【涼宮ハルヒ】谷川流 the 36章【学校を出よう!】 at EROPARO
【涼宮ハルヒ】谷川流 the 36章【学校を出よう!】 - 暇つぶし2ch552:名無しさん@ピンキー
07/01/19 13:47:53 KMlqR9eT
基本的には投下されるまで放置。
あとVIPとの比較、好きなカップリングについて、厨房と大人の違い、罵りあい、「sageろ」、好きなSSの話、
「こんなの無い?」、「エロ少ないな」とか「エロ必要か?」などの四方山話、日本語がなってない話、空気嫁、カエレ!
○○の続きキボン、「最近はまった。おもすれー」、「学校ようやく読んだ」、他スレを羨んだり生暖かく見たりなど。

なんだ、あんま変わらないじゃん。

553:名無しさん@ピンキー
07/01/19 14:03:14 03Gp9gQG
ハ「アナル大拡張! いくわよ、キョン」
キ「あふぅっ! んあっ、ひぃぃん」
ハ「すごいわ、もう手首まで入っちゃった……直腸が丸見えね」

554:名無しさん@ピンキー
07/01/19 14:11:37 q6cXFOKn
そういうのをもっと洗練したネタがアナルスレVIPの管轄だ

555:名無しさん@ピンキー
07/01/19 15:58:34 soPqXIUf
流れぶったぎるけど、
古泉が鶴屋さんに膝枕してもらう話ってタイトル何だったっけ。

556:名無しさん@ピンキー
07/01/19 16:08:54 MxyLr1gV
6-363氏の鶴屋さんの陰謀じゃないか

557:名無しさん@ピンキー
07/01/19 16:17:15 soPqXIUf
それだ!これ読んで、この二人もいいなって思い始めたんだが、
あろうことかタイトル失念しちまってて。とにかく、ありがとう!

558:名無しさん@ピンキー
07/01/19 16:24:15 I3NxurDG
>>552
何と的確な常態調査www

559:名無しさん@ピンキー
07/01/19 17:27:37 f8xDB3lG
>>547
トン!
てかまとめいらないとかあり得ないだろ。何考えてんだか。

俺もあの古鶴は好きだ。
ていうか古泉と鶴屋さんは似合うよな。
古泉が冗長な説明をしながら、隣りで鶴屋さんがオーバーリアクションで踊ってる、みたいな図とか。

560:名無しさん@ピンキー
07/01/19 17:42:55 LF93r9lQ
あのグロSSか…

561:名無しさん@ピンキー
07/01/19 19:01:59 J2yT2SqX
対岸の喧嘩を持ってきて何がしたいんだ?

562:名無しさん@ピンキー
07/01/19 19:20:07 P1rGBpgp
終わってる話題を唐突に蒸し返して何がしたいんだ?

563:名無しさん@ピンキー
07/01/19 19:41:25 oMGsrrkx
―ここで時空改変―

564:名無しさん@ピンキー
07/01/19 20:04:46 Kr3AnaZt
ハルヒって誰だっけ?

565:名無しさん@ピンキー
07/01/19 20:07:44 Fr1wQ15j
中華人民共和国の東北にある都市の名前じゃね?

566:名無しさん@ピンキー
07/01/19 20:09:13 0WUEghwW
中華人民共和国?
そんな国はないぞ。

567:名無しさん@ピンキー
07/01/19 20:10:41 MeYhd6px
キョンの名前って何だっけ?

568:名無しさん@ピンキー
07/01/19 20:21:00 +OKwsev4
はて、上は確か涼宮だったと思うが、下はなんだったかな…

569:名無しさん@ピンキー
07/01/19 20:34:52 GrwDSh6Q
>>568
ちょwwwwおまwwwww
10年後の未来からカキコしてるwwwwwww

570:名無しさん@ピンキー
07/01/19 20:44:34 n826Hwgt
>>568
あれ?キョンの名字ってたしか「古泉」じゃなかったか?


571:名無しさん@ピンキー
07/01/19 20:45:14 Kr3AnaZt
>>570
おまえの名字だろそれは

572:名無しさん@ピンキー
07/01/19 20:45:48 J3T1m1mM
>>570
え?古泉はハルヒの名字だろ?

573:名無しさん@ピンキー
07/01/19 20:46:06 QzeEUdJT
で、ハルヒって誰だっけ?

574:名無しさん@ピンキー
07/01/19 20:58:50 rbmVjRMp
ホスト部所属

575:名無しさん@ピンキー
07/01/19 21:02:31 aFNtBdHl
そう言えばなんかあと2年で太陽が寿命らしいな

576:名無しさん@ピンキー
07/01/19 21:03:02 I3NxurDG
そういうノリはあるのかお前らwww

577:名無しさん@ピンキー
07/01/19 21:14:00 //SWAjVM
投下します!
今回はちょっと短め!

578:国木田の接吻
07/01/19 21:15:44 //SWAjVM
俺は今、かわいい女の子と二人きりで買い物に来ている。
かわいい女の子と二人きりで買い物なんて、そりゃデート以外の何物でもないという奴もいるだろう。
俺の悪友の一人なら間違いなくそう言う。ついでにウザい俺理論も披露してくれるだろう。
しかし、俺自身はこの状況を「デート」と呼ぶのにはいささか抵抗がある。
別に買い物につきあわされたのが嫌なわけじゃない。相手が嫌いな訳でもない。
ただ・・・どうもまだ慣れないのだ。
こういう状況と、隣で無邪気に俺の腕を抱きしめている・・・コイツが実は女だったってことにな。


579:名無しさん@ピンキー
07/01/19 21:17:01 //SWAjVM

「どうしたのキョン?ボーっとしちゃって。」
俺の腕を抱きしめた国木田が、上目遣いで俺を見上げてくる。ぐっ、かわいいなコイツめ。
「いや、ちょっと考えことをしていてな。
・・・まさか、お前とこんな風に買い物に出かける日が来るとは夢にも思わなかったってな。」
「そう?あはは、そりゃそうか。
だけど、ボクは中学の時からこんな風になることをずっと夢見ていたんだ。
実際に何度も夢に見たよ。起きる度に、「あぁ夢か」って悲しい気持ちになったけどね・・・。」
「国木田・・・。」
「でも!今はもう大丈夫!だって、キョンがボクを嫌わずにいてくれて、
女の子であることも受け入れてくれたんだし!
しかもデートにまで付き合ってくれるなんて!ボク本当に嬉しいよ!」
そういって眩しい笑顔を浮かべ、俺の腕をさらに強く抱きしめる国木田。
その笑顔と、腕にあたるささやかだがその存在をしっかりと主張するふくらみを感じ、俺は落ち着かなくなる。
「どうしたのキョン?そわそわしちゃって。」
あー、そのなんだ国木田。大変言いにくいことなんだが・・・。
というか、お前も男として生きてきたなら多少は察してほしいんだが、その・・・。
「あ、ひょっとして胸のこと?大丈夫、コレ当たってるんじゃなくて当ててるんだから。
こうでもしないと涼宮さんたちとのスキンシップには勝てそうにないしね。」
確信犯ですか。何が大丈夫なのかはよくわからんが。
しかし、最初に女の子の服を着た国木田を見たときはささやかだと表現した胸だが、
こうして感触を感じると、結構あることがわかる。
ハルヒや朝比奈さんには敵わないだろうが、長門には勝ってると思うぞ。
・・・というか!
「国木田!俺とでかけられたりして嬉しいのは分かるが少し離れろ!」
お前とくっついていると、頭や股間がヤバいことになりそうなんだ。
「あ!嬉しいな。キョンがそんなに照れるってことは、ボクのことをちゃんと女の子だと認めてくれてるってことだもんね!」
国木田はえへ、と笑って俺の腕をがっちりと抱く。離そうとする気配は微塵も無い。やれやれ。

しかし、とふと思う。クラスでの国木田は普通だが、俺と二人きりの時は、かなり甘えてくるようになったなぁと。
俺はこいつのことを飄々とした奴だと思っていたが、それは俺に対する想いを外に出さないようにするための、
こいつなりの努力だったのではないだろうか。
そう思うと、その枷を解き放たれて、自分の想いを一生懸命ぶつけるコイツのことが、
愛しく・・・じゃなくて、その、いじらしく思えた。
別にこいつと付き合おうってんじゃないんだから、恋愛感情なんて俺にはない。ないったらないんだ。
この間まで「男」友達だったんだし。
「キョン?」
国木田が不安そうな目を俺に向けてくる。
「ちょっと・・・はしゃぎすぎ・・・だったかな?」
確かにそんな感じは少しするが、そんな潤んだ目で問いかけられたら男の95%はNOと答えるぞ。
俺は国木田の頭をくしゃっとなでてやった。
「わっ!キョン・・・!」
「ほら国木田。せっかくの買い物なんだから、楽しくいこうぜ。」
「!うん!ありがとうキョン!」
そうして俺たちは買い物へと出かけた。


580:名無しさん@ピンキー
07/01/19 21:18:30 //SWAjVM
国木田と色んな店をまわる。
男友達としての時にも買い物はしたが、その時に比べ、はるかに時間を費やしている。
女は買い物が長いというが、やはりコイツも女の子なんだね。
服やら何やら意見を求められる。どれも国木田には似合っていて、そう言ってやるが国木田は不満顔だ。
「もうキョン!似合っているって言ってくれるのもうれしいけど、かわいいとかきれいとかも言ってよ!」
お断りだ。大体そんな台詞は俺のキャラじゃないことは知っているだろう。
しかもお前が意見を求めている、その手に持っているモノはなんだ。ブラとパンツじゃないか。
女性下着売り場にいるだけでも拷問なのに、このうえさらに羞恥プレイをさせる気か。
「だって、やっぱり好きな人が選んでくれた下着をつけていたいし・・・。」
そう言ってはにかむ国木田。
確かに色々意見も言うし選んでやることもやぶさかではないと言ったが、下着はちょっと・・・。
「あはは!ごめんごめんキョン。ちょっとからかい過ぎたね。
キョンの好みはちゃんと知ってるから、それっぽいのを選んでおくよ。」
何で俺好みの下着を選ぶんだ。大体さらしをまいてるのにいつ使う・・・と、そこまで考えて思考を止めた。
これ以上は考えたくない。考えてはいけない気がする。

その後、アクセサリーショップに入った。さっきは選んでやらなかったが(やれなかった)が、
何か一つくらいは俺が選んだものをプレゼントしたいと思ったからだ。
そう思って店内を物色すると、よさそうなものを見つけた。
それはチョーカーだった。派手すぎず、しかしかわいいデザインが国木田に合うと思った。
早速呼びよせて試着してもらう。予想どおり、よく似合っていた。
「え?キョン・・・これ買ってくれるの?」
ああ、そんなに高くないし、何よりお前によく似合っているからな。
「嬉しい・・・ありがと・・・。えへへ、チョーカーかぁ・・・。
つまり、ボクはキョンのモノっていう証だね。首輪みたいなものだね!」
確かに首輪みたいなものだがそんな意図は無い。これっぽっちも無い。


581:名無しさん@ピンキー
07/01/19 21:20:03 //SWAjVM
そんなこんなで買い物を終え、家路に着く。
国木田は、さっそく買ってやったチョーカーを着けている。本当に嬉しそうだ。
途中で公園によりたいと国木田が言うので立ち寄った。
国木田とならんで公園のベンチに腰かける。ふう、しかし、ちょっと疲れたかな。
「あはは、キョン、年寄りくさいねー。」
うるさい、誰のおかげでこんなに疲れたと思っているんだ。
まぁ楽しかったから良いけどな。
「ふふ・・・。でもキョン・・・。今日、実は結構色々気にしてたでしょ?
特に・・・SOS団の人たち・・・涼宮さんに見られたらどうしよう、とか。」
む、と俺は言葉に詰まる。実は今日、その思いは常に頭の中にあった。
そりゃそうだろう。
国木田が実は女だったとハルヒに知れたらどんなオモチャにされるか分かったもんじゃない。
色々ごまかそうとしても、あいつ相手じゃごまかしきれる自信もあまり無いしな。
それ以外にハルヒに見つかって困る理由は無い。断じて無い。
そう言ってやろうとしたのだが、何故か上手く言葉が出てこなかった。

「いいよキョン。確かに女の子としての付き合いは涼宮さんたちの方が長いしね。
だけど、女の子とのデート中に他の娘のことを考えるのは・・・どうなのかなぁ?」
これはデートだったのかとかハルヒを気にしたのはお前のためだとかいう反論をしようとしたが、
俺の口から漏れたのはいつもの口癖・・・「やれやれ」だった。
「すまん、俺が悪かった。埋め合わせはするよ。」
「ホントに?・・・じゃあキョン、目をつぶってよ。」
目をつぶれ・・・とは。まさか、張り手の一つも張られるのだろうか。
まぁ国木田の腕力を考えればそれほどの威力は無いだろうし、それで国木田の気が済むなら安いものだ。
俺はそう考え、ベンチに座ったまま目を閉じる。さぁ、いつでもいいぞ国木田。
「そう?じゃあ・・・いくね。」
次の瞬間、俺の唇に柔らかいモノが押し当てられた。予想していた事態と違う展開に、俺は困惑する。
しかし、この感触は何だ?初めて味わう感触・・・。いや違う、前に一度・・・。
そこまで考えた俺は驚愕に目を開く。そこには目を閉じて、俺にキスをする国木田の姿があった。
俺が目を開いた気配を感じたのか、国木田も目をあけ、ゆっくりと俺から唇を離す。
離れていく感触を、名残惜しく感じたのは内緒だ。
「ふふ・・・。ボクのファーストキス・・・キョンにあげちゃった・・・。」
実は俺はファーストキス・・・閉鎖空間でのアレをいれるなら、だが・・・じゃないのもナイショだ。
「しかしキョン・・・。やっぱりにぶいねぇ・・・。普通この流れできたら、
キスされそうなものだと分かりそうなものだけどねぇ・・・。
どうせ横っ面を張られるとでも思ってたんでしょ?」
俺は考えていたことを当てられ憮然とする。くそ、何かくやしいな。
そんな俺を優しい目で見つめて、国木田はくすりと笑う。
「でも、そんなキョンだから・・・ボクは大好きなんだけどね。
・・・無自覚にフラグをたてまくるところは困りものだけど・・・。」
ん?国木田、何かいったか?
「ううん、なんでもない!」
そう言って国木田はぴょん、と俺から離れる。
「キョン!今日は本当にありがとう!とっても楽しかった!また行こうね!それじゃまた・・・学校で!」
言うが早いか国木田は家へと帰っていった。
まったく、人のことをさんざんもてあそびやがって・・・。
そして俺は、自分の唇に指をあてる。
あいつの唇・・・すごく、柔らかかったな・・・。
そんなことを考える自分が急に恥ずかしくなって。
色々とごちゃごちゃとしたきた気持ちやこれからのことをとりあえず頭から一時振り払うため、
俺は肩をすくめ、一言呟いた。


やれやれ。

582:名無しさん@ピンキー
07/01/19 21:25:30 //SWAjVM
以上です。もう完全に別キャラですな。
で、こういう流れできたので次は本番を書こうと思います。
ハードルが一気にあがりますが、何とか書き上げたいと思います。
ではー。

583:名無しさん@ピンキー
07/01/19 21:27:18 J3T1m1mM
国木田とならアッーしてもいい!

