【涼宮ハルヒ】谷川流 the 43章【学校を出よう!】at EROPARO
【涼宮ハルヒ】谷川流 the 43章【学校を出よう!】 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
07/03/09 23:46:19 ZavlI8f0
Q批評とか感想とか書きたいんだけど?
A自由に書いてもらってもかまわんが、叩きは幼馴染が照れ隠しで怒るように頼む。

Q煽られたりしたんだけど…
Aそこは閉鎖空間です。 普通の人ならまず気にしません。 あなたも干渉はしないで下さい。

Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A無ければ自分で作ればいいのよ!

Q俺、文才無いんだけど…
A文才なんて関係ない。 必要なのは妄想の力だけ… あなたの思うままに書いて…

Q読んでたら苦手なジャンルだったんだけど…
Aふみぃ… 読み飛ばしてくださぁーい。 作者さんも怪しいジャンルの場合は前もって宣言お願いしまぁす。

Q保管庫のどれがオススメ?
Aそれは自分できめるっさ! 良いも悪いも読まないと分からないにょろ。

Q~ていうシチュ、自分で作れないから手っ取り早く書いてくれ。
Aうん、それ無理。 だっていきなり言われていいのができると思う?

Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A拒否しない場合は基本的に収納されるのね。  嫌なときは言って欲しいのね。

Q次スレのタイミングは?
A460KBを越えたあたりで一度聞いてくれ。 それは僕にとっても規定事項だ。

3:名無しさん@ピンキー
07/03/09 23:59:07 eBRXxw8B




  原 作 者 の 新 作 読 む と や っ ぱ 圧 倒 的 な 力 の 差 を 感 じ て し ま う 。


  こ れ は も う 如 何 と も し が た い ね ……


4:名無しさん@ピンキー
07/03/10 00:06:36 vFs1ok9q
>>1乙!!
早い気もするが気にするな

5:名無しさん@ピンキー
07/03/10 00:13:35 +vhXBVaE
                    _,..-―---―‐-..、
                   ∠二ニ-―-、_: : : : : :.\
                 /´ _____  ̄\ : : : \
               // ̄   \`\ヽ、   \ : : : \
               V´ /l ト\ _ュュ_\ヽ    l: : : /:.:\
              / / /へ l、\\  `Xヽ\  l: : /:.:.:.:.:.:l
               l/l ハ1  ヾ  ,r_ェ_ミヽトl\\l∠、_:.:.:.:.:.l
               ハトヽ!      f:.::::}トl ト、 \\  \:.: l
               〉! ハ.`ー'   ヾ‐'.l レ′  \\  〉/
               /  / ハ"" r‐, ""/,-亠--、   \`く_ `ヽ______________
               /  _「 ̄ ̄l>-.`_ イ/: : : : :.:.:.ヽ   \ ` ‐-' 、        学校を出よう |
.            /   /:! / \ハ :\_//: : : : : :.:.:.:.l l 、  \   \涼宮ハルヒ≠≠≠.    |
         / / ,/  トl    ` ヽ_:.○\_ : : : : .:.:.l l l    ヽ )   !                  |
        /   l ハ  人\       〉 : : l:丶:.:.:.:;/! / /l    l/l  / 谷川流 the 43章.     |
         〈_l l l ヽ ヽ_  /ヽ_   / : : /:: : : : /:.:/∧∧レ、 / l/                   |
        ```ー  \vユ´:.:.:.:.:マ=イ.:\/: : :.:.:.//´:.\ '└".|       ス夕―卜!      |
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              l  .l       !   /                \                  冫  _∠ニイ
             i亠¬―---!、 ./                              /     /― ´   /
           l: : :.「: : : : : : : : 〉 /                           /      ハ___r‐'′
          l: : :.l: : : : : ○:./ 〈    ___                      ̄ ̄   l \ブ
             !: : j: : : : : : : /  ヽ  / /                               /
           〉: :〉: : : : ○:〉   ', /      \__                   /
           _ へ」_: : : : : :./    V             ̄ ̄                /
       ._∠二-‐´: ̄`丶、l   /                             l
      //: : : : : : : : : : : : :/    \                             /
      ヒt_______フ     \__                      __/


6:名無しさん@ピンキー
07/03/10 02:29:42 RNuNaDM3
>>3
バロスwwwwwwwww

7:名無しさん@ピンキー
07/03/10 02:32:41 r9u/l9Pp
なんという粘着地面

8:40-549
07/03/10 11:44:30 TaLdGeuN
投下します。
エロあり、薄いですが。6レス予定。
会×喜です。苦手な方は飛ばしてください。


9:生徒会長の幸福
07/03/10 11:45:49 TaLdGeuN
 さて、これはとある高校の生徒会長と書記でありまた全校公認のバカップルでもある二人組が、自称でもそうなる事になってから数時間後のお話である。

1.

 喜緑江美里は会長の部屋のベッドの上に座っていた。これは彼女が会長の告白を受けた後、泣きながら彼の胸にしがみつきそのまま離れなかったせいであり、決して彼の下心の結果というわけではない。愛という字は真心だ、という言葉の通りである、多分。
 江美里が彼女にしては珍しくベッドの上で何もせず呆けていると、飲み物を持った会長が部屋に入ってきた。
「落ち着いたかね、喜緑くん」
 江美里はコップを受け取り、しかし口をつけずに、ただ彼の顔をボウッと眺めている。ふわふわした浮遊感がずっと続いているようだ。恋愛初心者につきものの自己世界への旅立ちというやつなのだろう。
「うん、どうしたんだね。睡眠薬はまだいれていないよ」
 ………ちなみにではあるが、恋という字は下心、という言葉もある。フォローにはなっていないが。
 恋する乙女のアッパーカットで意識を刈り取られてベッドに沈む馬鹿。………一つ言葉を送ろう、空気を読め、と。


(えっと、どうしましょうか)
 ベッドで幸せそうに眠っている(眠らされていると言った方が正確ではあるが)会長を眺めながら江美里は考える。何となくだがこういう事で思念体からの情報ダウンロードは行うべきではないような気がする。
 そう思った彼女は、自己データ内に存在するクラスの人間の会話やたまたま目に入った本の内容を一つ一つ検証していく事にした。
(こういう時、恋人同士がする事といえば………)
 いきなり顔が真っ赤になる江美里。いろいろと有害指定な事を想像したようだ。彼女の起動した日からの期間を実年齢とするならば、『耳年間』というやつにあたるのだろう。
(ああ、そういう事はまだ早いですけれど、………キス、くらいは)
 このままだと意識を飛ばしておいて無理矢理奪ったそれが、二人のファーストキスということになってしまうのであるが、不幸な事にそのような事をつっこんでくれるいつもの後輩はここには不在であった。

 二人の唇が軽く触れ合う。
(え、何?)
 瞬間、江美里の頭は真っ白になった。
「ふっ………んっ……んちゅっ」
 そのまま二度、三度と触れ合うだけのキスを繰り返す。触れ合うたびに脳髄が芯からしびれていく感覚に襲われる江美里。どうやらかなり感じやすいタイプのようだ。
(もっと、深くに………)
 上唇を甘噛みしながらそれに舌をはわせる。無い筈の甘みを何故か感じる。断続的なしびれ感は既に彼女のニューロン全体に回っており、正常な思考は不可能な状態である。
 だから彼女は、確かな意思を持って突き出された彼の舌も、迷う事無く自らの口内へと受け入れた。

「ふむ、ちゅぱっ………、ちゅぷっ」
 そのまま口内で舌を絡めあい、卑猥な音を立てる。彼の手がいつの間にか背後に回りこみ、江美里の頭を固定しているのだが、彼女はそれにすら気付かない。既に意識はキスにしかないのだ。
「んくっ、……ちゅ、…コクン」
 歯茎をなぶる。頬の裏をこする。口腔内の全ての場所から彼の液体を集め、嚥下する。体の感覚は舌以外大部分が麻痺している。舌は全身に、全身は舌になる。『全身』を使って彼を感じている。
「ふっ、んっ、ふっ、ふっ」
 お互いに動きが激しくなる。『全身』は既に感じるままに求め合うだけの肉の塊。呼吸のため離れようとした相手を追いかけ、捕まえる。呼吸のため離れようとしたところを追いかけられ、捕まる。
「ふむっ! んちゅ、……はむっ」
 頭がボーとする、酸素が圧倒的に足りていない。心が乾いている、彼が全然足りていない。
(わたしは、彼が欲しい)
 酸素を拒絶し、彼の舌を、彼だけを求めて動く江美里。彼もそれに答える。
「ふっ、むっ、ん、んちゅ、ちゅる」
 静かな部屋の中、ただ粘膜同士が擦れあう淫らな音だけが響いていた。

「ん、………あ」
 一瞬意識がとぶ。酸素不足により脳が限界を迎えたのだ。江美里は力が入らずにそのまま彼の胸に倒れこんだ。
「かはっ、げほっ、ごほっ」
 肺が無理矢理に酸素を取り込もうと痙攣を起こす。そのためキスを続ける事はおろか、まともな呼吸を行う事すらできず、江美里は咳き込んだ。
 見上げると彼も同じような状態に陥っている。胸に耳を当てるとすごく早くなった彼の鼓動が聞こえてきた。
 何となくお互いに抱きしめあう。鼓動と温もりを感じる。始まりはいろいろアレだったが、まあおおむね成功といえるファーストキスだったのではないだろうか、………答えは彼等の中にしかないだろうが。



10:生徒会長の幸福
07/03/10 11:47:40 TaLdGeuN
2.

「さて、一つ疑問があるのだが………」
 会長がそう話を切り出した。
「キスで死んでしまった場合も腹上死というのだろうかね?」
 ………つくづく空気の読めない人である。
 江美里はその言葉で今までの自分の行動を思い出し、実感し、
(うわぁ)がすっ! 「ぐはぁ」
(いやぁ)ごすっ! 「ぶるあっ」
(ふあぁ)どごすっ! 「ぼぐるぁっ」
 と、可愛らしい照れ隠し(相手にとってはわりと致死的な打撃)を行うのであった。

 飛びそうな意識を必死に繋ぎとめながら会長は話を続ける。
「いや、すまないね、喜緑くん。ここからは大事な話なのだよ」
 そう聞いて、やっと江美里は殴る手を止める。………顔は真っ赤なままだったけど。
「実はね、上手くは言えないのだが、その、………私は本当はこんな私ではないのだよ」
 今の顔はとある目的のために作り上げたものであり本当の自分の顔ではない、と会長は言う。
 既に江美里はそのことは知っていた。そしてこの期に及んでもまだ本当の顔を見せてくれない彼を少しだけ不満に思う。
「では、本当の会長はわたしの事をどう思っているのですか?」
 思わず意地悪な質問をしてしまう。
「心の底から愛しているよ。この顔で言っても信じてもらえないかもしれないが、これが、これだけが、私の真実だ」
 思いもかけずに返ってきた真剣な返答。それを聞いて顔に再度血が集まってくる、止まらない。
 そんな顔を見られないよう俯いた彼女は彼の顔を見ていない、………泣き出しそうな彼の顔を。
「情けない話なのだがね、私は恐いのだよ。本当の顔を見せてキミに嫌われるのが恐いのだ」
 それが彼の悩み、彼の憂鬱の正体。



11:生徒会長の幸福
07/03/10 11:48:26 TaLdGeuN
 顔を上げようとした江美里は彼に抱きしめられる。そうやって自分の顔を見られない状態にしておいて彼は話を続ける。
「すまない。今の顔は………、見られたくない。それで、喜緑くん、キミは………、こんな私を、嘘つきで弱い私を、………どう、思うかい?」
 言葉は狭い部屋の中、小さく、弱弱しく響く。恋愛は人を弱くする。
 江美里は考えた。
(わたしは………)
 ふと気付いたら、彼女の体が勝手に彼をベッドに押し倒していた。
(………ならば、これが答えなのでしょう)
 そう納得し、宣言する。
「わたしは、どんなあなたからも、逃げません」
 そして反論と、唇を塞ぐ。
 彼はまだ、彼女に全てを見せたわけではない、けれど、
(弱さを見せてくれたのは、前進したという事でしょう)
 そう思うだけで彼女は嬉しくなる。そんな自分にあきれながら江美里は彼に話しかけた。
「あなたが見せたくなった時に、全てを見せてください。………それと一つだけ、わたしも心の底から、あなたを愛していますよ」
 言いながら江美里は覚悟を決める。恋愛は人を強くする。
(いけるところまで、いってしまいましょう)


「では、それ以外の全てをわたしに見せてください」
 江美里のそんなセリフに顔に?マークを浮かべる会長。
(えっと、何言ってんだ、こいつは)
「具体的に言いますと『脱げ』という事です」
 恋愛初心者のインターフェイスが暴走を開始したようである。
(いや、まあ)
 したくない、といえば嘘になってしまうだろう。目の前にいるのは大好きな女の子なのだから。
「見せられるものは全部見せてください。………その、わたしも、全部、………見せますから」
 真っ赤な顔で、潤んだ瞳で、そう宣言する江美里。
「いや、喜緑くん。そのセリフの意味、分かっているのかい?」
 いちいち聞きなおす彼、実にヘタレである。
「はい、更に具体的に言いますと………、その、わ、わたしをあなたのものに、……して……ください」
 女性にここまで言わせる男性というのはどうだろうか? ………夜道で刺されても文句は出るまい。
 ヘタレも事ここに至って、ようやく覚悟を決めたらしい。
「分かったよ、喜緑くん。今、キミに見せられる全てを見せよう」
 そして今度は始まりを告げるキス。
「とりあえずブルマとスク水は外せないだろうね」
 ドゴスッ!
 再度意識を刈り取られる馬鹿。………なんというかもう、フォローのしようがない。



12:生徒会長の幸福
07/03/10 11:49:25 TaLdGeuN
3.

