盲目の美少女とat EROPARO
盲目の美少女と - 暇つぶし2ch550:名無しさん@ピンキー
07/12/11 03:11:27 +kJzBMei
携帯からマターリ書かせてもらうが宜しいかな


あの子が視力を失って半年近く経った。彼女の名前などは知らない
名前すら与えられていないであろう彼女からそれを聞くのは酷に思えたからだ。
彼女はただ私の部屋で見えないはずの外の景色を眺めている。
教祖の示す敵を討ち、見事に死ねば神の国へ行ける。
只それだけを教育されてきた彼女には、この安息は苦でしかないのかも知れない。
そして自分から光を奪った男、教祖の敵である男に生かされる事は、彼女にとってどれほど辛い事だろうか。



良かったら続き書きます

551:名無しさん@ピンキー
07/12/11 10:45:53 qUR34GP/
おk

552:名無しさん@ピンキー
07/12/11 13:11:17 2kUcSIRP
かまってちゃんうざいよ?

553:名無しさん@ピンキー
07/12/11 14:14:24 pFR4iTCo
よし、このスレが好きだから言わせてもらおう。
一般的に誘い受けがうざいと言われるのは、
誘い受けをした書き手が即逃亡を果たしてしまう点にある。

叩かれても逃げない心、批判されてもくじけない心。
それがあるなら、最後まで投下し続けるべきだ!
真の評価は最後まで投下したときに貰うべき報酬なのだから。

これでスレストップかかったらごめんなさい。

554:名無しさん@ピンキー
07/12/12 03:34:58 KNtPrvFj
ただ戦うために雇われた兵士である我々が敬意を持つほどに、奴らは誇り高い戦士である。
その戦士であった彼女が、敵である私に衣食を与えられ生かされているのだ。
彼らは掟によって、自ら生を絶つ事を許されていない。故に死地を求め、死を目指し戦い続ける。
私に傷つけ捕らえられた当初、彼女は自分殺すようにと乞い続けた。
自分の命を奪うために銃口を向けてきた敵を、私は幾度と無く殺してきた。
泣きながら助けを乞う者すら、私は無慈悲に引き金を引いてきた。
情報を得るために、残虐な拷問をかけた事も多々ある。
それを仕事と割り切り、命を奪う事に何ら抵抗が無くなっていた私である。
だが年端も行かぬのに自ら死を求め、それを乞う彼女に引き金を引くことはなぜか出来なかったのだ



少しずつ書いていきますが、ご容赦下さい




555:名無しさん@ピンキー
07/12/12 13:18:36 Hx/Kes7s
>>554
だから誘い受けうぜぇつってんだろ低脳
細切れ投下でいちいち人の顔色うかがってんじゃねぇよ小説家気取りゴミが
ここはお前の日記帳じゃねぇんだよ
死ね

556:名無しさん@ピンキー
07/12/13 10:22:35 kGs8OSkE
>>555言い方は激しいが数レスは書きためてから投下するのがいいよ

557:名無しさん@ピンキー
07/12/13 14:35:06 fArgAKxM
シチュも文章も悪くないから思い切って書くといい。
ただ、まとめた方が印象がいいと俺も思う。

558:名無しさん@ピンキー
07/12/14 10:26:08 MTZhByc0
唐突に投下

「……主様?」
 私はその言葉に顔を上げた。
 目を伏せたままの少女が、部屋の入り口に立っている。
「どうなされたのですか?」
 彼女の訝るような答えに、私は静かに立ち上がった。
 そのまま、彼女の肩を抱きしめた。
 触れた部分を通して、彼女の温もりが伝わってくる。
 それが嬉しいと思える自分自身に、私はただ苦笑を浮かべる。
「主様?」
「お前と、出会った頃を思い出していた」
 私の言葉に、彼女の肩がぴくりと震えた。
 彼女もその頃のことを思い出したのだろう、その記憶は辛く苦しいものの筈。
 彼女が、私の腕をそっと両手で掴んでくる。
 その腕の優しさに、彼女が優しさを秘めていることに、ただ胸が痛くなった。

559:名無しさん@ピンキー
07/12/14 10:26:49 MTZhByc0


 ……私が、その妓廊に上がったのは、悪友の誘いに乗ったからだ。
 私とて木石ではない。男である以上溜まる物はあるし、無論いくつかの妓廊に上がったこともある。
 だが、彼に連れて行かれたその妓廊は、私にとってあまりにも異様なものであった。
 服を脱ぎ薄暗い風呂場に入った私は、そこにいる少女の姿に少し違和感を覚えた。
 妓廊といえば春をひさぐ場所だが、そこにいる女はただの売り物ではない。
 例えば歌、例えば舞、例えば音曲等に優れ、男を楽しませる技芸を持ち互いに同意に至って初めて体を重ねるもの。
 だが、この娘は既に服を纏わず、ただ道具のように扱われている。
 不快感を覚えた。
 彼女の前に椅子が固定されている。別段言われた訳ではないが、そこに渋々腰を下ろすと同時に、彼女が首を伸ばして私の逸物に舌を伸ばしてきた。
 ……目を伏せたまま。
 聞いたことがあった。
 幼い頃に目を針で潰して、口淫のみをさせる奴僕(ぬぼく)が存在すると言うことを。
 私とて、家には多数の奴卑(ぬひ)を召し使う身だ。
 妓姑も結局は奴僕だと言うことも解ってはいる。
 だが、不快感を止めることだけは出来なくて、私は彼女の肩をそっと押さえた。
「そのようなことはしなくても良い」
 必死に吸い付いて舐めしゃぶってくる仕草は、犬が主人に奉仕している光景を思い起こさせて、それが余計に許せなかった。
 あううく、と言葉にならない音を漏らす少女。
 この娘は道具として扱われてきて、言葉をまともに習うことも出来なかったか、……或いは、言葉を話すことを許されていないのか。
 おそらく前者だろうと言うことは見て取れた。
「良いんだよ、そのようなことは」
 私はそっと椅子から立ち上がる。
 この場所は不愉快だ。人を道具としてしか見ていない。
 妓姑達でさえ人としての生活を営んでいると言うのに、この娘は、否、ここにいる娘達は皆人として扱われていない。
「うぅう……あうぅく」
 不意に、ボロボロと彼女が涙をこぼしはじめる。
 達することなく席を立った私が怒りを覚えているのだと、勘違いしているのだろう。
 あるいは、此処の主に折檻を受けるのかも知れない。
 そう感じた私は、震える手を押さえた。
 私ならば、このような妓廊を取りつぶすことは可能だ。
 それだけの縁故と財産を持ってはいる。
 だが、この妓廊だけを潰した所で意味がないことも解っていた。
「……しかたがあるまい」
 私に出来ることは、ただ目の前の娘を引き取ることでしかない。
 それが偽善だと嗤われようと構わない。
 私は私に出来ることと出来ないことの区別は付けているつもりだ。
 無論、私が至尊の地位にあれば、この国にある全てのこのような妓廊を取り壊すことも出来ようが、それは私にはほど遠い地位だ。
「うぅぅ……」
 ボロボロと涙を流す彼女の前に跪いて、私はその目にそっと口づけた。
「んぅ……?」
 不思議そうな彼女を優しく撫でながら、私はただ彼女を抱きしめた。

