太臓もて王サーガでエロパロ 第二章at EROPARO
太臓もて王サーガでエロパロ 第二章 - 暇つぶし2ch700:女体化玲夜2
07/10/21 17:12:42 TSqaTrXw
僕は一回だけ姉さんのエッチな妄想でしたことがある。お手伝いさんが畳んで持ってきてくれた洗濯物の中に姉さんの服が混じっていて、
いけないと思ったけど匂いを嗅いでみたら花のような姉さんの匂いがして。そのままベッドでしてしまってすごく後悔した。
純粋できれいな姉さんを汚してしまった罪の意識で、僕はしばらく姉さんの顔をまともに見ることができなかった。

僕は自分が怖い。大好きな姉さんは僕と同じ家に住んでいて。僕はいつか本当に姉さんを穢してしまうかもしれない。
もしそんなことになったら姉さんは僕のせいで傷ついて二度と会えなくなってしまうだろう。
僕にとって姉さんと一緒にいられなくなるのは死ぬほどつらい。でも、姉さんが傷つくのを見るのは死ぬよりつらいだろう。

皮肉にも今の僕の体なら姉さんを傷つけることはない。案外僕はこのままの方がいいのかも。

でも、新しい体にはまだなれない。半日も経ってないんだから当たり前か。声は少し高くなったけど女性にしてはハスキー。
声と胸以外はあまり変わってないみたい。認めたくないけど、もともと僕は女の子と間違われることが多かったから。
小さいころは仕方がないと思うけど高校生にもなってそれは正直酷いと思う。そういえば学ランを着ているのに間違われたこともあった。


701:女体化玲夜3
07/10/21 17:14:41 TSqaTrXw
僕は改めて鏡を眺めた。そこにいるのは女の子の僕。姉妹なのにぜんぜん似てない。姉さんの方が断然美人だ。
そして見たことないけど、ここも姉さんの方が絶対に豊かできれい。

いつのまにか僕の手は制服のシャツをくぐって、胸を触っていた。

(だめ……いけない……)
さっき反省したばかりなのに。僕は姉さんの体を思い浮かべながら、胸に顔をうずめて両手で乳首を弄る。

「はぁ……んっ」
鼻にかかったような声が出て僕は驚いたけど、手は止まらないし声も抑えられない。とても気持ちよくて。
女の子ってこんなところが気持いいんだ。皆触っているのかな。姉さんはしないよね。でも、もしかして。

僕は体温がいっぺんに上昇した気がした。何だか汗もかいていて気持ち悪かったので、僕は中断して着替えることにした。

ズボンを脱いで下着に手をかけたとき、僕は違和感を抱いた。

702:女体化玲夜4
07/10/21 17:17:24 TSqaTrXw
(濡れてる?)
下着を脱いで、恐る恐るそこに手を伸ばして確認する。僕の指には透明な粘液がついていて、それが糸を引いていた。
精液とは濃さが違う。

「……」
僕は鏡に向かって座った。どう考えてもその行動は普通じゃなかったけど、僕は好奇心に勝てなかった。

そして次の瞬間、僕は固まった。

(何、これ)
保健の授業で習ったことがあるけど、教科書に載っていたのと少し違う気がする。ピンク色なのは前と変わらない。
でも形が問題だった。アワビに似ている。やめよう、アワビ好きなのに食べられなくなってしまいそう。
ここに入れるんだろうか。普段見慣れているアレを。

指で周りをなぞってみる。本当に今日の僕は普通じゃない。といっても体自体が普通じゃないんだけど。
人差し指がコリッとした感触の豆のようなものに行きあたった。実は鏡に映したときから気になっていたんだけど、これは何?


703:女体化玲夜5
07/10/21 17:20:06 TSqaTrXw
それを軽く押してみる。ついでに元の体にしていたように擦った。

「!!!」
僕の体に電流が走った。今のは何?知っているけど知らない。頭が混乱してきた。とにかくこんなに強い快感を僕は知らない。
女の子ってこんなに気持ちのいいことをしているの?うらやましいかどうかはわからない。だって僕には刺激が強すぎる。

「あ……あっ……姉さん……!」
姉さん、姉さん、と僕はうわ言のように繰り返す。

想像の中で攻めたてるのは僕。
「あっ……やあっ……!」

そして受け入れるのも姉さんになった僕。

あまりの快感にそこを擦る指が止まらない。

「あっ……あ……あああっ!!!」
頭の中が真っ白になる。イった?一瞬ものすごく気持ちが良くなって、下腹が震えたけど、精液が出ないからよくわからない。
鏡で見ると、そこがまるで口みたいにパクパクとせわしなく開いたり閉じたりしていた。

僕は呆然とそれを見つめ、やがて意を決して収縮を繰り返す隙間に人差し指を入れた。

704:女体化玲夜6
07/10/21 17:22:23 TSqaTrXw
「っ!」
今の僕はまぬけ以外の何者でもないと思う。あまりの痛みに第一関節まで入っていた指を引き抜く。ジンと痺れた感覚がした。

(もうやめよう)
痛みで気持ちが萎えたというのもあるけど、そのとき僕は頭の中で姉さんになっていたから、姉さんが痛がることをこれ以上続けたくなかった。
まったく変な理屈だと僕自身思う。

僕はのろのろと制服を着る。今の行為に何の意味があったんだろう。自分に姉さんを重ねて。結局独り相撲だ。
自慰行為だからそれも仕方がないけど。

僕は急に胸が苦しくなった。この胸の痛みはたぶん姉さんを再び汚してしまったことへの罪悪感。

突然自分の心に降って湧いた疼きに適当な名前をつけて、僕はバスルームに向かう。汗をかき過ぎていた。

(さっきのことは忘れよう。もう二度としない。姉さん、ごめんね)

705:女体化玲夜7
07/10/21 17:23:43 TSqaTrXw
僕がバスルームの引き戸を開けると、姉さんが湯船につかっていた。

「う、うわっ、ごめんなさいっ!!!」

しまった!ぼーっとし過ぎていた!

僕が混乱した頭で謝る間、姉さんは不思議そうな顔で僕を見ていた。僕が慌てて出て行こうとすると、姉さんが意外なことを言った。

「玲ちゃん、一緒にお風呂に入ろうと思って待っていたのよ?」
妹ができたみたいでうれしいな……って姉さんは無邪気に笑った。

広いバスルームで、姉さんに体を洗ってもらったり、洗ってあげたりする間、僕は恥ずかしくて姉さんの顔を見ることができなかった。
そんな僕を見て、姉さんは、玲ちゃん、のぼせちゃった?なんて、その鈴が転がるような声で聞いてくる。

(もう、純粋すぎるよ……)
やっぱり僕は姉さんを傷つけたくない。でも。僕はさっきしたばかりの決意がグラグラと揺れるのを感じた。

僕は今夜もしてしまうかもしれない。


706:あとがき
07/10/21 17:33:50 TSqaTrXw
これで全部です。うっかり女体化玲夜に萌えてこのようなものを書いてしまいました。
お目&スレ汚しすみませんでした!ROMに戻ります。

707:名無しさん@ピンキー
07/10/21 18:57:21 +A1zMrln
>>701
…なんという気持ちイイことパラダイス(SexySexyにちなんで)!乙&GJ!

玲夜の心情が丁寧に書かれていて、見ているこちらまでドキドキさせて頂きました。杉音の天然ぶりもいいなぁ。
よろしければ、またお願いします。

708:名無しさん@ピンキー
07/10/21 20:51:02 oq8zWdE4
久しぶりに来たら神が連続降臨、満を持してしてる…!

709:名無しさん@ピンキー
07/10/22 00:09:13 vKuRNOvL
>>701
待ってました!
玲夜が、杉音を本当に愛しいて、それだから行為を続けられたなかったというのに
胸がキュンといたしました。
素敵な作品を読ませていただきありがとうございます。

本当、神がいっぱいだわー

710:名無しさん@ピンキー
07/10/22 19:25:24 3ybeiL0y


711:名無しさん@ピンキー
07/10/23 21:04:27 4aLnYUzS
ネ申だ…ネ申が立て続けに降臨なさっておった…!!
イヌイチも大木姉弟も大好きすぎるから嬉しい!

712:名無しさん@ピンキー
07/10/27 14:01:54 tGOF/jH1
投下します。
カップリングは宏海×矢射子で、「イヌイチ」の裏的話になっております。(一応、単品でも読めるかと思いますが)
苦手な方はNGワード「モモテウラ」でお願いします。

713:モモテウラ・1
07/10/27 14:02:58 tGOF/jH1
******
 晴れ時々曇り、所により一時雨―今日の天気予報だ。
 ふざけた内容だと思う。立ち食いソバ屋でいきなり『トッピング全部のせ』が出されるようなもんだ。冗談じゃない。下手な鉄砲の例
えでも狙ったつもりか。
 しかもこっちはソバじゃない。人の運命さえ左右させかねない、天候という重要な問題なんだよ。
 その辺分かってんのかそこの太眉ちり毛。
 何テンパってんだって?そりゃテンパりもするだろうよ。
 オレは今、その全部のせな天気予報のおかげで人生の岐路ってヤツに立たされてるんだからよ。

 濡れた髪が頬に、水滴とも脂汗ともつかない雫を滴らせ続けている。
 けれどオレはそれを拭う事すら出来ず、ただ馬鹿でかいベッドの片隅で、誰に言うでもない状況説明を始めていた。
 説明といってもオレはテリーマンやらヤムチャやら、ましてや虎丸のような解説役ではない。れっきとした当事者だ。
 あと例えが古い言うな。

 ―本当、何言ってるんだろな。奥のシャワールームから響く水音をBGMに、オレ、阿久津宏海は、自分のやっている事の間抜けさに、
大きく溜息を吐いた。

714:モモテウラ・2
07/10/27 14:03:56 tGOF/jH1
*
 身にふりかかる火の粉を払うように、喧嘩に明け暮れる日々―いや、ここ数年は災難に振り回される日々の方が多かったが―の中、
オレに彼女と呼べる存在が出来たのは、つい数ヶ月前のことだった。
 とは言えオレは自慢じゃないが、POPEYEやらメンズノンノやら、ましてやデートぴあなど無縁の…この言い回しはさっきも使ったな…
平たく言えば、女との付き合い方など全然まったくわからないまま、5度目のデートへとおもむいたのだった。
「悪い、待ったか?」
「ううん、今来たトコ」
 …には見えねえよなあ…。オレは駅の柱の陰に不自然な感じで倒れ込んでいる数人の男の姿を、チラリと横目で見た。
 これは、付き合いだしてから知った事だったが、コイツ―百手矢射子、オレの彼女だ―は、街を歩けはそれなりに、男から気安く
声を掛けられるらしい。
 ついでにその度に一刀両断にしてきたらしいが。
 ―…別にオレだって、そういう目で矢射子を見た事が無い訳じゃない。
 今だって、隣を歩く矢射子のさらりとなびくポニーテールの髪や、後れ毛が色気をかもす白いうなじ、ぱっちりしたタレ目をふちどる
意外と長いまつげ、薄いカーディガンの下で存在を主張しているボリュームのある胸に、ガラにもなく胸を高鳴らせているのは事実だ。
 …だがなあ。
「ど、どうしたの宏海?」
「え?」
「さっきから髪見てるから…あっ、ひょっとして行きがけに太臓を武装セイバーでぶっ飛ばして来た時、近くの鳩を身につけてたから…
ヤダッ!!あたし、何かヘンな落し物されてる!?」
「―…いや、されてねえよ…」
 朝から武装セイバーって。しかもデートの日に。キャストオフ時に盛大に鳩を飛ばす矢射子の姿を想像し、オレは軽い眩暈を覚えた。
「あ、太臓ならとりあえず持ってたポップコーンと一緒に鳩のエサにしといたから!」
「鳩無残!!」

