嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 修羅場の28at EROPARO
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 修羅場の28 - 暇つぶし2ch250:名無しさん@ピンキー
07/02/09 22:21:07 I7uedTft
投下乙です。
ところで既に元ネタがある件について。
URLリンク(www.excite.co.jp)

251:やや地獄な彼女(ヤマグチ篇)
07/02/09 22:32:46 d8xtduPe
やべえ、ヴァレンタインネタなんてカケラも用意して無かったよ。
流れ切っちまって、叩かれねえかな……。

>>160の続きです。

 柴田君が、落合さんと教室を出てもう、30分近く経ちます。
 保健委員として名乗りをあげた時、はっきり言って私は、今度こそ彼と仲直りをしよう、そう思っていたんです。
 でも、でも、やっぱり、柴田君が選んだのは、保健委員の私ではなく、副委員長の落合静香さんでした。
 今頃、どこで何やってるんだろう……。
 あの落合さんが、柴田君を保健室まで連れていって、素直にUターンして帰ってくるなんて、絶対に有り得ません。
 やっぱり、二人で……あんな事や、こんな事なんかも……。
 ああああ、何でこんな事になっちゃったんだろう!!
 分かりません! 分かりません!!

 たった一ヶ月前までは、私と柴田君は、誰はばかる事の無い彼氏彼女でした。
 朝は迎えに来てくれて、おしゃべりしながら登校して、ついでに手なんか握ったりして、
 休み時間にもおしゃべりして、お昼休みに私の作ったお弁当食を一緒に食べて、
 授業が終われば、おしゃべりしながら下校して、やっぱり手なんかつないだりして、そのまま少し遠回りして私を家まで送ってくれる、
 そんな、高校生にしてはちょっぴり奥手な、でもどこにでもいる、そんな普通のカップルだったはずなのです。
 幸せでした。
 その頃の私は、確実に、とてもとても幸せでした。
 でも今は違います。
 今の柴田君は、もう、私に近寄りさえしてくれません。
 さっきもそうでしたが、私が話しかけても、怯えた眼をしてすぐに行ってしまいます。
 ああ、あの眼!
 何故、柴田君は私をあんな眼で見るのでしょう!?
 あんな…恐怖に染まった、私と会話している事すら、誰にも見られたくないかのような拒絶反応!

―死にたい。
 
 そう思います。
 でも、今死ぬわけにはいかないのです。
 今、私が死んだら、一番喜ぶのは他でもない、あの落合さんだからです。
 柴田君は、少しは悲しんでくれるとは思いますが……。
 あの落合さんを喜ばせるような事は、何一つしたくはない、それが今の私の、紛れも無い心境なのです。
 私が彼女に対して、ここまで害意を持つなど、以前では考えられませんでした。
 落合さんは一時期、私のもっとも仲のよい友達だったのですから。
 正直言うと、今でも、この現実と、自分の心が信じられません。
 でも、でも……!!

 それでは、この私―山口由利―が、何故ここまでの心境を持つに至ったか、その過程を、順を追って、皆様にお話してゆきたいと思います。


252:やや地獄な彼女(ヤマグチ篇)
07/02/09 22:35:53 d8xtduPe

 そもそも私は、この1-Bというクラスに友達がいませんでした。

 ここは中高一貫教育の、名門大学の付属学校。
 高校受験の段階で途中編入してきた私にとって、周囲のクラスメートたちは、かなり敷居の高いものに思えました。
 私にとっては初対面でも、他の人たちは(特に女子は)、すでに4年目の学園生活という事になり、かなりの範囲で、それぞれの人間関係を確立させておられます。
 そんな中に、私のような地味で内気で、人見知りの癖がある女子生徒が入り込むのは、かなりの勇気がいる事でした。
 案の定、四隣の席の誰とも友達になれず、気が付けば、4月も後半になってしまっていたのです。

 そんな時、私に話しかけてくれたのが、その当時私の前の席に座っておられた落合さんだったのです。
 落合さんは、結構クラスでも目立つ側の女子だったので、名前は覚えていましたが、実際お話したのは、その日が初めてでした。
―というより、“スポーツ万能の元気なボクっ娘”である彼女は、実はかなりのオタク女子であった私にとって、とても気になる存在であり、一度は会話してみたかったクラスメートの筆頭だったのです。

 彼女は気さくで活発で世話好きな、でも少し単純な、本当にいい方でした。
 内気で、地味で、家に帰ればBLモノのマンガなんか描いたり読んだりしている私と、陽気で、元気で、運動神経抜群であちこちの体育会系部に助っ人に行ったりしている彼女。
 そんな私たちが、何故あれほど波長が合ったのか、今から思えば不可解なほどでした。二言三言お喋りをして、さらに休み時間に、軽口を叩き合っただけで、まるで百年の知己のように打ち解け、胸襟を開き合う事が出来たのですから。
 その日のうちに彼女は、私を自分のお弁当グループに紹介してくださり、その集団の一員として快く私を歓迎してくださいました。
 そして私は、その集団の方々を端緒として、クラスの他の女子グループの人々とも、会話をするようになり、結果として見れば、落合さんのおかげで、私は大して苛められもせずにクラスの中に溶け込めるようになったのです。
 私に対する、今の落合さんの態度から考えれば、あの頃がまるで嘘のようです。
 しかし、あの頃の私には、落合静香という人間は、紛れも無く“親友”と呼んでいい存在でした。

 そんな“親友”が“仇敵”と呼ぶべき、今の関係に変化していく発端となった日。
 眼をつむれば、今でも思い出せます。
 即ち、彼女の幼馴染みにして、義兄である彼―柴田遼太郎―を紹介された、あの日。
 あの日こそ、私の学園生活を根底から引っくり返した、運命の始まりの日でした。


253:やや地獄な彼女(ヤマグチ篇)
07/02/09 22:38:54 d8xtduPe

 小、中学校の9年間こそ、ありふれた公立の出身でしたが、はっきり言うと、私は男子という存在が苦手でした。
 その悩みは、歳が長じてからも解決はされず、むしろ、同年齢の男子生徒の、女子に対する下心満載の視線やら態度に、苦手意識は更に増幅されていきました。

 とある休日。
 その悩みを落合さんの部屋で打ち明けた時、けらけら笑って彼女は言いました。
「それは、キミが男の子を理解しようとしていないからだよ」と。
 さらに彼女はこうも言いました。
「そんな事じゃ、レンアイも満足に出来ないよ。いや、それ以前に、男子を理解していないキミが、“ぼーいずらぶ”だっけ? そんなマンガを描けるのかい」とも。
(この当時、私は“腐女子”である自分を、もはや彼女に隠していませんでした)
 私はその言葉に、ぐうの音も出ませんでした。
 そんな私を、いたずらっぽい瞳で見ると、
「じゃあさ、ボクがイキのいいのを何人か見繕ってあげるよ。キミだって、このままじゃいけないって、危機感ぐらいはあるんだろう?」
『やらハタ』とか『負け組』などという言葉が横行する現代です。私だって、このまま二次元人とばかりコミュニケーションを取っていてはマズイ、ぐらいの意識はありました。
 ちょっと恐いですが、クラスどころか学年単位で男子に顔が利く彼女なら、私の偏見を覆す“紳士”を紹介してくれるかも知れない。そう思ったのです。
 
 その時でした。
 落合さんの部屋のドアの向こうから、
「お~い、しずちゃん、オマエ晩飯の買出し行ったんか?」
 彼女は真っ赤になって、
「ちょっと遼くん! 人前では“しずちゃん”って呼ぶなって、あれほど言ったじゃないかぁ!!」
「何言ってんだよオマエ、それは学校行ってる間だけだろ?」
 というドア越しの声に、落合さんはさらにイラついたのか、がばっと座椅子から立ち上がり、ドアを開けて怒鳴りつけました。
「だから、学校の友達がいる時も、だよ!!」
 部屋のドアは外開きでしたので、彼は、いきなり開いたドアに、マンガみたいに顔面をぶつけて、うんうん唸っていました。
「いや、もうダメ! 怒った! 今日からその呼び名、全面禁止ね! 南海キャンディーズみたいでカッコ悪いから、もう絶対にやめてよね! 分かった!?」
「だって、しずちゃんはしずちゃ―」
「分かったら返事っ!!」
「はい!」
「よぉし、なら行ってよし!」
 そう言って、叩きつけるようにドアを閉じた彼女の表情は、依然として耳まで真っ赤でした。

 その時、私は数秒ぶりに思い出しました。
 落合さんのファーストネームが“静香”であった事を。
(ああ、だから、“しずちゃん”なんだ……)
 さらに、ここまで取り乱した彼女を見るのも初めてだという事に。


254:やや地獄な彼女(ヤマグチ篇)
07/02/09 22:40:52 d8xtduPe

 興奮冷めやらぬのか、まだ肩で息をしている彼女に、私は尋ねました。
 今のは誰だと。
 彼女は、一瞬あんぐりとしていましたが、
「誰って、キミ、クラスメートの顔も憶えてないの?」
 まあ、実を言えば、その当時の私にとって、三次元の男性はまだまだ記号上の存在だったので、クラスの男子の顔と名前などほとんど一致しませんでした。
 落合さんは、そんな私を見て、
「重症だね」
 と苦笑しました。

 私はその日、落合さんの部屋で、初めて彼の個人情報を知る事になったのです。

 彼の名は、柴田遼太郎。
 彼女の家がある、この分譲マンションの一つ下の階に住む、幼馴染みだそうです。

“幼馴染み”! ああ“幼馴染み”!! 腐女子の琴線をくすぐる、この響き!

 さらに柴田君は、落合さんの義理の兄でもあるそうです。
 詳しい事情は語ってくれませんでしたが、事故で両親を亡くし、天涯孤独になった彼と、その事故の後遺症で未だに入院中だという妹さんを、落合さんのお父様が、養子として引き取ったんだそうです。
 彼としても、階下に自宅があるのですが、養父として、法的にも自分たちの面倒を見る覚悟を決めてくれた、落合家のお父様に対する配慮か、滅多に自宅には帰らないそうです。
 で、学年上は一緒でも、誕生日的に柴田君が、落合さんの“兄”になってしまった、と。

“お兄ちゃん”! ああ“お兄ちゃん”!! しかも、しかも非血縁ですよ!!

 同級生にして、“幼馴染み”さらに“お兄ちゃん”! そんな人が“ボクっ娘”の家に同居しているなんて!! 
 まるで、二次元ドリーム文庫の世界じゃないですか!?

 すごい。やっぱり落合さんはすごい。
 私は素直にそう思いました。
 そして当然、私の興味は落合さんに留まらず、柴田君にまで及んでしまったのです。
 後から思えば、彼女にとっては、これは計算外の痛恨事だったに違いありませんでした。
 私が彼に興味を持った事がきっかけで、柴田君自身も私に興味を抱いてくれる結果となったのですから。


255:やや地獄な彼女
07/02/09 22:42:14 d8xtduPe
今回は、こんだけです。


256:名無しさん@ピンキー
07/02/09 22:52:33 sfmXrl53
>>248GJだぜ!
血の一滴も入って無いチョコは本命チョコとは呼べないよね!


257:名無しさん@ピンキー
07/02/09 22:55:31 RfHHV507
>>255
いいとこで切られた・・・・
だがGJJJJJ
続きが気になる!!!!!

258:名無しさん@ピンキー
07/02/09 23:01:05 ZUlkayMP
>>255
落合さんはこれから徐々に病んでいくのかな。期待ー。

あとお前らバレンタインデーが近いからって興奮しすぎ。当日までに干涸びるぞwww

259: ◆jSNxKO6uRM
07/02/09 23:12:06 JDZ4vS4B
それでは投下します

260:『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM
07/02/09 23:13:05 JDZ4vS4B
「はぁ~~……どーしよ。」
「ダメだよ、海斗君!私たちの愛の……じゃなくて、妹さんの兄離れのためだよ!」
「先輩がこの状況を作ったんですよ?」
「こうでもしないと進展が無いよ。」
 放課後。僕はまた部室で溜め息を付いていた。家に帰ってどう言い訳をするか考えるためだ。ぶっちゃけ、なにも思い付かない。僕が悩んでいる間、先輩はずっと何かをスケッチしていた。
「……先輩、何かいてるんですか?」
「えっ?あぁっん、だめぇ!」
 ひょいっとスケッチブックを取り上げると、先輩は色っぽい声を出す。ちょっと僕も反応してしまったが、先輩が届かない所に持ち上げる。
「これって……」
「うぅ……」
 スケッチブックには、机に座り、頭を抱える男子が描かれていた。……この状況で絵のモデルになるものは……
「先輩、これってもしかしなくても僕ですか?」
「うぅっ……」
 先輩は涙目のまま、小さく呻いて頷いた。あー、すっごいかわいい。先輩っていじめ甲斐あるなぁ。もっといじめちゃお。
「先輩、この間も僕を描いてましたよね。なんでですか?」

261:『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM
07/02/09 23:14:00 JDZ4vS4B
「え、えと……だって……」
「だって?」
「その……か、海斗君、絵にしやすいから……」
「……はぁ?」
 喜んでいいのかわからない答えが返ってきて、少し戸惑う。
「スキありぃ!」
「うわっ!」
返事を考えているうちに、先輩にスケッチブックを取り返されてしまった。先輩をそれを大事に抱えると、僕を睨んできた……睨むといってもかわいいだけだが……
「海斗君!女の子……特に美術部にとって、これは自分の心の中なんだよ!?それを勝手に見るなんて、デリカシーがなさすぎます。」
「……はい。」
 人差し指を立て、頬を膨らます。先輩。恐らく、「怒ってますよ」見せたいんだろうけど、やっぱりかわいいだけだ。あー、抱き締めたい。
「ほらほら!早く帰らないと、妹さんに殺されちゃうよ!」
「あっ!やべっ!」
 時計を見たら、もうホームルームが終わってから三十分も経っていた。本当に殺され……はしないだろうけど、説教が厳しくなる。
「じゃあっ!先輩さよなら!頑張って説得してみせます!!」
 先輩の返事も聞かず、僕は部室を飛び出した。

