【貴方が居なければ】依存スレッド【生きられない】at EROPARO
【貴方が居なければ】依存スレッド【生きられない】 - 暇つぶし2ch650:名無しさん@ピンキー
07/08/24 04:37:41 xkToCdBQ
なんかどこに書くべきかよく分からん内容になったけど、
このスレを愛してるのでここに。
短いしエロ無いけど、次はもっと長い尺でヤるので許して下さい。
こういうとこに書くのなれないので
改行で読み難かったらごめんなさい。

「何時?」
鈴の震えるような、か細い声が、饐えた匂いのするこの部屋に響いた。
問われて俺は、古い映画を映すモニターから目をそらさずに答える。
「三時」
古い映画は好きだった。何でかは分からない。
青みがかったフィルムの向こう、売女が笑う。
「あたしお腹すいた。サクちゃんは?」
衣擦れの音、足音、一定のリズムでぱたぱたと響く。
「食べ物は」
リモコンをぱちぱちと弄り、映像を
いったん止めてから、声の方へ歩む。
「ないよ」
少女は小さな頭を振って、黒く長い髪を揺らす。
それが近づいた僕に当たって鬱陶しい。
大きく可愛らしい目、長い睫毛。
食べ物がないと分かるや否や尖らせた口。
「買ってこようか」
「いいよ。あたし外出たくないし」
少女はふるふるとその頭を振って、振って僕の申し出を拒否した。
栄養なんか微塵もとってないような矮躯、
発育の悪さが如実に出た低身長。
遺伝だと少女は言うが、僕は彼女の家族を
見た事が無いので何とも言えない。

「だから僕が買ってくるって言ってるんだけど」
少女は大きな目で僕を見上げて眉根をよせる。
「あたしを残して? だめ、絶対だめだからね」
僕は安心すら覚えた。彼女が僕に、依存してくれている事に。
それは異常だと、大学の知り合いにも言われたりした。
しかしお互いが望んでいて何も困ることなどない。
ある意味これが幸福の形なのだ、僕らにとっての。
少し、だけど、少しほんの少し、僕は嗜虐心をくすぐられた。
その少女の、ひた向きに注いでくれる愛情に対して。
「残してくって言ったら? それでもう帰ってこなかったらどうする?
 僕がさぁ、外に出て車に轢かれでもしてさぁ、
内蔵とかいっぱい出ちゃってさあ」
少女の目には、みるみる雫がたまって行く。
それでも僕はやめない。
「そ、そしたら、あ、ああ、ああたしは全部拾ってくるもん。
……な、内蔵だって、さくちゃんのなら温かくて
良い気持ちに違いないからっ」

狂ってる、のは僕も同じに違いない。
僕は少女を抱きしめて「愛してるよ、ミカ」とささやいた。

651:名無しさん@ピンキー
07/08/24 04:39:45 xkToCdBQ
うわもっと横長くて大丈夫なのか…すいません。

652:名無しさん@ピンキー
07/08/24 06:50:22 0AVN2GZ4
かわいいな…GJ

しかし某大統領夫人を思い出すな

653:名無しさん@ピンキー
07/08/28 12:42:32 YOgH/Qo2
GJ!!

654:名無しさん@ピンキー
07/08/29 19:31:55 iH1N9bAm
 いい病み具合依存具合。
 待ってた甲斐があったぜGJ!!

655:名無しさん@ピンキー
07/09/04 19:38:46 VGywtP9V
保守ねた投下

656:名無しさん@ピンキー
07/09/04 19:39:41 VGywtP9V
「お待たせしました~杏仁豆腐です」
今日は仲間で集まっての飲み会だ。
テーブルに散らばるグラスを除けて杏仁豆腐の置き場所を作る。
「おい、デザート来たぞ。頼んだやつ?」
しかし殆どの奴らが死んでるらしく返事しない。
「たくよー、食っちまっていいのかな……?」
「うぅ……杏仁豆腐?」
陽子が、よろよろと肩に寄りかかってくる。
「お前が頼んだのか?」
「あたし……?」
コイツも結構呑んだな……。
「頼ん……だ気がする………」
「食うか?」
「……む、むり」
「そうか、まあ無理はしなくて良いぞ」
おれは小皿に杏仁豆腐を掬い、箸でつまんでは食べる。
一人で食べるには、ちょっと大変な量な気もする。
「あたしも……食べ………る」
「んん? でもさっき無理って言わなかったか?」
「優太だけに、食べ……させたら、悪い……から」
「わかった。じゃあ小皿はここに置いておくぞ」
おれたちは二人並んで杏仁豆腐をつつく。
しかし食べても食べても白い四角い奴は減らない。
陽子は、おれにしなだれかかりながらも箸を口に、よろよろと繰り返し運んでいく。
「なんで杏仁豆腐を頼んだんだ?」
「ごめん……」
「……すまん。まるで責めるような言い方になってしまったな」
「いいよ、気にしない。……杏仁豆腐を頼んだのはね」
「うん」
「ほら、ここ来る時、ここの杏仁豆腐がおいしいって話をしたじゃない」
「言ったなあ」
「それで………」
「それだけ?」
「………うん」
それだけか。
「優太は、さ。おいしいって思わない?」
「流石に、この状況じゃな」
「そっか……そうだよね」
陽子は少し酔いが覚めたようだ。

おれらは、ようやく杏仁豆腐を食い終わり皆を起こして解散した。
泥酔状態だったように思うのだが、寝てたおかげなのか、それとも一時的なものなのか
みんな割かしピンピンとした状態で駅に帰っていった。
それに比べおれたちはヨロヨロだ。特に陽子は酷い。

657:名無しさん@ピンキー
07/09/04 19:41:02 VGywtP9V
夜空を飾る星々が綺麗だ。酔った頭には特にそう思える。
「夜道を歩くのも悪くねぇなぁ。
 飲み会はハードだったけどさ、ふらふらと自宅に向かうのも良い気分だ。
 ほら、見てみろよ陽子。あの星なんて言うのかな」
おれの肩を借りて歩く陽子が顔を上げる。
「どれ?」
「あれだよ」
「あの辺? さあ………なんて言うのかな……」
空を見上げる陽子の目にも星は輝いていた。しかし、直ぐに陽子は俯いてしまう。
「ごめんね」
「なにが?」
「杏仁豆腐。大半食べてもらっちゃって」
「そんなこと気にす―」
「気にするよ。だって優太には助けてもらってばかりだし」
「………」
「今日だけじゃない。いつだって優太は私に良くしてくれる。それなのに私は……」
「陽子……」
「本当に迷惑掛けちゃってごめん。本当にごめんね。
 だけど………だけど優太ぁ……私を見捨てないでぇ……」
急に涙する陽子におれは戸惑ってしまう。
「見捨てるとか、そんな訳ないだろ」
「本当に? 私迷惑ばかりじゃない?」
「おれら長い付き合いだろ。なにを言い出すかと思えば………」
「う……うぅっ、信じて良いんだね優太ぁ………」
「まだ酒が残っているようだな? 大体おまえが迷惑掛けるのは昔からだろ?」
「……優太のばかぁ」
ハハ、とおれは笑う。

「なにも気を揉む必要なんてないのさ。
 陽子を送ることを面倒に思うわけないだろ。家は直ぐそこなんだし」
「もしも私が遠く離れた家に住んでいたら?」
「引越しでもするつもりか? ま、それでも送ってやんよ」
「優太………」
「ほら、もっと掴まれって」
「うん」
陽子は、おずおずと体を寄せる。
そうしておれたちは肩を並べて夜空の下を帰っていったのだった。

658:名無しさん@ピンキー
07/09/04 19:43:36 VGywtP9V
依存具合が足りない……
けれども保守ネタだから勘弁してくれ

659:名無しさん@ピンキー
07/09/08 02:38:44 /t23LfAy
いえいえ、いいもの読ませていただきました
よりかかっているような感じが良いですね
GJ!!

660:名無しさん@ピンキー
07/09/09 23:10:00 VlpIhV5k
需要過多だな、このスレ。
何回か人大杉になったし。。。

661:名無しさん@ピンキー
07/09/09 23:21:44 avwxSrRN
専ブラはどうした。

662:名無しさん@ピンキー
07/09/10 00:05:59 eK4jBgB3
>>661
あまり2cnやるわけじゃないから入れてないんだ。
便利?

663:名無しさん@ピンキー
07/09/10 01:31:07 9Hj9dmGF
便利

664:名無しさん@ピンキー
07/09/14 07:46:47 Fquo3zId
便利だし負荷軽減にもなるから出来れば使ったほうがいい

665:名無しさん@ピンキー
07/09/15 20:51:00 j8HMDTAy
保守

666:名無しさん@ピンキー
07/09/18 23:49:09 b9MZY+OY
もうすぐこのスレも一周年age

667:名無しさん@ピンキー
07/09/19 18:15:20 iLS9LmrM
保守


668:名無しさん@ピンキー
07/09/20 00:51:57 JlR2caxj
それでもGJと言わせてもらうぞ!

669:名無しさん@ピンキー
07/09/22 15:27:54 L7vY0zU0
保守

670:名無しさん@ピンキー
07/09/23 13:52:46 3eQyx+IJ
ネタ探しに「教えて!goo」の恋愛相談を覗いてみたけど「依存」についての質問結構あったな。
4995件だって。


保守

671:名無しさん@ピンキー
07/09/25 13:43:15 28DfMQAA
無口な女の子とやっちゃうエロSS 二回目
スレリンク(eroparo板)

の599から依存系のSSが投下されてた

672:名無しさん@ピンキー
07/09/25 13:53:39 28DfMQAA
スマン
ageてしまった

673:名無しさん@ピンキー
07/09/25 14:36:33 fdzsi/D8
男のほうが依存とは予想外だった

674:名無しさん@ピンキー
07/09/25 21:21:15 GtTsZFgy
男依存と見せかけて妹はさらに上を行ってたなw

しかしSSは書きたいが依存とヤンデレとの境界がよくわからん。
このスレ的には依存が行き過ぎて病んでしまうのはNGなんだっけ?

675:名無しさん@ピンキー
07/09/25 22:45:42 Nkcfh9xq
NGではない。というか明確な境界は無い。
ここのスレは依存があればOKだから、ヤンデレと重なる部分も出てくる。

676:名無しさん@ピンキー
07/09/25 23:13:52 NRynbSuH
>>674
ヤンデレは男に身体的ダメージを与えるのを許容されているみたいだが、
依存女は、精神的ダメージはともかく身体的ダメージを与えない方がいいと思う。

677:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/09/26 00:39:52 JJ8lnjlY
<社長秘書>

まったく。
世の中、不景気ねえ。
私も遊び疲れたし、そろそろ適当な男を捕まえて家庭にでも納まるかと思ったけれど、
気がつけば、いい男どころか、まあまあの男さえ見なくなっちゃたわね。
セレブ主婦になっちゃえば、もう一生安泰、遊び放題、
年収三千万くらいで妥協してあげるっていうのに。
仕方ないから、転職して大企業に転がり込んだ。
「この街の人間の半分はそこに勤めていて、残りの半分はそこ相手の商売をしている」って大会社に。
すぐに秘書課に配属されたのは、まあ、当然ね。
私、美人だし、頭もいいから。
でもまじめに働くのは面倒くさいのよね。
お偉方の誰かとっ捕まえて愛人にでもなるか。
いざとなれば、その証拠ちらつかせて強請ってやればいいし。
と、思っていたら、いいネタを見つけた。
ここの社長、浮気してる。

相手は、秘書課に配属されたとき、私の事をすごく冷たい目で眺めた、社長秘書。
眼鏡が似合う美人だけど、まあ当然、私のほうが上だ。
歳だって、もう三十路いってるんじゃないの、大年増もいいとこよ。
秘書課の中でも、なんか「別格」みたいに振舞ってるのに、
古株の他の秘書も、見てみぬふりをしている。
社員は着用が義務付けられている名札も、この女は付けてないし、
名前で呼ばれないで、「あの方」とか「あの人」とか言われてる。
他の秘書は、こうして秘書室に全員集められて、
役員のスケジュールを集中的に管理しているって言うのに、
あの女だけ、社長室に机用意されていて、四六時中そこにいる。
私は、こんな女くさい、うざったいところの末席で愛想笑いしてなきゃいけないのに、
あのクソ女だけ特別待遇。あー、思い出しただけでもなんかムカつく。


678:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/09/26 00:40:33 JJ8lnjlY
あの女、絶対社長と寝てる。
こないだ、女子トイレで会った。
このフロアには、役員用の女子トイレもあるんだけど、
ここの会社、女の役員って会長以外いないのよね。
だから、誰も使わないんだけど、広いし、綺麗だし、私、こっそりここ使ってる。
誰も使わなくたって、お掃除は毎日されてるんだから減るもんじゃないし。
で、用を足して、個室から出たら、あの女とばったり。
あいつ、眉をしかめてなんて言ったと思う?
「ここは、役員専用よ」
自分だって使ってるじゃない。
社長秘書は、役員待遇のつもり?
あとで、古株の秘書に、チクってやったけど、
あいまいな笑いを浮かべて「あの方はいいの」って返事。
とことん、別格扱いで、めちゃくちゃムカツクわ。
で、あの女、私にそう言ったあとは、もうこっちも見もしないで、
鏡に向かって、お化粧直しを始めたんだ。
目をそらしてその脇を通り抜けるとき、―ザーメンの匂いがした。
まちがいない。
あれは、男の精液の匂い。
良く見れば、あの女、口紅を塗りなおしていた。
社長室で、フェラチオでもやっちゃってたのか。
あんな「私は貴女たちと違うのよ」って顔してて、よくやるわ。
あの「別格」気取りも愛人だから? 
マジ、ムカツク。
一瞬、あの社長寝取ってやろうかと思ったけど、
ちょっと調べたらここの社長、婿養子ってことがわかってがっかり。
会社の実権は、ふだん会社に姿を現さない
─会長室はあるんだけど、居るのを見たことない─
会長が握っているみたい。
愛人になっても旨味はないわけよね。

679:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/09/26 00:41:15 JJ8lnjlY
だけど、いいこと考えた。
これ、写真に撮って強請れば、いい金になりそうね。
ここの会長って、代々この街の支配者で、やくざともつながりがある家だから、
婿養子社長としたら、絶対バレちゃマズいわよね。
実権ないらしいから、あまりお金持っていないかもしれないけど、
五百万か、一千万くらいは出すでしょう。
ついでに、世界中の人間をジャガイモかカボチャに見ているような
あのクソ女のこともハメられるし。
一石二鳥だわ、ああ、私って頭いい!
……ということで、私は、頃合を見計らって社長室の前に立った。
おあつらえ向きに、分厚い樫のドアには僅かな隙間が開いていた。
カギもかかっていないということだ。
隙間にちょっと耳を寄せる。
「……気持ちいいですか、……さん」
あの女の声。
だけど、それは、別人かと思うくらいに甘く、可愛らしく、媚びを含んだものだった。
「出しても、いいんですよ。我慢しないで、いっぱい……」
僅かだけど荒くなっている呼吸に溶けている甘さ。
女なら、誰でも知っている、あの状態の声だ。
私は、ドアに手をかけ、それを勢い良く開けた。

「……な、何だ、き、君は……」
婿養子どのが素っ頓狂な声を上げる。
かまわずに、携帯で写真を撮る。
「……浮気の現場、押さえましたわ! さあ、社長さん、いくらでこのデータ買い戻します?」
「……?!」
口をあんぐりと開けた社長のバカ面。
─いや、ちがう、この弛緩ぶりは……。
「んっ……んっ……」
その股間に顔をうずめた女が、微塵の動揺も見せずに「続き」をしていた。


680:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/09/26 00:41:59 JJ8lnjlY
「……」
私は、呆然とフェラチオを続ける女を眺めた。
たった今、身の破滅のネタを写真に撮られた社長秘書は、横目で私を眺めた。
いつもと同じ、ジャガイモかカボチャを見るような目で。
すぐに視線を戻した社長秘書は、上目遣いで社長を見つめた。
「あっ、ちょっ……も、もうっ……!!」
社長が身を捩った。
女のような悲鳴を上げる。
その反応を心得ているように、女が舌と唇を使った。
ちゅるる、ちゅるっ。
じゅぽっ、ずるるっ。
風俗の経験もある私でさえ、顔を赤らめるような音を立てた瞬間、
婿養子社長は、女の口の中に射精を始めていた。
「~~~っ!」
快感に身もだえする社長が、女の頭を抑える。
抵抗する素振りも見せず、秘書は口内射精を許した。
こくん、こくん。
女秘書は、ためらいもなく精液を飲み下す。
世界中の人間を見下しているような美女のそんな姿は、
女の私でさえも、ぞくりとするほどに淫らで、妖艶だった。
「……うう……」
上り詰めた後の脱力感にがっくりと肩を落とした社長がこちらに関心を戻すより早く、
女秘書が立ち上がった。
ハンカチで口元を拭いながら、私を一瞥する。
「……それで、何の用なのかしら?」
先ほどの痴態とは絶対に同一人物と思えない冷たい声に、私は我に返った。
「あ、あんたと社長の不倫現場を取らせてもらったわ。
会長に知られたくなければ……わ、分かっているわよね?」


681:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/09/26 00:42:42 JJ8lnjlY
「……え?」
社長が、間の抜けた声を上げた。
ズボンとパンツはまだ下ろしたままの情けない格好だ。
「啓太さんを、強請る気?」
「……な、名前で呼ぶとは、随分なご身分ねえ。
この不倫、会長に知られても、その余裕顔でいられるかしら?」
「え、ちょ、ちょっと君……」
社長が目を白黒させる。
何か言いたいらしいが、まあ、そりゃそうだろう。
私は交渉をはじめるべくそっちを向こうとして、……それが出来なかった。
社長秘書の視線に射すくめられたから。
「私に何を知らせてくれる、ですって?」
眼鏡を外しながら、秘書は静かに聞いた。
あれ。
この顔、どっかで見たことある。
たしか、社長のことを調べようとして読んだ雑誌で。
このグループを切り盛りしている、会長の特集の号の。
でも、それって……。
「私が、社長室で啓太さんにフェラチオをしていて、何か不都合なことがあるのかしら?
……啓太さんの妻で、社長秘書、兼、会長のこの私、道明寺志穂理にとって?」
溺愛する夫といちゃつく時間を邪魔されたこの街の支配者は、
悪魔よりも恐ろしい目で私を睨み見つけながら、そう質問した。

682:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/09/26 00:43:22 JJ8lnjlY
そう。
あとは、よしなにお願いね、敷島。
あの女のことは、お任せするわ。
ええ、私の母が、貴女のお母さまを信頼していたと同じくらい、
私も貴女のことを信頼していますもの。
きっと、私の気が済むように取り計らってくれると思っているわ。
うちの会長秘書は、とっても有能ですもの。
では、お願いね。

ああ、啓太さん、全部済みましたわ。
時間をずいぶん、無駄にしましたね。
さ、続きを、しましょう。
お口で一回しただけじゃ、満足していないのでしょう?
ほら、さっきから、おち×ちん、ビンビンじゃないですか。
うふふ、次は私のここでしたいですか?
いいんですよ。
私は啓太さんの奥さんですから、
啓太さんは、私のおま×こをいつでも自由に使っていいんです。
夫婦ですから、社長室で毎日昼間っからセックスしててもいいんです!
え? 仕事ですか? 大丈夫ですよ。
啓太さんの今日のお仕事は、あと10枚、書類に社長印押すだけです。
始業前に、全部私がチェックしてありますから。
あ、今日は、一時間おきの休憩時間にセックスしていいですよ。
その後は、帰りに私とデートして、お家に帰って晩御飯食べて……。
うふふ、今日は啓太さんの好きなビーフシチュー作りますね。
それから一緒にお風呂に入って、後は……うふふふふ。
ね、啓太さんのスケジュール管理は、完璧ですよ。
だって、私、啓太さんの秘書ですもの。

               fin


683:名無しさん@ピンキー
07/09/26 01:16:03 lhw4PbVJ
俺が人生初の一番槍GJをゲットォォォォォォォ!!!!!1111

684:名無しさん@ピンキー
07/09/26 02:35:58 cKJYZNsg
GJ
秘書なら会長の顔ぐらいわかれw

685:名無しさん@ピンキー
07/09/26 04:25:25 TZ2RB+uq
GJ
やっぱりゲーパロさんの作品はいい!!!

686:名無しさん@ピンキー
07/09/26 08:13:29 2U3/95II
オモロイ…けど…依存?

687:名無しさん@ピンキー
07/09/26 15:07:12 ioFL0C4j
GJ!
相変わらずこの嫁さんはこええw
これだけだと依存っぽくないけど、前の話も含めて考えると、もっと見えてくるかな


688:名無しさん@ピンキー
07/09/26 22:42:37 As6eki8r
きたああああああああああああああああああ!
GJ!

689:名無しさん@ピンキー
07/09/26 23:19:25 wkSKdZnN
>>687に言われるまで気付かんかった  orz

690:名無しさん@ピンキー
07/09/27 01:59:31 ib+nH67x
ダメ社長化してる元公務員男にワロタ

691:名無しさん@ピンキー
07/09/27 11:11:04 OdRiXIsl
GJ!! 相変わらずの嫁だなw

692:名無しさん@ピンキー
07/09/27 19:28:22 epZYNmEy
GJ!!なんという神っぷり!

693:名無しさん@ピンキー
07/09/29 03:57:21 QNdqJCP+



694:名無しさん@ピンキー
07/10/01 19:39:31 dRQc/K5s
↓ここで話題を提供する勇者↓

695:名無しさん@ピンキー
07/10/01 19:48:28 w/47IUVy
最初に言っておく!




特に言う事は無い!

696:名無しさん@ピンキー
07/10/01 19:53:11 hZN1yPQ6
デネヴキャンディ置いてとっととカエレ

697:名無しさん@ピンキー
07/10/01 19:58:58 w/47IUVy
ごめん、調子こいた

「契約が果たされるまで、絶対に離れないからね」
「何で私と契約してるのに、他のと契約するのよ!」
「あなたと契約していいのは私だけ……私だけなの!」

契約と依存を無理やり捏ね合わせて見たけどダメだな!

698:名無しさん@ピンキー
07/10/03 21:01:30 bmXBAHPT
↓ここで話題を提供する勇者↓

699:名無しさん@ピンキー
07/10/03 22:28:03 9u7zz0r5
↑まさに依存↑

700:名無しさん@ピンキー
07/10/03 22:31:30 c+sM+2o3
ここの方向性がイマイチ分からないんだけど、
ダメ亭主を影ながら支える良妻を性別だけ反転させたって感じなのか?
精神的な依存だとヤンデレとかと被るよな

「……うはよー」
「お、起きたか。んじゃ、その辺にでも座っとけ。もう少しでメシ出来るからな」
「うん、いつもあいがとー」
「冷蔵庫にはロクなの無かったからテキトーに作ったチャーハンだ。味はほしょーしねえから」
「……もぐもぐ……じょぶじょぶ、だいじょーぶ。今日もおいひいよ」
「ん、そか」
「…………」
「…………………ん?」
「…………んーん、何でもないよ。ただアタシって、キミがいないと死んじゃうんだろーなってさ」
「……ああ、餓死か。ならメシぐらいテメーで作れよなー」
「違うよ。あ、いや違わないけどさ。餓死もあるけどさ……」
「なんだよ」
「んとね、んとね」
「はっきりしないヤツだなー」
「……くて死んじゃうよ」
「―え?」
「うー……、寂しくて死んじゃうって言ったの! もう、この話はもーお終い!」

こんな感じか?
文才なくてスマン


701:名無しさん@ピンキー
07/10/03 22:34:26 yI3bFee6
今眩い光を目の当たりにした。

702:名無しさん@ピンキー
07/10/04 00:22:31 x4G6dnn7
目!め、メガーッ!ギガーッ!

703:名無しさん@ピンキー
07/10/05 05:54:16 e8G0Q81H
萌える

704:名無しさん@ピンキー
07/10/05 08:10:16 SSiLoa/y
>>700

良妻が、ダメ旦那に
「この人は私がついていないと……」
って形で依存している可能性も……

705:名無しさん@ピンキー
07/10/05 20:01:54 FYFkusQ/
>>704
なんでだろう・・・
どこと無く泥沼可しそうな悪寒が。。。

706:名無しさん@ピンキー
07/10/05 20:56:33 Zjg8KATU
「この人は私がついていないと……」
「こいつには俺がついていないと……」
こうですか?わかりません!

707:名無しさん@ピンキー
07/10/06 00:36:29 rYkJxNi7
>>704
それは、母性本能というか保護欲というか、ともかく依存とはチョイ違うような…

708:名無しさん@ピンキー
07/10/06 00:43:25 WKbjCDsA
分かってないな、自分ではそう思ってるんだけど実はってのがいいんだろ

709:名無しさん@ピンキー
07/10/06 05:29:20 Mi6Bxd+t
>>704
確かそういうのを共依存っていうはず

710:名無しさん@ピンキー
07/10/08 04:23:56 9rESTEl8
今更だが>>700でほんわかしますた

711:名無しさん@ピンキー
07/10/08 17:25:15 tH6XRa61
「すまん、そろそろ行くな」

「や、やだ!いっちゃヤダ!お願いだから行かないで!」

「とは行ってもだなぁ」

「わ、わたしは!あなたがいなきゃダメなの!あなたじゃなきゃダメなの!あなただけなの!」

「仕事始まるし」

「ですよねー」





依存が掴みきれない
下手したら
キシャー!とか
グサッ!とか
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいフラグが立ちそうだ。

712:名無しさん@ピンキー
07/10/08 18:23:25 FL8vQ8qq
ですよねー
吹いたwww

713:名無しさん@ピンキー
07/10/08 22:19:37 d6ex25qv
いいww
こんな感じのやり取り大好きだこんちくしょうww

714:名無しさん@ピンキー
07/10/09 18:20:31 rNf7qABt
そうか!異性への依存は煙草のようにいつの間にか頼ってしまうと言う事か!