 最初のデートは花見だった。次は動物園。その後ボウリングやら水族館やら行き、今日のデートは映画。
 『鼻をなくしたゾウさん』とかいう、どこかで聞いたことがあるタイトルの映画の前売券は、公開一ヶ月前に矢射子から手渡されたも
のである。
 ずいぶん楽しみにしてたんだな。…しかしコイツ予備校とか大丈夫なんだろうか?
 映像に集中する矢射子を、オレはそっと盗み見る。青白い光に照らされた、横顔。強い意志の光が宿る瞳。
 ―どきん。
 いつも妙な行動や発言をやらかす印象が強いだけに、黙っていると強烈なギャップを感じてしまう。
 ―ずきん。
 そして同時に、オレの胸は小さなトゲが刺さるような痛みを感じるのだ。

「よ、良かったねあの映画」
「ん…ああ」
 正直オレは内容を覚えていない。矢射子を見ていたのも理由の一つだが、それより矢射子の向こう隣の座席から、妙な気配を感じたか
らだった。その席には誰も居ないようだったのだが…。
 …やめとこう。下手にツッコむと、口に靴を突っ込まれかねない。
 ―気配といえば。オレはもう一つ感じたものに関して、矢射子に尋ねてみる。
「なあ、矢射子お前…映画見てる時、何か頭の辺りチリチリしなかったか?」
「?」
 オレの問いに矢射子は首を傾げた。…気のせいか。
「や、オレの気のせいだ。多分」
「そう…」
 小さな、沈黙。オレたちのデートには時折こういった気まずい空気が流れる。それは、5度目ともなった今回も変わらなかった。
 オレも矢射子も、沈黙を壊そうとそれなりに考えてはいるのだが、上手く言葉が続かない。
 …オレはともかく、矢射子はいいんだろうか。疑問に思う。
 ―ぽつん、大粒の水滴がアスファルトを叩き、沈黙を破ったのは、そんな時だった。

715:モモテウラ・3
07/10/27 14:05:08 tGOF/jH1
*
「これ被っとけ。少しはマシだろ」
「で、でも宏海…」
「いいから!!」
 喋る間にも雨粒は、オレたちの頭やら体やらを容赦なく水びたしにしていく。オレは矢射子の手を引き、雨宿りできる場所を探した。
「くそっ、確かこの辺にゲーセンがあった筈なんだが…」
 うろ覚えを頼りに、オレたちはどしゃ降りの雨の中を走った。
 ああもう、どうしてこういう時に限って、目的の場所ってのは見つかんねえんだろう。
「…っ、こっちか?」
 雨でにじむ視界の中、オレは矢射子を連れたまま小道に入り込む…が。
 ―しまった!!
 入り込んだ後で気が付いてももう遅い。あちこちに見える『ご休憩****円・ご宿泊****円』の文字。
 どう見てもラブホ街じゃねえか。
「や、矢射子…その…」
 引き返せ。頭の中で警鐘が鳴り響く。今ならまだ間に合う。『これなんてエロゲ』を地で行くなんてシャレにならない。
 いや、全然したくねえって訳じゃないんだけどな。
「戻―」
 ぐっ。オレの言葉を遮ったのは、繋いだ手を強く握る、細い指だった。
 どくん。どくん。どくん。―…これは、まさか。
「宏海」
 振り返るな。振り返ったら、戻れない。
 ああ、それなのに。
「…行くわよ」
 オレは、振り返ってしまった。コイツの、力強い瞳を見てしまった。

 だから、もう戻れない。

 ―ぽたん。顎を伝う雫が太ももに落ち、そして時間は動き出す。
「…って、何ワールドだよ」
 くしゃりと髪を掻き、オレは再び溜息を吐いた。
 嫌なのか?―嫌じゃない。
 望んでないのか?―いや、いつかはあると思っていた。
 だが、こんな形は。
 ―じゃあ、どんな形を望んでたんだよ。
「…知るかよ。くそっ」
 …ひでぇ結論だ。自分でもそう思う。苛立ち紛れにベッドのマットレスに拳を打ちつけても、空しいだけだった。
 ざあああああっ。
 さあああああっ…。
 部屋―ホテル『アクエリオン』、『八千年を超えたころから以下略』号室(ふざけた名前だ。名付け親の顔が見てみたい)―には、
二つの水音が響き渡っている。
 一つは、さっきよりも激しさを増した雨が、窓ガラスを叩く音。
 そしてもう一つは、シャワールームから響く、矢射子が浴びるシャワーの音。

 どちらも、確実に自分を追い詰める音だった。


716:モモテウラ・4
07/10/27 14:07:10 tGOF/jH1
*
 まずは―今の自分に出来ることをしよう。オレは止まらぬ思考にピリオドを打つため、ようやく重い腰を上げた。ベッドの腰掛けて
いた部分が、じっとりと濡れている。
「…服、干すか」
 呟き、Tシャツとカーゴパンツを脱ぐ。トランクスまで雨で濡れていたのだが、さすがに良心というヤツが咎めた。
 靴下も脱いだ足の裏でやたらとゴワゴワする絨毯の質を感じつつ、オレはクロゼットの前に立った。
「ハンガーの2、3本はあるかな」
 あえて口に出し、観音開きなクロゼットの右側の扉を開ける。と、そこにはおそらくオプションであろう黒革のボンテージスーツと、
数種類のムチがあった。
「どこのSMコースだよ…」
 脱力気味に呟きつつ、ついオレは想像してしまった。

 黒革に拘束された、矢射子の白い肌。しかしボンテージと呼ばれる服は決して彼女の魅力を損なうものではない。
 むしろ、彼女のともすれば爆発しそうな魅力をギリギリの一線で拘束し抑圧する、綱渡りのような危ういエロティズムを表すに欠かせ
ない衣装だ。
 足元を見下ろすその表情には、慈愛に満ちた母の顔と威厳のある父の顔が、絶妙に混ざり合っている。
 手には、使い込まれたであろう、良くしなる漆黒の一本鞭。ぱぁんっ、と空気を裂く音と共に、彼女はこう叫ぶのだ。
『―さあ、ドッグ・ショウの始まりよ!乾!!』

「―って違う!」
 何で乾の野郎が出てくるんだ。いや、多分イメージの問題だな。アイツなら喜んで尻尾まで着けそうだし。
 オレは虚空に手を払う仕草で、恍惚の乾を頭の中から追い出した。
 そして、ボンテージスーツを掛けていたハンガーを引き抜いて、ベッドに放り投げた。
「もう一つの方は…」
 イヤな予感はしたが、ハンガーは一つじゃ足りないので左側の扉を開ける。
「…予感的中かよコンチクショウ」
 セーラー襟の制服。色はセピア。プリーツスカートはマニアのツボを抑えた膝下丈。お約束のようにロザリオまであるという凝り様だ。
「つか、何すんだよこの格好で…」
 といいつつ以下同文。

 甘い甘い匂い。薔薇の花の数だけ、乙女の祈りで満たされた、純粋培養のChamps de fleurs(花園)―純潔の証たるマリア像の前
で、矢射子は己が身に着けていたロザリオをゆっくり外し、そっと輪を作る。
 その輪を小さな頭がくぐり、しめやかにSoeur(姉妹)の契りが交わされていく。
『―薔薇のつぼみの名に恥じぬよう、精一杯尽くします。お姉さま』
『夕利…』

 

717:モモテウラ・5
07/10/27 14:07:59 tGOF/jH1
だん。
 もはや言葉でツッコむのも疲れる。オレはクロゼットの扉を拳で叩くと、無言でハンガーを引き抜き、乱暴に扉を閉めた。
 そして、シャワールームに足を向ける。ガラス戸に背を向け、オレは小さく咳払いをした。
「矢射子」
 しばらくして、ななな何!?と物凄く動揺した声が返ってきた。
「服、乾かすから持ってくぞ」
「ふっ、服!?服ってふくって…」
「…やっぱ自分で干した方がいいか?」
 曲がりなりにも女子だ。男に勝手に服を弄くられて喜びはしないだろう。
 …返事が来ない。
「…矢射子?」
「…いい、けど…下着はダメだからね?」
 ようやくの返事に、オレは少しホッとした。
「わかった。じゃ、干しとくぞ」
 極力下着を見ないよう、目を逸らしつつオレは、脱衣所から矢射子の服を手にした。
 雨でじっとりと重くなった、カーディガンとワンピース。
 …オレだって別に、木の股から生まれたわけじゃない。ほのかに香る甘い匂いを鼻腔の奥で感じつつ、同時に、ドス黒いマグマのよう
な情欲が腹の底で沸き立とうとしているのを、オレは理性をすり減らしつつどうにか押さえ込もうとしていた。

 ―…でも、カノジョの服、なんだよな。しかも、さっきまで着ていた。

 どくん。頭の中で響いた悪魔の囁きに、オレの心臓が音を立てる。
 途端に、手の中の服に対し、情欲を持って当然のような気持ちになってしまった。…理性弱っ!
 どうする?撫でるか?嗅ぐか?いやそれ以上―。
 どくん。どくん。どくん。
 オレの手が震えつつ、矢射子のワンピースの胸の辺りを触ろうとしたその時。
 …たん。「!!!!」
 ―物音?
 跳ねる心臓を押さえつつ、オレは慌てて周囲を見回した。が、周りには誰も居ない。
 音の正体が隣の部屋のドアの音だと気付いたのは、たっぷり1分経った後で、オレはその場にへたり込みつつ、酷い罪悪感に苛まれた。

 悪い。本当悪かった、矢射子。

718:モモテウラ・6
07/10/27 14:09:14 tGOF/jH1
*
「―これでいいか」
 窓のカーテンレールにハンガーを掛け、服を吊るす。被害が一番ひどかったオレのジャケットは、まだ水滴をしたたらせていたが、帰
るころには何とかなるだろう。
 …まあ、問題はその『帰るまでの間』なんだが。
 雨は、まだ止まない。それどころか更に激しさを増している。心なしか突風まで吹き出したような気もする。
「…」
 時々、考える。―矢射子はオレのどこを好きになったんだろう。
 文武両道には程遠い。正義感に溢れている訳でもない。顔やスタイルだって、いかついだの怖いだの言われるのは日常だが、好感を持
たれた記憶はない。
 そして何より―オレは、アイツみたいに強くない。
 あんなに強い意志の光を放つ眼を持って、行動できない。
 ―ずきん。
 ああ、まただ。
 再び感じた胸を刺す痛み。吐き出すように大きく息を吐いても、窓ガラスに映る自分が曇るばかりで、ちっともスッキリしない。

 なあ矢射子、なんでオレの事好きになったんだ?

