【友達≦】幼馴染み萌えスレ11章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ11章【<恋人】 - 暇つぶし2ch300:絆と想い 第10話
07/04/14 03:08:29 ZetaE63D
とある日曜日。正刻達の住む街にある合気道の道場で、息詰まる試合が展開されていた。
片方は風格すら漂わせる男。そしてもう片方は、全身から闘気を噴出させている少年だった。
試合は少年が疾風のような動きで男に挑み、男がそれを捌く、という展開だった。
技術は男の方が上だが、少年の動きは男の反応を超えており、決定的な反撃には至らない。

両者暫しの硬直の後、少年がゆっくりと深呼吸を始めた。
それがこの試合における、少年の最後の……そして最大の攻撃の始まりだと直感した男は感覚を研ぎ澄ます。
少年は深く息を吸った後……「ふっ!」と鋭く息を吐き、そして突進する。

男へ向かって一直線に少年は突っ込む。予測していたかのように自分を捌きにくる腕をくぐり抜け、フェイントをかけつつ男の懐に飛び込む。
まるで疾風、そして稲妻のような動き。少年はそのまま男の腕を極めようとして……捕らえられた。

少年がかわしたのとは逆の手が、胴着をしっかりとつかんでいたのである。少年の動きがそれにより止まり、男はそのまま流れるように
投げ飛ばす。

少年は宙を舞い、背中から畳に落ちた。ギャラリーからわっ、と歓声が上がる。彼は受身はしっかりと取ったようだが、それでもやや辛そうだ。

男が少年を見下ろし、笑顔を浮かべながら言った。
「惜しかったですねぇ正刻君。あそこで私に動きを止められなければ、そのまま私の腕を極められたのに。」
それを受けて少年……高村正刻は憮然とした表情で答えた。
「よく言いますよ。俺の動きをきっちり見切って、その上で誘ったくせに。」
よっ、とジャックナイフで起き上がる。その様子を見て男……佐伯兵馬(さえき ひょうま)は苦笑を浮かべる。

「きっちり見切って、ですか……。」
あれは半分は勘だったんですがねぇ、と内心で呟く。技は兵馬の方がまだ上だ。しかし、正刻の才能は恐るべき早さで開花しつつある。
先ほどの動きもそうだ。正刻の疾風の如き動き。今はまだそれを完全には自分のものには出来ていないが、それを自分の意志でコントロール
出来た時、彼がどれほどの使い手になるか。それを想像し、兵馬は身を震わせる。

(流石は君の息子ですね……大介……。)
兵馬もまた、大介・夕貴・慎吾・亜衣達の幼馴染であった。彼は離れた地の大学へと進んだため、しばらくはこの街を離れたが、結婚を機に
再びこの街へと帰ってきたのである。

今彼は陶芸家として活躍している。年に何回か個展を開くほどの人気振りで、彼が作る器のファンは多い。
そして彼にはもう一つの顔がある。それが合気道の師範としての顔だ。
その腕は全国でもトップクラスであり、彼が日曜に開く合気道教室では、老若男女、様々なレベルの人達が集まる。


301:名無しさん@ピンキー
07/04/14 03:09:15 ZetaE63D
その中に正刻も居た。まだ大介が生きていた頃から、一緒にこの道場に通っていたのである。
大介と兵馬は子供の頃からのライバルであった。共に全国トップレベルの使い手であり、二人の組み手は道場の名物でもあった。
残念ながら大介は事故で逝ってしまったが、その後を継ぐように正刻は強くなった。
兵馬もまた、正刻に自らの業を伝授し、鍛え上げている。
それは、事故で両親を失いながらも悲しみに暮れる事無く生きようとする正刻への兵馬なりの気遣いでもあった。

体を鍛えることは、心を鍛えることに繋がる。そう考える兵馬は、正刻を心身共に鍛え上げた。悲しみに負けないように。絶望に押し潰されないように。
その意志を理解した正刻も、兵馬を「先生」と慕い、ずっと道場に通い続け、今に至る。

さて、今の試合は午前の部を締めるものであった。午前の部の最後に正刻と兵馬が試合をし、それを皆で見学するのが一連の流れとなっている。
皆が帰っていくなか、自分も着替えようかと汗を拭いていた正刻を……

「お兄ちゃーん!! またお父さんに負けちゃったねっ!! 私が慰めてあげる! よーしよしよしっ!!」
「ね、姉さんやめなよ、まー兄ぃに迷惑だよ……。」

……二人の少女が急襲した。

正刻に飛びついて頭をなでなでしているのが佐伯香月(さえき かづき)。中学3年生。その割には発達はあまり良くなく、身長も150
前後とあまり高くない。体型も、凹凸の少ないものである。しかし中々の美人で、いつも明るくきらきらとした瞳をしており、人気者であった。
髪はショートでまとめている。リボンを頭にしているが、子供っぽい香月には良く似合っていた。

もう一人が佐伯葉月(さえき はづき)。中学2年生。背は145と香月より更に小さいが、胸は中々発達している。日本人形のように
整った顔立ちをしており、姉とは違い大人しく控えめな性格をしている。しかし、良く気が利き周りのフォローをしてくれる彼女もまた人気者であった。
黒い髪をボブカットにしており、カチューシャをつけているのが印象的だ。

正刻と二人の出会いはやはり幼い頃まで遡る。幼稚園の時から大介と共に道場へと通っていた正刻は、必然的に佐伯姉妹とも知り合った。
出会った時、姉妹はまだ幼かったが、大きくなるにつれ正刻のことを兄のように慕い始め、兄弟のいなかった正刻も二人を実の妹のように可愛がった。
さらに正刻を通じて宮原姉妹とも知り合い、やはりすぐに懐き、二人を「唯衣姉」「舞衣姉」と慕うようになった。
ちなみに正刻のことは、香月は「お兄ちゃん」、葉月は「まー兄ぃ」と呼ぶ。
もっとも、成長するにつれ、二人の正刻に対する想いは「兄」に向けるものとは違ったものになってきたようだが……。

302:名無しさん@ピンキー
07/04/14 03:10:19 ZetaE63D
それはさておき。ぐりんぐりんと撫で回されながら正刻が香月に言う。
「おい香月、慰めてくれるのはまぁ良いが邪魔だ。そんなに引っ付くな。」
すると香月はニヤリ、と笑う。その表情に何か嫌な感じを覚えた正刻は香月に尋ねる。
「おい、何だその嫌な笑いは。」
「ふふふー。照れなくっても良いんだよお兄ちゃん! あは、これってやっぱり効くんだね! 凄いや舞衣姉!」
そう言うと香月はさらに正刻に引っ付いてくる。

舞衣の名前が出て更に嫌な予感がした正刻は、香月に再度尋ねる。
「おい香月、お前何を言ってるんだ? 舞衣にどんなロクでもない事教わったんだよ?」
「えへへー、本当に照れちゃって、可愛いなーお兄ちゃんは! やっぱり舞衣姉直伝の『当たってるんじゃなくて当ててるのだ攻撃』は凄いね!」
香月は正刻に引っ付く……というよりは胸を押し当ててにこにこと笑う。

正刻は思わず深い溜息をついた。
(あのバカ、本当にロクでもないことばっかり教えやがって……!)
内心で舞衣に憤慨し、会ったら即アイアンクローを食らわす事を固く心に誓うと、正刻は香月に引導を渡すべく口を開く。
「おい香月、いい加減に離れろ。大体、『当ててるのだ』って言われるまで俺は全く気づかなかったぞ。」

香月は笑顔のままぴしり、と固まる。その様子を見て少し可哀想になる正刻だったが、しかしこいつを舞衣のようにする訳にはいかない、
それが兄貴分たる自分の役目だ、と再び心を鬼にし続ける。
「大体だな、コレは舞衣や、まぁ唯衣や葉月レベルの娘がやるから効果があるのであって、お前のように断崖絶壁な娘がやっても効果は……。」
しかしそこまで言った所で正刻は言葉を切った。香月がふるふると身を震わせ始めたからだ。

(あ、ヤバ……。)
正刻は自分の説得が失敗した事を悟る。まぁ当たり前といえば当たり前だが。
きっ! と正刻を涙目で睨みつけた香月は、大音量の声を張り上げ始める。
「うわぁぁぁぁぁぁんっっっっ!!! お兄ちゃんに……お兄ちゃんに汚されたぁぁぁぁぁっっっ!!! 辱められたぁぁぁぁっっっ!!!」
正刻は、ひぃっと上擦った声をあげる。可憐な少女が「お兄ちゃん」に「汚されて」「辱められた」と大声で喚いている。
知らない人が見たら通報すること間違い無しだ。

香月は少し我侭なところがあり、自分の意にそぐわない事があると駄々をこねることがしばしばあった。成長するにつれてその悪癖は収まり
つつあったが、何故か正刻に対してはよく発動した。
何で俺にだけ……と愚痴る正刻を、唯衣や舞衣、葉月が複雑そうな目で眺めるのは、割と良く見られる光景である。

それはともかく、泣き叫ぶ香月に正刻は弱かった(誰でもそうだろうが)。すぐにさっきの発言を訂正する。
「いや香月! さっきのはその……そう! 照れ隠し! そう、照れ隠しなんだよ!」
その言葉を聞き、香月は泣き喚くのを止める。目に涙を溜めたまま、正刻を見つめてくる。
「ぐすっ……。ほ、本当……?」
「あ? ああ……ああ! 本当だ!」
正刻は半分自棄になって叫ぶ。

303:名無しさん@ピンキー
07/04/14 03:11:10 ZetaE63D
「いや本当はさ! もうお前に当てられて俺のリビド-はもう暴走寸前だったよ! とっても気持ち良かったしね! だけど年下の女の子に
 そんなにさせられただなんて恥ずかしいじゃないか! だからさっきみたいな嘘ついちゃったんだようん!」
正刻の捨て身の台詞を聞いていた香月は、段々と笑顔を浮かべ始めた。正刻が喋り終えるとその輝きは頂点に達した。
「まったくお兄ちゃんったらホント、ケダモノなんだから……。でも無理無いよね! だって私に『当てられて』るんだもんね!」
そう言って香月はまた正刻に引っ付く。それを疲れた顔で眺める正刻は、不意にもう一人も不味い状態に陥っていることに気がついた。

葉月が胸を抱いて、何やらブツブツと言っている。さっきの「唯衣や葉月レベル」あたりの発言が不味かったか、と正刻は後悔する。
「お、おい、葉月……?」
正刻が恐る恐る声をかけると、葉月は濡れたような瞳を正刻に向けた。
「まー兄ぃ……。まー兄ぃは……私の胸を『当てて』欲しいの……?」
(やっぱりスイッチが入っちまってやがる……!)
正刻は内心で歯軋りした。

葉月は基本的には大人しい娘である。しかし、人並み外れた妄想癖という困った性癖を持っていた。ふとした事で、妄想に没頭してしまうのである。
それだけならまだしも、その後少しの間、その妄想に引っ張られた性格に変わってしまうのである。具体的に言うなら、エロい妄想をすると、
普段の清楚さからは考えられない位のエロさを発揮してしまう、という事だった。
ただこれも、いつでも誰にでも発動する訳ではなく、主に正刻の発言に反応して起こるようであった。
何で俺の言うことに反応すんのかねぇ、と嘆く正刻を、唯衣や舞衣、香月が呆れたような目で眺めるのはよく見られる光景である。

それはともかく、熱い視線を自分に向けてくる葉月に対し、正刻は危険物処理斑のような気持ちで話しかける。
「と、とにかく落ち着け葉月。いいこだから、な?」
「うん分かった……。分かってるよまー兄ぃ……。まー兄ぃにだったらいくら当てても……それ以上でも……良いんだから……。」
分かってない。全く分かってない。次の手を考えている正刻に、葉月が女豹のようににじりよる。
後ろには香月、目の前には葉月。二人の吐息を感じる中、そういや酔った唯衣と舞衣にも同じような事されたっけな、と場違いな事を
現実逃避に考え始めた時……。

ぱぁんぱぁん。

小気味のよい音が二つ、響き渡った。

「はうぅー……。」
「あいたぁ……。」
「二人とも。その辺にしときなさい? 正刻君に愛想つかされても知らないわよ?」
竹刀を持った美女がそう言って笑いかける。
「助かりましたよ弥生さん……。」
正刻がほっとしたように言う。

女性の名は佐伯弥生(さえき やよい)。兵馬の妻で、香月と葉月の母である。
兵馬とは大学で知り合い、卒業後も付き合いを続け、結婚した。
兵馬は合気道の達人であるが、弥生は剣道の達人である。日曜は合気道教室が開かれているが、土曜は彼女による剣道教室が開かれている。

弥生は正刻に苦笑を返す。
「正刻君、この子達にはもっと厳しくして良いのよ? あなたはちょっと甘やかし過ぎなんだから。」
「まぁ確かに……。これじゃあ兄貴失格ですね。」
そう言って正刻は頭をかく。彼はそのまま更衣室へと向かった。


304:名無しさん@ピンキー
07/04/14 03:12:45 ZetaE63D
それを見送った後、姉妹は母に噛み付いた。
「お母さんひどいよ! お兄ちゃんは悪くないよ!」
「うん……。まー兄ぃは凄く優しいし……。悪いのは私たちだもん……。」
そう言ってくる娘達を面白そうに眺めた後、弥生は言った。
「でも良いんじゃない? 兄貴失格の方が。兄貴合格だったら、あなた達ずっと妹扱いされるわよ?」
その台詞に姉妹は固まる。その様子を見ながら弥生は更に言い放つ。
「強力なライバルも居ることだし、ね。」

強力なライバル。それは正刻の周りにいる女性達。幼馴染である宮原姉妹と、中学からずっと同じクラスだという大神鈴音である。
香月と葉月は、宮原姉妹は当然だが、鈴音とも知り合いであった。学校帰りに遭遇したこともあるし、鈴音が道場に遊びに来たこともある。
更に、鈴音の妹と香月は同じクラスであるため、色々な情報を仕入れていたのだ。

「確かにライバルは強大だよねぇ。」
腕を組んで香月は呟く。全員が美人な上に、それぞれが強力な個性を持ち、正刻を一途に想っている。一筋縄ではいかない相手達、だ。
しかし。
香月と葉月は……不敵に微笑んだ。
娘たちの様子を見て、弥生が驚いた声を上げる。
「何よあなたたち? 相手が強力なのに、随分と余裕じゃないの。」

しかし二人は首を振ってそれを否定する。
「違うよお母さん、余裕なんか無いよ。だけど……不思議だね。相手が強大だっていうのに、何故か私達は怖くないの。むしろ、何か燃えて
 きちゃうんだ。」
武道家であるお父さんとお母さんの娘だからかな、そう言って香月は笑う。
その後を葉月が受けて言う。
「私達の、『妹』っていうポジションは……確かに一歩間違うと本当にそのままになっちゃうけど、でもこの関係をまー兄ぃと結んでいる
 のは私と姉さんだけなの。この関係は、私たちとまー兄ぃを繋ぐ大切な『絆』なの。だから、私たちは敢えて『妹』としての立場から頑張
 ろう思うの。今までまー兄ぃと築いた時間は……唯衣姉や舞衣姉、鈴音さんにも負けないって信じてるから。」
その後は姉さんとの一騎打ちかな、そう言って葉月もまた笑った。

