太臓もて王サーガでエロパロ 第二章at EROPARO
太臓もて王サーガでエロパロ 第二章 - 暇つぶし2ch664:名無しさん@ピンキー
07/09/29 15:00:21 GiQHMGTl
>>666
おお!続きさえ読めるなら、気長に待ちますともっ!
楽しみにしてます!!

665:名無しさん@ピンキー
07/10/06 23:49:49 RUO4ZVtH
保守

666:名無しさん@ピンキー
07/10/12 00:17:08 xMbDRHt+
ほっしゅ

エロ絵板も寂しいのう

667:名無しさん@ピンキー
07/10/16 09:16:16 PW8CAqZl
保守がてら、投下いたします。カップリングは乾×一口で。
ですがうっかり84章の内容を失念していたので暴走役が一口になっております。
「原作と状況が違うなんてけしからん!」という方はNGワード「イヌイチ」でお願いします。
では。

668:イヌイチ・1
07/10/16 09:18:05 PW8CAqZl
*******
「乾早くっ!早くしないとお姉さまの純潔が散らされちゃうよ!」
「分かってるって!…ええ、ですから本当に18歳超えてますから」
 ホテル『アクエリオン』のフロントにてオレ、乾一は連れ、一口夕利に対し物凄く不審気な目を向ける係のオバちゃんと少々問答を
した末、ようやく部屋の鍵を手に入れた。―一口、後で半分休憩料金払えよ。
 部屋ナンバーは、『一万と二千年前からアイシテル』号室。
 そしてその隣は『八千年を超えたころから以下略』号室。
「はあ、はあ…ここに入ってっちゃったんだ…お姉さま」
 『八千年を超えたころから以下略』号室の扉の前で、一口は息を切らしながら呟いた。
 そう、この部屋の中には―。
 オレと、コイツの好きな人と、あの男が居るんだ。


669:イヌイチ・2
07/10/16 09:24:20 PW8CAqZl
*
 話は少し前に遡る。
 あの人…オレと一口の憧れの女(ひと)百手矢射子先輩と、同級生、阿久津宏海が付き合いだしたのは、先輩が卒業して間もない頃
だった。
 オレたち(というか一口)は彼女の気持ちが阿久津に一途に向けられていた事を知っていたが、問題は阿久津である。
 外見に似合わず状況に流される性質である(一口:談)あの男が、本当に矢射子先輩の事が好きなのか分かったもんじゃない、との
理由で二人のデートをこっそり付け回すようになって、今回で早五回目。
 相変わらず、二人の間は近いんだか遠いんだか分からなくて、かと言って、オレたちがどうこう言って何が変わるんだろう、と心に
迷いが生じ始めた、そんな時だった。
 ―ぽつん。アスファルトを小さく叩く、水音。
『え…雨?』映画のパンフレットを抱えた先輩が空を見上げる。
 つられて、阿久津と、路地一つ向こうの電信柱の影で様子を見ていたオレたちも空を見上げた。
 ぱらたたたたっ。途端に顔に大粒の雨の滴が顔にかかる。
「やだっ。いつの間にか曇っちゃったんだ」
 傍の一口が自分の頭を押さえながら困惑顔になる。
 目の前の二人も、おそらくそんな会話をしているのだろう。どんどん強まる雨の中を二人は手を繋ぎ、走り出した。
 阿久津はちゃんと先輩に自分のジャケットをかぶせて―まあ、この辺は当然だよn「ちょっと乾!!何ボーっとしてんの!?」
 はっと気付くと、一口が、オレの一つ括りにした後ろ髪を引っ張り怒鳴っていた。
 イデデ。それ取っ手じゃないんスけど。
「追うよ!」
「お…おう!」
 後ろ髪を押さえながら、二人の後に付いて走る。途中一口がぼそっと「さぶっ」と口にしたような気がするが、多分気のせいだ。
「ほらっ、さっきあの路地に入ってったから!」
「ああ―って、この辺…」
 一口に促されるまま脚を踏み入れた小道に、オレは目を疑った。
 あちこちに散見する『ご休憩****円・宿泊****円』の文字。
 時間はまだ暗くなる前だったので、あの夜目にどぎつい桃色なネオンは鳴りを潜めていたが…ここは…。
 ラブホ街じゃないか。
 いや、何の不自然もない。(高校生がラブホテルに立ち寄るのは不自然だが)恋人同士がデートの末に一線を越えることは…あって
も不思議ではないのかも。
 だが、相手があのひとなら話は別だ。
 特に、傍らの小さな連れにしてみれば。
「ふ…ふしだらだわっ!あの男、雨に乗じてお姉さまにツッコミ三昧だなんてっ!!」
 一口の頭から蒸気が昇る。もうすっかり濡れ鼠だがお構いなしだ。
何を想像しているかなど、問うまでもないだろう。
 二人はそんなオレたちの事など知らぬまま、一軒のラブホテルの前でしばらく会話した後―…えっ、矢射子先輩が引っ張ってった
よ。
「い…一口…」
「ますます許せない!普通ああいうのって男がリードするモンでしょう!?何女の子に恥ずかしいことさせてんの!?」
 どっちやねん。いや、それより。
「そうじゃないだろ。どーすんだよ一口、いくらオレたちだってホテルの中まで…」
「もちろん追うに決まってんじゃない!」
「そうだよなー。オレもそろそろ不毛だって…ええっ!?」
「何よ、諦める気?」
 ぎろり、目の据わった一口がオレを睨む。何が彼女を駆り立てるのか。プティ・スールのポの字も分からないオレにはさっぱりだ。
「乾が行かないなら、あたし一人でも行くんだから!」
「わあっ!!待て待てっ!」
 さすがにそれは無謀すぎる。いくら4月に18歳になったとはいえ、コイツはどう見ても○学生高学年がいいとこの外見しかもってな
いのだから、門前払いがオチである。
「ええいわかったよ、オレも行くから早まるな!」
*

670:イヌイチ・
07/10/16 09:25:57 PW8CAqZl
 なりゆきだ。なりゆきじゃなかったら漫画によくある御都合展開だ。
 きっと最後のページには『俺達の戦いはまだ始まったばかりだ!』とか、ミカンの絵が描かれてたりするんだ。あれ?それって打ち
切りじゃね?
「一人で何ブツブツ言ってんの?乾」
「へあっ!?オレ何か言ってた?」
「何かプリンセスがどうとかって…それより黙っててよ。お姉さまの声が聞こえないじゃない」
 言いながら一口は濡れた服もそのままに、壁におそらく備え付けであろうコップを押し付け隣の音に集中している。白いシャツの下か
らかすかに透ける水色のキャミソールにオレは少々居心地の悪さを感じていた。
「…風邪ひくぞ」
 オレはバスルームからタオルを数枚拝借し、一口に向け放り投げた。返事は無い。期待してないけど。
 ついでに、服を乾かすハンガーを借りようとクロゼットを開ける。
―が。
「ぶっ」
 中を見て慌ててドアを閉めた。―中にあったのは、おそらくオプションであろう、ボンテージ衣装と九尾鞭をはじめとする数々の
SM小道具だった。
 こ…これ、隣の部屋にもあんのかな。
 クロゼットの扉を押さえつつも、激しい動悸と妄想が止まらない。

―艶やかな黒革の衣装に身を包んだ、はちきれんばかりの先輩の肢体。
『ほら、何が欲しいの?』
 鞭の先端がゆっくり空気を撫で、触れるか触れないかギリギリの快楽が背中を走る。…けれど答えられない。口に噛まされたギャグ
ボールが、人の言葉を喋らせてくれない。
 そこに居るのは、一匹の忠実な獣。ヨダレと荒い息を漏らしながら血を流しそうな位痛い主の愛を待つ、哀れで卑しい畜生の姿だ。
 そして主はそんな畜生を見下ろしながら、ゆっくりと笑みを湛えこう言うだろう。
『いい子ね…愛してるわ。―宏海』

「すないぱぅっ!?」
 畜生の図が妄想のオレから阿久津の姿に変わった瞬間、オレは弾かれたようにクロゼットから離れ、一口の隣で壁にへばりついた。
「い、乾?急にどうしたの?」
 唖然とした表情で一口が問う。だがそれに答える余裕など今のオレにはない。
「…許せねえ」
「?」
 そうだ。矢射子先輩が阿久津の彼女になったって事は、あの爪先から脳天まで駆け抜ける先輩の愛のムチを、アイツが独占しちまう
って事だ。
 そんなの。
 そんなの、許せるかよ。
「ヘンジン!」
「きゃっ!」
 装着した首輪のバックルを回し、辺りが光に包まれる。その隙にオレは、サイボーグ乾へと姿を変えた。「キモっ」近くで声が聞こ
えた気がするが、気のせいである。
「…待っててください矢射子先輩。貴女の愛のムチを受けるのは…このオレだぁーーーーっ!!!!!!」
「乾!?」
 一口の声もおかまいなしにオレは壁に向け、拳を放つ。サイボーグ乾と化したオレのパワーは通常の約7倍。それ位あれば、ラブホ
テルの壁などやすやすと壊せるだろう。
 …が、壁に拳が当たる直前、オレは動きを止めてしまった。
 犬の聴力は約16倍―それにより聞こえる会話が、犬型サイボーグのオレの耳にも届いてしまったのだ。
*

671:イヌイチ・4
07/10/16 09:27:09 PW8CAqZl
キィ…。ガラス戸―おそらくシャワールームの扉が開く音がした。
『宏海』どきん。矢射子先輩の声だ、隣の部屋に居るオレの鼓動が高鳴る。
『おう、体あったまったか。こっちも服干しといたか…ぶえっくしゅん!!』
『あ…ご、ごめんっ、宏海の方が体冷えてたのに』
『構わねえよ。風邪引きゃテキトーにサボれる口実が出来るからな。アイツらのお守りより、そっちの方が楽だ』
 ずびずびと鼻をかみながら、阿久津が返す。
『それより、服乾くまでシーツ被っててくんねえか?―その、目のやり場に困る』
『えっ…っ!!』
 先輩が息を呑み、ぎこちない衣擦れ音―おそらくベッドシーツを身に纏っているのだろう―がした後、微妙な沈黙が二人を包ん
だ。
 困るって言っている割に、少し落ち着いてる風な阿久津の口調が、なんだかムカついた。
『ごめんね、宏海…迷惑だったでしょ?』
『あ?』
『…雨だからって、急にこんなところ連れ込んで…軽蔑したよね。女の子なのに』
『…また反省してたのか。やけにシャワー長いと思ってたが』
『だって…』先輩の声が、涙声に変わっていく。―壁をブチ壊すなら今か?オレは右手に作った握り拳に力を込める。一口も眉間に
皺を寄せ、壁の向こうを睨んでいた。―その時。
 ぎしり。ベッドのスプリングが軋む。無論、向こうの部屋のだ。
『…!』
『泣き止んだか』
『こ、ここ宏海、今のって…』
『…好きな女にじゃなきゃ、しねえよ』
 キス、だ。目に見ることは出来なくとも、オレも一口も確信していた。
『こっちこそ、ごめんな。アンタには告白の時からリード取られっぱなしでさ。そういうの気にする方だってのも知ってんのに…本当、
情けねえ』
『そんなの…情けなくなんか、ないよ。だってあたしはそう言って人の事を思ってくれる宏海を見てたから…大事にしてくれる宏海
がっ、すっすすすすす…』
 …先輩、言えてません。

 ことん。突然近くで音がした。隣の様子を伺うのに夢中になっていたオレは、音の正体に気付くのに少し時間がかかった。
「乾、もう聞くのやめよ」
 音の正体は、一口が置いたコップだった。
「…一口?」
「もう、これ以上聞くの辛くなってきちゃったよ…。ゴメン乾、あたしもう帰るね」
「えっ…あっ、待てよそう言えば休憩代…」
 半分出して貰ってないぞ。一口の腕を掴み、言いかけてオレは言葉を止めた。―一口は、大きな目一杯に涙を溜めて、必死に泣く
のを堪えていた。
「バカ…なんで顔見んのよ。空気読んでよバカ犬…うっ、く…」
 わああああああん。
 腕を掴まれたまま一口はその場にへたり込み、大声で泣き出した。
「な、泣くなよおい…」
 こういう時どうすればいいんだ。オレは自分の胸の痛みを吐き出そうにも吐き出せないまま、豪快な子供泣きをする一口の前に同じ
ように座り込んだ。
 小さく結った一口の前髪が、しゃくり上げる度にぴこぴこと揺れる。本当、子供みたいだな。そう思ってオレは子供をあやすように
一口の頭にそっと手を置いた。―が。
 バキィッ!!「そのキモい格好のまま触んなーーーーーーっ!!!!!!!!」
 ええーーーーーっ!!!?これなんてリバーサルアタック!?マスクをしたままの顎にギャラクティカマグナムを喰らい、横向きに吹っ飛
びながらオレは心でツッコんだのだった。
*

672:イヌイチ・5
07/10/16 09:28:35 PW8CAqZl
「…これでも飲んで落ち着けよ」
 備え付けの冷蔵庫から缶ジュースを出し、ベッドの上に座った一口に向けて放る。缶は放物線を描きつつ、顔を両手で押さえながら
泣き続ける一口の横にぼすん、と音立てて着地した。
「まだ雨は止んでないみたいだから、止んでから出ようぜ。この辺ホントに雨宿りできる建物無かったし、オレたちまで風邪引いたら
怪しまれちまう」
 窓の外は、まだ大粒の雨で白くけぶっている。今の季節にありがちな夕立かと思っていたが、どうも少し違うみたいだった。
「…随分、余裕だね乾…」
 ぐしゅっ、と鼻をすすりながら一口が呟いた。余裕なんかじゃねーよ。手に持ったミネラルウォーターの蓋を開けながら返す。
 本当のことだ。
「そりゃ泣けるなら、泣いてるよ。…けど何でか知んねーけど、涙が出ないんだ」
「…冷めたの?」
「違う」
 即答に、心なしか一口は小さく身をこわばらせたようだった。…キツイ言い方だったかな。
「けど、矢射子先輩のこと、オレはどの位考えてたかなーって思ってさ。オレが矢射子先輩に求めるばかりで、矢射子先輩が何を求め
ていたか、何を欲しがっているかをオレはずっと気付けなくて…だから駄目だったのかな、なんて思ってた」
 あたしはずっと気付いてたよ。プルタブを開けつつ、一口は答えた。
「でも、しょうがないじゃない。お姉さま以外に好きになれる人がいなかったんだもん。確率がどんなに低くたって、諦められなかっ
たんだもん」
 それは、オレも同じだ。言葉を水と一緒に喉の奥に流し込み、オレは一口の横に座った。―今日が雨でよかった。風にあおられ、
激しく窓を打つ雨の音に、オレは少しだけ感謝した。
「…乾」
「ん?」
「…ありがとね。あんたはバカだけど、今日は近くに居てくれて良かったって思うよ」
「一言余計だ。まあ、オレも思ってるよ。―一人だけだったら、耐えられなかったかも」
 互いに顔も見合さず、壁に向かって続ける会話。けれど、けっして空しいものではない。
 それはきっと、隣がコイツだからだろう。先輩に対する想いを互いに知り尽くし、語り合える、ライバルというよりはむしろ戦友の
ような、小さな、―…大切な存在。
「んふふ」突然一口が笑い出したので、一瞬心を読まれたかとオレの心臓がはねた。
「な、何だよ急に」
「だって乾黙り込んじゃうから何だかおかしくて」
「はあ?」
 そーゆーキャラじゃないじゃーん。自分のセリフがツボにはまったのか、一口の笑い声はさらにボルテージを上げ、ついにはベッド
に倒れ込み、足をバタバタさせながら笑い出した…って、ちょっと待て!
「こ、コラ!見えるぞ一口!!」
 あとベッドにジュースをぶち撒けそうだったので、慌てて缶を取り上げる。
「いいじゃーん別にぃ。減るもんじゃないし」
 それは見られる側のセリフじゃない。ニーソックスと膝上プリーツスカートの絶対領域奥に見えそうなモノの存在にオレはやきもき  
(はしたなさに対する困惑だ。欲情では、断じてない)しつつ、この状態は変だと頭の中で思い始めていた。
「一口、一体どうしたん―げっ」
 嫌な予感に、さっきまで一口が飲んでいたジュースの缶に目をやり、オレは絶句した。
 そこには、割と大きな字で「これはお酒です」と書かれている。

