ひぐらしのなく頃に Part.5at EROPARO
ひぐらしのなく頃に Part.5 - 暇つぶし2ch450:名無しさん@ピンキー
07/02/08 14:59:08 PJXiE0IS
GJ。
もしエロを入れるとしても切なくてシリアスな雰囲気さえ保てればそれでいい気がする。
どっちに進んでも、きっと良作になると思うよ?
ただ、エロ無しでも、何にも無しというのも寂しいので抱擁くらいは欲しいかも……。
ともあれ、職人さんの決断に従って好きなように書いて下さいとしか、自分には言えない。

451:名無しさん@ピンキー
07/02/08 16:28:15 RmFbchCx
>おそらく生きていても、叔父が強請りにきて結局心労が溜まるだろう。

 _△_
(・3・)<レナが学校占拠してるなら、てっぺい☆はあぼーんしてるんじゃないのー?

452:名無しさん@ピンキー
07/02/08 16:44:12 fv0sYWZy
>>451
忘れてた…!
ごめんねてっぺい☆

453:名無しさん@ピンキー
07/02/08 16:48:07 brcVXdT6
ところでこれは罪編の世界でルールYを打ち破ったって設定でいいの?

454:名無しさん@ピンキー
07/02/08 17:00:54 qrQ2CFnl
大災害起こってないからそうなのか・・・?
もしくは梨花が山の中でキャンプ中

455:名無しさん@ピンキー
07/02/08 17:06:12 brcVXdT6
>>454
鷹野が事故って終末作戦中止になったって設定は駄目?


456:名無しさん@ピンキー
07/02/08 19:21:36 YbiRRN7r
ふぇっ? 終末作戦が日程調整中で、放火未遂事件から滅菌までの短い平穏
の間の話じゃなかったの? これから滅菌かと考えるとますます鬱になるけど。

457:名無しさん@ピンキー
07/02/08 20:12:10 8OfES47G
流れをぶった切って悪いですが、
圭魅の需要が低いようなので、圭レナ明日あたりいってみます。
いや、仕事で疲れてたらできませんが。
鉈スパンキングのリベンジで今度こそラブラブで普通なのを。

458:名無しさん@ピンキー
07/02/08 20:26:18 PfCNH0jW
>>457
全裸で待機してます!

459:名無しさん@ピンキー
07/02/08 20:30:52 P7PTq/z8
滅菌は罪滅しの翌日の2時~4時にかけて実行されたんだから、つかの間の平穏すら無いような気がする。
個人的には滅菌作戦までの時間が少し長い世界ってことで納得してるなぁ。
んで圭一と詩音はお互いに少し恋愛感情を抱くけど圭一滅菌、詩音は病院で自殺ああだめだ鬱鬱

460:名無しさん@ピンキー
07/02/08 20:37:25 QUGC0gYE
>>446
GJ!良い感じ!

>>457
激しく期待しています

正直エロパロに関しては滅菌なんて「なかった」の方向でも良いと思う

461:名無しさん@ピンキー
07/02/08 20:41:42 T2j2bH4T
>>457
靴下だけ履いて待ってる

462:名無しさん@ピンキー
07/02/08 20:54:00 brcVXdT6
梨花が一度も出てきてないので、ゴミ山でレナに注射しようとして、
返り討ちにあったという事に俺はしておきます、罪滅しのif世界
しかしそうなると沙都子は完全に救われないか・・・
圭一がなんとかしてくれればいいけどやっぱ鬱だ

463:462
07/02/08 21:06:53 brcVXdT6
スマン・・・
よく考えたら、さっきの考えの展開は正直無理だ。

>>460の言う通り滅菌なんて「なかった」の方向のほうが良いな。

464:名無しさん@ピンキー
07/02/08 21:10:35 k30LluRn
まあ落ち着け
よく本文を読め。詩音の梨花ちゃまが食事を作って待ってるっていうセリフがあるだろ

465:名無しさん@ピンキー
07/02/08 21:20:11 brcVXdT6
>>464
うむ・・・すまない・・・
ちゃんと読みました


466:名無しさん@ピンキー
07/02/08 22:56:42 6AQ8LyFM
>>457
圭魅を渇望してる俺が通りますよ
でも圭レナも楽しみなのです

467:名無しさん@ピンキー
07/02/08 23:04:19 7nJRteva
>>457
おお!神よ!あなたをお待ちしていました!

468:名無しさん@ピンキー
07/02/08 23:06:08 XHB39Eek
圭魅の需要低くないよな!?低くないと言ってくれ!
じゃないと>>313を三分の一ほど書き上げた自分はどうすればorz

469:名無しさん@ピンキー
07/02/08 23:08:03 tLh5Ygy9
>>468
俺は待ってるお

魅音が一番好きだし

470:名無しさん@ピンキー
07/02/08 23:12:15 3n4xlfwc
誰がいつ圭魅の需要が低いと言ったんだと小一時間(ry

471:名無しさん@ピンキー
07/02/08 23:12:16 6AQ8LyFM
>>468
餌をおあずけされた犬の如く待ってますよ!
全裸で。

472:名無しさん@ピンキー
07/02/08 23:19:26 GZ7vsX8u
>>470
>>457が言ってるぞ

473:名無しさん@ピンキー
07/02/08 23:24:11 jBLw7tEN
圭魅の需要は一番高いはず
なぜなら魅音が一番エロいから

474:457
07/02/08 23:26:16 3lpOLW/Z
ごめん、こんな熱狂状態になるとは思わなかったw
根性で二作書いてみます。
最初に圭レナって言ってたんで、
まずはそっちからいってみます。
ああ、最近二次創作ばっかりしてる……
しかも、エロ初書きして一週間でこんなに書くことになるとは。
でも、二次創作の楽しさを知ってしまったのに、
いまさら引けません。

ちょっと濃度が薄くなるかもしれませんけど、
明日から明後日にかけての深夜で勝負かけてみます。

475:名無しさん@ピンキー
07/02/08 23:26:43 3n4xlfwc
>>472
だからそれ(>>457)を誰がいつ言ったのかと(ry
プンプンですわー

476:名無しさん@ピンキー
07/02/08 23:29:42 GZ7vsX8u
>>475
ああそういうことか。すまん。

圭魅の需要が低いなんてことは「なかった」

477:名無しさん@ピンキー
07/02/08 23:59:39 7nJRteva
俺も魅音は嫌いじゃない。
ただ…圭レナが大好きなだけだ!

478:名無しさん@ピンキー
07/02/09 00:47:32 cbVkmrLy
自分も圭レナが割と好きだ。
ただ……エロかったり面白ければどんな組み合わせでもOKだ。
ただし、ホモはマジで勘弁。クララ☆と特殊性癖だけは警告して欲しいが……。

479:名無しさん@ピンキー
07/02/09 01:03:40 9FmET1nJ
ならあえて俺は古泉×一二三おじいちゃんを推薦するッ!

480:名無しさん@ピンキー
07/02/09 01:10:57 m4V6o2vF
部活メンバーを性別逆転させてエロ入れてみたら、圭一がカワイソウな事になった。

普通に圭×詩を頑張って書いてみるか。

481:名無しさん@ピンキー
07/02/09 01:28:29 s3D/C/B6
 諸君 私は園崎家を 乙女の様なS号関連を望んでいる
 諸君 スレに付き従うエロパロ筆者諸君 君達は一体 何を望んでいる?
 更なる圭魅小説を望むか? 情け容赦のない 砂糖菓子の様な悟詩を望むか?
 豊満肉体の限りを尽くし 雛見沢の少年を魅了す サキュバスの様な茜を望むか?

482:名無しさん@ピンキー
07/02/09 01:38:59 +94mjaTJ
圭レナと鷹レナを望んでます

483:名無しさん@ピンキー
07/02/09 01:43:43 y7Y9rl6M
葛詩を望んでます

484:名無しさん@ピンキー
07/02/09 01:55:46 Ogihd7r4
>>481
それら全部

485:名無しさん@ピンキー
07/02/09 02:02:23 je81gDky
>>480
圭詩派なのでぜひお願いします。


486:名無しさん@ピンキー
07/02/09 02:03:43 NqvP4doM
鷹野さんから借りたノートには、不思議なことがたくさん書いてあった。
その中でも一際興味を引かれたのが…この記事。

「あるカトリックの女学院
その女学院は宗教色が非常に強いが、同時に独特の制度を持つ変わった学校である
年上の者が年下の者にロザリオを渡すことで、スール(姉妹・仏語)というものに認定することができる
スールに認定された年下の者は、認定した年上の者を「お姉様」と呼ぶのが通例である
(中略)
この制度は本来、下級生の育成・交流に用いられるものである
しかし、特別な感情を抱くものに渡すことが多いため、そこから恋愛に発展することもある…

女性同士の恋愛。
鷹野さんは素敵な人だ。男を楽々手玉に取る(※ 富竹)
スタイルだっていいし、美人だし、何より飄々としたかっこいい魅力がある。
喩えるなら、そう。憧れの先輩…

「あらあらレナちゃん、どうしたの?」
「…鷹野さん。」
翌日、私は入江診療所を尋ねた。
「このノート、お返ししますね。」
「え?」
意外そうな顔をする鷹野さん。
「…あの、ところで…」
「なぁに?」
「…またここにきてもかまいませんか?お姉様…」
鷹野さんは最初、怪訝な顔をしていたが、そのうちそれは微笑みへと変化した。

「レナちゃん、あとで…私のところにいらっしゃい?姉妹の契、結んであげるわ…」

487:名無しさん@ピンキー
07/02/09 07:03:22 O3+iaLHY
>>481
圭レナと悟詩を望んでいます

488:名無しさん@ピンキー
07/02/09 07:08:08 f96at0nt
>>479
うん、それ無理。

489:名無しさん@ピンキー
07/02/09 08:31:30 i9xWq5hI
>481
幸せな圭魅を望んでいます。

490:名無しさん@ピンキー
07/02/09 09:23:08 EWq2Wbv0
>空っぽの鍋をくるくるかきまぜている
黒い楓様かと思った・・・

491:名無しさん@ピンキー
07/02/09 14:50:16 NqvP4doM
眠れない。
眠ることができない。
そりゃそうだ、泣き疲れて何時間も眠ってしまったのだ。
昼寝をして眠れなくなるのと同じ。本当に駄々っ子と変わらない。
せっかく圭ちゃんがベッドを貸してくれているんだ、眠らなければ失礼じゃないか。

部屋は小綺麗で、男の部屋という印象を受けない。
姉の漫画部屋の如く、もっと混沌としていると思ったのだが。
床には、ぐちゃぐちゃになったタオルが置き捨てられていた。
…とりあえずちょっと、部屋の外に出てみよう。

トイレの前に、人影があった。
一瞬悟史君だと思ってしまったが、すぐに圭ちゃんだとわかった。
彼はもういない。いや、いたとしてもこんな他人の家にいるわけがない。
「…圭ちゃん。」
「詩音…トイレか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど。」
答えながら、圭ちゃんの声に覇気がないことがわかった。
「…そうか。じゃあ、俺は寝…」
「圭ちゃんこそ何してたんですか?」
暗がりの中でも圭ちゃんが戸惑うのがわかった。本当に、隠し事や嘘が下手な男だ。
「…トイレだよ」
「嘘。圭ちゃんの家は水洗式でしょ?水音してなかった。」
「…なんだっていいだろ!」
「…私の寝ているところに、タオル…おいてありましたね。」
圭ちゃんの表情が驚きのそれになる。本当にわかりやすいなぁ…
「…わかってるんだよ。」
「…え」
「魅音じゃないってわかってるんだよ。
でもさ…ちゃんと眠れているかどうか見にいったときにさ…」
ああ、わかった。姉のこと思い出して泣いたんだ。…いや、抜いたのか?
「…悪い」
「圭ちゃんは…悪くないです。私だってさっき、圭ちゃんと悟史君を間違えましたから。」
「それなら…お互い様だけどさ。」
「…ごめんね、圭ちゃん。今日は料理作れなくて…」
話題を強引にそらす。これ以上、沈鬱なことを思い出したくなかった。

姉はいつも、私に対して恋愛相談を持ち込んで来た。
悟史君に惹かれたのも、姉の話が少なからず関係していた。
圭ちゃん、と呼んでいるのも、姉の影響だ。
その両人は、姉に惹かれている。私なんか、ただのお飾り…

また私は、届かぬものに手を伸ばそうとしているのか。

492:名無しさん@ピンキー
07/02/09 15:06:28 980t2oT6
>>481
背徳の限りを尽くした大石魅音を望む俺は罰当たりですか

493:名無しさん@ピンキー
07/02/09 16:07:33 9FmET1nJ
>>481
レナ圭がみたいです。
L5で狂ってるとかじゃなく普通に幸せな感じのあれで

494:名無しさん@ピンキー
07/02/09 17:30:04 LM2HkYGa
>>481
悟詩をお願いします。
それだけが俺の願いです。

495:名無しさん@ピンキー
07/02/09 17:51:43 NlHfUbGz
>>491圭詩の続きか。GJ。
良い感じでシリアスだな。続いてくれ。

496:名無しさん@ピンキー
07/02/09 17:56:56 O3+iaLHY
>>493
やっぱり圭レナはラブラブですよね。

497:名無しさん@ピンキー
07/02/09 18:27:58 je81gDky
>>491
GJ!
期待してます。


498: ◆Jx7kndDbOU
07/02/09 19:02:12 bMR3KqIN
>>491
シリアス感がいいなぁ。GJ。

魅音ルートなんだけど、魅音の寝間着って浴衣でいいんだっけ?漫画で確認し
てみたんだけど、毛布被っててよく分かんない。朝に詩音がしていた格好で寝
ていたんだろうと思って、浴衣で書いちゃったんだけど(でも半脱ぎ感が薄く
しか書けなかった)。

あと、他のルートも一応、大雑把なプロットというかメモ書きは全部揃えてい
るので、時間は掛かっても、ちゃんと全ルート攻略出来ると思います。

魅音ルート書いてたら、つい浮気して祭編後の圭一×レナの非エロを即興で書
いてしまった。あんましラブくは無いけど、これから出します。
ちなみに、魅音ルートは明日の夜あたりにいけると思うです。