弥生はそんな二人を見つめていたが……やがて、黙って二人を抱きしめた。
「まったく……あんたたちは、本当に自慢の娘たちだわね!」
親バカであるのを自覚しつつ、弥生は言った。姉妹はくすぐったそうに笑っている。
「よし! 二人とも精一杯頑張りなさい! 骨は拾ってあげるわ!」
竹刀をかざして叫ぶ弥生、そしてうなずく佐伯姉妹。まるで一昔前のドラマのようであった。

「お、何か盛り上がってますねー。何やってるんです?」
そこへ着替えを終えた正刻が現れる。そのあまりの緊張感の無さに……三人は、思わず笑ってしまった。

「じゃ、今日はこれで。」
正刻はそう言って帰る準備をする。それに対し、香月は文句を言う。
「えー、いつもはお昼を一緒に食べてから帰ってくれるのに!」
先程のこともあり、気勢を削がれる形になってしまった。葉月も落ち込んだ顔をしている。

そんな二人の頭をわしゃわしゃとなでながら、正刻は言った。
「まぁそう言うな。今日はこれから勉強会なもんでな。代わりに来週は一日付き合ってやるから。」
その言葉に姉妹の目は輝く。
「本当に!? 嘘ついたらお仕置きだからねお兄ちゃん!!」
「今からプランを練っておかないと……。ふふ……楽しみ!」

姉妹のあまりの気合の入れように正刻はたじろく。
「えーと、お前ら、お手柔らかにな……。」
そう言って正刻は佐伯家を辞し、家へと向かった。



この後の勉強会でも正刻はまた色々とぐったりするような目に遭い、さらに次の週の日曜には佐伯姉妹に振り回されまくってまたぐったり
するのだが、それはまた別のお話。

305:名無しさん@ピンキー
07/04/14 03:14:36 ZetaE63D
以上ですー。
それと、ちょっと設定を捏造してます。合気道は基本的に試合をしないって知りませんでした……。

設定では、合気道は柔道や剣道と同じくらい普及しており、大会も行なわれています。
ルールとしてはほぼ柔道と同じです。ただ、寝技が無い点と打撃が有りなのが違う点です。

まぁアレだと思う部分はスルーでお願いしますー。ではー。


306:名無しさん@ピンキー
07/04/14 04:39:38 ZosWP1RY
よし!一番槍GJ!!!相変わらず上手いよな本当。
とりあえずこれで七人フラグたったな。

え?二人多いって?何言ってんだ?

唯衣・舞衣・鈴音・香月・葉月・亜衣・弥生で七人だろww

307:名無しさん@ピンキー
07/04/14 05:00:36 osu9tn44
GJです!妹かわいいよ妹。
さらに人間関係複雑になってるなあ。続きに期待期待。

竹刀で叩かれるのは結構痛いかも。合気道の試合は現実でも見たいな。無理だけど。

308:名無しさん@ピンキー
07/04/14 09:40:28 IDvZYX+l
>>306
そうか、二人にとっても「大介さんの息子」だもんねぇ。
特殊な感情があっても岡歯科内科。

なにはとまれ、GJ!>305

309:名無しさん@ピンキー
07/04/14 13:27:24 Jnk7Xxoa
>>307
Youtubeで塩田剛三で検索すべし。
俺は初めて見た時は目玉が飛び出るほど驚いた。

310:名無しさん@ピンキー
07/04/14 15:27:05 osu9tn44
>>309
塩田剛三の映像は見た。あれはすげぇ。
映像じゃなくて生で見たいってこと。近くに合気道の道場とかなくて技を習う機会もないから。田舎だからか?
でも教えてくれてありがとう。久しぶりに塩田先生の映像見てみるわ。

スレ違いスマソ

311:名無しさん@ピンキー
07/04/17 22:39:12 Fi1xhmw4
過疎だ保守あげ

312:名無しさん@ピンキー
07/04/17 22:53:31 FD5P+G6S
ぬお、同じことを考えていた人がいたとは。

でも一応人はいるんだな。何か雑談でもするかねぇ。

そういやキラメキ銀河商店街って少女漫画を読んだことある人っている?
何か、結構良い幼馴染話らしいんだが……。

313:名無しさん@ピンキー
07/04/17 23:06:24 23SnyMOW
キラメキ☆銀河商店街

少女漫画を読むのは吝かではないけれど、タイトルで敬遠してしまう。

314:名無しさん@ピンキー
07/04/17 23:39:49 Fi1xhmw4
内容kwsk

315:名無しさん@ピンキー
07/04/17 23:52:31 imydZGkZ
その作者だったらむしろ前作の『となりのメガネ君』がいい幼なじみっぷりだった。
あれはよかったなー。

幼なじみの両親が亡くなってから自宅に引き取られて兄弟として育ってるという。

316:名無しさん@ピンキー
07/04/18 00:04:19 zBQCz+UU
俺的には空鐘と神様家族かなぁ


317:名無しさん@ピンキー
07/04/19 19:33:56 ZBt7X25z
test

318:カナのシロ 9
07/04/19 20:39:47 ZBt7X25z
今年は冷夏だといわれているものの、やはり夏の日差しはじりじりと身を焦がす程に熱い。
業を煮やした部長の進言により部活は午前中までに切り上げられ、陸上部員達は生ける屍の如く帰路に着く。
亡者の一群にはシローも混じっていた。ふらふらと歩いていたが校門の日陰に立つ人に気がつき、足を速める。
カナが立っていた。大きな手提げ袋を持っている。中にはシローの着替えと弁当が入っているのだろう。
「シロー、お疲れ様。おばさん出かけちゃって、代わりに私がきたの。今日はもうお終い?」
「うん、こう暑いとやってられないって、部長が先生にお願いしてくれてね。僕も助かった。
 ゆうべゲームやりすぎて寝坊してさ、慌ててたからお弁当とか色々忘れてたんだよね。
 カナちゃんが持ってきてくれるなんてうれしいなぁ。ありがとう。」
言いながら手提げ袋をカナの手から取り、肩を並べて帰り始めた。途中、部活の先輩や友人達に冷やかされるが、
シローは慣れたもので、照れながらも愛想よくそれに応える。調子に乗ってカナの肩に手を廻そうとしたが
カナに小突かれた。手を繋ぐ以上のスキンシップは二人きりの時だけという暗黙のルールができていたのだ。
一方カナはそれが恥ずかしく、背を小さく丸めて歩く。デリカシーのないやつらめ、と心の中で毒づいた。

「カナちゃん、赤くなったよねー。昨日の海、暑かったし。もっと強い日焼け止めにしとけばよかったね。
 顔なんてりんごみたいだよ。それ、ヒリヒリして痛いでしょ?僕はもう慣れちゃったけどね。」
真っ黒に日焼けした腕を上げ、どうよとカナに見せつける。
「シロー君も男らしくなって。お姉さん、うれしいぞ。」
お世辞ではないのだが、冗談と受け取られたのだろう、シローはかなわないなあと苦笑する。
カナの顔が赤いのは、日焼けのためだけではない。シローの発する汗の匂いに酔っていた。男の匂いに欲情している。

着替えを持ってこなかったせいで、シローはまともに汗を拭えていない。
これではカナが嫌がるだろうと思いやや距離をとって歩いていたのだが、
それでもカナには刺激が強すぎた。下腹の奥が疼き、体が熱くなってくる。呼吸も深く大きくなった。
もう一度シローに肩を抱かれたら、シローの体に触れたなら、歯止めが効かなくなりそうだった。
人目も憚らず抱き合って唇を貪るかもしれない。そんな自分の姿を想像してさらに興奮してくる。
頭が朦朧としてきた。こんなところではしたないと思い、カナの理性が総動員される。シローとの会話を繋げつつ、
鎌倉室町江戸の歴代将軍に続き、歴代総理大臣を暗誦しアメリカ大統領を18代目まで数えた頃にようやく理性が勝った。
堤防沿いの遊歩道で子供たちが元気よく駆け回っていた。それを見ながらカナは小さくため息をつく。

「僕、先にシャワー浴びるから。またあとでね。」
「えぇっ?し、シャ、シャワー!?なんでいきなり!?」
エレベーターの中でカナは取り乱す。まだ完全に理性を取り戻せていないようだ。
離れて立っているシローは手のひらで首元をぱたぱたと扇ぎ、暑い、とジェスチャーで示す。
「だって、汗が気持ち悪い。あとで家においでよ。こないだのリターンマッチしようよ。じゃあね。」
シローが降り一人になったエレベータの中で、カナは大きく深呼吸をした。いつもより濃い、シローの残り香。
チン、と音が鳴って扉が開き、また空気が入れ替わる。

「私も、シャワー浴びよ…」
カナのショーツは、下着の用を為さない程に濡れ、溢れた液体が足首まで垂れていた。

319:カナのシロ 10
07/04/19 20:41:17 ZBt7X25z
昼食はシローの家でとった。情欲と闘っていたカナは良く覚えていないが、
帰りがけにそういう事になっていたらしい。弁当のおかずを二人で分け、足りない分はカナが作る。
子供の頃から互いの両親が留守の時には、カナがシローの面倒を見てきた。
シロー家の厨房は、カナの厨房でもあった。

馴れた動作で食器をしまう恋人の後姿を、椅子に座ったカナはじっと見つめている。
食器洗いと後片付け、これはカナの厳しい躾の賜物だ。同棲カップルってこんな感じかしらと思い、照れる。
「ごちそうさま。じゃあカナちゃん、しよっか。部屋に行こ。」
「す、する!?え、な何を…? 
 あ。そうね。」
妄想に耽っていたところを、シローの呼びかけでこっちの世界に引き戻されたカナは、椅子を蹴り
一瞬うろたえたが、すぐにここへ来たもう一つの目的を思い出す。今月のゲームの戦績は4勝3敗1戦無効。

格闘ゲームでカナが仁義にもとる行為をした、とシローから物言いがついて1戦分が棚上げにされている。
シローはここで勝って五分五分に持ち込み、次回のレースゲームで逆転勝利を狙っているのだ。
たかが息抜きでそんなに必死になることはないかと思うがシローはいつになく食い下がる。
先月の罰ゲームがそんなに堪えたのか、今度の罰ゲームはもう少し軽くしてやろうとカナは考える。

勝負は本気を出したカナの完全勝利であっさりと幕を閉じる。これで3勝5敗。逆転勝利の目は潰えた。
昨夜の特訓も無駄となり、ああー、と背後のひときわ大きなスポーツバッグにどすんと体を投げ出したシローは
心底落ち込んでいる。勝利の賞品に、カナにキスをねだるつもりだった。
「シロー、合宿はあしたから、なんだね。もう準備できた?」
「まだ。本当は明後日からなんだけど、合宿する所が遠いですから。明日出ないと間に合わないんですよー。
 荷物も重くて大変なんですよねー。」
カナに背を向けながら応える。シローは拗ねていた。敗北感だけではない。合宿が億劫で仕方ないのだ。

県内の有力な選手を集めた十日間の特別強化合宿。インターハイには出場しなかったが、顧問の強い後押しによって
シローの参加する枠が用意されていた。若いながらも各方面に強力なコネをもつあの女教師が頼もしくもあり、
恨めしくもあり、シローは複雑な気分だった。勧められてなんとなく始めた陸上だったが、続けているうちに
だんだんと楽しくなっていたし、結果が出せた時の達成感が良い。そして恋人の応援がなによりも励みになった。
しかし合宿は別だ。シローは陸上選手を目指している訳ではない。たかが部活にそこまでする程の価値はあるのかと思う。
往復合わせて十二日も我が家に帰れないのは初めてのことで、不安がある。そして、

「僕さ、これだけ長いことカナちゃんの顔をみれなくなるのって初めてなんだよね。こわいっていうか、
 寂しいっていうか。緊急時以外は電話もだめなんだって。そう考えると合宿、イヤだな、行きたくないなーって。」

320:カナのシロ 11
07/04/19 20:42:27 ZBt7X25z
以前のカナならば、子供のような駄々をこねるシローを叱っていたところだろうが、今は。
会えなくて寂しいなどとしおらしい事を言う恋人を愛しく、それを言わせた自分を誇らしく思った。
先ほどと違い、下腹の奥ではなく胸の奥が熱くなる。心と心が繋がっているという充実感に満たされる。
シローを後ろから抱き締め、優しく手を握る。恋人のように姉のように。行っておいでと耳元で囁き、
頬に口づけをする。シローは体を硬直させ、黙って頷く。
「帰ったら美味しい物、食べさせてあげる。そうだ、夏祭り。去年は行けなかったから、
 今年は一緒に行こうね。浴衣着て、夜店廻って、たこやき食べて…ね?」
「うん。なんかやる気出てきた。合宿なんてあっという間だよね。浴衣姿のカナちゃん、きれいだろうなあ。」
目の前にニンジンを提げられて走る馬の心境が、シローには理解できた。

家を辞する際、カナはシローの着替えの洗濯を申し出た。シローは汚いよと拒んだが、早く洗わなければ
もっと汚いと言われ、ユニフォームだけを渋々差し出す。靴下と下着は自分でやるからと固く断った。
「じゃあ、洗ったら、おばさんに渡しておくから。シロー、頑張ってね。」
ありがとう、大好きだよ。とシローの方からカナの頬にキスをする。
今度はカナが体を硬くさせ、顔を真っ赤にしながら何度も頷いた。

カナはベッドに寝転がり天井を見つめている。シローが合宿に行って二日目が経っていた。
朝から雨が降っていたので、夏期講習は自主休講している。サボりなんて初めて。と自嘲する。
シローが抱いていた不安はカナも同じく感じていた。あと十日。長すぎると思った。
格好をつけて行ってこいと言ったものの、いっそ泣きじゃくって引き止めた方がよかったのかとも考える。
そっと頬に触れる。シローに口づけされたところを人差し指と中指で撫でた。

321:名無しさん@ピンキー
07/04/19 20:47:56 ZBt7X25z
ここまでかいた。

322:名無しさん@ピンキー
07/04/19 22:13:53 SURPdYWx
GJです!
合宿から帰ってきたシローとカナが、獣のようにまぐわりあう展開を期待してます!!

323:名無しさん@ピンキー
07/04/19 22:19:35 CkDlZPhI
wktk!wktk!
体育座りで続きを待ちます。いつでも、いつまでも待ちます。

324:名無しさん@ピンキー
07/04/19 23:58:02 ug3r1gbv
もどかしいがそれがイイ

325:名無しさん@ピンキー
07/04/20 00:38:37 mY/LWhv/
>>322
獣のように…そのフレーズいただき!
エロくなるようにがんばる。

326:名無しさん@ピンキー
07/04/20 21:50:59 Labaw0DM
エロいのは1レス分が限界ぽい。
がんばらないと。

327:カナのシロ 12
07/04/20 21:51:37 Labaw0DM
その指を口につけ、二度三度と唇をなぞる。ついばみ、咥え、押し付け、キスをするように。
今度は舌を伸ばし舐め始める。口の中に含み、念入りに唾液を絡ませ、そして吸う。
この指がシローの唇だったなら、と思うとたまらなく切なくなる。
指は自然とアゴをなぞり、首筋を経て、寝巻きの中の乳房に辿りつく。
「ぅん…シロー…そこは…だめ…」
二本の指は乳首を挟み交互に擦りはじめる。先を爪で軽く引っかく。体が小さく波打った。
カナの中のシローは乳首を甘噛みし、尖端の割れ目を舐め回している。もう一度、キス。

“唇”はショーツの中に侵入してくる。今日のシローはせっかちね。と思った。
カナは身体を反してうつ伏せにになり、膝を立て尻を高く上げる。“唇”に恥丘を弄られながら、片手で
もどかしく動かしながら性器を露わにしてゆく。今日はショーツに染みをつける前に脱ぐことができた。
身体を動かす度に、日焼けした肌が衣服で擦れて痛むが、それさえも快感にすげ替わるような気さえしてくる。
「そんなところ、はずかしいから、なめ、ないで…あんっ!」
思わず大きな声を上げてしまった。枕の下から、シローより強奪してきたユニフォームを取り出す。
声が漏れないようにその裾を噛み、大きく息を吸い込む。洗剤の匂いがする。

あの日、シローの家から帰るとすぐに自慰を始めた。
ユニフォームに顔を埋め、匂いを嗅ぎ口に含み、舐め回し、抱きしめ股間にすりつけまた匂いをかぎ、
それを繰り返し、全身を使って貪る。その日、カナの中のシローは獣の如く乱暴に、何度もカナを犯した。
自慰の果てに気をやったのは初めてだった。
唾液と愛液塗れにしてしまったシローの置き土産を、自己嫌悪に苛まれつつ洗濯したのは夜中のことだ。

記憶に残ったシローの匂いを反芻するように、鼻を鳴らして、ユニフォームへ顔をつけた。
指は陰唇を割り、膣口の周りを撫でる。愛液が、指で掻きださなくとも溢れ長い太腿を伝う。
シーツに染みをつけないよう片手にはティッシュペーパーを持ち、あふれたそれを手早く拭きとってゆく。
乾いた紙が腿の内側に触れるだけで背筋が伸びる。しかしそれも一瞬。ティッシュはすぐに水分を含んだ
重い塊へと成れ果ててしまう。
(いやだ…もうこんなに使ってる…)
ティッシュの箱を膝元まで寄せその動作を数回反復させる。
前にかかる体重を、首だけで支えるのが辛くなってきた。両足を開き重心を移動し、いくらか楽になった。
顔を動かし時計を見ると、正午が近い。

カナの理性が、このはしたない行為を早く済ませろと抗議を始めた。指の、いやシローの“唇”の動きが速まる。
(ここ、は…はじめてだからやさ、しく…)
“唇”がクリトリスを摘み、皮を剥き、恐る恐る触れ、さする。
痛く、こそばゆく、淫らで心地よい感覚。初めての刺激に、カナは軽く昇りつめた。
下半身が痙攣し、ぎゅっとつま先を丸める。身体が震え、あはっと息が漏れる。ほんの一瞬だが、意識が飛んだ。
(シロー、シロー。早く、はやく帰ってきてね。私、このままじゃ、おかしくなりそう。)
わずかの間余韻に浸ったあと、起き上がり自慰の後始末を始める。

「勉強、しなきゃ。シローの分の、ノートもつくらないと。」
気だるげにカナが机に向かったと同時に母親から、昼食ができたわよと呼ばれた。
短く返事をし、部屋を出る。いつものカナに戻っていた。


328:カナのシロ 13
07/04/20 21:52:30 Labaw0DM


「えぇー!?ちゅーもまだって、ありえない!何よソレつまんない!」
「今日びブラトニックラブなんて、小説じゃないんだから。」
「夏休みなのに、なーにもしてないって、なーにやってんのよ!」
「ちょ、ちょっと。声が大きいわよ、外に聞こえちゃうじゃない…」
夏期講習の息抜きにとカラオケに誘われたカナは、三人の女子生徒から歌そっちのけで突き上げを食らっていた。
声が外へ漏れにくいカラオケボックスは、年頃の女性たちの憩いの場、そして密談の場として重宝されている。
カナもたびたび参加しては、女子同士のぶっちゃけた会話とBGM代わりに歌う流行歌を楽しんでいた。
今日の誘いも二つ返事で了解したのだが、議題がシローとの交際経過報告だと判った時には、カバンを放り出し
この場から逃げ出そうかと思った。渋々ながらもこれまでの事を話すと、この有り様である。
「なにもしてない訳じゃ、ないわ。毎日会ってるしデ、デートもしてる。映画館ではずっと手を握り合ってたもの。
 ほら、先週はみんなで海に行ったじゃない。私その次の日、シローのほっぺたにキスしたんだから。」
カナは三人の態度にムキになっている。

「カナさん、それじゃダメだよー。そんなの小学生でもできるじゃーん。なんで唇にちゅーしないのよーもー!」
元気のいい茶髪の少女はまるで自分の事のように悔しがる。外見も態度も子供っぽさが抜けていない。
精神年齢もシローと近いのか、よく二人で冗談を言い合っている。カナの次にシローと仲の良い女子はこの茶髪だろう。
カナと席が近く、色々と話をしている内に仲が良くなった親友で、今回の密談会の発起人は彼女だ。

「シロー君は見た目通り奥手なのね。ああいうタイプはこっちからリードしなきゃいけないのよ。
 私がシロー君に告白されていたら、その日にキスどころか最後までシてあげたのに。ざーんねん。」
細い銀縁眼鏡が似合いすぎる美女は隣のクラスなのだが、茶髪とは長年のつきあいで、それが縁となりカナ達と
親しくしている。長い髪をさらりとかきあげながら、メガネは恐ろしい事を言う。実際、彼女はそれを易々と実行できる
魅力と行動力を持っている。校内で人気投票を行えば、一年生の部は男子ならシロー、女子ならこのメガネが
トップになる事は間違いない。シローがメガネに手をつけられなかった事をカナは神に感謝した。メガネは続けて言う。

「女と男が心だけで繋がっていられるなんて嘘よ。男を自分だけのモノにしたいなら身体に言い聞かせるのが一番なの。
 カナは背も高くてスタイルもいいんだから、それを武器にしてシロー君を押し倒すくらいの勢いがないとね。
 あなた達付き合い始めてもう二ヶ月になるんだからとっくにシてるかと思ってたのに。」
年上の“下僕”がいる高校一年生は言う事が過激だ。

「そ、そんなっ、シローはそういうコじゃ…それに、まだ二ヶ月と十日よ。私達は健全な交際を…」
「シロー君はもてるんだから、そんな奇麗事言ってるうちに泥棒猫に寝取られちゃうぞー?」
カナの言葉を遮り、茶髪は意地悪そうに言う。泥棒猫とはクラス委員長の事を指しているのだろう。
シローに対して委員長が積極的にアプローチを仕掛けていたのはクラスの誰もが知っていた。

それを敏感に察知した委員長はなーによ、と唇を尖らせるが、やおら立ち上がり胸をはった。
「あたしはもうシロー君に未練はないよ。だってあたし、彼氏いるもん。えっちもしてるし。」
委員長の宣言に三人とも同じタイミングで、マジか!?と聞き返していた。

329:カナのシロ 14
07/04/20 21:53:26 Labaw0DM
「そうよ。相手はほら、海に行った時にシロー君と一緒に来てたアイツ。終業式の日から付き合い始めたの。
 意外といいヤツでさ。付き合いだしてから解る良さ?っていうのかな。アイツには全部あげられるっていうかー」
人が変わったようにでれでれと身をくねらせはじめた委員長ののろけ話に三人は呆然としている。
委員長のいう彼氏とは、彼女には悪いが、シローと較べれば月とスッポンの冴えない男子だった。
「…でね、最初はね、適当に付き合ってすぐに振ってやるつもりだったんだけど、その、いろいろあってさ…って、
 今回の議題はあたしじゃなくてカナさんとシロー君でしょ!」
一通りのろけた後正気に返り、彼女はクラス委員長らしい態度で場を仕切り始めた。
「はい!カナさん!あたしもね、そこの淫乱メガネとは同意見。元ライバルとして、もうぶっちゃけて聞くけどさ。
 あんたは、シロー君とえっちしたいの?したくないの?」
メガネが淫乱とは何よと抗議するが、委員長はそれを制して、呆気にとられていたカナに詰め寄る。

「したい…です。ホントは。キスだけじゃなくてその先も。いつも考えてます。でもシローに、私がそんな事ばかり
 考えてるって知られるの、怖い、んです。…がっかりされるんじゃ、嫌われるんじゃ、ないかって思うとっ。」
委員長の剣幕に呑まれて正直に答えてしまう。しかも敬語で。話しているうちにカナは感極まって涙声になっていた。
部屋が静まり返る。どこのボックスからか、下手糞な歌声が聞こえて気まずさに拍車がかかる。
「カナさんて意外と子供ねー。そんな事で嫌われるわけないよーきっと、シロー君も同じ事考えてるよよよょょ」
沈黙を破ったのは茶髪だった。マイクごしに喋ったので語尾の残響音が外まで漏れる。
カナたちはその声色がおかしくて一斉に笑い転げる。

「そう、なのかな。シローもそんな事考えてるのかな?」
「当然じゃないの。男は皆スケベ。もちろん女も…ね。」
メガネは男を誘うように、豊かな肢体をくねらせてソファに寝そべる。髪の毛一本の流れまで計算されている
蟲惑的な動きに、三人は思わず顔を赤くしてしまう。カナもこれくらいできなきゃね、と微笑んだ。
「だってさ、海に行ったあの日シロー君、カナさんの水着姿に見とれてたじゃない。なんか目つきもいやらしかったし。
 あれはオオカミの眼だったね。あたしはその晩に、あんたらはやっちゃったと思ったんだけど。」
それはあなた達の事でしょうとメガネが委員長に、さっきの仕返しとばかりにちゃちゃを入れる。
「あーもう、話を混ぜ返さないで。…ええそうよ、その日は朝までよ。文句ある?」
「わ、いいんちょもオトナだねー。夏なんだねー。三人ともいいなぁ、わたしもカレシ欲しくなったなー。」
「私の知り合いでよければ、紹介してもいいけど、どうかしら?でもあなたにはちょっと早いかもね。」

「ねえ、委員長…あの、初めての時は痛いって聞くけど、本当…?」
「ん、ああ。最初はとても痛かったね。まあ慣れてくるよ。さすがのあんたもそうだったでしょ?」
委員長も女になったのは最近なのだが、彼女は遠い目をして語り、メガネに水を向ける。
「私は最初だけだったわ、我慢できない程じゃなかったけど。でもそれは人によると思うわ。
 相手のサイズもあるんだし。そうだ、シロー君のは大きそうだからカナは覚悟した方がいいかもね。」
「もー脅かしちゃだめだよー。カナさんはシローくんの事大好きなんだから、そんなのきっと平気だよ。ね!」
メガネの脅しにたじろぐが、茶髪がフォローに入り、カナを励ました。

「やーね。さっきまで健全な交際とか言ってたのにさ。やっぱひと皮剥けばみんなえっちなのよね。 
 えっちなカナさんの、この胸がこの胸がもうすぐシロー君の物になるのか!」
委員長が両手を蠢かせてカナの胸を揉む仕草をする。この娘は言動がいちいち親父くさい。

330:カナのシロ 15
07/04/20 21:55:24 Labaw0DM
メガネと委員長の、見事に息の合ったデュエットに聴き惚れていると茶髪が話し掛けてきた。
「ごめんね。シロー君がいなくて、カナさん寂しいだろうと思って誘ったんだけど、こんなのになっちゃって。
 でもわたし達、悪気があったわけじゃなくて…」
目を伏せて申し訳なさそうにする茶髪の頭を、何も言わずに撫でる。柔らかい髪の感触が心地よい。
ありがとうっと顔を綻ばせた茶髪が抱きついてきた。曲が終り、カナの歌う順番が回ってきた。
茶髪を誘い二人で、演歌をこぶし付きで熱唱する。
カナ達がカラオケボックスを出たのは八時を過ぎた頃だった。
普段は喧騒に包まれる商店街も、この時間帯になると人通りはまばらになる。
店のシャッターが下ろされ静まりかえった商店街はまるで別世界のように新鮮に映り、カナ達は探検隊気分で歩く。

「じゃ、わたし達はここから別働隊ー。隊長、また明日ねー。」
店が途切れたところで茶髪とメガネが別れる。茶髪が委員長に敬礼をした。探検隊ごっこのつもりらしい。
「カナ、これ。持っておきなさい。」
メガネが小さな袋を渡してくる。なんだと思い中を覗くと可愛らしい包装をされたコンドームが入っていた。
「こっこんなの!ちょっと、何を、返す。い、いらない!」
見た事はあるが、まさか自分が手にするなど思ってもいなかった。
「ダーメ。一応の、ね。シロー君のサイズに合えばいいんだけど。持っていればいつでもできるって思うと、
 気分も楽になるでしょ。これは女のお守りよ。」
ありがたい物ではないが、嬉しい心配りに礼を言い、袋をカバンの奥にしまう。

談笑をしながら離れていく別働隊を見送り委員長と歩きだす。シローは全く、完全に意識すらしていなかったのだが
カナと委員長は形式上シローを取り合った間柄だ。会話の糸口がみつからず、正直、気まずい。
「カーナさん!シロー君の事、考えていたね?妬けちゃうなーもう。」
委員長が首に腕を回し、重って来た。20センチ程の身長差があるので、よろけたカナは大きく身を屈めた姿勢になる。
「火照った体をもてあましたカナさんに、コレあげる。無修正ものとか、色々あるから。
 パソコン持ってたよね?いとしのシロー君が帰って来るまで、使いなさいコレおかずに使っちゃいなさい!」
バッグから数枚のディスクを取り出し、カナのカバンに無理矢理突っ込む。
正体を聞けば、委員長の彼氏が秘蔵していた猥褻な動画を集めたDVDだという。
「あたしがいるんだから、アイツにはもう必要ないでしょ。だから全部巻き上げてやったの。
 ま、中身は一見の価値ありね。参考になるよ。いろいろとねー。」
鬼嫁がいたずらっぽく笑い、聞いてもいないのにDVDの中身を語りだした。やがて委員長自身の話も混じりだす。

委員長の話は、カナには刺激というか衝撃が強すぎた。時には道具を用い、手を口を体中を使って相手を自分を悦ばせる。
愛や恋という感情ではなく、快楽と欲を追究する、肉体の為の性交。言葉の端から窺える委員長の性体験に較べれば
カナの自慰など児戯に等しい。シローも、こういう事を望んでいるのだろうか。自分は悦ばせる事ができるだろうか
聞いているうちに頭がクラクラしてきた。
「なーに想像してんのよ、むっつりスケベ!カナさんはシロー君とラブラブだしねー。もう辛抱たまらんってかー?」
勢いよく背中を叩かれたカナはゴホゴホと咳をする。見知らぬ人間にされたなら問答無用で殴り倒していたが
委員長に悪意はない。彼女なりの親愛表現なのだ。
「…体で繋がってないと、不安なのよ。えっちして、アイツと気持ちよくなっていないと、シロー君のこと…」
咳き込んでいるカナの後ろで、委員長は何かを言いかけ下唇を噛みしめた。

331:名無しさん@ピンキー
07/04/20 21:58:36 Labaw0DM
ここまでかいてた。

332:名無しさん@ピンキー
07/04/20 22:03:51 Labaw0DM
シロー帰ってくるまでオナニー三昧なのはかわいそうだから友達つくった。
姦しい三人娘特に委員長はどっかで書きたい。

333:名無しさん@ピンキー
07/04/20 22:20:59 2XL2m1c7
おお、早速続きが! GJです!

ただ、時系列がどうなってるのかちと分からんです……。8では、もうやりやりですよね?
これからそうなっていくのでしょうか? 出来ればどういう流れになっているか説明して下さると有難いです!
何にせよ、続きを期待してますよ! 頑張ってください!

334:名無しさん@ピンキー
07/04/20 23:07:53 Labaw0DM
わかりにくくてほんとごめん。

小学生シローカナに一目惚れ → 二人しょぼい中学生活 → 中学カナに弟扱いされて(´・ω・` ) → シロー愛の力で高校合格 →

シロー高校で部活始める → シローモテる → カナ勝手に嫉妬色気づく → カナ成績落としたシローに下心ミエミエ個人レッスン →

色気づくカナに勘違いシロー慌てて告白 → カップル誕生 → (期末試験→ 終業式→ 夏休み突入→ デートとか海とか省略)

→ シロー合宿行く → 待ち切れないカナオナる → (友達とカラオケ行っておかずget軽くオナる・これ追加)いまここ → シロー帰ってくる

→ シロー発情カナに犯される →(犯された後が8 →)俺達の戦いはこれからだ!車田先生の次回作にご期待ください

こんな感じのを考えてた。
最初はさっさとカナにちんこまんこ言わせて終わるつもりだったけどこのスレ読んでるうちに、エッチさせるまでの経過も書きたくなった。
他の話読んで書き方の研究してくる。

335:名無しさん@ピンキー
07/04/21 02:09:43 C1ec3pKs
打ち切りはアカンだろwwwwwwwwwwwwwwww

336:名無しさん@ピンキー
07/04/21 02:16:36 6OCE6i0k
男坂かよwwwwww
未完でいいから続きお願いしますwwwww

337:名無しさん@ピンキー
07/04/21 12:39:33 fJeuShsA
車田御大も良いけど、どうせなら故・ケン・イシカワ先生のように壮大過ぎて結局宇宙にいっちゃうぐらいに突き抜けた
ものを期待してるぜ!!

338:Sunday
07/04/22 22:51:38 um8QoTBM


 どこにいたのか、何をしていたのか。

 一体いつから、いつの間にこんなところにいるのだろう。

 彼に抱きしめられるように眠ったはずなのに、紗枝は何もない空間を歩き続けていた。
その意識は、まどろみの中を漂っている。ただぼやけていただけの視界はやがて形を成し、
見慣れた情景をかたどっていく。

 形となったのは、黄昏時の河川敷。

 その坂の上を通るあぜ道を、彼女はいつの間にか歩いていた。

 そういえば崇兄に一度振られた時も、周りの様子はこんな感じだった気がする。そんな
悲しいだけだった思い出にも、今では懐かしさすら覚えてしまう。あの出来事も、いつかは
笑い話として語ることが出来るような気がした。

「ひっく……ひぅ…」

 ふと前を向くと、小さな女の子が目をこすりながら泣きじゃくっている。年はまだ四、五歳
くらいだろうか。大人しそうな印象とは裏腹に、身につけている白いワンピースのあちこちを、
泥や土で汚してしまっている。

「どうしたの?」
 こんな年端もいかない子供がこんな時間に一人きりなら、さぞかし寂しいに違いない。
迷子なのだろうと分かっていながらも、しゃがみこんで声をかける。
「……おいてかれたの」
 すんすんと泣きじゃくりながら、女の子は呟く。周りには誰もおらず、ひどく心細かった
のだろう。
「そっか……家の場所分かる?」
「……」
 無理だろうと思いながら聞いてみたが、案の定首をぶんぶんと横に振られてしまう。
交番は遠いが、家の場所が分からないのであればそこ以外に連れて行く場所も思い当たらない。
まさか、自分の家に連れて行くわけにもいかないわけで。
「じゃあ、おまわりさんのところに行こっか」
「……」
「ね?」
 不安げに見つめ返されるが、ニコッと笑い返すと、女の子はおずおずと手を伸ばしてきた。
差し出されたそれを握り返すと、女の子の歩調に合わせて、またゆっくりと歩き始める――


「そっか、酷いお兄ちゃんだね」
「……」
 手を繋ぎながら、紗枝は呟く。
 女の子がなかなか口を開いてくれず、事情を知るのはなかなか難儀だった。簡潔に
言ってしまえば、一緒に遊んでいた男の子と、家路につく途中ではぐれてしまったらしい。
「ち、ちがうの…お兄ちゃんはひどくないの。わるいのは…ちゃんとついていかなかった
あたしなの」
 普段からあまり口を開かない子なのだろう。どうにも口調がたどたどしい。
「そう、ごめんね」
 泣きそうな顔になる女の子をあやすように、素直に謝る。この子にとって、そのお兄ちゃんは
とても大切な存在らしい。あまりに可愛らしいその仕草言葉に、思わず微笑んでしまう。

「お兄ちゃんのこと、大好きなんだ」
「……」
 女の子は、思いきり顔を縦に振る。だけど置いていかれた寂しさからか、表情は冴えない。
「どんなところが好きなの?」
「……」
「……そっか」

339:Sunday
07/04/22 22:53:45 um8QoTBM

 今度はぶんぶんと、思いきり横に振る。その理由は、女の子自身も分からないのだろう。
分からないけど、「好き」なのだ。

「お姉ちゃんは…いるの?」
「ん?」
「…すきな人」
 聞かれて少し逡巡する。言うにしても、ちょっとは躊躇ってしまう質問だし、何より
この大人しそうな娘にそんなことを聞かれるとは思っていなかった。

「いるよ」

 だけど次の瞬間には、そう口走っていた。こんな小さな子にのろけるなんて、我ながら
おかしいと思う。
「その人は…お姉ちゃんのことすきなの?」
 弱々しいながらも、しっかりと視線を向けられる。似たような形の瞳で、それをやんわりと
見つめ返す。
「……ずっと言ってくれなかったんだけどね。この前大好きだって言ってもらえたよ」
「そっか…」
 しょんぼりとうなだれる女の子を見て、大人気なかったかなと直後に感じてしまう。
だけど言ってもらえた時は、それくらい嬉しかったのだ。それくらい、気持ち想い全てが
あの瞬間に爆ぜたのだ。

「いいなぁ……」

 いかにも羨ましいといった声に、微笑みと苦笑が入れ替わる。そのお兄ちゃんに、
既にしっかりと大事にされてるってことには、まだ気付くことが出来ていないらしい。
「でも、あたしも頑張ったから」
「……そうなの?」
「うん、どうしても好きになってもらいたくて、その人が好きな性格になろうとしたり、
褒めてもらった髪型をずっとそのままにしたりね」
 大したことじゃないんだけどね、と付け加えてはにかんでみせる。横から降り注いでくる
オレンジ色の太陽の光が、どうにも眩しい。

「じゃあ…あたしもがんばれば、お兄ちゃんもあたしのこと……みてくれるのかな…」

 そう言うと、女の子は顔を真っ赤にして俯いてしまった。「お兄ちゃん」なんて呼んで
しまっているけど、ほんとは一人の女の子として見てもらいたいのだろう。その気持ちは、
痛いほどによく分かる。紗枝自身も、ずっと、ずっと矛盾した想いと戦い続けてきたのだから。

「ずっと…好きでいられればね。きっと見てもらえるよ」

「……うん」
 すると、女の子はそこで初めて口元に笑みを浮かべる。綻んだその表情は、とっても
可愛らしい。

「でもそれだけじゃ大変だよ? ちゃんと繋ぎ止めておかないと、お兄ちゃん他の娘の
ところに行っちゃうよ?」
「え……」
 くれぐれも油断しないように注意をつけ加えると、途端に浮かんでいた笑みは消え去って、
今にも泣き出しそうになる。
 かわいそうなことしたかなとも思うが、望んだ未来を手に入れるためには、想いだけじゃ
足りないのだ。彼の不条理な行動に耐えるために必要な強さも、ちゃんと手に入れてないと
いけないのだ。

「どう…どうしたらいいの……?」
「ん?」
「どうしたら…お兄ちゃん、ほかの女の子のところに行かなくなるの……?」
「そうだね…」


340:Sunday
07/04/22 22:55:50 um8QoTBM

 少しだけ考え込む。どう行動したら、もっと早く彼に異性として意識されていたか。
どんな態度で接していれば、もっと早く彼と両想いになれていたか。

「もっと素直になって…もっとワガママになって……それで一番大事なのは、もっと勇気を
持つことじゃないかな」
 考えぬいた結果、あの時の自分の心の中には無かったものを、彼女は探り当て言葉にこめる。
沈みかけた太陽はなかなか傾いていかず、地平線から半月状の姿を晒している。

「素直になれないと誤解を生んじゃうことがあるし、ワガママになれないと大事な時に
引いちゃうし、それに……勇気を持てなきゃいつまで経っても関係は変わらないままだからね」
 
 少し難しい言葉を使ってしまったから、理解してもらえないかもしれない。実際に、
女の子は何も言わずじっと見つめてくるものの、その瞳には戸惑いの色が浮かんでいる。
顔を傾け思案に暮れるものの、それが晴れる様子は一向に訪れない。
「今は分かんなくても、覚えていればそのうち分かるよ」
 頭の上にぽすんと手を置いて、ゆっくり撫でる。猫のように顔をむず痒そうに歪める
女の子の表情に、たまらず微笑みを零してしまうのだった。

 そういえば、彼にはもう随分としてもらっていない。仕方ないこととはいえ、そうされるのが
嫌いじゃなかっただけに、それが少しだけ寂しかった。

「さえーっ!」

 すると突然、背後から大きな声をかけられる。二人が同時に振り返りその目に映ったのは、
いかにも活発そうな少年と、自転車にまたがった彼女の彼が、こっちに向かって駆けてくる
ところだった。


 とくんと一つ、音が跳ねる。


 追いかけてくる青年と少年の姿に、紗枝は軽く目を見張り、女の子はくしゃりと顔を
歪めてしまう――





 どこにいたのか、何をしていたのか。

 一体いつから、いつの間にかこんなところにいるのだろう。

 彼女を抱きしめるように眠ったはずなのに、崇之は何もない空間を歩き続けていた。
その意識は、まどろみの中を漂っている。ただぼやけていただけの視界はやがて形を成し、
見慣れた情景をかたどっていく。

 形となったのは、駅前のスクランブル交差点。

 それなりに人ごみで溢れかえっているのに、彼は何故か見覚えの無い自転車を手でカラカラと
押し続けている。それが自分でもよく分からない。まあ折角あるのだから、人ごみを抜けたら
このまま漕いで家に帰るとしよう。
 ふと、駅前の様子をぐるりと見渡す。一度彼女との関係が終わって久々に顔を合わせたのも、
正直に向き合って初めて秘め事を交わしたのもこの場所だった。あれからまだ半年も経って
いないのに、なんだかひどく懐かしい。それなりに辛い思い出だったはずなのに、思い起こせば、
ついつい頬と口元が緩んでしまうのはどうしてなのだろう。
 時間はそろそろ夕餉時で、太陽は赤く焼け落ちようとしている。そういえば随分と腹が
減った。早く家に帰って何か食いたい。


341:Sunday
07/04/22 22:57:37 um8QoTBM

「はぁ…はぁ…はぁっ……」
 と、ふいに激しく息を切らす声が耳に届いてくる。その方向に顔を何気なく向けてみると、
野球帽を被った小学三年生くらい男の子が、膝に手をつき肩で息をしているのが視界に
飛び込んできた。
「はぁ…はぁ……どこにいるんだよ…っ」
 どうやら人を探しているらしい。再び走り出そうとするものの、もはや身体が限界なのか
のろのろと歩を進めるので精一杯のようだ。

「おい」

 思わず声をかけてしまう。普段なら、こんな小さな男のに声を掛けるなんてことは絶対に
しないのに。自分の行動に疑問を抱いてしまうものの、彼はそのまま言葉を続ける。
「誰を探してんだ?」
「はぁ…はぁ……」
 自分に声をかけられていることに気付かないのか、それともそんな余裕が無いのか。
少年は息も絶え絶えに歩みを進めていく。

「……お前に言ってんだがよ」
「うぉわっ!?」
 それでも無視されたことに変わりはない。そのことに少しだけ腹を立てながら、男の子の
野球帽を掠め取る。
「なにすんだ!」
「てめーが人の話聞かねーからだ」
 盗んだ帽子を人差し指の先に引っ掛け、くるくると回し始める。この男、本当に大人げない。

「女の子さがしてんだよ! 早くかえせよう!」
「途中で置いてきたのかよ、酷い彼氏だな」
「あいつが遅いのがわるいんだ。それに彼女じゃねえ、どっちかっていうと妹だ」
「あー? なんだそりゃ」
 答えを返され、弄んでいた帽子を素直に男の子の頭に被せ直し、会話を重ねながらその後を
ついていく。というより、たまたま家路と同じ方角なだけなのだが。

「向かいの家にすんでる小さい女の子なんだ。俺がいないと何にもできないやつだから、
早くさがしてやらないと……」
「はー……なるほどね」
 適当な相槌を打ちながらも、眉間に皺を走らせ深く長く溜息をつく。そういうことか、
まったく面倒臭い話だ。
「つーかなんでついてくんだよ、あっち行けよう」
「あのな、家がこっちなんだよ」
 男の子の方はこれ以上付き合いたくないらしく、減らず口を叩きながら段々早足になっていく。
しかし、所詮は子供の歩幅である。大した差がつくはずもない。

「なんだよう、気持ちわりーなぁ」
「まあそう言うなって。どうだ? なんなら後ろに乗っけてその子探すの手伝ってやるぞ?」
 もう自分の行動に疑問を抱くこともない。人の波も少なくなり、ゆっくりとサドルにまたがると、
その場にカラカラと車輪の回る音が響き始める。
「マジか! いいのか!?」
 するとそれまでの邪険ぶりはどこへやら、男の子は途端に顔をパッと顔を輝かせる。
口では何だかんだ言っておきながら、体力的にはもう限界だったらしい。

「わざわざそんな嘘つかねーよ面倒臭え」
「そっか! じゃあ早くうしろにのせろ!」
「『乗せて下さい』だ馬鹿野郎」
 たしなめている間に、男の子は既に後部座席に座り込む。随分と無礼な行為なのだが、
やっぱりどことなく親近感を覚えてしまう。
「んじゃしっかり掴まってるんだぞ、落ちても拾わねーからな」
「おう。……でも、もうどこをさがせばいいかわかんないんだよな、いつはぐれたかも
おぼえてないし」


342:Sunday
07/04/22 22:59:33 um8QoTBM

「……とりあえず河川敷行ってみるか。どうせいつもそこで遊んでんだろ?」
「なんでわかるんだ!?」
「勘だよ勘。んじゃ行くぞ」
 分かりきっていたことだから、大して偉ぶることもない。男の子の当然の疑問にも、
適当に受け流す。

チリンチリーン

 ベルを鳴らして、崇之はまた強くペダルを踏みしめだす。それに連動して、自転車は徐々に
スピードが速まっていく。
 吹きつけてくる風と赤く染まった夕日を顔に受け、行き慣れた河川敷への道を、二人は
ゆっくりとたどり始めるのだった――




「だからさー、もうカンベンしてもらいたいんだよなー」
 河川敷へ向かう道中、男の子はずっと喋り続けていた。内容はというと、はぐれてしまった
女の子への愚痴不満である。面倒を見てやってるのに更にやっかい事を増やされてしまった
ことに、どうやら我慢がならなかったらしい。
 崇之はそれを半分聞き流し、適当に相槌を打っている。ちゃんと聞いていなくても、その内容が
ほとんど分かっているからだ。
「こまったらすぐ泣きわめくし。毎回俺がなぐさめてんだぜー?」
「はっは、そりゃ大変だな」
 言いたいことは分かるし、共感も出来る。でもそれが、言葉そのままの真っ正面な本心で
ないことも分かっていた。

「ほんとジャマなんだよなー、ついて来られるとうっとおしいし友達にからかわれるし」

「ほー……」

 だから心にもないことを言ってきたなら、それもすぐに分かってしまうのだ。

「本当は凄く大事にしたいくせによく言うぜ」
「なっ」
「図星だろう」
「ふっ、ふざけたこと言うなよ!」
 本心をずばり突っ込んでみれば、案の定取り乱す。昔こんな時代があったのかと思うと、
どうにも鼻で笑いたくなってしまう。

「隣からいなくなって、それでようやく色々気付くようじゃ…本当は駄目なんだぞ」

「……なんだよ、それ」
「はははさあな」
 それが皮肉であり惚気であることに、男の子は当然気付かない。

 そうこうしているうちに、目的地まですぐの地点までやって来る。橋の袂にある舗装されて
ない脇道が、河川敷の坂の上を通るあぜ道だ。
 車体をガタつかせながら車輪を転がしていくと、やがて前方に人影が見え始める。
目を凝らしてみると、高校生くらいの女の子と小さな女の子が、手を繋いでゆっくりと
歩いている姿のようだ。
「あ! あのちっちゃい方がそうだ!」
(紗枝じゃねーか、何やってんだあいつ)

 心の声と耳に届いた声が重なる。

「おい、おろしてくれ!」
「『降ろしてください』、だろ」


343:Sunday
07/04/22 23:01:11 um8QoTBM

 その口汚さを注意しながらも、崇之はゆっくりと自転車の速度を落としていく。
 気が逸ったのか余程心配していたのか、男の子は止まりきらないうちにそこから飛び降りる。
体勢を大きく崩しながらも脚をしかと前へと踏み出し、声を大きく張り上げる。


「さえー!」


 その声に弾かれるように二人は振り向く。少女の方は今にも泣き出しそうに顔を歪め、
紗枝の方は声を発した少年ではなく、崇之の方を向いて目を見張らせた。

「ふぇ…っ」
「……っ」

 お互いに不安だったのだろう、二人の間で男の子と女の子は揉み合うように抱きしめ合う。

「…ちゃんとついて来いよな」
「ごめんなさい……」
「何もなかったからいいけどな。あってからじゃ…おそいんだぞ?」
「……ひっく…」
 お互いに小さな身体が、更にきゅっとひっつき合う。

 崇之は鼻を鳴らしながら自転車を降り、その場に止める。紗枝はホッとしたように表情を
綻ばせ、彼の傍に近寄っていく。互いに寄り添い、小さな身体が重なる様子を見つめ続ける。
「……懐かしいね」
「そうだな…」
 隣り合い、思い出されるのは昔話。

 いつもの、ことだった。

 どんなに落ち度があっても、彼は絶対に謝らなくて。
 どんなに落ち度が無くても、彼女は絶対に謝って。

 どう見ても心配している様子なのに、頑なにそれを認めなくて。口調は責め立ててるのに、
声は思いの他優しくて。
 なかなか泣き止めないけれど、胸の中は見つけてもらえた安心感でいっぱいで。いつも
ああして怒られるけど、顔を上げれば心底心配している様子の表情がそこにあって。

「ケガとかしなかったか?」
「……だいじょぶ」
「…次からは気をつけるんだぞ?」
「うん……ごめんなさい」

わしゃわしゃ

「あ…」
「……」
 おもむろに、男の子はその小さな頭をくしゃりと撫でる。
 その様子に紗枝は羨ましそうに、崇之は目を細めて反応を示す。今の二人には出来ない
行為が、随分と眩しく懐かしい。

「そか。じゃあ、帰るか」
「ぁ…ちょっとまって」

 女の子はそう言うと、トテテテと紗枝の傍に近付きゆっくりお辞儀をする。
「あの…ありがとうございました」
「どういたしまして」
 なんとも微笑ましくも可愛らしい仕草にまたまた頬が緩む。紗枝が軽く手を横に振りながら
それに応えると、女の子はホッと安堵の溜息をこぼした。

344:Sunday
07/04/22 23:02:42 um8QoTBM

「何かしてもらったのか?」
 戻っていった彼女に、男の子は声をかける。本来人見知りのはずのその娘が、自分以外の
人と話をしたことが珍しかったのだろう。

「うん。いろいろだいじなことおしえてもらって…あたまもなでてもらったよ」
「……」
 はにかみながらの嬉しげな台詞に、男の子の表情はみるみる渋っていく。不満を一杯に
携えて、今度は彼の方が紗枝の元へやって来る。
「あのさ」
「なあに?」
「こいつのメンドウ見てくれたことには、ありがとうだけどさ」
 その顔が変化することはない。男の子はそこで一呼吸置くと、一層大きな声で口を張り上げた。


「こいつの頭をなでていいのは、俺だけなんだからな!」


「ぇ…」

 夕日。赤色。風陰り。

 舞った言霊は、すぐにさらわれていく。

 その台詞に、紗枝は驚きながら僅かに頬を赤らめる。崇之は露骨に顔を歪め、舌打ちし
溜息をついて目頭を押さえる。
「分かったら返事しろよう!」
「あ、う、うん。ごめんね」
 なおも詰め寄られ、困惑したまま頭を下げる。その様子を見て、彼は満足したように
フフンと鼻を鳴らすのだが、次の瞬間、崇之に平手で頭をバシンと叩かれてしまうのだった。

「いってぇ!」
「余計なこと言ってんぢゃねーよ」
「なんでたたくんだよ!」
「自分で気付けバーカ」
 東の方角へ細く長く伸びきった、四つのうち二つの影が踊りくねる。小さい影は素早く
動き回り、大きい影はそれを容易くいなし続ける。


「や、やめてよぉ」


 そして、しばらく止まないようにも思えたその争いをすぐに止めさせたのは、今にも
泣きだしてしまいそうなほどに小さい、女の子の声だった。

「あたしのお兄ちゃん…いじめないでよぉ……」

 両手ともワンピースのスカート部分をギュッと掴み。俯く長い前髪の向こうからは、
微かにしゃくりをあげる声が聞こえてくる。
「な、泣くなよ、さえ。ほら、ケンカならもうやめたぞ?」
「あー……ごめんなお嬢ちゃん。俺がちょっと大人げなかった。悪かったな」
 この様子にはさすがに崇之も男の子も参ったようで、大人しく謝り女の子をあやしにかかる。
まあ、大人気ないのはちょっとどころではないのだが。

「……ほんと?」
「ほんとほんと! なぁ、俺たちもうケンカしてないよな!」
「まーな」
「だから泣きやめ。な?」
「うん…わかった」
「よーし」

345:Sunday
07/04/22 23:04:10 um8QoTBM

 言いながらまた頭を撫でると、女の子はすぐに機嫌を直して笑顔を浮かべる。それに
釣られたのかどうなのか、今度は崇之が笑みを漏らし、紗枝が顔を背けるのだった。

 こんなにクソ生意気だったのか。

 こんなに繊細だったんだ。

 二人のやりとりを見ての印象が、二人の頭によぎる。だけどそれが、少年少女に気付かれる
ことはない。

「それと、あのさ」
「……?」
「もう『お兄ちゃん』てよぶなって、言わなかったか? ほんとの兄妹でもないのに、
そうよぶのはおかしいって、ちゃんと言ったと思うんだけどさ」
「…」
 突然切り替わった話に、女の子は見るからにショックを受け、瞳の色が悲哀に満ちる。
ただでさえ小さな身体が、余計に小さくなってしまったように思えた。
「その、なんだ。それに俺がそうよばせてるみたいにほかのヤツに思われてるみたいでさぁ、
なんつーか、はずかしいんだよ」
「……ごめんなさい」
 またじわじわと、瞳の縁に涙が貯まっていく。男の子もそれが分かっているのだろう、
敢えて見当違いの方向を向いて、その顔を見ないようにしている。

「じゃあ…」

「ん?」
「じゃああたし、もう…なまえ、よべないの?」
 当然の不安ではあった。物心ついてからずっと使っていた呼び名を否定されてしまっては、
そう考えてしまうのも仕方なかった。


「ああ、それでだ。今日から俺のことを『崇兄』ってよぶんだぞ?」


 その言葉に、少女ではなく紗枝が目を見開き、崇之の顔を覗きこむ。彼の方はと言うと、
視線を見つめ返しながら、少し照れたように口元を手で隠すばかり。それでも、指の隙間からは
にやついた笑みがこぼれている。

「たか…にぃ…?」
「そうだ。かっこういいだろ? 崇之の『たか』と、兄の『にい』をつなげたんだ」
 そう呼ばせようと思い立ったのは、当時の戦隊モノか何かのテレビ番組に触発されたのが
きっかけだったような気がする。中途半端なところで止めた呼び名が、随分と荒っぽく
格好良い響きに聞こえたものだ。それにこの呼び名なら、他の人がいるところで呼ばれても
恥ずかしくないだろうと考えたのである。

「というわけだ、これからはそうよべ。そしてこれからも、俺のことをうやまうのだ」

 一転自信ありげな満面の笑顔を浮かべて、ビシッと立てた親指で自分の顔を指している。
本人的はその仕草が最高に格好良いと思っているようだが、傍から見ていると物凄く滑稽に
見えてしまうのは、この際黙っておこう。

「……」
「さえ?」
「……」
「……もしかして、いやか?」
「……"うやまう"って、どういういみなの?」
 新しい呼び名を使うことに抵抗を示したのかと思いきや、聞き慣れない言葉の意味が
分からなかっただけらしい。男の子も一瞬戸惑ったが、その質問にすぐに気を取り直す。


346:Sunday
07/04/22 23:05:49 um8QoTBM

「あ、あぁ。"うやまう"っていうのは…その、……えー、うーん……、あこがれとか、
好きとか、たしかそういう意味だな!」
 だけど彼自身もまだ幼く語彙が少ないせいか、なんだか断片的で、よく分からない説明に
なってしまう。分かってはいるのだが、そんな様子に傍から見守る二人は、片方はやっぱり
頭を抱え、もう片方はくすくすと笑みを零し続けるわけで。

「……すき…」

 しかし一部の言葉だけを反芻する少女を見るに、それだけでも充分だったようだ。憂いを
帯び続けていたその瞳が、爛々と輝き始める。
「よし、一回よんでみてくれ」
「……いま?」
「今!」
「……」
 その反応に、受けは悪くないという手応えを掴んだのだろう。男の子は、新しい呼び名で
名前を呼ばせることを強要する。こういう自分本位なところは、今でもあまり変化が無い。

「………た…」
「た?」

 俯いて汚れたスカートの裾を掴む少女の顔色は、夕陽の逆光に阻まれ分からなかった。


「……たか…にぃ…」


 呟かれた台詞は、ひどく小さい。

「おう!」

 それでも、これでもかというくらいに喜びを爆発させる男の子の様子に、女の子は
少しだけ、ほんの少しだけはにかんだ笑みを浮かべるのだった。

「じゃ、いくぞ。もうはぐれるなよ」
「……うん」
 きゅっと小さな手の平を繋ぎ合わせると、二人は夕陽の照らされる方角へと歩いていく。

 いつの間にか、お互いの空間は隔離されていたのだ。

「……」
「……」
 崇之も紗枝も声を発することなく、その様子を見届ける。うねったあぜ道に沿っていく
二人の小さな後ろ姿は、しばらくすると見えなくなってしまった。それでも、じっとその
方角を見つめ続ける。

「……覚えてなかったか」
「崇兄は、覚えてたの?」
 共に並んで、ゆっくりと歩き始める。崇之が乗ってきた自転車は、いつの間にか姿を
消してしまっている。
「まぁな、自分から言い出したことだったし」
「……ずーっと『崇兄』って呼んでるもんだと思ってた」
 現実にはありえないその事態にも、特に驚くこともない。

「にしても、ちっちゃかったなぁ」
「あはは、そーだね」
 やがて道から外れ、二人はオレンジ色の草を踏みしめざしざしと坂を降りていく。

347:Sunday
07/04/22 23:07:56 um8QoTBM

「……あんなに可愛かったんだね」
「うるさいの間違いじゃねーのか」
「えー、可愛かったってば」
「その意見には同意できんな」
 河辺まで歩みを進めて、隣り合ったまま、どちらからともなく腰を下ろす。

「えー、だってさ」
「? なんだよ」

「『こいつの頭をなでていいのは、俺だけなんだからな!』、だよ?」
「……」

「『あたしのお兄ちゃん…いじめないでよぉ……』、だっけ?」
「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


「「何だよ」」


 お互いに対する不満は、同時に噴出する。そしてこれまた同時にそっぽを向くが、それも
長くは続かないわけで。

「ねぇねぇ」
「ん?」
「あたしからも、一つお願いがあるんだけどさ」
 並んで座り込むこの状態は、いつぞやの状態をリフレインさせてくる。だけどそれが頭に
よぎっても、もう心がざわめくことも無い。


「その…頭、……撫でて欲しいな」


 それはこうして今までのように、そして今まで以上に隣にいることができているからであって――


「……は?」
「やっぱり…だめ?」
「いや、駄目とかじゃなくてだな…」
 思わずどもってしまうほどに、その申し出は意外なものだった。彼の右手が、硬く強く
握られる。彼女の髪の毛が、さらさらと揺らされる。
「いいのか?」
「うん」
「……んー」
 あの時の傷口は、どちらがより大きかったのか。あの仕草が好きだったのは、どちらの方
だったのか。

「あたしがして欲しいの!」
「……」
 珍しく歯切れの悪い崇之の様子に、紗枝は声を響かせる。そのくせ、頭を彼の肩にもたれ
かからせ静かに目を閉じ甘えるのだから、どうにも意図が読み取れない。

348:Sunday
07/04/22 23:09:25 um8QoTBM

「わーったよ。代わりに、お前にも俺の頼みを聞いてもらうぞ?」
「できることならね」
 そんな彼女の髪の匂いを嗅ぐように、彼も頭を彼女の方へと傾ける。跳ね返った毛先が、
妙にくすぐったい。

「……じゃあ、名前で呼んでもらおうかね」
「へ…?」
 あまりに意外な申し出だった。
 どうやら、甘えたがりだったのは紗枝一人ではなかったらしい。もちろんその度合いは、
ダントツで彼女の方が勝っているのだろうけれど。
「名前で?」
「愛称でなくてな」
 やっぱり、恋人には知らない面を見せるものなんだなと改めて互いに思うわけで。それは
やっぱり、今まで以上に大事で特別にな存在になってしまったからなわけで。
「難しいか?」
「え…その……」
 からからと笑う彼の横で、彼女は指先を突っつき合い、必死に気持ちを抑えようとする。
やっぱり最終的には、彼がその権利を握ってしまうらしい。
 
「……がんばる」
「おう、頑張れ」
 それがどれだけ勇気を要することか、言わなくても分かることだ。ついさっき見かけた、
少女が少年に向かって「崇兄」と呼びかける様子は、随分と初々しく微笑ましかったがものの、
それと似たことを今度は自分がするとなると、やっぱり胸がどぎまぎしてしまう。

「あ……そろそろ…」
「ん?」
「時間…みたい……」
「そか」
 お互いに寄り添い合いながら川の流れを眺めていると、唐突に紗枝が場にそぐわない
発言をしてしまう。しかしその瞬間、微かに彼女の身体が薄くなってしまう。まだ手の平で
触れられるけれども、その身体は明らかに透き通り始めていた。

「忘れてたら、どうしよ」
「そん時は…そん時だな」
「んー…」
「これからも、機会はたくさんあるわけだしな。そうだろ?」
「…ん」
 崇之は紗枝の腰に手を回す。紗枝は崇之の肩に手を触れさせる。もたれあっていた頭を
ゆっくりと起こして、穏やかな表情のまま見つめあう。

「じゃあ、続きはまた後で」
「…うん」
 唇より先に、額がごちりと音を立てる。角度を変えてお互いの表情をまっすぐに捉えると、
崇之は嬉しげに口の端を上げ、紗枝は眩しげに目を閉じてしまう。

「…覚えておけるといいな」

「お互いに、ね…」


 瞬間。触れ合い。シルエット。


 崇之もつられるように目を閉じて、紗枝は強く擦り寄ってくる。抱きとめ、抱きとめられ、
背後から吹かれる風が、やがて二人をあっという間に追い抜いていく。



349:Sunday
07/04/22 23:11:10 um8QoTBM


 しばらくして崇之がゆっくりと目を開けると、そこにはもう、誰もいなかった。


 人がいた痕跡すら、欠片も残っていなかった。


「……さあて」
 ゆっくりと伸びをしながら彼も立ち上がる。もうこの場所に、用は無い。やることを全て
やり終えた安堵感と満足感が、その胸の中を満たしていた。

(俺も行くか)

 右から左に流れる川を眺め終えると、振り返り草を踏みしめ坂をざしざしと登っていく。
その間にも、頬をつつかれるような奇妙な感覚が走ってくるのだが、特にそれを気にする
ことも無い。
「はー…」
 ホッと一息を着きながら、これまでのことを振り返っていく。

 長かった。

 一言で言えば、そう表すことしかできない八ヶ月間だった。


『ありがとね…』


 風に紛れ込んだその声色に、物思いに耽る彼は気付かない。その姿は、身体の向こう側が
透き通るように薄くなっているようにも見えた。

 今度は身体のあちこちを、ついばまれてしまうようなおかしな感覚を覚える。それが
繰り返されれば繰り返されるほど、その表情は笑顔へと変化していく。もし覚えていなくとも、
先に交わした約束は、是非とも自分が先に達成したいところだ。


『だいすき…』


 そしてまた、一瞬の強い風が吹く。


 それが吹き終える頃には、もう河川敷一帯に、人影が見当たることはなかった―――









「あー…そこ、すげー気持ちいい」
「ここ?」

 さて、さてさて。
 初めて繋がった一夜から数日が経ち、あれから指折り数えて最初の日曜日。


350:Sunday
07/04/22 23:12:49 um8QoTBM

「そこそこ。お前上手いな…」
「そうかな。ありがと」
 相変わらずと言うべきなのか久しぶりと表すべきなのか、二人はボロアパートの一室で
仲良く睦み合い続けていた。ハートマークを幾つも作り出しては空中に飛ばしていくような
その様子は、傍目から見ていれば食傷じみた感覚が湧き上がるに違いない。

「はい、じゃこれで終わり」
「はー…もうちょっとやって欲しかったな」
「またその内やってあげるってば」
 とろけそうな表情を携えて、崇之は正座した紗枝の太ももに頭をぐったりと預け続けている。
要するに、膝枕である。
「ほら、終わったんだしどいてよ」
「んー…」
「もう……ちゃんとしてあげたんだから、早く遊びに行こうよー」
「んー…」
 この体勢でしてあげたというのだから、言うまでもなくそれは耳掃除のことなわけで。
それが彼にはよほど気持ち良かったらしく、生返事を返すばかりでその場からちっとも
動こうとしない。まあ気持ち良いという感覚は、現在も続行中なのだろうが。
「あと五分~」
「だーめ、いい加減起きてよ。スカートが皺だらけになるじゃんかー」
 ちなみに彼女は、普段のようなシャツと短パンといったラフな姿をしていない。いつぞやの、
あの時彼には見せることが出来なかったベージュのフレアスカート、ミルク色のカットソー、
その上に薄手のリボンカーディガンという女性らしいの服装を身に纏っている。らしくは
ないが、何とも可憐でどことなく淑やかな雰囲気を醸し出していた。

「ねー、早く行こうってばー」
 それだけに、紗枝の苛立ちは募る。こうしておめかしして来たのは、部屋に閉じこもって
膝を貸して耳を掃除してあげるためじゃないのだ。
「待て待て。じゃあ最後にこれだけ…」
 促す言葉にようやく反応して、崇之はもそもそと身体を動かし始める。といっても起き上がる
様子は全く無く、単に寝返りを打っただけのようだった。身体をごろりと回転させてうつ伏せに
なり、顔をちょうど紗枝の股ぐら辺りに埋め込ませてしまう。

「あー…ここもすげー落ち着く」
 これ見よがしに深呼吸一つ。

「……」
 そして彼が寝返りを打ってその台詞を言い放つまで、彼女は突然の事態に固まったままで。


がすっ!


 意識を取り戻すと、無言のまま当然容赦することなく、後頭部に向かって折り曲げた肘を
振り下ろすのだった。

「まったく……ほんとすけべなんだから」
 うっすらと頬を染めて口を尖らせるその様は、いつものように可愛らしい。

 ……背後に、「ぎぃやあぁぁああぁぁぁ!」と醜い悲鳴を上げながら、殴られた箇所を
押さえてゴロゴロ転がり悶絶する彼の姿が、無かったらの話であるが。



351:Sunday
07/04/22 23:14:57 um8QoTBM

「……仕方ねぇ、そろそろ行くか」
 ひとしきり部屋中を転がり続けひとしきり口論を終えた後、彼は少しばかり肩を上下させ
ながら、大の字に寝っ転がってぼそりと呟く。
「じゃあ早く準備してよ。外で待ってるから」
「ん? あぁ…」
 やっと外へ遊びに行けると紗枝が満を持して立ち上がると、崇之の口からは相変わらずの
生返事とは裏腹な、随分と真剣味が籠もった唸り声。
「…どしたの?」
「……」
 眉間に皺を寄せ、ある一点をしかと見つめ続けるその様は、随分と強い意志が込められて
いるようで、その表情に、見下ろす彼女も少しばかりどぎまぎしてしまう。


「薄い青か。水色とも少し違うな」


「……へ?」
 ちなみに余談ではあるが、彼女が本日身につけている下着は、まさにその色で彩られている。
「この前の薄い緑のヤツもそうだが、見えないところまでしっかりオシャレするのは、
なかなか偉いぞ」
「……」
 更に余談ではあるが、その下着の色は本来彼女自身しか把握してないはずである。

 スカートの中を覗かなければ、の話だが。 


げしっ!


「ぐぉあっ!!」
 直後、崇之の頭部はまるでサッカーボールのように蹴り上げられ、勢い良く跳ね飛ばされて
しまう。肩を怒らせて部屋を後にする彼女に声をかける余裕があるはずもなく、崇之は
再び頭を押さえて床をのたうち回るのだった――








「つっ……痛ってーな、コブ出来てんぞコブ」
「自業自得」
「仕方ねーだろ、お前が立ち上がって急に目に飛び込んできたんだし。覗こうと思って
覗いた訳じゃないんだぞ?」
「見れば一緒」
 部屋を後にして一時間。どうにかこうにか街中まで連れあい来れたものの、交わす会話は
どうにも弾まず薄ら寒い。まあ、弾む方がおかしい話だが。
「そんなに怒るなよー」
「怒ってない」
「いや怒ってるだろ」
「怒ってない!」
 それでも以前までなら、紗枝は一人で先にせかせかと早足で歩いて、崇之がそれを後から
追いかけるというのが常だった。ところが今の二人は、隣りあい並んで歩みを進めている
どころかしっかりと手を繋いで、指もしっかり結びあっているわけで。


352:Sunday
07/04/22 23:16:57 um8QoTBM



「俺が悪かったから。だから機嫌直してくれ。な?」
「……」
 埒が明かなくなり、正直に自分の非を認めて謝るが、軽く膨らんだその両頬は引っ込み
そうもない。
 まるで木の実を頬張ったリスみたいだなと、崇之は心の中でこっそり毒づくのだが、
何故かその瞬間ぎろりと睨まれ、慌てて視線を逸らしてしまう。

「そういうことじゃないっ」

「……」
 いかにも拗ねてますといったその口調は、崇之の顔に苦笑を浮かべさせる。

 あれから彼は、またちょくちょくセクハラするようになっていた。その意図に気付いて
いるのかどうかは分からないが、これに対して紗枝は怒りを露わにすることはあっても、
以前のように手足を飛ばしてくることはほとんど無くなっていた。

 だから今日に限ってこんな態度を見せる彼女の様子に、少しばかり困惑していたところ
だったのだが。


 そういうことだったのか。


 よくよく見てみれば、普段はあちこち跳ね返っている癖っ毛も、今日はほとんど目立って
ない。もちろんその姿に、気付かなかったわけじゃない。ただ、どう言えばいいか言葉に
詰まっただけなのだ。
 決して、慣れない彼女の姿が照れ臭さを覚えたわけではないのだ。本当である。断じて
嘘ではないのである。
「あぁ……ごめんな」
 絡ませあっていた指を緩やかにほどいて、手の平を彼女の頭に持っていく。

「正直、ここまで似合ってるとは思ってなかった」

 その髪型を極力崩さないように、ポンポンと軽く髪に触れる。釣られるように、もう一方の
手で別に痒くもない顎筋を撫で隠してしまう。
「……」
「嘘じゃないぞ。本当だぞ」
 目立った反応を示さない彼女に業を煮やし、今度は彼女の目を見つめながら言葉を放つ。

「…う、うるさいなぁぁ」

 その視線から逃げるように、紗枝は向こう側へと顔を背けてしまう。だけど尖った口調とは
裏腹に、先程まで膨らんでいた両頬はすっかりしぼんでいるのだった。

「ははは」
「もう…」
 ずっとそう言って欲しかったのに、いざ耳にしてみれば、どうにもからかわれている気が
してならない。本当は心の中で腹を抱えて笑ってるんじゃないだろうか。だとしたら、
後々のことを考えて平手打ちでもかましておくべきだろうか。

353:Sunday
07/04/22 23:29:48 HRd3Q8rb

「あたし……振り回されてばっかりじゃないか…」

 心の中で思う存分毒づいておきながら、自分も充分彼のことを振り回していることには、
てんで気付いてないらしい。
「それはしょうがないな」
「何がしょうがないんだよ」
「だってお前からかうと面白いし」
「…っ」
 そしてだからこそ、彼にこうして弄られることにも気付けないままなのだ。

「俺はお前の、そういうとこが好きだからな」

「~~~~っ」
「ま、しょうがないよなぁ」
 人通り激しい街中での、あまりに唐突な愛情表現。

 紗枝は露骨に顔を引きつらせ、誰かに聞かれてないか周りを見回している。そんな様子が、
どうにも可愛い。

「い、い、いきなり変なこと言わないでよ!」
「変なことじゃないだろ。俺の、真っ正直な心の底からの本心だ」
 好きだとか、愛してるとか、ずっと一緒にいたいとか。
 使い古された言葉ではあるけれど、相手を想いながらカタチにすれば、多分に甘酸っぱさを
含んでいるわけで。

「……ぅぅぅ」
「おやおやぁ? そんな顔してどうしたのかなぁ紗枝ちゃんは」
「うっ…うるさいうるさいっ!」
「はっはー、照れるなよー」
 あまりの大声に、今度こそ周りの人達に振り返られ注目を浴びてしまう。それに気付いて
いないのは、叫んだ本人のみだ。

「あたしは…っ、崇兄のそんなところが嫌いっ!」
「あぁ、分かってる分かってる」
 嫌いだとか、好きじゃないとか、会いたくないとか。
 使い古された言葉ではあるけれど、顔を真っ赤にして言ってしまえば、それはまったく
逆の意味合いを含んだものになってしまうわけで。

「いやー、ここまでお前に愛されてるとは思わなかった」
「そんなこと言ってない! 崇兄のことなんか嫌いだって言ったの!」


354:Sunday
07/04/22 23:30:53 HRd3Q8rb

 今日は、陽だまりの日曜日。

 ありきたりで、いつもと同じで、そしてそんな時間が二人には、ちょっとだけ久しく
感じられる日曜日。

「もう…なんであたしばっかり……」
「"自業自得"じゃないのか?」
「うぅ、ううう~~~~」
 再びぎゅっと手の平を重ね合わせて、街中の並木道を練り歩く。ちゃんとした目的地や、
明確なプランがあるわけでもない。
 それでも、こうしてなんでもないような時間を共に過ごすだけで、言いようのない幸福感に
包まれる。

 こういうのも、特別って言うんだろうか。

「分かった分かった。もうちょっと大人しくしろ」
「…だったらもう少し、優しくしてくれたって……」

 口ではお互い、そんなこと言うけれど。

 覚えてないし気付いてないんだろうけれど。

 野球帽を被った不器用な優しさは、今もそこに在り続けていて。

 白いワンピースの面影も、未だ微かに残っているのだ。

 仲直りしたばかりなのに、共にいることを何気ないと思ってしまうのは、それだけ一緒に
いるのが当たり前過ぎているわけで。


 二人は喋り、歩き続ける。


 耳を傾けてみればその内容は、大半が言葉尻の掴み合いだったり喧しい口喧嘩だったり。


 だけど心の中ではその当たり前を、いつまでもなんて、そっと願ってたりするのだ。


 気だるげで、顎を擦り、苦笑を浮かべ、あくびを繰り返す。


 顔赤くして、すぐに喚いて、涙目になって、頬を膨らませる。


 そんな二人の、おかしな二人の関係は。


 色々な間柄を含みながら、時にはそれを変えながら。


 まだまだこれからも、果てしなく続くのであった―――





355:Sunday
07/04/22 23:38:02 HRd3Q8rb

|ω・`)ノ サイゴハヤッパリマジメニスルヨ!


