07/04/01 21:05:53 dz8LrhEj
外れた四肢を脇に押しやり、弘樹は私の下半身へ馬乗りになった。
「弘樹…どうして…」
弘樹の瞳に、私の身体の機械部品が映っているような気がした。そう思った瞬間、私の目から涙が
どっとあふれ出る。
「涙…すごいな、最近の育児ロボットってここまで精巧に出来てるんだ」
涙を見ても臆することなく、弘樹は私を問い詰め始めた。
「…俺の母さんは…三沢裕美を何処にやったんだ?」
「!!」
「あんた、俺のなんなんだよ…」
「こんなことをして…こうまでしても聞きたい?」
「当たり前だ! 俺はずっと…ずっと、うちの家族は普通だと思ってたんだ! 親父は死んじまったけど、
母さんは優しくて強かった。信じてたんだ…母さんを」
「そ、それは…」
「それが…なんだよ、これ?!」
外れた右腕を拾い上げ、私に突きつける。
「あんただけじゃない…俺も変だ…小学校に入学する以前のことが、どうしても思いだせない」
私の右腕を投げ捨て、頭を抱える弘樹。
「俺は…俺は一体誰なんだ…?」
「弘樹…」
苦しんでいたのは、私だけではなかった。作られた虚像の裏で鬱積していた現実が解放され、それは彼に
重くのしかかっているのだ。
「本当の事を話して上げるわ」
「…」
「でも、それを知ったらあなたは狂ってしまうかもしれない…それでもよければ、全てを教えて上げる」
「狂ってしまってもいい…それで現実が見えるのなら」
「…弘樹」
それから私は、弘樹に全てを話した…自分の正体は育児ロボットではなく、御剱重工業のアンドロイド
試作品・MGX-5000であること。弘樹の小学校入学前に起こった、アンドロイド暴走による一家死傷事件の
こと。その事件はこの家で起こったこと。それから10年間、弘樹の父から預かったメールに従い、自分が
弘樹の母となっていたこと。
「そ、そんな」
「全部本当の話しよ」
「うっ…くっ…」
私の腹部に、何かの水分が滴り落ちた。