【翼君!】キャプテン翼でエロパロ 2発目【早苗ちゃん!】at EROPARO
【翼君!】キャプテン翼でエロパロ 2発目【早苗ちゃん!】 - 暇つぶし2ch550:名無しさん@ピンキー
07/04/21 00:15:20 a9hmXeS+
今日はここまでです。

551:名無しさん@ピンキー
07/04/21 00:24:42 +q7sfZsy
エロいエロいよ!
お疲れ様です、もう正座して続き待ってます!

552:名無しさん@ピンキー
07/04/21 01:04:02 IYNA9pbt
祝!!エロ到来!!
念密に前振りがあったので、余計にエロい。

553:名無しさん@ピンキー
07/04/21 01:10:48 xcijdVhF
 お疲れ様です。
 鬼畜もう一人いたー!! 
 ああ、でも何の為にヤバイ橋渡ってるのかな、三杉は。
まだ途中と分かっていてもこんなことしといて「問題なく」だったら(#゚Д゚) ゴルァ!!したいかも・・・。

554:名無しさん@ピンキー
07/04/21 02:28:30 +q7sfZsy
サッカー以外に何も興味を持たない翼が夢中になり、さらに皆に早苗の無意識のフェロモンな身体を見せびらかす結果となった行動が三杉の男としての黒い欲望に…なのかな
でも本当に引き込まれましたよ、
自分の中では避妊具の描写にぐっと来てしまいました、鬼畜な中にも相手をって感じで。己の快楽の為になんだけどね。
ああっごめんなさい、訳わからなくなりました


555:名無しさん@ピンキー
07/04/21 23:57:52 a9hmXeS+
三杉×早苗 続き24


箪笥の上に早苗を仰向けに寝かせると、三杉はわずかに体を離した。
ショーツが剥き出しになった早苗の下半身が、彼の目に迫った。
早苗が薄く目を開けると、三杉はこちらを睨むようにして見ている。
こんな目には憶えがあった。翼の目だ。
早苗に思うさま愛撫を加え、その途中に、時折じっと彼女の顔と身体を眺め、
苛ついたように険しい表情をして、さらに一層強い刺激を与えた。
そんな時の翼の目は、暗かった。今の三杉のように。
翼の顔が浮かぶと、大きく声を上げたいと思った自分を、早苗は恥じた。
(…なにがあってもそれだけはダメ…)
寝かされた箪笥の天板はぞっとするほど冷たかったが、身体の中心は燃えるように熱かった。

彼女の脚は箪笥の上で少し開いていた。
それを閉じようともせず、唾液で濡らされた布地の張りつく乳首を隠そうともせず、
観念したように身体を投げ出し口を結んだ彼女を見て、
三杉は早苗が身体はどうなろうと、声だけは出すまいと決心した事を読み取り、
その諦めに加虐心を掻き立てられた。

箪笥の前に立ち、早苗の身体を横から眺めた。
ベビードールをゆっくりと首元までまくり上げる。
散々にねぶられた乳房が、部屋の灯りにてらてらと光っている。
二つの可愛らしい乳首がさらけ出され、早苗は腰をくねった。
充血して薄朱い蕾、それを取り巻くぼやけた乳雲近く、ここにも歯形が残されていた。
三杉はそれを中指を伸ばして、つっと撫でた。
「翼くんも、ひどいな」
早苗は深く息をついた。再び呼吸が苦しくなってきた。



556:名無しさん@ピンキー
07/04/21 23:59:18 a9hmXeS+
三杉×早苗 続き25


今度は直に口に含まれた。
舌を巻き付け、強すぎも弱すぎもしない力でねぶり、軽く吸い、時間をかけて刺激してくる。
「…っ、……っん」
人さし指を噛んだ。腰が大きくうねるのを、もう止めようがない。
跳ね上げると軋む音がするので、固い箪笥の天板に尻を押し付け、左右に振った。
三杉の口が離れた。
「キミはいつもこうやって、自分から腰を振るのかい」
ショーツの上から秘部に当てた手も、一定のリズムで優しく揉んでいる。
「うぅん」
三杉の手を挟み込むようにして、ももをねじった。
「こんなに暴れるとは思わなかったな…。もう一度膝を立てて」
早苗はもう逆らわなかった。

とうとうショーツを抜き取られたが、立てた膝を伸ばす気力も無かった。
脚の間を目で犯されている。襞を指でなぞった後、折り曲げて食い込ませ、広げられた。
三杉の目には、今まさにトロリと透明な愛液が溢れ出た瞬間が見えたが、
入り口を閉じようとする厚い肉に残っているものは、すでに白濁していた。

「や…!やだっ!」
早苗は脚の間で行われようとしている事が信じられなかった。
溢れ返ったそこに三杉が顔を埋め、唇を押し当てていた。
くちゅ、と音を立てて口を張りつけ、襞を丹念に舐めていった。
両腕でももをがっちりと固定され、ぴくりとも動く事が出来ない。
腰を振る事も出来なかった。天板に磔にされ、ただひたすら舐められた。
「んぁっ…」
動けない。苦しい。苦しい。気持ちよさに気が遠くなりそうーーーー

三杉の舌が上に伸ばされ、包皮からわずかに顔を出した突起にたどりついた。
もう一度、ぐい、と唇を押しつけ、狙いを定めて尖らせた舌を当てる。

「ーーーーーーあぁーーーーーーー」

押さえ込まれた早苗の下半身は静止していた。
埋められた三杉の頭もほとんど動く事はなかった。
その口の中に含まれた小さな肉の粒を、早く溶かしてしまいたいアメ玉のかけらのように
彼が容赦なく責めている事は、早苗に現実でないように思わせた。

痙攣が始まる予兆がした。
どんな枷にも縛る事の出来ない、本能の動きが、早苗の身体を震わせようとした。
それを素早く感じ取り、三杉は口を離した。




557:名無しさん@ピンキー
07/04/22 00:00:25 a9hmXeS+
ここまでです。
もうちょっとエロシーン続きます。
しつこくてごめんなさい(><)

558:名無しさん@ピンキー
07/04/22 00:08:17 iYr3qhmv
いやいや、しつこいなんてそんなそんな…
エロ三杉キターッ!
お前どんだけエロイんだー!

お疲れ様です、続き楽しみにしています

559:名無しさん@ピンキー
07/04/22 01:54:17 xae/ekX+
 乙でーす。
 読んでいるこちらも三杉の掌の上w 言葉責めのヨカーン。

560:名無しさん@ピンキー
07/04/23 00:27:37 52zoO5qh
三杉×早苗 続き26


早苗の腰が、快楽のとどめ欲しさに、ひくひくと箪笥の上で浮いた。
それを三杉はじっと見つめ、待った。早苗は懇願してくるはずだ。
どうか犯してくださいと。
一方的に支配し、悶えさせた。予想以上の淫らな肉体への驚きは隠していた。

だが、早苗は胸を大きく上下させながらも、三杉から顔を背けていた。
強く閉じられた瞼は、早苗の心そのものだった。
これ以上大きな音を立てない事、一刻も早くこの時間が終わる事だけを願い、三杉を閉め出している。
翼に知られないように。
翼を守るために。
三杉は彼女の身体を横抱きにして箪笥から下ろすと、もう一度天幕の中へと戻った。

早苗は薄暗さが戻ったのを感じて目を開けた。
三杉が服を脱いで、避妊具を付けるのを、ぼんやりと見るともなく見ていた。
男を待ちわびる股間がズキズキと痛んだ。これ以上の刺激を与えられたら、きっともう我慢できない。

「みすぎ、さん…」
背後からの小さな声に、三杉は振り向いた。
「なにか…、噛むもの、ください」
「…」
「こえ、が、でるから…」
「さっきから出してるじゃないか」
「おおきい、こえ、が…でたら…」
「いくらでも出すといい。ずっと我慢してるんだろう?」
「……どうして……」

どうして、隣に翼くんがいるのに。
どうして、翼くんは友達なのに。

「ばれたらどうなるだろうって、思ってる?」
三杉が早苗の上に覆いかぶさった。
「なんにも変わらないんだよ。…長い目で見ればね」
「…」
「翼くんは何も変わらない、サッカーがある限り。終わりになるのは、キミとボクだけだ」
三杉は早苗の肩を撫で、その丸みを優しくさすった。
「…小さいね、キミは。いるのかいないのか、わからないぐらいだ」
翼が残した歯形と同じ場所に、唇をあてた。
「…やよいちゃんは…」
「ここで翼くんがボク達の事を知っても、それが弥生に伝わるかどうかはまた別の話だよ」
早苗の鎖骨に頬をよせ、鼻をすり上げて匂いを嗅いだ。
「だが」
三杉が顔を離した。
「実際どうなるかはボクにもわからない。賭けかも知れない…何も変わらないか、全て失うか」
三杉の顔は影になって真っ黒に見えた。早苗は、今度は顔全体が穴のようだ、と思った。

「緩慢な死か、一瞬の死かだ。違う?」





561:名無しさん@ピンキー
07/04/23 00:29:26 52zoO5qh
三杉×早苗 続き27


早苗は返事をせず、真下から三杉の顔を見つめた。
この薄暗さで、俯いている自分の表情は早苗にはわからないはずだ。
しかし早苗の探るような瞳には怒りも哀しみも無く、それが三杉に意外な圧迫感を与えた。
彼女と話をする事も、優しく触れる事も、自分が衣服を脱ぎ捨てる事も予定に無かったのを思い出した。
(この感触と熱気のせいだ。これで少しやり過ぎるんだ、多分、翼くんも)

早苗が下から片手を伸ばし、三杉の頬に触れた。
「…何だ?」
答えずに、頬を撫でる。
「やめろ」
早苗の手を掴んで引き剥がした。
その皮膚のぬめりもまた、彼の指に吸いついてきた事が、三杉を狂わせた。
無言で早苗を睨みつけ、右手を彼女の脚の間に差し込んだ。
割れ目に押しつけた中指がぬるぬると滑ると、彼の体の下で、んっ、と息をつめる気配がした。
早苗の両肩を掴み、その身体を勢いよく反転させた。
膝立ちになって、彼女の尻を引き寄せて持ち上げ、後ろから突き入れる。
早苗は顔の横でシーツを握りしめ、喉の奥から、くぅ、と声を立てた。

小さく見えた入り口は、中の狭さを三杉に予想させていた。
しかしそれでも、その窮屈さに驚かずにいられなかった。
早苗の中は充分すぎるほど潤っているにも関わらず、三杉を拒むように閉じられている。
圧迫されながらもねじ込むと、フワフワと柔らかい肉が厚く押し寄せ、彼を押し戻そうとした。
挿入の瞬間のざらつくような感触は、早苗がまだ熟れきらず、
男の愛撫を必要とする青い肉を残したまま、彼を誘惑した事を告げていた。
(この…!)
力任せに突き刺した。何度も腰をストロークさせて、ようやく根元まで入れる事が出来た。
熱く濡れて誘っているくせに、幼く不器用に拒む早苗を、許すつもりは無かった。

「ん…っ…!」
尻を高く突き上げた屈辱的な格好で、早苗は三杉が突然見せた荒々しさに耐えていた。
さっきまでのじわじわと迫って来るような愛撫は消えた。それはまたも翼の事を思い出させた。
(翼くんも、三杉さんも、どうしてーーーー)
三杉は早苗の中をえぐるように何度も突いて来る。力の加減はまったく無かった。
「んっ、んっ」
快感にも増して痛みと衝撃が早苗を追い詰めた。
(男の人は、どうしてこんなふうにするの…)




562:名無しさん@ピンキー
07/04/23 00:31:00 52zoO5qh
三杉×早苗 続き28


三杉が手を伸ばし、乳房をつかみ、揉みしだいた。
早苗の皮膚のぬめりを利用するように、上下に大きく揉み上げてくる。
柔らかさを取り戻していた先端にも指が絡みつき、こねまわされ、弾かれた。
「んっぁあ…っ」
ずくん、と身体の奥底から、快感が甦ってくるのを感じた。
新たな蜜が流れ出し、ももの内側を濡らすのがわかった。

いつ果てるとも無く、熱く固いものが打ち込まれ続ける。
ずん、と頭の先まで届くような衝撃がくり返される。
(どうして、どうして)
(私、犯されてる)
(なのに、どうして、あついの)
(どうしたらいいの、たすけて、あついの、たすけて)
(翼くん、翼くん、翼くん)
(三杉さんが私を)
(いや…気持ちいいの……!いや……!)
(翼くん翼くん翼くん翼くん翼くんつばさくん)

「あ、あ、あ、あ」
全身に苦しいほどの快感の波が打ち寄せる。
「あっ、あっ、あんっ」
髪を振り乱す早苗は、三杉もまた自分の上で息を荒げている事には気づかなかった。
早苗の中は、いつしか三杉を強く吸い込んでいる。
肉はねっとりと絡みつくようになり、三杉を溶かすようにまとわりつき、責めた。
三杉はたまらず早苗を引き起こし、ベッドの上に座り直すと、その勢いのまま、彼女を貫いた。
どろどろにただれた中を削り上げられ、早苗は背中をのけ反らせた。
「くぅ…っ」
細く鳴くと、もう一度突かれた。
「んぁっ」
中で収縮が始まり、三杉は自分が絞り上げられるのを感じながら、
痙攣する早苗の口を塞いで押さえ込むように抱き締め、
最後まで彼女を味わいながら、放った。



部屋に戻ると、時計は4時前を指していた。
翼の寝息を確かめて、バスルームに入り、身体を拭いた。
三杉はほとんど早苗の身体に痕跡は残さなかったが、腕に薄く痣がついていた。
終わった後に身体が折れるかと思うほど、きつく抱き締められた跡だった。
息の乱れを隠そうともせずに、三杉は言った。

「明日もまた、同じ時間に」

563:名無しさん@ピンキー
07/04/23 00:33:04 52zoO5qh
ここまでです。
いつもレスありがとうございます。

564:名無しさん@ピンキー
07/04/23 00:48:47 OwbBvs5l
お疲れ様です!
いいエロ有り難うございます。
三杉、自分が主導権握ってたつもりで早苗の身体に翼同様溺れちゃったな
続き楽しみにしています


565:名無しさん@ピンキー
07/04/23 02:17:39 mOqr5o/d
 お疲れ様です!!

 そろそろ化けの皮が剥がれて来たなー。
 日常を破壊したいのなら一人でやれや、早苗巻きこむなw いっそ翼とガチンコ対決とか。
 (・∀・)イイヨイイヨー。

566:名無しさん@ピンキー
07/04/23 08:34:07 HCTE/ZOX
乙!!
エロだけじゃなくて、話の筋も気になるよ。
退廃的な感じがまたいいね。

567:名無しさん@ピンキー
07/04/23 18:49:46 W9U4aRok
乙です!
忠犬早苗がなんで三杉の誘いに乗って出てきたのか早く知りたい!

568:名無しさん@ピンキー
07/04/23 23:05:46 i9sPhoew
お疲れです!

