【涼宮ハルヒ】谷川流 the 41章【学校を出よう!】 at EROPARO
【涼宮ハルヒ】谷川流 the 41章【学校を出よう!】 - 暇つぶし2ch331:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:00:42 BjTs1jcD

 視界を戻すと、ハルヒの目線とモンキチョウが入ってきた。既視感が脳裏をふたたびよぎり、
俺はその情景の中の台詞をしゃべった。

「胡蝶の夢か―」

「は……なにそれ」
 あれ、なんか怒ってないかハルヒ。続けにくいじゃないか。
「ええとだ、この世界は飛んでいる蝶の見てる夢かもしれないって話だよ、聞いたことない
か?」
「あるけど、それがどうしたの?」
「いや……」

 だめだ、もう無理。
 脳内の即興筋書きでは、ここでお前が「何でそんな話を……」と怪訝な表情で聞き返して、そ
れに俺が「ああ、なんとなく思い出したんだ」とやって、「…………」と無言で説明を求める顔
をされたところに、「フフ……お前が教えてくれたんだぜ」と決め台詞で締める。
 それはお前にとっちゃ身に覚えのない話だろうが、飛びまわるあのモンキチョウをしばし見つ
める俺を見て何かを感じてくれるんじゃあないかと、まあそうなるはずだったのだ。

 うまくいかんもんだね。

332:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:01:22 BjTs1jcD

***

 昼食後、空になったバスケットをコインロッカーに預け、同じような客の動きに流されつつ俺
たちもまた体験アトラクションへと向かう。
 できれば講演で紹介してた展示物のコーナーだけ見てお茶を濁したいところなのだが、
「なあ、あの水晶ドクロなんてすごいと思ったんだが、あれ見に行かないか。レポートに役立ち
そうだしさ」
「あ・と・で・ね」
 チッチッ、と舌を鳴らして指を左右に揺らし、あっさりハルヒは却下した。
 そうは問屋が卸しても、御覧のようにSOS団団長が許してくれないのだ。
「そんなのは最後でいいの。体使って覚えるほうが全然楽しいんだから。ほら、さっさと行くわ
よ!」
 仕方ない、また振り回されるか。せいぜい前よりは上首尾にと心がけて。
 さてと。
 順路的にいって、最初に進むのは例のごとく『火の輪くぐり』ということになる。
 実際に目の当たりにすると、これがかなり怖いんだ。あと、今回の懸念はそれだけじゃない。
 この『火の輪くぐり』に俺とあのハルヒが参加した時、なんだかよくわからないが特別なマー
キングをされたのだと、あの館で種明かしされた時に聞いた。
 俺ならずとも、“ひょっとしたら”という不安の一つも脳裏をよぎるってもんだろ?
 どっちみち入るしかないんだったら、いっそ先に『迷宮』に入っちまおうか。万にひとつ、前
回と同じ穴の二の舞になる場合も考えに入れて。
 どちらもあいつは楽しんでたけどな。あのハルヒは……。
「おいハルヒ」
 今にも跳んでいきそうなじゃじゃ馬娘を肩で抑えながら俺は言った。
「なに? いきなり」
「先に『古代の迷宮』ってやつからにしないか?」
「なんで? こんなのすぐにゴールできるんだし、先に済ましちゃっていいじゃない」
 確かにそのとおりだが、
「あ―、もしかして」 もしかしてってなんだよ。 「あたしのこと心配してたりする? 大
事な顔に火傷でもされたらどうしよう、とか」 ニヤニヤといやらしい顔つきだ。
 別にそんなことは……。
「じゃさ、あんたが手本みせて!」と、掴んでいた腕を逆にとられて入り口にグイグイと押し出
された。

「おはるちゃんたち……」 うん!? 「一緒に来なくてよかったっしょー。でもぉ、ゆきちゃ
~ん、あたしもこわいのだめなの~、傷物になったら……」
 なんだ、さっきの(片方が)バカップルな二人でくねくねいちゃついてるだけか。ちょっと
びっくりした。黙ってさえいればやや痩身のニケのように優美な、マーベラスな美少女ではある
が。

333:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:02:02 BjTs1jcD

 そういうわけで、すでに後ろが詰まってしまい進退きわまった俺。
 ええい、ままよ!
 アチッ、チッ!! 無駄に力んだせいか、いつもより多目に思える火の粉がどたどた走る俺に
注ぎ、その熱さをもろに感じさせられた。運営の方も律儀に火力とか安定供給してくれなくても
いいのに。そういうのは電力会社で間に合ってる。
 なんとかゴールまでたどり着いたはいいが、対岸の女ども―ハルヒともう一人―は腹を抱
えてゲラゲラと笑ってやがる。
 いいから、早くこっちこいよ。
『迷宮』で二人して迷子になったら俺が何とかするわ、もう―

「うぉりゃ~♪」 「わりゃぁ~♪」 「とうあっ!」
 機動性十分の格好でもあり、長髪をたなびかせての前回挑戦時よりさらに華麗に走り抜けて見
せた。たまたま見ていた別の客も感嘆の呻きを発している。
「ふっふーん」
 いまどきマンガの吹き出しでも出てこないだろうというくらい得意げな効果音だ。
 俺の心配はむしろこのあとなんだが。このとき手の甲がズキリと痛んだように感じたのはもち
ろん気のせいだろう。

 効率的な順番だろうとこっちのハルヒにもやはり見込まれたに相違ない、前回の流れをなぞる
ように同じ順番で進んでいく。
 俺としては、アクセスポイントを探すなんぞという特殊な目的がない分、内容そのものに自然
と注意が向いている。
 会場内は閑散というほど少なくもないが行列ができるほどの人出ではもちろんなく、したがっ
て配置順に入っていくのが自然な流れになっていた。待ち時間があまりないのは助かるね。

『海底に沈んだ石の都』と題するやたら大げさな名前のついたアトラクションに入る。俺として
は「またか」という感想でしかないうえにこれまた造りがしょぼいものだった。
 体力だけはけっこう浪費するんだけどね。
 そして『未開部族に今も残る通過儀礼の謎』という謳い文句、しかしてその実体はアウトリガ
も露わなスカイワーク車をうまく組み合わせて準備した、お子様用―という表現で解かってい
ただけようか―バンジージャンプという、申し訳程度にお飾りの木組みがくっついただけのイ
ンチキ古代遊びに移った。
 案の定というべきか、ハルヒはこれが痛く気に入ったらしい。
 うほーい、とかこっちに手を振ってから、
「涼宮ハルヒ、二回目いっきまーす!」 同伴者として恥ずかしい。
 それにしても、精魂込めた舞台よりもほんのついでの企画が人気を博すという主宰者泣かせな
パターンを見る思いだ。
 俺としてはこんなのは黙ってパスしたかったのだが、
「きっと自分が生まれ変わった気持ちになれるわよ、さっさと行ってきなさい!」
 予想通り強引に連れ出され、仕方なしに本日(俺的には)二回目の自殺行為風飛び降り演習を
敢行せざるをえなかった。
 低い低いと自分に言い聞かせながらも足の震えがしばらく収まらなかったのは、高所恐怖症だ
からとか肝っ玉が小さいからでは決してなく、俺という人間がこんな自殺行為まがいを喜んだり
しない文明社会の一住人である証拠だと強調しておこう。そうに違いない。

334:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:02:49 BjTs1jcD

「やっほーゆきちゃ~ん、見てる~? まこっちゃん、いっきゃーーす!」とかやたら楽しそう
な叫び声はあの女だ。
 下は短パンに穿き替えていたが、
「ひゃーはっはっは、は~いコマネチ・コマネチってなかったっけ!?」 また呆けたジェスチ
ャーを。
 恥じらいというものはないのだろうか。
 ピンクがかった黄色い声の主に向かって苦渋の表情を隠さない彼には、部族を越えた魂の連帯
のようなものを感じたものだった。
 野蛮人の子孫が相手だと大変ですよね、お互い。
 古代人社会でもそんな後ろ向きコミュニケーションが成立していたのだろうか。

 むずがる赤ちゃんをすかしなだめるようにして、ようやく“なんちゃってバンジー”からハル
ヒを連れ出すことに成功した俺は、「どうせここだろ」とばかりに次のアトラクションの入り口
手前まで子供心満載の団長を引っぱっていった。
 情けない展開を余儀なくされた前回の記憶が、挽回する気力を俺に与えてくれたらしい。
 しかし、レポートとかホントはどうでもいいんだろうな、こいつぁ。
 こっちはハルヒのハイペースに振り回されながら自殺体験ごっこまでさせられて、どっかで座
りたいくらいに疲れちまってるというのに……。
 見ると、昼飯時からの顔見知りである二人連れのほうは自販機の前にいた。どうやらここで一
服するつもりらしい。

 まずいな―

 そいつらに追随して……というわけでもないけど、「バンジーで人生の洗濯を無理強いされた
気分だったが、終わってみればなるほど自分の心の乾きに気づかされた。いや大いに感化される
体験だったよ。で、この際だ、心はともかくせめて喉だけでも潤したい」などと適当にこじつけ
て、自動販売機の方へと俺は流し目を送ったのだが、
「だめ。あとで」 にべもヘチマもなく拒否された。
 なんでだよ。
「なんででもエンデでもいいの」
 言いつつ送るその流し目の先は―っておい。
 あのさ。
 言っておくが他人の女になど興味はない。ましてやあれは変な女というより変態に近い。どち
らかというと家庭環境を心配したくなってるくらいだ。
 確かに観察対象としては気になるけど……いやだからなんでもありません。
 こんなところで粘っていると同行する女のココロ模様に巨大な積乱雲を呼びかねないのでとり
あえず先に進むことにする。
 仕方ない、あとで調節するさ。

335:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:03:46 BjTs1jcD

 横幅の広い階段を玄室へと下りていく。全体が薄暗い照明なのはやはり演出だろうか。
 前回危うくドジを踏むところだった、というか実際にこけた、そう、『商王墓』だとか『逆さ
ピラミッド』、『地下世界のジッグラト』などという大層な謳い文句のアトラクションだ。
 最下層の副葬物などについての頭痛を覚えるような説明書きを読んでるとわかるのだが、この
墓を造った、あるいは造らされた人々の時代には、首をちょん切って捧げる目的で『異族刈り』
が、何か事が起るごとに、あるいは年中行事のために行なわれていたらしい。
 いやもう、こんな時代に生まれてなくてほんとうによかったと、背筋が凍りつく思いがしたも
のだ。
 最初にきた際は説明書きなどちゃんと読んでいなかったのであまり感じなかったのだ。読んで
いたら同じ思いを二度繰り返していたことになる。
「なんか気味悪いわね、ここ……」
 王の棺と犬葬のレプリカを見つめる俺に寄り添って、ハルヒがそう漏らした。
 ああ、同感だ。
 空調の影響だろうか、風が巻いて下から昇ってくるように感じられる。そんな空気の流れのま
まにふわりと浮いたハルヒの短めの髪が、それでもちくちくと俺の横顔に当たる。
 よく知っている髪の毛の匂い。

 蹴つまづいた記憶も生々しい階段の上りは用心したが、どうってこともなかった。
 別のことに気をとられていたからな。思い出すだに赤面ものの理由だ。

 昼間の川辺の遊歩道と変わらないくらいには人出がある。別の言い方をすれば、それくらいに
は閑散としているわけだ。近くにあるらしい高校の生徒なのかもしれない若者の姿も混じってい
るといえ、どちらかといえば中年以上の参加者が目立つ。

 玄室のアトラクションから湿っぽい気分で出て、次のアトラクションへと向かう途中だ。
「ハルヒ、何か買ってくるから、ここで待っててくれないか」
 自腹を申し出る。無事に帰るという蓋然性を結果的に高めることになるんなら、これくらい仕
方ないと思ったわけだ。朝は奢ってもらったし。
「あ……、いいわ、あたしも行く」
 さっきので怖くなったということでもあるまいが、自販機までハルヒはくっついてきた。
 時間を稼ぐことはできそうだ。ただし、遅くなりすぎては元も子もない。
 珍しく甜茶が売っていたので俺はそれを買った。これ苦手な人も多いけど、俺は好きなんだよ
ね。
 ハルヒも同じのを選んだ。飲んだ事あるのか?
「ううん、ないけど。え、これ甘いお茶なの?」 だよ。 「そう……。ま、いいわ。はじめて
だったり珍しいってだけで先入観が入るからみんな『変だ』って思っちゃうわけ。あたしはいい
のよ、」 さっそく口をつけて、「こういうのはね、新たなものに挑戦する気持ちが大事な
の!」
 そんな気合を入れないとだめなのか。
 根性を入れて飲んでみたものの、ハルヒは「うへっ」と微妙な表情になった。
 大丈夫かね。

336:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:05:51 BjTs1jcD


 俺の視線をトレースしたハルヒがつぶやく。
「またあの二人と一緒ね―」
 いいタイミングで風見鶏ペアがやってきた。途中で別の行動を取ったのは、こうなるとかえっ
て都合よかったかもしれん。
 すぐ後ろに付くってのがこれ以降我が作戦でのベストポジションだ。
「案外偽装してあたしたちをスパイしてるんじゃないかしら。ねえキョン、そう思わない?
だったら面白いのに」
 いいや。離れないように調節したのは俺のほうだし。
 って、なに変なこと期待してるんだ、だいたいあんな鬱陶しいカップルに偽装してどんなメリ
ットがある? そんなのが許されるのはオースティン・パワーズくらいだ。
「それよそれ。逆転の発想なのよ。初めから変だったらかえってそれ以上怪しまれないでしょ」
 なるほど。SOS団のことだな。
「それにしちゃおバカだけど―」
 あからさまに件の二人を眺めつつ、ハルヒはそう付け加えた。おい、聞こえるぞ。
 まあどっちもどっちだが。