560:名無しさん@ピンキー
07/12/14 10:27:36 MTZhByc0


「主様……なぜ、私ではなく、ご主人様が泣かれているのですか?」
「……すまない。私に力があればお前だけでなく、あの妓廊にいた全ての者を救えたというのに」
 彼の妓廊は既にない。
 他の妓廊の主達が、その妓廊の妓姑の扱いに怒り、人を使って潰したのだ。表向きは。
 私には解っている。他の妓廊にとって、そこがあまりにも繁盛しすぎた故に、汚点を抉りだし潰したのだと言うことを。
 そして、潰された側の財産は、……金や建物だけでなく婦人や奴僕なども含まれたソレは、潰した側の所有物になる。
 彼女の輩達は、妓廊の隅で慰み者にされているか、牛馬の如く賤役につかされているかも知れない。
 ソレを思うだけで、胸の奥に痛みが走る。偽善者だと罵られようとも、この痛みだけは真実の物。
「主様、気になさらないで下さい。私は救われました。主様がいなければ、私も救われることは無かったでしょう」
 その言葉に、痛みが消えたわけではない。
 それでも、彼女の言葉が心にしみる。
「主様がおつらいならば、私の体で癒させてください。どうか私の中で辛さや苦しさを吐き出して下さい」
 その言葉に、胸の痛みを抑えて私は彼女を抱き上げる。
 ほんの一瞬身を固め、それでもすぐに私に全てを預けてくる。
 なんと愛おしいことか。彼女への愛しさは、私の地位や財産よりも、私を喜ばせてくれる。
 痛みを忘れるためではなく、否この痛みを忘れることなど有り得よう筈もないが、それでも今は彼女を抱きたかった。
 私は何も言わずに房に向かい、彼女を牀(ベッド)に乗せた。
「主様」
 目を潤ませて見詰めてくる彼女に、少しだけ笑いかける。
 ふと、思いついた言葉があった。
「ところで」
「はい?」
「いつになったら、良人(おっと)と呼んでくれるのかな?」
 私の問いかけに顔を赤くして、彼女は顔を逸らした。

561:名無しさん@ピンキー
07/12/14 10:28:20 MTZhByc0
投下終了

562:名無しさん@ピンキー
07/12/14 13:15:12 UiXoYaGw
>>561
細切れ投下で人の顔色うかがってんじゃねぇよクズ
自殺して死ね

563:名無しさん@ピンキー
07/12/14 14:52:24 d+m4BxJt
561>>
短くまとめたSS、乙

562>>
批評家の方がまだましです、せめてSSを読んだ上で書いてください。
自演乙はいらないから、きちんとスルーしてくださいね。

564:名無しさん@ピンキー
07/12/14 17:44:57 lw0x15E0
>>562
この節穴盲目人は他スレでも暴れてる批評厨です。
以降、スルーよろしく。


565:名無しさん@ピンキー
07/12/14 20:27:53 vI8qkbXh
うん、いい仕事でした。
綺麗にまとまった短編を作れるのは羨ましいです。
自分の場合はどんどん冗長になるもので……

566:名無しさん@ピンキー
07/12/16 21:32:40 5ej+b+GT
保☆守

567:名無しさん@ピンキー
07/12/22 10:32:11 o+9lMfdO


568:名無しさん@ピンキー
07/12/22 10:45:26 zXz9PwYK
来年1月14日から始まる、フジTVの月9ドラマ「薔薇のない花屋」

『物語は、小さな花屋を営みながら8歳になる一人娘を男手ひとつで育てている
 物静かな男の元に、ある日突然、盲目の美しい女性が現れるところから始まります』

……アレ?


569:名無しさん@ピンキー
07/12/23 00:27:25 /urT9AIy
偶然って面白いやね

570:名無しさん@ピンキー
07/12/26 17:25:21 LE4/sZ2U
緊急保守

571:名無しさん@ピンキー
07/12/26 18:12:50 AUDJPsNf
あげ

572:バイエルン発動機製作所 ◆JF./hUt3Ek
07/12/28 20:27:59 BZufEO/Q
保守がわりに書いたネタを投下します。
エロ全く無いんで…、ご了承を。
続きはいつ書けるかわかりませんが、どうぞ。

573:この想いは君だけに ◆JF./hUt3Ek
07/12/28 20:29:13 BZufEO/Q
クロスターガルテン王国。大陸との交易を重視する海洋商業国家。
 首都プロスフィリオンの港は今日も盛況だ。
 海猫が騒がしく洋上を飛び交い、帆船や小型船が湾内を忙しなく行き交う。
 と、積み下ろしをしている水夫の一人が遥か水平線の彼方を指差して怒鳴る。
「見ろ、武装商船隊だ!」
「おお、今回も無事に帰ってきたぞ」
 見物人たちが歓声を上げる。水平線から続々と、一角鮫の紋章旗を掲げた船団がこの港に向かってきたからだ。
「さて、外国の宝石、香料、酒を買ってまた儲けさせてもらいますよ」
「ええ。いや、海賊も恐れる虎将『虎鮫のマルシャル』さまさまですな」
「全く。あの方がいれば海賊も異国の艦隊も恐れるに足らずですな、はっははは」
「海賊達も恐れをなしてココット家の家紋の翻る船は決して襲ってきませんわ」
 商人達はめいめいが勝手なことをいって笑いあう。
 ぼう、と、入港してくる先頭の船がひときわ大きな汽笛を鳴らした。

