【貴方が居なければ】依存スレッド【生きられない】at EROPARO
【貴方が居なければ】依存スレッド【生きられない】 - 暇つぶし2ch339:僕の仕事はやくざ屋さん  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/21 15:36:27 iWGEN4E/
大きな白い手ぬぐいと鉈です。使わずにすめばよかったのですが…。
「俺がけじめを…責任を取らせていただきます。」

白い布をデスクに引き右手で鉈を持ち上げ…
左小指に向かって躊躇なく振り落としました。想像以上の激痛が左小指に
走り、左小指の先が転がります。勝負どころなので僕は痛みを感じていないよう
振舞います。叫びたいほど激痛が走っているのですが…
「まだ、足らないなら次に行きますが。」
「はっはっは、いい度胸だ。わかった。お前のけじめ見届けた。認めよう。」

組長さんが笑って認めてくれました。婚約者の方も笑って頷いてます。
「誰か応急処置してやれ。婚約の約定書もそいつに渡してやれ。
しかし、どうしてそこまでする?。」

婚約者の男が僕に聞きました。僕は痛みを堪え、笑っていいました。
「惚れた女も守れないような人は男じゃありませんので。」

帰宅後予想通りというかなんというかお嬢さまに怒られました。
お嬢さまの部屋でずっと説教されています。
「馬鹿!馬鹿馬鹿あほ!馬鹿!馬鹿!刀!何馬鹿なことしてるの!」
「お嬢さま、馬鹿言わないでくださいよー。」
「馬鹿を馬鹿といって何が悪いのよ!」
「ちゃんと仕事したじゃないですかー。」
「馬鹿!一生残るような怪我までして…がぶっ!!!」
「ぎゃー、痛いイタイいたいっ!!!噛まないで!!」
左小指に噛みつかれるのは洒落になりません。

「馬鹿…もう二度とこんなことしないでよ…。刀が怪我したって私は嬉しく
 ないんだからね…。もう…。」
「ええ、ですから…僕が二度とこんなことをしないようにお嬢さまが僕を
 見張ってくださいますか?」
「なっ!!か、刀!!それって…その…。」
僕は笑顔でいいました。
「お嬢さま。僕はお嬢さまが好きです。これからは貴女が僕を頼るように僕も貴方を頼ります。
 親分さんの課題についてはこれから二人で一緒に考えましょう。ずっと一緒です。
一生僕に甘えてくださって構いません。お嫌ですか?」

「それはその…私も…私も刀が…ああもう!むむむ…返事はこうだ!!」
そういうとお嬢さまは僕を押し倒すと、キスをしました。
本当に素直で可愛くて…いとおしい人です。


340:僕の仕事はやくざ屋さん  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/21 15:37:25 iWGEN4E/
エピローグ

「親分、お嬢さんを私に下さい。」
お嬢さまの気持ちを確認した後、親分のところへお願いに行きました。
勝手に破談にし、小指を落としたことで一発殴られましたが、

「お前さんがそれでいいならくれてやる。早く孫の顔見せろよ。」
と、快く認めてくれました。
後日、叔父さんにも断りの連絡を入れました。感謝はしていますが、
自分の人生は自分で切り開いていくのです。

「お、お嬢さま!包丁の持ち方はこうです。そうじゃありませんっ!」
「ええいっ!難しいわね。鈍らだわ…切れない。」
「こうです。一緒にやりますよ。」
「えへへ~。うん!」

それからというものお嬢さまも家事を手伝うようになりました。
出来ることからゆっくり学んでいくそうです。壮絶にお嬢さまは
不器用ですから、覚えるには非常に時間がかかりそうです。
こういうとき背中から羽織るように手伝うとお嬢さまはとても嬉しそうな
顔をしてくれるので僕も幸せな気分になります。

「お兄様はいつか必ず取り返して見せますからね!!」
「べ~!刀はずっと私と一緒なんだから!!」

刃霧ちゃんとお嬢さまの関係は相変わらずです。喧嘩するほど
仲がいいといいますが気が合うのでしょう。
こんな平和な日々がずっと続くことを祈りつつ、よく晴れた青空を見上げました。


─────────天国のお父さんお母さん。僕は今幸せです。


341:名無し@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/21 15:39:01 iWGEN4E/
というわけで終了です。
応援してくださった方々、ありがとうございました。

次書く機会があったらねっとりしたのに
挑戦してみたいと思います。

342:名無しさん@ピンキー
07/05/21 17:39:15 AFlLrov6
>>341
GJ。
ネタがタイムリーだ・・・
たしか綺麗に切断されてれば病院で縫合できるらしいな。

343:名無しさん@ピンキー
07/05/21 20:00:49 NxmpRDIA
うほーーーーGJ!!!
お嬢様かわいいよお嬢様

やっぱりヤクザのケジメは小指なのねw

344:名無しさん@ピンキー
07/05/21 22:54:40 OTdGgY8s
>>318
ママは依存妻とは関係ありませんよね?
作中の「女子大生」かと思いましたが、違うようですし・・・

345:名無しさん@ピンキー
07/05/22 10:28:59 Ap5K86Y1
>>327>>344
むしろ関連があるのは嫉妬修羅場スレの嫉妬妻・道明寺静子のほうだと思う。
苗字が一緒だし。

346:名無しさん@ピンキー
07/05/23 02:50:01 s4mkYxbN
>>341最強の神GJ!
暖かい気持ちになったよ。age

347:依存型ハーレム
07/05/24 06:49:36 LBhAuQu0
僕は八戸 月(やど らいと)少し名前が変わっている割と普通の男だった。
だけど何の因果か18で信仰宗教の『教祖』いや『新世紀の神』になってしまった。

18の誕生日ささやかに(親の)知り合い等が船上パーティーを開いてくれていると
蝗の群れのような女の子達に浚われ
彼女達に王子様、あるじさま、主と持ち上げられました

こんなことになった原因は僕が『モテモテ』だったかららしいです、
昔からユニークな娘に好かれて『女の子同士のころ…喧嘩が激しいので』【←打ち消し線】……
転校が多いので全国規模でかなりな人数になってたらしい

でみんな運命の人を捜すうちに出会いあってハナシあいの結果こうなったらしい

巫女頭の狩須(かりす)・M・ドミナが
「王子さまをもう哀しませたくないから仲良く」

生贄頭の真空(マゾら)レイ
「皆、あるじさまのモノに」
メンバー筆頭、海部(アマ)さんご
「喧嘩(コロ)しあわないから捨てないで」

と全裸で迫ってきまして、みんなの躊躇い傷と捨てられそうな子犬のごとき瞳に勝てませんでした

348:教団の朝 依存型ハーレム
07/05/24 07:25:53 LBhAuQu0
朝は何時も温かだ、僕が眠っている間に教団の大温泉(掛け流し)に入れてくれる

朝のご奉仕らしいけれど僕は聴いてしまったのだ、
彼女達は朝飲泉のしてると、その、僕の出汁がでたもので

朝のお風呂では彼女達が体で体を洗ってくれる
躯の隅々まで彼女達が恍惚としながら舐め清めるのだ。

それが済むと朝食、毎朝オートミールだとミルクだ。
口移しの
朝食は時間がかかる一口毎に人が変わるのだ、口移しの恍惚感でトぶらしい。
らしいと言うのは、崩れるたびにすぐ次の人と交代するからだ。


349:名無しさん@ピンキー
07/05/24 10:50:07 Xc9zXJGj
>>347->>348
設定は面白いと思いますが…

書き込む前に自分で推敲するのと
(脱字が気になりました)
あと文の末尾は「です・ます」調かそうでないか
どちらかに統一するとわかりやすいですよ

頑張ってください

350:名無しさん@ピンキー
07/05/24 19:56:12 LBhAuQu0
了解した、ただ続きは遠いのでネタのパクリ元をご紹介する
当板のハーレムスレ
『アカ・ソ・ノモノ』氏の『巫女妹信者暴力姉引きこもり居候借金お嬢様メイド』
リンク集兼保管庫は以下に
URLリンク(marie.saiin.net)

ラブラブなハーレムは独占欲を依存度や(嫌われる)恐怖が上回るから産まれる、そう思えた

351:名無し@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/24 20:45:49 SSXp0WuQ
折角だから俺はこのスレを選ぶぜ!

というわけで、投下場所を悩みつつもこちらへ。

352:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/24 20:49:40 SSXp0WuQ
高校入学───初日、俺、犬塚八代(いぬつかやしろ)は停学一週間食らった。

入学式当日、地味な眼鏡のおさげ髪の女が四人の男に絡まれているのを
見た俺は助けることにした。

何も女を助けたかったとかそんなのじゃない。
ただ、女一人に四人で絡むような男が気に食わなかっただけだ。
また着たら俺に言えというと女─新庄菖蒲は礼と次は自力で解決すると
いって去っていった。強気なやつだ。

別に恩に着せたいわけでもなかったので俺はただの日常の1ページと
考えていた。代償が喧嘩両成敗の停学ってのは痛かったが。


「よう、ハチ!今日からお前も登校か。」
バンと背中を叩いてきたのは中学時代からの親友、犬飼一志だ。
180cmを越える背の高さに甘いルックス。平均の身長と堅苦しい
と言われる俺と何故友人でいられるか自分でも不思議である。
ちなみに俺をハチと呼ぶのはこいつだけだ。

「ああ、えらい目にあったな。初日から全く。」
「だな。四人ぼこぼこにして一人腕へし折ればそりゃ停学にもなる。」
中学時代、俺のあだ名は狂犬だった。売られれば買い、手加減を知らないのが理由だ。
一志のあだ名は猛犬。喧嘩大好きで獰猛なのだ。だが、そこに暗さは無い。

こいつは社交的だが俺は内向的。だが、何故か気があった。
暇なときはいつもつるんでいたし、困ったときは助け合った。

反対な部分は他にもある。一志は女好きで二股三股当たり前といった感じなのに
対し、俺は中学時代は全く他人との関わりに興味が無かった。
恋なんて勿論しなかった。


353:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/24 20:51:06 SSXp0WuQ
学校に着いた。入学式ではクラスに入る前に問題を起こしたため、
席がわからない。座席表を確認し、席に座る。
回り目の目は案の定、腫れ物を見るような目だ。
いつもどおり気にすることは無い。ふと隣を見た。

そこには、物憂げな顔をして一人座る、美しい少女がいた。
長い綺麗な黒髪、平均より少し高い身長。均整の取れたプロポーション。
少し影があって、おどおどした暗そうな雰囲気を覗けば完璧だと思えた。
良家のお嬢さまといったところか。
朝の喧騒の中、静かに一人座っているそんな彼女に声をかけた。
理由はわからない。そうしないといけない気がした。
笑顔は作れなかったが。

「おはよう。」
「…っ…おはようございます…。」
怖がらせただろうか。なんか驚いている。
まあ、初日から停学くらうような相手なら無理も無いか。

「俺は今日からこのクラスに通う、犬塚八代。君は?」
「はい…神城佐久耶(かみしろさくや)申します。」
「よろしく。」
「こ、こちらこそ…その…よろしくお願いします。」

人に対し無関心なはずの自分がなぜか声をかけてしまった。
理由がよく判らないままに時が過ぎ、昼になった。
彼女は誰とも話そうとしなかった。誰も話しかけようとしなかった。

「隣いいか?」
「あ…どうぞ…。」
彼女の前に座り黙々と食事する。

「なぜ一人で食べるんだ。一週間もあれば友達くらいいるだろう?」
「えと…その…いないから…友達…。」
話を聞くと、男は怖くて女からは何故か避けられるという。


354:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/24 20:51:54 SSXp0WuQ
「俺は怖いか?」
「うん…少し…ごめんなさい。」
「いい。怖がられるのに慣れてるから。」
周りの視線は俺たちに向かっている。興味深そうに、嫉妬交じりに、
嫌悪感をこめた目で。

「犬塚君…私といると貴方も…。」
「俺は元々だ。余計な気は必要ない。君は…皆と仲良くしたいのか?」
「うん、できれば…。」
「そうか。」
会話はそこまでだった。
俺はなんとかしてやりたいと思った。

放課後、帰ろうとした俺に神城は申し訳なさそうに声をかけてきた。

「あの…犬塚君、ごめんなさい。」
「なんだ?」
「実は犬塚君が休み中に学級委員に決まってしまったの…。
 今日は放課後、学級委員の集まりがあって…。」
どうもいつの間にやら面倒な仕事が割り振られていたらしい。

「別に神城のせいじゃないだろ。どこでやってるのか教えてくれ。」
「え…うん。女子は私なの…。案内するね。」
「ああ、ありがとう。」
大方、女子に推薦されて嫌がらせに初日から停学の厄介そうな俺が
選ばれたんだろう。

「犬塚君っていい人だね。もっと怖い人かと思ってた。」
「いい人か。初めて聞いたな、そんな評価は。」
俺は今日一日で彼女が笑ったのを始めてみた。
穏やかな…すみれの花のような落ち着いた笑顔だった。

学級委員の集まっている場所に行くと見覚えのある女がいた。
地味なめがねのおさげの女。あまり気にせず、決められた席に座る。
「こんにちは、犬塚君…だよね?」
「ああ。」
「学級委員だったんだ。これからよろしく。」
「よろしく。」

ぶっきらぼうに答える。会話する興味は沸かなかった。


355:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/24 20:52:58 SSXp0WuQ
退屈な予定調和の会議が終わり、帰宅の準備をする。
「神城。駅まで一緒に帰るか。」
「え、あ、はい。お願いします。」

そこでふと、昼の出来事を思い出した。
「新庄。お前も一緒に駅まで帰らないか?」
「え、二人じゃなくていいの?」
「そんな関係じゃない。」

そうして駅まで三人で歩いた。
話しかけるのはもっぱら新庄だった。地味な外見とは裏腹に、会話が巧みで
明るくて人を退屈させない。面倒見もいいらしく、学級委員には自分で立候補したと聞いた。
一方、神城は人見知りしているのか相槌を打つだけだった。
計算違いだ。女同士、上手くすれば会話も弾むかと思ったのだが。
駅に着くと、俺と新庄が同じ路線。神城は反対の路線と分かれた。

「犬塚君、神城さんと仲いいの?」
「席が隣だった。後はなんとなく協力してやろうと思った。」
「協力?」
「友達がいないらしい。性格は特に悪くは無いと思うが。」
「なんとなく判るなあ。」
「それで、新庄にあいつと仲良くなってもらおうと思った。」
「ふーん。判った…いいよ。借りもあるし。」
「ありがとう。強引に借りを取り立てるみたいで悪いな。」
新庄は引き受けてくれた。いい奴だ。俺自身はどうすればいいのか。