「こんなのとばせばいいじゃないか。もともと僕はどうだっていい」
「またまた~、遠慮するない。あたしはぜんぜんオッケ。ほかならぬ『ゆきちゃん』ならなんぼ
でも見せちゃる」
 うら若き乙女のものとも思えぬ赤裸々な会話が漏れ聞こえる。スカートの上から尻のあたりを
パンパンはたきながら。というよりわざと聞こえるように言ってないか、あの女は。
 第一、気をつけて進めばそんなに露わになることもなかろうに。
「わかったから、せめて恥ずかしい思いをさせないでくれ、頼むよ」 嘆く男。
 まったく同感だね。嘆かわしい世の中だ。
 しかし、どうやら思惑通りに足を運んでくれそうだ。これは助かる。
 ハルヒはというと、前を歩く二人はさしあたってどうでもいいようで、
「いよいよもどってきたわね。さんごちゃんが言ってたやつ。『何の目的で造られたのか謎だら
け、一説によれば“胎内めぐり”、いや私はそう考えたい』とかなんとか」
 目前に洞窟探検を控えて張り切っていた。
 要するに、ふたたび『トンカラリン』の近くまで来たってわけだ。今度は入り口のほうだけど。
 手の甲の、一度負傷したあたりがまた気になってくる。治ってるのに……というより、怪我を
する前の状態なのだが。
 大丈夫、あれはたまたま、偶然だ。不慮の事故ってやつ。
 口まねはまあいいとして、それにしてもハルヒ、『さんごちゃん』て。

337:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:06:46 BjTs1jcD


 両側が絶壁になった狭い道が数十メートル続いている。どこで手の甲を切ったのかは覚えてい
ないが、できるだけ慎重に俺は歩いていた。
 空は……ただただ白く明るい。
 レプリカにしては非常に質感の高い両サイドの断崖をペンペンと叩いたりしながら、ハルヒも
同じように空を見上げていた。
「ここはえらい気合入れて造ったのね……」
 そういやあのチケットのイラストや写真に載ってたっけ。『売り切れ必死!』とか自信ありげ
なことも書いてあったが、そもそも何枚売れたのだろうね。

 あっけないもので、つらつら考えているうちに俺たちは、広い中庭のような場所にいったん出
た。

「いや参った参った、あてくしとしたことが見せパンじゃないのよね~。しかもなんと! ゆき
ちゃん好みの―」
「うるさいよ。好みなんか話した覚えもない」
「ああん、でもほかの男のズリネタにでもされちゃったらどうしよ!? したら、ゆきちゃんの
アッツいので慰めてくんない? でないと死んじゃう~、ふへへ」
 誰がするか。見たけど。
「いいから黙れ。だいたいイヤならここはパスしようって言ったぞ?」
「いやん、つれないこと言わないでよ、わかってるくせにぃ。あたしら他人じゃないんだし」
「他人だ、変なこと言うな」
「いっひひ、隠すな隠すな、あたしのこれ(♀)はゆきちゃんのモ・ノ・よ・ん♪」
 もうあからさまにセクハラだろ、これ。
「やめろ、離れてくれ」
 構わずうねうねしてやがる。これ以上直視できん。

「…………」
 聞こえてくる耳年増(たぶん)の戯言にさすがに唖然としているハルヒを見ると、もうなんか
顔どころか耳まで赤くしている。俺の目に気づくと袖を引っぱって、「さっさと行きましょ」と
うつむき加減で促した。
 こっちのほうがよっぽど可憐な少女らしい振る舞いだな…。そう思った自分に気づいて、我な
がらちょっと驚いた。

 出口に向かって徐々に上っていく坑道。途中から急激に狭まり、パッと見だとそれ以上進むの
を断念してもおかしくないほどだが初めからわかっていることなので構わず進んでいく。どのく
らい狭いかというと、現代人の平均的な大人ならほとんど這って通らなくちゃならん。ここまで
来た道からして狭く、人間一人がやっと通れるくらいなのでやめとこうにもいまさら引き返せな
い。

「いやーーん、こわーい、……こらエロユキいま当たったでしょ。ワザとねワザと」
「何言ってる、急にバックしてきたのはお前だろ! コラまた!」
「あはーん、感じちゃったじゃないさ、おイタはまだって言ってるのにぃ。あ~んもう責任とっ
てお嫁に貰ってくらっさい♪」
 アホが一人で盛り上がってやがる。

 待てよ胎内めぐり説だとこの狭い穴はおそらく……いかん、変なことを考えそうだ。
 古代の人が意匠をこらしたものだという左右のひだひだが、今となっては気になって仕方ない。
 セクハラ女のせいだ。
 はじめからあさっての方向を向いているらしいがとにかく異様にパワフルなあのイカレ女に圧
倒されてしまい、年中無休型女子生徒または祭日の娘として北高を席巻するハルヒすらも比較的
おとなしい、というか近似的に普通の客と化していたような気がする。
 いやいや、世界はときに広い。

338:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:07:36 BjTs1jcD

 襞のような造形の石壁に囲まれた狭い穴を這って通り抜け、俺たちはようやく外界に復帰する。
 間抜けな会話を聞かされて煩悩に責めさいなまれはしたものの、産みの苦しみを経てまろびで
たような感覚で、なんとも爽快だった。
「ふあーー、帰ってきたぁ!」
 昼食をここで取ったんだったな。そこの半月型のでかい石の向こうで。
 傷を作ってしまう歴史は幸いにも回避できたらしい。
 だが一番気がかりな迷宮アトラクション、別名『ウェルカム・インザラヨーク』が残っていた。
大丈夫だとは言われたが、さてどうかな。

 どうやらあのカップルはまっすぐ『ミノタウルスの迷宮』に向かうようだ。離れないようにし
なければ。
 さ、行こうぜ。そう言って促したものの、今度はハルヒがいまいち乗ってこない。
 どうも『迷宮』行きに不満があるらしい。まあなんとなく理由はわかってるが、これはお前と
俺のためなんだ。
 思い切ってハルヒの手をとることにする。さ、ちゃっちゃと行くぞ。
「…………」
 わずかに抗議したそうな顔だったが、掴んだ手を振りほどくつもりはないようだ。よかった。
 相変わらず熱っぽい女のぬくもりを感じながら、アトラクションの入り口に俺たちは向かった。

 そろそろ客足もとだえてきているのか、俺たちを除けば他には数人しか迷宮前にはいなかった。
 あの絵がフラッシュのように頭をよぎる。《ウェルカム・インザラヨーク》 そして、

 そう、あの強大無比な《扉》―

 色物カップルに遅れまいとした結果か、なんとなく相手もこっちに合わせてくれてたような気
も今思えばしてくるが、いずれにせよほぼ同時にアトラクションに入ることができた。
 うまく保険代わりにできそうだ。

339:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:08:35 BjTs1jcD

‥‥‥‥‥‥‥・

「お昼はあっこでもよかったねえ、おはるちゃん」 「ほんとほんと」

 オールつきの二人乗りボートはどこにもない。
 目の前の中庭に見えるのは澄んだ湖の縁でもなんでもなく、ただ緑濃ゆい憩いの場がこじんま
りとであるが広がっている。
 乳白色のこぎれいなベンチがところどころ並んで、じっさい座って歓談している人の姿もあっ
た。
「サンドイッチだったっしょ。豪勢な。やっぱぜんぶ自前?」
「そーよ、おにぎりと交換したらよかったわね、おいしそうだったもん」
「あらん、そりゃもったいねえ。言ってくれたらよろこんで差し上げたのに」
 笑いさざめく二人の少女たち。
 とくにあの見てくれは際立って良い女の声を聞いていると、なんだかこっちが癒された気分に
なるほどに透き通って聞こえる。内容さえ目をつぶれば。

 もういろいろ端折ってるわけだが、それくらい何もなかったんだ。ここまで。
 聞けば、案の定というか近所の公立高校に通っている高校生だという。
 てっきり痴話を繰り広げる変態さんかと思いきや、通っている高校では生徒会副会長および兼
任書記まで努めるという自称『まこっちゃん』と、これまた本人によれば“下級生の妹二人が生
徒会で世話になってるよしみで彼女に同伴しているだけ”という同級生の『ゆきちゃん』の二人
らしい。
「と申しておりやすが、実は将来を約束した仲でして。ここだけの話、彼ったらそりゃあもう夜
はすごいんです、へっへ」
 などと与力に取り入る悪徳商人のように『まこっちゃん』が言い添えた。「うそつけこの痴女
め」と罵声を浴びていたけど。

 なんでそんなこと知ってるのかって?
 というよりいつ互いに会話するようになったのか、だよな。
 簡単に説明するとこうなる。
 まずもってハルヒの勘違いから始まったのだが、先ほどから件の女を気にしている俺の様子が
気に入らなかったらしく、動向に神経を尖らせていたところ、女の『おはるちゃん』というフ
レーズに思わず反応してしまい、紆余曲折を経て……というほどでもないが、まあ互いに言葉を
交わすくらいには近づきになったってわけだ。でまあ、気付いたら4人で写メ撮ってたり。
 なんせこんなインチキくさいイベントをデートコースに選ぶくらいだし、どこか相通じるとこ
ろがあったってのが真実かもしれん。
 ときに、ハルヒが自分のことと勘違いした『おはるちゃん』ってのは、このゆきちゃんの妹さ
んのことだった。

 中庭で娘二人がはしゃいでいたときである。
「あいつが言ってたことなんだが―」
 隣りのゆきちゃんがそう前置きした。あの少々特異な感性の人が何をです?
「せっかくあんないい娘が気合入れて弁当作ってくれてたんだし、もうちょっと楽しそうな顔を
見せてもいいだろうにって。正直、僕も思った」
「…………」
 そういう風に見えてたのか。
「どんな顔するか気になるもんだろうよ、せっかくキミのために作ったんだから。……ま、これ
言うと自分を省みてない発言みたいだが」

 こうして知り合いとなった合計四人で、この簡素なアトラクションというか小部屋を覗いて回
る。
 イルカがたくさん泳いでいる絵くらいか。模造にしては出来がよくて印象的だったのは。あと、
やたらでかい壷。パリジェンヌって説明のあった絵も見覚えがあるものだった。

340:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:09:19 BjTs1jcD

「胸でかいわねー、何食ってああなったのかしら」
「おはるちゃんもおっきいじゃん? あ、もしかしていつも揉んでもらってるのかな?」
「自前よ、自前。それよりあなたこそ、やらかそうね胸ね」
 揉んでやがる……って、おいやめろ! あんたも身をくねらすな。
「やん♪ なんか変な気分になっちまいやすよお姐さん、やっぱあとでゆきちゃんにいたしても
らわないと体の火照りがおさまらないかも。うん、もう決定~」
 すいません、うちのハルヒの傍若無人は昔からなんです。
 ゆきちゃんも苦笑してしまう。
「お互い様だけどさ、変わってるな」 はい。
 つうか、着替え時の教室や更衣室での会話―について男が妄想してそうな事―をこんなと
ころにまで持ち込まないでくれ。頼むから。

 かくして変態桃色空間には不覚にもおびき出されたが、局地的異時空間に連れ込まれることは
この分だとなさそうだ。
 それにしても、『ラヨーク』か。
 見世物小屋という意味もあるのだが、わりと雰囲気合ってるかもな。

 で、あっけなく終盤に向かう。
 いろいろヤキモキさせられた途中の会話はカットしとこう。ゆきちゃんと俺の精神衛生上よく
ないのでね。
 といいつつ、全部カットというのも味気ない気がするんで、話の筋に関係ありそうなのを一つ。
線文字の石版だとかが展示してあった部屋で、まこっちゃんに話しかけられたときの会話だ。

「キョン吉、キョン吉ぃ」
 人払いをしてから密議を交わす公儀の隠密よろしく声をかけてきたのはともかく。
 さすがにその呼ばれ方は意表をつかれた。
 なんだよ「キョン吉」って。俺は平面フロッガーか。
「なしてこんなマイナーなとこデートに選んだの? てかよく嗅ぎつけたわねって感じかし
ら?」
 お互いさまだと思うが……。言いながらハルヒの視線をチェックする。
「いやーご明察! さいですわ。けどあたしらはここのもんだから、バカっぽいけど面白そうだ
し来てみたってわけ」
 訂正しておくとデートじゃない。部活じゃないしさらに言えば同好会未満というか、そこのハ
ルヒが強引に立ち上げた課外活動に巻き込まれた結果がこれだ。
「したらば。そっちのおはるちゃんが調べたの? あ、ひょっとしてウチの高校に知り合いでも
いた?」
 知らんけど、たぶんいないと思う。
「同じく巻き込まれ中のしがない超能力者野郎がチケット持ってきた」
 どうみても嘘っぽいがこれが事実だ。
「ほうほう。そりゃたまげた」 面白がってくれたらしい。「あたしもそうなのよ? 奇遇ね
え」

341:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:10:17 BjTs1jcD

 極冷気が背中を一気に冷やす。こいつら『キカン』か?

「特技はテレパシー」

 痴話じゃなかったのか。って、なんですと!?

 まこっちゃんはニヤニヤして訳知り顔だ。まさか全部読まれてた?

