮れようが、セックスに耽ろうが、ドラッグに溺れようが、殺戮に狂おうが、
およそあらゆる欲求に焦がれ、どんな快楽に酔おうが、自由。
むしろ管理者側もそれを推奨している。

そうしてくれた方が、彼等にとっても都合がいいのだから。
箱庭の維持のために。

隔離都市。
ここでは一切の倫理は唾棄されるためにあり、合切の条理は放棄されるためにある。
逸するための常軌であり、失うからこその正気。
無理を通すために道理が押し退けられ、合法によって無法が成り立ち、無法と言う法に従って日々、
朝昼夜の区別無く、老若男女の差別無く、常人奇人の侮蔑無く、のべつ幕無しに狂気を醸造し続ける内燃機関。
ここには確かに犯罪者がいるにも関わらず、しかし罪は成立しえない。
躊躇いも情け容赦も選別も手落ちもなく、徹頭徹尾、1から10まで、完全無欠に、
あらゆる狂気を内包し、全ての異常を抱擁し、遍く異質を許容し、考え得る限りの異端を受容する、
狂おしい程の打算と計略と試行と錯誤と決断と流血の下に打ち建てられた鉄の庭。
それが、それこそが、それだけが隔離都市であり、
それだけに、それだけで、それだけを隔離都市は法とする。

故に、僕には労働の自由が許されており、勤労に励むことが出来るのだが。暮しのためにも。
B地区第183住居。それが僕と夜宵ちゃんの住まいである。
このB地区に住む、より正確に言えばB地区の住居を購入するのも楽ではない。
隔離都市は内部を管理するための機関などが集中する中央区から始まり、
政府から送られてきた管理者達や隔離都市に名だたる『十席』とその側近など一部の特権階級しか住めないA地区、
管理者側に比較的友好的な態度を示す者達が居住を許されるB地区、
比較的問題のない者達が住むC地区、
管理者達にとって余り好ましくない者達を集めたD地区、
そして更に正式ではないが内部から弾かれた弱者が行き着く隔離都市を囲む壁際のE地区、
と中心から外へ向かって円状に広がって行くという構造を取っている。
中心に向かうほど地区の直径が狭まることから分かる通り、中心との距離がそのまま権力や住み易さの表れだ。
僕は以前はC地区の住人だったのだが、夜宵ちゃんと出会ってからは色々頑張った甲斐もあってB地区に住むことになった。

詰まりはそれだけ管理者側に尻尾を振ったということであり、
だから、知らないうちに何処かで恨みを買っていたりもする。


「テメェかあ、アニキを殺ったのは」

嫌な予感、もとい予想はしていた。
通勤途中にまだ人通りも少ない通りの路地裏から視線を感じたし、そう言えば最近は召集をかけられることも多かったからだ。
妬み恨みは世の常、誰かの幸福は誰かの不幸が支えている。
なら、そこそこ幸せな生活を送っている僕がそこそこ他人の恨みを買うのも必然なのだろう。


406:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:41:59 S4s3o/uz

「ああコイツだ、間違いねぇ。オレは見たぜ。アニキを殺ったのはコイツだ」

「そうかそうか・・・コイツがアニキをなぁ」

「許せねぇ! さっさと殺っちまおうぜっ!」

今僕がいるのはA地区とB地区の境界線付近、特に人通りが少ない路地である。
目の前にはチンピラ風の人物が3人、横に並んで僕を睨んでいた。
前時代的な髪型を始めとする随分気合の入ったファッションに、
全身を飾っているんだか飾られているんだか分からないジャラジャラした指輪だのチェーンだのピアスだの、柄も頭も悪そうなナリだ。
皆揃って同じ様な個性を追求することで逆に無個性に陥ってしまうということをしがちな、
まあ思春期とか第二次性長期あたりで脳と精神の発達を止めてしまった人達なのだろう。
まして犯罪者の巣窟たる隔離都市においては没個性も甚だしい。
で、そんな3人組が揃って殺気立っており、どうみても通行人に朝の挨拶という風には見えない。
これで朝の挨拶だというなら、随分とまあ変わった芸風と言える。

