【涼宮ハルヒ】谷川流 the 41章【学校を出よう!】 at EROPARO
【涼宮ハルヒ】谷川流 the 41章【学校を出よう!】 - 暇つぶし2ch348:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:16:12 BjTs1jcD

 と、たった今教室に入る俺を後ろの席の腐れ縁娘が睨みつける。厳正謹直代官と悪代官のボー
ダーラインのような目だ。はて御公儀に後ろ指さされることをしでかした覚えは……というのは
冗談で、むしろ予想通りだなおい。なんにせよ朝は挨拶からだな。
「よっ」
「おはよ」
 やはり怒っているわけではない。どういう顔をすればいいかわからないときのお決まりの造形
なのだ。
「教室であんまりニヤけた顔しないでよね」
 恥ずかしいから、とまでは俺のハルヒはまず言わない。
 ええと……ここは“俺の知ってるハルヒ”って意味だからな。勘違いしないでよね。
 俺は誰に言い訳してるんだろう。
 ケータイが繋がらないだのと言い出すもんだから、弁当忘れてきたこともあっさりばれちまっ
た。日頃の行ないがろくでもないくせに勘のいい奴だ。日々の善行と直感力の因果関係は知らん
が。

 朝のHRまでは特筆すべきことは何もなく、いやそのHRで突然の転入生の話があったのだが、
まあこれは特筆すべきと言えなくもないな。そのあとといえば国木田はじめ中学の同級生同士で
二時限目あとの休み時間ダベってたっけそういや。
 一応説明しておくと、春休みの同窓会で旧交を温めて以来、廊下で時々ダベリング(※)会が
開かれるのだ。
 転入生というのがなんでも帰国子女とのことで、具体的に言うと帰国女子生徒だそうだ。「あ
とは本人が来てのお楽しみ」などという意味不明なエクスキューズを残して担任が去ってしまっ
たので詳細は不明である。
 なにも好きこのんでこんな毎日がハイキングコースのような、着いたら着いたで夏くそ暑く冬
寒すぎるオンボロ校舎の県立高を選ばなくても良いのにと思うのだが、他のメンバーの言葉の
端々から察するに彼らは青春のリビドーやらなにやらが大いにくすぐられている様子で、期待と
いうか妄想に胸を膨らませているらしい。
 何度か「お前はいいよな」などと憎まれ口を叩かれたのだが、何のことやらさっぱりだ。
 まったく仕方のない奴らよなあ。
 まあその話題でクラス内はほぼ持ちきりだったわけだが、さっそく席が用意されたのはいいと
しても案の定その場所は教卓の真ん前のある意味ベストポジションだ。気の毒なことにオチオチ
眠れやしない。他方、新クラス最初の席替え時に己の不幸を嘆いていた特等席の前任者は、それ
はもう喜色を満面に浮かべながら窓際のベストポジション近くに意気揚々と移っていった。長期
的・大局的に見て学業面に逆効果を及ぼしたら意味がないのにな。あまり羽を伸ばしすぎるなよ
と言いたい。
 ま、ないとは思うが転入生氏の恵まれぶりに嫉妬した同級生からの陰湿なイジメ、なんてこと
が実際にないことを祈ろう。万が一の場合には、なんなら不肖の身ではあるが偶然にも真後ろと
なったこの俺が親身で相談にのってやってもいい。
 その場合、その娘の外見如何にも左右されるだろうが、後ろの席の女子生徒の承諾やら監視網
突破に成功しなければ高確率で俺が肉体的暴力に晒される危険を冒すことになるだろうから、十
分な用心深さが必要なのは言うまでもないだろう。

 (※“ダベリング” 『しゃべる』の名詞的変化の一。『駄文』の「駄」また英語の~ing動
名詞との混交だろうか。“我ながらくだらない話であることよ”と自嘲気味の文脈で使われるこ
とが多い。いや多くはない。というか日本語の乱れっぽいし死語だったらごめん。つか26,000件
も検索に引っかかるなよ……)

349:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:16:48 BjTs1jcD

 四時限目、ハードル走などをそれなりのテンションで俺たち男子はやった。やりすぎてハード
ルを蹴り倒しまくった一部の馬鹿が授業の最後体育教師に説教ついでで頭を小突かれたりもして
たが、そんな愚かな真似などしない俺は汗ばんだ服を着替えようとこれから教室に戻るところだ。
 ああ、腹減ったな。
 そんな俺の前(上)方から、遠目にも目立つ体操着がぐんぐん近づいてきた。
 あ、あいつ。
 スタイルのよい、本来のグラマー度がかなり忠実に再現されたブルマ姿は見まごう事なきハル
ヒだ。ちょんまげよりは長くまとまったポニーテールなのはこの際どうでもよい。
 本当だぞ。それ以前に出てるとことか目が行くんだって。
 いや女性諸氏にはまことに申し訳ないのだが、下半身が一瞬モコりそうになったふがいない俺
を誰が責められよう。ちなみに“モコる”とは男の象……一生悔やみそうなので解説やめ。なん
かもう死にたくなってきた。
「キョン!」
 バカ恥ずかしいだろ他の男子もいるんだし。
 精一杯のボディランゲージが通用するはずもなく、かといって逃げ出す理由もなく、あいつが
手に持ってる物が忘れてきたはずの弁当とケータイ、あとなぜか折り畳み傘だというのもすぐ
判ったので、周りの目をやりすごしつつここは歓迎するほかない。
 ごめん、先行っててくれ。恨めしそうな同僚に合図する。
 おいどこ見てんだよさっさと行けって。
 自分のことを棚に上げてるような状況だが青少年の健全育成のためだし気にしない。
「これあんたの忘れもんよ!」
「それ、おふくろか」 わかりきったことだが一応な。
「そーよ」
 で、なんでおまえが持ってるんだよ。
「鳥が教えてくれたのよ。あれ、あんたには言ってなかったんだ」
 あからさまにニヤニヤしている。ちなみに一緒に教室に向かっている最中だ。
「あんたに直接渡すことにしたら『恥ずいからやめてくれ』とかなんとか言いそうだし。だから
あたしが代わりに受け取ったげたのよ。感謝しなさい」
 ありがとうよ。
 背に腹は代えられぬってのを実地に味わってたところだしな。あ、俺は決してハルヒの胸など
に目をやってないぞ。揺れてる…とかまったく気づいてない。
「それでさ、『中間のテスト勉強も涼宮さんに監督してもらえたら嬉しい』とか『娘も喜ぶから
いつでも遊びにいらっしゃい。いっそ娘の家庭教師をお願いしたいくらい。予約していい?』
だって。アイロンも上手にあたってたって褒めてくれたわよ。『涼宮さんは才色兼備ねえ』って。
まあ事実なんだししょうがないわよね」
 可愛げというか謙遜のかけらもない。
 ハルヒ……恐ろしい子! ちょっとちがうか。

350:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:17:23 BjTs1jcD
 しかし胸だけでなく弁当の包みが大きく見えるのは目の錯覚だろうか。
「ああこれ? 『息子が迷惑かけてるからこれくらいは喜んで』そんなふうに言ってた。ていう
かあたしが弁当じゃないって言っちゃったんだけど。そしたらお母さんが用意してくれるって」
 まあ嬉しそうなこと。
「あの様子じゃあたしの評価ポイントはもう出世魚の頂点を極めてると言っても過言では」ない
んだって。種類で言うと伝説のクエ級だとさ。
 クエってどんな魚だ?
「そうね、一匹釣ったら№1釣りポイントの座は確実! って感じかしら。あんたも見倣いなさ
い!」
 どうやら俺の母親はこいつに丸め込まれているらしい。このハルヒが釣り仲間の噂で極北を極
める伝説の巨大魚に見えるくらいに。“このさき鐘や太鼓で探しても”レベルに見えてるんだろ
う。“印象”偽造とは卑劣な真似をしやがる。
 まったく、警戒はしていたがこれほどとは。知らないうちに着々と手は打たれていたんだな。
 何のために打ってる手かは俺にはさっぱりわからないのだぜ?
 好奇の視線を向ける下級生どもにあまり効果のない睨みを利かせながら、
「今日雨なんて予報出てたか?」と聞く。
 いつお袋と連絡取り合ったのかも気になるが、まあいいや。
「さあ。あたしは持ってきてないんだけどね」 たしか20パーとかだったな。
「ま。今日はアトラクションと講演のレポート書いてもらうからあんた残りなさいよ。あたしが
納得するレベルに仕上げるまで帰っちゃダメだからね!」
 そういうことかい。
「わかったよ」と言って、それぞれの着替えの教室に入った。
 もう少しで女子のほうに入るところだったが。すこし勿体なかったような気もする……なんて
のは冗談だ。
 だから冗談だって。

