.hackのエロパロ vol.11.at EROPARO
.hackのエロパロ vol.11. - 暇つぶし2ch300:名無しさん@ピンキー
06/12/18 02:09:36 +SAPFbUr
>>299
GJ!
期待して待ってるよ

301:名無しさん@ピンキー
06/12/18 11:07:17 HafcRX70
>>299
GJ!
朔かわいいよ、朔。
いまんとこ指摘できるのは『」』の前の『。』は不要って事くらいか?

302:パック ◆JuT3jsxZbo
06/12/18 15:33:45 I6izWgKC
すみません、今日の投下を予定していましたが延期します。
次は多分、12月20日(水)。

303:GORRE
06/12/19 00:12:51 rQvpOhQk
>>299
来たああああああああああああ!
もしや、この朔はツンデレでは無いのか!?いや、これはこれでいいか。
続きが楽しみだよ~。待ってるよ~。

304:名無しさん@ピンキー
06/12/19 00:20:16 WTbVzvxp
>>302
楽しみにしてます(*´д`)

>>303
雑談するならコテ外せと(ry
これで何回目だろうな?(´・ω・)

305:名無しさん@ピンキー
06/12/19 00:25:11 46mx8cUl
>>303
まとめサイト作れば?と言いたい

306:名無しさん@ピンキー
06/12/19 01:19:38 XarY1b9j
専ブラだとクッキー残るからな
GORRE氏も面倒だろうが頑張れ

307:名無しさん@ピンキー
06/12/19 03:55:37 taYCUc2J
おまいら乙
ハセヲ×カール投下
バトルオンリー


308:名無しさん@ピンキー
06/12/19 03:56:49 taYCUc2J

俺達がセグと出会ってから8日目。
それまで騒がしくもそれなりに楽しかった俺達の日常は一変した。
世界の終わりってのは案外と呆気なく来るもんなんだな……ってくらい、それは突然に。

「あわわわ! シッ、シラバスゥ~!」
「ていっ! やぁっ! ガスパー、クーンさん達の所までもう少しだから頑張って!」

闇に覆われたタウン、グラフィック崩壊、街中で徘徊を始めるバグモンスター。
まるで地獄の釜の蓋を開けたかのように、次々とカオスゲートから湧き出てきた奴らはプレイヤー達を襲う。
レベルの高ぇ奴は勇猛に、レベルの低い奴は恐怖に足を竦ませながら、それを迎え撃つだけ。
選択肢は迎撃のみ。逃げることは許されねぇ。

「何なんだコイツら……しつっこいなぁ!」
「揺光さん、うしろうしろ!」
「おっと! ナイス、アトリ!」

街中を埋め尽くさんばかりに行軍する化け物の群れ。
地獄にでも迷い込んだみてぇな気分……修羅場は幾つか潜ってきちゃいるが、今回は少しヤバイ。
アリーナバトルならともかく、街中での戦闘なんて誰も経験したことねーだろ?
しかも、敵の数がハンパねぇと来てる。

「楓。状況はどうなってますか?」
「現在、月の樹とケストレル、CC社が連携して各タウン内のモンスター殲滅に当たっています。
 ですが状況は圧倒的にこちらが不利のようです。我々の@ホーム陥落も時間の問題かと……欅様?」
「うーん。またハセヲさんに頼らなきゃ、ってコトになりそうだなぁ」

モンスターの数は際限ない。
でも戦うしかない。何故逃げない? 
逃げれねぇからだ。

「AIDAサーバーの時と同じだね……。ログアウト出来なくなっている……“彼女”も、怯えているみたいだ……」
「また直接《The World》を見るハメになるなんてなぁ……ったく、これで合コンがパーだ!」

かつて碑文使いだった連中は一箇所に留まらず、
各タウン(マク・アヌ、ルミナ・クロス、ドル・ドナ、ブレグ・エポナ)に分散して交戦中。
中でも一番の激戦区はここ、ブレグ・エポナだ。
奴らは……何かを狙って、このタウンに押し寄せている……そんな気がする。

「秘奥義・重装甲破ッ!」
「環伐乱絶閃!」

カナードのホーム周辺は完全に包囲されていた。
俺とカールの2人で群がる化け物どもを何とか食い止めちゃいるが、さすがにキリがねぇ。
もう1人、誰か援軍が欲しいところだが……奴らは泣き言を言ってる暇も与えちゃくれない。
これは……何かとんでもねーことが起こってるんじゃないだろうか?
ただのシステムトラブルとは思えねぇ、何か、とてつもない悪意みたいなものをビリビリ感じる。
AIDAサーバーなんか比較にならねぇ程の、とんでもない何かの悪意を。

「やれやれだぜ……倒しても倒しても出てきやがる!」
「ばみょん! ハセヲ、回り込まれないように!」
「んなこと言ったってよ!」

戦力に差がありすぎんだよ! いくら俺達がレベルカンストでも、さすがにこの数の相手は無理だ。
けど、このままじゃここを拠点に戦うのが精一杯で他のPCのヘルプにまでは廻れない。
多分、化け物どもにやられちまったPC達は……チッ。今は、ここを切り抜けねぇと話にならねぇ!


309:名無しさん@ピンキー
06/12/19 03:58:24 taYCUc2J

『ハセヲ、聞こえるかしら』
「! パイか!?」
『敵の本拠地がやっと割り出せたわ。
 奴らは【Δ 輪廻する 煉獄の 祭壇】から送り込まれている可能性が高いみたい』

ジリ貧状態の今、パイからの通信は吉報だった。
守るだけが能じゃねぇ、こっちから攻めねぇと永久にこの戦いは終わりそうもねーからだ。
けど、Δサーバー……マク・アヌまで移動するっつーことは……カオスゲートまで行く必要があるってこった。
こいつらを退けて、だぞ?

『8年前、かつてドットハッカーズ……勇者のパーティが最後の戦いに臨んだ場所よ。
 ロストグラウンド化しているから、カールのスケィスもそこなら使用可能なはず。
 私も今から合流す……きゃっ!? ザザッ、ザ――――――――――ッ!』 
「パイッ!? おいっ、返事しろ! パイッ!!!」
「CC社が落ちたか……サーバーを乗っ取られた時点で負けも同然だったんだろうけどね」

……一刻の猶予もねぇって感じになってきやがった。
最悪の場合、もし俺達までやられちまったらどうなる?
誰がこの世界を救う? てか、救えるのか? この絶望的な状況で?
いくら竜賢宮の宮皇っつたって、一介の工房の俺が? 無理だろ、どう考えても。

「ハセヲ、今はオバサンを信じて進むしかない。
 何とかカオスゲートまで行って、マク・アヌ経由でそのエリアまで行くんだ」
「行くって……カール……お前、怖くねぇのか……?」
「怖いよ。でも、きみが居るから大丈夫」

相当に修羅場慣れしている、そんなカールの笑顔。
俺とこうやって会話している間もカールは攻撃の手を休めることなく、
モンスターの大群と対峙、薙ぎ払いながら活路を見出そうとしている。
カールの揺ぎ無い闘争本能は、こんな状況においても健在だった。
……だよなぁ。怖がってちゃ、いつまで経っても、前には進めねぇ!

「ハセヲ。きみが【Δ 輪廻する 煉獄の 祭壇】に行け。ここはあたしが食い止めるから」
「!? 俺はもう憑神が使えねぇぞ、お前が行かなきゃ意味ないだろうが!」
「あたしは……ここでセグを守らなくちゃいけない。娘を置いて逃げ出す母親が何処の世界にいる?」
「けどよ!」
「憑神は……スケィスは、きみに譲ろう」


【第一相スケィスR:1のデータがインストールされました】


「!」
「あたしの大事なモノだけど……ハセヲにあげるよ」

戦禍の最中、俺の胸にカールの指先が軽く触れると何かが俺の中に流れ込んでくる。
久しく忘れていた感覚……枯渇していた俺の中のモルガナ因子が瞬時に沸騰するみてぇな……!
居る。俺はここに居る。アイツも、俺の傍に居るのが理解る!

「行って。ハセヲ」
「……わーった。ただし、俺もお前に渡すもんがある」

俺の手中に顕現した大鎌、それを俺は無言のまま地面に突き刺す。
カールはここに残ってセグを守ると宣言した以上、てこでも動かないだろう。
だから、俺は振り返らずにカオスゲート目掛けて駆け出した。
群がり纏わりつく化け物どもを蹴散らしながら、逃げるためではなく、勝ちに行くために。


310:名無しさん@ピンキー
06/12/19 04:00:59 taYCUc2J

「ママ……。パパは……何処に行っちゃったの……?」
「悪者退治。セグ、危ないからホームの中に隠れてな」
「うん……」

ハセヲを送り出せてカールは満足していた。
傍から見れば、どう考えても分の悪い賭けにしか思えない。
だがカールはハセヲの強さを、可能性を信じている。だから希望を彼に託した。

「ロストウエポン……万死ヲ刻ム影。
 スケィス無しの状態のあたしでも使いこなせるかどうか……」

去り際にハセヲが地面に突き立てた大鎌・万死ヲ刻ム影。
第一相の碑文使い専用のロストウエポンである死ヲ刻ム影がウイルスコアを貪り喰い、
成長した結果がこの武器である。
以前のスケィスを所持していたカールならば適応もできただろう、
しかし先程ハセヲにスケィスを譲渡してしまった今、カールに適正があるのか?

「ふむ……はぁっ!」

躊躇している場合ではない。
とっさに地面から万死ヲ刻ム影を引き抜き、引き抜いた反動を利用しながら敵を薙ぐ。
……使えないこともなさそうだ。けれど、やはり100%の力を引き出すには至らない。
だが先程までカールが使用していた大鎌に比べれば、その破壊力は歴然。
この武器をもっと上手く使いこなせたら、もう少し時間が稼げるのに。

「……アレやるか。まだ不完全だけど」

さながらタウンは阿鼻叫喚の地獄絵図。
あちこちからプレイヤーらの怒声や悲鳴が響き、かき消えていく。
モンスター達にPKされて意識を奪われ、未帰還者となってしまったのだろう。
ハセヲがこいつらを操っているボスを倒すまで、何とかここで粘らねばならない。セグのためにも。
女として、母親としての器を試される時であるとカールは知る。

「すぅ……はぁっ!!!」

迷いを振り切ったカールの叫びに呼応して、ブレグ・エポナの空気が震えた。
銀色の髪が、黒衣が揺れ、白い光に包まれながら粉雪の様に舞い散ってゆく。
それと同時に闇に覆われたタウンに一閃の眩い光が疾り、思わず化け物どもも目を背ける。
そして静寂。しかしカールを倒さんと、再び彼らが己は眼を開く。それが本能。
いや、或いは開かなかった方が良かったのかもしれない。光の中ではなく、闇の中で死ねたのだから。

「タルタルガに感謝しなきゃ……おかげで、あたしはまだ戦える」

ホームに押し寄せた闇の軍勢は視た、白雪の様な無垢なる白さを思わせる色の髪の少女を。
見様によっては限りなく白に近い銀。“らしさ”を残しながらも光に溶け込むかの如く、白を基調としたドレス。
だが何と言っても手足や髪留のアクセントに紅い帯があしらわれていることが顕著か。
両の腕が不釣合いな大鎌さえ握っていなければ、異国の聖人か姫君と見紛うばかりであるのに。
これは彼女の奥底に眠っていたモルガナ因子の具現、意志の強さ、負けられないという確固たる決意の顕現。

「Xthフォーム参上、かな?」

8年前、カールは女神を狙う邪な存在から女神を守ることができなかった。
子殺しを熱望する母親、そんな者が居てはいけない。否定したい。そんなのおかしい、と。
そして散るなら今度こそ母親らしく……そんなことを頭の片隅で考えながらカールは鎌を振るい、立ち向かっていった。


311:名無しさん@ピンキー
06/12/19 04:03:37 taYCUc2J
カールクリスマス仕様? エロマダー? 何のことです?
おやすみおまいら

312:名無しさん@ピンキー
06/12/19 04:08:10 ELA6Ubrq
こんな時間にGJ!! &おやすみw

313:名無しさん@ピンキー
06/12/19 20:20:28 eF/Nefqk
母は強し! 燃える展開だ! GJ!

314:名無しさん@ピンキー
06/12/19 23:04:34 s7GR5bss
なんかスゲェことになってきた!GJ!
カールかっけぇ

315:名無しさん@ピンキー
06/12/20 01:24:25 fqp+hEPZ
前誰かも言ってたが…カールをVol.3に出せ!
とにかくGJ!!

316:名無しさん@ピンキー
06/12/20 01:32:03 tpRj6z7c
刀剣とか大剣を使うキャラが飽和してるから1人削っても問題ないようにも…
カール出してくれたら泣く、毎度毎度GJ!

317:名無しさん@ピンキー
06/12/20 01:41:13 NNB/Jccg
カールいいなあ…GJ!

>>316
刀剣使いは飽和してるが大剣使いは人材不足だw


318:名無しさん@ピンキー
06/12/20 01:52:40 FjyoaGKT
氏のカールは魅力的だが実際のZEROのカールは
正直ハセヲと違ってタチの悪いDQNだからな…
流石に今は更正してると思いたいがどうなんだろうか

319:名無しさん@ピンキー
06/12/20 02:20:09 hKMjoWdM
カールは外伝キャラの割には優遇されてると思う。
付録のサントラにテーマ曲収録されてたり全員応募のテレカに描き下ろしで載ってたり。

320:GORRE
06/12/20 15:52:01 oUOgSK6I
>>282の続きを

智香の申し出は却下され、時間が近づいたので一同は空港へとやってきた。
「まだもうしばらく時間がありそうだし、ちょっとぶらぶらしてみるか」
「そうだね」
そんなわけで、登場時刻まで空港内をぶらぶらしていた。
「東京の空港はこんなに広いんか」
「まあな」
「あ、そろそろ時間だ」
智香は腕時計を見た。
「そっか、じゃあ、搭乗口に行こうぜ」
で、搭乗口へとやってきた。
「あーあ、もうお別れかあ」
智香はつまらなさそうに言った。
「何言ってんだよ。また来ればいいじゃねえか」
「そうだね、亮が来るって言う手もあるし」
「何~」
「う~~~~~」
「おねえちゃん?」
朔はそんな二人のやり取りに焼きもちを焼いていた。
「ま、楽しかったよ。色々とネタも手に入ったし」
「ネタ? ネタって何だ!」
「知らない方があんたのためになるって事もあるよ」
「待て、気になるぞ! 何だ!」
(あれのことかな…)
望は昨夜の出来事を思い出していた。
(あれか…)
朔も思い出していた。
(思い出したら、なんかごっつう恥ずかしいなぁ…勢いとは言え、あんな状態で告ってもうたし…)
思い出したらなんだか恥ずかしくなった。朔は自分の顔が赤くなっている事に気づいたのか、慌てて手を振ってそれを隠そうとした。
「何してんだ、朔」
「何でも無いわ!」
「なら、いいんだが」
それに気づいたのか、智香は亮を自分のほうに向かせると、キスをした。
「!」
「あ~~~~~!」
「あ」
一番驚いたのは亮だった。
「い、いきなり何すんだよ。初めてだったんだぞ!」
「あたしだってそうだよ」
智香は顔を赤くしていた。

321:GORRE
06/12/20 16:04:46 oUOgSK6I
「う~~~~~~~~~~~~~!」
そんな二人を見て、朔はメラメラと嫉妬の炎を燃え滾らせ、ワナワナと震えていた。
智香はそんな朔をちらりと見ると、朔を挑発するかのように、言った。
「なんなら、今度はちゃんとしてみる?」
「駄目えええええええええええええええ!」
そんな二人の間に朔は割ってはいると、亮を引き剥がし、その腕に抱きついた。
「あんまりハセヲに近寄らんといてえ! いくら智香ねえと言えども、それは絶対に駄目や!」
「さ、朔?」
朔の突然の行動に、亮は驚いた。

と、ここまで書いてひとまず終了。 続きは夜にでも。時間があれば書きますんで。

322:名無しさん@ピンキー
06/12/20 20:27:05 izvl1q9G
ウボアアアア!生殺しか!!
GJ!!