 二人は部屋の中で裸になって向かい合っている。
 江美里は手で胸と秘部を隠し、恥ずかしそうに俯いている。いかにも初めてを感じさせる微笑ましさだ。
 会長は何一つ隠そうとせず堂々と男性自身をさらしている。男らしいのかただの変態なのかは区別が難しい。
「さて、喜緑くん」
「ひゃ、ひゃいっ」
 緊張のあまり受け答えがおかしくなる江美里。ただ、視線はさっきから彼の男性自身に固定されている。どうやら興味津々のようだ。
「とりあえず、今からキミにエロい事をするわけなのだが」
「うー、直球ですねー」
「変化球が投げられるほど経験があるわけではないからね」
「えっと、その事なんですけど、………わたしもこういう事は何も知らないんですけど」
 彼女は結局思念体からの情報ダウンロードは最後まで行わない事にしたようである。
「問題ないだろう。愛さえあれば、何でもできる」
「いえ、その、あまり変態的なプレイは、ちょっと困るのですが」
「はっはっは、またまたご冗談を」
「………殴りますよ」
 笑顔で拳を握り締める江美里。会長は慌てて言いなおした。
「冗談だよ。うん、優しくする、約束しよう。………それと、愛しているよ、喜緑くん」
「はい、わたしもあなたを愛していますよ」
 ………なんというかもう、バカップルである。


 抱きしめあう。肌と肌がじかに触れ合う。
「ふあ、………ああ」
 彼に触れた部分から江美里の脳髄へと、先程のキスより数倍も強い痺れが伝わる。
 思わず、声が出た。
「ひんっ。……ちょ、まっ……、ひゃあっ!!」
 気を落ち着かせようと深呼吸をしようとした所で胸を揉みしだかれ、意識が飛びかける。
「かいちょぉ、………まってよぉ」
「………すまない。耳元でそんな声を聞かされて冷静でいられるほど私は聖人君子ではないよ」
 そう言って彼は右手で逃げられないよう江美里の体を固定し、左手で思うがままに胸を揉みしだいた。

「ふあっ……、んんっ………、はむっ」
「痛っ」
 江美里は無意識に彼の肩に歯を立てる。彼は仕返しとばかりに江美里の先端の突起を強くつまんだ。
「んーーー!!!」
 彼の肩から血が滲み出してきた。江美里が相当強く噛んだせいであろう。
「ん、ぺろっ、んちゅ、ちゅる」
 その唾液より濃い液体を舐め取る江美里。頭が働かない中、右手で彼の背中を固定、左手で彼自身をしごき始める。お互いの体を弄り合う。全ての感触を記憶に焼き付けながら、
「んっ、……ちゅっ、ちゅくっ」
 キスをする。少しでも互いの隙間を埋めようと舌を絡ませあう。
 彼の手が胸から秘部に下りていった。

 薄めの草原を掻き分け、『彼女』に辿り着く。くちゅり、と水音。そのまま浅い部分をかき回す。江美里の体が震える。彼はこのままキスを続けて舌が噛まれやしないか少し不安に思ったが、止まれない、と判断した。
「ふっ、んっ、んっ、んっ」
 鼻息が荒くなっている。早いような気もするが、そろそろ限界なのだろう。
 彼は人差し指と中指で彼女の中をかき回しながら、親指で充血している突起を強く押しつぶした。
「んっ! んーーーー!!!」
 江美里は口を塞がれた状態で背筋を突っ張らせて二・三度痙攣した後、そのまま会長の胸に倒れこんだ。達したのだろう、どこか虚ろなその表情は目の焦点が合っていない。
「だ、大丈夫かね、喜緑くん」
 慌てる会長。
「えへへ……、すき、……すきぃ」
 達した後の回らない頭でそう答えながら、はむはむと彼の二の腕に噛み跡をつけていく江美里。どうやら噛み癖がついたらしい。
 彼はそんな江美里を優しく見つめながら、彼女の頭を撫でていた。



13:生徒会長の幸福
07/03/10 11:50:32 TaLdGeuN
4.

 肩から二の腕にかけて10箇所ほど噛み跡をつけようやく落ち着いたらしい江美里を会長は再度ベッドに横たえた。
「えっと、では、……キミをもらうことにするよ」
「名前」
「ん?」
「名前で呼んでいただけますか」
「そうだね。愛しているよ、江美里くん」
 彼に噛み付く江美里。どうやら嬉しさの表現のようだ、………分かりにくいけれど。
 抱きしめあいながら彼自身の先端が、彼女の入り口を探そうと彼女の肌をこすりつける。
「ふい、………ああ、ん」
 こすれ、はじかれるたび、江美里の口から押さえきれない嬌声が飛び出す。
 何度か繰り返していると、くんっ、と少しだけ入り込む場所があった。
「ふあっ、は、はい、そこ、です」
 ん、と頷き、腰を前に突き出した。

「いっ! あ、んんっ!」
 彼女の中は十分に濡れてはいたがやはり初めてなのだろう。抵抗が強く彼のモノはなかなか中に入っていかない。
「ふ、んん、ん」
 彼は歯を食いしばって痛みに耐える江美里にキスをして強く抱きしめた。
 肩に歯が、背中に爪がたてられる。そこから血が滲み出し、痛みが走る。それで江美里が感じる痛みが少しでも紛れれば良いと思いながら、更に奥へと進んだ。
「ん、………ん」
 痛みを感じ、与えながら進んでいくとやがて、強い抵抗を感じる部分に突き当たった。
「いいかい?」
 問う。こくり、と彼女が頷いたのを確認し、愛情と決意を込め、そのまま彼女を貫いた。

「んーーー!!!」
 瞬間彼女の中の『彼』が焼き尽くされそうな熱さと食いちぎられそうな締め付けに襲われた。
 動こうにも動けず、とりあえず彼女の顔を見た。
「痛い、というか熱い、………んあ、ですね。………こんな感じ、なんですか?」
 泣き笑いの顔で江美里がささやく。彼はそんな江美里のあまりの可愛さに思わず暴走してしまいそうになった。
「そう言われても、私には良く分からないのだがね」
 そう言いながら自分を抑えるため、江美里を見ないようそっぽを向く彼。
 とりあえずお互いにいろんな意味で落ち着くまで動かないようにしようという結論に至った。

「ところで会長、背中とか結構血まみれですよ」
 少し時間がたった後で江美里にそう言われて、彼は自らの背中を確認するため少しだけ体を捻った。
「ひあっ」
 その動きにより中で微妙に『彼』が動き、江美里はその衝撃で思わず声が出た。
(………痛いのか? いや、というよりむしろ)
 彼は体に力を込め、彼女の中で彼自身を振動させる。
「ひうっ、……あんっ」
 明らかに悦びを含んだ声が彼女の口から飛び出した。
 結合部からは血液が流れている、初めてであった事は間違いないだろう。
「ふむ、エロいね、江美里くん」
「………なぐりますよ」
「この体勢では力が入らないだろう」
「………か、かみますよ」
「むしろ快感だが」
「………うー、なきますよぉ」
「それは………困るね、うん」
 いつもより弱く、可愛くなっている江美里とじゃれあいながら、もう大丈夫だろう、と彼は判断する。
「動くよ」
 という問いに、
「はい」
 という答えが返ってきた。



14:生徒会長の幸福
07/03/10 11:51:25 TaLdGeuN
 最初はゆっくり抜き差しする。
「ふ、…ん、……ん」
 江美里はまた歯を食いしばっているがそれは痛みをこらえるというよりはむしろ、
「声を出したまえ、江美里くん」
 そう言って彼は彼女の口を自らの舌でこじ開けた。
 舌の絡ませながら腰の動きを早くしていく。
「いあっ、ふむっ、ふあっ、ああっ」
 彼の背中に再度爪が立てられる。その痛みすら心地良い、と感じ、ぐっ、と押し込み彼女の最奥を突く。
「ひああっ! そこ、いい!」
 角度を変えながら同じ部位を叩く、擦り付ける、抉り込む。ぐちゅぐちゅという淫らな音と彼女の嬌声が部屋中に響き渡る。
「あ、うんっ、…すき、…すきぃ」
 彼は突きこむ速度を更に速くする事で彼女の言葉に答えた。肉同士がぶつかり合い、ぱしんっ、と音を立てる。
「なか…にぃ、だしてぇ」
 その言葉に興奮し、彼女の全てを埋め尽くすかのように更に彼のモノが膨張する。お互いにもう、限界は近い。

「くっ、もう、すぐだよ」
「うんっ、きて、…きてぇ」
 神経の中を淫らな液体が走ってくるような感覚。それをごまかすために動きを更に大きく、早くする。
「んあっ、あ、あ、あ、あ、」
 一際強く、彼女の奥に彼自身を叩きつけた。
「や、あ、あ、あーーー!!!」
 昇りきり、背筋をそらしびくびくと痙攣しながら叫ぶ江美里。彼のモノが今までで一番強い力で締め付けられた。
「うっ!」
 その締め付けで彼も達し、信じられないほどの量の白濁液が彼女の中に注ぎ込まれた。
「ふあ、入ってくる………あつい、よぉ」
 自分の中に入ってくる彼の液体を感じながら、彼に抱きつく江美里。余韻にひたりながらはむはむと彼に噛み付き始める。彼はそんな彼女を改めて愛しく思い、想いを込めてぎゅっと抱きしめた。



15:生徒会長の幸福
07/03/10 11:52:11 TaLdGeuN
5.

 終わった後、二人は何となくお互いに離れたくなく、同じ毛布に包まりながらどうでもいい話をしていた。
「ところで会長、わたし思い切り中に出されたんですけれど、もしホームランだったらどう責任とってくれるんですか?」
「………キミが、中に出せ、と言ったような気がするのだが」
「気のせいです」
 さらりと嘘をつく江美里。まあ、これも一種の甘噛みであろう。
「愛しているよ、江美里くん」
「わたしもです。ですからごまかさずに答えてくださいね」
 ごまかそうとして墓穴を掘る典型的なパターンである。

 彼はここでため息を一つ。恥ずかしい事を言う決意を固める。
「江美里くん、私はキミといると幸せになれる。キミも私と共にいて幸せになって欲しいと思うよ。できればずっと、打席の結果によらず、ね」
「ふあ? え、い、いきなりプロポーズですか?」
 自分で追い詰めておいてパニクる江美里。
 追い詰められたネズミは不敵に笑った。
「ふははははは! では、返答を聞かせてもらおうか!」
 江美里は言葉を考え、出てこないと結論し、行動で示すことにした。
 彼のほうを向き、目を閉じ、軽く顔を上げる。
 そして、誓いの口付けを。


 キスを交わしながら、永遠を誓いながら、彼は思う。
   ――これが幸福というやつなのであろうか、と



16:40-549
07/03/10 11:52:48 TaLdGeuN
以上です。
これで終わりです。
では、また。


17:名無しさん@ピンキー
07/03/10 12:03:56 tS9C/CWi
ぐはっ!!甘くてエロくてもう何がナニやらwwGJ!!
ただやっぱりエロをいれるとキャラが変わるな。まあ俺はそういうのはありだからいいんだけど

18:名無しさん@ピンキー
07/03/10 12:19:45 zfa5/MX4
GJ!喜緑さんかわいすぎでしょ

19:名無しさん@ピンキー
07/03/10 13:03:25 BpwXzX9X
長期に渡って書いてなかったからリハビリがわりに
リハビリがわりにハルヒは間違ってる気もするが
ザスニ最新は端々聞いただけだから食い違いあるかも

20:『SOS団』1
07/03/10 13:07:22 BpwXzX9X
 俺が宇宙的未来的、または超能力的な事件に巻き込まれるようになって、早いものでもう一年近く経とうとしている。
 とはいえ、本格的に宇宙的未来的、または超能力的な事件に首を突っ込む、もとい首根っこ掴まれ頭から突っ込まれる様になったのは5月からなので、一年という表現は正しくはないが。まぁ、いいだろ?
 てっきり俺はハルヒが一暴れするんじゃないかと警戒していた卒業式はつつがなく終了し
 学年末テストという一年を通しての普遍的人間的学校生活におけるラスボスと呼んで差し支えないであろう凶悪な敵を、連日部室で『GTS』の腕章をしたハルヒのスパルタもかくや、というテスト対策のお陰で、晴れ晴れとした気分で、
 今、テスト最終日の最終時限の終礼チャイムを待っている訳だ。
 しっかり見直しもしたし、前回の中間のように早く終わったと調子こいてたら答案用紙の裏側まで解答欄がびっしり、なんていうこともないようだ。

 しかし一年、か………。長いようで短いもんだ。宇宙の物理法則云々をどうこういいながら早朝ハイキングコースを嫌々歩いていた自分が羨ましい。
 あの頃の俺は、まさかこんな一年を送ることになるだなんて想像だにしなかったろうな。いや、自分のことなんだが

 三年前の七夕はハルヒと、ハルヒを取り巻く世界のはじまりであり収束点だ。だが俺は? 俺自身時間移動なんてものを経験し、宇宙的未来的、または超能力的な収束点とやらになんどか関わっちゃいるが、
 俺にとっての始点と言えば長門のマンションになるんだろうか。無口少女の電波マシンガンを皮切りに、俺の世界は変わっていった。

 そしてその誰もが、俺を選ばれた『鍵』として―

 そんなことを考えている内に鐘がなった。あるものには解放を、あるものには絶望を知らせるこの音に、何故か俺は救われたような気分になった。
 用紙を回収し終わったと同時に
「あたし先行ってる!!」
と後ろから爆音。いや、HRはぶっちぎるんですか?

21:『SOS団』2
07/03/10 13:08:13 BpwXzX9X
 高校一年目も答案指導と修了式を残すばかりとなり、それはつまり高校一年という肩書きを持ったままこの本校舎から部室棟までの道のりを歩くこともあとわずかということだ。
 とくに感慨深いというわけでもないのだが、休みの日にここに集まった覚えもないので、やはりそういうことなのだろう。
 部室の、そろそろ天寿を全うされそうな上、ハルヒによって毎度壁との激突を余儀なくされているドアをいたわりつつノックする。無言の歓迎を受信し、中へ入ると定位置で本を読む長門と目があった。
「………」
ミリ単位で首肯し、目を本に落とそうとする長門。
「なあ、お前一人なのか?」
「………」
さっきよりは深い首肯、といってもミリはミリだが。
 ハルヒのヤツはHRも出ないでどこ行ったんだ?
「涼宮ハルヒは」
長門が本を見たまま言う。
「学年末考査が終わったと同時にあなたのクラスを飛び出しHR中の朝比奈みくるの教室に突撃。彼女の担任と口論になった後、彼女を拉致。今現在は涼宮ハルヒは朝比奈みくると共に体育館にいる」
 頭痛と目眩がする。風邪かもしれん。
「あなたの身体はいたって健康。私が保証する」
……ありがとう、長門。
「いい」
 心なし嬉しそうな長門を眺めつつ、昔の長門を、出会ったばかりの長門を思い出していた。俺自身はハルヒに無理矢理引っ張られて連れてこられたここ文芸部室で
「長門有希」
と短すぎる自己紹介を受けたのが初邂逅となるのだが、長門にしてみれば未来的パワーで過去へと時間移動した俺となんどか顔を合わせているわけで、初対面でもなんでもなかったわけだ。
 今にして思えば、過去の長門を頼ったとき互いの自己紹介もせずに、俺のことわかるか? などと長門の能力をアテにして失礼極まりない振る舞いをした自分が非常に腹立たしくなってくる。
 こんど朝比奈さん(出来れば大)にお願いして過去の自分をしばきたおすチャンスをもらおう。
 無理か。

22:『SOS団』3
07/03/10 13:08:58 BpwXzX9X
 次に思ったのが、あの消失世界での長門。俺はあの時あの長門の制止を振り切ってこちらの世界を選んだ。
 あの世界は長門が望んだ全て。ある意味で『長門有希』の全て。その全てを俺は否定した。
 何故俺はあの世界を否定したんだろう? 宇宙的未来的または超能力的事件が起こるこちらの世界を望んだからか?
 ならば5月にハルヒと二人きりで立った灰色世界のグラウンドで、あのままあの世界にいればこの世界よりもっと不思議で溢れた日常が待っていたというのに、やはり俺はこの世界を選んだ。
 俺は、俺の望みとは、なんなのだろう?

