【友達≦】幼馴染み萌えスレ11章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ11章【<恋人】 - 暇つぶし2ch350:Sunday
07/04/22 23:12:49 um8QoTBM

「そこそこ。お前上手いな…」
「そうかな。ありがと」
 相変わらずと言うべきなのか久しぶりと表すべきなのか、二人はボロアパートの一室で
仲良く睦み合い続けていた。ハートマークを幾つも作り出しては空中に飛ばしていくような
その様子は、傍目から見ていれば食傷じみた感覚が湧き上がるに違いない。

「はい、じゃこれで終わり」
「はー…もうちょっとやって欲しかったな」
「またその内やってあげるってば」
 とろけそうな表情を携えて、崇之は正座した紗枝の太ももに頭をぐったりと預け続けている。
要するに、膝枕である。
「ほら、終わったんだしどいてよ」
「んー…」
「もう……ちゃんとしてあげたんだから、早く遊びに行こうよー」
「んー…」
 この体勢でしてあげたというのだから、言うまでもなくそれは耳掃除のことなわけで。
それが彼にはよほど気持ち良かったらしく、生返事を返すばかりでその場からちっとも
動こうとしない。まあ気持ち良いという感覚は、現在も続行中なのだろうが。
「あと五分~」
「だーめ、いい加減起きてよ。スカートが皺だらけになるじゃんかー」
 ちなみに彼女は、普段のようなシャツと短パンといったラフな姿をしていない。いつぞやの、
あの時彼には見せることが出来なかったベージュのフレアスカート、ミルク色のカットソー、
その上に薄手のリボンカーディガンという女性らしいの服装を身に纏っている。らしくは
ないが、何とも可憐でどことなく淑やかな雰囲気を醸し出していた。

「ねー、早く行こうってばー」
 それだけに、紗枝の苛立ちは募る。こうしておめかしして来たのは、部屋に閉じこもって
膝を貸して耳を掃除してあげるためじゃないのだ。
「待て待て。じゃあ最後にこれだけ…」
 促す言葉にようやく反応して、崇之はもそもそと身体を動かし始める。といっても起き上がる
様子は全く無く、単に寝返りを打っただけのようだった。身体をごろりと回転させてうつ伏せに
なり、顔をちょうど紗枝の股ぐら辺りに埋め込ませてしまう。

「あー…ここもすげー落ち着く」
 これ見よがしに深呼吸一つ。

「……」
 そして彼が寝返りを打ってその台詞を言い放つまで、彼女は突然の事態に固まったままで。


がすっ!


 意識を取り戻すと、無言のまま当然容赦することなく、後頭部に向かって折り曲げた肘を
振り下ろすのだった。

「まったく……ほんとすけべなんだから」
 うっすらと頬を染めて口を尖らせるその様は、いつものように可愛らしい。

 ……背後に、「ぎぃやあぁぁああぁぁぁ!」と醜い悲鳴を上げながら、殴られた箇所を
押さえてゴロゴロ転がり悶絶する彼の姿が、無かったらの話であるが。



351:Sunday
07/04/22 23:14:57 um8QoTBM

「……仕方ねぇ、そろそろ行くか」
 ひとしきり部屋中を転がり続けひとしきり口論を終えた後、彼は少しばかり肩を上下させ
ながら、大の字に寝っ転がってぼそりと呟く。
「じゃあ早く準備してよ。外で待ってるから」
「ん? あぁ…」
 やっと外へ遊びに行けると紗枝が満を持して立ち上がると、崇之の口からは相変わらずの
生返事とは裏腹な、随分と真剣味が籠もった唸り声。
「…どしたの?」
「……」
 眉間に皺を寄せ、ある一点をしかと見つめ続けるその様は、随分と強い意志が込められて
いるようで、その表情に、見下ろす彼女も少しばかりどぎまぎしてしまう。


「薄い青か。水色とも少し違うな」


「……へ?」
 ちなみに余談ではあるが、彼女が本日身につけている下着は、まさにその色で彩られている。
「この前の薄い緑のヤツもそうだが、見えないところまでしっかりオシャレするのは、
なかなか偉いぞ」
「……」
 更に余談ではあるが、その下着の色は本来彼女自身しか把握してないはずである。

 スカートの中を覗かなければ、の話だが。 


げしっ!


「ぐぉあっ!!」
 直後、崇之の頭部はまるでサッカーボールのように蹴り上げられ、勢い良く跳ね飛ばされて
しまう。肩を怒らせて部屋を後にする彼女に声をかける余裕があるはずもなく、崇之は
再び頭を押さえて床をのたうち回るのだった――








「つっ……痛ってーな、コブ出来てんぞコブ」
「自業自得」
「仕方ねーだろ、お前が立ち上がって急に目に飛び込んできたんだし。覗こうと思って
覗いた訳じゃないんだぞ?」
「見れば一緒」
 部屋を後にして一時間。どうにかこうにか街中まで連れあい来れたものの、交わす会話は
どうにも弾まず薄ら寒い。まあ、弾む方がおかしい話だが。
「そんなに怒るなよー」
「怒ってない」
「いや怒ってるだろ」
「怒ってない!」
 それでも以前までなら、紗枝は一人で先にせかせかと早足で歩いて、崇之がそれを後から
追いかけるというのが常だった。ところが今の二人は、隣りあい並んで歩みを進めている
どころかしっかりと手を繋いで、指もしっかり結びあっているわけで。


352:Sunday
07/04/22 23:16:57 um8QoTBM



「俺が悪かったから。だから機嫌直してくれ。な?」
「……」
 埒が明かなくなり、正直に自分の非を認めて謝るが、軽く膨らんだその両頬は引っ込み
そうもない。
 まるで木の実を頬張ったリスみたいだなと、崇之は心の中でこっそり毒づくのだが、
何故かその瞬間ぎろりと睨まれ、慌てて視線を逸らしてしまう。

「そういうことじゃないっ」

「……」
 いかにも拗ねてますといったその口調は、崇之の顔に苦笑を浮かべさせる。

 あれから彼は、またちょくちょくセクハラするようになっていた。その意図に気付いて
いるのかどうかは分からないが、これに対して紗枝は怒りを露わにすることはあっても、
以前のように手足を飛ばしてくることはほとんど無くなっていた。

 だから今日に限ってこんな態度を見せる彼女の様子に、少しばかり困惑していたところ
だったのだが。


 そういうことだったのか。


 よくよく見てみれば、普段はあちこち跳ね返っている癖っ毛も、今日はほとんど目立って
ない。もちろんその姿に、気付かなかったわけじゃない。ただ、どう言えばいいか言葉に
詰まっただけなのだ。
 決して、慣れない彼女の姿が照れ臭さを覚えたわけではないのだ。本当である。断じて
嘘ではないのである。
「あぁ……ごめんな」
 絡ませあっていた指を緩やかにほどいて、手の平を彼女の頭に持っていく。

「正直、ここまで似合ってるとは思ってなかった」

 その髪型を極力崩さないように、ポンポンと軽く髪に触れる。釣られるように、もう一方の
手で別に痒くもない顎筋を撫で隠してしまう。
「……」
「嘘じゃないぞ。本当だぞ」
 目立った反応を示さない彼女に業を煮やし、今度は彼女の目を見つめながら言葉を放つ。

「…う、うるさいなぁぁ」

 その視線から逃げるように、紗枝は向こう側へと顔を背けてしまう。だけど尖った口調とは
裏腹に、先程まで膨らんでいた両頬はすっかりしぼんでいるのだった。

「ははは」
「もう…」
 ずっとそう言って欲しかったのに、いざ耳にしてみれば、どうにもからかわれている気が
してならない。本当は心の中で腹を抱えて笑ってるんじゃないだろうか。だとしたら、
後々のことを考えて平手打ちでもかましておくべきだろうか。

353:Sunday
07/04/22 23:29:48 HRd3Q8rb

「あたし……振り回されてばっかりじゃないか…」

 心の中で思う存分毒づいておきながら、自分も充分彼のことを振り回していることには、
てんで気付いてないらしい。
「それはしょうがないな」
「何がしょうがないんだよ」
「だってお前からかうと面白いし」
「…っ」
 そしてだからこそ、彼にこうして弄られることにも気付けないままなのだ。

「俺はお前の、そういうとこが好きだからな」

「~~~~っ」
「ま、しょうがないよなぁ」
 人通り激しい街中での、あまりに唐突な愛情表現。

 紗枝は露骨に顔を引きつらせ、誰かに聞かれてないか周りを見回している。そんな様子が、
どうにも可愛い。

「い、い、いきなり変なこと言わないでよ!」
「変なことじゃないだろ。俺の、真っ正直な心の底からの本心だ」
 好きだとか、愛してるとか、ずっと一緒にいたいとか。
 使い古された言葉ではあるけれど、相手を想いながらカタチにすれば、多分に甘酸っぱさを
含んでいるわけで。

「……ぅぅぅ」
「おやおやぁ? そんな顔してどうしたのかなぁ紗枝ちゃんは」
「うっ…うるさいうるさいっ!」
「はっはー、照れるなよー」
 あまりの大声に、今度こそ周りの人達に振り返られ注目を浴びてしまう。それに気付いて
いないのは、叫んだ本人のみだ。

「あたしは…っ、崇兄のそんなところが嫌いっ!」
「あぁ、分かってる分かってる」
 嫌いだとか、好きじゃないとか、会いたくないとか。
 使い古された言葉ではあるけれど、顔を真っ赤にして言ってしまえば、それはまったく
逆の意味合いを含んだものになってしまうわけで。