 キィ…バタン。
「宏海」
 呼ぶ声に、オレの思考が止まる。いつの間にシャワーを終わらせたのか、ガラス戸の前には薄紅色の肌をした矢射子が、バスタオル一
枚(実際はブラジャーの肩紐も見えたので、バスタオルの下にも着ているのだが)で立っていた。
「おう、体あったまったか。こっちも服干しといたか…ぶえっくしゅんっ!!」
 うわ。そういやオレ雨に濡れたのにずっとパンツ一丁だったんだよな。途端に背筋にぞくぞくと寒気が走る。
「あ…ご、ごめんっ、宏海の方が体冷えてたのに」
「構わねえよ。風邪引きゃテキトーにサボれる口実が出来るからな。アイツらのお守りより、そっちの方が楽だ」
 ベッドボードのティッシュを手に取り、鼻をかむ。脳裏に、思い出すだけで腹立たしい二人組の姿が浮かび、つい眉間に皺が寄ってし
まう。
「それより、服乾くまでシーツ被っててくんねえか?―その、目のやり場に困る」
「えっ…っ!!」
 言葉に矢射子は自分の姿を見、ぼんっ、と音立てて顔を赤くさせた。
 丈が少し足りなさそうなバスタオルに身を包んだはちきれんばかりの肢体なんて、悩殺なんてレベルじゃねーだろ。
 パンツ一丁でそんなのまじまじと見られるほど、オレは枯れてはいないのだ。
 矢射子が赤い顔のままベッドに上がり、ごそごそとシーツを身に纏い始めたのを確認し、オレはシャワーを浴びる為、ようやく窓辺を
離れようとしたその時…雨音に混じって、小さな声が聞こえた。
「ごめんね、宏海…迷惑だったでしょ?」
「あ?」
 よく聞こえなかったので、オレはティッシュの箱をベッドボードに置いて、シーツを纏うというよりは、シーツに潜り込んでしまった
矢射子の前に立つ。
「雨だからって、急にこんなところ連れ込んで…軽蔑したよね。女の子なのに」
「…また反省してたのか。やけにシャワー長いと思ってたが」
 シーツの山が微かに震えている。…オレはそっと、顔すらも隠しているシーツを捲った。
 熟れたトマトよりも赤い、矢射子の顔。その目には、大粒の涙。
「だって…」
 オレが、泣かしちまってんだよな。こんなにいい女なのに、困らせたり、恥かかせたり、泣かせたりばかりして―まるで鼻タレ小僧
じゃねえか。
 オレはベッドの端に手を掛け中腰になると、うつむいたままの矢射子の顎を片手で包んだ。
 そして、涙に濡れた顔を上げさせると―そのまま、ゆっくりと唇を重ねた。

 矢射子の唇は、柔らかくて、熱くて、涙の味がした。


719:モモテウラ・7
07/10/27 14:10:59 tGOF/jH1
*
 外の雨は未だ降り止まず、相変わらず窓ガラスに雨粒が打ち付けられる音が部屋に響いている。
 だが、信じてくれなくてもいいが、オレはその時、確かにまばたきの音を聞いたのだ。
 ぱち、ぱちとまるで炭酸飲料の気泡がはじけるような小さな音。
 重ね始めた時と同じようにゆっくり唇を離すと、矢射子は大きな目を何度も何度もまばたきさせていた。
「…!!」
 信じられない、と言わんばかりの表情。だが、ふるふると唇が開いても、言葉が出ないようだった。
「泣き止んだか」
 中腰だった姿勢を止め、オレは絨毯に腰を下ろすと、絶句したままの矢射子に尋ねてみる。
「こ、ここ宏海、今のって…」
「…好きな女にじゃなきゃ、しねえよ」
 ―…っく、何つー恥ずかしいセリフだ。あまりの恥ずかしさに、マトモに矢射子の顔も見られねえ。
 照れ隠しにがりがりと頭を掻きつつ、オレは次の言葉の為に大きく息を吸った。
「こっちこそ、ごめんな。アンタには告白の時からリード取られっぱなしでさ。そういうの気にする方だってのも知ってるのに…本当、
情けねえ」
 ―ずきん。
 胸が、また痛んだ。そういやこの痛みは、オレと矢射子を比べてしまう時にいつも痛むのだ。―オレは今更そんな事に気付いた。

 心の奥でずっと引っかかっていた。
 オレは矢射子に見合うだけの相手なのか?
 オレは矢射子の事をどれだけ想ってるのか?
 ―オレは。

 矢射子がオレを見る時くらいの真っすぐさで、オレは矢射子を見ていられるか?

「そんなの」
 ぽつり、と矢射子が呟く。ベッドの端に手を掛け、前のめり―互いの位置的に、これで顔が向き合う体勢なのだが―になりつつ、
少しずつ、だがしっかりとした言葉を紡ぎ始めた。
「情けなくなんか、ないよ。だってあたしはそう言って人の事を思ってくれる宏海を見てたから…大事にしてくれる宏海がっ、すっすす
すす…」
 目を閉じ、力みつつ頑張ってるみたいだが…それはどもり過ぎだ。
「すっ「―危ねえっ!!」
 ぐらり。バランスを崩したか、矢射子の体が大きく揺れる。ベッドから落ち、体を床に打ち付けそうになるのを、オレはすんでの所で
抱きかかえた。
「…大丈夫か」
「―…手」
 て?真っ赤な矢射子の言葉に、オレは自分の手を見る。―と、そこには、どこぞのエロコメ主人公の如く、矢射子の胸を鷲掴みにし
ているオレの手があったのだった。

720:モモテウラ・8
07/10/27 14:12:01 tGOF/jH1
「っ!!ちっ違うぞこれはっ!そのっ、不可抗力っつーかだなっ…」
 言い訳までエロコメ染みているのが何ともお約束めいているが、事実だ。ああもう、さっきのセリフとは別の意味で情けねーっ!!
 矢射子は、オレの体の上にのしかかった体勢のまま、そんなヘタレた言い訳を聞いた後、くすっ、と困ったような顔で笑った。
「…宏海、体まだ冷たいね」
「あ、ああ…」
 だから早くシャワー浴びて、体あっためたいんだよコッチは。
 というか、今の状態はヤバ過ぎる。オレの腹の上に矢射子の太股が当たっ…あ…ダメだ!考えるだけで勃っちまう!
 男の子だモン!!(だモンじゃねえっ!!)
 セルフ突っ込みも空回りしたオレをそのままに、矢射子の白い手がオレの頬を撫でる。その手はやがて、首筋から肩口、そして胸板へ
と降りていった。

 ばっくん。ばっくん。ばっくん。

 心臓が、これ以上無理っつー位跳ね上がってる。これはもう、覚悟を決めるべきか!?
 オレは、床に着けたままだった自分の手を、そろそろと矢射子の柔らかそうな体へと近付けようとしていた―その時。

 ドゴンッ!「「!!」」

 壁に何かぶつかるような音で、二人の体がびくっと止まった。
「な、何だ!?」
「え、あ…隣の部屋…みたい」
 ベッドの向こうの壁を見つつ、矢射子がオレの疑問に答える。
 そういやさっき誰か入って来たみたいだったが…何もこんなところでケンカなどしなくて良いと思う。
 ―まあ、おかげでオレは少し落ち着けたのだが。

「えーと…シャワー浴びてくるわ」
「へ?あ、あ…うん。わかった」
 オレの言葉に矢射子はそそくさとベッドに上がった。さっきの余裕の笑みはどこへやら、またも顔を赤くさせつつ、縮こまっている。
 …そりゃオレだって恥ずかしいんだが。テントを張ってしまったトランクスを、出来るだけ見せないよう前屈みになりつつも、オレは
そっと矢射子の耳に唇を寄せ、
「―戻ったら、続きな」
 と囁いた。

721:モモテウラ・9
07/10/27 14:13:48 tGOF/jH1
*
 シャワーを浴び(野郎のシャワーシーンなど需要がないだろうから省略する)、オレは大きく深呼吸すると、シャワールームの扉を開
けた。
 ―戻ったら、続きな。
 あんなことを言ってしまったら、後戻りは絶対きかないだろう。
 けれど、オレは後悔していない―いや、正しく言えば後悔したくなかった。
 これ以上、ケツの青いガキみたいに、好きな女を泣かせたくなかった。
「…風呂、上がった」 
「…うん」
 ベッドの前に立ち、報告のように呟くオレの言葉に、矢射子は耳まで赤くさせながら、小さくうなずいた。
「…そっち、行っていいか?」
「…うん」
 許可を得、オレはベッドに上がる。ぴくんっ、と微かにこわばる矢射子の姿を視界に留めた時、またオレの胸がずきん、と痛んだ。
「…緊張してる、か?」
 嫌か?とはあえて聞かなかった。コイツはすぐ反発して、すぐ考えすぎて、すぐ暴走して、その分落ち込むから、ストレートな言い方
は傷つけかねない。そう判断したのだ。
 矢射子は三角座りの膝に顔をうずめると、少し…だけ、と答えた。
「…そうか」
「で、でもっ!」
 がばっと顔を上げ、矢射子がオレを見る。意志の強い、真っすぐな瞳。
「あたし、宏海と一つになりたい!すっ、好きな人にだったら、あたしっ、あ―」
 矢射子の言葉は、全部声にならなかった。理由は単純、オレが唇を塞いだからだ。
「…男のセリフ、全部取る気か。オレだって、オマエと一つになりてえよ」
 囁いて、再び唇を唇で塞ぐ。矢射子の口が半開きだったのをいいことに、オレはそっと自分の舌を矢射子の口中へと滑り込ませた。
「んっ…―っ、ふ」
 ぬるんっ。矢射子の舌がオレの舌にぶつかる。最初おっかなびっくりだった矢射子の舌は徐々にオレを受け入れ、くすぐるように、あ
やすように、オレの舌に絡みついてきた。
 …うわっ、やべえ。シャワーの時に落ち着かせたはずだった下半身に熱がこもっていくのを感じ、オレは慌てて口を離した。
 ―キスだけで勃つなんて、予想外だ。

722:モモテウラ・10
07/10/27 14:14:57 tGOF/jH1
「宏海…」
 頬を紅く染め、とろんとした表情で、矢射子がオレの名を呼ぶ。これで我慢できる男がいるだろうか。いや、いまい。(反語)
 オレは矢射子の背に手を回すと、そっと体をベッドに横たえさせた。
「…止めねえぞ」
 返事を待たず、頬にキスをする。そのまま首筋に、鎖骨にとオレは軽い口付けを落としていった。
 ―次は、胸、か。そう思った矢先、オレは思わぬハードルに気付かされた。
「…ブラ、外そうか?」
 オレの戸惑いに気付いたか、矢射子は軽く身を起こし、ブラジャーのホックを外した。…うっわー情けねー。いたたまれ無さに首まで
熱くなる。せめて寝かせる前に気付けよオレ。
「悪い、言ったそばから」
 矢射子は、熱っぽい目に小さく笑みを作りつつ、いいよと答えた。
 肩ヒモをずらし、あとは引き抜くだけの状態にしたブラジャーを片手で軽く抑えながら、矢射子は再びベッドに身を沈めた。
「もう、止めないで」
 ―言われなくとも。オレは矢射子の言葉に目で返すと、静かにブラジャーを引き抜いた。白く、柔らかそうな双丘は、呼吸と心音に
よってふるふると揺れていた。
 そっと、手で包む。矢射子の胸は簡単に指がめり込むほど柔らかいのに、手を離せばすぐ戻る弾力も持ち合わせていた。
「…んっ」
 すげえ、すべすべして、もちもちして、気持ちいい。片方の乳房を手で、もう片方を舌で愛撫しつつ、オレは未知の感触にバカの一つ
覚えのように夢中になった。
「ふぁっ…っ、んん」
 舌や指先がかすめると共に上がる甘い声に、オレの関心が芯を帯び始めた胸の先端へと向く。
 …こうか?赤ん坊がするように、オレは矢射子の乳首をくわえ、舌と前歯の裏で軽く押し潰してみた。
「―!!」びくんっ!
 刹那、大きく跳ねた脚にオレは驚いたが、すぐに二度、三度と同じ事をしてみた。唇や歯で噛んだり、指で強くつまんでみたり、口と
手の位置を変えてみたり―その度に脚はびくびくと跳ね、肌にじっとりと汗がにじんだ。
「っ、はっ、はあっ、あっ…やはぁっ!!」
 ぞくぞくっ。―この声は反則だろう。鼻にかかった、吐息混じりの声。無意識に出してるなら尚更やらしずぎる。
 オレは顔を上げ、矢射子の顔を見た。けれど矢射子の顔は、自身の片手に隠されて、表情がよく見えなかった。
 見えたのは、紅く染まった頬、耳、そして荒く呼吸し続ける唇だけだったが、それらを飾る大粒の汗が、艶かしさを強調していた。