715:名無しさん@ピンキー
07/10/10 17:52:20 P9ev1G8n
「ねぇ…」

 驚いた。心底驚いた。気付いたら同棲中である彼女の依子(よりこ)が後ろに立っていた。変な汗が出る。怖い。しかし、いつまでも返事をしないわけにはあるまい。

「なんだ?」

「昨日はなんでしてくれなかったの?」

「はぁ?」

 何の事だ?昨日は普通に仕事して、普通に過ごして、普通に寝ただけだったはずだ。考慮すべき特記事項は確かにあるがそれは致し方がない事なのだ。

「昨日は私たちの一周年記念日だったのよ!私はとても楽しみにしてたの!大好きなあなたと一つになるのを心待ちにしていたの!それなのにあなたがしたのは18時20分31秒のキスだけじゃない!」

「………」

 ちょっと待て、と言おうとしたが声が出ない。依子の迫力に圧されて声帯が変に震える。

「どうして!ねえ、どうして!!私じゃダメなの!?私はあなたの一番になれないの!?私はあなたじゃなきゃイヤなの!あなたじゃなきゃダメなの!あなただけなの!あなたが好き、大好きなの!お願い…ダメな所は直すから見捨てないで…イヤ…あなたが離れるのはイヤ…」



716:名無しさん@ピンキー
07/10/10 17:53:18 P9ev1G8n
 一通り糾弾し終えると依子は俺の足元に崩れ落ちた。そして、俺の足に手を回して拘束し、「イヤ…イヤ…」とジーンズに顔を押し付ける。時折聞こえる嗚咽が心苦しい。
 ああそうか、と納得する。依子は不安だったのだ。俺が良かれ、と思ってした事が知らぬ間に依子を傷付けていたのだ。
 ならば、まずは誤解を解く事から始めようじゃないか。

「いや…昨日の依子は超危険日だったしな。もし俺がお前を求めていたら大変な事になっていたと思うぞ」

 足元の依子がピクリと動く。するとプルプル震えだした。恥ずかしさを隠すように笑っている、そんな震え方だ。

 そうなのだ。昨日の依子は神様が示し合わせたかのように危険日が重なったのだった。
 これを機に身でも固めなさい、という謎の暗示だった気がしなくもないな。

 俺は取りあえず依子の頭を撫でる事にした。

 どれだけ悩んだんだろうな、コイツは。先ほどの依子の顔を思い出すと妙にげっそりしていた気がする。つまらない心配かけてゴメンな。

 1分くらい撫で続けただろうか。依子も幾分かは落ち着いたようだ。
 頃合いか?依子の肩を軽く叩き、立つように促す。



717:名無しさん@ピンキー
07/10/10 17:54:59 P9ev1G8n
 そして…そろり、そろりと立ち上がり気まずそうに視線を合わせる依子。うわっ。目だけじゃなく顔全体が茹で上がったみたいに真っ赤じゃねえか。
 さあて、依子の第一声に期待しようじゃないか。

