【貴方が居なければ】依存スレッド【生きられない】at EROPARO
【貴方が居なければ】依存スレッド【生きられない】 - 暇つぶし2ch400:名無しさん@ピンキー
07/06/01 22:37:35 UsFIi6vV
あー、なんかこの佐久耶って女、知り合いにそっくりでむかつくわww
リスカ女なんだがなwwwww

401:名無しさん@ピンキー
07/06/02 00:31:25 4gewqmff
このスレでこの傾向の作品が見られるとは・・・GJ!

402:名無しさん@ピンキー
07/06/02 03:50:03 5wops/Ra
なんかヤンデリズム感じた。GJ!

403:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 10:56:05 z966MeLB
続き投下します。

404:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 10:56:47 z966MeLB
 私は八代君に今日のお昼は用事があることを告げて隣の教室へと行くことにしました。
 彼と食べる食事の時間は私にとっては大事なひと時なのですが、今日ばかりは私と
彼の時間を続けるために使う必要がありました。
 教室に入ると何やらざわめきましたが、気にせず目的の人を探します。丁度
お一人のようで助かりました。

「今日は、菖蒲さん。」
「佐久耶…珍しいわね。何か用?」
 私は彼女の前に座り、話しかけます。彼女は驚いたような顔をしてこちらを向きました。

「実は菖蒲さんにお願いがあるのですが。」
「ふーん。何かしら。」
「八代君に近づかないで頂けないでしょうか。」
 そう…きっと八代君に元気がないのはこの人が私たちに余計なちょっかいをかけている
からに違いない。彼女は未だに知らない振りをしています。私が何も知らないとでも
思っているのでしょうか。

「言ってる意味がわからないんだけど…。」
「私は彼とお付き合いさせていただいているので、彼を惑わすようなことを
 しないで欲しいんです。」
「わけわからないこといわないで欲しいわね。まず、彼は恋人はいないって言ってるわ。」
「そんなことはありません。今は少しお互いが誤解してるだけで、恋人同士です。」
 そう、お互いが誤解をしているだけです。私は彼が好きになってきているのですから
少し努力すれば元に戻るのです。

「…愛想をつかされたんじゃないの?」
「そんなことはありません。あの後、私が危ないときに助けてくださいましたし。」
「そもそも付き合ってたの?佐久耶は八代の家にすら行った事無いでしょう。私は
 一志と一緒に食事に呼ばれたり出かけたりしてるわ。まだ、私のほうが近いんじゃない?」
「それはこれから解決していけばいいんです。男の人が怖くて今まで努力を
 してこなかったから…克服すれば上手く行くんです。」
 私たちが上手くいっていないときに菖蒲さんは入ってきました。髪形を変えたり
おしゃれになったのは八代君に近づくために違いありません。でも、そんなことは
許しません。彼は私と一緒にいるのですから。彼女は少し怒ったような感じに
なってきていますが、ここで負けるわけにはいきません。

「八代は迷惑しているわ。佐久耶が近くにいる限り、彼は休まらないのよ。
 本当に好きなら身を引くべきじゃないの?」
「それは菖蒲さんが彼のことが好きだからでしょう。彼を盗りたいから言っているんでしょう。
 八代君はほかに好きな人がいるとか嘘をついてまで私から離れようとしています。
 菖蒲さんが彼を誘惑して悩ませているんでしょう。あなたこそ迷惑じゃないですか。」
 次の瞬間、頬に強い衝撃を受けました。周りの人たちも何事かとこちらを向いています。
 私はそれでも彼女から目を離しませんでした。

「佐久耶。あんたは本当にどうしょうもないわね。本当にほかに好きな人がいるかも
 しれないでしょう。いつまでも八代に縋ってるんじゃないわよ。」
「私には彼が必要なんです。だからどんなことがあろうと菖蒲さんにはお渡しできません。
 別れるつもりもありません。話はそれだけですので失礼しますね。」
 言うことをいった私は教室に戻りました。例え本当に八代君が菖蒲さんを好きになった
としても渡せないのです。私は一人に戻ることは絶対に嫌なのですから。


405:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 10:57:38 z966MeLB
 放課後、俺は屋上で人を待っている。待ちながら考えることは後悔ばかりだ。あの時、余計な
気を回さなければ俺の親友はあそこまで精神をすり減らすことはなかったかもしれない。
 後悔先に立たずとはよく言ったもんだ。
 今からやることが上手くいっても失敗してもハチは傷つくだろう。

 俺は女は嫌いだ。これから会うのは女の中でも一番嫌いなタイプだ。他人に寄生して
自分は何もしない。さらに厄介なことにこいつは宿主を共倒れさせる宿り木だ。例えどうなろうとも
宿主たる親友のために、俺は泥をかぶることに決めた。
 携帯電話を弄りながら待つこと五分。屋上の扉が開いた。現れたのは長い黒髪の…
恐らく学年で一番であろう美人。一度振った相手だ。

「よう、待ってたぜ。神城さん。」
「犬飼君…だったんですか…。」
 朝、俺は彼女の下駄箱にラブレターを入れておいた。昔と反対に。彼女は驚いて
俺を見つめている。

「こうやって二人で会うのは三ヶ月ぶりってとこか。」
「はい。そうですね…。あの時は犬飼君が八代君の親友だなんて知りませんでした。
 …犬飼君が怒ったのも無理ないですね。」
「まあな。今では少し後悔している。」
 一応、嘘ではない。もう少しよく人柄を知っていれば無用の努力と心労を掛けずに
こいつを排除できたんだ。

「それで…何か御用ですか?」
「ああ。前に断っておいてなんだが…俺と付き合って欲しい。」
 そこまで言って相手の返答を待つ。自分からこういうことを言ったのは初めてだ。
 望んだものでもないが、二度も経験のないことをさせられるとは…。

「犬飼君にはたくさん彼女がいらっしゃいますし、私は必要ないでしょう。」
「ほー、そういうことも知ったわけだ。」
「……八代君に聞いたわけではありませんよ?」
「ああ。わかってる。でもって、そいつらとは全員別れた。」
 彼女は強い風に髪をなびかせながら少し考えていった。

「昔……助けていただいたお陰で私は犬飼君が好きになりました。ですが、今の私は
 八代君の恋人です。申し出を受けるわけにはいきません。」
「あいつはお前さんをただの友達だって言ってたぜ?」
「それはただの誤解です。では、お話がそれだけでしたら失礼します。」
 そういい残して彼女は去っていった。失敗したか…面倒だがまあいい。
 後は任せるとしよう。だが、あいつも苦しめるようにならないとは限らないな…。
あまり明るい未来といえない考えに苦笑しつつ、俺は携帯電話を取り出した。

「全く女ってのは怖いぜ。」


406:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 10:58:42 z966MeLB
 放課後、佐久耶が屋上に向かったのを確認した私は八代に会うために教室を
訪れていた。掃除の当番だったこともあってか、教室にはもう誰もいない。

「八代…帰らないの?」
「ああ。一志が後で話があるから少し残ってくれってさ。」
「そう…じゃ、私も待っててもいいよね?」
「どうぞ。暇だし助かる。」
 予定通りだ。一志は私の味方についてくれた。後は私の努力次第だ。

「こうやって二人になるのも久しぶりだよね。いつも佐久耶か一志が一緒だったし。」
「それは…」
「私を…避けてた?」
 八代は明後日の方向を向く。それで勇気が出る。完全に友達としてみているわけでは
ないとわかるから。

「そんなわけじゃないさ。たまたまだ。」
「じゃあ、私はだいぶ運が悪かったんだね。」
「うん?」
「だってずっと二人きりになりたかったんだもの。」
 放課後の静かな教室に、遠くで運動クラブが上げる歓声だけが響く。

「こないだの佐久耶の事故の日だけじゃなく、毎日同じ電車に乗ってたし。」
「そうか…気づかなかったな。」
 ポケットでマナーモードにしてある携帯電話が鳴る。時間を会話と別の頭で数え始める。

「私さ。八代が佐久耶と別れるっていったときよかったと思ったんだ。二人には悪いけど。
 二人が付き合っても、二人とも疲れ果てて傷つくだけだと思ってたから。」
「そうかもな…。だけど…それでも…」
 その先は言わせない。もう少しだ。私はゆっくりと八代に近づいていく。

「私を好きになってとは言わない。そうなれば嬉しいけど。でも、私は八代がまだ好きだから
 二人がただの友達だというなら、私は八代が振り向くような女になって捕まえたいの。」
「菖蒲…お前何を!!!………っん!!!」
 八代が教室の扉に背を向けるように移動し、首に手を回して彼の唇を強引に奪う。
柔らかくて暖かい唇の感触といいようの無い幸福感が私を満たす。

 そして、教室の扉が開かれた。扉の前には口を手で押さえて驚きで顔を蒼白にして
立ちすくむ佐久耶の姿があった。


407:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 10:59:53 z966MeLB
「う、嘘……」

 不意をつかれてキスをされ、混乱した頭を現実に引き戻したのは佐久耶の泣きそうな声だった。
慌てて菖蒲を引き離す。菖蒲は今までに見たことのない男を魅惑するような眼で
俺を見つめている。やがて、少し離れて彼女は佐久耶と向き合った。

「佐久耶…これでわかったでしょう。あなたはもう八代の恋人じゃないの。」
「そんな…そんなはずが…」
「八代は別に好きな人がいるっていったんでしょ?」
 うろたえる佐久耶を菖蒲は射抜くような目で見つめている。
このままではまずいと思った俺は説明するために前に出ようとしたが、
菖蒲に手で制止された。

「あんたは自分の都合で八代を利用したのよ。自業自得でしょう。誰が自分を好きでもない
 利用するだけの人を好きになるの?」
「貴女に私たちの何がわかるっていうんですか。」
「そんなのは知らないわ。わかるのは八代が佐久耶から離れようとしていることと
 あんたと一緒にいる限り、八代が苦労するってことだけよ。それに…
 心が私に向いてるならあんたから救うのは当然でしょう。見たんでしょ。
 さっき八代が私に熱いキスをしてくれたの。」
「やめて!」
 佐久耶はその綺麗な顔を怒りにゆがめて菖蒲の頬を張った。彼女は内向的で基本的に
臆病だ。そんな佐久耶が怒りを浮かべて菖蒲を睨んでいる。

「二人とももういい。やめろ!」
「八代君…」
「俺は暫く誰とも付き合わない。キスは事故だ。」
 俺はそれだけ言うと何かいいたそうにしている佐久耶を振り切って鞄を持って外にでると、
一志が待っていた。

「よ、ハチ。もてる男は大変だな。」
「見てたのなら止めろ。」
「さすがにこれで距離は開くだろう。強引だが。さてどうなるやら。」
 俺はその言葉に何も言い返すことができなかった。ほっとした気分と少し
照れくさい気分、辛い気分などごちゃまぜな気持ちにさいなまされながらも、
菖蒲とキスをした唇を無意識に撫でていた。


408:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 11:02:16 z966MeLB
投下終了です。
次からはまた主人公中心になると思います。

SS書くのも好きですが読むのはもっと好きなので
他の方のSSで依存パワーを充電したいです。

409:名無しさん@ピンキー
07/06/03 15:26:38 TxDgBOJ3
うおおお!GJ!!

410:名無しさん@ピンキー
07/06/03 15:45:39 rOuwsfeX
保守

411:名無しさん@ピンキー
07/06/03 17:25:54 RUMmLojY
あーもーさくや死ねwwwwwwwwwwwwwww

412:名無しさん@ピンキー
07/06/03 17:50:29 xbJSfAC3
ジコチューではあるけど、一応筋は通してるジャマイカ

413:名無しさん@ピンキー
07/06/03 20:46:49 YKVYEgH0
更新お疲れ様ですw
今回も面白かったです^^
小学校の作文で先生に、才能ないと断言された人間で良いなら書いて良いですか?(`・ω・´)

414:名無しさん@ピンキー
07/06/03 21:26:11 vB89s8ba
先生「おk」

415:名無しさん@ピンキー
07/06/03 21:37:01 YKVYEgH0
後押ししてくれた方ありです^^
人生で初めての書き物なので稚拙な文になるかもしれませんが、ご容赦下さい(´・ω・`)

416:名無しさん@ピンキー
07/06/03 22:47:55 YKVYEgH0
僕、霧沢優人は雨が嫌いだ。
いつから、どういう理由で嫌いなのかは自分でも分からない。
きっと本能的に嫌いなんだと思う。
雨の日は気分が重く憂鬱な気分になり、それは溜め息になる。
「はぁ・・・。」
購買で買ってきたパンをかじりながら思わず溜め息をつく。ふと、窓を見ると外の景色は暗くどんよりとしていて。
窓ガラスを無数の雨が叩いては流れていく。
「さっきの溜め息は美里の知る限り38回目ですねぇ」
無邪気に笑いながら無駄な努力をする、この子の名前は百合川美里ちゃん。
緑色のリボンが1年生だということを示している。
肩まで揃えた髪はうっすらと茶色がかかり、良く動く瞳と相まって辺りを和やかな雰囲気にさせてくれる。
美里ちゃんは1年生でもマスコット的な存在で可愛がられてるらしい。
どうして1年生の女の子がここで食事をしているかというと・・・。
「美里、バカの相手は止めなさい。うつるわよ?」
「うつるはずないだろ・・・」
極めて失礼なこのお方の名前は百合川雪乃。
美里ちゃんとは反対に髪は長く、大きな瞳はつり上がっていて。
その絶対的な美貌は1度見たら2度と忘れる事は出来ないと思う。
どうすれば、姉妹でこんなに性格が異なるのか興味をそそられるが、学校でも有名な仲良し姉妹だというから驚きだ。

417:名無しさん@ピンキー
07/06/04 00:24:20 gHQZ84M0
「そうかもしれないわね・・・でも」
そこで、そっと間を置くと瞳を伏せて小さく呟く。
「少なくとも、その溜め息は人に憂鬱な気分をうつすのじゃないかしら・・・」
雪乃が言うことも最もだと思う、だけどこれだけは仕方ない。
気まずい雰囲気を察したのか美里ちゃんが、慌てて口を開く。
「違うんだよ、優人兄さん!お姉ちゃんは溜め息をつく優人兄さんが心配なだけであって!」
ずいっと美里ちゃんが僕に近寄ってくる。
「大丈夫だよ、美里ちゃん。雪乃とは長い付き合いだしね」
未だに心配な顔な美里ちゃんに出来るだけ、優しく微笑むと同時に雪乃の頭を撫でる。
「雪乃、心配してくれてありがとう」
「ん・・・。」
瞳を閉じると気持ち良さそうになすがままになっている。
何度か撫でた後に手を離そうとしたら、強い視線を感じた。その強い視線の先には・・・。
「美里もお願いしますっ!」
結局、昼休みは頭を撫でるのに時間を使うことになってしまったのだった。

418:名無しさん@ピンキー
07/06/04 00:54:38 gHQZ84M0
短いですが、投下終了です。
ぶっつけで書いたので構成が・・・。
ヒロイン(?)は妹の予定ですw

419:名無しさん@ピンキー
07/06/04 09:03:23 itvFtM5T
ホントに短けーw
短いけど癒された

GJ!

420:名無しさん@ピンキー
07/06/04 11:57:25 7IxtQdCN
短すぎてどうレスしたものか悩む。
だが、悪くない。

421:名無しさん@ピンキー
07/06/04 13:14:56 gHQZ84M0
続き投下します。
今回は長めにいきますので、お付き合い下さいφ(.. )

422:名無しさん@ピンキー
07/06/04 14:13:15 gHQZ84M0
放課後。
昼間はあれ程強かった雨足は弱まりを見せて、今では小雨に変じている。
今日一日の授業を終えた教室では、それぞれの放課後を楽しむ為活気に溢れそれは僕にも例外ではない。
明日の授業で使う勉強道具を机に残し、軽くなったカバンを持って教室を出る準備をしていると近寄ってきた雪乃に声をかけられた。
「優人、梨華ちゃんの具合はどうなの?」
僕には妹が一人いる、僕より歳が1つ下で美里ちゃんと同学年だがクラスは違う。
生まれつき体が弱く、今まで何度も夜中に高熱を出しては僕が面倒を見てきた。
僕の家には母親はいない、父さんの話しによれば僕がまだ幼いときに交通事故で亡くなったらしい。
母さんが亡くなってから父さんは再婚もせずに男手一つで僕らを育ててくれたのだ。
父さんも母さんを失ってつらい筈なのに病弱な梨華と僕を、一つの弱音を吐かずに世話をしてくれた事に感謝している、それは。
子供心に父親に対する尊敬を抱かせるのは充分だったと思う。
僕はまず何が一番父さんの助けになるかを考えた、その結果が梨華の面倒を見ること。
小学生の時は友達と遊びたいのを我慢して梨華の面倒をみてきた。
その成果もあってか梨華は少しずつ体が丈夫になっているのは僕にとっても嬉しい事態だと言えるだろう。
「大丈夫、風邪だし微熱だから明日には学校来れるかな。」
それを聞いて安心したのか雪乃は少しだけ微笑む。
美里ちゃんと違い雪乃には感情の揺れがない。
笑っても本当に付き合いが長い人にしか分からず、多くの人は無愛想だと取るだろう。
雪乃に男の話が出てこないのはそれが一番の要因ではないだろうか?
「美里と一緒にお見舞いに行って良いかしら?」
梨華もきっと寂しいだろうから、雪乃と美里ちゃんに来て貰えたら喜ぶだろう。
「それじゃ、お願いしようかな。夕飯の材料買って帰りたいから5時ぐらいで良い?」
「分かった・・・」
雪乃が小さく頷くのを確認してから。
「それじゃまた後でね」
出口に向かって歩みを開始した。

423:名無しさん@ピンキー
07/06/04 14:34:36 tJxXTVKa
書きながらより書き溜めてからのほうが自分にも相手にも楽だよ

424:名無しさん@ピンキー
07/06/04 15:03:00 7IxtQdCN
話が一段落するまで書き溜めてからまとめて投下しておくれ。

425:名無しさん@ピンキー
07/06/04 15:27:42 tNy1ktF+
面白そうだし、期待しながらコーヒー飲んで待ってる。
がんばれー。

426:名無しさん@ピンキー
07/06/04 15:30:58 gHQZ84M0
学校からの帰りに買って来た少量の荷物を持ちながら、ポケットから家の鍵を取り出して鍵穴に差し込み、軽く回すと金属音が鳴り、ロックが外れる。
「ただいま。」
梨華はきっと寝てると思うので起こさないように小さく呟く。
材料を置くために台所に入ると、材料を仕舞い。
コップで水を一杯飲んでから梨華の部屋に向かう。
梨華の部屋は2階の突き当たり、つまりは僕の部屋の隣に位置する。

コンコン
「梨華、起きてる?」
梨華から返事がない場合そのままにしておこうかとしたが、それは杞憂に終わることになった。
「お、お兄ちゃん!?」
どこか少し慌てる声が部屋越しに響く。
「入って良いかな?」
「どうぞ・・・って!あっ!まだ入ったらダメだよ!」
ドアを開けようとした手が梨華の言葉によって停止する。
「お兄ちゃんごめんなさい、少し待ってね」
その言葉と同時に梨華の部屋から慌ただしい音が聞こえてきた。
「ど、どうぞ」
梨華の了承の合図にドアを開け中にはいるとまず目に飛び込んで来るのは人形の大群。
50は超えるであろう人形達は、綺麗に整えられていて。
ここが女の子の部屋であることを再認識させられた。
「あんまり、じっと部屋見られると恥ずかしいよ」
声のした方へ視線を向かせるとピンクの布団を深く被り、僕をじっと見ている妹と目が合う。
髪は黒髪より茶色の方が強く、さらさらとしていて撫で心地が良いのを僕は知っている。
梨華曰わく、僕がいつでも撫でて良いように髪には特に気を使ってるらしい。
布団から覗く肌は白く、儚げな印象を与えてくる。
正直可愛いと思う。
「梨華、気分はどう?」
「大分良くなったよ、この調子なら明日学校に行けるよ。」
花が咲いたように、にっこり笑いながら楽しそうに僕を見る瞳は、嬉しいからなのか上機嫌だ。
「どれ。」
僕は梨華が寝ていた布団に近寄り、優しく梨華の上半身だけ起こすと。
梨華の前髪を左手で上げて、僕の額と額を合わせる。

427:名無しさん@ピンキー
07/06/04 15:37:04 7IxtQdCN
だからまとめて投下しろと。


428:名無しさん@ピンキー
07/06/04 16:02:05 tNy1ktF+
落ち着いて心を広く気長に待とう。
夜まで待てば終わるだろうから。

まとめての投稿は次回からでもいいじゃないか。


429:名無しさん@ピンキー
07/06/04 16:08:48 gHQZ84M0
額と額を合わせたまま頭の中で3秒カウントする。
「うん、少し熱っぽいけど大丈夫かな」
梨華の方を向くと耳まで真っ赤にしながら、口をパクパクしていた。
「梨華どうしたの?」
「へっ、あ・・・えっと」
「ううん、な、なんでもないよ!」
真っ赤な顔をして腕が引きちぎれそうなぐらい、腕を振り回してる姿はどこか微笑ましい。
「お兄ちゃん、いつも心配かけてごめんね・・・」
申し訳なさそうに僕から視線を外し頭を下げてくる。
「梨華はそんな事気にしなくて良いんだよ。そ、れ、よ、りも風邪直さないとね」
言いながら梨華の額をツンと押すと、梨華は僕を見て頷いた。
「そういえば・・・今日、雪乃と美里ちゃんがお見舞いに来てくれるそうだよ。」
「本当に!楽しみだなぁ」
梨華と美里ちゃんは昔から仲が良く、学校でも二人一緒なのを何度も見かけてる。
だからこそお見舞いに来てくれることを、余計に感謝しなくちゃいけないなぁと思っていると家の呼び出しが鳴り響いた。

430:名無しさん@ピンキー
07/06/04 16:12:34 gHQZ84M0
たくさんの方に不愉快な思いさせてしまってすいませんorz
以上で今回は終了です;;
次回からは纏めて投下するので、今回だけは御容赦を(ノ_・。)

431:名無しさん@ピンキー
07/06/04 16:19:10 7B0cihK3
AAが・・・

432:名無しさん@ピンキー
07/06/04 18:42:22 7IxtQdCN
うむ、面白そうなのでがんばってくれ!

433:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:39:03 tNy1ktF+
>>430
おつかれです。ちょっと癒されました。
頑張ってください。

投下します。長編の長さ自己新。

434:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:40:35 tNy1ktF+
 ここ数日の間、俺は眠れない夜が続いている。特に今日は極め付けだった。
 柔らかい唇の感触が忘れられない…俺も男だ。性欲がないわけではないから仕方が
ないとはいえ、ここまで動揺するのも情けない。
 そうして眠れずにいた真夜中、携帯の音が静かな部屋に鳴り響いた。着信名は
菖蒲となっていた。

「もしもし、八代。こんな時間にごめんね。」
「菖蒲か。何か用か?」
「………すごいね。八代はいつも通りっぽい。」
「そんなわけないだろ。眠れない。」
「ちょっとは気にしてくれたんだ。」
「当たり前だ。」
「私も………思い出すと眠れなくって。八代の声聞きたくてつい。迷惑だった?」
「別に。俺も起きてたし。」
「ごめんね。じゃ、また明日。おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
 携帯を切ると少し考え込んだ。菖蒲のことは嫌いではない。だが恋愛感情となると
今まで佐久耶に感じてきたような、心の底から熱くなるような激しい感情は沸いてこない。
彼女は好いてくれているが…お互いが好きではない以上、付き合えば自分たちのように
不幸になるだけだろう…そう結論付け、無理矢理でも寝ることにした。

 翌朝、俺は普段より早起きし、二本ほど早く電車に乗った。菖蒲とも佐久耶とも
できれば今日は顔をあわせたくなかった…が、

「おはよ…八代。今日は早いんだね。」
「おはよう。…お前こそ早いな。」
「なんとなく目が覚めちゃってね。たまにはいいかなって。」
 トレードマークの三つ編みをやめたストレートの長い髪を揺らして、くすくすと
明るい笑みを浮かべながら菖蒲はこちらを向く。

「それじゃ早速学校へいこーっ!!」
「あ、おい!」
 そして、彼女は俺の腕を掴んで学校までの道を歩き出した。何故、朝早く来るのが
わかったのか。それともいつも早めに待っているのか…わからなかった。


435:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:42:16 tNy1ktF+
「あれー。今日は犬塚君一人なんだね。」
「ああ、佐久耶が休んでるからな。」
 佐久耶は今日、学校を休んでいた。学校へは風邪と連絡を入れていたらしい。
 しかし、昨日のこともある…自分のせいである可能性を思うと胸が痛かった。
 ぼーっとしていた俺にクラスメイトの女子が好奇心に眼を輝かせた目で俺に話しかけてきた。

「そういや、犬塚君聞いた?」
「何を?」
「神城さんが昨日なんか隣のクラスで大暴れしたんだって。」
「……あいつが暴れた?」
 俺は怪訝そうな顔で彼女を見た。暴れる佐久耶をどうしても想像することが
できなかった。怒った姿を昨日は見たが、良くも悪くもマイペース、上品で温和だ。

「ああ、ごめんごめん。言い方がまずかったね。口論したんだって。自分で出向いて。」
「そういや……昼に席をはずしていたな。」
「凄かったらしいよ。いやー犬塚君愛されてるねー。神城さん見直したよ。うん。」
「俺は友達に戻そうと…いったんだが。あんなことがあったし、さすがにな…。」
「ええっ!じゃあどうなってんの?って、犬塚君フリー?私と付き合おうよ。」
「俺は暫く誰とも付き合わない。」
「ちぇー。でもさ、神城さんは許して上げなよ。反省したのか震えながらもべたべた
 しようとしてみたり、別のクラスに怒鳴り込んでみたり…神城さんなりに不器用だけど
 頑張ってるんじゃない?ま…嫌々かもしんないけどさ。」
「あいつは俺が好きなわけじゃないからな。どうしたものか。」
「それでも惚れさせるのが男ってもんでしょ。はいこれ、神城さんの家までの地図。
 私、あの子にはもっと美容とか胸を大きくする方法とか聞きたいんだよね。だから、
 さっさと立ち直らせて。ああ、地図の代金は中間テストの山でいいよ。」
 そういって、彼女は俺に地図を握らせて去っていった。俺は当たり前のことを
失念していた。敵は多いが中立や味方もいるのかもしれない。
 一学期は普通に他の人と話すことも会ったのだから。


436:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:44:08 tNy1ktF+
 話し終えるのを待っていたのか菖蒲がクラスメイトの去った後に笑顔で弁当を
揺らしながら近づいてきた。

「一人でしょ。一緒に屋上でお昼食べよ?」
「いや、ここで食べる。習慣だからな。」
「えー。いいじゃない。」
「場所が変ると喉を通らないんだ。」
 朝のことを思い出すととても今日は二人でいる気になれない。友達としてしか
見れないのなら思わせぶりな態度は取れない。欺瞞かもしれないが。

「お互いファーストキスの相手同士なんだしさ。」
「なっ!!」
 ざわっと周りが騒がしくなる。地図を渡してくれたクラスメイトも驚きの目で
こちらを向いている。菖蒲は…普段どおりに見えるが雰囲気は別人のように思えた。
活発な明るい感じではなく、どこか艶っぽい印象を受ける。

「菖蒲、お前何を…。」
 周りからの視線が突き刺さる。先日、騒ぎを起こしたばかりだ。菖蒲は騒ぎの
当事者でもあるから覚えてる人がいれば誤解だとわかるだろうが…あのときと
菖蒲の姿は大きく変っている。前の地味な雰囲気はかけらもなく、今の彼女は掛け値なしに美人だ。
このままでは客観的には二股を掛けていたとしかみられないだろう。
菖蒲は髪の毛を少しかきあげて笑顔で俺の前の席に座る。

「嘘は言ってないよね。」
「お互いの合意ではないがな。お陰さまでクラスで孤立しそうだ。」
 俺は頭をかいて苦笑してそう言った。文句の一つでも言いたくはあったが、
佐久耶の立場を考えると悪くはないので自重した。

「そのときは私が助けてあげるから心配しないで。」
「俺は元々一人だ。だから大丈夫だ。」
「ううん。私はずっと八代の味方だから。何があっても。一人になっても。」
 俺は薄ら寒い感じがした。ひょっとしたら人を悪い方向に変える力があるのかもしれない。
佐久耶が変ってしまったように。いや、元々こうだったのかもしれないが…。

「何度も言ってるが…」
「言わないで。私は待つから…好きになってくれるまで。今は一緒にお昼食べてくれれば嬉しいの。」
 彼女は俺に最後まで言わせず、食事を始めた。俺も何も言わず食事を再開したが
ここ数日と同じようにあまり味を感じることはできなかった。


437:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:48:36 tNy1ktF+
 放課後も昼とあまり変らなかった。菖蒲は教室に来て俺の腕をとり、周りから
二人に冷たい視線を向けられる。俺は彼女が何を考えているのか図りかねていた。

