【モテモテ】ハーレムな小説を書くスレ【エロエロ】7Pat EROPARO
【モテモテ】ハーレムな小説を書くスレ【エロエロ】7P - 暇つぶし2ch933:名無しさん@ピンキー
07/03/18 22:20:42 1NS5HN2K
>>932
あのCMって男が自分に振りかけている消臭スプレーの香りというかフェロモン
に反応しているという設定なのか?

934:名無しさん@ピンキー
07/03/18 22:37:54 OgdS+tof
唐突だけど、ハーレムと言ったらダ○ク・シュ○イダーだなー。
「俺なら全人類の二分の一は幸福絶頂に出来る!世界中の”女”全てを
ダ○ク・シュ○イダー様のハーレムに入れるのだあ!女にとって俺に
抱かれる以上の幸福は、この宇宙に存在せん!!」
う~む、実に男らしいぞー。

935:名無しさん@ピンキー
07/03/18 23:45:29 MOTHxPYs
>>921
ヒヨコ鑑定士でハーレム…

あれたしか尻をきゅっと押して余計なものを排出させた後
尻穴に指を突っ込みまさぐって鑑定するんだったよな?

936:名無しさん@ピンキー
07/03/19 01:25:47 lthRMVCu
>>926
スレッガーさんかい?! 早い! 早いよ!

937:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:34:21 DlYTadEb
失礼します。
次スレが立ったので、埋めがてら吸血鬼のエロなしパートを投下させていただきます。
注意事項は以下の通りです。

・エロがない上に、詰め込んだのでかなり長いです。
 色々伏線を回収したりしてるので、以前の投下分と合わせて読まれることをお勧めします。
 「エロもないのに読んでられるか!」という方は、『或る吸血鬼の懸念事項』でNG登録してください。

・誤字脱字は、海より広い心でご指摘下さい。

938:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:35:45 DlYTadEb
 研究室のドアを開けると、爾がソファから立ち上がり、
「講義中に申し訳ありません」
と型どおりの挨拶をした。その姿は、早朝からの呼び出しに応じて方々を駆け回り、かなり草臥れている。目の下の
隈に、乱れた髪の毛がその印象をさらに強めていた。
美濃山は挨拶もそこそこに、すぐに向かいに座る。
「例の件だね。君に話を聞いてから気にかけてはいたんだが・・・」
「一晩で三人です・・・」 
 テーブルの上には既に地図が広げられていた。犯行『予想』地点を示す青い印の場所が、犯行『達成』地点を示す
赤で塗りつぶされている。
 昨夜の深夜から未明にかけて、三人の新たな犠牲者が出てしまった。
 現地を警戒していながらこの有様である。犠牲者を出してしまったのも勿論だが、自身の無力さにも、爾は苛立ち
を感じていた。
「一晩で三つの儀式を行ったわけか・・・早すぎるな。一人の術者がやったとは思えない」
「しかし、この手の儀式は一人がやらなければ意味がないはずです。手分けしては成立しません」
「確かに・・・魔導紋がなぁ・・・それに術式の構成時間を考えると・・・」
 美濃山は、専門用語を含む独り言を呟きながら首を振った。
「ふむ、ひとまずそれは置いておこう。
 実は、昨夜の件が無くても、君に連絡を取ろうと思っていたのだよ」
そう言うと、美濃山は立ち上がり、キャビネットから一枚の折りたたまれた図面を取り出した。
「『索』のことなのだがね・・・それっぽいものが見つかったよ。手に入れるのに苦労したが・・・」
 席に戻った彼は、爾の地図の横にその図面を広げた。
 それは爾が持ってきたものと似たような地図だったが、道路や等高線の他に、別の線が縦横に細かく走っていた。
通常の地図ではなく、何か専門的な分野に使う、特殊なもののようだ。
「これは・・・?」
「地下ケーブルの設置計画図だよ。宅地造成のときの・・・6年も前のものだから、探すのに苦労したよ」
「ケーブル・・・」
 縦横に街を走る線のうち、何本かがマーカーで上からなぞられている。
その形は、魔方陣の形―六芒星と、それを内接する円だった。
 六芒星の頂点と、爾の地図の印は完璧に一致している。
「当時の事情を調べてみたが、電線を地下ケーブルに切り替える工事は、入札の時に一社がかなり強引に割り込ん
で落札したらしい」
「その会社が・・・『連中』の・・・」
「隠れ蓑、ってとこだろうな。ちなみにその後、ケーブルの仕事を終えたあとにこの会社は、さっさと潰れてしま
ったそうだ。いや、もう必要がないから、潰したんだろうな。
 恐らくは、このケーブルで、六ヶ所の場を繋ぎ、一つの術へと纏め上げるのだろう」
 恐らくは、このケーブルで、六ヶ所の場を繋ぎ、一つの術へと纏め上げるのだろう」
同じ町に住んでいながら、これほど堂々と犯行の準備を進めていたのだ。大胆に過ぎると言えばそうなのだが、向
こうとしても爾の存在など知ったことではないだろう。
 だが、『何のために?』という疑問は解けないままだ。
 そもそも、なぜこの場所でならなければいけなかったのか。
 この街を包むほどの魔方陣を、どうしてわざわざ会社を立ち上げてまで、仕上げなければならなかったのか。
 そう思った爾の目に、地図上の一点が、あたかも光を発しているように浮かび上がった。
「まぁ、これが解っても、今更どうしようも無いのだが・・・ケーブルを切るわけにもいかんだろうし、なんにし
ても目的がなぁ・・・魔方陣の形状を見る限り何らかの呪詛だとは思うのだが・・・」
 白髪に手を突っ込んで、美濃山は説明を続ける。
 だが、その説明は殆ど爾の耳には入っていなかった。
「・・・その工事が行われたのは、6年ほど前からなんですね?」
「あ、あぁ・・・そうだが・・・」
 ふいに質問されて、美濃山が戸惑う。
 ある仮説が、爾の脳裏に浮かんでいた。
 図面にひかれたラインを目で辿って、爾の顔は蒼白になった。
「まさか・・・」

『外れてりゃいいな、っていう予測はあるけどね』

 勇太が言っていた『予測』とは、このことなのか。
 爾の背を、冷たいものが伝う。

939:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:36:37 DlYTadEb
「鴇沢君・・・?」
 ―直径20キロの魔方陣―それほどの仕掛けでなければ、討ち果たすことの出来ない『相手』。
 ―30年前の『抗争』―彼らの頭目を葬ったのは『誰』か。
 ―6年前からの計画―6年前に『何』がこの場所にやってきたか。
 答えは常に目の前にあったのだ。気付かなかった自分が馬鹿に思えてくる。
 魔方陣の円内に、そのマンションはある。勇太の言葉が、脳裏をよぎった。
 
 『相手の立場になって考えろ』
 
 これほど目立つ、大掛かりなことをしてでも『連中』は彼を倒したいだろう。
 その恨みも30年ともなれば、さぞかし蓄積されたことだろう。
「どうした?具合でも悪いのかね?」
 彼女は美濃山の問いには答えず、跳ねるように立ち上がった。
あっけに取られる美濃山を尻目に、爾は鞄をひったくると、
「失礼します!!教官!!」
と部屋を飛び出した。
 一人残された美濃山はしばらくポカンとしていたが、やがてソファに深々と身を預け、窓から差す西日に目を細めた。
 雲が夕日に焼かれて、血のような赤い色に染まっていた。
 
        

               ※            ※             ※
 
 ええ、そうです。イルマとジルマは、双子です。
 村には代々、その家の長女が巫女を務めるという家系があり、二人はその家に生まれました。
 一応、姉がイルマで、妹がジルマということになって居ましたが、今回の場合は特殊な事情があったため、『2人で
1人』の巫女ということになったのです。

―特殊な事情?

