嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35at EROPARO
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35 - 暇つぶし2ch150:トライデント ◆J7GMgIOEyA
07/05/17 22:47:58 RQaFQ2jB
投下終了です。

て、スレを見直したら見事に荒れていますね。
コピペで乱立しているおかげで少し読みづらいですね。
後で避難所で同じ内容の物を投下した方がよろしいでしょうか?




151:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:49:50 5ayO35B6
>>150
まとめるとき面倒になりそうだからこのままでいいと思う

152:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:50:33 nIcgXFNF
>>150
スルーでおk

153:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:51:48 n7qCF4WJ

age荒らしkita

154:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:52:26 jzykelIv
>>150
乙。コピペはNGワードでどうにかなるからそこまで気を使わなくてもいいと思うけどね。
キャラが多くて騒がし楽しいものになりそうだな。
ただ、一点だけ指摘を。「満開な桜が咲く」という表現は、多分おかしい。頭痛が痛いと同系統の表現。
「桜が満開になっている。」「桜が満開だ。」でいいと思う。

155:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:52:58 YJw887Yl
>>150
スレが荒れるしこれからは避難所に投下したほうがいいんじゃね?


156:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:52:58 nIcgXFNF
すまねぇ、ageちまった……

157:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:53:40 TKYPuOme
>>150
うはwwwwいい展開になりそうだwwww
トライデント氏GJですた!

う~ん・・・専ブラ使ってるから俺は問題ないんだけど・・

158:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:54:07 YEtCZydm
コピペの方が面白かったので
貴方の存在はいりません
とりあえず、トライデント氏の妄想を垂れ流しにするのやめてくれませんか?


159:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:56:42 CEGCl9cx
>>150
2度手間だし次からは避難所で
皆が専ブラ使ってるわけでもないしね


160:名無しさん@ピンキー
07/05/17 22:58:11 V2gAVP1W
>>150
投下お疲れ様です
ここに幼馴染がどう絡んでくるか楽しみですね
偽者はすぐ判るので避難所に落とす必要はないかと

>>140-142,145,148
ただでさえ鳥付きをコピペしてもバレバレなのに
いちいちID変えていたら余計おかしいってw

>>144,147,149
釣りか自演か天然か知らんが偽者にアンカーするな

161:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:03:01 V2gAVP1W
>>158
偽者必死だな

162:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:05:11 rnxqZaPH
>>149
便利だし使えばいいだろ


163:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:06:07 rnxqZaPH
>>159


164:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:08:42 j1bJJmNK
ID:V2gAVP1W
おぉ~っとここに荒らしに反応するアホ登場~

165:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:14:26 ziDeJWII
>>150
乙です

166:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:16:27 5TQc2qlI
>>150
GJ!!
これだけのキャラを動かすのはやっぱり凄い・・・!!
変なのは気にしないで頑張ってください!

167:名無しさん@ピンキー
07/05/17 23:59:16 aR1fCMb8
トラ氏GJ!!!!続き楽しみにしてます。

168:名無しさん@ピンキー
07/05/18 13:11:33 HaVT7SzA
>>164
そうしてまたID変えて住人を装って煽るのか

169:名無しさん@ピンキー
07/05/18 14:12:18 mGZDqSH7
193 :名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 23:22:49 ID:+O3+fuD10
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35
スレリンク(eroparo板)

>>140>>141>>142>>145>>148>>158   
5. 掲示板・スレッドの趣旨とは違う投稿
荒れかねない挑発的なレス
個人コテ叩き・投稿者のコピペ
6. 連続投稿・重複
連続投稿・コピー&ペースト

作者さんがSSを投下した直後にコピペしてスレの進行を阻害しています。
またコピペの最後の行から同一人物と思われます。


170:名無しさん@ピンキー
07/05/18 16:42:50 FCSW/6z3
はいはい、、続けて特定の人物の相手する気なら避難所逝こうぜ

171:名無しさん@ピンキー
07/05/18 16:51:54 Gqn3DZVB
>>170
避難所は避難所だろ
ここの荒らしの話ばかりされても困る
スルーしろ

172:名無しさん@ピンキー
07/05/18 17:23:46 3wZZ4G97
荒らしの原因になったトライデント氏は避難所で寂しく妄想を垂れ流すということでOK?
まあ、あっちに投稿されても誰も見向きしてないから荒れなくていいね

173:名無しさん@ピンキー
07/05/18 18:34:13 jYP8VW2L
↑(^Д^)

174:名無しさん@ピンキー
07/05/18 21:01:29 lXeD1o+/
>>172
m9(^Д^)


175:名無しさん@ピンキー
07/05/18 21:04:13 dxa+yf0B
これで削除板のコピペは3度目か…はぁ
もしかしてそれに生きがいとか感じちゃってんの?

176:名無しさん@ピンキー
07/05/18 23:50:19 590Gtgiw
194 :名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 18:21:26 ID:p9XjZcqF0
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その35
スレリンク(eroparo板)

>>144>>147>>149>>164>>171>>172
5. 掲示板・スレッドの趣旨とは違う投稿
荒れかねない挑発的なレス
個人コテ叩き

>>193の荒らしと同一人物と思われるレスを追加します

また見境無くなってきたな、と思われるって何?

177:名無しさん@ピンキー
07/05/18 23:53:13 zcqPkEjJ
もうホント勘弁しろよ……

178:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:06:01 8KFC6wJP
>>176
楽しいか('A`)?

179:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:09:29 v/nEHRKg
嫉妬の炎に包まれた彼女でもない恋人未満の女の子に
膝枕されていると実の姉でもない年上のお姉さんが主人公
争奪戦に参戦してくるようなSSが読めるのは嫉妬スレだけ!!

ってみたいなCMを夢で見た・・。
正夢にならないかな

180:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:16:47 8KFC6wJP
>>179
ちょっと過程を省きすぎじゃね?

181:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:20:28 hZvAQdag
まぁ、夢だし

182:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:30:14 v/nEHRKg
妹「お兄ちゃん・・小さな頃にお嫁さんにしてくれるって約束してくれたのに
  どうして・・どうして・・そんな女を選んだの? お兄ちゃんを奪ったお姉ちゃんなんかと!!」
姉「ごめんね妹ちゃん。私はどうしても弟君の事が好きだった。あなたになんて渡したくなかったんだよ」
妹「そ、そ、そんなの私だって同じだよ。お姉ちゃんだけにはお兄ちゃんを渡したくなったの。
  私が持っていない全ての物を持っているお姉ちゃんにだけは大事な物で勝ちたかった」
姉「でも、もう遅いよ。弟君は私の体に溺れている。時間をゆっくりかけて骨抜きにしたんだから・・」


と、今度は適当に主人公、姉、妹の三角関係と修羅場を軽く過程を省いて書いてみた
誰か書いてくれませんか?



183:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:41:57 jUKyP39q
まとめに行ったほうがはえぇよ

184:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:46:33 RecdHnMd
>>180


普遍的な日常─

変わらない筈の毎日─

全ての始まりは、幼馴染みの一言だった─

「○○くん、ずっと好きでした」
屋上で囁かれた思い。
広がる困惑

「兄さん、告白されたんだって?」
妹の冷たい一言。
抱いた疑念

「○○ちゃん、お姉ちゃんとずっと一緒だよね?」
姉の厳しい詰問。
感じた恐怖

奏でられ始めた純愛と狂気の二重奏

「この泥棒猫!!」
「殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスッ!!」
「兄さんどいて、そいつを殺せない!」
「クスクスッ……兄さん、兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん……」
「ねぇ○○ちゃん、そんな雌狐ほっといてご飯にしましょ?」
「○○ちゃん、そのお料理私の特製愛の調味料入りだよ?おいしい?」

乙女達の醜くも美しい独占欲。

渦巻く謀略と狂気と流血の果てには──

こんな作品は修羅場スレにて公開中!



てな感じでCM化したらどうですかね?

185:名無しさん@ピンキー
07/05/19 00:48:47 lUzSflj2
そろそろフラッシュ職人が光臨……?

186: ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:38:02 A21pw/ec
投下します。

187:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:39:53 A21pw/ec
今朝のあの悪夢。
その中で、小さな少年が最後に言ったあのセリフを。


「どうして僕にはお母さんがいないの?」


何故、あの時、あんな事を言ったのか。
─そんな事は、分かっている。
誰もいない家が、一人が寂しかったからだ─。
気がつくと、翔は立ち上がっていた。覚悟は決まっていた。澄香の元へ行こう、と。メールには彼女の居場所を示す手掛りは何もない
。しかし不思議と、直覚的に感じていた。きっと澄香は自分の家にいるのだろう。
机の上に転がっている鉛筆や消しゴムを、そのまま鞄に突っ込み、持っていた単語帳を上から乱暴に押し込む。
その鞄を肩にかけ、横の席で早くも舟をこきはじめた寺田に一言告げる。
「悪い、俺帰るわ」
いきなり寺田が顔をあげた。夢の世界を引きずっているのか、目が半開きで、表情がついてきていない。しかし、それでも驚いている
だろう事は分かった。その寺田が死にかけの金魚のように口をパクパクさせて、何かを言おうとしている。が、寺田が声を発するより
先に翔は地面を蹴っていた。
主のいない教壇の上を駆け抜ける。半開きのドアに体を滑りこませ、廊下に出る。
そのとき、背後から伸びた手に首根が掴まれ前のめりになったところを、襟首に首を絞めつけられ、翔は綺麗なお花畑を見た。思わず
振り返る。
「あんた、どこ行くのよ」
中野だった。彼女は眉を釣り上げ、冷たい瞳で翔を睨んでいる。
「どこって。鞄持って便所に行く奴はいないだろ? 帰るんだよ」
翔は喉元をさすりつつ言う。すると、世界でもっともありえない光景を見たといった顔で、中野が消えるように呟く。
「う、そ……」
しかし、彼女はすぐに態勢を建て直し、翔を鋭い眼光で見据え、
「ばっ、馬鹿じゃないの!? あんたねぇ、今日の試験がどれだけ大事か分かってないんじゃない?今日の試験は、大学進学がかかっ
ているのよ、何があっても最後まで頑張らなきゃ駄目なのよっ!!」


188:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:41:25 A21pw/ec
中野はほとんど叫んでいた。とてつもない迫力で、今にも飛びかかってきそうだった。しかし、翔は怯まない、決意も変わらない。
「分かってるさ。だけど、どうしても帰んなきゃいけないんだよ」
翔は真っ直ぐ、彼女を見つめ返して言った。自分の意思を、瞳に込める。その決意が伝わったのか、中野は悔しそうに唇を結び、うつ
むいた。彼女の肩が、小さく震えている。
「……悪い、じゃあ俺、帰るわ」
そう言い残すと、踵を返し、走り出そうとした。そのとき、背中から、蚊の鳴き声のように小さく、そして悲痛な呟きが聞こえた。
「そんなに、あの娘が大事なの……?」
走り出せなかった。彼女の声が、意思が、まるで植物の蔦のように、翔の未練を絡め取り、先へ行く足を止める。
そして思うのは、「あの娘」。彼女が言ったその言葉が指す人物は、おそらく澄香であろう。それ以外に、あの娘で思い当たる節がな
い。しかし、それは中野の知りえない話であり、またありえない話である。それなのに何故、中野があの事を知っているのか、その疑
問が無意識に口についた。
「どうして、お前……」
「ねぇ、答えてよ。あの娘の何がいいの?」
翔の疑問は中野の涙声にかき消された。
「私じゃ駄目なの?私はまだ綺麗だよ、汚れていないよ。それに翔だったら、汚されてもいいよ」
まるでミルクをねだる仔猫のように甘く、そして、どこか哀れを誘うその声に、ドキリと、胸がときめいた。普段の中野が見せる強気
な態度はすっかり影をひそめ、しおらしい部分が表に出ている。そのギャップが、翔の心に熱くてむずかゆい感覚を忍ばせる。しかし
、それでも決意は変わらない、いや変えてはならない。
「……何が駄目ってわけじゃないんだよ」
翔は背中を見せたまま、喉から声を絞りだした。が、決して振り返りはしなかった。おそらく今の中野は、彼女の中で一番可愛いい顔
をしている、と思う。振り返ったら、その中野の顔を見たら、せっかくの決心が揺らいでしまう気がした。


189:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:44:17 A21pw/ec
「じゃあ、どうして?」
心に染みる中野の声。
翔は考える。なぜ、澄香と付き合っているのか。そしてなぜ、中野ではなかったのか。その答えは。
「……何となく似てるんだよ、俺と澄香ってさ。だから、」
「どこがよっ!?全然似てないじゃないっ!!」
翔の言葉を遮り、中野がいきなり声を張り上げた。溜った鬱憤がついに抑えられなくなってしまったかのように、感情が溢れだし明ら
かに錯乱していた。
今の刺のつきでた中野に、がさつに触れると怪我をする。だから、翔はやり方を変える事にした。振り返り、中野の濡れた瞳を真っ直
ぐ見つめる。気丈に涙を溜め込んだ瞳は、気高く、息を飲むほど綺麗だった。そこから一筋の涙の趾が、ほんのりと染まった頬を通り
、薄く紅を指した口許にまで道を作っている。それは、大人の女性の顔だった。
やはり、中野は美しかった。輝いて見えた。しかし、決して心を揺るがせてはならなず、逃げてもならず、退いてもならない。複雑に
絡み付いた未練の蔦を、一本一本丁寧にほどいていくように、言葉を選びながら翔は問う。
「中野はさ、学校から家に帰った時、何をする?出来るだけ丁寧に思い出して答えてくれないか」
「何よそれっ!?そんな事、関係ないじゃないっ!!」
「関係、あるんだ。頼むよ、答えてくれ」
翔は中野から目を離さず、ジッと彼女の瞳を見つめる。中野も見つめ返してくる。しばらくすると、中野は翔から目を反らして、ぶっ
きらぼうに、
「まず、ドアを開ける」
一つ、蔦がほぐれた。
「次は?」
「……ただいまって言う」
二つ。
「ただいまって言うと、どうなる?」
「どう、って。奥からおかえりって声が返ってくる」
三つ目で、翔は溜め息をもらした。
「それ、だよ」
「え?」
「それなんだ。俺も澄香もさ」
中野は意味が分からないといった様子で、おおげさに髪を振り乱しつつ、
「ちょっと待ってよ!わけわかんないよ!!何がそれなの? 何が違うの?私が言ったのは当たり前の事じゃない!!誰だって同じ事
するわ!!」


190:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:47:26 A21pw/ec
当たり前。その響きが翔を悲しくさせる。昔から、翔にはその当たり前がなかった。
「その当たり前にさ、俺も澄香も憧れていたんだよ」
しみじみと、肺の空気を吐き出すように言い、翔は目を瞑る。深い暗闇に包まれ、あの時の孤独感と寂廖感が蘇る。その感覚をかき乱
すように、中野が息を飲むのが分かった。どうやら、隠された意味を察したようだ。翔は再び語り出す。
「俺は、澄香と同じ境遇だったし同じ経験をしてる、気持ちも分かる。だからこそ、ほっとけないんだ」
ゆっくりと瞼をあげると、そこには中野の白い顔があって、彼女は唇をきつく噛みしめ何かを堪えているようだった。やがて、その唇
がゆっくりと言を紡いだ。
「じゃあ翔は、あの娘と同じだから、行くの?」
頷く。おかしい、と、か細い声の後、まるで坂道を転がる車輪のように、中野の言は勢いを増していく。
「おかしい。そんなの、絶対おかしいよ!!そんなの、ただ同情してるだけじゃないっ!!」
中野の震える唇が、唾液で、ヌメヌメとねばついた光を放っていた。
「同情……か。ああ、その通りだよ。俺は多分、澄香に同情しているだけだ。だけど、それを理由にしちゃいけないのか?」
同情だっていい。寂しい時、苦しい時、誰かが側にいてくれるのであれば、それがどんな理由であっても構わない。翔はそう思ってい
るし、きっと澄香も同じだ。それに、同情がその先へと発展する可能性だってある。現に、澄香は変わりはじめ、翔も初対面の時には
考えられないほどの好意を彼女に抱いている。もちろんそれは、恋と言えるほど成熟した気持ちではないが、まだ先がある。ゆっくり
と、彼女に惹かれつつある。
それは別に中野が嫌いだからでも、ダメだからでもない。ただ、澄香の方が、澄香がいいからだ。
「かわいいとか、優しいとか、処女だからとか、そんな理由だけで恋に落ちるほど俺は謙虚じゃないんだ」
翔がゆっくり、しかし一つ一つはっきり言う。中野はうちひしがれたように表情を萎ませた。その言葉が、翔なりの拒絶だと理解した
のだろう。


191:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:48:56 A21pw/ec
「だけど、だけど、もう少しだけ、様子を見ようよ。あと、二時間だけなんだし、最後まで頑張ろうよ」
それでも中野は食い下がる。まるで母親に玩具をねだる幼児のように、彼女の瞳には期待と不安が同じだけ共存していた。
「いたずらだったら、取り返しがつかないよ?」
その言葉を最後に、彼女は声を失った人魚のように押し黙り、しかし、それでも声にならない声は確かに聞こえてくる。その唇が、頬
が、そして瞳が必死で翔に訴えかけている。それが、彼女の必殺の表情なのだろう。
ずっとおかしな話だと思っていた。メールの内容も、それが誰からのものであるかも、中野が知っているはずがないのに、知っている
ように思えてならなかった。しかし、そんな事はもうどうでもよくなっていた。
未練に絡み付いた蔦は、いつの間にかあと一本にまで数を減らしていた。弱々しく張り付いたそれを、今なら乱暴に振り払う事も出来
る。しかし、翔は最後の一本を丁寧にほどいた。
「……いたずら、か。まぁ、その時は、澄香が無事でよかったって思う事にするよ」
必殺の表情を浮かべていた中野の顔から、まるで凪のように表情が消えた。中野は呆然自失といったふうで、口を動かし、視線をさま
よわせている。そんな彼女に、翔はいつものようにおどけて見せた。
「もちろんその後、小一時間たっぷり説教してやるつもりだけど、な」
中野の体から力が抜けた。彼女はまるで枯れ葉のように、フラフラと廊下の壁にもたれかかる。そこから先は見ずに、翔は踵を返し階
段へと向かう。
途中、背中からむせび泣く声が聞こえてきたが、振り返りはしなかった。


192: ◆Xj/0bp81B.
07/05/19 01:50:21 A21pw/ec
投下完了。
次回から、誰かが狂い始めます。そしてようやく、話のテンポも上がる、はず。

193:名無しさん@ピンキー
07/05/19 01:54:08 8KFC6wJP
>>192
キタ―(゚∀゚≡゚Д゚)ムハァ―!!
リアルタイムで読めた俺は何て幸せなんだ・・・
とうとう修羅場フラグが完全に立ててしまった翔の今後にwktk!!

194:名無しさん@ピンキー
07/05/19 09:05:04 MaBqKXvG
私の作った御飯食べてよ。って2時間叩かれ続けた者ですが修羅場は近いですか?意地でも寝たフリしてたけどクズ主人公にはなれそうですか?

195:名無しさん@ピンキー
07/05/19 09:58:38 qVmu7CKg
翔が男になった――!
いやスゲェ始めて翔がカッコいいと思えましたよw
GJッス!

196:名無しさん@ピンキー
07/05/19 10:48:46 1riznWVO
>>192 こんなエロゲの主人公がいたら僕はもう…!!

197:名無しさん@ピンキー
07/05/19 12:05:15 AIQ27V1W
修羅場スレの主人公で始めて漢だと思える奴を見た。
なんか感動ですわー。

198:名無しさん@ピンキー
07/05/19 15:46:17 FlD9gq+C
>>194
2時間というのが嘘くさいが、もし本当なら修羅場は近いな。
とりあえず、彼女や奥さんだったら答えてやれ。

199:名無しさん@ピンキー
07/05/19 15:51:15 ecL3szlm
なんだかまとめサイトが重く感じるな。俺だけかな?

200:名無しさん@ピンキー
07/05/19 16:25:30 8KFC6wJP
>>199
俺のPCでは普段どうりだが、回線に何かあったんじゃね?

201:名無しさん@ピンキー
07/05/19 16:56:07 ecL3szlm
そうなのかなー
それにヤンデレSSのまとめサイトもちょい重く感じるんだよな
その2つだけ……それ以外は何の異常もないのはずなのに、どうしたんだべ

202:名無しさん@ピンキー
07/05/19 17:43:42 8KFC6wJP
>>201
お前のPCが嫉妬してるんじゃないか?
「あのサイトばかり見るんじゃなくて、もっと私を使って」とか

203:名無しさん@ピンキー
07/05/19 19:21:00 3EvCZAsV
どちらもFC2の無料HPだったような気がする・・


204:名無しさん@ピンキー
07/05/19 20:05:03 VNjX5TnL
んー、俺も多少遅い気がする
見れない程じゃないが

205:名無しさん@ピンキー
07/05/19 20:43:34 d0NHGRXb
多少とかちょっと程度で言われてもね

206:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:33:31 RiFlkXMF
投下します。前回同様区切りの都合上長いです。

207:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:34:10 RiFlkXMF
「……ッ!」
 多分店内の客の半数が俺に奇異の視線を向けているんだろうが、そんなこと気に掛けていられる
ほどの余裕は欠片もなかった。
 つい数秒前に送られてきた、改行も句読点もないのに律儀に漢字変換だけはしっかりされてある
奇怪なメールの文面が頭にこべりついて離れてくれない。正直最初は何かの悪戯メールだと思った
しその方が良かった。しかしそのメールには俺の名前が書いてあるから、知らない誰かが間違えて
しまったというケースはありえない。知り合いにしたって俺の友達にこんなに手の込んだ気色悪い
ドッキリを仕掛けてくる奴はいない。
 それにそんなに考えなくても、決定的なことがある。簡単なことだ、送信者の欄を見ればいい。
しかし、俺はそこを見るのを躊躇っている。だって、俺はその人物に心当たりがあるからだ。全く
の赤の他人ではなく且つ友達と言えるほど過ごした期間は長くない相手―、一人しかいない。
 店内の静寂と同化しそうなほどの微妙な動きで、俺は視線を送信者の欄へと向ける。そこには、
意味を理解し難い半角英数字の羅列が記されていた。だが、それを見て俺はデジャビュに似たもの
を覚えた。当然だ。俺はこのメールアドレスを見たことがあるんだからな。
 あの土手でこのメールアドレスを教えてもらえて喜んだ分だけ、その体験が容赦なく俺に現実の
重みを伝えてくる。
 俺は僅かに”そうでない”ことを祈りながら、携帯電話に映し出されているメールアドレスと、
別の手に持っているメモに記されているそれとを見比べる。そして俺の願いは儚く崩れ去る。
 二つのアドレスは、一方は冷たく機械的なのに対しもう片方は見ているだけで微笑ましくなって
くるような愛らしい丸びを帯びた文字であるという違いを除いて、一文字も違うことはなかった。
 愛しき佑子さんのアドレスと悪戯一歩手前の迷惑メールもどきを俺の携帯に送りつけてきた主の
アドレスが同じということが示す事実は一つ―このメールの送信者が佑子さんだということだ。
 こうも回りくどい道筋でこの結論を導き出したのは、俺が無意識の内に現実を受け入れることを
拒んでいたからなんだろう。素直にすぐに送信者の欄を見ればいいものを。自分でも呆れる。
 何で佑子さんが俺のメールアドレスを知っているのだとか、俺への呼称が”くん”から”さん”
になっていたりと不可解な点はあるが、それでも佑子さんが俺にメールを送ってきたという事実が
揺らぐことはない。
 意味もなく暴れたい衝動を何とか抑え俺はもう一度佑子さんからのメールに視線を向ける。
 理由はわからないが切羽詰った状況だということは一目瞭然。「ごめんなさい」を四回も書いて
いる辺りから推測するに、情緒不安定でもあるようだ。俺は謝られるようなことはしていないし。
 そのことについては直接佑子さんに訊くとして、今注目すべきは「私土手で待ってますから」と
いう一言だ。佑子さんの置かれている具体的な状態は俺には計り知れないが、とりあえずあの土手
にいるということだけは確定事項なようだ。助けてくれといった内容は書かれていないから危機的
状況だという訳ではないことだけが安心の拠り所だ。
 携帯を閉じメモと一緒に乱暴に鞄の中に押し込めるとそれを肩に掛ける。よし出発準備完了。
 とりあえずは佑子さんとコンタクトを取れないと話が見えてこない。まさか佑子さんがこの俺に
『実はドッキリでした』と言いたいが為にこんなメールを送りつけてきたとは到底思えないし思い
たくもない。仮に本当にこの二日間の佑子さんとの体験が全て仕組まれていたものだとしたら、俺
はその場で笑った後、家に戻って自室で枕を三つほど涙で濡らしてやる。そして一生女性不信症者
として余生を過ごしてやるさ。
 たとえ佑子さんが相手からの想いを面白がるような人だったとしてもだ、それでも許せてしまう
ほど俺は彼女のことを好きになっちまってるようだからな。
 行く末わからぬ決意を抱きつつ、俺は店を出ようとする―ところで思い出した。
「仲川……どこ行く気なの? ねぇ?」
 朝は悪戯っぽく笑い、昼は俺に怒鳴られて地に足が着いていないかの如く不安定に視線を泳がせ
て、一度俺が謝るとまた笑顔が復活して、そうかと思ったら今度は露骨なまでな作り笑いを浮かべ
て、意味不明なことを真剣染みて言った後俺にコーヒーぶっかけるとまた恐いほど悲しそうに瞳を
震わせ、挙句の果てには近寄り難い雰囲気を醸し出しながら目を見開かせつつ俺の携帯を弄る―
そんな風に表情がコロコロ変わる、佐藤早苗が目の前にいることを。

208:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:35:14 RiFlkXMF
「まだ話は終わってないのよ? ねぇ?」
 スカートの裾を掴みながら俺に視線を向けてくる佐藤早苗の今の表情は、言動こそ強気だが非常
に不安定なものだ。自身に滞在する不安や恐怖を強気で隠しているような感じだ。
 今日で随分とこいつの表情を見たなと思いつつ、俺は佐藤早苗から視線を逸らす。
「佑子さんとこ」
 短く簡潔な言葉を投げやりにぶつけてやる。これだけ言えば伝わるだろという無言のメッセージ
を乗せながら。
 素っ気無い態度で接っしてしまうのは佑子さんからのメールを見て早く行かねばと焦りが生じて
いるというのもあるが、本音を言えば佐藤早苗に対し怒りを感じているからというのが最大の理由
だ。自己正当化という面を含めても俺が激しい憤りに駆られるのは仕方のないことだと思う。別に
義理チョコのことに関してはもう何も感じていない……と言えば嘘になるが、少なくとも憎しみの
業火が燃えているとかいったことはない。佐藤早苗にチョコについて確認をしなかった俺にも非が
あったと今なら思える。ちなみにこれは佑子さんの件については全く当てはまらない。佑子さんが
好きだった男は愛しの彼女にキスした上に、『キスくらいで勘違いするな』とかどこぞのインチキ
占い師も裸足で逃げ出すような妄言を吐いたらしいからな。是非ともその男に一度会ってみたい。
勿論有無を言わさずそいつの顔面の形を趣味の悪いものになるまで叩っ壊す為にな。
 それはまた別の機会にするとして、今の問題要素は寒くもない喫茶店内で何故か震えている目の
前にいる佐藤早苗だ。こいつは俺が土手で佑子さんへの想いを教えてやってから色々と挙動が露骨
に不審なものになっている。作り笑いを取り繕ったと思ったら、次は執拗に佑子さんとの付き合い
を止めさせようとして、挙句の果てには俺の携帯を勝手に弄りだしやがった。しかも佑子さんから
貰ったメールアドレスを着信拒否設定にしようとしやがるなんて……!
 ―つまり、それが俺がさっきから佐藤早苗と目を合わせようとしない理由だ。
 多分今の俺は結構酷い顔をしていると思う。逸る気持ちと心底に沸々と煮滾っている怒りを抑え
込む為に、かなり表情が歪んでいるのではないかと。そんな醜い顔を見られたくないし、それに何
より―もし佐藤早苗と目を合わせたら俺はまた最低な行為をしてしまうかもしれない。それが、
一番恐かった。佐藤早苗を佑子さんとの距離を錯覚させる為の目晦ましに利用してしまったことを
散々悔いて謝ったばかりなのに、また彼女を傷付けてしまうのではないかと自分自身に疑心暗鬼に
なってしまっているのだ。今の俺はそれを自覚できるほど情緒不安定だ。何をするかわからない。
「俺が金持つから、今日はこれで」
 明日友達に自慢しようと意気込んでいたはずの代金払いだって暗澹たる心持のまま、乱暴に机の
上に数枚の硬貨を置くだけになってしまった。
 物事が上手く進まないことが更に俺の中に焦燥感を生むのを感じつつ、それらを振り払うように
駆け出そうとする―がしかし。
「待って」
 腕に温かみを感じたと同時に、急激に体の重みが増した気がした。何事かと振り向いてみると、
佐藤早苗が俺の腕に自分の両腕を絡めていた。いつもなら赤面もののラッキーイベントなのだが、
足が勝手に歩き出しそうなほど急いでいる今では煩わしくしか感じられない。それに、正直言うと
今俺のことを見上げてくる佐藤早苗の視線が鬱陶しい。俺がそう感じたのは佐藤早苗のその媚びる
ような瞳が佑子さんにそっくりに見えてしまったからだ。
 ―佐藤早苗、お前が佑子さんと同じような目線を俺にくれてくんじゃねぇ。
 すぐに餌を逃がすまいとする大蛇のように気持ち悪く絡み付いてくる佐藤早苗の腕を振り払って
やりたい衝動を理性でどうにか抑え込み、なるべく穏やかな口調で言う。
「佐藤、急いでるんだ。離してくれ」
「嫌よ……。あたしの話聞いた後でもいいじゃない……」
「話ってのは、佑子さんと俺は付き合わないほうがいいってのだろ? 耳に蛸ができそうなくらい
聞いたよ。この際だから言っておくが、俺が佑子さんを好きだって気持ちは変わらねぇ」
 徐々に荒くなりかけてきた声に沈静化を図りつつ腕を動かそうとするが、その細い腕からは想像
もつかないほどの力で俺の腕を掴んでくる佐藤早苗を前にしてそれは無駄に終わった。
 そのあまりのしつこさに、そろそろ限界を感じる。
「離せ」
「嫌……! だって、離したら仲川は”あの女”のとこへ行くんでしょ!?」
「当たり前だろうがっ!!」
 そして心の箍は音を立てて外れた。

209:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:36:18 RiFlkXMF
 さっきまでの心の葛藤が嘘のように、俺は何の躊躇いもなく佐藤早苗の腕を乱暴に振り払う。
「きゃっ!」
 小さな悲鳴を上げた佐藤早苗は俺が振り払ってやった方向に抵抗の余地も示さずに、まるで何か
紐のようなもので引っ張られるように床に吸い込まれていった。その悲鳴とは対照的に佐藤早苗は
派手な音を立てながら床に尻餅を着いた。痛そうに尻を押さえている佐藤早苗を一瞥しつつ、俺は
振り払った時に感じた佐藤早苗の体の軽さに驚きを隠せなかった。俺の腕を”藁にも縋る思い”と
いう言葉がぴったりなほど強く離すまいとしていたあの腕の力が偽りだったのではないかと疑って
しまうくらい軽かった。その壊れ物のような脆さを感じた時俺は佐藤早苗の『女』を再認識した。
 思わず佐藤早苗を振り払ってしまった腕を見つめる。俺はこの腕で乱暴を働いてしまったのだ。
あんなに弱々しい『女』の面を持った佐藤早苗を、『男』の俺が傷付けてしまったのだ。佐藤早苗
に対して申し訳ないという気持ちは欠片も感じていないが、我を失って女の子を傷付けてしまった
ことは男として恥ずかしい。いや、恥ずべきことだ。
 俺が羞恥心から戸惑って立ち尽くしている中、佐藤早苗は腰を上げないまま俺を見つめてくる。
その視線に現実に引き戻された俺は、一瞬佐藤早苗を流し見た後交錯させまいと再び視線を逸らし
両の拳を握力測定でもするかのように強く握り締める。
「佑子さんのことを”あの女”だなんて呼ぶんじゃねぇ! お前は佑子さんのことを知らねぇから
うだうだ言えるんだ! 佑子さんは綺麗で律儀で笑顔が素敵でっ、そんで優しいんだよ。お前とは
違って優しいんだよっ!!」
 佐藤早苗は本当に佑子さんのことを知らないんだからこんなこと言ったって理解してもらえる訳
ないとわかっていても叫ばずにはいられなかった。いや、知らないからこそ俺は腹の底から大声を
張り上げているのだ。佐藤早苗は佑子さんのことを何一つ知らない。濁りなどどこにもない黒い瞳
は一日中見ていても飽きないだろうとか、長く垂れている黒髪から漂うシャンプーの匂いは鼻腔を
刺激し思考回路を鈍らせるほど甘いだとか、小さい両肩は握り潰せてしまいそうなほど柔らかいだ
とか、―笑った顔は可愛いだとか、何も知らないんだ。
 ―なのに、佑子さんのことを悪く言うんじゃねぇ。
「他人のチョコは平気で蹴り飛ばし、俺の携帯も当たり前のように使って、見知らぬ相手に陰口を
叩くようなお前なんかがっ! 佑子さんのことを悪く言うんじゃねぇー!!」
 俺の激昂の怒声と共に、胸の中の靄が全部吐き出された。今まで溜め込んでいた、我慢していた
ものが全て漏れてしまった。幾ら好きな相手を侮辱されたからといって、短絡的過ぎる。
 荒い息を何とか落ち着かせようとしながら、徐々に冷静になっていく思考を前提に、佐藤早苗を
もう一度だけ見る。
「あっ、ちがっ……なかが……わ……」
 佐藤早苗は瞳を小刻みに震わしながら、尚俺へ向ける視線をそのままに、呻きに近い声を上げて
いた。その様は迷子になった子供のようだ。目線だけを俺に固定し、両手が何かを手探りするかの
ように動いている。そのあまりの動揺ぶりに、さすがの俺でも少々罪悪感を覚えてしまう。だが、
悪いのは佐藤早苗だ。こいつは佑子さんを馬鹿にしたんだ。ここで場の空気に流されて謝罪したり
したら、佐藤早苗の為にもならないし、それに佑子さんを裏切ったような気分になる。
 ―下らない同情は、相手の傷を抉るだけだ。
 そう自分に言い聞かせながら、俺は佐藤早苗を尻目に走り出す。今すべきことはこんなことでは
ない。こんなところで佐藤早苗なんかと時間を割いている暇はなかったんだ。
 今佑子さんが一体どんな表情をしているのかを考えながら、俺は自動ドアに近付く。そこで俺は
ようやくここが喫茶店内だったことを思い出した。佐藤早苗と俺の口論―というか俺の一方的な
罵声だが―は当たり前のように周りの客や店員に筒抜けだっただろうな。
 急に気恥ずかしくなり、俺は慌てて開いた自動ドアに身を滑らす。
「仲川! 仲川! な、なか、がわぁ……」
 佐藤早苗の嗚咽が耳にこべりついてしまったが、聞かなかったことにして俺は走る。
 今はただ佑子さんのことが心配だ。メールを送れるんだから、最悪の想像はしなくても良さそう
だが、それでも何かあったら俺は自分を許せないだろう。
「無事でいてくれ」
 佑子さんにでも、俺自身にでもなく、ただ誰に向けたものでもない呟き声が激しく行き来してる
自動車の機械音の喧騒でかき消された。


210:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:37:17 RiFlkXMF

 傾きかけてきた太陽が橙色に染め上げている砂利道をひたすら突き進む。わざと爪先から地面を
捉えて更に足を後ろに思い切り流しているのは、それによって生じる砂利が擦れる音を耳に響かせ
『雑念』を振り払おうとしているからだ。それが単なる逃避に過ぎないとわかっていても、それが
不誠実なことだとしても、今優先すべきは佑子さんの下へ行くことだけだ。他はどうでもいい。
 その間だけでいいから、何の蟠りも抜きにして一つの目的に執着させて下さいと祈りながら、俺
はさっきまでの佐藤早苗とのやり取りを思い返し、本日四度目の自己嫌悪を覚える。一日にそんな
に感じていたんじゃ一回の自己嫌悪が秘める反省の意の重みが薄れてしまうなとは思いつつも、今
さっきの行動を省みなかったら最低男確定だという自覚の下、心中で佐藤早苗に謝る。

 俺は危惧していた通り、また佐藤早苗を”利用する”ことで傷付けてしまった。こうも同じ過ち
を何度も繰り返していると、俺が今まで佐藤早苗に対して感じていた罪悪感というのは全て、反省
している自分に陶酔する為の手段なんじゃないかという最悪の考えすら浮かんでしまう。だって、
子供だって一度叱られたら悔いて同じ間違いをしまいと努力するだろう。しかも俺は既に高校生で
あり、更に言えば佐藤早苗と佑子さんの二人合わせて三度も彼女らを利用するという非行を犯して
いる。だからこそ反省すべき機会はこんなにもあった。なのに、―その時は反省した気でいたが
―、結果として俺はまた佐藤早苗を傷付けてしまった。
 確かに佐藤早苗の行動は許せないものだ。然程親しくもない相手にいきなりプライバシーの宝庫
である携帯を弄られちゃ堪ったものじゃない。そのことについては良かった。だが、俺はそのこと
以外にも別のことで怒っていた。俺が佐藤早苗に言った言葉は何だった?

 ―『佑子さんのことを”あの女”だなんて呼ぶんじゃねぇ!』

 その後怒涛の罵声で佐藤早苗を震え上がらせてしまった。それも一見悪いことのようにはとても
見えなかった。自分が好きだと伝えているはずの人物を冒涜されるのは単純に嫌だからな。勿論、
俺は佐藤早苗が然るべき報いを受けていると言い訳染みたことで自分を納得させ店を出た。だが、
もう少しで春とは思えないほど冷え切っていた空気が思考を瞬間冷却させた時気付いてしまった。
冷静になった頭が見たくもない自身の醜い部分を態々と見せ付けてきた。

 俺の佐藤早苗に対する怒りの目的は佑子さんのことをわかりきっていると思いたかったからだ。

 つまり多少は佑子さんを労わる気持ちもあったが、本音ではただ佑子さんのこと全部を知った気
でいたかっただけなのだ。俺が佐藤早苗に”佑子さんのいいところ”を言ったのは、俺は佑子さん
のことをこれだけ知っていると主張したかった子供染みた幼さ故なんだ。
 そしてその過ちの引き金となったのは、俺の奥底で心を震わすほど叫んでいる不安だ。
 ―俺は佑子さんのことを全然知らない。
 当然のことと言えばそれで片付く。俺と佑子さんは会ってまだ二日なんだし、お互いに知らない
ことがあるのは当たり前だ。これから知っていけばいい。
 だが俺は待てなかった。正直焦っていた。佐藤早苗とのバレンタインからホワイトデーまでの例
の一件で、俺はかなり女性不審に陥っていた。佑子さんを信用してないという訳ではないのだが、
どうしても確信が欲しかったんだ。俺と佑子さんは”どこかで”繋がっているはずという確信を。
 だから、その為に佐藤早苗を利用したんだ。佑子さんのことを”何一つ知らない”佐藤早苗と、
”少しは知っている”俺―、その二つを天秤に掛けることで安心を得ようとしていたんだ。二つ
を比較すれば五十歩百歩と言えども俺の方が優勢であることはわかる。そんな虚しい自己満足だけ
では飽き足らず、更に俺はその天秤の傾きを強制的に大きくする為に佐藤早苗に怒声を浴びせた。
今佐藤早苗に怒っているのは、”何一つ知らない”佐藤早苗に”佑子さんのことを全て知ってる”
俺が教えてやらなければならないからなんだ、と真実を暈す為に。
 佐藤早苗への説得の意も、佑子さんへの労わりも、そんなものはどうでもよくて俺は自分がして
いることへの正当性が欲しかっただけだったんだ。自分は他者に説明できるほど佑子さんのことを
知っているんだとアピールすることによる満足感と、それを言い聞かせることで得られるであろう
安心感欲しさ故に。
 誰か、こんな愚かで馬鹿でクズな俺を叱ってくれ。それで変われるなら喜んで受けるから……。

211:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:38:32 RiFlkXMF


 風は吹いていない。こんな時こそあの煩わしい音で何も考えられないようにして欲しいのにだ。
それをあたかも俺に対して自省を求めているかのように感じるのは、少々自意識過剰かな。
 一瞬、”今俺が思っている反省も結局は自分の為なのではないか”という恐ろしい考えが過った
のと同時に、俺は足を止めた。
 心臓が今にも飛び出しそうなほど体内で暴れ回っているのは、さっきまでの全力疾走だけが全て
の要因じゃないだろう。頼んでもいないのに勝手に呼吸する両肩を放っておき、俺は視界に捉えた
人物の背中を一心に凝視する。スカートが汚れることを厭わずに土手に座り込んでいる後姿を見て
俺が既視感を覚えたのは言うまでもない。奇しくも昨日とほとんど変わらない場所で、しかし昨日
とは違い俺と会う為に待っている人影を見下ろしながら、俺はとりあえずの安堵に息をつく。
 予想通り―というか期待通り無事でいてくれたことに心底でホッとしつつ、人気のまるでない
土手の真ん中で存在感をこれでもかというくらい見せ付けている小さい体に向かって叫ぶ。
「佑子さーん!!」
 俺の声が土手に二、三度反響した後、座り込んでいた佑子さんは居心地の悪い沈黙の中で静かに
首だけをこちらに向けてきた。そのスローモーションに等しい動きは、襖の奥を見ないで下さいと
念押しされたにも拘らず好奇心に負け「ちょっとだけ」と言い聞かせながらその先に何があるのか
知る由もなくそっと障子に手を掛けた、『鶴の恩返し』のあのおじさんの様をイメージとして彷彿
させた。
 遠くからだからはっきりとはわからないがとりあえず佑子さんと目が合っていることだけは確認
する。続いて俺の存在にようやく気付いたらしい佑子さんが神速の域に達しそうなスピードで立ち
上がる。それに驚きつつ、引き続いて目を凝らす。
 しばらくそのまま”見ている”ことだけの認識で目を合わせ続ける。佑子さんが一体どんな表情
で、そしてどんな胸中で俺のことを見ているのかを考えると不安が心中に一気に広がっていくのが
わかる。佑子さんが無事でいるということは、あの意味不明なメールを佑子さんは何者かに強制的
に送らされたんじゃなくて自発的に送ってきたということだ。だから恐いんだ。少なくとも、今の
佑子さんの挙動を見る度別段不審な点は見受けられない。とてもあんな非常識なものを送りつけて
くるような人には見えない。決して知ったかなんかじゃなく、そんなことはわかっている。問題は
今は落ち着いている佑子さんがメールを送ってきた時どんな状態だったかということだ。あれだけ
のものを常識的な思考を持ち合わせているはずの佑子さんが作ってしまうということは、それだけ
の理由が何か存在するはずなのだ。その”何か”はきっと大きいものだと思う。それを知って俺は
受け止めることができるのあろうか? それだけの覚悟があるのだろうか?
 立ち尽くしたまま考えること数秒、俺は余計な推測を全て打ち切ることにした。そもそもこの場
に来たのは、その『理由』を訊く為に佑子さんと話したかったからだ。もっと言えば、佑子さんが
来てくれと言ってきたからだ。ならば俺の胸の漂うモヤモヤを吹き払う為にすべき手段は、焼け石
に水な推測ではなく、佑子さんに直接質問することだ。確かに、佑子さんに異変が起こったことに
対して相当な理由があるのは事実だ。だがその理由は俺がどう足掻いたってわかることではない。
わからないことにビビっていたってしょうがない。わからないから恐いというのもあるが、そんな
ことに臆していて、何故佑子さんを好きだと言えるのだろうか?
 佑子さんを好きだというなら、彼女の奇行の引き金となった”何か”を排除するのが愛への証明
になるはずだ。その為にはまず知らなければならない。そして知ってからその後は考えればいい。
もしそれを知って尚佑子さんを好きでい続けるなら良し。その”何か”に恐怖し、そこから逃げる
為に愛想を尽かしてしまうというなら、それは俺の佑子さんへの愛情がその程度だったということ
だ。後悔しようが仕方ない。要は、”せずに後悔するより、して後悔しろ”、だ。
 決心を固めると、さっきまで縛られている時のガリバーの気分を存分に味わっていた足が、嘘の
ように軽くなる。今なら行けると波に乗った俺は、急な坂を転びそうなほどの速さで下っていき、
再び平坦な地面に足を降ろしたことを確認して、懸念事項だった佑子さんの表情を伺う為に視線を
上げる。
「こんにちは」
 佑子さんは笑顔で言った。その様子は、”あの時”の佐藤早苗にそっくりだった。

212:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:39:22 RiFlkXMF
 俺が佑子さんを好きだということを今いるこの土手で伝えた時に、佐藤早苗が作為感漂う笑い声
を発した、正にあの時に似通っていた。だって、佑子さんが俺に向けてくる笑顔は”ぎこちなさ”
という点で言えば、あの時の佐藤早苗の笑い声を遥かに凌駕していたから。パズルが一ピースだけ
足りないからといって他のパズルのピースをその空いた空間に埋め込んだ時の不自然さ、というと
わかり辛く聞こえるがそんな感じだ。本当の顔を笑顔で塗り潰していると露骨に感じられる。
 姉の髪型がロングからショートに変わった時に言われるまで気付かなかった鈍感な俺ですから、
手に取るようにわかってしまうその異様さに思わず息を呑みながら、佑子さんとの距離を埋める為
に一歩近付く。
 そしてそれと同時に、佑子さんが俺のより短い歩幅で一歩後ずさりした。
「佑子さん?」
 何かの間違いかと思い訊いてみるが、佑子さんは「はは」とお茶を濁す時専用の作り笑いで俺の
発言を流そうとしてくる。何の冗談かと言いたくなるのを堪え、もう一歩踏み出す。当然のように
佑子さんはまた一歩後ろに下がる。真意の読めないその行動に、俺は寂しくなる。
 今の俺と佑子さんの心の遠隔を表すかのように伸びている十歩ほどの距離が、どうしようもなく
胸に突き刺さる。”俺が佑子さんの全てを知っているという訳ではない”という受け入れ難いほど
重い現実がそこにはあるのだから。だが、そこから逃避してはいけない。その為にさっき佐藤早苗
を傷付けてしまったことを忘れるな。利己的な欲望で他人を傷付けて、その後”自己満足の為の”
自己嫌悪に陥るなんていう負の無限ループを辿るのはもう御免だ。少しは自分が傷付く覚悟で行動
しなければならない。それが”本当の意味での”贖罪に当たるのは明白だからな。
 ―佑子さんの全てを俺は知らないから、これから知っていこう。
 そう言い聞かせ、その為に罠があることがわかっているダンジョンに乗り込むような面持ちで俺
はもう一歩近付く。遅れて佑子さんが一歩下がる。改めてその事実を目で再確認した後、ようやく
俺は初めて傷付くかもしれないことを覚悟した上で訊ねる。
「何で逃げるんですか?」
 ビクリと肩を震わした後、佑子さんはさっきまでの笑顔のまま両手を振る。
「に、逃げてる訳じゃないんですよ。ただ……」
 口篭ったと同時に佑子さんは俯いた。胸が裂けん想いだったが、ここで堪えられなければ今まで
の決意がやはり”自己満足の為の”産物だと認めてしまう。それの方がよっぽど耐えられないね。
強がりだとわかっていても関係ない。俺が佑子さんを好きだという気持ちを否定されることだけは
何があっても避けなければならない。
 佐藤早苗は、「会って二日なのにおかしい」と言っていた。確かにそうなのかもしれない。一目
惚れが大抵途中で冷めてしまうのは一瞬の緊張を恋愛感情だと取り違えてしまうから。それと同じ
で、俺も自分の『痛み』を理解してくれる佑子さんという『存在』の登場に驚いて妄信的にそれに
甘えているのかもしれない。それを恋心と間違えていているだけであって、しばらくしたら今まで
どうして好きだったのか思い出せないほど冷めてしまうのかもしれない。
 だが、『今』俺は佑子さんを好きだということは『確信』を以って宣言できる。なら、『確信』
のない不安定な未来の機嫌伺いをしながら行動するだなんてのはただの杞憂だ。
 俺は一体いつから、こんな出世だけを考えているゴマ擦り会社員のようになってしまったのかと
呆れながら、もう一歩近付く。しかし、今度は佑子さんは動かなかった。代わりに佑子さんは、
「あ……あれ?」
 自分の眼を拭った指に付着している涙を見て心底驚いている素振りを見せてきた。
 俺が”佑子さんが泣いている”と理解したのと同タイミングで佑子さんの口から嗚咽が漏れた。
「え!?」
 その姿に狼狽してしまう。そんな俺をよそに、佑子さんは途切れ途切れに発せられている嗚咽を
押さえようと手で口を覆う。そうするとさっきまで濡れていた瞳から堰を切ったように涙が零れて
くる。それを拭おうとすると震える唇から声が漏れてしまう。
「あっ、あっ、止まっ、てく……どうし、て、あっ……」
 信じられないと主張するかの如く見開かれた瞳をしきりに瞬かせながら、今度は片方の手でそれ
ぞれを押さえる。安定したかに見えたがどんなに押さえても震える体だけは誤魔化せず、佑子さん
は手で口と眼を隠したまま、膝を折り畳んでしまった。
「なっ! 仲川さん、これはち、違うんです! ご、ごめんなさい……!」

213:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:40:20 RiFlkXMF
「どうしたんですか!?」
 やっとの思いで声を搾り出す。佑子さんの異変ぶりを『目』で目の当たりにし、その衝撃に半ば
放心状態だった意識を無理矢理連れ戻したことで、余計に現実を直視してしまう。
 「ごめんなさい」だけをうわ言のように繰り返す佑子さんを見て、あのメールの送り主がやはり
彼女だったということを確認しつつ一歩近付く。佑子さんは動かない。
 距離を詰めながら、今までなら自分の中で思案するだけに終わっていた疑問を素直に訊く。
「佑子さん……何で謝るんですか? 俺、何かしました?」
「ごめんなさい! 嬉しくてつい……。泣いたら鬱陶しいですよね!? す、すぐに止めます!」
 俺の質問も聞こえていない様子の佑子さんは片手で口を押さえるのを既に止めて、消え入りそう
な嗚咽を溢しながら両手で目を擦っている。目隠しされた状態で道を歩く時壁を闇雲に手探りする
ように顔の近くで両手を右往左往させている佑子さんの様子ははっきり言って異状だったが、耐性
が付いたようでもう動揺することはなかった。とにかく今は、下手したらそのまま目を抉りそうな
勢いで愛らしい瞳を弄っている佑子さんをどうにかしなければならない。
 一度決めるとブレーキの壊れた車の如く体は止まることなく真っ直ぐ佑子さんに向かって進む。
さっきまで果てしないほど遠くに見えた”近くて遠い”距離を一瞬で埋めて、俺のことすら眼中に
入っていない佑子さんの両手を掴む。その呆気なさに拍子抜けしつつ佑子さんの瞳を捉える。
「謝らないで下さいっ!」
 相手の目を見て話すという会話の基本を一方的にこなした上ではっきとした口調で告げる。佑子
さんが謝るのには絶対に理由があるのはわかり切っている。二日間佑子さんを見た記憶と、今俺の
前で涙を流し続けている佑子さんの様子がそれを物語っている。だけど俺はその理由を知らない。
理由も知らずに謝罪を繰り返されても戸惑うしかない。だからまずそれを知らなければならない。
たとえ知った後後悔するようなものだったとしても、俺はそれを知る為にここに来たんだ。
 佑子さんの両手を話した後、今日の放課後触れてしまったことを恥ずかしく思ってしまった肩を
躊躇なく強く掴む。その肩は柔らかかった。『女』を感じさせる温かみと弾力が掌に伝わる。それ
は佐藤早苗の細々とした腕の感触にそっくりだった。
 自らの過去の愚行を真摯に受け止めつつ更に言葉を紡ぐ。
「俺には心当たりが全くないけど……何で、どうして佑子さんは謝るんですか? この俺に?」
 肩を僅かにだけ引き寄せながら、佑子さんの耳から直接脳に叩き込むようにじっくりと言った。
 今度こそちゃんと俺の言ったことを理解してくれたようで、まだ涙の雫で濡れている瞳を静かに
向けてきた。その目は何か言いたげな感じで、表情も狐に抓まれたようにポカンとしている。その
様子を見て数秒、俺はその理由の片鱗に少しだけ触れた気がした。
 同時に押さえ込んでいた不安がぶり返してきた。嫌な想像が頭を駆け巡り、佑子さんの肩を未だ
に掴んでいる両手の掌から気持ち悪い汗が噴出すのを感じる。
 視線が交わるだけの沈黙が余計に最悪な想像を刺激し体が固まる。
 息遣いが聞こえてくるほどの距離にある佑子さんの小顔にドキドキしている余裕もないくらいに
俺の心が荒れている中、佑子さんは危うく聞き流しそうなほどの小声で言った。
「だって、”仲川さんが”……」
 その発言を俺はすぐに受け入れることはできなかった。
 瞬時に逃避経路を確保しようとする自分を必死に叱咤した後、改めてその発言の真意を探って、
そして項垂れかける。本当なら今この場で何度も地面に頭を打ち付けたい気分だ。
 佑子さんは確かに言った、”俺の名前”を。ということは佑子さんが俺に謝る理由として、少な
からず”俺が”関係していることは明白だ。

 ―それはつまり、佑子さんの今までの不可解な行動は全て”俺が”原因だということだ。

 佑子さんが、あんなメールを送ったのも笑顔の仮面を貼り付かせていたのも突然泣き出したのも
急に”さん”付けでよそよそしくなったのも―全部俺のせいだったのか。
 いや、薄々は気付いていたさ。佑子さんは俺に謝るのを当然だと思っているが俺にその心当たり
はない。それは佑子さんが”俺に絡むことで”何か勘違いしていることの何より証明じゃないか。
気付かなかった……いや、気付かないフリをしていただけだな。自分のせいで好きな人を泣かして
しまっているだなんてことは誰だって信じたくない。俺は結局また逃げてたのか……。
 でも―。

214:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:41:30 RiFlkXMF
 自省は後回しだ。俺の自己満足に佑子さんを巻き込むなんて事態に発展させる訳にはいかない。
自分を卑下するのは佑子さんの涙を止めて、そしてあのような花の笑顔をもう一度拝んでからだ。
俺は佑子さんの泣き顔を見る為に今までの愚行を反省していたんじゃない。無意識下での逃避に
勝手な自己嫌悪を感じている暇があるなら、すぐにでも佑子さんを宥めるべきだ。
 マイナス思考に急直下しそうだった気持ちに修正を施し、ようやく十数秒間の心ここにあらずな
感覚の浮遊旅から目覚める。明確な意志を以って佑子さんを見ると、一度は収まったかに見えた涙
の波が再び押し寄せていた。顔がびちょびちょに濡らしながら、縋るような声を発してくる。
「だって……仲川”さん”が……」
「俺が何を?」
「メールで……」
「メールで?」
「…………」
 またもや押し黙ってしまった佑子さんの様子に重くなる心を隠して次の言葉を待つ。チラチラと
何度か視線を合わせては逸らしを繰り返す佑子さん。その様子からは露骨に躊躇の意が込められて
いた。
 佑子さんが躊躇うほどの理由―それに身震いしてしまいそうな自分を抑えていると、佑子さん
は徐にスカートのポケットに手を入れた。探すという動作もなく、滑らかにポケットに滑り込んだ
手はそのまま佑子さんのものと思われる携帯電話を取り出していた。装飾の施されていない真っ白
な携帯電話。女の子にしては質素だなと思いつつ眺めていると、佑子さんは微かに震えてはいるが
馴れた手つきで携帯を操作する。画面だけにしっかりと視線を投げ掛けている佑子さんの姿はそれ
はとても微笑ましいもので。こんなことにも一生懸命だなあと少しだけ穏やかな気分になる自分に
僅かばかりの呆れを感じつつ見守ること数秒、手の動きを止めた佑子さんが視線を斜め下に向けた
上で、操作し終えた携帯電話の画面を控え目な動作で見せてきた。