「いやー、ここまでお前に愛されてるとは思わなかった」
「そんなこと言ってない! 崇兄のことなんか嫌いだって言ったの!」


354:Sunday
07/04/22 23:30:53 HRd3Q8rb

 今日は、陽だまりの日曜日。

 ありきたりで、いつもと同じで、そしてそんな時間が二人には、ちょっとだけ久しく
感じられる日曜日。

「もう…なんであたしばっかり……」
「"自業自得"じゃないのか?」
「うぅ、ううう~~~~」
 再びぎゅっと手の平を重ね合わせて、街中の並木道を練り歩く。ちゃんとした目的地や、
明確なプランがあるわけでもない。
 それでも、こうしてなんでもないような時間を共に過ごすだけで、言いようのない幸福感に
包まれる。

 こういうのも、特別って言うんだろうか。

「分かった分かった。もうちょっと大人しくしろ」
「…だったらもう少し、優しくしてくれたって……」

 口ではお互い、そんなこと言うけれど。

 覚えてないし気付いてないんだろうけれど。

 野球帽を被った不器用な優しさは、今もそこに在り続けていて。

 白いワンピースの面影も、未だ微かに残っているのだ。

 仲直りしたばかりなのに、共にいることを何気ないと思ってしまうのは、それだけ一緒に
いるのが当たり前過ぎているわけで。


 二人は喋り、歩き続ける。


 耳を傾けてみればその内容は、大半が言葉尻の掴み合いだったり喧しい口喧嘩だったり。


 だけど心の中ではその当たり前を、いつまでもなんて、そっと願ってたりするのだ。


 気だるげで、顎を擦り、苦笑を浮かべ、あくびを繰り返す。


 顔赤くして、すぐに喚いて、涙目になって、頬を膨らませる。


 そんな二人の、おかしな二人の関係は。


 色々な間柄を含みながら、時にはそれを変えながら。


 まだまだこれからも、果てしなく続くのであった―――





355:Sunday
07/04/22 23:38:02 HRd3Q8rb

|ω・`)ノ サイゴハヤッパリマジメニスルヨ!


というわけで、長々と続編を投下させていただきました
えーと、その、かなりの方々の期待を裏切ってしまう展開だったようで
重ね重ねお詫びします
加えて、毎回毎回バカみたいにスレの容量を食いつぶしてしまい
申し訳ありませんでした
もっと無駄な表現を省けるよう精進します

しかしながら、最後までこの作品を投下できたのは皆さんのおかげだと思っています
たくさんの感想や希望レスに、何度も勇気付けていただいたので

次回こそは、違うカップリングの幼なじみで臨みたいと思います
けど、忘れた頃にこの二人の続きを短編で投下することがあるやも知れません
その時は、笑って許していただけたら幸いです

長々と、駄文乱筆失礼致しました
前作併せて、作品ならびにキャラクターまで愛していただき、感激しきりです

本当にありがとうございました

356:名無しさん@ピンキー
07/04/22 23:39:50 6RCVNbF6
神であり乙。もうそれ以上、称える言葉が見つからない。超大作にGJ

357:名無しさん@ピンキー
07/04/22 23:45:48 kL1ps+JJ
明日からの仕事もがんばれそうなGJ作品をありがとうございます

358:名無しさん@ピンキー
07/04/22 23:50:53 yKxIvzZG
お美事です! あなたの紡ぐ新たな物語を心待ちにしています!

でも、またいつかこの二人のその後もきっと書いて下さいね! 待ってます!!

359:名無しさん@ピンキー
07/04/23 00:20:00 h7kQFOO8
いつも楽しみにしてました。
終わってしまって寂しさもあるけど、新しい作品楽しみにしてます。
もちろんこの二人にもまた会えるといいな。

360:名無しさん@ピンキー
07/04/23 00:58:31 bpstjjhb
何か、何言っても余計な事になりそうなので、これだけで。

お疲れ様でした。そして何より、ありがとう。

361:名無しさん@ピンキー
07/04/23 01:22:30 oXiw1NZu
神GJ!そして名作を本当に本当にありがとう。
新作も心待ちにしてる。これの続編も楽しみだなぁ

362:名無しさん@ピンキー
07/04/23 18:09:57 f563JpaF
前作のタイトルが歌からとってたから今回もとってたのかなと思ってたが
ベイビースターズのヤツだったか

363:名無しさん@ピンキー
07/04/23 21:11:46 qh5sVw71
これで後90年は生きられそうな愛しさと切なさをありがとう。
心の底からGJ。

364:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:46:50 4NEtS1yj
>>355
GJです! いつかまた、新しい物語を読ませて下さい! 待ってます!!
  

それでは神作品の後に恐縮ですが、投下させて頂きます!

365:絆と想い 第11話
07/04/25 01:48:28 4NEtS1yj
正刻が佐伯家の道場で稽古に励んでいた頃、高村家に一人の少女がやってきた。
さらさらのショートヘア。猫のようなしなやかな肢体。眼鏡の奥の目はこれからの事を考えて、楽しそうに細められている。

少女の名は大神鈴音といった。

鈴音は高村家の玄関に近づくと、正刻からもらった合鍵を取り出した。
合鍵には、正刻がつけていた鈴と、鈴音が選んだお気に入りの鈴の二つがつけられていた。
それを見つめてにんまりと笑うと、鈴音は鍵穴に鍵を差し込んだ。

かちゃり、と鍵が開く。当たり前のことなのだが、鈴音はとても嬉しかった。
自分一人で、正刻の家に入ることが出来る。それが実感出来たからだった。

「お邪魔しまーす……。」
引き戸を開けて、鈴音は高村家に入る。
高村家は、少し大きめの日本家屋であった。
風呂やキッチン、トイレなどの水周りは最新式のものとなっており、部屋も、畳の所もあれば、フローリングになっている所もある。

正直な所、正刻一人で住むには広すぎる家である。掃除や管理などの手間も非常にかかる。
しかし、正刻はこの家を離れようとはしなかった。
祖父母や両親達との思い出が詰まったこの家を手放すことは、正刻には出来なかった。

しかしその結果、学校において正刻が課外活動に割ける時間は著しく少なくなった。

正刻が図書委員会にしか入らず、合気道部に入っていないのはこれが原因であった。
高校に入り、正刻はどちらもやりたかったが、しかし家事その他の事を考えると片方が限界であった。
その結果、正刻は図書委員会を選んだ。合気道は兵馬の道場でも出来たからだ。
もっとも、今だに男子合気道部からのラブコールは続いているが。

余談はともかく。鈴音はぺたぺたと廊下を歩く。
この家にはもう何度も遊びに来ているし、唯衣や舞衣達と共に泊まったこともある。勝手知ったる何とやら、だ。

本来なら今日は勉強会なのだが、実は集合時間にはまだ大分早い。何故鈴音がそんなに早く来たかといえば……。

「んふふー。さーて、じゃあ早速侵入しちゃおうかなーっと!」
そんな事を言いながら鈴音は正刻の部屋に入っていく。合鍵をもらった時に正刻に言ったことは、実は半分本気だった。

「まずは相手のことをもっと良く知らないとねー。あいつが最近エロ方面でどんな趣味を持ってるか、興味あるし。……それにしても。」
相変わらずの部屋だねぇ、と鈴音は呆れ返った。

366:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:49:10 4NEtS1yj
正刻の部屋は、10畳程の大きな和室であった。しかし、部屋中に溢れかえった私物の所為で、もっと狭く見える。
テレビ、ビデオ、更に文机タイプのパソコンデスク。その上には正刻が組み上げた自作パソコンが鎮座ましましている。
壁の一面は本棚になっている。漫画・小説・ゲームの攻略本など、その種類と数は膨大だ。
テレビにはゲーム機がつながれており、近くには携帯ゲーム機も転がっている。
部屋の中央には本来ならテーブルが置かれているが、今は部屋の隅に置かれており、代わりに布団が部屋の中央に敷かれていた。

鈴音はゆっくりと正刻の部屋に入る。胸の鼓動がいつもより早い。正刻の部屋に入ったことは何度となくあるが、自分一人で入るのは初め
ての経験だったからだ。

パソコンデスクと対になっている座椅子に座る。この部屋で自分や唯衣や舞衣、その他の友人達と話す時、正刻はいつもこの座椅子に座る。
いわばここは、彼の指定席であった。

その椅子に、自分も座っている。

それを思うと、鈴音の鼓動は更に早まった。興奮のあまり、少し頭がくらくらする。
(うわー、とてもじゃないけど正刻の夜のお供を探すどころじゃないよぉ……。)
鈴音は落ち着こうと深呼吸するが、その拍子にふと正刻の匂いを感じてしまい、更に興奮してしまう。

彼女は思わず匂いの元を探す。すると、部屋に敷かれている布団が目に入った。
「正刻の……布団……。」
鈴音は立ち上がると、ふらふらと歩き、布団の傍にぺたんと座り込んだ。

正刻はこういう片付けはしっかりとするタイプなので、布団が敷かれたままだというのは珍しい事だった。
鈴音はしばらく布団をぼーっと見ていたが、何かを決意したように頷くと、掛け布団をめくった。
そして周りをきょろきょろと見回して、誰も居ない事を確認すると、顔を赤くしながら布団にもぐりこんだ。

(うわー、ボク今正刻の布団で寝てるんだー……!)
鈴音は恥ずかしい気持ちと幸せ一杯な気持ちがないまぜになって、布団の中でごろごろと転がってしまう。
更に枕に顔を埋めてその匂いを胸一杯に吸い込んだ。
枕からは、リンスの良い匂いと、更に正刻自身の匂いもした。
鈴音は思わず恍惚としてしまう。
「あー、いけないなぁ。これじゃあボク、まるっきり変態みたいじゃないかぁ……。」