 …はぁっ、はーっ、はーっ…。

 少しずつ波が引いてきたか、矢射子の呼吸が落ち着きを取り戻していく。
 オレはそっと胸から離れ、更に下―腰へと手を伸ばした。

723:モモテウラ・11
07/10/27 14:15:54 tGOF/jH1
*
 ―落ち着け。うろたえるな、オレ。こんな所でヘマやらかしたら全部パーだ。
 ごくり。カラカラの喉に無理やり生唾を押し込むと、オレは矢射子のショーツに手を掛けた。
 反応した矢射子が腰を上げ、レースの飾りの付いたショーツは丸まりつつ、するすると太股を、膝を、足首を通過し―オレの手元に
収まった。
「や…あんまり、見ないで…」
 見ないと出来ねえよ。いや、見るなってショーツの事か?そりゃ確かに手にしたショーツは、しっとりと濡れていたが…濡れ?
「…」
 想像して背中に汗をかいた。…危うくこっちまで濡らしちまうところだったじゃねえか。いや、先走りなら出てるけど。
「…そういや、オレもまだ脱いでなかったな」
 少しでも気を紛らわせようと(あと矢射子ばかり脱がせてるのもなんだし)、あえて声に出す。
 トランクスの中身は、とっくに臨戦態勢のオールグリーンだ。オレはトランクスのゴムに手を掛け、一気に脱いだ。
「えっ…!?」
 へ?オレは声の主の顔を見る。主―矢射子は、顔を隠していた手の指の間から覗きつつ、素っ頓狂な声を上げたのだ。
「こ、宏海のって…そんなだったっけ?」
 このセリフは、流石オレの全裸を数度目撃(うち1回は告白時)した矢射子ならではだ。
 全然自慢じゃねえけど。むしろその辺の記憶はボカシ入れてほしいけど。
「勃ってねえ時と比べられると困るんだが…怖くなったか?」
 ぎしり、トランクスを放り投げ、オレは矢射子に近付く。
「こ、ここ怖くなんかないっ、わよ!ただちょっと驚いただけじゃない!」
 言いながら膝曲げて、引け腰になってんだけどな。アンタ。
「へっ、平気よ!伊達にアソコは見てないんだからっ!!」
「…」悪い。そのセリフちょっと萎えた。
 オレは霊界探偵ならぬ、目をぎゅっと閉じた矢射子の横をすり抜け、ベッドボードの引き出しを開けた。
「…どうしたの?」
「探し物。備え付けがヤバいって話は聞くけど、無いよりはマシだろ」
 そう答えて、オレは見つけた品を矢射子に見せた。
「あ…」
 オレの手の中の小さなゴム製品を見て、矢射子は納得したように吐息をこぼした。
「あ、ありがと」
「礼ならいらねえぞ。これからオレ、アンタ泣かしちまうんだから」
 ゴム製品の封を切り(幸い、分かる限りでは針穴などは見つからなかった)、背中を向けちまちまと装着しながらオレは矢射子の言葉
を返す。
 …しかしこれかなり間抜けな図だな。女にはあまり見せたくねえ。
「―…いいよ」
 ぴたり、思わず手が止まる。振り返ると、矢射子は―これから傷付けられると分かっているハズなのに―幸せそうに微笑みながら、
オレがしばらく無言にならざるを得ないようなセリフを言った。

「今の宏海になら、あたし…泣かされてもいい」

 あーあ。女ってズルいよな。
 何でそんなにこっぱずかしくて、やらしいセリフをさらりと言えるんだろう。


724:モモテウラ・12
07/10/27 14:17:18 tGOF/jH1
*
「足、開くぞ」
「う、うん」
 膝頭を持ち、オレはゆっくり矢射子の股を開いた。
 ボカシやモザイクの無い女のアソコは、18年の人生の中で初めて目にするのだが―傷口みたいだ、と思った。
 オレはそっと自分のペニスを持ち、矢射子の傷口にあてがう。
 ちょん、と先端が触れると、ぬるぬるになっていた傷口がひくり、と蠢いた。
「んっ…」
 ぬる。ぬるり。ゴムを着けて濡れようの無いペニスに矢射子の蜜を絡める度、矢射子の口から甘い吐息が漏れた。
「―…いくぞ」
 オレもまた吐息混じりの声を掛け、狙いを定めて矢射子の中へと入り込んだ。
「あっ…!!くっ!」
 傷口に更に傷を穿つ―正にそんな感じだった。みしみしと、肉を裂く音さえ聞こえてきそうだった。
「やっ、いこ、力抜けっ」
「むっ、無理!!」
 即答かよ。ぎちぎちと押さえつける矢射子の力によって、オレのペニスは3分の1も入りきっていなかった。
「力抜かねえとっ、痛いんだって!」
「分かんないっ、分かんないよっ!!勝手に力入っちゃって…あたっ、あたしだって…受け入れっ、たい、のにっ!!」
 ボロボロと涙をこぼし、矢射子がオレを見る。
 ―ずきん。ずきん。ずきん。
 くそっ、何でこんな時に胸が痛みやがるんだ。オレは歯を食いしばりながらも更に腰を突き出し、少しでも中に入ろうともがいた。
「~~~~~~っっ!!!!」
 矢射子の声が声になってない。痛いんだろうな。いや、痛いに決まっている。
 オレの胸の痛みなんか比べようの無い痛みと、矢射子は今、一人で戦ってんだ。

 …一人?

 自分の考えに、オレは疑問符を投げかけた。…馬鹿じゃねえかオレ。
 いや、比類なき大馬鹿野郎だ。
「…矢射子」
 腰の動きを止めオレは、痛みを堪えるため目を閉じていた矢射子の名を呼ぶ。
「矢射子」
「…こう、み?」
 息も絶え絶えな矢射子の返事に、オレは大きくうなずく。そして、ベッドシーツを握っていた矢射子の手をそっとほどくと、ゆっくり
指を絡め、そして、強く握った。
 ああ、ただのエロ漫画の演出と思って悪かったよ。
 こんなささいな事でも、凄く、嬉しくなるんだな。
「宏海の手、熱い…」
 泣き笑いの表情で、矢射子が囁く。互いの両手が塞がった分、オレの体が矢射子の上にぴったり重なり合い、肌の熱が伝わりあう。
「オマエの手だって」
 言い返すと、矢射子はくすぐったそうに笑った。つられるようにオレも少し笑った。
 押さえつける力がゆっくりと弱まり―オレたちは、ようやく一つになった。

 矢射子の中は、矢射子の体のどこよりも熱かった。


725:モモテウラ・13
07/10/27 14:18:37 tGOF/jH1
*
 ぴちょん。
 窓の外から微かに聞こえる水音で、オレはまどろみから目を覚ました。
「…雨、止んだのか」
 カーテンの隙間から漏れる光は、紛う事なき夕陽だ。オレは片手で目を擦りながら、天井の鏡に映る姿をぼんやり見た。
 大きなベッドに横たわる二人。一人は勿論オレ。
 そしてもう一人は、オレの肩口を枕に寝息を立てる矢射子だ。
 一定のリズムを刻みながら体を上下させて眠る矢射子のまぶたはまだ赤く、先ほどの行為の辛さを物語っているようだった。
「…最初から上手くいくなんて思ってないけどな」
 思うが、それでも自分一人しか絶頂に達せなかったというのは、なんだか寂しくも申し訳ない気分だった。オレはそっと自由な方の手
を矢射子の頬に寄せ、乱れた髪を直そうとした―その時。
 ぱちり。矢射子の目が大きく開いた。
「「!!」」
 再び、二人そろって固まってしまった。…頼むから矢射子、もう少しゆっくり目を開けてくんねえかな。心臓に悪い。
「あ、こ、宏海…」
「…はよっス」
 しょうがなく、オレは行き場を無くした手で自分の頭を掻いた。
「…おはよ」
 朝でもないのに、なんだこのアイサツ。向こうも思ったか少しの沈黙のあと、変なの、と小さく呟く声が胸の辺りから聞こえた。
「どの位、寝てた?」
「え?―なんだ、20分そこそこしか経ってねえじゃねえか。もっと寝てたように思ったけど」
 矢射子の言葉にオレは首をひねり、ベッドボードの置き時計に目をやった。休憩時間の終わりには、まだ少しばかり早かったみたいだ。
「…もう少し寝とくか?オレは別に構わねえけど」
 肩枕側の腕を少し曲げ、オレは矢射子の背中をそっと撫でた。―ん?

726:モモテウラ・ラスト
07/10/27 14:19:24 tGOF/jH1
「―…」
 みるみるうちに肩に熱が…というか矢射子、オマエ今まで見た事の無い顔色してるぞ?
「―…っ、あ、あたしっ、肩っ、かたたっ」
「腕枕の方が良かったか?確かに良く聞くのはそっちだが」
 ぶぱっっ!「わああーーーーーっ!!何だっ!?」
 二人きりのまどろみは、矢射子の鼻血によって突然血みどろの終焉を迎える事となった。全くもってムードもへったくれも無い話だ。
「や、やだ、宏海血が…」
「人の事より自分の鼻心配しろよ!!ほ、ほらティッシュ…」
 胸に付いた血を拭うのも忘れ、オレは鼻血が止まらない矢射子に箱ごとティッシュを渡した。

 ―本当、マトモな恋人同士の甘ったるさが似合わないよなあ。
 迷って、惑って、流されるオレと、突き進んで、突っ走って、引っ張ってくオマエと。
 二人の歩幅もペースもまるでちぐはぐで、ともすれば二人揃ってつまづきそうになるけれど、そして、劣等感は未だ小さなトゲになっ
て、時にオレの胸を痛ませるけれど。
 けれど、それすら嫌にならない―むしろ、楽しんでしまうオレだってここにいるのだ。

「なあ、矢射子。…ずっと先延ばしにしてたけど、今度ウチ来るか?」
「え?」
 やっと収まったか、血まみれのティッシュを顔から離し、矢射子がオレの言葉を尋ね返す。
「あー…つまりだな、ウチの親父に会ってくれと、そういう事だよ」
 うーん…やっぱり改めて言うと照れ臭いな。オレは自分のセリフの恥ずかしさについ眉間に皺を寄せ、しかめっ面を作ってしまう。
「…返事は?」
 わかっているくせに聞くのは照れ隠しだ。気付いてくれるだろうか。
「…うん」

 雨上がりのホテルの一室。オレンジ色の光が満ちる中、オレの恋人は涙ににじんだ目を細めて返事した。

 ―つうっ。
 ついでに鼻から一筋、血を滴らせて。

「って矢射子!鼻血止まってねえぞ!!―…チクショウ何だよこれがオチかーーーーーっ!!!!」

727:モモテウラの人
07/10/27 14:25:05 tGOF/jH1
以上です。微妙にヘタレたエロ長文失礼しました。
以前リクエスト下さった方、ありがとうございました。
リクエストによって新たなカップリング妄想ができるって、ばあちゃんが言って(略)
またROMに戻ります。
では。


728:名無しさん@ピンキー
07/10/27 14:40:15 xctIE9wd
>>730
GJです!!
イヌイチ読んだおかげで乾×一口に目覚めまして、
ぜひそっちの続きも読みたいと思ってたんですが、
やっぱり宏海×矢射子もいいですね~!
宏海の妄想に乾が出てきたのが笑えるw
宏海と矢射子らしい終わり方もいい!
乙でした!

729:モモテウラの人
07/10/27 14:53:15 tGOF/jH1
えー、ラスト訂正。
誤「やっと収まったか」→正「やっと治まったか」
 「涙ににじんだ」  → 「涙でうるんだ」

脳内変換お願いしますすみません。失礼しました。
では。

730:名無しさん@ピンキー
07/10/27 17:19:56 Q7G1QM6J
なんというGJ…!
ホテルアクエリオン吹いたwww部屋の名前あえてそっちかw

731:名無しさん@ピンキー
07/10/27 21:10:09 Cqz1v4Is
あなたが神か…!
心の底からGJ!一万年と二千年前から愛してる!!

732:名無しさん@ピンキー
07/10/27 22:03:11 zalaypBb
久しぶりにきたらいっぱい投下されてる!!
職人さんGJ!!

