嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 修羅場の28at EROPARO
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 修羅場の28 - 暇つぶし2ch244:『指先チョコレート/鉄の味』 ◆/wR0eG5/sc
07/02/09 22:04:01 zwoMuhcJ
 本日、二月の十四日。
 二百六十九年にヴァレンティヌスが殉教した日だ。
 一説によれば絞首刑らしい。
 そんな彼の殉教の日をどこの誰が勝手に男女の愛の誓いの日としやがったのだろう。
 理解に苦しむ。
 などとさておき、本日はつまりバレンタインデーである。
 世界各地で色んな愛が交錯したり衝突したり許容したり、たぶんそんな感じの日だ。
 そんな感じの日だったが、彼、古市四有は露ほども今日という日の意味を意識せずに、
 飄飄と一日の授業を消化してから放課後、いつものように学校の図書室で読書にいそしんでいた。
 時刻は五時。元元大して人がいなかった図書室の静寂がさらに強まったころあいである。
「せんぱぁ―いっ」
 やかましい女の声が室内に響いたのは。
 委員の眼鏡の女子がびくりとおどろいて震える。遠慮を忘れた力強い足音が四有の背中にちかづく。
「ああ、やあ、鶴見さん」
 ふりかえると見慣れたウエーブのセミロング。
 にぱっ。という擬音が極上に適しているだろう、ひまわりを想起する笑顔。
 高一だけれど平たい胸板が今日も四有に哀愁の念を懐かせる。
 そんな彼女の名前は鶴見芽衣子。
 四月に図書室でしりあってから、なにかと四有に前後の脈絡がない話をふっかけてくるけったいな女子である。
 まあとにかく、しりあいだ。後輩だ。
 特徴としてやたらと生傷が絶えない。
「あれ。左手、怪我したの?」
 みれば、彼女の左手は包帯でぐるぐるに覆われている。
「ほんとう、よく怪我するよね……転んだとか?」
「あははっ。いえいえ、これは転んだとか、そんなどじを踏んだ結果とかじゃないですよ。
 そうですね、愛が故の負傷って感じですかねっ。あは、あははっ」
 左手を右手でなでつつ、芽衣子は快活に笑った。
 芽衣子はよく笑う。四有がわからない場面では特に。
「愛が故の……ふうん。かっこいいね」
「やだなあ。先輩ほどではありませんよぅ」
「そんなことより図書室ではしずかにし―っ」
「ところで先輩今日は二月の十四日ですよ十四日ですよ」
 にこにこ笑顔で四有の言を遮る芽衣子。
「いや、知ってるし別に訊いてないけど……なんかかお近いよ鶴見さん」
「近いと駄目ですか。駄目なんですか先輩」
「笑顔で接近されると妙な迫力が……、な、なに、どうしたのさ」
「ところで先輩の鞄はそれですよね鞄はそれですよね」
 吐息すら感じる距離もそのまま、芽衣子が質問してくる。
 なんだかくすぐったい。
「それだけど……、って、ちょっと、あ、ああ……っ」
「ふんふ―ん、ふんふふ―んっ」
 陽気な鼻歌を披露しながら、鶴見芽衣子は躊躇の意識を欠片も交えずに、先輩の鞄を開けて、右手をつっこむ。
 当然のような物色。
 鶴見さんはほんとうによくわからない……極めて温厚な四有は特に叱咤はせず、そのまま見守る。
 彼女との会話がまともに進展した経験は皆無なのだ。話題はしょっちゅう変わるし、いきなり黙るし、笑うし。
 そんな芽衣子にはなしかけられて表情を歪めないのは、この学校で、四有だけなのかもしれない。
 などとは、四有はおもわないが。


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