 プロスフィリオン港、三番埠頭。
 「全員、整列!!!」
 ざざっ。 
 武装商船隊副司令の『トロペット・ロス・ヘレンキームゼー』が乗組員達に向かいだみ声を張り上げる。
 彼の人生の約半分にあたる25年以上もの間、船隊勤務をしていたため、髪や髭が潮風で赤茶けている。
 そこから水兵達の間では『ロスの赤髭親父』の愛称で呼ばれている。
「提督殿の訓示に傾注!!!」
 一人の眉目秀麗な20代前半の青年が壇上に立つと、ロスに目配せする。
 半分立てた金髪に、きりっと引き締まった茶の瞳。
 制服を上から下までビシッと着こなした、一見海の男とは無縁なこの美青年が『マルシャル・フォン・ココット』通称『虎鮫のマルシャル』その人であった。
 弱冠22才にして、クロスターガルテン王国海軍武装商船隊最高司令官という立場にある。
「総員、休め!!!」
 ロスがまたしゃがれ声で怒鳴った。 
「皆、任務ご苦労だった。なお、国王陛下より一週間の特別休暇が全員に出ている。主計保で給金を受け取り、存分に羽を伸ばしてくるとよい」
 マルシャルは乗員に労いの言葉を掛ける。
 外見に似合わぬ謹厳実直な人柄で部下達に慕われている、いかにも彼らしい言葉だ。
「私からは以上だ」
「提督、私から一つ。いいかお前達、慰安所などで女と遊ぶ際には必ずゴムを付けろ。乗船の際、性病検査に引っ掛かったら、鮫のうようよいる海に突き落とすからな!」
 ロスの言葉に、どっ、と一同から笑いが起きる。
「では解散!」
 わっ…、と歓声をあげ、足早に思い思いの場所に駆けてゆく水兵達。

574:この想いは君だけに2 ◆JF./hUt3Ek
07/12/28 20:30:37 BZufEO/Q
「やれやれですな、若様」
 人影が疎らになった埠頭で、ロスはマルシャルに声をかける。
 ロスはマルシャルの父、海軍総督『アーテルハイド・フォン・ココット』の参謀長として長年勤めていた為、マルシャルを幼き頃より知悉していたからだ。
「いつもの事ながらご苦労様です、キームゼー殿」
 にっこりと微笑むマルシャル。親子ほどの年齢差があるが、互いに敬愛しあう仲だ。
「何の。それより若様、行かれないのですか? 確か…、『リエネラ・ウエストミュンスター』様…でしたな?」
「ええ…、陛下と父上に報告をしたら…逢いに…、行こうと思っています」
 マルシャルの端整な顔に、さっと赤みが差した。
「そうですか。しかし、若ほどの美貌と性格なら、言い寄る名家や貴族の女は星の数ほど居りましょうに…」
「私はそんな方々に何の興味もありませんよ。あの方だけです。私が思いを寄せるのは…」
「若にそこまで想われる女性は幸せ者ですな、ははは。ではシャルツホーフ城に参りましょうか」
「ええ、キームゼー殿」
 二人は王城の方に足を向けた。

 シャルツホーフ城、謁見の間。
 国王に型どおりの挨拶と報告を済ませ、列席していた父や側近達としばらくの間歓談したマルシャル。
「では、私はこれで」
「待て、マルシャルよ」 
 謁見の間から退出しようとするマルシャルを、国王…、『クロスター7世』が呼び止める。
「この間の話、もう一度考えてみてはくれぬかのう、マルシャルよ」
「お断りします、閣下。私はあくまで閣下の臣。その娘御を妻にするなど大それた事は出来ませぬ」
 言下に首を振るマルシャル。
「やはり駄目か。全く、お主に似て頑固で融通が利かぬのう…、アーテルハイド」
 国王が視線と言葉を向けた先には、マルシャルの父親のアーテルハイドが何食わぬ顔で而立していた。
 元老の一人で、今は前線から身を引き、後方で海軍全体の指揮を取っている。
「ええ、全くその通りでございます、閣下」
 悪びれもせず国王の下問に答えるアーテルハイド。
「やれやれ、親子揃って頑固者か。もうよい、マルシャル。下がってよいぞ」
「はっ。失礼いたします」
 マルシャルは一礼すると、クルリと踵を返し謁見の間から退出した。
「全く、マルシャルの堅物さにも困ったものじゃな? 由緒あるココット家もあやつの代で途絶えるぞ?」
「は。お前もよい年なのだから身を固めろ、とは口を酸っぱくして言ってはおりますが、こればかりはどうも…」
「はっはっは。お主も難儀よのう…」

575:この想いは君だけに3 ◆JF./hUt3Ek
07/12/28 20:32:40 BZufEO/Q
 王都プロスフィリオン南西、ゼテア地区。
 港が見下ろせる丘陵の一角に、その孤児院はあった。
「はい、では今日はここまでです。夕食の時間まで、お外で遊んでかまいませんよ」
 銀髪で長身の女性がピアノの前で子供達に声をかける。
 美しい顔立ちをしているが、その蒼い瞳は永遠に光を失っていた。
 彼女の名はリエネラ・ウエストミュンスター。24歳。
 生活苦の為、親に捨てられた孤児という出自でありながら、慈愛心に満ちた聡明かつ穏やかな女性で、院の子供達から非常に慕われている。
 物が見えなくなったのは幼少時の悲惨な食生活に起因する。
『はーい、リエネラ先生』
 孤児達が元気よく返事をする。と、そこへ。
「皆さん、マルシャルさんがお見えになりましたよ」
 ここザトルワ孤児院の院長、『プレラート・デ・リスタ』が、扉をギ…、と開け声をかけた。
 人の良さそうな中年の女性だ。
「やあ、皆。いい子にしてたかな? お土産を持って来たよ」
 リスタ院長に付き添われたマルシャルが、両手に一杯の荷物を掲げて入ってくる。
「あっ、マルーシャちゃんだ!」
「わーい、お土産、お土産!」
 子供達が嬉しそうに駆け寄ってゆく。たちまち、マルシャルは子供達に囲まれてしまう。
「ははは…、参ったな、コレは」
「こらこら、マルシャルさんを困らせないの。さ、皆さん。ミュッケとフローランがお外で遊んでくれます。行きなさい」
 リスタは二人の若い女性を呼ぶと、マルシャルの持ってきた土産を渡し、子供達を外に誘導させる。
室内にはマルシャル、リスタ、リエネラの三人だけになった。
「マルーシャ、いつも有難う、貴方のおかげでどんなにこの院が助かっているか…」
 深々と頭を下げるリスタを、マルシャルが慌てて助け起こす。
「い、いいんです、リスタ院長。私が好きでしている事ですから」
彼女が言っているのは寄付の事だ。マルシャルは海賊討伐、商人達から貰った礼金を、経営が苦しい院の為に全て寄付していた。
「マルーシャさん…。お帰りなさい」
マルーシャとはこのザトルワ孤児院のみでのマルシャルの愛称だ。
「リエネラさん…」
 杖をコツコツとつきながら、ゆっくりとした足取りで二人の前に来るリエネラ。
その様をマルシャルは複雑な表情で見ていた。
「ああっ、気をつけてください…」
「大丈夫です、マルーシャさん」
「で、でも…」
「ふふふ、大丈夫ですよ。ふふっ。マルーシャさんは本当に心配性なんですね…」
 敵国や海賊達から死神の如く恐れられる虎将も、子供達とこの女性にだけには敵わないらしい。
「さあ、私は邪魔ですから、これで。お二人でごゆっくり」
「え、い、院長?」
リスタがマルシャルの肩をポン、と叩くと、外に退出していった。