「長門はこの一年、どうだった?」
気付けば長門に声をかけていた。
「………」
長門は一頻り考えて
「ユニーク」
「どんなところが?」
「全部」
 三年間、こいつはあの部屋で独りで過ごしてきたんだ。長門は待機と言っていた。待機命令が解除された今、こいつの目に写る全てが彼女にとって『ユニーク』なら、俺は何も文句はない。
「SOS団は好きか?」
俺は『長門有希』に聞いた。
「………」
本当に小さく、でもはっきりと長門は頷いた。
「あなたは」
長門は、今度は目を合わせて
「この一年をどう思う?」
 その瞳は出会ったばかりの無とは違う、あらゆる感情をない混ぜにした、特に期待と不安の入り混じった、そんな瞳だった。
 長門の声が切れると同時にドアが開いた。天使のご降臨だ。
「ふえええぇ…やっと終わりましたぁ…」
天使は随分とお疲れのようだ。あれ? ハルヒはどうしたんですか?
「涼宮さんは大切な用事があるとかで…後で必ず来ると仰ってましたが…」
ところで、何をしてらしたんですか?
「体育館で色んな服きて撮影してました…映画がどうのこうのって」
一抹の不安を感じたがこの際それは置いておこう。
「それじゃあキョン君ちょっと待っててくださいね」
朝比奈さんの為ならいつまでも待ちましょうとも。
「準備したらすぐ行きましょう」
ん? なんの話ですか?

23:『SOS団』4
07/03/10 13:09:54 BpwXzX9X
「ふぇ? 昨日キョン君が誘ってくれたじゃないですか…新しいお茶を買いに行こうって。忘れちゃったんですかぁ…?」
「いえっ! そんな滅相もない! 覚えていますとも! さぁ行きましょう!」
 正直そんな一大センセーション的な朝比奈さんへのお誘いを敢行し、あまつさえそれを忘れるはずなど無いのだが、
 目の前の天使改め女神がその輝かんばかりの瞳から世界中の宝石を掻き集めてもまだ足りない価値を持つであろう涙を浮かべてらっしゃるので、そんな彼女を裏切ることが出来るだろうか、いや出来ない。
 もし今の要領で過酷なことを頼まれても断れないだろうな、なんて考えは隅に置いた。

 無事お茶も買い、何気無く散歩しつつ至福の時を享受してた俺だが、ふと、今歩いているのがあの川沿いの道だと気付いた。横をいく朝比奈さんは、なんだか神妙な顔付きだった。
「あのベンチですね」
 心地よい沈黙を破ったのは意外にも俺だった。
朝比奈さんも同じことを考えていたようで
「はい」
と返事をするとベンチに腰かけた。あの時と同じ位置に。
 しばらくまた沈黙が続いたが、今度は朝比奈さんから
「色々、ありましたねぇ…」
やけに感慨深い声だった。
「たった一年なんですけどね」
「それでも、です」
また沈黙
「時間ってなんなんでしょうね」
未来人のあなたにそんなことを言われても…
「ふふっ…それもそうですね」
少し間を置いて
「未来には無限の可能性があります。でもキョン君も知ってる通り、未来は一つしかないんです」
それは、朝比奈さん達未来人が自分達に都合のよいよう過去を操作してるからだと聞いた。
「私がこの一年で見たり聞いたりやったりしたことは、全部予め決まっていたことなんです」
「既定事項ってやつでしたっけ?」
「はい…でもそれってなんか悲しいですよね…私が体験したこと全てが既定事項だっていうなら、私の今の気持ちも既定事項だっていうことですもんね…」
小柄な朝比奈さんがやけに小さく見えた。

24:『SOS団』5
07/03/10 13:10:47 BpwXzX9X
「私は長門さんのように設定されたわけでもないし、古泉くんみたいに自分を自分で振る舞ってるわけでもないのに……意図の外側で私は時間に『私』を作られてるの」
 俺は衝撃を覚えていた。長門や古泉の性格に関しては考える機会を持っていたが、朝比奈さんの場合、古泉が言った「何もしらない、何も偽らない」がこその朝比奈さんであることに甘え、それ自体が彼女を苦しめていることを知りつつも、特に思考しなかった。逃げていた。
 しかもそれは彼女の無力感からの苦しみだとばかり考え、それは更に未来の朝比奈さんを知る俺にとっては杞憂に過ぎないと思っていた。しかしどうだ、既定事項という枠組みの中しか生きられないのは朝比奈さん(大)とて同じはず。なんだか無性にやる瀬なさを感じていた。
でも
「朝比奈さん」
目が合う
「朝比奈さんは女神です」
「ふぇ!?」
間違えた
「朝比奈さんは朝比奈さんだけなんです。あなたが体験したこと、あなたが感じたことはあなただけのものなんです」

でもだからこそ、俺は『朝比奈さん』に訊いた。いや訊かずにはいられなかった。『長門』にした同じ質問を
「朝比奈さんはこの一年、どうでしたか?」
「わたしは…―」
『私』を探してる朝比奈さんに
「今ここにいる朝比奈さんに聞いてるんです。他の誰でもない」
朝比奈さんは目を見開いた後、静かに目を閉じ
「…私が過ごしてきた中で、もっとも…かけがえのない時間です」
と答えた
「朝比奈さんはSOS団が好きですか?」
朝比奈さんは少し困ったような、それでいて女神のような微笑みで
「…はいっ」
世のオスは全て堕ちるだろう、と心のどこかで思った。

25:『SOS団』6
07/03/10 13:11:38 BpwXzX9X
「そろそろ帰りましょうか。ハルヒが戻ってきてたら厄介です」
朝比奈さんは苦笑して
「そうですね」
とだけ言って立ち上がった。
 なんとなく、話してる間ずっと気になっていた空き缶があった。いかにも蹴っ飛してくれという感じの。朝比奈さんの声が聞こえる。
「キョン君は」
ちょっと助走をつける。
「この一年を」
足を振りかぶる。
「どう思うの?」
急速に、急速に嫌な感じが頭を突き抜け、足を制御しようと試みたが時既に遅し。
蹴られた空き缶は吹き飛ばず、俺の足に激痛を残すだけになった。
「キョキョキョ、キョン君!? だ、大丈夫!? え!?」
わけが分からないと言った感じの朝比奈さん。
「いっつつつ…痛ぇ…誰だこんなアホな真似しやがるアホは…」
 案の定、空き缶は打ち付けられた釘を覆うようにしてセットされていた。
 朝比奈さんとの思い出を走馬灯のように思い出していたおかげかはたまた宇宙的未来的または超能力的パワーに関わりすぎて未知の力が発現した為か、とにかく全力での衝突は防げたので、歩ける位にはすぐに回復した。
 道中俺の右足を気遣ってくださる女神に心奪われつつ、部室前にたどり着いた頃には日は傾いて赤みをさしていた。
中には長門と、古泉がいた。
「お二人でお出掛けしたとうかがっていたのですが、なかなかお帰りにならないので心配していたところです」
相変わらずうさんくさい笑みだな。
「すみません…私が付き合わせちゃって…」
「おや? 足をどうかされたんですか?」
めざといな
「他ならぬあなたのことですから」
やめろ、朝比奈さんが5センチほど離れたじゃないか
しかしハルヒはまだ来てないんだな
「ええ、僕が来たときにはまだ。そして今まで一度も」
「長門は見てないか?」
「ない」
どこにいるか聞こうとも思ったが、やめた。

26:『SOS団』7
07/03/10 13:12:33 BpwXzX9X
「それはそうと、昨日の約束通りジュースをおごりますよ。今でよろしいですか?」
「ん? ああ」

 俺達は五月にハルヒについて話したあの場所に腰を下ろしていた。
 賢明な諸君らは気付いているであろう、俺は昨日ハルヒと勉強缶詰でこいつと話さえしていない。約束? なんの話だろうね。
「で、なんの用だ?」
「用、とは?」
「わざわざこんなところに来たんだ、なんかあるんだろ」
「この一年の反省、と言ったところでしょうか」
「………」
「先に言っておきますが、僕は、僕個人はこの一年がとても意義あるものだと理解してますし、SOS団は僕にとってなくてはならないものです」
まだ俺は何も言ってないわけだが
「今日のあなたはわかりやすい。顔に書いてありますよ」
案外俺も感傷に陥りやすいのかもな
「否定しない辺り、いつものあなたとは違いますよ」
「俺にだってこういう時もあるさ」
「『僕』が性格を偽ってる、という話は前にしましたね?」
お前、盗み聞きはよくないぞ
古泉は肩をすくめて
「でも、最近気が付いたんです」
スルーしやがった。
「『僕』にとってSOS団にいられる僕こそが全てなんじゃないかって」
「………」
「『僕』は僕が好きなんです。本当、おかしなことに」
聞きようによってはただのナルシストだな。顔がいいからなお性質が悪い
「でも、あなたは分かってくれるでしょう?」
「まぁな」
不本意だけど、少しだけな
「ならそれだけでいいんです、『僕』は」
ホットの紅茶をすする音が響く
「今度は僕の番です。あなたはこの一年を振り替えって、どうお考えになりますか?」

27:『SOS団』8
07/03/10 13:13:25 BpwXzX9X
 そして辺りがすっかり闇に包まれた今、俺はハルヒと共に東中の校門をよじ登っている。
 あの後部室でまったりしていた俺達の前に嵐のように現れ、解散とだけ言い残し、俺を拉致してここまで連れてきた。
何故だ?
「ここ、あたしの母校」
「知ってる」
「ならいいじゃない、来なさいよ」
俺はwhereじゃなくwhyを訊いたんだが
「い い か ら」
はいはい
「返事は一回!!」
 校庭のど真ん中に二人で立っている。まだ教員やらがいてもおかしくないだろう時間なのに校舎に人のいる気配はない。あのニヤケ面に言わせればハル(ryってとこだろうか。
「あんた、さっきから何ぶつぶつ言ってんのよ気持ち悪い」
ぬかったぁ! また口に出してたのか…
「ここさ、4年前の七夕のここでさ、あたし会ったんだ」
「誰に?」
「ジョン・スミス」
まあ想定の範囲内だ。動揺もしない。
「外人か?」
「偽名よ、日本人に決まってるじゃない」
決まっているのか。
「そいつは宇宙人も未来人も超能力者もいるって言ったわ」
断言したっけかな…。
「それからずっと探したけど、見付からなかった」
彼女の顔は曇らない。
「でも、それ以上に大切なものを見付けたの!」
ジョンのおかげだから、と続けられて少しびっくりしたがそういうわけじゃなさそうだ。
「あたしはこの一年本当に楽しかった! SOS団より素晴らしい仲間なんて世界中どこ探してもないわ!!」
あたしも『あたし』もない少女が夜空に向かって叫んだ。
「…キョンは? キョンはどうだったの?」
途端不安気に揺れる瞳。
俺は少しだけ言葉を選んで言った。
「『俺』は―」
「この世界」を選んだ答えを得た気がした。

28:『SOS団』終
07/03/10 13:14:10 BpwXzX9X
「そういえばお前、今日一日中どこ行ってたんだ?」
「はぁ? あんたが言ったんじゃない。次の映画の撮影場所の下見に行ってこいって。時間ないんだからガンガン撮らなきゃダメだって」
 なんだか急に血の気が引いてきた。
「言っておくけど春休みの予定、ぎっしりよ」
それはある意味想定の範囲内。
「次の一年はもっともーっと楽しくなるんだから!!」


 余談になるが、すっかり遅くなった頃自宅に帰ると、家の前に女神がいらっしゃった。
 これも想定の範囲内だった俺は来年度も幾度となく呟くことになるだろう相棒の名を呼んだ。
「……やれやれ」
とね。


FIN FUNNEL

29:名無しさん@ピンキー
07/03/10 13:22:13 BpwXzX9X
内容おかしかったら指摘してほしい
力不足は指摘しないでほしい
キョンが3年前とか言ってるのはスルー

30:名無しさん@ピンキー
07/03/10 13:48:18 zfa5/MX4
GJ。悪くはないんだが、キョンの記憶にない約束、会話がよく分からんかった。
別サイドの伏線か?

31:名無しさん@ピンキー
07/03/10 14:48:56 ZkCmFhRC
GJ!です。
なんだろう、この'のほほん'となる感じは?そうか。これが'和む'ということか。

32:名無しさん@ピンキー
07/03/10 14:50:41 f4gocpnl
所々の読点が抜けていることが気になった。
あとは特に無い。

33:名無しさん@ピンキー
07/03/10 15:06:07 CCK2AMf4
>>16
会長と喜緑さんをそのまま宮野と茉衣子に変えても成立しそうな違和感があった。

34:名無しさん@ピンキー
07/03/10 16:27:06 MeOFfDvt
読点は妥当だと思うよ。
プロでも息継ぎだとか称して論理破綻した点を打ちまくったりするから逆に読者も毒されてる感がある。
ただ、多いから駄目ってことも一概には言えない。不安なら句点を増やして一文ごとを短くする。

35:名無しさん@ピンキー
07/03/10 18:23:31 pjA9ukRo
gj

>>30
キョンが時間移動して約束して回ったんじゃね?
最後の
>家の前に女神がいらっしゃった
これは朝比奈さんだろうし。

36:名無しさん@ピンキー
07/03/10 21:44:09 7VmPVEo+
>>16
エローッシュ!!
甘々で歯が溶けそうw

>>29
冗長な語りだな~と読んでいたら、後半には自分までマッタリしてた
騒乱の春休み前の日常、嵐も前の静けさか、津波の前の凪みたいなもんか
キョンだけ忙しいのがご愛嬌w GJ!