 はい。
 巫女の家系は、村の中でも強い魔力を備えた者の血を、濃くしていったものです。
 ですが、あの2人は、周囲が期待しているほどの魔力を持っていなかった。
 結論を言えば、代々の巫女のおよそ『半分』の魔力しか、備えていなかったのです。

―それで、『2人で1人』・・・と?

 姿形は勿論、声や話し方、好みまで一緒でしたから、周囲の勧めで、見分けをつけるために、髪型を変えていたくら
いです。赤毛を右側で編み込んでいるのが、姉のイルマ。左側が妹のジルマ。
 勿論、双子だからといって完全に一緒というわけでもなく、イルマの方が、どちらかといえば活発なようで、ジルマ
がそのブレーキ役をすることが多かったですね。得意な魔術も、イルマは電撃や炎熱などの攻撃系、ジルマが結界など
の防御系と、互いの欠点を補い合っていました。
 母の胎内で魔力を分かち合った二人ですから、『2人で1人』という言い方も、単なる比喩以上の説得力を持ってい
ました。
 ・・・口さがない村の者は、『出来損ないの巫女だ』などと陰口を叩くこともありました。
 村の信仰神・・・その象徴である『私』を守るには、不十分だと。
 しかし、彼女たちは十分にやってくれました。まだ年若く、未熟な部分もありましたが、それでも、2人で力を合わ
せて私を守ってくれました。

―それで、彼女たちは、今、どこに・・・?

 遠く・・・東の地でしょう。
 ・・・あの者たちが、この森を焼くときに、『ニホン』という地名を口にしていました。

―そう・・・ですか。


940:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:37:53 DlYTadEb
 あなたは、悲しんでいるのですね?

―え?

 大丈夫です。ありきたりな言い方ですが、形のあるものは、いずれ壊れてしまうのです。
 あなたが、私に何もできないことを、気に病む必要はありません。確かに、不本意な終わりではありますが、それだ
けです。私はもう、十分に生きました。
 それよりも、あの双子を、お願いします。彼女たちは、あの者たちに連れ去られ、きっと恐ろしいことに利用されよ
うとしています。
 人間よりも遥かに大きな魔力をその身に宿す、竜人族の中でも特別な2人なのです。おそらく、利用されれば恐ろし
いことになる・・・。

―・・・はい、必ず。

 ありがとう・・・。
 あなたは、優しい方ですね・・・。
 最後にお話できるのが、あなたのような方で良かった・・・。




 彼はトランス状態から意識を覚醒させた。
 涙が頬を伝っていた。
 辺りは、一面の焦土だった。炭化した家の残骸が墓標のように立ち、地面までも文字通りの灰色で覆われている。
 20メートルほど離れたところに、彼らが乗ってきたヘリが止まっており、それがこの場で唯一、炎の洗礼を受けて
いないものだった。そして、生きているものは、『機関』が派遣した、彼らだけである。
 ここにはかつて、竜人族の集落があった。『竜人』という名前は、魔力のセンサーの役割を果たす額の角と、強大な
魔力を持つことから連想された単なる比喩でしかない。また、『種』ではなく、『族』と呼ばれるのは、彼らがこのロ
シアの国境付近にある深い森の奥で、独自の言語を操り、独自の信仰を持ち、殆ど血縁の一族だけで自給自足の生活を
していたからだ。
 ―全ては過去形の話になってしまったが。
 現実には、世界唯一の村は炎に呑まれ、そこの住民も殆どが命を落とした。
 村から延焼した炎は、森を二週間の間、数百ヘクタールに渡って焼き尽くした。対外的には、この一件は原因不明の
山火事ということになっていたが、遺体に残された弾痕が、その嘘がいかに薄っぺらいものであるかを物語っていた。
 彼は、目の前の大樹を見る。
 直径20メートルほどの、太い幹。それが、五メートルほど上で、ぼっきりと折れていた。恐らく、業火に晒され、
自重に耐え切れなかったのだろう。もしも無事なら、資料によれば高さ70メートルの大木だ。樹齢に至っては、想像
さえもつかない。だが、その年月が、先ほどの会話を生んだと言ってもいいだろう。
 樹木も、長い時を生きれば意思や自我を持つ。先ほどの会話は、彼が自らをトランス状態に持ち込み、意識をこの木
とリンクさせて得られたものだ。
 世界でここにしか居ない種が、殆ど全滅させられたという重大事件である。『機関』の上層部は、何としても解決を
しなければと息巻いていたが、その成果は芳しくなかった。これだけ大規模な山火事を完全に世間に対して隠しおおせ
るわけもなく、その対応だけで精一杯なのだ。もしマスコミのヘリが、地図にはない集落の後を発見したら、それだけ
で大騒ぎになる。
 そんな中、魔術師としてはまだ駆け出しの彼が、この調査へと借り出されたのだ。
「・・・何か、情報は・・・?」
 彼の傍らに立つ、軍人風の男が言った。
「日本・・・だそうだ。その地名を、聞いたと。それと、村の双子の巫女が拉致されたらしい」
「・・・そうか。日本支部に連絡をとろう」
 短い会話だった。だが、それだけで十分だった。
 決してドライなわけではない。彼も、自分も、今回の事件に関しては相当の怒りを持っているし、使命感も抱いてい
る。ただ、その怒りや使命感を、決して人間の世界に持ち込めないというだけの話だ。
 それがお互いに解っているからこその、会話だった。
 彼は立ち去る前に、もう一度大木に触れた。
 人間の胴体ほどもある根が地面に潜り込み、そこから途方もなく太い幹へと続く。その姿は、既に樹木の一種という
域を超えるほどの神々しさを、炭化した今でも周囲へ放っていた。
 自我を持った時点で、この木は樹木として生きることを辞めていたのだ。

941:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:38:39 DlYTadEb
 そして、この村で竜人族の営みをただ見届け続け、理不尽にその命を奪われた。
 自分の無力さが悲しい。死に掛けであるこの木に対して、何も出来ない自分が恨めしい。その感情さえ、一般には受
け入れられないものなのだ。そのまま、深々と溜息をつく。
 その溜息で弛緩した意識の隙間を縫うように、突然微かなイメージが手の平から流れ込んできた。それは、木が語り
かけてきたわけではなく、ただ意思の残滓が偶然流れ込んできた、ノイズに近いだけのものだった。
 だが、彼はそのイメージの意味を悟ると、突然しゃがみこんで足元を素手で掘り返し始めた。
 灰が積もった地面は、まだ仄暖かい。灰をどけ、地面を露出させると、さらに慎重に手を進めていく。
 ふと、小さな手ごたえを感じた。
 それは、二センチほどの種子だった。
 霊樹が、この世に残した、小さな小さな希望。
 それを見つけた彼の目に、再び涙が溢れる。
 同僚が怪訝そうな顔をするのも気にせず、彼は種子を抱き締めたまま、焦土の真ん中で声にならない嗚咽を漏らし続
けた。
                     
                   ※           ※             ※

「今こそ!!」
 狩野はその場にいた30人ほどの群れに向けて、大声で言った。
「今こそ、雪辱を晴らすときはきた!!アレン様が成し得なかった、世界の掌握!その一歩として、今ここに復讐を!!」
「「「「「復讐を!!!!!!」」」」」
 鋭い牙が覗く口で、集団は吠えた。
 ある建設会社の資材置き場だった。
 既に、場は完成している。六人の生贄から採取した血液を混合したものを絵の具とし、彼らが街に送電ケーブルで描
いたものと同じ魔法陣が出来上がっていた。
 その中央で、狩野は演説をしている。黒いバンが4台、リムジンがそれらに挟まれるように1台。それら車のライト
は全て点けっ放しにされ、狩野をスポットライトのように照らしていた。
「我らは今宵『母体』を得る!!『イヴ』を得た我らはまさに『アダム』となるだろう!!」
「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉ!!」」」」」
 大気を震わせる異形の声。
その熱気と歓声の中、二人の少女が狩野の横に連れてこられる。フードを被っており、表情は見えない。
「さぁ・・・始めよう。イルマ・・・ジルマ」
 狩野は少女たちの耳元で告げると、魔方陣の外に出た。
少女たちはフードを取る。
その下から現れた顔は、ほぼ完璧に相似形であったが、髪型だけが違っていた。
右側で髪を編み込んでいるのが姉のイルマ。反対側が妹のジルマだ。
丸顔に、あどけない童顔をしていたが、その表情は堅い。
双子は、同じ動作で首から下げたペンダントを握った。
それは、樹齢3000年を越す、彼女たちの故郷にある霊樹から作ったもので、村の信仰神の姿が彫り込まれていた。
 人型に翼を持つ神の姿を握り締め、二人は頷きあう。
 同時に、双子は口を開いた。呪文を詠唱し、術を完成するために。
「おぉ・・・・」
 狩野が息を漏らす。
 それは声とも音ともつかない、不思議な音色だった。
 彼女たちの種族、竜人族が持つ、独特の発声器官から生まれる、歌のような呪文。
 異なる二つの旋律は絡み合い、溶け合って大気に一旦拡散する。双子の良く似た性質を持つ魔力が、完璧に統合さ
れ、一つの形を造り上げていく。
 二人で手分けをして行った生贄の儀を、一つの術として纏めるためのコーラスは、やがて生贄の呪詛を吸収して再
び集合を始める。のたうつような怨念が地下のケーブルを駆け巡るのを、イルマとジルマは額の角で、鋭敏に感じて
いた。
 術式の図面を描いたのは、狩野だった。だから、イルマ達は直接に彼の口からこの術の効果を知らされていない。
恐らく、彼女たちは狩野からすれば、生贄達と等しく、術を完成させる『装置』であり、『道具』なのだ。
 だが、目の前で泣き叫ぶ生贄を殺され、術を強要され、その上でも自分が何をしているのか、まったく見当がつか
ない程、彼女らは鈍くなかった。
 自分たちがこの術を為すことで、何か恐ろしいことが起きる。
 だが、もはや彼女たちに自由は無いのだ。この場で逃げようとも、行く場所も無い。村はもう、焼き払われた後だ。
狩野は、全てが終わったら村に帰すようなことを言っていたが、それが嘘だということを、二人は理解していた。
 抗う術はなく、そして帰る場所もない。
 2人に出来ることは、たった一つだけ。
 歌声のような呪文を、大気に浸透させて、自らの『意思』を乗せることだけだった。

942:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:39:45 DlYTadEb

        ※          ※        ※

 勇太はベランダで煙草を吸っていた。
 既に日は没したが、どんよりとした雲が、街の明かりを微かに反射して垂れ込めていた。眼下に広がる家々に灯る
明かりの、遥か遠くを透かしてみるように、彼は遠い目をして煙を吐き出す。
「勇太ー、夜食できたよー」
「んー、ごめん、いらないかな」
 勇太がそう答えると、エマがリビングから不機嫌な顔を覗かせた。
「いらないって・・・勇太が作れって言ったんでしょー?」
「あとでチンして食うからさ。ラップでもしといて」
 話している間、彼は相手の方を見ていなかった。その態度に、エマの眉がハの字になる。サンダルを突っかけてベ
ランダに出ると、勇太の隣で住宅地よりも先の山に向けられた視線の先を追った。
「・・・何見てるの?星?」
「いや・・・そんなに綺麗なものじゃないね」
 勇太は視線を固定したままで、答える。その声は、いつもの勇太のものでありながら、老人のように、しわがれて
いるようにも聞こえた。まるで700余年という時間を、人間と同じように老化して生きてきたような声だった。
 その声に驚いて、エマが勇太の顔を見る。だが煙草の火に照らされたその顔は、当然ながら、いつもの勇太だった。
「エマにも見えるさ・・・サキュバスって時点で、人間よりは素質があるからね。実認識と虚認識の識閾値を統合し
て・・・」
「ゆーたぁー・・・」
 情けない声を上げるエマの頭を、勇太は苦笑いしながらグシャグシャと撫でた。
「ま、ようするに『心の目で見ろ』ってこと。もうちょっと具体的に言うと、『目で見る』って言うより、『肌で見
る』って感じかな」
「それでも難しいよぉ・・・それにあたし、別に幽霊とか見たくないし」
「いや、必ずしも幽霊ってわけじゃないけどな」
 膨れっ面で抗議するエマに、勇太は肩を竦めてからもう一度、山の方を見た。
 その奥から、ゆらゆらと煙のように立ち上る、濃密な怨念が、勇太の『感覚の目』に映し出されていた。その呪詛
が一筋、枝分かれしてこちらに伸びてくるのを確認して、勇太は煙草のフィルターを噛み潰し、
「始めたか・・・」
と呟く。エマは首を傾げたが、彼はそれについては何も言わずに、
「血液パック、一つ持ってきてくれるか?」
と彼女に言いつけ、頬に軽くキスをした。
 エマはその言葉どおりに、サンダルを脱いでリビングにあがった。輸血用の(ここでは飲料用だが)血液パックは、
キッチンにおいてある専用の冷蔵庫に保管されている。
 キッチンへ一歩を踏み出したエマの背後で、ふいに水を撒いたような音がした。
 振り返ると、ベランダへの出入り口が真っ赤に染まっていた。