「し、ししし知ってたよ?」

 嘘つけ。

~~~~~~~~~~~

「でも良かった。私の事を嫌いになっていなくて。あなたがいなくなったら私はもう生きていけないもの」

 それは俺だってそうさ。

「ごめん、さっきの言葉は取り消すね。あなたがいなくなったらこの世界を生きる意味がないの。あなたは私の一部になっているの」

 そうか…そうだな。俺もお前がいなきゃ生きる意味を見いだせんしな。

「うん…ありがとう…」

 そして依子を抱き締める。昨日から甘えたくてもずっと我慢してたんだろうな。両腕を俺の背に回してくる。苦しいくらいに。

「…すき」

 うん。

「…だいすき」

 うんうん。

「ずっと私のそばにいてね…」

 ………うん。



718:名無しさん@ピンキー
07/10/10 17:55:55 P9ev1G8n
 その後の俺達の事を少しだけ語ろうと思う。

 俺は依子にプロポーズをした。あの時のような口約束だけでなく指輪も添えて。そして大学卒業を待って籍を入れる予定だ。

 近い将来、男の片腕にべったりくっ付く栗色の髪の女と、男に手を引かれている小さな女の子がいたらそれは俺達だろう。その女の子は未だお目にかかった事はないが既に存在はしてるんだ。

 …俺の隣にな。


「ずっとずっと大好きだから、あなたも私を離しちゃダメよ?」

「ああ、わかってる」

END


719:名無しさん@ピンキー
07/10/10 18:00:40 P9ev1G8n
一昨日投下した>>711を元に書きました。


これが依存なのかどうかは各々の判断で。

スレ汚し失礼しました。

720:名無しさん@ピンキー
07/10/10 19:56:08 dAQ2YJxS
GJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

721:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/11 21:32:39 8JhgddIF
<私が私でいられる時>

「お姉ちゃん、今日の夕飯よろしくね」
電話の中から、母さんの声がする。
オネエチャン。
私は、今、この家でそう呼ばれている。
「……どうしたの?」
「ううん、なんでもない。作っておく」
「あと、彩ちゃんの明日の準備もお願い。お母さん、遅くなりそうだら」
アヤチャン。
私の<妹>は、そう呼ばれている─母さんからも。
「……母さん」
「何? お姉ちゃん?」
何の迷いもない、その声に、私は続く言葉を失った。
「ううん。なんでもないわ。やっておくから」
「そう。お父さんとお母さんは遅いから、戸締りちゃんとしてね」
オトウサン。
お母さんは、再婚した相手のあの人を、そう呼ぶ。
「わかってるわ。大丈夫」
違和感にまみれた単語の羅列からなる会話を終え、私は携帯電話を切った。

「あ、龍ヶ崎(りゅうがさき)さん……」
クラスメイトの声は耳に入っていたが、私は通り過ぎた。
聞こえなかったのでもなく、無視したのでもなかった。
ただ─その「記号」が私のことを示す名前だと思わなかったからだ。
「龍ヶ崎さんったら!」
再度の呼びかけに、私はやっとそれが自分のことを言っていると気がつく。
「ごめん、ごめん。何?」
振り向いた笑顔が、自然のもののように思われただろうか。
自信はあまりない。

722:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/11 21:34:13 8JhgddIF
母が再婚して、一年になる。
新しい父住む街に引っ越してから通うようになった高校には、
私の昔の苗字を知る人間はいない。
彼女たちにとって、私は、はじめから「龍ヶ崎」で、そして「お姉ちゃん」なのだ。
なぜなら─。
「彩ちゃんがね、校門で待ってるって!」
無邪気に伝えるクラスメイトに、私は身体の心まで凍りつく感情を外に出すまいと必死になった。
「彩ちゃん、明日コンクールなんですって?」
「頑張って、って伝えて!」
「応援してるからね!」
私を取り囲んで「アヤチャン」を褒め称えることばの嵐を、
氷のように張り付いた笑顔で受け止める。
「……うん、伝えておく!」
誰も、私の心の奥底に詰まった冷たい塊を知らない。
だから─、
「彩ちゃんのピアノはうちらの誇りだからね!」
─そんなセリフを私に吐けるのだ。

龍ヶ崎彩(りゅうがさき・あや)と言えば、誰でも知っている。
日本を代表するピアニスト・龍ヶ崎八郷(りゅうがさき・やさと)の娘で、
本人も高校生ながら天才の名をほしいままにする天才ピアニストだ。
テレビにも何回も出て、一躍有名になった。
誰もが知っていて、誰もが応援するこの街の誇り。
だから、龍ヶ崎八郷が後妻を迎え、その娘が「綾子」という名であっても、
誰もその娘を「あやちゃん」と呼ぶ人間はいない。
それは、天才少女、龍ヶ崎彩が独占すべき名前だから。
高校のクラスメイトにとってもそれが自然であり、彼女の義姉になった
一歳年上の女の子のことは、「龍ヶ崎のお姉ちゃん」と呼ぶのが当たり前のことだった。
だが、それは……。
母の再婚によって「石岡」という苗字をも失った娘から、下の名前までも奪うことだった。

723:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/11 21:35:10 8JhgddIF
石岡綾子(いしおか・あやこ)は、どこに行ってしまったのだろう。
下駄箱から靴を取り出しながら、私はぼんやりと考えた。
この街の誰も、石岡綾子─私を求めていない。
必要なのは、忙しい父母の代わりに家事をし、
天才少女・龍ヶ崎彩をサポートしていく「彩ちゃんのお姉ちゃん」。
苗字も名前も失った私は、一体誰なのだろう。
ぼんやりしたまま私は、校門に向かった。
「遅かったじゃない、オネエチャン」
とげを含んだ声を浴びせられて、はっと我に返る。
校門の前で微笑む少女は、今そんな声を発したことが信じられないほど清楚で可愛い。
テレビで、<奇跡の天才少女>と呼ばれる美少女だ。
ジュニアの世界大会で何度も賞を取った実力もさることながら、
世の中の男の過半数が好きだろう、いかにも「お嬢様」している美貌が、
テレビや週刊誌が賛美してやまないポイントなのだろう。
マスコミのつけた<ホワイトプリンセス>というあだ名は、
私でさえも、納得してしまうものだ。
だけど、
「待ちくたびれちゃったわ。荷物、持ってよ」
遠目で見たら、そんな言葉を吐いているとは到底思えない笑顔のまま、
美少女はカバンの一つに視線を向けた。
大きなかばんと、小さなカバン。
私が持つのは、小さなほう。
だけど、その中身は、大きなカバンはほとんど空っぽで、
小さなカバンはぎゅうぎゅうに詰め込まれた重いもの。
だけど、それは担ぐ私にしか分からない。
他人の目には、「姉に自分の荷物を運ばせる妹」には写らないのだ。
私は表情を殺して、それを担いだ。
<妹>は、大きな、そして軽いカバンを、いかにも大変そうに両手で抱える。
その姿でさえ、週刊誌に賞賛の文章とともに載ったことがある。

724:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/11 21:35:51 8JhgddIF
この娘と出会ってから、私は全てを失った。
苗字も、名前も、母親の愛情も。
生活のためと、あとは女としての見栄とかそういうもののため、
世界的ピアニストと再婚した母さんは、
それから実の娘よりも、義理の娘のことを優先するようになった。
それが、新しい夫の望んだことであり、さらに言えば、
彼女自身の生活や地位やその他もろもろの要求を満たす近道だったからだ。
彩がテレビや週刊誌に載る時、義父も取材されることも多い。
そして、「一家」として紹介されるときは、母もその端っこに写るのだ。
華やかに化粧をして、豪華な服を着て。
それは、再婚前の数年間を苦しんだ母さんが心の底から欲しがっていた生活だった。
私の本当の父さんが生きていた頃、何の疑いもなく手に入っていたものが失われたとき、
母さんは、それを再び手に入れることに必死になった。
そして、それを取り戻したとき、彼女は、それを再び失うことを何より恐れた。
─実の娘を犠牲にしても悔いないくらいに。
私は、忙しい<父>をサポートする母の手が回らない、
<妹>の世話のために高校生活の全てを費やすことになった。
朝夕のカバン持ち。
家に帰ったら、掃除、洗濯、炊事。
コンクールのための旅行の準備。
マッサージさえ、私の仕事だった。
だけど、それは、生活基盤さえも失っていた状況から救われた母娘には当然の代償だった。
でも、私はそのおかげで、全てを失った。
そしてそれは、仕方のないことではなく、全てが悪意によるものだった。
この娘の。
「……ねえ、オネエチャン」
私から「綾子」という名を奪ったのは、この<妹>だった。
「あやちゃん、と呼ばれるのは私だけでしょ」
無邪気な、だがぞっとするほどの憎しみを含んだその一言で、
母さんを含めた家族の全員が私を名前で呼ばなくなり、街の人間もそれに倣った。

725:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/11 21:36:34 8JhgddIF
「オネエチャン。昨日、ピアノ触ったでしょ?」
前を向いたまま、<妹>は冷たい声を私に投げつけた。
「……うん」
「やめてって、言ってるでしょ。あれは、私のピアノなの。
私とパパとしか触っちゃいけないの。
オネエチャン、私の真似でもしたかったの?」
ずきん、と心臓に突き刺さることば。
昨日の夜、義父と母さんと一緒にパーティーに出た彩の目を盗んで、
ほんの少しだけ、私はピアノを弾いた。
誰もいない、一人だけの家で。
哀しくなって、一曲弾き終えることもできずに私はピアノの蓋を閉めた。
「……ちが…う……」
声は自分でも弱々しかった。
弾きはじめたとき、私は彩のかわりにコンクールで拍手喝采を受ける自分を想像しなかっただろうか。
ない、と言いきれるほど私の心は強くなかった。
「何が違うの? まだピアノやってるつもりでいるの?
サイノー、全っ然、ないくせに!!」
ぐらりと私の視界が揺れる。
そう。
私は、ピアノをやっていた。
実父が生きていて、裕福だった頃に。
小学生の頃は、区や市や、そのあたりのレベルのコンクールで何度も入賞した。
地方の新聞に載ったこともある。
それは、私の密かな誇りだった。
でもそれは、彩に比べればほんのちっぽけな、
……普通の人間と何一つ変わらない程度の才能だった。
「だからね、私のピアノに触らないでよね。
オネエチャンの垢が着いたら、音が悪くなっちゃうじゃない」
小さなその声は、私の心臓を何度も容赦なく貫いた。

726:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/11 21:37:28 8JhgddIF
荷物を運び終えた私は、すぐに着替えて家を飛び出した。
すぐ近くの、高級住宅街ご用足しの高級スーパー。
そこが私の唯一の息抜き場所だった。
人参、インゲン、サニーレタス、セロリ、レモングラス。鶏肉。
魚は、今日はいいや。
ぐるぐると店の中を回りながら、食材を買い集める。
お金を気にする必要はないけど、吟味を重ねるのは、
ここにいる時間が長ければ長いほど、家にいる時間が少なくなるからだ。
「あら、龍ヶ崎さん家のお姉ちゃん、えらいわねー」
商品を置くから運び出してくる小母さんたちとも顔見知りだ。
「妹さん、明日コンクールですって、大変ねえ」
「お姉ちゃんがしっかりしているから安心ね」
この人たちも、私の事を、彩をサポートするオネエチャンと見ているんだ。
すっかり慣れたことだけど、私は微笑がこわばっていくのを感じた。
無理をして、その冷たい塊を心の奥底に静める。
「エエ、今日ハ、アヤチャンノ好キナ、鶏肉ノサラダニデモ、シヨウカナ、ッテ」
レジで会計を済ませる。
腕時計を見る。
料理をする時間を考えても、あと五分くらい時間がある。
公園へ─は、行けない。
後妻の連れ子がそんなところで黄昏ていたら、格好の噂だ。
アミューズメントスポット?
さらに駄目。
結局、私は、スーパーのそばにある自販機コーナーに向かった。
バス停の近くだけど、微妙な位置にあるそこは、人がいることがあまりない。
とはいえ、ベンチもあって少し休めるし、バスを待っている言い訳も立つ。
私の重宝する五分だけの隠れ家だ。
そんなところしか「私だけの場所」はなかった。
でも、今日は、そこに先客がいて……。

727:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/11 21:38:12 8JhgddIF
ベンチに腰掛けていたのは、ジージャンにジーパンの男の子だった。
私と同じくらいの男の子。
「……」
私だけの隠れ家を奪われたような気がして、私は立ち止まった。
いつも私が座って、ジュース一本の安息を得る場所に座って、
その男の子は、携帯ゲームをしていた。
どこでもできるゲームなら、ここではない場所でして欲しい。
そこは、私が休める唯一の場所だから。
自分の視線が尖るのが分かる。
でも、画面を食い入るように見つめている彼には伝わらなかった。
小さくため息をついて、ジュースだけでも買おうと自販機に向かう。
コインを入れて、ボタンを押す。
ゴトン。
缶が落ちる音。
維力(ウィリー)。
この近辺ではここでしか売っていないジュースは、昔、地元でよく飲んだ。
この自販機で売っているのは、なぜか濃い目だ。
噂では、出荷の時期によって濃さ薄さが違うらしい。
この味が好きな私にとっては、うれしい。
これを飲みながら、ぼんやりと貴重な五分を過ごすのが私の唯一の楽しみだったのに、
今日はそれを諦めなければならないようだった。
缶を取って、立ち上がる。
また、ため息をつきそうになったけど、それは我慢した。
振り返って、そ知らぬ顔でバス停に向かおうとして─。
「あれ、綾ちゃん?」
声をかけられた。
「え?」
「あ、いや、違ったかな。……えっと、石岡……綾子ちゃん?」
缶が落ちる音で私に気がついたのだろう、
ベンチに座っていた男の子が、私を見つめていた。

728:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/11 21:38:56 8JhgddIF
「そ、そうだけど……どなたですか?」
思わず身構えたけど、返事をしてしまったのは─久しぶりにその名で呼ばれたから。
「ええと……その……、僕、石岡新治(いしおか・しんじ)、覚えてない?」
「あっ……!」
言われてみれば、見覚えがある。
小学生のときの、同級生。
同じ、「石岡」と言う苗字で、親戚だとか冷やかされたけど、全然接点のなかった子だ。
ちっちゃなころから、やっぱりゲームとかアニメとかの「オタク」で、
人気者だった私と違って、クラスでは目立たない男の子だった。
クラスで「石岡」といえば私のほうが有名で、新治君のほうは、
「イシオカモドキ」とか言われて、どちらかというといじめられているほうだった。
でも─。
「ひ、久しぶりだね」
「そ、そうね。すごい偶然! 新治君、この辺に住んでいるの?」
「うん、中学の頃、こっちに引っ越してきたんだ。……あ、綾ちゃんも?」
小学校のクラスは、男女とも仲がいいほうだった。
からかわれることが多い新治君も、私を呼ぶときは皆と同じく「綾ちゃん」だった。
その響きが、耳に心地良かった。
「ええ、高校になってから、こっちに」
「そ、そうなんだ」
新治君はどきまぎしたように黙り込んだ。
もとから、冴えない男の子だったけど、その時私は……。
