07/04/14 04:58:50 KkOO0e0N
「あっはっはっ、澪にもついに想い人ができたか。
めでたいねぇ、いやぁ、実にめでたい」
目の前で一人の女性が呵呵大笑しながら、次々と酒瓶を空けていく。
女性としては長身な、だが出るべき所は出て引っ込むべき所は引っ込んだ肉体。
火のように赤い、腰まで届く長い髪。
猫の目のような切れ長の鋭い目が印象的な野性味あふれる美貌。
その全てが澪とは対照的だった。
「ば、馬鹿者。修二はそのような関係ではないぞ、円。
勝手に妾の所にきたただの変わり者じゃ」
円の言を慌てて否定する澪。
だが悲しいかな、顔を真っ赤にしながらの反論では全く説得力がない。
「ふふん、確かにすすんで澪のところに来るなんざぁ、よほどの変人には違いねえやな」
円が徳利から唇を離しながら、楽しそうに笑う。
「どうさね。なんならアタシの所にくるかい?
座敷童のあたしのところに来れば今より楽できっぜ?」
「………………」
明らかに冗談とわかる、円のそんな問いかけ。
しかし、その脇にいる澪は真剣な様子で修二を見る。
修二さえよければ本当に─澪の瞳は何よりも雄弁に語っていた。
だから、修二は答える。自分の正直な気持ちを。
「折角ですけど、お断りします」
「おや、今より楽な生活ができるのにかい?」
ニヤニヤと笑いを浮かべて、なお問いかけを続ける円。
どうやら「本音」を言わせたい様だ。
恥ずかしくはあったが、酒の勢いも手伝い修二はその企みに乗った。
「確かに、今の生活は楽じゃないです。実家から飛び出てくる前の生活とは雲泥の差です」
でも、と修二は続ける。
「僕は幸せですから。実家にいた頃は、どれだけ物があっても満たされなかった。
でも、今は満たされてます。……愛する人を見つけて、その傍に居る事ができるんですから」
「────ッッッッッッッ!!
恥ずかしい事を口にするでないわ、うつけ! うつけ! この大うつけ!!」
顔を真っ赤にしながらぽかぽかと胸を叩いてくる澪。
怒った顔をしているが心なしか幸せそうなのは、修二の贔屓目だけではあるまい。
「うわっはっはっ、ごちそうさんごちそうさん。
でも痴話喧嘩はアタシの見えない所でやってほしいねえ。妬けちまうよ、あっはっはっ」
けしかけた当の本人は豪快に笑って。
そんな仲睦まじい二人の姿を肴に、尚も酒瓶を空けていくのだった……。