>それが弥生に伝わるかどうかはまた別の話

そう言い切る三杉。悪いヤツだなぁ。
いっその事バレてしまえ!とも思う。そうなったら泥沼だが。

翼にバレるのは早苗にはちと酷か。

569:名無しさん@ピンキー
07/04/23 23:33:53 52zoO5qh
三杉×早苗 続き29


彼が目覚めた時は、うつ伏せだった。疲れている時はいつもこうだ。
弥生がベッドに腰を下ろしてこちらを見ている。
「…何時?」
「10時半よ。よく寝てたわね」
「皆は」
「サッカー」
「…本当に?」
「翼くんが連れて行っちゃった。私達は午後からサイクリングに行こうかって…」
「ふうん」
「眠って。まだ疲れた顔してるわ」
そう言われて恋人が素直に目を閉じた事に、弥生は少し驚いていた。


「ホスト役は弥生、キミに任せるよ」
この別荘に八人が集まるスケジュールを調整し終えた時、三杉に言われたのだ。
「向こうの管理人には、それまでに手入れを済ませるよう伝えておく。する事は決めてあるの?」
「決めるっていうか…確かテニスコートがあったわよね」
「あるよ」
「サッカーのコートは?」
「もう芝が伸び放題だろうな」
「使える?」
「この面子だからね。悪条件を喜びそうだ」
「なら問題無いわ。散歩して花火して…特に何もしなくてもいいの」
「それは気が楽だよ」
「淳」
「なに」
「乗り気じゃないのね?」

三杉にしては珍しく、あいまいに答を濁した。
三杉家の別荘ではなく、宿を取る事にしようかと言ってみたが、一度決めた事なのだからと却下された。
弥生も中学生の頃に一度、三杉の両親に誘われて、夏休みの数日を過ごした事があるだけだったが
異国から移築させたこの洋館を気に入っていて、かねてから再び訪れたいと思っていた。

しかしそれよりも、この場所で三杉に心底休養して欲しいーーー
それが弥生の願いだった。美子や早苗達に声をかけたのも、そのためだった。
自分と二人きりなら、三杉がイエスと言うとは思えなかったのだ。

強くねだって了承を得たが、何によらず親の財産と関わりを持つ事に、渋い顔を見せる男だった。
別荘の話を翼や石崎に聞かせ、彼らの口から「行ってみたい」という無邪気な言葉を引き出して、
半ば事後承諾のようにして話を進めてしまった。その時はそれが最善と思われたのだ。
来てしまえば、三杉も幼かった日々の思い出を甦らせて、リラックスする事になるだろうと。


(もう寝てる…二度寝するなんて、久しぶりじゃない?)
いつもは寝不足でも一旦目覚めれば、無理にでも起きようとするのに。
昨夜、パソコンに向かう三杉の背中を見て、ここに来たのは逆効果だったのかと不安になったが
近頃では聞いた事のない深い寝息に、やはり来てよかったと安堵した。



570:名無しさん@ピンキー
07/04/23 23:34:42 52zoO5qh
今日はこれだけです。

571:名無しさん@ピンキー
07/04/24 00:12:16 hAjNE9ZF
お疲れ様です!
淫(陰)と陽で早苗と弥生が三杉の中にある感じ…
続き楽しみにしています

572:名無しさん@ピンキー
07/04/24 00:22:24 F/94HdWj
 乙華麗ー。
 もう、続きを読まないと眠れないカラダになっておりますw

 弥生の無邪気な願いを、その親友を傷つける場に使うか三杉。切羽詰ってるのか知らんが、
サイテーだわお前。弥生にもバレてしまえ。

573:572
07/04/24 08:31:29 PfhDTVMT
 あ、ブーイングじゃありませんので職人様ごめんなさい。
 話の中に引き込まれてついのめり込んでしまいます。

 三杉は非情になりたいんだろうなと。ただそれが本来彼を抑制している家族
等々に向けられるんでなく、薄いつながりしかない早苗に向けられてるところに
彼の矛盾(狡さ?)を感じてしまう。
 翼にはバラしてみたいと内心思っているんじゃ。

 早苗も傍で翼を見てみたいけど、向き合うのは怖いと思ってる? ゆかりが
早苗の異常に気づいてくれるといいな。


574:名無しさん@ピンキー
07/04/25 00:14:46 9sQEUiej
三杉×早苗 続き30

ホテルのロビーの如く、天井高くまで空間をくり抜いた玄関ホールの長ソファに腰掛けて
三杉の寝坊を詫びる弥生の言葉から、さてこれからどうしようと女四人の話し合いが始まった。
昨日散歩に同行しなかった早苗は、ここで初めて三杉の多忙ぶりを知る事になった。
「とにかくやる事が増える事はあっても、絶対に減らないの」

サイクリングが早苗の足を心配するゆかりの意見で中止に決まると
弥生は邸内で猫と遊び、今日の夕食は私が作ると言った。
美子はこの長ソファで、読書をすると言った。

「こんな所で読むの?美子ちゃん。弥生ちゃん、ここ図書室もあるって言ったわよね」
「うん。淳は鍵がかかってない部屋は自由に使っていいって言ってるから、美子ちゃん、そっちに」
「持って来た文庫本だから、図書室なんて…ここは吹き抜けだから気持ちいいし、窓もあるから明るいわ」
「まあ騒がしい連中はみんな外に行っちゃったしねえ」
「私、紅茶入れて持ってきたげる」
「ありがとう弥生ちゃん。弥生ちゃんは本、持って来たの?」
「うん、私も文庫本…でも読む気無くしちゃった」
「そうなの。それなら、また貸してもらってもいい?」
「いいわよ、っていうか、あげるわ」
「えっ?」
「純文学って前は好きだったんだけど、最近読まないの。ここにいたら読むかもって思ったんだけど」
「どうして読まなくなっちゃったの」
「うーん。重いから…?なんとなくね。滅入ってくるのよね」
最近は単純なハッピーエンドが読みたいかな、と弥生が言って、お開きになった。

ゆかりは最後まで一言も発しなかった早苗の顔を覗き込んだ。
「早苗、大丈夫?」
「うん」
朝食のテーブルについた全員を驚かせた、早苗の目の充血は、治まっていなかった。
「疲れ目だと思うの。家の外まわって、緑を見て来るわ」
「一緒に行こうか」
「ゆかり、猫と遊ばせてもらうんだって言ってたじゃない」
「そう、ものっすごく可愛いのよ!でも昨日も逃げられちゃってさ。全然捕まらないんだもの」
「今から追っかけたら、夜には捕まるかもしれないわよ。じゃあ行って来ます」
ゆかりが追って来ないのを確かめて、早苗はうまく一人になれた、と思った。

疲れた、とは便利な言葉だ。俯いてそう言えば誰もが納得してくれる。
痛む頭と、味のしない朝食からずっと続く吐き気と、呼吸のリズムがつかめない息苦しさ。
誰にも気づかれてはいない事が、不思議にさえ思えるほどの。

日射しの中、緑の濃い外気を吸いながら、外壁に沿って歩いて行くと、飛び石の続く道へ出た。
一つ飛んでも足は痛まなかったので、二つ三つと飛ぶうちに、呼吸が楽になってきた。
石だけを見つめて、慎重に飛び移る。着地が決まって、単純な喜びが湧いた。
もうひとつ。
もうひとつ。

全部飛び終えた時、上には翼と自分の部屋の窓と、そしてその隣の部屋の小さな窓が見えた。
カーテンの閉じられたその窓を眺めて、もう一度飛び石を引き返した。



575:名無しさん@ピンキー
07/04/25 00:15:58 9sQEUiej
すみませんこれだけです。
明日とあさってでもう少し頑張りたいです。

576:名無しさん@ピンキー
07/04/25 00:27:16 P6enZJQE
 お疲れ様です。
 早苗の孤独が切ないです。自己評価がずいぶん低くなっている? 
 
 いつもありがとうございます。職人様も、どうぞご無理をなさらず。

577:名無しさん@ピンキー
07/04/25 00:31:20 UL497LXT
お疲れ様です!
ゆかり姐さんー、早苗を救ってー!
起きた時の翼の反応も見てみたかったけど…朝立と共に早苗を襲ってそうw


578:名無しさん@ピンキー
07/04/26 00:19:35 JJ/px9zH
三杉×早苗 続き31


歩き続け、並んだベンチが見えてくると、早苗は足を止めた。
あの場所で三杉の視線と手の動きに翻弄されたのが、随分遠い出来事のようだ。
こうして太陽の元にいると、昨日の自分が起した行動ですら、夢か何かではないかと思えて来る。
あの時、どうすれば良かったんだろう。彼はこのベンチからもう全部決めていたんだろうか。

三杉の心が彼の言葉通りなら、早苗と関係を持った事が、ばれてもいいとは思っていても、
何が何でもばらしたいと言うわけでは無い、そうなるはずだ。
賭けだとも言った。賭け、かもしれないと。
成りゆきに任せて、どっちに転んでもかまわないと思っているのだろうか?
果たしてそんな事が、本気で考えられるものだろうか?

だが三杉のそんなどっちつかずの投げやりな態度は、このベンチからすでに始まっていた。
早苗は猫に向かって哀れだと言い放った、光の無い目を思い出していた。

キッチンでも見せたあの目。感情が抜け落ちたようなあの顔。
昨日の夜を思い出す事は、早苗に激しい羞恥をもたらしたが、考えないわけにはいかなかった。
いや。やめて。おねがい。
拒否の言葉は伝えたが、三杉はそれを片手で丸めて投げ捨てた。
(あの人にとって、私の言葉なんてなんの意味も無いんだわ)
早苗は、無理矢理犯されたのだと、言い訳できない自分である事を知っていた。
抑えきれなかった甘い声、雌犬のように揺らめかせた腰。今も体中に快楽の余韻が残る。
三杉は勝利し、早苗は敗北した。
(でも、どうしたらよかったの)


自分は怯えた。身がすくんだ。
滑空する鷲に、追われた獲物が先に足を止め、その爪に捕らえられるのを待ち受けてしゃがみ込むように。
三杉がどこまで本気で、何をやるのかわからない事が、どうしようもなく怖かった。

このベンチから、いや、テニスコートから信じられない事の連続だった。
とても本当だとは思えなくて、確かめるようにドアを開けた。
だって、いたら、彼が本気で早苗と寝ようと思っているという事になってしまう。
そんな事はあり得ない。だから、ドアを開けても、大丈夫。

目に入った磨き上げられた革靴は、その瞬間、早苗をたやすく踏みにじった。

だってまさか、いるなんて。
だってまさか、隣の部屋だなんて。
まさか。まさか。まさか。

自分は怯えたのだ。三杉の虚無の前に。

579:名無しさん@ピンキー
07/04/26 00:21:08 JJ/px9zH
三杉×早苗 続き32


玄関ホールで語られた、三杉の近況が早苗の耳に焼きついている。
随分、会社の仕事に充てる時間の割合が多くなったのだと弥生は言った。

「もちろん、大学かコーチの勉強してる時間の方が多いのよ。
 でも会社の仕事は、元々まったくしなくてもいい事なわけじゃない。
 お父様も淳も跡継ぎなんて考えてないって、私にはそう言ってたし。
 だけどやっぱり、派閥争いかなんかで、そういう事考える人も多かったのね。
 何とかして淳を経営者に向かわせようと誘う話はいくつもあったの。
 淳は最初、そんな人達を軽蔑して無視してたのに」

高校に入った頃から、変わって来たのだと弥生は声を落とした。
完全にシャットアウトして来たそれらの話に耳を傾けるようになり、
自分の意見まで彼らに聞かせるようになった。
それは三杉を自派の旗印に掲げ、地盤を固めるだけが目的に過ぎなかった
保身第一の役員達を圧倒し、感動させ、忘れていた使命感をさえ再燃させた。
若者らしい純粋さ、高い知性と理念、知識不足を補って余りあるカリスマ性。

「その頃から協力はしていたけど、無報酬だし、淳も勉強段階だったみたい。
 でも今やってる企画は、初めて淳の名前が入るの」

しかし大学も決しておろそかにはしないのだった。
講議も研修も全てこなし、実技には特にこだわった。大学で寝泊まりする事も多い。
そしてコーチングのシミュレーション。選手の情報は絶えず最新のものを収集し、分析している。

「それで結局、自分がサッカーする時間が無くなっていくのよね」


早苗は三杉の前に輝く、いくつもの選択肢の事を思った。
そして自分の夫の、ただひとつの道を思った。

ばれたら終わり。
緩慢な死、一瞬の死。


弥生は三杉の、あの穴のような目を、見た事はあるだろうか
あの魂が抜けたような声を、聞いた事があるだろうか


580:名無しさん@ピンキー
07/04/26 00:23:03 JJ/px9zH
ここまでです。
ラストまでまだ結構ありますが、おつきあいくださると嬉しいです。
あと一回はエロも入れたい…

581:名無しさん@ピンキー
07/04/26 00:38:23 PwRanrNH
お疲れ様です
三杉の闇に巻き込まれた早苗…
エロも楽しみだけど、続きも楽しみにしています


582:名無しさん@ピンキー
07/04/26 01:06:01 5R8rS+D2
 乙カレー。

 虚無を感じて立ち竦む早苗、重いものは気が滅入る弥生…下手に相手の要望を
汲み取ってしまう性質が災いしたのか。ヤバいものには近寄らないのが吉なんだけど。

>>早苗は、無理矢理犯されたのだと、言い訳できない自分である事を知っていた。
>>抑えきれなかった甘い声、雌犬のように揺らめかせた腰。今も体中に快楽の余韻が残る。

 それは身体的な反応でどうしようもなんだ、受け入れたんじゃないんだ、そんなに自分を
追い詰めるな。・゚・(ノД`)・゚・。  問題なのはどっちかってたら、誘いに乗ってみること自体
下手したら翼への裏切りになるんだと気づかなかった事じゃないのかな。

 この先が楽しみのような、怖いような…。





583:名無しさん@ピンキー
07/04/27 00:04:05 HglejvzB
三杉×早苗 続き33


再び目覚めた時、三杉は一人だった。
やはりうつ伏せで、顔もむくんでいたが、体には熟睡の後の爽快感が漲っている。
シャワーを浴びて着替え、玄関ホールとつながった客間に入った。
ホールのソファの背もたれから美子の頭が見え、廊下を隔てたキッチンからは弥生の声がした。
それに返事をしたのは、ゆかりだった。二人で昼食を作っているらしい。
部屋の隅に立つ真鍮製の帽子掛けに、猫がリボンでつながれていた。
誰も彼に気づかなかった。彼も誰にも声をかけず、二階へ上がり、乳母室のドアを開けた。

カーテンを閉じているとはいえ、日の当たる部屋の中は充分な明るさがあった。
天幕の襞をかき分けて覗き込む。湿り気をおびたシーツの上には、早苗と自分の髪、そして彼女の匂い。
シーツを剥いで小さく畳み、持って来た紙袋から書類を出して空にすると、
一番下にシーツを入れて、もう一度上から厚い紙の束を詰め直した。