499:そして俺はレナを泣かせた ◆Jx7kndDbOU
07/02/09 19:05:27 bMR3KqIN
「なんだかレナも、本当にクラスのお母さんって感じが板に付いてきたなあ……」
休み時間になり、俺はなんとなしにレナを眺めていた。
下級生の面倒をよく見るレナは、小さな子達からも慕われ、今も彼女らと一緒におしゃべりしている。
「なんですの圭一さん。さっきからずっとレナさんの方ばかり見て……。いやらしいですわね」
「ばっ、馬鹿。沙都子……そんなんじゃねぇよ。つーか、急に話し掛けるんじゃねぇ。びっくりするだろうが」
俺は慌てて振り向き、いつの間にか横に立っていた沙都子に抗議する。
「何言ってるんですの。私、さっきからずっとここに立っていましたわよ? 全然気付かないほどレナさんに見とれていたんですの?」
「みみみ……見とれてただあ? 違うって、レナがあの子をお持ち帰りしないか気になっただけだって……」
「そういう圭一はレナをお持ち帰りしようと考えていたのです。不潔なのです」
「梨花ちゃんまで……。なぁおい羽入。お前もこいつらに何とか言ってやってくれよ……」
いつの間にか梨花ちゃんと羽入まで寄ってきた。
「あぅあぅ☆ 梨花も沙都子もそんなこと言っては駄目なのです。男の子なら仕方のないことなのですよ☆」
「だあああぁぁぁっ! おーまーえーらーはああぁぁぁっ!」
俺は天井を見上げ、があーっと吼えた。
そんな俺を見ながら、沙都子達はきゃいきゃいと笑っている。
「どうしたの圭一君? さっきから騒いで……。何か面白いことでもあったの?」
突然背後から掛けられたレナの声に、びくりと俺の体は跳ね上がった。きっと心拍数も凄いことになっていたに違いない。
「あっレナさん? 実は圭一さんがですね……もがっ! もがもが……」
俺は慌てて沙都子の口を塞いだ。こいつ、なんつー事をレナに口走ろうとしやがる。
「圭一君がどうしたの?」
「いや別に何でもないんだ。レナは気にしないでくれ」
俺はあくまでもレナには振り向かないまま、梨花ちゃんと羽入に念入りに睨みをきかせ、釘を刺しておいた。
それなのに……。
「圭ちゃんがねー。さっきからずっとじっとりねっとりとレナの体を舐め回すように見てたの。で、レナの胸って綺麗な形してるよなーとか、お尻が柔らかそうだなーとか、今日はどんなパンツ穿いてるんだろハァハァ☆ とか妄想してたんだよね? 圭ちゃん」
「え? そうなの圭一君? ……そうだったの?」
何だかショックを受けたようなレナの声。
でも、本当にショックを受けたのは俺の方で……。
「だあああっ!! 魅音、アホかあああぁぁぁぁっ!! 最近ちょっと綺麗になったなって思ってたんだよっ!!」
だから、気が付けばそんなことを大声で叫んでしまっていた。

500:そして俺はレナを泣かせた ◆Jx7kndDbOU
07/02/09 19:06:49 bMR3KqIN
シン と静まりかえる教室。
凍り付く空気。
俺の顔が……耳まで真っ赤になるのがこの上無く自覚出来た。
恥ずかしさで、顔を上げることが出来ない。
逃げ出したい。今すぐここから立ち去りたい。
「あっ……。ちょっ、レナっ!!」
魅音が叫ぶ声で、我に返る。
振り返ると、レナが猛ダッシュで教室を出て行くところだった。
扉を開け、廊下を走っていく……。
俺はただ、それを呆然と見送ることしかできない。
力の抜けた俺の手を振り解き、沙都子が口を開いた。
「…………圭一さん。何をしているんですの?」
「……………………え?」
「『え?』じゃありませんですわ。こういうとき追いかけるのは殿方の役目でしてよ?」
「で……でも俺……」
「でもじゃないのです。さっさと追いかけるのです。でないとレナが可哀想なのです」
「圭ちゃん。ごめん、レナを頼むよ」
「あ、ああ。……分かった」
そうだよ。俺が恥ずかしかったように、レナだって……いや、レナの方がずっと恥ずかしかったに違いない。
なら、謝るのは俺の責任だ。
レナに続いて、俺も教室の外へと駆け出していく。
「圭一」
教室の外に出る直前、不意に羽入から呼び止められた。
俺は振り返って彼女を見る。
「きっと、大丈夫なのですよ。レナはちょっとビックリしただけなのですから……。だから、頑張って下さいなのです」
俺は頷き、教室を出て行った。

501:そして俺はレナを泣かせた ◆Jx7kndDbOU
07/02/09 19:08:19 bMR3KqIN
校舎を出て、レナの姿を探す。
校庭には……いない。
それじゃあ、いったいどこに……? 校舎裏の物置あたりに隠れてるのか? それとも……。
見付けたっ! あの馬鹿、学校の敷地から外に出て、道路を走っていやがるっ! まだ学校の時間だってのにどうするつもりなんだよ。
どうする前原圭一。クールになれ、クールになって考えるんだ。今ここでレナを追いかけたら、俺まで知恵先生に叱られることになる。
決意するまでの所要時間は1秒。
学校? 知恵先生? そんなこと知るものかっ! 校長先生に殴られたって構わない。今の俺にとって、レナを追いかけることの方がよっぽど大切だ。こんなときにクールさなんて必要ないじゃねぇか馬鹿野郎っ!!
答えは最初から出ていた。だから俺はほとんど迷うことなく、レナを追うことを選択した。
俺も出来る限りの全速力で走っていく。
……それにしてもつくづく、なんていうスピードだよ。どんどん学校から遠ざかっていくぞおい。
「レ~~ナ~~っ。待ってくれーっ!!」
俺は叫んで、レナを止めようとした。
声が届いたのか、レナがこっちに振り返ってくれたような気がした。
……げっ。マジかよ? あいつ更にスピード上げやがった。
引き離されそうなレナの背中を必死で追いかける。
くそっ。何でこういうときに限って誰も通りかかってくれないんだよっ!
「俺が悪かったーっ! 謝るからーっ!」
学校はもう遙か遠く。俺達は二人であぜ道を疾走していた。
一体レナはどこに向かおうとしているんだか……。いや、ひょっとしたらそれはレナにも分かってないのかもしれない。
その証拠に、さっきからずっと、ほとんど一直線に走っているのだ。これだけ距離が空いていれば、脇道に入るなどすれば俺をまくことだって出来たはずなのに。
でも、どんどん周囲の風景が変わっていって……。
「頼むっ! せめて話だけでも聞いてくれーっ!!」
俺はさっきからもう汗だくで、足はもうガクガク痛いし、のどは粘っこいものがやたらと絡んで気持ち悪いし、心臓も破裂しそうだった。
そういえばここ……どこだよ? 俺もレナを追いかけることしか考えてなかった。
俺の目の前に、見覚えのある石段が見えてくる。
ひょっとしてここ……古出神社?
レナは石段を一気に駆け上がっていく。それは、学校からあれだけの距離を走ってきたとは思えないほどのスピードだった。
くそっ。負けるものかあああぁぁぁぁっ!!
俺も、2段とばしで階段を上っていく。足への負担がかなり大きいが、ここで追いつかないと、俺の体力ももう限界だ。
「はうっ!!」
「レナっ!!」
最後のところでレナが石段を踏み外し、前に転ぶ。
急いで俺もそれに続いて、一番上のところへと辿り着くと……レナはよろよろと立ち上がろうとしていた。

502:そして俺はレナを泣かせた ◆Jx7kndDbOU
07/02/09 19:10:00 bMR3KqIN
「レナっ!!」
「きゃふっ!!!!」
俺は背後からレナを抱き締めた。
俺の腕の中でじたばたと藻掻くレナ。
「放してっ! 放してよ圭一君っ!」
「あっ!! ごご……ごめんレナ」
俺は慌ててレナを放した。
でももうレナは、逃げようとはしなかった。
無我夢中でやってしまった行為とはいえ、抱き締めたときのレナの柔らかさとかが今さらながらに蘇って……、俺の顔が赤くなる。
レナもまた、俯いて顔を赤くしている。
「あの…………レナっ! その……ごめんっ!!」
俺は頭を下げた。
「悪かった。レナの気持ちも考えずに……。しかも教室であんなこと言って……。本当の本当にごめん。頼むから許してくれ、俺に出来ることなら何でもする」
でも、もうきっとまったくの元通りの関係には戻れない。……それがとても、寂しかった。
涼やかな風が、俺とレナの間を通り抜けた。
レナが、小さく口を開いた。
「あの……ね。圭一君が私のこと……見てたのって本当?」
「………………ああ、沙都子に言われるまで気付かなかった。つい……見とれていた」
俺も、恥ずかしさでレナの顔をまともに見ることが出来ない。
「わわ……私のこと……、綺麗になったって……本当?」
「ああ、どこがどう変わったなんて……俺には上手く言えないけど、何だか……前も可愛かったけど、最近になって……なんていうかこう、温かいっていうか、柔らかい雰囲気が増したっていうか……」
ぼむっ
俺とレナの頭から蒸気が噴き出す。
そこで、自分で言っていてようやく気付いた。沙都子の言う通り、確かに俺は竜宮レナに見とれていた。何故なら、とても綺麗になったと思ったから……。
こんなしんどい思いをしてまでレナを追いかけたのも、コイツのことが好きだからだ。
「けっ……けけ……、圭一君」
「あっ……ああ…………何だ……よ?」
もう、まともに話すことも出来ない。俺の唇も舌も、情けないほど震えていた。
「圭一君は……私のこと…………その……」
「好きだっ!! 大好きだっ!!」
もはや自暴自棄だった。そして、他に何も上手いことの言えない、心の底からの叫びだった。
ひぐらしのなく声が、妙によく聞こえた。

503:そして俺はレナを泣かせた ◆Jx7kndDbOU
07/02/09 19:11:38 bMR3KqIN
「ぅっ…………うぅっ」
レナの声が聞こえた。しかもそれは…………泣き声で……。
「レナ?」
俺はそこでようやく、顔を上げた。
レナは真っ赤な顔のまま、ぽろぽろと涙を流していた。
「私も……私も圭一君のことが……大好き」
「…………レナ」
「圭一君っ!!」
レナは突然、俺の胸の中に飛び込んできた。
「本当だよね? 夢じゃないんだよね? 嘘じゃないんだよね?」
「ああ……全部、本当だ」
「うっ……うううっ。うわあああぁぁぁんっ!! ふああああああああぁぁぁっ!!」
レナは俺の胸の中で泣いた。
俺も、いつのまにか涙がこぼれていた。レナのように、叫びはしなかったけれど……。
俺は、レナの頭を優しく撫でてやった。
「ごめんレナ……。今まで気付けなくて……」
俺がそう言うと、レナは首を横に振った。
そして、俺の胸に顔を埋めたまま……嗚咽を漏らしたまま、俺に言ってきた。
「圭一君……ひっく……、お願いが……あるの。さっき……っく、何でもするって……言ったよね?」
「ああ。言った」
「約束して……。朝は私におはようって言って、夜は私におやすみって言って……いっぱい私に優しくして、いっぱい私を楽しくさせて……そして……ずっと、ずっと……一緒にいてくれるって」
「ああ……分かった。約束する。絶対、絶対に守ってみせるよ」
「…………うん。ありがと、圭一君」
レナの嗚咽は続く。
そして俺は、レナを固く抱き締めた。

504:そして俺はレナを泣かせた ◆Jx7kndDbOU
07/02/09 19:13:02 bMR3KqIN
「知恵先生。怒ってるよな。やっぱり……」
「はぅ……。ごめんね圭一君。圭一君にまで迷惑掛けて……」
「いいんだよ。……俺が好きでやったことなんだから」
「は……はうっ☆」
学校に戻り、俺達は教室の目の前に立っていた。
二人、固く手を握り合って……。
「じゃあ、いくぞ? レナ」
「う……うん」
俺達は一緒に頷き、俺は扉に手を掛けた。
「へっ?」
扉に妙な手応え。そう……いつも沙都子のトラップが発動するときのような……。じゃない、トラップだっ!?
思わず体を強ばらせる俺達。
そして…………頭上から舞い落ちてくる紙吹雪。
パチパチパチパチパチパチ
教室中から拍手と歓声があがる。
「おめでとう。レナ、圭ちゃん」
「ええっ? ちょっと待てよ? なんで……」
「お二人は分かり易すぎですわ。帰るときにはこうなるっていうことぐらい。簡単に予測出来ましてよ?」
「端から見ていて、ずっとやきもきしっぱなしだったのです」
「圭一は、自分の気持ちにも鈍すぎなのですよ。あぅあぅ☆」
俺達はまた……この短時間の内に何度目だ? 顔を真っ赤にして俯いた。
「前原君。竜宮さん」
『はっ…………はいっ!!』
教壇から知恵先生の声が聞こえる。
「おめでとう。……二人とも仲良くね」
俺達はもう、ただ真っ赤になって、何度も何度も頷いた。
そしてそんな俺達に、みんなはいつまでも拍手を送ってくれた……そう、いつまでも……。

―END―

505: ◆Jx7kndDbOU
07/02/09 19:20:07 bMR3KqIN
最初は、レナのクラスのお母さんと圭一のクラスのお父さんネタで
いちゃいちゃバカップルもの

レナ「はい。あ~ん」
圭一「もぐもぐ。うん、美味しいよレナ」
沙都子「ちょっと、教育上よろしくないんじゃありませんこと?」

もしくは

レナ「圭一く~ん。私を捕まえてごらんなさーい。うふふ」
圭一「待て待て~っ。あははははは」

みたいなのを書きたかったんですが、何故かこうなりました。
ラブ度が低くて、ホント、色々すみません。

506:名無しさん@ピンキー
07/02/09 19:47:31 33DAImna
(・3・)「あれれー私ってもしかして2回連続で失恋してる?」

507:名無しさん@ピンキー
07/02/09 20:04:42 7VE5q0TG
>>505
GJ!
そっちのバカップルぶりもちょっと見てみたかったですw

508:名無しさん@ピンキー
07/02/09 20:06:37 O3+iaLHY
>>505
もうGJの嵐ですよ!
圭一はかっこいいわ、レナはすごくかわいいわで最高です!

迷惑かもしれませんが、また圭レナを期待してます。
今度はこの続きみたいな感じでエロ有りとかだったら
とか妄想して待ってます!

>>506
まあまあ、いつかちゃんした相手が現れるさ。


多分だけど。

509:名無しさん@ピンキー
07/02/09 20:19:07 +94mjaTJ
>>486
鷹レナキタコレ
続きのエロいのを期待せざるを得ない

>>505
圭レナはバカップルが似合うよな!
でもこれはこれでとてもよかったよ
クラス公認になったんでバカップルはこれからだ

510:名無しさん@ピンキー
07/02/09 20:42:30 aQpOrh1/

レナかあいいよレナ

511:名無しさん@ピンキー
07/02/09 20:45:39 45bHL1/k
>>505
レナだけじゃなく、裏で魅音も泣かせてるだろうな
罪な男だぜ、我等がKは。乙ッ!

512:名無しさん@ピンキー
07/02/09 20:55:55 980t2oT6
>>498
和服でおk
明日の夜は全裸待機決定なのですよ
>>505も乙!