323:名無しさん@ピンキー
06/12/20 23:26:05 tpRj6z7c
朔のデレっぷりが凄まじくなってきたああああああああ
GJ!

324:パック ◆JuT3jsxZbo
06/12/21 00:47:27 UAA6LRSJ
ちょっと遅れました。
今に始まった話ではありませんが、今回はちょっと暗め。

325:花火まであと少し 10
06/12/21 00:48:21 UAA6LRSJ
線路と車輪が軋み、振動を反響させながら地下鉄が走る。
地下鉄都営新宿線の車内で、亮はポケットから携帯電話を取り出した。
画面に映った時間は午前十一時四十三分。
今九段下を過ぎたあたりだから、志乃との約束には十五分近い余裕を持って間に合う事になる。
しかし、亮の心は梅雨時の日本列島のように沈んでいた。
溜息を付く代わりに吊革を握る手に力を込める。
折角のデートだというのに、昨日志乃が気を遣ってくれたというのに。
それもこれも、昨日あんな事があったせいだ。

326:花火まであと少し 11
06/12/21 00:49:45 UAA6LRSJ
「おまえなぁ……恥ずかしいから大声出さないでくれよ」
「ごめんごめん。久しぶりだったからさー」
タビーはそういって、招き猫のように片手を上げて手首を曲げた。
ハセヲは苦々しい気分でそのアクションを見る。
周囲のチャットに耳を澄ますと、何人かのPCが二人の事を喋りはじめていた。
以前は余り意識しなかったが、二人がかつて所属していた黄昏の旅団というのはこのゲームの中ではかなり有名な存在だった。
そんな現状は、以前目立ったおかげで散々な目にあったハセヲにとっては余り歓迎するべきことではない。
まあ、今はタウンなのですぐにどうこうということはないだろうが。
「で、何だよ。もしかして挨拶する為だけに俺を呼び止めたのか?」
「別にそれでも良いんだけど……そうだ、ハセヲ。よかったらこれからどっか行かない?」
早めにログインして志乃からのメールをチェックしたい為か、ハセヲの言葉は自然と少し荒くなる。
しかし、タビーはそれを気した様子もなく言った。
基本的に根暗の亮は、彼女のこういう明るさが時々羨ましくなる。
もちろん、タビーにもそれなりの影はあるのだろうが。
「わりぃ、今日はもう寝ないといけないんだ。お袋が門限に煩くってなw」
少しも悪いと思っていない調子で、ハセヲは答える。
そう、自分はこれから志乃のメールを待たなければいけないのだ。
それ以外にも明日着ていく服の選定、交通案内の調査などやらなければならない事は少なくない。
野良猫に構っている余裕などないのである。

327:花火まであと少し 12
06/12/21 00:50:17 UAA6LRSJ
「そっかー……ねー、もしかして志乃さんとデート?」
「いっ!?」
タビーの言葉に、思わず亮が声にならない叫びを漏らした。
何で、と言いそうになるのを寸前で思い留まったが、うろたえてしまった時点でもうアウトだろう。
「あー、瓢箪から駒が出ちゃった……いやー、ハセヲも隅には置けないね」
それを証明するように、タビーはにやにや笑いながらハセヲに体を寄せてきた。
「うーん、やっぱりあたしは正しかった。だからハセヲ志乃さんの目見れなかったんだね」
指でハセヲの二の腕のあたりをつつきながら、タビーが耳元で囁く。
ここまで来たら誤魔化すことも出来ないので、ハセヲは思い切って開き直る事にした。
「ああそうだよ。デートだよ。だからお前と遊んでる暇はないんだ」
ハセヲはそういってそっぽを向いた。
それを聞いたタビーは何を思ってか、無言で体を離す。
……少し言い過ぎたか?
俯いた猫娘の姿を横目に、ハセヲは舌打ちした。
苦手ではあったが、この少女(多分)の事は決して嫌いではない。
取り立てて好きでもなかったが、知り合いを傷つけて平気なほど亮は無神経ではなかった。
そうしてハセヲがとるべき態度を決めかねていると、タビーが唐突に口を開いた。
「……そんなに志乃さんの傍にいたい?」
「は?」
意味がわからない。
確かに、自分は志乃の傍にいたい。
だが、それは―好きなら当たり前ではないだろうか。
大体、その言葉はこっちの台詞だ。
旅団にいた頃から、タビーはずいぶん志乃に懐いていた。
時々それで都合がある志乃を困らせた事もあった。
苛立ちながらハセヲがそう言おうとした瞬間。
「でも、ハセヲにオーヴァンの代わりは無理だよ」
タビーが小さく、そう言った。
「お前、それどういう」
「じゃあね、ハセヲ」
反射的にハセヲが激昂した時、タビーの姿は既に消えていた。

328:花火まであと少し 13
06/12/21 00:51:28 UAA6LRSJ
「くそ……」
昨夜の会話を反芻して、亮は片手の携帯電話に力を込めた。
ここが自分の部屋だったら、壁を殴っていただろう。
オーヴァンの代わり、だと。
確かに姿を消した黄昏の旅団のギルドマスター、オーヴァンと志乃は親密な関係だった。
リアルでも面識があったらしいし、彼の失踪による志乃が酷く沈んでいるのも事実だ。
しかし、それは亮と志乃が付き合いだした事とは関係ない。
他でもない、志乃本人がそう言っていた。
だが―
亮は目を閉じた。
今の関係が、オーヴァンの失踪なしには成り立たないのは事実だった。
彼がいたら、二人の距離がここまで近づく事は無かっただろう。
(―違う!)
首を振って、亮はその考えを打ち消した。
それはあくまで時間の問題に過ぎない。
オーヴァンがいても、自分はいつか志乃に想いを告げていただろうし、彼女はきっとそれに応えてくれていた。
それに、自分と志乃は既に一度体を重ねている。
仮にオーヴァンの事で彼女の心が弱っていたとしても、そんな理由で彼女は好きでもない男に体を許したりはしないだろう。
志乃はそんなに安い女ではない。
それでも。
(なのに、どうして俺はこんなに不安になるんだ)
目を開いて、列車の無機質な天井を見上げる。
そうしないと、亮は泣いてしまいそうだった。

329:花火まであと少し 14
06/12/21 00:52:12 UAA6LRSJ
そんな少年の感傷に、やけに気の抜けた停車案内が水を差した。
(ん?浜町?)
聞きなれない単語に、亮が思わず視線を動かす。
神保町は九段下の次の停車駅だったはずだ。
と言う事は……
真っ青になって、亮は携帯の時刻表示を見た。
時刻は、十一時五十六分になっていた。

330:パック ◆JuT3jsxZbo
06/12/21 00:52:44 UAA6LRSJ
以上。次回、12月23日(土)。

331:名無しさん@ピンキー
06/12/21 01:49:19 2IqXiQLn
>>330
渡英真珠苦戦、乙! GJ!

332:GORRE
06/12/23 00:51:04 i4eCifoo
>>321の続き。オリキャラあり。

亮の腕に抱きついた朔は、智香にハセヲを盗られまいと、ぎゅっとその腕に抱きついた。
「おい、朔?」
何故朔が抱きついてきたのか理解できない亮は、一人訳が分からなかった。
「ハセヲはウチのもんなんや! ぜえったいに他の女には渡さへん! 智香姐かて同様や!」
「え!?」
亮は一人いまいち状況が理解できていなかった。
「こりゃ手強いなあ。あたしだって亮の事を好きだし、好きな気持ちじゃ負けてないよ」
「せやけど、駄目なんやぁ! ハセヲはウチのもんやあ!」
朔は駄々をこねた。
「でも、あたしは亮から告白されてるし、あたしのほうが一歩勝ってるよ」
「してねえだろ」
「忍冬くれたじゃん」
「あれは、そんなつもりじゃあ」
「う~~~~~~!」
朔は腕に抱きつく力を強めた。
「いてえ! 何でそんなに強くするんだよ」
「ハセヲが他の女といちゃついとるからやぁ!」
「いちゃついてねえだろ!」
そんな光景を、黒いオーラ丸出しで見ている者がいた。搭乗口にいる女性スタッフである。
「あの~、お客様」
「あ、はい」
「お乗りになるのかならないのか、はっきりしやがれこんちくしょう」
「え?」
「もうすぐ飛行機の出発のお時間なのですが、さっさと乗るのかののらねえのかはっきりしやがって下さい」
満面の笑みを智香達に見せながら言った。
「こちとら生まれて28年間彼氏もいないって言うのに、目の前で彼氏争奪戦見せられたらたまったもんじゃねえってもんですよ。
おまけに、夏休みで今日はオフの日なのに、急に来られない娘がいるから代理で来る羽目になるし」
「えーっと…」
「それなのに何なんですか? これ見よがしに私に彼氏争奪戦を見せ付けて。いじめですか? 新手の嫌がらせですか? 私があなたに何かしましたか?」
「え、いや…その」
「いいんですよ別に。あなた方が彼氏争奪戦を繰り広げようが構いませんし。でも、私の前で繰り広げるのは止めて頂きたいものですね。
さっきから見てると、無性に腹が立って腹が立って仕方が無いわけなんですよこんちくしょう」
もはや何て言ったらいいのか智香達は分からなかったが、さっさと飛行機に乗ったほうが良さそうなことだけは分かった。


333:GORRE
06/12/23 01:01:46 i4eCifoo
「…えっと……じゃあ、あたし行くね。亮」
「ああ」
「じゃあね、ちかねえちゃん」
「またね、望」
「気いつけてな」
「ありがとう、朔。負けないよ」
「ウチ勝て負けへん」
「早く乗れやこんちくしょう!」
「じゃあ、またね~」
智香はゲートの中に消えていった。
「いっちゃったね」
「何だったんだ一体…」
亮は訳が分からなかった。

飛行機が飛び立つのを見届けると、亮達は空港を後にした。
「さて、お前達は深夜バスだろ? どっか行きたいところあるか?」
「ウチあれ行きたいねん」
「ん?」
「呪○」
「…ホラーか…」
「不満か?」
「不満じゃねえけど」
「なら、ええやないか」
「望はどうだ?」
「ボクはあんまりすきじゃないんだけど、がんばる」
望は小さくガッツポーズをとった。
「そ、そうか…なら、決まりだな。目的地は、銀座だ」
一路銀座へ。亮達は映画館へ向かった。

334:GORRE
06/12/23 01:03:32 i4eCifoo
とりあえずここまで。続きはまた思いついたときにでも。

335:名無しさん@ピンキー
06/12/23 02:13:37 a0V/sJbl
GJ!! もう,その才能を奪ってやりたい!!
 ・・・・・・次回を待つとするか・・・・・

336:名無しさん@ピンキー
06/12/23 13:36:40 35hHFStT
>>334
できればその思いついた時にまとめて投下してくれないか
ひらめいた時にひらめいた分だけ投下→思いつかねー、書けねーの書き込み→エンドレス

ってのはなあ…

337:名無しさん@ピンキー
06/12/24 00:36:21 FJtEA0+X
>>336
そう?このスレがもっと賑わってるならそれもわかるけど
今の状態ではちょうどいいペース&量だと思うけどな。

338:パック ◆JuT3jsxZbo
06/12/24 01:27:57 z7xTQSsv
流石に年末は忙しい……
予定では今頃は次のネタに取りかかっているはずだったのですが。
では、今回の分。

339:花火まであと少し 15
06/12/24 01:28:31 z7xTQSsv
結局、待ち合わせの場所―神保町の地下鉄A6出口に辿り着いたのは正午を十五分以上過ぎてからだった。
慌てて階段を駆け上がり地上に出ると、すぐに志乃の声が聞こえた。
「おそーい」
「ご、ごめん!」
慌てて振り向くと、一週間ぶりになるリアルの志乃の姿があった。
明るい夏の日の中で、彼女はシンプルな黒いワンピースの上に
白い半袖のジャケットを着込み、大きなピンク色のバックを抱えている。
初夏という季節をそのまま衣装にしたような、彼女らしいいでたちだったが、
今の亮にはそれに見惚れる余裕はなかった。
「電車、乗り過ごしちまって……」
「遅れそうなんだったら連絡くらい入れてよ。心配したじゃない」
そういって、志乃は亮を睨んだまま唇を尖らせた。
まさか、悩み始めて気がついたら浜街に着いていましたとは言えない。
馬鹿の考え休むに似たりとはよく言ったものである。
俯いたまま黙った亮を見て、志乃は溜息をついた。
「……まあ、いいよ。待たされるのはThe Worldで慣れちゃってるしね」
「ほんとにごめん!お詫びになるなら何でもするから」
「そこまで言わなくても……そうだ、じゃあ今日買う本持ってもらえる?」
「ああ、そんなことでよければ」
ようやく穏やかになった志乃の言葉に、亮は一も二もなく頷いた。
本など余りかさばるものではない。
むしろ、その程度でいいのだろうか。
「じゃあ、行こうか」
そう思いながら、亮は促す志乃と並んで歩き出した。