584:名無しさん@ピンキー
07/01/19 21:36:02 9MWm661U
ほ…、本番…!?
正直、この国木田は大好きだがそこまでいっちゃうのか?
もうちっとハルヒ達とドタバタしてからでもいいんでね?

585:名無しさん@ピンキー
07/01/19 21:44:51 9MWm661U
ボクっ娘って2次元の中の生物だよな。
たゆねと蒼星石と緑先輩くらいしか知らんが。
ちなみに俺の一人称、外では僕w

586:名無しさん@ピンキー
07/01/19 21:46:44 0WUEghwW
今年のセンター試験にも出たりして、ボクっ娘。

587:名無しさん@ピンキー
07/01/19 22:22:48 LessgiIT
>>584
ボクっ娘は結構いる
まぁ狙ってるのだろうがな

588:名無しさん@ピンキー
07/01/19 23:01:21 fq0k5tBL
SS読んだ後にアニメ見直したら国木田が女にしか見えなくなってた


589:名無しさん@ピンキー
07/01/19 23:45:46 aIzLKBdj
もしハルヒ板とか言うのが作られてたら性別反転スレもあっただろうな。
まあ住人が分散しなかったからこそここもこれだけ続いてるんだから
悪い事ばかりでもないか。

590:名無しさん@ピンキー
07/01/20 00:53:22 fbvutXqW
ボクっ娘よりもはるかにオレっ娘(娘?)のほうが多い現実。

絶望(ry

591:名無しさん@ピンキー
07/01/20 02:06:46 /2ehuFS6
俺っ子がたまに「私」と言うと凄くキュンとくるんですが。
異常でしょうか?

592:名無しさん@ピンキー
07/01/20 02:09:48 PR/m/0Ma
名物「あいつに胸キュン」やな

593:名無しさん@ピンキー
07/01/20 02:12:20 /2ehuFS6
>>592
どうしよう。そいつ男なんだよね

594:名無しさん@ピンキー
07/01/20 02:40:26 SweHRK/C
>>593
アッー!

595:名無しさん@ピンキー
07/01/20 02:49:50 PR/m/0Ma
《いつか、どこかの時間線上で。できればごめんなさい》

こんな感じやな。

596:名無しさん@ピンキー
07/01/20 06:39:38 XYPdCL6K
何か思ってたよりここの人は国木田ネタを受け入れてくれてんだな。
こりゃもう一本書くしかないな。

597:名無しさん@ピンキー
07/01/20 11:55:19 WGIJjK/K
薔薇

598:>>597
07/01/20 11:58:01 WGIJjK/K
うわぁ、ごめん!なに意味不明なこと言ってんだろう、俺は!

599:名無しさん@ピンキー
07/01/20 12:09:29 TZ0GNgjD
ワロスww

「いてっ」
なんでこんなところに薔薇があるんだか。
「血が出てる」
「大丈夫だ。ツバ付けときゃ治るさ」
「貸して」
そう言うと長門は俺の手を取って指を口に咥えた。猫などを飼っていると解ると思うが、指先は神経が集中していて舐められると結構気持ちいい。以下略

600:名無しさん@ピンキー
07/01/20 12:29:23 pv6DuDTI
ろつぴやく

601:名無しさん@ピンキー
07/01/20 13:26:05 5Hf/RZBr
キョンの記憶喪失の話が読みたいなぁー

602:名無しさん@ピンキー
07/01/20 14:37:35 X3CONuiB
キョン記憶喪失はいつか本編で読める

603:名無しさん@ピンキー
07/01/20 15:05:12 lz41R17u
久々にSSを投下します。
非エロで14レス程度

604:ハルヒの野望・戦国群雄伝1
07/01/20 15:06:09 lz41R17u
僕はいったいどうしてしまったんだ?
忘れたいはずなのに、あの時のあの感触が今も手に残っている。
これまで、こんなことなどなかったというのに……。
でも……、今まで必死にこの気持ちを否定してきたけれど、もう抑え切れそうにない。
僕は彼女のことを……。
しかし、この初恋には大きな障害がある。策が必要だ。

しばらく黙考した後、僕はあるものを携えて、重く立て付けが悪くなった部室のドアを開け
て、SOS団の部室へと足を向けた。



「ねえ、キョン。あんたの理想のタイプってどんなの?やっぱりみくるちゃんなの?それと
もミヨキチって子みたいなのが好みなのかしら?」
春休みを間近に控えたある日の放課後、SOS団部室で二人きりになるという偶然のなか、
束の間の時間にハルヒはそんな突拍子もないことをのたまった。
一瞬背筋に冷たいものが走り、驚きを隠せないまま、俺は油の切れた扇風機のごとくギギギ
とハルヒの方に視線を向けると、彼女は俺の顔を直視はせず、腕を組みあぐらをかきつつ窓
の外へ視線を向けたままだった。

ハルヒがこんなことを言うなどとは、かの高名な予言者エドガー・ケイシーでも彼女の奇矯
な言動や行動の予測は不可能だろう。無論、一般人の俺に予想できようはずもない。
これは天変地異の前触れか?それとも何か悪いものでも食ったのか?
いずれにしても、ハルヒの意外すぎる質問に、俺にできることといえば驚愕と困惑、それと
なぜかはわからないが、浮気を責められるしがない亭主のような感情が入り交じった表情を
浮かべることだけだった。


「はあ?何言ってんだ、お前……。あれだな、さては昨日の夜に『檸檬』や『葡萄』なんか
の漢字の書き取りでもやってて熱でも出したのか?」
返答に窮した俺としては、考えをまとめる時間稼ぎにこんな答えを返すしかないわけだ。
すると気に入らない返答だったらしく、ハルヒは俺の方に顔を向けてギロッと睨め付けると、
「はあ?あたしがそんなことをするわけないでしょ!いいから教えなさい!」
……逆効果だった。
ハルヒはまさに猪突猛進の字を体現するかのごとく、俺の席の前まで神速で移動し、顔には
泣く子も黙るほどの威圧感のある笑みを浮かべながら、俺の胸ぐらをつかんで顔を近づけて
きた。
「ほら、キョン。隠すと身のためにならないわよ!」
「なんでそこまでされて、お前に教えなきゃならんのだ」
俺にはハルヒのこの詰問の意図するところがまるでわからないが、妙に寒気がするのは気
のせいか?

「何をためらっているの?ただ、あたしに好みのタイプを教えてくれればいいだけじゃない」
「……それを聞いて、お前はどうしようと言うんだ?」
ハルヒは少し答えに詰まりかけたが、すぐに答えを見つけたのか、こう切り返してきた。
「別にどうもしないわ。ただ、あんたがデートした相手って、どっちも少し似た感じの
女の子じゃない?だから、あんたみたいなさえない男は、そういうのが好きなのかなと
思っただけ。別に深い意味はないわ」


605:ハルヒの野望・戦国群雄伝2
07/01/20 15:07:05 lz41R17u
……深い意味がないと言うなら、お前のその形相と、全力で疾走するディープインパクトさ
え跳ね飛ばしてしまいそうなその勢いは何なんだ?

しかし、こんな問答をしているうちにもさらに迫り来るハルヒ。これは精神的にもそうだが、
ハルヒを阻止しようと精一杯の抵抗を見せる俺の腕のあたりに2つのプレッシャーを感じる
のは落ち着かない。
なにやら、不覚にも妙な気分にもなっちまいそうだ。
・・・・・・こんなところを他の部員にでも見られでもすれば、いらぬ誤解を与えてしまうことに
なるに違いないだろうぜ。

「ガチャッ」

「遅れちゃってごめんなさぁい」
……最早説明するまでもないだろう。俺の脳髄をしびれさせるえもいわれぬその声、だが……。
お約束ですね、朝比奈さん。
まるで、タイミングを見計らって入ってきたとしか思えない、未来からやってきたポンコツ
天然少女(失礼)我が天使の朝比奈さん。
彼女は謝罪の言葉を口にしつつ、俺とハルヒが繰り広げる攻防戦を目撃し、その光景に唖然
とした。そして彼女は熟れたリンゴのように頬を真っ赤に染め上げた。
「お…お取り込み中でありますか。ご…ごめんなさぁい!」
微妙に口調が変だが……。

こんなこと前にもあったな、と俺があきらめと悟りの境地で、もごもごしながらあたふたして
いる挙動不審の朝比奈さんを見つめていると、第二の目撃者がやってきてしまった。
解説好きのスマイル野郎、古泉だ。
古泉は、端から見れば修羅場か、あるいは遺憾ながらじゃれあっているようにしか見えない
この状況を認めると、微笑ましそうな表情を浮かべ、朝比奈さんを促して部屋の外へとU
ターンしようとした。

すると時を同じくして、珍しくも遅れてきた長門が部室にやって来た。


606:ハルヒの野望・戦国群雄伝3
07/01/20 15:07:50 lz41R17u
長門は遅れてきた割にはいつものごとく一言も発さず、喧噪甚だしいこの部室のその状況に
反比例するかのような静寂を伴って入ってきた。
そして彼女は俺とハルヒを一瞥したが、この騒動には興味がないらしく、テーブルの上に鞄
を置いてパイプイスに腰をかけ、ダンベル代わりになりそうな一冊の極厚本を取り出しそれ
を広げた。

その長門の落ち着いた行動の効果と言っていいのか、ハルヒにとって幾分の鎮静剤となったよ
うで、まるで業務用冷蔵庫に放り込まれた温度計のように、興奮のバロメータをみるみるう
ちに引き下げ、繊維がバラバラになってもう修復不可能かと思えるような俺のシャツから
ようやく手を離した。
そしてハルヒは俺から顔をそらすと、何事もなかったかのように自分の席まで戻り、イスに
静かに腰を下ろした。

それにしても、俺に迫っているを皆に目撃されて、恥ずかしがったり照れたりすりゃ、ち
ょっとはかわい気があるんだが、ハルヒの奴、平然としていやがる。
まあ、ハルヒのそんな姿なんぞ想像できないし、した日には体中に湿疹が出そうだ……。
そのハルヒはといえば、パソコンの画面を見つめながら、制服姿のままの朝比奈さんにお
茶を要求し、それを受け取ると高級茶葉の価値をみじんも感じさせないほどにすぐさま飲
み干した。

そしてハルヒは、さっきまで俺に迫っていたことは、まるで忘却の彼方に追いやったかの
ように、朝比奈さんに対するセクハラ行為を行っている。
廊下で足音がこいらに向かってきたようで、部室のドアの前で立ち止まった。

「たのもう!」
ここはいつから道場になったんだ?
だが、ハルヒは部室の外から聞こえる声を完全に無視して、朝比奈さんの口から悩ましげな
声が漏れるほどに、彼女の胸を揉みしだいている。
「だから、たのもう!と言っているじゃないか!」
こちらからの返事を待ちきれず、ある人物が部室のドアを開け、押し入った。
不機嫌そうな表情を見せるハルヒ。
いいところだったのにちょっと惜しい、と思ってしまった青い自分が呪わしい。
だが、俺は入ってきたその人物の顔を見るやいなや、再び騒動の種が持ち込まれたことを感
じざるを得なかった。一難去ってまた一難だ。
その人物とは、お隣さん兼SOS団下部組織と成り果てたコンピ研の部長氏だ。

部長氏の姿を見た朝比奈さんは、最早彼女にとって、トラウマと化したかつてのパソコン強奪
事件における恐怖体験を想起させるのか、気の毒にも怯えの表情を浮かべた。
もちろん、悪いのはハルヒであって部長氏ではないのだが、彼自身が朝比奈さんのトラウマ
の対象となってしまっていることには同情の念を禁じ得ない。

「あら、誰かと思えばコンピ研の部長じゃない。なぁに?またパソコンをくれるの?でも、
今のところ間に合っているから無理しなくてもいいわよ」
……この女は、罪の意識というものを感じたことがあるのか?
コンピ研の部長氏はSOS団に―というよりハルヒにだが―目をつけられたがために、
その運勢が凋落の一途をたどることになった気の毒な存在だ。
だが、その部長氏のことを、ハルヒはパソコンの配達業者程度にしか思っていないようだ。


607:ハルヒの野望・戦国群雄伝4
07/01/20 15:08:23 lz41R17u
「ちがう!僕はそんな用で来たんじゃない。別のことで来たんだ。それとも、君たちはこれ
以上僕たちからパソコンを巻き上げるつもりか?なんなら、以前君たちがやった卑劣きわ
まりないパソコン強奪劇のことを生徒会の耳に入れてもいいんだぞ」
ああ、あれだ、こんなことわざがあったな。馬の耳に念仏ってやつが。
さしずめハルヒの耳に苦情。とでも言った方がいいか。
言葉の通り、こんな抗議や脅しでは、ハルヒのチタン合金より頑強な神経は、地球の裏側で
おきた地震ほども揺るがない。

だがそんな部長氏の勢いは、ハルヒが一言も発さず昂然としていることに怖じ気づいて、まる
で商店街のアーケードに引っかかったゴム風船のように、徐々にしぼんでいった。
「そ、そんなことはどうでもいい。実は、今日おもしろいイベントを提案しに来たんだ」
と、ついには前言を撤回し、本題に入った。

イベントと聞いて、退屈を嫌うことの甚だしいハルヒは、俄然瞳の色を輝かせた。
「なに?校長の髪の毛を本人に気づかれずに全部抜いてくるとか、それとも『テロが起き
た』って警察にイタ電でもするの?」
どんな罰ゲームだ?それは。……おまえは無期限停学処分でも食らいたいのか?
「違う!僕が持ってきたのはこれさ」
と部長氏が差し出したのは、一枚のDVD-ROMだった。どうやらゲームソフトらしい。
「なあに、これ?またゲームで対戦をやるの?それに勝ったらパソコンを返せっていうん
だったら容赦しないわよ。今度は北口駅前であんたたちのストリーキングをやってもらうか
ら覚悟しなさい。その時には村上ショージのギャグを叫びながら歩くのよ」

……二重の意味で寒さと羞恥に打ち震えることになるような、およそ常人には考えもつかな
い世にも恐ろしい罰ゲームを提案するハルヒ。
しかし、これは俺の勘だが、おそらく部長氏の目的はパソコンの返還などではなかろう。
彼は、前回の件でSOS団に勝負を挑むことがどれだけ実のないことかわかったはずだ。
なにせ完璧超人の長門に、超がつくほどの負けず嫌いのハルヒが相手では、彼らには荷が
重い。相手が一般人じゃないのだからな。
程なくしてハルヒの一方的な罰ゲームの発表が終わると、部長氏はいささか顔を引きつらせ
て口を開いた。
「ち…違う。パソコンのことはもういいんだ。実は……」