窓から差し込む日の光にカーテンを開けると、下に早苗がいた。
飛び石のひとつに乗り、次をどうしようかというふうに、小首をかしげて前方の石を見ている。
石の上で後ろににじり下がってから、思いきったように大きく飛んで、次の石に着地した。
足元がぐらつき、ぐるぐるっと両腕を回してバランスを取っている。
右に揺れ、左に揺れ、お尻を突き出して、片足を大きく振り上げた。
必死に堪えるやじろべえの姿に、思わず笑いを誘われて、三杉は自分の口を手で塞いだ。
しかし早苗は落ちなかった。
彼女が右手で小さく作ったガッツポーツに、とうとう指の間から息が漏れた。

レモンイエローの、袖のないワンピースで次第に楽しそうに、次々と石を攻略して行く。
日射しは早苗のサンダルを、目の痛くなるほど白くして、小さな黒髪の頭に光の輪を作った。
それは早苗を悩みのない、幸せな夏休みを送る少女のように見せた。
(次は、かなり距離があるぞ)
早苗は迷っているようだった。サンダルの厚い底を見て、それから石を睨んだ。

昨日の事がなければ今すぐ窓を開けて、笑いながら言っただろう。
「飛べるよ」と。
悩みのない、幸せな夏休みを送る少年のように。
そうして早苗はきっと驚いて声のする方を振仰ぎ、微笑み返しただろう。

早苗が飛んでしまうまでの数秒、自分の行為が握りつぶした、そんな場面を思い描いた。
三杉が予想したより遥かに上手く、早苗が飛び移ったのを見届けて、カーテンを閉めた。
彼女はこちらを見上げるだろうという予感がした。
カーテンを閉じられた部屋の中は、視界を奪うほど暗くなってから再び薄い闇で満ちた。

ホールに戻り、美子と本の話をしている所に、弥生が声をかけた。
「淳。今、起こしに行こうと思ってたの。サンドイッチと昨日のスープ、食べられる?」
「ああ。これだけ外の焼却炉で処分してくる」
そう言って、紙袋を持った腕を少し上げた。
「なにそれ?」
「昨日使った書類だよ。もういらないから」


584:名無しさん@ピンキー
07/04/27 00:07:27 HglejvzB
三杉×早苗 続き34


三杉はレンガ造りの焼却炉の前で、ズボンのポケットに手を突っ込んで立ちながら、
鉄の蓋の下からかすかに聞こえる、炎の爆ぜる音に聞き入っていた。

ふと気がついたように、建物を見上げ、その悠々たる外観を眺める。
(ここで完成させたファイルを向こうに持って行けば、いよいよ後継問題が表に出る)
父は、賓客を招いたパーティーや晩餐会には必ずここを使う。
三杉家とその影響を受ける人々にとって、ここは王の領地であり、選民の証の地であった。
その場所で一人息子が初めて、彼を中心にしたプロジェクトを完成させて発表する。
三杉家擁護派にとって、これ以上ないパフォーマンスになるはずだった。

問題も多かろうがやはり同族経営を、と望む声は、年を経る毎に強まっている。
中学の頃から、サッカー選手を引退した後でもいいから考えてくれと言われていた。
三杉が選んだ医学の道は、それらの人々を、少なからず落胆させた。

サッカーをする時間が減って、はっきりと喜んだのは母だった。
父は何も言わなかった。サッカーをしたいと言った時と同じく、結果で判断した。
仕事に関わるならと、試験と面接を高校生の時に一般の就職活動者と同じ方式で行ったが、
その内容に納得すると、自分が選んだ役員との関わりを許し、息子の自由な発言を許した。
判断ミスは叱責を受け、しかしそれでも彼の洞察力は一代で成り上がった辣腕家をすら驚かせた。
父が過保護になる事も、息子が自信過剰になる事もなかったが
やはり、彼が息子である事を喜ぶ父の姿が、そこにあった。

弥生はーーーいつも同じだ。
「淳が決めた事に、口は出さない」
お互いの意志を尊重し合い、経済的社会的な身分差に囚われず、対等に付き合っている。

何もかもが揃っている。誰もが餓えるほど欲しがる全てを、この手に持っている。
なりふり構わず、ただ自分が生きる事に喜びを感じてくれる母の愛情。
厳しさと公平をもって自分に接し、個人の能力を評価し信頼してくれる父の愛情。
美しく、自立心に溢れ、絶えまない労りを与えてくれる恋人の愛情。
そして、自分の資質と、環境と、将来における最善の選択をしてみせたという自負心。
完璧だ。なのになぜーーー

何か大きなものに嘘をついているような、罪を犯しているような、そんな気分が常につきまとった。
それは少しずつ彼の気力を奪い、いつしか、早く終わらせてしまいたいと思うようになった。
今回この顔ぶれでここに来る事は、何かのきっかけになるはずだ。そう感じた。

一応あなたもホストなんだからテニスする時は付き合ってよ、と言う弥生に
なら先に済ませてしまおう、と三杉は言って、彼女に大きな溜め息をつかせた。
翼とゲームをする事が、自分のリフレッシュになるとは到底思えなかった。
そして早苗を、夫の望みと欲望の形を何の疑問も無く一身にまとう彼女を、見たのだ。

ぼう、とレンガの中から火の神の唸り声が響いた。


585:名無しさん@ピンキー
07/04/27 00:09:57 HglejvzB
三杉×早苗 続き35


早苗は、彼女の前に立つ翼の影から生まれてきたように、静かにそこにいた。
ただ翼を見つめる事と、周りに溶け込む事だけを考えているようだった。

だがその思いを彼女の身体は、蠱惑的な曲線をたたえ、裏切っていた。
それを彼女が望んでいない事で、いっそう強い被虐性を加えながら。
早苗の精神と身体は、三杉を一瞬のうちに、刺した。

自分は早苗と同じコートに立とうとした。そして早苗が足を傷めたのを知りながら、最後まで勝負を捨てなかった。
早苗が夕食を手伝うと言った時、安心した。そして弥生の声が聞こえても、早苗を放す事ができなかった。
彼自身が限界を覚えていたのに、早苗を愛撫し続けた。そして最後の瞬間、彼女の口を塞いでしまった。

精神の変化を望んではいたが、こんなふうにではなかった。
言いなりになりながら、彼に混乱をもたらした早苗を、憎んだ。
またしても彼女がそれに気づいていない事で、いっそう憎んだ。
侮辱せずにはいられなかった。


足音が聞こえた。早苗がそこにいた。


三杉と距離を取って、足を肩幅に広げ、片手を口元に当てている。
やはり子供のように見える、と思った。

「ノースリーブはやめた方がいいよ。肩の後ろに歯形がついてる」
「…」
「ボクがつけた跡もわかるね」
「…」
「今日も昨日と同じ格好かい」
「もう、ドア、開けません」
「じゃあノックするよ」
「…嘘です。そんな事できない」

答えずに、眉を上げて目を丸くし、肩を軽くすくめて見せた。
早苗は弾かれたように、背を向けて、玄関へ駆けて行った。

自分は早苗を支配できる。目でも、言葉でも。
それがたとえ翼とは違うやり方でも。

今日はあの部屋で、床に跪かせ、奉仕させるつもりだった。
最後も床の上で、後ろから犯し、夫の名を叫ばせて悶えさせてやろう。もう口は塞いでやらない。
その場面を思い描こうとした。早苗が相手ならたやすく想像できる筈だった。

だが、なぜか、輝く光を受けて飛んでみせた、幸せな少女ばかりが心に浮かんだ。




586:名無しさん@ピンキー
07/04/27 00:11:40 HglejvzB
今日はここまでです。


587:名無しさん@ピンキー
07/04/27 00:19:51 MICs9c2p
お疲れ様です!

三杉はこれ以上何を望むのか…
続き楽しみにしています

588:名無しさん@ピンキー
07/04/27 00:53:12 bTzBZtHw
 お疲れ様です!

 …要は羨ましかっただけ? 愛でつながることは出来ないから、憎しみでつながろうと?
 「本当はただ、キミを抱きたかっただけなんだ」って悔悟する気じゃなかろうな。そんなの
レイプの言い訳にはなんないんだぞ、三杉?

 早苗、逃げて逃げてー。

589:名無しさん@ピンキー
07/04/27 08:43:20 KJw/yHNs
なるほどね。
毎日楽しみにしてるよ。職人さん乙!!
疲れない?無理すんなよ。

支配したいんだな。何かを。
それを早苗に見いだしたのかもしれん。
弥生じゃ支配にならんからな。限りなく理想型の弥生は
三杉の中で親と共に別格だろう。支配じゃなく共存だもんな。
まあ、だからと言って弥生を手放す気もさらさらないのだろうけど。
この様子じゃ。
それに、何と言っても早苗は翼の妻。三杉の永遠に越えられない壁の一部。
深く絡めば絡む程、面白くなっていくかもね。
最後をどのように締めるのか、職人さんが何を言いたいのかが楽しみだよ。

590:名無しさん@ピンキー
07/04/27 23:16:58 HglejvzB
三杉×早苗 続き36


「あー、ラーメン食いてェ」
ローストビーフとスモークサーモンをふんだんに使ったサンドイッチを前にして、石崎が言い放った。
どん、と床を踏みならす音がして、石崎がテーブルに突っ伏し、細かく震えていた。
全員がいっせいに隣に座っていたゆかりを見たが、誰も何も言わなかった。

「そのあと皆で大笑いしたんだよ。聞こえた?」
「ううん…」

早苗は少し寝たいと言って、トーストだけを持って自室に引きこもっていた。
翼が昼食前に様子を見た時には、ベッドで目を閉じていて、動かなかった。
食事を済ませて戻ってくると、寝転んだ姿勢はそのままに、うっすらと瞼を開いている。
皿の上に乗ったトーストは、口をつけた跡がなかった。

翼は自分もベッドに乗って、横向きで寝ていた早苗の身体に、前から腕をまわした。
「早苗ちゃん、目、大丈夫?」
顔を覗き込む。早苗は充血した目が恥ずかしくなった。
「眠れなかったの?」
静かに囁く、翼の優しい声。体中が幸福感と罪悪感でいっぱいになる。
「…うん…」
泣いてしまいそうで、それだけ言うのが精一杯だった。

翼が体をベッドの下の方にずらし、早苗の胸に顔を埋めた。
「…」
「寝てていいよ」
乳房に熱い吐息を感じる。キャミソールの下は、ショーツだけだ。
(どうしよう…)
翼はさらに二の腕の内側に鼻を擦り付けてきた。
「ここのお肉、気持ちいいんだよね」
瞬間、なにもかもを忘れた。翼への息苦しいほどの愛しさに、胸がつまった。
卑猥さの抜け落ちた、子供の頃のままの、素直な口調。
聞いたとたん早苗は羞恥も越えて、翼への狂気のような恋慕に囚われた。


私が守る。
私があなたを。
私があなたのサッカーを。
あなたの魂を。
私が。


翼の頭を柔らかく抱き締め、抱え込んだ。
普段とは違う反応に、翼は顔を乳房から離して、早苗を見上げた。
「早苗ちゃん?」

彼女は眠っていた。



591:名無しさん@ピンキー
07/04/27 23:18:21 HglejvzB
これだけです。
いつもレスありがとうございます。

592:名無しさん@ピンキー
07/04/28 00:24:26 v2vdjikP
お疲れ様です!
早苗悲しい過ぎるよ…愛する翼の為に孤独過ぎるよ…
ゆかり姐さんに三杉をどついてやって欲しい
続きすごーく気になります、頑張ってください

593:名無しさん@ピンキー
07/04/28 09:47:06 yWwloWxW
お疲れ様です!
 こちらこそ、毎日読ませて頂いてありがとうございます。

 ちょっとほのぼの&切なくなりました。良かった、一応翼気にかけてたのね。変なタイミングで
母性本能のスイッチ押しちゃったよ・・・また自分で行っちゃうのか?(涙
 翼だって早苗犠牲にしてまで守ってもらいたいなんて思ってないだろうに。行っちゃ駄目だよー。
その気持ちを三杉は利用してるんだからー。
 翼でいい、誰か止めてー。

594:名無しさん@ピンキー
07/04/29 00:24:52 cbEk5FIu
三杉×早苗 続き37


翼がボールを手に二階から降りて来た。
「早苗どう?」
「うん、ずっと起きてたみたいだけど、今やっと寝たよ」
「そう…どうしたのかしらね、あの子。昨日眠ってないみたいな顔してたわよ」
「枕が変わって、じゃないかしら」
「美子ちゃん、あの子そーいう繊細なタイプじゃないのよ。ね、翼くん」
「おれと違って飛行機で眠れるし、時差にも強いからね」
「ホームシックじゃないのか?」
そう言った松山に、翼はもう子供じゃないんだから、と笑った。

「猫はサッカー出来るかな、そら」
翼がゆっくりと転がしたボールは綺麗に無視された。お気に召さなかったらしい。
「そりゃボールより、こっちの方がいいよなあ」
石崎がサーモンの切れ端を持って、猫の前に屈み込んだ。
「アンタ一人だけいつまでも食べてたら、片づけの迷惑でしょうが」
「…」
「返事しなさいよ、バカ石崎」
「…なあ、椅子の足に引っ掻きキズがあるけどよ、いいのか、これ。高いんだろ?」
しゃがんだ石崎の背中越しの言葉に、弥生がソファからとび跳ねた。

「やだ、この子!家ではあの板にしかしないのに~。どうしよう、淳…ごめんなさい…」
爪研ぎ用の板は壁際に立て掛けてあったが、よく見ると、その周りの壁にも細い筋が入っていた。
「いいよ」
それまで会話に加わらず、ひとり掛けのソファでファイルを眺めていた三杉が言った。
「でも…おばさまには謝るわ。ここの家具は宝物だって仰ってたもの」
「いいって、そんなの。修理すれば済む」
「だけど…」
「猫がいるんだ、キズぐらいつくさ。最初からわかってた事なんだから、別にいいよ、どうでも」
ファイルから外さない視線と、気の抜けた声が、かえって威圧的に響いた。
間を置いて、皆が静まり返った事に気づいた三杉は、驚いたように顔を上げると滑らかに言った。
「猫に怒るわけにいかないだろう?いいんだよ本当に、家具なんて。だから気にしないで…弥生」


早苗は起きず、翼はまたもサッカーに、いい加減やや辟易気味の松山と石崎を連れ出した。
ゆかりと美子もその見物に、あとからのんびり追いかけて外出した。
「ごめんなさい」
弥生が猫を抱きながら言った。
「もういいよ。こっちこそ食事はボクの担当だったのに、寝過ごして悪かった」
「忙しい時もやりたがるわよね。淳には料理がヒ-リングなのかしら」
「軽い気分転換かな」
「そう」
なら、今、一緒にサッカーに行ってはどうかーーーー
仕事漬けの恋人に対して沸き上がった、率直な意見を、なぜか言う事ができなかった。

ファイルを持って立ち上がり、三杉は部屋の方へ歩き出した。
「仕事?」
「ああ。今日中には終わらせる。全部ね」

595:名無しさん@ピンキー
07/04/29 00:25:40 cbEk5FIu
今日はこれだけです。

596:名無しさん@ピンキー
07/04/29 03:08:10 2akl1hIP
お疲れ様です
GWも仕事なんで続き楽しみにしています
でも無理しないで下さいな!