翌日の昼、新庄は違うクラスの俺たちのところに昼を食べに来てくれた。
周りの視線は相変わらずだが、気にはしなかった。

「わー。神城さんの弁当おいしそうだねー。これ交換しない?」
「はい。どうぞ…私のでよければ。」
「弁当は自分で作ってるのか?」
「いえ…作ってもらってます。犬塚君は?」
「八代でいい。友人は皆…いや、一人を除いてそう呼んでる。俺は自作だ。」
「ええ!八代君意外だねー。神城さんもそう思うよね?」
「はい…。あっ…ごめんなさい。」
「一人暮らしだから仕方がない。」
「今度ご飯作りにいってあげるよ。」
「いらん。」
こんな感じで始まった、俺たちの友達関係は暫く続いた。
そして破綻した。俺のせいで。

356:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/24 20:56:19 SSXp0WuQ
俺は少しずつでも、神城をクラスに馴染ませてやりたかった。
だが、俺は親友である一志のように明るい性格ではなかった。
今のままでは難しいと考えた俺は無理に明るく振舞うようにした。

男女問わず話をするようにし、誠実に物事に応対した。
初めは印象が最悪だったが、新庄が停学の事情を広めてくれたらしく
皆、俺を受け入れてくれた。社交的な一志にも相談して力になってもらったりした。
そして、俺を通じて神城をゆっくりとクラスに馴染ませた。

神城のノートを見せてもらうと、勉強は出来そうだったので会話を合わせるために
必死で遅れを取り戻し、さらに全て理解できるように勉強した。

趣味が読書と聞くとお勧めの本を全て図書館で借りて読み、自分なりに要点を
まとめるなどして、会話できるようにした。

二ヶ月経つと、クラスの印象は変った。
神城の笑顔も良く見るようになり、クラスに溶け込み始め、
会話は殆ど俺とだったが、何人かとは話せるようになった。

新庄も神城の悩みを聞いたり、相談したりできる仲になった。
俺はいつの間にか神城のことが本気で好きになり─告白した。そして振られた。
彼女には好きな人がいたのだ。そしてその相手はよりにもよって、
───親友の犬飼一志だった。


357:名無し@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/24 20:58:48 SSXp0WuQ
ここまで。
またよろしくお願いします。
前作よりは依存強めに。

358:名無しさん@ピンキー
07/05/25 00:08:49 LptZEWUB
むう、誰が誰に依存するのか・・・
続きを読まなければ分からない。

359:名無しさん@ピンキー
07/05/25 03:47:06 x1ThHaHH
これはっ・・・・やばい続きが気になりすぎる!GJ!

360:名無し@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/25 09:46:55 it4e0Rnf
NTRとかはないけど
人によっては不快になるかも。

というわけで依存部分まで投下。

361:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/25 09:48:49 it4e0Rnf
情けないことに俺は二日ほど抜け殻のように日を過ごした。
目的は無くなり、惰性で習慣となった勉強や新しい友人との会話はしていたが
心配されたくらいだから相当酷かったのだろう。
俺は神城とは距離を置き、昼食は屋上で一人、取るようになっていた。
だが、今日は来客があった。見慣れた地味な眼鏡とおさげ、でも明るい友人。

「いたいた、八代君。ここんとこ変だから心配したよ。佐久耶も教えてくれないし。」
「神城に告白して振られた。しつこく付き纏うのは趣味じゃない。」
「そか…。」
深くは追求しない。そんな気配りのできるこいつはありがたい奴だ。

「元の自分に戻るだけだ。気遣うこともない。お前も俺と一緒にいる必要は無い。」
「さびしいこというね。」
「一人は楽だ。」
「そうかな。私も邪魔?」
「いや、俺は友人と思ってる。いい奴だし世話になってるしな。」
そういうと新庄は隣に座った。

「別にいい奴じゃないよ。私、佐久耶にずっと嫉妬してた。」
「そうか。」
「うん。八代君に世話焼いてもらえて、暗くなりそうだった高校生活も
 明るくしてもらって…。独占してた。私と再会したとき覚えてる?」
「学級委員会のときか。忘れた。」
「だろうね。私、八代君が同じ委員だって知ってすごく嬉しくて。
 だけど話しかけてもそっけなくて泣きそうだったよ。」
「すまない。」
「しかも、一緒に帰ろうって喜ばしておいて言うことは佐久耶のことだし。」
「全く最低だな。」
新庄は一度言葉を止めた。
そしてこちらを向いて笑顔で続けた。

「私はね…助けてもらったときからずっと八代君が好きだった。今はもっと好き。」
「ごめんな、気づかなくて。だけど今は答えられない。時間をくれ。」
「勇気使い切っちゃった。次は振るにしろ受けてくれるにしろ、そちらからね。
 ああ、後私は名前で呼んでるからそっちも菖蒲って呼んで。」
溜め込んだ想いを全部言い終えた彼女は晴々としていた。


362:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/25 09:50:25 it4e0Rnf
数日後、一志から電話がかかってきた。

「おい、ハチ。あれどういうことだ。」
「何だ。」
「お前のとこの…神城に告られた。付き合ってんじゃなかったのか。」
「告って振られた。」
「そうか、ハチこんなこと初めてだったのにな…お前のお陰で俺も珍しい体験をした。」
「どんなだ?」
「初めて女をこっちから振ったぜ。完膚なきまでに。」
「らしくないな。」
「わかってら。だがな、あれほど不愉快な思いをしたのは初めてだ。」
「どういうことだ?」
「俺はあいつのためにお前がどれ程無理したか知ってる。」
「そうだな。自分でも驚きだ。」
「逆で考えてみろ。俺が本気で好きになった奴が別に好きでもないお前に告ってきたら
 お前はどう思うんだ。他の女を全部捨ててもいいと思うほどの奴が。」
「確実に不愉快だな。」
「もっといい奴さがせ。お前も。あいつはやめたほうがいい。」
「一志もいい加減一人に決めろ。刺されるぞ…それとすまない。」
「俺は修羅場が好きなんだ。じゃ元気出せよ。これ以上暗くなられたらかなわん。」
俺はほっとしたような悔しいような情けないような気分になりながら夕食を
作った。気力がわかないのでインスタントでその日は済ませた。


それから数日、ようやく落ち着いた俺は普通にクラスの連中と付き合えるように戻った。
冷静になってまわりを見ると─神城はまた一人に戻っていた。

俺がおかしくなっていたせいで色々な噂が立っていたらしい。
初めてあったときのような物憂げな表情で彼女は席に座っていた。

「おはよ。」
「あ…おは…よう。もう話してくれないかと……っ…」
「馬鹿、泣くな。」
「ごめん…なさい…。」
「俺のあれも忘れろ。二度は言わん。友達として付き合っていけばいい。」
俺の努力は徒労だったのだろうか。自分がいなければ未だに、クラスとの
コミュニケーションが取れないとは。

「犬飼君に言われたの…。彼は凄く怒ったんです。お前はなんにもわかってないって。
 大事な親友のことを何も理解できないような奴は絶対ごめんだって。」
「そうか。すまんな。ある意味俺のせいだ。」
彼女は泣きながらも笑顔で続けた。

「ううん。犬飼君の言うとおりでした。二週間、八代君も菖蒲もそばに
 いない学校の時間は初めの一週間と…中学の頃と同じで…。灰色で
 全然楽しくなかったんです。」
「頑張ればよかったんだ。もう俺がいなくとも大丈夫なはずだ。」
「うん…。でも話してて気づいたの。みんなが心配してるのは八代君でした。
 それだけのことをしてたんだって。」
「だが、別に神城が間違ったことをしたわけじゃない。気にするな。」
「私…離れてやっとわかったんです…。八代君がいないと寂しいの…。
 勝手なことばかりで悪いけど、もし前の告白が有効なら…私と付き合って…
 ごめん本当に勝手ですよね…。」
「わかった。付き合おう。」
俺は即答した。そして、彼女は笑顔を見せてくれた。
それは掛け値なしに美しかったが、俺は何か間違えたようなそんな不安に駆られた。

363:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/25 09:51:38 it4e0Rnf
放課後、神城に先に帰ってもらい俺は屋上に菖蒲を呼び出した。

「前の返事だが…。俺は神城と付き合うことになった。」
「そっか…でもそれでいいの?」
菖蒲の顔が曇る。その言葉の意味を俺は正確に理解している。
一志の電話での台詞と朝の神城の態度と言葉で判断した。
恐らく間違っていない。

「あいつは俺が好きなわけじゃない。」
「うん…そうだよ。それでも?」
「ああ。まだ俺は好きだから。」
「今までのことを考えると…永遠に好きになってもらえないかもしれないよ?」
「そうでないことを祈る。」
「私はもう手伝えないよ?いつ怒りに任せて手を出すか判らないから。」
「判った。今まで本当に助かった。」
「八代君とは友達でいていいよね?」
「当然だ。菖蒲は親友だ。」
「ありがと。それじゃまた明日。」
菖蒲はそれだけ言って走って帰っていった。
俺は彼女を泣かせた。


付き合い始めてから佐久耶は前より俺に寄りかかるようになった。
自分から外への窓口を作らず、全て俺を通して外と交流する。

「ああ、最近仲がおかしかったのは俺がセクハラしたせいだ。」
「嘘―。犬塚君って意外とむっつりさんだったんだね。」
「佐久耶が可愛いからついな。お陰で二週間謝り倒すことになった。」
「もう、惚気ちゃってー。変な噂流れたから心配したじゃない。」
クラスメイトの女子に少しおどける。こんなのもすっかり慣れた。
悪い噂を自分を悪役にして消していく。
本当は触れてすらいない。

「八代君…一緒に帰ろ?」
「ああ、すぐに行く。それじゃ、みんな…また明日。」
笑顔の佐久耶と並んで駅まで歩く。はたから見れば恋人に見えるかもしれない。
彼女の好きな話題で話し、楽しませる。
だが、俺が触れると彼女は俺に恐怖の目を見せる。
手を繋ごうとすると露骨に嫌がる。

その日は一志が俺の住処を訪れていた。

「お前、神城と付き合ってんだってな。」
「ああ。」
「早く別れろ。あいつは…あいつは!」
「判ってる。お前は正しい。だが、好きなんだ。」
「難儀な性格だな。だから女は嫌いなんだ。困ったらすぐ言えよ?」
「ああ。それはおいといて期末の範囲だが…」
期末は学年一位だった。一志はなんとか全教科赤点を免れた。
いつも女を侍らせてるこいつが女嫌いであることは俺だけが知っている。

俺にとって長い一学期が終わった。
学校は拷問だ。好きな女は俺がいないと何も出来ず、俺には恐怖と嫌悪を向ける。
精神が擦り切れそうになっていたそんな頃、学校は終わった。

364:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/25 09:52:50 it4e0Rnf
こちらから二人で遊ぼうと連絡を入れても佐久耶は断るため、夏休みは
一志や菖蒲と殆ど過ごした。クラスメイトの誘いのときだけ佐久耶を誘い、
それ以外殆ど関わらなかった。俺も疲れていたのかもしれない。

一志は菖蒲は気に入っていた。馬鹿なことをしたり、海、キャンプ、
うちへの泊まりこみ…三人での夏休みは本当に楽しかった。

夏が終わると以前と同じような日々が変らず始まっていたが、二学期のある日、
ついに事件は起きた。

朝、駅の階段で佐久耶を見つけた俺は挨拶をしようと近づこうとしたが、
目の前で彼女が足を滑らせ、俺はそれを受け止めた。
結構な高さから落ちてきたため、階段では自分も踏ん張れず結局一番下まで
落ちて彼女をかばったために背中を強く打った。幸いにも荷物を下敷きに
することが出来たので怪我は無かった。運動神経に感謝したのは初めてだ。

「ごほっ…おい。気をつけろよ。佐久耶、怪我は無い…」
ぱんっ!!!
自分に何が起きたかわからなかった。
頬に痛みが走る。彼女は怒りに満ちた目で俺を見ている。
次の瞬間にはいつもの気弱な目に戻り、泣きそうになりながら学校に走っていった。
俺はそれを何も考えずに見送った。

教室に入ると全員の目がこちらに向いた。
通学時間帯だったお陰で見たものがいたのだろう。
そして男も女も俺に寄ってくる。残りのものは佐久耶に非難の視線を向けている。

「犬塚君…朝のあれ何…?」
「ああ、あれは……俺が変なことを言ったせいで佐久耶が驚いて足を滑らせたんだ。
 かばったのも無茶するなって怒られたよ。俺は心配かけてばかりだ。俺が悪いんだ。」
真顔で言い切れた。質問してきたクラスメイトも信じさせれるだろう。

「そ…そうなの?」
「違うでしょ!何でそこまで庇うのよ!!」
隣のクラスの菖蒲がいつの間にか教室に来ていた。こいつも見てたのか…。
本気で怒っている彼女の肩を叩いて俺は言った。

「菖蒲、いいんだ。」
「よくない!佐久耶!あんた何様よ!!いつも、八代に頼って!縋って!
離れようとしたら好きでもないのに縛りつけて!」
「菖蒲!!やめろ!!よせ!」
これ以上言わせるわけにはいかない。
俺は菖蒲を後ろから羽交い絞めにし、口を押さえた…が、
次の瞬間に噛み付かれ、離される。

「命懸けであんた助けた八代をあんな眼で叩くなんて…私の恩人を…
 私の好きな人を傷つけて…それでも平然としてるあんたを私は…
 私は…絶対に許さない!!」
羽交い絞めにされながら怒りに震える菖蒲を俺は必死に抑えながら、
佐久耶を見た。彼女は怯えていたがやがて口を開いた。


365:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/25 09:53:44 it4e0Rnf
「仕方…ないんです。明るくて友達も多い菖蒲さんには判らない。」
「判る…わけないでしょう。あんたの気持ちなんか。」
「八代君は私の始めての友達です。中学まで誰も私と仲良くなんて
 してくれなかった。彼だけなんです。私が怖がっても気長に接してくれたのは。」
「あんた、そんな人に何してるか自覚…してんの。」
「彼は暗くてどうしようもない私を好きになってくれて…。本当に嬉しかったんです。
 彼がいて、みんなと仲良くできるようになって…だけど、私は他に好きな人がいたの。
断るしかないじゃないですか。」
「だったらなんで後で受けたのよ!それで八代が今どんだけ傷ついてんのよ!」
「彼がいなくなったらみんな私から離れていったんですよ…。彼は仕方ないとしても
菖蒲さんもみんなも好きな人も私を否定して…私は怖かったんです…一人に戻るのが。」
「そんな理由で…利用したの…」
菖蒲の顔は怒りを通り越して真っ青になっていた。
俺は佐久耶の告白にはそれほど驚かなかった。鋭い痛みは走ったが判っていたことだ。
彼女はその美しいといえる愁いを帯びた顔を向けて続けた。

「八代君は人気があるから…他の人と付き合うと私と入れなくなります。だから…
 お願いしたんです。でもどうしても…男の人として好きになれなかったんです。
 好きでない人に触られたらどうしても嫌なんです。無理なんです!」
「本当にどうしょうもない女…。」
「いいんだ、菖蒲。判っていたしその上で俺も好きでやってるんだ。」
「いいわけ…ないでしょう。私は無愛想な一匹狼だった八代がどれ程の努力を
 して、無理をしてみんなに溶け込もうとしたか知ってる。私のせいで停学まで
 受けて、白い眼で見られてたはずなのに。それなのに…こんな奴のせいで…」
菖蒲は俺の胸に頭をつけて泣いていた。
抱きしめる資格は俺には無いので代わりに頭を撫でていた。

「佐久耶がいなければそもそも努力すらしなかった。感謝してるんだ。」
「私もうやだよ。辛すぎるよ…わああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺は菖蒲が泣き終えるまで好きにさせた。
彼女が泣き終えたとき佐久耶の味方は……俺しかいなかった。


366:名無し@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/25 09:55:08 it4e0Rnf
ここまで投下。
後はもう一度書き溜めてからにします。

367:名無しさん@ピンキー
07/05/25 10:01:48 0ePqYUmK
GJ
弦楽器を糸のこで奏でた極上の音楽だな
何時誰が切れるかキリキリくる
続きか気になって仕事にならん!