「別の言い方すると『女の勘』よん。だからゆきちゃんみたいな好い男GETできちゃうわけな
のね」

 “何言ってるんだこいつ” 俺の勘によるとゆきちゃんはそう言いたそうだ。
「で。あたしのテレパシーによるとさ、」
 いいっすよ、どうせしょうもないダジャレかなんかでしょ。

「そろそろおはるちゃんヤキモチ焼いちゃってるよ?」

―しまった。
 むくれた顔でこっちを睨みつけてやがる。女性絡みになると俺の動向にやたら過敏なんだ。
「……置いてくわよこのバカ!」
 イタ、痛い、耳引っぱるなって。

 てなわけで、迷宮内のほとんどの部屋・場所は歩き尽くしていた。といってもたいした数でも
道のりでもなかったが。

「ささ、ご両人、遠慮せず入りよし」
 彼女はどこの生まれだろう。
 説明書きを信じれば、ここからすぐ出口に通じているらしい。つまりまこっちゃんの案内して
いる部屋はこのアトラクションの目的地なのだが、なんともあっけない。まったく迷うこともな
く着いてしまったもんだ。迷うほどの広さがなかったともいえる。
 待て待て。罠かもしれん。
 人を丸呑みにしそうなほど巨大な牛面人身の“くだん”が、あるいは人間の言葉をしゃべる巨
大な怪鳥が、はたまたグリフォンないし有翼神獣の待ち構えているかもしれないその部屋に、意
を決して俺は―
 なーんてな。
 入ってみるとそこはいままでの部屋とほとんど変わらぬ殺風景ではあるがくすんだエンジ色を
基調にデザインされた一室で、とりあえず置いてみたといわんばかりの椅子が一つある。その後
ろのほうには人間一人では手に余りそうなくらい大きな両刃の斧と『重さを実感してみてくださ
い』という板書があった。いや絶対持てねえってあんなの。
 そういや、漢字の「王」はこのような大きな斧(父権ひいては王権を表象する鉞)の形をモ
チーフにした字形らしいとか書いてたのを思い出した。それと似たような意味があったのかもし
れん。あの暗い地下王墓の説明書き、ついつい読んじまったからな。
 出口にはご丁寧に矢印までしてあって、付近にトイレもあるんだと。
 あまりののどかさに拍子抜けした。

342:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:10:59 BjTs1jcD

 出てみると陽もようやく西に傾いていたことに気づく。
 一目瞭然のことでもあるけれど、ゆきちゃんたちが言うにはこのあたりの地形ゆえに付近は夕
方一気に暗くなるらしい。
 早めに閉まるのはその辺のことも考慮してのことだと彼らは認識しるようだ。

「おはるちゃん、キョン吉ぃ、じゃね、ばーい」
「まったねー! お二人さん」

 俺としては体験型アトラクションよりはなんぼか楽しみにしていた『特設展示コーナー』から、
そろそろ帰る間際の挨拶だ。
 ちなみに俺は、『水晶ドクロ』や『スカラベ』にひとしきり魅せられてたさ。あれはいいもの
だ。
 迷宮以後、楽しく過ごさせてもらえたのは彼ら二人のおかげである。そのゆきちゃんたちより、
俺とハルヒは先に退出した。
 彼らは地元だし、少々の長居は問題ないようだったから。妹さんかららしい電話攻勢にそろそ
ろ悩まされつつも、快く送り出してくれた。余談になるが、メールの連弾を面白がっているなか
で、ふと思いついた俺はゆきちゃんに「お兄ちゃんって読んでもらうコツ」を聞いてみた。
「解からない。環境とか成り行きだろうよ。それより兄離れしてくれる良い方法を教えて欲しい。
ぜひ」
 などと俺にとってもはや未知の分野でしかない話を振られてしまった。その流れで写メを見せ
てもらえたが。ウチの妹の写真もついでに見せる。
 結果、こっちに転校したくなった。
 なんというか、ね。満開の桜も霞みそうな笑顔はもう沈魚落雁閉月羞花の元ネタをさっくりこ
の娘らということにしたいくらいで、要するに双子そろってものすごく可愛いかった。
 ここだけの話、朝比奈さんもかくやといった感じだ。
 全国数万人のみくるファンのみなさんごめんなさい。あと朝比奈さん弱い僕を許して。
 懺悔ついでにぶっちゃけると、俺がこっちの人間だったらいっそ「お義兄さん」と一方的に呼
んでゆきちゃんに気味悪がられていたかもしれん。
 現実にいるんじゃないだろうか。
 まあなんだ、このあたり登場人物の容姿から何から少年漫画誌のバトル物にありがちなように
インフレ起こしすぎだろうなどと思うかもしれんが、そこは我慢してくれ。
 当事者の俺からして思ったんだ、《こいつらリアル明稜帝グループかよ、クリフどこ?》って。
 あと、なんにせよ美人を見れるのは眼福だろ?

343:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:11:47 BjTs1jcD

 冗談はともかく。
 またいつか、どこかで会いましょう、お二人さん。妹さんたちにもよろしく。あとまこっちゃ
んのお兄さんも。
 これは言ってなかったっけ。
 あの陽気な耳年増のほうに同学年の兄貴がいるらしく、しかも同じ高校の生徒会長を務めてお
り、ゆきちゃんによると始終ニヤけ顔がウザいうえにやたら解説好きなんだとか。成績も相当な
もので、ほぼ全科目で学年トップクラス、同じく優秀な妹としのぎを削っているらしい。
 まったく、あの女も底がしれん。


 バスケットをふたたびロッカーから取り出して、あとは帰途につくだけ。なんかホッとするね。
安堵の溜息ってのが本当に出てきた。
 せっかくだし、無事だったら最後に寄ろうと密かに決めていた売店を覗く。

「ねえ。これってさ、よく知らないんだけど北海道土産じゃないの?」

 俺も前からそう思ってたんだが、とにかく謎の古代遺跡に関係のある木彫りのクマなんだろう、
しかもシャケを咥えた。そっとしておいてやってくれ。
 てかマリモちゃんまで置いてあったぞ。どういうことだよ。

 …………。

 朝比奈さんへの土産について熟考を重ねていたとき、見つけた“それ”。
 “それ”に気づいたとき、急に胸が締め付けられた気がした。

 あのハルヒのものとは違うけど、そこには見覚えのある花の絵があったのだ。

 そう、あいつには何も……。

 もうひとつ、長門への土産はこれにしよう。
 かわいらしい花ショウブ柄の栞を手にとって、隣りで小物を品定めするハルヒにそう提案した。

 余談だが、売店で見つけていたハルヒの落書き―校庭の模様のこと―が入った絵はがきを、
俺は会場を後にする前に買っておいた。ハルヒがいない隙にバスケットに忍ばせておく。
 まあ、ちょっとしたいたずら心さ。

344:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:12:39 BjTs1jcD


 帰りの話になる。
 さすがに遊び疲れたんだろうか。座れそうな電車を選んで乗り込んでからものの5分でハルヒ
は眠りに落ちていた。
 膝の上のバスケットを落としかねないので、俺の膝に避難させておく。
 午前はこっちが借りたことだし、そっとしておこう。たぬき寝入りかもしれないけど。
 わりと寛大な気持ちのまま俺は、かわいい寝顔を肩口から覗かせているハルヒに、そのままし
ばらく肩と肘を提供することにした。
 胸が高鳴っていなかったかといえば、間違いなく動悸は速まってたと思う。それになんか顔が
熱っぽかったさ。
 たぶん、こいつもそうだったんだろうね。

***

「これだけでいい?」

 いい。一本あれば当分大丈夫だろうし、第一それ高いし。
 そう言ってさっさと買い物をすます。
 ひきもきらぬ店内の人だかり。どこからこれだけの人が集まってくるのかね、まったく。かく
言う俺もその中の一人なわけだが。
 言い出したことはよかったにしても、現在使ってるプリンタの機種名を二人とも知らなかった
ので、そのあたり抜かりのなさそうな古泉に電話して聞いたらあっさりと判明して助かった。さ
すがは副団長と一応ほめておこうか。