 …言うまでもないが、お酒はハタチになってから、だ。

*

673:イヌイチ・6
07/10/16 09:31:03 PW8CAqZl
「いっ、一口おまっ…これ知ってて飲んだな!?」
 オレの言葉に一口がにへらっ、と笑う。渡してしまったのはオレのミスだが、気付いていながら飲んだのなら、タチが悪い。
「だぁって、18歳はオトナだもーん。パチ屋もレンタルビデオのAVコーナーも、エロパロ板にだって行けるんだもんねー」
 いや…あれ?そうだっけ?最後のが近頃変わったってのは聞いたことあるが。いや、なぜ知ってるかなんて聞いてほしくはないが。
「とにかく、水飲めよ。お前それは酔っ払いすぎだろ」
 ひったくったチューハイの代わりに、オレが今まで飲んでた水を渡すと、一口は赤く染まった頬をさらに真っ赤に染め、間接キスさ
せようとしてるの?と尋ねてきた。
「なっ…!」
「なーんてね。冗談だよ。大体乾にそんな気無いの知ってるし。あたしも範囲外だし」
 とんだ肩透かしである。―…いや、実際そうだけどさ。
「でもさ…あたしだって、そういうコト、出来るんだよ…?」
 ちゃぽん。ペットボトルから口を離し、一口が呟く。水に濡れた唇に不覚にも胸が高鳴ったが、これはさっきのセリフのせいだ。
「ど、どうい…」
「なのにお姉さまったらあんな不自然な髪の色したシスコン野郎なんかにーーーーーーーっ!!!!!!」
 …やっぱりそっちか。再び足をバタバタさせだした一口を尻目に、オレは既に空だった空き缶を手に、くずかごを探していた。
 こういうのって分別すんのかな。でもこの部屋一つしかくずかご無いよなあ。
「いーぬーいー」
「…なんだよ」
 今度は受け流すぞ。と心に決めて、一口の呼びかけに愛想無く返す―が、その意思は
「ね、おちんちん貸して」
 という、水爆発言によりもろくも崩れ去ってしまったのだった。


674:イヌイチ・7
07/10/16 09:32:27 PW8CAqZl
Jack has a bat and two balls.

「…べ」
「べ?」
「べぇーすーぼぉーるはえすえすけー♪」
「…もしもし?」
 もしもーしと呼びかけながら目前でひらひらさせる一口の掌により、オレの意識がもどる。…いけねえ。一瞬なつかしCMの世界に  
飛んでたらしい。
 オレは大きく頭を振り、今なんて言った?と一口に向け問い直した。
「乾のおちん「わーっ!!やっぱ言うな!女の子が!」
 この手のセリフは冷静に喋れば喋るほど相手が恥ずかしく感じるものであり、今もその例に漏れなかった。
「乾、首まで真っ赤だよ」
「オマエ恥ずかしくないのかよ」
「…恥ずかしくないと思ってんの?」
 心外だと言わんばかりに一口が眉間に皺を寄せる。
「や…だったらそんな突拍子も無い事言うなよ…」
「突拍子無くないもん。―…あたし、前にお姉さまが男の姿になったとき思ったの。ああ、あたしお姉さまが相手なら、男でも女で  
も構わない…ううん、今だったらいっそ、あたしが男になったって構わないって」
 そんな時あったっけ?矢射子先輩がやたら体格良かった時の事か?混乱した頭の中で必死に過去の記憶を掘り返す。
「でも、あたしが男になるにしたって、男のカラダを知ってなくちゃ駄目じゃない?だから、乾のおち「ぬわあああああああっ!!!!!」
 それは突拍子無いとは言わないのか?いや、酒が入った人間の論理ってこういうもんなのか?
「だ、大体だな…ぜぇぜぇ…そんな事言われたってオレに何の得があるんだよ」
 喉痛ぇ…。吉田A作ばり(※例えが古いのは仕様です)の絶叫のし過ぎでひりつく喉を押さえつつ、オレはまだ顔の赤い一口に問う。
「あたしの見てもいいよ?」
「オレはロリコン趣味じゃない」
 即答だ。ついでに言えば断言だ。一口はあからさまにムっとした顔になったが、これは譲れない。
「マゾの癖―そうだね」
 言いかけて何か思いついたのか、一口がいたずらを思い浮かべた子供のようにニヤリと笑みを作った。
 ぞくっ。
 オレの背筋に悪寒が走る。ベッドの上でにじり寄ろうとする一口に対し、自然と腰が引けてしまう。
「な、何だよ…」
「乾は、お願いなんかじゃ人の言うこと聞いてくんないんだよね。…じゃあ」
 それまで肩にかけていたタオルを手に持ち、さらに迫ろうとする一口。
 そしてオレはベッドボードに背を押し付けつつ、これから何が起きようとしているのか―きっと、本能で気付いていた。
 一口の、次の言葉には、逆らえない。何故ならば。
「乾―これは『命令』よ。あたしの玩具になりなさい」

 何故ならば、オレは、どうしようもない程のマゾヒストだからだ。

*

675:イヌイチ・8
07/10/16 09:34:10 PW8CAqZl
ぎちり、手を動かせば、後ろ手に縛られたタオルが音を立てた。
「け、結構キツめに縛ってんな…」
「途中でヘンな気起こされたら嫌だもんね。あたしの純潔は心に決めた人にしか捧げないんだから」
 起きねーよ。言いたいのは山々だったが、状況が状況だけに、ありえないとは言い難い。
 悲しいけど、これって性的いたずらなのよね。
「じゃあ、いくよ」
 そう言って、一口はまずオレのタンクトップの上から胸板を触りだした。さするように、ぺちぺちと叩くように掌に質感を覚えさせ  
る行為は、何だか子供の砂場遊びに似ている気がする。
「やっぱり柔らかくないねー」
 タンクトップをまくり上げ、脇腹を触りつつ一口が呟く。
「ちょ…っくく、くすぐってえよ」
「男の人ってこの辺感じないの?」
「え?あー、個人差じゃないの?」
 他人の性感帯なんか知る訳が無い。というか一口、その言い方だと自分は脇腹が感じますと言ってるようなモンだぞ。
 思ったが、今はとりあえず笑いを堪えるのが先だった。
「背中もゴツいね。…あれ?乾ってそんなに汗臭くないんだね。あんな変態な格好するクセに意外」
「大きなお世話だ」
 そりゃ多少は気にするが。
 つか一口、顔近づけ過ぎ。髪の毛の先が乳首に当たってるし。
 オレはくずぐったさに思わずきつく目を閉じる。…それを合図にしたかのように、一口の手は更に下、ベルトの金具へと伸びていっ
た。
 カチャカチャ、…ぶつん、ジー…ッ。
 ジーンズのジッパーが開く音と共に、腰の拘束感がゆるんでいく。―いよいよ、か。目を閉じたままオレは微かな高揚感を味わっ  
ていた。…矢射子先輩、こんな節操の無い犬でスミマセン。
「乾、お尻上げて」
「ん」
 言われたまま腰を上げる―と同時に下半身がひやりとした空気に晒された…って。
「一気に脱がすのかよ!!!!!!」
「ひゃあっ!!」
 オレの反応に一口はジーンズとボクサーパンツを握り締めたまま飛び上がった。
「ば、ばばばバカっ!!急に驚かさないでよ!!」
「お、驚いたのはこっちだ!!オレにだって心の準備ってのがあるんだよ!」
「チンコ丸出しで怒鳴んないでよ下半身靴下だけ男!!」
「だから軽々しく口にすんなって言ってるだろが!!」
 しばし睨み合い、大きく息を吐く。…全く、少しでもドキドキしたオレが間違っていた。
「も、いい。好きにしろ」
「ん。好きにする」
 一口の言葉をきっかけにオレはベッドに仰向けに寝っ転がった。…うわ、この部屋天井に鏡張ってたのか…鏡に映ったオレの間抜け
な姿を眺めつつ、今更そんな事に気付いた自分に苦笑した。
 そんなオレの表情に目もくれず、目の前の少女は自分に無い器官に対し、何とも微妙な表情のままちょんちょん、と指でつついたり  
している。…別に取って食ったりしねーよ。
「ふにゃふにゃしてる」
「勃ってないからな」
「勃たないの?」
「…今の心境で勃てられたらオレはオレを尊敬するよ。男心はファイバードなんだぞ」
「デリケートと太陽の勇者は間違えないんじゃないの乾…」
 一口はそう言うとしばらく思案顔になり、やっぱりあたしも脱ぐね、と自分の着ているシャツのボタンに手を掛けた。
「見ないでよ」
「は?裸をか?」
「違う、脱いでるトコ」
 …?裸を見るのは構わないのに?変な奴。
 わかったよ、と答えつつ、オレは天井の鏡に映った一口の姿を薄目を開いて覗いていた。小さな手が、ゆっくりボタンを外し、シャ
ツを、スカートを、キャミソールを脱がしていく。
 坂田あたりが見たら数年は夜の妄想に困らないだろうなあ。―ふと、そんな考えが頭をよぎり、直後自己嫌悪に陥った。

 ばかじゃねーの。オレ。

676:イヌイチ・9
07/10/16 09:44:58 PW8CAqZl
*
「も、もういいよ。目、開けて」
「…うん」
 目を開けると、白い肌が目に飛び込んできた。本当に申し訳程度にしかない胸と、股間を左右それぞれの手で押さえた一口が、真っ
赤な顔でベッドの上にぺたんと座り込んでいた。
「ど、どうかな?」
「…どうって」何と答えろと―言いかけて、この奇妙な状況に至った理由を思い出した。
 しばらく考えて、オレは口を開く。
「そうだなあ。(お世辞にも筋肉は付いてねーけど)肌も綺麗だし(それは欠点じゃないし)、華奢ってのも(ソレが売りってヤツも
いるらしいし。よく知らないけど)…まあ、アリなんじゃねーの?」
 男になりたいんだっけコイツ。…それで矢射子先輩が振り向いてくれるのかと言うと、甚だ疑問だが。
 オレの言葉に一口はちょっと驚いた表情を見せ、その後更に顔を赤くさせながら、そ、そうかな…褒めてんだよね…と小さく呟いた。
 …ひょっとして照れてるんだろうか。その表情は男になるには勿体無いな、とオレは少し残念に思った。
「え、と、…じゃあ、続けるね」
「…ん」
 胸を隠していた手を外し、一口は再びオレの股間に手を這わせた。
 今度はさっきよりも度胸がついたのか、サオ全体を手で持ってみたり、タマの方まで触ってみたりもしている。
「もちょっと強く触ってもいい?」
 返事を待たず握る力が増し、丁度自分でする位の手の力が、下の自分にかかってきた。―あ、やべ。
「あ、乾のぴくってした。…気持ちいいの?」
「…聞くなよ…」
 くそっ、恥ずかしい。いたたまれず、オレは一口から目を逸らした。
 だがオレの根底に流れるM魂は、見られて弄ばれる恥ずかしさに快楽を見出しつつあった。…本当に節操無いな!このバカ息子!
 そんなオレの煩悶など気にしない一口は、手の向きや触れる場所をいろいろ試しつつ、どの触り方に強く反応するかを熱心に探って
いる。
 上気した頬と、手を動かす度にぴこぴこ揺れる結んだ髪。そして、わずかなふくらみの先に色付く桜色と、閉じた脚の間にほんの少
し見える陰り、という幼女と少女と歳相応の女の姿がごちゃ混ぜになった一口の裸。
 心の底に、それを的確に表す言葉があるにもかかわらず、オレの口は言葉を吐き出さず、ただ快楽を堪える為に歯をくいしばってい
た。

677:イヌイチ・10
07/10/16 09:46:15 PW8CAqZl
「乾、痛い?」
 不意に一口が手を止め、心配そうに尋ねてきた。
「え…?何、で」
「ずっと苦しそうな顔してたから。…ごめんね下手で」
 …別に下手じゃねーよ。
 下手かどうかなんて、とっくにヘソ辺りまで反り返っちまったモノを見れば分かるだろうに。
「相手が、お姉さまだったら良かったのにね」
 一口の言葉がみぞおちをえぐり込む。―今、そういう事言うなよ。ズルいじゃないか。
 わざと明るい口調で言っていたが、逆効果なのは明らかだった。
「…お互い様だろ」
 オレの言葉に、一口はまた泣きそうな顔になった。別に泣かしたくて言ってる訳じゃない。ただ、今やっている事がどれだけ不毛か
なんて、二人ともとっくの昔から分かってた。それだけなんだ。
 傷を舐め合うどころか、紙ヤスリで擦り合うような行為なんかでは、傷は広がりこそはすれども、決して癒えはしない。
 くだらない。情けない。…だから、止めるなら今のうちなんだ。
 ―だが。
「…タオル、ほどくね」
「ヘンな気起こされたら嫌なんじゃなかったっけ?」
 ―それでも。
「いいから、体起こして、じっとしてて」
「起こしてもいいのか?…ヘンな気」
 オレの言葉に一口は息をのんだ。冗談で言ってるつもりはない。それくらいは通じるだろうか。
 少しの逡巡、かなりの高揚。沈黙の後、一口が小さく唇を噛むのが見えた。
「…いいから。でも少しの間でいいからさ、乾」
 ―それでも、オレたちは。
「ぎゅって、抱きしめて」

