07/05/20 23:33:22 XVDeu1sF
せっかくの春の訪れというのに、天候はあまり優れず肌寒い日が続いていた。
ミスマイタケ城嬢もそんな気候のせいか、体調を崩し、しばらく実家に帰り、養生することにした。城を出て空を見れば、今日もどんよりと灰色の緞帳が下りている。
これから低いとはいえ山を一つ越えなければならないのに、とぶつぶつ呟きながら人気のない道へと足を踏み入れた。
彼女の家に帰るには、この道を通らなければないのだが、普段あまり使われない場所ゆえに、山賊やもののけが出てきそうな、寒々とした獣道である。
早くここを抜けよう。そう思って小走りに進んでいると、突然何かに足首を掴まれた。
「ヒィ!」
蛇だったら大変だ、と持っていた杖でつこうと振り上げた途端、ずるずると脇の茂みに連れ込まれる。
「たすけてぇ!」
悲鳴を上げるも、ここは本当に人の通らないところゆえに、その声が届く事はなかった。
後に残るのは、非情な春の風だけだった。