262:『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM
07/02/09 23:14:44 JDZ4vS4B
「ばいばい、海斗君……」
 海斗君、走って出ていっちゃた……むぅ、ちゃんと顔を見てさよならしてほしいのに。……妹さんのせいでちゃんと挨拶してくれなかった……
「海斗君……はぁ……」
 先程まで海斗君が座っていた椅子に座り、机に顔を伏せる。海斗君のぬくもりがまだ残ってる。机には海斗君の匂いが……
「あん……」
やだ、もう濡れてきちゃった。帰ったら着替えなくちゃダメかな。椅子も拭いて帰らなくちゃ。
 自分のスケッチブックを机の上で広げる。最初のページからゆっくりと見ていく。笑ってる海斗君、悩んでいる海斗君、真剣な顔の海斗君、眠そうな顔の海斗君。
 たくさんの海斗君がスケッチブックにいる。全部のページに海斗君がいる。もう2、3ページしかない。
「はふぅ~」
 海斗君専用スケッチブックもこれで八冊目。海斗君と出会ってから描き始めた私の宝物だ。これを描いてる途中でオナニーしちゃうからペースが遅いけど。
「あ…ん……」
 もうダメだ。我慢出来ない。早く帰って海斗君でオナニーしたい。今日はどの海斗君に犯してもらおうかな……でも、もう想像の海斗君じゃ我慢できないかも……

263:『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM
07/02/09 23:16:53 JDZ4vS4B
「まだ帰ってこないの……お兄ちゃん……」
 まださっきから時計を見て二分しか経ってない。早く帰って来るように言ったのに、どこで道草を……
「っ!ま、まさか、あの女にぃ……」
 今日の昼休みの事をおもいだ思い出してしまった。極力忘れようとしてたのに……
『私、海斗君と付き合ってるんですよ……』
 キチ〇イの戯言を真にうけるわけがない。あんな学園一の美人だとが持ち上げられていい気になってる雌に、お兄ちゃんが釣られるわけがない……
「あの……アマ……」
 悔しいけど、あの雌は面だけはいい。それを認めるのは癪に障るが、どうせそれだけ。頭の中はお花畑だ。お兄ちゃんならそれを見抜いてくれりはずだ。
「でも……」
 実際お兄ちゃんが早く帰って来ないのに、心がざわついている。私はホームルームが終わって、掃除もさぼって帰って来たのに、お兄ちゃんは……
「ああっ!もうっ!あの女がお兄ちゃんをぉぉっ!」
パリン!
 また怒りで頭がいっぱいになり、皿を割ってしまった。床中に皿の破片で散らばっている。私の足にも少し刺さっている。
「た、ただいまぁ~」
「お兄ちゃん!?」
 玄関からお兄ちゃんの声が聞こえた。私は喜びと怒りが混じったまま、お兄ちゃんを迎えにいった。

264:『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM
07/02/09 23:17:33 JDZ4vS4B
以上です。
相変わらずこのスレはノビが早い。

265:名無しさん@ピンキー
07/02/09 23:18:29 +yFJDeL4
>>258

もう干からびた俺がいる

266:名無しさん@ピンキー
07/02/09 23:24:26 gIAN0Otz
>>264
鬼ごっこキタ━(゚∀゚)━!!
先輩も妹も可愛すぎ(*´Д`)ハァハァ

267:名無しさん@ピンキー
07/02/09 23:36:09 gFtfrVMM
おお鬼ごっこの続きが来た!
GJ

268:トライデント ◆mxSuEoo52c
07/02/10 00:05:40 /kAx4gPK
鬼ごっこキタァー(゜∀゜)ーー!!!!
というわけで投下を致します

269:水澄の蒼い空 ◆mxSuEoo52c
07/02/10 00:08:30 /kAx4gPK
 第23話『果たされる約束』

「月ちゃんと一緒。ずっと、一緒。一緒にいようね」

 音羽は蔓延なる笑顔を浮かべて幸せそうにその言葉を呟いている。
俺は『親父の靴下の匂い』で気絶させられてから時間はそれなりに経っている。
周囲を見渡せば見慣れた我が学園の体育館倉庫のマットに俺は両腕両足を拘束されて仰向けに倒されている。
その上に音羽がしっかりと抑え込むように体重をかけて抱き締められていた。
 どうやら、気絶した俺を運ぶのは女の子の力ではここに運ぶ事が限界だったのだろうか。
学園内に俺は音羽によって閉じこめられている。彼女は少しだけ俺を独占できる状態にして必死に甘えている。
俺は反抗することもできずに、ただこの屈辱を絶えていた。

「う、嬉しいよ。嬉しすぎるよ。つ、月ちゃん月ちゃん」

 何が嬉しいのか全くわからない。音羽の行動はすでに異常を遥かに通り越して、常人には全く理解できない世界へと飛んでいる。
俺はただ心が音羽の狂気に呑み込まれないように絶えることしか出来ない。

「つ、月ちゃん。好き。大好き。誰よりも好きなの。だから、いいよね?」

 何がだ。

 その言葉の返事を待たずに音羽は俺の頬を舐め始めた。
彼女の柔らかい舌の感触が俺の頬に感じるのは生暖かさと貞操が襲われる危険だった。
だが、音羽は狂ったように自分の唾液のついた舌を俺の頬に付けることで自分の所有物だと主張する。
それがどんなに身勝手でも狂った人間には何の関係もない。ただ自然に相手をどこまでも依存できる気持ちが
上回っているので正常な思考はすでに失われて、本能に忠実に動いていた。

 天草月を自分のモノにする。

 天草月に好きになって欲しい。

 天草月に愛されたい。

 天草月に抱かれたい。


 そのためには音羽は自分が月にご奉仕する事で得ようと考えているのだ。
 やがて、両方の頬が音羽の舌で濡れてしまうと今度は俺の唇を躊躇なく奪う。
 それはキスと呼ばれる行為なのだろう。欲情に満ちた瞳が極上の喜びのように輝いている。
問答無用に口内に彼女の舌が侵入してくる。そこに快楽という言葉が待っていた。
頭を痺れさせる甘美な感覚が体を全体を襲う。このまま、音羽に全てを捧げたく気持ちになるが、俺は寸前の所で理性を抑える。
 これは単に恋愛や純粋な行為ではない。
 立派な凌辱だ。これ。


270:水澄の蒼い空 ◆mxSuEoo52c
07/02/10 00:11:46 /kAx4gPK
 音羽の唇が俺の唇を離れるとその間に唾液の糸が繋がって落ちる。
音羽はその光景が嬉しいのか、優しく微笑する。

「月ちゃん。夜は長いんだよ。一晩あれば月ちゃんを私のことだけしか考えられない体にしてあげる。
誰よりも私のことを想ってくれる人になって。今まで寂しいかった日々は今日で終わるんだから。
これからは月ちゃんとずっと一緒だよ」

 ヤンデレ症候群に感染した女の子は大好きな男性を同性から遠く引き離して男性を洗脳するというのを聞いたことがある。
段階的に徐々に進行速度は早まっているが、俺が音羽に拒絶した時に殺されなくて良かった。
この病名の症状は医学界で発表された論文って全くアテにならん。責任者出てこいー。
 だが、付け入る隙はきっと存在しているのだ。俺が音羽に殺されなかった理由は偶然に
 俺が音羽を心配して気遣ったところを見せてしまったのが原因じゃないかと。
 恋する女の子は思い込みが激しい。とことん激しいのだ。
 それはあらゆる意味で精神的な病を患っているのに等しい。
 ならば、いくらでも手はある。

「お、音羽。俺に蹴られたお腹は大丈夫か?」
「こん?」
 今まで行為に夢中になっていた音羽が俺の声に反応してぴたりと止める。
 俺の顔を見つめながら、心配してくれた事が嬉しいのか優しく微笑して言った。
「月ちゃんの体に触れているから、そんなことは忘れちゃったよ。ありがとう。私のことを気遣ってくれて」
「本当にごめんな。傷つけてしまって」
「そんな。そんなことないですぅ。月ちゃんを襲おうとした私が悪いんです。月ちゃんは何にも悪くないの」
「いや、俺が……」
「月ちゃんに復讐するって宣言した天罰なんですよ。きっと。月ちゃんにいくらでも暴力を振るわれてもいい。
 どんなに酷い目に遭わせられても、月ちゃんになら平気。平気ですから。
 だから、私の傍にいてください。どんな時でも。お願いします!!」
 悲痛な叫びと共に抱き締められている腕の力が強く込められた。音羽は涙目になって、俺は純粋な眼差しで見つめている。

「もう、独りぼっちは嫌なの」
 独りぼっち。
 その言葉が俺の胸に深く突き刺さった。
 両親が俺の誕生日プレゼントを買いに行った時に交通事故を起こした夜の事を思い出した。
 ただ、両親の帰りを待つために独りぼっちの夜を過ごした。恐怖と不安。寂しさが今でもトラウマになっている。
 だから、音羽の気持ちは理解できる。
 けど。

「だったら、放してくれないか。俺も音羽が一人じゃないよと抱きしめてあげたい」
「月ちゃんっっ!!」

 音羽が歓喜の声を上げる。急いで俺の体から離れて、拘束した両足両腕に結ばれた縄を解いた。
 音羽は完全に俺が心を許したのと勘違いしていたかもしれない。
 少し甘い声を出して、音羽を気遣う言葉をかけるだけで彼女は油断してしまっていた。
 拘束を解かれると俺は音羽を突き放して体育館倉庫の扉に向かって走る。
 急いで、ドアを開けると音羽の泣き叫ぶ声が響いた。

「月ちゃん。月ちゃん。行かないでぇぇぇっぇーー!!」
「ごめんな。俺はお前のモノになれないんだよ」

 そう言い残すと俺はYダッシュで駆ける。
 決着はこの月夜が輝く場所こそが相応しい。その居場所に誘導するために後方から追い掛けてくる音羽の足に合わせて、
 俺は屋上に向かって校舎の中に入った。


271:水澄の蒼い空 ◆mxSuEoo52c
07/02/10 00:15:10 /kAx4gPK
 月は虚空にて夜の暗闇を打ち消すように明かりを照らしている。今宵の月はとても綺麗に輝いているように見えた。
 屋上は夜風が気持ち良く吹いている。もう、季節は夏から秋へと移り変わっていたのだ。
 少し肌寒さを感じるものの、俺は屋上に続く階段から足音が聞こえてくる追跡者を待つ。
 準備に怠りはない。
 今日という一日でヒントをいくつか掴んでいる。
 この事態を通り過ごす自信は今の俺にあった。

「つーきーちゃーん。つーきーちゃーん」
 ようやく、屋上に登ってきた音羽は息を切らして俺の名前を叫ぶ。
 虚ろ瞳をして、先程の天使の笑みが嘘のように今は怒りの表情を浮かべている。
「私を騙していたの? 私の心を玩んでいた。そうなんでしょう」

 ナイフを右手に、左手にスタンガン。隠し持っている武器『親父の靴下の匂い』と完全装備している音羽が喋ると同時に近付いてくる。
 入り口は音羽の後方にあり、俺の背後にあるのはフェンスだけ。すでに逃げ場所はない。
 俺を殺そうとする殺意が少し距離が離れていても敏感に感じることができる。
 ついにヤンデレ症候群の最終的段階まで症状は進んでいるのであろう。
 女の子は想いを受け取ってくれない男の子が自分のモノにならないと認識すると殺してしまう傾向にある。泥
 棒猫を優先的に殺すのだが、最終的に想い人を殺してしまう。
 惨劇は神様が楽しむために用意されている。その不幸の最後は天草月の死で未来は確定されているのであろう。
 だが、そうは行かない。

「俺は誰かを好きになったことがないんだ。でも、こんな風に人と人が一緒になるのは間違っていると思うんだ。

 音羽が両親を失ってから孤独の人生を送っていたのは痛い程わかった。
 俺も独りぼっちだったから。余計にな」

「そうだよ。独りぼっちは寂しいんだから。とってもぉぉ!!」
「音羽の想いを受け取れない。鷺森音羽だけの天草月にはなれない。
 いくら、幼なじみ同士でも踏み入れてはいけないとこに触れちゃいけないんだ」
「どうしてぇ……。どうしてなのよ。そんなに水澄虹葉や紗桜ちゃんがいいってこと? 
 幼い頃のあなたを無視して苦しませた連中が私よりもいいってことなの!?」 

「虹葉姉や紗桜は俺にとっては大切な人なんだ。どちらがいいなんて天秤に測る真似はしたくないし、音羽も同じぐらいに大切に想っている。
 でも、答えなんて決められない。ただ、今流行のヤンデレ症候群に感染して自分のモノに入らないからって、
 身勝手に相手を殺すのは俺の一番大嫌いな事なんだよ。
 命の大切さは誰よりもわかっているつもりだから。音羽だって両親を亡くしたらわかるはずだろ。
 大切な人が消えてしまうのはとても簡単なんだよ!! 誰かを失った痛みをどうして理解しようとしないんだ!!」

 久しぶりにキレて俺は音羽に思い切り怒鳴ってしまっていた。さすがの音羽も尋常のない俺のキレ方に驚いて怯えていた。

272:水澄の蒼い空 ◆mxSuEoo52c
07/02/10 00:19:14 /kAx4gPK
 そうか。俺はヤンデレ症候群の感染者がとても大嫌いだったんだ。
 語っていく言葉でその事がはっきりとわかってしまったんだ。
「うふふっっっ。月ちゃんがそこまで私を否定するなら月ちゃんを私の一部にしてあげるよ」
 狼狽えているのは数秒だけ。音羽は俺に向かって走りだした。ナイフとスタンガンの二刀流の凶器を躱すことはさすがの俺でも難しい。
 ただ、相手の攻撃を防御するだけで勝つ事ができない。
 攻撃こそ最大の防御。
 俺も音羽に向かって駆け出す。彼女は俺の奇抜な行動を予想していなかったのか、
 少しだけ動揺していた。その数秒が勝負の明暗を明けた。
 俺は更に加速して、音羽へ向かう。

 今日は恥辱を受けた。
 紗桜と虹葉姉のブラが外れた騒動を思い出す。もし、その騒動に巻き込まれてなかったら、こんな技を生み出すことはなかっただろう。

 音羽の正面を軽く通り抜けて、背後の背中を狙う。
「秘儀 ブラジャー外し!!」
 右手の手刀が見事に音羽の背中に炸裂する。
 パチン。
 音羽のブラジャーのホックが外れる音が暗闇の中に響き渡ったのだ。

「はぅぅぅぅ」
 虚ろな瞳からすっかりと正常な音羽の瞳の輝きを取り戻して、顔を真っ赤にしていた。
「何するんだよ月ちゃん。ブラが……取れちゃったよ」
「ふふふ……。俺の完全勝利」
「うううっ……今すぐ付け直して。早くしてよっぉぉぉ」
「いや、付け方知らないし」
「は、恥ずかしいんだからね。特に好きな男の子の前じゃあ」
 いや、それは知らなかったが。音羽は羞恥心一杯で頬を朱に染めながら正常心を失っていた。
 ヤンデレ症候群に感染したのと関係なく、女の子にはいろいろあることを想い人に知られるのはかなり恥ずかしいという心理が優先されるらしい。
「じゃあ、これを見て」
 俺は制服のズボンから取り出したのは紐を通した5円玉であった。それを宙に釣らすと振り子のように動かした。
「み、見るわよぉぉ」
「よし、ちゃんと5円玉の動きをよ~く見てろよ。音羽はだんだんと眠たくなる。きっと、眠たくなる。必ず、眠たくなるなる」
「こ~ん」
 TVの特集番組で見た催眠術をそのまま音羽に仕掛ける。
 ヤンデレ感染症候群に感染した女の子は思い込みがとことん激しい。
 その習性を利用して、俺は音羽に催眠術で全てを解決する。
「あなたはヤンデレ症候群に感染した患者じゃない。病院で復讐宣言した出来事から今度目覚めたときはすっかりと忘れること。
 後、両親を失った悲しみも忘れる
 はいっ。」
 手と手を叩いて、5円玉を揺らすのをやめた。これで今まで起きた事は綺麗さっぱりと忘れている。
「月ちゃん。私はどうしてここに」
 よし、催眠術が見事に成功した。心の中でガッツポーズを取ると俺は何事もなかったように言った。
「ほらっ。今まで俺達の昔話をしていたんだよ。音羽は途中で文化祭の準備の疲れでしばらく寝ていたんだからな」
「そういえば、そうだったような気も」
 よし、上手く誤魔化せた。催眠術が思わない所で本当に役に立ってくれた。
 俺は音羽の頭を優しく撫でると音羽は嬉しそうに微笑んで言った。
「月ちゃん。私、月ちゃんと約束した事があるんですけど。月ちゃんは一緒に居てくれますよね?」

 初めに戻る。以降、エンドレスですか?