576:この想いは君だけに4 ◆JF./hUt3Ek
07/12/28 20:33:14 BZufEO/Q
 ぼふっ。
「うわっ、りりり、リエネラさん!?」
院長の後ろ姿を見送っていたマルシャルの体に、リエネラがぶつかる。リエネラの方が少し背が高いので、マルシャルの目線の辺りに彼女の柔らかそうな唇が迫っていた。
「あら、ごめんなさい、マルーシャさん」
「ち、近すぎます…、もう少し離れて…」
 マルシャルは端正な顔を耳まで赤めてリエネラに言う。
 多くの女性が思いをかける程の美丈夫であるにも係わらず、本当は女を抱いた事すらないような初心でシャイな男だった。
「ふふふ。顔、熱くなってますね…、どうしてですか?」
 ぺたぺたと、リエネラはマルシャルの頬を優しく手で撫でる。
「うう…そ、それは…」
マルシャルは答えに窮した。それは貴女を愛しているから、などとは言える訳が無い。
「潮の香りがします…。今度はどんな世界を見てきたのですか…? また聞かせてくださいね」
「リエネラさん…」
 胸が締め付けられるような想い。彼女の世界は、永遠の暗黒の中から聞こえ、香り、感じるだけしかできないのだ。
「マルーシャさん? 気分でも悪いのですか…?」
「リエネラさん、私、私は…」
「あっ…」
 そっと、マルシャルはリエネラを抱き寄せた。
「ごめんなさい…、私にもっと智と財と力があれば…、貴女に光溢れる世界を見せてあげられるのに…」
マルシャルの瞳から熱い涙が零れ落ちた。
「そんなコト…、気にしてはいませんよ。眼が見えぬ事で、逆に見える事もあるんですから…」
 優しげな見えぬ視線をマルシャルに向け、そっと金の髪を撫でるリエネラ。
「ごめんなさい…、『泣き虫マルーシャ』のままで…。もう少しだけ、こうしていてもいいですか…」
「ええ」
 慈母の様にニッコリと微笑むリエネラ。
「ありがとう…」
 眼の見えぬ人の優しく愛しい温もりが、マルシャルの心を満たしていった…。

577:バイエルン発動機製作所 ◆JF./hUt3Ek
07/12/28 20:36:09 BZufEO/Q
ここまでなんス。
続きは…、1/12くらいまでに何とか…。
ではこれで。

578:名無しさん@ピンキー
07/12/29 00:42:23 ba4P4c3+
>>577
BMW氏乙 ('◇';ゞ ケイレイ

579:名無しさん@ピンキー
07/12/29 00:56:58 u818z27k

感想は特にないです

580:名無しさん@ピンキー
07/12/29 11:38:22 0ehsYyqM
今後も期待

581:名無しさん@ピンキー
08/01/02 09:48:57 94W0Q+El
保守

582:名無しさん@ピンキー
08/01/06 01:11:52 y/Ndxdb8
私が大航海時代好きと知ってのしわざか!けしからん乙

固有名詞や独自の世界観設定は最初の節で一気出しせず
少しずつ散りばめるといいらしいぞ

583:名無しさん@ピンキー
08/01/07 12:49:26 WaNAUfxw
ほす

584:名無しさん@ピンキー
08/01/07 18:51:41 BStyrEo4
これは期待。
スレの主旨から離れないでくれよ。

585:名無しさん@ピンキー
08/01/09 22:18:30 jT1cZgur
保☆守

586:バイエルン発動機製作所 ◆JF./hUt3Ek
08/01/10 12:34:06 dWijqx+A
お待たせしました、BMWっス…。
多少は艶入ってます…
後編、ドゾー。