 ―『あんた馴れ馴れしい近付くな』

 それだけ書かれたメールを見て、俺は生唾を飲み込んだ。途端に全身の毛が逆立った気がした。
何だか口からも汗が出てるんじゃないかと思うくらいの不快感が背中を燻っている。
 ―誰が送った?
 こんなふざけたメールを佑子さんに送ったのは誰だ? それを確かめるのは簡単だ。送信者の欄
を見ればいい。だが、俺は躊躇してしまった。恐かったから。
 あの時―佑子さんから来たあのメールの送信者を確認した後に感じた絶望感をまた味わうかも
しれないという恐怖が俺の顔を動けなくさせてしまう。これこそ杞憂だ。確定してすらいない未来
の先を伺うのは無駄だしもう止めようと決意したのに、それでも恐い。きっと俺が視線を”そこ”
へと向けたら、辛い現実が待っている。まず間違いなく。上手く考えられないが、今までの経験が
無意識の内に合体やら何やらを繰り返し弾き出した”絶対的な”結論……。
 それでも―!
 見なければ話は進まないし、俺は現実を見つめなければならない。贖罪の為にも。佑子さんが俺
が原因で悲しんでいるというのであれば、佑子さんから笑顔を取り戻すことが最大の罪滅ぼしだ。
その為にも、俺が自己中心的な身勝手な行動を取ることは許されない。覚悟を決めたじゃないか。
佐藤早苗を傷付けてしまった時に、もう二度と後悔するようなことはしないと。
 今ここで逃げたら、確実に俺は後悔する。過去の弱い自分の呪い殺そうとする。俺はずっと過去
の自分に対して呪詛を唱え続けていたからわかる。もう”間違えては”いけないんだ。
 少しだけ目を閉じて心を落ち着かせた後、俺はゆっくりと首を動かした。そして自身の視線で、
その先の『現実』を見つめる。

 送信者は、俺だった。

 高校生になってようやく買ってもらい、設定の仕方がわからないということで姉に無理を言って
設定してもらった、名前と誕生日という今時誰もしないだろうメールアドレスがしっかりと送信者
の欄に記されていた。
 俺の名前がローマ字で書いてあったからメールの送り主が”俺の携帯から”だってわかったんだ
なと理解しつつ脳が捩れそうな不安定さを覚える。
 だって俺はこんなメールを送った覚えはない。
 ―なのにどうして?
 だが俺はすぐに疑問追求を後回しにすることにした。”俺が”送ったか送ってないかなんてこと
は些細なことだ。問題は佑子さんの立場からのことだ。佑子さんから見れば、俺のメールアドレス
でこんなメールが来たら、俺が送ったとしか思えないだろう。どんなに信頼しているとしても。
 結論―佑子さんは俺が”このメール”を送ったと思い込んでいる。

215:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:42:44 RiFlkXMF
 頭の中で歪に渦巻いていた疑問の数々が居場所を見つけ、それらの全てががっちりと歯車に噛み
合うような感覚を覚えた。そのことに関して、何日も暗い部屋に監禁された後に外の空気を吸った
らこんな爽やかな気分になるんだろうなと思いながら、今までの状況を整理する。
 佑子さんの行動は全て、俺に「近付くな」と言われたと思い違いをしているが故だ。きっとあの
メールを送ってきた時の佑子さんは俺が自分を鬱陶しく思っていると勘違いしていただろうから、
かなり切羽詰っていたんだ。そう考えると、急にあのメールが可愛らしいものに思えてくる。俺に
近付こうとしなかったのだってこれ以上俺を不快にさせたくないからだろう。俺のことを”さん”
付けに変えたのだって、距離を置こうとする為だ。
 そしてそれら行動の全てには、―”俺に嫌われたくない”という想いが滲み出ている。
 普通会って間もないような相手に煙たがられたら、不快になるかその相手のことを嫌いになるか
のどちらかだ。しかし、佑子さんはその逆で、”俺との関係が切れる”のを恐れた。
 それはつまり―。
 今までの自分なら都合良過ぎと笑い飛ばしていたであろう憶測が現実味を帯びて脳裏に過ぎる。
佑子さんを悲しませてしまったことに罪悪感はあるが、それ以上に今は嬉しい。今ならメジャーの
スーパーピッチャーが投げる超剛速球も鼻歌を歌いながら場外まで飛ばせるだろう。
「私……仲川さんの邪魔にならないようにしますから……だから、これからも会って下さい……」
 佑子さんはもう涙を止めることもせずそれを垂れ流し続けている瞳で俺のことを見上げてくる。
その目は、昨日佑子さんが自分の悲恋話を俺に聞いて欲しさそうにしてきた時の目、そのままだ。
自己を抑えながらも溢れかけている”主張したい”という想いが溢れている媚びた瞳。はっきりと
綺麗だと思った。この美しい瞳をずっと見続けていたい。見つめられていたい。
 そして、この瞳の輝きを彩るように添えられている涙―それがもし嬉し涙だったらどうなるの
だろう? させたい。
 佑子さんの幸せな笑顔から一筋流れる涙―想像しただけで抱き締めたくなる。
 そして、それを成し遂げる為にすべきことは簡単なことだ。
 俺はその言葉を言えばいい。
「佑子さん、俺、あたなをウザいだなんて思ったことは一度もありませんよ」
「え?」
 腑抜けた声を漏らしながら目を丸くする佑子さん。
「神に誓って、あのメールは俺が送ったもんじゃありません」
 その言葉に佑子さんは、何とも言えない表情を浮かべた。不安のような期待のような緊張のよう
な呆れのような……色々な感情が混ざっているような、そんな複雑な表情を。
 今度は打って変って佑子さんが思考の旅へと出掛けているその様を楽しむこと数秒、我に返った
佑子さんは改めて俺を見上げ直す。申し訳なさそうに。しかし、期待を込めているのがわかった。
「本当……ですか? 仲川”くん”?」
 俺が言うことは一つ。
「だって、俺は―」
「仲川ッ!!」
 と、俺の一大決心を乗せた言葉は呑みこまざろ得なくなってしまった。大事な時に誰だと不服な
感じを含ませながら振り向く。
「な、仲川……」
 そこに、息を荒げた佐藤早苗が、胸を押さえながら立っていた。
 その表情を見た瞬間、和やかな俺の中の空気は一変し、再び負の感情が胸を蠢いた。さっきまで
佑子さんとのことで舞い上がっていたが、忘れてはならなかった。佐藤早苗の行動、佑子さんから
届いたメール、そして佑子さんに届いていたメール―知りたくもない憶測が、心を蝕んだ。

 佐藤早苗が佑子さんに”あのメール”を送った。

 瞬間的に沸騰石がないと弾けそうな怒りに苛まれる俺をよそに佐藤早苗は佑子さんを見ていた。
 佑子さん”だけ”を、一途に。
「……離れて……」

216:両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro
07/05/19 21:44:03 RiFlkXMF
投下終了です。

217:名無しさん@ピンキー
07/05/19 21:54:19 8KFC6wJP
>>216
タヨ((´・| キタヨ((´・ω| キチャッタヨー((`・ω・´|
前回からずっと待ってたのでめっちゃ嬉しいです。
それにしても何と言う勘違い・・・察しの悪い仲川に絶望した!!
次回も期待してます。

218:名無しさん@ピンキー
07/05/19 22:17:13 PJbilGi5
これは最強すぎるGJ
続きは早めに投下されたら、俺は萌え死にますねw
後、保管庫で抜けている部分を読みたいのだが・・・誰かうpしてw

219:名無しさん@ピンキー
07/05/19 22:29:27 1riznWVO
>>216 来たね~、来たよ修羅場!!GJ!

ただ一ついわせてもらうとちょっとくどい気が(ry



220:名無しさん@ピンキー
07/05/19 22:34:38 VwLlpElo
>>216
キターー!!やっぱ面白いなぁ・・

ただ>>219の言うとおり俺も表現がちょっとくどいと思う。無駄に文が長くなってる気がしないでもない。

221:名無しさん@ピンキー
07/05/19 23:00:23 66k9PI5F
>216
良い!続きが気になって仕方が無い!

222:名無しさん@ピンキー
07/05/19 23:03:03 aSHsOk7A
あぁ、癒される、GJ。

思考の描写が細やかだから感情移入しやすい、好きな文体。

223:名無しさん@ピンキー
07/05/19 23:19:55 5LKxbi/h
GJ俺もこの作品好きなんで続きが読めて嬉しい

>>218
URLリンク(www.geocities.jp)
コレ使えばDat落ちした過去ログ読めますよ


224:名無しさん@ピンキー
07/05/20 00:25:40 QyfNK537
>>222
ううむ、恐ろしいまでに細やかなことは確か。
ちょっとドストエフスキーの罪と罰思い出したくらいに。

225:名無しさん@ピンキー
07/05/20 00:31:59 0aiTphEn
佑子さんは俺が持ち帰る・・いいか?
ちなみに黒佑子さんになるとどれだけ萌えさせられるのか
今から楽しみ

嫉妬スレの醍醐味は修羅場や三角関係より
可愛いやきもちを妬いている女の子だと俺は思っている
心が癒されるからな

226:名無しさん@ピンキー
07/05/20 00:34:31 s0uwZkIr
SSに長ったらしい一人の思考を書かれてもあんまり面白くない。でもキャラはいいから頑張って書き続けてくれ。

227:名無しさん@ピンキー
07/05/20 00:39:26 SjPLFf8e
>>225
残念だが佑子さんは既に俺の隣にいる。
今日も超ラブラブな雰囲気の中ご飯を食べさせてもらった。そんな監禁10日目。

228:名無しさん@ピンキー
07/05/20 00:52:33 BUqtHP5j
あぁ、やべ、右手首腐食してるわ。
手錠って食い込むとやばいんだなー。
そんな俺の佐藤早苗による監禁生活1ヶ月目…
じらされるのもげんかいだ、いっそころして
ころしてころしてころしてこr(ry

229:名無しさん@ピンキー
07/05/20 01:01:51 sYbfUfPt
妄想乙


230:名無しさん@ピンキー
07/05/20 01:06:21 dHsEQHd/
>>216
GJ!久々の投稿お疲れ様です。

しかし、勝手に勘違いして勝手に暴走して突っ走り、
尚且つ自己嫌悪に陥った振りしても肝心なことには目を向けない。
ここまで独りよがりで見ててイライラする最低の主人公は見た事がねえ!!


当然ながら、この嫉妬スレでは誉め言葉だってわかりますよね?

231:名無しさん@ピンキー
07/05/20 01:54:43 7oCpF6U8
誉めるつもりで言ってない言葉は誉め言葉にはならないんだよこのボナケス

232:名無しさん@ピンキー
07/05/20 04:32:56 xF+n/Dmj
>>231
このスレだと「最低」とか「屑」みたいな言葉は主人公に対する最大級の褒め言葉なんだよ

233:名無しさん@ピンキー
07/05/20 09:43:44 7oCpF6U8
>>232
そりゃあ知ってるが、
もし作者さんが「最低」とか「屑」な主人公のつもりで書いてないとしたら、
不用意に「この主人公は最低、屑。これは誉め言葉です」とか言われて楽しいと思うか?
もう少し慎重にそういうネタ的な感想を言えよ

234:名無しさん@ピンキー
07/05/20 13:51:46 044luhIN
主人公クズ誉めは初スレからあるよ。
いいキャラクターだって意味でみんな理解してた。

235:名無しさん@ピンキー
07/05/20 13:53:38 EjcPB/gF
あぁ、ゆう君は本当にクズだったなぁw

236:名無しさん@ピンキー
07/05/20 14:35:04 pR9erYx7
ゆうくんは今でも一番クズな主人公だな

237:名無しさん@ピンキー
07/05/20 14:38:49 adZnNGau
>>233
初期の頃からそういうのはあるんだから・・・。
新参がでしゃばらないでね。

238:名無しさん@ピンキー
07/05/20 14:45:11 lMpQi6k5
優柔のGJクズコールが昨日の事のように思い出せるw

>>237
新参がどうとか言い出すとまた荒れるから、な

239:名無しさん@ピンキー
07/05/20 15:02:25 avVrg93g
>>233
空気嫁。

240:名無しさん@ピンキー
07/05/20 16:01:39 KvKZR3Qq
優柔は面白かった・・あのヘタレすぎに乾杯

241:名無しさん@ピンキー
07/05/20 16:27:32 WfqUBDpy
職人さん達のSS読んでしまったからか、エロゲとかの所謂修羅場は生温く思えてしまうようになってしまった・・・。
今のところSSスレまとめにある、
・姉妹仁義
・白き牙
・雨の音
・七戦姫
・修羅サンタ
・九十九の想い
を読んだんですけど、住人のオススメは何?
雨の音や七戦姫がお気に入り。

242:名無しさん@ピンキー
07/05/20 16:29:01 0BVjz7Is
そういや、ゆうくんてのはすごかったよな。

嫉妬深い彼女にセックスしながら洗脳まがいの事した上に、
先輩が自分の思っていたような人じゃないと分かったら
さっさと見切りをつけて「肉便所」扱い……。

うはwwww何こいつwwwwwスゴイってレベルじゃ(ry

243:名無し@ピンキー
07/05/20 16:32:22 5tUCpEAv
血塗れ竜と食人姫かな

嫉妬の華GJ!
主人公勘違いしすぎw

244:名無しさん@ピンキー
07/05/20 16:33:38 lMpQi6k5
>>241
優柔、姉貴と恋人、沃野、不義理、実妹、合鍵。
初期の修羅場スレを支えたこの辺りは最低限読むべし。
ま、あんまりおすすめがどうとかやると荒れぎみになるのでホドホドに。

245:名無しさん@ピンキー
07/05/20 16:40:38 b7Fqvxam
>>241
完結してる奴だけ見ればいいよ。みんな面白いし。
完結して無い奴は見ても意味がない。

246:名無しさん@ピンキー
07/05/20 17:03:02 MaEMTtTM
完結作品は確かにお薦めだな
あと分岐って書いてるヤツの中には実質完結してたりするのも多いし
チェックしてみるといい

あとブラッドフォースとリボンの剣士は完結間近の長編大作なので
最終回投下に備えて今のうちに読んでおく事をお薦めする

247:名無しさん@ピンキー
07/05/20 17:05:59 20AliokA
……ずいぶんと対応が変わったな。

以前なら「全部オススメだ!」と言って、
わざわざ火種を生むような発言はしなかったのに。

248:名無しさん@ピンキー
07/05/20 17:12:33 lMpQi6k5
前に比べて数が多すぎるからなぁ。
実際全部一からよんだら一苦労なのでは。

や、できるなら全部読んでほしいですが。

249:名無しさん@ピンキー
07/05/20 17:18:39 J9pIK2sb
完結子だけを見る>>241に嫉妬した、未完子による血塗られた修羅場を作るための住人のたゆまぬ努力と暗躍

250:名無しさん@ピンキー
07/05/20 17:23:00 MaEMTtTM
確かに全部お薦め、全部読むべしと言いたいところだが
あえて読む順番をつけるなら
完結作品、現在連載中の作品、半完結作品(分岐のうちいくつかは完結)
を優先して読んでみては?