「で・・・僕に何か用かな?」

生憎、そんなことは在り得ないんだけど。

「あぁん? んだテメェ、ふざけてんじゃねぇぞコラァアっ!」

流石にスルーも出来ないので用向きを尋ねると、チンピラA(仮称)が唾を飛ばしながら怒鳴る。
不必要に声量が大きい。両脇の2人、チンピラB(仮称)とチンピラC(仮称)もそうだそうだと続く。
どうも僕から口を開いても無駄な気がしたので相手の喚き立てるに任せてみると、
僕と彼らの間には有するボキャブラリーの方向性に違いがあるようなので解釈に苦労したが、
どうやら次のような次第らしい。
彼らチンピラ3人組みには世話になってる兄貴A(仮称)がいた。
その兄貴Aは面倒見が良く、そして隔離都市のどこか──おそらくD地区だろう──で、とあるグループに所属していた。
そのグループとやらは何か大きなコトを企てていたらしいのだが、それが直前で管理者達に露見してしまい、
僕や仕事仲間に殲滅されてしまったらしい。
その時に兄貴Aを殺したのが僕。故に復讐するは我にあり、ということだそうだ。
正直、困る以前に身に覚えが無い。最近は召集が多いせいで、取り締まる相手の顔なんて一々憶えていられない。

その時に殺そうが拿捕しようが、二度と会わないことに変わりはないのだし。

そもそも、露見したらマズイことを企む方が悪い。
勿論、隔離都市は内部の人間におよそあらゆる自由を保障しており、
無論、欲望のままに生きることを推奨している。
ただし、例外が無いわけではない。先ず隔離都市から外に出ることがそれだ。
内部の人間を隔離するためにあるのだからこれは当然と言える。次に隔離都市から出るための行動・準備を行うこと。
それから管理者やその部下へ危害を加えること、その業務を妨害することなどと続く。
アニキとやらが何を考えていたのかは知らないが、
何もしなくても日々の糧が保証されているのだから無用のリスクを冒す必要などないのに、
ただでさえ犯罪者という身分には過ぎた待遇を受けているのにも関わらず欲をかくからそうなる。自業自得、と言うやつだろう。
だが。
そんな理屈は彼らには通用しないらしい。

「アニキはこんなオレ等にも良くしてくれたんだ。
 それを、そんなアニキを殺りやがって・・・テメェも同じ目にあわせねえと気がすまねぇ!

「復讐だ」

「ぶっ殺す!」


407:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:43:14 S4s3o/uz
じりじりと距離を詰めてくる三人の表情には、微かに怒り以外のものも見て取れた。愉悦だ。
相手からすれば状況は三対一。
加えて辺りに人通りはなく、
仮に僕が都合よく通る通行人に助けを求めても隔離都市では見ず知らずの他人を助けるような奇特な犯罪者はいないし、
中央の管理者なりに連絡をしても即座に誰かが駆けつけてくれるわけでもない。
それを分かっていて、甚振る積もりでいるのか。チンピラ三人組は敢えてゆっくり迫ってくる。
予め僕の扱いを三人で決めていたのか、たまたま全員が似たような嗜好なのか、
いずれにせよ、世話になった人物の復讐にかこつけての日頃のストレス発散も目的にあるのは言うまでもないだろう。
彼らの罪状の程が窺える。

「・・・・・・」

とは言え、どうしたものだろうか。
多分、この状況をどうにかするのは難しくない。

ここでの生活で培った感覚が警鐘を鳴らしていないことから、相手の危険度はせいぜいDかE。
仕事の関係で、より危険度の高い人間の相手をしょっちゅうしている身からすれば大した脅威ではない。
殲滅も無力化も難しくは無いだろう。