340:花火まであと少し 16
06/12/24 01:29:28 z7xTQSsv
そう、本などかさばるものでもなければ、重くもない。
それが亮の紙の書籍に対する認識だった。
しかし、それは一時間もしないうちに覆された。
(お、重い……)
いくつかの書店を回るうちに志乃が買い込んだ本は相当の量だった。
神保町にはいくつかの大型書店に加え、様々な分野に特化した小規模な古書店が林立している。
それが神保町を日本が誇る「本の町」に成さしめているわけであるが、そこで扱われているのはかなり専門的なものだ。
そして、その手の専門書はほぼ例外なく、分厚いハードカバー―つまり、重いのである。
元々、亮はそれほど本を読むタイプではない。
自宅の本棚にあるのはいくつかの漫画のシリーズぐらいで、活字は現代文の教科書を除けば図書館で文庫本をたまに借りる程度だ。
だから、この手の本の存在を知ってはいても実感してはいなかったのである。
志乃が買い込んだ専門書はハロルド・ヒューイック、番匠屋淳という著者のものが合わせて三冊だったが、
いずれも厚さは三センチを超えている。

341:花火まであと少し 17
06/12/24 01:32:06 z7xTQSsv
それに加え、志乃は大型書店でいくつかの新書版の小説(ノベルス、というらしい)を買った。
その中には亮が名前だけは聞いた事のある直木賞作家の新刊が含まれていた。
百鬼だったか、今昔徒然だったか、とにかくそんな古典の授業でしか聞いた事のないような題の小説だ。
これがとにかく分厚い。
なぜ分冊しないのか理解に苦しむが、志乃曰に言わせるとノベルスでは珍しい事ではないらしい。
それどころか、彼女は本を持つ亮に「今回は軽いと思うよ。短編集だからね」とまで言い放っている。
これが短編集?
冗談ではない。何本収録すればこんな厚さになるのだろう。
それともこの作家の尺度からすれば普通の長編が短編になるのだろうか。
それに加え、志乃はジャンルを問わず大量の本や雑誌を買い込んだ。
水原遥「彼岸花と連星」、「エマ・ウィーラントの謎」、
「月刊ネットワークミステリー」の2010年と13年のバックナンバー……
彼女が看護系の大学生なのは知っていたが、いずれもそのイメージとは合致しないものばかりである。
いわゆる書痴、ビブリオマニアというやつなのだろうか。
意外な一面を見た気がした。
だからといって、両腕にかかる負担が減るわけではないが。
「大丈夫?少し持とうか?」
「い、いや、いいよ。これぐらい」
おかげで少し遅れがちな亮を、志乃が振り返る。
ありがたい申し出ではあったが、ここで受けては面子が立たない。
「そう?ごめんね、久しぶりだから思わずはしゃいじゃって」
志乃はそういって、少しだけばつが悪そうに笑った。
それがひどく愛らしくて、亮の体に少しだけ力が戻る。
この表情が見れただけでも、本を持った甲斐があった。
「じゃあ、そろそろお昼にしようか。カレーでいいかな?」
「ああ」
亮が頷くのを見て、志乃は静かな古書街を再び歩き出した。

342:パック ◆JuT3jsxZbo
06/12/24 01:34:04 z7xTQSsv
以上。少しネタを仕込みすぎたかな・・・・・
次回、12月28日(水)。

343:名無しさん@ピンキー
06/12/24 01:36:28 l4D/Gwo1
リアルタイム遭遇ktkr、GJ!
志乃は本に一月いくらかけるんだろうか、気になる

344:名無しさん@ピンキー
06/12/24 01:37:18 kRIEZ6nj
番匠屋淳GJ!

345:名無しさん@ピンキー
06/12/25 17:35:49 b0vsEZuU



346:名無しさん@ピンキー
06/12/26 01:48:50 Om/vMOiR
>>342
いつも楽しみにしてるGJ!!
ほんと見てる最中顔のにやけが止まんなくてヤバイわあ

347:名無しさん@ピンキー
06/12/27 00:15:54 6PCJfmJF
G.U作品の在る保管庫無いの?

348:名無しさん@ピンキー
06/12/27 00:41:46 TOzmkuKK
残念ながらないね

349:名無しさん@ピンキー
06/12/27 17:51:01 n5E0pcGJ
>>310
続きマダー

350:名無しさん@ピンキー
06/12/28 00:10:33 CNUxHSPY
>>349
ヒント:年末

351:パック ◆JuT3jsxZbo
06/12/28 10:49:23 18PET9wN
>>343
ざっと試算してみましたけど、この段階で二万近く行ってるはずなんですよね。
あまり無駄遣いせず、一気に使うタイプなのではないかと。

今見返したら、日付と曜日がずれてました。
正確には12月28日(木)ですね、すみません。

では、今回の分。

352:花火まであと少し 18
06/12/28 10:50:11 18PET9wN
志乃に連れられた店は、神保町の中ほどにあるビルの二階にあった。
亮はカレーと聞いてエキゾチックなアジア風の店を想像していたが、
店の内装はシックな洋風のインテリアで統一さたものだった。
メニューは確かにカレー中心だったが、喫茶店と言っても通りそうな佇まいである。
大学生と高校生のカップルが昼食をとっても違和感のない雰囲気である。
少し考えた末、亮はアサリカレーを中辛で注文した。
カレーは味に関してはどう作っても外れることのない万能メニューであるが、辛さに関してはふり幅が激しい。
これの何処が辛口なのやらと言いたくなるくらいマイルドな店もあれば、
絶対中辛じゃないだろというぐらいピーキーに味付けされているカレーも存在する。
この店がどちらの傾向を強く持つかはわからないので、中辛という選択は必然だった。
ちなみに具にアサリを選んだのは、単なる趣味である。
年頃の少年らしく肉は嫌いではなかったが、それより亮は魚貝類の方が好きだった。
向かいに座る志乃は、チーズカレーの中辛。
別段理由はないが、なんとなく志乃らしいチョイスのような気がした。
「ふぅ……」
注文を取り終え店員が去ると、亮は小さく息を吐いた。
ようやく人心地ついた気がした。
まさか本でこんな目にあうとは。
元をただせば自分に原因があることなので文句は言わないが、それで受けたダメージは結構なものだった。
普段亮が余り重いものを持たないと言うこともあったが、それを差し引いても志乃が買い込んだ本は相当の重量である。
それを証明するかのように、亮の掌は真っ赤に染まっていた。
「ほんとにごめんね、重い物ばっかり買い込んじゃって」
そんな亮の思いを見透かしたかのように、志乃が少し伏目がちに口を開いた。
「いいよ、別に……でも、こんなの何に使うの?志乃って、看護系だろ」
気を遣われるのも嫌だったので、亮は話題を少しずらした。
学術書はともかく、ネット関係のオカルト雑誌などが志乃と縁があるようには思えない。
まさか、そういう趣味なのだろうか。

353:パック ◆JuT3jsxZbo
06/12/28 10:52:04 18PET9wN
今回は中継ぎ。
本当はもうちょっと先まで行くつもりでしたが、間に合いませんでした。
重ね重ね申し訳ない。次回は都合がつき次第、明日か明後日に。

354:花火まであと少し 19
06/12/28 10:56:58 18PET9wN
「うーん、まあ旅団の活動の延長って言うか……個人的な趣味、って言うのが近いかな」
「旅団?」
「まあ、その内説明するよ。まだちゃんと纏まってる訳じゃないから」
「ふーん……」
彼女にしては珍しい曖昧な説明に、亮は少しだけ不満になった。
旅団と言うキーワードも引っかかった。
昨日のタビーの言葉は志乃と歩いているうちに大分気にならなくなったが、
それでもこうしていざ旅団と言う語が出されると少しだけ地下鉄での欝気分が蘇るような気がした。
亮は無言のまま唇を尖らせたが、志乃はそんな年下の恋人の姿を微笑みながら見ていた。
すぐにその視線には気づいたが、口は開かなかった。
志乃の曖昧な態度が気に入らなかったし、彼女にオカルト趣味があったこともちょっとショックだった。
そう意識して、亮は小さく息を吐いた。
こんな風に考えるのも、空腹で頭が回っていない証拠だ。
とにかくまずはカレーを食べて気を落ち着かせよう。
亮がそう気を取り直した時、丁度店員がテーブルに飲み物と小さな皿を運んできた。
飲み物は注文どおり、志乃にアイスコーヒー、亮には紅茶が運ばれてきたが、隣の皿は一体何なのか。
恐る恐る覗き込んでみると、そこには大粒のふかしたジャガイモが皮付きでそのまま鎮座していた。
一瞬、亮は目の前が真っ暗になった。
なぜジャガイモ?俺はカレーを頼んだはずだ。
注文したのはアサリカレーだし、メニューにはジャガイモなんて一文字も書いていなかった。
だとすると、これは付け合わせなのだろうか。
そういえば、ハンバーガーでも大抵付け合せにポテトがついてくる。
しかしあれはあくまでフライドポテトと言う形で食べ易くされているし、ちゃんとメニューの中で独立している。
「どうしたの、ハセヲ?」
囁くような志乃の声に、目をぐるぐるさせてジャガイモを凝視していた亮がようやく我に返る。
「いきなりジャガイモすごい視線で見ちゃって。もしかして苦手だった?」
「い、いや、そういうわけじゃねぇけど……何でこんなの出てくるの?」
「さぁ……このお店何度か行ってるんだけど、いつも出てくるんだよね。前菜兼舌休め、ってかんじじゃないかな」
そういって、志乃は細くしなやかな首をかしげた。
こういう仕草が嫌味にならず、いちいち様になるのは一種の才能だろう。
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、遠慮なく頂くか」
一瞬頬に差した赤みを誤魔化すように、亮はジャガイモを掴んだ。
「あんまり食べ過ぎちゃうとカレーが入らなくなっちゃうからね、気をつけて」
美しい管弦楽のようにも思える志乃の声を聞きながら、亮はとりあえずジャガイモにスプーンを指した。

355:パック ◆JuT3jsxZbo
06/12/28 10:57:29 18PET9wN
送信順ミスりました、今日は19までです。

356:名無しさん@ピンキー
06/12/28 11:41:03 +ngOlAW6
>>355
GJ!期待してます

357:名無しさん@ピンキー
06/12/28 18:47:20 Kh6UPBEC
神保町でじゃがいもがでてくるカレー屋って
あそこかなww


358:名無しさん@ピンキー
06/12/28 21:59:44 SEQpsZaz
GJ!!サイコーです!!

359:名無しさん@ピンキー
06/12/29 02:03:08 msh7/mwq
>>355
っていつのまにきてた
毎回超GJ!!!

360:名無しさん@ピンキー
06/12/30 00:42:30 wiIlFPlM
続きを…早く!

361:名無しさん@ピンキー
06/12/30 05:05:18 /3gc2rZI
ただでさえ年末の忙しい時期に職人を急かすなよ…
誰もが暇人じゃないんだ、それぞれの執筆ペースってもんがある

362:名無しさん@ピンキー
06/12/30 15:56:46 geXqLyai
うむ、職人さんにはマイペースで頑張って欲しい。
のんびり待ってるぜ。

363:パック ◆JuT3jsxZbo
06/12/30 20:40:45 oT8HlgYE
どうも焦らしてしまったみたいで申し訳ありません。
年末だけにまあ、色々ありまして・・・・・
自分としてもこの話をvol3発売までに終わらせたいので、
劣化しない程度に急ぐようにします。

>>357
たぶんそこです。
俺も初めて行ったときは随分驚いたものですが、
まさかSSのネタになるとは……

それでは、今夜の分。

364:花火まであと少し 20
06/12/30 20:43:53 oT8HlgYE
「ふふ、それにしても不思議なものだね。初めて会ったときはハセヲと付き合うなんて想像もしなかったよ」
舌休めだろうか、志乃はスプーンを一旦収めて唐突にそんなことを言った。
手元には、星雲のように広がったチーズを乗せたカレーが半分ほど残ったまま置かれている。
亮はそれを直ぐには答えずに、口を閉ざしたままカレーを噛み締めていた。
別に志乃の言葉が反発した訳ではない。
単純にものを食べている最中に口を開くと、にちゃにちゃと不快な音が立つからだ。
しばらくして口の中のカレーを飲み込み、水で一息ついてからやっと亮は口を開いた。
「俺もあの頃の自分に教えてやりてぇよ、お前は志乃と付き合うようになるんだぜって」
「あはは、そしたらどんな顔するだろうね、あの頃のハセヲは」
亮の冗談に、志乃が声を立てて笑う。
夏場の水撒きのような笑顔を見ながら、亮はおもむろに口を開いた。
「あ、そうだ、志乃。前から思ってたんだけど……」
「なぁに?」
「その、ハセヲって言い方、そろそろ変えね?」
本名はちゃんと教えているにもかかわらず、リアルで会っている時も彼女は亮の事をThe WorldでのPC名で呼ぶ。
それが、亮には少しだけ嫌だった。
少し前までならともかく、今の二人は恋人同士なのだ。
別に親から貰った名前にそこまで愛着があるわけでもなかったが、
PC名というのは何だかあだ名みたいで、恋人同士という言葉が持つ甘い響きからは遠い。
「うーん、それもそうかもね……じゃあ、なんて呼んで欲しい?」
「え!?べ、別に……本名だったら何でもいいよ」
いきなり聞き返され、亮は混乱した。
本当は、そう、自分が彼女を呼ぶのと同じようにして欲しかったのだが……
それを口に出せるほど、亮はまだ素直ではなかった。
「うーん、それじゃ……三崎君?」
「……今更それはねぇだろ」
「三崎?」
「それはそれで味があるけど、志乃のキャラとはちょっと……」
志乃は口元を少し吊り上げて、亮に一つ一つ呼び方を上げていく。
亮は先ほどの言葉は何処へやら、それに一つずつ駄目出しをしていった。
「亮君?」
「それだけはやめてくれ……」
志乃のキャラクターを考えれば妥当な線かもしれないが、母親と同じ呼ばれ方はされるのはなんとなく嫌だった。
これならまだ名字呼び捨ての方がいい。
「じゃあ……亮?」
志乃が少し声のトーンを落として、呟いた。
雲の白さと空の蒼さしかない天上から響いてくるような、余りにも綺麗なその響き。
それが自分の名を呼ぶものだということを意識した瞬間、亮の心臓が一瞬止まった。
心臓は直ぐに動き出したが動悸は不安定で、喉が急に渇く。
多分、今の脳波は強化人間のように滅茶苦茶だろう。
「ご、ごめんっ!やっぱり、ハセヲでいいよ」
「そう?ふふふっ」
やっとの思いで、亮はどもりながら言葉を吐き出した。
駄目だ、この呼ばれ方は。別の意味で精神衛生上よろしくない。
亮はしばらく意味もなく息を吐くと、志乃から顔をそらし手元のカレーに視線を移した。
そのままスプーンをつかむと、亮は一心不乱にカレーの盛りを崩し始めた。
そんな亮の姿を見ながら、志乃は絡めた両手に頭を乗せて微笑んだ。