そう言って足をバタバタとさせる鈴音。言ってる事とは裏腹に、彼女はとても幸せそうな笑顔を浮かべた。しかし。

「……全くだな。いや、『変態みたい』ではなく『変態そのもの』と言った方がしっくりとくるな。」
「鈴音……。まさか親友であるあなたがこんな駄目人間だったなんて……。私はとても悲しいわ……。」

不意に背後からかけられた声に、鈴音はびっくん! と体を震わせた。
ぎりぎりぎり、と音がしそうな動きで振り返る。

そこには、心底参ったといった様子で手を額に当てている唯衣と、腕を組んで仁王立ち、更に半眼になって鈴音を見ている舞衣がいた。

鈴音は無言でもぞもぞと布団から這い出すと、衣服の乱れを直し、ついで眼鏡の位置も微調整して咳払いを一つした。
二人と目を合わせずに尋ねる。
「……どこから見てたの?」

367:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:49:55 4NEtS1yj
「お前がちょうど布団にもぐりこんだ所からだ、な。」
舞衣が答え、唯衣が無言で頷く。鈴音はがっくりとうなだれ、搾り出すような呻き声を上げた。
「……モロ最初っからじゃないかぁ……。だったら声かけてよぉ……。」
そんな鈴音の様子を見て少し気の毒になったのか、唯衣がフォローを入れる。
「まぁ、誰にでも気の迷いってやつはあるわよ。ね、舞衣?……ってアンタは何やってんのよォッ!?」

唯衣が怒鳴るのも無理はない。いかなる早業か、舞衣は正刻の布団にもぐりこんでいた。まるでさも当然だといわんばかりの顔だ。
その顔が、にやけ始める。
「ほほぅ、コレは良いな。鈴音が我慢出来なかった気持ちも分かるぞ。」
「何だよキミは!! さっきボクの事を『変態そのもの』だと言ったくせに!!」
「いや、さっきの発言は取り消そう。正刻の布団が敷いてあるなら、それに潜り込むのは当たり前の行為だな。」
「んな訳ないでしょ!! いーからアンタはさっさと布団からでなさい!! 服が汚れるでしょ!!」

その後、一向に布団から出ない舞衣に業を煮やした唯衣と鈴音によって舞衣は布団から引きずり出された。
ぶつぶつと不平を垂れる舞衣を引きずるようにして、二人はリビングへと向かう。

「……でも、ボクが言うのも何だけど、二人とも何でこんなに早く来たの?」
リビングで舞衣が淹れたコーヒーを飲みながら、鈴音が二人に尋ねた。
彼女が集合時間より早く来たのは下心があったからだが、二人が早く来る理由が分からない。
すると、唯衣が苦笑まじりに答えた。
「舞衣がね? 『何だか嫌な予感がする。早めに正刻の家に行こう。』って言い出したのよ。それで来てみたら、あなたのあの痴態に出く
 わした、って訳。……本当にこの娘は、正刻がらみだと超人的な力を発揮するのよね……。」
「ふふん。まぁ、これも愛の力だな。しかし鈴音よ、抜け駆けは許さんぞ?」

そう言って舞衣はウィンクをする。その様子に鈴音も苦笑した。
「全く、キミには敵わないなぁ。……でも、正刻の事、譲るつもりは無いからね。」
鈴音の告白に、宮原姉妹は驚いて顔を見合わせる。

「す、鈴音。あなた……。」
「うん、そうだよ唯衣。ボクは正刻が好き。友達としてではなく、ね。」
少し顔を赤らめながらも、きっぱりと言い切る鈴音。そんな彼女を見て、舞衣は微笑んだ。
「そうか……。ようやく覚悟を決めたんだな、鈴音。」
「うん。今までは迷うところもあったんだけど……でも、これをもらって気持ちが決まったよ。」
そう言って鈴音は高村家の合鍵を取り出す。

「ボクは正直、君たち二人に気後れしている所もあったんだ。ボクよりも遥かに長い時間、正刻と過ごしてきた君たちには勝てないんじゃ
 ないかってね。だけど、大切なのは、これからなんだってことに気がついたんだ。幼馴染である君たちには敵わない部分もあるけど、で
 も未来は決まってないもんね。正刻から合鍵をもらうぐらいには信頼されてるって分かったし。だからボクは、立ち向かう事に決めた
 んだ。」
それに……と、鈴音は恥ずかしそうに微笑んで続けた。
「もうボクは……正刻以外、考えられないから、さ。」

その鈴音の告白を、唯衣は複雑そうに、舞衣は微笑んで聞いていた。
そして鈴音が語り終えた後、舞衣は、すっと右手を差し出した。
「? 舞衣……?」
「握手だ鈴音。そしてお互いに誓おうじゃないか。正々堂々と正刻を巡って戦うこと。そして、これからも変わらず……いや、これまで
 以上に、私達は良き友であることを、な。」
その舞衣の言葉に、鈴音はこれ以上ないくらいの笑顔を浮かべ、そして舞衣と固い握手を交わした。
「うん! これからもよろしくね! 舞衣!」


368:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:50:46 4NEtS1yj
「さて、後は……。」
鈴音と握手をしながら、舞衣は視線を唯衣に向けた。つられて鈴音も視線を唯衣に向ける。
二人に視線を向けられ、唯衣はたじろいだ。
「な、何よ……?」
「唯衣。お前も握手しろ。そしてさっきの事を誓うんだ。」
「な、何でよ!? 私は別に、正刻の事なんか……!」
顔を赤くして言う唯衣に、鈴音が言った。
「唯衣……。いい加減に素直になりなよ。大体、君が正刻を好きなのは、少なくともボクらの間じゃあもうバレバレなんだからさぁ。」
その言葉に更に何かを言おうとする唯衣を舞衣が制した。
「唯衣。正刻の前ならばともかく、今は私たちしか居ないんだ。もう少し、素直になっても良いんじゃないか? このままではお前、ず
 っと素直になれないぞ? それでも良いのか?」

舞衣の言葉は唯衣の胸を締め付けた。素直になれない。それは、以前に正刻の看病をした時に自分も痛感したことではなかったか。
唯衣は鈴音をちらり、と見た。彼女はこちらを真っ直ぐ見つめていた。彼女が正刻を好きなのは気づいていたが、しかしここまではっきり
と想いを露わにするとは考えていなかった。

自分も勇気を出す時なのかもしれない。

唯衣は目を閉じた。胸に浮かぶのは、正刻のこと。彼の笑顔が、ふくれっ面が、寂しげな顔が、泣き顔が、そして真っ直ぐな目が、彼女の
胸を駆け抜ける。

そして再び開かれた彼女の目には、強い意志が宿っていた。

「分かったわよ。私も誓うわ。……だけどあなたたち、覚悟しなさいよ? 私は絶対に負けないんだから!」
そう言いながら唯衣は、舞衣と鈴音の手に、自分の手をそっと重ねた。舞衣と鈴音が嬉しそうに頷く。
「望むところさ唯衣! ボクだって負けないよ!」
「やっと本音を口にしたな唯衣! だが、私は嬉しいよ。お前が本気になってくれて、な。やっぱり、お互いの本音をぶつけ合わなければ
 本当に幸せにはなれないからな。」
そう言って舞衣はシニカルに笑う。つられて二人も笑った。

「しかし、そうなると問題なのは正刻自身だよねぇ。あいつ、意外とモテるんだよねぇ……。何か、ウチの妹も興味あるような事言ってた
 し……。」
コーヒーを飲みながら、鈴音が呟いた。その言葉に舞衣も頷く。
「全くだ。正刻の魅力を理解してくれる人が多いのは嬉しいが、しかし多すぎても困るな。実際、図書委員会なんかにも正刻に気がある娘
 はいそうだしな。」
「……ウチの部にもいそうね……。あとは佐伯先生のとこの香月ちゃんや葉月ちゃんも絶対そうよね……。」
唯衣も愚痴をこぼすように言う。三人はそろって顔を見合わせると、一斉にはぁ、と溜息をついた。

正刻は確かに変わり者ではあるが、しかし同時に人気者でもあった。
誰に対しても分け隔てなく接し、困っている人を放っておけない。
そんな彼を慕う者は、男女問わずに実は多いのであった。


369:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:51:38 4NEtS1yj
しかしそんなマイナス要素を吹き飛ばすように舞衣が明るく言った。
「何、しかし大丈夫だ。どんなに正刻に好意を持つ者がいようが、私たちが正刻の恋人に近い、いわゆるトップグループなのは変わらん。
 何といっても、 私達はここの合鍵を持っているのだからな!」
そう言って舞衣は自分の合鍵を取り出して掲げる。ある意味、高村家の合鍵を持つ者は、確かに正刻と深い絆を持つ、と言っても過言では
ないかもしれない。

しかし。

「まぁ確かにそうね。……でも、そうすると『あの娘』もそうなるわよね。」
「『あの娘』? 唯衣、誰のこと?」
唯衣の発言に首を傾げて尋ねる鈴音とは対照的に、舞衣は全てを分かっているように頷いた。
「確かに『彼女』もそうだな。……しかし、彼女はもう何年もこちらには来ていないようだが……。」
「だからって、諦めてると思う? ……絶対に諦めてないわよ、あの娘。」
舞衣は、確かにな、と呟いて腕を組んだ。その様子に、再度鈴音が疑問の声を上げる。
「ねぇ、二人とも! 一体誰のことなのか教えてよぅ!」
「ああ、ゴメンね鈴音。実は……。」

鈴音に唯衣が答えようとしたその時、玄関の方から「ただいまー」と、正刻の声が聞こえてきた。
「あ、正刻が帰ってきたみたい。……ごめんね鈴音、また今度話すね。」
そう言って唯衣は正刻を迎えに玄関へと向かった。その後を当然のように舞衣も追いかける。
一人残された鈴音は、むーっと不機嫌な顔をしながら、それでも玄関へと向かった。

その後、正刻は汗を流そうとシャワーを浴びようとした所、舞衣が乱入してきて大騒ぎになったり、そのせいで不機嫌になった唯衣や鈴音に苦手
な数学や化学でびしびしとしごかれたりしてぐったりしてしまったが、それはまた別のお話。


370:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:52:32 4NEtS1yj
以上ですー。ではー。

371:名無しさん@ピンキー
07/04/25 02:28:41 /G9hhf9+
いいぇーい

372:名無しさん@ピンキー
07/04/25 15:18:58 YWGXWjEq
>>370
GJ!!激しくGJ!!
ツンデレ、クーデレ、ボクっ娘と来てますね~
次回も楽しみにしておりますっ!!