           ※           ※              ※

           ※           ※              ※
 爾は走っている。駅からのだらだら坂は、全速疾走するには辛いコースだったが、それでも訓練生時代に鍛え抜か
れたのが役立った。自分の女らしくない体を、この時だけは感謝した。
 既に遅い時間のせいか、やけに大きな外車が路上駐車されている以外は、人影もなかった。ぽつぽつと、街頭が頼
りなくマンションの前の道を照らしているだけだ。
 大きく息を切らして、目的の部屋を見上げる。
 どうか間に合っていますように。その願いを込めて、一歩を踏み出そうとした爾の顔に、水滴が降って来た。どん
よりと曇った天気だったが、とうとう降って来たのかと思い、何気なく手で拭う。
 だが、それは透明ではなく、色を持って爾の手に薄く延びた。
 街灯の光に照らすまでもなく、血だった。
 もう一度、勇太達の部屋を見上げた爾の目に、何か棒状のものが回転しながら飛んでくるのが映った。反射的に身を
屈めると、それは彼女の体を掠めて、湿った音と共にアスファルトと激突し、路面を滑走して、停止した。
 人間の、肩から先の腕だった。

943:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:41:13 DlYTadEb
 厳密には、それが人間のものでないことを、爾は瞬時に悟る。
 間に合わなかったか。勇太の部屋を見上げると、ベランダに片腕のないシルエットが、部屋からの照明で浮かび上が
っていた。
 と、そのとき、突然、路上駐車していた外車の後部ドアが開いた。
 車から降りてきたのは、車のイメージを体現したような女だった。ブロンドの髪は、緩く巻いており、毛皮の派手な
コートを見につけている。透ける様に白い肌が、街灯に照らされて眩しいほどだった。
 そのまま、パープルのピンヒールを鳴らし、澱みない足取りで腕へと歩み寄る。近寄ることで顔立ちがはっきりする
と、相当に美しい女であることが知れたが、その表情には驚きや恐怖といったものは一切なかった。
 あまりにも動揺した様子がない女に、爾は違和感を抱く。もしかしたら、『連中』の仲間かもしれない。
 その疑念に身構えたが、女は爾自身には全く興味がないように、勇太達の部屋を見上げた。
 横目でその目線を追った爾が見たのは、重心を崩してベランダの柵から転げ落ちる、勇太の姿だった。
 片腕のないシルエットは、8階の高さから真っ逆様に落下する。
 そのまま、地面に激突すると、思わず爾が目を閉じようとした瞬間だった。
 長身が、空中で反転した。落下の空気抵抗に弄ばれる動きではなく、意思を持って足を下にする動きだ。
 そのまま、叩きつけるような音を立てて、彼は着地した。衝撃を吸収すべく、膝を曲げている様子は、体操選手が宙
返りの後の着地を決めているように見えた。
 そのまま、曲げていた膝を伸ばすと、脚の痺れを取るようにブラブラと振って、周囲を見回す。それから、爾達を見
つけると、そのまま平然と歩いてきた。
 街灯に照らされた顔は、やはり勇太だったが、顔の右半分が血で汚れていた。
 ふいに、女が足元の腕を、ピンヒールでぞんざいに蹴り上げた。その腕は、放物線を描き、頂点を少し過ぎたと
ころで、勇太の左腕にキャッチされる。
「こんばんは、爾」
 その様子が、全くいつもと同じだったため、挨拶された当の本人は混乱した。その間に女が、勇太に向って何事か囁
く。英語のようだったが、小さな声だったため、爾には聞き取れなかった。
 驚くべきことに、勇太はそれに答えながらあっという間に右腕を接合して見せた。会話の片手間の仕事ではあったが、
爾は初めて勇太が人ではない力を使うところを、直接目の当たりにした。
 破れたカットソーの袖で汚れた顔をぞんざいに拭い、地面に捨てると、再び爾のほうに向き直る。露になった腕は、
地面に激突した際の損傷も完全に修復されていた。白く街灯の光に浮かぶ、その手を出して、
「すまん、携帯貸して」
と勇太は苦笑いをして見せた。狐につままれた思いで、どうにかスーツのポケットから携帯電話を出して手渡すと、滑
らかに番号をプッシュする。先ほどまで、肩先からもがれていたとは思えない動作だった。
「あ・・・もしもし?エマか?うん、俺。今、マンションの下にいるんだけどさ・・・うん、大丈夫。爾も一緒なんだ。
ごめんな、心配かけた。うん、あと爾のほかに客がいるから、茶を二人―」
 女が手をヒラヒラと振った。
「―いや、爾の分だけでいいや。俺はちょっと出かけてくるから。アレだったら、先に寝てて。ん、ちょっと急ぐか
ら、じゃぁね」
 そう告げると、携帯を爾に返した。
「・・・とりあえず、日本語に統一するか。アルミラ、こちらは『機関』でお世話になってる鴇沢爾。爾、こっちは、
アルミラ=C=ファニュ―」
 そこで、勇太は言葉を区切ると、悪戯っぽく眉を動かした。
「俺の義理の妹だ」
「え・・・」
 その一言で、完全に爾は絶句してしまう。
 真祖の吸血鬼である勇太の、親戚。それはつまり、彼女自身も真祖であることを示している。いや、それ以上に、
『義理の妹』という関係が突飛過ぎる。
「『元』だけどね・・・・・よろしく」
 高みから見下ろすような声だったが、日本語自体は変なアクセントもなく、流暢だった。もっとも、爾は碌に返答
できなかったのだが。
 絶句する彼女を放って、アルミラと勇太はマンションを見上げた。
「そっか、屋上の連中は、お前さんの方でやってくれたのか」
「えぇ、家の駄犬が、処理してるわ・・・いや、終わったみたいね」
 アルミラが目を細める。マンションの屋上から、影が地面に向けて降りてきていた。しかし、その形は、犬とは遠
く隔たっている。それは、各階のベランダを器用に伝うようにして落下速度を落とし、地面へと軟着陸を果たした。
 その姿を見て、爾は息を呑む。

944:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:42:08 DlYTadEb
 長く突き出した鼻に、大きく裂けた口。全身を覆う褐色の体毛。大きくたわんだ背骨は、フサフサとした尻尾へと
続いていた。
「・・・じ、人狼種」
 どうにか、それだけを喉から搾り出す。
 半人半獣のそれは、爾を縦長の瞳で見、それからアルミラへ視線を移す。アルミラは、軽く頷くと、車のほうを顎
で示した。
 素早く車のドアへ消える人狼を見て、勇太は口笛を鳴らす。
「やるねぇ。随分と怖い『駄犬』だな」
「どうにも、節操がないのが悩みどころね。あなた」
 そういって、突然指差され、爾は我に返った。
「屋上、相当酷いことになってると思うから、念入りに後始末しといてくれないかしら?」
「あ・・・は、はい」
「うちのベランダも頼むよ」
 戸惑いながらも、爾は二人に背を向けて、携帯を取り出した。その後ろで、真祖同士の話は続く。
「説明してもらえるのかしら?それとも、急いでる?」
「ちょっとね・・・ありゃ、余所から術者を連れてきてるな」
「そう・・・私も『視た』けど・・・随分と殊勝な奴みたいね」
「あぁ・・・死なせるのは惜しい」
「また、お得意の偽善かしら?」
「なんとでも・・・・・・茶くらい飲んでいけばいいのに」
「冗談でしょ?あの『猿真似』達と顔合わせるなんて、ごめんよ」
 爾が電話を終えて向き直ると、勇太はその背中から翼を生やしていた。何の気配もなかったので、爾は跳び上がり
そうになる。形だけは、蝙蝠のそれに似ていたが、生物らしさとは無縁だった。墨を押し固めて作ったような、真っ
黒い羽を、一回だけ動かすと、それだけで勇太の体が宙に1メートルほど浮いた。
 マンションに着いてからの僅かな時間に、心臓が限界を迎えかけている爾に、勇太は笑って見せた。
「・・・あいつらを頼むよ。爾」
「あ・・・」
 その一言で、爾は一気に現実に引き戻される。信頼されているという事実が、自分の成すべきことを彼女に思い出
させた。
「はい!」
 歯切れのよい返事を聞くと、勇太は満足そうな笑みを浮かべ、そのまま夜空へと一気に舞い上がっていった。
 黒い羽は夜の帳に紛れて、すぐに点となり、見えなくなる。
 車のドアが開き、そこから西洋人の男が降りてきた。かなり大柄で、筋肉質な体を窮屈そうに黒いスーツで包んで
いた。映画のシークレットサービスのような恰好だった。
「一応、紹介しとくわ。執事のフリッツよ。日本語は出来ないんだけどね」
 アルミラがそのまま、フリッツに英語で爾を紹介する。
 大きく頷く頭の褐色の髪の毛が、彼が先ほどの人狼であることを示していた。
「後片付けを押し付けて悪いけど、私たちは引き上げるわ」
「はぁ、そうですか・・・お気をつけて」
 そう言った爾に、アルミラは片眉を上げて見せる。
「いいの?『機関』の人間として、真祖が悠々と大手を振って歩いているのを見過ごすのは、拙いんじゃないかしら?」
 アルミラ目の奥に、僅かに宿った挑戦的な眼差しを、爾は真っ直ぐに見据えて答えた。
「私には止める術もありませんから・・・上司に多少小言は言われるでしょうが、それだけです」
「ふぅん・・・あの男には抱いて貰ったの?」
「なっ!?」
 唐突に言われて、爾は声を上げた。だが、アルミラは意に介さず、既に歩き出している。
「まったく・・・無駄足もいいところだわ・・・」
 ぼやきながら、車に乗り込む。フリッツも、明らかに日本の風習に慣れていない、不恰好な礼をしてから、運転席に
乗り込んだ。
 走り去るテールランプを見送りながら、爾はアルミラの言葉を反芻して、立ち尽くす。
 そもそも、初対面で自分が女だと見抜かれることすら、ほとんどなかったのだ。それは、真祖の眼力だと思うにして
も、『抱いて貰ったの?』とはどういう意味だろう。ただの冗談だったのだろうか。
 だが、今はそれについて深く考えている暇はない。勇太達の部屋に行かなければ。
 自分のすべきことを思い出すと、爾は入り口へと急いだ。
 部屋に上がると、テオに出迎えられ、キッチンへ通される。そこには、エマと紫苑が既に紅茶を飲んで待っていた。
だが、暖かい団欒といった雰囲気ではなく、空気はただただ重い。特に、エマは普段の快活な印象を完全に失ってい
た。紅茶に口をつける動作も、どことなく機械的で、緊張で口が渇くのを抑えるためのようだ。
 テオが爾の分の紅茶を差し出す。礼を言ってそれを一口啜ったところで、紫苑が口を開いた。
「じゃぁ・・・始めましょうか」

945:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:42:57 DlYTadEb
「せやな・・・爾クン。今から、ちょっと込み入った話するさかい・・・」
「あ、外しましょうか?」
 慌てて腰を浮かしかける爾を、紫苑が手で制した。
「いいの。爾さんにも、聞いていて欲しいお話だから・・・」
「はぁ・・・」
 生返事をして、爾は再び椅子に腰を落ち着ける。
「まぁ、元はといえば、ボクのせいやからな・・・エマもここに来て一年が経ったし、話しといてもええやろ」
「別に、テオだけのせいじゃないわ。いい機会というのには賛成だけど」
「うん・・・・ありがと」
 まだ話の流れが掴めず、目を白黒させる爾を見て、紫苑が微笑んだ。
「エマにね、私たちの昔のことを、話しておこうと思って。本人が、聞きたいって言ってるのもあるけれど」
「え?」
 エマに視線をやると、彼女は軽く頷いてみせる。それは、相当に過酷な話を聞かなければならないという、覚悟を
秘めた眼差しだった。爾はまだこの時知らないことだが、エマは目の前で愛する男が傷つく姿を見てもなお、過去か
ら目を逸らしては居られなかったのだ。
「まぁ、ボクらが話せるのは、ボクのことだけやけど・・・せやな、さしあたり、紫苑から話してくれるか?あんた
の方が、付き合い長いからな」
 テオに促されて、紫苑は頷く。それから、一度大きく息を吸って、語り出した。
「そうね・・・まず、私のこの姿だけど・・・これは、ある人から借りたものなの」
 そこで、言葉を区切り、全員を見る。
「彼女の名前は、レイチェル=ガリアンド・・・あの人の・・・そうね、配偶者だった女性ね」
「は、配偶者って・・・奥さんってこと?」
 素っ頓狂な声を上げるエマに、紫苑は頷く。その目は、鬱々として暗く、あえて感情をオフにしているような印象
を受けた。
 爾も目を見張る。アルミラが勇太の義理の妹なら、紫苑が姿を借りているその人物は、アルミラの姉ということだ。
「えぇ・・・もう亡くなったけれども。時系列に沿って話さないと、訳が解らなくなるわ。
 そう・・・今、宇宙の成り立ちとして最も有力な説は、ビッグバン理論と言われるものだけど・・・・・私のこと
を話すには、ここまで遡らなくてはならないわね・・・・」