僕の隔離都市でのスタンスは殺人鬼でも殺人狂でもない。
と同時に、自衛のために力を行使するのを躊躇う程のお人好しでもないのだから。
問題があるとすれば、
揉め事を起こして中央から仕事というか僕への評価を下げられることだが・・・この際仕方が無い。

右手。
住まいを出る時に、1つだけ持ってきた荷物を見る。
長さ1m程の、白い布に包まれたそれ。今、僕が持つ唯一の自衛手段。
その感触を確かめるように、強く握る。

「オラァアアアアアアアアアアッ!」

それに反応したのか、真ん中、チンピラAが最初に目を血走らせながら突っ込んできた。
手には、いつの間にか奇妙に捩れた刃を持つナイフが『出現』している。
これで正当防衛が成立した。

僕は自身の『得物』を覆う布を取り払おうと手を伸ばし──止めた。
代わって、目を見開く。

「ぎゃあああああああっ!?」

赤い色が踊っていた。

眼前で、チンピラAが燃えている。
何の予告も予兆も伏線さえもなく、
唐突に生じた──それこそ発生したとしか言えない──炎が瞬く間に彼を呑み込んで火達磨と化していた。
内包する膨大な熱にゆらゆらと揺れ動く焔は足先から頭頂までを余す所無く覆い尽し、
衣服を肌を肉を髪を眼球を区別無く焼いている。
朝の日の光の明るさにも関わらずより強い輝きで周囲が照らされ、
僅かとはいえ離れていても伝わってくる熱に細められる視界の中で僕同様に驚愕に、
次いで痛苦に歪められた彼の顔が映った。
赤い壁で隔てられた彼の顔は燃え盛る炎の中でぱくぱくと口を開いて何かを訴えようとしているが、
それが叫び声以外のものを伝える前に膝を折り、人形のように崩れ落ちる。
余りに急な展開に着いていけずどこか明瞭でない感覚の中で、それだけは現実的な重い音が響いた。

408:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:44:43 S4s3o/uz

「お、おい・・・」

「け、消せっ! 火を消すんだ!」

数瞬の硬直。
展開についていけないながらも倒れ伏した彼の状態を理解した二人が、衝撃の拘束から解かれて動き出す。

同時に、もう一つ変化があった。

「・・・え?」

僕がそれに気付いたのは、彼等と反対側にいたからだろう。
影が見える。
伏してなお焼かれ続けるチンピラAを覆う炎が辺りを照らす中、
僕と彼の間に黒い水溜りのようなものが生じていた。
染みのようなそれは急速に濃さを増して行く。
だが、さっと視界を巡らせても、前後左右どちらにもあるべき影の発生源らしきものはない。
僕は半ば直感で視線を上げる。

影が降り、炎とは違う赤色が舞った。

人。
大人ではないが、さりとて子供とも言えない程に成長した肢体。
しなやかなそれを曲げて殺した落下の衝撃に従い、左右で結ばれ垂らされた二筋の赤色の髪がふわりと揺れる。
チリン、と澄んだ鈴の音が響いた。
着地の際に猫のように丸められた背中は濃い青のブレザーに覆われ、緑を基調としたスカートが下に続く。
僕の側に露出したうなじは細く、それが彼女の性別を教えてくれた。

「──」

突き立てられた沈黙が場を支配する。
彼女自身は着地による停滞に、
僕を含むその他全員はどこからか飛び込んできた第三者に対する驚きと対応への逡巡でその場に縫い付けられた。

それを破ったのも、また彼女。

「────あっは♪」

早業、と言えるだろう。
曲げられた四肢をそのまま撓みから開放へ、伸縮の逆の動きで五体を弾丸と撃ち出す。
身を低くした駆け出しから刹那で跳躍を果たした体は、髪の色の軌跡を引いてチンピラ達へと迫った。