513:名無しさん@ピンキー
07/02/09 21:01:38 s3D/C/B6
私、前原圭一は貞操を狙われています。
なぜ、誰に、貞操を狙われているのかはわかりません。
ただひとつ判る事は、俺の振る舞い方と関係があるということです。
レナと魅音は俺に恋する乙女の一人。
他にも少女が3人。全員が危なっかしい武器を所有。

魅音の部屋をもう一度よく調べてください。俺の写真でいっぱいです。
レナの料理は真の愛情によるもの。
証拠の卵焼きはこれです。

どうしてこんなことになったのか、私にはわかりません。
これをあなたが読んだなら、その時、私は殺されているでしょう。
…殺したのが園崎組か、ケンタ君かの違いはあるでしょうが。
これを読んだあなた。どうか全員を同時にハッピーにさせる方法を考えてください。
それだけが私の望みです。

前原圭一

514:名無しさん@ピンキー
07/02/09 21:05:05 s3D/C/B6
…お、俺も、最初は…魅音は単なる友達だと、思ってまし……ぅぇぅ…、
だけど…やっぱり…ゴホッゴホッ…不器用な女の子ってのは…いるんだと思います…
今… ぐはっ…ずうっとお弁当作ってきてくれるんですよ…
遠慮しても遠慮しても遠慮しても遠慮しても、料理店の水みたいに何度も持ってきてくれて、
少しずつ…、少しずつ、俺の昼飯を、増やしているんです…っ!

515:名無しさん@ピンキー
07/02/09 22:09:12 33DAImna
前原さん、あんた喉に梅の種を詰まらせてはいませんよね!?

516:名無しさん@ピンキー
07/02/09 22:14:18 aQpOrh1/
何だこの流れwwwwww

517:名無しさん@ピンキー
07/02/09 22:27:45 NlHfUbGz
流れ切ってもう一回>>505GJ!
他のシナリオも期待してますよ~

518:名無しさん@ピンキー
07/02/09 23:11:04 BFmjPG0A
>>513
>>514
GJ こういうのもたまには良い

519:名無しさん@ピンキー
07/02/09 23:33:29 9FmET1nJ
>>514
なぜかカイジ思い出したわwwwwwwww

520:407
07/02/09 23:33:37 fpJUO2qa
明日あたり、>>313の圭魅を途中まで投下するつもりです。
それから保管庫更新してくださった方、ありがとうございました!


521:名無しさん@ピンキー
07/02/09 23:37:48 yb9/uFbU
>>520
全裸で待ってます!

522:名無しさん@ピンキー
07/02/10 02:32:41 Q6P9PBiM
「はい、魅ぃちゃん。お茶。」
「ありがとう。…やっぱりレナの料理にはかなわないなぁ…」
「そんなことない、魅ぃちゃんも上手だよ。
…魅ぃちゃん、今日の部活で負けた方の罰ゲーム、どうする?」
「これでどうかな。明日の朝から昼までこれを挿れっぱなし」
「…はぅ…えっちだよ魅ぃちゃん…」

えらいものをみてしまった。
まさかあの2人が…女同士でそういう関係だっただなんて。

523:名無しさん@ピンキー
07/02/10 06:35:09 j7TmmnKF
はっはっは、何をいまさら
梨花ちゃんと沙都子ちゃんなんてもっと凄いk(鍬直撃

524:名無しさん@ピンキー
07/02/10 09:40:03 sDybkkD7
>>520
今から全裸で待機してます!
楽しみ過ぎて仕事が手に付かない

525:名無しさん@ピンキー
07/02/10 18:11:18 cis6UiPd
そわそわ

526:名無しさん@ピンキー
07/02/10 19:06:37 sDybkkD7
そわそわ

527:名無しさん@ピンキー
07/02/10 19:20:34 Q6P9PBiM
「…朝だ…起きなきゃ。…あれ、服がない」
「悟史君、おはようございます」
「詩音…え!?ちょ、あれ…」
「覚えていないんですか?昨日の夜に…」
「…」
「すっごく乱暴だったんですよ?意外でした、悟史君がまさかあんな…」
「…詩音、その、責任は取るから!ごめん!」
「何のですか?」
「いや、ほらその…け、結婚とか」
「悟史君の寝相の話なんですけど」
「むぅ?」
「寝相。」
「…寝相…」
「悟史君…結婚なんて…きゅんきゅん☆」
「むぅ…」

「…朝だ、起きるか。」
「むぎゅ」
「むぎゅ?…レナ?どうして俺のベッドの中に。しかも下着姿で。」
「覚えてないの?昨日の夜に…」
「…え?」
「意外だったなぁ、圭一くんがまさかあんなに乱暴だったなんて」
「…レナ、もう一発いこうぜ」
「寝相の…え?」
「さぁレナ、俺と一緒に天国を見て来るぞ!」
「ちょ、圭一くんだめだよ!」

「…朝だ。…誰もいないや。僕は富竹、フリーのカメラマン…」

528: ◆Jx7kndDbOU
07/02/10 20:28:26 fwWNUscw
>>527
うわ~っ。圭ちゃんたら鬼畜ぅ☆ GJ。

魅音ルートなんだけど、あと1,2時間ぐらいでいけそーです。
でも圭魅とか鉈スパンキングの人の圭レナも来られるみたいなんですよね?
いつぐらいのタイミングで出したらいいですかね自分?

あと、今さらですけど、GJ言ってくれた方、保管庫更新してくれた方、
ありがとうございました。とても嬉しいです。

529:名無しさん@ピンキー
07/02/10 20:32:13 aw/3SR7L
「…朝か、そろそろ起きよう」
「ん…おはよう圭ちゃん」
「うわっ、なんで俺のベッドの中に魅音が居るんだよ!?」
「覚えてないの~?昨日の夜の・こ・と」
「…へ?」
「おじさん意外だったなぁ~、圭ちゃんがまさかあんなに乱暴だったなんて」
「…魅音」
「ふぇ!?だ、だめだよ圭ちゃん、朝からなんて…」
「へ~?ここはすでに臨戦態勢だけどな」
「ひゃっ!」

ガラッ
「お姉ぇ~?ご飯できましたよ…一人で何やってるんですか?」
(・3・)「あれれ~?」

530:名無しさん@ピンキー
07/02/10 20:37:54 8nHis3/z
>>528
どうぞ投下しちゃってください!
早く読みたい!!

531:名無しさん@ピンキー
07/02/10 20:45:56 uvOJvGas
>>527
下着姿だったらどう考えてもヤッてるだろ……

532: ◆Jx7kndDbOU
07/02/10 20:48:02 fwWNUscw
それでは書き上がってチェックしたり準備が整い次第出すことにします。
もうしばらくお待ち下さい。
もしマズければ自分、待ちますのでそのときは言って下さい。

533:名無しさん@ピンキー
07/02/10 20:58:45 d5slzA7V
>>486
GJ
礼のレナ×鷹野はよかったよね。

534:名無しさん@ピンキー
07/02/10 21:25:32 qYgD2qnS
>>529ワラタwwww
>>532待ってるぜい!臨戦態勢だ!

535:夢月祭夜(魅音ルート) ◆Jx7kndDbOU
07/02/10 22:09:52 1FXGbp+a
rァ 魅音かもしれない

俺以外にまだ眠れない奴がいるのかと思い。そっと布団から抜け出し、障子へと移動する。
「魅音? ……どうしたんだよ? こんな時間に」
戸を開けると、そこには魅音が立っていた。
「あ……うん。別になんでもないよ圭ちゃん、何となく眠れなくってさ。ちょっと夜風に当たってたところ」
ばつが悪そうに、魅音は笑った。
「おいおい……。各自明日に備えて万全のコンディションを整えとけーなんて言っていたくせにそれかよ。まったく……」
自分も人のことは言えないと知りつつも、半ば呆れながら俺は苦笑した。
「でもまあ、魅音のことだから風邪引くような真似はしないか。……もう少ししたら寝られるんだろ?」
「え……? あ……うん…………」
「じゃあ、俺ももう寝ることにする。お休み、魅音」
そう言って、俺は障子を閉めようとして―。
「あ……圭ちゃん」
「?」
魅音に呼び止められた。
「…………どうしたんだよ? 魅音」
でも、魅音は何も答えなかった。無言で俯いていた。
いや……そうじゃない。とぼとぼと、無言で俺の方へと近づいてきた。
あまりにゆっくりとしたスピードだったため、ついぼんやりとしている内に、魅音は本当に目の前まで近づいて来ていた。
「……お…………おい? 魅音?」
魅音は俺のパジャマを掴み、そして顔を俺の胸に埋めた。
「ねぇ……ごめん。圭ちゃん。ほんの少しだけでいいから……こうさせてくれない?」
そう言って震える魅音は……普段の魅音からは信じられないほど、小さく感じた。
「圭ちゃんは知ってるよね? 一年前まで、雛見沢には悟史っていう男の子がいたって……」
「ああ。……沙都子の兄貴だろ?」
こくりと魅音は頷いた。
「私ね。詩音が帰ってくるまで気付かなかったけど、悟史のことが…………好きだった」
きゅっ とパジャマを握る手に力が入る。
「…………でも、一年前の綿流しの日から突然、帰ってこなくなっちゃった…………」
魅音は泣いていた。涙は流していないけれど……声に抑揚が無いだけだけれど……それでも俺は、そう思った。
「きっと……私が悪いの。詩音の言う通り、もっと悟史のことを考えていれば……きっと手は打てていたはず。
私は、悟史を好きだった女の子として失格で……大切な仲間を守れなかった部長として失格で……そして、雛見沢の歪さを直すことの出来なかった園崎家次期党首としても失格なんだよ」
「魅音……」
俺は、魅音の背中を撫でてやることしか出来ない。
「明日は、雛身沢にとっても部活メンバーにとっても大切な日で……、でもこのままじゃまた私……失敗して……でも、そうしたらもう……」
虚ろな笑い声。

536:夢月祭夜(魅音ルート) ◆Jx7kndDbOU
07/02/10 22:12:00 1FXGbp+a
「本当なら……、部長ならこんなこと言っちゃダメなんだって分かってる。圭ちゃんを不安にしてしまうだけだって……。でもまた……ほら……私は……」
きっと、魅音にとってこの夜風は凍えるほど寒いものだった……。
だから魅音は震えている。ふと、そんな気がした。
「恐いの。……もしも圭ちゃんがいなくなっちゃったらって。また私のせいでみんなが傷ついたらって……、そう考えたら眠れなくって……」
「俺も魅音と同じ気持ちだ。……明日のこと考えたら、どういうわけか嫌な想像が消えなくってさ……。それで、眠れなかった」
魅音を寒さから守りたくて……、俺は魅音を抱きしめた。
「そう……、圭ちゃんもなんだ……」
「でもさ。……俺は思うんだよ。俺は部活メンバーみんなを信じてる。みんなも魅音を信じてる。だから、絶対大丈夫だって。……魅音も、俺達のことを信じてくれてるんだろ?」
「うん。……そうだね」
「魅音一人が抱え込む事なんかじゃないんだ。……だから、そんなに自分を追い詰める必要なんか無いんだ」
魅音は小さく頷いた。
そして、顔を上げて……俺を見上げる。
その瞳は潤んでいた。
「…………………ねぇ…………圭ちゃん……。もう一つだけ……頼みを聞いてくれる?」
「ああ。何でもいいぜ」
でも、魅音はその後の台詞をなかなか続けてはくれなかった。
何度も……何かを言いかけて、それでも口ごもって…………。そして、何度目になったか忘れかけた頃、ようやく魅音は意を決した。
「……私を…………抱いてくれない?」
その頼み事は、正直言って俺は全く心の準備が出来ていなくて……。俺は情けないことにただ口をパクパクさせるだけだった。
「女の子は……、その……すると変わるっていうから…………なら、私も変われるかなって……、そしたら……もうこんな私じゃ……」
魅音は寂しげに笑って、俺の胸から離れた。
「そっか……。そうだよね。おじさん、レナみたく女の子っぽくもないし、可愛くもないし、甲斐甲斐しくも……ないもんね」
にこっ と見た目だけは明るい笑顔を魅音は浮かべた。
「ありがとっ、圭ちゃん。気が楽になったよ。それじゃ、おやすみ」
そう言って、魅音は振り返って―。
「待てよっ!」
俺はとっさに、立ち去ろうとする魅音の左手首を掴んでいた。
「…………圭ちゃん?」
振り返る魅音を見つめて……、その直後にはもう俺は覚悟を決めていた。
魅音を引き寄せて、そして肩を抱いて…………顔を寄せる。
「ん? んんっ?」
俺にとってのファーストキスで……上手くいったかどうか何てのは分からない。ただ、俺の想いが魅音に伝わってくれることだけを望んで、努めて優しく唇を押し付ける。
きっかり十数えて、俺は唇を離した。
「あ……ああああ、あのっ……あのあの……、圭ちゃん……?」
魅音は唇に右手を当てながら、顔を真っ赤にする。
俺はそんな魅音の手首を掴んだまま、彼女を寝室へと引っ張っていった。

537:夢月祭夜(魅音ルート) ◆Jx7kndDbOU
07/02/10 22:13:28 1FXGbp+a
障子を閉めて、魅音を布団の上に押し倒す。
「ちょ……ねぇ……あの? ふぇっ?」
「魅音……嫌か?」
魅音はぶんぶんと首を横に振った。
俺はそれを見て安堵の息を吐いた。
「で……でもでも、圭ちゃんの方が…………嫌……なんじゃ…………ないの?」
恐る恐る、魅音が訊いてくる。
「そんなわけないだろ? 真剣な……女の子の頼みを断れる男なんていないし、ましてや魅音だぞ? 俺が嫌に思うわけ無いだろ?」
「えっ? それって……」
一瞬だけ、俺は口ごもる。
顔面が火照るのを自覚する。
「魅音は……俺にとって大事な女の子だ。それで……そんな女の子が俺を……たとえどんな理由だったとしてもその、そういう相手に選んでくれるっていうのは、俺だって嬉しいし……」
クソっ 俺の馬鹿。なんでここではっきりと、俺は魅音が好きだって言えないんだよっ!
自分のふがいなさに腹が立つ。
「圭ちゃん……ありがとう」
でも、魅音は俺のこんな言葉でも喜んでくれた。それだけが、俺の救いで……そして何よりも嬉しかった。

