06/11/21 00:16:39 J0Zz/K6a
その日の朝はいつもとどこか違っていた。
平賀才人がそのことに気付いたのは、目が覚めてゆっくりと上半身を起こし、いつものように欠伸をしながら背を伸ばしたときである。
隣に、ルイズがいない。枕に桃色がかったブロンドが乗っていないのだ。
数瞬ほど瞬きしてから、苦笑する。よく見てみると、掛け布団の半ばほどの位置に小さな盛り上がりがある。
(寝相が悪くて布団に潜っちまった訳か)
ちょうどいい、このまま布団引っぺがしてからかってやれ、と囁く悪戯心に、才人は素直に従った。
「ほら、起きろこのねぼすけめ」
楽しく笑いながら布団を引っ張ったとき、才人の頭を一つの疑問が掠めた。
(ルイズって、ここまで小さかったっけ)
小柄なルイズではあるが、さすがに本物の幼児ほどではない。
しかし、布団の盛り上がりはせいぜい本物の幼児ほどのサイズしかない。
その事実に才人が気付いたとき、布団は既に完全に宙を舞っていた。
そして才人は硬直する。
布団の向こうで小さな体を丸めて眠りこけていたのは、ルイズとよく似た顔立ちをした幼子だった。
(え、なにこれどういうこと。なんなんですかこの子。ルイズの隠し子か)
そんな訳ねえだろと思いつつも、あり得ない憶測が凄い勢いで頭の中を飛び交う。
混乱する才人の前で、その幼児はむずがるように顔をしかめたあと、欠伸をしながらゆっくりと体を起こした。
子猫を連想させる仕草で目をこすったあと、その幼児は眠たげな目つきで周囲を見回し、才人を見つけるとぱっちりと目を開いた。
そして、嬉しそうに微笑みながらこう言った。
「おはよう、サイト」
底抜けに元気な甲高い声で挨拶され、才人はへなへなとベッドに膝を突いた。
(落ち着け、落ち着くんだ平賀才人。冷静にこの状況を整理するんだ)
後ろから聞こえてくるやかましい声を敢えて無視しつつ、才人はベッドの上に座り込んで思考に没頭する。
(昨日俺の隣ではルイズ・ド・ラ・ヴァリエールその人が寝ていた。これは間違いないな。
で、朝目覚めるとそこにルイズの姿はなくて、その代わりにルイズをもっと小さくやかましくしたこのお子様がいた。
俺はルイズに妹がいるって話は聞いたことがないし、隠し子なんてのも年齢その他から考えてあり得ない。
以上のことから導き出される結論は)
頭に浮かんだたった一つの答えを、才人は苦笑で無理矢理追い払った。
「ないない、そんなことあるはずないって」
「サイト、サイトってばー」
当のお子様はこちらが名乗ってもいないのに名前を連呼しながら、才人の肩に跨って遠慮なく髪の毛を引っ張ってくる。
才人は大きく息を吐き出すと黙って幼女をベッドに座らせ、正座して彼女と向き合った。