07/03/29 23:25:20 yof2X13C
AM1:00…メンテナンスコントローラによって仕込まれていた、記憶整理モードが自動的に起動した。
私の記憶メモリはいくら拡張してあるとはいえ、その容量は無限ではない。そのため、一週間毎に
メモリー内を整理し、不要な記憶を消去する必要があった。
「…またあの時の…」
タイムスタンプは今から10年前…丁度、弘樹が小学校に入学する直前の日付だ。
『やめろ!!何故そんな…!!』
部屋の隅に転がっている男性が、腹を押えながら私に向かって叫んでいる。
『お願い…やめ…ガはっ』
視線を正面に戻すと、女性が苦悶の表情を浮かべていた。首には私の手が掛けられていて、ぎりぎりと
咽を押しつぶしているのだ。そして彼女の顔は、今の私そのものであった。
『駄目です…マスター…身体の制御が…効き…ま…せ』
私は涙を流しながら、女性の首を絞めているのだ。筐体が暴走し、弘樹の父…三沢隆の腹をフルパワーで
殴りつけた。手が自分の意志に反し、弘樹の母である裕美の首を絞め続ける。
『弘樹…逃げ…』
『あ…ああ…』
寝室の扉の前に座り込んでいた少年は、裕美の願いもむなしくただ座り込んでいるだけだ。私は動かなく
なった裕美の身体から手を離し、弘樹の元へゆっくり歩みだした。
『お願いです…弘樹様…逃・げ・て』
『い、いやだ…』
震える弘樹の首に手を掛けた瞬間、突然画像がぶつりと途絶えだ。
【 メ ン テ ナ ン ス モ ー ド 起 動 … メ ン テ ナ ン ス レ ベ ル= MAX に 設 定 さ れ ま し た 】
私のメモリー再生は、突然のメンテナンスシグナル受信によって強制停止させられた。