365:花火まであと少し 21
06/12/30 20:46:21 oT8HlgYE
「ねえ、ハセヲ」
「……何?」
「あのさ、これから何処か行きたい所とか、ある?」
しばらくして亮がカレーの皿を空けると、それを待っていたかのように志乃が再び口を開いた。
亮が話を聞こうと視線を上げると、その瞬間志乃の手元の皿が目に入った。
いかなる手品を使ったのか、亮より長くスプーンを置いていたはずの彼女のカレーは綺麗に片付いている。
自分が食べるのに集中していたから断言はできないが、慌てて食べているような様子はなかったはずなのだが……
不思議に思ったが、亮はとりあえずそれを無視して会話を続けることにした。
まあ、女と付き合っていれば不思議な事の一つや二つ、無い方がそれこそ不思議だろう。
「……別に、ないけど」
「じゃあさ、良かったらでいいんだけど」
亮の答えが終わる前に、志乃が少しだけ上ずらせた声で口を開いた。
顔をよく見ると、頬に赤みが差し呼吸が少し乱れている。
「そ、その……ハセヲの家に行ってみたいんだけど、良いかな?」
「…………!!」
その言葉を聴いた瞬間、亮の心臓がまた止まった。
一瞬してすぐに鼓動は蘇ったが、呼吸はやはり乱れたままである。
助けを求めるように志乃を見ると、彼女は耳まで真っ赤に染めて俯いてしまっていた。
「べ、別に大したものがあるわけでもないけど……その、志乃が来たいんだったら……別に、いいよ」


366:パック ◆JuT3jsxZbo
06/12/30 20:48:02 oT8HlgYE
ずっとこのカップリングでやろうと思っていたネタができました。
しかもついに色気のある展開に突入できそうです。
次回投下は1月4日(木)。
言ってる傍から間が空きます、本当に申し訳ありません。

367:名無しさん@ピンキー
06/12/30 20:57:34 9kYfbwC6
GJ!元旦とかはゆっくりしたいですからのんびり待ちます

368:名無しさん@ピンキー
06/12/30 21:53:15 V1Hnn/zu
>>366
GJ ハァハァ(*´д`)

369:名無しさん@ピンキー
06/12/30 23:49:57 zhcqVzEB
毎回毎回GJ!!1月4日が待ちどうしい!!

370:名無しさん@ピンキー
06/12/31 04:33:55 k6hq5mRR
おまいら乙
今年最後のハセヲ×カール投下
少しだけ痛い描写あり

371:名無しさん@ピンキー
06/12/31 04:35:36 k6hq5mRR

暗い世界。
全身が泥を被って引きずるかのような重さと気だるさ。
化け物どもの軍勢を掻い潜って【Δ 輪廻する 煉獄の 祭壇】に
辿り着いた俺を待っていたのは無穹の牢獄だった。
あれから何時間が経過したのか……それすら分からねぇ。
意識は完全にこっち側、即ち《The World》に持っていかれちまってるようだった。
敵の親玉が潜んでいると思われるエリアに転送され、スケィスをすぐさま喚び、
片っ端から敵を消し飛ばしたのは覚えている。
カオスゲートを潜る前、大火のオッサンが「勝てよ」と言っていたように、必ず勝つつもりでここまで来た。
でなきゃ報われねぇ。オッサンだけじゃねぇ、他の連中だってそうだ。

「俺は……どうなった…………?」

何も見えないせいで皆目検討がつかない。
けど、身震いする程に嫌な感じのトコってことは理解できる。
ここは人間の居るべき場所じゃねぇ、ここは……死人の匂いがする場所だ!

「おはよう。パパ」
「! 誰だッ……!?」

俺以外の声がする。
何処かで聞いたことがあるようで、聞いたことがないような、女の声で。
黒いインクをブチ撒けたような黒の世界に、まるで最初からそこに存在していたかのように。
女が立っていた。

「また来たのね、パパ。これでもう何度目かな……数えるのも面倒になっちゃった」
「お前は……」

いや、俺は知っている。
ただ知らないと思い込みたいだけで、本当は、この女を、俺は―――――知っている。
見間違えるはずがねぇんだ。
銀色の髪と、紅い瞳と、黒のドレスと、紅いリボン。こいつを俺はよく知っている。

「あたしがここに閉じ込められてから随分経つけど、パパはいつも変わらないね」
「お前……セグ、か……?」

俺のことをパパなんて呼ぶ奴はこの世界に1人しかいない。
でも、セグならついさっきまでカールと一緒に居たし、何よりコイツはどう見ても12~13歳って感じだ。
俺の知っているセグは見た目5歳ちょっと、一気に成長でもしない限り、計算が合わない。
しかし俺の口から「セグ」と言う名を聞くと、目の前の女は懐かしそうに小さく復唱を続け、噛み締め始める。
何かを確かめるように。

「……ここは何処だ。どうしてお前以外、何も見えない!?」
「嫌だなぁ。パパはしっかりと視えてるじゃない。
 見えない、と思っているのはパパが『視たくない』と思っているだけなのに」

何だと……。
でも、コイツの言ってることも強ち嘘ってワケでもない。
確かに視えはしないが、何かの存在をそこらじゅうに感じる。
この闇の中に、さっきまで俺達が戦っていた化け物どもが潜んでいるんだろうか?
いや、気配がない……なのに、何かの気配が確かに感じられる。それもたくさん。

「ヒントをあげるわ、パパ。あたしはね、パパが来る間……ずっとママ達と一緒に居たんだよ?」

ママ……達だと……今、ママ達って言ったのか。
達って、何だよ、複数形じゃねぇか……。もし、こいつが俺の知ってるセグなら、ママってのは……まさか……。


372:名無しさん@ピンキー
06/12/31 04:36:48 k6hq5mRR

「カール……?」

瞬間、世界が開けた。
聖書に出てくるサウロ(パウロ)の「目から鱗のようなもんが落ちた」、ってのはこんな感じだったのかもしれない。
俺には最初から、この光景が視えていたんだ。
なのに俺は、怖くて、目を背けて……こんなの現実じゃない、って勝手に決め付けて……!
彼のは墓場。誰の? 決まっている。
俺の足元やそこらに転がっている躯を見れば一目瞭然だった。
ここは……カール達の墓場!

「なッ……あっ……あぁ……あぁぁぁっ!!!!!」
「パパが来るまでママで遊んでたの。
 もっとも、どのママもこの空間に運ばれてきた時点で死んでるんだけどね。
 見てよ。ねぇ見て。酷いものでしょう? どのママもロクな死に方してないよ」

腕の無いカールが転がっていた。脚の無いカールが転がっていた。
腹の無いカールが転がっていた。首の無いカールが転がっていた。
カールかどうかも分からないカールが転がっていた。見たことも無いくらいに歪んだカールが転がっていた。
積み重なったカールの山が、何処までも何処までも延々と続く。
AIDAにやられたPCとはまた違う感じでのキルのされ方。何処を見てもカールしかいない世界。
そうだ、俺はここに飛ばされて最初にコレを見て……頭がどうにかなりそうだったから……!

「ここはね、牢獄なの。ううん、拷問部屋って言った方が早いかも」
「拷問部屋……」
「最初にママとあたしがこの空間に飛ばされた時、1人目のママは既に死んでた。
 パパも覚えてるでしょう? あの化け物どもに結局やられちゃったの……結構奮戦してたけどね。
 以来、あたしはずっとこの空間に取り残されて……次にキルされるママと、パパを待っている」
「次にキルされる……だと……待てよ、それじゃまるで……時間が……ッ!」
「そう。繰り返しているのよ、8日周期で。
 あたしとパパ達が初めてホームで出会った日から、化け物達がカオスゲートから溢れてくるまでの
 楽しい楽しい家族ごっこの時間がね、もう延々と繰り返されている」

待てよ……ふざけんじゃねぇ……8日間が繰り返してだぁ……?
そんなこと、有り得る訳がっ……!

「モルガナ」
「ッ……!?」
「AIDAが作り出した擬似サーバーが『AIDAサーバー』。別名『AIDAの観察室』。
 ならあの8日間は……そうね、言うなれば『MOLGANAサーバー』。『モルガナの拷問部屋』ってとこね」
「MOLGANAサーバーだと……ざけんなッ!」
「AIDAサーバーで過ごした時間は、パパ達のリアルではほんの数分の出来事だったんでしょう?
 AIDAに出来てモルガナに出来ない道理は無いじゃないの。モルガナの力を使えば8日間なんて刹那の時間……ね? 
 モルガナはね、憎くて憎くて堪らないママを殺すためだけに、この8日間を用意したんだってさ」
「セグ……てめェ、モルガナの仲間か……!?」
「それは違う。うーん、元仲間かもしれないけど、今は違うよ」

ただでさえカールの躯の山を見て気が動転しかけてんのに、
コイツの人を小馬鹿にしたような態度は俺の怒りを更に助長させる。
まどろんでいたかのような意識はハッキリとして、ただただ当ての無い憎悪が滾るのが分かる。

「んなコトを言うために……俺が目ェ覚ますまで待ってたってのか……!?」
「だって誰も話し相手がいないんだもん、ここ。
 ママはいつも死んだ状態で転送されてくるし、パパはいつもすぐ出て行っちゃうし。
 酷い時なんかね、パパはあたしを食い殺そうとしたんだよ? あの時のパパは恐かったなぁ」
「……」
「それにね……よーく耳を澄ますとね、聞こえてくるの。モルガナの呪詛の声が」


373:名無しさん@ピンキー
06/12/31 04:38:30 k6hq5mRR

「呪ってやる。死ね。お前さえいなければ。消えてしまえ。狂え。狂い死ね、って。
 ママが8年前、アウラを庇って逃げたりなんかしなきゃ、モルガナはドットハッカーズに倒されずに済んだのに。
 MOLGANAサーバーをサーバーとして成り立たせているのは、モルガナの怨念とか執念とか
 そんな感じのものがプログラムになって動作しているとあたしは考えてる。
 そしてママを苦しめ続けるの……7日間の休息の次に、8日目の地獄を与えることで」
「それが……モルガナの……カールへの復讐ってワケか……!」
「《The World》はママのパパ……徳岡純一郎が作ったセカイ。
 そのセカイを穢して犯し尽くすことが、ママへの嫌がらせになると思ったんだろうね。
 ママ、何だかんだで父親にコンプレックス持ってたし。会ったこともないのにね。
 でも何故8日間なのかしら? 8年前に起因するから? それとも八相とかけてるのかも?」

散逸したモルガナ因子……CC社の火事で散逸したのは……碑文だけじゃなかった!
モルガナの怨念は《The World》がR:2に移行しても何らかの方法で……誰にも気づかれないように
ひっそりと世界に根付いて……カールがこの世界に戻ってくるのを待ってやがったのか……!
蜘蛛が糸を張って、獲物が巣にかかるまでじっと待つように……カールを苦しめるためだけに、こんな茶番……!

「許せねェ……自分の身可愛さに娘殺そうとしたばかりか……カールまで……!」
「パパがいくら吠えたってダメ。いつも結末は決まってるもの。
 どのパパも同じだった、だってそうでしょ?
 『モルガナは必ず俺が倒す!』とか言ってたのに、こうやってパパもママも
 延々とこの空間に送られ続けてるし……パパも、今ここに転がってるママの数だけ死んでるんだよ」
「へっ……その割には、お前だけ1人きりなんだな」
「うん。何かね、あたしは特別なんだって。生き証人にでも慣れって言うのかな」

よーく分かったぜ。
モルガナのクソババアのやろうとしてること、やってきたこと、カールにしたこと。
フザけやがって。フザけやがって……結局は自分の独りよがりじゃねぇか。
とんだ八つ当たりだ。なら俺はどうする? 俺は、こんなとこで立ち止まってる場合じゃねぇ……
アトリに言ったこと、自分ですっかり忘れてた……涙で目ェ曇らせるには、まだ早ぇ!

「くっ……だぁぁぁぁ―――――――ッ!!!!!」
「おぉ、すごーい」

身体を捕らえていた重力球を強引に引き裂き、不安定な力場からの脱出。
さっきまでの気だるい感じはもうないし、外傷もない……手も脚も、ちゃんと動く!

「終わらせりゃいいんだろろうが。モルガナをブッ倒せばよ」
「どのパパも同じこと言ってたよ。でもXthフォームとスケィスだけで勝てると思ってるの?」
「やってみなきゃ分かんねぇ」
「……ま、いいよ。あたしは、次のパパとママが来るのをまた待つからさ」
「もう来ねぇよ」
「どうかな?」
「来ねぇよ。俺が……何千番目か何万番かは知らねぇけど……今度の俺が止めてみせる」

どっからそんな根拠のねぇ自信が沸いてくるのか、自分でも不思議だった。
セグの話が本当なら、俺も今ここに転がってるカールと同じ数だけ死んでる。
そして何も知らずにまた1日目が始まって、8日目に死ぬまで延々と……MOLGANAサーバーに囚われた
俺達は、そんなことも知らずに8日間の非日常を過ごしていく。
けどよ、それももう仕舞いだ。俺が今日、終わらせるから。

「にしても随分とヒネた性格に育ったもんだな、カールそっくりだぞ。お前」
「こんな所にずっと閉じ込められてたら、そりゃおかしくなるって」
「でも……」
「?」
「お前も、もうすぐここから出してやる」
「……期待しないで待ってるよ、パパ」


374:名無しさん@ピンキー
06/12/31 04:40:28 k6hq5mRR

************************





耳を劈く「パリン!」という音がそこらに響く。
あのしみったれた陰気臭い墓場みてぇな空間をXthフォームの力でブチ抜き、俺はもう一度この世界に戻ってきた。
場所も間違いなく【Δ 輪廻する 煉獄の 祭壇】、戻ってきた、戻ってこれた!

「って、ハセヲ? どっから降ってきたの?」
「……カールか? って、お前、無事なのか!? てか何でここにいんだよ!?」

エリアに戻った途端、化け物の群れの中で鎌を振るうカールとバッタリ会あう。
ちょっ、おまっ、幽霊じゃねぇよな!?