597:名無しさん@ピンキー
07/04/29 15:33:25 yYzIXkfy
GJ!
この職人さん上手い!

598:名無しさん@ピンキー
07/04/30 00:14:13 y9q1yaxk
三杉×早苗 続き38


深い眠りから早苗が浮かび上がって来た時、もう日が翳っていた。
廊下に出ると、どこかで耳にした事のある、軽快なクラシックが聞こえて来た。
螺旋階段の手すりに身を乗り出し、ホールと続くドアを開放したままの客間を覗くと、
弥生がソファでくつろいでいるのが見えたので、早苗は階段を降りていった。

「弥生ちゃん」
「早苗ちゃん!」
「みんなは…サッカー?」
「例によってね。ゆかりちゃん達も行っちゃったわ。それより大丈夫?」
「うん、寝たらすっきりしたから。ごめんね、心配かけて」
「それ、トースト食べなかったのね。お腹すいてるでしょ?」
早苗は持っていた皿を、客間の低いテーブルに乗せ、自分もソファに腰を下ろした。
「うん、ここで食べようと思って」
「そんなの食べる事ないわよ、いま淳が夕食作ってるから、なにか軽いもの…」
「ううん、いいの。冷めた方が食べやすいし」
そう言って早苗がトーストを齧り出したので、弥生は立ち上がって、キッチンに向かって歩き出した。
「それだけじゃ駄目よ。何飲む?」
「お水でいい」
弥生の足音を聞きながら、三杉はやっぱり翼達と一緒には行かなかったのだ、と思った。

戻って来た弥生は、銀色のトレイに水と、オレンジジュースと紅茶と牛乳をのせていた。
「…」
「さあ飲め!」
「アハハ」
「全部飲め!」
「お腹たぽたぽになっちゃう」
「寝っぱなしだったんだから、水分取らないと許さないわよ」
「ほんとに全部飲むの?」
「一つだけ免除したげる。どれパスする?」
「じゃあお水」
「なによそれ!」

弥生の暖かさが津波のように押し寄せ、早苗を包み込んだ。
笑いながら、早苗は弥生に対し落ち着きを取り戻した自分を、強く意識した。
目覚めた時から、三杉との事は誰にも知られる事はないだろう、という楽観的な気持ちが生まれていた。
昨晩の三杉は、確かに現場を押さえられても動じる事はなかったかもしれない。
しかし、誰も疑いを抱いていないこの平和な状況を、進んで壊すだろうとは思えなくなっていた。

私さえしっかりして、普通にしていれば、翼くんも弥生ちゃんも知る事にはならないはずだ。

甘味のある牛乳を口に含んで味わっていると、三杉がエッグスタンドを持って入って来た。
「早苗ちゃん、ゆで卵食べて。美味しいわよ、ちゃぼの卵」
「夕飯が入らなくなるから、勧めるのもほどほどにね、弥生」
「いいじゃない。御飯の時間より体調が大事よ。朝もほとんど食べてないんだから、胃がおかしくなっちゃうわ」

早苗は卵を見ながら、ありがとうございます、とだけ言って、
キッチンに戻る三杉が、家具に届かない範囲でつながれた猫に一瞥をくれたその表情と
後姿が完全に消えたのを見届けてから、卵に手を伸ばした。


599:名無しさん@ピンキー
07/04/30 00:15:20 y9q1yaxk
これだけです。
明日もうちょっと頑張ります。

600:名無しさん@ピンキー
07/04/30 00:20:11 MXrp8sdb
お疲れ様です!
早苗を囲む皆が優しければ優しい程、三杉のあの鬼畜っぷりが際立つね…
続き楽しみにしています



601:名無しさん@ピンキー
07/04/30 00:34:23 MUEWlWUf
ガンガレよ~!!

602:名無しさん@ピンキー
07/05/01 00:01:36 y9q1yaxk
三杉×早苗 続き39


満月だった。
濃紺の空に、青白く煌々と輝いていた。

翼が部屋に戻ると、早苗がベッドの上に正座して、衣類を畳んでいた。
「お帰りなさい。ずっとサッカー?」
「もちろん!芝に脚が埋まって、ボールが全然言うこと聞かないんだ。面白かったよ」
翼は早苗の横に頭が来るようにして寝転んだ。
「三杉さんは一緒に行かなかったのね」
「うん。昨日も今日も一緒に出来なかったなぁ。最初にテニスなんかしないで、サッカーしとけばよかったよ」
「翼くん、テニスも楽しんでるように見えたけど」
「楽しかったよ。でも三杉くんがいるんだから、やっぱりおれはサッカーしたかった」
「…残念?」
「うん。明日はお昼過ぎには出るんだし、もう無理かなぁ」

早苗は畳んだものをバッグにしまうと、足を崩して翼の髪を撫でた。
「翼くん、船長さんになりたいって思ったことある?」
「ないよ」
早苗がおかしな事を言ったというように、笑って答えた。
「ああ、そういえば、昔は父さんがおれに帽子を被せたりしてさ」
言いながら見上げると、早苗は撫でる指の動きを止めて、ベッド際の壁を見ていた。
「早苗ちゃん」
その目はぼんやりとしていて、見るともなく壁を見つめている。
「早苗ちゃん?」
「…あ、ごめんなさい、なに?」

「きゃっ」
翼は起き直って、早苗の手首をつかみ、そのまま引き倒して組み伏せた。
早苗が聞いていなかった事と、物思いにふけるような眼差しが、なんとなく気に入らない。
翼の声を聞きながら、きっと違う事を思い浮かべていたに違いなかった。

「…もう、すぐに、御飯よ」
真下から見返す早苗の目が落ち着いていて、それはまたも翼の気に触った。
無言で彼女の顎を掴むと、ねじるように唇を合わせて舌をつっこんだ。
「んッ」
油断していた無抵抗の舌を捕らえて、ゆっくりと絡め取りながら、唾液を流し込む。
翼は自分の下で、弱々しくもがく、華奢な身体に構わず体重をかけてやった。
早苗は胸を圧迫されながら、口内に溢れ返る液体を漏らさないよう、懸命に飲み込んでいる。
翼はその度に彼女の喉が、ぐぐっ、と鳴るのを聞いて楽しんだ。

早苗の息遣いが荒くなり、耳が染まり、とうとう目尻に涙が浮かんだのを確かめると、翼は身を起した。
「お腹すいたね、降りようか」
「…」
ベッドから身体を翻らせて飛び下りる、その動作さえ鮮やかな男の姿を眺めて、
早苗は自分の迂闊さと臆病さを、そして昨夜の快感を、あらためて呪った。

しかしどうしようもなく、この男に求められる喜びは、常に自分を圧倒するのだーーーーー
それはちっぽけな彼女の後悔よりも自己嫌悪よりも大きな喜び、彼女が生きる全世界よりも大きな喜びだった。


603:名無しさん@ピンキー
07/05/01 00:03:07 y9q1yaxk
三杉×早苗 続き40


三杉の整った手が、やはり優雅に、そして手早く正確に動くのを見て、早苗は気持ちが沈んだ。
コース仕立ての夕食を、三杉はその場の誰よりも貴族的な所作で、一人ひとりに給仕して行く。

「レストランみたい。でも三杉さんに悪いわね」
「味見してるうちにお腹いっぱいになるんだって。それにこういうの好きみたいよ」
「そう。レストラン気分で食べてくれるのが一番嬉しいんだ。ウエイターを気にせずにね」
三杉は笑った。機械的なその声も、光の無い目も、卓上に置かれた燭台の鈍い灯りと、
あまりにも端正な隙のない容貌が、早苗以外の誰にも見抜かせなかった。

いや、弥生は気づいているはずだ。早苗はそう確信した。
弥生もまた、久々に友人達に会う嬉しさ以上の明るさを見せている。
おそらく三杉の変調は、ここに来ていきなりではなく、徐々に現れてきたものなのだろう。
となれば、彼が少々度を越した態度を見せても、弥生はそれを不思議に思わない可能性の方が高い。
そしてきっと弥生の明るさは、三杉の変化に対する、彼女なりの処方なのだ。

隠し通す、という決意と、明日には出て行くという開放感が
早苗にテーブルについて皆と顔を合わせるだけの冷静さを与え、三杉と弥生を観察までさせたが、
今夜の密会からどうやったら逃れられるのか、その答は導き出せなかった。

三杉は談笑しながらテーブルを回り、石崎に中華麺は探したけど無かった、と謝った。
誰もが穏やかに笑い、高価な調度品に囲まれた空間に浸りきり、時間がゆっくりに感じる、と言った。
早苗にとっては、矢のように早く過ぎて行く、あまりにも無情な時間だった。
三杉が、もう少しいきいきとした目をしてくれたらーーーー
もう少し、温かい声を響かせてくれたらーーーー

しかし彼には一片の生気も無く、そして映画に出て来る執事のように、完璧に振る舞っているのだった。
その血の通わない全てが、昨夜からの無茶苦茶な脅し文句は一つ残らず本気なのだ、と早苗に伝えている。

考え過ぎだろうか?
ドアを開けなくても大丈夫だろうか?
『ノックするよ』
本気なわけが
でも
でも

三杉は、早苗の正面の席に座る弥生に給仕をしていた。
彼女の皿に料理を取り分けると、顔を上げて、まっすぐに早苗を見た。

ーーーなにか合図を送って来るのならば、読み取らなくてはいけないーーー

とっさにそう思って、一瞬のつもりで目を合わせた。
三杉が見ている。手を止めて、見ている。目を、離さない。
弥生が、動かなくなった三杉を見上げ、その視線を追って、早苗を見た。
美子も、松山も、ゆかりも、石崎も、そして早苗の隣の翼も、三杉と早苗を交互に見た。
早苗は瞬きも忘れ、目を丸くして、莫迦な子供のように三杉に視線を返していた。

三杉が早苗と目を合わせたまま、表情を変えず、ゆっくりと口を開いた。

「弥生」


604:名無しさん@ピンキー
07/05/01 00:04:41 y9q1yaxk
ここまでです。
変なとこで止めてすみません。


605:名無しさん@ピンキー
07/05/01 04:18:48 ZKu1AuQl
お疲れ様です!
三杉の言動がすごーく気になる
早苗を弥生を不幸にしてしまうのか…


606:名無しさん@ピンキー
07/05/01 23:37:32 T05ngOFQ
三杉×早苗 続き41


「弥生、次はパスタだから、早苗さんは少なめに盛った方がいいかな」
「…あ、そうね。早苗ちゃん、どう?食べられそう?」
「…」
「早苗ちゃん?」

早苗は何も言わず、ただ頷いた。
視線を三杉から弥生に移すのに、頭痛がするほどの意志の力を必要とした。
「食べられる?」
頷いた。
「じゃ、みんなと同じに盛ってあげて、ウエイターさん」
「かしこまりました」
三杉が食卓から姿を消した。

早苗はテーブルクロスの下に両手を入れて拳を握り、指先の震えが治まりますようにと祈った。
翼が話しかけて来たので目を合わせる。夫の顔はぼやけ、遠くになり近くになり、ぐにゃりと輪郭を崩した。
皆の声が、ほら貝のように際限無く響いていて、何を言っているのかまったく聞き取れない。
笑顔を作り、相槌を打った。神様、どうか、なにもかもが自然に見えますように、神様。
握った手の内側には、汗がじっとりと沸き出していた。

「お待たせいたしました。タリアテッレのバジリコソースでございます」
早苗のめまぐるしい渾沌を突き破って、取り澄ました三杉の声がクリアに響いた。
ようやく取り戻した視界の中で、全員の笑顔を確認した。誰も早苗を見る者はいない。

三杉はワゴンから皿を4枚持ちにして、泳ぐように滑らかな足取りで、早苗の右斜め後ろに立った。
差し出された白い皿に美しく盛られた、鮮やかな緑色のパスタは、他の皿よりわずかに量が少なかった。
「どうぞ。このぐらいにしておくから、安心して食べてくれ」


食後のコーヒーのために客間に移動すると、翼は石崎と話し込み出した。
早苗は一人になりたいと思ったが、弥生もゆかりも早苗を離そうとはしなかった。
親しく会話した事は余り無かった松山と美子も、積極的に話しかけてきてくれる。
そういえば、自分はこの友人達と会うのが、本当に久しぶりなのだーーーー
一晩中語り明かして、笑い合ってもまだ足りないくらい、この時を待ち望んでいた筈なのだ。

だが、常に、一人でオーディオの傍に立ちながら、弥生を見る振りをして自分を見る、三杉の視線がまとわりついた。
その目は冷徹だった。自分の行動が彼女に与えた影響を観察する、実験者を思わせる目だった。
翼と弥生を前にして堂々と行ったデモンストレーションに、反抗する気力を失った早苗をその目に捉え、満足した。

獲物の足は、またしても止まった。
誰よりも獲物自身がそれを知っている。
それを、どうするかーーーー

「淳!」
弥生の声に皆が会話を止めた。三杉は膝をついて、猫をつないでいるリボンをほどいていた。
猫は、音もなくソファに飛び上がり、背もたれを渡り歩くと、
そこから流れ落ちるように絨毯に降り、カーテンの下に潜って気配を消した。
魔法のようなその動きをじっと見つめて、三杉は、いいんだ、と言った。

11時を回っていた。


607:名無しさん@ピンキー
07/05/01 23:39:22 T05ngOFQ
今日はこれだけです。

608:名無しさん@ピンキー
07/05/02 00:45:27 cG2iQkhv
 乙です!
 GWだというのに毎日投下どうもありがとうございます。

 自身が体が竦んで動けない時は、他の誰かに頼っても良いのに( ´Д⊂ヽ
 胸が痛い。

609:名無しさん@ピンキー
07/05/02 00:53:11 85PB3Sga
お疲れ様です!