 ヤンデレ症候群が再発したら、また催眠術を使おう。
 俺は心に堅く誓った。


 音羽ED 『エンドレスヤンデレ』

 NEXT STAGE 『水澄姉妹シナリオ』


273:トライデント ◆mxSuEoo52c
07/02/10 00:26:57 /kAx4gPK
というわけで音羽編は無事に終了しましたっ
てか、かなり中途半場な所で終わってしまいましたが、
月の謀略で屋上から飛び降り自殺偽装で死ぬよりは
後々に思わぬところで使い道があるかもしれませんね


次回からは一応『水澄姉妹シナリオ』を予定しております
更新は『水澄の蒼い空』を書き終えた時にしようと思います
ようやく、今書いている分から数えて

後、5話で『水澄の蒼い空』で書き終わる予定のはずです
一日一話で書き終えたら良しw

それから、新作の着手に入る予定です

後、このエロパロスレって性的描写はどこまで許されていましたったけ?
念のために聞いておきます

>>264
鬼ごっこキタ━(゚∀゚)━!!
私は先輩大好き派ですw

274:名無しさん@ピンキー
07/02/10 01:14:33 Rd11u8D4
>>244-248
なんか凄いのキタコレ
どっちかって言うとヤンデレスレ向きだけどGJ!

275:名無しさん@ピンキー
07/02/10 01:45:56 GHI2y5js
>>273
お!?濡れ場欲しいって書いてみるもんスね。無茶なグロ描写が無ければライトからヘビーまでドンと来いー。

276:名無しさん@ピンキー
07/02/10 02:27:35 31uF1T3S
なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?
音羽編の結末はそうきたかぁっ!(ドロドロEDだと思ってた)
脱力したがGJ!!

277:名無しさん@ピンキー
07/02/10 02:40:59 0DWwQVfK
投下ラッシュキタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
神々の皆さんテラGJ!です
>>273
そりゃもう18禁(20禁だっけ?)なのですから、嫉妬修羅場による鮮血の嵐から
激しいエロスまでほとんどおkですよ
音羽が独占欲をキープしたままほのぼのとした雰囲気で結末を迎えて良かった
>>264
鬼ごっこキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!
キモウト可愛いよキモウト

278:名無しさん@ピンキー
07/02/10 02:41:15 /VqQDKaS
ブラジャーには突っ込み入れないのかよww

279:名無しさん@ピンキー
07/02/10 09:33:02 QXtk8nWh
       ___    \  全世界のもてない男たちを   /          / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     /L,    |  \  \ 救済するため作り上げた  /    /⌒ヽ    | バレンタインとは
   ./ ト、└L, |  jJヽ  \    秘密結社!!   /::    |  ▽|  ∠   そもそも
   ハ |  \ しlv┘/|!   \ その名もステキ  /::      ノ⌒ヽ/    | なんであるか
   | 'ゝ\__> l /  ノ|    \ 『 し っ と 団 』 /    , -/ , 、_ `‐-‐、 |   杉野!!
  /| '⌒~-イl、`ー ´(|      \        /:::    /   '''´ {   、   ヽ \______
/  .|      ,' `¨⌒/       ∧∧∧∧∧ ::::    ノ  ヾ   |   ,ハ`''"〈
  / |ヽ.    ,'    ∠-―- 、   <    し  >::::   (  人   }  イト、   )
/  ||\__,/__, <__      >ー< 予 っ  >:::::::::  ヽ、ヽ|   j   ハ  〈
───────<.   と  >──────────
    ,人,ノヽ 〈与えねばなるまい< 感  団  >       ゝ しイ    \ そう!!これは
  人ノ  ,.   ! 〉 アベックどもに ..<       > ___|__  _)  て   <天に代わって悪を討つ
,ノ'   / |  (| \  天罰を!! <. !!!.  の  >  ||  'っ h ´__  /  正義のわざ!
  ,/,/l ! ム|    ̄`――/ ∨∨∨∨∨ \ ||l l l  \咢)P!  ̄|/\/\/\/\/
/,/ / | (_,|          / ワレらの      \   /   ,ゝ__r┘    < 決して私怨から
/゚ / / /|        /    目標わ!!    \      」 )‐<\    < でわない!!
´三:"/  フ|      /  バレンタイン2月14日!  \     厂丁ト、l_   ∨ ∨ ∨ ∨ ∨∨
 ̄ ̄  <, |     /    悪のアベックどもに     \    〉 | | |::ト、 _|\/\/\/\
へ(⌒ヽ厂 |   /正義の鉄槌を下し 根だやしにすること!!\ }  } ハ 〉{_7、\ 聖 戦 だ ! !

280:名無しさん@ピンキー
07/02/10 10:52:33 hoPCsTAi
ヤンデレと嫉妬の境界がわからなくなってきた俺には関係なく楽しめるぜ。

281:名無しさん@ピンキー
07/02/10 11:50:44 8832AAj7
さて、ヤンデレスレにイラストが大量投下されたわけだが




うらやましいっ!!!!!!!!!!!!

282:名無しさん@ピンキー
07/02/10 15:34:18 gmslpVIE
ヤンデレ=女が嫉妬に至る過程
嫉妬=修羅場
ほのぼの純愛=嫉妬女に屈した主人公の末路

時系列ではヤンデレ→嫉妬→ほのぼの純愛となるのかな

283:名無しさん@ピンキー
07/02/10 15:40:13 v1d6+abN
嫉妬スレも絵師が欲しいよな

284:名無しさん@ピンキー
07/02/10 15:45:47 i8JQxDPG
毒メグ氏が居るじゃあないか。

285:名無しさん@ピンキー
07/02/10 16:08:15 /1/HamsW
あの人の修羅場好きっぷりは異常







無論ファンですか

286:名無しさん@ピンキー
07/02/10 16:38:58 hzsQ7b40
絵師って全部で何人だ?
画廊見たら6~7人ぐらい?

287:名無しさん@ピンキー
07/02/10 18:34:20 ossILU/J
ヤンデレスレは大繁盛ですねww
ここはついに寂れてきた・・終焉がやってきたのじゃあ!!

288:名無しさん@ピンキー
07/02/10 18:37:45 i8JQxDPG
『終わりだ』宣言も、もはやここの名物になってきた悪寒。

289:名無しさん@ピンキー
07/02/10 18:38:41 t4S60V2H
>>287
今は投下ラッシュ後の休憩時間中ですが、なにか?

290:名無しさん@ピンキー
07/02/10 18:40:25 ossILU/J
投下ラッシュすらなくなったよ
嫉妬よりも時代はヤンデレだぜ


291:名無しさん@ピンキー
07/02/10 18:41:11 /E9gGbgK
はいはい、NGNG

292:名無しさん@ピンキー
07/02/10 19:00:28 0DWwQVfK
SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー、荒らしの相手をする人も荒らしさんの仲間入りです
※特に『日本語がおかしい』『追放』『終焉』と言っている人は、
自分の日本語と頭の方がおかしい荒らしさんです。必ずNG登録かスルーしましょう。
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・作品に対する評価を書きたいなら、スレ上ではなくこちら(URLリンク(yuukiremix.s33.xrea.com))へどうぞ
スレは作品を評価する場ではありません

テンプレの荒らしの所を修正してみた、次回からこれでよろ

293:名無しさん@ピンキー
07/02/10 19:07:13 T0IzpXgw
ヤンデレスレも嫉妬スレも両方楽しむのが普通だろ・・
常識的に考えて・・

294:名無しさん@ピンキー
07/02/10 19:20:54 ossILU/J
SSスレのお約束
NG登録推奨作家一覧(彼らは日本語おかしいからスレの住人から追放処分を受けた)

◆AsuynEsIqA
赤いパパ
トライデント
ロボ
◆n6LQPM.CMA
◆U9DQeTtJII
幼馴染
◆6xSmO/z5xE
◆zIIME6i97I
◆y5NFvYuES6
◆pmLYRh7rmU
◆/wR0eG5/sc
◆wGJXSLA5ys
◆XAsJoDwS3o
◆U9DQeTtJII
◆/qHTzufVAQ
◆gPbPvQ478E
ロボ
◆jSNxKO6uRM
◆8BVPwsPs7s
◆YH6IINt2zM
◆tVzTTTyvm.
シベリア!
◆j6xIfCOdTc
◆AuUbGwIC0s
◆RiG2nuDSvM
◆z9ikoecMcM
◆SNU1m8PwXY
◆rgG2t.iTew
◆yjUbNj66VQ
くるっく
◆yjUbNj66VQ
◆rgG2t.iTew
◆I3oq5KsoMI
ID:wqENW/Bk
◆gPbPvQ478E
◆855esSIgqY

その他たくさんです


295:名無しさん@ピンキー
07/02/10 19:27:27 pkFlDk+U
>>294
基地害は死ぬといいよ


296:名無しさん@ピンキー
07/02/10 19:31:22 Ao4sEZa8
スルーだろ

297:名無しさん@ピンキー
07/02/10 19:33:27 WLRn6kMC
>>294
面白い作品を書いてる人の一覧をあげてくれるとは、なんて親切な奴だ。

保管庫行った時の参考になるな。

298:名無しさん@ピンキー
07/02/10 19:50:28 Z5xkxkbD
泥棒猫を確実に始末するための準備期間なんだよ。
もうすぐバレンタインだから雌猫が寄り付かないようにしなくちゃいけないし。

299:名無しさん@ピンキー
07/02/10 19:52:32 zgWojEF9
>>294
という訳で貴様の役割は終わった。
以後このスレに立ち寄る事を禁ずる。
口に銃口咥えるか尻をフォモに差し出すか好きな処分を選べ。

300:名無しさん@ピンキー
07/02/10 19:59:09 2h2Z6KJ7
いちいち反応されるのもイヤだしそっとしておいてやれよ。

301:名無しさん@ピンキー
07/02/10 20:01:16 13yW4C4n
シベリア!さんをリスペクトしていますので、早くシベリアさんが投下し易い雰囲気に戻って欲しい。

あとリストは保存庫のコピぺだろ?重複してるぞ

302:名無しさん@ピンキー
07/02/10 21:06:48 GHI2y5js
>>282
いや、ヤンデレはあくまでキャラクターに依存する性格の属性。
修羅場は作品の一場面を形作るシチュエーション。
でないか。

303:名無しさん@ピンキー
07/02/10 21:30:37 vNNnHOPO
病んでなくても修羅場は発生するし
ライバルがいなくても病むヒロインはいるね

確かに重なることが多いけど

304:名無しさん@ピンキー
07/02/10 21:44:59 33HOjKfA
日本語おかしいお化けの彼は、まさか本気で効果があると思って毎日毎日やっているんだろうか
視野狭搾とかマジヤンデレだわ

305:名無しさん@ピンキー
07/02/10 22:03:33 twywMdbe
>>304
デレってない、デレってないってば!(汗
あれはただの病気。

306:名無しさん@ピンキー
07/02/10 22:21:06 13yW4C4n
アク禁って出来ないんですか?

307:名無しさん@ピンキー
07/02/10 22:24:16 33HOjKfA
愉快犯のつもりなんだろうね、きっと
愉快そうな脳みそ持ってるみたいだし

308:名無しさん@ピンキー
07/02/10 22:46:58 QXeHTgT5
リアルで頭がおかしくなった男の事なんて考えたくない。
恋愛で頭がおかしくなった女の事を考えていたい。

309:名無しさん@ピンキー
07/02/10 23:00:58 t4S60V2H
RedPepperまだかな・・・

310:名無しさん@ピンキー
07/02/10 23:06:28 M508eJsI
二月の中頃ぐらいに投下出来るかもって最近言ってたろ
週末に投下することが多いから気持ちはわかるが

311:名無しさん@ピンキー
07/02/10 23:07:22 YssC75FR
俺は気づいた。いつもいつもトライデント氏やら誰やらを誹謗中傷し、嫉妬スレから追い出そうとしているヤツの目的を。

あれだ。いつだったか、嫉妬スレじゃなくて、ヤンデレスレに投下すればいい、なんてことを言っていた。

つまり―

彼、あるいは彼女、あるいはナニカは、嫉妬スレに嫉妬するヤンデレスレの住人、あるいはヤンデレスレそのものだったんだよ!




やべ、俺天才じゃね? これはもう、正か……む、誰か、き

312:名無しさん@ピンキー
07/02/10 23:12:26 6L6iLFF5
>>311
正解に近いけどハズレだよ……クス

私はナナシ君のことがずぅっとずぅっと好きでいつも後ろから見てるのに…
ナナシ君たら修羅場ちゃんやヤンデレちゃんばかり見てるんだもの……
だから2人にはちょっとお仕置きを……ね。

313:309
07/02/10 23:27:42 t4S60V2H
>>310
マジか!!こりゃ二月中旬までは死んでも氏に切れんな!