587:この想いは君だけに5 ◆JF./hUt3Ek
08/01/10 12:35:59 dWijqx+A
ー3週間後ー。
 深更のココット亭。
 一角鮫の家紋旗が夜風を受けて翻っている。
 豪奢な館の外見に比して、調度品は落ち着いた実用的なものでまとめられている。
 その華燭の光の中、激論を交わす親子の姿があった。
「どうして、私に黙ってそんな勝手な事をッ!!」
 椅子から立ち上がると、ドン、とテーブルを叩き、父親のアーテルハイドに詰め寄るマルシャル。
 常日頃、温和な彼からは考えられぬほど、怒りに震えた声で。
「もう、決まったことなのだ、マルシャル」
 ソファに身を沈め、パイプを燻らしながら、落ち着いた声で答えるアーテルハイド。
「父上! 閣下の娘御との婚姻は反対しておきながら、何故べーアラント王国の姫と! 気でも狂われたのか!」
 べーアラントとはクロスターガルテンの北部に位置する敵対国家だ。
 現在は休戦中である。
「両国の平和の為だ。一人息子のお前には伴侶が居らぬ。姫がこちらに嫁いでくれば、北からの脅威はさらに減ろう。
向こうにとっても、お前との結婚は大いに魅力的な筈だ。のう、『虎鮫のマルシャル』」
 アーテルハイドは眉一つ動かさず、パイプを吹かし諭す様に口を開く。
「…この時代、政略結婚など、何の意味ももたぬ、と常日頃仰っていたのは父上ではありませんか! 
それに相手は第6皇女で、向こうにとっては惜しくもない相手。知将と名高い父上らしくもないっ!」
 マルシャルは憤怒に身を震わせながら反論する。
「マルシャル、少し落ち着きなさい。あなたも、性急に過ぎます」
 マルシャルの母親、『ヴァネパル・フォン・ピネー・ココット』が窘める様にいう。
 プロスフィリオン有数の大商家、ピネー家の二女で、クロスター7世の仲介により、アーテルハイドの妻になった女性だ。
 商家の娘にありがちな気位の高さ、高慢さは無く、慎ましく賢い夫人である。 
「ヴァネー、お前には関係なかろう。私とてコレとは政略結婚のようなものだ。私心は捨てよ」
「貴方という人は…ッ、見損ないましたっ!」
 怒りのあまりバン、と机に両手を叩き付けると、外套を乱暴に掴み、部屋を出るマルシャル。 
「ま、マルシャル、こんな時間にどこへ?」
 母、ヴァネパルの声が追いかけるが、ドアの閉まるバタンという音とともに、答えも消えた。
「マルシャル…、あなた、いいのですか?」
「…放っておけ、ヴァネー。奴ももう子供の『泣き虫マルーシャ』ではない。王国の双肩を担う『虎鮫のマルシャル』なのだ」
 後を追おうとする妻に手を振って止めると、ふー、と紫煙を吐き出し、すっかり冷めた無糖のコーヒーに手を伸ばすアーテルハイド。
(賽は投げられた。もう後もどりは出来んぞ、マルシャル)
 アーテルハイドはコーヒーを飲み干すと、意味ありげに唇の端を歪めた。

588:この想いは君だけに6 ◆JF./hUt3Ek
08/01/10 12:36:33 dWijqx+A
 『ザールの宿屋』
 宿泊宿を兼ねながら、地下に酒場を併設している店。
 酔客の喧騒が、かすかに外に漏れ聞こえていた。
 カラン、コロンと、酒場の扉が開かれる。
「いらっしゃ…」
 皿を拭いていた無愛想な中年の男店主が来訪者に目をやる。
「おお? これは…、珍しい。さ、どうぞ」
 一瞬目を丸くした店主だったが、カウンターに手を伸ばし席を勧める。
「…ジンを瓶ごと」
「あー、マール産とキール産、ロッサとありますが」
「キールを…」
「…へい、お待ちを」
 ややあって、トン、とキール産のジンの中瓶とショットグラスが目の前に置かれる。
「ごゆっくり」
「ありがとう」
 余計な事は一切詮索しない。それがこの店主のいい所であった。
 タン、と一気にグラスをあおる。
「ごほっ、ごほっ…」
 普段あまり飲まない酒の強さに咽ていると、店内にいた娼婦達が声をかけてくる。
「あはは、綺麗な顔のお兄さん、いい飲みっぷりだねえ…。どうだい、私と一緒に飲まないかい…?」
「……」
 何も答えず、プイ、と横を向く。
「つれないねえ。まさか女とかじゃないんだろう?」
 もう一人の娼婦が長い煙管で煙草を吹かしながら隣に座ると、男にしては細身の身体に手を伸ばしてくる。 
「よせ、メアリ、ローサ。その方はお前達に全く興味が無い。客を取るなら、他を当たれ」
 店主が半分禿げた頭を掻きながら、ドスの聞いた声で凄みを利かせた。
 その声に、騒がしかった店内が水を打った様に静まり返る。
 元武装商船隊旗艦の甲板長として、水兵達を怒鳴り続けていた声と威厳はいまだ健在なり、というところか。
「わ、わかったよ…」
「何だい、せっかくの上客だと思ったのに…」
 ぶつぶつ言いながらも、カウンター席を離れる娼婦達。
「すみません。…頼みついでに、部屋は開いていますか?」
 その言葉に、また店主の目が見開かれる。
「…? …ええ、何室か。ここに、泊まるのですかい?」
「…ええ、お願いします」
 仔細あり、と理解した店主は数瞬のち、コクリと頷いた。
「…後で、上にいる女房に伝えておきます」
「ありがとう、ザールさん、訳も言わずに…」
「…いえ、お気になさらず…、…マルシャル様」
 マルシャルに名前を呼ばれた店主…『ザール・ブリュッケン』は、一瞬だけニコリと微笑んだ。
 ザールはかつて彼の旗下で戦い、負傷をきっかけに一線から身を引いた男だった。
「…しばらく、世話になるやもしれません…」
 端正な顔に似合わぬ沈んだ声で、ザールに頭を下げるマルシャル。
「…そうですか。今夜はどうぞ気の済むまで飲ってください…」
 複雑な表情で、ザールはまた皿を磨き始めた。

589:この想いは君だけに7 ◆JF./hUt3Ek
08/01/10 12:37:56 dWijqx+A
2日後。
「若…、らしくないですな…、将がこれでは、兵達に示しがつきませんぞ」
 部屋に駆け込んできたロスが呆れ顔で、寝台に毛布で包まっているマルシャルに告げる。
 すでに日は中天に座し、窓の外に見える無数の煙突から、竈から出る白煙がゆるゆると上がっていた。
「うう…、話しかけないでください…頭が、痛い…、水を…」 
 むくりと寝台から身を起こし、頭を押さえるマルシャル。
 どうやら完全に二日酔いのようだ。
 普段飲まない酒を大量に飲めばどうなるか、身をもって思い知る。
「全く、折り目正しい若が酒に溺れるとは、想像もしませなんだ。…ああ、折角の美貌が台無しですぞ」
 ロスの指摘どおり、見るも無残にやつれたマルシャル。
 ベッドの脇には酒瓶が何本か転がっている。
「キームゼーさん…、明日まで私は非番ですが…何の用ですか。もしや、敵が攻めてきましたか?」
 ロスは盛大に天を仰いで嘆息する。
「若…、何の用では無いでしょう。家にも帰らず、ブリュッケンの宿に泊まり、大酒を飲むとは。何があったんですか。私に聞かせてくれますまいか?」
 テーブルに置かれたデカンタから真水をコップに注いでマルシャルに渡すと、備え付けの椅子に座り問いただす。
「ふぅ…。…実は…」 
 マルシャルは一気に水を飲み干すと、重い頭と気分であの夜の事を語り始めた…。
 