538:夢月祭夜(魅音ルート) ◆Jx7kndDbOU
07/02/10 22:15:05 1FXGbp+a
胸の鼓動が収まらない。
静寂の中で、俺達は見つめ合う。
しかし、いつまでもそうして固まっているわけにもいかない。
「あ……それじゃ、脱がすぞ?」
「え? うん……そうだね」
俺の声も、そして魅音の声も震えていた。
どこか現実味のない思考回路のまま、魅音の浴衣の帯を解いていく。
そして、左右に開いていって……魅音の上半身が露わになる。
「あっ。……圭ちゃん、そんなに見ないでよ。恥ずかしい……」
慌てて乳房を両手で隠す魅音。
しかし俺はその手でも隠しきれない魅音の胸の部分に手を添えた。押し上げるようにして魅音の柔らかな乳房に手を押し込み、強引に魅音の手と乳房の間に手を入れる。
「ひゃっ……ううっ」
結果、俺の両手が魅音の胸を鷲掴みにした形となり、魅音は恥ずかしさで目を瞑った。
「魅音の胸……大きくて、柔らかくて、温かくて、すげー気持ちいいぜ」
「そ……そんなこと……」
もにゅもにゅと、そのまま魅音の胸を揉みしだく。
「あふっん」
「すごくすべすべしていてさ……、でもって張りがあって……」
人差し指で乳首をつつき、そして擦る。
「あくっ……うんっ」
「乳首も敏感なんだな……、最高の胸だよ」
「あ……あうぅ」
魅音はぴくりと身震いして……手の力を緩めた。
もっと触って欲しいということだろう。
俺はさわさわと魅音の胸を優しく撫でまわし、乳首を転がした。
魅音の口から漏れる甘い吐息に、脳髄が痺れてくる。
「魅音っ!」
「きゃうあうん」
俺はとうとう我慢出来ず、魅音の胸にむしゃぶりついた。
「やだ……やだ……、圭ちゃんそんな急に……ああっ、吸っちゃイヤ……ダメ……私……」
そんな魅音の言葉に耳を貸さず、俺はちうちうと魅音の乳首を吸い続ける。
それだけじゃない。舌で舐め回し、軽く噛み、そして転がす。
「お願い……圭ちゃ……変になっちゃうから……」
馬鹿……魅音。それを聞いてやめられるわけないだろ?
「ヤダぁ……やめてって言ってるのにぃ~っ」
俺はより強く魅音の胸を責める。
「あぐぅっ」
反射的に、魅音はきゅっと両腿を強く合わせた。 
「ううっ……うううっ」
抑えた喘ぎ声を出しながら、もじもじと小刻みに太股を動かしている。
そんな魅音が……たまらなく可愛く思えた。

539:夢月祭夜(魅音ルート) ◆Jx7kndDbOU
07/02/10 22:16:22 1FXGbp+a
魅音の胸から顔を離す。
「………………圭ちゃん?」
「魅音……俺ももう我慢出来ない。挿れてもいいか?」
「えう? う……………………………………うん……」
魅音は目を瞑ったまま、小さく頷いた。
俺は膝立で起きあがり、パジャマのズボンとパンツを脱いだ。
そして、魅音の下着に手を伸ばす。
「あ……あのっ」
しかし、魅音はとっさに下着の上に右手を置いた。
左腕で胸を抱え込む。
それは……拒絶の証。
「魅音。……やっぱり、俺じゃ嫌だったか?」
びくりと、魅音は体を震わせた。
「違う。……そうじゃないの。恥ずかしくて……初めてだから……、恐くて……もう、後戻りが出来ないって思って……ごめん……」
「そっか……、そうだよな。心の準備とか……いるよな……」
俺は、努めて明るく笑った。
「圭ちゃんの……触ってもいい?」
「え? そりゃ…………俺は構わないけどさ……」
でも、いいのか? 恐くないのか?
魅音は顔をこちらに向けて、おずおずと……でもまっすぐに俺のものへと両手を伸ばしてきた。
さわっ
ビクッ と、魅音の手が触れた瞬間、俺のものと魅音の手は震えたが、魅音は包み込むように俺のものに手を添えた。
「あははっ。……これが圭ちゃんのオットセイ☆なんだね。熱くて……固くて、とっても力強いよ」
「……魅音」
魅音は手を震わせながら……それでも優しく、俺のものを撫でた。
その手がとても温かくて心地よく……まるで俺の心すべてを受け止めてるようで……満たされるものを感じる。
「そして…………そうだね。圭ちゃんは、私を……私と……」
優しい口調で、魅音が呟く。
「ああ、そうさ……俺は魅音と一つになりたい」
「うん……そうなんだね…………」
感慨深げに、魅音は微笑んだ。
「圭ちゃん……。ごめんね。もう大丈夫」
「分かった。……じゃあ、下着……」
「うん。……脱がして?」

540:夢月祭夜(魅音ルート) ◆Jx7kndDbOU
07/02/10 22:17:38 1FXGbp+a
俺は魅音の言葉に従い、下着を下ろしていく。今度は抵抗しなかった。
魅音の長い脚から下着を抜く。
顔を上げると、魅音の秘部とそれを覆う茂みが露わになっていた。
抱き寄せるように、両手をこちらに伸ばしてくる。
「圭ちゃん…………来て?」
俺は無言で頷いて、魅音の秘部に自分のものを当てた。
「うん……そこ……。そのまま、奥まで突いて………………あっ……ぐっ……んっ」
魅音がそうであるように、当然俺も初めてなわけで……こういう事の要領なんかは分からない。だから、強引にこじ開けるようにして、自分のものを魅音の中へと埋め込むような真似しか出来ない。
きゅうっ と魅音の中が俺のものを締め付ける。
一瞬、俺はその締め付けに顔を歪めたけれど……。じんわりと……ぬめりのある液体がそれを和らげる。
はぁ はぁ はぁ はぁ
魅音の息が荒く響く。
その目蓋から、涙がこぼれ落ちていた。
「圭ちゃん…………」
「お……おう」
魅音は涙をこぼしながら……、でも力強い笑みを浮かべた。
「これで……一つになれたんだよね?」
「ああっ。そうだな」
俺も、魅音に笑みを返した。
そして、魅音に覆い被さって抱きしめ合う。
肌の温もりを伝え合って……互いが一つであることを確認する。
俺は、ゆっくりと腰を動かし始めた。
「んっ…………」
ちゅっ
結合部が小さく音を立てる。
締め付けがきつくて思うように腰が動かせないっていうのもあるけど、あまり魅音に負担をかけたくなくて……、なるべく小刻みに出し入れする。
ぎゅっ と俺の背中にまわる魅音の腕に力が入る。
魅音もまた、俺の動きに応えるように、小刻みに腰を動かしていた。
徐々に結合部の滑りがよくなってきている気がする。
そこはもう、俺のものを受け入れつつあった。

541:夢月祭夜(魅音ルート) ◆Jx7kndDbOU
07/02/10 22:18:57 1FXGbp+a
「魅音。……あのさ、もう少し大きく動いていいか?」
「うん。いいよ。圭ちゃんの好きにして欲しい。圭ちゃんが感じてくれると、私も嬉しいから……」
「ああ。……ありがとう、魅音」
今度は、もう少し大きく、そして早めにピストン運動を行う。
包み込まれるだけだった俺のものが、より貪欲に……快楽を貪ろうと、そして快感を与えようと、魅音の中を掻き回す。
ぐちゅぐちゅとした粘っこい音が静かな寝室に、妙に響く気がする。
絡み合う肉と肉の感触。
でも……、俺には不思議とそれが不潔なものには思えなかった。
「魅音……気持ちいいよ」
「よかった……そう言ってくれて……」
魅音もまた貪欲に俺のものを求めていた。奥へ奥へと俺のものを飲み込もうと蠢いている。
俺はそれに逆らうことが出来ず、ただただ腰を打ち付ける。
ダメだ……、やめることが出来ない。
「魅音……。ごめん。俺……もうイクっ」
魅音は応えない。体を弓なりに反らして喘いでいた。
精液が俺のものを駆け上ってくる。
「……………くっ……………ううううあああああっ!!」
「はっ……あああああああぁぁぁぁっ!!」
俺の精液を膣内で受け止めながら、魅音は嬉しそうに体を震わせた。
脱力して、俺は魅音の胸に倒れ込む。
「ねぇ……圭ちゃん?」
俺の頭に手を置きながら、魅音は囁いた。
「私ね……変わるっていう意味が少し分かった気がした」
俺は魅音の顔を見上げることはしなかった。

―それはね。きっと、私を変える……無限にある選択肢を恐れずに選ぶことなんじゃないかなって―

ぼやけた頭の俺には、本当に魅音がそう言ったのかどうかもよく分からない。そして、その真意も分からない。
でも魅音がどういう顔で笑っているのか、何故かそれは分かった気がした。

542:夢月祭夜(魅音ルート) ◆Jx7kndDbOU
07/02/10 22:20:04 1FXGbp+a
翌日。
「梨花ちゃん。接近してくる敵はいる?」
「みー♪ 三時の方向に4人。七時の方向から3人。どちらもあと50mほどの距離なのですよ」
「よし。……なら三時の方から片づけようか。沙都子はトラップA-47の発動準備。圭ちゃんとレナは七時の方向を警戒。全員三時方向へ移動するよ。羽入は先行して沙都子のサポートと囮をお願い。片づいたらQ地区へ転進するよ」
魅音は迷い無く俺達を指揮し、そして俺達も魅音の指揮に従って着実に戦果を挙げている。
「まったく。魅音の奴……頼もしいったらありゃしないぜ」
「うふふ。そうだね。……さすがは部長さんだよね☆」
「流石としか言いようがありませんわ。ここまでわたくしのトラップを有効に使ってくれるなんて。トラップ使い冥利に尽きましてよー☆」
朗らかに笑い合う俺達。
「というより、私には何か吹っ切れたような感じがするんだけど……。何か知ってる? 羽入?」
「さあ? 僕は何も知らないのですよ? きっと愛の力なのです。あぅあぅあぅあぅ☆」
そう、確かに園崎魅音はどこかが今までより強くなった。そんな気がした。
「ほら、みんないつまでも固まってないで持ち場へ散った散った。先はまだまだ長いんだからねーっ?」
魅音の叱咤がとんで、俺達はそれぞれの役割に就いた。
そう、部長園崎魅音と俺達部活メンバーに敵なんかいやしない。
勝てる。……俺達は間違いなく勝つことが出来る。惨劇は打ち破れる。
魅音に背を向けながら、俺は笑みを浮かべてバットを構えた。

―魅音END―

543: ◆Jx7kndDbOU
07/02/10 22:23:39 1FXGbp+a
今週は以上です。それでは、来週末に沙都子ルートでお会い出来ればと思います。
なお、女の子がすると変わる云々はマジ適当に書いているので、実態と違っていて
もくすくす笑って流してくれるとありがたいです。

544:名無しさん@ピンキー
07/02/10 22:24:17 lVd+8atB
GJ!!魅音可愛いよ魅音
最後の「変わるっていう意味が少し分かった気がした」の魅音がすごくリアルに女の子っぽくて最高。
沙都子や梨花ルートもあるのか?期待!

545:名無しさん@ピンキー
07/02/10 22:25:06 qYgD2qnS
グッジョオォォォォォォォォブ!!!!
アンタ最高だ!魅音スキーの俺にはたまらん展開だ!
また別ルートも頑張って書いてくれ!

546:名無しさん@ピンキー
07/02/10 22:25:29 aw/3SR7L
乙ー

547:名無しさん@ピンキー
07/02/10 23:20:53 CQrze4/1
>>543
あなたが神か?
魅音に望んでいたのはこういう葛藤なんだ!
初々しいエロさもたまらん。特におっぱい。腹ァ・・・いっぱいだ・・・
女子部活メンバーは全員好きなので続きも楽しみです

548:名無しさん@ピンキー
07/02/10 23:33:29 K8mmEK8q
>>543
とても良かった!
次も期待してます

549:名無しさん@ピンキー
07/02/10 23:35:19 aJyjBWMN
魅音ルートキタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!

550:名無しさん@ピンキー
07/02/10 23:38:03 sDybkkD7
>>543
GJ!!やべぇ魅音可愛いいいいい!!!!ハァハァ

さて、他の作品もそろそろだろうか…
圭魅マダー?wktkが止まらない

551:綿流し後日
07/02/11 00:06:13 zVrQ3Gj7
>>407です。
投下します。圭魅で、ちょっと悟詩あり。
設定としては、>>279の一年後。
祭囃し編の世界だと思ってください。
エロなしで、途中までです。すいませんorz

552:綿流し後日
07/02/11 00:07:34 zVrQ3Gj7
どうしてだろう、五年目の夏も、私は恋をしていた。
この恋がどうして生まれたものなのか、私には分からない。
けれどとにかく、気付くと私は彼に向かって手を伸ばし、そして彼はその手を掴んでくれていた。
四年目の夏が無ければ生まれなかった恋かもしれないと、時折後ろめたく思う。
けれどこの五年目の夏は、四年目の夏とはあまりにも違うと思った。
悲しみとは無縁で、ただ毎日、騒いだり、からかい合ったり、笑ったりしていればそれでいい。
あまりにも幸せでひどく眩しい夏だと、そう思っていた。
ただ、時折罪の意識が疼く以外は。

553:綿流し後日
07/02/11 00:09:26 zVrQ3Gj7
どさ、という音と共に、私はマットの上に倒れこんだ。
狭く暗い体育倉庫の小さな窓から、光が差し込み、その中で埃がきらきらと浮かび上がる。
外で鳴くセミの声を聞きながら、その舞う埃を見た。
「……ねえ圭ちゃん」
私は覆い被さっている圭ちゃんの肩をやんわりと押しながら、なるべく穏やかな声を出した。
「何だよ魅音」
圭ちゃんも落ち着いた声で返す。しかしその割には、いやに汗ばんだ余裕の無い手が、私の体操着のシャツやブルマーのあたりで止まっている。
圭ちゃんがこれから何をしようとしているのか、想像するのは難しくない。
「ここ、体育倉庫だって知ってる?それからね、もう体育の授業は終わったから、用具を片付けて、とっとと教室に戻らなきゃいけないってことも」
「知りたくないって言ったらどうする?」
「考えたくないね」
笑みを含んだ声でそう言い返すと、私を見下ろす圭ちゃんの顔が微かに動いた。
賢そうな目に、どこか切羽詰った色が浮かんでいる。この体勢でここに長居するのはまずそうだ。
「圭ちゃんどいてよ。早く教室戻らなきゃ、皆が探しに来るよ」
「魅音は嫌なのかよ?」
私は少し黙った。するとその沈黙を狙うかのように、圭ちゃんの手が私の腰に回り、ぎゅうっと抱き締める。そして圭ちゃんは私の肩に顔を寄せ、呟いた。
「俺たち付き合い始めてもう一ヶ月だぜ」
「うん、知ってるよ」
私は平静を装ってそう返す。すると圭ちゃんの、熱を孕んだ囁き声は耳元で続く。
「もうそろそろ、許してくれてもいいんじゃねえの」
圭ちゃんの指がそっと動き、私のシャツの中に侵入を果たす。脇腹の部分をするっと撫でられて、私はびくっと震えた。
緊張と恐怖に、身体の奥が冷たくなる。私は動揺していた。
「圭ちゃん、いい加減にしないとおじさん怒るよ」
低い声で呟くと、圭ちゃんが不穏な空気を感じ取って、指を引っ込めた。
「魅音……」
圭ちゃんが残念そうな声を上げる。私は畳み掛けるように言った。
「ねえ聞いて。私ね、圭ちゃんとそういうことする勇気がまだ出ないの。心の整理が着くのを圭ちゃんに待っててほしい。それじゃ駄目?」
「……分かったよ」
私の上から圭ちゃんが渋々身体を退かした。私は安堵して息を吐き、マットから立ち上がった。そして倉庫のドアの方に向かう。