翼を弥生を守る為なのか…
続き楽しみにしています

610:名無しさん@ピンキー
07/05/03 00:12:52 pmWlDjJU
三杉×早苗 続き42


1時になったのを確かめると、三杉はパソコンの電源を落として、立ち上がった。
デスクのランプだけを点けた、暗い室内を横切り窓辺に立って、ガラスに迫る闇を見つめた。
高い鼻梁、鋭さと甘さを兼ね備えた双眸。引き締まった口元に、精悍な顎。
よく見知った顔がくっきりと映り、我ながら無気味な目つきをしている、と早苗に同情した。
(老けたなあ)

ほうほうと鳴く梟の声を聞きながら、食卓での早苗を思い出した。
逃げる事も反撃する事も出来ないくせに、こちらの出方を窺う、大きな黒い瞳。
諦めを装いつつ、心のどこかで逃がしてくれる事を期待する、愚かな甘え。
それは早苗自身も知らずにしているのであろう、無抵抗の誘惑だった。


誰かに知られる時、それは早苗が耐え切れなくなった時だろう。
今日ではないかもしれない。
明日もあさっても切り抜けるかもしれない。
しかし、忘れた頃にかもしれないが、その日はいつか来るのだ。

全世界に知られようが、自分は別に構わない。
ほんの少し人間関係が変わり、いや、変わらないかもしれない。

友人の妻に手を出した。社会的にはそれだけの言葉で済んでしまう。
増してやその友人が、国威を賭けた戦いに欠かせないトップアスリートともなれば、
その家庭内スキャンダルは、メディアがむしろ黙殺する傾向にある。
仮に騒ぎ立てられる事になっても、その頃には三杉淳の生活環境は今よりいっそう
大空翼とも日本サッカー界とも、距離を置いたものになっているだろう。

きっとその時の自分は、何も変わらないと少しがっかりするに違いない。

弥生も去らないかもしれないな。
そう考えると、自然と奥の寝室に目を向けた。

ベッドの上には、眠りのうちに、愛と理解が彼を待っている。
愛と理解のうちには、生が、救いがあり、彼はすでにそれを与えられていた。
だが、足はドアへと向かう。彼の冷酷を誘い、待つ女へと。

まだ時間がある事を思い出して、もう一度窓を見た。
ガラスに映った彼自身を睨み付ける目の奥に焦点を合わせ、暗黒を覗き込む。
手を伸ばせばこのまま、闇の向こうへ、行けそうな気がした。

ーーーーそれもいいかもしれないなあーーーーー

ただ歩いて、引き返さない。それだけだ。
少なくともこの世に一人だけは、彼のそんな行動を歓迎してくれるだろうと思い、笑った。


ドアを開けて、廊下に出た。
(まだ時間じゃない。本当にノックしてやろうか)
昨日と同じく、靴のまま、絨毯の上を歩き出した。
螺旋階段に足をかけ、しばらくそこで留まった。目は空を見つめていた。
ゆっくりと踵を返し、玄関ホールへ向かった。
絨毯が途切れ、大理石が剥き出しになった床の上を、靴を鳴らして歩いた。

611:名無しさん@ピンキー
07/05/03 00:13:53 pmWlDjJU
これだけです。


612:名無しさん@ピンキー
07/05/03 00:34:56 viqu3veo
 お疲れ様です。

 死にたいのなら一人でやれ…orz 
 早苗だけでなく、弥生も軽んじてるんだな。自分の方こそ彼女らの優しさに甘え突けいってる
だけなのに気づいていないのか。中二病ってこんな感じ?

613:名無しさん@ピンキー
07/05/03 00:48:07 viqu3veo
保守してみる。

614:名無しさん@ピンキー
07/05/03 00:49:35 gSZ8m5LT
お疲れ様です!
三杉、冷酷鬼畜!
でも続きが気になるー早苗と弥生が不幸な事にならないで欲しいけど…
創作とわかっていても本当に引き込まれますね、仕事でGWも関係自分の夜の楽しみです。

615:名無しさん@ピンキー
07/05/03 01:12:41 Jukji4m9
お疲れ様です!

・・・自分的には弥生がすっごく可哀想になってきた。

毎晩続きが楽しみです。

616:名無しさん@ピンキー
07/05/04 00:13:46 BQKPzMDY
三杉×早苗 続き43


ホールはあらゆる青の陰影を帯びた月明かりに満ち、海の底のように揺らめいていた。
玄関ドアを両脇から挟む細長い窓は、美子のために明るい日射しを投げかけてやった事を忘れ、
ただ青い光の筋と静寂とを送り込み、このホールを教会のように見せていた。

だから三杉は、ほとんど真横に立つまで、長ソファに座る人影に気がつかなかった。
黒い髪に、白い肌。
鈍い青に染め上げられた空間の中で、異様なほど白かった。

ーーーー藤沢美子ーーーー

三杉はその一瞬、彼らの中でもっとも白い肌を持つ、美子をイメージした。
しかし響く足音をはっきり捉えながら、顔を上げないその女は、早苗だった。

「…何してる…」
とっさの口調に、動揺が滲んでいる事に気づいて、黙った。
早苗は首より先に目を動かして、三杉を見た。
両腕を真直ぐにソファに下ろし、肩をすくめるようにして、身体を支えている。
その格好と、白い、膝丈のワンピースにも見えるナイティが、これまでより一層幼く見せた。
無表情に横目で三杉を見て、再び俯いて、投げ出した素足の先をほんの少し動かした。

蜘蛛の糸のような、硬く細い月光を親指の爪に灯し、じっと見ている。
青、蒼、碧。わずかなグラデーションに眺め飽きたようにふと外して、闇の色に戻し、また灯す。
音もなく何度もくり返すその動作は、彼女が本当に子供なら、遊んでいるように見えただろう。


三杉は早苗の正面に立ち、月光を遮った。
彼の影は彼女の全身を覆い、取り込んだ。顔を上げた早苗の白目が、わずかに光った。
三杉は近づいて、右腕を伸ばし、彼女の肩に手をかけた。
触れた手のひらから全身の熱を奪い去るような、その冷たさに、今度は驚きの表情を隠せなかった。
「どう…」
…したもないものだ、とは自分でも思ったが、早苗の様子は予想外だった。

三杉は近くで顔を見ようとして、早苗を立ち上がらせるより先に、自分が跪いた。
片膝をつくと、わずかに早苗を見上げる形になり、闇にぼやけたその輪郭は、再び青くふちどられた。
早苗はやはり表情を変えず、濡れた大きな目で柔らかく瞬きをして、三杉を見返す。
生まれた時からものを言わない生き物であったかのように。

三杉は、肩に添えた右手はそのままに、左手で髪を撫でた。
抵抗して身体を強張らせるでもなく、諦めて投げやりに力を抜くでもなく、早苗は三杉の手を受け入れた。
手が髪から頬に移った。青味がかった早苗の頬は、それにふさわしく冷たかった。
(まるで人形だ。昨日よりも、いっそう)
肩も頬も、昨日と同じように、三杉の指にひたと吸いついた。
昨日は暖められた絹の手触りで惑わせた早苗が、今は凍りついた沼のようだった。
香りは、するだろうか、昨日と同じ匂いはーーーーー

もう片方の膝もつき、顔を近づけたが、早苗はぴくりとも動かなかった。
青い唇を見つめ、両手で頬を優しく挟んで、ゆっくりと自分の唇を重ねた。
早苗の目が空いているのを知りながら、三杉は目を閉じ、何度も口づけた。

自分の唇も彼女と同じくらいに凍っていればいいのに、と思った。


617:名無しさん@ピンキー
07/05/04 00:15:33 BQKPzMDY
これだけです。

618:名無しさん@ピンキー
07/05/04 00:36:18 g65apTlW
 乙です!

 早苗orz
 翼に聞こえる可能性のある隣室だけはイヤ、ってことなのか? 弥生の存在は無視
ですか。バレなければいいと…? こーの現実逃避コンビめ。

 もういっそのこと、 翼 (屮゚Д゚)屮 カモーン

619:名無しさん@ピンキー
07/05/04 00:41:50 OJ2Mpt+8
お疲れ様です!

おいおい、美子もかよーっ!せっかちに考えてしまったよ
幻想的な描写で自分の中では早苗が三杉の闇を解放するのかなって想像したよ。
続き楽しみにしています。

620:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:34:33 IgvAdGFp
三杉×早苗 続き44


角度を変えて、何度となく押しつけられた三杉の唇は熱く、
早苗のほとんど麻痺していた思考を目覚めさせたが、
昨日もしなかったキスをなぜ今するのだろう、と他人事のように疑問が湧いただけで、
その熱さは自分の身体が冷えきっているために感じるのだ、という事には気づかなかった。

やがて三杉は顔を離すと、両膝をついたまま、早苗の胸元に頭を垂れた。
またしても、この女の前で自制心を失ったのだ。キスなんかするつもりは無かった。
だがその思いは、昨日のように苛立ちではなく、自嘲の方向へと三杉を向かわせた。
ふっ、と鼻で息をつき、時計に目をやった。1時半を指していた。

のろのろと立ち上がって、早苗の隣に腰から崩れ落ちるようにして、座った。
「ここで何を?」
「水…を…飲みに…」
早苗の横顔は、さっきより少しだけ、感情を取り戻して来たように見えた。
「それで…綺麗だったから」
囁いた瞳の先には、三杉に遮られていた月光が、きらめいている。
「こんな綺麗な青色、見たことがなくて、青が好きだから、それで」
魚の腹にも似た、病的な白さを潜ませた両手を伸ばして、手のひらで光を掬うようにした。

早苗の言葉に、言い訳がましさを感じた。
三杉を驚かせた、人形のような落ち着きが消え失せ、怯えが甦り出した。
「死体の色だよ」
口の端が醜く釣り上がったのが、自分でもよくわかった。
「青が好き、か」
独り言だったのだが、早苗はそれを問いかけだと思ったようだった。
「…代表の色だし、南葛の色だから。ずっと、好きなんです。…昔から…」
知らずに大きくなった声がホールに響いて、最後はまた掠れるように途切れた。

「………南、葛」
ここに来て度々耳にし、口にもしたが、南葛の名は、今、心に突き刺さった。
怒濤の勢いで噴き出す記憶と感情に、歯止めをかけようとしたが、出来なかった。
「南葛…」
目に映るのは、緑色の荒野だった。それは風のように流れ、どこまでも続いた。


先陣を切って走る、あれは誰だ?
幼い命をわずかな時間に賭した、あれは誰だ?
周囲の人間の、父の母の温かな心を引き裂き、敗北し、一片の悔いも残さずに笑った、あれは、誰だ?

雨音が聞こえる。
大地を揺るがし、耳をつんざき、視界を奪い去る猛烈な雨。
あの、打たれれば打たれるほど、血が狂うように燃え上がった、戦いの音。


いきなり立ち上がって、三杉はまっすぐに目の前の窓を見つめた。
何かを探し求めて目を凝らす横顔を見上げ、早苗は身を縮めた。

月光が、彼を慈しむかのように取り巻いて、静寂と平和を与えた。
長い間、彼は窓の外を見ていたが、やがてその目は光を失い、再びソファに身を沈めた。



621:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:39:33 IgvAdGFp
三杉×早苗 続き45


いつまで、ここにこうしているのだろうーーーー

動かない三杉に、早苗は次第に不安を覚え始めた。
三杉がここに現れた時、それは早苗の予想していない事であったが、気にならなかった。
むしろ三杉が驚きを隠そうとした事に、滑稽さを感じ、心で嘲笑を送ったのだ。
だが今、自分が置かれている状況を考えられるだけの意志の力が戻ってくると、やはり早苗は怯えた。
自分が言った南葛という言葉が、三杉に変化を与えた。
しかし彼の目はいっそう暗く、見て分かるほどに指先の力が抜けている。
良い変化だとは思えなかった。


(誰もいない。あれは誰でも無い)

再び過去は流れ去り、ホールのソファにだらしなく座っている自分がいた。
あれから時間はゆっくりと過ぎた。
天才の称号は失い、代わりに、「本当は勝っていた」が、うやうやしく差し出された。
それは彼を愛する人々の祈りの言葉でもあった。

本当は。

あの試合は。

負けたけど、勝っていた。

だからあなたの方が上。

大空翼よりも上。

だから負けたなんて、思わなくていい。



…それはどうも有難う。

三杉が突然、痙攣のように顔をひくつかせた。
早苗は息を止めて、横目でそっと盗み見ると、彼は喉を鳴らして笑っていた。
「うんざりだ…もう」


「…三杉さん」
「もういい、行きなよ」
「えっ」
「萎えた。もうどうでもいいよ、キミなんか」
自分の顔を片手で掴むようにして、こみ上げる笑いをどうにか治めると、三杉は静かに早苗を見た。
「さあ」

無言で見つめ合った。
話をするには近過ぎ、キスをするには遠過ぎる距離だった。
どちらかが、それとも同時にか、ゆらりと動き、そして声が響いた。


「何してるんだ、そこで」


622:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:41:57 IgvAdGFp
ここまでです。
レスありがとうございます。
世間の祝日とは関係のない職種ですが、
ラストまで途切れずに書きたいと思ってます。

623:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:47:33 f7vneT1T
お疲れ様です!
自分と同じなのに毎日更新とは凄い!
翼か松山かそれとも石崎なのか…気になる

いつも有り難うございます

624:名無しさん@ピンキー
07/05/05 00:55:36 MGVKVD4h
 職人様乙華麗!

 早苗、スマンカッタ。呆然としてたのね。今のうちに逃げろ…って、一体誰ー!?
 (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

 お忙しい中、本当に毎日ありがとうございます。そういえば、1ヶ月になるんですねえ。 

625:名無しさん@ピンキー
07/05/05 23:40:27 IgvAdGFp
三杉×早苗 続き46


静止した二人の顔の間は、10センチも無かった。
「三杉…に……中沢さん…?」
「松山」
月光に照らされ、Tシャツに短パン姿の松山が素足で立っていた。
(こっちの表情は見えていない筈だ、…どうする…)
「なんで…何してるんだ、こんな時間に」
「…」

「松山くんたら。もう中沢さんじゃないって、何度も言ってるのに」

涼しげな明るい声が、松山の後ろから響いた。重なるようにして立っていたのは、美子だった。
「えっ?あ、ああ。そうだな」
松山の気が削がれたのを感じ取って、三杉は立ち上がった。
「キミ達はどうしたんだ、松山。何かあったのか」
「いや、おれ達は、その…」
「お借りしたチェスを、ずっとやってたんです。それで、喉が乾いちゃって」
「なんか飲もうと思ってさ」
「松山がチェスね。藤沢さん、戦績は?」
「私の5勝0敗です」
「いや!最後のはおれが勝っただろ!」
「だから、あれは無効なの。忘れずに、」
「チェックメイトを言わないとね」
「勝手に言い当てるな!」
「リーチも忘れるヤツだからね、こいつは。ゲームにならないんじゃないかって心配してたんだ」
「当たりです」
「美子!」

これでいい。
ここにいる理由をもう一度質問されたら、こっちも”喉が乾いた”で押し通そう。
早苗との話題は何でもいい。サッカーでも料理でも弥生の事でも。
自分がそう言えば、早苗も話を合わせるのだから、問題は無い。

会話の間に表情を整えると、落ち着きが戻り、何事も無くこの場をやり過ごそうと決めた。
早苗を逃がしてやろうという気持ちは、無気力から発した、ただの気まぐれだったが、なぜか変わらなかった。
彼の横で黙っている早苗が、動揺しているのではないかと思い、ちらりと様子を窺うと、
いやに真剣な顔をした彼女が、じっと松山を見つめていた。

…なんだ?