 傍らのぬくもりを、欲しがらずにいられなかったのだ。


678:イヌイチ・11
07/10/16 09:51:02 PW8CAqZl

*
 とくん、とくん。胸に自分のものでない鼓動が伝わってくるという体験は、初めて味わうが、何ともくすぐったい。
 オレは一口の微かに赤く染まった首筋を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「乾、手ぇ冷たいよ」
「え?ああ、縛りすぎて血行悪くなってたせいかな」
「お尻のところには熱いの当たってんのにね」
「あーもーそりゃ生理現象っスから。自分男っスから。しょうがないっス」
 でもお前だって腰に当たってる辺り、凄く熱くなってんだぞ?
 返したいのをぐっと堪えて、オレは膝の上に座る小さな背中を抱く腕にそっと力を込めた。
 一口の体は、小さい上に柔らかくて、いいにおいがして、ほんの少しの衝撃で潰れてしまいそうだった。
「んー、こうしたら少し楽になるかな?乾、ちょっと腕ほどいて」
「えっ、もう挿れ…」
 …る訳ではなかった。一口は腰を浮かすとヘソに貼りついていたオレのモノをそっと掴み、自分の股の間に挟み込める位置へと場所
を調節させると、再びオレの腰の上へと尻を落ち着かせた。いわゆる素股の体勢、というヤツである。
「こうかな。ん、あれ?さっきよりゴリゴリしてない?」
「…。」―そりゃするよ。さっき腰を浮かせたときに見えちまったんだもの。何を、なんて問うまでもないだろう。
 乳首よりちょっと濃い目のピンク色した、一口の一番大切なトコロ。
 今抱きしめてる体みたいに、小さくて柔らかそうな肉のつぼみが、オレのすぐ近くにあるなんて。
 …もっと見てみたい。触ってみたい。指とか色々奥まで入れて、どんな感じなのか確かめてみたい。そう思うのは男として正しい心
理だと思う。
 こ、このまま挿れても、いいんじゃないかな?つか、すげー挿れてえ。只でさえ今、一口の熱いトコと太ももに挟まれて、オレは爆
発寸前なのだ。加速する鼓動を胸に抱えるオレを知ってか知らずか、一口は場所の微調整のために小さく腰を動かし、更なる焦らしプ
レイをオレに強要してくる。いや、焦らしも嫌いじゃないけどさ。でも、ああああああ。
 そんなオレの心中一人SMは、一口の「これでよし」という声に中断された。
「えへへ…やっぱり」
「へ?…何がやっぱりなんだよ」
 自分の股間を凝視しながらにまにまと笑う一口に、疑問符しか浮かばず、オレは尋ねてみた。
「こうしてるとさ、その…生えてるみたいに見えない?」
 …。何やってんだオマエ。

679:イヌイチ・12
07/10/16 09:51:56 PW8CAqZl
言われて、渋々一口の薄い陰りからほんの少し顔を出したオレのモノの図(あまりいい図ではない)を見てみる。
「ね、どうかな?」
 …それは多分、一口の未成熟な腰周りのせいかも知れないが、…言われてみれば、少し考える時間を貰えれば見えない事も無い…
「…気がする…ドスッ!!「おふっ!」
 思考が漏れていたらしい。呟き終わると同時に、脇腹にキレのいい肘鉄が飛んできた。
「未成熟で悪かったわねバカ犬!アンタにはデリカシーってもんが無いの!?」
「で、デリカシーって、…言葉の使い方間違えてるだろオマエ!デリカシーってのは人のチンコ股に挟んでる女が使う言葉じゃないん
だぞ!?」
「あーっ!自分だってチンコって言ってる!!」
「オレは男だからいいんだよ!つかまた言うなよ!」
「あたしだって男になるもん!!」
 ―ずきん。真っ赤な顔で見上げながら放つ一口の精一杯の反論が、胸に突き刺さった。
「あたしだって…阿久津くんやアンタに届かなくても、お姉さまに近づけるなら…なるもん…バカ…」
 肩を震わせて言い切ると、一口はそのままうつむき、すん、と小さく鼻を鳴らした。
「…ばかやろう」
 男になったって、あの人に近付ける訳では決してない。今の自分がいい例じゃないか。
 それでも尚一心にあの人の背中を追うって、どんだけ気合入れてんだよ。
 こんな小さな体のどこに。
 …そう思うと急に胸が苦しくなってきた。鼻につんとした痛みが走り、オレはごまかすように一口の体を強く抱きしめた。
「!?…っ、い、痛いよ乾…」
 膝の上の一口が身をよじる。けれどオレは腕をほどけない。
「乾?…泣いてるの?」
「…見るなよ…」
 ずっと泣けなかったのに、どうしてこんな時に限って涙が止まらないんだろう。
 オレは一口の小さな肩にまぶたを押し付け、声を殺して泣いた。
 一口は、何も言わず、黙って肩を貸してくれた。

 二つの心音が重なり合う中、ゆっくり、ゆっくりと時間は過ぎていった。

680:イヌイチ・ラスト
07/10/16 09:52:50 PW8CAqZl
*******
 どしゃ降りだった雨はすっかり上がり、夕暮れの街はひやりと澄んだ空気に包まれていた。
「あー、もう一番星が出てる」
 一口の言葉につられ空を見上げると、ビルの谷間から小さな光の粒が見えた。
「早く帰んないとな。一口んトコ門限早いんだろ?」
「うん。ウチの親、ちょっとだけ過保護だから…乾の家は?」
「そんな厳しくないかな。でもまあ、女の子は早めに帰んないと駄目だろ」
 オレの言葉に一口は、乾って意外と古風だねーと笑った。そうかもしれない。が、特に一口の場合は見た目の問題もあり、夜道など
ホイホイと歩いてたら洒落にならないような気がしたのだ。
「ホント、女の子って損してるよね…」
 はあ、と溜息混じりに一口がぼやく。ぴこん、と大きくはねる髪を横目に、でも損ばかりじゃないんじゃないかな、とオレは小声で
返した。
「少なくとも、男のカラダはあんな柔らかくねーぞ」
 …沈黙。やべっ。オレまずい事言ったかな?いきなり足を止めた一口に、オレは何か言い訳をしないといけない気がして、必死に弁
解の言葉を考えていた。
「あー…えと、今のはだな」
「…乾、続きしなくて良かったの?」
「へ?」
 反応の悪いオレに、一口は顔を真っ赤にさせながら、言いにくそうに口をモゴモゴさせた。
「だからっ、…その…れ…なくて」
「何?挿れなかった事か?」
「大声で言うなーーーーーーーーっ!!!!!!」
 ばちーん。ビル街に盛大なビンタの音がこだました。

 ―結局、オレたちは至るところまで至らぬまま、フロントからの無粋極まりない休憩時間切れコールによって、部屋を追い出され
たのだった。
 残り数分でコトを達成できるほどのボルテージも、延長料金を支払うだけの金銭的余裕も、あいにく持ち合わせていなかったオレた
ちは、まだ半乾きだった服を着込み、早急に、かつ周囲に見知った顔が無いか慎重に、ホテル街を抜け出した。

 挿れたく無かったと言えば、嘘になる。
 ジーンズを穿き直した時、朝勃ちよろしくいきり立ったモノをしまい込むのに四苦八苦したのも、そのモノを濡らしていた自分以外
の体液の存在が、更に行動力を低下させていたのも事実だ。―けれど。
 もしあのまま一口と体を重ねてしまったら。
 本能のおもむくままに蹂躙しつくしてしまったら。
 オレはオレの中に居る、一口夕利という存在を、オレと同じ人をオレ以上に一途に想う仲間を、この手で壊してしまうところだった
のだ。―それは、耐えられない。
 多分、矢射子先輩に嫌われるよりも。
「どうしたの?急に黙っちゃって」
「…いや、何でもない」
 オレの言葉にふーん、と首を傾げ、数歩前をぴょこぴょこ歩く一口のうしろ姿。
 当たり前すぎる風景―だからこそ失うのは、今のオレには辛かった。
「―…」
「え?何か言った?」
 夕暮れの風にかすれてしまった声に、一口が振り返る。その無邪気な表情に、オレはゆっくり頭を振り、酒抜けたのか?と代わりに
尋ねた。
「自販機のジュースならおごってやるぞー」
「んー、もう一声!せめて昇龍軒のネギチャーシュー!」
「どこが一声だよ!…んじゃ、オレより先に店着いたらオゴリな!」
「よし乗ったぁ!!じゃっ、お先!」
「今からかよっ!」
 オレは華麗なスタートダッシュを決める一口の背中にツッコミを入れつつ、追い抜かないようにちょっとだけ加減しながら、夕暮れ
の街を走った。

681:イヌイチの人
07/10/16 09:59:19 PW8CAqZl
…以上です。うわあっ!タイトル、3が抜けてるー!コピー位置もなんか変だー!
自分で書いてみると職人様の偉大さがわかるって、ばあちゃんが言ってたけど本当だったよ…。
微エロ長文失礼しました。では、またROM専に戻ります。


682:名無しさん@ピンキー
07/10/16 21:06:34 6jyYG8fB
乙です!
色々小ネタが利いてて、面白かった。

683:名無しさん@ピンキー
07/10/16 23:40:12 PueBCIeF
>>670-
ちょおま、あなたが神か!?
聴力16倍とか懐かしくて笑い泣きした。GJです!

684:名無しさん@ピンキー
07/10/18 14:57:51 mVvXups/
>670
エロパロではありえないぐらい泣いてしまいました。
一口と乾、本当に二人は矢射子のことを好きだったんだという切なさが
文章から溢れてて、今、息ができないぐらいツボってます。
キャラを大事にされていることが伝わりました。
もて王という作品の素晴らしさも再確認。
また是非投下よろしくお願いします。


685:名無しさん@ピンキー
07/10/19 22:00:20 +yDBiqPz
>670
非常に感動しました!
乾と一口二人の思いが物凄い良かったです!いれないのがイイ!!

宏海と矢射子バージョンも見たい!

686:名無しさん@ピンキー
07/10/20 01:50:46 3xCYXmpc
スレチかもしれませんが、女体化玲夜の自慰ネタとかないですかね?
昔書いたんですが、ネタ的に際どいので迷ってます。


687:670
07/10/20 14:06:29 vOMIQnxn
舌の根も乾かぬうちに戻ってきました。温かな感想、本当にありがとうございました。
御礼代わりにイヌイチの補足じみたおまけを投下いたします。
苦手な方は「イヌイチ」NGワードでお願いします。

688:イヌイチおまけ~雨宿り1
07/10/20 14:07:30 vOMIQnxn
舌の根も乾かぬうちに戻ってきました。温かな感想、本当にありがとうございました。
御礼代わりにイヌイチの補足じみたおまけを投下いたします。
苦手な方は「イヌイチ」NGワードでお願いします。

689:イヌイチおまけ~雨宿り・1
07/10/20 14:08:23 vOMIQnxn
******
「ただいま」
「夕利、いつまで遊んでたの。もう日が暮れてるじゃない」
「ごめんなさい、ちょっと雨宿りしてたから遅くなっちゃった」
 家に入り早々飛んできた母親の小言に、あたしは平気な顔で理由を言う。
「あら…そういえば服濡れてるわね。風邪引いちゃうから、お風呂入っちゃいなさい」
「はーい。あ、今日、晩ご飯いらないよ。外で食べてきたから」
 部屋に入って着替えを手にし、ぺたぺたと足音を立てて風呂場に向かう。そして服を脱ぎ風呂場の鍵を閉めて―あたしは、その場に
へたり込んだ。
「…はあ…」
 理由のどこにも、嘘は無い。雨宿りだって外でラーメン食べて帰ったのだって本当だ。
 なのになんでこんなに胸がドキドキするのだろう。
*
「まあ、男に二言は無いからな。えーと、ネギチャーシューふたつ!あ、オレのは大盛りで!!」
「あ、ずるーい乾!」
 競争の末に駆け込んだ先のラーメン屋で、あたしは水を飲みながら息を整える乾に文句を言った。
「何言ってんだよ。オゴるのはオレなんだから、ズルいも何もねーよ。それに、さっさと食って出ねーと、もう日が暮れてんだぞ?オマ
エ、卒業式ん時だってやたら食うの遅…」
 途中まで口にして乾はしまった、という顔をした。思い出してしまったのだ。

 ―卒業式の日。あたしと乾が、はっきりと分かる形でフラれた日。フラれた者同士、ヤケ食いしてパーっと忘れようぜって乾は誘っ
てくれたけど、苦しさと涙でしょっぱくなったラーメンは、とてもじゃ無いけれど食べられる代物じゃなかった。

「…悪い、無神経だった」
 呟いて、バツの悪そうな顔のまま乾はコップの水を飲み干した。
 賑やかな店の中、あたしと乾の間だけ、しばらく時間が止まったみたいに静かになる。
「…ほんと、あの時のラーメン、おいしくなかったよね」
 水差しに伸びた乾の手が止まる。あたしは、おしぼりを手で弄びながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「だからさ、今日は、ちゃんと美味しく食べようよ。前に残しちゃった分も。お腹空いちゃってるし、ね?」
 お待ちどうさん。丁度いいタイミングで、目の前にネギチャーシューメンが二つ並ぶ。ほわほわと立ち昇る湯気の温かさに、あたしは
目を細めた。
「―…強えーな、一口」
 ぱきん、と口で割り箸を割りつつ、乾が呟く。そしておもむろに自分の丼からチャーシューを三枚、あたしの丼によそった。
「やる」
 それだけ言うと、乾は黙々と大盛りのラーメンを啜り始めた。何で、とは思ったけれど、聞いちゃいけないような気がしたので、同じ
ようにあたしも黙って食べることにした。

 乾と食べる二度目の食事は、お腹と胸にじんわり温かくて、こういうのも悪くないなって、ちょっとだけ心の隅で思った。

690:イヌイチおまけ~雨宿り・2
07/10/20 14:10:06 vOMIQnxn
*
「―強えーな、か」
 ノズルを固定し、頭からシャワーを浴びつつ、あたしは乾の言葉を反芻した。
 本当は、そんな事無い。まだ全然振り切れてない。
 だからこそ、今日だってとんでもない理由をつけて乾を振り回していた。きっと断らない。心でそう決め付けて。
「…乾だって傷ついてるくせに」
 つう、と背中に水滴が流れた。―あの時と同じ、温かい滴。強く強く抱きしめながら流していた、涙。
 正直苦しかった。ただでさえ馬鹿力な乾の力一杯の抱擁は、今もあたしの二の腕に痕を残している。
 けれど、嫌じゃなかった。
 乾の体温と、心臓の音がゆっくり体中に伝わってきて…どっちかって言うと気持ちよかった―…え?
「き、気持ちいいって、あたし何考えてんの?」
 自分の思考にツッコミを入れ、シャワーの栓をさらに緩める。
 ざあああああっ。全身に強い飛沫を浴びつつ、あたしは一番思い出すのが恥ずかしい記憶を必死で消そうとした。
 それなのに、忘れようとすればするほど明瞭に思い出してしまう。
 そうだ、あたし、裸の乾に裸のカラダ、抱きしめられてたんだ。…ううん、それだけじゃない。

 ―あたし、乾のおちんちんを自分のアソコにくっつけてたんだ。
 
 途中、乾が「女の子がそんな言葉使っちゃいかーーーーん!!!!」と叫ぶ姿が思い浮かんだが、コンマ1秒で追い払う。
 問題はそこじゃない。
「ちょっ、ちょっとあたし何て事しちゃったのーーーー!!!?」
 あたしはあまりの恥ずかしさに絶叫し、再び風呂場にへたり込んだのだった。
*
「夕利どうしたの?お風呂で叫んだりなんかして」
「…ん、なんでもない。ちょっと変な虫がいて驚いちゃっただけ」
 ふらふらになりつつ、風呂の外で目を丸くさせてた母親にぼんやりと言葉を返す。
「おやすみ」
「あら、もう?昼間に録っといた『アタック25』観ないの?」
「…それ明日観るから。絶対消さないでよ」
 前科のある母親にクギを刺し、自分の部屋に入る。今日のアタックチャンス面白かったのにねーとぼやく親の独り言もそこそこに、あ
たしは部屋の中電気も点けず、ぼふんっと頭からベッドに突っ込んだ。
「はぁ…」
 どうしてくれんのよ。さっきから頭ん中離れてくんないじゃない。
 そりゃあたしが原因だってわかってますよ。ええ。わかっててお酒飲んだのも、乾のチンコ貸してって言ったのも…アソコにくっつ
けたのも全部あたしよ。
 けれど。…けれどねぇ…。
「あんなにおっきいなんて思わなかったわよーーーーっ!!!!乾のバカーーーっ!!」
 足をバタつかせ、枕に顔を押し付けながら、あたしは叫んだ。(もちろん、声は枕の中でモゴモゴとくぐもった声に変わっている)
 ―乾のアレは、大きく、図太く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさに肉塊だった。
 更に乾自身はといえば、全く自覚が無かったのだから、本当に始末に負えない話だと思う。 
「あんなの…入らないよね…」
 というか、まず壊れる。『処女殺し』どころの騒ぎではない。となると、あの時フロントから電話がかかったのは自分にとっては正に
天の助けだったとしか言えない。…着替え中に悶絶していた乾には悪く思ったが。
「…」
 ―…それでも。
 それでも、あの時は受け入れていいと、本気で思ったのだ。
「気の迷いだけどっ!!一瞬の幻覚だけどっ!!」
 枕の中で必死に打ち消しても空しさばかりが残る。…ああもう、何でこう思い出したくないことばかり思い出しちゃうんだろう。
「…はあ」
 今日何度目かの大きな溜息で顔を押し付けた枕に熱がこもる。あーあ…これってヤバいのかなあ?
 あたしどんな顔して明日、アイツに会えばいいんだろう。

691:イヌイチおまけ~雨宿り・3
07/10/20 14:11:50 vOMIQnxn
*
『~♪』
 カバンに入れっぱなしだった携帯電話から着メロが鳴ったのは、そんな時だった。曲名は『LA BOHEME』―この曲だと、相手は。
 ピッ。「…乾?」
『出るの遅せーよ一口。どうせまたあのオッサン臭い着メロ聴いてたろ』
 着信ボタンを押して早々、なぜ人の着メロにケチを付けられないといけないのだろう。
「別に中森明菜はオッサンじゃないもん。それより何よ急に」
『ん?あー…まあ、急用って訳でもないんだけどさ…』
 歯切れの悪い乾の言葉に、あたしはだんだんムカムカしてきた。何でこんな奴のことであんなに悩んでたんだろう。
「急用じゃなかったら、明日学校で話せばいいじゃん。じゃあ、切るよ」
『わーっ!待て待て!!…えーと、今日はありがとな』
「え?―…何が?」
 電話の向こうでぐっ、と息を詰まらせる音が聞こえた。
『何がって…その、色々と。…あ、ホラ、矢射子先輩絡みで踏み込んだ話できんの、オマエだけだし』
 どきん。意味は違うってわかってても、最後の言葉に心臓が強く音を立ててしまう。
 本当、勝手だなあ。自分で自分の体のコントロールもできないなんて。
『そ、そうだ!…その、アレ…内緒だからな』
「乾が全裸であたしに抱きつきながら、ボロボロ泣いてた事?」
『っ…!!それもそうだけどっ!!…ヘンな言い方すんなよな。―…先輩が阿久津とラブホ入ってった事だよ。あんなの周りに知られたら
問題じゃねーか』
 内容が内容なだけに、乾の声が小さくなる。そしてあたしはといえば、分かっていた話の筈なのに、なぜか胸に穴が開いたような、
ジェットコースターの下り始めのような、何とも表現しにくい気持ちになった。
 ああ―そうだよね。
 乾の一番好きな人も、お姉さまなんだ。
『聞いてんのか?…一口?』
「…聞いてるよ」
 あたしはあくまでも、同じ相手が好きなライバルで、同好の士とかいう類に過ぎない。
 あの時流した涙だって、お姉さまに向けられたものだった。
 断じて、あたしにじゃない。―やだなぁ。何変な勘違いしてたんだろ。
『…泣いてるのか?おい、泣くなよー』
 沈黙に、電話の向こうから乾のオロオロした声が聞こえる。
 ばか。
「―…泣いてないよ、バカ犬」
 泣く訳ないじゃない。あんたの為なんかに。
 泣くもんか。
 今さっきまで感じていた胸の高鳴りが、嘘のように引いていく。―大丈夫だ。これであたし達はまた、いつも通り。
 何も変わってない、いつもの二人になれる。
「ありがと」
 あたしはそっと目を閉じ、一言だけ礼を言った。乾には上手く伝わらなかったのか、しどろもどろな言葉が返ってきたが。

 それから、明日の小テストの範囲や近く行われる体育祭の事など、他愛もない話をしばらく続け、電話を切った。

 携帯電話のディスプレイを閉じたあとの部屋は真っ暗で、カーテンを開けっ放しにしていた窓から見える星空が、やけにはっきりと見
えた。


692:イヌイチおまけ~雨宿り・4
07/10/20 14:12:57 vOMIQnxn
******
「―…ふう」
 充電器に電話を突っ込み、大きく息を吐く。
 電話先の一口は、オレの心配など不必要なほどに、いつも通りの一口だった。
 …家に帰ってしばらく、今日起こったとんでもない出来事について考えていたらどうにもならなくなり、意を決して電話をかけたのが
1時間前。―結果、一口の態度のおかげで、オレ自身ようやくいつものペースを掴むことが出来た。
 多分、一口にはオレがそれまで何を考えていたかなんて、これっぽっちも伝わってないだろう。
 けれど、これでいいんだ。
 オレと一口が今まで通りの関係であり続けるために。
 いつかは雨が止むと分かっていながら動くことの出来ない、雨宿りの二人で居続けるために。
 ヘタレの言い訳だってのは百も承知だ。―…けれど、オレは本当に馬鹿だから、他に方法が見つからない。
「…」
 オレはしばらく目を閉じ、大きく息を吸い込むと、ベッドの上に散らかしていたスウェットとパーカーを着込み、部屋を出た。
「ちょっと、ランニング行って来る」
 言い残して玄関の鍵を持ち、オレは夜中の住宅街へと足を踏み出した。

 昼間の雨が嘘のように空は晴れ、頭上にはいくつもの星が瞬いている。
 けれど、オレにはその星々が、未だ降り止まぬ雨粒のように見えた。


693:イヌイチの人
07/10/20 14:29:40 vOMIQnxn
…すみません>>691はミスですorz(自分毎度打ち込みミスしてる気がする)
最初にも書きましたが、自分の拙い文章に温かな感想、本当にありがとうございました。
読み手の感想が書き手の原動力になるってばあちゃんが言ってたけど以下略。
また機会があれば(宏海&矢射子の話を含め)投下したいと思います。
では。

追記:>>689さん、個人的には玲夜の女体化はいつものことなので(…。)、OKかどうかは自慰の対象(男か女か)次第かなと思います。
…どうなんでしょう。

694:イヌイチの人(携帯版)
07/10/20 17:58:42 cmp0L7dC
「オマケ・2」でやらかした大ミス:誤「大雑把」→正「超立派」
…って下ネタ(しかもパロディ)でミスやらかすの恥ずかしいーーー!!!!訂正は更に恥ずかしいーーー!!!!

ちょっくら贄になって来ます。生きてたらまたお会いしましょう。
では。

695:名無しさん@ピンキー
07/10/20 18:52:41 /KuC5MXP
乙だ……乙だ!
バラダギ様の乙じゃー!

696:名無しさん@ピンキー
07/10/21 00:23:10 T24wHqk4
>>689
個人的にはありだが、心配なら注意書きやNGワード指定、改行などの
対処してくれると良いかと

>>691-
オマケもGJ!乾の巨根設定こっちで使うとはw

697:名無しさん@ピンキー
07/10/21 15:08:01 j9jZolGu
>>690
今回も切なさMAXで、胸にグッと来ました。
もうこの二人がどうなるのか気になって…
また是非お願いします。楽しみにしています。

>>689
全然アリ。こちらも楽しみに待っております。


698:689
07/10/21 17:01:27 TSqaTrXw
皆様の優しさに甘えて恐る恐る投下します。

杉音をオカズに自慰をする女体化玲夜というキワネタなので、
苦手な方はスルーお願いします。一人称は僕です。


699:女体化玲夜1
07/10/21 17:06:57 TSqaTrXw
一人で使うには広すぎる部屋の中。備えつけの大きな鏡の前に立って、僕は溜め息をついた。
そこには僕とそっくりな顔をした女の子がいた。

僕の通うドキドキ学園高校には学園長をはじめ間界人がたくさんいるから、毎日必ず何かしらの事件が起こる。
太臓と悠が転校してきてから、その回数は確実に多くなっている。まぁ、彼らには助けてもらったこともあるけど。

でもさすがにこれはないと思う。僕の胸には二つの膨らみ。せっかくだから少し触ってみる。

(何これ。すごくやわらかい)
こんなにやわらかいもの触ったことがない。例えるならゴム鞠?それで結構大きいほうだと思う。
元会長には及ばないけど、佐渡さんよりは絶対に大きい、って佐渡さんに失礼だよね。ごめんね、佐渡さん。

そんなことをしていると僕はあることに思い至った。

(姉さんのもこんなにやわらかいのかな?)
僕の顔は真っ赤になる。急に胸の脂肪のかたまりが神聖なもののように思えてきた。
と同時に忘れかけていた罪悪感が僕を襲った。

700:女体化玲夜2
07/10/21 17:12:42 TSqaTrXw
僕は一回だけ姉さんのエッチな妄想でしたことがある。お手伝いさんが畳んで持ってきてくれた洗濯物の中に姉さんの服が混じっていて、
いけないと思ったけど匂いを嗅いでみたら花のような姉さんの匂いがして。そのままベッドでしてしまってすごく後悔した。
純粋できれいな姉さんを汚してしまった罪の意識で、僕はしばらく姉さんの顔をまともに見ることができなかった。

僕は自分が怖い。大好きな姉さんは僕と同じ家に住んでいて。僕はいつか本当に姉さんを穢してしまうかもしれない。
もしそんなことになったら姉さんは僕のせいで傷ついて二度と会えなくなってしまうだろう。
僕にとって姉さんと一緒にいられなくなるのは死ぬほどつらい。でも、姉さんが傷つくのを見るのは死ぬよりつらいだろう。

皮肉にも今の僕の体なら姉さんを傷つけることはない。案外僕はこのままの方がいいのかも。

でも、新しい体にはまだなれない。半日も経ってないんだから当たり前か。声は少し高くなったけど女性にしてはハスキー。
声と胸以外はあまり変わってないみたい。認めたくないけど、もともと僕は女の子と間違われることが多かったから。
小さいころは仕方がないと思うけど高校生にもなってそれは正直酷いと思う。そういえば学ランを着ているのに間違われたこともあった。


701:女体化玲夜3
07/10/21 17:14:41 TSqaTrXw
僕は改めて鏡を眺めた。そこにいるのは女の子の僕。姉妹なのにぜんぜん似てない。姉さんの方が断然美人だ。
そして見たことないけど、ここも姉さんの方が絶対に豊かできれい。

いつのまにか僕の手は制服のシャツをくぐって、胸を触っていた。

(だめ……いけない……)
さっき反省したばかりなのに。僕は姉さんの体を思い浮かべながら、胸に顔をうずめて両手で乳首を弄る。

「はぁ……んっ」
鼻にかかったような声が出て僕は驚いたけど、手は止まらないし声も抑えられない。とても気持ちよくて。
女の子ってこんなところが気持いいんだ。皆触っているのかな。姉さんはしないよね。でも、もしかして。

僕は体温がいっぺんに上昇した気がした。何だか汗もかいていて気持ち悪かったので、僕は中断して着替えることにした。

ズボンを脱いで下着に手をかけたとき、僕は違和感を抱いた。

702:女体化玲夜4
07/10/21 17:17:24 TSqaTrXw
(濡れてる?)
下着を脱いで、恐る恐るそこに手を伸ばして確認する。僕の指には透明な粘液がついていて、それが糸を引いていた。
精液とは濃さが違う。

「……」
僕は鏡に向かって座った。どう考えてもその行動は普通じゃなかったけど、僕は好奇心に勝てなかった。

そして次の瞬間、僕は固まった。

(何、これ)
保健の授業で習ったことがあるけど、教科書に載っていたのと少し違う気がする。ピンク色なのは前と変わらない。
でも形が問題だった。アワビに似ている。やめよう、アワビ好きなのに食べられなくなってしまいそう。
ここに入れるんだろうか。普段見慣れているアレを。

指で周りをなぞってみる。本当に今日の僕は普通じゃない。といっても体自体が普通じゃないんだけど。
人差し指がコリッとした感触の豆のようなものに行きあたった。実は鏡に映したときから気になっていたんだけど、これは何?


703:女体化玲夜5
07/10/21 17:20:06 TSqaTrXw
それを軽く押してみる。ついでに元の体にしていたように擦った。

「!!!」
僕の体に電流が走った。今のは何?知っているけど知らない。頭が混乱してきた。とにかくこんなに強い快感を僕は知らない。
女の子ってこんなに気持ちのいいことをしているの?うらやましいかどうかはわからない。だって僕には刺激が強すぎる。

「あ……あっ……姉さん……!」
姉さん、姉さん、と僕はうわ言のように繰り返す。

想像の中で攻めたてるのは僕。
「あっ……やあっ……!」

そして受け入れるのも姉さんになった僕。

あまりの快感にそこを擦る指が止まらない。

「あっ……あ……あああっ!!!」
頭の中が真っ白になる。イった?一瞬ものすごく気持ちが良くなって、下腹が震えたけど、精液が出ないからよくわからない。
鏡で見ると、そこがまるで口みたいにパクパクとせわしなく開いたり閉じたりしていた。

僕は呆然とそれを見つめ、やがて意を決して収縮を繰り返す隙間に人差し指を入れた。

704:女体化玲夜6
07/10/21 17:22:23 TSqaTrXw
「っ!」
今の僕はまぬけ以外の何者でもないと思う。あまりの痛みに第一関節まで入っていた指を引き抜く。ジンと痺れた感覚がした。

(もうやめよう)
痛みで気持ちが萎えたというのもあるけど、そのとき僕は頭の中で姉さんになっていたから、姉さんが痛がることをこれ以上続けたくなかった。
まったく変な理屈だと僕自身思う。

僕はのろのろと制服を着る。今の行為に何の意味があったんだろう。自分に姉さんを重ねて。結局独り相撲だ。
自慰行為だからそれも仕方がないけど。

僕は急に胸が苦しくなった。この胸の痛みはたぶん姉さんを再び汚してしまったことへの罪悪感。

突然自分の心に降って湧いた疼きに適当な名前をつけて、僕はバスルームに向かう。汗をかき過ぎていた。

(さっきのことは忘れよう。もう二度としない。姉さん、ごめんね)

705:女体化玲夜7
07/10/21 17:23:43 TSqaTrXw
僕がバスルームの引き戸を開けると、姉さんが湯船につかっていた。

「う、うわっ、ごめんなさいっ!!!」

しまった!ぼーっとし過ぎていた!

僕が混乱した頭で謝る間、姉さんは不思議そうな顔で僕を見ていた。僕が慌てて出て行こうとすると、姉さんが意外なことを言った。

「玲ちゃん、一緒にお風呂に入ろうと思って待っていたのよ?」
妹ができたみたいでうれしいな……って姉さんは無邪気に笑った。

広いバスルームで、姉さんに体を洗ってもらったり、洗ってあげたりする間、僕は恥ずかしくて姉さんの顔を見ることができなかった。
そんな僕を見て、姉さんは、玲ちゃん、のぼせちゃった?なんて、その鈴が転がるような声で聞いてくる。

(もう、純粋すぎるよ……)
やっぱり僕は姉さんを傷つけたくない。でも。僕はさっきしたばかりの決意がグラグラと揺れるのを感じた。

僕は今夜もしてしまうかもしれない。


706:あとがき
07/10/21 17:33:50 TSqaTrXw
これで全部です。うっかり女体化玲夜に萌えてこのようなものを書いてしまいました。
お目&スレ汚しすみませんでした!ROMに戻ります。

707:名無しさん@ピンキー
07/10/21 18:57:21 +A1zMrln
>>701
…なんという気持ちイイことパラダイス(SexySexyにちなんで)!乙&GJ!

玲夜の心情が丁寧に書かれていて、見ているこちらまでドキドキさせて頂きました。杉音の天然ぶりもいいなぁ。
よろしければ、またお願いします。

708:名無しさん@ピンキー
07/10/21 20:51:02 oq8zWdE4
久しぶりに来たら神が連続降臨、満を持してしてる…!

709:名無しさん@ピンキー
07/10/22 00:09:13 vKuRNOvL
>>701
待ってました!
玲夜が、杉音を本当に愛しいて、それだから行為を続けられたなかったというのに
胸がキュンといたしました。
素敵な作品を読ませていただきありがとうございます。

本当、神がいっぱいだわー

710:名無しさん@ピンキー
07/10/22 19:25:24 3ybeiL0y


711:名無しさん@ピンキー
07/10/23 21:04:27 4aLnYUzS
ネ申だ…ネ申が立て続けに降臨なさっておった…!!
イヌイチも大木姉弟も大好きすぎるから嬉しい!

712:名無しさん@ピンキー
07/10/27 14:01:54 tGOF/jH1
投下します。
カップリングは宏海×矢射子で、「イヌイチ」の裏的話になっております。(一応、単品でも読めるかと思いますが)
苦手な方はNGワード「モモテウラ」でお願いします。

713:モモテウラ・1
07/10/27 14:02:58 tGOF/jH1
******
 晴れ時々曇り、所により一時雨―今日の天気予報だ。
 ふざけた内容だと思う。立ち食いソバ屋でいきなり『トッピング全部のせ』が出されるようなもんだ。冗談じゃない。下手な鉄砲の例
えでも狙ったつもりか。
 しかもこっちはソバじゃない。人の運命さえ左右させかねない、天候という重要な問題なんだよ。
 その辺分かってんのかそこの太眉ちり毛。
 何テンパってんだって?そりゃテンパりもするだろうよ。
 オレは今、その全部のせな天気予報のおかげで人生の岐路ってヤツに立たされてるんだからよ。

 濡れた髪が頬に、水滴とも脂汗ともつかない雫を滴らせ続けている。
 けれどオレはそれを拭う事すら出来ず、ただ馬鹿でかいベッドの片隅で、誰に言うでもない状況説明を始めていた。
 説明といってもオレはテリーマンやらヤムチャやら、ましてや虎丸のような解説役ではない。れっきとした当事者だ。
 あと例えが古い言うな。

 ―本当、何言ってるんだろな。奥のシャワールームから響く水音をBGMに、オレ、阿久津宏海は、自分のやっている事の間抜けさに、
大きく溜息を吐いた。

714:モモテウラ・2
07/10/27 14:03:56 tGOF/jH1
*
 身にふりかかる火の粉を払うように、喧嘩に明け暮れる日々―いや、ここ数年は災難に振り回される日々の方が多かったが―の中、
オレに彼女と呼べる存在が出来たのは、つい数ヶ月前のことだった。
 とは言えオレは自慢じゃないが、POPEYEやらメンズノンノやら、ましてやデートぴあなど無縁の…この言い回しはさっきも使ったな…
平たく言えば、女との付き合い方など全然まったくわからないまま、5度目のデートへとおもむいたのだった。
「悪い、待ったか?」
「ううん、今来たトコ」
 …には見えねえよなあ…。オレは駅の柱の陰に不自然な感じで倒れ込んでいる数人の男の姿を、チラリと横目で見た。
 これは、付き合いだしてから知った事だったが、コイツ―百手矢射子、オレの彼女だ―は、街を歩けはそれなりに、男から気安く
声を掛けられるらしい。
 ついでにその度に一刀両断にしてきたらしいが。
 ―…別にオレだって、そういう目で矢射子を見た事が無い訳じゃない。
 今だって、隣を歩く矢射子のさらりとなびくポニーテールの髪や、後れ毛が色気をかもす白いうなじ、ぱっちりしたタレ目をふちどる
意外と長いまつげ、薄いカーディガンの下で存在を主張しているボリュームのある胸に、ガラにもなく胸を高鳴らせているのは事実だ。
 …だがなあ。
「ど、どうしたの宏海?」
「え?」
「さっきから髪見てるから…あっ、ひょっとして行きがけに太臓を武装セイバーでぶっ飛ばして来た時、近くの鳩を身につけてたから…
ヤダッ!!あたし、何かヘンな落し物されてる!?」
「―…いや、されてねえよ…」
 朝から武装セイバーって。しかもデートの日に。キャストオフ時に盛大に鳩を飛ばす矢射子の姿を想像し、オレは軽い眩暈を覚えた。
「あ、太臓ならとりあえず持ってたポップコーンと一緒に鳩のエサにしといたから!」
「鳩無残!!」

 最初のデートは花見だった。次は動物園。その後ボウリングやら水族館やら行き、今日のデートは映画。
 『鼻をなくしたゾウさん』とかいう、どこかで聞いたことがあるタイトルの映画の前売券は、公開一ヶ月前に矢射子から手渡されたも
のである。
 ずいぶん楽しみにしてたんだな。…しかしコイツ予備校とか大丈夫なんだろうか?
 映像に集中する矢射子を、オレはそっと盗み見る。青白い光に照らされた、横顔。強い意志の光が宿る瞳。
 ―どきん。
 いつも妙な行動や発言をやらかす印象が強いだけに、黙っていると強烈なギャップを感じてしまう。
 ―ずきん。
 そして同時に、オレの胸は小さなトゲが刺さるような痛みを感じるのだ。

「よ、良かったねあの映画」
「ん…ああ」
 正直オレは内容を覚えていない。矢射子を見ていたのも理由の一つだが、それより矢射子の向こう隣の座席から、妙な気配を感じたか
らだった。その席には誰も居ないようだったのだが…。
 …やめとこう。下手にツッコむと、口に靴を突っ込まれかねない。
 ―気配といえば。オレはもう一つ感じたものに関して、矢射子に尋ねてみる。
「なあ、矢射子お前…映画見てる時、何か頭の辺りチリチリしなかったか?」
「?」
 オレの問いに矢射子は首を傾げた。…気のせいか。
「や、オレの気のせいだ。多分」
「そう…」
 小さな、沈黙。オレたちのデートには時折こういった気まずい空気が流れる。それは、5度目ともなった今回も変わらなかった。
 オレも矢射子も、沈黙を壊そうとそれなりに考えてはいるのだが、上手く言葉が続かない。
 …オレはともかく、矢射子はいいんだろうか。疑問に思う。
 ―ぽつん、大粒の水滴がアスファルトを叩き、沈黙を破ったのは、そんな時だった。

715:モモテウラ・3
07/10/27 14:05:08 tGOF/jH1
*
「これ被っとけ。少しはマシだろ」
「で、でも宏海…」
「いいから!!」
 喋る間にも雨粒は、オレたちの頭やら体やらを容赦なく水びたしにしていく。オレは矢射子の手を引き、雨宿りできる場所を探した。
「くそっ、確かこの辺にゲーセンがあった筈なんだが…」
 うろ覚えを頼りに、オレたちはどしゃ降りの雨の中を走った。
 ああもう、どうしてこういう時に限って、目的の場所ってのは見つかんねえんだろう。
「…っ、こっちか?」
 雨でにじむ視界の中、オレは矢射子を連れたまま小道に入り込む…が。
 ―しまった!!
 入り込んだ後で気が付いてももう遅い。あちこちに見える『ご休憩****円・ご宿泊****円』の文字。
 どう見てもラブホ街じゃねえか。
「や、矢射子…その…」
 引き返せ。頭の中で警鐘が鳴り響く。今ならまだ間に合う。『これなんてエロゲ』を地で行くなんてシャレにならない。
 いや、全然したくねえって訳じゃないんだけどな。
「戻―」
 ぐっ。オレの言葉を遮ったのは、繋いだ手を強く握る、細い指だった。
 どくん。どくん。どくん。―…これは、まさか。
「宏海」
 振り返るな。振り返ったら、戻れない。
 ああ、それなのに。
「…行くわよ」
 オレは、振り返ってしまった。コイツの、力強い瞳を見てしまった。

 だから、もう戻れない。

 ―ぽたん。顎を伝う雫が太ももに落ち、そして時間は動き出す。
「…って、何ワールドだよ」
 くしゃりと髪を掻き、オレは再び溜息を吐いた。
 嫌なのか?―嫌じゃない。
 望んでないのか?―いや、いつかはあると思っていた。
 だが、こんな形は。
 ―じゃあ、どんな形を望んでたんだよ。
「…知るかよ。くそっ」
 …ひでぇ結論だ。自分でもそう思う。苛立ち紛れにベッドのマットレスに拳を打ちつけても、空しいだけだった。
 ざあああああっ。
 さあああああっ…。
 部屋―ホテル『アクエリオン』、『八千年を超えたころから以下略』号室(ふざけた名前だ。名付け親の顔が見てみたい)―には、
二つの水音が響き渡っている。
 一つは、さっきよりも激しさを増した雨が、窓ガラスを叩く音。
 そしてもう一つは、シャワールームから響く、矢射子が浴びるシャワーの音。

 どちらも、確実に自分を追い詰める音だった。


716:モモテウラ・4
07/10/27 14:07:10 tGOF/jH1
*
 まずは―今の自分に出来ることをしよう。オレは止まらぬ思考にピリオドを打つため、ようやく重い腰を上げた。ベッドの腰掛けて
いた部分が、じっとりと濡れている。
「…服、干すか」
 呟き、Tシャツとカーゴパンツを脱ぐ。トランクスまで雨で濡れていたのだが、さすがに良心というヤツが咎めた。
 靴下も脱いだ足の裏でやたらとゴワゴワする絨毯の質を感じつつ、オレはクロゼットの前に立った。
「ハンガーの2、3本はあるかな」
 あえて口に出し、観音開きなクロゼットの右側の扉を開ける。と、そこにはおそらくオプションであろう黒革のボンテージスーツと、
数種類のムチがあった。
「どこのSMコースだよ…」
 脱力気味に呟きつつ、ついオレは想像してしまった。

 黒革に拘束された、矢射子の白い肌。しかしボンテージと呼ばれる服は決して彼女の魅力を損なうものではない。
 むしろ、彼女のともすれば爆発しそうな魅力をギリギリの一線で拘束し抑圧する、綱渡りのような危ういエロティズムを表すに欠かせ
ない衣装だ。
 足元を見下ろすその表情には、慈愛に満ちた母の顔と威厳のある父の顔が、絶妙に混ざり合っている。
 手には、使い込まれたであろう、良くしなる漆黒の一本鞭。ぱぁんっ、と空気を裂く音と共に、彼女はこう叫ぶのだ。
『―さあ、ドッグ・ショウの始まりよ!乾!!』

「―って違う!」
 何で乾の野郎が出てくるんだ。いや、多分イメージの問題だな。アイツなら喜んで尻尾まで着けそうだし。
 オレは虚空に手を払う仕草で、恍惚の乾を頭の中から追い出した。
 そして、ボンテージスーツを掛けていたハンガーを引き抜いて、ベッドに放り投げた。
「もう一つの方は…」
 イヤな予感はしたが、ハンガーは一つじゃ足りないので左側の扉を開ける。
「…予感的中かよコンチクショウ」
 セーラー襟の制服。色はセピア。プリーツスカートはマニアのツボを抑えた膝下丈。お約束のようにロザリオまであるという凝り様だ。
「つか、何すんだよこの格好で…」
 といいつつ以下同文。

 甘い甘い匂い。薔薇の花の数だけ、乙女の祈りで満たされた、純粋培養のChamps de fleurs(花園)―純潔の証たるマリア像の前
で、矢射子は己が身に着けていたロザリオをゆっくり外し、そっと輪を作る。
 その輪を小さな頭がくぐり、しめやかにSoeur(姉妹)の契りが交わされていく。
『―薔薇のつぼみの名に恥じぬよう、精一杯尽くします。お姉さま』
『夕利…』

 

717:モモテウラ・5
07/10/27 14:07:59 tGOF/jH1
だん。
 もはや言葉でツッコむのも疲れる。オレはクロゼットの扉を拳で叩くと、無言でハンガーを引き抜き、乱暴に扉を閉めた。
 そして、シャワールームに足を向ける。ガラス戸に背を向け、オレは小さく咳払いをした。
「矢射子」
 しばらくして、ななな何!?と物凄く動揺した声が返ってきた。
「服、乾かすから持ってくぞ」
「ふっ、服!?服ってふくって…」
「…やっぱ自分で干した方がいいか?」
 曲がりなりにも女子だ。男に勝手に服を弄くられて喜びはしないだろう。
 …返事が来ない。
「…矢射子?」
「…いい、けど…下着はダメだからね?」
 ようやくの返事に、オレは少しホッとした。
「わかった。じゃ、干しとくぞ」
 極力下着を見ないよう、目を逸らしつつオレは、脱衣所から矢射子の服を手にした。
 雨でじっとりと重くなった、カーディガンとワンピース。
 …オレだって別に、木の股から生まれたわけじゃない。ほのかに香る甘い匂いを鼻腔の奥で感じつつ、同時に、ドス黒いマグマのよう
な情欲が腹の底で沸き立とうとしているのを、オレは理性をすり減らしつつどうにか押さえ込もうとしていた。

 ―…でも、カノジョの服、なんだよな。しかも、さっきまで着ていた。

 どくん。頭の中で響いた悪魔の囁きに、オレの心臓が音を立てる。
 途端に、手の中の服に対し、情欲を持って当然のような気持ちになってしまった。…理性弱っ!
 どうする?撫でるか?嗅ぐか?いやそれ以上―。
 どくん。どくん。どくん。
 オレの手が震えつつ、矢射子のワンピースの胸の辺りを触ろうとしたその時。
 …たん。「!!!!」
 ―物音?
 跳ねる心臓を押さえつつ、オレは慌てて周囲を見回した。が、周りには誰も居ない。
 音の正体が隣の部屋のドアの音だと気付いたのは、たっぷり1分経った後で、オレはその場にへたり込みつつ、酷い罪悪感に苛まれた。

 悪い。本当悪かった、矢射子。

718:モモテウラ・6
07/10/27 14:09:14 tGOF/jH1
*
「―これでいいか」
 窓のカーテンレールにハンガーを掛け、服を吊るす。被害が一番ひどかったオレのジャケットは、まだ水滴をしたたらせていたが、帰
るころには何とかなるだろう。
 …まあ、問題はその『帰るまでの間』なんだが。
 雨は、まだ止まない。それどころか更に激しさを増している。心なしか突風まで吹き出したような気もする。
「…」
 時々、考える。―矢射子はオレのどこを好きになったんだろう。
 文武両道には程遠い。正義感に溢れている訳でもない。顔やスタイルだって、いかついだの怖いだの言われるのは日常だが、好感を持
たれた記憶はない。
 そして何より―オレは、アイツみたいに強くない。
 あんなに強い意志の光を放つ眼を持って、行動できない。
 ―ずきん。
 ああ、まただ。
 再び感じた胸を刺す痛み。吐き出すように大きく息を吐いても、窓ガラスに映る自分が曇るばかりで、ちっともスッキリしない。

 なあ矢射子、なんでオレの事好きになったんだ?