554:綿流し後日
07/02/11 00:11:25 zVrQ3Gj7
まだ座り込んでいる圭ちゃんが口を開いた。
「ごめんな、魅音。無理言って悪かった」
「いいよもう。早く教室戻ろ!」
そう言いながら、私は圭ちゃんが閉めた体育倉庫のドアを開いた。セミの声が大きくなる。淀んでいた空気が抜け、薄暗かった室内に、一気に昼下がりの太陽の光が入り込む。そのあまりの眩しさに、私は目を細めた。
「ああ、分かってる。……なあ魅音」
「ん?」
私はくるりと振り返る。そして、差し込んだ光に照らし出される圭ちゃんの顔を見た。少し緊張した面持ちだ。
「魅音は、その……初めてなんだよな?」
「え?」
「俺以外の奴とは、付き合ったことないんだよな?だからすげえ慎重になってるんだろ?」
セミがぴたりと鳴き止んだ。
胸の奥をさまざまな感情が、一瞬にして通り抜ける。息が喉の奥でひゅっと詰まる。
私は開け放ったドアの前に立っている。おそらく逆光で、私の表情は窺えない。喉の奥で詰まった息も、圭ちゃんには聞こえない。大丈夫。自分にそう言い聞かせる。
「何言ってるの圭ちゃん!あったりまえじゃない!」
明るい声でそう言うと、圭ちゃんはほっとした表情を浮かべた。
「だよな。まあ、俺もそうなんだけどさ」
圭ちゃんは立ち上がって、私の方へ歩いてくる。
私と圭ちゃんは、なるべく近い位置で並んで、外に歩き出す。
「レナたちが待ってる。早く行かなきゃね」
「分かってるって。あーあ、早く部活の時間にならねえかなぁ」
「おっ、圭ちゃんやる気だね!今日の罰ゲームはどんなのがいいかなぁ!」
後ろ手で閉めたドアが、ばたん、と音を立てて閉まる。暗く、湿っぽく、埃だらけの汚い倉庫は、再び密閉される。

圭ちゃんについた嘘が、胸の内側でじんじんと痛みを伝えている。私はそれを無視することに努めた。

555:綿流し後日
07/02/11 00:13:13 zVrQ3Gj7
私は圭ちゃんが好きだ。
明るいところも、口が上手いところも、正義感が強いところも、熱血なところも、変なところも、全部好きだ。
圭ちゃんは私だけの人だ。初めて手に入れた、大好きで大切な人だ。私は絶対に圭ちゃんを失いたくない。
だから、私は圭ちゃんとするのが恐かった。
かつて悟史とそういう行為に及んだ時、私を待っていたのは、落胆と絶望と罪悪感、そして悟史の失踪だった。
そのせいか、つい思ってしまう。そういう行為に及んだら、また私は何かに裏切られるのではないかと。
そして私は、必要以上に慎重になるのと同時に、こうも考えた。
悟史のことを圭ちゃんに知られたくない。私が犯した過ちを知られて、軽蔑されるのは絶対に嫌だ。

いつの間にか鳴くのを再開したセミの声が、遠く吸い込まれていく空を見上げる。
澄み切った青空の中で、まるで傷痕のように、飛行機雲が細く長く伸びている。
圭ちゃんに嫌われたくない。圭ちゃんの前では一番きれいな自分でいたい。
そう思えば思うほど、私は汚い、嘘だらけの人間になっている気がする。
「魅音、行くぞ」
圭ちゃんが校舎に入る足を止めて、立ち止まった私を振り返る。
「うん!」
私は笑って、圭ちゃんの後を追った。

今年の綿流しのお祭りは、ついこの前終わった。
私がほんの一度卑怯にも悟史に抱かれたあの日、そして悟史が失踪した日から、一年が経っていた。

556:綿流し後日
07/02/11 00:21:53 zVrQ3Gj7
その日、私、園崎詩音はいつものように、入江診療所に向かった。もちろん目的は悟史くんだ。
地下の悟史くん専用の病室に入る。ベッドでは相変わらず悟史くんが横になって目を閉じていた。
水色の患者用のパジャマ。痩せた白い肌。一年前よりも伸びた髪が、私の目に映る。
それはとても寂しい様子だけど、以前の悟史くんの行方も消息も分からない状況よりは何百倍もマシだった。
たとえ眠り続けているとしても、悟史くんはここに居る。悟史くんの頬をそっと撫でた。青白い、けれどちゃんと生きている。
監督はこの前、悟史くんの身体は順調に回復していると嬉しそうに報告してくれた。悟史くんが目を覚まして私に微笑みかけてくれるのは、そう遠くはないだろう。
私は鼻歌を歌いながら、傍らに置いてある花瓶の水を取り替え、花を取り替えようと手を伸ばした。花は今日新しく花屋で買ってきたものだ。黄色い花びらが、悟史くんの髪の色に似ていて、とてもきれいだった。
花瓶の横には大きなクマのぬいぐるみがある。沙都子宛てのものだ。
そうだ、今日は帰ったら沙都子に何を作ってあげよう。カボチャフルコースは昨日やり終えたから、今日は沙都子の好物ばかりで統一してみてもいいかもしれない。沙都子の嫌がる顔は可愛いが、喜ぶ顔はもっと可愛い。
悟史くんがいつか目を覚まして、沙都子と私の元に帰ってきた時、偏食の直った、頼もしい沙都子の姿を見せてあげるのが、今のところの私の夢だ。
私は口元を綻ばせながら、花瓶を持って備え付けの洗面所に向かった。
花瓶の水を捨て、水道の蛇口を捻る。そして古い花を捨て、新しい花を生けようとした、その瞬間。
「……詩音?」
柔らかく、温かく、穏やかで、何度も夢見たその声が、鼓膜を優しく叩いた。それはまるで、風がそよぐかのように。
生けようとした花が、硬直した私の手から、はらりと落ちる。
世界中の何もかもが呼吸を止めたかような、そして何もかもが呼吸を取り戻したかのような、不思議な強い感覚が、私を麻痺させる。
けれど私は、力を振り絞って、振り向いた。
そこにはいた。目を開いて、身体を私の方へ傾けて、不思議そうな表情を浮かべる、あの悟史くんが。
「……悟史くん」
「詩音。ここは一体……」
「悟史くん……悟史くん、悟史くんっ!!」
涙が溢れた。身体が震えた。身体中の全ての血液が、悟史くんを求めて叫び声を上げた。私は込み上げるたくさんの感情に押し出されるかのように、悟史くんに手を伸ばし、駆け寄った。
「悟史くん…!!会いたかった、会いたかったよ、悟史くん……!!」
「詩音、何で……」
私は戸惑う悟史くんのベッドに突っ伏して、その身体を毛布越しに抱き締めて、泣きじゃくった。
「ずっと待ってたんですよ!沙都子とふたりで…絶対に、また逢えるって信じて…待ってたんです」
「詩音、僕、よく分からないけど…」
温もりが、私の頭の上に降りた。
そしてそれは、穏やかに、ふわふわと、私を撫でる。
あまりにも懐かしく愛しい、悟史くんの手の感触に、胸が熱くなる。
「僕がいない間、沙都子の面倒見てくれたんだね。ありがとう」
悟史くんが微笑む。
どうしよう。嬉しすぎて、幸せすぎて、涙が止まらない。

557:綿流し後日
07/02/11 00:23:31 zVrQ3Gj7
『はろろーん、お姉、元気ですか?最近圭ちゃんとはどうなんです?エッチのひとつやふたつはしましたかぁ?』
やけにテンションの高い、詩音からの電話を受け取り、私はうろたえた。
「し、してないよそんなの!」
『ふふ、そりゃそうでしょう。お姉は奥手ですからね。圭ちゃんもそういう色恋に関しては、押し切るタイプじゃなさそうだし』
どうやらかなり機嫌が良いらしい。声も軽やかだし、揶揄する言葉もどこか優しさを含んでいる。
「えーと、詩音、何の用?」
『用が無いと電話しちゃいけないんですか?私たち仲良し姉妹に、そんなルールは不要ですよ!』
私は思わず苦笑した。普段ならこんなこと絶対に言わないはずだ。余程いいことがあったらしい。
「何か嬉しいことでもあったの?すごく気分良さそうだね」
『ふふー、ありましたよ。すっごく素敵なこと』
「へえ、何?」
『秘密です。お姉に言ったら部活の皆さんにも話しちゃうでしょ』
「何じゃそりゃ。てっきりその素敵なことを話したくて、電話してきたのかと思ったよ」
『んー、確かに話したいんですが、やっぱまだ駄目です。でもそのうち分かりますよ』
何だろう。私は思いを巡らせる。沙都子がカボチャを大好きになったとか。沙都子が「ねーねー」って呼んでくれたとか。
「詩音、それは沙都子絡みのこと?」
『ふふ、どうでしょう。あ、私もう用があるんで切りますね。じゃ、さよならっ』
電話はあっさりと切れた。私は受話器をまじまじと見つめる。
一体何があったのだろう。沙都子絡み、と聞かれて否定はしなかったから、そうなのかもしれない。
……もしくは悟史絡みとか。
それを思い浮かべた瞬間、胸がざわざわと波立つのを感じた。
もし悟史が帰ってきて、詩音と会ったら、あの時のことが知られてしまうかもしれない。
受話器を置きながら、私は息を吐いた。
園崎の人間に悟史の捜索は頼んである。手がかりが掴めたら、真っ先に私のところに連絡が来るはずだ。
私は悟史が見つかったら、すぐに事情を説明して、黙っていてもらうつもりだった。
一年前の私の罪。大切な妹である、詩音への裏切り。
卑怯なのは分かっている。許されないのも分かっている。けれど、知られたくない。知られるのが恐い。
私は背中が粟立つのを感じながら、自分のエプロンを強く握り締めた。
その時、婆っちゃが私を呼んだ。私は夕飯を作っていた途中だったのを思い出し、慌てて台所に戻る。
そして、私は詩音の素敵なこととやらを、すっかり忘れてしまった。

558:綿流し後日
07/02/11 00:24:29 zVrQ3Gj7
私はお姉との電話を切って、自分の口元を撫でた。
唇が笑みの形に緩んでいるのがよく分かる。私の顔は悟史くんが目を覚ました昨日から、緩みっぱなしだった。
私がこうなるのも仕方ない。なんてったって、悟史くんが目を覚ましたのだ。
あの後すぐに私は監督を呼んだ。診察の結果、もう暫く入院をさせて様子を見ることを決めたらしい。
正直すぐにでも連れて帰って、沙都子に会わせてあげたかったが、仕方ない。悟史くんの病気の完治のためだ。
『素晴らしいですよ、詩音さん』
監督は笑顔でそう言った。
『数値も驚くほど下がっています。もう暫く様子を見る予定ですが、これならそう遠くないうちに退院できますよ。詩音さんのおかげです』
私は何もしていない。ただ毎日お見舞いに来ていただけだ。そう言うと、監督はにこにこしながら首を振った。
『いいえ、おそらく毎日そうやって、来ては話しかけていたのが、悟史くんの心の支えになり、回復を早めたのだと思います。これは詩音さんの努力の成果でもありますよ』
その監督の言葉はとても嬉しかった。私が毎日悟史くんに会いに来ていたことは、ちゃんと伝わっていたのだろうか。
だとしたら、こんなに幸せなことはない。
「詩音さん、出発の用意が出来ました。車に乗ってください」
「はいはーい」
私は明るい口調でそう返事して、身を翻す。
すると葛西の口元が微かに綻んだのが見えた。
「何?」
「いえいえ……こんなに嬉しそうな詩音さんは久しぶりだと思って」
「そりゃあねえ。念願の悟史くんの目が覚めたんだもん。当然でしょ」
葛西が車のドアを開く。私はそれに促されるように、車に乗り込む。するとドアが閉まり、車は走り出す。
興宮の町並みが通り過ぎてゆく。不意に葛西が呟いた。
「詩音さん」
「ん?」
窓からバックミラーに視線を移すと、葛西のサングラスが見えた。
「おめでとうございます」
「……ありがとう」
サングラスは暗すぎて、その向こうの目がよく見えない。
けれど今、葛西の目はきっと優しい色を浮かべているんだろうなと、そう思った。

559:綿流し後日
07/02/11 00:26:15 zVrQ3Gj7
「詩音、来てくれたんだ」
悟史くんが穏やかな声で迎えてくれた。白い笑顔が眩しい。私も笑いながら、悟史くんのベッドに近付く。
「もちろんですよ。悟史くんが居るところなら、どこにでも行っちゃいます」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ、みお…詩音」
私は思わず笑顔を強張らせた。するとすぐにそれを感じ取って、悟史くんが謝る。
「ごめん、詩音。なかなか慣れなくて…」
「いいんですよ。しょうがないですもん」
一年前のあの日、私は悟史くんに、自分が魅音じゃなくて詩音だということを暴露した。
そして悟史くんが発症して意識を失ったのがそのすぐ後。目覚めたのは昨日。
まだ私が詩音だという実感が湧かず、魅音と間違えてしまうのも無理はない。
むしろ昨日、目覚めた瞬間、私を詩音と呼んでくれたことが奇跡だ。
「沙都子は元気?」
「すごく元気ですよ。家事も出来るようになったし。今クラスに前原圭一っていう転校生がいて、その人と楽しく遊んでます」
「えっ、転校生?」
「はい。トラップを教室に仕掛けまくって、それでその圭ちゃんが見事に引っかかってくれるので、とても楽しそうです」
悟史くんはそれを聞くと、心配そうに眉根を寄せた。
「むぅ……沙都子が迷惑かけてなきゃいいけど…」
「大丈夫です。圭ちゃんはそんなことで怒りませんよ。沙都子も圭ちゃんがすごく気に入ってるみたいですし」
「そっか。会ってみたいな僕も…その前原圭一っていう人と、あと沙都子に……」
悟史くんの病気は秘密裏で調査されているものなので、悟史くんが入江診療所に入院していることは公には出来ない。
つまり、沙都子は悟史くんの行方をまだ知らないのだ。
悟史くんも沙都子の顔を早く見たがっている。監督に今度、沙都子をこっそり連れてきては駄目か相談してみよう。
私は少しでも悟史くんの寂しさを紛らわせてあげたくて、口を開いた。
「沙都子、偏食が直ってきたんですよ。カボチャもちょっとなら食べられるようになりました」
「本当に?」
「はい。にーにーが帰ってきたら立派になった自分を見せたいって、すごく頑張ってます」
私はたくさんのことを話した。悟史くんはそれを聞いて、驚いたり、喜んだりした。悟史くんの表情がくるくると変わるのを見て、私はとろけそうに幸せな時間を感じていた。
不意に、悟史くんが目を手の甲で擦った。
「どうしました?眠いんですか?」
「……うん、さっき飲んだ薬の副作用が効いてきたみたい。眠くなってきた…」
「あれま。じゃあ寝ちゃってください」
「うん、ありがとう詩音。詩音のおかげで、全然退屈じゃなくて、楽しくて…」
悟史くんは毛布を引き寄せながら、むにゃむにゃと呟く。私は温かい気持ちでそれを聞く。