        ※           ※         ※

「どういうことだ!これは!!」
 遠くで、狩野の叫びが聞こえる。怒号と混乱の坩堝のなか、イルマは魔方陣の中央で仰向けに倒れながらも、笑お
うとした。だが、顔の筋肉を動かすだけで全身に走る激痛のせいで、それは上手くいかなかった。
 イルマは、満足だった。
 自分の力で、誰かを傷つけることなく済んだのだから。例え、そのせいで自分が滅びたとしても、巫女として生き
てきた自分としては、満足だった。
 妹のジルマも、同じ考えのはずだ。今までも、ずっと一緒だったのだし、今回も自分の考えに同調して力を貸して
くれたのだから。
 体中が錆びついたように動かなかったが、それでも辛うじて首を妹の方に向ける。二人の手は、固く繋がれていた。
 妹は、血に濡れた顔で、それでも微笑んでいた。
(大丈夫・・・お姉ちゃんと一緒なら・・・平気)
 念話だった。すでに虫の羽音のように微弱で、辛うじて意味が汲める程度のものだった。
 声を出そうにも、声帯は爛れてしまい、呼吸さえも辛かった。
(ごめん・・・でも、こうするしか・・・)
(いい・・・この後も、ずっと利用されて、沢山の人を傷つけるよりも、ずっと、いい)
(うん・・・ありがとう)
 儀式を始める直前の僅かな時間、2人は念話を使い、そして決断した。
 詠唱にほんの僅か、気取られない程度の『意思』を込めること。
 その『意思』は、術の矛先を自らに向けるというものだった。それはつまり、どこの誰かも解らない標的を、自分
の身を犠牲にして守る、という『意思』だ。
 既に術式自体が仕上げの段階だったため、全ての呪詛を『意思』にそぐわせることはできなかったが、それでも、
二人は精一杯を尽くした。
 身体の芯の方に、深々と生贄の怨嗟が爪を立てている。激痛はやまなかったが、それでも安らかだった。
 ふいに、ジルマの念話が聞こえた。
(神様・・・・助けて・・・お姉ちゃんだけでも・・・)
 それは、はかない祈りだった。既に、念話に乗せるイメージと、そうでないイメージの差別化が出来ていないよう
だった。

946:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:44:48 DlYTadEb
(馬鹿なこと言わないで・・・2人は、ずっと一緒だったでしょ?)
(違うの・・・違う・・・)
(何が、違うの・・・・・?)
 ジルマの目から、涙が零れる。それは、血に染まった顔に一筋のラインを引いた。
(私・・・あいつに・・・犯されたんだ・・・・)
(・・・・!!)
 小さく、浅い呼吸が乱れた。脳裏に、小さく声が聞こえるだけの狩野の顔が浮かぶ。
(私は、汚れちゃったの・・・・だから、神様が助けるなら、きっとお姉ちゃん・・・)
 その告白を聞いて、視界が滲んだ。
 悔しかった。
 あの男は、自分たちから何もかもを奪っていった。
 故郷も、家族も、巫女としての役割も。
 その上、妹の純血まで。
 それを知らなかった、自分に怒りが芽生えた。1人で悲しみ、自らの境遇を嘆くしかしなかった自分が、腹立たしく、
悔しかった。そうしている間、妹はたった一人で、悩んでいたのに。
(術・・・上手くいってよかった・・・汚れちゃった私と一緒じゃ、失敗するって、思ってたけど・・・)
 自分は姉なのに。どうして、守ってやれなかったんだろう。
いつも、何から何まで一緒だったから、故郷から引き離された今でもずっと一緒だと、根拠もなくそう思っていた。
(違う・・・違うよ、ジルマ・・・・ジルマ・・・)
(お姉ちゃん・・・自分を、責めちゃ、ヤだよ?私は・・・いいから)
(よくないよ・・・よく、ない・・・!!)
 喉が潰れてなければ、きっと大声で泣き叫んでいただろう。
 五体が満足ならば、きっと思いつく限りの攻撃魔術を狩野に叩き込んでいただろう。
 怒りと悲しみと情けなさがない交ぜになって、全身の傷口から噴出してきそうだった。
 だが、何もかもが遅すぎた。
 車のヘッドライトで照らされているはずなのに、視界が酷く暗い。吸血鬼たちのざわめきが、遥か遠くに聞こえる。
(・・・悔し・・・な・・・んな・・・り・・・)
 ジルマの念話も、途切れ始めた。もう、何もかもが手遅れだ。
 瞼が重い。イルマは、もうそれに逆らうことはやめることにした。
 目を閉じる前に、イルマは繋いでいない方の手で、ペンダントをもう一度強く握った。
 人に翼の生えた姿。村の大樹に宿るとされる、その姿を脳裏に思い浮かべ、目を閉じようとしたとき。
 2人に影が差した。
 裸足の足が、2人の顔の間に割って入ってくる。
 どうにか、イルマは目だけで足の持ち主を確認した。
 その人物には、羽が生えていた。
((・・・・か、み・・・・・さま・・・・?))
 2人は、同時にそう思った。
「なん・・・、間に合っ・・か・・」
 そんな会話が聞こえてきたが、彼女に内容を吟味することは、もう出来なかった。
                ※              ※          ※ 

 夜の闇を押し固めたような、質感を感じさせない羽。
 影のような、黒く長い髪。
 鳶色の目は、怒りに燃える。
 彼らが最も認めたくないものを、彼ら自身が用意したヘッドライトが照らし出していた。
「なんとか・・・間に合ったか」
 勇太が指を鳴らすと、双子がそれぞれ、ドーム状の光の膜に包まれた。
 呪詛を中和する魔術と、損傷を受けた組織を再生する術を、同時に重ねて掛けているのだ。光が二つの術の干渉で、
シャボン玉のような美しい揺らぎを見せている。
 その輝きは真祖と、彼らの圧倒的な戦力の差を物語っていた。
 真祖は、その『生態』として魔術を使う。
 チーターが途方もないスピードで走ったり、イルカが数十分も潜水をするのと同じ、進化上で与えられた種としての
『生態』だ。他の者がそれに追いつくには、自動車や潜水艦を作るのと同じ、『技術』を用いるしかない。すなわち、
術式の組成、魔力の確保、儀式の執行、呪文の詠唱、精神の初期化・・・それらの手順が、魔術における『技術』であ
る。
 目の前の存在は、その『技術』の成果を、指を鳴らすだけで、いとも簡単に実現してのける。チーターが内燃機関の
助けなしに、時速100キロ以上へ加速するように。
 そして、『彼ら』に『技術』はもう残されていない。あるのは、生身の身体と、彼の前では『僅か』と言っていい武
装だけだ。
 術の効果が、滞りなく現れているのを確認すると、勇太は口を開いた。

947:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:45:53 DlYTadEb
「作戦失敗の次は、迅速な撤退・・・それが鉄則のはずだが?特に、俺みたいなのを相手にするときは、な」
 全員が、声にならない声を上げた。双子が倒れてから10分と5分と経っていないのである。それに、撤収が完了し
たところで、逃げおおせるとはとても思えなかった。その場にいる全員が、勇太の姿を見ただけで、それを本能で察し
ていた。
 ふいに、ヘッドライトに照らされた両翼が、液体のように形を失って、一つに纏まる。
「・・・・喰われろ」
 その言葉をきっかけに、タールの塊のようなそれは、爆発的に体積を増大させ、奔流となって襲い掛かった。それは
夥しい数の蝕腕へとほどけていく。一本が大人の胴回りほどもあり、その先端には爪か牙、あるいはその両方がついて
いた。
 逃げ惑う者も、立ち向かう者も、行動に対して期待した結果が、ことごとく裏切られるのを享受するしかなかった。
 喉笛を食い破られ、身体を内側から切り裂かれた死体は、野生の動物が獲物を喰らうときの無秩序な破壊を思わせた。
 バンが宙を舞い、頭から地面に突き刺さる。『中身』ごと雑巾のように絞られ、オイルと血と部品を撒き散らしなが
ら、炎上したそれは、さながら燃え上がる墓標のようだった。
 狩野は、自分が描いた絵が、上からペンキをぶち撒けられて、塗り潰されるのを感じた。
 骸が打ち上げられ、花火のように空中で弾ける。血の雨が降り注ぎ、狩野の全身を汚した。のたうつ大量の触手に、
為す術なく蹂躙される者たち。B級のモンスター・パニック映画を思わせる光景だったが、それは絶望的な現実だった。
 悲鳴、銃声、爆発音。肉の裂ける音、骨の砕ける音、血が降り注ぐ音。
 獣臭、火薬臭。血の臭い、糞尿の臭い、臓物の臭い、焦げる臭い。
 感覚の全てを、極彩色の地獄が彩る。
 その殺戮の中心に佇む勇太の視線と、立ち尽くす狩野の視線が交錯した。
 狩野はスーツの内側にある拳銃を思い描いた。
 それを抜いて、照準し、引き金を引くまで、おそらくコンマ1秒も要らないだろう。
 しかし、それでも全く足りなかった。
 銃では勝てないのだ。時間は問題ではない。
 しかし、それでも狩野はスーツに手を差した。
 それが合図のように、勇太が纏う闇が襲い掛かる。真横に跳び、鉄骨の後ろへ隠れる間に4発を撃った。
 空振りした触手が地面に穴を空けるが、すでに別の数本が狩野の後を追っていた。
 隠れていた鉄骨の山が薙ぎ倒され、狩野は更に移動を続けた。崩れてくる鉄骨の隙間を縫うようにして、人ならざ
る反射神経と筋力で動き続ける。
 襲ってくる触手の先端が二つに割れ、その中に鋭い牙と、柘榴のように真っ赤な舌が見えた。
 その口中に向け、狩野は引き金を引く。
 舌が砕け、弾丸が貫通して抜けていったが、それがダメージではないことも承知の上だった。
 進行方向に、鋭い鍵爪を持った触手が先回りしていた。
 避けることはできなかったが、身を捩り、右腕を爪に差し出した。
 肩から先が、吹き飛ぶ。
  激痛が走るが、それには構わず、胴と離れた腕を残った方の手でキャッチする。
更に移動しようと足を動かしたが、それは絡みついた触手によって阻まれた。
 そのまま、身体が宙に浮き、天地の区別が一瞬なくなる。
「ぐああぁっ!!」
 次の瞬簡には、骨が何本か折れる音と共に、地面に叩きつけられていた。狩野はその場に激しく嘔吐する。血と胃
液のカクテルを地面に撒くと、ゆっくりと顔を上げた。
 そこは、勇太の足元だった。
「・・・不便な身体だ」
 勇太はそう言って、切断面を顎で示した。
 そこには既に薄く皮膜が貼って、傷口を覆っていた。腕の方の断面にも、同じように組織が再生している。
 後天性吸血鬼がその身に施している組織再生処置は、完全に元の通りにするものではない。細胞を魔力で活性化し、
怪我が治るプロセスを、早回しにしているだけだ。だから、切断などの重症では、かえって接合の機会を失うことに
なってしまう。
 だが、狩野は相手の言葉を聞いてもなお、薄く笑った。
 その奥によぎる余裕を見て、勇太は眉を上げる。
 狩野が左手に抱えていた自らの右腕を放った。同時に、有らん限りの力で後ろに跳ぶ。
 ズタズタに避けた袖の隙間から、右腕にびっしりと刻まれた刺青が覗いた。万が一を考えて事前に彫らせておいたも
のだ。そして、目の前の相手は、その万が一を尽くさずには倒せない相手だった。
 狩野が呪文を一言、叫ぶように言った。
 同時に右腕に刻まれた刺青が青白く発光し、腕に残っている魔力を残らず破壊エネルギーに換える。

948:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:47:03 DlYTadEb
 爆風は、炎上するバンの炎を吹き消し、倒れる数々の死体を完全に破砕した。
 狩野自身も爆風で吹き飛び、やがてシートに包まれた資材に激突して停止する。
 土煙がもうもうと立ち込め、何も見えなくなっていた。固唾を呑んで彼はその奥を見透かすように目を凝らした。
 ふいに一陣の風が吹き、土煙が割れる。
 その中から現れたのは、直立する勇太の下半身だった。腹から上は、粘度細工を乱暴に引き裂いたように、消失して
いた。
 その体から伸びていた触手も、今は死に絶えた大蛇のように地面に転がっている。
 ―やったか。
 狩野が淡い期待を抱き、その身を起こしたときだった。
 地面にその身を横たえていた触手が、全て一度に立ち上がった。
 そのまま、一気にその根元―勇太の下半身へと集う。大蛇のような触手は細く解けて、立体的に布が織られていく
ように編み込まれ、人型になっていった。
 やがて、下半身までが覆われて、全身が真っ黒な勇太の形が修復されると。その中央に亀裂が走る。
 狩野の呼吸が荒くなっていった。そんなはずはないと、必死で打ち消そうとしたが、そうしてる間にも、ひび割れは
全身に広がり、そして砕けた。
 中から現れたのは、爆発の前と同じ、勇太の姿だった。表面の薄い殻のようなものは、微かに光りながら、地面に落
ちる前に薄い光を放ちながら消えてゆく。まるで、蛍の群れの真っ只中にいるようだった。
 鋭い歯が並んだ口が、欠伸でもするように大きく開かれる。
 全身から染み出す魔力が空間を支配し、圧倒的なプレッシャーが迫った。狩野は冷や汗が滲み出すのを感じ、喉を鳴
らす。いまや、狩野は完全に無力な獲物だった。尽くせる手段は、もう一つも残っていなかった。
 唐突に、勇太が言った。それまでとは、全く違う口調だった。
「・・・貴様らは、馬だ」
「・・・何?」
「目の前にぶら下がった餌に釣られて、永遠に走り続ける馬だ・・・・お前の背中に乗っていた者は、餌が目的ではな
い」
 一瞬なんのことか解らなかった。だが、『背中に乗っていた者』がアレンを指すことに思い至ると、狩野は歯を食い
しばった。
 自分の崇拝している対象を、目の前の敵が知った風な口で語っている。それだけで、狩野の怒りを呼ぶには十分だっ
た。
 狩野の怒りに気付いているはずの勇太は、それでもなお、断言した。
「ただ、お前らは利用されただけだ」
「黙れ、お前などに、何が解る・・・!」
「あの男の目的は、世界の掌握などではない。そんなことは、どうでもよかったのだ」
「なに・・・?」
 勇太は、そこで軽く息をついた。狩野は、反射的に返事をしたことを、心の底から後悔した。これでは、自ら術中に
嵌るようなものだ。
「・・・あの男は、ただ、女に会いたかっただけだ。繁殖がどうとか、そんなことはどうでもよかったのだ
 ―ただ、会いたかった。それだけだ」
 その言葉の真意を悟り、狩野は声を絞り出す。
「・・・・嘘だ」
 そんなはずはない。アレンの望みは、世界を吸血鬼のものに塗り替えること。愚かな人間を『家畜』として飼い慣ら
し、支配すること。
 そう思っていた。ただ、盲目的に、そう思っていた。疑ることなど、考えてもみなかった。
 だが、その一方で勇太の言葉に、狩野が衝撃を受けているのも事実だった。
 それが事実なら、自分は只の道化ではないか。
 脳裏をよぎるその思考を振り払い、狩野はもう一度口にした。
「・・・・嘘だ」
 資材に被せていたシートが、バタバタと騒々しい音を立てた。
 生きている者は狩野と勇太、そして双子の巫女だけで、虫の一匹もあたりには居なかった。
 血で描かれた魔方陣の中央で、光に包まれ安らかに眠る、二人の美しい少女。その周囲には、墓石のような車の残骸
と、土葬を仕損ねたような半壊の骸が、無秩序に散乱していた。
 その、異常な風景のなかで、勇太は、狩野の最後の支えを挫くべく、口を開いた。
「ならば、貴様はあの男に、一度でも番号以外で呼ばれたことがあるか?」
 その台詞を聞いた瞬間、狩野の全身が震え始めた。そして、それが勇太の言葉に対する、彼の答えだった。
「黙れ・・・」
 食いしばった歯の隙間から、なんとかそれだけを搾り出す。だが、震えは止まらなかった。100年以上に渡って揺
ぎ無かった忠誠が、音を立てて崩れ始めていた。
「番号で呼ぶのは、単に、管理上その方が楽という以上の理由はない」
「・・・違う」

949:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:47:36 DlYTadEb
「あの男は、常に一人だった。貴様たちが、どれだけあの男に心酔していたかは知らないが、本当の目的は常にあの男
の胸の中にしかなかったし、あの男はその目的のためだけに行動した」
「・・・黙れ」
「貴様があの双子を『道具』として使おうとしたように、貴様もあの男の『道具』だ。それも、使い捨ての、酷く騙さ
れやすい―」
「黙れええええぇぇぇっ!!」
 絶叫と共に、残った左腕が振り回された。それは、感情の爆発に伴うもので隙だらけの一撃だったが、それだけに一
切のブレーキがなかった。人間相手ならば、その体を安々と引き裂く程度の力はあっただろう。
 ―人間相手ならば。
 空間に衝撃が走り、狩野の腕が爆発した。
 悲鳴を上げる間もなく髪の毛を掴まれ、そのまま大きく後ろに引っ張られる。
 万力のような力で、頭が後ろに反り、喉仏が露になった。
 相手の意図を察し、狩野は両腕を失ったままもがく。それは、ちょうど彼が今まで血を吸った獲物たちがしたのと、
同じだった。
 勇太は、その喉仏に深々と牙を突き立てた。
 血は、魔力の源だ。そして、魔力は精神活動を行うための原動力である。通常、人間は食物等から必要分の魔力を
体内で作れるが、吸血鬼は自らの肉体で魔力を精製することができない。だから、血液を介して他の生物から魔力を
補給するのだ。
 だが、狩野の血を吸う行動は、勇太にとってはまったく別のものだった。
 血を吸う化生の血を吸う。それは、相手を完膚なきまで蹂躙する行為。『まがい物』の吸血鬼が持つ、ささやかな
プライドを粉々に打ち砕く殺し方なのだ。
「ごぉ・・・がっ・・・はっ・・・・」
 血を吸われる可能の目前に、過去の光景が映った。
 長めの灰色がかった髪を揺らし、あどけない天使のような微笑を、アレンは狩野に向ける。
『15(フィフティーン)』
 狩野が『15』のナンバーを襲名した時のことだった。彼は、直立不動の姿勢で、アレンが歌うように言うのを聞
いていた。
『15・・・15・・・よし、覚えたよ・・・・』
 そう言うと、再び彼は天使のような笑顔を向ける。その姿はまだ幼さすら感じられ、それだけを見れば、とても数
千人の後天性吸血鬼の群れを束ねる長とは思えなかった。
 だが、その緑色をした瞳の奥に宿る確かな狂気が、彼が人間とは違うことを雄弁に物語っていた。
 その狂気こそが、狩野達をどうしようも惹きつける魅力なのだ。
 独善的でありながら、他者を熱狂させる何かを、カリスマと呼ぶのではないか。
 ずっと、あの狂気と混沌を宿した、緑の瞳に見つめられていたかった。
 優しく耳を擽る声が、狩野の神経を緩やかに侵し、自分の全てを委ねてしまいたくなる。
 いや、自らの全てを使って、アレンに仕えようと、そう強く思った。
『15・・・期待しているよ』
 だが・・・そう。確かに―

 ―確かに、この後にも先にも、狩野がアレンに名前で呼ばれることはなかったのだ。

「ごぁ・・・がぶ・・・・げ・・・」
 狩野の喉から声が漏れる。だが、勇太はそれを掻き消し、わざと聞かせるように汚らしい音を立てて血を啜った。
 やがて、狩野の体から体温が消えると、両腕のない骸を捨てる。一度、口を開け、血の匂いを口腔から追い出した。
「哀れな・・・」
 死体を見下ろすと同時に、背後で双子を包んでいた光のカプセルが宙へ溶けるように消える。それは、呪詛の解除と、
損傷を受けた組織の修復が終了したことを示していた。それをちらりと見て、『後始末』を頼むためにズボンのポケッ
トを探す。だが、携帯を持って来ていないことを思い出し、それから自分がやってのけた惨状を見て、がっくりと肩を
落とした。
 その背中を、誰かが遠慮がちにつつく。
 双子の竜人が、怯えたような、縋るような目で、こちらを見ていた。

「「かみ・・・・さま・・・・?」」

二人は、たどたどしい日本語で、そう言った。

950:twist ◆mswnQv7VS6
07/03/19 02:53:23 DlYTadEb
以上ですが、自分はなにをしてるんでしょうね。
『或る吸血鬼の懸念事項』でNGにしろと言いながら、名前欄に入れるのを忘れるなんてorz
しかもエロなし、ハーレム分も殆どなしでテキストファイル41kbって、殆ど荒らしかとorz
すみませんでした。

・次回予告
 双子双子双子双子・・・以上!

半年ROMりたい気分ですが、完結するまではやっていきたいと思います。
本当に、色々と大変失礼しました。

>とくめー様へ
>>942の※印が2行連続している部分はコピペミスです。まとめのさいには一行消してください。
毎度毎度お手数をおかけします。

951:名無しさん@ピンキー
07/03/19 05:24:45 U2zj/5uh
NoNoNo

GJですよー

952:名無しさん@ピンキー
07/03/19 06:38:16 AAK7MjuH
GJ!!
今エロが無くったって次が双子なら無問題って事でww
今から全裸で正座して待ってるw

953:名無しさん@ピンキー
07/03/19 16:53:08 e4Dyzprh
GJです。
次も楽しみにしています。


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