「じゃあ帰りましょうか。八代。」
「俺は寄り道して帰るつもりだ。」
「私も一緒に行くよ。」
「…わかった。まっすぐ帰る。」
 俺は諦めてため息をついて歩き始めた。暫く二人で歩いていると俺の携帯が
鳴った。名前を見ると佐久耶となっていた。俺は取ろうとしたが…

「佐久耶か。」
「だめっ!!」
 菖蒲は俺の携帯を掴むと強引に携帯の電源を切った。

「だめだよ八代…佐久耶にこれ以上関わっちゃ…。私がずっと一緒にいるから…
 いいじゃないもう…。」
「佐久耶は風邪だった。友人なら心配するだろう。」
「だめっ!そんなんじゃ八代は…ずっとあの子から離れられないよ!私でいいじゃない。
 私なら八代を助けてあげられる。八代がしたいことも全部させてあげるから私を選んでよ!」
 彼女は必死な顔で俺を見つめている。周りの通行人も何事があったのかとこちらを
覗いている。少し言葉を捜して俺は菖蒲の肩を軽く叩いていった。

「そういう問題じゃないんだ。俺は友達と決めた奴は裏切らないんだ。一志も、菖蒲も。」
「八代…なんでそこまで…。」
 俺は携帯を取り出し、佐久耶にリダイヤルした。数回コールをした後、繋がる。

「佐久耶か。さっきはすまない。どうした。」
「ごめん……なさい……動けなくて…家族も…今日帰ってこれなくて……。」
「わかった。すぐ行く。待ってろ。」
「え…でも家……」
「今日相沢に教えてもらった。じゃ、また後で。…菖蒲、すまん…用事だ。また明日な。

 電話を切った後、菖蒲を向くと彼女はうつむいていて表情はわからなかった。
一応声をかけて走り出す。

「……ぜ……いに………ない…」
 菖蒲が何かを呟いていたが意識が他に向いていたのと、急いでいたこともあり
よく聞こえなかったので深く気にはしないでいた。

438:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:51:04 tNy1ktF+
投下終了です。

439:名無しさん@ピンキー
07/06/04 21:52:05 8YJ44yS5
張り詰めた空気がGJ。こりゃそのうち死者が出かねないなぁ…

440:名無しさん@ピンキー
07/06/04 23:06:33 kOMojAso
>>437
おもしろいから更新楽しみにしてる。
ただ頼むからヤンデレにだけはしないでくれ。切に切に・・・

441:名無しさん@ピンキー
07/06/05 09:20:15 omXOKFcF
定義が辛いな、精神を"病む"愛情(デレ)がヤンデレ、
依存する+αなスレ、エロ推奨

荒淫などにふける肉の依存ならともかく
依存なら心は病んでいるからすでに…

440君がなにを言っているのかわからないよ……

442:名無しさん@ピンキー
07/06/05 15:30:57 /5bEvwnd
俺ヤンキーがデレデレでヤンデレかと思ってた

443:名無しさん@ピンキー
07/06/05 16:38:36 omXOKFcF
ヤンキーはギザギザハートなのでツンツンのツンデレ

444:名無しさん@ピンキー
07/06/05 17:12:00 aEElGM+J
ちっちゃな頃から悪ガキで
15でキモウトと呼ばれたよ

445:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:24:41 ScxitT4q
キモウトスレに帰るのはいつの日か。
なんだか永住しそうな勢いです。

昨日は一気に書き進めていたので誤字を確認しつつ投下。

446:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:27:30 ScxitT4q
 佐久耶の家は俺の住む場所と高校をはさんで丁度反対の位置に当たる高級住宅街に
あった。山を開いて開発された宅地で、ゆるりとした坂をのぼっていくと、そこに
並んだ大きな家の一軒に神城という名前を見つけた。インターホンを押す。

「すみません…鍵を開けますので入ってきてください…。」
「わかった。」
 中に入ると趣味のよい家の外見に相応しい調度が置かれており、持ち主の趣味の良さが
伺われたが…。違和感を感じて置かれているテーブルなどを指で触ると指に埃がついた。

(生活感が薄い気がするな…。)
「ごめんなさい…。わざわざ来てもらって…」
 後ろから寝巻き姿の佐久耶に声をかけられた。顔色はかなり悪く、風邪を引いて休んだ
というのも嘘ではないようだった。

「困ったときはお互い様だ。友達なら謝るより有難うといって欲しいな。」
「くす…こほっ……ありがとうございます。」
「無理するな…部屋に戻ってろ。台所借りるぞ。」
 俺は料理用に途中で買っておいた食材をキッチンへと運び、おかゆを含めた
軽い料理を作って、佐久耶の部屋へと持っていった。彼女の部屋は他の部屋でも見られる
ような、趣味のいい調度を揃えシックな雰囲気に女の子らしくぬいぐるみや小物で飾っている。
 彼女はそんな部屋のベッドに横たわっていた。

「おまたせ。食べれるか?」
「はい…。」
 俺はスプーンで少しおかゆをすくって彼女の口元へと持っていく。佐久耶は顔を赤くして
首を横に振った。

「あ…え、えっと…その…自分で食べれますから…。」
「ああ、そうか。そうだな。つい癖で。」
「癖…?」
「ああ、一志に妹がいるんだがあいつは妹に料理をまかせっきりでな。親は滅多に
 帰ってこないから妹が風邪を引くと俺が料理を作るわけだ。その妹が俺にそうしろと
 いうもんだから。甘えてたのかもしれないな。」
 うちも一志も境遇は似ている。違うのは妹の有無くらいか…。そう考えてると
佐久耶は首を俯けて少し考えたような仕草をしてから恥ずかしそうにしながらこちらを向いた。


447:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:29:00 ScxitT4q
「あの…もしよろしければ…お願いしてもよろしいでしょうか…。」
「え?」
「…その…駄目ならいいんですけど…。」
 頷いてそっと口元にスプーンを持っていく。小さな口でゆっくりとそれをくわえる。
二口、三口と食べた後、くすくすと可愛らしく笑った。それは初めて見る類の年相応の
表情に思えた。

「八代君。おいしいです。」
「そうか、よかった。」
「他の人に食べさせていただくだけで、凄く幸せな気分になります。犬飼君の妹さんは
 天才かもしれませんね。」
 その言い様に俺も少し笑った。暫く、食事を楽しむ静かな時間が続いた。
やがてそれも終わろうとした頃…。

「八代君、私は八代君に謝らないと。」
「何かしたか?」
「ごめんなさい。本当は今日は着てくださらないと思っていました。」
 佐久耶は申し訳なさそうに俯いた。

「それは謝ることじゃないだろ。」
「うん…でも少しでも疑っちゃったから…。本当に菖蒲さんのことが好きなのかも
 しれないって…だとしたら来てくれるわけないって…」
 佐久耶はその綺麗な顔に涙を浮かべて俺を見つめている。本当にそこまで一人になるのが
怖いのだろうか…。

「生憎俺は好きな人が振り向いてくれないからと、すぐに乗り換えれるほど器用じゃないからな。」
「うんでも…菖蒲さんはしっかりしてますし、美人だし…それに…それに…」
「駄目なんだ。佐久耶が俺のことを好きになれなかったように、俺も菖蒲を
 恋人としては見れないんだ。だから、前の件のことも佐久耶を責める気はない。
 俺は人のことをいえるような奴じゃないからな。」
 彼女は少し安心したように微笑み、顔を一度俺からそらして呟いた。

「気持ちは変るもの…だそうですよ。」
「そうかもしれん。」
 俺は苦笑した。そして、佐久耶はこちらをもう一度真剣な顔をして振り向いた。


448:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:30:06 ScxitT4q
「もう一つ謝りたいことがあるんです。実は…今の学校で会う前から八代君のことは
 知っていたんです。」
「え…俺は覚えがないぞ。」
「ふふ…。八代君らしい…。犬飼君と二人で、数人の男に囲まれていた私を助けて
 くれたんですよ。菖蒲さんと同じです。」
「それで一志を…。」
「はい…。犬飼君は喧嘩していても明るくて…私とは正反対で惹かれたんです。
 八代君は…私…怖かったんです。どこがとは言えませんが…。」
 少しずつ思い出してきた。中学時代、一志と組んでよくそういう喧嘩をしていた。
その時助けたうちの一人だったのだろう。俺はその喧嘩の仕方から狂犬と呼ばれていた…。

「わかるな。俺は喧嘩のときに全く加減ができない…殺してしまいそうなくらいに…。」
「でも、友達になってくださって…実際は全然違って…。そんな八代君に酷いことを…。」
「いいんだ。過ぎたことだし。」
「八代君が一度離れて…菖蒲さんが本気になって…私やっとわかったんです…。どれだけ、
 甘えてたか…努力もせずに…それで、いなくなりそうになったら怒って嫉妬して…。」
 俺はその言葉に少し嬉しさを感じた。何も成長していないようでちゃんと成長していた
のかもしれない。本当に少しずつ。

「佐久耶も努力してたさ。だから相沢も心配したんだろ。友達だから…」
「うん…。私にも…友達…できた…っ……んです…っ…ね……」
 嬉し涙を流す彼女の頭を撫でた。綺麗な髪の感触を心地よく感じながら
嬉しそうな彼女の顔を見る。

「そろそろ寝ろ。他にして欲しいことはあるか?」
「頑張ろうって決めてすぐ甘えるみたいだけど……寝るまで手を握ってください…。」
「怖くないのか?」
「少し………でも、それよりもっと安心できますから……。」
 俺は彼女が寝付くまでそのまま手を握り、寝付いたのを確認した後、今日の授業の
ノートのコピーをおき、一番上に何かあったらすぐ連絡するように書置きして食器を洗ってから
家を辞去した。
 気になることはいくつもある。彼女の両親は何をしているのか。使用されている雰囲気のない
家具の数々。生活感のない空間…。だけど、それは追々解決していけばいいと思えた。
 久しぶりに前向きな気分になった佐久耶の家からの帰りの道は夜空は澄み切って、
星が綺麗に瞬いていた。


449:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:31:44 ScxitT4q
 翌日、今までよく眠れなかった反動か起きたときには一時間目に間に合うか
どうかという時間で、急ぐ努力を放棄した俺はいつも通りゆっくり準備して
学校へと向かった。
 電車が駅に着き、降りるとそこには風邪が治ったのか顔色もよくなった佐久耶が
いた。彼女は俺を見つけると嬉しそうに微笑んだ。

「八代君、一緒に学校に行きましょう。」
「これは…随分待たせたな…。風邪はもういいのか?」
「はい。すっかり治りました。いろいろ有難うございました。」
「礼を言うほどじゃない。普通だ。」
「いえ……本当に助かりましたから…。あ、明日日曜日ですよね。もしお暇でしたら
 お礼がしたいので家に遊びに来ませんか?」
「そこまでして貰うほどでは…」
「じゃあ…お礼じゃなく…八代君は料理がお上手ですから…私の料理の採点をして下さい。
 私も女の子ですから男の人に負けたくないんです。」
 俺は苦笑して頷いた。特に断る理由もないし前向きになってきている佐久耶に水を
さしたくもなかった。彼女は楽しそうに…自然に笑ってこちらを見つめている。

「言うようになったな。わかった。」
「有難うございます。楽しみにしていますね。」
 その後、他に学生のいない通学路を二人で並んで歩いた。無理せず、体を30センチだけ
離して。久しぶりに穏やかな朝を迎えられた気がした。


450:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:33:00 ScxitT4q
投下終了です。
もう少し続きます。

いつかifでダークな話も書いてみようかとも…

451:名無しさん@ピンキー
07/06/05 18:09:46 hHRYltAq
GJ!
ご苦労様です。

二人とも今回は良い感じですが、
果たして菖蒲ちゃんなどはどうなるのか。

キモ姉・キモウトスレでもお待ちしておりますので、
暇なときに覗いてやって下さい。

452:名無しさん@ピンキー
07/06/05 20:56:53 ySFxoqz6
GJでした。
佐久耶タンよりも徐々に菖蒲タンが病んできてる…ガクブル

>>442
オマイは俺かw

453:名無しさん@ピンキー
07/06/05 21:52:41 miQePfh/
で、一志君の妹の参戦はいつからですか?

454:名無しさん@ピンキー
07/06/05 22:43:34 NPSsh0PI
続きにwktk

>>442,453
お前は俺かwww

455:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:45:08 kV4MDFSJ
やっとできた・・。
投下します
表現が稚拙なのは見逃して下さいorz

狂犬、毎回楽しみでニヤニヤしなから読んでます^^

456:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:46:41 kV4MDFSJ
「それじゃ、二人案内してくるね。」
梨華のベッド付近で座っていた僕は、二人を呼ぶ為に立ち上がろとした。
だけどそれは思わぬ形で中断する事になる。
「梨華・・・?」
ベッドから上半身だけ起こしていた梨華が僕の制服の裾を掴んでいたから。
「お兄ちゃん、早く帰ってきてね。」
「早くって・・・同じ家の中だよ?」
苦笑混じりに梨華を見ると、梨華は今にも泣き出しそうな雰囲気で僕を見ている。
「だって・・・だって!」
それだけ言うと、梨華は嗚咽をあげながら泣き出した。
彼女の瞳から流れ出た、大粒の雫が頬を伝い布団に染みを作っていく。
「何も泣くことなんか・・・」
未だに涙を流している梨華は泣き顔のまま僕を睨んできた。
そして、普段大人しい梨華からは想像も出来ないぐらいの大声で。
「お兄ちゃんは私の事何も分かってない!!」
「私が今日1日お兄ちゃんに会えなくて寂しかったか、どうして分かってくれないの!!!!?」
そうか・・・確かに一人で過ごすのは寂しいのかもしれない。
でも・・・高校生が風邪で1日休んだからと言ってこれほど、取り乱して良いものだろうか?
少し自問自答してみるが、未だ目の前で泣いてる梨華を見たくない。
僕は立ち上がろうとした体を再びおろすと、優しく梨華の頭を撫で始めた。
「すぐ、戻ってくるから少しだけ我慢していてね。」
やっと納得してくれたのか、梨華は僕の服を放してくれた。
静かな部屋に梨華の嗚咽が響いていたが、それは少しずつおさまり。
結局僕は梨華が泣き止むのを確認してから、部屋を後にした。

457:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:49:33 kV4MDFSJ
お兄ちゃんが部屋から出ていく。
お兄ちゃんが大きな手で私を撫でてくれると、凄く満たされる気分になるのだ。
私はお兄ちゃんを家族ではなく、一人の男性として愛している。
本来ならば、家族に対して思慕の念を抱く事がどんなに醜い感情なのか私でも知っているが。
私はお兄ちゃんに対する思いを捨てるのはできない。
お兄ちゃんが微笑んでくれると、私の心まで暖かくなり。
お兄ちゃんの事を考えるだけで私の心を暖かい火が優しく灯る。
この感情を愛だと言わずに何と表現すれば良いのだろうか?
私にはお兄ちゃんに関して大切な想い出がある。
もうお兄ちゃんは忘れているかも知れないが、私の中では大切な想い出。


私は幼少の頃から病弱で発作を何度も起こしは、お父さんとお兄ちゃんに迷惑をかけてきました。
発作が起こると大抵は2日か3日でおさまるのだが。
中学校に入って間もない時期に私を大きな発作を引き起こしてしまった。
熱が高く、まともに息さえ出来ず。
失神を起こしては、起きて苦しみまた失神で眠ると言うのが1週間ほど続いたある日。
私が起きて辺りを見るとお兄ちゃんが私の手を握り締めながら、ベッドにもたれ寝ていました。
お兄ちゃんの目は赤く腫れていて、きっと寝ないで看病してくれたのだと思うと罪悪感が私を苛ます。
私が居なければ、お兄ちゃんは自分の為の時間も持てるし。私はこんな苦しい想いしてまで、生きたくない。
それならば私がするべき選択はただ一つ。

458:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:52:08 kV4MDFSJ
私が起きたのが分かったのか、お兄ちゃんもすぐに目を覚まして目をこすりながら私を見る。
「梨華起きたのか?具合はどう?」
きっとまだ眠たいのだろう、優しい笑みを浮かべながら尋ねるお兄ちゃんの声は欠伸混じりだ。
「大分良くなったよ、ありがとうお兄ちゃん。」
それを聞いて安心したのか、お兄ちゃんの表情が緩む。
「良かった、今すぐお粥もってくるな。」
そう言いつつ、立ち上がろうとするお兄ちゃんを私は引き止めた。
私が決意したことを言うために・・・。
「お兄ちゃん、お願いがあるの・・・」
私をお兄ちゃんの目をはっきり見ながら話す。
「うん?」
「・・・私を殺して下さい。」
その瞬間お兄ちゃんの目が大きく開かれ、部屋に大きな音が鳴り響いく。
頬が灼けるように熱くて、私がお兄ちゃんに叩かれたのだと理解するのに数秒かかった。
昔から私がどんなにイタズラしても、私に決して手を上げる事なく困った顔しながら許してくれたお兄ちゃんにまさか叩かれるとは思わなかった。
叩かれた頬を左手で抑えながら、お兄ちゃんを見ると。
お兄ちゃんは無言で私を見ていた。
「だって、私が居るから!!お父さんもお兄ちゃんも迷惑してるじゃないの!!!」
一度溢れ出した感情は止まる事を知らず、激流のように流れていく。
「それならば、私なんか居ない方が楽じゃない!!」
きっと私は凄い顔で泣いているのだと思う。
それでも涙を止める事は出来なかった。不意にお日様の匂いと暖かい何かが私を包み込む。
それはお兄ちゃんだった。
お兄ちゃんは私を強く、強く抱きしめると。
「梨華を叩いたりしてごめん・・・でもあの言葉だけは許せなかった・・・」
お兄ちゃんの声が震えている・・・。
いつも、笑顔を絶やす事なく優しかったお兄ちゃん。
そんな人が私の為を思い、悲しみの涙を流してくれている?
「父さんも僕も梨華を邪魔だとか、そう思った事なんか一度もないよ・・」
私の肩が湿って、やがて濡れていく。
ああ、これはこの人の優しさなのだろう。
「僕の気持ちが分かった上でまだ、死にたいと言うのなら」
お兄ちゃんはそこで一度止めると、鼻を啜り続ける。
「僕が梨華を殺して、僕も後を追うよ。梨華が居ない日常なんて考えられないから・・・」

459:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:53:14 kV4MDFSJ
私はどんなに愚かな人間なのだろう・・・。
こんなに私の事を大切にしてくれる人達を裏切るような事言うなんて・・・。
「お兄ちゃん、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい」
私はただ謝る事しか出来なくて、お兄ちゃんに抱きしめられたままずっと泣き続けていた。

460:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:56:40 kV4MDFSJ
以上で今回の分は終了です
お付き合いくださりありがとうございます。
続きは明日のこの時間ぐらいに投下します。

461:名無しさん@ピンキー
07/06/06 07:54:15 50spjacb
ああ、「ヒロインは妹」ってこっちの妹のことか。
こういう王道なのもいいな

462:名無しさん@ピンキー
07/06/06 12:18:31 98nwJ4zS
GJ!!
確かに王道、だけどそれがまたよし。

463:名無しさん@ピンキー
07/06/06 18:59:41 1P40Bg4z
皆様に質問。
このスレ的には、

親が借金作って逃げたおかげで借金のカタに堅気じゃない人に掴まり、
あんなことやこんなことをされそうになった少女がお金持ちの子供に助けられ、
肩代わりしてもらった借金の分を働いて返すためメイドをしている、
というのはおkでしょうか?

メイドをやめたりすれば返しきってない借金の残額分をヤの字が取り立てに来るので、
借金肩代わりしてる坊ちゃんなくしては生きられないと、
ある意味経済的には依存しているのですが。

464:名無しさん@ピンキー
07/06/06 19:34:30 YHkhHKjJ
>>463
それなんてハヤテ?

465:名無しさん@ピンキー
07/06/06 19:50:59 1P40Bg4z
言われて気付きましたよw
アレって、男女逆なら見事にここ向きの作品ですね。
中の人ネタはやりすぎですが。

さて。
難産かつ自信のないモノを、
それでも投下するのを人は勇気と言うのか。

466:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/06/06 21:43:31 1P40Bg4z
取り敢えず投下しておきますね。

依存モノと言い切れるかは微妙。

467:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:45:20 1P40Bg4z

朝。
日に照らされるお屋敷の廊下を歩き、
立ち並ぶ扉の中でも一際大きな物の前で立ち止まる。
ノックを2回。

「ご主人様、ご主人様」

数秒待ち、同じ事を同じ間隔で繰り返す。
返事はない。
着替えの最中や、今のノックで起きたばかりという事は無さそうだ。
仕方がない。

「ご主人様、失礼します」

呼吸を一つ。
私、雨水 流(うすい ながれ)は扉を開け放った。

「・・・・・・」

駐車場にでも出来そうな広さの室内をぐるりと見渡し、
部屋の一角に鎮座する天蓋付きの豪奢なベッドで視線を固定する。
不必要に大きな足音を立てないようにつかつかと歩み寄り、上質そうなヴェールを開く。
純白のシーツに覆われる見るからに柔らかそうなベッドには、
静かに寝息を立てる一人の少年が身を沈めていた。

「ご主人様、もう朝ですよ。
 起床されるお時間です。起きて下さい」

声をかけ、苦痛にならぬ程度に両肩を掴んで身を揺さぶる。
十秒程も続けると緩やかにご主人様の瞼が上がり、ぼうとした瞳が私を捉えた。

「ん・・・流か。もう朝・・・?」

「はい。早く起きて頂かねば通学に支障が出ます。
 御樫山(おかしやま)さんが朝食をご用意していますのでお早く──って」

折角起こした上半身をぼすんと倒すご主人様。

「ご主人様っ!」

「ふぅ・・・あと、五分・・・」

「あと五分、じゃありませんよっ!
 唯でさえ毎朝それほど時間に余裕が在る訳ではありませんのに、二度寝の習慣をつけないで下さい!」

何とか起こそうと試みるも、
立場上は執拗にベットに潜り込むご主人様に対して暴力的というか強く出れないので難航する。
シーツの引っ張り合いが続くこと数十秒。何とか年上の貫禄で私に軍配が上がった。
枕から何から、ご主人様のしがみ付く物を取り払うことに成功する。

「もうっ。
 遅刻してお困りになるのはご主人様なんですからね?」

「うぅ・・・眠い」

私の背後には放り出された枕やらが重なっている。
この部屋の片付けも私の職務だというのに、全くご主人様ときたら。

468:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:46:49 1P40Bg4z
「寝坊も、余り度が過ぎると奥様にお叱りを受けますよ?
 旦那様はもうお出かけになられましたから、庇ってくださる方もいないんですからね?」

私の言葉に、まだ抵抗の意思を見せるご主人様の背がぶるりと震えた。
ご主人様の母親は、厳しくはないが子供を甘やかしたりもしない。
最近は遅刻ギリギリの多いご主人様なので、そろそろ雷の落ちる可能性がある。
上流の人間である奥様に、丁寧な言葉遣いと裏腹にねちねちと小言を言われるのは堪えるのだ。
これで、ご主人様もいい加減に起きるだろう。

「・・・・・・じゃあ目の覚める起こし方をしてよ、流」

「え────きゃっ!?」

そう思ったのが甘かった。
油断した私に対して、
さっきとは打って変わった俊敏さで身を起こしたご主人様が私の腕を掴んでベッドに引き倒す。
ぼすん、と。
二人分の体重を受け止めたベッドは、それでも品質に見合った柔らかな音しか立てなかった。
目の前。ベッドに横になって僅かに沈み込んだ視界の中、直ぐそこにご主人様の顔がある。

「ご、ごごごごごご主人様っ!?」

「なあに? 流」

反射的に離れようとして、ぎゅっと抱き締められる。
腰に腕が回され、引き寄せられた胸にご主人様が顔を埋めた。

「なな、ななななななななっっ!?!」

「流。まだ寝起きで少し頭が重たいんだから静かにしてよ」

「いいいから手を放して下さいっ!」

「流の胸は気持ちいいなあ」

ご主人様が、私の胸に埋めた頭をぐりぐりと押し付けてくる。
ただ思い切り押し付けるのではなく、力の加減を変えたり、胸の先端を擦るようにしたり。
思わず全力で突き飛ばしてしまいそうになるが。

「流────僕に逆らうの?」

「うっ」

ご主人様の一声で動きを止められてしまう。
何処か強制力を秘めた響きが私の体を打ち、縛り付けた。
ぴたっと動きを止めた私を見るご主人様は気を良くしたように薄く笑い、
折れそうなほど線の細い体を捩ると、服装次第では性別さえ偽れそうな綺麗な顔を私の胸に乗せる。

「さ、流。目の覚める起こし方をしてくれないかな?」

「うぅっ!」

469:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:48:00 1P40Bg4z
ご主人様は目を閉じ、私に向けて唇を突き出した。
何の体勢なのか、何を求めているのかは言うまでもない。
おはようのキス。
目覚めの口付け。
それを、求められている。朝から破廉恥なこと極まりない。
一体どこかで教育を間違えたのかと、私は涙を流す思いだった。
そんなことをすれば、ご主人様はそのしょっぱい雫を嬉々として舐め取るだろうけど。

「どうしたの流? もしかして、流は主人である僕の言うことが聞けないのかな?」

「ううぅっ!!」

抵抗は出来ない。してはいけない。
それは、もしかしたら許されるかもしれないけど、私自身の意志で許してはいけないことだ。
ああもう恥かしい。顔が火を噴きそうだ。
今は目を閉じてるご主人様も、内心では私が赤面するのを想像して楽しんでいるに違いない。
本当、どこで教育を間違えたのか。
出会ったばかりの頃は、少なくともこうではなかったはずなのに。


私こと雨水 流の人生は、客観的視点からはお世辞にも幸福とは言えないだろう。
父は借金を作って逃げた。
母も借金を作って逃げた。
私は親の借金で掴まった。
借金だけ残して私を捨てた両親に対し、
親子の中が悪くなかったのはそこそこ気を遣っていたからではなく、
無関心さによるものだという事実に気付いたのはその時。
ある日、唐突に姿を消した両親は私を借金のカタとして残し、
事態を把握できていない私の下には直ぐに堅気じゃない人間が来た。
あわや身売りか臓器摘出かとなった時、私を助けてくれたのがご主人様である。

その場に現れたご主人様は私の、正確には両親の作った私達一家の借金を全て肩代わりした。
私も流石に白馬の王子様をいつまでも夢見るほどの馬鹿じゃない。
何のために、どんな目的があってそんなことをしたのかと聞いた。
帰って来た答えは簡潔に一言。
メイドが欲しい、と。

ご主人様はその線の細さからも分かる通り、余り体が丈夫ではない。
実際、仕え始めたばかりの頃は少し体調を崩す程度なら日常茶飯事だった。
そんなご主人様ではあるが人一倍負けず嫌いな一面もあり、
病弱な体を押して普通の中学校への入学を希望、
それを心配した旦那様達が常に直ぐ傍でお世話出来るような人物、
即ち公私に渡るメイドを用意しようとしたのは自然の流れなのだろう。
しかしここで誤算が一つ。
ご主人様は自分だけに仕える直属のメイドならば自分で探して雇い入れると主張したのである。
そのための資金は長年使わずに貯めてきた小遣いと、それを元手に人を使って増やさせたお金。
額が幾らだったのかは知らないが、私を雇うために結構使ってしまったのだとか。
当時小学生の人間の小遣いで命を救われたと言うのは、正直言って私の人生の黒歴史である。

さて。兎に角、私はそんな経緯を経てご主人様のメイドとなった。
借金を肩代わりして私を助ける条件は、ご主人様の肩代わりした借金分稼ぐまで仕えること。
その間利子などが付くわけでもなく、
しかも公私に渡るメイドということで私は24時間常に労働扱い、
書類上の建前はともかく実際には普通の三倍くらいの給料を貰っている。
加えて、家賃や食費、光熱費その他諸々は屋敷に居ればタダ。
正直、普通に働いて稼ぎ出せる可処分所得と比べれば十倍かそれ以上。
ご主人様が私を雇わなければ借金の利子を返すだけで一生を終えていたかもしれない。
だからまあ、私はご主人様には大恩がある訳で。

ご主人様の命令に逆らうことは、如何せん出来ないのだ。

470:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:49:04 1P40Bg4z

「あうぅ」

困った。非常に困った。
このご主人様は、何故にいつもいつもこんな要求ばかりをしてくるのだろうか。
朝からおはようのキスだなんて、目覚めの口付けだなんて、男女でちゅーだなんて。
破廉恥だ。実に破廉恥だ。
仮にも年上の女性として、エッチなのはいけないと思う。
なのに。

「・・・・・・」

私はご主人様には逆らえない。逆らってはいけない。
この仕事を、ご主人様に仕えるメイドを首になったら大変なのだ。
借金を作ったのは親だから娘は巻き込まないなどど甘い考えを持つ程、
ヤクザも世の中も甘くはない。
両親の作った借金はご主人様が肩代わりしているだけで無くなった訳ではなく、
借金分働いて返すという契約を私が破れば残りの額の分をヤの字の人が取り立てに来る。
取立て先は、行方の知れない両親ではなく当然ながら私となるだろう。
そうなれば今度こそ身の破滅である。
売春の斡旋か内蔵を取られるか裏ビデオにでも出演させられるか。
碌な生き方、死に方は出来ないに違いない。

だから、私はこの瞬間にもご主人様によって生かされている。

もともと、ご主人様には私の借金を肩代わりする義理も義務もない。
メイドが私でなければならない理由もない。
だから。だから。

私はただ、ご主人様の好意によって生きていられる。

そもそも、ご主人様はよく分からない人だ。
こうやって私をからかったりエッチな要求をする癖に、ひどく優しい一面もある。
私がご主人様に仕えるようになって二年。失敗の数なんて数え切れない程だ。
私が最初からメイドの訓練を受けていた訳でもなし。
皿は落とす配膳で零す窓ガラスは割る家具は壊す、屋敷を汚すこと数限りない。
その癖に貰っている給料は普通の三倍。
なのに、ご主人様は私を責めない。
しょうがないなあと言いたげな瞳で見詰めながらからかうだけだ。

一度など、
私の最大の職務たる病弱なご主人様の学校での世話に失敗したのを庇ってくれたこともある。
少し目を離した隙にご主人様が友人と遊びに学校を出て、その先で倒れたのだ。
あの時のことは、おそらく生涯忘れないだろう。
怒気の熱さを通り越して殺気の冷たさで私を見据える旦那様達。
そして、愚かな失敗を許されない無能を晒してただガタガタと震える私を背に、
倒れてから目覚めたばかりのふらふらな体で私を庇って旦那様達を説得するご主人様。
私が見たご主人様の背中は私には余りにも有り難くて申し訳なくて、
同時に男性らしさのようなとても強い力を感じたのを憶えている。

それに、ご主人様は私の不利益になることもしない。
肩代わりした借金に利子をつけないのもそうだし、
私が壊したり汚したりして弁償しなければならない品々の値段を追加しないのもそうだ。
思い返せば思い返すほど、ご主人様は呆れるほど優しい。
『僕に逆らうの?』何て言いながら、
最初はつい反射的に突き飛ばしたり悲鳴を上げたりした私を一度も咎めてないのもそうである。
借金を盾に脅迫めいた命令をしたことなど、一度だってない。
ああ。
やはり、私はご主人様は優しい人だ。

471:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:51:10 1P40Bg4z
「うーっ」

「ほらほら。流、早く」

それでも朝からご主人様とキ、キスだなんて恥しいことこの上ないけど。
我慢するしか、ないかなぁ。
いい加減焦れたのか、目は瞑ったままでご主人様が催促しているし。

「・・・分かり、ました」

「あはっ」

声を上擦らせて、それでも渋々という様子を取り繕う私に、ご主人様は本当に綺麗な笑顔を向ける。
目を瞑ったままだけど、いやだからこそ本当に美しい。
少しずつ、私とご主人様の距離が近付く。

「────ちゅっ」

唇が合わされた。
触れるだけ。一瞬だけ。
ご主人様の唇の感触を感じた瞬間に、かっと全身が熱くなって何もかも吹き飛んでしまう。
初めてじゃ、ないのに。これだけは慣れない。

「・・・むぅ」

だと言うのに、目を開いたご主人様は不満そうに唸っていた。
私が、何か粗相をしてしまったのだろうか。
だとしたら。

「あの、ご主人様・・・?」

「流ってさ。キスの時、いつもちょっと触れて終わりだよね」

心配は杞憂だったようだ。

「ねえ流、もう一回キスしてよ。
 今度はちゃんと長くね」

「ええっ!?」

が、代わりに無茶苦茶な要求が返ってきた。

「む、むむむ無理ですよご主人様っ!
 私、今だって恥かしいのに・・・・・・そんなの恥かし過ぎます」

「ダメだよ、流。そんなの許さない。
 触れるだけのキスなんて、もう我慢できない。
 だからちゃんとすること」

「う、ですが──」

そんなの無理に決まっているのに。

「これは『命令』だから」

ご主人様の言葉が、私の体を震わせた。

「あ」

472:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:52:39 1P40Bg4z
恐怖ではない。
もっと別の、ご主人様の言葉から感じた何かが私の体を走り抜けて行く。
『命令』。ご主人様がそう口にする時、決まっていることが二つある。
それが、ご主人様に取って拒否を許さない物であること。
それが、ご主人様にとって切実な物であること。

正確には、拒否は出来るけど。
そうした時、ご主人様はひどく悲しそうな顔をするのだ。

「はい・・・」

だから、逆らえない。
私には逆らえないし、逆らってはいけない。
私はメイドで、ご主人様から頂く好意と報酬のおかげで生きていられて。
そんな分際で逆らうなんて不義理なことは自分で許せなくて。

何より、ご主人様の『命令』に逆らうつもりにはなれない。ただ。

「ねえ、ご主人様」

「何だい、流」

これだけは言っておきたい。

「私・・・恥かしいんですからね? こういうことは、本当に。
 キ、キキキスだけでも恥かしいのに、それをもっと長くだなんて」

「うん」

自分よりも低い位置にあるご主人様の顔を見詰める。余計に頬が熱くなった。

「だけど・・・ご主人様は私の借金を肩代わりして、
 それも利子もつけずに私に高いお給金を払って返させて下さって、
 しかも私がお仕事を失敗しても弁償もさせずに許して頂いて、
 ましてや一度なんて旦那様達から庇ってまで・・・」

「うん。そんなこともあったよね」

ああ。
やっぱり、ご主人様も憶えていたんだ。

「だから私、
 ご主人様に逆らえませんし逆らっちゃいけませんし・・・・・・逆らうつもりもないのに、
 ご主人様が『命令』とまで仰るから、だからするんですからね!
 ・・・・・・はしたない女だと思わないで下さい」

「うん。いいよ」

あっさり頷かれる。
こっちは一世一代の告白をしているつもりなのに。でも、いいか。

「じゃ、じゃあ・・・いきます」

一世一代の告白。
内心の呟きの意味を、私は自覚しているのだから。
再び目を閉じられたご主人様の顔へと、私の唇が近付く。
彼我の距離が縮まるにつれて、私は心臓の鼓動が高まるのを感じた。
それは恥かしいからだけではないはずだ。
胸の高鳴りは、きっとご主人様を前にしているからなのだろう。
だから、私は唇が触れ合う前に囁いた。

473:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:54:20 1P40Bg4z

「ご主人様。私、一生懸命お仕えしますからね。
 少しでもご恩を返せるように。
 ですから────どうか、末永く仕えさせて下さいね」


私はご主人様がいないと借金を返すまで生きられませんし。
私はご主人様なしでは借金を返しても生きて行けないみたいですから。

474:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/06/06 21:58:05 1P40Bg4z
投下終了。
深夜帯に書いて今日推敲するも、
どうしても後半が上手く纏められずにそのまま投下。

スレチやお気に召さないと思われた場合は、
ハヤテと言われて最初に月光 ハヤテを思い浮かべたダメな私を罵って下さい。

475:名無しさん@ピンキー
07/06/07 01:56:46 ytAbr69e
変名さん、面白かったです(^-^)
メイドは良いものですw

投下します、題名は思い浮かばないのですいません。。

妹の依存が強くなるのは次回からなので、お楽しみに^^

476:名無しさん@ピンキー
07/06/07 01:58:40 ytAbr69e
玄関を開けた僕を待っていたのは、少し頬を膨らました美里ちゃんといつも通りの無表情な雪乃。
「優人お兄さん遅いですよ!!もう少しで帰るとこだったんですからねっ!」
腰に両手をあてて、今私は怒ってるんですよのポーズ。
「ごめん、取り込んでたから・・・」
「むーー」
美里ちゃんの扱いに困り。
雪乃に助けを求めようとしたら、僕と視線があった瞬間に顔を背けられた。
ちくしょう・・・。
「なんちゃって、冗談ですよ優人お兄さん」
と言い少しだけ、舌を出して笑いだした。
そんな美里ちゃんに僕は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「えっと、とりあえずどうぞ。」
「お邪魔しまーす。」
「お邪魔します。」
家に上がった美里ちゃんは乱雑に靴を脱ぐと、スタコラ中へ入って行くのに対し。
雪乃は、軽く溜め息をつくと美里ちゃんの靴と自分の靴を綺麗に並べていた。
「私が靴並べるのがそんに珍しい?」
「いや、雪乃もちゃんとお姉さんさんやってるんだなぁ・・と」
「もう慣れてきたし、反対にあの子が綺麗に靴並べたら少し寂しくなるかも知れない。」
「そっか・・。」
きっと雪乃も妹が可愛くて仕方ないのだろう。
だからこそ、美里ちゃんがしっかりするようになると少し物足らなくなるのではないだろうか?
まるで、母親みたいだなと僕は思う。
「お姉ちゃん、優人お兄さん何してるの?早くいこーよ。」
階段へと続く壁から頭だけ出した美里ちゃんが、僕らに呼びかける。
僕らは美里ちゃんに追い付くと、3人揃って梨華の部屋に向かって歩きだした。

477:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:01:01 ytAbr69e
可愛いらしいネームプレートの掛かった梨華の部屋の前で歩みを止めると、3回ノックしてから声をかける。
「梨華、入っていいかな?」
「どうぞ」
梨華の声は、先程泣いてたのが嘘みたいにしっかりしていたので、僕は少し安心した。
梨華の部屋にはまず美里ちゃんが入り。
雪乃、最後に僕という形になる。
「梨華ちゃん、やっほー」
「こんばんは、美里ちゃん」
元気が溢れそうな満面の笑みに対して、梨華は少し困り顔。
「こんばんは、梨華ちゃん具合はどう?」「お見舞い来て下さってありがとうございます、雪乃先輩。大分良くなりました」
ベッド上からぺこりとお辞儀。
「あれ、美里ちゃん目真っ赤だよ?」
その一言で心臓の鼓動が少し早まる。
「成る程、美里分かっちゃいました!!」
「な、何が?」
声が裏返りそうになるのを、出来るだけ冷静に問いかける。
「つまり!!優人先輩が関係していますね!?」
「う・・・。」
美里ちゃんは梨華の前だけでは先輩とつける。
以前その事について聞いたら、乙女心がどうとか・・・という返事が返ってきた。
全く持って理解できないが、そういうものなのかと妙に納得したのもまた事実。
「その真っ赤になる梨華ちゃんの反応は・・、間違いない!!」「学校から帰ってきた、優人先輩が。いきなり梨華ちゃんの部屋に入ってきて。」
「梨華ちゃんの可愛さに我慢できなくなり、泣き叫ぶ梨華ちゃんを無理や・・」
「・・・えい。」
マシンガントークをはじめた、美里ちゃんの額に雪乃の手刀がはいる。
「痛いよ、お姉ちゃん!」
「優人はそんな人じゃないわ、少し変態なだけよ」
「フォローになってないよ!!!」
僕らの会話を聞いていた梨華が目を細めて、本当に楽しそうに笑う。
結局僕らは7時までこうして、会話に華を咲かせていた。

478:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:03:04 ytAbr69e
美里ちゃんと雪乃を隣の家まで送った後に、僕は台所で卵粥を作っている。
今日振り返るのは、梨華のあの過剰ともいえる反応。
何が梨華をあれ程駆り立てるのだろうか?
そう考えていると、かなりの時間が立っていたらしくお粥は食べごろになっていた。
レンゲとお水を添えて梨華の部屋へと運ぶ。
「梨華、お粥できたから入るね。」
「うん」
片手でドアを開けて中に入ると梨華は漫画を読んでいたらしく、漫画を枕元に置いた。
「お粥作ったけど食べれる?」
「うん、お腹すいちゃったから。」
「それじゃ、ここに置いていくからちゃんと食べるんだよ?」
立ち上がろうとした僕の裾をまたしても握られる。
「・・・お兄ちゃん。」
梨華の瞳がお粥と僕を交互に行き交う。
それだけで梨華が何を望んでいるのかが分かってしまう。
「・・・分かった、食べさせて上げるよ・」
「うんっ!」
ぱぁと極上の笑みがこぼれる。
その元気があれば絶対一人で食べれるだろと思ったのは少し内緒。
終始幸せなそうな梨華にお粥を食べさせてから、僕が夕食を取ったのはかなり遅い時間になってしまっていた。

479:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:05:37 ytAbr69e
以上です、短くてすいません。。
続きはまた近いうちに、今度は多目で投下します
では、失礼します

480:名無しさん@ピンキー
07/06/07 04:55:11 VGHt2l7B
マシンガントーク+手刀でみずいろを思い出した
それとGJ!!

481:名無しさん@ピンキー
07/06/07 12:37:48 mAPzhB5W
次回の投下量に期待しつつGJ!

しかし、病弱少女でりか(漢字違いましたか)と言うと某ラノベのヒロインが思い浮かぶ私。
儚くて脆い命でそれでも懸命に兄を愛する妹、非常に萌えです。

482:名無しさん@ピンキー
07/06/07 17:53:06 ytAbr69e
自分の中では完全オリジナルのつもりでしたが、色々被るとこあったのですねorz
何かパクりみたいな形になってますね。。
色々すいません(;_;)

483:名無しさん@ピンキー
07/06/07 19:09:28 mAPzhB5W
つSSではよくあること

484:名無しさん@ピンキー
07/06/07 21:22:07 ytAbr69e
ナ、ナンダッテー!!
しかし続けて良いのかなぁ。。

485:名無しさん@ピンキー
07/06/07 21:39:06 kBNPBGgx
未完で放置してあるSSを見ると悲しくなる。

何が言いたいかというと
「焦らしちゃらめえええええ」
ということだ。

486:名無しさん@ピンキー
07/06/07 21:44:12 mAPzhB5W
まあ、そうならないためにももっとGJが必要かと。

それとも、此処はそんなに住人が少ないんでしょうか・・・。

487:名無しさん@ピンキー
07/06/07 22:08:19 ytAbr69e
一人でも楽しみにしてくれている方が居ましたら、絶対完結させます(σ・∀・)σ

人は居るけど、どういった内容を議論すれば良いのか迷っているのじゃ・・・

488:名無しさん@ピンキー
07/06/07 23:52:53 mAPzhB5W
かもしれませんね。
スレは住人数で比べるものでもありませんし。すいませんでした。

依存の議論はもっとしてもいいと思うのですが・・・。
私的には、やはり精神的依存が一番くるんですけど。
そんな訳で、今病弱、と言いますか病室妹もの執筆中。
もしかしたらキモウトスレ行きかも知れませんが。
というか同じ作品でもスレチでなければ複数スレに投下してもおkなのか・・・。

あ、ちなみに氏の作品は楽しみにさせて頂いております。
でも、こういうのは馴れ合いと言って叩かれるんですかね?

次回の投下もお待ちしております。

489:名無しさん@ピンキー
07/06/08 00:20:07 2eXC0j7E
叩かれないと思いますよ^^
面白い作品があって、それを楽しんでくれる人が少しでも居るなら素敵な事かと(=^▽^=)

作品を楽しみって言われると、励みになります(*^-^)b

490:名無しさん@ピンキー ◆x/Dvsm4nBI
07/06/08 23:48:42 Ev6bfvOu
一度書いて気に入らずに書き直ししてました。
狂犬続き投下します。

491:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/08 23:50:01 Ev6bfvOu
 土曜日の放課後…土曜日は昼前には授業が終わるため、クラス中で楽しそうな声が
響いている。携帯を見るとメールで一志が今日は遊びに行こうと入っていた。

「佐久耶、すまない。今日は一志と出かけてくる。最近あいつとも中々会ってなかった
 からな…。今日はあまり無理せず休めよ。」
「はい。八代君、楽しんできてくださいね。」
 挨拶をして、遠くに離れると昨日俺に地図をくれた相沢が佐久耶と話していた。俺の
噂話をしているらしいが…声が大きすぎるせいで俺にまで聞こえてくる。

「神城さん、風邪治ったんだ。」
「はい…八代君が看病してくださいましたから…」
「そっかー。それで今日は幸せそうなんだ。幸せオーラが見えるよ。なんか楽しそう。」
「昨日は有難うございました。」
「いやいやーいいよいいよ。でも気をつけなよ。昨日すっごい美人が犬塚君に会いに来てたしさ。」
「はい…その人のことはよく知ってますから…。でも、彼女には負けません。」
「よくいったー!私は恋する乙女の味方だよ。お代はその綺麗な髪を維持する方法だ!」
 相沢は佐久耶の肩をぽんぽん叩いていた。佐久耶も楽しそうにしている。そこに
他にも数人の女子が集まって楽しそうに話していた。明るく笑う彼女は掛け値なしに美しく
一際目だって見える。教室を出るとき佐久耶は笑顔で小さく手を振ってくれた。

「今日は二人仲良く重役出勤だったそうだな。ハチ。」
「誰から聞いたんだ。」
「噂だ。お前らは目立つからな。学年主席と学年一の美人!…だもんな。」
 一志はおどけて言った。なるほど…と思う。

「ま、深い意味はない。たまたま一緒に遅刻しただけだ。」
「今日は妙にハチは元気そうだったからな。何かあったんだろ。」
「まあ少しな。で、今日はどこ行く?」
「ああ、街に遊びに行こう。久々に。」
「わかった。喧嘩は無しだぞ。」
 俺たちは肩を並べて歩き出した。久々に一志と二人で…と、思ったが駅で菖蒲に会い
結局三人で街へと向かうことになった。昨日、変な別れ方をしたから少し不安だったが
菖蒲は普段どおりに明るくて安心した。


492:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/08 23:50:58 Ev6bfvOu
 暫く後、俺は菖蒲と二人で街を歩いていた。途中で一志が前に付き合っていて
急に訳も言わずに別れた女に遭遇したからだ。菖蒲はあっさりとその女に一志を
売り渡し、二人になることを選んでしまった。

「一志君大丈夫かな。」
「…死にはしないだろ。さて、何をするか。」
 正直に俺は困っていた。女と二人で出歩くということが今まで殆どなかったため、
何をすればいいのかもわからない。俺が困っていると…

「おなか空いたね。まずはお昼食べよっか。美味しい店調べてあるんだ。」
 菖蒲は見透かしたように俺を見て笑うと俺の手を取った。暫く歩くと本通りから
一本はずれた脇道にある洒落たパスタの店があり、そこで足を止める。

「ここ!クラスで評判になってるんだよ。本格的なパスタで美味しいんだって。」
「そうか。外食はあまりしないから…たまにはいいか。」
「作るにも美味しいもの知っていたほうが作りやすいでしょう。」
 少し暗めの店内は木材を中心とした椅子やテーブルが置かれており、各テーブルに
ランプを置いて手元を照らしている。少し待ち、頼んだパスタが運ばれてくる。
 菖蒲はくるっとフォークにパスタを巻きつけながら、少しまじめな顔で聞いてきた。

「八代、昨日はどうだったの?」
「風邪だったな。おかゆや味噌汁、軽く食べれるものを作っただけだ。」
「ほんとに?」
「ああ。」
「その割には八代はすっきりしてたし、佐久耶も妙に明るかったけど…。」
「たまにはそういうこともある。」
 菖蒲はまだ何か言い足りなそうだったが、追求をやめて自分のパスタを食べ始めた。
俺は食事を続けながら暫く考え、

「一つ言えるとすれば…あいつも成長してるってことだな。」
と、それだけ言った。


493:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/08 23:53:41 Ev6bfvOu
 食事を終え、店を出たがまだ夕方ともいえない時間だった。次に何するか考えてると
ハンカチを菖蒲が取り出し、俺の口元を拭いた。

「口元汚れてたよ。気をつけないとね。」
「すまない。」
「さっきからずっとしかめっ面だよね。ひょっとして私と二人じゃ楽しくない?」
 そう聞いてきた菖蒲の顔は泣きそうな…昔の佐久耶を思わせる不安そうな顔で
怯えたように俺を見つめている。

「そんなことはないんだが……。何をしたものかと思ってな。」
「ふーん。じゃあさ。今日一日だけ私を彼女と思って八代が楽しいと思うとこつれてってよ。
 文句は言わないからさ。」
「それじゃ菖蒲が楽しくないんじゃないか?」
「私は八代と一緒ならいいんだよ。」
「わかった。」
 俺は頷くと一志と遊んでいるときを思い出し、それに近い感じで遊ぶことにして連れまわし
はじめた。ビリヤード、ボーリングなど一通り遊んだ後、ゲームセンターに入る。

「あ、あの熊もどき可愛い!とってとって!!」
「ちょっと待ってろ。」
「もうちょいもうちょい……凄い!取れた!!」
 熊もどきのぬいぐるみを菖蒲に渡し、ゲームセンターから出ると太陽が西に沈みかける
時間になっていた。菖蒲が近くの公園に移動することを提案したのでそれに従う。
 そこの自販機でコーヒーを二本買い、一本を菖蒲に向かって投げた。

「今日は遊んだな。そろそろ帰るか。」
「楽しかったよ。今日は…でも、今日はまだ終わってないよね。」
「何かあるのか?」
 夕日の陰になって菖蒲の表情は見えない。コーヒーを持ちながら手を後ろで組んで
こちらを見つめている。なんとなく、その姿は俺に屋上や先日の放課後を思い出させていた。


494:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/08 23:54:35 Ev6bfvOu
「何かあったのは八代の方じゃない?」
「俺は何も変ってないと思うが…。」
「佐久耶…今までにないくらい今日は楽しそうだった。」
「あれは、俺以外に友人ができたからだ。」
「今日二人で遅れてきてたよね。」
「俺が寝過ごしてあいつが待ってただけだ。」
 菖蒲の真意が掴めず、俺は自分がそう思っている事実だけを話す。

「そんなわけないでしょ!少し前の佐久耶ならそんなこと…するわけなかった。昨日までの
 八代なら佐久耶を相手にせず、そのまま学校に行った…。」
「人は変わるもんだ。俺は変らないがあいつが変ったんだ。いい方向に。」
「あの子は…佐久耶はずるいね。」
 菖蒲は……泣いていた。辺りは日が完全に落ちて、公園を暗く染めている。

「ずるいよ…。好きじゃないならなんで、離れないの…甘えるの…少し変っただけで
 八代を幸せな顔をして……ずっと八代に想われて…。」
「菖蒲…。」
「私なんて…頑張っても頑張っても…初めのそっけない態度のままなのに…。手詰まりで
 卑怯な手であの子を離そうとしても…あの子は空気読めないから全然気にしてくれない…。」
「そうか…すまないな。」
「八代は私と同じ…こんな辛いこと、何故耐えれるの?平然として佐久耶と付き合えるの?
 私は自分も辛いし、八代も同じ気持ちを味わってると思うと…。」
 菖蒲はコーヒーを落とし、俺の胸倉を両手で掴んで何かに耐えるように泣き続けている。
 だけど、それをいうならもう一つ俺と菖蒲に共通してることがあるのだ…

「俺は不器用だからな…菖蒲と同じで…。」
 その言葉に菖蒲は驚いたように顔を上げ、静かに呟いた。

「ねえ…今日はまだ終わってないから彼女扱いってことで…一つお願いしていいかな。」
「願い事による。」
「うん…今から八代の家に一緒に行っていい?」
 俺は言葉の意味を正確に理解した。そしてその答えも決まっている。

「駄目だ。」
「だよね…っ…ごめん、今日は帰るね!」
 菖蒲は後ろを向いて走ろうとして驚いていた。俺も影から出てきた人物に驚く。
そこに立っていたのは美しい長い黒髪の繊細な容貌の女性…。

「佐久耶…。」


495:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/08 23:55:53 Ev6bfvOu
今日はここまでです。

496:名無しさん@ピンキー
07/06/09 00:00:28 +0rQ1WTJ
GJ……なんつう張り詰めた綱渡り感。死者が出ないことを祈る。

497:名無しさん@ピンキー
07/06/09 01:45:09 dOV+h2Se
是非ともハッピーエンドになってほしい。
あやめたん萌え。

498:名無しさん@ピンキー
07/06/09 08:57:58 ss+yYOGi
相変わらずいい作品を書くなぁ…今回もGJです。
毎度これを読むのを楽しみにしてる俺ガイル。
でも、バッドエンドだけは読みたくないねぇ…(´・ω・)

499:名無しさん@ピンキー
07/06/09 13:59:34 7yE6sQBU
ヤンデレとは愛故に生まれ、そして愛を目指すものだ

500:名無しさん@ピンキー
07/06/09 14:00:54 7yE6sQBU
失礼。誤爆した。

正直、八代が幸せになってくれればそれが一番良い。

501:名無しさん@ピンキー ◆kraAt17jLU
07/06/09 23:41:20 rBnMk2L3
投下します。今日は短め。

502:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/09 23:42:13 rBnMk2L3
 彼女は夜の街灯の弱い光を受けてこちらを見つめている。影になっているために
表情はわからない。満月の下に立つ彼女はまるで人以外の何かのように不思議な
雰囲気を漂わせている。
先に沈黙を破ったのは菖蒲だった。

「佐久耶…あんたなんでここに…。」
 だが、佐久耶は菖蒲を無視して俺に頭を下げた。

「ごめんなさい。少し心配になって後をつけさせていただきました。」
「佐久耶…俺は…」
「大丈夫です。全部聞いていたのですから。」
 彼女はくすくすと笑っている。自然に、綺麗に、まるで童女のように。

「菖蒲さん、私が後をつけたのは…犬飼君と二人で遊びに行くと聞いていたのに
 偶然駅で三人が一緒にいるところを見てしまったからですよ。」
「私は一志とも友達なの。何もおかしいところなんてないでしょ。」
「はい。偶然八代君たちと会って、偶然犬飼君が昔の彼女の方と出会って、偶然
 二人で遊ぶことになったんですよね。」
「……何が言いたいの?」
「菖蒲さんが一番良くわかっているのではないですか?」
 静かに笑う佐久耶とは対照的に菖蒲は憎憎しげに佐久耶を睨んでいる。

「あんたおかしいわよ。ストーカーじゃない…。」
「おかしいのは菖蒲さんではないですか?」
「どういうことよ。」
「人の恋人を寝取ろうとして…これのどこがおかしくないと?」
 俺は二人のやり取りを止める事も出来ずに見つめている。街灯と月がまるで二人を
スポットライトで照らすかのように浮かび上がらせる。

「佐久耶はもう恋人じゃないでしょ。関係ないじゃない。」
「ふふ…」
 佐久耶は薄く笑って月を一度見上げてから菖蒲に向き直った。

「両思いですから…何の問題もないではありませんか。」
「え……」
 俺と菖蒲は驚いて佐久耶の方を見る。両思い…?俺だけの片思いのはずじゃ…。


503:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/09 23:43:38 rBnMk2L3
「私は先日犬飼君に交際を申し込まれました。でも、迷いなくお断りすることができました。
 仕方ないですよね。今、私は八代君が好きなんですから。」
「う、嘘よ!あんたが八代を好きなわけが!」
「私が誰を好きかなんてわかるのは私だけじゃないですか?」
 そういうと、一志に交際を申し込まれたという新しい事実に驚く俺の手を
佐久耶は両手で掴んだ。そこで、ようやく佐久耶が菖蒲に対して虚勢を張っている
ことがわかった。日中なら恐らく顔にも出ていて見抜かれていただろうと思う。
 虚勢とわかった理由……彼女の両手は震えていた。

「菖蒲さん…私は臆病です。それに男性恐怖症…なんです。初めは八代君の怒ったときの
目が、やっと死んでくれたお父さんみたいな理性のない目で怖かった。だけど、八代君は
そうじゃないってわかったから…。頼ってるっていわれても、寄生してるっていわれても
負担掛けてるっていわれても…暖かい彼を絶対に他の誰にも渡さない!!!」
そこまで一気に言い終えた佐久耶は俺の首に恐怖症で震える手を回し、勢いよく
顔を近づけた。慣れも何もないそのキスは歯が当たって正直痛かった。だが、気持ちと覚悟は
それ以上に強く伝わってきた。唇が離れた後、腰が抜けたように崩れ落ちた。

「ふふ…八代君。私、ちゃんとファーストキスできましたよ。怖いけど嬉しくて…
 不思議な感じですね。……ごめんなさい、また八代君に甘えちゃいました。」
「佐久耶は…しっかりしてそうな美人なのに甘えたがりだな。」
 俺は苦笑して佐久耶の頭を撫でた。そして、菖蒲に向き直りはっきりと言った。

「見てのとおりだ。どうしようもないやつだが俺は佐久耶が好きだ。こいつは俺たち並に
 不器用で、人に迷惑をかけまくるだろうが…それでも俺は佐久耶を守る。
 苦労もするだろうが俺が幸せかどうかは俺が決める。」
「八代………。」
 呆れただろうか…。当然だと思う。ましになったとはいえ佐久耶がかなりの重荷に
なるのは間違いがない。その苦労を軽減させてくれた恩人をはっきりと振ったのだ。
 菖蒲はこちらを無表情で見つめていた。

「もう帰ろう…。二人とも駅までは送る。」
「八代君……ごめんね。それから…有難う。私も大好きだよ。」
 力が抜けたまま立てない佐久耶を背中に背負い、菖蒲を伴って駅へと歩き始めた。
俺たちは三人で無言で駅に向かって歩いている。駅の前には国道も走っており、
今のような夜遅くでもそこそこの交通量がある。その信号の前で俺たちは立ち止まった。


504:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/09 23:45:10 rBnMk2L3
 何も考えたくなかった。でも思考だけはぐるぐると回る。
 初めて助けられたときに好意を持った。
 佐久耶のために努力する姿を見て本気で好きになった。
 

──────初恋は叶わないもの──────


 私はそんなもの信じてなかった。
 佐久耶は八代ではなく一志のことが好きだったから積極的に応援した。
 八代は告白して失敗し、佐久耶から離れた。

 八代のいいところを知っているのは私だけ。
 私も告白して振られたけどいつかはお互い理解しあえると確信した。
 
 だけど、佐久耶はずるかった。
 八代を好きでもないのに拘束し、依存し、頼りきって疲れさせ、しかも八代の好意を
逆手にとって好きでもないのに恋人関係になった。

 何故…八代は私を見てくれないのか。
 何故…佐久耶は好きでもない人を本気で好きで幸せにしたい私に譲ってくれないのか。
何故…八代は全て理解しながら受けたのか。
何故…私は友達以上になれないのか。

 何故……私は努力しても報われず、八代は両思いになって私の目の前で本気で愛しあっているのか。

「明日…私の家でってことでしたけど…八代君の家にお邪魔してもいいですよね。」
 私は見てしまった。八代におぶられて…だけど怯えず幸せそうにしている佐久耶の顔を。
 そして………私に見せたことのない優しい、労わるような笑顔で頷く八代の顔を。

 私は──佐久耶も八代も─────ユルセナイ!!

 そして……私は……
背中を押した。


505:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/09 23:47:09 rBnMk2L3
段落が;
投下終了です。

506:名無しさん@ピンキー
07/06/10 00:27:41 cWndqnvs
GJ一番槍!
八代!佐久耶!逃げて!逃げて-!

507:名無しさん@ピンキー
07/06/10 02:59:15 CWX2COe2
GJ!!
まさかのヒールターンktkrww

508:名無しさん@ピンキー
07/06/10 06:28:12 MCkNhXqO
まさかみたいな予感はあったが、菖蒲……

静かに正座して待ってます。

509:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/10 19:19:46 GYNN4UqB
文字ずれした前回のラストから。
投稿行きます。

510:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/10 19:20:36 GYNN4UqB
 何も考えたくなかった。でも思考だけはぐるぐると回る。
 初めて助けられたときに好意を持った。
 佐久耶のために努力する姿を見て本気で好きになった。
 

──────初恋は叶わないもの──────


 私はそんなもの信じてなかった。
 佐久耶は八代ではなく一志のことが好きだったから積極的に応援した。
 八代は告白して失敗し、佐久耶から離れた。

 八代のいいところを知っているのは私だけ。
 私も告白して振られたけどいつかはお互い理解しあえると確信した。
 
 だけど、佐久耶はずるかった。
 八代を好きでもないのに拘束し、依存し、頼りきって疲れさせ、しかも八代の好意を
逆手にとって好きでもないのに恋人関係になった。

 何故…八代は私を見てくれないのか。
 何故…佐久耶は好きでもない人を本気で好きで幸せにしたい私に譲ってくれないのか
 何故…八代は全て理解しながら受けたのか。
 何故…私は友達以上になれないのか。

 何故……私は努力しても報われず、八代は両思いになって私の目の前で本気で愛しあっているのか。

「明日…私の家でってことでしたけど…八代君の家にお邪魔してもいいですよね。」
 私は見てしまった。八代におぶられて…だけど怯えず幸せそうにしている佐久耶の顔を。
 そして………私に見せたことのない優しい、労わるような笑顔で頷く八代の顔を。

 私は──佐久耶も八代も─────ユルセナイ!!

 そして……私は……
 背中を押した。


511:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/10 19:23:14 GYNN4UqB

 俺は生まれて初めて浮かれていた。
 周りが見えていなかった。これから幸せになれると単純に喜んでいた。

「明日…私の家でってことでしたけど…八代君の家にお邪魔してもいいですよね。」
 佐久耶はうちには来たことがないし、一度案内してもいいだろう。料理は自分が
すればいい。俺は頷いた。

 そして…後ろから押される感触がした。

 キィィイイイイイイイイイイイイイィ!!

 世界がゆっくりと動く。時間がコマ送りのようでありながら体は思うように動かない。
 乗用車が自分に向かって…。

 かわせない!

 半瞬で判断した俺は背中の佐久耶を後ろ向きのまま突き飛ばし…そして…覚悟を決めた。

 どん!

 自分の体が跳ね飛ばされる音がまるで他人事のように聞こえる。浮遊感を感じ、続いて
叩きつけられるような衝撃を受けた。意識を刈り取られそうになる痛みを感じながら
おもちゃのように地面を転がり続け、暫くしてようやく止まる。

「八代君!!!!!!!」
 佐久耶が泣きながらアスファルトに寝転がる俺に寄ってくる。菖蒲は…魂が抜けたように
立っているだけだ。気を失いそうな激痛に耐えて意識を繋ぎとめながら、

「……これくらい…で…死んで…たまるか…。」
「救急車!救急車がすぐに来るから!!」
「佐久耶…これは事件じゃなく…事故だ…いいな…?」
 そこまで言い終えた俺は耐える努力を放棄して、意識を失った。


512:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/10 19:25:19 GYNN4UqB
 目を覚ますと白い天井がまず視界に入った。痛む頭からゆっくりと記憶を引き出していく。
 確か、菖蒲に押されて佐久耶を後ろに投げて…そう、車に撥ねられた。ということは、
ここは病院か。生きてるとは俺も悪運は強いらしい。ふと横を見ると長い黒髪がベッドの
上に流れていた。

「寝てるのを起こすこともないか。」
 不思議と体は痛くない。あまりよく動かないが…。部屋にたまに響く鳥の鳴き声を聞きながら
音のない病室で静かに時を過ごす。

「ん……っ…」
 長い黒髪の持ち主が目覚めたらしい。

「おはよう。菖蒲。」
「え…!八代!…嘘…起きたの…!」
 慌ててナースコールを押す菖蒲。よくみると、昨日と比べてかなりやつれているような…。
 暫くすると看護士の女性が俺を確認し慌てて医者を呼びに走っていき、そして、
ぽっちゃりした男の医者がゆっくりと歩いてきた。

「あー。君、自分の名前はわかるかい?」
「犬塚八代です。」
「今日は何年何月何日かわかるかい?」
 質問の意図がわからず、少し困惑したが俺は答えた。

「200×年9月27日くらいだと思うんですが…。」
 その俺の言葉に、医者や菖蒲の顔が苦々しくなるのがわかった。だが、医者は何も答えず
後で検査をするからと部屋を出て行った。
 菖蒲と二人きりの時間に戻る。

「そういや菖蒲…お前私服だけど今何時だ?」
「十二時。」
「学校は?」
「…やめちゃった。」
「そうか…。すまんな俺のせいで。」
 自業自得だよ…と苦笑いしながら呟き、ただ静かに座っている。菖蒲は活力に満ちた
明るいそんな女だったのに、今は見る影もなく燃え尽きた灰のような乾いた印象を俺は受けていた。


513:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/10 19:26:25 GYNN4UqB
「八代は怒らないんだね。事故にしろって聞いて驚いたよ。」
「生きてるからな。友達でも喧嘩くらいはするさ。」
「馬鹿だね。」
「殺そうとした俺の看病してる菖蒲ほどじゃない。」
「責めてくれると思ったのに……。」
 菖蒲は俺の寝てる枕元に頭を押し付けて泣き出した。何もできなくてもせめて慰めたいと
思った俺はなんとか手を動かし彼女の頭を撫でた。そして、気づいた。
自分の手を見て俺は震えた。

「菖蒲…悪いが鏡を貰ってきてくれないか。」
 諦めたように菖蒲はため息をつき、鏡を持ってきてくれた。その鏡に映った自分の姿
は…まるで見たことのない男のようだった。髪は伸び、痩せ細った男…。

「どういうことだ…これは!」
「八代はずっと寝てたの。今は10月25日。一年後の。右手、両足骨折、肋骨も
 何本か折ったみたいだけどそれは完治したよ。本当に酷かった…。」
 否定して怒鳴り返そうとしたが、自分の体から事実だと信じざるを得なかった。
 気持ちを落ち着けるために一度大きく深呼吸して口を開く。息をするだけの行為に
疲労を覚えた。どれ程弱っているのだろうか。とにかく五分ほど気持ちを落ち着けた。
 考えると頭も痛むが我慢する。

「……そうか。」
「責めないの?……八代は私のせいで一年何もできなかったのに。大怪我させたのに。」
「あれは事故だからな。それに……苦しんだろ。俺が起きなかったせいで。」
「……でも。」
「いいんだ。菖蒲への借りを全部まとめて返したと思っておくさ。」
 俺は菖蒲に笑いかけて頭を撫でた。自然に笑えたと思う。

「一志や佐久耶はどうしている?」
「佐久耶は……元気にやってるみたい。学校には私が行ってないから情報があまり
 入ってないんだけど…」
「元気か…。良かった。」
「負けずに頑張って明るくなって友達もたくさんできて……好きな人もいるんだって。」
「そうか…一年だからな…実感は全くないんだが…。」
 胸を痛めたが、時の止まっていた自分には何もいえないだろう。例え自分の感覚では
お互いの気持ちを確かめたのが昨日のことであっても。佐久耶の時間は流れていたのだから。

「八代は……泣かないんだね。なんでそんなに達観してるの?」
「涙は…二年前…いやもう三年か。尊敬した親父が死んだときに一緒に墓に埋めた。
 そして、強く生きるって。細かいことは一志の親父に頼りっぱなしだが…」
「辛くないの?……私を恨まないの?」
「何があっても俺は友達は許すって決めたんだ。」
 菖蒲は、ごめんすぐに戻るからといって走って去っていった。そして一時間が過ぎた。


514:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/10 19:27:31 GYNN4UqB
 彼女が戻ってきたとき、後ろに制服姿の客を二人連れてきていた。一志は明るく笑い、
佐久耶は一年経ち、以前より明るい雰囲気を感じさせる表情に涙を浮かべていた。

「一志……佐久耶……。」
「よう、ハチ。よく寝てたな。」
「三年分は寝たぜ。」
「……八代君!!!」
 暫く一志と冗談を言い合っていたが、そんな俺に我慢できないといったように
佐久耶が俺の頭を抱きしめて泣き出した。む、胸が…。

「待て待て、お前他に好きな奴ができたんじゃ…」
「何いうんですか!私そんな軽い女じゃありませんっ!今も…ちゃんと好きなんですから!
 私は八代君がいないと駄目なんだから…。」
「そ、そうか…」
「八代君が帰ってくるまで頑張ろうって決めて生活してたんですから。暫く甘えさせてくださいね。」
 俺は佐久耶に抱きつかれながら菖蒲に非難の視線だけなんとか向けた。菖蒲はあさっての
方向を向いて口笛を吹く真似をして楽しそうに笑っている。

「嘘はついてないよー。焦った?ねえ焦った?」
「菖蒲…」
「初めて八代を焦らせた気がするね。ふふ…。仕返しはしたし、八代。私はもう
 大丈夫だよ…心配しないで。しっかりしないと一志もうるさいしね。」
 菖蒲は一年前のように元気な口調で話していた。いじわるな顔でにこやかにしている。
一志がばつの悪い表情でこちらを向いている。

「お前ら…まさか…。」
「ハチ…すまん。俺も自分の方を全く向かない難儀な女に惚れちまった。」
「八代君。今度は私が犬飼君の相談に乗っていたんですよ。」
 佐久耶が少し体を離して涙目ながらも上品に微笑む。


515:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/10 19:28:33 GYNN4UqB
「まだ、付き合っちゃいない。半年以上掛けて条件付で納得させるまでは頑張ったんだが…。」
「条件?」
「ハチが目覚めてから、それまで誰とも付き合わず、ハチが自分を許してくれたら考えるってさ。」
 肩をすくめて力なく話す一志に俺は同情の視線を向けた。この女嫌いに一年の間
何があったんだろうか…後で佐久耶にじっくり聞こう。

「佐久耶は菖蒲を許せたか?」
「初めは…やっぱり酷いことも言っちゃいました。だけど、八代君が恨んでないって
 わかってましたし…その………菖蒲さんも友達ですから。仲直りまで時間かかりましたけど…」
「そうか…なら問題ないよな。一志浮気するなよ…死にたくなければ。」
「ハチ…お前それ洒落になってねえよ。」
 俺は一志に向かって頷いた。一志は余り人に見せない本気で嬉しそうな表情でガッツポーズを
決めていた。病院じゃなければ飛び跳ねまくって喜んでいたかもしれない。
 それに対して菖蒲は…。

「考える…とはいったけど、付き合うとはいってないわよ。」
と、はしゃぐ一志に釘を刺していた。
 俺は佐久耶に向き直り、

「佐久耶…待っててくれて有難う。これからもよろしく頼む。」
「はい…。こちらこそ。」
 泣きながら本当に嬉しそうな明るい笑顔をする佐久耶見て、俺も笑った。
 視界がぼやけていた気もするがきっと気のせいだろう。


516:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/10 19:32:24 GYNN4UqB
空白期間は…

とりあえず、投稿終了。

517:名無しさん@ピンキー
07/06/10 20:13:40 8zogyiWa
GJだが、全て丸く収まりそうで物足りないのは俺だけだろうな・・

518:名無しさん@ピンキー
07/06/10 20:33:40 MCkNhXqO
俺も無理矢理的な大団円っぽい流れや、1年の空白に対して八代があっさり認めちゃうあたりの下りが、少し物足りなく感じた。
だがそれが逆に、また一波乱起きる前の静けさにも思えるぜ…

まあ何が言いたいかと言うと、佐久耶かわいいよ佐久耶wwwwww

519:名無しさん@ピンキー
07/06/10 21:37:23 f3z1RvGW
うぅむ……なんとなく物足りなく思ってしまうのは
贅沢というものだろうか……。


520:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/10 22:31:24 GYNN4UqB
二種類書き上げて悩んで悩んで書き手の精神的事情によりこちらを投下しました。
もう一種類は事故後を分岐に先に話が終わってから投下しようと思ってます。

こちらが一応「表」です。
個人的にはこの手のものにルートを作るのは駄目と思うんですが、ご勘弁ください。
理由は投下したときわかっていただけると思います;

521:名無しさん@ピンキー
07/06/10 23:29:50 HABz1oX5
時の流れがすべてを解決しましたとさ

522:名無しさん@ピンキー
07/06/11 13:07:01 8nOY01hY
GJ! GJ! GJ!

全員がそれなりに幸せならそれが一番。

523:名無しさん@ピンキー
07/06/11 14:23:22 X/vehP+S
俺はこの終わり方で文句ないけどね。
むしろ、ドロドロにしてほしくない。
読むのが怖くなるから…ガクブル
何はともあれGJでした。

524:名無しさん@ピンキー
07/06/11 17:43:32 HYaDw64k
少し時間かかりましたが、投下します。いつもより少しだけ長めです。

525:雨の記憶と妹
07/06/11 17:47:14 HYaDw64k
夕食と風呂をこなしてから、居間のソファーに座ってテレビを見ていると梨華が入ってきた。
先程まで着ていたパジャマではなく、赤色のパジャマ。
「お兄ちゃん、少し話あるんだけど良いかな?」
僕は何も言わずにテレビを消すと、梨華は僕の隣に座ってくる。
梨華の髪から仄かにシャンプーの薫りが漂ってきた。
「梨華、風呂入って大丈夫?」
「うん、熱もなかったし。明日学校行きたいから・・。」
「そっか。」
一度会話が止まり、時計の針の音だけがその存在を強調するかのように規則正しく響く。
「お兄ちゃん今日はごめんなさい。」
「梨華が謝る事じゃないよ、それに気持ち汲んであげれなかった。僕こそごめんね。」
「ううん、お兄ちゃんは全然悪くないよ。」
出来るだけ優しく笑いかけると、梨華の頭に手をのばして撫でる。
今日、撫でるの何回目だろう?
そんなどうでも良い事考えてると、梨華の頭が不規則に揺れ出す。
「すー、すー。」
「梨華?」
きっと泣いたのが原因で疲れたのだろう。
すっかり熟睡しているみたいで。
軽く体を揺すっても起きる気配がない。
「まいったなぁ・・・」
ここに放置でもしたら、またぶりかえさないとも限らない。
僕は梨華を背中に抱えると、梨華の部屋へと運んだ。
「お休み、梨華。」


526:雨の記憶と妹
07/06/11 17:54:32 HYaDw64k
窓から差し込む陽の眩しさで目をさます。
まだ鳴っていない目覚まし時計を確認すると時刻は7時12分、ついでに解除もしておくことも忘れない。
まだ眠たい目をこすりながら、洗面所に向かおうとしたら誰かが台所から出てくる。
「お兄ちゃんおはようございます」
長くて綺麗な髪を一つに纏めて、後ろに流した梨華がそこに居た。
「おはよう、その調子だと元気みたいだね。」
「うん、色々ご迷惑かけました。」
ペコリとお辞儀。
「家族だから礼はいらいよ。」
少し苦笑してから梨華を見る。
「学校行く準備してくるね」
僕は梨華にそう言うと洗面所へと足を向けた。


「おおお・・・。」
制服を着替えて朝食を食べようとしたら、その光景に思考が一瞬停止。
何も考えないまま梨華を見ると、目があった瞬間微笑まれた。
「さぁ、召し上がれっ。」
テーブルの上には朝食とは思えない豪華なおかずが、所狭しと並べられている。
「梨華・・・いや、梨華さんこれは一体・・・?」
「昨日、お兄ちゃんの夕食準備できなかったから・・・」
「いや、でもこれは。」
特別な状況をのぞいて、家事は梨華が握っている。
僕も家事は一応出来るのだが、手伝おうとしたら。
「「お兄ちゃんは今まで私の為に時間割いてくれたんだから、これからは自分の為に使ってね」」
と言い、手伝うことを許してくれない。
机を挟んで目の前にいる梨華は既に涙目で口をぎゅっと引き締めている。
「梨華、胃薬の用意を・・・。」
梨華が作ってくれた物を残す訳にはいかない。
ぼくは意を決すると箸を手に取った。


朝の通学路。
昨日の雨が嘘みたいに晴れ上がっていて、空気も澄んでいる。
アスファルトに点在している、昨日の名残が青空を映し出し普段とは違う模様をみせていた。
「うっ・・・。」
もし、この嘔吐感さえなければ気分爽快で歩いていただろう。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
心配そうに、様子をうかがってくる梨華に出来るだけ微笑む。
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう。」
学校まではまだ道のりがあるのでそれまでには回復してるはず。
「ねぇ、お兄ちゃん。」
「うん?」
「放課後何か用事あるかな?」
顔を赤らませて胸の前で指を組んだり放したりするのは、梨華のお願いのポーズ。
普段は内気な梨華は滅多にする事はなく、凄く珍しいと思う。
「少し付き合って欲しい所あるのだけど・・・。」

527:雨の記憶と妹
07/06/11 17:56:45 HYaDw64k
「分かった、放課後校門でね。」
「うん!!」
凄く嬉しそうに笑っている梨華が強く印象に残っていた。



校門でお兄ちゃんと別れた私は1年生用の靴箱の前に立っていた。
今日の放課後の事を考えると、顔が自然とにやけてきて自分では抑制することが出来ない。
普段の私なら靴箱に入っている手紙を見ると気分を害すのだが。
そんな物はどうだって良いぐらいに幸せ。
私は靴を履き替えると、靴箱に入っていた手紙を一番近いゴミ箱に無造作に投げ込んだ。

「おっはよー梨華ちゃん」
教室に入った私に声を掛けてくれたのは、仲が良い友達の美奈子ちゃん。
「おはようございます、美奈子ちゃん。」
「あれ、梨華ちゃん何か良い事あったの?」
「分かりますか?」
「そりゃねぇ、そんなに笑顔だったらすぐに分かるよ。」
「実はですね・・・」


教室に入った僕を待っていたのは、友人の柊 桃太。
本当はとうたと呼ぶらしいが、皆からはももと呼ばれている。
性格はムードメイカー的存在で、義理も厚くクラスの人気者。
「優人、待っていたぜ!!我が友よ!!」
そう、言うなり僕に抱きついてくる。
その瞬間クラスから主に女子から歓声があがる。
神に誓っても良いが僕はノーマルだ。
「俺を昼食、一緒させてくれ!!」
梨華が学校に来てる時は絶対ココで昼食を食べるので、それに同伴したいのだろう。
「と、いうより離れて欲しい・・・」
「いやだ!許可がおりるまで離さない!!頼むお兄さま!!!!」
いい加減、気持ち悪いので力込めようとしたら、不意にももが投げられた。
「邪魔、それに優人が迷惑してる。」
稟とした澄んだ声に無表情な顔。
「ありがとな、雪乃。」
「別にいい。」
それと同時に雪乃が僕の胸に飛び込んできた。
背中に手を回して、ぎゅっと抱き締めてくる雪乃から柑橘系の甘い香りと柔らかな感触が僕を支配する。
男からの視線が痛い。
「雪乃、何してるの?」
依然僕を抱き締めている雪乃は顔だけ上げて一言。
「洗浄。」
「俺はばい菌かよ・・・」
情けないももの声にクラス中に笑いが起きた。

528:雨の記憶と妹
07/06/11 17:58:48 HYaDw64k
「やっと昼食だ・・・」
「さぁ、優人一緒に食べ・・・」
物凄い笑顔で僕に寄って来ようとしたももは、クラスの男子に両腕を掴まれて強制退場。
廊下からももの悲痛な叫びが聞こえて来たが、完全無視。
彼らを買収したのは僕で、報酬は缶ジュース一本。
さらば、240円の男よ・・・。

そんな事を考えていると美里ちゃんと、梨華が教室に入ってきた。
「お兄ちゃん、昼食一緒して良いかな?」
「良いよ。」
一個前のイスを借りると僕がそれに座り。
梨華には僕のイスを使って貰う事にする。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「優人先輩、私達も御一緒していいですかー?」
「んじゃ、みんなで食べようか」
その日の昼食は楽しく会話が弾んだ。


空が茜色に染まり、それぞれが帰る時間。
僕はカバンを持つと急いで教室を後にした。
僕が校門についた時には、胸にカバンを抱いた女生徒が校門に居る。
「梨華、ごめん待った?」
「ううん、大丈夫。」
「それじゃ、行こうか」

529:名無しさん@ピンキー
07/06/11 18:05:08 HYaDw64k
本当は依存を書く予定でしたが、延期してしまいましたorz
稚拙な文章ですが、楽しんで貰えたら幸いです^^

狂犬の作者様、今回も面白かったです。みんな幸せでよかった(*^-^)b

最近、萌が分からなくなってきた・・・。

530:名無しさん@ピンキー
07/06/11 18:22:15 R0UTiiDq
んー・・・佐久耶はいつ八代を好きになったのかがはっきりとはわからなかったなあ
無理やり付き合って三ヶ月した後に「どうしても男性として好きになれない」とまで言ったのに・・

531:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/11 23:28:52 hfi06cx7
>529
おつです。かわいい妹で留まるのかそれとも…どきどきです。


作品について、正直かなり迷いました。
書き手としての未熟さも反省しています。指摘については自身感じており、
好意的、否定的な意見どちらも喜んで参考にさせていただきます。

元々のプロットでもある「裏」を軸に「表」も再構成することも
考えましたが、「表」は明るいままでいいと判断しました。
そして、明後日から投下する事故後から始まる「裏」が終わったとき、「表」はこれで
良かったのかもしれないと思っていただければ幸いです。

言い訳はこれくらいで「表」の最終回投下します。
「裏」の第一回はしっかり見直し、いいものに仕上がるよう頑張ります。

532:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/11 23:30:48 hfi06cx7

 結局、三週間ほどリハビリを行って俺は退院した。この間、三人は毎日のように
顔をだし、幾度となく病院で騒ぐなと怒られていた。日常が戻ってきた…が、
やはり一年という時間は長く、爪あとを残すこととなった。

 俺は学校を退学した。悠長に高校生活をすると一志や佐久耶に二年の遅れを
取ることになるからだ。結局、菖蒲と一緒に大検を受けることを選択する事になった。
 以前のクラスメイトたちには迷惑や心配を掛けたことを詫びた。彼らは俺が完治した事を
喜んでくれ、お祝いと称してパーティを開いてくれた。
「佐久耶の顔が幸せそうすぎて殺意を覚える。」
とか、恋のライバルに負け続けているらしい相沢辺りはぼやいてはいたが。

 そして、時は過ぎクリスマスイブ…。
 今年のクリスマスイブは我が家でいつもの三人に佐久耶と一志の妹の志乃をくわえた五人で
祝っていた。

「こういうのやってみたかったんです。」
 という佐久耶の意見により、今年は念入りにクリスマスっぽく自宅は飾り付けられた。
 後で掃除するのが大変そうだ…。

「ハチ。食いもんは食いもん!」
「おまえが運べ。作るのは俺と佐久耶と志乃で全部やったんだから。」
 三人、それぞれの家のキッチンで料理を作って持ち寄っている。俺はスープ系担当で
色々作って置いている。他の二人は運びやすい料理を作ってもらった。

「八代おにいちゃん、料理の腕落ちてないねー。むしろ上がった?」
「愛しのおにいちゃんは恋人に食べさせるために腕を上げてるんだ。彼氏のいないお前じゃおいつかん。」
「うっさいだまれ一志!」
「何で八代はおにいちゃんで俺は呼び捨てなんだ…。」
 久々に会った志乃も元気だ。料理を全て運び終えて全員に酒を配る。

「ずっと心配掛けてすまなかった。今年はみんなで祝えて本当に嬉しい。
 これからもよろしく頼むって事でメリークリスマス!」
「「「「メリークリスマス!!!!」」」」
 カツンと中身は日本酒のワイングラスが軽い音を立てる。飲み食いの宴が暫く
続いたところで俺はプレゼントの中身を確認することにした。
 プレゼントは男女で交換することにしており、佐久耶と菖蒲と志乃のプレゼントがある。

 まずは佐久耶のプレゼントを空けてみた……ゆ、指輪!?
 美しい黒髪の上に今日は三角帽子を載せながら佐久耶はにこやかに笑っている。

「佐久耶…これは…。」
「ふふ…やっぱりプレゼントっていったら身につけるものですよね。私がつけてあげますね。」
 佐久耶は俺の左手を取って薬指にそれを嵌めた。

「それは男から女にするもんじゃないのか?」
「結果は同じだからいいじゃないですか。ずっと一緒ですし…逃がしませんし…。」
 ため息をついて、苦笑してから佐久耶の頭を撫でて礼を言った。続いて菖蒲のを
あけ…とある箱が見えた瞬間すぐに戻した。菖蒲と一志がにやにや笑っている。

「あ、菖蒲!お前ら…」
「やっぱり贈り物は役に立つものよね。」
 うんうんと、一志も頷いている。佐久耶と志乃はわけもわからずぽかんとしていた。
 最後に志乃からのプレゼントをあける…。

「か、肩たたき券…。」
「うん、八代おにいちゃん苦労してそうだから…。」
 少し泣きたくなった。


533:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/11 23:31:48 hfi06cx7
「ハチ、がんばれよ。」
「お前な…。」
「じゃあまた…な。」
 宴会は夜遅くまで続いたが、志乃もいるために日が変る前にはお開きになった。
 片付けのために佐久耶は残り、一志と菖蒲は志乃を送っていった。料理などの
後片付けを終えると終電の時間はとっくに過ぎていた。

「佐久耶、俺のベッド使え。俺は居間で寝るから。」
「いえ……その……菖蒲さんが一年分甘えるなら今日が一番だと…。やりたいこと
 全部いいなさいって…。プレゼントのことも…。」
「あいつらは…。まあわかった、今日は佐久耶のいうことを聞く。」
「そうですね……まずは…」

 暫く後、俺たちは一緒に風呂に入っていた。そこまで広いわけでもないので
佐久耶が俺の脚の上に座って胸に体を預けている。二人とも勿論裸で、佐久耶の
形の良い大きな胸が後ろからでも見える。

「恥ずかしいけど…なんだかドキドキしますね。」
「…のぼせそうだ。」
「八代君…後ろから抱きしめてもらえませんか?」
「だが…。」
「いいんです。お願いします。」
 佐久耶の要求どおりに後ろから肩を引き寄せて抱きしめる。恐怖症は随分ましに
なったように思えるが…それよりこの体勢だと…元気になった俺のものが…。

「ふふ…嬉しい。なんだか幸せです。包まれてるみたいな…。背中の硬いこれが…
 入るんですよね。」
「ああ。経験はないから優しくは出来ないかもしれんぞ。」
「お手柔らかに。」
「善処する。」
 甘えるように頭をさらに後ろをもたれさせる。こうして佐久耶はひとしきり
風呂で甘えた後、体を拭いてバスタオル一枚で俺の部屋に入り、ベッドに横たわった。俺も隣に入る。



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