明らかに途中放棄の作品まで薦めるのは酷な気もするので

あとどういう方向性が好きか尋いてくれればそれに答える事は出来る
まぁジャンル別インデックスもあるが
それで括れない分類もあるし

251:名無しさん@ピンキー
07/05/20 17:25:05 MaEMTtTM
スマソ
何故かクッキーからsageが消えてたorz

252:名無しさん@ピンキー
07/05/20 19:09:20 WaGYLI8T
ノントロはいいところで寸止めされてるから発狂するかもww

253:名無しさん@ピンキー
07/05/20 19:18:59 VQxdl4YX
誰かまとめにあるSSをサウンドノベル化して欲しいわけだが・・
演出次第ではホラーサウンドノベルになる予感・・
まあ、実際にSS全てをサウンドノベル化するとその辺のエロゲーより容量があったりしてw
1MBを超えるだけでも充分に遊べるw

254:名無しさん@ピンキー
07/05/20 19:29:10 7D3yopXA
自分で作ちゃいなYO

255:名無しさん@ピンキー
07/05/20 19:34:51 SFnTz9ks
>>253

おまえ つくる よろし

256:名無しさん@ピンキー
07/05/20 21:53:30 WfqUBDpy
ご丁寧なお返事、ありがとうございました。

完結した作品から読んでいたわけではなく、前スレや前々スレで挙がっていた作品と、まとめの上から順番に読んでました。
とりあえず、オススメしていただいたものから順番に読んでいこうと思います。ありがとうございました。

257:名無しさん@ピンキー
07/05/20 21:56:20 yxu5SrTH
なんでまとめは更新されないの?
前々スレくらいになんかあったからなんだろうけど流れ知らんから誰か教えてくれ 

258:名無しさん@ピンキー
07/05/20 21:57:44 7D3yopXA
>>257
阿修羅氏が多忙の為だよ

259:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:01:33 lMpQi6k5
阿修羅氏も新婚で子供も生まれたし忙しいんだろうさ。
結婚前(及び嫁入院中)の更新速度は異常だったけどw

ま、無理しないでマイペースにやってくれればいいさ。

260:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:05:13 yxu5SrTH
>>258
そうなんだ。なんかで阿修羅氏が怒ってまとめるのを放棄したのかも・・・と思ってたよ、良かった

261:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:09:11 4x4BzSAb
>>260
脳内嫁だから>>258は本気に受け止めるなよw
まぁ忙しいと考えるのが普通

262:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:09:59 7D3yopXA
ん?

263:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:10:14 044luhIN
そうそう、「まさか嫉妬にかられた嫁に●されたんじゃ……」と心配になってきたころに更新してくれる。

264:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:16:37 tdxmWTmP
>>261
ん・・・?素?

265:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:30:22 b7Fqvxam
いや普通に阿修羅氏が折角作った掲示板を利用してないからでしょ。
空気読める作家さんはあっちで投稿してるけど、大多数はこっちだしな。
つーか折角労力使って作った奴を誰も利用しないなんて阿修羅氏に恥かかせまくってる。
聖人君主じゃあるまいし人間なんだから妬み僻み嫉妬なんてあるもんだ
大人の対応しろよお前らまじで

266:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:39:27 SFnTz9ks
またお前らか……。

阿修羅氏まで貶めて楽しいのか?

267:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:41:50 b7Fqvxam
だよな。まじ最悪だよ

268:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:42:02 lMpQi6k5
空気読めるもなにもあそこはモトより避難所だからなぁ……。
阿修羅氏だってこっちがあんまりにも荒れてたから作ったんだし。

前にも更新が一月半位間が空いた事も別にあったんだから騒ぐ程のことでもなかろ。
阿修羅氏だってサイト更新が本職って訳じゃないんだし、のんびりやってくれりゃいいさ。

269:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:49:22 lZc4LGp7
まーたいつもの人か…

270:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:49:55 AveShTwY
とりあえずお前ら包丁をその身に受けつつ正座して待機汁

271:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:49:57 NtPrSrEQ
ID:4x4BzSAb
ID:b7Fqvxam
・・・

272:名無しさん@ピンキー
07/05/20 22:56:19 tdxmWTmP
放置推奨だな

273:名無しさん@ピンキー
07/05/20 23:22:30 7oCpF6U8
すまん、これだけ言わせてくれ。

聖人君主(笑)

274:名無しさん@ピンキー
07/05/20 23:25:15 mwYVPpdX
赤紙はオススメだけど読まない方がいい
空気嫁なくてすまんね

275:名無しさん@ピンキー
07/05/20 23:31:45 dxPmN/FU
共産党?

276:名無しさん@ピンキー
07/05/21 00:15:51 fQM31EeQ
16スレの梅ネタで書いたやつの続きを書きました
ちなみに前回の話はこれです
     ↓
URLリンク(dorobouneko.web.fc2.com)

では投下します

277: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:18:10 fQM31EeQ
 そして翌日。
「お邪魔しまーす」
「よく来てくれた。 そんな緊張しなくていいから。 遠慮せず上がってくれ」
 ここは熱矢先輩の家。
 先日の私が出した提案で今日は先輩の家で一緒にプラモデルを作ることになってたのだ。

「早速作り始めますか?」
 私は手にした紙袋に視線を注ぐ熱矢先輩の顔を見ながら言った。
「え? いや、まぁ……」
 私の言葉に先輩は照れ臭そうな笑顔をしながら頭をかいた。
 本当に心の底からプラモデルが好きなのが感じられる純粋な笑顔。
 女の子を家に上げることよりプラモデルの事で一杯、そんな笑顔。
 私が大好きで、でも反面チョット寂しい気持ちにさせる笑顔。
 だってとりもなおさず私を女と意識していない証拠なのだから……。
 でもそれで良い。 今日の事は最初から其の事を折込済みなのだから。
「ま、確かに本音を言えば直ぐにでも組始めたいけどいきなりってのもな。
とりあえず茶煎れてくるから。 それで人心地ついてくれ。
それから始めようか」

 それから数十分後。 私と熱矢先輩はプラモデル作りに熱中してた。
 年頃の男女が部屋で二人っきりだってのに全くと言っていいほど色気の無い展開。
 でもいいの。
 だってプラモデルを組み立ててる時の真剣な眼差しの先輩の貌を間近で見られるんだから。
 こんな真剣な貌、あの女も見たことが無いような貌を。
 そして私は其の事にささやかながらも優越感に浸っていた。

 それから―。
「今日は本当にありがとうな」
 日も大分傾きかえた頃私は熱矢先輩に送られ帰路に付いていた。
 あれからプラモデルを完成し終えた後も、ドコを改造したほうがいい、とか
どんな色で塗ったら似合うか、とか完成したプラモデルを手に日が暮れるまで語りあった。
 そして今、もう暗いからとわざわざこうして送ってくれたのだ。

 家に帰りつき自室に戻った私は今日一緒に組み上げたプラモデルを取り出す。
 手にとって眺めると今日の楽しかった記憶が鮮明に蘇ってくる。
 本当に楽しかった。 大好きなヒトと共通の趣味で共通の時間を満喫できて―。
 これで先輩と私が恋人同士だったらもっと楽しいだろうに。
 そこまで考えると少し寂しい気持になる。
 ……そんなの虚しい願望でしかない、と。

 やめよう、分かってる事じゃない。叶わない願望だって。
 先輩がどれだけあの女のことを想ってるか。
 私と熱矢先輩との間柄は単なる同好の士でしかないが、でもそれなりに付き合いは深いんだ。
 だから、先輩があの女と別れて私を選ぶなんて無い事を分かっているから……。

278: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:19:29 fQM31EeQ


  /      /      /      /


「ねぇアッくん。 昨日一人で帰って何してたの?」
 アタシ―小山 素豆子は、アッくん―幼馴染にして恋人の市沢 熱矢に問い掛けた。
 アタシとアッくんとは小学校の頃からの縁で高校に入ってからは男女の交際にまで到った仲。
 でもアタシが部活をしてるのに対しアッくんは帰宅部なので放課後は別々の事も多い。
 だからいつもって訳じゃないけど今日は何故か昨日の事が気になって聞いてみた。
「昨日? ああ、稲峰がうちに遊びにきてたんだ」
 そして返ってきた答えに声にアタシは思わず声を上げる。
「う、うちに……って、アッくん! アタシと言うものがありながら他の女を家に上げるなんて
どういうつもり?!」
「おいおい、何勘繰ってるんだよスズ。 一緒にプラモデル作っただけで何にも無ぇって」
 当たり前だ。 アッくんがあんなシンナー臭いプラモ女になびくわけが無い。
 趣味が同じだからと言うだけでアッくんに付き纏う鬱陶しい後輩。
 こんな風にあっさり話す時点で十分其の事はうかがえる。
 でも―
「プラモデル一緒に作ってたぁ?! 何でそんな事一緒にする必要があるのよ?!」
 恋人が自分以外の女と一緒にいるのを黙って見過ごせるほどアタシは人間出来てはいない。
 ―否。 恋人が他の女と一緒にいて気にならない女などいようか。

「いや、だって俺のじゃなくてあいつのプラモで……」
「何?! プラモに釣られて上げたって言うの?! だったらプラモなんか止めなさいよ!
昔っから言ってるじゃない! いい年してプラモなんかやってないで卒業しなさいって!」
 アタシはアッくんの言葉を遮り叫んだ。
「そう言うなよ。 俺の数少ない趣味なんだから」
 そんな事幼い頃からの付き合いなんだからイヤって程知ってる。

「アッくん! アタシ達来年受験生なんだよ?! プラモなんかに構っていて
アタシと同じ大学いけると思ってるの?!」
「未だ来年の話だろ? 少しは控えるから何も完全に止めなくても……」
「そんなに止めたくないわけ?! だったらイイわよ。 好きなだけ続けなさいよ。
その代わりアタシとアッくんはコレっきりね」
「な?! ちょ、チョット待ってくれよスズ。 そんな……別かれるなんて」
 こうは言ったがアッくんと別かれる気なんて毛頭無い。
「だったら言うとおりプラモデルなんかやめなさい」
「わ、分かったよ……」
 そう。 アタシがアッくんと別かれる気が無いように、
アッくんがアタシと別かれるなんてありえないから。

「本当に分かってるの? じゃぁキッパリ止めたって証明する為
今までのプラモデルも全部捨てて」
「そ、そんな……」
「出来ないの?」
 ちょっと可哀相な気がしないでもないが良い機会だ。
「わ、分かったよ……」
「本当に? じゃぁ今度確認しにあんたの家行くからね。 本当に捨てたかどうか!
分かった?!」
 長年の付き合いだけどアッくんのこの趣味だけはどうしても許容できなかったから。
 アッくんは気付いていないみたいだけど、プラモなんかやってるのせいで
アッくんをオタク呼ばわりしてバカにしてるやからは多い。
 自分の恋人がそんな風に呼ばれてるのなんてはっきり言って気分悪い。
 だからこの機会にきっぱり止めさせ足を洗わせよう。
 そうだ、それでこの機会にアタシの部に入部してもらおう。
 プラモなんかに時間廻すよりアタシと部活で同じ時間を過ごした方がアッくんにとっても
其の方が良いに決まってるんだから。

279: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:23:28 fQM31EeQ


  /      /      /      /


「おーい、稲峰」
「あ、こんにちは先輩」
「今日の放課後って時間空いてるか?」
「えぇ、OKですけど」
 部活もやってないし塾にも通っていない私は当然放課後は空いてるのでOKした。
「そうか、じゃァチョット付き合ってくれるか? 大事な話があるんだ」
「はい、分かりました。 じゃァ放課後に」
 何だろう熱矢先輩、大事な話って……ま、まさか私と付き合ってくれるとか……!
 今までだって結構仲良かったし、この間なんか家に上げてもらって一緒にプラモデル―
って、そんな訳無いか……。
 私はそう思い溜息をついた。
 虚しい願望だと分かっていてもつい妄想してしまう。
 正味の話多分プラモデルがらみの話だろう。 それが私と熱矢先輩との繋ぐ仲なんだから。
 まぁいいか。 いつもの事だし。 それに確かに私が恋人になれなくても、でもその代わり
きっと恋人のあの女も見たこと無いような熱矢先輩のあんな貌を見れるんだから。
 ―とっても楽しそうで真剣で真っ直ぐな表情を。

 そして放課後。 私は熱矢先輩に連れられ某ファーストフード店にきてた。
「悪いな時間とらせて」
「いえ、お気になさらないで下さい。 ところでお話って何ですか?」
「あぁ、実はプラモデル続けられなくなっちまって……」
 其の言葉に私は愕然とした。
「そ、そんな……どうし……」
 だって熱矢先輩がどれだけプラモデルを好きか知ってる私には到底理解できなかった。
 そして、何よりそうなると私と熱矢先輩との縁が、繋がりが消えてしまうから。

「スズに……彼女にな、止めろって言われて……」
「そ、そんな……。 か、彼女に言われたぐらいで止めちゃうんですか?!」
「アイツ今までも俺がプラモデル続ける事にいい顔してなかったし、それに今回は
止めなきゃ交際もコレまでだとまで言われちまったから」
 だったらそんな分からず屋な彼女となんか別かれちゃえばいいじゃないですか!
 そう言いたかった。 でも言えなかった。
 そんな事出来ないのは先輩の顔を見れば十分察する事が出来たから。
 悔しかった。 先輩にこんな辛い決断を、貌をさせるあの女が。 そして妬ましかった。
 あの女がこんな強引な決断をさせられるほどに熱矢先輩の心を掴んでる事が。