「ん。ブレグ・エポナで戦ってたはずなんだけどね。
 何か強制サーバー転送?みたいな感じで移動させられちゃってさ。この子と一緒に」
「うわぁぁーん! パパぁ!!!」
「セグまで……」

もしかすると今回の繰り返しはイレギュラーなのかも知れない。
あの拷問部屋の空間で会った成長したセグは「ここに来た時、ママはいつも死んでいる」と言っちゃいたが、
まだカールは死ぬどころかピンピンしてやがる。何だ、何がその原因を生んだ?

「カール、お前……何か雰囲気が……?」
「これ? Xthフォームだよ。ネットスラムでタルタルガが言ってた眠ってる力、ってのがこれみたい。
 ハセヲから貰ったロストウエポンの“万死ヲ刻ム影”も戦ってる最中に使いこなせるようになったし」

今のカールは確かにXthフォームになった時の俺に似てる。
それに加えてロストウエポン……これだ。
どっちが欠けても、あの化け物の軍勢にカールは勝てない。
でも反対に2つの要素が揃えば―――絶対に負けることはない!

「その顔だと、何か事情掴めたっぽいね」
「あぁ。裏で糸引いてんのは、8年前にお前を追っかけてたクソババアだ」
「へぇ……アイツ、まだあたしのこと恨んでたんだ」

ニヤリと凄む反面、カールは同時に恐怖も感じているようだった。
そりゃそうだ。8年前、スケィスにデータドレインされた時の記憶がまだ残ってるんだろう。
いくらカールが気丈とは言え、当時はまだ小学生だしな。
 
「それじゃ、ま。役者が揃ったところで……やっちゃおっか?」
「だな」

くだらねぇ因果だが輪廻だかは、今日、ここで断ち切る。
カールを苦しめ続けて、カールの父親が唯一残した遺産の《The World》まで穢そうとする大馬鹿野郎。
いつもなら他人に情けとか干渉は極力しねぇつもりだったけどよ、今回は別だ。
モルガナだけは……もう泣いて謝っても許さねぇ!

「いいぜ……来い……来いよ……!」
「あたしは……」
「俺は……」
「「ここにいるッ!!! スケェェェェェェェェィスっ!!!!」


375:名無しさん@ピンキー
06/12/31 04:42:53 k6hq5mRR

『□□□□□――――――――――――!!!!!』

大鎌を振るい、三つ目の巨人が空間を叩き割って権限する。
サンスクリット語で「地上に降りた神の化身」を意味する名を持つ存在、それが憑神。
その第一相である死の恐怖スケィス。カールの因縁の相手にして最愛のパートナー、俺の分身にしてもう1人の戦友。
その姿はもうかつてカールが従えていた頃の赤布で拘束されたものではなく、神々しいまでの銀と金。
大きく広がる翼は天使か悪魔か……んなこと、どうでもいいか。
分かるんだ……お前は俺とカールの想いが生んだ、全く新しいスケィス!

「スケィス、憑神覚醒(データドレイン)ッ!!!!」
『□□□――――――――――――!!!』

神宿り。
PCの状態で憑神の力を行使できる究極のスキル。
1年前、最後の戦いではみんなの力が集まってやっとAIDAを一掃できた。
今回は俺とカールの2人きり、状況は俄然不利。
けど……けどなぁ。変なんだよ。こんなに不利な状況なのに、誰がどう見ても勝てっこねぇ戦いだってのに。
何でだろう……カールが傍に居るって思うだけで、こんなにも力が沸いて来る!

「俺は……諦めねぇっ!!!」
「元はと言えば、あたしが蒔いた種だしね……きっちり摘み取らせてもらおうかな!」
「パパ……ママ……」

俺とカール、双方から放たれたデータドレインが周囲を取り囲んだ化け物どもを浄化してゆく。
粉雪が光の中で解けて消え行くように……そうだ、もうお前らだって、もう……戦わなくて済むんだ……!
エリア全てを埋め尽くす程の閃光、あれだけの数の軍勢が、ほんの数秒で跡形もなく消え去るくらいの眩い光が、疾った。

「やったの?」
「……いや。どーやら親玉のご登場っぽいぞ」

この胸糞の悪い感じ、覚えてるぜ。
1年前、俺達が苦労してブッ倒してやったってのに……まーた蘇って来やがったのかよ。
……そーいや、ここはMOLGANAサーバーだったか。何でもアリってことなんだろうな。

「……来るっ!」

ズシン、と地響きがした。大地が腐り、腐って泡となった黒き土から異形が這い出てくる。
その体躯とグロい姿、忘れろったって忘れられねぇ。わざわざ茶番のためだけに地獄から蘇ったてか?
なら、もう一度冥土に送ってやるぜ。てめぇはケルヌンノスと仲良くやってろ、クビア!

『************************―――――――!!!!!!!』
「おわっ、何アレ?」
「クビア。1年前、俺達が倒したAIDA事件の元凶だ……再生しちまったっぽいけど」
「うぅ……恐いよぉ……」
「だいじょぶ、パパもママもついてる!」

とは言え、ラスボス級の強さであることに変わりはねぇ。しかもセグを守りながら、だ。
俺とカール、2人のありったけの力を込めたデータドレインで1撃で仕留めるしか他に手立てはねぇっぽい
(つか、通常攻撃が空まで届かねぇ)。

「カール、データドレインで一気にケリつけるぞ。やれるな?」
「1度は勝ったんだろう? なら、今度も勝てばいい。それだけだよ、ハセヲ」
「恐くねぇのか」
「恐い? きみとあたしなら、絶対に勝てる。そう思ってるだけなんだけどな」

だな。絶対に勝ってみせる。今のお前となら……俺は、誰にも負ける気がしねぇ。


376:名無しさん@ピンキー
06/12/31 04:45:34 k6hq5mRR
くたばれモルガナ? よいお年を? 何のことです?
おやすみおまいら

377:名無しさん@ピンキー
06/12/31 04:46:34 /eq7Sw5h
リアルタイムキタコレ!!!

GJ!!!

378:名無しさん@ピンキー
06/12/31 05:59:58 Cd1ZtV3v
エロマダー?

379:(o_▽_)o
06/12/31 13:37:44 MuA1k0v0
最近、原作よりこっちの方が面白いと思うようになってきた俺は末期かも知れん
まぁ、そんな俺が言えることはこれだけだ

「Good Job!!」

380:名無しさん@ピンキー
06/12/31 17:30:21 LXXMBfRI
GJ!GJ!
俺はむしろ、本編のサイドストーリー的な感じで読んでる。

381:名無しさん@ピンキー
06/12/31 17:35:35 jGz6r0Re
すごく・・・GJです。そして、よいお年を。

382:名無しさん@ピンキー
07/01/01 00:09:41 zrrwVWY7
明けおめ!!

383:名無しさん@ピンキー
07/01/01 00:31:05 UTfhN8Eg
明けおめことよろ

384:名無しさん@ピンキー
07/01/01 06:33:12 GKgB86NR
あけおめことよろ

385:名無しさん@ピンキー
07/01/02 12:13:21 1E5R7+vN
あけよろ

386:名無しさん@ピンキー
07/01/02 17:27:50 XlRAZLBM
挨拶は公式でやれ、ドア砲

387:名無しさん@ピンキー
07/01/02 18:19:16 bJ/J4wPn
akeomeことよろ

388:GORRE
07/01/03 00:20:21 VVnHt6Dk
>>333の続き

「すいません、呪○のチケット高校生1枚と小学生2枚下さい」
「2500になります」
「じゃあ、5000円で」
「2500円のお釣りになります」
窓口でチケットを受け取った亮達は、エレベーターに乗り込んだ。
目的の階に到着すると、早速劇場に向かった。
劇場の中は、夏休みということもありカップルや家族連れ、友達同士などの人々で込み合っていた。
「東京はホンマ人が多いな」
「仕方ねえだろ。首都なんだから。それより、席探すぞ」
「あ、あそこあいてるよ」
望は真ん中あたりに3人分の席が空いているのを見つけた。
「でかした望」
亮達はその席に腰を下ろすと、亮は腕時計を見た。
「まだ始まるまで時間があるみたいだな。今のうちに飲み物とか食うもの買ってくるか」
「あ、ボクもいくよ」
「ウチは席を取っとくわ。いない間に誰かにとられでもしたらシャレにならんし」
「分かった。いくぞ、望」
「うん」
亮と望は連れ立って出て行った。
この時、朔の頭の中にはある作戦があった。それは、ホラー映画を見てドサクサに紛れて亮に抱きついてしまおうというものだった。
席順は通路側から望、亮、朔となっている。望はおそらく怖いシーンで亮に抱きつくだろう。これは想定の範囲内である。
望は亮に懐いているし、自分以上に亮にべったりしている。そのことにちょっと嫉妬を覚えたわけではないが、そんな事は問題じゃない。
要は、いかにうまく亮に抱きつくかである。朔は二人が戻ってくるまで考えていることにした。

389:GORRE
07/01/03 00:40:16 VVnHt6Dk
一方、売店に来た望と亮は…
「飲み物は何がいいんだ?」
「ボクはオレンジジュース。おねえちゃんはコーラでいいとおもうよ」
「そうか。食い物はポップコーンでいいか?」
「うん」
「うし。すいません、コーラ二つとオレンジジュース一つ、それからポップコーンの一番でかいやつを一つ下さい」
「全部で1500円になります」
1500円きっかり払った亮は、商品を受け取ると、劇場に戻っていった。
「かってきたよ、おねえちゃん」
「ごくろうさん」
「ほれ、お前の分」
「ん」
朔は亮が差し出したコーラを受け取った。
「ウチ、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「おお、いって来い」
数分後、朔はトイレから戻ってきた。
「よし、俺達も行って来るか。見ている途中で行きたくなったら困るしな」
「うん」
「はよせんと始まるで」
「分かってるよ」
望と亮はトイレに向かった。
「…絶対、この作戦は成功させたる。ふふ、ふふふふふふ」
朔は周りに聞こえないように笑った。

映画が始まる1分前に、亮と望は戻ってきた。
「ちょうどいいタイミングやな、始まるで」
「ハセヲにいちゃん、ボクなんだかこわいよ」
「大丈夫だって、怖くなったら腕掴んでいいから」
「うん、そうする」
二人が席に着いたちょうどそのとき、映画の開始を告げるブザーがなった。

390:GORRE
07/01/03 00:43:22 VVnHt6Dk
とりあえず今日はここまでです。

ここの所なんか書き込み制限でカキコ出来ませんでしたが復活!
これからもよろしくです。

391:名無しさん@ピンキー
07/01/03 12:01:50 zBpCzJFX
うるせぇよ、屑

392:名無しさん@ピンキー
07/01/03 12:02:42 zBpCzJFX
テラゴバクwwwごめwwwwww

393:名無しさん@ピンキー
07/01/03 12:58:12 tPZZOUkT
>>391
なんか吹いたwwwwwwwwwww



394:名無しさん@ピンキー
07/01/03 13:41:42 NNsQikZY
>>391
ヒドスwwwww

395:名無しさん@ピンキー
07/01/03 13:47:00 mXQggCmX
>>391
ぶはwww

396:名無しさん@ピンキー
07/01/03 14:08:58 tPZZOUkT
>>391の人気に嫉妬wwwwww

397:名無しさん@ピンキー
07/01/03 22:00:17 nHx75yK+
>>391
いい誤爆だな
や ら な い か ?

398:名無しさん@ピンキー
07/01/04 18:04:33 LbHPHHPm
>>391
ビックマック吹いたwwwwwwwww

399:名無しさん@ピンキー
07/01/04 21:18:56 egCtp0+w
パックさんマダー?

400:名無しさん@ピンキー
07/01/04 22:11:46 EQKf8w8i
ボルドーの人マダー?

401:名無しさん@ピンキー
07/01/04 23:11:09 G8oP9Q8s
オーーーーヴァーーーーーーーーン

402:名無しさん@ピンキー
07/01/04 23:45:19 kC1n+Nf/
>>391
ちょwwwwなんてベストタイミングだwwwwお前最高wwwwwwww









誰も感想書いてないな。

403:名無しさん@ピンキー
07/01/05 00:11:43 AaNhx28r
現在ネタ制作中。だがエロい部分がまったく思いつかん・・・。誰かオラにネタを考える力をくれ!!

404:名無しさん@ピンキー
07/01/05 00:13:28 AaNhx28r
現在ネタ制作中。だがエロい部分がまったく思いつかん・・・。誰かオラにネタを考える力をくれ!!

405:名無しさん@ピンキー
07/01/05 00:15:04 qH52sCVh
なぜ二回言う
なぜ二回言うのだ

406:名無しさん@ピンキー
07/01/05 00:22:28 AaNhx28r
スマン、間違えた・・・(^^;)

407:名無しさん@ピンキー
07/01/05 00:26:14 aXdSeaOj
>>406
sageろカス

408:パック ◆JuT3jsxZbo
07/01/05 01:00:13 aZjNgRK7
お待たせしてすみません。
諸事情により今回は少しだけ、しかもまだエロまで行きません。
もう少しだけお待ちください。

409:花火まであと少し 22
07/01/05 01:01:33 aZjNgRK7
「……ど、どうぞ」
「うん。それじゃ、お邪魔します」
どもりながら部屋の扉を開けると、志乃はすっかり落ち着き払った様子で亮の部屋に足を踏み入れた。
(……ああ、畜生)
部屋に他人を招くなど別段特別な事でもないのに、酷く緊張する。
神保町から電車を乗り継いで一時間弱。
その間、亮は殆ど無言で、志乃が話しかけてきても生返事しか出来なかった。
家に入ってからも、志乃の控えめな足音が響くたび心臓が止まりそうになった。
「へぇ……ここがハセヲの部屋なんだね」
部屋に入るなり、志乃は辺りを見回してそう言った。
その呟きに、亮は何も答えず突っ立ったまま俯いていた。
先ほどまで停止しかけては動き出してと繰り返していた心臓は、今度はやたらと短いリズムで鼓動を刻んでいる。
「意外と……って言ったら失礼だけど、綺麗だね。もう少し、散らかってるのかと思ったよ」
志乃はそんなハセヲを真っ直ぐ見つめると、少し悪戯っぽくそう言った。
「最近、片付けたから……」
亮は短くそう答えるのがやっとだった。
喉にも力が入らない。先ほどまで大量の本が入った鞄を抱えていたせいか、手首に痛みがあった。
せっかく志乃が部屋に来てくれたと言うのに、酷い体たらくだった。
このままでは、間が持たない。
「志乃、さ……何か飲みたいものとか、ある?下から持って来ようか?」
僅かでも時間を稼いで気持ちを落ち着けたくて、亮はそんなことを言った。
志乃は花が風にそよぐ様に首を少しだけ傾げ、口を開く。
「うーん……そうだね、冷たいものなら何でもいいよ」
「わ、わかった……じゃあ、ちょっと行って来るよ。どっか適当に、座ってて」
志乃の答えを聞いて、亮はフライングしたランナーのように足早に部屋を出た。
「はーい。あ、居ない間に押入れの中にありそうな雑誌とか探したりしないから、安心してね」
扉を閉める瞬間、彼女がそう言ったのが聞こえた。

410:パック ◆JuT3jsxZbo
07/01/05 01:02:04 aZjNgRK7
以上。
次は本来の予定まで書きあがり次第、今日か明日にでも投下します。

411:名無しさん@ピンキー
07/01/05 01:53:27 fzwZOsyI
>>400
個人的には



656 名前: 名無しさん@ピンキー 2006/10/04(水) 00:27:19 ID:NGJ0WJGh

どうも、オリキャラ登場でハセアトハセな小説を書こうと思います。
ギャグ主体です、アトリ電波です、クーン人間やめたほうがいいです、パイは胸デカです(変わってない)、
揺光はツンデレです、オーヴァンはとりあえず警察に捕まったほうがいいです。
あとほかのキャラも少々
…エロモアルヨ?