368:名無しさん@ピンキー
07/05/25 10:04:02 H13fVsMX
もう俺にはwktkしかできない

369:名無しさん@ピンキー
07/05/25 11:22:39 rdwe0ovX
展開は面白いのだが、あまりにも文章が淡々としていて、
キャラ描写も少なく、普段の様子なども描かれずに、
~~した、~~だった、な文章が続くせいで話に入り込み
づらいのが、すごくもったいないと思う。


370:名無しさん@ピンキー
07/05/25 15:53:11 4BugM/77
こんな神達が集うスレを見つけられた今日という日に感謝。

371:名無しさん@ピンキー
07/05/25 18:26:11 Vr6aTq+E
ゲーパロ専用さん来ないかな~

372:名無しさん@ピンキー
07/05/26 03:10:41 p9nd+MWE
なんなんだこの複雑神SSは・・・・神GJ!
そして>>365の才能に嫉妬と尊敬を表さなくてはならんな。

それにしても少し前までには考えられなかったほどに活気があるな。
過疎を救ってくれた職人さん達には感謝してもしきれない、ありがとう。

373:名無しさん@ピンキー
07/05/29 03:12:27 sMWKPDRW
あげ

374:マンネリ打破と依存
07/05/29 12:51:56 nIK+6iMM
保守!
3レス使用
1冒頭

2依存娘
3サイコ
の分岐

375:マンネリ打破と依存 冒頭
07/05/29 12:52:48 nIK+6iMM
最近マンネリを感じた僕等はSMに手を出したんだ。
でもそれは単なるスパイスで終わらなかった、僕等は暖かな底なし沼に溺れたんだ。

僕と彼女が僕と愛玩奴隷(ペット)になるのにさほど時間はかからなかった。

もともと四六時中僕の浮気を心配していた彼女は
近頃では四六時中僕の命令を実行して幸せだった

この間は僕の物だってもっと感じたいって『首輪』を欲しがった。

『ネックレス』や『チョーカー』をつけてあげても物足りなさそうだった

376:マンネリ打破と依存 冒頭
07/05/29 13:00:10 nIK+6iMM
とうとう『大型犬の首輪』をと思ったけれどもそこで彼女が言ったんだ
『キスマークで首輪を頂戴?人の手が入らないように』
翌日その首輪は消えました
だから毎日つけてあげるんです

彼女の細い首に毎日キスマークを

377:マンネリ打破と依存 冒頭
07/05/29 13:08:01 nIK+6iMM
けれどもそれが儀式からいつしか習慣になっていって。
またマンネリに




だから首に輪を直接あげたんです。あの細い首に両手をかけて、こうキュッと
これならもう消えません。
彼女は
『ずっと変わらず、アナタのなかにいられる』

って喜んでくれました。

378:名無しさん@ピンキー
07/05/29 20:35:13 l3KbJXpg
・・・

379:名無しさん@ピンキー
07/05/29 20:40:35 lj16HTbo
え?ここで終わり?


380:名無しさん@ピンキー
07/05/30 06:15:50 7tdicVDI
ドーセ保守

381:名無しさん@ピンキー
07/05/30 21:36:22 Zi7ZPtjp
捕手

382:名無しさん@ピンキー
07/05/31 20:42:08 ZOCyaFwI
狂犬と症状たちの続き待ち保守

383:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/31 21:19:28 g9djrSXk
何度も書き直してました。
短めですが方針は決めたので次はなるべく早めに。

少し開きましたが投下します。


384:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/31 21:22:23 g9djrSXk
 その日の昼、俺は初めて悪意が眼に見えるものだということを知った。
 流石の俺も30人からの悪意の視線を受けたことは無いが、それを受けても
一応恋人である綺麗な長い黒髪を持つ美女…佐久耶は物憂げにはしているものの
それほど気にしている様子は無い。

「どうしたの?八代君。食べないんですか?」
「俺はむしろ佐久耶がいつもどおり食べているほうが驚きなんだが。」
「え、だって八代君がいますし…。」
 朝の事件は菖蒲が変りに日頃の俺の思いをぶちまけたせいか俺自身は冷静で
周りを見渡す余裕もある。特に女子の視線が厳しい。
 それにも気がつかないというのは…。

「佐久耶。もう手遅れだとは思うが空気を読めるようになれよ。」
「空気を読む…超能力か何か…ですか?」
「だめだな…どうしたもんか。」
「八代君、お困りでしたら私も手伝いますけど…」
 彼女は困ったように首をかしげている。羨ましいことにそもそも気づいていないらしい。
 本当に困った…これからどうするか。

「八代~学食にご飯食べにいこ。」
「菖蒲か。見てのとおり弁当なんだが…。」
 考え込んできたときに教室におさげにメガネの見慣れた友人、菖蒲が入ってきた。
 地味な外見と違って表情が豊かでころころ変る。朝のことは吹っ切ったのかいつも通りだ。

「たまにはいいじゃない。二人で食べにいこ?」
「しかし、今離れるわけにはな…」
と眼で教室中を見ろと合図する。こいつなら分かるだろう。
 菖蒲は苦笑して納得したが、それまで黙っていた佐久耶が口を開いた。

「あの…菖蒲さん。ごめんなさい…人の恋人を連れて行こうとしないでもらえると…
 矢代君は私の恋人なので…」
 教室中の空気が凍るというのはこういうことを言うのだろうか。
 五秒ほど教室の喧騒が途絶えた。菖蒲は怒りを通り越して呆れ果て
俺も何も言えずに佐久耶を見つめる。冗談で言っている顔つきではない。

「八代…本当にこの人大丈夫なの?」
「流石に自信無くなってきたな。」
 菖蒲が何か気持ち悪いようなものを見たような声で呟く。
 今日のところは菖蒲に引いてもらい、昼食を再開したがあまりの視線の圧力に
味を感じることは出来なかった。


385:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/31 21:24:01 g9djrSXk
「それじゃ佐久耶、学級日誌返してくるから待っててくれ。」
「はい。お待ちしています。」
放課後、日誌を職員室に返すために廊下を歩きながら佐久耶について考える。
結局、昼食時も休み時間も朝の事件がなかったように佐久耶はいつも通りで、
人助けに恩を着せるのは主義でないはないから俺に対しては問題があるわけじゃないが
他ならぬ俺自身に同情が集まることによって、佐久耶が悪い立場に立たされているのは問題だ。
 そこまで考えて、あそこまでいわれても佐久耶を中心に考えてる自分に苦笑した。

「おい、佐久耶もど…ん?」
 日誌を返し教室に戻ると佐久耶がいなかった。先に帰ったかと少し考え、頭を振る。
鞄が机に放置されてあるということは…トイレか誰かに連れて行かれたか…。落ち着いて
携帯に電話する…繋がった!

「おい。もしもし!佐久耶どこだ?」
「ザーッ………何…………ざけて………やめ………」
ついに、実力行使まで…。会話から場所がわからないため、廊下の窓を調べつつ
女子トイレ前で電話を鳴らして音を確認。いないことを確かめ急いで屋上へと
駆け上がる…裏庭の女四人…あれか!!

「そこの三人!何をしている!」
「あ、犬塚君…」
 俺がついたとき佐久耶は、校舎の壁に追い詰められて問い詰められていた。
その暗いながらも綺麗な顔は怯えを浮かべている。俺が到着すると彼女は
すぐに俺の背中へと隠れた。決して触れないようにしながら。
 佐久耶を見ながらクラスメイトの女子三人は憎らしげに、また、ばつが悪そうにしている。

「犬塚君…朝の女の子じゃないけど見てるの辛すぎるのよ。もう…」
「すまない。俺のせいで。」
「何で謝るの!悪いのは全部その女じゃない!」
「俺も今の状態は望ましいわけではない。だが、こういう風に一人を攻撃するのは
 俺の顔に免じて勘弁してやって欲しい。頼む。」
そういって頭を下げるとさらに複雑そうな顔になったが自分たちも悪いと思っているのか
それとも言いたいことが判ってくれたのか去ってくれた。
だが、どうにかしないと守ろうとしてきた俺のせいで全員が敵に回るという皮肉なことに
なるという予感が消えない。


386:凶犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/31 21:24:45 g9djrSXk
「佐久耶。大丈夫か?」
「うん少し怖かったですけど…ありがとう。」
そういって少し微笑む佐久耶は西に傾いた太陽の光を浴びて絵になっていたし、
ずっと見ていたかったが、意を決して一日考えてきた結論を佐久耶に話すことにした。

「やっぱり恋人はやめにしないか?」
「八代君も…私のことを嫌いになりましたか?当たり前ですよね…」
 佐久耶は悲しそうに少し眼をふせ、力なく呟く。

「俺は佐久耶を嫌いになどはならない。だが、佐久耶は俺のことが好きじゃないんだろ?」
「はい…でも、いつか好きになれるかもしれませんし…。」
「付き合って三ヶ月、俺なりに努力したつもりだ。だが、変っていない。これ以上
 変らないのなら、俺の存在は佐久耶にとって害にしかならない。」
「そんなこと…八代君のお陰でかなり助かってます。」
「友達という関係で行こう。それ以上の関係は佐久耶へのいらん敵意を増やすだけだ。」
 そう…相手が好きでないとわかっていながら付き合おうと考えた俺がまずかったんだ。
結局、大勢を傷つけただけに終わってしまった。しかし、佐久耶は涙を浮かべながら真剣に叫ぶ。

「他の人なんてどうでもいいじゃありませんか。他の人からどう思われるかで
 考えるなんてそんなの間違ってます!」
「佐久耶と初めて話した日に、佐久耶には普通の高校生活を送ってもらいたいと
 思っていたんだ。俺がいるとそれが出来なくなる。」
「いいんです…。八代君がいてくれたら…八代君だけで…八代君さえいてくれれば…。」
「友達に戻っても、今までどおりできる。」
 佐久耶が俺の手を両手で掴んだ。その両手から彼女の震えが伝わってくる。だが、
彼女は震えながらも泣きながらもしっかりと手をその両手を握る。

「お願いします…。私も…私も怖いけど…努力しますから…お願いですから私を捨てないで!!」
「………だめだ。一度恋人としては離れたほうがお互いのためだ。友人としては今までどおりだから
 心配するな。佐久耶を捨てるわけじゃない。今日は帰る。また明日な。」
 俺は心を鬼にして彼女の手を引き剥がし、久しぶりに一人で家への帰途に着いた。
 慣れていたはずの孤独からの寂しさと心の痛みが胸に刺さっていた俺は一志と菖蒲に
電話し、二人のために晩御飯を振舞った。
 次の日から佐久耶との関係がどうなるのか、このときは想像もできなかった。


387:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/05/31 21:26:51 g9djrSXk
投下終了です。

388:名無しさん@ピンキー
07/05/31 21:48:02 r0X77rlM
この女救いようがねぇえGJ!

何かヤンデレとか言うものの臭いがしてきたように感じたが・・・。
もうね。
主人公が可哀想で可哀想で。
菖蒲ちゃん可愛くて可愛くて。

大団円でなくても、それなりのハッピーエンドになることを願う。

職人◆x/Dvsm4nBI 氏に感謝。

389:名無しさん@ピンキー
07/05/31 22:00:31 10dM4bTf
相変わらずGJ!!