733:名無しさん@ピンキー
07/10/28 12:00:38 F4BjD3Xj
GJGJGJGJGJGJGJ!!!素晴らし過ぎますよ!!!
宏海矢射子可愛いよ宏海矢射子

734:イヌイチの人だったりモモテウラの人だったり(携帯版)
07/10/29 03:36:15 SyvGpfWk
皆様御感想、ありがとうございます。
楽しんで頂ければ、書き手冥利に尽きることをこのスレで教えて戴いた気がします。

さて、(場所的に)無粋ながら伺いたいのですが、皆様キャラクターの進路って考えたことありますか?
実はイヌイチの続きを考えてはいるのですが、作品中時系列が連載終了後なので、進学するのか、したとしてもどう受験するのか(特に乾はあの頭で大学行けるのか)、ネタにも絡みそうな話なので、…。
もし宜しければエラくてエロい方のお知恵を拝借したいと思うのです。

やっぱり一芸入試なのか…。うーん。

735:名無しさん@ピンキー
07/10/30 23:54:48 FrYYt19S
玲夜がドキ大というなんでもありの大学をだな…

736:名無しさん@ピンキー
07/11/01 21:06:31 oz0IhvbV
もし萌が早生まれ(遅生まれ?)だったなら…。
クリスマスネタで、15歳だからプレゼント貰えるんじゃないか(エロパロ板的な意味で)?という毒電波を受信しましたが、オラには筆力が足りませんorz
以上、イバラ道スキーのつぶやき。
もえるん可愛いよもえるん。

737:名無しさん@ピンキー
07/11/03 01:54:38 24lXfIYs
マイナーだと思うがドラクロワ×もえるん投下しようと思う
やはり携帯からだと読みにくいだろうか‥?

738:名無しさん@ピンキー
07/11/03 01:58:02 24lXfIYs
上げてしまった、すまんorz

739:名無しさん@ピンキー
07/11/03 07:30:54 tudrpJQf
>>741
マイナー上等ですよ!
需要は投下された瞬間に発生するというのは、けだし名言だと思います。

気になるようでしたら、ある程度まとまってから投下、NG指定等されては如何でしょうか?

740:名無しさん@ピンキー
07/11/08 00:58:48 IND4ByT3


741:名無しさん@ピンキー
07/11/10 07:54:02 Fasnx+d2
保守がてら、投下いたします。
先日の「イヌイチ(乾×一口)」の続きになってますが、続き物・設定に捏造あり・エロほぼなしという
三重苦仕様になっております。

不快に思われましたら「続・イヌイチ」でNG登録お願いします。

742:続・イヌイチ・1
07/11/10 07:55:08 Fasnx+d2
******
 暗闇の中、ひたりと頬を撫でられる手の感触。それが自分の手で無いという事は、後ろ手に縛られた感覚から分かっていた。
 じゃあ、この手は誰のものなんだろう。頬を滑る指が半開きの口に潜り込む。

 ―くちゅ。

 ぞくっ。口の中を掻き回され響く水音に、軽く身が震えた。反射的に口をすぼめ、与えられているもどかしい快楽を逃さまいとする。
 …相手は誰なんだろう。心の底でちりっとした焦りを覚えつつ、それでもキモチ良さには逆らえないなんて。

 柔らかくて、細い指。…あなたは、誰なんですか?

 ―…い。
 ―ぬい。


743:続・イヌイチ・2
07/11/10 07:55:51 Fasnx+d2
*
「乾一!いつまで寝とるか!!」
 三年C組に野太い怒声が響き渡るのと同時に、あたしの真後ろの席から、ごっごんと机に何かがぶつかる音がディレイで聞こえた。
「…っ、はい!何でしょう!!」
「何でしょうじゃない馬鹿者!あと元気がいいのは返事だけでいい!」
「へ?…!!」
 指摘され、二重の意味で立ち上がっていた乾が慌てて席に座る。同時にクラス中に男子のげらげらという笑い声が満ちていき、恥ずか
しさにあたしまで頬が赤くなった。
 やっぱり、男子って馬鹿。特に後ろの。
 何で寝てる時にまで―…。
「ばか」
 こっそり呟いた声は、授業終了のチャイムにかき消されたのだけど。

「乾ー、三年になって余裕だねえ。大学行かないの?」
「ただでさえアンタ学年ビリじゃん。え?何就職?」
「やめときなよー。今時高卒ってロクな仕事見つかんないよ?」
 休憩時間になって早々、乾の机の周りにクラスの女の子が集まってくる。みんな乾の『気のいい女友達』という感じの人々だ。
「好き放題言うなあ…オレだってそりゃ考えてるって」
 どうだか―あたしは心で悪態を吐きつつ、黒板の前に立った。週番の仕事が、今週はあたしの番なのだ。
 ついでに言えば、週番は男女二人組の仕事であり、あたしの相手は乾だったのだけれど。
「もし良かったら、知り合いんトコの現場で働くー?初心者カンゲーだって」
「だーかーらー、オレは進学だって言ってるじゃねーか」
 女の子に囲まれて、からかわれながらも笑う乾の姿を見て、声を掛けるのをやめた。
 別に乾自体はどうでもいい。けれど、こういう時下手に声を掛けて、周りの女の子から不必要な反感を買うのだけは避けたかった。
 女子の間柄というのも、かくもややこしいものなのだ。小さく息をこぼし、あたしは黒板消しを持った。
「い、一口さん、よかったらボクも手伝おうか?」
 ふと声に振り返ると、額から汗を流しつつ自分に声を掛ける大柄な少年の姿があった。
「坂田くん。…いいの?」
「ほ、ほらボク高いところも手が届くし、あの先生みっちり書き込むから…」
 坂田くんの言葉にも一理ある。平均よりはるかに低いあたしの背では、高いところに書き込まれたチョークの文字を消すのにも踏み台
が必要になる。
 はっきり言って、面倒くさい。
「じゃあ、お願いしていいかな。ありがとう」
 にこり。笑って応えると、坂田くんは更に汗を流しつつ、チョークの書き込みを消し始めてくれた。…あ。黒板にお腹くっついてるけ
ど、いいのかなあ。
 服、汚れない?

744:続・イヌイチ・3
07/11/10 07:56:56 Fasnx+d2
******
 何へらへらしてんだか。オレは机に頬杖をつきながら、まだ抜けない睡魔と戦っていた。全く、古文なんて呪文の詠唱と同じだよな。
 それもラリホー系の。
「あ、坂田くんっ、汗、汗!!」
「え、あ、ご、ごめん!」
 あーあ。坂田の出っ腹で黒板水拭き状態じゃねーか。一口もニブいよなあ。アイツの下心気付いてないのかよ。
「いぬいー?聞いてる?」
「あ?何が?」
 やべ、聞いてなかった。
「だから、最近乾、本当に授業中寝すぎじゃないかって聞いてたの。進学はいいけどさー、アンタひょっとしてもう一回三年生やるの?」
「何かやってんの?あ、またバイトとか?」
 知ってどうすんだろう。思ったが、適当にいろいろだよ、とはぐらかした。
 オレは、今周りにいる女子がオレに対して何かを知りたいと本気で思っている訳じゃない事を知っている。
 TVの番組、雑誌の1コーナー、新譜のCD、2ちゃんの新スレ。
 日常を作るパーツの1つ。いや、最後のは特殊か。まあとにかく―そういう目でオレを見ているに過ぎない。
 別に不快じゃないけれど、だからといって心地良くもない、微妙な間というやつだ。
「あれ、乾また寝てんじゃない?」
「起きなよ―…」

 次は、丘の授業だっけ。…意識が遠のく中、オレは何かを忘れているような気がした。

「―もう三年も折り返しを越えてる時期だろうが。…オマエの場合はルリーダ先生からも話を聞いてるが、教師全員寛容なわけじゃな
い。これ以上下手を打つと留年も洒落で済まなくなるぞ」
「…はい」
 ホーミングチョークでコブの出来た頭をさすりつつ、オレは職員室で丘の説教を聞いていた。
「わかったら教室に戻れ。次やったら鼻の下にキンカン塗るからな」
 アンモニア入りの為、鼻の下などに塗れば悶絶必至である。『目の下にメンソレータム』と双璧を誇る罰に青ざめながら、丘に頭を下
げる。
「すみません。―失礼します」
 ぴしゃり。職員室の扉を閉め、オレは大きく溜息をついた。
「バカ犬」「!!」
 ぼそっと肩の辺りから響いた声に、心臓を掴まれたかと思った。
「な、何だよ一口…驚かすんじゃねーよ」
 斜め下を見ると、変なマスコットの髪飾りとぴこんと跳ねる一つ括りの前髪が見えた。こんな頭の知り合いなど、周りには一人しか居
ない。
「驚くのは、自分の行いの悪さのせいでしょ」
「つか何でオマエ職員室の前…うわっ!」
 尋ねようとしたら、いきなり分厚いプリントの束を渡され、オレは危うくバランスを崩して転ぶところだった。
「今日の5時限目、自習だからプリント取りに来たの。それ乾の持つ分だから、よろしくね?『週番さん』」

 ―あ。


745:続・イヌイチ・4
07/11/10 07:57:45 Fasnx+d2
******
「人が悪りーな一口。オレが週番だって、さっさと言えばいいのに」
「何言ってんの。朝は朝で予鈴スレスレまで教室来ないし、休み時間までぐーすか寝てばっかだったじゃない」
「…スミマセン」
 プリントを抱えたまま、乾が肩を落としつつ謝る。
 あまりにもしょんぼりした姿―人によっては『雨に濡れた子犬系』とでも名付け、愛でるのではないだろうか―に、あたしは大き
く息を吐き、明日からはちゃんとしてよね、と前を向き言った。
 ―そうだ。あたしはふと思った事に対し、尋ねてみた。
「乾、何で最近学校来るの遅いの?」
 二年の時はそうでもなかったように思っていたのだけれど。質問に乾はしばらく答えを探すように黙ったあと、ヤボ用だよと答えた。
「野暮?」
「い、いいだろ別に。ホラ早くしねーと、5時間目始まっちまうぞ」
 言い捨てて廊下を走っていく。一歩走るごとに揺れる、乾の一つ括りにした後ろ髪を眺めつつ、言い訳が下手なヤツ、と一人呟いた。
「ちょっと、プリント落とさない―…ん?」
 ふと立ち止まった教室の前で、あたしは妙なものを見てしまった。
 いや、そのクラス―三年F組―は、クラスのメンバー上、妙なものがかなりの頻度で(ちなみにその正体は、ほぼ間違いなく一人
の人間離れした体格の変態だったりするのだけれど)見受けられるが、今日見たものは、少々勝手が違っていた。

「…阿久津くん?」
 休憩時間のF組。がやがやとにぎわうクラスの中で一人だけ浮いてる…というか、燃え尽きている男の姿。
 いつも変なことに巻き込まれて、悲惨な目にあう確率の高い彼―阿久津宏海の真っ白になっている姿が、あたしの視界に入ったのだ。
「…」
 いつもなら、良くある事と思って気にしない。けれど今日は何故か気になった。

「おーい一口!早くしねーとプリント配れねーぞ!」
 C組の扉から顔を出し呼ぶ乾に、はっと我にかえる。
「あ…わかったから大声で呼ばないでよ!」
 本当、デリカシーに欠けるヤツ。あたしは口をへの字に曲げつつ、その場を後にした。

 5時限目は英語の自習。プリントは仕上げられなければ即宿題と化すので、皆が居るうちに答えを写…教えてもらい、仕上げるのがお
約束だ。
「…んがー…」
 …まあ、お約束に当てはまらない馬鹿も居るけれど。自分のプリントにペンを走らせながらあたしは、背後から聞こえるイビキに呆れ
ていた。


746:続・イヌイチ・5
07/11/10 07:58:26 Fasnx+d2
******
「んー…っ、はあっ」
 HR終了のチャイムと同時に背伸びをする。首を回すと、こきこきといい音が響いた。ここ最近の寝不足も少しは解消されただろうか。
「さてと…」
「帰んないでよ乾」
 帰るか、と言いかけたオレの口の動きは、くりんっ、と振り返った一口のセリフに遮られた。手には学級日誌のオマケ付きだ。
「忘れてたでしょ」
「あー…忘れてた。そういや書かなきゃなんねーんだよな。なあ一口、1時限目って何やってたっk…あふっ!?」
 ばちーん。
 日誌のページをめくりながら尋ねると、いきなりビンタが飛んできた。見れば一口の額には青筋が浮かんでいる。
 バシバシバシバシバシ「結局アンタは一日中寝てばっかりだったじゃないっ!一緒に組むあたしの身にもなりなさいっての!!」
「あっあっあっあっ!」
 このバカ犬と罵りつつ繰り出される往復ビンタを頬に喰らいつつも、背筋がぞくぞくと震えだすのをオレは止められなかった。
 いや、わざとじゃないんだけどな。
 ちなみにこの(誰が呼んだかは知らないが)『C組名物SMショー』は、クラスからも生温かい目で受け止められている。
 変なクラス。