にしても、ごく最近「エロ投下減ったな」的会話があったと思ったら
前スレ辺りから、いい意味でエロ成分増えたねぇ



37:名無しさん@ピンキー
07/03/10 22:38:44 d798u/ui
うん、エロ分とミヨキチ分も増えてうれしいね

38:名無しさん@ピンキー
07/03/10 23:51:07 7iYfDEpN
エロパロ板だけど感動できる奴もほしい。

39:名無しさん@ピンキー
07/03/11 00:01:18 arXJy6gX
キョンが阪口とエロするのがない

40:名無しさん@ピンキー
07/03/11 00:03:04 QgdIEwnB
>>29
面白かった。にしてもハルヒからジョン・スミスを語らせるのはある意味鬼門だよね
ハルヒが誰にもジョン・スミスの事を話さず秘密にしてるからこそ、キョンの最後の切り札が生きて来るわけで
下手に前振りされたら、切り札が切り札足り得なくなる

41:名無しさん@ピンキー
07/03/11 00:10:48 zfvvB5jl
>>39
> 阪口
 誰

42:名無しさん@ピンキー
07/03/11 00:12:59 gNj81PO0
>>40
以前そんなSSあったな。
ハルヒと古泉がラブラブな改変世界で、
キョンがジョン・スミスバレをしても「もう、古泉君ったら、内緒だって言ったのに」
とか言って相手にもされなかった話。

43:名無しさん@ピンキー
07/03/11 00:13:37 zsZowsP8
>>29
GJ!!
朝比奈さんの性格云々が凄く巧いと思う
後『』が話に深みを出してる

あの悪戯がキョンが自分で仕掛けたのなら
前述の過去の自分をしばく~にかかってくるのかな?
後日談的な説明を入れてほしかった

44:名無しさん@ピンキー
07/03/11 00:21:50 arXJy6gX
>>41
阪中だった…

45:名無しさん@ピンキー
07/03/11 00:40:17 i/kGK2rp
>>42
ハルヒとキョンがラブラブになってハルヒがキョンに喋っちゃっても、結果同じになっちゃうよな。
ジョンバレができなくなる。

46:名無しさん@ピンキー
07/03/11 01:31:21 e/hFpooZ
>>42
vipの奴か
ジョン・スミスバレしても相手にされなくてキョンがすごい落ち込んでて見ててカワイソスだった・・・
NTRは受け付けんなぁ・・・

47:名無しさん@ピンキー
07/03/11 02:18:01 Hf8OiOts
ジョンのときに言った言葉そのまま反芻すれば信じるんじゃないか?

48:名無しさん@ピンキー
07/03/11 03:27:47 6cu9Xfgv
ちょっと投下しますよ。

長くなりそうなんで、とりあえず書きあがった分の一部をまとめて。

おはぎに生クリームかけたくらいのくどさなので、そういうのが嫌な人はスルーを推奨します。
あと、スニーカーの先行掲載分は読んでないから、新しい設定でも出来たならそれは知らないです。

49:涼宮ハルヒの再会
07/03/11 03:28:49 6cu9Xfgv
1章~ジェニュイン・ラブ~




耳を劈く嫌な音がする─タイヤが擦れる音だ。
視界を何かが遮る─巨大な車体だ。
──
惨劇を前にして、俺に出来たのはただ叫ぶことだけだった。




「うあぁあああああああぁああああああああ」

腕を思い切り振り上げる。
ドサリと思い何かの落ちる音がした。
…………?
どこにも異常のない俺の部屋だ。
窓からは、獲物を捕らえる漁師の銛みたいに、朝の光が俺を目掛けて突き刺さってくる。

「わあ、びっくりしたぁ。キョンくん。どうしたのお?」
ドアの開く音に顔を向けると、妹が驚きを絵に描いたような表情でこちらを見ていた。
落ち着いて部屋を見渡せば、豪快に跳ね飛ばした布団が我ながら恥ずかしい。
「……なんでもねえよ」
─ただの夢か。
悪夢ごときで叫びをあげてしまうなんて、はっきり言えば情けない。
誰かにこんなとこでも見られたら、爆笑物だろう。
「ハルにゃん。もう来てるよ~」
妹の間延びした声が、更にヤバイ事態を告げる。
「何っ。今何時だ!?」
手元の目覚し時計を確認する。
今から悠久の以前にかけたはずのアラームには、何故だろう既に切られた形跡がある。
くそっ、寝ぼけた俺は何をしでかしてるんだ?
「……ョーン!!!早く降りて来い!!」
窓の外からハルヒの怒鳴り声が聞こえてきた。
やばい、「宇宙ヤバイ」とかそういうレベルじゃないくらいヤバイ。
「何で起こしてくれなかったんだ?」
「ええ~。キョンくんが『ハルヒが迎えにくるから自力で起きてやるさ』って言ったから、起こさなかったんだよ」
ああ、そうだったな。
ハルヒの為を思えば、なんとかなるさと昨夜までは思ってたんだ。
残念。愛の力は、睡魔ごときに負けてしまったってわけか。
「こらーーーーーーっ!!いつまで寝てんのよ」
二階までよく通るあいつの怒鳴り声が聞こえてくる。クソ……近所迷惑だ。静かにしてくれ。
って、こうしてる場合じゃねえな。
俺は急いで着替ると、洗面所に駆け込んで冷水をざぶざぶ流して顔だけ洗った。
─クソ…眠いな、まるでまだ夢の中みたいだ。

50:涼宮ハルヒの再会
07/03/11 03:29:33 6cu9Xfgv
「すまん」
駆けつけ参拝─誤用もいいところだな─両手を拝むように合せて思い切り謝る。
神様、仏様、ハルヒ様申し訳ございませんでした。
「遅刻!!罰金っ!!」
目と眉をど素人のスキーヤーみたいな逆ハの字吊り上げてハルヒが俺を睨む。
「本当に悪い。……どう詫びればいい?」
おそるおそる御機嫌お伺いだてをするも、頭の中は、嫌な予感のアラートで埋め尽くされていた。
「ふーん。そいじゃ駅前に新しくできたフレンチのお店につれてきなさい」
ああ、畜生。よりにもよって最悪の答えが返ってきやがった。
あそこの料金は馬鹿高いらしいと、誰かが言っていたのを最近噂に聞いたばっかりだ。
そもそも、その店の値段が平均以下であろうが、一介の高校生であり、バイト稼業に勤しんでもいない俺には、フレンチを奢るような金の持ち合わせなんざどこにもない。
not to be or not to be はてさて、どうしたもんかね?

黙っている俺を見かねたのだろうか、ハルヒはその眉を少しだけ下げると話を切り出してきた。
「ま、いつもの喫茶店で許してあげるわ。どうせあんた、そんな大層なお金なんか持ってないでしょ」
俺の方に背中を向けるのは、俺への気遣いに対する照れ隠しだろうかね?可愛い奴め。
「あ……ああ」
「ただし、一番高いの奢ってもらうんだからね」
言うと同時にくるりと振り向いてウインクを決めてくれた。回転に合せて俺にとって100%のポニーテールが揺れる。


─ない袖があるなら、フレンチだろうが三大珍味だろうが奢ってやりたい気分だ。





「んじゃ、改めて……おはようハルヒ」
「おはよう、ジョン」
元気良く言葉が返ってくる。機嫌はすっかりオールグリーンのようだ。
「なあ、そのジョンってのは止めないか?」
「だって、あんたがジョン・スミスでしょ?」
「いや、まあ……そりゃそうなんだがな」
そいつはあくまで偽名だしな。どうせなら本名の……k
「まあ、いいわ。じゃあ、キョン」
屋根まですら飛ぼうとないシャボン球みたいに、俺の願いは儚く消える。
ひょっとして俺は未来永劫、この間抜けなニックネームでハルヒに呼ばれつづけるのだろうか。
─いや、まさか、こいつは俺の本名知らないのか?
なんて俺のパーソナリティについて、少しだけ真面目に考えながら歩きだそうとした所で、後ろから首ねっこをつかまれた。
「おはようの『ちゅー』は?」
…………
あー……え、いや。ここでするのか?
頷くハルヒ。おやつを目の前に差し出された子犬のようなキラッキラの目だ。
待て待て待て。ここは往来でだな。ほら人通りが……
「あそこのお店、ランチならお一人様3000円くらいからいk……」
さらば俺の羞恥心。君はいい友人だったが、俺のお財布がいけないのだよ。
ハルヒの身体を引き寄せて、唇に軽く口付けする。
いいさ。どうせ見ているのは猫くらいなもんだ。だから、電柱の影にさっと隠れて覗き見を続ける近所のおばさんが見えているのは幻影だ。
「……ん」
ゆっくりと唇を離す。
何故だろう、望んでいたのは俺じゃない筈なのに非常に名残惜しい。
「おはよう。キョン」
そう言ってハルヒは笑う。
その笑顔があんまり眩しいんで、朝の清清しさが何倍にもなった気がしたね。

51:涼宮ハルヒの再会
07/03/11 03:30:39 6cu9Xfgv







あれは、いつのことだったろうか?まあいいさ、正確な日付なんか別に必要じゃない。
俺はハルヒに想いを告白した。
多分、自己紹介の時から一目惚れだったって事だとか。
お前の全てが好きだとか。
馬鹿らしいことだけど、ポニーテール萌えのことも言ってやった。
その他諸々、ずいぶんと恥ずかしいことも言った気がするが忘れちまおう。
時効くらいは適応されてもいいはずだ。






「ジョン・スミス」
なるべく冷静な口調で答える。
「……ジョン・スミス?」
呆然とした表情のハルヒ。
「あんたが?あのジョンだっていうの?」

俺は自分のことを教えた。
それは、多分必要なことだと思ったから。
ハルヒに自分のことを知ってもらいたかったから。







52:涼宮ハルヒの再会
07/03/11 03:31:38 6cu9Xfgv

「んー、というわけで今日もSOS団の活動は、いつもの喫茶店よ」
ちなみに昨日の活動も、喫茶店だ。更に言うと、当然のように俺が奢らされた。
なんだか世の理不尽を感じるね。
「しかし、最近いつもあの喫茶店に集まってるよな」
「だって、あそこなら皆集合しやすいじゃない」
まあ、それもそうなんだが……あそこのメニューにも飽きてきた頃だ。
「いいじゃない。SOS団結成以来御用達の喫茶店よ。きっと将来プレミアがつくわ」
どんなプレミアだ、それは。
「ほら、有名人が行った喫茶店とか有名になるでしょ。あれと同じよ」
「将来、お前は有名にでもなるのか?」
「違うわよ、世界に羽ばたくのはSOS団。あたしの将来の夢は……」
お前の夢は?
宇宙人を探す恒星間飛行士か?タイムマシンを製作する科学者か?あるいは超能力を統括する……
「あんたの、お嫁さん…かな?」
──
あーーーーーーーーーもう。
処理できなくなった感情の暴走を、ハルヒの頭を強く撫でることで発散する。
かわいいな畜生。






そのまま二人で高校へと向かう途中。
「よう、キョンに涼宮。お前ら仲良いよなー。ホント羨ましい限りだぜ」
後ろから谷口の囃すような声が聞こえてきた。その言葉はからかい半分、本音半分ってとこだろうか。
「そりゃどーも」
俺はおざなりに答える。実際、谷口なんざどうでもいい。俺たちの愛は不滅だ。
「しっかしよう。あの涼宮が本当に誰かとまともに付き合うとはな。驚天動地だぜ」
まあ、俺自身がハルヒと付き合ってることが驚きだしな。
「やっぱ、あれか。高校に入ってから俺の見えねえ場所で、知らないうちに涼宮も変わったってことかね?」
さあな。
「しかしまあ、本当驚きだ。あの涼宮がなー……」
谷口がうんうん頷く。勝手に自己完結したようだ。人の話を聞けよ。
「ちょっとあんた。黙って聞いてれば、なんて言い草してんのよ」
一連の話を後ろから聞いていたのだろう、憤懣や遣る方ないといった様子でハルヒが言う。
「あ、ひでーな。俺がキョンにお前のこと色々教えてやったの知らないな」
「ふん。どうせろくなことじゃないでしょ」
まあ、確かにろくなことは教わってない気もするが……
「だいたいあんたって昔からアホで何の役にも立たないじゃない……あんたみたいのが同じ中学だってだけで恥だわ」
ハルヒの言論攻撃はそのまま続く。
「そもそも、あんただって『わぁわぁわあ!!!』5分で振ってやったわ」
谷口が叫んで、ハルヒの言葉を途中で遮る。
よほど聞かれたくないことなのだろうか?まあ、なんとなく想像はついちまったが。
「お、おいキョン。早くいかねえと遅刻しちまうぜ、い、急ぐぞ」
谷口は俺の手をひっつかむと、勢いよく走り出してくれた。ああ、こりゃ楽でいい。坂の上まで引っ張ってくれ。
「あ、こら!アホ谷口。あたしのキョンをとるなぁ!!」
ハルヒが叫んでる。
すまん、ハルヒ。どうやら離別は愛するもの同士の試練のようだ。
「この馬鹿キョーーンっ!」
ああ、怒ってる姿もかわいいなお前は。
「また後でな」
俺は手を振りながら、自然とハルヒに微笑んでいた。

53:涼宮ハルヒの再会
07/03/11 03:32:42 6cu9Xfgv





学校というのは、往々にしてつまらない所だ。
中でも授業中というのは、大部分の人間にとって最もつまらない時間だろう。
もちろん例外だっているだろうし、学校が楽しくて仕方ないって奇特な奴だって探せば見つかるだろう。
でも今の俺にとって学校なんて、ただ習慣的な日常を繰り返しているだけに過ぎなかった。
そう、習慣的な日常を。
「ここで……x座標が……」
目は覚めている筈なのに、教壇に立った教師の言葉が虚しく全て俺の右耳から左耳へと素通りする。
虚無への供物だ。
アイツならどうするだろうか?
「面白くなければ面白くすればいいのよ」とでも言い放つのだろうか?
そんなことを空っぽの頭で考えたが、ナイフで突き刺されるよりもよっぽど痛いアイツの視線を感じることはとうとうなかった。




「おい、キョン」
昼休みの時間。俺の隣の席に座った谷口から声がかけられる。
「お前、涼宮がいないってだけで、そんなに腑抜けるのかよ」
声を荒げるなよ。別にいいだろ?俺はハルヒを愛してるんだから。

ハルヒは今教室にいない。最も、もとから昼休みには姿を消すのだが。
「あのな……」
「やめようよ、谷口」
国木田が谷口を遮る。
「キョンにとって涼宮さんは、本当に大事なことなんだと思うよ。だから……」
そうだな。
少なくとも今の俺にとってはハルヒが一番大事なものだ。
いや。多分これからも……






54:涼宮ハルヒの再会
07/03/11 03:33:42 6cu9Xfgv

「あたしスペシャルパフェね。この一番高いの」
注文を取りにきたウェイトレスに隣に座ったハルヒが元気良く告げる。
ああ、もう。分かったから落ち着け。メニューを振り回すな、店員に5回も確認するな。
「仲がよろしいようで……あ、僕はアメリカンを」
制服姿の古泉が微笑を浮かべたまま、皮肉めいた口を叩いている。
言っておくが、お前の分は奢らんぞ。
「…………」
長門は、それしかすることがないのか本を読んでいる。
注文は何だ?
「…………ココア……ホットで」
それだけ言うと、すぐに本に視線を戻した。まるで、こちらは見たくも無いとでもいいたげだ。
「え、えっと…あたしはミルクティーを」
所在無さげにきょろきょろと見回しながら朝比奈さんが告げる。
その姿はどことなく庇護欲を誘われて可愛らしい。まあ、ハルヒには適わんがな。