とりあえず…そんなやばげなネタを出そうか考えている俺がいる
基本的にハセヲ被害者…だからどうした!?
他人の不幸は蜜の味それが俺の座右の銘!




81 名前: 名無しさん@ピンキー 2006/10/21(土) 15:16:42 ID:4Rq4+me8

エン揺を書くことになってしまった
書きかけ2本を含めて全揺光関連なカオス




338 名前: 名無しさん@ピンキー 2006/11/03(金) 15:41:47 ID:YpZGcpbd

七星のリアルの名前をどうするべきか…
揺光視点だから呼ばせ方に困るな




この3人が未帰還者になったんじゃないかと去年から心配してる

412:名無しさん@ピンキー
07/01/05 02:10:49 bJmkIHVs
>>410
マジGJ!頑張ってください!

>>411
さりげなくそれをまだ待ってるww

413:名無しさん@ピンキー
07/01/05 03:21:42 qhQGOVOY
>>410
GJ!!待ってました
焦らずで良いので頑張ってください
楽しみにしてます

414:名無しさん@ピンキー
07/01/05 13:13:24 dQajgG/Z
URLリンク(mbga.jp)

415:名無しさん@ピンキー
07/01/05 14:41:53 bJmkIHVs
>>414
死ねカス

416:名無しさん@ピンキー
07/01/05 17:30:12 0ZPVDheP
>>415
ROMってろ、な?^^;

417:名無しさん@ピンキー
07/01/05 20:37:49 dVqoL2kf
リアルのハセオ×ボルドーの人マダー

418:名無しさん@ピンキー
07/01/05 20:39:42 dVqoL2kf
sage忘れたorz

419:名無しさん@ピンキー
07/01/05 20:41:50 dG4sm3cL
ここはウホッネタもおkなのか・・・?




松×籐太きぼんw

420:名無しさん@ピンキー
07/01/05 22:48:39 nlOR5RCA
藤太が受けかw

421:名無しさん@ピンキー
07/01/05 23:32:52 MUIOP/Mf
801スレへドゾー

422:名無しさん@ピンキー
07/01/06 05:09:27 nB/qxbQ6
俵屋www
ショタとか綺麗なもんでなくて、くそみそだな

423:名無しさん@ピンキー
07/01/06 11:46:26 js9K/KE7
「んっ・・・毎度・・・」

('A`;)

424:名無しさん@ピンキー
07/01/06 12:36:11 jRuOiWHG
パックさんマダー?

425:パック ◆JuT3jsxZbo
07/01/07 00:24:51 Fzy1u8oz
いつもお待たせしてすみません。
お詫びといっては何ですが、今回はちょっとした趣向を準備してあります。
では、今夜の分。

426:花火まであと少し 23
07/01/07 00:25:43 Fzy1u8oz
亮は見つかった泥棒のように大音量を立ててキッチンへ駆け込むと、冷蔵庫の前でようやく立ち止まった。
「落ち着け、俺。落ち着け、俺」
声に出して自分に言い聞かせ、深呼吸をする。
冷蔵庫を開けて、人工的な冷気が肌を冷ますのを感じて、ようやく亮は平静を取り戻した。
全く、情けないにも程がある。
恋人が自分の家に来たぐらいで、まるで隕石が落ちたみたいに慌てふためいて。
先週と主客が入れ代わっただけではないか。
先週―そこまで考えて、志乃の部屋での出来事が幻燈のように蘇った。
志乃は浴衣を着ていて、彼女とキスをして、それから―
思い出しただけで体が熱くなる。
いつものことだが、今日は確実に両親は帰ってこない。
「…………」
ひたすら緊張していたおかげで意識する事がなかったその事実に、亮はようやく思い当たった。
キッチンの壁にかかった時計を見ると、時刻は午後四時。
まだ夕方だから少し早いかもしれないが、別に時間は関係ない。
志乃の部屋に行った時だって、朝日が差す中で……
「って。おい」
大声にならないように口に出して、亮は自分のよこしまな欲望を抑えようとした。
いくら家に来たからと言って、即その手の方面に結びつけるのは如何なものか。
中学生か発情期の動物でもあるまいし。
しかし……昨夜志乃は今日中に課題を片付けたいと言っていた。
それは、亮と週末をずっと一緒に過ごしてくれるという意味なのではないか?
そもそも先週の時だって、志乃の方は……
「いや、だから」
先ほどより少し大きい声で、亮は再び自分の考えを否定する。
課題を終わらせたのはThe Worldをプレイする為かもしれなし、先週とは色々と違う。

427:花火まであと少し 24
07/01/07 00:27:14 Fzy1u8oz
こんな色ボケした頭でいたら、向こうも迷惑だろう。
(とにかく落ち着け。クールに)
頭の中で呟いてから、亮は冷蔵庫の中に視線を移した。
母親があまり帰っていないおかげでそんなに物は入っていなかったが、
飲み物に限って言えば充実してた。
亮が買い込んだジュースのペットボトルが何本か残っていたし、ミネラルウォーターもある。
少し考えて、亮はミネラルウォーターのボトルの隣に置かれていた琥珀色の水差しを取った。
中には母親が自作した梅のジュースが入っている。
一般に夏の飲み物の定番といえば麦茶か冷やし飴だが、三崎家では何故かそれは梅ジュースだった。
六月に母の実家から送られてくる青梅で作られたこの飲料は、爽やかなのど越しで夏の暑気を払うだけでなく
豊富なクエン酸で疲労を回復させアルコールの分解を助ける効果まで持つ。
砂糖水でなく焼酎を用いて漬け込めば梅酒になり大人の飲み物としても楽しめるという、まさに夏の万能飲料である。
折角なので、亮はこれを二回の志乃に持って行く事にした。
グラスを二つ取り出し、冷凍室から取り出した氷を入れて梅ジュースを注ぐ。
冷蔵庫を閉じて両手にグラスを持って、亮はキッチンを出た。
そして、今度は少しだけ落ち着いた足取りで階段を上り始めた。

428:花火まであと少し 25
07/01/07 00:28:36 Fzy1u8oz
「志乃、飲み物取ってきたけど」
「あ、ハセヲ。ありがとう」
「いいって……って!?」
腕を器用に動かしてドアを開けた瞬間、ハセヲは目を大きく見開いた。
志乃がワンピースの上に着ているジャケットを脱いでいたのだ。
普段であれば少々色っぽくても気にするような事ではなかったが、
色欲に惑った今の亮には散弾銃の直撃にも勝る衝撃だった。
目の前の光景が妄想を加速させ、それによって体が暴走する。
暴走は足のもつれという形で現実になり、結果―亮は見事にすっ転んだ。
「うわぁ!?」
「きゃっ!?」
グラスがカーペットの床に転がる軽い音と共に、二人が同時に声を上げる。
「痛てて……」
床にぶつけた頭をさすりながら、亮が体を起こす。
視界の先には、ワンピースを濡らした志乃がいた。
「だ、大丈夫かよ!?」
「うーん、ちょっと大丈夫じゃないかも……」
両手をぶらりと伸ばして、志乃が言う。
ジャケットこそ無事だったが、志乃は頭からグラスの中身を見事に被っていた。
髪からは水滴が滴り、濡れた胸元は下着が透けてしまっている。
「とにかく、まずは部屋を掃除しないとね。ハセヲ、タオルと布巾ある?」
「わかった。下にあるから、取ってくるよ」
亮が慌てふためきそうになった瞬間、志乃が髪の水を払って言った。
それで亮も落ち着きを取り戻し、すぐに体を動かす事が出来た。
床のグラスを拾い上げ、台所に駆け込んで洗い場に放り込む。
そして道具棚から新しい布巾を取り、衣類置き場に寄ってタオルを回収。
そのまま部屋に戻る。
志乃にタオルを渡すと、亮は濡れた床を布巾で抑えた。
「ありがと。ふぅ……服、どうしようかな」
頭を拭きながら、志乃が小さく呟く。
確かに、体は拭いたが一度濡れた服はどうしようもない。
放っておけば染みになるだろうし、濡れた服を着ているだけでも気持ちのいいものではないだろう。
幸い亮の家にある洗濯機は最新型で、家事技能皆無の亮でもワンピースを洗濯する事は出来る。
今の季節と時間なら、陰干しでも一時間もすれば乾くだろう。
問題はその間どうするかだが……

A:風呂に入っていてもらう
B:着替えを貸す

429:パック ◆JuT3jsxZbo
07/01/07 00:30:20 Fzy1u8oz
というわけで、次回はお楽しみです。
どういう方針になるかは希望が多かった方にします。
補足しておくとBの場合ぶかぶかのパジャマかワイシャツです。
大体集計は明日の今頃に。次回の投稿自体はもうちょっと間が空きます。

430:名無しさん@ピンキー
07/01/07 00:30:52 1zXQj/jT
B

431:名無しさん@ピンキー
07/01/07 00:56:06 PwNB+grT
GJです。Aで。

432:名無しさん@ピンキー
07/01/07 01:45:04 Q5DHJiG8
GJ

A

433:名無しさん@ピンキー
07/01/07 01:49:55 BPG9GdmB
GJです。Bを頼みます。

434:名無しさん@ピンキー
07/01/07 02:35:37 TqbtjeFP
GJです

Bでおねがいします

435:名無しさん@ピンキー
07/01/07 02:39:46 u3VNET0Y
Bでちょっと大きめなハセヲのシャツを着てる志乃で

436:名無しさん@ピンキー
07/01/07 03:01:00 C/uwSQUC
Aを希望する。
もちろんお風呂プr(ry

437:名無しさん@ピンキー
07/01/07 03:11:46 Ksqt1/DB
GJ!(*´Д`)イイヨーイイヨー
俺はA派。ってか意見真っ二つ?w

438:名無しさん@ピンキー
07/01/07 04:35:44 6P3ax+jt
>>429
いつもながらGJ!!

迷うな~… どっちも良さそうw
う~んじゃあ……Aがいいかな?

439:名無しさん@ピンキー
07/01/07 05:18:11 pJbKGJkh



おまいら乙
ハセヲ×カール+擬人化スケィス投下


440:名無しさん@ピンキー
07/01/07 05:20:25 pJbKGJkh

《独白:カールの場合》


『カール。あなた、どういうつもりでロールしてるの? そのキャラはあなたの、何?』

あの時のアルフの言葉は、正直グサリと来た。何だかんだであたし、当時は小5だったし。
自分じゃ悪キャラ演じて大人ぶってたつもりだったんだけど……中身は所詮ガキでさ。
良い子ぶるよりも悪い子のロールやった方がね、気持ち的に楽かな……とか考えてて。

『人嫌いのカッコつけキャラをロールしてるわりには、かまってクンが透けて見えてるのよ。みっともない』

だよねぇ。結局のところさ、あたしは寂しかったんだ。
でも自分から進んで誰かの輪の中に入るのが怖くて、真逆の方法を選んじゃったけど。
特に、男の子が恐い。
あたしの父親の様に。孕ませるだけ孕ませておいて、お母さんの元から去ったアイツ。
父親の存在は今でもあたしの最大のコンプレックス。
そりゃ、父親がいなければあたしも今頃はこの世に生まれてなんかない、それは分かってるつもり。
でも……何か、そういうのって気持ち悪い。
あの人はただ、本能に従って自分の血脈を途絶えさせないようにしたかった、それだけなんじゃないかって。
詰まる所、やってることは動物や虫とかと何ら変わりが無い様に思えてたのね。
生殖なんて、気持ち悪い。トンズラするくらいなら避妊すればよかったのに。哀れみか親切心のつもり?