373:名無しさん@ピンキー
07/04/26 01:58:17 Rsbfb6nB
>>370あんたの作品はエロパロ一萌える名作だ。最後までずっと応援している。GJ!!

374:名無しさん@ピンキー
07/04/28 06:37:47 ljkK2kPF
>>370GJ!これは新たに新キャラ登場フラグ・・・・



なにより鈴音の行動に萌えたよ。

375:名無しさん@ピンキー
07/05/01 18:48:10 aRUSbhF3
GJ! 過疎ってるけど頑張って!!

376:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:47:40 AgJHQ9+I
投下します!

377:絆と想い 第12話
07/05/05 00:49:14 AgJHQ9+I
平日の放課後。今日も正刻は図書委員会の仕事に精を出していた。
今日の彼の仕事は、本の貸し出し・返却の受付だった。
仕事自体はそんなに難しいものではない。しかし、借りに来る人、または返却しに来る人がまとめて来て混雑する場合も結構ある。
それゆえ、受付には常に複数の人員が配置されていた。
正刻以外は二人。一人は美琴。そしてもう一人は……

「ほらそこ! 割り込まずにちゃんと並ぶ! 待っている人は手続きに不備がないか、ちゃんと確認しておいて下さい!!」
受付カウンターで機関銃のように注意をしまくる少女。それがもう一人であった。

少女の名は「立上 桜(たつがみ さくら)」。今年入った一年生で、美琴と同じクラスである。
身長は150前後とかなり小さい。眉が太く、目が大きく、美人というよりは、可愛らしいといった方がしっくりとくる顔立ちだ。
肩口まで伸びた黒髪を、一房だけ縛っているのが特徴的であった。

口うるさく注意している桜と、その横で黙々と作業をこなす美琴を横目で見ながら正刻は苦笑する。
この二人は見た目も性格も正反対であったが、とても仲が良かった。一年生の中では、ベストの組み合わせのコンビかもしれない。
だが、やはりまだまだ一年生である。余裕がないせいか、桜はちょっとキツい言い方をしてしまうし、美琴は逆に何も喋らない。

人の流れが止まったのを見計らって、正刻はその事で二人に注意をした。
「立上、佐々木、お疲れさん。良くやってくれてるな。……だけど、二人とも注意すべき点があるぞ。立上は少し注意の仕方がキツいし、
 佐々木は何も言わないから借りに来た人が戸惑ってたぞ。そこの所は気をつけてくれな。」
美琴は素直に頷いた。もっとも、彼女の場合は頭で分かっていてもなかなか行動に移せないのでそこが問題なのだが。
そして桜の方はといえば……頬を膨らませている。注意された事が不服のようだ。

「だって先輩!? 何回も注意しているのに皆言う事聞いてくれないんですよ!? 私だってきつい言い方したくないですけど、でも仕方
 ないじゃないですか!!」
熱弁を振るう桜を正刻は苦笑しつつ、人差し指を唇に当てて「静かに」という意思表示をする。桜もそれに気づき、少し顔を赤くしながら
も、それでも抗議は止めない。
「大体、先輩がもうちょっと厳しくしてくれれば良いんですよ。借りに来る人達だって、私や美琴だときっとナメてるんですよ、このヒヨ
 ッコ一年生がって。やっぱり、ここは高村先輩が厳しくビシビシと取り締まらなくちゃいけないと思いますよ!」

桜の熱弁に、正刻は三度苦笑した。桜は真面目な良い娘ではあるが、それが強すぎるきらいがあった。
少しでもルールから外れた行為は許せない。厳しく注意してしまう。それは桜の長所でもあり、欠点でもあった。
その厳し過ぎる性格のため、中学では少し桜は疎まれていたのである。いじめとまではいかなかったが、友達は殆どいなかった。
しかし、高校に入ってからは、桜にも変化が起きた。最初は中学のように厳しかったが、ある程度の許容を見せ始めたのである。

それは、高校に入ってから出会った人達との交流の影響であった。
決してルールを破っている訳ではないが、しかし真面目な訳でもない。
そういった変わり者が数多くいるこの学校に来たお陰で、桜も自然と度量が大きくなったのである。
その影響を特に与えたのは親友となった美琴。そして、学校一の変わり者と評判の正刻であった。

378:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:50:06 AgJHQ9+I
正刻は苦笑を浮かべながら桜に言った。
「おい立上。借りに来る人達がお前達をナメてるって……そりゃ流石に被害妄想じゃないか?」
「そんな事ないですよ先輩! 絶対私たち、特に私をナメてますって! 私が背が低くて子供っぽいから!!」
そう桜は反論するが、内容はどう聞いても桜の被害妄想である。正刻は手を伸ばして桜の頭をわしゃわしゃと撫でると、子供をあやすよう
に言った。
「あーそうだねー。みんなひどいねー。後でお兄さんが叱っておいてあげるからねー。」
「なっ! もう先輩! 言ってるそばから子供扱いしないで下さい!!」

当然烈火の如く怒る桜。しかし。
「……よしよし……。」
親友でもある美琴にまで頭を撫でられ、その怒りも腰砕けになってしまう。
「美、美琴、あんたねぇ……!」
「……?」
美琴に抗議しようとするが、可愛らしく小首を傾げられてはその気も失せてしまう。桜は深い溜息をしつつ仕事に戻る。
そんな様子を見て正刻は面白そうに笑った。

そして暫く後。人の波が少なくなったので正刻達は本を読んでいた。受付の時は、暇なら本を読んで良いので各自が本を持ってきているの
である。
と、本を読んでいた正刻に声がかけられる。
「正刻、読書中に済まないが、ちょっと良いか?」
正刻が顔を上げると、そこには舞衣がいた。目が合うと、大輪の花が咲くような笑顔を浮かべる。周りにいた生徒達が思わず見蕩れて足を
止めてしまう程だ。
正刻も軽く笑顔を浮かべて「よっ」と挨拶する。

「どうした舞衣。俺に何か用か?」
「うん、いや残念ながら、君個人にという訳ではないのだがな。生徒会の資料を作成しているのだが、それに過去の資料が必要になってな?
 資料室を開けて欲しいのだ。出来れば、君にも探すのを手伝って欲しいのだが……。」
「了解、そういう事なら手伝うぜ。今鍵を持ってくるからちょっと待ってな。」
そう言って正刻は鍵を取りに向かう。その後ろ姿を舞衣は見送る。

ふと、自分に向けられる視線を舞衣は感じた。視線を追うと、その発信源は桜と美琴であった。特に桜はきらきらと目を輝かせ、羨望の眼差し
で舞衣を見つめている。舞衣は軽く二人に微笑みかけて声をかけた。
「君たちも精がでるな。立上に、佐々木……だったかな?」
自分の名前を覚えてもらっていた事が嬉しく、桜は嬉しそうに頷いた。
「はい! 舞衣先輩に名前を覚えてもらっているなんて……光栄です!」


379:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:51:35 AgJHQ9+I
そんな桜に舞衣は微笑を返す。実は、こういうことは日常茶飯事であった。
舞衣は男子からの人気は当然あるが、実は、下級生からは女子の方に特に人気があった。
モデルのような美しい顔で背も高く、抜群のスタイル。成績もトップクラスで、運動神経も良い。生徒会副会長で、仕事も出来る。
そんな彼女を「お姉様」と慕う女子は、結構多いのだ。だが、そんな彼女達には大きな壁が立ちはだかる訳だが……。

それはともかく。桜も、自分とは違う、大人びた容姿を持ち仕事も勉強もなんでもこなす舞衣に憧れていた。
もっとも、憧れ以上の感情は流石に持っていないようだが。
桜は舞衣を見ながら、溜息とともに呟いた。
「でも先輩、本当にスタイル抜群で綺麗ですよね……。羨ましいなぁ……。」

そんな呟きを聞いて、舞衣は微笑みながら言った。
「ありがとう、立上。でも私は結構努力しているのだぞ? 彼に好かれるような、綺麗で強い自分であるために、な。」
桜は、はぁ、と溜息とも返事ともつかないような声を漏らした。美琴はきょとんとしている。

ここでいう「彼」が誰を指すのか尋ねる者は、少なくともこの学校には殆どいない。言うまでもなく、それは正刻であるからだ。
先に言った、舞衣を「お姉様」と慕う女子達にとっての立ちはだかる壁は、正刻であった。
正刻本人はもちろん立ちはだかっているつもりは全く無いのだが、しかし舞衣を慕う者たちから見れば、正刻は不倶戴天の怨敵とさえ言えた。
自分達が慕う彼女の愛情を一身に受ける男。さらにそれを邪険にしている(ように見える)男。それが舞衣を慕う女子達の共通見解であった。

しかし、表立って正刻に嫌がらせをしない、出来ないのは、舞衣が正刻と一緒にいる時は本当に幸せそうである事と、正刻に仇為す者を
彼女は絶対に許さない、という事があるからであった。