部長氏の説明によると、今回は純粋にゲーム大会だ。このSOS団の面々に部長氏を加えた人数
だけで行うということで、コンピ研の他メンバーは参加しないとのことだ。
ただ、今回の大会における最大のポイントは、優勝者にある特典が与えられるということ。
それは部長氏提供のファミレスの食事券。そしてそれに加え、優勝者にはそれを使ってメン
バーのうちの誰かを誘う権利が与えられるらしい。もちろん指名された者は拒否できない。

……俺には正直、部長氏の意図を計りかねた。
誰かを誘いたいというなら、直接誘えばいいのだが、これまでパソコン一筋の部長氏には無
理な話か。だが、こんな提案をハルヒが受け入れるわけがないよな。
だろ?ハルヒ。
「……いいわ。おもしろそうじゃない?やりましょう!」
……って、即決かよ。


608:ハルヒの野望・戦国群雄伝5
07/01/20 15:09:21 lz41R17u
「みんなは不服はないわよね?古泉君は問題なし。有希も反対意見はなしと。みくるちゃんも
OK……なに?その顔は。みくるちゃん、い・い・わ・ね?……はい決定と」
俺たちに、拒否権などありはしないのさ。ハルヒ独裁体制のこのSOS団にな。
「みんな賛成してくれてるし、やりましょ」
しかもあからさまに俺をスルーしていきやがった。この女は。まあ、どうせ俺が反対したと
ころで、無駄な努力だろうがな。


「でも、食事券だけじゃ優勝賞品としては貧弱よね。……そうね、あたしからはこれを提供
してあげるわ。だからこれも賞品にしてちょうだい」
と、ハルヒが鞄の中から取り出し、テーブルの上に差し出したのはペアの映画鑑賞券だ。
しかし、そんなものをハルヒが持っているなんて、どういう風の吹き回しだ?
それに、なんでハルヒはこれほどまでに乗り気なんだ?
まさか朝比奈さんを誘って、映画館の暗闇に乗じてイタズラし放題をもくろんでいるのか?
というか、ハルヒは日常からやってるから関係ないな。
他に何か意図があるのかもしれんが、これ以上は考えないでおこう。いや、考えてはいけな
い気がする。

「これはね、昨日、新聞の勧誘員からもらったものよ。もちろん新聞は取らなかったけどね」
などと、満面の笑みを浮かべ、武勇伝を語るかのように誇らしげに胸を張っているハルヒ。
……お前は鬼か?
運悪くも、ハルヒの家を訪問してしまったその勧誘員に、俺は同情するぜ。きっと精神的に
追い詰められて、チケットを提供せざるを得なかったのだろう。
おそらく金輪際、蟻地獄のようなハルヒの家を訪れる勧誘員はいないだろう。

部長氏の説明が終わった後、全員ゲームのマニュアルに目を通し、さあ今から始めるわよと
ハルヒが言い出しのだが、あとわずかで下校時間となるため、今日のところは操作の練習に
とどめておくことになった。ハルヒも不承不承頷いた。
「しょうがないわね。今日のところはこのぐらいにしておきましょう。でも、明日は授業が
午前で終わりだから、お昼ご飯食べたらノンストップでやるからね。勝者が決まるまではみん
な返さないから、そのつもりでいなさいよね」

せいぜい、夕方までには終わらせてくれよ。よもや理科室の標本が動き出すような時間ま
で、ってのは勘弁だぜ、ハルヒ。
「じゃあ、あたしがみんなのお弁当を作ってきましょうか?」
なんと、朝比奈さんはお優しくも、お手製の弁当をその美しい御手で作るとおっしゃっている。
なんという幸福。まさしく重畳の至りだ。
朝比奈さんが作った弁当なら、俺はたとえ中身が白いご飯だけでも、跪いてそれを頂戴するね。

「ねえ、みくるちゃん。お弁当もいいんだけど、どうせなら調理室で何か作ってくれない?
もう授業もないし、自由に使えるでしょう?」
おいハルヒ、あそこは自由に使っていいところじゃないぞ、先生の許可がいるんじゃねえか?
「そう?『ご自由にお使いください』って書いてなかったかしら」
書いてねえよ。
「そうだったかしら?まあ、いいじゃない。学校の施設はみんなのものなんだから、あたし
たちが使ったって問題ないわよね」
いかにもハルヒらしい。まさしくハルヒならではの論理だ。

俺はハルヒの言葉を聞いて、すぐさま古泉に目配せした。すると、古泉はわかりましたとい
う表情を浮かべて、微笑した。
断っておくが、俺と古泉は目と目で意思の疎通が図れる特別な関係というわけではもちろん
ないのであしからず。ただ、俺は無用なトラブルを避けるため、古泉に調理実習室の使用許
可を取らせるべく合図をしたわけだ。
このように、無茶で無謀で猪突猛進のハルヒの陰には、苦労して根回しなり、後始末なりを
する俺たちの姿があるわけで、それがなくなればどんなにいいかとも思うが、なければない
で物足りなくなるのかもしれんな。


609:ハルヒの野望・戦国群雄伝6
07/01/20 15:09:57 lz41R17u

なんにしろ、朝比奈さんの手料理がいただけるわけで、俺にとっちゃ願ったり叶ったりだ。
明日は至福のひとときを過ごさせてもらうぜ。
「じゃあ、みくるちゃん、明日はお願いね。でも、もし一人で大変ならあたしも手伝うけど、
どう?」
殊勝にも朝比奈さんの手伝いをするというハルヒ。だが、朝比奈さんは軽くかぶりを振って、
「大丈夫です。あたし一人でできますから」
「そ、そう?」
なぜか少し残念そうに見えるハルヒ。

「何かリクエストありますか?あったらそれを作りますけど」
朝比奈さんは柔らかなほほえみを浮かべて、そう提案した。
いえいえ、朝比奈さんが作るものなら、たとえ冷凍食品を暖めただけでも、高級懐石さえも
凌駕する味に変貌します。
それでも、何かリクエストしようかとしばし考えていると、ある女子生徒が唐突に口を開いた。
「……カレー」

さて、誰の発言かは言うまでもないだろう。
カレー大好き宇宙人、長門有希その人である。
ちなみに、俺は今日、初めて長門の声を聞いた気がする。
「カレーですね、わかりました。じゃあ、みなさん、明日は楽しみにしていてくださいね」
もちろんです。俺はこれまで、明日という日をこれだけ待ち望んだことはありません。
もはや、ゲーム大会のことなど、はるか銀河の果てである。
などと、俺の浮かれた気持ちが顔に出ていたのか、ハルヒのジト目にギクッとさせられた。
そんな時、明日の準備のために早めの帰り支度をしていた朝比奈さんが小声で俺に囁いた。
「キョン君、あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

何でしょう、朝比奈さん。
「カレーって、以前長門さんの家でご馳走になったあの料理でいいんですよね?」
……?未来人である朝比奈さんは、カレーを食べたことがあまりないのだろうか?と、訝しげ
に思いながらも取りあえず肯定しておく。
そうですよ、朝比奈さん。あの時の料理がカレーです。
「やっぱりそうだったんですね。じゃあ、『黄レンジャー』がよく食べていたものと一緒
なんですね?」
……なぜカレーのことはよくわかっていないのに、黄レンジャーは知っているんだ?ってい
うか、あなたは本当は何歳ですか?

朝比奈さんが、まともなカレーを作れるのかを少し不安を感じた俺は、明日悲劇を招かない
ため、念のために助言をしておいた。
「難しい料理ではありませんし、スーパーにはカレーのルーも売っていますから、それを使
えば簡単に作れますよ」
「キョン君、ありがとう。うん、カレーを作るのは初めてだけど、今日お料理の本を読んで
予習するから、たぶん大丈夫。だから、安心して明日を待っててね」


610:ハルヒの野望・戦国群雄伝7
07/01/20 15:10:33 lz41R17u
朝比奈さんの天使の笑顔に促されて頷きはしたものの、なんだ、この言いしれぬ不安感は?
朝比奈さんが、決して料理下手というお約束スキルを保持しているわけではないことは、以前に実証済みなのだが、明日何かが起きそうな予感がしてならない。



下校時間の到来とともに、ハルヒによる解散宣言を受けて、俺たちは三々五々帰路につくわ
けだが、校舎を出ようとしたころ、意外にも明日のイベントの企画者であるコンピ研の部長
に声をかけられた。
「君!キョン君と言ったっけ?ちょっといいかな」
何が悲しくて、コンピ研の部長にまで渾名で呼ばれねばならんのだ?
「ええ、かまいませんが、どういうご用件でしょうか?」
「ここじゃなんだから」
というわけで、俺たちは学校の裏庭に移動し、部長氏から手渡されたコーヒーを手に、ベン
チに腰掛けた。

部長氏はやや思い詰めた表情にも見え、次の発言が待たれた。
「実は話というのは他でもない。君に朝比奈さんのことを聞きたいんだ」
どういうことでしょうか?
「忘れられないんだ」
は?
「だから、あの時のあの感触が忘れられないんだ!」
ますますわからん。部長氏は何が言いたいんだ?
「去年の春、君のとこの団長さんの策略にはめられて朝比奈さんの胸を触ってしまったわけ
だが、それ以来、僕の中にもやもやとした感情がくすぶっていたんだ。それからというもの、ことあるごとにあの日の感触が思い出されてしまって、勉強も手につかないことがあったの
さ。それで最近、これが恋だと言うことに気がついてしまったんだ」

古今東西、恋のきっかけというものは人それぞれだろうが、部長氏は朝比奈さんの胸を触っ
てしまったことで目覚めたという。
俺は16年間生きているが、胸を触って恋に落ちるなどと言う話を聞いたのは初めてだ。おそ
らく、今後も耳にすることはないだろうが。
あまりに突飛かつ、意外な話に呆気にとられている俺にかまわず、部長氏は話を続けた。
「前にもゲームの対戦をしたことがあったろう?あのとき、団長さんは朝比奈さんを賭の対
象として差しだそうとしたしたけど、僕が断ったのは君も知ってのとおりだ。あのころはお
互いトラウマの対象であることの方が大きかったし、僕はこの気持ちを必死に否定していた」

では、今回こんなイベントをハルヒに提案したのは……
「そういうことなんだ。君も回りくどいことだと思っているんだろうけど、今、朝比奈さんに
告白しようとしたところで、彼女は怖がってまともに相手にはしてくれない。だったら、
こんなことでもいいから彼女とデートをして、そこで僕のことを知ってもらって、さらに僕
に対するわだかまりを取り払ってもらった上で告白しようと思ったんだ。幸い、僕のもくろみ
通り、というよりそれ以上にあっさりと団長さんも乗ってきてくれたしね。」

ですが、どうして俺に話をしようと思ったんです?
「君が、あのなかで一番話せる人間だろうと思ったからさ。こんなことを聞いてくれるの
もね」
そういうと、部長氏は本来の目的であったはずの朝比奈さんのことを俺から聞くこともなく、
礼を言って去っていった。
部長氏が去った後、両手に持ったコーヒーカップのぬくもりを感じながら、俺は赤く染まり
つつある空を見つめていた。

611:ハルヒの野望・戦国群雄伝8
07/01/20 15:11:23 lz41R17u
日は変わって翌日の放課後、待ち望んでいた昼飯時だ。
授業の終了とともに帰り支度を始めた谷口が、お前も気の毒だなという哀れむような表情を
浮かべていたが、俺は谷口に対する優越感でいっぱいだった。
理由は簡単、今日は朝比奈さんの手料理を味わえるという貴重な一日なのだ。これでは憂鬱になろうはずもない。

俺は教室を後にし、昼食担当である朝比奈さん以外のSOS団全員と、コンピ研部長がすでに
いるはずのSOS団部室に向かった。そこで時間調整の後、ハルヒを先頭に、俺たちはぞろぞ
ろと調理実習室へと移動する。
さて、今日はカレーがテーブルに並ぶはずだ。心なしか長門もうかれて見える。もちろん俺
も楽しみにしている。

俺たちは調理実習室にたどり着いた。そこからはカレーのいいにおいが……
しない……?
これはひょっとして……。
ドアを開けると、実習室のテーブルに並べられていたものは……

なんと、ハヤシライスだった。

皆の驚きに、まるで気づいていないメイド姿の朝比奈さんに、俺はあわてて耳打ちする。
「朝比奈さん。これはカレーじゃなくて、ハヤシライスですけど……」
「ええ!?そうなんですか?……あたし、間違ってハヤシライスのルーを買っちゃったみた
いです」
驚く朝比奈さん。ていうか、匂いでわかってください。いや、それより前に、ルーの外箱
の表示が違うことに気づいてください。
「……」
長門は少し、ムッとしているようだ。

朝比奈さんのポンコツぶりにますます磨きがかかっている最近の様子を見ていると、今の朝
比奈さんがあの朝比奈さん(大)につながっているとは、正直とても考えられない。
俺には朝比奈さんの健やかな成長を祈るしかなかった。
さて、多少のトラブルは勃発したが、気を取り直して、俺たちは朝比奈さんの手製の料理を十
分に堪能することができた。
若干一名、まあ、朝比奈さんなんだがな、長門の視線に少し怯え気味だったのが気の毒では
あったが……。

そして時は過ぎ、俺にとって幸福きわまる昼食が終わり、いよいよメインイベントであるゲーム大会の時間となった。
俺たちはSOS団部室に戻り、パソコンを立ち上げ各々の席でスタンバイし、ハルヒの開始
宣言を待っていた。
ちなみに言い忘れていたが、ゲームの内容はこうだ。
タイトルは『足利氏の野望』といい、歴史シミュレーションゲームで、コンピ研オリジナル
と言うことだ。なお、内容的には世間的にも有名な某ゲームを踏襲している。ただ、シリー
ズのいいとこ取りをしたシステムということで、ある意味本家を凌駕しているといえなくも
ない。
最後に勝利条件だが、それぞれが好きな戦国大名を選択し、最後まで生き残ったプレーヤーが
優勝者だ。なお、跡継ぎによるプレーの続行は認められない。担当する大名が死ねばそこで
ゲーム終了だ。


