07/06/05 21:37:54 jhBO2IRk
「帰るか?」
ゲーム終了後、力が抜けソファに座りこんでしまった直に、秋山が声をかける。
ロビーには、もう他のプレイヤー達は残っておらず、直と秋山の2人だけだった。
敗者復活戦での窮地を秋山に救われ、3回戦に進む事になった。
しかし秋山を巻き込んだままの状態に何ら変わりはない直の心は複雑だった。
「はい」
立ち上がろうとするが力が入らず、ふらつく直の体を秋山の手が支える。
「大丈夫か?少し休んでろ」
「いえ、大丈夫です・・・・・・帰れますから」
秋山の心配を和らげようとして、にっこりと微笑んでみせる。
その弱々しい笑顔に、秋山は細い両肩を押さえるように体をソファーに沈めた。
「いや、俺も少し確認したい事がある・・・・・・1時間後にここで」
そういい残すと、秋山は背を向け軽く左手を上げてロビーを後にした。
去って行く後姿を見つめる直は、もしも秋山がいなければ・・・・・・と思い返す。
静まりかえったロビーに1人いると、次第に気持ちが沈んでゆくようだ。
部屋に戻り帰り支度をしながら秋山を待とうと、直は力を振り絞り立ち上がった。
握り締めていたハンカチが、直の手からするりと床に落ちた。
前かがみになり手を伸ばた先には、手入れの行き届いた美しい爪先。
驚き顔をあげる直に無言でハンカチを手渡したのは事務局員のエリーだった。
「ありがとうございます」
会釈をしエリーの横を通り過ぎる時、辛さの混じる甘い香りが直の鼻先を掠めた。
『このままだと貴女は敗北します。どうなさるおつもりですか?』
声をかけられた時の事が頭を過ぎり、無力さから直の気持ちは再び落ちてゆく。
ーあんな人を大人の女性っていうんだろうな・・・・・・私と違って冷静そうでー
重い足を引きずるように歩く直の後姿を、エリーが静かに見つめていた。