過去に正刻に陰湿な嫌がらせをしようとした者もいたが、例外なく舞衣によって様々な制裁を受けている。
正刻は、そういった嫌がらせなど全く気にしないし、暴力による実力行使を受けても、それを余裕で返り討ちに出来るだけの力がある。
故に嫌がらせを受けても特に気にせず放っておくのだが、舞衣の方はそうはいかなかった。
「自分の愛する人を侮辱されて黙っているのは女が廃る!」とは舞衣の弁だ。

「でも、先輩は高村先輩のどこにそんなに惚れ込んだんですか?」
失礼かと思いつつも、好奇心を抑えきれずに桜が尋ねる。怒られるかと思ったが、舞衣は当たり前のようにこう言った。
「全部だ。」
はぁ、と桜はまた気の抜けた返事をしてしまう。そんな桜の様子を見て、舞衣は更に言った。
「まぁそう言っても君たちには分からないし、分かるように説明しても良いが、それで君たちが正刻に惚れてしまっては困るから端的に
 言おうか。私にとって彼は、太陽みたいなものなのだ。」
「太陽……ですか?」
桜の問いかけに、舞衣は頷く。

「そう、太陽だ。月並みな表現かもしれないが、それが一番近いな。私にとって、唯一無二の存在。代わりのものなど無い存在。いつも
 眩しくて、憧れる存在。それが彼なんだよ。」
腕組みをしたまま舞衣はそう語る。
桜は、自分が話題を振ったとはいえこの人こういう恥ずかしい事を良く言えるなぁという想いと、こんな事をきっぱりと言い切れるなんて舞衣
先輩はやっぱり色んな意味で凄いという想いがせめぎあって、何も言えなかった。
ちなみに美琴はこくこくと首を縦に振っている。今の発言を支持しているようだ。
それを見て、舞衣はにこりと微笑んだ。

「ほう佐々木、正刻の素晴らしさが分かるか? お前はなかなか見所があるな。よし、ではとっておきの正刻の昔の話をしてやろう。
 実は……。」
そう言いかけた舞衣の口がにゅっと伸びてきた手で塞がれる。
「おい舞衣……! 頼むから俺が居ない所でロクでもない話をしないでくれよな……!」
塞いだのはもちろん正刻であった。片手で舞衣の口を塞ぎ、もう片方の手に鍵を持っている。

「あぁ済まん。君のどこに惚れこんだのかと立上に訊かれてな? 佐々木も興味ありそうだったし、話していたら興が乗ってしまってな。」
正刻の手を外して舞衣が言う。それを聞いた正刻が横目で二人を睨む。桜はぺこぺこと頭を下げ、美琴も微妙に目を逸らしている。
はぁ、と溜息をついた正刻は疲れた声で二人に言った。
「おいお前ら……。頼むから火にガソリンをかけるような真似はしないでくれよ……。それじゃ舞衣! さっさと済ませるぞ!」
「分かった。では行こうか正刻。」

380:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:52:20 AgJHQ9+I
そう言って二人は歩き出す。身長に差はあるが、しかし並んで歩く姿はとても自然で、穏やかなな雰囲気を醸し出していた。
頬杖をついて二人を見送った桜は、はぁ、と溜息をついた。
「何だかんだ言ってもあの二人はお似合いね。付き合わないのがおかしいくらいだわ。……私もあんな風に一緒にいられる彼氏が欲しいなぁ。
 ……で、アンタは何でそんなに不機嫌なのよ。」
そう言って横目で美琴を見る。美琴は一見いつもと変わらずぽーっとしているように見えるが、しかし桜の言うとおり、かなり不機嫌であった。
何故なら……。
「聞きたかったな……先輩の昔の話……。」
そう呟いた親友を一瞥した後、桜は肩をすくめて読書に戻った。

「さて、ここに来るのも久しぶりだな。舞衣、探してる資料はどれくらい前のやつだ?」
「そんなに古いものではない、精々4,5年前程度のものだ。もっとも、量が結構ありそうでな。探すのは私がするから、君は運ぶのを
 手伝ってくれ。」
「了解。じゃあ見つかったら呼んでくれ。俺は昔の文集だの何だの読んでるからさ。」
そう言って正刻は奥のほうへと歩いていく。
舞衣は、さて、と腕まくりをし、髪を軽く束ねて作業を開始した。

二人がいるのは地下一階にある資料室である。学校に関する資料や、卒業文集やアルバム等が保管されている。
基本的に生徒の立ち入りは禁止されているが、今回は舞衣が既に教師の許可を取っていたため、こうして入っているのだ。

そしてしばらく後。ようやく資料を揃えた舞衣は、うーん、と一つ伸びをした。髪を解きながら舞衣は奥に向かって声をかけた。
「待たせたな正刻。じゃあこれを運んでくれ。」
しかし、何の返答も無い。舞衣は首を傾げた。
「……? どうしたんだ、あいつは……。」
そう言って舞衣は奥へと向かった。

舞衣が正刻を見つけたのは、卒業文集を保管している場所だった。
声をかけようとした舞衣は、しかし、かける事が出来なかった。
文集を読む正刻の顔が、あまりにも真剣で、そしてどこか悲しげであったからだ。
「……ん? 舞衣? 終わったのか?」
舞衣の気配に気づいた正刻が声をかける。
「あ、ああ……。ところで正刻、それは……。」
「ああ、これか。……父さんや母さん達の卒業文集さ。」

舞衣が近寄って覗き込む。それは、大介や夕貴、慎吾や亜衣、兵馬達の代の卒業文集であった。
「何かこれ読んでたらさ、父さんや母さんの事を色々思い出しちまってな……。」
頬を掻きながら正刻は呟いた。その表情は、笑顔ではあったが、しかしどこか痛々しさを感じさせるものであった。
その表情を見て、舞衣の胸は痛んだ。きゅっと自分の胸元をつかむ。
そんな舞衣の様子には気づかずに、正刻は明るい声で告げる。
「さて! そんじゃさっさと運ぶか!……ってま、舞衣……?」


381:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:53:10 AgJHQ9+I
正刻は戸惑った声をあげる。舞衣にいきなり後ろから抱き締められたからだ。ぎゅうっと力いっぱい抱き締められる。
「おい舞衣! 仕事も終わってないのに何してやがるんだ!!」
抱き締めてくる舞衣を引き剥がそうと、正刻は腕に力を込める。しかし。
「正刻……。」
そう囁いた舞衣の様子に何かを感じ、正刻は動きを止める。

「なぁ正刻……。無理をする事はない。私に……甘えてくれても良いんだぞ……?」
舞衣は正刻にそう囁く。正刻はふっと目を閉じて笑う。
「ありがとうな舞衣。だけど、俺は本当に大丈夫だ。ただちょっと、ちょっとだけ……父さんと母さんの事を思い出しただけなんだ。
 だから心配するな。」

しかし、正刻がそう言っても舞衣は彼を放そうとしなかった。それどころか、舞衣の体は震え始めていた。
舞衣の様子がおかしい事に気づいた正刻が、心配そうに問いかける。
「舞衣? どうした? 気分でも悪くなったのか? おいま……。」
「正刻……。」
正刻の呼びかけを遮るように、舞衣が彼の名を呼び、そして続けて言った。震えそうな声を、懸命に抑えるように。
「私は……そんなに頼りないか? 私では……駄目、なの、か……?」

そう言われた正刻は戸惑った。
「ま、舞衣……? お前、何を言ってるんだ……?」
「君が風邪で学校を休んだ日……。唯衣には弱音を吐いたのだろう……?」
舞衣は正刻に、逆に問い返す。正刻は驚き、そして正直に答える。
「……あぁ、確かにな。だがあれは俺にとっちゃあ不覚以外の何物でもないんだが……。しかし舞衣、どうしてそれを? 唯衣が喋るはず
 ないのに……。」
そう尋ねる正刻に舞衣は軽く微笑を浮かべて答える。

「そうだな、何となく分かってしまうんだ。二卵性とはいえ、私と唯衣は双子だから……な。」
そして舞衣は、正刻の髪に顔を埋めた。その感触に、正刻は体をぴくり、と震わせたが、しかし何も言わなかった。
「で、な……。私も正刻の弱音を聞いてやろうと思っていたのに、君は……私を頼ってくれない。私に弱さを見せてくれない。それが……
 無性に悲しくて、な。」
「舞衣……。」
正刻は舞衣の手に自分の手をそっと重ねた。しかし、それにも気づかずに舞衣は続ける。
「君を責めるつもりは無いんだ。頼られないのも、弱さをみせてもらえないのも、全て私がいたらないのが原因だ。それは分かっている。
 分かっているが……それでも少し、辛くて、な。君の役に立てないなんて、私は本当に駄目な女で、いつか君に見捨てられても、きっと
 文句は言えなくて、そんな事を考えたら、すごく怖くて、それで……。」

舞衣の独白をそこまで聞いた時、正刻の我慢は限界を超えた。
「舞衣っ!!」
「!? ま、正刻……?」
舞衣の腕を強引に振り払い、正刻は身を翻すと彼女を力一杯抱き締めた。

正刻は彼女の独白を聞いて、自分のことを心の中で激しくなじっていた。
舞衣が無条件に自分を慕ってくれる事に甘え、彼女を顧みる事をおろそかにしていた。その所為で、彼女を傷つけてしまった。
正刻は深く深呼吸をして一度舞衣を離すと、両手で彼女の顔をはさみ、目をしっかりと見据えた。
彼女の瞳は潤み、涙が幾筋か流れおちていた。それを見てまた心が痛んだが、しかし正刻は行動した。
彼女の傷を癒すために。彼女の笑顔を取り戻すために。彼女が……自分にとって、どれほど大切な存在か、分かってもらうために。


382:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:54:00 AgJHQ9+I
そのためにまず正刻が取った行動は、舞衣の顔を両手で挟んだまま飛び上がり、自分の脳天を彼女の脳天に勢い良く振り下ろす事だった。
いわゆる頭突きである。狙い過たず、きれいにヒットする。ゴンッ! と聞いただけで痛そうな音が資料室に響いた。
「あいたぁっ!!」
舞衣はあまりの痛さにうずくまる。正刻も痛かったが、しかしここは我慢する。
少し痛みが引いたのか、舞衣が非難の目を向けてきた。
「おい正刻! 一体何を……。」
「こら舞衣!」
しかし、正刻に一喝され、さらに煌く漆黒の瞳で見据えられ、舞衣は抗議を中断せざるを得なかった。

それを見て、正刻は肩膝をついてうずくまった舞衣と目の高さを合わせると、ゆっくりと喋り始めた。
「おい舞衣。俺がお前を頼らない、弱さを見せてくれないって言ったな? そんなの当たり前だろうが! 誰が好き好んで自分の弱さを
 見せたり、誰かを頼ったりするかよ! 悪いが俺は、最近流行の『癒し』だの『頑張らなくていい』だの、そういうのが大ッ嫌いでな。
、嫌な事があってもなるべく自分で何とかするし、前時代的だと言われようがやせ我慢だってしまくる! 大体俺がそういう人間だって
 のをお前は良く知ってるだろうが! 何年俺の幼馴染やってるんだお前は!」

最初はゆっくり、しかし段々と熱を持って正刻は舞衣に話しかける。いや、今ではもう怒鳴っていると言った方が良いかもしれない。
舞衣はしかし、潤んだ瞳で正刻に訴える。
「で、でも正刻。唯衣には弱さを見せたじゃないか。何で……。」
「俺も人間だからな。体が弱ってる時は、流石に気も弱くなる。その時に近くにいたのが唯衣だっただけの話だ。いいか、良く聞け。もし
 あの時傍に居たのがお前だったとしても、俺は弱さを見せたよ。それは絶対だ。誓っても良い。」
それを聞き、舞衣の目が開かれる。正刻は更に続ける。

「それに、な。俺が弱さをみせても良いと思ってるのは……お前と唯衣、鈴音ぐらいだぞ。」
「ほ、本当か……?」
「ああ本当だ。だがさっきも言ったように、俺は滅多な事じゃあ弱さをみせたりしない。だから、な。俺に頼って欲しいなら、俺に弱さを
 見せて欲しいなら、俺の役に立ちたいのなら……。」
そこで一旦言葉を切り、舞衣を見つめる。舞衣はただ黙って正刻を見つめ返す。
正刻はそこで……にっ、と笑った。そして、とっておきの言葉を舞衣に贈る。

「ずっと……俺の傍にいろ。そして、ずっと俺を見ていろ。俺がいつ弱さを見せてもいいように、俺がお前を頼りたくなった時、すぐに
 助けられるように……、な。」

そう言って正刻はウィンクを一つした。それを見て、舞衣はくしゃり、と顔を歪めた。涙が彼女の両目から、とめどなく流れはじめた。
しかし、この涙は安堵と、嬉しさのあまり流れたものだった。
正刻が彼女に言ったことは、人によっては傲岸不遜の極地、と捉えられてしまうかもしれない。
しかし舞衣は、そこに込められた正刻の想いを確かに感じ取った。
乱暴な言い方をしたのは、落ち込んだ自分を奮い立たせるため。そして、必ず奮い立つと自分を信じてくれたため。

想い人にそこまで信頼されて、それに応えないだなんて、そんなの自分じゃない。
舞衣は胸に灯った熱い想いを確かに感じた。正刻への熱き想い。これからもきっと、色んな困難があるだろう。人間なんだから、落ち込ん
だり、すれ違ったりもするだろう。

でも、きっと乗り越えられる。正刻が贈ってくれた言葉が胸にある限り。自分はきっと大丈夫。
だけど……今は。今だけは。ただ泣かせてほしい……。
そんなことを考えながら、舞衣は正刻にすがって泣いた。正刻も、黙って舞衣の髪を優しく撫で続けた。

383:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:55:15 AgJHQ9+I
そして暫く後。ひとしきり泣いた舞衣は、しかしすぐにいつもの調子を取り戻した。ハンカチで顔を拭い終えた彼女は、いつものクール
ビューティーに戻っていた。
「ありがとうな正刻。……全く、君を助けてあげたいのに、私は助けられてばっかりな気がするよ。」
そういう舞衣に、正刻は肩をすくめてこう言った。
「何言ってやがる、こんなのお互い様だろ。特に……俺たちの間じゃあな。」

そう言う正刻を愛おしげに見つめた舞衣は、不意にくすくすと笑い出した。
その様子を不思議に思った正刻は、舞衣に問いかける。
「おい舞衣、何がそんなにおかしいんだ?」
すると、いたずらっぽい目で正刻を見た舞衣は、楽しげにこう言った。

「いや何、さっきの君の台詞が、まるでプロポーズのようだった、と思ってな。」

プロポーズ? そう言われた正刻は、さっきの発言を冷静に思い返す。

『すっと……俺の傍にいろ。』
『ずっと俺を見ていろ。』
『俺がいつ弱さを見せてもいいように、俺がお前を頼りたくなった時、すぐに助けられるように……、な。』

どう見てもプロポーズです、本当にありがとうございました。

正刻の顔がみるみるうちに赤くなっていく。口をパクパクさせる正刻をいたずらっぽい表情で舞衣が覗き込む。
「さて、正刻? この後の人生設計でも話そうか? そうだな……まずは子供の数から決めようか。私は三人は欲しいのだが?」
もう正刻はさっきの勢いが嘘のように、小刻みに震えることしか出来ない。
それを見ていた舞衣は、ぷっと吹き出すと、正刻を正面から思いっきり抱き締めた。
「まったく君は、本当に可愛い奴だな!」

ところで今更だが、正刻と舞衣の身長さの関係で、二人が正面から抱き合うと、正刻が舞衣の胸に顔を埋めるような格好となってしまう。
舞衣のふくよかな胸に挟まれながら、正刻は体をよじる。
「こ、こら舞衣! 駄目だって色々と!!」
「まぁそういうなよ正刻。人前でいちゃつくのが駄目なら、二人きりの時は少しくらいこうしても良いじゃないか。今まで私が寂しかった
 分の穴埋め、ということでな。」

そう言われると正刻は抵抗できない。只でさえ舞衣の体は温かくて、柔らかくて、良い匂いがするのだ。
正刻は溜息をつき、負け惜しみのように言った。
「……少しだけだから、な。」
舞衣は微笑んで正刻を抱き締めた。正刻も舞衣を抱き締め返し、しっとりとした舞衣の髪をゆっくりと撫でた。


この後、二人の帰りが遅いのを不審に思い様子を見に来た美琴と桜に抱き合っているところを思いっきり見られてしまい、正刻は必死に
弁解するも美琴には「……ケダモノ。」、桜には「先輩不潔ですっ!!」となじられてしまい、更にこの事を知った唯衣と鈴音にダブルで
頬を思いっきりつねられるという折檻を受けたりするのだが、それはまた別のお話。


384:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:57:08 AgJHQ9+I
以上ですー。ではー。

385:名無しさん@ピンキー
07/05/05 02:24:34 c2yiQdxI
GJ!!どう見てもプロポーズワロタww
しかしこれは長いな。終わり、ってあるのか?職人さん頑張って!期待してるから

386:名無しさん@ピンキー
07/05/05 03:31:13 tCe/ghTL
GJすぎる・・・・

387:名無しさん@ピンキー
07/05/05 06:24:04 0BbvtGS5
神神神GJ!いつも神SSを書き続けられる作者が羨ましすぎる。

>>385俺としてはあまり終わってほしくないがいつか終わってしまうのは確実なので、できる限り長く長く続いてくれることを心から祈ってる。
エロも期待してるぜ!

388:名無しさん@ピンキー
07/05/05 06:25:09 0BbvtGS5
素で下げ忘れた。スマソ

389:名無しさん@ピンキー
07/05/05 10:52:05 oVlFS8Wc
GJッ!

390:名無しさん@ピンキー
07/05/05 23:46:51 DdTJIRxY
GJすぎてイチモツが勃ったw

391:名無しさん@ピンキー
07/05/08 23:57:50 K5TcmrCd
GJ! そしてあげ!!

392:名無しさん@ピンキー
07/05/08 23:58:27 K5TcmrCd
上げと言ったのに上げてなかった……。

393:名無しさん@ピンキー
07/05/09 20:18:18 rDv1va3T
もう483KBだね。

394:名無しさん@ピンキー
07/05/09 21:07:52 iWuVJYbs
何KBまでいけるんだっけ?

395:名無しさん@ピンキー
07/05/09 22:14:23 1aV0hl/Z
512kb。次スレは500超えたらか?

396:名無しさん@ピンキー
07/05/09 22:31:04 L34egD20
随分早いなぁ
普段なら500くらいまではいってたのに

397:名無しさん@ピンキー
07/05/09 22:53:05 uRmtYfw+
投下があったら不味いから、もう立てても良い気もするが……。

398:名無しさん@ピンキー
07/05/09 23:23:32 +wgY/AUr
>>395
いや、500KBだったはず。
だからもう立てないとだめだと思う。

399:名無しさん@ピンキー
07/05/09 23:47:08 9YBnyULG
IEでは512だけど、専ブラだと500だった希ガス。
何が違うのか良く分からんけど。

400:名無しさん@ピンキー
07/05/10 20:52:47 KZTryD8J
専ブラだけど、容量オーバー間近の注意カラーが出てる。

>>399
スレッドの上や下にある余計な文字やリンクが
専ブラには入らないからとか?>差分

401:名無しさん@ピンキー
07/05/13 03:58:35 mNYxvB3D
新スレ立った?

