07/08/02 02:18:28 Ean2j6eN
深夜。草木も眠る丑三つ時。眠らない街・かぶき町において、いつ終わるとも知れぬ戦いに、眠れぬ時を過ごす男女がいた。
銀色の癖毛を掻き毟り、寝巻き代わりの甚平を肌蹴させた若い男と、むっちりとした肉感の割りに、すらりとした長い手足と細い胴のくびれが魅力的な、赤ブチ眼鏡のナース服の女。
両者は先ほどから、常人では捉えられぬ程の素早い身のこなしで攻防を続けていた。
苛立った男が女に摑みかかろうとするのだが、女はひらりと攻撃をかわし、すとん、と畳の上に着地する。
男の狭い寝室で、敷かれた一組の布団をはさんで対峙すると、男はこめかみをピクピクと痙攣させて女に告げた。
「だぁぁぁから!!
てめ、いい加減にしないと、その腐った頭ぶっ飛ばしますよコノヤロー!!!」
「ああん、ぶって♪ぶって♪
銀さんに乱暴に扱われると思っただけで、頭がぶっ飛びそうに興奮するわ!!
で・も、激しいプレイは今日はお・あ・ず・け☆
銀さんが元気になったら、たっぷり愉しませてア・ゲ・ル♪ 」
男はぜいぜいと肩で息をし、憔悴の色を濃くしているが、対する女の方は頬を赤らめ、若干、恍惚の表情すら浮かべている。
形勢は男のほうに不利に働いていた。
常日頃ならば、このメガネくの一など軽くあしらえるのだが、男は大粒の汗を浮かべ、ふらふらと立っているのも覚束ない様子なのである。
いつもなら助け舟を出してくれる二人―新八と神楽の姿もない。
それもそのはず。この男―坂田銀時が季節はずれのインフルエンザなどをこじらせた為、二人と一匹は万事屋から志村家に避難していたのだ。
薬や食事、着替えの世話をしに来てはくれるが、それ以外は病原菌そのものの扱いで避けられる。
現在、銀時はバイオハザード並みの隔離状態に置かれていた。
冬は風邪に憧れていた神楽だったが、前回一緒に風邪を引いてからは懲りたのか、
「夏風邪は馬鹿しか引かないてマミーが言ってたヨ! 馬鹿がうつるから私に近づかないで!!」
と、蔑んだ視線を寄こすし、新八は甲斐甲斐しく世話をしてくれるかと思いきや、全身防護服を纏い、ピンセット伝いで食事や薬を渡す等の「軽くいじめ?」的な扱いをする始末だったのだ。
とどめが、このくの一の「看病」と称したエキセントリックな夜這い―銀時本人にとっては、単なる嫌がらせ―で、実際、彼はかなりの極限状態にあった。精神的にも、体力的にも。
「いいから普通に寝かせてくれよ!! 誰が一番銀さんの元気を奪ってると思ってんだコンチクショー!!
消えろ!! 死んでくれ!! 30円あげるから!!!」
「うそ――…………。
銀さんから私に初めてのプレゼントね!? 嬉しい!!!
この30円は額縁に入れて枕元に飾るね♪ それとも穴を開けてネックレスにしようかしら♪♪」
「うおおおーい!!! 誰かマゾヒスティック村の長老を呼んで来い!!!
この女に説教してやれるのは、もう長老しかいねぇよ!! もう銀さんお手上げだよ!!」
「安心して、銀さん♪ さっちゃんを調教できるのは、銀さんだけなんだゾ☆」
「うるせぇよ!! ばーか!!ばーか!!」
高熱でふらふらの銀時にとって、この不毛なやり取りはHPの消耗が激しすぎた。
足元の木刀を掴んで投げつけようとした途端、彼の視界はぐらりと揺れて、天と地が逆さまになった。
敷かれた布団の上に仰向けに倒れたまま、どうにも起き上がれなくなってしまったのである。