「う!?」

「お!?」

隔離都市では、一瞬の差が生死を分ける。
仮にも荒事に身が馴染んでいるらしいチンピラ達は一拍遅れて反射的に迎撃の構えを取るが、時既に遅く。

「アンタらは取り敢えず眠ってなさい!」

一閃。
一人は突き刺さるような拳で顎を打ち抜かれ、もう一人は砕くような蹴りで同じ場所を打ち上げられて沈んだ。
音が二つ、倒れた体は三つに増える。
まさに瞬殺。電光の早業だ。

「ふう・・・これでよしっと」

409:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:46:19 S4s3o/uz
それをなした当人はと言えば、
一仕事終えたというようにぱんぱんと手を鳴らしてから僕へと振り向いた。
未だチンピラAを包む炎に照らされ、火照ったような笑顔が向けられる。
ツインテールの髪の色より透明感を増した、勝気そうな朱色の瞳が輝く。

「強いんだね。相変わらず」

「っ・・・当ったり前でしょ! アタシを誰だと思ってんのよ」

褒めた積もりだったが、お気に召さなかったらしい。
一転、さも心外という風に顔を顰められる。
が、まあいいわ、と言う声と共に不機嫌な表情が打ち消された。

「で、アンタはこんな所で何をしてた訳?
 久し振りに会えたと思ったらお取り込み中だったみたいだけど、とうとうファンクラブでも出来たのかしら?」

「僕はそんな人間じゃないつもりだし、第一あんな手合いはご免被るよ。
 まあ、仕事上の恨み辛みって奴かな」

見え透いた揶揄をかわして要約した事情を伝えると、呆れたような視線で返される。

「はんっ! まあアンタじゃその辺が打倒よね。
 ファンクラブにしたって、アンタ変なのばっか惹き付けるみたいだし・・・・・同性には嫌われてるみたいだけど」

視線を転がるチンピラ達に転じて睨みつける。
同時に、注意を引くように、僕に見せ付けるように腕を振るうと燃え上がる炎が消えた。力を解除したらしい。
残滓と言うには強くこびり付いた人肉の焼ける異臭が辺りに漂う。

「さてと」

しかし、彼女は鼻を摘むでもなく涼しい顔をしていた。
そのまま、焼かれていないチンピラの片方にずんずんと歩いていくと。

思い切り──蹴り付ける。

「にしてもコイツらも馬っ鹿よねー?」

蹴る。蹴る。蹴る。

「アンタに手を出して無事に済むとでも思ってたのかしら?
 あの人形娘にアタシに鎌女、ざっと並べただけでもこれだけの能力者がアンタの周りにはいるのにね?」

足を踏み付け、腹を爪先で蹴り込み、顔を踏み躙る。
鈍い音。

「おまけに隔離都市治安維持部隊配属の人間に手を出せば、
 後顧の憂いを断つ意味でもアンタのチームが同僚が上司が部下が管理者が組織が、
 徹底的に徹頭徹尾、底辺までも追い掛けて追い立てて追い付いて追い詰めて、
 この素晴らしき犯罪者の巣窟の住人ですら吐き出すような処断を下すのにねー?」

蹴り、蹴って、蹴る。
中身の詰まった肉の音が耳に粘り付く。

「まあいいわ。アタシには、どうでも。
 アンタが困ってたみたいだから助けて上げただけのことだし──ん?」

「ぁ・・・ぅああ」

サンドバッグ化していた物体が身じろぎした。
おそらくは自身の知らぬ間に腫れ上がった目を薄く開く。

410:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:48:03 S4s3o/uz

「ぉ・・・助け・・・く」

「あら」

現状に至る事情を理解したのか、それとも自分を蹴り付ける相手の危険度を知っているのか。
許しを、助けを求めるように開かれた唇は。

「別に喋んなくていいわよ」

屈んだ、彼よりも小柄な彼女の細腕で塞がれた。

「これってある意味、丁度いい憂さ晴らしで八つ当たりで自己満足だから。
 満足するまで終わるつもりはないの。
 でも────起きちゃったら騒がれるのも面倒よね?」

「んんーっ、んんんんんあ゜あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜ーー!?」

チンピラの体が大きく跳ねる。
びくびくと、生きたまま調理台の上で焼かれる生き物のように。
事実その通りなのだろう。
チンピラの口を押さえる彼女の腕からは炎が吹き零れていた。
口内から喉奥へと流し込んだ炎で体内を焼いているのだ。生きたまま。
数秒それを続けると断末魔も声帯ごと焼き尽くされ、跳ねていた体は口から煙を上げて静かになる。

「ちょっとは気も晴れたし。アンタ、もういいわ」

必要の無くなった押さえが外された。
背を伸ばし、唯一焼かれずに残っているチンピラを視界に収めると。

「・・・・・・アレも始末しとかないとね。アンタに手を出した奴、生かしておく訳にもいかないし」

視線は僕に向けながら、腕を振ってそれにも火線を伸ばす。
とぐろを巻いた炎が彼を囲って火柱と化し、今度は断末魔も許さずに炭に変える。
最初に焼かれた彼も、既に生きてはいないだろう。

「っく~~! 朝からゴミ掃除をすると気分がいいわねえ・・・・・・って、アンタどうしたのよ?
 顔が青いわよ?」

朝から三人分の焼死体を生産した彼女は良いことをしたと言うように伸びをして、身を捩る。
それ自体はコキコキと小気味良い音が聞こえてきそうだったが、
生憎と彼女程に焼けた人肉の臭いに慣れていない僕は少々グロッキー気味だった。
猟奇殺人もかくやという死体なら幾らでも見てきたが、生憎と出来立ての焼死体には馴染みがない。
気分が悪いのが顔に出たのだろう。

「いや・・・流石に、この臭いには慣れてないから」

「ふーん。アタシにとっては慣れどころか何も感じないけど。
 確かに、普通は強烈な匂いなのかしら」

そんな僕に、彼女はずんずんと近付いて来て。

411:隔離都市日記 ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:48:51 S4s3o/uz

「それでも────あの女の臭いは消せないみたいだけど?」

胸倉を掴み上げ、僕を引き寄せて首の位置に頭を寄せ、鼻を鳴らす。
一呼吸分で突き放すように僕を押しやると、不愉快そうに顔を歪めていた。

「臭いって」

「あの闇人形の、ね。
 はっ! 相変わらずべたべたべたべたアンタに纏わりついてるみたいじゃない?」

夜宵ちゃんのことか。
彼女とは、どうしてか知らないけど仲が悪いからなあ。
その分の怒りをぶつけるように、彼女は鋭い視線で見上げてくる。
押しやられてと言っても大した距離ではないので、少し位置が近い。

「・・・・・・えっと」

「・・・・・・はあ」

数秒。
嘆息するように、あちらから視線を外された。

「まあいいわ」

そして、気を取り直したというように。
一歩下がり、組んた手を背中に隠して上目を遣いながら。

「それで、一応、困っているところを助けて上げたんだし」

妙に明るい声で。

「それなりのお礼は──してくれるわよね?」
ヴァーミリオン
【火炎災】の名を冠する、
隔離都市に数多存在する突き抜けた異端の一人である彼女、火神原 赤音(かがみはら あかね)はそう要求した。



僕、仕事あるんだけどね。

412:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/05/25 23:52:06 S4s3o/uz
投下終了。
前スレで書きためてから投下した方が良いとの助言を頂いたのですが、
分量的にはこれ位でいいのでしょうか?