『親切な奴なんて、いっる、ワっケ、なーい』

楚良はそう言ったけどね、実際いるんだよ。
自分の利益にもなんないのに他人のお節介を進んでるしたがるお馬鹿がさ。
1人目は揺光。
あの子が初心者だった頃、たまたまPKに襲われていたところを
当時PKK兼ハンターをしていたあたしが助けた縁で知り合った。
2人目はハセヲ。
これは揺光の紹介での出会い。初めて彼と会った時、楚良……きみを思い出した。
言われてみれば彼とあたしはよく似ている。別にPCのカラーが似てる、とかそゆんじゃなくて。
昔のあたしに、よく似ていた気がした。似たもの同士が惹かれあうのかどうか、それは分からない。
でもいつの間にか彼は、あたしの心の大部分を占めるようになってゆく。
寝ても覚めてもハセヲのことを考えるようになってから、あたしはやっと自覚を持った。

あぁ、あたしはきっとハセヲが好きなんだな、と。

あたしを夢中にさせた男の子は彼で2人目。1人目の楚良とは……恋と呼べたかどうかも怪しい。
自慢じゃないが、あたしはそれなりにモテる。ただし女の子に。
世間一般で言う“キレイ”にあたしは当てはまるらしく、更には170cm以上ある身長と長い髪のせいで人目に付きやすい。
以前、あたしの高校で“好きな人の下駄箱に携帯のメアドを書いた紙を張る”という
迷惑極まりない遊びが流行した時なんか、朝に登校した時、下駄箱から
紙を撤去するのに時間をとらされてイラついたものだ(その時は女の子以外、つまりは男の子のメアドも幾つかあった)。
好きになるのは個人の自由だと思うけど、その人の迷惑になっちゃ本末転倒な気がするの、あたしだけ?
だからあたしは、一定の距離をとりながら彼の傍にいるのを望む。
中途半端はイックナイーイ、とは思うけど……あたしは、ハセヲの日常に入り込めただけで気分が良かった。
セグが現れてからの時間が最も楽しいひと時だったかもしれない。
でも、夢っていつか覚めるもんなんだ。あたしが8年前に未帰還者になった時がそうだったように。
覚めない夢なんてない。でもね、ハセヲ。これだけは確実に言える。

お母さんよりも、おばあちゃんよりも、揺光よりも……ハセヲ、きみを愛している。

あたしも薄々は気づいてたんだよ、この世界が紛い物の世界だってことに。
だから夢が覚める前にもう一度だけ、あたし自身の気持ちを確かめておきたかった……それだけ。さぁ、終わりにしようか。


441:名無しさん@ピンキー
07/01/07 05:22:50 pJbKGJkh

《独白:segment.A1(セグ)の場合》


幽囚の日々。
モルガナが作り出した隔絶空間に閉じ込められて幾日が過ぎたのか。
あたしはいつの間にか、ママとそう変わらない外見にまで成長していた。
モルガナの言っていたことを信じるとするなら、
この空間に破棄されているママの死体に8をかけた数だけの日数が経過している計算になる。
けど、数える気にもならない。ママの死体が多すぎて、きっと飽きちゃうだろうから。
パパもこの空間に飛ばされるけど、すぐにモルガナを倒すために出ていっちゃう。
あたしが止めても、どのパパも皆、出て行ってしまう。
でも最後に会ったパパだけは違った。もしかしたら、あのパパなら……?
馬鹿みたい。つまらない希望を持ったところで状況は変わらないのに。
モルガナは言ってみれば創造主だもの、カミサマに勝てるワケないじゃない。

『お前も、もうすぐここから出してやる』

あの時、パパはそう言った。
本当にモルガナに勝つつもりなの? 無謀すぎるよ、パパ……。
あたしがこんなにも饒舌にモルガナを擁護するのにはねぇ、ちゃんとした理由がある。
この空間に飛ばされた時、あたしは自分の本当の正体に気づいた。
この8日間を彩るために生み出された、刹那の幻。生まれながらの蛭子。出来損ないの子。
本当のあたしは、最初からパパとママの傍に居たはずなのに。

『見ツケタ。見ツケタ。見ツケタ』

初めてカナードのギルドでパパと出会った時、あたしじゃない誰かの声が頭の中に響いていたのも、予兆。
そしてモルガナから本当のコト聞かされた時、自分で自分を殺せないのをどんなに呪ったか……。
自分がいいように手駒にされてた、って知った時のあたしの絶望感はハンパじゃなかった。
パパ達は知らなかったけどね。8年前、アウラはスケィスにデータドレインされそうになった時、
とっさに自分を3つのセグメントに分割してデータドレインを防いでたんだって。
だったら、1年前のAIDAとの戦いで消滅したスケィスも、“実は”本能的にアウラと
同じことをしていた、って考えることはできないかな?
ただし、今回のケースでは2つのセグメントに分割をして―――――――。
一方はママが操る紅いスケィスとして、もう一方は……。

あたしの本当の母親はモルガナだ。母親、というのは語弊があるかもしれない。
所詮は黄昏の碑文から生み出された下僕に過ぎないあたし、モルガナは母親と呼ぶのも恐れ多い存在なのかもしれない。
けど、少なくともあの8日間だけは、あたしのママはカールで、パパはハセヲだった。
過去の記憶が消去された今、それだけがあたしの全て。
それ以前に、こんな所にあたしを閉じ込める奴は母親なんかじゃない。
あたしの使命は墓守、この暗い世界で積み重なったママの死体を見続けること……でも、もうそんなの嫌だ。

ねぇ、パパ。呼んで、あたしの名前を呼んで。本当の名前で呼んで。

パパ達は気づいていない。
ママがパパにあげたスケィスは、まだ完璧じゃない。
パパが名前を呼んでくれさえすれば、こんな空間すぐにでも出て行けるのに。
パパはねぇ、呼び方を忘れてるだけなんだよ。だから1年前のあの時の様に、あたしの名前を呼んで。
ルミナ・クロスでのアリーナバトルで、ボルドーをギタギタにした時みたいに。
あたしが欲しいって、あたしの力が必要なんだって。パパの声を聞かせて?
あたしはいつでもパパの味方、モルガナなんてあたしが食い殺してあげる。
10万時間以上の歳月をこの空間で過ごした今のあたしなら、もうパパ達と一緒に戦えるよ。
だから、ね? もう一度、貴方の声を聞かせて。あたしの名前を呼ぶ声が聞きたい。
貴方があたしの名前を――――――――――スケィスと呼ぶ声が、聞きたい。


442:名無しさん@ピンキー
07/01/07 05:25:16 pJbKGJkh

「んぎぎ……ぐがががが……っ……!!!」
「くっ……っ……だぁぁっ……!!!」
「パパ、ママ、頑張って!」

俺とカール、2人で同時にクビアに放ったデータドレイン。
スケィスも居る、俺達2人もXthフォームになっている、なのに! 何故、倒れねぇんだ、てめェは!?
何かが、まだ何かが足りないんだ……この戦況をひっくり返すための何かが……!
こうしている間にも時間が迫ってきている。
俺達の力が尽きるのが恐いんじゃない、8日目が終わるのが、今は何よりも恐いんだ!
もし8日目が終わる前にクビアを倒すことができなければ、全てが無駄に終わってしまう。
ギリギリだった。際限なく沸いてくる力とは裏腹に、精神的に俺は追い詰められつつあった。
ここで俺たちがクビアに負ければ、またあの8日間を繰り返されることになる。
そんなのはもうたくさんだ。アイツとも、デカくなった方のセグとも約束したんだ。
だから退けねぇんだよ……今回ばかりは!

「ハセヲ……マズいかも……」
「な、何がマズイって…!?」
「スケィスに……ヒ、ヒビが……!」

しまった……! 守りの大部分をスケィスにやらせていたせいで……!
それに今俺が呼んでいるスケィスは、元々カールが使役していたものだ。
やはり、インストールしたばかりで俺に完全に馴染めていなかったのかもしれない。
……泣き言言ってる場合じゃねぇ。今は、一分一秒でも、長く持ってくれなきゃ困るんだよ……ッ!

「スケィス、頼む……あと、あともうちょっとだけ耐えてくれ……!」
『□□……□□□―――――!!!!!』

呼応したスケィスの雄叫びが響く。だが明らかに身体にかかった負荷の影響で損傷を受けている。
俺達のやろうとしていることは残酷だ。
スケィスにとっては、もう一度得られた生命なのに、またそれが消え逝かんとしている。
力が、力が欲しい! あのクビアを倒せるだけの力が! モルガナのクソったれな計画をブッ潰せるだけの力が!

「パパ」
「な、何だっ、セグッ……!?」
「あのね、さっきから知らないお姉ちゃんの声がするの。『あたしの名前を呼んで、パパ』って」
「!?」

まさか……あの妙な空間に閉じ込められてた方のセグか!?

「パパの知ってる人? 『本当の名前で呼んで』とか『アリーナバトルの時みたいに呼んでよ』って何度も言ってるよ」
「アイツが……そうか……」

どういう方法かは知らねぇが、あの空間に居た
デカい方のセグが小さい方のセグを通して、俺に何かを伝えたいらしい。
本当の名前? アリーナバトルの時みたいに? どういうこった?
俺が今までにアリーナバトルの最中に一番多く呼んだ名前と言や……1つしかねぇ。
でも、そうなのか? お前がそうだったのか? だって、お前は現に今ここで、俺達と……。

『segment.……A1……セグメント、エーワン?』
『セグメント……名詞だと“部分”とか“切片”って意味の英語ですよね、確か』

! セグメント……切片……カケラ……へっ、へへへ……何となく分かった気がするぜ。そーか、そう言うコトかよ。
いいぜ、呼んでやらぁ。お前ももう、そんな暗いところにいるのは嫌だろう?
出してやるよ。呼んでやるよ。お前が望むように、俺もお前を望むから……! 


443:名無しさん@ピンキー
07/01/07 05:27:37 pJbKGJkh

「来い……」
「ハッ、ハセヲ? 急にどした?」
「来い……来いっ……!」
「パ、パパ?」

カールもセグも、俺がついにおかしくなったのかと思っただろう。
でもこれは必要なこと。俺はアイツを呼んでやらなくちゃいけない。
独りで待ち続けるアイツを、出してやらなくちゃいけない。
お前を初めて呼んだのは、ボルドーとのアリーナバトルだったよなぁ。
あの時は、まだ俺もお前もお互いを分かっちゃいなかった……でも、今なら……今度こそは!


「来い……もう一度来い……俺は……俺達は……ここにいるッ! スケェェェェェェェェェェェェェェェィスっ!!!!」


瞬間、周囲からピシリと氷を砕く様な音が聞こえた。

「むっ、空間がヒビ割れて……!?」
「ママ……!」

俺の祈りにも似た叫びに応えたのか、周囲の空間が砕け散ってゆく。
俺達を覆うように守りに付いていたスケィス、そしてセグが何かに反応するように空間の割れ目を凝視して、呟くのだ。
闇に塗れて落ちてくる少女を、その目に捉えながら。

「……あのお姉ちゃん、だあれ?」

砕けた空間から漏れ出す闇が、このエリアに満ち満ちた光によって掻き消えて行く。
穢れは祓われ光がアイツを満たして行くんだ。アイツにとっては何万時間ぶりの光になるんだろうか。
分かる、分かるぜ。お前は無駄にあの空間での時間を費やしていたワケじゃねぇ。
この日のために、この時のために、ちゃんと蓄えていてくれていた! 力を!!!

「あはは。本当に出してくれるとは思わなかったよ、パパ」
「へっ、へへっ……約束したからなッ……!」
「ハセヲ? この子、っ……ぬっ……ぐぅ……誰!?」
「話せば長くなるからよ……あとでゆっくり説明してやらぁ……それより……!」
「分かってるよ、パパ。アイツをブッ倒せばいいんでしょ?」

物分りが良いのは母親譲りだな(勿論、母親って言ってもカールの方だ)。
セグ、いやスケィスはニコリと笑うと、もう1人の自分……小さい方のセグに歩み寄る。

「セグ、パパとママを助けなきゃ」
「? お姉ちゃん、あたしと同じ匂いがする……どうして?」
「きみとあたしが元々おんなじ存在だから」
「おんなじ……?」
「さぁ、還ろう? パパ達を勝たせなきゃ。ね?」
「う、うん……!」

セグは良い子だった。一瞬にして自分が成すべきことを悟ったらしい。
どんなに俺が邪険に扱ってもパパと呼んで慕ってくれた、8日間だけの俺達の娘。
最初は1人だった。次に2人になって、最終的に3人に……けど、また1つに戻る時がきた。

「辛かったろう、スケィス? ごめんね、もう大丈夫だからね……」
「パパ、ママ、絶対勝とう!」

2人のセグが、スケィスの中へ還ってゆく。
俺達はその光景を、クビアへのデータドレインの衝撃に耐えながら、ただじっと、息を呑んで見届けていた――――。


444:名無しさん@ピンキー
07/01/07 05:29:51 pJbKGJkh

『■■■……□□□□□―――――――――!!!!!!』

三つの目がギラリと輝き、スケィスが再び光を取り戻した。
ヒビ割れた身体は再構築され、より力強く、より大きな力を伴って。
欠損したセグメント(カケラ)をその内に収めることで、本来の力を今、やっと取り戻しやがったんだ!

「なるほど……今の見て、あたしにも何となく事情が分かってきたぞ……」
「セグは、1年前の戦いでスケィスが消滅間際に分割したセグメント。
 1つはカール、お前の所に辿り付けたけど、もう1つは……」
「モルガナに捕縛され、今回の計画のために利用された?」
「あの成長したセグは、ずっと閉じ込められてたんだ……この8日間の繰り返す地獄を見せ付けられるために!」

でも、でももう、それも終わる! 終わらせることができる!

『*******************……!!!!????』

「見せてやろうじゃねーか、カール。家族の絆ってヤツを」
「家族、ね。そうだな、きみの子供なら……孕んであげてもいいかも」
「ばか、そういう意味じゃねぇっての」

俺達がそんな冗談を言えるような余裕が、今はある。
劇的に力を増大させたスケィスのデータドレインに押され、クビアが呻く。
行ける、今度こそ行ける! 終わらせるんだ、俺達の最高の力で!


「クビアァ……!!!」
「いい加減にぃ……!!!」
『□■□■□■□(くたばっちゃえ)――――――――――!!!!!!!』


俺とカールとスケィス……いや、セグ達。皆で放った渾身のデータドレイン。
俺達親子の、最初で最後の共同作業。爆ぜる光の中へと全てが吸い込まれ、無に還る。
きっと、この8日間を過ごした俺達の中でここまで辿り着いた例は他にないだろう。
何かが1つ欠けただけでもダメだったんだ。全てが揃った時、モルガナのこのクソったれな計画は瓦解する!

「********……*****……*****************……!!!」

ついに、耐えかねたクビアが短いながらも一際デケェ咆哮をあげる。
断末魔ってヤツだ。崩壊してゆく髑髏と、触手、クビアコア……。
周囲を巻き込みながら、光の中へと解けていくその様は、敵ながら幻想的な光景で不愉快さは無かった。




*******************




「ふぅ~。終わったな、ハセヲ」

あぁ。終わった……8日間の悪夢は、やっと終焉を迎えることができた。
これまでの繰り返しの中で何人の俺とカールが死んだのか……想像すらできねぇけど……終わったんだ。
……でも、ちょっと待て。じゃあ、この8日間が終わったらどうなる?
モルガナの怨念の集合体とも言うべきクビアを倒しちまったら、この世界は……MOLGANAサーバーはどうなる?
俺やカール、他の連中や、セグは……!? この8日間の記憶はどうなるってんだ……?


445:名無しさん@ピンキー
07/01/07 05:32:25 pJbKGJkh
親子かめはめ波? 次回完結? 何のことです?
おやすみおまいら



446:名無しさん@ピンキー
07/01/07 09:52:28 PwNB+grT
文章読んでここまでシビレタの初めてだ…
どうも、GJです!

447:名無しさん@ピンキー
07/01/07 09:58:14 W6xRJ2Jk
GJ!!
モルガナはセルですかそうですか

448:名無しさん@ピンキー
07/01/07 11:22:56 3O+W4iNH
>>429今更だがBの方でよろ

449:名無しさん@ピンキー
07/01/07 13:55:48 O6Je0Kjd
>>429欲張りで迷惑をかけるとおもうが、AとB両方できないか?