390:名無しさん@ピンキー
07/05/31 22:13:47 lvyq93XX
投下しまーす(´・ω・`)初SSで駄作の上途中ですが。




4月。俺はこの高校にきて3年になる。進学校で、前にいた就職8割の高校より張り合いも出るし、教えていて楽しい。忙しい。とにかく忙しい。その所為か、妻もいなければ彼女もいない。職場恋愛は、、、無いな。平均年齢が高すぎだ。
でも最近ちょっと楽しいことができた。ちょうど灰色の大地に春風が吹き始めたかのように、、、いや、そんないいものじゃないな。
こうやって掃除を見てると――
「山本先生ー!!」
――ほら、来た。
俺は頬の筋肉がゆるむのを抑えながら振り向いた。
「お前、掃除行けよ」
「もう終わらせましたー!先生に早く会いたくって。」
「……ったく、毎日毎日……」
そうは言うが、正直ここまで慕ってくれるのは嬉しい。それを言ってやれば喜ぶだろうか?いや、俺の性に合わないな。
「お前、勉強はちゃんとしてるのか?」
「う、、、数学わかりません。」
「俺が去年教えてやったところがわからないとか、まさか言わないよな?」
「そんなこと言いませんよ!先生の数学わかりやすいですから。何で学年上がってきてくれなかったんですか?」

正直それは俺にもわからない。去年入学してきたこいつらを1年間見て、一緒に2年もやっていきたいと思っていた。残念だが校長や学年主任の決めたことだ。
「…俺に聞くなよ。俺だって悲しいんだから。」
それだけ言って、この空気に耐えられなかった俺は担当のクラスに向かった。淋しそうな顔をして立ち尽くす夏目を残して。


391:名無しさん@ピンキー
07/06/01 01:33:42 oyEk/MwX
狂犬と少女、いつも楽しく読ませて貰ってます。
今回も凄く楽しかったです、風邪には気をつけて無理しないでね。
携帯から失礼しましたm(..)m

392:名無しさん@ピンキー
07/06/01 05:43:38 jLUQ75Zf
狂犬と少女
えー更新

いや『GJ』だと終わった感があるし『続きだわぁい』は作品にあわないな。


断崖絶壁から真綿の命綱をクビにぶらーんな感じがたまらねー

393:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/01 20:00:58 fQQHEu3O
今日も投下します。
次は少し時間がかかると思います。

394:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/01 20:02:16 fQQHEu3O
「八代おはよ。今日もいい天気だね。」
「おはよう。今日は雨だ。」
 朝、電車から降りると菖蒲が後ろから挨拶してきた。振り向くと知らない女が
そこには立っていた。

「………菖蒲か。随分と変装したな。」
「お洒落っていってよね。さて、恋人もいないそうだし今日はお供してもいいよね。」
「ああ。そうだな。」
 駅の階段を歩きながら菖蒲を眺める。いつもの長い三つ編みは解いてストレートにし、
やぼったい眼鏡はコンタクトにしたのかつけていない。眼は相変わらずの活力に輝き、
以前の地味な印象は全くない。

「本当に驚いた。急にどうしたんだ?」
「え……似合ってない?」
「いや…明日からラブレターの処理が大変だろうというくらいに似合ってる。」
「ほんとっ!よかったー。でもラブレターは一枚だけでいいんだけどね。」
 そういっていたずらっぽく微笑んだ。笑うと他人を元気にさせるような雰囲気に
してくれるところは変わってない。冗談を言い合いながら駅を出るとそこには
思いがけない人がいた。黒い綺麗な長い髪の美しい人…昨日別れたはずの恋人…

「おはようございます、八代君。菖蒲さん。」
 俺は戸惑った。朝に佐久耶と同じ時間帯の電車になることはあっても先に来て
待っているというのは今までにはなかったからだ。その彼女は曇りのない上品な
笑顔を浮かべながら頭を下げた。

「おはよう、佐久耶。でもあんた昨日八代と別れたんでしょう。今更何か用?」
 菖蒲が動揺する俺に代わって笑顔で返す。だが、眼は笑ってない。佐久耶は
それに対してはいささかも動じず、

「朝、一緒に登校するのは付き合ってる恋人でしたらそれ程おかしいことでは
 ないと思いますが…行きましょう八代君。菖蒲さん。失礼します。」
「あ、おい!」
 そういって俺の腕に自分の腕を絡ませて歩き出した。振りほどくのは簡単だったが、
彼女の腕は小刻みに震えており、そんな彼女を理解できず成すがままになってしまった。
 去り際に最後に見た菖蒲の眼には強い決意の光があった。


395:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/01 20:03:50 fQQHEu3O
 私は駅で八代と佐久耶を見送りながら、改めて佐久耶と戦う決心をした。
 ただの嫉妬かもしれないけど、相手は友人としか思っていないかもしれないけど、
それでも自分の好きな人が不幸の泥沼に沈むのをほうっておきたくはなかった。

 私は学校へと急ぎ、同じクラスの一志と相談することにした。彼のことは噂しか
知らないときはただの女たらしと嫌っていたけど、友人として付き合う分には頼りになるし
誠実な人柄だった。昨日も放課後女と会うとかいっていたにも関わらず、八代に呼ばれて
すぐに来たのは少し変だと思ったからだろう。
 私は彼に朝の出来事を話し、感想を求めた。

「なるほどな。そうは簡単にはいかないとは思っていたが…。」
「一志はどう思う?」
「ほっとくとハチは一生あいつを抱える羽目になるな。」
「八代が彼女を完全に見捨てるってことはやっぱりない?」
 一志は笑って肩をすくめた。

「絶対無い。わかってていってんだろ?」
「うん…八代は困った人をほっておける性格じゃないしね…」
 彼はうって変って真剣になり、私を見つめ衝撃的なことを話し始めた。

「これから言うことは他言無用だ。あいつにも。いいか?」
「うん?何かわからないけど話すなというなら。」
「あいつが人を助けるのは性格だからじゃない。強迫観念に近い。なんで狂犬と
呼ばれていたと思ってるんだ。心当たりはあるだろ?」
「え…。」
「あいつは母親に裏切られてるからな。理由は違うが俺と同じで。」
「じゃあ…。」
「ハチは生真面目な男だ。だから、そんな人間にはなりたくないと思っていた。
 交際は広くは持たず、交際した人間には誠実だ。女嫌いでもあったから、あいつが
 好きな人ができたって聞いたときは驚いたさ。」
「一志がとっかえひっかえしてるのは女嫌いだからなのね。」
「さてね。」
 私は少し考えた。努力の理由、そして、報われなくとも続ける理由。そもそも、
八代は相手に期待していないのかもしれない。だけど…

「やっぱり、佐久耶との関係はこのままにはしたくないわ。私を好きになって
 貰えないとしても、友達としてもほっておきたくない。」
「そうだな。人の色恋沙汰に首を突っ込むのは性にはあわないが、融通の利かない
 我らが友人のために骨を折るとするか。しかし、女はやはり怖いな。」
「あんまり舐めてると後ろから刺されるわよ?」
「やれやれ…大分わかってきたと思っていたが理解不能な女が身近に二人もいるからなあ。」
 彼は困ったように苦笑いしていった。話も終わったので席に戻ろうとした私に
一志は忘れてたことを思い出したと笑っていった。

「その格好のほうがいつもより美人だぜ。いつものもいかにも委員長って感じでいいがな。」
「そ。ありがと。一志が私を褒めるなんて…ああ、だから今日雨なのかな?」
 私も笑い返して軽く流した。

396:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/01 20:04:44 fQQHEu3O
 結局その日は一日、佐久耶は俺に必要以上に触れてきた。それは今までのことを
考えると異常だし、不思議だった。おかげで周りの空気は昨日よりさらに悪化し、
さらに、彼女自身触れることを嫌がっているようなことも悩みになっていた。

「佐久耶。何を考えている?」
「恋人なのですから、これくらい普通ですよ。」
 放課後雨の中、駅までの道を二人で歩いていた。一人で帰ろうとしたがついてきたのだ。
 彼女は笑顔でそういうがその何も悪意のないその笑みに俺は少し違和感を覚えた。

「昨日、恋人ではなく友達に戻そうといったはずなんだが…。」
「私は…努力するって決めたんです…。好きになるように…好きになってもらえる
 ようにって…。」
「怖いんだろう。嫌ならやめといたほうがいい。」
「確かに怖いです。だけど…嫌なわけじゃないんです!」
 佐久耶はまるでそれが義務であるかのように俺の腕を掴んだ。だがやはり、無理は
しているようで嬉しさよりは困惑しか感じなかった。

「無理はするな。手を離すんだ。」
「嫌です。私は八代君の近くにいたいんです。」
 今日の学校での周囲の状態、昨日のことを思うと俺もとめることの出来ない最悪の
事態に陥ることに今のままではなりそうであって、そのためには何とかして関係を
変えなければならなかった。どういえば納得してくれるのか…。

「俺はもう佐久耶のことが好きなわけではない。お互い好きじゃない以上、
 無駄な努力だ。もういいだろう。やめてくれ。」
「八代君が好きでいてくれたとき私は好きでなかったけれども付き合うことが出来ました。
 私は今八代君のことが好きですから付き合うことは出来るはずです。」
 彼女の顔は真剣で、その美しい顔で俺を見上げている。嘘をついている雰囲気はない。
 この手だけは使いたくはなかったが…。俺は意を決して言った。

「俺は他に好きな女が出来た。だから一緒にいられると迷惑だ。」
「……嘘です……。八代君は私を…私だけを…そして私も…」
「人の心は変わるものだ。俺はもう友人としか見れない。」
 俺は彼女の手を離し、一人で駅のホームへと歩いた。彼女は暫く俯いていたが
俺の後ろをゆっくり歩いて付いてきていた。


397:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/01 20:05:27 fQQHEu3O
「おはよう八代。今日はいい天気だね。」
「またそれか…おはよう、菖蒲。今日は晴れたな。」
 電車から降りると昨日と同じように菖蒲がいた。イメージチェンジをした彼女は
目立つのかちらちらと視線がこちらに向いている。
 駅から出ると予想通り佐久耶がいた。

「おはようございます。八代君、菖蒲さん。」
「おはよう。佐久耶。急ぐからまたな。」
 眼を合わせず、挨拶だけをして彼女の前を通り過ぎた。後ろから付いてきているの
はわかっていたが、見ないようにして菖蒲と並んで歩く。

「ねえ、いいの?」
「何がだ?」
「佐久耶ほっといて。」
「そうしないと駄目だ。佐久耶の立場がますます悪くなって危険になる。」
「そっか…。色々大変だね。」
「自業自得だ。俺の責任だからな。」
 菖蒲は困ったような笑みを浮かべていった。

「他の人と付き合えばいいじゃない。そしたら流石に離れるでしょ?」
 俺は何も言わずに苦笑して首を横に振った。惚れた弱みもあるし、他の人と
付き合うと彼女を見捨てることになる。
 一番いいのは俺を見限って自立し、一人で溶け込むことだろうがそれが出来るとも
思えず、正直手詰まりを感じている。自分自身どうしたいのかも判然としない。
 結局この後は菖蒲とも何も話さずにただ学校へと向かった。
 この日の昼、彼女は珍しく用事があるからと一人でクラスを出て行った。


398:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/01 20:06:51 fQQHEu3O
投下終了です。

399:名無しさん@ピンキー
07/06/01 20:18:12 CEt5SyDT
乙、続きwktk


400:名無しさん@ピンキー
07/06/01 22:37:35 UsFIi6vV
あー、なんかこの佐久耶って女、知り合いにそっくりでむかつくわww
リスカ女なんだがなwwwww

401:名無しさん@ピンキー
07/06/02 00:31:25 4gewqmff
このスレでこの傾向の作品が見られるとは・・・GJ!

402:名無しさん@ピンキー
07/06/02 03:50:03 5wops/Ra
なんかヤンデリズム感じた。GJ!

403:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 10:56:05 z966MeLB
続き投下します。

404:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 10:56:47 z966MeLB
 私は八代君に今日のお昼は用事があることを告げて隣の教室へと行くことにしました。
 彼と食べる食事の時間は私にとっては大事なひと時なのですが、今日ばかりは私と
彼の時間を続けるために使う必要がありました。
 教室に入ると何やらざわめきましたが、気にせず目的の人を探します。丁度
お一人のようで助かりました。

「今日は、菖蒲さん。」
「佐久耶…珍しいわね。何か用?」
 私は彼女の前に座り、話しかけます。彼女は驚いたような顔をしてこちらを向きました。

「実は菖蒲さんにお願いがあるのですが。」
「ふーん。何かしら。」
「八代君に近づかないで頂けないでしょうか。」
 そう…きっと八代君に元気がないのはこの人が私たちに余計なちょっかいをかけている
からに違いない。彼女は未だに知らない振りをしています。私が何も知らないとでも
思っているのでしょうか。

「言ってる意味がわからないんだけど…。」
「私は彼とお付き合いさせていただいているので、彼を惑わすようなことを
 しないで欲しいんです。」
「わけわからないこといわないで欲しいわね。まず、彼は恋人はいないって言ってるわ。」
「そんなことはありません。今は少しお互いが誤解してるだけで、恋人同士です。」
 そう、お互いが誤解をしているだけです。私は彼が好きになってきているのですから
少し努力すれば元に戻るのです。

「…愛想をつかされたんじゃないの?」
「そんなことはありません。あの後、私が危ないときに助けてくださいましたし。」
「そもそも付き合ってたの?佐久耶は八代の家にすら行った事無いでしょう。私は
 一志と一緒に食事に呼ばれたり出かけたりしてるわ。まだ、私のほうが近いんじゃない?」
「それはこれから解決していけばいいんです。男の人が怖くて今まで努力を
 してこなかったから…克服すれば上手く行くんです。」
 私たちが上手くいっていないときに菖蒲さんは入ってきました。髪形を変えたり
おしゃれになったのは八代君に近づくために違いありません。でも、そんなことは
許しません。彼は私と一緒にいるのですから。彼女は少し怒ったような感じに
なってきていますが、ここで負けるわけにはいきません。

「八代は迷惑しているわ。佐久耶が近くにいる限り、彼は休まらないのよ。
 本当に好きなら身を引くべきじゃないの?」
「それは菖蒲さんが彼のことが好きだからでしょう。彼を盗りたいから言っているんでしょう。
 八代君はほかに好きな人がいるとか嘘をついてまで私から離れようとしています。
 菖蒲さんが彼を誘惑して悩ませているんでしょう。あなたこそ迷惑じゃないですか。」
 次の瞬間、頬に強い衝撃を受けました。周りの人たちも何事かとこちらを向いています。
 私はそれでも彼女から目を離しませんでした。

「佐久耶。あんたは本当にどうしょうもないわね。本当にほかに好きな人がいるかも
 しれないでしょう。いつまでも八代に縋ってるんじゃないわよ。」
「私には彼が必要なんです。だからどんなことがあろうと菖蒲さんにはお渡しできません。
 別れるつもりもありません。話はそれだけですので失礼しますね。」
 言うことをいった私は教室に戻りました。例え本当に八代君が菖蒲さんを好きになった
としても渡せないのです。私は一人に戻ることは絶対に嫌なのですから。


405:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 10:57:38 z966MeLB
 放課後、俺は屋上で人を待っている。待ちながら考えることは後悔ばかりだ。あの時、余計な
気を回さなければ俺の親友はあそこまで精神をすり減らすことはなかったかもしれない。
 後悔先に立たずとはよく言ったもんだ。
 今からやることが上手くいっても失敗してもハチは傷つくだろう。

 俺は女は嫌いだ。これから会うのは女の中でも一番嫌いなタイプだ。他人に寄生して
自分は何もしない。さらに厄介なことにこいつは宿主を共倒れさせる宿り木だ。例えどうなろうとも
宿主たる親友のために、俺は泥をかぶることに決めた。
 携帯電話を弄りながら待つこと五分。屋上の扉が開いた。現れたのは長い黒髪の…
恐らく学年で一番であろう美人。一度振った相手だ。