 帰りに寄ろうと約束していた家電大型量販店での話だ。

 バスケットを持ったままなのが俺としては少なからず恥ずかしいのだが、持っている当のハル
ヒは案の定というか問題ないみたいなので、ま、いいとしよう。

 しかしそれだけでは終わらなかった。考えて見りゃ十分予想できたんだけどな。
「せっかくだし」というハルヒにせがまれ、不承不承連れられたのはおしゃれな雰囲気で俺をた
じろがせる専門店街だ。
 ハルヒには心に決めた店がすでにあった。なんでも四角錐型のチョコレートケーキなどで人気
を博しているのだそうで、グルメ雑誌で取り上げられるほど評判の店らしい。半ば強引に俺を
引っぱってきた女の予測にたがわず、店内は若い女性で賑わっている。
 さらに驚いたことには、ハルヒはいつのまにか電話予約まで入れていた。
 なんという周到さ。
「キョンとこの分も二つね。お母さんと妹ちゃんきっと喜ぶわよ。代金は立て替えとくから今度
でいいわ」
 しかも自分の分は無いんだと。なんでかって? 俺も変に思って聞いたら、
「超人気なのよこれ。欲張ってたくさん頼んだせいで買えない人がいたらかわいそうでしょ」
 だったらなんでウチの分まで予約するんだ、頼まれてもないのに。
 俺がそう言うと今度は黙秘に入りやがった。
 確信したね。こいつは最初からここに寄るつもりだったに違いない。クラスメイトに話を聞き
まくった挙句ここに決めたんだろう。
 そういや密かに忍ばせていた絵はがきも見つかっちまった。それを見たハルヒはすこしだけ変
な顔をして、
「これ、あんたが?」
「ああ、俺。自腹でな」
「そう」とだけ言って、あとはノーコメントだった。

345:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:13:58 BjTs1jcD

 寄り道でここまで来たのはいいとしよう。が、帰りが少し遅くなりそうだ。

「もうこんな時間ね―」
 日の長い季節なので外はまだ十分に明るいけどさ。
「あたし、なーんかお腹すいちゃったわ」
 何が言いたいんだろう、物欲しそうな目をしてやがる。
「なんだよ、はっきり言えよ」
「…………」
 見つめ攻撃か。
 いつの間にやら伝授されていたというのか、長門みたいだな。
 やれやれ。肩をすくめて降参の合図。
 どうも予想外の出費を覚悟しないといけないようで、父さん。

 本当のところ、こんなことだろうとはだいたい読めてたけどね。


 交渉を重ねた結果、もったいないというか金も無いし、この時間ならいつもの店がまだ開いて
るだろうということで話をなんとかまとめ、最後は北口駅前の喫茶店に二人して入ることになっ
た。
 なじみの店ってやつだ。
 もちろん、お互いの家には連絡してる。そういうとこはきっちりしてる娘なのだよ、傍若無人
にみえて。
 はなから奢らせるつもりなのか、やけに嬉しそうな涼宮さんだったとさ。

 へ? お前だって満更じゃなかったんだろうって?
 いろいろあったけど、どうにかつつがなく帰ってこれたんだ。嬉しくないわけがない。

 そうだろ?

 どうしたって生きてるかぎり一人で背負ってくしかない悲しみ事ってのがあるんだ。消えち
まった人の思い出は、まだ生きてる人にしか残らないから。
 それは悲しい。考えたくもないくらい。
 でも、泣き叫んだところでそれを帳消しにはできないのだ。
 それに、生きているからこそ人は何かを負うことができる。描きなおした花と栞の思い出、
貼ってくれた絆創膏の記憶、そしてあいつの肌のぬくもりも。

 消えてしまったあいつから、俺は少なくともそのことを学んだ。そう信じてる。
 いや、嘘でもいい、せめてそう信じたいんだ。

 あいつに会った記憶のために。

 だからこそ……

 あいつがそのために去ってゆき連れ戻してくれたもう一人の“自分”―俺の指摘以来その麗
しい髪を短く揃えたままの隣りの女―と二人で帰ってこれた、ただそれだけのことが、俺に
は無性に嬉しかったんだ。

346:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:15:22 BjTs1jcD
~~ エピローグ ~~

 休日明けのことである。
 弁当とおまけにケータイまで家に忘れてきたことに気づいたのは麓の私立高を通りかかった頃
だった。門の付近でときどきニアミスするそこの生徒を見るたびにうらやんでみたり己の不明を
恥じてみたり目が泳いだりは毎度のことだが、いいやそんなに目は泳いでないと思うが、今朝に
限って言えば別のことが気になった。
 理由はわかってくれるよな。
 プレートに書いてある文字に万が一異変はないかとか、ひょっとして詰襟の男子生徒が紛れ込
んじゃいないだろうか、などと探りを入れたその瞬間、大事な時にはなかなか働いてくれないイ
ンスピレーションが今更のように閃いてふと自分の足元を見つめ直させたのだ。その結果“弁当
がなくては勉強ができぬ”というマイ格言が脳裏をよぎった次第である。
 あん? 食ってもできないくせにって? あーあーなんにも聞こえないよーだ。
 泣いていい?
 完全に私見な上に話のついでで思い出しただけだが、ジプシーキングスの『インスピレイショ
ン』ってのは実にいい曲だと思う。
 このようにまったくもって人間の記憶っつうのはよくできてるようでいて、一部の人間には融
通の効かない困った子であることよの越後屋と、意味のない擬人化と責任転嫁をしてみたり、そ
んな自分がすこし嫌いになったりもした。
 といっても幸い財布は忘れていなかったのでそのまま放置することにする。出費はきついがさ
すが俺だぜ。
 ……自己嫌悪部屋があったら二時間くらい入りたいです、母さん。あいつに……だいぶ前から
古泉に借りていたDVDは鞄に入れたのに。
 そんなごくごく私的な気鬱の種を抱えてみて、もう一つ思いだすのは朝比奈さんのいつぞやの
憂鬱だった。というのも先週にはナース服―女性用看護士衣装―から解放されて一息つけた
はずのわりに、どことなく週のある日以降憂鬱そうな雰囲気を纏っておられたようにお見うけし
たのだ。
 ハカセくんの一件の時ほどでは全くなかったけどさ。
 あのときの朝比奈さんの温かい感触を思い出す。
 ナイスフォローだったな俺の記憶。
 しかしてハルヒとの視察名目の小旅行の件以外で朝比奈さんを悩ます不届きなきっかけがある
とすればなんだろうかとつらつら考えてみると、ニヤケ顔した小策士のあいつとあの謎着信の件
が何ゆえか浮かんでくるのでやっぱ考えるのはやめておこう。
 いらぬことをしっかり覚えていやがる海馬組織どもだ。
 くさされたり褒められたりする俺の記憶メカニズムだが、基本的には感謝しているのでこれか
らもよろしく頼む。