612:ハルヒの野望・戦国群雄伝9
07/01/20 15:11:58 lz41R17u
ハルヒは部室を見渡し、全員の準備が整ったことを確認して開始の宣言を行った。
「さあ、みんな、準備はいーい?じゃあ、始めるわよ。戦闘開始!トラ・トラ・トラよ!」
おいハルヒ。それ時代も使うシチュエーションも違うだろ……。
とにもかくにもゲーム大会はが開始されたのだ。
ところで、それぞれが担当する大名だが、ハルヒはその性格に共通点があるのか、予想通り、
織田信長だ。そして、朝比奈さんは当時松平元康と名乗っていた徳川家康。長門は松平家の
直上、甲斐信濃を支配する武田信玄。ハルヒの忠実なる太鼓持ち古泉は、意外にも少し離れ
た相模周辺を統治する北条氏康だ。そして、この大会の提案者であり、優勝を誰よりも欲し
ているであろうコンピ研の部長氏は、このゲームのタイトルもなっている将軍家である足利
氏、足利義昭だ。
ちなみに俺は、人材、地の利など、境遇に恵まれている島津義久を選択しておいた。

さて、ゲームが開始したが、俺はすぐには攻め込まなかった。
ますは内治に努めて国力の増強を図り、力を蓄えることにした。1ターン目は内政のコマン
ドの実行で終えた。
しかし2ターン目、早くも波乱が起きた。
長門担当の武田信玄が、朝比奈さんの担当する松平家の支配する領土にいきなり攻め入った
のだ。
ここで、朝比奈さんは致命的なミスを犯した。彼女はどうも操作がよくわかっていないらしく、籠城戦をすべきところを野戦決戦に出てしまい、武田信玄自ら率いる最強の騎馬軍団により
1兵たりとも残らないという、全滅ではなく殲滅の憂き目にあった。
何が起きた理解できず、茫然自失の朝比奈さん。いくらゲーム音痴の彼女とはいえ、2ターン
目にして早くも敗退するとは思いもよらなかっただろう。

しかし、長門……。おまえ、カレーのことで根に持っていただろ?
普段、ドライアイスのような冷静さを持ち合わせる長門の、意外な一面を垣間見たようだ。

その後、長門は余勢を駆って、疾走する馬のごとく、猛烈な勢いで主に北陸、北関東、東北
をほぼその手中にし、勢力を拡大していった。
この勢いにはさしもの古泉もなすすべがなく、南関東と、東海東北の一部をその版図に入れ
たに過ぎず、現状は長門に圧迫されつつあった。
ハルヒはというと、北陸の一部から美濃、近畿のほとんどを奪取し、現在部長氏の足利将軍
と対峙している。

そして、現在ハルヒと対決中の部長氏だが、本拠である山城の国と、中国地方の東半分をその
勢力下におくことで精一杯だった。
ただ部長氏にとって幸運だったのは、ハルヒが勢力を拡大し続ける長門信玄を無視できず、
その牽制に軍勢を割かれ、部長氏攻略を疎かにせざるを得ないことであった。
これで部長氏は、かろうじて一息ついたと言うことか。
とはいえ、足利氏は将軍家であっても、この時代一個の中堅大名に過ぎず、正直なぜ部長氏
がこの大名を選んだのか疑問ではあるが。

そして、数ターンが過ぎ、長門に包囲されていた古泉は徐々にその勢力を縮小し、ついには
堅固な城である小田原城に籠もることになり、さらに数ターンの兵糧攻めの後、滅ぼされた。
かくしてプレーヤーで生き残っているのは、ハルヒと長門、部長氏に、そして九州を制圧して
その版図を中国四国地方に拡大しつつある俺であった。

613:ハルヒの野望・戦国群雄伝10
07/01/20 15:12:32 lz41R17u
それから数ターンが経過したとき、突然、部長氏が史実の通り、ハルヒ追討令を発布した。
これはこのゲームの独自機能というべきもので、さらに言うと、足利氏のみに与えられた
特権であり、史実よりも遙かに諸大名に対して強制力があった。
つまり、全大名には信長であるハルヒに対して、軍事的圧力をかける義務が課せられたのだ。
その命令を受け、古泉を滅ぼしたことによりほぼ東日本を制圧した長門は、次の攻略勢力で
もあったハルヒにターゲットをしぼり、全力を傾けて圧迫を加えてきた。
戦線は膠着状態にあるが、多方面から侵略を受けるハルヒに対して、兵力の逐次投入を続け
る余力のある長門が徐々に押してきた。
押されて、後退を余儀なくされるハルヒ。
「ちょ、ちょっと有希!少しは手加減しなさいよ!」
たまらず、悲鳴を上げるハルヒだが、長門は容赦しなかった。
長門をそこまで本気にさせているのは何なのか?俺には皆目見当がつかなかった。
そして時間の経過とともに、クレヨンで塗りつぶすかのように、ハルヒの支配地域を浸食し
てゆく長門。もはや戦局は決したか?

そんな長門とハルヒの戦いを傍観しながら、自分の思い通りの展開になりつつあるのか、ほ
くそ笑みながら、朝比奈さんの方をしきりにチラ見する部長氏。
なるほど、彼が足利家を選択したのはこのためか。自分の力を使うことなく、敵対勢力を
苦しめることができる。さらにその攻撃に参加した連中の力をもそぐことができる。
つまりは一石二鳥か。少し、やり方が気に入らないがな……。
再び戦局に目を向けると、なぜそこまでとおもえるほどに全力の長門に押されに押されて、
ハルヒの運命はもはや風前の灯火だった。
だが、運命の女神は残念ながらというか、それとも幸運にもと言うべきか、ハルヒを見捨てな
かった。
なんと、武田信玄が突然病死してしまったのである。これでも史実よりも遙かに長く生きた
わけではあるのだが……。
突然の死という、まったく思いもよらないことで退場を余儀なくされる長門。彼女は無表情
ではあるけれど、さすがに残念そうに見えるのは俺の気のせいではないだろう。

最強の敵の死により、九死に一生を得たハルヒは、朝鮮戦争での国連軍のように、またたく
まに領国を奪還し、国力を急回復させた。
するとすぐさま身を翻し、まるでネズミを捕食しようとする蛇のように、自分を苦しめる原因
を作った部長氏に対して、全力を持って猛然と襲いかかった。
俺は当初、多少おもしろくなかったとはいえ、朝比奈さんを思う部長氏には理解を示し、や
や協力的ではあった。しかし、かといってこの絶好の機会を逃すわけにも行かず、意を決し、
ハルヒに呼応して部長氏の領国へと攻め入った。
その攻撃は質量ともにすさまじく、戦術を考慮するまでもなく、ほぼ力攻めで押し切ること
ができた。その結果、俺とハルヒの二大強国の挟撃により、部長氏はなすすべもなくあっさ
りと滅びた。部長氏はまさしく、蜘蛛の糸が切れて地獄にまっさかさまに転落したカンダタ
のようだった。

俺は、部長氏の計画を頓挫させてしまったことに、いささか後味の悪いものを感じざるを得な
かったが、同時にほっとする感情も否定できなかった。
優勝を逃してしまった部長氏は、恐らくあきらめきれずに、玉砕覚悟で朝比奈さんに告白で
もするのだろう。
ただし、玉砕する確率は九割、いや九割九分か?まるで、竹ヤリ一本もって単身硫黄島に乗
り込んで、そこで勝ち目を見いだすようなものだが……。

結局、最後まで残ったのは俺とハルヒだった。
部長氏の滅亡とともに一時的な協力関係を解除し、改めて対峙する俺とハルヒ。
勢力は拮抗していると言いたいところだが、ハルヒは滅亡の危機を経験していながら、長門
の撤退後、以前よりもその勢力を拡大し、今や俺を凌駕する存在に成長していた。
ハルヒは己の勝利を確信しているのか意気軒昂、今や飛ぶ鳥を落とす勢いだ。


614:ハルヒの野望・戦国群雄伝11
07/01/20 15:13:38 lz41R17u
そして、ハルヒは何が嬉しいのか、高輝度発光ダイオードもかすむほどの笑顔を満面に浮か
べ、今にも鼻歌を奏でんばかりであり、隣の古泉がニヤニヤとしているのが気に入らない。
…って、古泉、なぜ俺に向かってニヤついているんだ?
朝比奈さんもです。そんな微笑ましそうに、なぜハルヒでなく俺を見ているんです?俺に
は関係ないはずですが?……たぶん。

さて、どうしたもんだろうな。ハルヒの笑顔を見ていると、その笑顔に免じて負けるっての
も悪かない、なんて不覚にも思ってしまったのだが、だからといって、このまま負けるとい
うのはおもしろくない。
現在、投入し得る兵力にしても配下の武将の質にしても、ハルヒの方が勝っていると認めざ
るを得ないのだが、何かつけいる隙はないものかね。
俺は、団長席に座っているハルヒの様子を窺いながら、しばし沈思黙考していた。
………まてよ、あの方法ならば可能か。

と、突如として、俺はあることがひらめいた。今大会の勝利条件と、ハルヒの性格とを利用
すれば、勝ち目は出てくるのではないかと。
ただ、この策はハルヒに気がつかれる可能性もあるのだが、今のままではジリ貧の憂き目に
あう。それならば、それに賭けてみる価値はあるのではないか?俺はその策を実行に移すべ
く、すみやかに周到な準備を行った。

まず手始めに、今現在ハルヒと隣接している備中とその西隣の備後の二国から、金と兵糧を
必要最低限のみ残し、後は周辺国に送った。そして、次のターンには目的とは異なるハルヒの
領国を攻める体を装い、二地域から兵力を送る欺瞞工作を行った。だが、あくまでも減らし
すぎないことが要点だ。
これで、ハルヒへの勝利という豊かな実りへの種まきはほ完了したが、ハルヒはこの策に乗
るか、それとも気がつくのか。
「フッ」
どうやら俺の意図することに、古泉は気づいたようだ。ということはもちろん長門も気づい
ているはずだ。ただし、部長氏と朝比奈さんはまるで気がついていないようだ。

すると、俺が兵力を減らしたことに目をつけたハルヒは、絶好のチャンスとばかりに、大軍
を擁して、隣接する俺の領国である備中へと侵攻した。
――食い付いた。
自らが指揮官として参戦したハルヒ軍との合戦が起こると、俺はなるべく長期戦を志し、さら
には兵力の消耗を抑えた上で敗戦した。
予定通りだ。
ハルヒは俺の領土どころか、そこの敗残兵まで飲み込んだことに、有頂天だ。
気をよくし、次のターンを迎えたハルヒは、ふくれあがった兵力のまま、さらに西の備後へ
と攻め込んだ。

後方からの補給を待たずに、だ。

ハルヒが攻め込んだことを確認した俺は、先ほどハルヒにより陥落した備中を、北方から軍
勢を起こし、速戦即決で奪還した。
これにより、現在備後を奪取してまもないハルヒ軍は、補給路と逃走路を遮断されることに
なった。
包囲され、孤立無援の状態となったハルヒ。ここにいたって、彼女はようやく俺の真の目的
に気づいたようだ。


615:ハルヒの野望・戦国群雄伝12
07/01/20 15:14:13 lz41R17u
つまり、この大会の勝利条件としては、ハルヒの領国をすべて攻めつぶす必要はなく、ハル
ヒ一人さえ倒してしまえばことは足りるのである。しかもハルヒは本国でじっとしていられる
性分ではなく、主要な戦いには必ず指揮官先頭で参戦してくる。
俺はそこに勝ち目を見いだしたのである。幸いにも、俺の考え出した策は見事に図に当たった。
といっても古泉には見破られる程度のもではあったが、ハルヒは騙せたようだ。

俺は最後の戦いとばかりに、動員できる限りの軍勢をハルヒがいる備後へと投入した。ただし、
戦いと言っても無闇に兵力を消耗するつもりも、ハルヒにさせるつもりもなかった。
ただ単に、長期戦を繰り広げればいいだけなのだ。そうすれば大軍団を食わせている兵糧
はやがて尽き、兵士は干涸らび、そして自動的に俺の勝利となるわけだ。
それに今更のように気づき、悔しさと焦りの感情を前面に押し出しているハルヒ。
ハルヒは勝利への執着があるためか、俺をにらめつけたり、画面を凝視したりを繰り返して
いる。だが、もう遅い。
ゲームオーバーだ。

ハルヒ軍の兵糧が、残りゼロを示したことで、俺の勝利が決定した。

「あんなことをするなんて、卑怯よキョン!」
と言うものだと予想していたのだが……。
ハルヒは妙にしょんぼりして、実にハルヒらしくない。
「よかったわね、キョン。あんたは、みくるちゃんか有希でも誘うんでしょ?」
と意外なことを言い、先刻ハルヒが勝利を目前にしているときには、遠足前の小学生のよう
に喜色を満面に浮かべていたというのに、今はやけにあっさりしている。

いささか拍子抜けをした感は否めないが、このたび行われたゲーム大会は、俺の優勝で幕が
閉じた。
したがって、最初の取り決め通り、俺には優勝賞品のファミレスでの食事券と、映画鑑賞券、
それに、その相手を指名する権利が与えられた。
……俺はいったい誰を誘うのか?朝比奈さんか?あるいは長門か?それとも……?
俺は誰かを念頭に置いてゲームに参加したわけではないので、いざ、誰かを選べと言われると、
とたんに躊躇してしまい、にわかには選べないのである。

「さあ、キョン!いったい誰を指名するの?」
気を取り直したハルヒが、挑むような窺うような視線で、俺に結論を急がせようとする。す
ると、部屋にいた人間が俺に一斉に照準を合わせた。
なにやら、期待と好奇の籠もったみんなの視線を一身に受け、逃げ出してしまいたくなる俺
であり、実際一時退却することにした。
「悪い、ハルヒ。忘れ物をしたから、ちょっと教室へ戻るぜ」
ハルヒが声を発する間も与えず、俺は部室から飛び出した。
だが、実際には忘れ物をしているわけではなく、単に考える時間がほしかったのだ。

そういうわけであるから、俺は教室には向かわず、ベンチに座って春の暖かな空気のなか、
誰を指名すべきかを呻吟していた。
「やあ、やっぱりここでしたか」
と言う声が聞こえ、俺の前に立った古泉が、スッと紙コップに入ったコーヒーを俺に手渡した。
何の用だ?もしやお前を誘えって言うんじゃないだろうな?
それを聞いて、古泉はさも愉快そうに相好を崩し、
「それは非常に魅力的な提案ですが、今回は遠慮しておきましょう」


616:ハルヒの野望・戦国群雄伝13
07/01/20 15:14:45 lz41R17u
俺はコーヒーを胃に流し込み、あたりまえだ、と一言返した。
「どうやら、悩んでいるようようですね。僕はもうあなたは誘う相手を決めているものだと
思っていましたが?」
まだ決まっちゃいないよ。ところでお前は何をしに来たんだ?
「いえいえ、僕はあなたにきっかけを与えて差し上げようと思いましてね」
なんのことだ?というと、古泉はやや改まった様子で口を開いた。