極稀でも投下出来ればいいなと思いつつ、お目汚しにならぬよう祈ります。

413:名無しさん@ピンキー
07/05/26 00:22:48 s3KNCFuB
「祈る」んじゃなくて「頑張って」ほしい

414:名無しさん@ピンキー
07/05/26 00:52:12 GbVTOFZG
>>412
投下乙です!!
何かまだまだ登場しそうですね・・・
続きも期待してます

415:短編 ◆qj8aj1j2zQ
07/05/26 09:24:25 3gKDVvMD
ちとネタを思いついたので短編で書いてみました。

この本に書かれた事は現実になる。
この本が現実に出来るのは書いた人物が何らかの手段で感知できる範囲内だけである。
この本が現実に出来るのは、ある一つのジャンルに関する事のみである。
この本は複数存在し、それぞれに現実に出来るジャンルが違う。
この本を複数所有する事は『可能』である。

「何なのかしら?この本??」
そう言って、私は机の上に置いてあった本を見てみる。
悪戯にしては手が込んでおり、なんとなく逆らいがたい様子が見える。
その真っ黒な表紙には『ホラー』と書かれており、どうやらこの本は『ホラー』的な事を現実かできるようだ。
「ちょっと、試してみようかな………」
そう言って、私は何と書くか迷った。が、結局は書けなかった。ホラーな状況なんて嫌いだ。

次の日、私はお弁当を二つ作る。一つは私の分、もう一つは彼の分。
「おー●●は偉いなー。でアイツとはどこまでいった?まさかまだキスとかしてないだろうな!」
お父さんはちょっと心配性。だけど、良い人。
「まったく、お父さん。キスぐらい良いじゃないですか。」
お母さんは優しい。この二人を怖がらせるなんて出来ない。

○○君と登校するのは結構久しぶり。こころがどきどきと唸り始める。
交差点で○○君の横に誰かがぶつかる。隣のクラスの××さんだ。
その拍子に彼が倒れようとする。私も支えようとする。一緒に倒れた。
勢いでお弁当箱が零れ落ちる。道路にばら撒かれるお弁当。折角彼の為に作ったのに。

○○君は××さんと一緒に学校に行ってしまった。私は一人ばら撒かれた弁当を片づけ中。
変だ……何か変だ。

416:短編 ◆qj8aj1j2zQ
07/05/26 09:25:32 3gKDVvMD
昼休み、××さんと○○君が一緒に学食を食べている。なんで××さんがそこにいるの?
私だってそこにいたいのよ!!

放課後、××さんがノートを取っている。
書き終わった後、ノートを鞄の中に入れる。
そのピンク色の表紙で『恋愛』と大きく書いてあるノートを。
「許せない………」
今、私の顔は狂気に狂ってるだろう。
あの××もノートも許せない。あの女には狂い死にが当然の報いだ。
「あの泥棒猫……」

家に帰るとノートを開いてどんどんと文字を書き連ねる。
「死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………死ね…
 …死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………死ね
 ……死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………死
 ね……死ね………死ね………死ね………死ね………死ね………」
あの恋愛ノート(仮)に書かれた内容もよく吟味する。まずはあのノートをどうにかするのが先決だ。
「あははははははははははははははははははははははは……
 ××さんなんて……××さんなんて……消えてしまえ!!」
ふらふらとする頭の中で私はノートを隠すと、私の体はばたりと倒れた。

その頃、××は、家の鏡の前でセクシーポーズの練習をしていた。
この恋愛ノートに敵は無い事は確認してる。幾ら食べてもずっと美人でいられる。
「●●も馬鹿よねー。幾ら頑張ったってこの恋愛ノートには勝てないのに」
そう言って、鏡の中の自分を見ながら笑う。
「鏡よ鏡。鏡さん?世界で○○君に好かれてるのはだぁれ?」
「それは私ですよ。泥棒猫………」
「えっ??」
鏡の中の××が急に顔を変え始める。怒り狂った鬼の顔になった鏡の中の××は腕を伸ばすと、彼女の顔を握りつぶす。
ケタケタと面白そうに笑うと、部屋の中を荒らしながらまた目的の物を見つける。
「あっ、私のノート!!」
そう言って××は、セクシーポーズの服装のまま部屋の外へと飛び出していく。