 食うぞ食うぞ。弁当がこうして手元にあるってのは想定外だが慶事には違いなく、着替えを済
ませた俺はさっそくそれをパクついた。ハルヒはというと、当家の弁当の片割れをこれ見よがし
に持ってクラスの女子生徒と教室を出て行く。
 視線で合図を送られても困るだけだってばよ。ま、今更いいけどさ。
 学食の予定だったらしい女友達に付き合ったのだろう。本来はハルヒが学食な訳で、それにと
きどき弁当持った女子生徒が付いてくって構図みたいだから今日は逆パターンだ。
 わが母の慈愛に感謝しながら、ハルヒの作ったサンドイッチを思い出す。「会心の出来よ!」
というのは、まあ、あながち誇張でもなかった気がするね。
 本当になんでもない今日だが、後ろの席にロングで睫毛の異様に長い、黙っていればどこの御
令嬢かという美少女が後ろの席に座る、ちょっとだけ別の今日があったんだな……。あいつだけ
どあいつじゃなく、あいつじゃないけどやっぱりあいつとしか言いようのない、今思えばまだど
こかぎこちないハルヒが。
 思い出だけが残ってるって、きついな。きつい。
 あいつにとっちゃなおさら―
 ほとんど同時にあの野郎の顔まで思い出しちまった。まあ、ヤな奴ではあるが、敵という言い
方には疑問を差し挟みたくなるような。
『オルガン(器官)』、そして『先生』とあの絵。
 ケータイが手元にあることも咄嗟に思い出した俺は、この一件のキーパーソンに連絡をつけた。
あいつなら聞かなくてもいろいろしゃべってくれそうだしな。今日ならなおさらそうだろう。
 べツト・ミドラー主演の『ローズ』は放課後に返すことにする。

351:古泉一樹のある種の罠 ◆30tHANivrc
07/02/27 02:18:08 BjTs1jcD

 そのフィクサーに間違いないだろう男は(当たり前だが)ちょうど飯を食ってたところで、
「では、旧館横のテーブルで。そのかわり……」という話になり、いま座ってる。

「あなたが僕を呼び出し、こうしてその疑問に思い当たること、それ自体が半分……いえ答えの
過半と言ってもいいのです」
 放課後のチェスの相手を条件提示された俺の質問は、こいつの中のバーチャル予想問題集でと
うに予習ずみとみえる。
「未来人……そう思い込んでいるだけという可能性は今は排除してよいでしょう、彼らにとって
は互いの存立基盤を揺るがしかねない“分岐”こそ、『この時間平面』……と彼らが呼ぶものに
存在する最大の危険です。その一方をかけて対立する以上、互いに妥協することはありえないし
出来ない。考えてみれば簡単ですね。彼らの知る“分岐”を巡る戦いに敗北することは、すなわ
ち『無』という結果を生むからです。『無』がどの程度に及ぶかはその“分岐”の強さ、大きさ
に左右されます。彼らはそう信じている」
 朝比奈さん(大)の説明をややこしくまぜくってるような話だ。
「であれば、これはまさに恐怖でしょうね。守るべき世界、存在する理由そのものを一瞬にして
変容させ消し去ることも想定される対決ですから。過去を調整するというのはまさにアポリアで
す。敵味方という枠では語れないことも多い。お互いの共通の土台を守るべくときに援護する、
そういう事態もたびたび起こり得ます。端的に言って、まさにそういう事態だったのでしょう…
…」
 語尾に微妙な余韻を残す。
 やはりというか、何かと説明するのが好きなんだろうな、この男は。それはそうと此処にいる
と女子生徒の視線がよくこやつに注がれる。なのに完璧なスルーぶりは結構すごいことなのかも
しれん。慣れてんだろなこんちくちょう。
 出費予定だった分で飲み物をおごってやろうかと一瞬思ったがやめた……とさっき考えてたっ
け。
 だがそれもやめてやっぱおごることにする。なんとなくそうしただけさ。
 で、食堂を出ようとするハルヒに出くわした。正直言うと遭遇する予想もあったが。
 ただ、空の弁当箱を押し付けられるという想定は外れた。
 ハルヒは、なんていったっけ、運慶快慶の彫った仁王像の目のように俺を睨みつけた。目だけ
な。それで上機嫌らしいことが俺には判った。隣の女子がクスッと笑いかけるとハルヒのほうも
笑いを隠さず、
「え、うぁと、キョン! 弁当もいいもんよね~おいしかったわよ! ほうれん草巻いた卵焼き
一つとってもなんていうか長年の経験は偉大って感じね。あたしもまだまだ研究の余地がある
わ」
 なんとなく含んだ笑いを見せるクラスの女子と一緒にそのまま手を振って去っていく。
 料理研究家でも目指しているのだろうか。
 コーヒーの抽出中、クラスメイトとこうして昼を過ごすハルヒをなんとなく目で追いながら、
巣立ちゆくヒナを見守る感じというか、どことなくむず痒いような、また秋風めいたうら寂しい
ような気分になってた。記憶と詮索と感情の入り組んだ重奏というか。
 人の記憶によって生まれるイメージ……心象って不思議だね。気がついたら妹が「おにいちゃ
ん」とふたたび呼んでくれる日になんか既視感な新郎の顔を一発だけ殴らせろと暴れて顔のハッ
キリしない誰かにえらい力で羽交い絞めにされてる親族席の俺を想像してるし。
 アホみたいに腕力あんだよなあ、あいつ。


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