しばらくの後、さっきのウェイトレスがお盆の上に聳え立つ巨大なパフェをもってくる。
所々に散りばめられた色とりどりのフルーツの演出がニクいね。あれが値段を跳ね上げてやがるのか。
「ね、これ。こいつ……彼氏の奢りなの。羨ましいでしょ?」
こら、店員に構うな。困ってるだろ。おまけに俺が死ぬほど恥ずかしい。
「いいじゃん。別に……いただきまーす」
ハルヒは満面の笑みでスプーンに手をかける。
─やれやれ。
少しだけ高い金を払う意味ができたような気がした。
「しかし羨ましい限りですね」
と、古泉。
傍から見りゃ、隣に朝比奈さんと長門がいるお前もかなりのものだと思うけどな。
ハルヒが隣にいなけりゃ俺だってお前を羨むだろうよ。
「僕が羨ましいというのは、あなたの隣にいるのが、涼宮さんだからですよ」
カチャリと軽く音をたてて古泉がカップの中身を一口すする。
「今だから言いますが……そうですね、僕はやはり涼宮さんのことが好きだったんですよ」
悪いな、古泉。例え相手がお前でもこればかりは譲れないんだ。
「そうでしょうね、涼宮さんとの付き合いは僕の方が長いですが……あなたが現れた時点で『ああ、僕に勝ち目はないんだな』と感じさせられました」
哀愁を漂わせながら、古泉がコーヒーをすする。
「古泉君の言葉は嬉しいけどさ。あたしはキョンのものなんだからね」
「存じ上げております。さっき行ったこととは、軽い負け惜しみのようなものだと思って、気にかけないでください」
古泉は軽く笑った。副団長らしい笑顔で。
「さ、湿っぽい話してないで食べるわよ」




55:涼宮ハルヒの再会
07/03/11 03:34:39 6cu9Xfgv


「んー。美味しい」
ハルヒはパフェに舌鼓を打っている。
熱心にスプーンを動かす姿はまるで子供だ。口の端にクリームのお弁当までつけてやがる。
「クリームついてるぞ」
「ん……どこ?」
「ここ」
振り向いたハルヒの顔のクリームを唇ごと舐め取る。
「……甘いな」
味わい慣れたその唇からは、いつもより少し甘い生クリームの味がした。
「ちょっ…ちょっと!あんたの方が、よっぽど恥ずかしいことしてんじゃない!」
口をパクパクさせ、真っ赤な顔になったハルヒにボカボカ殴られる。
恥ずかしがっているその姿もなんとも言えず可愛らしい。
「見ていられませんね」
「ココアのくせに……にがい……」
「あわわ……キョン君、大胆ですね」
大きくため息をつく古泉、ぼそりと呟く長門、手で口をおさえる朝比奈さん。
三者三様の反応がそれぞれから返ってきていた。
「むぅ……」
ハルヒは、頬を朱に染めながら細々とスプーンを動かしている。
「動きが止まってるぞ」
横から勝手にパフェを奪い取る。
「あ、こら!!あたしの」
いいだろ?元は俺の金だ。
それに世の中には「パフェなんか週一でしか食えない」って人だっているんだぜ。
少しくらい俺が糖分を分け与えてもらおうが、なんら問題はないはずだ。
「返せ」
ハルヒの顔が近づく。1cm、5mm……あ、くっついた。
そのまま、ハルヒの舌が口腔内を這いずる感触を味わう。
「………ん」
吐息が漏れる。やっぱりこいつのやることの方がよっぽど恥ずかしいな。
「はあ。僕が注文したのはアメリカンで、エスプレッソを頼んだ覚えはないのですが……」
「………………」
「はわわわわぁ」



そんな感じの今のSOS団の日常。
俺とハルヒは大いに満足してるけど、古泉、長門、朝比奈さんにとっちゃ大いに迷惑な話だろうな。
本当にすまない。
でも、いいだろ。少しくらいなら惚気させてくれたって。


56:涼宮ハルヒの再会
07/03/11 03:36:04 6cu9Xfgv






前日に何があろうと、退屈な日常ってのは必ずやってくる。
「つまり……ここの……であるからして…………」
教師が何を言っているのかサッパリ理解できないし、無理にしようとも思わない。
あいも変わらず授業は虚無的だ。
ハルヒと話していないというだけで、こうもつまらないものだろうか?
腕を枕に机に突っ伏す。
眠りたい筈なのに何故だか睡魔は俺を覗こうともしなかった。
終業を告げる鐘が鳴る。
眠るに眠れない俺には、それがまるで天から与えられた福音みたいに聞こえた。







軽く扉をノックする。
高校生活で見慣れた文芸部の扉。
同時に団長様の作った心地よいSOS団のアジトでもある。
「……入るぞ」
「…………」
初めてここに来た時から座っていた席に長門が座っている。
「よお」
声をかけると、少しだけ本から目を離してこちらを見てきた。
「悪いが眠りたいんだ。寝かせてくれ」
「わかった」
軽く長門が頷く。
自分の席に座り、目をつぶる。
それは長門のお陰だろうか?眠る体制を整えて幾許の時間も過ぎないうちに、俺の意識はいとも簡単に消失した。
─馬鹿馬鹿しい夢を想う暇もなく。




57:涼宮ハルヒの再会
07/03/11 03:37:04 6cu9Xfgv


………ん?
頭の感触に違和感を覚える。確か俺は、机に突っ伏して眠ったはずなんだが。後頭部に当たるこの軟らかい触感はなんだろう?
「やっと起きたわね」
目を開くと、ハルヒの顔が視界いっぱいに飛び込んできた。
「おはよう」
「お・そ・よ・う」
そのしかめっ面から察するに随分と時間が過ぎているらしい。
「あんたのせいで貴重なSOS団の活動時間が無駄になっちゃったわ」
「悪い。すげー眠かったんだ」
窓の外に目をやると、すっかりと黒紫色に染まっている。夜の帳は既に下りきった後らしい。
「皆は?」
「今日はもう帰ってもらうように、連絡したわ」
部室を見渡す。長門の姿も、もう無かった。
「今何時だ?」
「もう運動部すら帰ってるような時間ね」
俺が立ち上がると、ハルヒも立ち上がってしわのついた制服を直した。
「帰りましょ」
「ああ」
窓の外をもう一度見つめる。
蛍光灯の下、文芸部の部室。真っ暗闇の世界。
俺とハルヒの二人きり。
まるであの時みたいだな……。
─閉鎖空間。
あの時のことは詳しく思い返したくない。いちいち言葉にするのも恥ずかしいからな。
少しだけあの時のことを述べるとしたら、あの時俺は既にハルヒのことを想っていたってことだろうか。


58:涼宮ハルヒの再会
07/03/11 03:40:29 6cu9Xfgv
二人で手をつないで校庭を歩く。
閉鎖空間との間違い探しをするとすれば、夜空に星が煌いてるってことくらいだ。
「二人っきりね」
ハルヒが呟く。
「そうだな」
「こうしてさ……二人で夜の校庭を歩いてると思い出さない?」
顔を少しだけこちらに向けるハルヒ。月光に黄色いリボンが揺れていた。
─こいつも同じことを考えていたのだろうか?
まあ、ハルヒにとってもあの事は衝撃的だったのかも知れないな。


「あたしが中学生の時、あんたと初めて出会った時のこと」
そっちか。
だが、ハルヒにとってはそっちの出来事の方が衝撃的だったのかもしれないな。
「ねえ、ジョン?」
ハルヒが俺を呼ぶ。もう一つの俺の名で。
「あたし、あんたに出会えて良かった」
ハルヒが俺の方を向くと、語り始めた。
「小学生の時、あたしは自分がいかに小さい存在かに気がついて、中学校に入ったら自分を変えてやろうと思ったの…………
でも、現実は厳しかった。何も……本当に、何も変わらなかったの。ただ、あたしの周りから人がいなくなっていっただけ。
そんな時さ、あたしはあんたと出会った。あんたは、平然とあたしが求めるもの全てを肯定したわ。
その時にあたし思ったの。もう一度不思議で面白いものの存在を信じてみようって……でも、あんたは消えちゃって……そのまま、中学生活が終わるまで何一つ面白いことなんて起こらなかった」
憂いを込めて独白していたハルヒの表情がパーっと明るく変わる。
「でもさ、高校生になってあんたに会えた。あたしはキョンに……ジョンにまた会えて本当に良かったわ」
俺もお前に会えて良かったよ。
言っちゃ何だが、俺の人生なんて平平凡凡で、いつまでも不思議なものを信じるお前がすげー眩しく見えた。
─だから俺は、お前に惹かれたんだ。
「ね、キョン」
「なんだ?」
「宇宙人っていると思う?」
「いるんじゃねーの」
「それじゃあ、未来人は?」
「まあ、いてもおかしくないな」
「じゃあ、超能力者」
「配り歩くくらいだろ」
「異世界人は?」
「それはまだ知り合ってないな」
言い終わって俺達はどちらともなく笑った。
「なあ、ハルヒ」
「何?」
「俺、実はポニーテール萌えなんだ」
「知ってるわよ」
ああ、畜生。俺は合わせてやったのに、こいつは無視か……ひでえ話だな。
ハルヒの身体を強く抱きしめると、少しだけ強引に唇をもっていく。
もちろん目は閉じた、あの日と同じように。



59:涼宮ハルヒの再会
07/03/11 03:41:29 6cu9Xfgv




衝撃を感じる……ことは勿論なかった。
代わりに、遠くから誰かの声が聞こえてくる。
「おい、お前らー。いつまで残ってんだ。とっとと帰れー」
あれは耳慣れちまった岡部の声だ。
少しは空気を呼んで欲しいもんだね。
「帰るか」
「うん……でも、その前に」
今度はハルヒ側から唇が重なる。
真っ暗闇の校庭で何度目かのキス。

「ハルヒ」
「ん?」
「これからもよろしくな」
夜空の下、星明りが霞むくらいの明るい笑顔で、ハルヒが言った。
「あったりまえじゃない!」





~to be continued~

60:48
07/03/11 03:45:25 6cu9Xfgv
とりあえず、以上。続きます。
58の長台詞は投稿できなくって、書き込み欄で改行したら読みにくくなってしまった。すまない。


61:名無しさん@ピンキー
07/03/11 04:22:44 IcphRs2x
プロローグが、いやな伏線になりそうだねぃ…。
続き、待っちょるよー。

62:名無しさん@ピンキー
07/03/11 05:56:33 RRIWmkjR
なんか読みやすいから読んじまった
俺にとっては非単調以来のヒットの予感

63:名無しさん@ピンキー
07/03/11 08:05:30 Ykw11ODc
読みやすいね。
続きが気になる。

64:名無しさん@ピンキー
07/03/11 11:58:41 3aSZxIij
結構容量あるなぁ…なんて思って読み始めたけど、割とすんなり読めた。
キョンのくどい語りがあまりなくて「」の会話が多かったからかね。
変にくどくど語るよりシンプルに書いた方が受けはいいかもな。
ということでGJです。続き待ってます!

65:名無しさん@ピンキー
07/03/11 12:14:49 LYG9xxhH
wktk・・・続きを待ってる。夢の時の中で

66:名無しさん@ピンキー
07/03/11 13:30:07 zsZowsP8
キョンらしさを出そうとするとくどくなってしまうのが悩みどころ

67:名無しさん@ピンキー
07/03/11 13:54:04 8UW9LL0U
非単調とかオンザとかどこにあるんだ?
ここの保管庫にはないような

68:名無しさん@ピンキー
07/03/11 13:55:53 M5O+0Snx
>>67
よく探すんだ! ページ内検索でもしれ!

69:名無しさん@ピンキー
07/03/11 14:06:11 C9Vkjk2+
 オンザ……オンザ……これかっ!
「残念、それは僕のおイナリさんです」

70:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:25:30 lBJzg0yx
出来がよくないですが折角書き上げたので投下します。エロなし。

71:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:26:23 lBJzg0yx
 時が巡ればやがて過ぎ去ったと思っていた季節にもう一度会うことができ、それはセミの声がやか
ましい夏であっても寒さにうんざりするような冬であっても同じである。
 春は多くの人にとって出会いと別れの季節となり、いつか入学すればいつか卒業する。
 ちなみに俺はこれまでそういった出会いや別れの季節に特別な感慨もなく過ごしてきて、この春も
またそのつもりだった。いかにも時節に合わせて泣いたり笑ったりするのをどこかこっ恥ずかしく思
ってたんだろう。


―春の露風―


「みくるちゃんと鶴屋さんももうすぐ卒業かぁ」
 変わらずに営業を続けてきたが誰が儲かるわけでも誰に愛されるわけでもない学内非公認団体のま
まのSOS団。その部室。パソコン机に肩肘ついてわれらが団長様、涼宮ハルヒはどこともなく呟いた。
「でもでもっ、お休みの日とかまた一緒にお散歩したりできますよ」
 朝比奈さんは湯飲みをハルヒの机にことりと置いて言った。にこりと微笑む。

 そう、俺にとって二回目の年度が終わろうとしている。
 間もなく二月が終わり、すると三月がやってきて最上級生たる三年生はさらなる未来へと巣立つべ
く卒業してしまう。
 俺はまだ二年生なのでこの学校を出るのは一年先のことになるが、小間使い技能を熟練の域まで上
達させた大天使朝比奈みくるさんは間もなくこの北高から離れてしまうのだった。
「もちろん。休みの日には学校が離れてようとSOS団は問答無用で活動するからね! そのへんは心
配いらないわよ!」

 ハルヒはさまざまな経験を経て純度を増した果てしない輝きを持つ笑みで言った。本当に二年間だ
ったのかと疑うほどに色々なことがあった。いろいろと言えば数文字で済んでしまうが、その慌しさ
だけで言えば世界各国のあらゆる重役のタイムスケジュールですら及ばないかもしれない。
「そ、そうですよねっ」
 朝比奈さんは早春のタンポポのように儚げに笑いつつ返答した。二年経ってもこのお方のつつまし
さは洗練されたシルクのような柔らかさだ。窓から射す陽が後光のようにも見えてくるぜ。

「この部室も少し寂しくなりますね」
 別種の清涼感を持つ声が俺の右手からかかった。正面に向き直ると、副団長古泉一樹が声とは裏腹
にどこか寂寥感のある笑みで言った。広げられたチェス盤の向こうに人類が繰り広げてきた悠久の歴
史と英知をかいま見ているかのような顔をしてるが、まぁ俺の思い過ごしってことにしておこう。
 俺は鷹揚に肯いて部室を見渡した。