「…松山くん…」
三杉が作り上げた空気を打ち壊す、重い声だった。
チェックメイトを言わない事で、いかにゲームが盛り上がるかを
美子に説明していた松山は、少し驚いたように早苗を見た。

まさか、この女、自分から。

「松山くん、知ってる?三杉さんが私に」
「おい、何を」
とっさに早苗の腕をつかんだ。
二人の関係からは、あまりに不自然なその行為に、再び松山の眉が曇った。



626:名無しさん@ピンキー
07/05/05 23:42:06 IgvAdGFp
これだけです。
だらだら長いですが、ラストが見えて来ましたので、もう少しおつきあい下さい。


627:名無しさん@ピンキー
07/05/05 23:55:06 D9Eld9oo
 お疲れ様です。
 毎日ハラハラさせて頂いております。中だるみも特に感じず、職人様の筆力に圧倒されます。

 松山カップルでしたか…穏便な人物で良かったねえ。
 早苗何言うつもりだ、いいから逃げなさい。この状況下でエロはちょっとコワイです。
ひー。

628:名無しさん@ピンキー
07/05/05 23:56:38 f7vneT1T
お疲れ様です!
松山ーっ美子っ!来たーっけど早苗を救えるのかな…
三杉懺悔しなと言う事で続き楽しみにしています。


629:名無しさん@ピンキー
07/05/07 00:02:12 pgVCkWOp
三杉×早苗 続き47


加減を忘れた三杉の指の力は、痛いほどだったが、早苗は松山を見たまま、言った。

「私に、サッカーやめるかも、って。松山くんは、その話、知ってるの?」

松山の顔が一瞬のうちに真剣な色を帯び、早苗を、次に三杉を見た。
その目は、苦しそうな、厳しい目だったが、そこに驚きは無かった。

三杉は早苗の発言に、腕を離す事も忘れ、ゆるく口を開けたまま、彼女を見下ろした。
「…三杉、本当か。決めたのか」
「そんな…三杉さん、駄目です、そんな」
美子の口調は切ないものだったが、やはりその声にも驚きの響きは無かった。

「さっきからずっと、何度聞いても、はっきりとは言ってくれないの。でも」 
早苗はゆっくりと三杉を仰ぎ見て、目を合わせた。
「…悩んでるから、こうして、眠れないんじゃないですか」
瞬き出来ずに自分を見つめる三杉を、早苗は落ち着いた表情で見返した。

「三杉…」
三杉は全員に聞こえるほど、大きく息を吸い込んで、目を閉じて吐き出した。
「早苗さん、ボクはやめるなんて言ってないよ」
「言ってないけど、そんなふうに聞こえる話し方でした」
「どういうことだ、三杉?」
「別に状況は今までと変わらないよ、松山。ただこれからは、もっと時間が取れなくなるって言ったんだ」
松山は、そうか、と返事をして、早苗を見た。
「おれも大丈夫なのかって思った事あるんだ。こいつは事情が多いから」
美子は、その隣で、悲しそうな顔をして俯いた。
「…もう寝よう、皆。早苗さん、そんな心配しないでくれ」

三杉は松山と美子をキッチンに向かわせ、距離を取ってから早苗に話しかけた。
「何のつもりだ」
「なにがですか」
「反撃したつもりか?あれで」
「彼女達には、何も怪しまれたくなかっただけです」
「…」
そう言われると、何も言い返せなかった。
この時間にこの場所で、三杉と早苗の二人がいる事の、不自然。
それを、今はもう松山が感じていない事は、一目瞭然だった。
自分が頭の中に用意した、どんなでっち上げの会話よりも、早苗の言葉は説得力を生んだ。
でっち上げではないからだ。だが自分がこの話題を選ぶ事はあり得なかった。


「じゃあな、おやすみ、三杉」
「おやすみなさい、三杉さん」
冷蔵庫から持ち出した、ミネラルウォーターを手に、松山と美子は階段を昇った。
「…」
「おやすみ」
早苗は口の中でおやすみなさい、と呟いて、昇っていった。
三杉は、早苗の身体が階上の暗闇に消えるまで見送ってから、自分の部屋に向かった。

もう一度時計を見た。2時だった。


630:名無しさん@ピンキー
07/05/07 00:03:10 pgVCkWOp
これだけです。
明日もうちょっと頑張ります。

631:名無しさん@ピンキー
07/05/07 00:12:46 kv7H/+wM
職人様お疲れ様です!
三杉…完璧な王様じゃないのにね
この後の早苗は早苗は大丈夫かな(T_T)
続き楽しみにしています

632:名無しさん@ピンキー
07/05/07 11:43:50 vwNLKG9C
お疲れ様です、いつも楽しみにしています。
藤沢さんがちょっと気になります…何か知っているのかな?

633:名無しさん@ピンキー
07/05/07 23:27:43 pgVCkWOp
三杉×早苗 続き48


「びっくりしたな、あんなとこで何やってんだって一瞬あせったぜ」
「…」
「美子?」

美子の息を飲ませたのは、三杉の狼狽ではなく、落ち着き払った早苗の態度だった。
ソファ越しに立ち上がった早苗は、乳房の丸みと下着のラインが月光に透けていて
松山どころか女の美子でさえもうろたえ、目のやり場に困るほど、それは官能的だった。

あの姿で、ずっと二人でいたのだろうか。
不自然なほどに顔を近付けて、はっきりとは聞き取れないほどに静かに話しながら。
「松山くん、早苗さんたち、明日、帰るのよね」
「そうなんだろ。もう今日だけどな」

三杉のサッカーにおける進退問題の深刻さは、誰の目にも明らかだったし、
それを常に心配する弥生、松山と共にいる事によって、美子にとっても身近な話題だった。
ここで一切サッカーをせず、仕事優先の行動を取っている三杉を見て、美子の不安はつのった。
それは、三杉のためというよりも、弥生のための不安だった。

ここでも、そして以前からも、三杉の弥生に対する振る舞いは、申し分ないものだった。
(…無さ過ぎるくらいだったわ、いつも)
二人とも、お互いの仕事の領分には立ち入らず、愚痴はもちろん相談さえもしていないようだ。
美子からは、それが正しく自立した姿だと頭で決めて譲らない、頑固なルールにも見えた。
いつか、無理が来るのではないかーーーー
その時、弥生はどうなるのだろうか。

「松山くん」
「なんだ」
「このこと、弥生ちゃん…ううん、誰にも言わない方がいいと思うの」
「へっ?」
「あの二人が、いま一緒にいたこと」
「…まあ、別にわざわざ言う事じゃないけど。隠すってのも、変じゃないか」
「でも誤解されるかもしれないし、あの二人が黙ってるなら、私たちが言うべきじゃないわ」
「そんなふうに言うと、余計変な事みたいに思えるぞ?あいつらは真面目な話してたんだし…」
「もし誤解が生まれても、それを解く時間が無いでしょう。だったら言わない方がいいわ」
「おまえ、なにか…」
「ううん、私も怪んでるわけじゃないけど、弥生ちゃんに余計な心配かける状況には、したくないの」
「…」
気を回し過ぎだ、とは思ったが、三杉を思って胸を痛める弥生の姿は、松山も嫌というほど見て来た。
「じゃあ、あいつらが言わないなら、な」
「うん」

松山の言質を取ったので、美子は落ち着いて早苗の事を考えようとしたが、それは難しい事だった。
今、玄関ホールで見た早苗は、その姿も態度も、まったく見知らぬ女のようだった。
就寝前に客間で話をした時も、上の空だったような気がする。
晩の食卓では…そうだ、弥生に話しかけられた時、呆然としたような態度で、一瞬不思議に感じた。

その情景が浮かぶと、映像を巻き戻すように、ここに来てからの早苗が逐一思い出された。
長い長い昼寝。朝の食卓で見せた、充血した目。そして、珍しく三杉が寝過ごした。
自分が知る限りの記憶を遡ると、あのホールに全員が集合した場面が、映画のように頭に浮かんだ。
男達は、サッカーに、そして女達は、散歩に。
寒気が足元から這い上がった。

彼らは残っていたのだ。この邸内に、二人きりで。


634:名無しさん@ピンキー
07/05/07 23:30:20 pgVCkWOp
すみませんこれだけです。
もうちょっと行くつもりでしたが、駄目でした。(><)

635:名無しさん@ピンキー
07/05/07 23:42:01 kv7H/+wM
お疲れ様です!

美子気付いたのかな…
早苗を弥生を助けて欲しいな

続き楽しみにしています

636:名無しさん@ピンキー
07/05/08 00:21:10 1tHVKKSh
 乙です!

 流石女性の方が鋭いのな。第三者的なスタンスにいる彼女だからこそ現実をきちんと
見据えられたのかも…。よくよく考えればこれってたった二日間の出来事なんだもんな。
当事者の早苗であっても混乱しまくりだろうし…余計可哀想に思えてきた。

 >>二人とも、お互いの仕事の領分には立ち入らず、愚痴はもちろん相談さえもしていないようだ。
>>美子からは、それが正しく自立した姿だと頭で決めて譲らない、頑固なルールにも見えた。

 ここ、個人的にも思ってたことなので盛んに頷いてしまいました。三杉と弥生は頭でっかち
な雰囲気が付きまとうカップルだなあと。

637:名無しさん@ピンキー
07/05/08 00:28:00 1tHVKKSh
すんません、圧縮回避予防にもっかいageます。

638:名無しさん@ピンキー
07/05/08 22:20:23 ZHnlq4tF
三杉×早苗 続き49


(考え過ぎちゃいけない。落ち着かなくちゃ…)
だが記憶の断片は、恐ろしいほどのスピードで組み合わさり、一つの仮定を作り上げようとしていた。
(三杉さんは、何を燃やしたんだったかしら?…そう、確か書類を、使った書類を処分するって)
彼が出て行って、再び本の世界に入り込んだ美子を、現実に引き戻したのは早苗だった。
勢いよく玄関ドアを開け、ソファに座る美子には目もくれずホールを駆け抜け、二階に上がり、降りて来なかった。
ゆかりが昼食に呼びに行くと、部屋の中からこのまま寝る、と返事をしたらしい。
少ししてから降りて来て、トーストを用意してもらい、これを食べるから心配しないでと言ったのだった。

「美子!」
強く肩を揺さぶられた。
「…まつやまくん」
「どうしたんだよ。おれが呼んでるの聞こえたか?」
「え、あ、うん。…ううん」
「もう寝ようぜ。まだ考えてたのか」
「…」
「まあ、その通りかもな」
「!」
「サッカーやめるかどうかは、今年中に決断すると思う、あいつ」
「………サッカー」
「覚悟はしとけよ。そうなったら、おれは止めるだろうけど」
「うん」
「青葉の事は、お前が見てやれな。しっかりしてるけど、脆いとこあるから」
「…そうね」
ベッドの上に座って、息をついた。少し力が抜けたように思えた。
「なあ美子」
「なに?」
「チェス買おうぜ、帰ったら」
「…やめといた方が、いいと思うけど…」
ムッとした気配が伝わったので、慌てて電気を消して、ベッドに潜り込んだ。



部屋に戻ると同時に、早苗はガタガタと震え出した。
翼はやはり寝入っていたが、自分の身体の冷たさを思うと、すぐベッドに上がる気にはなれなかったので、
ガウンをまとってベッドの端に昇り、両腕で折り曲げた脚を抱き締めると、膝頭に頭を乗せた。
何も考えられなかった。再び思考が麻痺して行く、甘美な落下感が、早苗を誘惑した。
(ダメだ。しっかりしないと…。明日までは…明日出て行くまでは)
少しずつ指を動かし、手を握っては開き、長い時間そうやってくり返した。
温かさが戻って来たのでベッドに入り、明日を乗り切るのに体力を消耗してはならないと思い、目を瞑った。


気がつくと、部屋には明るさが満ち、横に翼はいなかった。
眠ってしまっていたのだ。起きて、何が起きても対応できるように、頭をはっきりさせないと。
うつ伏せになって枕に顔を擦りつけ、目を覚ますべく努力していると、頭上から声が聞こえた。
「早苗ちゃん、起きてる?」
「…ん…」
「今まだ6時だから、寝てて。おれ、ちょっと石崎くんと蹴ってくるね」
「うん…行ってらっしゃい…」

ドアの閉まる音を聞いて早苗は仰向けになると、目を開けて天井を見つめ、そのまま動かなかった。


639:名無しさん@ピンキー
07/05/08 22:23:35 ZHnlq4tF
三杉×早苗 続き50


どのくらいの時間が経っただろうか。
早苗の手は、自分でも知らないうちに胸の上で重ねられ、鼓動を確かめていた。
ドアの向こうで廊下を歩く人の気配がした。話声は男と女で、松山と美子かもしれなかった。

美子ーーー。

まだよくは知らないけれど、あの切れ長の美しい目は、静かに人を見抜いている気がする。
(…これが犯罪者心理かしら)
自分に直接的な愛情と信頼を向けてくれる、ゆかりや弥生よりも、ごまかしはきかないだろう。
意識して息を大きく吸い込み、三杉がやったように目を閉じて吐き出した。


   神様 赦して下さい


無事にここを出る事になっても、自分がした事は何ひとつ、消えはしない。
心のうちに一人ひとりの名を呼んで、同じように赦しを乞い、それを続けた。

やがて、廊下を行き来する気配が頻繁になり、話声もずっとはっきり聞こえるようになって来た。
時計を見ると、7時半になっていた。自分以外の全員が、起きているに違いない。
もう、行かなくてはならないだろう。

早苗は起き上がり、ベッドから降りると、少し考えてから、バスルームに入ってシャワーを浴びた。
鏡で顔を確かめる。思っていたよりすっきりとした目をしているのを見て、
ホッとすると共に、自分への嫌悪感が胸を圧迫した。


ドアを開けると、ゆかりの声が遠く近くに響いていた。
早苗の足を一瞬止めたその声は、せわしなく、怒鳴っているようでもあった。
そこかしこで絨毯を擦り、大理石をうち鳴らす足音が聞こえる。
誰もが小走りになって、邸内を動き回っているようなーーーー

「なんで開けっ放しにすんのよ、バカ!」
「何回も言ったじゃない、気をつけてって!」
「どうするのよ、本当に…」
早苗が階段にたどり着くまでに、はっきりと聞こえるようになったゆかりの声が耳に刺さった。
手すりから身を乗り出し、ホールに立つゆかりを見下ろした。

「…ゆかり?」
「早苗!」
気が立っていたゆかりは、怒りの表情のまま早苗を見上げたが、
それはすぐに困り果てた、途方に暮れたような顔に変わった。

「早苗、弥生ちゃんの猫、見なかった?いないのよ」
そう言って、ゆかりは勢いよく顔を玄関ドアの方へ向けた。そこには石崎が頭を掻いて立っていた。
ゆかりは石崎に顔を向けたまま、睨みつけている。早苗は階段を走って降りた。

「…どうしよう、早苗…」
涙声になったゆかりは、早苗の肩に頭を凭せかけた。
早苗と目を合わせた石崎は、これも困り果てた顔で、助けを求めた。
かける言葉も見つからず、ただ、ゆかりの髪を撫でるしかなかった。

「早苗ちゃん」

階上から、息をきらした弥生の声がした?

640:名無しさん@ピンキー
07/05/08 22:26:06 ZHnlq4tF
これだけです。
最後文字化けしたようで、?になってますが、。です。
申し訳ない。

641:名無しさん@ピンキー
07/05/09 00:15:01 PozTsiYJ
 乙です!