「はあはあ…本当、乾ってビンタされてる時輝いた顔するよね…」
「おう。ついでに言えばもう2、30発は貰っても平気だぞ」
 腫れた頬の、じんじんと痺れる痛みさえキモチイイと感じる―それがオレの特性なのだ。
「えらそーに言うなっ!―…ああもうわかったわよ。日誌はあたしが書いとくから、乾はこれ写しとけば?」
「?」
 赤くなった右手をひらひらさせながら一口が差し出したのは、数枚のプリントだった。三行見ただけで眠りに落ちそうな言語は、間違
いなく今日の英語のだ。
「その調子だと、宿題になってもやって来なさそうだしさ。あたしが日誌書いてる間にでも仕上げればいいんじゃないの?」
「―…」
「…何?」
「いや、一瞬オマエの後に光が差したような気がして…」
 これが神か仏かってやつなんだろうか。だとしたら神仏はずいぶんフレンドリーなんだな。
「礼なら坂田くんに言いなさいよー?あたしの分かんないところ丁寧に教えてくれたんだから」
「…」

 …なんとなく、さっきのセリフを撤回したくなったのは気のせいだろうか。


747:続・イヌイチ・6
07/11/10 07:59:22 Fasnx+d2
******
 かりかり。かりかりかり。
 クラスメイトが部活やら帰宅やらでどんどん席を立つ中、あたしと乾の間では、シャーペンが紙の上を走る音だけが響いていた。
「なー、ここのwhatの使い方なんだけど…」
「ん?ああ、これねー…」
 説明すると、乾はふーん、なるほどなあ、と呟きつつ、再びプリントに向かう。
 時折、ペンを持った手を口に添えたり、ペンの頭をかつんと机に当てたりしながら。
 多分この乾の姿ですら、色んな女の子に見出されて、手垢の付いたものなんだろうなあ。
 難しく考え込んで寄せる眉も、伏せたまつ毛の長さも。

 ―ちくん。
 胸に、針で突付かれたような痛みを感じ、あたしはそれを全力で否定する。

「…なに考えてんだか」
「何か言ったか?」
「なーんにもー。それより乾、早くしないとあたしもう日記仕上げちゃうよ?」
「げ。待て待て、あと3枚だからなっ!」
 乾の慌てっぷりに小さく笑いつつ、あたしは日誌に目を落とす。本当は日誌なんて、とっくに書き上がっていたけれど。

「そういやさ、最近一口坂田と仲いいな」
 ぴたり、とペンを止め乾が尋ねる。『そういや』の流れなどない唐突な発言に、あたしはしばらく考えてしまった。
「そう…かな?時々手伝ってもらったりはしてるけど」
 いつも困ってる時にタイミング良く現れるんだよね。妖怪道中記のご先祖さまみたいな感じでさ、と言ったら例えが古くて分かんねー
よ返された。そんな古くないと思うけど。
「ふーん…オレはてっきり先輩に見切りつけたのかと思ったけどな」
「そんな訳ないでしょ」
 馬鹿げた質問をばっさり斬り捨てる。
「そういう乾はどうなのよ」
 仮にも、ドMでも『もて四天王』なんて呼ばれる男だ。引く手あまたなんて言葉も霞むくらい、本当は相手に困らない筈なのに。
「ねーな。先輩が例え阿久津のモンになっても、先輩はオレの憧れだ」
 どうして真っすぐあたしを見て答えられるのだろう。
「憧れ、ねえ」
「そゆこと」

 あたしは、憧れと恋が似て非なるものだと知っている。乾が強く想っているにも関わらず、阿久津くんからお姉さまを奪おうとしない
理由も。
 だけど、言わない。それはコイツ自身気付いていないだろうから。
 そして、あたしも気付かない事を心の底で願っているから。

 ―本当、馬鹿だね。

 かりかりとペンを走らせる音を耳に心地良く感じつつ、あたしは西日の差し込む教室の中、ゆっくりと眠りに落ちていった。

748:続・イヌイチ・7
07/11/10 08:00:04 Fasnx+d2
******
 かつん。紙にピリオドの印を叩き込む音と共にオレのプリントが完成したのは、西日が赤味を帯び始めた頃だった。
「はー…出来た、っと。一口、そっちはど…」
 顔を上げ尋ねようとして、言葉が止まる。机をはさんで向かいに座る一口は、すやすやと微かな寝息を立てていたのだ。
「何だよ、自分だって寝てんじゃねーか」
 今と授業中が別物なのを棚に上げ、オレはひとり愚痴る。
「おーい一口、日誌書き終わってんのか?」
 へんじがない ただのし…じゃない、ずいぶん深い眠りについているらしい。
 週番の仕事で、朝一番に教室に来ていたという辺りに理由がありそうだが。
「…別にオレだって、遅刻してる訳じゃねーけどさ」
 それにしても、寝顔まで子供染みてるよなあ。無邪気っつーか、幼稚っつーか。
 くりっとした大きな目も、見た目に反して古臭い発言が目立つ口も、今はただひっそりとそこにあるだけだった。
「…」
 そっと、閉じられた学級日誌を手に取り、今日のページを捲ってみる。ちまっとした一口の字は既に書くべき全ての項目を埋めていた。
 ―なんだよ、とっくに書き終わってんじゃないか。
 ならば、いつまでも教室に居続ける理由はない。オレたち以外に誰も居ないなら尚更だ。立ち上がって揺り起こそうとして―オレは
手を止めた。
 ふと、視界に留まった一口の手が、オレのおぼろげな白日夢を思い出させてしまったのだ。

 ―頬を撫でる、柔らかな掌。細い指先。

「…一口」
 一応呼んでみるが、相変わらず返事は無い。ど、くん。…どくん。どくん。
 早まるな、正気になれと頭の中のオレが叫ぶ。けれど体は叫び声に逆らうように、ゆっくりと一口の手を掴んでいた。
 小さくて、柔らかな一口の手。なんかコイツの体のパーツって、どこもかしこも小さいような気がする。
 オレは目を閉じ、静かに掴んだ手を自分の頬に寄せた。ほのかに温かい掌が、ひたり、頬を撫でる。
「…」
 ぞくっ。背中に軽く電流が走った。―はっきり言って今の自分は、不審とかあやしいなんて言葉で片付けられないくらい変だ。
 もし今一口の目が覚めたなら、ビンタ100発どころの問題じゃない。
 分かっているのに、手が止まらなかった。オレは、夢の中のオレと同じで、触れられるキモチ良さに抗えないまま、ゆっくりと一口の
指を自分の口へと導こうとしていた。
 人差し指が唇を軽くかすめたその時―。

 ポーン。
『下校時刻になりました。生徒の皆さんは、すみやかに帰宅してください』

「!!」だんっ!反射的に手を机に叩きつける。
 ―義務的な下校放送の声により、オレは危うい倒錯の世界からギリギリのところで強制送還と相成ったのだった。
「痛っ!?…あれ?あたし寝てた?…っていうか乾、何やってんの?」
「いや…何でも…」
 本当、オレ何やってんだよ。一口に背を向け、赤くなった顔と昼間同様に熱を持ってしまった股間を悟られまいとする姿は、間抜け以
外の何者でもない。

 いや本当に、何やってんだ。
 一口相手に。


749:続・イヌイチ・8
07/11/10 08:01:04 Fasnx+d2
******
「おー、もう星出てるなー。秋の日は鶴瓶ポロリって言うけど本当だな」
「そんな言葉聞いたことないけど、本当、もう真っ暗だねー」
 街灯の光に、吐いた息が微かに白く染まる。いつの間にかそんな季節になったのだ。
 何も変わってないようで変わり続ける。冬服になって尚感じる寒さに、あたしは軽く身を震わせた。
「にしても、わざわざ送んなくていいのに。…乾ん家、方向違うでしょ」
「ばっか、季節の変わり目ってのは変なヤツが多いんだぞ?それに、帰るのが遅くなったのはオレのせいでもあるしな」
 変なヤツの中に自分を入れてない辺りが、乾の乾たるところである。
 そりゃ確かに、意外と紳士的なところは評価していいのだろうけれど。
「あ、それとな、朝の教室の鍵開け、明日からオレやっとくから。一口いつも通り学校来るんでいいからな」
「え?…乾いいの?」
 予鈴ギリギリから急に朝一番の登校は大変じゃないのかな。
「どうせ補習のついでになるしな。ちょっと遠回りになるだけだろ」
「補習?」
 初耳だ。あたしの言葉に乾はちょっと考えた顔をして、体育のだよ、と答えた。
「オレ、スポーツ推薦狙っててさ。でも部活入ってなかったから色々面倒な事になっててなー…。そんな時、ルリーダ先生から、新しく
学科が出来た所が遅くまで積極的に募集してるからどうだって話持ち掛けられて…」
 前を向きながら、照れ臭そうに語る乾の言葉はしかし、途中から聞こえなくなっていった。
「―…でもしなきゃオレ普通に大学行けねーもんな。…一口?」
「…え?」
「え?じゃねーよ。話振っときながらぼーっとしてさ。何だよ、風邪引いたか?」
 ―違う。けれど、言葉が出てこなかったので、代わりに首を振った。
「そうか?でもなんか顔色ヘンだぞ?やっぱ熱あんじゃねーの?」
 そう言って額に当てようとした乾の手を、あたしは反射的に身をよじり拒んでしまった。

「…!!」

 街灯に照らされた乾の顔が、不自然なくらいこわばる。あれ、あたし、何で。
「…っ、もう…家すぐそこだから、今日はありがとね」
 あたしは一気に言葉を放つと、振り向く事もせず走って乾の元を離れた。
 どくん。どくん。どくん。
 全力疾走の体に、晩秋の風が冷たい。けれど全然気持ちよくない。
 驚いてたのだろうか。
 ひそめた眉も、見開いた目も、堅く閉ざした口も、全部見覚えのある部分なのに、あたしの知らない乾の表情だった。
 ―何も変わってないようで変わり続ける。
 さっき思い浮かんだ言葉が、呪文みたいに頭をぐるぐる回って離れない。
「…はあ、はあっ…けほっ」
 家のすぐそばで足を止め、息を整える。あんなに走ったのに、体がぞくぞくして、震えが止まらない。

 ―何も変わってないようで変わり続ける。
 乾も、お姉さまも、阿久津くんも、みんな、みんな。
 ―あたしは?

 ポケットの中の携帯電話から『DESIRE』の着メロが響いた。
 けれどあたしは、いつもならすぐに取るはずの、一番好きな人からの電話さえそのままに―。
 ただ道の真ん中で立ち尽くす事しか出来なかった。

750:イヌイチの人(携帯版)
07/11/10 08:06:03 FNTwFU0Y
ぎゃーっ!「前後編」なのにタイトルに入れるの忘れてた!(毎度ポカばかりですみません)
気を取り直して、後半です。

751:続・イヌイチ・9
07/11/10 08:07:56 Fasnx+d2
******
 その人の名前を知ったのは、生徒会選挙の日。
 共学で女子の生徒会長候補者なんて、珍しさから結構気後れしてしまうものなのに、演説の壇上に上がったあの人の瞳は真っすぐで、
あくまで毅然としていて。
 ―この人が会長になるんだ。投票前からあたしは確信していた。
 実際会長に決定した時、あたしは自分の事のように嬉しくて、その日は眠れなかった。
 いつかあの人に近づきたいと思っていた。あの人の傍に立って、あの人に振り向いてもらって、あの人に触れて―。

 ―けれどあの人は、あたしじゃない、違う人を見ていた。
 それは、誰よりもあの人を見ていたあたしが知る、残酷な真実。


752:続・イヌイチ・10
07/11/10 08:08:27 Fasnx+d2
******
「ふあぁ…あああふっ」
 朝もやも漂う通学路には、学生の姿なんてまだない。運動部の朝練に向かう部員が関の山だ。
 そんな中を大あくびしつつオレは、早朝の補習を受けに学校へと向かっていた。
 ―元々お前は身体的に推してしかるべき能力を有している。が、私の推挙を得るならば、もう少し鍛えた方が良いだろう。
 数週間前の体育教官室で鉄アレイ(12kg)を軽々と持ち上げながら、体育教師・ルリーダが微笑みと共に語りかけた言葉に端を発する
この補習だったが、何か騙されている気もしなくないのは、オレの考えすぎだろうか。
 ―いや、疑っちゃいけないよな。先生だって放課後は部活があるからって、わざわざ朝に時間割いてくれてるんだし。
 でもなんで先生の机、『打倒 あいす』なんて貼り紙がしてあるんだろうな?

 つれづれと考えつつも、気が付けば学校にたどり着いていた。―おっと、ダメだ。今日は直接体育館に行っちゃいけないんだよな。
慌てて向きかけた足を職員室方面へと向き直し、オレは立ち止まった。

 ―っ、もう…家すぐそこだから。

 昨日、オレが何の気もなく出した手を拒んだ一口の表情が、脳裏をよぎる。
 一瞬だけ見えた、泣きそうな、困ったような顔。
 オレのうしろめたい部分をえぐるような目をしていた。
「…」
 気付い…たのかな。放課後の教室で、オレがやっちまったコト。
 何であんな事をしたのか、自分でも理由が分からないのが更に苛立たしい。

「失礼します」
 職員室の扉を開け、声を掛けると丁度クラス担任が電話応対をしている所だった。いくつもの鍵が掛かっているコーナーから自分のク
ラスの鍵を取り出し、そのまま出て行こうとした時、かちゃりと受話器を下ろす音がした。
「おい乾、ついでに日誌も持って行け。―今日、一口休みだから」
 ―え?
「休み、ですか?」
「うん。風邪だって、さっき連絡が入った。残念だったなあ。あいつ今まで皆勤賞だったのに」
「…はあ」
 学級日誌もついでに受け取りつつ、オレは担任の独り言をぼんやりと耳にしていた。
 やっぱり、体調崩していたのか。妙に赤い顔してたもんな。

 でも。
 それでもやっぱり、アイツが休んだのはオレのせいじゃないかなって、心の隅で思った。
 多分、それは間違いじゃない。


753:続・イヌイチ・11
07/11/10 08:09:24 Fasnx+d2
******
 ぴぴぴぴ。ぴぴぴぴ。ぴぴぴぴ。
「38度2分、結構高いわねえ。…お母さん休んで病院いこうか?」
「いいよ別に…けほっ、薬飲んだし寝てたら治るから」
 枕元で中腰の姿勢のまま顔を覗き込む母親に、あたしは咳き込みながら言葉を返した。
「パートだって、そんな気軽に休めるものじゃないんでしょ?」
「でも夕利、ここ数年風邪なんて引かなかったじゃない」
 子離れ出来てないなあ。
 冷却シートを額に貼る、ひやりとした指先を心地良く感じながらも、ちょっとだけむず痒さを憶えてしまう。
「大丈夫だって。あ…そうだ、仕事の帰りに桃ゼリー買って帰ってくれると嬉しいな」
 半分割りのがごろんってしてるの。そう言うと母親は、根負けしたのを認めるかのように大きく溜息を吐くと、お粥は台所にあるから
ね、と呟いて立ち上がった。
「それじゃ、体はあっためなさい。―行ってくるから」
 ぱたん。部屋のドアが閉まり、あたしはゆっくり目を閉じた。
 頭の中がもやもやする。寝ているのに陽炎の中に立っているような、変な感じ。
 …風邪で学校休むなんて、何年ぶりだろう。少なくとも高校に入ってからは一度も休んだ事はなかった。
「けほっ」
 寝返りを打つついでに、枕元の充電器に差し込んだままの携帯電話を手にする。
「―…ごめんなさい」
 着信履歴には、一件の不在着信。『お姉さま』と書かれた着信履歴に向け、あたしは小さく謝った。

 昨日は、結局電話には出られなかった。何度もポケットの中で鳴る『DESIRE』を聞きながら、あたしは、あたしの中でざわめいていた
よく分からないものに対して戸惑う事しか出来なかったのだ。そんな状態ではマトモな受け答えなんて出来やしない。
 ―きっと、余計お姉さまを困らせる。
 それは、嫌だった。
 今までの自分なら、どんなにいっぱいいっぱいでも、無理して喋っていただろうから尚更に。

 お姉さま。今のお姉さまを受け止められるのは、あの男だけなんですよね。
 ―あたしじゃ、ないんですよね。
 考えて、涙が出た。一人だけの考え事は、感傷的になりすぎて困る。
 今の『かわいそうな自分に酔う自分』を止めたいのに、いつまでたっても止まらない。

 せめて、隣にアイツが居てくれたらいいのに。
 悲劇の主人公はオマエだけじゃねーだろって、軽くたしなめてくれたらいいのに。


754:続・イヌイチ・12
07/11/10 08:10:02 Fasnx+d2
******
 頭の芯がぼんやりする。…眠い。体中に回った疲労感が眠気を更に助長させる。ルリーダ先生の今日の補習内容はウォーミングアップ
代わりの鉄球避け30セットの後、徒手空拳組手10本だった。―これ本当に補習だよな?
 どういう推薦の仕方をするのか少し気になるのだが…それより今は眠気と闘うのが先決だ。オレは日誌の一ページをシャーペンの頭で
叩きながら、気を抜くとがくりとなってしまう現状を、崖っぷちスレスレで耐えていた。
「乾珍しいじゃーん。今日は寝てなかったよ」
「やれば出来る子だったんだねえ。エライエライ」
 …子ども扱いするなよなあ。同級生なのに。
「オレだって、鼻にキンカン塗るなんて言われたら起きるっつーの」
 くさりつつ言い返すと、今時キンカンって、と笑われた。あれ?キンカンって一般的じゃないのか?
「あ、今日一口さん休みだっけ。乾日誌ちゃんと書いてんの?」
 手元の学級日誌を目ざとく見つけた女子が、尋ねる。
 書いてるよ、と答えると、他の女子がそっかーじゃあ今日はSMショーは無しかー、とぼやいた。
「あれ面白いんだけどねー。アタシ達だと『えっ?いいの!?』って気になるけど、一口さん、いい意味で遠慮ないから」
「そうそう」
 かつん。ページを叩く手が止まる。…改めてクラスメイトからアイツが休みだと聞かされるのは、何か変な気分だ。
 目の前の席は、ただの机と椅子でしかないなんて。

「…」

 何考えてんだろオレ。溜息を吐きつつ、オレは席を立った。
「あれ?乾どこ行くのー?」
「…眠気覚ましにトイレ行ってきます」
 何で敬語まじりなんだろ。多分これも眠気のせいだ。

 眠気覚ましついでに顔でも洗うかと足を踏み入れた三年男子トイレには、2名の先客が居るようだった。
「…でもよー。ここのSS、オレ出番少なすぎじゃね?オレ一応本編じゃ主役よ?」
「しょうがありませんよ。何せ王子の場合、ハードルが高いともっぱらの評判ですから。コレの書き手など、『刺身セットの菊みたいな
モンで、食っていいかどうかさえためらう』と周りに愚痴っていたそうですし」
「菊ぅー?あれ手抜いてるヤツってプラスチック製じゃねーの?…ハッ!つまりオレは三次元でこそ映えるプラスチックドールってやつ
なのか?」
「違います」
 F組の百手太臓と安骸寺悠の二人は、普段から良く分からない会話を交わしているが、今日のはとりわけ分からない。
 いつもならもう一人居るはずのツッコミ役の姿が居ない事もその理由だろうか。…まあ関係ないけど。オレは気にせず隣に立ち、小用
を始めた。
「今だったらオレが傷心の伊舞なぐさめるSSリクエストするね…っと。…ムフフ、宏海のヤツも、今のフヌケ状態なら簡単に伊舞引き渡
しそうだしな」
「そうですね。身から出た錆とはよく言った物ですが。…矢射子と伊舞に同時に嫌われるとは、とことん不運な男ですね」

「―!!」
 眠気が吹っ飛んだ。微妙に説明臭い会話だったが、そんなのはどうでもいい。
 阿久津が―矢射子先輩に嫌われた?

「そ、それどういう事だよ!!」
 オレは振り返り、既に手洗い場に立った二人に向け叫んだ。

 三年男子トイレに「ソルカノン充填120%!!?」「ヤツの弱点は雷です!!王子、早くサンダラを唱えてください!!」という絶叫が響いた
のは、また別の話だ。

755:続・イヌイチ・13
07/11/10 08:11:17 Fasnx+d2
******
 最初に好きになったのは、物怖じしない強いまなざしだった。
 凛とした表情を、更に強く見せる眼光―あたしの周りにそんな人、今まで居なくて。だから好きになった。
 性別がどうとか、関係なかった。ただ、触れたいと、欲しいと思った。
 形のいい唇からこぼれる、メゾソプラノの声も、白くて細い指も、ポニーテールに結い上げた髪も、全部、全部。

「…んっ」
 いけないコトだと分かっていながら、自分で自分のカラダを弄る事を覚えたきっかけも、お姉さまを想ってだった。
 声が漏れないよう、布団の中に潜り込んで、パジャマのボタンの隙間からそっと胸を触る。―薄っぺたいあたしの胸は、汗でじっと
りとしていた。
 お姉さまの胸はすごく大きくて柔らかい。服の上からしか触った事ないけれど、桃みたいな甘い香りがする柔らかな谷間は、あたしの
頭ですらすっぽりと包んでくれそうだった。
「はっ…あ、くふっ…」
 吐息で熱がこもる暗闇の中、あたしの指は更に下へと降りていく。片手を胸に当てたままショーツの上から触れた部分は、じっとりと
熱くなってて、指先がすこしぬるついた。
 ―ぷちゅん。
「…っ!!!!」ショーツに手を入れ、濡れた場所に直接触れた瞬間、快楽に背がくうっと引きつった。
 女の子なら誰でも持ってる、熱い部分。
 あたしにも、そしてお姉さまにだってある、大切なトコロ。―今、あたしの指は、あたしを弄びながら、お姉さまをも弄んでいる。
 そう思うとドキドキが止まらなかった。ぷちゅくちゅと粘ついた水音が耳を、布団中を熱くする吐息が肌を責め立てていく。
「…っ、あっ、あっ、くぅっ、ん―…」
 お腹の底が切なく疼く。波が、もうすぐ、来―。

 ―…先輩が例え阿久津のモンになっても、先輩はオレの憧れだ。

「っ!!」
 いきなり頭の中に飛び込んできた声に、あたしの指が止まった。
「い…ぬい…?」
 布団から顔を出し、名前を呟く。外気の冷たさが火照った頬に容赦なく染み込んでくる。
 それは、昨日の記憶だ。放課後の教室で、アイツがあたしに向けて真っすぐ言い放った言葉だ。
 けれど、今のいけない一人遊びを止めるには十分な力を持つ言葉でもあった。
「…シャワー浴びよ」
 のろのろと起き上がり、すっかり用をなさなくなった冷却シートを額からはがす。時計の針は既に正午を回っていた。

『~♪』
 携帯電話から再び『DESIRE』が流れたのは、そんな時だった。


756:続・イヌイチ・14
07/11/10 08:12:09 Fasnx+d2
******
「…じゃあ、一口も話聞いたのかよ」
 放課後の誰も居ない教室は、意外と声が響く。オレは気が付いて慌てて声のトーンを落とした。
「いや、オレのは安骸寺たちからの又聞きたけど…じゃあもう少し話、詳しく聞かせてくれるか?」
 風邪を引いて喉を痛めているにも関わらず、一口はオレの要求に応え、昼間掛かったという矢射子先輩からの電話内容を教えてくれた。

 この前の日曜の事だ。
 その日、矢射子先輩は阿久津の家に招かれたという。家族―阿久津は父親と二人暮しらしい―との初めての顔合わせとなった訳だ
が、多少緊張しつつも、顔合わせは和やかに行われていた。
 時折、阿久津とその父親の間に、過剰とも思えるスキンシップがあったらしいが、それはオレの知りたい話じゃないので割愛させて貰っ
た。
 さて、問題は昼に起きた。昼食時となり、料理の腕には自信のある先輩は、進んで台所に立ち、三人前の昼食を手際よく作り上げた。

「…うらやましいな」
『あたしもそう思うけど、まだ話終わってないよ乾』

 献立は、鶏の照り焼き、蕪とがんもどきの煮物、小松菜のおひたしに三つ葉を散らしたかきたま汁―。

「…腹減ってきたんですけど」
『馬鹿言ってると切るよ?』

 前もって特訓していた甲斐もあり(一口いわく、女の子の努力というらしい)、阿久津の評価は上々、父親も、口数少なくなりつつも、
きちんと平らげたそうだ。
 そして、この父親は食後の茶を啜りつつ、こう言った。
 ―いやあ、今度の彼女が料理上手で良かった。前の彼女はとてもじゃないが、上手とは言えなかったしな?宏海。

「今度の!?」
 オレはうっかり大声を出してしまった。電話の向こうで乾ウルサイと言われ、口を押さえる。
『なんかあたしが思うに…けほっ、そのお父さんが結構変わってる気がするんだけどね。…それでも、お姉さまには寝耳に水な話よね』
「あー…確かに寝てる耳ン中にミミズ入れられたら驚くよなー」
『…切っていい?』

 なぜか怒りだした一口をなだめつつ、話は続く。
 がちゃん、と片付け中の食器を落としながら、先輩は当然阿久津に問い直した。
 ―宏海、前のってどういう意味?
 ―あ、そ、それはだな…その、説明するけど事情があってだな…。
 ―佐渡さんは、確かに器量は良いが、少々物言いがキツかったしなあ。はっはっは。
 ―うるせえバカ親父黙ってろっ!!や、矢射子勘違いするなよ。オレは…。

 ―言い訳なんて聞きたくないわよこの女たらしーーーーっ!!!!

 前の彼女というだけでもダメージ大な先輩。更に相手が阿久津に何かと縁のある佐渡あいすと来れば倍率ドン(←一口:談)である。
 先輩は阿久津の頬を思いっきりひっぱたくと、割れた食器もそのままに阿久津の家を飛び出したという。


757:続・イヌイチ・15
07/11/10 08:13:23 Fasnx+d2
******
「けほっ…それからお姉さまは、今の今まで予備校にも行かずに家に引きこもってるって訳。…で、乾のほうは?」
 喋りすぎて痛くなった喉を押さえつつ尋ねると、乾は、オレが聞いたのはその続きだよ、と答えた。

 出て行ったお姉さまを追いかける為とりあえず父親に数発拳を入れた阿久津くんは、アパートの入り口で一番あってはいけない人物に
会ったらしい。
 ―…お兄ちゃん?朝、お父さんからメール貰ったんだけど。
 同じ色の髪をした少女―阿久津くんの実の妹で、伊舞ちゃんという―は、お姉さまが出て行った方向をちらりと見て、尋ねた。
 ―お兄ちゃん、あいすさんと付き合ってたんじゃないの?何で急に相手変わってるの?
 ―いや…伊舞、良く聞け。オレは元々佐渡とはそういう付き合いをしてない。今付き合っている人が…オレの本当の彼女だ。
 阿久津くんは、腹の底を振り絞るような声で、妹に向けて言い放った。
 けれど、時は遅すぎた。

 目の前に立つ妹は―ぽろぽろと涙を落としつつ、こう言ったそうだ。
 ―お兄ちゃん、じゃあ…あいすさんとは遊びだったんだ…それで、二股かけてたんだ…。
 ―わかってねえじゃねえか!なに勘違いしてんだ伊ぶべっ!?
 すぱぁん。お姉さまに叩かれたのとは逆の頬に、伊舞ちゃんのビンタが決まる。

 ―お兄ちゃんの馬鹿!最低!…お兄ちゃんなんか、大っ嫌いっ!!!!

「…そりゃ…すごいね」
『シスコンの阿久津からすりゃあ、そりゃもう死刑宣告よりひどい仕打ちだったらしくてよ。こっちも日がな一日生ける屍みたいになって
るって話だぜ』
 昨日見かけた『燃え尽きた阿久津宏海の図』が多分それに当たるのだろう。
『正直、自業自得って気もするけどな。阿久津が前もって説明していれば、先輩も妹も泣かさずに済んだんだしなー…けどさ』
「…うん」
 そうだ。問題は、起きてしまった過去を問い質し、責める事じゃない。
 お姉さまと阿久津くん、この二人のこれからの関係がどうなるかだ。
 
 あたしは、ためらいながらも、今考えている事を乾に話そうとした。
『一口…』「あのさ…」
 奇しくも同時に声を出してしまい、同時に黙り込む。
『…何だよ』
 乾のすすめる声に、あたしは小さく咳払いをした。
「…あのね、乾怒らないで聞いて。あたしは―二人の仲を戻したいって思ってるの」
『!!』
 電話口の乾が、息をのむ。当然の態度だ。
 あたしも乾も、お姉さまのことが一番大好きで、だったら今こそ振り向いてもらう絶好のチャンスなのだから。
 そんな時にわざわざヨリを戻させようなんて、馬鹿げているのかもしれない。
 
 けれど。

『一口…それでいいのか?』
 しばらくしてから返ってきた乾の声は静かな響きがあって、無理に感情を押し殺しているようだった。
「…だって、お姉さま電話口で泣いてたんだもん。…っく、あ、あたしじゃっ、今のお姉さまの涙っ、止められないんだもん」
 ―どうしてもっときちんと話を聞けなかったんだろうって、何度も何度も悔やんでいた。切ない、メゾソプラノの声。
 あたしは、布団の上に涙を落としつつ、昼間の自分を恥じた。
「ごめん、乾。本当に嫌だったら…今の話聞かなかった事にして」
 ぐしゅっ、と鼻をすすりつつ、あたしは乾の返事を待った。さすがに今回は、あたしのわがままで乾を振り回せない。そう思いながら。
 けれど、あたし一人の手で仲を取り持つ事になっても構わない。
 ―ややあって、はーーっ、と長い溜息が携帯電話から聞こえた。
『…ばかやろう。病人がちょろちょろ動き回ったところで、風邪ぶり返すのがオチじゃねーか』
 電話先の乾の声は怒っていた。当然だろなあ、なんて思っていたら、乾は怒った声のまま、オレのセリフ取るんじゃねーよと呟いた。
「―…?それって…」
『オマエにばっか無茶な事させるかってーの。オレも乗るぞその話。今更断るなよ?あともう泣くなよ』

 詳しくは明日な。そう言って切れた電話を握り締めながら、あたしはこぼれ落ちる涙を止める事が出来なかった。
「…っ、ごめん、ごめん乾…ありがと…」
 部屋のカーテンの隙間からは、あの日と同じあたたかな色の夕陽が差しこんでいた。


758:続・イヌイチ・16
07/11/10 08:14:08 Fasnx+d2
******
「…」
 充電切れスレスレの携帯電話のディスプレイを眺めつつ、オレは、しばらくさっきの会話を反芻していた。

 ―あたしじゃ、今のお姉さまの涙止められないんだもん。

 それは、一口だけじゃない。きっと、オレにも出来ない事だ。
 悔しいけれど、矢射子先輩が好きなのは阿久津の野郎だけであって、オレたちの姿なんか眼中に無いのは、事実だった。
「…仲を取り戻す、か」
「面白そうな話をしているな」
「うひゃおわっ!!!?」―がたたんっ。背後でいきなり聞こえた声に、オレはどこかの新喜劇よろしく椅子から転げ落ちてしまった。
「うむ。今のリアクションは中々いいぞ。往年の上島R兵を髣髴させる」
「あ、安骸寺…!?なん…」
 何で、と言いかけた口は、安骸寺のヒマだからだ、というセリフに遮られた。
「王子が時間ギリギリまで補習を受けている間退屈でな。何かないかと思ったら、一(はじめ)が興味深い会話をしてるのが聞こえてな」
「それって盗み聞きって言うんじゃ…」
「そんな事より、今の話は例の二人に関してだな?」
 安骸寺の表情の読めない眼がオレを捉える。脳裏になぜかアナコンダと豆柴の向き合う図が浮かんだが、何故なのかよく分からない。

「あ…ああ、矢射子先輩と阿久「伊良子と藤木の対決…俺もREDは毎号買っているが、あれだけは先が読めん」
「違げーよ!!何でそこでシグルった話になる訳?オレたち虎眼流!?つかせめてジャンプキャラでボケろよ!!」
 口走ってはっとなる。うっかり反射的にツッコミを入れてしまったが、少々言い過ぎた。
 安骸寺はうつむき、ふるふると震えている。
「…あ、悪い…」
「合格だ。今のつっこみ、協力に値するぞ一」
 へ?あまりの超展開に、頭の中が真っ白になってしまった。

「宏海と矢射子を復縁させようというのだろう?俺もその話に乗ったという事だ。…つっこみ一つ出来ん宏海をこれ以上見るのもつまら
…もとい、忍びないしな」
 安骸寺はそう言うと、にやりと口元だけで笑みを作った。
「よくわかんねーけど、協力してくれるなら助かる。…ありがとう」
 不気味ささえ感じる笑顔からわずかに目を逸らしつつ、オレは礼を言った。あの眼はどうも苦手だ。
 何というか、余計な部分まで覗かれている気分にさせられる。
「こっちは遅かれ早かれ動くつもりだったんだがな…俺にしてみれば一、オマエの方がよく分からんぞ?今だったら矢射子の心など、労
せずとも落とせるだろう。人の心は移ろいやすいからな―…そんな目で睨むな。冗談だ」
 眉間に皺をよせ安骸寺はうそぶいたが、冗談にしてはタチが悪い。
「…義理立てすると思うのもいいがな、たまには自分の気持ちを冷静に見つめてみろ、という話だ。今のオマエからは義理以上のものも
伺えるぞ?」

 ―は?小難しい口調のせいか、理解するのに時間がかかってしまった。
 というかまだよく分からない。誰が誰に義理以上の…。
「ふむ、時間だな…失礼する。―安心しろこんな面白事、そう簡単に口外せん」
「え、いや…ちょっ、待て安骸寺…」
 オレの言葉をはね返すように、ぴしゃりと扉が閉められ、同時に下校放送が教室に鳴り響く。

 オレは、閉められた扉を睨みつつ、やっぱりあの眼は苦手だと思った。
 ―余計な部分まで、覗き込むなんて。

759:イヌイチの人
07/11/10 08:22:22 Fasnx+d2
ひとまずここまでです。続きは只今打ち込み中ですすみません。
週番がピンとこない方は、「一週間日直をやる」くらいの感覚で受け止めていただければ幸いです。

次もエロが(今回以上に)ない上長いので、場合によってはエロなしスレに投下するかもしれませぬ。
というより残りKB数が心配で…。
では、失礼します。

760:名無しさん@ピンキー
07/11/11 23:44:17 RLv+gbpY
うわぁっぁっぁっぁ…
まさしく寸止め。生殺しです。
楽しみにしております!

761:名無しさん@ピンキー
07/11/12 22:08:46 rksWcRFT
>>745-
うは、続き来てたGJ!
現在436KB・・・500までだっけ?やばそうなら次たててからがいいのかもしれんが
まだ大丈夫じゃね?


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