 宇宙に二つとないだろう奇怪な団の活動履歴を裏付けるかのように、そこにはあらゆる物品がとこ
ろ狭しと収まっている。古くは野球道具に始まり、ノートパソコン、笹の葉、孤島雪山古城での合宿
写真、今年の映画撮影の時に作ったポスター、ガラクタのような古道具一式、同じく古本の束、壁に
は文芸部の活動を拡大解釈した産物たる新聞、ラックの上には登場頻度の高かったボードゲーム類が
うず高く積まれ、俺の背後の本棚は相変わらず満席、団長机のデスクトップパソコンはつい先日元部
長氏が晴れて大学合格を決めたことによる粋な計らいで新型にかわっており、極めつけは朝比奈さん
のコスプレ衣装があるハンガーラックだ。春夏メイド服、ウェイトレスにバニー、ナースにアマガエ
ル、巫女にサンタ、いつだかハルヒが着てたチャイナ、長門の魔女衣装もここにある。他にもスチュ
ワーデスだの警官だの言うをはばかるあれやこれだの、一体いつの間に買ったんだか譲り受けたんだ
か俺でも分からないようなものがたくさんある。

 例えば入学したての俺を現在時空のこの部屋に連れてきて様子を見せたら、顎を三段ほど下に落と
して現在の俺を見つめて唖然とし「お前は一体何やってきたんだ」と呆れて小一時間ほど口も利けな
いことだろう。事実、俺も何やってきたのか一言でズバリ言い切ることができないしな。
 ある時はテーブルゲームに興じ、ある時は市内をそぞろに歩き、ある時は得体の知れない怪物モド
キと戦い、ある時は探偵に扮した推理ゲーム、ある時はまんまタイムトラベラーとなって世界の危機を
救い、ある時はマジで遭難してしまい……言えば言うほど正体が不明になってくってのもまたどうか
と思うんだが、まぁそんなツッコミすらとうの昔に慣れっこになっている。

72:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:26:54 lBJzg0yx

「……」
 先ほどから俺の隣でカタカタとキーをパンチする音が聞こえては消えしているのだが、それは長門
有希が文芸部的活動の真っ最中だからだ。
 三ヶ月も前に生徒会選挙がつつがなく終了し、かつての仮面生徒会長も今はいち生徒となって間も
なく朝比奈さん鶴屋さん元部長氏喜緑さんと共に卒業していくはずだ。こうして人物を羅列してみる
とあらためて心を慣れない風が掠めていく気分になるな。元生徒会長曰く「本当に面白い一年だった。
悔いは全くないといっていい。今じゃ古泉に感謝したい気分だな」とまで言っていて、まこと双方利
害一致した上での理想的関係とはこれを指して言うのだろうかなどと思った次第である。

 古泉もそろそろ手を緩めていいと判断したのか、次期会長はまた元通り特別な属性を持たない凡庸
な生徒がつとめているらしく、確か八組の生徒だったか。それ以上は知らん。ゆえにそこまで文芸部
の活動に精を出す必要はなくなり、しなければしないでお咎めがあるわけでもないのだが、どういう
わけか長門は何か書き物をしているらしかった。何書いてるんだと訊いたところ無回答だったので例
によって画面を盗み見しようとしたらあっさりと回避され、テキストファイルを本人不在時に見よう
とするまでもなく長門のロックを俺が突破できるわけがない。ま、インプットだけじゃなくアウトプ
ットもするようになったのはいいことに違いないのさ。非常に稀ではあるがクラスでも話すことがあ
るらしいしな。

「みんなお待たせーっ!」
 ハルヒに負けず劣らずの威勢で鶴屋さんが現れる。去年はありとあらゆる場面でお世話になり、今
やSOS団名誉顧問という肩書きすら物足りなく感じる。
「待ってたわ鶴屋さん! さ、それじゃ早速打ち合わせするわよっ!」
 ハルヒはガタンと立ち上がり室内を睥睨、それが合図であるかのように古泉はチェスを片付け長門
は保存したファイルを閉じてノートPCをシャットダウン。朝比奈さんも椅子に座ってさながら我々は
円卓にて多国間協議する首脳か騎士状態だ。確かにそこそこ重要というか、有意義な議題になるはず
だしな。

「SOS団プレゼンツ、みくるちゃんと鶴屋さんその他の卒業を盛大に祝す会!」
 恐ろしく語呂が悪い以前にタイトルの体すら立っていないフレーズをのたもうたハルヒは、ホワイ
トボードをガラガラと引きずって弁舌すべらかに話し出した。


 さて帰り道。六人による下校風景はいつもより若干と言わず華やいだ空気を俺たちの間にもたらし、
それは先頭で肩を並べて談笑しっぱなしのハルヒ鶴屋コンビを筆頭に最後尾の俺と古泉まで続いていた。
「この二年。過ぎてみればあっという間だったな」
 不思議なものだ。何気なく呟く俺に古泉が手慣れた相槌をうちつつ、
「そうですね。本当に色々ありました。時に誰かが窮地に陥ることもあり、その都度他の誰かが助け
るという、ある種理想的な構図でもって僕たちはここまで来ることができたのだと思います」
 かく言うお前ものっぴきならん状態だったことがあったな。
「えぇ、恥ずかしながら。今では、あれがあったからこそ割り切って行動できるようになったのだと
思っていますが」

 何も古泉だけじゃない。SOS団はほとんど全員が特殊なプロフィールを隠し持っていて、それが遠か
らぬ原因となってそれぞれを瀬戸際に追い込んだことがあった。ハルヒは何度かに渡って世界を丸ご
と変えてしまいそうになったし、長門は一度だけ実際に取り換えちまった。朝比奈さんは自分の力不
足にしばしば心を痛めていたしな。俺だってもっと何かできないのかと一般人でしかない己の限界を
うらめしく思ったことだってあったさ。だがまぁ、結果的に全部乗り越えてきた。思ったよりずっと
強かった。それがSOS団への正直な感想だ。ちょっとやそっとじゃビクともしないし、大きな事件なり
出来事なり起きても簡単には壊れない。そういう確信というか信頼というか、絆といったら途端に陳
腐になるだろう見えない糸みたいなもんがあるのを俺は感じていたのだった。

73:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:27:36 lBJzg0yx

 俺の正面にいる夕方の精霊のような朝比奈さんが卒業しようとしている。
 時間というのは絶え間なく流れ続けるものであり、そうである以上は日常と思っている日々にも終
わりが来る。朝比奈さんは俺よりひとつ上の学年なのだから、一足先に学校を去ってしまうってこと
も織り込み済みだ。だから俺はハルヒが提案するパーティで古泉と披露することになってる芸だって
ちっとも嫌じゃないし、それで少しでも場の盛り上がりに貢献できるってのならいくらでもバカやっ
てやるさ。

 当の朝比奈さんは見たところいつも通りであり、まぁ隣が長門だから会話こそしていないものの、
卒業を控えてブルー色になるような気配は見られなかった。そう言えばこの数ヶ月はすっかりタイム
トラベルとはご無沙汰になっていて、それはすなわち朝比奈さんの本来の仕事が軽くなってるってこ
とにもなる。ちょうど一年ばかり前には彼女が二人になってしまい、当惑しっぱなしのまま八日間に
わたるお使いを済ませ、まだ迷っていた様子の朝比奈さんも少しは自信をつけたんだった。もうあれ
から一年か。振り返ってみた時に初めてあっという間という言葉が出てくるが、まさにそんな感じだ。

 などと取り留めに益体もないことを考えているうちに駅前にて俺たちは解散する。こうして全員で
帰れるのもあと数日なのである。

「さようならぁ」
 にっこり笑う朝比奈さんについ目が行ってしまうのも仕方ないと思うね。ただでさえ道行く男は全
て釘付けになってしまうような愛らしい容姿の持ち主であり、俺はそんな人と二年も近くにいたんだ
からな。
 緋色がかった髪が初春の夕陽に映えた。笑顔が切り取られた写真のように網膜に焼きつく。
「ん」
 わずかばかり胸が痛んだ。……何だろうな。分かってたことじゃないか。いつか、朝比奈さんは卒
業する。それがもうすぐやって来る。そうだろ?
 俺はろくに声も出さず、マヌケに手を振っているだけだった。
「どうかしましたか?」
 気がつくと唯一古泉だけが残っていたらしく、鋭い眼差しが嫌でも突き刺さった。見てたのか。
「先ほどから妙に彼女を見ている時間が長いと思ったのでね」
 気のせいだろとごまかすには自覚がありすぎたので、俺はふっと息を吐いてから、
「何となくな。卒業しちまうんだってあらためて思っただけだ」
「だけ、ですか」
 何だよ。言いたいことがあるんならはっきり言え。団長がいつも言ってるだろ。
「そうですね。ならば僕からはひとつだけ。……悔いのなきよう」
 本当にそれだけ言うと古泉はまたいつもの微笑顔に戻って黙礼し、帰路に着いた。
 俺も首を振って自宅を目指したが、古泉の一言と朝比奈さんの笑顔がなかなか頭から離れなかった。


 翌日は休日で、午前中俺は来るべき卒業記念パーティの買出しに駆り出され、朝比奈さんを除くSOS
団メンバーと駅前集合したのち仮装衣装だのクラッカーだの新たなボードゲームだのと割り勘で買い
込み、ついでにケーキの注文までして昼過ぎに解散した。
 ハルヒは相変わらず駆動させすぎのジェットエンジンで空まで飛んでいけそうなテンションを維持
し、他のメンバーも特別変わったところはないようで、俺もそのはずだったが果たして他の団員の目
にどう映ったのかはわからん。

74:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:28:25 lBJzg0yx

 さて午後は珍しくも空き時間となっていたので、自宅に戻った俺ははかどらない学年末試験の勉強
なんぞをとろとろとしていたのだが、三時を回った辺りで携帯に着信があった。
 名前を確認すると誰あろう朝比奈みくるさんとの表示があり、俺の胸はいつもより二割増しでのハ
イテンポモードに移行する。何だろう。特別思い当たる節もないので厳かな気持ちになりつつも通話
ボタンを押す。
「もしもし? 朝比奈さんですか?」
「……あ。キョンくん?」
 受話器越しでもノイズを超越して結晶化されたような声に耳が溶けそうになる。何たる癒し効果だ
ろう。もうこの一言だけで生きてる喜びみたいなものを実感できる。えぇと、ご用件は何でしょう?
「あの……。今時間ありますか?」
 一言一句ごとに脳髄に桃色の振動を与える至上の声を聞きつつ、俺はひたすら肯き、しかし声を出
していなかったことに気づいて慌てて言った。
「はい! もう暇で暇でしょうがないくらいで」
 高校二年も終わり際だがバカ丸出しの受け答えに、優しき朝比奈さんは受話器越しにクスッと笑って、
「ふふ。あの……それじゃ今から会えますか? あの、いつものとこで。三十分後でいい?」
 俺はまたも同じ動作を繰り返しそうになったが、すぐに止めて、
「はい! 死んでも行きます!」
「ありがとう。それじゃ……ね」
 朝比奈さんとの会話は終了した。あまりに突然だったのでまだ心臓が妙な感じに脈打っている。急
なお呼び出しなどいつ以来だろうか? それこそいつだったかあのハカセくんを生命の危機から救っ
た日ぶりじゃないか。

 そう思った俺は情けなくも余計な推測をしてしまった。まさか久々に時間がらみの指令が来たのだ
ろうか。とすれば俺はまたこの手で未来をちょいとしかるべき方向へシフトさせることになるのか?
あれから大人版朝比奈さんと色々話したものの、どうにも分かっていて未来を固定させるってのは性
に合わない。だからなるべくなら無縁でいたいとは思っていて、しかし彼女に頼まれれば何だかんだ
断れないというのも正直なところだった。

 そのようなことを考えつつ俺はえっちらチャリを漕いで駅前に向かう。この道も通学路の次くらい
に多く使っている。まさか同じ日に二回も往復することになるとは思いもしなかったが。それでも誰
あろう朝比奈さんのお誘いを断る人間などハルヒ特製バツゲーム十連発をくらうに値する。この時ば
かりは俺も今までの感傷などどこ吹く風でほいさっさと軽やかにペダルを漕いで集合地点に到着した。

 集合時間十分前。朝比奈さんはまだ来ていなかった。俺が待ち合わせで先に来たことなど遥か昔の
第二回SOS団市内探索の時以来だ。しかし今回、どっちが先に着こうと俺は奢る気満々であり、そん
な小さなことで虚栄心を満たそうとする己の愚かさに落ち込むこともなかった。単純に言って嬉しか
ったからだ。


 冬もそろそろ終わりだった。
 まだ二月だったがこの日は妙に暖かく、心境と相まって今すぐ路上ダンスを披露して輪を作ってい
る兄ちゃんたちの集団に加わりたいくらいの気分だった。いや、しないけどもさ。

「お待たせ」
 後ろから聞き慣れた、それでいていつだって心地よい声が耳に響き、俺は振り向いた。
「朝比奈さん……!」
 俺は少なからず驚いた。目の前にいる先輩はかなりオシャレをしていた。明らかに気合が入ってい
る。これまではおしゃまな子が休日をのんびり過ごすのに適したような可愛らしい服や、せいぜい少
しだけ背伸びしたような都会を匂わせる出で立ち止まりだったのが、今日はおめかしなどというレベ
ルではなかった。それこそプロのスタイリストなりヘアメイクなりつけて、これからモデルとして写
真撮影しますと言わんばかりのキマり具合である。実際近くを通る人が男女問わずこちらをちらと見
ては感嘆の吐息を漏らすようにしてまた通行人へと戻っている。

75:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:28:56 lBJzg0yx

「ごめんね。待たせちゃった……?」
 俺は唖然として首を振った。これは一体どうしたことだろう。これまで見た朝比奈さんの格好の中
でもダントツに素敵である。
 このお方がどうして俺なんぞに話しかけてくださるのだろうか。ひょっとして人違いで、もっとツ
ラ構えも物腰もいい似合いの相手が他に待っているんじゃなかろうかと思ってしまうくらいだ。それ
にいつもより大人びて見える。そこまで考えて俺は、

「朝比奈さん、ですよね?」
「え?」
 何を訊いてるんだ俺は。当たり前じゃないか。どう見たって朝比奈さんである。この二年何を見て
来たと思ってるんだ。あの部室で唯一無二の神々しさを放っていたのは間違いなくこの人だ。
 だが普段の制服姿やメイドスタイルとは一線も二線も画している。彼女のほうから呼びかけてくだ
さらなければ、俺はそれが朝比奈さんと分からずにいつまでも待ちぼうけ状態だったかもしれん。

「あぁいや! 何でもないです。ほんとにすいません、はははは!」
 俺もそこそこに気合入れて来たつもりだったのだが、それでも朝比奈さんのはまり具合には遠く及
ばない。思わず周囲の皆々様に平身低頭して謝りたい気分だ。俺なんかが朝比奈さんと歩いてていい
のかほんと。

 さてその朝比奈さんだが、俺が挙動不審になっている間、まるで寝起きのような表情でぽーっとし
ていた。俺のマヌケ面のそのまた向こうに妖精さんでも飛んでいるのが見えるかのように。
「あの……朝比奈さん?」
「えっ、あっ! はい、何でしょう」
 このリアクションにようやく俺は少しばかりの落ち着きを取り戻す。あらためて銀河レベルの美人
であることを認識しつつも、間違いなくこれは朝比奈さんだ。
「あの、どこかに行くんじゃないんですか?」
 お使いなのか指令なのかはたまたデートと呼んでいいのか分からんが、いずれにせよ行き先がある
はずだ。
 俺の問いに朝比奈さんはまたぽかんとして、それから思い出したように、
「……あっ、はい! えぇと、それじゃ最初は……こっちです」
 春の日なた状態の朝比奈さんにいささかの不安を感じつつも俺は美の極致的オーラをにじませるお
方と肩を並べて歩くというかつてないまでに恐れ多いポジションにつかせていただく。

 朝比奈さんと並んで歩くこと自体がかなりひさびさだった。さすがに一年前まで遡ったりはしない
が、それでも去年の市内探索でペアになって以来だから、少なくとも二ヶ月以上は空いていることに
なる。
 さてその朝比奈さんが歩き出したのはあの小川の方角だった。足取りは気ままな散歩よりなお遅い
くらいのゆったりした歩調で、まだ混乱したままの俺には少しもどかしく感じる。
「それで朝比奈さん、今日は一体……」

 !!