402:名無しさん@ピンキー
07/05/13 09:45:07 i4Y3+Pye
まだ立ってないみたい。
俺立てられないんで、
>>403頼んだ。

403:名無しさん@ピンキー
07/05/13 11:36:29 MgQz1FGW
頼まれたのでスレ立てた

【友達≦】幼馴染み萌えスレ12章【<恋人】
スレリンク(eroparo板)

404:名無しさん@ピンキー
07/05/14 02:25:13 760VHSHH
>>403サンクス。
次は少し過疎気味だからもう少し職人が来ると嬉しい。
まあ絆と想いがエロパロ一の作品と言っても過言では無いから、それだけでも十分すぎるんだが。

405:名無しさん@ピンキー
07/05/14 05:15:45 YMlr2K0y
下一行は、思ってても口にする事じゃない
新規職人が逃げるぞ

406:名無しさん@ピンキー
07/05/14 12:39:28 DZ08+3F+
そだね。俺も絆と想いは好きだが、他のだって大好きだ。新規職人さんだって大歓迎だ。
もっともっと賑わって欲しいぜ。

407:名無しさん@ピンキー
07/05/14 16:13:14 WwQgEY1F
職人さんが来ても、レスが少なければスレに愛着持ち辛いと思うけどね
大なり小なり反応は欲しいもんじゃね

408:名無しさん@ピンキー
07/05/14 23:17:19 BR1yvRPq
遼君作家さんは何処に行っちゃったんだろ?
結構楽しみにしてたのに……

409:名無しさん@ピンキー
07/05/14 23:46:40 0BPJ5PWo
作家さんにも仕事等があるしな。しゃーない。

410:名無しさん@ピンキー
07/05/15 01:32:48 +3jjyJGu
それでは埋めネタを投下させて頂きます。

411:名無しさん@ピンキー
07/05/15 01:33:41 +3jjyJGu
彼女は空を眺めるのが好きだった。
いや、正確に言うと、空を眺めて想い人が今何をしているか、何を考えているのかを想像するのが好きだった。

彼女の名は「神崎 美沙姫(かんざき みさき)」。美しい少女だった。長く艶のある黒髪を後ろで一つにまとめている。
肌は雪のように真っ白であり、そして凛とした顔つきでありながらもその笑顔はとても優しいものであり、周囲の人間をいつも和ませてきた。

性格はおしとやかで、昔ながらの大和撫子、といえば良いだろうか。丁寧な言葉遣いと落ち着いた物腰は、幼い頃より厳しく躾けられた事
により身についたものだ。
さらに、すらりとした細身の身体でありながら、出るべきところはしっかりと出て、くびれるべき所はしっかりとくびれている見事なプロポ
ーションをしていた。

当然男子からの人気は高く、告白は日常茶飯事、下駄箱からはラブレターが溢れ出る始末であった。
しかし彼女はそれらの申し出を全て断り続けている。理由はただ一つ。彼女には愛する人、許婚がいるからだ。

──私には、愛する人……心に決め、将来を誓い合った許婚がおります──

──故に、貴方の申し出を受け入れることは出来ません──

──お気持ちだけ、有難く頂戴いたします──

──ごめんなさい──

これが告白の場で行なわれる会話であった。

振られた男子生徒のみならず、友人達もそれが誰なのか知りたがった。
すると、決まって彼女は微笑みながらこう言うのだ。

ここにはいません、ずっと遠くにいるのです、と。

それが微妙に抽象的な言い方なので、様々な説が流れた。

普通に遠距離恋愛をしているという説。
実は相手は既に亡くなっているという説。
相手は実は彼女にしか見えない妖精さん説。

しかし、真実を知っているのはごく近しい友人、家族のみであった。


412:名無しさん@ピンキー
07/05/15 01:34:26 +3jjyJGu
弓を構え、引き……そして放つ。
ひゅんっ、と風切り音が鳴り……狙い過たず、的の中央に矢は突き刺さった。

それを見て美沙姫は一つ息を吐き、的の上方、空を見上げた。
今は放課後。彼女は所属している弓道部の練習に精を出していた。

彼女の家はいわゆる旧家であり、更に日本でも有数の財閥を形成していた。
その一人娘であった彼女は、様々な教育を受けた。礼儀作法、活け花や茶道などの教養、そして、弓道や長刀、合気道などの武術、護身術
などである。
その中でも彼女が特に好きだったのが弓道であった。実は彼女の想い人は合気道の天賦の才を持っており、彼女もその傍にいたいがために
練習に打ち込んだ時期もあったのだが、残念ながら彼女には合気道の才能は無かった。

そこで彼女は方向を転換した。向いてないものをやるよりは、得意なものに打ち込んで、それで輝いてやろう。そして、彼と並んでも恥ず
かしくない自分になってやろうと決意したのだ。

その甲斐あってか、彼女の腕前はめきめきと上達し、高校二年となった今ではインターハイの優勝候補の筆頭である。
その腕前と性格が買われ、部でも副部長を務める彼女は傍から見ると充実した生活を送っているように見えるが、しかし今の彼女は少し
落ち込んでいた。

何故ならば、数日前に彼に出した手紙の返事が来ないからである。
彼女は想い人に、いつも手紙を書いていた。頻度は月に一、二回というところだ。
もちろん彼女は想い人の家の電話の番号や、携帯電話の番号やアドレスも知っている。
しかし、それでも彼女はいつも手紙を書いた。自分の手で書いた方が、想いがより伝わると信じているからだ。

そして彼女が手紙を出すと、数日後には彼からの返事の手紙が送られてくる。
彼女はそれが楽しみであった。彼の手紙はいつも面白く、そして暖かい。読んでいるだけで彼女は幸せな気持ちになり、そして安心する。

それが今回に限っては来ない。もう一週間にもなる。彼女は溜息をつきながらタオルで汗を拭う。
彼女の心に黒い雲が広がっていく。彼は……もう自分と手紙のやりとりをするのが嫌になってしまったのではないだろうか。
彼は幼い頃に両親を亡くし、一人暮らしをしている。その生活が大変なのは、容易に想像出来る。手紙を書くのも、きっと楽ではないだろう。

もちろん彼が、忙しいからといって返事を書かないような、そんな人間ではないことは分かっている。
自分もそれが分かっているし、信じているから催促など決してしない。それでもやはり、不安に思ってしまう。

部活を終え、帰宅した彼女は、ベッドにごろんと横になった。そのまま天井を見上げながら物思いに耽る。

彼との初めての出会い。それは幼稚園に上がる前ほどに遡る。
彼の祖父と美沙姫の祖父は親友同士であり、自分達の子供を結婚させようと約束をしていたのだ。
だが、お互いに息子しか生まれなかったため、今度は孫を結婚させようという話になったらしい。
そして今度は男と女に分かれたため、その約束を果たそうと孫同士を引き合わせたのが初めての出会いであった。

「許婚」の意味を幼いながらもある程度理解していた美沙姫は、興味半分、怖さ半分であった。自分が添うことになる人がどんな人なのか。
当然と言えば当然である。
そして彼の家で二人は初めて顔をあわせた。その時の彼女の記憶は流石に曖昧だが、しかしはっきり覚えている事がある。
彼の漆黒の瞳がきらきらと輝いていた事。そして自分が……その瞳に一瞬で引き込まれた事。

413:名無しさん@ピンキー
07/05/15 01:35:16 +3jjyJGu
その日は色々なことをして遊んだ。彼は本が大好きで、色々な本を一緒に読んだ。いつのまにか、彼と一緒にいることに全く違和感を感じ
なくなっていた。出会ってまだ数時間だったというのに。
帰る時には寂しくて、思わず泣いてしまった。そんな美沙姫を彼は困ったように見つめながら、手を伸ばして頭をわしわしと撫でた。
そして優しく告げた。また遊びに来い、と。そして、俺も遊びに行くから、と。

その後、彼とは何回も一緒に遊んだ。彼だけではなく、彼の幼馴染である双子の少女達とも一緒に遊んだ。
彼女達は、美沙姫にとっては大切な友達であり、そして同時にライバルでもあった。
双子が彼に好意を抱いていることは初めて会った時に、すぐに分かった。幼くとも、女はやはり女なのだ。
しかし同時に、二人ともとても良い子達であることも分かった。だから、美沙姫は少し複雑な気持ちを抱きながら双子に接していた。

そしてその後、小学三年生の時に彼は両親の仕事の都合で一年間、京都の美沙姫の家で過ごした。
この一年は、美沙姫にとっては至福の一年と言えた。

だがこの後、大きな不幸が彼を襲う。飛行機事故で、両親が亡くなってしまったのだ。
美沙姫は彼を案じた。これからどうするのだろう、と。彼を引き取ろうとする人達は多く、神崎家もその中の一つであった。
もし彼がここに来る事になったら、許婚として彼を精一杯支えよう、と美沙姫は固く心に誓っていた。

しかし、彼は神崎家には来なかった。いや、神崎家だけではない。引き取りに来た人達全ての申し出を、丁重に断ったのだ。
当時美沙姫は何故そんなことをしたのか理解出来なかったが、今なら少し分かるような気がしていた。
彼はきっと、両親を安心させたかったのだ。自分は二人がいなくてもちゃんとやっていけると。強く生きていけると。

しかし当時の美沙姫にはそんなことは分からず、ただ自分の家に来てくれなかったことを悲しく思っていた。
そして更に彼女を悲しませることが起きた。祖父が、彼と美沙姫を許婚ではなくしてしまったのである。

美沙姫は深く悲しみ、そして激怒した。彼女は家族を大事にしており、当然祖父にも敬愛の念を抱いていた。
それゆえに裏切られた気持ちで一杯になってしまった。生まれて初めて自分に怒りを向けた孫を、しかし彼は静かに説き伏せた。

