07/04/10 06:04:36 LCuhuRRU
「ごめんね、澪。こんな風にしか誤魔化せなくて」
薄い煎餅布団で横になる澪の髪を手櫛で梳きながら、修二は澪を起こさないように気遣いながら声をかけた。
「澪が出てけって行ってるのは、僕のため。それは解ってるんだ。
でも、僕は澪といない事が耐えられない。君といる事が僕の幸せだから。
たとえ、それが君をおいて逝く事を決定付けてるとしても」
そこで言葉を切ると、自嘲気味に笑う。
「……見捨てられるのが怖くて、起きてる時にこう言えない僕は最低なんだろうね、きっと」
そう言うと、澪に倣うように布団の中に横になって、瞼に一つキスをすると囁く様に言った。
「それでも、僕が澪を愛することを、許して欲しい」
まるで誓うように。彼はそう虚空に言葉を発すると、静かに眼を閉じた。
数分後。修二が寝息を立てたのを確認して、澪が目を開く。
「うつけが……『貧乏神』に懸想する人間など聞いたこともないわ」
口では悪態をついているが、彼女の顔は悲しみに満ちている。
「それも、己が持つ幸せを捨ててまで妾と共に在ろうなどと……愚かにも程がある」
それなりに裕福な家庭の跡取りだった修二だったが、彼はそれを反故にしてまで澪と一緒になることを選んだ。
本人は「僕より別の人が継いだ方が家を裕福にできるよ」などと謙遜しているが、相当の才気の持ち主だと澪は確信している。
はしくれとはいえ、仮にも「神」の見立てだ。そう間違いはあるまい。
「……それに、な。最低なのは妾の方じゃよ」
人々に貧乏という名の「不幸」しか与えぬ自分の力。
その影響を少しでも減らすために人里はなれた所に居を構えたはずだ。
そう、孤独を選んだのは自分なのだ。だというのに……
(妾は弱い)
修二が己を想っている事を知っている。そして、澪も修二を愛している。
故に、修二を不幸にしないために、澪は想いに答えれない。
その事を知っていたはずなのに。
「孤独に負け、己に負け。人を不幸にしてまで己の幸せを願う愚か者。
それが妾という者の本性よ」
でも、どうか許されるなら。
私からこの小さな幸せを取り上げないで欲しい。
そんな小さな祈りを捧げながら。
澪は修二の手を握り、再びの眠りにつくのだった……。