560:綿流し後日
07/02/11 00:28:35 zVrQ3Gj7
「でも、詩音もあの時ぐらい教えてくれればよかったのに…」
「え?」
悟史くんが眠そうな表情で微笑んで、呟いた。
「ほら、あの日バス停で、魅音に沙都子をお祭りに連れて行くよう頼んだ時」
何のことだろう。身に覚えが無い。多分それは私じゃなくて、本当の魅音のことじゃないだろうか。
そう思って口を開こうとした時、悟史くんが掠れた声で言った。
「嬉しかったよ。みお…詩音が、僕になら抱かれてもいいって言ってくれて……」
声が喉に貼り付くのを感じた。
聞き慣れないその言葉が、頭の中に不自然に残る。
抱かれてもいい?何だそれ?
「今思うと、僕たちも大胆だよね。あんなバス停なんかで、しちゃうなんて…」
バス停?バス停で何をしたの?
「月が…とても、きれいで…魅音の身体も、とてもきれいで…お互い初めてで、嬉しくて…」
悟史くんの眠そうな、とろとろとした声が、妙な歪みを持って私の鼓膜を刺す。
何これ…何それ……?
身体がどうしてか震えた。気味の悪い寒気が背筋を這う。
「魅音…ああだめだ、詩音、だよね?つい間違えちゃうや…ごめん……しっかりしなきゃ」
悟史くんが、その時のことを思い出したのか、くすぐったそうに小さく笑って、言葉を続ける。

「僕は詩音を抱いたんだよね。あの夜、あのバス停で。」
その言葉を唇から零して、悟史くんは眠りに落ちた。
今はただ、安らかな寝息が、病室に響いている。

561:綿流し後日
07/02/11 00:34:51 zVrQ3Gj7
魅音が私を裏切った。
それに気付いた瞬間、私の脳天を突き抜けたあの怒りを、私は上手く表現出来ない。
とにかくそれは強烈な憎悪と共に、私の脳みそをぐちゃぐちゃに乱した。
一年前、魅音は私を裏切って、悟史くんに抱かれた。
多分、私が魅音ではなく詩音だと悟史くんに暴露する前だ。
私も薄々、魅音が悟史くんを好きなことには勘付いていた。でもまさか、魅音が私を出し抜くなんて。
身体が震える。血液が沸騰する。
魅音は野球部のマネージャーをしたことも、買い物に付き合ったことも、おそらく全てを自分のものにして、のうのうと悟史くんと寝たのだ。
私が悟史くんをとても好きだと知っていたくせに。あの馬鹿、馬鹿のくせに、こんなところばかりは妙にずる賢くて、卑怯で、劣悪で、神経を疑う。
あの刺青の時だってそうだ。鯛を自分も食べてみたいと、あの日はやけにしつこく絡んできた。
そうだ、あいつはそういう奴だ。なのに私はあいつを信頼して、気を許してしまった。くそ!

悟史くんが眠ってしまったのは幸いだった。
事実を知って、平静を装える自信はない。悟史くんがもし起きていたら、私は悟史くんをも罵倒したかもしれない。それを考えるとぞっとする。
そして悟史くんが、自分が抱いたのは実は詩音だったと、勝手に解釈してくれたことも幸いだった。
当然私は、これを悟史くんにバラすつもりはない。私は悟史くんに最も近い人間で居続ける。これからもずっと。
だからと言って、魅音を許す気には到底ならない。たとえ悟史くんが結果的に私のものになったとしても、魅音が私を裏切っていたのは事実。
私を差し置いて、悟史くんと寝たのは事実なのだ。これを許すはずがない。

562:綿流し後日
07/02/11 00:36:59 zVrQ3Gj7
私は居ても立ってもいられず、悟史くんが眠りに落ちてすぐに病室を出た。
そして診療所を出て、診療所に横付けしておいた車の窓を叩いた。
運転席で雑誌を読んでいた葛西が、驚いたように顔を上げた。私は「開けて」と怒鳴る。
ドアが開くと、私は勢い良く車に乗り込んだ。
「随分と早いお帰りでしたね」
「まあね。車早く出して」
葛西が怪訝そうな表情で、エンジンを入れた。車は走り出す。
「どこに向かいますか」
「園崎本家」
私は短く答えて、窓の外を睨みつけた。雛見沢の静かな田んぼの並びが、私の心をなぜか苛立たせる。
魅音は今本家にいるはず。問い詰めて、土下座して謝らせてやろう。
あの馬鹿のことだから、すぐに白状するはずだ。そうだ、爪の一枚でも剥いでやるのもいいかもしれない。

そこまで考えて、ふと別の考えが脳裏をよぎった。
……そうだ、もっと効果的な方法があるじゃないか。
突如思い浮かんだアイディアに、思わず笑みが零れる。あははは、すごくいいよそれ。最高。
私は運転席に向かって言った。
「葛西、やっぱり行き先を変えて」
「分かりました。どこにします?」
私は口元を歪めて、言い放つ。


「前原屋敷」


563:綿流し後日
07/02/11 00:42:26 zVrQ3Gj7
俺は自分の部屋で、ぼんやりと布団に寝転がって天井を見ていた。
考えていたのは、もちろん魅音のことだ。というか、最近魅音のことしか考えられなくて困る。自分でも呆れるほどだ。
付き合い始めてもうすぐ一ヶ月。
最初は楽しい親友って感じだったのに、付き合うようになると、意外と女の子らしいところとか、恥かしがりやなところとか、涙もろいところとか、そういうか弱いところばかりが目に付くようになって、正直参っている。
俺は深くため息を吐いた。相当いかれてるぜ、俺。
この前の体育の時は、本当にやばかった。
魅音のシャツ越しに透けるブラジャーの色とか、ブルマーにぴっちりと覆われた尻のラインとか、太ももの白さや、風にそよぐ長い髪や、唇とか瞳とか、太陽みたいな笑顔とか。
そういった魅音の身体のありとあらゆる部分が、視線を惹きつけて離さなかった。
だから、体育倉庫に用具を片付けるために入った瞬間、暗く狭いその隔離された空間で、魅音の存在を至近距離に感じてることをはっきりと意識してしまい、我慢出来ずに押し倒してしまった。
正直、理性で何とか押し止まったことを褒めてほしいぐらいだぜ。でも魅音はそうは思わねえんだろうなぁ。
ああ、やりたい。
そう呟いて、ひとり自己嫌悪に陥る。下半身に脳内を占領されるなんて、情けないぞ俺。そう叱咤すると、別の声が反論する。
しょうがないだろ。魅音があんなに可愛くて、更に言えば発育が良いのが悪い。
確かにそうだ。魅音が魅力的なのが悪い。いや、もちろん嬉しいんだけど。
布団に仰向けになったまま、ちらりと目を動かす。布団のすぐ傍らの机に置いてある、ティッシュボックス。
身体を布団から起こして、俺は唇を舐めた。
一時ぐらいなら、下半身に脳内を占拠されても、責める人間はいないだろう。むしろこれは魅音のためでもある。
有り余った欲望で、魅音を傷つけてしまわないための、まあいわば惨劇を回避する方法ってやつだ。どっかで聞いたことのある言葉だな。何だっけ、思い出せん。まあいいや。
右手が下半身に伸びる。左手はティッシュボックスの方へ。ズボンのチャックに手をかけ、既に硬くなり始めているそれを取り出そうとした瞬間、
「圭一、詩音ちゃんが遊びに来てくれたわよ!」
まさにオカズにしようとしていたその人と瓜二つであり、その人の妹である人物の名前が聞こえた。
そしてその声を追いかけるかのように、足音が近付き、部屋の襖が開く。
「はろろーん、圭ちゃん……って何ですか、そんなに慌てて」
「い、いや。何でもない」
危機一髪。危ねえ危ねえ。
襖を開けたまま、怪訝そうな顔で突っ立っている詩音を身ながら、俺は苦笑いした。

564:綿流し後日
07/02/11 00:44:47 zVrQ3Gj7
「何だ詩音。遊びに来るなんて珍しいな」
「ふふ。圭ちゃんに会いたくなっちゃって」
詩音が微笑む。何だか魅音の笑顔を見たような気になってしまうから困る。
ふと、詩音が俺の机に目を止めた。
「それ……」
「ん?」
詩音が指差したのは花瓶に差してある花だった。
派手すぎず地味すぎず、大きすぎず小さすぎず、絶妙なバランスで咲いている黄色い花。
「ああ、これか?昨日お袋が買ってきたんだよ」
「へえ…私も昨日、同じ花買いました。きれいですよね、これ」
詩音は指先で花びらに触れた。優しく目を細めているその表情は、穏やかなものだった。
詩音はしばらくそうしていたが、手を花から離すと、何かを振り払うかのように勢い良く俺の方に向き直った。
「圭ちゃん、今日はこれから用あります?」
「いや、ないけど、どうして……」
不意に、視界がフッと暗くなった。
詩音の白い腕が俺の肩に伸びて、詩音の胸が俺の顔に、ぱふっ、と……
「う…あ…っわあああああっ!!」
赤面して動揺した俺は、詩音を突き飛ばした。
突き飛ばされた詩音は、「いったあーい」と言いながら俺を睨んだ。
「圭ちゃん、何するんですかあ?」
「それは俺のセリフだろ!どういうつもりだよ、詩音!」
詩音は悪びれる様子もなく、にやりと笑って言う。よく俺や沙都子や魅音をからかう時に浮かべる笑みだ。それだけで、冗談だとはっきり分かる。
「べっつにー。圭ちゃんがお姉とそっくりの私に誘惑されたらどうするのか、試してみたかっただけです」
床に座ったまま詩音は脚を動かす。太ももの間から、下着がちらちらと見える。くそ、しっかりしろ前原圭一。
「んなこと試すんじゃねえ!」
俺は怒鳴ってそっぽを向いた。すると詩音の、魅音によく似ているけど違う声が耳に届く。
「そんなにお姉が好きですか?」
「当たり前だろ!俺は魅音以外とはそういうことはしねえって決めてんだ!」
きっぱりと言い切ってやる。我ながら恥ずかしいセリフだが、本心なので仕方ない。

565:綿流し後日
07/02/11 00:47:35 zVrQ3Gj7
「お姉が圭ちゃん以外の男と、そういうことしてるとしても?」
詩音の声が、ひんやりと鼓膜を刺した。部屋の温度が急に下がった気がする。
俺は目を見開いて、詩音を振り返った。詩音はもう、笑っていなかった。

「詩音、それ、冗談だよな?」
「北条悟史くんって知ってますか。沙都子の兄で、一年前の綿流しの日の失踪者です」
北条悟史。会ったことはないが、名前は知っている。
確か叔母から虐待を受けていた沙都子をかばい、身も心もぼろぼろに痛めつけられていたと聞いた。
沙都子は未だに悟史の帰りを待ちわびていると、梨花ちゃんが言っていた。
いつか、強くなった自分を悟史に見せてあげるのだと、日々自分を鍛えているらしい。
「会ったことはないけど、名前だけなら」
「じゃあ、その悟史くんがお姉と付き合っていたっていうのは?」
………え?
………何だ、それ。
思わず、俺は口元を笑みの形に歪めた。信じられない、突然の事態に遭遇した瞬間、人は笑って精神の平静を保とうとする。まさにそれだ。
笑いながら、からからに渇いた喉から声を絞り出す。
「嘘だろ?」
「嘘じゃありません。悟史くんはお姉の恋人です。失踪当時、お姉は随分落ち込んでいました」
嘘だ。
だって魅音は言っていた。
誰かと付き合うのは、俺が初めてだと、そう言っていた。
「馬鹿ですねえ圭ちゃん。それはお姉の嘘ですよ。圭ちゃんはお姉に騙されてるんです」
詩音の甘ったるい声が、俺の身体に毒を落とす。聞きたくなくて、顔を俯ける。
信じたくない。けれど、詩音がこんな嘘をわざわざ俺につくはずがない。
ということは、魅音が俺に嘘をついていたのだ。
悲しみとも怒りともつかない、奇妙な感情が、胸のあたりを抉る。苦しくて、俺はとっさに胸のシャツを片手で掴んだ。
掌が汗でじっとりと湿り、それがシャツに伝わるのが分かる。

566:綿流し後日
07/02/11 00:49:43 zVrQ3Gj7
「そして、その悟史くんが、もうすぐ戻ってきます」
俺は顔を上げた。詩音のふたつの目が、じいっと俺を観察している。まるで底の無い、どろりとした沼のような目だ。
「悟史くんは今まで、事情があって姿を見せることも、居場所を知らせることも出来ませんでした。
 だから悟史くんがもうすぐ戻ってくることを知っているのは、偶然それを知ることが出来た私と、圭ちゃんだけです。お姉も沙都子も知りません」
感情がまるで読めない冷たい声が、詩音の唇からすらすらと出てくる。俺はただそれを聞くしか出来ない。
「お姉は悟史くんがいなくなり、そのせいで心に開いた穴を埋めるように、圭ちゃんに恋をしました。
 けれど、かつて恋人だった悟史くんが帰ってきても、果たしてお姉の圭ちゃんへの気持ちは変わらないままでいられるでしょうか。
 私はそうは思いません。悟史くんの面影を、圭ちゃんに見出しているところがあるぐらいです。きっと本物が帰ってきたら、代役なんていらなくなります」
背中が粟立つ。腹の底が急激に冷える。俺が好きだと、そうはにかんで言った魅音の笑顔が、まるで幻のように浮かんで消えた。
「お姉はきっと圭ちゃんを捨てる。悟史くんの代用品はもう必要ないと、容赦なく切り捨てる」
「やめろよ…」
「お姉はそういう女です。自分に甘くて、馬鹿で、目先のことにしか頭がいかない。
 悟史くんを好きだったくせに、圭ちゃんが現れたらすぐにそちらに行ってしまったように、悟史くんが戻ってきたら、すぐに飛びつきます。お姉はそういう人間なんです」
「やめろって言ってるだろ!」
俺は怒鳴った。割れるような声が部屋に響き、やがて静寂が訪れた。
詩音は口を閉じ、じっと黙っている。顔を少し下げているせいで、前髪が詩音の目元を隠し、その表情はよく窺えない。
「魅音のことを悪く言うな。魅音はそんな奴じゃない。たとえかつて悟史を好きだったとしても、今はきっと俺を選んでくれる。俺はそう信じる」
胸の奥に残る負の感情を振り払って、俺はそう言い放った。
そうだ、俺は魅音を信じる。魅音はそんな奴じゃない。
すると詩音は微かに口元を歪めて笑った。
「ご立派ですね。でも、これを聞いてもまだそんな口が叩けるんでしょうか」
「……何だよ」
やけに自信のありそうなその口調に、俺はたじろぐ。
詩音は顔を上げて、にっこりした。妙な表情だった。顔の全てのパーツは笑うことを選び、その仕事を全うしてるのに、それは笑顔とは全然違うものに見えた。負の感情が凝縮された、負の表情。
詩音は口を開いた。