 とりあえず、夜は回避ね。ああ、良かった。残り後半日ですか。職人様、ガンバレ!!
 何故に何時の間にか共犯者になっているのだろう…早苗…。自分がしたこともあるけど、大部分は
奴のせいなんだが。
 たとえ今逃れられても永遠に苦しまないといけないのかな。カワイソス。

642:名無しさん@ピンキー
07/05/09 00:38:53 4TJgiPA5
お疲れ様です!
あの後のエロなくて正直ほっとしてます(皆様ごめんなさい)
早苗が切ないよー!
続き楽しみにしています。

643:名無しさん@ピンキー
07/05/09 14:23:38 nBtGAc4Y
職人さん乙です!
和んだけど鈍いなー松山。
美子さんの最後の一言は色んな意味を含んでそうだw

続き楽しみにしています。

644:名無しさん@ピンキー
07/05/09 22:57:41 Jg1gcxey
職人様乙です。

大部分の皆とは違う意見だけど、この早苗がそんなに被害者には思えないんだよな。
一番問題なのは三杉でFAだけど、早苗も共犯者に思える。ま、同罪ではないが。
最初の夜、ドアを開けた&三杉に抱かれる前に何か噛むものを…と言った時に共犯確定。
ってかその時点でレイプじゃないし。

早苗からは「他人(中でも翼)にバレる恐怖感」は感じられても
「三杉と関係を持った事に対する罪悪感」がそれほど強く感じられないんだよ。
特に弥生に対して。

三杉の誘いにドアを開けなかったらどうなるかと考えた時には
「弥生の事を考えると、胸が圧し潰されそう」になっているのに、
事後の昼寝の後には弥生の話、しかも三杉関連の-を普通に聞けてるし。

美子に何か気付かれたかも?と思った時も
「 自分に直接的な愛情と信頼を向けてくれる、ゆかりや弥生」って表現してるのに
それを裏切った事に対する罪悪感は…ないのか?

もしかしたら早苗にとって「翼以外」の人間って、全員が精神的にすげー遠い存在?
その特別な存在=翼に対する絶対的な精神的依存が三杉のS性向に火を付けたのかも。
そうは言っても三杉のやってる事は鬼畜だけどな。

呑気な松山&聡明な美子の誠実さが救いだな。
狂言回し的存在の石崎&ゆかり&ぬこの行動も気になる。
三杉を追い詰めるのは気付き始めた美子か…今夜も職人様降臨待ち。長駄文スマソ。

645:名無しさん@ピンキー
07/05/09 23:41:19 /7EkkWkY
三杉×早苗 続き51


先に外に出ていたのは石崎だった。
翼が一旦自室に引き返して、靴を履き替えて戻って来るまでの間
両開きの玄関ドアを片方開けたまま、ポーチでリフティングしながら待っていたのだという。
「5分も無かったと思うんだけどよ…」

弱々しい石崎の言葉を、弥生は青ざめながらも、努めて冷静に聞いていた。
怒りに沸き立っていたのは、ゆかりだったが、邸内をくまなく探すうちに
二階で開いたままの窓が二つほど見つかり、それぞれ、松山と翼が「昨日の晩に自分が開けた」と言い、
全員の話を聞き合わせ、常に猫がいる事を忘れず、戸締まりに気を遣っていたのが
弥生とゆかりの二人だけだったとわかると、脱力しながらも落ち着きを取り戻した。
今度は早苗も捜索隊に加わり、ゆかり達と邸内を歩き回ったが、やはり猫は見つからなかった。

「青葉さん、すまねぇ、おれ、どうしたら…」
弥生はソファに腰を下ろし、足元を見ながら両手を額に当て、頭を横に振った。
「いいの、石崎くん」
「夜のうちに、おれ達が開けた窓から出たのかもしれない。弥生ちゃん、本当にごめん」
「二階にも上がって来たのを見てたのに、忘れてたんだ…悪かった、青葉」
「まだ、この中にいるかもしれないわ、弥生ちゃん」
「…もしそうなら、お腹が空いてるから、私の傍に来るはずなの」
そう言って、昨日おとといと同じ場所に置かれ、ミルクがなみなみと注がれた猫用の皿を見やった。

「とにかく探そう、弥生ちゃん」
翼が言い、松山がそれに続いた。
「そうだな、ここで喋っててもしょうがない。外に出て探そう。食い物持ってった方がいいか」
「この辺りの、他の別荘の人達にも、伝えておいたらどうかしら」
美子がそう言うと、
「探して、いなかったら、ビラを作りましょう。写真ある?弥生ちゃん」
と、ゆかりが普段のしっかりした調子を取り戻して、言った。

弥生は思いつめたような目で一点を見つめ、両手を強く握り合わせ、動かない。
早苗は、新たに自分達八人の中に生まれた、真剣な空気に圧倒されていたが、
それでも弥生の気持ちが痛いほどよくわかった。彼らの言葉を、弥生は三杉に言って欲しいのだ。
増々険しくなる弥生の表情に、昨晩の自分を思い出し、早苗は、全身が切り刻まれるように、痛んだ。

誰もが昨晩、弥生の声を無視して猫をつなぐリボンをほどいた、三杉の姿を思い出していた。
そしてその三杉が、今ひと言も声を上げない事の不自然さが、広がり始めた。
三杉は窓辺で、腕を組みながら外を見ている。

「早苗ちゃん、おれ達は外に探しに行くから、ビラ作っておいて。駄目だったら、あとでみんなで貼りに行こう」
早苗は翼に顔を向けて、頷いた。視界の隅に、こちらを振り向いた三杉が見えた。

「ちょっと待った、翼くん。もう11時になるんだ。誰も食事もしてない上に、キミ達は昼には出発だろう」
「少しぐらい遅れたって、かまわないよ。おれ達にできる事があるんだったら…」
「迎えの車が、あと一時間もすれば到着する。それまでに何か食べておいた方がいい」
「でも、おれが開けた窓から出たのかもしれないし、車が来るなら、その運転手さんにも手伝ってもらって」
「向こうに戻ったら、すぐにチームと合流だろう?大体キミ達がこんな事で予定を狂わせる必要なんか無いんだ」

三杉の声の調子は、至って平静だった。それが弥生を傷つけた。
「…こんなこと?」
弥生の呟きに、全員が静まり返った。


646:名無しさん@ピンキー
07/05/09 23:44:41 /7EkkWkY
三杉×早苗 続き52


険しい目で見つめる弥生を、三杉は落ち着かせるように、間を取って喋り出した。
「弥生…元々、翼くん達には、無理をして来てもらったんだ。これ以上引き留めるのは、我侭だよ」
「そんな事ないよ、三杉くん」
「彼らには、出発してもらう。あとは今日一日かけて、ボク達で探そう」

弥生は三杉を見たまま、口だけを”コンナコト”と動かしてから、震える声で言った。
「…私は、見つかるまでここに残って、探すから」
「そんなの無理だって、自分でもわかってるだろう、キミの休みだってぎりぎりなのに」
「死んでもいいっていうの?」
「逃げただけで、死んだわけじゃない。人に懐いているから、どこかの家で見つかるかもしれない」
三杉は窓の外に目をやり、弥生に横顔を見せた。

ソファに座っている弥生は、膝の上で拳を作り、握り締めた。
「あの子にとっては、ここはまったく知らない土地なのよ」
「それでも動物なんだ。なんとか生き延びるさ」
「猫が、山や森で生きていけると思うの?」
「人家がいくらもあるんだ。残飯でだって充分生きられるよ」
「見つからなくても平気なのね」
「生きる事が最優先だと言ってるんだ」
「でも見つからなくてもいいと思ってるんでしょ?」
弥生の声が感情的になるにつれ、三杉の声は、増々平坦になっていった。
「野犬がいるって言ったくせに、心配もしないの」
「猫だって逃げるさ」
「逃げられるの?車に轢かれたらどうするの?木登りだってした事ないのよ、あの子」
弥生が言葉を切った。弾かれたように自分に顔を向けた、三杉の憤怒の表情が彼女を凍りつかせた。


「だったらどうして連れて来た!!」


爆発するような怒声が、ホールに鳴り響いた。

三杉の反応を予測する事が出来た者がいたなら、それは早苗と弥生の二人だったが、
その二人共が皆と同じ表情で硬直し、呆然とするほどの怒りがそこにあった。

「そんなに心配ならなぜこんな所に連れて来た?外で生きられないものに外を見せる必要がどこにあった!」

弥生の色素が薄い茶色の瞳は、ガラス玉のように、きらめいたまま見開かれていた。
「三杉、やめろ」
「三杉くん!」
「逃がされたんじゃない。自分で出て行ったんだ。それが嫌ならここにいる筈だ!違うか!」
「やめろ!」

松山が三杉の前に立ちはだかり、シャツの胸ぐらを掴んだ。
「いい加減にしろ…おかしいぞ、おまえ」
三杉は息を弾ませ、松山を見つめながら、続けた。
「出口があるのに、出て行かないのは、憶病者だけだ」
「三杉…?」
「あの猫はそうじゃない。探す必要なんか無いんだ」

弥生がソファから跳ね起きて、ホールから走り去った。
寝室の方から大きく、バン!とドアを閉める音がすると、美子がその後を追って、ホールを出た。


647:名無しさん@ピンキー
07/05/09 23:50:22 /7EkkWkY
ここまでです。
いつもレスありがとうございます。
>>644さん、長文での考察、ありがとうございます。
私の中にいるキャラ達が玉虫色なので、それがそのまま出ていると思われます。
結末も玉虫色かもしれません。よかったらもう少しおつきあい下さい。
こんな状況ですが、丸く治める方向で書いています。

648:644
07/05/10 00:25:26 /44bvlGg
職人様降臨!

考察なんてとんでもない。
思った事をつらつらと書いただけなので職人様の考える方向とは違ったかも…
あまり余計な事は書かないようにしないと。

んで、ぬこ。
三杉はぬこに自分を重ねているのか。
見つかるにしても見つからないにしても、その時は弥生にとってかなりキツ状況いだろうな。

松山はやはり良い意味で常識人だな。言動を安心して見ていられる。
弥生を追いかけた美子の取りなしはどう出るか。
三杉、少しは弥生の気持ちも考えて行動してやれ。…って無理か。

毎晩の更新乙です。これを読まずに眠れないけど、職人様のペースでup願います。

649:名無しさん@ピンキー
07/05/10 00:35:09 KRNxluLf
お疲れ様です!

三杉、猫を煮ちまったか…?
一人一人のキャラが出て更に面白くなって来て続き楽しみにしています。

650:名無しさん@ピンキー
07/05/10 01:03:50 5uOQz0yv
 お疲れ様です。
 いよいよ最後の山場が!といった流れに改めてわくわく致します。
 松山、キミはカッコイイぞ!!

 >>「出口があるのに、出て行かないのは、憶病者だけだ」

 ああ、そういうことですか…イヤね、三杉自身がそう思うのは自由だけどそれを他のものに
押し付ける権利はどっこにもないんですがね・・・。勝手な投影はぬこにも弥生にも早苗にも大変迷惑だ。

 
 >>644さん

 いろんな考えがあって当然だと思うよ。 確かにドアを開けてしまったのが何よりイタい。
 …あくまで個人的な思いなんだけど(上記に反するようで申し訳ない!)、想いもよらない
出来事に遭遇した時、頭が真っ白になって立ち竦んじゃうタイプもいる。

 電車で痴漢に遭った時、「何かの間違いだよね…? 押されておかしな位置に手があるだけ
だよね?」と、自分でも半ば信じられないのに言い聞かせて何も出来ないでいる状態に近い
ように思えてしょうがない。もしくは、レイプされた際「せめて避妊だけは…」と最悪だけは
回避したいと願う心理。

 落ち度はあるし「もっとよく考えろよorz」って気にはなるけど…「共犯者」なのかなあ。隠蔽に
手を貸してるから?
 「不貞行為」の共犯ではありますね。

 要はどっちに共感するかってだけなんですけどorz 
 気に障ったらごめんなさい。
 

 三杉は己を「飼われた猫」と思いたいのかもしれないが、自発的に周囲の要望に
応え優先している段階で「犬」だと思うんだけどなー。 

651:名無しさん@ピンキー
07/05/10 01:08:55 5uOQz0yv
 失礼、ぬこじゃなくてねこだった…orz

652:名無しさん@ピンキー
07/05/10 07:58:00 qqMoOWXU
乙です。最後まで楽しみに覗かせてもらいます。

>外で生きられないものに外を見せる必要がどこにあった!
これは、この話の中の三杉か。
一族経営を継がなくてはいけなかったのに、外の世界に出した
周囲への表に出せない潜在的不満か?何にでも秀でた才能あふれる
三杉故の苦悩かのお。それを弥生は見逃しているというか
気づかないように努力しているんだよな。三杉も同様か認めたくないだけ。
受け入れられない自分を認める気はないのかもしれん。
翼と早苗にはそういう一面は無さそうだ。

自分は早苗は共犯だと思うよ。これはレイプじゃない。
誘いに自己意志で乗ってる。
引っかかったというべきかもしれんがな。

これだけの感想がでるのも職人様の作品に導かれての事。
出過ぎた感想かもしれんがお許し下さい。

653:名無しさん@ピンキー
07/05/10 23:27:01 XHtZfWck
三杉×早苗 続き53


松山は三杉のシャツを離すと、その手を肩においた。
「…なあ、三杉」
三杉は肩を回すようにして松山の手を振りほどき、
翼に顔を向けて、キミ達が予定を変える必要はない、ともう一度言った。
そのまま誰とも目を合わせず、寝室の方へと歩いて行くのを見て、残った五人は溜め息をついた。

翼達三人は、やはり猫を探しに行くと言い、出て行った。
ゆかりは松山に、ビラを作るにも紙と写真が無いし、今の二人に声はかけられない、
三杉の言う通り、何も食べないわけにはいかないから、一時間したら戻って来てくれ、
昼食を用意しておく、もしかしたら状況も変わってるかも、と言ってキッチンに入った。

早苗はポーチを駆け降りると、三人に並んだ。
「早苗ちゃん?」
「私も行くわ」
「ダメだよ。顔が真っ青じゃないか」
三杉の怒鳴り声に、血の気が引いていた。
「今だけよ、大丈夫」
「ダメだ。そんな体調で、歩き回らせるわけにはいかないよ。戻って」
「でも」
「戻って。ね?」
「…」
翼の断固とした口調に逆らっても、時間の無駄だという事はわかっていたし
松山と石崎の、これ以上の揉め事は勘弁して欲しいという空気を察して、早苗は引いた。

とぼとぼとホールに戻ると、大理石を砕かんばかりの強い足音が、迫って来た。
近づいて来たのは、三杉だった。手に持っている物が、じゃらついた音を立てている。
「…み」
三杉は早苗を見ると、一瞬足を止めたが、すぐに大股で歩き出し、玄関ドアを開けた。

(あの音……鍵…?)
(ーーーーーーー車だ!)

「三杉さん!」
三杉は振り向かずに出て行った。

早苗は道に迷った子供のように、身体を揺らしながらも、その場で動けずにいた。
このままここで、一時間待てば、迎えが来るのだ。
ーーーでも、それで、どうなるのだろう?
あの二人は、自分達は、どうなるのだろう?