314:2月10日
07/02/10 23:31:54 9lvngL9x
>>313
何で2月中盤じゃなきゃ駄目なの?何で私じゃ駄目なの?
みんなそう…2月14日は特別な日とか言って私なんか目にも留めない。
だけど、あなたは違うと思ったのに…私を愛してくれると思ってたのに…
愛してくれないなら、私を貴方にとって一番「特別な日」にしてあげる…。

315:名無しさん@ピンキー
07/02/10 23:52:44 fnst4lAS
その換算で行くと365人のヒロインと付き合うことになるな。
ちなみに2月10日ちゃんは左利きで、ニット帽が目印。好きな食べ物はふきのとうで、
趣味はキタノタケシ監督作品の観覧と、布団にもぐる事。海の安全を常に祈っているらしい。

316:名無しさん@ピンキー
07/02/11 00:11:41 fR7UUWKX
365人・・・、命がいくつ有っても足りないぜ!(366個?) 

317:名無しさん@ピンキー
07/02/11 00:15:49 IYPqd3Tq
2月29日ちゃんは、恐ろしいまでのレアキャラであり、むしろ全てにおいて頂点にたつ、嫉妬キャラの原点とも呼ぶべき存在―すなわち、神。

318:名無しさん@ピンキー
07/02/11 00:23:50 8zNxwdFy
>>317
うおぉぉぉおおお!!
2月29日萌え!!!!!

319:名無しさん@ピンキー
07/02/11 00:32:37 OK0aifsd
>>316
つまり4年に一度、最強の嫉妬少女366日が現れるんですね!?

320:名無しさん@ピンキー
07/02/11 00:36:53 lO8FfN+d
逆に1月1日は、常に他の日付少女よりも前に出て彼のハートを掻っ攫うまさに泥棒猫的な存在。

321:名無しさん@ピンキー
07/02/11 00:36:59 RNmvTYb9
2月29日ちゃんも2月14日ちゃんも気になるけども、
4月1日ちゃんや12月24日ちゃんや、俺の誕生日の11月27日ちゃんの方が気になる。
しまった一人に選べてn

322:名無しさん@ピンキー
07/02/11 00:45:35 lO8FfN+d
しかし、そんな366人もの少女を引き連れるに相応しい真の猛者は何者だろう。
きっと日付の神だ!各日付各日付に行事を決める日付の神様だ!


4月29日「ねえ、日付の神様・・・、どういうこと・・・!?
       なんで私、みどりの日なんて名前になってるわけ?
       私のこと、いつも天皇誕生日って呼んでくれたじゃない!
       何で12月23日の事を天皇誕生日って呼ぶのよ!
       その呼び方はずっと、ずぅぅぅっっっと私だけのものなのよ!!
       殺してやる・・・。12月23日の泥棒猫!コロシテヤル!!

駄文すまね。

323:名無しさん@ピンキー
07/02/11 00:47:07 OK0aifsd
>>322
カレンダーだろ、常識的に考えて・・・

324:名無しさん@ピンキー
07/02/11 00:47:46 lO8FfN+d
>>323
まあ、そうともいう。別名カレンダーの神という事で。うん、間をとろう。

325:名無しさん@ピンキー
07/02/11 00:48:58 Y6fxQTxR
>>315
泥棒猫には手を滑らせてハシリドコロを……

326:名無しさん@ピンキー
07/02/11 01:00:24 RNmvTYb9
日めくりカレンダーだと伝説の間違えて多くめくるというものが・・・

327:名無しさん@ピンキー
07/02/11 01:38:02 cTVOpEhn
そんなSSがあった場合、主人公の誕生日の女の子は最強だなwww

328:やや地獄な彼女
07/02/11 01:38:45 MW95vwI+
あの……皆様お楽しみのところ、流れブチ切って申し訳ないんですが、投稿します。

 一応、時系列順に言うと

ヤマグチ編:山口と柴リョウとの出会い~告白
柴リョウ編:告白、交際開始~静香による拉致監禁
静ちゃん編:監禁、調教~その後もろもろ

 という順番になります。
 混乱されたらゴメンナサイ。


329:やや地獄な彼女
07/02/11 01:40:47 MW95vwI+

 山口さんに告白された。
「好きです。私と付き合って下さい」と。
 学校の帰りに寄ったファミレスで。

 最初は、またドッキリかと思った。
 こんな地味な顔して、頬を赤らめて、それでいて、またドッキリ?
 おいおいオマエら、何度同じ手口を使うつもりだよ。
 もう、中等部時代から数えて2回目…あ、いや、これで3回目、かな?
 まあ、んな事はどっちだっていい。
 ってことは、あそこのカウンターで、さりげにメシ食ってるアイツもギャラリー? あっちのボックス席の窓から外を見てる、あのOLも野次馬?

 いやいや、そういう事じゃないんだ。
 問題はそこじゃない。

 何で君なんだ。

 他の奴らなら、まだ分かる。
 でも、でも……、何でよりによって、君なんだ。
 オレは、オレは、……結構、かなり、割と、大分、君のことが……。
 そんな君まで、あいつらと一緒になって、オレをからかうのか……!!
 そう思ったら、涙が出そうになった。
 無論、屈辱と憤怒と、悲哀でだ。



330:やや地獄な彼女
07/02/11 01:42:28 MW95vwI+

 いや、被害妄想なんかじゃない。
 実際問題、オレはこの手のドッキリに関しちゃあ、ベテランだ。
 勿論、騙す方じゃなくて、騙される側なんだが。

 2度目の時のドッキリ(当時中三)なんか、そりゃあひどいもんだった。
 有頂天になってラブレターに返事を書き、指定の場所に置いて、その手紙を取りに来る子を今か今かと張り込んでいる姿を、迂闊にも4台ものデジカメで同時に撮影されてしまっていたのだ。
 さらに、女の子の1分後に現れたインタヴュアーに“マイク・パフォーマンス”ならぬ“負け犬パフォーマンス”を要求され、ブチ切れたあまり、そいつをブン殴ったら停学になってしまった。
 とどめに、停学中に、オレの女の子張り込み映像(編集バージョン)がネットで公開され、停学明けにまたそのインタヴュアー野郎をブチのめしたら、今度は高等部進学がやばいぞと、担任に釘を刺され、急ぎ頭を丸めて八方謝罪に回らされる始末。
 当然、怒りに震えるコブシを握り締めながら、である。

 いや、話がそれたが、実際何が言いたいかといえば要するに、“女は信用できん”という事なんだ。
 レイプ被害者の女性が、男性不信から立ち直れないというのは、オレにとっては他人事じゃない。
 力ずくでプライドを蹂躙された人間が、他者に対して、どれだけ臆病にならざるを得ないか、オレにはハッキリと実感できる。

 とにかく、オレは、これ以上付き合っていられるかという気分だったので、きっぱり断って、立ち去ろうと思ったのだが、
(―はて?)
 どうも、様子がおかしい。
 彼女の緊張が、どうやらリアル過ぎるのだ。
 そうだ、考えてみれば、おかしな話だ。
 これが、本当にドッキリなら、下級生なり、先輩なり、高等部以来の編入生なり、オレと面識の無い“面の割れてない奴”を使うべきなのに、この彼女は……、
 周囲を見渡す。
 周りの客が、とりたててこっちを窺っている様子もない。


331:やや地獄な彼女
07/02/11 01:43:59 MW95vwI+

「山口さん」
「はっ、はいっ!?」
 緊張の余り、声が上ずってやがる。
「これ、マジでドッキリじゃないの」
「ドッ……、ドッキリっ!??」

 きょとんとしてやがる。
 そうだ。
 そうだよ。
 おれはこの子を、山口さんを知ってる。
 この子は、そんなキャラじゃない。
 人の思いを踏みにじって、くすくす笑えるような、そんな人外外道であるはずがない。
 という事は、山口さんは本当に、本当の本当に、このオレの事を……?
 そう思ったら、オレはまたまた涙が出そうになった。
 無論、今度はさっきとは違う。
 喜悦と感動でだ。

 しかし、だからといって、その感動を支えている情報が希望的観測である事は否めない。
 オレは、彼女を試してみる事にした。
「山口さん」
「はっ……は、い、……」
 今度は、上ずるどころか震えちゃってる。
(これが演技だったら、オスカー賞モンだな)
 オレはひたすらクールになろうとした。
 慎重であるに越した事は無い。
 何故ならこの手のドッキリは、標的にとって、告白者に対する思い入れが、あればあるほど効果を発揮するからだ。
 オレがさっき、ドッキリならば面が割れていない奴を使うべきだといったが、あくまで作戦自体の成功率を高めたいならば、標的の意中の人物を使った方がいいに決まっている。
 オレは、希望的観測を心底から願いつつ、あくまでクールを装い、背筋を正した。

「山口さんの気持ちは、すごく、すごく嬉しいです」
「……あの、じゃあ!?」
「でも、その、あの、……オレ」
「……」
「オレ……好きな人がいるんです」


332:やや地獄な彼女
07/02/11 01:46:52 MW95vwI+
 
 たっぷり1分は沈黙があった、と思う。
 山口さんは、みるみるうちに茫然自失な顔になったが、その表情をキュッと無理やり引き締め、そのまま俯き、さらに顔を上げるまで、の所要時間。
 彼女は笑っていた。
 勿論、可笑しくて笑っていたワケではないだろう。
 何故なら、その明らかに無理に作ったであろう笑顔には、大粒の涙が光っており、肩も小刻みに震え、何より全身から発散される絶望のオーラが、いかに彼女の失望が巨大なものであったかを、如実に示していたからだ。

「そうですか」 
「……」
「柴田君、好きな人がいたんですか」
「……」
「そうですよね。やっぱり、そうですよね?」
 そう言うと、ハンカチを取り出して涙を拭き、ついでに鼻をすすり、その笑顔をさらに無理やり明るくさせて、
「やっぱり、あれですか? あの人ですか? 落合さん。ですよね? 幼馴染みですし、妹さんですし、同居人ですし、同級生ですし、あれ? スゴイ! 萌え要素4冠王ですよ!ここまで来たら、くっついちゃうしかないですよね? 
そうですよね? うん、こうなったら、私も応援しますよ。是非とも頑張ってくださいね!」
「……」
「あれ、……ぐすっ……どうしたんだろ……? かっ、覚悟は、ふられる覚悟は充分できてたはずなのに……、何で、何でこんなに、……震えが……あ、あれぇ……おかしいなぁ……なんでこんなに、……な、み、だ、が……」

 もう充分だった。
 もうこれ以上見たくは無かった。
 彼女は、泣きながら笑っていた。
 笑いながら、泣いていた。
 人はこんなにも哀しい顔ができるのか。
 人はこんなにも切ない表情が可能なのか。
 オレは、自分を絞め殺してやりたくなった。
 彼女にそんな顔をさせたのは、オレのせいなのだ。
 オレの不誠実極まりない返答が、この少女をここまでの悲しみの淵に蹴りこんだのだ。


333:やや地獄な彼女
07/02/11 01:48:11 MW95vwI+

 山口さんは伝票を握り締めると、
「あ、あの……ぐすっ……ごめん、私行きますね? ―ははっ、うん、すみませんっ、明日にはいつもの、いつもの山口さんに戻ってますから、ですから、ですから気まずくなったりとかは、うん、無しにしましょう! ねっ! そうですよ、その方がいいですよね?」
 そう言いながら、足早に立ち去ろうとする彼女の肩を、オレは思わず掴んだ。 
「待ってっ、待ってよっ!」
「離してくださいっ!」
「最後まで、聞いてよっ!」
「聞きたくありませんっ!!」
「オレはまだ、ノーって言ってないだろっ!!」

 山口さんが凍りついたようにオレの方を見ている。
 その顔には、もはや微塵の笑みも無く、涙と鼻水でぐしゃぐしゃに歪んでいたが、オレはちっとも、彼女を醜いとは思わなかった。
「オレには、確かに、好きな人がいる」
「……」
「その人は、その、いつも静かで、上品で、優しくて、けど本当はとても情熱的で、だから、その、―」
「……」
「君なんだ」
「……」
「オレが好きなのは、その、山口さん―」
「……」
「君なんだ」
「……」

 山口さんの瞳から、再び大粒の涙がこぼれおちた。
 一滴、二滴。
「山口……さん?」
 その瞬間だった。
 彼女がオレの胸に、いきなり飛び込んできたのは。
「ぐすっ……ぁぁぁぁ……あぁぁぁ……!!」

 そこから先は大号泣だった。
 もはや人語すら話そうとせず、そのくせオレの服を離そうともせず、彼女はたっぷり3分は泣き喚いた。
 オレは、そんな彼女を、とてもとても愛しいと思った。


334:やや地獄な彼女
07/02/11 01:53:23 MW95vwI+
柴リョウ編、今日はここまでです。
明日以降に静ちゃん編を投稿します。
教室で、柴リョウがバイブかまされて、いぢられて泣かされた続きからか、
それとも、監禁初日から改めて書くか、今まだ迷ってますが。

335:名無しさん@ピンキー
07/02/11 02:12:08 Y6+ltdZ3
いじめられっこだった経緯が、M気質への階段になってしまったのだろうか。
悲しい主人公になりそうです。

336:名無しさん@ピンキー
07/02/11 02:21:42 etisY+4Q
GJ!
だが1ヵ月後には柴遼は調教されてしまう罠

337: ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:26:15 oJareO5R
>334氏
GJです!
どういった過程で遼が調教されていくのか楽しみにしています。


では投下させていただきます。

338: ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:26:53 oJareO5R
「どうしましょう。…お勧め……う~ん……。」
葵さんは腰を屈めて、難しそうな本が詰め込まれた本棚と睨めっこをしている。
「ああ…別にそんな真剣に選ばなくても……。」
「気にしないでください。 こうして選んでる時間も楽しいですから。」

人気の少ない図書館で2人で本を探す。なんて幸せな状況なんだ…。
5分程前、普段本なんか読まない俺はどんな本を借りればいいのか解らず、図書館をウロウロしていた。
もちろん葵さんが見える場所で。
葵さんはそんな俺を見かねて、「お勧めの一冊を見つけてあげる」と受付を同僚の人に任せてわざわざ来てくれたのだ。

「あの、葵さん。」
「何ですか?」
腰を屈めたまま俺を見、眼鏡から覗く瞳に心を射抜かれる。
葵さんの上目遣い……なんて可愛いんだ……。
「七原さん…?」
「えっ、あ、ごめんなさい!」
「どうかしたんですか?変ですよ?」
クスッと笑う。
「すみません………。 えっと、葵さんは俺の相手なんかしててもいいんですか…?」
「と、いいますと?」
「仕事中なのに……何だか申し訳なくて…。」
確かにこの状況は物凄く嬉しい。
だが葵さんは仕事中だ。俺に構っていて上司に叱られるなんて事があったら……、俺は葵さんに顔向けできなくなってしまう。
そんな俺の心を知ってか知らずか、ふふっと笑った後。
「心配には及びません。 この図書館ってあまり人来ないし、それに案内するのも仕事の1つなんですよ。」
柔らかく微笑み、本棚に視線を戻した。
「…ありがとうございます。」
優しい人だ。 好きになって良かった、心からそう思う。

339:名無しさん@ピンキー
07/02/11 02:27:38 vqS7tJRT
リョウ…、お前は俺かW

340:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:28:02 oJareO5R
「で、七原さんはどういう本が好きなんですか?」
「え?」
「本ですよ。 このまま闇雲に探していたら日が暮れちゃいます。」
俺としては葵さんと一緒に居られればそれでもいいのだが。
「実は俺、本はあまり読まないんです。 だから葵さんが好きな本を読んでみたいなと…。」
「私の好きな本ですか?」
「葵さんはどういったものが好きなんですか?」
「そうですね…。」
人差し指を口元に当てて、少し間を置いて続ける。
「一番好きなものっていうと、色々あって難しいけど。
思い入れのある本なら…ありますよ。」
「あ、そういうの良いですね! どんな本なんですか?」
「七原さんのお気にめすようなものじゃないかもしれないですよ?」
「いや!俺は葵さんの好きなものが見たいんです!」
葵さんが好きなものなら例え官能小説でも経済本でも何だっていい!
真剣な俺の言葉を聞き、葵さんはどう受け取っていいのか困った様子で頬を軽く染めて目を逸らし。
「じゃ、じゃあ…。」
コホンと咳払いし、気を取り直して続ける。
「私、元々山鈴村の人間じゃないんです。小学生の頃に引越ししてきて、最初は全然馴染めなかったんです。
あの村じゃ私は余所者だったし、遊んでくれる子も居なくて…。」
懐かしそうにぽつぽつ言葉を続けて。
「でもそんな時に、輪と若菜が私に話しかけてくれて…。」
その時の事を思い出したのだろう、嬉しそうに微笑む
「でね、私が本が好きだって聞くと、輪が絵本をプレゼントしてくれたの。」
「絵本ですか。」
「山鈴村に伝わる神様のお話なんです。 私にとってその本は宝物。今も大事にとってあるんですよ。」
「へぇ…。それ、是非見てみたいです。」
「良いんですか?」
「はい、葵さんの思い出の本なんですから文句なんて全然ありません!」
「そ、そうですか…。 じゃあ絵本コーナーに行きましょうか。」
葵さんは困惑と恥ずかしさが混じった複雑な顔で微笑み、絵本コーナーへと足早に歩き出す。

341:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:29:36 oJareO5R
絵本コーナーだというのに子供の姿はあまりなく、葵さんの言った「人があまり来ない」という言葉は気を遣ったわけではなく、本当の事だったようだ。
本がある場所を熟知しているのだろう、葵さんはある本棚の前で腰を屈めて目当ての本を探す。
だがその顔は見る見る内に沈んだものになっていった。
「…うーん…?」
「どうしたんですか?」
「無い…みたいです。借りられちゃったのかな…。」
残念そうな表情で「ごめんなさい。」と言った後、すぐに何かに気づいたかのような顔に変わり。
「もしかしたら…。」
「?」
不思議顔の俺ににっこり微笑み。
「ちょっとこちらに来てください。」
「あ、はい。」
言われるまま、俺は葵さんの後についていく。

本棚には古そうな本が並び、窓際だというのに薄暗い。
葵さんは何かを探している様子でキョロキョロ周りを見渡している。
と、薄暗い場所だというのに窓際に図書館でお馴染みの机が。
それだけなら別に普通の図書館の風景なのだが、その机の上には本が散乱し、1人の男が机に突っ伏して眠っている。
「あ、居た!」
葵さんはその男に駆け寄り、体を揺さぶって起こそうとする。
…う、羨ましい…! 葵さんに起こしてもらえるなんて幸せ過ぎる!!
俺だってあんな風に可愛らしく起こされてみたい!
『朝ですよ、起きてください。』
とか言いながら可愛い手で俺を揺さぶるんだろうな…。そして中々起きない俺に痺れを切らして。
『起きないんでしたら……こうですよ。』
とか言いながら俺の唇にその柔らかい唇を…………。
「七原さん? どうしました?」
甘い妄想に浸っていた俺は葵さんの声で現実に引き戻される。
顔を覗き込まれ、今まで浸っていた妄想を誤魔化すかのように慌てて目を逸らす。
「ご、ごめんなさい!」
「はい?」
こんな可愛い葵さんを妄想の道具に使ってしまうとは…俺はなんて罰当たりなんだ!!
「とにかくごめん!!」
「えっと……、何が…?」
なにがなんだかといった様子で困った笑みを浮かべている。
そんな葵さんの様子に気づいて、やっと俺は我に返った。

342:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:30:49 oJareO5R
「あ……すみません……少し取り乱しました…。」
「い、いえいえ、気にしてませんから…。 大丈夫ですか?」
「はい…、大丈夫です…。」
「それならいいんですけど。」

「…あのさ、人の事起こしておいて放置はないんじゃないか?」

葵さんの背後から不機嫌そうな男の声が聞こえた。
先程葵さんに起こされていた羨ましい男が起きたようだ。
歳は同じ位だと思うが不健康そうな顔に不機嫌なオーラを身に纏い、背が高いのも相まって他人を寄せ付けないかのような男だ。
メガネを指でかけ直して俺達…主に俺をジロジロ見ている。
「寝てたのにごめんねぇ…。」
「あっ…すみません。」
その男の雰囲気にのまれ、俺もつい謝ってしまう。
男は口元をニヤッと緩め、意味深な目で葵さんを見つめ。
「ふーん……、やっと彼氏が出来たみたいだな。」

「「はぁ!?」」

男のとんでもない発言に俺と葵さんは揃って声を上げ、顔を真っ赤にする。
いきなり何だこの男は!?
い、いや、葵さんとそう見えたのは物凄く嬉しいが…。
「こら!人をからかって遊ばないの!」
真っ赤になりながらも葵さんはその男に反論する。
「違ったか?」
俺達の反応を見て解るだろうに、男はわざとらしく言う。
「あ、当たり前でしょ!私達はただのお友達なんだから!」
…お友達………わかってはいたが、そうハッキリ言われると…へこむなぁ…。
「友達ねぇ…、見ない顔だけど…。」
「村の外から来た人だから。」
「ふーん、君も物好きだねぇ。あんな何も無い所に来るなんてさ。」
物珍しそうに俺をジロジロ見ている。
女の子に見られるのなら良いが、男にジロジロ見られるのは複雑な気分だ。
「親戚の家に遊びに来たんですよ。 物好きで結構です。」
男の態度に、つい棘のある言い方をしてしまったが、気にしないようにしよう。
「あーはいはい、悪かったよ。別に悪い意味で言ったんじゃねぇから。」
「桃くんが誤解されるような言い方するからいけないんだよ。」
葵さんは男に指を突きたてて釘を刺す。

343:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:31:52 oJareO5R
「七原くん、ごめんね。」
「いいえ!葵さんが謝る事では…。」
「ありがとう。この人も悪気があるわけじゃないから。 ただこういう人なだけで…。」
困ったような顔をして微笑みながら「だからあまり怒らないであげてくださいね。」と、付け加える。
「おいおい、黙って聞いてれば散々な言われ様だな。」
「本当の事でしょ? 桃くんはいつもいっつもそうなんだから。」
男に注意する葵さんはまるでお母さんのようだ。

「ふぅ…。 じゃあ改めて紹介するね。 この人は『須館桃太』くん。一応これでも山鈴村の村長の息子さんなんだけど……。」
とても村長の息子とは思えない。
「けどって何だ、けどって。」
不満そうか声で言うが、事実その通りだ。
「えっと、よろしく…。七原ちかです。」
と、俺の名前を聞くと須館はなにやら怪訝そうな顔をする。
「七原ちか…。」
俺の名前を呟きながら何かを考えているようだ。
「俺が何か?」
「…君さ、以前山鈴村に来なかった?」
「? 昔…遊びに行った事はある。あまり覚えてないけど。」
「やっぱり…そうか…!」
そう言うと須館は嬉しそうな顔でいきなり俺に抱きついてきた。
「!!?!??!?」
男に抱きつかれるなんて気持ち悪い!しかも葵さんの前で…。
葵さんを見ると、頬を染め目を見開いて驚きながら固まっている。
ああ…葵さんに誤解されてしまう!
「元気だったかチカ!! 立派になったなぁ!」
「は、はぁ!? わけわかんない事言ってないでさっさと離れろーー!」
肩を掴んでぐいーっと離そうとするが、須館はがっしりしがみ付いて離れない。
「おいおい、折角親友と再開出来たっていうのにつれないじゃないか。」
「誰が親友だ!俺はお前なんか知らないぞ!」
須館は「はぁ。」と溜息をついてやっと離れてくれた。
「記憶が無いっていうのは本当だったんだな。」
「な、何でそんな事知って…!?」
「これでも一応村長の息子だからな。それにお前とはよく遊んでたし、俺も色々調べたんだよ。」
どうやらふざけているわけでも、からかっているわけでもなさそうだ。
須館が俺の過去を知っている事に若干の驚きを覚える。だが次の言葉で俺は更に驚く事になる。

344:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:33:30 oJareO5R

「赤い瞳のせい、なんだろ? 記憶がないの。」

何故…そんな事を…!?
俺は驚きのあまり言葉を発する事が出来なかった。
だってその事は誰にも言っていない筈。
昔村の大人達やおばさん、母親に何があったのか聞かれたが、俺はあの赤い瞳の事は何も言わなかった。
言葉にするのが恐ろしかったから…だから誰にも言っていない筈…。
それなのに何故こいつは知っているんだ?
何も言えずに固まっている俺を見て、須館は確信したように頷き。
「図星、みたいだな。」
「な、何で……。」
「ん?」
「何でお前がそんな事………誰にも言ってない筈なのに…。」
「極少数の奴等なら知ってる事だ。 お前、発見された時「赤い瞳…。」って何度も呟いてたらしいぞ。」
そうだったのか…。それなら知っていてもおかしくはない。
「だからお前の記憶が無い事は『山神様の仕業だ。』って、年寄り連中は言ってたな。 まあそう考えるのも無理は無いけどな。」
「山神様? 何だそれ?」
「山鈴村の神様みたいなもんだよ。 村の神社で祀ってるのが山神様だ。」
あいつが…神様だっていうのか…?
毎晩来るあいつはとてもじゃないが神様には見えない。
「でも山神様っていうのと赤い瞳、何の関係があるって言うんだよ…。」
「山神様はな、赤い瞳をしていて、村に災いをもたらす者を祟るって言い伝えられてるんだよ。」
「赤い…瞳……なのか…?」
「ああ、村にあった文献を読んでも、年寄り連中の話を聞いても、必ず山神様は赤い瞳なんだ。」
ただの偶然にしては出来すぎているし…、須館の言う事は正しい…のか?
でも俺には解らない。神様だとしたら何で俺にあんなストーカー紛いの事をしたり、俺の記憶を奪ったりしたのだろうか。
言い伝え通りに俺が村に災いをもたらすからなのか?
でも最初に被害に合ったのは7歳の頃だ。ただの子供に災いなんて起こせる筈ない。
「まあ…あまり1人で考え込むなよ。 何なら俺が調べるの手伝ってやるから。」
そう言って肩に手を置き、不健康そうな顔とは不釣合いな力強い瞳で頷く。
その姿に懐かしさを覚え、考え込んでいた心が軽くなったような気がした。
「…須館…、頼む。ありがとう…。」
「気にすんなって。俺も個人的に調べてた事でもあるし、ついでってやつだ。」
感謝の言葉が照れくさかったのだろうか。はにかみながら笑う。
「それと、俺の事は須館じゃなくて昔みたいに『桃太』って呼んでくれよ。」
「あ、ああ。解った。」
「よしっ、それでこそ俺の親友だ。」
満足そうに頷く。

345:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:34:54 oJareO5R
「――あのぉ……、話が見えてこないんですけど…。」
俺達の話をずっと黙って聞いていた葵さんが申し訳なそうに口を開く。
俺は話に夢中になって葵さんの事をすっかり忘れていたのだ。
「ご、ごめんなさい!」
とりあえず謝るしかない。
「あ、気にしないでください。 私こそ話の腰を折っちゃって…ごめんなさい。」
「そんな事ありません!話はもう終わりました!」
「そ、そう?」
「はい! だから葵さんにもちゃんと説明します!」
葵さんになら言ってもいいだろう。別に隠すような事でもないしな。

俺達は葵さんに事情を説明した。
俺が7歳の頃村に来て記憶を失った事。
その時に覚えていたのが赤い瞳だけだった事。

――今現在起こっている事を除いて、全てを…。

今起こっている事を話してしまったら2人にも危害が及ぶかもしれない。
相手は神様と呼ばれるような奴だ。何をするか解らない。
目的は俺なのだし…、出来る限り、自分で何とかしないといけないんだと思う。

「そっかぁ……七原くん、そんな事があったんだね。」
「はい。でも気にしないでください。 別に今困っているとか、そういうんじゃないんで。」
葵さんを安心させる為に笑う。巻き込むわけにはいかない…、そう思いながら。
「とにかく、何でお前がそんな目に合ったのか調べないとな。」
桃太は顎手を当てて。
「記憶が無いんだから、もちろん何も覚えてない…。となると……まず調べるべき事は、山神様の事だよな。」
「桃太、頼めるか?」
「もちろん。良い機会だから徹底的に調べてやる。」
「でも俺山神様がどういう神様なのかよく知らないんだよな。」
「あ、それなら…。」
葵さんは本が散乱している机を探して、一冊の本を俺に手渡した。
「これ、私がお勧めした本。子供用だから解りやすいと思う。」
『やまがみさまのぞう』
可愛らしい絵が表紙の絵本だ。

346:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:36:25 oJareO5R
「桃くん、本は読んだらちゃんと元の場所に戻してね。」
「悪い悪い、すっかり忘れてた。」
あははっと笑う桃太を、葵さんはしょうがないなといった表情で見つめて溜息をつき。
「これは子供向けだから、あまり役に立ちそうなものは書いてないと思うけど…。」
「いえ!例えそうだとしてもちゃんと読みます!葵さんが薦めてくれたものですから!」
「う、うん…。」
困ったような顔で頬を染める葵さん。
そんな葵さんに見惚れながら本を受け取ろうと手を伸ばし、本を掴んだのはいいのだが……葵さんの手と俺の手が触れた。
触れた瞬間、俺達は茹蛸のように真っ赤になって急いで手を離す。
だが2人同時に手を離せば当然本は下に落ちる。
「「あ…。」」
「そこ、いちゃつくなら他でやれよ。」
「いちゃついてなんかいないわよ!」
「いちゃついてない!」
声を重ね、真っ赤な顔で俺たちは反論する。
桃太はニヤっと笑い。
「はいはい、わかったわかった。 じゃあストロベリってる、に変えてやる。」
俺と葵さんはは更に顔を赤くし、何度も反論する。
俺達はそんなやりとりを葵さんが仕事に戻るまで何度も続けていた。

がらんとしたバスには俺と葵さんと桃太しか乗っていない。
乗った時はそれなりに人はいたのだが、すぐに皆降りてしまった。
だが寂しくはない。
葵さんと桃太が居る…。
あいつの事も…1人ではない。毎晩来ている事は言えないが、今までのように1人というわけではない。
そう思うと夜も怖くはない。改めて2人には感謝したい。
そんな事を考えながら、バスは止まった。
俺達はバスを降り、オレンジ色に染まった世界に足を踏み入れる。
「2人とも、今日はありがとな。」
「ううん、こっちこそ図書館に来てくれてありがとう。またお話しようね。」
「親友の頼みを聞くのが男だからな。当然の事だ。」
「うん…。」
「明日も俺は図書館に行くが、お前はどうする?」
答えは決まっている。あいつの事も知りたいし…なにより葵さんがいるのなら。
「行く。必ず。」
「よしっ、じゃあ頑張って調べてくるか!」
「ああ、頼むな。」
「任せとけ。 じゃあな、2人とも。」
「うん、じゃあまた明日。」
「また明日な。」
俺と葵さんに手を振り、桃太は帰っていった。

347:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:38:09 oJareO5R
「じゃあ…私はこれで。また明日。」
葵さんはそう言って微笑み、歩き出す。
「あ………、葵さん!!」
突然大きな声で呼び止める俺に驚きながら振り返り。
「どうしたんですか?」
同じ図書館に行くのなら………。
「あの……、明日、一緒に行きませんか!」
「え?」
「明日、一緒に図書館に行きましょう!」
「あ……えっと………。」
このオレンジ色の世界でもわかる程、葵さんの顔は赤く染まっている。
何やら挙動不審に「えっと…えっと…。」という言葉を繰り替えす。
「も、もし嫌なら…別にいいので…。」
「あっ、いえ、そういうわけじゃ…。」
葵さんは俯いて、そして顔をあげて。
「…わ、わかりました。 明日、一緒に行きましょう。」
その言葉で俺の心と体は一気に軽くなる。
「は、はい!!!是非!!」
「待ち合わせは…ここに8時でいいですか? 私、その位の時間にここに着くので。」
「わかりました!絶対遅れないようにします!」
「じゃ、じゃあ……また明日、ここで…。」
「はい!おやすみなさい!」
小さく手を振って、葵さんは今度こそ帰っていった。

俺は1人、幸せを噛み締めていた。
だってあの葵さんとあんなに仲良くなれて…お勧めの本まで貸してもらえて…しかも明日は一緒に図書館に行く約束まで!
幸せすぎる……。頬を抓ってみる。
…痛い。これは現実だ。夢でも妄想でもない。
「葵さん…。」
俺は愛しい人の名前を呟いた。

その時、背後から視線を感じて俺は現実へと引き戻された。



348:赤い瞳と栗色の髪 ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:39:30 oJareO5R


「ちーちゃん………こんな時間まで何してたの…。」


思わずぞっとするような冷たい声に驚き、俺は後ろを振り返る。
夕日の逆行で表情はよく見えないが。
綺麗な栗色の髪はぼさぼさで、よく見ると右の拳からは血が滲み、それを気にする様子もなく立ち尽くす若菜が居た。

「わ、若菜か。驚かすなよ…。」

若菜だという事に安堵するが、若菜の様子に違和感を感じる。
靴を…履いていないのだ。

「お、おい、靴忘れてるぞ。 もしかして裸足でここまで来たのか!?」

だが若菜は答えない。

「若菜…?」

沈黙が過ぎ、やっと若菜が口を開いた。


「どこに…行ってたの?」



どこまでも冷ややかで冷たい声がオレンジ色の世界に響き渡った。




349: ◆y5NFvYuES6
07/02/11 02:40:51 oJareO5R
最初の投下で題名入れるのを忘れてしまいました…申し訳ありません。

それにしても、やはり投下に一週間はかかってしまいますね。
筆が早く、それでいてクオリティの高いトライデント氏や赤いパパ氏には尊敬の念を抱いてしまいます。

という事で次は若菜の問い詰めが始まります。
もしかしたらしばらく赤い瞳の子は影が薄いかもしれませんが、その分若菜が頑張ります。

350:名無しさん@ピンキー
07/02/11 03:04:13 Uz6i9cK7
これからの問い詰めにwktk

351:名無しさん@ピンキー
07/02/11 03:04:19 E3IT/tRM
おっしゃああ若菜キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!

352:名無しさん@ピンキー
07/02/11 03:09:24 v31jVF5v
GJ!
ボキャ貧でこの賛美しか言えない俺を許してくれ!

353:名無しさん@ピンキー
07/02/11 12:00:37 bMr8nb4M
URLリンク(moepic3.dip.jp)

354:名無しさん@ピンキー
07/02/11 17:27:43 T9hBURJO
やべぇ・・嫉妬SSと自作小説だけで738KBもあるよ・・www
その8割は嫉妬SSだと言うwww 
何かライトノベル作家とエロゲーシナリオライター道に走りたくなってきたかもww

355:名無しさん@ピンキー
07/02/11 18:10:39 lO8FfN+d
KBか。普通に小説書けばそんぐらいだろ。
スレッド2つ補完すればそんぐらい行くし。MBを目指さんかい。







まあメモ帳に保存してるんだったら確かに結構凄いが。

356:名無しさん@ピンキー
07/02/11 18:14:53 T9hBURJO
>>355

まあ、SSを書いていると筆が進むからな
1Mに到達する日は一体何作品ぐらいここに投稿することになるんだろうか


それにしても、1日原稿用紙20枚は流石に辛くなってきた
書いている時は何とも思わないが、その後に来る疲労がちょっと辛い
そういう時は他の神様のSSで癒してもらっていますよ

357:名無しさん@ピンキー
07/02/11 19:40:23 ECZzkAkW
俺の場合ココに投下したの全部合わせて400kbぐらい
それ以外あわせても500チョイぐらいかな
まだまだ路は遠いってか

358:名無しさん@ピンキー
07/02/11 20:29:36 7aJuL0f3
俺たちは登り始める。長い、長い修羅場道を。(完)

359:名無しさん@ピンキー
07/02/11 20:40:03 rbTPtNqW
仕事とはいえ、俺たちは登り始めるを書いた人に比べれば…

360:名無しさん@ピンキー
07/02/11 21:26:00 UhInmlj9
ID:UhInmlj9を生贄に捧げ、ノントロを召喚!

できたらいいなぁ

361:名無しさん@ピンキー
07/02/11 21:29:02 Z3vB224Y
山本君と猫が人間になった奴まだかな?
それとアビス・ロボさんどこ行ったの?

362:名無しさん@ピンキー
07/02/11 22:12:17 iizUXmLK
そろそろ九十九分とノントロ分が切れそうだ

363:名無しさん@ピンキー
07/02/11 22:24:56 OK0aifsd
RedPepper・・・

364:名無しさん@ピンキー
07/02/11 22:27:37 NE4Gly5N
みんな、飢えてる気持ちはわかりすぎるほど良くわかるが控えめにな

365:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg
07/02/12 00:07:57 MD4+xJFQ
ノントロは召還されませんでしたが、私が召還されました。投下します


366:魔女の逆襲第19話 ◆oEsZ2QR/bg
07/02/12 00:08:44 MD4+xJFQ
「んんー……」
 しずるはベッドから起き上がる。
 ふんわりとしたベッドであひる座りのまま大きく伸びをした。服装はやっぱり体操服にブルマ。動きやすいこの服装はしずるはとても気に入っていた。
「ベッドで寝るのは久しぶりだ」
 しずるはおふとん派である。
 もう一度、こんどは腕を前に突き出し足を正座のようにしてお尻を斜め上に突き上げ背筋を反らせた。ちょうど、猫が伸びをするポーズである。
 十分に背筋が伸びたところで、しずるはベッドから這い出し殺風景な良樹の部屋に立つ。ちゃぶ台においてあった紅茶を一口飲むと、あたりをきょろきょろと見渡した。
 カベの押入れが少しだけ開いているのを確認する。
しずるはにやにやと悪戯猫のように笑いながら近づき、ふすまに手をかけた。
「おい、起きたまえっ。兼森良樹!」
 そう宣言し、勢いよくふすまを開けた。がらがらと音を立てて開く押入れ。途中立て付けが悪いのか一旦ぐっと詰まったが、力任せに限界まで開らく。
「ZZZ……」
「ふむ。まだ寝ているのか。このヘタレめ」
 押入れの中。小さなスペースで良樹は眠っていた。押入れの中に布団を押し込み、毛布をかけてそこに横になって寝ていた。すぅすぅと安らかな寝息を立てている。
「まったく、ヘタレのくせに寝顔はかわいいヤツだ」
 すぐ横に恋人が居るというのに、何もせずに夜を明かした良樹の無防備な顔。
 しずるはちゃぶ台にあった良樹の携帯電話を取ると、慣れない操作でカメラを起動して良樹の寝顔を撮影した。画像は荒かったがしずるは思いの写真が取れて満足する。
しかし、しずるはニヤニヤしつつもいくらか機嫌が悪かった。
「本当。ヘタレめ」
 しずるはそう呟くと、よいしょと良樹の頭をむんずと掴む。それを持ち上げて頭を浮かせた。両手で持つ位置を調節し
「起きろっ!!」
ゴキャ。
 良樹の頭を右90度の方向に勢いよく回転させた。
「あぐぅっ!!」
 声にならない声が良樹の口から発せられた。良樹の目がいきなりの関節攻撃に驚いたように開かれ、視界が火花が飛んだように光る。
「ほぅ、ちょっと回しすぎたかな?」
 頭に置いた手を離す。右に良樹は元に戻ろうと首を前に持っていこうとして、
「痛い痛い痛い痛い! ちょ、な……にっ!」
 狭い押入れの中で良樹は首元を押さえながら、起き上がろうとする。しかし一度強くクセづいた首の向きは戻そうとすると鈍痛が走りなかなか起き上がれない。
「おはよう、兼森良樹」
「いたたた……おはようじゃないよ! いきなりなにするんだよ!」
「先に挨拶だ。おはよう」
「ちょ……お、おはよ!」
「うむ、良い挨拶だ。それにしてもリアクションは一流だな。兼森良樹」
「なんえ起こし方するの……痛っ!」
 良樹はなんとか上半身を起こすが、押入れの低い天井に頭をぶつけてしまう。つぅーと空気を吐くような音をだして今度は頭を押さえる。
「まるで、ドリフだな。兼森良樹。ユカイだぞ」
「僕は愉快じゃないよ!」
 頭を押さえて良樹が訴える。
「かっはは。どうだろうな。意外と君はM属性かもしれんぞ。現に今はまるでのび太の家に飼われた猫型ロボットのように寝ていたではないか」
「一緒の布団で寝るのはさすがにマズイからだよっ。それに飼ってるって表現は危ないって」
「まさにドレいもん」
「うまくないよ! なんかしずるさん機嫌悪くない?」
「機嫌? 確かにな。女が泊まりに来たにもかかわらず、まったくといっていいほど手を出さず、私が君のベッドで寝るときも恥ずかしがって自分だけ押入れの中で寝た経験なしの兼森良樹のようなヘタレを見ているとふつふつと機嫌が悪くなるぞ」
 うっ…、と良樹は言葉に詰まった。


367:魔女の逆襲第19話 ◆oEsZ2QR/bg
07/02/12 00:09:30 MD4+xJFQ
 良樹は改めて思う。確かに自分は最大のチャンスを不意にしてしまっていた。
 昨日、夜八時を過ぎた頃。部屋で夕食のたらこスパゲッティを食べながら雑誌を読んでいると、台所を隔てた玄関の戸がコンコンとノックされた。
 フォークを咥えつつドアを開けてみると、そこにはダウンジャケットに体操服とブルマというそこまで徹底せんでもな格好をしたしずるが立っていたのだ。
「やぁ、泊まりに来たぞ。兼森良樹」
 突然の訪問に目が点になっている良樹にしずるは左手を挙げいつもの調子でにやにやと笑っていた。
 よく見るとしずるの手には学校の部活カバンが握られていた。良樹が中身を確認すると中からしずるのマイ枕がまるまる一個出てきた。(それしか入ってなかった)
 良樹はしずるの来襲に取り乱した。なぜなら良樹の部屋はカップラーメンや雑誌類が散らかりまくり台所は数日前の食器がいまだに浸けられているまさに『THE 男の部屋』だったのだ。
 良樹は嫌われたくない一心でしずるを玄関前で止めようとした。しかし、しずるは良樹の静止の合図も聞かず部屋に押し入り『男の部屋』を参上を目の当たりにする。彼女はふんっと鼻を鳴らして
「こんなところには泊まれぬ。掃除だ」
 と良樹に言いはなった
 しずるはすぐに外へ出て行き二分ほどして良樹の部屋へ戻ってくる。
 手にはビニール袋やモップ、ダスキンなどの掃除道具を山ほど抱えていた。そして、それらの道具を有無を言わせず良樹に突きつけた。
「掃除をするぞ」
 こんな時間に? と戸惑う良樹をよそにしずるはダウンジャケットを脱ぎエプロンをバンダナをつける。
 しずるに部屋のゴミを全てビニール袋に入れることを指示される。良樹は拒絶することもできず仕方が無くやることに。良樹が部屋の空きカップや紙くずを拾ってる間に、しずるはてきぱきと台所まわりを片付けていた。洗い物をスポンジと洗剤でしゅわしゅわと泡立てている。
 良樹は正直面倒くさかった。しかし、台所に見えるしずるの横顔を覗いてみると、彼女は面倒くさがってる様子は見えずむしろ掃除を楽しんでるように見えた。
いや、というより楽しんでいる。鼻歌まで歌いながら洗った食器を片付けるしずるの姿は、魔女と呼ばれるような不気味さは無く、どことなく家事好きなお母さんのように見えた。
「それはな。好きな男の下着を洗う幸せだ」
 良樹が気になって聞くと、しずるは洗濯籠にあった良樹のトランクスを指差してからからと笑った。 
 その後、全ての掃除が終わったのは午前零時。掃除だけするはずが、いつのまにか良樹の持ち物の選別までやらされ、いらないものダンボールにジュースの食玩やいつ使うかもわからない割引券などが投げ込まれていき、良樹の部屋はすっきりと殺風景な部屋へ様変わりしていた。
 足の踏み場も無かったような『男の部屋』は、見事に『引っ越してきたばかりの部屋』へ変貌したのである。
出たゴミは全てしずるがどこかへ処分していき、溜まっていた洗濯物は全て近くのコインランドリーで洗濯されて良樹のクローゼットの箪笥に収められている。食器類も片付けられ、いらない雑誌は全てビニール紐で結ばれ、外の廃品置き場に積まれていた。
 良樹は、しずるの手際のよさにびっくりした。しかし、しずるはさも当然のような態度で鼻を鳴らすと良樹に向き合い、ようやくといった感じに言う。
「よし、これで一緒に寝れるな。ベッドへ行くぞ? 兼森良樹」
 しずるは良樹の手をとると、軽やかなステップで良樹のベッドに歩く。そして手を離し、ベッドにお尻を乗せると良樹に向かって両手を開き、
「来たまえ、愛しい人よ。私を女にしてくれ」
 ほのかに朱に染まった顔をした魔女は良樹に愛を求めたのだった。