567:綿流し後日
07/02/11 00:53:53 zVrQ3Gj7
「私ね、お姉に悟史くんの子どもが出来たかもしれないって、相談されたこともあるんですよ」
「……え?」
「結局それは誤解だったけど。でも、そういうことになる可能性のある行為を、ふたりはしていたってわけです」
その時、俺の頭の中では、あの体育倉庫での映像が再生されていた。
『ねえ聞いて。私ね、圭ちゃんとそういうことする勇気がまだ出ないの。心の整理が着くのを圭ちゃんに待っててほしい』
そう真剣な表情で言った魅音の声は、どこか強張っていて。押し倒した身体は、微かに緊張で震えていて。
俺は思ったんだ。ああ、初めてなんだな、と。
そして、誰よりも大切にしてやりたい、優しくしてやりたいって、心からそう思ったんだ。
けれど詩音は言う。
「お姉ってね、結構大胆なんですよ。悟史くんとそういう行為に及んだのって、付き合い始めてまだ一週間経ってなかったんじゃないかなぁ。
 あっさりやっちゃうなんて、お姉、すごく悟史くんが好きなんだなって思いました。
 だからもう圭ちゃんとも済ませてるかと、てっきりそう思ってたんですけど……」
詩音が笑みを含んだ声で続けた。
やめろ、もうやめてくれ。
心臓がぎりぎりと針金で締め付けられるかのように痛む。苦しい。考えたくない。
「違うんですよね。それってつまり、お姉はまだ圭ちゃんを完全に受け入れてないってことじゃないですか?
 もしくはまだ、心のどこかで悟史くんに義理立てして、悟史くんが帰ってくるのを待ってるとか……」
俺は衝動的に、机の上の花瓶を掴み、机に振り下ろした。
がしゃあああん、という音と共に、花瓶が割れ、破片が飛び散る。
詩音はようやく黙った。
「お前、何がしたいんだよ」
低い声でそう言って、俺は詩音を睨みつけた。詩音は感情の無い目で俺を見返す。
「私は妨害がしたいんです」
「妨害?」
「私、悟史くんが好きなんです。だからもう、お姉に悟史くんを近付けたくないんです」
詩音は真剣な目で俺を見て、そうきっぱりと言った。
先ほどの無表情ではなくなったことに、俺は少し安堵する。
「なるほどな。でもこれじゃ逆効果だろ?俺と魅音が別れたら、お前にとっては都合が悪くなるんじゃないのか?」
「圭ちゃんはお姉と別れません」
「は?」
余裕に満ちた声で、詩音は言い放つ。
「圭ちゃんはお姉が好きでしょう?悟史くんに奪われたくないでしょう?違いますか?」
俺は唇を噛んだ。
その通りだ。俺は魅音が好きだ。たとえ嘘をつかれていたとしても、俺は魅音を失いたくない。
魅音が悟史にとられるかもしれない。考えただけで、行き場の無い痛みが胸の内で疼きだす。
嫌だ、別れたくない。魅音、魅音……

568:綿流し後日
07/02/11 01:05:18 zVrQ3Gj7
「どうすればいいか、分かりますか」
詩音がゆっくりと俺に近付く。
俺は何故か動くことが出来ず、じっと詩音が近付いてくるのを見ていた。
やがて、魅音によく似た白い手が、俺の肩に触れる。
「圭ちゃんが、お姉をめちゃくちゃにしちゃえばいいんですよ」
「え……」
詩音が笑う。魅音と同じ長い髪が、目の前でふわりと揺れる。
「閉じ込めて、押し倒して、力ずくで犯すんです」
魅音の声のトーンを少し高くしたような声が、耳の中に流れ込む。
それは俺の脳みそを麻痺させる、優しく、甘ったるく、凶悪な言葉。俺は熱に浮かされたように、ぼんやりと詩音の言葉を繰り返す。
「犯す………」
「そうです。犯すんです。泣き叫ぶお姉の服を引き裂いて、腕を押さえつけて、好きなように蹂躙するんです。
 それこそ、もう二度と悟史くんのところになんて戻れないぐらいに」
魅音と瓜二つの顔が、息がかかるぐらい近くに来る。それは俺の心をかき乱すのには十分な距離だ。

「どうですか圭ちゃん。お姉のあの身体に、自分の汗と唾と精液の匂いを、染み付けたいとは思いませんか?」

魅音、魅音。
魅音が泣いている。泣いて、縋って、俺にやめてくれと懇願する。けれど俺はやめない。嘘をついた罰だ。
俺は魅音の体内を押し開き、精液をあの白い肌にぶちまけ、蹂躙する。
魅音が駄目になるまで、延々と、徹底的に犯し続ける。
やがて魅音は気付くだろう。悟史のところになど行けないぐらいに、めちゃくちゃにされた自分に。
うつろな目をして、精液にまみれた自分の身体を見つめながら、俺のものになってしまった自分の運命を泣き、絶望するだろう。
そして受け入れる。諦める。俺だけを見つめ、俺だけと手を繋ぎ、俺だけのことを考える。
そうすれば、魅音はもうどこにも行けなくなる。俺だけのものになる。

身体が興奮で震える。ズボンの中の性器が痛いほどに勃起しているのが分かる。血が脈を打っているのが腰に伝わる。
そうだ、そうすればいいんじゃないか。世界がぐるりと反転する。あまりにも単純な解決法に、脳みそのどこかが音を立てて弾け飛ぶ。
魅音を征服する。俺だけのものにする。悟史なんかに渡すものか。魅音は俺だけのものだ。誰にも譲らない。あいつを誰にも渡さない。

569:綿流し後日
07/02/11 01:07:25 zVrQ3Gj7
もちろんこれは独り言ですけど、と前置きして、詩音が口を開く。
「明日、鬼婆は会合で深夜まで帰らないそうです。お手伝いさんもいません。部活をしないですぐ帰れば、それなりに時間はありますね」
明日。そうだ、明日だ。
明日なら俺の両親も仕事で東京に行く。帰りが遅くなっても誰にも咎められない。

「私もう帰りますね。まだ用があるんです」
詩音はまるで何もなかったかのように、平然と笑顔でそう言った。
「ああ、分かった。またな」
「ええ、また」
詩音はくるりと身を翻して、部屋を出て行った。その背中を俺は複雑な気分で見つめる。
詩音。腹は立つけど、感謝するぜ。お前が教えてくれなければ、俺は何も出来ずに魅音を失っていたかもしれない。

俺はふと机を見た。
花瓶の破片が散らばっていると同時に、机から水滴がぽたぽたと畳に落ちている。
そしてその水が滴る先では、先ほどまでぴんと背筋を伸ばして咲いていた黄色い花が、水浸しになって、だらりと横たわっていた。
それは俺に、ぐったりと横たわる魅音の姿を連想させた。
下半身が熱い。俺は先ほど手を伸ばしかけたティッシュボックスに向かって、もう一度手を伸ばし、ズボンのチャックに手をかけた。
今度はもう、遮るものは何もなかった。

570:綿流し後日
07/02/11 01:10:50 zVrQ3Gj7
前原屋敷から出ると、私はまっすぐ車が停めてある場所に向かった。
「葛西、開けてください」
車のドアが開いた。私は再度車に乗り込む。
運転席の葛西がバックミラー越しに私を見たのが分かった。
「どうしますか?」
「もう一度、診療所に向かって」
「了解です」
車が動き出す。私は窓の外の雛見沢の景色を見ながら考えていた。
先ほどまで、私は怒りで興奮していた。お姉へのあてつけに、圭ちゃんと寝てやろうとまで思っていた。
けれど実際会って、部屋のあの花を見て、考えが変わった。
私は悟史くん以外の人とは寝たくない。でも、お姉への復讐はしたい。
そう思った結果、私は圭ちゃんにやや脚色して捻じ曲げた事実を話し、お姉に酷いことをするよう仕向けることに成功した。
「詩音さん、落ち着きましたか」
「え?」
私は窓から葛西へ視線を移す。
「先ほどまでは、随分興奮していらしたようだったので。どうです、気は済みましたか」
「ふふ、どうでしょう。それは圭ちゃんのこれからの行動しだいかな」
私は笑って言った。確かに怒りは大分薄らいでいた。我ながら、本当に性格が悪いと思う。
まあいいさ。私は悟史くんのお見舞いでもしながら、外側からふたりの様子を窺うとしよう。
せいぜい上手くやってくれ、前原圭一。
「着きましたよ」
気付くと、既に私は診療所の前に来ていた。
私は車を降りて、診療所へと走った。
悟史くん、もう目は覚めたかな。何も言わないで出てきちゃったから、心配してるかもしれない。
私は軽やかに地面を蹴る。風が吹き、森がざわめいている。ああ、ひぐらしがどこかで鳴いてる、とぼんやり思う。
診療所のドアを開けながら、私は背中で、ひぐらしの鳴く声がいっそう大きくなるのを聞いた。


続く


571:綿流し後日
07/02/11 01:11:36 zVrQ3Gj7
以上です。次はエロしっかり書きます。
圭魅とか言ってるくせに、まだふたりの絡み最初の部分しかなくてすまんorz

572:名無しさん@ピンキー
07/02/11 01:16:07 CXzTDiSe
( ゚∀゚)乙です!
自分のペースで続けてください!!

573:名無しさん@ピンキー
07/02/11 01:18:05 8CfXUTxy
乙!

574:名無しさん@ピンキー
07/02/11 01:18:20 YM6Ggi/w
うわああああGGGGGGJJJJ!!!!!!!
描写も展開の広げ方もまじ上手ぇえぇえ!!
泥沼の続き、めちゃくちゃ楽しみにしてます。
神に出会えて良かった

575:名無しさん@ピンキー
07/02/11 01:19:08 6LMlLxpK
GJ! 
詩音の心理描写が凄く詩音っぽかった。
続きが楽しみです!

576:名無しさん@ピンキー
07/02/11 01:21:40 YgU9+MPP
凄い凄い凄い、凄すぎるよおおおぉぉぉぉっ!!
続きがマジ楽しみですっ!!
あなた神だよ。

577:名無しさん@ピンキー
07/02/11 01:25:26 aPmA8Vu7
>>571
クオリティ高すぎて鼻血吹いた
次回が待ちきれねぇ!
超グッジョブ!

578:名無しさん@ピンキー
07/02/11 01:54:25 Mh1DUBfC
え なに 今日はもしかして祭?もしかして乗り遅れた!?

ともあれ筆者の方々、GJ。
自分も多分バレンタインまでには一作品投下したいなぁとか考えてます
調べてみたところ、義理チョコという言葉が流行したのがちょうど昭和58年だそうです

579:263
07/02/11 02:03:19 QcgKG7Pe
圭レナ、ようやく完成しました。
今回は……4時間で30p。
ちょっと低速になってしまったかな。
14、5レス分の投下です。
では、鉈スパンキングのリベンジでw

―生まれ変わったら普通の恋をしよう

私が大好きな、罪滅し編の台詞ですが、
私が書く圭レナはちょっと異常でした。

580:夕昏
07/02/11 02:05:36 QcgKG7Pe
 夕昏

俺は、一日中呆けていた。
今日は魅音が居なくなってはじめての登校だった。
そう、魅音は今、高校生になるための準備をしている。
高校に本家から登校するために、原付の免許を取るんだとか。
ヘリの操縦も出来るようなやつが今から原付かよ、と突っ込みたいところだが、
その相手が今は居ない。
 「圭一くん、さびしいね」
「ああ」
お互い、気の抜けた炭酸飲料みたいになっていた俺たち。
梨花ちゃんも、沙都子も同じだった。
部活が無い、魅音が居ない一日が、こんなにも寂しくて退屈なものだったとは、
思いもしなかった。昔、馬鹿みたいに勉強していた自分を、ちょっと尊敬する。
 「でも、ずっとこんなのじゃダメだよね?魅ぃちゃんい笑われちゃうよね?」
「ああ」
俺に精一杯元気を出してもらおうと、
精一杯の笑顔を、レナは俺にくれた。
それでも俺は、それに返事さえ出来ない俺は、
気まずさで一杯で、生意気にもため息までついてしまった。
 「レナは……すごいな」
「なんで?」
「いや、俺……なんつーか、笑ってたんじゃなくて、笑わせてもらってたんだなって、
今思ったんだ。俺さ、昔……本当、笑い方も知らねえんじゃねえかっていうような奴だったから。
笑う意味を考えてたんだぜ?」
 はは、と苦笑いをする俺に、あ、圭一くんも笑った、とレナはつぶやいた。
「レナも、圭一くんすごいなって思う時があるよ。勉強だって一番だし、
面白いこと一杯言うし。圭一くんだったら、村ごと操れそうな気がするよ」
「俺が村ごと? はは、いいなそれ、俺園崎家の次期頭首にでもなってみるか?」
 「はぅ、それって、魅ぃちゃんのところに、お婿さんに行くってことなのかな? かな?」

581:夕昏
07/02/11 02:07:18 QcgKG7Pe
俺の冗談でレナを笑わせるのも、ほぼ一日ぶりだった。
 「……圭一くん、レナが、もし……もしね、お嫁さんに行くなら、
どんな人のところかな? 私が決めることなんだろうけど」
「レナがお嫁さんに行くところ? そりゃあ、レナが望めばどこにだっていけるだろ。
家事全般うまいし、いざって時は男の俺だって負けちまうその戦闘力。
レナの旦那さんは、安心して働きにいけるだろうよ」
「戦闘力って、圭一くんひどい」
一緒に笑って、ずっといたかった。でも、一呼吸でそれは止まってしまった。
息を止めてその時間が得られるなら、死ぬ直前まで止めてやる。そう思っていたのに。
 「あのね、レナは……皆を引っ張ってくれる人がいいかな」
「魅音みたいにか?」
「ううん。魅ぃちゃんとはちょっと違うかなぁ。魅ぃちゃんはね、
すでに出来上がってる大きな人の集まりの中だったら、
いいリーダーになると思うけど……
そんなのじゃなくて、自分の周りだけでもいいから、引っ張ってくれる人。
火をつけるための火種みたいな人。そんな人が……いいかな」
 「ふーん、お、俺と正反対みたいなやつだな。どっちかという、レナみたいな。」
「レナと圭一くん、正反対かな? かな?」
レナが、少しだけうつむいた。その顔を上げるために、とっておきの冗談を言う。
 「レナ、顔を上げてくれよ。」
ここで、芝居がかった声に。
「お前の笑顔が好きなんだ、だから、顔をあげて笑ってくれよ、あははは」
さすがに最後は恥ずかしくなって、思わず自分で笑ってしまう。
 「それは、冗談なの? 圭一くん?」
「んー、ごめん、つまらなかったか」
「そうじゃなくて……その、レナの笑顔が好きだっていうのは、本当なのかな?」

