07/05/08 23:25:41 I7+Lgx2d
3/3 途中書けですまん
「私は人間ではないからよく分からないのだが、先程あの小僧が演奏したのは曲の構成としてしっかりとしていた筈だ」
「そうね」
プリネシカは短く吐き捨てる。まるで係わりたくないというように。
「なかには人間でも神曲を感じる事が出来る。
しかし、肉体という殻に閉じ込められている人間の魂では…まったく感じないに等しい。
例えるならば、遠く離れる所で針を落とした音を聞き分ける事など普通の人間では無理な筈だからな」
「…なにが言いたいの?」
「つまり、お前は精霊の真似事をした。という事だ」
「プリネが精霊な筈ないじゃないですか! プリネは私の妹ですよ!」
「ペルセ……」
一度も見た事がないプリネシカの変貌に驚きながらも助け舟を出す。
一度も見た事がない姿であっても唯一無二である血を分けあっている双子の妹。
困っているとか腹立っているとか調子悪いとか、嬉しいや楽しいや大好きなど、いつどんな時でも一緒だった双子の姉のペルセルテにはお見通しだ。
「人間をばかにしないで下さい! 私だってダングイスさんの演奏には気分悪くなりました。プリネが怒れるのも無理ありません!」
「んっ、そうだな小娘。やっぱり見所ある奴だ」
「なんの事ですか?」
「小娘。おまえの魂の形、とっても良いものだぞ。つまり神曲を奏でる才能があるという事だ」
「え、そうですか! わたし才能ありますか!」
普通の者ならば、神曲は一般の曲よりも素晴らしいだけの曲と認識する事が殆ど。
その認識は実は間違いではない。
先程ダングイスが演奏した曲は自惚れる自信があるだけあって、技術的には良い演奏であった。
故に、実際問題は神曲と言って良いかもしれない。
神曲は、曲を演奏する事によって己の魂を磨き上げ、魂を旋律に乗せ精霊と心を結ぶ行為。
良い旋律であれば良い旋律である程、ダイレクトに精霊へ己の魂の形を伝える事が可能となる。
しかし伝えるべき魂の形が酷いものならば、それは外見に騙された酷い神曲だ。
つまり食べ物に例えれば、見た目だけ豪勢に飾ってとても美味しそうな料理だが、悪臭ただよっていてとても食べられたものではない。
極論でいえば美味しそうに見えて実は腐っている神曲という事。
そして、精霊には神曲への視覚と味覚と嗅覚があり、人間には神曲への視覚があっても味覚と嗅覚は…全くないという訳ではないが、ないに等しい。
コーティカルテが思うには、銀髪の少女プリネシカは精霊並みに神曲への感覚が優れているのではないかと判断し、金髪の少女ペルセルテは神曲を奏でる為の魂の形が良いものだと判断したようだ。
「ペルセ、あんまりおだてに乗っちゃだめだよ」
「えぇー、だめなのぉ?」
プリネシカはいつのまにか落ち着きを取り戻していた。
姉のペルセルテの想いが伝わったのだろう。
いつも冷静なプリネシカであるが故に、怒りを覚えてもダングイスのように我を失うこともなく、落ち着きを取り戻すのも早い。
「根拠なくおだてている訳じゃないぞ。この前の演奏、悪くなかったからな」
「やった! 上級精霊のお墨付きだよプリネぇ、ってどこで私の演奏を聴いたんですか?」
「精霊を甘く見ない事だ。この学園の全箇所に流れる神曲なんぞ、手に取るように分かる。そしてどの様な者が奏でているかもな」
精霊の能力には程度の差はあれど、基本的にどこで神曲を奏でようが聴こえてくる。
物質の干渉など無意味な精霊にはたとえ分厚い壁で覆われようとも筒抜けなのだ。
ただ例外があるとすれば、精霊文字による制限がかけられているもの。
精霊は物質ではない精神体であり、物質という肉体を持つ人間の常識はあまり通じない。
「はえぇぇ、精霊さんって…そんな事まで分かっちゃうんですかぁ……」
「ペルセ、肉体の概念がなくなると広さなんてあまり関係ないんだよ」
「対するお前…演奏する時、極端に魂が揺れ動いているな。まるで精霊が神曲を奏でようとするみたいに」
「まだ言いますか! プリネは人間です! ただ私よりも精霊の知識が豊富なだけの私の妹です!」
「……ペルセ…知識が豊富な、だけって…?」
「そうだな。私の勘違い、だな…銀髪のお前は……精霊じゃない…
……半端な存在なんて、ありえない筈…だからな……」