「しかし、妙な話ですな」
 聞き終わったロスが、首を傾げてそう口を開く。
「…妙、とは?」
 マルシャルが訝しげに聞きなおす。
「……。ベーアラントとわが国は代々犬猿の仲。それに我々は、あの国の艦船をかなり屠り、また鹵獲していますぞ。
むこうの王やギルド(商人の組合)からは恨み骨髄に思われているのは周知の事実。その国が、政略結婚などを持ち込むものでしょうか?」
 ロスは続ける。
「それに、先日私は国王陛下にお会いしましたが、その様な話は一切出てきませなんだ。当人のアーテルハイド殿からもです」
 マルシャルの目が見開かれる。
「バカな? 私は確かに、父上から…」
「もしや」
「?」
「考えられる事は二つ」
「二つ?」
「一つはアーテルハイド様の言われる事が真実で、独自に動いたという事。ですが、これが疑わしいのは先程私が述べた通り」
「…はい」
「もう一つは…、アーテルハイド様は若様、貴方を試しているのでは」
「え…、私を?」
「ご存知ないのですか? ザトルワ孤児院は、ゼテア地区から立ち退きを命じられていることを」
「!!! な、何ですって!」
 ロスのその言葉は、マルシャルの酔いを醒ますに充分な衝撃だった。
  
「…大商家のクライン家があの地に館を建てたいと、再三に亘って地主と役人に賄賂を送り、3週間内に立ち退かねば取り壊す事が決まったのだ」
「まあ。そんな事をしたら、子供達の居場所が…」
「ああ。だが、マルシャルが想いを寄せる院の女性、リエネラ嬢と結婚すれば話は別だ」
「成程…。ザトルワ孤児院の権利はココット家とピネー家が買い取るという訳ですか」
「そうだ。そして、賄賂の件を閣下に訴える。そうなればクライン家とて諦めざるを得まい」
「…あなたも、ただでは済みませんよ?」
「…フ、覚悟はできている。結果がどうなろうと、私は総督の座を辞すつもりだ」
「そういう事なんでしたの。得心が行きましたわ」
「ヴァネー、お前は嫌か? 財無き盲目の娘は?」
「いえ、見かけや財などより、心で息子が選んだ方です。誇りに思いますわ」
「そうか、私も同感だ。後はあやつが先に進めるかどうか、だ。私に出来ることは、ここまでだ」
「あの子なら、大丈夫ですよ、きっと…」
「そうだな…」

590:この想いは君だけに8 ◆JF./hUt3Ek
08/01/10 12:39:20 dWijqx+A
翌日の夜。
 物憂げな秋の冷たい雨が、朝から降り注いでいた。
 それはまるで、闇の中、悲しみに沈む心の流す涙のように。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 ザトルワ孤児院に続く坂道を、傘もささずに走る一人の青年がいた。
 どれくらい雨に打たれたのだろう…、金の髪を乱し、軍服はじっとりと重く。
 それでも、前を、前だけを見て走る。
「バカだ。私はバカだ…」
「何も、何も知らなかった…」
 躓き、ドシャリと転ぶ。
「行かないと…、リスタ院長…、院の皆、そして…」
 端正な顔が泥で汚れても、気にせず前に進む。
「リエネラさん…」
「この想い、思いは…貴女だけ…」
 決意を胸に秘めて。
「はぁ、はぁ…、もう少し…?!」
 孤児院の窓ごしに、外の様子を伺う銀髪の女性の姿が窓の明かりを通してかすかに見えた。
 誰よりも優しく、そして愛しい人。
「リエネラさん…」
 そう、口に出して呟いたとき…
「あなた、マル…シャル?! どうしたんです? こんな時間に? それにその格好」
 傘を差し、ランプを照らして巡回していたリスタが驚いた顔で近づいてきた。
「あ、リスタ院長…」
「話は後です。中に入りなさい」
 
 来客室。
 殺風景な部屋で、暖炉の他には、寝台と座椅子、テーブルしか無かった。
「夜分申し訳ありません。それに、服まで貸して戴いて」
 タオルで頭を拭き終えたマルシャルがリスタに礼を言う。
 今着ている服は町人が着ているありふれたシャツにズボンだ。
「いいのよ。しかし、酷い格好でしたね」
 リスタが暖炉に薪を放り込み終えると笑う。
「…面目ありません」
 しょげる若き提督。
 颯爽と武装商船隊を指揮し、『虎鮫』の異名をとる男とはとても思えない程だ。
「で、何の用なのです? 今夜は」
 椅子にゆっくりと腰掛け、リスタはマルシャルに問いかける。
「…立ち退きの話、何故私に言ってくださらなかったのですか?」
「それを聞いて、どうするの」
「…私では力になれない、と?」  
「今の貴方には関係ないでしょう? マルーシャ」
「な…?! ここで世話になった私は、ここが第二の家なのです! …それに、子供達は何処へいけというのですか!」
 思いもよらぬ言葉に、血相を変えて詰め寄るマルシャル。
「リエネラを諦め、ベーアラントの姫と結婚する貴方に、関係はありません」
 そんなマルシャルの思いを突き放す様に、冷たく言い放つリスタ。
「な、誰に、そのようなことを!」
「どなたでも良いでしょう? 貴方は外見や家柄で女性を選ぶような子だったのね」  
「違います…」
「見損ないましたよ、マルーシャ、いえ、マルシャル・フォン・ココット殿」
「…違う、違うッ…」
 院長の冷たい言葉に、わなわなと肩を震わすマルシャル。
「何が、違う、と? もはや、貴方の心はあの子に無い…」 
 思わずマルシャルは椅子から立ち上がると、語気を強めて叫ぶように言った。
「違うッ!!! 私が心の底から愛している女性は、リエネラ・ウエストミュンスター殿、ただ一人だけですッ!」