お前が彼に深い愛情を抱いているのは分かる。
自分も彼のことは気に入っている。親友の孫というのを差し引いても、将来が楽しみな少年であることは間違い無いし、お前と結婚
してくれたらどんなに良いかとも思う。
だが、それらは全てこちらの都合だ。
今彼は、絶望に叩き落されながらも必死でそこから這い上がろうとしている。
ならば、余計な荷物は持たせない方が良い。負担は少しでも軽い方が良い。

それが祖父が語った理由であった。
美沙姫は唇を噛んだ。祖父の言うことも一理あることは分かる。しかし到底納得出来ない。
だから美沙姫は祖父に言い放った。

自分と彼を許婚でなくしたいのならば、すればいい。
だが、例え祖父がそうしたとしても、自分にとって彼は、許婚以外の何者でもない。これから一生を連れ添って過ごす、パートナーである
ことに変わりはない。少なくとも私はずっとそのつもりでいたし、これからもそうだ、と。

祖父は目を細め、痛ましいような、眩しいような表情を浮かべていた。

414:名無しさん@ピンキー
07/05/15 01:36:16 +3jjyJGu
それからは手紙が彼と美沙姫を繋ぐ手段となった。
彼は東京に住み、美沙姫は京都に住んでいたため中々逢えなかった。小学校の卒業後の春休みに一度会ったきりである。
その時は、お互いに通う中学の制服を着て見せ合った。彼が着ていた学ランがぶかぶかで、思わず笑ってしまって怒られたのを覚えている。

そこまで思い出し、美沙姫はふぅ、と溜息をついた。
自分はずっと、彼の許婚であることに誇りを持ち、それにふさわしい人間になるべく努力してきた。だがそれは、結局は自己満足だったの
ではないか。彼はずっと……私を重荷に感じていたのではないか。

悪い想像は止まらない。美沙姫は食欲も無くし、ただ布団にくるまって……泣いた。

翌朝の体調は最悪だった。学校に行くことも出来ず、美沙姫は横になっていた。
これくらいのことで体調を崩す自分が不甲斐ない。美沙姫はぎゅっと布団を握り締めた。
だが、どうせ自分は彼に嫌われてしまったのだ。もう、何を努力しても……。

また気持ちが落ち込みかけたその時、美沙姫の下に使用人が手紙を持ってきた。
差出人の名前を聞いた美沙姫は飛び起きた。何故ならそれは、ずっと待ちわびていた彼からだったからだ。

手紙の他に、写真が数葉同封されていた。
まず彼女は手紙に目を通す。

『美沙姫へ。返事が遅れてしまって申し訳ない。だが忘れていたわけじゃないから安心しろ。まさかとは思うが、俺からの返事が遅れたくら
 いで寝込んだりしていないだろうな?』
まさしく現状を当てられ美沙姫は顔を赤らめる。
『まぁそれはともかく、遅れてしまったのは久しぶりに酷い風邪をひいちまったからだ。全く情け無いぜ。お詫びといっては何だが、俺の
 貴重な風邪っぴき写真を同封する。ま、笑ってやってくれ。それじゃあな。 
 追伸:そのうち久しぶりに会いたいもんだな。酒は飲めるようになったか? 飲めるようになったら夜明かしして色々話そうぜ。じゃ。』

美沙姫は同封された写真をみる。そこには死にそうな顔をした彼や鼻のかみすぎで鼻の頭を真っ赤にした彼、風邪薬を栄養ドリンクで飲む
彼などが写っていた。
美沙姫はそれらをひとしきり眺めた後、肩を震わせて笑い始めた。そして同時に涙も流した。

彼は私の事を忘れてなんかいなかった。それどころか、会いたいとまで言ってくれた。
なのに……私は何をしている? 勝手に落ち込んで、一人ですねて……。こんな女が彼の許婚に相応しいか?
否! 断じて否!! 美沙姫はゆっくりと立ち上がった。目には強い意志の光が宿っている。
私は……もう迷わない。彼とこの先もずっと連れ添って生きていくために。彼に愛される自分であるために。
頑張ろう私! そしてまずはお酒に強くならなくちゃ!
そうして彼女は酒を飲むべくキッチンへと向かいながら呟いた。
「見ていて下さいね……正刻様。私、きっとお酒に強くなって見せますから……!」


415:名無しさん@ピンキー
07/05/15 01:37:49 +3jjyJGu
「ぶえっくしょい!!」
同時刻、東京。学校の屋上でいつもの面子と食事をしていた正刻は、盛大なくしゃみをした。
「うわっ! アンタ、ちょっと何やってんのよ! 汚いじゃない!!」
そう言いながらも唯衣は正刻にティッシュを差し出す。正刻は礼を言うと、口元を拭き、鼻をかんだ。

「凄いくしゃみだったねぇ。きっと誰かが噂してるんだよ。」
きっと良くない方だよ、そう言って鈴音は笑った。
「何を言う。きっと正刻に想いを寄せる少女が……って、それはちょっと良くないな……。」
フォローを入れようとした舞衣だったが、しかし失敗したようで、逆に考え込んでしまっている。

そんないつもの平和なやりとりに苦笑していた正刻だったが、ふと、空を見上げた。
(あいつも……この空を見ているのかね……。)
奇しくも同じ頃、同じ想いで美沙姫も空を見上げていた。

高村正刻と神崎美沙姫。この二人は数ヵ月後に運命的な再会を果たし、そこから新たな物語が紡がれることとなるのだが、それはまだ
もう少し先のお話。


416:絆と想い 外伝1
07/05/15 01:46:23 +3jjyJGu
以上ですー。今回はいつもと少し違う感じで書いみました。埋めネタですしね。

美沙姫は第11話で唯衣と舞衣が話していた『あの娘』です。
本当は情報を小出しにしてサプライズ登場させるつもりだったのですが、いつの登場になるかわからなかったので
こんな形で登場させました。

ちなみに絆と想いですが、誰をくっつけるかはまだ決めていませんが、最終話のプロット自体は出来ています。
なのでいつでも終われるのですが、自分もこの作品に愛着があるので、のんびりひっそり保守代わりになるように
正刻達の日常を書いていこうと思いますー。ですのでまだまだ終わりません。

エロに関しては近日投下予定のものがあるので、そちらで書かせてもらいますー。
それでは長々と失礼しました。ではー。


417:名無しさん@ピンキー
07/05/15 03:17:43 GS/5EKRY
まだ書けるか?
>>416神GJ!!とりあえず作者さんが誰とくっつけるかマジ楽しみだ!
普通に考えれば唯衣舞衣鈴音の三人な気がするが・・・
どんなENDになるかずっと見守ってるからな。

418:名無しさん@ピンキー
07/05/15 16:24:40 +Dq2frIy
ハーレムエンドか一人に絞らずに俺達の戦いはこれからだエンドとかw

419:『幼馴染に手を振って』 ◆NVcIiajIyg
07/05/16 02:11:29 Rl1pWbYu

五月晴れ。

ぽかぽかの陽気で、中間試験も終わって、伸びをするのも気持ちがいい。
あたしはいつものように髪を高く二つに結んで、土曜日の空気をいっぱい吸った。
「んっ」
伸びをした両指をぱっと離して、つま先をたたいて靴を履く。
玄関先から見える裏山の新緑も眩しくて元気が沸いてくる。
古着屋さんで安く買ったワンピースが風にふくらみ、足取りも気を抜いたらスキップになりそうだ。
「ふふふーふふふふーふふー」
「もしかして頭打ったのか?」
聞きなれた声がいきなり邪魔をした。
水しぶきと一緒に、隣の柵越しに幼なじみのでかい図体が良く見える。
あたしは生まれたときから一緒の男子を腰に手を当てて睨みあげた。
まったくでかいのは体だけでデリカシーなんてまるでない。
「…うるさいな。可愛いとか何とかいえないの?」
「えー。その態度が可愛くねーじゃん」
「ふん。言ってなさい。勝利が彼女も作らないで寂しい青春を送っていても
 もはやあたしには何の関係もないのよ!なんたって、」
「いや、それもう十回くらい聞いた」
「ふふふ」
何度でも言いたい。
だって今日は特別な土曜日なんだから。

そう、デートなのである。

これからあたしは14年間生きてきて産まれて初めての男の子からのお誘いというやつに一緒にいくことになるのである。
ありのまま先週起こったことを話そう。
最近部活で調子が悪くて、試合の予選メンバに選ばれたもののどうしてもチームメイトの足をひっぱりがちだった。
そんなとき厳しくて評判の荻野部長(男子)に呼び出されてさあスタメン外されると縮こまっていたら、
いつの間にか公園デートの約束を取り付けられていた。
信じられないと思う。
あたしだって嘘みたいだと思う。

―荻野部長は厳しいけど優しい。ちょっと背が低いけど、いつも一生懸命だし。
その。正直に言えば。
勝利に毎日偉ぶらなければやっていけないくらい、心臓がうるさくてどうにかなりそうなのだ。
生い茂った夏みかんの葉に目を逸らせて、目にかかる水しぶきにまた視線を戻す。
勝利が柵の上からこっちにホースを向けているせいだ。
ワンピースが濡れそうだったのでちょっと離れる。

「当日になってまで浮かれてんなよ。こけるぞ。嫌われるぞ」
「う、うるさいわね。子供みたいなこといわないでよ」
「楽しんでこいよ。愛」

言い返したのにかぶさって、勝利がいつもみたいにさらっと笑った。
とても暖かい五月晴れの日で、あたしはまだ中学二年生になったばかりだ。

「うん」

青色のホースから隣の庭に水がまかれているのを背に、初めてのデートに向かった。
幼馴染に手を振って。



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