280: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:24:50 fQM31EeQ
「それで……止めたのを証明する為今まで作った分も捨てろって言われちまって……」
「な……?!」
 其の言葉に私は血液が逆流して頭の血管がブチ切れるかと思えるほどの怒りを覚えた。
 今まで何度も熱矢先輩の作ったプラモデルを見せてもらった事がある。
 どれも心を尽くして作りこまれ、熱矢先輩にとってはかけがえの無い宝物なのが伺えた品々。
 それを、捨てろだなんて……。
「稲峰……? な、泣いているのか?」
 気付けば私の両目からはぽろぽろ涙が零れ始めていた。
「だ、だって……知ってるから……。 先輩が今まで作ったプラモデルを
どれだけ大事にしてるか知ってますから……」
 そして涙が伝う私の頬にそっと柔らかいものが触れた。熱矢先輩がハンカチを当ててくれたのだ。

「ありがとうな、稲峰。 そんなお前にだから頼みたい事があるんだ。
今まで作ったヤツ、貰ってくれないか?」
「え……?」
「やっぱ、どれも思い入れがあるから捨てるのは忍びなくって。ネットで売ろうかもとも思ったけど
でも所詮素人作品だし。
それにどこの誰とも分からない相手に渡すよりは気心の知れたヤツに貰って欲しいし……。
あ、イヤなら断わってもいいんだぞ。 それに数も結構あるから全部じゃなくても……」
「い、いえ! 全部引き取らせて頂きます」
 私がそう言うと熱矢先輩はほっとしたように笑って「ありがとう」と言ってくれた。

 コレで熱矢先輩との縁も繋がりも消えてしまうのだろう。
 其の事は物凄く悲しいし辛いけれど、でも最後に熱矢先輩の力になれた。
 そして譲り受けたプラモデルを想い出に胸に刻んでいこう。


 数日後―日曜日。 熱矢先輩はダンボール箱を抱えて私の家の前にきてくれた。
 中には先輩が今まで作った数々のプラモデル。どれも丁寧に箱に詰められ間に緩衝材も詰められ、
其の事からも品々に込められた熱矢先輩の思いが伝わってくる。
「すまないな稲峰。 何だか沢山押し付けちまって」
「いえ、そんな事無いです。 先輩が大事にしてきた品々大切にしますね」
 そして受け取る。
「大丈夫か? 重くないか?」
「ありがとうございます。 大丈夫です」
 確かに思ったよりあるみたいだけど、でもそれは単純な目方とかじゃなくて、
きっと熱矢先輩の思いも詰まってるから。
 本当にコレで終わってしまうんだ。 だったら、言ってしまおうか。
 今まで胸に秘めてきた熱矢先輩への想い。
 同好の士としてだけじゃなく、先輩後輩の間柄だけじゃなく、異性として好きだと言う事を。

 ……いや、止めておこう。
 折角このまま綺麗な想い出のまま終われるのだから余計なこと言っちゃ駄目だ。

281: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:26:26 fQM31EeQ


  /      /      /      /


「アッくん! 何やってるのよこんな所で」
 日曜日買い物に出かけていたアタシはある家の前でアッくんが例の鬱陶しい後輩に
何か渡してるところを見つけて声をかけた。
 あたしの声に気付いた後輩の女は途端に気まずそうな顔をする。
「よう、スズ。 今まで作ったプラモデルを稲峰に引き取ってもらう事にしたんだ」
「ハァ?! 何それ。 アタシは捨てろって言わなかった?!」
「いや、そうだけど手放す事には変わりないからいいだろ?」
「駄目よ!!」
 手放す事には変わりない? 冗談じゃない。
 アッくんが今まで持ってたものをよりによってこの女になんて!
「駄目よ! そんな未練がましいやり方。 捨てるの以外認めないわ!」
「で、でも……」
「コレだけ言っても分からないの?! だったら……」
「お、おいスズ。 い、一体何す……」
 アタシはダンボール箱に手を突っ込み無造作に一体のプラモをつかみ出すと地面に叩きつけた。
「な、何するんだよ?!」
「何度も同じ事言わせないで! 捨てろって言ったのに聞かないアッくんが悪いんでしょ?!
何よ其の顔。 じゃぁアタシと別れる?! 言ったわよね?!
どうしてもプラモ続けたいんならアタシとアッくんとはこれっきり、だって」
 返事は無い。 アッくんは俯き叩きつけられ壊れたプラモを見つめていた。
「ふん、暫らくそうして頭冷やしてなさい。 それでちゃんと全部捨てなさいよ。 分かった?!」
 私は踵を返しその場を立ち去った。


 久しぶりにアッくんと喧嘩しちゃったな。 まぁ良っか。
 どうせ直ぐアッくんの方から謝りに来るだろう。
 幼い頃からの付き合いだ。 時に何度も喧嘩だってしてきた。
 でも其の度あとでアッくんの方から謝りにきて、それをアタシが許して仲直りして、
そうやってアタシ達は幼馴染として、そして恋人同士として付き合ってきたんだ。
 そしてアタシは家に帰りつくと携帯が鳴るのを待った。

 しかし幾ら待っても携帯は鳴らなかった。
 おかしい。 どう言う事よ?
 いつもだったら直ぐにでもアッくんは電話掛けてきてゴメンナサイって必死で謝ってくるのに。
 おかげで気になって何も手がつかないじゃない!
 ああ、イライラする! 早く掛けてきなさいよ!
 謝罪なんてのは時間が立てばたつほど効果は薄れるんだから!

 そしてアッくんの電話を待ち続けながら寝るのが遅くなってしまったアタシは寝不足で朝を迎えた。

To be continued...

282: ◆tVzTTTyvm.
07/05/21 00:31:02 fQM31EeQ
白き牙の筆が思うように進まないので気分転換も兼ねて書いてみました
次は何時になるか分かりませんが
では

283:名無しさん@ピンキー
07/05/21 02:14:10 iG0piXl6
>>282新しい修羅場に乙&GJ!

284:名無しさん@ピンキー
07/05/21 03:28:58 C+vyOJh8
後輩がんばれ

285:名無しさん@ピンキー
07/05/21 04:45:40 KgRTFUF8
後輩いい子だなー…


286:名無しさん@ピンキー
07/05/21 06:51:25 nW9umi11
これ思い出したよ
URLリンク(alfalfa.livedoor.biz)

287:名無し@ピンキー
07/05/21 09:55:34 iWGEN4E/
後輩応援GJ!

288:名無しさん@ピンキー
07/05/21 14:37:47 +69zA4tp
>>281
GJ


アニメでは大きくsolaに期待してる

289:名無しさん@ピンキー
07/05/21 21:18:26 Kwyns2sM
solaは姉さんかわいいけど凄い展開だよね。話に引き込まれる

290:名無しさん@ピンキー
07/05/21 22:04:07 FNKevaYJ
キモスレが絶好調になってるな。

291:名無しさん@ピンキー
07/05/21 23:13:53 UEBjAzcX
むこうじゃあ投下じゃなくてもコテ使ってるからこのスレとは雰囲気違うね


292:名無しさん@ピンキー
07/05/21 23:46:22 bp4aCCve
>>290

このスレで他スレの話題を出すな。
また流れてきたじゃないか。

293:名無しさん@ピンキー
07/05/21 23:50:57 VTwyoF4e
半年振りくらいにきたんだけど
浮気して妻に殺されてタイムスリップするやつの題ってなんだったっけ?
まとめサイトで見ようと思ったけど全然思い出せない

294:名無しさん@ピンキー
07/05/21 23:59:20 HBtcg0S3
>>293
未完で全く更新されてない
後は自分でまとめサイトで確実に違う作品をのぞいて探してくれ

>>292
そっちの荒らしの話題をここで出されても困る



295: ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:10:49 EXp+aWdS
投下します

296:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:12:34 EXp+aWdS
平日昼間の電車はすいている。車内はガランとしていて、椅子に座る人さえまばらだ。座る事も出来たが、翔はあえて座らず、閉じら
れたドアに体を預け、車窓の外を流れていく景色をぼんやりと眺めていた。
灰色の街が、なす術なく流れていく。目的地まで、あと十分ほど。二つ駅を通過する。
そこまでの間、少しだけ感傷に浸っていよう。そう思いつつ、見上げた青空は、白い飛行機雲で二つに別れていた。

確か、最後はプラモデルだった。
ふとそんな事を思い出す。まだ物心ついたばかりの頃だから、幼稚園の年長くらいだった。あの時は、妙に母親が優しくて、ずっと欲
しかったプラモデルは高くて買ってもらえなくて、代わりに少し値段の落ちるプラモデルを買ってもらった。デパートのレストランで
お子様ランチを食べて、母親と手を繋いで屋上に行って、ヒーローショーを見た。ヒーローが蛸みたいな怪人に追い詰められて、手に
汗握って声を枯らした事をよく覚えている。
ショーも終わり帰り道。危機から見事に脱出し、怪人を薙ぎ倒したヒーローの姿が瞼に焼き付いて興奮覚めやらぬ翔が、夕焼けに向か
ってうきうき歩いていると、手を繋ぐ母親が確かに言ったんだ。
「今度デパートに行く時は、何でも欲しいものを買ってあげる」って。その時は、馬鹿みたいにはしゃいで喜んだ。
結局、その約束は守られていない。
三日後、綺麗に着飾って出ていった姿を最後に、母親を見ていない。何処にいるかも分からなかった。五日後、警察の人にその名前を
知らされるまでは。
母は、翔と夫を捨てて男と共に逃げた。そして、その男と共にこの世から消えた。
母親はもう帰ってこない。ようやくその事が理解出来たのは、翔が小学三年生の時であった。
その時から、翔は言葉を信じていない。言葉は、人を簡単に裏切るのだ。

車内アナウンス。くぐもった声が、スピーカーを通じて車内に降り注ぐ。窓の外には相変わらずの灰色の街。しかしいつの間にか、目
的地は目前にまで迫っていた。


297:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:13:01 CkMO6S8h
保守

298:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:15:22 EXp+aWdS
肘まで落ちた鞄を肩にかけなおす。ポケットの中の財布を取り出す。
電車が速度を落として、ホームに滑り込む。停車しドアが開くと、素早く電車から降り、改札を抜けて、小さな繁華街に入る。寂れた
地方都市に、行き交う人の数は少ない。碁盤目の住宅街をずんずん進む。空き家と空き地の目立つそこは、少しだけ寂しい。
やがて、澄香の家の前まで辿りつき、翔は歩を止めた。彼女の家は、辺りのひっそりとした雰囲気を吸い込み、まるで辺りに溶けるよ
うに紛れ込んでいた。雨戸が閉じられ、電気もついていなく、人の気配さえ感じられない。以前、確かに感じた生活の匂いは、消え去
っていた。
それが不気味で、翔は慌ててインターフォンを鳴らす。ひっそりと静まり返った水樹家の中に、機械的な音が響いた。
その音が消えた後、沈黙。声はもちろん、物音さえ聞こえない。もう一度、インターフォンを押してみても、やはり沈黙しか返ってこ
なかった。不安が、胸の中でどんどん膨れ上がっていく。
「おいっ!! 澄香いるんだろ?」
ドアを乱暴に叩きつつ、声を張り上げる。しかし、返事はない。
まさか、ここではないのだろうか。そんな疑惑がジワジワとにじみよる。考えてみれば、澄香がここにいる保証はない。あったのは、
直感だけだ。
焦りが募る。
焦藻が、少しだけ翔の理性を奪う。
ノブをつかみ、ガチャガチャと強引に回す。すると、存外あっさりとドアは開いた。翔は肩透かしを食った気分だった。
軋みながら開く漆黒の扉。その内部が抱えこんだ深淵に、帯状の光が広がっていく。
ゆっくりと広がる光の中。上がり端で膝を抱いて蹲る澄香の姿が写し出された。膝を抱いた両腕に、顔を押し付けるその姿は、母の中
に宿る胎児を思わせる。しかし、胎児ほど温かさや優しさに内包されているわけではない。むしろ、まるで絶望の海をさ迷うかのよう
に、彼女は細かく震えていた。
「すみ、か……?」
戸惑いがちな声が出た。石のように固く重いその声は、すぐに闇の中に消えていき、後には静寂が残る。返事はなかった。


299:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:20:06 EXp+aWdS
不安がはね上がる。
「澄香っ」
今度は、はっきりとした声が出た。慌てて澄香に駆け寄り、彼女のすぐ側に腰を屈める。相手の息遣いさえ聞こえてきそうな距離、そ
れでも、澄香は翔に気付かない。まるで光を失ったように、音を失ったように、彼女はただ震えている。
ふと、静寂を震わす小さな声に気付く。小さく早口なその音は、うずもれた澄香から漏れている。耳をすまし、その音を拾おうとする
。しかし、その音が声となるにはあまりに小さ過ぎて、はっきりと聞き取る事ができなかった。
その音が止む事はなかった。まるで呪文を唱えるように、まるで悪魔に魂を持っていかれてしまったように、まるで狂った時計のよう
に、澄香はその音を放ち続けている。
不安が、爆発した。
「おい、澄香っ!どうした? 大丈夫か?」
澄香の両肩を掴み、大きな声をかける。すると、彼女は体を大きく震わせ、身を固くした。それからいかにも恐る恐るといった様子で
、ゆっくりと顔をあげた。
翔は思わず息を飲む。その顔は、翔の知っている澄香ではなかった。
疲弊しきった頬は痩けている。もう目を開ける事さえ出来なくなったように、彼女の瞼は半開きで、その奥に隠された瞳が、死んだ魚
のように澱んだ光を放っている。まるで冬山の死人のように青くなった顔色は、彼女をより凄惨に彩っていた。やがてその凍えたよう
に青紫色に変色した唇が、ゆっくりと動き出す。
「せん、ぱい……?」
集点の合わない瞳が、翔を見つめる。澱んだ瞳が、鏡のように翔を写し出している。その狂った瞳は、人間のそれとは思えなかった。
背中に冷たい何かが走り、翔は声を失う。狂った光を放つ彼女は、自分の声を確認するように再び唇を動かした。
「せん、ぱい」
そして、それが、契機だった。まるで春になり、蕾が開くように彼女の瞳が急速に色味を帯ていき、やがて笑顔の花がさく。瞳に光が
宿り、キラキラとガラスのように輝く涙が蓄積されていく。


300:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:20:33 pCSC+dBX
肘まで落ちた鞄を肩にかけなおす。ポケットの中の財布を取り出す。
電車が速度を落として、ホームに滑り込む。停車しドアが開くと、素早く電車から降り、改札を抜けて、小さな繁華街に入る。寂れた
地方都市に、行き交う人の数は少ない。碁盤目の住宅街をずんずん進む。空き家と空き地の目立つそこは、少しだけ寂しい。
やがて、澄香の家の前まで辿りつき、翔は歩を止めた。彼女の家は、辺りのひっそりとした雰囲気を吸い込み、まるで辺りに溶けるよ
うに紛れ込んでいた。雨戸が閉じられ、電気もついていなく、人の気配さえ感じられない。以前、確かに感じた生活の匂いは、消え去
っていた。
それが不気味で、翔は慌ててインターフォンを鳴らす。ひっそりと静まり返った水樹家の中に、機械的な音が響いた。
その音が消えた後、沈黙。声はもちろん、物音さえ聞こえない。もう一度、インターフォンを押してみても、やはり沈黙しか返ってこ
なかった。不安が、胸の中でどんどん膨れ上がっていく。
「おいっ!! 澄香いるんだろ?」
ドアを乱暴に叩きつつ、声を張り上げる。しかし、返事はない。
まさか、ここではないのだろうか。そんな疑惑がジワジワとにじみよる。考えてみれば、澄香がここにいる保証はない。あったのは、
直感だけだ。
焦りが募る。
焦藻が、少しだけ翔の理性を奪う。
ノブをつかみ、ガチャガチャと強引に回す。すると、存外あっさりとドアは開いた。翔は肩透かしを食った気分だった。
軋みながら開く漆黒の扉。その内部が抱えこんだ深淵に、帯状の光が広がっていく。
ゆっくりと広がる光の中。上がり端で膝を抱いて蹲る澄香の姿が写し出された。膝を抱いた両腕に、顔を押し付けるその姿は、母の中
に宿る胎児を思わせる。しかし、胎児ほど温かさや優しさに内包されているわけではない。むしろ、まるで絶望の海をさ迷うかのよう
に、彼女は細かく震えていた。
「すみ、か……?」
戸惑いがちな声が出た。石のように固く重いその声は、すぐに闇の中に消えていき、後には静寂が残る。返事はなかった。



301:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:21:41 qkNPMiqI
不安がはね上がる。
「澄香っ」
今度は、はっきりとした声が出た。慌てて澄香に駆け寄り、彼女のすぐ側に腰を屈める。相手の息遣いさえ聞こえてきそうな距離、そ
れでも、澄香は翔に気付かない。まるで光を失ったように、音を失ったように、彼女はただ震えている。
ふと、静寂を震わす小さな声に気付く。小さく早口なその音は、うずもれた澄香から漏れている。耳をすまし、その音を拾おうとする
。しかし、その音が声となるにはあまりに小さ過ぎて、はっきりと聞き取る事ができなかった。
その音が止む事はなかった。まるで呪文を唱えるように、まるで悪魔に魂を持っていかれてしまったように、まるで狂った時計のよう
に、澄香はその音を放ち続けている。
不安が、爆発した。
「おい、澄香っ!どうした? 大丈夫か?」
澄香の両肩を掴み、大きな声をかける。すると、彼女は体を大きく震わせ、身を固くした。それからいかにも恐る恐るといった様子で
、ゆっくりと顔をあげた。
翔は思わず息を飲む。その顔は、翔の知っている澄香ではなかった。
疲弊しきった頬は痩けている。もう目を開ける事さえ出来なくなったように、彼女の瞼は半開きで、その奥に隠された瞳が、死んだ魚
のように澱んだ光を放っている。まるで冬山の死人のように青くなった顔色は、彼女をより凄惨に彩っていた。やがてその凍えたよう
に青紫色に変色した唇が、ゆっくりと動き出す。
「せん、ぱい……?」
集点の合わない瞳が、翔を見つめる。澱んだ瞳が、鏡のように翔を写し出している。その狂った瞳は、人間のそれとは思えなかった。
背中に冷たい何かが走り、翔は声を失う。狂った光を放つ彼女は、自分の声を確認するように再び唇を動かした。
「せん、ぱい」
そして、それが、契機だった。まるで春になり、蕾が開くように彼女の瞳が急速に色味を帯ていき、やがて笑顔の花がさく。瞳に光が
宿り、キラキラとガラスのように輝く涙が蓄積されていく。


302:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:22:43 EXp+aWdS
羽化する蛹を見ている気分だった。その、生が躍動を開始するような澄香の変化に見とれていると、いきなり彼女の全身が、翔の体に
絡み付いた。両腕が背中に回され、彼女の顔が胸に押し付けられる。その勢いに飲み込まれ、翔は後ろに手を着き、尻餅をついた。

澄香のしゃくりあげるような息遣いが、胸を擽る。
「う、嬉しいです」
しゃくりあげる息遣いに声を乗せて、澄香が懸命に言葉を紡ぎはじめた。
「来て、くれないかと、思って、ずっと、ずっと、怖くて、だけど、センパイが、私を、選んでくれて、本当に、本当に、嬉しい。あ
あ、せんぱい、すき、だいすきです」
澄香の絡み付く腕にいっそうの力がこもり、彼女の顔が強く胸に押し付けられる。その予想外の歓迎と変貌に翔は呆気に取られて、胸
の中の少女を、呆然と眺めていた。
その後、澄香は胸の中でこしょこしょと擽るように動き回り、ようやく恥ずかしそうに顔をあげた時には、涙と鼻水と唾液でベトベト
で、もちろん翔のワイシャツも涙と鼻水と唾液でベトベトだった。そのベトベトを拭いもせず、澄香はえへへと照れたように笑う。
そこでようやく、翔は我に帰った。そして、メールでたすけを求めてきた少女の姿をマジマジと観察する。
見たところ、澄香は元気そうである。顔色は悪いが病気のようではない、怪我をしている様子もない。つまり、そこには大学進学絶望
の事実だけが残ったわけだが、それでも怒ったり、説教する気は沸いてこなかった。彼女のあまりの変身ぶりに、翔の毒気はすっかり
抜けてしまっていた。
翔は溜め息を付きつつ立ち上がり、
「少し、話をしようか」
怒ったり説教する気はないが、聞きたい事は山ほどあるのだ。
そのとき、ふとシャツの裾が引っ張られた。
「ん? どうした?」
「センパイに、聞きたい事があるんです」
未だ立ち上がろうとしない澄香に視線を落とす。うつ向いた顔に髪がかかり、表情は見えなかった。
「なに」
一寸後、ためらいがちな声が来る。
「センパイは、私の事、好きですか?」
「え?」


303:すみか ◆lv.o3z9kM6
07/05/22 01:23:08 2+4MrjrW
肘まで落ちた鞄を肩にかけなおす。ポケットの中の財布を取り出す。
電車が速度を落として、ホームに滑り込む。停車しドアが開くと、素早く電車から降り、改札を抜けて、小さな繁華街に入る。寂れた
地方都市に、行き交う人の数は少ない。碁盤目の住宅街をずんずん進む。空き家と空き地の目立つそこは、少しだけ寂しい。
やがて、澄香の家の前まで辿りつき、翔は歩を止めた。彼女の家は、辺りのひっそりとした雰囲気を吸い込み、まるで辺りに溶けるよ
うに紛れ込んでいた。雨戸が閉じられ、電気もついていなく、人の気配さえ感じられない。以前、確かに感じた生活の匂いは、消え去
っていた。
それが不気味で、翔は慌ててインターフォンを鳴らす。ひっそりと静まり返った水樹家の中に、機械的な音が響いた。
その音が消えた後、沈黙。声はもちろん、物音さえ聞こえない。もう一度、インターフォンを押してみても、やはり沈黙しか返ってこ
なかった。不安が、胸の中でどんどん膨れ上がっていく。
「おいっ!! 澄香いるんだろ?」
ドアを乱暴に叩きつつ、声を張り上げる。しかし、返事はない。
まさか、ここではないのだろうか。そんな疑惑がジワジワとにじみよる。考えてみれば、澄香がここにいる保証はない。あったのは、
直感だけだ。
焦りが募る。
焦藻が、少しだけ翔の理性を奪う。
ノブをつかみ、ガチャガチャと強引に回す。すると、存外あっさりとドアは開いた。翔は肩透かしを食った気分だった。
軋みながら開く漆黒の扉。その内部が抱えこんだ深淵に、帯状の光が広がっていく。
ゆっくりと広がる光の中。上がり端で膝を抱いて蹲る澄香の姿が写し出された。膝を抱いた両腕に、顔を押し付けるその姿は、母の中
に宿る胎児を思わせる。しかし、胎児ほど温かさや優しさに内包されているわけではない。むしろ、まるで絶望の海をさ迷うかのよう
に、彼女は細かく震えていた。
「すみ、か……?」
戸惑いがちな声が出た。石のように固く重いその声は、すぐに闇の中に消えていき、後には静寂が残る。返事はなかった。


304:すみか ◆rLEFaz7fkI
07/05/22 01:24:11 YVXb/TNy
羽化する蛹を見ている気分だった。その、生が躍動を開始するような澄香の変化に見とれていると、いきなり彼女の全身が、翔の体に
絡み付いた。両腕が背中に回され、彼女の顔が胸に押し付けられる。その勢いに飲み込まれ、翔は後ろに手を着き、尻餅をついた。

澄香のしゃくりあげるような息遣いが、胸を擽る。
「う、嬉しいです」
しゃくりあげる息遣いに声を乗せて、澄香が懸命に言葉を紡ぎはじめた。
「来て、くれないかと、思って、ずっと、ずっと、怖くて、だけど、センパイが、私を、選んでくれて、本当に、本当に、嬉しい。あ
あ、せんぱい、すき、だいすきです」
澄香の絡み付く腕にいっそうの力がこもり、彼女の顔が強く胸に押し付けられる。その予想外の歓迎と変貌に翔は呆気に取られて、胸
の中の少女を、呆然と眺めていた。
その後、澄香は胸の中でこしょこしょと擽るように動き回り、ようやく恥ずかしそうに顔をあげた時には、涙と鼻水と唾液でベトベト
で、もちろん翔のワイシャツも涙と鼻水と唾液でベトベトだった。そのベトベトを拭いもせず、澄香はえへへと照れたように笑う。
そこでようやく、翔は我に帰った。そして、メールでたすけを求めてきた少女の姿をマジマジと観察する。
見たところ、澄香は元気そうである。顔色は悪いが病気のようではない、怪我をしている様子もない。つまり、そこには大学進学絶望
の事実だけが残ったわけだが、それでも怒ったり、説教する気は沸いてこなかった。彼女のあまりの変身ぶりに、翔の毒気はすっかり
抜けてしまっていた。
翔は溜め息を付きつつ立ち上がり、
「少し、話をしようか」
怒ったり説教する気はないが、聞きたい事は山ほどあるのだ。
そのとき、ふとシャツの裾が引っ張られた。
「ん? どうした?」
「センパイに、聞きたい事があるんです」
未だ立ち上がろうとしない澄香に視線を落とす。うつ向いた顔に髪がかかり、表情は見えなかった。
「なに」
一寸後、ためらいがちな声が来る。
「センパイは、私の事、好きですか?」
「え?」


305:すみか ◆2qYLTTqjZU
07/05/22 01:25:43 o+4xHxLY
「すごい嫌いだよ」
「グェェェェェエェェーーーーーッッ」


306:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:27:20 nXadvtAZ
>>300>>301>>303>>304>>305
誤爆?


307:名無しさん@ピンキー
07/05/22 01:28:28 2J7rs7Eh
すみかは相変わらず面白いNE


308:すみか ◆Xj/0bp81B.
07/05/22 01:28:38 EXp+aWdS
「嫌い、なんですか?」
いや、そうじゃないけど。と翔は言葉を濁す。二択で考えられる質問ではなかった。しかし、澄香は違ったようで、
「じゃあ、好きなんでですね」
嫌いでなければ好き。彼女は心底安心したように一つ息をつき、顔をあげニッコリと笑った。それから、急に体をくねらせて、言いに
くそうに、
「それで、あの、センパイにお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい、そうです」と、澄香は頬をほんのりと染めつつ、上目遣いで、「私の事、好きって言って下さい」
期待と不安が入り混じった瞳で見つめられ、思わず翔は眉根を潜める。それはどこかで見た事のある顔だった。
「ダメ、ですか?」
澄香が悲しそうな顔をする。駄目だ。そう言いたい。自分の気持ちを言葉で偽るのは、翔の主義に反する。しかし、澄香の悲しそうな
顔を見せられると、その要求を無下に却下する気にはなれなかった。
しばらくして翔は溜め息をつきつつ、「─分かった」と言い、苦笑いを浮かべつつ、「言うよ」
「ほ、本当ですか!? えへへ、嬉しいです」
まるで念願の玩具を手に入れた幼児のように、瞳を爛々と輝かせる澄香。それは嘘ではなく、心の底から喜んでいるように見えた。そ
の表情が、これから嘘を吐く翔の心に、罪悪感を降り積もらせる。
これから言う事は嘘である。翔はまだ、好きと言えるほどの気持ちを抱いていない。しかしそうと分かっていても、面と向かって告白
するのは恥ずかしくて、照れ隠しに澄香から視線を反らし、「好き」と言った。
視界の隅に写った澄香は、とろけたように幸せそうな顔をしていた。彼女は、翔の本当の気持ちを知らない。その事を思うと、降り積
もった罪悪感に、潰されそうになる。
やはり、言葉は感情を裏切った。だったら、いっそ本当の嘘つきになりたかった。そうすれば、もっと楽だったのかもしれない。


この時が、境目だった。何かが水面下で狂い始めていた。
狂った歯車は戻らない。歯車が精密であればあるほど、たった一個の狂いが、全てを狂わせてしまう。それでも狂った歯車は回り続け
る。全てが壊れてしまうまで。



次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch