07/02/20 00:26:21 w65ZSznx
遠くのグラウンドから、野球部のバットがボールをはじく音が風に乗って響き、
どこからともなくブラバンの調子の外れたラッパの音が流れてきました。
今日までは、当たり前に聞き流していた音。
今日だけは、やけに強く聞こえる音。
仲間と過ごしたかけがえのない日常が流れていく音。
この音に浸っていられた幸せ。
それに気付かないほど充実した日々。
どれくらい泣き続けていたのでしょうか。
長門さんの温かい鼓動を感じているうちに、心の底にヘドロのように溜まった澱は、きれいさっぱり洗い流されていきました。
そして、そのぽっかりと開いた心の隙間に、潮が満ちていくようにゆっくりと、
何かをやり遂げたのだという充実感が湧き上がってきました。
これが何なのかは、まだ分かりません。
ただ、何年後かに、この瞬間を振り返る日が来るだろうという、痛みにも似た切ない確信がありました。
ようやく涙の止め方を思い出して顔を上げると、そこには柔らかい微笑みが、僕の目をいたずらっぽく覗き込んでいました。
まったく。照れ臭いことこの上ない。
さあ、胸を張れ古泉一樹。この部室と、かけがえのない人に万感の想いを込めて。
誰かさんにも負けない、灼熱の笑顔で締めくくってやろうじゃないか。
「やれるだけの事は、やりました!」
「そう」
一陣の風が、桜吹雪を伴って、窓から吹き込んできました。
視界をいっぱいに舞う陽だまりのように暖かい雪。
僕にもようやく、遅い春がやってきたようです。