582:夕昏
07/02/11 02:08:51 QcgKG7Pe
 もう一度、かな? と言わずに、レナは俺の顔を見て……
自分の顔を赤くしていた。それは、西日の赤のせいじゃない。
レナの中の血が、レナの顔を赤くしている。
「ああ、それは本当だぜ」
俺も、顔に血液が集まって、じんじんとしてきた。
鏡を見たらレナみたいに赤くなっているのが見れたのかもしれない。
こんな冗談言うんじゃなかった。
気まずい。
 「よかった。冗談じゃなかったんだね」
「レナのこと、好き?」
「き、嫌いじゃないな」
しまった、嫌いじゃないとか、すげえ微妙なことを言ってしまった。
「嫌いじゃない……かぁ」
「あ、ああ、いや、好きだぜ」
「本当に?」
 ああ、なんでこんな会話になっちまったんだ。
と、今さら後悔しても遅い。俺だって……レナは異性として好きだ。
むしろ、大好きだ。それでもいえない。言ったら……
言って相手が自分ほど好きじゃなかったら、どうなる? 嫌いとは言わないかもしれない。
でも、ごめんなさいなんていわれたら……俺はどうなってしまうだろう。
もうレナどころか、皆とも顔を合わせられない。
そうなれば昔に逆戻りだ。
あんなこの世の地獄に、もう一度戻ってしまうなんて、俺は絶対嫌だった。
「あ、あのさ、レナ……まだ日没まで時間があるだろ? ちょっとだけ宝探しに行かないか?」
苦肉の策だ。俺はレナを自分から宝探しに誘ってみることにした。
「うん、いいよ」
 レナは案外普通に、宝探しに行くことを承諾してくれた。
話を逸らされて機嫌が悪くなってしまうんじゃないかと、ヒヤヒヤしたが。

583:夕昏
07/02/11 02:10:27 QcgKG7Pe
俺たちはそれぞれの家にいったん帰って、いつもの場所で待ち合わせすることにした。
レナは……いつもと違う、体操服に身を包んでいた。動きやすいように、ということらしい。
「ちょっと……変かな?」
「え……お、俺はいいと思うな、はは」
とりあえず誤魔化しておく。
 なんとか日が傾く前に、俺たちはゴミ捨て場にたどり着いた。
レナは早速、ゴミ山を登っていっている。
さっきの話なんかは、まるで覚えていないように。
「よーし、俺もいっちょやるか」
俺が自前のスコップを肩にやり、ゴミ山を登ろうとしたときに、レナの声が聞こえた。
「圭一くーん、ちょっと重いものがあったから、こっちに来てー」
「おーう、ちょっと待ってくれ」
 ゴミ山の向こう側、丁度谷になっているところから、レナの声が聞こえる。
崩れる山をなんとか登り、
レナがどこにいるかわからないから、山を必要以上崩さないように慎重に降りていく。
あまり急に動くと、崩れたものがレナにぶつかるかもしれない。
 「圭一くーん、こっちこっちー」
レナの姿は見えないのに、確かに声が聞こえてきた。
谷の底にはゴミしか見えない。
でも、確かにそこから聞こえてきた。
とにかく俺は、谷を降りることにした。
 「どこだ? レナ? 俺からは見えないんだけど……」
「ここだよ、圭一くん」
ゴミの中から、レナの手が伸びてくる。
 「うぉ、びっくりした……」
良く見るとそれは、ゴミでコーティングされた車だった。
ゴミといっても、あんまり汚くないものが選別されていた。
それでも迷彩としては立派なもので、一目見たぐらいじゃ……
いや、近づいたってなかなかわからないだろう。

584:夕昏
07/02/11 02:12:02 QcgKG7Pe
 俺が入った後に、スライド式のドアがレナによって閉められた。
中は車である必要はないからか、車として必要でも、中に居るには邪魔なもの……
ハンドルなどは取り払われていた。
そのせいか、ここは車の中ということを感じさせない。
一つの部屋のようだった。
「で、レナ、一体どこにその重い物があるんだ?」
「嘘、だよ。だよ……」
「嘘? 何でそんな」
「さっきの話の続き、いいかな?」
「さっきって……何の話だよ?」
「その……圭一くんが、私のこと、好きかどうかって……そういうこと」
 レナの怖いくらいの真剣な目で、冗談でもなんでもないことはすぐに分かった。
「ああ……その事か」
俺は、言ってはいけない冗談を言ってしまったんだろう。
本当に俺は馬鹿な奴だ。
 「ごめん……レナは、卑怯だよね? 
こんなところに、圭一くんを追い込んで。
この服だって、動きやすいからじゃないんだよ? 
圭一くんが……こんな服のほうが好きだとか、そんなことを思って……
着たんだよ? それに、私は……魅ぃちゃんが居なくなったから、落ち込んでたんじゃないの。
圭一くんが、魅ぃちゃんのことばっかり考えてたから……
今こんなこと話してるのも、きっと打算の上。
こうしたら嘘の罪がすこしでも薄れるんじゃないかって。
嘘だって圭一くんが気付いたときに、少しでも嫌われないようにって……」
「好きだよ」
俺は、腹を決めることにした。
もう関係が壊れるとか、壊れないとか、そんな段階じゃない。
「きっと」レナが俺のことを好きなら、それだけでいい。
俺だってつらかった。
レナのことを考えるのが、つらかったんだ。
好きな人を、本気で好きな人のことを考えるのが、
こんなにつらかったなんて、思いもしなかった。

585:夕昏
07/02/11 02:13:15 QcgKG7Pe
 「それは、愛してる……って取ってもいいのかな? 
友達として、じゃなくて、その、あの……恋人……として、取っていいのかな?」
「……ああ、俺は、レナが好きだ。その、恋人として」
 「じゃあ、その証……くれるかな?」
「あ、証?」
心臓が鼓動する音が、自分にも聞こえる。
どくん、どくん。そのたびに、俺の顔が赤くなっていくのが、自分でもはっきりわかった。
 「証……だよ。新郎新婦が、神父様の前でする……証、だよ」
「レ、レナ、その、そういうのは、ちょっと早いんじゃないかな? かな?」
 俺はちょっと混乱していた。
まさか、いきなりキスを要求されとは、思ってもいなかった。
突然、レナの顔だけではなく、今の状況の全てを意識してしまう。
こんな密閉された空間で、体操服姿のレナと一緒で、キスを要求されている。
「あ、レ、レナ、ぱんつはみ出してる」
「え? え?」
レナが下を見た隙に、俺はドアに手をかけた。
が、空かない。
「ムダだよ、圭一くん。中からは開かないの。
レナがちょっと細工をしたんだよ……用意周到でしょう? 
こんな女の子でも……圭一くん、好きって言ってくれるかな?」
 レナは、じゃらじゃらと鎖を掴みあげた。
その鎖は天井から下がっており、おそらく外に貫通してこの車を一周ぐるりと取り囲んで、
レナの手元の南京錠で結束されている。
つまり、鎖を切断するか南京錠を開けない限り、この車からは出られない。
「レナ……本当に、いいのか?」
「圭一くんも……いいの?」
レナが少し怖い。
でも、俺はうれしかった。
レナは、それだけ俺のことが好きだったから。
俺も、それぐらいレナが好きだったから。
「俺だって、レナが好きだった。
こんなこと出来たなら、俺だってやってたよ。
本当にやるところがレナらしいけどな」

586:夕昏
07/02/11 02:14:29 QcgKG7Pe
 俺は笑って、レナは赤面する。
よかった、いつものレナだ。
「どういう意味かな? かな?」
 「レナ、俺に勇気をくれてありがとう。
じゃ、じゃあ、その、歯磨きとか、してないけど……いいか?」
「いいよ。圭一くん……して」
俺は、どうしていいかわからず、とりあえずレナの両肩をつかんだ。
それと同時に、レナは目をつぶり、唇を差し出した。
少しずつ、レナの唇に近づいていく。
心音がうるさすぎて、雪解けしたばかりの雛見沢の空気の音が、聞こえなくなった。
ここは雛見沢じゃないどこかで、そこにはレナと俺しか居ない。
唇がさらに、近づいてくる。まだ化粧も知らないレナの、自然のままのピンク色の唇が。
 俺は意を決し、目をつぶった。
そして、唇を重ねようと、首を傾ける。
……唇が触れた。俺の胸は、中からの圧力で今にも破裂しそうだった。
レナのやわらかい唇が、俺の唇と触れ合っている。いつまでこうしていればいいのだろう。
一体何秒時間がたったのだろう。レナの甘い鼻息が、俺の唇をくすぐった。
「ぷはっ」
俺は思わず、口を離した。
「け、圭一くん、キスのやり方、知らないのかな? かな?」
 レナは震えていた。俺は車の床にへたりこんで、床に手をついている。
その顔を、レナは覗き込んだ。
 「ほ、本当の、キス、キスの仕方を、レ、レナが教えてあげる」
かたかたと震えたレナは、きっと恐怖で震えていた。俺だって怖かった。
さっきのキスでさえ、一体これから何が起こるんだろうと、終着点のはずのキスが、
何かの開始点のような気がして。
俺の恐怖はレナの恐怖だった。
いや、レナにはそれ以上の恐怖があった。

587:夕昏
07/02/11 02:16:13 QcgKG7Pe
 知ってるだろう? 前原圭一。
関係が壊れそうで怖かったのは、俺だけじゃないんだ。
レナが俺と同じぐらい……いや、俺がレナを好きな以上に、俺を好きでいてくれたんだから。
お前は、キスしてなんていえたのか? 言えなかっただろう? 
じゃあ、お前のすることは、ただ一つなんだよ!
「レナ、怖がらないで」
俺は、レナを抱きしめた。
震えが直接伝わってくる。
その震えを、何とか俺は押し込めた。
「す、好きだから。俺、レナが、レナが誰よりも好きだから!
 だから、もう、もういいんだよ!」
「ダメだよ、ダメなんだよ、圭一くん! 私怖いの! 私しってるもん!
 幸せなんて長く続かない。続くもんか! 
幸せのほうが、長く続かないんだ。
この世は不幸に満ち溢れてるんだ……明日世界は破滅するかもしれない。
だから、幸せを精一杯今日集めてるの。今日じゃないと……ダメなの……」
 レナは、泣き出してしまった。
俺は、レナの顔を自分の胸にうずめてやる。
「レナ、幸せが長く続かないって? 不幸の方が多いって?
 レナ、俺の大好きなレナ、じゃあ教えてくれよ。
今までいくつの不幸があった? 今までいくつの幸せがあった? 
きっと知らないだろうさ。だってレナは数えてない。知ってるか?
 この世に生を受ける人は、この世から去る人より多いんだ。
俺は、幸せだぜ。だって、レナと会えた。この世界に居たから、
俺はレナと会えたんだ。だから、レナ……俺の大好きなレナ。
泣かないでくれ。震えないでくれ。
俺はレナの笑顔から、元気を貰ってるんだ」
 「だって……だって!」
俺はもっと強く、レナを抱きしめた。
震えはなくなっていた。
俺が抱きしめて消した。
 「魅ぃちゃんが……居なくなったもん」
本当は、レナも魅音が居なくなったのを、悲しく思っていた。

588:夕昏
07/02/11 02:17:36 QcgKG7Pe
「私……卑怯だもん。魅ぃちゃんが、圭一くんのこと好きなの……知ってたんだもん……」
 「レナは、俺が好きか?」
「……うん」
「じゃあ、卑怯じゃない。それに……俺は居なくならない。ずっとレナのそばにいる」
 「嘘だッッ!!!」
「嘘なんかじゃないッ!!」
俺は一瞬たりとも動じなかった。もう迷わない。
「……さっきのキスじゃ満足できないっていうんなら、してくれよ。
本当のキスってやつを。いや、頼む。してくれ。」
 「うん……私も、本で見ただけなのに、笑っちゃうよね、こんな偉そうに」
ふふっと、レナは少し笑った。
泣き顔を体操服のすそで払って、レナは再び目をつぶった。
俺も、目をつぶる。
今度のキスは、唇まで一瞬だった。
俺は、レナに押し倒される格好で、レナの唇を受け止める。
と、突然レナの舌が、俺の唇にふれた。
こじ開けるように動く舌に俺は意味を理解した。
俺は唇をあけ、舌を受け入れる。
レナはその舌で器用に俺の舌を探り当て、絡めとった。
くちゅくちゅと淫靡な音が響き渡る。
うるさい心音は遠くなって、先ほどまでと違って妙に落ち着いていた。
「ん、ぷは」
レナは、唇を離した。
息は荒く、とろけそうな顔をしていた。
俺もきっと、そういう顔をしている。
思いっきり運動して、最後の最後にぶっ倒れたみたいで……
さっきまでの舌の感触がまだ残っていて、心地よかった。
 「あっ……」
レナの足が、俺の充血して起立したものに当たった。

589:夕昏
07/02/11 02:18:35 QcgKG7Pe
「んぅ」
変な声を上げてしまう。
「け、圭一くん? どうだった?」
「……キモチ……良かった」
「そう……良かったぁ、私も気持ちよかったよ……圭一くんよりよっぽど、レナのほうがえっちだね」
「はは、俺のほうがえろいよ」
 俺は、なんとかして充血を納めようとする。
バレたら大変……というか、さっき足が当たった時に確実にばれている気がするが、
そんなことを言ったらムードぶちこわしだ。
「ごめんね……レナのわがまま、聞いてくれて」
「はは、これからもっと聞かないとダメだからな。
金かかるのは勘弁してくれよ。俺の国の国家予算知ってるだろ?」
「あははは、圭一くんにそんなの期待しないよ」
 一通り笑った後、俺は何とか落ち着きを取り戻しつつあった。
「な、なぁ、レナ、ちょっと、そろそろ動いてくれないか?」
肩に手をあて、押そうと思ったときに、レナはのけぞり、俺の上から動こうとした。
タイミングが悪かった。レナの胸に、俺の手のひらが当たる。
「ひゃっ」
「ごめっ」
「けぃ、いちくん、ちょ、手……」
なぜか俺は、思いっきりレナの胸を握り締めていた。
慌てて手をどける。
 「はっ、はぁ、はっあ……ご、ごめんね、圭一くん、私が早くどかないから……」
「いや、お、俺もちょっとラッキーだったかなー? って、はは」
「もう、圭一くん……」
レナが後ろに手を付き、立ち上がろう……としたのだろう。
その手は、俺の股間の上だった。
すぐにずれて、俺のふとももを触る。
「ふぅっ!」
また、ヘンな声を上げてしまう。


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