「い、いつもここに来るの?」
「え?! ……あ、ああ、いつもは塾帰りにだけど、今日は行く前にちょっと」
「わ、私、いつもこの時間に来るんだ。ね、明日も来れない?」
なぜか、そんな言葉がすらすらと出た。
「え……、あ、ああ、大丈夫」
「じゃ、明日、またね!」
ジュースの缶を掴んだまま、そう言って、私は自販機コーナーを飛び出した。

729:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/11 21:39:49 8JhgddIF
走りかけて、止まる。そして振り返った。
「あの……」
「な、何?」
「も、もう一回、綾ちゃんって呼んでくれないかな?」
「え……?」
「お願い」
「う、うん。いいよ。……綾ちゃん」
「……ありがとう!!」
私は、バス停に向かってぱっと駆け出した。
すごく、嬉しかった。
胸がドキドキしていた。
あの子の前では、私は、「石岡綾子」で、「綾ちゃん」なんだ。
あの子の前だけでは。
私は、私でいられるんだ。
そのまま、50メートルくらい先のバス停まで一気に走っていって、
立ち止まったとき、私は股間に違和感を感じた。
「こ、これって……」
ショーツの中が、濡れている。
オナニーするときに、出る、あの粘液で。
「……」
私は頬が染まるのを感じた。
バスが来るまでの間、私は、ぼんやりと、
(新治君と結婚したら、また石岡って苗字に戻れるな……)
とか考えていた。


   Fin ? 

730:名無しさん@ピンキー
07/10/11 22:21:28 frnNLwbV
>>729
おぉぉぉぉぉおお!!!111
これだ!これだよぉ!!

731:名無しさん@ピンキー
07/10/11 23:46:03 Uw7IpRA0
もっと詠みたいDEATH

732:名無しさん@ピンキー
07/10/11 23:58:24 7OAs09ep
>>729
鬱展開のまま終ったらどうしようかと思ってた。
安心させた所でエロ要素を入れるとは、憎い演出をしてくれる。
GodJob!

733:名無しさん@ピンキー
07/10/13 16:38:03 mcZx6dl3
>>729
流石にござりまするな!
続きが読みとうござる!

734:名無しさん@ピンキー
07/10/13 21:35:06 ImQ/2Xr/
GJ……続きますか?ハーレム脳で姉妹丼まで幻視した私は終わった

735:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/14 00:16:13 Mqq95qfl
<私が私でいられる時>2

「んっ……くっ……」
薄暗がりの中で、私の声が漏れる。
常夜灯のオレンジ色の光だけが、小さな世界を照らしている。
私の部屋を。
お屋敷と呼ぶには小さく、普通の家よりはかなり大きいこの家の、
隅っこの四畳半相当のフローリング部屋が私の城だった。
彩―<妹>の隣の十畳サイズの部屋を選ばなかったのは、正解だったと思う。
義父が私のために用意していたそこに入っていたら、
あの娘からどんな嫌がらせを受けていたか、分からないから。
<妹>の部屋はそれよりさらに大きかったけど、<姉妹>の部屋が隣同士に並べば、
彩は絶対にそれを許さないだろう、ということは会ったその日に確信した。

張り合わないこと。
<姉妹>だと思わないこと。
「後妻の連れ子」に徹すること。

それが、一番の処世術だと思ったし、そしてそれは正しかった。
彩の部屋からも、両親の寝室からも遠いこの部屋は、
眠るとき、ある程度はプライベートを与えてくれる。
こんな風に、自慰をする自由くらいは。
「んんっ……ふううっ……」
粘膜の縁(ふち)をさまよう指先は、熱い蜜を絡ませている。
パジャマとショーツを脱がずに手を差し入れて始めてしまったのをちょっぴり後悔する。
ショーツはおろか、パジャマにまで染みとおってきそうなほど、私のあそこは濡れていた。
(私、こんなカラダしてたんだ)
指先から伝わる、後から後からあふれ出てくる蜜の多さに、私はびっくりした。
ここ数日で知った自分の性器や身体の中身の発見。
私のカラダは、すごく牝だった。
ついでに、こんなにオナニーが好きな、いやらしい娘だということも知った。
今まで、自慰なんて数えるくらいにしかしたことなかったし、
何かの際にしてしまったときなど、ベッドの中でひどい罪悪感に包まれた。

736:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/14 00:16:57 Mqq95qfl
でも、今は─。
「んくっ……!!」
布団の中で、身体が跳ねる。
「……んあっ……新治く…んっ!!」
達する瞬間、私は、その男(ひと)の名前を呼んだ。
ぎゅっとつぶった目蓋の裏に、ジージャン姿の男の子が浮かぶ。
そして、その声も。
(綾ちゃん)
「んああっ……!!」
私は強くのけぞった。
毛布の端を強く噛んで必死にあえぎ声を殺す。
甘い絶頂は、長く長く私の心と身体を満たした。
「……ふうっ……ふうっ……」
息をするのも忘れてむさぼった快感がゆっくりと引いていくと、
私は、獣のように荒い呼吸で酸素を取り込もうとした。
(綾ちゃん)
新治君の声がまだ耳に残っている。
その声で、達することが出来て、私は最高に満足だった。
この二週間、毎日オナニーしている。
新治君のことを考えて。
自販機コーナーでの逢瀬は、もうそれだけ続いていた。
新治君と再会したその晩から、私の自慰狂いは始まった。
(綾ちゃん)
その名前、私の本当の姿を認めてくれる呼称は、
私が自己防衛のために身につけていた硬く冷たい鎧をあっさりと素通りし、
ハダカの私を直撃した。
いつの間にか、新治君のことを大好きになっている自分に、私は戸惑った。
新治君が、冴えない子だということはわかってる。
小学生の頃、いじめられっ子だった「オタク」な男の子は、
高校生になっても、やっぱり冴えなくて、
世間一般的には、「モテない男の子」の典型だということも。
でも─だから何?
あの男(ひと)は、私を名前で呼んでくれる。

737:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/14 00:17:34 Mqq95qfl
それは、私にとって、一番大事なことだった。
私を「綾ちゃん」と呼んでくれるということ。
それは、私を「石岡綾子」として認識してくれているということ。
それは、私を「私でない今の私」ではなく、「本当の私」として認めてくれているということ。

……それは、私にとって、世界で一番価値のあることだった。

この家の、この街の、いいえ、今となっては日本中の誰もが呼んでくれない
その名前で呼んでくれるから、私は新治君を大好きになった。
世界中の誰よりも、一番に。
愛している、と言い切れる。
そうでなければ、毎晩、彼のことを考えてオナニーなんかしない。
「好き。大好き。愛してる……新治君……」
脱力感と快感の余韻に火照った身体を預け、
私は天井を見つめながら私はそうつぶやいた。
右手を、ゆっくりパジャマの中から抜く。
指先は、透明な液体にまみれていた。
意外に粘度の少ないそれは、常夜灯の色を受けて妖しく輝く。
「……」
私は、それをぼんやりと見つめる。
透明な雫は、優しい暖色の光を含んで、何か素敵なものに見えた。
無意識に、私はその手を口元に持っていったのだろう。
気がついたとき、私は、そろえた指先を舌で舐めていた。
「……!!」
予想もしていなかった感触に、私は我に返った。
濡れやすい体質だからなのか、多量に分泌される体液は薄く、
味はほとんどしなかったが、匂いは十分に感じ取れた。
フェロモンをたっぷり含んだ、牝の匂い。
同性のそれは、自分のものとはいえ、それほど嬉しくない。
「……男の子の……新治君の精子も、こんな感じなのかな」
つぶやいて、自分の口走った言葉の意味に気がつき、
私は、背筋を電流が走ったようにぞくぞくと身を震わせた。

738:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/14 00:19:16 Mqq95qfl
「……新治君の……精子……?」
薄暗闇の中で、自問する。
音にすると、ぞくぞくは、さらに激しくなった。
「だめ……そんなの、私……」
ソンナノ舐メタラ、キット、理性ヲ、保テナイ。
目をぎゅっとつぶる。
逆効果だった。
先ほど自分の指先にからんでいた愛液が脳裏に浮かび、
それは、もっとどろどろとした白濁の粘液に変わった。

男の人の、精子が、そういう物体だということは知っている。
それが、おち×ちんから出るものだということの知識はある。
でも、実物を見たことなんか、もちろん、ない。
それが即座にこんなにリアルに想像できてしまうとは。
それを─舐める?
さっき、自分の蜜を舐めたように?
背筋の電流は、稲妻のように強くなった。

唇と舌になすりつけられる。
新治君の精液。
見たことも、触ったことも、嗅いだことも、もちろん舐めたこともない粘液は、
現実以上の現実感をもって私の頭の中に押し寄せた。
苦くて、生臭くて、男臭くて、―私を狂わしいほどに魅了する。
「だ、だめっ……新治…くぅんっ!!」
甘くとろける想像に逆らえるはずもなく、
私はショーツの中に手を突っ込み、再びオナニーを始めてしまった。

「……」
30分後、脱衣場にある洗面台で脱いだショーツを広げながら、
私は、ちょっとだけへこんでいた。
あれから、3回、立て続けにしてしまった。
あんなことを想像してオナニーをするなんて。
こんなこと知られたら、……ケーベツされるかな、あの男(ひと)に。

739:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/14 00:20:02 Mqq95qfl
「新治君……」
心の中で、小さくつぶやく。
現実には、私と新治君は、手をつないだこともない。
晩生(おくて)の女の子と男の子との、たわいない会話。
ジュース一本分の時間でも、昔話。
それだけが、新治君とのつながりの全て。
なのに、私の心の中では、あの男(ひと)は、もう離れられない存在になっていた。

でも。
私は。

もっと、新治君とつながりたい。

男と女。
牡と牝として。
なぜなら、それが二人の人間の中で一番強いつながりだから。
母さんは、新しい夫とのつながりを保つために、私を捨てた。
男女の絆は、親子のそれを上回る。
あるいは、その逆もあるのかもしれないけど
それは、私にとって信じられるものではなかった。
一番強イノハ、牡ト牝ノ、ツナガリ。
それが私が得た結論で、今、それを求める対象が目の前に現れたのだ。

740:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/14 00:20:42 Mqq95qfl
新治君。
彼に、私が自慰の中で想像していたことや、
もっともっといやらしくてひどいことを、してほしい。
それで、彼の存在がもっと近くになるのなら
新治君は。
きっと、ううん、絶対に童貞だ。
他の女の子を、まだ知らない。
私以外の女の子とは、親しくしゃべったこともない。
毎日話ができる女の子は、私が最初。
そして、最後。
そう。
私が、新治君を独占する。
彼の「最初」と「最後」と、その間の全部を独占すればいい。
新治君に必要な「牝」を、全部私が満たせば、
私との絆(きずな)は、どんなものよりも強くなる。
母さんのように、私を捨てることもない。
だって。
新治君は、男の子……牡で、私は女の子……牝なんだから。
あの男(ひと)の「唯一」になれば、
絶対に、新治君は、私を捨てられない。

「……」
ぼんやりとした考えがまとまったとき、
私の手の中で、ショーツもきれいに洗い終わっていた。
4回も自慰をしたせいでショーツはぐしょぐしょだったけど、
一家の家事を全て背負わされている私の手にかかれば、
一枚きりの下洗いなんて、何ほどのものではない。
かごの中にある洗濯物の中に入れる。
あとは、全自動洗濯機にかけるだけだけど、それは明日の朝にしよう。
手を洗いなおす。
ふと、顔を上げて、鏡を見た。
髪の毛が、だいぶ伸びていた。

741:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/14 00:21:29 Mqq95qfl
セミロングに揃えていた黒髪は、すばらしい勢いで伸びている気がした。
とくにこの半月─新治君と再会してから。
女性ホルモンが活発化したのだろうか。
毎晩狂ったようにしている自慰行為が、それを助長しているのかも知れない。
私は、恥ずかしくなって顔を伏せた。
「―夜中に何やってるのよ、オネエチャン」
冷たい声は、背後からした。
振り返ると、<妹>がいた。
声と同じくらい冷たい瞳で私を見つめながら。
「ちょっとね、洗濯物の準備を……。目、覚めちゃったから、トイレ行くついでに」
「ふうん」
彩は、私の頭の上からつま先までゆっくりと視線を這わせるようにして眺めた。
誰か他に人がいないときの、彼女のいつもの態度だ。
「ふうん。……あ、私、お台所に飲み物取りに来たんだ。
ちょうどいいわ、オネエチャン。取ってきて」
「……わかったわ」
冷蔵庫に彩ご指定のミネラルウォーターの壜が冷えているはずだ。
一度切らしてしまったことがあって、夜中に大きな声でののしられた。
以来、何はなくとも、それだけは冷蔵庫に入れている。
きびすを返して台所に行きかけたとき、背後で
<妹>がそのときと同じくらいの金切り声を上げた。
「あっ! また私の洗濯物と混ぜてるわね、オネエチャン!!」
彩は洗濯籠を持ち上げて床の上に中身をぶちまけた。
「あっ!」
私は、さっき洗ったショーツが入っていたことを思い出して固まった。
彩は、憤怒の表情で私を睨みつけ、怒鳴り散らす。
「私の下着、あなたやあなたのママのものと混ぜないでって、言ってるでしょ!
汚いじゃない!! 牝臭いのよ、あんたたちはっ!!」
床に散らばったシャツや下着を蹴り飛ばしながら、彩はわめいた。
この娘は、私と同じくらい、私の母さんも嫌っている。

742:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/14 00:22:30 Mqq95qfl
「……ごめんなさい」
謝って、床の洗濯物を拾う。
誰が誰の物かは、照明を半分にしている暗がりでも分かる。
洗濯するのもたたむのも、私だから。
「……このっ!!」
怒りが収まらないのだろう、彩は私の肩を蹴飛ばした。
小柄な、スポーツは得意ではない女の子の蹴りだ。
痛くない、といえば嘘になるけど、我慢できないものではない。
私は、ぐらっとしたけど、黙って下着を拾い続けた。
蹴られた痛みより、メス臭い、と言われたことのほうが私を動揺させている。
彩が、私たち母子をののしるときに使うおきまりのセリフだ。
父親の再婚相手と、その娘に抱く印象は、「女の武器で父親を篭絡した淫婦」なのだろう。
何百回も聞いたことばだけど、あれだけ激しい自慰の直後に浴びせられると、返す言葉もない。
私は、真っ赤になった顔を見せまいと、必死で顔を伏せた。
「……このっ……!!」
彩は、肩透かしをくらったように、ことばにつまった。
抑えきれない怒りが、テレビで絶賛されている国民的美少女の中で渦巻く。
それは、別の方向に噴出さなければ収まりが付かなかった。
「何よ、その髪っ! 私の真似!? 切りなさいよ、うっとおしいっ!!」
私の髪に目を付けた彩は、ひとしきりそれをののしってから、
飲み物のことも忘れて二階に上がっていった。
「……」
私は、下着を拾い集め、彩のものとそれ以外に分けた。
分別が終わって、立ち上がったとき、はらり、と髪が肩にかかった。
「……」
私は、鏡の中の自分を見つめ続けた。

743:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/14 00:23:16 Mqq95qfl
「……お姉ちゃん、髪、伸びたんじゃない? 切りにいってきたらどう?」
めずらしく朝食をいっしょにする母さんが、席に着くなり私に声をかけた。
義父さんは、東京のコンサート・ツアーでホテルに泊まっている。
母さんは、昼間、そのサポートに毎日そこに通い、半々の割合で泊まってくる。
ツアー中のいつものパターンだ。
でも、朝、早々にそんなことを出したのは……。
私は彩のほうを盗み見た。
<妹>は、そ知らぬ顔でミルクのカップに口を付けている。
間違いない。
朝のうちに、あるいは昨晩あれから叩き起こして、母さんに「命令」したのだ。
父親に溺愛されている実娘は、義母よりも立場がずっと強い。
そして、母さんは、義理の娘の言葉に従って私に命令することに躊躇をしてくれない。
「……」
いつもならすぐに承諾の返事をするのだが、私はなぜか押し黙った。
うつむいてテーブルの上を見つめる視界の端に彩の姿が映る。
美しいロングヘアの彩が。
<後妻の連れ子>を姉妹として認めなかった彩は、同時に私のロングヘアも認めなかった。
小さな頃から伸ばし続けた黒髪を天才少女は何よりも誇りに思っていて、
同じようにロングを好んでいた私のそれを憎しみの視線で見つめた。
「家のお手伝いをしてくれるのに、それは邪魔よね」
彩の意を汲んだ母さんが、そう言ったとき、
ピアノと並ぶ私の自慢だった黒髪は、ばさりと切られた。
泣いて抵抗したので、ショートまではいかずセミロングにとどまったけど、
小学生時代の思い出のつまった髪は、美容院のゴミとして捨てられた。
以来、私は、それ以上髪を伸ばせなかった。

でも。
今は。

「―ううん。これから、ちょっと伸ばしてみるわ。小学校のときみたいに」
その返事に愕然としたになった表情の母さんと彩を、私は見ていなかった。
私の瞳には、新治君が映っていた。
長い長い黒髪だった小学生の私を見つめる、新治君が。

744:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/14 00:23:57 Mqq95qfl
私の黒髪は、クラスメイトのちょっとした自慢だった。
あの時、私は気がついていなかったけど、他の子と同じように、
きっと新治君も私のロングヘアをまぶしく見つめていたのだろう。
だったら、今だって。
きっと、新治君は、ロングの私を見たいだろう。
それなら、伸ばす。見せてあげる。
あの頃、遠巻きに見ていた「石岡綾子」を、
そのままそっくり新治君に見せてあげる。
ううん。
あれから育った、小学生以上の「石岡綾子」を、
新治君に見せてあげる。
新治君にだけ、全部をあげる。
黒髪は、その第一歩だ。

頬に、痛いくらいの視線を感じた。
彩が、私を睨んでる。
私は目を閉じてそれを無視した。
頭の中は、小学生のとき、見ているだけだった「石岡綾子」の
「何もかも」を捧げられて、喜ぶ新治君の姿だけが浮かんでいたから。

(今日、あの男(ひと)と、キスしよう)

煮えたぎるような憎悪の視線を浴びても、
私は、そう決意しただけで、天国にいるようにうっとりと微笑むことができた。


        ここまで

745:名無しさん@ピンキー
07/10/14 00:36:51 03jVYBmQ
>>744
いいですなぁ。こんだけ先の展開にわくわくする作品は久しぶりです、
続き早く読みたいです。

746:名無しさん@ピンキー
07/10/14 00:57:31 0x4QpzLB
これはやばい、嵐の前の静けさというべきか……どうなるのか楽しみだ。

747:名無しさん@ピンキー
07/10/14 01:28:19 KstSYmRa
ゲーパロ氏降臨!

748:名無しさん@ピンキー
07/10/14 02:48:58 JBvqHn5e
言いたい事は言われてしまったがあえて加えるなら、
744の薄気味悪い構図とか、予想外のエロさも良かった。
期待が高まる!

749:名無しさん@ピンキー
07/10/14 09:58:28 ZU46hC6u
>>744
これは良い心の歪み。




>>748
までで461kBだからおそらく、シリーズが完結する前にこのスレは限界を迎えるな。

750:名無しさん@ピンキー
07/10/14 17:02:28 OLC8LBF6
綾子は新治に依存してきているのは明白なわけだが、

彩も綾子に依存してるように見えるのは考え過ぎなんだろか

751:名無しさん@ピンキー
07/10/14 20:37:07 M6G15o7D
>>750
神のみぞ知る、だろうな。

何はともあれ、
wktkして待ってるぜ!

752:名無しさん@ピンキー
07/10/19 14:36:58 /WMXGHaC
保守

753:名無しさん@ピンキー
07/10/19 18:39:50 hPmPT6Um
この保守をゲーパロ氏に捧げます。

754:名無しさん@ピンキー
07/10/21 08:39:00 YEJHsB6v
保守
今か今か

755:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:35:15 o8F8AfPh
<私が私でいられる時>・3

ぴりりり。
小さな電子音がして、胸ポケットの携帯が鳴った。
誰かから電話が掛かってきたわけではない。メールでもない。
時間設定をしておいたアラームが鳴ったんだ。
17:00。
まっすぐ学校から帰ってきて、30分あるかどうかという微妙な時間帯は、
ともすれば、無自覚に過ごしてしまう。
僕は慌てて読んでいたコミックを机の上に開いたまま伏せた。
<ギャンブル・ウィッシュVSブラフ喰>の最新刊。
帰りに買ってきてすぐに読み始めたそれは、ちょうど佳境に入ってきたところだ。
女子高生ギャンブラー・腋野さんと、大年増女博徒の範馬うららの、脱衣丁半博打。
ヒロイン同士の対決は、掲載本誌でもまだ決着がついていないけど、
この巻には、最近すっかりヨゴレ役が板についてしまって逆に大人気の腋野さんの、
伝説的なブレイクシーン、「ブラウスを脱いだら腋毛を剃っていなかった回」と、
作者が腐女子なんじゃないかと思うくらい男しか出てこない漫画の紅一点の大年増・うららの
「対戦相手が挑発をかけた<髪の毛と同じくらいものすごい量とヘアスタイルの陰毛>説に大激怒の回」
の両方が載っているはずだ。
正直、読み続けたいという気がするけど、そうはいかない。
このところ、僕には日課が出来たからだ。
3週間前から、僕の生活はがらりと変わった。
有り体に言うと、彼女?……ができたのだ。
正直、<もてない男・○○市代表候補>の僕、石岡新治に
そんな機会がめぐってくるとは、産まれてこの方考えたこともなかった。
しかも、相手が、小学校の頃のクラスメイトの綾ちゃん─石岡綾子だったとは。
なんだか、すごく不思議だ。

756:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:36:09 o8F8AfPh
石岡新治と石岡綾子。
苗字は同じだけど、親戚関係とかは全然ない。
同じクラスだったけど、接点はあまりなかった。
小学生のクラスは先生が交流にすごく熱心で、
クラスで放課後にみんなで遊んだり、休みの日にどこかに遊びに行ったりしてたけど、
綾ちゃんとは全然別のグループだった。
……というより、僕はどこのグループにも入っていなかった。
母親がいない、内気でマンガ好きの子どもは、
クラスの中にあまりうまく溶け込めなかったし、
クラスで人気者だった綾ちゃんと同じ苗字と言うのは、からかいの対象にしかならなかった。

綾ちゃんは、……いわゆる<高値の花>の女の子だった。
美人で、大人しくて、頭が良くて、ピアノが上手な、いわゆるお嬢様。
特にピアノは、お母さんがピアノの先生なだけあって、
本人も県のコンクールで何度も賞をもらっていた。
だから、小学校の頃、僕のクラスは綾ちゃんのピアノのおかげで、
合唱コンクールとかではいつも校内で一番だった。
そんな綾子ちゃんが引っ越していっちゃったのは、小学四年生のとき。
お母さんが再婚するってことだった。
クラスでお別れ会を開いたのを覚えている。
それが、今になって再会するとは思わなかったし、
再会してその日のうちになんだか付き合うような感じになるとは、
もっと思っても見なかった。
あ。
綾ちゃんは、もう石岡って苗字じゃないんだっけ。
たしか、お母さんが再婚して、今は龍ヶ崎さんって言うらしい。
でも、そっちの名前で読んだら─彼女はきっと怒る。
そして、僕が彼女のことを、あの頃と同じように
「綾ちゃん」と呼んであげると、彼女がものすごく嬉しがるということも。

757:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:37:10 o8F8AfPh
誰にも言ったことはないし、誰にも悟られたことはないから、
僕のクラスメイトや知り合いは誰も信じないだろうけど、
僕は、女の人の心を読むのがかなり得意だ。
何の自慢にもならないけど。
小さい時に、母親が「幼馴染で初恋の人」にもう一度心を奪われ、
五年間の葛藤の末に、最後は夫と小学生の息子を捨てて去っていった家庭で育った子は、
母親─自分の身近にいる女性―の顔色を常に窺って生きるようなった。
どう振舞えば母さんが喜ぶんだろう。
何をしてしまったら母さんの機嫌が悪くなるのだろう。
僕はいつも憂い顔の母親を必死に観察していた。
でも、結局。
何をしても、どんな努力をしても、
「いい人だけど、ときめかない男(ひと)」と、「その息子」は、
彼女にとって何をしようと、最後は「一生の中で一番好きになれた人」には敵わなかった。

そして、僕は女の人のことが、恐くなり、嫌いになった。
一分見れば、その女(ひと)が何を欲しているのか、わかる。
どう振舞えば喜ぶか、わかる。
だから、僕は彼女の事を「龍ヶ崎さん」ではなく「綾ちゃん」と呼ぶ。
そういうことはすぐにわかる。だけど、―本当は、わからない。
だって、女の人は、母さんのように、あんなに僕の事を誉めてくれた次の日に
黙って家から出て行ってしまったから。
そして、いつもあの人を悲しませていたはずの「一番好きな人」のもとに嬉々として身を寄せたから。
売女(ビッチ)。
僕は、女の人の心の表面だけは読めるけど、奥底までは絶対に読めない。
だから、恐いし、好きになれない。
あの娘―石岡綾子も。
……石岡綾子、も……?
……綾ちゃん、も……?
僕は、無意識に唇に手をやった。

758:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:37:50 o8F8AfPh
キスをした。
はじめて女の子とキスをした。
ファーストキスってやつだ。
僕には一生縁のない物だと思っていたものだ。
一週間前、つまり、綾ちゃんと会ってから2週間後、
あの自販機コーナーで、僕らはキスをした。
どういう流れで、どんな会話をしていてそうなったのか、
頭が沸騰して、全然覚えていない。
ただ、綾ちゃんは、いい匂いがして、唇は柔らかくて、キスはとても気持ちいいものだった。
あれから、毎日、綾ちゃんはキスを求めてくる。
僕はとまどいながら、それを受け入れる。
この間の土曜日は、デートをした。
デートと言っても、綾ちゃんのところはすごく家が厳しいから、
高校の地域ボランティア活動をいっしょに行った、というだけのことだけど。
僕らが住んでいる学区は、高校のボランティア活動が盛んで、
ちがう学校の生徒がいろんな場所でいっしょに同じ活動をすることができる。
「学校公認の合コン」のつもりで参加している連中も結構多い。
僕は、そんなことには全然興味がなかったら、あまり真面目に活動してはなかったけど、
何かの折に、子どもたちの施設で遊び相手になる活動をしているサークルに入っていた。
自販機でジュースを飲みながら、そんな話になったとき、
綾ちゃんは、目を輝かせてそれに参加したいと言い出したんだ。
結果は、上々だった。
施設には古びたピアノが一台あって、綾ちゃんは子どもたちにそれを弾いて聞かせた。
最初は戸惑いながらだったけど、すぐにカンを取り戻した綾ちゃんは、色んな曲を弾いてくれた。
「練習なんかしてないから、もう、難しい曲は弾けないんだけど……」
そういいながら、綾ちゃんは、簡単なピアノ曲の中に
アニメやゲームのテーマをまぜて弾き、
子どもたちは大喜びでそれを歌ったりしていた。
いままでどうすれば良いのか全然わからなかったボランティアが大成功に終わり、
そして、僕と綾ちゃんはもっと仲良しになった。

759:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:39:01 o8F8AfPh
「綾ちゃんも、ゲームとか、アニメ見てたんだ」
その帰り道、僕はそっと聞いてみた。
「ううん。全然。曲覚えたのは、今週になってからかな」
綾ちゃんは、笑顔でそう答えた。
「え?」
「新治君のケータイの着信、あれだったでしょ。ええと、<らき☆なな>だっけ?」
……登場人物が聞き取り不可能の歌詞にあわせてポップに踊りまくるOPが大人気のパチンコアニメは、
たしかに僕の携帯電話の着メロだった。
「あと、<アッコアコにしてあげる>とか、<エアーウルフが倒せない>とか、
新治君がよく口ずさんでいたから、覚えちゃった」
……番組の中で不当に貶められた人工音声ソフト会社が、激怒のあまり、
その番組の司会者でもある老女性歌手の全盛期の声を100%合成音のみで作成し、
すっかり声量の衰えた<芸能界の女帝>と赤白歌合戦で直接対決、圧勝した記念曲とか、
……悪魔的天才博士が生み出した超音速攻撃ヘリが倒せない悲哀を歌った曲とかは、
僕の鼻歌レパートリーの筆頭だった。
「それって……」
耳コピー? と聞こうとしたら、綾ちゃんのほうが先に答えた。
「新治君の好きな曲、私も好きだから」
「え……?」
先回りされた、でも予想外の返答に、僕は戸惑った。
そして、僕は、僕が予想していたよりもはるかに、
彼女が僕の事を好いてくれていることに気がついて―戦慄した。

女の子は、怖い。
だって、それは、母さんと同じだから。売女(ビッチ)だから。
今日は優しく笑っていても、明日も同じとは限らない。
親子だからって、家族だからって、安心は出来ない。
そんなものは、<一生で一番好きな人>の前では何の意味のない絆だったから。
だから、僕は、やっぱりあの娘のことも怖い。
だって、彼女が僕の事を一生で一番好きだなんて思えないから。

760:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:39:44 o8F8AfPh
時計を見る。
17:12。
いけない。
17:20頃にあの自販機コーナーに着くに、もう家を出なくちゃ。
僕は部屋を出て、階段を下りた。
玄関で靴を履き、扉を開ける。
そこで、僕は凍りついた。
「……えへ。来ちゃった」
買い物籠を下げた綾ちゃんがそこに立っていた。

「な、なんで……」
僕の家を知っているのか、と聞きかけて、こないだボランティアの時に
帰り道の途中だったから教えた事を思い出した。
だけど、わざわざ来るなんて。
そうも言いかけて、にこやかな笑顔の綾ちゃんを見て言葉を飲み込む。
綾ちゃんは、僕の彼女だ。
僕自身はいまひとつ踏み切れないでいるけど、彼女や世間一般的なものの見方で言えば、