 しかし、その後はこういう結果である。
 しずるがベッドで寝て、良樹が押入れの中で寝る。
 もちろん、しずるにとっては納得の行く結果ではない。
「まったく、女に恥をかかすとは何事だ。こんな提案してきたときは、本当に君に縦四方をかけようと思ったぞ」
「縦四方って寝技だよね……? まさか無理矢理?」
 想像し、うろたえる良樹にしずるははぁとため息をついて頭をポリポリ掻く。
「まぁ、君も心の準備ができていないというのは感じられていたからな。お互いこういうことはちゃんと双方で良いタイミングをとってする……ということに落ち着いたんだよな」
「あ、うん……。で、でも、僕だってそりゃぁ……えっと……嬉しかったよ。しずるさんが誘ってくれたからさ」
 良樹はごにょごにょと口ごもりながらもなんとか言い訳しようとするが、その口をしずるに人差し指でとめられた。
「そんなフォローをするな。君は女か」
「ご、ごめん」

368:魔女の逆襲第19話 ◆oEsZ2QR/bg
07/02/12 00:10:43 MD4+xJFQ
 しずるは本当に残念そうだった。その顔を見て良樹は後悔する。
 良樹だって男だ。性欲だって存在する。こういった行為だって常日頃からやってみたいと思っていたし、相手がしずるのような美女ならなおさらだった。
 しかし、しずるがベッドに誘ったときには、ついに勇気が出せなかった。恥ずかしくて恥ずかしくて、結局一緒のベッドにも寝れず自分は押入れを寝床にしてしまったのだった。
 しずるが怒るのも無理は無い。むしろ絶交モノだったかもしれない。良樹は自分が情けなくて頭をおさえてしまった。
「……ひとつ聞きたい。兼森良樹」
「な……なんですか?」
 しずるは指をはずすと、いつもの口調で聞く。
「君は童貞か?」
「ぶっ!」
 良樹は思わず噴出す。
「な、なにいきなり!」
「童貞だろうな」
「そ、そうだよ! だからヘタレって言われてもしょうがないですよ!」
 まるでふてくされる子供だった。
「私も処女だ」
 だが、対照的にしずるは取り乱すことも無く、淡々とした口調で告げる。その様子に良樹は取り乱した自分が小さく感じた。
「お互いはじめて同士だということだ」
「うん……」
「君がこういった行為に恐れを抱いてるのはわかるよ。それは私が一人だったある時期に似ている。私は君と会うまで友人は作らなかった。何故だかわかるか?」
「作る必要が無かったから?」
「そう。それは私が最初に君に言った言葉だったな。しかし、本当はそれだけではない」
「え?」
「友人を作らないだけなら私はただ人から離れていればいい。誰にも話しかけず、誰とも接触せず、羊の群れから離れて歩けばいい」
 それこそ一匹狼のように。そう言って、しずるは続ける。
「しかし、そんな狼でいても。狼が好きな羊とやらもいるのだよ。蓼食う虫を好き好きかな。一人だった私を見かねてやってくる者も実はたくさんいたのだ」
 人と人はつながりを持ちたいと思っている。その中にはあえて絶縁状態を貫く相手でもつながっていたいと思うものも少なからず居る。
 偽善ではない。人は群れたいという意識が本能にあるのだ。
「一人で過ごす私に差し出される手。わたしはそれに全て噛み付いてやった」
 狼に近づいた羊はすべてその狼に食べられてしまいましたとさ。そんなナレーションがつきそうな絵本が良樹の頭の中に浮かんでいた。
「わたしは怖かったのさ。少し、ほんの少しだぞ? ほぉぉぉぉぉんんんんんんんんの少しだけ、怖かったのだ」
 そこまでつよがらんでも。

「人とつながりを持つという行為に飽きた自分が、一匹狼の自分が、いまさら人々に受け入れてもらえるのか? もしかしたら私に話しかけたことで相手を傷つけてしまうかもしれない。
だから、わたしは私に話しかけたら二度と接触してこないように悪意ある表現で罵倒し返してやったのだ。そうすれば簡単だ。ほとんどの奴らはわたしに近づかなくなった」
 人と一緒になってから人を拒絶すれば、その分つながってただけの愛情や友情は、すべてただの相手の悪意へと変わってしまう。
 ロストペット症候群みたいなもの。そうなることが少しだけ怖かった。そう言うしずるの顔はすこし泣きそうに見えていた。
「しずるさん……」
「しかしな、しかしだ。君に惚れて、君に勇気を持って話しかけた。そんな思いはずっと抱えながらも、私は君への好意に後押しされたのだ。そして、君と好きあってからの毎日を過ごして、わたしはその考えをなんて馬鹿な考えだと一蹴してしまった」
 しずるはすこし笑う。いつもの笑顔に戻ってきた。良樹はほっとする。
「なぜなら、つながりあえたその日からわたしの人生は薔薇色に彩られたのだから。たしかに、君と反目してしまうという思いは残っている。しかし、そんなものは些細な問題だった。一歩踏み出してしまえば、その後の道のりは全てが美しいのだからな」
「はい」
 良樹は頷いた。
「だからだ。こういう行為も同じだと思うんだ。君の怖さと言うものが理解できる。だけど、相手や怖さを気にして前に出ないと、全てが無駄になってしまうのだ。わかるな?」
 諭すような口調。改めて、良樹はしずるには勝てないと思う。
「すいません、なんか」
「だから謝るなといったろう。謝るくらいなら……」


369:魔女の逆襲第19話 ◆oEsZ2QR/bg
07/02/12 00:11:35 MD4+xJFQ
 しずるは一拍おいて、鴉色の瞳を構え良樹の目の奥に焼き付けるかのように見つめて、
「今度は君から誘ってくれ」
「はい……はい? ええええええええぇぇぇ!?」
 つまり、それは、今度は自分が、魔女をベッドに誘えと!?
「最初は私が誘ったんだ、それなら今度は君が誘ったっていいだろう。ヘタレな君へのバツゲームだな」
「ちょ、ちょっと。しずるさん!」
「どんな誘い方をするか、楽しみにしているぞ。かははは」
「わ、……わかりましたよ! やればいいんでしょ!」
「よし、ではうまくまとまったところで、この話は終わりだ。兼森良樹、早くそんな薄暗い押入れから出たまえ。朝食にしようではないか」
『うん、そ、そうだね! 一緒に作ろう。なにがいい?』
『チョコケーキ』
『あ、朝から?』
『バレンタインディシーズンだからな』
『もう、しずるさんっ!』
『あっはっはっ、冗談だ。簡単にピザトーストでも作って食べようではない、バキィィィィィィィ!!!

 ………りぃん。

 自室のベッドの上、イヤホンで二人の会話を再生していた早百合は持っていたICレコーダーを握りつぶしていた。
 鈴の力と憎しみにより、増幅された早百合の腕の筋力がICレコーダーを鉄の塊へと変えるのは容易なことだった。
『ぉぉあおぁおぉあぉお……』
 再生されていた二人の声がどんどん遅くなっていき……止まる。
 早百合は鉄の塊と化したそれを早百合は壁に投げつける。壁に当たったレコーダーは完全に沈黙した。
「……もう時間がないんだわ……」
 誤算だった。
 あの二人がこんなに早くことを済ませようとしていたとは。
 このままでは二人は、私の手の届かないところまで行ってしまう。
「……選択肢は……ない……」
 
 りぃん

 早百合は鈴を握り締める。
 鈴から放たれるオーラは早百合の神経を怪しく刺激し、一種の高揚状態へと早百合を押し上げていた。
 早百合自身も、泥棒猫への憎しみを力として供給する鈴の魔力をひしひしと感じていた。
「……決戦は、明日の朝……」

りぃんりぃんりぃりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりぃん。

握り締めた鈴から溢れる鈴の音。まるで鈴自身が音を立てているようだ。
握った鈴の音は響かないはずなのに。
(続く)

370:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg
07/02/12 00:12:33 MD4+xJFQ
 魔女の逆襲19話です。少し遅くなりました。もうすこしだけお付き合いください。

 今日、友人がニューウエイズの活動員になってました orz
 俺を勧誘しないでください。いいやつだったのに……。

371:名無しさん@ピンキー
07/02/12 00:26:48 XB9xp67T
>>370
うぉぉぉぉぉーーーGJだぁぁぁぁ!!
小百合の仕掛けた盗聴にしずると良樹の情事がながれる・・・と思ったのだが
これもまた。

372:名無しさん@ピンキー
07/02/12 00:32:12 hZjcTgBK
…りぃん。
この警告音が決まる所で決まると、とても読みやすくていい感じです。GJ

…りりりりりぃん。

373: ◆35uDNt/Pmw
07/02/12 00:56:01 tzbn4Pa5
投下させていただく!

374:君という華 2.3 ◆35uDNt/Pmw
07/02/12 00:57:21 tzbn4Pa5
 愛欲が溢れ返る。ふしだらな妄想が脳裏にこびり付き、解放してくれる気配がない。内にこもる熱で火照り、欲情は治まる事を知りません。
 消化しても消化しても消化しきれず。絶頂に絶頂を重ねその先に待つ絶頂を迎え入れても。わたしの体は満たされないのです。
 もはや、自慰では限界なのでしょう。どこまでも淫靡になってしまったソコから、すっかりふやけてしまった指を引き抜くと、ぶるり、と身を震わせる。
 何と言うか。今日のわたしは随分と色欲に支配されていたようです。和式の便器が愛液でベトベトです。
 いやしかし。本当に今日はすごかった。このままだと危うく想像妊娠してしまいそうです。ふふ。先輩の子供なら、喜んで孕ませて頂きます。
 にやにやと緩む頬を引き締めもせず、わたしは乱れた衣類を整えます。色んな所が唾液やらで酷いありさまですが、まあそこは置いておきます。
 下着、特にお気に入りのパンツは愛液でもはやその機能を全うしていませんが、まさかどこぞの色情保険医じゃないんです。ノーパンはまずいので、そのぐしょぐしょに濡れているパンツを仕方なく履きます。
 ……ああ、気持ち悪い。今度は摩り下ろすのではなく脱ぐ事にしましょう。反省は生かさねばなりません。
 ふと、視線を感じて顔を上げる。わたしは一体どこに眼球をつけているのだと、自分に詰問したいぐらいにその存在を全く持って認識していませんでした。
 自慰に耽るあまり、気付かなかった? ありえない。だって、ドアにはちゃんと鍵がかかっています。ドアの隙間から入り込む、何て言うのは漫画の世界の話で。
 だから、わたしは目の前で微笑む女性を見て、絶句した。
―随分と熱心なのですね、主よ。満足されましたか?
 声が出ない。あんな激しく淫らな自慰を見られた恥ずかしさで声が出ない訳ではありません。まぁ、それも少しあるのですが。
 その、ふざけているのか、所謂メイド服を着た女性の両目には包帯が巻かれていた。なのに、何故か目と目が合う、としか表現しようがない感覚。
―主よ、どうかなされましたか?
 その艶やかな、赤い、紅く燃え上がる焔色の、大きく自己主張する胸にまでかかった長い髪を揺らしながら、彼女は首を傾げた。
 それにしても、随分と背が高い。わたしの身長が143センチと、女子にしても随分と小さい体躯だが、女性とは40センチ以上の差を感じます。
「……あなたは、誰?」
―その問いに答える術を、私は持ち合わせておりません。
 女性は困ったように微笑む。
「……いつから、そこに?」
―ずっと、と言えば宜しいでしょうか。正確な答えを導き出すには、少々言葉が足りません。申し訳ございません、主よ。
 やっぱり困ったように微笑む女性。
「わ、わかりやすく説明していただけないでしょうか。わたしは今、酷く混乱しているので、出来るだけ簡単直結に答えてください」
―は、はぁ。では、簡単に申し上げます。一体いつ、何の影響を受けたかは不明ですが、いずれにせよ、
 そう言って女性は私を見て、微笑む。華のように。歌うように。
―主が、私を呼んだのです。


375:君という華 2.3 ◆35uDNt/Pmw
07/02/12 00:59:04 tzbn4Pa5
「わ、わたしが? あなたを?」
―はい。その通りです、主よ。どう言った経緯で主が能力に目覚められたのかは不明ですが、いずれにせよ私は、主に呼ばれたのです。
「ど、どうして……?」
―必要、だからではないでしょうか。いえ、私も全てを理解して話をしている訳ではございませんが。ただ、気が付くと主の側にいたのです。
「わ、訳が分かりません……呼ぶだとか、必要だとか……わたしが、それを望んだと?」
―いえ、はい。ええっと……すいません。何分私の理解の範疇を超えておりますので。上手く説明できません。
 わたしはひとまず、深呼吸を三回ほど繰り返す。女性はじっ、とわたしの目を見つめてきます。何故かは分かりませんが、不快感はありません。
 ふぅ、と息を吐く。体の火照りも治まり、頭の中がクリアになってきました。
「……少し、落ち着いてきました」
―それは良かったです、主よ。
「……それで、です。わたしがあなたの出現を望んだとして、あなたは一体何をしてくれると言うのですか? まさか殺しにきた、などとは言わないでくださいよ?」
―ふふっ。ご冗談を。私は、主の力を引き出しにきたのです。多分。
「酷く曖昧な人ですね」
―申し訳ありません、主よ。しかし現在の回答でもっとも正確で正解に近い言葉はそれだけなのです。主の力を引き出しにきた、と。
「……力、ですか?」
―その通りです、主よ。現在、何者かの能力により、主は華を開花させるチャンスを手に入れました。私は、それを後押しする為に馳せ参じた次第です。
 まるで漫画や映画の中の話です。それでも、わたしは湧き上がる好奇心を抑える事が出来ません。
「……百聞は一見にしかず、です。その能力とやら、引き出してもらえますか?」
―分かりました、主よ。では、しばし失礼致します。
 女性の手が、私の顔を包む。女性が二言三言何か呟いた、と思ったら女性は手をするするとまた元の、自分の胸の前に添えます。
「……? お、終わり、ですか?」
―はい、そうです、主よ。何か問題でも?
 きょとん、とする女性に咳払いをして、頭を振る。少し、いえかなりすごい術みたいのなのを期待していた、とは言えません。子供じゃないんですから。
「いえ、何でもありません。所で、一体どう言う能力なのですか?」


376:君という華 2.3 ◆35uDNt/Pmw
07/02/12 00:59:41 tzbn4Pa5
 女性は、右手を自らの鼻に添える。
―鼻、です。
「鼻?」
―そうです。相手の匂いを嗅ぐ事によって、その人物の状態その他様々な情報を手に入れることが可能となります。
「……相手がどこにいても、ですか?」
―いえ、範囲は決っています。ただ、その範囲の大きさは分かりません。実際に計測する必要があります。
 匂い。匂い……。何ともわたしらしい能力です。昔から匂いに敏感だったのも、少なからず関係あるのでしょうか。
 そしてこの能力を持ってすれば、わたしは四六時中先輩の匂いを嗅げると言う、それはそれは素晴らしい特典を得られるという訳です。最高です。
 先輩と常に一緒にいる事を許されたこのわたしに、あの雌牛たちの歯噛みする光景が目に浮びます。ざまあみろです。
「ふ、ふふ。あは、あはははははははははッ! ふはは、ふは、ふ、ふふふっ」
―どうかなされましたか、主よ。
「ふふふふふふふふふふふふふふふ、ふふ、ふぅ。これを笑わずにいられますか? この能力こそ、神の啓示なのです!」
―はぁ。
「神は、この能力を持って先輩と結ばれよと、そう言っているに違いありません。最高です。完璧です」
―ですが、この能力は戦闘能力に関して言えば皆無なのです、主よ。
「それが、何だと言うのです? 闘えないと言うのならば、闘わなければいいだけの事です。そうでしょう?」
―しかし、それでは先輩を手に入れることは出来ないのでは?
 わたしはちっちっちっ、と嫌味っぽく指を振る。
「問題ないのです。敵は二人です。わたしが闘わなくても、敵二人で潰しあいを演じさせてやれば、わたしは労せず先輩と結ばれるのです」
―上手くいくでしょうか?
「この能力がどれほどの情報を引き出せるかはわかりませんが、しかしわたしにアドバンテージを与えてくれるのは間違いありません。ふふ」
 わたしは、挑戦的な笑みで、彼女を見る。その瞳に決意を宿して。
「勝つのは、わたしです」
 誇らしげに宣言するわたしに、女性はとても愉快そうに、微笑ましい表情を浮かべる。
―それは頼もしい限りです、主よ。
「……そう言えば、名前をまだ聞いていませんでしたね」
―名前はありません、主よ。主がつけていただければ、それが私の名前になります。
「そうですか…悩みますね……ふぅむ……では、ツェペルエというのはどうでしょう? 意味は聞かないで下さい。お爺様が昔飼っていた赤毛の猫の名前から取っただけなので」
―……ツェペルエ……。
「不服ならば言ってください。他にいくらでも考えます」
―滅相もございません。主に付けていただいたのです。このツェペルエ、死が二人を別つまで、主と共にいましょう。
「ふふ。では、これからもよろしく、ツェペルエ」
―こちらこそよろしくお願い致します、主よ。
 わたしは、トイレを出ると足早に自分の教室へと向かう。気が付くと、もう六時間目は終わっていた。


377:君という華 3 ◆35uDNt/Pmw
07/02/12 01:00:42 tzbn4Pa5
 俺は教室を出ると、足早に隣のクラスへと向かった。祥子を迎えにだ。
 俺と祥子は家が近い為、学校に行くときは時間が合えば一緒に行き、帰りはほぼ毎日一緒に帰っている。一緒に帰らないと、後が怖いのだ。
 しかし。
「え……帰った?」
「うん。終わるや否やぶっ飛んで帰っていったよ。すンごい速かったよー!」
 祥子の友人である中野 澄子がゼスチャー付きで教えてくれた。
 俺は内心驚いていたが、中野にありがとう、と告げると一つ下の階、一年生のクラスが並ぶその中の一つ、一年三組の教室へと歩を進める。
 祥子が俺を置いて帰る何て今までなかった事で、何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
 何なのだろうか、この言いようのない不安は。胸の中に燻って、振り払っても振り払っても現れる。気味が悪い。
 だが、考えた所で出口が見つかる訳でもないので、俺はまず目の前にいる少女に頭を下げた。
「椎名ちゃん、さっきはごめん」
「い、いえ。先輩、顔を上げてください。先輩がした事ではないのですから」
「でも、ごめん。俺がもっとしっかりしておけば」
「いいんです。気にしていませんから。お願いです先輩。顔を、上げてください」
「……椎名ちゃん」
「大丈夫ですよ、先輩。本当に、気にしないでください。わたしにも、殴られる理由がありますから」
「で、でも」
「そ、その……ど、どうしてもと言うのでしたら、せ、先輩のメールアドレスを、お、教えていただけませんか?」
 俺はきょとん、とする。すると椎名ちゃんは慌てて手を振る。それはもう凄い勢いで。
「い、いえあの、ご迷惑でしたら、いいんです! す、すいません。さっきのは聞かなかった事に」
「いや、いいよ。そんなのでいいなら、いくらでも」
 はい、と俺は自分の携帯の画面に現れたアドレスを見せる。椎名ちゃんは慌ててポケットから携帯電話を取り出すと、慣れた手つきでアドレスを打ち込んでいく。
 しかし、もの凄いスピードだ。何か指が残像を残してるような……いや、それは言い過ぎか。
 数十秒後。アドレスと電話番号を携帯に記録させた椎名ちゃんは、満面の笑みを浮かべていた。
 よかった。少なくとも、嫌われていないようだ。いきなりあんな事があって、殴られたって文句は言えない立場だ。アドレスと電話番号でこんなに喜んでもらえれるなら、安い物だ。
「それじゃ。本当、ごめんね?」
「い、いえ。先輩も、お気をつけて」
 手を振る俺に綺麗なお辞儀で返す椎名ちゃん。育ちの違いが顕著に表れるなぁ。



 三階建ての一軒家。何の変哲もない我が家に帰ってくる度、俺は何故か安堵の息を漏らしてしまう。ああ、今日も無事一日が終わった。
 家には誰もいなかった。姉ちゃんはまだ仕事だ。俺は姉ちゃんと二人暮しを、かれこれ七年近くしている。俺の両親は、俺が十歳の時に交通事故で他界した。
 最初はただただ毎日が悲しかった。姉ちゃんの優しい手に導かれてこの家にきた時、俺はやっぱり寂しくて毎日泣いていた。
 それでも姉ちゃんは、優しく俺を励ましてくれた。姉ちゃんがいなかったらと思ったらゾッとする。
 いつも俺の側で笑ってくれた姉ちゃん。いつか、幸せになって欲しいと願う。
 早く、自立した人間になりたい。姉ちゃんのその優しくて、本当はとても弱々しいその手を借りずに、一人で生きていく。
 もう姉ちゃんに、苦労はさせたくないのだ。
「……っと、メールだ」
 携帯を見ると、見知らぬアドレスが表示されていた。未読のメールを開くと、椎名ちゃんからのメールだった。
『葵 椎名です。今日の事は、気になさらないでください。水田先輩の事も、怒らないであげてください』
 なんとも素っ気無いといえば素っ気無いが、そこが椎名ちゃんらしい。
 俺は返信メールを送ると、自分の部屋へと入る。相変わらず汚い部屋だ。
 カバンを放り投げ、ベットへと飛び込む。何か色々疲れた。眠い。何もしたくねぇー。
 睡魔相手に闘う意思を見せず、俺はすぐに意識を手放した。


378:君という華 4 ◆35uDNt/Pmw
07/02/12 01:02:46 tzbn4Pa5
 あたし、水田 祥子は今人生で最高の気分を味わっている。
 大声を上げて笑い出したくなる衝動を殺して、急ぎ足で帰路へとつく。
 愉快だ。可笑しくて可笑しくて可笑しくて仕方がない。気が付くと口の両端が吊り上がり、笑い声を上げてしまいそうになる。
 ダメだ。まだ人通りの多いこの道で、突然笑い出す女子高生を、住人達は決して暖かい目では見てくれない。世間体も大事なのだ。
 ああ、でも。それでも。この殺意を、憎悪を、早くあの豚どもにぶつけてやりたい。殺してやらなきゃ。あは。
 あたしの中で、毎秒大きく肥大していく殺意。飼い馴らすには、まだ時間が要る。でも、それはそんなに先の事じゃあない。
 待っていろ、雌豚。その醜く卑猥な面を見るに耐えない豚らしい顔に変えてやるから。あは、あははははッ!
 亮君に手を出すからいけないんだよ? あたしに殺される理由を作るから。ふふ、ふふふふっ。亮君も亮君だよ。そんな臭くて卑しい豚を側に置いておくなんて。
 りょ、亮君にもお仕置きが必要だね。へ、えへへ。あ、あ、足の一本……ううん、両足をあたしの能力でぐちゃぐちゃに砕いてあげる。えへ、あはは。そしたら、ほ、他の交尾にしか興味のない牝犬達に近づく心配もないもんね。
 い、痛いかもしれないけど、亮君がいけないんだからね。あ、あたしの事無視して、あんな、あんな女に!
 ち、畜生ッ! 畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生ァッ! 顔面を砕いて、見るも無残で、この世のもっとも惨めな姿にしてやる!
 葵 椎名もッ! 高木 志穂もッ! ううん、全て、亮君に近づくアバズレ全員、あたしの殺意を喰らわしてやる!
 害虫は、殺す! 殺す殺す殺す! 塵屑にして消してやる。その光景を脳裏に浮かべ、あたしは湧き上がる衝動を抑える事が出来ない。
 うふ、うふふ、ふふふは、は、は、はははははぁはは、はぁ、は、あは、あはあああ、あはああぁははははッ!
 りょうくんはあたしのものりょうくんはあたしのものりょうくんはあたしのものりょうくんはあたしのものりょうくんにふれていいのはあたしだけりょうくんをおかしていいのはあたしだけりょうくんを殺していいのはあたしだけあたしだけのりょうくんりょうくんりょうくん!
 駆ける足がスピードを増す。力強く地面を蹴り上げる。
 早く、早く家でこの能力を試したい。何が出来て、何が出来ないか。早く知りたい。
 今はどこにもいないキラは言った。これはあたしの殺意だと。殺意。人を、物を、全てをぶち殺したいと思う、意志。
 その通りなのだと思う。これはあたしの殺意。想いを、力に変える能力。神から与えられた、唯一無二のあたしの力。
 最高だ。あたしは我慢できずに、笑い声を少し漏らす。最高だ最高だ最高だ! 恐れるものなど何も無い!
 あの忌々しい清楚な化けの皮を被った葵 椎名も、昔から殺したくて仕様が無かった高木 志穂も! 殺せる! あたしは、息をするより簡単に、あの二人を殺せるのだ!
 世界を変えれる……ううん、世界を壊せるのだ。壊して晒して、もう一度作り変えてあげる。あたしと亮君だけの世界に。
「うふ……えへへへへ」
 いよいよもって口から零れだした湧き上がる殺意を止めようともせず、あたしは帰路を全速力で駆けて行く。


379: ◆35uDNt/Pmw
07/02/12 01:03:59 tzbn4Pa5
以上です。長く書ける神が羨ましい orz


380:名無しさん@ピンキー
07/02/12 01:12:02 zPmpKNEu
投下しますよ

381:『ヤミィ:ヤミィ;』(前編)
07/02/12 01:13:38 zPmpKNEu
AM 8:20

「佐藤くん、はいコレ」
「おう、どうもさん」
 独特の喋りで答え、一は受け取った包みを鞄の中にしまい込んだ。これで通算二十個目、
クラスの女子ほぼ全員から貰ったことになる。今日は二月十四日、つまりはバレンタイン
デーだ。となれば包みの中は誰でも想像がつくだろう、勿論チョコレートだ。中にはCD
などの例外もあったのだが、大まかな部分は変わっていない。
 要は、義理なのだ。
 彼、佐藤・一はクラスの女子殆んど全員からこうしたプレゼントを貰っているのだが、
決してモテている訳ではなかった。全員が全員、義理でプレゼントをしているのである。
 それは彼の性格故だ。
 誰にでも温厚に接し、義理固く、真面目で、しかし冗談も通じるという彼の人格は周囲
の人間に良い評価を受けている。幼い頃に両親を亡くした彼を育ててきたのは、元警察官
だった祖父だ。その祖父の血を引き、更には教育の成果もあって、彼はこのような人格者
に育った。祖父の教育がもたらしたのは性格だけではない。勉学も運動も、全て人よりも
こなせる模範的な人間として育ってきたのだ。隙が無い、という言葉は正に彼の為にある
ようなものだ。彼の祖父はまだまだ未熟だと言っているが、高校生としては彼に並ぶ人間
はそう滅多に居るものではない。社会に出ても、そうなるだろう。
 しかし、それが良くなかった。


382:『ヤミィ:ヤミィ;』(前編)
07/02/12 01:14:50 zPmpKNEu
 頼りにされる、好意を持たれる、そこまでは良いのだが、彼の場合はそこから先に進む
ことがないのである。人は誰にでも隙があって、その隙があるからこそ対等になることが
可能なのである。そして対等の立場であるからこそ距離が縮まり、やがて隣に立つことが
出来るようになるのだ。恋人であれ何であれ、それは変わらない。
 しかし、彼の場合は違った。
 欠点がない、つまりは隙が存在しない。
 勉強や運動は人よりも出来るが、それは隙というものとは無縁のものだ。例え頭が馬鹿
でも、運動音痴でも、それは隙に繋がらない。隙というものは心に出来て、それを認める
ことで人は対等の立場になることが出来るのだ。
 だが彼の心には、それが存在しない。
 外側は祖父の教育によって人格者の器になり、内側は死んだ両親の代わりに妹を守る、
という考えに満ちている。周囲の女子もそれを分かっているから、日頃助けて貰っている
感謝の気持ちや、その他様々なものを持ちつつも、本命チョコを送る気にはならないのだ。
 簡単に言ってしまえば、良い人、という一言で終わってしまう訳である。一はそれを特
に気にしてはいなかったが、彼の周囲にはそれを笑う者が存在する。
「よう、義理チョコ大名」
「何だよそれは?」
 意外に的を得ている表現をしながら話し掛けてきた彼の幼馴染み、塩田・希美である。
因みに彼女は一に何も送っていない、先程殆んど全員と表現したのはそれが理由だ。



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