347:名無しさん@ピンキー
07/02/27 02:16:05 ohhY+yPz
移動はこのスレ使い切ってからな

【涼宮ハルヒ】谷川流 the 42章【学校を出よう!】
スレリンク(eroparo板)

348:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:16:12 BjTs1jcD

 と、たった今教室に入る俺を後ろの席の腐れ縁娘が睨みつける。厳正謹直代官と悪代官のボー
ダーラインのような目だ。はて御公儀に後ろ指さされることをしでかした覚えは……というのは
冗談で、むしろ予想通りだなおい。なんにせよ朝は挨拶からだな。
「よっ」
「おはよ」
 やはり怒っているわけではない。どういう顔をすればいいかわからないときのお決まりの造形
なのだ。
「教室であんまりニヤけた顔しないでよね」
 恥ずかしいから、とまでは俺のハルヒはまず言わない。
 ええと……ここは“俺の知ってるハルヒ”って意味だからな。勘違いしないでよね。
 俺は誰に言い訳してるんだろう。
 ケータイが繋がらないだのと言い出すもんだから、弁当忘れてきたこともあっさりばれちまっ
た。日頃の行ないがろくでもないくせに勘のいい奴だ。日々の善行と直感力の因果関係は知らん
が。

 朝のHRまでは特筆すべきことは何もなく、いやそのHRで突然の転入生の話があったのだが、
まあこれは特筆すべきと言えなくもないな。そのあとといえば国木田はじめ中学の同級生同士で
二時限目あとの休み時間ダベってたっけそういや。
 一応説明しておくと、春休みの同窓会で旧交を温めて以来、廊下で時々ダベリング(※)会が
開かれるのだ。
 転入生というのがなんでも帰国子女とのことで、具体的に言うと帰国女子生徒だそうだ。「あ
とは本人が来てのお楽しみ」などという意味不明なエクスキューズを残して担任が去ってしまっ
たので詳細は不明である。
 なにも好きこのんでこんな毎日がハイキングコースのような、着いたら着いたで夏くそ暑く冬
寒すぎるオンボロ校舎の県立高を選ばなくても良いのにと思うのだが、他のメンバーの言葉の
端々から察するに彼らは青春のリビドーやらなにやらが大いにくすぐられている様子で、期待と
いうか妄想に胸を膨らませているらしい。
 何度か「お前はいいよな」などと憎まれ口を叩かれたのだが、何のことやらさっぱりだ。
 まったく仕方のない奴らよなあ。
 まあその話題でクラス内はほぼ持ちきりだったわけだが、さっそく席が用意されたのはいいと
しても案の定その場所は教卓の真ん前のある意味ベストポジションだ。気の毒なことにオチオチ
眠れやしない。他方、新クラス最初の席替え時に己の不幸を嘆いていた特等席の前任者は、それ
はもう喜色を満面に浮かべながら窓際のベストポジション近くに意気揚々と移っていった。長期
的・大局的に見て学業面に逆効果を及ぼしたら意味がないのにな。あまり羽を伸ばしすぎるなよ
と言いたい。
 ま、ないとは思うが転入生氏の恵まれぶりに嫉妬した同級生からの陰湿なイジメ、なんてこと
が実際にないことを祈ろう。万が一の場合には、なんなら不肖の身ではあるが偶然にも真後ろと
なったこの俺が親身で相談にのってやってもいい。
 その場合、その娘の外見如何にも左右されるだろうが、後ろの席の女子生徒の承諾やら監視網
突破に成功しなければ高確率で俺が肉体的暴力に晒される危険を冒すことになるだろうから、十
分な用心深さが必要なのは言うまでもないだろう。

 (※“ダベリング” 『しゃべる』の名詞的変化の一。『駄文』の「駄」また英語の~ing動
名詞との混交だろうか。“我ながらくだらない話であることよ”と自嘲気味の文脈で使われるこ
とが多い。いや多くはない。というか日本語の乱れっぽいし死語だったらごめん。つか26,000件
も検索に引っかかるなよ……)

349:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:16:48 BjTs1jcD

 四時限目、ハードル走などをそれなりのテンションで俺たち男子はやった。やりすぎてハード
ルを蹴り倒しまくった一部の馬鹿が授業の最後体育教師に説教ついでで頭を小突かれたりもして
たが、そんな愚かな真似などしない俺は汗ばんだ服を着替えようとこれから教室に戻るところだ。
 ああ、腹減ったな。
 そんな俺の前(上)方から、遠目にも目立つ体操着がぐんぐん近づいてきた。
 あ、あいつ。
 スタイルのよい、本来のグラマー度がかなり忠実に再現されたブルマ姿は見まごう事なきハル
ヒだ。ちょんまげよりは長くまとまったポニーテールなのはこの際どうでもよい。
 本当だぞ。それ以前に出てるとことか目が行くんだって。
 いや女性諸氏にはまことに申し訳ないのだが、下半身が一瞬モコりそうになったふがいない俺
を誰が責められよう。ちなみに“モコる”とは男の象……一生悔やみそうなので解説やめ。なん
かもう死にたくなってきた。
「キョン!」
 バカ恥ずかしいだろ他の男子もいるんだし。
 精一杯のボディランゲージが通用するはずもなく、かといって逃げ出す理由もなく、あいつが
手に持ってる物が忘れてきたはずの弁当とケータイ、あとなぜか折り畳み傘だというのもすぐ
判ったので、周りの目をやりすごしつつここは歓迎するほかない。
 ごめん、先行っててくれ。恨めしそうな同僚に合図する。
 おいどこ見てんだよさっさと行けって。
 自分のことを棚に上げてるような状況だが青少年の健全育成のためだし気にしない。
「これあんたの忘れもんよ!」
「それ、おふくろか」 わかりきったことだが一応な。
「そーよ」
 で、なんでおまえが持ってるんだよ。
「鳥が教えてくれたのよ。あれ、あんたには言ってなかったんだ」
 あからさまにニヤニヤしている。ちなみに一緒に教室に向かっている最中だ。
「あんたに直接渡すことにしたら『恥ずいからやめてくれ』とかなんとか言いそうだし。だから
あたしが代わりに受け取ったげたのよ。感謝しなさい」
 ありがとうよ。
 背に腹は代えられぬってのを実地に味わってたところだしな。あ、俺は決してハルヒの胸など
に目をやってないぞ。揺れてる…とかまったく気づいてない。
「それでさ、『中間のテスト勉強も涼宮さんに監督してもらえたら嬉しい』とか『娘も喜ぶから
いつでも遊びにいらっしゃい。いっそ娘の家庭教師をお願いしたいくらい。予約していい?』
だって。アイロンも上手にあたってたって褒めてくれたわよ。『涼宮さんは才色兼備ねえ』って。
まあ事実なんだししょうがないわよね」
 可愛げというか謙遜のかけらもない。
 ハルヒ……恐ろしい子! ちょっとちがうか。

350:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:17:23 BjTs1jcD
 しかし胸だけでなく弁当の包みが大きく見えるのは目の錯覚だろうか。
「ああこれ? 『息子が迷惑かけてるからこれくらいは喜んで』そんなふうに言ってた。ていう
かあたしが弁当じゃないって言っちゃったんだけど。そしたらお母さんが用意してくれるって」
 まあ嬉しそうなこと。
「あの様子じゃあたしの評価ポイントはもう出世魚の頂点を極めてると言っても過言では」ない
んだって。種類で言うと伝説のクエ級だとさ。
 クエってどんな魚だ?
「そうね、一匹釣ったら№1釣りポイントの座は確実! って感じかしら。あんたも見倣いなさ
い!」
 どうやら俺の母親はこいつに丸め込まれているらしい。このハルヒが釣り仲間の噂で極北を極
める伝説の巨大魚に見えるくらいに。“このさき鐘や太鼓で探しても”レベルに見えてるんだろ
う。“印象”偽造とは卑劣な真似をしやがる。
 まったく、警戒はしていたがこれほどとは。知らないうちに着々と手は打たれていたんだな。
 何のために打ってる手かは俺にはさっぱりわからないのだぜ?
 好奇の視線を向ける下級生どもにあまり効果のない睨みを利かせながら、
「今日雨なんて予報出てたか?」と聞く。
 いつお袋と連絡取り合ったのかも気になるが、まあいいや。
「さあ。あたしは持ってきてないんだけどね」 たしか20パーとかだったな。
「ま。今日はアトラクションと講演のレポート書いてもらうからあんた残りなさいよ。あたしが
納得するレベルに仕上げるまで帰っちゃダメだからね!」
 そういうことかい。
「わかったよ」と言って、それぞれの着替えの教室に入った。
 もう少しで女子のほうに入るところだったが。すこし勿体なかったような気もする……なんて
のは冗談だ。
 だから冗談だって。

 食うぞ食うぞ。弁当がこうして手元にあるってのは想定外だが慶事には違いなく、着替えを済
ませた俺はさっそくそれをパクついた。ハルヒはというと、当家の弁当の片割れをこれ見よがし
に持ってクラスの女子生徒と教室を出て行く。
 視線で合図を送られても困るだけだってばよ。ま、今更いいけどさ。
 学食の予定だったらしい女友達に付き合ったのだろう。本来はハルヒが学食な訳で、それにと
きどき弁当持った女子生徒が付いてくって構図みたいだから今日は逆パターンだ。
 わが母の慈愛に感謝しながら、ハルヒの作ったサンドイッチを思い出す。「会心の出来よ!」
というのは、まあ、あながち誇張でもなかった気がするね。
 本当になんでもない今日だが、後ろの席にロングで睫毛の異様に長い、黙っていればどこの御
令嬢かという美少女が後ろの席に座る、ちょっとだけ別の今日があったんだな……。あいつだけ
どあいつじゃなく、あいつじゃないけどやっぱりあいつとしか言いようのない、今思えばまだど
こかぎこちないハルヒが。
 思い出だけが残ってるって、きついな。きつい。
 あいつにとっちゃなおさら―
 ほとんど同時にあの野郎の顔まで思い出しちまった。まあ、ヤな奴ではあるが、敵という言い
方には疑問を差し挟みたくなるような。
『オルガン(器官)』、そして『先生』とあの絵。
 ケータイが手元にあることも咄嗟に思い出した俺は、この一件のキーパーソンに連絡をつけた。
あいつなら聞かなくてもいろいろしゃべってくれそうだしな。今日ならなおさらそうだろう。
 べツト・ミドラー主演の『ローズ』は放課後に返すことにする。

351:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:18:08 BjTs1jcD

 そのフィクサーに間違いないだろう男は(当たり前だが)ちょうど飯を食ってたところで、
「では、旧館横のテーブルで。そのかわり……」という話になり、いま座ってる。

「あなたが僕を呼び出し、こうしてその疑問に思い当たること、それ自体が半分……いえ答えの
過半と言ってもいいのです」
 放課後のチェスの相手を条件提示された俺の質問は、こいつの中のバーチャル予想問題集でと
うに予習ずみとみえる。
「未来人……そう思い込んでいるだけという可能性は今は排除してよいでしょう、彼らにとって
は互いの存立基盤を揺るがしかねない“分岐”こそ、『この時間平面』……と彼らが呼ぶものに
存在する最大の危険です。その一方をかけて対立する以上、互いに妥協することはありえないし
出来ない。考えてみれば簡単ですね。彼らの知る“分岐”を巡る戦いに敗北することは、すなわ
ち『無』という結果を生むからです。『無』がどの程度に及ぶかはその“分岐”の強さ、大きさ
に左右されます。彼らはそう信じている」
 朝比奈さん(大)の説明をややこしくまぜくってるような話だ。
「であれば、これはまさに恐怖でしょうね。守るべき世界、存在する理由そのものを一瞬にして
変容させ消し去ることも想定される対決ですから。過去を調整するというのはまさにアポリアで
す。敵味方という枠では語れないことも多い。お互いの共通の土台を守るべくときに援護する、
そういう事態もたびたび起こり得ます。端的に言って、まさにそういう事態だったのでしょう…
…」
 語尾に微妙な余韻を残す。
 やはりというか、何かと説明するのが好きなんだろうな、この男は。それはそうと此処にいる
と女子生徒の視線がよくこやつに注がれる。なのに完璧なスルーぶりは結構すごいことなのかも
しれん。慣れてんだろなこんちくちょう。
 出費予定だった分で飲み物をおごってやろうかと一瞬思ったがやめた……とさっき考えてたっ
け。
 だがそれもやめてやっぱおごることにする。なんとなくそうしただけさ。
 で、食堂を出ようとするハルヒに出くわした。正直言うと遭遇する予想もあったが。
 ただ、空の弁当箱を押し付けられるという想定は外れた。
 ハルヒは、なんていったっけ、運慶快慶の彫った仁王像の目のように俺を睨みつけた。目だけ
な。それで上機嫌らしいことが俺には判った。隣の女子がクスッと笑いかけるとハルヒのほうも
笑いを隠さず、
「え、うぁと、キョン! 弁当もいいもんよね~おいしかったわよ! ほうれん草巻いた卵焼き
一つとってもなんていうか長年の経験は偉大って感じね。あたしもまだまだ研究の余地がある
わ」
 なんとなく含んだ笑いを見せるクラスの女子と一緒にそのまま手を振って去っていく。
 料理研究家でも目指しているのだろうか。
 コーヒーの抽出中、クラスメイトとこうして昼を過ごすハルヒをなんとなく目で追いながら、
巣立ちゆくヒナを見守る感じというか、どことなくむず痒いような、また秋風めいたうら寂しい
ような気分になってた。記憶と詮索と感情の入り組んだ重奏というか。
 人の記憶によって生まれるイメージ……心象って不思議だね。気がついたら妹が「おにいちゃ
ん」とふたたび呼んでくれる日になんか既視感な新郎の顔を一発だけ殴らせろと暴れて顔のハッ
キリしない誰かにえらい力で羽交い絞めにされてる親族席の俺を想像してるし。
 アホみたいに腕力あんだよなあ、あいつ。


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