というわけで、長々と続編を投下させていただきました
えーと、その、かなりの方々の期待を裏切ってしまう展開だったようで
重ね重ねお詫びします
加えて、毎回毎回バカみたいにスレの容量を食いつぶしてしまい
申し訳ありませんでした
もっと無駄な表現を省けるよう精進します

しかしながら、最後までこの作品を投下できたのは皆さんのおかげだと思っています
たくさんの感想や希望レスに、何度も勇気付けていただいたので

次回こそは、違うカップリングの幼なじみで臨みたいと思います
けど、忘れた頃にこの二人の続きを短編で投下することがあるやも知れません
その時は、笑って許していただけたら幸いです

長々と、駄文乱筆失礼致しました
前作併せて、作品ならびにキャラクターまで愛していただき、感激しきりです

本当にありがとうございました

356:名無しさん@ピンキー
07/04/22 23:39:50 6RCVNbF6
神であり乙。もうそれ以上、称える言葉が見つからない。超大作にGJ

357:名無しさん@ピンキー
07/04/22 23:45:48 kL1ps+JJ
明日からの仕事もがんばれそうなGJ作品をありがとうございます

358:名無しさん@ピンキー
07/04/22 23:50:53 yKxIvzZG
お美事です! あなたの紡ぐ新たな物語を心待ちにしています!

でも、またいつかこの二人のその後もきっと書いて下さいね! 待ってます!!

359:名無しさん@ピンキー
07/04/23 00:20:00 h7kQFOO8
いつも楽しみにしてました。
終わってしまって寂しさもあるけど、新しい作品楽しみにしてます。
もちろんこの二人にもまた会えるといいな。

360:名無しさん@ピンキー
07/04/23 00:58:31 bpstjjhb
何か、何言っても余計な事になりそうなので、これだけで。

お疲れ様でした。そして何より、ありがとう。

361:名無しさん@ピンキー
07/04/23 01:22:30 oXiw1NZu
神GJ!そして名作を本当に本当にありがとう。
新作も心待ちにしてる。これの続編も楽しみだなぁ

362:名無しさん@ピンキー
07/04/23 18:09:57 f563JpaF
前作のタイトルが歌からとってたから今回もとってたのかなと思ってたが
ベイビースターズのヤツだったか

363:名無しさん@ピンキー
07/04/23 21:11:46 qh5sVw71
これで後90年は生きられそうな愛しさと切なさをありがとう。
心の底からGJ。

364:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:46:50 4NEtS1yj
>>355
GJです! いつかまた、新しい物語を読ませて下さい! 待ってます!!
  

それでは神作品の後に恐縮ですが、投下させて頂きます!

365:絆と想い 第11話
07/04/25 01:48:28 4NEtS1yj
正刻が佐伯家の道場で稽古に励んでいた頃、高村家に一人の少女がやってきた。
さらさらのショートヘア。猫のようなしなやかな肢体。眼鏡の奥の目はこれからの事を考えて、楽しそうに細められている。

少女の名は大神鈴音といった。

鈴音は高村家の玄関に近づくと、正刻からもらった合鍵を取り出した。
合鍵には、正刻がつけていた鈴と、鈴音が選んだお気に入りの鈴の二つがつけられていた。
それを見つめてにんまりと笑うと、鈴音は鍵穴に鍵を差し込んだ。

かちゃり、と鍵が開く。当たり前のことなのだが、鈴音はとても嬉しかった。
自分一人で、正刻の家に入ることが出来る。それが実感出来たからだった。

「お邪魔しまーす……。」
引き戸を開けて、鈴音は高村家に入る。
高村家は、少し大きめの日本家屋であった。
風呂やキッチン、トイレなどの水周りは最新式のものとなっており、部屋も、畳の所もあれば、フローリングになっている所もある。

正直な所、正刻一人で住むには広すぎる家である。掃除や管理などの手間も非常にかかる。
しかし、正刻はこの家を離れようとはしなかった。
祖父母や両親達との思い出が詰まったこの家を手放すことは、正刻には出来なかった。

しかしその結果、学校において正刻が課外活動に割ける時間は著しく少なくなった。

正刻が図書委員会にしか入らず、合気道部に入っていないのはこれが原因であった。
高校に入り、正刻はどちらもやりたかったが、しかし家事その他の事を考えると片方が限界であった。
その結果、正刻は図書委員会を選んだ。合気道は兵馬の道場でも出来たからだ。
もっとも、今だに男子合気道部からのラブコールは続いているが。

余談はともかく。鈴音はぺたぺたと廊下を歩く。
この家にはもう何度も遊びに来ているし、唯衣や舞衣達と共に泊まったこともある。勝手知ったる何とやら、だ。

本来なら今日は勉強会なのだが、実は集合時間にはまだ大分早い。何故鈴音がそんなに早く来たかといえば……。

「んふふー。さーて、じゃあ早速侵入しちゃおうかなーっと!」
そんな事を言いながら鈴音は正刻の部屋に入っていく。合鍵をもらった時に正刻に言ったことは、実は半分本気だった。

「まずは相手のことをもっと良く知らないとねー。あいつが最近エロ方面でどんな趣味を持ってるか、興味あるし。……それにしても。」
相変わらずの部屋だねぇ、と鈴音は呆れ返った。

366:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:49:10 4NEtS1yj
正刻の部屋は、10畳程の大きな和室であった。しかし、部屋中に溢れかえった私物の所為で、もっと狭く見える。
テレビ、ビデオ、更に文机タイプのパソコンデスク。その上には正刻が組み上げた自作パソコンが鎮座ましましている。
壁の一面は本棚になっている。漫画・小説・ゲームの攻略本など、その種類と数は膨大だ。
テレビにはゲーム機がつながれており、近くには携帯ゲーム機も転がっている。
部屋の中央には本来ならテーブルが置かれているが、今は部屋の隅に置かれており、代わりに布団が部屋の中央に敷かれていた。

鈴音はゆっくりと正刻の部屋に入る。胸の鼓動がいつもより早い。正刻の部屋に入ったことは何度となくあるが、自分一人で入るのは初め
ての経験だったからだ。

パソコンデスクと対になっている座椅子に座る。この部屋で自分や唯衣や舞衣、その他の友人達と話す時、正刻はいつもこの座椅子に座る。
いわばここは、彼の指定席であった。

その椅子に、自分も座っている。

それを思うと、鈴音の鼓動は更に早まった。興奮のあまり、少し頭がくらくらする。
(うわー、とてもじゃないけど正刻の夜のお供を探すどころじゃないよぉ……。)
鈴音は落ち着こうと深呼吸するが、その拍子にふと正刻の匂いを感じてしまい、更に興奮してしまう。

彼女は思わず匂いの元を探す。すると、部屋に敷かれている布団が目に入った。
「正刻の……布団……。」
鈴音は立ち上がると、ふらふらと歩き、布団の傍にぺたんと座り込んだ。

正刻はこういう片付けはしっかりとするタイプなので、布団が敷かれたままだというのは珍しい事だった。
鈴音はしばらく布団をぼーっと見ていたが、何かを決意したように頷くと、掛け布団をめくった。
そして周りをきょろきょろと見回して、誰も居ない事を確認すると、顔を赤くしながら布団にもぐりこんだ。

(うわー、ボク今正刻の布団で寝てるんだー……!)
鈴音は恥ずかしい気持ちと幸せ一杯な気持ちがないまぜになって、布団の中でごろごろと転がってしまう。
更に枕に顔を埋めてその匂いを胸一杯に吸い込んだ。
枕からは、リンスの良い匂いと、更に正刻自身の匂いもした。
鈴音は思わず恍惚としてしまう。
「あー、いけないなぁ。これじゃあボク、まるっきり変態みたいじゃないかぁ……。」

そう言って足をバタバタとさせる鈴音。言ってる事とは裏腹に、彼女はとても幸せそうな笑顔を浮かべた。しかし。

「……全くだな。いや、『変態みたい』ではなく『変態そのもの』と言った方がしっくりとくるな。」
「鈴音……。まさか親友であるあなたがこんな駄目人間だったなんて……。私はとても悲しいわ……。」

不意に背後からかけられた声に、鈴音はびっくん! と体を震わせた。
ぎりぎりぎり、と音がしそうな動きで振り返る。

そこには、心底参ったといった様子で手を額に当てている唯衣と、腕を組んで仁王立ち、更に半眼になって鈴音を見ている舞衣がいた。

鈴音は無言でもぞもぞと布団から這い出すと、衣服の乱れを直し、ついで眼鏡の位置も微調整して咳払いを一つした。
二人と目を合わせずに尋ねる。
「……どこから見てたの?」

367:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:49:55 4NEtS1yj
「お前がちょうど布団にもぐりこんだ所からだ、な。」
舞衣が答え、唯衣が無言で頷く。鈴音はがっくりとうなだれ、搾り出すような呻き声を上げた。
「……モロ最初っからじゃないかぁ……。だったら声かけてよぉ……。」
そんな鈴音の様子を見て少し気の毒になったのか、唯衣がフォローを入れる。
「まぁ、誰にでも気の迷いってやつはあるわよ。ね、舞衣?……ってアンタは何やってんのよォッ!?」

唯衣が怒鳴るのも無理はない。いかなる早業か、舞衣は正刻の布団にもぐりこんでいた。まるでさも当然だといわんばかりの顔だ。
その顔が、にやけ始める。
「ほほぅ、コレは良いな。鈴音が我慢出来なかった気持ちも分かるぞ。」
「何だよキミは!! さっきボクの事を『変態そのもの』だと言ったくせに!!」
「いや、さっきの発言は取り消そう。正刻の布団が敷いてあるなら、それに潜り込むのは当たり前の行為だな。」
「んな訳ないでしょ!! いーからアンタはさっさと布団からでなさい!! 服が汚れるでしょ!!」

その後、一向に布団から出ない舞衣に業を煮やした唯衣と鈴音によって舞衣は布団から引きずり出された。
ぶつぶつと不平を垂れる舞衣を引きずるようにして、二人はリビングへと向かう。

「……でも、ボクが言うのも何だけど、二人とも何でこんなに早く来たの?」
リビングで舞衣が淹れたコーヒーを飲みながら、鈴音が二人に尋ねた。
彼女が集合時間より早く来たのは下心があったからだが、二人が早く来る理由が分からない。
すると、唯衣が苦笑まじりに答えた。
「舞衣がね? 『何だか嫌な予感がする。早めに正刻の家に行こう。』って言い出したのよ。それで来てみたら、あなたのあの痴態に出く
 わした、って訳。……本当にこの娘は、正刻がらみだと超人的な力を発揮するのよね……。」
「ふふん。まぁ、これも愛の力だな。しかし鈴音よ、抜け駆けは許さんぞ?」

そう言って舞衣はウィンクをする。その様子に鈴音も苦笑した。
「全く、キミには敵わないなぁ。……でも、正刻の事、譲るつもりは無いからね。」
鈴音の告白に、宮原姉妹は驚いて顔を見合わせる。

「す、鈴音。あなた……。」
「うん、そうだよ唯衣。ボクは正刻が好き。友達としてではなく、ね。」
少し顔を赤らめながらも、きっぱりと言い切る鈴音。そんな彼女を見て、舞衣は微笑んだ。
「そうか……。ようやく覚悟を決めたんだな、鈴音。」
「うん。今までは迷うところもあったんだけど……でも、これをもらって気持ちが決まったよ。」
そう言って鈴音は高村家の合鍵を取り出す。

「ボクは正直、君たち二人に気後れしている所もあったんだ。ボクよりも遥かに長い時間、正刻と過ごしてきた君たちには勝てないんじゃ
 ないかってね。だけど、大切なのは、これからなんだってことに気がついたんだ。幼馴染である君たちには敵わない部分もあるけど、で
 も未来は決まってないもんね。正刻から合鍵をもらうぐらいには信頼されてるって分かったし。だからボクは、立ち向かう事に決めた
 んだ。」
それに……と、鈴音は恥ずかしそうに微笑んで続けた。
「もうボクは……正刻以外、考えられないから、さ。」

その鈴音の告白を、唯衣は複雑そうに、舞衣は微笑んで聞いていた。
そして鈴音が語り終えた後、舞衣は、すっと右手を差し出した。
「? 舞衣……?」
「握手だ鈴音。そしてお互いに誓おうじゃないか。正々堂々と正刻を巡って戦うこと。そして、これからも変わらず……いや、これまで
 以上に、私達は良き友であることを、な。」
その舞衣の言葉に、鈴音はこれ以上ないくらいの笑顔を浮かべ、そして舞衣と固い握手を交わした。
「うん! これからもよろしくね! 舞衣!」


368:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:50:46 4NEtS1yj
「さて、後は……。」
鈴音と握手をしながら、舞衣は視線を唯衣に向けた。つられて鈴音も視線を唯衣に向ける。
二人に視線を向けられ、唯衣はたじろいだ。
「な、何よ……?」
「唯衣。お前も握手しろ。そしてさっきの事を誓うんだ。」
「な、何でよ!? 私は別に、正刻の事なんか……!」
顔を赤くして言う唯衣に、鈴音が言った。
「唯衣……。いい加減に素直になりなよ。大体、君が正刻を好きなのは、少なくともボクらの間じゃあもうバレバレなんだからさぁ。」
その言葉に更に何かを言おうとする唯衣を舞衣が制した。
「唯衣。正刻の前ならばともかく、今は私たちしか居ないんだ。もう少し、素直になっても良いんじゃないか? このままではお前、ず
 っと素直になれないぞ? それでも良いのか?」

舞衣の言葉は唯衣の胸を締め付けた。素直になれない。それは、以前に正刻の看病をした時に自分も痛感したことではなかったか。
唯衣は鈴音をちらり、と見た。彼女はこちらを真っ直ぐ見つめていた。彼女が正刻を好きなのは気づいていたが、しかしここまではっきり
と想いを露わにするとは考えていなかった。

自分も勇気を出す時なのかもしれない。

唯衣は目を閉じた。胸に浮かぶのは、正刻のこと。彼の笑顔が、ふくれっ面が、寂しげな顔が、泣き顔が、そして真っ直ぐな目が、彼女の
胸を駆け抜ける。

そして再び開かれた彼女の目には、強い意志が宿っていた。

「分かったわよ。私も誓うわ。……だけどあなたたち、覚悟しなさいよ? 私は絶対に負けないんだから!」
そう言いながら唯衣は、舞衣と鈴音の手に、自分の手をそっと重ねた。舞衣と鈴音が嬉しそうに頷く。
「望むところさ唯衣! ボクだって負けないよ!」
「やっと本音を口にしたな唯衣! だが、私は嬉しいよ。お前が本気になってくれて、な。やっぱり、お互いの本音をぶつけ合わなければ
 本当に幸せにはなれないからな。」
そう言って舞衣はシニカルに笑う。つられて二人も笑った。

「しかし、そうなると問題なのは正刻自身だよねぇ。あいつ、意外とモテるんだよねぇ……。何か、ウチの妹も興味あるような事言ってた
 し……。」
コーヒーを飲みながら、鈴音が呟いた。その言葉に舞衣も頷く。
「全くだ。正刻の魅力を理解してくれる人が多いのは嬉しいが、しかし多すぎても困るな。実際、図書委員会なんかにも正刻に気がある娘
 はいそうだしな。」
「……ウチの部にもいそうね……。あとは佐伯先生のとこの香月ちゃんや葉月ちゃんも絶対そうよね……。」
唯衣も愚痴をこぼすように言う。三人はそろって顔を見合わせると、一斉にはぁ、と溜息をついた。

正刻は確かに変わり者ではあるが、しかし同時に人気者でもあった。
誰に対しても分け隔てなく接し、困っている人を放っておけない。
そんな彼を慕う者は、男女問わずに実は多いのであった。


369:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:51:38 4NEtS1yj
しかしそんなマイナス要素を吹き飛ばすように舞衣が明るく言った。
「何、しかし大丈夫だ。どんなに正刻に好意を持つ者がいようが、私たちが正刻の恋人に近い、いわゆるトップグループなのは変わらん。
 何といっても、 私達はここの合鍵を持っているのだからな!」
そう言って舞衣は自分の合鍵を取り出して掲げる。ある意味、高村家の合鍵を持つ者は、確かに正刻と深い絆を持つ、と言っても過言では
ないかもしれない。

しかし。

「まぁ確かにそうね。……でも、そうすると『あの娘』もそうなるわよね。」
「『あの娘』? 唯衣、誰のこと?」
唯衣の発言に首を傾げて尋ねる鈴音とは対照的に、舞衣は全てを分かっているように頷いた。
「確かに『彼女』もそうだな。……しかし、彼女はもう何年もこちらには来ていないようだが……。」
「だからって、諦めてると思う? ……絶対に諦めてないわよ、あの娘。」
舞衣は、確かにな、と呟いて腕を組んだ。その様子に、再度鈴音が疑問の声を上げる。
「ねぇ、二人とも! 一体誰のことなのか教えてよぅ!」
「ああ、ゴメンね鈴音。実は……。」

鈴音に唯衣が答えようとしたその時、玄関の方から「ただいまー」と、正刻の声が聞こえてきた。
「あ、正刻が帰ってきたみたい。……ごめんね鈴音、また今度話すね。」
そう言って唯衣は正刻を迎えに玄関へと向かった。その後を当然のように舞衣も追いかける。
一人残された鈴音は、むーっと不機嫌な顔をしながら、それでも玄関へと向かった。

その後、正刻は汗を流そうとシャワーを浴びようとした所、舞衣が乱入してきて大騒ぎになったり、そのせいで不機嫌になった唯衣や鈴音に苦手
な数学や化学でびしびしとしごかれたりしてぐったりしてしまったが、それはまた別のお話。


370:名無しさん@ピンキー
07/04/25 01:52:32 4NEtS1yj
以上ですー。ではー。

371:名無しさん@ピンキー
07/04/25 02:28:41 /G9hhf9+
いいぇーい

372:名無しさん@ピンキー
07/04/25 15:18:58 YWGXWjEq
>>370
GJ!!激しくGJ!!
ツンデレ、クーデレ、ボクっ娘と来てますね~
次回も楽しみにしておりますっ!!

373:名無しさん@ピンキー
07/04/26 01:58:17 Rsbfb6nB
>>370あんたの作品はエロパロ一萌える名作だ。最後までずっと応援している。GJ!!

374:名無しさん@ピンキー
07/04/28 06:37:47 ljkK2kPF
>>370GJ!これは新たに新キャラ登場フラグ・・・・



なにより鈴音の行動に萌えたよ。

375:名無しさん@ピンキー
07/05/01 18:48:10 aRUSbhF3
GJ! 過疎ってるけど頑張って!!

376:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:47:40 AgJHQ9+I
投下します!

377:絆と想い 第12話
07/05/05 00:49:14 AgJHQ9+I
平日の放課後。今日も正刻は図書委員会の仕事に精を出していた。
今日の彼の仕事は、本の貸し出し・返却の受付だった。
仕事自体はそんなに難しいものではない。しかし、借りに来る人、または返却しに来る人がまとめて来て混雑する場合も結構ある。
それゆえ、受付には常に複数の人員が配置されていた。
正刻以外は二人。一人は美琴。そしてもう一人は……

「ほらそこ! 割り込まずにちゃんと並ぶ! 待っている人は手続きに不備がないか、ちゃんと確認しておいて下さい!!」
受付カウンターで機関銃のように注意をしまくる少女。それがもう一人であった。

少女の名は「立上 桜(たつがみ さくら)」。今年入った一年生で、美琴と同じクラスである。
身長は150前後とかなり小さい。眉が太く、目が大きく、美人というよりは、可愛らしいといった方がしっくりとくる顔立ちだ。
肩口まで伸びた黒髪を、一房だけ縛っているのが特徴的であった。

口うるさく注意している桜と、その横で黙々と作業をこなす美琴を横目で見ながら正刻は苦笑する。
この二人は見た目も性格も正反対であったが、とても仲が良かった。一年生の中では、ベストの組み合わせのコンビかもしれない。
だが、やはりまだまだ一年生である。余裕がないせいか、桜はちょっとキツい言い方をしてしまうし、美琴は逆に何も喋らない。

人の流れが止まったのを見計らって、正刻はその事で二人に注意をした。
「立上、佐々木、お疲れさん。良くやってくれてるな。……だけど、二人とも注意すべき点があるぞ。立上は少し注意の仕方がキツいし、
 佐々木は何も言わないから借りに来た人が戸惑ってたぞ。そこの所は気をつけてくれな。」
美琴は素直に頷いた。もっとも、彼女の場合は頭で分かっていてもなかなか行動に移せないのでそこが問題なのだが。
そして桜の方はといえば……頬を膨らませている。注意された事が不服のようだ。

「だって先輩!? 何回も注意しているのに皆言う事聞いてくれないんですよ!? 私だってきつい言い方したくないですけど、でも仕方
 ないじゃないですか!!」
熱弁を振るう桜を正刻は苦笑しつつ、人差し指を唇に当てて「静かに」という意思表示をする。桜もそれに気づき、少し顔を赤くしながら
も、それでも抗議は止めない。
「大体、先輩がもうちょっと厳しくしてくれれば良いんですよ。借りに来る人達だって、私や美琴だときっとナメてるんですよ、このヒヨ
 ッコ一年生がって。やっぱり、ここは高村先輩が厳しくビシビシと取り締まらなくちゃいけないと思いますよ!」

桜の熱弁に、正刻は三度苦笑した。桜は真面目な良い娘ではあるが、それが強すぎるきらいがあった。
少しでもルールから外れた行為は許せない。厳しく注意してしまう。それは桜の長所でもあり、欠点でもあった。
その厳し過ぎる性格のため、中学では少し桜は疎まれていたのである。いじめとまではいかなかったが、友達は殆どいなかった。
しかし、高校に入ってからは、桜にも変化が起きた。最初は中学のように厳しかったが、ある程度の許容を見せ始めたのである。

それは、高校に入ってから出会った人達との交流の影響であった。
決してルールを破っている訳ではないが、しかし真面目な訳でもない。
そういった変わり者が数多くいるこの学校に来たお陰で、桜も自然と度量が大きくなったのである。
その影響を特に与えたのは親友となった美琴。そして、学校一の変わり者と評判の正刻であった。

378:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:50:06 AgJHQ9+I
正刻は苦笑を浮かべながら桜に言った。
「おい立上。借りに来る人達がお前達をナメてるって……そりゃ流石に被害妄想じゃないか?」
「そんな事ないですよ先輩! 絶対私たち、特に私をナメてますって! 私が背が低くて子供っぽいから!!」
そう桜は反論するが、内容はどう聞いても桜の被害妄想である。正刻は手を伸ばして桜の頭をわしゃわしゃと撫でると、子供をあやすよう
に言った。
「あーそうだねー。みんなひどいねー。後でお兄さんが叱っておいてあげるからねー。」
「なっ! もう先輩! 言ってるそばから子供扱いしないで下さい!!」

当然烈火の如く怒る桜。しかし。
「……よしよし……。」
親友でもある美琴にまで頭を撫でられ、その怒りも腰砕けになってしまう。
「美、美琴、あんたねぇ……!」
「……?」
美琴に抗議しようとするが、可愛らしく小首を傾げられてはその気も失せてしまう。桜は深い溜息をしつつ仕事に戻る。
そんな様子を見て正刻は面白そうに笑った。

そして暫く後。人の波が少なくなったので正刻達は本を読んでいた。受付の時は、暇なら本を読んで良いので各自が本を持ってきているの
である。
と、本を読んでいた正刻に声がかけられる。
「正刻、読書中に済まないが、ちょっと良いか?」
正刻が顔を上げると、そこには舞衣がいた。目が合うと、大輪の花が咲くような笑顔を浮かべる。周りにいた生徒達が思わず見蕩れて足を
止めてしまう程だ。
正刻も軽く笑顔を浮かべて「よっ」と挨拶する。

「どうした舞衣。俺に何か用か?」
「うん、いや残念ながら、君個人にという訳ではないのだがな。生徒会の資料を作成しているのだが、それに過去の資料が必要になってな?
 資料室を開けて欲しいのだ。出来れば、君にも探すのを手伝って欲しいのだが……。」
「了解、そういう事なら手伝うぜ。今鍵を持ってくるからちょっと待ってな。」
そう言って正刻は鍵を取りに向かう。その後ろ姿を舞衣は見送る。

ふと、自分に向けられる視線を舞衣は感じた。視線を追うと、その発信源は桜と美琴であった。特に桜はきらきらと目を輝かせ、羨望の眼差し
で舞衣を見つめている。舞衣は軽く二人に微笑みかけて声をかけた。
「君たちも精がでるな。立上に、佐々木……だったかな?」
自分の名前を覚えてもらっていた事が嬉しく、桜は嬉しそうに頷いた。
「はい! 舞衣先輩に名前を覚えてもらっているなんて……光栄です!」


379:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:51:35 AgJHQ9+I
そんな桜に舞衣は微笑を返す。実は、こういうことは日常茶飯事であった。
舞衣は男子からの人気は当然あるが、実は、下級生からは女子の方に特に人気があった。
モデルのような美しい顔で背も高く、抜群のスタイル。成績もトップクラスで、運動神経も良い。生徒会副会長で、仕事も出来る。
そんな彼女を「お姉様」と慕う女子は、結構多いのだ。だが、そんな彼女達には大きな壁が立ちはだかる訳だが……。

それはともかく。桜も、自分とは違う、大人びた容姿を持ち仕事も勉強もなんでもこなす舞衣に憧れていた。
もっとも、憧れ以上の感情は流石に持っていないようだが。
桜は舞衣を見ながら、溜息とともに呟いた。
「でも先輩、本当にスタイル抜群で綺麗ですよね……。羨ましいなぁ……。」

そんな呟きを聞いて、舞衣は微笑みながら言った。
「ありがとう、立上。でも私は結構努力しているのだぞ? 彼に好かれるような、綺麗で強い自分であるために、な。」
桜は、はぁ、と溜息とも返事ともつかないような声を漏らした。美琴はきょとんとしている。

ここでいう「彼」が誰を指すのか尋ねる者は、少なくともこの学校には殆どいない。言うまでもなく、それは正刻であるからだ。
先に言った、舞衣を「お姉様」と慕う女子達にとっての立ちはだかる壁は、正刻であった。
正刻本人はもちろん立ちはだかっているつもりは全く無いのだが、しかし舞衣を慕う者たちから見れば、正刻は不倶戴天の怨敵とさえ言えた。
自分達が慕う彼女の愛情を一身に受ける男。さらにそれを邪険にしている(ように見える)男。それが舞衣を慕う女子達の共通見解であった。

しかし、表立って正刻に嫌がらせをしない、出来ないのは、舞衣が正刻と一緒にいる時は本当に幸せそうである事と、正刻に仇為す者を
彼女は絶対に許さない、という事があるからであった。

過去に正刻に陰湿な嫌がらせをしようとした者もいたが、例外なく舞衣によって様々な制裁を受けている。
正刻は、そういった嫌がらせなど全く気にしないし、暴力による実力行使を受けても、それを余裕で返り討ちに出来るだけの力がある。
故に嫌がらせを受けても特に気にせず放っておくのだが、舞衣の方はそうはいかなかった。
「自分の愛する人を侮辱されて黙っているのは女が廃る!」とは舞衣の弁だ。

「でも、先輩は高村先輩のどこにそんなに惚れ込んだんですか?」
失礼かと思いつつも、好奇心を抑えきれずに桜が尋ねる。怒られるかと思ったが、舞衣は当たり前のようにこう言った。
「全部だ。」
はぁ、と桜はまた気の抜けた返事をしてしまう。そんな桜の様子を見て、舞衣は更に言った。
「まぁそう言っても君たちには分からないし、分かるように説明しても良いが、それで君たちが正刻に惚れてしまっては困るから端的に
 言おうか。私にとって彼は、太陽みたいなものなのだ。」
「太陽……ですか?」
桜の問いかけに、舞衣は頷く。

「そう、太陽だ。月並みな表現かもしれないが、それが一番近いな。私にとって、唯一無二の存在。代わりのものなど無い存在。いつも
 眩しくて、憧れる存在。それが彼なんだよ。」
腕組みをしたまま舞衣はそう語る。
桜は、自分が話題を振ったとはいえこの人こういう恥ずかしい事を良く言えるなぁという想いと、こんな事をきっぱりと言い切れるなんて舞衣
先輩はやっぱり色んな意味で凄いという想いがせめぎあって、何も言えなかった。
ちなみに美琴はこくこくと首を縦に振っている。今の発言を支持しているようだ。
それを見て、舞衣はにこりと微笑んだ。

「ほう佐々木、正刻の素晴らしさが分かるか? お前はなかなか見所があるな。よし、ではとっておきの正刻の昔の話をしてやろう。
 実は……。」
そう言いかけた舞衣の口がにゅっと伸びてきた手で塞がれる。
「おい舞衣……! 頼むから俺が居ない所でロクでもない話をしないでくれよな……!」
塞いだのはもちろん正刻であった。片手で舞衣の口を塞ぎ、もう片方の手に鍵を持っている。

「あぁ済まん。君のどこに惚れこんだのかと立上に訊かれてな? 佐々木も興味ありそうだったし、話していたら興が乗ってしまってな。」
正刻の手を外して舞衣が言う。それを聞いた正刻が横目で二人を睨む。桜はぺこぺこと頭を下げ、美琴も微妙に目を逸らしている。
はぁ、と溜息をついた正刻は疲れた声で二人に言った。
「おいお前ら……。頼むから火にガソリンをかけるような真似はしないでくれよ……。それじゃ舞衣! さっさと済ませるぞ!」
「分かった。では行こうか正刻。」


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