「ところで、あなたは、朝比奈さんやミヨキチさんと以前デートをしましたね?」
何を藪から棒に。
……あれがデートだったとは思わないが、確かに一緒に出かけはした。
「それに、長門さんとも図書館デートをしているそうですね?」
なぜお前が知っている、っておい、みんな誤解だ。俺は誰ともデートをしたつもりはないぜ。
「ですが、そう思わない方もいるようで。彼女はそのことをなにやらうらやましく思い、あ
なたと二人きりで出かけてみたいと思いつつも、だからといって素直にあなたを誘うことも
できない。そんな彼女にとって、今回のイベントはまさにうってつけ、渡りに船だったわけ
です。彼女が優勝の暁には、なんだかんだと理由をつけて、あなたを誘うつもりだったので
しょう。ただ、残念ながら、彼女の思い通りの結果にはなりませんでしたが……」

……馬鹿な奴だよ。
古泉が名前を出さずとも、それが誰であるのか、俺にはわかってしまっていた。だが、誰だ
かは言わないでおく。
それで、お前は何が言いたいんだ?
と俺が言うと、古泉はかぶりを振りつつ、
「いえ、これ以上は何も。ただ、ここまで聞いてしまうと、あなたとしては動かざるを得ないでしょう」
と言い、ベンチから立ち上がると、古泉は校門へと向かった。しかし、歩みの途中で振り返
ると、
「ああ、そう言えば、彼女はまだ部室にいるはずですよ。春休みにおけるSOS団の活動を検
討すると言っていましたからね」
とだけ言い残して、再び歩き出した。

古泉が去った後、少し躊躇したが、意を決して俺も立ち上がり、いったん背伸びをすると、
部室に向かって足を進めた。

俺がSOS団の部室のドアを突然開けると、そこにいたハルヒがあわてて何かを隠した。
まあ、それはいいんだが。
「キョン、やけに遅かったのね。あんたが遅いからみんな帰っちゃったわよ。残念ねえ、み
くるちゃんも有希もいなくて」
ハルヒはアヒル口をしながらそううそぶいた。
いや、いいのさ。ハルヒ、お前に用があるんだ。
「……あたしに?な、なんなの?さっさと言いなさいよ。どうせろくでもないことなんで
しょうけど」
やや動揺したが、あわてて体裁を取り繕うように、意味もなく胸を反らせ、俺をにらみつけた。
「……お前がくれた映画のチケットだけどな、あれ上映が来週の金曜日までしかないじゃね
えか。と言うことは、今週の土日のどっちかに行くしかないんだよ」
「そうだっけ?じゃあ、明日にでもみくるちゃんか有希を誘えばいいじゃない?」
「二人とも週末は予定があるそうだぜ」
もちろん、これは俺のハッタリだ。
「なら、古泉君でも誘えばいいじゃない」
なぜ、そっちにいく?

617:ハルヒの野望・戦国群雄伝14
07/01/20 15:15:20 lz41R17u
「だから、俺が言いたいのはだな……こんなチケットを提供した、お前が責任をとれと言って
いるんだ」
とうとう言ってしまった。すると、ハルヒの頬にわずかに朱が差し、
「バッ……そ、そう?本当に、相手のいない男はしょうがないわね。……わかったわ、しょ
うがないから、あんたがどうしてもって言うんなら、つきあってあげなくもないわよ」
そうかい、ありがとよ。
「か、感謝しなさいよね。それと、当日1秒でも待ち合わせに遅れたら、全部あんたのおご
りだからね」
ハルヒは俺でさえ惹きつけてしまいそうな、とびきりの笑顔を見せて言った。

当日、わざと遅れていくか。そうすりゃ、『遅いわよ、キョン。約束通り、今日は全部あんた
におごってもらうからね』などと、嬉しそうに言うのだろうな。などと、ハルヒの笑顔を眺
めながら、俺は不覚にもそんなことを考えてしまった。



ああ、それと部長氏のことだが、あのイベントの後、勇者部長氏は朝比奈さんに告白し、見事
玉砕、名誉の戦死を遂げたと言うことだ。
合掌


終わり

618:名無しさん@ピンキー
07/01/20 15:18:35 lz41R17u
以上です。
デート編が書ければ、エロまで到達できそうですが、
今回の展開ではエロ無しとなってしまいました。

619:名無しさん@ピンキー
07/01/20 15:22:46 ISUtYhzv
乙。面白かったよ
歴史や時代等、書き手によっては深く描写したがるマニアックな要素をあっさり目に味付けしたのは良かったと思う

620:名無しさん@ピンキー
07/01/20 15:25:23 KkgyEhkB
GJ!
次は烈風伝(デート編)、その次は天下創世(エロ)くらいで書いてくれたら嬉しい

621:名無しさん@ピンキー
07/01/20 19:02:47 Slj+5i0x
復活sage

622:名無しさん@ピンキー
07/01/20 19:04:46 kxvkA6EW
何が起こったんだ。2chも止まってたらしいが。

623:名無しさん@ピンキー
07/01/20 19:05:20 BCkjFtS5
>>620
随分壮大なエロをイメージしてしまったw

624:名無しさん@ピンキー
07/01/20 19:05:21 cBYwkEkW
鯖側の電源トラブルらすぃ

625:名無しさん@ピンキー
07/01/20 19:21:04 XUgkHQxS
>>618 GJ!
あぶねーあぶねー。これで書きかけの部長×ハルヒを無駄にせんで済む

626:620
07/01/20 19:25:00 KkgyEhkB
さっき信長の野望天下創世でハルヒ達を武将エディットで作ってプレイしてたが・・・
ハルヒ達(特にハルヒと長門)が強すぎてゲームバランス崩れたwww
しかもハルヒを大名にしたらゲームの仕様で苗字が赤松になるし・・・

627:名無しさん@ピンキー
07/01/20 19:24:59 XUgkHQxS
ごめんsage忘れ

628:名無しさん@ピンキー
07/01/20 19:50:56 G6slRdzk
>>624
嘘付くな。

629:名無しさん@ピンキー
07/01/20 20:34:25 W3pFAIPp
このSS読んで、ちょっと信長の野望をやってみたくなった。
将棋弱いからすぐ負けると思うが。

630:名無しさん@ピンキー
07/01/20 21:26:31 rT9WZqgt
>>628
URLリンク(219.166.251.40)

631:620
07/01/20 21:36:57 KkgyEhkB
>>629
烈風伝なら2000円くらいで出来るし、システムもはっきりしてるからお勧めだな

632:名無しさん@ピンキー
07/01/20 23:36:28 h4rBEwJk
なかなか戦国モノってのはワクワクするな

633:名無しさん@ピンキー
07/01/21 00:58:43 moI4PwZE
>>618
うい。面白かった。
ゲーム場面も個性を出しながらそれでいて簡潔にまとめられてるし。
これでハルヒがありきたりなツンデレみたいにどもらなかったら最高だったんだが…

634:名無しさん@ピンキー
07/01/21 01:16:43 FBovTWsL
そういや、なんでハルヒはキョンをキョンと呼んでるんだっけ?
コンピ研からPC奪い取ったときからだよな。

635:名無しさん@ピンキー
07/01/21 01:45:24 b1SFPaBJ
なんでって、そりゃ、キョンはキョンであってキョン以外の何物でもないからだろう。

636:名無しさん@ピンキー
07/01/21 02:19:08 e4M5VW2v
時期を聞いてるんだったら、最初からだろう。
谷口や国木田がキョンキョン言ってるからな。
ハルヒの口からはじめて出たのは、確か古泉が転校してきたくらいだったとオモ

637:名無しさん@ピンキー
07/01/21 04:26:53 FBovTWsL
ハルヒ―「キョン」→キョン :PC強奪のためコンピ研部長を脅す際の2度目のシャッターチャンス
 キョンがまったく驚いてないところを見ると、かなり前から「キョン」呼ばわりだったらしい
みくる―「キョンくん」→キョン :上の翌日か翌々日のバニービラ配り事件の直後
 みくるが渾名を知っていた理由はともかく、キョンはそれほど驚いていないので、ハルヒは部室内でキョンキョン言っていたらしい
キョン―「ハルヒ」→ハルヒ :言わずと知れた初の閉鎖空間内で。現実ではその翌日
 記念すべき出来事だが、ハルヒはまったく驚いていないため、キョンは以前から「涼宮」と「ハルヒ」を使い分けていたのかもしれない
 または、ハルヒの力で「言わされた」のか

ここでふとネタが湧いた。

638:名無しさん@ピンキー
07/01/21 05:11:53 UAO/yTjs
>>637
期待

639:名無しさん@ピンキー
07/01/21 08:29:54 /71vjvc2
女の子を1stネームで呼ぶってことは好意があるってことだろ。
興味の無いやつには呼ばないからな。

640:16-674
07/01/21 12:01:53 ecO3siDS
ダイジェスト電波受信した。「涼宮ハルヒと憂鬱」


「力」に自覚のあるハルヒ。高校入学、自己紹介は至って普通。
閉鎖空間は意図的に封印。この辺は古泉曰く「常識的」な観点が働いたから自重している。
力の使い道に困り、常々退屈している。

校内にいる監視派遣員、つまり宇宙人と未来人と超能力者の存在にも気付いている。
キョン、朝倉と適度に仲良し。ふとした理由(原作と同じ「その髪型は宇宙人対策か?」)でハルヒと話す。
ハルヒは無能力なのに「こちら」を意図せず見抜いたキョンに興味を持つ。でも髪はばっさり切った。

近くにいる口実を作る為にSOS団を結成、メンバーを拉致。(古泉は展開の都合上最初から入学していた、で)
面子は原作と変わらず。お互い正体を明かし合う。他メンバーの望みは大よそ「現状維持及び事態の解明」となる。
協力を交換条件に団参加を要求するハルヒ。
実際問題、ハルヒが持つ絶対的な能力はそれらの条件を飲んだ上でも揺るがないほどに強固である。

キョンのみ様子を見るべく蚊帳の外状態。含んだところを持つ4人+鈍感1人の団が誕生。

休日、不思議探検と称したキョン観察一日目開始。午前朝比奈さん・古泉班、午後ハルヒ・長門班と行動するキョン。
好印象。しかし午前は古泉が、午後は長門が熱狂し暴走。鎮圧を計るため合流した午前組も巻き込みヒートアップ。

朝倉、急進派の思惑と、朝倉の個人的な興味もあって接触を図る。キョン、教室にやって来る。
なんとなく気に入らない4人により襲撃。ここで始めてキョンは4人(と朝倉)の正体を知る。
原作通りキョンを殺そうとした訳ではなかったので、(涼宮ハルヒ直々の)厳重注意でその場は静まった。

翌日。部室に行くと朝比奈さん(大)がいた。「私と仲良くしてください」何を言っているんだろうこの人は。

夜。良く分からないけどイライラしているハルヒが閉鎖空間解禁、キョンを拉致。ストレス発散に神人に追いかけられる。
古泉出現。助けてくれると思いきや彼もハルヒと同じ思惑の様子。事態は秒単位で悪化していく。
部室に逃げ込むキョン。PCを見ると長門と朝倉と朝比奈さんが喧嘩していた。迷わず電源を引き抜く。

まだ自分の気持ちに上手く整理がつかないハルヒ。好きなんかじゃない、興味があるだけ、でも構ってほしい。
やれやれと苦笑いしながらハルヒに仕方なくキスしてやるキョン。今日のところは、これで勘弁してくれ。
恥ずかしい上になんか悪い気がしないハルヒは逆上してキョンを閉鎖空間から叩き出す。そして、なんとか平和になった。

翌日。長門にキスをせがまれた。朝比奈さんにもせがまれた。朝倉はおろか古泉すら同様だ。
抵抗を試みるものの、次々に唇を奪われていく。最後に古泉のどアップが見えた辺りで、キョンの意識は途切れる。

ハルヒの怒鳴り声を聞きながら、次の不思議探検はサボろうと硬く誓うキョンであった。



基本的にシリアス少な目のギャグ調
ハルヒの能力が解明された時点で機関やら宇宙人やらが転覆を謀るとかそういうのは出来ないように。みんな仲良く
実際、憂鬱段階ではこの設定は面白くない気がする。退屈での映画撮影とかそういう時にこのネタは最大限活用される訳で
俺はダイジェストで力尽きたから後は書き逃げ。誰か拾ってくれたら嬉しいけど萌えないゴミもとい燃えないゴミかもしれない

641:有希っ子
07/01/21 13:04:25 zfQYpRvP
SS出来たので投下させていただきます
初投下なので不手際が有ったらすみません

642:有希っ子
07/01/21 13:07:36 zfQYpRvP
長すぎる行とかがあって書き込めなかったので
直してから書き込みます

出直してきます、、グスン

643:有希っ子
07/01/21 13:10:17 zfQYpRvP
  題名  ホワイトデー大作戦

やっぱり投下SSは読みやすくなくっちゃいかん。最近の流行してる『山場の描写→俺の説明回想→時間軸を今に戻そう』のコンボは原作だから面白いわけであって、んなもん投下されても読みにくいだけである。
その上、そのせいで俺に妄想癖があると思われるのはまったく迷惑な話である。
てことで説明から入る、今日は3月11日の日曜日だ。


朝、いつもの休日と同じく妹の襲来によって目を覚ました俺は、シャミセンを餌に妹を追っ払うことに成功した。普段なら朝飯のテーブル前まで強制連行されるのだが、昨日の昼から今日の夜にかけて親が親戚の所に出かけているため、朝飯が無いのが理由だろう。
2度寝という至上の快楽を久方ぶりに貪ろうと枕を抱えなおしたところで、何でだろうねまったく、こうもいいタイミングで携帯が鳴るとは。
どうせまたハルヒだろう、と思って相手を見ると意外なことにそれは古泉からの電話だった。
「どうもおはようございます、突然ですがお暇でしたら今日の昼にでも付き合っていただけませんか?少々相談したいことがありまして」
全力でお断りだ。何が悲しくて休日に男とデートせにゃならんのだ。それに昨日確かハルヒから聞かなかったか?俺はこの土日、両親が出かけるから妹の面倒を見るため家に居なきゃいかんことを。
「ええ存じ上げております。涼宮さんもあなたが居ないとつまらないらしく、昨日の不思議探索も昼過ぎには切り上げてしまいましたから。今日に至っては自由行動です」
だったらなんで電話してきたんだ?ちなみに俺は今安眠を妨害されて不機嫌まっさかりだぞ。
「それはそれは失礼しました、もう10時になるのでさすがに起きてらっしゃると思ったのですが。妹さんのことも分かってはいますが、今日を置いていい機会があるとは限りませんから」
「まあいい、で、用件はなんだ?妹のお守りを置いてまで休日にお前とデートせにゃならん理由があるのか?」
「僕のほうでも色々考えてはいるのですが、ここはやはり二人で協力した方がいいと思いまして。特に涼宮さんはあなたの出方に期待しているはずです。僕も個人的に興味があるところです。予め教えていただければ機関の方でも最大限サポートする手はずも整っていますので」
いったい何の話だ?相変わらずお前の話はさっぱりわからんぞ?
「とぼけてらっしゃるのですか?それとも本当に忘れているのですか?前回はもらう立場だったので忘れていても問題は無い、というより忘れていた方が良かったと思いますが、今回はさすがにまずいと思いますよ?」
だから何の話だ、はっきり言ってくれ、3行以内で頼む。
「では単刀直入に申しましょう。ホワイトデーはどうしますか?」
………俺がそれを完全に忘れていたことと、無理やり思い出さされてマリアナ海溝のどん底並みの気分に叩き落されたのはまさにneedless to sayってやつだ。



644:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:17:30 zfQYpRvP
「どうもこんにちは突然お呼び立てしてすみませんでした」
ああ、まったくだ。しかも海のそこに叩き落すおまけ付でな。もしかして機関とやらは人をコンクリで固めて海の底に沈めるのが得意なのか?
まったくすまなそうにしていない古泉のさわやかスマイルをじと目でにらみつつ俺は適当に返した。
古泉の話によると今日はSOS団全員がフリーということらしいので、俺と古泉は今やSOS団のアジトパート2と化している喫茶店に入った。軽く昼食を取りながらの相談というわけだ。
相手がSOS団専属メイド、麗しの朝比奈さんなら心躍りつつ回りからのチクチクささる視線を堪能するところだが、相手が古泉では俺の心も冬の寒空に放り出された動物園のワニのごとく、踊りだすどころか微動だにしないというものだ。
「さてどうしましょうか?バレンタインであれだけ大掛かりなことを涼宮さんにしてもらった以上、ただチョコを渡すというわけにはいきません。
先ほども申し上げた通り僕のほうでも作戦は練ってありますが、僕の場合ですとどうしてもミステリー的な展開になってしまいまして、孤島の時から3度目となると涼宮さんもそろそろ飽きが来るころでしょう。
それに涼宮さんはあなたからのサプライズを何よりも期待しています。ここはどうでしょう、あなたが何か涼宮さんを喜ばせるような作戦を立てていただいて、僕と機関がサポートするという形で出来ないでしょうか?」
「わかったわかった、そこまで言われんでもなんか奇人変人的な渡し方をせにゃならんということぐらい俺にだってわかってる。しかしだな、いったいどうすりゃハルヒが満足するかなんて俺に分かるわけ無いだろ?
バレンタインはチョコをもらえるかもらえないかで悶々とするからこそもらえた時の感動も一塩なわけで、最初からもらえると分かっている奴を驚かせるなんて至難の業だ」
「でしたら僭越ながら僕にいいアイディアがありますよ」
古泉はいつになく下世話なニヤケ顔を浮かべると、こんなことを言い出しやがった
「あなたが朝一番にこう言って渡せばいいんですよ『これが俺の本命だ、だから誰よりも早くお前に、二人っきりで渡したかった』とね。
そうすればその日一日どころかしばらくは涼宮さんの精神が安定すること間違いなし。チョコの面白い渡し方を考える必要も無く、僕がアルバイトに呼び出されることも無くなるでしょう。
まさに一石二鳥、いいアイディアだと思いませんか?」
「却下だ」
そんなことをしたら後々どんなひどい目にあうかは火を見るより明らかだ。大体なんで俺がそこまでせにゃならんのだ。たかがホワイトデーのために人生を棒に振る気は毛頭どころかカーボンナノチューブの先っぽほどもない。
「そうおっしゃると思っていましたよ。」
分かってるなら言うな。
「ではこの作戦を実行する必要が無くなる様にいい方法を考えておいてくださいね。最悪の場合僕の考えた方法で仕方ないですが、後々がもっと大変になると思いますので」
そう言って古泉は伝票を手に取った。いつもおごって頂いてますから、それに呼び出したのは僕の方ですしと言いながら2人分の料金をレジのお姉さんに渡している。
古泉にしては殊勝な心がけである。が、今の俺にはそんな古泉を感心してやる心の余裕などは無いわけであり。
まったくハルヒめ、ホワイトデーにここまで苦しめられるチョコを渡すとは、あれはもしや不幸の手紙ならぬ不幸のチョコか?などと下らん現実逃避を開始した。もらった時はうれしかったけどな。


645:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:18:38 zfQYpRvP
そうそういいアイディアなど思いつくはずも無く、ただだらだらと月曜の朝が来る。いつも通り殺人的な坂をいつになくどんよりした気分で登り、やっとのことで教室にたどり着くとハルヒが頬杖をつきながら外を見ている姿が目に入った。
珍しくツインテールだな、そういえば最近こいつはまた髪を伸ばしている。いつぞやの中途半端なポニーテールとは違い、ちゃんと頭の両側できれいにまとまっているツインテールである。そういえば先週の金曜もみょうちくりんな髪型だったなこいつ。
そうまるで宇宙人対策してた時のような………。
そこで俺はハッとなった。思い出して数えてみると金曜のハルヒの髪の結びは5つ、今は2つ、おそらく土曜は4で日曜は3だろう。そして明日は1つ、明後日は………ホワイトデーだ。
こいつ、カウントダウンしてやがる!俺は絶望の鍋のどん底から底が抜けてさらに落とされていく気分になった。いったいどうすりゃいいと言うのだ。ここまで意識しまくってる奴を驚かせるなんて俺が東大に現役合格する以上に不可能だ。
ドラゴン桜が満開になって天空に昇っても無理だ。出来るとしたらそれは反則的な方法しかない。ん?反則?そういえば別に反則しちゃいけないってことは無いな。そうか、ここまで意識してるってことは逆に………
俺は諸葛亮孔明ばりのアイディアを早速古泉に連絡した。


646:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:21:32 zfQYpRvP
そんなわけで(どんなわけだ?)3月13日、ホワイトデー前日だ。今日の下準備が明日の命運を分ける山場であることは間違いない。では作戦開始と行こう。

朝教室に入ると、予想通りポニーテールのハルヒが昨日と同じ体勢で外を眺めていた。俺はハルヒのポニーテールを軽く引っ張り、ハルヒの首をかっくんしつつ声を掛けた。普通だったらこんなこと絶対やらないがな。後で何されるか分からん。
「よ、ハルヒ、元気か?」
ホワイトデーが待ち遠しすぎてなのかは知らんが、ここ数日不機嫌オーラ大量生産中のハルヒは、生産した黒い霧をここぞとばかりに撒き散らし、椅子をガタリと鳴らせ立ち上がり真っ直ぐ俺を睨んできた。
「いきなり何すんのよ!SOS団の団長たるこの私の髪をいきなり引っ張るって言うのはどういうこと?理由いかんによっては死刑よ、死刑!いやそんなの生易しいわ、貼り付け獄門の刑よ!!何ニヤニヤしてるのよ。私は本気で言ってるんだから……」
普段ならハルヒに怒鳴られたらやれやれといった感じで目を逸らすはずの俺が、満面の笑みをハルヒに向けていることに驚いたのだろう。語尾が小さいぞハルヒよ。
「ああ、すまんすまん、まあそう怒るな。それよりこれを見ろ」
そう言ってポケットから取り出した紙切れをハルヒに手渡した。
「何よこれ、宝くじじゃない。1等でも当たったの?」
お前じゃ有るまいし、1等なんか当たるかボケ。てか、これも当たった訳じゃないんだけどな。
「いや1等はさすがに無いが、7等で10万のギフトカードだ。ふふふ、いいだろ?これも普段の行いだな。うらやましいか、んん?昼飯ぐらいならおごってやるぞハルヒ」
するとハルヒはさっきまでの不機嫌オーラはどこ吹く風に乗せてぶっ飛ばし、爛々と輝く瞳でこう言った。
「そうだわ、これ使ってSOS団でパーティー開きましょう」
昼飯はおごってやるとは言ったが全部やるとは言ってないぞ?お前人の話聞いてんのか?てか、いつも通り都合のいいことしか聞こえてないんだろうな、まったく。
「そうね、「春休み不思議発見祈願大感謝祭」ってのはどう?10万円もあればどこかの高級レストランでおいしいものがいっぱい食べれるに違いないわ」
前言撤回、10万ってとこはしっかり聞こえていたらしい。にしても何に感謝するんだか………。いや突っ込みどころはそこじゃないな、こいつの中では宝くじはすでに自分のものらしい。どこのジャイアンだ、お前は。
でも、まあ想定内だ。負け惜しみじゃないぞ?どっかの誰かと違って。
「善は急げよ!今日の放課後SOS団みんなで出かけましょう。楽しみねー」
ちょっと待て、それは俺のだ、お前は強盗か?
ギフトカード奪還のために必死に食い下がる俺に、『SOS団は一心同体』だの、『普段お世話になっている団長にささげるのは当然』だの、ハルヒがやたら理不尽な理由を並べまくっている間に担任の岡田が入ってきた。
まったく、これが本当に自分で当てたのだったら泣いてるぞ俺。もし宝くじが当たっても絶対ハルヒに言うのはやめよう。


647:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:23:08 zfQYpRvP
そして放課後。ハルヒは俺のネクタイ引っつかんで文芸部室に直行すると、長門が先に居た。お前授業はどうした?ハルヒと俺は6限終わって即来たぞ。
「出ている。授業終了後にここに来た。特に問題は無い」
まあ、長門なら今さらこの程度の不思議はへっちゃらさ。我ながら成長したもんだ。
「後は古泉くんとみくるちゃんね、早く来ないかしら」
程なく古泉が現れ、15分ほどしてから朝比奈さんがいらっしゃった。
「おくれてごめんなさぁい、来年の授業の選択についての説明があtt」
「遅いわよ、みくるちゃん!」
そういえば3年生は文系と理系に分かれるからどれを取るか決めないといけないんだっけな。などど考えていると横からハルヒが叫んだ。
「ふぇっ、あ、あの、ごめんなs」
 急に叫ばれてビクビクッと文芸部の扉に隠れる朝比奈さん。扉からちらちらと顔をのぞかせる姿は小動物のようで、思わずギューとしたくなるね。
「私はこの十分を十分千秋の思いで待ったのよ!でもいいわ、今の私の心は太平洋より寛大だから許してあげる。それより本題に入りましょう」
「あ、ありがとうございますぅ」
心が広いならいきなり怒鳴りつけるな。てゆうか朝比奈さん、そんなに有り難がらなくてもいいですよ、あなたに否は1フェムトたりともありませんから。
そしてハルヒは、えーと春のなんとか祭り、めんどくさいから感謝祭でいいや、感謝祭の開催を高らかに発表したのだった。


648:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:24:26 zfQYpRvP
さて一言で感謝祭って言っても何をするかまったく決まってないので、何をするについて現在話し合いだ。しかしあいにく俺には先約が有る。古泉もな。
「なるほど分かりました、ただ実を申しますと夕方に先約がありまして、そうですね、8時ぐらいには終わると思いますので、感謝祭でしたらその後にしていただけないでしょうか?」
「古泉くん先約って誰と?どんなこと?SOS団春休み不思議発見祈願大感謝祭よりも大切なことなの?」
俺に問い詰める時は『SOS団の活動より大切なものあるわけ無いじゃない』みたいな勢のくせに古泉の時は普通に不思議そうにしてやがる。ハルヒめ。
「古泉は俺と一緒にちょいと野暮用があるんだよ」
答えにくそうにしている古泉に代わって俺が答えてやる。
「キョン君と古泉君でお出かけですか?何かお買い物にでも行くんですか?」
「二人してなによ、せっかくの感謝祭なのにいったいどんな用事があr………うん、まあいいわ、んじゃあ9時くらいから始めましょう。それなら平気よね古泉くん?」
「はい大丈夫です、どうもありがとうございます。」
俺には聞かないんだな。にしてもまあハルヒも気づいたか、俺たち二人がそろって用事の理由なんてあれしかないからな。まあホントはすでに買ってあるが。
朝比奈さんはまったく気づいてないみたいだ。ほら、あごに人差し指を添えながら斜め上を向いてらっしゃる。空中に?マークが浮かんで見えるね。
「じゃあパーティーはどうしましょうか?どこかおいしい所にみんなで食べに行こうと思ってたんだけど、9時からじゃあディナーって訳にもいかないわね」
「それでしたら六本木ヒルズのホテルに泊まってみるのはいかがでしょう?」
「え、え、古泉くんそれどういうこと?」
あわてて赤くなりながらハルヒが聞いている。いったい何を想像したんだ?ちょっとかわいかったのはまた別の話だ。
「ホテルの1室を借りて皆で遊ぶのですよ。言ってみれば友達の家に泊まりに行くようなものです。夜景を見ながらのんびり春休みの計画を練るというのも乙なものでは無いでしょうか?
高いところからなら不思議も見つかるかも知れないですし、普段お世話になっている涼宮さんに感謝の意を込めて優雅に過ごしていただくという意味でも、SOS団春休み不思議発見祈願大感謝祭に相応しいのではないでしょうか?」
なるほど、ホテルに泊り込むとは言っていたが、なかなかどうして役者だな古泉。ハルヒの適当につけたパーティー名にうまい具合に結び付けやがった。
「すばらしいアイディアだわ古泉くん!さすがはSOS団副団長ね。それで行きましょう。きっとすごく楽しいに違いないわ!!!」
「ありがとうございます、では部屋の手配などは言い出した僕がやりますね。以前田丸さんのお手伝いで手配したことがありますので。
部屋が取れましたら携帯の方まで追って連絡ということで。涼宮さん、それに長門さんと朝比奈さんはお菓子や飲み物の手配をお願いしてよろしいでしょうか?」
「わかったわ古泉くん。ばっちりまかせといて!究極のお菓子をチョイスしてあげるわ、キョン覚悟はいい?」
「いったい何の覚悟だよ。ところで古泉、予算の方は大丈夫なのか?俺の哀れな宝くじは10万円に化けるので精一杯だぞ」
「大丈夫ですよ、スイート以外でしたら予算内です。それよりもマナー、特に服装が問題かもしれません。なにぶん大人社会に混じるわけですからね。
僕たち男性は無難にスーツで大丈夫ですが、女性の方が何を着るべきなのかは分かりかねます。森さんにでもアドバイスを頂けるといいのですが」
「えーっと、メイドさんの服とかじゃ駄目ですよね?どんな服がいいのかなぁ」
朝比奈さんならどんな服でも問題無しですよ。俺が保障します。
「じゃあせっかくだし今から3人で買いに行きましょう!古泉くん森さんの携帯教えて!
大人の服選びの極意を聞き出して、ばっちり決めていくわ。でもそうなるとあんまり時間無いわね。なんてったって3人分選ばなくっちゃいけないし。じゃあ今日はここで一旦解散。また9時にえーっと」
「地下鉄六本木駅の改札でどうでしょう?」
「うん、じゃあ六本木に集合。よし、有希、みくるちゃん急いで買いに行くわよ!」



649:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:25:27 zfQYpRvP
「正直ここまでうまく行くとは思いませんでしたね。いやはやあなたの読みは完璧です。涼宮さんの行動をここまで的確に予想しコントロール出来るのは世界中探してもあなただけですよ」
古泉が褒めてんだか貶してんだか分からんことをほざいている。
「褒めているのですよ。いやはや機関の一員として喉から手が出るほどの才能です。いっそ機関に体験入会でもされてみてはいかがですか?」
「遠慮しとく」
俺と古泉はヒルズのホテルの一室で作戦の最終調整中だ。当初の予定では森さんから衣装を借りてくる予定だったがハルヒが買いに行くと言い出したので、別に止めることもあるまい、その通りにさせた。
パーティー開始が早すぎると不味いが、遅くなる分には問題ないしな。実際ハルヒの服選びのセンスはなかなかのもので、それはSOS団の日々の活動で証明済みだ。
もっとも朝比奈さんなら何を着てもベストドレッサー賞を取ってしまうほど似合ってしまうからだという説も有力だが。
女性陣が衣装を借りるのではなく買いに行くことになった代わりといっちゃ何だが、買出しは男性陣の担当となり俺と古泉はしこたまスナック菓子とジュース類を買い込んだ。
ハルヒの関心はすっかり服選びに向かったらしく、電話でそのこと伝えると『んじゃよろしくー』と言ってさっさと切ってしまった。
「ここまで来ればもう大丈夫ですね、きっと上手くいきますよ。あとは僕たちも存分に楽しみましょう。せっかくのパーティーですからね」
「一つ聞きたいんだがこの部屋はホントに10万以内なのか?」
 なんとなく気になったので聞いてみる。部屋は広かったし、23階ということで景色もかなり遠くまで見渡せる。これで10万なら意外に安いものだ。
「いえ。この部屋はグランドスイートですので20万ほどです。でもまあ夏のセッティングに比べれば安いものですよ。クルーザーや館の建設などで数億ほど掛かりましたから」
「ああ、そうだな」
ハルヒを退屈させないためだけに見たことも無いような大金が動くわけか。まさに無駄遣いだな。
「ところで涼宮さんたちが来るまで暇つぶしにどうですか?」
古泉はそういってマグネット式のチェスを取り出した。
そんなやり取りをしている間に時間は9時40分、ようやくハルヒ達のお出ましだ。


650:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:27:26 zfQYpRvP
「さあ思いっきり遊ぶわよ!」
まるで部室に入るかのように部屋にずかずか入ってきて、第一声がこれだ。大分待たされたわけだが、遅れてごめんなさいの一言もいえんのか?
「遅刻!罰金!」
と言おうとしてドアの方に目をやったが、俺の口からは何も出て行かなかった。なんというかあれだ、そうそう言葉をなくしたって奴だ。
当然だろ?SOS団自慢の女性陣がそれぞれ趣向の違った煌びやかなドレスを身にまとってるんだぜ?お釈迦様でも見とれるね、これは。

学校では頭の後ろの高い位置でポニーになっていたハルヒの髪は、今では少し低めの位置で一つにまとめられている。左耳の少し上にひまわりの飾り、耳には白い星のイヤリング、首にはこれまた白い十字架のネックレスをつけていた。
肩から胸の上までの部分が大きく開いている鮮やかな赤いドレス。右脇から左腰に向かって流れる、白い川のような模様がドレスの赤をいっそう際立てる。
腰には帯のようなものが巻かれているためスレンダーなハルヒの体型がよりいっそう強調され、いまさらながら『こいつこんな細かったんだ、いったいどこからあのバカ力が出てくるんだ』などど思った。
腰から下は真下にすらりと伸びるカーテンのようになっていて、裾からは深紅の靴のつま先が煮え隠れしている。おそらくハイヒールなのだろう、ドレスで腰の位置を高く見せているのもあってか、まるで外人のモデルのようなプロポーションだ。
化粧はしていないみたいだが、かえってハルヒらしい健康的な魅力が最大限生かされていた。

朝比奈さんは髪を後頭部でなにやら複雑な形にまとめていて、後ろから見たら花が咲いているように見えるだろう。
きらきら光るアイシャドウは、色白な朝比奈さんの肌とのコントラストがよく出ていて情熱的な紅の口紅とともに、なにやら大人の魅力をかもし出している。青い星のペンダント、薄い黄色のネックレス、どうやらハルヒと色違いみたいだ。
だがドレスはうって変わって黒基調。タートルネックのように首まですっぽり隠れているが、その代わりといわんばかりにノースリーブで、左胸の下からおへその辺りにかけていくつもの流れ星が流れているというデザインだ。
腰には金色のチェーンのベルト、朝比奈さん(大)がいつも着ているみたいなミニスカート。ひじから先は白いウォーマーを身に着けていた。赤い唇、服の黒、白い肌。普段のあのかわいい上級生の姿からは想像だにできないほど妖美な魅力満載である。

さあ最後は長門だ。長門のドレスはうすい紫で、ところどころに薄いピンクの紫陽花が咲いているというデザイン。形はワンピースに近いが、ワンピースほどゆったりとしておらず長門の細い線がくっきりと浮き上がっていた。
普段は正面から耳を隠しているもみ上げ部分は細い白の糸でぐるぐる巻きに束ねられ、あらわになった耳にはピンク色の星のイヤリング、首にもピンクの十字架のネックレスが掛かっている。
長門の透き通るように白いほほにはうすくベニが広げられており、まるで上気して顔を赤らめているようだ。
唇には光を反射してきらきら光る口紅が塗られていたが、塗られているのは唇の3分の1以下、ほんの申し訳程度の面積で、今にも口をつぐんでしまいそうな長門をよく表現していた。
触れたら折れてしまいそうなほど細い腰、幻想的な薄紫のドレス、病的な白い肌と、上気したほほ、消え入りそうな唇。今すぐ長門をやさしく抱きしめたくなった俺を責められる奴なんか居ないさ。

3人をたとえるなら、そうだな、ハルヒが春の高原に咲くひまわり、朝比奈さんが夜の闇に咲く薔薇、長門が立ちこめる霧の中に浮かぶコスモスって感じだ。うん、我ながらぴったりの例えだ。みんなにも見せてやりたいが、絵心の乏しい俺には無理な話だ。

「何鼻の下伸ばしてんのよバカキョン」
うるさい、余計なお世話だ。
「うふ、キョン君のエッチ」
 朝比奈さんのそんなお姿を見たら誰でもこうなると思いますが。
「まあいいわ、とりあえず乾杯しましょ、みんなジュース持った?あ、待って。せっかくだからそこのグラス使いましょう。そっちのほうが雰囲気出るわ」
 まあどう見てもワインかシャンパンを注ぐために用意されただろうグラスに、果汁100%オレンジジュースをつぐ。
「みんないい?じゃあSOS団の未来を祝って、かんぱーーい!」


651:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:28:45 zfQYpRvP
それはまあ普通に楽しかった。
孫にも衣装とはよく言ったものだね、ハルヒもいつもよりずっと大人っぽくて綺麗だったし、朝比奈さんはもしかして朝比奈さん(大)と入れ替わったのかと錯覚するほど色っぽかったし、長門は謎めいた雰囲気が紫のドレスとあいまって宇宙人オーラ5割り増しだ。
ひとしきり遊んで俺が3人の姿を網膜にくっきり焼き付けた頃に、順番にシャワーを浴びようということになり、女性陣から一人ずつ浴びにいった。
風呂上りで寝巻きになった3人はさっきまでと違い年相応の顔で、ほんのりほてった顔とほかほか頭から昇る湯気のアクセントによって健康的なエネルギーを体いっぱいに広げていた。
ドレスも良かったけどやっぱりこっちの方が落ち着くのは、まだ俺がガキだからか?。
ちなみに一番最後にシャワーを浴びることになった俺を、ハルヒをはじめ朝比奈さん、よりによって長門までが覗きに来たのはなんなんだろうね。とめろよ!古泉!!!

そんなこんなで時間は過ぎ、今は、ふむ11時50分。そろそろだ、『用意は良いか?』俺は古泉に目配せする。『はい大丈夫です』よし抜かりは無いみたいだな。

ボーンボーンボーン、ぴよっ、ぴよっ、ぴよっ。

備えつきの振り子時計がひよこを吐き出しつつ12時の時を告げる。
「あらもうこんなじk」
「「ハッピーホワイトデイ!」」
ハルヒの呟きをさえぎって、俺と古泉の声がきれいにハモった。

そうこれが俺の反則的作戦だ。


652:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:29:37 zfQYpRvP
ふあぁぁぁーーーーーーぁ
忌々しい坂道を登りながら俺は特大のあくびをした。そりゃそうだ、なんだかんだで2時過ぎまでしゃべってた挙句、着替え、鞄などを取りに全員ほぼ始発で家に帰ったからな。
2,3時間しか寝る時間はなかったし、あの3人がそばに居るのにすやすや眠れるほど俺は聖人君主じゃない。おかげでほとんど徹夜だ、眠くないわけが無い。
ホテルから出る辺りまではナチュラルハイってやつで元気だったが、家に着く頃にはぐったりモード、学校に着いたら泥のように眠るだろうことは疑う余地は無い。
それにしてもハルヒの顔は見ものだったな。俺と古泉のホワイトデーチョコを受け取った時、ハルヒは目を見開き口は半笑い、顔は真っ赤で眉を吊り上げるという、なんだかいろいろごちゃまぜな表情をした。まったく器用なもんだ。
「僕ら二人で皆さんを驚かせようと思って作戦を練りました。発案は彼ですけどね。僕は部屋や食べ物の手配などを担当しました」
 古泉が作戦の裏話などをちらほら話しているうちに、複雑ハルヒは徐々に笑顔満開ハルヒに変身し俺は作戦成功を確信していった。それ以降、朝に始発で帰るまでハルヒは終始ご機嫌花盛りだった。
だが授業が始まる頃には、眠さ核爆発なのはハルヒも同じようで、谷口の話によると俺もハルヒも昼になるまでピクリともせず仲良くお休みになっていたらしい。
『二人して昨日は何やってたんだ?』なんていう谷口のニヤケ顔を適当にあしらいつつ昼を過ごし、5,6限もバッチリ睡眠学習した。


653:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:32:48 zfQYpRvP
放課後になり、とりあえず部室に向かう。まぁどうせハルヒのことだから『今日は眠いから解散』てな感じで自分勝手に決めてしまうんだろうが、俺には大事な用事がまだ残ってるんでね。
「今日は眠いから解散。てゆうか徹夜なんてするもんじゃないわね。授業中ずっと寝てたから睡眠時間は十分なはずだけど全然寝足りないわ。キョンも試験前に徹夜とかしちゃだめよ。次の日一日無駄になるからまさに無駄よ」
まあ試験勉強で徹夜など試みたところで、何時の間にやらベッドですやすや眠っていたという記憶は多々あるが、団長様様たってのご忠告とあれば以後気をつけなければなるまい。
「んじゃみんなまた明日ね」
それで解散となった。
さあ、ここからが本当の戦いだ。俺は携帯を取り出し今別れたばかりの○○に電話をかけた。



さて分起点だ
『ハルヒ萌え』な人は>>653
『朝比奈さん大好き』な人は>>654
『長門かわいいよ長門』な人は>>655
アンカーミスってたらすまん



654:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:35:22 zfQYpRvP
思いっきりアンカーミスった、ちなみにこれはハルヒバージョンだ、是非お気に入りキャラの結末から見てくれ

「ハルヒか?」
「んー、何?キョン、私今すごく眠いわ」
「ああ、すまん。俺も眠いんだが、ちょいとお前に用が有ってな。今から教室で話せないか?」
「うーん、明日にしない?今話を聞いてもきっと忘れるちゃうわよ」
「あー、できるだけ急ぎたいんだ(てか今日じゃないと駄目なんだけどな)だから頼む」
「もう、仕方ないわね、じゃあ今から行くけど高くつくわよ?なにせ団長様を呼び出すんだから。すごく眠りたがってるのにもかかわらず」
「わかったわかった。じゃあ教室で」


ガラガラガラ
教室の扉を開け、ハルヒが入ってくる。俺がいつもの席に座っているのを見つけると、ハルヒはスタスタと歩いてきて俺の後ろの自分の席に座り、いきなり机に突っ伏した。
「で、話ってなんなわけ?」
 今日の授業中に爆睡していた時と同じ体勢でだるそうに聞いてくる。
「話というより渡したいものがあるんだ」
そう言って俺は水玉模様の包装紙に包まれた、ペンケースほどの箱でハルヒの頭を軽くノックした。
「なによ、まったく」
めんどくさそうに顔を上げたハルヒに面と向かって俺は言った。
「ホワイトデーのプレゼントだ」
「へ?」
顔中に?マークを貼っ付けながらポカンと口を開けているハルヒに続けて言ってやる。
「今日が何日か忘れたのか?ホワイトデーだよホワイトデー。バレンタインチョコ貰ったからにはちゃんと返さなきゃな」
「え、でも朝にくれたんじゃ………」
「は?何言ってるんだ?俺がホワイトデーのプレゼントを渡すのは今日は今が最初だぞ?ついでに言うと最後だ」
「キョンの方こそ、何言ってるの?今朝チョコくれたじゃない、SOS団パーティーで、古泉くんと一緒に、有希やみくるちゃんにも………」
 呆けたままのハルヒに、俺はまるで古泉のごとくわざとらしく
「あー、それは昨日だ。まあ昨日の23時55分だったからお前も勘違いしたんだな、きっと」
我ながら意地が悪い笑いを浮かべていたことだろう。古泉を超えたね、間違いない。
事態を飲み込み始めたハルヒは徐々に表情を変えていく。昨日と違って眠いため頭が回ってないのか、いつもならコロコロ変わるこいつの顔も今はゆっくりお着替え中だ。
ふむ、驚いた顔からうれしそうな笑顔に、次にはっとなって顔中どころか耳まで赤くしつつ眉毛を吊り上げる。なるほど、昨日はこうして怪しげな顔を作ったわけね。昨日よりゆでダコ度は遥かに上がってるけどな。
「お前だけにプレゼントしたのがそんなにうれしかったか?」
「ななな、何言ってるのよバカキョン。私はSOS団の団長なのよ?特別なのは当然じゃない!べ、別にうれしくなんか無いわよ。だって当然なんだから!!!」
「耳まで真っ赤だぞ、ゆでダコハルヒ」
「うるさい!うるさいうるさいうるさーーーい!!団長に向かってタコとは何よタコとは!キョン、あんたなんか死刑よ、死刑!いやそんなの生易しいわ、貼り付け獄門の刑よ!
いやいやそれでも全然なまっちょろいわ、あなたにはもっとふさわしい地獄の罰を与えてあげる。明日までにバッチリ考えてきてあげるんだから、キョン、覚悟しなさい!」
「わかったわかった」
「なによ、ふんっだ」
ひとしきり叫ぶとハルヒはドスドスと教室から出て行ってしまった。もちろん俺のプレゼントはしっかり持って。まったく、人に物をもらったら『ありがとう』って言うように親にしつけられなかったのかね。
でもまあ、あの茹で上がりっぷりを見れば言葉は要らないってやつかもな。