 心臓が止まるかと思った。
 俺が右を向くと、朝比奈さんは歩きつつも大きく丸い瞳でまっすぐ俺を見上げていた。
 鮮やかな色の唇がわずかに動いて何か言いそうになる。が、ぱちりと瞬きして我に返ったのか、
「あっ、えっ! あの……今、何か言いました?」
「え! いや、その、何でもない……っす」
 相乗効果的にかしこまりまくってしまう俺だった。今のは何だ? それこそ時間が止まったのかと
思うくらいにドキリとした。まだ心臓が急勾配を駆け上がった直後のように波打っている。このまま
じゃマジに心臓麻痺で昇天しちまうかもしれん。朝比奈さんとはこれまでにもドキドキさせられる場
面がいくつもあったのだが、今回のこれは段違いに桁違いだ。今自分が立ってる感覚すら定かでない。

76:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:29:27 lBJzg0yx
 心臓の鼓動を感じながらふたたび横を見た俺は、朝比奈さんが紅潮した頬に片手を当ててわずかに
うつむいているのを見た。その横顔にまたも俺は心拍の増加を余儀なくされ、高血圧ってこういう状
態なのだとしたら大変だななどとわけの分からないことを思っていた。

「あ……ここ」
 やがて小川にさしかかり、到着したのはどこあろうあのベンチだった。
 二年近く前。朝比奈さんが自分が未来人であるという告白をした場所。えらい久しぶりである。
「座りませんか?」
 美の神秘の何たるかを閉じこめたような瞳で問われればYES以外の選択肢はなくなる。えぇ何時間
でも座りましょう。
 俺は距離もそこそこにぎこちなく腰を下ろしたのだが、
「あの……近くに座ってもいい?」
 との朝比奈さん発言に全身が板チョコレートになる。チカクニスワッテモイイ?
 とか考えてる間に朝比奈さんは俺のすぐ隣に座った。どこか申し訳なさそうに、それでいて思い
切った決断をしたように。

 さて俺はまず全身が総毛立つのを感じ、次に首筋のあたりからむず痒いようなとろけるような感覚
が徐々に背骨の方にまで沁みていき、それが脳味噌を支配する頃には両手が桜色の湯に浸った状態に
なっていた。
 神様がもしいたのならこの時ばかりは感謝せずにいられない。他に誰に礼を言っていいのかも分か
らないしな。風に乗っていい匂いが漂ってくる。シャンプーと他にも色々、とうとう鼻までめろんめ
ろである。間違いない、今殺されても一点の悔いも残らない。それくらい途方もない幸福感が俺を満
たしていた。

 不意に右手がさらなる領域へと感覚を進めたのを感じた。錆びついた蝶番のように首を動かして見
ると、朝比奈さんが俺の右腕を両手でそっとつかみ、肩に……よりかかってきた。
 今すぐ液状化して大地に溶けてしまってもおかしくなかった。これは一体どうしたことだろうとか
そんな余計な邪推すらもうどうでもいい。願わくばこの時間よ永遠に続け。間違いなくこれまでの人
生で最良の瞬間であることはもはや疑う余地すら無菌室のホコリほどもない。

 朝比奈さんは今やその小さな頭を俺の肩に預け、この光景は傍から見ればカップルが休日のベンチ
で憩っている風景以外の何物でもなかった。接触している箇所を中心に未知の物質が俺の皮膚を通じ
て発生し、脳はそれをひたすらに幸せ青信号へと変換し続けて、俺の身体はどんな温泉より安眠枕よ
り効能のある癒しの局地へと運ばれていきそうであった。

 そんな時間が短くなく続いた。
 というか時間の感覚そのものがなかった。素敵な時間は早く過ぎるというが、それを勘案したって
結構長い間俺たちは二人でベンチに座っていた。俺はまともな思考回路など今日の朝比奈さんを一目
見たときから失っており、ただただこの天上のひと時をかみしめるだけなのだった。生まれてきてよ
かった。人生最高である。

 しかし俺は俺でガチガチに固まってしまって、言葉はおろか微動だにできなかった。朝比奈さんは
俺に寄り添っている間何も言わなかったが、何も話さなくてよかったのだろうか。何か用があって今
日は誘ってきたのではなかったのか。

 幸福色で塗られた時間は、朝比奈さんが俺から離れてゆっくり立ち上がるところで終了となった。
朝比奈さんは数歩俺に背中を向けて歩き、振り向くと、
「お茶にしませんか? ちょっと時間遅いけど……」
 時計を見つつ笑顔で言った。その表情に俺は胸の中にまたあのえもいわれぬ風が吹いたように感じ、
間もなくそれがチクッとした痛みに変わるのが分かった。……何だろう。今、朝比奈さんは確かに笑
っているのに、俺は何か大切なものを見落としている気がする。
「え、えぇ。どこへだって行きましょう」
 何とかそれだけを言って平気な風を装って立ち上がるも、三時間正座した後に立ち上がったかのよ
うに一度よろめきかけた。しっかりしろ、俺。

77:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:29:58 lBJzg0yx


 文句なし、何もかもがパーフェクトな一日だった。古泉や長門、ハルヒと買出しに行った午前が遠
い昔のことのように思える。
 俺たちは普段班分けをする時に入る喫茶店でティーブレイクにした。そこでようやく俺はいつもの
調子を不完全ながら取り戻し、朝比奈さんも話し出すといつも通りの彼女だった。屈託なく笑い、つ
つましやかに身振り手振りする。こうして二人きりで話すことなど滅多にないので、俺は何も考えず
に普通に会話を楽しんでいた。
 勘定は当然俺が全額持とうとしたのだが、去年のお茶屋よろしく朝比奈さんは、
「いいんですっ。わたしが誘ったんだし……キョンくんはこれまでずっと奢ってくれましたから」
 と言って引こうとぜす、
「それじゃ半々にしましょう」
 ってことで結局割り勘になった。一度くらい朝比奈さんに全額奢ってあげたいんだけども。

 その後はウィンドーショッピング。女性ものの洋服売り場など、オフクロや妹と買い物に出かけた
時ですらまず行かないので、ここで俺はふたたび緊張の面持ちとなるも、数々の洋服を次々と試着し
てはその全てが抜群に似合ってしまう朝比奈さんを見ているうちにどうでもよくなった。
「どれも似合いすぎて、全部買うかどれも買わないかの選択肢しかなくなっちゃいますね」
「さすがに全部買うなんて無理ですよー」
 朝比奈さんはぱたぱた手を振って、結局気に入ったらしい春物をひと揃え買った。ここでも朝比奈
さんは俺の代金提供申し出を固辞、
「お願いだから気にしないで。ほんとに……」
 心から申し訳なさそうだったので、俺は折衷案として、
「それなら俺から何かひとつプレゼントさせてください。何でもいいですから。服でも帽子でもアク
セサリーでも。あ、あんまり高いのはさすがにムリですけど」
「えっ。いいの……?」
 しとしと降り続いた雨が上がったのを確認するように俺の表情を窺う朝比奈さんに、俺は一秒で肯き、
「もちろん。じゃなきゃやっぱり洋服代出します」
 と言うと朝比奈さんはまた首を振った。そういう理由によって朝比奈さんは売り場脇にあった小物
のコーナーからウサギをあしらったネックレスを選んだ。
「それでいいんですか?」
 安すぎもしないが思ったほどの値段じゃなかったのでつい聞き返してしまう。
 すると朝比奈さんはいつも部室で見せるような笑みで、
「はいっ」
 とだけ言った。写真にとって心と自宅の机にでも飾っておきたいくらいの笑顔である。もう今日は
一生分の運を全て使ってるんじゃないかっていう気になってくる。それくらい文句の余地なく幸せ分
のお釣りが来すぎて受け皿があふれ返っている。

 バッチリ決まっていたさっきまでの服装に戻り、プレゼントしたネックレスを新たなアクセントと
して、朝比奈さんはご機嫌でぱたぱたと俺の数歩先を行く。俺も笑顔でその姿を眺めつつ、いつしか
あたりは夜にさしかかる。

 朝比奈さんはくるっと振り向いてにこっと笑い、
「もう少しだけ散歩しませんか?」
「もちろんです」
 古泉がハルヒのイエスマンなら俺は朝比奈さんのイエスマンだということを今さら認識しつつ、し
かしそれに何の抵抗もためらいもないしむしろ喜ばしいことこの上ない。
 俺と朝比奈さんは引き続き並んで歩く。時間は確かに経過しているが、それでもできるだけこの時
間が続けばいいと思っていることに変わりはなく、ただただ楽しかった。朝比奈さんがふわっと笑う
たび、長い髪がゆったりと揺れるたび、何か言うたび、つられて俺も笑っていた。こんなに自然に笑
いまくった日なんてのもまたそう何度もない。普段ハルヒに振り回されてる時とは別種の笑いだった
ことも確かだ。そよ風が吹くくらいに何でもなく笑顔になれる。それはまさしく朝比奈さん自信の持
つ魅力に他ならなかった。彼女は人を幸せな気持ちにする力を持っている。本人がそれに気がついて
いるかは分からないが、願わくばいつまでもその無垢な笑顔を失わないでほしい、と、そう思った。

78:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:30:29 lBJzg0yx

「今日はありがとう」
 不意に朝比奈さんが言った。あたりは街灯もまばらで薄暗く、駅の中心部から離れていたので人気
もさほどない。その言葉を聞いて、俺はなぜだかまたあの違和感が胸をよぎるのを感じた。
 何なのだろう。何一つ不安な要素などないし、むしろ幸福のまっただ中なのに、真っ白なキャンバ
スに針で一点だけ穴を開けたような不安がどこからともなく吹き抜ける。俺は確実に何かを見逃して
いる……。
「いえ、こちらこそ。いつもと違って横暴な団長もいませんし、楽しかったですよ」
 日が暮れてから風が吹き始めていた。冬の名残のような冷たい風は、決して激しくはないが十分な
冷気を伴って俺たちの間に吹き抜けた。
 朝比奈さんは笑ったようだったが、暗がりの公園の片隅ではそれがよくは分からない。
「本当に……」
「朝比奈さん?」
 朝比奈さんはうつむいた。両手で顔を押さえている。……何だ? 様子が違う。
「わたし……っ」
「朝比奈さ―」

 わずかな時間だった。
 それこそ見てる間に、朝比奈さんは俺の元に近寄り、抱きついてきた。
「……!?」
 思考回路がショートとオーバーヒートを同時に起こす。俺は口をパクパクさせて、何も言えなくなる。
「あさ……ひなさ」
 思い切り抱きしめられていてもその力は弱く、小さな頭が俺の胸に押しつけられていた。
 どうしたらいいんだ。思わず両手を上げて降参と言いたくなってしまう。勘違いして抱きしめちま
ったとして、捕まったらどんな罰則が待ってるんだ? それともこれは団員によるドッキリか何かで、
実はどっかにハルヒたちが隠れているとか? 古泉ならハルヒに言われればそれくらい喜んでやりそ
うだからな。
「……うっ、うぅぅぇぇ」
 とか考えてる間に朝比奈さんは紛れもない嗚咽を漏らしはじめた。俺の頭はますますひっくり返っ
てかき乱した観覧車状態である。何か今日の俺に粗相があったのだろうか。だとしたら今すぐにでも
謝らねばならん。
「あの、何か俺気に障るようなこと言ったりしたりしましたか? だったらその、すいませんでした」
「うっ、うぇっ、ふえぇぇぇん」
 朝比奈さんは俺の胸に顔を埋めたままで首を振った。何なのだろう。今日はもう何もかも分からな
い代わりにそのことについて考える必要もないくらい幸せだったので思考自体を放棄していたが、さ
すがにこれは理解ができない。どうして朝比奈さんが泣く必要があるんだ。俺が感涙にむせび泣くの
なら話は別だが。
「うぅっ、うっ、うぅぇえっ……うぅぅぅー」
 一度堰を切った朝比奈さんはとめどなく泣き続け、俺はなすすべなく棒立ちするより他なかった。
 朝比奈さんが泣く間、俺は何とか慰めようと「大丈夫ですか」とか「どっか座りましょう」とか頼
りのないことを言っていたのだが、何か言うたびに朝比奈さんはぶんぶんと首を振っては泣き続けた
ので、とうとう俺は何も言えなくなってしまった。
「……っ、うっ……ふぇっ。あぅぅ……うぇうぅっ」
 朝比奈さんが泣く姿もしばらく見てなかった。それこそ最初はハルヒにいじられるたんび、何か困
ることがあるたび、自分の力不足を感じるごとに泣きじゃくっていた彼女だったが、それでも時を重
ねるごとにちょっとずつその回数は減っていた。それは朝比奈さんが強くなったからかもしれないし、
成長したのかもしれないし、両方かもしれない。だからこそ、彼女が突然涙する理由に思い当たらな
い……。
「朝比奈さん? あの……」
「……ごめんね。ごめっ、うっ、うぅぅっ……ふえっ、っく」
 朝比奈は必死に涙をこらえようとしてはまた声を漏らす。しばらくそれが繰り返された。

79:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:31:05 lBJzg0yx

 どれくらい経っただろう。
 さっきとは居心地も状況も異なる時間がいつしか過ぎ、ようやく落ち着いた朝比奈さんは、
「……もうすぐ卒業だから。寂しくなっちゃって」
 と言った。相変わらず暗がりにあったのでその表情は分からない。が、朝比奈さんにとってはかえ
ってよかったのかもしれない。
「もうキョンくんたちに……会えないんだって、思うとっ、うぇっ」
 また零れそうになる雫を抑えるべく俺は慌てて、
「大丈夫。ハルヒの言うとおり、休日はまた皆で会えますよ。少なくとも夏までは変わりないはずです」
 そろそろ受験勉強に取り掛からなければならないのは事実なので、これまでほどうかうかしてられ
ないのももちろんだが、それでも俺はSOS団の活動を放棄しようなどとは思わない。
「うぅぅ……。ふぇっ、っく」
 朝比奈さんはまた泣きそうになるのをこらえ続けていた。俺はキリキリと心臓を縛られるような心
地になる。
「大丈夫ですから。涙を拭いてください」
 いつだったかの教訓がかろうじて活かされ、俺は持ってきていたハンカチを差し出していた。
「ありがと……っく。ありがとう……っ」
 夜になって冷えだしてきたので、なるべくならどこか暖かい場所に入りたかったが、朝比奈さんは
それに応じようとしなかった。
「今日はごめんね……わがまま言って」
「とんでもないですよ。俺はその、……嬉しかったです」
 立ちっぱなしで会話する二人だった。俺の言葉をどう取ったか、朝比奈さんはまたゆるゆると首を
振る仕草をして、
「今日は……帰ろう」
 と言った。白い息のような言葉に俺はまたも心苦しくなるが、他にいい選択肢を思い浮かぶわけで
もなかったのでゆるやかに首肯。
「歩けますか? 駅まで行けばタクシー拾えると思いますけど」
「ううん。大丈夫。……歩いて帰れます」
 そうは言うもののもうどこを歩いても夜道である。こんな状態の朝比奈さんを一人で歩かせるわけ
にはいかない。
「いや、駅まで行きましょう。タクシー代は俺が持ちます」
 朝比奈さんは謝辞を言う気力が足りていなかったのか、力なくこくっと肯くと、
「ごめんね……」
 とだけ言った。なにも悪くないですよ。気がふれることくらい誰にだってあります。きっと卒業が
近付いててちょっとばかしナーバスになってたんだろう。

 俺たちは駅まで手をつないで歩いた。
 気づけば互いの掌を握っていて、どっちからそうしたのか全く覚えていない。
 けれどそんなこともどっちだってよかった。とにかく今の朝比奈さんを支えていてあげたかった。
 夜道を迷子になったヘンゼルとグレーテルのように歩いて、でも道には迷わず、やがて駅前にたど
り着く。俺たちの足取りは速いわけでも確かなわけでもなかったのに、どういうわけかその時だけ時
間が短く感じられた。
「それじゃ俺はここで。運転手さん、よろしくお願いします」
 タクシーに朝比奈さんを乗せて、あらかじめ運転手に代金に足りるだろう金額を渡した。
「朝比奈さん、また学校で会いましょう。……大丈夫。元気出してください」
「キョンくん……」
 朝比奈さんは潤んだ瞳で俺を見ていた。俺も朝比奈さんを見ていた。
 そのままではどうにかなってしまいそうだったので、俺は慌てて、
「あぁ! そろそろ失礼しますね。運転手さん、車を……」
「待って!」

80:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:31:36 lBJzg0yx

 そう言うと、朝比奈さんは座席から身を乗り出して俺を抱きしめ―唇を重ねた。

「…………」
「……大好き」

 間もなく、車は夜の闇へと吸い込まれるようにして、いつしか見えなくなった。
 俺は今起きたことが全く分からずに呆然と立ち尽くし、気づいた時には時計の針がゴールデンタイ
ムをとうに過ぎていた。


 次の日もハルヒたちと打ち合わせがあったのだが、俺は気もそぞろでほとんど抜け殻状態だった。
 ……朝比奈さんにキスをされた。
 その事実は時間が経つほどに強固な現実として俺の頭蓋を打ちのめし、身体をフラフラにして今こ
の時から自身を遊離させた。ぼーっとするあまりハルヒに二桁に及ぶほどの打撃ツッコミを受けたが
気にしない。


 そして週があけて月曜日となる。この時には土曜日にあった一連の出来事で俺の頭は微熱と言わず
温度を上げていて、心中春真っ盛りと言わんばかりの状態だった。
「ねぇちょっと。あんた風邪でもひいたの!?」
 などと後ろの席でハルヒがチョップをかましがてら訊いてきたが、まぁそんなところだ。俺は流感
にかかっちまったのさ。例えて言うなら恋という名の病。
 幸福が俺の心を満たしていた。このあと部室に言って気まずいだろうとかそんなことは考えなかった。
 そうか、俺はこれまでずっと朝比奈さんが好きだったんだ。どうしてそんな簡単なことに気がつか
なかったんだろう。これこそ恋じゃないか。朝比奈さんのことを考えるだけで途方もなく幸福な状態
になれるってんだから。

 我ながら、ずいぶんとのん気なものだったと思う。


 ハルヒがブツクサ言っていたが、のらりくらりとやり過ごして放課後の部室へ向かう。
 そこには俺にとって永遠の女神となる朝比奈さんがいるはずなのさ。
「ちわっす」
 体育会系な挨拶をして部室に入ると、既に全員が揃っていた。古泉長門はもちろんのこと、朝比奈
さんもメイド装束でお茶汲みの準備中らしい。その立ち姿を見ただけでもう俺の桜は満開なのである。
 どこか険のこもったハルヒがずかずかと団長机に向かうのを見やりつつ、俺は古泉の向かいに座った。
「妙に嬉しそうですね」
 最初に言うことがそれか。ってことは顔に出てるのか。ふむ、谷口みたいなツラになるのならちょ
っとは引きしめた方がいいかもしれんな。
「そんなに機嫌のよさそうなあなたを見るのは久しぶりですよ」
 俺ってそんなに普段からむすっとしてるのか。
「えぇまぁ。少なくともにこにこ笑顔ではありませんね」
 千種の笑みを持つお前に言われりゃ確かだろうな。他の表情を見た覚えなどそうない。
「僕が切羽詰るとどうなってしまうかは、すでにあなたもご存知のはずですよ」
 あぁ。あれももう一年近く前になるな。あの時ばかりはお前にちったぁ同情する気になったさ。
「そういうことです。まぁ、去年の暮れからこっち、また落ち着いてきていて嬉しい限りなのですが」
 ピリリリリ
 携帯が鳴った。古泉の。
 古泉は電話を持って廊下に出たが、やがて戻ってきて、
「急用ができました。すみませんが今日は失礼させていただきます」
 と言ってまた退室した。慌しい奴だ。
 古泉が慌しい……。

81:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:32:07 lBJzg0yx

 俺はハルヒを見た。ハルヒはむすっとした顔でマウスのボタンを連打している。……何と安直な。
「おいハルヒ。何イラついてるんだよ」
 呼びかけると、ハルヒはじとっとした目で俺を見上げ、
「誰のせいよ誰の」
 と言ってまたパソコンに目を戻す。そうか……昨日今日とあまりに俺がぞんざいだったことに腹を
立てたのか。それで古泉の仕事増やすのは気の毒だぜ。とは言えるはずもないが。
「すまんな。ちょっとここ最近寝不足で頭がぼんやりしてた」
 半分嘘である。頭がボケてるのは現在進行形で真実だが。
「ほんと。みくるちゃんと鶴屋さんをちゃんと祝うんだからね。しっかりしてよ」
 仏頂面のハルヒの机に湯飲みが置かれる。
「そんな。いいですよーわたしなんかの為に……」
 メイドバージョンの朝比奈さんは、眉根を困った風に傾けて言った。何と可憐なんだろう。今すぐ
抱きしめて土曜日の言葉に返事したい。
「ダメよダメ! あのねみくるちゃん。そんなに謙虚だと運が逃げていっていい男捕まえらんないわ
よ。黙ってても男が寄ってくるからって自惚れてると、いつか困ることになるの」
 どんな理屈だかさっぱりわからん。謙虚だと男運が下がる法則が学会で発表されたのだろうか。
「うっさいわね。あぁー、古泉くんも帰っちゃったし、これじゃ話し合いが進まないじゃないの」
 進めずとももう十分にイベントの満員電車状態だろうが。これ以上詰め込んだら重量オーバーで止
まっちまうぜ。

 なんていうやり取りをしつつ放課後は過ぎ、俺はぼんやり朝比奈さんを見て過ごしていたが、不思
議なことに彼女は昨日までのセンチメンタルはどこへやら、すっかり元気になっているようだった。
 あんまりあっけらとしているので、土曜日の出来事はみな俺の夢だったんじゃないかと思ってしま
うくらいだった。彼女は動揺でお盆をひっくり返したりすることもなく、はたまた突然泣き出したり
もせず、そんなわけで終業時刻に向かうにつれて俺は頭の上に疑問符を積み重ねるばかりであった。


「朝比奈さん?」
 腹立ち紛れでさっさと帰ってしまったハルヒに、同じくパタンと文庫を閉じて先に部室を出た長門を
見届けて、俺は残った先輩に向けて言った。
「はい?」
 朝比奈さんはいつもと変わらぬ穏やかな表情でこちらを見た。
「あぁ、あの。一昨日のことなんですが……」
 わざわざ掘り返すのもどうかと思ったが、やはりここは男として確認しておきたいところなのだ。
 俺が言葉を選んでいると、朝比奈さんは小首を傾げて、
「おととい? ですか?」
 言いつつ反対に首を傾けた。そんな仕草のひとつひとつがこれまで以上に可愛らしく見え、俺は顔
の温度が上昇するのを感じてしまう。

「あの……何かありましたっけ?」

 俺は半瞬ぽかんとして、続けて数秒間の思考停止状態に陥り、やがてゆるゆると復帰すると彼女が
今言った言葉をようやく飲み込んだ。
 何かありましたっけ? ……まさかあれをなかったことにしているのだろうかこの方は。この二年
間、実に様々なことがあったものの、俺の中で一昨日の出来事はジャンルを問わず最大級の衝撃をも
たらしてくれた。それをなかったことにされては、やはり俺だけが丸一日夢を見ていたことになって
しまう。
「何ってあの、覚えてないんですか? 一昨日のこと」
「?」
 声にならぬ声をほっと漏らしつつ朝比奈さんはまた呻吟のご様子。待て待て。よもや本当に記憶が
ないのではあるまいな。もしかして未来人に記憶操作を受けたとかか?

82:名無しさん@ピンキー
07/03/11 15:32:39 lBJzg0yx
「あの。……わたし、キョンくんが言ってることが何なのかよく分からないんですけど」
「本当に覚えてないんですか?」
 俺の問いに朝比奈さんはこくんと肯いた。
「何かあったんですか? あのぅ……」
「いえいえ! 何でもないです。すいません、俺の記憶違いだったみたいで」
 そんなことはないと確信していたがな。あれを白昼夢とするには実感と衝撃と印象が強すぎる。


 そんなわけで俺は家に帰ってからどんな可能性があるかこれまでの経験を元に推測した。こんなこ
とを考えられるようになっちまった自分がもはや常人の思考回路を有してないってことくらいとっく
に織り込み済みだ。まぁそれはいいとして、真っ先に考えたのはやはり何らかの記憶操作を受けてい
るってことだ。朝比奈さんがかもしれないし、ひょっとしたら俺が限りなくリアルな記憶そのものを
持たされたのかもしれん。
 そうでなければ土曜日の彼女は実は別人だったとか。一年以上前の雪山みたいにだ。今や敵連中は
すっかり音沙汰がなくなっちまったが、ひさびさにちょっかい出そうと思ったのかもしれないし、ひ
ょっとしたら新たな敵性存在が現れる前触れなのかもしれん。
 ……が、
「やーめた」
 俺はベッドに身を投げ出した。アホらしい。これでは最近不思議なことが起きなくなったから自分
からそういうことが起きてほしいと思ってるみたいじゃないか。もともとは凡庸な人生をまったりと
謳歌するのが当初の俺の目標だったんだ。それがよもやけったいな団に入れられてわけのわからん活
動をして本当の超不思議存在たちに出くわしてしまいには乗り気になってしまうなんて思いもしなか
った。もう十分すぎるくらい珍しい体験をしたさ。朝比奈さんが卒業しちまうことといい、こうして
少しずつ俺たちは普通の生活に戻っていくんだ。それでいいじゃないか。
 ……と、この時はそう思っていた。


 それから何日かはハルヒも元通り機嫌を取り戻して連日何かしらの行事をやった。いちいち描写し
ていてはキリがないが、朝比奈さんもいつものにこやかな笑顔を終始保っていたし、ハルヒも団員が
揃うとギアを全開にして俺たちを引っ張ってくれたので、俺も土曜日の一件は朝比奈さんの気まぐれ
だったんだろうと思い込むことにした。
 本当はずっと気になっていたが、俺があの日の出来事について真相を知るのはもう少し後のことだ。


 卒業式当日―。

「みくるちゃんと鶴屋さんその他の卒業を祝して! かんぱーい!」
 SOS団団長にして祝賀会実行委員長、涼宮ハルヒがマイクを使ってのたもうた。
「かんぱーい!!」
 それに続くは多くの関係各位様―まずは卒業おめでとうございますな朝比奈さんと鶴屋さん。
ハルヒの言う「その他」に含まれちまってるコンピ研元部長氏に元生徒会長、同じく元書記喜緑江美
里さん。そして卒業を祝う側、俺に古泉に長門、谷口国木田阪中、なぜか新川さんや森さんまで執事
とメイドに扮して来てるし、多丸さん兄弟に至っては礼服ではあるものの思い切り他人なんじゃ?
……なんて無粋なツッコミはやめとこう。いや、ほんとにめでたい。
「涙とか湿っぽいのは似合わないわ! 卒業式で泣いた分は二次会でパーッと晴らしましょう!」
 独壇場状態の体育館ステージの上でわれらが団長様が号令をかけた。クラッカーが鳴り響き、直後
学内有志によるブラスバンド演奏が始まった。

 そう、さっき挙げたのはほんの俺の友好範囲内にすぎず、しかしてこのイベントの名は『SOS団プ
レゼンツ、北高卒業式超二次会!』なるものだった。よもやこれほどの規模で宴会するとは思いもせ
ず、俺がそのスケールを聞かされたのはほんの三日前のことだった。お前企画側の人間じゃないのか
と言われるかもしれないが、俺がやったのはあくまで事務雑用その他なので会場が体育館ってのもつ
い最近まで知らなかった。


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