450:名無しさん@ピンキー
07/01/07 15:21:10 yLlpD7Y7
親子かめはめ波www
GJ!!!

>>449
お風呂に入ってもらった後の火照った体にぶかぶかYシャツか……
一部の隙もないな

451:パック ◆JuT3jsxZbo
07/01/08 00:07:57 gstBxO5P
集計しました。
Bが多かったみたいなので、舞化武可で行きます。
僅差だったので、お風呂の方もいずれ何らかの形でフォローしますね。
次回は13日(土)夜を予定。

452:名無しさん@ピンキー
07/01/08 00:58:37 TsYVM6ud
なるほど、つまり解りやすくするとvol.3発売5日前ということですね?

453:名無しさん@ピンキー
07/01/08 01:40:48 j/uuryVc
なんて分かりやすい解説だ・・・

454:名無しさん@ピンキー
07/01/08 02:29:11 HOhTIqKr
>>451
楽しみにしてる!

455:名無しさん@ピンキー
07/01/08 03:19:06 i3karx3D
おまいら乙
亮×潤香投下

456:名無しさん@ピンキー
07/01/08 03:22:25 i3karx3D

1年後―――。



「三崎ィー。今夜さぁ、合コンあるんだけど来ねぇ? つーか来るよな?」
「あーそお、今日はちょっと」
「何でよ? お前が来るなら他の女の子も来るって言ってんのに」
「スンマセン。今日は彼女と約束あって」

よぉ、俺だ。ハセヲ……の中の三崎亮だ。
何だかんだで俺もとうとう大学生になっちまった。
今は所属してるゼミの先輩に絡まれてるトコ……つか、俺まだ未成年なんですけど。
酒とか飲む気はさらさらないんですけど。前に1度だけ付き合わされた時は
合コン場所の居酒屋でタバコ吸ってる馬鹿が何人かいたせいで煙くて鼻がおかしくなりそうだった。

「彼女? あー、あの背の高い?」
「まぁ……はい」
「でも彼女持ちでも気にしねーって子もいるしよぉ、何か都合つけて断れね?」
「(バカ言え、んなコトしたら俺が後ろから刺されるだろうがッ!)」

潤香は色んな意味で神経質なトコあるからな……付き合いだして身に沁みたぜ。
マジで北海道から東京の大学に進学する辺りは根性が座ってると言うか、何と言うか……。
って、それどころじゃねぇ。
ポケットの中の携帯のバイブがさっきから静かにヴーヴーヴー。
十中八九、潤香からのメールか電話に違いない。

「ま、また暇な時に!」

今の俺、超カッコ悪い。






***************************






「あたしに気兼ねなんかせずに、行きゃよかったのに」
「そういうワケにもいかねーだろーが……」
「何で? あたしが後ろから刺すとか思った?」
「(包丁持ちながら言うなよ……恐ぇよ……)」

都内の潤香のアパート。
週に1~2回の割合で俺は訪ねることにしてる。
この女、放って置いたらすぐにジャンクフードやスナック菓子に手ェ出して生活バランス崩す天才だし。
事実、コイツが包丁持って台所に立つ姿なんて滅多に見られるもんじゃない。

「つーか、ゴミくらいまとめとけよ」
「次の燃えるゴミの収集日、来週の月曜だし。それに放っておいても亮が片付けてくれるじゃん」
「おまっ、俺に依存すんな。一人暮らしの意味ねーぞ」
「あはは。言えてる」


457:名無しさん@ピンキー
07/01/08 03:24:40 i3karx3D

「東京の物価って高いよなぁ。何でもさ」
「お前、小5までこっちいたんだろ?」
「うん、三鷹に住んでた。けど、その頃は特に何が安くて高いなんて気にしてなかったし」

そりゃそうだ。
俺だって高校入るまでは自炊なんかしてなかったから気にしてなかったし。
でもいざ一人で生活(俺の場合、親の帰りが遅いとか帰って来ない日があるとかそーいう類だが)すると、
確かに「アレ? 俺ってもしかして育てられてね?」って自覚しちまう。
今だって大学まで自宅通いだが、親は相変わらず仕事で滅多に家に寄り付かない(つまり生活は今までと同じサイクル)。

「意識不明から回復した後に療養の意味も兼ねて北海道に越したんだけどさ。
 お母さんはそれまで勤めてた病院辞めるし、おばあちゃんは塾の講師辞めちゃうし?
 北海道で再就職できるかどうかも分かんないのにさ、今思うとすごい冒険だったと思うのね」
「お前の家族はお前含めて、思い切りよすぎ」
「仁村の女は強いのだよ」

強いのは一向に構わねぇんだが……もうちっと生活を改善した方がいいぞ、お前の場合。
部屋にオトコ呼ぶにしてもそうだ。
床にはゴミやらお菓子の袋が散乱、冷蔵庫にはミネラルウォーターとビール(つーかお前も未成年だろ)だけ。
服やら下着も畳まずに放置、本やら大学の講義で使うであろうノートも床に置きっぱなしと来てる。
何というか……豪快すぎる。
むしろカールだった頃の方がまだ大人しかったんだと、痛感せずにはいられない。

「キャロットジュース飲むー?」
「またコレか……コンビニのサラダでもいいから何かちゃんとした野菜食えよ」
「だってさぁ、野菜って臭いんだもん。冷蔵庫に入れてたら匂いが残るし」
「野菜食わねぇと肌荒れとかの原因になんだよ」
「亮はあたしが肌荒れになっちゃ困るんだ?」
「困るから言ってんだ」

俺が言うのもなんだが、潤香は美人だ。
顔とか身体のラインとか髪とか、道歩いたら10人中7人は振り向いて確認すんじゃないかってくらい。
少し誇張してるか? じゃあ6人に減らしといてやるよ。
だから、俺的には……そういう意味もあって、潤香にはあんま不規則な生活はしてほしくないっつーか……。

「きみはそゆトコ素直だよねぇ。良い子ですねー」
「うっせ。りんご、全部切り終わったのか」
「テーブルに置いといてよ。あたしも手ぇ洗ったら終わりだからさ」

だから俺が果物を差し入れに行くハメになる。
基本的に潤香は肉とか食べないし、かと言って野菜も進んで食べようとはしない(理由は前述した様に、臭いからだそうだ)。
かと言って彼氏だからって強制するのもおこがましいと言うか……ならせめて果物だけでも食え、と。
そういう経緯がある。サプリメントとスナック菓子じゃ、いくら何でも身が持たねぇだろうし。
何か俺、フードコーディネーターにでもなった方がいいんじゃないかって最近思えてきた……。

「りんごってダイエット特集とかでよく取り上げられてるけどさ、効くのかな?」
「さーな」
「あたし、ダイエットとかしたことないからさ。そーいうのよく分かんないんだよね」
「(お前は今、日本中の女を敵に回した……)」

そりゃお前はんな必要ないだろうよ。俺としちゃもうちょっと肉を付けて欲しいくらいだし。
まぁ、出るとこはちゃんと出てるから文句はないんだが、
それでも潤香は俺が定期的に世話に来ないと生活態度改めようとはしないだろうしな。
ぶっちゃけ、手間がかかる。なのに許しちまう。
つーかコレ、普通は逆じゃね? 
ギャルゲとかエロゲだとダメな主人公をヒロインが更生させるってよくあるパターンなのに、俺の立場逆になってね?


458:名無しさん@ピンキー
07/01/08 03:26:57 i3karx3D

「大学楽しー?」
「普通。高校の時とそんなに変わんねぇよ。
 強いて言うなら私服で行けて、授業中にメールが出来るようになったってくらいだな」
「はは。単位は落とすなよー」
「(オマエモナー)」

この女、気分の乗らない日は平気で講義サボるからな……。
相変わらずネトゲ、つまりは《The World》もやってるから始末が悪い。
俺の大学の講義がたまたま全部休講だった日、もしやと思って潤香のアパートに行ってみたら(合鍵持ってる)
コイツの大学は1限から4限まで講義ある日だってのに、ベッドの中で熟睡していた。
PCの電源はつきっぱなし、どー見ても寝オチです。本当にありがとうございました。

「あーそうそう。智香がさ、今度東京来たいって」
「揺光も今年は受験生なのにな。大丈夫なのか?」
「偏差値低いなりに、こっちの大学に受かろうって頑張ってるっぽい」
「へぇ」
「反応薄いな、もっと喜べばいいのに。あの子が来たら3人でイロイロ出来るんだよ?」
「ぶはっ! ゴホッ、ゴホッ……バカ言え」

唐突にこう言うことを平気で言うから油断できない。
おかげで飲み込みかけてたりんごが喉に引っかかりそうになったぞコノヤロウ。
付き合いだしてみて分かったんだが、どうにも潤香は温室育ちの天然傾向がある。
まぁ、男手の無い状態で祖母・母・娘の3人でこれまで生活してたんだから多少はしょうがないだろう。
しかも聞いてみれば病弱属性と来た(今は滅多に病気にはかからないらしいが)。
まぁ、それはいい。
でもコイツの場合、小学生の頃からネットしてるせいか妙に頭の中がオッサンみたいになっちまってる。
さっきみたいなエロ発言なんて可愛いもんだ。

「智香だって、きみ目当てでこっちの大学に来たがってるようなもんだし?
 どうせココに泊まることになるだろうし? そういう流れになったって……ねぇ?」
「お前、それは嫌味だ。彼氏自慢もいいところだぞ」
「おんやぁ、バレた? あはは」

女って生き物はワカラン。
潤香的には智香、つまりは揺光に対する牽制と言うか当てつけみたいな意味合いもあるんだろう。
表面上は仲良さそうに見えて、実情はドロッドロなんてよくある話だしな。
や、巻き込まれかかってる俺が静観できる状況でもねーけどさ。

「まぁ、きみには一応は感謝してる。こうやって侘しい女の部屋に世話に来てくれるしさ」
「ほっとけねーから来てるだけだっての」
「それだけ? 下心とか一切ナシ?」
「……ノーコメント」

嘘です。いつも少しだけ期待してます。

「なーんかさぁ、味気ないよね」
「な、何が?」
「ガキの頃はあんなに大人ぶろうとしてたのに、いざそういう歳になっちゃうと……」
「……」

言いたいことは分からないでもない。
俺もお前も、あと1年すりゃ未成年から成人だ。何か犯罪起こせば実名報道だってされちまう。
社会的責任ってやつだな。

「子供の頃は自分が世界の中心みたいでさ。でも現実知っちゃうと萎えるんだなぁ、これが」
「潤香にしちゃえらくマトモな発言だな」


459:名無しさん@ピンキー
07/01/08 03:30:35 i3karx3D

「一人暮らしするようになってから『あー。あたしって恵まれてたんだなー』って思ったりするしね」
「(さっき俺もそれ考えたぞ……)」
「そう思うと……お母さんやおばあちゃんが、あたしのコトちゃんと育ててくれたんだなって実感沸くんだ」
「なら大学の授業料払ってもらってる分だけ講義も出ろ」
「うん。善処する」

そう言うと、潤香は安堵したように笑った。
カールの時はどっちかつぅーと「クールだけど何か変なキャラ」だったはずなのに
潤香の時はストレートに意見言ってきたり屈託なく笑ったりするから対応に困る。
コイツと付き合うまでは年齢=彼女いない暦だったワケだし、俺は当然、女の扱いなんか分からねぇ。
つーか誰かと付き合うなんてコト自体に興味がなかったからな……。
俺の高校生活の約1/3は志乃の意識不明事件の解明と見舞いだったワケで。
それに潤香は相手によって態度を変えるフシもある。
同い年のクセに少し演技がかった大人な態度を見せられた時は、いつものコトなのに何かやりづらいし。

「ところでさ」
「……」
「今日、泊まってく?」
「……は?」
「泊まってきなよ。どうせ両親、今日も帰ってこないんだろ?」

まぁ、実際そーだけどよ。
明日も講義あるしな……仮に朝早く起きて電車乗って家に戻れば……ギリギリでガッコの準備できるか?
潤香のアパートに来る時は食材しか持ってこないから……今度からは朝帰りできるように考慮しとくか。
つか、俺そういやコイツの彼氏だった。自覚ねーのも困りもんだ、我ながら。

「遠慮しなくていいじゃん。知らない仲じゃないんだしさ」
「そ、そりゃな」

でも、ココには何度も来てるけど泊まるのは初めてだし……いいのか?
コレってアレなのか? 潤香の方から誘ってるってことなんだよな?
オトコに「泊まってけ」ってそういう意味だよな? 付き合ってんだ、いつかは通る道だろう。
でもまだコイツが東京に来てから本格的に付き合いだしたんだし、まだ早すぎね?
それともキスくらいで満足してた俺がガキなのか? もしくはもっと率先してそういう行為に踏み切るべきなんだろうか?
分からん!

「彼女の部屋に泊まってくのって、普通だと思うんだけど」
「いや、何つぅか……お前から誘ってくるとか、思ってなかったみたいな?」
「おいおい。カールの時から結構それとなーく誘ってたじゃん。きみはあたしの好意を全部スルーしてたのか?」
「や、そういうコトじゃねーんだが……人付き合いとか、よく分かんねーし……」
「それはあたしもお互い様だよ。むしろ、きみはあたしよりも社交的じゃん。
 他人拒絶すんのがカッコイーとか考えてたあたしに比べりゃ、マシだって。
 で、泊まるの? 泊まらないの?」
「……泊まる」

男は度胸、何でも試してみるものさ。
でも俺としてはもうちょい準備期間を貰ってから潤香としたかった
それでもいつもコイツのアパートに来る度、ちょっと期待はしてたけど。
今日はそのまま帰ることなく、コイツは泊まって行けと言う。俺はそれに応じた。
この後の展開は俺の度胸が試されるパターンだよなぁ、どう見ても。
いや、興味がないワケじゃない。潤香みたいな美人が彼女ってだけでも勿体ないのに(性格は問題ありまくりだが)。

「な、なぁ。今日は……つまり……えぇとだな……」
「ふふ。緊張してんの? らしくないゾ」

明らかに余裕を含んだ笑いを潤香は浮かべている。それに対して俺の何と余裕のないこと。
今更こう言うことを言うのも何だが、俺も実はネット弁慶なんじゃって気がしなくもない。
だってそうだろ。ハセヲの時はあんなに強気なのに、潤香を前にした俺の弱気ぶりを見ろ。我ながら情けなくなってくるってもんだ。



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