僕と彼女の関係は、もうそう呼んで差し支えないものなのだろう。
一日後五分か、十分の逢瀬だけど、あれから、毎日キスをしている。
土曜日のデートの帰りは、手もつないだ。
それは、彼氏彼女の関係以外の何物でもない。
だから、「彼女」が「彼氏」の家に遊びに来てもなんらおかしくはないだろう。
だけど、僕はパニックに陥った。
「ね。……中に入っても、いい?
新治君のお部屋、見てみたいの」
上目がちに僕の顔を窺う綾ちゃんと、その瞳と言葉の中にあるものに、
僕の「女の人の気持ちを読み取る」能力は、さらに戦慄した。

761:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:40:25 o8F8AfPh
「ああ、あああ、あの……」
散らかった部屋に通したのは、綾ちゃんの笑顔に押されたからだ。
一週間前、キスをしたのも、この笑顔のせい。
僕の丸ごと全てを肯定し、受け入れてくれる微笑。
それは今まで誰にも向けてもらえなかったものだ。
母さんからでさえも。
でも、この微笑みは、同時に、僕の丸ごとすべてを要求するものである。
僕は、もうそれに気がついていた。
「うわあ、いいお部屋ね」
嬉しそうにそう言った綾ちゃんは、床の上に散らばっているお菓子の袋とか、
漫画本とか、アニメのDVDとかに眉をしかめない。
貴方は、それでいい。
貴方は、そのままでいい。
と細めた目が語っている。
でも。
その瞳の奥にある光は、こうも言っていた。
(ダカラ、ソレハ、他ノ人ニ、ホンノ少シデモ、アゲチャ、ダメ)
「お、お茶、持って来るね!」
僕は自分の部屋を飛び出した。
心臓が、どきどきしていた。
それは、興奮なのか、恐怖なのか、それともまったく別の感情なのか、全然分からなかった。
分かるのは、彼女が僕の家の中に、いや、
僕の心の中に入ろうとしてやって来たということだけだった。

762:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:41:09 o8F8AfPh
「あ、あの……」
「なあに、新治君?」
「いや……」
淹れてきた紅茶をテーブルに置いてベッドに腰掛けると、
当然、というように綾ちゃんが隣に座った。
自販機コーナーのベンチではいつものことだったけど、
こうして自分の部屋でされると、心臓が破裂しそうだった。
綾ちゃんの、甘い、いい匂いは、いつものように外の風に散らされることない。
部屋の中で動きのない空気の中で、それは濃密に僕の鼻腔の奥を叩いた。
(なんでこの娘がここにいるのか)
今までの五分ちょっとの時間を反芻しても、
ちっともその答えにたどり着けない。
(この娘は、何をしに僕の部屋に来たのか)
それも、僕に誘われてではなく、自分から。
僕のパニックは収まらなかった。
なぜなら、僕の洞察力は、なんとなくそれを感じ取り、
そして僕の理性と経験がそんなはずがない、とその可能性を否定していたから。
「あの……」
「え?」
「新治君は、こういうの、……好きなの?」
いつのまにか彼女の手の中にある、数冊の本。
<ギャンブル・ウィッシュVSブラフ喰>の脱衣丁半博打は、
僕が読んでいたところよりだいぶページが進んでいて、
腋野さんも、うららも、どちらもあとショーツ一枚というところまでストリップしていた。
他にも、こないだ買ったばかりでベッドの下に隠しておいたエロ漫画も
お気に入りの裸のシーンが開かれて彼女の視線にさらされていた。

763:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:42:30 o8F8AfPh
「ど、ど、どうして!!」
後にどういうことばを続けようとしていたのか、わからない。
どうして、見つけたの?
どうして、見ているの?
どうして……?
だけど、僕がどんな問いを発せようとしていたとしても、
彼女の答えは決まっていた。
「新治君の好きなもの、私も好きになるから」
問いになっていない問いに対する、答えになっていない答え。
でも、
僕のことを覗き込む美少女の瞳の光は、あまりにも強かった。
だから、僕は気おされて、彼女の次の言葉を待った。
それは、予想していた通りのものだった。
「でも、こういうの、見たかったら、私のを見せてあげる。
こういうの、好きだったら、私がしてあげる」
背中に稲妻をまとった蛇が走った。
彼女は、自分の身体を使って、僕を取り込もうとしていた。

「だめだよ……そんなの……」
恐怖と、別の感情にしびれる脳が、無意識でことばを出していた。
「どうして? なぜ?」
綾ちゃんがゆっくりとにじり寄る。
彼女の体温、彼女の体臭、彼女の息遣い。
あたたかい。いい匂い。ぞくぞくする音。
「……漫画とか、ゲームとか、アニメとかの女の子のほうが、いいの?」
問い。
こわいくらい真っ直ぐな問い。
「だって、生身の女の子は……裏切るもん」
今まで生きていて、誰にも言えなかったことば。
それが、あっさりと引き出されていた。

764:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:43:17 o8F8AfPh
そこからの十数分間、僕は魔法にかかったように、言葉と感情を引き出されていた。
母親の不倫。
捨てられた子ども。
学校の成績とか、仕事とか、家事を手伝うこととか、
僕や父さんが努力すればできることは、本当は全然意味がなくって、
結婚とか子供を作ることとかには何の価値もなくって、
ただ母さんが選んだ、かっこよくて女の人をどきどきさせる男(ひと)だけが幸せになれる。
僕みたいな男には、そういう力がないから、
生身の女の子に近づいてはいけないということ。
紙やモニターの上の、裏切らない女の子にだけ関心を向けていればいいこと。

気がつけば、そんなことを全部吐き出されていた。

彼女の、強い強い、粘っこい光をたたえた瞳に見据えられて。
自白剤を打たれたかのように、僕が問われるまま答えさせられていたのに気がついたのは、
綾ちゃんがその瞳を閉じたからだった。
「そう……そうだったの……」
綾ちゃんの桜色の唇の端が、すうっと吊り上った。
形のいい、柔らかい、僕が何度もキスした唇。
それが、微笑みの形をとる。
獲物を捕らえて、満足した猛獣の笑み。
優しい、優しい笑み。
その二つを矛盾なく含んだ唇が、怯える僕の顔に近づく。
「むぐうっ!?」
キスは、いつものキスでなかった。
僕の唇を割る、優しくて柔らかくて、強くて怖いもの。
綾ちゃんの舌は、ためらいもなく僕の口の中を犯した。
甘い唾液が僕の舌にからむ。
「!?」
彼女は僕の唾液を舌先ですくい取り、代わりに自分の唾液を流し込んだ。

765:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:43:57 o8F8AfPh
「ふぁ……ぷぁっ……!!」
身体全体がしびれるような口付けが終わる。
ゆっくりと顔を離す綾ちゃんと僕の唇の間を、
互いの唾液が入り混じってできた銀の糸が長く伸びた。
「これ、ディープキスって言うんでしょ。……新治君は、はじめて?」
「そりゃ……」
僕は綾ちゃんがファーストキスの相手だ。
「私も、はじめて」
「綾ちゃん……」
「ん」
そう呼ぶと、綾ちゃんは嬉しそうに微笑んで、今度は自分の唇を付きだした。
僕はためらいながら、もう一度キスをした。
今度は、僕の舌が綾ちゃんの唇を割って入る。
二人の舌は、再び互いの唾液にまみれた。
「うふふ。私ね、―貴方のお母さんとは違うよ」
二度目のディープキスの後で、綾ちゃんはささやいた。
「私、裏切らないから。私、貴方と離れないから。どんなことがあっても」
「え」
「貴方が、私を綾ちゃんと呼び続けてくれるなら、私、なんだってするから」
「え……」
「明日、貴方の不安、全部取り除いてあげる」
「あ、明日?」
「うん。明日、<妹>いないんだ。練習もコンサートもないから、どこかに遊びに行くって。
家の人も誰もいないの。だから、明日は、夜まで新治君といられるの。だから、証明してあげる」
「しょ、証明?」
「そう。貴方に証明するの。私が、新治君を絶対裏切らない女だって。
貴方のお母さんとか、他の女の子とは違うんだって、貴方が納得するくらいに証明してあげる」
「あ、綾ちゃん……」
「うふふ。もう一回、呼んで」
「え……?」

766:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:44:47 o8F8AfPh
「もう一回、綾ちゃん、って」
「あ、綾ちゃん」
「うん。素敵。とっても素敵よ、新治君……」
綾ちゃんは、もう一度唇を重ねてきた。
貪られる。
綾ちゃん、と彼女を呼ぶ僕の唇を。

「……明日、ここで待ってて。絶対よ」
そう言って、彼女は名残惜しそうに身体を離した。
僕は、どろどろに溶けたような疲労感と虚脱感と、そして快感に、
ベッドの上で動けないでいた。
「ね……最後に……」
猛獣か、魔物のように僕を蹂躙した唇が、甘えるような声を上げた。
彼女の要求は分かっていた。
「……綾ちゃん……」
僕がそう呼ぶと、彼女はもう一度幸せそうに微笑んだ。
「明日―楽しみにしていてね!」
そういうと、買い物籠を掴んだ綾ちゃんは、ぱっと駆け出していった。

767:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:45:28 o8F8AfPh
「……」
彼女が去ってから、何分が経っただろうか。
あるいはほんの一瞬後のことかもしれなかったけど、
僕には、時計を見る気力もなかった。
(夕飯の買い物、しなくちゃ)
今日は久しぶりに父さんが帰ってくる日だった。
母さんが出て行ってから、父さんは仕事にのめりこむようになり、
家事は僕が全部やっている。
別にそれは苦痛でもなんでもなかった。
料理は得意だし、好きだ。
だから、たまに帰ってくる唯一の家族のために、
今日はカップ麺で済ませるという気にはなれなかった。
甘い虚脱感と戦慄にしびれた脳髄と身体を引きずるようにして外に出る。
冷たくなってきた風が、火照った頬に気持ちいい。
夜の空気を胸いっぱい吸い込んで、吐き出す。
玄関のドアにカギを閉め、門から一歩踏み出して、僕は立ち止まった。
さっき、家を出ようとしたときと同じように。
そこには、さっきと同じように女の子が立っていて―。
「あ、綾ちゃん?!」
ずっとそこにいたのか、と僕は言いようのない恐怖に立ちすくんだ。
でも、そこにいたのは―。
「アヤチャン? ……そうよ、私が、アヤチャン」
明るい家の中から出たばかりの薄暗がりで、それはさっき別れた女の子によく似て見えた。
同じような、シンプルでおとなしめなブラウスとスカート。
同じような、長い髪。
同じような、上品な美人。
でも、彼女は、僕の知っている綾ちゃんよりちょっと小柄で、
その美貌は……テレビの中でしか見たことない顔だった。


768:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/21 14:46:11 o8F8AfPh
「ふうん。……あの女、最近浮かれていると思ったら、
彼氏が、いたんだ。……気に食わないな」
誰もが知っている<天才少女>は、僕の顔を覗き込むようにしながら、そうつぶやいた。
「あ、アヤチャン……」
綾ちゃんじゃ、ない、と言おうとして、僕はそれを最後まで言い切れなかった。
アイドル歌手より美人だから、絶大な人気を誇っている女の子が、
にっこりと、魅力的な、そして、怖い笑顔を浮かべたから。
「そうよ。私が彩。アヤチャン。私だけが、そう呼ばれるべきなの」
「……」
そのことばを、僕は傲慢とは思わなかった。
この街で、僕以外の人間は、そう言われても、ただただ頷いて肯定するだろう。
一億人の人間が名前を知っていて、
数千万の人間が顔も知っていて、
数百万の人間がファンになっている少女。
その実績と自信は、彼女の周りにオーラのように渦巻いていた。
瞬間、僕は、薄闇の中で彼女が輝いているようにさえ、思えた。
僕の生きる世界とは全然次元が違うところで生きている、天使。
その天使―龍ヶ崎彩は、僕に声をかけてきた。
「あの女、明日、貴方とデートでもするの?」
「!!」
デート、というより、僕の家に来る。
僕の沈黙をどう取ったのか、龍ヶ崎彩は、その微笑をもっと「怖い」ものにした。
「……ふうん」
たっぷり十秒くらい沈黙してから、吐き出すように続ける。
「妙に私のスケジュールを聞いてくると思ったら……」
それから、彼女は僕をしげしげと見つめ、―やがて、にたり、と笑った。

国民的美少女がこんなにも恐く笑えるのか。
でも、それは、やっぱりそこらのアイドルなどよりもずっと美人で可愛かった。
その笑顔のまま、彼女、龍ヶ崎彩は僕に提案してきた。
「ね。明日、あの女とじゃなく、私とデートしないかしら?
明日、私、夕方からは、オフなの。16時半にK・N・エキスプレスカフェで、ね」
答えを待たず少女は駆け出した。
僕は、その後を追うことも声をかけることも出来ずに、ただ立ちすくんだ。

怖かった。
ものすごく怖かった。
そして、僕の麻痺した脳は、二人の「アヤちゃん」のどちらのほうが
より恐くて、そして魅力的なのか、答えを出せずにいた。


ここまで

769:名無しさん@ピンキー
07/10/21 15:37:31 +PxoXSUp
一番槍GJ!
とうとう性悪義妹が動きだしたか。

770:名無しさん@ピンキー
07/10/21 17:16:11 a0qMcl11
ディ・モールトGJッ!!
妹さん怖いなぁ・・・((((( ゚Д゚)))))

771:名無しさん@ピンキー
07/10/21 18:36:27 DytCQ9RN
ついにきたかあぁぁぁっ!! って感じだぜゼェハァ

772:名無しさん@ピンキー
07/10/21 18:51:30 SUw91jBD
エロゲ的選択肢と鋸エンドが頭に浮かんだのは俺だけでいい

773:名無しさん@ピンキー
07/10/21 21:24:41 TRyacHPh
この後はまず間違いなく修羅場が待っている

774:名無しさん@ピンキー
07/10/21 21:45:07 b1mI4SQG
姉の誘いに乗ったら人生の危機で、妹の誘いに乗ったら生命の危機。
もう詰んでいますね。

775:名無しさん@ピンキー
07/10/21 22:08:22 67vTthzH
だったら、全員で大合唱してやろうじゃないか。
「これより我ら、修羅に入るっ!」

776:名無しさん@ピンキー
07/10/21 22:31:26 uxiog/Nf
修羅場より妹の依存フラグを期待してる

777:名無しさん@ピンキー
07/10/21 23:37:42 H0sIyouc
姉→主役
男→ヒロイン
妹→ライバル
な位置付けっぽいからなぁ………
初戦で勝つか負けるかで展開を読む自分駄目人間。

778:名無しさん@ピンキー
07/10/22 00:38:05 Nc6sQH/f
妹の誘いは、明らかに姉への嫌がらせのためのポイ捨て作戦にしか見えないんだから
乗るという選択はありえない希ガス。

つか。どっちにしろ、好かれて、というより利用されてるだけな主人公カワイソス。

779:名無しさん@ピンキー
07/10/22 09:14:31 3szdeqVf
主人公の女性の心を読む能力って単独で見ると正直ウラヤマシスだけど
主人公が女性不審の上、何か今回妙に嵌って泥沼製造能力と化してるあたりむしろカワイソスか……このスレ的に美味しい能力だけど
妹さんにもビビりながら能力使って半端に取り繕った対応してフラグ立てちゃって、より深い泥沼を作りそうな気が
妹さんも妹さんで、有名人で嫌なヤツってことは、内面に色々鬱屈してるんだろうし(偏見)そういう相手には効果抜群そうな
なんにせよ主人公は狩られる側の獲物ですね

780:名無しさん@ピンキー
07/10/23 13:39:26 UDg5KKDI
age

781:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/24 23:45:41 MVSnhpaY
<私が私でいられる時>・4

カチ、カチ、カチ。
時計の音が異様に大きく聞こえる。
大きく。
大きく。
その音が僕を飲みこんでしまうような錯覚を覚えて、がばっと跳ね起きた。
生ぬるい汗が、全身にまとわりついている。
はぁはぁ、はぁはぁ。
荒い息をついて、僕は恐る恐る時計を見た。
13:27。
学校は、休んだ。
休みの連絡は、父さんから電話をしてもらった。
あまり家に帰ってこないから最近はめったに顔を合わせないけど、
父さんは、僕のことを信頼してくれている。
母さんが出て行った日々の中、僕ら父子は、
取り残された人間同士で力を合わせて、なんとかそれ以上「家庭」が壊れることを防いだ。
それは、二人のよく似た父子に同志的な信頼関係を与えてくれた。
僕は、あまりよく出来た子どもじゃないけど、嘘をついたり、
親が家に帰ってこないのをいいことに好き放題やったりなんかはしない。
父さんはそれが分かっているから、「体調が悪いから学校を休む」というメールを疑うことなく、
会社から学校に連絡を入れてくれただろう。
その、信頼が、今日は心苦しい。
……実際、体調は悪い。
夕べから頭はがんがんと痛いし、目の前はくらくらとしているし、
嫌な汗はかきっぱなしだし、何より背筋が寒い。
でも、僕は、自分で分かっていた。
それが父さんに報告した、風邪とかの病気によるものではない、ということを。
僕のこの変調は、精神的なパニックによるものだ。
二匹の蛇に狙われた、無力な小動物が陥る恐慌。

782:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/24 23:46:29 MVSnhpaY
アヤチャン。
石岡綾子と、龍ヶ崎彩。
どうして彼女たちは僕の前に現れたのだろう。
はじまりは、小学生のときのクラスメイトを見かけたことだった。
綾ちゃん─石岡綾子は、お母さんが再婚して「石岡」ではなくなっている。
そして彼女は、新しい家で居場所がないということは、僕にはすぐにわかった。
だから、彼女は僕に好意を抱いた。
彼女の、一番幸せな、輝かしい時を知る、僕に。
綾ちゃんは僕の瞳の中に、かつての自分、石岡綾子を見つけ出した。
龍ヶ崎彩の義理の姉、龍ヶ崎綾子ではない自分を。
それは、たぶん、彼女にとって何よりも大事なもの。
だから、綾ちゃんは、僕を好きになった。
砂漠で遭難した旅人が、オアシスの泉を見つけたときに抱く感情。
世界の他の部分は、見渡す限りの砂。
彼女は泉から離れられない。
泉から離れようとしない。
離れたら、死ぬから。
死しかない、と思うから。
一度逃れられた砂漠に、もう一度踏み出すことが出来ないから。
……僕は、それに気が付いていた。
彼女は僕が好きなんじゃなくて、「石岡綾子」の存在を認めてくれる人が好きなだけだと。
土曜日のデートを、児童施設のボランティアに選んだのには、
そこしか彼女が家の了解を取れそうになかったということの他に、それも理由がある。
あそこでは、ピアノを弾くことができる。
彼女の幸福な少女時代は、おそらくはピアノを習っていたあの頃につながる。
何か、いいきっかけになるかもしれない。そう思った僕は、彼女をそこに連れて行った。
ある程度、それは成功したのだろう。
子供たちの拍手を浴びた綾ちゃんは、小人たちにかこまれた白雪姫のようだった。
遠い昔、講堂のステージでクラスメイトの拍手喝采を受けていた時のように。
でも、子供たちの、悪気のない一言が、彼女を現実に戻した。

783:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/24 23:47:14 MVSnhpaY
「オネエチャンって、アヤチャンに似てるね」
「ほんとー」
「そっくりー!!」
同じような雰囲気の、同年代の少女。
昔のように髪の毛を伸ばし始めた綾ちゃんは、
その黒髪がトレードマークのテレビの中の天才少女によく似ている。
その少女が、彼女に嫌悪感を抱くくらいに。
そして、子供たちにとって「アヤチャン」と言えば、テレビの中のその少女のほうだった。
石岡綾子がこの世でもっとも嫌う存在。
彼女の砂漠を生み出すもの。
龍ヶ崎彩。
綾ちゃんの微笑が凍りついたとき、僕もまた凍りついた。
しかし、綾ちゃんは、僕が思っているよりもずっとずっと強靭だった。
「そうねー。名前も似ているかなー。
でもね、私はアヤはアヤでも、下に子が付くんだよ。綾子。石岡綾子って言うの……」
戸籍上では、もう二重線で消されている名前を、綾ちゃんはためらいもせず名乗った。
「綾子……お姉ちゃん?」
最初に、龍ヶ崎彩に似ている、と口走った子が、
何かを感じ取ったのだろう、おそるおそる、といった感じで尋ねた。
「そう……ね」
妥協にも似た光をたたえて、暗い瞳がうなずいた。
そこから先、アヤコオネエチャンと呼ばれた女(ひと)は何曲もピアノを弾いた。
だけど、それは、あきらかにそれ以前よりも、
楽しさや心浮き立つ様子が減じたものだった。
それでも、綾ちゃんは、子供たちが知っていたり、喜びそうな曲を丁寧に弾いていった。
最後のほうは、僕が、彼女はすっかりそのことを忘れてくれたのか、と思ったくらいに。
でも、やっぱり、綾ちゃんは……。
「ありがとう、楽しかった。……<新治君と一緒なら>、また来たいな」
帰り道、彼女はそういって微笑んだ。

784:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/24 23:48:07 MVSnhpaY
子供たちは、―「湿った泥」とわずかに生えた「雑草」。
砂ではないけど、彼女に必要な「泉」ではない。
泉の周辺にある、付属物。
泉の周りにあれば好ましく思うけど、そうでなければまったく無価値なもの。
静かな、穏やかな声はそう告げていた。
それでも、ボランティアは行かなかったよりはずっとずっと良かったと思う。
彼女にとっては。
今は無価値に思えても、世の中には砂漠と泉の他のものがあることを知ってもらったはずだから。
でも、僕にとってはどうなのだろうか。
僕は、彼女がますます僕にのめりこんでくるのを感じた。
昨日。
彼女は、自分がこの世の他の女とちがうと証明する、と宣言した。
─オアシスを見つけた遭難者は、その泉が枯れることを何より恐れる。
泉に見捨てられ、水を出してもらえなくなることを。
だから、彼女は泉の弱っている部分を見つけて狂喜した。
それは、彼女にチャンスを与えるものだから。
水脈をふさぐ石を取り除き、流れを滞らせる藻を掻き出す。
泉にとって必要な仕事の担い手は、泉から見捨てられることはない。
遭難者は、その奉仕によって、泉の管理者になれるのだ。
彼女は、それを求めていた。
あの長いキスは、
僕の中に入り込もうとする儀式。
自分の中に僕を取り込もうとする儀式。
あの娘(こ)はもうすぐ、ここに来る。
もっと僕の中に入り込もうとするために。
もっと僕を自分の中に取り込もうとするために。
ぶるっ。
全身が震えた。
彼女の狙いと、そして取るであろう行動を予想できないわけではない。
でも、それは─。

785:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/24 23:49:19 MVSnhpaY
僕は、パジャマの中でおち×ちんが固くなるのを感じていた。

(こういうの、見たかったら、私のを見せてあげる。
こういうの、好きだったら、私がしてあげる)

エッチなコミックを指差しながら、彼女は確かにそう言った。
それは、今日、見せてくれるということなのだろうか。
掛け布団をしっかりかぶった暗闇の中で、僕は唾を飲み込んだ。
現実の女の子には、興味がない。
……この間までは。
すぐ近くに、理由はどうあれ、僕に好意を抱いている女の子がいて、
その娘(こ)は、小さいときすごく憧れた女の子で、
今はあの頃よりずっとずっと綺麗になっていて、
髪の毛も長くて、おっぱいも大きくて、美人で、優しくて、毎日キスをしてくれて。
そして、―怖い。
読めるけど、読み通せない執念。
わかるけど、わかりきれはしない執着。
その行動原理に突き動かされている女(ひと)は、僕にとって恐怖の対象だ。
だが、蛇に睨まれた蛙のように、それゆえに彼女に惹かれている自分がいる。
綾ちゃんは、今日会えば、間違いなく身体を使って僕を捕らえようとする。
どこまでするつもりなのだろうか。
下着を見せてくれるんだろうか。
おっぱいを見せるつもりなのだろうか。
全部を脱いで、女の子のあそこまで見せるなんてことは―。
それとも、まさか、その先まで……。
目をつぶる。
彼女の迷いのない笑顔が目蓋の裏に浮かんだ。
がたがた震えながら、僕は体中から熱い汗がにじみ出るのを感じていた。
おち×ちんは、痛いくらいに張り詰めていた。
思わずそこに手を伸ばしかけたとき、時計の針がカチっと大きな音を立てた。

786:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/24 23:50:22 MVSnhpaY
「!!」
僕は跳ね起きた。
やましい想像にとらわれていた自分を、誰かから目の前に突き出されたように、自己嫌悪感が沸く。
15:30。
駅前のKNエキスプレス・カフェに行くには、もう支度をしなければならない時間。
「……」
龍ヶ崎綾。
世界的ピアニストの愛娘は、今やアイドル以上の知名度と人気を誇る。
その少女が、昨晩、僕の家の玄関先にいた。
そして、僕をデートに誘った。
一時間半後に。
明らかに、それは、僕と石岡綾子を会わせまい、
そしてその仲を引き裂こう、という意思によるものだった。
僕の元クラスメイトと、天才ピアニスト少女。
義理の姉妹の間にどんな確執があるのか。
僕は、先ほどとは違う寒気を感じ、もう一度身震いをした。
龍ヶ崎彩は、石岡綾子がそれを望まない、という一点だけで、
さえない男の子とデートを申し出てきた。
一方的な言葉。
自分の価値を微塵にも疑わない、傲慢な取引。
でも、一生に一度あるかどうかのチャンス。

このままここで待っていれば、自分のために僕を捕らえようとする女の子がやって来る。
駅前に行けば、誰かを傷つけるために僕を利用する女の子が待っている。
どちらからかも逃げれば─いや、多分、僕は逃げられない。
女の子は怖いから。
もう五年も顔を見ていない母親は、今なお僕を痛めつける。
彼女たちは、きっと、それと同じくらい怖い女(ひと)たちだ
そして、―時計の針は進む。

787:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
07/10/24 23:51:56 MVSnhpaY
ピン、ポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
僕は文字通り、飛び上がった。
選択の機会は、もう失われた。
僕は動けず、逃げられず、そして─。
意思を奪われた人形のように、僕は玄関のドアを開けた。
家人に招かれなければ獲物の家に入ることが出来ない吸血鬼が
なぜ標的を必ずしとめることが出来るのか、今の僕には良く分かった。
そして、僕は、僕の巣穴に、僕を食らう猛獣を招きいれた。

「どうしたの、汗びっしょりよ」
綾ちゃん─石岡綾子は、僕の顔を見て驚いた表情になった。
「あ、あ、うん。ちょっと、体調が悪くて」
わずかな望み。
このまま彼女に帰ってもらえれば─。
「大変。寝てなきゃ。お部屋に行きましょう」
当然のように家に入ってくる綾ちゃんを止める手立てを僕は持っていなかった。
「……ん。シャツとか、どこ? 着替えなきゃ」
僕の部屋に入るなり、てきぱきと動き始めた彼女は、
あっという間に僕の上半身を裸にし、タオルでぬぐい、新しいシャツとパジャマを着せた。
僕の格好を見て、くすり、と笑う。
「上下、色違いね。下も着替える?」
「い、い、いや、いい」
別途に腰掛けた僕は、あわてて手を振る。
「熱は……?」
あっと思うまもなく、綾ちゃんは僕のおでこに、自分のそれを押しあてた。
「……下がってるみたいね。あれ……?」
僕は、息をするのを忘れた。
至近距離で、綾ちゃんの瞳が僕を覗き込んでいた。
「……新治君、私に何か、隠してるでしょ?」

     ここまで

788:名無しさん@ピンキー
07/10/24 23:55:40 9SUqVpLC
単純にチャンスに浮かれれば命の危機、チャンスの裏の意思に気がついてもまた命の危機か…

789:名無しさん@ピンキー
07/10/25 00:15:02 e5zEgfDV
こえええええええええええGJええええええええ

790:名無しさん@ピンキー
07/10/25 01:39:03 D2wVF2Q9
GJ!!!!
というかこっち(姉)選んでも(選んでないで流されただけだけど)妹さんの方の危機からも逃れられてないようなw
なにせ初めて自分(妹)より他人(姉)を優先した人間って事で妹さんの方にも執着の理由ができちゃったようなw
進退窮まるとか四面楚歌とか、まさにこのことですなw
なまじ読めてしまうだけにその恐怖は如何ほどか?
主人公頑張れ、超頑張れw

791:名無しさん@ピンキー
07/10/25 04:24:54 GsyRlnVO
主人公自分に自信を持てば無問題なカップルだろう>主人公×姉
根底にセットされてるのは「綾ちゃんを「綾ちゃん」って呼ぶ自分よりいい男が現れたら自分は捨てられる」っていう危機感だし
でも主人公は綾ちゃんを親身になって矯正させようとしてる訳だし、基本的にいい男だ。ただヘタレ

792:名無しさん@ピンキー
07/10/25 07:41:19 1mkp+ida
GJ!!!       ところでそろそろ次スレの季節?

793:名無しさん@ピンキー
07/10/25 12:19:29 KTCV0DPs
だな。現在495KB。あと5KBしか書けない。
建てれるかどうか知らないけどチャレンジしてくるわ。

794:名無しさん@ピンキー
07/10/25 12:29:52 KTCV0DPs
次スレなんだけど 【貴方が居なければ】依存スレッド2【生きられない】 で建てようとしたら
サブジェクトが長すぎるって言われた。
どうしよう?スレタイを勝手に削っていいのかな?
テンプレは1に書いてあるままでいいの?

795:名無しさん@ピンキー
07/10/25 12:59:30 xTULNV9L
>>794
貴方なしでは、にすれば、趣旨からあまり外れずに文字数削減が出来ると思う。

796:名無しさん@ピンキー
07/10/25 15:12:09 e5zEgfDV
きみがいてぼくがいる

797:名無しさん@ピンキー
07/10/25 16:32:18 KTCV0DPs
>>795
おk、それで建ててみる

798:名無しさん@ピンキー
07/10/25 16:36:03 KTCV0DPs
建てて来た。

【貴方なしでは】依存スレッド2【生きられない】
スレリンク(eroparo板)

799:名無しさん@ピンキー
07/10/25 20:52:50 oOV4E4yk



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