早苗は、三杉の後を追って、駆け出した。

「三杉さん、待って!」
車庫の扉を開けて、三杉は車のドアに手をかけていた。
「待って下さい、戻って下さい。行っちゃダメです」
早苗は駆け寄って、三杉の腕を掴んだ。
「逃げないで」
三杉が手を止め、早苗を振り返った。血走ったその目に、早苗は後ずさった。
素早く早苗の腕を掴み、後部座席のドアを開け、ものも言わずに片手で彼女を放り込んだ。

運転席に座ると、エンジンをかけ、早苗を乗せたまま走り出した。
車庫から放たれるように飛び出した赤い車は、門柱を掠め、
沿道の緑を貫くように、翼達が進んだのとは逆の方向へと、消えた。



654:名無しさん@ピンキー
07/05/10 23:27:56 XHtZfWck
今日はこれだけです。

655:名無しさん@ピンキー
07/05/11 00:05:09 2gkKtGhX
>>654
毎晩欠かさずに更新して頂き有り難うございます、お疲れ様です!
いよいよクライマックスに近づき、おいおい早苗よ君は大丈夫かい?早苗好きな自分にはハラハラしっぱなしですよ。しかしダーク三杉は新鮮ですね。


656:名無しさん@ピンキー
07/05/11 01:55:50 E4+w83er
誰か保管庫作ってくれw
この作品は纏めて一気に読むと印象が変わるだろう。
あとは翼ちゃんの人の復帰だな。(新作でもいいよ。)

この2人がガチで切磋琢磨したら、ここ、恐るべき神スレになる。

657:名無しさん@ピンキー
07/05/11 16:55:43 4kxKdjxu
 職人様お疲れ様です! 
 急展開だ。・・・翼の方がまともな男に見える時が来ようとは。

 自分は携帯でゴメンさんも大好きだ。
 保管庫は、読み手には凄く嬉しいものだけど(翼ちゃんの方の作品、2度も見逃してしまったし)、
職人様にとってはどうだろう? 他スレだと、書きにくいと感じて投下が減ることもあるようだよ。
 今はまだ現状でいいんでね?

658:名無しさん@ピンキー
07/05/11 23:16:10 a5hdkBwo
三杉×早苗 続き54


「翼ぁ、いいのかよ。怒ったんじゃねえか、あねご」
「早苗ちゃんはあんな事で怒らないさ。石崎くん、気にしないでいいよ」
「でもよぉ」
「翼、おまえの奥さん、怒ることあんのか?」
「あるよ。怒ったら朝ごはん作ってくれないんだ。困るよ」
翼も松山も、別荘での張り詰めた空間から解放され、爽やかな外気の中で歩くうちに、
軽快に歩を進めるようになっていたが、石崎だけはやや遅れがちだった。
松山は携帯を取り出すと、美子と通話を始めた。


早苗は後部座席で倒れこんだまま、しばらく動かなかったが、
車がスピードを上げながらも滑らかに走っている事を感じると、
シートの縁で打った脇腹を押さえながら、運転席の三杉に声をかけた。
「…三杉さん…」
返事は無く、バックミラーを覗いても三杉が視線を返す事は無かった。


「…よし、ここから二手に分かれよう。翼と石崎は右に行ってくれ」
松山が耳から携帯を離して、言った。
「この先に、でかい家が4、5軒並んでる。携帯に写真送るからそれ見せて、聞き込みしてくれ」
「松山はどうすんだよ」
「こっちの道には店が多いらしいから、そこでおれも聞いてくる。その先に交番もあるんだ」
「藤沢さん、なんて?」
「それなんだけどな。…三杉が出て行ったらしい」
「えっ」
「車の音がしたって」
「でも、車なんて通らなかったじゃないか」
「おれ達とは反対方向に行ったって事かよ?」
「青葉の話じゃ、向こう側は全部三杉ん家の土地で、山ばっかりなんだと」
「…」
「…」
「走って頭冷やして、戻るつもりなのかもしれないぜ」
30分で折り返して来る事に決めて、彼らはそれぞれの方向に歩き出した。


早苗はシートに座ると、窓の外を流れる緑を眺めながら、奇妙に心が冷えて行くのを感じていた。
寄せては返す自己嫌悪の波が、いっそう重さを増して彼女を飲み込んだが、そこに動揺は無く、
とっさに三杉に言った、逃げないでという言葉が、今こそ自分自身に突き刺さった。

経過はどうであれ、真実を話す事よりも、隠す事を選んだのだ。
悲劇と争いを生んで、その中で立ち直るより生き残るより、目を瞑って無かったふりをする事を選んだのだ。
今だって弥生のために猫を探しに出たのではない。ただあの中にいるのが、嫌だっただけではないか。
それを、認めなくてはならないーーー。
きっともう、引き返しはしないのだから。


「ゆかりさん、コーヒーくれる?」
「美子ちゃん…弥生ちゃんは、どうなの?」
「落ち着いたように見えるけど、何も喋らないわ」
「そう」
「…早苗さんは?」
「ビラが作れそうにないから、翼くん達と一緒に、猫を探しに行くって」

美子はコーヒーを口に含んで、松山との会話の中に、早苗の存在を感じなかった事を思い出した。

659:名無しさん@ピンキー
07/05/11 23:19:13 a5hdkBwo
これだけです。
勢いをなくさないためにも毎日連投したいのですが、
もしかしたら間が空くようになるかもしれません…

660:名無しさん@ピンキー
07/05/12 00:04:33 kqin5Mch
 乙です。
 三杉も早苗も己の弱さとどう相対するのか。現実なら、墓まで持って行く秘密・・・。


 職人様のご都合を優先して下さいませ。どうぞお気になさらずに。 

661:名無しさん@ピンキー
07/05/12 00:18:33 V/6qxpUB
お疲れ様です。
続き楽しみにしていますが、無理はなさらずに。
石崎が何時もの石崎で何だかほっとしますね

662:名無しさん@ピンキー
07/05/13 00:44:15 OMJ1282i
三杉×早苗 続き55


車は脇道へ入るために大きなカーブを描いたが、三杉のハンドル捌きから滑らかさは失われていなかった。
だから早苗も、突然目の前に開けた、道の無い、遠く崖下の街並が
パノラマのように広がった光景を見ても、恐怖心は湧かなかった。


ノックをしたがドアは開かなかったので、美子とゆかりは顔を見合わせてノブを回し、中に入った。
「弥生ちゃん、パンと紅茶持って来たわ」
弥生は三杉が使っていたデスクに向かい、ひじ掛け椅子の背もたれに体を預けて、壁を見つめていた。
泣いていたのかどうか、ゆかりにはわからなかったが、その目は疲れ、憔悴していた。
「一緒に食べましょう」
美子が言い、弥生は首を横に振った。
「見つかるわ、きっと。首輪はしてたんでしょう?」
ゆかりの問いかけに、ややあってから、今度は頷いた。
その後も、聞いた事に動作で返事はするが物は言わず、じっと考え込んでいるようだった。
俯いた美子の表情から、ずっとこんな調子なのだという事がゆかりにはわかった。



風は軽く、こころよい冷たさで、吹き続けている。
その風は、ボンネットに腰を下ろした三杉の体の中も通り抜けて行くようで、
早苗は後部座席から、鳶色の髪がふわりふわりと舞い上がるのを見ていた。

背の高い木立に挟まれた山道からは、別世界のようにも思えるぽっかりと空いた草地に、三杉は車を止めた。
運転席から降りると、早苗を振り返る事も無く、ボンネットに座り眼前の光景を見つめ、動かなくなった。
早苗は自分も車を出た。風はあまりにも清々しく、自分の体もがらんどうになった気がした。
高台なのだろうか、早苗が崖だと思った急斜面は、なだらかにふもとまで続いている。

「ちゃんと送るよ」
早苗が近づいて横に立つと、三杉は依然として正面を見ながら、そう呟いた。
「ボクとはようやくお別れだ。運がよければ、もう会わずに済むかもしれないな」
「…三杉さん死ぬんですか」
三杉は早苗の言葉より、こともなげなその口調に、意外そうな顔をした。
「御期待に添えなくて申し訳ないけど、その予定は無いよ」
三杉は首をひねって早苗を見た。
早苗は目を合わせたまま、さらに一歩近づいた。
「でも、死ぬんでしょう」


「…そう、わかったわ。じゃあ後で」
美子は携帯をたたみながら、交番でビラを貼ってくれるらしい、と二人に告げた。
「お店の方でも何軒か、いいって言ってくれたみたい」
ゆかりは、壁を向いたままの弥生の肩に手をかけた。
「弥生ちゃん、やっぱりビラを作った方がいいわ。今から作れば…」
「…いわ」
「えっ?」
「戻らないわ、もう」


663:名無しさん@ピンキー
07/05/13 00:47:27 OMJ1282i
三杉×早苗 続き56


「キミが殺してくれるのか?」
三杉は肩をすくめて笑いながら、からかうように言った。
「どうぞ。理由は充分だ」
「…あなたがそんなふうなのは、翼くんのせいですか」
三杉の目に力が入った。それは睨みつけたと言ってもいいほどだったが、早苗は静かな口調で続けた。
「サッカーをしないのも、仕事ばっかりしてるのも、…私に」
眉がひそめられ、早苗は口をつぐんで、喉の奥から何かがこみ上げそうになるのを、なんとか抑えた。
「私に、あんなことを、したのも」
「…」

「あなたは、猫じゃありません」
「…残念ながら、そうみたいだね」
「私、思い出したんです。弥生ちゃんに、私は犬に似てるって言われた時」
「もうそんな話に興味は無いよ」
「弥生ちゃんは、あなたは馬に似てるって、サラブレッドだって」
「…なんだい、それ」
三杉は笑った。明らかに侮蔑を含んだ笑いだった。
「人の望み通りに作られた道を行く、本当はその人達より頭も良くて、強いのにって」
「…」
「逃げる場所が無いから、期待に応えるしか無くなるって」
「もういいよ」
「プライドが高いくせに臆病で繊細で」
「やめろ」
「だけど作られた姿でいる事をやめることができない」
「黙れ!」
「見てると辛いって言いました!!」

三杉は早苗をボンネットに引きずり倒して仰向けにすると、手首を掴んで両腕を広げさせ、押さえつけた。
二人とも息を弾ませ、睨み合っていた。
「…緩慢な死って、なんですか」
「…」
「私との事がばれたら、あなたが失うのは、翼くんと、サッカーですよね」
「…」
「あの時誰かに見つかって、一瞬で失うか、それとも少しずつ離れて失うか…長い時間をかけて、少しずつ死ぬのか」
「…」
「そこまで自分でわかってるくせに、選べないのは、翼くんの」
早苗は言葉を切った。三杉が、自分の上で笑っていた。
「負けたよキミには。ボクの負け」
くつくつと笑いながら早苗の手首を離し、身を起すと、気の抜けた声で言った。

「もうそろそろ帰らないと、皆が猫を連れて戻って来る」
「……見つかるんですか?どうしてわかるんですか?」
「そりゃ知った顔が探してるんだ。腹が空いたら出てくるさ」
笑いながらも吐き出すように言った。顔が、ハッとするほど醜く歪められた。
「野生になんか戻れない。どうせそのうち、自分から飼われに誰かの所に寄って行くんだ」
早苗はボンネットから降りると、手首をさすりながら言った。
「…私は、帰ってこないと思います」
どうしてわかる、と三杉が目顔で聞いた。
「猫の事なんか知りませんけど…戻らないと思います」

「逃げた時、振り返りませんでしたから」

風は軽やかに、早苗の黒髪を踊らせていた。



664:名無しさん@ピンキー
07/05/13 00:48:11 OMJ1282i
ここまでです。

665:名無しさん@ピンキー
07/05/13 06:44:02 nF4oM/np
 乙です。
 職人様、夜遅くまでどうもありがとうございます。大丈夫ですか?

 サラブレットか。なーるほど。…彼ら走るの楽しそうだけどなー。
 野生は賞賛するほど良いものだけとは限らないんだけどな。猫、無事かー。

666:名無しさん@ピンキー
07/05/13 23:30:27 OMJ1282i
三杉×早苗 続き57


三杉は黙って早苗を見つめていた。何も言うことが出来なかった。

「水を飲みに降りたのは、本当です」
早苗は、もう痛くはない手首をさすり続けていた。


階段を降りる途中から足元を照らし出した、玄関ホールに満ちる月明かりは早苗を呼び寄せた。
部屋に戻らなくてはと思いながら、非現実的なその空間に逃げ込みたくて、ふらふらと窓辺に近づいた。
どこかで梟の声がして、森の匂いを思いきり吸おうと、引き上げ式の窓に手をかけた。
その時ガラスに、自分の姿とともに、刺すような二つの光が映っていたのだった。

「後ろにいたんです。私の、後ろに」

振り向くと音もなく、そこに、猫がいた。
四肢を体の下に折り畳んで背を丸め、目を皿のように真ん丸に見開き、
長いしっぽをゆらりゆらりと動かしていた。
猫の事など何も知らない早苗にも、
それが次の動作に全力をかけようと待っている体勢なのが、すぐにわかった。

ーーーー飛びかかられるーーーー
恐怖心に身体が硬直したが、しばらくそのまま動かずにいると、
猫が早苗には関心を持っていない事がわかった。
悪趣味な電飾のようにぎらぎら光るその二つの目は、
彼女の手によってほんの少し開いた、窓の隙間に向けられていた。

猫は瞬きをしなかった。
早苗も窓枠に手をかけたまま身体をねじって、初めて猫を見る者のように瞬きをせず、見ていた。
動いているのはしっぽだけで、それだけが蛇のように艶かしく、うねっている。
早苗はただ、猫を見ているつもりだった。だが、手は自然と窓枠を上げていた。
夜の森が吐き出した、むっとした香気が塊になって、早苗の手元からホールに侵入した。
少しずつ隙間が大きくなると、猫の目も同じように大きくなっていった。

目玉の所から電球が転がり出てくるのではないか、と思われた瞬間、その姿が軽く後ろにブレた。
反動をつけて走り、窓枠に飛び乗り、小さな頭を少しひねって隙間に滑り込んだと思うと、消えた。
最後まで一切の音がなく、早苗の手に残された窓枠の隙間は、信じられないほど狭かった。

上げた時と同じように、ゆっくりと滑らかに窓を下ろし、ガラスの向こうを見つめた。
何も感じなかった。寒さも、森の匂いも。自分がなぜここにいるのかすら忘れた。
後ずさりして、少しずつ窓から離れた。足がソファに当たって、しりもちをつくようにして座った。
呆然としたまま、窓を、そして流れ込む月光を見ていた。
彼女を包むその光を見ていると、何も考えずにいられた。
猫の事も、三杉と自分の事も、弥生の事も。
永久にそこから、動き出せない気がした。


「止まらずに走って行きました。…すぐに見えなくなりましたけど」

三杉は、何かの間違いだというふうに、首を横に振った。
早苗の手首には、赤く縛られたような跡が、三杉のつけた跡が残っていた。

何か、言わねばならない…だが、何を?
「二階でも、窓は開いていた…。キミが開けなくても、きっと、逃げた」
「…あの猫が死んだら、それは」
早苗は手首をさするのをやめて、三杉を見た。

「私が、殺したんです」


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch