06/11/22 23:58:38 xgKiZ6si
「泉さん?泉星さん?いらっしゃいませんか?」
泉がマンションのインターホンの呼び掛けに応じてドアを開けると、そこに立っていたのは刑事の黒木だった。
「あの…何回言ったら覚えて下さるんですか?私は星泉です」
「ああ、そうでしたね。これは失礼」
つねに丁寧な物腰で泉にも語りかけてくるため、泉もこの男と話す時にはいつも以上に丁寧になってしまう。
「…で、今日は、何か?」
刑事の訪問に心当たりがない泉が訝しげに尋ねると、黒木はこう言った。
「ヘロインの捜索で、まだしていない場所が一つあったことを思い出しましてね…それで、こうしてお伺いした次第です。
ここで立ち話もなんですのでお邪魔してもよろしいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
スリッパを出してやり、泉は黒木を部屋へと通した。
浜口組が躍起になって探しているヘロインを見つけ出すべく、泉を始めとする目高組の一同は八方手を尽くして探し抜いたが未だにその在りかは謎のままだ。
もうこれ以上思い付く隠し場所などない…と落胆していたところに黒木がやってきたために、泉は縋るような思いで黒木の言葉を待った。
「目高組の中もこのマンションも、隈なく探しましたがヘロインは見つかりませんでしたよねえ。
しかしですね、まだ、探していない場所があったんですよ。
ご存知ありませんか?ニュースでたまに取り上げられていますけど、毎年数件は税関で摘発される密輸の手口なんです」
立て板に水とはまさにこのこと、と言わんばかりの口調で黒木は一息に言葉を羅列した後、一瞬眉毛を引き上げてからこう続けた。
「身体の…中です」
「身体の…中…?」
黒木の言葉の意味を図りかねてポカンとしている泉に向かって、再び黒木は語りかけ出した。
「ええ、そうです。身体の中です。身体の中に隠してしまえば、麻薬犬の嗅覚を持ってしてもなかなか見つけることはできませんからねえ」
「え…あの、でも、身体の中に隠すって、一体どうやって?」
「方法は主に二つあります。まず一つは胃の中です。袋に入れて飲み込んで、後は排泄物として自然に出てくるのを待つんです」
その様子を想像してしまったのか、泉は思わず眉間にシワを寄せて険しい表情になる。
「ああ、これは女性の前でデリカシーがありませんでしたね」
泉のその表情を見て黒木は詫びる。
「しかし、もう一つの方法というのがですね、それ以上にデリカシーに欠ける上に、女性でなければ不可能な方法なんですよね…」
穏やかながらもいつもはっきりと内容をぼやかすことなく話をする黒木が言い澱むので、泉は不思議に思ってこう言った。
「構いませんよ。はっきりおっしゃて下さっても」
その泉の言葉を聞いて、黒木は安心した様子で話を続けた。
「それでは、遠慮なくお話させていただきますが…女性にしかできないもう一つの方法というのはですね。
コンドームの中にヘロインを詰めて、膣の中に挿入するんですよ」
保健体育の授業でしか聞いたことのないような単語の羅列に、泉は気が遠くなりそうになる。
「ああ、やはりデリカシーに欠けた表現でした。しかし、他になんとご説明申し上げればよかったですかねえ?避妊具をヴァギナの中に…というのも」
「も、もう説明はいいです!わかりましたから!」
更なる専門的な用語を耳にして、泉は顔を紅潮させた。
「で、その、隠し方が、私と何の関係があるんですか?」
「ええ。ですから、その方法で隠されているかもしれない、と思いましてね」
泉に一歩分近付きながら、黒木はしれっとした表情のまま言う。
「…捜査、させていただけませんか?」
低くよく通る声で黒木はそう言うと、泉の膝裏に手をかけて掬い上げその長身をソファーへと倒した。