「よう、待ってたぜ。神城さん。」
「犬飼君…だったんですか…。」
 朝、俺は彼女の下駄箱にラブレターを入れておいた。昔と反対に。彼女は驚いて
俺を見つめている。

「こうやって二人で会うのは三ヶ月ぶりってとこか。」
「はい。そうですね…。あの時は犬飼君が八代君の親友だなんて知りませんでした。
 …犬飼君が怒ったのも無理ないですね。」
「まあな。今では少し後悔している。」
 一応、嘘ではない。もう少しよく人柄を知っていれば無用の努力と心労を掛けずに
こいつを排除できたんだ。

「それで…何か御用ですか?」
「ああ。前に断っておいてなんだが…俺と付き合って欲しい。」
 そこまで言って相手の返答を待つ。自分からこういうことを言ったのは初めてだ。
 望んだものでもないが、二度も経験のないことをさせられるとは…。

「犬飼君にはたくさん彼女がいらっしゃいますし、私は必要ないでしょう。」
「ほー、そういうことも知ったわけだ。」
「……八代君に聞いたわけではありませんよ?」
「ああ。わかってる。でもって、そいつらとは全員別れた。」
 彼女は強い風に髪をなびかせながら少し考えていった。

「昔……助けていただいたお陰で私は犬飼君が好きになりました。ですが、今の私は
 八代君の恋人です。申し出を受けるわけにはいきません。」
「あいつはお前さんをただの友達だって言ってたぜ?」
「それはただの誤解です。では、お話がそれだけでしたら失礼します。」
 そういい残して彼女は去っていった。失敗したか…面倒だがまあいい。
 後は任せるとしよう。だが、あいつも苦しめるようにならないとは限らないな…。
あまり明るい未来といえない考えに苦笑しつつ、俺は携帯電話を取り出した。

「全く女ってのは怖いぜ。」


406:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 10:58:42 z966MeLB
 放課後、佐久耶が屋上に向かったのを確認した私は八代に会うために教室を
訪れていた。掃除の当番だったこともあってか、教室にはもう誰もいない。

「八代…帰らないの?」
「ああ。一志が後で話があるから少し残ってくれってさ。」
「そう…じゃ、私も待っててもいいよね?」
「どうぞ。暇だし助かる。」
 予定通りだ。一志は私の味方についてくれた。後は私の努力次第だ。

「こうやって二人になるのも久しぶりだよね。いつも佐久耶か一志が一緒だったし。」
「それは…」
「私を…避けてた?」
 八代は明後日の方向を向く。それで勇気が出る。完全に友達としてみているわけでは
ないとわかるから。

「そんなわけじゃないさ。たまたまだ。」
「じゃあ、私はだいぶ運が悪かったんだね。」
「うん?」
「だってずっと二人きりになりたかったんだもの。」
 放課後の静かな教室に、遠くで運動クラブが上げる歓声だけが響く。

「こないだの佐久耶の事故の日だけじゃなく、毎日同じ電車に乗ってたし。」
「そうか…気づかなかったな。」
 ポケットでマナーモードにしてある携帯電話が鳴る。時間を会話と別の頭で数え始める。

「私さ。八代が佐久耶と別れるっていったときよかったと思ったんだ。二人には悪いけど。
 二人が付き合っても、二人とも疲れ果てて傷つくだけだと思ってたから。」
「そうかもな…。だけど…それでも…」
 その先は言わせない。もう少しだ。私はゆっくりと八代に近づいていく。

「私を好きになってとは言わない。そうなれば嬉しいけど。でも、私は八代がまだ好きだから
 二人がただの友達だというなら、私は八代が振り向くような女になって捕まえたいの。」
「菖蒲…お前何を!!!………っん!!!」
 八代が教室の扉に背を向けるように移動し、首に手を回して彼の唇を強引に奪う。
柔らかくて暖かい唇の感触といいようの無い幸福感が私を満たす。

 そして、教室の扉が開かれた。扉の前には口を手で押さえて驚きで顔を蒼白にして
立ちすくむ佐久耶の姿があった。


407:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 10:59:53 z966MeLB
「う、嘘……」

 不意をつかれてキスをされ、混乱した頭を現実に引き戻したのは佐久耶の泣きそうな声だった。
慌てて菖蒲を引き離す。菖蒲は今までに見たことのない男を魅惑するような眼で
俺を見つめている。やがて、少し離れて彼女は佐久耶と向き合った。

「佐久耶…これでわかったでしょう。あなたはもう八代の恋人じゃないの。」
「そんな…そんなはずが…」
「八代は別に好きな人がいるっていったんでしょ?」
 うろたえる佐久耶を菖蒲は射抜くような目で見つめている。
このままではまずいと思った俺は説明するために前に出ようとしたが、
菖蒲に手で制止された。

「あんたは自分の都合で八代を利用したのよ。自業自得でしょう。誰が自分を好きでもない
 利用するだけの人を好きになるの?」
「貴女に私たちの何がわかるっていうんですか。」
「そんなのは知らないわ。わかるのは八代が佐久耶から離れようとしていることと
 あんたと一緒にいる限り、八代が苦労するってことだけよ。それに…
 心が私に向いてるならあんたから救うのは当然でしょう。見たんでしょ。
 さっき八代が私に熱いキスをしてくれたの。」
「やめて!」
 佐久耶はその綺麗な顔を怒りにゆがめて菖蒲の頬を張った。彼女は内向的で基本的に
臆病だ。そんな佐久耶が怒りを浮かべて菖蒲を睨んでいる。

「二人とももういい。やめろ!」
「八代君…」
「俺は暫く誰とも付き合わない。キスは事故だ。」
 俺はそれだけ言うと何かいいたそうにしている佐久耶を振り切って鞄を持って外にでると、
一志が待っていた。

「よ、ハチ。もてる男は大変だな。」
「見てたのなら止めろ。」
「さすがにこれで距離は開くだろう。強引だが。さてどうなるやら。」
 俺はその言葉に何も言い返すことができなかった。ほっとした気分と少し
照れくさい気分、辛い気分などごちゃまぜな気持ちにさいなまされながらも、
菖蒲とキスをした唇を無意識に撫でていた。


408:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/03 11:02:16 z966MeLB
投下終了です。
次からはまた主人公中心になると思います。

SS書くのも好きですが読むのはもっと好きなので
他の方のSSで依存パワーを充電したいです。

409:名無しさん@ピンキー
07/06/03 15:26:38 TxDgBOJ3
うおおお!GJ!!

410:名無しさん@ピンキー
07/06/03 15:45:39 rOuwsfeX
保守

411:名無しさん@ピンキー
07/06/03 17:25:54 RUMmLojY
あーもーさくや死ねwwwwwwwwwwwwwww

412:名無しさん@ピンキー
07/06/03 17:50:29 xbJSfAC3
ジコチューではあるけど、一応筋は通してるジャマイカ

413:名無しさん@ピンキー
07/06/03 20:46:49 YKVYEgH0
更新お疲れ様ですw
今回も面白かったです^^
小学校の作文で先生に、才能ないと断言された人間で良いなら書いて良いですか?(`・ω・´)

414:名無しさん@ピンキー
07/06/03 21:26:11 vB89s8ba
先生「おk」

415:名無しさん@ピンキー
07/06/03 21:37:01 YKVYEgH0
後押ししてくれた方ありです^^
人生で初めての書き物なので稚拙な文になるかもしれませんが、ご容赦下さい(´・ω・`)

416:名無しさん@ピンキー
07/06/03 22:47:55 YKVYEgH0
僕、霧沢優人は雨が嫌いだ。
いつから、どういう理由で嫌いなのかは自分でも分からない。
きっと本能的に嫌いなんだと思う。
雨の日は気分が重く憂鬱な気分になり、それは溜め息になる。
「はぁ・・・。」
購買で買ってきたパンをかじりながら思わず溜め息をつく。ふと、窓を見ると外の景色は暗くどんよりとしていて。
窓ガラスを無数の雨が叩いては流れていく。
「さっきの溜め息は美里の知る限り38回目ですねぇ」
無邪気に笑いながら無駄な努力をする、この子の名前は百合川美里ちゃん。
緑色のリボンが1年生だということを示している。
肩まで揃えた髪はうっすらと茶色がかかり、良く動く瞳と相まって辺りを和やかな雰囲気にさせてくれる。
美里ちゃんは1年生でもマスコット的な存在で可愛がられてるらしい。
どうして1年生の女の子がここで食事をしているかというと・・・。
「美里、バカの相手は止めなさい。うつるわよ?」
「うつるはずないだろ・・・」
極めて失礼なこのお方の名前は百合川雪乃。
美里ちゃんとは反対に髪は長く、大きな瞳はつり上がっていて。
その絶対的な美貌は1度見たら2度と忘れる事は出来ないと思う。
どうすれば、姉妹でこんなに性格が異なるのか興味をそそられるが、学校でも有名な仲良し姉妹だというから驚きだ。

417:名無しさん@ピンキー
07/06/04 00:24:20 gHQZ84M0
「そうかもしれないわね・・・でも」
そこで、そっと間を置くと瞳を伏せて小さく呟く。
「少なくとも、その溜め息は人に憂鬱な気分をうつすのじゃないかしら・・・」
雪乃が言うことも最もだと思う、だけどこれだけは仕方ない。
気まずい雰囲気を察したのか美里ちゃんが、慌てて口を開く。
「違うんだよ、優人兄さん!お姉ちゃんは溜め息をつく優人兄さんが心配なだけであって!」
ずいっと美里ちゃんが僕に近寄ってくる。
「大丈夫だよ、美里ちゃん。雪乃とは長い付き合いだしね」
未だに心配な顔な美里ちゃんに出来るだけ、優しく微笑むと同時に雪乃の頭を撫でる。
「雪乃、心配してくれてありがとう」
「ん・・・。」
瞳を閉じると気持ち良さそうになすがままになっている。
何度か撫でた後に手を離そうとしたら、強い視線を感じた。その強い視線の先には・・・。
「美里もお願いしますっ!」
結局、昼休みは頭を撫でるのに時間を使うことになってしまったのだった。

418:名無しさん@ピンキー
07/06/04 00:54:38 gHQZ84M0
短いですが、投下終了です。
ぶっつけで書いたので構成が・・・。
ヒロイン(?)は妹の予定ですw

419:名無しさん@ピンキー
07/06/04 09:03:23 itvFtM5T
ホントに短けーw
短いけど癒された

GJ!

420:名無しさん@ピンキー
07/06/04 11:57:25 7IxtQdCN
短すぎてどうレスしたものか悩む。
だが、悪くない。

421:名無しさん@ピンキー
07/06/04 13:14:56 gHQZ84M0
続き投下します。
今回は長めにいきますので、お付き合い下さいφ(.. )

422:名無しさん@ピンキー
07/06/04 14:13:15 gHQZ84M0
放課後。
昼間はあれ程強かった雨足は弱まりを見せて、今では小雨に変じている。
今日一日の授業を終えた教室では、それぞれの放課後を楽しむ為活気に溢れそれは僕にも例外ではない。
明日の授業で使う勉強道具を机に残し、軽くなったカバンを持って教室を出る準備をしていると近寄ってきた雪乃に声をかけられた。
「優人、梨華ちゃんの具合はどうなの?」
僕には妹が一人いる、僕より歳が1つ下で美里ちゃんと同学年だがクラスは違う。
生まれつき体が弱く、今まで何度も夜中に高熱を出しては僕が面倒を見てきた。
僕の家には母親はいない、父さんの話しによれば僕がまだ幼いときに交通事故で亡くなったらしい。
母さんが亡くなってから父さんは再婚もせずに男手一つで僕らを育ててくれたのだ。
父さんも母さんを失ってつらい筈なのに病弱な梨華と僕を、一つの弱音を吐かずに世話をしてくれた事に感謝している、それは。
子供心に父親に対する尊敬を抱かせるのは充分だったと思う。
僕はまず何が一番父さんの助けになるかを考えた、その結果が梨華の面倒を見ること。
小学生の時は友達と遊びたいのを我慢して梨華の面倒をみてきた。
その成果もあってか梨華は少しずつ体が丈夫になっているのは僕にとっても嬉しい事態だと言えるだろう。
「大丈夫、風邪だし微熱だから明日には学校来れるかな。」
それを聞いて安心したのか雪乃は少しだけ微笑む。
美里ちゃんと違い雪乃には感情の揺れがない。
笑っても本当に付き合いが長い人にしか分からず、多くの人は無愛想だと取るだろう。
雪乃に男の話が出てこないのはそれが一番の要因ではないだろうか?
「美里と一緒にお見舞いに行って良いかしら?」
梨華もきっと寂しいだろうから、雪乃と美里ちゃんに来て貰えたら喜ぶだろう。
「それじゃ、お願いしようかな。夕飯の材料買って帰りたいから5時ぐらいで良い?」
「分かった・・・」
雪乃が小さく頷くのを確認してから。
「それじゃまた後でね」
出口に向かって歩みを開始した。

423:名無しさん@ピンキー
07/06/04 14:34:36 tJxXTVKa
書きながらより書き溜めてからのほうが自分にも相手にも楽だよ

424:名無しさん@ピンキー
07/06/04 15:03:00 7IxtQdCN
話が一段落するまで書き溜めてからまとめて投下しておくれ。

425:名無しさん@ピンキー
07/06/04 15:27:42 tNy1ktF+
面白そうだし、期待しながらコーヒー飲んで待ってる。
がんばれー。

426:名無しさん@ピンキー
07/06/04 15:30:58 gHQZ84M0
学校からの帰りに買って来た少量の荷物を持ちながら、ポケットから家の鍵を取り出して鍵穴に差し込み、軽く回すと金属音が鳴り、ロックが外れる。
「ただいま。」
梨華はきっと寝てると思うので起こさないように小さく呟く。
材料を置くために台所に入ると、材料を仕舞い。
コップで水を一杯飲んでから梨華の部屋に向かう。
梨華の部屋は2階の突き当たり、つまりは僕の部屋の隣に位置する。

コンコン
「梨華、起きてる?」
梨華から返事がない場合そのままにしておこうかとしたが、それは杞憂に終わることになった。
「お、お兄ちゃん!?」
どこか少し慌てる声が部屋越しに響く。
「入って良いかな?」
「どうぞ・・・って!あっ!まだ入ったらダメだよ!」
ドアを開けようとした手が梨華の言葉によって停止する。
「お兄ちゃんごめんなさい、少し待ってね」
その言葉と同時に梨華の部屋から慌ただしい音が聞こえてきた。
「ど、どうぞ」
梨華の了承の合図にドアを開け中にはいるとまず目に飛び込んで来るのは人形の大群。
50は超えるであろう人形達は、綺麗に整えられていて。
ここが女の子の部屋であることを再認識させられた。
「あんまり、じっと部屋見られると恥ずかしいよ」
声のした方へ視線を向かせるとピンクの布団を深く被り、僕をじっと見ている妹と目が合う。
髪は黒髪より茶色の方が強く、さらさらとしていて撫で心地が良いのを僕は知っている。
梨華曰わく、僕がいつでも撫でて良いように髪には特に気を使ってるらしい。
布団から覗く肌は白く、儚げな印象を与えてくる。
正直可愛いと思う。
「梨華、気分はどう?」
「大分良くなったよ、この調子なら明日学校に行けるよ。」
花が咲いたように、にっこり笑いながら楽しそうに僕を見る瞳は、嬉しいからなのか上機嫌だ。
「どれ。」
僕は梨華が寝ていた布団に近寄り、優しく梨華の上半身だけ起こすと。
梨華の前髪を左手で上げて、僕の額と額を合わせる。

427:名無しさん@ピンキー
07/06/04 15:37:04 7IxtQdCN
だからまとめて投下しろと。


428:名無しさん@ピンキー
07/06/04 16:02:05 tNy1ktF+
落ち着いて心を広く気長に待とう。
夜まで待てば終わるだろうから。

まとめての投稿は次回からでもいいじゃないか。


429:名無しさん@ピンキー
07/06/04 16:08:48 gHQZ84M0
額と額を合わせたまま頭の中で3秒カウントする。
「うん、少し熱っぽいけど大丈夫かな」
梨華の方を向くと耳まで真っ赤にしながら、口をパクパクしていた。
「梨華どうしたの?」
「へっ、あ・・・えっと」
「ううん、な、なんでもないよ!」
真っ赤な顔をして腕が引きちぎれそうなぐらい、腕を振り回してる姿はどこか微笑ましい。
「お兄ちゃん、いつも心配かけてごめんね・・・」
申し訳なさそうに僕から視線を外し頭を下げてくる。
「梨華はそんな事気にしなくて良いんだよ。そ、れ、よ、りも風邪直さないとね」
言いながら梨華の額をツンと押すと、梨華は僕を見て頷いた。
「そういえば・・・今日、雪乃と美里ちゃんがお見舞いに来てくれるそうだよ。」
「本当に!楽しみだなぁ」
梨華と美里ちゃんは昔から仲が良く、学校でも二人一緒なのを何度も見かけてる。
だからこそお見舞いに来てくれることを、余計に感謝しなくちゃいけないなぁと思っていると家の呼び出しが鳴り響いた。

430:名無しさん@ピンキー
07/06/04 16:12:34 gHQZ84M0
たくさんの方に不愉快な思いさせてしまってすいませんorz
以上で今回は終了です;;
次回からは纏めて投下するので、今回だけは御容赦を(ノ_・。)

431:名無しさん@ピンキー
07/06/04 16:19:10 7B0cihK3
AAが・・・

432:名無しさん@ピンキー
07/06/04 18:42:22 7IxtQdCN
うむ、面白そうなのでがんばってくれ!

433:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:39:03 tNy1ktF+
>>430
おつかれです。ちょっと癒されました。
頑張ってください。

投下します。長編の長さ自己新。

434:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:40:35 tNy1ktF+
 ここ数日の間、俺は眠れない夜が続いている。特に今日は極め付けだった。
 柔らかい唇の感触が忘れられない…俺も男だ。性欲がないわけではないから仕方が
ないとはいえ、ここまで動揺するのも情けない。
 そうして眠れずにいた真夜中、携帯の音が静かな部屋に鳴り響いた。着信名は
菖蒲となっていた。

「もしもし、八代。こんな時間にごめんね。」
「菖蒲か。何か用か?」
「………すごいね。八代はいつも通りっぽい。」
「そんなわけないだろ。眠れない。」
「ちょっとは気にしてくれたんだ。」
「当たり前だ。」
「私も………思い出すと眠れなくって。八代の声聞きたくてつい。迷惑だった?」
「別に。俺も起きてたし。」
「ごめんね。じゃ、また明日。おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
 携帯を切ると少し考え込んだ。菖蒲のことは嫌いではない。だが恋愛感情となると
今まで佐久耶に感じてきたような、心の底から熱くなるような激しい感情は沸いてこない。
彼女は好いてくれているが…お互いが好きではない以上、付き合えば自分たちのように
不幸になるだけだろう…そう結論付け、無理矢理でも寝ることにした。

 翌朝、俺は普段より早起きし、二本ほど早く電車に乗った。菖蒲とも佐久耶とも
できれば今日は顔をあわせたくなかった…が、

「おはよ…八代。今日は早いんだね。」
「おはよう。…お前こそ早いな。」
「なんとなく目が覚めちゃってね。たまにはいいかなって。」
 トレードマークの三つ編みをやめたストレートの長い髪を揺らして、くすくすと
明るい笑みを浮かべながら菖蒲はこちらを向く。

「それじゃ早速学校へいこーっ!!」
「あ、おい!」
 そして、彼女は俺の腕を掴んで学校までの道を歩き出した。何故、朝早く来るのが
わかったのか。それともいつも早めに待っているのか…わからなかった。


435:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:42:16 tNy1ktF+
「あれー。今日は犬塚君一人なんだね。」
「ああ、佐久耶が休んでるからな。」
 佐久耶は今日、学校を休んでいた。学校へは風邪と連絡を入れていたらしい。
 しかし、昨日のこともある…自分のせいである可能性を思うと胸が痛かった。
 ぼーっとしていた俺にクラスメイトの女子が好奇心に眼を輝かせた目で俺に話しかけてきた。

「そういや、犬塚君聞いた?」
「何を?」
「神城さんが昨日なんか隣のクラスで大暴れしたんだって。」
「……あいつが暴れた?」
 俺は怪訝そうな顔で彼女を見た。暴れる佐久耶をどうしても想像することが
できなかった。怒った姿を昨日は見たが、良くも悪くもマイペース、上品で温和だ。

「ああ、ごめんごめん。言い方がまずかったね。口論したんだって。自分で出向いて。」
「そういや……昼に席をはずしていたな。」
「凄かったらしいよ。いやー犬塚君愛されてるねー。神城さん見直したよ。うん。」
「俺は友達に戻そうと…いったんだが。あんなことがあったし、さすがにな…。」
「ええっ!じゃあどうなってんの?って、犬塚君フリー?私と付き合おうよ。」
「俺は暫く誰とも付き合わない。」
「ちぇー。でもさ、神城さんは許して上げなよ。反省したのか震えながらもべたべた
 しようとしてみたり、別のクラスに怒鳴り込んでみたり…神城さんなりに不器用だけど
 頑張ってるんじゃない?ま…嫌々かもしんないけどさ。」
「あいつは俺が好きなわけじゃないからな。どうしたものか。」
「それでも惚れさせるのが男ってもんでしょ。はいこれ、神城さんの家までの地図。
 私、あの子にはもっと美容とか胸を大きくする方法とか聞きたいんだよね。だから、
 さっさと立ち直らせて。ああ、地図の代金は中間テストの山でいいよ。」
 そういって、彼女は俺に地図を握らせて去っていった。俺は当たり前のことを
失念していた。敵は多いが中立や味方もいるのかもしれない。
 一学期は普通に他の人と話すことも会ったのだから。


436:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:44:08 tNy1ktF+
 話し終えるのを待っていたのか菖蒲がクラスメイトの去った後に笑顔で弁当を
揺らしながら近づいてきた。

「一人でしょ。一緒に屋上でお昼食べよ?」
「いや、ここで食べる。習慣だからな。」
「えー。いいじゃない。」
「場所が変ると喉を通らないんだ。」
 朝のことを思い出すととても今日は二人でいる気になれない。友達としてしか
見れないのなら思わせぶりな態度は取れない。欺瞞かもしれないが。

「お互いファーストキスの相手同士なんだしさ。」
「なっ!!」
 ざわっと周りが騒がしくなる。地図を渡してくれたクラスメイトも驚きの目で
こちらを向いている。菖蒲は…普段どおりに見えるが雰囲気は別人のように思えた。
活発な明るい感じではなく、どこか艶っぽい印象を受ける。

「菖蒲、お前何を…。」
 周りからの視線が突き刺さる。先日、騒ぎを起こしたばかりだ。菖蒲は騒ぎの
当事者でもあるから覚えてる人がいれば誤解だとわかるだろうが…あのときと
菖蒲の姿は大きく変っている。前の地味な雰囲気はかけらもなく、今の彼女は掛け値なしに美人だ。
このままでは客観的には二股を掛けていたとしかみられないだろう。
菖蒲は髪の毛を少しかきあげて笑顔で俺の前の席に座る。

「嘘は言ってないよね。」
「お互いの合意ではないがな。お陰さまでクラスで孤立しそうだ。」
 俺は頭をかいて苦笑してそう言った。文句の一つでも言いたくはあったが、
佐久耶の立場を考えると悪くはないので自重した。

「そのときは私が助けてあげるから心配しないで。」
「俺は元々一人だ。だから大丈夫だ。」
「ううん。私はずっと八代の味方だから。何があっても。一人になっても。」
 俺は薄ら寒い感じがした。ひょっとしたら人を悪い方向に変える力があるのかもしれない。
佐久耶が変ってしまったように。いや、元々こうだったのかもしれないが…。

「何度も言ってるが…」
「言わないで。私は待つから…好きになってくれるまで。今は一緒にお昼食べてくれれば嬉しいの。」
 彼女は俺に最後まで言わせず、食事を始めた。俺も何も言わず食事を再開したが
ここ数日と同じようにあまり味を感じることはできなかった。


437:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:48:36 tNy1ktF+
 放課後も昼とあまり変らなかった。菖蒲は教室に来て俺の腕をとり、周りから
二人に冷たい視線を向けられる。俺は彼女が何を考えているのか図りかねていた。

「じゃあ帰りましょうか。八代。」
「俺は寄り道して帰るつもりだ。」
「私も一緒に行くよ。」
「…わかった。まっすぐ帰る。」
 俺は諦めてため息をついて歩き始めた。暫く二人で歩いていると俺の携帯が
鳴った。名前を見ると佐久耶となっていた。俺は取ろうとしたが…

「佐久耶か。」
「だめっ!!」
 菖蒲は俺の携帯を掴むと強引に携帯の電源を切った。

「だめだよ八代…佐久耶にこれ以上関わっちゃ…。私がずっと一緒にいるから…
 いいじゃないもう…。」
「佐久耶は風邪だった。友人なら心配するだろう。」
「だめっ!そんなんじゃ八代は…ずっとあの子から離れられないよ!私でいいじゃない。
 私なら八代を助けてあげられる。八代がしたいことも全部させてあげるから私を選んでよ!」
 彼女は必死な顔で俺を見つめている。周りの通行人も何事があったのかとこちらを
覗いている。少し言葉を捜して俺は菖蒲の肩を軽く叩いていった。

「そういう問題じゃないんだ。俺は友達と決めた奴は裏切らないんだ。一志も、菖蒲も。」
「八代…なんでそこまで…。」
 俺は携帯を取り出し、佐久耶にリダイヤルした。数回コールをした後、繋がる。

「佐久耶か。さっきはすまない。どうした。」
「ごめん……なさい……動けなくて…家族も…今日帰ってこれなくて……。」
「わかった。すぐ行く。待ってろ。」
「え…でも家……」
「今日相沢に教えてもらった。じゃ、また後で。…菖蒲、すまん…用事だ。また明日な。

 電話を切った後、菖蒲を向くと彼女はうつむいていて表情はわからなかった。
一応声をかけて走り出す。

「……ぜ……いに………ない…」
 菖蒲が何かを呟いていたが意識が他に向いていたのと、急いでいたこともあり
よく聞こえなかったので深く気にはしないでいた。

438:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/04 21:51:04 tNy1ktF+
投下終了です。

439:名無しさん@ピンキー
07/06/04 21:52:05 8YJ44yS5
張り詰めた空気がGJ。こりゃそのうち死者が出かねないなぁ…

440:名無しさん@ピンキー
07/06/04 23:06:33 kOMojAso
>>437
おもしろいから更新楽しみにしてる。
ただ頼むからヤンデレにだけはしないでくれ。切に切に・・・

441:名無しさん@ピンキー
07/06/05 09:20:15 omXOKFcF
定義が辛いな、精神を"病む"愛情(デレ)がヤンデレ、
依存する+αなスレ、エロ推奨

荒淫などにふける肉の依存ならともかく
依存なら心は病んでいるからすでに…

440君がなにを言っているのかわからないよ……

442:名無しさん@ピンキー
07/06/05 15:30:57 /5bEvwnd
俺ヤンキーがデレデレでヤンデレかと思ってた

443:名無しさん@ピンキー
07/06/05 16:38:36 omXOKFcF
ヤンキーはギザギザハートなのでツンツンのツンデレ

444:名無しさん@ピンキー
07/06/05 17:12:00 aEElGM+J
ちっちゃな頃から悪ガキで
15でキモウトと呼ばれたよ

445:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:24:41 ScxitT4q
キモウトスレに帰るのはいつの日か。
なんだか永住しそうな勢いです。

昨日は一気に書き進めていたので誤字を確認しつつ投下。

446:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:27:30 ScxitT4q
 佐久耶の家は俺の住む場所と高校をはさんで丁度反対の位置に当たる高級住宅街に
あった。山を開いて開発された宅地で、ゆるりとした坂をのぼっていくと、そこに
並んだ大きな家の一軒に神城という名前を見つけた。インターホンを押す。

「すみません…鍵を開けますので入ってきてください…。」
「わかった。」
 中に入ると趣味のよい家の外見に相応しい調度が置かれており、持ち主の趣味の良さが
伺われたが…。違和感を感じて置かれているテーブルなどを指で触ると指に埃がついた。

(生活感が薄い気がするな…。)
「ごめんなさい…。わざわざ来てもらって…」
 後ろから寝巻き姿の佐久耶に声をかけられた。顔色はかなり悪く、風邪を引いて休んだ
というのも嘘ではないようだった。

「困ったときはお互い様だ。友達なら謝るより有難うといって欲しいな。」
「くす…こほっ……ありがとうございます。」
「無理するな…部屋に戻ってろ。台所借りるぞ。」
 俺は料理用に途中で買っておいた食材をキッチンへと運び、おかゆを含めた
軽い料理を作って、佐久耶の部屋へと持っていった。彼女の部屋は他の部屋でも見られる
ような、趣味のいい調度を揃えシックな雰囲気に女の子らしくぬいぐるみや小物で飾っている。
 彼女はそんな部屋のベッドに横たわっていた。

「おまたせ。食べれるか?」
「はい…。」
 俺はスプーンで少しおかゆをすくって彼女の口元へと持っていく。佐久耶は顔を赤くして
首を横に振った。

「あ…え、えっと…その…自分で食べれますから…。」
「ああ、そうか。そうだな。つい癖で。」
「癖…?」
「ああ、一志に妹がいるんだがあいつは妹に料理をまかせっきりでな。親は滅多に
 帰ってこないから妹が風邪を引くと俺が料理を作るわけだ。その妹が俺にそうしろと
 いうもんだから。甘えてたのかもしれないな。」
 うちも一志も境遇は似ている。違うのは妹の有無くらいか…。そう考えてると
佐久耶は首を俯けて少し考えたような仕草をしてから恥ずかしそうにしながらこちらを向いた。


447:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:29:00 ScxitT4q
「あの…もしよろしければ…お願いしてもよろしいでしょうか…。」
「え?」
「…その…駄目ならいいんですけど…。」
 頷いてそっと口元にスプーンを持っていく。小さな口でゆっくりとそれをくわえる。
二口、三口と食べた後、くすくすと可愛らしく笑った。それは初めて見る類の年相応の
表情に思えた。

「八代君。おいしいです。」
「そうか、よかった。」
「他の人に食べさせていただくだけで、凄く幸せな気分になります。犬飼君の妹さんは
 天才かもしれませんね。」
 その言い様に俺も少し笑った。暫く、食事を楽しむ静かな時間が続いた。
やがてそれも終わろうとした頃…。

「八代君、私は八代君に謝らないと。」
「何かしたか?」
「ごめんなさい。本当は今日は着てくださらないと思っていました。」
 佐久耶は申し訳なさそうに俯いた。

「それは謝ることじゃないだろ。」
「うん…でも少しでも疑っちゃったから…。本当に菖蒲さんのことが好きなのかも
 しれないって…だとしたら来てくれるわけないって…」
 佐久耶はその綺麗な顔に涙を浮かべて俺を見つめている。本当にそこまで一人になるのが
怖いのだろうか…。

「生憎俺は好きな人が振り向いてくれないからと、すぐに乗り換えれるほど器用じゃないからな。」
「うんでも…菖蒲さんはしっかりしてますし、美人だし…それに…それに…」
「駄目なんだ。佐久耶が俺のことを好きになれなかったように、俺も菖蒲を
 恋人としては見れないんだ。だから、前の件のことも佐久耶を責める気はない。
 俺は人のことをいえるような奴じゃないからな。」
 彼女は少し安心したように微笑み、顔を一度俺からそらして呟いた。

「気持ちは変るもの…だそうですよ。」
「そうかもしれん。」
 俺は苦笑した。そして、佐久耶はこちらをもう一度真剣な顔をして振り向いた。


448:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:30:06 ScxitT4q
「もう一つ謝りたいことがあるんです。実は…今の学校で会う前から八代君のことは
 知っていたんです。」
「え…俺は覚えがないぞ。」
「ふふ…。八代君らしい…。犬飼君と二人で、数人の男に囲まれていた私を助けて
 くれたんですよ。菖蒲さんと同じです。」
「それで一志を…。」
「はい…。犬飼君は喧嘩していても明るくて…私とは正反対で惹かれたんです。
 八代君は…私…怖かったんです。どこがとは言えませんが…。」
 少しずつ思い出してきた。中学時代、一志と組んでよくそういう喧嘩をしていた。
その時助けたうちの一人だったのだろう。俺はその喧嘩の仕方から狂犬と呼ばれていた…。

「わかるな。俺は喧嘩のときに全く加減ができない…殺してしまいそうなくらいに…。」
「でも、友達になってくださって…実際は全然違って…。そんな八代君に酷いことを…。」
「いいんだ。過ぎたことだし。」
「八代君が一度離れて…菖蒲さんが本気になって…私やっとわかったんです…。どれだけ、
 甘えてたか…努力もせずに…それで、いなくなりそうになったら怒って嫉妬して…。」
 俺はその言葉に少し嬉しさを感じた。何も成長していないようでちゃんと成長していた
のかもしれない。本当に少しずつ。

「佐久耶も努力してたさ。だから相沢も心配したんだろ。友達だから…」
「うん…。私にも…友達…できた…っ……んです…っ…ね……」
 嬉し涙を流す彼女の頭を撫でた。綺麗な髪の感触を心地よく感じながら
嬉しそうな彼女の顔を見る。

「そろそろ寝ろ。他にして欲しいことはあるか?」
「頑張ろうって決めてすぐ甘えるみたいだけど……寝るまで手を握ってください…。」
「怖くないのか?」
「少し………でも、それよりもっと安心できますから……。」
 俺は彼女が寝付くまでそのまま手を握り、寝付いたのを確認した後、今日の授業の
ノートのコピーをおき、一番上に何かあったらすぐ連絡するように書置きして食器を洗ってから
家を辞去した。
 気になることはいくつもある。彼女の両親は何をしているのか。使用されている雰囲気のない
家具の数々。生活感のない空間…。だけど、それは追々解決していけばいいと思えた。
 久しぶりに前向きな気分になった佐久耶の家からの帰りの道は夜空は澄み切って、
星が綺麗に瞬いていた。


449:狂犬と少女たち  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:31:44 ScxitT4q
 翌日、今までよく眠れなかった反動か起きたときには一時間目に間に合うか
どうかという時間で、急ぐ努力を放棄した俺はいつも通りゆっくり準備して
学校へと向かった。
 電車が駅に着き、降りるとそこには風邪が治ったのか顔色もよくなった佐久耶が
いた。彼女は俺を見つけると嬉しそうに微笑んだ。

「八代君、一緒に学校に行きましょう。」
「これは…随分待たせたな…。風邪はもういいのか?」
「はい。すっかり治りました。いろいろ有難うございました。」
「礼を言うほどじゃない。普通だ。」
「いえ……本当に助かりましたから…。あ、明日日曜日ですよね。もしお暇でしたら
 お礼がしたいので家に遊びに来ませんか?」
「そこまでして貰うほどでは…」
「じゃあ…お礼じゃなく…八代君は料理がお上手ですから…私の料理の採点をして下さい。
 私も女の子ですから男の人に負けたくないんです。」
 俺は苦笑して頷いた。特に断る理由もないし前向きになってきている佐久耶に水を
さしたくもなかった。彼女は楽しそうに…自然に笑ってこちらを見つめている。

「言うようになったな。わかった。」
「有難うございます。楽しみにしていますね。」
 その後、他に学生のいない通学路を二人で並んで歩いた。無理せず、体を30センチだけ
離して。久しぶりに穏やかな朝を迎えられた気がした。


450:名無しさん@ピンキー  ◆x/Dvsm4nBI
07/06/05 17:33:00 ScxitT4q
投下終了です。
もう少し続きます。

いつかifでダークな話も書いてみようかとも…

451:名無しさん@ピンキー
07/06/05 18:09:46 hHRYltAq
GJ!
ご苦労様です。

二人とも今回は良い感じですが、
果たして菖蒲ちゃんなどはどうなるのか。

キモ姉・キモウトスレでもお待ちしておりますので、
暇なときに覗いてやって下さい。

452:名無しさん@ピンキー
07/06/05 20:56:53 ySFxoqz6
GJでした。
佐久耶タンよりも徐々に菖蒲タンが病んできてる…ガクブル

>>442
オマイは俺かw

453:名無しさん@ピンキー
07/06/05 21:52:41 miQePfh/
で、一志君の妹の参戦はいつからですか?

454:名無しさん@ピンキー
07/06/05 22:43:34 NPSsh0PI
続きにwktk

>>442,453
お前は俺かwww

455:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:45:08 kV4MDFSJ
やっとできた・・。
投下します
表現が稚拙なのは見逃して下さいorz

狂犬、毎回楽しみでニヤニヤしなから読んでます^^

456:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:46:41 kV4MDFSJ
「それじゃ、二人案内してくるね。」
梨華のベッド付近で座っていた僕は、二人を呼ぶ為に立ち上がろとした。
だけどそれは思わぬ形で中断する事になる。
「梨華・・・?」
ベッドから上半身だけ起こしていた梨華が僕の制服の裾を掴んでいたから。
「お兄ちゃん、早く帰ってきてね。」
「早くって・・・同じ家の中だよ?」
苦笑混じりに梨華を見ると、梨華は今にも泣き出しそうな雰囲気で僕を見ている。
「だって・・・だって!」
それだけ言うと、梨華は嗚咽をあげながら泣き出した。
彼女の瞳から流れ出た、大粒の雫が頬を伝い布団に染みを作っていく。
「何も泣くことなんか・・・」
未だに涙を流している梨華は泣き顔のまま僕を睨んできた。
そして、普段大人しい梨華からは想像も出来ないぐらいの大声で。
「お兄ちゃんは私の事何も分かってない!!」
「私が今日1日お兄ちゃんに会えなくて寂しかったか、どうして分かってくれないの!!!!?」
そうか・・・確かに一人で過ごすのは寂しいのかもしれない。
でも・・・高校生が風邪で1日休んだからと言ってこれほど、取り乱して良いものだろうか?
少し自問自答してみるが、未だ目の前で泣いてる梨華を見たくない。
僕は立ち上がろうとした体を再びおろすと、優しく梨華の頭を撫で始めた。
「すぐ、戻ってくるから少しだけ我慢していてね。」
やっと納得してくれたのか、梨華は僕の服を放してくれた。
静かな部屋に梨華の嗚咽が響いていたが、それは少しずつおさまり。
結局僕は梨華が泣き止むのを確認してから、部屋を後にした。

457:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:49:33 kV4MDFSJ
お兄ちゃんが部屋から出ていく。
お兄ちゃんが大きな手で私を撫でてくれると、凄く満たされる気分になるのだ。
私はお兄ちゃんを家族ではなく、一人の男性として愛している。
本来ならば、家族に対して思慕の念を抱く事がどんなに醜い感情なのか私でも知っているが。
私はお兄ちゃんに対する思いを捨てるのはできない。
お兄ちゃんが微笑んでくれると、私の心まで暖かくなり。
お兄ちゃんの事を考えるだけで私の心を暖かい火が優しく灯る。
この感情を愛だと言わずに何と表現すれば良いのだろうか?
私にはお兄ちゃんに関して大切な想い出がある。
もうお兄ちゃんは忘れているかも知れないが、私の中では大切な想い出。


私は幼少の頃から病弱で発作を何度も起こしは、お父さんとお兄ちゃんに迷惑をかけてきました。
発作が起こると大抵は2日か3日でおさまるのだが。
中学校に入って間もない時期に私を大きな発作を引き起こしてしまった。
熱が高く、まともに息さえ出来ず。
失神を起こしては、起きて苦しみまた失神で眠ると言うのが1週間ほど続いたある日。
私が起きて辺りを見るとお兄ちゃんが私の手を握り締めながら、ベッドにもたれ寝ていました。
お兄ちゃんの目は赤く腫れていて、きっと寝ないで看病してくれたのだと思うと罪悪感が私を苛ます。
私が居なければ、お兄ちゃんは自分の為の時間も持てるし。私はこんな苦しい想いしてまで、生きたくない。
それならば私がするべき選択はただ一つ。

458:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:52:08 kV4MDFSJ
私が起きたのが分かったのか、お兄ちゃんもすぐに目を覚まして目をこすりながら私を見る。
「梨華起きたのか?具合はどう?」
きっとまだ眠たいのだろう、優しい笑みを浮かべながら尋ねるお兄ちゃんの声は欠伸混じりだ。
「大分良くなったよ、ありがとうお兄ちゃん。」
それを聞いて安心したのか、お兄ちゃんの表情が緩む。
「良かった、今すぐお粥もってくるな。」
そう言いつつ、立ち上がろうとするお兄ちゃんを私は引き止めた。
私が決意したことを言うために・・・。
「お兄ちゃん、お願いがあるの・・・」
私をお兄ちゃんの目をはっきり見ながら話す。
「うん?」
「・・・私を殺して下さい。」
その瞬間お兄ちゃんの目が大きく開かれ、部屋に大きな音が鳴り響いく。
頬が灼けるように熱くて、私がお兄ちゃんに叩かれたのだと理解するのに数秒かかった。
昔から私がどんなにイタズラしても、私に決して手を上げる事なく困った顔しながら許してくれたお兄ちゃんにまさか叩かれるとは思わなかった。
叩かれた頬を左手で抑えながら、お兄ちゃんを見ると。
お兄ちゃんは無言で私を見ていた。
「だって、私が居るから!!お父さんもお兄ちゃんも迷惑してるじゃないの!!!」
一度溢れ出した感情は止まる事を知らず、激流のように流れていく。
「それならば、私なんか居ない方が楽じゃない!!」
きっと私は凄い顔で泣いているのだと思う。
それでも涙を止める事は出来なかった。不意にお日様の匂いと暖かい何かが私を包み込む。
それはお兄ちゃんだった。
お兄ちゃんは私を強く、強く抱きしめると。
「梨華を叩いたりしてごめん・・・でもあの言葉だけは許せなかった・・・」
お兄ちゃんの声が震えている・・・。
いつも、笑顔を絶やす事なく優しかったお兄ちゃん。
そんな人が私の為を思い、悲しみの涙を流してくれている?
「父さんも僕も梨華を邪魔だとか、そう思った事なんか一度もないよ・・」
私の肩が湿って、やがて濡れていく。
ああ、これはこの人の優しさなのだろう。
「僕の気持ちが分かった上でまだ、死にたいと言うのなら」
お兄ちゃんはそこで一度止めると、鼻を啜り続ける。
「僕が梨華を殺して、僕も後を追うよ。梨華が居ない日常なんて考えられないから・・・」

459:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:53:14 kV4MDFSJ
私はどんなに愚かな人間なのだろう・・・。
こんなに私の事を大切にしてくれる人達を裏切るような事言うなんて・・・。
「お兄ちゃん、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい」
私はただ謝る事しか出来なくて、お兄ちゃんに抱きしめられたままずっと泣き続けていた。

460:名無しさん@ピンキー
07/06/06 01:56:40 kV4MDFSJ
以上で今回の分は終了です
お付き合いくださりありがとうございます。
続きは明日のこの時間ぐらいに投下します。

461:名無しさん@ピンキー
07/06/06 07:54:15 50spjacb
ああ、「ヒロインは妹」ってこっちの妹のことか。
こういう王道なのもいいな

462:名無しさん@ピンキー
07/06/06 12:18:31 98nwJ4zS
GJ!!
確かに王道、だけどそれがまたよし。

463:名無しさん@ピンキー
07/06/06 18:59:41 1P40Bg4z
皆様に質問。
このスレ的には、

親が借金作って逃げたおかげで借金のカタに堅気じゃない人に掴まり、
あんなことやこんなことをされそうになった少女がお金持ちの子供に助けられ、
肩代わりしてもらった借金の分を働いて返すためメイドをしている、
というのはおkでしょうか?