 キィ…バタン。
「宏海」
 呼ぶ声に、オレの思考が止まる。いつの間にシャワーを終わらせたのか、ガラス戸の前には薄紅色の肌をした矢射子が、バスタオル一
枚(実際はブラジャーの肩紐も見えたので、バスタオルの下にも着ているのだが)で立っていた。
「おう、体あったまったか。こっちも服干しといたか…ぶえっくしゅんっ!!」
 うわ。そういやオレ雨に濡れたのにずっとパンツ一丁だったんだよな。途端に背筋にぞくぞくと寒気が走る。
「あ…ご、ごめんっ、宏海の方が体冷えてたのに」
「構わねえよ。風邪引きゃテキトーにサボれる口実が出来るからな。アイツらのお守りより、そっちの方が楽だ」
 ベッドボードのティッシュを手に取り、鼻をかむ。脳裏に、思い出すだけで腹立たしい二人組の姿が浮かび、つい眉間に皺が寄ってし
まう。
「それより、服乾くまでシーツ被っててくんねえか?―その、目のやり場に困る」
「えっ…っ!!」
 言葉に矢射子は自分の姿を見、ぼんっ、と音立てて顔を赤くさせた。
 丈が少し足りなさそうなバスタオルに身を包んだはちきれんばかりの肢体なんて、悩殺なんてレベルじゃねーだろ。
 パンツ一丁でそんなのまじまじと見られるほど、オレは枯れてはいないのだ。
 矢射子が赤い顔のままベッドに上がり、ごそごそとシーツを身に纏い始めたのを確認し、オレはシャワーを浴びる為、ようやく窓辺を
離れようとしたその時…雨音に混じって、小さな声が聞こえた。
「ごめんね、宏海…迷惑だったでしょ?」
「あ?」
 よく聞こえなかったので、オレはティッシュの箱をベッドボードに置いて、シーツを纏うというよりは、シーツに潜り込んでしまった
矢射子の前に立つ。
「雨だからって、急にこんなところ連れ込んで…軽蔑したよね。女の子なのに」
「…また反省してたのか。やけにシャワー長いと思ってたが」
 シーツの山が微かに震えている。…オレはそっと、顔すらも隠しているシーツを捲った。
 熟れたトマトよりも赤い、矢射子の顔。その目には、大粒の涙。
「だって…」
 オレが、泣かしちまってんだよな。こんなにいい女なのに、困らせたり、恥かかせたり、泣かせたりばかりして―まるで鼻タレ小僧
じゃねえか。
 オレはベッドの端に手を掛け中腰になると、うつむいたままの矢射子の顎を片手で包んだ。
 そして、涙に濡れた顔を上げさせると―そのまま、ゆっくりと唇を重ねた。

 矢射子の唇は、柔らかくて、熱くて、涙の味がした。


719:モモテウラ・7
07/10/27 14:10:59 tGOF/jH1
*
 外の雨は未だ降り止まず、相変わらず窓ガラスに雨粒が打ち付けられる音が部屋に響いている。
 だが、信じてくれなくてもいいが、オレはその時、確かにまばたきの音を聞いたのだ。
 ぱち、ぱちとまるで炭酸飲料の気泡がはじけるような小さな音。
 重ね始めた時と同じようにゆっくり唇を離すと、矢射子は大きな目を何度も何度もまばたきさせていた。
「…!!」
 信じられない、と言わんばかりの表情。だが、ふるふると唇が開いても、言葉が出ないようだった。
「泣き止んだか」
 中腰だった姿勢を止め、オレは絨毯に腰を下ろすと、絶句したままの矢射子に尋ねてみる。
「こ、ここ宏海、今のって…」
「…好きな女にじゃなきゃ、しねえよ」
 ―…っく、何つー恥ずかしいセリフだ。あまりの恥ずかしさに、マトモに矢射子の顔も見られねえ。
 照れ隠しにがりがりと頭を掻きつつ、オレは次の言葉の為に大きく息を吸った。
「こっちこそ、ごめんな。アンタには告白の時からリード取られっぱなしでさ。そういうの気にする方だってのも知ってるのに…本当、
情けねえ」
 ―ずきん。
 胸が、また痛んだ。そういやこの痛みは、オレと矢射子を比べてしまう時にいつも痛むのだ。―オレは今更そんな事に気付いた。

 心の奥でずっと引っかかっていた。
 オレは矢射子に見合うだけの相手なのか?
 オレは矢射子の事をどれだけ想ってるのか?
 ―オレは。

 矢射子がオレを見る時くらいの真っすぐさで、オレは矢射子を見ていられるか?

「そんなの」
 ぽつり、と矢射子が呟く。ベッドの端に手を掛け、前のめり―互いの位置的に、これで顔が向き合う体勢なのだが―になりつつ、
少しずつ、だがしっかりとした言葉を紡ぎ始めた。
「情けなくなんか、ないよ。だってあたしはそう言って人の事を思ってくれる宏海を見てたから…大事にしてくれる宏海がっ、すっすす
すす…」
 目を閉じ、力みつつ頑張ってるみたいだが…それはどもり過ぎだ。
「すっ「―危ねえっ!!」
 ぐらり。バランスを崩したか、矢射子の体が大きく揺れる。ベッドから落ち、体を床に打ち付けそうになるのを、オレはすんでの所で
抱きかかえた。
「…大丈夫か」
「―…手」
 て?真っ赤な矢射子の言葉に、オレは自分の手を見る。―と、そこには、どこぞのエロコメ主人公の如く、矢射子の胸を鷲掴みにし
ているオレの手があったのだった。

720:モモテウラ・8
07/10/27 14:12:01 tGOF/jH1
「っ!!ちっ違うぞこれはっ!そのっ、不可抗力っつーかだなっ…」
 言い訳までエロコメ染みているのが何ともお約束めいているが、事実だ。ああもう、さっきのセリフとは別の意味で情けねーっ!!
 矢射子は、オレの体の上にのしかかった体勢のまま、そんなヘタレた言い訳を聞いた後、くすっ、と困ったような顔で笑った。
「…宏海、体まだ冷たいね」
「あ、ああ…」
 だから早くシャワー浴びて、体あっためたいんだよコッチは。
 というか、今の状態はヤバ過ぎる。オレの腹の上に矢射子の太股が当たっ…あ…ダメだ!考えるだけで勃っちまう!
 男の子だモン!!(だモンじゃねえっ!!)
 セルフ突っ込みも空回りしたオレをそのままに、矢射子の白い手がオレの頬を撫でる。その手はやがて、首筋から肩口、そして胸板へ
と降りていった。

 ばっくん。ばっくん。ばっくん。

 心臓が、これ以上無理っつー位跳ね上がってる。これはもう、覚悟を決めるべきか!?
 オレは、床に着けたままだった自分の手を、そろそろと矢射子の柔らかそうな体へと近付けようとしていた―その時。

 ドゴンッ!「「!!」」

 壁に何かぶつかるような音で、二人の体がびくっと止まった。
「な、何だ!?」
「え、あ…隣の部屋…みたい」
 ベッドの向こうの壁を見つつ、矢射子がオレの疑問に答える。
 そういやさっき誰か入って来たみたいだったが…何もこんなところでケンカなどしなくて良いと思う。
 ―まあ、おかげでオレは少し落ち着けたのだが。

「えーと…シャワー浴びてくるわ」
「へ?あ、あ…うん。わかった」
 オレの言葉に矢射子はそそくさとベッドに上がった。さっきの余裕の笑みはどこへやら、またも顔を赤くさせつつ、縮こまっている。
 …そりゃオレだって恥ずかしいんだが。テントを張ってしまったトランクスを、出来るだけ見せないよう前屈みになりつつも、オレは
そっと矢射子の耳に唇を寄せ、
「―戻ったら、続きな」
 と囁いた。

721:モモテウラ・9
07/10/27 14:13:48 tGOF/jH1
*
 シャワーを浴び(野郎のシャワーシーンなど需要がないだろうから省略する)、オレは大きく深呼吸すると、シャワールームの扉を開
けた。
 ―戻ったら、続きな。
 あんなことを言ってしまったら、後戻りは絶対きかないだろう。
 けれど、オレは後悔していない―いや、正しく言えば後悔したくなかった。
 これ以上、ケツの青いガキみたいに、好きな女を泣かせたくなかった。
「…風呂、上がった」 
「…うん」
 ベッドの前に立ち、報告のように呟くオレの言葉に、矢射子は耳まで赤くさせながら、小さくうなずいた。
「…そっち、行っていいか?」
「…うん」
 許可を得、オレはベッドに上がる。ぴくんっ、と微かにこわばる矢射子の姿を視界に留めた時、またオレの胸がずきん、と痛んだ。
「…緊張してる、か?」
 嫌か?とはあえて聞かなかった。コイツはすぐ反発して、すぐ考えすぎて、すぐ暴走して、その分落ち込むから、ストレートな言い方
は傷つけかねない。そう判断したのだ。
 矢射子は三角座りの膝に顔をうずめると、少し…だけ、と答えた。
「…そうか」
「で、でもっ!」
 がばっと顔を上げ、矢射子がオレを見る。意志の強い、真っすぐな瞳。
「あたし、宏海と一つになりたい!すっ、好きな人にだったら、あたしっ、あ―」
 矢射子の言葉は、全部声にならなかった。理由は単純、オレが唇を塞いだからだ。
「…男のセリフ、全部取る気か。オレだって、オマエと一つになりてえよ」
 囁いて、再び唇を唇で塞ぐ。矢射子の口が半開きだったのをいいことに、オレはそっと自分の舌を矢射子の口中へと滑り込ませた。
「んっ…―っ、ふ」
 ぬるんっ。矢射子の舌がオレの舌にぶつかる。最初おっかなびっくりだった矢射子の舌は徐々にオレを受け入れ、くすぐるように、あ
やすように、オレの舌に絡みついてきた。
 …うわっ、やべえ。シャワーの時に落ち着かせたはずだった下半身に熱がこもっていくのを感じ、オレは慌てて口を離した。
 ―キスだけで勃つなんて、予想外だ。

722:モモテウラ・10
07/10/27 14:14:57 tGOF/jH1
「宏海…」
 頬を紅く染め、とろんとした表情で、矢射子がオレの名を呼ぶ。これで我慢できる男がいるだろうか。いや、いまい。(反語)
 オレは矢射子の背に手を回すと、そっと体をベッドに横たえさせた。
「…止めねえぞ」
 返事を待たず、頬にキスをする。そのまま首筋に、鎖骨にとオレは軽い口付けを落としていった。
 ―次は、胸、か。そう思った矢先、オレは思わぬハードルに気付かされた。
「…ブラ、外そうか?」
 オレの戸惑いに気付いたか、矢射子は軽く身を起こし、ブラジャーのホックを外した。…うっわー情けねー。いたたまれ無さに首まで
熱くなる。せめて寝かせる前に気付けよオレ。
「悪い、言ったそばから」
 矢射子は、熱っぽい目に小さく笑みを作りつつ、いいよと答えた。
 肩ヒモをずらし、あとは引き抜くだけの状態にしたブラジャーを片手で軽く抑えながら、矢射子は再びベッドに身を沈めた。
「もう、止めないで」
 ―言われなくとも。オレは矢射子の言葉に目で返すと、静かにブラジャーを引き抜いた。白く、柔らかそうな双丘は、呼吸と心音に
よってふるふると揺れていた。
 そっと、手で包む。矢射子の胸は簡単に指がめり込むほど柔らかいのに、手を離せばすぐ戻る弾力も持ち合わせていた。
「…んっ」
 すげえ、すべすべして、もちもちして、気持ちいい。片方の乳房を手で、もう片方を舌で愛撫しつつ、オレは未知の感触にバカの一つ
覚えのように夢中になった。
「ふぁっ…っ、んん」
 舌や指先がかすめると共に上がる甘い声に、オレの関心が芯を帯び始めた胸の先端へと向く。
 …こうか?赤ん坊がするように、オレは矢射子の乳首をくわえ、舌と前歯の裏で軽く押し潰してみた。
「―!!」びくんっ!
 刹那、大きく跳ねた脚にオレは驚いたが、すぐに二度、三度と同じ事をしてみた。唇や歯で噛んだり、指で強くつまんでみたり、口と
手の位置を変えてみたり―その度に脚はびくびくと跳ね、肌にじっとりと汗がにじんだ。
「っ、はっ、はあっ、あっ…やはぁっ!!」
 ぞくぞくっ。―この声は反則だろう。鼻にかかった、吐息混じりの声。無意識に出してるなら尚更やらしずぎる。
 オレは顔を上げ、矢射子の顔を見た。けれど矢射子の顔は、自身の片手に隠されて、表情がよく見えなかった。
 見えたのは、紅く染まった頬、耳、そして荒く呼吸し続ける唇だけだったが、それらを飾る大粒の汗が、艶かしさを強調していた。