「待てぇぇぇぇぇ……」
ドンと××は誰かにぶつかる。
「待てよ姉ちゃん……人にぶつかっといて、何も無しかよ」
そう言ってや×ざな人が××を睨みつける。
そんなや×ざに……××はなんと恋をしてしまいました。
そしてそれからや×ざの愛人として末永く幸せに暮らしたそうです。

ケタケタと笑い声を上げながら、鏡の中の××が恋愛ノートにそう記している。
「まあ、死ぬのは可哀想だから、雌奴隷の幸せを十分楽しませてあげるわ」
●●の家の方向に向かいながら鏡の中の××は笑い続ける。
「本当は死ぬほど苦しい思いをさせたいけど、幸せなままでさせてあげますわ」
そして●●の家に着く。鏡の中の××はそこでふっと消えた。

●●が顔を上げる。そこで浮かべた笑みは、鏡の中の××と同じ物だった。

417:名無しさん@ピンキー
07/05/26 11:08:07 kS/CW/vK
問題はこの話で萌えられるかどうかなんだが
ごめん俺には無理

418:名無しさん@ピンキー
07/05/26 14:08:02 qmCRzmY2
>>416
ごめん、その・・・微妙・・・

419:名無しさん@ピンキー
07/05/26 14:27:28 Rdz/OC9G
>>416
えと…その…い、いいんじゃない?
個人の趣味だし…うん。

420:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:26:11 24ZREIW1
投下します

421:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:27:06 24ZREIW1
「うぅん……なんだか……眠くなっちゃいました……ぅく……」
 過去のことを思い出しながら話を聞いていると、眠そうに欠伸を堪える霧。よかった……このまま寝てくれれば、この二人きりの空間から抜け出せられるかもしれない。
「いろいろあって疲れてるだろうからな。眠いときには寝といた方がいいぞ。」
「ごめん……なさい……私から呼んでおい…て……」
 謝りながらウツラウツラと頭が揺れる。瞼もほとんど閉じている。……眠くなるとすぐにこうなる癖、相変わらずだな。
「ほら、寝るならちゃんとベットで寝ろよ。」
 そう言って霧を抱えあげ、ベットまで運ぼうとすると……
「ありが…と……ございます……ぉ兄様……」
「っ!!」
 霧の一言に心臓がはねる。恐らく寝言なのだろうが、不意にいわれて慌ててしまった。
「……俺は、お前の兄じゃない。」
 霧の寝言に悲しい嘘を返し、俺はそっと部屋を出た。
「……はぁ。」
 なんだか妙に虚しさが残るな。もう一杯コーヒーでも飲んで落ち着くか。
 不気味なまでに静かな廊下を後にし、俺はリビングへの階段にを上っていった。

422:『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys
07/05/26 15:29:25 24ZREIW1
ガチャ
 リビングのドアを開けると、翔子が中でウロウロしていた。何をやってるんだ?エラい焦ったような顔色だが……何かあったか?
「おう、翔子。起きたのか?疲れはとれたか?」
「あっ……」
 俺を見つけるなり、不機嫌そうな顔をして近付いてくる。顔だけじゃない。体から出るオーラが不機嫌そのものだ。
「ど、どうした?」
 こいつ、もしかして寝起きが悪い奴か?
「ど、どこにいたのかしら?貴方の部屋を尋ねても返事がなかったのだけど?」
 気持ちを落ち着かせようとしているのか、上品な言葉遣いで話す。顔はまた焦燥感たっぷりといった感じだが。
「ああ、さっきまで霧の奴とコーヒーを飲んで……ん?」
「………い、いいえ。そうよね。貴方がだれと何をしようが、あなたの勝手よね。」
「?……まぁ、確かに、俺が好きでやることだからな。」
「な、ならっ!私が貴方とコーヒーを飲むのも、私の勝手よね!?」
「……はいはい、砂糖とミルクは?」
「どっちもたくさん!あまーくしなさい!」
 ったく……素直に言えばいいのによ。だいたいなんで命令口調なんだよ……ちくしょう。


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