591:この想いは君だけに9 ◆JF./hUt3Ek
08/01/10 12:40:23 dWijqx+A
 マルシャルの心からの吐露に、にっこりと微笑むリスタ。
「…よく言えましたね、マルーシャ…、リエネラ、入っておいで」
 と、声を掛ける。
「え…?」
 ゆっくりと扉が開き、リエネラが杖を付きながら入室してきた。
「マルーシャ、さん…、今の言葉、本当ですか?」
 頬を薔薇色に染めた盲目の女性は、戸惑う様に口を開く。
「リスタ院長…、これはッ?!」
 同じく顔を赤めたマルシャルが、狼狽しながらリスタに訊ねる。
「フフフ、ごめんなさいね、貴方を試したのよ」
「は、はあ…」 
「孤児院の件ならば心配はいりません。お父上が全て上手く取り計らってくれるそうです」
「父上、が?」
「そう。2日程前、訪ねてきて、ね。硬軟両方で交渉する、と。リエネラ、ここへ座りなさい」
「はい、院長」
 リスタは立ち上がると、リエネラを自分が座っていた椅子に導く。
「…父上…。」
「それと、今夜はここに泊まり、明日家に帰りなさい。もう、宿に世話になってはいけませんよ」
 まるで院の子供に諭す様に喋ると、ポンと、マルシャルの肩に手を置くリスタ。
「全て、お見通しですか…、はは、院長と父上には敵わないや…」
「さて、後は二人の時間。ゆっくりと話しなさい」
「え、ちょ…院長先生ッ!」
 扉に向かい歩むリスタを、慌てて引き止めようとするマルシャル。
「もう貴方は子供ではないでしょう? マルーシャ」
 バタン、と扉が閉じられ、部屋の中にはマルシャルとリエネラだけが残った。
 
「マルーシャ…、いえ、マルシャルさん」
「はっ、はい! な、な、な何です?」
 リエネラに名前を呼ばれ、マルシャルは狼狽して聞き返す。
「…さっきの言葉…、本当ですか?」
 蒼い瞳が、マルシャルの顔を射抜く。まるで全て、見えているかのように。
「あ…、そ、それは…くしゅっ」
「くしゅ?」
 リエネラは首を傾げる。
「あの、実は、ここに来る途中に雨に打たれてびしょ濡れになってしまいまして…くしゅっ」
「まあ、風邪を召したら大変です。寄宿棟にお風呂が沸いてますから。案内します」
 リエネラは杖を掴むと立ち上がる。
「え、でも」
「もう皆済ませましたから、どうぞ」
「は、はい…」
 リエネラはマルシャルの手を取る。
 重ねる手の暖かさが、マルシャルにはとても嬉しかった。

592:この想いは君だけに10 ◆JF./hUt3Ek
08/01/10 12:43:32 dWijqx+A
「ふー。生き返りました」
 湯船に身を沈めながら、マルシャルが呟く。
(それはよかったです)
 浴槽の扉越しに、リエネラが答える。
《どうしようか…、リエネラさんに面とむかって想いを伝えなきゃいけないのに…》
 マルシャルが思案に暮れていると、ゴソゴソと、扉の向こうで衣擦れの音がする。
「あの? 何を?」
(いえ、お背中を流そうかと)
「はい?」
 一瞬、意味がわからなかったマルシャルだったが。
「~~~~~~~ッ! い、いけませんッ! で、出ま…」
 ザバリと湯船から出たが、すぐに凍りついたように動かなくなる。
「? どうしたんですか?」
 浴室の扉が開き、リエネラが全裸で入ってきたからだ。
 膝まで垂れた長い銀糸の様な髪に、二つの豊かな丘。
 長身でありながら無駄な贅肉はなく、目が見えない事を除けば、神が造りたもうた芸術品の様な美しさだった。 
「あう…、あ、いや…、な、何でも、ないです」
 一糸纏わぬ姿のリエネラの裸体を直視出来ず、マルシャルは直ぐに『右向け、右!』の号令の様に背を向けた。
 本当にこの男が名将の聞こえも高い『虎鮫のマルシャル』なのだろうか。
「…?、あ、背中向けてくれたんですね。そのまましゃがんでくださると有難いのですが」
 ペタペタと手探りで、マルシャルの背に手を触れるリエネラ。
「ひゃうッ? りょ、了解!」
「石鹸を取ってくださいますか?」
「りょ、了解です」
「クス…、軍人さんですよ? 口調が」
 リエネラは可笑しそうに笑う。形無しだ。
「うう…」
「んしょ、んしょ」
 マルシャルの背中をゴシゴシと洗うリエネラ。
「はい、後ろ終わりました」
「あ、アリガトウゴザイマス…」
「はい、次は前ですね」
「は? い、いや、絶対ダメです、それは!」
 猛然と反対するマルシャル。
「どうしてですか? 私の瞳は見えないからいいと思いますが」
「わ、私がダメなんです!」
「? 何言ってるかわかりませんが?」
 背後からぴとりと身を寄せ、腹部にタオルを持った手を伸ばすリエネラ。
 柔らかな感触が、マルシャルの背に当たる。
「ひゃああッ、ちょッ…? な、何をっ!」
 慌てて立ち上がろうとするが、相手は目が見えない事を思い出し、身動きがとれない。 

593:この想いは君だけに11 ◆JF./hUt3Ek
08/01/10 12:44:51 dWijqx+A
「前を洗うまでです…? あら、ここは?」
 と、リエネラの手が、マルシャルの大事な部分に触れる。
「ひゃぅッ、ソコは…、ソコだけは、絶対ダメぇッ…」
「? どうしてです?」
「…き、汚いですから…」
「じゃあ、綺麗にして差し上げます」
 逆効果だった。石鹸をつけたタオルで握られる。
「え、だ、ダメッ…、ダメですぅ…ああぁ…」
「んしょ、んしょ」
 リエネラのほっそりした手が上下する。それにつれ、マルシャルの背に感じる二つの柔らかな感触も擦れる。
「あぅ…、クうっ…」
 思いを寄せる人に大事な部分をタオル越しに扱かれ、自身が益々増大する。
「…何か、どんどん大きくなってきますね」
 タオルを取ると、こんどは泡まみれの手で握る。
「だ、ダメぇ…、そんなに動かしちゃぁ…」
「手の中で胸の様に脈を打って、凄く熱くて硬いですね。? 何か先の方から液体が出てきましたけど?」
「り、リエネラさんッ…」
 まるで女性のように、口に手を当て、快楽に身悶えるマルシャル。
「ああ、コレを全部出せばいいんですね」
「ち、ちが、違…、あッ…」
 マルシャルの瞳が潤む。もはや、己の限界が近い。 
「アッ…、は、わたし、私、もうッ…!」
 ビクリ、と性器が手の中で跳ね、先端からどくどくと劣情を吐き出す。
「あ、何か、たくさん出てきましたね。綺麗になった証拠でしょうか?」
「はぁ、はぁ、は…、はい、もうとても、ですから、これ以上は…」
「息が荒いみたいですけど? 湯当りしましたか?」
「…は、はい、そういう事にしておいてください!」
「? はあ。じゃあ、出ましょうか」