次の朝、俺が教室のドアを開けると、ハルヒが頬杖をつきながらぼーっと外を眺めていた。髪はポニーテール。それを結ぶのはいつもの黄色いリボンとは違う鮮やかな赤いリボン。
 ふふ、思った通りハルヒに赤いリボンは良く似合う。
 自分の席に着いて振り向きつつ
「ハルヒ」
「なに?」
窓の外から視線を外さないハルヒに、俺は言ってやった。
「似合ってるぞ」


Fin


655:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:37:45 zfQYpRvP
これは朝比奈さんバージョンだ、是非お気に入りキャラの結末から見てくれ


「もしもし朝比奈さんですか?」
「はい、そうです。キョン君どうかしましたか?」
「あの、実はですね、少しお話したいことがあるんですけど今から会って話せますか?」
「えーっと、大丈夫ですけど、どんな話ですか?涼宮さんがらみですか?」
「いえ、この件に関してはハルヒは無関係です」
「はあ、そうなんですか」
「そうなんです」
「じゃあ、どんな話なんでしょう?」
「あー、その、つまりですね、いや、会ってから話しますよ」
「そうですか、私今部室で着替えてる途中なんで、そのまま部室で待ってますね」
「あ、はい。どうもすみません」
「いえ、キョン君にはいつもお世話になってますから。じゃあまた後で」


 コンコン
俺は部室のドアをノックする。今、もし万が一にも朝比奈さんの着替えシーンに遭遇してしまったら、気まずすぎて後の話が続かなくなるじゃないか。
「はーい」
 朝比奈さんの声をしっかり確認してから俺はガラガラと扉を開けた。うむ、ちゃんと制服に着替え終わっている。
「突然呼び出しちゃってすいません」
「いえー、ところでお話って何でしょう?あ、その前にお茶でもいかがですか?」
そう言って朝比奈さんはお茶を入れてくれる。



656:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:39:38 zfQYpRvP
ずずーー
 朝比奈さんはお茶を入れ終えるといつものポジション、つまり俺の向かいの席に腰掛けた。お茶を半分ほど飲んで一息ついたころ、俺は単刀直入に切り出した。
いや、まあ、じらして朝比奈さんの反応を見ても良かったんだが、このお方は永久に気づかない恐れもあるからな。
「実は朝比奈さんだけにはチョコじゃないプレゼントを渡したかったんです」
 ゴルフボールがギリギリ入るか入らないかぐらいの箱を机に差し出す。水色のリボンつきの小箱に目が釘付けの朝比奈さんは少し赤くなりながら
「え、キョン君、それって、あの」
「いわゆる本命ってやつですよ。朝比奈さんにはチョコだけじゃなくこれも受け取って欲しいんです」
「え、キョン君、そんな、前に言ったでしょ?私はいつか未来に帰らなきゃいけないって。それにこんなこと涼宮さんが知ったら、また」
「朝比奈さん」
「は、はい」
 俺は椅子から立ち上がり、ぐるっとまわって朝比奈さんの隣に腰掛ける。
「未来に帰るのはいつですか?」
「え、そ、それは私も知らされて………。でも、もし知っていてもきっと禁則事項だと………」
 オロオロと目を泳がせながら答える朝比奈さん。うーんかわいい。でも今はそんな朝比奈さんをほほえましく見ている余裕なんてない。こっちも真剣でいっぱいいっぱいだからな。
「未来なんていい加減なもんです、人が何時離れ離れになるかなんて誰にも分からない。もしかしたら明日にでも事故で離れ離れになってしまうかもしれない。でも分からないからこそ一瞬一瞬を大切にしてすごしていくんだと思います。
朝比奈さんがいつか未来に帰らないといけないのは俺にもわかってます。でもそれだけの理由で自分の気持ちを殺す理由になるんですか?朝比奈さんはそれでいいんですか?」
「わ、わたしは、でも」
 次第にうつむき加減になっていく朝比奈さんの顔はもう見えない。が、声が震えている、きっとすごく迷っているんだろう。
「俺のやっていることはもしかしたら世界を破滅に追いやる行為なのかもしれません。でもかまわない。どんなことになろうとも、たとえハルヒと争うことになったとしてもかまわない。朝比奈さんが未来に帰ることになってもかまうもんか。
どんなことをしても朝比奈さんを見付け会いに行きます」
「キョン君………、お願い、やめて」
朝比奈さんのスカートに涙の粒がぽつぽつと落ちていく。
 俺は朝比奈さんの頭を優しく胸に抱きかかえる。ひっとびくついた朝比奈さんは最初少し抵抗したが、すぐに肩の力を抜いて俺のワイシャツをぬらしだした。
「朝比奈さんが任務でこの時代に来ていたとしても、そうだとしてもそれ以前に朝比奈さんは一人の人間なんですよ?自分の心を持つ女の子なんです」
「ダメ、もうやめて」
「朝比奈さん」
「ダメ、ダメ」
「大好きです」
「ダメ、うう、ひっく、うぇぇぇ、ダm、うっく、えぅぅ、ダメ」
 朝比奈さんは声を上げて泣き出した。
「ダメキョン君、キョン君、私だってキョン君のこと、ひっく、ダメぅぅ、でも、でも私は、うぅ、未来に、ふえぇぇぇ」
 ダメ、ダメ、ダメ。泣きながら力なくつぶやく朝比奈さんの頭を撫でながら、俺はプレゼントの小箱を開ける。
「朝比奈さん」
やさしく呼びかけて、顎に手を添える。ゆっくり朝比奈さんの顔を自分の方に向けると朝比奈さんの目はウサギよりも真っ赤で湧き水のように涙が溢れ出していた。
「運命が二人を分かつまで」
 彼女の左手をそっと手に取る。
「あなたを愛することを神に誓います」
 そっと薬指にはめる。


Fin


657:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:40:47 zfQYpRvP
これは長門バージョンだ、間違えた人は是非お気に入りのキャラの結末を先に見て欲しい
ちなみに消失長門が出るから、萌え死に注意してくれ


「あー長門か?」
「………」
うん、長門だ。
「ちょっと話があるんだが今から暇か?」
「特に急を要する指令は出ていない」
「じゃあお前のマンションの近くの公園のいつものベンチで話せるか?」
「話せる」
「じゃあ俺一度家に帰るから、そうだな、30分後にベンチで大丈夫か?」
「了解した」
「じゃあまた後でな」
「………待って」
俺が電話を切ろうとした瞬間、めずらしく長門が戸惑うような声で言ってきた。
「ん、どうした?なにか用事でもあったか?」
「………現在の気温は5℃、今日はこれからさらに冷え込むと考えられる。あなたは昨日寝不足で体力および免疫能力が低下している。外に長時間居るのは危険。だから………」
「だから?」
しばらくの沈黙のあと、長門は呟いた。
「話なら私の家ですることを強く推奨する。」



ずずずずず
相変わらず殺風景な部屋で俺は長門に出されたお茶を飲んでいる。
コクコクコク
長門も飲んでいるようだ。どうでもいいがその飲み方だと熱くないのか?
「問題ない」
そうか、まあ長門だしな。ところでカーテンとかは買わないのか?あった方が良いと思うぞ?
「………そう」
いつまでもコタツだけじゃさびしいだろ。
「………」
本棚とかは無いのか?
「………」すっと寝室の方を指差す。
そうか本棚はあるのか。
…………………………………………
いや、確かに俺は長門の無表情鑑定に関しては誰よりも自信があるし、普段部室とかで長門と2人っきりっていうのも慣れっこだ。しかしだな、この状況で落ち着いていられるわけがない。あーもう、どうやって切り出そうか。そうだ!これなら自然に、


658:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:41:26 zfQYpRvP
「昨日は楽しかったか?」
「………」コクッ、5ミリほどうなずく。そうか5ミリか、長門的には相当楽しかったみたいだな。
「そうか、それは良かった。チョコはもう空けたか?」
「まだ未開封」
「それならちょうど良い、チョコ返してくれないか?あれはなんと言うか、間違いなんだ。」
「!!!」
長門が少し驚いたように顔を上げ、うらめしそうに俺を見つめた。
「……………そう」
悲しそうにうつむくと、俺に聞こえるかどうかの声で呟く。
そんな顔をされるとなんだか心が痛むんだが………。チョコもらったのがそんなにうれしかったのか?だとしたら光栄だな、長門に喜んでもらえるなら俺の苦労も報われるってもんだ。
「代わりにこれを受け取って欲しいんだ」
そう言いながら俺は表にこう書かれた袋をコタツの上に差し出した。

『Happy White Day』

うつむいていた長門は目だけを俺の差し出した袋に向け、一度さらに深くうつむいた後にゆっくり顔を上げた。事態が飲み込めていないといった不安そうに迷う瞳でこちらを見つめている。
「長門にはいつも世話になってるからな。チョコじゃなくてもっと形に残るものをプレゼントしたかったんだ。迷惑だったか?」
「………」
長い沈黙。長門の表情はただでさえ分かりにくいのに、うれしいのか驚いたのか恥ずかしいのかなにやら複雑なものが入り混じっているようで、実際何を思ってるんだろうね、まったく分からなかった。
沈黙に飽きたのか、長門は小さく、しかしハッキリとこう言った。
「ありがとう」
去年のクリスマス前、世界が改変された時の長門のように、小さく微笑んだように見えたのは俺の目の錯覚だったのだろうか?長門のみぞ知るって奴だな。



659:ホワイトデー大作戦
07/01/21 13:42:30 zfQYpRvP
俺がプレゼントしたスカーフを早速装備した長門は、現在台所でお片づけ中だ。長門が何をもらったら喜ぶか、全然見当がつかなかったが、有希にちなんで雪の結晶の幾何学模様が描かれたスカーフをどうやら気に入ってくれたみたいだ。
鼻歌でも聞こえてきそうな勢いだね。
さっきの長門の微笑み(?)をなんと無しに頭の中で遊ばせていると、ふとある疑問が浮かび上がってきた。俺は台所に向かって声をかけてみる。
「なあ、長門」
「なに?」
台所から声が返ってくる。
「あの世界、クリスマス前にお前が作り出した世界が長門の願望だったとして、だとしてだ、お前の中にあいつ、つまりもう一人の長門は、その、今でも居るのか?」
「………」
カチャリ
お茶を置いた音がした後、音も無く長門は台所からリビングへと戻ってくる。うつむき今にも泣き出しそうな顔で。『めがねをかけた長門』が。
「ずっと………、聞きたかったことがあるの」
「な、なんだ?」
ぶっきらぼうに答えた俺は内心ひどく動揺していた。何気なく聞いた質問からこんな展開になるとはまさに藪蛇だ。目の前に居るのはどうやら消失長門だ。俺の質問の答えはばっちり分かったが、その代わりにとんでもない事態になるとは。
「あなたは向こうの世界ではなくこの世界を選んだ。あなたのそばに私じゃなくて涼宮さんが居る日常を。私は選んでもらえなかった。私は、どうして………、あなたを、………私じゃ………」
最後は声にならなかった。
「長門」
俺は優しく語り掛ける。さっきの動揺なんてもう忘れたね。なんだ長門の聞きたかったことはそんなことか。だったら何も迷うことは無い。なにせ俺があの時思っていたことをそのまま言えばいいんだからな。
俺はリビングの入り口に立っている長門にゆっくりと近づき、今にも消え入りそうな長門の髪を、くしゃくしゃっとなでてやった。
「心配するな長門。俺はお前に全幅の信頼を寄せてるんだぜ?確かにあの世界の長門もそれはそれでかわいかったさ。でもな長門、俺はお前に、めがねっ子の長門じゃなくて宇宙人の長門に、あんなふうに笑えるようになって欲しいんだ。
おまえ自身では気づいてないかもしれないが、この1年で俺もお前も変わった。そう、ちゃんと成長してるんだ。そしてあの世界を作ったお前なら、いつかきっと自然に笑えるようになると信じてる。
だからこそ俺は迷い無くこっちに戻ってきたんだ。別にお前を選ばなかった訳じゃない。何も心配する必要なんて無いぜ長門」
 俺に頭をなでられながらうつむいていた長門は、ゆっくりと俺の顔に涙のたまった瞳を向けてくる。
「……………そう」
つぶやいた長門は、今度こそ俺の見間違いじゃない、小さく、でもとても幸せそうに微笑んだ。


Fin


660:有希っ子
07/01/21 13:44:42 zfQYpRvP
以上です
エロ展開は書く気は無いので
続くことは無いと思います

661:名無しさん@ピンキー
07/01/21 13:50:28 PH+1wxPB
・田丸
・孫にも衣装
はまだ許せても
・岡田
は可哀想だろ。ちょっと。
あと、長門の部屋には「陰謀」の段階で
カーテンが追加されている描写がある。

662:名無しさん@ピンキー
07/01/21 14:46:01 Sf7d4f7M
あーなんだ、それだその……とりあえずお疲れ。

663:名無しさん@ピンキー
07/01/21 14:54:39 /hE4g8E3
GJ!

664:名無しさん@ピンキー
07/01/21 15:02:11 blNeQjsl
・・・『ハルヒ』の舞台って確か兵g・・・ああすまん気にしないでくれ、ただの独り言だから。
面白かったと俺は思う。乙。

665:名無しさん@ピンキー
07/01/21 15:08:00 V0N6IK7C
>>660
ほんとに初めてか疑わしいぐらいには面白かった、GJ
でも揚げ足を取られるようなミスが若干多いのは気になった

666:名無しさん@ピンキー
07/01/21 15:30:09 CXqNogrt
これはひど……すぎる。
URLリンク(skillup.sakura.ne.jp)

667:名無しさん@ピンキー
07/01/21 15:46:39 33lnCcEB
がんばってると思うが、バレンダインデーたしか月曜日じゃなかったか?

668:名無しさん@ピンキー
07/01/21 15:54:50 1AJdrMyD
聖人君主って物言い流行ってるの?
あと物理的に読みづらい。内容は良かったけど
適度な空行と読点て大事よね

669:有希っ子
07/01/21 16:54:52 zfQYpRvP
>>661
ご指摘ありがとうございます
カーテン追加されてたんですね

>>665
何度か読み直したんですけどやっぱりミスはありました、、、
次回からは減らせるようにします

>>667
ホワイトデーですけど?3月14日は水曜だと思いましたが

>>668
ワードで作ったのですが、いざ書き込んでみると
1行が長すぎて書き込めなかったり
行間に隙間が無かったりと
1つ目を書き込んだ瞬間自分でも読みにくいと思いました
次回は空行とかもうまく使えるようにします


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