 …はぁっ、はーっ、はーっ…。

 少しずつ波が引いてきたか、矢射子の呼吸が落ち着きを取り戻していく。
 オレはそっと胸から離れ、更に下―腰へと手を伸ばした。

723:モモテウラ・11
07/10/27 14:15:54 tGOF/jH1
*
 ―落ち着け。うろたえるな、オレ。こんな所でヘマやらかしたら全部パーだ。
 ごくり。カラカラの喉に無理やり生唾を押し込むと、オレは矢射子のショーツに手を掛けた。
 反応した矢射子が腰を上げ、レースの飾りの付いたショーツは丸まりつつ、するすると太股を、膝を、足首を通過し―オレの手元に
収まった。
「や…あんまり、見ないで…」
 見ないと出来ねえよ。いや、見るなってショーツの事か?そりゃ確かに手にしたショーツは、しっとりと濡れていたが…濡れ?
「…」
 想像して背中に汗をかいた。…危うくこっちまで濡らしちまうところだったじゃねえか。いや、先走りなら出てるけど。
「…そういや、オレもまだ脱いでなかったな」
 少しでも気を紛らわせようと(あと矢射子ばかり脱がせてるのもなんだし)、あえて声に出す。
 トランクスの中身は、とっくに臨戦態勢のオールグリーンだ。オレはトランクスのゴムに手を掛け、一気に脱いだ。
「えっ…!?」
 へ?オレは声の主の顔を見る。主―矢射子は、顔を隠していた手の指の間から覗きつつ、素っ頓狂な声を上げたのだ。
「こ、宏海のって…そんなだったっけ?」
 このセリフは、流石オレの全裸を数度目撃(うち1回は告白時)した矢射子ならではだ。
 全然自慢じゃねえけど。むしろその辺の記憶はボカシ入れてほしいけど。
「勃ってねえ時と比べられると困るんだが…怖くなったか?」
 ぎしり、トランクスを放り投げ、オレは矢射子に近付く。
「こ、ここ怖くなんかないっ、わよ!ただちょっと驚いただけじゃない!」
 言いながら膝曲げて、引け腰になってんだけどな。アンタ。
「へっ、平気よ!伊達にアソコは見てないんだからっ!!」
「…」悪い。そのセリフちょっと萎えた。
 オレは霊界探偵ならぬ、目をぎゅっと閉じた矢射子の横をすり抜け、ベッドボードの引き出しを開けた。
「…どうしたの?」
「探し物。備え付けがヤバいって話は聞くけど、無いよりはマシだろ」
 そう答えて、オレは見つけた品を矢射子に見せた。
「あ…」
 オレの手の中の小さなゴム製品を見て、矢射子は納得したように吐息をこぼした。
「あ、ありがと」
「礼ならいらねえぞ。これからオレ、アンタ泣かしちまうんだから」
 ゴム製品の封を切り(幸い、分かる限りでは針穴などは見つからなかった)、背中を向けちまちまと装着しながらオレは矢射子の言葉
を返す。
 …しかしこれかなり間抜けな図だな。女にはあまり見せたくねえ。
「―…いいよ」
 ぴたり、思わず手が止まる。振り返ると、矢射子は―これから傷付けられると分かっているハズなのに―幸せそうに微笑みながら、
オレがしばらく無言にならざるを得ないようなセリフを言った。

「今の宏海になら、あたし…泣かされてもいい」

 あーあ。女ってズルいよな。
 何でそんなにこっぱずかしくて、やらしいセリフをさらりと言えるんだろう。


724:モモテウラ・12
07/10/27 14:17:18 tGOF/jH1
*
「足、開くぞ」
「う、うん」
 膝頭を持ち、オレはゆっくり矢射子の股を開いた。
 ボカシやモザイクの無い女のアソコは、18年の人生の中で初めて目にするのだが―傷口みたいだ、と思った。
 オレはそっと自分のペニスを持ち、矢射子の傷口にあてがう。
 ちょん、と先端が触れると、ぬるぬるになっていた傷口がひくり、と蠢いた。
「んっ…」
 ぬる。ぬるり。ゴムを着けて濡れようの無いペニスに矢射子の蜜を絡める度、矢射子の口から甘い吐息が漏れた。
「―…いくぞ」
 オレもまた吐息混じりの声を掛け、狙いを定めて矢射子の中へと入り込んだ。
「あっ…!!くっ!」
 傷口に更に傷を穿つ―正にそんな感じだった。みしみしと、肉を裂く音さえ聞こえてきそうだった。
「やっ、いこ、力抜けっ」
「むっ、無理!!」
 即答かよ。ぎちぎちと押さえつける矢射子の力によって、オレのペニスは3分の1も入りきっていなかった。
「力抜かねえとっ、痛いんだって!」
「分かんないっ、分かんないよっ!!勝手に力入っちゃって…あたっ、あたしだって…受け入れっ、たい、のにっ!!」
 ボロボロと涙をこぼし、矢射子がオレを見る。
 ―ずきん。ずきん。ずきん。
 くそっ、何でこんな時に胸が痛みやがるんだ。オレは歯を食いしばりながらも更に腰を突き出し、少しでも中に入ろうともがいた。
「~~~~~~っっ!!!!」
 矢射子の声が声になってない。痛いんだろうな。いや、痛いに決まっている。
 オレの胸の痛みなんか比べようの無い痛みと、矢射子は今、一人で戦ってんだ。

 …一人?

 自分の考えに、オレは疑問符を投げかけた。…馬鹿じゃねえかオレ。
 いや、比類なき大馬鹿野郎だ。
「…矢射子」
 腰の動きを止めオレは、痛みを堪えるため目を閉じていた矢射子の名を呼ぶ。
「矢射子」
「…こう、み?」
 息も絶え絶えな矢射子の返事に、オレは大きくうなずく。そして、ベッドシーツを握っていた矢射子の手をそっとほどくと、ゆっくり
指を絡め、そして、強く握った。
 ああ、ただのエロ漫画の演出と思って悪かったよ。
 こんなささいな事でも、凄く、嬉しくなるんだな。
「宏海の手、熱い…」
 泣き笑いの表情で、矢射子が囁く。互いの両手が塞がった分、オレの体が矢射子の上にぴったり重なり合い、肌の熱が伝わりあう。
「オマエの手だって」
 言い返すと、矢射子はくすぐったそうに笑った。つられるようにオレも少し笑った。
 押さえつける力がゆっくりと弱まり―オレたちは、ようやく一つになった。

 矢射子の中は、矢射子の体のどこよりも熱かった。


725:モモテウラ・13
07/10/27 14:18:37 tGOF/jH1
*
 ぴちょん。
 窓の外から微かに聞こえる水音で、オレはまどろみから目を覚ました。
「…雨、止んだのか」
 カーテンの隙間から漏れる光は、紛う事なき夕陽だ。オレは片手で目を擦りながら、天井の鏡に映る姿をぼんやり見た。
 大きなベッドに横たわる二人。一人は勿論オレ。
 そしてもう一人は、オレの肩口を枕に寝息を立てる矢射子だ。
 一定のリズムを刻みながら体を上下させて眠る矢射子のまぶたはまだ赤く、先ほどの行為の辛さを物語っているようだった。
「…最初から上手くいくなんて思ってないけどな」
 思うが、それでも自分一人しか絶頂に達せなかったというのは、なんだか寂しくも申し訳ない気分だった。オレはそっと自由な方の手
を矢射子の頬に寄せ、乱れた髪を直そうとした―その時。
 ぱちり。矢射子の目が大きく開いた。
「「!!」」
 再び、二人そろって固まってしまった。…頼むから矢射子、もう少しゆっくり目を開けてくんねえかな。心臓に悪い。
「あ、こ、宏海…」
「…はよっス」
 しょうがなく、オレは行き場を無くした手で自分の頭を掻いた。
「…おはよ」
 朝でもないのに、なんだこのアイサツ。向こうも思ったか少しの沈黙のあと、変なの、と小さく呟く声が胸の辺りから聞こえた。
「どの位、寝てた?」
「え?―なんだ、20分そこそこしか経ってねえじゃねえか。もっと寝てたように思ったけど」
 矢射子の言葉にオレは首をひねり、ベッドボードの置き時計に目をやった。休憩時間の終わりには、まだ少しばかり早かったみたいだ。
「…もう少し寝とくか?オレは別に構わねえけど」
 肩枕側の腕を少し曲げ、オレは矢射子の背中をそっと撫でた。―ん?

726:モモテウラ・ラスト
07/10/27 14:19:24 tGOF/jH1
「―…」
 みるみるうちに肩に熱が…というか矢射子、オマエ今まで見た事の無い顔色してるぞ?
「―…っ、あ、あたしっ、肩っ、かたたっ」
「腕枕の方が良かったか?確かに良く聞くのはそっちだが」
 ぶぱっっ!「わああーーーーーっ!!何だっ!?」
 二人きりのまどろみは、矢射子の鼻血によって突然血みどろの終焉を迎える事となった。全くもってムードもへったくれも無い話だ。
「や、やだ、宏海血が…」
「人の事より自分の鼻心配しろよ!!ほ、ほらティッシュ…」
 胸に付いた血を拭うのも忘れ、オレは鼻血が止まらない矢射子に箱ごとティッシュを渡した。

 ―本当、マトモな恋人同士の甘ったるさが似合わないよなあ。
 迷って、惑って、流されるオレと、突き進んで、突っ走って、引っ張ってくオマエと。
 二人の歩幅もペースもまるでちぐはぐで、ともすれば二人揃ってつまづきそうになるけれど、そして、劣等感は未だ小さなトゲになっ
て、時にオレの胸を痛ませるけれど。
 けれど、それすら嫌にならない―むしろ、楽しんでしまうオレだってここにいるのだ。

「なあ、矢射子。…ずっと先延ばしにしてたけど、今度ウチ来るか?」
「え?」
 やっと収まったか、血まみれのティッシュを顔から離し、矢射子がオレの言葉を尋ね返す。
「あー…つまりだな、ウチの親父に会ってくれと、そういう事だよ」
 うーん…やっぱり改めて言うと照れ臭いな。オレは自分のセリフの恥ずかしさについ眉間に皺を寄せ、しかめっ面を作ってしまう。
「…返事は?」
 わかっているくせに聞くのは照れ隠しだ。気付いてくれるだろうか。
「…うん」

 雨上がりのホテルの一室。オレンジ色の光が満ちる中、オレの恋人は涙ににじんだ目を細めて返事した。

 ―つうっ。
 ついでに鼻から一筋、血を滴らせて。

「って矢射子!鼻血止まってねえぞ!!―…チクショウ何だよこれがオチかーーーーーっ!!!!」

727:モモテウラの人
07/10/27 14:25:05 tGOF/jH1
以上です。微妙にヘタレたエロ長文失礼しました。
以前リクエスト下さった方、ありがとうございました。
リクエストによって新たなカップリング妄想ができるって、ばあちゃんが言って(略)
またROMに戻ります。
では。


728:名無しさん@ピンキー
07/10/27 14:40:15 xctIE9wd
>>730
GJです!!
イヌイチ読んだおかげで乾×一口に目覚めまして、
ぜひそっちの続きも読みたいと思ってたんですが、
やっぱり宏海×矢射子もいいですね~!
宏海の妄想に乾が出てきたのが笑えるw
宏海と矢射子らしい終わり方もいい!
乙でした!

729:モモテウラの人
07/10/27 14:53:15 tGOF/jH1
えー、ラスト訂正。
誤「やっと収まったか」→正「やっと治まったか」
 「涙ににじんだ」  → 「涙でうるんだ」

脳内変換お願いしますすみません。失礼しました。
では。

730:名無しさん@ピンキー
07/10/27 17:19:56 Q7G1QM6J
なんというGJ…!
ホテルアクエリオン吹いたwww部屋の名前あえてそっちかw

731:名無しさん@ピンキー
07/10/27 21:10:09 Cqz1v4Is
あなたが神か…!
心の底からGJ!一万年と二千年前から愛してる!!

732:名無しさん@ピンキー
07/10/27 22:03:11 zalaypBb
久しぶりにきたらいっぱい投下されてる!!
職人さんGJ!!

733:名無しさん@ピンキー
07/10/28 12:00:38 F4BjD3Xj
GJGJGJGJGJGJGJ!!!素晴らし過ぎますよ!!!
宏海矢射子可愛いよ宏海矢射子

734:イヌイチの人だったりモモテウラの人だったり(携帯版)
07/10/29 03:36:15 SyvGpfWk
皆様御感想、ありがとうございます。
楽しんで頂ければ、書き手冥利に尽きることをこのスレで教えて戴いた気がします。

さて、(場所的に)無粋ながら伺いたいのですが、皆様キャラクターの進路って考えたことありますか?
実はイヌイチの続きを考えてはいるのですが、作品中時系列が連載終了後なので、進学するのか、したとしてもどう受験するのか(特に乾はあの頭で大学行けるのか)、ネタにも絡みそうな話なので、…。
もし宜しければエラくてエロい方のお知恵を拝借したいと思うのです。

やっぱり一芸入試なのか…。うーん。

735:名無しさん@ピンキー
07/10/30 23:54:48 FrYYt19S
玲夜がドキ大というなんでもありの大学をだな…

736:名無しさん@ピンキー
07/11/01 21:06:31 oz0IhvbV
もし萌が早生まれ(遅生まれ?)だったなら…。
クリスマスネタで、15歳だからプレゼント貰えるんじゃないか(エロパロ板的な意味で)?という毒電波を受信しましたが、オラには筆力が足りませんorz
以上、イバラ道スキーのつぶやき。
もえるん可愛いよもえるん。

737:名無しさん@ピンキー
07/11/03 01:54:38 24lXfIYs
マイナーだと思うがドラクロワ×もえるん投下しようと思う
やはり携帯からだと読みにくいだろうか‥?

738:名無しさん@ピンキー
07/11/03 01:58:02 24lXfIYs
上げてしまった、すまんorz

739:名無しさん@ピンキー
07/11/03 07:30:54 tudrpJQf
>>741
マイナー上等ですよ!
需要は投下された瞬間に発生するというのは、けだし名言だと思います。

気になるようでしたら、ある程度まとまってから投下、NG指定等されては如何でしょうか?

740:名無しさん@ピンキー
07/11/08 00:58:48 IND4ByT3


741:名無しさん@ピンキー
07/11/10 07:54:02 Fasnx+d2
保守がてら、投下いたします。
先日の「イヌイチ(乾×一口)」の続きになってますが、続き物・設定に捏造あり・エロほぼなしという
三重苦仕様になっております。

不快に思われましたら「続・イヌイチ」でNG登録お願いします。

742:続・イヌイチ・1
07/11/10 07:55:08 Fasnx+d2
******
 暗闇の中、ひたりと頬を撫でられる手の感触。それが自分の手で無いという事は、後ろ手に縛られた感覚から分かっていた。
 じゃあ、この手は誰のものなんだろう。頬を滑る指が半開きの口に潜り込む。

 ―くちゅ。

 ぞくっ。口の中を掻き回され響く水音に、軽く身が震えた。反射的に口をすぼめ、与えられているもどかしい快楽を逃さまいとする。
 …相手は誰なんだろう。心の底でちりっとした焦りを覚えつつ、それでもキモチ良さには逆らえないなんて。

 柔らかくて、細い指。…あなたは、誰なんですか?

 ―…い。
 ―ぬい。


743:続・イヌイチ・2
07/11/10 07:55:51 Fasnx+d2
*
「乾一!いつまで寝とるか!!」
 三年C組に野太い怒声が響き渡るのと同時に、あたしの真後ろの席から、ごっごんと机に何かがぶつかる音がディレイで聞こえた。
「…っ、はい!何でしょう!!」
「何でしょうじゃない馬鹿者!あと元気がいいのは返事だけでいい!」
「へ?…!!」
 指摘され、二重の意味で立ち上がっていた乾が慌てて席に座る。同時にクラス中に男子のげらげらという笑い声が満ちていき、恥ずか
しさにあたしまで頬が赤くなった。
 やっぱり、男子って馬鹿。特に後ろの。
 何で寝てる時にまで―…。
「ばか」
 こっそり呟いた声は、授業終了のチャイムにかき消されたのだけど。

「乾ー、三年になって余裕だねえ。大学行かないの?」
「ただでさえアンタ学年ビリじゃん。え?何就職?」
「やめときなよー。今時高卒ってロクな仕事見つかんないよ?」
 休憩時間になって早々、乾の机の周りにクラスの女の子が集まってくる。みんな乾の『気のいい女友達』という感じの人々だ。
「好き放題言うなあ…オレだってそりゃ考えてるって」
 どうだか―あたしは心で悪態を吐きつつ、黒板の前に立った。週番の仕事が、今週はあたしの番なのだ。
 ついでに言えば、週番は男女二人組の仕事であり、あたしの相手は乾だったのだけれど。
「もし良かったら、知り合いんトコの現場で働くー?初心者カンゲーだって」
「だーかーらー、オレは進学だって言ってるじゃねーか」
 女の子に囲まれて、からかわれながらも笑う乾の姿を見て、声を掛けるのをやめた。
 別に乾自体はどうでもいい。けれど、こういう時下手に声を掛けて、周りの女の子から不必要な反感を買うのだけは避けたかった。
 女子の間柄というのも、かくもややこしいものなのだ。小さく息をこぼし、あたしは黒板消しを持った。
「い、一口さん、よかったらボクも手伝おうか?」
 ふと声に振り返ると、額から汗を流しつつ自分に声を掛ける大柄な少年の姿があった。
「坂田くん。…いいの?」
「ほ、ほらボク高いところも手が届くし、あの先生みっちり書き込むから…」
 坂田くんの言葉にも一理ある。平均よりはるかに低いあたしの背では、高いところに書き込まれたチョークの文字を消すのにも踏み台
が必要になる。
 はっきり言って、面倒くさい。
「じゃあ、お願いしていいかな。ありがとう」
 にこり。笑って応えると、坂田くんは更に汗を流しつつ、チョークの書き込みを消し始めてくれた。…あ。黒板にお腹くっついてるけ
ど、いいのかなあ。
 服、汚れない?

744:続・イヌイチ・3
07/11/10 07:56:56 Fasnx+d2
******
 何へらへらしてんだか。オレは机に頬杖をつきながら、まだ抜けない睡魔と戦っていた。全く、古文なんて呪文の詠唱と同じだよな。
 それもラリホー系の。
「あ、坂田くんっ、汗、汗!!」
「え、あ、ご、ごめん!」
 あーあ。坂田の出っ腹で黒板水拭き状態じゃねーか。一口もニブいよなあ。アイツの下心気付いてないのかよ。
「いぬいー?聞いてる?」
「あ?何が?」
 やべ、聞いてなかった。
「だから、最近乾、本当に授業中寝すぎじゃないかって聞いてたの。進学はいいけどさー、アンタひょっとしてもう一回三年生やるの?」
「何かやってんの?あ、またバイトとか?」
 知ってどうすんだろう。思ったが、適当にいろいろだよ、とはぐらかした。
 オレは、今周りにいる女子がオレに対して何かを知りたいと本気で思っている訳じゃない事を知っている。
 TVの番組、雑誌の1コーナー、新譜のCD、2ちゃんの新スレ。
 日常を作るパーツの1つ。いや、最後のは特殊か。まあとにかく―そういう目でオレを見ているに過ぎない。
 別に不快じゃないけれど、だからといって心地良くもない、微妙な間というやつだ。
「あれ、乾また寝てんじゃない?」
「起きなよ―…」

 次は、丘の授業だっけ。…意識が遠のく中、オレは何かを忘れているような気がした。

「―もう三年も折り返しを越えてる時期だろうが。…オマエの場合はルリーダ先生からも話を聞いてるが、教師全員寛容なわけじゃな
い。これ以上下手を打つと留年も洒落で済まなくなるぞ」
「…はい」
 ホーミングチョークでコブの出来た頭をさすりつつ、オレは職員室で丘の説教を聞いていた。
「わかったら教室に戻れ。次やったら鼻の下にキンカン塗るからな」
 アンモニア入りの為、鼻の下などに塗れば悶絶必至である。『目の下にメンソレータム』と双璧を誇る罰に青ざめながら、丘に頭を下
げる。
「すみません。―失礼します」
 ぴしゃり。職員室の扉を閉め、オレは大きく溜息をついた。
「バカ犬」「!!」
 ぼそっと肩の辺りから響いた声に、心臓を掴まれたかと思った。
「な、何だよ一口…驚かすんじゃねーよ」
 斜め下を見ると、変なマスコットの髪飾りとぴこんと跳ねる一つ括りの前髪が見えた。こんな頭の知り合いなど、周りには一人しか居
ない。
「驚くのは、自分の行いの悪さのせいでしょ」
「つか何でオマエ職員室の前…うわっ!」
 尋ねようとしたら、いきなり分厚いプリントの束を渡され、オレは危うくバランスを崩して転ぶところだった。
「今日の5時限目、自習だからプリント取りに来たの。それ乾の持つ分だから、よろしくね?『週番さん』」

 ―あ。


745:続・イヌイチ・4
07/11/10 07:57:45 Fasnx+d2
******
「人が悪りーな一口。オレが週番だって、さっさと言えばいいのに」
「何言ってんの。朝は朝で予鈴スレスレまで教室来ないし、休み時間までぐーすか寝てばっかだったじゃない」
「…スミマセン」
 プリントを抱えたまま、乾が肩を落としつつ謝る。
 あまりにもしょんぼりした姿―人によっては『雨に濡れた子犬系』とでも名付け、愛でるのではないだろうか―に、あたしは大き
く息を吐き、明日からはちゃんとしてよね、と前を向き言った。
 ―そうだ。あたしはふと思った事に対し、尋ねてみた。
「乾、何で最近学校来るの遅いの?」
 二年の時はそうでもなかったように思っていたのだけれど。質問に乾はしばらく答えを探すように黙ったあと、ヤボ用だよと答えた。
「野暮?」
「い、いいだろ別に。ホラ早くしねーと、5時間目始まっちまうぞ」
 言い捨てて廊下を走っていく。一歩走るごとに揺れる、乾の一つ括りにした後ろ髪を眺めつつ、言い訳が下手なヤツ、と一人呟いた。
「ちょっと、プリント落とさない―…ん?」
 ふと立ち止まった教室の前で、あたしは妙なものを見てしまった。
 いや、そのクラス―三年F組―は、クラスのメンバー上、妙なものがかなりの頻度で(ちなみにその正体は、ほぼ間違いなく一人
の人間離れした体格の変態だったりするのだけれど)見受けられるが、今日見たものは、少々勝手が違っていた。

「…阿久津くん?」
 休憩時間のF組。がやがやとにぎわうクラスの中で一人だけ浮いてる…というか、燃え尽きている男の姿。
 いつも変なことに巻き込まれて、悲惨な目にあう確率の高い彼―阿久津宏海の真っ白になっている姿が、あたしの視界に入ったのだ。
「…」
 いつもなら、良くある事と思って気にしない。けれど今日は何故か気になった。

「おーい一口!早くしねーとプリント配れねーぞ!」
 C組の扉から顔を出し呼ぶ乾に、はっと我にかえる。
「あ…わかったから大声で呼ばないでよ!」
 本当、デリカシーに欠けるヤツ。あたしは口をへの字に曲げつつ、その場を後にした。

 5時限目は英語の自習。プリントは仕上げられなければ即宿題と化すので、皆が居るうちに答えを写…教えてもらい、仕上げるのがお
約束だ。
「…んがー…」
 …まあ、お約束に当てはまらない馬鹿も居るけれど。自分のプリントにペンを走らせながらあたしは、背後から聞こえるイビキに呆れ
ていた。


746:続・イヌイチ・5
07/11/10 07:58:26 Fasnx+d2
******
「んー…っ、はあっ」
 HR終了のチャイムと同時に背伸びをする。首を回すと、こきこきといい音が響いた。ここ最近の寝不足も少しは解消されただろうか。
「さてと…」
「帰んないでよ乾」
 帰るか、と言いかけたオレの口の動きは、くりんっ、と振り返った一口のセリフに遮られた。手には学級日誌のオマケ付きだ。
「忘れてたでしょ」
「あー…忘れてた。そういや書かなきゃなんねーんだよな。なあ一口、1時限目って何やってたっk…あふっ!?」
 ばちーん。
 日誌のページをめくりながら尋ねると、いきなりビンタが飛んできた。見れば一口の額には青筋が浮かんでいる。
 バシバシバシバシバシ「結局アンタは一日中寝てばっかりだったじゃないっ!一緒に組むあたしの身にもなりなさいっての!!」
「あっあっあっあっ!」
 このバカ犬と罵りつつ繰り出される往復ビンタを頬に喰らいつつも、背筋がぞくぞくと震えだすのをオレは止められなかった。
 いや、わざとじゃないんだけどな。
 ちなみにこの(誰が呼んだかは知らないが)『C組名物SMショー』は、クラスからも生温かい目で受け止められている。
 変なクラス。

「はあはあ…本当、乾ってビンタされてる時輝いた顔するよね…」
「おう。ついでに言えばもう2、30発は貰っても平気だぞ」
 腫れた頬の、じんじんと痺れる痛みさえキモチイイと感じる―それがオレの特性なのだ。
「えらそーに言うなっ!―…ああもうわかったわよ。日誌はあたしが書いとくから、乾はこれ写しとけば?」
「?」
 赤くなった右手をひらひらさせながら一口が差し出したのは、数枚のプリントだった。三行見ただけで眠りに落ちそうな言語は、間違
いなく今日の英語のだ。
「その調子だと、宿題になってもやって来なさそうだしさ。あたしが日誌書いてる間にでも仕上げればいいんじゃないの?」
「―…」
「…何?」
「いや、一瞬オマエの後に光が差したような気がして…」
 これが神か仏かってやつなんだろうか。だとしたら神仏はずいぶんフレンドリーなんだな。
「礼なら坂田くんに言いなさいよー?あたしの分かんないところ丁寧に教えてくれたんだから」
「…」

 …なんとなく、さっきのセリフを撤回したくなったのは気のせいだろうか。


747:続・イヌイチ・6
07/11/10 07:59:22 Fasnx+d2
******
 かりかり。かりかりかり。
 クラスメイトが部活やら帰宅やらでどんどん席を立つ中、あたしと乾の間では、シャーペンが紙の上を走る音だけが響いていた。
「なー、ここのwhatの使い方なんだけど…」
「ん?ああ、これねー…」
 説明すると、乾はふーん、なるほどなあ、と呟きつつ、再びプリントに向かう。
 時折、ペンを持った手を口に添えたり、ペンの頭をかつんと机に当てたりしながら。
 多分この乾の姿ですら、色んな女の子に見出されて、手垢の付いたものなんだろうなあ。
 難しく考え込んで寄せる眉も、伏せたまつ毛の長さも。

 ―ちくん。
 胸に、針で突付かれたような痛みを感じ、あたしはそれを全力で否定する。

「…なに考えてんだか」
「何か言ったか?」
「なーんにもー。それより乾、早くしないとあたしもう日記仕上げちゃうよ?」
「げ。待て待て、あと3枚だからなっ!」
 乾の慌てっぷりに小さく笑いつつ、あたしは日誌に目を落とす。本当は日誌なんて、とっくに書き上がっていたけれど。

「そういやさ、最近一口坂田と仲いいな」
 ぴたり、とペンを止め乾が尋ねる。『そういや』の流れなどない唐突な発言に、あたしはしばらく考えてしまった。
「そう…かな?時々手伝ってもらったりはしてるけど」
 いつも困ってる時にタイミング良く現れるんだよね。妖怪道中記のご先祖さまみたいな感じでさ、と言ったら例えが古くて分かんねー
よ返された。そんな古くないと思うけど。
「ふーん…オレはてっきり先輩に見切りつけたのかと思ったけどな」
「そんな訳ないでしょ」
 馬鹿げた質問をばっさり斬り捨てる。
「そういう乾はどうなのよ」
 仮にも、ドMでも『もて四天王』なんて呼ばれる男だ。引く手あまたなんて言葉も霞むくらい、本当は相手に困らない筈なのに。
「ねーな。先輩が例え阿久津のモンになっても、先輩はオレの憧れだ」
 どうして真っすぐあたしを見て答えられるのだろう。
「憧れ、ねえ」
「そゆこと」

 あたしは、憧れと恋が似て非なるものだと知っている。乾が強く想っているにも関わらず、阿久津くんからお姉さまを奪おうとしない
理由も。
 だけど、言わない。それはコイツ自身気付いていないだろうから。
 そして、あたしも気付かない事を心の底で願っているから。

 ―本当、馬鹿だね。

 かりかりとペンを走らせる音を耳に心地良く感じつつ、あたしは西日の差し込む教室の中、ゆっくりと眠りに落ちていった。

748:続・イヌイチ・7
07/11/10 08:00:04 Fasnx+d2
******
 かつん。紙にピリオドの印を叩き込む音と共にオレのプリントが完成したのは、西日が赤味を帯び始めた頃だった。
「はー…出来た、っと。一口、そっちはど…」
 顔を上げ尋ねようとして、言葉が止まる。机をはさんで向かいに座る一口は、すやすやと微かな寝息を立てていたのだ。
「何だよ、自分だって寝てんじゃねーか」
 今と授業中が別物なのを棚に上げ、オレはひとり愚痴る。
「おーい一口、日誌書き終わってんのか?」
 へんじがない ただのし…じゃない、ずいぶん深い眠りについているらしい。
 週番の仕事で、朝一番に教室に来ていたという辺りに理由がありそうだが。
「…別にオレだって、遅刻してる訳じゃねーけどさ」
 それにしても、寝顔まで子供染みてるよなあ。無邪気っつーか、幼稚っつーか。
 くりっとした大きな目も、見た目に反して古臭い発言が目立つ口も、今はただひっそりとそこにあるだけだった。
「…」
 そっと、閉じられた学級日誌を手に取り、今日のページを捲ってみる。ちまっとした一口の字は既に書くべき全ての項目を埋めていた。
 ―なんだよ、とっくに書き終わってんじゃないか。
 ならば、いつまでも教室に居続ける理由はない。オレたち以外に誰も居ないなら尚更だ。立ち上がって揺り起こそうとして―オレは
手を止めた。
 ふと、視界に留まった一口の手が、オレのおぼろげな白日夢を思い出させてしまったのだ。

 ―頬を撫でる、柔らかな掌。細い指先。

「…一口」
 一応呼んでみるが、相変わらず返事は無い。ど、くん。…どくん。どくん。
 早まるな、正気になれと頭の中のオレが叫ぶ。けれど体は叫び声に逆らうように、ゆっくりと一口の手を掴んでいた。
 小さくて、柔らかな一口の手。なんかコイツの体のパーツって、どこもかしこも小さいような気がする。
 オレは目を閉じ、静かに掴んだ手を自分の頬に寄せた。ほのかに温かい掌が、ひたり、頬を撫でる。
「…」
 ぞくっ。背中に軽く電流が走った。―はっきり言って今の自分は、不審とかあやしいなんて言葉で片付けられないくらい変だ。
 もし今一口の目が覚めたなら、ビンタ100発どころの問題じゃない。
 分かっているのに、手が止まらなかった。オレは、夢の中のオレと同じで、触れられるキモチ良さに抗えないまま、ゆっくりと一口の
指を自分の口へと導こうとしていた。
 人差し指が唇を軽くかすめたその時―。

 ポーン。
『下校時刻になりました。生徒の皆さんは、すみやかに帰宅してください』

「!!」だんっ!反射的に手を机に叩きつける。
 ―義務的な下校放送の声により、オレは危うい倒錯の世界からギリギリのところで強制送還と相成ったのだった。
「痛っ!?…あれ?あたし寝てた?…っていうか乾、何やってんの?」
「いや…何でも…」
 本当、オレ何やってんだよ。一口に背を向け、赤くなった顔と昼間同様に熱を持ってしまった股間を悟られまいとする姿は、間抜け以
外の何者でもない。

 いや本当に、何やってんだ。
 一口相手に。



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