メイドをやめたりすれば返しきってない借金の残額分をヤの字が取り立てに来るので、
借金肩代わりしてる坊ちゃんなくしては生きられないと、
ある意味経済的には依存しているのですが。

464:名無しさん@ピンキー
07/06/06 19:34:30 YHkhHKjJ
>>463
それなんてハヤテ?

465:名無しさん@ピンキー
07/06/06 19:50:59 1P40Bg4z
言われて気付きましたよw
アレって、男女逆なら見事にここ向きの作品ですね。
中の人ネタはやりすぎですが。

さて。
難産かつ自信のないモノを、
それでも投下するのを人は勇気と言うのか。

466:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
07/06/06 21:43:31 1P40Bg4z
取り敢えず投下しておきますね。

依存モノと言い切れるかは微妙。

467:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:45:20 1P40Bg4z

朝。
日に照らされるお屋敷の廊下を歩き、
立ち並ぶ扉の中でも一際大きな物の前で立ち止まる。
ノックを2回。

「ご主人様、ご主人様」

数秒待ち、同じ事を同じ間隔で繰り返す。
返事はない。
着替えの最中や、今のノックで起きたばかりという事は無さそうだ。
仕方がない。

「ご主人様、失礼します」

呼吸を一つ。
私、雨水 流(うすい ながれ)は扉を開け放った。

「・・・・・・」

駐車場にでも出来そうな広さの室内をぐるりと見渡し、
部屋の一角に鎮座する天蓋付きの豪奢なベッドで視線を固定する。
不必要に大きな足音を立てないようにつかつかと歩み寄り、上質そうなヴェールを開く。
純白のシーツに覆われる見るからに柔らかそうなベッドには、
静かに寝息を立てる一人の少年が身を沈めていた。

「ご主人様、もう朝ですよ。
 起床されるお時間です。起きて下さい」

声をかけ、苦痛にならぬ程度に両肩を掴んで身を揺さぶる。
十秒程も続けると緩やかにご主人様の瞼が上がり、ぼうとした瞳が私を捉えた。

「ん・・・流か。もう朝・・・?」

「はい。早く起きて頂かねば通学に支障が出ます。
 御樫山(おかしやま)さんが朝食をご用意していますのでお早く──って」

折角起こした上半身をぼすんと倒すご主人様。

「ご主人様っ!」

「ふぅ・・・あと、五分・・・」

「あと五分、じゃありませんよっ!
 唯でさえ毎朝それほど時間に余裕が在る訳ではありませんのに、二度寝の習慣をつけないで下さい!」

何とか起こそうと試みるも、
立場上は執拗にベットに潜り込むご主人様に対して暴力的というか強く出れないので難航する。
シーツの引っ張り合いが続くこと数十秒。何とか年上の貫禄で私に軍配が上がった。
枕から何から、ご主人様のしがみ付く物を取り払うことに成功する。

「もうっ。
 遅刻してお困りになるのはご主人様なんですからね?」

「うぅ・・・眠い」

私の背後には放り出された枕やらが重なっている。
この部屋の片付けも私の職務だというのに、全くご主人様ときたら。

468:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:46:49 1P40Bg4z
「寝坊も、余り度が過ぎると奥様にお叱りを受けますよ?
 旦那様はもうお出かけになられましたから、庇ってくださる方もいないんですからね?」

私の言葉に、まだ抵抗の意思を見せるご主人様の背がぶるりと震えた。
ご主人様の母親は、厳しくはないが子供を甘やかしたりもしない。
最近は遅刻ギリギリの多いご主人様なので、そろそろ雷の落ちる可能性がある。
上流の人間である奥様に、丁寧な言葉遣いと裏腹にねちねちと小言を言われるのは堪えるのだ。
これで、ご主人様もいい加減に起きるだろう。

「・・・・・・じゃあ目の覚める起こし方をしてよ、流」

「え────きゃっ!?」

そう思ったのが甘かった。
油断した私に対して、
さっきとは打って変わった俊敏さで身を起こしたご主人様が私の腕を掴んでベッドに引き倒す。
ぼすん、と。
二人分の体重を受け止めたベッドは、それでも品質に見合った柔らかな音しか立てなかった。
目の前。ベッドに横になって僅かに沈み込んだ視界の中、直ぐそこにご主人様の顔がある。

「ご、ごごごごごご主人様っ!?」

「なあに? 流」

反射的に離れようとして、ぎゅっと抱き締められる。
腰に腕が回され、引き寄せられた胸にご主人様が顔を埋めた。

「なな、ななななななななっっ!?!」

「流。まだ寝起きで少し頭が重たいんだから静かにしてよ」

「いいいから手を放して下さいっ!」

「流の胸は気持ちいいなあ」

ご主人様が、私の胸に埋めた頭をぐりぐりと押し付けてくる。
ただ思い切り押し付けるのではなく、力の加減を変えたり、胸の先端を擦るようにしたり。
思わず全力で突き飛ばしてしまいそうになるが。

「流────僕に逆らうの?」

「うっ」

ご主人様の一声で動きを止められてしまう。
何処か強制力を秘めた響きが私の体を打ち、縛り付けた。
ぴたっと動きを止めた私を見るご主人様は気を良くしたように薄く笑い、
折れそうなほど線の細い体を捩ると、服装次第では性別さえ偽れそうな綺麗な顔を私の胸に乗せる。

「さ、流。目の覚める起こし方をしてくれないかな?」

「うぅっ!」

469:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:48:00 1P40Bg4z
ご主人様は目を閉じ、私に向けて唇を突き出した。
何の体勢なのか、何を求めているのかは言うまでもない。
おはようのキス。
目覚めの口付け。
それを、求められている。朝から破廉恥なこと極まりない。
一体どこかで教育を間違えたのかと、私は涙を流す思いだった。
そんなことをすれば、ご主人様はそのしょっぱい雫を嬉々として舐め取るだろうけど。

「どうしたの流? もしかして、流は主人である僕の言うことが聞けないのかな?」

「ううぅっ!!」

抵抗は出来ない。してはいけない。
それは、もしかしたら許されるかもしれないけど、私自身の意志で許してはいけないことだ。
ああもう恥かしい。顔が火を噴きそうだ。
今は目を閉じてるご主人様も、内心では私が赤面するのを想像して楽しんでいるに違いない。
本当、どこで教育を間違えたのか。
出会ったばかりの頃は、少なくともこうではなかったはずなのに。


私こと雨水 流の人生は、客観的視点からはお世辞にも幸福とは言えないだろう。
父は借金を作って逃げた。
母も借金を作って逃げた。
私は親の借金で掴まった。
借金だけ残して私を捨てた両親に対し、
親子の中が悪くなかったのはそこそこ気を遣っていたからではなく、
無関心さによるものだという事実に気付いたのはその時。
ある日、唐突に姿を消した両親は私を借金のカタとして残し、
事態を把握できていない私の下には直ぐに堅気じゃない人間が来た。
あわや身売りか臓器摘出かとなった時、私を助けてくれたのがご主人様である。

その場に現れたご主人様は私の、正確には両親の作った私達一家の借金を全て肩代わりした。
私も流石に白馬の王子様をいつまでも夢見るほどの馬鹿じゃない。
何のために、どんな目的があってそんなことをしたのかと聞いた。
帰って来た答えは簡潔に一言。
メイドが欲しい、と。

ご主人様はその線の細さからも分かる通り、余り体が丈夫ではない。
実際、仕え始めたばかりの頃は少し体調を崩す程度なら日常茶飯事だった。
そんなご主人様ではあるが人一倍負けず嫌いな一面もあり、
病弱な体を押して普通の中学校への入学を希望、
それを心配した旦那様達が常に直ぐ傍でお世話出来るような人物、
即ち公私に渡るメイドを用意しようとしたのは自然の流れなのだろう。
しかしここで誤算が一つ。
ご主人様は自分だけに仕える直属のメイドならば自分で探して雇い入れると主張したのである。
そのための資金は長年使わずに貯めてきた小遣いと、それを元手に人を使って増やさせたお金。
額が幾らだったのかは知らないが、私を雇うために結構使ってしまったのだとか。
当時小学生の人間の小遣いで命を救われたと言うのは、正直言って私の人生の黒歴史である。

さて。兎に角、私はそんな経緯を経てご主人様のメイドとなった。
借金を肩代わりして私を助ける条件は、ご主人様の肩代わりした借金分稼ぐまで仕えること。
その間利子などが付くわけでもなく、
しかも公私に渡るメイドということで私は24時間常に労働扱い、
書類上の建前はともかく実際には普通の三倍くらいの給料を貰っている。
加えて、家賃や食費、光熱費その他諸々は屋敷に居ればタダ。
正直、普通に働いて稼ぎ出せる可処分所得と比べれば十倍かそれ以上。
ご主人様が私を雇わなければ借金の利子を返すだけで一生を終えていたかもしれない。
だからまあ、私はご主人様には大恩がある訳で。

ご主人様の命令に逆らうことは、如何せん出来ないのだ。

470:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:49:04 1P40Bg4z

「あうぅ」

困った。非常に困った。
このご主人様は、何故にいつもいつもこんな要求ばかりをしてくるのだろうか。
朝からおはようのキスだなんて、目覚めの口付けだなんて、男女でちゅーだなんて。
破廉恥だ。実に破廉恥だ。
仮にも年上の女性として、エッチなのはいけないと思う。
なのに。

「・・・・・・」

私はご主人様には逆らえない。逆らってはいけない。
この仕事を、ご主人様に仕えるメイドを首になったら大変なのだ。
借金を作ったのは親だから娘は巻き込まないなどど甘い考えを持つ程、
ヤクザも世の中も甘くはない。
両親の作った借金はご主人様が肩代わりしているだけで無くなった訳ではなく、
借金分働いて返すという契約を私が破れば残りの額の分をヤの字の人が取り立てに来る。
取立て先は、行方の知れない両親ではなく当然ながら私となるだろう。
そうなれば今度こそ身の破滅である。
売春の斡旋か内蔵を取られるか裏ビデオにでも出演させられるか。
碌な生き方、死に方は出来ないに違いない。

だから、私はこの瞬間にもご主人様によって生かされている。

もともと、ご主人様には私の借金を肩代わりする義理も義務もない。
メイドが私でなければならない理由もない。
だから。だから。

私はただ、ご主人様の好意によって生きていられる。

そもそも、ご主人様はよく分からない人だ。
こうやって私をからかったりエッチな要求をする癖に、ひどく優しい一面もある。
私がご主人様に仕えるようになって二年。失敗の数なんて数え切れない程だ。
私が最初からメイドの訓練を受けていた訳でもなし。
皿は落とす配膳で零す窓ガラスは割る家具は壊す、屋敷を汚すこと数限りない。
その癖に貰っている給料は普通の三倍。
なのに、ご主人様は私を責めない。
しょうがないなあと言いたげな瞳で見詰めながらからかうだけだ。

一度など、
私の最大の職務たる病弱なご主人様の学校での世話に失敗したのを庇ってくれたこともある。
少し目を離した隙にご主人様が友人と遊びに学校を出て、その先で倒れたのだ。
あの時のことは、おそらく生涯忘れないだろう。
怒気の熱さを通り越して殺気の冷たさで私を見据える旦那様達。
そして、愚かな失敗を許されない無能を晒してただガタガタと震える私を背に、
倒れてから目覚めたばかりのふらふらな体で私を庇って旦那様達を説得するご主人様。
私が見たご主人様の背中は私には余りにも有り難くて申し訳なくて、
同時に男性らしさのようなとても強い力を感じたのを憶えている。

それに、ご主人様は私の不利益になることもしない。
肩代わりした借金に利子をつけないのもそうだし、
私が壊したり汚したりして弁償しなければならない品々の値段を追加しないのもそうだ。
思い返せば思い返すほど、ご主人様は呆れるほど優しい。
『僕に逆らうの?』何て言いながら、
最初はつい反射的に突き飛ばしたり悲鳴を上げたりした私を一度も咎めてないのもそうである。
借金を盾に脅迫めいた命令をしたことなど、一度だってない。
ああ。
やはり、私はご主人様は優しい人だ。

471:(少年+大金)×(少女+借金)=?の式
07/06/06 21:51:10 1P40Bg4z
「うーっ」

「ほらほら。流、早く」

それでも朝からご主人様とキ、キスだなんて恥しいことこの上ないけど。
我慢するしか、ないかなぁ。
いい加減焦れたのか、目は瞑ったままでご主人様が催促しているし。

「・・・分かり、ました」

「あはっ」

声を上擦らせて、それでも渋々という様子を取り繕う私に、ご主人様は本当に綺麗な笑顔を向ける。
目を瞑ったままだけど、いやだからこそ本当に美しい。
少しずつ、私とご主人様の距離が近付く。

「────ちゅっ」

唇が合わされた。
触れるだけ。一瞬だけ。
ご主人様の唇の感触を感じた瞬間に、かっと全身が熱くなって何もかも吹き飛んでしまう。
初めてじゃ、ないのに。これだけは慣れない。

「・・・むぅ」

だと言うのに、目を開いたご主人様は不満そうに唸っていた。
私が、何か粗相をしてしまったのだろうか。
だとしたら。

「あの、ご主人様・・・?」

「流ってさ。キスの時、いつもちょっと触れて終わりだよね」

心配は杞憂だったようだ。

「ねえ流、もう一回キスしてよ。
 今度はちゃんと長くね」

「ええっ!?」

が、代わりに無茶苦茶な要求が返ってきた。

「む、むむむ無理ですよご主人様っ!
 私、今だって恥かしいのに・・・・・・そんなの恥かし過ぎます」

「ダメだよ、流。そんなの許さない。
 触れるだけのキスなんて、もう我慢できない。
 だからちゃんとすること」

「う、ですが──」

そんなの無理に決まっているのに。

「これは『命令』だから」

ご主人様の言葉が、私の体を震わせた。

「あ」


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