「マルシャルさんの身体、とても暖かいです」
「そ、そうですか…」
 雨音が静かに窓を叩く部屋で、マルシャルとリエネラは一つベッドの中に居た。
 風呂から出て、寝具に着替えたリエネラが、一緒に寝ようと提案してきたのだ。
 マルシャルは真っ赤になって否定したが、結局は従った。
「ふふ。昔はよくこうして一緒に寝てたじゃないですか…」
「そう、ですね…。あの頃の私は弱虫で、よく院のみんなに苛められて泣いてたっけ…」
「で、ついた名前が『泣き虫マルーシャ』でしたからね」
「リエネラさんはいつも頭を撫でて慰めてくれました」
「ええ。泣き疲れてよく私の膝で眠っていましたね。女の子みたいな顔らしいから、皆ちょっかいを出したかったんでしょうね」
「うう…、リエネラさんの意地悪」
「ふふっ」 
 一つ一つ過去を辿り、とても穏やかな気分になるマルシャル。
 心臓の鼓動はだいぶ落ち着きを取り戻したようだ。 

594:この想いは君だけに12 ◆JF./hUt3Ek
08/01/10 12:45:30 dWijqx+A
「…私も好きです、マルシャルさんの事が」
 突然のリエネラの告白に、虚を突かれるマルシャル。
「え? リエネラさん…」
「ずっと、あの頃からずっと」
「……」
 そっと、リエネラはマルシャルの胸に顔を寄せる。
 銀の髪がさらさらと、流れるようにマルシャルの胸にかかる。
「諦めていたんです。大変見目麗しく、名家ココット家の一人息子で、王国の要。私は眼が見えぬ、孤児の娘」
「……」
「だけど…私は…」
 リエネラの蒼き瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。たとえ光を失おうと、その機能だけは忠実に働いていた。
「リエネラさん」
「あっ…」
 ギュっと、マルシャルはリエネラをベッドの中で抱きしめる。
「泣かないで。私を外見や家柄でなく、心から見てくれた女性は、貴女一人。私のこの想いは、貴女だけ。私が貴女の光になりたい…」
「マ、マルシャルさん…」
「はは、やっと、伝えることが、できた…」
 そっと、マルシャルはリエネラを解放する。
「私なんかで…本当に良いのですか?」
 リエネラは頬を赤めながら、見えぬ視線をマルシャルの顔に向ける。
「もちろんです。貴女のほかに、妻を娶る気はありません…」
「マルシャルさん…」
 リエネラはまた、マルシャルに身を寄せる。
「どうしました?」
「お休みのキスを…」
「あ、は、はい…」
 そっと、リエネラの額に唇を近づける、が。
「あ、唇にですよ?」
「ええっ?」
「ふふ、はい…」
「武装商船隊司令の私でも、貴女には敵いませんね…」
 やれやれと嘆息するマルシャル。そして、瞳を閉じたリエネラの唇に自らの顔を近づける。
 そっと、二人の吐息が、闇の中で交わった。

-----------------------------------------------------------------------------

 その後、正式にマルシャルはリエネラを妻として迎えた。
 ザトルワ孤児院の権利はピネー家とココット家が買取り、クライン家は多額の金を受け取り諦めた。
 父のアーテルハイドはその件で海軍総督の職を辞したが、王の強き勧めにより、海軍士官学校の校長を務める事となった。
 後任の海軍総督にはトロペット・ロス・ヘレンキームゼー『ロスの赤髭親父』が就任した。
 これにはマルシャルが辞退したことと、その強い推挙があったからとされている。
 
 ベーアラントとクロスターガルテンはその後、25年の長きに渡り戦闘が繰り返されたが、最終的にクロスターガルテンが勝利した。
 この長き戦いには、一人の銀髪碧眼の海軍司令がおおいに活躍した事が知られている。
 女人の如き美しい容姿でありながら、勇猛果敢で、敵の捕虜にも極めて寛大公正な扱いをし、敵味方無く尊敬を集めた男。
 誠実で一本気な父と、盲目でありながら心優しき母の間に生まれた子。
 『銀帝』シャルル・フォン・ココット。
 彼の名前は正史に深く刻まれることだろう。
 
 -FIN-

595:バイエルン発動機製作所 ◆JF./hUt3Ek
08/01/10 12:47:21 dWijqx+A
はい、御終いっス。
スンマセン、潤いのある描写が少なくて…。
ま、某はコレで…。
それでは。

596:名無しさん@ピンキー
08/01/10 13:37:05 dDk+NSsg
>>595
うざいっすw

597:名無しさん@ピンキー
08/01/10 22:10:35 1Il9G+q5
>>595
GJでした

>>596
お前は一体幾つのスレに寄生しているんだ?

598:名無しさん@ピンキー
08/01/11 00:04:53 mknNnwVn
>>595
エロ成分が少なかったのは残念でしたがGJでありました

人が少ないスレにしか寄生しないチキン自宅警備員発見

599:名無しさん@ピンキー
08/01/11 00:31:49 5vNDXYSk
>>598
自演自画自賛きめぇw

>人が少ないスレにしか寄生しないチキン自宅警備員発見
そっくりそのままお前に返すぜw
ライバルがいない過疎スレにしか投下できないヘタレチンカス野郎がw
死ねや

600:名無しさん@ピンキー
08/01/11 00:56:01 tbU6tFb/
>>599
この節穴盲目人は過疎スレでしか暴れる事の出来ないかまっての自演批評厨です。
このレス以降、スルー&あぼーんよろしく。
頭の可哀相な輩は完全に無視しましょう。



601:名無しさん@ピンキー
08/01/11 23:02:54 Mmtu2VLd
人工無能ぐらいスルーしようぜ

602:名無しさん@ピンキー
08/01/16 23:32:02 ELp62afF
>>595
今更ですが、良い仕事でした。世界観が凄く心地よかったです。

603:名無しさん@ピンキー
08/01/21 22:43:03 jMxdu6J0
保守☆

604:名無しさん@ピンキー
08/01/26 04:05:31 yuDK+Ymj
>>595
いまさらながら激しく乙でした。

605:名無しさん@ピンキー
08/01/27 22:59:38 gY8wcegP
保☆守


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